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特表2024-508475植物発現システムを用いたアルファルファモザイクウイルス様粒子の製造方法およびその活用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-27
(54)【発明の名称】植物発現システムを用いたアルファルファモザイクウイルス様粒子の製造方法およびその活用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/82 20060101AFI20240219BHJP
   C12N 15/40 20060101ALI20240219BHJP
   C12N 15/29 20060101ALI20240219BHJP
   A01H 5/00 20180101ALI20240219BHJP
   C07K 1/14 20060101ALI20240219BHJP
   C07K 1/22 20060101ALI20240219BHJP
   C07K 14/08 20060101ALI20240219BHJP
   C12N 15/84 20060101ALI20240219BHJP
   A01H 6/82 20180101ALI20240219BHJP
   A01H 6/54 20180101ALI20240219BHJP
   A01H 6/46 20180101ALI20240219BHJP
   A01H 6/04 20180101ALI20240219BHJP
   A01H 6/20 20180101ALI20240219BHJP
   A01H 6/14 20180101ALI20240219BHJP
   C07K 1/20 20060101ALI20240219BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20240219BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
C12N15/82 100Z
C12N15/40 ZNA
C12N15/29
A01H5/00 A
C07K1/14
C07K1/22
C07K14/08
C12N15/84 Z
A01H6/82
A01H6/54
A01H6/46
A01H6/04
A01H6/20
A01H6/14
C07K1/20
A61K39/00 G
A61P37/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023552114
(86)(22)【出願日】2022-02-11
(85)【翻訳文提出日】2023-08-25
(86)【国際出願番号】 KR2022002106
(87)【国際公開番号】W WO2022182033
(87)【国際公開日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】10-2021-0025902
(32)【優先日】2021-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519142114
【氏名又は名称】バイオアプリケーションズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BIOAPPLICATIONS INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク,ヨンミン
(72)【発明者】
【氏名】ソン,スジ
(72)【発明者】
【氏名】ミン,キョンミン
【テーマコード(参考)】
2B030
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
2B030AB03
2B030AD08
2B030CA17
2B030CB03
4C085AA03
4C085BA01
4C085CC21
4C085EE06
4C085FF24
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA01
4H045CA30
4H045DA86
4H045EA31
4H045FA74
4H045GA01
4H045GA25
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、葉緑体に標的化される植物体発現用組み換えベクターを用いて形質転換させた植物体から分離したAMV(Alfalfa mosaic virus)をVLP(virus-like particles)形態で製作および生産する技術に関し、葉緑体標的化タンパク質とAMVカプシドタンパク質が融合した組み換えタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む組み換えベクターが提供される。また、前記組み換えベクターにより形質転換された形質転換植物体、前記形質転換植物体から目的タンパク質を分離精製方法、これを用いてウイルス様粒子を製造する方法などが提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むルビスコトランジットペプチド(Rubisco transit peptide)をコードするポリヌクレオチドと、配列番号4で表されるアミノ酸配列を含むAMV(Alfalfa mosaic virus)カプシドタンパク質をコードするポリヌクレオチドと、を含む、植物体発現用組み換えベクター。
【請求項2】
前記ルビスコトランジットペプチドをコードするポリヌクレオチドは、配列番号1で表される塩基配列を含み、前記AMVカプシドタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、配列番号3または10で表される塩基配列を含む、請求項1に記載の植物体発現用組み換えベクター。
【請求項3】
前記組み換えベクターは、配列番号6で表されるアミノ酸配列を含むポリヒスチジンタグ(polyhistidine-tag)をコードするポリヌクレオチドをさらに含む、請求項1に記載の植物体発現用組み換えベクター。
【請求項4】
前記ポリヒスチジンタグは、前記AMVカプシドタンパク質をコードするポリヌクレオチドのC末端またはN末端に連結される、請求項3に記載の植物体発現用組み換えベクター。
【請求項5】
前記組み換えベクターは、プロモーターとターミネータ(terminator)との間に、
(1)ルビスコトランジットペプチドをコードするポリヌクレオチド、AMVカプシドタンパク質をコードするポリヌクレオチド、およびポリヒスチジンタグをコードするポリヌクレオチドが順次に連結されているか;または
(2)ルビスコトランジットペプチドをコードするポリヌクレオチド、ポリヒスチジンタグをコードするポリヌクレオチド、およびAMVカプシドタンパク質をコードするポリヌクレオチドが順次に連結されている、請求項3に記載の植物体発現用組み換えベクター。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の組み換えベクターで形質転換された、形質転換植物体。
【請求項7】
下記段階を含む、組み換えAMVカプシドタンパク質の分離精製方法:
(Step 1)請求項1~5のいずれか一項に記載の組み換えベクターを用いて植物体を形質転換させる段階;
(Step 2)前記(Step 1)段階で得た形質転換植物体をタンパク質抽出緩衝溶液と混合し、植物体混合液を製造する段階;
(Step 3)前記(Step 2)段階で収得した混合液から植物デブリ(debris)が除去された混合液を回収する段階;
(Step 4)前記(Step 3)段階で収得した混合液をアガロース(agarose)で充填されたカラムに注入し、ポリヒスチジンタグが連結された組み換えAMVカプシドタンパク質を前記アガロースに吸着させる段階;
(Step 5)洗浄溶液をカラムに注入し、洗浄する段階;および
(Step 6)溶出溶液をカラムに注入し、アガロースに吸着した前記組み換えタンパク質を溶出させる段階。
【請求項8】
前記タンパク質抽出緩衝溶液は、下記特徴のうち1つ以上を満たす、請求項7に記載の分離精製方法:
(1)10~100mM トリス(Tris)、100~1500mM 塩化マグネシウム(MgCl)、0.01~1% トリトン(Triton(登録商標))X-100(polyethylene glycol p-(1,1,3,3-tetramethylbutyl)-phenylether)、および5~300mM イミダゾール(Imidazole)を含む;または
(2)pHが7~9である。
【請求項9】
前記アガロースは、Ni-IDA(Iminodiacetic acid)アガロースである、請求項7に記載の分離精製方法。
【請求項10】
前記(Step 1)段階は、前記組み換えベクターが導入されたバクテリアを用いて植物体を形質転換させる、請求項7に記載の分離精製方法。
【請求項11】
前記バクテリアは、アグロバクテリウムツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)である、請求項10に記載の分離精製方法。
【請求項12】
前記植物体は、シロイヌナズナ、大豆、タバコ、ナス、唐辛子、ジャガイモ、トマト、白菜、キャベツ、およびレタスからなる群から選ばれる双子葉植物;または稲、麦、小麦、ライ麦、とうもろこし、サトウキビ、エンバク、およびタマネギからなる群から選ばれる単子葉植物である、請求項7に記載の分離精製方法。
【請求項13】
請求項7に記載の分離精製方法によって溶出された、組み換えAMVカプシドタンパク質。
【請求項14】
下記段階を含む、組み換えAMVウイルス様粒子(virus-like particle;VLP)の製造方法:
(Step 1)請求項1~5のいずれか一項に記載の組み換えベクターを用いて植物体を形質転換させる段階;
(Step 2)前記(Step 1)段階で得た形質転換植物体をタンパク質抽出緩衝溶液と混合し、植物体混合液を製造する段階;
(Step 3)前記(Step 2)段階で収得した混合液から植物デブリ(debris)が除去された混合液を回収する段階;
(Step 4)前記(Step 3)段階で収得した混合液をアガロース(agarose)で充填されたカラムに注入し、ポリヒスチジンタグが連結された組み換えAMVカプシドタンパク質を前記アガロースに吸着させる段階;
(Step 5)洗浄溶液をカラムに注入し、洗浄する段階;
(Step 6)溶出溶液をカラムに注入し、アガロースに吸着した前記組み換えタンパク質を溶出させる段階;および
(Step 7)前記(Step 6)で溶出されたタンパク質をウイルス様粒子に製造する段階。
【請求項15】
前記(Step 7)段階は、組み換えAMVカプシドタンパク質が含まれたタンパク質抽出緩衝溶液をウイルス様粒子組み立て用緩衝溶液に交替することによって、ウイルス様粒子を製造する、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
前記ウイルス様粒子組み立て用緩衝溶液は、下記特徴のうち1つ以上を満たす、請求項15に記載の製造方法:
(1)20~100mM ピロリン酸ナトリウム(Sodium pyrophosphate)および100~1000mM 塩化ナトリウム(NaCl)を含む;または
(2)pHが6.9~7.5である。
【請求項17】
自己集合した組み換えAMVウイルス様粒子を精製するために、サイズ排除クロマトグラフィーを行う段階をさらに含む、請求項14に記載の製造方法。
【請求項18】
請求項14に記載の製造方法によって製造された組み換えAMVウイルス様粒子であって、下記特徴のうち1つ以上を満たす、組み換えAMVウイルス様粒子:
(1)サイズ排除クロマトグラフィーで分子量が約2,000kDa以上で現れる;
(2)陰性染色法で染色後、透過電子顕微鏡で観察したとき、直径が10nm以上40nm以下である;または
(3)超低温透過電子顕微鏡で観察し、3D構造(3-dimensional structure)を再構成(reconstruction)したとき、3個の複合体(trimeric complex)が規則的な配列を通じて全20個が組み立てられた球形のVLP(3x20)である。
【請求項19】
下記の段階を含む、組み換えAMVウイルス様粒子を含むワクチン組成物の製造方法:
(Step 1)請求項1~5のいずれか一項に記載の組み換えベクターを用いて植物体を形質転換させる段階;
(Step 2)前記(Step 1)段階で得た形質転換植物体から組み換えAMVカプシドタンパク質を分離精製する段階;
(Step 3)前記(Step 2)段階で収得した組み換えAMVカプシドタンパク質をウイルス様粒子に製造する段階;
(Step 4)前記(Step 3)段階で収得したウイルス様粒子を極超低温電子顕微鏡を用いて3D構造を糾明する段階;および
(Step 5)前記ウイルス様粒子を含むワクチン組成物を製造する段階。
【請求項20】
前記ワクチン組成物の製造方法は、アジュバント(adjuvant)を添加する段階をさらに含むことを特徴とする請求項19に記載の製造方法。
【請求項21】
下記特徴のうち1つを満たすことを特徴とする請求項19に記載の製造方法:
(1)前記(Step 1)段階の組み換えベクターは、抗原タンパク質をコードするポリヌクレオチドをさらに含み、前記抗原タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、AMVカプシドタンパク質をコードするポリヌクレオチドのN末端に連結される;または
(2)前記(Step 5)は、ウイルス様粒子の表面に抗原タンパク質を結合(conjugation)させる段階を含む。
【請求項22】
請求項19に記載の製造方法によって製造された、ワクチン組成物。
【請求項23】
下記の段階を含む、組み換えAMVウイルス様粒子を含む薬物伝達体の製造方法:
(Step 1)請求項1~5のいずれか一項に記載の組み換えベクターを用いて植物体を形質転換させる段階;
(Step 2)前記(Step 1)段階で得た形質転換植物体から組み換えAMVカプシドタンパク質を分離精製する段階;
(Step 3)前記(Step 2)段階で収得した組み換えAMVカプシドタンパク質溶液を第1緩衝溶液に交替し、組み換えAMVカプシドタンパク質三量体を製造する段階;
(Step 4)前記(Step 3)の溶液に薬物を添加する段階;および
(Step 5)前記(Step 4)の第1緩衝溶液を第2緩衝溶液に交替し、ウイルス様粒子を製造する段階。
【請求項24】
前記(Step 5)の第1緩衝溶液および第2緩衝溶液は、下記特徴を満たす、請求
項23に記載の製造方法:
(1)第1緩衝溶液は、10~100mM Tris、および100~500mM 塩化ナトリウムを含み、pHが6.9~7.5である;および
(2)第2緩衝溶液は、20~100mM ピロリン酸ナトリウムおよび100~1000mM 塩化ナトリウムを含み、pHが6.9~7.5である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物体を用いてウイルス様粒子(virus-like particles;VLPs)を生産する方法およびその応用に関し、より具体的には、植物体で高効率の発現ベクター(expression vector)を用いて組み換えAMV(Alfalfa mosaic virus)カプシド(capsid)タンパク質を生産する方法およびこれをVLPで製造する方法に関する。
【0002】
本出願は、2021年2月25日に出願された韓国特許出願第10-2021-0025902号に基づく優先権を主張し、当該出願の明細書および図面に開示されたすべての内容は本出願に援用される。
【背景技術】
【0003】
ウイルス様粒子(Virus like particle,VLP)は、ウイルス構造タンパク質の結合を通じて実際ウイルスと類似の形態で組み立てられる粒子を意味する。VLPは、組み立て時にウイルスの遺伝子を含まず、体内注入時に増殖が不可能な安全な抗原という長所がある。また、高い免疫原性を示す特徴を基に様々な病原体にVLPを適用したワクチンの研究開発が非常に活発に行われている。
【0004】
ウイルスと同様に、VLPは、エンベロープ(envelope)の有無によってenveloped VLP(以下、「envelop VLP」という)とnon-enveloped VLP(以下、「non-envelop VLP」という)とに分けられる。Envelope VLPの場合、宿主の細胞膜をenvelopeとして使用しつつ、外部表面にウイルスのタンパク質を抗原として発現させた形態で、宿主細胞膜との融合過程を通じて細胞の外側にbuddingされる過程で生産される。Envelope VLPは、non-envelope VLPに比べて相対的に当該粒子のサイズが大きいという特徴があり、様々な病原体の抗原を細胞膜に発現させる場合、様々な抗原を同時に発現するVLPを生産できるという特徴がある。代表的なEnvelope VLPとしては、インフルエンザウイルス、レトロウイルス、C型肝炎ウイルスVLPなどがある。
【0005】
Non-envelope VLPの場合、宿主細胞の細胞膜を必要とせず、non-envelopedウイルスのcapsidタンパク質のうち1つまたは複数個のタンパク質で構成される。Non-envelope VLPは、Envelope VLPと同様に、様々な抗原を同時発現できるという特徴があるが、他の病原体の抗原を同時に発現する柔軟性が相対的に劣ると言える。代表的なnon-envelop VLPとしては、B型肝炎ウイルス、ヒト乳頭腫ウイルス、E型肝炎ウイルス、ロタウイルスVLPなどがある。
【0006】
現在VLP生産のための発現システムとしては、細菌、酵母、昆虫細胞、植物細胞、高等動物(哺乳類、鳥類など)細胞などの発現システムが使用されている。細菌発現システムは、組み換えタンパク質を生産するために最も広く使用されているが、哺乳類と類似のタンパク質翻訳後修飾(post-translational modification,PTM)ができないので、VLPの生産に不利な短所があるが、生産コストが安いので、capsidタンパク質の組み合わせだけで生産可能なnon-envelop VLPを中心に使用されている。酵母も、VLPの生産に広く使用されているが、non-envelop VLPの開発にも使用されている。B型肝炎ウイルス、ヒト乳頭腫ウ
イルスなどのVLPの開発が酵母を用いて行われてきた。
【0007】
昆虫細胞の場合、一部のglycosylation patternを除いて、哺乳動物細胞と非常に類似のPTM過程が行われ、envelop VLPおよびnon-envelop VLPの生産の両方ともに使用可能であり、一般的に高等細胞に比べてタンパク質の生産量が多いという長所がある。インフルエンザウイルス、ヒト乳頭腫ウイルスなど様々なウイルスに対するVLPの開発に使用されている。
【0008】
植物細胞の場合、 研究が始まったばかりの発現システムであるが、VLPの開発の観
点から多くの可能性を有している。VLPタンパク質の生産で発生しうるウイルス、がん遺伝子、腸毒素のような様々な汚染源を確実に排除することができ、有用物質の需要が急増する場合、大量生産に必要な設備技術やコスト面において、従来の動物細胞システムと比較して、絶対的に有利なので、最短期間に低コストで大量生産が可能であるという長所がある。また、哺乳類細胞と類似のPTMを有していて、envelop VLPおよびnon-envelop VLPの両方に対して生産可能であるという特徴がある。
【0009】
しかしながら、上記提示した長所にもかかわらず、植物細胞からタンパク質を生産することは、動物細胞および微生物を含む他の宿主に比べて相対的に最適化されていない分離精製方法が最も大きな障害物となっている。これより、多くの研究が進行されており、様々な方法で植物細胞からタンパク質の生産性を高めるための試みが行われている。例えば、特許文献1によれば、セルロース結合ドメイン3を含む組み換えベクターおよび前記組み換えベクターを用いて形質転換された植物体で合成されたタンパク質をセルロースに結合し、目的タンパク質を含む融合タンパク質を分離することが可能であり、融合タンパク質にエンテロキナーゼを処理し、目的タンパク質とセルロース結合ドメインを効率的に分離することができると提示されたことがある。
【0010】
また、目的タンパク質を生産することができるタンパク質分離精製技術のさらに他の例として、特許文献2によれば、生理活性タンパク質またはペプチドを免疫グロブリンFc断片と結合させる場合、免疫グロブリンFc断片が結合されていない生理活性タンパク質またはペプチドより生理活性タンパク質またはペプチドの溶解度を改善する効果があることが提示されたことがある。
【0011】
したがって、前述のような従来技術に基づいて植物体から有用生理活性物質を生産する場合、従来使用されている方法である動物細胞や微生物を用いた生産方法を代替できる効果がある。第一に、有用生理活性物質の生産に必要な期間を短縮することができ、生産コストをも画期的に減らすことができる。第二に、動物細胞や微生物で合成されたタンパク質を分離精製する過程で生じうる細胞毒性のような汚染源を確実に排除することができ、第三に、商品化された場合、種子の形態で長期間保管が可能で、保存および保管費用を節減することができる。第四に、安全な種子の形態で運送することができ、緊急を要求する問題が発生するときに必要な地域および国に迅速に供給することができる。第五に、生理活性物質に対する需要が急増する場合、大量生産に必要な生産設備およびシステム構築に多くの技術が要求されないため、容易に大量化することができ、動物細胞システムを用いた生産システムと比較して、設置コストと製品生産コストを画期的に低減することできる長所があり、最短時間に大量生産を可能にして、需要による十分な供給が可能である。
【0012】
前述したように、医学的に適用可能なVLPタンパク質と産業的に有用な価値がある酵素を含む有用生理活性物質を植物体から効果的に合成および分離精製する様々な技術が提供されているにも関わらず、タンパク質ごとに持っている固有な特性が互いに異なっていて、特定の方法を一括的に適用することが好ましくないので、個別的な研究が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】韓国登録特許第10-1848082号公報
【特許文献2】韓国公開特許第10-2015-0113934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、前述したような従来技術の問題点を解決するためになされたものであって、形質転換植物体で目的タンパク質であるウイルス様粒子を形成する組み換えAMV(Alfalfa Mosaic Virus)を生産するに際して、翻訳段階でタンパク質の発現レベルを高めるために、葉緑体に標的化されるようにルビスコトランジットペプチド(Rubisco transit peptide)を目的タンパク質に融合し、分離精製のためにポリヒスチジンを付着した場合、タンパク質の発現レベルと分離精製効率が高まることを確認し、これを用いて形質転換植物体で目的タンパク質の生産効率を画期的に高めることができることを確認した。
【0015】
また、上記のように分離精製されたAMVを含む溶液の組成、pHおよびNaClの濃度を適切に調節する場合、ウイルス様粒子が形成されることを様々な実験的な方法で確認した。このようなウイルス様粒子の高分解能3次構造の糾明を通じてワクチンおよび治療剤の開発に活用可能なVLPプラットフォーム(platform)技術を確立することによって、本発明を完成した。
【0016】
これより、本発明の目的は、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むルビスコトランジットペプチド(Rubisco transit peptide)をコードするポリヌクレオチド、および配列番号4で表されるアミノ酸配列を含むAMV(Alfalfa
mosaic virus)カプシドタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、植物体発現用組み換えベクターを提供することにある。
【0017】
本発明の他の目的は、本発明の組み換えベクターで形質転換された、形質転換植物体を提供することにある。
【0018】
本発明のさらに他の目的は、前記組み換えAMVカプシドタンパク質の分離精製方法およびこれによって製造された組み換えAMVカプシドタンパク質を提供することにある。
【0019】
本発明のさらに他の目的は、前記組み換えAMVカプシドタンパク質を含む、組み換えAMVウイルス様粒子(virus-like particle;VLP)の製造方法およびこれによって製造された組み換えAMVウイルス様粒子を提供することにある。
【0020】
本発明のさらに他の目的は、本発明による組み換えAMVウイルス様粒子を含むワクチン組成物の製造方法を提供することにある。
【0021】
本発明のさらに他の目的は、本発明による組み換えAMVウイルス様粒子を含む薬物伝達体を提供することにある。
【0022】
しかしながら、本発明が達成しようとする技術的課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及されていないさらに他の課題は、下記の記載から本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に明確に理解され得る。
【課題を解決するための手段】
【0023】
前述のような本発明の目的を達成するために、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むルビスコトランジットペプチド(Rubisco transit peptide)をコードするポリヌクレオチド、および配列番号4で表されるアミノ酸配列を含むAMV(Alfalfa mosaic virus)カプシドタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、植物体発現用組み換えベクターを提供する。
【0024】
本発明の一具体例において、前記ルビスコトランジットペプチドをコードするポリヌクレオチドは、配列番号1で表される塩基配列を含み、前記AMVカプシドタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、配列番号3または10で表される塩基配列を含んでもよいが、これに限定されない。
【0025】
本発明の他の具体例において、前記組み換えベクターは、配列番号6で表されるアミノ酸配列を含むポリヒスチジンタグ(polyhistidine-tag)をコードするポリヌクレオチドをさらに含んでもよいが、これに限定されない。
【0026】
本発明のさらに他の具体例において、前記ポリヒスチジンタグは、前記AMVカプシドタンパク質をコードするポリヌクレオチドのC末端またはN末端に連結されたものであってもよいが、これに限定されない。
【0027】
本発明のさらに他の具体例において、前記組み換えベクターは、プロモーターとターミネータ(terminator)との間に、(1)ルビスコトランジットペプチドをコードするポリヌクレオチド、AMVカプシドタンパク質をコードするポリヌクレオチド、およびポリヒスチジンタグをコードするポリヌクレオチドが順次に連結されているか;または(2)ルビスコトランジットペプチドをコードするポリヌクレオチド、ポリヒスチジンタグをコードするポリヌクレオチド、およびAMVカプシドタンパク質をコードするポリヌクレオチドが順次に連結されていてもよいが、連結順序が制限されるものではない。
【0028】
また、本発明は、本発明による組み換えベクターで形質転換された、形質転換植物体を提供する。
【0029】
また、本発明は、下記段階を含む、組み換えAMVカプシドタンパク質の分離精製方法を提供する:
(Step 1)本発明による組み換えベクターを用いて植物体を形質転換させる段階;
(Step 2)前記(Step 1)段階で得た形質転換植物体をタンパク質抽出緩衝溶液と混合し、植物体混合液を製造する段階;
(Step 3)前記(Step 2)段階で収得した混合液から植物デブリ(debris)が除去された混合液を回収する段階;
(Step 4)前記(Step 3)段階で収得した混合液をアガロース(agarose)で充填されたカラムに注入し、ポリヒスチジンタグが連結された組み換えAMVカプシドタンパク質を前記アガロースに吸着させる段階;
(Step 5)洗浄溶液をカラムに注入し、洗浄する段階;および
(Step 6)溶出溶液をカラムに注入し、アガロースに吸着した前記組み換えタンパク質を溶出させる段階。
【0030】
本発明の一具体例において、前記タンパク質抽出緩衝溶液は、下記特徴のうち1つ以上を満たせるが、これに限定されるものではない:(1)10~100mM トリス(Tris)、100~1500mM 塩化マグネシウム(MgCl)、0.01~1% トリトン(Triton(登録商標))X-100(polyethylene glycol p-(1,1,3,3-tetramethylbutyl)-phenylet
her)、および5~300mM イミダゾール(Imidazole)を含む;または(2)pHが7~9である。
【0031】
本発明の他の具体例において、前記アガロースは、Ni-IDA(Iminodiacetic acid)アガロースであってもよいが、これに限定されない。
【0032】
本発明のさらに他の具体例において、前記(Step 1)段階は、前記組み換えベクターが導入されたバクテリアを用いて植物体を形質転換させるものであってもよいが、これに限定されない。
【0033】
本発明のさらに他の具体例において、前記バクテリアは、アグロバクテリウムツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)であってもよいが、これに限定されない。
【0034】
本発明のさらに他の具体例において、前記植物体は、シロイヌナズナ、大豆、タバコ、ナス、唐辛子、ジャガイモ、トマト、白菜、キャベツ、およびレタスからなる群から選ばれる双子葉植物;または稲、麦、小麦、ライ麦、とうもろこし、サトウキビ、エンバク、およびタマネギからなる群から選ばれる単子葉植物であってもよいが、これに限定されない。
【0035】
また、本発明は、本発明による分離精製方法によって溶出された、組み換えAMVカプシドタンパク質を提供する。
【0036】
本発明の一具体例において、前記組み換えAMVカプシドタンパク質は、下記特徴のうち1つ以上を満たすことができるが、これに限定されない:(1)三量体(trimer)構造で存在する;または(2)サイズ排除クロマトグラフィー(size-exclusion chromatography)で三量体の分子量が約100kDaで現れる。
【0037】
また、本発明は、下記段階を含む、組み換えAMVウイルス様粒子(virus-like particle;VLP)の製造方法を提供する:
(Step 1)本発明による組み換えベクターを用いて植物体を形質転換させる段階;
(Step 2)前記(Step 1)段階で得た形質転換植物体をタンパク質抽出緩衝溶液と混合し、植物体混合液を製造する段階;
(Step 3)前記(Step 2)段階で収得した混合液から植物デブリ(debris)が除去された混合液を回収する段階;
(Step 4)前記(Step 3)段階で収得した混合液をアガロース(agarose)で充填されたカラムに注入し、ポリヒスチジンタグが連結された組み換えAMVカプシドタンパク質を前記アガロースに吸着させる段階;
(Step 5)洗浄溶液をカラムに注入し、洗浄する段階;
(Step 6)溶出溶液をカラムに注入し、アガロースに吸着した前記組み換えタンパク質を溶出させる段階;および
(Step 7)前記(Step 6)で溶出されたタンパク質をウイルス様粒子に製造する段階。
【0038】
本発明の一具体例において、前記(Step 7)段階は、組み換えAMVカプシドタンパク質が含まれたタンパク質抽出緩衝溶液をウイルス様粒子組み立て用緩衝溶液に交替することによって、ウイルス様粒子を製造することができるが、これに限定されない。
【0039】
本発明の他の具体例において、前記ウイルス様粒子組み立て用緩衝溶液は、下記特徴のうち1つ以上を満たすことができるが、これに限定されるものではない:(1)20~100mM ピロリン酸ナトリウム(Sodium pyrophosphate)および100~1000mM 塩化ナトリウム(NaCl)を含む;または(2)pHが6.9~7.5である。
【0040】
本発明のさらに他の具体例において、前記製造方法は、自己集合された組み換えAMVウイルス様粒子を精製するためにサイズ排除クロマトグラフィーを行う段階をさらに含んでもよいが、これに限定されない。
【0041】
また、本発明は、本発明によるウイルス様粒子製造方法によって製造された、組み換えAMVウイルス様粒子を提供する。
【0042】
本発明の一具体例において、前記組み換えAMVウイルス様粒子は、下記特徴のうち1つ以上を満たすことができるが、これに限定されるものではない:(1)サイズ排除クロマトグラフィーで分子量が約2,000kDa以上で現れる;(2)陰性染色法で染色後、透過電子顕微鏡で観察したとき、直径が10nm以上40nm以下である;または(3)超低温透過電子顕微鏡で観察し、3D構造(3-dimensional structure)を再構成(reconstruction)したとき、3個の複合体(trimeric complex)が規則的な配列を通じて全20個が組み立てられた球形のVLP(3x20)である。
【0043】
また、本発明は、下記の段階を含む、組み換えAMVウイルス様粒子を含むワクチン組成物の製造方法を提供する:
(Step 1)本発明による組み換えベクターを用いて植物体を形質転換させる段階;
(Step 2)前記(Step 1)段階で得た形質転換植物体から組み換えAMVカプシドタンパク質を分離精製する段階;
(Step 3)前記(Step 2)段階で収得した組み換えAMVカプシドタンパク質をウイルス様粒子に製造する段階;
(Step 4)前記(Step 3)段階で収得したウイルス様粒子を極超低温電子顕微鏡を用いて3D構造を糾明する段階;および
(Step 5)前記ウイルス様粒子を含むワクチン組成物を製造する段階。
【0044】
本発明の一具体例において、前記ワクチン組成物の製造方法は、アジュバント(adjuvant)を添加する段階をさらに含んでもよいが、これに限定されない。
【0045】
本発明の他の具体例において、前記ワクチン組成物の製造方法は、下記特徴のうち1つを満たすことができるが、これに限定されない:(1)前記(Step 1)段階の組み換えベクターは、抗原タンパク質をコードするポリヌクレオチドをさらに含み、前記抗原タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、AMVカプシドタンパク質をコードするポリヌクレオチドのN末端に連結される;または(2)前記(Step 5)は、ウイルス様粒子の表面に抗原タンパク質を結合(conjugation)させる段階を含む。
【0046】
また、本発明は、前記ワクチン組成物の製造方法によって製造された、ワクチン組成物を提供する。
【0047】
すなわち、本発明は、前記AMVウイルス様粒子および抗原を有効成分として含むワクチン組成物を提供する。
【0048】
また、本発明は、ワクチン製造のための前記AMVウイルス様粒子の用途を提供する。
【0049】
また、本発明は、前記AMVウイルス様粒子の抗原提示および伝達用途を提供する。
【0050】
また、本発明は、前記AMVウイルス様粒子および抗原を有効成分として含むワクチン組成物をこれを必要とする個体に投与する段階を含む、疾患の予防または治療用途を提供する。
【0051】
また、本発明は、下記の段階を含む、組み換えAMVウイルス様粒子を含む薬物伝達体の製造方法を提供する:
(Step 1)本発明による組み換えベクターを用いて植物体を形質転換させる段階;
(Step 2)前記(Step 1)段階で得た形質転換植物体から組み換えAMVカプシドタンパク質を分離精製する段階;
(Step 3)前記(Step 2)段階で収得した組み換えAMVカプシドタンパク質溶液を第1緩衝溶液に交替して組み換えAMVカプシドタンパク質三量体を製造する段階;
(Step 4)前記(Step 3)の溶液に薬物を添加する段階;および
(Step 5)前記(Step 4)の第1緩衝溶液を第2緩衝溶液に交替し、ウイルス様粒子を製造する段階。
【0052】
本発明の一具体例において、前記(Step 5)の第1緩衝溶液および第2緩衝溶液は、下記特徴を満たすことができるが、これに限定されない:(1)第1緩衝溶液は、10~100mM Tris、および100~500mM 塩化ナトリウムを含み、pHが6.9~7.5である;および(2)第2緩衝溶液は、20~100mM ピロリン酸ナトリウムおよび100~1000mM 塩化ナトリウムを含み、pHが6.9~7.5である。
【0053】
また、本発明は、前記薬物伝達体の製造方法によって製造された、薬物伝達体を提供する。
【0054】
また、本発明は、本発明による組み換えAMVウイルス様粒子の薬物伝達用途を提供する。
【0055】
また、本発明は、薬物伝達体の製造のための前記組み換えAMVウイルス様粒子の用途を提供する。
【0056】
また、本発明は、薬物が担持された前記組み換えAMVウイルス様粒子をこれを必要とする個体に投与する段階を含む薬物伝達方法を提供する。
【発明の効果】
【0057】
本発明は、葉緑体に標的化される植物発現ベクターを用いて植物から組み換えAMVを高効率で生産する方法およびこれを用いた組み換えAMV VLPの製造方法に関する。高分解能で糾明された3次構造の特性上、本発明による組み換えAMV VLPは、ワクチン、治療剤、および薬物伝達体などの開発のためのプラットフォーム(Platform)として活用可能である。また、本発明は、植物発現システムを用いるので、生産費用を格別に低減することができ、従来広く知られた方法(動物細胞や微生物からタンパク質を生産した後に分離精製する方法)で発生しうる様々な汚染源(ウイルス、がん遺伝子、腸毒素など)を確実に遮断することができる。また、本発明は、動物細胞が必須的に含む翻訳後修飾過程が起こる真核生物タンパク質の合成経路を含んでいて、生理活性を維持し
ているタンパク質の生産が可能で、商品化段階でも動物細胞やバクテリアとは異なって、種子(seed stock)として管理が可能であるという点から有利である。さらには、当該物質の需要が急増する場合、大量生産に必要な設備技術やコスト面において、従来の動物細胞またはバクテリアを用いた生産システムと比較して、さらに効率的かつ経済的であるから、需要の発生に合わせて短期間に大量生産および供給が可能であるという長所もある。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1図1は、本発明の一実施例による植物体で組み換えAMVカプシドタンパク質の発現のための6種の組み換えAMVカプシドタンパク質の発現カセット(expression cassette)を示す図である。図1のN末端(上段)は、AMVカプシドタンパク質をコードするポリヌクレオチドのN末端に6xHis(ポリヒスチジンタグ)を付着した形態で細胞質(cytosol)、小胞体(endoplasmic reticulum)、または葉緑体(chloroplast)でAMVカプシドタンパク質が発現できるようにデザインされた植物発現ベクターのカセットである。図1のC末端(下段)は、AMVカプシドタンパク質をコードするポリヌクレオチドのC末端に6xHisを付着した形態で細胞質、小胞体、または葉緑体でAMVカプシドタンパク質が発現できるようにデザインされた植物発現ベクターのカセットである(H、ポリヒスチジンタグ;HSP-T、Hspターミネータ(terminator);NR、ルビスコトランジットペプチド;NB、New BiP signal peptide;HDEL、ER retention signal peptide)。
図2図2は、本発明の一実施例による植物体で互いに異なる6種の植物発現ベクターによる組み換えAMVカプシドタンパク質の発現をウェスタンブロッティング(western blotting)で確認した結果を示す図である。
図3図3は、本発明の一実施例による組み換えAMVカプシドタンパク質の親和性クロマトグラフィーを用いた分離精製結果をSDS-PAGEとウェスタンブロッティングで示す図である。
図4A】本発明において分離精製された組み換えAMVカプシドタンパク質をサイズ排除クロマトグラフィーを用いて三量体(trimeric)形態からVLP形態で製作する条件を確認する結果を示す図である。図4Aは、実施例4の第1緩衝溶液で平衡化されたサイズ排除クロマトグラフィー結果を示す。
図4B】本発明において分離精製された組み換えAMVカプシドタンパク質をサイズ排除クロマトグラフィーを用いて三量体(trimeric)形態からVLP形態で製作する条件を確認する結果を示す図である。図4Bは、実施例4の第2緩衝溶液で平衡化されたサイズ排除クロマトグラフィー結果を示す。
図5図5は、本発明において分離精製された組み換えAMV VLPを様々なpH条件を処理して透過電子顕微鏡で撮影したイメージを示す図である。
図6A】本発明において分離精製された組み換えAMV VLPを極超低温電子顕微鏡(Cryo-electron microscopy)を用いて撮影したイメージを示す図である。図6Aは、AMV VLPの2D(two-dimensional)class averageを示す。
図6B】本発明において分離精製された組み換えAMV VLPを極超低温電子顕微鏡(Cryo-electron microscopy)を用いて撮影したイメージを示す図である。図6Bは、2D class averageを基に構成した、AMV VLPの20面体の3D構造を示す。
図6C】本発明において分離精製された組み換えAMV VLPを極超低温電子顕微鏡(Cryo-electron microscopy)を用いて撮影したイメージを示す図である。図6Cは、AMV VLPの3次構造を基に分解能を測定した結果を示す。
図6D】本発明において分離精製された組み換えAMV VLPを極超低温電子顕微鏡(Cryo-electron microscopy)を用いて撮影したイメージを示す図である。図6Dは、AMV VLPのイメージプロセッシングとモデルビルディングの進行手続きを示すフローチャットである。
図7A】本発明において極超低温電子顕微鏡(Cryo-electron microscopy)および構造分析ソフトウェアを用いて組み換えAMV VLPの全体的な構造、単量体(monomer)の構造およびアミノ酸の位置を分析した図である。図7Aは、Cryo-EM mapのLocal resolutionを示す。
図7B】本発明において極超低温電子顕微鏡(Cryo-electron microscopy)および構造分析ソフトウェアを用いて組み換えAMV VLPの全体的な構造、単量体(monomer)の構造およびアミノ酸の位置を分析した図である。図7Bは、atomic modelのB-factorを示す。
図7C】本発明において極超低温電子顕微鏡(Cryo-electron microscopy)および構造分析ソフトウェアを用いて組み換えAMV VLPの全体的な構造、単量体(monomer)の構造およびアミノ酸の位置を分析した図である。図7Cは、組み換えAMVカプシド単量体の構造を示す。
図7D】本発明において極超低温電子顕微鏡(Cryo-electron microscopy)および構造分析ソフトウェアを用いて組み換えAMV VLPの全体的な構造、単量体(monomer)の構造およびアミノ酸の位置を分析した図である。図7Dは、組み換えAMVカプシド単量体内のアミノ酸の配列および高分解能で分析された代表的なアミノ酸残基のelectron density mapを示す。
【発明を実施するための形態】
【0059】
本発明者らは、形質転換植物体で目的タンパク質であるウイルス様粒子を形成する組み換えAMVカプシドタンパク質を生産するに際して、翻訳段階でタンパク質の発現レベルを高めるために、葉緑体に標的化されるようにルビスコトランジットペプチド(Rubisco transit peptide)を目的タンパク質に融合し、分離精製のためにポリヒスチジンタグを付着した場合、タンパク質の発現レベルと分離精製効率が高まることを確認し、これを用いて形質転換植物体で目的タンパク質の生産効率を画期的に高めることができることを確認し、また、緩衝溶液の組成の調節を通じてAMVカプシドタンパク質がVLPを良好に形成することができることを確認することによって、本発明を完成した。
【0060】
これより、本発明の一実施例では、N末端とC末端にポリヒスチジンタグがそれぞれ融合したAMVカプシドタンパク質が細胞質で発現できるようにpCAMBIA1300植物発現ベクター(1)を製作し、同じ形態のタンパク質を葉緑体で発現できるように、(1)にRbc-TP(ルビスコトランジットペプチド)を融合したり、小胞体で発現できるように(1)にNB(New BiP)シグナルペプチドを融合した。また、それぞれの細胞小器官でAMVカプシドタンパク質コーディングポリヌクレオチドのN末端またはC末端でAMVカプシドタンパク質が発現するようにデザインし、全6種の植物発現ベクターを製作した(実施例1参照)。
【0061】
本発明の他の実施例では、前記植物発現ベクターをアグロバクテリアに形質転換させた後、これをニコチアナベンサミアナ葉の裏面に注入し、組み換えAMVカプシドタンパク質を植物体で発現させた(実施例2参照)。
【0062】
本発明のさらに他の実施例では、前記組み換えAMVカプシドタンパク質が発現するニコチアナベンサミアナ葉からNi-IDA(Iminodiacetic acid)アガロースレジンで充填されたカラムを用いて組み換えタンパク質を分離精製し、これをウイルス様粒子を作るための緩衝溶液の組成を調節して、AMVカプシドタンパク質の自己集合を誘導した。具体的には、第1緩衝溶液中では、AMVカプシドタンパク質が三量体
を形成し、第2緩衝溶液中では、AMVカプシドタンパク質がウイルス様粒子を組み立てることを確認した(実施例3~4参照)。
【0063】
本発明のさらに他の実施例では、上記で得たAMVウイルス様粒子を含む組成物を透過電子顕微鏡を用いてpH変化によるVLPの安定性を確認し、pH5とpH7の間でVLP形態を安定的に維持していることを確認した(実施例5参照)。
【0064】
本発明のさらに他の実施例では、極超低温電子顕微鏡を用いて前記AMV VLPの高分解能3次構造を確認した(実施例6および7参照)。
【0065】
これより、本発明は、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むルビスコトランジットペプチド(Rubisco transit peptide)をコードするポリヌクレオチド、配列番号6で表されるアミノ酸配列を含むポリヒスチジンタグ(6xHis-tag)をコードするポリヌクレオチド、および配列番号4で表されるアミノ酸配列を含むAMVカプシドタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、植物体発現用組み換えベクターを提供することができる。
【0066】
本明細書において使用される用語「ルビスコトランジットペプチド(Rubisco transit peptide)」は、ルビスコ(Ribulose-1,5-Bisphosphate Carboxylase/Oxygenase)小サブユニット(small subunit)のN末端トランジットペプチド(N-terminal transit peptide)を称し、好ましくは、配列番号1の塩基配列を含むポリヌクレオチドによってコードされ、最も好ましくは、配列番号1で表されるポリヌクレオチドによってコードされるが、配列番号1の塩基配列と80%以上、より好ましくは、90%以上、さらに好ましくは、95%以上の配列相同性を有する塩基配列によってコードされてもよい。例えば、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、100%の配列相同性を有するポリヌクレオチドを含む。ポリヌクレオチドに対する「配列相同性の%」は、2つの最適に配列された配列と比較領域を比較することによって確認され、比較領域におけるポリヌクレオチド配列の一部は、2つの配列の最適配列に対する参考配列(追加または削除を含まない)に比べて追加または削除(すなわち、ギャップ)を含んでもよい。前記ルビスコトランジットペプチドは、形質転換植物体で発現した組み換えタンパク質を葉緑体内に移動させるために使用されるものであり、発現するときに配列の一部が切られ、一部のアミノ酸のみが残っていてもよい。より具体的には、本発明によるルビスコトランジットペプチドが融合した組み換えAMVカプシドタンパク質を植物体で発現させる場合、前記ルビスコトランジットペプチドの前方54個のアミノ酸が切られて除去され、配列番号2で表されるアミノ酸配列のみが残っていてもよい。また、このような場合、DNA frameを整列するために、ルビスコトランジットペプチド配列とAMVカプシドタンパク質配列との間にさらなるアミノ酸が挿入されてもよく、好ましくは、グリシン(Glycine)、またはイソロイシン(Isoleucine)がさらに挿入されてもよい。
【0067】
本明細書において使用される用語「NB(New BiP)」は、発現した組み換えタンパク質を小胞体に移動させるために使用されるものであり、好ましくは、配列番号9の塩基配列を含む遺伝子であり、最も好ましくは、配列番号9で表される遺伝子であるが、配列番号9の塩基配列と80%以上、より好ましくは、90%以上、さらに好ましくは、95%以上の配列相同性を有する塩基配列を含んでもよい。前記NB遺伝子は、発現するとき、配列の全部が切られていて、BiPに対するどんなアミノ酸も残っていない。
【0068】
本明細書において使用される用語「トランジットペプチド(transit peptide)」または「シグナルペプチド(signal peptide)」は、特定の細胞小器官、細胞区画、細胞外へのタンパク質の輸送または局在化を誘導できるアミノ酸配列を指す。この用語は、トランジットペプチドおよびトランジットペプチドをコード化する塩基配列の全てを含む。
【0069】
本明細書において使用される用語「AMV」は、アルファルファモザイクウイルス(Alfalfa mosaic virus)を指すものであり、20面体の非エンベロープ(non-enveloped)DNAウイルスである。AMVは、植物にモザイク形状の病変を起こすウイルスであるが、ヒトや動物にはいかなる感染および病変を起こさないと知られている。本発明において「AMV」は、配列番号3または10の塩基配列を含むポリヌクレオチドによってコードされ、より好ましくは、配列番号3または10で表されるポリヌクレオチドによってコードされ、最も好ましくは、配列番号3で表されるポリヌクレオチドによってコードされるが、配列番号3または10の塩基配列と80%以上、より好ましくは、90%以上、さらに好ましくは、95%以上の配列相同性を有する塩基配列によってコードされてもよい。
【0070】
本明細書において使用される用語「ポリヌクレオチド」は、デオキシリボ核酸(DNA)およびリボ核酸(RNA)を含む、一般的に、リン酸ジエステル結合によって互いに結合した2以上の連結されたヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体を含むオリゴマーまたはポリマーを示す。ポリヌクレオチドは、また、例えば、ヌクレオチド類似体、またはリン酸ジエステル結合以外の「骨格」結合、例えば、リン酸三エステル結合、ホスホルアミダート結合、ホスホロチオエート結合、チオエステル結合またはペプチド結合(ペプチド核酸)を含むDNAおよびRNA誘導体を含む。ポリヌクレオチドは、一本鎖および/または二本鎖ポリヌクレオチド、例えば、デオキシリボ核酸(DNA)およびリボ核酸(RNA)だけでなく、RNAまたはDNAのうちいずれか1つの類似体を含む。
【0071】
本明細書において使用される用語「ベクター(vector)」とは、好適な宿主内でDNAを発現させることができる好適な調節配列に作動可能に連結されたDNA配列を含有するDNA作製物を意味する。ベクターは、プラスミド、ファージ粒子、または簡単に潜在的ゲノム(genome)挿入物であってもよい。好適な宿主に形質転換されると、ベクターは、宿主のゲノムと関係なく複製し、機能することができるか、または場合によっては、ゲノムそれ自体に統合されていてもよい。プラスミドが現在ベクターの最も通常的に使用される形態であるから、用語「プラスミド(plasmid)」および「ベクター(vector)」は、時には相互交換的に使用されてもよい。しかしながら、本発明は、当業界において知られたまたは知られるものと同等な機能を有するベクターの他の形態を含む。
【0072】
本発明のルビスコトランジットペプチドは、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含んでもよいし、また、AMVカプシドタンパク質は、配列番号4で表されるアミノ酸配列を含んでもよい。また、本発明のルビスコトランジットペプチドのアミノ酸配列には、配列番号2の変異体が本発明の範囲に含まれる。具体的には、前記ペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列と90%以上、より好ましくは、95%以上、最も好ましくは、98%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。また、本発明のAMVカプシドタンパク質のアミノ酸配列には、配列番号4の変異体が本発明の範囲に含まれる。具体的には、前記タンパク質配列番号4のアミノ酸配列と90%以上、より好ましくは、95%以上、最も好ましくは、98%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。
【0073】
また、本発明の組み換えベクターは、配列番号6で表されるアミノ酸配列を含むポリヒスチジンタグ(Polyhistidine-tag)をコードするポリヌクレオチドを
さらに含んでもよい。前記ポリヒスチジンタグは、配列番号5で表される塩基配列を含むポリヌクレオチドによってコードされ、最も好ましくは、配列番号5で表されるポリヌクレオチドによってコードされる。
【0074】
前記ポリヒスチジンタグは、本発明の目的タンパク質であるAMVに加えて、さらに容易な分離のために含まれるものであり、これを代替できるタグ用遺伝子としては、代表的にAviタグ、Calmodulinタグ、polyglutamateタグ、Eタグ、FLAGタグ、HAタグ、Mycタグ、Sタグ、SBPタグ、IgG Fcタグ、CTBタグ、Softag 1タグ、Softag 3タグ、Strepタグ、TCタグ、V5タグ、VSVタグ、Xpressタグなどが含まれてもよい。
【0075】
また、前記ポリヒスチジンタグは、AMVカプシドタンパク質をコードするポリヌクレオチドのN末端またはC末端に連結されたものであってもよく、好ましくは、C末端に連結されたものであってもよい。
【0076】
また、本発明の組み換えベクターは、プロモーターとターミネータ(terminator)との間に、(1)ルビスコトランジットペプチドをコードするポリヌクレオチド、AMVカプシドタンパク質をコードするポリヌクレオチド、およびポリヒスチジンタグをコードするポリヌクレオチドが順次に連結されているか;または(2)ルビスコトランジットペプチドをコードするポリヌクレオチド、ポリヒスチジンタグをコードするポリヌクレオチド、およびAMVカプシドタンパク質をコードするポリヌクレオチドが順次に連結されているものであってもよいが、連結順序が制限されるものではない。前記(1)の場合、組み換えベクターに挿入される全体insert配列は、配列番号11の塩基配列を含むポリヌクレオチドによってコードされ、最も好ましくは、配列番号11で表されるポリヌクレオチドによってコードされるが、配列番号11の塩基配列と80%以上、より好ましくは、90%以上、さらに好ましくは、95%以上の配列相同性を有する塩基配列によってコードされてもよい。
【0077】
前記プロモーターには、pEMUプロモーター、MASプロモーター、ヒストンプロモーター、Clpプロモーター、カリフラワーモザイクウイルス(cauliflower
mosaic virus)由来35Sプロモーター、カリフラワーモザイクウイルス(cauliflower mosaic virus)由来19S RNAプロモーター、植物のアクチンタンパク質プロモーター、ユビキチンタンパク質プロモーター、CMV(Cytomegalovirus)プロモーター、SV40(Simian virus 40)プロモーター、RSV(Respiratory syncytial virus)プロモーター、EF-1α(Elongation factor-1 alpha)プロモーターなどが含まれてもよく、最も好ましくは、CaMV35Sプロモーターであってもよい。前記ターミネータは、一例として、ノパリンシンターゼ(NOS)、イネアミラーゼRAmy1 Aターミネータ、パセオリンターミネータ、アグロバクテリウムツメファシエンスのオクトパイン(Octopine)遺伝子のターミネータ、大腸菌のrrnB1/B2ターミネータなどが含まれてもよく、最も好ましくは、HSPターミネータであってもよい。しかしながら、前記のようなプロモーターまたはターミネータの例は、ただ例示であり、これらに限定されない。
【0078】
本発明の他の様態として、本発明による組み換えベクターで形質転換された、形質転換植物体を提供することができる。
【0079】
本明細書において使用される用語「形質転換(transformation)」は、注入されたDNAによって生物の遺伝的な性質が変わることを総称し、「形質転換植物体(transgenic plant)」とは、分子遺伝学的方法で外部の遺伝子を注入
して製造された植物体であり、好ましくは、本発明の組み換え発現ベクターにより形質転換された植物体であり、前記植物体は、本発明の目的を達成するためのものであれば、制限がない。
【0080】
また、本発明による形質転換植物体は、形質転換(transformation)、形質感染(transfection)、アグロバクテリウム(Agrobacterium)媒介形質転換方法、パーティクルガン衝撃法(particle gun bombardment)、超音波処理法(sonication)、電気衝撃法(electroporation)、またはPEG(Polyethylen glycol)媒介形質転換方法などの方法で製造することができるが、本発明のベクターを注入できる方法であれば、制限がない。
【0081】
本発明の他の様態として、本発明は、下記段階を含む、組み換えAMVカプシドタンパク質の分離精製方法を提供する:
(Step 1)本発明による組み換えベクターを用いて植物体を形質転換させる段階;
(Step 2)前記(Step 1)段階で得た形質転換植物体をタンパク質抽出緩衝溶液と混合し、植物体混合液を製造する段階;
(Step 3)前記(Step 2)段階で収得した混合液から植物デブリ(debris)が除去された混合液を回収する段階;
(Step 4)前記(Step 3)段階で収得した混合液をアガロース(agarose)で充填されたカラムに注入し、ポリヒスチジンタグが連結された組み換えAMVカプシドタンパク質を前記アガロースに吸着させる段階;
(Step 5)洗浄溶液をカラムに注入し、洗浄する段階;および
(Step 6)溶出溶液をカラムに注入し、アガロースに吸着した前記組み換えタンパク質を溶出させる段階。
【0082】
本発明は、また、前記分離精製方法によって溶出された組み換えAMVカプシドタンパク質を提供する。
【0083】
本発明によるタンパク質抽出緩衝溶液は、10~100mM トリス(Tris)、100~1500mM 塩化マグネシウム(MgCl)、0.01~1% トリトン(Triton(登録商標))X-100(polyethylene glycol p-(1,1,3,3-tetramethylbutyl)-phenylether)、および5~300mM イミダゾール(Imidazole)を含んでもよい。より好ましくは、前記タンパク質抽出緩衝溶液は、10~50mM Tris、500~1200mM MgCl、0.01~0.7% トリトン(Triton(登録商標))X-100、および5~100mM イミダゾールを含んでもよい。最も好ましくは、前記タンパク質抽出緩衝溶液は、20mM Tris、1M MgCl、0.5% トリトン(Triton(登録商標))X-100、および10mM イミダゾールを含んでもよい。本発明において、トリス(Tris)はHClであり、pHが8.0に滴定されたものであってもよい(Tris-HCl)。
【0084】
また、本発明によるタンパク質抽出緩衝溶液は、pHが7~9であってもよく、好ましくは、pHが7.5~8.5であってもよい。最も好ましくは、前記タンパク質抽出緩衝溶液は、pHが8であってもよい。
【0085】
本発明によるアガロースは、Ni-IDA(Iminodiacetic acid)アガロースであってもよい。
【0086】
また、本発明において前記(Step 1)段階は、組み換えベクターが導入されたバクテリアを用いて植物体を形質転換させるものであってもよく、前記バクテリアは、好ましくは、アグロバクテリウムツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)であってもよい。
【0087】
本発明において、前記植物体は、シロイヌナズナ、大豆、タバコ、ナス、唐辛子、ジャガイモ、トマト、白菜、キャベツ、およびレタスからなる群から選ばれる双子葉植物;または稲、麦、小麦、ライ麦、とうもろこし、サトウキビ、エンバク、およびタマネギからなる群から選ばれる単子葉植物であってもよい。
【0088】
本明細書において使用される用語「植物体」は、本発明の組み換えタンパク質を大量生産できる植物であれば、制限なしで使用することができるが、より具体的には、前記列挙した植物体群から選ばれるものであってもよく、好ましくは、タバコであってもよい。本発明におけるタバコは、タバコ属(Nicotiana genus)植物であり、タンパク質を過発現できるものであれば、特に種類の制限を受けず、形質転換方法とタンパク質大量生産の目的に合うように適切な品種を選択して本発明を実施することができる。例えば、ニコチアナベンサミアナL.(Nicotiana benthamiana L.)またはニコチアナタバカムcv.クサンチ(Nicotiana tabacum cv.Xanthi)などの品種を用いることができる。
【0089】
本明細書において使用される用語「カプシド(capsid)」は、ウイルスの皮(coat)を構成するタンパク質を指す。自然的に、カプシドは、自己集合(self-assembly)してウイルス皮を形成し、ウイルスのゲノムは、前記皮内にパッケージング(packaging)される。ウイルス様粒子の場合、ウイルスゲノムなしでカプシドのみで構成される。本発明による組み換えAMVカプシドタンパク質は、個別的(単量体)に存在したり、多量体(例えば、三量体)の状態で存在していてもよく、ウイルス様粒子で自己集合した状態で存在していてもよい。また、本発明による組み換えAMVカプシドタンパク質の三量体は、サイズ排除クロマトグラフィー(size-exclusion chromatography)で分子量が約100kDaで現れることができる。本明細書の全般において、用語「約」は、±10%を意味する。したがって、分子量約100kDaは、90kDa~110kDaを意味する。
【0090】
本発明は、また、下記段階を含む、組み換えAMVウイルス様粒子(virus-like particle;VLP)の製造方法を提供する:
(Step 1)本発明による組み換えベクターを用いて植物体を形質転換させる段階;
(Step 2)前記(Step 1)段階で得た形質転換植物体をタンパク質抽出緩衝溶液と混合し、植物体混合液を製造する段階;
(Step 3)前記(Step 2)段階で収得した混合液から植物デブリ(debris)が除去された混合液を回収する段階;
(Step 4)前記(Step 3)段階で収得した混合液をアガロース(agarose)で充填されたカラムに注入し、ポリヒスチジンタグが連結された組み換えAMVカプシドタンパク質を前記アガロースに吸着させる段階;
(Step 5)洗浄溶液をカラムに注入し、洗浄する段階;
(Step 6)溶出溶液をカラムに注入し、アガロースに吸着した前記組み換えタンパク質を溶出させる段階;および
(Step 7)前記(Step 6)で溶出されたタンパク質をウイルス様粒子に製造する段階。
【0091】
また、本発明は、前記製造方法によって製造された、組み換えAMVウイルス様粒子を
提供する。
【0092】
前記組み換えAMVウイルス様粒子は、サイズ排除クロマトグラフィーで分子量が約2,000kDa以上で現れることもできる。
【0093】
また、前記組み換えAMVウイルス様粒子は、陰性染色法で染色後、透過電子顕微鏡で観察したとき、直径が10nm以上40nm以下、好ましくは、20nm以上30nm以下の球状または環状であってもよい。
【0094】
また、前記組み換えAMVウイルス様粒子は、超低温透過電子顕微鏡で観察し、3D構造(3-dimensional structure)を再構成(reconstruction)したとき、3個の複合体(trimeric complex)が規則的な配列を通じて全20個が組み立てられた球形のVLP(3×20)であってもよい。
【0095】
本発明において前記(Step 7)段階は、組み換えAMVカプシドタンパク質が含まれたタンパク質抽出緩衝溶液をウイルス様粒子組み立て用緩衝溶液に交替することによって、ウイルス様粒子を製造することもできる。すなわち、組み換えAMVカプシドタンパク質は、前記ウイルス様粒子組み立て用緩衝溶液中でウイルス様粒子に自己集合する。
【0096】
具体的には、前記ウイルス様粒子製造方法は、組み換えAMVカプシドタンパク質が自己集合によってウイルス様粒子を形成できるように、フィルターを用いてタンパク質抽出緩衝溶液をウイルス様粒子組み立て用緩衝溶液に交替する段階および濃縮する段階を含んでもよい。
【0097】
本発明において、前記ウイルス様粒子組み立て用緩衝溶液は、20~100mM ピロリン酸ナトリウム(Sodium pyrophosphate)および100~1000mM 塩化ナトリウム(NaCl)を含んでもよい。好ましくは、前記緩衝溶液は、30~70mM ピロリン酸ナトリウムおよび300~700mM NaClを含んでもよい。最も好ましくは、前記緩衝溶液は、50mM ピロリン酸ナトリウムおよび500mM NaClを含んでもよい。本明細書において、前記用語「ウイルス様粒子組み立て用緩衝溶液」は、「第2緩衝溶液」と相互交換的に使用される。
【0098】
また、前記緩衝溶液のpHは、pH6.9~7.5,好ましくは、pH6.9~7.2,最も好ましくは、pH7であってもよい。
【0099】
また、前記ウイルス様粒子製造方法は、自己集合した組み換えAMVウイルス様粒子を精製するためにサイズ排除クロマトグラフィーを行う段階をさらに含んでもよい。
【0100】
本発明は、また、下記の段階を含む、組み換えAMVウイルス様粒子を含むワクチン組成物の製造方法を提供する:
(Step 1)本発明による組み換えベクターを用いて植物体を形質転換させる段階;
(Step 2)前記(Step 1)段階で得た形質転換植物体から組み換えAMVカプシドタンパク質を分離精製する段階;
(Step 3)前記(Step 2)段階で収得した組み換えAMVカプシドタンパク質をウイルス様粒子に製造する段階;および
(Step 4)前記(Step 3)段階で収得したウイルス様粒子を極超低温電子顕微鏡を用いて3D構造を糾明する段階;および
(Step 5)前記ウイルス様粒子を含むワクチン組成物を製造する段階。
【0101】
すなわち、本発明は、本発明による組み換えAMVウイルス様粒子および抗原タンパク質を有効成分として含むワクチン組成物を提供する。
【0102】
本発明において「ワクチン(vaccine)」は、生体に免疫反応を起こす抗原を含有する生物学的な製剤であり、感染症の予防のためにヒトや動物に注射したり経口投与することによって、生体に免疫を生じさせる免疫原をいう。前記動物は、ヒトまたは非ヒト動物であり、前記非ヒト動物は、ブタ、ウシ、ウマ、イヌ、ヤギ、ヒツジなどを指すが、これらに限定されない。
【0103】
本発明の「ワクチン組成物」または「薬物伝達体」は、それぞれ、通常の方法によって散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアロゾルなどの経口型剤形および滅菌注射溶液の形態で剤形化して使用することができる。製剤化する場合には、通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩解剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を用いて調製することができる。経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれ、このような固形製剤は、前記レシチン類似乳化剤に少なくとも1つ以上の賦形剤、例えば、デンプン、カルシウムカーボネート(calcium carbonate)、スクロース(sucrose)またはラクトース(lactose)、ゼラチンなどを混ぜて調製することができる。また、単純な賦形剤以外にマグネシウムステアレート、タルクのような潤滑剤をも使用することができる。経口投与のための液状製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などを使用することができ、頻繁に使用される単純希釈剤である水、リキッドパラフィン以外に様々な賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれてもよい。非経口投与のための製剤には、滅菌水溶液、非水溶性製剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤が含まれる。非水溶性製剤、懸濁剤としては、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物油、エチルオレートのような注射可能なエステルなどを使用することができる。
【0104】
本発明によるワクチン組成物または薬物伝達体の投与経路は、これらに限定されるものではないが、口腔、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、硬膜内、心臓内、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、腸管、局所、舌下または直腸が含まれる。経口または非経口投与が好ましい。本願に使用された用語「非経口」は、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、滑液包内、胸骨内、硬膜内、病巣内および頭蓋骨内注射または注入技術を含む。本発明のワクチン組成物は、また、直腸投与のための坐剤の形態で投与することができる。
【0105】
本発明によるワクチン組成物、薬学的組成物、または薬物伝達体の投与量は、個体の年齢、体重、性別、身体状態などを考慮して選択される。特別な副作用なしに個体に免疫保護反応を誘導するのに必要な量は、免疫原として使用された組み換えタンパク質および賦形剤の任意存在によって多様化することができる。
【0106】
本発明において前記ワクチン組成物の製造方法は、アジュバント(adjuvant)を添加する段階をさらに含んでもよい。
【0107】
本発明において「アジュバント(Adjuvant)」は、ワクチンまたは薬学的に活性がある成分に添加されて、免疫反応を増加させたり影響を与える物質または組成物をいう。代表的に、免疫原(immunogen)用キャリア(carrier)または補助物質および/または他の薬学的に活性がある物質または組成物を通常的に意味する。典型的に、用語「アジュバント」は、広い概念で解釈されるべきであり、前記アジュバントに統合されたり前記アジュバントとともに投与された抗原の免疫原性(immunogenicity)を増進させることができる広い範囲の物質または策略(stratagerm)を意味する。また、アジュバントは、これらに限定されず、免疫増強剤(immun
e potentiator)、抗原伝達系またはこれらの組み合わせに分けられる。
【0108】
また、前記ワクチン組成物の製造方法は、下記特徴のうち1つを満たすことができる:(1)前記(Step 1)段階の組み換えベクターは、抗原タンパク質をコードするポリヌクレオチドをさらに含み、前記抗原タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、AMVカプシドタンパク質をコードするポリヌクレオチドのN末端に連結される;または(2)前記(Step 5)は、ウイルス様粒子の表面に抗原タンパク質を結合(conjugation)させる段階を含む。
【0109】
本発明において「抗原タンパク質」は、本発明によるワクチン組成物を体内に注入したとき、抗体の生成を誘導するためのタンパク質を意味する。前記抗原タンパク質は、病原性タンパク質または組み換えタンパク質であってもよいが、抗体の生成を誘導できるタンパク質であれば、制限なしで含まれてもよい。前記抗原タンパク質は、本発明によるワクチン組成物の表面に提示(display)される。抗原タンパク質をコードするポリヌクレオチドがAMVカプシドタンパク質をコードするポリヌクレオチドのN末端に連結される場合、抗原タンパク質は、本発明による組み換えベクターから組み換えAMVカプシドタンパク質と共に発現し、カプシドタンパク質のウイルス様粒子の組み立て時に、当該表面に提示されるように一緒に組み立てられる。または、本発明によって組み換えAMVウイルス様粒子を製造した後、当該表面に抗原タンパク質を結合させることによって、ワクチン組成物に抗原タンパク質を提示することができる。ウイルス様粒子の表面に外来タンパク質を結合させる方法は、当業界において知られたものであれば、制限なしで適用することができる。
【0110】
また、本発明は、前記ワクチン組成物製造方法によって製造されたワクチン組成物を提供する。
【0111】
前記ワクチン組成物には、アジュバントがさらに含まれてもよい。また、前記アジュバントは、アルム(alum)であってもよいが、アジュバントとして使用するに適したいずれの種類のアルミニウム塩(aluminium salt)も本発明に使用することができる。アルミニウム塩は、アルミニウムヒドロキシド(Al(OH))、アルミニウムホスフェート(AlPO)、アルミニウムヒドロクロリド、アルミニウムサルフェート、アンモニウムアルム、ポタシウムアルムまたはアルミニウムシリケートなどが含まれる。好ましくは、アルミニウム塩アジュバントとして、アルミニウムヒドロキシドまたはアルミニウムホスフェートを使用することができる。
【0112】
また、本発明は、下記の段階を含む、組み換えAMVウイルス様粒子を含む薬物伝達体の製造方法を提供する:
(Step 1)本発明による組み換えベクターを用いて植物体を形質転換させる段階;
(Step 2)前記(Step 1)段階で得た形質転換植物体から組み換えAMVカプシドタンパク質を分離精製する段階;
(Step 3)前記(Step 2)段階で収得した組み換えAMVカプシドタンパク質溶液を第1緩衝溶液に交替し、組み換えAMVカプシドタンパク質三量体を製造する段階;
(Step 4)前記(Step 3)の溶液に薬物を添加する段階;および
(Step 5)前記(Step 4)の第1緩衝溶液を第2緩衝溶液に交替し、ウイルス様粒子を製造する段階。
【0113】
本発明による薬物伝達体は、本発明による組み換えAMVウイルス様粒子に薬物を含ませて、ウイルス様粒子を介して薬物を目標地点に伝達する。
【0114】
前記薬物には、抗がん剤などすべての種類の薬剤が制限なしで含まれてもよく、2つ以上の薬物が同時に本発明によるウイルス様粒子に担持されることもできる。
【0115】
本発明による薬物伝達体の製造方法において、前記(Step 5)の第1緩衝溶液および第2緩衝溶液は、下記特徴を満たすことができる:(1)第1緩衝溶液は、10~100mM Tris、および100~500mM 塩化ナトリウムを含み、pHが6.9~7.5である;および(2)第2緩衝溶液は、20~100mM ピロリン酸ナトリウムおよび100~1000mM 塩化ナトリウムを含み、pHが6.9~7.5である。
【0116】
具体的には、本発明による組み換えベクターを植物体に形質転換させて組み換えAMVカプシドタンパク質をタンパク質抽出緩衝溶液に分離精製した後、バッファーを第1緩衝溶液に交替すると、組み換えAMVカプシドタンパク質単量体が三量体を形成する。前記第1緩衝溶液は、10~100mM Tris、および100~500mM 塩化ナトリウム(NaCl)を含んでもよい。好ましくは、前記緩衝溶液は、10~50mM Tris、および200~400mM NaClを含んでもよい。最も好ましくは、前記緩衝溶液は、25mM Tris、および300mM NaClを含んでもよい。本発明において、トリス(Tris)は、HClに滴定されたものであってもよい(Tris-HCl)。
【0117】
次に、組み換えAMVカプシドタンパク質三量体に薬物を添加した後、第1緩衝溶液を第2緩衝溶液に交替すると、薬物が担持された組み換えAMVウイルス様粒子が製造される。前記薬物は、ウイルス様粒子の内部に含まれているか、またはウイルス様粒子の表面に結合されていてもよいが、位置が限定されない。前記第2緩衝溶液は、20~100mM ピロリン酸ナトリウム(Sodium pyrophosphate)および100~1000mM 塩化ナトリウム(NaCl)を含んでもよい。好ましくは、前記緩衝溶液は、30~70mM ピロリン酸ナトリウムおよび300~700mM NaClを含んでもよい。最も好ましくは、前記緩衝溶液は、50 mM ピロリン酸ナトリウムおよび500mM NaClを含んでもよい。
【0118】
また、前記第1緩衝溶液および第2緩衝溶液のpHがpH6.9~7.5、好ましくは、pH6.9~7.2、最も好ましくは、pH7であってもよい。
【0119】
本明細書および請求範囲に使用された用語や単語は、通常的または辞書的な意味に限定して解すべきものではなく、発明者は、自分の発明を最も最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義することができるという原則に基づいて本発明の技術的思想に符合する意味と概念で解すべきである。
【0120】
以下、本発明の理解を助けるために好適な実施例を示す。しかしながら、下記の実施例は、本発明をより容易に理解するために提供されるものに過ぎず、下記実施例によって本発明の内容が限定されるものではない。
【実施例
【0121】
実施例1:組み換えAMVカプシドタンパク質発現用植物発現ベクターの製作
図1の切断地図に示されたように、植物体で組み換えAMVカプシドタンパク質を発現させることができるように組み換えした植物体発現用ベクターを製作した。
【0122】
より具体的には、AMVカプシドタンパク質に対する遺伝子情報を確保し、ニコチアナベンサミアナ(Nicotiana benthamiana)における発現に最適化された配列で遺伝子(配列番号4)を合成した。ポリヒスチジンタグ(6xHis-tag
)の位置および標的細胞小器官によるAMVカプシドタンパク質の発現パターンを確認するために、下記のように6種の発現用ベクターを製作した。
【0123】
細胞質に標的化される組み換えAMVカプシドタンパク質植物発現ベクターは、pCAMBIA1300ベクターのCaMV35Sプロモーター遺伝子とHspターミネータ(terminator)との間にAMVカプシドタンパク質をコードするポリヌクレオチド(配列番号3)を中間に置いて前(N末端)または後(C末端)にそれぞれ6個の連続したヒスチジン(Histidine)をコードするポリヌクレオチド(配列番号5)を順次に連結して製作した。
【0124】
葉緑体に標的化される組み換えAMVカプシドタンパク質植物発現ベクターは、pCAMBIA1300ベクターのCaMV35Sプロモーター遺伝子とHspターミネータ(terminator)との間にルビスコトランジットペプチド(Rubisco transit peptide)をコードするポリヌクレオチド(配列番号1)、AMVカプシドタンパク質をコードするポリヌクレオチド(配列番号3)を順次に連結して製作した。この際、N末端ポリヒスチジンタグとC末端ポリヒスチジンタグを区分するために、AMVの前または後にそれぞれ6個の連続したヒスチジン(Histidine)をコードするポリヌクレオチド(配列番号5)を挿入した。
【0125】
小胞体に標的化される組み換えAMVカプシドタンパク質植物発現ベクターは、pCAMBIA1300ベクターのCaMV35Sプロモーター遺伝子とHspターミネータ(terminator)との間にNB(New BiP)シグナルペプチド(signal peptide)をコードするポリヌクレオチド(配列番号9)、AMVカプシドタンパク質をコードするポリヌクレオチド(配列番号3)およびHDEL(His-Asp-Glu-Leu)ペプチドをコードするポリヌクレオチド(配列番号7)を順に連結して製作した。この際、N末端ポリヒスチジンタグとC末端ポリヒスチジンタグを区分するために、AMVの前または後にそれぞれ6個の連続したヒスチジン(Histidine)をコードするポリヌクレオチド(配列番号5)を挿入した。
【0126】
実施例2:組み換えAMVカプシドタンパク質の発現の確認
2.1.植物発現ベクターの一過性発現(transient expression)
前記実施例1で準備した植物発現ベクターをアグロバクテリアLBA4404菌株に電気衝撃法(Electroporation)を用いて形質転換させた。形質転換されたアグロバクテリアを5mLのYEP液体培地(酵母抽出物10g、ペプトン10g、NaCl5g、カナマイシン50mg/L、リファンピシン25mg/L)で28℃の条件で16時間振とう培養した後、1次培養液1mlを50mlの新しいYEP培地に接種し、28℃の条件で6時間振とう培養した。このように培養されたアグロバクテリアは、遠心分離(7,000rpm、4℃、5分)して収集した後、600nmの波長で吸光度(O.D)の値が1.0になるようにインフィルトレーション(Infiltration)バッファー[10mMのMES(pH5.7)、10mMのMgCl、200μMのアセトシリンゴン]に懸濁させた。アグロバクテリア懸濁液は、注射針を除去した注射器を用いてニコチアナベンサミアナ葉の裏面に注入する方法でアグロインフィルトレーション(Agro-infiltration)を行った。
【0127】
2.2.形質転換植物体で組み換えAMVカプシドタンパク質の発現の確認
前記実施例2.1で準備した植物の葉からタンパク質を抽出して遠心分離した後に、水溶性分画(Supernatant;S)にあるタンパク質と、ペレット(Pellet;P)分画にあるタンパク質と、水溶性分画とペレットを全部含む分画(Total;T)をそれぞれ分離し、ウェスタンブロッティングで組み換えAMVカプシドタンパク質の発現を確認した。より詳しくは、各分画30μLをSDS試料バッファーと混合した後に
加熱した。次に、10%SDS-PAGEゲルに電気泳動し、サイズ別に分離したタンパク質バンドを確認し、これをPVDF膜に移動させた後に、5%スキムミルク(skim
milk)を用いてブロッキング段階を経た後に、ポリヒスチジンと反応する抗体を結合させ、ECL溶液を製造社で提供する方法に従って処理し、組み換えAMVカプシドタンパク質の発現を確認した。
【0128】
その結果、図2に示されたように、葉緑体に標的化されるようにルビスコトランジットペプチドを融合した組み換えAMVカプシドタンパク質が高効率で発現したことを確認し、発現した組み換えAMVカプシドタンパク質の90~95%以上が水溶性分画で確認され、約5~10%のAMVカプシドタンパク質がペレット分画で観察された。これと比較して、細胞質および小胞体に標的化した組み換えAMVカプシドタンパク質は、葉緑体に標的化したconstructsより発現効率が低かった。これによって、下記実施例は、葉緑体に標的化されるルビスコトランジットペプチドを融合した組み換えAMVカプシドタンパク質(N末端またはC末端にHis-tagが付着)を用いて進めた。
【0129】
実施例3:形質転換植物で発現した組み換えAMVカプシドタンパク質の分離精製
前記実施例2.1で準備したN末端またはC末端にポリヒスチジンタグ(His-tag)が融合した組み換えAMVカプシドタンパク質を発現するそれぞれのニコチアナベンサミアナ葉50gにタンパク質抽出溶液[20mM Tris-HCl、pH8.0、1M MgCl、10mM imidazole、0.5% Triton(登録商標)
X-100]100mLを添加し、ブレンダーで組織を破砕した後、13,000rpmで4℃で30分間遠心分離し、タンパク質抽出液をそれぞれ回収した。前記2つの条件(N末端またはC末端にポリヒスチジンタグが融合)のタンパク質抽出液から組み換えAMVカプシドタンパク質の分離精製のために、Ni-IDA(Iminodiacetic acid)アガロースレジン(agarose resin)で充填されたカラムで親和性クロマトグラフィーを同時に実施した。前記カラムにレジンを10mL充填した後、100mLの洗浄溶液[20mM Tris-HCl、pH8.0、1M MgCl、10mM Imidazole]で平衡化させた。回収したそれぞれのタンパク質抽出液を互いに異なる2つのカラムに適用し、平衡化させた後、洗浄溶液100mLを流してレジンを洗浄し、溶出溶液(20mM Tris-HCl、pH8.0、1M MgCl、50mMまたは100mMまたは300mM Imidazole)で組み換えAMVカプシドタンパク質を溶出した。それぞれの組み換えAMVカプシドタンパク質が含まれた溶出溶液は、電気泳動(SDS-PAGE)後、クマシー染色法(Coomassie staining)とwestern blot実験を通じて確認した。
【0130】
その結果、図3に示されたように、C末端にHis-tagを融合した組み換えAMVカプシドタンパク質が、N末端にHis-tagを融合した組み換えAMVカプシドタンパク質に比べて、精製度および最終回収率がさらに高いことを確認した。これによって、以下の実施例では、C末端にHis-tagを融合した組み換えAMVカプシドタンパク質を用いて進めた。
【0131】
実施例4:組み換えAMVカプシドタンパク質のVLP形成条件の確認
組み換えAMVカプシドタンパク質は、自己集合を通じて組み換えAMVウイルス様粒子を形成する。したがって、組み換えAMVウイルス様粒子の形成のための条件テストおよび確認のためのサイズ排除クロマトグラフィーを行った。
【0132】
実施例3で回収した分離精製された組み換えAMVカプシドタンパク質が含まれた溶出溶液5mgを第1緩衝溶液(25mM Tris-HCl、pH7.0、300mM NaCl)で透析(Dialysis)を進めた後、第1緩衝溶液で平衡化されたサイズ排除クロマトグラフィーカラムにロードし、1つのピーク分画を獲得した。標準size
markerを用いて分子量を計算した結果、約100kDaの三量体(trimer)構造を確認した(図4A)。
【0133】
また、実施例3で回収した組み換えAMVカプシドタンパク質が含まれた溶出溶液5mgを第2緩衝溶液(50mM Sodium pyrophosphate、pH7.0,500mM NaCl)で透析(Dialysis)を進めた後、第2緩衝溶液で平衡化されたサイズ排除クロマトグラフィーカラムにロードし、AMVカプシドタンパク質のサイズの変化があることを確認した(図4B)。第1緩衝溶液と比較して、第2緩衝溶液の条件では、既存ピーク(P2)が減少したのに対し、新しいピーク(P1)が形成されることを確認し、P1およびP2がいずれも組み換えAMVカプシドタンパク質であることをSDS-PAGEで確認した。
【0134】
実施例5:組み換えAMVウイルス様粒子の確認
サイズ排除クロマトグラフィーで分離したP1分画に含まれた組み換えAMVカプシドタンパク質を最終濃度が100nMになるように、第2緩衝溶液(50mM Sodium pyrophosphate,pH7.0,500mM NaCl)に希釈し、陰性染色(Negative-staining)を行った。5μLのタンパク質溶液をカーボンがコートされた銅グリッドで1分間反応させた後、ろ紙を用いてタンパク質溶液を除去し、3次蒸留水で3回洗浄した。この際、カーボンがコートされた銅グリッドは、プラズマ(Plasma)とともに1分間反応して疎水性(hydrophobic)の特性を親水性(hydrophilic)特性に変換し、タンパク質をカーボンに良好に付着させる。最終的に、1%酢酸ウラニル(uranyl acetate)で1分間反応させて、陰性染色(Negative-staining)した後、ろ紙で染色溶液を除去し、常温で12時間乾燥した。準備したグリッドは、透過電子顕微鏡(Tecnai T10,Philips)を用いて20,000倍の倍率でイメージを獲得した。その結果、図5(pH7.0)に示されたように、組み換えAMVカプシドタンパク質で構成されたウイルス様粒子を観察することができた。
【0135】
また、pH条件の変化によるVLP安定性を確認するために、様々なpH(3.0、5,0、9.0)の条件で緩衝溶液のpHを変化させたテストにおいてpH3.0とpH9.0の条件でVLPの安定性が減少する現象が現れたのに対し、pH5.0とpH7.0の条件では、VLPの安定性が維持されることを確認し、その結果を図5に示した。
【0136】
実施例6:組み換えAMVカプシドタンパク質の構造
6.1.サンプルガラス化(Vitrification)およびデータ収集
前記実施例5で確認された組み換えAMVカプシドタンパク質のVLP構造を分析するために、極低温電子顕微鏡(Cryo-electron microscopy)を使用した。3μlの組み換えAMVカプシドタンパク質VLPを15mAで1分間negatively glow-discharged holey carbon grid(Quantifoil R1.2/1.3 Cu 200mesh,SPI)に適用後、4℃、100%湿度(humidity)条件のVitrobot Mark IV装置で6.5秒間blottingし、液体窒素(liquid nitrogen)で温度を低くした液体エタン(liquid ethane)に浸漬し、迅速に固定した。AMV VLPのCryo-EMイメージは、300kV Titan Krios(Thermo Fisher Scientific,USA)transmission electron microscopyでFalcon 3EC direct electron detector(Thermo Fisher Scientific,USA)を用いて確認し、Automatic data acquisition software(EPU;Thermo Fisher Scientific,USA)で収集した(図6A参照)。
【0137】
6.2.AMV VLP 3次構造分析のためのイメージプロセッシング(image processing)とモデルビルディング(model building)
前記実施例6.1で収集した組み換えAMVカプシドタンパク質のVLPイメージを分析するために、cryoSPARC v2ソフトウェアを使用した。ビーム誘導モーション補正(Beam-induced motion correction)と線量加重値(dose weighting)は、ソフトウェアに含まれたmotion correctionを用いて補正した後、patch CTF(Contrast transfer function)を用いてCTF変数を測定した。モーションドリフト(motion drift)が発生したイメージまたはdefocusが非常に高いか低いイメージは、イメージプロセッシングに使用できないので、目視で確認して除去し、1,803枚のイメージから482,224個のAMV VLPを抽出し、2D class
averageイメージを製作した。このイメージを鋳型(template)として相関関係の低いイメージをさらに除去した後、279,755個のAMV VLPを最終的に選定し、これを用いて新しい2D class averageを製作した(図6Aの下段)。新規2Dイメージに基づいて20面体(icosahedral)の3D構造を再構成し(図6Bを参照)、AMV VLPの3次構造に基づいて分解能(resolution)を測定した結果は、図6Cに示し、2.41Åの高分解能構造を獲得した。イメージプロセッシングとモデルビルディングの進行手続きは、図6Dにflow chartで示した。また、極超低温電子顕微鏡(Cryo-electron microscopy)および構造分析ソフトウェアを用いて組み換えAMV VLPの全体的な構造、単量体(monomer)の構造およびアミノ酸の位置を分析した結果は、図7A図7Dに示した。
【0138】
前述した本発明の説明は、例示のためのものであり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で容易に変形が可能であることを理解することができる。したがって、以上で記述した実施例は、すべての面において例示的なものであり、限定的でないものと理解しなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明は、葉緑体に標的化される植物発現ベクターを用いて植物で組み換えAMVを高効率で生産する方法およびこれを用いた組み換えAMV VLPの製造方法に関する。高分解能で糾明された3次構造の特性上、本発明による組み換えAMV VLPは、ワクチン、治療剤、および薬物伝達体などの開発のためのプラットフォーム(Platform)として活用可能である。また、本発明は、植物発現システムを用いるので、生産費用を格別に低減することができ、従来広く知られた方法(動物細胞や微生物でタンパク質を生産した後、分離精製する方法)で発生しうる様々な汚染源(ウイルス、がん遺伝子、腸毒素など)を確実に遮断することができる。また、本発明は、動物細胞が必須的に含む翻訳後修飾過程が起こる真核生物タンパク質の合成経路を含んでいて、生理活性を維持しているタンパク質生産が可能であり、商品化段階でも動物細胞やバクテリアとは異なって、種子(seed stock)として管理が可能であるという点から有利である。さらには、当該物質の需要が急増する場合、大量生産に必要な設備技術やコスト面において、従来の動物細胞またはバクテリアを用いた生産システムと比較して、さらに効率的かつ経済的であるから、需要の発生に合わせて短期間に大量生産および供給が可能であるという長所もある。したがって、本発明は、ワクチンおよび薬物伝達技術を含んでウイルス様粒子を活用する様々な産業分野において有用に活用されることが期待される。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7A
図7B
図7C
図7D
【配列表】
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【国際調査報告】