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特表2024-508524皮膚常在菌のポルフィリン生成の調節およびヒアルロン酸分解酵素の調節を通じた皮膚改善用化粧料組成物
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  • 特表-皮膚常在菌のポルフィリン生成の調節およびヒアルロン酸分解酵素の調節を通じた皮膚改善用化粧料組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-27
(54)【発明の名称】皮膚常在菌のポルフィリン生成の調節およびヒアルロン酸分解酵素の調節を通じた皮膚改善用化粧料組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/67 20060101AFI20240219BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20240219BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20240219BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
A61K8/67
A61K8/49
A61K8/60
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553374
(86)(22)【出願日】2022-02-16
(85)【翻訳文提出日】2023-09-01
(86)【国際出願番号】 KR2022002286
(87)【国際公開番号】W WO2022186513
(87)【国際公開日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】10-2021-0028329
(32)【優先日】2021-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514112488
【氏名又は名称】エルジー ハウスホールド アンド ヘルスケア リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】キョン-ウン・ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】ビョン-ジュン・アン
(72)【発明者】
【氏名】ネ-ギュ・カン
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AC861
4C083AC862
4C083AD201
4C083AD202
4C083AD631
4C083AD632
4C083CC02
4C083EE12
4C083EE14
(57)【要約】
この開示においては、皮膚健康に悪い皮膚常在菌の生長および有害因子のポルフィリン生成は低減しつつ、皮膚健康に悪い影響を及ぼさない皮膚常在菌の生長には影響を及ぼさないことから、皮膚マイクロバイオームを健やかにリバランシングすることのできる化粧料組成物を提供する。また、この開示は、ポルフィリンを生成する菌株においてポルフィリン生成を抑制することのできる化粧料組成物を提供する。さらに、この開示は、皮膚常在菌から分泌されるヒアルロン酸分解酵素の活性を抑制して皮膚内のヒアルロン酸の分解を抑制して補湿および老化の予防に役立てる皮膚改善用組成物を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チアミンまたはこの化粧学的に許容可能な塩およびサッカライド・イソメレート(saccharide isomerate)からなる群から選択されたいずれか一種以上を有効成分として含む、皮膚微生物叢(microbiome)調整用化粧料組成物。
【請求項2】
前記化粧料組成物は、皮膚微生物叢(microbiome)内のキューティバクテリウム・アクネス調整用のものである、請求項1に記載の化粧料組成物。
【請求項3】
前記組成物は、キューティバクテリウム・アクネスHL110PA3菌株よりもキューティバクテリウム・アクネスHL053PA1菌株の成長をさらに多く抑制する、請求項2に記載の化粧料組成物。
【請求項4】
チアミンまたはこの化粧学的に許容可能な塩およびサッカライド・イソメレート(saccharide isomerate)からなる群から選択されたいずれか一種以上を有効成分として含む、微生物が分泌するポルフィリン生成抑制用の化粧料組成物。
【請求項5】
前記化粧料組成物は、皮膚酸化ストレスを抑制するか、皮膚の炎症を改善するか、ニキビの誘発を抑制するか、真皮緻密度を高めるか、皮膚の乾燥症状を改善するか、または肌トーンを改善する用途のものである、請求項3に記載の化粧料組成物。
【請求項6】
チアミンまたはこの化粧学的に許容可能な塩およびサッカライド・イソメレート(saccharide isomerate)からなる群から選択されたいずれか一種以上を有効成分として含む、微生物により分泌されるヒアルロン酸分解酵素阻害用化粧料組成物。
【請求項7】
前記組成物は、ヒアルロン酸分解能を抑制して皮膚の弾力性、乾燥、または老化の症状を改善する用途のものである、請求項6に記載の化粧料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年3月3日付け出願の韓国特許出願第10-2021-0028329号に基づく優先権を主張し、当該出願の明細書及び図面に開示された内容は、すべて本出願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、皮膚常在菌の成長および代謝体を有益に調節(リバランシング)することのできる化粧料組成物に関する。また、本発明は、ポルフィリン生成菌株のポルフィリン生成の抑制など皮膚有害物質の生成を抑制し、ヒアルロン酸分解酵素を分泌する菌株のヒアルロン酸分解能を抑制することのできる化粧料組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
皮膚には、皮膚微生物叢を構成する数百万個のバクテリア、カビおよびウィルスが存在する。マイクロバイオーム(Microbiome、微生物叢)とは、特定の環境下で存在する微生物の集団のことをいう。人体内に存在する微生物の遺伝子は、ヒト遺伝子の数百倍に至っており、人体内の様々な機能に影響を及ぼすことになる。
【0004】
ヒト微生物叢のほとんどは腸内に存在すると言われているが、皮膚にも様々な微生物が存在する。皮膚に存在する微生物も、腸内の微生物と略同様に、病原菌の侵入、免疫系の調節、天然物の分解などの様々な代謝に欠かせない必須の役割を果たし、人間の健康状態に影響を及ぼす虞があると言われている。人体の最も大きな器官である皮膚は、有益な微生物により植民地化され、病原菌の侵入を防ぐための物理的なバリアとして作用する。バリアが弱化したり共生体と病原体との間のバランスが崩れる場合、皮膚疾患または全身疾患が発病する虞がある。人間の皮膚部位の微生物叢の組成について研究することは、普通肌疾患の病因または皮膚状態との相関性を究める上で有用である。
【0005】
皮膚のすべての固有の微生物群集を除去可能な強力な殺菌作用を有する殺菌剤または抗生剤を用いる場合、皮膚に有益な影響を及ぼすバクテリアも除去されてしまうリスクがあり、当該成分に対する耐性バクテリアの出現および増殖が促されてしまう虞がある。また、殺菌剤または抗生剤の使用が中断されたとき、既存の皮膚菌叢のバランスが崩れたため、皮膚に望ましくないバクテリアが優先的に成長して日和見感染などを引き起こしてしまうリスクがある。広範囲な抗生剤の代わりに選択的に菌叢を調節可能な物質が用いられる場合、皮膚固有の微生物群集に対する広範囲な副作用を避けながら、皮膚に有益な効果を有するバクテリアの割合が高まることができる。
【0006】
すなわち、皮膚に存在する有益菌と有害菌との間のバランスの崩壊は、日和見感染を引き起こしてしまう虞がある。したがって、微生物間のバランスを保つことは、健やかな肌の状態を保つために重要な部分である。
【0007】
キューティバクテリウム・アクネス(Cutibacterium acnes;C.acnes、通称:C.アクネス)は、皮膚を弱い酸性に保つために皮脂をグリセロールと脂肪酸とに分解して病原性バクテリアの侵入または成長を抑制する役割を果たす。皮膚に常在している主な菌種の一つであり、皮膚バリアを保つために重要な役割を果たしている。したがって、全体のキューティバクテリウム・アクネスバクテリアに影響を及ぼし得る抗菌または殺菌の作用を有する抗生剤を皮膚に適用することは望ましくない。
【0008】
【0009】
近年、ニキビバクテリアの系統発生学的な解析が行われてきており、ニキビ(尋常性ざ瘡)患者群よりも健常人が主として有しているC.アクネス(キューティバクテリウム・アクネス)菌株および健やかな肌には存在しないつつ、ニキビ患者において主として存在するC.アクネス菌株があることが明らかになった。また、C.アクネスは、系統に応じて、プロテアーゼ、リパーゼ、ヘモリシンおよびポルフィリン(porphyrin)などのような有害分子を分泌する特性がそれぞれ異なり、これを通じて、宿主組織を分解したり、炎症反応を誘発したりするなど皮膚の有害反応を誘発する虞がある。
【0010】
一例を挙げると、ポルフィリン数値は、健やかな肌と比較したとき、ニキビ皮膚においてさらに高く観察され、ニキビ患者の非病変部位と比較して、ニキビ病変の方においてさらに高く観察される。特に、ニキビと関わる系統のC.アクネス菌株がさらに高い濃度のポルフィリンを生成すると言われている。また、アトーピ皮膚炎や傷感染などにおいて問題視される黄色ブドウ球菌の場合にもポルフィリンを生成する虞があると言われている。
【0011】
ポルフィリンは、皮膚において酸化ストレスを誘発し、角質形成細胞の炎症性サイトカインの発現を促すのみならず、タンパク質酸化の一種であるカルボニル化反応を誘発して肌トーンを暗くして健やかではない肌として見られるようにする虞がある。したがって、多種多様な皮膚測定機器において一つの測定指標として用いられており、皮膚微生物の主な有害因子の一つとして調節される必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、ニキビを発症するなど皮膚に相対的に悪い影響を及ぼす皮膚常在菌(例えば、特定のC.アクネス菌株)は抑制し、皮膚に大きな影響がない皮膚常在菌(例えば、特定のC.アクネス菌株)の生長への影響は相対的に少ないことから、皮膚常在菌の菌叢をリバランシングすることが可能な化粧料組成物を提供することである。
【0013】
本発明が解決しようとする他の課題は、皮膚に存在する微生物が分泌するポルフィリンの生成を抑制して、皮膚の酸化ストレスおよび炎症などを誘発する皮膚有害因子を調節する皮膚改善用組成物を提供することである。
【0014】
また、本発明が解決しようとするさらに他の課題は、微生物により分泌されるヒアルロン酸分解酵素を阻害することにより、ヒアルロン酸の分解を防ぐことのできる皮膚改善用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、この開示は、チアミンまたはこの化粧学的に許容可能な塩およびサッカライド・イソメレート(saccharide isomerate、混合異性化糖)からなる群から選択されたいずれか一種以上を有効成分として含む、皮膚微生物叢(microbiome)調整用化粧料組成物を提供する。
【0016】
この開示の他の態様は、チアミンまたはこの化粧学的に許容可能な塩およびサッカライド・イソメレート(saccharide isomerate)からなる群から選択されたいずれか一種以上を有効成分として含む、皮膚微生物叢(microbiome)内のキューティバクテリウム・アクネス調整用化粧料組成物を提供する。
【0017】
この開示の一態様によれば、本発明に係る化粧料組成物は、皮膚常在菌においてポルフィリン生成の調節および/またはヒアルロン酸分解酵素の調節を通じた皮膚の改善のための用途に使用可能である。したがって、この開示の一態様は、皮膚に存在する微生物が分泌するポルフィリンの生成を抑制して皮膚の酸化ストレスおよび炎症などを誘発する皮膚有害因子を調節する皮膚改善用組成物を提供する。この開示の他の態様は、微生物により分泌されるヒアルロン酸分解酵素を阻害することにより、ヒアルロン酸の分解を防ぐことのできる皮膚改善用組成物を提供する。
【0018】
好ましくは、この開示に係る前記化粧料組成物は、有効成分としてチアミンまたはこの化粧学的に許容可能な塩を含む。
【0019】
本発明者らは、アミノ酸、アミノ酸誘導体、抽出物、糖類、ビタミン、香料成分など様々な物質を試験し、本発明の化合物のみが本発明において狙う効果を示すということを確認して本発明を完成するに至った。
【0020】
Fitz-Gibbon, S. etc., (2013). Propionibacterium acnes Strain Populations in the Human Skin Microbiome Associated with Acne. Journal of Investigative Dermatology, 133(9), 2152-2160などによるとき、皮膚常在菌の一つであるC.アクネスは、下記のように分けられ、これらのうち、リボタイプを基準としてリボタイプ4型(RT4)および5型(RT5)、ニキビ誘発タイプであると知られており、リボタイプ6型(RT6)は、健やかな肌に多量常在すると知られている。
【0021】
【表1】
【0022】
HL053PA1菌株などは、炎症および酸化ストレスを誘発し得るポルフィリンを過剰に産生し、このため、皮膚において炎症性サイトカインの分泌を誘発してニキビなど炎症を引き起こす虞がある。この開示の化粧料組成物は、C.アクネス菌株のうち、ニキビ誘発タイプ(例えば、リボタイプ4型(RT4)または5型(RT5)、recAタイプを基準としたときにはIA型)の生長は抑制し、ニキビ非誘発タイプ(例えば、リボタイプ6型(RT6)の生長への影響は相対的に少ないことから、優占種のマイクロバイオーム生態を保つことができる。
【0023】
のみならず、この開示の化粧料組成物は、皮膚常在菌のポルフィリンの生成、特に、ニキビ誘発タイプのC.アクネス菌株のポルフィリンの生成または黄色ブドウ球菌などの菌株のポルフィリンの生成を抑制することにより、ニキビの誘発は抑制するか、皮膚の真皮緻密度を高めるか、皮膚の乾燥症状を改善するか、または肌トーンを改善するのに大きく役立つ。
【0024】
最近の研究によれば、RT6(または、recAタイプを基準としたときにはII型)に属する菌株は、ポルフィリンなどの様々な有害因子を相対的に少なく生成するものの、ヒアルロン酸分解酵素を過剰に生成することができるということが知られている。また、黄色ブドウ球菌など様々なバクテリアがヒアルロン酸分解酵素を生成することができるということが知られている。
【0025】
このような側面からみて、この開示の化粧料組成物は、皮膚常在菌のヒアルロン酸の分解抑制、特に、ニキビ非誘発タイプのC.アクネス菌株または黄色ブドウ球菌によるヒアルロン酸の分解抑制を通じて皮膚の弾力性を改善するなど化粧料組成物として非常に有益な効果を発現することができる。また、このようなヒアルロン酸分解能の抑制は、真皮緻密度を改善して補湿、老化の予防などにも卓越した効果を示す。
【0026】
本発明における「化粧学的に許容可能な塩」は、比較的に非毒性の酸から製造された活性化合物の塩を含む。酸付加塩は、十分な量の所望の酸、純粋なまたは適当な不活性(inert)な溶媒であって、そのような化合物の中性形態を接触して得られる。化粧学的に許容可能な酸付加塩の例としては、酢酸、プロピオン酸、イソブチル酸、シュウ酸(oxalic acid)、マレイン酸(maleic acid)、マロン酸(malonic acid)、安息香酸、コハク酸、スベリン酸(suberic acid)、フマル酸(fumaric acid)、マンデル酸(mandelic acid)、フタル酸(phthalic acid)、ベンゼンスルホン酸(benzenesulfonic acid)、p-トリルスルホン酸(tolylsulfonic acid)、クエン酸、酒石酸、メタンスルホン酸(methanesulfonic acid)、およびその類縁体を含む相対的に非毒性の有機酸由来の塩のみならず、塩化水素、臭化水素、硝酸、炭酸、一水素炭酸(monohydrogencarbonic acid)、リン酸(phosphoric acid)、一水素リン酸、二水素リン酸、硫黄酸、一水素硫黄酸、ヨウ化水素または亜リン酸(phosphorousacid)およびその類縁体を含む。また、アルギネート(arginate)とその類縁体などのアミノ酸の塩およびグルクロン酸(glucuronic acid)またはガラクツロン(galactunoric acid)とその類縁体などの有機酸の類縁体を含む。塩の他の例は、本発明が属する分野における公知の文献から把握することができる。
【0027】
本発明に係る化粧料組成物において、前記有効成分の総含量は、化粧料組成物の全重量に基づいて、0.00001~10重量%であることが好ましい。
【0028】
本発明の有効成分は、水和物、エタノール化物などの形態を含む溶媒和の形態のみならず、非溶媒和の(unsolvated)形態で存在する場合もある。本発明の有効成分は、結晶形もしくは無晶形の形態で存在する場合もあり、これらのあらゆる物理的な形態は本発明の範囲に含まれる。
【0029】
本発明に係る化粧料組成物は、溶液、外用軟膏、クリーム、フォーム、栄養化粧水、柔軟化粧水、パック、柔軟水、乳液、メークアップベース(化粧下地)、エッセンス、石鹸、液体洗浄料、入浴剤、日焼け止めクリーム、日焼け止めオイル、懸濁液、乳濁液、ペースト、ゲル、ローション、パウダー、石鹸、界面活性剤含有メイク落とし、オイル、粉末パウンデーション、乳濁液パウンデーション、ワックスパウンデーション、パッチおよびスプレイからなる群から選択される剤形に製造可能であるが、これらに何ら制限されるものではない。
【0030】
また、本発明の化粧料組成物は、普通肌化粧料に配合される化粧学的に許容可能な担体を1種以上さらに含み得、通常の成分として、例えば、油分、水、界面活性剤、補湿剤、低級アルコール、増粘剤、キレート剤、色素、防腐剤、香料などを適宜に配合可能であるが、これらに何ら制限されるものではない。
【0031】
本発明の化粧料組成物に含まれる化粧学的に許容可能な担体は、剤形に応じて様々である。本発明の剤形が軟膏、ペースト、クリームまたはゲルである場合には、担体成分として、動物性油、植物性油、ワックス、パラフィン、澱粉、トラカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコン、ベントナイト、シリカ、タルク、酸化亜鉛またはこれらの混合物が利用可能である。
【0032】
本発明の剤形がパウダーまたはスプレイである場合には、担体成分として、ラクトース、タルク、シリカ、アルミニウムヒドロキシド、カルシウムシリケート、ポリアミドパウダーまたはこれらの混合物が利用可能であり、特に、スプレイである場合には、さらにクロロフルオロヒドロカルボン、プロパン/ブタンまたはジメチルエーテルなどの推進剤を含み得る。
【0033】
本発明の剤形が溶液または乳濁液である場合には、担体成分として、溶媒、溶解剤、または乳濁化剤が用いられ、例えば、水、エタノール、イソプロパノール、エチルカーボネート、エチルアセテート、ベンジルベンゾエート、プロピレングリコール、1,3-ブチルグリコールオイルが挙げられ、特に、棉実油、落花生油、コーン油、オリーブ油、ひまし油およびごま油、グリセロール脂肪族エステル、ポリエチレングリコールまたはソルビタンの脂肪酸エステルが挙げられる。
【0034】
本発明の剤形が懸濁液である場合には、担体成分として、水、エタノールまたはプロピレングリコールなどの液状の希釈剤、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールエステルおよびポリオキシエチレンソルビタンエステルなどの懸濁剤、微小結晶性セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、アガまたはトラカントなどが利用可能である。
【0035】
本発明の剤形が石鹸である場合には、担体成分として、脂肪酸のアルカリ金属塩、脂肪酸ヘミエステル塩、脂肪酸タンパク質加水分解物、イセチオネート、ラノリン誘導体、脂肪族アルコール、植物性油、グリセロール、糖などが利用可能である。
【0036】
本発明に記載のあらゆる成分は、好ましくは、韓国、中国、米国、ヨーロッパ、日本などの関連法規、規範(例えば、化粧品安全基準などに関する定め(韓国)、化粧品安全技術規範(中国)、食品公典(韓国)、食品添加物公典(韓国)、健康機能食品公典(韓国)、衛生規範(中国))などにおいて定めた最大の使用値を超えない。すなわち、好ましくは、本発明に係る化粧料、食品、またはパーソナルケア用組成物は、各国の関連法規、規範において許容される含量の限度にて本発明に係る成分を含む。
【発明の効果】
【0037】
この開示において提供する組成物、特に、化粧料組成物は、皮膚の主な常在菌、例えば、C.アクネスのうち、ニキビ患者において頻繁に存在するC.アクネスタイプの生長および有害因子(ポルフィリン)の生成を抑制する効果を示す。また、炎症がない皮膚に主として存在するC.アクネスタイプの生長には影響を及ぼさないつつ、この菌株が生成するヒアルロニダーゼの活性を阻害する効果を示すことができる。さらに、アクネス菌株の他に、黄色ブドウ球菌など皮膚に存在する菌において生成されるポルフィリンの生成および/またはヒアルロニダーゼ活性を抑制する効果を示すことができる。
【0038】
本明細書に添付される図面は、本発明の望ましい実施形態を例示するものであり、発明の内容とともに本発明の技術的な思想をさらに理解させる役割のためのものであるため、本発明は図面に記載された事項だけに限定されて解釈されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】チアミン塩がキューティバクテリウム・アクネス病原性菌株に及ぼす影響を評価した結果である。
図2】チアミン塩がキューティバクテリウム・アクネス非病原性菌株に及ぼす影響を評価した結果である。
図3】チアミン塩がキューティバクテリウム・アクネス病原性菌株および非病原性菌株のポルフィリンの生成に及ぼす影響を評価した結果である。
図4】チアミン塩が黄色ブドウ球菌株のポルフィリンの生成に及ぼす影響を評価した結果である。
図5】チアミン塩がキューティバクテリウム・アクネス非病原性菌株のヒアルロン酸分解能に及ぼす影響を評価した結果である。
図6】チアミン塩が黄色ブドウ球菌株のヒアルロン酸分解能に及ぼす影響を評価した結果である。
図7】サッカライド・イソメレートがキューティバクテリウム・アクネス病原性菌株および非病原性菌株の成長に及ぼす影響およびキューティバクテリウム・アクネス病原性菌株のポルフィリンの生成に及ぼす影響を評価した結果である。図7中、(a)は、ニキビ皮膚関連型C.アクネス菌株であるHL053PA1の菌株の生長に及ぼす影響を評価した結果であり、(b)は、健康肌関連型C.アクネス菌株であるHL110PA3の菌株の生長に及ぼす影響を評価した結果であり、(c)は、ニキビ皮膚関連型C.アクネス菌株であるHL053PA1のポルフィリンの生成に及ぼす影響を評価した結果であり、(d)は、健康肌関連型C.アクネス菌株であるHL110PA3のヒアルロン酸の分解率に及ぼす影響を評価した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の理解への一助となるために、実施例などを挙げて本発明についてさらに詳しく説明する。しかし、本発明に係る実施例は色々な他の形態に変形可能であり、本発明の範囲が下記の実施例に限定されるものであると解釈されてはいけない。本発明の実施例は、本発明が属する技術分野において平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【実施例
【0041】
参考までに、下記の実験方法のうち、具体的に言及されているもの以外の材料および方法については、論文「Vitamin B12 modulates the transcriptome of the skin microbiota in acne pathogenesis」(Sci Transl Med. 2015 Jun 24;7(293):293ra103. doi: 10.1126/scitranslmed.aab2009.)または「The Skin Bacterium Propionibacterium acnes Employs Two Variants of Hyaluronate Lyase with Distinct Properties」(Microorganisms. 2017 Sep 12;5(3):57. doi: 10.3390/microorganisms5030057.)を参考にして選定及び実施した。
【0042】
1.ニキビ関連型C.アクネス菌株の生長の抑制(図1
実験方法:チアミンHClがニキビ関連型C.アクネスの増殖に及ぼす影響を確認するための実験を行った。
【0043】
ニキビ患者に主として存在するキューティバクテリウム・アクネスタイプであるHL053PA1菌株をBHI液体培地において培養して活性化させた後、同一の濁度に合わせて再接種した。このとき、チアミンHClを1w/v%の濃度にて処理し、7日間培養した後、595nmにおける吸光度を測定して菌株の増殖に及ぼす影響を確認した。その結果を図1に示す。
【0044】
結果:チアミンHClを処理したときに無処理群に比べて生長が約70%ほど減少して、有害な因子を主として放出するC.アクネスタイプの生長を抑制することを確認した。
【0045】
2.普通肌関連型C.アクネス菌株の生長(図2
実験方法:チアミンHClがニキビなど炎症が存在しない普通肌にのみ主として存在するC.アクネスタイプの増殖に及ぼす影響を確認するための実験を行った。
【0046】
普通肌にのみ主として存在するC.アクネスタイプであるHL110PA3菌株をBHI液体培地において培養して活性化させた後、同一の濁度に合わせて再接種した。このとき、チアミンHClを1%の濃度にて処理し、7日間培養した後、595nmにおける吸光度を測定して菌株の増殖に及ぼす影響を確認した。その結果を図2に示す。
【0047】
結果:チアミンHClを処理したときにニキビ関連型C.アクネスタイプの生長を確然として低減したのに対して、普通肌型C.アクネスタイプの生長には大きな影響を及ぼすことができなかった。
【0048】
3.ポルフィリンの生成抑制の効果(図3
実験方法:酸化ストレスを誘発し、皮膚においてニキビなどの炎症に関与すると知られているポルフィリン(porphyrin)の生成に及ぼす影響を調べるための実験を行った。
【0049】
C.アクネスHL053PA1およびHL110PA3菌株をそれぞれBHI液体培地において培養して活性化させた後、同一の濁度に合わせて再接種した。このとき、チアミンHClを1%の濃度にて処理し、7日間培養した後、菌株培養物を回収した。400μlの細菌培養物をエチルアセテートと酢酸(4:1, vol/vol)を入れて抽出した。抽出物を遠心分離して層分離をすることで、ポルフィリンを含む上澄み液(上層部)を回収した。回収した上澄み液に1.5MのHClを入れて溶解させ、遠心分離を行うことで層分離をして下層部を回収した。回収された可溶相に対し、405nm/620nmにて蛍光を測定した。その結果を図3に示す。
【0050】
結果:ニキビ関連型C.アクネス菌株は、普通肌に存在するC.アクネス菌株に比べてさらに多くの量のポルフィリンを産生した。チアミンHClを処理したとき、ニキビ関連菌株であるHL053PA1培養物に存在するポルフィリンの量が確然として減っていた。
【0051】
4.ポルフィリンを生成する他の菌株におけるポルフィリンの生成抑制の効果(図4
黄色ブドウ球菌株をBHI液体培地において培養して活性化させた後、1/100の濃度にて再接種した。チアミンHClを1w/v%の濃度にて処理し、24時間培養した後、菌株培養物を回収した。400μlの細菌培養物をエチルアセテートと酢酸(4:1, vol/vol)を入れて抽出した。抽出物を遠心分離して層分離をすることで、ポルフィリンを含む上澄み液を回収した。回収した上澄み液に1.5MのHClを入れて溶解させ、遠心分離をすることで、層分離をして下層部を回収した。回収された可溶相に対し、405nm/620nmにおいて蛍光を測定した。その結果を図4に示す。
【0052】
結果:チアミンHClを処理したとき、黄色ブドウ球菌が分泌するポルフィリンの量が確然として減っていた。
【0053】
5.ヒアルロン酸の分解抑制の効能(図5
実験方法:普通肌関連型C.アクネス菌株であるHL110PA3が分泌するヒアルロン酸分解酵素の活性が抑制されるか否かを確認するために実験を行った。
【0054】
HL110PA3菌株をBHI液体培地において培養して活性化させた後、同一の濁度に合わせて再接種した。このとき、チアミンHClを1%の濃度にて処理し、7日間培養した後に培養液を回収した。C.アクネスが分泌したヒアルロン酸分解酵素の活性を測定するためにヒアルロン酸と培養液とを混ぜ合わせた後、20分間37℃において反応させた。反応が終わった後、1%の酢酸ナトリウム緩衝液(BSA:sodium acetate buffer)を入れて残っているヒアルロン酸とBSAを凝集させ、540nmにおける吸光度を撮ってヒアルロン酸の分解の度合いを確認した。その結果を図5に示す。
【0055】
結果:C.アクネス非病原性菌株であるHL110PA3は、炎症病変がない健やかな肌から分離されたため、一般に、健康肌型C.アクネスとして分類されるものの、実験結果のようにヒアルロン酸分解酵素を分泌するため、皮膚内のヒアルロン酸を分解することができる。無処理培養液を処理したときに20分間約85%のヒアルロン酸が分解されたのに対し、チアミンHClを処理した実験群の培養液においては約60%のヒアルロン酸が分解されて対照(コントロール)に比べて約30%のヒアルロン酸の分解を抑制することができるということを確認した。
【0056】
6.ヒアルロン酸分解酵素を分泌する他の菌株におけるヒアルロン酸の分解抑制の効能(図6
実験方法:黄色ブドウ球菌ヒアルロン酸分解酵素の活性が抑制されるか否かを確認するために実験を行った。
【0057】
黄色ブドウ球菌株をBHI液体培地において培養して活性化させた後、1/100の濃度にて再接種した。チアミンHClを1%の濃度にて処理し、24時間培養した後、菌株培養液を回収した。黄色ブドウ球菌が分泌したヒアルロン酸分解酵素の活性を測定するために、ヒアルロン酸と培養液とを混ぜ合わせた後、90分間37℃において反応させた。分解されずに残っているヒアルロン酸を測定するために、hyaluronan ELISAキットを用いて残っているヒアルロン酸を定量した。
【0058】
結果:アトーピ皮膚炎病変などにおいて高い頻度にて発見される黄色ブドウ球菌は、ヒアルロン酸を分解することができる。無処理培養液を処理したときに50%以上のヒアルロン酸が分解されたのに対し、チアミンHClを処理した実験群の培養液においては10%未満のヒアルロン酸が分解されて確然としてヒアルロン酸の分解を抑制することができるということを確認した。
【0059】
7.サッカライド・イソメレートの評価結果(図7
前記チアミン塩の場合の方法と同様にしてC.アクネスニキビ病原性菌株および非病原性菌株の成長に及ぼすサッカライド・イソメレートの影響を評価した。その結果を図7に示す。サッカライド・イソメレートとしては、ペンタバイティン(PENTAVIIN)(登録商標)の製品を用いた。
【0060】
図7に示すように、サッカライド・イソメレートもまた、ニキビを誘発する有害C.アクネス菌の生長を抑制しながらも、有益なC.アクネス菌の生長の抑制能は相対的に少ないため、菌株のリバランシング効果を有することを確認することができた。なお、ポルフィリンの生成抑制およびヒアルロン酸分解酵素の抑制効果を示すことを確認した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】