(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-28
(54)【発明の名称】方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240220BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240220BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240220BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240220BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240220BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240220BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240220BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61P19/02 ZNA
A61K39/395 D
A61K45/00
A61P43/00 121
A61P29/00 101
C07K16/28
C12N15/13
G01N33/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023544258
(86)(22)【出願日】2022-01-21
(85)【翻訳文提出日】2023-09-20
(86)【国際出願番号】 EP2022051297
(87)【国際公開番号】W WO2022157281
(87)【国際公開日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】10202100687X
(32)【優先日】2021-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(31)【優先権主張番号】10202109307T
(32)【優先日】2021-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】503231882
【氏名又は名称】エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ
(71)【出願人】
【識別番号】523275042
【氏名又は名称】タン トック セン ホスピタル プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100107386
【氏名又は名称】泉谷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】バード,フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】トラン,ル・ソン
(72)【発明者】
【氏名】レオン,カイ・パン
(72)【発明者】
【氏名】チア,ジョアン・ジー・フイ
【テーマコード(参考)】
2G045
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CB01
2G045DA36
2G045FB03
4C084AA19
4C084MA16
4C084MA56
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4C084ZA961
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4C085GG04
4C085GG06
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本明細書では、軟骨分解に対する方法及び処置が開示され、該方法は、GalNAc-T活性化(GALA)経路を阻害する治療薬の投与を含む。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における軟骨分解の処置または予防に向けた医薬の製造のための抗カルネキシン(抗CNX)抗体の使用。
【請求項2】
対象における軟骨分解の処置または予防で使用するための抗カルネキシン(抗CNX)抗体。
【請求項3】
軟骨分解を処置または予防する方法であって、対象への抗カルネキシン(抗CNX)抗体の投与を伴う、前記処置または予防する方法。
【請求項4】
前記対象は、変形性関節症、関節リウマチ、乾癬性関節炎、若年性特発性関節炎(JIA)、関節炎フレア、滑液包炎、痛風、軟骨石灰化症、線維筋痛症、肋軟骨炎、軟骨損傷、または多発性軟骨炎を有する、請求項1に記載の使用、請求項2に記載の使用するための抗体、または請求項3に記載の処置する方法。
【請求項5】
前記対象は、関節炎を有する、請求項1に記載の使用、請求項2に記載の使用するための抗体、または請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記関節炎は、変形性関節症または関節リウマチである、請求項5に記載の使用、使用するための抗体、または方法。
【請求項7】
前記軟骨分解は、1つ以上の関節におけるものである、先行請求項のいずれかに記載の使用、使用するための抗体、または方法。
【請求項8】
前記軟骨分解は、関節組織、軟骨組織、及び/または滑膜線維芽細胞における、O-グリコシル化及び/またはGALNT活性化(GALA)の増加によって特徴付けられる、先行請求項のいずれかに記載の使用、使用するための抗体、または方法。
【請求項9】
前記軟骨分解は、関節組織、軟骨組織、及び/または滑膜線維芽細胞における、カルネキシンのO-グリコシル化の増加によって特徴付けられる、先行請求項のいずれかに記載の使用、使用するための抗体、または方法。
【請求項10】
前記軟骨分解は、関節組織、軟骨組織、及び/または滑膜線維芽細胞における、カルネキシンの細胞表面発現量の増加によって特徴付けられる、先行請求項のいずれかに記載の使用、使用するための抗体、または方法。
【請求項11】
前記軟骨分解は、細胞外マトリックス(ECM)の分解によって特徴付けられる、先行請求項のいずれかに記載の使用、使用するための抗体、または方法。
【請求項12】
前記軟骨分解は、滑膜線維芽細胞の前記活性によって媒介される、先行請求項のいずれかに記載の使用、使用するための抗体、または方法。
【請求項13】
前記Cnxに対する抗体は、以下:
(a)ECM分解、または
(b)酸化還元酵素活性、もしくは
(c)ジスルフィド結合還元酵素活性、
を減少させることができる、先行請求項のいずれかに記載の使用、使用するための抗体、または方法。
【請求項14】
前記抗体は拮抗性である、先行請求項のいずれかに記載の使用、使用するための抗体、または方法。
【請求項15】
前記抗体はモノクローナルである、先行請求項のいずれかに記載の使用、使用するための抗体、または方法。
【請求項16】
前記治療薬は、さらなる治療薬と共に、別々に、または逐次的に投与されることになり、前記さらなる治療薬は、抗リウマチ薬である、先行請求項のいずれかに記載の使用、使用するための抗体、または方法。
【請求項17】
前記方法は、前記抗cnx抗体の静脈内、皮下または腹腔内投与を含む、先行請求項のいずれかに記載の使用、使用するための抗体、または方法。
【請求項18】
前記処置または予防は、ヒト対象におけるものである、先行請求項のいずれかに記載の使用、使用するための抗体、または方法。
【請求項19】
対象が、以下のステップ:
i.滑膜線維芽細胞サンプル中のTn抗原、Tnグリカン、CNX細胞表面発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルを検出するステップ、
ii.ステップ(i)におけるTn抗原、Tnグリカン、CNX細胞表面発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルを、対照群の滑膜線維芽細胞サンプルにおけるTn抗原/Tnグリカンのレベルと比較するステップ、を通じて、前記抗cnx抗体による処置に適していると決定され、
ここで、前記サンプルにおいて示されるTn抗原、Tnグリカン、CNX発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルの前記対照群と比較した増加は、前記処置に対する適性を表す、先行請求項のいずれかに記載の使用、使用するための抗体、または方法。
【請求項20】
対象における軟骨分解に関連する障害の存在または非存在を検出する方法であって、以下のステップ:
i.滑膜線維芽細胞サンプル中のTn抗原、Tnグリカン、CNX細胞表面発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルを検出するステップ、
ii.ステップ(i)におけるTn抗原、Tnグリカン、CNX細胞表面発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルを、対照群の滑膜線維芽細胞サンプルにおけるTn抗原/Tnグリカンのレベルと比較するステップ、を含み、
ここで、前記サンプルにおいて示されるTn抗原、Tnグリカン、CNX発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルの前記対照群と比較した増加は、前記処置に対する適性を表す、前記検出する方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法であって、対象における関節炎の存在または非存在を検出するためのものである、前記方法。
【請求項22】
請求項20または請求項21に記載の方法であって、対象における変形性関節症または関節リウマチの存在または非存在を検出するためのものである、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年1月21日に出願されたSG 10202100687X及び2021年8月25日に出願されたSG 10202109307Tの優先権を主張するものであり、それらの内容及び要素は、すべての目的のために、参照により本明細書に組み込まれる。
本発明は一般に、分子生物学の分野に関する。特に、本発明は、関節炎を検出及び処置する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
関節炎は、関節痛及び関節障害の主要原因であり、世界中で成人の4人に1人超が罹患しており、関節炎の最も一般的な2つのタイプは、関節リウマチ(RA)及び変形性関節症(OA)である。
【0003】
現在、変形性関節症患者または関節リウマチ患者のどちらに対しても有効な治療法がない。関節リウマチ患者は、主に免疫系を標的とする、様々な抗リウマチ薬または免疫調節薬(例えば、抗TNFa及び抗IL-6)を受ける。
【0004】
主な問題は、これらの処置によって誘発される免疫不全である。加えて、該処置は、通常、疾患の進行及び再発を完全に停止させることができない。かかる薬物に反応できなかった、重度の末期症状の変形性関節症患者または関節リウマチ患者は、関節置換術を受けなければならなくなるが、このことにはそれ自体の重篤な有害事象のリスクが伴う。
【0005】
したがって、対象において関節炎を検出する方法及び/または関節炎を処置する方法に対する要求は満たされていない。
【発明の概要】
【0006】
1つの態様において、本開示は、対象における関節炎を処置する方法であって、GalNAc-T活性化(GALA)経路を阻害する治療薬の投与を含む、前記方法に言及する。
【0007】
別の態様において、本開示は、対象における関節炎の存在または非存在を検出する方法であって、以下のステップ:対象から滑膜線維芽細胞サンプルを得るステップ、ステップ(i)で得られたサンプル中のTn抗原/Tnグリカンのレベルを検出するステップ、ステップ(ii)のTn抗原/Tnグリカンのレベルを、対照群の滑膜線維芽細胞サンプル中のTn抗原/Tnグリカンのレベルと比較するステップを含み、ここで、サンプルにおいて示されるTn抗原/Tnグリカンのレベルの対照群と比較した増加は、関節炎の存在を表し、対照群は、関節炎を有しない対象からなる、前記方法に言及する。
【0008】
1つの態様において、本開示は、対象における軟骨分解の処置または予防に向けた医薬の製造のための抗カルネキシン(抗CNX)抗体の使用に言及する。
【0009】
別の態様において、本開示は、対象における軟骨分解の処置または予防で使用するための抗カルネキシン(抗CNX)抗体に言及する。
【0010】
別の態様において、本開示は、軟骨分解を処置または予防する方法であって、対象への抗カルネキシン(抗CNX)抗体の投与を伴う、該方法に言及する。
【0011】
いくつかの態様において、対象は、変形性関節症、関節リウマチ、乾癬性関節炎、若年性特発性関節炎(JIA)、関節炎フレア、滑液包炎、痛風、軟骨石灰化症、線維筋痛症、肋軟骨炎、軟骨損傷、または多発性軟骨炎を有する。
【0012】
いくつかの態様において、対象は関節炎を有する。
【0013】
いくつかの態様において、対象は、変形性関節症または関節リウマチを有する。
【0014】
いくつかの態様において、軟骨分解は1つ以上の関節におけるものである。
【0015】
いくつかの態様において、軟骨分解は、関節組織、軟骨組織、及び/または滑膜線維芽細胞における、O-グリコシル化及び/またはGALNT活性化(GALA)の増加によって特徴付けられる。
【0016】
いくつかの態様において、軟骨分解は、関節組織、軟骨組織、及び/または滑膜線維芽細胞における、カルネキシンのO-グリコシル化の増加によって特徴付けられる。
【0017】
いくつかの態様において、軟骨分解は、関節組織、軟骨組織、及び/または滑膜線維芽細胞における、カルネキシンの細胞表面発現量の増加によって特徴付けられる。
【0018】
いくつかの態様において、軟骨分解は、細胞外マトリックス(ECM)の分解によって特徴付けられる。
【0019】
いくつかの態様において、軟骨分解は、滑膜線維芽細胞の活性によって媒介される。
【0020】
いくつかの態様において、Cnxに対する抗体は、以下を減少させることができる:
(a)ECM分解、または
(b)酸化還元酵素活性、もしくは
(c)ジスルフィド結合還元酵素活性。
【0021】
いくつかの態様において、抗体は、軟骨分解を減少させることができる。
【0022】
いくつかの態様において、抗体は、ECM分解を減少させることができる。
【0023】
いくつかの態様において、抗体は、ECM分解活性を減少させることができる。
【0024】
いくつかの態様において、抗体は、CNX:PDIA3(Cnx/ERp57としても知られている)のECM分解活性を減少させることができる。
【0025】
いくつかの態様において、抗体は、CNXのECM分解活性を減少させることができる。
【0026】
いくつかの態様において、抗体は、線維芽細胞のECM分解活性を減少させることができる。
【0027】
いくつかの態様において、抗体は、滑膜線維芽細胞のECM分解活性を減少させることができる。
【0028】
いくつかの態様において、抗体は、酸化還元酵素活性を減少させることができる。
【0029】
いくつかの態様において、抗体は、CNX:PDIA3(Cnx/ERp57としても知られている)の酸化還元酵素活性を減少させることができる。
【0030】
いくつかの態様において、抗体は、CNXの酸化還元酵素活性を減少させることができる。
【0031】
いくつかの態様において、抗体は、ジスルフィド結合還元酵素活性を減少させることができる。
【0032】
いくつかの態様において、抗体は、CNX:PDIA3(Cnx/ERp57としても知られている)のジスルフィド結合還元酵素活性を減少させることができる。
【0033】
いくつかの態様において、抗体は、CNXのジスルフィド結合還元酵素活性を減少させることができる。
【0034】
いくつかの態様において、抗体は、O-グリコシル化を減少させることができる。
【0035】
いくつかの態様において、抗体は、CNXのO-グリコシル化を減少させることができる。
【0036】
いくつかの態様において、抗体は、CNXのグリコシル化を減少させることができる。
【0037】
いくつかの態様において、抗体は、GALAが媒介するCNXのO-グリコシル化を減少させることができる。
【0038】
いくつかの態様において、抗体は、CNX活性を減少させることができる。
【0039】
いくつかの態様において、抗体は、PDIA3活性を減少させることができる。
【0040】
いくつかの態様において、抗体は、PDIA4活性を減少させることができる。
【0041】
いくつかの態様において、抗体は、CNXを発現する細胞の数または割合を減少させることができる。
【0042】
いくつかの態様において、抗体は、PDIA3を発現する細胞の数または割合を減少させることができる。
【0043】
いくつかの態様において、抗体は、PDIA4を発現する細胞の数または割合を減少させることができる。
【0044】
いくつかの態様において、抗体は、CNX:PDIA3を発現する細胞の数または割合を減少させることができる。
【0045】
いくつかの態様において、抗体は拮抗性である。
【0046】
いくつかの態様において、抗体はモノクローナルである。
【0047】
いくつかの態様において、治療薬は、さらなる治療薬と共に、別々に、または逐次的に投与されることになり、該さらなる治療薬は、抗リウマチ薬である。
【0048】
いくつかの態様において、方法は、抗cnx抗体の静脈内、皮下または腹腔内投与を含む。
【0049】
いくつかの態様において、処置または予防は、ヒト対象におけるものである。
【0050】
いくつかの態様において、対象は、以下のステップを通じて、抗Cnx抗体による処置に適していると決定される:
i.滑膜線維芽細胞サンプル中のTn抗原、Tnグリカン、CNX細胞表面発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルを検出するステップ、
ii.ステップ(i)におけるTn抗原、Tnグリカン、CNX細胞表面発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルを、対照群の滑膜線維芽細胞サンプルにおけるTn抗原/Tnグリカンのレベルと比較するステップ、
ここで、サンプルにおいて示されるTn抗原、Tnグリカン、CNX発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルの対照群と比較した増加は、処置に対する適性を表す。
【0051】
1つの態様において、対象における軟骨分解に関連する障害の存在または非存在を検出するための方法が提供され、該方法は、以下のステップを含む:
i.滑膜線維芽細胞サンプル中のTn抗原、Tnグリカン、CNX細胞表面発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルを検出するステップ、
ii.ステップ(i)におけるTn抗原、Tnグリカン、CNX細胞表面発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルを、対照群の滑膜線維芽細胞サンプルにおけるTn抗原/Tnグリカンのレベルと比較するステップ、
ここで、サンプルにおいて示されるTn抗原、Tnグリカン、CNX発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルの対照群と比較した増加は、処置に対する適性を表す。
【0052】
いくつかの態様において、方法は、対象における関節炎の存在または非存在を検出するためのものである。
いくつかの態様において、方法は、対象における変形性関節症または関節リウマチの存在または非存在を検出するためのものである。
【0053】
番号付き記述
1.対象における関節炎を処置する方法であって、GalNAc-T活性化(GALA)経路を阻害する治療薬の投与を含む、前記方法。
【0054】
2.前記治療薬は、GalNAc-T活性化(GALA)経路に関与する細胞表面マーカーのうちのいずれか1つ以上を阻害する、記述1に記載の方法。
【0055】
3.前記治療薬は、カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)、カルネキシン-PDIA3複合体、及びO-グリコシル化マトリックスメタロプロテアーゼ-14(MMP14)からなる群から選択される、GalNAc-T活性化(GALA)経路の標的のうちの1つ以上を阻害する、先行記述のいずれか1つに記載の方法。
【0056】
4.前記GALA経路の標的は、カルネキシン(CNX)及び/またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)である、記述3に記載の方法。
【0057】
5.前記治療薬は、抗体、遺伝子、融合タンパク質、及び発現ベクターからなる群から選択される、先行記述のいずれか1つに記載の方法。
【0058】
6.前記治療薬は、さらなる治療薬と共に、別々に、または逐次的に投与されることになり、前記さらなる治療薬は、抗リウマチ薬である、記述5に記載の方法。
【0059】
7.前記融合タンパク質はER-2Lecである、記述5に記載の方法。
【0060】
8.前記抗体は抗カルネキシン抗体である、記述5に記載の方法。
【0061】
9.前記発現ベクターはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、記述5に記載の方法。
【0062】
10.前記発現ベクターはタンパク質ER-2Lecを発現する、記述5または9に記載の方法。
【0063】
11.前記治療薬の1つ以上は遺伝子治療として投与されることになる、先行記述のいずれか1つに記載の方法。
【0064】
12.対象における関節炎の存在または非存在を検出する方法であって、以下のステップ:
(i)対象から滑膜線維芽細胞サンプルを得るステップ、
(ii)ステップ(i)で得られた前記サンプル中のTn抗原/Tnグリカンのレベルを検出するステップ、
(iii)ステップ(ii)におけるTn抗原/Tnグリカンのレベルを、対照群の滑膜線維芽細胞サンプルにおけるTn抗原/Tnグリカンのレベルと比較するステップ、を含み、
ここで、前記サンプルにおいて示されるTn抗原/Tnグリカンのレベルの前記対照群と比較した増加は、関節炎の存在を表し、前記対照群は、関節炎を有しない対象からなる、前記方法。
【0065】
13.前記関節炎は、関節リウマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎、若年性特発性関節炎(JIA)、及び関節炎フレア/フレアアップからなる群から選択される、先行記述のいずれか1つに記載の方法。
【0066】
本発明は、非限定的な実施例及び添付図面と併せて考慮される際、発明を実施するための形態を参照することにより、よりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【
図1A】関節リウマチ及び変形性関節症のヒトサンプルにおいてO-グリコシル化が亢進していることを示すものであり、O-グリコシル化の高レベルが病変部の状態と相関していることを指し示している。健康な対象(正常)及び変形性関節症患者(OA)、関節リウマチ患者(RA)または乾癬性関節炎患者(PSA)の関節組織を含有するヒト組織マイクロアレイ(TMA)における、Hoechst(上段)による核の免疫組織蛍光染色及びVicia Villosaレクチン(VVL、下段)によるO-GalNAcグリカン(Tnグリカン)染色の代表的画像を示している。スケールバー、5μm。
【
図1B】関節リウマチ及び変形性関節症のヒトサンプルにおいてO-グリコシル化が亢進していることを示すものであり、O-グリコシル化の高レベルが病変部の状態と相関していることを指し示している。個々の組織コアにおけるTnグリカンレベルの定量化グラフを示している。変形性関節症患者は、健康な対象よりも高いO-GalNAcグリカンレベルを呈し、ほとんどの関節リウマチ患者及び2名の乾癬性関節炎患者は、健康な個体よりも高いO-GalNAcグリカンレベルを示した。データは平均値±SEMであり、変形性関節症患者21名、関節リウマチ患者18名、乾癬性関節炎患者6名及び健康な対象7名の組織切片からなる、2つの異なる組織マイクロアレイ(TMA)スライドから合算した。個々のデータポイントは、Vicia Villosaレクチン(VVL)染色の未加工の積算密度を、個々の対象における核染色のそれに対して正規化したものを表している。箱ひげ図はすべての値を示し、箱は25パーセンタイルから75パーセンタイルまで伸長し、エラーバーは最大値から最小値まで及ぶ。*、p<0.05、****、p<0.0001、NS:有意ではない(一元配置ANOVA、クラスカル・ウォリス検定)。
【
図2A】Tnグリカンレベルが関節炎誘発マウスにおいて亢進し、疾患の重症度と相関していることを示している。このことは、高いTnグリカンレベルが病変部の状態と相関していることを指し示している。対照マウス(0日目)から得た、またはII型コラーゲン抗体を注入して誘発させた関節炎(CAIA)マウスから7、10及び14日目に得た、滑膜組織のヘマトキシリン及びエオシン(HE)組織学的検査の結果を示すものである。S:滑膜、B:骨、P:パンヌス、(*):滑膜サブライニングにおける免疫細胞の浸潤、矢印:骨びらん。
【
図2B】Tnグリカンレベルが関節炎誘発マウスにおいて亢進し、疾患の重症度と相関していることを示している。このことは、高いTnグリカンレベルが病変部の状態と相関していることを指し示している。Vicia Villosaレクチン(VVL、上段)及び核(下段)の代表的な免疫蛍光染色画像を示しており、CAIAマウスのパンヌス組織におけるVVL染色の7日目から10日目までの経時的増加を明らかにしている。スケールバー、50μm。
【
図2C】Tnグリカンレベルが関節炎誘発マウスにおいて亢進し、疾患の重症度と相関していることを示している。このことは、高いTnグリカンレベルが病変部の状態と相関していることを指し示している。0日目から14日目までのCAIAマウスにおける臨床スコアの評価結果を示している。データは、各時点あたりマウス4匹の関節炎スコアの平均値である。
【
図2D】Tnグリカンレベルが関節炎誘発マウスにおいて亢進し、疾患の重症度と相関していることを示している。このことは、高いTnグリカンレベルが病変部の状態と相関していることを指し示している。0日目から14日目までのCAIAマウスにおける滑膜中の総Tnレベルの定量結果を示している。個々のデータポイントは、個々の関節の平均Tnレベルを表し、各動物の前足における2つの関節について算出している。箱ひげ図はすべての値を示し、箱は25パーセンタイルから75パーセンタイルまで伸長し、エラーバーは最大値から最小値まで及ぶ。*、p<0.05、**、p<0.01、NS、有意ではない(一元配置ANOVA)。
【
図3A】II型コラーゲン抗体誘発関節炎(CAIA)マウスの滑膜細胞がGALA経路活性化の徴候を呈することを指し示すデータを示すものである。これは、疾患モデルにおける滑膜細胞でGALA経路が活性化していることによって、GALA経路が治療標的となることを指し示している。Vicia Villosaレクチン(VVL)と小胞体(ER)常在タンパク質カルネキシン(CNX)との共染色画像を示し、関節炎誘発マウスの滑膜におけるTnグリカンレベルの顕著な増加を示している。スケールバー50μm。拡大画像は、関節炎関節において、VVL染色がCNXと共局在したことを示すものであり、GALAの活性化状態を指し示している。拡大スケール4x、S:滑膜、B:骨、矢印はVVLのゴルジ体パターン(未処理マウスにおける)またはER染色パターン(CAIAマウスにおける)のいずれかを示す。
【
図3B】II型コラーゲン抗体誘発関節炎(CAIA)マウスの滑膜細胞がGALA経路活性化の徴候を呈することを指し示すデータを示すものである。これは、疾患モデルにおける滑膜細胞でGALA経路が活性化していることによって、GALA経路が治療標的となることを指し示している。GALNT2と小胞体(ER)常在タンパク質カルネキシン(CNX)との共染色画像を示し、関節炎誘発マウスの滑膜におけるTnグリカンレベルの顕著な増加を示している。スケールバー50μm。拡大画像は、関節炎関節において、GALNT2酵素がCNXと共局在したことを示すものであり、GALAの活性化状態を指し示している。拡大スケール4x、S:滑膜、B:骨、矢印はGALNT2のゴルジ体パターン(未処理マウスにおける)またはER染色パターン(CAIAマウスにおける)のいずれかを示す。
【
図4】II型コラーゲン抗体誘発関節炎(CAIA)マウスにおいて、滑膜線維芽細胞(SF)が、GALA活性化を呈する主要な細胞型であることを明らかにしている画像を示すものであり、疾患モデルでは、滑膜細胞においてGALA経路が活性化され、それによってGALA経路が治療標的となることを指し示している。Vicia Villosaレクチン(右下パネル)と線維芽細胞マーカービメンチン(左下パネル)、免疫細胞マーカー抗CD45(右上パネル)及び核(左上パネル)との共染色は、CAIAマウスのパンヌス組織における免疫細胞(丸)、線維芽細胞(四角)の相対的分布及びそれらのTn発現レベルを示している。スケールバー、50μm。
【
図5】変形性関節症患者及び関節リウマチ患者の両者に由来する滑膜ライニング線維芽細胞が、強力なGALA活性化を呈することを明らかにしている画像を示すものであり、疾患モデルでは、滑膜細胞においてGALA経路が活性化され、それによってGALA経路が治療標的となることを指し示している。パネルAは、関節リウマチ患者及び変形性関節症患者から得た滑膜組織のヘマトキシリン及びエオシン(H&E)組織学的検査の結果を示している。「*」は、RA滑膜サブライニングにおける免疫細胞の浸潤を表す、SL:滑膜ライニング。スケールバー、100μm。パネルBは、変形性関節症滑膜(上パネル)及び関節リウマチ滑膜(下パネル)の代表的な免疫蛍光画像を示すものであり、サブライニング(破線で区切られている)において、FAPα(矢先)によって同定される、滑膜ライニング線維芽細胞(SF)での強度のTnグリカンレベルと、CD45によって同定される免疫細胞での希薄なTn染色とを示している。スケールバー、50μm。
【
図6】変形性関節症患者及び関節リウマチ患者の初代滑膜線維芽細胞(SF)が、関節炎を促進するサイトカイン及び軟骨細胞外マトリックス(ECM)による刺激に応答して、強度なGALA活性化を誘導することを指し示しているデータを示すものである。このことは、GALA経路が関節炎の症状及び疾患進行の原因であることを示している。パネルAは、健康な対象(HCSF)、変形性関節症患者(OASF)及び関節リウマチ患者(RASF)から確立した、初代滑膜線維芽細胞培養物の高純度(>90%)を示している蛍光活性化セルソーティング(FACS)ドットプロットを示すものである。パネルBは、Helix pomatiaレクチン(HPL)染色の代表的画像を示すものであり、変形性関節症滑膜線維芽細胞及び関節リウマチ滑膜線維芽細胞の両方において、基礎条件下で、Tnグリカンレベルが、HCSF滑膜線維芽細胞と比較して高いことを示している。その高さは、IL1β及びTNFαを含む関節炎促進性サイトカイン(CYTO)及び軟骨細胞外マトリックスでそれらの細胞をプライミングした後に加速度的に増大する。スケールバー、20μm。パネルCは、HCSF、OASF及びRASFにおけるHelix pomatiaレクチン(HPL)レベルを、基礎条件下、及びCYTOのみでの刺激下(コーティングなし)または軟骨細胞外マトリックスもしくはI型コラーゲン細胞外マトリックスとの併用刺激下で定量した結果を示している。データは2つの独立した実験の平均値±SEMである。*p<0.05、***<0.001、****p<0.0001、NS:有意ではない(二元配置ANOVA)。
【
図7A】滑膜線維芽細胞におけるGALA活性化が軟骨細胞外マトリックスの分解を促進することを指し示しているデータを示すものであり、GALA経路が関節炎の症状及び疾患進行の原因であることを示している。ERでドキシサイクリン(DOX)誘導性のGALNT2の2つのレクチンドメインを発現する構築物(ER-2Lec)を、SW982滑膜線維芽細胞に安定的にトランスフェクトすることにより、滑膜線維芽細胞におけるGALAを阻害するためのストラテジーを示している。
【
図7B】滑膜線維芽細胞におけるGALA活性化が軟骨細胞外マトリックスの分解を促進することを指し示しているデータを示すものであり、GALA経路が関節炎の症状及び疾患進行の原因であることを示している。関節リウマチ関連サイトカイン(CYTO、IL1β及びTNFα)で刺激した後の、SW982細胞及びER-2Lec発現SW982細胞のマトリックス分解活性結果の代表的画像を示している。矢印は、分解されたマトリックスを示す。
【
図7C】滑膜線維芽細胞におけるGALA活性化が軟骨細胞外マトリックスの分解を促進することを指し示しているデータを示すものであり、GALA経路が関節炎の症状及び疾患進行の原因であることを示している。CYTO(IL1β及びTNFα)で刺激した後の、GALA阻害SW982細胞におけるマトリックス分解活性の低下を示す定量化グラフを示している。データは平均値±SEMに対応し、3つの独立した実験の代表値である。各データポイントは、ウェルあたりの核あたりの総分解面積(μm)を表す。***、p<0.001、****p<0.0001(一元配置ANOVA)。
【
図8】in vivoでの滑膜線維芽細胞におけるER-2Lec発現がGALA活性化を抑制することを指し示しているデータを示すものであり、関節炎の処置または関節炎に関連する症状の緩和における、ER-2Lec発現の有効性を明らかにしている。示した代表的画像は、ER-2Lecが、主にCol6a1Cre ER-2Lecマウスの滑膜において、EGFP陽性染色(矢先)により同定される滑膜線維芽細胞で発現されること、及びかかる細胞がVVL染色の減少を呈することを指し示していることから、GALAの阻害が指し示される。換言すれば、パネルBは、関節炎誘発後のGALA阻害関節の線維芽細胞(EGFP陽性細胞)における、O-GalNAcグリカンの減少を示しているVVL染色の結果を示すものである。B:骨、S:滑膜。スケールバー、50μm。
【
図9A】CAIAマウスの足の腫脹を軽減する、ER-2Lec発現によるGALA阻害効果を説明する画像を示すものであり、関節炎の処置または関節炎に関連する症状の軽減における、ER-2Lec発現の有効性を示している。足の厚さを分析することにより、Col6a1Cre ER-2Lecマウスでは、Col6a1Cre対照マウスと比較して、関節炎誘発後7日目の前足及び後足の両方における腫脹レベルが軽減したことが明らかになった。
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図9B】CAIAマウスの足の腫脹を軽減する、ER-2Lec発現によるGALA阻害効果を説明するグラフを示すものであり、関節炎の処置または関節炎に関連する症状の軽減における、ER-2Lec発現の有効性を示している。足の厚さを分析することにより、Col6a1Cre ER-2Lecマウスでは、Col6a1Cre対照マウスと比較して、関節炎誘発後7日目の前足及び後足の両方における腫脹レベルが軽減したことが明らかになった。データは2つの独立した実験の平均値±SEMであり、各群n=5マウスである。**、p<0.01(一元配置ANOVA)。
【
図10】滑膜線維芽細胞(SF)におけるER-2Lec発現によるGALA阻害が、CAIAマウスの臨床スコアを低下させることを指し示すデータを示すものであり、ひいては、ER-2Lec発現が臨床スケールでの関節炎処置に有効であることを指し示している。臨床スコアの測定により、Col6a1Cre ER-2Lecマウスでは、Col6a1Cre対照マウスと比較して、関節炎誘発後7日目の関節炎の重症度が低減することが示される。データは2つの独立した実験の平均値±SEMであり、各群n=5マウスである。P=0.09(ノンパラメトリックt検定、マン・ホイットニー検定)。
【
図11A】滑膜線維芽細胞におけるER-2Lec発現でGALAを阻害することによって、CAIAマウスが軟骨分解から保護されることを指し示す画像を示すものであり、関節炎の処置または関節炎に関連する症状の緩和における、ER-2Lec発現の有効性を明らかにしている。未処理のCol6a1Creマウスまたは関節炎誘発Col6a1Creマウス及びCol6a1Cre ER-2Lecマウスにおける、7日目のアルシアンブルー(AB)染色を示す代表的画像を示している。
【
図11B】滑膜線維芽細胞におけるER-2Lec発現でGALAを阻害することによって、CAIAマウスが軟骨分解から保護されることを指し示す画像を示すものであり、関節炎の処置または関節炎に関連する症状の緩和における、ER-2Lec発現の有効性を明らかにしている。未処理のCol6a1Creマウスまたは関節炎誘発Col6a1Creマウス及びCol6a1Cre ER-2Lecマウスにおける、7日目のサフラニン-O(SO)染色を示す代表的画像を示している。
【
図11C】滑膜線維芽細胞におけるER-2Lec発現でGALAを阻害することによって、CAIAマウスが軟骨分解から保護されることを指し示すデータを示すものであり、関節炎の処置または関節炎に関連する症状の緩和における、ER-2Lec発現の有効性を明らかにしている。AB染色陽性領域(スケールバー)の定量結果を示している。このデータは、GALA阻害マウス(Col6aCre ER-2Lec)では、関節炎誘発性の軟骨マトリックス分解が回復することを示している。各データポイントは、1匹の動物の3つの異なる中手指節関節の関節軟骨mm2あたりの陽性染色面積の平均値を表している。データは平均値±SEMとして示した。*、p<0.05、**、p<0.01、**、p<0.001(一元配置ANOVA検定)。
【
図11D】滑膜線維芽細胞におけるER-2Lec発現でGALAを阻害することによって、CAIAマウスが軟骨分解から保護されることを指し示すデータを示すものであり、関節炎の処置または関節炎に関連する症状の緩和における、ER-2Lec発現の有効性を明らかにしている。SO染色陽性領域(スケールバー)の定量結果を示している。このデータは、GALA阻害マウス(Col6aCre ER-2Lec)では、関節炎誘発性の軟骨マトリックス分解が回復することを示している。各データポイントは、1匹の動物の3つの異なる中手指節関節の関節軟骨mm2あたりの陽性染色面積の平均値を表している。データは平均値±SEMとして示した。*、p<0.05、**、p<0.01、**、p<0.001(一元配置ANOVA検定)。
【
図12】関節炎誘発滑膜線維芽細胞において、GALAがカルネキシン(CNX)のO-グリコシル化を活性化することを指し示しているデータを示すものである。これは、病変部の状態におけるGALA経路の効果を示しており、カルネキシンを治療標的として同定するものである。パネルA及びBは、VVLレクチンを用いた共免疫沈降のブロット結果(A)及び定量化グラフ(B)を示すものであり、O-GalNAcグリコシル化カルネキシン(CNX)のレベルは、関節炎関連サイトカイン(CYTO)及び軟骨細胞外マトリックス(ECM)で刺激した後のSW982細胞では亢進するが、ドキシサイクリン(DOX)誘導性ER-2Lec発現SW982細胞では低下することを示している。アクチンをローディングコントロールとして使用した。パネルBにおいて、データは平均値±SEMとして示し、3つの独立した実験の代表値である。*、p<0.05、**、p<0.01(一元配置ANOVA検定)。
【
図13A】関節炎誘発滑膜線維芽細胞において、GALAがカルネキシン(CNX)の細胞表面露出を誘導することを指し示しているデータを示すものである。これは、病変部の状態におけるGALA経路の効果を示しており、カルネキシンを治療標的として同定するものである。フローサイトメトリーヒストグラムプロットを示すものであり、関節炎誘発性サイトカイン(CYTO)及び軟骨細胞外マトリックス(ECM)で刺激した後の、表面カルネキシン(CNX)を発現する滑膜線維芽細胞の割合の増加を示している。ER-2Lec発現SF細胞では、細胞表面CNXの誘導が減少している。
【
図13B】関節炎誘発滑膜線維芽細胞において、GALAがカルネキシン(CNX)の細胞表面露出を誘導することを指し示しているデータを示すものである。これは、病変部の状態におけるGALA経路の効果を示しており、カルネキシンを治療標的として同定するものである。定量化グラフを示すものであり、関節炎誘発性サイトカイン(CYTO)及び軟骨細胞外マトリックス(ECM)で刺激した後の、表面カルネキシン(CNX)を発現する滑膜線維芽細胞の割合の増加を示している。ER-2Lec発現SF細胞では、細胞表面CNXの誘導が減少している。データは平均値±SEMとして示し、2つの独立した実験の代表値である。**、p<0.01、***、p<0.001(一元配置ANOVA検定)。
【
図14A】変形性関節症(OA)及び関節リウマチ(RA)の両患者の初代滑膜線維芽細胞において、カルネキシン(CNX)の表面露出が亢進しており、したがって、カルネキシンが関節炎の処置における治療標的として同定されることを指し示すデータを示すものである。フローサイトメトリーヒストグラムプロットを示すものであり、基礎条件下または関節炎促進性サイトカイン(CYTO)及び軟骨細胞外マトリックス(ECM)による刺激下では、変形性関節症滑膜線維芽細胞(OASF)または関節リウマチ滑膜線維芽細胞(RASF)における表面CNX陽性細胞の割合が、健康な対照滑膜線維芽細胞(HCSF)のそれと比較して高いことを明らかにしている。
【
図14B】変形性関節症(OA)及び関節リウマチ(RA)の両患者の初代滑膜線維芽細胞において、カルネキシン(CNX)の表面露出が亢進しており、したがって、カルネキシンが関節炎の処置における治療標的として同定されることを指し示すデータを示すものである。定量化グラフを示すものであり、基礎条件下または関節炎促進性サイトカイン(CYTO)及び軟骨細胞外マトリックス(ECM)による刺激下では、変形性関節症滑膜線維芽細胞(OASF)または関節リウマチ滑膜線維芽細胞(RASF)における表面CNX陽性細胞の割合が、健康な対照滑膜線維芽細胞(HCSF)のそれと比較して高いことを明らかにしている。データは平均値±SEMとして示し、2つの独立した実験の代表値である。*、p<0.05、***、p<0.001(一元配置ANOVA検定)。
【
図15】ジスルフィド結合が軟骨細胞外マトリックス(ECM)に豊富に存在することを指し示している画像を示すものである。このことから、CNX:PDIA3複合体(すなわち、ジスルフィド結合に対する該複合体の還元作用)が治療標的として同定される。代表的な免疫蛍光染色画像は、軟骨細胞外マトリックス(ECM)における、III型コラーゲン(Col III)、I型コラーゲン(Col I)及びフィブロネクチンを含有するコラーゲン線維の染色を示している。コラーゲンのジスルフィド結合を、OX133抗体での染色によって検出され得るTCEPを用いて化学的に還元するか、または未処理のままにする(UT)。スケールバー、5μm。
【
図16】カルネキシン(CNX)の遮断により、変形性関節症患者の初代滑膜線維芽細胞の軟骨分解活性が低下しており、したがって、カルネキシンが関節炎の処置における治療標的として同定されることを指し示すデータを示すものである。パネルA及びBは、抗CNX抗体またはアイソタイプ対照抗体とインキュベートした後の、変形性関節症患者から単離した初代線維芽細胞におけるマトリックス分解活性の低下を示す、代表的画像(A)及び定量化グラフ(B)を示すものである。データは平均値±SEMに対応し、3つの独立した実験の代表データである。各データポイントは、ウェルあたりの核あたりの総分解面積(μm)を表す。***、p<0.001(一元配置ANOVA)。
【
図17】カルネキシン(CNX)に対する抗体での処置により、CAIAマウスの足の腫脹が軽減することを指し示しているデータを示すものであり、関節炎の処置における抗カルネキシン抗体の使用の有効性を明らかにしている。パネルAは、抗体処置スキームの概略を示している。パネルBは、抗CNX抗体で処置したCAIAマウス、または未処置のままのCAIAマウスの10日目における代表的写真を示すものである。パネルCは、足の厚さを測定してプロットした折れ線グラフを示すものであり、抗CNX抗体注入後のCAIAマウスにおける足の腫脹の軽減を示している。データは平均値±SEMを表し、各群n=4~5マウスである。*、p<0.05(二元配置ANOVA検定)。
【
図18】カルネキシン(CNX)に対する抗体での処置により、CAIAマウスにおける関節炎の重症度が軽減し、したがって、関節炎の処置における抗カルネキシン抗体の使用の有効性が明らかにされることを指し示すグラフを示すものである。アイソタイプ対照抗体または抗CNX抗体による処置後10日目におけるCAIAマウスの臨床スコアである。データは平均値±SEM、各群n=4~5マウス。P値はノンパラメトリックt検定(マン・ホイットニー検定)により推定した。
【
図19A】カルネキシン(CNX)に対する抗体での処置により、CAIAマウスが軟骨分解から保護され、したがって、関節炎の処置または関節炎もしくは関節炎の症状の悪化の予防における、抗カルネキシン抗体の使用の有効性が明らかになることを指し示しているデータを示すものである。アイソタイプ対照または抗CNX抗体で処置したCAIAマウスにおける、アルシアンブルー(AB)染色(矢印の枠)を示している代表的な組織像を示す。
【
図19B】カルネキシン(CNX)に対する抗体での処置により、CAIAマウスが軟骨分解から保護され、したがって、関節炎の処置または関節炎もしくは関節炎の症状の悪化の予防における、抗カルネキシン抗体の使用の有効性が明らかになることを指し示しているデータを示すものである。アイソタイプ対照または抗CNX抗体で処置したCAIAマウスにおける、サフラニン-O(SO)染色(矢印の枠)を示している代表的な組織像を示す。
【
図19C】カルネキシン(CNX)に対する抗体での処置により、CAIAマウスが軟骨分解から保護され、したがって、関節炎の処置または関節炎もしくは関節炎の症状の悪化の予防における、抗カルネキシン抗体の使用の有効性が明らかになることを指し示しているデータを示すものである。抗CNX抗体で処置したCAIAマウスにおける、アイソタイプ対照抗体で処置したものと比較した、AB染色面積の増加を示す定量化グラフを示す。個々のデータポイントは、1匹の動物の個々の中手指節関節に由来する関節軟骨mm
2あたりの陽性染色面積の平均値を表しており、各群n=4~5マウスである。データは平均値±SEMとして示した。*、p<0.05、**、p<0.01(マン・ホイットニー検定)。
【
図19D】カルネキシン(CNX)に対する抗体での処置により、CAIAマウスが軟骨分解から保護され、したがって、関節炎の処置または関節炎もしくは関節炎の症状の悪化の予防における、抗カルネキシン抗体の使用の有効性が明らかになることを指し示しているデータを示すものである。抗CNX抗体で処置したCAIAマウスにおける、アイソタイプ対照抗体で処置したものと比較した、SO染色面積の増加を示す定量化グラフを示す。個々のデータポイントは、1匹の動物の個々の中手指節関節に由来する関節軟骨mm
2あたりの陽性染色面積の平均値を表しており、各群n=4~5マウスである。データは平均値±SEMとして示した。*、p<0.05、**、p<0.01(マン・ホイットニー検定)。
【
図20】抗カルネキシン(CNX)抗体がCAIAマウスの滑膜に集積されていることを指し示す画像を示すものである。代表的な免疫蛍光画像は、抗CNX抗体またはアイソタイプ対照抗体を注入したCAIAマウスにおける、10日目のVVLと抗CNX抗体との共染色(矢先)を示している。これによって明らかになるのは、抗CNX抗体の集積により、それらのCAIAマウス滑膜に対する結合及び標的能力が示され、対照的に、対照アイソタイプ抗体では結合がないことである。このことは、カルネキシンがCAIAマウスの滑膜における細胞により発現されること、及び治療に向けて滑膜細胞を抗CNX抗体で特異的に標的とし得ることを指し示している。B:骨、S:滑膜。スケールバー、50μm。
【
図21A】GALA標的スクリーニングの結果及びそれの初代関節炎滑膜線維芽細胞に対する効果の検証結果を指し示すデータを示すものである。GALA標的及びそれらの遮断モダリティを選択するためのハイコンテントスクリーニングの概略図を示す。滑膜線維芽細胞(SF)(SW982)を、GALA標的遮断薬(抗体またはsiRNA)の存在下、消光させた蛍光性軟骨マトリックス成分(DQコラーゲン)上で培養した。滑膜線維芽細胞におけるGALAの分解活性により、蛍光シグナルが増加するが(対照パネル)、遮断薬で処理した滑膜線維芽細胞では、分解活性を阻害することができた。
【
図21B】GALA標的スクリーニングの結果及びそれの初代関節炎滑膜線維芽細胞に対する効果の検証結果を指し示すデータを示すものである。VVLで染色した結果を示すものであり、ゴルジ体の外でTnグリカンの高発現が示されていることから(ゴルジ体マーカーのGiantinで同定)、変形性関節症患者から単離した初代滑膜線維芽細胞(OASF)におけるGALA活性化が指し示される。スケールバー、5μm。
【
図21C】GALA標的スクリーニングの結果及びそれの初代関節炎滑膜線維芽細胞に対する効果の検証結果を指し示すデータを示すものである。抗カルネキシン抗体及び抗MMP14抗体で処理した、変形性関節症患者から単離した初代滑膜線維芽細胞(OASF)における、マトリックス分解活性の低下を明らかにする定量化グラフを示す。各データポイントは、視野あたりの核に対する分解されたDQコラーゲンの未加工積算密度の比を表す。データは平均値±SEM、各群n=20視野。*、p<0.05、**、p<0.01、NS、有意ではない(一元配置ANOVA検定)。
【
図22】抗CNX抗体またはアイソタイプ対照抗体を注入したマウスのデータを示すものである。このデータは、双方の間で体重変化が同等であることを示している。A:アイソタイプ対照抗体または抗CNX抗体で処置したCAIAマウスの体重変化。B及びC:アイソタイプ対照抗体または抗CNX抗体で処置したCAIAマウスの代表的な組織像(B)及びサフラニン-O(SO)染色面積の定量化。個々のデータポイントは、1匹の動物の個々の中手指節関節に由来する関節軟骨mm2あたりの陽性染色面積の平均値を表しており、各群n=4~5マウスである。データは平均値±SEMとして示した。*、p<0.05、**、p<0.01(マン・ホイットニー検定)。
【
図23】関節炎患者及び関節炎誘発動物の両方の滑膜組織における、O-GalNAc(Tn)グリカン組織分析を示すものである。A:変形性関節症(OA)、乾癬性関節炎(PSA)、関節リウマチ(RA)及び健康な対象(正常)のヒト組織マイクロアレイ(TMA)切片における、VVLレクチンによるO-GalNAcグリカンの代表的免疫組織蛍光染色。倍率10X、スケールバー、500μm。B:7日目のII型コラーゲン抗体誘発関節炎(CAIA)マウス、または未処理のままのマウス(UNT)におけるHE組織像(上段)及びVVLレクチンによる免疫組織化学染色(下段)。
【
図24】OA滑膜組織分析及び初代滑膜線維芽細胞の精製基準を示すものである。A:(左)OA患者から得た滑膜組織のH&E組織像。スケールバー、100μm、SL:滑膜。(右)VVL/CD45及びFAPαで染色したOA滑膜の代表的免疫蛍光画像。滑膜ライニング線維芽細胞は、FAPαで同定した(矢先)。免疫細胞は、CD45で同定した。サブライニング層及びライニング層の境界は、破線で規定した。スケールバー、50μm。B:健康な対象(HCSF)、OA患者(OASF)及びRA患者(RASF)から確立した、初代SF培養物の高純度(>90%)を示しているFACSドットプロットである。
【
図25】GALA活性化により、CAIAマウスの軟骨に対する損傷が引き起こされることを示している。A:未処理Col6a1Creマウスまたは関節炎誘発Col6a1Creマウス及びCol6a1Cre ER-2Lecマウスの7日目におけるサフラニン-O(SO)(B)染色の代表的画像。スケールバー、100μm。B及びC:SO染色の厚さ(B)及び総陽性染色面積(C)の定量化。関節炎誘導性軟骨マトリックス分解は矢先で指し示している。各データポイントは、1匹の動物の3つの異なる中手指節関節の関節軟骨mm2あたりの陽性染色面積の平均値を表している。データは平均値±SEMとして示した。p<0.01、****、p<0.0001(一元配置ANOVA検定)。
【
図26】モノクローナル抗カルネキシン抗体クローン2G9の結合データを示すものである。データはELISAアッセイを用いて生成した。アッセイにより、クローン2G9及び市販のモノクローナル抗体ab10286は、Cnxに対して高い特異性があり(左の棒)、BSAコーティングウェルにはほとんど結合しなかった(右の棒)ことが明らかになった。陰性対照hIgGは、カルネキシンと有意に結合しなかった。データは平均値±SEMに対応し、3つの独立した実験の代表データである。
【
図27】抗体2G9及びab10286の段階希釈により実施したELISAエッセイに基づく、モノクローナル抗カルネキシン抗体クローン2G9のさらなる結合データを示すものである。データは、市販のモノクローナル抗体ab10286と比較して、2GPのより高い親和性及び/または結合活性を示唆している。
【
図28】モノクローナル抗カルネキシン抗体クローン2G9のECM分解能力を実証するECM分解アッセイデータを示すものである。パネルA及びBは、代表的画像(A)及び定量化グラフ(B)を示すものであり、2G9が、未処置対照と比較して、ECM分解を90%減少させることができたことを示している。データは平均値±SEMに対応し、3つの独立した実験の代表データである。
【
図29】さらなるECM分解アッセイデータを示すものである。IgG4フォーマットの2G9もECM分解を遮断することができる。データは平均値±SEMに対応し、3つの独立した実験の代表データである。***、p<0.001(一元配置ANOVA)。
【発明を実施するための形態】
【0068】
軟骨分解の処置におけるGalNAc-T活性化(GALA)阻害剤
細胞外マトリックスの分解は、軟骨変性、軟骨分解、軟骨分解に関連する障害、及び関節障害における重要な因子である。具体的には、細胞外マトリックスの分解は、変形性関節症、乾癬性関節炎、関節リウマチ、滑液包炎、痛風、軟骨石灰化症、線維筋痛症、肋軟骨炎、離断性骨軟骨炎、軟骨損傷、及び多発性軟骨炎等の障害の発症、進行または悪化を導き得る。
【0069】
ほとんどの組織において、線維芽細胞は、細胞外マトリックスの産生に関与する重要な細胞型である。しかしながら、線維芽細胞は、マトリックスを分解することもでき、組織のこの必須成分のターンオーバーを可能にする。線維芽細胞がこれら2つの相反する活性をどのように制御しているかは、不明なままである。
【0070】
滑膜線維芽細胞(SF)は滑膜細胞とも呼ばれ、典型的な二面性の細胞である。健康な個体では、SFは、ヒアルロン酸及びラブリシン等のタンパク質を分泌することにより、滑液の粘性に寄与している(Jay et al.,J.Rheumatol.27,594-600,2000)。関節炎疾患では、SFは、軟骨、具体的には軟骨の細胞外マトリックス(ECM)に付着し、それを分解する。関節炎におけるこの活性の変化を理解することが、近年の研究の主な焦点となっている(Ospelt.RMD Open.3,e000471,2017)。
【0071】
GALNTs活性化経路(GALA)は、MMP14及びカルネキシンのグリコシル化を通じて、がん細胞におけるECM分解を制御している。本発明者らは、軟骨分解、軟骨分解に関連する障害、及び関節障害が、GALA及びO-グリコシル化レベルの増加とも関連していることを、本明細書にて初めて実証する。
【0072】
GALAは、少なくとも2つの機序を通じてマトリックスの分解を誘導する。第1に、そのタンパク質分解活性に必要とされる、MMP14のグリコシル化を刺激する(Nguyen et al.,Cancer Cell.32,639-653.e6,2017)。第2に、GALAは、ERp57(別名PDIA3)と複合体を形成する、ER常在タンパク質カルネキシンのグリコシル化を誘導する(Ros et al.,Nat.Cell Biol.22,1371-1381.2020)。GALA-グリコシル化に続いて、Cnx-PDIA3複合体の一部分は、がん細胞の表面に移動する。複合体はインベードソームに集積し、ECMのジスルフィド結合を還元する(Ros et al.,Nat.Cell Biol.22,1371-1381.2020)。この還元は、ECMの効果的な分解に必須である(Ros et al.,Nat.Cell Biol.22,1371-1381.2020)。
【0073】
本発明者らは、GALA阻害剤による軟骨分解の処置も実証する。具体的には、抗cnx抗体の使用を通じたGALAの阻害により、in vivoでのECM分解及び関節炎症状が軽減することが示されている。
【0074】
発明者らの結果は、GALA O-グリコシル化を、線維芽細胞の病理学的な軟骨分解活性化における重要なスイッチとして指し示している。
【0075】
軟骨分解
軟骨分解は、ある特定の障害(例えば、関節炎、軟骨石灰化症、及び多発性軟骨炎)及びそれらの進行を通じて、ならびに機械的損傷(例えば、スポーツ傷害)を通じて生じ得る。軟骨分解を有する人は、一般に、関節痛、こわばり、及び炎症を経験し、これらは生活の質に影響を与え得る。
【0076】
ある特定の障害及び疾患は、軟骨分解と関連している。さらに、軟骨分解は、ある特定の障害/疾患(例えば、関節炎、軟骨石灰化症、及び多発性軟骨炎)の機序によって引き起こされ得る。
【0077】
本発明者らは、軟骨分解を、抗cnx抗体等のGALA阻害剤で処置し得ることを実証している。
【0078】
軟骨分解に関連する多数の異なる障害があり、それらの多くは処置が困難である。Krishnan and Grodzinsky(2018)は、「Cartilage Diseases」と題された彼らの出版物の中で、軟骨に関わるほとんどの疾患は、ECMに劇的な変化をもたらし、このことにより、(1)疾患の進行が支配され得る(例えば、変形性関節症)、(2)疾患の主症状が引き起こされ得る(例えば、遺伝的に受け継がれた変異が原因となる小人症)、または(3)他の近傍の組織で生じる病理学的プロセスの付随的損傷として生じ得る(例えば、離断性骨軟骨炎及び炎症性関節症)、と記述している。さらに、軟骨疾患に関連する課題には、病因及び病原の理解不足が含まれることが記述されている(Krishnan and Grodzinsky.Matrix Biol.2018 Oct;71-72:51-69)。
【0079】
軟骨は、滑膜関節、脊椎、肋骨、外耳、鼻、及び気道、ならびに小児及び青年の成長板に見られる、無血管性、無神経性、無リンパ性結合組織である。ヒトに見られる軟骨には、硝子、線維及び弾性の3つの主要なタイプがある(Wachsmuth et al.,Histol Histopathol.2006 May;21(5):477-85)。したがって、軟骨におけるECMの分解は、多くの異なる障害を引き起こし得る。
【0080】
軟骨分解は、硝子軟骨、線維軟骨または弾性軟骨で生じる可能性がある。軟骨分解に関連する障害は、硝子軟骨分解、線維軟骨分解または弾性軟骨分解を伴う障害であり得る。
【0081】
硝子軟骨は、最も広く一般的なタイプの軟骨であり、胎児の骨格を構成するタイプである。ヒトの成人では、関節軟骨として自由に動く関節の骨の端、肋骨の端、鼻、喉頭、気管、及び気管支に存続する。
【0082】
線維軟骨は、主に椎間板ならびに靭帯及び腱の挿入部に見られる、強靭で丈夫な組織であり、他の線維組織と似ているが、軟骨基質及び軟骨細胞を含有している。
【0083】
弾性軟骨は、コラーゲンに加えて弾性線維を含有するため、他の2つの型よりも柔軟性がある。ヒトでは、外耳、中耳の耳管、及び喉頭蓋を構成する。
【0084】
軟骨分解を有する対象は、関節炎、変形性関節症、乾癬性関節炎、関節リウマチ、痛風、軟骨石灰化症、線維筋痛症、肋軟骨炎、離断性骨軟骨炎、軟骨損傷、及び/または多発性軟骨炎を有する可能性がある。
【0085】
軟骨分解を有する対象は、関節炎を有する可能性がある。軟骨分解は、対象の関節炎によって引き起こされ得るか、そうでなければ関節炎に関連し得る。
【0086】
軟骨分解を有する対象は、変形性関節症または関節リウマチを有する可能性がある。
【0087】
関節炎は、関節に影響を及ぼす疾患群である(Barbour et al.,Morbidity and Mortality Weekly Report.65.2016,pp.1052-1056)。関節リウマチ(RA)及び変形性関節症(OA)は、最も一般的なタイプのうちの2つである(Murphy and Nagase.Nat.Clin.Pract.Rheumatol.4,128-135.2008)。RAは免疫が媒介する炎症性疾患であり、自己反応性のB細胞及びT細胞が自己抗体を産生し、その結果、関節内に免疫複合体が形成される(van Delft,et al.,J.Autoimmun.110,102392.2020)。これにより炎症が引き起こされ、好中球、マクロファージ、及び他の免疫細胞がその領域に動員される(Hirota et al.,Immunity.48,1220-1232.e5.2018、Kuo et al.,Sci.Transl.Med.11.2019,doi:10.1126/scitranslmed.aau8587、Takemura et al.,J.Immunol.167,4710-4718.2001、Smolen et al.,Nature Reviews Disease Primers.4.2018.doi:10.1038/nrdp.2018.1)。これらの免疫細胞は、滑膜細胞を活性化するIL-1ベータ及びTNFアルファ等のサイトカインを分泌する。これらのサイトカインは、現在では治療標的とされ、このことにより、ほとんどの患者に大幅な緩和がもたらされる。OAは、最も頻度が高く、十分に理解されていない関節炎の型であり、段階的に進行する疾患で、免疫構成要素が顕著なものではない(Martel-Pelletier et al.,Nat Rev Dis Primers.2,16072.2016、Kapoor et al.,Nat.Rev.Rheumatol.7,33-42.2011、Goldring and Otero.Curr.Opin.Rheumatol.23,471-478.2011)。一般に是認されている仮説は、軟骨の機械的損傷が、進行性の軟骨損失を媒介する低グレードの炎症状態を導くというものである(Kapoor et al.,Nat.Rev.Rheumatol.7,33-42.2011、Pap and Korb-Pap.Rheumatol.11,606-615.2015)。
【0088】
健康な滑膜関節では、滑膜が関節腔を取り囲んで隔離し、滑液中の細胞外マトリックスタンパク質を分泌している。滑膜の主な間質細胞は滑膜線維芽細胞であり、常在マクロファージがその間を占めている(Barbour et al.,Morbidity and Mortality Weekly Report.65.2016,pp.1052-1056)。RAの活動期には、SFが活性化し、線維芽細胞活性化タンパク質アルファを発現し、増殖する。SF細胞は、他の間質細胞と同様に、Toll様受容体等の自然免疫受容体を発現している。それらは、局所の病原体及び分子損傷を検出し、免疫細胞を活性化するサイトカインを分泌している(Ospelt et al.,Arthritis Rheum.58,3684-3692.2008)。炎症中、SFは増殖し、浸潤免疫細胞と共に、パンヌスと呼ばれる肥大化した滑膜を形成する(Choy.Rheumatology .51 Suppl 5,v3-11.2012)。パンヌスは関節腔に浸潤し、軟骨を分解する(Pap and Korb-Pap.Rheumatol.11,606-615.2015)。特に、滑膜ライニング層のSFが軟骨分解を媒介することが示されている一方、サブライニングのSFは炎症を媒介する傾向がある(Croft et al.,Nature.570,246-251.2019)。ECM分解活性は、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)、トロンボスポンジンモチーフを有するディスインテグリン及びメタロプロテアーゼ(ADAMTs)及びカテプシンの産生増加によるものである(Rengel and Ospelt.Arthritis Res.Ther.9,221 2007)。関節炎滑膜線維芽細胞は、分泌型MMP(Jay et al.,J.Rheumatol.27,594-600,2000、Barbour et al.,Morbidity and Mortality Weekly Report.65.2016,pp.1052-1056、Smolen et al.,Nature Reviews Disease Primers.4.2018.doi:10.1038/nrdp.2018.1)及び細胞表面MMP(Lange-Brokaar et al.,Osteoarthritis Cartilage.20,1484-1499.2012、Nygaard and Firestein.Nat.Rev.Rheumatol.16,316-333.2020、Bauer et al.,Arthritis Res.Ther.8,R171;2006)の両方を発現する。特に、MMP14(MT1-MMP)は、SFの浸潤性質に必須である。
【0089】
異常なマトリックス分解の獲得もOAにおけるSFの特性である(Fuchs et al.,Osteoarthritis Cartilage.12,409-418.2004)。OA滑膜では、通常、RAの場合よりも免疫細胞が少ないが、OA滑膜はRAの場合と同様に軟骨分解を引き起こす。SFのECM分解モードに対するスイッチを何が制御しているかは、十分に理解されていない。遺伝子発現の変化が明白に疑われており、両疾患で同様の転写シグネチャーが検出されている(Cai et al.,J Immunol Res.2019,4080735.2019)。エピジェネティックな変化が検出され、関節炎SFの表現型を駆動することが提唱されている(Nakano et al.,Ann.Rheum.Dis.72,110-117.2013)。これらの変化が十分なものであるかどうかは不明なままである。
【0090】
関節炎におけるSFの表現型は、悪性がん細胞の表現型と比較されている。実際、がんの増殖には、元の組織のECM分解を伴う、元の組織におけるECMの高度なリモデリングが必要である(Hotary et al.,Cell.114,33-45.2003)。MMP及び他のマトリックス分解酵素は、悪性細胞において特に活性である(Castro-Castro et al.,Cell Dev.Biol.32,555-576.2016)。
【0091】
痛風は、炎症型関節炎であり、痛風関節炎としても知られている。痛風は最も一般的な炎症性関節炎であり、UKでの有病率は2.5%である。それは治癒する可能性があるものの、その処置は最適以下のままである(Abhishek et al.,Clin Med(Lond).2017 Feb;17(1):54-59)。痛風の超音波検査による所見には、二重輪郭徴候(硝子関節軟骨表面へのMSU結晶の沈着)が含まれる。正常な成人の関節軟骨は、主にII型コラーゲン線維で構成され、IX型及びXI型コラーゲンが散在する、多量のECMからなる。軟骨損失は痛風性関節症の後期の特徴である傾向があり、骨びらんと同様、散在性ではなく限局性である。軟骨損傷は、しばしばびらんと関連しており、生体力学的ストレスのある領域で生じると説明されている。ECM分解及び/または軟骨損失を予防、軽減、または逆転させる処置は、痛風患者に有益なはずである。場合によっては、処置されることになる痛風は、ECM分解及び/または軟骨損失と関連する。
【0092】
軟骨石灰化症、または軟骨石灰化とは、硝子軟骨及び/または線維軟骨における石灰化(カルシウム塩の蓄積)のことである。足首関節におけるリン酸カルシウムの集積は、一般人口の約50%に見られ、変形性関節症と関連している可能性がある(Hubert et al.,BMC Musculoskelet Disord.2018;19:169)。それは、股関節、足首及び膝等の体重を支える関節にしばしば見い出される。ピロリン酸カルシウムの分子構造は、炎症反応を誘発する可能性を有している。軟骨石灰化症の存在は、軟骨半月板及び滑膜組織の分解と関連している。軟骨石灰化症に関連するカルシウム含有結晶の存在は、軟骨及び半月板損傷のより高い有病率と関連したことが報告されている(Gersing et al.,Eur Radiol.2017 Jun;27(6):2497-2506.doi:10.1007/s00330-016-4608-8.Epub 2016 Oct 4)。ECM分解及び/または軟骨損失を予防、軽減、または逆転させる処置は、軟骨石灰化症患者に有益なはずである。場合によっては、処置されることになる軟骨石灰化症は、ECM分解及び/または軟骨損失と関連する。
【0093】
線維筋痛症(FM)は、慢性的な広範囲にわたる疼痛及び圧迫に対する疼痛反応の亢進により特徴付けられる病状である。FMは、関節リウマチ、体軸性脊椎関節炎及び乾癬性関節炎に一般的に見られ、したがって、これらのリウマチ性病態の管理に影響を及ぼし得る。FMは肋軟骨炎とも関連している。
【0094】
肋軟骨炎は、胸郭における軟骨の炎症である。その状態は通常、肋骨の上部が胸骨に付着している部分の軟骨(肋軟骨結合部または肋軟骨接合部として知られている領域)に影響を与える。肋軟骨炎は、機械的ストレスによって引き起こされ得、軟骨損失及び/またはECM分解を導く可能性がある。したがって、ECM分解及び/または軟骨損失を予防、軽減、または逆転させる処置は、肋軟骨炎患者に有益であり得る。場合によっては、処置されることになる肋軟骨炎は、ECM分解及び/または軟骨損失と関連する。
【0095】
離断性骨軟骨炎(OCDまたはOD)は、関節軟骨及び下層にある軟骨下骨に亀裂が形成される障害である。OCDは通常、スポーツ中及びスポーツ後に疼痛を引き起こす。障害の後期段階では、患部の関節が腫脹し、動作中に引っかかり、固定される。初期段階の身体検査では、疼痛が症状として同定され得、後期段階では、浸出液、圧痛、及び関節の動きに伴うひび割れ音が生じ得る。ECM分解及び/または軟骨損失を予防、軽減、または逆転させる処置は、離断性骨軟骨炎患者に有益なはずである。場合によっては、処置されることになる離断性骨軟骨炎は、ECM分解及び/または軟骨損失と関連する。
【0096】
多発性軟骨炎、または再発性多発性軟骨炎(RP)は、耳及び鼻の弾性軟骨、末梢関節の硝子軟骨、軸部位の線維軟骨、及び気管気管支樹の軟骨を含む、軟骨及びプロテオグリカンに富む組織の再発性炎症エピソードにより特徴付けられる、免疫が媒介する全身疾患であり、関与する構造の進行性の解剖学的変形及び機能障害が生じる(Borgio et al.,Biomedicines.2018 Sep;6(3):84)。片側または、より頻繁には、両側の耳介軟骨炎は、RPの最も一般的な特徴であり、疾患の経過中に患者の最大90%で認められ、症例の20%では最初の症状である。発症は突然であり、痛みを伴う赤色から紫色の紅斑及び浮腫が耳の軟骨部分に限局し、典型的には、軟骨のない耳たぶは免れる。急性炎症エピソードは、数日または数週間以内に自然に解消する傾向にあるが、不定の間隔で再発する。フレアが繰り返された長期的な結果として、軟骨マトリックスは著しく損傷し、線維性結合組織に置き換わる(Borgio et al.,Biomedicines.2018 Sep;6(3):84)。したがって、ECM分解及び/または軟骨損失を予防、軽減、または逆転させる処置は、多発性軟骨炎患者に有益であり得る。場合によっては、処置されることになる多発性軟骨炎は、ECM分解及び/または軟骨損失と関連する。
【0097】
軟骨損傷は、例えば、関節炎、痛風、軟骨石灰化症、線維筋痛症、肋軟骨炎、離断性骨軟骨炎、及び多発性軟骨炎等の特異的な疾患の機序を通じ、多くのプロセスを経て生じ得る。軟骨損傷は、例えば、スポーツをしている間の衝突または過伸展を通じた機械的損傷にも起因し得る。場合によっては、軟骨損傷は、損傷組織を取り除くための外科手術を必要とする。関節(膝等)の孤立性軟骨及び骨軟骨欠損は、困難な臨床的課題であり、特に若い患者においては、部分的または全体の膝関節置換術等の選択肢が勧められることは滅多にない。限局的な軟骨欠損に対処するために、数多くの外科的技術が開発されてきた。軟骨の処置ストラテジーは、緩和(例えば、軟骨形成術及びデブリードマン)、修復(例えば、ドリリング及びマイクロフラクチャー[MF])、または回復(例えば、自家軟骨細胞移植[ACI]、骨軟骨自家移植[OAT]、及び骨軟骨同種移植[OCA])として特徴付けられる(Richter et al.,Sports Health.Mar-Apr 2016;8(2):153-60.doi:10.1177/1941738115611350.Epub 2015 Oct 12)。場合によっては、ECM分解及び/または軟骨損失を予防、軽減、または逆転させる処置は、軟骨損傷患者にとって外科手術の代替となり得る。ECM分解及び/または軟骨損失を予防、軽減、または逆転させる処置は、軟骨損傷患者に有益であり得る。
【0098】
場合によっては、軟骨損傷が関節炎(例えば、変形性関節症)をもたらし得る。外傷後関節炎(PTA)は、急性の直接的な関節への外傷の後に発症する。PTAは、変形性関節症例全体の約12%で生じ、慢性炎症性関節炎の患者にも、物理的外傷の既往歴が見られることがある。軟骨損傷後のGALA阻害剤による処置は、物理的外傷後の関節炎の発症を防ぎ得る。
【0099】
軟骨分解に関連する障害
本発明者らは、軟骨分解に関連する障害を、抗cnx抗体等のGALA阻害剤で処置できることを実証している。
【0100】
軟骨分解に関連する障害は、関節炎、変形性関節症、乾癬性関節炎、関節リウマチ、痛風、軟骨石灰化症、線維筋痛症、肋軟骨炎、離断性骨軟骨炎、軟骨損傷、または多発性軟骨炎であり得る。
【0101】
軟骨分解に関連する障害は、関節炎であり得る。
【0102】
軟骨分解に関連する障害は、変形性関節症または関節リウマチであり得る。
【0103】
関節障害
本発明者らは、関節障害を、抗cnx抗体等のGALA阻害剤で処置できることを実証している。
【0104】
関節とは、骨格系における2つの骨の間の連結部として定義される。関節は、存在する組織のタイプ(線維性、軟骨性または滑膜)、または可動の程度(不動結合、半関節または可動結合)によって分類され得る。したがって、関節障害とは、骨格系における2つの骨の間の連結部に影響を及ぼす状態として定義される。特定の関節の定義及び関連する解剖学的態様は、「Netter,F.H.(2006).Atlas of human anatomy.Philadelphia,PA:Saunders/Elsevier」で見出すことができ、その全体が参照により組み込まれる。
【0105】
関節障害は、線維性、軟骨性または滑膜関節に影響を及ぼす可能性がある。
【0106】
線維性関節は、主にコラーゲンからなる高密度の結合組織によって連結されている。これらの関節は動かないので、固定関節または不動関節とも呼ばれる。線維性関節には関節腔がなく、線維性結合組織を介して連結されている。頭蓋骨は縫合線と呼ばれる線維性関節により連結されている。
【0107】
軟骨性関節は、骨と骨が完全に軟骨(硝子軟骨または線維軟骨のいずれか)により結合されているタイプの関節である。これらの関節は概して、線維性関節よりも大きく動くことができるが、滑膜関節よりは動きが小さい。
【0108】
滑膜関節は、線維性被膜内に含有される、液体で満たされた関節腔の存在によって特徴付けられる。それは人体で最も一般的に見い出されるタイプの関節であり、線維性関節または軟骨性関節には見られない構造をいくつか含有する。滑膜関節の3つの主な特徴は、(i)関節包、(ii)関節軟骨、(iii)滑液である。関節包は関節を取り囲み、関節骨の骨膜と連続している。滑膜関節の関節面(すなわち、骨が動く際に直接互いに接触する面)は、薄い硝子軟骨の層で覆われている。関節軟骨の主な役割は2つあり、(i)関節動作時の摩擦を最小限に抑えること、及び(ii)衝撃を吸収することである。滑液は滑膜関節の関節腔内に位置している。それには3つの主な機能がある。滑膜関節には、腱、靭帯、滑液包、及び血管系等の付属構造物が含まれ得る。
【0109】
滑膜関節には多くのタイプがある。場合によっては、関節障害は、滑走関節、蝶番関節、車軸関節、楕円関節、鞍関節、または球関節の障害である。
【0110】
滑走関節は、平面関節または平面状関節としても知られており、平坦またはほぼ平坦な関節面で接する骨間に形成される滑膜関節の一般的なタイプである。滑走関節は、骨を関節の平面に沿って、上下、左右、及び斜めのどの方向にも互いに滑走させることができる。これらの関節ではわずかな回転も生じ得るが、骨の形状及びそれらを囲む関節包の弾性によって制限される。
【0111】
蝶番関節は、関節面が一平面でのみ可動であるような様式で互いに形成されている骨関節である。ある分類体系によれば、それらは一軸性である(1自由度を有する)と言われる(Platzer,Werner(2008)Color Atlas of Human Anatomy,Volume 1)。この動作において遠位骨がとる方向は、近位骨の軸方向と同一平面上にあることは滅多になく、屈曲時には、通常、直線からある程度のずれがある。骨の関節面は、丈夫な側副靭帯によって連結されている。蝶番関節の最良の例は、手の指節間関節及び足の指節間関節、ならびに上腕骨と尺骨との間の関節である。膝関節及び足首関節は典型的ではないが、手足の特定の位置において、わずかな程度で回転するかまたは左右に動くことを可能にする。膝は、人体において最大の蝶番関節である。
【0112】
車軸関節(滑車関節、回転関節、または側方蝶番関節(lateral ginglymus))は、動作軸が近位骨の長軸に平行である滑膜関節の一タイプであり、一般的に、凸状の関節面を有する。ある分類体系によれば、車軸関節は1自由度を有する(Platzer,Werner(2008)Color Atlas of Human Anatomy,Volume 1)。
【0113】
楕円関節(顆状関節とも呼ばれる)は、楕円形の空洞に収められた、卵形の関節面、または顆状突起である。これは、手首関節で見られるように、屈曲、伸展、内転、外転、及び回旋を可能にする2つの平面で可動する。
【0114】
鞍関節は滑膜関節の一タイプであり、対向する面が相互に凹凸になっている。それは、親指、胸郭、及び中耳、及び踵に見られる。
【0115】
球関節(または球状関節)は、滑膜関節の一タイプであり、ある球形の骨のボール形の面が、別の骨のカップ状のくぼみにはめ込まれている。遠位骨は、1つの共通の中心を有する不定数の軸周りで動くことができる。これにより、関節は、多くの方向に動くことが可能になる。関節障害は、不動結合、半関節または可動関節に影響を及ぼすことがある。股関節及び肩は球関節である。
【0116】
不動結合とは、通常の状態では動かないタイプの関節である。縫合線及び釘状関節は、両方とも不動結合である。
【0117】
半関節は、可動性が制限されている関節である。このタイプの関節の例は、隣接する椎体を合体させる軟骨関節である。
【0118】
可動関節は自由に可動できる関節である。時には、可動関節及び滑膜関節という用語は、互換的に使用される。
【0119】
関節障害は、任意の関節に影響を及ぼすことがある。場合によっては、関節障害は、任意の哺乳類の関節に影響を及ぼすことがある。場合によっては、関節障害は、任意のヒトの関節に影響を及ぼすことがある。
【0120】
場合によっては、関節障害は、股関節、膝、足首、足、足指、肩、肘、手首、手、手指、首、脊椎、肋骨、または仙腸関節に影響を及ぼす。
【0121】
関節障害は、変形性関節症、乾癬性関節炎、関節リウマチ、滑液包炎、痛風、軟骨石灰化症、線維筋痛症、肋軟骨炎、離断性骨軟骨炎、多発性軟骨炎、軟骨損傷、腱損傷、または靭帯損傷であり得る。
【0122】
滑液包炎は、骨と筋肉、皮膚または腱との間でクッションとして作用する、液体で満たされた小包である滑液包の炎症である。滑液包炎のタイプは、罹患した滑液包が位置する場所に依存する。この軟組織の病態は、一般に、肩、肘、股関節、臀部、膝及びふくらはぎに影響を及ぼす。スポーツ選手、高齢者、ならびに肉体労働者及び音楽家のように反復運動を行う人は、滑液包炎になる可能性がより高い。滑液包炎は、関節に疼痛が生じ得るため、時に、関節炎と間違えられる。
【0123】
腱損傷、または腱障害は、例えば、酷使、加齢、磨耗及び断裂、または機械的損傷といった、多数の原因で引き起こされ得る。腱損傷は、腱炎または腱症であり得る。腱炎は腱の炎症を指し、腱症は腱の組織及び腱の周囲の組織の断裂に関する。腱損傷は、腱の酷使、腱の筋違い、腱の断裂、腱の部分的破裂または腱の完全破裂であり得る。ECM分解及び/または腱損失を予防、軽減、または逆転させる処置は、腱損傷患者に有益であり得る。場合によっては、処置されることになる腱損傷は、ECM分解及び/または軟骨損失と関連する。
【0124】
靭帯損傷は、例えば、酷使、加齢、磨耗及び断裂、または機械的損傷といった、多くの原因で引き起こされ得る。靭帯損傷は、靭帯の酷使、靭帯の筋違い、靭帯の断裂、靭帯の部分的破裂または靭帯の完全破裂であり得る。ECM分解及び/または靭帯損失を予防、軽減、または逆転させる処置は、靭帯損傷患者に有益であり得る。場合によっては、処置されることになる腱損傷は、ECM分解及び/または軟骨損失と関連する。
【0125】
障害の特性
本明細書に記載される障害(例えば、軟骨分解に関連する障害、及び関節障害)は、多くの特徴によって特徴付けられ得る。場合によっては、障害はECM分解によって特徴付けられる。場合によっては、障害はECM分解の増加によって特徴付けられる。場合によっては、処置されるべき障害は、カルネキシンの発現量の増加によって特徴付けられる。場合によっては、処置されるべき障害は、カルネキシンのグリコシル化の増加によって特徴付けられる。場合によっては、障害は、カルネキシンのO-グリコシル化の増加によって特徴付けられる。場合によっては、障害は、O-グリコシル化の増加によって特徴付けられる。場合によっては、障害は、GALNT活性化(GALA)によって特徴付けられる。場合によっては、障害は、GALNT活性化(GALA)の増加によって特徴付けられる。場合によっては、障害は、炎症によって特徴付けられる。
【0126】
ECMは高度に動的な構造であり、ECM成分が沈着、分解、または別途修飾されるリモデリングプロセスが常に起こっている。細胞外マトリックス(ECM)分解は、細胞表面及び分泌型プロテアーゼ、特にマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)、限定されないがMMP14及びO-グリコシル化MMP14等によって媒介される。
【0127】
カルネキシン(CNX)は、ER膜の90kDaのカルシウム結合タンパク質であり、PDIA3と複合体を形成する。カルネキシンはGALAの標的である。グリコシル化に続いて、CNX-PDIA3複合体は、がん細胞の表面に移動し、そこで細胞外マトリックスのジスルフィド架橋を還元することがこれまでに示されている(Ros et al.,Nat.Cell Biol.22,1371-1381,2020)。ジスルフィド架橋の還元は、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の効果的な活性に必須であり、したがって、がんの細胞外マトリックスの分解に必須であることが示されている。
【0128】
CNXポリペプチドに言及がなされる場合、これはCNXポリペプチドファミリーの任意のメンバーへの言及として受け取られるべきである。特に興味深いのは、以下:マウス遺伝子ID:12330、ラット遺伝子ID:29144、イヌ遺伝子ID:403908、ネコ遺伝子ID:101085686及びウマ遺伝子ID:100067402からなる群の遺伝子に由来するCNXポリペプチドである。
【0129】
例えば、Cnxポリペプチドは、GenBank Accession Number NP_001350929.1、NP_001350926.1、NP_001350923.1、NP_001350922.1、NP_001350924.1、NP_001350928.1、NP_001350927.1またはNP_001019820.1を有するヒトCNX配列を構成し得る。
【0130】
PDIA4は、645個のアミノ酸を含み、3つの古典的CGHC活性部位を有する、最大のPDIメンバーのうちの1つである。それらは、ER Hsp70(BiP)、Grp94、PDI及びERp29と共に、多タンパク質シャペロン複合体を形成し、この複合体は、折り畳まれてないタンパク質基質に結合可能なERネットワークである(Meunier et al.,Mol.Biol.Cell,13(2002),pp.4456-4469,10.1091/mbc.e02-05-0311)。
【0131】
PDIA4ポリペプチドに言及がなされる場合、これはPDIA4ポリペプチドファミリーの任意のメンバーへの言及として受け取られるべきである。特に興味深いのは、以下:Homo sapiens遺伝子ID:9601、Mus musculus遺伝子ID:12304、Rattus norvegicus遺伝子ID:116598、Bos taurus遺伝子ID:415110、Equus caballus遺伝子ID:100060535、Felis catus遺伝子ID:101087568及びCanis lupus familiaris遺伝子ID:482715からなる群の遺伝子に由来するPDIA4ポリペプチドである。
【0132】
例えば、PDIA4ポリペプチドは、GenBank Accession Number NP_001358173.1、NP_001358174.1、またはNP_004902.1を有するヒトPDIA4配列を構成し得る。
【0133】
ERp57としても知られているPDIA3は、異性化酵素である。このタンパク質は小胞体(ER)に局在し、レクチンシャペロンであるカルレティキュリン及びカルネキシン(CNX)と相互作用して、新しく合成された糖タンパク質の折り畳みを調節する。レクチンとこのタンパク質の複合体は、それらの糖タンパク質基質におけるジスルフィド結合の形成を促進することにより、タンパク質の折り畳みを媒介すると考えられている。
【0134】
PDIA3(ERp57)ポリペプチドに言及がなされる場合、これはPDIA3(ERp57)ポリペプチドファミリーの任意のメンバーへの言及として受け取られるべきである。特に興味深いのは、以下:Homo sapiens遺伝子ID:2923、Mus musculus遺伝子ID:14827、Rattus norvegicus遺伝子ID:29468、Bos taurus遺伝子ID:281803、Equus caballus遺伝子ID:100056198、Felis catus遺伝子ID:101097245及びCanis lupus familiaris遺伝子ID:478279からなる群の遺伝子に由来するPDIA3(ERp57)ポリペプチドである。
【0135】
例えば、ERp57ポリペプチドは、GenBank Accession Number NP_005304.3を有するヒトPDIA3(ERp57)配列を構成し得る。
【0136】
グリコシル化は、タンパク質、または他の生体分子にグリカンを付着させる酵素的プロセスである。O-グリコシル化は、例えば、タンパク質のセリン、スレオニン、チロシン、ヒドロキシリジン、またはヒドロキシプロリン残基の側鎖のヒドロキシル基に、O-結合型グリカンを付加することである。
【0137】
N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(GALNTs)活性化(GALA)経路は、O-グリコシル化開始酵素GALNTsが、ゴルジ体からERへ移動することによって制御される。GALNTsは、単一のGalNac残基からなるTnグリカンの形成を触媒する。Tnは、Vicia Villosaレクチン(VVL)等のレクチンで検出され得る。GALNTsのERへの移動により、Tnの細胞染色レベル全体が、劇的に増加し、核周辺でなく細胞質に現れる(Gill,D.J.et al.Initiation of GalNAc-type O-glycosylation in the endoplasmic reticulum promotes cancer cell invasiveness.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.110,E3152-61(2013)。
【0138】
炎症は、病原体、損傷細胞、または刺激物等の有害刺激に対する、身体組織の複雑な生物学的反応の一部である。炎症機能は、細胞傷害の初期の原因を排除し、壊死細胞ならびに元の侵襲及び炎症プロセスにより損傷した組織を除去し、組織の修復を開始することである。臨床的に、及び疫学的に、炎症は通常、炎症反応の原因または結果として放出される循環物質の測定によって評価され、炎症のバイオマーカーとして最も広く用いられているのは、C反応性タンパク質(CRP)である(Sproston and Ashworth.Front Immunol.2018;9:754)。
【0139】
場合によっては、処置されるべき障害は、カルネキシンの発現量の増加、PDIA4の発現量の増加、PDIA3の発現量の増加、カルネキシンのグリコシル化の増加、カルネキシンのO-グリコシル化の増加、O-グリコシル化の増加、GALA、GALAの増加、炎症、及び/または炎症の増加によって特徴付けられる。
【0140】
障害が、発現量、活性、または別の特性の増加によって特徴付けられる場合、特性は、障害に罹患していない対象と比較して増加する。増加は、障害に罹患していない対象と比較して、1倍超、例えば、≧1.1倍、≧1.2倍、≧1.3倍、≧1.4倍、≧1.5倍、≧1.6倍、≧1.7倍、≧1.8倍、≧1.9倍、≧2.0倍、≧2.5倍、≧3.0倍、≧3.5倍、≧4.0倍、≧4.5倍、≧5.0倍、≧5.5倍、≧6.0倍、≧6.5倍、≧7.0倍、≧7.5倍、≧8.0倍、≧8.5倍、≧9.0倍、≧9.5倍、または≧10倍のうちの1つであり得る。
【0141】
軟骨分解に関連する障害が、特性の増加によって特徴付けられる場合、罹患した対象は、特性に影響されていない対応する対象と比較した際、より大きなレベルの特性を有する。
【0142】
関節障害が特性の増加によって特徴付けられる場合、罹患した対象は、対応する対照(例えば、関節障害に罹患していない対象、または罹患していない関節)と比較して、関節においてより大きなレベルの特性を有する。
【0143】
関節炎が特性の増加によって特徴付けられる場合、罹患した対象は、対応する対照(例えば、関節炎に罹患していない対応する対象、または関節炎に罹患していない対応する関節)と比較して、関節においてより大きなレベルの特性を有する。
【0144】
障害が、カルネキシンの発現量の増加、PDIA4の発現量の増加、PDIA3の発現量の増加、カルネキシンのグリコシル化の増加、カルネキシンのO-グリコシル化の増加、O-グリコシル化の増加、GALAの増加、及び/または炎症の増加によって特徴付けられる場合、特性は、対応する対照(例えば、障害に罹患していない対象)と比較して増加する。
【0145】
障害(例えば、軟骨分解に関連する障害、関節障害、及び/または関節炎)が、o-グリコシル化の増加によって特徴付けられる場合、罹患した対象では、対応する対照(例えば、障害に罹患していない対象)と比較した際、o-グリコシル化のレベルがより大きい。o-グリコシル化のレベルは、障害に罹患していない対象と比較して、1倍超、例えば、≧1.1倍、≧1.2倍、≧1.3倍、≧1.4倍、≧1.5倍、≧1.6倍、≧1.7倍、≧1.8倍、≧1.9倍、≧2.0倍、≧2.5倍、≧3.0倍、≧3.5倍、≧4.0倍、≧4.5倍、≧5.0倍、≧5.5倍、≧6.0倍、≧6.5倍、≧7.0倍、≧7.5倍、≧8.0倍、≧8.5倍、≧9.0倍、≧9.5倍、または≧10倍のうちの1つであり得る。
【0146】
障害(例えば、軟骨分解に関連する障害、関節障害、及び/または関節炎)が、関節組織、軟骨組織、及び/または滑膜線維芽細胞におけるo-グリコシル化の増加によって特徴付けられる場合、罹患した対象では、対応する対照(例えば、障害に罹患していない対象)と比較した際、関節組織、軟骨組織、及び/または滑膜線維芽細胞におけるo-グリコシル化のレベルがより大きい。関節組織、軟骨組織、及び/または滑膜線維芽細胞におけるo-グリコシル化のレベルは、障害に罹患していない対象と比較して、1倍超、例えば、≧1.1倍、≧1.2倍、≧1.3倍、≧1.4倍、≧1.5倍、≧1.6倍、≧1.7倍、≧1.8倍、≧1.9倍、≧2.0倍、≧2.5倍、≧3.0倍、≧3.5倍、≧4.0倍、≧4.5倍、≧5.0倍、≧5.5倍、≧6.0倍、≧6.5倍、≧7.0倍、≧7.5倍、≧8.0倍、≧8.5倍、≧9.0倍、≧9.5倍、または≧10倍のうちの1つであり得る。
【0147】
障害(例えば、軟骨分解に関連する障害、関節障害、及び/または関節炎)が、Tn(T nouvelle)の細胞レベルの増加によって特徴付けられる場合、罹患した対象では、対応する対照(例えば、障害に罹患していない対象)と比較した際、Tn(T nouvelle)のレベルがより大きい。Tn(T nouvelle)のレベルは、障害に罹患していない対象と比較して、1倍超、例えば、≧1.1倍、≧1.2倍、≧1.3倍、≧1.4倍、≧1.5倍、≧1.6倍、≧1.7倍、≧1.8倍、≧1.9倍、≧2.0倍、≧2.5倍、≧3.0倍、≧3.5倍、≧4.0倍、≧4.5倍、≧5.0倍、≧5.5倍、≧6.0倍、≧6.5倍、≧7.0倍、≧7.5倍、≧8.0倍、≧8.5倍、≧9.0倍、≧9.5倍、または≧10倍のうちの1つであり得る。
【0148】
障害(例えば、軟骨分解に関連する障害、関節障害、及び/または関節炎)が、関節組織、軟骨組織、及び/または滑膜線維芽細胞におけるTn(T nouvelle)の細胞レベルの増加によって特徴付けられる場合、罹患した対象では、対応する対照(例えば、障害に罹患していない対象)と比較した際、関節組織及び/または滑膜線維芽細胞におけるTn(T nouvelle)のレベルがより大きい。関節組織及び/または滑膜線維芽細胞におけるTn(T nouvelle)のレベルは、障害に罹患していない対象と比較して、1倍超、例えば、≧1.1倍、≧1.2倍、≧1.3倍、≧1.4倍、≧1.5倍、≧1.6倍、≧1.7倍、≧1.8倍、≧1.9倍、≧2.0倍、≧2.5倍、≧3.0倍、≧3.5倍、≧4.0倍、≧4.5倍、≧5.0倍、≧5.5倍、≧6.0倍、≧6.5倍、≧7.0倍、≧7.5倍、≧8.0倍、≧8.5倍、≧9.0倍、≧9.5倍、または≧10倍のうちの1つであり得る。
【0149】
障害(例えば、軟骨分解に関連する障害、関節障害、及び/または関節炎)が、CNXグリコシル化レベルの増加によって特徴付けられる場合、罹患した対象では、対応する対照(例えば、障害に罹患していない対象)と比較した際、CNXグリコシル化レベルがより大きい。CNXグリコシル化のレベルは、障害に罹患していない対象と比較して、1倍超、例えば、≧1.1倍、≧1.2倍、≧1.3倍、≧1.4倍、≧1.5倍、≧1.6倍、≧1.7倍、≧1.8倍、≧1.9倍、≧2.0倍、≧2.5倍、≧3.0倍、≧3.5倍、≧4.0倍、≧4.5倍、≧5.0倍、≧5.5倍、≧6.0倍、≧6.5倍、≧7.0倍、≧7.5倍、≧8.0倍、≧8.5倍、≧9.0倍、≧9.5倍、または≧10倍のうちの1つであり得る。
【0150】
障害(例えば、軟骨分解に関連する障害、関節障害、及び/または関節炎)が、滑膜線維芽細胞におけるCNXグリコシル化レベルの増加によって特徴付けられる場合、罹患した対象では、対応する対照(例えば、障害に罹患していない対象)と比較した際、滑膜線維芽細胞におけるCNXグリコシル化レベルがより大きい。滑膜線維芽細胞におけるCNXグリコシル化のレベルは、障害に罹患していない対象と比較して、1倍超、例えば、≧1.1倍、≧1.2倍、≧1.3倍、≧1.4倍、≧1.5倍、≧1.6倍、≧1.7倍、≧1.8倍、≧1.9倍、≧2.0倍、≧2.5倍、≧3.0倍、≧3.5倍、≧4.0倍、≧4.5倍、≧5.0倍、≧5.5倍、≧6.0倍、≧6.5倍、≧7.0倍、≧7.5倍、≧8.0倍、≧8.5倍、≧9.0倍、≧9.5倍、または≧10倍のうちの1つであり得る。
【0151】
障害(例えば、軟骨分解に関連する障害、関節障害、及び/または関節炎)が、CNX細胞表面発現レベルの増加によって特徴付けられる場合、罹患した対象では、対応する対照(例えば、障害に罹患していない対象)と比較した際、CNX細胞表面発現レベルがより大きい。CNX細胞表面発現レベルは、障害に罹患していない対象と比較して、1倍超、例えば、≧1.1倍、≧1.2倍、≧1.3倍、≧1.4倍、≧1.5倍、≧1.6倍、≧1.7倍、≧1.8倍、≧1.9倍、≧2.0倍、≧2.5倍、≧3.0倍、≧3.5倍、≧4.0倍、≧4.5倍、≧5.0倍、≧5.5倍、≧6.0倍、≧6.5倍、≧7.0倍、≧7.5倍、≧8.0倍、≧8.5倍、≧9.0倍、≧9.5倍、または≧10倍のうちの1つであり得る。
【0152】
障害(例えば、軟骨分解に関連する障害、関節障害、及び/または関節炎)が、滑膜線維芽細胞におけるCNX細胞表面発現レベルの増加によって特徴付けられる場合、罹患した対象では、対応する対照(例えば、障害に罹患していない対象)と比較した際、滑膜線維芽細胞におけるCNX細胞表面発現レベルがより大きい。滑膜線維芽細胞におけるCNX細胞表面発現レベルは、障害に罹患していない対象と比較して、1倍超、例えば、≧1.1倍、≧1.2倍、≧1.3倍、≧1.4倍、≧1.5倍、≧1.6倍、≧1.7倍、≧1.8倍、≧1.9倍、≧2.0倍、≧2.5倍、≧3.0倍、≧3.5倍、≧4.0倍、≧4.5倍、≧5.0倍、≧5.5倍、≧6.0倍、≧6.5倍、≧7.0倍、≧7.5倍、≧8.0倍、≧8.5倍、≧9.0倍、≧9.5倍、または≧10倍のうちの1つであり得る。
【0153】
障害(例えば、軟骨分解に関連する障害、関節障害、及び/または関節炎)が、軟骨ECM分解レベルの増加によって特徴付けられる場合、罹患した対象では、対応する対照(例えば、障害に罹患していない対象)と比較した際、ECM分解レベルがより大きい。軟骨ECM分解レベルは、障害に罹患していない対象と比較して、1倍超、例えば、≧1.1倍、≧1.2倍、≧1.3倍、≧1.4倍、≧1.5倍、≧1.6倍、≧1.7倍、≧1.8倍、≧1.9倍、≧2.0倍、≧2.5倍、≧3.0倍、≧3.5倍、≧4.0倍、≧4.5倍、≧5.0倍、≧5.5倍、≧6.0倍、≧6.5倍、≧7.0倍、≧7.5倍、≧8.0倍、≧8.5倍、≧9.0倍、≧9.5倍、≧10倍、≧20倍、≧30倍、≧40倍、≧50倍、≧60倍、≧70倍、≧80倍、≧90倍、または≧100倍のうちの1つであり得る。
【0154】
障害(例えば、軟骨分解に関連する障害、関節障害、及び/または関節炎)が、ECM分解活性レベルの増加によって特徴付けられる場合、罹患した対象では、対応する対照(例えば、障害に罹患していない対象)と比較した際、ECM分解活性レベルがより大きい。ECM分解活性レベルは、障害に罹患していない対象と比較して、1倍超、例えば、≧1.1倍、≧1.2倍、≧1.3倍、≧1.4倍、≧1.5倍、≧1.6倍、≧1.7倍、≧1.8倍、≧1.9倍、≧2.0倍、≧2.5倍、≧3.0倍、≧3.5倍、≧4.0倍、≧4.5倍、≧5.0倍、≧5.5倍、≧6.0倍、≧6.5倍、≧7.0倍、≧7.5倍、≧8.0倍、≧8.5倍、≧9.0倍、≧9.5倍、≧10倍、≧20倍、≧30倍、≧40倍、≧50倍、≧60倍、≧70倍、≧80倍、≧90倍、または≧100倍のうちの1つであり得る。
【0155】
障害(例えば、軟骨分解に関連する障害、関節障害、及び/または関節炎)が、CNX、CNX/ERP57、及び/または滑膜線維芽細胞のECM分解活性レベルの増加によって特徴付けられる場合、罹患した対象では、対応する対照(例えば、障害に罹患していない対象)と比較した際、CNX、CNX/ERP57、及び/または滑膜線維芽細胞のECM分解活性レベルがより大きい。CNX、CNX/ERP57、及び/または滑膜線維芽細胞のECM分解活性レベルは、障害に罹患していない対象と比較して、1倍超、例えば、≧1.1倍、≧1.2倍、≧1.3倍、≧1.4倍、≧1.5倍、≧1.6倍、≧1.7倍、≧1.8倍、≧1.9倍、≧2.0倍、≧2.5倍、≧3.0倍、≧3.5倍、≧4.0倍、≧4.5倍、≧5.0倍、≧5.5倍、≧6.0倍、≧6.5倍、≧7.0倍、≧7.5倍、≧8.0倍、≧8.5倍、≧9.0倍、≧9.5倍、または≧10倍のうちの1つであり得る。
【0156】
障害を有する患者または対象を、障害を有しない対象と比較する際、アッセイまたは試験を使用して、両対象における目的の特性レベルを決定し、目的の特性が障害を有する対象で増加しているかどうかを決定することができる。生物学的特性の相対レベルを決定できる多くのアッセイが当技術分野において既知である。
【0157】
当業者であれば、ECM分解、グリコシル化、O-グリコシル化、遺伝子発現(例えばカルネキシン、PDIA4、及び/またはPDIA3発現)、タンパク質発現、GALA、及び炎症等の特性の相対レベルを、当技術分野で周知の方法を通じて決定することができるであろう。
【0158】
当業者はまた、障害で特性が示されるかどうかを決定するために、当技術分野で周知の方法を使用し得る。例えば、当業者は周知の方法を用いて、ECM分解、グリコシル化、O-グリコシル化、特定の遺伝子の発現(例えばカルネキシン発現)、特定のタンパク質の発現(例えばカルネキシン)、GALA、及び炎症の存在と障害が関連しているかどうかを、当技術分野で既知の方法を通じて決定し得る。
【0159】
ECM分解の存在及びレベルは、ECM分解アッセイ及び組織学的分析等の多くの方法を通じて決定することができる。当業者は、ECM分解活性を測定し得る多くの方法、例えば、本明細書の実施例に示されているもの、を認識している。かかる方法により、Cnx/ERp57阻害剤が、ECM分解活性、Cnx/ERp57のECM分解活性、及び/またはCnxのECM分解活性を阻害することができるかどうかを容易に決定し得る。
【0160】
以下のステップは、当業者がECM分解活性をアッセイすることができる1つの方法である。
【0161】
市販のゼラチン溶液(2%)を、5-カルボキシ-X-ローダミン、スクシンイミジルエステルで標識し得る。次いで、標識したゼラチンを滅菌カバーガラスに移して薄い層を作製し、その後、グルタルアルデヒド固定により安定化させることができる。最後に、ラット尾部コラーゲン溶液を用いてカバーガラスをコーティングし、ゼラチンの上にコラーゲンの薄い層を作製し得る。
【0162】
次いで、カバーガラスを培養容器に移し得、分解活性を有する細胞(例えば、ヒト肝細胞癌Huh7)を播種し、分解が生じるように48時間インキュベートする。
【0163】
固定後、カバーガラスをHoeschtで染色して、細胞をカウント可能にすることができる。次いで、カバーガラスを共焦点顕微鏡で画像化し得る。次いで、ImageJを用いて画像を解析することができる。分解されたゼラチンの表面を明らかにするために、閾値をマニュアルで定義することができ、フィールドあたりの総面積を測定した。並行して、核の数を計算することができ、最終結果を各フィールドの細胞に対して正規化し得る。
【0164】
グリコシル化の存在及びレベルは、実施例で用いた方法等の当技術分野で周知の方法及び市販のアッセイキットによって決定され得る。グリコシル化及び糖タンパク質を検出及び分析する方法としては、レクチンを用いたグリカン染色、グリカン標識、糖タンパク質の精製または濃縮、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析、及び質量分析による解析が挙げられる。当業者であれば、かかる方法を認識しているであろう。
【0165】
O-グリコシル化の存在及びレベルは、本明細書の実施例で用いたもの等の当技術分野で既知の方法を通じて決定され得る。O-グリコシル化の顕著な特徴は、Ser残基またはThr残基にGalNacが付加することにより形成されたO-グリカンである、Tn(T nouvelle)の細胞レベルの増加である。Tnは、Vicia Villosaレクチン(VVL)及びHelix Pomatiaレクチン(HPL)等のTn結合タンパク質によって検出され得る(Gill,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.110,E3152-61 2013)。
【0166】
遺伝子発現(例えば、カルネキシン発現)の存在及びレベルは、当業者に既知の多くの異なる方法を通じて決定され得る。所与の遺伝子をコードするRNAのレベルは、他の周知の方法の中でも、例えば、RNAseq、RT-PCR、及びRT-qPCR等の技術によって決定され得る。
【0167】
タンパク質発現(例えば、カルネキシン発現)の存在及びレベルは、当業者に周知の手段で決定され得る。所与のタンパク質/そのアイソフォームのレベルは、例えば、ウェスタンブロット、免疫組織/細胞化学、フローサイトメトリー、ELISAなどを含む抗体ベースの方法によって決定され得る。
【0168】
GALAの存在及びレベルは、本明細書の実施例で用いたもの等の当技術分野で既知の方法を通じて決定され得る。GALAの顕著な特徴は、Ser残基またはThr残基にGalNacが付加することにより形成されたO-グリカンである、Tn(T nouvelle)の細胞レベルの増加である。Tnは、Vicia Villosaレクチン(VVL)及びHelix Pomatiaレクチン(HPL)等のTn結合タンパク質によって検出され得る(Gill,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.110,E3152-61 2013)。
【0169】
炎症の存在及びレベルは、当技術分野で既知の方法を通じて決定され得る。例えば、サイトカイン、ケモカイン、及び免疫細胞等のバイオマーカーの分析を通じて決定され得る。かかる分析は、質量分析等の当技術分野で既知の技術を使用して実施され得る。
【0170】
障害媒介物(例えば、線維芽細胞、滑膜線維芽細胞)
本明細書に記載される障害は、線維芽細胞活性によって媒介されることがある。線維芽細胞は、コラーゲン及びECMを合成する細胞である。しかしながら、線維芽細胞は、ECMを分解することもでき、組織のこの必須成分のターンオーバーを可能にする。線維芽細胞は、関節及び軟骨の健康に寄与している。健康な個体では、線維芽細胞は、ヒアルロン酸及びラブリシン等のタンパク質を分泌することにより、滑液の粘性に寄与している。関節炎等の関節障害及び軟骨障害において、線維芽細胞は、軟骨のECMに付着し、それを分解する。
【0171】
場合によっては、本明細書に記載される障害は、滑膜線維芽細胞(SF)によって媒介されることがある。滑膜細胞とも呼ばれるSFは、滑膜関節における主要な線維芽細胞である。
【0172】
当業者は、当技術分野で既知の方法を通じて、疾患が線維芽細胞活性によって媒介されるかどうかを決定することができる。例えば、当業者であれば、線維芽細胞活性のレベルを決定するのに適した生化学的アッセイを認識しているであろう。既知の疾患の線維芽細胞活性をアッセイして、該疾患が線維芽細胞活性によって媒介されることを指し示す、適切な対照(例えば、非罹患対象)と比較した際の線維芽細胞活性の増加と該疾患が関連するかどうかを決定し得る。あるいは、疾患が線維芽細胞活性によって媒介されるかどうかを決定するために、ある特定の疾患の動物モデルを利用してもよい。例えば、線維芽細胞集団(例えば、滑膜線維芽細胞集団)を切除するために、目的の疾患のマウスモデルを改変し得る。疾患が線維芽細胞活性によって媒介されるかどうかを決定するために、非改変モデルと比較した改変モデルの解析が用いられ得る。例えば、線維芽細胞集団の切除後に認められる疾患特性の低下は、該疾患が線維芽細胞活性によって媒介されることを指し示すはずである。
【0173】
関節炎
自己免疫疾患である関節リウマチ(RA)、及び変性疾患である変形性関節症(OA)は、両方とも関節軟骨の分解によって特徴付けられる。
【0174】
関節リウマチは、自己免疫性の炎症状態として理解されている。関節リウマチ患者の患部関節には、限定されないが、マクロファージ、T細胞、及びB細胞等の免疫細胞が浸潤している。これらの細胞は、パンヌスと呼ばれる肥大した滑膜に濃縮されている。自己免疫疾患と一致して、関節リウマチを患う患者の血清中には、自己抗体が認められる。これらの自己抗体は、関節内で免疫複合体を形成し、その結果、免疫細胞を活性化すると推定されている。しかしながら、すべての関節リウマチ患者が検出可能な自己抗体を呈していないことから、病因の複雑性が示唆される。
【0175】
理論に束縛されるものではないが、対照的に、変形性関節症は、炎症が存在することもあり得るが、ほとんどの場合、炎症及び免疫細胞とは無関係に生じると考えられている。変形性関節症はさらに、軟骨の機械的損傷に由来し、軟骨分解を進行させ、最終的には骨の分解を導くと考えられている。
【0176】
関節リウマチと変形性関節症は異なる疾患であるが、それらは細胞特性及び分子特性を共有していることが理解されている。例えば、軟骨細胞外マトリックスの損傷は、変形性関節症と関節リウマチの両方に共通する病理学的特性であり、典型的な初期症状である。一般に、関節炎の重要な病理学的特性は、軟骨の破壊である。この破壊は、軟骨の細胞外マトリックス(ECM)の分解により始まり、最終的には軟骨を合成し維持する細胞である軟骨細胞の損失を導き得る。加えて、疾患が進行するにつれて、骨の浸食及び損失にもつながり得る。したがって、本明細書に開示される方法は、軟骨損傷を予防するために、本明細書に開示される疾患の後期段階まで、疾患の発症中に実施される処置における使用に順応する。
【0177】
本出願では、関節炎のヒトサンプル、例えば、関節リウマチ及び変形性関節症の関節組織における、GALA経路活性化のエビデンスを示している。軟骨分解の原因である滑膜線維芽細胞は、GALA経路に依存してマトリックス分解を活性化する。このことは特に、ジスルフィド結合の還元を媒介するカルネキシン(CNX)複合体(すなわち、CNX-PDIA3複合体)の細胞表面での露出を通じて起こると考えられている。換言すれば、CNX-PDIA3複合体のジスルフィド異性化酵素活性の阻害により、軟骨分解が改善されると考えられている。滑膜線維芽細胞におけるGALA経路の遺伝的阻害により、in vitroでマトリックス分解が遮断され、in vivoで関節炎の症状が軽減されることが示されている。例えば、抗体を用いてカルネキシン(CNX)を標的にすることにより同様の結果が得られることから、治療手法が指し示される。全体として、本明細書に開示される結果は、GALAグリコシル化経路が、関節炎病態の重要な決定因子であることを示している。
【0178】
GALA阻害剤による障害の処置
また、本明細書では、軟骨障害、関節障害、及び限定されないが、関節リウマチ(RA)及び変形性関節症(OA)等の関節炎状態の処置も開示する。現在、関節リウマチ(RA)または変形性関節症(OA)の患者のどちらに対しても治療法がない。関節リウマチ患者は、主に免疫系を標的とする、疾患修飾性抗リウマチ薬または免疫調節薬(例えば、限定されないが、抗TNFアルファ及び抗IL-6)を受ける。主な問題は、これらの処置によって誘発される免疫不全である。また、これらの既知の処置では、疾患の進行を完全に停止させること及び疾患の再発を予防することができないことが示されている。例えば、以前に、かかる抗リウマチ薬または免疫調節薬に反応することができなかった、重篤な末期症状の関節リウマチ(RA)または変形性関節症(OA)患者は、全人工関節置換術を受けなければならず、それには重篤な有害事象が高リスクで付随する。したがって、軟骨分解、関節障害、及び関節炎に関連する障害を有する患者に対する、代替経路に基づく治療法は、非常に重要なアンメット・メディカル・ニーズである。
【0179】
関節炎活性滑膜線維芽細胞(SF)が、GalNAc-T活性化(GALA)として知られる糖経路の活性化を呈することが見出された。GALA活性化は、いくつかのヒト関節リウマチ、ほとんどのヒト変形性関節症サンプルにおいて示され、マウスの関節リウマチモデルで誘導される。加えて、滑膜線維芽細胞におけるGalNAc-T活性化(GALA)を阻害すると、in vitroで軟骨分解が低減される。例えば、GalNAc-T活性化(GALA)の標的であるカルネキシンを標的とすることが、同様に有効であることが示されている。In vivoでは、タンパク質阻害剤、例えば、タンパク質阻害剤ER-2Lecを用いて、関節リウマチのマウスモデルでGalNAc-T活性化(GALA)を阻害すると、軟骨分解がほぼ完全に遮断される。
【0180】
したがって、滑膜線維芽細胞におけるGalNAc-T活性化(GALA)の阻害には、治療用途があることが示されている。一例では、対象における関節炎を処置する方法であって、GalNAc-T活性化(GALA)経路を阻害する治療薬の投与を含む、前記方法が開示される。別の例では、関節炎を処置するための医薬の製造における、GalNAc-T活性化(GALA)経路を阻害する治療薬の使用が記載される。また、本明細書では、関節炎の処置に使用するためのGalNAc-T活性化(GALA)経路を阻害する1つ以上の治療薬も開示される。
【0181】
治療用途の一例では、タンパク質ER-2Lecをコードする核酸配列が、例えば、限定されないが、アデノ随伴ウイルス(AAV)もしくはレンチウイルスのトランスフェクション系、または任意の他の遺伝子送達法を用いて、滑膜線維芽細胞に形質導入またはトランスフェクトされる。別の例では、治療用途は、限定されないが、カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)、カルネキシン-PDIA3複合体のチオレダクターゼ活性、グリコシル化MMP14(例えば、O-グリコシル化MMP14)、または滑膜線維芽細胞表面の任意の細胞表面結合GALA関連タンパク質から選択される1つ以上の標的を阻害することである。一例では、かかる阻害は、遮断抗体、その断片、またはその誘導体を使用することによってもたらされるか、または引き起こされ得る。
【0182】
したがって、一例では、本明細書に記載の通りの方法または使用では、治療薬が、GalNAc-T活性化(GALA)経路に関与する細胞表面マーカーのいずれか1つ以上を阻害する。
【0183】
別の例では、本明細書に開示される通りの軟骨分解、関節障害、及び関節炎に関連する障害に対する処置の標的には、カルネキシン(CNX)、PDIA4、PDIA3、及び/またはCNXとPDIA3の複合体を標的とすることが含まれる。別の例では、標的は、細胞表面に結合または存在しているカルネキシン(CNX)、PDIA4、及び/またはPDIA3である。
【0184】
免疫系を標的とすることに加えて、例えば、カドヘリン11を標的とすることにより、関節滑膜自体を制御することも企図されている。
【0185】
関節滑膜は、滑膜が肥大化することで形成される。通常、滑膜は関節領域の周辺部に局限されているが、関節炎の間は、この組織が関節領域に浸潤し、軟骨を攻撃する。関節滑膜は複数の細胞型を含有するが、細胞外マトリックス(ECM)の分解に関与すると考えられている重要な細胞は、滑膜線維芽細胞である。滑膜線維芽細胞は、通常、比較的少数であり静止しているが、関節炎状態では、これらの細胞は増殖し、結果として細胞外マトリックス分解活性が生じる。滑膜線維芽細胞にそれらの細胞外マトリックス分解活性のスイッチを入れるよう誘導するものが何かは、十分に理解されていない。
【0186】
細胞外マトリックス(ECM)分解は、細胞表面及び分泌型プロテアーゼ、特にマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)、限定されないがMMP14及びO-グリコシル化MMP14等によって媒介される。これらのタンパク質は、固形悪性腫瘍の細胞で特に活性化する。実際、がんの成長には、分解及び新たな細胞外マトリックスの合成を伴う、元の組織における細胞外マトリックスの高度なリモデリングが必要であることが示されている。
【0187】
がん細胞における(細胞外)マトリックスの分解は、GALA(GALNT Activationを表す)として知られる糖経路によって制御されることが示されていた。GALAは、O-グリコシル化を開始し、様々なタンパク質に複合糖を付加する酵素である、GALNTsの活性を制御する。GALA経路の制御(ひいては、がん細胞における細胞外マトリックスの分解)は、GALNTsがゴルジ体から小胞体(ER)に移動することを伴う、細胞内分布を通じて媒介される。その移動により、様々な基質がより容易にO-グリコシル化される。
【0188】
GalNAc-T活性化(GALA)の例示的標的の1つは、マトリックスメタロプロテアーゼ-14(MMP14)であり、そのO-グリコシル化はMMP14のタンパク質分解活性に必須であることが示されている。GALAの別の標的は、小胞体に位置するタンパク質カルネキシン(CNX)であり、これは、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)としても知られるERp57と複合体を形成する。グリコシル化に続いて、この複合体は、がん細胞の表面に移動し、そこで細胞外マトリックスのジスルフィド架橋を還元する。ジスルフィド架橋の還元は、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の効果的な活性に必須であり、したがって、細胞外マトリックスの分解に必須であることが示されている。故に、GalNAc-T活性化(GALA)は、2つの酵素活性(1つはタンパク質分解であり、もう1つはジスルフィド結合の還元)を協調または複合させることが示されている。
【0189】
したがって、一例では、本明細書に開示される治療薬は、カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)、カルネキシン-PDIA3(CNX:PDIA3)複合体、O-グリコシル化マトリックスメタロプロテアーゼ-14(MMP14)を含むグリコシル化マトリックスメタロプロテアーゼ-14(MMP14)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、GalNAc-T活性化(GALA)経路の標的のうちの1つ以上を阻害する。一例では、治療薬はカルネキシン(CNX)を阻害する。別の例では、治療薬はPDIA3を阻害する。さらなる例では、治療薬はカルネキシン-PDIA3複合体を阻害する。さらに別の例では、治療薬はカルネキシン及びPDIA3を阻害する。一例では、治療薬はグリコシル化MMP14を阻害する。
【0190】
本明細書に記載される実験データでは、関節炎活性滑膜線維芽細胞が著しいGALA活性化の徴候を呈することが明らかにされている。GalNAc-T活性化(GALA)の顕著な特徴は、いくつかのヒト関節リウマチ及びほとんどのヒト変形性関節症サンプルにおいて示される。マウス関節リウマチモデルでは、症状の出現に先立ってGALAが誘導される。加えて、タンパク質阻害剤ER-2Lecを用いて、滑膜線維芽細胞におけるGALAを阻害すると、in vitroで軟骨分解が低減されることが示されている。in vivoでは、滑膜線維芽細胞で発現されるER-2Lecを用いて、マウス関節リウマチモデルにおけるGALAを阻害すると、疾患の進行が特異的に防げられることが示され、これにより、疾患におけるGALAの役割も確かめられている。最後に、別の例では、抗体を用いてカルネキシンを標的にすることで、軟骨分解がほぼ完全に遮断されることが示されており、治療におけるこれらのコンセプトの使用の必要性を示している。
【0191】
変形性関節症及び関節リウマチ患者は、いくつかの共通の病理学的特徴を共有しており、重複する細胞及び分子特性を示している。関節炎の病理学的特徴の1つは、疾患の発症時に起こる軟骨細胞外マトリックス(ECM)の破壊であり、その後に、不可逆的な骨損失が引き起こされる。滑膜線維芽細胞は、滑膜細胞のサブセットであると報告されており、直接的に浸潤することを通じて、またはマトリックスリモデリング酵素(例えば、限定されないが、MMP14、ADAMTS)を分泌することを通じて、軟骨細胞外マトリックスに対する損傷を引き起こすことが示されている。
【0192】
N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(GalNAc-T)酵素のゴルジ体から小胞体(ER)への移動は、GalNAc-T活性化(GALA)経路としても知られ、腫瘍細胞外マトリックス(ECM)リモデリングの主要な制御因子であることが示されている。GalNAc-Tは、セリン(Ser)及び/またはスレオニン(Thr)残基に単一の糖が付加されることを触媒する。得られたグリカンはTn抗原と呼ばれ、GALA活性化細胞の小胞体(ER)に濃縮され、GALA活性化マーカーとして機能する。関節炎患者のヒトサンプルにおけるGALA活性化状態を試験するために、市販されている関節リウマチ及び変形性関節症患者の滑膜組織におけるTnグリカンレベルを評価した。関節リウマチ患者では、健康な対象と比較して、Tn(O-GalNac)グリカンレベルの中央値が増加に向かう傾向が示された(0.34対0.24、p=0.06、
図21)。変形性関節症患者のTnグリカンレベルの中央値は、健康な対象(0.59対0.24、p=0.002、
図21)及び関節リウマチ患者(0.59対0.34、p=0.01)の双方よりも有意に高かった。変形性関節症患者の大部分(19/21、90.4%)で、Tnグリカンレベルの中央値が健康な対象のそれよりも高かった(
図21)。これらの結果から、関節炎患者では、健康な個人と比較して、滑膜組織における高いGALA活性化が示され、変形性関節症患者では、GALAの過剰活性化が呈されたことが明らかになった。
【0193】
関節炎におけるGALA活性化の機能的寄与を理解するために、コラーゲン抗体誘発関節炎のin vivo前臨床モデルを利用した。上で概説した通りの臨床サンプルでの所見と一致して、関節炎を誘発した関節では、Tnレベルの増加が認められた(
図2B)。この誘発は関節炎の重症度と相関し、7~10日目にそのピークに達した(
図2C及び2D)。さらに、対照関節におけるTnグリカン染色では、ゴルジ複合体への局在化が示されたが、関節炎におけるTnグリカン染色では、Tnグリカンの小胞体常在タンパク質カルネキシン(CNX)との共存が明らかになった。まとめると、これらの局在化は、GALAの活性化状態を指し示していると考えられる(
図3、拡大パネル)。加えて、関節炎関節においてGALA活性化を示している主要な細胞サブセットとして、パンヌスにおける滑膜線維芽細胞を同定した(
図4)。
【0194】
滑膜線維芽細胞におけるGalNAc-T活性化(GALA)経路を特異的に阻害するために、Cre/LoxPシステムを用いて、滑膜線維芽細胞の小胞体でのみGALA阻害剤(GalNAc-T2の2つのレクチンドメイン)を発現するように遺伝子改変マウス系統を操作した(
図8A)。かかる手法を用いてGALA経路を阻害すると、軟骨細胞外マトリックスの完全性を回復させ、関節炎疾患の重症度を軽減できたことが認められた(
図8B~8H)。まとめると、これらの結果は、GALA経路が、関節炎疾患における軟骨細胞外マトリックスの分解に重要な役割を果たしていることを示している。
【0195】
GalNAc-T活性化(GALA)経路は、いくつかの細胞表面タンパク質及び分泌型タンパク質のグリコシル化を制御する。例えば、GALA経路は、がん及び関節リウマチの両方における細胞外マトリックス分解の駆動体であるマトリックスメタロプロテアーゼMMP14を過剰にグリコシル化し、活性化することが示されている。GalNAc-T(GALA)経路が活性化されるとすぐに、小胞体常在タンパク質(例えば、限定されないが、カルネキシン(CNX)、PDIA3、PDIA4)が過剰にO-グリコシル化されることが示された。さらに、GALAにより活性化したカルネキシン(CNX)タンパク質は、細胞表面に移動し、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)と複合体を形成し、マトリックス構成タンパク質のジスルフィド結合の還元を介して、腫瘍細胞外マトリックス成分の分解を引き起こすことが示された。理論に束縛されるものではないが、カルネキシン(CNX)及びPDIA3が、GALA経路の調節/阻害の標的であることが示されていることと同様に、MMP14及びPDIA4も、GALA経路の調節/阻害の標的である。したがって、グリコシル化MMP14も、GALA経路の調節/阻害の標的である。PDIA3のパラログであるPDIA4は、PDIA3と同様に機能し、PDIA3と同様に関節炎処置の標的でもある。一例では、関節炎は関節リウマチである。
【0196】
このコンセプトを利用するため、ハイスループットスクリーニングアッセイを開発して、関節炎処置に最も適切なGALA関連標的を選択した。このアッセイでは、滑膜線維芽細胞(細胞株SW982)を、GALA標的遮断薬(例えば、限定されないが、抗体またはsiRNA)の存在下、消光させた蛍光性軟骨マトリックス成分(この例では、蛍光発生DQコラーゲン)上で培養した。滑膜線維芽細胞の分解活性により、ハイコンテントイメージングシステムを用いて定量的に捕捉した蛍光シグナルが増加した(
図21A)。肝腫瘍における従来の所見と一致して、このスクリーニングでは、滑膜線維芽細胞において軟骨分解の正の制御因子として機能する主な的中物の中で、カルネキシン、PDIA3及びMMP14の3種がGALA関連標的であると同定した(
図21C)。
【0197】
上記スクリーニングから、滑膜線維芽細胞における軟骨細胞外マトリックス成分の分解活性を阻害するGALA標的阻害剤を同定した。それらの同定された阻害剤のうち、カルネキシン(CNX)を標的とするモノクローナル抗体クローンを、治療用途の追跡検査を実施するために選択した。
【0198】
したがって、一例では、GALA経路の標的は、カルネキシン(CNX)及び/またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)である。
【0199】
さらなる例においては、(a)GalNAc-T活性化(GALA)経路の1つ以上の標的を阻害する分子を同定する方法であって、1つ以上の標的を該分子と接触させ、該分子が1つ以上の標的を阻害するかどうかを決定することを含む、前記方法、(b)GalNAc-T活性化(GALA)経路の抑制因子を同定する方法であって、該抑制因子と細胞を接触させ、該細胞中、該細胞上、または該細胞のGalNAc-T活性化(GALA)経路の1つ以上の標的の、発現量または発現活性の低下を検出することを含む、前記方法、(c)関節炎に適した分子あるいは関節炎の処置、予防または緩和に適した分子を同定する方法であって、候補分子が、カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、またはカルネキシン(CNX)及びタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)のアゴニストまたはアンタゴニストであるかどうかを決定すること、好ましくは、候補分子が、それらのアゴニストまたはアンタゴニストであるかどうかを決定するために、該候補分子を、CNX、PDIA4、PDIA3、またはCNX及びPDIA3、あるいはCNX、PDIA4、PDIA3、またはCNX及びPDIA3を発現する細胞に曝すことにより決定することを含む、前記方法、または(d)CNX、PDIA4、PDIA3、またはCNX及びPDIA3のアゴニストまたはアンタゴニストを同定する方法であって、候補分子を動物に投与し、該動物が、CNX、PDIA4、PDIA3、またはCNX及びPDIA3の発現量または発現活性の増加または減少を示すかどうかを決定することを含む、前記方法、が開示され、ここで、GalNAc-T活性化(GALA)経路の1つ以上の標的は、カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、CNX:PDIA3複合体、及びO-グリコシル化マトリックスメタロプロテアーゼ-14(MMP14)からなる群から選択される。別の例では、本明細書に開示される方法は、分子、調節因子、アゴニストまたはアンタゴニストを単離または合成するステップを任意選択で含む。
【0200】
一例では、(a)GalNAc-T活性化(GALA)経路の1つ以上の標的を阻害する分子を同定する方法であって、1つ以上の標的を該分子と接触させ、該分子が1つ以上の標的を阻害するかどうかを決定することを含む、前記方法、(b)GalNAc-T活性化(GALA)経路の抑制因子を同定する方法であって、該抑制因子と疾患細胞を接触させ、該細胞中、該細胞上、または該細胞のGalNAc-T活性化(GALA)経路の1つ以上の標的の、発現量または発現活性の低下を検出することを含み、ここで、該疾患は関節炎である、前記方法、(c)関節炎の処置、予防または緩和に適した分子を同定する方法であって、候補分子が、カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、またはカルネキシン(CNX)及びタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)のアゴニストまたはアンタゴニストであるかどうかを決定すること、好ましくは、候補分子が、それらのアゴニストまたはアンタゴニストであるかどうかを決定するために、該候補分子を、CNX、PDIA4、PDIA3、またはCNX及びPDIA3、あるいはCNX、PDIA4、PDIA3、またはCNX及びPDIA3を発現する細胞に曝すことにより決定することを含む、前記方法、または(d)CNX、PDIA4、PDIA3、またはCNX及びPDIA3のアゴニストまたはアンタゴニストを同定する方法であって、候補分子を関節炎動物モデルに投与し、該関節炎動物モデルが、CNX、PDIA4、PDIA3、またはCNX及びPDIA3の発現量または発現活性の増加または減少を示すかどうかを決定することを含む、前記方法、が開示され、ここで、GalNAc-T活性化(GALA)経路の1つ以上の標的は、カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)、カルネキシン-PDIA3複合体、及びO-グリコシル化マトリックスメタロプロテアーゼ-14(MMP14)からなる群から選択され、該関節炎は、変形性関節症、乾癬性関節炎、または関節リウマチであり、該方法は、分子、調節因子、アゴニストまたはアンタゴニストを単離または合成することを任意選択で含む。
【0201】
さらに別の例では、本明細書に開示される方法は、GalNAc-T活性化(GALA)経路の1つ以上の標的を阻害することができる、化合物または分子のライブラリーを同定またはスクリーニングする方法である。別の例では、本明細書に開示されるスクリーニング方法を用いて同定された化合物または分子は、動物または対象に投与されることになる。
【0202】
関節炎の観点から、滑膜線維芽細胞の軟骨分解活性の複雑な生理学的特徴をモデル化するために、活性疾患症状を有する変形性関節症患者から、初代滑膜線維芽細胞を単離した(OASF細胞とも称される)。培養されたOASF細胞は、滑膜組織における従来の知見と一致して、高いGalNAc-T経路活性化を示し(
図21B)、高度に活性した色素消光(DQ)-コラーゲンマトリックス分解活性を呈した。選択した抗体クローンが、培養OASF細胞の軟骨分解活性を阻害したことが見い出された(p=0.001、
図21C)。
【0203】
まとめると、このデータは、GalNAc-T(GALA)活性化経路が、関節炎における軟骨分解に影響を与えることを指し示している。したがって、GALA活性化経路を標的とすることは、関節炎処置の治療標的及び治療手法として役立つ。
【0204】
関節リウマチ及び変形性関節症における滑膜でのO-グリコシル化の亢進
GalNAc-T経路が、がん細胞における細胞外マトリックスの分解に関与しているように、同じ経路が関節炎エピソード及び関節炎における軟骨分解にも関与していると考えられている。GalNAc-T経路活性化のマーカーは、セリン(Ser)またはスレオニン(Thr)残基にGalNacが付加して形成される、単一の糖O-グリカンであるTn(Tn抗原としても称される)のレベル増加である。Tnは、例えば、限定されないが、Vicia villosaレクチン(VVL)及びHelix pomatiaレクチン(HPL)等のレクチンによって検出され得る。
【0205】
関節組織の組織マイクロアレイを、DNAの対比染色としてVicia villosaレクチン(VVL)を用いた免疫蛍光法で分析した。変形性関節症を患う患者のサンプル及び関節リウマチ患者のいくつかのサンプルにおいて、明らかなシグナルの増加が検出された(
図1A)。次に、Vicia villosaレクチン染色の積算蛍光強度を、細胞密度マーカーとしてのDNAシグナル強度に対して正規化して定量した(
図1B)。健康な患者サンプルでは、ばらつきがほとんどないことが明らかになったが、疾患患者のサンプルでは、すべてではないにしても、ほとんどがTnレベルの増加を示し、一部の関節リウマチ及び変形性関節症サンプルでは、Vicia villosaレクチンシグナルの5~7倍の増加が示された。
【0206】
この相関関係をさらに研究するために、コラーゲン抗体誘発関節炎(CAIA)に基づくマウス関節リウマチモデルを利用した。簡潔には、マウスにII型コラーゲンに対する抗体を注入し、次いで、3日後にリポ多糖(LPS)を注入する。この処理により、7日目に、限定されないが、足の腫れ及び跛行等の関節炎症状が導かれ、14日目まで持続した後、徐々に治まった(
図2A、2C)。組織学的には、7日目に関節腔に浸潤したパンヌスの形成が認められた。パンヌスのサイズは増大し、10日目には免疫細胞の流入に基づいて炎症レベルが増加したように見え、パンヌスは14日目まで持続した(
図2A)。免疫蛍光標識を用いると、7日目に、特に浸潤したパンヌスで、Tn染色の増加が認められた(
図2B)。Tn染色は10日目まで持続し、14日目には薄れた(
図2B、2D)。
【0207】
GALA経路活性化の徴候を示す関節炎滑膜
GalNAc-T経路の活性化は、Tnレベルの増加につながる機序としてよく説明される。GALA経路活性化の顕著な特徴の1つは、N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(GALNTs)、特にGALNT1及びGALNT2のゴルジ装置から小胞体への再分布である。GalNAc-T(GALA)経路が実際に活性化されていることを検証するために、Vicia villosaレクチン(VVL)と小胞体マーカーであるカルネキシンとの共染色を実施した(
図3A)。未処理のサンプルでは、Vicia villosaレクチン染色とカルネキシン染色は明確に分離しており、Vicia villosaレクチンは、ゴルジ複合体と一致した点状のパターンで集中していた(
図3A)。対照的に、7日目のコラーゲン抗体誘発関節炎(CAIA)サンプルでは、Vicia villosaレクチン染色とカルネキシン染色は明らかに共局在していた。次に、GALNT2染色で同様の解析を実施した。GALNT2染色強度の増加が認められ、疾患状態におけるGALNT2酵素レベルの増加が指し示された(
図3B)。加えて、酵素の分布パターンは、Vicia villosaレクチンと同様の移行に従い、小胞体様パターンに再分布し、カルネキシンと共局在した(
図3B)。
【0208】
したがって、一例では、小胞体に局在するGALNT1及びGALNT2の同定は、関節リウマチ及び変形性関節症処置の標的として使用される。別の例では、GALA経路の標的は、カルネキシン(CNX)及び/またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)である。
【0209】
一例では、対象における軟骨分解に関連する障害の存在または非存在を検出する方法であって、以下のステップ:(i)対象から滑膜線維芽細胞サンプルを得るステップ、(ii)ステップ(i)で得られたサンプル中のTn抗原、Tnグリカン、CNX細胞表面発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルを検出するステップ、ステップ(ii)のTn抗原、Tnグリカン、CNX細胞表面発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルを、対照群の滑膜線維芽細胞サンプルにおけるTn抗原、Tnグリカン、CNX細胞表面発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルと比較するステップを含み、ここで、サンプルにおいて示されるTn抗原、Tnグリカン、CNX細胞表面発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルの対照群と比較した増加は、軟骨分解に関連する障害の存在を表し、対照群は、軟骨分解に関連する障害を有しない対象からなる、前記方法が開示される。
【0210】
別の例では、対象における関節炎、任意選択で変形性関節症または関節リウマチの存在または非存在を検出する方法であって、以下のステップ:(i)対象から滑膜線維芽細胞サンプルを得るステップ、(ii)ステップ(i)で得られたサンプル中のTn抗原、Tnグリカン、CNX細胞表面発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルを検出するステップ、ステップ(ii)のTn抗原、Tnグリカン、CNX細胞表面発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルを、対照群の滑膜線維芽細胞サンプルにおけるTn抗原、Tnグリカン、CNX細胞表面発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルと比較するステップを含み、ここで、サンプルにおいて示されるTn抗原、Tnグリカン、CNX細胞表面発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルの対照群と比較した増加は、関節炎の存在を表し、対照群は、関節炎を有しない対象からなる、前記方法が開示される。
【0211】
一例では、対象における軟骨分解に関連する障害の存在または非存在を検出する方法であって、以下のステップ:(i)滑膜線維芽細胞サンプル中のTn抗原、Tnグリカン、CNX細胞表面発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルを検出するステップ、(ii)ステップ(i)のTn抗原、Tnグリカン、CNX細胞表面発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルを、対照群の滑膜線維芽細胞サンプルにおけるTn抗原/Tnグリカンのレベルと比較するステップを含み、ここで、サンプルにおいて示されるTn抗原、Tnグリカン、CNX発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルの対照群と比較した増加は、処置の適合性を表す、前記方法が開示される。対照群は、軟骨分解に関連する障害を有しない対象からなり得る。
【0212】
別の例では、対象における関節炎、任意選択で変形性関節症または関節リウマチの存在または非存在を検出する方法であって、以下のステップ:(i)滑膜線維芽細胞サンプル中のTn抗原、Tnグリカン、CNX細胞表面発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルを検出するステップ、(ii)ステップ(i)のTn抗原、Tnグリカン、CNX細胞表面発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルを、対照群の滑膜線維芽細胞サンプルにおけるTn抗原/Tnグリカンのレベルと比較するステップを含み、ここで、サンプルにおいて示されるTn抗原、Tnグリカン、CNX発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルの対照群と比較した増加は、処置の適合性を表す、前記方法が開示される。対照群は、関節炎、変形性関節症または関節リウマチを有しない対象からなり得る。
【0213】
一例では、対象が抗cnx抗体による処置に適しているかどうかを、以下のステップ:(i)滑膜線維芽細胞サンプル中のTn抗原、Tnグリカン、CNX細胞表面発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルを検出するステップ、(ii)ステップ(i)のTn抗原、Tnグリカン、CNX細胞表面発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルを、対照群の滑膜線維芽細胞サンプルにおけるTn抗原/Tnグリカンのレベルと比較するステップ、を通じて決定する方法があり、ここで、サンプルにおいて示されるTn抗原、Tnグリカン、CNX発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルの対照群と比較した増加は、処置の適合性を表す。対照群は、軟骨分解を有しない、軟骨分解に関連する障害を有しない、関節炎を有しない、変形性関節症を有しない、または関節リウマチを有しない対象からなり得る。
【0214】
別の例では、対象が抗cnx抗体による処置に適しているかどうかを、以下のステップ:(i)対象から滑膜線維芽細胞サンプルを得るステップ、(ii)滑膜線維芽細胞サンプル中のTn抗原、Tnグリカン、CNX細胞表面発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルを検出するステップ、(iii)ステップ(ii)のTn抗原、Tnグリカン、CNX細胞表面発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルを、対照群の滑膜線維芽細胞サンプルにおけるTn抗原/Tnグリカンのレベルと比較するステップ、を通じて決定する方法があり、ここで、サンプルにおいて示されるTn抗原、Tnグリカン、CNX発現、CNXグリコシル化、及び/またはECM分解のレベルの対照群と比較した増加は、処置の適合性を表す。対照群は、軟骨分解を有しない、軟骨分解に関連する障害を有しない、関節炎を有しない、変形性関節症を有しない、または関節リウマチを有しない対象からなり得る。
【0215】
別の例では、対象における関節炎の存在または非存在を検出する方法であって、以下のステップ:対象から得られたサンプル中のTn抗原/Tnグリカンのレベルを検出するステップ、先行ステップで検出されたTn抗原/Tnグリカンのレベルを、対照群の滑膜線維芽細胞サンプル中のTn抗原/Tnグリカンのレベルと比較するステップを含み、ここで、サンプルにおいて示されるTn抗原/Tnグリカンのレベルの対照群と比較した増加は、関節炎の存在を表し、対照群は、関節炎を有しない対象からなる、前記方法が開示される。
【0216】
滑膜線維芽細胞はGALAを呈する主要な細胞型である
関節リウマチ疾患の滑膜は、免疫細胞及び滑膜線維芽細胞を含む複雑な組織である。どの細胞型がGalNAc-Tレベルの増加を示したかを確立するために、コラーゲン抗体誘発関節炎(CAIA)の関節サンプルを、Vicia villosaレクチン(VVL)及び、免疫細胞マーカーであるCD45、または線維芽細胞マーカーであるビメンチンで共染色した。パンヌス中のTn陽性細胞では、大部分で、ビメンチン陽性(vm
+)、及びCD45陰性(CD45
+)であった(
図4)。CD45+細胞セットも検出されたが、これらは、大抵パンヌス前部の後方に位置していた。変形性関節症及び関節リウマチを患う患者のヒトサンプルでは、滑膜ライニング線維芽細胞のマーカーとして線維芽細胞活性化タンパク質アルファ(FAPα)を用いた(
図5A、5B)。Vicia villosaレクチン(VVL)染色は、どちらの状態でもFAPαと相関することが示された。関節リウマチサンプルでは、FAPα陽性細胞の層の下に、CD45に富む区画が顕著であったが、これらの免疫細胞は、Vicia villosaレクチンによって有意に標識されなかった(
図5A、5B)。
【0217】
サイトカイン及びECMによる滑膜線維芽細胞の刺激はより高いGALAレベルを誘導する
GalNAc-T経路がin vivoでどのように活性化されるかを理解するために、患者由来の初代ヒト滑膜線維芽細胞を用いた。滑膜線維芽細胞及び免疫細胞のマーカーとして、それぞれCD90及びCD45を用いた蛍光活性化セルソーティング(FACS)分析により、使用した細胞調製物の純度>90%を確立した(
図6A)。次いで、滑膜線維芽細胞を、関節リウマチにおける疾患の進行を促進すると考えられている、TNFα及びIL1ベータサイトカインを用いて刺激した。個々のサイトカインは、GALA活性化に対して限定的な効果しか持たなかったが、両サイトカインの組み合わせ(CYTOと表示)は、特に関節リウマチ滑膜線維芽細胞(RASF)において、Vicia villosaレクチン(VVL)細胞レベルにおける2倍の増加を誘導した(
図6B、6C)。Vicia villosaレクチンの染色パターンは、明らかに小胞体様であり、GALAの活性化を示した(
図6B)。健康な滑膜線維芽細胞は、ほとんど反応しなかったか、または反応しなかったことから、患者の細胞は、刺激に対してプライミングされていることが示唆された(
図6B、6C)。
【0218】
軟骨細胞外マトリックスタンパク質が、滑膜線維芽細胞の活性化に寄与し得るかどうかが疑われていた。実際、滑膜線維芽細胞を軟骨細胞外マトリックスに曝すと、変形性関節症滑膜線維芽細胞及び関節リウマチ滑膜線維芽細胞の両方で、GalNAc-T経路がほぼ3倍活性化した。繰り返すが、対照的に、健康な患者の細胞では無反応であったか、またはわずかに反応した(
図6B、6C)。CYTO(TNFα及びIL1ベータサイトカイン)と細胞外マトリックスの組み合わせは、若干の相加効果を有した(
図6C)。ラット尾部由来のI型コラーゲンを用いても同様の活性化が誘導されたことから、該刺激は、軟骨細胞外マトリックスに特異的なものではないように思われた(
図6C)。すなわち、サイトカイン及び天然の軟骨細胞外マトリックスの両方による複合刺激は、滑膜線維芽細胞において最大のGALA応答を引き起こすと考えられ、後者が最も強い誘導因子であることから、GALAを標的とすることは、まだ活性な炎症徴候を呈していない早発性の関節リウマチ患者に適していることが指し示される。さらに、このことにより、本明細書に開示される処置は、サイトカイン産生レベルが低いにもかかわらず、線維芽細胞においてGALA活性化も示している変形性関節症患者にも適していることが指し示される。
【0219】
滑膜線維芽細胞におけるGALAの阻害は軟骨細胞外マトリックス分解を低減する
GalNAc-T経路の活性化が、がん細胞における細胞外マトリックスの分解を引き起こすことから、それが軟骨細胞外マトリックスの分解にも関係しているかどうかを試験しようと努めた。これは、前述したように、蛍光ゼラチンによるサンドイッチアッセイを用いて行った。ER-2Lecは、小胞体(ER)標的配列及びGALNT2の2つのレクチンの融合体で構成されるキメラタンパク質である。ER-2Lecは、小胞体特異的O-グリコシル化を妨害することにより、GALAの活性を阻害する(
図7A)。滑膜肉腫患者由来の細胞株であるSW982を用いて、ドキシサイクリン誘導性プロモーター系の制御下で、安定したER-2Lec形質移入体(形質移入細胞株)を生成した。次に、SW982細胞をCYTO(TNFα及びIL1ベータサイトカイン)で刺激して、細胞外マトリックスの分解を刺激した。細胞外マトリックス分解の増加が認められた(
図7B)。しかしながら、ER-2Lecの発現を誘導した場合、細胞外マトリックス分解は、2倍超減少した(
図7B、7C)。
【0220】
in vivoでの滑膜線維芽細胞におけるER-2Lec発現は関節炎を軽減する
ER-2Lecタンパク質がin vivoで関節炎を軽減し得るかどうかを試験するために、Loxカセットを有するER-2Lec遺伝子導入マウスを生成した。次に、これらのマウスを、VI型コラーゲンアルファ1(Col6a1)プロモーター下でCreを発現するマウスと交配させた(
図8A)。VI型コラーゲンは、線維芽細胞が最も大量に存在する細胞型である、関節間葉系細胞によって発現される。この遺伝的交配の結果、ER-2Lecは、主に滑膜線維芽細胞で発現される(Col6a1Cre ER-2Lec)。実際、関節では、ER-2Lecが主に滑膜線維芽細胞で発現されていることが認められた(
図8B)。
【0221】
次に、Col6a1Cre ER-2Lec動物にコラーゲン抗体誘発関節炎(CAIA)を誘発させた。これらの動物では、関節腔に侵襲するパンヌスが依然として形成されたが、関節細胞では、Tnレベルの低下が示されたことから、GALA阻害が指し示された(
図8B)。
【0222】
Creのみ、またはER-2Lecも発現する動物において、コラーゲン抗体誘発関節炎(CAIA)に続く関節リウマチの症状をモニターした。滑膜線維芽細胞においてER-2Lecを発現する動物(Col6a1Cre ER-2Lec)では、足の腫脹の軽減が示された(
図9A)。初日から7日目までの間で、足の厚さの変化を測定し、対照動物では増加が認められ、足によって多少の差異があった(
図9B)。対照的に、ER-2Lec動物では、ほとんど腫脹が示されなかった。盲検評価において、国際的に定義された関節炎スコアを用い、Col6a1Cre ER-2Lec動物における一貫した症状の軽減を認めた(
図10)。
【0223】
次に、関節の軟骨分画を明らかにするために一般的に用いられるアルシアンブルー(AB)染色及びサフラニン-O(SO)染色を用いて、7日目に組織学的分析を実施した。コラーゲン抗体誘発関節炎(CAIA)を誘発した後、両群の動物においてパンヌスの形成が認められ、パンヌスのサイズには有意差がなかった(
図11A、11B)。注目すべきは、対照的に、軟骨の外観に明らかな違いがあったことである。例えば、アルシアンブルー領域は、未処理動物に比べて、CAIA Col6a1Cre動物で激しく減少していたが、Col6a1Cre ER-2Lec動物では、大部分が保存されていたように見えた。軟骨mm
2あたりのアルシアンブルー陽性面積の比率を測定し、CAIA処理Col6a1Cre ER-2Lec動物において、軟骨の保存を認めた(
図11C)。同様のデータが、サフラニン-O(SO)染色の定量後に得られた(
図11D)。
【0224】
したがって、一例では、滑膜線維芽細胞におけるER-2Lec構築物の発現により、GALA阻害効果がもたらされることが説明される。
【0225】
GALAは滑膜線維芽細胞におけるカルネキシンのグリコシル化及び表面露出を活性化する
【0226】
近年、カルネキシン(CNX)がGALAのグリコシル化標的及びエフェクターとして説明されていた。カルネキシンは、グリコシル化されるとすぐに細胞表面に移動し、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)と共に、細胞外マトリックスタンパク質のジスルフィド結合の切断を媒介する。この還元活性は、がん細胞によるマトリックス分解に必須である。SW982滑膜線維芽細胞においては、サイトカイン及び細胞外マトリックスで刺激後、カルネキシン(CNX)がおよそ6倍で過剰にグリコシル化されることが見い出された(
図12A、12B)。ER-2Lecの発現は、カルネキシンのグリコシル化を減少させることができたので、このグリコシル化は、GALA依存的であることが示された(
図12A、12B)。
【0227】
加えて、蛍光活性化セルソーティング(FACS)を用いて見い出されたことは、これらの細胞をCYTO(TNFα及びIL-1βサイトカイン)及び細胞外マトリックスで刺激した後に、カルネキシンの表面発現が増加したことであった(
図13A、13B)。ER-2Lecの発現はカルネキシンの発現を減少させたので、カルネキシンの細胞表面発現は、GALAと密接に相関していることが示された(
図13A、13B)。
【0228】
したがって、一例では、カルネキシン阻害剤はER-2Lecである。別の例では、ER-2Lecは、遺伝子治療に用いられる。さらに別の例では、ER-2Lecを発現させるために発現ベクターが使用される。換言すれば、ER-2Lecは、発現ベクターを用いて発現される。別の例では、ER-2Lecは、化学的トランスフェクション、ウイルストランスフェクション、レンチウイルス形質導入またはクローニングを用いて細胞内にトランスフェクトされ得る。かかる用途に使用され得るウイルスベクターは、限定されないが、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)及びアデノウイルスである。一例では、ベクターはアデノ随伴ウイルスベクターである。
【0229】
次に、患者から得た初代細胞でこれらの結果を確認しようと努めた。健康な滑膜線維芽細胞では、サイトカイン(この場合では、TNFα及びIL-1βサイトカイン)及び細胞外マトリックスで刺激すると、細胞表面カルネキシン陽性細胞の割合の増加が誘導された(
図14A)。関節リウマチを患う患者の滑膜線維芽細胞(RASF)または変形性関節症患者の滑膜線維芽細胞(OASF)では、細胞表面カルネキシンレベルの3倍の増加が示された(
図14B)。対照的に、健康なドナー由来の滑膜線維芽細胞では、細胞表面カルネキシンの誘導が非常に限られていたことが示された。
【0230】
全体として、これらの結果は、カルネキシンのグリコシル化及びその細胞表面への露出がGALAに依存していることを指し示し、カルネキシンが軟骨細胞外マトリックスの分解に関与していることを指し示している。
【0231】
したがって、本明細書では、カルネキシン(CNX)及び/またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3、ERp57としても知られている)及び/またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4、ERp72としても知られている)の阻害剤を用いた、カルネキシン(CNX)及び/またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)及び/またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)の阻害が記載される。さらに、PDIA4がPDIA3のパラログであり、PDIA3と同様の機能を有することに留意されたい。
【0232】
本明細書で使用される場合、用語「カルネキシン(CNX)及び/またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)及び/またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)の阻害剤」は、CNX、またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)もしくはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、あるいはカルネキシン(CNX)及び/またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)を含む複合体の発現及び/または機能を阻害することができる任意の薬剤または化合物を指す。したがって、PDIA4、またはカルネキシン(CNX)及び/またはPDIA3を阻害することができる薬剤または化合物は、「タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)阻害剤」または「カルネキシン(CNX)/タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)阻害剤」、あるいは「タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、またはカルネキシン(CNX)及び/またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)のアンタゴニスト」と称される。
【0233】
いくつかの例において、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、またはカルネキシン(CNX)及び/またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)阻害剤は、カルネキシン(CNX)の阻害剤である。いくつかの例において、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、またはカルネキシン(CNX)及び/またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)阻害剤は、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)の阻害剤である。いくつかの例において、カルネキシン(CNX)及び/またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)阻害剤、またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)阻害剤は、カルネキシン(CNX)及びタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)を含む複合体の阻害剤である。いくつかの例において、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、またはカルネキシン(CNX)及び/またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)阻害剤は、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)の阻害剤である。
【0234】
いくつかの例において、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、またはカルネキシン(CNX)及び/またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)の阻害剤は、以下の効果のうちの1つ以上を含む:カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、及び/またはカルネキシン(CNX)及びタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)を含む複合体の発現(例えば、遺伝子及び/またはタンパク質発現)レベルを低下させること、カルネキシン(CNX)及び/またはPDIA3及び/またはPDIA4をコードするRNAのレベルを低下させること、カルネキシン(CNX)及び/またはPDIA3及び/またはPDIA4をコードする核酸の転写を低減/阻害すること、カルネキシン(CNX)及び/またはPDIA3及び/またはPDIA4をコードするRNAの分解を増大/促進すること、カルネキシン(CNX)及び/またはPDIA3及び/またはPDIA4をコードするRNAの転写後プロセシング(例えば、スプライシング、翻訳、翻訳後プロセシング)を低減/阻害すること、カルネキシン(CNX)タンパク質、PDIA4タンパク質、PDIA3タンパク質、及び/またはカルネキシン(CNX)及びPDIA3を含むタンパク質複合体のレベルを低下させること、カルネキシン(CNX)タンパク質、PDIA4タンパク質、PDIA3タンパク質、及び/またはカルネキシン(CNX)及びPDIA3を含むタンパク質複合体の分解を増大/促進すること、(i)カルネキシン(CNX)、PDIA4、PDIA3、及び/またはカルネキシン(CNX)及びPDIA3を含む複合体と、(ii)カルネキシン(CNX)、PDIA4、PDIA3、及び/またはカルネキシン(CNX)及びPDIA3を含む複合体の相互作用パートナーとの間の相互作用を低減/阻害すること(例えば、カルネキシン(CNX)とPDIA3との間の相互作用を低減/阻害することを含む)、カルネキシン(CNX)、PDIA4、PDIA3、及び/またはカルネキシン(CNX)及びPDIA3を含む複合体の機能レベルを低下させること、カルネキシン(CNX)、PDIA4、PDIA3、及び/またはカルネキシン(CNX)及びPDIA3を含む複合体による細胞外マトリックス(ECM)の分解を低減/阻害すること、カルネキシン(CNX)、PDIA4、PDIA3、及び/またはカルネキシン(CNX)及びPDIA3を含む複合体の酸化還元酵素活性を低減/阻害すること、及び/または、カルネキシン(CNX)、PDIA4、PDIA3、及び/またはカルネキシン(CNX)及びPDIA3を含む複合体のジスルフィド結合還元酵素活性を低減/阻害すること。
【0235】
所与の薬剤または化合物は、適切なアッセイを用いて、先行段落で詳述した特性について評価され得る。アッセイとしては、in vitroアッセイ、任意選択で細胞ベースアッセイまたは無細胞アッセイが挙げられるが、これらに限定されない。アッセイが細胞ベースのアッセイである場合、それらは、カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)、及び/またはカルネキシン(CNX)及びPDIA3を含む複合体の発現及び/または活性を上方制御するために細胞を処理すること、及び薬剤または化合物が1つ以上の詳述した特性を示すかどうかを決定するために、試験薬剤または化合物で細胞を処理することを含み得る。
【0236】
遺伝子発現は、当業者に周知の手段で分析され得る。所与の遺伝子をコードするRNAのレベルは、例えば、限定されないが、RT-qPCR、qPCRなどの技術によって決定され得る。タンパク質発現はまた、クロマトグラフィー、及びウェスタンブロット等、当業者に周知の他の手段によって決定され得る。所与のタンパク質/そのアイソフォームのレベルは、例えば、限定されないが、ウェスタンブロット、免疫組織学、免疫染色、免疫組織化学、細胞化学、フローサイトメトリー、ELISAなどを含むがこれらに限定されない抗体ベースの方法を用いて決定され得る。
【0237】
所与の遺伝子の遺伝子またはタンパク質発現の阻害は、非阻害状態(例えば、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、またはカルネキシン(CNX)及び/またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)阻害剤の非存在下)で認められる発現レベルに対して1倍未満、具体的には、0.99倍以下(≦0.99倍)、≦0.95倍、≦0.9倍、≦0.85倍、≦0.8倍、≦0.75倍、≦0.7倍、≦0.65倍、≦0.6倍、≦0.55倍、≦0.5倍、≦0.45倍、≦0.4倍、≦0.35倍、≦0.3倍、≦0.25倍、≦0.2倍、≦0.15倍、≦0.1倍、≦0.05倍、または≦0.01倍であり得る。いくつかの例では、遺伝子またはタンパク質の発現を低減/阻害することができる薬剤または化合物は、前記発現を5%超で阻害する。別の例では、遺伝子発現は、非阻害状態で認められる発現の10%以上(≧10%)、≧15%、≧20%、≧25%、≧30%、≧35%、≧40%、≧45%、≧50%、≧55%、≧60%、≧65%、≧70%、≧75%、≧80%、≧85%、≧90%、≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%または100%で阻害される。かかる阻害は、用語「倍率変化」を用いて提示され得、それは、2つの量の間の比として定義される。つまり、XとYの量では、Xに対するYの倍率変化は、Y/Xである。換言すれば、30から60への変化は、倍率変化2として定義される。これは、「2倍の増加」としても称される。同様に、30から15への変化は、「2倍の減少」として称される。
【0238】
タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、またはカルネキシン(CNX)及び/またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)の遺伝子発現を低減/阻害することができる(すなわち、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、またはカルネキシン(CNX)及び/またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)をコードするRNAのレベルを低下させること、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、またはカルネキシン(CNX)及び/またはPDIA3をコードする核酸の転写を低減/阻害すること、及び/またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、またはカルネキシン(CNX)及び/またはPDIA3をコードするRNAの分解を増大/促進することができる)薬剤または化合物は、例えば、RT-qPCRによって、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、またはカルネキシン(CNX)及び/またはPDIA3をコードするRNAのレベルを検出することを含むアッセイを用いて同定され得る。かかるアッセイは、細胞/組織を薬剤で処理し、その後、細胞/組織中のタンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、またはカルネキシン(CNX)及び/またはPDIA3をコードするRNAのレベルを、適切な対照条件(例えば、限定されないが、未処理/ビヒクル処理の細胞/組織、モック処理の細胞、または適切な陰性対照)下における、細胞/組織中のタンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、またはカルネキシン(CNX)及び/またはPDIA3をコードするRNAのレベルと比較することを含み得る。
【0239】
本明細書に記載される通りの、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、またはカルネキシン(CNX)及び/またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)のタンパク質発現を低減/阻害することができる薬剤または化合物は、例えば、抗体/レポーターベースの方法(ウェスタンブロット、ELISA、免疫組織化学、免疫組織学、細胞化学など)を用いて、CNXタンパク質、PDIA3タンパク質、PDIA4タンパク質のレベル、またはCNX及びPDIA3を含むタンパク質複合体のレベルを検出することを含むアッセイを用いて同定され得る。かかるアッセイは、細胞/組織を薬剤で処理し、その後、かかる細胞/組織におけるタンパク質/タンパク質複合体のレベルを、適切な対照条件の細胞/組織におけるレベルと比較することを含み得る。
【0240】
(i)カルネキシン(CNX)、PDIA4、PDIA3、及び/またはカルネキシン(CNX)及びPDIA3を含む複合体と、(ii)カルネキシン(CNX)、PDIA4、PDIA3、及び/またはカルネキシン(CNX)及びPDIA3を含む複合体の相互作用パートナーとの間の相互作用(例えば、カルネキシン(CNX)とPDIA3との間の相互作用)を低減/阻害することができる薬剤または化合物は、例えば、相互作用のレベルを(例えば、抗体/レポーターベースの方法を用いて)検出することを含むアッセイを用いて同定され得る。(i)カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)、及び/またはカルネキシン(CNX)及びPDIA3を含む複合体と、(ii)カルネキシン(CNX)、PDIA4、PDIA3、及び/またはCNX及びPDIA3を含む複合体の相互作用パートナーとの間の相互作用のレベルは、限定されないが、共鳴エネルギー移動技術(例えば、FRET、BRET)等の方法、または相互作用の相関を分析する方法を用いて分析され得る。アッセイは、細胞/組織を薬剤で処理し、その後、かかる細胞/組織における、(i)カルネキシン(CNX)、PDIA4、PDIA3、及び/またはカルネキシン(CNX)及びPDIA3を含む複合体と、(ii)カルネキシン(CNX)、PDIA4、PDIA3、及び/またはカルネキシン(CNX)及びPDIA3を含む複合体の相互作用パートナーとの間の相互作用のレベルを、適切な対照状態の細胞/組織(例えば、未処理/ビヒクル処理の細胞/組織)で認められた相互作用のレベルと比較することを含み得る。また、(i)カルネキシン(CNX)、PDIA4、PDIA3、及び/またはカルネキシン(CNX)及びPDIA3を含む複合体と、(ii)カルネキシン(CNX)、PDIA4、PDIA3、及び/またはカルネキシン(CNX)及びPDIA3を含む複合体の相互作用パートナーとの間の相互作用(例えば、カルネキシン(CNX)とPDIA3との間の相互作用)のレベルは、限定されないが、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、表面プラズモン共鳴またはバイオレイヤー干渉分析等の技術を用いて分析され得る。アッセイは、薬剤存在下での相互作用のレベルを、適切な対照条件における、例えば、未処理のサンプルまたは薬剤非存在下のサンプルにおける相互作用のレベルと比較することを含み得る。
【0241】
(i)カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)、及び/またはカルネキシン(CNX)及びタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)を含む複合体と、(ii)カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)、及び/またはカルネキシン(CNX)及びPDIA3を含む複合体の相互作用パートナーとの間の相互作用(例えば、カルネキシン(CNX)とPDIA3との間の相互作用)の阻害は、非阻害状態で認められた相互作用のレベルに対して、1倍未満、例えば、≦0.99倍、≦0.95倍、≦0.9倍、≦0.85倍、≦0.8倍、≦0.75倍、≦0.7倍、≦0.65倍、≦0.6倍、≦0.55倍、≦0.5倍、≦0.45倍、≦0.4倍、≦0.35倍、≦0.3倍、≦0.25倍、≦0.2倍、≦0.15倍、≦0.1倍、≦0.05倍、または≦0.01倍である。いくつかの例において、(i)PDIA4、カルネキシン(CNX)、PDIA3、及び/またはカルネキシン(CNX)及びPDIA3を含む複合体と、(ii)PDIA4、カルネキシン(CNX)、PDIA3、及び/またはカルネキシン(CNX)及びPDIA3を含む複合体の相互作用パートナーとの間の相互作用(例えば、カルネキシン(CNX)とPDIA3との間の相互作用)を低減/阻害することができる薬剤または化合物は、非阻害状態で認められた相互作用の5%超、例えば、≧10%、≧15%、≧20%、≧25%、≧30%、≧35%、≧40%、≧45%、≧50%、≧55%、≧60%、≧65%、≧70%、≧75%、≧80%、≧85%、≧90%、≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%または100%のうちの1つで阻害する。
【0242】
タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)、及び/またはカルネキシン(CNX)、PDIA3を含む複合体の機能を低減/阻害することができる薬剤または化合物は、関連する機能に対するアッセイを用いて同定され得る。かかるアッセイは、PDIA4、CNX、PDIA3及び/またはCNX及びPDIA3を含む複合体を発現する細胞/組織を薬剤で処理し、その後、関連する機能のレベルを、適切な対照条件、例えば未処理/ビヒクル処理の細胞/組織サンプル、陰性対照、または無効な化合物もしくは必要とされる効果がない化合物で処理した細胞/組織サンプルで認められるレベルと比較することを含み得る。
【0243】
タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)、及び/またはカルネキシン(CNX)及びPDIA3を含む複合体の機能を低減/阻害することができる薬剤または化合物は、カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)、及び/またはCNX及びPDIA3を含む複合体の機能と相関するもののレベル、例えば、CNX、PDIA4、PDIA3、及び/またはCNX及びPDIA3を含む複合体の機能の結果として、発現が直接/間接的に上方制御または下方制御される、1つ以上のタンパク質の遺伝子及び/またはタンパク質の発現、及び/または活性のレベルを検出することを含むアッセイを用いて同定され得る。かかるアッセイは、CNX、PDIA4、PDIA3、及び/またはCNX及びPDIA3を含む複合体を発現する細胞/組織を薬剤または化合物で処理し、その後、かかる細胞/組織におけるCNX、PDIA4、PDIA3、及び/またはCNX及びPDIA3を含む複合体の機能と相関するもののレベルを、本明細書に開示されるような適切な対照条件における、関連する機能と相関するもののレベルと比較することを含み得る。
【0244】
カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)、及び/またはCNX及びPDIA3を含む複合体の機能は、限定されないが、細胞外マトリックス(ECM)分解、酸化還元酵素活性またはジスルフィド結合還元酵素活性であり得る。PDIA4、CNX、PDIA3及び/またはCNX及びPDIA3を含む複合体の機能と相関するものは、限定されないが、細胞外マトリックス(ECM)分解、酸化還元酵素活性またはジスルフィド結合還元酵素活性の結果であり得る。
【0245】
カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)、及び/またはCNX及びPDIA3を含む複合体による細胞外マトリックス(ECM)分解を低減/阻害することができる薬剤は、細胞外マトリックス(ECM)、または細胞外マトリックス(ECM)分解活性のレベルを(例えば、限定されないが、抗体/レポーターベースの方法を用いて)検出することを含むアッセイを用いて同定され得る。細胞外マトリックス(ECM)分解は、当業者が利用可能な当技術分野で既知の方法を用いて測定され得る。アッセイは、CNX、PDIA4、PDIA3、及び/またはCNX及びPDIA3を含む複合体を発現する細胞/組織を薬剤で処理し、その後、細胞外マトリックス(ECM)分解のレベルを、適切な対照条件で認められた細胞外マトリックス(ECM)分解のレベルと比較することを含み得る。
【0246】
カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)、及び/またはCNX及びPDIA3を含む複合体の酸化還元酵素活性及び/またはジスルフィド結合還元酵素活性を低減/阻害することができる薬剤または化合物は、関連する活性のレベルを検出することを含むアッセイを用いて同定され得る。例えば、酸化還元酵素活性及び/またはジスルフィド結合還元酵素活性は、例えば、当技術分野で既知のインスリン還元アッセイを用いて測定され得る。アッセイは、薬剤の存在下でCNX、PDIA4、PDIA3、及び/またはCNX及びPDIA3を含む複合体によって示される関連活性のレベルを、薬剤の非存在下で認められるレベルと比較することを含み得る。
【0247】
カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)、及び/またはCNX及びPDIA3を含む複合体の機能(例えば、限定されないが、細胞外マトリックス(ECM)分解、酸化還元酵素活性、ジスルフィド結合還元酵素活性)の阻害は、非阻害状態で認められる活性のレベルに対して1倍未満、例えば、0.99倍以下(≦0.99倍)、≦0.95倍、≦0.9倍、≦0.85倍、≦0.8倍、≦0.75倍、≦0.7倍、≦0.65倍、≦0.6倍、≦0.55倍、≦0.5倍、≦0.45倍、≦0.4倍、≦0.35倍、≦0.3倍、≦0.25倍、≦0.2倍、≦0.15倍、≦0.1倍、≦0.05倍、または≦0.01倍であり得る。いくつかの例において、CNX、PDIA4、PDIA3及び/またはCNX及びPDIA3を含む複合体の機能(例えば、細胞外マトリックス(ECM)分解、酸化還元酵素活性、ジスルフィド結合還元酵素活性)を低減/阻害することができる薬剤または化合物は、非阻害状態で認められる関連する活性の5%超、または10%以上(≧10%)、≧15%、≧20%、≧25%、≧30%、≧35%、≧40%、≧45%、≧50%、≧55%、≧60%、≧65%、≧70%、≧75%、≧80%、≧85%、≧90%、≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%または100%を阻害する。
【0248】
本開示によるタンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、またはCNX及び/またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)阻害剤は、適切な阻害活性を持つ、任意の種類の薬剤または任意のタイプの化合物であり得る。
【0249】
いくつかの例において、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、またはCNX及び/またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)阻害剤は、以下:PDIA4結合分子、またはCNX結合分子、PDIA3結合分子、CNX:PDIA3複合体結合分子、CNXのレベルを低下させることができる分子、PDIA3のレベルを低下させることができる分子、PDIA3のレベルを低下させることができる分子、及びCNX:PDIA3複合体のレベルを低下させることができる分子から選択される。
【0250】
本明細書で使用される場合、用語「CNX結合分子」は、CNXに結合することができる分子を指す。同様に、「PDIA3結合分子」または「PDIA4結合分子」は、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)に結合することができる分子を指す。「CNX:PDIA3複合体結合分子」は、CNX及びPDIA3を含む複合体に結合することができる分子を指す。
【0251】
かかる結合分子は、関連因子(本開示の観点からは、CNX、PDIA4、PDIA3、またはCNX及びPDIA3を含む複合体)への分子の結合を検出するための任意の適切なアッセイを用いて同定され得る。かかるアッセイは、関連因子と分子との間の複合体の形成を検出することを含み得る。
【0252】
CNX結合分子、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)結合分子、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)結合分子及びCNX:PDIA3結合分子は、CNXまたはPDIA3のアンタゴニストを同定するために、適切なアッセイで分析され得る。例えば、CNX、PDIA4、PDIA3及び/またはCNX及びPDIA3を含む複合体に特異的に結合する分子は、細胞外マトリックス(ECM)分解を阻害するそれらの能力について、または酸化還元酵素及び/またはジスルフィド結合還元酵素活性を阻害するそれらの能力について評価され得る。
【0253】
CNX結合分子、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)結合分子、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)結合分子またはCNX:PDIA3複合体結合分子は、その標的(すなわち、CNX、PDIA3、CNX:PDIA3複合体)が相互作用パートナーと相互作用する能力を阻害し得る。いくつかの例において、PDIA3結合分子、CNX結合分子、PDIA3結合分子またはCNX:PDIA3複合体結合分子は、その標的とその標的に対する相互作用パートナーとの間の相互作用の競合的阻害剤として振る舞う。結合分子は、その標的に対する相互作用パートナーとの結合に必要な、その標的のある領域を占有し得るか、そうでなければ該領域への接近を低減または遮断し得る。CNX結合分子、PDIA4結合分子、PDIA3結合分子またはCNX:PDIA3複合体結合性分子の、その標的とその標的に対する相互作用パートナーとの間の相互作用を阻害するための能力は、例えば、限定されないが、相互作用パートナーの一方または両方と、関連する結合分子との存在下における、または相互作用パートナーの一方または両方と、関連する結合分子とのインキュベーション後における相互作用分析によって評価され得る。所与の結合剤がCNX、PDIA4、PDIA3またはCNX:PDIA3複合体と相互作用パートナーとの間の相互作用を阻害することができるかどうかを決定するのに適したアッセイの例は、競合酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)である。
【0254】
カルネキシン(CNX)結合分子、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)結合分子、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)結合分子、及びCNX:PDIA3複合体結合分子には、抗原結合分子が含まれる。
【0255】
カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)結合分子、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)、またはCNX及びPDIA3を含む複合体に結合することができる抗原結合分子は、タンパク質/タンパク質複合体が細胞表面で発現される際に、抗原結合分子が接近可能な、関連する標的タンパク質/タンパク質複合体の領域を認識する。これは、例えば、タンパク質/タンパク質複合体が、タンパク質/タンパク質複合体を発現する細胞の細胞膜中、または細胞膜で露出し、それらが結合可能であるときの場合である。いくつかの例では、抗原結合分子は、タンパク質/タンパク質複合体が細胞表面で発現される際に、CNX、PDIA4、PDIA3、またはCNX及びPDIA3を含む複合体の細胞外にある領域に結合する。
【0256】
本明細書で使用される場合、用語「抗原結合分子」は、所与の標的抗原に結合することができる分子を指し、その範囲には、限定されないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、単一特異性抗体、多特異性抗体(例えば、限定されないが、二重特異性または三重特異性抗体)等の抗体(免疫グロブリン)、ならびにその断片及び誘導体(例えば、限定されないが、Fv、scFv、Fab、scFab、F(ab´)2、Fab2、ダイアボディ、トリアボディ、scFv-Fc、ミニボディ、及び単一ドメイン抗体(限定されないが、VhH等)が含まれる。
【0257】
抗原結合分子は、限定されないが、カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)、またはCNX及びPDIA3を含む複合体である、本明細書に開示される関連する標的に、特異的に結合し得る。本明細書で使用される場合、用語「特異的結合」は、選択的な結合を指し、非標的分子に対する非特異的結合と区別され得る。抗原結合分子は、カルネキシン(CNX)、PDIA4、PDIA3、またはCNX及びPDIA3を含む複合体に特異的に結合する。好ましくは、抗原結合分子は、それが他の非標的分子に結合する場合よりも高い親和性で、及び/または長い持続時間で、関連する標的に結合する。
【0258】
抗原結合分子は、抗原結合ペプチド/ポリペプチド、または抗原結合ペプチド/ポリペプチド複合体であり得るか、またはそれらを含み得る。抗原結合分子は、1つ超のポリペプチド(例えば、2、3、4、6、または8つのポリペプチドを含む複合体)の非共有結合性または共有結合性複合体であり得る。一例では、かかる抗原結合分子は、2つの重鎖ポリペプチド及び2つの軽鎖ポリペプチドを含むIgG様抗原結合分子である。
【0259】
概して、抗体は6つの相補性決定領域(CDR)を含み、軽鎖可変領域(VL)の3つは、通常、LC-CDR1、LC-CDR2、LC-CDR3と表記され、重鎖可変領域(VH)の3つは、通常、HC-CDR1、HC-CDR2及びHC-CDR3と表記される。6つのCDRが共に、標的分子に結合する抗体の部分である、抗体のパラトープを規定する。VH領域及びVL領域は、相補性決定領域(CDR)の骨格を提供する、各CDRの両側にあるフレームワーク領域(FR)を含む。慣例に従い、N末端からC末端まで、重鎖可変領域(VH)は以下の構造を含む:N末端-[HC-FR1]-[HC-CDR1]-[HC-FR2]-[HC-CDR2]-[HC-FR3]-[HC-CDR3]-[HC-FR4]-C末端、及びVL領域は以下の構造を含む:N末端-[LC-FR1]-[LC-CDR1]-[LC-FR2]-[LC-CDR2]-[LC-FR3]-[LC-CDR3]-[LC-FR4]-C末端。
【0260】
本開示は、限定されないが、カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)、及び/またはCNX及びPDIA3を含む複合体の抗体アンタゴニストである、CNX、PDIA4、PDIA3、及び/またはCNX及びPDIA3を含む複合体の抗体または抗体アンタゴニストに言及する。一例では、本開示による抗原結合分子は、標的抗原(例えば、CNX、PDIA4、PDIA3、またはCNX及びPDIA3を含む複合体)に特異的に結合する、抗体の相補性決定領域(CDR)及び/または重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含む。
【0261】
所与の標的抗原に対する抗体は、当技術分野で既知の技術を用いて、作製、誘導または操作され得る。かかる技術には、限定されないが、標的抗原に結合することができる分子について、抗体遺伝子ファージディスプレイライブラリーをスクリーニングすること、及び動物免疫によって所与の標的抗原に対する抗体を生じさせることが含まれる。ヒトにおける治療的使用、または本明細書に開示される方法による使用に適したモノクローナル抗体(単クローン性またはそれ以外)の産生に対する手法としては、限定されないが、ハイブリドーマ技術の使用、異種抗体の生成とその後のヒト化、ヒト抗体遺伝子ファージディスプレイ、及びヒト抗体遺伝子を有する遺伝子導入マウスでの産生が挙げられる。
【0262】
また、ファージディスプレイ技術も、所与の標的、標的タンパク質、またはタンパク質複合体に結合することができる抗体を同定するために利用され得、それは当業者に周知である。
【0263】
カルネキシン(CNX)に対する抗体としては、限定されないが、モノクローナル抗体クローンAF18(Invitrogen Cat.No.MA3-027)、クローンAF8(Merck Cat.No.MABF2067)、クローンTO-5(Merck Cat.No.C7617)、クローン3H4A7(Invitrogen Cat.No.MA5-15389)、クローンARC0648(Invitrogen Cat.No.MA5-35588)、クローンGT1563(GeneTex Cat.No.GTX629976)、クローンCANX/1541(GeneTex Cat.No.GTX34446)、クローンIE2.1C12(Novus Biologicals Cat No.NBP2-36571)、クローン1C2.2D11(Novus Biologicals Cat No.NBP2-36570SS)、クローン2A2C6(Proteintech Cat.No.66903-1-Ig)、クローンC5C9(Cell Signaling Technology,Inc Cat.No.2679)、クローンE-10(Santa Cruz Biotechnology Cat No.sc-46669)、ポリクローナル抗体ab10286及びab22595(Abcam)、ならびにCN 101659702 Aに開示される抗Cnx抗体(例えば、ハイブリドーマCGMCC No.3240によって産生される抗体)が挙げられる。一例では、カルネキシン(CNX)に対する抗体は、アミノ酸550で始まるC末端までのエピトープ用の、ヒトCNXに対して生じさせたウサギポリクローナル抗体である、ab22595(Abcam)である。
【0264】
タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)に対する抗体としては、限定されないが、モノクローナル抗体クローンMaP.Erp57(Enzo Life Sciences)、クローンCL2444(Sigma-Aldrich Cat.No.AMAB90988)、クローンOTI3E1(ThermoFisher Scientific Cat.No.TA504995)、クローンOTI3D2(ThermoFisher Scientific Cat.No.TA504990)、クローンOTI4D7(ThermoFisher Scientific Cat.No.TA505008)ならびにポリクローナル抗体ab13506及びab13507(Abcam)が挙げられる。別の例では、抗PDIA3抗体は、ab13507(Abcam)である。
【0265】
所与の標的、標的タンパク質またはタンパク質複合体に対する、非ヒト動物(例えば、限定されないが、マウス、ウサギ、ウマ、イヌ、ロバなど)で生じさせた抗体は、それらのヒトにおける治療的使用への適合性を向上させるために操作され得、これは、ヒト化またはヒト化抗体としても知られている。換言すれば、ヒト化抗体は、ヒトにおいて天然に産生される抗体バリアントに対するそれらの類似性を高めるために、タンパク質配列が改変されている抗体である。例えば、動物免疫によって生じさせたモノクローナル抗体の1つ以上のアミノ酸を置換して、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に対してより類似した抗体配列へと到達させることができ、これによって、該抗体で処置されたヒト対象における(抗異種)抗体免疫応答の可能性が低減される。抗体可変領域における改変では、抗体パラトープを保存するために、フレームワーク領域に焦点が置かれ得る。ヒト化の要件は、例えば、ヒト免疫グロブリン遺伝子を発現する遺伝子導入モデル種で、所与の標的タンパク質/タンパク質複合体に対する抗体を生じさせ、かかる動物で生じた抗体を完全にヒト化することによって回避され得る。
【0266】
また、抗原結合分子としては、ペプチドアプタマー、チオレドキシン、モノボディ、アンチカリン、クニッツドメイン、アビマー、ノッチン、フィノマー、アトリマー、DARPin、アフィボディ、ナノボディ(限定されないが、単一ドメイン抗体(sdAb)等)アフィリン、アルマジロリピートタンパク質(ArmRP)及びオーボディ(Obodies)も挙げられる。かかる抗原結合ペプチドは、当技術分野で既知の方法を用いて、例えば、関連するペプチドのライブラリーをスクリーニングすることによって、同定され得る。
【0267】
また、抗原結合ペプチドには、限定されないが、関連する標的抗原に対するデコイ相互作用パートナーも含まれる。例えば、カルネキシン(CNX)のデコイ相互作用パートナーは、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)のCNX結合断片またはそのバリアントを含み得るか、またはそれらからなり得るが、逆に、PDIA3のデコイ相互作用パートナーは、CNXのPDIA3結合断片またはそのバリアントを含み得るか、またはそれらからなり得る。デコイ相互作用パートナーは、切断され得るか、そうでなければ、デコイ相互作用パートナーがその標的と会合して、非機能性複合体及び/または標的とデコイ相互作用パートナーが基とする相互作用パートナーとによって形成される複合体が持つ機能的特性のレベルが低下している複合体が形成されるように、その基となるペプチドに対応して改変され得る。したがって、一例では、デコイ相互作用パートナーは、標的とそれらが基とする標的の相互作用パートナーとの間の相互作用の競合的阻害剤として振る舞う。
【0268】
カルネキシン(CNX)結合分子、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)結合分子、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)結合分子及びCNX:PDIA3複合体結合分子には、限定されないが、小分子、例えば、低分子化合物ライブラリーをスクリーニングすることによって同定され得る小分子が含まれる。本明細書で使用される場合、用語「小分子」は、低分子量を指す。かかる低分子量は、通常、1000ダルトン未満(<1000ダルトン(Da))である。典型的には、小分子は、300~700Daの間であり、有機化合物である。
【0269】
小分子阻害剤の例としては、限定されないが、テネクテプラーゼ(例えば、カルネキシン(CNX)に対する)及びp-ヒドロキシメルクリ安息香酸ナトリウム塩(例えば、PDIA3に対する)が挙げられる。
【0270】
カルネキシン(CNX)結合分子、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)結合分子及びCNX:PDIA3複合体結合分子の例には、アプタマーが含まれる。核酸アプタマーは、DNA及び/またはRNAを含み得、一本鎖または二本鎖であり得る。一例では、それらには、糖及び/またはリン酸及び/または塩基が化学的に修飾された、化学修飾核酸が含まれ得る。かかる修飾は、アプタマーの安定性を向上させ得るか、またはアプタマーを分解に対してより抵抗性にし得る。一例では、かかる修飾には、限定されないが、リボースの2´位の修飾が含まれる。核酸アプタマーは、例えば、固体支持体上で化学的に合成され得る。固相合成は、ホスホラミダイト化学を含み得る。一例では、固体に支持されたヌクレオチドを脱トリチル化し、次いで、適切に活性化したヌクレオシドホスホラミダイトとカップリングさせて、亜リン酸トリエステル結合を形成させる。次いで、キャッピングを生じさせ、それに続いて、酸化剤、典型的にはヨウ素で亜リン酸トリエステルを酸化させ得る。次いで、そのサイクルを繰り返してアプタマーを構築することができる。
【0271】
カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)、及びCNX:PDIA3複合体のレベルを低下させることができる分子には、限定されないが、PDIA4、CNX及び/またはPDIA3の遺伝子及び/またはタンパク質発現を低下させることができる分子が含まれる。いくつかの実施形態において、CNX、PDIA4、PDIA3またはCNX:PDIA3複合体のレベルを低下させることができる分子は、それぞれ、遺伝子PDIA4、CANX、またはPDIA3によってコードされるポリペプチドの発現を低下させるかまたは防止する。
【0272】
所与の標的遺伝子(例えば、限定されないが、遺伝子CANX、PDIA4、またはPDIA3)の遺伝子またはタンパク質発現の阻害は、限定されないが、遺伝子の転写を阻害すること、遺伝子から転写されたRNAの転写後プロセシング(例えば、スプライシング)を阻害すること、遺伝子から転写されたRNAの安定性を低下させること、遺伝子から転写されたRNAの分解を促進すること、遺伝子から転写されたRNAのタンパク質への翻訳を阻害すること、遺伝子によってコードされるポリペプチドの翻訳後プロセシングを阻害すること、遺伝子によってコードされるポリペプチドの安定性を低下させること、または遺伝子によってコードされるポリペプチドの分解を促進することを含み得る。
【0273】
遺伝子またはタンパク質発現の阻害は、例えば、遺伝子のヌクレオチド配列を変更/破壊することによって、または遺伝子の発現に必要なヌクレオチド配列(例えば、遺伝子の発現を支配している制御配列)を変更/破壊することによって達成され得る。いくつかの例では、遺伝子またはタンパク質の発現を阻害することは、ヌクレオチド配列の変更を含む。かかる変更または改変は、例えば、1つ以上のヌクレオチドの置換、欠失または挿入によってなされ得る。特定の例において、本開示は、関連する遺伝子のヌクレオチド配列の全部または一部を欠失させることによって、遺伝子またはタンパク質の発現を阻害することを記載する。
【0274】
いくつかの例において、ヌクレオチド配列を変更/破壊することは、遺伝子の転写のための制御配列(限定されないが、プロモーターまたはエンハンサー等)を変更または除去すること、遺伝子から転写される配列中に中途での終止コドンを導入すること、切断された及び/または非機能的な遺伝子産物をコードするようにヌクレオチド配列を変更すること、またはミスフォールドした及び/または分解された遺伝子産物をコードするようにヌクレオチド配列を変更することを含み得る。ヌクレオチド配列はまた、例えば、限定されないが、相同組換えによって、または部位特異的ヌクレアーゼ(SSN)を用いた標的核酸修飾によっても破壊され得る。
【0275】
いくつかの例において、遺伝子からの遺伝子またはタンパク質発現を阻害または防止するためにヌクレオチド配列を変更/破壊することは、遺伝子を「ノックアウトする」と称され得る。
【0276】
相同組換えによる改変は、相同配列によって誘導される乗換え現象を通じた核酸配列の交換を伴い得る。
【0277】
遺伝子編集もまた、ヌクレオチド配列の発現または機能を、編集、変更、または破壊するために使用され得る方法である。部位特異的二重鎖切断(DSB)を生じさせることができる酵素を操作して、目的の標的核酸配列にDSBを導入し得る。二重鎖切断は、誤りがちな非相同末端結合(NHEJ)によって修復され得、2つの切断末端が、しばしば、ヌクレオチドの挿入または欠失を伴って再結合される。あるいは、二重鎖切断は、高度な相同配列指向性修復(HDR)によって修復され得、切断部位と相同な末端を有するDNA鋳型が供給され、DSB部位に導入される。部位特異的ヌクレアーゼ(SSN)は、標的核酸配列に特異的な二重鎖切断を生成するように操作可能であり、それには、限定されないが、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、及びクラスター化して規則的な配置の回文配列リピート/CRISPR関連タンパク質9(CRISPR/Cas9)システムが含まれる。
【0278】
ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)システムは、プログラム可能なジンクフィンガーDNA結合ドメイン及びDNA切断ドメイン(例えば、FokIエンドヌクレアーゼドメイン)を含む。DNA結合ドメインは、標的核酸配列に結合することができるジンクフィンガーアレイをスクリーニングすることによって同定され得る。別の例では、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)は、DNAの特異的な配列を切断するように操作され得る制限酵素である。TALENは、プログラム可能なDNA結合TALEドメイン及びDNA切断ドメイン(例えば、FokIエンドヌクレアーゼドメイン)を含む。TALEは、33~39個の間のアミノ酸の繰り返しからなるリピートドメインを含み、その繰り返し(反復可変二残基(RVD)とも名づけられている)は、各繰り返しの12位及び13位の2つの残基を除いて同一である。当技術分野で知られているように、各RVDでは、以下の関係:「HD」はCに結合し、「NI」はAに結合し、「NG」はTに結合し、「NN」または「NK」はGに結合する、に従って、標的DNA配列中のヌクレオチドに対する該リピートの結合が決定される。遺伝子編集システムのさらなる例としては、限定されないが、CRISPR/Cas9及び関連システム、例えば、CRISPR/Cpf1、CRISPR/C2c1、CRISPR/C2c2及びCRISPR/C2c3が挙げられる。これらのシステムは、エンドヌクレアーゼ(例えば、Cas9、Cpf1、その他)及びシングルガイドRNA(sgRNA)分子を含む。sgRNAは、エンドヌクレアーゼ活性が目的の核酸配列を標的とするように操作され得る。
【0279】
CNX発現を標的化してノックアウトするためのCRISPR/Cas9システムの例は、プラスミド、カルネキシンCRISPR/Cas9 KOプラスミド(h)(Santa Cruz Biotechnology Cat.No.sc-400154)及びカルネキシンHDRプラスミド(h)(Santa Cruz Biotechnology Cat.No.sc-400154-HDR)によってコードされるシステムである。
【0280】
部位特異的ヌクレアーゼ(SSN)を用いたヌクレオチド配列の破壊は、例えば、関連する部位特異的ヌクレアーゼシステムの構成要素をコードする核酸を動物に投与することにより、動物において達成され得る。例えば、関連遺伝子を標的とするための部位特異的ヌクレアーゼシステムの構成要素をコードする核酸を含む、1つ以上のベクターが動物に投与され得る。
【0281】
遺伝子またはタンパク質発現の阻害はまた、例えば、遺伝子またはタンパク質発現を低下させることができる薬剤または化合物による処置によって達成され得る。例えば、遺伝子またはタンパク質発現の阻害は、限定されないが、アンチセンス核酸等の阻害性核酸を用いて達成され得る。アンチセンス核酸は、相補的塩基対形成によって標的核酸に結合し得る。標的核酸がRNA(例えば、関連遺伝子から転写されたRNA)である場合、標的RNAへのアンチセンス核酸の結合は、RNA分解を促進し得る、及び/またはRNAの翻訳を阻害し得る。阻害核酸の例は、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)である。
【0282】
阻害性核酸は、RNA干渉(RNAi)によって、遺伝子またはタンパク質発現を阻害し得る。RNAiは、mRNA分子を標的化して無効化することによる、遺伝子発現及び翻訳の阻害を伴う。いくつかの例において、阻害性核酸は、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)、またはマイクロRNA(miRNA)である。
【0283】
低分子干渉RNA(siRNA)は、長鎖二本鎖RNAのプロセシングによって誘導され、天然に見い出される場合、それは、通常、外因性由来である。マイクロ干渉RNA(miRNA)は、内因性にコードされた小さなノンコーディングRNAである。siRNA及びmiRNAの両方とも、RNAを切断することなく、部分的に相補的な標的配列を有するmRNAの翻訳を阻害し、完全に相補的な配列を有するmRNAを分解し得る。siRNAは、典型的には二本鎖であり、標的遺伝子の機能をRNAが媒介して阻害する有効性を最適化するためには、siRNAによる標的mRNAの認識を媒介するRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)によって、siRNAが正確に認識することを確実にするために、siRNA分子の長さが選択されることが好ましい。miRNAをコードするDNA配列としては、限定されないが、miRNA配列及び類似の逆相補配列が挙げられる。このDNA配列が一本鎖RNA分子に転写される際、miRNA配列及びその逆相補配列は、塩基を対にして、部分的に二本鎖RNAセグメントを形成する。
【0284】
遺伝子CANXを標的とするsiRNAの例としては、限定されないが、カルネキシンの例示的標的としての、5´-CAAGAGUGGUCCUAGGAGAUU-3´(配列番号2)の標的配列に基づいて、またはそれを用いて生成したsiRNAが挙げられる。
【0285】
PDIA3を標的とするsiRNAの例としては、限定されないが、PDIA3の例示的標的としての、GGAAUAGUCCCAUUAGCAA(配列番号3)、GGGCAAGGACUUACUUAUU(配列番号4)、AGACCCAAAUAUCGUCAUA(配列番号5)、AGGAGUUCUCGCGUGAUG(配列番号6)、GAACGAGUAUGAUGAUAAU(配列番号7)、GGACAAGACUGUGGCAUAU(配列番号8)、GGCAAGGACUUACUUAUUG(配列番号9)、UGAUAAAGAUGCCUCUAUA(配列番号10))、及びそれらの組み合わせの標的配列のうちのいずれか1つに基づいて、またはそれを用いて生成したsiRNAが挙げられる。配列番号3~6は、(L-003674-00-0005、ON-TARGETplus Human PDIA3(2923)siRNA・SMARTpool、5nmol)を指し、配列番号7~10は、M-003674-01-0005、siGENOME Human PDIA3(2923)siRNA・SMARTpool、5nmolを指す。
【0286】
低分子ヘアピン型RNA(shRNA)は、合成siRNAよりも安定であると考えられている。低分子ヘアピン型RNA(shRNA)は、小さなループ配列によって分離された、短い逆方向反復配列からなる。1つの逆方向反復配列は、標的遺伝子に相補的である。細胞内において、shRNAは、エンドリボヌクレアーゼDICERによってsiRNAにプロセシングされ、これにより、標的遺伝子mRNAが分解され、その発現が抑制される。低分子ヘアピン型RNA(shRNA)は、例えばベクターからの転写によって、細胞内で産生され得る。
【0287】
抗カルネキシン抗体はコラーゲン抗体誘発関節炎マウスの関節炎症状を予防する
第一に、軟骨細胞外マトリックス中のジスルフィド結合の存在を、これまでに記載した方法を用いて試験した。簡潔には、軟骨細胞外マトリックスをトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)で還元し、次いで、N-エチルマレイミド(NEM)で処理し、次いで、抗OX133抗体で処理した。肝臓細胞外マトリックスと同様に、大量のシグナルが認められたことから、軟骨細胞外マトリックスは、ジスルフィド結合で重度に架橋されていることが指し示された(
図15)。
【0288】
次に、細胞外マトリックス分解に対する抗カルネキシン抗体の効果をin vitroで試験した。変形性関節症滑膜線維芽細胞(OASF)を、蛍光ゼラチンを覆っている軟骨細胞外マトリックス上に播種し、それらの細胞外マトリックス分解活性を上記のように測定した。ポリクローナル抗カルネキシン抗体の添加により、この分解活性が遮断されることが示された(
図16)。
【0289】
コラーゲン抗体誘発関節炎(CAIA)動物を、CAIAが惹起された後の3日目から7日目まで、2日ごとに、25マイクログラム(またはマウスモデル1匹あたりの平均体重20gに基づく、1.25mg/kgに相当する量)の抗カルネキシン(抗CNX)抗体を注入して処置した。(
図17A)。足の厚さを一定間隔でモニターし、10日目に関節炎スコアについて、動物を分析した。抗カルネキシン処置動物では、アイソタイプ抗体で処置した対照動物と比較して、足の腫れは、ほんのわずかであった(
図17B、17C)。指の発赤及び腫脹が依然としていくらか生じ、関節炎スコアが上昇したが、抗カルネキシン(抗CNX)抗体で処置した動物の平均スコアは、CAIA対照動物の半分であった(
図18)。
【0290】
したがって、一例では、本明細書に開示される治療薬は抗体である。別の例では、抗体は抗カルネキシン抗体である。さらに別の例では、抗体は抗PDIA3抗体である。
【0291】
組織学的レベルでは、サフラニン-O(SO)陽性軟骨の減少が、10日目の対照動物で顕著であり、いくつかの領域では、ほとんど消失したと言ってもいい程度であった(
図19A、19B)。対照的に、抗カルネキシン抗体で処置した動物では、全体的に軟骨構造が保存されていた(
図19A、19B)。組織学的解析により、抗カルネキシン抗体で処置した投与マウスの滑膜は、CAIA動物においてと同様に、腫脹し、関節に浸潤していたことが明らかになったことから、活性化カスケードの初期部分が生じたことが示唆された(
図19A、19B)。しかしながら、パンヌスは、対照動物においてのように、軟骨を攻撃し、それに深く浸潤することがなかった。
【0292】
最後に、抗体が確かに滑膜に到達していたことを検証するために、抗ウサギIgG抗体を用いて、それを検出した。抗カルネキシン抗体で処置した動物の滑膜細胞においてシグナルが認められ、対照ウサギIgGで処置した動物においてはシグナルが見られなかったことから、抗CNX抗体は、滑膜線維芽細胞に特異的に内在化されたことが示唆された(
図20)。
【0293】
全体として、これらの結果は、カルネキシンを阻害することにより、軟骨細胞外マトリックス分解が阻害され、関節炎治療薬の基本原理が形成され得ることを指し示している。したがって、一例では、本明細書に開示される治療薬は抗体である。別の例では、抗体は抗カルネキシン抗体である。
【0294】
本明細書に示されるように、変形性関節症関節及び関節リウマチ関節の両方の滑膜線維芽細胞における、GALA調節経路の活性化が記載される。これらの疾患は異なるが、軟骨細胞外マトリックスの分解という重要な特徴を共有している。両方の場合において、軟骨分解の主な駆動体は、滑膜由来の線維芽細胞である。
【0295】
滑膜線維芽細胞が、どのようにして健康な状態から攻撃的なマトリックス分解状態に切り替わるかは、不明のままである。前者では、カルネキシンは、滑膜の内膜ライニングを形成し、様々な因子を分泌することによって滑液の組成に寄与している。関節リウマチでは、カルネキシンは、増殖し、集合的移動に従事して、関節腔に浸潤し、軟骨細胞外マトリックスを分解し、最終的には軟骨自体に侵襲する。変形性関節症では、増殖はそれほど明白ではないが、滑膜線維芽細胞は依然として、マトリックスの分解に従事している。本明細書に開示される結果は、GALAの活性化が、両疾患における制御スイッチであることを指し示している。実際に、GALAは、滑膜線維芽細胞において特異的に活性化され、炎症を起こした滑膜で見い出される免疫細胞においては、ほとんど見られないことが示されている。軟骨分解における滑膜線維芽細胞の重要な役割と一致して、GALAが、がん細胞の細胞外マトリックス分解能力を制御していることがこれまでに報告されていた。
【0296】
これらの細胞でGALAがどのように活性化されるかは不明である。記載される結果は、疾患を促進させることが知られているサイトカイン、限定されないが、IL-1β及びTNFα等が、in vitroで滑膜線維芽細胞のGALAを刺激していることを指し示している。IL-1βは、チロシンキナーゼSrcを活性化することが報告されている。Srcは、GALAの重要な制御因子としてゴルジ体で作用する。滑膜線維芽細胞では、細胞外マトリックスとの接触によってもGALA経路が活性化されるが、その機序は現在において不明である。おそらくそれは、インテグリンならびにFAK及び、繰り返すが、Srcキナーゼを介したシグナル伝達を必要とする。変形性関節症滑膜線維芽細胞(OASF)及び関節リウマチ滑膜線維芽細胞(RASF)は、同等のグローバルメチル化プロファイルを示し、これは健康な対象の滑膜線維芽細胞とは異なるものである。違いは、血小板由来増殖因子(PDGF)及び上皮細胞増殖因子(EGF)のシグナル伝達に関与する遺伝子において同定されている。どちらの増殖因子もGALAを活性化することがこれまでに示されていることから、関節リウマチ滑膜線維芽細胞(RASF)及び変形性関節症滑膜線維芽細胞(OASF)は、エピジェネティックなインプリンティングによって、GALA経路がより容易に活性化するようにプライミングされ得ることが示唆された。
【0297】
GALAによって制御されるグリコシル化酵素である、N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(GALNTs)の特徴は、触媒ドメインに加えて、レクチンドメインを含んでいることである。このレクチンドメインがGALA効果に必須であることが示されている。このことはさらに、GALA特異的阻害剤としてER-2Lec構築物を用い、その結果、小胞体において特異的にGALNTの完全な活性が阻止された、という得られたデータに由来するものである。VI型コラーゲンプロモーター下でCre-Loxシステムを用いてER-2Lec阻害剤を発現させると、滑膜線維芽細胞への標的指向化が可能になった。ER-2Lecを発現する遺伝子導入動物における症状の軽減は、疾患に対する経路の重要性を明確に実証するものである。
【0298】
したがって、一例では、本明細書に開示される治療薬は融合タンパク質である。別の例では、融合タンパク質はER-2Lecである。さらに別の例では、融合タンパク質は、配列番号1の配列を有するER-2Lecである。
【0299】
GALAは、数千のタンパク質に作用するグリコシル化酵素である、N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(GALNTs)を制御する。GALAの重要な標的の1つはMMP14であり、そのグリコシル化は、タンパク質分解活性にとって重大な意味を持つ。関節リウマチ及び変形性関節症では、MMP14及び他のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)が滑膜線維芽細胞で上方制御され、コラーゲンの分解に対する重大な役割を果たすことが示されている。
【0300】
加えて、GALAは、肝臓癌細胞表面で、カルネキシン及びタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)で構成される複合体を活性化することが最近明らかになっていた。この複合体は、細胞外マトリックスにおけるジスルフィド結合の切断を媒介し、これは、プロテアーゼが肝臓の細胞外マトリックスを分解するのに必要な活性である。この点で、滑膜線維芽細胞による軟骨細胞外マトリックスの分解にもカルネキシン(CNX)が必要であることが示された。実際、滑膜線維芽細胞株及び変形性関節症を患う患者由来の細胞はいずれも、抗カルネキシン抗体と共にインキュベートとした場合、分解能力が低下していた。
【0301】
カルネキシンは通常、細胞内の小胞体に位置するタンパク質であることに留意されたい。細胞表面に向かってのその輸送は、GALA誘導性グリコシル化によって制御されているように見える。したがって、抗カルネキシン抗体は、高度なGALAを伴う細胞に、ほとんど、または唯一結合すると予想される。しかしながら、健康な組織の場合では、GALAレベルが高くない。このことが、抗CNX抗体を関節組織に集結させるのに役立ったと考えられる。換言すれば、細胞表面上の抗CNX抗体の高度な集結は、CNXの細胞表面への輸送が増加することに至る、高レベルのGALAによって引き起こされるものである。このことは、抗CNX抗体を用いて、より多くのCNXが検出可能であったことを意味する。この点を確認するためには、生体分布の完全な特徴付けが必要である。抗カルネキシン抗体を用いたこれらの実験中、例えば、
図22が示す通り、CNX抗体を受けた動物の体重が、アイソタイプ対照抗体を受けた動物の体重に対して変化していないことが示されたように、有害事象が示されるかまたは検出されることがなかったことにも留意されたい。
【0302】
全体として、本明細書に開示される結果は、GALA経路が、関節リウマチ及び変形性関節症の両方の滑膜線維芽細胞において活性化され、GALA経路が、マウスにおける関節リウマチの病理に必須であることを指し示している。
【0303】
本明細書で使用される場合、用語「関節炎」は、例えば、限定されないが、関節痛及びこわばりの症状を大抵含む、関節に影響を及ぼす任意の障害を指す。他の症状には、限定されないが、罹患した関節の発赤、温感、腫脹、及び可動域の減少が含まれ得る。いくつかのタイプの関節炎では、対象の関節以外の器官も影響を受け得る。本開示の文脈において、本明細書に開示される方法は、種々の形態の関節炎に適用されることになる。このことは、例えば、GALAが、関節リウマチ、乾癬性関節炎及び変形性関節症において活性化されるという事実によって指し示される。理論に束縛されるものではないが、この共通のGALA活性化は、前記GALA活性化が、GALAが活性化される任意の形態の関節炎を処置するための関連する機序及び標的化できる機序であることを指し示していると考えられる。
【0304】
本開示の文脈において、用語「関節リウマチ」または「RA」は、主に関節を含む慢性の全身性自己免疫疾患を指す。関節リウマチは、サイトカイン、ケモカイン、及びメタロプロテアーゼによって媒介される損傷を引き起こす。特徴的には、末梢関節(例えば、手首、中手指節関節)が左右対称に炎症を起こすことにより、関節構造の進行性の破壊が導かれ、通常、全身症状を伴う。診断は、特異的な臨床的特徴、検査的特徴、及び画像的特徴に基づく。処置には、薬物、物理的処置、及び、場合によっては手術が伴う。限定されないが、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、コルチコステロイド、免疫調節薬、細胞毒、及び免疫抑制薬(例えば、アザチオプリンまたはシクロスポリン)等の処置は、症状の管理及び疾患の進行を遅らせるのに役立つ。
【0305】
本開示の文脈において、用語「変形性関節症」または「OA」は、骨肥厚(骨増殖体形成)を含む他の関節変化と共に、関節軟骨の破壊及び潜在的損失を特徴とする、関節の慢性疾患(関節症)を指す。症状には、活動によって悪化または誘発される徐々に進行する疼痛、起床時及び非活動後に少なくとも30分以上続くこわばり、及び時折の関節の腫れが含まれる。診断はX線によって確定され、処置には、物理的処置、リハビリテーション、患者教育、及び薬物が含まれる。変形性関節症は、原発性(特発性)または二次性として、すなわち、軟骨の微小環境を変化させる状態に起因して分類され得る。かかる状態には、限定されないが、重大な外傷、先天性関節異常、代謝欠陥(例えば、ヘモクロマトーシス、ウィルソン病)、感染(感染後関節炎を引き起こす)、内分泌疾患及び神経障害性疾患、ならびに硝子軟骨の正常構造及び機能を変化させる障害(例えば、関節リウマチ、痛風、軟骨石灰化症)が含まれる。
【0306】
本明細書で使用される場合、用語「関節炎フレア」、「関節炎フレアアップ」、または「関節炎エピソード」は、疾患活動性の増加または症状悪化のエピソードとして定義される。フレアは、典型的には、限定されないが、発熱、疲労、倦怠感、こわばり、または関節腫脹等の他の特徴的症状を伴う、関節痛における突発性の強烈さによって定義される。フレアは、単一の関節または複数の関節に影響を与え得る。例えば、変形性関節症を有する人では、単一の関節で併発するか、または同じ複数の関節でフレアが再発する。対照的に、関節リウマチまたは乾癬性関節炎のような自己免疫性関節炎を有するものは、しばしば、複数の関節フレアを同時に経験し得る。一例では、本明細書に開示される方法は、関節炎フレアアップの症状を緩和するために使用される。
【0307】
一例では、関節炎は、限定されないが、関節リウマチ、乾癬性関節炎、若年性特発性関節炎(JIA)、変形性関節症、及び関節炎フレア/フレアアップの群から選択される。別の例では、関節炎は関節リウマチである。さらに別の例では、関節炎は変形性関節症である。さらに別の例では、関節炎は乾癬性関節炎である。さらなる例では、処置されるべき症状は、関節炎フレア/フレアアップである。
【0308】
別の例では、抗リウマチ薬は、限定されないが、セレコキシブ、イブプロフェン、ナブメトン、ナプロキセンナトリウム、ナプロキセン、ピロキシカム、アザチオプリンシクロスポリン、メトトレキサート、ヒドロキシクロロキン、スルファサラジン、レフルノミド、リツキシマブ、アバタセプト、アナキンラ、腫瘍壊死因子(TNF)アルファアンタゴニスト(例えば、限定されないが、アダリムマブ、エタネルセプト、ゴリムマブ、セルトリズマブペゴル、インフリキシマブ、及びそれらのバイオシミラー)、サリルマブ、トシリズマブ、バリシチニブ、ウパダシチニブ、フィルゴチニブ、及びペフィシチニブ、ならびにそれらの組み合わせである。
【0309】
本明細書で使用される場合、用語「処置」は、疾患状態または症状を治す、疾患の確立を防ぐ、そうでなければ、任意の方法で疾患または他の望ましくない症状の進行を防ぐ、妨害する、遅延させる、または逆転させる、ありとあらゆる使用を指す。本明細書に開示される方法はまた、本明細書に開示される疾患または状態の任意の症状を緩和するためにも使用され得る。
【0310】
また、本明細書では、個体における関節炎、または個体における関節炎に対する感受性を検出するためのキットまたは診断キットが開示される。診断キットは、本明細書に記載されるような任意の手段によって、個体におけるCNX、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、もしくはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)、またはCNX及びPDIA3の複合体の発現、量または活性を検出するための手段を含み得る。したがって、診断キットは、以下:CNX、PDIA4、もしくはPDIA3ポリヌクレオチドまたはその断片、CNX、PDIA4、もしくはPDIA3核酸またはその断片に対する相補的ヌクレオチド配列、CNX、PDIA4、もしくはPDIA3ポリペプチドまたはその断片、あるいはCNX、PDIA4、またはPDIA3に対する抗体のうちのいずれか1つ以上を含み得る。診断キットは、使用説明書、または他の指示を含み得る。診断キットは、本明細書に記載される組成物のいずれか等の、関節炎の処置または予防のための手段、または当技術分野において既知である関節炎を処置するための任意の手段をさらに含み得る。
【0311】
一例では、診断キットは、本明細書に記載されるようなCNX、PDIA4、PDIA3、及び/またはCNX:PDIA3阻害剤を含む。別の例では、診断キットは、スクリーニングにより得られたCNX、PDIA4、PDIA3、及び/またはCNX:PDIA3阻害剤を含む。用語「CNX:PDIA3」は、CNX及びPDIA3を含む複合体を意味する。診断キットは、限定されないが、セレコキシブ、イブプロフェン、ナブメトン、ナプロキセンナトリウム、ナプロキセン、ピロキシカム、及びそれらの組み合わせ等の治療薬、または本明細書に開示されるような他の治療薬を含み得る。治療薬は、例えば、抗CNX抗体、抗DPAI4抗体、または抗PDIA3抗体であり得る。
【0312】
さらに別の例では、本開示による、対象における関節炎の存在または非存在を検出する方法を実施するためのキットが開示される。
【0313】
カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)のアゴニスト、アンタゴニスト、リガンド、受容体、基質、酵素を同定するために、例えば、CNX、PDIA4、またはPDIA3の産生を減少または増強するポリペプチドまたは化合物を同定するために、化合物または薬剤をスクリーニングするために必要な材料が、スクリーニングキットにパッケージ化され得る。一例では、スクリーニングキットは、以下:CNX、PDIA4、もしくはPDIA3ポリペプチド、CNX、PDIA4、もしくはPDIA3ポリペプチドを発現する組換え細胞、またはCNX、PDIA4、もしくはPDIA3ポリペプチドに対する抗体のうちのいずれか1つ以上またはすべてを含む。スクリーニングキットは、ライブラリーをさらに含み得る。スクリーニングキットは、本明細書に記載されるように、スクリーニングに必要な構成要素のうちのいずれか1つ以上を含み得る。スクリーニングキットは、任意選択で、使用説明書を含み得る。核酸レベルでCNX、PDIA4、またはPDIA3発現を検出することができる、かかるスクリーニングキットも提供され得る。かかるキットは、CNX、PDAI4、もしくはPDIA3の増幅用プライマー、または増幅用の一対のプライマーを含み得る。プライマー(複数可)は、任意の適切な配列、例えば、CNX、PDIA4、またはPDIA3配列の一部から選択され得る。プライマー配列を同定する方法は、当技術分野において周知であり、当業者は、かかるプライマーを容易に設計することができるであろう。キットは、本明細書に記載されているように、CNX、PDIA4、またはPDIA3発現のための核酸プローブを含み得る。キットは、任意選択で使用説明書も含み得る。
【0314】
また、本明細書では、本明細書に記載されるような方法及び処置に使用するためのポリクローナル抗体も開示される。ポリクローナル抗体が所望される場合、選択された哺乳動物(例えば、限定されないが、マウス、ウサギ、ヤギ、及びウマ)は、カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、もしくはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)ポリペプチドまたはペプチドを含む免疫原性組成物で免疫される。宿主種に応じて、免疫学的応答を増大させるために、種々のアジュバントが使用され得る。かかるアジュバントとしては、限定されないが、フロイントアジュバント、水酸化アルミニウム等のミネラルゲル、限定されないが、リゾレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、オイルエマルジョン、キーホールリンペットヘモシアニン、及びジニトロフェノール等の界面活性物質が挙げられる。BCG(Bacilli Calmette-Guerin)及びCorynebacterium parvumは、精製した物質のアミノ酸配列が、全身性の防御を刺激する目的で、免疫学的に損なわれた個体に投与されることになる場合に利用される、ヒトアジュバントである。
【0315】
免疫された動物の血清は、収集され、抗体を得るための既知の手順に従って処理される。カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)ポリペプチドから得られるエピトープに対するポリクローナル抗体を含有する血清が、他の抗原に対する抗体を含有する場合、該ポリクローナル抗体は、イムノアフィニティークロマトグラフィーにより精製され得る。ポリクローナル抗血清を産生及び処理する技術は、当技術分野において既知である。かかる抗体を作製するために、CNX、PDIA4、もしくはPDIA3アミノ酸配列またはその断片が、動物またはヒトにおける免疫原として使用するための別のアミノ酸配列に、ハプテン化され得る。
【0316】
また、本開示の範囲には、カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、もしくはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)ポリペプチドまたはペプチドから得られるエピトープに対して指向されるモノクローナル抗体も含まれる。これらのモノクローナル抗体は、当業者によって容易に産生され得る。ハイブリドーマまたはハイブリドーマ細胞株によってモノクローナル抗体を作製する一般的な方法論は、当技術分野において周知である。不死の抗体産生細胞株は、細胞融合により、また、限定されないが、腫瘍形成性DNAによるBリンパ球の直接的形質転換、またはEpstein-Barrウイルスによるトランスフェクション等の他の技術によっても作製され得る。エピトープ周囲に対して産生されたモノクローナル抗体のパネルは、様々な特性、例えば、限定されないが、アイソタイプ及びエピトープ親和性についてスクリーニングされ得る。
【0317】
モノクローナル抗体は、当技術分野で知られているように、培養液中の連続細胞系による抗体分子の産生を提供する、任意の技術を用いて調製され得る。
【0318】
組換えDNA技術は、本明細書に記載されるような抗体を改良するために使用され得る。したがって、診断または治療用途において、その免疫原性を低下させるために、キメラ抗体が構築され得る。かかる技術は、例えば、適切な抗原特異性及び生物学的活性を有する分子を得るために、マウス抗体遺伝子をヒト抗体遺伝子に接合することを含む。さらに、例えば、いずれも当技術分野で既知の方法である、相補性決定領域(CDR)の移植及び、任意選択でのフレームワークの改変によって、抗体をヒト化することにより、免疫原性を最小化することができる。
【0319】
カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、もしくはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)ポリペプチドまたはペプチドから得られるエピトープに対して指向されるモノクローナル抗体及びポリクローナル抗体の両方が本明細書に開示され、それらは、診断を含む本明細書に開示される方法において特に有用であると考えられる。特に、モノクローナル抗体は、抗イディオタイプ抗体を生じさせるために使用され得る。抗イディオタイプ抗体は、保護が望まれる物質及び/または薬剤の「内部表象」に対するものを保有する免疫グロブリンである。抗イディオタイプ抗体を生じさせる技術は、当技術分野で既知である。これらの抗イディオタイプ抗体は、本明細書に開示されるような処置方法及び療法においても有用であり得る。一例では、抗体は、固体支持体に結合され得、及び/または適切な試薬、対照、説明書などと共に、適切な容器内で、キットへとパッケージ化され得る。
【0320】
抗体はまた、当技術分野で開示されているように、リンパ球集団におけるin vivo産生を誘導することによって、または組換え免疫グロブリンライブラリーもしくは高度に特異的な結合試薬のパネルをスクリーニングすることによっても産生され得る。
【0321】
標的ポリペプチドまたはペプチドに対する特異的結合部位を含有する抗体断片も生成され得る。例えば、かかる断片としては、限定されないが、抗体分子のペプシン消化により産生され得るF(ab´)2断片、及びF(ab´)2断片のジスルフィド架橋を還元することにより生成され得るFab断片が挙げられる。あるいは、Fab発現ライブラリーを構築して、所望の特異性を有するモノクローナルFab断片を、迅速かつ容易に同定することを可能にし得る。
【0322】
当技術分野において既知である一本鎖抗体の産生に対する技術は、カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)ポリペプチドに対する一本鎖抗体を産生するためにも適応され得る。また、遺伝子導入マウス、または他の哺乳動物を含む他の生物を使用して、ヒト化抗体を発現させることができる。
【0323】
本明細書に記載される抗体はまた、ポリペプチドを発現するクローンを単離もしくは同定するため、またはアフィニティークロマトグラフィーによってポリペプチドを精製するためにも利用され得る。
【0324】
組換えDNA技術は、確立された手順に従って、細菌または哺乳動物細胞の培養液において抗体を産生させるために使用され得る。選択された細胞培養系により、抗体産物が分泌され得る。
【0325】
抗体を産生するための例示的なプロセスは、宿主、例えば、限定されないが、適切な読み枠において、前記抗体タンパク質をコードする第2のDNA配列に連結された、シグナルペプチドをコードする第1のDNA配列に、作動可能に連結されたプロモーターを含む発現カセット、を含むハイブリッドベクターで形質転換されている、E.coliまたは哺乳動物細胞を培養すること、及び前記タンパク質を単離することを含む。
【0326】
In vitro産生により、比較的に純粋な抗体調製物が提供され、所望の抗体を大量に得るためのスケールアップが可能になる。細菌細胞、酵母または哺乳動物細胞の培養技術は、当技術分野で既知であり、例えば、エアリフト反応器または連続撹拌反応器での均一浮遊培養、または例えば、中空糸、マイクロカプセル、アガロースマイクロビーズまたはセラミックカートリッジでの固定化または包括固定細胞培養が挙げられる。
【0327】
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマ細胞も提供される。ハイブリドーマ細胞は、遺伝学的に安定であり、所望の特異性のモノクローナル抗体を分泌することができ、解凍及び再クローニングにより、ディープフリーズ培養から活性化され得る。
【0328】
また、本明細書には、適切な哺乳動物、例えば、Balb/cマウスを、1つ以上のカルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、もしくはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)ポリペプチド、またはその抗原性断片で免疫することを特徴とする、カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)ポリペプチドに対して指向されたモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマ細胞株を調製するための例示的なプロセスが含まれる。免疫された哺乳動物の抗体産生細胞は、適切な骨髄腫細胞株細胞と融合され、融合で得られたハイブリッド細胞はクローニングされ、所望の抗体を分泌する細胞クローンが選択される。例えば、カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)で免疫されたBalb/cマウスの脾臓細胞は、骨髄腫細胞株PAIまたは骨髄腫細胞株Sp2/0-Ag14細胞と融合され、得られたハイブリッド細胞は、所望の抗体分泌についてスクリーニングされ、陽性ハイブリッド細胞がクローニングされる。
【0329】
したがって、本明細書では、ハイブリドーマ細胞株を調製するためのプロセスであって、カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)を発現する、10~107~108個の間の細胞及び適切なアジュバントを、数回、例えば、4~6回、数ヶ月間、例えば、2~4ヶ月間にわたって、皮下及び/または腹腔内注射することによりBalb/cマウスを免疫し、免疫したマウスの脾臓細胞を、最後の注射から2~4日目に採取し、ポリエチレングリコール等の融合促進物の存在下で、骨髄腫細胞株PAI細胞と融合させること、において特徴付けられる、前記プロセスが記載される。骨髄腫細胞は、分子量が約4000のポリエチレングリコールを約30%~約50%含有する溶液中で、3~20倍過剰する免疫したマウスの脾臓細胞と融合され得る。融合後、細胞は、本明細書に記載されるような適切な培地中で増やされ、正常な骨髄腫細胞が所望のハイブリドーマ細胞を過剰増殖させるのを防ぐために、一定の間隔で、選択培地、例えば、HAT培地が補充される。
【0330】
本明細書に開示される通りのカルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)に対して指向された抗体の重鎖可変ドメイン及び/または軽鎖可変ドメインをコードするインサートを含む、組換えDNAもまた開示される。定義によれば、かかるDNAは、コード化一本鎖DNA、または前記コード化DNA及びそれに対する相補的DNAからなる二本鎖DNA、あるいはこれらの相補的(一本鎖)DNAそれ自体を含む。
【0331】
さらに、カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)に対して指向された抗体の重鎖可変ドメイン及び/または軽鎖可変ドメインをコードするDNAは、重鎖可変ドメイン及び/または軽鎖可変ドメインをコードする真正DNA配列、またはその変異体を有する、酵素的または化学的に合成されたDNAであり得る。真正DNAの変異体は、上記抗体の重鎖可変ドメイン及び/または軽鎖可変ドメインをコードするDNAであり、それにおいては、1つ以上のアミノ酸が、欠失しているかまたは1つ以上の他のアミノ酸と交換されている。改変(複数可)は、限定されないが、抗体の重鎖可変ドメイン及び/または軽鎖可変ドメインの相補性決定領域(CDR)の外側にある領域にあり得る。かかる変異体DNAはまた、1つ以上のヌクレオチドが他のヌクレオチドで置換され、その結果、同じアミノ酸(複数可)をコードする新規コドンが生じているサイレント変異体でもあり得る。かかる変異配列は、縮重配列でもあり得る。縮重配列は、元々コードされていたアミノ酸配列の変化をもたらすことなく、無制限の数のヌクレオチドが他のヌクレオチドで置換されるという点で、遺伝暗号の意味において縮重している。かかる縮重配列は、特定の宿主、特にE.coliによって好まれる、それらの種々の制限部位及び/または特定のコドンの頻度により、マウス重鎖可変ドメイン及び/またはマウス軽鎖可変ドメインの最適な発現を得るために有用であり得る。
【0332】
用語「変異体」には、当技術分野で既知の方法に従って、真正DNAをin vitroで変異誘発することにより得られる、DNA変異体も含まれる。
【0333】
例えば、完全な四量体免疫グロブリン分子の構築及びキメラ抗体の発現のために、重鎖及び軽鎖可変ドメインをコードする組換えDNAインサートが、重鎖及び軽鎖定常ドメインをコードする対応するDNAと融合され、次いで、例えば、ハイブリッドベクターに組み込まれた後、適切な宿主細胞に移入される。
【0334】
また、本明細書では、ヒト定常ドメインg、例えば、γ1、γ2、γ3またはγ4、例えば、γ1またはγ4に融合された、カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)に対して指向された抗体のマウス重鎖可変ドメインをコードするインサートを含む、組換えDNAも開示される。また、ヒト定常ドメインκまたはλ、例えば、κに融合された、カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)に対して指向された抗体のマウス軽鎖可変ドメインをコードするインサートを含む、組換えDNAも開示される。
【0335】
別の例では、重鎖可変ドメイン及び軽鎖可変ドメインが、任意選択で、宿主細胞における抗体のプロセシングを促進するシグナル配列及び/または抗体の精製を促進するペプチドをコードするDNA及び/または切断部位及び/またはペプチドスペーサー及び/またはエフェクター分子を含む、スペーサー群を介して連結されている、組換えポリペプチドをコードする組換えDNAが開示される。
【0336】
抗カルネキシン(CNX)抗体、抗タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)抗体、及び抗タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)抗体は、生体サンプル中に存在するCNX、PDIA4、またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)ポリペプチドを検出する方法において使用され得る。一例では、かかる方法は、以下:(a)抗CNX抗体、抗PDIA4抗体、または抗PDIA3抗体を提供すること、(b)抗体-抗原複合体の形成を可能にする条件下で、生体サンプルを抗体と共にインキュベートすること、及び(c)前記抗体を含む抗体-抗原複合体が形成されているかどうかを決定すること、を含む。
【0337】
本明細書で使用される場合、用語「生体サンプル」または「サンプル」には、限定されないが、生物または以前生きていた物に由来する物質の任意の量が含まれる。かかる生物には、限定されないが、ヒト、マウス、サル、ラット、ウサギ、及び他の動物が含まれる。かかる物質としては、限定されないが、血液、血清、血漿、尿、細胞、臓器、組織、骨、骨髄、リンパ、リンパ節、滑膜組織、滑膜細胞、組織(特に炎症組織)、軟骨、及び皮膚が挙げられる。
【0338】
本明細書に開示される抗体、例えば、CNX、PDIA4、またはPDIA3タンパク質に対する抗体は、例えば、リポソーム、ポリマー、(例えば、限定されないが、ポリエチレングリコール(PEG)、N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)コポリマー、ポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマー、HEMA、線状ポリアミドアミンポリマー)、及びそれらの組み合わせの使用により、当技術分野で既知の技術によって細胞内に送達され得る。免疫グロブリン及び/または抗体はまた、例えば、細胞膜及び/または核膜を通過することができるタンパク質とのタンパク質融合体またはコンジュゲートとして、細胞内に送達され得る。例えば、免疫グロブリン及び/または標的は、転位性活性を担うタンパク質等のドメインまたは配列に融合またはコンジュゲートされ得る。転位性ドメイン及び配列には、HIV-1転写活性化タンパク質(Tat)、Drosophilaアンテナペディアホメオドメインタンパク質及び単純ヘルペス-1ウイルスVP22タンパク質由来のドメイン及び配列が含まれ得る。
【0339】
カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)阻害剤は単独で投与されることが可能であるが、例えば、CNX、PDIA4、またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)の核酸、ポリペプチド、断片、ホモログ、バリアントもしくはその誘導体、モジュレーター、アゴニストもしくはアンタゴニスト、構造的に関連する化合物、またはいずれかの酸性塩として、活性成分を医薬製剤として処方することができる。
【0340】
したがって、本明細書では、カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)阻害剤を含む医薬組成物も開示される。別の例は、カルネキシン(CNX)またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)阻害剤を含む医薬組成物である。かかる医薬組成物は、本明細書に記載される症状及び/または疾患の処置または緩和のために、カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)阻害剤を、例えば、記載されるような組成物の形態で、個体に送達するために使用され得る。一例では、医薬組成物は、少なくともカルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)阻害剤を活性成分として含む物質の組成物である。
【0341】
医薬製剤は、1つ以上の薬学的に許容される担体と共に、有効量のカルネキシン(CNX)またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)阻害剤を含む。本明細書で使用される場合、「有効量」は、記載されるような疾患の少なくとも1つの症状を緩和するのに十分な量を指す。このいわゆる有効量は、処置または緩和されるべき特定の疾患または症候群、ならびに患者の年齢及び体重、病状がどの程度進行しているか、患者の一般的健康状態、症状の重症度、及びカルネキシン(CNX)またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)阻害剤が単独で投与されるかまたは他の治療法と併せて投与されるかどうかを含む他の要因に応じて変化することになる。
【0342】
適切な薬学的に許容される担体は、当技術分野において周知であり、医薬製剤の所望の形態及び投与様式によって異なる。例えば、かかる担体としては、限定されないが、希釈剤または充填剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤等の賦形剤などが挙げられる。通常、担体は、固体、液体もしくは気化可能な担体、またはそれらの組み合わせである。各担体は、製剤中の他の成分と適合性があり、患者に有害でないという点で「許容可能」であるべきである。したがって、担体は、宿主に投与された際に有害反応(例えば、免疫応答またはアレルギー反応)を誘発することなく、生物学的に許容されるべきである。
【0343】
医薬組成物の有効成分(複数可)は、例えば、限定されないが、関節炎、関節リウマチ、変形性関節症、関節炎フレアアップ、及び他の関連する疾患または症状の、例えば、緩和において、治療活性を示すことが企図される。投与計画は、最適な治療反応が得られるように調整され得る。例えば、用量は数回に分けて毎日投与することができ、または治療状況の緊急性によって示される通りに、用量を比例して減少させることができる。
【0344】
活性化合物は、経口、静脈内(水溶性の場合)、筋肉内、皮下、鼻腔内、皮内または座薬経路、あるいは植込(例えば、徐放性分子の使用)等、都合のよい様式で投与され得る。選択された投与経路に応じて、活性成分は、前記成分を不活性化し得る酵素、酸及び他の天然条件の作用から前記成分を保護するための材料で被覆されることが必要とされ得る。
【0345】
本明細書に開示される阻害剤は、単独で、または他の治療薬と併せて投与され得る。本明細書での使用に適した他の治療薬は、意図された目的に有効な任意の適合性がある薬物、または薬剤配合を補完する薬物である。併用療法に利用される製剤は、併用効果が達成されるように、他の処置と同時に、または逐次的に投与され得る。したがって、一例では、治療薬は、限定されないが、抗体、薬物、遺伝子、融合タンパク質、及び発現ベクターからなる群である。別の例では、治療薬は、一緒に、別々に、または逐次的に投与されることになる。さらなる例では、(第一の)治療薬は、さらなる治療薬と共に投与されることになり、該さらなる治療薬は、抗リウマチ薬である。別の例では、かかる抗リウマチ薬は、限定されないが、セレコキシブ、イブプロフェン、ナブメトン、ナプロキセンナトリウム、ナプロキセン、ピロキシカム、アザチオプリンシクロスポリン、メトトレキサート、ヒドロキシクロロキン、スルファサラジン、レフルノミド、リツキシマブ、アバタセプト、アナキンラ、腫瘍壊死因子(TNF)アルファアンタゴニスト(例えば、限定されないが、アダリムマブ、エタネルセプト、ゴリムマブ、セルトリズマブペゴル、インフリキシマブ、及びそれらのバイオシミラー)、サリルマブ、トシリズマブ、バリシチニブ、ウパダシチニブ、フィルゴチニブ、及びペフィシチニブ、ならびにそれらの組み合わせである。
【0346】
いくつかの実施形態において、カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、もしくはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)、またはCNX:PDIA3複合体の活性、発現または量の阻害剤は、経口組成物として提供され、それに応じて投与される。カルネキシン(CNX)またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)の活性、発現または量の阻害剤の投与量は、約1mg/日~約10mg/日の間であり得る。
【0347】
医薬組成物は、タブレット、カプセルまたは溶液形態の経口製剤で投与され得る。有効量の経口製剤が、患者に、疾患の症状が緩和されるまで、毎日1~3回投与される。
【0348】
薬剤の有効量は、患者の年齢、体重及び状態に依存する。一般に、薬剤の1日の経口用量は、1200mg未満、及び100mg超である。1日の経口用量は、約300mg~約600mgであり得る。経口製剤は、好都合には単位剤形で提示され、当製薬技術分野で既知の任意の方法によって調製され得る。組成物は、適切な薬学的に許容される担体と共に、任意の所望の剤形へと製剤化され得る。典型的な単位剤形としては、限定されないが、錠剤、丸剤、散剤、溶液剤、懸濁液剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、坐剤が挙げられる。一般に、製剤は、薬剤組成物を液体担体もしくは微粉固体担体またはその両方と均一かつ緊密に会合させ、必要に応じて生成物を成形することにより調製される。有効成分を、液体、粉末、タブレットまたはカプセルの形態で、様々な基本材料に組み込んで、疾患の処置に対する有効量の活性成分を得ることができる。
【0349】
組成物は、例えば、不活性希釈剤と共に、または同化可能な食用担体と共に、適切に経口投与され得るか、あるいは組成物は、ハードシェルもしくはソフトシェルゼラチンカプセルに封入され得るか、または錠剤へと圧縮され得るか、または食事の食物に直接組み込まれ得る。経口治療薬投与については、活性化合物。
【0350】
いくつかの実施形態において、カルネキシン(CNX)、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)、もしくはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)の阻害剤、またはCNX:PDIA3複合体の阻害剤は、注射可能組成物または静脈内組成物として提供され、それに応じて投与される。カルネキシン(CNX)またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)阻害剤の投与量は、約5mg/kg/2週間~約10mg/kg/2週間の間であり得る。カルネキシン(CNX)またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)阻害剤は、10mg/日~300mg/日の間、例えば、少なくとも30mg/日、200mg/日未満、または30mg/日~200mg/日の間等の投与量で提供され得る。
【0351】
注射使用に適した医薬形態には、無菌水溶液(水溶性の場合)または分散液、及び無菌注射可能液または分散液を即時調製するための無菌粉末が含まれる。すべての事例において、形態は無菌でなければならず、粘度によりシリンジが使用可能な程度に流動的でなければならない。それは、製造及び保管の条件下で安定でなければならず、細菌及び真菌等の微生物の汚染作用に対して保護されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液状ポリエチレングリコールなど)、それらの適切な混合物、及び植物油を含有する溶媒または分散媒であり得る。適当な流動性は、例えば、限定されないが、レシチン等のコーティング材を使用することにより、分散液の場合には必要とされる粒子径を維持することにより、及び界面活性剤を使用することにより維持され得る。
【0352】
本明細書に開示される組成物は、アジュバント中で、酵素阻害剤との同時投与で、またはリポソーム中で投与され得る。用語「アジュバント」は、その最も広い意味で使用され、限定されないが、例えば、インターフェロン等の任意の免疫刺激化合物を含む。本明細書で企図されるアジュバントには、限定されないが、レゾルシノール、非イオン性界面活性剤、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル及びn-ヘキサデシルポリエチレンエーテルが含まれる。酵素阻害剤には、限定されないが、膵臓トリプシンが含まれる。リポソームには、限定されないが、従来のリポソームと同様に、水中油中水型CGFエマルジョンが含まれる。
【0353】
用語「対照群」、「陰性対照」または「対照」は、サンプル分析の文脈で使用される場合、疾患がないかまたは健康な対象から得られたサンプルの使用を指し、それで、これらのサンプルは次いで、他のサンプルと同じ様式で処理されるが、対照サンプルは、例えば、該当する活性化合物または分子を含有しないバッファーで処理されるという違いがある。1つ以上の標的の濃度を比較すること(例えば、標的の絶対濃度または相対発現レベルを比較する場合)、または本明細書に開示されるような1つ以上の標的(例えば、1つ以上のタンパク質、オリゴマーまたはオリゴヌクレオチド)の存在または非存在の決定は、疾患がある対象から得られたサンプル及び疾患がない(または健康な)対象から得られたサンプルにおいて決定されたレベルの比較に基づいて決定される。換言すれば、標的の比較は、疾患がある対象において決定された1つ以上の標的のレベルと、対照群または対照個体において決定された同じ1つ以上の標的のレベルとの比較に基づく。本開示では、対照サンプルは、疾患がない個体から得られる。すなわち、対照サンプルを得た個体には、試験される疾患がない。通常、疾患がないという用語は、対象が健康であることを意味する。
【0354】
本明細書で使用される場合、用語「発現差異」は、対照または別のサンプルと比較して標的を測定すること、及びそれによって、例えば、前記標的の濃度、存在または強度の差を決定することを指す。かかる比較の結果は、標的がサンプル中に存在し、対照中には存在しないという絶対的なもの、または標的の発現もしくは濃度が、対照と比較して増加もしくは減少しているという相対的なもので与えられ得る。この場合、用語「増加している」及び「減少している」は、用語「上方制御されている」及び「下方制御されている」と互換的に使用され得る。
【0355】
本明細書で使用される場合、用語「薬学的に許容される担体及び/または希釈剤」には、その範囲内における、ありとあらゆる、溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤及び抗真菌剤、等張化剤及び吸収遅延剤ならびにそれらの組み合わせが含まれる。医薬活性物質に対するかかる媒体及び薬剤の使用は、当技術分野において周知である。任意の従来の媒体及び薬剤が活性成分と不適合である場合を除き、治療薬組成物におけるそれらの使用が企図される。補助的な活性成分も組成物内に組み込むことができる。
【0356】
本明細書に例示的に記載される本発明は、本明細書に具体的に開示されていない、任意の要素(複数可)、制限(複数可)がなくとも、適切に実行され得る。したがって、例えば、用語「含む(comprising)」、「含む(including)」、「含有する」などは、拡張的かつ非制限的に読まれるものとする。加えて、本明細書で用いられる用語及び表現は、限定する用語ではなく、説明する用語として使用されており、かかる用語及び表現の使用においては、示され、記載される特徴またはその一部の任意の等価物を排除する意図はないが、特許請求される本発明の範囲内で様々な変更が可能であることが認識される。したがって、本発明は、好ましい実施形態及び任意選択の特徴によって具体的に開示されているが、本明細書に開示されるその中で具体化される本発明の変更及び変形が、当業者によって用いられることがあり、かかる変更及び変形は、本発明の範囲内にあると見なされることが理解されるべきである。
【0357】
機能特性
抗体及び抗原結合断片等、本明細書に記載される薬剤、処置、または他の療法は、それらの機能特性によって定義され得る。例えば、GALA阻害剤、カルネキシン(CNX)阻害剤、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)阻害剤、またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)阻害剤、あるいはCNX:PDIA3複合体阻害剤は、機能特性によって定義され得る。加えて、抗カルネキシン(抗CNX)抗体、抗タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(抗PDIA4)抗体、または抗タンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(抗PDIA3)抗体、あるいは抗CNX:PDIA3複合体抗体は、機能特性によって定義され得る。
【0358】
場合によっては、阻害剤、抗体及び抗原結合断片等の薬剤は、以下のことが可能である:
・軟骨分解を減少させること
・ECM分解を減少させること
・ECM分解活性を低下させること
・CNX:PDIA3(Cnx/ERp57としても知られる)のECM分解活性を低下させること
・CNXのECM分解活性を低下させること
・線維芽細胞のECM分解活性を低下させること
・滑膜線維芽細胞のECM分解活性を低下させること
・酸化還元酵素活性を低下させること
・CNX:PDIA3(Cnx/ERp57としても知られる)の酸化還元酵素活性を低下させること
・CNXの酸化還元酵素活性を低下させること
・ジスルフィド結合還元酵素活性を低下させること
・CNX:PDIA3(Cnx/ERp57としても知られる)のジスルフィド結合還元酵素活性を低下させること
・CNXのジスルフィド結合還元酵素活性を低下させること
・O-グリコシル化を減少させること
・CNXのO-グリコシル化を減少させること
・CNXのグリコシル化を減少させること
・GALAが媒介するCNXのO-グリコシル化を減少させること
・CNX活性を低下させること
・PDIA3活性を低下させること
・PDIA4活性を低下させること
・CNXを発現する細胞の数または割合を減少させること
・PDIA3を発現する細胞の数または割合を減少させること
・PDIA4を発現する細胞の数または割合を減少させること
・CNX:PDIA3を発現する細胞の数または割合を減少させること
【0359】
上で強調した機能特性はすべて、当技術分野で既知の方法を通じて、例えば、顕微鏡検査、qPCR、qrtPCR、ウェスタンブロット、生化学的アッセイ、酵素アッセイ、及び当業者に既知の他の技術を通じて、効果的にアッセイされ得る。
【0360】
軟骨分解及び軟骨分解活性の相対レベルは、当技術分野で既知の多くの方法を通じて決定され得る。例えば、顕微鏡分析、従来の放射線写真(X線)、磁気共鳴画像法(MRI)、コンピュータ断層撮影法(CT)、及び超音波画像法等の周知の方法を通じて決定され得る。加えて、当業者であれば、軟骨分解レベルを決定するために使用され得る生化学的アッセイ及びバイオマーカーアッセイを認識しているであろう。血清バイオマーカー及び尿バイオマーカーは、軟骨分解レベルのアッセイに使用され得る。バイオマーカーには、II型プロコラーゲンCプロペプチド(CPII)、軟骨オリゴマー基質タンパク質(COMP)、コラゲナーゼ生成II型コラーゲンカルボキシ末端ネオエピトープ(sC2C)、軟骨中間層タンパク質2(CILP-2)、II型コラーゲンCテロペプチド(CTX-II)及びコラゲナーゼ生成II型コラーゲンペプチド(複数可)(C2C-HUSA)が含まれる。
【0361】
当業者であれば、関連する対照との比較により、軟骨分解または軟骨分解活性が低減/阻害されているかどうかを決定できるであろう。
【0362】
ECM分解及びECM分解活性の相対レベルは、いくつかの方法を通じて決定され得る。当業者は、ECM分解及びECM分解活性を測定し得る多くの方法、例えば、本明細書の実施例に示されているもの、を認識している。当業者であれば、Cnx/ERp57阻害剤が、ECM分解活性、Cnx/ERp57のECM分解活性、及び/またはCnxのECM分解活性を阻害することができるかどうかを容易に決定できるであろう。
【0363】
以下のステップは、当業者がECM分解活性をアッセイすることができる1つの手段である。
【0364】
市販のゼラチン溶液(2%)を、5-カルボキシ-X-ローダミン、スクシンイミジルエステルで標識し得る。次いで、標識したゼラチンを滅菌カバーガラスに移して薄い層を作製し、その後、グルタルアルデヒド固定により安定化させることができる。最後に、ラット尾部コラーゲン溶液を用いてカバーガラスをコーティングし、ゼラチンの上にコラーゲンの薄い層を作製し得る。
【0365】
次いで、カバーガラスを培養容器に移し得、分解活性を有する細胞(例えば、ヒト肝細胞癌Huh7)を播種し、分解が生じるように48時間インキュベートする。
【0366】
固定後、カバーガラスをHoeschtで染色して、細胞をカウント可能にすることができる。次いで、カバーガラスを共焦点顕微鏡で画像化し得る。次いで、ImageJを用いて画像を解析することができる。分解されたゼラチンの表面を明らかにするために、閾値をマニュアルで定義することができ、フィールドあたりの総面積を測定した。並行して、核の数を計算することができ、最終結果を各フィールドの細胞に対して正規化し得る。
【0367】
当業者であれば、関連する対照との比較により、ECM分解活性が低減/阻害されているかどうかを決定できるであろう。
【0368】
酸化還元酵素活性の相対レベルは、多くの方法によって決定され得る。当業者は、酸化還元酵素活性を測定し得る多くの方法、例えば、本明細書の実施例に示されているもの、を認識している。当業者であれば、Cnx/ERp57阻害剤が、酸化還元酵素活性、Cnx/ERp57の酸化還元酵素活性、及び/またはCnxの酸化還元酵素活性を阻害することができるかどうかを容易に決定できるであろう。
【0369】
例えば、Hirano et al.,Eur J Biochem.(1995)234(1):336-42に記載されているような、インスリン還元アッセイの使用は、当業者であれば酸化還元酵素活性を試験できるであろう1つの方法である。
【0370】
当業者であれば、関連する対照との比較により、酸化還元酵素活性が低減/阻害されているかどうかを決定できるであろう。
【0371】
ジスルフィド結合還元酵素活性の相対レベルは、多くの方法によって決定され得る。当業者は、ジスルフィド結合還元酵素活性を測定し得る多くの方法、例えば、本明細書の実施例に示されているもの、を認識している。当業者であれば、Cnx/ERp57阻害剤が、ジスルフィド結合還元酵素活性、Cnx/ERp57のジスルフィド結合還元酵素活性、及び/またはCnxのジスルフィド結合還元酵素活性を阻害することができるかどうかを容易に決定できるであろう。
【0372】
以下のステップは、当業者がジスルフィド結合還元酵素活性についてアッセイすることができる1つの手段である:(1)ECM(25ug/mlフィブロネクチンを伴う1mg/mlコラーゲン(37℃にて1時間重合)または0.5mg/mlマトリゲル(RTにて2.5時間重合))のプレーティング、(2)細胞の適切な密度での播種、(3)細胞の接着(約45分)、(4)10~25mM GM6001を伴う10ug/mlでの抗体の添加、(5)72時間のインキュベート、(6)核を可視化するためのヘキストの添加、(7)温めた20mM水酸化アンモニウム、0.5%(v/v)トリトンX-100を用いた1~2分間の脱細胞化、(8)PBS中1% BSAでの洗浄、(9)30分間RTでの対照用2.5mM TCEPの添加、(10)PBS中1% BSAでの洗浄、(11)30分間RTでの1% BSA中5mM NEMの添加、(12)PBS中1% BSAでの洗浄、(13)4% PFAでの固定、(14)PBSでの洗浄、(15)一晩4℃での一次抗体マウス抗NEM OX133(1:200)及びIgG対照、(16)PBSでの洗浄、(17)45分間RTでの二次抗体抗マウス647(1:400)及び二次対照のみ、(18)PBSでの洗浄、及び(19)同じウェルを再度可視化したシステイン還元シグナルの測定及び細胞数に対しての正規化。
【0373】
当業者であれば、関連する対照との比較により、ジスルフィド結合還元酵素活性が低減/阻害されているかどうかを決定できるであろう。
【0374】
グリコシル化の存在及び相対レベルは、実施例で用いた方法等の当技術分野で周知の方法及び市販のアッセイキットによって決定され得る。グリコシル化及び糖タンパク質を検出及び分析する方法としては、グリカン染色または標識、糖タンパク質の精製または濃縮、及び質量分析による解析が挙げられる。当業者であれば、かかる方法を認識しているであろう。
【0375】
O-グリコシル化の存在及び相対レベルは、本明細書の実施例で用いたもの等の当技術分野で既知の方法を通じて決定され得る。O-グリコシル化の顕著な特徴は、Ser残基またはThr残基にGalNacが付加することにより形成されたO-グリカンである、Tn(T nouvelle)の細胞レベルの増加である。Tnは、Vicia Villosaレクチン(VVL)及びHelix Pomatiaレクチン(HPL)等のTn結合タンパク質によって検出され得る(Gill,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.110,E3152-61 2013)。
【0376】
CNX、PDIA3の相対レベルは、当技術分野で既知の方法を通じて決定され得る。例えば、遺伝子発現(例えば、カルネキシン発現)の相対レベルは、当業者に既知の多くの異なる方法を通じて決定され得る。所与の遺伝子をコードするRNAのレベルは、他の周知の方法の中でも、例えば、RNAseq、RT-PCR、及びRT-qPCR等の技術によって決定され得る。加えて、タンパク質発現(例えばカルネキシン発現)の相対レベルは、当業者に周知の手段で決定され得る。所与のタンパク質/そのアイソフォームのレベルは、例えば、ウェスタンブロット、免疫組織/細胞化学、フローサイトメトリー、ELISAなどを含む抗体ベースの方法によって決定され得る。さらに、CNX、PDIA3、及び/またはPDIA4活性は、酵素を単離し、酵素アッセイを実施することによって決定することができる。
【0377】
CNX、PDIA3、PDIA4、及び/またはCNX:PDIA3を発現する細胞の数または割合は、単一細胞トランスクリプトーム解析、免疫組織化学的顕微鏡検査、及びフローサイトメトリーを含むいくつかの方法によって決定され得る。
【0378】
上で強調したように、治療薬(例えば、GALA阻害剤、カルネキシン(CNX)阻害剤、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)阻害剤、またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)阻害剤、CNX:PDIA3複合体阻害剤、あるいは抗カルネキシン抗体)は、ある特定の特性または活性(例えば、ECM分解、酸化還元酵素活性、ジスルフィド結合還元酵素活性、グリコシル化、タンパク質活性、または特定の細胞型の数もしくは割合)の低下を導き得る。場合によっては、この低下は、関連する対照で認められるレベルの5%超、例えば、≧10%、≧15%、≧20%、≧25%、≧30%、≧35%、≧40%、≧45%、≧50%、≧55%、≧60%、≧65%、≧70%、≧75%、≧80%、≧85%、≧90%、≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%または100%のうちの1つであり得る。
【0379】
関連する対照は、阻害されていない状態、すなわち、処置前の特性レベルであり得る。
【0380】
いくつかの実施形態において、治療薬(例えば、GALA阻害剤、カルネキシン(CNX)阻害剤、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)阻害剤、またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)阻害剤、CNX:PDIA3複合体阻害剤、あるいは抗カルネキシン抗体)は、ECM分解レベルの低下を導く。場合によっては、このECM分解における低下は、関連する対照で(例えば、阻害されていない状態で)認められるレベルの5%超、例えば、≧10%、≧15%、≧20%、≧25%、≧30%、≧35%、≧40%、≧45%、≧50%、≧55%、≧60%、≧65%、≧70%、≧75%、≧80%、≧85%、≧90%、≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%または100%のうちの1つであり得る。
【0381】
いくつかの実施形態において、治療薬(例えば、GALA阻害剤、カルネキシン(CNX)阻害剤、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)阻害剤、またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)阻害剤、CNX:PDIA3複合体阻害剤、あるいは抗カルネキシン抗体)は、ECM分解活性(例えば、CNXのECM分解活性、CNX/ERP57のECM分解活性、または滑膜線維芽細胞のECM分解活性)レベルの低下を導く。場合によっては、このECM分解活性における低下は、関連する対照で(例えば、阻害されていない状態で)認められるレベルの5%超、例えば、≧10%、≧15%、≧20%、≧25%、≧30%、≧35%、≧40%、≧45%、≧50%、≧55%、≧60%、≧65%、≧70%、≧75%、≧80%、≧85%、≧90%、≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%または100%のうちの1つであり得る。
【0382】
いくつかの実施形態において、治療薬(例えば、GALA阻害剤、カルネキシン(CNX)阻害剤、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)阻害剤、またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)阻害剤、CNX:PDIA3複合体阻害剤、あるいは抗カルネキシン抗体)は、酸化還元酵素活性(例えば、CNXのECM分解活性、CNX/ERP57のECM分解活性、または滑膜線維芽細胞のECM分解活性)レベルの低下を導く。場合によっては、この酸化還元酵素活性における低下は、関連する対照で(例えば、阻害されていない状態で)認められるレベルの5%超、例えば、≧10%、≧15%、≧20%、≧25%、≧30%、≧35%、≧40%、≧45%、≧50%、≧55%、≧60%、≧65%、≧70%、≧75%、≧80%、≧85%、≧90%、≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%または100%のうちの1つであり得る。
【0383】
いくつかの実施形態において、治療薬(例えば、GALA阻害剤、カルネキシン(CNX)阻害剤、タンパク質ジスルフィド異性化酵素A4(PDIA4)阻害剤、またはタンパク質ジスルフィド異性化酵素A3(PDIA3)阻害剤、CNX:PDIA3複合体阻害剤、あるいは抗カルネキシン抗体)は、ジスルフィド結合還元酵素活性(例えば、CNXのECM分解活性、CNX/ERP57のECM分解活性、または滑膜線維芽細胞のECM分解活性)レベルの低下を導く。場合によっては、このジスルフィド結合還元酵素活性における低下は、関連する対照で(例えば、阻害されていない状態で)認められるレベルの5%超、例えば、≧10%、≧15%、≧20%、≧25%、≧30%、≧35%、≧40%、≧45%、≧50%、≧55%、≧60%、≧65%、≧70%、≧75%、≧80%、≧85%、≧90%、≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%または100%のうちの1つであり得る。
【0384】
一般用語
本出願で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」には、文脈で別途明示されない限り、複数への言及が含まれる。例えば、用語「遺伝子マーカー(a genetic marker)」には、遺伝子マーカーの混合物及び組み合わせを含む、複数の遺伝子マーカーが含まれる。
【0385】
本明細書で使用される場合、製剤成分の濃度の文脈において、用語「約」は、典型的には、記載値の+/-5%、より典型的には、記載値の+/-4%、より典型的には、記載値の+/-3%、より典型的には、記載値の+/-2%、さらに典型的には、記載値の+/-1%、及びさらに典型的には、記載値の+/-0.5%を意味する。
【0386】
本開示を通じて、特定の実施形態が、範囲形式で開示されることがある。範囲形式での記述は、単に、便宜上及び簡潔さのためであり、開示される範囲の範囲に基づく確固たる限定として解釈されるべきではないことが理解されるべきである。したがって、ある範囲の記述は、その範囲内の個々の数値と同様に、すべてのあり得る下位範囲が具体的に開示されていると考慮されるべきである。例えば、1~6等の範囲の記述は、その範囲内の個々の数値、例えば、1、2、3、4、5、及び6と同様に、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの下位範囲が具体的に開示されていると考慮されるべきである。このことは、範囲の幅に関係なく適用される。
【0387】
特定の実施形態もまた、本明細書に広範かつ一般的に記載され得る。また、一般的開示に納まる、より限定された種及び亜属の群のそれぞれも、本開示の一部を形成する。このことには、削除される物質が本明細書に具体的に列挙されているか否かに関係なく、部類から任意の対象物を除去する但し書きまたは否定的限定を伴う実施形態の一般的記述が含まれる。
【0388】
本発明は、本明細書に広範かつ一般的に記載されている。また、一般的開示に納まる、より限定された種及び亜属の群のそれぞれも、本発明の一部を形成する。このことには、削除される物質が本明細書に具体的に列挙されているか否かに関係なく、部類から任意の対象物を除去する但し書きまたは否定的限定を伴う本発明の一般的記述が含まれる。
【0389】
他の実施形態は、特許請求の範囲及び非限定的実施例の範囲内にある。加えて、本発明の特徴または態様がマーカッシュ群によって記載される場合、当業者は、それによって本発明が、マーカッシュ群の任意の個々の要素または要素の亜群によっても説明されることを認識するであろう。
【実施例】
【0390】
実施例1
患者サンプル、細胞株及びマウス系統
患者サンプル:滑膜組織検体は、Tan Tock Seng Hospital(Singapore)で関節置換手術を受けている、関節リウマチ(RA)または変形性関節症(OA)を有する患者から得た。手順は、プロトコール番号2018/00980のもと、Ethics Committee of The National Healthcare Group domain specific review boardにより承認された。すべての患者から書面による同意を得、該患者は、関節リウマチまたは変形性関節症の診断基準を満たした。
【0391】
細胞株:SW982細胞(ATCC HTB-93)は、滑膜肉腫患者の滑膜に由来する滑膜線維芽細胞である。SW982細胞を、10%(v/v)ウシ胎児血清(FCS)及び1%(w/v)ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco、ThermoFisher Scientific)を補充したLeibovitz´s L-15 Medium(Gibco、ThermoFisher Scientific)において、37℃にて、大気で自由にガス交換して維持した。SW982細胞を、Sleeping Beautyトランスポゾン系を用いて、ER-2Lecをコードするドキシサイクリン誘導性遺伝子を安定に発現するように操作した。
【0392】
マウス:C57BL/6Jバックグラウンドで駆動されるVI型コラーゲンプロモーターを発現するCol6a1Creマウスは、G.Bressan(University of Milano,Milano,Italy)により提供されたものである。本開示に従って、必要とされるマウスを作製するためのバックグラウンドとして、当技術分野で既知の同等のマウスモデルを使用できることに留意されたい。小胞体(ER)局在化二重レクチンドメイン(ER-2Lec)をloxP-flanked STOPカセットの制御下で発現する、同じバックグラウンド上のER-2Lecマウスは、Ozgeneによって提供された詳細に従い、本発明らがカスタマイズして作製した。Col6a1Cre ER-2Lecマウスは、Col6a1CreマウスとER-2Lecマウスの交配によって作製し、間葉系細胞系譜でER-2Lecを発現するマウスを得た。すべての動物は、Biological Resource Centre(ASTAR,Singapore)において、食物と水にアクセスできるマイクロアイソレーターケージで、特定の病原体のない条件下で、飼育及び維持した。実験は、年齢及び性別を一致させた動物を用いて実施し、IACUCプロトコール番号201548のもと、Animal Ethics Committees at Biological Research Centre(ASTAR,Singapore)により承認されたガイドラインに従った。
【0393】
ヒト組織からの初代滑膜線維芽細胞(SF)の単離
変形性関節症(OA)及び関節リウマチ(RA)患者の滑膜組織を、滑膜切除時または滑膜生検時に得た。摘出後、組織を直ちに細かく切り刻み、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中のIV型コラゲナーゼ(1mg/ml、Gibco)で、37℃にて穏やかに撹拌しながら1.5時間消化した。混合物を、70μmメッシュのセルストレーナーに通し、250gで10分間遠心後、細胞ペレットを得た。変形性関節症及び関節リウマチ患者由来のヒト滑膜線維芽細胞(それぞれ、OASF及びRASF)を、継代3~9の間で使用した(Rosengren et al.,2007,Methods in Molecular Medicine,Vol.135:Arthritis Research,Volume 1)。培養物の純度は、実験の実施に先立って、線維芽細胞識別マーカーCD90で染色することにより確認した。正常ヒト滑膜線維芽細胞は、健康なヒトドナーの滑膜組織(HCSF)に由来し、Cell Applications,Inc.から入手した。HCSFは、10%(v/v)ウシ胎児血清(FCS)及び1%(w/v)ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco、ThermoFisher Scientific)を補充したDMEM中で、5%CO2を含有する加湿雰囲気下、37℃にて完全培養した。
【0394】
試薬
抗体:抗CNX(ab10286、ab22595)、抗ビメンチン(ab92547)、抗ベータアクチン(ab8226)抗体は、Abcamから購入した。アガロース結合Vicia Villosaレクチン(VVL、AL-1233)は、Vector Laboratoriesから購入した。PE.C7結合抗CD45及びPE結合抗CD90は、Biolegendから購入した。抗FAPαは、R&D systemsから購入した。抗NEM OX133抗体は、Absolute Antibodyから購入した。抗ウサギIgG-HRP抗体及び抗マウスIgG-ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)抗体は、GE Healthcare Life Sciencesから購入した。
【0395】
プラスミド:ドキシサイクリン誘導性ER-2Lecを発現するプラスミドは、先に記載した通りに作製した(Gill et al.2013,PNAS,2013,E3152-E3161)。得られたベクターを、Sleeping Beauty 208トランスポザーゼを発現するpPGK-SB13と共に使用して、SW982細胞にトランスフェクトした。
【0396】
免疫蛍光染色
ホルマリン固定、パラフィン包埋組織切片を、キシレン置換バッファー(Sub-X、Leica Biosystems)で脱パラフィンし、再水和させた。マウス関節組織及び組織マイクロアレイ(provitro AG,Berlin,Germany)に関しては、Epitope Retrieval Solution pH 6(Leica Biosystems)に浸し、オーブン中60℃で18時間インキュベートすることにより、抗原賦活化を行った。ヒト組織検体に関しては、Epitope Retrieval Solution pH 6(Leica Biosystems)を用いて、圧力室(2100 Retriever、Akribis Scientific Limited,WA16 0JG,GB)内で抗原賦活化を行った。切片をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、ブロッキングバッファー(5%ウマ血清、1%トリトンX100)に浸した。1時間後、切片を、ウサギ抗CD45、ウサギ抗ビメンチン、ウサギ抗カルネキシン、ラット抗FAPα、またはビオチン結合Vicia Villosaレクチン(VVL)を含む一次抗体を含有する、一次抗体ミックスと、4℃にて一晩インキュベートした。サンプルをブロッキングバッファーで3回洗浄し、抗ラットAlexa Fluor647、抗ウサギAlexa Fluor594結合体またはAlexa Fluor488ストレプトアビジン(ThermoFisher Scientific、1:400)を含む、対応する二次抗体と、2時間インキュベートした。洗浄後、細胞核をHoechst 33342(ThermoFisher Scientific、1:1000)で5分間染色してからマウントした。画像はすべて、LSM-700(Zeiss)共焦点顕微鏡で同じ設定を用いて取得した。VVL及び核シグナルの未加工の積算密度は、FIJI image calculatorで測定した。
【0397】
コラーゲン抗体誘発関節炎
0日目に、マウスに、II型コラーゲンタンパク質に対する5つの異なるモノクローナル抗体クローンを含有する抗体カクテルミックス(Chondrex Inc.)を、2mg/マウス(200μl)の用量で腹腔内(IP)注射を介して注入した。3日目に、50μg/マウスのLPSを、IP注射を介して動物に注入した(100μl)。3日目以降、関節炎の重症度を、デジタルカリパスを用いて足の厚さを測定することにより、毎日評価した。また、評価は、Chondrex,Inc.により提供される定性的臨床スコアリングシステムを用いて、盲検下の研究員によって行った。
【0398】
組織学的解析及び軟骨細胞外マトリックス染色
皮膚を除去した後、前足及び後足の両方をホルマリン固定し、パラフィン包埋した。組織を、上の免疫蛍光染色プロトコールで上述したように、脱パラフィンし、再水和させた。組織切片を、ヘマトキシリン及びエオシン(HE)、サフラニン-O(SO)、ならびにアルシアンブルー(AB)染色で染色した。スライドは、Leica SCN400 slide scanner(Leica Microsystems,Germany)を用いて、20xでスキャンした。画像は、Slidepath Digital Image Hub(Leica Microsystems,Germany)にエクスポートして閲覧した。選択した領域を、ソフトウェアSlidepath Tissue Image Analysis 2.0(Leica Microsystems,Germany)のMeasure Stained Area Assayを用いて解析した。軟骨細胞外マトリックス(ECM)染色エリアの定量分析は、FIJI image calculatorを用いて実施した。
【0399】
フローサイトメトリー
足の皮膚を除去し、関節を踵から3mm上で切断した。骨髄の汚染を避けるため、脛骨の骨髄腔を、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)で徹底的に洗浄した。関節を小片に切断し、消化バッファー(HBSS中1mg/ml IV型コラゲナーゼ及び1mg/ml DNase I)中で、37℃にて60分間インキュベートした。消化中に放出された細胞は、70μmセルストレーナーにより濾過し、赤血球は、赤血球溶解バッファー(BD Biosciences)を用いて溶解した。細胞を、live/dead Aqua(Invitrogen)生存色素で染色し、Fc Block(BD Biosciences)と1:50でインキュベートし、PE結合抗CD90(Biolegend)、PECy7結合抗CD45(Biolegend)及びFITC結合Vicia Villosaレクチン(VVL、Life Technologies)を含む蛍光色素結合抗体で30分間染色した。細胞内染色では、BD Cytofix/Cytoperm solution(BD Biosciences)を用いて細胞を固定した。固定した細胞は、FITC結合Vicia Villosaレクチン(VVL)での染色に先立って、1x BD Perm/Wash buffer(BD Biosciences)で透過処理した。サンプルはFACS BD LSRIIで取得し、ソフトウェアKaluzaを用いて解析した。
【0400】
ウェスタンブロット及びVVL-免疫共沈降(VVL-CoIP)
細胞を、2mg/ml軟骨細胞外マトリックス(ECM、Xylyx Bio.)でプレコートした10cmディッシュに、2x105細胞/mlで播種し、一晩静置した。100μg/ml TNFα(PeproTech)及び100μg/ml IL-1β(PeproTech)で24時間刺激した後、細胞を回収し、低ストリンジェンシーのRIPA溶解バッファー(50mM Tris、200mM NaCl、0.5% NP-40、Complete及びPhoStop阻害剤[Roche Applied Science])で、4℃にて、30分間溶解した。次いで、4℃にて10分間、13000gで遠心分離することにより、溶解物を清澄化した。清澄化した組織溶解物を、アガロース結合Vicia Villosaレクチン(VVL)ビーズ(Vector Laboratories)と4℃にて一晩インキュベートした。ビーズをRIPA溶解バッファーで3回洗浄し、沈殿したタンパク質を、50mM DTTを含有する2x LDSサンプルバッファー中で溶出した。溶解物を95℃にて5分間煮沸し、4~12% Bis-Tris 80 NuPageゲル(Invitrogen)を用いて、180Vにて70分間、SDS-PAGE電気泳動により分離した。次いで、サンプルを、iBlot transfer system(Invitrogen)を用いてニトロセルロース膜に転写し、TBST(トリス緩衝生理食塩水(TBS)及びポリソルベート20(Tween 20としても知られる)-50mMトリス、150mM NaCl及び0.1% Tween 20)に溶解した3%ウシ血清アルブミン(BSA)を用いて、室温にて1時間ブロッキングした。次いで、ニトロセルロース膜を、一次抗体(3% BSA-TBST中1/1000に希釈)と、4℃にて一晩インキュベートした。翌日、膜をTBSTで3回洗浄し、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)を結合させた二次抗体と、室温にて2時間インキュベートした。電気化学発光(ECL)露光の前に、膜をTBSTでさらに3回洗浄した。
【0401】
マトリックス分解アッセイ
赤色ゼラチンカバーガラスを、先に記載したように調製した(Ros et al.,Nat Cell Biol,2020,vol 22,November 2020,1371-1381)。カバーガラスを、0.2mg/ml軟骨細胞外マトリックス(ECM、Xylyx Bio)で、37℃にて3時間コーティングした。滑膜線維芽細胞(SW982細胞、変形性関節症滑膜線維芽細胞(OASF)、関節リウマチ滑膜線維芽細胞(RASF)及び健康ヒトドナー滑膜線維芽細胞(HCSF)を含む)を、24ウェルプレートに、5x104細胞/ml/ウェルで一晩播種した。次いで、細胞を、100μg/ml TNFα及び100μg/ml IL-1βで刺激した。24時間後、細胞を、4%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定し、Hoechst 33342(Life Technologies)を用いて核を染色した。染色したカバーガラスを顕微鏡スライドガラスに乗せ、各条件で10~30枚の画像を取得した。細胞数に対して正規化したマトリックス分解面積を、先に記載したように、ソフトウェアImageJを用いて測定した(Martin et al.,J Vis Expr,2012,vol 66,e4119)。簡潔には、閾値処理後の蛍光ゼラチン画像を用いて分解面積を求め、すべての画像に同じ閾値を適用した。セルカウンターを用いて核の数をカウントし、細胞総数あたりのゼラチン分解面積を算出した。実験は、3通りの生物学的複製において行った。
【0402】
統計分析
GraphPad Prism(バージョン8.4.3、GraphPad Software,CA,USA)を、統計分析及びグラフ作成に使用した。データ分析は、示したように、一元配置(クラスカル・ウォリス検定)、二元配置ANOVA(テューキーの多重比較検定)またはマン・ホイットニー検定により行った。差は、p値<0.05で統計的に有意と見なした。
【0403】
実施例2
結果
関節リウマチ及び変形性関節症滑膜におけるO-グリコシル化の亢進
GALAの顕著な特徴は、Ser残基またはThr残基にGalNacが付加することにより形成されたO-グリカンである、Tn(T nouvelle)の細胞レベルの増加である。Tnは、Vicia Villosaレクチン(VVL)及びHelix Pomatiaレクチン(HPL)等のTn結合タンパク質によって検出され得る(Gill,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.110,E3152-61 2013)。
【0404】
本発明者らは、DNAを対比染色し、VVLを用いた免疫蛍光法により、関節組織マイクロアレイを分析した。本発明者らは、OA患者の18/21サンプル、乾癬性関節炎患者の2/6サンプル、及びRA患者の9/18サンプルにおいて、Tnサンプルの明らかな増加を検出した(
図1A及び
図23)。本発明者らは、細胞密度マーカーとしてのDNAシグナル強度で正規化したVVL染色の積算蛍光強度を定量化した(
図1B)。健康な患者サンプルでは、ほとんど変化が示されなかったが、RA及びOAサンプルでは、ほとんどのサンプルがTnレベルの上昇を呈し、いくつかの領域では、VVLシグナルが最大で7倍増加した。
【0405】
関節炎におけるGALAをさらに特徴付けるために、本発明者らは、コラーゲン抗体誘発関節炎(CAIA)に基づくマウスRAモデルを採り入れた(32)。簡潔には、動物にII型コラーゲンに対する抗体を注入し、次いで、3日後にリポ多糖(LPS)を注入し、5日目から症状を発症させた。最初の免疫組織化学的分析から、関節炎を有する動物では、関節内及び関節周辺におけるTnレベルが著しく増加したことが明らかになった(
図23)。
【0406】
CAIAモデルでは、症状は約7日でピークに達し、10日間続いた後、徐々に軽減した。本発明者らは、0、7、10及び14日目に動物からサンプル採取し、免疫蛍光染色を用いてTnレベルを定量化した。組織学的には、7日目に、関節腔に浸潤したパンヌスが顕著になり、10日目には、免疫細胞の流入に伴ってサイズが増大した。14日目までには免疫細胞の量が激減していたが、滑膜組織は関節腔内に残っていた(
図2A及びB)。7日目に、関節腔に浸潤している細胞において高レベルのTnが認められ、10日目まで持続した(
図2C及びD)。14日目までには、細胞Tnレベルが動物の大部分で鎮静していた。本発明者らは、細胞を欠いている繊維質において、いくつかのTn染色を認め、この染色は、14日目においても有意に減少しなかった。
【0407】
関節炎滑膜における高TnレベルはGALA活性化と一致する
高い細胞Tnレベルは、GALA経路によって誘導され得、この経路は、ER内の大量のTnシグナルによって特徴付けられる。ERは細胞体全体に分布しているため、GALA活性化は通常、拡散シグナルの増加として現れる(Bard et al.,Trends Cell Biol.26,379-388,2016)。本発明者らは、CAIA滑膜サンプルを、Tnと、ERマーカーであるカルネキシンについて共染色した(
図3A)。未処理のサンプルでは、Tn染色とカルネキシン染色は明確に分離しており、Tnは、ゴルジ体と一致した核周囲パターンで集中していた。対照的に、7日目のCAIAサンプルでは、Tn染色が上昇し、細胞空間を満たし、ERマーカーであるカルネキシンと共局在していたことから、GALA誘導が強く示唆された。CAIAの観点からGALA誘導を裏づけるため、本発明者らは、遍在性に発現されるGALNTトランスフェラーゼであり、GALAが活性化したがんにおいてはERに再局在していることが以前に示された、GALNT2で染色した。未処理サンプルにおける核周辺から、CNXと共局在化したCAIAサンプルにおけるERパターンへの同様の局在変化が認められた(
図3B)。本発明者らの結果から、GALNT2のゴルジ体からERへの移動が、CAIAの観点におけるTnレベル増加の根拠であることが示唆される。これらの結果は、以前に報告された乳癌及び肝臓癌におけるGALA表現型の説明と一致している(Gill,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.110,E3152-61,2013、Nguyen,et al.,Cancer Cell.32,639-653.e6,2017)。
【0408】
滑膜線維芽細胞はGALAを呈する主要な細胞型である
RA疾患の滑膜は、免疫細胞及び滑膜線維芽細胞を含む複雑な組織である(Choy et al.,Rheumatology .51 Suppl 5,v3-11,2012)。どの細胞型がGALAの増加を示したかを確立するために、7dマウスCAIA関節サンプルを、VVL、免疫細胞マーカーであるCD45、及び線維芽細胞マーカーであるビメンチンで共染色した。本発明者らは、浸潤したパンヌスの最前部で、ビメンチン陽性細胞を認めた(
図4)。CD45陽性細胞は、典型的には、パンヌスの浸潤前部の後方にクラスター化し、位置していた。注目すべきことに、パンヌス内のTn陽性細胞では、大部分がビメンチン陽性領域と共染色されたが、CD45陽性領域とは共染色されなかった。この結果は、滑膜線維芽細胞におけるGALA活性化を示唆するものである(
図4)。本発明者らは、滑膜ライニング線維芽細胞のマーカーとして、線維芽細胞活性化タンパク質アルファ(FAPα)を用いて、RA及びOAのヒトサンプルでこの結果を検証した(Bauer et al.Arthritis Res.Ther.8,R171,2006)。FAPα陽性細胞は、パンヌスの縁に位置する層を形成し、RAサンプルでは、CD45陽性細胞のより大きな層が後方に位置した(
図5A、5B及び
図24A)。OAサンプルでは、CD45細胞の数がRAサンプルと比較して減少していたが、FAPα細胞は、同様のVVL染色を示した(
図24)。際だったことに、VVL染色は、RA及びOAの両条件下で、FAPαと排他的に共局在した。したがって、OA及びRA滑膜では、滑膜ライニング線維芽細胞が、GALA活性化を呈する主要な細胞である。
【0409】
サイトカイン及びECMによるSFの刺激はより高いGALAレベルを誘導する
GALAがin vivoでどのように活性化されるかを理解するために、本発明者らは、患者由来の初代ヒトSFを使用した。SF及び免疫細胞のマーカーとして、それぞれCD90及びCD45を用いたFACS分析により、本発明者らが使用した細胞調製物の純度>90%を確立した(
図24B)。次いで、本発明者らは、HPL染色を用いて、これらの患者由来SF細胞におけるTnレベルのハイコンテントイメージング解析を実施した。プラスチックウェル上に細胞を播種すると、健康なSFと比較して、OA細胞で、RA細胞ではよりいっそう、Tnレベルの増加が示された(
図6)。次いで、本発明者らは、RAの疾患進行を促進すると考えられている、TNFα及びIL1βサイトカインでSFを刺激した(Kagari and Shimozato.J.Immunol.169,1459-1466,2002)。個々のサイトカインは、GALA活性化に対して相対的に限定的な効果しか持たなかったが、両サイトカインの組み合わせ(CYTOと表示)は、Tn細胞レベルにおける2倍の増加を誘導した。興味深いことに、その効果はRASFで顕著であり、OASFではより限定的で、健康なSF(HCSF)ではほとんどなかった。
【0410】
次に、本発明者らは、軟骨ECMタンパク質がSFの活性化に寄与している可能性があるかどうかを疑った。SFを軟骨ECMに曝すと、OASF及びRASFの両方で、GALAが最大3倍で活性化した。対照的に、HCSF細胞はほとんど反応しなかった。CYTOとECMとの組み合わせは、Tnレベルに対して相加効果を有した(
図6)。ラット尾部由来のI型コラーゲンを用いても同様の活性化が誘導されたことから、該刺激は、軟骨ECMに特異的ではなかった(
図6)。
【0411】
非刺激条件下では、Tn染色は、HCSFのゴルジ体で排他的に検出されたが、OASF及びRASFでは、さらなるER様のTn染色が示された(
図6)。CYTOと軟骨ECMとの組み合わせで刺激するとすぐに、ER局在Tn染色は、OASF及びRASFの両方で増強されたが、HCSFでは増強されなかった(
図6)。
【0412】
要約すると、この解析により、OA及びRA患者のSFでは、健康なSFと比較して、細胞培養液においてGALAが上昇していることが明らかになった。RAのSFが、サイトカインに応答してさらにGALAを活性化する一方、RA及びOAのSFの両方は、ECMに曝されるとすぐにGALAを活性化する。対照的に、健康なSFでは、GALA応答が非常に限定されていたことから、患者の細胞において該経路は、活性化のためにプライミングされていることが示唆された。
【0413】
SFにおけるGALAの阻害によりin vivoでのECM分解及び関節炎が減少する
GALAが、がん細胞におけるECM分解を促進することから、本発明者らは、SFによる軟骨ECM分解にもそれが関係しているかどうかを試験しようと努めた。本発明者らは、ヒト滑膜肉腫SW982細胞がコラーゲンを分解できることを見出した(先に記載した蛍光ゼラチンを用いたサンドイッチアッセイにおいて)(Ros et al.,Nat.Cell Biol.22,1371-1381,2020)。本発明者らは、ER-2Lecキメラタンパク質が、ER標的配列及びGALNT2の2つのレクチンの融合体で構成されることを先に記載した(Gill,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.110,E3152-61 2013)。ER-2Lecは、ERでのO-グリコシル化を妨害することにより、GALA活性を特異的に阻害する。
【0414】
本発明者らは、ドキシサイクリン誘導性プロモーター系のもと、安定したSW982のER-2Lec形質移入体を生成した。RAのSFと同様に、CYTOミックスで刺激したSW982細胞は、ECMの分解においてより活性であった(
図7B及び7C)。しかしながら、ER-2Lecの発現を誘導した場合、分解は、2倍超で有意に減少した(
図7B及び7C)。
【0415】
ER-2Lecがin vivoで関節炎を軽減し得るかどうかを試験するために、本発明者らは、Loxカセットを有するER-2Lec遺伝子導入マウス系統を生成した。本発明者らは、それらを、VI型コラーゲンアルファ1(Col6a1)プロモーター下でCreを発現するマウスと交配させた(
図3C)。VI型コラーゲンは、関節間葉系細胞、特にSFにより発現される(Danks et al.,Annals of the Rheumatic Diseases.75,2016,pp.1187-1195、Armaka,et al.,.J.Exp.Med.205,331-337,2008)。したがって、この遺伝的交配により、ER-2Lecが主にSFで発現され、関節炎マウスのTnレベルが低下すると予想される。本発明者らはこれらのマウスにCAIAを誘導し、7日後に、パンヌスにおける、ER-2Lec-GFP発現及びTnレベルをモニターした。Tnは著しく減少し、GALA阻害と一致した(
図8)。
【0416】
本発明者らは、Col6a1Cre ER-2Lec動物における及びCre発現対照におけるRA症状をモニターした。ER-2Lec発現動物では、足の腫脹が顕著に軽減したことが示された(
図9A及びB)。本発明者らは、経時的に足の厚さの変化を測定し、ER-2Lec動物における、対照と比較した有意な厚さの減少を認めた。本発明者らはまた、盲検評価において、国際的に定義された関節炎スコアを用い、Col6a1Cre ER-2Lec動物で一貫した症状の軽減を認めた(
図10)。
【0417】
本発明者らはまた、関節の軟骨分画を明らかにするために一般的に用いられるH&E及びアルシアンブルー染色(AB)及びサフラニン-O染色(SO)を用いて、7日目に組織学的分析を実施した。Col6a1Cre ER-2Lec関節のH&E染色では、パンヌスサイズの減少が示され、腫脹の軽減と一致した(
図11)。興味深いことに、ER-2Lec発現動物では、免疫細胞の浸潤がかなり減少しているように思われた(
図11及び
図25A)。AB陽性領域もCAIA Col6a1Cre ER-2Lec動物で有意に保存されていた(
図11)。有意な変化が、SO染色の定量後でも得られた(
図25)。まとめると、本発明者らの結果は、SFにおけるER-2Lecタンパク質でのGALAの阻害により、関節炎疾患の進行が制限され得ることを実証するものである。
【0418】
GALAはSFにおけるCNXのグリコシル化及び表面露出を活性化する
本発明者らは、最近、GALAのグリコシル化標的及びエフェクターとしてカルネキシン(CNX)を説明した(Ros et al.,Nat.Cell Biol.22,1371-1381,2020)。CNXは、グリコシル化されるとすぐに細胞表面に移動し、PDIA3と共に、ECMタンパク質のジスルフィド結合の切断を媒介する。この還元活性は、がん細胞によるマトリックス分解に必須である(Ros et al.,Nat.Cell Biol.22,1371-1381,2020)。本発明者らは、SW982 SFにおいて、サイトカイン及びECMで刺激した後、CNXが約6倍過剰にグリコシル化されることを見出した(
図12A及びB)。ER-2Lecの発現は、CNXのグリコシル化を有意に減少させることができたので、このグリコシル化は、GALAに依存するものであった。
【0419】
加えて、本発明者らは、SW982 SF細胞をCYTO及びECMで刺激した後に、CNX表面発現が約10%有意に増加したことを、FACSを用いて見出した(
図13A及びB)。際だったことに、細胞表面CNXシグナルの増加は、ER-2Lecの発現によって完全に抑制された(
図13A及びB)。
【0420】
本発明者らは、患者から得た初代細胞でこの結果を確認しようと努めた。健康な対照のSF(HCSF)では、細胞表面CNX陽性細胞の割合が、約7%のみであり、サイトカイン及びECMで刺激すると、割合がわずかに増加した(
図14A及びB)。対照的に、RAを患う患者のSF細胞(RASF)またはOAを患う患者のSF細胞(OASF)では、細胞表面CNXを有する細胞の割合が3倍増加し、有意に増加したレベルが示され、刺激に対してより感受性があった(
図14A及びB)。全体として、これらの結果は、CNXのグリコシル化及びその細胞表面への露出が、関節炎のSFで亢進しており、GALAに依存していることを指し示している。
【0421】
抗CNX抗体はCAIAマウスの関節炎症状を予防する
本発明者らは、カルネキシンに対する抗体が、必然的なジスルフィド結合の還元を防ぐことによってECM分解を遮断し得ることを先に示した(Ros et al.,Nat.Cell Biol.22,1371-1381,2020)。本発明者らは、カルネキシンを遮断すれば軟骨ECM分解も同様に妨げられるはずであると仮定した。本発明者らはまず、軟骨ECM中のジスルフィド結合の存在を、先に記載した方法を用いて試験した(Ros et al.,Nat.Cell Biol.22,1371-1381,2020)。簡潔には、軟骨ECMをTCEPで還元し、次いで、N-エチルマレイミド(NEM)に曝し、次いで、抗OX133抗体で処理した。先に肝臓ECMに関して記載したように、本発明者らは、コラーゲン3/コラーゲン1線維及びフィブロネクチン/コラーゲン1線維と共局在している大量のOX133シグナルを認めたことから、軟骨ECMが、ジスルフィド結合で高度に架橋されていることが示唆された(
図15)。
【0422】
次に、本発明者らは、ECM分解に対する抗CNX抗体の効果を試験した。蛍光ゼラチンを覆っている軟骨ECM上に播種したOASF細胞に、一晩ECMを分解させた。ポリクローナル抗CNX抗体の添加により、この分解活性が遮断された(
図16及びB)。
【0423】
これらの結果に促され、本発明者らは、抗CNX抗体で動物を処置することを目標とした。本発明者らはまず、10日間にわたって抗体を3回注入した動物の体重をモニターしたが、本発明者らは、体重減少をまったく検出しなかった(
図22)。次に、本発明者らは、CAIA動物を、CAIAが惹起された後の3日目から7日目まで、2日ごとに、25マイクログラムの抗CNX抗体を注入して処置した(
図17A)。本発明者らは、足の厚さを一定間隔でモニターし、10日目に関節炎スコアを測定した。際だったことに、抗CNX処置動物では、アイソタイプ抗体で処置した対照動物と比較して、足の腫れが軽減した(
図17B)。指の発赤及び腫脹が依然としていくらか生じ、関節炎スコアが上昇したが、処置動物の平均スコアは、CAIA対照動物の半分であった(
図17C)。このことは、ER-2Lec発現で得られた結果を思い出させるものである。
【0424】
組織学的レベルでは、SO陽性軟骨の減少が、10日目の対照動物で非常に顕著であった(
図18)。加えて、滑膜が下層にある骨に付着していたことは、おそらく、骨リモデリングの開始を指し示すものであった。対照的に、抗CNX処置動物では、関節腔が十分に保存されており、軟骨が大量に残っていた(
図18)。
【0425】
本発明者らの研究上の仮説は、Cnx抗体が、滑膜ライニング線維芽細胞に結合し、それらの分解活性を阻害した、というものである。本発明者らは、該抗体が実際にこれらの細胞と相互作用していたかどうかを試験するために、処置動物の関節を抗ウサギIgGで染色した。抗CNX抗体で処置した動物の滑膜細胞においてはシグナルが明瞭に検出されたが、対照ウサギIgGで処置した動物においてはシグナルが現れなかった(
図19C)。
【0426】
全体として、これらの結果は、CNXを阻害することにより、軟骨ECM分解が強力に阻害され、関節炎治療薬の基本原理が形成され得ることを指し示している。
【0427】
実験例3
考察
この研究において、本発明者らは、関節炎の滑膜線維芽細胞では、健康な対照物と比較して、GalNac O-グリコシル化が著しく上方制御されていることを示した。この増加は、ゴルジ体からERへのGALNTsの移動を伴う、GALA経路の活性化によるものである。
【0428】
がん細胞では、EGF-R及び特にSrcキナーゼの活性化がGALAを促進する(Gill et al.,J.Cell Biol.189,843-858,2010、Chia et al.,PLoS One.14,e0214118,2019)。ERK8キナーゼ等の他のシグナル伝達分子は、恒常的かつ動的に該経路を阻害する(Chia et al.,Elife.3,e01828,2014)。in vitroにおいて、RA及びOA患者由来の線維芽細胞では、健康なヒトSFと比較して、GALAレベルが中程度に上昇している。しかしながら、RA線維芽細胞は、IL-1ベータ及びTNFアルファサイトカイン混合物に反応してGALAを活性化する。興味深いことに、RAのSFの反応が、正常なSFまたはOAのSFよりも顕著であることから、RAのSFは、これらのサイトカインに反応するようにプライミングされていることが示唆される。IL-1βはチロシンキナーゼSrcを活性化することが報告されていることから(Mon et al.,Oncol.Lett.13,955-960,2017)、該サイトカインとGALAとの間に関連性がある可能性が示唆される。
【0429】
ECMへの曝露により、OA及びRA線維芽細胞の両方で、健康な対照細胞における場合よりも容易に、GALAが強く活性化する。SFの軟骨ECM要素への付着が、関節炎の発症に関与していることがこれまでに提唱されている(Pap et al.,Arthritis Res.2,361-367,2000)。関節にフィブロネクチンを注入すると、軟骨プロテオグリカンが分解される(Homandberg,et al.,J.Rheumatol.20,1378-1382,1993)。フィブロネクチン受容体であるインテグリンは、Srcキナーゼの活性化因子でもある(Shattil,Trends Cell Biol.15,399-403,2005、Huveneers,and Danen,J.Cell Sci.122,1059-1069,2009)。したがって、シグナル伝達カスケードにより、外部のECMシグナルが、インテグリン、Src、次いでGALAと関連付けられ、ECM分解が活性化し得る(Gill et al.,J.Cell Biol.189,843-858,2010)。この仮定的なカスケードにより、病理学的な正のフィードバックループがもたらされるはずである。健康なSFにおいて、ECMに対するGALA応答がはるかに限定的である理由は、不明のままである。関節炎関節のSFは、分解に対して後成的にプライミングされると提唱されている(Nygaard et al.,Nat.Rev.Rheumatol.16,316-333(2020)。実際、OASF及びRASFは、同等のグローバルメチル化プロファイルを示し、これは健康な対象のSFとは異なるものである(Nakano et al.,Ann.Rheum.Dis.72,110-117,2013)。GALAの制御因子でもあるPDGF及びEGFシグナル伝達に関与する遺伝子において、いくつかの違いが同定された(Chia et al.,PLoS One.14,e0214118,2019)。したがって、後成的なプライミングには、GALAを活性化するより強い性質が含まれ得る。加えて、GALAグリコシル化は、おそらく他の制御機構と相乗的である。例えば、本発明者らは、関節炎マウスの滑膜組織でCNXレベルの増加を見出したが、このことは、以前の研究で報告された遺伝子発現データと一致している(Broeren et al.,PLoS One.11,e0167076,2016、Nzeusseu Toukap,et al.,Arthritis Rheum.56,1579-1588,2007)。これらの研究では、GALNT1、3及び5が上方制御されていることが見出されており、本発明者らも、GALNT1及び2の発現増加を認めている。
【0430】
活性化が免疫シグナルによるか、またはECMタンパク質によるかに関係なく、GALAグリコシル化は、関節炎において継続的に活性化されない可能性がある。実際、CAIAマウスモデルでは、GALAレベルは10日目に有意に減少し、その後、動物は完全に回復した(14日目以降)。患者サンプルでは、OA、RA及び乾癬性関節炎サンプルでGALAが検出可能であるが、かなりの割合のサンプルでGALAレベルの低さが示される。このことから、GALAは、疾患のECM分解が活発な段階、患者におけるフレアに相当するはずの段階中でのみ、完全に活性化されることが示唆される。対照的に、寛解段階ではECM分解がより少なく、それに対応してGALAレベルが低い。
【0431】
GALAグリコシル化の標的の中には、コラーゲン線維を分解し、他のMMPを活性化する細胞表面プロテアーゼのMMP14がある(Nguyen,et al.,Cancer Cell.32,639-653.e6,2017、Gialeli,et al.,FEBS J.278,16-27,2011)。MMP14は、関節炎に関与するMMPのうちの1つであり、MMP2及び13を活性化する(Rose and Kooyman,Dis.Markers.2016,4895050,2016)。MMP14のO-グリコシル化は、そのプロテアーゼ活性に必須であり、該タンパク質の低複雑性領域においてクラスターの形で、つまり、6個以上のアミノ酸が、GalNAcまたはより複雑なO-グリカンで修飾されている形で生じる(Nguyen et al.,Cancer Cell.32,639-653.e6(2017)。
【0432】
カルネキシンもまた、N末端領域に位置するクラスター化したグリコシル化パターンを呈する(Ros et al.,Nat.Cell Biol.22,1371-1381,2020)。クラスター化したグリコシル化は、GalNacグリコシル化の頻繁に見られる特徴であり、ムチンタンパク質において例証される。ER-2Lecキメラタンパク質は、このクラスター化したグリコシル化を阻害する(Gill et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.110,E3152-61,2013)。がん細胞における場合と同様に、ER-2Lecは、SFにおけるTnシグナルレベルを低下させた。したがって、ER-2Lecは、in vitro及びin vivoで、MMP14及びCnxのグリコシル化を少なくとも部分的に阻害し、SFによるECM分解を阻害する可能性がある。GALNTsが何千ものタンパク質に作用し、予備の未発表データにより、GALAが多くのタンパク質に影響を及ぼすことが指し示されていることから、さらなる糖タンパク質が、SFの病理学的活性に関与し、ER-2Lecの影響を受ける可能性がある(Steentoft,et al.,Nat.Methods.8,977-982,2011)。
【0433】
VI型コラーゲンプロモーター下でCreによって活性化されたER-2Lecにより、CAIA処理マウスの軟骨損失が妨げられた。ER-2Lecの発現は、ほとんどがSFに限定されており、免疫細胞での発現は検出されなかった。興味深いことに、ER-2Lecの発現により、関節の腫脹及び炎症が軽減した。軟骨ECMを効果的に保護することにより、SFの活性化が低減され、サイトカインの放出が妨げられ、したがって、炎症が妨げられる可能性がある。抗Cnx抗体処置によっても炎症が軽減するという事実は、この説明を支持するものである。
【0434】
ECM分解におけるカルネキシンの役割は、つい最近に確立された。PDIA3との複合体において、カルネキシンは、肝臓のECMタンパク質におけるジスルフィド結合の還元に関与している(Ros et al.,Nat.Cell Biol.22,1371-1381,2020)。ジスルフィド結合は、他の架橋結合と同様に、プロテアーゼの作用を妨げる(Philp et al.,Am.J.Respir.Cell Mol.Biol.58,594-603,2018)。軟骨ECMは、ジスルフィド結合を豊富に含有している。抗カルネキシン抗体は、in vitroでSFによるマトリックス分解を遮断し、動物の軟骨ECMを有意に保護した。
【0435】
接着分子カドヘリン11を標的とする等、滑膜細胞を阻害する他のストラテジーが開発されている(Lee,et al.,Science.315,1006-1010,2007、Kiener,et al.,Arthritis Rheum.60,1305-1310,2009)。さらに最近では、SFの細胞表面におけるチロシンホスファターゼPTPRSを標的とすることにより、RAマウスの軟骨が保護されることも示されている(Svensson,et al.,Sci Adv.6,eaba4353,2020)。加えて、MMPの標的化も数十年間研究されてきており、Trocade等の特異的MMP阻害剤が、動物モデルのRA及びOAに対する保護効果を実証している(Lewis et al.Br.J.Pharmacol.121,540-546(1997、Brewster,et al.,Arthritis Rheum.41,1639-1644,1998)。これらの化合物の忍容性の不十分さが、臨床試験の失敗につながった(Close.Ann.Rheum.Dis.60 Suppl 3,iii62-7(2001)。現在までに幾分進歩しているものの、MMPを治療的に阻害することは、比較的困難なままである(Fields.Cells.8.2019,doi:10.3390/cells8090984)。抗体でカルネキシン-ERp57複合体を標的にすることは、毒性がより少ないと予想されるため、より魅力的な手法を示し得る。
【0436】
全体として、本発明者らのデータは、バイオマーカー発見及び抗体でCnxを標的とする新規治療手法に対する展望を開くものである。より一般的には、GALAを通じたO-グリコシル化の活性化が、がん細胞における場合と同様に、滑膜線維芽細胞における、ECM分解に対する決定的な制御スイッチであることを、本発明者らの結果が示唆していることから、該経路の病理学的関連性の広さが指し示される。
【0437】
実施例4
材料及び方法-2G9モノクローナル抗カルネキシン抗体の単離及び特性評価
ファージディスプレイによる2G9の同定及びクローニング:
【0438】
カルネキシンに対する抗体を選択するために、本発明者らは、ファージディスプレイライブラリーにクローニングされたヒトFabドメインライブラリーをスクリーニングした。本発明者らは、カルネキシンに対して親和性を有するクローンを単離した。本発明者らは、さらなる特性評価のためにクローン2G9を選択した。
【0439】
抗Cnx抗体を、HX02ヒトFabファージディスプレイライブラリー(Humanyx Pte Ltd)から、in vitro選択を介して単離した。本発明者らは、de Haard et al.(J Biol Chem 1999;274:18218 - 30;http://dx.doi.org/10.1074/jbc.274.26.18218;PMID:10373423)によって説明されているバイオパニング、ファージ増幅、Fab発現及び精製の手順に従った。簡潔には、ビオチン化ヒトカルネキシンを用いてバイオパニングを実施した。バイオパニングの最初の2ラウンドでは、カルネキシンをM280ストレプトアビジンコーティング磁気ビーズ(Life Technologies)に固定化し、第3ラウンドでは、ストレプトアビジン磁気ビーズ結合剤の分離を避けるため、ビオチン化カルネキシンをニュートラアビジンコーティングマイクロプレートに固定化した。第1ラウンドでは、1mLのカゼイン-PBSブロッキングバッファー中約1000cfuのファージを使用し、第2ラウンド及び第3ラウンドでは、1000cfuのファージを使用した。3ラウンドのバイオパニングの後、選択したFabクローンを、E.coli TG1細胞(Stratagene)で発現させて、ELISAによりカルネキシン結合体をスクリーニングした。
【0440】
クローン2G9を、DNAフィンガープリント法により同定し、DNA塩基配列決定法により確認し、さらなる分析のためにIgG1及びIgG4フォーマットに変換した。簡潔には、FabをPCRにより増幅し、それぞれのIgGのヒトFc領域と共にインフレームでクローニングした。次いで、プラスミドを増幅し、293T細胞への一過性トランスフェクションにより2G9を発現させた。
【0441】
ELISAアッセイ:
【0442】
100ngの組換えCNX-Hisタンパク質を、pH9.6の50mM炭酸ナトリウムバッファーで希釈し、96ウェルマキシソーププレート(Nunc)に、4℃にて一晩コーティングした。陰性対照ウェルにも同様に、0.5ug/mlのウシ血清アルブミン(BSA)を、マキシソーププレート(Nunc)に4℃にて一晩コーティングした。その後、コーティングしたウェルを0.05% PBS-Tween(PBST)及びPBSでそれぞれ3回洗浄した。ウェルを、5%ウシ胎児血清(FBS)で37℃にて1時間ブロッキングした。ブロッキング後、一次抗体をウェルに添加し、37℃にて2時間インキュベートした。ウェルをPBST及びPBSでそれぞれ3回洗浄した。ウェルに、5% FBS-PBST中のホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)結合二次抗体を添加し、37℃にて1時間インキュベートした。ウェルをPBST及びPBSでそれぞれ3回洗浄した。HRPを検出するために、ウェルにTMB基質を添加し、5分間インキュベートした後、1M塩酸を添加して反応を停止させた。TecanマイクロプレートリーダーでOD450を測定した。
【0443】
ECM分解アッセイ:
【0444】
まず、ゼラチン(G1393、Sigma)を5-カルボキシ-X-ローダミンスクシンイミジルエステル(C-6125、ThermoFisher Scientific)に結合させた。滅菌カバーガラスをゼラチンで20分間コーティングし、次いで、0.5%グルタルアルデヒド(15960、Electron Microscopy Sciences)で40分間固定した。洗浄後、0.5mg ml-1I型コラーゲン(354236ラット尾部、Corning)層を、これらのゼラチンカバーガラスにコーティングし、37℃にて4時間インキュベートした後、細胞を播種した。細胞を一晩インキュベートした後、固定及び染色を行った。各条件で合計10~30枚の画像を取得し、実験は3通りの生物学的複製において行った。分解面積はImageJを用いて定量化し、各画像における核の数で正規化した。
【0445】
実施例5
結果-2G9モノクローナル抗カルネキシン抗体の単離及び特性評価
2G9はカルネキシンに対して高い結合親和性及び特異性を有する:
【0446】
2G9の結合親和性を試験するためにELISAアッセイを利用した。精製したHis標識カルネキシンを、プラスチックウェル上に吸着させ、コーティングし、対照ウェルはBSAでコーティングした。次いで、本発明者らは、2G9、対照ヒトIgGまたは市販のモノクローナル抗体ab10286を、10マイクログラム/mlでプレート上においてインキュベートした。アッセイにより、どちらの抗体もCnxに対して高い特異性があり、BSAコーティングウェルにはほとんど結合しなかったことが明らかになった(
図26)。陰性対照hIgGは、カルネキシンに有意に結合しなかった。
【0447】
2G9及びab10286を定量的に比較するために、本発明者らは、抗体の段階希釈を用いてELISAアッセイを繰り返した(
図27)。2G9では、0.1マイクログラム/mlで結合が飽和したことが示され、算出したEC50は、約3.10e-6マイクログラム/mlであった。この濃度が市販のモノクローナル抗体ab10286よりも低いことから、より高い親和性及び/または結合活性が示唆される。
【0448】
2G9はHUH7肝臓癌細胞によるECM分解を防ぐ
【0449】
IgG1フォーマットの2G9がECM分解を防ぐ能力を、蛍光標識ゼラチンの薄層にラット尾部ECMを被せた分解アッセイを用いて評価した。ECM分解の活性化に伴い、細胞がECM、次いで、ゼラチンを分解し、ゼラチン層に暗色点を形成することを測定し得る(
図28A)。HUH7細胞を上面に播種し、2G9または対照抗体と48時間インキュベートした。対照IgGはマトリックス分解に対して効果がなく、あるいはそれを刺激しているようにさえ見えたが、2G9は、未処理の対照と比較して、ECM分解を90%減少させることができた(
図28B)。
【0450】
IgG4フォーマットの2G9はECM分解を遮断することができる:
【0451】
2G9抗体をIgG4フォーマットに変換した。本発明者らは、ゼラチンオーバーレイアッセイを用いてECM保護活性を再試験した。IgG1フォーマットで見出したように、本発明者らは、2G9がECM分解を保護できたことも見出した(
図29)。この効果は、20ug/mlで最も明白であった。
【0452】
配列表
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【0453】
参考文献
1. D.J.Gill,J.Chia,J.Senewiratne,F.Bard,Regulation of O-glycosylation through Golgi-to-ER relocation of initiation enzymes.J.Cell Biol.189,843-858(2010).
2. D.J.Gill,K.M.Tham,J.Chia,S.C.Wang,C.Steentoft,H.Clausen,E.A.Bard-Chapeau,F.A.Bard,Initiation of GalNAc-type O-glycosylation in the endoplasmic reticulum promotes cancer cell invasiveness.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.110,E3152-61(2013).
3. F.Bard,J.Chia,Cracking the Glycome Encoder:Signaling,Trafficking,and Glycosylation.Trends Cell Biol.26,379-388(2016).
4. A.T.Nguyen,J.Chia,M.Ros,K.M.Hui,F.Saltel,F.Bard,Organelle Specific O-Glycosylation Drives MMP14 Activation,Tumor Growth,and Metastasis.Cancer Cell.32,639-653.e6(2017).
5. M.Ros,A.T.Nguyen,J.Chia,S.Le Tran,X.Le Guezennec,R.McDowall,S.Vakhrushev,H.Clausen,M.J.Humphries,F.Saltel,F.A.Bard,ER-resident oxidoreductases are glycosylated and trafficked to the cell surface to promote matrix degradation by tumour cells.Nat.Cell Biol.22,1371-1381(2020).
6. J.Chia,F.Tay,F.Bard,The GalNAc-T Activation(GALA)Pathway:Drivers and markers.PLoS One.14,e0214118(2019).
7. J.Chia,K.M.Tham,D.J.Gill,E.A.Bard-Chapeau,F.A.Bard,ERK8 is a negative regulator of O-GalNAc glycosylation and cell migration.Elife.3,e01828(2014).
【配列表】
【国際調査報告】