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特表2024-508516ポリマー繊維を作製するためのプロセス及びそれから作られたポリマー繊維
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  • 特表-ポリマー繊維を作製するためのプロセス及びそれから作られたポリマー繊維 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-27
(54)【発明の名称】ポリマー繊維を作製するためのプロセス及びそれから作られたポリマー繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/18 20060101AFI20240219BHJP
   D01F 9/22 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
D01F6/18 E
D01F9/22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553326
(86)(22)【出願日】2022-01-27
(85)【翻訳文提出日】2023-11-01
(86)【国際出願番号】 US2022013964
(87)【国際公開番号】W WO2022186921
(87)【国際公開日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】63/157,111
(32)【優先日】2021-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517318182
【氏名又は名称】サイテック インダストリーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】モスコヴィッツ, ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】タッカー, エイミー
(72)【発明者】
【氏名】ジャクソン, マシュー
(72)【発明者】
【氏名】テイラー, トーマス
(72)【発明者】
【氏名】クロフォード, スザンヌ
(72)【発明者】
【氏名】オラー, ヤーノシュ
(72)【発明者】
【氏名】クック, ジョン デズモンド
【テーマコード(参考)】
4L035
4L037
【Fターム(参考)】
4L035AA04
4L035AA06
4L035BB03
4L035BB11
4L035BB17
4L035BB18
4L035BB22
4L035BB74
4L035BB77
4L035BB85
4L035BB91
4L035EE01
4L035EE08
4L035EE20
4L037CS02
4L037CS03
4L037PA53
4L037PA64
4L037PA68
4L037PA69
4L037PC05
4L037PS02
(57)【要約】
本開示は、一般に、ポリマー繊維、典型的にはポリアクリロニトリル系繊維を作製するためのプロセスに関し、その特性は、用いられた、ジェット延伸の量、湿式延伸の量、及び熱延伸の量などの、プロセスの特定のパラメータによって制御される。本開示はまた、このようなポリマー繊維から炭素繊維を作製するためのプロセスに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)凝固繊維を形成するために、ポリマー溶液を凝固浴中に紡糸する工程であって、ジェット延伸が適用される、紡糸する工程と、
b)工程(a)で得られた前記凝固繊維に湿式延伸を施して、第1の延伸繊維を形成する工程と、
c)工程(b)で得られた前記第1の延伸繊維に熱延伸を施して、これによりポリマー繊維を形成する工程と
を含む、ポリマー繊維を作製するための方法であって、
ジェット延伸の量、湿式延伸の量、及び熱延伸の量は、以下の特性:
作製された前記ポリマー繊維のハーマン配向係数は、少なくとも0.60、典型的には少なくとも0.65、より典型的には少なくとも0.67であり、
作製された前記ポリマー繊維の結晶子の厚さは、前記第1の延伸繊維の結晶子の厚さよりも少なくとも3nm、典型的には少なくとも3.5nm、より典型的には少なくとも4nm大きい、特性
を達成するのに有効である、方法。
【請求項2】
前記凝固繊維の結晶化度は、前記第1の延伸繊維の結晶化度よりも8%以下、典型的には7%以下、より典型的には6%以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
作製された前記ポリマー繊維の線質量密度は、フィラメント当たり0.7~1.2デニール、典型的には0.85~1.0デニールである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記凝固繊維の平均直径は、少なくとも40μm、典型的には少なくとも45μm、より典型的には少なくとも50μm、更により典型的には少なくとも55μmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の延伸繊維の平均直径は、少なくとも15μm、典型的には少なくとも20μm、典型的には少なくとも22μmである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記凝固繊維のハーマン配向係数は、少なくとも0.35、典型的には少なくとも0.40、より典型的には少なくとも0.42である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
作製された前記ポリマー繊維のハーマン配向係数は、前記第1の延伸繊維のハーマン配向係数より、少なくとも0.08、典型的には少なくとも0.1大きい、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
作製された前記ポリマー繊維のβの構造緩和の活性化エネルギーは、700kJ/モル未満、典型的には650kJ/モル未満、より典型的には600kJ/モル未満である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
作製された前記ポリマー繊維のβの構造緩和の活性化エネルギーは、500~600kJ/モル、典型的には530~570kJ/モルである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
作製された前記ポリマー繊維の環化活性化エネルギーは、前記第1の延伸繊維の環化活性化エネルギーよりも少なくとも7kJ/モル、典型的には少なくとも11kJ/モル、より典型的には少なくとも13kJ/モル大きい、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
作製された前記ポリマー繊維の靭性は、少なくとも4g/d、典型的には少なくとも5g/d、より典型的には少なくとも6g/dである、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
作製された前記ポリマー繊維のヤング率は、少なくとも95g/d、より典型的には少なくとも100g/dである、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
作製された前記ポリマー繊維のヤング率は、95~130g/d、典型的には100~130g/d、より典型的には115~125g/dである、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
作製された前記ポリマー繊維の環化発熱のピーク温度は、前記凝固繊維及び/又は前記第1の延伸繊維の環化発熱のピーク温度より少なくとも3℃高い、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
作製された前記ポリマー繊維は、ポリアクリロニトリル系ポリマー繊維である、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記ポリマー溶液の紡糸は、湿式紡糸により達成される、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記凝固浴は、DMSOと水の混合物を含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
作製された前記ポリマー繊維は、炭素繊維前駆体繊維である、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか一項に記載の方法に従って作製されたポリマー繊維。
【請求項20】
請求項19に記載のポリマー繊維、又は請求項1~18のいずれか一項に記載の方法に従って作製されたポリマー繊維を酸化して、安定化された炭素繊維前駆体繊維を形成することと、次いで前記安定化された炭素繊維前駆体繊維を炭化させて、これにより炭素繊維を作製することとを含む、炭素繊維を作製するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年3月5日に出願された米国仮出願第63/157,111号に対する優先権を主張し、その全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、一般に、ポリマー繊維、典型的にはポリアクリロニトリル系繊維を作製するためのプロセスに関し、その特性は、用いられた、ジェット延伸の量、湿式延伸の量、及び熱延伸の量などの、プロセスの特定のパラメータによって制御される。本開示はまた、このようなポリマー繊維から炭素繊維を作製するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
炭素繊維、特にポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維は、その高い性能対重量比により、多くの市場分野に渡って需要が増加している。しかしながら、それらが比較的高価であることにより、市場の遍在性(market ubiquity)及び幅広い産業への受け入れが妨げられている2、3。費用を削減するために、炭素繊維製造業者は、生産能力の向上、処理能力の向上、及び処理される繊維1ポンド当たりの資本費用の削減のために、より大型のトウのサイズに注目している4~7。大型のトウ(フィラメント数24,000超)は明らかに費用上の利点があるが、加工の課題があり、湿式紡糸が好ましい製造方法となっている8、9。大型のトウは、熱延伸におけるフィラメントの破損率の増加、蒸気延伸又は従来の巻き取り機構を適用できないこと9、10、熱酸化安定化(TOS)中の発熱が高くなること、及び炭素繊維収量が変動すること11を含む、更なる下流にある課題に悩まされている。大型のトウの加工におけるこれらの更なる課題にもかかわらず、特性目標及び性能指標は、小型のトウの対応するものから低下していない。
【0004】
炭素繊維の特性目標を達成するために、初期段階の炭素繊維の構造と形態を確立する、前駆体の開発と繊維の紡糸に重点が置かれている12~15。前駆体の構造は、化学組成16、17、繊維のデニールと結晶化度18、フィブリルの構造と配向19~21、及び紡糸速度20の影響を受ける。空洞、亀裂、及び傷などの紡糸プロセスによって生じる構造的欠陥は、TOS中の繊維の収縮に影響を与え、得られる炭素繊維の強度を低下させる可能性がある22~24。従って、PAN前駆体構造の開発における湿式紡糸の重要な特性を解明することは、炭素繊維の機械的特性の改善につながり得る。
【0005】
PANの形態と構造は、文献で明確に定義されているが13、研究者たちは、当初、様々なプロセスの履歴下にて実験での観察における差異に当惑されていた25~28。Bashirらは、一連の見事な研究を実施し、アタクチックPANの構造が、無配向状態と配向状態に分けられることができることを明らかにした29~32。無配向状態では、PANは、示差走査熱量測定(DSC)及び動的機械分析(DMA)における2つの熱転移によって観察される、非晶質領域と規則性メソフェーズ領域で表される2相形態をとる30、32。より低温のDMA転移(β)約100℃は、メソフェーズ領域に起因すると考えられているが、より高温の転移(α)約130~160℃は、非晶質領域に起因すると考えられている。PAN繊維が延伸時に配向されるようになり、鎖パッキング(chain packing)が発生すると、αピークの強度は、それが消失するまで減少し、その時点で、配向されたPANは、「横方向に規則性の単相」になる26、31、33、34
【0006】
熱転移及び鎖パッキング以外にも、PANが無配向状態と配向状態の間で転移する際に、鎖の立体構造が、シフトすることも示されている。Sawaiらは、非配向アタクチックPANは、より大きな割合で不規則な螺旋配列をとり、延伸時に、配向された鎖が平面ジグザグ構造に再配置されることを実証した35~37。Shenらは、最高度の平面ジグザグ配置を備えたシンジオタクチック系が、エネルギーが最も低く、剛性が最も高く、分子間パッキングとTOSにとって最も好ましい鎖構造を有すると言明した38
【0007】
前駆体の構造は、未配向状態と配向状態で明確に規定されているが、PAN系前駆体の微細構造の進展(evolution)、又は繊維紡糸における未配向状態から配向状態への経路を直接結び付けることは、商業的な紡糸プロセスを模倣すること及び繊維構造におけるプロセスの変化の影響を調査することが大きな資本を必要とし困難であることから、ほとんど検討されていない。むしろ、多くの検討は、凝固パラメータが前駆体構造に直接的な重大な影響を与える可能性がある繊維紡糸の初期段階に焦点を当ててきた39~44。特に、ドープの押出速度とジェット延伸、又は湿式紡糸における凝固から紡糸口金と第1のゴデットの間で行われた延伸に多くの焦点が置かれてきた45~49
【0008】
ジェット延伸とは別に、湿式紡糸は、TOS及び炭化の前に目標のフィラメントデニールを達成するために交換可能に使用できる延伸の他の段階を含む。延伸は、ゲル浴又はある非溶媒媒体での凝固直後に39、50、51、従来の乾式引張り延伸で37、52、53、或いは熱液体又は蒸気室を使用した熱延伸工程を通じて51適用されることができる。各延伸段階では繊維の直径が減少するが、ゲル状態対熱延伸状態の構造の性質により、延伸のメカニズムは、大きく異なり得る。Edringtonの学位論文(thesis work)では、延伸段階の組み合わせにおける全面的な延伸の限界を実証したが、ジェット延伸とゲル延伸を熱延伸から分けて、結晶の配列と配向に最も大きな影響を与えるものを特定するまでには至らなかった51
【0009】
従って、より安定した結晶領域及び炭素繊維への変換に有利な前駆体構造をもたらす可能性のある最適な紡糸プロセスを介して、より高い配向状態を達成することが今後も必要とされている。本明細書では、炭素繊維の形成に適したポリマー繊維を作製するためのプロセスについて説明する。本発明のプロセスは、広角X線散乱(WAXS)、並びにDMAにおける熱転移及びPAN系ポリマー繊維のDSCによる安定化速度論による微細構造の調査から導かれた見識を用いている。
【発明の概要】
【0010】
有利なことに、延伸の所定の段階は、相互的ではなく、延伸プロファイルが、前駆体構造において重要な役割を果し得ることが驚くべきことに発見された。本発明のプロセスは、広角X線散乱(WAXS)、並びにDMAにおける熱転移及びPAN系繊維などのポリマー繊維のDSCによる安定化速度論による微細構造の調査から導かれた見識を用いている。
【0011】
第1の態様では、本開示は、ポリマー繊維を作製するためのプロセスに関し、このプロセスは、
a)凝固繊維を形成するために、ポリマー溶液を凝固浴中に紡糸する工程であって、ジェット延伸が適用される、紡糸する工程と、
b)工程(a)で得られた凝固繊維に湿式延伸を施して、第1の延伸繊維を形成する工程と、
c)工程(b)で得られた第1の延伸繊維に熱延伸を施して、これによりポリマー繊維を形成する工程と
を含み、
ジェット延伸の量、湿式延伸の量、及び熱延伸の量は、以下の特性を達成するのに有効である:
作製されたポリマー繊維のハーマン配向係数は、少なくとも0.60、典型的には少なくとも0.65、より典型的には少なくとも0.67であり、
作製されたポリマー繊維の結晶子の厚さは、第1の延伸繊維の結晶子の厚さよりも少なくとも3nm、典型的には少なくとも3.5nm、より典型的には少なくとも4nm大きい。
【0012】
第2の態様では、本開示は、炭素繊維を作製するためのプロセスに関し、このプロセスは、本明細書に記載のポリマー繊維、又は本明細書に記載のプロセスに従って作製されたポリマー繊維を酸化して、安定化された炭素繊維前駆体繊維を形成することと、次いで安定化された炭素繊維前駆体繊維を炭化させて、これにより炭素繊維を作製することとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】WAXS分析によって観察される、特定の延伸プロファイルが使用された本明細書に記載のプロセスに渡る繊維の構造進展を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書で使用される場合、用語「1つの(a)」、「1つの(an)」、又は「その(the)」は、特に明記しない限り、「1つ以上」又は「少なくとも1つ」を意味し、交換可能に使用することができる。
【0015】
本明細書で使用される場合、「A及び/又はB」の形態の句で使用される用語「及び/又は」は、Aだけ、Bだけ、又はAとBを一緒に、を意味する。
【0016】
本明細書で使用される場合、用語「含む(comprises)」は、「から本質的になる(consists essentially of)」及び「からなる(consists of)」を含む。用語「含む(comprising)」は、「から本質的になる(consisting essentially of)」及び「からなる(consisting of)」を含む。「含む(comprising)」は、「含む(including)」、「含有する(containing)」、又は「を特徴とする(characterized by)」と同義であり、包括的又は非限定的であることを意図し、追加的な、列挙されない要素又は工程を除外しない。遷移句「本質的に~からなる(consisting essentially of)」は、指定された材料又は工程の他、記載された組成物、プロセス、方法、又は製品の基本的特徴又は機能に本質的に影響を与えないものを包括する。遷移句「からなる」は、特定されていない任意の要素、工程、又は成分を除外する。
【0017】
別段の規定がない限り、本明細書で使用される技術的な用語及び科学的な用語の全ては、本明細書が関係する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。
【0018】
本明細書で使用される場合、特に指示がない限り、用語「約」又は「およそ」は、当業者によって決定される特定の値についての許容可能なエラーを意味し、これは、値がどのように測定又は決定されるかに部分的に依存する。特定の実施形態では、用語「約」又は「およそ」は、1、2、3、又は4標準偏差内を意味する。特定の実施形態では、用語「約」又は「およそ」は、所定の値又は範囲の50%、20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、又は0.05%以内を意味する。
【0019】
また、本明細書に記載される任意の数値範囲は、そこに包含される全ての部分的な範囲を含むことを意図することが理解されよう。例えば、範囲「1~10」は、列挙された最小値である1と、列挙された最大値である10との間及びそれを含む全ての部分的な範囲を含むことを意図する、即ち、1以上の最小値及び10以下の最大値を有する。開示されている数値範囲は連続しているため、最小値と最大値との間の全ての値が含まれる。特に明記しない限り、本出願で指定された様々な数値範囲は概算値である。
【0020】
本開示を通じて、様々な刊行物を参照により組み込むことができる。参照により組み込まれたこのような刊行物における任意の言語の意味が、本開示の言語の意味と矛盾する場合、他に指示がない限り、本開示の言語の意味が優先される。
【0021】
本開示の第1の態様は、ポリマー繊維を作製するためのプロセスに関し、このプロセスは、
a)凝固繊維を形成するためにポリマー溶液を凝固浴中に紡糸する工程であって、ジェット延伸が適用される、紡糸する工程と、
b)工程(a)で得られた凝固繊維に湿式延伸を施して、第1の延伸繊維を形成する工程と、
c)工程(b)で得られた第1の延伸繊維に熱延伸を施して、これによりポリマー繊維を形成する工程と、を含み、
ジェット延伸の量、湿式延伸の量、及び熱延伸の量は、以下の特性を達成するのに有効である:
作製されたポリマー繊維のハーマン配向係数は、少なくとも0.60、典型的には少なくとも0.65、より典型的には少なくとも0.67であり、
作製されたポリマー繊維の結晶子の厚さは、第1の延伸繊維の結晶子の厚さよりも少なくとも3nm、典型的には少なくとも3.5nm、より典型的には少なくとも4nm大きい。
【0022】
プロセスの工程a)では、凝固繊維を形成するために、ポリマー溶液、又は「紡糸ドープ」を凝固浴中に紡糸する。典型的には、ポリマー溶液は、ポリアクリロニトリル系ポリマーと溶媒とを含む均一な溶液である。従って、一実施形態では、作製されたポリマー繊維は、ポリアクリロニトリル系ポリマー繊維である。
【0023】
ポリアクリロニトリル系ポリマーは、アクリロニトリルに由来する繰り返し単位を含む任意のポリマーであり得る。適したポリアクリロニトリル系ポリマーは、アクリロニトリルに由来する繰り返し単位からなるホモポリマー又はアクリロニトリルに由来する繰り返し単位と1つ以上のコモノマーとを含むコポリマーであり得る。このようなポリマーは、市販の供給源から得ることができる又は当業者に公知の方法に従って調製することができる。例えば、ポリマーは、限定するものではないが、溶液重合、分散重合、沈殿重合、懸濁重合、乳化重合、及びそれらの変形を含む任意の重合方法によって生成されることができる。
【0024】
ポリアクリロニトリル系ポリマーは、アクリロニトリルと、ビニル系酸、ビニル系エステル、ビニルアミド、ビニルハライド、ビニル化合物のアンモニウム塩、スルホン酸のナトリウム塩、及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つのコモノマーとに由来する繰り返し単位を含む。
【0025】
一実施形態では、ポリアクリロニトリル系ポリマーは、アクリロニトリルと、メタクリル酸(MAA)、アクリル酸(AA)、イタコン酸(ITA)、メタクリレート(MA)、エチルアクリレート(EA)、ブチルアクリレート(BA)、メチルメタクリレート(MMA)、エチルメタクリレート(EMA)、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、β-ヒドロキシエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、イソプロピルアセテート、ビニルアセテート(VA)、ビニルプロピオネート、ビニルイミダゾール(VIM)、アクリルアミド(AAm)、ジアセトンアクリルアミド(DAAm)、塩化アリル、臭化ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ビニルスルホン酸ナトリウム、p-スチレンスルホン酸ナトリウム(SSS)、メタリルスルホン酸ナトリウム(SMS)、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(SAMPS)、及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つのコモノマーとに由来する繰り返し単位を含む。
【0026】
コモノマーの比(アクリロニトリルの量に対する1つ以上のコモノマーの量)は特に限定されない。しかしながら、適切なコモノマーの比は、0~20%、典型的には1~5%、より典型的には1~3%である。
【0027】
上記プロセスによる使用のために適切なポリアクリロニトリル系ポリマーのモル重量は、60~500kg/モル、典型的には90~250kg/モル、より典型的には115~180kg/モルの範囲内であり得る。
【0028】
ポリマーのための適切な溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、エチレンカーボネート(EC)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、塩化亜鉛(ZnCl)/水、チオシアン酸ナトリウム(NaSCN)/水、及びそれらの混合物からなる群から選択され得、典型的に、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、エチレンカーボネート(EC)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)からなる群から選択され得る。
【0029】
使用されるポリマー溶液には、典型的には、ゲル及び/又は凝集したポリマーは含まれない。ゲル及び/又は凝集ポリマーの存在は、当業者に公知のいずれかの方法を使用して決定され得る。例えば、ヘグマン(Hegman)ゲージを使用して、ゲル及び/又は凝集ポリマーの存在を決定することができる。使用されるポリマー溶液は、一般に安定しており、時間が経ってもゲルが形成されない。
【0030】
ポリマー溶液中のポリマーの濃度は、溶液の総重量に基づいて、適切には少なくとも10重量%、典型的には約16重量%~約28重量%である。
【0031】
ポリマー溶液は、真空により気泡を除去した後、従来の湿式紡糸及び/又はエアギャップ紡糸に供されることができる。湿式紡糸では、紡糸ドープは、ポリマーがフィラメントを形成するために液体凝固浴中へ紡糸口金(典型的には金属製)の穴を通して濾過され、押し出される。紡糸口金穴は、繊維の所望のフィラメント番手を決定する(例えば、3K炭素繊維用には3,000穴)。エアギャップ紡糸では、1~50mm、典型的には2~10mmの垂直エアギャップが、紡糸口金と凝固浴との間に提供される。一実施形態では、ポリマー溶液の紡糸は、湿式紡糸によって達成される。
【0032】
本プロセスに使用される凝固液は、溶媒と非溶媒との混合物である。水又はアルコールが、典型的には非溶媒として使用される。適切な溶媒としては、本明細書に記載の溶媒が挙げられる。一実施形態では、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、又はそれらの混合物が溶媒として使用される。別の実施形態では、ジメチルスルホキシドが溶媒として使用される。溶媒と非溶媒の比、及び浴温度は、特に限定されず、凝固において押し出された新生フィラメントの望まれる凝固速度を実現するために、公知の方法に従って調節することができる。しかしながら、凝固浴は、典型的には、40重量%~85重量%の1つ以上の溶媒を含み、残りは非溶媒である。一実施形態では、凝固浴は、DMSOと水の混合物を含む。
【0033】
ジェット延伸は、工程a)で適用される。本明細書で使用される場合、凝固工程で適用されるジェット延伸の量は、当業者に理解されるように、ドープ押出速度に対する第1のローラーの巻き取り速度の比である46、48。ドープ押出速度Vジェットは、以下の式1によって計算され、式中、Qは、体積流量であり、典型的には定量ポンプによって提供され、Nは、紡糸口金の穴の数であり、Dは、各穴の直径である。従って、当業者であれば、Vジェットが、Q、N、及びDの適切な値を選択することによって調整できることを認識するであろう。
【数1】
【0034】
このプロセスの工程b)では、工程(a)で得られた凝固繊維に湿式延伸を施して、第1の延伸繊維を形成する。本明細書で使用される場合、湿式延伸は、「湿式延伸」、「第1の延伸」、「1回目の延伸」、及び「FD」と同義であり、これらの用語は、交換可能に使用され得る。湿式延伸中、凝固繊維は、1つ以上の浴に浸漬され、典型的にはローラー又は延伸ロールの作用によって1つ以上の浴を通って搬送される。本明細書で使用される場合、湿式延伸の量は、凝固と1回目の延伸の間の延伸ロールの速度の比として定義される。湿式延伸に使用される1つ以上の浴はそれぞれ、40℃~100℃の温度に維持され得る。
【0035】
このプロセスの工程c)では、工程(b)で得られた第1の延伸繊維に熱延伸を施し、これによりポリマー繊維を形成する。本明細書で使用される場合、熱延伸は、「熱延伸」、「第2の延伸」、「2回目の延伸」、及び「HD」と同義であり、これらの用語は交換可能に使用され得る。熱延伸中、第1の延伸繊維は、典型的にはローラー又は延伸ロールの作用によって、液体に浸漬することなく熱源を通って搬送される。例えば、熱源は、工程(b)で得られた第1の延伸繊維がそれを通って搬送される蒸気炉又は管状炉であり得る。本明細書で使用される場合、熱延伸の量は、FD後の延伸ロールと最終の巻き取り速度との比として定義される。
【0036】
本開示のプロセスは、連続的に又はバッチ式で実施され得る。本明細書で使用される場合、「連続的に実施される」プロセスは、繊維が時間、物質、又は一連の順序において全く中断されずに、一度に1つ以上の加工工程に通じて単一作業単位を運ばれるプロセスを意味する。これは、バッチプロセスと対照的であり、これは、画定された順に行われ且つ材料の別のバッチを処理又は製造するために繰り返さなければならない、一連の順序の終わりに有限量の材料が処理又は製造される一連の順序の1つ以上の工程を含むプロセスとして理解される。一実施形態において、プロセスは連続的に実施される。
【0037】
本明細書に記載のプロセスによって作製されたポリマー繊維、典型的にはポリアクリロニトリル系繊維は、炭素繊維の作製のための前駆体繊維、いわゆる白色繊維(「WF」)として用いられることができる。従って、一実施形態では、作製されたポリマー繊維は、炭素繊維前駆体繊維である。
【0038】
本明細書に記載のプロセスにおいて、ジェット延伸の量、湿式延伸の量、及び熱延伸の量は、以下の特性を達成するのに有効である、即ち、作製されたポリマー繊維のハーマン配向係数は、少なくとも0.60、典型的には少なくとも0.65、より一般的には少なくとも0.67であり、作製されたポリマー繊維の結晶子の厚さは、第1の延伸繊維の結晶子の厚さよりも少なくとも3nm、典型的には少なくとも3.5nm、より典型的には少なくとも4nm大きい。
【0039】
凝固が、初期構造に影響を与え、配向と構造進展を決定づけること、熱延伸、又は高温延伸、後湿式延伸が、メソフェーズ領域のサイズを増大させるのに有益であること、並びに構造的規則性が、機械的特性及びTOSの下流のプロセスパラメータに直接影響を与えることがわかっている。従って、ジェット延伸の量、湿式延伸の量、及び熱延伸の量は、特定の特性が達成されるように調整される。
【0040】
広角X線散乱(WAXS)は、ハーマン配向係数、結晶子の厚さ、結晶化度、及びD間隔など、プロセスを通じて繊維の様々な特性を決定するために使用されるパラメータの測定に使用される。
【0041】
WAXS測定は、当業者に公知の方法に従って実行される。適切な例では、WAXSは、Xenocs Xeuss 2.0システムを使用して送信モードで実行される。光源は、波長λが1.54189ÅのGeniX3DCu ULD 8keVである。単一の繊維トウ(1,000フィラメント)が、アパーチャーカードに渡り整列され固定される。次いで、整列された繊維束を備えたアパーチャーカードを、WAXS試料ホルダーに移し、これを、2D検出器(Dectris Pilatus 200K)から101.17mmの位置に置く。前駆体繊維の露光時間は、600秒である。2θ及び方位角φに対する積分回折強度を取得するためのデータ処理は、Xenocsによって提供されるソフトウェアFoxtrotを使用して実行され得る。構造パラメータは、およそ2θ≒16.9°及び2θ≒29.3°に位置する2つの結晶ピークを持つローレンツ関数、及び約2θ≒25°を中心とする非晶質ピークを使用したOrigin 2017ソフトウェアを使用するFoxtrotデータのピークフィッティングによって決定できる54
【0042】
結晶化度χは、式2で決定され、式中、Aθ1及びAθ2は、それぞれ、2つの結晶ピーク2θ及び2θの面積であり、Aθaは、非晶質ピークの面積である。D間隔は、ブラッグの法則(式3)によって決定され、結晶子の厚さLは、シェラーの式(式4)によって決定され、式中、形状係数Kは、0.89であり、βは、対応する結晶ピークのラジアン単位の半値全幅である。方位角スキャンプロファイルは、(100)回折面(2θ≒16.9°)で方位角方向にて回折強度Iを積分することによって取得される55、56。ハーマン配向係数(f)は、式5及び6によって決定される39
【数2】
【0043】
ハーマン配向係数、結晶子の厚さ、結晶化度、及びD間隔は、本明細書に記載のプロセスにおける任意の時点で決定することができる。例えば、プロセスの各工程の後に繊維試料を採取し、WAXSによって測定して、各工程で形成された繊維のハーマン配向係数、結晶子の厚さ、結晶化度、及びD間隔を決定することができる。
【0044】
一実施形態では、作製されたポリマー繊維のハーマン配向係数は、少なくとも0.60、典型的には少なくとも0.65、より典型的には少なくとも0.67である。
【0045】
別の実施形態では、凝固繊維のハーマン配向係数は、少なくとも0.35、典型的には少なくとも0.40、より典型的には少なくとも0.42である。
【0046】
更に別の実施形態では、作製されたポリマー繊維のハーマン配向係数は、第1の延伸繊維のハーマン配向係数より少なくとも0.08、典型的には少なくとも0.1大きい。
【0047】
一実施形態では、作製されたポリマー繊維の結晶子の厚さは、第1の延伸繊維の結晶子の厚さよりも少なくとも3nm、典型的には少なくとも3.5nm、より典型的には少なくとも4nm大きい。
【0048】
一実施形態では、凝固繊維の結晶化度は、第1の延伸繊維の結晶化度よりも8%以下、典型的には7%以下、より典型的には6%以下である。
【0049】
プロセスを通じて、各工程で得られた繊維は、その断面直径によって特徴付けられることができる。繊維の直径を測定する任意の適切な方法を使用することができる。適切な例では、走査電子顕微鏡法(SEM)が使用される。画像化の準備で、ポリマー繊維は、tert-ブタノール/水共溶媒系を使用するLabconco凍結乾燥機にて凍結乾燥される。フィラメントの断面は、繊維トウを水に濡らし、次いで破断する前に液体窒素に浸すことによって生成される。フィラメントの端は、カーボンテープを使用して15mmのアルミニウムSEMスタブに取り付けられ、帯電を軽減するために3nmのプラチナでスパッタコーティングされる。Hitachi S-4800を使用して、2kVで様々な倍率にて断面を画像化できる。平均フィラメント直径は、QUARTZ PCI画像処理ソフトウェアを使用して測定できる。試料ごとに少なくとも10回の測定が行われる。
【0050】
一実施形態では、凝固繊維の平均直径は、少なくとも40μm、典型的には少なくとも45μm、より典型的には少なくとも50μm、更により典型的には少なくとも55μmである。
【0051】
別の実施形態では、第1の延伸繊維の平均直径は、少なくとも15μm、典型的には少なくとも20μm、典型的には少なくとも22μmである。
【0052】
また、プロセスの各工程で得られた繊維は、メソフェーズガラス転移温度βでの構造緩和の活性化エネルギーΔHによって特徴付けられることができる。
【0053】
メソフェーズガラス転移温度βでの構造緩和の活性化エネルギーΔHは、当業者に公知の方法を使用する動的機械分析(DMA)を使用して測定される。適切には、DMAは、TA Instruments Discovery Hybrid Series HR-2レオメーターにて実行される。前駆体繊維トウは、引張りモードで長方形の引張り治具の形状を使用して試験される。5分間の温度浸漬と±0.1Nの軸力を適用して試料を調整する。損失弾性率、貯蔵弾性率、及びtanδの変数は、0.5、1、5、10、及び15Hzの様々な周波数で、1℃/分で45℃~165℃の温度範囲で発振温度を上昇させながら温度に対してプロットされる。軸歪みは、0.1%に設定される。tanδのピークとして得られる、メソフェーズガラス転移温度βでの構造緩和の活性化エネルギーΔHは、式7により、周波数f及び一般気体定数Rとのアレニウスの関係式によって計算される33、35、57
【数3】
【0054】
一実施形態では、作製されたポリマー繊維のβの構造緩和の活性化エネルギーは、700kJ/モル未満、典型的には650kJ/モル未満、より典型的には600kJ/モル未満である。
【0055】
別の実施形態では、作製されたポリマー繊維のβcの構造緩和の活性化エネルギーは、500~600kJ/モル、典型的には530~570kJ/モルである。
【0056】
プロセスの各工程で得られた繊維は、環化活性化エネルギーによって特徴付けられることができる。環化活性化エネルギーは、当業者に公知の任意の方法を使用して測定することができる。適切な方法は、示差走査熱量測定(DSC)である。例えば、DSCは、Universal Analysis 2000を備えたTA Instruments Q2000にて実行できる。DSCは、温度及び熱流について、それぞれASTM E967-03及びASTM E968-02に従い、認定された標準物質(融解温度:156.60℃±0.03℃、融解エンタルピー:28.70J/g±0.09J/g)としてインジウム金属を使用して校正される。TA instrumentの蓋付き標準アルミニウムDSCパンは、55mL/分の窒素又は空気流量で使用されることができる。DSCは2分間35℃で平衡化され、次いで35~450℃まで2、5、10、20、及び30℃/分のランプ速度が使用される。
【0057】
環化活性化エネルギーは、フリン-ウォール-オザワ(Flynn-Wall-Ozawa)(FWO)法、式8から決定され、式中、Eは、環化活性化エネルギーであり、Rは、一般気体定数であり、Tpkは、ピーク発熱温度(ケルビン単位)であり、ωは、温度ランプ速度(ケルビン単位)である58、59
【数4】
【0058】
一実施形態では、作製されたポリマー繊維の環化活性化エネルギーは、第1の延伸繊維の環化活性化エネルギーよりも少なくとも7kJ/モル、典型的には少なくとも11kJ/モル、より典型的には少なくとも13kJ/モル大きい。
【0059】
また、DSCを使用して、プロセスの各工程で得られた繊維の環化発熱のピーク温度を決定することができる。環化反応は、一般に発熱性であり、熱流(W/g単位)が温度の関数としてプロットされるDSCスキャンでピークとして見られることができる。一実施形態では、作製されたポリマー繊維の環化発熱のピーク温度は、凝固繊維及び/又は第1の延伸繊維の環化発熱のピーク温度より少なくとも3℃高い。
【0060】
本明細書に記載の本発明のプロセスによって形成されたポリマー繊維、典型的には炭素繊維前駆体繊維、又は白色繊維は、延伸プロファイル、即ち、ジェット延伸の量、湿式延伸の量、及び熱延伸の量が特定の微細構造を引き起こすという驚くべき観察から得られる、靭性、伸び、及びヤング率などの機械的特性を有する。
【0061】
形成されたポリマー繊維の線質量密度、又はトウデニールは、3メートルの試料切片の重量に基づく2つの収量測定値の平均から計算されることができる。線質量密度は、トウ(フィラメントの束)単位で又はフィラメントごとに基づいて表されることができる。本明細書では、線質量密度は、フィラメントごとに基づいて表される。従って、本明細書で使用される線質量密度は、フィラメント9000メートル当たりのグラム単位の質量、又はフィラメント当たりのデニールである。作製されたポリマー繊維の線質量密度は、フィラメント当たり0.7~1.2デニール、典型的には0.85~1.0デニールである。
【0062】
機械的特性は、公知の方法を使用して試験することができる。例えば、MTS Criterion C43及びTestworks 4ソフトウェアを使用できる。繊維試料は、予荷重力0.1lbf及びグリップ圧力60psiでゲージ長さ7.875インチにて荷重される。各試料は、クロスヘッド速度2インチ/分で合計3回試験される。
【0063】
一実施形態では、作製されたポリマー繊維の靭性は、少なくとも4g/d、典型的には少なくとも5g/d、より典型的には少なくとも6g/dである。
【0064】
一実施形態では、作製されたポリマー繊維のヤング率は、少なくとも95g/d、より典型的には少なくとも100g/dである。
【0065】
別の実施形態では、作製されたポリマー繊維のヤング率は、95~130g/d、典型的には100~130g/d、より典型的には115~125g/dである。
【0066】
第2の態様では、本開示は、炭素繊維を作製するためのプロセスに関し、このプロセスは、本明細書に記載のポリマー繊維、又は本明細書に記載のプロセスに従って作製されたポリマー繊維を酸化して、安定化された炭素繊維前駆体繊維を形成する工程と、次いで安定化された炭素繊維前駆体繊維を炭化させて、これにより炭素繊維を作製する工程とを含む。
【0067】
本明細書に記載のプロセスに従って形成されたポリマー繊維を酸化して、安定化された炭素繊維前駆体繊維を形成することができ、その後、安定化された炭素繊維前駆体繊維を炭化させて、炭素繊維を作製する。
【0068】
酸化段階の間、ポリマー繊維は、それぞれが150~300℃、典型的には200~280℃の温度を有する1つ以上の特殊化したオーブンに、引張り下で通され、そこで、加熱された空気が、オーブンのそれぞれに供給される。酸化プロセスにより、空気中の酸素分子が繊維と結合し、ポリマー鎖の架橋が開始され、これにより繊維密度が適切なレベルまで増加する。このような酸化された繊維、典型的にはPAN繊維は、不溶解性のラダー型芳香族分子構造を有し、炭化処理の準備ができている。
【0069】
炭化は、炭素分子の結晶化をもたらし、その結果として90パーセント超の炭素含有量を有する完成した炭素繊維を生成する。酸化又は安定化された炭素繊維前駆体繊維の炭化は、1つ以上の特別に設計された炉の中にて不活性(無酸素)雰囲気中で、典型的に窒素雰囲気中で行われる。酸化された炭素繊維前駆体繊維は、それぞれが300℃~1650℃の温度に加熱された1つ以上のオーブンを通過する。
【0070】
表面処理は、炭化された繊維を、重炭酸アンモニウム又は次亜塩素酸ナトリウムなどの、電解質を含む電解浴を通して引っ張ることを含むことができる。電解浴の化学物質は、繊維の表面をエッチング又は粗面化し、これにより、界面繊維/マトリックスの結合に利用できる表面積を増加させ、複合材料の形成に有用な反応性化学基を追加する。
【0071】
次に、炭素繊維は、サイズコーティング(例えば、エポキシ系コーティング)が繊維に対して塗布される、サイジング処理にかけることができる。サイジング処理は、繊維を、液体コーティング材料を含むサイズ浴を通過させることによって実施することができる。サイジング処理は、ハンドリング中に、並びに乾燥布地及びプレプレグなどの、中間形態への加工中に炭素繊維を保護する。また、サイジング処理は、フィラメントを個々のトウにまとめてけばを減らし、加工性を改善し、複合材料の製造に使用された繊維とマトリックス樹脂の間の界面剪断強度を高める。サイジング処理後に、コーティングされた炭素繊維は、乾燥させられ、次いでボビンに対して巻き付けられる。作製された炭素繊維は、複合材料の作製での使用に適している。
【0072】
本開示によるプロセス及びそれから作製されたポリマー繊維を、以下の非限定的な実施例によって更に例示する。
【実施例
【0073】
実施例1.ポリマー繊維の調製
ポリマードープを、PAN系ポリマーをDMSO中で15ガロンのマイヤーズミキサーにて固形分18.5重量%の目標濃度で混合することによって調製した。ポリマードープを65℃に温め、真空下で脱気し、ドープ貯蔵タンクにて窒素を用いて加圧した。次いで、ポリマードープを、圧力調整され加熱された計量ポンプを通して供給し、湿式紡糸の前に濾過した。ドープ流量を40mL/分の一定速度で制御し、1,000穴の紡糸口金(穴の直径=50μm)を通して、DMSOと水の混合物を含む加熱された凝固浴中に押し出した。
【0074】
ポリマー組成、浴濃度、温度、及び他の紡糸パラメータは、一定のままであったが、唯一の変数は、ジェット延伸及び2回目の延伸中に行われた延伸比であった。以下の表1に概要が示されているように、ジェット延伸と2回目の延伸の間で行われた比例した量の延伸を使用して3つの変形例が検討され、この場合、変形例は、「1」、「2」、又は「3」として示され、繊維試料が採取された工程は、「Coag」(凝固後)、「FD」(1回目の延伸後)、及び「WF」(2回目の延伸後)として示される。凝固時に適用されたジェット延伸の量は、ドープ押出速度に対する第1のローラーの巻き取り速度の比Xによって制御された46、48。ドープ押出速度Vジェットは、上記の式1によって計算される。凝固(「Coag」)と1回目の延伸(「FD」)の間の延伸ロールの速度の比は、湿式延伸の量Y、及びFD後の延伸ロールの間の比であり、最終的なワインダー速度は、熱延伸で適用された延伸の量Zである。
【0075】
Coag-2及びCoag-3では、Coag-1に比べて、ジェット延伸は、それぞれ36%及び58%増加し、2回目の延伸は、同等の量で減少した。検討した3つの変形例全てで、最終のワインダー速度は、同等であったため、各白色繊維前駆体に適用された総延伸は同等のX*Y*Zであった。3つの変形例のそれぞれについて、凝固及び1回目の延伸後に収集した試料を、更なる分析の前に一定の重量になるまで吊り下げて乾燥させた。白色繊維(WF)試料は、紡糸中の乾燥プロセス後にワインダーにて収集され、そのまま使用された。
【0076】
【表1】
【0077】
実施例2.SEM分析
上で説明されたように、表1に示された繊維試料に対してSEM分析を実行した。
【0078】
ジェット延伸がCoag-1、Coag-2、Coag-3と増加するにつれて、フィラメントの断面が、インゲン豆の形状から楕円形状の円形、最終的にはより円形の形状に遷移することが観察された。ジェット延伸は、紡糸口金キャピラリーにおける剪断力に影響を与えることが知られており、これによりダイの膨潤が減少し、その結果、溶媒交換が減少する46、48、60。また、ジェット延伸が増加すると、紡糸口金キャピラリーから出るフィラメントの直径が減少し、プロト繊維の半径が大きいほど、皮膜構造が薄くまばらになり、水とDMSOの相互拡散が容易になる60。直径が大きいほど、Coag-1は、Coag-2及びCoag-3と比較して皮膜コアの遷移が緩やかになり、より明確な皮膜層を有する。Coag-3では、Coag-1及びCoag-2と比較して、固体の皮膜を形成するよう相互拡散が十分に妨げられ、コア構造の完全な凝固を防ぎ、緩いスポンジ状の特性が残る。加えて、ジェット延伸が大きくなると、凝固浴での滞留時間が短くなることで混乱が生じ、これにより繊維が完全に凝固しないままになる可能性もある。
【0079】
凝固後、実際の速度と滞留時間はジェット延伸の違いにより変動したが、繊維は、全て第1の延伸において同じ延伸比にかけられた。断面形状は、3つの場合全てで円形フィラメントに向かって収束しているが、FD-1は、インゲン豆の類似性をある程度保持している。断面画像は、試料を液体窒素中で破砕することによって得られ、破砕表面から欠陥を洞察することができる61。FD-1及びFD-2は、繊維の中心からの放射パターンを示しており、これは、内部欠陥の指標である。FD-3は、コアから皮膜層が分離していることを示しており、これは、破砕が、皮膜で始まり、フィラメントの中心を通るのではなくフィラメントのコアの周りに広まったことを示唆している。また、フィラメントの皮膜は、明らかな違いを示しており、FD-1は、繊維軸に沿ってより細かい縞模様を有するが、FD-3は、凝固速度がより速いため、より顕著でより深い皮膜の溝を有する62。平均フィラメント直径は、一定の第1の延伸比で予想される、凝固の場合と同じ第1の延伸後の比例差を保持する。例えば、Coag-2及びFD-2の平均フィラメント直径(49.6μm及び19.1μm)は、それぞれCoag-1及びFD-1(58.0μm及び22.2μm)の約86%のままである。2回目の延伸での比例した調整は、3つのプロファイルのそれぞれのワインダー速度が等しくなるように速度差を補償するために使用される。SEMにより観察される凝固繊維及び第1の延伸繊維の平均直径を、以下の表2に要約する。SEMによるWF試料の形態学的試験は、繊維の延性の性質により困難であるため、含まれていない。
【0080】
【表2】
【0081】
実施例3.WAXS分析
延伸の各段階後の繊維の構造の違いを調査するために、各試料に対してWAXSを実行した。図1は、プロファイル1の構造進展を示しており、各サンプリングの場所のスキャンが重ね合わされている。興味深いことに、Coag-1は、PANにおけるメソフェーズ規則性領域に対応する約2θ≒17°の強いピークを示し31、これは、凝固とジェット延伸の結果としてかなりの量の結晶化が発生することを示している。Coag-1はまた、約2θ≒25°の幅広い非晶質のピーク、及び約2θ≒29°の別のより高い規則性の回折面の開始を表す54。第1の延伸で繊維が更に延伸されると、Coag-1と比較して、FD-1は、2θのわずかな狭小化、及び2θピークのより大きい強度を示す。2回目の延伸に続いて、WF-1では、より鋭い2θ回折ピーク、非常に顕著な2θピーク、及び相対2θ強度の大幅な減少を表している。
【0082】
全ての処理条件下での結晶化度(χ)、結晶子の厚さ(L)、及び配向(f)は、上記のように決定された。結晶化度は、プロセスを通じて低下するようであるが、この挙動は、使用されたデータ処理技術による異常であると考えられている。結晶化度の解釈は、文献で議論されていることが多いが13、本明細書で使用された提案された方法は、WAXSピークパラメータ及び様々な繊維試料のピークフィットで観察される(図示せず)規則性領域の一部として、2θピークと2θピークの両方を考慮している。それにもかかわらず、非晶質領域、2θによる2θのデコンボリューションが難しいため、凝固時の見かけの結晶化度が高くなり、非晶質含有量が高い試料では、2θピークにおけるピーク面積、つまり試料の全体の結晶化度が、意図的に増加する可能性があることを意味している。
【0083】
驚くべきことに、凝固試料の顕著な2θピークは、メソフェーズ領域が紡糸の開始時にほぼ確立されていることを示している。2θ(d2θ1)の結晶化度とd間隔は、紡糸時の延伸プロセス全体を通じて比較的安定したままであるが、結晶子の厚さと配向に大きな構造変化が発生する。3つの試料全てについて、配向は、Coag、FD、WFと徐々に増加し、それぞれの方位角スキャンごとにピークが狭くなる。結晶子の厚さは、CoagからFDまでの間にわずかな増加があり、2θピークの狭小化によって注目されるFDからWFまでの急増がある。これは、規則性領域をともに融合し、非晶質領域と規則性領域を同化させるには、湿式延伸よりも熱延伸の方が効果的であることを示唆している。Liuらは、延伸の初期段階がポリマー鎖の矯正及びもつれの解除に費やされることを示唆しており22、これにより湿式延伸中のLの限界増加も説明できる可能性がある。繊維試料のWAXSパラメータを以下の表3に要約する。
【0084】
【表3】
【0085】
実施例4.分子動力学シミュレーション
WAXSデータから示唆された進展する構造を視覚化するために、分子動力学シミュレーションを実行した。ここでは、20本の個別の鎖からなるPANシステムに軸方向の歪みを加えて、延伸プロセスをシミュレートした。
【0086】
全てのシミュレーションには、Schrodinger Materials Science 19-3及びOPLS3-e力場が使用された。PAN鎖は、「架橋ポリマー(Crosslink Polymer)」モジュールを使用して、最初に5000個のアクリロニトリルモノマーと20個の開始剤分子を周期ボックスに配置し、続いて400Kで後続の50nsのNPT及びNVTステージを実行してセルを高密度化し緩和することによって構築された。ダミー原子を使用して、伝播するラジカルを表した。開始剤の数に対応して、工程ごとに20回の反応が行われたが、反応が行われるには、モノマーがダミー原子までの距離基準4.0A以内にある必要があった。各工程の後、システムは、50psにおいて緩和された。重合は400Kで実施し、モノマーの転化率が100%に等しくなるまで続けた。重合に続いて、システムを400Kで更なる50nsのNPT及びNVTにおいてアニールした。延伸シミュレーションは、周期ボックスの1つの寸法を0.1%の歪みで600工程にて拡張し、合計60%の歪みに達することで実行した。0.5のポアソン比が適用されて、周期ボックスの横方向の寸法を制御した。延伸は、NVT条件下で実行した。ねじれが4つの接続された骨格原子からの4つの原子の二面角によって定義された延伸シミュレーションに従って、骨格のねじれが解析された。
【0087】
単一の鎖がその進張を追っていくために増大された原子で表されているシミュレーションによるシステムのスナップショットが観察された。0%のシステムは、完全に非晶質であり、実際のポリマーを適切に表すとは考えられないため省略された。10%及び60%の歪み系の拡大された領域は、アタチック(atatic)ポリマー鎖の局所的規則性を示しており、この場合、低い歪みでは、より多くの個体群のゴーシュ構造が鎖内のねじれとして作用し、局所的規則性が乱される。シミュレーション結果を観察すると、様々な個体群の骨格二面角が強調されたが、トランス(≒180°)及びゴーシュ(≒60°)の2つの構成が大きく優先される。延伸が進むにつれて、ゴーシュ構造は、トランス構造に変化し、その結果、平面上のジグザグ配置が拡張され、隣接する鎖が整列して凝縮することを可能にし、結果、より大きなメソフェーズ領域を形成する。延伸が更に進むと、ゴーシュ構造は、ゼロに近づく傾向があり、その系は、単相挙動に近づく。
【0088】
実施例5.繊維のDMA分析
プロファイル1の10Hz周波数スキャンにおける貯蔵弾性率(E’)及び損失弾性率(E”)及び対応するタンデルタピークの進展を、それぞれ、上述したようにDMA分析を使用して調査した。様々な試料の断面積を正確に測定することは困難であるため、貯蔵弾性率と損失弾性率の大きさは、重要であると考えるべきではない。むしろ、E”とE’の比であるタンデルタは、試料寸法の偏りを排除するため、試料の比較に使用される。
【0089】
Coag-1は、タンデルタ曲線に2つのピーク、α遷移ピーク約145℃、及びβ遷移ピーク約105℃を示した31、33。繊維がFD-1にて配向されると、α遷移が消失しβ遷移の大きさが当初増加し、αピークが非晶質領域に対応し、βが規則性メソフェーズ領域に対応することを示唆している31。Coag-1は、紡糸したままの繊維ではより際立った大きな非晶質領域が存在するため、FD-1と比較して狭いβ遷移ピークも示している63。WF-1を通して延伸が進むと、単一のβピークのみが存在して、単相挙動への遷移が更に支持される。
【0090】
β転移の活性化エネルギーは、周波数の対数ln fの関数として、ピーク温度の逆数1/βをプロットするアレニウスフィット(Arrhenius fit)によって決定された。結果を以下の表4に要約する。
【0091】
【表4】
【0092】
周波数が増加すると、応答時間の短縮とPAN系繊維の粘弾性の性質により、転移温度が上昇し、tanδの大きさが減少する。延伸プロファイル1の傾きの大きさは、Coag-1>FD-1>WF-1の順で続き、これは、繊維が延伸されるにつれてΔHの値が減少することに対応する。
【0093】
実施例6.DSC分析
DSC分析は、本明細書に記載のプロセスから得られた繊維試料に対して実施された。窒素中20℃/分での繊維の進展についてのDSC結果が決定された。発熱環化反応に関連する明確な開始ピークが、Coag-1、約243℃で観察され、これは、FD-1では減少し、WF-1では存在しない。この初期のピークは、WF-1と比較してCoag-1及びFD-1のより大きなサイズの非晶質領域に起因すると考えられている。WF-1は、発熱の開始がより緩やかであることを示しているが、これはおそらく、より分離した相境界を有し得るCoag-1及びFD-1と比較して、規則性領域と非晶質領域の混合がより大きいためである。250℃未満のより大きい開始ピークとより高い内部発熱の発生により、規則性領域での環化発熱もまた、WF-1、約299℃と比較して、Coag-1及びFD-1、約296℃のより低い温度とより高い熱流でピークに達する。
【0094】
環化の活性化エネルギーEは、ピーク発熱温度の逆数1/Tpkが、加熱速度の対数ln ωに対してプロットされる小沢法(Ozawa method)から決定され、より速いランプ速度において増加するピーク温度とともに公表されている59、64。ピーク温度及び計算されたE値を、以下の表5に要約する。
【0095】
【表5】
【0096】
環化活性化エネルギーは、凝固後に収集された試料と第1の延伸後の試料の間でほぼ一定のままであり、値は、155kJ/モル~158kJ/モルの範囲である。最も顕著な変化は、WF-1の場合、E値が169.8kJ/モルに増加する熱延伸時に発生する。環化の開始は、構造の異常と欠陥に起因すると考えられており64~66、これによりWF試料がはるかに高い活性化エネルギーを有する理由を説明することができる。熱延伸後の白色繊維には、WAXS及びDMA分析によって証明されるように、最大サイズの規則性領域が含まれており、これにより環化の開始における構造の欠陥が少なくなる。
【0097】
実施例7.白色繊維の機械的特性
最終的な繊維の比較には機械的特性が使用され、以下の表6に要約する。
【0098】
【表6】
【0099】
各WF試料の線密度の変動は、1%以内であったが、これによりそれぞれの所定の延伸プロファイルで同じ直径のフィラメントが生成されたことが確認される(同じ前駆体組成と嵩密度が与えられた場合)。興味深いことに、白色繊維の靭性とヤング率は、次の順序で増加する:WF-3<WF-2<WF-1。この挙動は、Arbabらによって報告された結果と一致しており67、この場合、ジェット延伸に関してより高い2回目の延伸が、繊維の多孔性を低減し剛性を増加させるのにより効果的であった。加えて、WF-1で観察されたポリマー鎖のより高い構造的規則性と整列から、より高い靭性と弾性率が期待され得る。
【0100】
PAN系前駆体の湿式紡糸は、ポリマー組成、浴温度、凝固条件、及びその他のプロセスパラメータから延伸変数を分離して、パイロット紡糸ラインで実行した。熱延伸を比例的に減少させる代わりに、ジェット延伸を増加させて、白色繊維のデニール数とワインダー速度を一定にする3つの延伸分類の変形例を選択した。各延伸プロファイルの分析のために、以下の場所:凝固、第1の延伸、及び繊維ワインダーで3つの試料が収集された。SEM、WAXS、DMA、及びDSCによって決定されるように、構造進展は、試料の場所の間で発生するが、最終的な白色繊維試料の特性は、白色繊維の靭性及び弾性率などの重要な違いを示している。
【0101】
ジェット延伸が増加すると、剪断力が増大し、繊維の凝固が不完全になり、これにより断面形状及び皮膜コア構造が変化する。配向と結晶子の厚さが大きい順に次のようになる:Coag-1>Coag-2>Coag-3。これは、凝固におけるより長い滞留時間及びより低い剪断力に直接対応する。この結果は、第1の延伸後に収集された試料と、各延伸段階の間で配向が徐々に増加するワインダーで収集された試料に伝わる。この結果は、メソフェーズ領域の配向と構造緩和との間の強い相関関係を示しており、このことは、紡糸の初期段階における完全な凝固及び規則性領域の確立の重要性を実証している。更に、最大の熱延伸比を有するWF-1は、FD段階とWF段階の間でLの最も顕著な増加を示したが、これは、環化挙動の最も実質的な変化によく対応している。環化活性化エネルギーは、Lとよく相関することが示されたが、より高い規則性の領域は、より高い活性化エネルギーと遅延開始温度をもたらす。本明細書に記載の本発明のプロセスは、(1)凝固が初期構造に影響を及ぼし、配向及び構造進展を決定づける、(2)熱延伸、又は高温延伸、後湿式延伸がメソフェーズ領域のサイズを増大させるのに有益である、並びに(3)構造的規則性は、TOSの機械的特性及び下流のプロセスパラメータに直接影響するという重要な調査結果を用いている。
【0102】
本明細書に記載される本発明の方法を実施する条件は、本開示の主旨から逸脱せずに所期の用途及び環境に基づいて最適化され得ることは当業者には明白であろう。
【0103】
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