(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-28
(54)【発明の名称】AKR1C3活性化化合物の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/675 20060101AFI20240220BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240220BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240220BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240220BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240220BHJP
A61K 31/7068 20060101ALI20240220BHJP
A61K 31/513 20060101ALI20240220BHJP
A61K 31/404 20060101ALI20240220BHJP
A61K 31/58 20060101ALI20240220BHJP
A61K 31/573 20060101ALI20240220BHJP
A61K 31/517 20060101ALI20240220BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20240220BHJP
A61K 31/53 20060101ALI20240220BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20240220BHJP
G01N 33/573 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
A61K31/675
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 105
A61K45/00
A61P43/00 121
A61K31/7068
A61K31/513
A61K31/404
A61K31/58
A61K31/573
A61K31/517
A61K31/506
A61K31/53
G01N33/574 A
G01N33/573 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023547650
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(85)【翻訳文提出日】2023-08-07
(86)【国際出願番号】 CN2021078115
(87)【国際公開番号】W WO2022178821
(87)【国際公開日】2022-09-01
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517319271
【氏名又は名称】アセンタウィッツ ファーマシューティカルズ リミテッド
【住所又は居所原語表記】Room 1003, 10th Floor, Building 10, Biomedical Innovation Industrial Park, No.14 Jinhui Road,Jinsha Community, Kengzi Street, Pingshan District,Shenzhen,Guangdong 518118,China
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201732
【氏名又は名称】松縄 正登
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【氏名又は名称】伊佐治 創
(72)【発明者】
【氏名】デュアン、ジャンーシン
(72)【発明者】
【氏名】モン、ファンイン
(72)【発明者】
【氏名】チ、テンヤン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、チャン-チャン
(72)【発明者】
【氏名】チェン、ル-ズー
(72)【発明者】
【氏名】リ、ワン-フェン
(72)【発明者】
【氏名】ライ、ミン-テン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZB26
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC13
4C086BC43
4C086BC46
4C086BC50
4C086BC64
4C086DA10
4C086DA12
4C086DA38
4C086EA17
4C086GA07
4C086GA08
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB21
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、化合物1-(3-(3-N、N-ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル-4-ニトロフェニル)-1-エチル-N、N’-ビス(エチレン)ホスホロアミダート、またはその薬学的に許容できる塩、同位体変異体もしくは溶媒和物の医学的使用、ならびに上記化合物と、少なくとも1つの抗がん剤とを含む組成物と、その医学的使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者のがんを治療するための医薬の製造における、下記式Iを有する化合物1-(3-(3-N、N-ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル-4-ニトロフェニル)-1-エチル-N、N’-ビス(エチレン)ホスホロアミダート、またはその薬学的に許容される塩、同位体変異体もしくは溶媒和物の使用であって、
【化I】
前記がんのAKR1C3還元酵素レベルは、AKR1C3タンパク質レベルまたはRNAレベルで表され、所定の値に等しいかまたはそれ以上である。
【請求項2】
化合物が、下記式I-1を有する、(S)-1-(3-(3-N、N-ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル-4-ニトロフェニル)-1-エチル-N、N’-ビス(エチレン)ホスホロアミダート、または下記式I-2を有する(R)-1-(3-(3-N、N-ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル-4-ニトロフェニル)-1-エチル-N、N’-ビス(エチレン)ホスホロアミダートである、請求項1記載の使用。
【化II】
【請求項3】
前記がんが、肝臓がん、肝細胞がん(HCC)、肺がん、メラノーマ、前立腺がん、乳がん、白血病、食道がん、腎臓がん、胃がん、結腸がん、脳がん、膀胱がん、頚がん、卵巣がん、頭頸がん、内膜がん、膵臓がん、肉腫がんまたは直腸がんである、請求項1記載の使用。
【請求項4】
前記がんが、肝臓がん、非小細胞肺がん、去勢抵抗性前立腺がん、胃がん、腎細胞がんまたは膵臓がんである、請求項3記載の使用。
【請求項5】
それを必要とする患者におけるがんを治療する方法であって、下記式Iを有する化合物1-(3-(3-N、N-ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル-4-ニトロフェニル)-1-エチル-N、N’-ビス(エチレン)ホスホロアミダート、またはその薬学的に許容される塩、同位体変異体もしくは溶媒和物の有効量を患者に投与する工程を含み、
【化I】
前記がんのAKR1C3還元酵素レベルは、AKR1C3タンパク質レベルまたはRNAレベルで表され、所定の値に等しいかまたはそれ以上である。
【請求項6】
化合物が、下記式I-1を有する(S)-1-(3-(3-N、N-ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル-4-ニトロフェニル)-1-エチル-N、N’-ビス(エチレン)ホスホロアミダート、または下記式I-2を有する(R)-1-(3-(3-N、N-ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル-4-ニトロフェニル)-1-エチル-N、N’-ビス(エチレン)ホスホロアミダートである、請求項5記載の方法。
【化II】
【請求項7】
前記がんが、肝臓がん、肝細胞がん(HCC)、肺がん、メラノーマ、前立腺がん、乳がん、白血病、食道がん、腎臓がん、胃がん、結腸がん、脳がん、膀胱がん、子宮頸がん、卵巣がん、頭頸部がん、内膜がん、膵臓がん、肉腫がん、直腸がんである、請求項5記載の方法。
【請求項8】
前記がんが、肝臓がん、非小細胞肺がん、去勢抵抗性前立腺がん、胃がん、腎細胞がんまたは膵臓がんである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
AKR1C3抗体を用いて患者のがん細胞のAKR1C3還元酵素の含有量を測定する工程をさらに含み、AKR1C3還元酵素の含有量が所定の値以上と測定された場合、化合物が患者に投与される、請求項5記載の方法。
【請求項10】
有効量の式Iを有する化合物1-(3-(3-N、N-ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル-4-ニトロフェニル)-1-エチル-N、N’-ビス(エチレン)ホスホロアミダートまたはその薬学的に許容される塩、同位体変異体もしくは溶媒和物と、細胞を接触させる工程を含み、
細胞のAKR1C3還元酵素レベルは、AKR1C3タンパク質レベルまたはRNAレベルで表され、所定の値に等しいかまたはそれ以上である、細胞の増殖を阻害する方法。
【請求項11】
前記細胞が、がん細胞である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
AKR1C3抗体を用いて、細胞のAKR1C3還元酵素の含有量を測定する工程をさらに含み、AKR1C3還元酵素の含有量が所定の値以上であると測定された場合、化合物を細胞に接触させる、請求項10記載の方法。
【請求項13】
細胞の増殖を阻害するための医薬品の製造における、式Iを有する化合物1-(3-(3-N、N-ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル-4-ニトロフェニル)-1-エチル-N、N’-ビス(エチレン)ホスホロアミダート、またはその薬学的に許容される塩、同位体異性もしくは溶媒和物の使用であって、
AKR1C3還元酵素レベルが、AKR1C3タンパク質レベルまたはRNAレベルにより表され、所定の値に等しいかまたはそれ以上である。
【請求項14】
前記細胞が、がん性細胞である、請求項13記載の使用。
【請求項15】
以下の1)および2)を含む、組成物。
1)式Iを有する化合物1-(3-(3-N、N-ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル-4-ニトロフェニル)-1-エチル-N、N’-ビス(エチレン)ホスホロアミダート、またはその薬学的に許容される塩、同位体変異体もしくは溶媒和物、および
2)少なくとも1つの他の抗がん剤。
【請求項16】
化合物が、式I-1を有する(S)-1-(3-(3-N、N-ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル-4-ニトロフェニル)-1-エチル-N、N’-ビス(エチレン)ホスホロアミダート、または式I-2を有する(R)-1-(3-(3-N、N-ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル-4-ニトロフェニル)-1-エチル-N、N’-ビス(エチレン)ホスホロアミダートである、請求項15記載の組成物。
【請求項17】
前記抗がん剤が、ゲムシタビン、5-フルオロウラシル(5-FU)、スニチニブ、酢酸アビラテロン、プレドニゾロン、エルロチニブ、メツレデパ、ウレデパ、アルトレタミン、イマチニブ、トリエチレンメラミン、トリメチルメラミン、クロラムブシル、クロルナファジン、エストラムスチン、ゲフィチニブ、メクロレタミン、メクロレタミンオキシドハイドロクロライド、メルファラン、ノベムビチン、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタード、カルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ニムスチン、ラニムスチン、ダカルバジン、マンノムスチン、ミトブロニトール、ミトラクトール、ピポブロマン、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アントラマイシン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カルビシン、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ダウノマイシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ミコフェノール酸、ノガマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、プリカマイシン、ポルフィロマイシン、ピューロマイシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン、デノプテリン、プテロプテリン、トリメトレキサート、フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン、アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン、テガフール、L-アスパラギナーゼ、プルモザイム、アセグラトン、アルドホスファミド配糖体、アミノレブリン酸、アムサクリン、ベストラブシル、ビサントレン、デフォファミド、デメコルチン、ジアジコン、エフロルニチン、エリプチシンアセトメチラート、エトグルシド、フルタミド、ヒドロキシウレア、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、インターロイキン2、レンチナン、ミトグアゾン、ミトキサントロン、モピダモール、ニトラクリン、ペントスタチン、フェナメット、ピラルビシン、ポドフィリン酸、2-エチルヒドラジド、プロカルバジン、ラゾキサン、シゾフィラン、スピロゲルマニウム、パクリタキセル、タモキシフェン、エルロチニブ、テニポシド、テヌアゾン酸、トリアジコン、2,2’,2’’-トリクロロトリエチルアミン、ウレタン、ビンブラスチン、およびビンクリスチンからなる群から選択される、請求項15記載の組成物。
【請求項18】
前記抗がん剤が、ゲムシタビン、酢酸アビラテロン、プレドニゾロン、5-FU、スニチニブ、または酢酸アビラテロンとプレドニゾロンの組み合わせから成る群から選択される、請求項17記載の組成物。
【請求項19】
前記がんが、腎細胞がん(RCC)である場合、前記抗がん剤がゲムシタビンおよびスニチニブからなる群から選択され、
前記がんが胃がんである場合、前記抗がん剤が5-FUであり、
前記がんが去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)である場合、前記抗がん剤がアビラテロン酢酸およびプレドニゾロンまたはそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項18記載の組成物。
【請求項20】
組成物が、薬学的に許容される賦形剤をさらに含む、請求項15記載の組成物。
【請求項21】
患者のがんを治療するための医薬の製造における、請求項15から20のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項22】
前記がんが、肝臓がん、肝細胞がん(HCC)、肺がん、メラノーマ、前立腺がん、乳がん、白血病、食道がん、腎臓がん、胃がん、結腸がん、脳がん、膀胱がん、頸がん、卵巣がん、頭頸部がん、内膜がん、膵臓がん、肉腫がんまたは直腸がんである、請求項21記載の使用。
【請求項23】
前記がんのAKR1C3還元酵素レベルが、所定の値に等しいかまたはそれ以上である、請求項22記載の使用。
【請求項24】
前記がんが、肝臓がん、非小細胞肺がん、去勢抵抗性前立腺がん、胃がん、腎細胞がんまたは膵臓がんである、請求項23記載の使用。
【請求項25】
請求項15から20のいずれか1項に記載の組成物の有効量を患者に投与する工程を含む、それを必要とする患者におけるがんを治療する方法。
【請求項26】
前記がんが、肝臓がん、肝細胞がん(HCC)、肺がん、メラノーマ、前立腺がん、乳がん、白血病、食道がん、腎臓がん、胃がん、結腸がん、脳がん、膀胱がん、頸部がん、卵巣がん、頭頸部がん、内膜がん、膵臓がん、肉腫がんまたは直腸がんである、請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記がんのAKR1C3還元酵素レベルが、所定の値に等しいかまたはそれ以上である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記がんが、肝臓がん、非小細胞肺がん、去勢抵抗性前立腺がん、胃がん、腎細胞がんまたは膵臓がんである、請求項27記載の方法。
【請求項29】
AKR1C3抗体を用いて、患者のがん細胞のAKR1C3還元酵素の含有量を測定する工程をさらに含み、AKR1C3還元酵素の含有量が所定の値以上であると測定された場合、組成物が患者に投与される、請求項25記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物1-(3-(3-N、N-ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル-4-ニトロフェニル)-1-エチル-N、N’-ビス(エチレン)ホスホロアミダート、またはその薬学的に許容できる塩、同位体変異体もしくは溶媒和物の医学的使用、ならびに上記化合物と少なくとも1つの抗がん剤とを含む組成物と、その医学的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
がんは、ヒトの罹患率や死亡率の主な原因の一つである。がん治療は、正常な細胞を傷つけたり殺したりすることなくがん細胞を殺すことが難しいため、困難である。がん治療中に正常な細胞を傷つけたり殺したりすることは、患者に副作用をもたらす原因となり、がん患者に投与する抗がん剤の量が制限される可能性がある。
【0003】
アルドケト還元酵素1C3(AKR1C3)は、5型、17β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素(17β-HSD)およびプロスタグランジンF合成酵素としても知られている。AKR1C3は、アルドケト還元酵素(AKR)の15遺伝子ファミリーの1つである。AKR1C3は、もともとヒトの前立腺(非特許文献1)と、プラセンタ(非特許文献2)のcDNAライブラリーからクローニングされた。AKR1C3は、単量体、細胞質、NAD(P)(H)依存性酸化還元酵素で、323個のアミノ酸と37kDaの分子量を持つ(非特許文献1)。AKR1C3は、AKR1C1、AKR1C2、AKR1C4などの関連するヒトAKR1Cファミリーと高い配列相同性を有する。AKR1C3は、アンドロゲン、エストロゲン、プロゲステロン、プロスタグランジン(PG)の代謝を触媒し、その後、核内受容体活性の制御に関与している(非特許文献3、4)。AKR1C3は、ステロイドホルモン依存性細胞やステロイドホルモン非依存性細胞を含む正常組織で発現しているが、肝臓、腎臓、小腸を除いて平均的に低い発現レベルである(非特許文献5)。多くの研究により、AKR1C3が、多くの悪性固形腫瘍および血液腫瘍で異常に過剰発現していることが示されている。肝腫瘍、膀胱がん、腎臓がん、胃がんの50%以上が、免疫組織化学スコア(IHCスコア)が0から6のスケールで4以上のAKR1C3の高発現で検出されたことを示すデータがある(非特許文献6)。AKR1C3は非小細胞肺がん(NSCLC)で高発現するが、小細胞肺がんでは発現しない(非特許文献7)。
【0004】
がんにおけるAKR1C3の発現増加は、去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)(非特許文献8)、大腸がん(CRC)(非特許文献9)の転移に関連し、予後不良や生存率の低下にもつながることが報告されている(非特許文献10、11)。また、多くの種類の治療抵抗性がAKR1C3の過剰発現に起因するとされている。ドキソルビシン(非特許文献12、13)、エンザルタミド(非特許文献14)、アビラテロン(非特許文献15)、およびメトトレキサート(非特許文献16)に対する化学療法抵抗性は、細胞内のAKR1C3の高発現と直接的に関連していると報告されている。食道がん(非特許文献17)、前立腺がん(非特許文献18)、および非小細胞肺がん細胞(非特許文献19)における放射線治療抵抗性は、AKR1C3の過剰発現と関連している。電離放射線に対するAKR1C3の主な作用機序は、細胞内のROS(活性酸素)を減少させ、PGF2αを増加させ、その後、MAPキナーゼ活性化とPPARγ阻害が起こり、DNA損傷の著しく減少する(非特許文献18)。免疫療法抵抗性もまた、AKR1C3の高発現に起因している。ある研究では、全ゲノムマイクロアレイと多重定量(q)RT-PCR遺伝子発現解析に基づき、進行した腎細胞がん(RCC)のPD-L1陽性患者において、AKR1C3の高発現が、PD-1標的療法の失敗と関連していることが示されている(非特許文献20)。AKR1C3は、腫瘍特異的に過剰発現するため、AKR1C3活性化プロドラッグの設計は、がんを特異的に標的とする魅力的なアプローチとなる。そのような例として、AKR1C3活性化プロドラッグであるPR104は、もともと低酸素活性化プロドラッグとして設計された(非特許文献22、24)ものの、in vitroおよびin vivoで、優れた抗腫瘍活性を示した(非特許文献6、21)。
【0005】
本発明の抗がん剤プロドラッグである構造式I-1(本明細書では3424と表記)は、化学的に合成された強力なナイトロジェンマスタードであり、NADPHの存在下で、AKR1C3によって細胞毒性アジリジン(本明細書では2660と表記)へと選択的に切断される。3424によって放出される活性分子2660は、標準的な化学療法薬であるチオテパやマイトマイシンCに似ており、グアニンのN7(またはO6)位で、DNAのアルキル化し、架橋させる。プロドラッグ3424は、悪性腫瘍の治療薬として、アジア諸国ではAscentawits Pharmaceuticals,LTDが、アジア以外の国ではOBI Pharma,Inc.が、現在開発中である(薬剤コード:OBI-3424)。プロドラッグ3424は、現在、米国(NCT04315324 & NCT03592264)および中国(CXHL1900137 & CXHL2000263)で、固形がんや血液悪性腫瘍を含む14種類以上のヒトがんの治療を目的として、複数の第1相臨床試験で試験されている。プロドラッグ3424は、腫瘍におけるAKR1C3の高発現のため、腫瘍で特異的に活性化されるよう設計されているが、腫瘍特異的な標的指向化を実現するため、AKR1C3の発現量が少ない正常細胞では温存されるように設計されている。さらに、3424の腫瘍選択的な活性化は、シクロホスファミドやイホスファミドのような、非選択的な従来のアルキル化剤と区別できることから、3424は、広域かつ高選択的な抗腫瘍薬となる可能性を持つと考えられる。プロドラッグ3424は、in vitroおよびin vivoで、T-ALLの前臨床モデルに対して、強力な有効性を示すことが報告されている(非特許文献25、26)。
【0006】
NADPHの存在下、3424は、AKR1C3によって還元され、アジリジンビスアルキル化剤である細胞毒性部位2660を放出し、グアニンのN7(またはO6)位でDNAを架橋し、その後の細胞死をもたらす。
【化A】
【0007】
近年、がん細胞を標的としたプロドラッグが、がん治療の魅力的な戦略として登場しているが、患者を選択する有効なバイオマーカーがないため、多くのプロドラッグが、第3相臨床試験で失敗している(非特許文献33)。AKR1C3の発現は、RT-PCRや免疫組織化学を用いてで評価できるため、AKR1C3の発現量が多く、プロドラッグに反応しやすい患者を選択することで、臨床的に効率よく3424を開発することができる。AKR1C3は、化学療法抵抗性(非特許文献13、14)、放射線抵抗性(非特許文献19)、免疫抵抗性(非特許文献20)の獲得に伴い、過剰発現することが証明されている。また、卵巣がん、乳がん、膵臓がんなどの相同組換え欠損症(HRD)を有するがんは、DNA損傷剤に対し、感受性が高いことが知られている(非特許文献34)。DNAアルキル化剤である3424は、AKR1C3が発現しているHRDがんを治療するための良い候補薬となる可能性もある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Lin HK,Jez JM,Schlegel BP,Peehl DM,Pachter JA,Penning TM.Expression and characterization of recombinant type 2 3 alpha-hydroxysteroid dehydrogenase(HSD) from human prostate:demonstration of bifunctional 3 alpha/17 beta-HSD activity and cellular distribution.Mol Endocrinol 1997;11:1971-84
【非特許文献2】Dufort I,Rheault P,Huang XF,Soucy P,Luu-The V.Characteristics of a highly labile human type 5 17beta-hydroxysteroid dehydrogenase.Endocrinology 1999;140:568-74
【非特許文献3】Penning TM,Drury JE.Human aldo-keto reductases:Function,gene regulation,and single nucleotide polymorphisms.Arch Biochem Biophys 2007;464:241-50
【非特許文献4】Rizner TL,Penning TM.Role of aldo-keto reductase family 1 (AKR1) enzymes in human steroid metabolism.Steroids 2014;79:49-63
【非特許文献5】Chang TS,Lin HK,Rogers KA,Brame LS,Yeh MM,Yang Q,et al.Expression of aldo-keto reductase family 1 member C3(AKR1C3) in neuroendocrine tumors & adenocarcinomas of pancreas,gastrointestinal tract,and lung.Int J Clin Exp Pathol 2013;6:2419-29
【非特許文献6】Guise CP,Abbattista MR,Singleton RS,Holford SD,Connolly J,Dachs GU,et al.The bioreductive prodrug PR-104A is activated under aerobic conditions by human aldo-keto reductase 1C3.Cancer Res 2010;70:1573-84
【非特許文献7】Miller VL,Lin HK,Murugan P,Fan M, Penning TM,Brame LS,et al.Aldo-keto reductase family 1 member C3(AKR1C3) is expressed in adenocarcinoma and squamous cell carcinoma but not small cell carcinoma.Int J Clin Exp Pathol 2012;5:278-89
【非特許文献8】Zhao J,Zhang M,Liu J,Liu Z,Shen P, Nie L,et al.AKR1C3 expression in primary lesion rebiopsy at the time of metastatic castration-resistant prostate cancer is strongly associated with poor efficacy of abiraterone as a first-line therapy.Prostate 2019;79:1553-62
【非特許文献9】Nakarai C,Osawa K,Akiyama M,Matsubara N,Ikeuchi H,Yamano T,et al.Expression of AKR1C3 and CNN3 as markers for detection of lymph node metastases in colorectal cancer.Clin Exp Med 2015;15:333-41
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【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
選択的なAKR1C3還元酵素活性化プロドラッグであり、がん患者の治療に適した化合物、および新規で選択的かつ広範な抗がん剤が必要とされている。本発明は、この要求に応えるものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、PCT/US2016/021581(WO2016/145092)、およびPCT/US2016/062114(WO2017/087428)に開示されている、化合物、またはその薬学的に許容できる塩、もしくは溶媒和物に基づいて、前記化合物の医学的使用を提供し、前記化合物、またはその薬学的に許容できる塩、同位体異種、もしくは溶媒和物を含む組成物と、その抗がん医学的使用を提供する。
【0011】
本発明は、一態様では、患者のがんを治療するための医薬の製造における、下記式Iを有する化合物1-(3-(3-N、N-ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル-4-ニトロフェニル)-1-エチル-N、N’-ビス(エチレン)ホスホロアミダート、またはその薬学的に許容される塩、同位体変異体もしくは溶媒和物の使用を提供する。
【化III】
【0012】
ここで、がんのAKR1C3還元酵素レベルは、AKR1C3のタンパク質レベルまたはRNAレベルにより表され、所定の値と等しいか、または所定の値より大きい。AKR1C3のレベルは、当業者によく知られた通例の手法に従って測定される。
【0013】
本発明の特定の実施形態によれば、化合物は、下記式I-1を有する、(S)-1-(3-(3-N、N-ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル-4-ニトロフェニル)-1-エチル-N、N’-ビス(エチレン)ホスホロアミダート、または、下の式I-2(本明細書では3423と表記)を有する、(R)-1-(3-(3-N、N-ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル-4-ニトロフェニル)-1-エチル-N、N’-ビス(エチレン)ホスホロアミダートである。
【化IV】
【0014】
式I、式I-1または式I-2の化合物の調製は、PCT/US2016/021581(WO2016/145092)、およびPCT/US2016/062114(WO2017/087428)に開示されており、その開示内容は参照により、その全体が本書に組み込まれる。ここで、化合物2870は、R-エナンチオマー3423とS-エナンチオマー3424の、1:1の比率のラセミ混合物である。
【0015】
ここで、塩は塩基性塩であってもよく、無機塩基(水酸化アルカリ金属、水酸化アルカリ土類金属など)または有機塩基(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなど)との化合物の塩を含む。または、塩は酸塩であってもよく、化合物の無機酸(塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、過塩素酸、硫酸またはリン酸など)との塩、もしくは有機酸(メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、フマル酸、シュウ酸、マレイン酸、クエン酸など)との塩を含む。化合物の塩、溶媒和物などを選択し、調製することは、当技術分野において周知技術である。
【0016】
本発明の特定の実施形態によれば、式I-1または式I-2の化合物は、80%以下のエナンチオマー過剰を有する。前記化合物は、好ましくは、90%以下、より好ましくは、95%以下のエナンチオマー過剰を有する。
【0017】
本発明の特定の実施形態によれば、式I-1または式I-2の化合物は、実質的に純粋である。
【0018】
本発明の特定の実施形態によれば、がんは、肝臓がん、肝細胞がん(HCC)、肺がん、メラノーマ、前立腺がん、乳がん、白血病、食道がん、腎臓がん、胃がん、結腸がん、脳がん、膀胱がん、頸部がん、卵巣がん、頭頸部がん、内膜がん、膵臓がん、肉腫がんまたは直腸がんである。
【0019】
本発明の特定の実施形態によれば、がんは、肝臓がん、非小細胞肺がん、去勢抵抗性前立腺がん、胃がん、腎細胞がんまたは膵臓がんである。
【0020】
がんの治療に用いられる医薬の投与量、または医薬に含まれる化合物、その塩、同位体変異体もしくは溶媒和物、またはその他の抗がん剤の投与量は、通常、適用される特定の化合物、患者、特定の疾患または状態およびその重症度、投与経路および回数などに依存し、特定の条件に従って主治医が決定する必要がある。例えば、本発明が提供する組成物または医薬品を経口投与する場合、投与量は0.1~30mg/7日、好ましくは、1~10mg/7日、より好ましくは、5mg/日であり、投与は7日毎に1回、または7日毎に2回に分けて投与してもよく、好ましくは、7日毎に1回投与される。
【0021】
医薬品は、錠剤、坐剤、散剤、腸溶錠、チュアブル錠、口腔内崩壊錠、カプセル剤、糖衣剤、顆粒剤、乾燥粉末、内服液、注射用小針、注射用凍結乾燥粉末、輸液などの臨床投与用の任意の剤形であってもよい。
【0022】
別の態様では、本発明は、それを必要とする患者におけるがんの治療方法であって、下記式Iを有する化合物1-(3-(3-N、N-ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル-4-ニトロフェニル)-1-エチル-N、N’-ビス(エチレン)ホスホロアミダート、またはその薬学的に許容される塩、同位体変異体もしくは溶媒和物の有効量を、患者に投与する工程を含む。
【化I】
ここで、がんのAKR1C3還元酵素レベルは、AKR1C3タンパク質レベルまたはRNAレベルで表され、所定の値以上である。
【0023】
本発明の特定の実施形態によれば、化合物は、下記式I-1を有する(S)-1-(3-(3-N、N-ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル-4-ニトロフェニル)-1-エチル-N、N’-ビス(エチレン)ホスホロアミダート、または、下記式I-2を有する(R)-1-(3-(3-N、N-ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル-4-ニトロフェニル)-1-エチル-N、N’-ビス(エチレン)ホスホロアミダートである。
【化II】
【0024】
本発明の特定の実施形態によれば、がんは、肝臓がん、肝細胞がん(HCC)、肺がん、メラノーマ、前立腺がん、乳がん、白血病、食道がん、腎臓がん、胃がん、結腸がん、脳がん、膀胱がん、頸部がん、卵巣がん、頭頸部がん、内膜がん、膵臓がん、肉腫がんまたは直腸がんである。
【0025】
本発明の特定の実施形態によれば、がんは、肝臓がん、非小細胞肺がん、去勢抵抗性前立腺がん、胃がん、腎細胞がんまたは膵臓がんである。
【0026】
本発明の特定の実施形態によれば、前記方法は、AKR1C3抗体を用いて患者のがん細胞のAKR1C3還元酵素の含有量を測定する工程をさらに含み、AKR1C3還元酵素の含有量が所定の値以上であると測定された場合、化合物は患者に投与される。
【0027】
別の態様において、本発明は、細胞の成長を阻害する方法であって、有効量の、式Iを有する化合物1-(3-(3-N、N-ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル-4-ニトロフェニル)-1-エチル-N、N’-ビス(エチレン)ホスホロアミダート、または、その薬学的に許容される塩、同位体変異体もしくは溶媒和物に、細胞を接触する工程を含む。ここで、細胞のAKR1C3還元酵素レベルは、AKR1C3タンパク質レベルまたはRNAレベルで表され、所定の値に等しいか、またはそれ以上である。
【0028】
本発明の特定の実施形態によれば、細胞は、がん細胞である。
【0029】
本発明の特定の実施形態によれば、方法は、AKR1C3抗体を用いて、細胞のAKR1C3還元酵素の含有量を測定する工程をさらに含み、AKR1C3還元酵素の含有量が所定の値以上であると測定された場合、化合物を細胞に接触させる。
【0030】
別の態様において、本発明は、式Iを有する化合物1-(3-(3-N、N-ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル-4-ニトロフェニル)-1-エチル-N、N’-ビス(エチレン)ホスホロアミダート、または、その薬学的に許容される塩、同位体異性または溶媒和物の使用を提供する。ここで、細胞のAKR1C3レダクターゼレベルは、AKR1C3タンパク質レベル、またはRNAレベルで表され、所定の値以上である。
【0031】
本発明の特定の実施形態によれば、細胞は、がん細胞である。
【0032】
別の態様において、本発明は、以下を含む組成物を提供する。
1)化合物1-(3-(3-N、N-ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル-4-ニトロフェニル)-1-エチル-N、N’-ビス(エチレン)ホスホロアミダートは、式I、またはその薬学的に許容される塩、同位体変異体もしくは溶媒和物、および
2)少なくとも1つの他の抗がん剤。
【0033】
本発明の特定の実施形態によれば、化合物は、式I-1を有する(S)-1-(3-(3-N、N-ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル-4-ニトロフェニル)-1-エチル-N、N’-ビス(エチレン)ホスホロアミダート、または、式I-2を有する(R)-1-(3-(3-N、N-ジメチルアミノカルボニル)フェノキシル-4-ニトロフェニル)-1-エチル-N、N’-ビス(エチレン)ホスホロアミダートである。
【0034】
本発明の特定の実施形態によれば、抗がん剤は、ゲムシタビン、5-フルオロウラシル(5-FU)、スニチニブ、酢酸アビラテロン、プレドニゾロン、エルロチニブ、メツレデパ、ウレデパ、アルトレタミン、イマチニブ、トリエチレンメラミン、トリメチルメラミン、クロラムブシル、クロルナファジン、エストラムスチン、ゲフィチニブ、メクロレタミン、メクロレタミンオキシドハイドロクロライド、メルファラン、ノベムビチン、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタード、カルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ニムスチン、ラニムスチン、ダカルバジン、マンノムスチン、ミトブロニトール、ミトラクトール、ピポブロマン、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アントラマイシン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カルビシン、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ダウノマイシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ミコフェノール酸、ノガマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、プリカマイシン、ポルフィロマイシン、ピューロマイシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン、デノプテリン、プテロプテリン、トリメトレキサート、フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン、アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン、テガフール、L-アスパラギナーゼ、プルモザイム、アセグラトン、アルドホスファミド配糖体、アミノレブリン酸、アムサクリン、ベストラブシル、ビサントレン、デフォファミド、デメコルチン、ジアジコン、エフロルニチン、エリプチシンアセトメチラート、エトグルシド、フルタミド、ヒドロキシウレア、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、インターロイキン2、レンチナン、ミトグアゾン、ミトキサントロン、モピダモール、ニトラクリン、ペントスタチン、フェナメット、ピラルビシン、ポドフィリン酸、2-エチルヒドラジド、プロカルバジン、ラゾキサン、シゾフィラン、スピロゲルマニウム、パクリタキセル、タモキシフェン、エルロチニブ、テニポシド、テヌアゾン酸、トリアジコン、2,2’,2’’-トリクロロトリエチルアミン、ウレタン、ビンブラスチン、およびビンクリスチンからなる群から選択される。
【0035】
本発明の特定の実施形態によれば、抗がん剤は、ゲムシタビン、酢酸アビラテロン、プレドニゾロン、5-FU、スニチニブ、または酢酸アビラテロンとプレドニゾロンの組み合わせからなる群から選択される。
【0036】
本発明の特定の実施形態によれば、がんが腎細胞がん(RCC)である場合、抗がん剤は、ゲムシタビン、およびスニチニブからなる群から選択され、がんが胃がんである場合、抗がん剤は、5-FUであり、がんが去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)である場合、抗がん剤は、酢酸アビラテロンおよびプレドニゾロン、またはそれらの組み合わせから成る群から選択される。
【0037】
本発明の特定の実施形態によれば、組成物は、薬学的に許容される賦形剤をさらに含む。好ましくは、賦形剤は、不活性な希釈剤、分散剤および/または造粒剤、界面活性剤および/または乳化剤、崩壊剤、結合剤、保存剤、緩衝剤、潤滑剤および油から選択される。
【0038】
別の態様において、本発明は、患者のがんを治療するための医薬の製造における、本発明による組成物の使用を提供する。
【0039】
本発明の特定の実施形態によれば、がんは、肝臓がん、肝細胞がん(HCC)、肺がん、メラノーマ、前立腺がん、乳がん、白血病、食道がん、腎臓がん、胃がん、結腸がん、脳がん、膀胱がん、頸部がん、卵巣がん、頭頸部がん、内膜がん、膵臓がん、肉腫がんまたは直腸がんである。
【0040】
本発明の特定の実施形態によれば、がんのAKR1C3還元酵素レベルは、所定の値と等しいか、または所定の値より大きい。
【0041】
本発明の特定の実施形態によれば、がんは、肝臓がん、非小細胞肺がん、去勢抵抗性前立腺がん、胃がん、腎細胞がんまたは膵臓がんである。
【0042】
別の態様において、本発明は、それを必要とする患者においてがんを治療するための方法であって、本発明による組成物の有効量を患者に投与する工程を含む方法を提供する。
【0043】
本発明の特定の実施形態によれば、がんは、肝臓がん、肝細胞がん(HCC)、肺がん、メラノーマ、前立腺がん、乳がん、白血病、食道がん、腎臓がん、胃がん、結腸がん、脳がん、膀胱がん、頸部がん、卵巣がん、頭頸部がん、内膜がん、膵臓がん、肉腫がんまたは直腸がんである。
【0044】
本発明の特定の実施形態によれば、がんのAKR1C3還元酵素レベルは、所定の値と等しいか、または所定の値より大きい。
【0045】
本発明の特定の実施形態によれば、がんは、肝臓がん、非小細胞肺がん、去勢抵抗性前立腺がん、胃がん、腎細胞がんまたは膵臓がんである。
【0046】
本発明の特定の実施形態によれば、方法は、AKR1C3抗体を用いて、患者におけるがん細胞のAKR1C3還元酵素の含有量を測定する工程をさらに含み、AKR1C3還元酵素の含有量が所定の値以上であると測定された場合、組成物は患者に投与される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】
図1は、AKR1C3依存的な3424の活性化を描いたものである。(A)は3424の減少を示し、(B)は2660の産生を示す。
【
図2】
図2は、ウエスタンブロットによる、肝臓がん細胞におけるAKR1C3タンパク質の発現の検出を示す。
【
図3】
図3は、3424のAKR1C3依存的なin vitro細胞毒性を描写している。(A)は、肝臓がん細胞におけるAKR1C3タンパク質発現と、3424 IC
50との相関(左)、肝臓がん細胞におけるAKR1C3 RNA発現と3424 IC
50との相関(中)、NSCLCがん細胞におけるAKR1C3 RNA発現と3424 IC
50との相関(右)、(B)は、AKR1C3特異的阻害剤3021は、3424(左)、3423(中)およびラセミ混合物2870の細胞毒性を効率的に阻害したことを示し、(C)は、化合物2870は濃度依存的にDNAクロスリンクを誘発したことを示す。
【
図4】
図4は、様々なヒト細胞株由来の異種移植(CDX)モデルにおける3424の抗腫瘍活性を示している。HepG2肝臓同所性モデル(AおよびB)、去勢オスBALB/cヌードマウスのVCap去勢抵抗性前立腺がん(C)、メスBALB/cヌードマウスのSNU-16胃がん(D)、およびメスSCIDマウスのA498腎細胞がん(EおよびF)である。動物は、説明文に示されるように、様々な濃度の3424、標準治療薬、およびその組み合わせで処置された。ここで、「AA」は酢酸アビラテロンを、「P」はプレドニゾロンを、「S」はスニチニブを、「G」はジェムザールを表す。
【
図5】
図5は、肺がん皮下モデルH460 CDXモデルにおける、3424の抗腫瘍活性を示す図である。
【
図6】
図6は、表示された時間における、治療後の血清前立腺特異抗原(PSA)の測定結果を示す図である。
【
図7】
図7は、PDXのパネルに対する3424の抗腫瘍活性を示す。膵臓がんPA1280(A)、胃がんGA6201(B)、AKR1C3発現量が多い肺がんLU250(C)、AKR1C3発現量が少ない肺がんLU2057(D)である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明を、具体的な実施例を参照しながら説明する。当業者であれば、これらの実施例は、本発明を説明するために使用されるに過ぎず、いかなる意味でもその範囲を限定するものではないことを理解し得る。
【0049】
[定義]
以下の定義は、読者を補助するために提供されるものである。特に定義しない限り、本明細書で使用されるすべての術語、表記、およびその他の科学的もしくは医学的用語または専門用語は、化学および医学分野の当業者によって一般的に理解される意味を有することが意図される。場合によっては、一般的に理解されている意味を有する用語は、明確化および/または迅速な参照のために、本明細書で定義され、そのような定義を本明細書に含めることは、当技術分野で一般的に理解されている用語の定義と、実質的に異なることを表すと解釈されるべきではない。
【0050】
すべての数値表記、例えば、pH、温度、時間、濃度、および重量(それらの各々の範囲を含む)は、典型的には、適宜、0.1、1.0、または10.0刻みで(+)または(-)に変化し得る概算値である。すべての数値表記は、用語「約」が先行すると理解され得る。本明細書に記載される試薬は例示的なものであり、その等価物は当技術分野で知られている場合がある。
【0051】
「1つ」および「前記」は、文脈が明らかにそうでないことを指示しない限り、複数の参照語を含む。したがって、例えば、化合物への言及は、1つもしくは複数の化合物、または少なくとも1つの化合物を指す。このように、用語「1つの」、「1つまたは複数の」、および「少なくとも1つの」は、本明細書において交換可能に使用される。
【0052】
用語「約」または「およそ」は、当業者によって決定される特定の値に対する許容可能な誤差を意味し、これは、値がどのように測定または決定されるかに部分的に依存する。特定の実施形態では、用語「約」または「およそ」は、1、2、3、または4標準偏差以内を意味する。特定の実施形態では、用語「約」または「およそ」は、所定の値または範囲の50%、20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、または0.05%の範囲内を意味する。
【0053】
本明細書で使用される場合、用語「含む」は、組成物および方法が、言及された要素を含むが、他の要素を除外しないことを意味することを意図する。組成物および方法を定義するために使用される場合、「から本質的に構成される」は、組成物または方法にとって本質的な意味を持つ他の要素を除外することを意味するものとする。また、「から構成される」は、クレームされた組成物および実質的な方法工程について、他の成分の微量元素以上のものを除外することを意味する。これらの移行用語の各々によって定義される実施形態は、本発明の範囲内である。したがって、方法および組成物は、追加の工程および成分を含むことができ(含み)、または代替的に、重要性のない工程および組成物を含む(から本質的に構成される)、または代替的に、記載の方法工程または組成物のみを意図している(から構成される)ことを意味している。
【0054】
薬物を患者に「投与すること」または「投薬」(およびこのフレーズの文法的同等物)とは、医療従事者による患者への投与または自己投与である直接投与、および薬物を処方する行為である間接投与のことを指す。例えば、患者に薬剤の自己投与を指示し、および/または患者に薬剤の処方箋を提供する医師は、患者に薬剤を投与している。
【0055】
「がん」とは、白血病、リンパ腫、がん腫、および固形腫瘍を含む他の悪性腫瘍であって、浸潤により局所的に拡大し、転移により全身的に拡大し得る、潜在的に無制限に成長する可能性のあるものをいう。がんの例としては、副腎、骨、脳、乳房、気管支、結腸および/または直腸、胆嚢、頭頸部、腎臓、喉頭、肝臓、肺、神経組織、膵臓、前立腺、副甲状腺、皮膚、胃、および甲状腺のがんがあるが、これらに限定されない。がんの特定の他の例としては、急性および慢性リンパ球および顆粒球性腫瘍、腺がん、腺腫、基底細胞がん、子宮頸部異形成、および上皮内腫瘍、ユーイング肉腫、類表皮がん、巨細胞腫、多形神経膠芽腫、毛様細胞腫、腸管神経節腫、過形成性角膜神経腫瘍、膵島細胞がん、カポジ肉腫、平滑筋腫、白血病、リンパ腫、悪性カルチノイド、メラノーマ、悪性高カルシウム血症、マルファノイドハビトゥス腫瘍、髄様がん、転移性皮膚細胞腫、粘膜神経腫、骨髄腫、菌状息肉症、神経芽細胞腫、骨肉腫、骨原性肉腫等、卵巣腫瘍、褐色細胞腫、真性多血症、原発性脳腫瘍、小細胞肺腫瘍、潰瘍型および乳頭型の扁平上皮がん、過形成、セミノーマ、軟部組織肉腫、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、腎細胞腫、局所的皮膚病変、細網肉腫、ウィルム腫瘍などがある。
【0056】
「接触させる」または「接触」という用語は、治療薬と細胞または組織とを接触させ、その結果、生理学的および/または化学的な効果が生じることを意味する。接触は、in vitro、ex vivo、またはin vivoで行われてもよい。一実施形態において、治療薬は、細胞に対する治療薬の効果を決定するために、細胞培養(in vitro)において、細胞と接触される。別の実施形態では、治療薬を細胞または組織と接触させることは、接触させる細胞または組織を有する被験者に治療薬を投与することを含む。
【0057】
「光学活性」という用語は、エナンチオマー過剰が、約10%以上、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上であり、約80%以上、約90%以上、約91%以上、約92%以上、約93%以上、約94%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上、約99%以上、約99.5%以上、約99.8%以上、または約99.9%以上である分子の集まりを指す。特定の実施形態において、光学活性化合物のエナンチオマー過剰は、約90%以上、約95%以上、約98%以上、または約99%以上である。化合物のエナンチオマー過剰は、当業者によって使用される任意の標準的な方法によって決定することができ、これには、光学活性固定相を用いたキロプティカルクロマトグラフィー(ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、および薄層クロマトグラフィー)、同位体希釈、電気泳動、熱量測定、偏光測定、キラル誘発体を用いたNMR分離法、およびキラル溶媒化剤またはキラル転換試薬によるNMR法などが挙げられるが、それらに限定されない。
【0058】
光学活性化合物の説明では、キラル中心に関する分子の絶対配置を示す接頭辞として、RとSが使用される。
【0059】
「実質的に純粋」とは、薄層クロマトグラフィー(TLC)、ゲル電気泳動、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフィー(GC)、核磁気共鳴(NMR)、質量分析(MS)を含むがこれらに限定されない、当業者が用いる標準分析法によって決定される、容易に検出できる不純物を含まないよう十分に均質な状態を意味するか、または、さらなる精製が、物質の物理的、化学的、生物学的、および/または薬理学的特性(酵素活性および生物活性など)を、検出可能なほどに変化させないような十分な純度を有することを意味する。特定の実施形態において、「実質的に純粋」とは、分子の集合体を指し、ここで、分子の少なくとも約50%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90質量%、少なくとも約95質量%、少なくとも約98質量%、少なくとも約99質量%、または少なくとも約99.5重量%が、標準分析法により決定される化合物の単一の立体異性体である。
【0060】
「患者」および「被験者」は、がんの治療を必要とする哺乳動物を指すために互換的に使用される。一般に、患者はヒトである。一般に、患者はがんと診断されたヒトである。特定の実施形態では、「患者」または「被験者」が非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、マウスまたはラットなどの、薬剤および治療のスクリーニング、特徴づけ、および評価に使用される非ヒト哺乳動物を指すことがある。
【0061】
「プロドラッグ」は、投与後に、少なくとも1つの特性に関して、代謝されるか、または生物学的に活性な化合物、またはより活性な化合物(または薬剤)に変換される化合物のことをいう。プロドラッグは、薬剤に対してより活性が低くなるかまたは不活性となるように化学的に修飾されるが、前記化学的修飾は、プロドラッグが投与された後に、対応する薬剤が代謝または他の生物学的プロセスによって生成されるようなものである。プロドラッグは活性薬剤に対して、変化した代謝安定性または輸送特性、より少ない副作用またはより低い毒性、または改善されたフレーバーを有してもよい。(例えば、参考文献:Nogrady、1985年、Medicinal Chemistry A Biochemical Approach、オックスフォード大学出版局、ニューヨーク、388-392ページを参照。参考として本明細書に組み込まれる。)プロドラッグは、対応する薬剤以外の反応物を使用して合成されてもよい。
【0062】
「固形腫瘍」とは、骨、脳、肝臓、肺、リンパ節、膵臓、前立腺、皮膚、軟部組織(肉腫)の転移性腫瘍を含むが、これらに限定されない固形腫瘍を指す。
【0063】
「治療上有効な量」の薬剤とは、がん患者に投与した場合に、意図した治療効果、例えば、患者におけるがんの1つ以上の症状の軽減、改善、緩和、除去をもたらす薬剤の量を指す。治療効果は、必ずしも1回の投与で生じるわけではなく、一連の投与の後にのみ生じる可能性がある。したがって、治療上有効な量は、1回以上の投与で投与されることができる。
【0064】
患者の状態の「治療」とは、臨床結果を含む、有益なまたは所望の結果を得るための工程をとることをいう。本発明の目的のために、有益なまたは所望の臨床結果は特に限定されないが、がんの1つ以上の症状の軽減または改善;疾患の程度の減少;疾患進行の遅延または緩徐化;疾患状態の軽減、緩和、または安定化;または他の有益な結果が挙げられる。がんの治療により、場合によっては部分奏効または病勢安定が得られることがある。
【0065】
「腫瘍細胞」は、任意の適切な種(例えば、マウス、イヌ、ネコ、ウマまたはヒトなどの哺乳動物)の腫瘍細胞をいう。
【0066】
「同位体変異体」という用語は、そのような化合物を構成する原子の1つ以上に、不自然な比率の同位体を含む化合物を指す。特定の実施形態では、化合物の「同位体変異体」は、水素(1H)、重水素(2H)、トリチウム(3H)、炭素11(11C)、炭素12(12C)、炭素13(13C)、炭素14(14C)、窒素13(13N)、窒素14(14N)、窒素15(15N)、酸素14(14O)、酸素15(15O)、酸素16(16O)、酸素17(17O)、酸素18(18O)、フッ素17(17F)、フッ素18(18F)、リン31(31P)、リン32(32P)、リン33(33P)、硫黄32(32S)、硫黄33(33S)、硫黄34(34S)、硫黄35(35S)、硫黄36(36S)、塩素35(35Cl)、塩素36(36Cl)、塩素37(37Cl)、臭素79(79Br)、臭素81(81Br)、ヨウ素123(123I)、ヨウ素125(125I)、ヨウ素127(127I)、ヨウ素129(129I)、ヨウ素131(131I)を含むが、これらに限定されない1つ以上の不自然な比率の同位体を含む。
【0067】
特定の実施形態では、化合物の「同位体変異体」は、安定な形態、すなわち、非放射性である。特定の実施形態では、化合物の「同位体変異体」は、水素(1H)、重水素(2H)、炭素12(12C)、炭素13(13C)、窒素14(14N)、窒素15(15N)、酸素16(16O)、酸素17(17O)、酸素18(18O)、フッ素17(17F)、リン31(31P)、硫黄32(32S)、硫黄33(33S)、硫黄34(34S)、硫黄36(36S)、塩素35(35Cl)、塩素37(37Cl)、臭素79(79Br)、臭素81(81Br)、ヨウ素127(127I)を含むが、これらに限定されない1つ以上の不自然な比率の同位体を含む。
【0068】
特定の実施形態では、化合物の「同位体変異体」は、不安定な形態、すなわち、放射性である。特定の実施形態では、化合物の「同位体変異体」は、トリチウム(3H)、炭素11(11C)、炭素14(14C)、窒素13(13N)、酸素14(14O)、酸素15(15O)、フッ素18(18F)、リン32(32P)、リン33(33P)、硫黄35(35S)、塩素36(36Cl)、ヨウ素123(123I)、ヨウ素125(125I)、ヨウ素129(129I)、およびヨウ素131(131I)を含むが、これらに限定されない1つ以上の不自然な比率の同位体を含む。
【0069】
本明細書で提供されるような化合物において、当業者の判断に従って実行可能な場合、任意の水素は、例えば2Hであってもよく、または任意の炭素は、例えば13Cであってもよく、または任意の窒素は、例えば15Nであってもよく、および任意の酸素は、18Oであってもよいと理解されるだろう。特定の実施形態では、化合物の「同位体変異体」は、不自然な割合の重水素を含む。
【0070】
「溶媒和化合物」という用語は、溶質、例えば本明細書で提供される化合物の1つ以上の分子と、化学量論的または非化学量論的量で存在する溶媒の1つ以上の分子によって形成される、複合体または凝集体を指す。好適な溶媒としては、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、および酢酸が挙げられるが、これらに限定されるものではない。特定の実施形態では、溶媒は、薬学的に許容可能である。一実施形態では、複合体または凝集体は、結晶の形態である。別の実施形態では、複合体または凝集体は、非結晶の形態である。溶媒が水である場合、溶媒和物は水和物である。水和物の例としては、半水和物、一水和物、二水和物、三水和物、四水和物、および五水和物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
「薬学的に許容される賦形剤」という用語は、液体または固体の充填剤、希釈剤、溶媒、またはカプセル化材料などの、薬学的に許容される材料、組成物、または溶媒を指す。一実施形態では、各成分は、医薬製剤の他の成分と適合性があり、過度の毒性、刺激、アレルギー反応なしに、ヒトおよび動物の組織または器官と接触して使用するのに適しているという意味で、「薬学的に許容できる」ものである。
【実施例】
【0072】
(材料および方法)
(細胞株)
全てのヒトがん細胞株は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC、マナッサス、バージニア州)、Japanese Collection of Research Biosources(JCRB、大阪、日本)、またはCobioer Biosciences社のいずれかから入手した。
【0073】
(試薬・化学品)
抗ヒトAKR1C3モノクローナル抗体、ブレオマイシン、NADPH、凍結乾燥ウシ血清アルブミン(BSA)、およびAKR1C1/AKR1C3(プロゲステロン、アンドロステンジオン、およびジヒドロテストステロン)の陽性対照基板は、Sigma社(ミズーリ州セントルイス)から購入した。組換えヒトAKR1C3は、Abcam社(マサチューセッツ州ケンブリッジ)から購入し、AKR1C1およびAKR1C4は、Sigma社から購入した。コメットアッセイキットは、Trevigen社(メリーランド州ゲイザースバーグ)から購入した。CellTiter Glo(CTG)アッセイキットは、Promega社(ウィスコンシン州マディソン)から入手した。Racemic2870は、Threshold Pharmaceuticals社(カリフォルニア州、サウス・サンフランシスコ)によって合成した。プロドラッグ3423および3424は、Ascentawits Pharmaceuticals、LTD(シェンチェン、中国)によって合成された。3021は、報告されている方法(非特許文献27)に基づいて合成した。標準治療薬は、以下の通り、アビラテロン(Bos Science社、米国)、プレドニゾロン(Saen Chemical Technology社、中国)、5-FU(Shanhai Xudong Haipu Pharmaceutical Co.社、中国)、ゲムシタビン(Vianex S.A.社、ギリシャ)、およびスニチニブ(Cayman社、米国)を購入した。
【0074】
以下の実施例において、AKR1C3依存的活性化、広範囲のヒトがん細胞株におけるin vitroでの3424の細胞毒性、および3424の濃度依存性DNA架橋を調べた。さらに、CDXおよびPDXモデルの広範なパネルにおける3424のin vivo抗腫瘍活性も調べた。
【0075】
実施例1:AKR1C3依存的な3424の活性化
(酵素活性アッセイ)
アッセイ混合物は、10~50μMの3424または陽性対照(アンドロステンジオンまたはジヒドロテストステロン)、100mMのリン酸緩衝液、pH 7.0、300μMのNADPH、4% エタノール、および8Mの組換えヒトAKR1C3、AKR1C1またはAKR1C4で構成され、総容量を200μLとした。反応は25℃でインキュベートし、アセトニトリルとメタノール(9:1の比率)を添加することにより様々な時点で停止させ、LC-MS/MS分析に供した。酵素動態解析のため、SpectraMax M2e分光光度計(モレキュラーデバイス社、サンノゼ、カリフォルニア州)を用いて、340nmにおけるNADPHの吸光度の減少(ε=6270M-1cm-1)を測定することにより、活性を判定した。基質の添加による反応の開始後、反応を25℃で、30秒間隔でモニターした。非基質反応速度もバックグラウンドとしてモニターし、その勾配を用いて反応の初期速度を決定した。報告された動態データは、3回の測定の平均値であった。
【0076】
(LC-MS/MS分析)
AKR1C3を介した3424代謝については、Agilent 1200 HPLCシステム(アジレント・テクノロジー社、サンタ・クララ、カリフォルニア州)と結合したSciex API-4000 Qtrap(ABSciex社、フレーミングハム、マサチューセッツ州)質量分析計を用いて、LC-MS/MS分析を行った。3424分析では、Waters Xbridge C18カラム(2.1×100mm、3.5μm、ウォーターズコーポレーション社、ミルフォード、マサチューセッツ州)を用いて、逆相液体クロマトグラフィーによる分離を、流速0.3mL/分で、合計ランタイムを12分間として実施した。移動相Aは、水(0.1%ギ酸)からなり、移動相Bは、ACN(アセトニトリル)(0.1%ギ酸)からなる。グラジエントは、15%の移動相Bで1.5分間、そして3分間で移動像Bを50%までグラジエントさせ、次いで6分間で移動相Bを95%までグラジエントさせて1分間保持し、最後に0.1分間で移動相Bを15%まで戻し、15%の移動相Bで4.9分間平衡化させた。カラムオーブン温度は40℃であり、試料注入量は2μLであった。質量スペクトルは、ポジティブMRMモードで得られた。ポジティブイオンモードでは、イオンスプレー電圧を4500Vに設定し、脱クラスター電位を80Vに設定し、衝突エネルギーを20Vに設定し、ソース温度を350℃に設定し、カーテンガスを10psiに設定し、ソースガス1および2を共に60psiに設定した。3424および3424-ISのMRMペアは、それぞれm/z:461→313およびm/z:465→313であった。2660分析では、Waters Atlantis HILIC Silicaカラム(2.1mm×100mm、3μm、ウォーターズコーポレーション社、ミルフォード、マサチューセッツ州)を用いて、順相液体クロマトグラフィー分離を、流速0.3mL/分で、合計ランタイムを9分間として実施した。移動相Aは、1mMギ酸アンモニウム水溶液から構成され、移動相Bは、ACNを用いた。グラジエントは、89%の移動相Bで1分間のイソクラティックランから実施し、1.5分間で移動像Bを60%までグラジエントし、次いで2.5分間で移動相Bを40%にグラジエントして2分間保持し、最後に0.1分間で移動相Bを89%へ戻し、15%の移動相Bで4.4分間平衡化した。カラムオーブン温度は40℃であり、試料注入量は2μLであった。質量スペクトルは、ネガティブMRMモードで得た。ネガティブイオンモードでは、イオンスプレー電圧を-4500Vに設定し、脱クラスター電位を-60Vに設定し、衝突エネルギーを-30Vに設定し、ソース温度を350℃に設定し、カーテンガスを10psiに設定し、ソースガス1および2を共に60psiに設定した。2660および2660-ISのMRM一対は、それぞれm/z:147→63およびm/z:151→63であった。校正標準物質および試料の各MRM遷移のピーク面積比(分析対象物質のピーク面積/分析対象物質のピーク面積-IS)は、Analyst 1.6ソフトウェア(ABSciex社、フレーミングハム、マサチューセッツ州)を用いた定量分析に使用した。
【0077】
AKR1C3による3424の活性化を、LC/MS-MSを用いて、3424の還元および活性型2660の生成によってモニターした。
図1に示すように、組換えヒトAKR1C3は、60分間で3424を2660に活性化することができた(
図1Aおよび1B)。一方で、3424は、AKR1C系統群のうちの2つであるAKR1C1またはAKR1C4によって代謝されなかった(表1)。したがって、プロドラッグ3424のAKR1C3依存的活性化が明らかとなった。AKR1C3は、3424(S-エナンチオマー)およびそのR-エナンチオマー3423に対して、同様の触媒効率を示した(表2)。生理学的基質4-アンドロステンジオンおよび5-αジヒドロテストステロン(5α-DHT)と比較して、3424はAKR1C3に、より高い速度で活性化された。
【0078】
【0079】
【0080】
このように、3424の還元が、AKR1C3依存的であることが確認された。ヒト組換えAKR1C3は、AKR1C1またはAKR1C4ではなく、3424を、その活性アジリジン窒素マスタード成分2660に還元した。
【0081】
実施例2:AKR1C3依存的3424の細胞毒性
(in vitro増殖アッセイ)
指数関数的に増殖する細胞を、試験化合物の添加の24時間前に播種した。試験化合物の添加後、プレートを、標準的な組織恒温培養器内において、37℃で、示された時間した。実験終了後、CellTiter Glo(CTG)アッセイキット、またはAlamarBlue(非特許文献28、29)のいずれかを用いて、生存細胞を検出した。非処置対照と比較して50%の増殖阻害をもたらす薬物濃度(IC50)を、XLfit(IDBS社、ボストン、マサチューセッツ州)またはプリズム6(GraphPad社、サンディエゴ、カリフォルニア州)のいずれかを用いて計算した。3021の実験は、細胞を3μMの3021で2時間前処理し、その後、空気下で化合物処理した。IC50は、上記のように計算した。
【0082】
(ウエスタンブロット)
ヒト細胞抽出物を調製し、タンパク質濃度を測定した。タンパク質は、ヒトAKR1C3およびチューブリンまたはβ-アクチンを認識する抗体を用いて検出した。AKR1C3およびチューブリンまたはアクチンのバンド密度を、Odysseyレーザーイメージングシステムおよびソフトウェア(LI-COR Biosciences社、リンカーン、ネブラスカ州)、またはUVP ChemStudioイメージングシステムおよびVisionWorksソフトウェア(Analytik Jena AG社)を用いてスキャンおよび定量し、チューブリンまたはアクチンに対するAKR1C3の比率を計算した。
【0083】
(コメットアッセイ)
細胞を24時間播種した後、被験物質を表示濃度で添加し、2時間インキュベートした。細胞は2回洗浄し、化合物を完全に除去した。20μmol/Lのブレオマイシンを添加し、空気下で1時間インキュベートし、細胞を2時間静止させた後、DNA鎖切断を誘発した。PBSで2回洗浄した後、Trevigen社(ゲイザースバーグ、メリーランド州)の単細胞電気泳動システムを用いて、コメットアッセイを実施した。データは、Perceptive Instruments社(非特許文献29)のコメットアッセイIVソフトウェアを用いて解析した。
【0084】
肝臓がん細胞株および非小細胞肺がん(NSCLC)細胞株を用いて、3424の細胞毒性を評価した。肝がん細胞株におけるAKR1C3タンパク質の発現は、ウエスタンブロットを用いて決定し、チューブリンを負荷対照として使用した(
図2)。AKR1C3 RNAの発現データは、CrownBio社(北京、中国)のデータベースから得た。表3に示すように、3424に96時間曝露した後、タンパク質およびRNAレベルの両方でAKR1C3の発現量が高かった肝臓がん細胞株は、IC
50値が低nMの範囲にあり、3424に対する感受性が高かった。一方、AKR1C3の発現量が少ない細胞は、3424に対する感受性が低く、IC
50値は1000nM以上だった。同様に、NSCLC細胞も、3424に72時間曝露した後、AKR1C3依存的細胞毒性の特性を示した(表4)。肝がん細胞およびNSCLC細胞において、3424のIC
50、AKR1C3タンパク質のレベル(R2=0.71、
図3A、上)、およびRNA発現量(R2=0.87、
図3A、中央)との間には、それぞれ高い相関があった(R2=0.80、
図3A、下)。これらの結果から、3424を介した性細胞毒性が、肝臓がんおよびNSCLC細胞株の両方におけるAKR1C3の発現レベルと高い相関があることを実証された。
【0085】
【0086】
【0087】
AKR1C3を介した3424の特異的活性化は、H460細胞において、AKR1C3阻害剤3021を用いて確認した。H460細胞を3μMの3021で2時間前処理した後、3424で2時間共処理したところ、AKR1C3特異的阻害剤3021は、6.3μMのIC
50値であり、3021の非存在下でのIC
50値が4nM(
図3B、上)であるのに対し、H460中の3424細胞毒性を効果的に阻害することが可能であり、これは、Evansら(非特許文献25)によっても報告された。また、H460細胞における、3021の非存在下または存在下での、R-鏡像異性体である3423、ならびにR-鏡像異性体およびS-鏡像異性体の1:1比率のラセミ混合物である2870の細胞毒性も明らかにした。
図3Bに示すように、3423(中央)および2870(下)は、それぞれIC
50値が5nMおよび4nMであり、3424と同等に強力な細胞毒性を示した。3424と同様に、3423と2870の細胞毒性はAKR1C3依存性が高く、3021は、IC
50値がそれぞれ6.3μMと5μM以上で阻害剤の非存在下よりも1000倍以上高い濃度で、これらの細胞毒性を阻害した。阻害剤3021単独では、100μMまで細胞毒性を発揮しなかった(データは示さず)。
【0088】
3424がDNAを架橋しているかどうかを評価するために、H460細胞を用いた、DNA架橋の直接的な生化学的アッセイである単細胞電気泳動ベースのコメットアッセイが採用された。このアッセイでは、ラセミ混合物2870を使用した。
図3Cに示すように、溶媒ジメチルスルホキシドで処理したH460細胞では、テールモーメント0.3で検出可能な二本鎖切断は存在しなかった。ブレオマイシンによりDNA鎖の切断が誘発されたことは、テールモーメントが35まで増加したことから明らかである。2870に誘発されたDNA架橋を、ブレオマイシンに使用したのと同一の条件下で、3つの濃度を使用して試験した。化合物2870が濃度依存歴なDNA架橋を誘発したことは、テールモーメントが36から1.6へ減少したことから明らかである。このように、3424を介した細胞毒性は、AKR1C3依存性が高いことが実証された。
【0089】
(in vivo抗腫瘍活性)
本研究における動物の取り扱い、ケア、および処理に関連する全ての手順は、国際実験動物ケア評価認証協会(AAALAC)のガイダンスに従い、動物実験委員会(IACUC)によって承認された、CrownBio社(北京、中国)、WuXi AppTec社(上海、中国)、またはEurofins Pharmacology Discovery Services Taiwan社(台北、台湾)のガイドラインに従って実施した。定期的なモニタリングの際、動物は、運動性、食物および水の消費、体重の増加/減少、眼/毛髪のつや消し、およびその他の異常な影響などの、正常な行動における腫瘍増殖の影響について確認した。死亡および観察された臨床徴候は、各サブセット内の動物の数に基づいて記録した。
【0090】
全ての動物試験において、薬物の有効性を腫瘍増殖阻害の効果によって評価した。腫瘍体積(mm3)は、以下の長楕円の公式に従って週2回測定した。
長さ(mm)×[幅(mm)]2×0.5
腫瘍成長阻害率(%TGI)は、投薬期間中に週2回、下記式により求めた。
%TGI=(1-[(T-T0)/(C-C0)])×100(式中、T=治療群の平均腫瘍体積、T0=試験開始時の治療群の平均腫瘍体積、C=対照群の平均腫瘍体積、およびC0=治療開始時の対照群の平均腫瘍体積を指す。)
そして、SPSS Statistics 23(IBM社、アーモンク、ニューヨーク州)またはR(バージョン3.3.1)を用いて、二方向分散分析およびボンフェローニ試験により、各溶媒の対照と比較した群の統計的有意性を評価した。0.05未満のP値は、統計的に有意であるとみなした。
【0091】
実施例3:CDXモデルにおける3424の抗腫瘍効果
実施例3-1:HepG2およびH460モデルにおける3424の抗腫瘍効果
3424のin vivo抗腫瘍活性は、同所性肝がんモデル(HepG2)、およびAntiCancer Inc(北京、中国)の皮下肺がんモデル(H460)CDXモデルにおいて、GFP発現がん細胞株を用いて評価した。研究には、メスの胸腺欠損ヌードマウス(6週:BALB/c-nu、Beijing HFK Bioscience Co Ltd.、北京、中国)を使用した。各マウスは、腫瘍を発生させるために、肝臓右葉にHepG2-GFP腫瘍塊(直径~1mm3)を移植するか、H460-GFP腫瘍塊(直径~1mm3)を皮下に播種した。約3~10日後、FluorVivo Model-100蛍光イメージャー(INDEC Biosystems.Inc、ロスアルトス、カリフォルニア州)を用いてマウスの全身スキャンを実施した。類似する蛍光領域を有するマウスを選択し、無作為にグループ分けした。両方の細胞株は、高レベルのAKR1C3を発現した。プロドラッグ3424は、HepG2同所性モデルには、1.25、2.5mg/kgまたは5mg/kg Q7D(7日毎)×2を、H460異種移植モデルには、0.625、1.25または2.5mg/kgを、Q7D(7日毎)×2、そして1週間の休薬、次いで再度Q7D(7日毎)×2の投与計画で静脈内投与(IV)した。HepG2モデルでは、ソラフェニブを陽性対照として使用し、30mg/kgを1日1回×5×7サイクルの投与計画で経口投与した。H460モデルでは、タキソールを陽性対照として使用し、15mg/kgをBIW(隔週)×4回の投与計画で、静脈内投与した。実験の間、マウスを毎日観察し、体重を週2回測定した。腫瘍量は、ノギス測定(H460)またはFluorVivo蛍光イメージャー(H460-GFPおよびHepG2-GFP)のいずれかによって、週2回モニターした。
【0092】
HepG2同所性異種移植モデルを用いて、全身蛍光イメージングにより3424の用量依存的抗腫瘍活性を調べた。3424を、1.25、2.5または5mg/kgの用量で週1回、2週間静脈内投与した場合、34日目の腫瘍増殖阻害(TGI)は、それぞれ52.4%、91.5%および101.2%であった(表5)。3424の抗腫瘍効果は、用量依存的と認められた(
図4A)。溶媒群と比較して、2.5mg/kgおよび5mg/kgの3424によって誘発された腫瘍阻害は、それぞれ80%および100%の完全退縮率で統計的に有意であった。実験終了時、腫瘍の蛍光画像(
図4B)および腫瘍重量のデータは、蛍光面積の測定と一致した(
図4A)。肝細胞がん(HCC)の第一選択治療薬であるソラフェニブを30mg/kg経口投与すると、腫瘍増殖を52.1%減少させたが、統計的有意差はなかった。この投与計画では、ソラフェニブが体重減少をもたらした(-11%、データは示さず)。一方、今回の試験では、全ての試験用量で、3424処置群に体重減少は観察されなかった(表5)。
【0093】
H460皮下モデルでは、プロドラッグ3424を週2回投与し、1週間休薬し、さらに週2回、0.625、1.25、および2.5mg/kgを投与した。
図5および表5に示すように、プロドラッグ3424は用量依存的抗腫瘍活性を示し、TGIはそれぞれ60.2%、67.2%および88%であった。3424の抗腫瘍効果はパクリタキセルに匹敵し、15mg/kgのパクリタキセルは64%のTGIを示した。試験終了時(35日目)、3424の投与により、低用量および中用量では極小の体重減少、高用量では統計的に有意でない14%の減少をもたらしたが、パクリタキセル投与では、11%の有意な体重減少をもたらした(表5)。
【0094】
【0095】
実施例3-2:VCaP、SNU-16およびA498モデルにおける3424の抗腫瘍効果
3424およびそれを含む組成物の抗腫瘍活性を、去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)VCaP、胃がんSNU-16、および腎細胞がん(RCC)A498異種移植モデルにおいて評価した。調査は、WuXi AppTec(VCaPおよびSNU-16モデル)およびEurofins Pharmacology Discovery Services Taiwan(A498モデル)で行った。CRPC、胃がんおよびRCCのCDXモデルにおいて、それぞれオスBALB/cヌード、メスBALB/cヌードおよびメスSCIDマウスを使用した。5×106または1×107のヒトがん細胞を、1:1のマトリゲルと共に、マウスの右側腹部に皮下注射した。腫瘍体積が150~200mm3に達した時点で、溶媒および被験物質を投与した(SNU-16モデルでは1日目または0日目と表記)。モデルに応じて、溶媒または被験物質を週1回、合計4または5回静脈内投与した。アビラテロン/プレドニゾロン(CRPC用)、5-フルオロウラシル(胃がん用)、スニチニブおよびゲムシタビン(共にRCC用)を含む標準治療薬は、文献(非特許文献15、30~32)で推奨されるように投与した。同時投与の日には、まず3424の静脈内投与を行い、その後1時間以内に併用薬を投与した。
【0096】
去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)VCaP、胃がんSNU-16、および腎細胞がんA498異種移植モデルにおいて、3424の単独療法または標準治療療法との併用治療のin vivo抗腫瘍効力を評価した。これらの3つのヒトがん細胞株は、タンパク質およびRNAの両方のレベルでAKR1C3を高レベルで発現した。VCap、SNU-16およびA498におけるAKR1C3タンパク質の発現を、それぞれ8.9、1.9および1.6のチューブリンに対するAKR1C3の比率を用いたウエスタンブロットによって測定した。VCap、SNU-16およびA498におけるAKR1C3 RNAの発現量(LOG2 FPKM)は、それぞれ5.2、8.0および10.0であった。
【0097】
これらの研究では、動物を、単薬剤療法としての様々な濃度の3424、単薬剤療法としての抗がん薬剤もしくは単薬剤療法としての薬物(標準治療療法、制御)、または3424と少なくとも1つの抗がん薬剤とを組み合わせた本発明の組成物で処置した。
【0098】
実施例3-2-1:3424の単独療法またはアビラテロン酢酸エステル+プレドニゾロンとの併用療法
CRPCモデルでは、去勢したオスBALB/cヌードマウスに、3424(週1回の静脈内注射で5回投与)、酢酸アビラテロン+プレドニゾロン(毎日の経口投与)、またはその組合せで処置した(
図4C)。5mg/kgで、3424は148%の有意なTGIを示し、これは酢酸アビラテロン/プレドニゾロンとの併用で、さらに158%まで増強された。
【0099】
なお、32日目の最終安楽死の時に、併用投与を受けた動物は、血清前立腺特異抗原(PSA)の減少を示した(
図6)。
【0100】
実施例3-2-2:3424の単独療法または5-FUとの併用療法
胃がんSNU-16モデルにおいて、メスBALB/cマウスを、3424(週1回のIV注射で4回投与)、5-フルオロウラシル(5-FU)(週2回のIP注射)、または3424と5-FUの組み合わせで処置した(
図4D)。2.5または5mg/kgの3424で処置された動物は、それぞれ87.8%または96.2%の顕著なTGIを示したが、5-FUは30mg/kgのレベルでは、抗腫瘍活性を示さなかった。3424と5-FUと組み合わせた場合には、相乗効果が認められた。
【0101】
実施例3-2-3:3424の単独療法またはスニチニブとの併用療法
腎細胞がんA498モデルでは、メスSCIDマウスに3424(週1回の静脈内注射で4回投与)、スニチニブ(25mg/kg、毎日の経口投与)、またはその組合せを投与した(
図4E)。2.5mg/kgで、3424は、73%の有意なTGIを示したのに対し、スニチニブのTGIは52%と控えめだった。動物を、3424とスニチニブの組合せで処置した場合、TGIはさらに88%に増加した。
【0102】
実施例3-2-4:3424の単独療法またはゲムシタビン(ジェムザール)との併用療法
A498異種移植モデルにおいて、3424とゲムシタビンを併用した場合の有効性を試験したところ、80mg/kgのゲムシタビン(週1回のIP注射で4回投与)は19%のTGIを示し、2.5mg/kgの3424との併用では、TGIは87%に増加した(
図4F)。
【0103】
3つのモデル全てにおいて、3424は、マウスに良好な耐容性を示し、処置中に有意な体重減少は見られなかった(データは示さず)。
図4は、様々なCDXモデルにおける3424または本発明の組成物の抗腫瘍活性を示す。本発明者らは、併用療法において、3424がCRPC、胃がん、およびRCCのCDXモデルにおける標準治療の有効性を高め得ることを実証した。
【0104】
実施例4:PDXモデルにおける3424の抗腫瘍活性
PDXモデルにおける3424の抗腫瘍活性は、メスBALB/cヌードマウス(6~7週齢、Beijing Anikeeper Biotech Co.,Ltd、北京、中国)を使用し、CrownBio Bioscience(北京、中国)で評価した。選択した一次ヒトがん組織(膵臓、胃がん、および肺)を接種したストックマウスから、腫瘍断片(PA1280、GA6201、LU2057、およびLU2505)を採取し、BALB/cヌードマウスへの接種に使用した。各マウスに皮下接種し、腫瘍を発生させた。StudyDirectorTM Ver3.1.399.19(Studylog Systems Inc.、サウス・サンフランシスコ、カリフォルニア州、米国)を用いて、平均腫瘍径が~100mm3に達した時点で、マウスを無作為に実験群に割り振った。プロドラッグ3424を、Q7D(7日毎)×3回の投与計画で、示された用量で静脈内投与した。各グループは、5~6匹のマウスで構成された。グループ分けの日を、0日目とした。プロドラッグ3424を、0日目から各試験で指示された日まで、腫瘍担がんマウスに投与した。
【0105】
さらに、膵臓がん、胃がん、およびAKR1C3が高発現している肺がんとAKR1C3が低発現している肺がんを含む患者由来異種移植片(PDX)モデルにおいて、3424のin vivo抗腫瘍活性を評価した。プロドラッグ3424は、週3回、静脈内注射により投与した。4つのPDXモデルの患者情報を表6に示す。膵臓PDXモデル(
図7Aおよび表7)において、2.5mg/kgの3424は、77.4%のTGIという統計的に有意な抗腫瘍活性を示した。胃PDXモデルにおいて、5mg/kgの3424は、110%のTGIという顕著な抗腫瘍阻害を示した(
図7Bおよび表7)。腫瘍体積は減少し続け、治療中止から1カ月後でも、低値または測定不能な状態であった。試験終了時には、マウスの60%は腫瘍が認められなかった。異なるレベルのAKR1C3発現性を有する2つの肺がんPDXモデルを選択し、3424のin vivo抗腫瘍活性がAKR1C3依存的であるかを調べた。LU2505PDXモデルは、AKR1C3 RNA(log2=6.03)を高発現したのに対し、LU2057モデルは、AKR1C RNA(log2=2.08)を低発現した。
【0106】
図7、7Dおよび表7に示すように、同じ2.5mg/kgの用量で、3424は、AKR1C3発現量の多いLU2505(TGI:105.2%)で、優れた腫瘍増殖阻害効果を示したが、AKR1C3発現量の少ないLU2057PDX腫瘍(TGI:-20.9%)においては阻害が認められず、3424のAKR1C3依存的なin vivo抗腫瘍活性が示された。1.25mg/kgという低用量でも、3424は、LU2505腫瘍増殖を統計的に有意に阻害した(TGI:105.0%)。全てのPDXモデルにおいて、プロドラッグ3424は、試験した全ての用量で体重減少が観察されず、良好な耐容性を示した(表7)。
【0107】
【0108】
【0109】
肝臓がんまたはNSCLCのいずれかから得られた20以上の細胞株を用いることにより、AKR1C3を高発現する全ての細胞株において、AKR1C3が低発現または検出できない細胞と比較して、3424が、増強された細胞毒性を示すことを見出した。AKR1C3を高発現する株のIC503424は低nMであり、強力なナイトロジェンマスタードに特徴的な高い効力を示した。特に注目すべきは、高AKR1C3を発現するNCI-H2228 NSCLC系統において、細胞毒性が5000倍まで増強されたことである。この結果は、正常組織に見られる低いAKR1C3発現領域を温存しながら、AKR1C3の高い発現を有する腫瘍を標的とすることと一致する。
【0110】
本明細書に記載した結果は、3424が、in vitroでAKR1C3依存的な細胞毒性を示し、in vivoで幅広い型のヒトのがんにおいて抗腫瘍活性を示すことを強調している。本発明者らは、AKR1C3を高発現するCDXおよびPDXモデルの幅広いパネルにおいて、臨床的に達成可能な用量で、3424の優れたin vivo抗腫瘍活性を示す。特に、3424は、肝臓がん、胃がん、腎臓がん、肺がん、膵臓がん、および去勢抵抗性前立腺がんに対して、in vivoで顕著な有効性を示す。3424のAKR1C3依存的活性は、がん細胞を特異的に標的とする、進行中および将来の臨床試験のための基礎となり、または、がん患者の特性を明らかにし、3424による治療に対する患者の選択をさらに導くためのバイオマーカーとなっている。
【0111】
なお、以上の本発明の実施形態の説明は、本発明を限定するものではない。当業者は、本発明に従って様々な修正および変更を行うことができ、本発明の精神の範囲内での修正および変更は、本発明に付加される特許請求の範囲に包含されるものとする。
【0112】
本明細書に引用される全ての参考文献は、法律により許容される全範囲まで、参照により本明細書に組み込まれる。これらの文献の考察は、単にそれらの著者によってなされた主張を要約することを意図している。いかなる文献(または文献の一部)も、関連する先行技術であることを認めるものではない。出願人は、引用された文献の正確性および適切性に異議を申し立てる権利を留保する。
【国際調査報告】