(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-27
(54)【発明の名称】電子タバコ吸入のための液体組成物
(51)【国際特許分類】
A24B 15/167 20200101AFI20240219BHJP
A24B 15/30 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
A24B15/167
A24B15/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553487
(86)(22)【出願日】2021-12-22
(85)【翻訳文提出日】2023-10-25
(86)【国際出願番号】 IB2021062189
(87)【国際公開番号】W WO2022185117
(87)【国際公開日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】102021000005027
(32)【優先日】2021-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523333548
【氏名又は名称】アーペ8・ソチエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ
【氏名又は名称原語表記】APE8 S.R.L.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】フェッリ,エマヌエーレ
(72)【発明者】
【氏名】ジラルディーノ,ピエロ
【テーマコード(参考)】
4B043
【Fターム(参考)】
4B043BB22
4B043BC02
4B043BC03
4B043BC14
4B043BC18
(57)【要約】
本発明は、電子タバコ吸入のための液体組成物に関する。特に、本発明は、以下の成分を含む電子タバコによる吸入のための組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレングリコールを含まず、以下の成分を含むまたは以下の成分からなる電子タバコによる吸入のための組成物
【請求項2】
保存料が安息香酸ナトリウムである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
香料が、果物、タバコ、メンソール芳香、またはそれらの混合物から選択される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
シクロデキストリンを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
以下の成分を含むまたはからなる請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物の1以上の用量、および香料の1以上の用量を含むキット。
【請求項7】
香料の用量を含むまたは含まない、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物の1以上の用量を含む吸入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子タバコ吸入のための液体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子タバコの使用、いわゆる「ベイピング」は、現在少なくともタバコを吸うことの部分的置換として、世界中に広く行き渡った行いである。実際、タバコの煙が健康に深刻なダメージを引き起こすことは知られているが、それは毒性の高い物質であるニコチンのためというよりも、しばしば顕著な発癌作用を有する多環芳香族炭化水素、タール、一酸化炭素などの燃焼副産物のためである。
【0003】
市場には2つのタイプの代替的喫煙が存在している。第1のタイプは、高温燃焼の悪影響を避けるために、制御された温度(一般的に350℃を超えない)でのタバコ加熱を含むシステムで構成される。第2のタイプは、いわゆる「電子タバコ」と呼ばれるもので、放出される蒸気に十分な密度体を与えるように調整されたベースに加え、制御されたニコチンと様々なタイプの香料も含む液体を気化させるものである。
【0004】
タバコを加熱する第1のタイプは、伝統的な喫煙により似ているが、より低い燃焼温度にもかかわらず、ニコチンに加えタバコに含まれるいくつかの毒性物質は依然放出される。典型的な例はニトロソアミンである。
【0005】
電子タバコは、喫煙者に対してニコチン受容体を刺激する所望の効果を与えるために組成物に添加しうる制御されたニコチンの量を除けば、このような毒性または発癌性物質を放出しないことからより安全である。様々な方法で組成物を香付けすることができるのは、さらに魅力的である。
【0006】
しかし、電子タバコでさえ、毒性がないということではない。実際、その基本組成物は、大部分、プロピレングリコールとグリセロールの混合物からなり、特に前者が呼吸器細胞に毒性を与える。
【0007】
それゆえ、電子タバコの長期摂取をより安全にするため、電子タバコ吸入のための組成物の毒性をさらに低下できるかという課題が依然として感じられる。
【0008】
現在市販される電子タバコは、低毒性ではあるがニコチン投与における高い効果の維持により特徴付けられた代替ツールを喫煙者に提供する目的をもって、中国人の発明家により産み出されている。その世界的な普及から15年の後、第1の特徴が、上記の限界はあるにせよ、ほぼ中心的なものであったとすれば、第2の特徴は決定的に欠けていたと考えることができる。イングランド公衆衛生庁および英国王立医師会によると、市販の電子タバコは従来のタバコよりも危険性が95%少ない。しかし一方で、喫煙に対抗する有効なツールを提供するための電子タバコの能力を支持する科学文献が増えているとしても、喫煙習慣を止めた喫煙者は現在少数派でしかない。禁煙ツールとしての電子タバコの有効性のこの限界にはいくつか原因があるが、消費者の危険性に対する誤った認知、完全には満足しない感覚的体験、そして何よりもニコチン放出プロファイルを含む。伝統的なタバコは、量と速さに関してニコチンをニコチン受容体へと輸送する優れたな能力を有している。それに対し、現在市販されるニコチンの放出制御のための薬理学的デバイスは、従来のタバコに匹敵する性能を有していない。電子タバコを介して、ニコチン放出と中枢神経系への輸送の速度を増加することができれば、喫煙者をより有害性の少ない製品へと移行する一助となる重要なツールとなりうる。
【0009】
タバコの煙は、固体要素、液体、そして風媒性の気体で構成されるコロイド分散系である。従来のタバコは平均8-10 mgのニコチンを含み、この約10-20%が喫煙者に吸収される。加工したタバコブレンドのpHは高く、そのため多量のニコチンが脱プロトン化され、燃焼中にガスの形で放出される。これらの要素(高濃度、遊離型、気体状態)の組み合わせが、素早く効率的なニコチン取得プロファイルにとって理想的な状態の混合を創出する。
【0010】
電子タバコの配合は通常、プロピレングリコール、植物性グリセリン、そしてニコチンの混合物で構成される。タバコの煙と違い、これらの電子デバイスにより作られるエアロゾルは、液滴(液体の滴)の存在により特徴付けられる。ニコチンは遊離型のニコチン(遊離型塩基)またはその塩の形態で存在する。遊離型で存在する場合、ニコチンはガスや蒸気の形態で液滴から出ていく傾向がある。この混合物は、ニコチンを空気中に浮遊させた状態で口腔咽頭粘膜や上気道に沈着させ、肺胞レベルでは液滴を捕捉する傾向がある。粒子サイズはニコチンの沈着効率を調節する決定的な要素であり、大きすぎると呼吸器粘膜に沈着する傾向があり(吸収の速度と効率が低下する)、一方小さすぎると呼吸とともに吐き出される傾向があり、ニコチンの存在を離してしまう。粒子サイズ分布は、装置の特性や混合物の成分を含む多くの側面に依る。
【0011】
理想的なデバイスは、中咽頭と肺のレベルでニコチンの適切な分画が沈着するような適切なサイズの粒子と粒子の最適な流れを特徴とするエアロゾルの生産が可能である。ここで中咽頭は正しい知覚を得るために重要であり、肺は高い吸収率を得るために重要である。
【0012】
消耗品の液体成分の配合は、ニコチンの生体利用率を最大化するために最適化される必要がある。このパラメータに影響を与えるいくつかの要素は、粒子の極性、粒子のサイズ、ニコチンの形態(遊離型または複合体型)、添加物、そして溶液のpHを含む。
【発明の概要】
【0013】
前述の技術的課題は、添付の請求項の1つ以上に記載された技術的特徴を含む組成物によって実質的に解決され、その定義は記載の充足性の目的から本記載の不可欠な部分を形成する。
【0014】
それゆえ、本発明は、以下の成分を含む電子タバコによる吸入のための組成物に関する。
【0015】
本発明はさらに、本発明の組成物の1以上の用量と、および香料の1以上の用量と、を含むキットに関する。
【0016】
本発明のさらなる特徴と利点は、本発明の好ましいが排他的ではない実施形態の示唆的でしたがって非限定的な記載からより明らかになる。
【発明の詳細な説明】
【0017】
本発明は、プロピレングリコールを含まず、以下の成分を含む電子タバコによる吸入のためのベース組成物に関する。
【0018】
水は好ましくは精製水FUである。その主な機能は、エアロゾル粒子の極性調節、混合物の毒性破壊、およびニコチンの生体利用率の増大である。
【0019】
1,3-プロパンジオール(成分b)は粘性物質として働き、溶液のpHを上昇させることによって脱プロトン化ニコチンの割合を増加させ、生物学的におよびタンク内の混合物の特性を改変することによって水粒子を結合させ、そして高い効率で芳香を運ぶ。
【0020】
グリセロール(成分c)は、好ましくは植物性グリセロールであり、主な機能はエアロゾル本体の調節であり、その吸湿性と浸透圧を定義する。
【0021】
保存料(成分d)は、好ましくは安息香酸ナトリウムである。
【0022】
シクロデキストリン(成分g)は、芳香を向上させる機能、ニコチンの知覚と生体利用率を調節する機能を有する。
【0023】
香料(成分f)は、電子タバコに通常使用されるいかなるタイプのものでもよく、例えば果物、タバコ、メンソールフレーバー、またはその混合である。香料は、香料を含まないベース組成物に喫煙者によって直接添加されてもよい。
【0024】
従来の電子タバコの組成物と比べてより水の量が多いため、組成物の毒性低下を可能にしている。
【0025】
プロピレングリコール(従来の組成物で使用される)の1,3-プロパンジオールへの置換も、組成物の毒性を実質的な低下を創出している。
【0026】
さらに、多量の水は、エアロゾル粒子の極性を調節することによって、ニコチンの生体利用率を高め、薬物動態の観点から製品を極めて効果的にするが、それ自体、水の過度の増加は、故障や装置からの液体の損失につながりうる。これらの潜在的な不利益は、適切な量の1,3-プロパンジオールの存在により釣り合わされ、水と水素結合を形成することによって、表面張力の変化と異なる毛細管現象を引き起こす。
【0027】
好ましい形態では、プロピレングリコールを含まない電子タバコ吸入のための基本組成は、
を含む。
【実施例】
【0028】
本発明の組成物の潜在的な皮膚刺激性を調べるために、組成物サンプルを再生ヒト表皮(RHE)にアプライし、その細胞生存率をMTT試験で評価した。
【0029】
再生ヒト表皮は、化学的に成分が十分明らかな培地で、気液界面にて、不活性なポリカーボネートフィルタ上で増殖した正常ヒトケラチノサイトで構成される。
【0030】
試験の化学的な原理はMTTの還元であり、溶液中の黄色物質が紫色のホルマザン結晶を形成する。このような還元プロセスは主にミトコンドリア内で起こり、ミトコンドリア酵素のコハク酸デヒドロゲナーゼの活性に大きく依存する。これらの代謝プロセスの結果として、紫色のホルマザン結晶が数時間内に現れ、イソプロパノールに溶解可能である。溶解した結晶の吸光度は540 nmの波長で測定可能であり、広範な線形範囲で生細胞数に比例する。
【0031】
ネガティブコントロールに対する、試験サンプルで処理された組織の細胞生存率の減少は、皮膚刺激性の潜在性を予測するために使用される。
【0032】
この目的のために、3つのRHE組織を試験物で処理し、3つを5%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)で処理した(ポジティブコントロール)。3つの処理なしのRHE組織(インキュベーション期間はD-PBSで維持)をネガティブコントロールとして使用した。処理を施した組織の細胞生存率が50%以下である場合、試験サンプルは皮膚への刺激性があると考えられる。
【0033】
試験はUNI EN ISO 10993-10:2013のガイドラインに従って実施された。
【0034】
前インキュベーション
RHE組織を処理前に少なくとも2時間の間、生育培地に放置した(37℃、5% CO2)。
【0035】
処理
RHE組織を以下のパターンに従う物質30μLを加え15分間処理した。
- ネガティブコントロールDPBS
- ポジティブコントロール5% SDS
- 試験サンプル
各実験を3回実施した。
【0036】
洗浄
処理に使用した物質の残存すべてを除去するために、RHE組織をDPBSで繰り返し洗浄した。
【0037】
後インキュベーション
RHE組織を42±2時間の間、生育培地に移した(37℃、5% CO2)。
【0038】
MTT試験
RHE組織をMTT(1 mg/ml)で3時間±5分の間、処理し(37℃、5% CO2)、室温で2時間±5分の間、イソプロパノール中でホルマザン結晶を抽出した。光学密度の読み取りは540 nmで実施した。
【0039】
精製水F.U. 30.8%、1,3プロパンジオール (PDO) 41%、植物性グリセロール 28%、粒状安息香酸ナトリウムEP-E211 0.2%(mg、粉)を含む本発明の組成物を、前述のMTT試験で試験し、処理をした組織の生存割合が約100%である結果となった。
【0040】
それゆえ、本発明のベース組成物は、プロピレングリコールを基本とする電子タバコ用組成物に典型的である細胞毒性を示さず、「ベイピング」をより安全に行うことができる。
【0041】
ユーザーとのパネル試験
我々の液体がニコチン輸送において現行の電子タバコより効果的であるか評価するために、常用者による試験を行った。試験は16名の「デゥアルユーザー」が関与する設計にした、すなわち電子タバコも使用する従来の喫煙者である。ニコチン濃度の選択はとても主観的なパラメータであるから、ボランティアには従来のタバコと従来の電子タバコと、そして本発明による組成物の性能を比較するよう求め、我々の液体と従来の電子タバコの間のニコチン濃度をバランスした。
【0042】
本発明による組成物はこれまでの例と同様である。
【0043】
従来の組成物は4-12 mg/mlの範囲、好ましくは8 mg/ml濃度のニコチン量を含む。
【0044】
データは以下の表1に示す。
【0045】
【0046】
ニコチンの強さは、タバコでも本発明による組成物でも統計的に同じように知覚され、従来の組成物では有意に少ない。
【0047】
のど刺激は、従来組成物と本発明の組成物の両方がタバコよりも有意に少なく知覚されている。従来組成物と本発明の組成物は有意な差を示していない。
【0048】
ニコチン知覚速度は、タバコでも本発明による組成物でも統計的に同じように知覚され、従来の組成物では有意に少ない。
【0049】
満足度はタバコにおいて他の2つのものよりも有意に高かったが、本発明の組成物は従来の組成物よりも有意に良好である。
【0050】
したがって上記データから、本発明の組成物は従来の電子タバコ用組成物よりも毒性が低いだけでなく、ニコチンのより良い利用性を可能にし、その結果、従来のタバコの感覚的および一般的な満足度の性能に近づくと思われる。
【0051】
本発明のいくつかの特定の実施形態のみを記載したことは明らかであり、当業者であれば、本発明の保護範囲から逸脱することなく、特定の用途に適合させるために必要なすべての変更を加えることができるであろう。
【国際調査報告】