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特表2024-508801高温用途のためのAl-Mn-Zr系合金
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-28
(54)【発明の名称】高温用途のためのAl-Mn-Zr系合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20240220BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20240220BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240220BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20240220BHJP
   B22F 10/64 20210101ALI20240220BHJP
   B22F 1/065 20220101ALI20240220BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240220BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240220BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240220BHJP
【FI】
C22C21/00 L
C22F1/04 B
B22F1/00 N
B22F10/28
B22F10/64
B22F1/065
B33Y70/00
B33Y10/00
C22F1/00 602
C22F1/00 611
C22F1/00 612
C22F1/00 621
C22F1/00 623
C22F1/00 624
C22F1/00 625
C22F1/00 628
C22F1/00 630A
C22F1/00 631A
C22F1/00 650A
C22F1/00 673
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 687
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 622
C22F1/00 685Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023550658
(86)(22)【出願日】2022-02-25
(85)【翻訳文提出日】2023-10-22
(86)【国際出願番号】 US2022018012
(87)【国際公開番号】W WO2022183060
(87)【国際公開日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】63/154,165
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516270717
【氏名又は名称】ナノアル エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100160543
【弁理士】
【氏名又は名称】河野上 正晴
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(72)【発明者】
【氏名】キッド,ジェームス
(72)【発明者】
【氏名】ボ,ノン キュー.
(72)【発明者】
【氏名】クロトー,ジョセフ アール.
(72)【発明者】
【氏名】ドーン,ジョシュア ピー.
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA14
4K018BB03
4K018BB04
4K018KA01
4K018KA70
(57)【要約】
本願は、(i)従来の製造技術(例えば鋳造)、(ii)溶融プロセスを利用する積層造形技術、または(iii)粉末冶金プロセスで加工した場合に、従来のアルミニウム合金と比較して、強度、耐クリープ性、及び高温での熱安定性、並びに積層造形法における印刷性及び伝統的製造における溶接性を大幅に改善した製造部品を提供することができるAl-Mn-Zrアルミニウム合金に関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
約1~約10重量%のマンガン;
約0.3~約2重量%のジルコニウム;及び
残部のアルミニウム
を含み、
意図的に添加されたスカンジウムを含まない
アルミニウム合金。
【請求項2】
約5重量%以下のケイ素;及び
約5重量%以下の鉄
をさらに含む、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項3】
約0.1~約1重量%のチタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、及びタングステンのうちの一つまたは複数をさらに含む、請求項1または2に記載のアルミニウム合金。
【請求項4】
α相析出物を接種するための約0.5重量%以下のスズをさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のアルミニウム合金。
【請求項5】
α相析出物を接種するための約1重量%以下の銅をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のアルミニウム合金。
【請求項6】
約0.5重量%以下の不可避不純物をさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のアルミニウム合金。
【請求項7】
スカンジウムの量が約0.5重量%未満である、請求項1~6のいずれか一項に記載のアルミニウム合金。
【請求項8】
約1~約7重量%のマンガンを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のアルミニウム合金。
【請求項9】
約0.2~約1.5重量%のジルコニウムを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のアルミニウム合金。
【請求項10】
約0.2~約2重量%のケイ素を含む、請求項2~9のいずれか一項に記載のアルミニウム合金。
【請求項11】
約0.2~約2重量%の鉄を含む、請求項2~10のいずれか一項に記載のアルミニウム合金。
【請求項12】
約1~約10重量%のマンガン;
約0.3~約2重量%のジルコニウム;
約0~5重量%の鉄;
約0~5重量%のケイ素;及び
残部のアルミニウム
を含み、
意図的に添加されたスカンジウムを含まない
アルミニウム合金。
【請求項13】
約1~約7重量%のマンガンを含む、請求項12に記載のアルミニウム合金。
【請求項14】
約0.2~約1.5重量%のジルコニウムを含む、請求項12または13に記載のアルミニウム合金。
【請求項15】
約0.2~約2重量%のケイ素を含む、請求項12~14のいずれか一項に記載のアルミニウム合金。
【請求項16】
約0.2~約2重量%の鉄を含む、請求項12~15のいずれか一項に記載のアルミニウム合金。
【請求項17】
約0.1~約1重量%のチタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、及びタングステンのうちの一つまたは複数をさらに含む、請求項12~16のいずれか一項に記載のアルミニウム合金。
【請求項18】
α相析出物を接種するための約0.5重量%以下のスズをさらに含む、請求項12~17のいずれか一項に記載のアルミニウム合金。
【請求項19】
α相析出物を接種するための約1重量%以下の銅をさらに含む、請求項12~17のいずれか一項に記載のアルミニウム合金。
【請求項20】
約0.5重量%以下の不可避不純物をさらに含む、請求項12~19のいずれか一項に記載のアルミニウム合金。
【請求項21】
スカンジウムの量が約0.5重量%未満である、請求項12~20のいずれか一項に記載のアルミニウム合金。
【請求項22】
前記合金が、Mn、Fe、及び/またはSiを有する析出物と、約0.05~約5μmの範囲の平均直径を有するAlZr一次析出物とが同時に分散したアルミニウムマトリックスを含む、請求項1~21のいずれかに記載のアルミニウム合金。
【請求項23】
前記合金が、約3~約50nmの範囲の平均直径を有するL1結晶構造を有するAlZrナノ析出物を含む、請求項1~22のいずれか一項に記載のアルミニウム合金。
【請求項24】
前記合金が、伝統的製造及び/または積層造形に利用される、請求項1~23のいずれか一項に記載のアルミニウム合金。
【請求項25】
前記伝統的製造は、アルミニウム鋳造、圧延、押出、または鍛造を含み、前記積層造形はレーザー溶融を含む、請求項24に記載のアルミニウム合金。
【請求項26】
金属構造体の製造方法であって、
a)約700℃~約1000℃の温度で、アルミニウム母合金または純元素を添加しながら、リサイクルアルミニウムまたはバージンアルミニウムを溶融して、構成成分の液体混合物を形成する工程であって、前記構成成分は、請求項1~23のいずれか一項に記載の合金を含み、前記構成成分は、意図的に添加されたスカンジウムを含まない、工程;
b)前記溶融した構成成分を鋳型に鋳造して鋳造品を形成する工程;
c)任意に工程dの前または後に前記鋳造品を約350℃~約550℃の温度で約0.25時間~約24時間熱処理して、Mn、Fe及び/またはSiを有する析出物、約0.05~約5μmの範囲の平均直径を有するAlZr一次析出物、及び約3~約50nmの範囲の平均直径を有するL1結晶構造を有するAlZrナノ析出物の同時分散物を含む鋳造品を形成する工程;並びに
d)前記鋳造品をシート、箔、ロッド、ワイヤ、押出品、鍛造品に加工する工程、または前記鋳造品をその既存の形状で使用する工程であって、前記加工することが、任意に、前記鋳造品を熱間成形及び/または冷間成形することを含む、工程
を含む、方法。
【請求項27】
部品の製造方法であって、
請求項26に記載の方法で製造したワイヤまたはロッドを積層造形プロセスで用いてネットシェイプ部品またはニアネットシェイプ部品を製造すること;及び
任意に前記ネットシェイプ部品またはニアネットシェイプ部品を約350℃~約550℃の温度で約0.25時間~約24時間熱時効処理して、Mn、Fe及び/またはSiを有する析出物、約0.05~約5μmの範囲の平均直径を有するAlZr一次析出物、及び約3~約50nmの範囲の平均直径を有するL1結晶構造を有するAlZrナノ析出物の同時分散を達成すること
を含む方法。
【請求項28】
部品の製造方法であって、
請求項1~23のいずれか一項に記載のアルミニウム合金からリボン、チップ、または粉末を作製すること;
粉末冶金プロセスで前記リボン、前記チップ、または前記粉末を用いて、ネットシェイプ部品、ニアネットシェイプ部品、または押出部品を製造すること;並びに
任意に前記ネットシェイプ部品、前記ニアネットシェイプ部品、または前記押出部品を約350℃~約550℃の温度で約0.25時間~約24時間熱処理して、Mn、Fe及び/またはSiを有する析出物、約0.05~約5μmの範囲の平均直径を有するAlZr一次析出物、及び約3~約50nmの範囲の平均直径を有するL1結晶構造を有するAlZrナノ析出物の同時分散を達成すること
を含む方法。
【請求項29】
部品の製造方法であって、
請求項1~23のいずれか一項に記載のアルミニウム合金から粉末を作製すること;
積層造形プロセスで前記粉末を用いてネットシェイプ部品またはニアネットシェイプ部品を製造すること;並びに
任意に前記ネットシェイプ部品、前記ニアネットシェイプ部品を約350℃~約550℃の温度で約0.25時間~約24時間熱処理して、Mn、Fe及び/またはSiを有する析出物、約0.05~約5μmの範囲の平均直径を有するAlZr一次析出物、及び約3~約50nmの範囲の平均直径を有するL1結晶構造を有するAlZrナノ析出物の同時分散を達成すること
を含む方法。
【請求項30】
部品の製造方法であって、
請求項1~23のいずれか一項に記載のアルミニウム合金から粉末を作製する工程;
選択的レーザー溶融積層造形プロセスで前記粉末を使用してネットシェイプ部品またはニアネットシェイプ部品を製造する工程であって、前記粉末は、コンピュータソフトウェアによってプログラムされる選択的位置でレーザービームによって一緒に溶接される工程:並びに
任意に前記ネットシェイプ部品、前記ニアネットシェイプ部品を約350℃~約550℃の温度で約0.25時間~約24時間熱処理して、Mn、Fe及び/またはSiを有する析出物、約0.05~約5μmの範囲の平均直径を有するAlZr一次析出物、及び約3~約50nmの範囲の平均直径を有するL1結晶構造を有するAlZrナノ析出物の同時分散を達成する工程
を含む方法。
【請求項31】
急速凝固プロセスによって請求項1~23のいずれか一項に記載のアルミニウム合金を製造する方法であって、前記プロセスが、溶融紡糸、溶融抽出、ビームグレージング、スプレー堆積、ガスアトマイズ、プラズマアトマイズ、及びプラズマ球状化からなる群から選択される、方法。
【請求項32】
請求項1~23のいずれか一項に記載のアルミニウム合金から作製された粉末。
【請求項33】
室温で300MPa超及び250℃の試験温度で180MPa超の降伏強度を有する、請求項29に記載の方法で製造されたアルミニウム合金。
【請求項34】
室温で200MPa超及び250℃の試験温度で100MPa超の降伏強度を有する、請求項29に記載の方法で製造されたアルミニウム合金。
【請求項35】
室温で300MPa超、250℃の試験温度で180MPa超、及び試験温度300℃で140MPa超の降伏強度を有する、請求項29に記載の方法で製造されたアルミニウム合金。
【請求項36】
室温で200MPa超、250℃の試験温度で100MPa超、及び試験温度300℃で50MPa超の降伏強度を有する、請求項29に記載の方法で製造されたアルミニウム合金。
【請求項37】
400℃まで熱的に安定である、請求項1~23のいずれか一項に記載のアルミニウム合金。
【請求項38】
400℃まで耐クリープ性であり、250℃で90MPaよりも高い閾値クリープ応力を有する、請求項1~23のいずれか一項に記載のアルミニウム合金。
【請求項39】
200℃を超える動作温度を有する用途に利用することができる、請求項1~23のいずれか一項に記載のアルミニウム合金。
【請求項40】
自動車部品、航空宇宙部品、及びスポーツ器具の部品等の用途に利用することができる、請求項1~23のいずれか一項に記載のアルミニウム合金。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年2月26日に出願された米国特許仮出願第63/154,165号の利益及び優先権を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本願は、(i)従来の製造技術(例えば鋳造)、(ii)溶融プロセスを利用する積層造形技術、または(iii)粉末冶金プロセスで加工した場合に、従来のアルミニウム合金と比較して、強度、耐クリープ性、及び高温での熱安定性、並びに積層造形法における印刷性及び伝統的製造における溶接性を大幅に改善した部品を作製することができる、Al-Mn-Zrアルミニウム合金に関する。
【背景技術】
【0003】
エンジン部品内やその近傍等の輸送用途においては、低密度部品が強く求められている。これらの用途は、高温使用のための軽量アルミニウム合金の設計及び製作を必要とする。ほとんどの従来のアルミニウム合金は、2000系アルミニウム合金(Al-Cu系)等におけるような強化析出相の急速な粗大化及び/または溶解のため、220℃を超えて使用することができない。AA2618及びAA2219(Al-Cu系合金)は、高温で使用することができる最も優れたアルミニウム合金のひとつであるが、それらの使用も220℃未満に制限される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スカンジウム(Sc)及びセリウム(Ce)等の希土類元素を含むアルミニウム合金の最近の開発は、使用温度を220℃を超えるまで拡張することができる。しかしながら、これらの新しい合金は複数の欠点を有する。Scは非常に高価な元素(銀の10倍程度)であり、その用途は厳しく制限される。CeはScよりも安価であるが、限られた資源である。実際は、大量のCe(約10重量%)がアルミニウムと合金化されると、室温での延性が低くなり、その用途が制限される。高温アルミニウム合金を作製するための別のアプローチは、セラミック相がアルミニウム合金マトリックス中に組み込まれた金属マトリックス複合体を作製することによる。このアプローチは、複雑な製造プロセスを必要とするので、作製される金属-セラミック複合部品は高価になる。金属-セラミック複合材はまた、延性が低いという問題を抱えている。
【0005】
(i)ナノメートル~マイクロメートルのサイズを有する一次Al-Mn-Si-Feいわゆるα相、及び(ii)高い数密度のL1構造のAlZrナノ析出物という、熱的に安定な析出物の2つの集団を含むAl-Mn-Si-Fe-Zr-接種合金の最近の開発により、室温では妥当な強度を達成することができるが、400℃までの高温で非常に良好な強度を達成することができる。しかしながら、これらの合金は、Mn、Fe、Si、及びZrをそれぞれ1.5重量%、0.7重量%、0.6重量%、及び0.5重量%までしか含まないため、より高い総合金含有量を含む合金の性能向上を利用することができない。この技術は、米国特許公開第2019/0390312号に開示されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0006】
現代のアルミニウム製造業では、プロセスは、(i)伝統的製造、または(ii)積層造形のいずれかに分類することができる。伝統的製造における一般的な方法は、溶融アルミニウム合金をネットシェイプ鋳型またはニアネットシェイプ鋳型に注入し、次いで鋳造部品を最終部品に機械加工するアルミニウム鋳造である。伝統的製造における他の一般的な方法は、押出、圧延、鍛造、及び伸線によって展伸製品(wrought products)を製造することである。これらの方法はまた、大きなアルミニウムビレットを鋳造することから始まり、その後、最終形状に加工される。粉末冶金は、伝統的製造における別の一般的な方法であり、アルミニウム合金を粉末形態に加工し、次いで、プレス及び焼結または押出によって最終部品に加工する。積層造形では、エネルギー源によって補助される接合、焼結、または溶融によって、粉末、ワイヤ、または薄いシートの形態で、多数の小片の材料を一緒に追加することによって、最終部品が造形される。エネルギー源は、レーザー、プラズマ、電気アーク、または炉であることができる。金属の積層造形においては、金属粉末を原料として使用する選択的レーザー溶融が、これまで最も一般的な製造方法である。
【0007】
各製造方法には、材料原料の要件に関して独自の制限がある。例えば、ある製造方法で良好に機能するアルミニウム合金は、別の方法では(仮にあったとしても)必ずしも良好に機能するとは限らない。展伸製品において良好に機能するAA2618及びAA2219等の伝統的な高温アルミニウム合金は、高温割れの問題のため積層造形では加工不可能(すなわち、印刷不可能)であることが示されている。鋳造製品及び展伸製品において高温性能を示すAl-Sc系合金は、積層造形では、積層造形プロセスに由来する微細粒径の生成により、高温性能が低いことが示されている。したがって、高温で高い性能を発揮するアルミニウム合金は、多くの異なる製造方法(伝統的方法及び積層造形方法の両方)で利用することができる、大きな商業的価値及び技術的価値を有することになる。
【0008】
積層造形は、一般に、付加的な方法でネットシェイプ部品またはニアネットシェイプ部品を形成する方法をいい、所望の3次元形状が達成されるまで材料は一度に1層ずつ堆積され、その結果、無駄な材料またはスクラップがほとんど発生しない。これは、最終的な3次元形状が達成されるまで、材料が、例えばミリングによって、より大きなプリフォームから除去される一般に多くの無駄な材料及びスクラップを副生成物として生成する従来の「減算製造」とは対照的である。
【0009】
金属の積層造形は、典型的には、球状の金属合金粉末を利用し、レーザービームまたは電子ビーム等の集束エネルギー源を使用して、特定の位置で金属粉末を融合させて、高空間分解能を有するニアネットシェイプ部品を作製する。球状の金属粉末は、典型的には、自然に球状粉末を生成するガスアトマイズまたはプラズマアトマイズによって、または不規則な粒子を球状粉末に変えるプラズマ球状化によって作製される。典型的には、これらの積層造形技術の際、金属粉末は、エネルギー源によって完全に溶融し、急速に凝固して、既存の基板または粉末材料の以前に堆積された層であり得る下地材料に融合される。望ましい相対密度、すなわち>99%を有する部品を達成するために、堆積材料の複数の層を、典型的には2回以上再溶融し、堆積材料の各層間を完全に融合させる。これらのプロセス中、溶融合金は急速に凝固し、冷却速度は10℃/秒を容易に超え、10℃/秒の速度に達する。この冷却速度は、典型的には10~10℃/秒のオーダーである従来の溶融合金の鋳造時の冷却速度を大幅に上回る。積層造形技術に固有の非常に高い冷却速度のため、積層造形技術は平衡から遠く離れていると考えられ、平衡プロセス用に最適化された従来の合金は、このような方法では容易に加工することができない。
【0010】
鋳造部品の製造に使用される従来のアルミニウム合金は、液体金属プロセスに好ましいその良好な流体特性のために、Al-Si共晶系をベースとする。これらの理由により、溶融工程を含む積層造形プロセスにおいても、Al-Si系合金が一般に用いられる。しかしながら、これらの合金は、高温で比較的低い機械的特性を有し、約150℃未満の動作温度を伴う用途に限定される。約250℃までの動作温度を伴う用途の場合、Al-Cu系システムが、その改善された熱安定性のために一般に使用される。しかしながら、Al-Cu系合金は、Al-Si系合金よりも加工が困難であり、有害な腐食問題を有する。
【0011】
したがって、積層造形に利用することができ、250℃を超える使用温度を有するアルミニウム合金の発見及び開発は、大きな商業的及び技術的価値を有することになる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本明細書に記載の実施形態は、特に、高温、例えば250℃を超える温度で改善された機械的強度を示すAl-Mn-Zr合金に関する。
【0013】
いくつかの実施形態において、本開示は、約1~10重量%のマンガン、約0.3~2重量%のジルコニウム、及び残部としてアルミニウムを含むアルミニウム合金を提供する。合金は、最大約5重量%の鉄、最大約5重量%のケイ素、約0.1~約1重量%のチタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、またはタングステンのうちの一つまたは複数、最大約0.5重量%のスズ、及び/または最大約1重量%の銅をさらに含んでもよい。本開示のアルミニウム合金は、意図的に添加されたスカンジウムを含まない。
【0014】
開示されるアルミニウム合金から作製される粉末及び他の形態は、本明細書に記載される様々な製造方法における有用な材料である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本明細書に含まれる図面は、本明細書に開示するアルミニウム合金の微細構造の一例、例示的な合金の粉末の表面形態及び内部微細構造、並びに積層造形によって作製された例示的な合金の試験片の時効曲線であり、本開示の実施形態によって達成することができ、いかなる意味においても限定するものではない。
【0016】
図1】Al-2.4Mn-1.2Fe-1.2Si-1.0Zr(重量%)の溶融紡糸リボンの走査型電子顕微鏡像。この構造は、試料全体に均一に分散した微細な一次析出物を示す。
【0017】
図2】ガスアトマイズ法により製造されたAl-3.6Mn-1.8Fe-1.8Si-0.8Zr(重量%)粉末の表面形態の走査型電子顕微鏡像。粒子は高度に球状で、小さなサテライトとキャッピング欠陥がある。
【0018】
図3】ガスアトマイズ法により製造された微細な内部微細構造を示すAl-3.6Mn-1.8Fe-1.8Si-0.8Zr(重量%)粉末の断面の走査型電子顕微鏡像。明るい相はAlMnFeSi共晶金属間化合物である。
【0019】
図4】200℃に予熱されたビルドプレート上で選択的レーザー溶融によって作製されたAl-3.6Mn-1.8Fe-1.8Si-0.8Zr(重量%)試験片の72時間までの200~400℃の温度におけるビッカース微小硬度を示す等温時効曲線。エラーバーは、同じ試料を10回測定して得られた1標準偏差を示す。
【0020】
図5】200℃に予熱されたビルドプレート上で選択的レーザー溶融によって作製されたAl-3.6Mn-1.8Fe-1.8Si-0.8Zr(重量%)試験片の72時間までの250~400℃の温度における電気伝導度を示す等温時効曲線。
【0021】
図6】250℃及び300℃の試験温度でそれぞれ選択的レーザー溶融によって作製されたAl-3.6Mn-1.8Fe-1.8Si-0.8Zr(重量%)試験片の定常クリープ速度。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本願は、他の有利な特性の中でも、250℃を超える温度で改善された機械的強度を有するアルミニウム合金を開示する。アルミニウム合金は、鋳造、展伸、若しくは粉末冶金プロセス等の伝統的製造、または選択的レーザー溶融及び直接エネルギー堆積等の積層造形に利用することができる。
【0023】
一実施形態では、アルミニウム合金は、約1~10重量%のマンガン、約0.3~2重量%のジルコニウム、及び残部としてアルミニウムを含む。アルミニウム合金は、意図的に添加されたスカンジウムを含まない。
【0024】
いくつかの実施形態では、アルミニウム合金は、約1~10重量%、約1~9.5重量%、約1~9重量%、約1~8.5重量%、約1~8重量%、約1~7.5重量%、約1~7重量%、約1~6.5重量%、約1~6重量%、約1~5.5重量%、約1~5重量%、約1~4.5重量%、約1~4重量%、約1~3.5重量%、または約1~3重量%のマンガンを含み、それらの間の任意の範囲または値を含む。いくつかの実施形態において、アルミニウム合金は、約2~約5重量%のマンガンを含む。
【0025】
いくつかの実施形態では、アルミニウム合金は、約0.3~2重量%、約0.3~1.75重量%、約0.3~1.5重量%、約0.3~1.25重量%、約0.3~1重量%、約0.3~0.75重量%、または約0.3~0.5重量%のジルコニウムを含み、それらの間の任意の範囲または値を含む。
【0026】
いくつかの実施形態において、アルミニウム合金は、約1~6重量%のマンガン、約0.3~1.5重量%のジルコニウム、及び残部としてアルミニウムを含む。アルミニウム合金は、意図的に添加されたスカンジウムを含まない。
【0027】
いくつかの実施形態において、アルミニウム合金は、約1~4重量%のマンガン、約0.5~1.2重量%のジルコニウム、及び残部としてアルミニウムを含む。アルミニウム合金は、意図的に添加されたスカンジウムを含まない。
【0028】
いくつかの実施形態において、アルミニウム合金は、最大約5重量%の鉄、例えば、約0.05重量%、約0.1重量%、0.5重量%、約1重量%、約1.5重量%、約2重量%、約2.5重量%、約3重量%、約3.5重量%、約4重量%、約4.5重量%、または約5重量%の鉄をさらに含み、それらの間の任意の範囲または値を含む。いくつかの実施形態において、アルミニウム合金は、約0.1~5重量%、約0.1~4.5重量%、約0.1~4重量%、約0.1~3.5重量%、約0.1~3重量%、約0.1~2.5重量%、または約0.1~約2重量%の鉄をさらに含み、それらの間の任意の範囲または値を含む。いくつかの実施形態において、アルミニウム合金は、約0.2~5重量%、約0.2~4.5重量%、約0.2~4重量%、約0.2~3.5重量%、約0.2~3重量%、約0.2~2.5重量%、または約0.2~約2重量%の鉄をさらに含み、それらの間の任意の範囲または値を含む。いくつかの実施形態において、アルミニウム合金は約0.2~2重量%の鉄をさらに含む。いくつかの実施形態において、アルミニウム合金は約0.3~2重量%の鉄をさらに含む。いくつかの実施形態において、アルミニウム合金は約0.4~2重量%の鉄をさらに含む。いくつかの実施形態において、アルミニウム合金は約0.5~2重量%の鉄をさらに含む。
【0029】
いくつかの実施形態において、アルミニウム合金は、最大約5重量%のケイ素、例えば、約0.05重量%、約0.1重量%、0.5重量%、約1重量%、約1.5重量%、約2重量%、約2.5重量%、約3重量%、約3.5重量%、約4重量%、約4.5重量%、または約5重量%の鉄をさらに含み、それらの間の任意の範囲または値を含む。いくつかの実施形態において、アルミニウム合金は、約0.1~5重量%、約0.1~4.5重量%、約0.1~4重量%、約0.1~3.5重量%、約0.1~3重量%、約0.1~2.5重量%、または約0.1~約2重量%のケイ素をさらに含み、それらの間の任意の範囲または値を含む。いくつかの実施形態において、アルミニウム合金は、約0.2~5重量%、約0.2~4.5重量%、約0.2~4重量%、約0.2~3.5重量%、約0.2~3重量%、約0.2~2.5重量%、または約0.2~約2重量%のケイ素をさらに含み、それらの間の任意の範囲または値を含む。いくつかの実施形態において、アルミニウム合金は、約0.2~2重量%のケイ素をさらに含む。いくつかの実施形態において、アルミニウム合金は、約0.3~2重量%のケイ素をさらに含む。いくつかの実施形態において、アルミニウム合金は、約0.4~2重量%のケイ素をさらに含む。いくつかの実施形態において、アルミニウム合金は、約0.5~2重量%のケイ素をさらに含む。
【0030】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、約1~10重量%のマンガン、約0.3~2重量%のジルコニウム、約0.2~2重量%のFe、及び残部としてアルミニウムを含むアルミニウム合金を提供する。アルミニウム合金は、意図的に添加されたスカンジウムを含まない。
【0031】
いくつかの実施形態において、本発明は、約1~10重量%のマンガン、約0.3~2重量%のジルコニウム、約0.2~2重量%のFe、約0.2~2重量%のケイ素、及び残部としてアルミニウムを含むアルミニウム合金を提供する。アルミニウム合金は、意図的に添加されたスカンジウムを含まない。
【0032】
いくつかの実施形態において、本発明は、約3.6重量%のマンガン、約0.8重量%のジルコニウム、約1.8重量%のFe、約1.8重量%のケイ素、及び残部としてアルミニウムを含むアルミニウム合金を提供する。アルミニウム合金は、意図的に添加されたスカンジウムを含まない。
【0033】
いくつかの実施形態では、本開示のアルミニウム合金は、チタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステンのうちの一つまたは複数を、約0.1~約1重量%、例えば、約0.1重量%、約0.2重量%、約0.3重量%、約0.4重量%、約0.5重量%、約0.6重量%、約0.7重量%、約0.8重量%、約0.9重量%、または約1%重量%さらに含み、それらの間のすべての範囲及び値を含む。
【0034】
いくつかの実施形態では、本開示のアルミニウム合金は、最大約0.5重量%のスズ、例えば、約0.05重量%、約0.1重量%、約0.15重量%、約0.2重量%、約0.25重量%、約0.3重量%、約0.35重量%、約0.4重量%、または約0.5重量%のスズをさらに含み、それらの間のすべての範囲及び値を含む。いくつかの実施形態では、アルミニウム合金は、約0.05~約0.5重量%のスズ、例えば、約0.05重量%、約0.1重量%、約0.15重量%、約0.2重量%、約0.25重量%、約0.3重量%、約0.35重量%、約0.4重量%、約0.45重量%、または約0.5重量%のスズをさらに含み、それらの間のすべての範囲及び値を含む。
【0035】
いくつかの実施形態では、本開示のアルミニウム合金は、最大約1重量%の銅、例えば、約0.1重量%、約0.2重量%、約0.3重量%、約0.4重量%、約0.5重量%、約0.6重量%、約0.7重量%、約0.8重量%、約0.9重量%、または約1重量%の銅をさらに含み、それらの間のすべての範囲及び値を含む。いくつかの実施形態では、アルミニウム合金は、約0.05~約1重量%の銅、例えば、約0.05重量%、約0.1重量%、約0.2重量%、約0.3重量%、約0.4重量%、約0.5重量%、約0.6重量%、約0.7重量%、約0.8重量%、約0.9重量%、または約1重量%の銅をさらに含み、それらの間のすべての範囲及び値を含む。いかなる特定の理論にも束縛されるものではないが、開示されるアルミニウム合金中に存在する銅を使用して、α相析出物を接種することができる。
【0036】
いくつかの実施形態では、アルミニウム合金は、約1~10重量%のマンガン、約0.3~2重量%のジルコニウム、約0~5重量%の鉄、約0~5重量%のケイ素、及び残部としてアルミニウムを含む。アルミニウム合金は、意図的に添加されたスカンジウムを含まない。
【0037】
いくつかの実施形態では、アルミニウム合金は、約1.2~6重量%のマンガン、約0.3~1重量%のジルコニウム、約0~1.8重量%の鉄、約0~1.8重量%のケイ素、及び残部としてアルミニウムを含む。アルミニウム合金は、意図的に添加されたスカンジウムを含まない。
【0038】
いくつかの実施形態では、アルミニウム合金は、約1~5重量%のマンガン、約0.3~1.5重量%のジルコニウム、約0.5~3重量%の鉄、約0.5~3重量%のケイ素、及び残部としてアルミニウムを含む。アルミニウム合金は、意図的に添加されたスカンジウムを含まない。
【0039】
一実施形態では、アルミニウム合金は、約1~10重量%のマンガン、約0.3~2重量%のジルコニウム、約0~5重量%の鉄、約0~5重量%のケイ素、約0.1~約1重量%のチタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステンのうちの一つまたは複数、及び残部としてアルミニウムを含む。アルミニウム合金は、意図的に添加されたスカンジウムを含まない。
【0040】
一実施形態では、アルミニウム合金は、約1~7重量%のマンガン、約0.3~1.5重量%のジルコニウム、約0.5~3重量%の鉄、約0.5~3重量%のケイ素、約0.1~約1重量%のチタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステンのうちの一つまたは複数、及び残部としてアルミニウムを含む。アルミニウム合金は、意図的に添加されたスカンジウムを含まない。
【0041】
一実施形態では、アルミニウム合金は、約1~10重量%のマンガン、約0.3~2重量%のジルコニウム、約0~5重量%の鉄、約0~5重量%のケイ素、約0.1~約1重量%のチタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステンのうちの一種または複数、α相析出物を接種するための約0~0.5重量%のスズ及び/または約0~1重量%の銅、並びに残部としてアルミニウムを含む。アルミニウム合金は、意図的に添加されたスカンジウムを含まない。
【0042】
一実施形態では、アルミニウム合金は、約1~7重量%のマンガン、約0.3~1.5重量%のジルコニウム、約0.5~3重量%の鉄、約0.5~3重量%のケイ素、約0.1~約1重量%のチタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステンのうちの一種または複数、α相析出物を接種するための約0.1~0.5重量%のスズ及び/または約0.1~1重量%の銅、並びに残部としてアルミニウムを含む。アルミニウム合金は、意図的に添加されたスカンジウムを含まない。
【0043】
いくつかの実施形態では、開示される合金中の非意図的に添加されるスカンジウムの量は、約0.5重量%未満、約0.4重量%未満、約0.3重量%未満、約0.2重量%未満、約0.1重量%未満、約0.09重量%未満、約0.08重量%未満、約0.07重量%未満、約0.06重量%未満、約0.05重量%未満、約0.04重量%未満、約0.03重量%未満、または約0.02重量%未満であり、それらの間の任意の範囲または値を含む。
【0044】
いくつかの実施形態では、アルミニウム合金は、約0~約0.5重量%の不可避的不純物、例えば約0.01重量%、約0.05重量%、約0.1重量%、約0.15重量%、約0.2重量%、約0.25重量%、約0.3重量%、約0.35重量%、約0.4重量%、約0.45重量%、または約0.5重量%の不可避的不純物を含む。いくつかの実施形態では、アルミニウム合金は、約0.5重量%未満、約0.4重量%未満、約0.3重量%未満、約0.2重量%未満、または約0.1重量%未満の不可避的不純物を含む。当業者には理解されるように、開示される合金中に存在する不可避不純物は、合金の特性、例えば、その引張強度、ビッカース硬度、最大硬度、または本明細書に記載される任意の他の特性に測定可能な影響を及ぼさない。
【0045】
いくつかの実施形態では、本開示の合金は、約90重量%超のアルミニウム、約91重量%超のアルミニウム、約92重量%超のアルミニウム、約93重量%超のアルミニウム、約94重量%超のアルミニウム、約95重量%超のアルミニウム、約96重量%超のアルミニウム、約97重量%超のアルミニウム、または約98重量%超のアルミニウムを含む。いくつかの実施形態において、本開示の合金は、約90重量%のアルミニウム、約91重量%のアルミニウム、約92重量%のアルミニウム、約93重量%のアルミニウム、約94重量%のアルミニウム、約95重量%のアルミニウム、約96重量%のアルミニウム、約97重量%のアルミニウム、または約98重量%のアルミニウムを含む。
【0046】
開示されるアルミニウム合金は、限定されるものではないが、レーザー粉末床溶融結合法、指向性エネルギー堆積法、レーザー加工ネットシェイピング、及びレーザークラッディング、並びにワイヤアーク積層造形法等のワイヤベースの積層造形技術を含む粉末ベースの積層造形技術に特に有利である。本合金は、急速な溶融及び凝固が本質的な加工法であるこのような方法で容易に加工できるように特別に設計されている。
【0047】
開示される合金は、例えば、航空宇宙及び自動車用途、レース及びレジャー用品を含むスポーツ器具、並びに消費財において、高温条件を経験するアルミニウム部品の高温性能を改善するのに有利である。
【0048】
本明細書に記載の実施形態は、マンガン、鉄、ケイ素、ジルコニウム、及び不可避不純物を含むAl-Mn系アルミニウム合金のファミリーに関する。アルミニウム合金は、熱的に安定な(約550℃までの)微細構造を達成するために開発され、250℃を超える温度で優れた機械的特性を発揮する。
【0049】
一実施形態において、本開示のアルミニウム合金は、Mn、Fe、及び/またはSiを有する析出物と、約0.05~約5μmの範囲の平均直径を有するAlZr一次析出物とが同時に分散したアルミニウムマトリックスを含む。別の実施形態では、アルミニウム合金は、約3~約50nmの範囲の平均直径を有するL1結晶構造を有するAlZrナノ析出物を含む。
【0050】
アルミニウム合金は、部品に加工される際に、従来のAl-Si系またはAl-Cu系合金から積層造形される部品から典型的に得られるものよりも高い機械的強度及び熱安定性を向上するために加工法で熱処理することができる。
【0051】
一実施形態では、本開示のアルミニウム合金は、アルミニウム鋳造、圧延、押出、鍛造を含む伝統的製造、及び選択的レーザー溶融を含む積層造形に利用することができる。
【0052】
さらには、金属粉末形態のアルミニウム合金は、製造プロセス中に液相を形成させない、熱間等方圧プレス、粉末成形、及び押出などの粉末冶金プロセスによって加工することができる。粉末冶金法の一つで加工する場合、アルミニウム合金は、250℃を超え、550℃程度の高い使用温度で、優れた機械的特性及び熱安定性を有する。
【0053】
さらに、アルミニウム合金は、アルミニウム鋳造、及び圧延、鍛造、押出等の展伸成形等の他の伝統的製造方法で作製することができる。
【0054】
アルミニウム合金は、積層造形または粉末冶金プロセスで利用されるプレアロイ金属粉末として作製することができる。アルミニウム合金粉末は、ガスアトマイズ、プラズマアトマイズ、回転電極処理、またはメカニカルアロイングに続く任意のプラズマ球状化処理で作製することができ、粉末は均一な合金組成を有する。プレアロイ金属粉末は、約1~約500マイクロメートルの範囲の粒径を有し得る。粉末は、概して、いくつかの積層造形プロセスに必須である球形であるか、または粉末冶金プロセスに一般的である不規則な形状でることができる。
【0055】
Al-Mn系合金は、高い凝固速度を利用して、平衡溶解度を超えてアルミニウムマトリックスの固溶体中にMnの大部分を保持することができる。このような高い冷却速度は、特定の鋳造プロセスで達成することができるが、冷却速度が約10℃/秒を大幅に超えることができる多くの溶接、アトマイズ、及び積層造形プロセスで容易に達成される。特定の条件下で固溶体中のMn量を増加させると、より大きな固溶強化及び析出強化をもたらすことができる。熱処理中、Mnは、典型的には、AlMnまたはAl12Mnの析出物を形成する。Al-Mn系にZrを添加すると、AlZrナノ析出物も形成され、強度をさらに高めることができる。さらに、Al-Mn系にFe及びSiを添加し、合金を熱処理すると、Fe及びSiを含むAl-Mn析出物が形成される。これらの析出物は、高温性能に特に有用である。
【0056】
一実施形態では、本開示は、急速凝固プロセスでアルミニウム合金を製造する方法を提供し、プロセスは、溶融紡糸、溶融抽出、ビームグレージング、スプレー堆積、ガスアトマイズ、プラズマアトマイズ、及びプラズマ球状化からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、アルミニウム合金は、これらの方法のうちの一つまたは複数の適用によって粉末に加工される。いくつかの実施形態では、粉末は、ガスアトマイズ、プラズマアトマイズ、またはプラズマ球状化によって調製することができる球状粒子を含む。
【0057】
一実施形態では、アルミニウム合金は、400℃まで熱的に安定である(例えば、それらの特性を保持する)。一実施形態では、アルミニウム合金は、500℃まで熱的に安定である(例えば、それらの特性を保持する)。一実施形態では、アルミニウム合金は、550℃まで熱的に安定である(例えば、それらの特性を保持する)。別の実施形態では、アルミニウム合金は、400℃まで耐クリープ性である。別の実施形態では、アルミニウム合金は、500℃まで耐クリープ性である。
【0058】
一実施形態では、アルミニウム合金は、250℃で90MPaを超える高閾値クリープ応力を示す。材料は、閾値クリープ応力よりも低い応力下でクリープしない。
【0059】
一実施形態では、Al-3.6Mn-1.8Fe-1.8Si-0.8Zr(重量%)アルミニウム合金は、250℃で90MPaを超える高閾値クリープ応力を示す。材料は、閾値クリープ応力よりも低い応力下でクリープしない。
【0060】
いくつかの実施形態では、本開示のアルミニウム合金は、室温で約200MPa~約600MPa、及び250℃の試験温度で約180MPa~約325MPaの降伏強度を有する。いくつかの実施形態では、本開示のアルミニウム合金は、室温で約300MPa~約600MPa、及び250℃の試験温度で約180MPa~約325MPaの降伏強度を有する。いくつかの実施形態では、本開示のアルミニウム合金は、室温で約325MPa~約550MPa、及び250℃の試験温度で約180MPa~約325MPaの降伏強度を有する。いくつかの実施形態では、本開示のアルミニウム合金は、室温で200MPa超、及び250℃の試験温度で160MPa超の降伏強度を有する。いくつかの実施形態では、本開示のアルミニウム合金は、室温で300MPa超、及び250℃の試験温度で180MPa超の降伏強度を有する。一実施形態では、Al-3.6Mn-1.8Fe-1.8Si-0.8Zr(重量%)アルミニウム合金は、室温で300MPa超、及び250℃の試験温度で180MPa超の降伏強度を有する。
【0061】
いくつかの実施形態では、本開示のアルミニウム合金は、室温で300MPa超、250℃の試験温度で180MPa超、及び300℃の試験温度で140MPa超の降伏強度を有する。一実施形態では、Al-3.6Mn-1.8Fe-1.8Si-0.8Zr(重量%)アルミニウム合金は、室温で300MPa超、250℃の試験温度で180MPa超、及び300℃の試験温度で140MPa超の降伏強度を有する。
【0062】
いくつかの実施形態において、本開示のアルミニウム合金は、200MPa超の引張強度を有する。いくつかの実施形態において、本開示のアルミニウム合金は、300MPa超の引張強度を有する。いくつかの実施形態において、本開示のアルミニウム合金は、約200MPa~約550MPaの引張強度を有する。いくつかの実施形態において、本開示のアルミニウム合金は、約315MPa~約550MPaの引張強度を有する。いくつかの実施形態では、引張強度は、350℃~425℃の温度で時効処理した後に達成される。
【0063】
いくつかの実施形態において、本開示のアルミニウム合金は、50HK~200HKの範囲の最大(ヌープ)硬度値を有する。いくつかの実施形態において、本開示のアルミニウム合金は、65HK~180HKの範囲の最大(ヌープ)硬度値を有する。いくつかの実施形態において、最大硬度は、350℃~425℃の温度で時効処理した後に達成される。
【0064】
いくつかの実施形態において、本開示のアルミニウム合金は、室温で測定した場合、300MPa~450MPaの降伏強度、400MPa~525MPaの極限引張強度、及び2%~15%の伸びを有する。いくつかの実施形態において、本開示のアルミニウム合金は、室温で測定した場合、325MPa~425MPaの降伏強度、425MPa~500MPaの極限引張強度、及び4%~12%の伸びを有する。いくつかの実施形態において、本開示のアルミニウム合金は、室温で測定した場合、350MPa~400MPaの降伏強度、450MPa~470MPaの極限引張強度、及び6%~10%の伸びを有する。
【0065】
いくつかの実施形態において、本開示のアルミニウム合金は、250℃で測定した場合、150MPa~275MPaの降伏強度、100MPa~200MPaの極限引張強度、及び2%~10%の伸びを有する。いくつかの実施形態において、本開示のアルミニウム合金は、250℃で測定した場合、175MPa~250MPaの降伏強度、125MPa~185MPaの極限引張強度、及び4%~8%の伸びを有する。いくつかの実施形態において、本開示のアルミニウム合金は、250℃で測定した場合、200MPa~225MPaの降伏強度、145MPa~160MPaの極限引張強度、及び5%~7%の伸びを有する。
【0066】
いくつかの実施形態では、本開示のアルミニウム合金は、300℃で測定した場合、100MPa~225MPaの降伏強度、100MPa~250MPaの極限引張強度、及び2%~8%の伸びを有する。いくつかの実施形態では、本開示のアルミニウム合金は、300℃で測定した場合、125MPa~185MPaの降伏強度、125MPa~185MPaの極限引張強度、及び3%~6%の伸びを有する。いくつかの実施形態では、本開示のアルミニウム合金は、300℃で測定した場合、145MPa~165MPaの降伏強度、150MPa~165MPaの極限引張強度、及び4%~5%の伸びを有する。
【0067】
いくつかの実施形態において、本開示の合金の3-D印刷試料は、室温で引張で機械的に試験した場合、300MPa~400MPaの降伏強度、350MPa~550MPaの極限引張強度、及び2%~20%の伸びを有する。
【0068】
一実施形態において、アルミニウム合金は、自動車、航空宇宙、モータースポーツ、スポーツ器具、工業、化学、及びエネルギー用途、並びに油及びガス部品に利用される。
【0069】
一実施形態では、任意の形態(例えば、粉末、リボン、ワイヤ、プレート、シート、箔、鋳造、押出、鍛造等)で合金から作製された構造は、航空宇宙部品、衛星部品、自動車部品、輸送用途、スポーツ器具もしくはレジャー用品、または消費者製品等の、非常に高い強度及び低い密度が望まれる用途で使用することができる。
【0070】
一実施形態において、本開示の方法は、プレアロイ金属粉末を使用して積層造形等の方法を使用して構造体を作製することを含み、そのような方法は、液相の形成を含んでもよい。
【0071】
いくつかの実施形態では、本明細書で使用される積層造形は、所望の3次元形状が達成されるまで材料が一度に1層ずつで堆積される付加的な方法で、ネットシェイプ部品またはニアネットシェイプの部品を形成する方法を指す。いくつかの実施形態では、積層造形プロセスは、球状の金属合金粉末を利用する。球状の金属粉末は、自然に球状粉末を生成するガスアトマイズもしくはプラズマアトマイズにより、または不規則な粒子を球状粉末に変えるプラズマ球状化により作製することができる。いくつかの実施形態では、積層造形に利用される金属粉末は、エネルギー源によって完全に溶融して下地材料に適用され、下地材料は、既存の基板または粉末材料の以前に堆積された層でもよい。溶融した粉末は急速に凝固し(例えば、約10℃/秒から10℃/秒程度の冷却速度で)、下地材料に融合する。積層造形法のいくつかの実施形態では、粉末は、レーザービームまたは電子ビーム等の集束エネルギー源によって特定の位置で融合され、高空間分解能を有するニアネットシェイプ部品が作製される。いくつかの実施形態では、堆積材料の複数の層は、堆積材料の各層の間で完全な融合を達成するために、1回または複数回、再溶融される。いくつかの実施形態では、溶融合金の冷却速度は、約10℃/秒~約10℃/秒に及ぶ。いかなる特定の理論にも拘束されるものではないが、積層造形技術に固有の非常に高い冷却速度のため、そのようなプロセスは非平衡と考えられ、平衡プロセス用に最適化された従来の合金は、このような方法では容易に加工することができない。
【0072】
一実施形態では、本開示の方法は、開示する合金がベース材料としてまたはフィラー材料として利用される溶接を利用する製造技術を使用して、部品を作製することを含む。
【0073】
いくつかの実施形態において、開示されるアルミニウム合金から部品を製造する方法は、a)約700℃~約1000℃の温度で、Al-25Mn(重量%)、Al-20重量%Fe、Al-36重量%Si、及びAl-15Zr(重量%)、並びに/または純元素等のアルミニウム系母合金の任意の組合せを添加しながら、リサイクルアルミニウムまたはバージンアルミニウムを溶融して構成成分の液体混合物を形成する工程であって、構成成分は意図的に添加されたスカンジウムを含まない、工程;b)溶融した構成成分を鋳型に鋳造して鋳造品を形成する工程;c)任意に工程dの前または後に鋳造品を約350℃~約550℃の温度で約0.25時間~約24時間熱処理する工程;並びにd)鋳造品をシート、箔、ロッド、ワイヤ、押出品、鍛造品に加工する工程、または鋳造品をその既存の形状で使用する工程を含む。
【0074】
いくつかの実施形態では、工程d)の加工は、鋳造品を、シート、箔、ロッド、ワイヤ、押出品、または鍛造品に熱間成形及び/または冷間成形することを含む。いくつかの実施形態では、工程d)は、鋳造品を、シート、箔、ロッド、ワイヤ、押出品、または鍛造品に熱間成形することを含む。いくつかの実施形態では、工程d)は、鋳造品を、シート、箔、ロッド、ワイヤ、押出品、または鍛造品に冷間成形することを含む。
【0075】
いくつかの実施形態では、開示されるアルミニウム合金から部品を製造する方法は、a)開示されるアルミニウム合金のワイヤまたはロッドを積層造形プロセスで使用してネットシェイプ部品またはニアネットシェイプ部品を作成すること、及びb)任意にネットシェイプ部品またはニアネットシェイプ部品を約350℃~約550℃の温度で約0.25時間~約24時間熱時効処理することを含む。
【0076】
いくつかの実施形態において、開示されるアルミニウム合金から部品を製造するための方法は、a)開示されるアルミニウム合金からリボン、チップ、または粉末を製造すること、b)リボン、チップ、または粉末を冶金プロセスで使用してネットシェイプ部品、ニアネットシェイプ部品、または押出部品を製造すること、c)ネットシェイプ部品、ニアネットシェイプ部品、または押出部品を、約350℃~約550℃の温度で約0.25時間~約24時間熱処理することを含む。
【0077】
いくつかの実施形態において、開示されるアルミニウム合金から部品を製造するための方法は、a)開示されるアルミニウム合金から粉末を作製すること、b)積層造形プロセスで粉末を使用してネットシェイプ部品またはニアネットシェイプ部品を製造すること、c)約350℃~約550℃の温度で約0.25時間~約24時間、ネットシェイプ部品、ニアネットシェイプ部品を熱処理することを含む。
【0078】
いくつかの実施形態では、開示されるアルミニウム合金から部品を製造する方法は、a)アルミニウム合金から粉末を作製する工程、b)選択的レーザー溶融積層造形プロセスで粉末を使用してネットシェイプ部品またはニアネットシェイプ部品を製造する工程であって、粉末は、コンピュータソフトウェアによってプログラムされる選択的位置でレーザービームによって一緒に溶接される工程、及びc)ネットシェイプ部品、ニアネットシェイプ部品を、約350℃~約550℃の温度で約0.25時間~約24時間熱処理する工程を含む。
【0079】
いくつかの実施形態では、本開示の積層造形プロセスは、レーザー粉末床溶融結合法、指向性エネルギー堆積法、レーザー加工ネットシェイピング、及びレーザークラッディングを含む。いくつかの実施形態において、本明細書に開示する積層造形プロセスで使用するのに適したアルミニウム合金は、粉末の形態である。いくつかの実施形態では、粉末は球状粒子を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に開示する球状粒子は、ガスアトマイズ、プラズマアトマイズ、またはプラズマ球状化によって調製される。いくつかの実施形態では、粉末は不規則形状の粒子を含む。本開示のアルミニウム合金粉末は、当技術分野で公知の任意の方法によって、例えば、粉末が均一な合金組成を有するガスアトマイズ、プラズマアトマイズ、回転電極処理、またはメカニカルアロイングに続く任意のプラズマ球状化処理によって作製することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に開示する積層造形プロセスで使用するのに適したアルミニウム合金はワイヤの形態である。いくつかの実施形態では、アルミニウム合金がワイヤの形態である場合、積層造形プロセスはワイヤアーク積層造形を含む。
【0080】
いくつかの実施形態において、アルミニウム合金またはマグネシウム合金から作製される部品を補修または前記部品上に保護コーティングを形成する方法は、開示されるアルミニウム合金の粉末を、コールドスプレー法、溶射法、レーザーアシストコールドスプレー法、またはレーザークラッディング法で使用して、部品を補修、または部品上に保護コーティングを形成することを含む。
【0081】
明確に反対の記載がない限り、本明細書に引用するすべての範囲は包括的である。本明細書で引用する任意の範囲は、その範囲内のすべての部分範囲をその範囲内に含むことを理解されたい。
【0082】
本明細書で使用される参照数値及びその文法的等価物に関連する用語「約」及びその文法的等価物は、その値から±10%の範囲、例えばその値から±10%、±9%、±8%、±7%、±6%、±5%、±4%、±3%、±2%、または±1%の範囲を含むことができる。例えば、「約10」という量は、9から11までの量を含む。
【0083】
本開示の番号付き実施形態
本開示によって企図される他の主題は、以下の番号付けされた実施形態に記載される。
1.約1~約10重量%のマンガン;
約0.3~約2重量%のジルコニウム;及び
残部のアルミニウム
を含み、
意図的に添加されたスカンジウムを含まない
アルミニウム合金。

2.約0~約5重量%のケイ素;及び/または
約0~約5重量%の鉄
をさらに含む、実施形態1に記載のアルミニウム合金。

2a.約0.3~約2重量%のケイ素;及び/または
約0.3~約2重量%の鉄
をさらに含む、実施形態1に記載のアルミニウム合金。

3.約0.1~約1重量%のチタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、及びタングステンのうちの一つまたは複数をさらに含む、実施形態1及び2aのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

3a.約0.25~約0.75重量%のモリブデンをさらに含む、実施形態1~2aのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

4.α相析出物を接種するための約0.05~約0.5重量のスズをさらに含む、実施形態1~3のいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

5.α相析出物を接種するための約0.05~約1重量%の銅をさらに含む、実施形態1~3のいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

6.約0.5%重量以下の不可避不純物をさらに含む、実施形態1~5のいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

7.スカンジウムの量が約0.5重量%未満である、実施形態1~6のいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

7a.スカンジウムの量が約0.2重量%未満である、実施形態1~6のいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

8.約1~約7重量%のマンガンを含む、実施形態1~7aのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

8a.約2.5~約5重量%のマンガンを含む、実施形態1~7aのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

9.約0.2~約1.5重量%のジルコニウムを含む、実施形態1~8aのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

9a.約0.5~約1重量%のジルコニウムを含む、実施形態1~8aのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

10.約0.2~約2重量%のケイ素を含む、実施形態2~9aのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

10a.約0.5~約1.8重量%のケイ素を含む、実施形態2~9aのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

11.約0.2~約2重量%の鉄を含む、実施形態2~10aのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

11a.約0.5~約1.8重量%の鉄を含む、実施形態2~10aのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

12.約1~約10重量%のマンガン;
約0.3~約2重量%のジルコニウム;
約0~5重量%の鉄;
約0~5重量%のケイ素;及び
残部のアルミニウム
を含み、
意図的に添加されたスカンジウムを含まない
アルミニウム合金。

13.約1~約7重量%のマンガンを含む、実施形態12に記載のアルミニウム合金。

13a.約2.5~約5重量%のマンガンを含む、実施形態12または13に記載のアルミニウム合金。

14.約0.2~約1.5重量%のジルコニウムを含む、実施形態12~13aのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

14a.約0.5~約1重量%のジルコニウムを含む、実施形態12~13aのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

15.約0.2~約2重量%のケイ素を含む、実施形態12~14aのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

15a.約0.5~約1.8重量%のケイ素を含む、実施形態12~14aのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

16.約0.2~約2重量%の鉄を含む、実施形態12~15aのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

16a.約0.5~約1.8重量%の鉄を含む、実施形態12~15aのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

17.約0.1~約1重量%のチタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、及びタングステンのうちの一つまたは複数をさらに含む、実施形態12~16aのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

17a.約0.25~約0.75重量%のモリブデンをさらに含む、実施形態12~16aのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

18.α相析出物を接種するための約0.05~約0.5重量%のスズをさらに含む、実施形態12~17aのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

19.α相析出物を接種するための約0.05~約1重量%の銅をさらに含む、実施形態12~17aのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

20.約0.5重量%以下の不可避不純物をさらに含む、実施形態12~19のいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

20a.約0.2重量%以下の不可避不純物をさらに含む、実施形態12~19のいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

21.スカンジウムの量が約0.5重量%未満である、実施形態12~20aのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

21a.スカンジウムの量が約0.2重量%未満である、実施形態12~20aのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

22.前記合金が、Mn、Fe、及び/またはSiを有する析出物と、約0.05~約5μmの範囲の平均直径を有するAlZr一次析出物とが同時に分散したアルミニウムマトリックスを含む、実施形態1~21aのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

23.約3~約50nmの範囲の平均直径を有するL1結晶構造を有するAlZrナノ析出物を含む、実施形態1~23のいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

24.約1~約5重量%のマンガン;
約0.3~2重量%の鉄;
約0.3~2重量%のケイ素;及び
残部のアルミニウム
を含み、
意図的に添加されたスカンジウムを含まない
アルミニウム合金。

24a.約1.2~約3.6重量%のマンガンを含む、実施形態24に記載のアルミニウム合金。

24b.約0.6~1.8重量%のケイ素を含む、実施形態24または24aに記載のアルミニウム合金。

24c.約0.6~1.8重量%の鉄を含む、実施形態24~24bのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

24d.約0.1~約0.5重量%のジルコニウムをさらに含む、実施形態24~24cのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

24e.約0.3重量%のジルコニウムをさらに含む、実施形態24~24cのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

24f.スカンジウムの量が約0.5重量%未満である、実施形態24~24eのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

24g.スカンジウムの量が約0.2重量%未満である、実施形態24~24eのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

24h.約0.2重量%以下の不可避的不純物をさらに含む、実施形態24~24gのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

24i.α相析出物を接種するための約0.05~約0.5重量%のスズをさらに含む、実施形態24~24hのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

24j.α相析出物を接種するための約0.05~約1重量%の銅をさらに含む、実施形態24~24iのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

24k.約0.05~約1重量%のチタンまたはクロムをさらに含む、実施形態24~24hのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

25.前記合金を伝統的製造及び積層造形に利用することができる、実施形態1~24kのいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

25a.伝統的製造が、アルミニウム鋳造、圧延、押出、または鍛造を含み、積層造形がレーザー溶融を含む、実施形態25に記載のアルミニウム合金。

26.金属構造体の製造方法であって、
a)約700℃~約1000℃の温度で、アルミニウム母合金または純元素を添加しながら、リサイクルアルミニウムまたはバージンアルミニウムを溶融して、構成成分の液体混合物を形成する工程であって、前記構成成分は、実施形態1~23のいずれか一つに記載の合金を含み、前記構成成分は、意図的に添加されたスカンジウムを含まない、工程;
b)前記溶融した構成成分を鋳型に鋳造して鋳造品を形成する工程;
c)任意に工程dの前または後に前記鋳造品を約350℃~約550℃の温度で約0.25時間~約24時間熱処理して、Mn、Fe及び/またはSiを有する析出物、約0.05~約5μmの範囲の平均直径を有するAlZr一次析出物、及び約3~約50nmの範囲の平均直径を有するL1結晶構造を有するAlZrナノ析出物の同時分散物を含む鋳造品を形成する工程;並びに
d)前記鋳造品をシート、箔、ロッド、ワイヤ、押出品、鍛造品に加工する工程、または前記鋳造品をその既存の形状で使用する工程であって、前記加工することが、任意に、前記鋳造品を熱間成形及び/または冷間成形することを含む、工程
を含む、方法。

27.部品の製造方法であって、
実施形態26に記載の方法で製造したワイヤまたはロッドを積層造形プロセスで用いてネットシェイプ部品またはニアネットシェイプ部品を製造すること;及び
任意に前記ネットシェイプ部品またはニアネットシェイプ部品を約350℃~約550℃の温度で約0.25時間~約24時間熱時効処理して、Mn、Fe及び/またはSiを有する析出物、約0.05~約5μmの範囲の平均直径を有するAlZr一次析出物、及び約3~約50nmの範囲の平均直径を有するL1結晶構造を有するAlZrナノ析出物の同時分散を達成すること
を含む方法。

28.部品の製造方法であって、
実施形態1~23のいずれか一つに記載のアルミニウム合金からリボン、チップ、または粉末を作製すること;
粉末冶金プロセスで前記リボン、前記チップ、または前記粉末を用いて、ネットシェイプ部品、ニアネットシェイプ部品、または押出部品を製造すること;並びに
任意に前記ネットシェイプ部品、前記ニアネットシェイプ部品、または前記押出部品を約350℃~約550℃の温度で約0.25時間~約24時間熱処理して、Mn、Fe及び/またはSiを有する析出物、約0.05~約5μmの範囲の平均直径を有するAlZr一次析出物、及び約3~約50nmの範囲の平均直径を有するL1結晶構造を有するAlZrナノ析出物の同時分散を達成すること
を含む方法。

29.部品の製造方法であって、
実施形態1~23のいずれか一つに記載のアルミニウム合金から粉末を作製すること;
積層造形プロセスで前記粉末を用いてネットシェイプ部品またはニアネットシェイプ部品を製造すること;並びに
任意に前記ネットシェイプ部品、前記ニアネットシェイプ部品を約350℃~約550℃の温度で約0.25時間~約24時間熱処理して、Mn、Fe及び/またはSiを有する析出物、約0.05~約5μmの範囲の平均直径を有するAlZr一次析出物、及び約3~約50nmの範囲の平均直径を有するL1結晶構造を有するAlZrナノ析出物の同時分散を達成すること
を含む方法。

30.部品の製造方法であって、
実施形態1~23のいずれか一つに記載のアルミニウム合金から粉末を作製する工程;
選択的レーザー溶融積層造形プロセスで前記粉末を使用してネットシェイプ部品またはニアネットシェイプ部品を製造する工程であって、前記粉末は、コンピュータソフトウェアによってプログラムされる選択的位置でレーザービームによって一緒に溶接される工程:並びに
任意に前記ネットシェイプ部品、前記ニアネットシェイプ部品を約350℃~約550℃の温度で約0.25時間~約24時間熱処理して、Mn、Fe及び/またはSiを有する析出物、約0.05~約5μmの範囲の平均直径を有するAlZr一次析出物、及び約3~約50nmの範囲の平均直径を有するL1結晶構造を有するAlZrナノ析出物の同時分散を達成する工程
を含む方法。

31.急速凝固プロセスによって実施形態1~23のいずれか一つに記載のアルミニウム合金を製造する方法であって、前記プロセスが、溶融紡糸、溶融抽出、ビームグレージング、スプレー堆積、ガスアトマイズ、プラズマアトマイズ、及びプラズマ球状化からなる群から選択される、方法。

32.実施形態1~23のいずれか一つに記載のアルミニウム合金から作製された粉末。

32a.実施形態26~31のいずれか一つに記載の方法にしたがって調製されたアルミニウム合金。

33.室温で300MPa超、及び250℃の試験温度で180MPa超の降伏強度を有する、実施形態29に記載の方法で製造されたアルミニウム合金。
34.室温で200MPa超、及び250℃の試験温度で100MPa超の降伏強度を有する、実施形態29に記載の方法で製造されたアルミニウム合金。

35.室温で300MPa超、250℃の試験温度で180MPa超、及び300℃の試験温度で140MPa超の降伏強度を有する、実施形態29に記載の方法で製造されたアルミニウム合金。

36.室温で200MPa超、250℃の試験温度で100MPa超、及び300℃の試験温度で50MPa超の降伏強度を有する、実施形態29に記載の方法で製造されたアルミニウム合金。

37.400℃まで熱的に安定である、実施形態1~23のいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

38.400℃まで耐クリープ性であり、250℃で90MPaよりも高い閾値クリープ応力を有する、実施形態1~23のいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

39.200℃を超える動作温度を有する用途に利用することができる、実施形態1~23のいずれか一つに記載のアルミニウム合金。

40.自動車部品、航空宇宙部品、及びスポーツ器具の部品等の用途に利用することができる実施形態1~23のいずれか一つに記載のアルミニウム合金。
【実施例
【0084】
試験方法
開示するアルミニウム合金の特性を評価するために、以下の試験方法を用いた:
【0085】
引張試験(例えば、降伏強度(YS)、極限引張強度(UTS)、伸び(El))を、ASTM E8-金属材料の引張試験のための標準試験方法にしたがって、高温で評価した。
【0086】
引張試験(例えば、降伏強度(YS)、極限引張強度(UTS)、伸び(El))を、ASTM E21-金属材料の高温引張試験のための標準試験方法にしたがって、高温で評価した。
【0087】
ビッカース硬度及びヌープ硬度は、ASTM E92-金属材料のビッカース硬度及びヌープ硬度の標準試験方法にしたがって評価した。
【0088】
圧縮降伏強度(表3)は、ASTM E209-従来のまたは急速の加熱速度及びひずみ速度を用いた高温での金属材料の圧縮試験に関する標準実施方法にしたがって評価した。
【0089】
電気伝導度試験は、ASTM E1004-電磁(渦電流)法による電気伝導度の測定のための標準試験法にしたがって評価した。
【0090】
表面粗さ測定は、ISO 4287-表面テクスチャ:プロファイル方法-用語、定義、及び表面テクスチャパラメータにしたがって評価した。
【0091】
引張クリープ試験(例えば、定常クリープ歪み速度)を、ASTM E139-金属材料のクリープ、クリープ-破断、及び応力-破断試験を行うための標準試験法にしたがって評価した。
【0092】
(実施例1)
複数のAl-Mn-Fe-Si系アルミニウム合金は、溶融紡糸によって作製され、合金は不活性環境中で溶融され、次いで冷たい紡糸銅ホイール上に注がれる。高速回転ホイールは、溶融したアルミニウムを急速に凝固させて金属リボンの小片にする。アルミニウム合金は、1.2重量%~6重量%の範囲の濃度のMn、0重量%~1.8重量%の範囲の濃度のFe、0重量%~1.8重量%の範囲の濃度のSi、0重量%~1重量%の範囲の濃度のZrを含む。アルミニウム合金はまた、Mo等の他の遷移元素を含む。表1は、作製したままの溶融紡糸試料のヌープ硬度を示しており、その値は約50HK~140HK(または150MPa~420MPaの推定引張強度)の値範囲を有する。作製した合金はすべて、25~500℃で等時時効処理(25℃/1h)され、ほとんどすべての合金が時効処理後により高い硬度値を達成した。Zrを含有する合金は、350~425℃の温度範囲で最大硬度を達成する。最大硬度値は、68~171HK(または203~513MPaの推定引張強度)の範囲である。これらの結果は、研究した合金の全てが、500℃まで極めて高い熱安定性を有する(すなわち、高温曝露下でも強度が低下しない)ことを示す。いくつかの研究された合金は、高引張強度(>300MPa)及び500℃までの熱安定性を達成することができる。図1に、例示的な微細構造を示し、Al-2.4Mn-1.2Fe-1.2Si-1.0Zr(重量%)の溶融紡糸リボンの走査型電子顕微鏡像を示す。この構造は、試料全体に均一に分散した微細な一次Al-Mn-Fe-Siα相析出物を示す。等時時効挙動に基づいて、時効処理後の試料にはL1構造のAlZrナノ析出物が高い数密度で含まれていると予想する。
【表1】
【0093】
溶融紡糸法で作製した合金の機械的特性データが提供されるが、これらの特性は、アルミニウム鋳造等の伝統的製造方法で作製した合金においても、また積層造形で作製した合金においても達成できることが、当業者には理解され得る。特に、試料特性は、溶融抽出、ビームグレージング、スプレー堆積、ガスアトマイズ、プラズマアトマイズ、及びプラズマ球状化等のアルミニウム粉末に加工された合金、並びに熱間等方圧プレス、粉末成形、及び押出成形等の粉末冶金プロセスによって作製される最終部品において達成することができる。
【0094】
(実施例2)
本開示のアルミニウム合金(Al-3.6Mn-1.8Fe-1.8Si-0.8Zr(重量%))を、ガスアトマイズにより球状アルミニウム粉末に加工した。次いで、これらのアルミニウム合金粉末を利用して選択的レーザー溶融を用いて、最終部品を積層造形した(すなわち、3D印刷)。最終部品は合金の理論密度の>99.5%の密度を達成したが、これは、積層造形において良好な機械的特性を達成するために重要である。
【0095】
250℃から400℃までの温度範囲で100時間までの等温時効処理を行い、アルミニウム合金からの3D印刷試料の熱安定性を調べた。試料は、非加熱ビルドプレート上に造形した。表2に、3D印刷試料の硬度は安定しており、350℃まで比較的変化していないことが示されている。これは、350℃までの一定の熱曝露下で長期間使用できることを示唆する。
【表2】
【0096】
図4及び図5はそれぞれ、時効による析出硬化反応及び熱安定性について調べた、加熱ビルドプレート上に作製した試料の等温ビッカース微小硬度及び電気伝導度曲線を示す。250℃で72時間までの硬度または導電率の変化は限定的であり、この温度での合金の熱安定性を示している。300℃での時効処理は、析出による緩やかな時効反応を示し、72時間では粗大化には至っていないようである。350℃でのエージングは、10時間前後で硬度のピークを示し、その後粗大化が生じ、72時間後には硬度は構築時のレベルまで低下する。400℃でのエージングは、0.5時間で硬度の急激な上昇を示し、その後粗大化が起こり硬度が低下した。
【0097】
(実施例3)
温度における機械的強度は、高温アルミニウム合金にとって重要な特性である。本開示の合金(Al-3.6Mn-1.8Fe-1.8Si-0.8Zr(重量%))を、ガスアトマイズにより球状アルミニウム粉末に加工した。次いで、これらのアルミニウム合金粉末を利用して選択的レーザー溶融を用いて、完全に高密度の成分(理論密度の99%を超える)を積層造形した(すなわち、3D印刷)。合金の3D印刷試料を、200℃、250℃、及び300℃の温度で圧縮して機械的に試験した。結果を表3に示す。Al-3.6Mn-1.8Fe-1.8Si-0.8Zr(重量%)合金は、時効処理に応じて、室温で372MPa~418MPaの圧縮降伏強度を達成する。本合金は、200℃で244MPa~295MPa、250℃で203MPa~248MPa、及び300℃で160MPa~197MPaの圧縮降伏強度を示し、その達成値は時効処理温度に依存する。比較のために、市販のAlSi10Mg及びスカルマロイ(Scalmalloy)(Al-Mg-Sc系)を含む、いくつかの参照3D印刷アルミニウム合金を表3に示す。表3は、特定の時効処理での合金の機械的強度が、全ての試験温度で参照合金を上回ることを示す。
【表3】
【0098】
開示する合金の3D印刷試料を、200℃、250℃、及び300℃の温度で、引張で機械的に試験した。結果を表4に示す。開示する合金Al-3.6Mn-1.8Fe-1.8Si-0.8Zr(重量%)は、時効処理に応じて、室温で357MPa~398MPaの引張降伏強度を達成する。本合金は、200℃で244MPa~250MPa、250℃で204MPa~213MPa、及び300℃で154MPa~191MPaの引張降伏強度を示す。達成された値は時効処理温度に依存する。比較のために、市販のAlSi10Mg及びスカルマロイ(Al-Mg-Sc系)を含むいくつかの参照3D印刷アルミニウム合金を表4に示す。表4は、特定の時効処理での開示される合金の機械的強度が、特に250℃以上の温度で、参照合金と同等であるか、またはそれを上回ることを示す。
【表4】
【表5】
【0099】
開示される合金の3D印刷試料を、室温、250℃、及び300℃で、引張で機械的に試験する。結果を表5に示す。開示する合金Al-3.6Mn-1.8Fe-1.8Si-0.8Zr(重量%)は、時効処理に応じて、357MPa~398MPaの降伏強度、456MPa~464MPaの極限引張強度、及び室温で6%~10%の伸びを達成する。開示する合金Al-3.6Mn-1.8Fe-1.8Si-0.8Zr(重量%)は、時効処理に応じて、201MPa~223MPaの降伏強度、203MPa~248MPaの極限引張強度、及び250℃で6%の伸びを達成する。開示する合金Al-3.6Mn-1.8Fe-1.8Si-0.8Zr(重量%)は、時効処理に応じて、149MPa~158MPaの降伏強度、154MPa~161MPaの極限引張強度、及び300℃で4%~4.3%の伸びを達成する。
【0100】
図6に、250℃及び300℃の試験温度それぞれでの開示する合金の定常状態(すなわち、二次)クリープ速度を示す。開示する合金Al-3.6Mn-1.8Fe-1.8Si-0.8Zr(重量%)は、250℃の温度において、118MPaの応力で6.4E-09s-1、128MPaの応力で1E-08s-1、193MPaの応力で1E-4s-1のクリープ速度を達成する。開示する合金Al-3.6Mn-1.8Fe-1.8Si-0.8Zr(重量%)は、300℃の温度において、89MPaで9.5E-08s-1及び149MPaで1E-4s-1のクリープ速度を達成する。
【表6】
【0101】
開示される合金の3D印刷試料は、様々なビルド方向及び熱処理条件で、ネットシェイプ試験片として作製された試料として、またはプリフォームから機械加工された試料として、室温で引張で機械的に試験される。結果を表6に示す。開示する合金Al-3.6Mn-1.8Fe-1.8Si-0.8Zr(重量%)は、ビルド方向、条件、及び製造状態に応じて、308~396MPaの降伏強度、363~517MPaの極限引張強度、及び2~18%の伸びを達成する。
【表7】
【0102】
開示する合金の3D印刷試料は、様々な温度及び時間で熱処理された後、室温で引張で機械的に試験され、それらの電気伝導度が測定される。試料は、引張試験片の形状で垂直ビルド方向に作製され、引張試験前にそれ以上の機械加工は行われない。結果を表7に示す。開示する合金Al-3.6Mn-1.8Fe-1.8Si-0.8Zr(重量%)は、時効処理に応じて、205~361MPaの降伏強度、270~406MPaの極限引張強度、1.2~6.8%の伸び、及び6.9~23MS/mの電気伝導度を達成する。
【0103】
開示する合金の3D印刷試料の表面をプロフィロメータで測定して、それらのR粗さを決定する。開示する合金Al-3.6Mn-1.8Fe-1.8Si-0.8Zr(重量%)は、それらの製造に用いられる特定の印刷パラメータに応じて、191μin~730μinのR粗さ値を達成する。
【0104】
開示する合金の3D印刷試料の微細構造は、2つの別個の領域からなる。メルトプール境界に沿ったゾーンは、α相Al-Mn-Fe-Siとアルミニウムとで構成されるミクロンサイズのセル状共晶構造からなる。メルトプールの内部は、丸みを帯びたα相Al-Mn-Fe-Si共晶を含む柱状アルミニウム結晶粒からなる。
【0105】
(実施例4)
【表8】
【0106】
複数の開示するAl-Mn-Fe-Si系アルミニウム合金は、伝統的アルミニウム鋳造法で作製され、この方法では、合金は、空気中で溶融し、次いで黒鉛るつぼに注がれる。開示するアルミニウム合金は、1.2重量%~3.6重量%の濃度範囲のMn、0.6重量%~1.8重量%の濃度範囲のFe、0.6重量%~1.8重量%の濃度範囲のSi、0重量%~0.3重量%の濃度範囲のZrを含む。開示するアルミニウム合金はまた、Ti、Cr、及びCu等の他の金属元素と、Sn等のメタロイド元素とを含む。表8は、鋳造したままの試料のビッカース硬度を示し、その値は約49HV~70HV(または163MPa~233MPaの推定引張強度)の範囲であった。作製した合金はすべて、25℃から500℃まで等時時効処理(25℃/1h)される。Mn含有量が2.4重量%未満のすべての合金は、時効処理後に高い硬度値を達成し、400℃~425℃の温度範囲で最大硬度を達成した。最大硬度値は、56HV~84HV(または185MPa~280MPaの推定引張強度)の範囲である。これらの結果は、2.4重量%未満のMn含有量を有する全ての研究された合金が、500℃まで極めて高い熱安定性を有する(すなわち、高温曝露下で強度が低下しない)ことを示す。
【0107】
SnまたはCuを添加したAl-1.8Mn-0.9Fe-0.9Si(重量%)合金は、約400℃での時効処理中に硬度の上昇を示した。これは、SnまたはCuが、α相Al-Mn-Fe-Siの析出物の接種材料として作用し、アルミニウムマトリックス中にナノスケールのα相Al-Mn-Fe-Si析出物の高い数密度をもたらした可能性を示唆している。
【0108】
SnとZrを添加したAl-1.8Mn-0.9Fe-0.9Si(重量%)合金は、約400℃~450℃での時効処理中に硬度の上昇を示した。これは、Snが、α相Al-Mn-Fe-Siの析出物の接種材料として作用し、アルミニウムマトリックス中にナノスケールのα相Al-Mn-Fe-Si析出物の高い数密度をもたらした可能性を示唆している。また、SnがL1構造のAlZrの析出物の接種剤として作用し、アルミニウムマトリックス中にナノスケールのL1構造のAlZr析出物が高い数密度で析出する可能性も示唆している。この挙動は、米国特許公開第2019/0390312号に記載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0109】
以上のことから、本開示の新規な概念の真の精神及び範囲から逸脱することなく、多数の修正及び変形を実施できることが理解されるであろう。図示され、説明された特定の実施形態に関する限定は、意図されず、または推論されるべきではないことを理解されたい。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】