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特表2024-508753製造及び療法への使用のために改変されたDNASE1-LIKE2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-28
(54)【発明の名称】製造及び療法への使用のために改変されたDNASE1-LIKE2
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20240220BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240220BHJP
   C07K 14/76 20060101ALI20240220BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20240220BHJP
   C12N 9/16 20060101ALI20240220BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20240220BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240220BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240220BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240220BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240220BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240220BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20240220BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20240220BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20240220BHJP
   A61K 47/65 20170101ALI20240220BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240220BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20240220BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20240220BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240220BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20240220BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20240220BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240220BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20240220BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240220BHJP
   A61P 31/02 20060101ALI20240220BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240220BHJP
   A61P 27/04 20060101ALI20240220BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20240220BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240220BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20240220BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20240220BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20240220BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20240220BHJP
   A61P 17/04 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
C12N15/12
C07K19/00 ZNA
C07K14/76
C12N15/55
C12N9/16 Z
C12P21/02 C
C12N1/19
C12N1/21
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
A61P43/00 111
A61K47/60
A61K38/46
A61K47/64
A61K47/65
A61P11/00
A61P11/02
A61P43/00 105
A61P31/00
A61P17/00
A61P17/06
A61P17/02
A61P29/00
A61P37/08
A61P31/04
A61P31/02
A61P27/02
A61P27/04
A61P27/16
A61K9/08
A61K9/06
A61K9/107
A61K9/12
A61K9/72
A61P17/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023549596
(86)(22)【出願日】2022-02-17
(85)【翻訳文提出日】2023-10-06
(86)【国際出願番号】 US2022016771
(87)【国際公開番号】W WO2022178110
(87)【国際公開日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】63/150,433
(32)【優先日】2021-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520055939
【氏名又は名称】ニュートロリス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フックス トビアス エー.
(72)【発明者】
【氏名】プラサンナ アンジェリン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B064CA21
4B064CC24
4B064DA01
4B065AB10
4B065CA60
4C076AA06
4C076AA09
4C076AA11
4C076AA12
4C076AA17
4C076AA24
4C076AA25
4C076AA27
4C076AA93
4C076AA94
4C076BB22
4C076BB24
4C076BB25
4C076BB27
4C076BB31
4C076CC10
4C076CC15
4C076CC18
4C076CC19
4C076CC20
4C076CC29
4C076CC41
4C076EE23
4C076EE23M
4C076EE41
4C076EE59
4C076EE59M
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084BA37
4C084BA41
4C084BA42
4C084CA18
4C084CA53
4C084CA56
4C084DC22
4C084MA13
4C084MA16
4C084MA17
4C084MA22
4C084MA28
4C084MA56
4C084MA57
4C084MA58
4C084MA59
4C084MA63
4C084NA12
4C084NA14
4C084ZA331
4C084ZA332
4C084ZA341
4C084ZA342
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZB111
4C084ZB112
4C084ZB131
4C084ZB132
4C084ZB211
4C084ZB212
4C084ZB311
4C084ZB312
4C084ZB351
4C084ZC191
4C084ZC192
4H045AA10
4H045DA70
4H045DA89
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、プロリンリッチドメイン(PRD)を欠き、及び/又はC末端Arg残基を欠くD1L2酵素を提供し、このD1L2酵素は、ピキア・パストリス等の微生物発現系において効率的に産生され、クロマチンを酸性pHで分解する高い活性を有する。本開示は、D1L2酵素を作製する方法及びD1L2酵素を療法に使用する方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞外DNA分解、細胞外クロマチン分解、細胞外トラップ(ET)分解及び/又は好中球細胞外トラップ(NET)分解を必要とする被験体を治療する方法であって、配列番号3によって定義されるプロリンリッチドメイン(PRD)を実質的に欠き、及び/又はC末端アルギニン残基を欠くDNASE1L2(D1L2)酵素を治療有効量投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記D1L2酵素がPRDを実質的に欠く、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記D1L2酵素がC末端アルギニン残基を欠く、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記D1L2酵素がPRDを実質的に欠き、C末端アルギニン残基を欠く、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記D1L2酵素がPEG化されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記D1L2酵素が1つ以上のシステインでPEG化されている、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記D1L2酵素が第一級アミンでPEG化されている、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記D1L2がN末端又はC末端で担体タンパク質に融合している、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記担体タンパク質がアルブミンアミノ酸配列である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記アルブミンアミノ酸配列が、任意にペプチドリンカーを介してD1L2のN末端に融合している、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記被験体が酸性環境において細胞外DNA、細胞外クロマチン、細胞外トラップ(ET)及び/又は好中球細胞外トラップ(NET)を蓄積している、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記D1L2酵素を、6.5未満のpHを有するか、又は約5.5以下のpHを有するか、又は約5.0以下のpHを有する組織環境に適用する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記被験体が肺の適応症を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記被験体が嚢胞性線維症、肺炎、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺損傷(ALI)、輸血誘発肺損傷(TRALI)、喘息、慢性閉塞性肺障害(COPD)、肺線維症又は肺感染症を有し、前記D1L2を肺に投与する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記被験体が皮膚病態を有し、前記D1L2を該被験体の皮膚に投与する、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記D1L2を不全角化病変に適用する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記被験体が乾癬、皮膚炎、表皮水疱症又はアレルギー反応を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記被験体が尋常性座瘡を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記被験体がスタフィロコッカス・アウレウスの異常増殖を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記D1L2を治癒の遅い創傷に適用する、請求項11に記載の方法。
【請求項21】
前記創傷が慢性創傷であり、任意に糖尿病性潰瘍、切断創、又は皮膚移植片若しくは組織移植片である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記創傷が熱傷である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記D1L2酵素を前記被験体の眼に適用し、眼の炎症又は感染を治療又は予防する、請求項11に記載の方法。
【請求項24】
前記被験体がドライアイ疾患を有する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記被験体がアレルギー性、細菌性又はウイルス性の結膜炎を有する、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記D1L2酵素を前記被験体の耳に適用し、耳の炎症又は感染を治療又は予防する、請求項11に記載の方法。
【請求項27】
前記被験体が中耳炎を有する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記D1L2酵素を前記被験体の鼻又は副鼻腔に適用し、鼻腔又は副鼻腔の炎症又は感染を治療又は予防する、請求項11に記載の方法。
【請求項29】
前記D1L2酵素が、配列番号5又は配列番号7によって定義される酵素に対して少なくとも約80%の配列同一性、又は少なくとも約85%、少なくとも約90%、若しくは少なくとも約95%、若しくは少なくとも約97%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記D1L2酵素が配列番号7のアミノ酸配列を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記D1L2酵素が非哺乳動物発現系、任意にピキア・パストリス等の酵母発現系である非哺乳動物発現系において産生される、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
組換えD1L2酵素を作製する方法であって、配列番号8によって定義されるプロリンリッチドメイン(PRD)を実質的に欠き、及び/又はC末端アルギニンを欠き、シグナルペプチドを含むD1L2酵素をコードする非哺乳動物発現宿主細胞を培養することと、前記D1L2酵素を培養培地から回収することとを含む、方法。
【請求項33】
前記発現宿主細胞が真核細胞であり、任意に酵母細胞、昆虫細胞及び植物細胞から選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記発現宿主細胞が酵母細胞であり、任意にピキア・パストリス、サッカロミセス・セレビシエ及びヤロウィア・リポリティカから選択される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記発現宿主細胞が細菌宿主細胞であり、任意にエシェリキア・コリである、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
前記D1L2酵素がPRD(配列番号8)の少なくとも約10アミノ酸を欠く、請求項32~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記D1L2酵素がPRD(配列番号8)の少なくとも約15アミノ酸を欠く、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記D1L2酵素がPRD(配列番号8)の少なくとも約18アミノ酸を欠く、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記D1L2酵素がPRD(配列番号8)を完全に欠く、請求項36に記載の方法。
【請求項40】
前記D1L2酵素が、配列番号5又は配列番号7によって定義される酵素に対して少なくとも約80%の配列同一性、又は少なくとも約85%の配列同一性、又は少なくとも約90%の配列同一性、又は少なくとも約95%の配列同一性、又は少なくとも約97%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項32~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記D1L2酵素が配列番号7のアミノ酸配列を含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記シグナルペプチドが野生型ヒトDNアーゼに由来する、請求項32~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記ヒト野生型DNアーゼがD1、D1L1、D1L2又はD1L3である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記シグナルペプチドがヒトDNアーゼ酵素の非ネイティブシグナルペプチドであり、任意にα接合因子又はヒトアルブミン分泌シグナルペプチドである、請求項32~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記D1L2がN末端又はC末端で担体タンパク質に融合している、請求項32~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記担体タンパク質がアルブミンアミノ酸配列である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記アルブミンアミノ酸配列が、任意にペプチドリンカーを介してD1L2のN末端に融合している、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
発現により、少なくとも1000Lのバッチ発酵培養において少なくとも約100mg/Lの前記D1L2酵素が得られる、請求項32~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
発現により、少なくとも1000Lのバッチ発酵培養において少なくとも約250mg/Lの前記D1L2酵素が得られる、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記組換えD1L2酵素がグリコシル化されていない、請求項32~49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記D1L2酵素をPEG化することを更に含む、請求項48~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記D1L2酵素が1つ以上のシステインでPEG化されている、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記D1L2酵素が第一級アミンでPEG化されている、請求項51に記載の方法。
【請求項54】
請求項32~53のいずれか一項に記載の方法に従って作製される組換えD1L2酵素。
【請求項55】
請求項54に記載のD1L2酵素をコードするポリヌクレオチドであって、非哺乳動物発現系、任意にピキア・パストリスである非哺乳動物発現系における発現のためにコドン最適化されている、ポリヌクレオチド。
【請求項56】
プラスミドベクターを含む、請求項55に記載のポリヌクレオチド。
【請求項57】
請求項56に記載のベクターを含み、前記D1L2酵素を発現する、非哺乳動物宿主細胞。
【請求項58】
局所投与又は局部投与のための医薬組成物であって、
有効量の請求項54に記載の組換えD1L2酵素、又は配列番号3のPRDを実質的に欠き、及び/又はC末端アルギニン残基を欠くD1L2酵素と、
薬学的に許容可能な担体と、
を含む、医薬組成物。
【請求項59】
前記D1L2酵素が、配列番号7によって定義される酵素に対して少なくとも約80%の配列同一性、又は少なくとも約85%の配列同一性、又は少なくとも約90%の配列同一性、又は少なくとも約95%の配列同一性、又は少なくとも約97%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項58に記載の医薬組成物。
【請求項60】
前記D1L2酵素が配列番号3のPRDを欠き、C末端アルギニン残基を欠く、請求項59に記載の医薬組成物。
【請求項61】
前記D1L2酵素が配列番号7のアミノ酸配列を含む、請求項60に記載の医薬組成物。
【請求項62】
前記組換えD1L2酵素がグリコシル化されていない、請求項58~61のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項63】
前記D1L2酵素がPEG化されている、請求項62に記載の医薬組成物。
【請求項64】
前記D1L2酵素が1つ以上のシステインでPEG化されている、請求項63に記載の医薬組成物。
【請求項65】
前記D1L2酵素が第一級アミンでPEG化されている、請求項63に記載の医薬組成物。
【請求項66】
前記D1L2酵素がN末端又はC末端で担体タンパク質に融合している、請求項58~65のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項67】
前記担体タンパク質がアルブミンアミノ酸配列である、請求項66に記載の医薬組成物。
【請求項68】
前記アルブミンアミノ酸配列が、任意にペプチドリンカーを介してD1L2のN末端に融合している、請求項67に記載の医薬組成物。
【請求項69】
局所投与のために配合される、請求項58~68のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項70】
クリーム、ローション、ゲル、フォーム、スプレー、軟膏、洗口液、石鹸又はシャンプーである、請求項69に記載の医薬組成物。
【請求項71】
眼、耳、鼻腔又は副鼻腔、及び口腔の1つ以上への投与のために配合される、請求項69に記載の医薬組成物。
【請求項72】
肺送達のために配合される、請求項58~68のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項73】
粉末エアロゾル若しくは溶液エアロゾルであるか、又はネブライザーによる送達のために配合される、請求項72に記載の医薬組成物。
【請求項74】
皮膚の感染及び/又は炎症を治療又は予防する方法であって、請求項58~70のいずれか一項に記載の医薬組成物を被験体の皮膚の患部に投与することを含む、方法。
【請求項75】
前記患部が不全角化病変を含む、請求項74に記載の方法。
【請求項76】
前記被験体が乾癬、皮膚炎、表皮水疱症又はアレルギー反応を有する、請求項44又は75に記載の方法。
【請求項77】
前記被験体が尋常性座瘡を有する、請求項74に記載の方法。
【請求項78】
前記被験体がスタフィロコッカス・アウレウスの異常増殖を有する、請求項44に記載の方法。
【請求項79】
創傷治癒を促進する方法であって、請求項44に記載の医薬組成物を被験体の創傷に投与することを含む、方法。
【請求項80】
前記創傷が慢性創傷であり、任意に糖尿病性潰瘍、切断創、又は皮膚移植片若しくは組織移植片である、請求項79に記載の方法。
【請求項81】
前記創傷が熱傷である、請求項79に記載の方法。
【請求項82】
被験体の眼の炎症又は感染を治療又は予防する方法であって、請求項71に記載の組成物を、それを必要とする被験体に投与することを含み、該組成物が点眼剤又は洗眼剤として配合される、方法。
【請求項83】
前記被験体がドライアイ疾患を有する、請求項82に記載の方法。
【請求項84】
前記被験体がアレルギー性、細菌性又はウイルス性の結膜炎を有する、請求項82に記載の方法。
【請求項85】
被験体の耳の炎症又は感染を治療又は予防する方法であって、請求項71に記載の組成物を、それを必要とする被験体に投与することを含み、該組成物が点耳剤として配合される、方法。
【請求項86】
前記被験体が中耳炎を有する、請求項85に記載の方法。
【請求項87】
被験体の鼻腔又は副鼻腔の炎症又は感染を治療又は予防する方法であって、請求項71に記載の組成物を、それを必要とする被験体に投与することを含み、該組成物が鼻腔用スプレーとして配合される、方法。
【請求項88】
前記被験体が副鼻腔感染症を有する、請求項87に記載の方法。
【請求項89】
患者の肺の炎症又は感染を治療又は予防する方法であって、請求項72又は73に記載の組成物を、それを必要とする被験体に投与することを含む、方法。
【請求項90】
前記被験体が嚢胞性線維症、肺炎、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺損傷(ALI)、輸血誘発肺損傷(TRALI)、喘息、慢性閉塞性肺障害(COPD)、肺線維症又は肺感染症を有する、請求項89に記載の方法。
【請求項91】
前記被験体が慢性又は再発性の肺感染症を有する、請求項99に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権
本出願は、2021年2月17日に出願された米国仮特許出願第63/150,433号の利益及び優先権を主張し、この内容全体を引用することによって本明細書の一部をなす。
【背景技術】
【0002】
炎症は侵入微生物を制御し、損傷組織を治癒するために不可欠な宿主反応である。無制御の持続的な炎症は、多くの炎症性障害において組織傷害を引き起こす。好中球は、急性炎症における主要な白血球である。感染時に、好中球は、細菌を固定化し、無力化する毒性のヒストン及び酵素で装飾されたDNAフィラメントの格子である好中球細胞外トラップ(NET)を生成する。しかしながら、過剰なNET形成は細胞傷害活性、炎症促進活性、血栓形成促進活性及び腫瘍形成促進活性により宿主細胞に害を及ぼす恐れがある。
【0003】
DNASE1-LIKE2(本明細書においてDNASE1L2又はD1L2とも称される)は、細胞外DNAを分解し得る分泌型エンドヌクレアーゼ酵素の相同群であるDNASE1タンパク質ファミリーに属する。D1L2は、哺乳動物において唯一の二価カチオン依存性酸性DNアーゼである。このため、D1L2は、生理学的及び治療的に重要な可能性がある独自の特徴を有する。D1L2は、例えば細胞外DNAを分解することにより、様々な組織の炎症状態又は感染を治療又は制御するのに望ましい酵素特性を有し得るが、D1L2は、従来の組換え系を用いた製造に適しているとは記載されていない。
【0004】
したがって、本発明は、製造及び療法のために改良された組換えD1L2酵素、並びに組換えD1L2酵素を作製する方法、及び組換えD1L2酵素を療法に使用する方法を提供する。本開示では、組換えD1L2酵素が、特に酸性pHで高いクロマチン分解活性を有することを実証する。
【発明の概要】
【0005】
本開示は、プロリンリッチドメイン(PRD)を欠き、及び/又はC末端Arg残基を欠くD1L2酵素が、微生物発現系において効率的に産生され、クロマチンを酸性pHで分解する高い活性を有するという発見に一部基づく。
【0006】
一態様において、本開示は、PRDドメインを欠き、及び/又はD1L2アイソフォーム1及びアイソフォーム2に天然で存在するC末端アルギニンを欠く組換えD1L2酵素を提供する。本態様によるD1L2酵素は、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)等の非哺乳動物発現系におけるものを含めて、高い組み換え発現特性を有する。したがって、本開示の態様において、PRD及び/又はC末端アルギニンを欠く組換えD1L2酵素を作製する方法が提供される。この方法は、D1L2酵素をコードする非哺乳動物宿主細胞を培養することと、酵素を培養物から回収することとを含む。本開示に従う例示的なD1L2酵素は、配列番号7によって表される。
【0007】
様々な実施の形態において、発現系で発現されるD1L2遺伝子は、野生型ヒトDNアーゼに対して本質的にネイティブのシグナルペプチドをコードする。幾つかの実施の形態において、シグナルペプチドはヒトD1(配列番号13)、D1L2(配列番号8)、D1L1(配列番号14)又はD1L3(配列番号15)に由来する。幾つかの実施の形態において、シグナルペプチドは、非哺乳動物発現系の宿主細胞からの分泌に適した非ネイティブ(D1L2酵素に対して)のシグナルペプチドである。例示的な非ネイティブシグナルペプチドは、例えばピキア・パストリス等の酵母発現系とともに使用され得るα-接合因子(配列番号9)である。
【0008】
幾つかの実施の形態において、D1L2酵素は、任意にアミノ酸リンカーによって担体タンパク質に融合する。担体タンパク質は、アルブミンアミノ酸配列であり得る。担体タンパク質へのかかる融合は、組み換え発現のみならず、in vivo持続性において利益をもたらすことができる。
【0009】
本開示に従う様々な実施の形態において、組換えD1L2酵素は、グリコシル化されていない。様々な実施の形態において、本開示に従って作製されるD1L2酵素は、実質的に非免疫原性である。
【0010】
幾つかの実施の形態において、D1L2酵素は、局所投与組成物又は局部投与組成物を用いる療法を含む療法に適した物理的特性、薬力学特性及び/又は酵素特性を有するように改変される。様々な実施の形態において、改変されたD1L2酵素は、D1L2アイソフォーム1(配列番号1又は配列番号4によって定義される)と比べて、同じか又はより高い無タンパク質DNA(裸のDNA)分解活性、同じか又はより高い染色体DNA(クロマチン)分解活性、同様の又は改善されたプロテアーゼ耐性、及び非哺乳動物発現系(ピキア・パストリス等)でのより高い産生レベルを有し得る。
【0011】
様々な実施の形態において、D1L2酵素は、1つ以上のポリエチレングリコール(PEG)部分又は他のコンジュゲート(例えば、脂肪酸又はアシル基)を含む。幾つかの実施の形態において、1つ以上のPEG化アミノ酸はリジン、システイン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、トレオニン及びチロシンから選択される。幾つかの実施の形態において、PEG化に適した1つ以上のアミノ酸は、D1L2(例えば配列番号7)中の1つ以上のアミノ酸の置換によって導入される。幾つかの実施の形態において、1つ以上のPEG化アミノ酸はシステイン(Cys又はC)であり、PEG化はチオールコンジュゲーションによって行われる。幾つかの実施の形態において、NHS-PEG試薬を用いて、D1L2中の第一級アミンをPEG化することができる。
【0012】
本開示によると、D1L2酵素は、非哺乳動物発現系における発現のためにコドン最適化され得るポリヌクレオチドによってコードされる。幾つかの実施の形態において、ポリヌクレオチドはプラスミドベクターを含む。様々な実施の形態において、プラスミドベクターは、宿主細胞において機能的な発現制御領域に操作可能に連結された、本明細書に記載のD1L2酵素又は変異体をコードする核酸を含む。発現制御領域は、発現ベクターで形質転換された細胞において酵素が産生されるように、操作可能に連結されたコード核酸の発現を駆動することが可能である。他の態様において、本開示は、本明細書に記載のD1L2酵素をコードする発現ベクターを含む非哺乳動物発現細胞(「宿主細胞」)を提供する。幾つかの実施の形態において、細胞はピキア・パストリス等の酵母細胞である。
【0013】
更に他の態様において、本開示は、局所投与又は局部投与のための医薬組成物を提供する。この組成物は、本明細書に記載されるか、又は本開示に従って作製される組換えD1L2酵素と、薬学的に許容可能な担体とを含む。
【0014】
幾つかの実施の形態において、医薬組成物はクリーム、ローション、ゲル、溶液、フォーム、スプレー、軟膏、洗口液、シャンプー又は石鹸等の局所投与のために配合される。幾つかの実施の形態において、医薬組成物は、酸性環境及び/又はバイオフィルムを有する組織の局部治療又は局所治療のためのものである。例えば、酸性環境は約6.0以下、約5.5以下、又は約5.0以下、又は約4.5以下、又は約4.0以下のpHを有し得る。幾つかの実施の形態において、組成物は、健康な皮膚及び皮膚の魅力的な外観を維持するためのスキンケア組成物である。これらの実施の形態において、組成物は、皮膚の感染及び/又は炎症を治療又は予防する方法に有用である。局所用組成物を用いる幾つかの実施の形態において、被験体は皮膚、毛髪又は爪の外観又は健康に影響を及ぼす病態を有し得る。幾つかの実施の形態において、被験体は乾癬、皮膚炎、表皮水疱症又はアレルギー反応(例えば、蕁麻疹又は発疹を含む)等の病態を有する。幾つかの実施の形態において、被験体は、乾皮症等の乾燥皮膚を有する。幾つかの実施の形態において、被験体は尋常性座瘡を有する。更に他の実施の形態において、被験体の皮膚は、アトピー性皮膚炎と関連することがあるスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)の異常増殖によって特徴付けられ得る。幾つかの実施の形態において、被験体は乾癬を有し、組成物は乾癬病変に適用される。
【0015】
更に他の実施の形態において、組成物は眼、耳、鼻腔又は副鼻腔、及び口腔の1つ以上への投与のために配合される。これらの実施の形態による組成物は、例えば組成物が点眼剤又は洗眼剤(眼瞼洗浄剤を含む)として配合される、被験体の眼の炎症又は感染を治療又は予防する方法に有用であり得る。幾つかの実施の形態において、被験体はドライアイ疾患を有し得るか、又はアレルギー性、細菌性若しくはウイルス性の結膜炎を有し得る。細菌性結膜炎は、バイオフィルム形成によって悪化することがある。幾つかの実施の形態において、被験体は、眼瞼炎又は関連病態(例えば霰粒腫)として現れることがある、眼の管の炎症を有する。更に他の実施の形態において、組成物は、例えば組成物が点耳剤として配合される、被験体の耳の炎症又は感染の治療又は予防に有用であり得る。更に他の実施の形態において、組成物は、例えば組成物が鼻腔用スプレーとして配合される、被験体の鼻腔又は副鼻腔の炎症又は感染を治療又は予防する方法に有用であり得る。幾つかの実施の形態において、被験体は副鼻腔感染症又は再発性副鼻腔感染症を有する。更に他の実施の形態において、被験体は、歯肉炎及び歯性膿瘍を含む口腔の感染又は炎症を有する。
【0016】
幾つかの実施の形態において、組成物は、核酸関連眼疾患を治療する方法に有用である。かかる疾患としては、ドライアイ疾患、層間角膜炎、コンタクトレンズ関連角膜炎、眼内炎、感染性結晶性角膜症、眼瘢痕性類天疱瘡(OCP)、乾性角結膜炎(KCS)、シェーグレン症候群(SS)、シェーグレン症候群関連乾性角結膜炎、非シェーグレン症候群関連乾性角結膜炎、乾燥角膜炎、乾燥症候群、眼球乾燥症、涙液膜障害、涙液産生減少、涙液欠乏症(ATD)及びマイボーム腺機能不全(MGD)が挙げられる。
【0017】
更に他の実施の形態において、組成物は、粉末又は溶液エアロゾル等の肺送達のために配合される。幾つかの実施の形態において、組成物は、ネブライザーによる送達のために配合される。様々な実施の形態において、組成物は、患者の肺の炎症又は感染を治療又は予防する方法に有用である。幾つかの実施の形態において、被験体は嚢胞性線維症、肺炎、気管支炎、喘息、下気道感染症、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺損傷(ALI)、輸血誘発(transfusion-induced)肺損傷(TRALI)又は慢性閉塞性肺疾患(COPD)を有する。幾つかの実施の形態において、被験体は肺線維症(例えば特発性肺線維症、すなわちIPF)を有する。更に他の実施の形態において、被験体は、慢性又は再発性の肺感染症を有する。
【0018】
嚢胞性線維症の場合、シュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)感染を根絶又は制御することは困難であり、これはバイオフィルムの形成に部分的に起因する。本開示に従うD1L2酵素を、例えばネブライザーによって投与することで、嚢胞性線維症患者におけるシュードモナス感染を制御し、抗生物質の過剰使用を幾らか軽減することが可能であり得る。様々な実施の形態において、本明細書で提供されるD1L2酵素は、CF肺分泌物においてPULMOZYME(ドルナーゼアルファ)よりも高い活性を有する。
【0019】
更に他の実施の形態において、患者は、微生物の定着及びバイオフィルム形成に有利に働く傾向がある留置医療機器を有することがある。幾つかの実施の形態において、D1L2酵素又はD1L2酵素を含む組成物は、バイオフィルム形成を回避又は低減するために機械的人工換気下の患者に投与される。
【0020】
本開示の他の態様及び実施形態は、以下の詳細な説明から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】ヒトDNASE1L2アイソフォーム1(DNASE1L2-L、配列番号1、Uniprot識別子:Q92874-1)及びヒトDNASE1L2アイソフォーム2(DNASE1L2-S;配列番号2、Uniprot識別子:Q92874-2)のアミノ酸配列アラインメントを示す図である。分泌シグナルペプチド(配列番号8)及びプロリンリッチドメイン(PRD、配列番号3)を強調表示する。配列定規はアミノ酸位置を示す。アイソフォーム1(配列番号4)及びアイソフォーム2(配列番号6)の成熟型が含まれる。
図2】プロリンリッチドメインの欠失がピキア・パストリスにおけるDNASE1L2発現を増加させることを示す図である。既知濃度のモック株マトリックスで希釈したウシ血清アルブミンに対するピーク面積によって算出した、3つの優良株の上清中の推定タンパク質濃度を示す。発現構築物には、(a)ネイティブシグナルペプチド(SP、配列番号8)を有するアイソフォーム1(配列番号4)、(b)α接合因子(aMF、配列番号9)を有するアイソフォーム1(配列番号4)、及び(c)α接合因子(aMF、配列番号9)を有するアイソフォーム2(配列番号6)が含まれる。
図3】精製したプロリンリッチドメイン欠失DNASE1L2(PRDD-DNASE1L2)が酸性pHでクロマチンを分解することを示す図である。高分子量クロマチンの供給源としての核を、3.5~7.5の範囲のpHレベルで精製PRDD-DNASE1L2とともにインキュベートした。高分子量から低分子量への分解が3.5~5.5の酸性pHで観察された。対照とした塩基性ドメイン欠失(BDD)-DNASE1L3は、6.5及び7.5の中性pHで分解を示した。
図4】Uniprotデータベースから抽出した異なる種のDNASE1L2アミノ酸配列のアラインメントを示す図である。このアラインメントにより、ヒト、チンパンジー及びヒヒに由来するDNASE1L2のみがC末端アルギニン残基を特徴とすることが示される。
図5】C末端アルギニン残基の欠失がピキア・パストリスにおけるDNASE1L2アイソフォーム2発現を増加させることを示す図である。既知濃度のモック株マトリックスで希釈したウシ血清アルブミンに対するピーク面積によって算出した、3つの優良株の上清中の推定タンパク質濃度を示す。発現構築物には、(a)アイソフォーム1(配列番号4)、(b)アイソフォーム2(配列番号6)、及び(c)新たな変異体(配列番号7)を生成する、C末端アルギニン残基を欠くアイソフォーム2(配列番号6のdel278R)が含まれる。全ての構築物に、α接合因子(aMF、配列番号9)を分泌シグナルペプチドとして用いた。
図6】N末端でのアルブミンとの融合体としてピキア・パストリスで発現されたD1L2(PRDD)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本開示は、プロリンリッチドメイン(PRD)を欠き、及び/又はC末端Arg残基を欠くD1L2酵素が、微生物株において効率的に産生され、クロマチンを酸性pHで分解する高い活性を有するという発見に一部基づく。
【0023】
DNASE1L2(又はD1L2)は、それぞれPRDの有無によって異なる配列番号1及び配列番号2の2つのアイソフォームで発現され、分泌される。アイソフォーム1は、ヒトの表皮、毛包及び爪母の最終分化ケラチノサイトで発現される。ヒトin vitro皮膚モデルにおけるD1L2のノックダウンでは、核DNAの分解が抑制され、不全角化として知られる状態である、角質層における核の保持が引き起こされた(Fischer H. et al., DNASE1L2 degrades nuclear DNA during corneocyte formation. J Invest Dermatol. 2007 Jan; 127(1):24-30)。乾癬等の皮膚疾患の不全角化病変は、D1L2発現の低下と関連する可能性がある。さらに、D1L2は、特にシュードモナス・エルジノーサ及びスタフィロコッカス・アウレウス等の病原体のバイオフィルム形成を抑制し得る(Eckhart L, et al., DNASE1L2 suppresses biofilm formation by Pseudomonas aeruginosa and Staphylococcus aureus. Br J. Dermatol. 2007 156(6):1342-5)。アイソフォーム2は、炎症状態下の白血球で発現されるが、その機能については特性評価が不十分である(Shiokawa et al. Characterization of the human DNASE1L2 gene and the molecular mechanism for its transcriptional activation induced by inflammatory cytokines. Genomics. 2004 84:95-105)。
【0024】
D1L2は、例えば細胞外DNAを分解することにより、様々な組織の炎症状態又は感染を治療又は制御する上で望ましい酵素特性を有し得るが、D1L2は、従来の組換え系を用いた製造に適しているとは記載されていない。したがって、本開示は、様々な態様及び実施形態において、組換えD1L2酵素、及び療法への使用を含む組換えD1L2酵素を作製する方法を提供する。様々な実施形態において、本発明は、酵母発現系(例えばピキア・パストリス)等の非哺乳動物発現系におけるD1L2酵素の高い発現を提供し、このD1L2酵素は、治療用途について強固な活性を有する。特に、このD1L2酵素は、酸性pH(例えば約6.0未満)で強固な活性を有する。
【0025】
一態様において、本開示は、組換えD1L2酵素を作製する方法を提供する。この方法は、配列番号3によって定義されるプロリンリッチドメイン(PRD)を実質的に欠くD1L2酵素をコードする非哺乳動物宿主細胞を培養することを含む。様々な実施形態において、宿主細胞によって産生されるD1L2は、細胞からの分泌を指示するシグナルペプチドを含み、これは概して分泌中に除去される。この方法は、D1L2酵素を培養培地から回収することを更に含む。
【0026】
ヒトD1L2-アイソフォーム1は、図1に示されるように、21アミノ酸のPRDを含む。このPRDの除去は(アイソフォーム2と同様に)、非哺乳動物発現系における発現を実質的に改善する。例示的な発現系としては、酵母発現系、及び昆虫細胞発現系又は植物細胞発現系等の真核生物発現系が挙げられる。例示的な非哺乳動物発現系は、ピキア・パストリスである。好適な非哺乳動物発現系としては、Sf9細胞及びバキュロウイルスベースのベクター等の昆虫細胞ベースの発現系、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactoccocus lactis)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)及びバチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)等の細菌発現系、アスペルギルス属種、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア・パストリス及びヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)等の酵母発現系及び糸状菌発現系、ニコチアナ・ベンサミアナ(Nicotiana benthamiana)及びニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)等の植物ベースの発現系が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、米国特許第10,385,319号、同第10,899,801号、同第10,287,555号、同第9,931,390号、同第9,879,280号、同第9,458,487号、同第8,535,930号、同第8,067,198号、同第7,229,792号、同第6,558,920号、同第5,637,477号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)を参照されたい。
【0027】
様々な実施形態において、D1L2酵素は、PRD(配列番号3)の少なくとも約10アミノ酸を欠く。幾つかの実施形態において、D1L2酵素は、PRD(配列番号3)の少なくとも約15アミノ酸若しくは少なくとも約18アミノ酸を欠くか、又はPRDを完全に欠く。幾つかの実施形態において、PRDは、対応する位置でアラインメントされる約8未満又は約5未満の同一アミノ酸のように、PRDに対して低いか又は最小限の相同性しか有しない代替配列に置き換えられる。幾つかの実施形態において、代替配列は約3個以下、又は約2個以下、又は1個以下のプロリン残基を有する。幾つかの実施形態において、欠失又は修飾されたPRDを有するD1L2酵素は、配列番号4(アイソフォーム1)又は配列番号6(アイソフォーム2)によって定義される酵素に対して少なくとも約80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態において、D1L2酵素は、配列番号4若しくは配列番号6によって定義される酵素に対して少なくとも約85%の配列同一性若しくは少なくとも約90%の配列同一性、又は配列番号4若しくは配列番号6によって定義される酵素に対して少なくとも約95%の配列同一性、又は配列番号4若しくは配列番号6によって定義される酵素に対して少なくとも約97%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0028】
幾つかの実施形態において、D1L2酵素は、配列番号6によって定義される酵素に対して少なくとも約85%の配列同一性若しくは少なくとも約90%の配列同一性、又は配列番号6によって定義される酵素に対して少なくとも約95%の配列同一性、又は配列番号6によって定義される酵素に対して少なくとも約97%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0029】
代替的又は付加的に、本開示は、D1L2アイソフォーム1及びアイソフォーム2に天然で存在するC末端アルギニンを欠く組換えD1L2酵素を提供する。本態様によるD1L2酵素は、ピキア・パストリス等の非哺乳動物発現系におけるものを含めて、高い組み換え発現特性を有する。したがって、本開示の態様において、C末端アルギニンを欠く組換えD1L2酵素を作製する方法が提供される。この方法は、C末端Arg残基を欠くD1L2酵素をコードする非哺乳動物宿主細胞を培養することを含む。C末端Arg残基を欠くD1L2酵素の非限定的な例は、配列番号5及び配列番号7である。幾つかの実施形態において、C末端Arg残基を欠くD1L2酵素は、配列番号5又は配列番号7によって定義される酵素に対して少なくとも約80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態において、C末端Arg残基を欠くD1L2酵素は、配列番号5若しくは配列番号7によって定義される酵素に対して少なくとも約85%の配列同一性若しくは少なくとも約90%の配列同一性、又は配列番号5若しくは配列番号7によって定義される酵素に対して少なくとも約95%の配列同一性、又は配列番号5若しくは配列番号7によって定義される酵素に対して少なくとも約97%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。様々な実施形態において、宿主細胞によって産生されるD1L2酵素は、細胞からの分泌を指示するシグナルペプチドを含み、これは概して分泌中に除去される。この方法は、D1L2酵素を培養培地から回収することを更に含む。
【0030】
幾つかの実施形態において、D1L2酵素は、C末端Argのトランケーションだけでなく、欠失又は修飾されたPRD(記載のとおり)を有する。実施形態において、プロリンリッチドメイン(PRD)を実質的に欠き、C末端Arg残基を欠くD1L2酵素は、配列番号7によって定義される酵素に対して少なくとも約80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態において、プロリンリッチドメイン(PRD)を実質的に欠き、C末端Arg残基を欠くD1L2は、配列番号7によって定義される酵素に対して少なくとも約85%の配列同一性若しくは少なくとも約90%の配列同一性、又は配列番号7によって定義される酵素に対して少なくとも約95%の配列同一性、又は配列番号7によって定義される酵素に対して少なくとも約97%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0031】
本明細書で使用される場合、DNアーゼ酵素間の配列同一性に言及する際に、特に明記しない限り、配列はシグナルペプチドを欠く成熟酵素を指す。さらに、特に明記しない限り、アミノ酸位置は、明確にするために、シグナルペプチドを含む完全翻訳DNアーゼ配列に対して番号付けされる。
【0032】
ヌクレオチド配列及びアミノ酸配列の類似性、すなわち配列同一性のパーセンテージは、当該技術分野で既知のように配列アラインメントによって決定することができる。かかるアラインメントは、幾つかの当該技術分野で既知のアルゴリズム、例えばKarlin及びAltschulの数学的アルゴリズム(Karlin & Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5873-5877)、hmmalign(HMMERパッケージ、http://hmmer.wustl.edu/)又はCLUSTALアルゴリズム(Thompson, J. D., Higgins, D. G. & Gibson, T. J. (1994) Nucleic Acids Res. 22, 4673-80)を用いて行うことができる。例示的なアルゴリズムは、Altschul et al (1990) J. Mol. Biol. 215: 403-410のBLASTNプログラム及びBLASTPプログラムに組み込まれる。BLASTプログラムを使用する場合、それぞれのプログラムのデフォルトパラメーターが使用される。
【0033】
様々な実施形態において、コードされるシグナルペプチドは、野生型ヒトDNアーゼに対して本質的にネイティブである。幾つかの実施形態において、シグナルペプチドはヒトD1(配列番号13)、D1L2(配列番号8)、D1L1(配列番号14)又はD1L3(配列番号15)に由来する。幾つかの実施形態において、非哺乳動物発現系からの産生又は分泌を増強するために野生型シグナル配列に対して1つ、2つ又は3つのアミノ酸置換がなされる。幾つかの実施形態において、シグナルペプチドは、非哺乳動物発現系の宿主細胞からの分泌に適した非ネイティブ(D1L2酵素に対して)のシグナルペプチドである。例示的な非ネイティブシグナルペプチドは、例えばピキア・パストリス等の酵母発現系とともに使用され得るα-接合因子(配列番号9)である。幾つかの実施形態において、D1L2酵素は、配列番号10に例示されるアルブミン分泌シグナルペプチドを用いて発現される。
【0034】
様々な実施形態において、非哺乳動物発現系(例えばピキア・パストリス)は、シグナルペプチドプロセシングを促進する1つ以上の遺伝子を同時発現又は過剰発現する。幾つかの実施形態において、遺伝子は、分泌タンパク質からシグナルペプチドを切断する活性を有するプロテアーゼをコードする。例示的なプロテアーゼはKEX2である。
【0035】
幾つかの実施形態において、D1L2酵素は、任意にアミノ酸リンカーによって担体タンパク質に融合される。担体タンパク質はポリペプチド、例えばアルブミン、トランスフェリン、Fcドメイン、XTEN(米国特許第8,492,530号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)を参照されたい)、又はエラスチン様タンパク質であり得る。例えば、米国特許第9,458,218号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)を参照されたい。かかる融合は、組み換え発現のみならず、in vivo持続性において利益をもたらすことができる。
【0036】
幾つかの実施形態において、担体タンパク質はアルブミンアミノ酸配列であり、アルブミンアミノ酸配列は、任意に介在リンカーを用いてD1L2のN末端に融合される。例示的なアルブミンアミノ酸配列は、配列番号11によって提供される。幾つかの実施形態において、融合タンパク質のアルブミンアミノ酸配列又はドメインは、配列番号11によって定義される参照アルブミン配列に対して少なくとも約75%、又は少なくとも約80%、又は少なくとも約85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有する。幾つかの実施形態において、アルブミンアミノ酸配列又はドメインは、配列番号11によって定義される参照アルブミン配列を含むか又はそれからなる。様々な実施形態において、アルブミンアミノ酸配列は、胎児性Fc受容体(FcRn)、例えばヒトFcRnに結合する。アルブミンアミノ酸配列は、野生型HSA(例えば、配列番号11によって表される)の変異体であってもよい。様々な実施形態において、アルブミン変異体は、配列番号11に対して、欠失、置換及び挿入から独立して選択される1個~20個又は1個~10個のアミノ酸修飾を有し得る。幾つかの実施形態において、アルブミンアミノ酸配列は、任意の哺乳動物アルブミンアミノ酸配列である。担体として機能する能力を増強する、アルブミン配列に対する様々な修飾が既知であり、かかる修飾を本発明とともに用いることができる。アルブミンアミノ酸配列に対する例示的な修飾は、米国特許第8,748,380号、米国特許第10,233,228号、米国特許第10,208,102号及び米国特許第10,501,524号(各々の全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されている。例示的な修飾としては、それらに記載されるE505Q、T527M及びK573Pの1つ以上(又は全て)が挙げられる。
【0037】
幾つかの実施形態において、アルブミンアミノ酸配列又はドメインは、配列番号11によって表されるような完全長アルブミンのフラグメントである。「フラグメント」という用語は、アルブミンの文脈で使用される場合、それが融合又はコンジュゲートしたD1L2酵素の発現を、対応する非融合D1L2と比べて改善する(例えば、ピキア・パストリスにおいて)、完全長アルブミン又はその変異体(上記のとおり)の任意のフラグメントを指す。幾つかの実施形態において、アルブミンのフラグメントは、ドメインI及びIII、並びにドメインII及びIII等のアルブミンの複数のドメインの融合(例えば、国際公開第2011/124718号を参照されたい)を含むアミノ酸配列を指すことがある。一般に、アルブミンのフラグメントは、完全長配列の少なくとも約100アミノ酸、又は少なくとも約200アミノ酸若しくは少なくとも約300アミノ酸を有する。様々な実施形態において、アルブミンフラグメントは、ヒトFcRnと結合する能力を維持する。
【0038】
幾つかの実施形態において、D1L2酵素は、ペプチドリンカーを介して担体ポリペプチド(アルブミンアミノ酸配列等)に融合される。ペプチドリンカーは可動性リンカー、剛性リンカー、又は幾つかの実施形態において、生理学的に切断可能なリンカー(例えば、プロテアーゼ切断可能なリンカー)であり得る。幾つかの実施形態において、リンカーは5アミノ酸長~100アミノ酸長であるか、又は5アミノ酸長~50アミノ酸長である。幾つかの実施形態において、リンカーは約10アミノ酸長~約35アミノ酸長、又は約15~約35アミノ酸である。幾つかの実施形態において、リンカーは、20~40アミノ酸の可動性リンカーである。可動性リンカーは、Gly及びSerアミノ酸残基を主に含む(又はそれからなる)ことができる。
【0039】
幾つかの実施形態において、D1L2酵素は、Fcドメインに融合される。例えば、国際公開第2005047334号、国際公開第2004074455号、米国特許出願公開第20070269449号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)を参照されたい。幾つかの実施形態において、ヒトFcドメインはIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4から選択される。幾つかの実施形態において、ヒトFcドメインは、ヒトIgG Fcドメインである。幾つかの実施形態において、Fcドメインは、少なくとも2つの重鎖定常領域ドメイン(CH2及びCH3)とヒンジ領域とを有する。Fcドメインは、D1L2酵素のN末端及び/又はC末端で、任意に介在リンカーを用いてD1L2に接合することができる。幾つかの実施形態において、D1L2酵素は、介在アミノ酸リンカーを用いて成熟D1L2酵素のN末端に融合したFcドメイン配列を含む。ペプチドリンカーは可動性リンカー、剛性リンカー、又は幾つかの実施形態において、生理学的に切断可能なリンカーであり得る。幾つかの実施形態において、D1L2酵素は、任意にリンカー(例えば可動性リンカー)を介してD1L2酵素のC末端に融合したFcドメイン配列を含む。
【0040】
可動性リンカーはGly、Ser及びThr等の小さな非極性又は極性残基から主に又は完全に構成される。例示的な可動性リンカーは、(GlySer)リンカーを含み、ここで、yは1~10(例えば1~5)であり、nは1~約10であり、zは0又は1である。幾つかの実施形態において、nは3~約8又は3~約6である。例示的な実施形態において、yは2~4であり、nは3~8である。これらのリンカーは、その可動性のために構造化されていない。より剛性のリンカーとしては、ポリプロリン又はポリPro-Alaモチーフ及びα-ヘリックスリンカーが挙げられる。例示的なα-ヘリックスリンカーはA(EAAAK)Aであり、ここで、nは上で定義したとおりである(例えば1~10又は3~6)。一般に、リンカーはGly、Ser、Thr、Ala及びProから選択されるアミノ酸から主に構成され得る。例示的なリンカー配列は、少なくとも10アミノ酸を含み、10~約50アミノ酸、又は約15~約40アミノ酸、又は約15~約35アミノ酸の範囲であってもよい。例示的なリンカー設計を配列番号12として提供する。
【0041】
幾つかの実施形態において、D1L2酵素はリンカーを含み、リンカーのアミノ酸配列は、主にグリシン及びセリン残基であるか、又はグリシン及びセリン残基から本質的になる。幾つかの実施形態において、リンカー中のSerとGlyとの比率は、それぞれ約1:1~約1:10、約1:2~約1:6、又は約1:4である。例示的なリンカー配列は、S(GGS)GSS、S(GGS)GSS、(GGS)GSSを含むか又はそれからなる。幾つかの実施形態において、リンカーは少なくとも10アミノ酸、又は少なくとも15アミノ酸、又は少なくとも20アミノ酸、又は少なくとも25アミノ酸、又は少なくとも30アミノ酸を有する。例えば、リンカーは、15~40アミノ酸の長さを有し得る。様々な実施形態において、少なくとも15アミノ酸のより長いリンカーは、ピキア・パストリスでの発現時に収率の改善をもたらすことができる。
【0042】
他の実施形態において、リンカーは、プロテアーゼ切断可能なリンカー等の生理学的に切断可能なリンカーである。例えば、プロテアーゼは、活性化第XII因子等の凝固経路プロテアーゼであり得る。幾つかの実施形態において、リンカーは、第XI因子及び/又はプレカリクレインのアミノ酸配列、又はその生理学的に切断可能なフラグメントを含む。他の実施形態において、リンカーは、好中球エラスターゼ、カテプシンG及びプロテイナーゼ3等の好中球特異的プロテアーゼによる切断の標的とされるペプチド配列を含む。
【0043】
例示的な実施形態において、D1L2酵素の作製は、少なくとも約1000L、又は少なくとも約5000L、又は少なくとも約10000L、又は少なくとも約50000Lの大規模(例えばバッチ)発酵によって行われる。様々な実施形態において、発酵により少なくとも約200mg/LのD1L2酵素が得られる。幾つかの実施形態において、発酵により少なくとも約300mg/LのD1L2酵素、少なくとも約400mg/LのD1L2酵素、少なくとも約600mg/LのD1L2酵素、又は少なくとも約800mg/LのD1L2酵素、又は少なくとも約1g/LのD1L2酵素、又は少なくとも約1.2g/LのD1L2酵素が得られる。更に他の実施形態において、発酵により少なくとも約1.5g/LのD1L2、又は少なくとも約2g/LのD1L2酵素、又は少なくとも約5g/L若しくは少なくとも約10g/LのD1L2酵素が得られる。
【0044】
本開示に従う様々な実施形態において、組換えD1L2酵素は、グリコシル化されていない。様々な実施形態において、本開示に従って作製されるD1L2酵素は、実質的に非免疫原性である。
【0045】
他の態様によると、本開示は、本明細書に記載の方法に従って作製される組換えD1L2酵素を提供する。幾つかの実施形態において、D1L2酵素は、局所用組成物を用いる療法を含む療法に適した物理的特性、薬力学特性及び/又は酵素特性を有するように改変される。様々な実施形態において、改変されたD1L2酵素は、D1L2アイソフォーム1(配列番号1又は配列番号4によって定義される)と比べて、同じか又はより高い無タンパク質DNA(裸のDNA)分解活性、同じか又はより高い染色体DNA(クロマチン)分解活性、同様の又は改善されたプロテアーゼ耐性、及び非哺乳動物発現系(ピキア・パストリス等)でのより高い産生レベルを有し得る。
【0046】
幾つかの実施形態において、本発明は、DNアーゼ1タンパク質ファミリーの2つのメンバー間で、「ビルディングブロック」と称される単一のアミノ酸又は複数の隣接するアミノ酸を転移させることで、D1L2の酵素的に活性な変異体を生成することによって作製されたD1L2酵素を用いる。「ビルディングブロック」は、DNアーゼ1タンパク質ファミリーの2つ以上のメンバー間で可変のアミノ酸によって規定される。これらの可変アミノ酸は、DNアーゼ1タンパク質ファミリーの2つ以上のメンバー間で保存されているアミノ酸(「アンカー」)に隣接する。可変の単一のアミノ酸又は複数の連続したアミノ酸(「ビルディングブロック」)は、保存されている単一のアミノ酸又は複数の連続したアミノ酸(「アンカー」)の間に挿入することにより、DNアーゼ1タンパク質ファミリーのメンバー間で交換される。米国特許第10,696,956号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)を参照されたい。
【0047】
3個以上のアミノ酸を転移させる場合、アミノ酸の1/3までを更に置換してもよい。例えば、3個又は6個のアミノ酸をビルディングブロックとして転移させる場合、それぞれ1個又は最大2個の残基を更に置換してもよい。幾つかの実施形態において、4個以上のアミノ酸をビルディングブロック置換として転移させる場合、転移させたアミノ酸の25%までが、例えば保存的又は非保存的アミノ酸修飾によって更に置換される。例えば、4個、8個又は12個のアミノ酸を転移させる場合、1個、2個又は3個のアミノ酸(それぞれ)をビルディングブロック置換において更に置換してもよい。
【0048】
幾つかの実施形態において、D1L2に対するビルディングブロック置換は、非ヒトD1L2タンパク質から選択され(例えば、それから選択される1つ、2つ、3つ、4つ又は5つ)、配列番号1に対応する以下の突然変異の1つ以上を特徴とするヒトD1L2の変異体をもたらす:L22K、I24V、I29V、S35N、S35H、S35R、S35T、V37A、S38L、A41D、A41V、A41G、G43I、S44G、S44i、I45V、K48Q、L55I、L55V、A56T、A56M、P64A、S70D、S70T、A71T、A71L、A71S、A71V、M73L、E74Q、N77H、S78R、E81K、E81R、E83N、S85G、S85N、Q90E、Q90K、Q96H、F103Y、V104I、K107D、A109V、A109T、A109K、V110A、V113L、V113M、D114S、D114E、L117Q、P119S、E122G、V124A、V124F、S126N、E128D、F134V、A136V、A136T、G138S、G138R、T139S、T139C、S148C、A151P、P154A、A159P、A160G、A161P、A161T、Q162D、Q162K、Q162R、Q162T、N163K、N163E、L164V、L164F、I167V、H174N、Q175H、A178T、A178V、D192N、G195N、T196S、D198V、M199L、M199I、S210K、R213K、Q215H、A218P、A219S、E226Q、V227I、S243T、A252V、C253S、A255S、A255V、R256H、L257M、R259K、S260T、L261V、Q264H、T267S、T267A、D270N、G276D、G276S、T280S、T280D、T280A、A284C、I286V、L295F、F297S、F297T、F297P、H298R及びR299del。
【0049】
ビルディングブロック技術によるD1L2の変異体は、国際公開第2020/0271953号及び国際公開第2020/163264号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に開示されている。
【0050】
D1L2酵素の改変変異体は、ヒトD1L2(配列番号7)のアミノ酸配列における1つ以上のアミノ酸置換、付加(挿入)、欠失又はトランケーションを含み得る。アミノ酸置換は、保存的及び/又は非保存的置換を含み得る。例えば、「保存的置換」は、例えば関与するアミノ酸残基の極性、電荷、サイズ、溶解性、疎水性、親水性及び/又は両親媒性における類似性に基づいて行うことができる。天然に存在する20種類のアミノ酸は、以下の6つの標準的なアミノ酸群に分類することができる:(1)疎水性:Met、Ala、Val、Leu、Ile、(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln、(3)酸性:Asp、Glu、(4)塩基性:His、Lys、Arg、(5)鎖配向に影響を与える残基:Gly、Pro、及び(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。「保存的置換」は、上に示す6つの標準的なアミノ酸群の同じ群内に列挙された別のアミノ酸によるアミノ酸の交換と定義される。例えば、GluによるAspの交換では、そのように修飾されたポリペプチドに1つの負電荷が保持される。加えて、グリシン及びプロリンは、α-ヘリックスを破壊する能力に基づいて互いに置換することができる。本明細書で使用される場合、「非保存的置換」は、上に示す6つの標準的なアミノ酸群(1)~(6)の異なるに列挙された別のアミノ酸によるアミノ酸の交換と定義される。
【0051】
D1L2及び変異体のDNA断片化は、ゲル電気泳動及びDNアーゼ活性アッセイ等の当業者に既知の方法を用いて測定することができる。DNA断片化活性を定量化する方法は、例えば米国特許第10,696,956号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されている。
【0052】
本開示によると、D1L2酵素は、非哺乳動物発現系(ピキア・パストリスを含むが、これに限定されない)における発現のためにコドン最適化され得るポリヌクレオチドによってコードされる。幾つかの実施形態において、ポリヌクレオチドはプラスミドベクターを含む。様々な実施形態において、プラスミドベクターは、宿主細胞において機能的な発現制御領域に操作可能に連結された、本明細書に記載のD1L2酵素又は変異体をコードする核酸を含む。発現制御領域は、発現ベクターで形質転換された細胞において酵素が産生されるように、操作可能に連結されたコード核酸の発現を駆動することが可能である。
【0053】
発現制御領域は、操作可能に連結された核酸の発現に影響を与えるプロモーター及びエンハンサー等の調節ポリヌクレオチド(本明細書において要素と称されることもある)である。一実施形態において、発現制御領域は、操作可能に連結された核酸に調節可能な発現をもたらす。シグナル(刺激と称されることもある)は、かかる発現制御領域に操作可能に連結された核酸の発現を増加又は減少させることができる。シグナルに応答して発現を増加させる、かかる発現制御領域は、誘導性と称されることが多い。シグナルに応答して発現を減少させる、かかる発現制御領域は、抑制性と称されることが多い。通例、かかる要素によってもたらされる増加又は減少の量は、存在するシグナルの量に比例する。シグナルの量が多いほど、発現の増加又は減少は大きくなる。
【0054】
他の態様において、本開示は、本明細書に記載のD1L2酵素をコードする発現ベクターを含む、上記のような非哺乳動物発現細胞(すなわち「宿主細胞」)を提供する。幾つかの実施形態において、細胞は、ピキア・パストリス等の酵母細胞である。
【0055】
様々な実施形態において、D1L2酵素は、1つ以上のポリエチレングリコール(PEG)部分、又は脂肪酸若しくはアシルコンジュゲート等の他のコンジュゲートを含む。幾つかの実施形態において、1つ以上のPEG化アミノ酸はリジン、システイン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、トレオニン及びチロシンから選択される。幾つかの実施形態において、PEG化に適した1つ以上のアミノ酸は、D1L2中の1つ以上のアミノ酸の置換によって導入される。幾つかの実施形態において、1つ以上のPEG化アミノ酸は、リジン又はアルギニンであり、PEG化はアミンコンジュゲーションによって行われる。幾つかの実施形態において、1つ以上のPEG化アミノ酸はグルタミン(Gln又はQ)であり、PEG化はトランスグルタミナーゼ(TGアーゼ)媒介酵素コンジュゲーションによって行われる。幾つかの実施形態において、1つ以上のPEG化アミノ酸はシステイン(Cys又はC)であり、PEG化はチオールコンジュゲーションによって行われる。例えば、NHS-PEG試薬を用いて、D1L2中の第一級アミンを修飾することができる。幾つかの実施形態において、1つ以上のPEG化アミノ酸は、独立して選択され、約2kDa~約60kDaの範囲の分子量を有する線状又は分岐状PEGから独立して選択されるPEG部分とコンジュゲートされる。幾つかの実施形態において、PEG部分は約5kDa~約60kDa、又は約5kDa~約40kDa、又は約5kDa~約30kDa、又は約10kDa~約60kDa、又は約10kDa~約40kDa、又は約10kDa~約30kDaの範囲から独立して選択される分子量を有する。
【0056】
幾つかの実施形態において、組み換え発現系は、対になった塩基性アミノ酸で切断する1つ以上のプロテアーゼの欠失又は不活性化を有する。例示的な酵素としては、ピキア・パストリス又は他の酵母系によって発現されるアスパラギン酸プロテイナーゼ3(Ysp1)及びケキシン(Kex2)が挙げられる。幾つかの実施形態において、これらの酵素は、遺伝的に欠失又は不活性化されていないが、それらの活性は、組換えタンパク質作製中にプロテアーゼ阻害剤によって阻害される。
【0057】
さらに、幾つかの実施形態において、非哺乳動物発現系の成長培地には、硫酸デキストラン、ヘパリン、クエン酸第二鉄及びEDTA等のポリアニオンを添加する。更なる実施形態において、成長培地には、5kDa~100kDaの平均分子量を有する硫酸デキストランを添加する。幾つかの実施形態において、硫酸デキストランは約10kDa以下、又は約20kDa以下、又は約30kDa以下、又は約40kDa以下、又は約50kDa以下、又は約75kDa以下、又は約100kDa以下の平均分子量を有する。様々な実施形態において、ポリアニオンは、産生される組換えタンパク質と複合体を形成するのに十分な量で培養物に添加される。幾つかの実施形態において、組換えD1L2酵素又はその変異体は、硫酸デキストラン、ヘパリン、EDTA等のポリアニオンからの酵素の解離を含む方法によって培養培地から精製される。或る特定の実施形態において、精製方法は、トリエチルアミノエチル等の強アニオン交換樹脂を含む。
【0058】
更に他の態様において、本開示は、局所投与又は局部投与のための医薬組成物を提供する。この組成物は、本明細書に記載されるか、又は本開示に従って作製される組換えD1L2酵素と、薬学的に許容可能な担体とを含む。
【0059】
幾つかの実施形態において、医薬組成物はクリーム、ローション、ゲル、溶液、フォーム、スプレー、軟膏、洗口液、シャンプー又は石鹸等の局所投与のために配合される。幾つかの実施形態において、医薬組成物は、酸性環境及び/又はバイオフィルムを有する組織の局部治療又は局所治療のためのものである。例えば、酸性環境は約6.0以下、約5.5以下、又は約5.0以下、又は約4.5以下、又は約4.0以下のpHを有し得る。幾つかの実施形態において、組成物は、健康な皮膚及び皮膚の魅力的な外観を維持するためのスキンケア組成物である。これらの実施形態において、組成物は、皮膚の感染及び/又は炎症を治療又は予防する方法に有用である。例えば、幾つかの実施形態において、組成物は、不全角化病変を含む皮膚に適用される。不全角化は、角質層における核の保持を特徴とする角化の様式である。皮膚においては、このプロセスは、有核細胞による環状鱗屑の異常な置換えをもたらす。不全角化は、顆粒層の菲薄化又は喪失を伴い、炎症性又は腫瘍性を問わず、細胞のターンオーバーが亢進する疾患に通常見られる。不全角化は、乾癬のプラーク及びフケに見られる。
【0060】
局所用組成物を用いる幾つかの実施形態において、被験体は皮膚、毛髪又は爪の外観又は健康に影響を及ぼす病態を有し得る。幾つかの実施形態において、被験体は乾癬、皮膚炎、表皮水疱症又はアレルギー反応(例えば、蕁麻疹又は発疹を含む)等の病態を有する。幾つかの実施形態において、被験体は、乾皮症等の乾燥皮膚を有する。幾つかの実施形態において、被験体は尋常性座瘡を有する。更に他の実施形態において、被験体の皮膚は、アトピー性皮膚炎と関連することがあるスタフィロコッカス・アウレウスの異常増殖によって特徴付けられ得る。幾つかの実施形態において、被験体は乾癬を有し、組成物は乾癬病変に適用される。
【0061】
更に他の実施形態において、局所用組成物は、例えば米国特許出願公開第2018/0271953号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されているような、創傷治癒を促進し、及び/又は線維症を軽減若しくは予防する方法に用いることができる。幾つかの実施形態において、被験体は糖尿病性潰瘍、切断創、又は皮膚移植片若しくは組織移植片(ドナー部位を含む)等の慢性創傷を有する。幾つかの実施形態において、創傷は、第1度又は第2度熱傷等の熱傷である。幾つかの実施形態において、被験体は、本開示による局所ローション、ゲル又は軟膏によって処置され得る日焼けを有する。
【0062】
更に他の実施形態において、組成物は眼、耳、鼻腔又は副鼻腔、及び口腔の1つ以上への投与のために配合される。これらの実施形態による組成物は、例えば組成物が点眼剤又は洗眼剤(眼瞼洗浄剤を含む)として配合される、被験体の眼の炎症又は感染を治療又は予防する方法に有用であり得る。幾つかの実施形態において、被験体はドライアイ疾患を有し得るか、又はアレルギー性、細菌性若しくはウイルス性の結膜炎を有し得る。細菌性結膜炎は、バイオフィルム形成によって悪化することがある。幾つかの実施形態において、被験体は、眼瞼炎又は関連病態(例えば霰粒腫)として現れることがある、眼の管の炎症を有する。更に他の実施形態において、組成物は、例えば組成物が点耳剤として配合される、被験体の耳の炎症又は感染の治療又は予防に有用であり得る。例示的な病態は、中耳炎等の耳感染症である。更に他の実施形態において、組成物は、例えば組成物が鼻腔用スプレーとして配合される、被験体の鼻又は副鼻腔の炎症又は感染を治療又は予防する方法に有用であり得る。例示的な病態としては、鼻炎、鼻副鼻腔炎及び鼻形成術後が挙げられる。幾つかの実施形態において、被験体は、副鼻腔感染症又は再発性副鼻腔感染症を有する。更に他の実施形態において、被験体は、歯肉炎及び歯性膿瘍を含む口腔の感染又は炎症を有する。
【0063】
幾つかの実施形態において、組成物は、米国特許第9,867,871号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に記載されているような核酸関連眼疾患を治療する方法に有用である。かかる疾患としては、ドライアイ疾患、層間角膜炎、コンタクトレンズ関連角膜炎、眼内炎、感染性結晶性角膜症、眼瘢痕性類天疱瘡(OCP)、乾性角結膜炎(KCS)、シェーグレン症候群(SS)、シェーグレン症候群関連乾性角結膜炎、非シェーグレン症候群関連乾性角結膜炎、乾燥角膜炎、乾燥症候群、眼球乾燥症、涙液膜障害、涙液産生減少、涙液欠乏症(ATD)及びマイボーム腺機能不全(MGD)が挙げられる。
【0064】
更に他の実施形態において、組成物は、粉末又は溶液エアロゾル等の肺送達のために配合される。幾つかの実施形態において、組成物は、ネブライザーによる送達のために配合される。様々な実施形態において、組成物は、患者の肺の炎症又は感染を治療又は予防する方法に有用である。幾つかの実施形態において、被験体は嚢胞性線維症、肺炎(人工呼吸器関連肺炎、すなわちVAPを含む)、気管支炎、喘息、下気道感染症、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺損傷(ALI)、輸血誘発肺損傷(TRALI),又は慢性閉塞性肺疾患(COPD)を有する。幾つかの実施形態において、被験体は、肺線維症(例えば特発性肺線維症、すなわちIPF)を有する。更に他の実施形態において、被験体は、慢性又は再発性の肺感染症を有する。
【0065】
嚢胞性線維症の場合、シュードモナス・エルジノーサ感染を根絶又は制御することは困難であり、これはバイオフィルムの形成に部分的に起因する。本開示に従うD1L2酵素を、例えばネブライザーによって投与することで、嚢胞性線維症患者におけるシュードモナス感染を制御し、抗生物質の過剰使用を幾らか軽減することが可能であり得る。様々な実施形態において、本明細書で提供されるD1L2酵素は、CF肺分泌物においてPULMOZYME(ドルナーゼアルファ)よりも高い活性を有する。
【0066】
更に他の実施形態において、患者は、微生物の定着及びバイオフィルム形成に有利に働く傾向がある留置医療機器を有することがある。幾つかの実施形態において、D1L2酵素又はD1L2酵素を含む組成物は、バイオフィルム形成を回避又は低減するために機械的人工換気下の患者に投与される。
【0067】
本明細書に記載の組成物は、哺乳動物の組織上及び留置医療機器の表面上を含めて、バイオフィルム微生物による感染及び/又は定着の治療又は制御に有用である。バイオフィルムを形成する病原体及び日和見菌としては、シュードモナス・エルジノーサ、スタフィロコッカス・アウレウス、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)、エシェリキア・コリ、クレブシエラ・ニューモニアエ(Klebsiella pneumoniae)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)、ヘモフィラス・インフルエンザエ(Haemophilus influenzae)、A群β溶血性レンサ球菌、腸内細菌、マイコバクテリウム(非結核性マイコバクテリウムを含む)及びストレプトコッカス・ニューモニアエ(Streptococcus pneumoniae)が挙げられる。これらの細菌によるバイオフィルム形成は、抗生物質に対する不応性を引き起こす。これらの病原体は、以下の感染症(限定されない)を引き起こす:自然弁心内膜炎(NVE)、中耳炎(OM)、慢性細菌性前立腺炎、嚢胞性線維症(CF)、血流感染症、尿路感染症(任意に尿道カテーテル上のバイオフィルムと関連する)、人工弁心内膜炎(PVE)、眼感染症(任意にコンタクトレンズ上のバイオフィルムと関連する)及び骨盤内炎症性疾患(任意に子宮内避妊器具(IUD)上のバイオフィルムと関連する)。
【0068】
本明細書で使用される場合、「治療」又は「治療する」又は「治療した」とは、望ましくない生理的病態、障害若しくは疾患を遅らせる(軽減する)か、又は有益な若しくは所望の臨床結果を得ることを目的とする治療処置を指す。有益な又は所望の臨床結果としては、症状の緩和、病態、障害若しくは疾患の程度の減少、病態、障害若しくは疾患の状態の安定化(すなわち悪化しないこと)、病態、障害若しくは疾患の発症の遅延若しくは進行の緩徐化、病態、障害若しくは疾患の状態の回復、及び検出可能若しくは検出不可能に関わらず、寛解(部分又は完全を問わない)、又は病態、障害若しくは疾患の改善若しくは好転が挙げられるが、これらに限定されない。治療には、過剰レベルの副作用を伴わずに臨床的に有意な応答を引き起こすことが含まれる。他の実施形態において、「治療」又は「治療する」又は「治療した」とは、予防措置を指し、その目的は、例えば疾患の素因を有する人において、望ましくない生理的病態、障害又は疾患の発症を遅延させるか、又はその重症度を軽減することである。
【0069】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、関連する数値の±10%を意味する。
【実施例
【0070】
DNASE1L2の組み換え発現及び細胞外クロマチン分解活性
DNASE1L2アイソフォーム1及びアイソフォーム2のアミノ酸配列アラインメントにより、DNASE1L2アイソフォーム1の中央にプロリンリッチドメインGERAPPLPSRRALTPPPLPAA(配列番号3)が特定される(図1)。DNASE1L2アイソフォーム1(配列番号1)をクローニングし、ネイティブ分泌シグナルペプチドを用いてピキア・パストリスで発現させた。培養上清の分析では、ごく僅かな量のDNASE1L2タンパク質しか検出されず、DNASE1L2アイソフォーム1がピキア・パストリスにおける産生には適しないことが示された(図2)。ネイティブ分泌シグナルペプチドを、ピキア・パストリスにおけるタンパク質分泌を増強するα接合因子プレプロペプチド(aMF;配列番号9)に置き換えた。しかしながら、有意な量の標的タンパク質を培養上清中に検出することができず、ピキア・パストリスによる新たなaMF-DNASE1L2アイソフォーム1構築物の分泌は低いままであった。
【0071】
本研究においては、aMF及びDNASE1L2アイソフォーム2を含む発現ベクターを調査した。驚くべきことに、この新たな構築物は、ピキア・パストリスによって強固に発現及び分泌され、相当量の標的タンパク質を培養上清中に検出することができた(図2)。このように、PRDの除去は、ピキア・パストリス等の酵母発現系におけるDNASE1L2の大規模製造を可能にする。
【0072】
5L規模での発酵を行い、アフィニティークロマトグラフィーを用いてPRDD-DNASE1L2(配列番号2)を精製した。精製タンパク質を酵素活性について試験した。以前の報告では、DNASE1L2による精製DNAの分解が測定されているが、本実施例では、HEK293細胞の無傷核に由来する高分子量クロマチンを基質として使用した。PRDD-DNASE1L2の強固なクロマチン分解活性が6.5未満のpHレベルで観察され、塩基性ドメイン欠失DNASE1L3は、中性pHで任意のクロマチン分解を示した(図3)。これらのデータから、DNASE1L2におけるPRDの欠失が、酸性環境でクロマチンを効率的に分解する酵素の大規模製造を可能とすることが示される。
【0073】
Uniprotの異なる種からのDNASE1L2アミノ酸配列のアラインメントにより、PRDを含むアイソフォーム1がヒト、チンパンジー及びヒヒで発現され、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ブタ、モルモット、ウシ及びゾウでは発現されないことが示された。さらに、ヒト、チンパンジー及びヒヒに由来するDNASE1L2のみがC末端アルギニン残基を特徴とする(図4)。このため、改善された特徴を有するDNASE1L2変異体を見出すことを期待して、C末端アルギニン残基の欠失を有する誘導体を研究した。驚くべきことに、図5に示されるように、DNASE1L2アイソフォーム2 R278del変異体(配列番号7)を発現するピキア・パストリスクローンのスクリーニングにより、DNASE1L2アイソフォーム2(配列番号6)と比較して、産生レベルが実質的に増大した3つのクローンが特定された。
【0074】
PRDD-DNASE1L2及びその変異体は、本来酸性pHを有する皮膚上のみならず、酸性条件下、例えば嚢胞性線維症及び喘息等の炎症性肺疾患を有する患者の酸性喀痰中で、好中球細胞外トラップ(NET)を含む細胞外クロマチンを分解するのに特に適している(Kodric M, Shah AN, Fabbri LM, et al. An investigation of airway acidification in asthma using induced sputum: A study of feasibility and correlation. Am J Respir Crit Care Med. 2007;175(9):905-10、Dropping acid: why is cystic fibrosis mucus abnormal? Eur Respir J. 2018 Dec 6;52(6):1802057)。
【0075】
アルブミンとの融合体としてのPRDD-DNASE1L2の組み換え発現もピキア・パストリスにおいて達成された。アルブミンを、Gly及びSerから構成される可動性リンカーを介してPRDD-DNASE1L2のN末端で融合させた。これらの実施形態において、PRDD-DNASE1L2融合体は、ヒトアルブミン分泌シグナルペプチド(配列番号10)によって分泌される。この系は、同様にPRDD-DNASE1L2の良好な発現をもたらす。
【0076】
配列表
野生型DNASE1L2酵素
配列番号1
【0077】
配列番号2
【0078】
DNASE1L2アイソフォーム1におけるプロリンリッチドメイン
配列番号3
GERAPPLPSRRALTPPPLPAA
【0079】
DNASE1L2変異体
配列番号4
【0080】
配列番号5
【0081】
配列番号6
ヒトD1L2アイソフォーム2:成熟タンパク質
LRIGAFNIQSFGDSKVSDPACGSIIAKILAGYDLALVQEVRDPDLSAVSALMEQINSVSEHEYSFVSSQPLGRDQYKEMYLFVYRKDAVSVVDTYLYPDPEDVFSREPFVVKFSAPGTAQNLVLIPLHAAPHQAVAEIDALYDVYLDVIDKWGTDDMLFLGDFNADCSYVRAQDWAAIRLRSSEVFKWLIPDSADTTVGNSDCAYDRIVACGARLRRSLKPQSATVHDFQEEFGLDQTQALAISDHFPVEVTLKFHR
【0082】
配列番号7
ヒトD1L2アイソフォーム2変異体:R278del突然変異体、成熟タンパク質
LRIGAFNIQSFGDSKVSDPACGSIIAKILAGYDLALVQEVRDPDLSAVSALMEQINSVSEHEYSFVSSQPLGRDQYKEMYLFVYRKDAVSVVDTYLYPDPEDVFSREPFVVKFSAPGTAQNLVLIPLHAAPHQAVAEIDALYDVYLDVIDKWGTDDMLFLGDFNADCSYVRAQDWAAIRLRSSEVFKWLIPDSADTTVGNSDCAYDRIVACGARLRRSLKPQSATVHDFQEEFGLDQTQALAISDHFPVEVTLKFH
【0083】
分泌シグナルペプチド
配列番号8
D1L2シグナルペプチド
MGGPRALLAALWALEAAGTAA
【0084】
配列番号9
ピキア・パストリスのα接合因子
MRFPSIFTAVLFAASSALAAPVNTTTEDETAQIPAEAVIGYSDLEGDFDVAVLPFSNSTNNGLLFINTTIASIAAKEEGVS
【0085】
配列番号10
ヒトアルブミン分泌シグナルペプチド+プロペプチド
MKWVTFISLLFLFSSAYSRGVFRR
【0086】
配列番号13
D1シグナルペプチド
MRGMKLLGALLALAALLQGAVS
【0087】
配列番号14
D1L1シグナルペプチド
MHYPTALLFLILANGAQA
【0088】
配列番号15
D1L3シグナルペプチド
MSRELAPLLLLLLSIHSALA
【0089】
アルブミン配列
配列番号11
ヒト血清アルブミン(成熟タンパク質):
DAHKSEVAHRFKDLGEENFKALVLIAFAQYLQQCPFEDHVKLVNEVTEFAKTCVADESAENCDKSLHTLFGDKLCTVATLRETYGEMADCCAKQEPERNECFLQHKDDNPNLPRLVRPEVDVMCTAFHDNEETFLKKYLYEIARRHPYFYAPELLFFAKRYKAAFTECCQAADKAACLLPKLDELRDEGKASSAKQRLKCASLQKFGERAFKAWAVARLSQRFPKAEFAEVSKLVTDLTKVHTECCHGDLLECADDRADLAKYICENQDSISSKLKECCEKPLLEKSHCIAEVENDEMPADLPSLAADFVESKDVCKNYAEAKDVFLGMFLYEYARRHPDYSVVLLLRLAKTYETTLEKCCAAADPHECYAKVFDEFKPLVEEPQNLIKQNCELFEQLGEYKFQNALLVRYTKKVPQVSTPTLVEVSRNLGKVGSKCCKHPEAKRMPCAEDYLSVVLNQLCVLHEKTPVSDRVTKCCTESLVNRRPCFSALEVDETYVPKEFNAETFTFHADICTLSEKERQIKKQTALVELVKHKPKATKEQLKAVMDDFAAFVEKCCKADDKETCFAEEGKKLVAASQAALGL
【0090】
リンカー配列
配列番号12
可動性ペプチドリンカー:
GGGGSGGGGSGGGGS
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
2024508753000001.app
【国際調査報告】