(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-28
(54)【発明の名称】自動車運動制御システム及び自動車アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
B60T 8/96 20060101AFI20240220BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
B60T8/96
B60T8/17 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023549126
(86)(22)【出願日】2022-02-14
(85)【翻訳文提出日】2023-09-28
(86)【国際出願番号】 NL2022050073
(87)【国際公開番号】W WO2022173303
(87)【国際公開日】2022-08-18
(32)【優先日】2021-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523309587
【氏名又は名称】ヒタチ アステモ ネザーランズ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【氏名又は名称】加藤 由加里
(72)【発明者】
【氏名】ワイリー,ポール
【テーマコード(参考)】
3D246
【Fターム(参考)】
3D246AA08
3D246BA08
3D246EA05
3D246GA01
3D246HA64A
(57)【要約】
車両の運動を制御する為の車両運動制御システム(100、200)は、該車両の車輪(20a、20b、20c、20d)毎に、夫々の運動制御アクチュエータ(10a、10b、10c、10d)と、ここで、夫々の運動制御アクチュエータ(10a、10b、10c、10d)によって受信される夫々のアクチュエータ制御信号(Sa、Sb、Sc、Sd)に基づいて該車輪の運動を制御するように構成されている;中央コントローラ(50)と、ここで、中央コントローラ(50)は、各車輪(20a、20b、20c、20d)の前記夫々のアクチュエータ制御信号(Sa)を前記夫々の運動制御アクチュエータ(10a、10b、10c、10d)に、中央コントローラ(50)よって受信される運動制御インテント信号(Si)に基づいて送信することによって該車両の該運動を制御する様に構成されている、を備えている。前記車両運動制御システムは、前記アクチュエータ制御信号を送信する為に、該中央コントローラが機能しているか否かを判定するように構成されており、及び中央コントローラ(50)が機能していないと判定される場合、該運動制御アクチュエータのうちの少なくとも1つ(10a)が、運動制御インテント信号(Si)に直接基づいて、それ自体の車輪(20a)の運動を制御するように、及び、夫々のアクチュエータ制御信号(Sb、Sc、Sd)を該車両の他の各車輪(20b、20c、20d)の他の運動制御アクチュエータ(10b、10c、10d)に、運動制御インテント信号(Si)に基づいて送信するように構成されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運動を制御する為の車両運動制御システム(100、200)であって、該車両運動制御システムは、
該車両の車輪(20a、20b、20c、20d)毎に、夫々の運動制御アクチュエータ(10a、10b、10c、10d)と、ここで、夫々の運動制御アクチュエータ(10a、10b、10c、10d)によって受信される夫々のアクチュエータ制御信号(Sa、Sb、Sc、Sd)に基づいて該車輪の運動を制御するように構成されている;
中央コントローラ(50)と、ここで、中央コントローラ(50)は、各車輪(20a、20b、20c、20d)の前記夫々のアクチュエータ制御信号(Sa)を前記夫々の運動制御アクチュエータ(10a、10b、10c、10d)に、中央コントローラ(50)よって受信される運動制御インテント信号(Si)に基づいて送信することによって該車両の該運動を制御する様に構成されている、
を備えており、
ここで、車両運動制御システム(100、200)は、前記アクチュエータ制御信号を送信する為に、該中央コントローラが機能しているか否かを判定するように構成されており、及び中央コントローラ(50)が機能していないと判定される場合、該運動制御アクチュエータのうちの少なくとも1つ(10a)が、
運動制御インテント信号(Si)に直接基づいて、それ自体の車輪(20a)の運動を制御するように、及び、
夫々のアクチュエータ制御信号(Sb、Sc、Sd)を該車両の他の各車輪(20b、20c、20d)の他の運動制御アクチュエータ(10b、10c、10d)に、運動制御インテント信号(Si)に基づいて送信する
ように構成されている、
前記車両運動制御システム(100、200)。
【請求項2】
前記中央コントローラが、それ自体の正常な動作を伝える為に、ハートビート信号を通常は送信するように構成されており、及び該ハートビート信号が存在しない場合に、中央コントローラ(50)が機能していないと判定される、請求項1に記載の車両運動制御システム(100、200)。
【請求項3】
運動制御インテント信号(Si)を受信した瞬間と、中央コントローラ(50)からの対応するアクチュエータ制御信号(Sa)を受信しない瞬間との間のタイムアウトに基づいて、中央コントローラ(50)が機能していないと判定される、請求項1又は2に記載の車両運動制御システム(100、200)。
【請求項4】
ブレーキアクチュエータ(10a,10b,10c,10d)及び中央コントローラ(50)は、ネットワーク(30)を介して通信可能に接続されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の車両運動制御システム(100、200)。
【請求項5】
ネットワーク(30)は、一次接続及び二次接続(Ma1、Ma2、…、Md1、Md2)を備えており、及び前記二次接続は、前記一次接続を介した前記信号の為のルートが利用出来ない場合に複数の運動制御アクチュエータ(10a、10b、10c、10d)の各々の間の信号のバックアップルートを提供する、請求項4に記載の車両運動制御システム(200)。
【請求項6】
前記複数の運動制御アクチュエータのうちの少なくとも1つ(10a)が、中央コントローラ(50)が機能していると判断されるか否かに関係なく、運動制御インテント信号(Si)を受信するように構成されており、及びここで、中央コントローラ(50)が機能していると判断する場合、前記複数の動作制御アクチュエータのうちの少なくとも1つ(10a)は、運動制御インテント信号(Si)を無視し、及びアクチュエータ制御信号(Sa)に応答してそれ自体の車輪(20a)に運動制御を適用するように構成されており、及びここで、中央コントローラ(50)が機能していないと判断する場合、前記複数の動作制御アクチュエータのうちの少なくとも1つ(10a)は、それ自体の車輪(20a)に運動制御(BR)を適用するように及び夫々のアクチュエータ制御信号(Sb、Sc、Sd)を他の運動制御アクチュエータ(10b、10c、10d)に、運動制御インテント信号(Si)に直接基づいて送信するように構成されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の車両運動制御システム(100)。
【請求項7】
運動制御アクチュエータ(10a、10b、10c、10d)が1以上のゲートウェイ(40a、40b、40c、40d)を介してネットワーク(30)に接続されており、及びここで、ネットワーク(30)は、信号のマルチキャストの為に構成され、及びここで、1以上のゲートウェイ(40a、40b、40c、40d)は、前記マルチキャストされた信号を選択的に渡し、ここで、中央コントローラ(50)が機能していないと判定される場合、1以上のゲートウェイ(40a、40b、40c、40d)は、運動制御インテント信号(Si)を少なくとも1つの前記運動制御アクチュエータ(10a)に選択的に渡す、請求項1~6のいずれか1項に記載の車両運動制御システム(200)。
【請求項8】
中央コントローラ(50)が機能していないと判定された場合に、少なくとも1つの運動制御アクチュエータ(10a)はマスターコントローラとして機能するように事前に定義されている、請求項1~7のいずれか1項に記載の車両運動制御システム(100、200)。
【請求項9】
少なくとも1つの運動制御アクチュエータ(10a)は複数の運動制御アクチュエータのうちの1つであり、ここで、中央コントローラ(50)が機能していないと判定された場合に、前記複数の運動制御アクチュエータの各々がマスターコントローラとして機能することができる、請求項1~8のいずれか1項に記載の車両運動制御システム(100、200)。
【請求項10】
マスターコントローラとして機能することができるブレーキアクチュエータは、マスターコントローラとして機能するように交替様式で指定される、請求項1~9のいずれか1項に記載の車両運動制御システム(100、200)。
【請求項11】
車両運動制御システム(100、200)が、マスターコントローラとして機能することができない、又はマスターコントローラとして機能する為に有効化されていない1以上の運動制御アクチュエータを更に備えており、及び前記1以上の運動制御アクチュエータは、中央コントローラ(50)からの又はマスターコントローラとして機能する運動制御アクチュエータからの対応するアクチュエータ制御信号によって適時に続かない運動制御インテント信号(Si)に応答するように構成されている、請求項1~10のいずれか1項に記載の車両運動制御システム(100、200)。
【請求項12】
中央コントローラ(50)が機能していないと判定することに応じて、人間が認識することができる表示を提供するように及び/又は該車両の低下動作モードを強制するように構成されている、請求項1~11のいずれか1項に記載の車両運動制御システム(100、200)。
【請求項13】
車両運動制御システム(100、200)が、該車両を制動する為のブレーキシステム(100)として構成され、ここで、夫々の運動制御アクチュエータ(10a、10b、10c、10d)が、それ自体の車輪(20a)に制動(BR)を施与して前記車輪の運動を制御する為の夫々のブレーキアクチュエータであり、中央コントローラ(50)は、制動(BR)を制御するように構成されており、ここで、前記運動制御インテント信号は制動インテント信号である、請求項1~12のいずれか1項に記載の車両運動制御システム(100、200)。
【請求項14】
ABS機能(145)を有する1以上のブレーキアクチュエータ(10)が備えられており、ブレーキ制御信号(Sa)に応答しているか又は制動インテント信号(Si)に応答しているかに関係なく、該ABS機能(145)は、該車輪のブロッキングを回避する為のそれ自体の車輪に適用される制動(BR)モードを適合させることができる、請求項1~13のいずれか1項に記載の車両運動制御システム(100、200)。
【請求項15】
自動車用アクチュエータ(10)であって、該自動車用アクチュエータ(10)は、
作動機構(12)
を備えており、該作動機構(12)は、
ある量の力又はトルクを施与する為の作動されたデバイス(121);及び、
伝達装置(123)を介して該作動されたデバイス(121)に動作可能に接続された電動モータ(122)、及び、
アクチュエーションインテント信号(Si)及びネットワークからのその後のアクチュエータ制御信号を受信するように構成されている該アクチュエータコントローラ(14)、ここで、該その後のアクチュエータ制御信号(Sa)は該アクチュエーションインテント信号に基づく、
を備えており、該アクチュエータコントローラ(14)は、
通常動作モード(N)及び予備動作モードのうちの少なくとも1つから該アクチュエータコントローラ(14)の動作モードを選択するように構成されるモード制御回路(141);及び、
動力信号(Sp)を該電動モータ(122)に、受信した信号(Sa、Si)に基づいて提供するように構成されている主回路(142、143)
を備えており、
該通常動作モードにおいて、主回路(142、143)は、受信したアクチュエータ制御信号(Sa)に基づいて動力信号(Sp)を与えるように構成されており、
該予備動作モードにおいて、該主回路(142)は、受信したアクチュエーションインテント信号(Si)に基づいて動力信号(Sp)を与えるように構成されており、
該予備動作モードにおいて、該主回路(142)は、別の自動車アクチュエータを制御する為に、該受信したアクチュエーションインテント信号(Si)に基づいて少なくとも1つの予備アクチュエータ制御信号(Sb)を送信するように更に構成されている
前記自動車用アクチュエータ(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動自動車運動制御システム(electric automotive motion control system)に関する。
【0002】
本開示は、自動車アクチュエータ(automotive actuator)に関する。
【背景技術】
【0003】
車両制御機能、例えば車両の運動制御を包含する上記の車両制御機能、が電気機械手段によって実装されることが益々増えている。
【0004】
1つの例として、ブレーキ・バイ・ワイヤ(brake-by-wire)は典型的に、作動装置と伝達装置が互いから切り離されているブレーキシステム(braking system)を意味する為に使用される。慣用的な油圧ブレーキシステムでは、ブレーキペダルがアクチュエータであり、油圧が該伝達装置である。ここで、電気油圧式ブレーキと、(トラックの)電空ブレーキと、電動ブレーキとが区別される。油圧又は空気圧の省略だけで、ブレーキは本物の所謂「乾式」ブレーキ・バイ・ワイヤの応用となり、それは、ここでは流体技術システムが使用されない為である。この技術の使用を望む一つの理由は、ブレーキシステムにおいて現在使用されている媒体の遅さでありうる。純粋に電気機械的な解決法を用いて、より短い応答時間が実現され得、該より短い応答時間は、実現可能な制動距離(braking distance)にも反映されうる。別の利点は、ブレーキ・バイ・ワイヤ技術のより好適な製造可能性でありうる。これは、油圧システムで使用される構成要素、例えばマスターシリンダ、ブレーキブースタ及びアンチロック構成要素、又はより一般的にはブレーキ変調構成要素、は、比較すると製造するのが高費用である為である。電気機械的な解決法は、特に車両寿命の末期に問題となる、油圧ブレーキシステムを有する車両に関連付けられたブレーキ流体による汚染のリスクを更に回避する。更に、電気機械的な解決法は、より容易な車両の組み立てを促進する。
【0005】
電動車両ブレーキは典型的に、ブレーキ本体、すなわち車両車輪、に対して制動するための摩擦ブレーキライニングを押圧するように構成された、電気機械的な作動デバイスを有する。ブレーキ本体は、典型的にブレーキディスク又はブレーキドラムである。作動デバイスは、典型的に、電動モータと、該電動モータの回転駆動運動を、該ブレーキ本体に該摩擦ブレーキライニングを押し当てる為の並進運動に変換する回転-並進変換歯車と、を有する。ウォームギア、例えばスピンドルギア又はローラーウォーム駆動装置、が回転-並進変換歯車としてよく使用される。また、例えば枢動可能カムを用いて回転運動を並進運動に変換することも可能である。例えば遊星歯車の形態の、ステップダウンギアが、しばしば該電動モータと該回転-並進変換歯車との間に置かれる。自動ブーストする電気機械車両ブレーキは自動ブースタを有し、これは、ブレーキを掛ける為に該ブレーキ本体によって押し当てられる摩擦ブレーキライニングに対して回転するブレーキ本体によって及ぼされる摩擦力を接触圧力に変換し、該接触圧力が、該作動デバイスによって及ぼされる接触圧力に加えて、該摩擦ブレーキライニングを該ブレーキ本体に押し当てる。ウエッジ機構、ランプ機構、及びレバー機構が、自動ブーストの為に好適である。
【0006】
電動車両ブレーキは、運転者の動作、例えばブレーキペダルを踏むこと、に応答して生成される、又はレーダーシステムによって障害物が検出されると自律的に生成される、外部のブレーキ制御信号に応答する電子制御ユニット(ECU:electronic control unit)によって制御される。車両機能、例えば制動(braking)、が電子制御されることがますます多くなっている。例えば、最新技術の高級型車は、操舵、エンジン動力制御、制動、環境モニタリング、気象制御などのような特定の機能を各々が担う、100個を超える電子制御ユニット(ECU)を含んでいることがありうる。典型的に、運転者からの又は自律的運転システムからの制御入力に対する適切な応答を可能にする為に、様々なアクチュエータが関与する。
【0007】
例えば、該制御入力が操舵インテント信号(steer intent signal)である場合、様々なアクチュエータが車両の方向を変更する為に関与しうる。それと共に、各前輪は、その向きを制御する適切な操舵アクチュエータを有しうる。また、後輪は、例えば、該車両がカーブするときにその向きを適切に補正する為、又は駐車を容易にする為の、適切な操舵アクチュエータを有しうる。該制御入力が制動インテント信号(braking intent signal)である場合、該車両は、該車両車輪の各々に分散的に制動力(braking force)を及ぼすことによって減速されうる。1つの車輪当たりに及ぼされる実際の力は、典型的に、該後輪よりも該前輪の方が大きい。制動力の分散は更に、現在の操舵角に依存しうる。また、該制動力は、部分的に又は完全に回生制動(regenerative braking)として実現され得、ここで、該車両の運動エネルギーは電気エネルギーに変換されて蓄えられる。
【0008】
典型的に、夫々の主要な車両制御機能を連係させる為に、夫々の中央ECU、例えば、制動制御(braking control)の為の中央ECU、操舵制御の為の中央ECU、エンジン制御の為の中央ECU等、が設けられる。典型的に、特定の機能をもつECU、例えば中央ECU、は、自律的に動作するのではなく、他のECUと協働して動作する。例えば、制動制御の為のECUは、最適な車両安定性の為に、操舵制御の為のECU及びエンジン動力制御の為のECUと協働する。
【0009】
その為、電子制御ユニットは、電動ブレーキシステムにおける非常に重要な要素である。この理由から、安全規格がISO26262、道路車両の為の機能安全性規格、によって定められている。該規格は、自動車安全水準(ASIL:Automotive Safety Integrity Level)と呼ばれるリスク分類方式を規定する。これは、IEC 61508で使用されている安全水準(SIL:Safety Integrity Level)を自動車産業向けに適合したものである。この分類は、該ISO26262規格に準拠する必要がある安全性要件を定義するのを助ける。該ASILは、車両動作シナリオの重大度(Severity)、曝露確率(Exposure)及び可制御性(Controllability)に注目することにより、起こり得るハザードのリスク分析を行うことによって確立される。そして、そのハザードに関する安全性目標は、ASIL要件を含む。該規格によって特定されるASILには、ASIL A、ASIL B、ASIL C、ASIL D、の4つがある。ASIL Dは、製品に対する最も高い完全性要件を要求し、ASIL Aが最も低い。「品質管理」(QM:Quality Management)と識別されるハザードは、安全性要件を要求しない。一定の状況下では、構成要素の要求されるASIL分類は、ASILデコンポジションと呼ばれる技術を通じて下げられることができる。例えば、高いASIL格付けを有する内蔵デバイス内で実装される安全機能が、可能性としてはより低いASILを有する、独立した下位機能又は構成要素に分解されうる。これは、例えば、システムの堅牢性の向上及び/又は製造コストの低減に関して有利であることができる。しかしながら、分解された構成要素の独立した動作を保証することは難しいことがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
最も高い車両安全性要件を維持しながら、費用効果の高い冗長な回路の使用を可能にする、改良された運動制御システム及び自動車アクチュエータ制御に対する必要性が依然としてある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、車両シミュレーション分析の結果から、車両の安全性と安定性は典型的に、故障時動作(fail operational)の概念及び高価なASIL D準拠のE/Eハードウェア構成要素の使用のみによって保証されることができることを認識する。その為、冗長なASIL B構成要素の使用は、典型的に、特殊な概念を用いずには実現可能でなく、何故ならば、それは、ASIL Dレベルの診断範囲及び故障率(特に偶発的なE/Eハードウェア故障を緩和する為の)に準拠しないからである。
【0012】
本明細書に記載されている該電動運動制御システムは、より低い複雑性(ASIL B)のE/Eハードウェア構成要素を使用して、システムレベルでASIL D要件を達成することができる。
【0013】
好ましい実施態様に従い、車両の運動制御の為の運動制御システムが提供され、該運動制御システムは、中央コントローラと、該車両の車輪毎に、夫々の運動制御アクチュエータとを備えており、該夫々の運動制御アクチュエータは、該中央コントローラから該夫々の運動制御アクチュエータによって受信される夫々のアクチュエータ制御信号に基づいて該車輪に運動制御を適用するように構成されている。
【0014】
該中央コントローラは、該夫々のアクチュエータ制御信号を各車輪の該夫々の運動制御アクチュエータに、該中央コントローラによって受信される運動制御インテント信号(motion control intent signal)に基づいて送信することによって該車両の該運動を制御するように構成されている。
【0015】
該運動制御システムは、該中央コントローラが機能しているか否かを判定するように構成されている。
【0016】
該好ましい実施態様における該運動制御アクチュエータのうちの少なくとも1つは、それ自体の車輪に運動制御を、該運動制御インテント信号に直接基づいて適用するように構成されている。加えて、それは、夫々のアクチュエータ制御信号を該車両の他の各車輪の他の運動制御アクチュエータに、該運動制御インテント信号に基づいて送信する。従って、該中央コントローラが機能していないと判定される場合、該運動制御アクチュエータのうちの該少なくとも1つが、マスターコントローラの役割を引き受け、それと共に該中央コントローラの予備として機能する。
【0017】
幾つかの例において、該運動制御アクチュエータのうちの該少なくとも1つは、該中央コントローラが機能しているか否かの判定を行うように構成される。これは、該中央コントローラが機能していないという判定と、該運動制御アクチュエータがマスターコントローラの役割を引き受けること、との間の遅延のリスクが緩和されるという点で有利である。そのような遅延は、該判定がメッセージとして送信される場合に発生しうる。
【0018】
幾つかの実施態様において、マスターコントローラの役割を引き受ける該運動制御アクチュエータは、別の運動制御システムの1以上の機能ECUと協働するように構成され、例えば、マスターコントローラの役割を引き受ける運動制御アクチュエータは、操舵制御の為のECU及びエンジン動力制御の為のECUと協働するように構成されうる。それと共に、それは、該運動制御インテント信号に適切に応答してそれ自体の車輪に運動制御を適用すると共に、他の運動制御アクチュエータへの該夫々のアクチュエータ制御信号を生成し、それにより、予備動作モードにおける車両安定性を最適化しうる。
【0019】
1つの実施態様において、該電動運動制御システムは、該車両が該電動運動制御システムの修理の為に修理工場に持って行かれなければならないことを知らせる為に、警告信号、例えば可聴又は視覚警告信号、を運転者に与えるように構成される。追加的に又は代替的には、担当する修理工場が車の所有者に該車両を修理の為に持ってくるように適時に促すことを可能にする為に、該修理工場に警告信号が与えられる。警告信号を与えることは、それと共に、修理が行われるまで該車両の使用を制約し、運転挙動を適切に適合させる誘因となる。これらの誘因は、曝露確率(Exposure)を緩和する。それと共に、ASIL-Dタイプの中央コントローラを備えており、該運動制御アクチュエータのうちの少なくとも1つの為にASIL-B又はASIL-Cタイプのコントローラを使用する、該運動制御システムが、ASIL-D要件に準拠することが実現されることができる。
【0020】
1つの実施態様において、該予備動作モード(B)に入ることは、該車両の低下動作モードを強制する。1つの例において、該電動運動制御システムは、該低下動作モードにおいて該車両に速度制限を強制し、それにより重大度(Severity)及び可制御性(Controllability)を低減する。別の例において、該運動制御システムは、該予備動作モードに入ってから所定の時間間隔が経過した場合又は該車両が所定の距離を超えて走行した場合に、該車両を動作停止させるように構成され、それにより曝露確率を低減する。これらの例において、低下動作モードにある該車両は、該運転者が、該電動運動制御システムの修理の為に該車両を修理工場まで運転することを可能にするが、故障が全く発生しなかったかのように該運転者が該車両を使用し続けることを防止する。幾つかの実施態様において、これらの措置、すなわち、該運転者及び/又は該修理工場に警告信号を与えることと、速度制限、並びに運転時間及び/又は距離の制約の1以上によって該車両の低下動作モードを強制することと、の1以上が組み合わされる。
【0021】
該中央コントローラが機能しているか否かをモード制御回路が判定する為に、様々なオプションが利用可能である。1つの例において、該中央コントローラは、それ自体の正常な動作を伝える為に、ハートビート信号を通常は送信するように構成される。該ハートビート信号は、例えば100Hz又はそれより高い周波数を有する、周期的な信号である。上記1つの例において、該モード制御回路は、該ハートビート信号を監視し、該ハートビート信号を受信する限り該電動運動制御システムの該通常動作モードを維持する。該ハートビート信号を受信しない場合、それは、該電動運動制御システムを該予備動作モードで動作させる。
【0022】
別の例において、該モード制御回路は、その後、運動制御インテント信号及びネットワークからの夫々の関連するアクチュエータ制御信号を受信するように構成される。その例において、それは、各運動制御インテント信号に続いて所定の時間間隔以内に該ネットワークから関連するアクチュエータ制御信号を受信すれば、該通常動作モードを維持するように構成される。一旦、運動制御インテント信号に対応する、関連するアクチュエータ制御信号を該所定の時間間隔以内に受信しないと、それは、該電動運動制御システムを該予備動作モードで動作させる。
【0023】
幾つかの実施態様において、該モード制御回路は、該中央コントローラによって発行される自動診断信号に応答する。典型的に、該中央コントローラは、該中央コントローラが機能していると判定されるか否かを示すことが可能な自動診断手段を備える。その1つの例において、自動診断手段による自動診断は、該中央コントローラの構成要素間のウォッチドッグ手順を含み、ここでは、該構成要素のうちの1つからの応答が無いことは、該中央コントローラが機能していないと判定されるべきことを意味する。別の例において、該中央コントローラの複数の構成要素が、同じ計算を夫々独立して行うように構成され、該中央コントローラは、該計算の結果が互いと異なる場合に機能していないと判定される。
【0024】
1つの例において、該運動制御アクチュエータのうちの該少なくとも1つは、該電動運動制御システムの選択されている動作モードに関係なく、該運動制御インテント信号を受信するように構成される。しかしながら、該通常動作モードにおいて、それは、該中央コントローラからの該アクチュエータ制御信号に応答し、該運動制御インテント信号を無視する。代わりに、該予備動作モードにおいて、それは、該運動制御インテント信号に直接基づいてそれ自体の車輪に運動制御を適用すること、及び、該運動制御インテント信号に基づいて該車両の他の車輪の他の運動制御アクチュエータに夫々のアクチュエータ制御信号を送信することで、応答する。
【0025】
幾つかの実施態様において、該電動運動制御システムの構成要素、例えば該中央コントローラ、運動制御アクチュエータ、モード制御回路、は専用の信号線によって接続される。好ましい実施態様において、該電動運動制御システムの該構成要素は、ネットワークによって相互に接続される。いずれの場合も、好ましい例において、一次接続及び二次接続と呼ばれる冗長な接続が設けられる。これは、該専用の信号線又は該ネットワーク内で単発的な故障が発生しても該構成要素が通信する能力を保証する。その例において、少なくとも1つの該運動制御アクチュエータは、ゲートウェイを介して該ネットワークに接続される。該通常動作モードにおいて、それは、該中央コントローラによって送信された該アクチュエータ制御信号を該少なくとも1つのアクチュエータに渡す。該予備動作モードにおいて、それは、代わりに該運動制御インテント信号を渡す。
【0026】
1つの実施態様において、該運動制御アクチュエータのうちの該少なくとも1つは、該運動制御アクチュエータのうちの所定のものである。これは、該運動制御アクチュエータのうちの該所定のものだけが、該中央コントローラが故障した場合にマスターコントローラとして機能する能力を持つ必要があるという点で有利である。
【0027】
代替の実施態様において、複数の運動制御アクチュエータが、マスターコントローラとして機能するように構成される。これは、該中央コントローラが故障した場合に1以上の更なる予備オプションが利用可能であるという点で有利である。その例において、該中央コントローラが故障した場合に該マスターコントローラとなる第1の運動制御アクチュエータ、該中央コントローラと該第1の運動制御アクチュエータの両方が故障した場合にマスターコントローラの役割を引き受ける第2の運動制御アクチュエータ、等のランク付けが提供される。他の例において、マスターとして機能するように構成される該複数の運動制御アクチュエータは、I2Cプロトコルのようにネゴシエーションを行って、どれがマスターコントローラの役割を引き受けるかを決定する。これは、最も速い応答を有するものが該マスターコントローラとして機能することになることを示唆し、これは好ましい。個々の運動制御アクチュエータのアクチュエータコントローラが、該中央コントローラが機能していないと判定されることが伝えられた時点でタスクを行うにはビジーである場合、様々な応答時間が発生しうる。また、1つの運動制御アクチュエータが、該中央コントローラが機能していないことを他のアクチュエータよりも早く判定することが可能であり、その理由から、該中央コントローラに替わって該マスターコントローラとして機能する主導権を取ることも可能である、という場合もありうる。更に他の例において、マスターコントローラとして機能することができる複数の運動制御アクチュエータが、該中央コントローラが故障した場合、マスターコントローラとして機能するように交替様式で指定される。運動制御アクチュエータは、それがマスターコントローラとして動作している間、個々に監視されることができる。これは、その機能を検証する追加的な手段を可能にする。
【0028】
1つの実施態様において、マスターコントローラとして機能することができない、該電動運動制御システムの該運動制御アクチュエータのうち1以上は、該中央コントローラからの、又はマスターコントローラとして機能している運動制御アクチュエータからの、対応するアクチュエータ制御信号がその後に続かない運動制御インテント信号に応答するように構成される。この更なる予備動作モードにおいて、該アクチュエータの該1以上は、他の運動制御アクチュエータにアクチュエータ制御信号を送信すること無しに、該運動制御インテント信号に応答して、各自の関連する車輪に運動制御を適用する。それと共に、該中央コントローラが故障し、該運動制御アクチュエータのどれもマスターコントローラとして機能することができない場合であっても、運動制御作動が行われることができる。
【0029】
運動制御アクチュエータは、該動作モードに関係なく、ある程度自律的に応答することが可能でありうる。例えば、該運動制御システムがブレーキ制御システムである実施態様が提供され、ここで、該ブレーキアクチュエータのうちの少なくとも1つがABS機能を有する。それと共に、それは、ブレーキ制御信号に応答しているか又は運動制御インテント信号に応答しているのかに関係なく、該車輪のブロッキング(blocking)を回避する為にそれ自体の車輪に適用される制動のモード(mode of braking)を適合させることができる。
【0030】
また、作動機構(actuation mechanism)とアクチュエータコントローラ(actuator controller)とを備えている自動車アクチュエータが、本明細書において提供される。該作動機構は、ある量の力又はトルクを施与する為の作動されたデバイスと、伝達装置を介して該作動されたデバイス(actuated device)に動作可能に接続された電動モータとを備えている。該アクチュエータコントローラは、アクチュエーションインテント信号(actuation intent signal)及びネットワークからのその後のアクチュエータ制御信号を受信するように構成されており、ここで、該その後のアクチュエータ制御信号は該アクチュエーションインテント信号に基づく。該アクチュエータコントローラは、通常動作モード及び予備動作モードのうちの少なくとも1つから該アクチュエータコントローラの動作モードを選択するように構成されるモード制御回路を備えている。該アクチュエータコントローラはまた、動力信号を該電動モータに、受信した信号に基づいて与えるように構成されている主回路を備えている。該通常動作モードにおいて、該主回路は、受信したアクチュエータ制御信号に基づいて該動力信号を与えるように構成される。代わりに、該予備動作モードにおいて、該主回路は、受信したアクチュエーションインテント信号に基づいて該動力信号を与えるように構成される。追加的に、該予備動作モードにおいて、該主回路は、別の自動車アクチュエータを制御する為に、該受信したアクチュエーションインテント信号に基づいて少なくとも1つの予備アクチュエータ制御信号を送信するように更に構成される。
【0031】
幾つかの例において、該自動車アクチュエータは、該モード制御回路がそれに応答して該動作モードを選択する、入力されたモード制御信号を受信するように構成される。幾つかの例において、該モード制御回路は、動作のモードを自律的に選択するように構成される。1つの例として、該モード制御回路は、各アクチュエーションインテント信号に続いて、所定の時間間隔以内に該ネットワークから関連するアクチュエータ制御信号を受信すれば、該通常動作モードを維持するように構成される。一旦、アクチュエーションインテント信号に対応する関連するアクチュエータ制御信号を該所定の時間間隔以内に受信しないと、それは、該予備動作モードを選択する。
【0032】
更なる例において、該モード制御回路は、中央コントローラのハートビート信号を監視し、該ハートビート信号を受信する限り該通常動作モードを維持するように構成される。該ハートビート信号を受信しない場合、それは、該予備動作モードを選択する。ここでも他の例において、該自動車アクチュエータの該モード制御回路は、外部のモード制御信号に応答して該動作モードを選択することと、動作モードを自律的に選択することとの両方を行うように構成される。これらの例のうちの1つにおいて、該外部のモード制御信号が該予備動作モードが選択されるべきことを示さず且つ該モード制御回路それ自体が中央コントローラの故障を検出していない限り、該通常動作モードを維持するように該自動車アクチュエータの該モード制御回路が構成される。それは、該予備動作モードが選択されるべきことを該外部のモード制御信号が示す場合、又は、それ自体が、例えばハートビートが無いこと及び/若しくはアクチュエーションインテント信号の検出後の時間制限内に対応するアクチュエータ制御信号が無いことから故障を検出する場合、のいずれかに該予備動作モードを選択する。
【0033】
本開示の装置、システム、及び方法のこれら及び他の特徴、観点、及び利点は、以下の説明、添付の特許請求の範囲、及び添付図面からよりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1は、通常動作モードにある、本明細書において開示されている車両運動制御システムの1つの実施態様を示す。
【
図2】
図2は、予備動作モードにある、本明細書において開示されている車両運動制御システムの上記実施態様を示す。
【
図3】
図3は、本明細書において開示されている車両運動制御システムの別の実施態様を示す。
【
図4A】
図4Aは、該車両運動制御システムで使用する為の自動車アクチュエータの例を示し、該自動車アクチュエータの概要を示す。
【
図4B】
図4Bは、該車両運動制御システムで使用する為の自動車アクチュエータの例を示し、その構成要素をより詳細に示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
特定の実施態様を説明する為に使用される用語は、本発明を制限するものであることは意図されない。本明細書で使用される場合、文脈が明らかに別のように指示しない限り、単数形の「1つ」(a)、「1つ」(an)及び「該」(the)は、複数形も包含することが意図される。語「及び/又は」は、関連する列挙された項目の1以上のありとあらゆる組み合わせを包含する。語「~を備える」及び/又は「~を備えている」は、述べられる特徴の存在を規定するが、1以上の他の特徴の存在若しくは追加を除外しないことが理解されよう。方法の特定の工程が、他の工程の後に続くと参照される場合、別のように指示されない限り、それは、上記他の工程の直後に続くことができ、又は、該特定の工程を実施する前に1以上の中間工程が実施されうることが更に理解されよう。同様に、構造又は構成要素間の接続が説明されるとき、別のように指示されない限り、この接続は、直接確立されうるか、又は中間の構造若しくは構成要素を通じて確立されうることが理解されよう。
【0036】
本発明は、以降で、本発明の実施態様が示されている添付図面を参照しながらより完全に説明される。該図面中で、システム、構成要素、層、及び領域の絶対サイズ及び相対サイズは、明瞭性の為に誇張されていることがありうる。実施態様は、場合によっては理想化されている本発明の実施態様及び中間構造の概略図及び/又は断面図を参照しながら説明されうる。説明及び図面において、同様の番号は全体を通じて同様の要素を参照する。相対的な語並びにその派生形は、その時に説明されている又は論じられている図面に示されている向きを基準とすると解釈されるべきである。このような相対的な語は、説明の便宜の為であり、別段の指定がない限り、システムが特定の向きで構築又は動作されることは必要としない。
【0037】
図1は、車両の運動を制御する為の車両運動制御システム100を模式的に示す。
【0038】
該運動制御システムは、該車両の車輪20a、20b、20c、20d毎に、夫々の運動制御アクチュエータによって受信される夫々のアクチュエータ制御信号Sa、Sb、Sc、Sdに基づいて該車輪の運動を制御するように構成された、夫々の運動制御アクチュエータ10a、10b、10c、10dを備えている。
【0039】
該運動制御システムは、中央コントローラ50によって受信される運動制御インテント信号Siに基づいて、該夫々のアクチュエータ制御信号Saを各車輪20a、20b、20c、20dの該夫々の運動制御アクチュエータ10a、10b、10c、10dに送信することにより該車両の運動を制御するように構成される、中央コントローラ50を更に備えている。
【0040】
該運動制御システムは、該中央コントローラが機能しているか否かを判定するように構成される。1つの例において、該運動制御システムは、この判定を行う為の専用の診断モジュールを備える。
【0041】
該運動制御アクチュエータのうちの少なくとも1つ10aは、中央コントローラ50が機能していないと判定された場合に、該運動制御インテント信号Siに直接基づいてそれ自体の車輪20aの運動を制御するように構成される。加えて、それは、中央コントローラ50が機能していないと判定された場合に、該運動制御インテント信号Siに基づいて、該車両の他の各車輪20b、20c、20dの他の運動制御アクチュエータ10b、10c、10dに夫々のアクチュエータ制御信号Sb、Sc、Sdを送信するように構成される。1つの例において該運動制御アクチュエータのうちの該少なくとも1つ10aは、中央コントローラ50が機能しているか否かの判定を行うように構成される。
【0042】
図1に示されている第1の実施態様において、該運動制御システムは該車両を制動する為のブレーキシステムとして構成され、ここで、該夫々の運動制御アクチュエータ10a、10b、10c、10dは、それ自体の車輪20aに制動(braking)BRを適用して該車輪の運動を制御する為のブレーキアクチュエータである。その中に設けられる中央コントローラ50は、該運動制御インテント信号として与えられる運動制御インテント信号に従って各該ブレーキアクチュエータの動作を連係させることにより、該制動BRを制御するように構成される。
【0043】
第2の実施態様において、該運動制御システムは、該車両を操舵する為の操舵システムとして構成され、該夫々の運動制御アクチュエータ10a、10b、10c、10dは、各自の車輪の運動を制御する為にそれ自体の車輪20aの向きを制御する、夫々の操舵アクチュエータである。それと共に、該操舵アクチュエータは、該車両の移動方向を制御する為に、道路の表面に対して直交する軸を中心とした該車輪の回転角を定める。幾つかの例において、該操舵アクチュエータは、傾斜角、すなわち、該車輪の該回転軸と路面との間の角度、に従って、それ自体の車輪の向きも制御する。それと共に、該操舵アクチュエータは、該車両が前方に直進する際には該回転軸を該路面に対して平行に維持し、操舵の結果、該車両が向けられる該車両の側の方へ該車輪を傾斜させる。幾つかの例において、該車輪の該回転角及び該傾斜角を制御する為に別々のアクチュエータが設けられる。中央コントローラ50は、該運動制御インテント信号として与えられる操舵インテント信号に従って該操舵アクチュエータの動作を連係させる為にその中に設けられる。
【0044】
第3の実施態様において、該運動制御システムは、該車両の速度を制御する為の速度制御システムとして構成され、該夫々の運動制御アクチュエータ10a、10b、10c、10dは、各自の車輪の回転速度を制御する為にそれ自体の車輪20aにトルクを施与する夫々の動力アクチュエータである。中央コントローラ50は、該動力アクチュエータの動作を連係させる為にその中に設けられ、該運動制御インテント信号は、加速/減速インテント信号(acceleration/deceleration intent signal)である。
【0045】
これらの実施態様の各々において、該運動制御アクチュエータのうちの少なくとも1つは、中央コントローラ50が機能していないと判定される場合に、該中央コントローラの予備としてマスターコントローラの役割を引き受けることが可能である。例えば、該第1の実施態様におけるブレーキアクチュエータが、該運動制御インテント信号Siとして受信する該制動インテント信号に基づいてそれ自体の車輪に制動BRを適用することによってそれ自体の車輪の運動を制御することが可能である。特に、マスターコントローラとしてのその役割において、それは、該制動インテント信号Siに基づいて、該車両の他の各車輪20b、20c、20dの他のブレーキアクチュエータ10b、10c、10dに夫々のアクチュエータ制御信号Sb、Sc、Sdを送信する。
【0046】
別の例として、該第2の実施態様における該操舵アクチュエータのうちの少なくとも1つは、該運動制御インテント信号Siとして受信する該操舵インテント信号に基づいてそれ自体の車輪の向きを制御することによってそれ自体の車輪の運動を制御することが可能である。特に、マスターコントローラとしてのその役割において、それは、該操舵インテント信号Siに基づいて、該車両の他の各車輪20b、20c、20dの他の操舵アクチュエータ10b、10c、10dに夫々のアクチュエータ制御信号Sb、Sc、Sdを送信する。
【0047】
更なる例として、該第3の実施態様における動力アクチュエータが、該運動制御インテント信号Siとして受信する該加速/減速インテント信号に基づいて、それ自体の車輪20aにトルクを加えてそれ自体の車輪の回転速度を制御することにより、それ自体の車輪の運動を制御することが可能である。特に、マスターコントローラとしてのその役割において、それは、該加速/減速インテント信号Siに基づいて、該車両の他の各車輪20b、20c、20dの他の動力アクチュエータ10b、10c、10dに夫々のアクチュエータ制御信号Sb、Sc、Sdを送信する。
【0048】
更なる例として、車両が、2つ以上の運動制御システムを装備しうる。
【0049】
該電動運動制御システム100が電動ブレーキシステムである実施態様が、次いで
図1及び
図2を参照してより詳細に説明される。ここで、
図1及び
図2は、夫々通常動作モードN及び予備動作モードBにある該電動ブレーキシステムを示す。
【0050】
図1に示されている該電動ブレーキシステム100は、車輪20a、20b、20c、20d毎に、該夫々のブレーキアクチュエータによって受信される夫々のアクチュエータ制御信号Sa、Sb、Sc、Sdに基づいて該車輪に制動BRを適用するように構成された、夫々のブレーキアクチュエータ10a、10b、10c、10dを備えている。該ブレーキシステム100はまた、中央コントローラ50によって受信される制動インテント信号Siに基づいて、各車輪20a、20b、20c、20dの該夫々のブレーキアクチュエータ10a、10b、10c、10dに該夫々のアクチュエータ制御信号を送信することにより該車両の制動BRを制御するように構成される、中央コントローラ50を備えている。図示されている実施態様において、ネットワーク30、例えばCAN又はEthernet、が該アクチュエータ制御信号を送信する為に設けられる。代替の実施態様において、夫々の信号伝送線が、この目的の為に設けられる。該電動ブレーキ制御システムは、中央コントローラ50が該アクチュエータ制御信号を送信するように機能しているか否かを判定するように構成される。1つの例において、この判定を行う別個の診断モジュールが設けられる。図示されている該実施態様において、該ブレーキアクチュエータのうちの少なくとも1つ、この例においては該ブレーキアクチュエータ10a、が、中央コントローラ50が該アクチュエータ制御信号を送信するように機能しているか否かを判定するように構成される。幾つかの例において、別個の診断モジュール並びに少なくとも1つのブレーキアクチュエータが、該判定を行うように構成される。その例において、該別個の診断モジュール及びブレーキアクチュエータのうちの少なくとも一方が、中央コントローラ50が機能していないと判定する場合、中央コントローラ50は該アクチュエータ制御信号を送信するように機能していないと判定される。
【0051】
中央コントローラ50が機能していないと判定すると、この判定を行ったエンティティに関係なく、
図2に更に示されているように、該少なくとも1つのブレーキアクチュエータ10aが、マスターコントローラとしての役割を引き受ける。
【0052】
図2に示されているように、該予備動作モードBにおいて、該ブレーキアクチュエータ10aは、アクチュエータ制御信号Saに応答して動作する代わりに、該制動インテント信号Siに直接基づいてそれ自体の車輪20aに制動BRを適用するように構成される。特に、該予備動作モードBでのマスターコントローラとしてのその役割において、該ブレーキアクチュエータ10aは、該制動インテント信号Siに基づいて、該車両の他の各車輪(20b、20c、20d)の他のブレーキアクチュエータ10b、10c、10dに夫々のアクチュエータ制御信号Sb、Sc、Sdを送信するように構成される。
【0053】
図1及び
図2に示されている例において、中央コントローラ50と該ブレーキアクチュエータ10a、10b、10c、10dとは、ネットワーク30を介して通信可能に接続されている。その中で、様々な信号、例えば該制動インテント信号Si及び該アクチュエータ制御信号Sa、がブロードキャストされる。特に、マスターコントローラの役割を引き受けることが可能な該ブレーキアクチュエータ10aは、中央コントローラ50が機能していると判定されるか否かに関係なく該制動インテント信号Siを受信するように構成される。しかしながら、
図1に示されている該通常動作モードNにおいて、中央コントローラ50が機能していると判定された場合、該ブレーキアクチュエータ10aは、該アクチュエータ制御信号Saに応答してそれ自体の車輪20aに制動BRを適用するように構成され、該制動インテント信号Siには反応しない。また、それは、それ自体でアクチュエータ制御信号を送信することもしない。しかしながら、中央コントローラ50が機能していないと判定した後に取られる、
図2に示されている該予備動作モードにおいて、該ブレーキアクチュエータ10aは、該制動インテント信号Siに直接基づいて、それ自体の車輪20aに制動BRを加え、また他のブレーキアクチュエータ10b、10c、10dに夫々のアクチュエータ制御信号Sb、Sc、Sdを送信するように構成される。該予備動作モードにある中央コントローラ50が依然としてアクチュエータ制御信号Saを送信する場合、該ブレーキアクチュエータ10aはそれらを無視する。
【0054】
好ましい実施態様において、該ネットワーク30は、ネットワークリンクの単発的な障害が発生した場合にネットワーク機能の可用性を保証する為に、冗長な形態で設けられる。1つの例として、該ネットワークはリングトポロジーで設けられる。
【0055】
図1、
図2に示されている例において、該ブレーキアクチュエータのうちの1つのみ、すなわち該ブレーキアクチュエータ10a、が該マスターコントローラとして機能するように構成されることが想定される。それと共に、該ブレーキアクチュエータ10aは、中央コントローラ50が機能していないと判定された場合に該マスターコントローラとして機能することも予め決められている。
【0056】
他の実施態様において、該ブレーキシステムは、中央コントローラ50が機能していないと判定された場合に各々がマスターコントローラとして機能することが可能な、複数のブレーキアクチュエータを備える。幾つかの例において、マスターコントローラとして機能することが可能な複数の該ブレーキアクチュエータBAが、マスターコントローラとして機能するように交替様式で指定される。その1つの例において、現在該潜在的なマスターコントローラに指定されている該ブレーキアクチュエータ10aは、その時点で中央コントローラ50が機能していないと判定されればその役割を引き受ける。この例の一つの変形例において、指定されたブレーキアクチュエータ10aは、該マスターコントローラのままである。別の変形例において、その後、他の複数のブレーキアクチュエータBAが、その役割を引き受けるように交替様式で指定される。更なる例において、該ブレーキアクチュエータBAのうちの所定のものが、中央コントローラ50が機能していないと判定するとマスターコントローラの役割を引き受け、その後、マスターコントローラの役割は交替様式で割り当てられる。この例の幾つかの変形例において、該ブレーキアクチュエータのうちの該所定のものは、中央コントローラ50が機能しているか否かの判定を行うように構成される。その変形例において、該ブレーキアクチュエータBAのうちの該所定のものは、該マスターコントローラとして最初に指定されたときに行う追加的なタスク、例えば、警告信号を与える、及び/又は他の車両制御システムの動作のモードを変える、を有する。
【0057】
更に他の実施態様において、複数のブレーキアクチュエータ10aの中からの該マスターコントローラとなるブレーキアクチュエータ10aの選択は、自律的な方式で行われる。その幾つかの例において、該複数のブレーキアクチュエータBAは、中央コントローラ50が機能しているか否かを各々で判定するように構成される。中央コントローラ50が機能していないという判定を実際に行う最初のものが、マスターコントローラの役割を引き受ける。
【0058】
図3は、電動ブレーキシステム200の更なる実施態様を示す。
図1及び
図2のものに対応する図中の部分は、同じ参照符号を有する。
図3の該実施態様において、該ブレーキアクチュエータ10a、10b、10c、10dは、1以上のゲートウェイ40a、40b、40c、40dを介して該ネットワーク30に接続されている。該ネットワーク30は、信号のマルチキャストの為に構成され、該1以上のゲートウェイ40a、40b、40c、40dは、マルチキャストされた信号を選択的に渡す。通常動作モード中、すなわち中央コントローラ50が機能していると判定される間、該1以上のゲートウェイ40a、40b、40c、40dは、中央コントローラ50からの該アクチュエータ制御信号Saを各自の関連付けられたブレーキアクチュエータ10aに選択的に渡す。中央コントローラ50が機能していないと判定すると、該予備動作モードBが取られ、そこで、ゲートウェイは、該制動インテント信号Siを該少なくとも1つのブレーキアクチュエータ10aに選択的に渡す。図示されている例において、該ゲートウェイ40a、40b、40c、40dは、一次イーサネット接続及び二次イーサネット接続Ma1、Ma2、Mb1、Mb2、Mc1、Mc2及びMd1、Md2により、相互に接続されると共に、中央コントローラ50に接続されている。該ゲートウェイ40a、40b、40c、40dはまた、該ブレーキアクチュエータ10a、10b、10c、10dと通信する為の一次接続及び二次接続Ca1、Ca2、Cb1、Cb2、Cc1、Cc2及びCd1、Cd2を備えているCANプロトコルインターフェースを有する。
【0059】
更に、運動制御インテント信号、ここでは制動インテント信号Si、を提供する運動制御管理システム9とのネットワーク相互接続が設けられる。幾つかの例において、該運動制御管理システム9は、完全に自律的である。他の例において、該運動制御管理システムは、部分的に又は完全にドライバによって制御される。図示されている例において、該ブレーキアクチュエータ10a、10b、10c、10dは、各自の車輪20a、20b、20c、20dに夫々制動力F10a、F10b、F10c、F10dを施与するように構成される。各車輪は、夫々の車輪速度指示S22a、S22b、S22c、S22dを提供する、夫々の車輪速度センサ22a、22b、22c、22dを有する。この例の変形例において、該ブレーキアクチュエータ10a、10b、10c、10dは、それがブレーキ制御信号Saに応答しているか又は制動インテント信号Siに応答しているかに関係なく、それ自体の車輪のブロッキングを回避する為に該車輪に適用される制動BRのモードを適合することを可能にするABS機能を備えている。他の例において、代替的には、又は追加的に、該夫々の車輪速度指示S22a、S22b、S22c、S22dは、該ゲートウェイ40a、40b、40c、40dを介して中央コントローラ50に送信される。
【0060】
図3は、該電動ブレーキシステム200の構成要素に電力を供給する冗長な電力線PL1、PL2を有する電源60を更に示す。
【0061】
好ましくは、中央コントローラ50はASIL-Dに分類される。例えば、中央コントローラ50は、デュアルコア・ロックステップ・プロセッサを備える。典型的に、中央コントローラ50を参照して本明細書に記載されているユニット及びモジュールは、ハードウェア構成要素及び/又はソフトウェア構成要素として実装されることができる。機能は別々のブロックとして描かれるが、それらのブロック又は機能は、統合される、更に下位分割される、又は省略されることもできる(例えば、各自の機能が厳密には必要でない為)。また、他の変形例が、本教示の利益を有する当業者に明らかとなろう。
【0062】
図4A、
図4Bは、作動機構12及びアクチュエータコントローラ14を備える自動車アクチュエータ10の例を示す。
図4Bにより詳細に示されているように、該作動機構12は、ある量の力又はトルクF10を施与する為の作動されたデバイス121と、伝達装置123を介して作動されたデバイス121に動作可能に接続された電動モータ122とを備える。
【0063】
該自動車アクチュエータ10がブレーキアクチュエータである実施態様の例において、作動されたデバイス121は、該車両車輪20のブレーキ本体に当たって制動する為の摩擦ブレーキライニングである。該ブレーキ本体は、典型的にブレーキディスク又はブレーキドラムである。該作動機構12は、典型的に、電動モータ122と、該電動モータ122の回転駆動運動を、該ブレーキ本体に該摩擦ブレーキライニング121を押し当てる為の並進運動に変換する回転-並進変換歯車の形態の伝達装置123と、を有する。ウォームギア、例えばスピンドルギア又はローラーウォーム駆動装置、が回転-並進変換歯車としてよく使用される。また、例えば枢動可能カムを用いて回転運動を並進運動に変換することも可能である。例えば遊星歯車の形態の、ステップダウンギアが、しばしば該電動モータ122と該回転-並進変換歯車との間に置かれる。自動ブーストする電動機械車両ブレーキは自動ブースタを有し、これは、ブレーキを掛ける為に該ブレーキ本体に押し当てられる摩擦ブレーキライニング121に対して回転するブレーキ本体によって及ぼされる摩擦力を接触圧力に変換し、該接触圧力が、該作動デバイスによって及ぼされる接触圧力に加えて、該摩擦ブレーキライニングを該ブレーキ本体に押し当てる。ウエッジ機構、ランプ機構、及びレバー機構が、自動ブーストの為に好適である。
【0064】
該アクチュエータコントローラ14は、通常動作モード及び予備動作モードのうちの少なくとも1つから該アクチュエータコントローラ14の動作モードを選択するように構成されるモード制御回路141と、受信した信号に基づいて該電動モータ122に動力信号Spを与えるように構成される主回路142、143と、を備えている。
【0065】
該アクチュエータコントローラ14は、アクチュエーションインテント信号Si及びネットワークからのアクチュエータ制御信号Saを受信するように構成され、該アクチュエータ制御信号Saは、正常な状況において短い時間間隔内に該アクチュエーションインテント信号Siの後に続く。該通常動作モードにおいて、該主回路142、143は、該アクチュエータ制御信号Saに基づいて該電動モータ122に動力信号Spを与えるように構成される。
【0066】
しかしながら、該モード制御回路141が該予備動作モードBを選択する場合、該主回路142は、代わりに、受信したアクチュエーションインテント信号Siに基づいて該動力信号Spを与えるように構成される。特に、該予備動作モードBにおいて、該自動車アクチュエータ10はマスターコントローラの役割を引き受け、その場合、該主回路142は、別の自動車アクチュエータを制御する為に、該受信したアクチュエーションインテント信号Siに基づいて少なくとも1つの予備アクチュエータ制御信号Sb、Sc、Sdを送信するように更に構成される。
【0067】
該モード制御回路141は、通常は該アクチュエータ制御信号Saを提供する中央コントローラ50が機能していないと判定する場合、該予備動作モードBを選択するように構成される。1つの例において、それは、中央コントローラ50のハートビートを監視し、該ハートビートが無いとき中央コントローラ50が機能していないと判定するように構成される。別の例において、それは、外部のモード制御信号に応答する。やはり別の例において、それは、アクチュエーションインテント信号Siを受信した瞬間と対応するアクチュエータ制御信号Saとの間の遅延又はタイムアウトを監視し、該対応するアクチュエータ制御信号Saが所定の時間制限内に受信されない場合、該予備動作モードBを選択する。
【0068】
1つの例において、該アクチュエーションインテント信号Si及び該アクチュエータ制御信号Saは、ラベル付きメッセージとして送信され、該アクチュエータ制御信号Saのラベルは、特定のアクチュエーションインテント信号Siとの対応を示す。別の例において、タイミング規約が使用され、そこでは、アクチュエーションインテント信号Siと、対応するアクチュエータ制御信号Saとの間の時間間隔Tiaが、互いの後に続くアクチュエーションインテント信号Si間の時間間隔Taaよりも短いことが必要とされる。
【0069】
図4Aに示されている該実施態様において、該主回路は、実際に該モータ122に該動力信号Spを与える主アクチュエータドライバ143と、該主アクチュエータドライバ143を制御する主アクチュエータドライバ制御ユニット142とを備えている。また、予備アクチュエータドライバ制御ユニット142B及び予備アクチュエータドライバ143Bが、後者の障害が起きた場合の主要構成要素の為の予備として設けられる。ABSユニット145は、車輪速度センサ22からの車輪速度信号S22に応答する。必要な場合、それは、該アクチュエータドライバ制御ユニット142又は該予備アクチュエータドライバ制御ユニット142Bに制御信号を与えて、該車輪20が停止するのを回避する為の力F10の適切な変調を可能にする。該車輪速度信号S22は、正常な動作中には、中央コントローラ50によって使用する為に該ネットワークにも送信される。
【0070】
代替の実施態様において、該アクチュエータ10は、中央コントローラ50が機能していないと判定する場合に該アクチュエーションインテント信号Siに自律的に応答することが可能であるが、予備アクチュエータ制御信号Sb、Sc、Sdを送信するようには構成されない。
図1、
図2に示されている例示的な車両運動制御システム100及び/又は
図3に示されている車両運動制御システム200において、該アクチュエータのうちの1つ、例えば10a、が、
図4A、
図4Bに示されているアクチュエータとして設けられ、残りのアクチュエータ10b、10c、及び10dは、この代替実施態様に従って設けられる。その場合、該車両運動制御システム100又は200は、二次予備動作モードを有する。該通常動作モードにおいて、全ての自動車アクチュエータ10a、10b、10c、10dが、中央コントローラ50によって送信される各自の夫々のアクチュエータ制御信号Sa、Sb、Sc、Sdに応答する。中央コントローラ50が機能していないと判定される場合、該予備動作モードBが取られ、そこでは該自動車アクチュエータ10aが該マスターコントローラに指定される。該自動車アクチュエータ10aに障害が発生した場合、該二次予備動作モードが取られ、そこでは、他の自動車アクチュエータ10が、自律的に該運動制御インテント信号Siに応答する。
【0071】
1つの例として、本教示に従う該車両運動制御システムが、本明細書のブレーキ制御システムの実施態様に例示されている。当業者の読者には、様々な他の実施態様が考えられることが明らかであろう。例えば別の実施態様において、該運動制御システムは、該車両を操舵する為の操舵システムとして構成され、該夫々の運動制御アクチュエータは、各自の車輪の運動を制御する為にそれ自体の車輪の向きを制御する夫々の操舵アクチュエータである。更なる例として、該運動制御システムは、該車両の速度を制御する為の速度制御システムとして構成され、該夫々の運動制御アクチュエータは、各自の車輪の回転速度を制御する為にそれ自体の車輪にトルクを施与する夫々の動力アクチュエータである。該中央コントローラは、該動力アクチュエータの動作を連係させる為にその中に設けられ、該運動制御インテント信号は、加速/減速インテント信号である。これらの実施態様の各々において、該運動制御アクチュエータのうちの少なくとも1つは、中央コントローラ50が機能していないと判定される場合に、該中央コントローラの予備としてマスターコントローラの役割を引き受けることが可能である。
【0072】
添付の特許請求の範囲を解釈する際、単語「~を備えている」は、所与の請求項に列挙される以外の他の要素や動作の存在を排除しないこと、要素の前にある語「1つ」(a)又は「1つ」(an)は、複数のそのような要素の存在を排除しないこと、請求項中の参照符号は、その範囲を制限しないこと、幾つかの「手段」が、同じ若しくは異なる項目によって表される、又は構造若しくは機能によって実施されうること、特に別のように述べられない限り、開示されている装置又はその部分の任意のものが、互いと組み合わせられる、又は更なる部分に分離されうることが理解されるべきである。1つの請求項が別の請求項を参照する場合、これは、各自の特徴の組み合わせによって実現される相乗的な利点を示しうる。しかし、特定の手段が相互に異なる請求項に記載されているという単なる事実は、それらの手段の組み合わせも有利に使用されることができないことを意味しない。よって、本実施態様は請求項の全ての有効な組み合わせを包含し得、文脈によって明らかに排除されない限り、各請求項は原則として、いずれの先行する請求項をも参照することができる。
【符号の説明】
【0073】
B:予備動作モード
N:通常動作モード
BR:制動力(Braking Force)
F10:アクチュエータによって発揮される力又はトルク
Ca1、Cb1、Cc1、Cd1:一次CAN接続
Ca2、Cb2、Cc2、Cd2:二次CAN接続
Ma1、Mb1、Mc1、Md1:一次イーサネット接続
Ma2、Mb2、Mc2、Md2:二次イーサネット接続
PL1、PL2:電力線
Si:運動制御インテント信号
Sa、Sb、Sc、Sd:アクチュエータ制御信号
Sp:動力信号
S22、S22a、S22b、S22c、S22d:車輪速度信号
9:運動制御管理システム
10:自動車用アクチュエータ
10a、10b、10c、10d:特定のアクチュエータ
12:作動機構
14:アクチュエータコントローラ
20:車輪
20a、20b、20c、20d:特定の車輪
22:車輪速度センサ
30:ネットワーク
40a、40b、40c、40d:ゲートウェイ
50:中央コントローラ
60:電源
100:車両運動制御システム(実施態様I)
121:作動されたデバイス
122:電動モータ
123:伝達装置
141:モード制御回路
142、142B:主アクチュエータドライバ制御ユニット、予備アクチュエータドライバ制御ユニット
143、143B:主アクチュエータドライバ回路、予備アクチュエータドライバ回路
145:ABSユニット
200:車両運動制御システム(実施態様II)
【国際調査報告】