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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-27
(54)【発明の名称】軽金属基板を保護するプロセス
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/06 20060101AFI20240219BHJP
   C25D 11/04 20060101ALI20240219BHJP
   C25D 11/30 20060101ALI20240219BHJP
   C25D 11/26 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
C25D11/06 A
C25D11/04 101E
C25D11/06 Z
C25D11/30
C25D11/26 302
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553330
(86)(22)【出願日】2022-03-02
(85)【翻訳文提出日】2023-10-19
(86)【国際出願番号】 NZ2022050024
(87)【国際公開番号】W WO2022186706
(87)【国際公開日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】63/155,708
(32)【優先日】2021-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/237,518
(32)【優先日】2021-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519054080
【氏名又は名称】シーラス マテリアルズ サイエンス リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー ウィリアム グード
(72)【発明者】
【氏名】フェンヤン ホウ
(57)【要約】
基材を、その基材用に構成された、伝導性が制御されたプラズマ電解酸化(PEO)浴内に置くこと;ここで、PEO浴は、窒素含有有機化合物を含む;及び、一定時間にわたって電圧を適用して、厚さ約1~約100ミクロン(μm)の実質的に連続した窒化物含有PEO層又は窒素化合物含有PEO層を、基材上に作り出すこと、に関する方法が開示されている。基材は、好ましくはマグネシウム、チタン、アルミニウムである。PEO処理は、好ましくは、アルカリ性条件下で、かつ約160ボルト未満の電圧において、実施される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップを含む方法:
基板を、前記基板用に構成された、伝導性が制御されたプラズマ電解酸化浴(PEO浴)内に置くこと;ここで、前記PEO浴が、窒素含有有機化合物を含むこと、及び、
電圧を、一定時間にわたって適用して、厚さ約1~100μmの実質的に連続した窒化物含有PEO層又は窒素化合物含有PEO層を、前記基板上に作り出すこと。
【請求項2】
適用される前記電圧が、約160ボルト未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電圧が適用される、前記一定時間が、少なくとも約100秒である、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記PEO浴が、8を超えるpHを有する、アルカリ性PEO浴である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記窒素含有有機化合物が、第一級、第二級又は第三級アミンである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記窒素含有有機化合物が、重合時に窒素含有伝導性ポリマーを形成するモノマーである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記窒素含有有機化合物が、アニリン、ピロール、トリエチルアミン又はそれらの組み合わせから選択されうる、請求項5又は請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記窒素含有有機化合物が、アニリンでありうる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記基材が、マグネシウム基材、チタン基材、又はアルミニウム基材である、請求項1~ら8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記PEO浴が、約5~80g/Lの、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムのうち少なくとも1種を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記PEO浴が、約10~90g/Lのメタケイ酸二ナトリウムをさらに含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記PEO浴が、約1~40g/Lのクエン酸ナトリウムをさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記PEO浴が、約2~30ml/Lの過酸化水素をさらに含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記PEO浴が、約0.1M~1Mの、重合時に窒素含有伝導性ポリマーを形成するモノマー、又は約0.1M~1Mの窒素含有有機化合物を、さらに含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記PEO浴が、約0.1mM~1Mの界面活性剤をさらに含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
基材前処理ステップをさらに含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記PEO浴が、室温に維持される、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
以下のステップを含む方法:
マグネシウム、チタン又はアルミニウム基材を前処理すること;
前記基材を、脱イオン水を用いて洗浄すること;
前記基材を、前記基材用に構成された、伝導性が制御されたPEO浴内に置くこと;ここで、前記PEO浴が、窒素含有有機化合物を含むこと、及び、
電圧を、一定時間にわたって適用して、厚さ約1~約100μmの実質的に連続した窒化物含有PEO層又は窒素化合物含有PEO層を、前記基材上に作り出すこと。
【請求項19】
前記前処理ステップが、下記のうち少なくとも1つを含む、請求項18に記載の方法:前記基材を酸性浴中で処理すること、前記基材を機械的に粗くすること、又は前記基材をアルカリ性浴中で洗浄すること。
【請求項20】
前記PEO浴が、約5~80g/Lの、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムのうち少なくとも1種を含む、請求項18又は請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記PEO浴が、約10~90g/Lのメタケイ酸二ナトリウムをさらに含む、請求項18~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記PEO浴が、約1~40g/Lのクエン酸ナトリウムをさらに含む、請求項18~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記PEO浴が、約2~30ml/Lの過酸化水素をさらに含む、請求項18~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記PEO浴が、約0.1M~1Mの、重合時に窒素含有伝導性ポリマーを形成するモノマー、又は約0.1M~1Mの窒素含有有機化合物を、さらに含む、請求項18~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記PEO浴が、約0.1mM~1Mの界面活性剤をさらに含む、請求項18~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記電圧が、約160ボルト未満のピーク電圧を有する、請求項18~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記PEO浴の前記伝導性が、約10A/dm未満の電流密度において、任意のマイクロアーク発生電圧を、PEO処理の際、約160V未満に制限するように制御される、請求項18~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
請求項1~27のいずれか一項に記載の方法に従って作り出されたPEOコーティング基材であって、前記PEOコーティング基材が、厚さ約1~100μmの実質的に連続した窒化物含有層を含む、PEOコーティング基材。
【請求項29】
厚さ約1~100μmの実質的に連続した窒化物含有層又は窒素化合物含有層を有するPEOコーティング基材であって、前記実質的に連続した窒化物含有層が、PEO処理の際に、約160V未満の電圧かつ約10A/dm未満の電流密度において形成された、PEOコーティング基材。
【請求項30】
前記基材が、アルミニウム、チタン又はマグネシウムである、請求項29に記載のPEOコーティング基材。
【請求項31】
以下のステップを含む方法:
基材を、前記基材用に構成された、伝導性が制御されたアルカリ性PEO浴内に置くこと;ここで、前記PEO浴が、窒素含有有機化合物を含むこと、及び、
電圧を、一定時間にわたって適用して、厚さ約1~約100μmのPEO層を、前記基材上に作り出すこと。
【請求項32】
適用される前記電圧が、約160ボルト未満である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記電圧が適用される、前記一定時間が、少なくとも約100秒である、請求項31又は請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記アルカリ性PEO浴が、8を超えるpHを有する、請求項31~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記窒素含有有機化合物が、重合時に窒素含有伝導性ポリマーを形成するモノマーである、請求項31~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記窒素含有有機化合物が、第一級、第二級又は第三級アミンである、請求項31~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記窒素含有有機化合物が、アニリン、ピロール、トリエチルアミン又はそれらの組み合わせから選択される、請求項35又は請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記窒素含有有機化合物が、アニリンである、請求項31~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記基材が、マグネシウム基材、チタン基材又はアルミニウム基材である、請求項31~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記PEO浴が、約5~80g/Lの、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムのうち少なくとも1種を含む、請求項31~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記PEO浴が、約10~90g/Lのメタケイ酸二ナトリウムをさらに含む、請求項31~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記PEO浴が、約1~40g/Lのクエン酸ナトリウムをさらに含む、請求項31~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記PEO浴が、約2~30ml/Lの過酸化水素をさらに含む、請求項31~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記PEO浴が、約0.1M~1Mの、重合時に窒素含有伝導性ポリマーを形成するモノマー、又は約0.1M~1Mの窒素含有有機化合物を、さらに含む、請求項31~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記PEO浴が、約0.1mM~1Mの界面活性剤をさらに含む、請求項31~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
基材前処理ステップをさらに含む、請求項31~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記PEO浴が、室温に維持される、請求項31~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
以下のステップを含む方法:
マグネシウム、チタン又はアルミニウム基材を前処理すること;
前記基材を、脱イオン水を用いて洗浄すること;
前記基材を、前記基材用に構成された、伝導性が制御されたアルカリ性PEO浴内に置くこと;ここで、前記陽極酸化済浴が、窒素含有有機化合物を含むこと、及び、
電圧を、一定時間にわたって適用して、厚さ約1~約100μmのPEO層を、前記基材上に作り出すこと。
【請求項49】
前記前処理ステップが、下記のうち少なくとも1つを含む、請求項48に記載の方法:前記基材を酸性浴中で処理すること、前記基材を機械的に粗くすること、又は前記基材をアルカリ性浴中で洗浄すること。
【請求項50】
前記PEO浴が、約5~80g/Lの、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムのうち、少なくとも1種を含む、請求項48又は請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記PEO浴が、約10~90g/Lのメタケイ酸二ナトリウムをさらに含む、請求項48~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記PEO浴が、約1~40g/Lのクエン酸ナトリウムをさらに含む、請求項48~51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記PEO浴が、約2~30ml/Lの過酸化水素をさらに含む、請求項48~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記PEO浴が、約0.1M~1Mの、重合時に窒素含有伝導性ポリマーを形成するモノマー、又は約0.1M~1Mの窒素含有有機化合物をさらに含む、請求項48~53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記PEO浴が、約0.1mM~1Mの界面活性剤をさらに含む、請求項48~54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記電圧が、約160ボルト未満のピーク電圧を有する、請求項48~55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
前記PEO浴の前記伝導性が、約10A/dm未満の電流密度において、任意のマイクロアーク発生電圧を、PEO処理の際、約160V未満に制限するように制御される、請求項18~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
請求項31~57のいずれか一項に記載の方法に従って作り出された陽極酸化済基材であって、前記陽極酸化済基材が、厚さ約1~100μmの実質的に連続した窒化物含有層を含む、陽極酸化済基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
陽極酸化は、軽金属基板、例えば、マグネシウム及びその合金、アルミニウム及びその合金、並びにチタン及びその合金などを、保護する方法として広く用いられている、電解不動態化プロセスである。陽極酸化は、典型的には、DC(直流電流)、パルスDC、又はAC(交流電流)を用いる酸性浴を、陽極(アノード)と、不動態である又は安定している陰極(カソード)、例えば、ステンレス鋼上のチタン、との間に用いる。アルミニウム及びチタンの陽極酸化は、細孔の規則的な配列を作り出し、これは、環境バリアを提供するために封止される必要がある。
【背景技術】
【0002】
細孔の封止は、装飾コーティング(装飾皮膜)を作り出す染色ステップを含んでよく、多くの場合、酢酸ニッケル溶液又は沸騰水を用いる。沸騰水は、酸化物を水和させることによって、かつ膨潤させることによって、細孔を封止する。一般的に保護フィルム(保護膜)は、厚いコーティングであり、例えばアルミニウム上の硬質陽極酸化などである。
【0003】
代替的には、金属性封止を、米国特許第10,519,562号明細書に記載されているように、電解的又は自己触媒的に細孔内に堆積しうる。
【0004】
アニリン及びその他の伝導性ポリマーを、酸性浴中において陽極酸化処理で堆積してよく、アルミニウムの細孔を、伝導性ポリマー及び金属酸化物ナノ粒子のいずれかとの組み合わせを用いて封止する方法が、米国特許第5,980,723号明細書及び国際公開第2009098326号に開示されている。このような封止は、優れた耐腐食性をもたらす。
【0005】
マイクロアーク酸化(MAO)又はプラズマ電解酸化(PEO)は、電気化学的表面処理であり、これは、400Vをはるかに超える高電位を用いて、軽金属及びそれらの合金上、とりわけ商業用途ではマグネシウム上に、自然に発生する不動態化層を、電気化学的に改変する。このプロセスは、高電位を有するアルカリ性浴を用いて放電を発生させ、基板の内側と外側から成長する酸化物層の性質を改変して、密着性のある、硬質連続バリア層を作り出す。
【0006】
MAO/PEOは、頻繁にエネルギーを大量に消費し、多くの場合、コーティング(皮膜)を作り出すために、クロム酸及びフッ化物などの有毒化学物質を必要とする。
【0007】
アルカリ性低電圧PEO浴内に窒素含有有機化合物を導入することは、知られておらず、アークによって改変されたPEO表面上における、ポリマーの重合が、ケイ酸塩、酸化物、窒化物、及びポリマーを組み合わせたコーティングを生成することは、知られていない。
【0008】
軽金属基板を、低エネルギーを用いる穏和な化学反応から堆積された薄いフィルム(膜)を用いて、直接保護するプロセスが必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本明細書で例示する態様によれば、コーティングを、マグネシウム、アルミニウム及びチタン基板上に作り出す方法が、提供される。その態様の1つの特徴は、基板を、伝導性が制御されたプラズマ電解酸化(PEO)浴中に置くことであり、その組成は、基板に依存し、窒素含有有機分子を含む。電圧を、一定時間適用して、実質的に連続した窒化物含有PEO層又は窒素化合物含有PEO層を、厚さ約1~100ミクロン(μm)で、基板上に作り出す。一実施形態では、基板は前処理される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施形態では、PEO浴はアルカリ性である。一実施形態では、アルカリ性PEO浴は、1種以上の水酸化物を含む。さらなる実施形態では、PEO浴は、1種以上の金属塩、伝導性ポリマーのモノマー若しくは他の窒素含有有機化合物、界面活性剤、及び酸化剤、又はそれらの組み合わせをさらに含みうる。
【0011】
一実施形態では、窒素含有有機化合物は、モノマーであり、これは、重合時に窒素含有伝導性ポリマーを形成する。
【0012】
一実施形態では、PEO浴は、界面活性剤を含む。一実施形態では、界面活性剤は、SDSである。
【0013】
一実施形態では、電圧を適用する一定時間は、最大約1000秒である。
【0014】
一実施形態では、PEO浴の伝導率は、約10A/dm未満の電流密度において、マイクロアーク発生電圧を、PEO処理の際、約160V未満に制限するように制御される。
【0015】
一実施形態では、基板上に吸着される、浴の高分子量有機塩成分が、PEO処理の伝導性を制御する。
【0016】
別の態様では、本明細書で定義される方法に従って作り出された、PEO処理済基板が提供され、このPEO処理済基板は、厚さ約1~100ミクロン(μm)の実質的に連続した窒化物含有層又は窒素化合物含有層を有する。一実施形態では、PEO基板は、実質的に連続した窒化物含有層を有する。
【0017】
別の態様では、厚さ約1~約100ミクロン(μm)の実質的に連続した窒化物含有層又は窒素化合物含有層を有し、PEOの際、マイクロアーク発生によって、約160V未満で、かつ約10A/dm未満の電流密度で形成された、PEO処理済基板が提供される。
【0018】
一実施形態では、基板は、アルミニウム、チタン又はマグネシウムである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、マグネシウム、アルミニウム又はチタン上にコーティングを作り出す方法のフロー図である。
【0020】
図2図2は、ある先行技術の方法に従って作り出されたPEOコーティングのSEM画像である。
【0021】
図3図3は、伝導性ポリマー成分を含まない浴中で作り出したコーティングの光学顕微鏡画像及びSEM画像である。
【0022】
図4図4は、伝導性ポリマーコーティングを含む浴中で作り出されたコーティングの光学顕微鏡画像とSEM画像である。
【0023】
図5図5(a)は、アニリンを含むコーティングのXRD分析であり、図5(b)は伝導性ポリマーを含まないコーティングのXRD分析である。
【0024】
図6図6は、第一DOE分析に関して選択されたDOE結果データである
【0025】
図7図7は、Al基板及びTi基板に関して選択された結果データである
【0026】
図8図8は、伝導性ポリマー成分を含む場合かつ含まない場合の、Al基板上に作り出されたコーティングのSEM画像を示している。
【0027】
図9図9は、伝導性ポリマー成分を含む場合かつ含まない場合の、Ti基板上に作り出されたコーティングのSEM画像及びXPS分析を示している。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下の説明は、多数の例示的な構成、パラメータなどを述べる。しかしながら、このような説明は、本発明の範囲を限定することを意図するものではないが、代わりに例示的な実施形態の説明として提供されるものであることを認識すべきである。
【0029】
定義
【0030】
本明細書の各例において、本発明の説明、実施形態、及び実施例において、用語「~を有する」、「~を含む」などは、限定することなく、拡大的に読まれるものとする。したがって、文脈上明らかにそうでないことが要求されない限り、本明細書及び特許請求の範囲全体を通じて、「~を有する」、「~を有している」などの語は、排他的な意味とは対照的に包括的な意味、すなわち、「~を含むが、~に限定されない。」の意味で解釈される。
【0031】
本明細書で用いる「約」という用語は、所定の値又は範囲の20%以内、より好ましくは10%以内、最も好ましくはなお5%以内を意味する。代替的には、「約」という用語は、対数が1以内(すなわち、所与の値の10倍以内)、好ましくは所与の値の2倍以内を意味する。
【0032】
「窒素含有有機化合物」という用語は、1個以上の窒素原子を有する有機化合物を意味する。適切な窒素含有有機化合物として、アニリン、ピロール及びトリエタノールアミンなどの、第一級、第二級又は第三級窒素原子が挙げられるが、これらに限定されない。適切な窒素含有有機化合物として、重合により窒素含有伝導性ポリマーを形成する、窒素含有モノマーが挙げられる。
【0033】
「実質的に連続した窒化物含有層」という用語は、基板表面の少なくとも約95%にわたって分布する、1種以上の窒化物化合物を含む層を意味する。この層は、基板表面の少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、又は100%にわたって分布していてよいことを理解されたい。
【0034】
窒化物含有化合物が、PEO層において具体的に言及されている一方で、他の窒素含有化合物が除外されるわけではないことを理解されたい。陽極酸化済層はまた、基板金属の酸化物若しくは基板金属の酸窒化物、及び/又はケイ酸塩を含んでもよく、これらは、PEO処理の一部として形成されることをさらに理解されたい。
【0035】
本明細書に記載された実施例は、酸化物、窒化物、ケイ酸塩、及びポリマーコーティングを、マグネシウム、アルミニウム、又はチタン基板上に発達させるプロセスを提供する。上述したように、PEO処理を用いてこれらの金属をコーティングする従来の試みは、様々な理由のために失敗したか、又は望ましくない。例えば、従来の方法は、一般的に有毒な化学物質を含むプロセスを用いうるし、エネルギーを大量に消費するPEO処理を用いうるし、比較的高価でありうる。
【0036】
本開示は、コーティングを、マグネシウム、チタン又はアルミニウム合金基板上に発達させるプロセスを提供し、これは、有毒化学物質の使用を排除し、従来の方法よりもエネルギーの大量消費を抑え、比較的安価である。基板は、前処理されていてよく、例えば、このプロセスは、基板を機械的又は化学的に研磨及び/又は脱脂するステップを含んでいてよい。約1ミクロン(μm)~約100ミクロン(μm)のフィルムを、プラズマ電解酸化によって、基板上に、下記を含むPEO浴から、堆積しうる:水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム、メタケイ酸二ナトリウム、クエン酸ナトリウム、過酸化水素、界面活性剤、伝導性ポリマーのモノマー、窒素含有有機化合物、連続した陽極酸化済層を作り出すための他の添加剤、又はそれらの任意の組み合わせ。
【0037】
このようにして作り出されたPEO層は、米国出願第63/015411号明細書(参照によりその全体が本明細書に含まれる)に記載されているように、伝導性を有しうるし、さらに、電着される、自己触媒的に堆積される、陽極酸化的に堆積される、電子コーティングされる、又は塗布されるコーティングのための基板を形成しうる。
【0038】
図1は、窒化物及びポリマーを含有するPEO層をマグネシウム上に作り出すための例示的な方法100を示す。方法100は、プロセッサー又はコントローラーの制御下で、処理設備内の様々な装置又はツールによって実行されうる。
【0039】
ブロック102において、方法100が開始される。ブロック104において、方法100は、基板を前処理しうる。一実施形態では、基板は、マグネシウムの鍛造合金又は鋳造合金でありうる、マグネシウム基板であってよい。このようなマグネシウム基板の例として、AZ80若しくはZK60又は任意の適切なマグネシウム合金が挙げられる。一実施形態では、基板は、任意の適切なマグネシウム合金であってよい。代替的な実施形態では、基板は、アルミニウム基板であってよい。アルミニウム基板の例として、2000系、3000系、4000系、5000系、6000系、及び7000系のアルミニウム合金が挙げられる。代替的な実施形態では、基板はチタン基板であってよい。チタン基板の例として、Ti-T1、Ti-T2など、又は任意の適切なチタン合金が挙げられる。
【0040】
一実施形態では、前処理は、1つ以上のプロセスを含みうる。前処理プロセスとして、濃硝酸浴若しくは希硫酸浴中で、基板を化学的に処理すること、エメリーペーパー、サンドブラスト若しくはビーズブラストを通して、基板を機械的に粗くすること、並びに/又は約3~15分間にわたって、約10~20グラム/リットル(g/L)の炭酸ナトリウム及び約15~20g/Lのリン酸ナトリウム、約10~20g/Lのケイ酸ナトリウム、及び約1~3g/Lの市販のOP-10界面活性剤を含むアルカリ浴中で、摂氏約60~80度(℃)で、基板を洗浄すること、が挙げられる。
【0041】
表面を機械的に粗くすることは、PEO層と基板との向上した付着性を提供しうる。この付着性は、後に堆積される機能表面層内で生じる引張力の存在下で、さらに向上しうる。機械的に粗くすることは、最大1200グリットの適切な粒度のエメリーペーパーを用いることによって達成されうる。一実施形態では、サンドブラスト又はビーズブラストは、PEO層を生成するための適切な表面を、作り出しうる。
【0042】
ブロック106において、方法100は、基板を洗浄しうる。基板は、陽極酸化される前に洗浄されうる。基板は、脱イオン(DI)水中ですすぐことによって洗浄されうる。一実施形態では、基板は、エタノール又はアセトンの溶液中で超音波洗浄されうる。基板を洗浄するとき、洗浄ステップは、表面上に任意の酸化物層が生成されるのを防ぐ必要がある。換言すれば、基板を洗浄することは、表面上に新たな酸化物層が生成されないようにする必要がある。
【0043】
ブロック108において、方法100は、基板の性質に従ってPEO浴を選択する。例えば、PEO浴の組成は、マグネシウム基板、チタン基板又はアルミニウム基板の組成に応じて選択されうる。浴組成は、約5~80g/Lの水酸化ナトリウム又は約5~80g/Lの水酸化カリウム、約10~90g/Lのメタケイ酸二ナトリウム、約0~40g/Lのクエン酸ナトリウム、約2~30ml/Lの過酸化水素、約0.05mM(mmol/L)~1M(mol/L)のSDS、及び約0.1M(mol/L)~1M(mol/L)の伝導性ポリマーのモノマー又は窒素含有有機化合物から選択されうる。
【0044】
特定の実施形態では、モノマーは、アニリンであってよく、他の実施形態では、ピロールであってよく、さらなる実施形態では、モノマーは、トリエタノールアミンであってよい。いずれの場合も、モノマーは、窒素を含有するはずでる。
【0045】
AZ80基板に関する一実施形態では、浴は、35g/LのNaOH、60g/LのNaSiO、24g/Lのクエン酸ナトリウム、6mL/Lの過酸化水素(H)、3.7mL/Lのアニリン、及び0.05mmol/LのSDSを含む。
【0046】
ここでNaOHはまた、アルカリ性環境を提供し、これは、マグネシウム(Mg)基板を保護し、かつMgOを形成する酸化反応を助ける。ケイ素の供給源であるNaSiOは、フィルム内でMgSiOを発達させる。いずれの要素も浴の伝導性に影響し、このようにして、PEOのピーク電圧は、濃度が高いほど低い電圧を有する。クエン酸ナトリウムは、反応の均一性を、基板上に吸着することによって改善する。アニリンは、窒化反応の窒素源である一方で、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)は、界面活性剤であり、これは、窒素含有有機化合物を、この例ではアニリンを、浴全体にわたって均一に分布させるのを助ける。最後に、Hは、コーティングの均一性を改善する酸化プロセスを助ける。
【0047】
別の実施形態では、基板は、6061アルミニウム、他のアルミニウム合金、又はチタン合金のいずれかであり、浴は、45g/LのNaOH、60g/LのNaSiO、24g/Lのクエン酸ナトリウム、6ml/Lの過酸化水素、4.9ml/Lのアニリン、及び0.05mmol/LのSDSを含む。ブロック110において、方法100は、基板を、下記のうち少なくとも1種を含む浴中に置いて、PEO層を作り出す:水酸化ナトリウム又はメタケイ酸二ナトリウム。一実施形態では、PEO浴は、加熱及び/又は冷却装置内にあってよく、それによって、安定した溶液温度を維持する。一実施形態では、PEO浴は、ステンレス鋼対極を含みうる。一実施形態では、直流電流(DC)電源が、PEO処理を行うために、電圧及び電流を供給しうる。一実施形態では、パルスDC電源が、PEO電力を供給しうる。
【0048】
一実施形態では、PEO浴を、18℃~30℃で運用しうる。一実施形態では、PEO浴を、約25℃の温度に維持しうる。
【0049】
一実施形態では、基板は、AZ80マグネシウムであり、定電流であるPEO電流を採用しうる。一実施形態では、定電流を、0.5~6アンペア/平方デシメートル(A/dm)に維持しうる。一実施形態では、電流を、1A/dmに制限しうる。
【0050】
代替的な実施形態では、基板は、6061アルミニウム又はT1チタンであり、一定のPEO電流を採用しうる。一実施形態では、定電流を、約0.5~約10アンペア/平方デシメートル(A/dm)に維持しうる。一実施形態では、電流を、約4A/dmに制限しうる。
【0051】
一実施形態では、PEO電流密度及び浴組成が、PEO電圧応答曲線を制御する。一実施形態では、AZ80マグネシウム基板に関するPEO電圧応答曲線は、図6の601の、3つの領域を有する。時間0から、601の点「A」までの領域は、陽極層の初期成長に対応する。一実施形態では、この時間は好ましくは60秒未満である。601の、点Aから点Bまでの領域は、高密度の小さなアークが陽極表面全体にわたって発達する、初期アーク期間に対応し、この期間の長さは、主に浴化学によって制御される。一実施形態では、点Aから点Bまでの期間は、60秒~240秒、好ましくは120秒超である。601の、点Bを越えた領域、すなわち約500秒までの領域は、広く分布した大きなアーク放電に対応し、平均電圧は、主にコーティング厚さ及び浴組成に依存する。一実施形態では、平均電圧は、70~130V、80~120V、好ましくは100V未満である。
【0052】
一実施形態では、PEO浴中のイオン濃度及び有機剤レベルの組み合わせを、ピーク電圧を制御するために用いうる。一実施形態では、有機剤は、クエン酸二ナトリウムでありうる。クエン酸二ナトリウムは、大きな分子であり、これは、基板表面上に吸着して、伝導性を制限しうる一方で、NaOHは、ともに伝導性を促進する伝導性イオンである。
【0053】
一実施形態では、アーク放電が最初に発生する電圧、及びその電圧を持続するのに必要な電流密度は、主として酸化コーティング(酸化皮膜)の絶縁耐力、コーティングの厚さ、及びPEO浴の伝導性の関数である。
【0054】
本開示におけるPEOフィルム(PEO膜)の厚さは、約1~約100ミクロン(μm)でありうる。しかしながら、厚さはまた、4ミクロン(μm)~10ミクロン(μm)でありうる。一実施形態では、厚さは、4ミクロン(μm)~8ミクロン(μm)でありうる。
【0055】
PEOを上記の条件で15分間にわたって用いる結果、約6ミクロン(μm)のPEOフィルムが得られる。
【0056】
ブロック112において、方法100は、基板をすすぐステップを含む。基板のPEO層を、DI水中ですすいでよく、又はエタノール中で超音波洗浄してよい。
【0057】
ブロック114において、方法100は、基板に対してより強い保護を提供するか、又はコーティングに対して装飾的な態様を提供するかのいずれかのために、さらなるコーティングを選択する。例えば、一実施形態では、さらなるコーティングは、電解又は自己触媒的に堆積された、金属コーティング(金属皮膜)、例えばニッケル、銅、銀、コバルト、スズ、又はこれらの金属の合金などの金属コーティング、を含んでよく、それによって、改善された耐腐食性又は他の機能特性を提供する。別の実施形態では、さらなるコーティングは、装飾的態様を提供するための、eコート、パウダーコート、又は他のポリマーコーティングでありうる。代替的な実施形態では、さらなるコーティングは、耐腐食性を改善するための伝導性ポリマーコーティングでありうる。
【0058】
ブロック120において、方法100は終了する。
【0059】
図2は、マグネシウム合金上の典型的なPEO表面を示す。コーティングは、連続的であるが、コーティングプロセスの典型的なクラッキング(ひび割れ)を提示する。これらのクラックは、腐食の侵入口を提供するため、高いエネルギー消費を必要とする、非常に厚いコーティングのみが、基板に対する十分な保護を提供する。
【0060】
図3は、70g/LのNaOH、60g/LのNaSiO、12g/Lのクエン酸ナトリウム、及び6mL/LのHを含む浴から作り出されたコーティングのSEM画像302を示す。これは、さらなる金属性層の堆積に適した多孔性伝導性表面である。SEM/EDS分析である、301は、コーティングの組成を示している。主成分は、PEO処理によって発生したMgOとして、マグネシウム及び酸素である。ケイ酸マグネシウム、ケイ酸ナトリウム、二酸化ケイ素のいずれとしてでもある、ケイ素は、PEO浴の一部を形成するケイ酸二ナトリウムに由来する。アルミナとしてのアルミニウムは、マグネシウム基板内で合金化されたアルミニウムから形成される。試料中の炭素は、不純物であるか、又はアーク中におけるクエン酸ナトリウムの分解に起因するものである。
【0061】
図4は、コーティングされたMg基板である、401の例を示しており、これは、本開示の特定の態様に従って、図3におけるコーティング(70g/LのNaOH、60g/LのNaSiO、12g/Lのクエン酸ナトリウム、及び6mL/LのH)の方法と同一の方法から、0.2M(mol/L)のアニリンを添加して、作り出される。関連する光学顕微鏡画像である、403は、均一なコーティングを示しており、ここで、明るい領域が、下方の基板の結晶構造に対応している。SEM画像である、404は、SEM画像302とは、明らかに対照的であり、SEM画像404において、その微細構造は、実質的に均一であり、限られた多孔性を有する。
【0062】
402におけるSEM/EDS分析は、コーティング上の組成を示し、図3におけるコーティングとは異なり、マグネシウム、ケイ素、及びアルミニウムは、同程度のレベルである一方で、酸素は著しく低く、窒素が存在している。図5(a)は、一態様による、アニリンを含む陽極酸化済コーティングのXRD分析を示し、図5(b)は、同一の浴からのアニリンを含まないコーティングの比較XRD分析を示す。分かりうるように、アニリン強化コーティングは、予想されるように窒化マグネシウム(Mg)に対するXRDピークを含み、これは、最もエネルギーの低い窒化反応である。ポリアニリン(PANI)に対するピークもまた、様々な酸化物のピークとともに存在している。MgOに関連するピークも見られ、これは、一部のMgOが、PEOアークにおいて変換されたことを示している。
【0063】
図8は、コーティングされたAl基板の例を示す。801は、図3におけるコーティングの方法と同一の方法から、本開示の特定の態様に従って作り出される。802は、図4におけるコーティングの方法と同一の方法を介して作り出された、コーティングされたAl基板の例である。801及び802におけるSEM画像は、それぞれ、伝導性ポリマー成分である、アニリンを含まないPEO浴内で処理したAl6061合金と、アニリンを含むPEO浴内で処理したAl6061合金との、形態における違いを示している。アニリンを含むPEO浴内で処理したAl6061合金は、より均一な形態及び細孔分布を示している。801において観察された、表面クラックは、アニリン処理コーティング上ではあまり目立たない。
【0064】
図9は、コーティングされたTi基板の例を示している。901及び902におけるSEM画像は、それぞれ、伝導性ポリマー成分である、アニリンを含まないPEO浴を用いて処理したTi基板、及びアニリンを含むPEO浴を用いて処理したTi基板のものである。901は、図3におけるコーティングの方法と同一の方法から作り出されたたものである。902は、図4におけるコーティングの方法と同一の方法を用いて作り出された、コーティングされたTi基板の例である。901におけるコーティングは、PEO処理されたTi基板の、典型的な細孔及び形態を提示する。画像902におけるコーティングは、アニリンを含むPEO浴を用いてTi基板を処理することが、細孔分布における均一性を高めたことを示している。アニリン含有浴を用いた処理ではまた、901におけるコーティングには存在しない、応力誘起表面クラックも発生した。
【0065】
図9の、903及び904は、902におけるコーティングからN 1s及びTi 2pに関して収集されたXPSスペクトルを示す。ピーク分析は、アニリン含有電解液中でのPEO処理が、コーティング内の窒化物(905)及び炭化物(906)含有量の発達を助けたことを示す。
【0066】
コーティング中に窒化物及び炭化物が存在するのは予想外である;なぜなら、これらの化合物の形成は、典型的には、下記の式に示すように高温反応だからである:
【0067】
【化1】
【0068】
【化2】
【0069】
【化3】
【0070】
【化4】
【0071】
【化5】
【0072】
窒化物又は炭化物の形成は、まずMg/Al/Ti又はMgO/AlO/Ti-O表面上へのアニリンの陽極電気化学的堆積によって進行すると理解される。マイクロアーク放電の局所的な高エネルギーは、発達中のポリアニリンから窒素又は炭素を剥ぎ取り、それを金属と結合させて、観察される窒化物及び炭化物を生成するのに、十分である。Mgは、優勢な窒化物である;なぜなら、これは、最も低い温度を要求する反応だからである。検出されたMg(OH)のピークは、Mgの水和から発達したものと考えられる。TiN、TiC、AlN、及びAlCは、PEO処理をされたTi基板及びAl基板上で、同じ様式で発達すると考えられる。
【0073】
図4のSEM/EDS分析402において分かりうるように、伝導性ポリマーが、コーティング内には、EDS分析において炭素の低いレベルによって示されているようにほとんど残っていない。
【実施例1】
【0074】
以下の実施例は、特定の動作条件を指摘し、本開示の実施を説明するものである。しかしながら、これらの実施例は、本開示の範囲を限定するものとして考慮されるべきではない。実施例は、PEO浴発達の態様、金属性インターロック層の特徴、及びマグネシウム基板に対して良好な腐食保護を提供するコーティング積層体の製造を、具体的に説明するために選択される。
【0075】
実施例1 - アニリンを用いたマグネシウムに関するプロセスの第一最適化
【0076】
実験計画(DOE)プロセスを採用して、コーティング最適化の第一レベルを行った。この実験計画(DOE)プロセスを、ここで説明する。DOEは、2段階で進められ、第一DOEは、2レベル分析であり、プロセスを概ね最適化するために、浴化学及びPEOパラメータを調べた。
【0077】
第一DOEを実行する際、3つの適合条件が検討され、これらは下記の通りである:外観;エネルギー消費量(EC);及び-腐食性能の代用として-コーティングの開回路電位(OCP)。表1は、DOEに関する条件及びDOEの結果を示す。この実験は、因子間の相互関係の分析を含むことに留意されたい。外観スコアは、主観的に決定され、1~16で採点される(16が好ましい外観スコアである)一方で、他の因子は、客観的に決定された。
【0078】
【表1】
【0079】
各実験のために、新たな200mLのPEO溶液を生成した;化学物質の濃度を、表1に示すように、g/L、mL/L、又はmMolで表している。浴温は、25℃で一定に保ち、浴を、磁気攪拌棒を用いて600rpmで攪拌した。対極は、ステンレス鋼板であった。
【0080】
試料は、厚さ1cmの、2cm×3cmのAZ80マグネシウムクーポンである。クーポンは、800グリットまで機械的に研磨され、2mmの絶縁Alワイヤーを有する、陽極接続のための穴が開けられた。穴及びワイヤーは、接続入口点の周囲をエポキシで封止された。
【0081】
OCPを、2つの電極セル内で10分間にわたって測定して、その変化を観察した。
【0082】
エネルギーは、平均電圧に、確立された電流を乗じることによって求められた。電圧情報は、データロガーによって5秒ごとに記録された。
【0083】
図6は、最適な性能を提供した試料T6に注目した、DOEの選択結果を示している。601は、試料T6に関する電圧PEO処理曲線を示しており、ここで「A」と記された点は、第一PEO処理領域の終了を表し、この際に、初期酸化層が連続的になり、アークが始まる。点「B」は、初期の低強度アークプロセスが完了する、第二PEO処理領域の終了である。T6を実験における他の試料と比較すると、A-B間の電圧は、長期にわたって非常に安定しており、これは、高品質のPEOフィルムが形成されていることを示す。
【0084】
図6のグラフ602は、エネルギー消費量、浴中化学物質濃度、及び外観の組み合わせを表すDOE変数に対する、めっきされた試料OCPのチャートを示す。ここで「T6」とラベル付けされた点は、最も低いOCP及び人工的なDOEパラメータの最低値を同時に示している。603は、この試料のOCP時間曲線であり、(他のサンプルとは異なり)OCPは経時的に比較的安定しており、初期の傾斜は、おそらくコーティング内の多孔点であり、これは、時間とともに不動態化する。
【0085】
図6における画像604は、コーティングの均一な性質を示す、表面の200倍の光学画像である。
【0086】
実施例2 - アニリンを用いたマグネシウム(Mg)に関するプロセスの第二最適化
【0087】
第二DOEは、コーティング性能をさらに最適化するために実施された。このプロセスは、試料「T6」に関するパラメータを中心とした、プロセスをさらに最適化する3段階分析である。調査したパラメータ及び得られた結果を表2に示す。この実験では、下記のパラメータが一定であった:SDS及び24mL/Lのクエン酸ナトリウム、0.05mMolのSDS、1A/dmの電流密度、25℃の浴温、15分のPEO処理時間、600rpmの磁気攪拌による攪拌。
【0088】
【表2】
【0089】
評価された結果は、OCP及び腐食保護であった。OCPは、分析的に測定された。腐食は、試料を5重量%のNaCl水溶液中に浸漬した状態で、孔食までの時間として、主観的に測定された。試料5は、5時間後に孔食が発生しておらず、最良であった。
【0090】
観察されうるように、浴組成及びプロセスをさらに改良することによって、OCPは、最初の実験より大幅に減少した。
【0091】
実施例3 アニリンを用いたアルミニウム(Al)に関するプロセス
【0092】
簡単な実験が、マイクロアーク発達窒化物をアルカリ陽極酸化浴からAl基板上に堆積させるプロセスに関する能力を検証するため、行われた。
【0093】
2cm×3cmの6061基板を、脱脂し、研磨した。
【0094】
45g/LのNaOH、60g/LのNaSiO、24g/Lのクエン酸ナトリウム、6mL/Lの過酸化水素、4.9mL/Lのアニリン、及び0.05mmol/LのSDSを含有するPEO浴を、各試料用に新たに生成した。
【0095】
PEOは、4A/dmの定電流で15分間にわたって行われた。図7の701は、陽極酸化プロセスに関する電圧時間曲線を示しており、マグネシウムPEO処理との類似性を明確に示している。
【0096】
図7の702は、SEM画像を示しており、703は、コーティングのSEM/EDS分析であり、コーティング中の窒素の存在を、Si、Na、Mg、Al、Oとともに示している。Siのレベルは、コーティングのほとんどが、ケイ酸アルミニウム及び酸化アルミニウムを含むことを、示唆している。窒化物は、アルミニウムのものである。
【0097】
実施例4 アニリン用いたチタン(Ti)に関するプロセス
【0098】
簡単な実験はまた、アルカリ性PEO浴からTi基板上に、マイクロアーク発達窒化物を含有する表面を堆積するプロセスに関する能力を検証するため、行われた。
【0099】
1cm×3cmのチタン基板を、研磨し、脱脂した。
【0100】
45g/LのNaOH、60g/LのNaSiO、24g/Lのクエン酸ナトリウム、6mL/Lの過酸化水素、4.9mL/Lのアニリン、及び0.05mmol/LのSDSを含有するPEO浴を、各試料用に新たに生成した。
【0101】
PEOを、4A/dmの定電流で15分間にわたって行った。図7の704は、PEO処理に関する電圧時間曲線を示しており、マグネシウムPEO処理との類似性を明確に示している。
【0102】
図7の705は、SEM画像を示しており、706は、コーティングのSEM/EDS分析であり、コーティング中の窒素の存在を、Si、Na、Ca、Mg、Al、Ti、Oとともに示している。Siのレベルは、コーティングのほとんどが、ケイ酸チタン及び酸化チタンを含むことを、示唆している。窒化物はチタンのものである。
【0103】
PEO処理されたTi基板(図9の902)に関する、図9の903及び904内のXPSスペクトルは、コーティング中のTiの炭化物及び窒化物の存在を示している。この結果は、PEO浴化学に対するアニリンの添加が、コーティング中のチタンの炭化物及び窒化物の発達を助けたことを示唆している。
【0104】
上記の開示された特徴及び他の特徴並びに機能の変形例、又はそれらの代替を、多くの他の異なる系又は用途内に組み合わせてよいことを理解されたい。現在予見されていない、又は予期されていない様々な代替、修正、変形、又は改良が、当業者によってその後なされうるが、これらもまた、以下の特許請求の範囲によって包含されることが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】