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特表2024-508515セルロースナノ粒子および金属化合物ナノ粒子を含むハイブリッドナノ構造複合体の調製のための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-27
(54)【発明の名称】セルロースナノ粒子および金属化合物ナノ粒子を含むハイブリッドナノ構造複合体の調製のための方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/06 20060101AFI20240219BHJP
   B01J 23/10 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
B01J23/06 Z
B01J23/10 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023553321
(86)(22)【出願日】2022-02-25
(85)【翻訳文提出日】2023-10-03
(86)【国際出願番号】 EP2022054891
(87)【国際公開番号】W WO2022184600
(87)【国際公開日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】21160301.4
(32)【優先日】2021-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523301802
【氏名又は名称】セリコン・ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】Cellicon B.V.
【住所又は居所原語表記】Leemansweg 15, 6827 BX Arnhem, The Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】オコナー、ポール
(72)【発明者】
【氏名】バビッチ、イゴール
(72)【発明者】
【氏名】オコナー、キンバリー
(72)【発明者】
【氏名】ボウテ、ビョルン
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA08
4G169BB04B
4G169BB05B
4G169BC35B
4G169BC42B
4G169CB70
4G169DA05
4G169EA01Y
(57)【要約】
本発明は、セルロースナノ粒子および金属化合物ナノ粒子を含むハイブリッドナノ構造複合体の調製のための方法、方法によって得ることができるナノ構造複合体生成物、およびその使用に関する。方法は、バージンセルロースを溶融金属塩溶媒M-Sと接触させてバージンセルロースを溶解する工程、任意に金属イオンMの少なくとも一部を金属イオンMと交換して、金属イオンMおよび/または任意にMの少なくとも一部を金属化合物ナノ粒子に変換する工程、セルロースナノ粒子を沈殿させる工程、ならびに共沈したセルロースおよび金属化合物ナノ粒子を単離する工程を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノ粒子および金属化合物ナノ粒子を含むハイブリッドナノ構造複合材料を調製するための方法であって、
a)バージンセルロースを、金属イオンMを含む溶融金属塩溶媒M-Sと接触させて前記バージンセルロースを溶解させる工程、
b)沈殿反応剤Bを添加して、前記溶融金属塩溶媒M-Sの前記金属イオンMの少なくとも一部を金属化合物ナノ粒子M1-Xに変換するか、または金属イオンMを含む塩の溶液と接触させることにより、金属イオンMの少なくとも一部を金属イオンMと交換し、金属化合物M2-Xナノ粒子を、直接または沈殿反応剤Bを添加することによって沈殿させる工程、
c)工程b)の前、間、または後に貧溶媒を添加し、セルロースナノ粒子を沈殿させる工程、
d)共沈したセルロースおよび金属化合物ナノ粒子を単離して前記ハイブリッドナノ構造複合材料を得る工程、
e)任意に、前記ハイブリッドナノ構造複合材料中の前記金属化合物を別の金属化合物に変換する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記溶融金属塩M-Sが、ハロゲン化亜鉛、好ましくは塩化亜鉛、臭化亜鉛またはそれらの水和物、より好ましくはZnCl水和物、最も好ましくはZnCl.4HOであり、前記溶融塩が、好ましくはプロトンを含まず、好ましくはプロトン捕捉剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶融金属塩溶媒M-Sが前記溶融塩溶媒の前記金属M以外の金属カチオンMを含み、前記金属カチオンMが、好ましくはLi、Mn、Ti、Zn、Nd、Cd、AgおよびRu、最も好ましくはTiCl、MnClまたはLiClの群から選択される1種以上であり、好ましくはM金属の量がMの量の20%未満、好ましくは10または5モル%未満であり、最も好ましくは前記溶融金属塩溶媒M-Sが請求項2に記載のZnCl水和物であり、前記金属カチオンMがM金属塩化物中にある、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程a)で、第1の溶媒が水中40~65重量%のZnClを含む水溶液であることを特徴とする、バージンセルロースを前記第1の溶媒と接触させること、それにより非晶質セルロース相を結晶性セルロース相よりも優先的に溶解させること、任意に得られたXRDI型構造を有する結晶性セルロースを分離すること、および任意に分離されたXRDI型構造を有する結晶性セルロースを、前記第1の溶媒よりも高濃度の水中65~90重量%のZnClを含む第2の溶媒と接触させ、XRDII型構造を有する剥離されたセルロースを生成することを含み、前記第2の溶媒および好ましくはさらに前記第1の溶媒がプロトン酸を含まず、好ましくはプロトン捕捉剤を含む、請求項1~3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記沈殿反応剤Bが、好ましくはヒドロキシ、カーボネートまたはカルボキシレートを含む塩基アニオンXであり、反応剤Bが、好ましくはNaOH、KOH、KHCO、ギ酸塩または酢酸塩の群から選択され、沈殿反応剤Bが、金属Mを有するナノ粒子沈殿物M-Xおよび/または金属Mを有するM-Xを形成し、任意に前記沈殿反応剤Bが金属M以外の金属イオンMを含んでもよいか、または前記金属Mを金属Mと交換して金属M-Xの沈殿物を形成し、金属カチオンMが、好ましくはLi、Mn、Ti、Nd、Cd、AgおよびRuの群から選択される1種以上である、請求項1~4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記貧溶媒Cが水、ケトンまたはアルコール、好ましくは前記溶融塩の塩濃度、好ましくはZnCl濃度を10~30重量%、好ましくは15~25重量%まで低下させる量で添加される水である、請求項1~5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
工程b)で、沈殿反応剤Bを添加して前記金属イオンMの少なくとも一部を金属化合物M1-Xのナノ粒子に変換し、次いで工程c)で、貧溶媒Cを添加して前記金属化合物M1-Xのナノ粒子の存在下で前記セルロースナノ粒子を沈殿させ、任意に濾過、洗浄および乾燥の1つ以上の工程を続けるか、または好ましくは、方法が工程a)に続いて工程c)、次いで工程a)で得られたセルロース溶液に貧溶媒Cを添加し、沈殿セルロースナノ粒子のゲルを形成することを含む工程b)を含み、任意にその後前記ゲルを分離し、洗浄して前記溶融塩溶媒の前記金属塩の濃度を低下させ、続いて工程b)で沈殿反応剤Bを添加して、前記セルロースナノ粒子の存在下で前記金属イオンMの少なくとも一部を金属化合物M1-Xのナノ粒子に変換する、請求項1~6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記溶融金属塩溶媒がZnCl.4HOであり、前記沈殿反応剤Bが、セルロースおよび水酸化亜鉛ナノ粒子のハイブリッド複合体をもたらす水酸化物塩基であり、任意にハイブリッド複合体を処理して、好ましくは70~350℃、好ましくは80~300℃、さらにより好ましくは80~280℃の高温で乾燥することにより、水酸化亜鉛ナノ粒子を酸化亜鉛ナノ粒子に変換する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程a)の後に、工程a)で得られた前記セルロース溶液に貧溶媒Cを添加し、沈殿セルロースナノ粒子のゲルを形成する工程c)が続き、任意にその後前記ゲルを分離し、洗浄して前記溶融塩溶媒の前記金属塩の濃度を低下させ、その後溶液を金属イオンMを含む塩の溶液と接触させることにより、金属イオンMの少なくとも一部を金属イオンMと交換する工程b)が続き、沈殿反応剤Bの添加とともにまたは添加後、金属化合物ナノ粒子M2-Xの沈殿物を形成する、請求項1~8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記ハイブリッドナノ構造複合材料中の前記金属化合物を、好ましくは熱分解、イオン交換、還元または酸化によって別の金属化合物に変換する変換工程e)を含む、請求項1~9の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記セルロースナノ粒子と連結するために、好ましくはグリセロール、クエン酸、酢酸塩またはキトサンおよび交換金属Mの有機金属化合物の群、好ましくは交換金属Mの有機金属化合物、より好ましくはM-アセテートまたは-シトレートから選択される相互連結剤が添加され、前記相互連結剤が、好ましくは工程b)で添加される、請求項1~10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~11の何れか1項に記載の方法によって得ることができるセルロースナノ粒子および金属化合物ナノ粒子を含み、好ましくはナノ構造複合体の全乾燥重量に対して2~20重量%の金属化合物を含むハイブリッドナノ構造複合体であって、前記ハイブリッドナノ構造複合体が、好ましくはX線回折(XRD)II型構造を有し、好ましくは少なくとも5、好ましくは少なくとも10のアスペクト比ARを有し、好ましくは60nm未満、好ましくは40nm未満、より好ましくは30nm未満の最小サイズを有するセルロースナノ粒子を含み、80nm未満、好ましくは60nm未満、より好ましくは40nm未満の平均粒径を有する金属化合物ナノ粒子を含み、前記セルロースおよび金属化合物ナノ粒子がナノスケールで均質に混合される、ハイブリッドナノ構造複合体。
【請求項13】
前記金属化合物が、塩化亜鉛、水酸化亜鉛、酸化亜鉛または炭酸亜鉛、塩化ランタン、水酸化ランタン、酸化ランタンまたは炭酸ランタン、酢酸リチウムである、請求項12に記載のハイブリッドナノ構造複合体。
【請求項14】
エネルギー生成のための、電子デバイスにおける、顔料および/または顔料支持体としての、食品またはパーソナルケア製品における美白剤または充填剤としての、抗菌化合物としての、抗菌衣類における、柔軟で光学的に透明な紙、箔、テープまたは布における、請求項12または13に記載のハイブリッドナノ構造複合体の使用、好ましくは、特に食品もしくはパーソナルケア製品、塗料、コーティングまたはプラスチック物品における白色顔料として酸化チタンを置き換えるための、任意にセルロースナノ粒子および/または酸化亜鉛ナノ粒子との組合せで金属化合物として酸化亜鉛を含むハイブリッドナノ構造複合体の使用。
【請求項15】
セルロースの性能化学物質への触媒変換における請求項12または13に記載のハイブリッドナノ構造複合体の使用であって、前記性能化学物質が、好ましくはアルコール、糖または酸、より好ましくは酢酸または乳酸であり、前記ハイブリッドナノ構造複合体中の前記金属化合物が、好ましくはZnO、BaO、PbO、SnO、FeO、CaO、MgO、Alの群から選択される1種以上であり、より好ましくは前記1種以上の金属化合物がZnOを含む、ハイブリッドナノ構造複合体の使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
1.発明の分野
[0001]本発明は、セルロースナノ粒子および金属化合物ナノ粒子を含むハイブリッドナノ構造複合体の調製のための方法、方法によって得ることができるナノ構造複合体生成物、およびその使用に関する。
2.関連技術の説明
[0002]セルロースナノ粒子の製造は当技術分野で公知である。たとえば、Delgado-Aguilar et alは、BioResources 10(3),5345-5355(2015)において、化学的前処理と高エネルギー機械的処理との組合せを含む、セルロース含有原料からセルロースナノファイバーを調製するためのいくつかの方法を記載している。これらの方法は、コストが高く非環境的な化学物質および/または溶媒を使用し、エネルギー消費が高く、いくつかの処理工程が複雑である。
【0002】
[0003]セルロースナノ粒子を製造するための公知の簡略的な経路は、酸性溶媒(水中または有機溶媒中のHSO、HClおよびまたはSO)を使用する。しかし、セルロースが糖および他の化合物に分解されるため、得られるセルロースナノ粒子生成物の収率および品質は悪く、それにより得られる生成物の応用性も低下する。
【0003】
[0004]WO2017/055407では、実質的にプロトンを含まない無機溶融塩溶媒媒体、好ましくはZnCl水和物にセルロースを溶解し、セルロースを貧溶媒で沈殿させて高アスペクト比のナノセルロースフィブリルにすることが記載されている。しかし、得られるセルロースナノ結晶の特性は、生成物の純度、結晶化度、化学的安定性および機械的特性の点で所望されるほど良好ではない。
【0004】
[0005]WO2020212616には、バージンセルロースからマイクロまたはナノ結晶性セルロースを調製するためのさらに改善された方法であって、水中40~65重量%のZnClを含む第1の溶媒と接触させ、それにより非晶質セルロース相を結晶性セルロース相よりも優先的に溶解させ、高収率で高結晶化度のXRDI型構造を有するセルロースマイクロ粒子を生成し、次に、好ましくは得られた生成物を第1の溶媒よりも高濃度の水中65~90重量%のZnClを含む第2の溶媒と接触させ、XRDII型構造を有するセルロースナノ粒子を高収率、高結晶化度かつ高純度で生成する方法が記載されている。
【0005】
[0006]金属化合物のナノ粒子の製造も周知である。しかし、問題は、金属化合物のナノ粒子とセルロースのナノ粒子の両方がナノスケールで均質に混合されたナノ構造複合体を形成することである。ナノ粒子は通常、約1~100nm未満、好ましくは60nmまたは40nm未満、最も好ましくはさらに20nm未満のサイズを有する。大きなアスペクト比を有するセルロースナノ結晶の場合、これは長さ寸法ではなく、より小さい厚さ寸法のサイズ範囲である。ナノ構造複合体は、ナノ粒子がナノスケールで均質に分散している複合体であるため、ほとんどのセルロースナノ粒子と隣接する金属化合物ナノ粒子は、走査型電子顕微鏡(SEM)によって確立可能な上記のナノスケール寸法内にある。
【0006】
[0007]金属ナノ粒子とナノセルロース粒子の直接混合は複雑な処理ではないが、セルロースナノ粒子の損傷および/または劣化を引き起こす可能性もあり、多くの機械的エネルギーがかかるが、多くの場合、問題は生成物がナノスケールで均質に混合されないことである。
【0007】
[0008]WO2019229030A1は、ハイブリッド無機-有機材料の調製のための方法を記載しているが、この方法では、金属化合物およびセルロースのナノ粒子を含むナノ構造複合材料は得られない。この方法は、イオン液体溶媒にセルロースの溶解液を形成し、セルロース溶液中に無機材料、たとえばアルミナまたはシリカを分散させ、貧溶媒を添加して、分散した無機材料とともにナノセルロースを沈殿させることを含む。得られた共沈した無機粒子は、本発明の無機粒子とは対照的にナノ粒子ではなく、ハイブリッド複合材料はナノ構造複合体ではない。NC-ZnClとともにZnClに分散したアルミナ(Al)は、ナノ粒子ではない平均粒径100nm以上のアルミナ粒子をもたらす。
【0008】
[0009]Farooq e.a.は、International Journal of Biological Macromolecules 154,(2020)1050-1073において、金属ナノ粒子、特に酸化亜鉛ナノ粒子で修飾されたセルロースナノ粒子を含むハイブリッド複合体について記載している。Farooqは総説の第2章で、セルロース系ナノ粒子を製造するためのセルロース系バイオマスのアルカリ酸処理、または酵素的前処理、またはイオン液体による前処理、それに続く加水分解および高圧ホモジナイゼーションまたは機械的処理を含む、セルロースナノ粒子を製造するための複数の調製方法について記載している。Farooqはまた、総説の第3章で、異なる公知の方法で異なる形態が得られる、金属ナノ粒子の調製のための様々な方法について記載している。たとえば、酢酸亜鉛脱水物を使用した非加水分解(溶液)方法によって酸化亜鉛ナノ粒子を製造することが記載されている。Farooqはさらに、第3.3章で、外部還元剤を使用せずに水性懸濁液中のセルロースナノ粒子と金属酸化物ナノ粒子を単純に混合すること、セルロースナノ粒子と金属ナノ粒子を還元剤とともに混合すること、またはセルロースナノ粒子を表面修飾すること、および金属酸化物ナノ粒子を添加することを含む、ハイブリッド複合材料を調製する様々な異なる方法について記載している。調製方法はすべて、セルロースナノ粒子の水性懸濁液から開始する。
【0009】
[0010]Ma et al.は、Cellulose(2016)23:3703-3715において、室温でコロイドミルでセルロース-塩化亜鉛(ZnCl2)水溶液をセルロースNaOH/尿素水溶液と混合することを含む、ZnO-セルロースナノ複合体の調製のための方法を記載している。セルロースは、80℃の65重量%ZnCl溶液に完全に溶解し、NaOH/尿素水溶液中のセルロースも完全に溶解する。溶液を混合すると、0.5重量%~2重量%の量の溶解セルロースの存在下で、ZnClと水酸化物の反応により、凝集した大きなZnO粒が形成される。ZnO沈殿中にセルロースが存在するのは、ZnO粒子の成長および凝集を防ぐためである。反応混合物をコロイドミルでナノサイズの粒に粉砕し、生じたZnO-セルロースナノ複合体を575℃で焼成してナノZnO粒子を生成した。XRD測定は、セルロースの結晶化度ピークを示さず、これは、焼成後の得られた生成物にナノセルロース結晶が存在しないことを示す。方法の欠点は、高エネルギー粉砕工程を伴うことであり、この工程はより複雑でコストがかかるが、さらに重要なことに、存在するセルロースの劣化および変色をもたらす。得られるナノ複合体はZnO-セルロースと称されるが、ZnOナノ粒子のみを含み、ナノセルロース結晶は含まない。生成物は、黄色-橙色の発光帯を有する。得られるナノ粒子は、白色顔料の代替として好適ではない。
【0010】
[0011]Ruszala et al.,IJCEA,vol.6,no.5,October 2015,331-340は、塗料中の白色顔料としてTiOを置き換えるための様々な代替材料を記載しており、パートV.A.1にはZnOも記載されているが、ZnOナノ粒子は記載されていない。安定性に欠け、屈折率が低いため、ZnOは塗料にはあまり使用されないことが記載されている。Ruszalaは、セルロースナノ粒子についてもセルロース-ZnOハイブリッドナノ粒子についても記載していない。
【0011】
[0012]ハイブリッド複合体の製造のための記載された方法の欠点は、それらが複雑であり、複数の方法工程を含み、高価な化学物質を消費するため、経済的および環境的に魅力的でないことである。
【0012】
[0013]したがって、本発明の目的は、金属ナノ粒子およびセルロースナノ粒子を含むハイブリッド複合体の調製のための方法であって、複雑さが少なく、金属ナノ粒子とセルロースナノ粒子がナノスケールで均質に混合された、非常に均質なハイブリッドナノ構造複合材料をもたらす方法を提供することである。本発明の方法は、好ましくはより少ない方法工程、より安価な化学物質、より低い処理コスト、より低いエネルギー消費、およびより低い環境への影響という利点の少なくとも1つを有する。
【発明の概要】
【0013】
[0014]本発明によれば、セルロースナノ粒子および金属化合物ナノ粒子を含むハイブリッドナノ構造複合材料を調製するための方法であって、
a)バージンセルロースを、金属イオンMを含む溶融金属塩溶媒M-Sと接触させてバージンセルロースを溶解させる工程、
b)沈殿反応剤Bを添加して、溶融金属塩溶媒M-Sの金属イオンMの少なくとも一部を金属化合物ナノ粒子M1-Xに変換するか、または金属イオンMを含む塩の溶液と接触させることにより、金属イオンMの少なくとも一部を金属イオンMと交換し、金属化合物M2-Xナノ粒子を、直接または沈殿反応剤Bを添加することによって沈殿させる工程、
c)工程b)の前、間、または後に貧溶媒を添加し、セルロースナノ粒子を沈殿させる工程、
d)共沈したセルロースおよび金属化合物ナノ粒子を単離してハイブリッドナノ構造複合材料を得る工程、
e)任意に、ハイブリッドナノ構造複合材料中の金属化合物を別の金属化合物に変換する工程
を含む、方法を提供することにより、言及された欠点の少なくとも1つが克服された。
【0014】
[0015]別の側面では、本発明は、改善された均質性および改善された使用時の特性を有する、本発明の方法によって得ることができる金属ナノ粒子およびセルロースナノ粒子を含むハイブリッドナノ構造複合材料に関する。
【0015】
[0016]本発明のさらに別の側面は、金属、たとえばLi、Mn、Ti、Zn、Ruなどを含む金属化合物のナノ粒子がナノセルロース紙、箔、シート、テープなどと組み合わされる食品包装、バイオ医薬品、生物医学、化粧品およびエレクトロニクス用途、たとえば太陽電池、フレキシブルディスプレイ、ウルトラキャパシタなどにおけるハイブリッドナノ構造複合材料の使用に関する。
【0016】
[0017]本発明のさらに別の側面は、白色ベース顔料、たとえばこれらに限定されないが、塗料、コーティング、接着剤、シーラント、インク、プラスチックとしてだけでなく、化粧品、たとえば歯磨き粉、または食品における金属ナノ粒子の使用、またはセルロースナノ粒子の使用、または最も好ましくは本発明のハイブリッドナノ構造複合材料の使用に関する。言及された使用は、特に、言及された用途における白色顔料としてチタン化合物、たとえば二酸化チタン(TiO)を置き換えることに関する。ナノセルロースは白色であり、ZnO自体も白色であることが公知であるが、驚くべきことに、本発明のハイブリッドナノ構造複合材料は、おそらくZnOがナノセルロース中に非常に良好に分散するため、構成するナノ粒子自体よりもさらに白色であることが見出された。
【0017】
[0018]本発明の特徴および利点は、以下の図面を参照することにより理解される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】[0019]例Aは、セルロースナノ結晶と金属化合物ナノ粒子のハイブリッド複合体NC-MOHの製造における一般的な方法工程を示す、本発明の方法の一態様の概略図である。
図2】[0020]例A1は、NC-Zn(OH)ハイブリッド複合体を製造するための溶融塩溶媒としてのZnCl.4HOの使用を示す、例Aの方法の具体的な態様である。
図3】[0021]例Bは、NC-MHCOハイブリッド複合体を製造するための本発明の方法の別の態様の全体概略図である。
図4】[0022]例B1は、NC-Zn(HCOハイブリッド複合体を製造するための方法である例Bの具体的な態様である。
図5】[0023]例Cは、NC-M-アセテートハイブリッド複合体を製造するための本発明の方法の別の態様の全体概略図である。
図6】[0024]例C1は、NC-Li-アセテートハイブリッド複合体を製造するための例Cの本発明の方法の一態様の具体的な概略図である。
【本発明の特定の態様の詳細な説明】
【0019】
[0025]以下は、ほんの例示として、かつ図面を参照して与えられる本発明の特定の態様の説明である。図1の例Aを参照すると、固体バージンセルロース(またはバージンセルロース含有原料)Cを溶融金属塩溶媒M-S(Mは金属である)と接触させる、本発明の方法の一態様が示されている。図2の例A1は、溶融金属塩溶媒M-SがZnCl.4HO(Mは亜鉛である)である好ましい態様を示す。この第1の工程では、固体バージンセルロースCが溶解され、溶融金属塩に溶解されたナノセルロースの懸濁液または溶液(NC-M-S、好ましくはNC-ZnCl)が形成される。溶解工程から得られる生成物は、ナノ結晶形態のセルロースを含み、分子的に溶解されたセルロースポリマー、オリゴマーまたはモノマーも含んでもよいため、懸濁液および溶液という用語は、溶解処理で得られる生成物に対して互換的に使用されることに留意されたい。
【0020】
[0026]この第1の工程で得られるセルロース粒子は、XRDI型構造またはXRDII型構造を有するセルロース粒子であってもよい。しかし、得られるセルロース粒子は、金属沈殿反応剤が添加される前にXRDII型構造を有する剥離されたセルロースナノ粒子であることが好ましく、これは、これによってより高いアスペクト比を有するナノセルロース、ならびにセルロースおよび金属化合物ナノ粒子がナノスケールでより均質に混合されたハイブリッド複合体がもたらされるためである。
【0021】
[0027]好ましい態様では、第1の工程で得られるセルロース粒子は、別個の第2の工程でXRDII型構造を有するセルロースナノ粒子に変換される、XRDI型構造を有するセルロース粒子である。この第2のセルロース溶解工程は、上記で説明したように、好ましくは金属沈殿反応剤を添加する前である。
【0022】
[0028]次に、得られたセルロース溶液NC-M-Sに沈殿反応剤を添加して、溶融金属塩溶媒M-Sの少なくとも一部を、溶融金属塩中にナノ粒子として沈殿する不溶性の金属化合物M-Xに変換する。図1および2に示される態様では、金属沈殿反応剤はNaOHであり、形成される金属ナノ粒子は金属水酸化物M-OHナノ粒子である。図2の例A1の好ましい態様では、得られた溶液は、ZnCl.4HO溶融金属塩中の溶解されたナノセルロースNCおよびZn(OH)ナノ粒子を含む。
【0023】
[0029]金属沈殿反応剤の添加は、溶融塩溶媒の溶媒質も低下させる可能性がある。沈殿反応剤を添加すると、セルロースナノ粒子NCは、沈殿した金属化合物沈殿物M-OH(Zn(OH)、例A1)とともに白濁したゲルを形成し始め、貧溶媒を添加した後にのみ、NC-M-OH共ゲルと溶融塩溶媒との間に明確な相分離が生じることが観察された。
【0024】
[0030]次の工程では、貧溶媒C(例AおよびA1ではHO)を添加し、溶融金属塩の溶媒力を低下させ、セルロースナノ粒子NCをM-OHナノ粒子とともに沈殿させる(好ましくは。その後、沈殿物を分離して固体ハイブリッド複合生成物NC-Zn(OH)を得る。この分離工程は、濾過および/または遠心分離を含んでもよく、1つ以上の洗浄および/または乾燥工程を含んでもよい。方法は、粒径を小さくするための中間工程を伴わない、連続工程としての工程a)~d)を含む。特に、方法は、粒径を小さくするための粉砕、摩砕、超音波処理工程を含まず、また含む必要がない。
【0025】
[0031]好ましくは、方法はまた、溶融金属塩溶媒M-Sを再生するための再利用工程を含み、この工程は、第1の工程で再使用するために希釈溶融塩を濃縮する工程を含む。貧溶媒は、単にセルロース溶解工程で所望される溶融塩の濃度まで水を蒸発させることによって分離された希釈溶媒から金属塩溶媒M-Sを再生することができるため、好ましくは水である。
【0026】
[0032]図1および2の例AおよびA1は、金属沈殿反応剤を添加し、その後貧溶媒を添加してナノセルロースを沈殿させる態様を示す。図3および4の例BおよびB1は、貧溶媒を添加してナノセルロースを沈殿させ、その後金属沈殿反応剤を添加する本発明の方法の代替態様を示す。
【0027】
[0033]ここでまず、固体バージンセルロース(含有原料)Cを溶融金属塩溶媒M-Sと接触させ、好ましくは例Aについて上述したのと同じ方法で、溶融金属塩NC-M-S中にXRDII型のセルロースナノ粒子の溶液を生成する。次いで、貧溶媒C、好ましくは水を添加して、金属M-S(好ましくはZnCl)が分子形態で結合した、典型的に200nm未満のサイズを有する沈殿ナノセルロースNCを生成する。
【0028】
[0034]次の工程では、金属沈殿反応剤を添加して、溶融金属塩溶媒M1-Sを金属化合物M-Xに変換し、沈殿ナノセルロース粒子上にナノ粒子として沈殿させ、金属化合物とセルロースナノ粒子の非常に均質なハイブリッド複合体を形成する。例BおよびB1では、金属沈殿反応剤はKHCOであり、ハイブリッド複合体は、セルロースナノ粒子NCおよび修飾金属化合物MHCOのナノ粒子を含み;好ましくは例B1に示されるハイブリッド複合体NC-Zn(HCOである。
【0029】
[0035]図5および6の例CおよびC1は、金属沈殿反応剤が溶融金属溶媒中の金属Mとは異なる金属カチオンMを含む例BおよびB1の変形例を示す。この態様では、溶融金属溶媒の金属Mは、金属カチオンMと少なくとも部分的に交換される。その後、金属M化合物のナノ粒子が、沈殿セルロースナノ粒子NC上に形成される。例Cでは、金属沈殿反応剤はM-アセテートであり、形成されるハイブリッド複合体は、M-アセテートおよびセルロースナノ粒子NCを含む。例C1は、Li-アセテート沈殿反応剤を使用して、Li-アセテートおよびセルロースナノ粒子を含むハイブリッド複合体を形成する方法の具体的な態様を示す。このハイブリッド複合体は、たとえば太陽電池に有用である。沈殿反応剤である水をZnCl.nHO溶融塩セルロース溶液に添加すると、沈殿物中に多くのZnClが存在したままセルロースが沈殿する。その後、沈殿物を水で洗浄してZnClを除去するか、または量を減らすか(通常行う)、または別の金属塩M-Xで洗浄してZnClを置き換える。
【発明の詳細な説明】
【0030】
[0036]本発明は、セルロースナノ粒子および金属化合物ナノ粒子を含むハイブリッドナノ構造複合体を調製するための方法、方法によって得ることができるナノ構造複合体生成物、およびその使用に関する。方法は、バージンセルロースを溶融金属塩溶媒M-Sと接触させてバージンセルロースを溶解させる工程、任意に金属イオンMの少なくとも一部を金属イオンMと交換し、金属イオンMおよび/または任意選択のMの少なくとも一部を金属化合物ナノ粒子に変換する工程、セルロースナノ粒子を沈殿させる工程、および共沈したセルロースおよび金属化合物ナノ粒子を単離する工程を含む。
【0031】
[0037]金属化合物は、セルロースナノ粒子の沈殿前または後に沈殿させることができる。好ましい態様では、金属化合物粒子は、セルロースナノ粒子の沈殿後に沈殿させる。セルロースナノ粒子を沈殿させると、溶融塩金属化合物の金属イオンMの量が高い、一種のゲル状の沈殿物が形成される。好ましくは、沈殿物中のM金属の量を、好ましくは濾過および洗浄によって、セルロースナノ粒子上の金属化合物ナノ粒子の所望の量を考慮して必要とされる量まで減少させ、次いでナノセルロース上に金属化合物ナノ粒子M-Xを沈殿させる。ハイブリッド複合体の想定される用途を考慮して、金属化合物中に異なる金属Mが所望される場合、金属Mイオンを溶融塩に添加して、金属M化合物とともに、またはその代わりに沈殿させることができる。しかし、好ましくは、金属イオンMは溶融塩中に存在せず、セルロースを最初に沈殿させた後、再利用して第1の工程で再使用するために、溶融M金属塩溶媒を沈殿したナノセルロースから分離し、次いで溶融金属M塩溶媒で湿潤したままである沈殿ナノセルロースを、1つ以上の工程で金属M塩と接触させ、溶融塩溶媒の金属Mを金属Mと交換した後、金属M化合物ナノ粒子を沈殿させ、任意に洗浄し、その後乾燥させる。
【0032】
[0038]本発明による方法は、第1の工程として、a)バージンセルロースを、金属イオンMを含む溶融金属塩溶媒M-Sと接触させてバージンセルロースを溶解させる工程を含む。溶融金属塩M1-Sは、好ましくはハロゲン化亜鉛、より好ましくは塩化亜鉛、臭化亜鉛またはそれらの水和物、さらにより好ましくはZnCl.4HOである。溶融金属塩ZnCl水和物、好ましくはZnCl.4HOの利点は、特にプロトンを含まず、好ましくはプロトン捕捉剤を含む溶融塩において、セルロースがほとんど分解されずに十分に溶解され、セルロースの解重合が低減されることである。
【0033】
[0039]一態様では、溶融金属M塩溶媒は、溶融塩溶媒の金属M以外の金属カチオンMを含み、好ましくはZnCl溶融金属塩溶媒およびM金属塩化物を含み、金属カチオンMは、好ましくはLi、Mn、Ti、Zn、Nd、Cd、AgおよびRu、最も好ましくはTiCl、MnCl、LiClの群から選択される1種以上であり、好ましくはM金属の量は、Mの量の20%未満、好ましくは10または5モル%未満である。
【0034】
[0040]セルロースXRDII型ナノ粒子のナノ粒子は、WO2017/055407に記載される方法で調製することができる。しかし、セルロースXRDII型ナノ粒子を調製するための好ましい方法は、WO2020212616に記載されている。この好ましい態様では、本発明の方法は、工程a)で、第1の溶媒が水中40~65重量%のZnClを含む水溶液であることを特徴とする、バージンセルロースを第1の溶媒と接触させること、それにより工程b)で、非晶質セルロース相を結晶性セルロース相よりも優先的に溶解させること、c)任意に、XRDI型構造を有する得られた結晶性セルロースを分離することを含む。次に、任意に分離されたXRDI型構造を有する結晶性セルロースと、第1の溶媒よりも高濃度の水中65~90重量%のZnClを含む第2の溶媒を接触させることを含む工程d)で、XRDII型構造を有するセルロースを調製し、ここで第2の溶媒および好ましくは第1の溶媒もプロトン酸を含まず、好ましくはプロトン捕捉剤を含む。この方法では、XRDII型構造を有する結晶性セルロースナノ粒子を、高収率、高結晶化度および高純度(すなわち、少量のサッカリドオリゴマーまたはモノマーおよびその分解生成物)で得ることができる。この方法では、工程a)およびb)、好ましくはさらに工程d)の温度が80℃未満、好ましくは70、60、あるいは50℃未満であることが好ましい。方法を室温で実施することも可能である。より低い温度は、より穏やかな条件を提示し、非晶質相のみを溶解する優先度を高めるが、完了までに必要とされる時間も増加させる。典型的に、より高い濃度のZnClが、好ましくはより低い温度と組み合わされるか、または逆も同様であり、より低い濃度のZnClがより高い温度と組み合わされてもよい。あるいは、接触工程Aをより高い温度で、たとえば50~80℃で行った後、結晶性セルロースのさらなる溶解を防止するために、所定の最適な接触時間後に急冷することが好ましい場合がある。急冷は、温度を素早く下げること、および/または水で素早く希釈することを意味する。
【0035】
[0041]本発明による方法は、工程b)として、沈殿反応剤Bを添加して、溶融金属塩溶媒M-Sの金属イオンMの少なくとも一部を金属化合物ナノ粒子M1-Xに変換するか、または金属イオンMを含む塩の溶液と接触させることにより、金属イオンMの少なくとも一部を金属イオンMと交換し、金属化合物M2-Xナノ粒子を、直接または沈殿反応剤Bを添加することによって沈殿させることを含む。
【0036】
[0042]沈殿反応剤Bは、好ましくは、好ましくはヒドロキシ、カーボネートまたはカルボキシレートを含む塩基アニオンXであり、金属Mを有するナノ粒子沈殿物M-Xおよび/または金属Mを有するM-Xを形成する。沈殿反応剤Bは、好ましくは塩基アニオンおよび水素またはIA族金属カチオン、好ましくはナトリウムまたはカリウムを含む塩として添加される。沈殿反応剤Bは、NaOH、KOH、KHCO、ギ酸塩または酢酸塩の群から選択される。形成される金属化合物ナノ粒子は、たとえばM-OH、M-HCO、M-HCOOまたはM-CHCOOのナノ粒子である。
【0037】
[0043]別の態様では、沈殿反応剤Bは、金属M以外の金属イオンMを含むか、または金属Mを金属Mと交換して金属M-Xの沈殿物を形成し、ここで金属カチオンMは、好ましくはLi、Mn、Ti、Nd、Cd、AgおよびRuの群から選択される1種以上である。
【0038】
[0044]本発明による方法は、工程c)として、工程b)の前、間または後に貧溶媒を添加し、セルロースナノ粒子を沈殿させることを含む。好ましくは、貧溶媒Cは、水、ケトンまたはアルコールであり、好ましくは溶融塩の塩濃度、好ましくはZnCl濃度を10~30重量%、好ましくは15~25重量%まで低下させる量で添加される水である。工程d)では、得られた共沈セルロースおよび金属化合物ナノ粒子を、好ましくは濾過および/または遠心分離によって単離し、任意に洗浄し、乾燥してハイブリッドナノ構造複合材料を得る。
【0039】
[0045]WO2019229030A1には、予め分散された無機粒子によるセルロースの共沈が記載されていることに留意されたい。これは、先行技術とは対照的に、70nm未満、好ましくは50nm未満、より好ましくは30nm未満、最も好ましくはさらに20nm未満という著しくより小さいサイズを有する無機化合物粒子を達成する、溶融金属塩の金属を変換してナノセルロース結晶上にナノ粒子を形成する本発明の方法とは異なる。WO2019229030A1のもう一つの欠点は、溶融塩溶媒ZnClに分散することができる特定の金属酸化物でのみ機能することである。これは、たとえば、「より重い」金属の酸化物、たとえばZnO、NdO、希土類酸化物などでは不可能である。
【0040】
[0046]本発明の方法の一態様では、工程b)で、沈殿反応剤Bを添加して金属イオンMの少なくとも一部を金属化合物M1-Xのナノ粒子に変換し、次いで工程c)で、貧溶媒Cを添加して金属化合物M1-Xのナノ粒子の存在下でセルロースナノ粒子を沈殿させ、任意に濾過、洗浄および乾燥の1つ以上の工程を続ける。
【0041】
[0047]本発明の方法の一態様では、工程a)の後に工程c)が続き、次いで工程a)で得られたセルロース溶液に貧溶媒Cを添加し、沈殿セルロースナノ粒子のゲルを形成することを含む工程b)が続き、任意にその後ゲルを分離し、洗浄して溶融塩溶媒の金属塩の濃度を低下させ、続いて工程b)で沈殿反応剤Bを添加して、セルロースナノ粒子の存在下で金属イオンMの少なくとも一部を金属化合物M1-Xのナノ粒子に変換する。
【0042】
[0048]この方法の特定の態様では、溶融金属塩溶媒は好ましくはZnCl.4HOであり、沈殿反応剤Bは水酸化物塩基であり、好ましくは水酸化ナトリウムとして添加され、セルロースおよび水酸化亜鉛ナノ粒子のハイブリッド複合体をもたらす。任意に、次に得られたハイブリッド複合体を処理して、好ましくは70~350℃、好ましくは80~300℃、さらにより好ましくは80~280℃の高温で乾燥することにより、水酸化亜鉛ナノ粒子を酸化亜鉛ナノ粒子に変換する。
【0043】
[0049]本発明の方法の代替態様では、工程a)の後に、工程a)で得られたセルロース溶液に貧溶媒Cを添加し、沈殿セルロースナノ粒子のゲルを形成する工程c)が続き、任意にその後ゲルを分離し、洗浄して溶融塩溶媒の金属塩の濃度を低下させ、その後溶液を金属イオンMを含む塩の溶液と接触させることにより、金属イオンMの少なくとも一部を金属イオンMと交換する工程b)が続き、沈殿反応剤Bの添加とともにまたは添加後、金属化合物ナノ粒子M2-Xの沈殿物を形成する。
【0044】
[0050]沈殿反応剤Bおよび貧溶媒Cは、上記のように別々に添加することができるが、単一の複合工程c)およびd)で一緒に添加することもできる。あるいは、金属化合物ナノ粒子とセルロースナノ粒子の両方を同時に沈殿させるために、沈殿反応剤Bと貧溶媒Cの両方として作用する単一の化合物が添加される。たとえば、沈殿反応剤Bは、溶融塩の金属Mを沈殿物に変換し、それによりセルロースが沈殿する程度まで溶解セルロースの溶解度に影響を与える。沈殿反応剤Bを、水中の塩、たとえばNaOHの溶液として添加すると、金属水酸化物化合物とセルロースの両方が沈殿することができる。
【0045】
[0051]本発明による方法は、任意に、工程e)としてハイブリッドナノ構造複合材料中の金属化合物を別の金属化合物に変換することを含む。これは、たとえば、熱分解、イオン交換、還元または酸化によって行うことができる。好ましくは、ハイブリッドナノ構造複合体中の金属化合物は、水酸化物、炭酸塩もしくはカルボン酸塩、またはそれらの組合せ、好ましくは炭酸水酸化物化合物を含み、これらは任意に、好ましくは真空下での熱分解によって金属酸化物に変換される。
【0046】
[0052]任意に、セルロースナノ粒子と連結するために、方法において相互連結剤が添加され、これらは好ましくはグリセロール、クエン酸、アセテートまたはキトサンの群から選択され、好ましくは交換金属Mの有機金属化合物、好ましくはM-アセテートまたは-シトレートであり、これらの相互連結剤は、好ましくは工程b)またはc)で添加される。
【0047】
[0053]本発明はまた、本発明による方法によって得ることができるセルロースナノ粒子および金属化合物ナノ粒子を含み、好ましくはナノ構造複合体の全乾燥重量に対して2~20重量%の金属化合物を含むハイブリッドナノ構造複合体に関する。ハイブリッドナノ構造複合体は、好ましくは、好ましくは少なくとも5、好ましくは少なくとも10のアスペクト比ARを有し、好ましくは60nm未満、好ましくは40nm未満、より好ましくは30nm未満の最小サイズを有するX線回折(XRD)II型構造を有するセルロースナノ粒子を含み、80nm未満、好ましくは60nm未満、より好ましくは40nm未満の平均粒径を有する金属化合物ナノ粒子を含み、セルロースおよび金属化合物ナノ粒子は、ナノスケールで均質に混合される。本発明の好ましいハイブリッドナノ構造複合体は、金属化合物として、塩化亜鉛、水酸化亜鉛、酸化亜鉛または炭酸亜鉛、塩化ランタン、水酸化ランタン、酸化ランタンもしくは炭酸ランタン、または酢酸リチウムを含む。
【0048】
[0054]本発明はまた、エネルギー生成のための、電子デバイスにおける、顔料および/または顔料支持体としての、食品またはパーソナルケア製品における美白剤または充填剤としての、抗菌化合物としての、抗菌衣類における、柔軟で光学的に透明な紙、箔、テープまたは布における、本発明のハイブリッドナノ構造複合体の使用に関する。
【0049】
[0055]ナノセルロースベースのハイブリッドナノ材料は、食品包装、バイオ医薬品、生物医学、化粧品およびエレクトロニクスにおいて大きな潜在的用途を有する。ハイブリッド複合体は、機能性金属材料の特性とナノセルロースを組み合わせ、いくつかの用途においてベース材料または構成要素として使用することができる。たとえば、ハイブリッド複合体は、金属、たとえばLi、Mn、Ti、Zn、Ruなどがナノセルロースの紙、箔、シート、テープなどと組み合わされる太陽電池、フレキシブルディスプレイ、ウルトラキャパシタなどの特定の電子デバイスに使用される。セルロースおよび酸化亜鉛ナノ粒子を含むハイブリッドナノ複合体は、優れた機械的特性、UVバリア性および抗菌性を有する。
【0050】
[0056]特定の側面では、本発明は、食品もしくはパーソナルケア製品、または塗料、コーティングおよびプラスチック物品における白色顔料として酸化チタンを置き換えるための、金属化合物が酸化亜鉛であるハイブリッドナノ構造複合体、またはセルロースナノ粒子もしくは酸化亜鉛ナノ粒子、もしくはそれらの組合せのハイブリッドナノ構造複合体の使用に関する。
【0051】
[0057]本発明はまた、セルロースの性能化学物質への、好ましくはアルコール、糖または酸への触媒変換における本発明のハイブリッドナノ構造複合体の使用に関し、酸は好ましくは酢酸または乳酸である。ハイブリッドナノ構造複合体中の金属化合物は、好ましくはZnO、BaO、PbO、SnO、FeO、CaO、MgOおよびAlの群から選択される1種以上である。より好ましくは、1種以上の金属化合物はZnOを含む。たとえば、ナノセルロースおよび10~20重量%のZnOを含むナノ構造ハイブリッド複合体は、150~300℃の温度で加熱されてもよく、それによりナノセルロースのセルロースは、ナノ構造ハイブリッド複合体の重量に対して少なくとも25重量%の乳酸に変換される。この方法の利点は、ZnOナノ粒子がセルロース原料中にナノスケールで非常に良好に分散することであり、これにより物質移動の制限および時間が低減され、より高い選択性でより高い収率がもたらされる。
実験方法
XRD結晶型の測定
[0058]実験で得られたセルロース生成物は、XRDを使用して特性評価される。J.Polym.Environ 19(2011)726-731:Preparation of cellulose nanocrystals using an Ionic liquidにおいてZ.Man,N.Muhammand,A.Sarwono,M.A.Bustam,M.Vignesh Kumar,S.Rafiqによって記載された方法によるXRD測定。結晶I型またはII型は、ピーク位置によって同定され、ピーク位置は、I型では2θで22.6°([200]反射)、II型では2θで20°および22°([110]および[020]反射)であった。XRD測定の前に、生成物試料は真空乾燥により室温で乾燥させた。
XRD結晶化度の測定
[0059]生成物の結晶化度(上記文献では結晶化度指数として言及される)は、Segalの式:CrI=(I002-Iam)/I002(式中、I002は、I型セルロースでは22.6°、II型セルロースでは22°の2θにおけるピークの全体強度であり、Iamは、約18°の2θにおけるベースラインの強度である)を使用して決定した。
XRD結晶サイズの測定
[0060]セルロースの結晶サイズは、測定したXRDからScherrerの式を使用して決定した:
【0052】
【数1】
【0053】
(式中、βは結晶子サイズであり、λは入射X線の波長であり、τはXRDピークの半値全幅(FWHM)であり、θは面に対応する回折角である)。
セルロース生成物の収率およびセルロースの加水分解の測定
[0061]可溶性(ポリ)糖は、(ポリ)糖の物質収支%=1-Mprec cel/Min cel(式中、Mprec celは、実験で得られた乾燥マイクロセルロースまたはナノセルロースの重量であり、Min celは、反応器に入れた乾燥セルロースの重量である)に基づいて測定した。(ポリ)糖という用語は、糖およびポリ糖、たとえばオリゴマー糖を意味する。得られたセルロース生成物の乾燥は、NREL研究所の手順に従って行われ、バイオマスの対流式オーブン乾燥は、乾燥バイオマス重量が1時間で1重量%より多く変化しなくなるまで定期的(通常は3時間ごと)に重量を確認しながら45℃で24時間~48時間実施する。
アスペクト比および結晶サイズの測定
[0062]ナノセルロースのアスペクト比および結晶サイズは、走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡で分析することができる。
使用材料
[0063]以下に説明するすべての実験におけるセルロース基材は、コットンリンター微結晶セルロース(MCC)ex-Sigma C6288である。XRD特性は、±80%のXRD-I型を示す。ZnClおよびZnOもSigmaから入手した。
実験の説明
例1
NC-II/Zn(OH)
[0064]水中60重量%のZnClの水溶液100gにZnO粉末0.5gを添加し、混合物を室温で一晩撹拌下(120rpm/分)に保つことによって第1の溶媒を調製した。残った未反応のZnO固体を濾過によって溶液から除去した。得られた溶媒100gを攪拌下(480rpm/分)でコットンライナーセルロース5gと混合し、室温で30分間攪拌下に保った。得られたセルロースI型結晶C-Iをガラスフィルターで濾過することによって溶液から分離し、脱イオン水で8回洗浄してZnClを除去し、室温で真空乾燥した。
【0054】
[0065]続いて、高結晶性セルロースI型結晶C-Iを第2の溶媒と接触させた。第2の溶媒は、0.5gのZnO粉末(プロトン捕捉剤として)と70~75重量%のZnCl水溶液100gを混合し、室温で一晩撹拌下に保つことによって調製された溶融金属塩溶媒である。残ったZnO固体を濾過によって溶媒から除去した。第2の溶媒100gを5gのセルロースI型結晶C-Iと混合し、溶液が透明になるまで室温で30分間撹拌した。
【0055】
[0066]225gの脱イオン水を攪拌下で溶液に添加してZnCl濃度を20重量%まで低下させ、第2の溶液からセルロースを沈殿させた。試料を20分間撹拌下に保ち、セルロースナノ結晶を沈殿させた。沈殿により溶液はゲル化する。ゲル沈殿物を濾過する。ゲル沈殿物中のセルロース対ZnClの比は、乾燥固形分重量に基づいて1:10である。
【0056】
[0067]ゲルは、XRDII型を有する高結晶化度の高純度ナノセルロース(NC-II)を含む。この沈殿物の乾燥試料のXRD測定は、第1の溶解工程で得られたセルロースXRDI型が、第2の工程で、80%より高いXRD結晶化度を有し、形成されたサッカリドモノマーまたはオリゴマーが5重量%未満であるナノセルロースXRDII型に変換されることを示す。
【0057】
[0068]ゲル沈殿物を、ゲル対清水の体積比1:8で、生成物が約10重量%のZnCl含有量(乾燥固形分を基準としてセルロース対ZnCl 10:1)を有するまで、Troom=25℃で水で2回洗浄する。得られた生成物を生成物1-Aと呼ぶ。
【0058】
[0069]100grの量のこの生成物1-Aを、温度T=25℃で0.1grのNaOHと混合し、白濁したゲル状溶液を生成して、これを濾過した後、沈殿したナノセルロースII型結晶と沈殿した水酸化亜鉛の混合物NC-II/Zn(OH)を含む湿潤沈殿物を得る。ハイブリッド複合体中のZn(OH)の量は、Zn(OH)の完全な沈殿を確実にするために過剰のNaOHを使用し、次いで残留NaOHを洗い流すことによって最適化することができる。固体の共沈NC-II/Zn(OH)を分離し、水で2回洗浄し(沈殿物対水の体積比1:8)、NaClを除去する。その後、沈殿試料を80℃で乾燥させる。
【0059】
例2
NC-II/ZnO
[0070]上述した例1の好ましい態様において、得られたナノセルロースは、高結晶化度および高純度を有し、より高い温度で分解する。乾燥状態の高結晶化度の高純度セルロースナノ結晶は、優れた熱安定性を有し、200℃を超える温度でも分解に耐えることが見出された。この有利な特性を利用して、本発明のハイブリッドナノ構造複合体を高温で熱変換することができる。例1で得られた沈殿物試料NC-Zn(OH)を200℃で加熱して、Zn(OH)をZnOに変換する。最終的なセルロース対ZnOの乾燥重量比は、DTAおよびXRFで決定して10:0.75である。
【0060】
例3
NC-II/LaCl
[0071]100gの量のNC-II/ZnCl生成物1-Aを、1000mlのLaCl溶液(1000mlの水に2grのLaClを含む)と接触させ、それによりLaとZnを交換してハイブリッド組成物NC-II/LaClを形成し、相対量は、セルロース:LaCl:ZnClが10:1:0.1である。
【0061】
例4
NC-II/La
[0072]例B-1で得られた生成物をNaOHで洗浄してLa(OH)を形成し、これを真空下でT=200℃で脱水することによってLaに変換し、NC-II/Laハイブリッド複合体を生成する。
【0062】
例5
NC-II/La の白色度試験:
[0073]ナノセルロースNCを例1に記載されたように別個に生成し、Na-OH金属沈殿反応剤を添加する代わりにNCナノ結晶を洗浄し、濾過して乾燥した。ZnOナノ粒子は商業的に入手した。例2のハイブリッドナノ構造複合材料NC-II/ZnOの白色度を、純粋なセルロースナノ結晶、ZnOナノ粒子および白紙と比較した。例2のNC-II/ZnOは、以下の表に示すように、構成成分よりも白色度が高いように思われた。
【0063】
【表1】
【0064】
例6
セルロースの触媒変換
[0074]ナノセルロースおよび10重量%のZnOを含むナノ構造ハイブリッド複合体を150~300℃に加熱し、それによりセルロースをナノ構造ハイブリッド複合体の重量に対して25重量%の乳酸に変換した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】