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特表2024-508550乳房炎牛の乳汁中の病原体を検出するためのラテラルフローアッセイ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-27
(54)【発明の名称】乳房炎牛の乳汁中の病原体を検出するためのラテラルフローアッセイ
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20240219BHJP
【FI】
G01N33/543 521
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553975
(86)(22)【出願日】2022-03-07
(85)【翻訳文提出日】2023-11-06
(86)【国際出願番号】 US2022019070
(87)【国際公開番号】W WO2022187726
(87)【国際公開日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】63/157,179
(32)【優先日】2021-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515230154
【氏名又は名称】ゾエティス・サービシーズ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100106080
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 晶子
(72)【発明者】
【氏名】ベリネニ,スリドハール
(72)【発明者】
【氏名】ケンワージー,アマンダ・フェイ
(57)【要約】
本発明は、動物の乳汁サンプル中のグラム陽性菌識別子として、リポタイコ酸(LTA)を検出するためのラテラルフローデバイスを提供する。該デバイスは、a)ストリップ(ストリップの部分に沿って流体のキャピラリーフローを可能にする材料で形成されている)と;b)サンプルパッド(乳汁サンプルを受け取るためにストリップの一端の近位に配置されている)と;c)コンジュゲートパッド(ストリップ内に配置されており、動作時にサンプルが毛管作用によりサンプルパッドからコンジュゲートパッドまでストリップを通って流れ、コンジュゲートパッドに含有されている、検出薬に結合された抗LTA抗体を含むコンジュゲートを動員する)と;d)テストライン(ストリップに沿ったサンプルフローの方向に実質的に垂直に配置されたバンドに沿ってストリップ内に固定化された抗LTA抗体を含むため、動員された抗LTA抗体コンジュゲートとサンプル中のLTAとを含む形成複合体がテストライン中の固定化された抗LTA抗体と接触すると、サンプル中のLTAの存在が目に見える色変化によって示される)とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の乳汁サンプル中の乳房炎グラム陽性菌識別子として、グラム陽性菌の表面に発現しているリポタイコ酸(LTA)を検出するためのラテラルフローデバイスであって、該デバイスは、a)ストリップ(ストリップの部分に沿って流体のキャピラリーフローを可能にする材料で形成されている)と;b)サンプルパッド(乳汁サンプルを受け取るためにストリップの一端の近位に配置されている)と;c)コンジュゲートパッド(ストリップ内に配置されており、動作時にサンプルが毛管作用によりサンプルパッドからコンジュゲートパッドまでストリップを通って流れ、コンジュゲートパッドに含有されている、検出薬に結合された抗LTA抗体を含むコンジュゲートを動員する)と;d)テストライン(ストリップに沿ったサンプルフローの方向に実質的に垂直に配置されたバンドに沿ってストリップ内に固定化された抗LTA抗体を含むため、動員された抗LTA抗体コンジュゲートとサンプル中のLTAとを含む形成複合体がテストライン中の固定化された抗LTA抗体と接触すると、サンプル中のLTAの存在が目に見える色変化によって示される)とを含むデバイス。
【請求項2】
乳汁サンプルが細菌細胞について濃縮されている、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
乳汁サンプルがウシの乳房炎乳区からのものである、請求項1又は請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
テストラインを通過後のサンプルを受け取り保持するためのウィッキングパッドをさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項5】
コンジュゲート中及びテストライン中の抗LTA抗体がモノクローナル抗体である、請求項1~4のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項6】
抗LTA抗体に結合されている検出薬が、金属ナノ粒子又はナノシェル、非金属ナノ粒子又はナノシェル、酵素、及び蛍光分子を含む群から選ばれる、請求項1~5のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項7】
検出薬が、金属金のナノ粒子又はナノシェルを含む、請求項6に記載のデバイス。
【請求項8】
ラテラルフローデバイスがディップスティックである、請求項1~7のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項9】
ディップスティックのサンプルパッド部分が乳汁サンプル中に浸漬可能である、請求項8に記載のデバイス。
【請求項10】
ストリップがカセット内に収納されている、請求項1~7のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項11】
サンプルパッドが、サンプルから一つ又は複数の成分を除去するためのフィルターメンブレンを含む、請求項1~10のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項12】
サンプルパッドのフィルターメンブレンによってサンプルから除去される一つ又は複数の成分が、細胞、細胞物質、脂肪、又は粒子状物質である、請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
ストリップに沿ったサンプルの流れの方向に実質的に垂直に配置された対照ラインをさらに含む、請求項1~12のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項14】
コンジュゲートパッドが、グラム陽性菌に特異的でない抗体をさらに含み、その抗体は検出薬に結合されて第二の抗体コンジュゲートを形成しており、動作時にサンプルがサンプルパッドからコンジュゲートパッドに流れてきてその第二の抗体コンジュゲートを動員し、その第二の抗体コンジュゲートが反応することなくテストラインを通過し、対照ラインを横断する、請求項13に記載のデバイス。
【請求項15】
対照ラインに堆積されているのが、動員された第二の抗体コンジュゲートが対照ラインを横断するときにそれに結合できる抗体であり、対照ラインでの前記結合が目に見える色変化によって示される、請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
第二の抗体コンジュゲート中の抗体が、乳汁サンプルが採集された種以外の動物種由来である、請求項14又は請求項15に記載のデバイス。
【請求項17】
第二の抗体コンジュゲート中の抗体に結合されている検出薬が、金属ナノ粒子又はナノシェル、非金属ナノ粒子又はナノシェル、酵素、及び蛍光分子を含む群から選ばれる、請求項14~16のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項18】
第二の抗体コンジュゲート中の抗体に結合されている検出薬が、金属金のナノ粒子又はナノシェルを含む、請求項17に記載のデバイス。
【請求項19】
ストリップがニトロセルロースから形成されている、請求項1~18のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項20】
乳汁サンプルが、イヌ、ネコ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、又はウシ科の動物からなる群から選ばれる動物由来である、請求項1~19のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項21】
乳汁サンプルがウシ科の動物由来である、請求項1~20のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項22】
動物の乳汁サンプル中の乳房炎グラム陽性菌識別子としてのリポタイコ酸(LTA)の検出法であって、請求項1~21のいずれか1項に記載のデバイスを使用することを含む方法。
【請求項23】
乳房炎グラム陽性菌識別子としてのリポタイコ酸(LTA)の検出法であって、該方法は、動物からの乳汁サンプルを、検出薬に結合されている抗LTA抗体を含むコンジュゲートと接触させ、そこで抗LTAコンジュゲートとサンプル中のグラム陽性菌上に存在するLTAとの間に抗体-抗原複合体が形成され;形成された抗体-抗原複合体を抗LTA抗体で捕捉し;そして捕捉された複合体を検出することを含む方法。
【請求項24】
乳汁サンプルが細菌細胞について濃縮されている、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
コンジュゲート中の抗LTA抗体及び抗体-抗原複合体の捕捉に使用される抗LTA抗体がモノクローナル抗体である、請求項23又は請求項24に記載の方法。
【請求項26】
抗LTA抗体に結合されている検出薬が、金属ナノ粒子又はナノシェル、非金属ナノ粒子又はナノシェル、酵素、及び蛍光分子を含む群から選ばれる、請求項23~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
検出薬が、金属金のナノ粒子又はナノシェルを含む、請求項23~26のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳房炎牛の個々の乳区(分房)から採集された乳汁サンプル中の標的グラム陽性菌を直接検出するための濃縮ベースのラテラルフロー(LF)試験に関する。
【背景技術】
【0002】
ウシは通常、1日に少なくとも2回搾乳される。ほとんどの酪農場は20頭を超えるウシを一度に搾乳するのに十分な機械を備えている。搾乳機は、子ウシの動作を模倣して乳頭周囲に脈動真空を作り出すことにより、乳房からの乳汁分泌を起こしている。
【0003】
牛乳は通常、農場で牛乳貯蔵バットやサイロに入れて低温で48時間以下保管される。牛乳が回収されたら、貯蔵バットやステンレススチールのパイプを徹底的に洗浄した後、酪農家は再び搾乳を行う。
【0004】
牛乳は、加工工場への輸送中に牛乳を低温に保つために高度に絶縁された特殊なステンレススチールのボディを備えたタンカーによって、農場から24時間又は48時間毎に回収される。牛乳タンカーのドライバーは、回収に先立って牛乳を評価する資格を持つ認定牛乳等級審査官である。タンカーのドライバーは等級付けをし、必要であれば、温度、視覚、及び嗅覚に基づいて牛乳を拒絶する。ポンプでタンカーに移す前に各農場のピックアップから代表的なサンプルを採集する。回収後、牛乳は工場敷地に輸送され、加工まで冷蔵サイロに保管される。
【0005】
乳汁サンプルは、回収前に農場のバットからと工場到着時にバルク乳タンカーから採集される。バルク乳タンカーからのサンプルは、工場の加工エリアに入る前に抗生物質と温度について検査される。農場の乳汁サンプルは、乳脂肪、タンパク質、バルク乳の細胞数及び細菌数について検査される。牛乳が品質基準を満たしていなければ拒絶される。大部分の酪農家は、牛乳の品質と組成に基づいて支払いを受ける。
【0006】
乳房炎は、微生物感染又は物理的外傷による乳腺及び乳房組織の炎症である。それは世界的に最も高頻度で最も経済的負担の大きい乳牛の疾患であり続けている。乳房炎による財政的損失は、潜在性疾患及び臨床疾患のいずれでも起こる。臨床型乳房炎は乳汁又は乳房の異常、あるいは二次的な臨床徴候の出現によってすぐに分かり、容易に検出される。現在の潜在性乳房炎の診断は、感染の間接的指標としての体細胞数(SCC)、カリフォルニア乳房炎テスト(CMT、California Mastitis Test)又は乳汁の電気伝導度などの間接的試験の結果に基づいて行われる。典型的には、乳房炎と診断されたら、そのウシの乳汁は搾り出され、感染乳区は抗生物質の乳房内注入によって治療される。
【0007】
乳房炎の早期発見が治療成果を改善し、グラム陽性菌の検出能力が治療法の決定を推進する。現在認可されているすべての乳房内注入製品は製品ラベルにグラム陽性菌乳房炎の病原体(例えばブドウ球菌及び連鎖球菌)の治療用であることが表示されている。グラム陰性菌乳房炎の病原体(例えば大腸菌)の治療用と表示された抗菌薬は少ない。規制当局や環境上の圧力により、ウシ乳房炎の管理に広域抗菌薬及び/又はブランケット療法の使用は削減傾向が続いている。従って、乳房炎の原因となる病因病原体を正確かつ迅速に診断して、狭域抗菌薬の標的使用を促進し、治療の成功と良好な結果を確実にすることがますます重要になっている。乳房炎の早期診断に診断努力を集中し(例えば、臨床徴候、酪農記録、SCCなどに基づいて)、次いで病因病原体を決定し、時宜を得た適切な抗生物質治療を開始することが望ましいであろう。
【0008】
現在、乳房炎の診断は、通常、(1)感染の間接的指標としてのSCC、及び(2)インビトロでの乳汁培養(実験室ベースの病原体同定法で、通常は乳汁サンプルの発送を必要とし、典型的な検査所要時間として数日から数週間を要する)に依存している。どちらの方法も、乳房炎病原体の早期検出と同定を求める酪農家や獣医のニーズを満たしていない。従って、抗菌薬選択の手引きとするために、乳汁中の乳房炎病原体を検出する臨床現場即時(ポイント・オブ・ケア)検査を提供するのが望ましいであろう。特に、グラム陽性菌識別子のための診断器具は、顧客のニーズを満たし、市場での治療選択肢を補完するため、個々の動物に合わせたより包括的な顧客解決法を提供するであろう。1回目の搾乳後、次の搾乳前にポイント・オブ・ケア検査が実施されれば、農場から回収される牛乳の品質と組成を確保し、財政的損失を削減するのに役立つと同時に、治療成果を改善するために望ましいであろう。
【発明の概要】
【0009】
リポタイコ酸(LTA)は、ほぼすべてのグラム陽性菌の細胞壁層内に存在する主要な炎症誘発性構造である。それは細菌感染、炎症、及び敗血症性ショックの開始と進行に重要な役割を果たしている。本発明は、動物の乳汁サンプル中の乳房炎グラム陽性菌識別子として、グラム陽性菌の表面に発現しているLTAを検出するためのラテラルフローデバイスを提供する。デバイスは、a)ストリップ(ストリップの部分に沿って流体の毛細管流動(キャピラリーフロー)を可能にする材料で形成されている)と;b)サンプルパッド(乳汁サンプルを受け取るためにストリップの一端の近位に配置されている)と;c)コンジュゲートパッド(ストリップ内に配置されており、動作時にサンプルが毛管作用によりサンプルパッドからコンジュゲートパッドまでストリップを通って流れ、コンジュゲートパッドに含有されている、検出薬に結合された抗LTA抗体を含むコンジュゲートを動員する)と;d)テストライン(ストリップに沿ったサンプルフローの方向に実質的に垂直に配置されたバンドに沿ってストリップ内に固定化された抗LTA抗体を含むため、動員された抗LTA抗体コンジュゲートとサンプル中のLTAとを含む形成複合体がテストライン中の固定化された抗LTA抗体と接触すると、サンプル中のLTAの存在が目に見える色変化によって示される)とを含む。一態様において、ストリップはニトロセルロースで形成される。
【0010】
一態様において、乳汁サンプルは細菌細胞が濃縮されている。別の態様において、乳汁サンプルはウシの乳房炎乳区からのものである。
更なる態様において、乳汁サンプルは、イヌ、ネコ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、又はウシ科の動物からなる群から選ばれる動物由来である。特定の態様において、乳汁サンプルはウシ科の動物由来である。
【0011】
一態様において、デバイスはさらに、テストラインと任意の対照ラインを通過後のサンプルを受け取り保持するためのウィッキングパッドを含む。
別の態様において、コンジュゲート中及びテストライン中の抗LTA抗体はモノクローナル抗体である。一態様において、抗LTA抗体に結合されている検出薬は、下記すなわち、金属ナノ粒子又はナノシェル、非金属ナノ粒子又はナノシェル、酵素、及び蛍光分子から選ばれる。特定の態様において、検出薬は金属金のナノ粒子又はナノシェルを含む。
【0012】
一態様において、ラテラルフローデバイスはディップスティックである。別の態様において、ディップスティックのサンプルパッド部分は乳汁サンプルに浸漬可能である。一態様において、ディップスティックのサンプルパッド部分は細菌細胞が濃縮された乳汁サンプルに浸漬可能である。デバイスの更なる態様において、ストリップはカセット内に収納されている。
【0013】
一態様において、デバイスのサンプルパッド部分は、サンプルから一つ又は複数の成分を除去するためのフィルターメンブレンを含む。特定の態様において、サンプルパッドのフィルターメンブレンによってサンプルから除去される一つ又は複数の成分は、細胞、細胞物質、脂肪、又は粒子状物質である。
【0014】
一態様において、デバイスはさらに、ストリップに沿ったサンプルフローの方向に実質的に垂直に配置された対照ラインを含む。別の態様において、デバイスのコンジュゲートパッド部分はさらに、グラム陽性菌に特異的でない抗体を含み、その抗体は検出薬に結合されて第二の抗体コンジュゲートを形成しており、動作時にサンプルがサンプルパッドからコンジュゲートパッドに流れてきて第二の抗体コンジュゲートを動員する。これは反応することなくテストラインを通過し、対照ラインを横断する。
【0015】
一態様において、デバイスの対照ラインに堆積されているのは、動員された第二の抗体コンジュゲートが対照ラインを横断するときにそれに結合できる抗体であり、対照ラインでの前記結合は目に見える色の変化によって示される。別の態様において、第二の抗体コンジュゲート中の抗体は、乳汁サンプルが採集された種以外の動物種由来である。
【0016】
一態様において、第二の抗体コンジュゲート中の抗体に結合されている検出薬は、下記すなわち、金属ナノ粒子又はナノシェル、非金属ナノ粒子又はナノシェル、酵素、及び蛍光分子から選ばれる。特定の態様において、第二の抗体コンジュゲート中の抗体に結合されている検出薬は、金属金のナノ粒子又はナノシェルを含む。
【0017】
本発明はさらに、動物の乳汁サンプル中の乳房炎グラム陽性菌識別子としてのリポタイコ酸(LTA)の検出法を提供し、該方法は、上記態様のいずれかに従って記載されているデバイスを使用することを含む。一つの望ましい態様において、乳汁サンプルは細菌細胞が濃縮されている。
【0018】
本発明はさらに、乳房炎グラム陽性菌識別子としてのリポタイコ酸(LTA)の検出法を提供する。該方法は、動物の乳汁サンプルを検出薬に結合された抗LTA抗体を含むコンジュゲートと接触させることで抗LTAコンジュゲートとサンプル中のグラム陽性菌上に存在するLTAとの間に抗体-抗原複合体が形成され;形成された抗体-抗原複合体を抗LTA抗体で捕捉し;そして捕捉した複合体を検出することを含む。本方法の特定の態様において、乳汁サンプルは細菌細胞が濃縮されている。
【0019】
本方法の別の態様において、コンジュゲート中及び抗体-抗原複合体の捕捉に使用される抗LTA抗体はモノクローナル抗体である。
本方法の更なる態様において、抗LTA抗体に結合されている検出薬は、下記すなわち、金属ナノ粒子又はナノシェル、非金属ナノ粒子又はナノシェル、酵素、及び蛍光分子から選ばれる。特定の態様において、検出薬は、金属金のナノ粒子又はナノシェルを含む。
【0020】
一態様において、本発明の方法は、≧100CFU/mLの標的グラム陽性菌の検出が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明のラテラルフロー(LF)デバイスの概略図を示す。
図2図2は、本発明による濃縮ベースのLFアッセイのワークフロー(作業の流れ)の一態様の概略図を示す。
図3図3は、乳房炎牛の病原体を同定するための従来の診断方法と本発明のポイント・オブ・ケア診断方法との比較を示す概略図を示す。
【0022】
本発明のその他の目的、側面、特徴、及び利点は、以下の説明から明らかになるであろう。しかしながら、その詳細な説明と具体的な実施例は、本発明の好適な態様を示すものではあるが、当業者には本発明の精神及び範囲内で様々な変更及び修正がこの詳細な説明から明らかになるので、説明のためだけに提供されるものであることは理解されるはずである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
定義
本明細書全体を通じて、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、“含む(comprise, comprises, comprising)”という語は、記述された工程又は要素又は工程もしくは要素の群を包含するが、いずれかその他の工程又は要素又は工程もしくは要素の群を除外しないことを意味することは理解されるであろう。
【0024】
用語“リポタイコ酸”及びその略語“LTA”は、本明細書においては互換的に使用されうる。LTAは、ほぼすべてのグラム陽性菌の細胞壁層内に存在する主要な炎症誘発性構造である。それは細菌感染、炎症、及び敗血症性ショックの開始と進行に重要な役割を果たしている。LTAは、複合グリコシル-リン酸含有ポリマーで、脂質アンカーを介してグラム陽性菌の膜に連結されている。
【0025】
用語“抗体”(“免疫グロブリン”とも呼ばれる)は、免疫系のY字型タンパク質で、細菌、酵母、寄生虫、及びウイルスの成分などの異物又は抗原を特異的に識別する。抗体の‘Y’の各先端には、グラム陽性菌上に存在するLTAのような抗原上の特定のエピトープに特異的な抗原結合部位が含まれているため、これらの二つの構造が正確に結合することが可能となる。所与の抗体の産生は、その抗体と特異的に相互作用する抗原(例えば微生物又はウイルスの抗原)に暴露されると増大する。従って、対象のサンプル中に抗原特異的抗体を検出することは、その対象が、ウイルス、細菌、真菌、又は寄生虫などの所与の微生物に現在暴露されているか又は以前に暴露されたかどうかを知らせてくれる。“抗体”は、典型的には、Fc領域のすべて又は一部を含み、そしてまた一つ又は複数の抗原結合部位も含みうるので、抗原又は抗原ペプチドなどの抗体特異的結合剤による検出が容易になる。抗体は、例えば、IgG、IgE、IgD、IgM、又はIgA型の抗体でありうる。一態様において、本明細書におけるデバイス及び方法に使用するための抗体はモノクローナル抗体(mAb)である。一態様において、本明細書中で使用されている“抗体”という用語は、Fc領域のすべて又は一部を含んでいても、あるいは、Fabフラグメントのような、抗体の抗原結合部分のみを含んでいてもよい。
【0026】
用語“タンパク質”は、アミノ酸残基のポリマー及びそのバリアントならびに合成及び天然類似体を指す。従って、これらの用語は、一つ又は複数のアミノ酸残基が合成非天然アミノ酸、例えば対応する天然アミノ酸の化学的類似体であるアミノ酸ポリマーのほか、天然アミノ酸ポリマー及びその天然の化学的誘導体に適用される。
【0027】
用語“抗原”は、特異的免疫応答を刺激することができる特有の表面特徴又はエピトープを有する分子を意味する。抗体(免疫グロブリン)は、抗原への暴露に応答して免疫系によって産生される。抗原は、タンパク質、炭水化物又は脂質でありうるが、タンパク質抗原だけが免疫原として分類される。なぜならば、炭水化物及び脂質はそれら自体で免疫応答を引き出すことができないからである。
【0028】
抗体の“抗原結合部位”又は“結合部分”は、抗原結合に関与している免疫グロブリン分子の部分を指す。抗原結合部位は、重(“H”)鎖及び軽(“L”)鎖のN末端可変(“V”)領域のアミノ酸残基によって形成される。重鎖及び軽鎖のV領域内の3つの高度に異なる(不一致の)ストレッチは“超可変領域”と呼ばれ、“フレームワーク領域”又は“FR”として知られるより保存的な隣接ストレッチの間に挟まれている。抗体分子では、軽鎖の3つの超可変領域と重鎖の3つの超可変領域は3次元空間に互いに相対的に配置され、抗原結合表面を形成している。抗原結合表面は、結合された抗原の3次元表面に相補的であり、重鎖及び軽鎖それぞれの3つの超可変領域は“相補性決定領域”又は“CDR”と呼ばれている。
【0029】
用語“ナノ粒子”は、1~200nmのサイズを有する均一粒子を意味する。
用語“ナノシェル”は、コアと金属シェル(通常は金)からなるナノ粒子を意味する。
ラテラルフローデバイスとキット
図面を参照する。図1に本発明のLFデバイス(1)を示す。デバイス(1)は、対象の体液サンプルをキャピラリーフローに適するようにするサンプルパッド(2)と、検出薬に結合された抗LTA抗体を含む動員可能なコンジュゲートを含むコンジュゲートパッド(3)と、メンブレン(4)と、そしてサンプルパッド(2)からコンジュゲートパッド(3)とメンブレン(4)を通ってキャピラリーフローによって移動してきた流体を受け取り保持するためのウィッキングパッド(7)とを有する。固定化された抗LTA抗体を含むテストライン(5)も示されている。バンド(6)は、陽性対照ラインである。デバイス(1)はさらに、サンプルパッド、コンジュゲートパッド及びニトロセルロース、そしてバッキング材(図示せず)を接続する接着バンド又はカバーテープ(8)を含んでいてもよい。
【0030】
流体の乳汁サンプルをサンプルパッド(2)に載せると、又はサンプルパッド(2)を流体の乳汁サンプルに浸漬すると、流体はサンプルパッド(2)からキャピラリーフローによってコンジュゲートパッド(3)に移動し、そこで検出薬(図示せず)に結合された抗LTA抗体と接触する。サンプル中のグラム陽性菌の表面に豊富に発現されているLTAは、コンジュゲートパッド(3)上で抗LTAコンジュゲートと反応し、複合体を形成する。流体が、形成された複合体を動員し、それをテストライン(5)に輸送する。具体的には、コンジュゲートパッド(3)でサンプル中の何らかのLTA抗原と抗LTA抗体コンジュゲートとの間で形成された、抗LTA抗体-LTA抗原-検出薬の複合体は、メンブレン(4)を通ってテストライン(5)に移動し、そこで、複合体化されたLTAはそこに堆積されている抗LTA抗体によって固定化される。サンプル中にLTAが存在する場合、テストライン(5)での検出薬の蓄積は、目に見えるシグナル、すなわち色変化を形成し、陽性の結果を示す。サンプル中にLTAが存在しない場合、コンジュゲートはテストライン(5)で固定化されず、ウィッキングパッド(7)まで移動し続ける。テストライン(5)での目に見えるシグナルの不形成は、サンプルがLTAに関して陰性、すなわち、LTAはグラム陽性菌の表面に発現されているものなのでサンプルがグラム陽性菌に関して陰性であることを意味する。
【0031】
図1のデバイス(1)の別の態様において、コンジュゲートパッド(3)はさらに、グラム陽性菌に特異的でない免疫グロブリンを含む。その免疫グロブリンは検出薬(図示せず)に結合されて第二の抗体コンジュゲートを形成しており、動作時に乳汁サンプルがサンプルパッド(2)からコンジュゲートパッド(3)に流れてきて第二の抗体コンジュゲートを動員する。これは反応することなくテストライン(5)を通過し、対照ライン(6)を横断する。一態様において、対照ライン(6)に堆積されているのは、動員された第二の抗体コンジュゲートが対照ライン(6)を横断するときにそれに結合できる抗体であり、対照ライン(6)での結合は目に見える色変化によって示される。一態様において、第二の抗体コンジュゲート中の免疫グロブリンは、乳汁サンプルが採集された種以外の動物種由来である。
【0032】
コンジュゲートパッド(3)とサンプルパッド(2)とメンブレン(4)との間には物理的重なりと接触があって、LTA-金コンジュゲート複合体の形成やテストストリップ上での適正なフローを可能にしている。一態様において、デバイスはディップスティックであり、ディップスティックのコンジュゲートパッド、サンプルパッド、及びメンブレンは、接着バンド又はカバーテープで覆われ、15mmの長さのハンドルをディップスティックに提供する長いバッキングカード上に収納されている。
【0033】
一態様において、生乳のサンプルはまず、以下及び図2に記載されている濃縮法に従って、濃縮媒体/ブロス(その適切な処方は図2に示され、実施例に開示されている)を用いて濃縮される。それは、乳汁サンプルから細菌細胞を検出可能レベルに濃縮し、その後グラム陽性菌特異的LFテストで検出することに基づく。一態様において、ウシの乳房炎乳区からの乳汁サンプルを、搾乳前に無菌条件下で米国乳房炎協議会(NMC(National Mastitis Council))のガイドライン通りに採集し、濃縮ブロスと混合し、37℃で約7時間インキュベートする。一態様において、濃縮乳汁サンプルのアリコートを次の搾乳前(8~12時間)に本発明に従ってLFテストで検査し、診断と適切な抗生物質治療を可能にする。
【0034】
図2に描かれているように、一態様において、使い捨てピペットを用い、約200~250μLの濃縮乳汁サンプルのアリコートを試験管に加える。次に、ラテラルフローディップスティックのサンプルパッド部分(2)を試験管の濃縮乳汁サンプルに浸漬する。すると流体フローが開始し、これによってサンプルがサンプルパッドから隣接するコンジュゲートパッド(3)に移動する。
【0035】
一つの非制限的態様において、コンジュゲートパッド(3)上に堆積されているのは、様々な金コンジュゲート、すなわち、1)金粒子に結合されている抗LTA抗体、及び2)金粒子に結合されている、グラム陽性菌に特異的でない免疫グロブリン、例えばニワトリIgYである。金結合抗LTA抗体は、乳汁サンプル中に存在するグラム陽性菌のLTA抗原と複合体を形成する。形成された複合体はテストストリップに沿って移動し、メンブレン(4)のテストライン(5)上の縞模様の抗LTA抗体と複合体を形成する。抗LTA抗体-LTA抗原の複合体が感作されたテストライン(5)上に捕捉されると、その蓄積が、はっきりと見えるピンク/赤色バンドの形成をもたらす。対照ラインでのピンク/赤色バンドは、その試験が適切に行われていることを保証する。対照に関しては、一態様において、コンジュゲートパッド(3)上のニワトリIgY金コンジュゲートが、隣接メンブレンを渡って移動し、そこでテストライン(4)を反応することなく通過し、ロバ抗ニワトリIgYが堆積されている別のライン(対照ライン6)を横断する。ニワトリIgY-金コンジュゲートは、この対照ラインに結合し、金コロイド粒子の蓄積により目に見える赤線が形成される。
【0036】
図3に、乳房炎を検出するための従来の診断方法、すなわち病原体を同定するためのゴールドスタンダードである細胞培養法を使用する従来法と、本発明のポイント・オブ・ケアの診断方法との比較を示す。図に示されているように、従来法は時宜を得た適切な抗生物質治療を始める前に病原体の同定に1~5日を要しうる。これに対し、本発明のポイント・オブ・ケアのラテラルフローテストは、乳汁サンプル濃縮工程を使用し、これは一態様では約6~7時間、好適な態様(図示せず)では約7~7.5時間を要するが、テストそのものは約10分で実施できる。これにより、酪農家が適時、例えば次の搾乳前に結果を得ることが可能となる。これは、農場から回収される牛乳の品質及び組成を確保し、財政的損失を削減するのに役立ちうる。同時に、これは少なくとも抗生物質選択の手引きにもなるため、治療成果を改善することもできる。
【0037】
本発明はさらに、本明細書中に記載の一つ又は複数のLFデバイスと、テストサンプル中のグラム陽性菌の指標としてのLTA抗原を検出するためのデバイスの使用説明書とを含むキットも提供する。
【0038】
本発明のラテラルフローデバイスは、グラム陽性菌の表面に豊富に発現しているLTAを検出する。一側面において、ラテラルフローデバイスは、a)ストリップ(ストリップの部分に沿って濃縮乳汁サンプルのキャピラリーフローを可能にする材料で形成されている)と;b)サンプルパッド(濃縮乳汁サンプルを受け取るためにストリップの一端の近位に配置されている)と;c)コンジュゲートパッド(ストリップ内に配置されており、動作時に濃縮乳汁サンプルが毛管作用によりサンプルパッドからコンジュゲートパッドまでストリップを通って流れ、コンジュゲートパッドに含有されている、検出薬に結合された抗LTA抗体を含むコンジュゲートを動員する)と;d)テストライン(ストリップに沿ったサンプルフローの方向に実質的に垂直に配置されたバンドに沿ってストリップ内に固定化された抗LTA抗体を含むため、動員された抗LTA抗体コンジュゲートと濃縮乳汁サンプル中のLTAとを含む形成複合体がテストライン中の固定化された抗LTA抗体と接触すると、濃縮乳汁サンプル中のLTAの存在が目に見える色変化によって示される)と;e)対照ライン(ストリップに沿った濃縮乳汁サンプルの流れの方向に実質的に垂直に配置されており、対照領域は、サンプルがサンプル導入領域(loading region)に導入されたとき、サンプルと流体連通している)と;そしてf)ウィッキングパッド(検出バンドを通過後のサンプルを受け取り保持する)とを含む。
【0039】
本発明で使用するための抗LTA抗体は、グラム陽性菌の種由来のリポタイコ酸に対して産生させたものでありうる。一側面において、抗LTA抗体は、細菌感染サンプル中のグラム陽性菌のリポタイコ酸と特異的に反応できる。グラム陽性菌は、グラム染色法での青紫色反応によって特徴付けられる。呈色反応は、主要なグラム染色染料であるクリスタルバイオレットとヨウ素媒染剤との複合体化によって引き起こされる。脱色剤を適用すると、細胞壁を貫通する細孔の閉鎖により、クリスタルバイオレット/ヨウ素複合体の緩徐な脱水が観察される。
【0040】
一態様において、抗LTA抗体は表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)由来のリポタイコ酸に対して産生される。別の態様において、抗LTA抗体は化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)由来のリポタイコ酸に対して産生される。さらに別の態様において、抗LTA抗体は枯草菌(Bacillus subtilis)由来のリポタイコ酸に対して産生される。
【0041】
グラム陽性菌由来のリポタイコ酸に対して産生された抗LTA抗体は市販されている。例えば、マウスモノクローナル抗LTA抗体(クラスIgG1)は、カリフォルニア州サンジエゴのQED Biosciences,Inc.社から市販されている(カタログ番号:15711)。これは表皮ブドウ球菌のHay株(ATCC #55133)に対して産生されたもので、表皮ブドウ球菌のHay株のほか、表皮ブドウ球菌の臨床株(I、II、及びIII型)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の株5及び8、化膿連鎖球菌、大便連鎖球菌(Streptococcus fecaelis)、及びミュータンス連鎖球菌(Streptococcus mutans)のリポタイコ酸とも反応する。また、クラスIgG1に属するグラム陽性菌(ab267414)に対するマウスモノクローナル抗体[クローンG43J]はAbcam社(英国ケンブリッジ)から市販されている。Abcam抗体は枯草菌由来のリポタイコ酸に対して産生されたと考えられている。本発明者らも、当該技術分野で周知の方法を使用して、化膿連鎖球菌由来のリポタイコ酸に対してモノクローナル抗体を産生させるのに成功している。また、組換え法を使用して、化膿連鎖球菌由来のリポタイコ酸に対する抗体の抗原結合領域(Fabフラグメント)をクローニングするのにも成功した。化膿連鎖球菌由来のリポタイコ酸は、例えばSigma Aldrich社から購入することもできる(カタログ番号 L3140-5MG)。これらはすべて、本発明で使用できる抗LTA抗体の非制限的例である。
【0042】
抗LTA抗体のような捕捉実体(capture entities)を固相上に固定化するための適切な方法は、イオン性、疎水性、共有結合性の相互作用などである。コンジュゲートをコンジュゲートパッドに固定化することに関しては、典型的には、コンジュゲートをエアブラシに類似した特殊な噴霧器でコンジュゲートパッドに噴霧する。試薬はコンジュゲートパッド上で乾燥する。同様に、テストライン及び対照ラインは、高精度ディスペンサー(precision dispensing machine)でテストストリップ(例えばニトロセルロース)上に縞模様を描く。タンパク質はニトロセルロースに結合し、このようにして固定化される。
【0043】
サンプルパッドは、試験用の乳汁サンプルを受容するだけでなく、ストリップを通る流体のキャピラリーフローを妨げたり、又は形成されたLTA抗原-抗LTA抗体複合体のテストラインでの検出に悪影響を与えるかもしれない成分をサンプルから除去もする。サンプルパッドによって除去されうる乳汁成分は、細胞、細胞物質、脂肪、及び粒子状物質などである。対象の乳汁サンプル中のLTA抗原を検出するために、サンプルパッドは、ストリップに沿ったサンプルの流れを妨害しかねない細胞及び脂肪などの乳汁成分を除去する乳汁ろ過パッドとしても働く。
【0044】
ニトロセルロースはストリップを製造する適切な材料であることがわかった。他の材料も、それらが所望のキャピラリーフロー速度と適切な検出感度を可能にするならば同様に適切でありうる。例えば、PVDF膜、ポリエチレン膜、ナイロン膜、又は同様の種類の膜などである。
【0045】
一態様において、乳汁サンプルは、動物由来、例えば、これに限定されないが、ウシ科の動物由来である。特定の態様において、乳汁サンプルは乳牛由来である。一態様において、乳汁サンプルはウシの乳房炎乳区由来である。
【0046】
検出薬は、テストライン又は対照ラインで蓄積された場合に検出可能な変化を提供する任意の薬剤である。テストラインでの検出薬の蓄積は、グラム陽性菌の表面に豊富に発現しているLTA抗原が乳汁サンプル中に存在していることを示す。実際、検出薬は、抗LTA抗体に直接的又は間接的に結合して、コンジュゲートパッドに含有されるコンジュゲートを形成し、それがサンプルのLTA抗原と結合できる。一部の態様において、コンジュゲートパッドはさらに、グラム陽性菌に非特異的な第二の抗体を含むこともできる。第二の抗体は検出薬に直接的又は間接的に結合しており、動作時にサンプルが第二の抗体コンジュゲートを動員する。これは反応することなく検出バンドを通過し、対照ラインを横断する。対照ラインには、動員された第二の抗体コンジュゲート中に存在する抗体と結合できる抗体が堆積されている。第二の抗体コンジュゲートが対照ラインを横断して対照ラインに堆積された抗体がそれに結合すると、目に見える色変化によって結合が示される。
【0047】
検出薬の蓄積は、テストライン及び対照ラインで目に見える色変化又は観察可能な蛍光、又は任意のその他の適切な変化を起こす。本発明の様々な具体的に想定される態様において、コンジュゲートパッド上で抗LTA抗体に結合されている検出薬は、金属ナノ粒子又はナノシェル、非金属ナノ粒子又はナノシェル、酵素、又は蛍光分子から選ばれる。特定の態様において、抗LTA抗体に結合されている金属ナノ粒子又は金属ナノシェルは、金粒子、銀粒子、銅粒子、白金粒子、カドミウム粒子、複合粒子、金中空球、金被覆シリカナノシェル、又はシリカ被覆金シェルから選ばれる。一つの所望の態様において、抗LTA抗体に結合されている検出薬は、金属金のナノ粒子又はナノシェルを含む。
【0048】
本発明の他の具体的に想定される態様において、コンジュゲートパッド上で第二の抗体(グラム陽性菌に特異的でない)に結合されている検出薬は、金属ナノ粒子又はナノシェル、非金属ナノ粒子又はナノシェル、酵素、又は蛍光分子から選ばれる。特定の態様において、第二の抗体に結合されている金属ナノ粒子又は金属ナノシェルは、金粒子、銀粒子、銅粒子、白金粒子、カドミウム粒子、複合粒子、金中空球、金被覆シリカナノシェル、及びシリカ被覆金シェルから選ばれる。
【0049】
一態様において、コンジュゲートパッド上で抗LTA抗体に結合されている検出薬は、コンジュゲートパッド上で第二の抗体に結合されている検出薬と同じでも又は異なっていてもよいと想定される。一つの所望の態様において、抗LTA抗体に結合されている検出薬及び第二の抗体に結合されている検出薬はどちらも、コロイド金コンジュゲートを作り出すために金ナノ粒子である。
【0050】
方法
本発明はさらに、動物の乳汁サンプル中の乳房炎グラム陽性菌識別子としてリポタイコ酸(LTA)を検出するための方法も提供し、該方法は、上記いずれかの態様に従って記載されたデバイスを使用することを含む。一つの所望の態様において、乳汁サンプルは細菌細胞が濃縮されている。一態様において、乳汁サンプルは乳牛由来である。一つの特別な態様において、乳汁サンプルは、米国乳房炎協議会(NMC)のガイドライン通りに無菌条件下で採集されたウシの乳房炎乳区由来である。好ましくは、本方法は、1回目の搾乳後、次の搾乳前に実施される。典型的にはウシは1日に2~3回搾乳される。
【0051】
本発明はさらに、乳房炎グラム陽性菌識別子としてリポタイコ酸(LTA)を検出するための方法も提供する。該方法は、動物からの乳汁サンプルを、検出薬に結合されている抗LTA抗体を含むコンジュゲートと接触させ、そこで抗LTAコンジュゲートとサンプル中のグラム陽性菌上に存在するLTAとの間で抗体-抗原複合体が形成され;形成された抗体-抗原複合体を抗LTA抗体で捕捉し;そして捕捉複合体を検出することを含む。本方法の特定の態様において、乳汁サンプルは、例えば、図2に示され、実施例の項に記載されている濃縮法及び濃縮ブロスを使用することによって細菌細胞が濃縮されている。多くの臨床乳汁サンプル中の細菌負荷が低い(約100CFU/mL)ことを考慮すると、乳汁サンプルをまず細菌細胞について濃縮する乳汁サンプル調製工程を含めるのが望ましい。乳汁サンプルの濃縮法は、乳房炎の臨床例及び潜在例の両方の検出を可能にする。
【0052】
本方法の一態様において、コンジュゲート中の抗LTA抗体及び抗体-抗原複合体の捕捉に使用される抗LTA抗体はモノクローナル抗体である。
本方法の更なる態様において、抗LTA抗体に結合される検出薬は、下記すなわち、金属ナノ粒子又はナノシェル、非金属ナノ粒子又はナノシェル、酵素、及び蛍光分子から選ばれる。特定の態様において、検出薬は金属金のナノ粒子又はナノシェルを含む。
【0053】
本発明を以下の実施例を参照しながらさらに説明する。特許請求される本発明は、これらの実施例によって決して制限されることを意図されないことは理解されるであろう。
【実施例
【0054】
実施例1-乳汁サンプル濃縮法
典型的には、ラテラルフローテストのみでは、一部の乳房炎乳汁サンプルと関連する約100CFU/mLという少ない細菌負荷を検出するには不十分である。このような状況に鑑みれば、酪農作業や職員の日常活動に適合する乳汁サンプル調製法が望ましい。
【0055】
本実施例で濃縮法の開発について記載する。これは、細菌細胞を乳汁サンプルから検出可能レベルにまで濃縮し、その後グラム陽性特異的LFテストで検出することに基づく。ウシの乳房炎乳区からの乳汁サンプルは、搾乳前にNMCガイドライン通りに採集し、それを濃縮ブロスと混合し、37℃で7時間インキュベートすることが期待される。最後に濃縮乳汁サンプルのアリコートを次の搾乳前(8~12時間)にLFテストで試験し、診断と適切な抗生物質治療ができるようにする。
【0056】
5種類の増殖培地を評価した。(1)Todd-Hewittブロス(THB)、(2)コリスチンとナリジクス酸入りTHB(LIMブロス)、(3)ブレインハートインフュージョン(Brain Heart Infusion,BHI)ブロス、(4)栄養ブロス、及び(5)トリプチックソイブロス(Tryptic Soy Broth,TSB)。乳汁濃縮法を、異なる比率の乳汁サンプルと異なる増殖培地を37℃でインキュベートすることによって試験した。7時間のインキュベーション後、1.0mLの乳汁サンプルと1.0mLのTHBの混合物は、より高い細菌増殖を支持したが、LFディップスティック上で望ましくない高い非特異的結合(NSB)も生じた。この高いNSBは他の4種類の培地でも観察されたが、それらは比較的低い細菌増殖しか支持しなかった。THBからビーフハートインフュージョン成分を除去すると、NSBは著しく排除され、細菌増殖はTHBで観察されたのに匹敵することが示された。
【0057】
上記知見に基づき、NSBを軽減するために試験専用の濃縮ブロスを調製した。すなわち、Millipore Sigma社製のペプトンスペシャル(20.0g/L)、デキストロース(2.0g/L)、塩化ナトリウム(2.0g/L)、リン酸二ナトリウム(0.4g/L)、二塩基性リン酸ナトリウム(0.4g/L)、ナリジクス酸ナトリウム塩(0.03g/L)及び炭酸ナトリウム(2.5g/L)を含有するブロスである。すべての培地成分とも商業的供給源から容易に入手可能である。
【0058】
実施例2-重要試薬の選択
本アッセイの開発のために選択される重要試薬は、好ましくは、乳汁サンプル中の広範囲の標的グラム陽性菌又は関連抗原を検出する。3種類の異なる細菌生体分子を選択してモノクローナル抗体(mAb)を生成した。標的グラム陽性菌とのそれらの反応性に基づいて、市販の抗リポタイコ酸(LTA)mAb(QED Bioscience Inc.社、カリフォルニア州)をLFアッセイ開発のために選択した(表1)。
【0059】
【表1】
【0060】
QED Bioscience Inc.社(カリフォルニア州サンディエゴ)から市販されているモノクローナル抗LTA抗体(クラスIgG1)(カタログ番号:15711)をLFテスト開発のために選択した。この抗体は、表皮ブドウ球菌のHay株(ATCC #55133)に対して産生された。宿主動物種はマウスであった。抗LTA抗体は、表皮ブドウ球菌のHay株のほか、表皮ブドウ球菌の臨床株(I、II、及びIII型)、黄色ブドウ球菌の株5及び8、化膿連鎖球菌、大便連鎖球菌、及びミュータンス連鎖球菌のリポタイコ酸とも反応する。これは、黄色ブドウ球菌のペプチド-グリカン又はペプチドグリカン-ラムノースとは反応せず、肺炎球菌多糖体(pneumococcal polysaccharides)とも反応しない。この抗体は、大腸菌(E. coli)又はインフルエンザ菌(H. influenzae)B型と交差反応しない。
【0061】
実施例3-予備的ラテラルフローディップスティックの開発
本実施例では、本発明のデバイス及び方法の一態様について記載する。ラテラルフローベースのサンドイッチ型イムノアッセイフォーマットを選択した。テストは、接着バッキングカードに積層されたニトロセルロース膜からなる。ニトロセルロース膜の両端は、隣接するコンジュゲートパッド及び隣接する吸収パッドと重なっている。サンプルパッドはコンジュゲートパッドと重なっている。それぞれの膜にすべての試薬を堆積したら、カードをおよそ5mm幅のストリップにカットする。
【0062】
テストストリップの構成は、表2に開示されている構成要素からなる。イムノアッセイは、実施例4に記載のテストプロトコルを用い、実施例1に記載の方法及び好適な濃縮培地に従って細菌細胞が濃縮されている臨床乳汁サンプルに対して実施された。
【0063】
【表2】
【0064】
結合は、コロイド金への標準的な抗体結合法を用いて作製できる。抗LTA抗体を所望pHの緩衝液と混合する。コロイド金(nanoComposix社、カリフォルニア州サンディエゴ)を抗体に加え、5~10分間混合する。第二の塩基性緩衝液をコンジュゲートに加えてpHを上げ、BSAの添加によってコンジュゲートをブロックする。
【0065】
対照コンジュゲートを調製するためにコロイド金を所望pHに調整する。20~100μg/mlの飽和量のタンパク質(例えばニワトリIgY)を金に加え、10分間インキュベートする。次にBSAブロッカーを金に加え、さらに10分間インキュベートする。BSAとスクロースを含む安定剤緩衝液をコンジュゲートに加える。
【0066】
コンジュゲートは、最適化された臨界ODで、界面活性剤、緩衝液、スクロース、及びBSAからなるコンジュゲート希釈剤と一緒に混合される。コンジュゲートはエアジェット噴霧器を用いてコンジュゲートパッドに噴霧される。
【0067】
テストライン及び対照ラインの試薬、抗LTA抗体、及びロバ抗ニワトリIgYをそれぞれ、安定化糖(stabilizing sugars)入り堆積緩衝液中に、最適化された臨界濃度に希釈する。試薬を、マイクロ量の体積の噴霧が可能な高精度流体ハンドラーでニトロセルロース上に堆積する。カードは相対湿度<30%で保管される。
【0068】
実施例4-テストプロトコル
・ 1.0mLの乳汁サンプルを1.0mLの濃縮ブロスを含む目盛り付き試験管に加える。
・ 乳汁と濃縮ブロスの混合物入り試験管を37℃で7時間、常用の細菌学用インキュベーター中でインキュベートする(特殊な乳汁サンプル調製装置不要)。
・ インキュベーション後、LFディップスティックを濃縮乳汁サンプルに入れることにより濃縮乳汁サンプル(200~250μL)を試験する。
・ 濃縮乳汁サンプル中のグラム陽性菌の表面に豊富に発現しているLTA抗原は、コンジュゲートパッドに移動し、コロイド金と結合された抗LTA抗体と反応する。抗LTA抗体コンジュゲートとサンプル中のLTAとの間に複合体が形成される。形成された複合体はニトロセルロースを渡って移動し、複合体化されたLTAは、テストライン上に堆積された抗LTA抗体によって固定化される。テストライン上にコロイド金粒子が蓄積すると、LTA抗原が存在する場合、目に見える赤線が形成され、結果が陽性であることを示す。サンプル中にLTA抗原が存在しない場合、金コンジュゲートはテストライン上に固定化されず、吸収パッドまで移動を続ける。テストライン上に赤線が形成されないのは、サンプルがLTAに関して陰性であり、グラム陽性菌が存在しないことを意味する。一態様において、コンジュゲートパッドに堆積された第二のコンジュゲート(対照コンジュゲート)はコロイド金に結合されたニワトリIgYからなる。対照コンジュゲートは、ニトロセルロースを渡って移動し、第二の反応ライン(対照ライン)で抗ニワトリIgY抗体によって固定化される。コロイド金の対照コンジュゲート粒子の蓄積は赤色の対照ラインを形成する。対照ラインは手順対照であるので、テストが正確に実施され、正確に流れたことを示す。
・ 10分後にテストストリップを視覚的に読み取る。
【0069】
実施例5-サンプル採集
サンプルセットは下記からなるもので、これらは異なる酪農場から一晩氷上に保管されていたものを受け取った。
・ ウシの感染乳区から採集された、≧100CFU/mLの標的グラム陽性菌を含む臨床乳汁サンプル(n=108)
・ ウシの乳房炎を起こしていない乳区から採集された、クリーンな培養陰性の乳汁サンプル(n=103)
各臨床乳汁サンプル中に存在する乳房炎原因病原体を、直接培養とその後のMALDI-ToF分析によって計数及び同定した。
【0070】
実施例6-試験結果-濃縮ベースのラテラルフローアッセイの検出限界(LoD)
アルファプロトタイプテストの検出限界(LoD)を、様々な濃度(CFU/mL)の各標的グラム陽性菌を添加(スパイク)した乳汁サンプルを用いて推定した。各濃縮サンプルは10回繰り返して試験し、10回のうち9回でアッセイが視覚的に陽性となった濃度(CFU/mL)を各標的細菌に特有のLoDと見なした。
【0071】
【表3】
【0072】
実施例7-予備的診断能の推定
37℃で7時間の濃縮後、各濃縮乳汁サンプルのアリコートをLFディップスティックの3つの異なるロットで試験した。10分後、視覚結果を記録した。培養結果を参照として使用。
・ ロット番号1と2のテストストリップは、105/108の臨床乳汁サンプルで標的グラム陽性菌を検出した。診断の感度と特異性の推定は、それぞれ97.2%(95%CI:92.1~99.4%)及び95.1%(95%CI:89.0~98.4%)であった(表4)。
・ ロット番号3のテストストリップでは、104/108の陽性結果が得られた。診断の感度と特異性の推定は、それぞれ96.3%(95%CI:90.8~99.0%)及び96.1%(95%CI:90.4~98.9%)であった(表4)。
【0073】
ロット番号1と2では3つの偽陰性と5つの偽陽性結果が観察されたが、ロット番号3では4つの偽陰性と4つの偽陽性結果が観察された。
【0074】
【表4】
【0075】
実施例8-設備
一態様において、このLFテストの結果の解釈は、人間の技術者による視覚評価に基づいている。セットアップが簡単で、実施時間が短く、読み出しが容易であるように設計されている。このキットは、複雑なラテラルフローリーダーや関連ソフトウェアを必要としないが、LFテストは、所望であればラテラルフローリーダーによる試験結果の評価に基づくこともできる。ただし、乳汁サンプル濃縮工程には温度を37℃に維持できる能力を持つ簡単な細菌学用インキュベーター(例えばヒートブロック)が必要である。農場現場で培養を実践している酪農場は、これらのインキュベーターを酪農オフィス又は酪農実験室に備えている。一態様において、インキュベーターを持たない酪農場にはポータブルのインキュベーターを提供することもできる。
【符号の説明】
【0076】
(1)ラテラルフローデバイス
(2)サンプルパッド
(3)コンジュゲートパッド
(4)メンブレン
(5)テストライン
(6)対照ライン
(7)ウィッキングパッド
(8)接着バンド/カバーテープ
図1
図2
図3
【国際調査報告】