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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-27
(54)【発明の名称】量子構成要素
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/06 20060101AFI20240219BHJP
【FI】
H01L29/06 601D
H01L29/06 601N
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023578043
(86)(22)【出願日】2022-03-11
(85)【翻訳文提出日】2023-09-06
(86)【国際出願番号】 FR2022050447
(87)【国際公開番号】W WO2022195205
(87)【国際公開日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】2102507
(32)【優先日】2021-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523340524
【氏名又は名称】シー12 クアンタム エレクトロニクス
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】デジャルダン,マチュ
(72)【発明者】
【氏名】ルグラン,ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】シャエヴェルブク,カンタン
(57)【要約】
本発明は、・基板(6)と、・2つの懸架電極(4)と、・2つの懸架電極の間に配置された複数のゲート電極(1、2、3)であって、2つの懸架電極が、ゲート電極に対して隆起している、複数のゲート電極(1、2、3)と、・2つの懸架電極間に懸架された少なくとも1つのナノ物体要素(8)、特にナノワイヤ又はナノチューブであって、少なくとも1つのナノ物体要素が、ゲート電極の上方に配置される、少なくとも1つのナノ物体要素(8)と、を備える量子構成要素に関し、量子構成要素の電極は、少なくとも2つの量子ドットがナノ物体要素内に形成されることを可能にするようにナノ物体要素内の静電ポテンシャルを規定するための複数の低周波ゲート電極(1、2)と、・少なくとも1つのマイクロ波ゲート電極(3)と、を備え、・少なくとも1つの電極が、磁性材料、好ましくは強磁性材料を含み、当該ナノ物体要素の空間的広がりにわたってナノ物体要素に不均一磁場を印加するように構成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子構成要素であって、
-基板(6)と、
-少なくとも2つの懸架電極(4)、すなわち、電子源に接続されたソース電極及び基準ポテンシャルに接続されたドレイン電極と、
-前記2つの懸架電極の間に配置された少なくとも1つのゲート電極(1、2、3)であって、前記2つの懸架電極が、前記少なくとも1つのゲート電極に対して隆起している、少なくとも1つのゲート電極(1、2、3)と、
-前記2つの懸架電極の間に懸架され、前記2つの懸架電極に電気的に接続された少なくとも1つのナノ物体要素(6)であって、前記少なくとも1つのナノ物体要素が、前記少なくとも1つのゲート電極の上方に配置され、前記ナノ物体要素が、少なくとも2つの量子ドットを含む、少なくとも1つのナノ物体要素(6)と、を備え、
前記量子構成要素が、
-マイクロ波信号を搬送するように配置されたマイクロ波回路に接続された少なくとも1つのマイクロ波ゲート電極(3)を更に備え、
少なくとも1つの電極が、少なくとも1つの磁気電極と称される磁性材料を含み、前記ナノ物体要素の空間的広がりにわたって前記ナノ物体要素に不均一磁場を印加するように配置及び構成されていることを特徴とする、量子構成要素。
【請求項2】
前記磁性材料が、強磁性材料、好ましくはコバルト、パラジウム-ニッケルである、請求項1に記載の量子構成要素。
【請求項3】
磁性材料を含む前記少なくとも1つの電極が、少なくとも1つの低周波ゲート電極(1、2)である、請求項1又は2に記載の量子構成要素。
【請求項4】
少なくとも1つの低周波ゲート電極(2)が、隣接する低周波ゲート電極の高さよりも高い高さを有する、請求項3に記載の量子構成要素。
【請求項5】
前記少なくとも1つのマイクロ波ゲート電極(3)を前記少なくとも1つのナノ物体要素(8)から分離する、マイクロ波距離と称される距離が、前記少なくとも1つの低周波ゲート電極(1、2)を前記少なくとも1つのナノ物体要素(8)から分離する、低周波距離と称される前記距離とは異なる、請求項3に記載の量子構成要素。
【請求項6】
前記マイクロ波距離が、前記低周波距離よりも少なくとも20%短い、請求項1~5のいずれか一項に記載の量子構成要素。
【請求項7】
前記基板(6)上及び前記少なくとも1つのゲート電極の下に配置された少なくとも1つの導電層(5)を備え、各ゲート電極が、絶縁層によって前記導電層から分離されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の量子構成要素。
【請求項8】
少なくとも前記導電層(5)内に形成された少なくとも1つのトレンチ(7)を備え、前記少なくとも1つのマイクロ波ゲート電極(3)が、前記トレンチ(7)によって前記少なくとも1つの隣接するゲート電極から分離されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の量子構成要素。
【請求項9】
少なくとも前記導電層(5)内に形成された少なくとも1つのトレンチ(7)を備え、前記少なくとも1つのマイクロ波ゲート電極(3)が、前記基板(6)上に配設され、トレンチ(7)によって前記導電層(5)上に配設された前記少なくとも1つの隣接するゲート電極から分離されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の量子構成要素。
【請求項10】
前記基板(6)が、前記トレンチ(7)を延長するように部分的にくり抜かれている、請求項1~9のいずれか一項に記載の量子構成要素。
【請求項11】
前記トレンチの高さが、前記少なくとも1つのマイクロ波ゲート電極(3)の高さに等しい、請求項8~10のいずれか一項に記載の量子構成要素。
【請求項12】
前記少なくとも1つのナノ物体要素(8)が、少なくとも1つのナノチューブ又は少なくとも1つのナノワイヤである、請求項1~11のいずれか一項に記載の量子構成要素。
【請求項13】
前記少なくとも1つのナノ物体要素(8)が、同位体的に精製又は濃縮された材料を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の量子構成要素。
【請求項14】
前記少なくとも1つの磁気電極が、前記ナノ物体要素内に形成された2つの量子ドット間で非共線的である電子のスピンの偏極を生成するように配置及び構成されている、請求項1~13のいずれか一項に記載の量子構成要素。
【請求項15】
前記少なくとも1つの磁気電極の分極を可能にする均一磁場を印加するための手段を更に備える、請求項1~14のいずれか一項に記載の量子構成要素。
【請求項16】
前記少なくとも1つのマイクロ波ゲート電極が、前記量子構成要素を制御するための手段を更に備え、前記少なくとも1つのマイクロ波ゲート電極が、マイクロ波信号を搬送するように配置されたマイクロ波回路に接続されている、請求項1~15のいずれか一項に記載の量子構成要素。
【請求項17】
前記少なくとも1つのマイクロ波ゲート電極が、複数の量子構成要素を結合するための手段を更に備え、前記少なくとも1つのマイクロ波ゲート電極が、マイクロ波信号を搬送するように配置されたマイクロ波回路に接続されている、請求項1~16のいずれか一項に記載の量子構成要素。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載の少なくとも1つの量子構成要素を含む電子デバイス。
【請求項19】
量子構成要素を制御するための方法であって、
-1つ以上のナノ物体要素を使用して、少なくとも1つのナノ物体内の少なくとも2つの量子状態を定義することであって、前記少なくとも2つの量子状態が、不均一磁場内にある、定義することと、
-マイクロ波ゲート電極によって搬送されるマイクロ波発振電気信号に基づいて、前記不均一磁場の存在下で前記少なくとも2つの量子状態間で電子の往復運動を引き起こすことであって、前記電子の前記運動が、前記磁場の振動を生成して、前記電子の一方向に配向されたスピン状態と反対方向に配向されたスピン状態との間で量子遷移を駆動し、したがって、前記電子のスピン状態に量子ビットゲートを実装する、引き起こすことと、を含む、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子構成要素に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、量子コンピューティングアーキテクチャに関し、より具体的には、例示的な半導体量子ドットデバイスの実施形態の例、及び量子ドットのスケーラブルアレイを形成するための方法に関する。
【0003】
量子構成要素は、特に、限定はしないが、量子コンピュータを製造することを意図している。
【背景技術】
【0004】
集積回路におけるトランジスタの集積度は、その構想以来、ムーアの法則に従っている。しかしながら、トランジスタのサイズが単一原子のサイズに近づくにつれて、量子物理学の法則は、コンピューティングアーキテクチャにおいてますます支配的な役割を果たしており、これにより、この傾向をより長く継続することが困難となっている。これにもかかわらず、情報処理において量子力学的現象を使用するという見通しは、最も理想的な従来のコンピュータも可能であると知られている以上に、コンピュータの計算能力を向上させる機会を提供する。従来のコンピュータがトランジスタのロバスト性に依存するのと同様に、機能的量子コンピュータは、大規模構造に組み込むことができる再現可能な特性を有するチップ上の物理的構成要素を必要とする場合がある。
【0005】
トランジスタの量子的な類似体の主な候補の1つは、ゲート電極によって画定される半導体量子ドットである。量子ドットに捕捉された電子のスピン状態は、量子情報を記憶するための有益な物理系であり得る。特に、シリコン(「Si:Silicon」)は、超微細場が弱く、スピン-軌道結合が弱く、かつ圧電電子-フォノン結合がないことから、スピン状態のための「半導体真空」を形成し、数秒間の電子スピンコヒーレンス時間をサポートする。しかしながら、信頼できるスケーラブルなSiベースの量子ドットの製造は困難であることが判明している。純粋なスピン環境の必要性とは無関係に、量子ドットは、スケーリングのために再現可能な電気的特性を有していなければならない。Si中の電子の大きい有効質量、また二次元(「2D:two-dimensional」)Si電子ガスSiの一般的に低い移動度のため、再現性のある特性を有する、少数の電子まで密に閉じ込められた量子ドットを製造することは困難である。
【0006】
最初の量子ドットゲートアーキテクチャは、ガリウムヒ素/アルミニウムガリウムヒ素(「GaAs/AlGaAs」)でドープされた基板上で製造されており、伝導電子は全体的なドープ層によって供給され、二次元電子ガス(「2DEG:two-dimensional electron gas」)を形成するGaAs/AlGaAs量子井戸(「QW:quantum well」)界面に閉じ込めることができる。これらのドープされた構造において、デフォルトでは、2DEGは伝導電子で満たされている。したがって、ゲート設計では、ゲートに負電圧を加えてゲートの直下の2DEGを排出することによって円形バリアをポテンシャル的に生成し得る囲い柵モデルでゲート電極を製造することによって、単一の伝導電子を分離することが試みられている。このタイプのゲートパターンを使用するデバイスは、空乏モードデバイスと呼ばれている。
【0007】
空乏モードデバイスは、量子計算基準を実証することに非常に成功しており、量子ドットのコミュニティ全体にわたって依然として広く使用されている。しかしながら、空乏モードデバイスは、閉じ込めポテンシャル及びスケーリングの制御に関する主要な欠点を有している。空乏モードデバイスにおけるゲートパターンは、おそらく電子波動関数が存在する空間の領域にわたって直接制御を有するのではなく、ドットを囲む静電ポテンシャルを最も制御している。このように電子波動関数を制御することができないことは、多種多様な空乏モードゲート設計につながり、そのほとんどは、数十又は数百の量子ドットにスケーリングするための単純な経路を提供しない。
【0008】
量子計算アーキテクチャにおける量子ポイント/ドットの使用は、概して、量子ドットの閉じ込めポテンシャルを制御する能力に依存しており、より具体的には、量子ドットの物理的に関連するパラメータ(例えば、トンネル結合及び電気化学ポテンシャル)を制御する能力に依存する。しかしながら、空乏モードデバイスは、閉じ込めポテンシャルに対する制御が非常に限られている。空乏モード量子ドットデバイスのシミュレーションは、結果として生じる閉じ込めポテンシャルがゲートの寸法よりもはるかに小さくあり得ることを示している。かかる状況のために、隣接するゲートは、一般にドットのトンネル結合及び電気化学的ポテンシャルに対して同様の効果を有し、空乏モードデバイスでは、デバイス内で絶縁破壊が発生し得るほど極端な電圧にすることはなく、トンネル結合及び電気化学的ポテンシャルを所望の値に調整することはしばしば不可能である。
【0009】
電子部品上にナノ物体を集積することで、量子限界に達することができるデバイスを製造することが可能になる。量子的な挙動はそれらの環境に非常に敏感であるため、量子技術のエンジニアリングのために高純度の材料を有していることが重要である。カーボンナノチューブは、非常に優れた結晶性を有する材料であり、優れた電子伝導性、シリコンにおけるよりも100倍以上の電子移動度でありながら、ダイヤモンドと同等の機械的耐性を持つことを可能にする。情報は電子のスピンに量子的な形で符号化することができ、カーボンナノチューブはその高い結晶純度のおかげで、これらの電子にとって理想的なホスト材料である。カーボンナノチューブはまた、その直径のサイズに依存して、近赤外線までの可視スペクトルをカバーする光学応答を有する。そのため、光学デバイス又は光電子デバイスにも組み込まれている。
【0010】
しかしながら、これらの特性は、ナノチューブ上の欠陥又は汚染によって劣化する。カーボンナノチューブはまた、その成長中に多様な結晶構造を有し、凝集する傾向がある。単一の物体を劣化させることなく分離及び操作する能力により、それを使用するデバイスの挙動に対する高い制御を提供することを可能にする。また、インク又は薄層を用いる電子回路の製造では、製造された部品の特性の最適制御を可能にしない。インクはまた、ナノチューブの環境を改変する化学添加剤、溶液中のナノチューブにおいても見出される問題を有する。同様に、電子リソグラフィ技術による集積は、樹脂及び電子顕微鏡の使用により、ナノチューブの結晶構造を劣化させる。
【0011】
汚染又は欠陥がなく、既知の結晶特性を有する単一のナノチューブを集積することにより、ナノチューブの特性を保存することが可能になり、デバイスの再現性及びより優れた制御が保証される。加えて、ナノチューブの劣化及び汚染の存在は、集積の成功率に影響を及ぼし、集積の成功率は、ナノチューブとターゲット基板との間の接触の質に依存する。
【0012】
また、少なくとも1つのソース電極及びドレイン電極を含む少なくとも2つの隆起電極と、ソース電極とドレイン電極との間に位置する1つ以上のゲート電極とを備える電極配置と、当該電極配置の少なくとも2つの隆起電極間を橋絡する1つ以上の別個のナノチューブとを備えるトランジスタ構造が、文献欧州特許第3066701号において知られている。1つ以上の別個のナノチューブは、1つ以上のゲート電極の上のソース電極とドレイン電極との間に懸架され、電極構成は、カンチレバー状の先端上に取り付けられ、少なくとも1つ以上の別個のナノチューブは、カンチレバー状の先端の端部に配置される。
【0013】
米国特許出願公開第2021/0028344号は、不均一磁場を供給するように構成された少なくとも1つの磁場源を備える量子デバイスを開示している。電子は、不均一磁場の存在下で、少なくとも1つのシリコン半導体層内の少なくとも2つの量子状態間で往復運動を行う。少なくとも2つの量子状態間の電子の運動は、電子の1/2スピンとしても知られるスピンアップ状態と、スピン-1/2としても知られるスピンダウン状態との間の量子遷移を駆動するための振動磁場を発生させ、これにより電子のスピン状態上の量子ビットゲートを実装することができる。この文献は、電気マイクロ波周波数信号を生成するための信号発生器を備えるシステムを提案している。従来の電子スピン共鳴では、マイクロ波周波数(例えば、10~40GHz)で振動する磁場を使用してスピンを制御することができる。振動磁場は、小規模で位置特定することが困難であり、ミリアンペア電流(例えば、電流は、1つの量子ドットを指し、電流は、ドットに近接するワイヤを通過する)を使用して生成されるが、電流によって散逸する電力が大きいため、極低温環境において多数の量子ビットにスケールアップすることは困難である。シングルスピン回転を駆動するための開示されたプロセスは、磁場勾配における電子の位置をシフトさせることに基づいており、それによって、効果的な振動磁場(例えば、より低い電力損失)をもたらす。
【0014】
磁気振動を誘発する以前のアプローチでは、ユニークな量子ドットを使用しており、電子の移動量は小さく(例えば約1pm)、かかる運動を得るためには高い電界が必要である。記載された方法には、二重量子ドットにおける電気的に駆動されるスピン共鳴が含まれる。二重量子ドットでは、電子をより大きな距離で移動させることができるため、より高い効果的な振動磁場及びより速いスピン回転速度につながる。スピンの回転速度がより速くなることは、スピンが極低温環境において有益である低マイクロ波出力で駆動することを可能にする。加えて、電子スピン共鳴プロセスと交換結合又はキャビティ結合に基づく2量子ビットゲート、及びマイクロ波でスピン状態を読み取るためのアンシラ量子ドットとの相互作用を組み合わせる量子コンピューティングアーキテクチャが開示されている。
【0015】
最後に、文献T.Cubaynes、M.R.Delbecq、M.C.Dartiailh、R.Assouly、M.M.Desjardins、L.C.Contamin、L.E.Bruhat、Z.Leghtas、F.Mallet、A.Cottet及びT.Kontos、「Highly coherent spin states in carbon nanotubes coupled to cavity photons」、npj Quantum Informationは、ジグザグ形状の強磁性接触から生じる、二重量子ドット中の各量子ドット上の2つの非共線ゼーマン場に基づく電子-光子結合を開示しており、当該結合はカーボンナノチューブを用いて行われている。これらの非共線ゼーマン場は、界面交換場又は磁束漏れによって得ることができ、両方とも同様のハミルトニアンを与える。
【0016】
本発明の1つの目的は、従来技術の量子構成要素において観察される量子不整合を大幅に低減することで、これらの構成要素の性能を改善することを可能にする新しい量子構成要素アーキテクチャを提案することである。
【発明の概要】
【0017】
この目的のために、第1の態様によれば、本発明は、
-基板と、
-少なくとも2つの懸架電極、すなわち、電子源に接続されたソース電極及び基準ポテンシャルに接続されたドレイン電極と、
-2つの懸架電極の間に配置された少なくとも1つのゲート電極であって、2つの懸架電極が、少なくとも1つのゲート電極に対して隆起している、少なくとも1つのゲート電極と、
-2つの懸架電極の間に懸架され、2つの懸架電極に電気的に接続された少なくとも1つのナノ物体要素であって、少なくとも1つのナノ物体要素が、少なくとも1つのゲート電極の上方に配置され、ナノ物体要素が、少なくとも2つの量子ドットを封入するか又は含む、少なくとも1つのナノ物体要素と、
-マイクロ波信号を搬送するように配置されたマイクロ波回路に接続された少なくとも1つのマイクロ波ゲート電極と、を備え、
少なくとも1つの電極が、少なくとも1つの磁気電極と称される磁性材料を含み、当該ナノ物体要素の空間的広がりにわたってナノ物体要素に不均一磁場を印加するように配置及び構成されることを特徴とする、量子構成要素を提案する。
【0018】
上記及び説明の残りの部分について、次の用語は以下のような定義を有する。
【0019】
-量子構成要素:その導電性又は半導電性要素としてナノチューブを使用する電子回路及び/又はデバイスのアセンブリであり、回路は、チャネル要素として選択された特性を有する単一のナノ物体、又は複数の別々に選択されたナノ物体を使用する、直列若しくは並列の単一、二重又は多重量子ドットを有する。
【0020】
-量子ドット:電子が三次元で捕捉/閉じ込められ、離散的なエネルギーレベルしか占有することができない。
【0021】
-ナノ物体:その外部寸法(典型的には、その高さ、幅、厚さ、長さから)の少なくとも1つが100ナノメートル未満である物体、その3つの外部寸法(3つの直交軸に沿って規定される)が100ナノメートル未満である場合、それはナノ粒子であり、その外形寸法のうちの2つ(好ましくは、2つの直交軸に沿って規定される)が100ナノメートル未満である場合、それは、例えば、少なくとも1つの端部で閉じることができる中空の単層若しくは多層ナノチューブ、又は中実ファイバであるナノファイバである。導電性又は半導電性ナノファイバは、以降、ナノワイヤと呼ばれる。外形寸法(典型的にはその厚さ)が100nm未満である場合、それはナノシートである。
【0022】
-電極:電流を放出又は捕捉するように配置された導電体の端部。
【0023】
-ゲート電極:マイクロ波信号を伝送するか、又はポテンシャル(ボルト)を設定することを可能にする電極。
【0024】
-マイクロ波ゲート電極:マイクロ波キャビティとナノ物体との間の相互作用を可能にするマイクロ波信号を輸送及び放射するゲート電極。
【0025】
-低周波数ゲート電極:静電ポテンシャルを設定して二重量子ドットを生成することを可能にするゲート電極。
【0026】
-2つの量子ドットの形成を可能にする静電ポテンシャル:静電ポテンシャルは、ポテンシャルエネルギー障壁を変調し、二重量子ドットを生成することを可能にする。
【0027】
-スピン-光子結合:量子ビットの磁気的外観、すなわちそのスピンと、マイクロ波空洞から来るマイクロ波電場との間の制御可能な相互作用又は「結合」。電場は光子から構成されるため、本発明者らはスピン-光子結合と称する。
【0028】
-量子ゲート:量子ビットの重ね合わせの状態を変化させることができる論理演算。例えば、量子ビットは、2つの状態の一方又は他方にある2分の1の可能性を有することができる。
【0029】
-不均一磁場:好ましくは少なくとも1つのナノ物体要素の周囲及び/又は少なくとも1つのナノ物体要素に沿った磁場の任意の変動によって、磁気双極子を生成するように生成される磁場。例えば、磁場の垂直及び/又は水平成分は、少なくとも1つのナノ物体要素に沿って若しくはその周りで、好ましくは少なくとも1つの磁気ゲート電極において若しくはそれと垂直に、その符号を変化させる。特定の例によれば、少なくとも1つのナノ物体要素に沿って全磁場を不均一にする、当該少なくとも1つのナノ物体要素に水平であるか又はそれに沿った磁場勾配、好ましくは、少なくとも1つのナノ物体の軸又は方向に沿った磁場の成分が、少なくとも1つのナノ物体要素に沿ってその符号を変化させる。
【0030】
-空間的広がり:少なくとも1つのナノ物体要素に沿って及び/又はその周りに、好ましくは半径方向に、好ましくは懸架電極間に位置するゾーン、一実施形態によれば、2つの量子ドット間の距離に対応する広がり。
【0031】
-ナノ物体と組み合わせた精製:90%より高い純度、例えば99.9%の純度を有する金属材料から構成され得るナノ物体。
【0032】
-基板:高い抵抗率、例えば、特に低温で空気よりも高い誘電率を有する部品の要素。
【0033】
好ましくは、少なくとも1つのゲート電極は、少なくとも1つのマイクロ波ゲート電極を含む。
【0034】
好ましくは、少なくとも1つのゲート電極は、2つの量子ドットの形成を可能にする静電ポテンシャルを規定するために設けられた少なくとも1つの低周波ゲート電極を含む。好ましくは、低周波ゲート電極は超伝導性である。
【0035】
一実施形態によれば、磁性材料は、強磁性材料、好ましくはコバルト又はパラジウム-ニッケルである。
【0036】
好ましくは、磁性材料を含む少なくとも1つの電極はゲート電極である。
【0037】
好ましくは、磁性材料を含む少なくとも1つのゲート電極は、低周波ゲート電極である。低周波ゲート電極は、2つの量子ドットの形成を可能にする静電ポテンシャルを規定するために設けられる。
【0038】
一実施形態によれば、少なくとも1つの低周波ゲート電極は、隣接する低周波ゲート電極の高さよりも高い高さを有する。
【0039】
1つ以上の前述の実施形態と組み合わせることができる種々の実施形態によれば、少なくとも1つの電極、好ましくは少なくとも1つの懸架電極、及び/又は好ましくは少なくとも1つのゲート電極、及び/又は好ましくは少なくとも1つの低周波ゲート電極は、パッド若しくは層の形態とすることができる。
【0040】
量子構成要素の一実施形態によれば、少なくとも1つのマイクロ波ゲート電極を少なくとも1つのナノ物体要素から分離する、マイクロ波距離と称される距離は、少なくとも1つの低周波ゲート電極を少なくとも1つのナノ物体要素から分離する、低周波距離と称される距離とは異なる。
【0041】
一実施形態によれば、マイクロ波距離は、低周波距離よりも少なくとも20%短い。
【0042】
好ましくは、マイクロ波距離及び低周波距離は、垂直距離であり、かつ/又は並行して測定される。それらは、同じナノ物体要素から測定される。
【0043】
好ましくは、少なくとも1つのマイクロ波ゲート電極は、少なくとも1つの低周波ゲート電極の高さとは異なる、少なくとも1つのナノ物体要素に対する相対高さを有する。上記及び以下の説明において、高さは垂直方向に測定される。
【0044】
一実施形態によれば、少なくとも1つのマイクロ波ゲート電極は、少なくとも1つの低周波ゲート電極の高さよりも少なくとも20%高い高さを有し、高さは、少なくとも1つの低周波ゲート電極が載置される面から測定される。
【0045】
量子構成要素は、半導体基板上に製造又は提供され得る。例えば、基板は、(i)シリコン/シリコン-ゲルマニウム(Si/SiGe)基板、(ii)シリコン基板上の二酸化シリコン、及び/又は(iii)GaAs/AlGaAsヘテロ構造、及び/又は(iv)サファイア、(v)石英、又はこれらの混合物から選択することができる。
【0046】
好ましくは、基板は、特に低温での高抵抗率又は絶縁基板である。
【0047】
一実施形態によれば、量子構成要素は、基板上及び少なくとも1つのゲート電極の下に配置された少なくとも1つの導電層を備え、各ゲート電極は、絶縁層によって導電層から分離されている。
【0048】
1つの代替の実施形態によれば、導電層は、少なくとも1つのゲート電極の下及び懸架電極の下に配置され、各電極は、絶縁層によって少なくとも1つの導電層から分離されている。導電性リターン層とも呼ばれる少なくとも1つの導電層は、導電層である。それは、超伝導であってもよい。それは、マイクロ波電磁界をナノ物体要素に向かって押し戻すことを可能にする。
【0049】
好ましくは、量子構成要素は、少なくとも当該導電層に形成された少なくとも1つのトレンチを備え、少なくとも1つのマイクロ波ゲート電極は、当該少なくとも1つのトレンチによって少なくとも1つの隣接するゲート電極から分離されている。
【0050】
1つの代替の実施形態によれば、量子構成要素は、当該少なくとも1つの導電層内に作製された少なくとも1つのトレンチを備え、少なくとも1つのマイクロ波ゲート電極は、第1の基板上に配置され、当該少なくとも1つのトレンチによって、導電層上に配置された少なくとも1つの隣接するゲート電極から分離されている。
【0051】
好ましくは、基板は、当該少なくとも1つのトレンチを延長するように、部分的にくり抜かれる。
【0052】
前述の2つの実施形態によれば、トレンチの高さは、少なくとも1つのマイクロ波ゲート電極の高さに等しくてもよい。当該電極の高さは、当該マイクロ波電極が配置される外部水平面の間で測定される。トレンチの高さは、ゲート電極が配置される外部水平面からトレンチの底部まで測定される。
【0053】
上記の2つの実施形態によれば、トレンチは、矩形断面を有することができる。
【0054】
トレンチは、マイクロ波ゲート電極によって散乱され、ナノ物体によって感知される電磁界を強化することを可能にする。
【0055】
好ましくは、導電層は、ナノ物体要素に向かってマイクロ波電磁界を押し戻すように、例えば強磁性又は非強磁性の電気材料で作製される。
【0056】
一実施形態によれば、少なくとも1つのナノ物体要素は、二次元又は一次元要素である。好ましくは、少なくとも1つのナノ物体要素は、少なくとも1つのナノチューブ又は少なくとも1つのナノワイヤである。例えば、少なくとも1つのナノ物体要素は、少なくとも1つのカーボンナノ物体要素である。カーボンナノ物体は、半導体層におけるよりも更に長い距離で電子が拡散することを可能にする。
【0057】
好ましくは、ナノチューブ、ナノワイヤはまた、相関基本電子状態を生成することができ、スピンの位置特定及び個々の制御を可能にし、したがって量子情報チェーン又は電荷/スピンポンプの生成を可能にする強い電子-電子相互作用、並びにナノチューブ又は他の相関材料の機械的運動との電子状態の相互作用などの特性の集合を有する。
【0058】
この関係において、本明細書で使用されるナノチューブという用語は、単層及び二層カーボンナノチューブ、並びに半導体ナノワイヤ(例えば、シリコン、GaAsなど)及び他の無機ナノワイヤ(例えば、二硫化モリブデン-MoS2)などの他のタイプのナノチューブを指すことに留意されたい。
【0059】
上述した技術は、単一の電極配置に沿って所望の位置に別個に配置される任意の数の別個のナノチューブ(例えば、1~数十、数百、数千又は任意の数の別個のナノチューブ)を使用する電子デバイスを提供することもできることに留意すべきである。ナノチューブは、少なくとも2つの隆起電極の間に平行に配置されてもよく、かつ/又は電極の異なるセットと関連付けられて、単一の電子デバイス内に2つ以上の量子ドット構造を提供してもよい。加えて、電極の配置は、互いに平行に配置された隆起電極の複数のセットを含むことができ、したがって、単一のナノチューブを隆起電極の複数の対に取り付けることが可能になる。これは、同じナノチューブから構成される複数のトランジスタ構造を提供するため、同様の特性及び清浄度を有するチャネルを有する。
【0060】
したがって、本発明の技術は、各トランジスタ構造が、ソース電極とドレイン電極との間に懸架されたチャネル要素である1つ以上の別個のナノチューブを使用するように、1つ以上のトランジスタ構造を備える電子デバイスを製造することを可能にする。1つ以上のゲート電極が、ソース電極とドレイン電極との間に配置され得、その結果、ナノチューブは、ゲート電極の上に懸架される。
【0061】
ナノチューブは、数ミクロンの間の高さで、又はゲート電極の上の数ナノメートルほどの低さで懸架させることができ、例えば、ナノチューブは、ゲート電極の上の50ナノメートルの高さで懸架させることができる。
【0062】
ナノチューブのパラメータは、トランジスタ構造に所望の電気的特性を与えるように選択することができる。
【0063】
したがって、この組み立て技術は、市販の電子半導体デバイスと比較して優れた電子的清浄度を有する電子デバイスを生成する可能性を提供する。所望の特性を有するナノチューブを好適に選択することによって、結果として得られるデバイスは、デバイス内の電子的障害を大幅に除去又は低減することができる。
【0064】
加えて、デバイスは、懸架ナノチューブの下に配置された1つ以上の局所ゲートを有するように構成することができる。
【0065】
これにより、懸架ナノチューブのサブ部分上に位置し、したがってコンタクト金属から離れた能動素子を有するトランジスタ構造を含む、種々のトランジスタ構造を形成することが可能になる。このことは、近傍の金属によるノイズ及び容量結合を除去するか又は少なくとも著しく減少させるため、従来のデバイスと比較して電子的特性を著しく改善する。トランジスタ構造として機能する場合、電子デバイスは、周囲温度に応じて、単一電子トランジスタ(single electron transistor、SET)及び/又は電界効果トランジスタ(field effect transisto、FET)として動作することができる。加えて、トランジスタ構造は、懸架されたナノチューブに沿って局所化された調整可能なバリアデバイスへの電気的トリガを使用することができる。更に、トランジスタ構造は、電気トリップを使用して、懸架ナノチューブに沿って、数十ナノメートルほどの短い単一の電子量子ドット、又は少なくとも2つの電子量子ドット、並びに直列若しくは並列に接続された複数の量子ドットを生成することができる。加えて、ナノチューブチャネルは、懸架されたナノチューブに沿って高電流を可能にする。
【0066】
好ましくは、少なくとも1つのナノ物体要素は、同位体的に精製又は濃縮された材料を含む。例えば、当該材料は、同位体的に精製された又は濃縮されたガス源から化学蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)によって得られる。
【0067】
一実施形態によれば、少なくとも1つのゲート電極は、ナノ物体要素内に形成された2つの量子ドット間で非共線的である電子のスピンの偏極を生成するように配置及び構成される。好ましくは、少なくとも1つの低周波ゲート電極は、ナノ物体要素内に形成された2つの量子ドット間で非共線的である電子のスピンの偏極を生成するように配置及び構成される。
【0068】
少なくとも1つのゲート電極は、ナノ物体要素内に形成された2つの量子ドット間で非共線的である電子のスピンの偏極を生成するための手段を更に備える。好ましくは、少なくとも1つの低周波ゲート電極は、ナノ物体要素内に形成された2つの量子ドット間で非共線的である電子のスピンの偏極を生成する手段を更に備える。
【0069】
量子構成要素は、以下の特徴を更に有することができる。
【0070】
-少なくとも1つの懸架ナノ物体要素から少なくとも1つのゲート電極を分離する距離は、100ナノメートルである。
【0071】
-少なくとも1つのゲート電極、有利には少なくとも1つの低周波ゲート電極の高さは、少なくとも1つのゲート電極を少なくとも1つの懸架ナノ物体要素から分離する距離よりも大きい。
【0072】
-2つのゲート電極を水平方向に分離する距離は200ナノメートルであり、終点は各電極の中心に位置する。
【0073】
-少なくとも1つのゲート電極は、高磁化材料を含むか、又は高磁化材料から作製される。
【0074】
-少なくとも1つのゲート電極は、材料の単一の層若しくは材料の複数の層を含むか又はそれらからなる。
【0075】
-当該材料は、以下のリスト、すなわち、コバルト、ニッケル、パラジウム、若しくはそれらの混合物、好ましくは、パラジウムとニッケルとの混合物、若しくはパラジウムとコバルトとの混合物から選択される材料を含むか、又はそれらからなる。
【0076】
特に前述の特徴と組み合わせても組み合わせなくてもよい他の任意選択の実施形態によれば、量子構成要素は、以下を含む。
【0077】
-少なくとも1つのゲート電極は、強磁性又は反強磁性又は磁性の多層材料で作製され、好ましくは、少なくとも1つの低周波ゲート電極は、強磁性又は反強磁性又は磁性の多層材料で作製され、好ましくは、少なくとも1つのマイクロ波ゲート電極は、強磁性又は反強磁性又は磁性の多層材料で作製される。
【0078】
-少なくとも1つのゲート電極及び/若しくは少なくとも2つの懸架電極は、強磁性又は反強磁性又は磁性の多層材料で作製される。
【0079】
-ナノ物体内に形成された2つの量子ドット間で非共線的である電子のスピンの偏極を生成するように更に構成することができる少なくとも1つの磁気電極。
【0080】
-ナノ物体内に形成された2つの量子ドット間で非共線的である電子のスピンの偏極を生成するように更に構成することができる少なくとも1つの磁気ゲート電極。
【0081】
-少なくとも1つの磁気電極、好ましくは少なくとも1つの低周波ゲート電極の分極を可能にする均一磁場を印加する手段。
【0082】
-少なくとも1つの磁気ゲート電極、好ましくは少なくとも1つの低周波ゲート電極の分極を可能にする均一磁場を印加するための手段。
【0083】
-一実施形態によれば、当該手段は、好ましくは少なくとも1つのゲート電極の周りに配置された少なくとも1つのコイルを備え、有利には、量子構成要素は、均一磁場を印加するためにコイルの中心に配置される。
【0084】
-当該量子構成要素を制御するための制御手段であって、当該少なくとも1つのマイクロ波ゲート電極が、マイクロ波信号を搬送するように配置されたマイクロ波回路に接続されている、制御手段。
【0085】
-1つの代替の実施形態によれば、少なくとも1つのマイクロ波ゲート電極は、当該量子構成要素を制御するための、制御手段と呼ばれる手段を備え、当該少なくとも1つのマイクロ波ゲート電極は、マイクロ波信号を搬送するように配置されたマイクロ波回路に接続されている。
【0086】
-好ましくは、当該制御手段は、当該構成要素をマイクロ波回路に電磁的に結合するための容量結合手段である。
【0087】
-量子構成要素の制御を可能にする少なくとも1つのマイクロ波ゲート電極であって、このマイクロ波電極は、マイクロ波信号、例えば量子又は非量子信号を搬送するように配置されたマイクロ波回路に接続されている、少なくとも1つのマイクロ波ゲート電極。
【0088】
-複数の量子構成要素を結合するための結合手段であって、当該少なくとも1つのマイクロ波ゲート電極が、マイクロ波信号を搬送するように配置されたマイクロ波回路に接続されている、結合手段。
【0089】
-1つの代替の実施形態によれば、少なくとも1つのマイクロ波ゲート電極は、複数の量子構成要素を結合するための結合手段と呼ばれる手段を備え、当該マイクロ波ゲート電極は、結合マイクロ波信号を搬送するように配置されたマイクロ波回路に接続されている。
【0090】
-好ましくは、当該結合手段は、当該構成要素をマイクロ波回路に電磁的に結合するための容量結合手段である。
【0091】
-少なくとも1つの電極は、以下のリスト、すなわち、コバルト、鉄、ニッケル、パラジウム、それらの合金、マルチフェロイック材料又はそれらの組み合わせから選択される材料、好ましくはコバルト又はパラジウム-ニッケル合金を含み得る。他の任意の磁性材料を使用することができる。
【0092】
マイクロ波回路は、例えばマイクロ波共振器である。
【0093】
第2の態様によれば、本発明は、第1の態様の1つ以上の特徴による少なくとも1つの量子構成要素を備える電子デバイスを提案する。
【0094】
第3の態様によれば、本発明は、量子構成要素を制御するための方法であって、-1つ以上のナノ物体要素を使用して、少なくとも1つのナノ物体内の少なくとも2つの量子状態を定義することであって、少なくとも2つの量子状態が、不均一磁場内にある、定義することと、-マイクロ波電極によって搬送されるマイクロ波発振電気信号に基づいて、不均一磁場の存在下で少なくとも2つの量子状態間で電子の往復運動を引き起こすことであって、電子の運動が、磁場の振動を生成して、電子の一方向に配向されたスピン状態と反対方向に配向されたスピン状態との間で量子遷移を駆動し、したがって、電子のスピン状態に量子ビットゲートを実装する、引き起こすことと、を含む方法を提案する。
【0095】
好ましくは、当該方法は、第1の態様の特徴の1つ以上に従って量子構成要素を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0096】
本発明の他の特徴及び利点は、添付の図面を参照した本発明の以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
図1】第1の実施形態による量子構成要素の断面図を示す。
図2】第2の実施の形態による量子構成要素の断面図を示す。
図3】第3の実施の形態による量子構成要素の断面図を示す。
図4】第4の実施形態による量子構成要素の断面図を示す。
図5】上下に2つのグラフを示し、上のグラフは、一方では、ナノメートル単位の距離の関数としてのナノチューブにおける静電ポテンシャルを灰色の実線で示し、他方では、二重量子ドットにおける電子の2つの結合(黒い実線)及び反結合(黒い点線)状態を黒い線で示し、下のグラフは、2つの磁束漏れ成分のプロファイルを示す。
【0097】
より明確にするために、種々の実施形態の同一又は類似の要素は、全ての図において同一の参照符号によって示される。
【発明を実施するための形態】
【0098】
図1に関連して、量子構成要素の一実施形態が示され、
-高抵抗率材料、例えばシリコーン又はシリコンで作製された基板6と、
-基板6上に配置された、導電性材料、例えばニオブで作製された電気材料の層5と、
-ゲート電極1、2(例示として、5つのゲート電極:4つの低周波ゲート電極及び1つの磁気電極2が示されている)であって、ゲート電極は、絶縁層を介して導電層5上に配置されている、ゲート電極1、2と、
-2つの懸架電極4(例示として、2つの懸架電極が示されている)、すなわち電子源に接続されたソース電極、及び基準ポテンシャルに接続されたドレイン電極であって、懸架電極は、絶縁層を介して導電層5上に配置され、ゲート電極群の両側で、懸架電極は、ゲート電極に対して隆起している、懸架電極と、
-2つの懸架電極4に接続されたナノチューブ又はナノワイヤ8であって、ナノチューブ又はナノワイヤは、ゲート電極の上方に直線的に懸架され、ナノチューブ又はナノワイヤは、好ましくは炭素で作製されている、ナノチューブ又はナノワイヤ8と、
-マイクロ波ゲート電極3と呼ばれるゲート電極であって、処理されることが意図されたマイクロ波読み取り信号を搬送し、量子構成要素の状態を供給するように構成されたマイクロ波回路(図示せず)に接続され、基板6上に配置され、トレンチ7によって、低周波ゲート電極と呼ばれる隣接するゲート電極から分離される、マイクロ波ゲート電極3と称されるゲート電極と、を含む。
【0099】
一実施形態によれば、電極2の幅は、電極2を隣接する電極1から分離する距離の半分以下の距離又は寸法を有する。好ましくは、電極2の幅は、50~250ナノメートルである。
【0100】
図示されていない他の実施形態によれば、量子構成要素は、複数の電極2、例えば少なくとも2つの電極2を備えることができる。例えば、少なくとも2つの電極2は、ゲート電極1に対して交互に配置することができる。
【0101】
好ましくは、トレンチ7は導電層5の厚さを貫通し、その結果、トレンチの全深さはマイクロ波ゲート電極3の高さに実質的に等しい。
【0102】
図2に示される代替の実施形態によれば、トレンチ7は、導電層5の厚さのみを貫通する。マイクロ波ゲート電極3は、絶縁層を介して導電層5上に配設されている。
【0103】
図3によって示される更に別の代替の実施形態によれば、量子構成要素はトレンチを備えない。
【0104】
図4によって示される簡略化された代替の実施形態によれば、量子構成要素は、単一の基板6を備え、トレンチを備えず、特に、強磁性材料、好ましくはコバルトで作製されるか又は覆われた磁気ゲート電極2を備える。更に、電極2は、その近傍に配置された低周波ゲート電極1よりも高い高さを有する。任意選択的に、この特徴は、先行する図によって示される実施形態と組み合わせることができる。この特徴は、双極子場によってナノ物体を分極させ、ナノ物体のスピンを磁化することを可能にする。
【0105】
図5を参照すると、一実施形態による量子構成要素のパッド又はゲート電極によって生成される二重量子井戸の波動関数及び磁場プロファイルが示されている。
【0106】
上又は一番上のグラフを参照すると、二状態波動関数、特にナノメートル単位の軸xの関数としてのナノチューブの静電ポテンシャルが、二重量子ドットで示されている。静電ポテンシャル(灰色の実線で示される)は、これら2つの量子ドットを形成することを可能にする。ポテンシャルプロファイルは、ゲート電極に加えられた電圧の結果である。図、特に図1に示される場合によれば、中央及び端部における高電圧は、中央のゲート電極2及び最も外側の2つのゲート電極1によって生成される。低電圧は、ゲート電極2の両側の2つのゲート電極1によって生成される。このポテンシャルプロファイルは、灰色の領域によって示される二重量子ドットを生成する。黒い線は、例えばカーボンナノチューブ(図示せず)内にホストされた二重量子ドット内の電子の2つの結合(実線)及び反結合(点線)状態を示す。
【0107】
下又は一番下のグラフを参照すると、コバルト強磁性ゲート電極によって生成される磁場プロファイルが示されている。磁気シミュレーションは、高さ100ナノメートル、幅200ナノメートルのコバルト電極について実行された。2つの磁場成分のプロファイルは、コバルト電極の100ナノメートル上方に生成された漏れ磁場に対応し、これは、この電極に対するナノ物体の高さに対応する。コバルト電極は、均一な300mTの磁場によってx方向(二重量子ドット及びナノチューブの軸)に分極される。成分Bz(破線)は、不均一磁場(磁場勾配)を生成し、例えば、成分Bzは、厳密に15mTよりも大きい。
【0108】
この不均一な場と量子状態の波動関数の形状との畳み込み(上のグラフ)は、マイクロ波へのスピンの結合を可能にする非共線偏光の値を与える。好ましくは、懸架材料は純粋であり、中央ゲート電極はコバルトバーである。更に、非共線分極を生成するために、強磁性ドレインソース電極を使用しないことが好ましい。これにより、量子ドットをソース電極及びドレイン電極から遠ざけることができ、これらの電極から発生するノイズを低減することができる。これは、懸架されたナノ物体の理想的なシステムにより近づくことを可能にする。この例は、従来技術の構成要素をしのぐ量子構成要素を提案することを可能にする。

図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】