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特表2024-508477前立腺ガンの増悪のリスクを低下する方法
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  • 特表-前立腺ガンの増悪のリスクを低下する方法 図1
  • 特表-前立腺ガンの増悪のリスクを低下する方法 図2
  • 特表-前立腺ガンの増悪のリスクを低下する方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-27
(54)【発明の名称】前立腺ガンの増悪のリスクを低下する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4166 20060101AFI20240219BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
A61K31/4166
A61P35/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023552133
(86)(22)【出願日】2022-02-28
(85)【翻訳文提出日】2023-10-25
(86)【国際出願番号】 JP2022008383
(87)【国際公開番号】W WO2022181818
(87)【国際公開日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】63/154,426
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/222,323
(32)【優先日】2021-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000006677
【氏名又は名称】アステラス製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ジョン、ヘアーストン
(72)【発明者】
【氏名】ブルース、ブラウン
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086BC38
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA52
4C086NA05
4C086ZA81
4C086ZB26
(57)【要約】
本開示は、前立腺ガンに対する他の処置が必要とされない低リスクまたは中リスクとして特徴付けられる前立腺ガンを有すると組織学的に判明した患者において、前立腺ガンの増悪のリスクを低下する方法を提供する。上記方法は、サーベイランス下であり、かつ前立腺ガンに対する他の処置が必要とされない低リスクまたは中リスクとして特徴付けられる前立腺ガンを有すると組織学的に判明した対照集団の患者において、前立腺ガンの増悪のリスクの低下において臨床的に有効であると証明された量および期間、エンザルタミドを単剤療法として上記患者に投与することを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前立腺ガンに対する他の処置が必要とされない低リスクまたは中リスクとして特徴付けられる前立腺ガンを有すると組織学的に判明した患者において、前立腺ガンの増悪のリスクを低下する方法であって、前立腺ガンの増悪のリスクの低下において臨床的に有効であると証明された量および期間、エンザルタミド単剤療法を前記患者に投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記患者における前記前立腺ガンの増悪のリスクがサーベイランス下の対照集団の患者と比較して低下し、前記対照集団の患者は、前立腺ガンに対する他の処置が必要とされない低リスクまたは中リスクとして特徴付けられる前立腺ガンを有すると組織学的に判明しており、かつ前立腺ガンに対する療法を受けていない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記患者の余命および前記対照集団の患者の余命が5年超である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記患者の余命および前記対照集団の患者の余命が5年以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記患者の前立腺ガンおよび前記対照集団の前立腺ガンが低リスクとして特徴付けられる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記低リスクが、T1c~T2a、前立腺特異抗原(PSA)レベルが10ng/mL未満、グリーソンスコアが6以下およびEastern Cooperative Oncology Group(ECOG)ステータスが2以下、のうちの1つ以上のステージ識別によって定義される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記患者の前立腺ガンおよび前記対照集団の前立腺ガンが中リスクとして特徴付けられる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記中リスクが、T2b~T2c、PSAレベルが20ng/mL未満、グリーソンスコアが7(3+4パターン)以下およびECOGステータスが2以下、のうちの1つ以上のステージ識別によって定義される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記前立腺ガンの増悪が病理学的な前立腺ガンの増悪を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記病理学的な前立腺ガンの増悪が、原発性もしくは続発性のグリーソンパターンにおける1超の増加、またはガン陽性コアにおける15%超の増加を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記前立腺ガンの増悪が、治療上の前立腺ガンの増悪を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記治療上の前立腺ガンの増悪が、前立腺ガンに対するさらなる療法の最初の発生を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記さらなる療法が、アンドロゲン除去療法、前立腺摘除術、放射線療法、局所療法および全身療法からなる群より選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記期間が1年である、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
1年間のエンザルタミド単剤療法後に生検で陰性となる前記患者の尤度が、1年間のアクティブサーベイランス後に生検で陰性となる前記対照集団の患者の尤度と比較して少なくとも3倍増加する、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記患者におけるPSAの増悪が、前記対照集団の患者におけるPSAの増悪と比較して6ヶ月遅延する、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
エンザルタミド単剤療法が160mgの一日用量で投与される、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
CYP3A4の強力な誘導薬が前記患者に共投与され、エンザルタミド単剤療法が240mgの一日用量で投与される、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本明細書で引用される各文献は、参照によりその全体が援用される。
【技術分野】
【0002】
本開示は、一般的に前立腺ガンの処置に関する。
【背景技術】
【0003】
いくつかの前立腺ガンの患者においては、アクティブサーベイランスや経過観察が前立腺ガンの処置を遅延させうるか、または不必要な処置を防止しうる。しかしながら、最終的には、前立腺ガンの増悪を経る患者もいる。したがって、アクティブサーベイランスまたは経過観察中の患者において、前立腺ガンの増悪のリスクを低下する方法があれば有利である。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1】患者の割り付けを示したチャートである。
図2】疾患が増悪するまでの期間のKaplan-Meierプロットである(全解析セット)。図2脚注:病理学的な増悪は、原発性もしくは続発性のGSにおける1超の増加、またはガン陽性コアにおける15%超の増加として定義された;治療上の増悪は、前立腺ガンに対する一次治療(前立腺摘除術、放射線療法、局所療法または全身療法)の最初の発生と定義された;試験終了時に前立腺ガンの増悪がみられなかった患者、中止した患者、および死亡した患者は、最終評価日に打ち切りとされた。試験中に療法を変更した患者は最初の療法変更時に、療法を中止した患者は試験中止時に打ち切りとされた;両側対数順位検定を用いて算出;処置群、層別化因子、年齢、人種、および前立腺ガン診断からの期間を固定効果として、試験場所および患者をランダム効果として、比例ハザード性を仮定したCox回帰モデルを用いて算出。HR<1ではエンザルタミドが有利;両側層別対数順位検定を用いて算出。AS アクティブサーベイランス;CI 信頼区間;GS グリーソンスコア;HR ハザード比;NR 未達成。
図3】前立腺特異抗原(PSA)が増悪するまでの期間のKaplan-Meierプロット(Port)である。図3の脚注:PSAの増悪は、血清PSAの二次的上昇が、ベースラインの25%以上もしくはナディア超の25%以上、または絶対値で2ng/mL以上と定義された。試験終了時にPSAの増悪がみられなかった患者、中止した患者および死亡した患者は、最終評価日で打ち切りとされた。試験中に療法を変更した患者は最初の療法変更時に、療法を中止した患者は試験中止時に打ち切りとされた;両側対数順位検定を用いて算出;処置群、層別化因子、年齢、人種、および前立腺ガン診断からの期間を固定効果、試験場所および患者をランダム効果として、比例ハザード性を仮定したCox回帰モデルを用いて算出。HR<1ではエンザルタミドが有利;両側層別対数順位検定を用いて算出。AS アクティブサーベイランス;CI 信頼区間;HR ハザード比;PSA 前立腺特異抗原。
【発明の具体的説明】
【0005】
本開示は、前立腺ガンの増悪のリスクを低下する方法を提供する。上記方法は、低リスクまたは中リスクの前立腺ガンの単剤療法としてエンザルタミドを投与することを含む。エンザルタミド(XTANDI(登録商標)として販売されている)は、現在、去勢抵抗性前立腺ガンおよび転移性去勢感受性前立腺ガンの処置に承認されている第二世代の非ステロイド系アンドロゲン受容体阻害剤である。承認用量は、160mg(80mg錠剤を2錠もしくは40mg錠剤を4錠、または40mgカプセルを4カプセル)の、1日1回経口投与である。エンザルタミドは、米国特許第8,183,274号明細書;同第7,709,517号明細書;および同第9,126,941号明細書に開示されており、これらは参照によりその全体が援用される。
【0006】
本開示で用いる「単剤療法」(または「前立腺ガンに対する単剤療法」)とは、前立腺ガンを処置するために投与される唯一の療法を意味し、他の目的の療法を除外するものではない。
【0007】
このエンザルタミド単剤療法に好適な患者は、前立腺ガンに対する他の処置が必要とされない低リスクまたは中リスクとして特徴付けられる前立腺ガンを有すると組織学的に判明している患者、すなわち、アクティブサーベイランス(AS)または経過観察中の患者である。本開示で使用される「アクティブサーベイランス」および「経過観察」とは、定期的に患者の状態(例えば、前立腺特異抗原(PSA)血液検査、直腸指診、生検、および/または画像検査)をモニタリングするが、前立腺ガンに対する処置は実施しないことを意味する。
【0008】
本開示の他の箇所で定義されていない限り、「低リスク」とは、T1c~T2a、PSAレベルが10ng/mL未満、リンパ節転移陽性なし(N0)、転移なし(M0)(またはCT/骨スキャンが行われていない場合はN0およびM0と推定される)、グリーソンスコア(GS)が6以下、およびEastern Cooperative Oncology Group(ECOG)ステータスが2以下、のうちの1つ以上と定義される。
【0009】
本開示の他の箇所で定義されていない限り、「中リスク」とは、T2b~T2c、PSA値が20ng/mL未満、N0、M0(またはCT/骨スキャンが行われていない場合はN0およびM0と推定される)、GSが7(3+4パターン)以下、ECOGステータスが2以下、のうちの1つ以上と定義される。
【0010】
いくつかの実施態様において、上記患者および対照集団の患者の余命は、5年超である;すなわち、そうでなければアクティブサーベイランス下にある患者である。いくつかの実施態様において、上記患者および対照集団の患者の余命は、5年以下である;すなわち、そうでなければアクティブサーベイランス下または経過観察下にあってもよい。
【0011】
エンザルタミド単剤療法は、典型的には経口投与される。エンザルタミドは、典型的には160mgの一日用量で経口投与される。強力なCYP3A4誘導薬が共投与されている(co-adiminstered)患者に対しては、エンザルタミド単剤療法が240mgの一日用量で経口投与する。いくつかの実施態様において、エンザルタミド単剤療法は、(例えば、腫瘍内注射、または移植デバイスもしくは徐放性システム等を使用することによって)腫瘍部位に局所投与される。
【0012】
エンザルタミド単剤療法は、前立腺ガンの増悪のリスクを低下するのに十分な期間(例えば、30、60、90日;3、6、9、12、18、24箇月)投与される。
【0013】
以下の実施例に示すように、エンザルタミド単剤療法は、十分に忍容性が高く、臨床的に証明されたいくつかの利点がある。
【0014】
第一に、エンザルタミド単剤療法は、前立腺ガンに対する他の処置が必要とされない低リスクまたは中リスクとして特徴付けられる前立腺ガンを有すると組織学的に判明しており、かつ前立腺ガンに対する療法を受けていないサーベイランス下の対照集団の患者と比較して、前立腺ガンの増悪のリスクを46%低下するのに有効である。「前立腺ガンの増悪」は、病理学的な前立腺ガンの増悪、治療上の前立腺ガンの増悪、またはその両方でありうる。「病理学的な前立腺ガンの増悪」は、原発性もしくは続発性のグリーソンパターンにおける1超の増加、またはガン陽性コアにおける15%超の増加によって特徴付けられる。「治療上の前立腺ガンの増悪」は、前立腺ガンに対するさらなる療法(例えば、アンドロゲン除去療法、前立腺摘除術、放射線療法、局所療法および全身療法)の最初の発生である。
【0015】
第二に、上記対照集団と比較して、エンザルタミド単剤療法を受けた患者は、1年時での生検で陰性となる傾向が少なくとも3倍高かった。
【0016】
第三に、エンザルタミド単剤療法を受けた患者では、PSAの増悪が6箇月遅延した。「PSAの増悪」は、血清PSAの上昇が、ベースラインの25%以上もしくはナディア超の25%以上、または絶対値で2ng/mL以上と定義される。
【0017】
他の前立腺ガン単剤療法は、本開示の方法において使用されうる;すなわち、本開示はまた、前立腺ガンに対する他の処置が必要とされない低リスクまたは中リスクとして特徴付けられる前立腺ガンを有すると組織学的に判明した患者において、前立腺ガンの増悪のリスクを低下する方法であって、サーベイランス下の対照集団の患者と比較して前立腺ガンの増悪のリスクの低下において臨床的に有効であると証明された量および期間、エンザルタミド単剤療法を上記患者に投与することを含み、上記対照集団の患者は、前立腺ガンに対する他の処置が必要とされない低リスクまたは中リスクとして特徴付けられる前立腺ガンを有すると組織学的に判明しており、かつ前立腺ガンに対する療法を受けていない、方法を提供する。
【0018】
いくつかの実施態様において、前立腺ガン単剤療法は、酢酸アビラテロン、アパルタミドまたはダロルタミドなどの第二世代非ステロイドアンドロゲン受容体である。酢酸アビラテロンは、典型的には、1日2回 5mgのプレドニゾンとともに、1日1回 1,000mgの用量で経口投与される;したがって、「酢酸アビラテロン単剤療法」は、酢酸アビラテロンおよびプレドニゾンの両方の投与を含む。アパルタミドは、典型的には240mgの一日用量で経口投与される。ダロルタミドは、典型的には600mgの一日用量で経口投与される。
【0019】
本開示はまた、低リスクまたは中リスクの前立腺ガンを有する患者に、治療上有効な量のエンザルタミド、酢酸アビラテロン、アパルタミドまたはダロルタミドを単剤療法として投与することによる、低リスクまたは中リスクの前立腺ガンを処置する方法を提供する。一実施態様において、上記方法は、エンザルタミドを単剤療法として投与することを含む。一実施態様において、上記方法は、単剤療法として酢酸アビラテロンを投与することを含み、ここで、「酢酸アビラテロン単剤療法」は、酢酸アビラテロンおよびプレドニゾンの両方の投与を含む。一実施態様において、上記方法は、単剤療法としてアパルタミドを投与することを含む。一実施態様において、上記方法は、ダロルタミドを単剤療法として投与することを含む。
【実施例
【0020】
実施例1
試験概要
【0021】
ENACT試験(NCT02799745)の説明は、2016年6月15日にウェブサイトclinicaltrials.govに掲載され、その説明は、参照により本明細書に援用される。本試験の主要目的は、低リスクまたは中リスクに分類されると組織学的に判明した前立腺ガンを有し、AS下にあり、前立腺ガンの局所療法または全身療法を以前に受けたことがない患者における、前立腺ガンの増悪(病理学的または治療的)までの期間延長に対するエンザルタミドの有効性および安全性を評価することであった。
【0022】
試験集団
【0023】
適格患者は、スクリーニングの6箇月以内に診断された、AS下の患者であった。臨床的に限局性であり、低リスクまたは中リスクに分類されると組織学的に判明した前立腺ガンを有するAS下の患者を、1年間または病理学的な増悪もしくは治療上の増悪が認められるまで、160mg/日のエンザルタミドによる処置を受ける群(N=114人)またはアクティブサーベイランスを受ける群(N=113人)に1対1で無作為に割り付けた。ベースライン時の平均年齢は、66.1歳であった。
【0024】
試験の設計および手法
【0025】
患者は、低リスクまたは中リスク、および実施された生検の種類(マルチパラメトリック核磁気共鳴画像法(mpMRI)標的前立腺生検、または非mpMRI標的経直腸超音波ガイド下前立腺生検)により層別化した。「低リスク」とは、T1c~T2a、PSAが10ng/mL未満、N0、M0、GSが6以下、ECOGステータスが2以下、および推定余命が5年超と定義された。「中リスク」は、T2b~T2c、PSAが20ng/mL未満、N0、M0、GSが7(3+4パターンのみ)以下、ECOGステータスが2以下、および推定余命が5年超と定義した。
【0026】
エンザルタミド群またはAS群に無作為に割り付けた後、患者を1年間追跡した(処置期間)。その後、1年間の追跡期間が続き、最後の患者が24箇月の受診を終えるまで、さらに少なくとも1年間の継続追跡期間を実施した。生検を、盲検化された中央審査部で評価した。
【0027】
主要エンドポイントと選択された副次的エンドポイント
【0028】
主要エンドポイントは、前立腺ガンの増悪(病理学的な増悪または治療上の増悪)までの期間であった。「前立腺ガンの増悪」とは、病理学的なまたは治療上の前立腺ガンの増悪として定義する。「病理学的な増悪」は、原発性もしくは続発性のグリーソンパターンにおける1超の増加、またはガン陽性コアにおける15%超の増加として定義する。「治療上の増悪」は、前立腺ガンに対するさらなる療法(例えば、アンドロゲン除去療法、前立腺摘除術、放射線療法、局所療法および全身療法)の最初の発生として定義する。
【0029】
副次的エンドポイントは、(1)1年時および2年時でのガンの生検における陰性の発生率、(2)1年時および2年時でのガン陽性コアの割合、(3)PSA増悪までの期間、(4)1年時および2年時での血清PSAの二次的上昇の発生であった。「PSAの増悪」は、血清PSAの上昇が、ベースラインの25%以上もしくはナディア超の25%以上、または絶対値で2ng/mL以上と定義する。
【0030】
統計学的手法
【0031】
サンプルサイズの計算では、試験期間を3年、追跡不能率を16%、仮定的なハザード比を0.52、対照群についての増悪までの期間の中央値を3年(ハザード比=0.2310)と仮定した;その結果、事象が72、検出力が80%であった。
【0032】
全解析セット(FAS)は、上記試験に登録し、試験群のいずれか一方に無作為に割り付けた患者である。安全性セット(SAF)は、統計解析計画(SAP)において、試験薬を服用した患者のみを含むように再定義した。FASは、227例(アクティブサーベイランス群が113例、エンザルタミド群が114例)であった。SAFは、エンザルタミド群が112例であった。
【0033】
合計94人の男性が全試験期間を終了した(エンザルタミド、n=54;AS、n=40;図1)。ベースラインの人口統計学的な特徴と疾患上の特性は、処置群間で類似していた(表1)。
【0034】
合計で121人(53.3%)の男性が低リスクの前立腺ガンであり、172人(75.8%)の男性でmpMRI非標的生検を実施した(表1)。エンザルタミド処置期間の中央値は、352日(範囲1~393)であった。
【0035】
【表1】
【0036】
すべての統計学上の比較は、α=0.05有意水準および95%信頼区間での両側検定を用いて行った。
【0037】
主要有効性エンドポイントである前立腺ガンの増悪(病理学的または治療上)までの期間は、Kaplan-Meier(KM)法を用いて解析し、各処置群について疾患が増悪するまでの期間の中央値と95%信頼区間を算出した。患者において疾患の増悪がなければ、打ち切りとした。中止または死亡は、中止日または最終評価日で打ち切りとした。さらに、試験中に療法を変更した患者は、最初の療法変更時に打ち切りとした。2群間の疾患が増悪するまでの期間が同じにならないという仮説を検証するために、処置群、層別化因子、年齢、人種、および前立腺ガン診断からの期間を固定因子、場所をランダム効果としたCox回帰モデルに基づいて、ハザード比(エンザルタミド/AS)および95%信頼区間を算出した。
【0038】
副次的エンドポイントであるガンの生検における陰性の発生率を、処置群ごとに1年時および2年時の頻度および割合を用いてまとめた。エンザルタミド群とAS群との比較は、処置群、無作為化層別化因子[前立腺ガンのリスク(低/中)、実施された生検の種類(mpMRI標的/非mpMRI標的)]、年齢、人種、および前立腺ガン診断からの期間を固定効果、場所および患者をランダム効果として用いた精確ロジスティック回帰により算出した。PSAが増悪するまでの期間の解析は、主要エンドポイントの解析に使用したのと同じ方法で実施した。選択された副次エンドポイントについては、タイプIエラーを0.05で制御するために、ボンフェローニ-ホルム法を用いてP値を調整した。
【0039】
試験結果
患者の割り付け
【0040】
登録した227人の患者を、エンザルタミド群(114人)またはAS群(113人)に無作為に割り付けた。全体で165例が1年間の処置期間を終了し、AS群では70.8%(80/113例)、エンザルタミド群では74.6%(85/114例)であった。1年間の追跡期間を終了した患者は117例で、AS群が45.1%(51/113例)、エンザルタミド群が57.9%(66/114例)であった。全試験期間を終了した患者は94例で、AS群が35.4%(40/113例)、エンザルタミド群が47.4%(54/114例)であった。
【0041】
人口統計学的およびベースラインの特性
【0042】
民族、人種、年齢区分は2つの処置群で類似していた。ベースラインの疾患上の特性は、処置群間で類似していた。
【0043】
処置曝露
【0044】
1年間の処置期間を通じて、FASにおいてエンザルタミド処置を受けた112例の平均処置期間(SD)は300.1(112.73)日であった。用量を減らした患者の割合は12.3%(14/114例)で、主な理由は有害事象であり、用量を増やした患者は2.6%(3/114例)で、投与を中止した患者は13.2%(15/114例)であった。1年間の追跡期間や1年間の継続追跡期間中は、患者に試験薬を投与しなかった。
【0045】
主要有効性エンドポイント
【0046】
疾患が増悪するまでの期間のKaplan-Meier曲線を図2に示す。この結果は、アクティブサーベイランス群よりもエンザルタミド群が有利であった。病理学的なまたは治療上の前立腺ガンの増悪までの期間の中央値は、いずれの処置群においても未達成であった。エンザルタミドは前立腺ガンのリスクを46%低下させ、これは有意であった。
【0047】
227例中、エンザルタミド群では28.1%(32/114)に疾患の増悪がみられ、一方でアクティブサーベイランス群では37.2%(42/113)に増悪がみられた。表2に示すように、各処置群の無増悪生存期間の中央値は、未達成であった。ハザード比(95%CI)は、0.542(0.330、0.892)であり、エンザルタミド群とアクティブサーベイランス群ではエンザルタミド群が有利であり、P値は、統計学的に有意な0.016であった。
【0048】
【表2】
【0049】
副次的有効性エンドポイント
【0050】
表3は、副次的有効性エンドポイントをまとめたものである。
【0051】
【表3-1】
【表3-2】
【0052】
エンザルタミドは、AS群に対して、1年時での生検における陰性のオッズを有意に増加させた;生検が陰性である患者の割合は、2年時にAS群よりもエンザルタミド群で大きかったが、群間の差が統計学的に有意ではなかった(表3)。試験1年後に生検が陰性であったエンザルタミド患者の割合は、35.1%(40/114例)であったのに対し、アクティブサーベイランス群では14.2%(16/113例)であった。オッズ比(95%CI)は3.5(1.76,6.92)であり、P値は<0.0001であった。1年間の追跡を開始した患者のうち、生検結果を報告した患者はエンザルタミド群で66例、AS群で50例であった。2年目の割合は、エンザルタミド群で19.0%(19/100人)、アクティブサーベイランス群で12.0%(10/83人)であった。オッズ比(95%CI)は1.6(0.66,4.00)、P値はエンザルタミド群対アクティブサーベイランス群で0.289であった。
【0053】
エンザルタミドは、ASに対して、PSA増悪までの期間を有意に6箇月遅延させた(図3)。結果は、PSAに対するエンザルタミドの効果と、増悪の定義がベースラインまたはナディア超からの血清PSAの25%以上の二次的上昇であることによって、区別することができず、その結果、ASにバイアスがかかった可能性がある。PSAのリバウンドは、エンザルタミド処置群で処置中止後に認められた(15箇月目以降に観察された)。
【0054】
227例の患者のうち、PSAの増悪を経験したのはエンザルタミド群の84.2%(96/114例)であったのに対し、アクティブサーベイランス群の患者では84.1%(95/113例)であった。各処置群におけるPSA増悪までの期間の中央値を表4に示す。ハザード比(95%CI)は0.714(0.525、0.972)であり、エンザルタミド群がアクティブサーベイランス群に対して有利であり、p値は統計学的に有意な0.032であった。
【0055】
【表4】
【0056】
エンザルタミドは、ASに対して、1年時での血清PSAの二次的上昇のオッズを有意に低下させたが、2年時はそうではなかった(表3)。
【0057】
1年時でのガン陽性コアの平均割合は、エンザルタミド群対AS群で統計学的に有意な低下がみられたが、2年時においては処置群間で統計学的に有意な差がみられなかった(表3)。しかし、エンザルタミド群では、ガン陽性コアの平均割合において、ベースラインと2年時との間で統計学的に有意な6.7%の低下を示した。
【0058】
安全性変数
有害事象
【0059】
予想どおり、エンザルタミド患者の92.0%(103/112例)において、処置期間+30日間に薬物関連有害事象(AE)の発生が報告された。アクティブサーベイランスの患者のうち、無作為化から試験の12箇月終了+30日までに有害事象を経験したのは54.9%(62/113)であった。エンザルタミド群で最も多くみられた薬物関連有害事象は、疲労(52.7%)であった。エンザルタミド患者の3.5%以上に発生した有害事象は、疲労(55.4%)、女性化乳房(36.6%)、乳頭痛(30.4%)、胸部の圧痛(25.9%)および勃起不全(17.9%)であった。アクティブサーベイランスの患者の3.5%以上に発現した唯一のAEは、高血圧(7.1%)であった。表5Aに最も多いAEを示す。表5BにAEsの概要を示す。観察されたAEデータは、エンザルタミドの既知の安全性プロファイルと一致していた。
【0060】
【表5A】
【0061】
【表5B】
【0062】
エンザルタミド群では3例(2.7%)の死亡があった。1例の死亡は、エンザルタミド処置の非遵守により患者が処置期間を中止した後に発生した;その患者は、1年間の処置期間内に殺人により死亡した。他の2人の死亡(頭蓋内出血と転移性胆管ガンによる)は、患者の継続追跡処置期間中に発生した。エンザルタミドの処置中に死亡した例はなかった。
【0063】
健康関連のクオリティ・オブ・ライフ
【0064】
エンザルタミド処置が健康関連のクオリティ・オブ・ライフ(HRQoL)に及ぼす影響を、患者報告アウトカム(PRO)を用いて評価した。PROは、簡易倦怠感尺度(Brief Fatigue Inventory)、拡大されたPC(前立腺ガン)インデックスコンポジット(Expanded PC (Prostate Cancer) Index Composite、EPIC)、12項目の短い質問票(12-Item Short-Form Survey、SF-12)、およびPCに対する記憶された不安尺度(Memorial Anxiety Scale for PC、MAX-PC)を用いて、ベースライン時および追跡期間中に評価した。
【0065】
ベースライン時の疲労は軽度(<3)であり、エンザルタミド群およびAS群では、処置終了(12箇月目)および追跡終了(24箇月目)までその状態を維持した(表6)。両群とも、EPICスコアにおいてホルモンおよび排尿項目には機能障害や悩みは認められなかったが、性機能についてはエンザルタミド投与群で臨床的に意味のある影響が観察され、6箇月後から明らかになった(33.4±22.2対56.7±23.4)。SF-12精神項目は、両群とも影響を示さなかったが、エンザルタミド投与群では12箇月目に身体的な機能障害の増加が認められ、24箇月目には解消した(表5)。MAX-PCでは、両群ともPCに関連した不安は認められなかった。
【0066】
【表6】
【0067】
上記結果は、ASを受けている患者と比較して、エンザルタミドによる処置がHRQoLの臨床的に有意な悪化に関連しないことを示す;しかしながら、処置終了後に消失する性機能に対する臨床的に関連のある影響が観察された。
【0068】
結論
【0069】
エンザルタミドで処置された患者は、アクティブサーベイランスを受けた患者と比較して、疾患の増悪のリスクが46%低下した。疾患が増悪するまでの期間の中央値は、いずれの群でも未達成であった。
【0070】
副次的エンドポイントは、生検における陰性の発生率とPSAの増悪までの期間であり、結果はエンザルタミド群に有利であった。エンザルタミド群の患者は、アクティブサーベイランスと比較して、1年時に生検において陰性となる傾向が有意であったが、これは2年時には認められなかった。生検における陰性のオッズは、1年時においてアクティブサーベイランスよりも3.5倍高かった。アクティブサーベイランスと比較して、ガン陽性コアの平均割合の統計学的に有意な低下が1年時に観察された。エンザルタミドによる処置は、PSAの増悪を約6箇月遅延させ、この遅延は統計学的に有意であった。
【0071】
安全性を、副次的エンドポイントの中で評価した。驚くべきことではないが、処置を受けている患者はアクティブサーベイランスの患者よりも有害事象が多く、特に女性化乳房、胸部の圧痛および乳頭痛が認められた。処置期間中、予期せぬ有害事象はみられなかった。死亡率はエンザルタミド群で高かったが、エンザルタミドの処置中に死亡が発生することはなかった。
【0072】
結果を表7にまとめる。
【0073】
【表7】
図1
図2
図3
【国際調査報告】