(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-28
(54)【発明の名称】抗MUC1-C抗体及びCAR-T構造
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20240220BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240220BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240220BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240220BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240220BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240220BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240220BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240220BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240220BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240220BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240220BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240220BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240220BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20240220BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240220BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240220BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240220BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20240220BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20240220BHJP
A61P 11/04 20060101ALI20240220BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20240220BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20240220BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20240220BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240220BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C12N15/13 ZNA
C12N15/12
C12N15/63 Z
C07K16/28
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 N
A61P43/00 105
A61P43/00 111
A61P35/00
A61P15/00
A61P11/00
A61P13/12
A61P1/04
A61P1/02
A61P11/02
A61P11/04
A61P13/08
A61P1/18
A61K35/12
A61P35/02
A61K45/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023551180
(86)(22)【出願日】2022-02-28
(85)【翻訳文提出日】2023-10-12
(86)【国際出願番号】 US2022018117
(87)【国際公開番号】W WO2022183101
(87)【国際公開日】2022-09-01
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518452881
【氏名又は名称】テネオバイオ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハリス,キャサリン
(72)【発明者】
【氏名】アバンジーノ,ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】アレン,ニコール
(72)【発明者】
【氏名】チャン,カレン
(72)【発明者】
【氏名】トリンクライン,ネイサン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA01X
4B065AA57X
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4B065AA87X
4B065AA93X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZA341
4C084ZA591
4C084ZA661
4C084ZA671
4C084ZA811
4C084ZB211
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB271
4C084ZC411
4C085AA14
4C085AA16
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE03
4C087AA01
4C087AA03
4C087BB63
4C087CA04
4C087CA12
4C087MA02
4C087NA14
4C087ZA34
4C087ZA59
4C087ZA66
4C087ZA67
4C087ZA81
4C087ZB21
4C087ZB26
4C087ZB27
4C087ZC41
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
抗MUC1-C抗体(例えば、UniAbTM)及びCAR-T構造が、そのような抗体及びCAR-T構造を作製する方法、そのような抗体及びCAR-T構造を含む医薬組成物を含む組成物、並びにMUC1-Cの発現を特徴とする障害を処置するためのそれらの使用とともに開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)配列番号1のアミノ酸配列及び配列番号4のアミノ酸配列のいずれかに2つ以下の置換を含むCDR1配列;並びに/又は
(b)配列番号2のアミノ酸配列及び配列番号5のアミノ酸配列のいずれかに2つ以下の置換を含むCDR2配列;並びに/又は
(c)配列番号3のアミノ酸配列及び配列番号6のアミノ酸配列のいずれかに2つ以下の置換を含むCDR3配列
を含む重鎖可変領域を含む、MUC1-Cに結合する抗体。
【請求項2】
前記CDR1、CDR2及びCDR3配列が、ヒトフレームワークに存在する、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
CH1配列の非存在下で重鎖定常領域配列をさらに含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
(a)配列番号1及び4からなる群から選択されるCDR1配列;並びに/又は
(b)配列番号2及び5からなる群から選択されるCDR2配列;並びに/又は
(c)配列番号3及び6からなる群から選択されるCDR3配列
を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項5】
(a)配列番号1及び4からなる群から選択されるCDR1配列;並びに
(b)配列番号2及び5からなる群から選択されるCDR2配列;並びに
(c)配列番号3及び6からなる群から選択されるCDR3配列
を含む、請求項4に記載の抗体。
【請求項6】
(a)配列番号1のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列及び配列番号3のCDR3配列;又は
(b)配列番号4のCDR1配列、配列番号5のCDR2配列及び配列番号6のCDR3配列
を含む、請求項5に記載の抗体。
【請求項7】
配列番号7~8の配列のいずれかに対し少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変領域を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項8】
配列番号7~8からなる群から選択される重鎖可変領域配列を含む、請求項7に記載の抗体。
【請求項9】
配列番号7の重鎖可変領域配列を含む、請求項8に記載の抗体。
【請求項10】
配列番号8の重鎖可変領域配列を含む、請求項8に記載の抗体。
【請求項11】
ヒトVHフレームワークにCDR1、CDR2及びCDR3配列を含む重鎖可変領域を含み、前記CDR配列は、配列番号1~6からなる群から選択されるCDR配列に2つ以下の置換を有する配列である、MUC1-Cに結合する抗体。
【請求項12】
ヒトVHフレームワークにCDR1、CDR2及びCDR3配列を含む重鎖可変領域を含み、前記CDR配列は、配列番号1~6からなる群から選択される、請求項11に記載の抗体。
【請求項13】
(a)ヒトVHフレームワークに、配列番号1のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列及び配列番号3のCDR3配列を含む;又は
(b)ヒトVHフレームワークに、配列番号4のCDR1配列、配列番号5のCDR2配列及び配列番号6のCDR3配列を含む
重鎖可変領域を含む、MUC1-Cに結合する抗体。
【請求項14】
CAR-Tフォーマットである、請求項1~13のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項15】
多重特異性である、請求項1~13のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項16】
二重特異性である、請求項15に記載の抗体。
【請求項17】
2つの異なるMUC1-Cタンパク質に結合する、請求項16に記載の抗体。
【請求項18】
同じMUC1-Cタンパク質上の2つの異なるエピトープに結合する、請求項16に記載の抗体。
【請求項19】
エフェクター細胞に結合する、請求項15に記載の抗体。
【請求項20】
T細胞抗原に結合する、請求項15に記載の抗体。
【請求項21】
CD3に結合する、請求項20に記載の抗体。
【請求項22】
(a)
(i)ヒトVHフレームワークに、配列番号9のCDR1配列、配列番号10のCDR2配列及び配列番号11のCDR3配列を含む;又は
(ii)ヒトVHフレームワークに、配列番号12のCDR1配列、配列番号13のCDR2配列及び配列番号14のCDR3配列を含む
重鎖可変領域と;
(b)ヒトVLフレームワークに、配列番号15のCDR1配列、配列番号16のCDR2配列及び配列番号17のCDR3配列を含む、軽鎖可変領域と
を含む、請求項21に記載の抗体。
【請求項23】
(a)
(i)配列番号18に対し少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変領域配列;又は
(ii)配列番号19に対し少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変領域配列
を含む重鎖可変領域と;
(b)配列番号20に対し少なくとも95%の配列同一性を有する軽鎖可変領域配列と
を含む、請求項22に記載の抗体。
【請求項24】
(a)
(i)配列番号18を含む重鎖可変領域配列;又は
(ii)配列番号19を含む重鎖可変領域配列
を含む重鎖可変領域と;
(b)配列番号20を含む軽鎖可変領域配列と
を含む、請求項23に記載の抗体。
【請求項25】
(a)配列番号32からなる第1のポリペプチドと;
(b)配列番号33及び配列番号42からなる群から選択される第2のポリペプチドと;
(c)配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38及び配列番号39からなる群から選択される第3のポリペプチドと
を含む、MUC1-C及びCD3に結合する二重特異性三本鎖抗体様分子(TCA)。
【請求項26】
(a)配列番号1のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列及び配列番号3のCDR3配列;又は
(b)配列番号4のCDR1配列、配列番号5のCDR2配列及び配列番号6のCDR3配列
を含む重鎖可変領域を含む、MUC1-Cに結合する細胞外抗原結合ドメインを含むCARを含むCAR-T細胞。
【請求項27】
MUC1-Cに結合する前記細胞外抗原結合ドメインは、配列番号7~8の配列のいずれかに対し少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変領域を含む、請求項26に記載のCAR-T細胞。
【請求項28】
MUC1-Cに結合する前記細胞外抗原結合ドメインは、配列番号7~8からなる群から選択される重鎖可変領域配列を含む、請求項27に記載のCAR-T細胞。
【請求項29】
MUC1-Cに結合する前記細胞外抗原結合ドメインは、配列番号7の重鎖可変領域配列を含む、請求項28に記載のCAR-T細胞。
【請求項30】
MUC1-Cに結合する前記細胞外抗原結合ドメインは、配列番号8の重鎖可変領域配列を含む、請求項28に記載のCAR-T細胞。
【請求項31】
請求項1~25のいずれか一項に記載の抗体、又は請求項26~30のいずれか一項に記載のCAR-T細胞を含む医薬組成物。
【請求項32】
MUC1-Cの発現を特徴とする障害を処置するための方法であって、前記障害を有する対象に、請求項1~25のいずれか一項に記載の抗体、請求項26~30のいずれか一項に記載のCAR-T細胞、又は請求項31に記載の医薬組成物を投与することを含む方法。
【請求項33】
前記障害は癌である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記癌は癌腫である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記癌腫は、腺癌又は扁平上皮細胞癌である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記癌腫は、乳癌、非小細胞肺(NSCL)癌、小細胞肺(SSC)癌、中皮腫、腎細胞癌、結腸直腸癌、卵巣癌、頭頸部扁平上皮細胞癌、鼻咽頭癌、胃癌、前立腺癌、膵臓癌、食道癌及び子宮頸癌からなる群から選択される、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記癌は血液癌である、請求項33に記載の方法。
【請求項38】
前記血液癌は、骨髄腫である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記骨髄腫は、多発性骨髄腫(MM)である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記血液癌は、白血病である、請求項37に記載の方法。
【請求項41】
前記白血病は、慢性骨髄性白血病(CML)である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記血液癌は、リンパ腫である、請求項37に記載の方法。
【請求項43】
請求項1~25のいずれか一項に記載の抗体、又は請求項26~30のいずれか一項に記載のCAR-T細胞のCARをコードするポリヌクレオチド。
【請求項44】
請求項43に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項45】
請求項44に記載のベクターを含む細胞。
【請求項46】
請求項1~25のいずれか一項に記載の抗体を作製する方法であって、前記抗体の発現を許容する条件下で請求項43に記載の細胞を増殖させる工程と、前記細胞、及び/又は前記細胞が増殖している細胞培養培地から前記抗体を単離する工程と、を含む方法。
【請求項47】
請求項1~25のいずれか一項に記載の抗体を作製する方法であって、UniRat動物にMUC1-Cで免疫を付与する工程と、MUC1-C結合重鎖配列を同定する工程とを含む方法。
【請求項48】
必要とする個体に、請求項1~25のいずれか一項に記載の抗体、請求項26~30のいずれか一項に記載のCAR-T細胞、又は請求項31に記載の医薬組成物の有効用量を投与することを含む、処置の方法。
【請求項49】
必要とする個体の疾患又は障害を処置するための医薬の調製における、請求項1~25のいずれか一項に記載の抗体、又は請求項26~30のいずれか一項に記載のCAR-T細胞の使用。
【請求項50】
必要とする個体の治療に使用するための、請求項1~25のいずれか一項に記載の抗体、請求項26~30のいずれか一項に記載のCAR-T細胞、又は請求項31に記載の医薬組成物。
【請求項51】
請求項1~25のいずれか一項に記載の抗体、請求項26~30のいずれか一項に記載のCAR-T細胞、又は請求項31に記載の医薬組成物と、使用説明書とを含む、必要とする個体の疾患又は障害を処置するためのキット。
【請求項52】
少なくとも1種の追加の薬剤をさらに含む、請求項51に記載のキット。
【請求項53】
前記少なくとも1種の追加の薬剤は、化学療法薬を含む、請求項52に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年2月26日に出願された米国仮特許出願第63/154,618号の出願日の優先権の利益を主張し、その開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、MUC1-Cに結合する抗体(例えば、UniAbTM)及びCAR-T構造に関する。本発明はさらに、そのような抗体及びCAR-T構造を作製する方法、そのような抗体及びCAR-T構造を含む医薬組成物を含む組成物、並びにMUC1-Cの発現を特徴とする障害を治療するためのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
MUC1
ムチン1(MUC1)は、高度にグリコシル化されたシングルパスタイプI膜貫通型タンパク質である。N末端サブユニット(MUC1-N)及びC末端サブユニット(MUC1-C)は、安定なヘテロ二量体複合体を形成する。MUC1は高度に多型性であり、90を超えるアイソフォームを有し、N末端サブユニットのVNTR(可変数タンデムリピート)領域におけるタンデムリピートの数が異なる。ムチンは、肺、胃、乳腺、腸、及びいくつかの他の器官における上皮細胞の頂端表面を覆う。健康な組織では、ムチンは身体を感染から保護する。異常にグリコシル化されたMUC1は、ヒト上皮性腫瘍において過剰発現され、腫瘍細胞の頂端極性が失われる(Sousa et al.2016,PMC:4998183、Nath and Mukherjee,2014,PMID:5500204)。MUC1はプロテアーゼによって切断され得、切断されたMUC1-Nは細胞から放出され、炎症を誘発し得る。放出されない発癌性MUC1-Cサブユニットは短く、抗体薬物コンジュゲート、モノクローナル抗体及びCAR-T療法の標的として有望であることを示す58個のアミノ酸からなる膜近位細胞外ドメインを含有する(Panchamoorthy et al.,2018,PMC:6124453;Kufe,2009,PMC:2951677)。
【0004】
重鎖抗体(Heavy Chain Antibody)
従来のIgG抗体では、重鎖と軽鎖との会合は、一部には、軽鎖定常領域と重鎖のCH1定常ドメインとの間の疎水性相互作用に起因する。重鎖のフレームワーク2(FR2)及びフレームワーク4(FR4)の領域には、この重鎖と軽鎖との間の疎水性相互作用にも寄与するさらなる残基が存在する。
【0005】
しかしながら、ラクダ科動物(ラクダ、ヒトコブラクダ及びラマを含むタイロポダ(Tylopoda)亜目)の血清には、対になったH鎖のみから構成される主要なタイプの抗体(重鎖抗体(heavy-chain only antibody)又はUniAbTM)が含有されることが知られている。ラクダ科(Camelidae)(キャメルス・ドロメダリウス(Camelus dromedarius)、キャメルス・バクトリアヌス(Camelus bactrianus)、ラマ・グラマ(Lama glama)、ラマ・グアナコ(Lama guanaco)、ラマ・アルパカ(Lama alpaca)及びラマ・ビクーニャ(Lama vicugna))のUniAbTMは、単一可変ドメイン(VHH)と、ヒンジ領域と、古典的な抗体のCH2及びCH3ドメインと相同性の高い2つの定常ドメイン(CH2及びCH3)とからなる特有の構造を有する。これらのUniAbTMは、定常領域の第1のドメイン(CH1)を欠いている(このドメインは、ゲノム中に存在するが、mRNAプロセシング中にスプライスアウトされる)。CH1ドメインの非存在は、このドメインが軽鎖の定常ドメインのアンカー位置であるため、UniAbTMにおける軽鎖の非存在を説明する。このようなUniAbTMは、従来の抗体又はその断片からの3つのCDRによる抗原結合特異性及び高親和性を付与するように自然に進化した(Muyldermans,2001;J Biotechnol 74:277-302;Revets et al.,2005;Expert Opin Biol Ther 5:111-124)。サメなどの軟骨魚類も、軽鎖ポリペプチドを欠き、完全に重鎖によって構成される、IgNARと称される独特のタイプの免疫グロブリンを進化させた。IgNAR分子を分子工学によって操作して、単一重鎖ポリペプチドの可変ドメイン(vNAR)を作製し得る(Nuttall et al.Eur.J.Biochem.270,3543-3554(2003);Nuttall et al.Function and Bioinformatics 55,187-197(2004);Dooley et al.,Molecular Immunology 40,25-33(2003))。
【0006】
軽鎖を欠く重鎖抗体(heavy chain-only antibodies)が抗原に結合する能力は、1960年代に確立された(Jaton et al.(1968)Biochemistry,7,4185-4195)。軽鎖から物理的に分離された重鎖免疫グロブリンは、四量体抗体の80%の抗原結合活性を保持した。Sitia et al.(1990)Cell,60,781-790は、再編成されたマウスμ遺伝子からのCH1ドメインの除去が、哺乳動物細胞培養において、軽鎖を欠く重鎖抗体(heavy chain-only antibody)の産生をもたらすことを示した。産生された抗体は、VH結合特異性及びエフェクター機能を保持した。
【0007】
高い特異性及び親和性を有する重鎖抗体(heavy Chain Antibody)は、免疫付与を通じて様々な抗原に対して生成され得(van der Linden,R.H.,et al.Biochim.Biophys.Acta.1431,37-46(1999))、VHH部分を容易にクローニングし、酵母で発現させ得る(Frenken,L.G.J.,et al.J.Biotechnol.78,11-21(2000))。それらの発現、溶解性及び安定性のレベルは、古典的なF(ab)断片又はFv断片より顕著に高い(Ghahroudi,M A.et al.FEBS Lett.414,521-526(1997))。
【0008】
λ(ラムダ)軽鎖(L)遺伝子座及び/又はλ及びκ(カッパ)L鎖遺伝子座が機能的にサイレンシングされたマウス、及びそのようなマウスによって産生される抗体は、米国特許第7,541,513号明細書及び同第8,367,888号明細書に記載されている。マウス及びラットにおける重鎖抗体(heavy chain-only antibody)の組換え産生は、例えば、国際公開第2006/008548号パンフレット、米国特許出願公開第2010/0122358号明細書、Nguyen et al.,2003,Immunology;109(1),93-101;Brueggemann et al.,Crit.Rev.Immunol.;2006,26(5):377-90;及びZou et al.,2007,J Exp Med;204(13):3271-3283において報告されている。ジンクフィンガーヌクレアーゼの胚マイクロインジェクションによるノックアウトラットの作製は、Geurts et al.,2009,Science,325(5939):433に記載されている。可溶性重鎖抗体(heavy chain-only antibodies)及びこのような抗体を産生する異種重鎖遺伝子座を含むトランスジェニック齧歯類は、米国特許第8,883,150号明細書及び同第9,365,655号明細書に記載されている。結合(標的化)ドメインとして単一ドメイン抗体を含むCAR-T構造は、例えば、Iri-Sofla et al.,2011,Experimental Cell Research 317:2630-2641及びJamnani et al.,2014,Biochim Biophys Acta,1840:378-386に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第7,541,513号明細書
【特許文献2】米国特許第8,367,888号明細書
【特許文献3】国際公開第2006/008548号パンフレット
【特許文献4】米国特許出願公開第2010/0122358号明細書
【特許文献5】米国特許第8,883,150号明細書
【特許文献6】米国特許第9,365,655号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Sousa et al.2016,PMC:4998183
【非特許文献2】Nath and Mukherjee,2014,PMID:5500204
【非特許文献3】Panchamoorthy et al.,2018,PMC:6124453
【非特許文献4】Kufe,2009,PMC:2951677
【非特許文献5】Muyldermans,2001;J Biotechnol 74:277-302
【非特許文献6】Revets et al.,2005;Expert Opin Biol Ther 5:111-124
【非特許文献7】Nuttall et al.Eur.J. Biochem.270,3543-3554(2003)
【非特許文献8】Nuttall et al.Function and Bioinformatics 55,187-197(2004)
【非特許文献9】Dooley et al.,Molecular Immunology 40,25-33(2003)
【非特許文献10】Jaton et al.(1968)Biochemistry,7,4185-4195
【非特許文献11】Sitia et al.(1990)Cell,60,781-790
【非特許文献12】van der Linden,R.H.,et al.Biochim.Biophys.Acta.1431,37-46(1999)
【非特許文献13】Frenken,L.G.J.,et al.J.Biotechnol.78,11-21(2000)
【非特許文献14】Ghahroudi,M.A.et al.FEBS Lett.414,521-526(1997)
【非特許文献15】Nguyen et al.,2003,Immunology;109(1),93-101
【非特許文献16】Brueggemann et al.,Crit.Rev.Immunol.;2006,26(5):377-90
【非特許文献17】Zou et al.,2007,J Exp Med;204(13):3271-3283
【非特許文献18】Geurts et al.,2009,Science,325(5939):433
【非特許文献19】Iri-Sofla et al.,2011,Experimental Cell Research 317:2630-2641
【非特許文献20】Jamnani et al.,2014,Biochim Biophys Acta,1840:378-386
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の態様は、(a)配列番号1のアミノ酸配列及び配列番号4のアミノ酸配列のいずれかに2つ以下の置換を含むCDR1配列;並びに/又は(b)配列番号2のアミノ酸配列及び配列番号5のアミノ酸配列のいずれかにおいて2つ以下の置換を含むCDR2配列;並びに/又は(c)配列番号3のアミノ酸配列及び配列番号6のアミノ酸配列のいずれか2つ以下の置換を含むCDR3配列、を含む重鎖可変領域、を含む、MUC1-Cに結合する抗体を含む。いくつかの実施形態では、CDR1、CDR2及びCDR3の配列は、ヒトフレームワークに存在する。いくつかの実施形態では、抗体は、CH1配列の非存在下で重鎖定常領域配列をさらに含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、抗体は、(a)配列番号1及び4からなる群から選択されるCDR1配列;並びに/又は(b)配列番号2及び5からなる群から選択されるCDR2配列;並びに/又は(c)配列番号3及び6からなる群から選択されるCDR3配列を含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、抗体は、(a)配列番号1及び4からなる群から選択されるCDR1配列;並びに(b)配列番号2及び5からなる群から選択されるCDR2配列;並びに(c)配列番号3及び6からなる群から選択されるCDR3配列を含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、抗体は、(a)配列番号1のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列及び配列番号3のCDR3配列;又は(b)配列番号4のCDR1配列、配列番号5のCDR2配列及び配列番号6のCDR3配列を含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号7~8の配列のいずれかに対し少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号7~8からなる群から選択される重鎖可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号7の重鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号8の重鎖可変領域を含む。
【0016】
本発明の態様は、ヒトVHフレームワークにCDR1、CDR2及びCDR3配列を含む重鎖可変領域を含む、MUC1-Cに結合する抗体を含み、CDR配列は、配列番号1~6からなる群から選択されるCDR配列に2つ以下の置換を有する配列である。
【0017】
いくつかの実施形態では、抗体は、ヒトVHフレームワークにCDR1、CDR2及びCDR3配列を含む重鎖可変領域を含み、CDR配列は、配列番号1~6からなる群から選択される。
【0018】
本発明の態様は、(a)ヒトVHフレームワークに、配列番号1のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列及び配列番号3のCDR3配列を含む;又は(b)ヒトVHフレームワークに、配列番号4のCDR1配列、配列番号5のCDR2配列及び配列番号6のCDR3配列を含む、重鎖可変領域を含む、MUC1-Cに結合する抗体を含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、抗体は、CAR-Tフォーマットである。いくつかの実施形態では、抗体は、多重特異性である。いくつかの実施形態では、抗体は、二重特異性である。いくつかの実施形態では、抗体は、2つの異なるMUC1-Cタンパク質に結合する。いくつかの実施形態では、抗体は、同じMUC1-Cタンパク質上の2つの異なるエピトープに結合する。いくつかの実施形態では、抗体は、エフェクター細胞に結合する。いくつかの実施形態では、抗体は、T細胞抗原に結合する。いくつかの実施形態では、抗体は、CD3に結合する。
【0020】
いくつかの実施形態では、抗体は、(a)(i)ヒトVHフレームワークに、配列番号9のCDR1配列、配列番号10のCDR2配列及び配列番号11のCDR3配列を含む;又は(ii)ヒトVHフレームワークに、配列番号12のCDR1配列、配列番号13のCDR2配列及び配列番号14のCDR3配列を含む、重鎖可変領域と;(b)ヒトVLフレームワークに、配列番号15のCDR1配列、配列番号16のCDR2配列及び配列番号17のCDR3配列を含む、軽鎖可変領域とを含む。
【0021】
いくつかの実施形態では、抗体は、(a)(i)配列番号18に対し少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変領域配列;又は(ii)配列番号19に対し少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変領域配列を含む重鎖可変領域と;(b)配列番号20に対し少なくとも95%の配列同一性を有する軽鎖可変領域配列とを含む。
【0022】
いくつかの実施形態では、抗体は、(a)(i)配列番号18を含む重鎖可変領域配列;又は(ii)配列番号19を含む重鎖可変領域配列を含む重鎖可変領域と;(b)配列番号20を含む軽鎖可変領域配列とを含む。
【0023】
本発明の態様は、(a)配列番号32からなる第1のポリペプチドと;(b)配列番号33及び配列番号42からなる群から選択される第2のポリペプチドと;(c)配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38及び配列番号39からなる群から選択される第3のポリペプチドとを含む、MUC1-C及びCD3に結合する二重特異性三本鎖抗体様分子(TCA)を含む。
【0024】
本発明の態様は、(a)配列番号1のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列及び配列番号3のCDR3配列;又は(b)配列番号4のCDR1配列、配列番号5のCDR2配列及び配列番号6のCDR3配列を含む重鎖可変領域を含む、MUC1-Cに結合する細胞外抗原結合ドメインを含むCARを含むCAR-T細胞を含む。いくつかの実施形態では、MUC1-Cに結合する細胞外抗原結合ドメインは、配列番号7~8の配列のいずれかに対し少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、MUC1-Cに結合する細胞外抗原結合ドメインは、配列番号7~8からなる群から選択される重鎖可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、MUC1-Cに結合する細胞外抗原結合ドメインは、配列番号7の重鎖可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、MUC1-Cに結合する細胞外抗原結合ドメインは、配列番号8の重鎖可変領域配列を含む。
【0025】
本発明の態様は、本明細書に記載の抗体、又は本明細書に記載のCAR-T細胞を含む医薬組成物を含む。
【0026】
本発明の態様は、MUC1-Cの発現を特徴とする障害を処置するための方法であって、前記障害を有する対象に、本明細書に記載の抗体、本明細書に記載のCAR-T細胞又は本明細書に記載の医薬組成物を投与することを含む方法を含む。いくつかの実施形態において、障害は癌である。いくつかの実施形態において、癌は癌腫である。いくつかの実施形態では、癌腫は、腺癌又は扁平上皮細胞癌である。いくつかの実施形態では、癌腫は、乳癌、非小細胞肺(NSCL)癌、小細胞肺(SSC)癌、中皮腫、腎細胞癌、結腸直腸癌、卵巣癌、頭頸部扁平上皮細胞癌、鼻咽頭癌、胃癌、前立腺癌、膵臓癌、食道癌及び子宮頸癌からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、癌は、血液癌である。いくつかの実施形態では、血液癌は、骨髄腫である。いくつかの実施形態では、骨髄腫は、多発性骨髄腫(MM)である。いくつかの実施形態では、血液癌は、白血病である。いくつかの実施形態では、白血病は、慢性骨髄性白血病(CML)である。いくつかの実施形態では、血液癌は、リンパ腫である。
【0027】
本発明の態様は、本明細書に記載の抗体、又は本明細書に記載のCAR-T細胞のCARをコードするポリヌクレオチドを含む。
【0028】
本発明の態様は、本明細書に記載のポリヌクレオチドを含むベクターを含む。
【0029】
本発明の態様は、本明細書に記載のベクターを含む細胞を含む。
【0030】
本発明の態様は、本明細書に記載の抗体を作製する方法であって、抗体の発現を許容する条件下で本明細書に記載の細胞を増殖させる工程と、細胞、及び/又は細胞が増殖している細胞培養培地から抗体を単離する工程と、を含む方法を含む。
【0031】
本発明の態様は、本明細書に記載の抗体を作製する方法であって、UniRat動物にMUC1-Cで免疫を付与する工程と、MUC1-C結合重鎖配列を同定する工程とを含む方法を含む。
【0032】
本発明の態様は、必要とする個体に、本明細書に記載の抗体、本明細書に記載のCAR-T細胞、又は本明細書に記載の医薬組成物の有効用量を投与することを含む、処置の方法を含む。
【0033】
本発明の態様は、必要とする個体の疾患又は障害を処置するための医薬の調製における、本明細書に記載の抗体、又は本明細書に記載のCAR-T細胞の使用を含む。
【0034】
本発明の態様は、本明細書に記載の抗体、本明細書に記載のCAR-T細胞、又は本明細書に記載の医薬組成物と、使用説明書とを含む、必要とする個体の疾患又は障害を処置するためのキットを含む。いくつかの実施形態では、キットは、少なくとも1種の追加の薬剤を含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1種の追加の薬剤は、化学療法薬を含む。
【0035】
これらの態様及びさらなる態様を、実施例を含む本開示の残りの部分でさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は、MUC1-C+Raji細胞及び陰性対照細胞に対する示された抗体コンストラクトのMUC1-C結合データをまとめた表である。
【
図2】
図2は、MUC1-C+Raji細胞における、示された抗体コンストラクトの抗体濃度の関数としての細胞結合を示すグラフである。
【
図3】
図3は、MUC1-C+Raji細胞上の示された抗体コンストラクトの細胞結合EC50値をまとめた表である。
【
図4-1】
図4パネルAは、抗MUC1-C細胞外結合ドメインを含むCAR-T構造の概略図である。
図4パネルBは、本発明の一実施形態による抗MUC1-C CARコンストラクトでトランスフェクトされたJurkat細胞のT細胞活性を示すグラフである。
図4パネルCは、本発明の一実施形態による抗MUC1-C CARコンストラクトでトランスフェクトされたJurkat細胞のT細胞活性を示すグラフである。
【
図4-2】
図4パネルAは、抗MUC1-C細胞外結合ドメインを含むCAR-T構造の概略図である。
図4パネルBは、本発明の一実施形態による抗MUC1-C CARコンストラクトでトランスフェクトされたJurkat細胞のT細胞活性を示すグラフである。
図4パネルCは、本発明の一実施形態による抗MUC1-C CARコンストラクトでトランスフェクトされたJurkat細胞のT細胞活性を示すグラフである。
【
図5】
図5パネルAは、示された抗体コンストラクトのCAR-T注入後の日数の関数としての腫瘍進行を示すグラフである。
図5パネルBは、示された抗体コンストラクトについての、
図5パネルAに示したグラフの曲線下面積を示す棒グラフである。
【
図6】
図6パネルAは、示された抗体コンストラクトのCAR-T注入後の日数の関数としての血中のインビボT細胞数を示すグラフである。
図6パネルBは、示された抗体コンストラクトについての、
図6パネルAに示したグラフの曲線下面積を示す棒グラフである。
【
図7】
図7パネルAは、示された抗体コンストラクトのCAR-T注入後の日数の関数としての腫瘍進行を示すグラフである。
図7パネルBは、示された抗体コンストラクトについて経時的に測定された血液中のT細胞持続性を示す線グラフである。
【
図8】
図8パネルAは、示された抗体コンストラクトのCAR-T注入後の日数の関数としての血中のインビボT細胞数を示すグラフである。
図8パネルBは、示された抗体コンストラクトについての、
図8パネルAに示したグラフの曲線下面積を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の実施は、特に明記しない限り、分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学及び免疫学の従来の技術を使用し、これらは、当該技術分野の技術の範囲内である。このような技術は、文献、例えば“Molecular Cloning:A Laboratory Manual”,second edition(Sambrook et al.,1989);“Oligonucleotide Synthesis”(M.J.Gait,ed.,1984);“Animal Cell Culture”(R.I.Freshney,ed.,1987); “Methods in Enzymology”(Academic Press,Inc.);“Current Protocols in Molecular Biology”(F.M.Ausubel et al.,eds.,1987,and periodic updates);“PCR:The Polymerase Chain Reaction”,(Mullis et al.,ed.,1994);“A Practical Guide to Molecular Cloning”(Perbal Bernard V.,1988);“Phage Display:A Laboratory Manual”(Barbas et al.,2001);Harlow,Lane and Harlow,Using Antibodies:A Laboratory Manual:Portable Protocol No.I,Cold Spring Harbor Laboratory(1998);及びHarlow and Lane,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory;(1988)で十分に説明されている。
【0038】
値の範囲が提供される場合、この範囲の上限と下限との間の各介在値(別途文脈が明確に示す場合を除き、下限の単位の10分の1まで)及びこの指定された範囲のあらゆる他の指定の又は介在する値は本発明に包含される。これらのより小さい範囲の上限及び下限は、独立して、より小さい範囲に含まれ得、またこの指定された範囲で具体的に排除されたいずれかの制限を条件として本発明内に包含される。指定された範囲が限界の一方又は両方を含む場合、含まれているこれらの限界の一方又は両方を除く範囲も本発明中に含まれる。
【0039】
別段の指示がない限り、本明細書中の抗体残基は、Kabatナンバリングシステム(例えばKabat et al.,Sequences of Immunological Interest.5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991))に従い番号付けされる。
【0040】
以下の説明において、本発明のより詳細な理解を提供するために、多くの具体的な詳細を記載する。しかしながら、本発明がこれらの具体的な詳細の1つ又は複数がなくても実施され得ることは、当業者にとって明らかであろう。他の例では、よく知られた特徴及び当業者によく知られた手順は、本発明を不明瞭にすることを避けるために説明していない。
【0041】
特許出願及び刊行物を含む、本開示全体を通して引用されている全ての参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0042】
I.定義
「含む」とは、列挙された要素は組成物/方法/キットにおいて必要であるが、他の要素が特許請求の範囲内の組成物/方法/キットなどを形成するために含まれ得ることを意味する。
【0043】
「実質的に~からなる」とは、記載された組成物又は方法の範囲を、主題発明の基本的且つ新規な特徴に実質的に影響を及ぼさない特定の材料又は工程に限定することを意味する。
【0044】
「~からなる」とは、特許請求の範囲において特定されていない要素、工程又は成分を、組成物、方法又はキットから排除することを意味する。
【0045】
本明細書中の抗体残基は、Kabatナンバリングシステム及びEUナンバリングシステムに従って番号付けされる。Kabatナンバリングシステムは一般に、可変ドメインの残基(重鎖のおよそ1~113の残基)を指す場合に使用される(例えば、Kabat et al.,Sequences of Immunological Interest.5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991))。「EUナンバリングシステム」又は「EUインデックス」は一般に、免疫グロブリン重鎖定常領域の残基を指す場合に使用される(例えば、Kabat et al.,前出、において報告されているEUインデックス)。「KabatにおけるEUインデックス」は、ヒトIgG1 EU抗体の残基の番号付けを指す。本明細書中に別段の記載がない限り、抗体の可変ドメイン中の残基番号への言及は、Kabatナンバリングシステムによる残基番号付けを意味する。本明細書において別段の記載がない限り、抗体の定常ドメイン中の残基番号への言及は、EUナンバリングシステムによる残基番号付けを意味する。
【0046】
免疫グロブリンとも呼ばれる抗体は従来、少なくとも1本の重鎖及び1本の軽鎖を含み、重鎖及び軽鎖のアミノ末端ドメインの配列は可変であり、したがって一般に、可変領域ドメイン、又は可変重鎖(VH)若しくは可変軽鎖(VL)ドメインと呼ばれる。この2つのドメインは従来、会合して特異的結合領域を形成するが、本明細書で論じるように、特異的結合は、重鎖のみの可変配列を用いても得ることができ、抗体の様々な非天然構造が当該技術分野において知られ且つ使用されている。
【0047】
「機能的」又は「生物学的に活性である」抗体又は抗原結合分子(本明細書に記載の重鎖抗体(heavy chain-only antibody)及び多重特異性(例えば二重特異性)三本鎖抗体様分子(TCA)を含む)は、構造的、調節的、生化学的又は生物物理学的事象においてその天然の活性の1つ以上を発揮することが可能なものである。例えば、機能的抗体又は他の結合分子、例えばTCAは、抗原に特異的に結合する能力を有し得、結合は次に、シグナル伝達又は酵素活性などの細胞又は分子事象を誘発又は変更し得る。機能的抗体又は他の結合分子、例えばTCAはまた、受容体のリガンド活性化を遮断し得るか又はアゴニスト若しくはアンタゴニストとして作用し得る。抗体又は他の結合分子、例えばTCAがその天然の活性の1つ以上を発揮する能力は、ポリペプチド鎖の適切なフォールディング及びアセンブリを含むいくつかの因子に依存する。
【0048】
本明細書中の「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、具体的にはモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、単量体、二量体、多量体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、重鎖抗体(heavy chain-only antibody)、三本鎖抗体、TCA、単鎖Fv(scFv)、ナノボディなどを包含し、抗体断片も、それらが所望の生物学的活性を示す限り含まれる(Miller et al(2003)Jour.of Immunology 170:4854-4861)。抗体は、マウス抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体又は他の種由来の抗体であり得る。
【0049】
抗体という用語は、完全長重鎖、完全長軽鎖、インタクトな免疫グロブリン分子又はこれらのポリペプチドサブユニットのいずれかの免疫学的に活性な部分、すなわち目的の標的の抗原又はその一部に免疫特異的に結合する抗原結合部位を含むポリペプチドを指し得、そのような標的としては、癌細胞又は自己免疫疾患に関連する自己免疫抗体を産生する細胞が挙げられるが限定されない。本明細書で開示される免疫グロブリンは、任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD及びIgA)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)又はエフェクター細胞活性を低減若しくは増強させる改変Fc部分を有する改変サブクラスを含む免疫グロブリン分子のサブクラスであり得る。本抗体の軽鎖は、カッパ軽鎖(Vカッパ)又はラムダ軽鎖(Vラムダ)であり得る。免疫グロブリンは、任意の種に由来し得る。一態様では、免疫グロブリンは、主にヒト起源のものである。
【0050】
「モノクローナル抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指し、すなわち、集団を構成する個々の抗体は、僅かに存在し得る可能性のある天然に存在する変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は極めて特異性が高く、単一の抗原部位を対象とする。さらに、典型的には異なる決定基(エピトープ)を対象とする異なる抗体を含む従来の(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基を対象とする。本発明によるモノクローナル抗体は、例えば、Kohler et al.(1975)Nature 256:495により最初に記載されたハイブリドーマ法によって作製され得、組換えタンパク質作製法(例えば、米国特許第4,816,567号明細書を参照)によっても作製され得る。
【0051】
「可変」という用語は、抗体に関連して使用される場合、抗体可変ドメインの特定の部分の配列が抗体間で大きく異なり、その特定の部分が各特定の抗体のその特定の抗原に対する結合及び特異性において用いられるという事実を指す。しかしながら、可変性は、抗体の可変ドメイン全体に均等に分布しているわけではない。それは軽鎖及び重鎖の可変ドメインにおけるいずれも超可変領域と呼ばれる三つのセグメントに濃縮される。可変ドメインのより高度に保存される部分は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、それぞれ大部分がβシート構造をとり、ループ接続を形成し、場合によりβシート構造の一部を形成する、3つの超可変領域によって接続された4つのFRを含む。各鎖の超可変領域は、FRによりごく近接して一体に保持され、他方の鎖由来の超可変領域と一緒になって抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD.(1991)を参照)。定常ドメインは、抗体の抗原への結合には直接関わらないが、抗体依存性細胞傷害性(ADCC)における抗体の関与などの種々のエフェクター機能を示す。
【0052】
「超可変領域」という用語は、本明細書で使用される場合、抗原結合を担う抗体のアミノ酸残基を指す。超可変領域は、一般に、「相補性決定領域」若しくは「CDR」に由来するアミノ酸残基(例えば、重鎖可変ドメインの残基31~35(H1)、50~65(H2)及び95~102(H3);Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD.(1991))及び/又は「超可変ループ」に由来するアミノ酸残基(例えば、重鎖可変ドメインの残基26~32(H1)、53~55(H2)及び96~101(H3);Chothia and Lesk J.Mol.Biol.196:901-917(1987))を含む。いくつかの実施形態では、「CDR」は、Lefranc,MP et al.,IMGT,the international ImMunoGeneTics database,Nucleic Acids Res.,27:209-212(1999)において定義されているような抗体の相補性決定領域を意味する。「フレームワーク領域」又は「FR」残基は、本明細書で定義されるような超可変領域/CDR残基以外の可変ドメイン残基である。
【0053】
例示的なCDRの名称を本明細書中に示すが、当業者は、Kabatの定義(“Zhao et al.A germline knowledge based computational approach for determining antibody complementarity determining regions.”Mol Immunol.2010;47:694-700を参照)(これは、配列の可変性に基づいており、最も一般的に使用されている)を含む、CDRのいくつかの定義が一般に使用されていることを理解しているであろう。Chothiaの定義は、構造ループ領域の位置に基づく(Chothia et al.“Conformations of immunoglobulin hypervariable regions.”Nature.1989;342:877-883)。関心対象の別のCDRの定義としては、Honegger,“Yet another numbering scheme for immunoglobulin variable domains:an automatic modeling and analysis tool.”J Mol Biol.2001;309:657-670; Ofran et al.“Automated identification of complementarity determining regions (CDRs)reveals peculiar characteristics of CDRs and B-cell epitopes.”J Immunol.2008;181:6230-6235;Almagro“Identification of differences in the specificity-determining residues of antibodies that recognize antigens of different size:implications for the rational design of antibody repertoires.”J Mol Recognit.2004;17:132-143; and Padlanet al.“Identification of specificity-determining residues in antibodies.”Faseb J.1995;9:133-139に開示されているものが挙げられるが限定されない(これらの各文献は、参照により本明細書に具体的に組み込まれる)。
【0054】
「重鎖抗体(heavy chain-only antibody)」及び「重鎖抗体(heavy chain antibody)」という用語は、本明細書においては互換的に使用され、広義には、抗体又は抗体の1つ以上の部分、例えば従来の抗体の軽鎖を欠く抗体の1つ以上のアームを指す。この用語には、具体的には、CH1ドメインの非存在下でVH抗原結合ドメインとCH2及びCH3の定常ドメインとを含むホモ二量体抗体;このような抗体の機能的(抗原結合)バリアント、可溶性VHバリアント、1つの可変ドメイン(V-NAR)及び5つのC様定常ドメイン(C-NAR)のホモ二量体を含むIg-NAR及びその機能的断片;並びに可溶性単一ドメイン抗体(sUniDabsTM)が含まれるが限定されない。一実施形態では、重鎖抗体(heavy chain-only antibody)は、フレームワーク1、CDR1、フレームワーク2、CDR2、フレームワーク3、CDR3及びフレームワーク4から構成される可変領域抗原結合ドメインから構成される。別の実施形態では、重鎖抗体(heavy chain-only antibody)は、抗原結合ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部、並びにCH2及びCH3ドメインから構成される。別の実施形態では、重鎖抗体(heavy chain-only antibody)は、抗原結合ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部及びCH2ドメインから構成される。さらなる実施形態では、重鎖抗体(heavy chain-only antibody)は、抗原結合ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部及びCH3ドメインから構成される。CH2及び/又はCH3ドメインがトランケートされている重鎖抗体(heavy chain-only antibody)もまた本明細書においては含まれる。さらなる実施形態では、重鎖は、抗原結合ドメイン及び少なくとも1つのCH(CH1、CH2、CH3又はCH4)ドメインから構成され、ヒンジ領域は含まれない。重鎖抗体(heavy chain-only antibody)は、2つの重鎖が互いとジスルフィド結合されているか、又はさもなければ互いに共有結合的に若しくは非共有結合的に結合されている、二量体の形態であり得る。重鎖抗体(heavy chain-only antibody)は、IgGサブクラスに属し得るが、IgM、IgA、IgD及びIgEサブクラスなどの他のサブクラスに属する抗体も本明細書においては含まれる。特定の実施形態では、重鎖抗体(heavy chain antibody)は、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4サブタイプ、特にIgG1又はIgG4サブタイプである。一実施形態では、重鎖抗体(heavy-chain antibody)は、IgG4サブタイプであり、CHドメインの1つ以上が抗体のエフェクター機能を変化させるように修飾されている。一実施形態では、重鎖抗体(heavy-chain antibody)は、IgG1又はIgG4サブタイプであり、CHドメインの1つ以上が抗体のエフェクター機能を変化させるように修飾されている。エフェクター機能を変化させるCHドメインの修飾は、本明細書中でさらに記載される。重鎖抗体(heavy-chain antibody)の非限定的な例は、例えば、国際公開第2018/039180号パンフレットに記載されており、その開示は、その全体が参照により本明細書中に組み込まれる。
【0055】
いくつかの実施形態では、本明細書中の重鎖抗体(heavy chain-only antibody)は、キメラ抗原受容体(CAR)の結合(標的化)ドメインとして使用される。この定義には、具体的に、UniAbTMと呼ばれる、ヒト免疫グロブリントランスジェニックラット(UniRatTM)によって産生されるヒト重鎖抗体(heavy chain-only antibody)が含まれる。UniAbTMの可変領域(VH)は、UniDabsTMと呼ばれ、多重特異性、効力の上昇及び半減期の延長を伴う新規治療薬の開発のために、Fc領域又は血清アルブミンに連結され得る多用途の構成要素である。ホモ二量体UniAbTMは、軽鎖及び、したがってVLドメインを欠くため、抗原は、1つの単一ドメイン、すなわち重鎖抗体(heavy-chain antibody)の重鎖の可変ドメイン(VH又はVHH)によって認識される。
【0056】
本明細書で使用される場合、「インタクトな抗体鎖」は、完全長可変領域及び完全長定常領域(Fc)を含む抗体鎖である。インタクトな「従来の」抗体は、分泌されたIgGでは、インタクトな軽鎖及びインタクトな重鎖並びに軽鎖定常ドメイン(CL)及び重鎖定常ドメイン、CH1、ヒンジ、CH2及びCH3を含む。IgM又はIgAなどの他のアイソタイプは、異なるCHドメインを有し得る。定常ドメインは、ネイティブ配列定常ドメイン(例えば、ヒトネイティブ配列定常ドメイン)又はそのアミノ酸配列バリアントであり得る。インタクトな抗体は、抗体のFc定常領域(ネイティブ配列Fc領域又はアミノ酸配列バリアントFc領域)に起因する生物学的活性を指す1つ以上の「エフェクター機能」を有し得る。抗体エフェクター機能の例としては、C1q結合;補体依存性細胞傷害;Fc受容体結合;抗体依存性細胞媒介細胞傷害(ADCC);食作用;及び細胞表面受容体の下方制御が挙げられる。定常領域バリアントには、エフェクタープロファイル、Fc受容体への結合などを変化させるものが含まれる。
【0057】
重鎖のFc(定常ドメイン)のアミノ酸配列に応じて、抗体及び種々の抗原結合タンパク質は様々な「クラス」に割り当て得る。重鎖Fc領域には5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMがあり、これらのうちのいくつかは、「サブクラス」(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA及びIgA2にさらに分けられ得る。様々なクラスの抗体に対応するFc定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ及びμと呼ばれ得る。様々なクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造及び三次元構造は、よく知られている。Ig形態には、ヒンジ修飾又はヒンジレス形態が含まれる(Roux et al(1998)J.Immunol.161:4083-4090;Lund et al(2000)Eur.J.Biochem.267:7246-7256;米国特許出願公開第2005/0048572号明細書;米国特許出願公開第2004/0229310号明細書)。いずれかの脊椎動物種由来の抗体の軽鎖は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、κ(カッパ)及びλ(ラムダ)と呼ばれる2つのタイプの1つに割り当てられ得る。本発明の実施形態による抗体は、カッパ軽鎖配列又はラムダ軽鎖配列を含み得る。
【0058】
「機能的Fc領域」は、ネイティブ配列Fc領域の「エフェクター機能」を有する。エフェクター機能の非限定的な例としては、C1q結合;CDC;Fc受容体結合;ADCC;ADCP;細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)の下方制御などが挙げられる。このようなエフェクター機能は、一般に、受容体、例えば、FcγRI、FcγRIIA、FcγRIIB1、FcγRIIB2、FcγRIIIA、FcγRIIIB受容体及び低親和性FcRn受容体と相互作用するFc領域を必要とし、当該技術分野で知られる様々なアッセイを使用して評価することができる。「死滅した」又は「サイレンシングされた」Fcは、例えば、血清半減期の延長に関して活性を保持するように変異されているが、高親和性Fc受容体を活性化しないか、又はFc受容体に対する親和性が低下しているものである。
【0059】
「ネイティブ配列Fc領域」は、天然に見出されるFc領域のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含む。ネイティブ配列ヒトFc領域としては、例えば、天然配列ヒトIgG1 Fc領域(非A及びAアロタイプ)、ネイティブ配列ヒトIgG2 Fc領域、ネイティブ配列ヒトIgG3 Fc領域及びネイティブ配列ヒトIgG4 Fc領域、並びにそれらの天然のバリアントが挙げられる。
【0060】
「バリアントFc領域」は、少なくとも1つのアミノ酸の修飾、好ましくは1つ以上のアミノ酸の置換により、ネイティブ配列Fc領域のアミノ酸配列と異なるアミノ酸配列を含む。好ましくは、バリアントFc領域は、ネイティブ配列Fc領域又は親ポリペプチドのFc領域と比較して、少なくとも1つのアミノ酸置換、例えば、約1~約10個のアミノ酸置換、好ましくは天然配列Fc領域又は親ポリペプチドのFc領域における約1~約5個のアミノ酸置換を有する。本明細書におけるバリアントFc領域は、好ましくは、ネイティブ配列Fc領域及び/又は親ポリペプチドのFc領域と少なくとも約80%の相同性、最も好ましくは少なくとも約90%の相同性、より好ましくは少なくとも約95%の相同性を有する。
【0061】
バリアントFc配列は、EUインデックス位置234、235及び237でのFcγRI結合を低減するために、CH2領域に3つのアミノ酸置換を含み得る(Duncan et al.,(1988)Nature 332:563を参照)。補体C1q結合部位における、EUインデックス位置330及び331での2つのアミノ酸置換は、補体結合を減少させる(Tao et al.,J.Exp.Med.178:661(1993)及びCanfield and Morrison,J.Exp.Med.173:1483(1991)を参照)。ヒトIgG1又はIgG2残基の233~236位での置換並びにIgG4残基の327、330及び331位での置換は、ADCC及びCDCを大幅に低下させる(例えば、Armour KL.et al.,1999 Eur J Immunol.29(8):2613-24;及びShields RL.et al.,2001.J Biol Chem.276(9):6591-604を参照)。ヒトIgG4 Fcアミノ酸配列(UniProtKB番号P01861)を配列番号22として本明細書で提供する。サイレンシングされたIgG1は、例えば、Boesch,A.W.,et al.,“Highly parallel characterization of IgG Fc binding interactions.”MAbs,2014.6(4):p.915-27に記載されており、この開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0062】
他のFcバリアントが可能であり、例えば、限定されないが、ジスルフィド結合を形成することが可能な領域が欠失されているか、又は特定のアミノ酸残基がネイティブFcのN末端で除去されているか、又はメチオニン残基が付加されているものが挙げられる。したがって、いくつかの実施形態では、抗体の1つ以上のFc部分が、ジスルフィド結合を排除するために、ヒンジ領域に1つ以上の変異を含み得る。また別の実施形態では、Fcのヒンジ領域を完全に除去し得る。さらに別の実施形態では、抗体は、Fcバリアントを含み得る。
【0063】
さらに、Fcバリアントは、補体結合又はFc受容体結合をもたらすためにアミノ酸残基を置換(変異)、欠失又は付加することにより、エフェクター機能を除去するか又は実質的に低下させるように構築され得る。例えば、限定されないが、欠失は、C1q結合部位などの補体結合部位において生じ得る。免疫グロブリンFc断片のこのような配列誘導体を調製するための技術は、国際公開第97/34631号パンフレット及び国際公開第96/32478号パンフレットに開示されている。さらに、Fcドメインは、リン酸化、硫酸化、アシル化、グリコシル化、メチル化、ファルネシル化、アセチル化、アミド化などによって修飾され得る。
【0064】
いくつかの実施形態では、抗体は、T366W変異を含むバリアントヒトIgG4 CH3ドメイン配列を含み、これは、本明細書においては任意選択的にIgG4 CH3ノブ配列と呼ばれ得る。いくつかの実施形態では、抗体は、T366S変異、L368A変異及びY407V変異を含むバリアントヒトIgG4 CH3ドメイン配列を含み、これは、本明細書においては任意選択的にIgG4 CH3ホール配列と呼ばれ得る。本明細書に記載のIgG4 CH3変異は、抗体二量体中の第1の単量体の第1の重鎖定常領域に「ノブ」を置き、抗体二量体中の第2の単量体の第2の重鎖定常領域に「ホール」を置き、それによって抗体中の重鎖ポリペプチドサブユニットの所望の対の適切な対合(ヘテロ二量体化)を促進するために、任意の好適な方法で利用することができる。
【0065】
いくつかの実施形態では、抗体は、S228P変異、F234A変異、L235A変異及びT366W変異を含むバリアントヒトIgG4 Fc領域(ノブ)を含む重鎖ポリペプチドサブユニットを含む。いくつかの実施形態では、抗体は、S228P変異、F234A変異、L235A変異、T366S変異、L368A変異及びY407V変異を含むバリアントヒトIgG4 Fc領域(ホール)を含む重鎖ポリペプチドサブユニットを含む。
【0066】
「Fc領域含有抗体」という用語は、Fc領域を含む抗体を指す。Fc領域のC末端リシン(EUナンバリングシステムによる残基447)は、例えば、抗体の精製中又は抗体をコードする核酸の組換え操作によって除去され得る。したがって、本発明によるFc領域を有する抗体は、K447を有する抗体又はK447のない抗体を含み得る。
【0067】
本発明の態様は、1価又は2価の構造の重鎖のみの可変領域を含む抗体を含む。本明細書で使用される場合、重鎖のみの可変領域ドメインに関して使用される「1価構造」という用語は、重鎖のみの可変領域ドメインが1つのみ存在し、単一の結合部位を有することを意味する。一方、重鎖のみの可変領域ドメインに関して使用される「2価構造」という用語は、重鎖のみの可変領域ドメインが2つ存在し(それぞれが単一の結合部位を有する)、リンカー配列によって連結されていることを意味する。リンカー配列の非限定的な例は、本明細書中でさらに論じられており、限定されないが、様々な長さのGSリンカー配列が含まれる。重鎖のみの可変領域が2価構造である場合、重鎖のみの2つの可変領域ドメインのそれぞれは、同じ抗原又は異なる抗原に(例えば、同じタンパク質上の異なるエピトープに;2つの異なるタンパク質に、など)結合することができる。しかしながら、特に断らない限り、「2価構造」であると示される重鎖のみの可変領域は、リンカー配列によって連結された2つの同一の重鎖のみの可変領域ドメインを含有すると理解され、これらの2つの同一の重鎖のみの可変領域ドメインのそれぞれは、同じ標的抗原に結合する。
【0068】
本発明の態様には、限定されないが二重特異性、三重特異性などを含む、多重特異性構造を有する抗体が含まれる。多種多様な方法及びタンパク質構造が知られており、二重特異性モノクローナル抗体(BsMAB)、三重特異性抗体などにおいて使用されている。
【0069】
2つ以上の抗体の可変ドメインを組換え融合することにより、多価の人工抗体を作製するための様々な方法が開発されている。いくつかの実施形態では、ポリペプチド上の第1及び第2の抗原結合ドメインは、ポリペプチドリンカーによって連結されている。このようなポリペプチドリンカーの1つの非限定的な例は、4つのグリシン残基に1つのセリン残基が続くアミノ酸配列を有するGSリンカーであり、配列はn回反復する(ここで、nは、1~約10の範囲の整数、例えば2、3、4、5、6、7、8又は9である)。このようなリンカーの非限定的な例としては、GGGGS(配列番号40)(n=1)及びGGGGSGGGGS(配列番号41)(n=2)が挙げられる。他の好適なリンカーもまた使用され得、例えば、Chen et al.,Adv Drug Deliv Rev.2013 October 15;65(10):1357-69に記載されており、その開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0070】
「三本鎖抗体様分子」又は「TCA」という用語は、本明細書では、3つのポリペプチドサブユニットを含むか、実質的にそれらからなるか又はそれらからなり、そのうちの2つが、モノクローナル抗体の1本の重鎖及び1本の軽鎖、又は抗原結合領域及び少なくとも1つのCHドメインを含むそのような抗体鎖の機能的抗原結合断片を含むか、実質的にそれらからなるか又はそれらからなる抗体様分子を指すために使用される。この重鎖/軽鎖対は、第1の抗原に対する結合特異性を有する。第3のポリペプチドサブユニットは、CH1ドメインの非存在下でCH2、及び/又はCH3、及び/又はCH4ドメインを含むFc部分と、第2の抗原のエピトープ又は第1の抗原の異なるエピトープに結合する1つ以上の抗原結合ドメイン(例えば、2つの抗原結合ドメイン)と、を含み、そのような結合ドメインが抗体重鎖又は軽鎖の可変領域に由来するか又はそれと配列同一性を有する重鎖抗体(heavy-chain only antibody)を、含むか、実質的にそれからなるか又はそれからなる。このような可変領域の一部は、VH及び/又はVL遺伝子セグメント、D及びJH遺伝子セグメント又はJL遺伝子セグメントによってコードされ得る。可変領域は、再配置されたVHDJH、VLDJH、VHJL又はVLJL遺伝子セグメントによってコードされ得る。
【0071】
TCA結合化合物は、「重鎖抗体(heavy chain only antibody)」又は「重鎖抗体(heavy chain antibody)」又は「重鎖ポリペプチド」(これらは、本明細書で使用される場合、重鎖定常領域CH2及び/又はCH3及び/又はCH4を含むが、CH1ドメインは含まない単鎖抗体を意味する)を使用する一実施形態では、重鎖抗体(heavy chain antibody)は、抗原結合ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部、並びにCH2及びCH3ドメインから構成される。別の実施形態では、重鎖抗体(heavy chain antibody)は、抗原結合ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部及びCH2ドメインから構成される。さらなる実施形態では、重鎖抗体(heavy chain antibody)は、抗原結合ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部及びCH3ドメインから構成される。CH2及び/又はCH3ドメインがトランケートされている重鎖抗体(heavy chain antibody)もまた本明細書においては含まれる。さらなる実施形態では、重鎖は、抗原結合ドメイン及び少なくとも1つのCH(CH1、CH2、CH3又はCH4)ドメインから構成され、ヒンジ領域は含まれない。重鎖抗体(heavy chain only antibody)は、2つの重鎖がジスルフィド結合しているか、又はさもなければ互いに共有結合若しくは非共有結合している二量体の形態であり得、任意選択的に、ポリペプチド鎖間の適切な対合を促進するために、CHドメインの1つ以上の間に非対称的な界面(例えば、ノブ・イン・ホール(KiH)界面)を含み得る。重鎖抗体(heavy-chain antibody)は、IgGサブクラスに属し得るが、IgM、IgA、IgD及びIgEサブクラスなどの他のサブクラスに属する抗体も本明細書においては含まれる。特定の実施形態では、重鎖抗体(heavy chain antibody)は、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4サブタイプ、特にIgG1サブタイプ又はIgG4サブタイプである。TCA結合化合物の非限定的な例は、例えば、国際公開第2017/223111号パンフレット及び国際公開第2018/052503号パンフレットに記載されており、これらの開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0072】
重鎖抗体(heavy-chain antibody)は、ラクダ科動物、例えばラクダ及びラマによって産生されるIgG抗体の約4分の1を構成する(Hamers-Casterman C.,et al.Nature.363,446-448(1993))。これらの抗体は、2つの重鎖によって形成され、軽鎖を欠いている。結果として、可変抗原結合部分はVHHドメインと称され、天然に存在する最小のインタクトな抗原結合部位を表し、長さは僅か約120アミノ酸である(Desmyter,A.,et al.J.Biol.Chem.276,26285-26290(2001))。高い特異性及び親和性を有する重鎖抗体(heavy chain antibody)は、免疫化によって様々な抗原に対して生成され得る(van der Linden,R.H.,et al.Biochim.Biophys.Acta.1431,37-46(1999))、VHH部分を容易にクローニングし、酵母で発現させ得る(Frenken,L.G.J.,et al.J.Biotechnol.78,11-21(2000))。それらの発現、溶解性及び安定性のレベルは、古典的なF(ab)断片又はFv断片より顕著に高い(Ghahroudi,M A.et al.FEBS Lett.414,521-526(1997))。サメは、その抗体中にVNARと呼ばれる単一のVH様ドメインを有することも示されている。(Nuttall et al.Eur.J.Biochem.270,3543-3554(2003);Nuttall et al.Function and Bioinformatics 55,187-197(2004);Dooley et al.,Molecular Immunology 40,25-33(2003))。
【0073】
本明細書で使用される「MUC1」という用語は、ムチンファミリーのメンバーである膜結合タンパク質を指す。ムチンは、O-グリコシル化タンパク質であり、上皮表面上に防御粘液バリアを形成するのに必須の役割を果たし、細胞内シグナル伝達にも役割を果たす。MUC1は、多くの異なる組織の粘膜表面を覆う上皮細胞の頂端表面に発現される。
【0074】
「MUC1-N」という用語は、MUC1のN末端又はアルファサブユニットを指し、「MUC1-C」という用語は、C末端又はベータサブユニット又はMUC1を指す。ヒトMUC1(UniProt P15941)の場合、MUC1-Nは、MUC1のアミノ酸残基24~1,097を含み、MUC1-Cは、MUC1(UniProt P15941)のアミノ酸残基1,098~1,255を含む。
【0075】
「MUC1」、「MUC1-N」及び「MUC1-C」という用語ニは、任意のヒト及び非ヒト動物種のMUC1、MUC1-N又はMUC1-Cタンパク質が含まれ、具体的には、ヒトのMUC1、MUC1-N及びMUC1-C、並びに非ヒト哺乳動物のMUC1、MUC1-N及びMUC1-Cが含まれる。
【0076】
本明細書で使用される「ヒトMUC1」という用語には、その供給源又は調製方法にかかわらず、MUC1(UniProt P15941)の任意のバリアント、アイソフォーム及び種ホモログが含まれる。したがって、「ヒトMUC1」には、細胞によって天然に発現されるヒトMUC1、及びヒトMUC1遺伝子をトランスフェクトした細胞で発現されるMUC1が含まれる。
【0077】
「抗MUC1-C重鎖抗体(heavy chain-only antibody)」、「MUC1-C重鎖抗体(heavy chain-only antibody)」、「抗MUC1-C重鎖抗体(heavy chain antibody)」及び「MUC1-C重鎖抗体(heavy chain antibody)」という用語は、本明細書においては互換的に使用され、本明細書中、上で定義したとおりのヒトMUC1-Cを含む、MUC1-Cに免疫特異的に結合する、本明細書中、上で定義したとおりの重鎖抗体(heavy chain-only antibody)を指す。この定義には、限定されないが、ヒト免疫グロブリンを発現するトランスジェニックラット又はトランスジェニックマウス、例えば、本明細書中、上で定義されたようなヒト抗MUC1-C UniAbTM抗体を産生するUniRatTMなどのトランスジェニック動物によって産生されるヒト重鎖抗体(heavy chain antibody)が含まれる。
【0078】
参照ポリペプチド配列に対する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」は、配列をアラインさせ、必要であれば、最大の配列同一性%を達成するためにギャップを導入した後の、配列同一性の一部として保存的置換を考慮しない、参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージと定義される。アミノ酸配列同一性パーセントを決定する目的のためのアライメントは、当業者の範囲内である様々な方法で、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどの公的に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用して達成され得る。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアライメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列をアラインするための適切なパラメータを決定し得る。しかしながら、本明細書の目的のためには、アミノ酸配列同一性%値は、配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を使用して生成される。
【0079】
「単離された」抗体は、その天然環境の成分から同定され、分離され且つ/又は回収されたものである。その天然環境の混入成分は、抗体の診断的又は治療的使用を妨害し得る物質であり、酵素、ホルモン及び他のタンパク質性又は非タンパク質性溶質が含まれ得る。好ましい実施形態では、抗体は、(1)ローリー法による決定で抗体が95重量%を超えるまで、最も好ましくは99重量%を超えるまで、(2)スピニングカップ配列決定装置の使用によってN末端又は内部アミノ酸配列の少なくとも15残基を十分に得られる程度まで、又は(3)クマシーブルー若しくは好ましくは銀染色を用いて、還元条件下又は非還元条件下でSDS-PAGEによって均質になるまで精製される。単離された抗体には、その抗体の天然環境の少なくとも1つの成分は存在しないため、組換え細胞内にインサイチュで存在する抗体が含まれる。しかし、通常は、単離された抗体は少なくとも1つの精製工程によって調製される。
【0080】
本発明の抗体としては、多重特異性抗体が挙げられる。多重特異性抗体は、複数の結合特異性を有する。「多重特異性」という用語には、具体的には、「二重特異性」及び「三重特異性」、並びにより高次のポリエピトープ特異性などのより高次の独立した特異的結合親和性、並びに4価抗体及び抗体断片が含まれる。「多重特異性抗体」、「多重特異性重鎖抗体(multi-specific heavy chain-only antibody)」、「多重特異性重鎖抗体(multi-specific heavy chain antibody)」及び「多重特異性UniAbTM」という用語は、本明細書では、最も広い意味で使用され、複数の結合特異性を有する全ての抗体を包含する。本発明の多重特異性重鎖抗MUC1-C抗体は、具体的には、ヒトMUC1-Cタンパク質などのMUC1-Cタンパク質上の2つ以上の非重複エピトープに免疫特異的に結合する抗体(すなわち2価及びバイパラトピック)を含む。本発明の多重特異性重鎖抗MUC1-C抗体は、具体的には、ヒトMUC1-Cタンパク質などのMUC1-Cタンパク質上のエピトープ、及び、例えばヒトCD3タンパク質などのCD3タンパク質などの異なるタンパク質上のエピトープに免疫特異的に結合する抗体(すなわち、2価及びバイパラトピック)も含む。本発明の多重特異性重鎖抗MUC1-C抗体は、具体的には、ヒトMUC1-Cタンパク質などのMUC1-Cタンパク質上の2つ以上の、重複しないか又は部分的に重複するエピトープ、及び、例えばヒトCD3タンパク質などのCD3タンパク質などの異なるタンパク質上のエピトープに免疫特異的に結合する抗体(すなわち、3価及びバイパラトピック)も含む。
【0081】
本発明の抗体は、1つの結合特異性を有する単一特異性抗体を含む。単一特異性抗体は、具体的には、単一結合特異性を含む抗体並びに同じ結合特異性を有する複数の結合ユニットを含む抗体を含む。「単一特異性抗体」、「単一特異性重鎖抗体(monospecific heavy chain-only antibody)」、「単一特異性重鎖抗体(monospecific heavy chain antibody)」及び「単一特異性UniAbTM」という用語は、本明細書では、最も広い意味で使用され、1つの結合特異性を有する全ての抗体を包含する。本発明の単一特異性重鎖抗MUC1-C抗体は、具体的には、ヒトMUC1-Cタンパク質などのMUC1-Cタンパク質上の1つのエピトープに免疫特異的に結合する抗体(1価及び単一特異性)を含む。本発明の単一特異性重鎖抗MUC1-C抗体は、具体的には、ヒトMUC1-Cタンパク質などのMUC1-Cタンパク質上のエピトープに免疫特異的に結合する2つ以上の結合単位を有する抗体(例えば、多価抗体)も含む。例えば、本発明の実施形態による単一特異性抗体は、2つの抗原結合ドメインを含む重鎖可変領域を含むことができる(ここで、各抗原結合ドメインはMUC1-Cタンパク質上の同じエピトープに結合する)(すなわち、二価及び単一特異性)。
【0082】
「エピトープ」は、単一の抗体分子が結合する抗原分子の表面上の部位である。一般に、抗原は、数個又は多くの異なるエピトープを有し、多くの異なる抗体と反応する。この用語には、具体的には、線状エピトープ及び立体構造エピトープが含まれる。
【0083】
「エピトープマッピング」は、抗体の標的抗原上の、抗体の結合部位又はエピトープを同定するプロセスである。抗体エピトープは、線状エピトープ又は立体構造エピトープであり得る。線状エピトープは、タンパク質中のアミノ酸の連続配列によって形成される。立体構造エピトープは、タンパク質配列中の不連続であるが、タンパク質が三次元構造に折り畳まれると1つにまとまるアミノ酸から形成される。
【0084】
「ポリエピトープ特異性」は、同じ又は異なる標的上の2つ以上の異なるエピトープに特異的に結合する能力を指す。上記のように、本発明は、具体的には、ポリエピトープ特異性を有する抗MUC1-C重鎖抗体(anti-MUC1-C heavy chain antibody)、すなわちヒトMUC1-Cタンパク質などのMUC1-Cタンパク質上の1つ以上の非重複エピトープに結合する抗MUC1-C重鎖抗体(anti-MUC1-C heavy chain antibody);並びにMUC1-Cタンパク質上の1つ以上のエピトープ、及び例えばCD3タンパク質などの異なるタンパク質上のエピトープに結合する抗MUC1-C重鎖抗体(anti-MUC1-C heavy chain antibody)を含む。抗原の「非重複エピトープ」又は「非競合エピトープ」という用語は、本明細書では、一対の抗原特異的抗体の一方のメンバーによって認識されるが、他方のメンバーによっては認識されないエピトープを意味すると定義される。非重複エピトープを認識する、多重特異性抗体上の同じ抗原を標的とする抗体の対又は抗原結合領域は、その抗原への結合について競合せず、その抗原に同時に結合することが可能である。
【0085】
抗体は、2つの抗体が同一又は立体的に重複するエピトープを認識する場合、参照抗体と「実質的に同じエピトープ」に結合する。2つのエピトープが同一又は立体的に重複するエピトープに結合するか否かを決定するための迅速で最も広く使用されている方法は、標識抗原又は標識抗体を使用して、あらゆる数の異なるフォーマットで構成され得る競合アッセイである。通常、抗原を96ウェルプレートに固定し、標識抗体の結合を遮断する非標識抗体の能力を、放射性標識又は酵素標識を用いて測定する。
【0086】
本明細書で使用される「価」という用語は、抗体分子中の結合部位の特定の数を指す。
【0087】
「1価」抗体は、1つの結合部位を有する。したがって、1価抗体は単一特異性でもある。
【0088】
「多価」抗体は、2つ以上の結合部位を有する。したがって、「2価」、「3価」及び「4価」という用語は、それぞれ2つの結合部位、3つの結合部位及び4つの結合部位が存在することを指す。したがって、本発明による二重特異性抗体は、少なくとも2価であり、3価、4価又はさもなければ多価であり得る。本発明の実施形態による2価抗体は、同じエピトープ(すなわち2価、モノパラトピック)又は2つの異なるエピトープ(すなわち2価、バイパラトピック)への2つの結合部位を有し得る。
【0089】
二重特異性モノクローナル抗体(BsMAB)、三重特異性抗体などを調製するための多種多様な方法及びタンパク質構造が知られ且つ使用されている。
【0090】
「三本鎖抗体様分子」又は「TCA」という用語は、本明細書では、3つのポリペプチドサブユニットを含むか、実質的にそれらからなるか又はそれらからなり、そのうちの2つが、モノクローナル抗体の1本の重鎖及び1本の軽鎖、又は抗原結合領域及び少なくとも1つのCHドメインを含むそのような抗体鎖の機能的抗原結合断片を含むか、実質的にそれらからなるか又はそれらからなる抗体様分子を指すために使用される。この重鎖/軽鎖対は、第1の抗原に対する結合特異性を有する。第3のポリペプチドサブユニットは、CH1ドメインの非存在下でCH2、及び/又はCH3、及び/又はCH4ドメインを含むFc部分と、第2の抗原のエピトープ又は第1の抗原の異なるエピトープに結合する抗原結合ドメインと、を含み、そのような結合ドメインが抗体重鎖又は軽鎖の可変領域に由来するか又はそれと配列同一性を有する重鎖抗体(heavy chain-only antibody)を、含むか、実質的にそれからなるか又はそれからなる。このような可変領域の一部は、VH及び/又はVL遺伝子セグメント、D及びJH遺伝子セグメント又はJL遺伝子セグメントによってコードされ得る。可変領域は、再配置されたVHDJH、VLDJH、VHJL又はVLJL遺伝子セグメントによってコードされ得る。TCAタンパク質は、本明細書中の上で定義した重鎖抗体(heavy chain-only antibody)を使用する。
【0091】
「キメラ抗原受容体」又は「CAR」という用語は、本明細書においては、最も広い意味で使用され、所望の結合特異性(例えば、モノクローナル抗体又は他のリガンドの抗原結合領域)を膜貫通ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインにグラフトする、改変された受容体を指す。典型的には、この受容体を用いて、モノクローナル抗体の特異性をT細胞にグラフトして、キメラ抗原受容体(CAR)を作製する。(J Natl Cancer Inst,2015;108(7):dvj439;及びJackson et al.,Nature Reviews Clinical Oncology,2016;13:370-383)。CAR-T細胞は、免疫療法での使用のための人工T細胞受容体を生成するように遺伝子操作されたT細胞である。一実施形態では、「CAR-T細胞」は、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン及び少なくとも1つの細胞質ドメインから最小限構成される1つ以上のキメラ抗原受容体をコードする導入遺伝子を発現する治療用T細胞を意味する。
【0092】
「ヒト抗体」という用語は、本明細書では、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域及び定常領域を有する抗体を含むために使用される。本明細書中のヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基、例えば、インビトロでのランダム若しくは部位特異的変異誘発により導入される変異又はインビボでの体細胞変異により導入される変異を含み得る。「ヒト抗体」という用語には、具体的には、トランスジェニック動物、例えば、トランスジェニックラット又はトランスジェニックマウスによって産生される、ヒト重鎖可変領域配列を有する重鎖抗体(heavy chain-only antibody)、特に上で定義されるUniRatTMによって産生されるUniAbTMが含まれる。
【0093】
「キメラ抗体」又は「キメラ免疫グロブリン」とは、少なくとも2つの異なるIg遺伝子座に由来するアミノ酸配列を含む免疫グロブリン分子、例えば、ヒトIg遺伝子座によってコードされる部分及びラットIg遺伝子座によってコードされる部分を含むトランスジェニック抗体を意味する。キメラ抗体には、非ヒトFc領域又は人工Fc領域を有するトランスジェニック抗体、及びヒトイディオタイプが含まれる。そのような免疫グロブリンは、そのようなキメラ抗体を産生するように操作された本発明の動物から単離され得る。
【0094】
本明細書で使用される場合、「エフェクター細胞」という用語は、免疫応答の認識相及び活性化相とは対照的に、免疫応答のエフェクター相に関与する免疫細胞を指す。いくつかのエフェクター細胞は、特異的Fc受容体を発現し、特異的免疫機能を実行する。いくつかの実施形態では、ナチュラルキラー細胞などのエフェクター細胞が抗体依存性細胞傷害(ADCC)を誘導することが可能である。例えば、FcRを発現する単球及びマクロファージは、標的細胞の特異的死滅及び免疫系の他の成分への抗原の提示又は抗原を提示する細胞への結合に関与する。いくつかの実施形態では、エフェクター細胞は、標的抗原又は標的細胞を貪食し得る。
【0095】
「ヒトエフェクター細胞」は、T細胞受容体又はFcRなどの受容体を発現し、エフェクター機能を果たす白血球である。好ましくは、細胞は、少なくともFcγRIIIを発現し、ADCCエフェクター機能を果たす。ADCCに介在するヒト白血球の例としては、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、細胞傷害性T細胞及び好中球が挙げられ、NK細胞が好ましい。エフェクター細胞は、その天然供給源、例えば本明細書に記載されるような血液又はPBMCから単離され得る。
【0096】
「免疫細胞」という用語は、本明細書においては、最も広い意味で使用され、限定されないが、骨髄又はリンパ起源の細胞、例えば、リンパ球(例えば、B細胞及び細胞溶解性T細胞(CTL)を含むT細胞)、キラー細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージ、単球、好酸球、多形核細胞、例えば、好中球、顆粒球、肥満細胞及び好塩基球が挙げられる。
【0097】
抗体「エフェクター機能」は、抗体のFc領域(ネイティブ配列Fc領域又はアミノ酸配列バリアントFc領域)に起因する生物活性を指す。抗体エフェクター機能の例としては、C1q結合;補体依存性細胞傷害(CDC);Fc受容体結合;抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC);食作用;細胞表面受容体(例えばB細胞受容体、BCR)の下方制御などが挙げられる。
【0098】
「抗体依存性細胞介在性細胞傷害」及び「ADCC」は、Fc受容体(FcR)(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球及びマクロファージ)を発現する非特異的細胞傷害性細胞が、標的細胞上の結合した抗体を認識し、続いて標的細胞の溶解を引き起こす細胞介在性反応を指す。ADCCに介在するための主要な細胞であるNK細胞は、FcγRIIIのみを発現する一方で、単球はFcγRI、FcγRII及びFcγRIIIを発現する。造血細胞上でのFcRの発現は、Ravetch and Kinet,Annu.Rev.Immunol 9:457-92(1991)の464頁、表3に要約されている。関心対象の分子のADCC活性を評価するために、インビトロADCCアッセイ、例えば、米国特許第5,500,362号明細書又は同第5,821,337号明細書に記載されているもの、を実施し得る。このようなアッセイに有用なエフェクター細胞としては、末梢血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞が挙げられる。代わりに又はさらに、関心対象の分子のADCC活性は、例えば、Clynes et al.PNAS(USA)95:652-656(1998)に開示されているような動物モデルにおいて、インビボで評価され得る。
【0099】
「補体依存性細胞傷害」又は「CDC」は、補体の存在下で分子が標的を溶解する能力を指す。補体活性化経路は、補体系の第1の成分(C1q)の、同族抗原と複合化した分子(例えば抗体)への結合によって開始される。補体活性化を評価するために、例えばGazzano-Santoro et al.,J.Immunol.Methods 202:163(1996)に記載されているようなCDCアッセイを実施し得る。
【0100】
「結合親和性」は、分子(例えば抗体)の単一結合部位とその結合パートナー(例えば抗原)との間の非共有結合性相互作用の合計強度を指す。別段の指示がない限り、本明細書で使用される場合、「結合親和性」は、結合対(例えば抗体と抗原)のメンバー間の1:1相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子XのそのパートナーYに対する親和性は、一般に、解離定数(Kd)によって表され得る。親和性は、当該技術分野で知られる一般的な方法によって測定され得る。低親和性抗体は一般に、抗原にゆっくりと結合し、容易に解離する傾向がある一方、高親和性抗体は一般に、より速く抗原に結合し、結合したままである傾向がある。
【0101】
本明細書で使用される場合、「Kd」又は「Kd値」は、動力学モードでOctet QK384機器(Fortebio Inc.,Menlo Park,CA)を使用して、バイオレイヤー干渉法によって決定される解離定数を指す。例えば、抗マウスFcセンサーにマウスFc融合抗原をロードし、次いで、抗体含有ウェルに浸漬して、濃度依存性結合速度(kon)を測定する。抗体解離速度(koff)を最終工程で測定し、ここで、センサーを緩衝液のみを含有するウェルに浸漬する。Kdは、koff/konの比である。(さらに詳しくは、Concepcion,J,et al.,Comb Chem High Throughput Screen,12(8),791-800,2009を参照)。
【0102】
「処置」、「処置する」などの用語は、本明細書では、一般に所望の薬理学的及び/又は生理学的効果を得ることを意味するために使用される。効果は、疾患若しくはその症状を完全に若しくは部分的に防ぐ点で予防的であり得、且つ/又は疾患及び/若しくは疾患に起因する有害作用に対する部分的若しくは完全な治癒の点で治療的であり得る。本明細書で使用される場合、「処置」は、哺乳動物における疾患のあらゆる処置を包含し、(a)疾患の素因があり得るが、それを有するとまだ診断されていない対象において疾患が生じるのを防止すること;(b)疾患を阻止すること、すなわちその発症を阻止すること;又は(c)疾患を軽減すること、すなわち疾患の退縮を引き起こすことを含む。治療薬は、疾患又は傷害の発症前、発症中又は発症後に投与され得る。処置が患者の望ましくない臨床症状を安定化又は軽減する、進行中の疾患の処置は、特に興味深い。そのような処置は、罹患組織における機能の完全な喪失前に実施されることが望ましい。対象の治療は、疾患の症候性段階中、場合により疾患の症候性段階後に投与され得る。
【0103】
「治療的有効量」は、対象に治療的利益を与えるのに必要な活性薬剤の量を意図する。例えば、「治療的有効量」は、疾患に関連する病理学的症状、疾患の進行若しくは生理学的状態の改善を誘導するか、改良するか若しくは引き起こすか、又は障害に対する抵抗性を改善する量である。
【0104】
「MUC1-Cの発現を特徴とする」という用語は、広義には、MUC1-C発現が疾患又は障害に特徴的な1つ以上の病理学的過程に関連するか又は関与する任意の疾患又は障害を指す。このような障害には、固形腫瘍及び血液悪性腫瘍、例えば本明細書にさらに記載されるものが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、MUC1-Cの発現を特徴とする疾患又は障害に、上皮性起源の癌、すなわち、腺癌及び扁平上皮細胞癌を含む癌腫が含まれる。癌腫の非限定的な例としては、乳癌、非小細胞肺(NSCL)癌、小細胞肺(SSC)癌、中皮腫、腎細胞癌、結腸直腸癌、卵巣癌、頭頸部扁平上皮細胞癌、鼻咽頭癌、胃癌、前立腺癌、膵臓癌、食道癌及び子宮頸癌が挙げられる。いくつかの実施形態では、MUC1-Cの発現を特徴とする疾患又は障害に、血液悪性腫瘍、すなわち、骨髄腫、白血病及びリンパ腫が含まれる。血液悪性腫瘍の非限定的な例としては、多発性骨髄腫及び慢性骨髄性白血病(CML)が挙げられる。
【0105】
「対象」、「個体」及び「患者」という用語は、本明細書においては交換可能に使用され、処置について評価され且つ/又は処置されている哺乳動物を指す。一実施形態では、哺乳動物は、ヒトである。「対象」、「個体」及び「患者」という用語は、癌を有する個体、自己免疫疾患を有する個体、病原体感染を有する個体などを包含するが限定されない。対象はヒトであり得るが、他の哺乳動物、特にヒト疾患のための実験モデルとして有用な哺乳動物、例えばマウス、ラットなども含まれる。
【0106】
「医薬製剤」という用語は、有効成分の生物学的活性が有効であることを可能にするような形態であり、製剤が投与される対象に対して許容できない毒性を有する追加成分を含有しない製剤を指す。このような製剤は無菌である。「薬学的に許容される」賦形剤(ビヒクル、添加剤)は、使用される有効成分の有効用量を提供するために対象哺乳動物に合理的に投与され得るものである。
【0107】
「無菌」製剤は、無菌であるか、又は全ての生きている微生物及びそれらの胞子を含まないか若しくは実質的に含まない。「凍結」製剤は、0℃未満の温度のものである。
【0108】
「安定な」製剤は、その中のタンパク質が貯蔵時にその物理的安定性、及び/又は化学的安定性、及び/又は生物学的活性を実質的に保持するものである。好ましくは、製剤は、貯蔵時、その物理的及び化学的安定性並びにその生物学的活性を実質的に保持する。貯蔵期間は、一般に、製剤の意図された有効期間に基づいて選択される。タンパク質安定性を測定するための様々な分析技術が当該技術分野で利用可能であり、例えば、Peptide and Protein Drug Delivery,247-301.Vincent Lee Ed.,Marcel Dekker,Inc.,New York,N.Y.,Pubs.(1991)及びJones.A.Adv.Drug Delivery Rev.10:29-90(1993)で概説されている。安定性は、選択された温度で、選択された期間、測定され得る。安定性は、凝集体形成の評価(例えば、サイズ排除クロマトグラフィーの使用、濁度の測定、及び/又は目視検査によって);陽イオン交換クロマトグラフィー、画像キャピラリー等電点電気泳動(icIEF)又はキャピラリーゾーン電気泳動を用いて電荷不均一性を評価することによって;アミノ末端又はカルボキシ末端配列の分析;質量分光分析;還元されたインタクトな抗体を比較するSDS-PAGE分析;ペプチドマップ(例えば、トリプシン又はLYS-C)分析;抗体の生物学的活性又は抗原結合機能の評価などを含む様々な異なる方法で定性的及び/又は定量的に評価され得る。不安定性には、以下のいずれかの1つ以上が含まれ得る:凝集、脱アミド化(例えば、Asn脱アミド化)、酸化(例えば、Met酸化)、異性化(例えば、Asp異性化)、クリッピング/加水分解/断片化(例えば、ヒンジ領域断片化)、スクシンイミド形成、不対システイン、N末端伸長、C末端プロセシング、グリコシル化の相違など。
【0109】
II.詳細な説明
抗MUC1-C抗体
本発明は、ヒトMUC1-Cに結合する密接に関連する抗体のファミリーを提供する。このファミリーの抗体は、本明細書に定義され、表1に示すCDR配列のセットを含み、表2に示す、提供される重鎖CDR1、CDR2及びCDR3配列、並びに表3に示す配列番号7及び8の重鎖可変領域(VH)配列によって例示される。これらの抗体のファミリーは、臨床的治療薬としての有用性に寄与する多くの利益を提供する。抗体はある範囲の結合親和性を有するメンバーを含み、所望の結合親和性を有する特定の配列の選択が可能である。
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
好適な抗体は、開発及び治療又は他の使用のため、例えば、限定されないが、二重特異性抗体、又は、例えば
図4に示すような、CAR-T構造の一部としての使用のために、本明細書に提供されるものから選択され得る。
【0114】
候補タンパク質に対する親和性の決定は、Biacore測定などの当該技術分野で知られた方法を使用して行い得る。抗体ファミリーのメンバーは、MUC1-Cに対し、約10-6~約10-11前後、例えば、限定されないが、約10-6~約10-10前後;約10-6~10-9前後;約10-6~約10-8前後;約10-8~約10-11前後;約10-8~約10-10前後;約10-8~約10-9前後;約10-9~約10-11前後;約10-9~約10-10前後;又はこれらの範囲内の任意の値のKdの親和性を有し得る。親和性の選択は、インビトロアッセイ、前臨床モデル及び臨床治験、並びに潜在的な毒性の評価を含む、MUC1-Cの生物学的活性の調整、例えば遮断についての生物学的評価によって確認され得る。
【0115】
本明細書中の抗体ファミリーのメンバーは、シノモルグス・マカク(Cynomolgus macaque)のMUC1-Cタンパク質と交差反応しないが、必要に応じて、シノモルグス・マカク(Cynomolgus macaque)のMUC1-Cタンパク質との、又は任意の他の動物種のMUC1-Cとの交差反応性を提供するように操作し得る。
【0116】
本明細書中のMUC1-C特異的抗体のファミリーは、ヒトVHフレームワーク中にCDR1、CDR2及びCDR3配列を含むVHドメインを含む。CDR配列は、一例として、配列番号7~8で示される、提供される例示的な可変領域配列の、それぞれCDR1、CDR2及びCDR3に対する、アミノ酸残基26~33、51~58及び97~116前後の領域に位置し得る。7~8。異なるフレームワーク配列が選択される場合、CDR配列は異なる位置にあり得るが、一般に配列の順序は同じままであることは当業者には理解されよう。
【0117】
特定の実施形態では、抗MUC1-C抗体は、配列番号1及び4のいずれか1つのCDR1配列を含む。特定の実施形態において、CDR1配列は、配列番号1を含む。特定の実施形態において、CDR1配列は、配列番号4を含む。
【0118】
特定の実施形態では、抗MUC1-C抗体は、配列番号2及び5のいずれか1つのCDR2配列を含む。特定の実施形態において、CDR2配列は、配列番号2を含む。特定の実施形態において、CDR2配列は、配列番号5を含む。
【0119】
特定の実施形態では、抗MUC1-C抗体は、配列番号3及び6のいずれか1つのCDR3配列を含む。特定の実施形態において、CDR3配列は、配列番号3を含む。特定の実施形態において、CDR3配列は、配列番号6を含む。
【0120】
さらなる実施形態では、抗MUC1-C重鎖抗体(anti-MUC1-C heavy chain-only antibody)は、配列番号1のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列及び配列番号3のCDR3配列を含む。
【0121】
さらなる実施形態では、抗MUC1-C抗体は、配列番号4のCDR1配列、配列番号5のCDR2配列及び配列番号6のCDR3配列を含む。
【0122】
さらなる実施形態では、抗MUC1-C抗体は、配列番号7~8(表3)の重鎖可変領域アミノ酸配列のいずれかを含む。
【0123】
またさらなる実施形態では、抗MUC1-C抗体は、配列番号7の重鎖可変領域配列を含む。
【0124】
またさらなる実施形態では、抗MUC1-C抗体は、配列番号8の重鎖可変領域配列を含む。
【0125】
いくつかの実施形態では、本発明の抗MUC1-C抗体におけるCDR配列は、配列番号1~6(表1;表2)のいずれか1つにおいて、CDR1、CDR2及び/又若しくはCDR3配列又はCDR1、CDR2及びCDR3配列のセットと比較して、1つ又は2つのアミノ酸置換を含む。
【0126】
いくつかの実施形態では、抗MUC1-C抗体は、好ましくは、CDR3配列が、表1又は表2でCDR3配列が提供される抗体のいずれか1つのCDR3配列に対してアミノ酸レベルで80%以上、例えば少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも99%の配列同一性を有する重鎖可変ドメイン(VH)を含み、MUC1-Cに結合する。
【0127】
いくつかの実施形態では、抗MUC1-C抗体は、好ましくは、CDR1、2及び3(合わせて)のフルセットが、表1又は表2でCDR配列が提供される抗体のCDR1、2及び3(合わせて)に対してアミノ酸レベルで85パーセント(85%)以上の配列同一性を有する重鎖可変ドメイン(VH)を含み、MUC1-Cに結合する。
【0128】
いくつかの実施形態では、抗MUC1-C抗体は、配列番号7~8(表3に示される)の重鎖可変領域配列のいずれかに対し少なくとも約80%の同一性、少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも98%の同一性又は少なくとも99%の同一性を有する重鎖可変領域配列を含み、MUC1-Cに結合する。
【0129】
いくつかの実施形態では、本明細書中で論じられる構造のいずれかを有し得る二重特異性又は多重特異性抗体、例えば、限定されないが、二重特異性三本鎖抗体様分子(TCA)が提供される。いくつかの実施形態では、多重特異性抗体は、MUC1-Cに対する結合特異性を有する少なくとも1つの重鎖可変領域と、MUC1-C以外のタンパク質に対する結合特異性を有する少なくとも1つの重鎖可変領域とを含むことができる。いくつかの実施形態では、多重特異性抗体は、MUC1-Cに結合する少なくとも1つの重鎖可変領域と、MUC1-C以外のタンパク質に結合する少なくとも1つの重鎖可変領域とを含むことができる。いくつかの実施形態では、多重特異性抗体は、少なくとも2つの抗原結合ドメインを含む重鎖可変領域を含むことができ、抗原結合ドメインのそれぞれはMUC1-Cに結合する。いくつかの実施形態では、多重特異性抗体は、第1の抗原(例えば、CD3)に結合する重鎖/軽鎖対と、重鎖抗体(heavy chain-only antibody)由来の重鎖を含むことができる。特定の実施形態では、重鎖抗体(heavy chain-only antibody)由来の重鎖は、CH1ドメインの非存在下でCH2及び/又はCH3及び/又はCH4ドメインを含むFc部分を含む。特定の一実施形態では、二重特異性抗体は、エフェクター細胞上の抗原(例えば、T細胞上のCD3タンパク質)に結合する重鎖/軽鎖対と、MUC1-Cに結合する抗原結合ドメインを含む重鎖抗体(heavy chain-only antibody)由来の重鎖とを含む。
【0130】
いくつかの実施形態では、多重特異性抗体は、軽鎖可変ドメインと対形成するCD3結合VHドメインを含む。特定の実施形態では、軽鎖は、固定された軽鎖である。いくつかの実施形態では、CD3結合VHドメインは、ヒトVHフレームワークに、配列番号9のCDR1配列と、配列番号10のCDR2配列と、配列番号11のCDR3配列とを含む。いくつかの実施形態では、CD3結合VHドメインは、ヒトVHフレームワークに、配列番号12のCDR1配列と、配列番号13のCDR2配列と、配列番号14のCDR3配列とを含む。いくつかの実施形態では、固定された軽鎖は、ヒトVLフレームワークに、配列番号15のCDR1配列と、配列番号16のCDR2配列と、配列番号17のCDR3配列とを含む。まとめると、CD3結合VHドメイン及び軽鎖可変ドメインは、CD3に対する結合親和性を有する。いくつかの実施形態では、CD3結合VHドメインは、配列番号18の重鎖可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、CD3-結合VHドメインは、配列番号19の重鎖可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、CD3結合VHドメインは、配列番号18又は19の重鎖可変領域配列に対し少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%又は少なくとも約99%パーセントの同一性を有する配列を含む。いくつかの実施形態では、固定された軽鎖は、配列番号20の軽鎖可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、固定された軽鎖は、配列番号20の軽鎖可変領域配列に対し少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%又は少なくとも約99%パーセントの同一性を有する配列を含む。
【0131】
上記のCD3結合VHドメイン及び軽鎖可変ドメインを含む多重特異性抗体は、例えば、国際公開第2018/052503号パンフレット(この文献の開示は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載のような有利な特性を有する。MUC1-Cに対する結合親和性を有する本明細書中に記載の多重特異性抗体及び抗原結合ドメインのいずれも、1つ以上のMUC1-Cエピトープ及びCD3に対する結合親和性を有する多重特異性抗体を作製するために、本明細書中(例えば、表4及び表5を参照)に記載されるCD3結合ドメイン及び固定された軽鎖ドメイン、並びに追加の配列、例えば、表6及び表7で提供される配列と組み合わせることができる。
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
いくつかの実施形態では、本明細書中で論じられる構造のいずれかを有し得る二重特異性又は多重特異性抗体、例えば、限定されないが、二重特異性三本鎖抗体様分子(TCA)が提供される。いくつかの実施形態では、二重特異性抗体は、MUC1-Cに結合する少なくとも1つの重鎖可変領域と、MUC1-C以外のタンパク質に結合する少なくとも1つの重鎖可変領域とを含むことができる。いくつかの実施形態では、二重特異性抗体は、第1の抗原に結合する重鎖/軽鎖対と、CH1ドメイン名の非存在下でCH2及び/又はCH3及び/又はCH4ドメイン名を含むFc部分、並びに第2の抗原のエピトープ又は第1の抗原の異なるエピトープに結合する抗原結合ドメインを含む重鎖抗体(heavy chain-only antibody)由来の重鎖とを含み得る。特定の一実施形態では、二重特異性抗体は、エフェクター細胞上の抗原(例えば、T細胞上のCD3タンパク質)に結合する重鎖/軽鎖対と、MUC1-Cに結合する抗原結合ドメインを含む重鎖抗体(heavy chain-only antibody)由来の重鎖とを含む。
【0141】
本発明の抗体が二特異性抗体であるいくつかの実施形態では、抗体の1つのアーム(1つの結合部分又は1つの結合単位)は、ヒトMUC1-Cに特異的であり、一方、他のアームは、標的細胞、腫瘍関連抗原、標的化抗原(例えばインテグリンなど)、病原体抗原、チェックポイントタンパク質などに特異的であり得る。標的細胞としては、具体的には、癌細胞、例えば、限定されないが、固形腫瘍及び/又はMUC1-Cの発現を特徴とする血液悪性腫瘍に関連する細胞が挙げられる。いくつかの実施形態では、抗体の一方のアーム(一方の結合部分又は一方の結合単位)はヒトMUC1-Cに特異的であり、他方のアームはCD3に特異的である。
【0142】
いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号32の配列を含む抗CD3軽鎖ポリペプチドと、配列番号18又は19の配列を含む抗CD3重鎖ポリペプチドと、配列番号30及び31のいずれか1つの配列に連結される、1価又は2価構造の、配列番号7又は8の配列を含む抗MUC1-C重鎖ポリペプチドとを含む。これらの配列は、所望のIgGサブクラス、例えばIgG1、IgG4、サイレンシングされたIgG1、サイレンシングされたIgG4の二重特異性抗体を作製するために様々な方法で組み合わせることができる。好ましい一実施形態では、抗体は、配列番号32を含む第1のポリペプチドと、配列番号33を含む第2のポリペプチドと、配列番号34、35、36、37、38又は39を含む第3のポリペプチドとを含むTCAである。
【0143】
多重特異性抗体の様々なフォーマットは本発明の範囲内であり、例えば、限定されないが、一本鎖ポリペプチド、二本鎖ポリペプチド、三本鎖ポリペプチド、四本鎖ポリペプチド及びそれらの複合が含まれる。本明細書中に多重特異性抗体には、具体的に、MUC1-C及びCD3に結合するT細胞多重特異性(例えば、二重特異性)抗体(抗MUC1-C×抗CD3抗体)が含まれる。このような抗体は、強力なT細胞介在性のMUC1-C発現細胞の死滅を誘導する。
【0144】
抗MUC1-C抗体の調製
本発明の抗体は、当該技術分野で知られた方法によって調製することができる。好ましい実施形態では、本明細書中の抗体は、内因性免疫グロブリン遺伝子がノックアウトされるか又は無効にされているトランスジェニック動物、例えばトランスジェニックマウス及びトランスジェニックラット、好ましくはトランスジェニックラットによって産生される。好ましい実施形態では、本明細書中の重鎖抗体(heavy chain antibody)は、UniRatTMにおいて作製される。UniRatTMの内因性免疫グロブリン遺伝子をサイレンシングし、ヒト免疫グロブリン重鎖トランス遺伝子座を使用して、完全ヒトHCAbの多様な天然に最適化されたレパートリーを発現させる。ラットの内因性免疫グロブリン遺伝子座は様々な技術を使用してノックアウト又はサイレンシングし得るが、UniRatTMでは、ジンクフィンガー(エンド)ヌクレアーゼ(ZNF)技術を使用して、内因性ラット重鎖J遺伝子座、軽鎖Cκ遺伝子座及び軽鎖Cλ遺伝子座を不活性化した。卵母細胞へのマイクロインジェクションのためのZNFコンストラクトは、IgH及びIgLノックアウト(KO)株を産生させ得る。詳しくは、例えば、Geurts et al.,2009,Science 325:433を参照されたい。Ig重鎖ノックアウトラットの特性は、Menoret et al.,2010,Eur.J.Immunol.40:2932-2941により報告されている。ZNF技術の利点は、数kbまでの欠失によって遺伝子又は遺伝子座をサイレンシングするために連結する非相同末端が、相同組込みのための標的部位を提供することもできることである(Cui et al.,2011,Nat Biotechnol 29:64-67)。UniRatTMで産生されるヒト重鎖抗体(heavy chain antibody)は、UniAbTMと呼ばれ、従来の抗体で攻撃することができないエピトープに結合し得る。それらの高い特異性、親和性及び小さいサイズのために、それらは、単一特異性及び多重特異性用途に理想的である。
【0145】
UniAbTMに加えて、ラクダ科動物のVHHフレームワーク及び変異を欠く重鎖抗体(heavy chain-only antibody)並びにそれらの機能的VH領域が、本明細書中に具体的に含まれる。このような重鎖抗体(heavy chain-only antibody)は、例えば、国際公開第2006/008548号パンフレットに記載されているように、完全ヒト重鎖単独遺伝子座を含むトランスジェニックラット又はマトランスジェニックウスにおいて産生され得るが、ウサギ、モルモット、ラットなどの他のトランスジェニック哺乳動物も使用することができ、ラット及びマウスが好ましい。重鎖抗体(heavy chain-only antibody)(それらのVHH又はVH機能性断片を含む)は、組換えDNA技術、例えば哺乳動物細胞(例えばCHO細胞)、E.コリ(E.coli)又は酵母を含む好適な真核又は原核宿主中でのコード核酸の発現によっても産生し得る。
【0146】
重鎖抗体(heavy chain-only antibody)のドメインは、抗体及び低分子薬の利点を兼ね備え、1価又は多価であり得、毒性が低く、製造するための費用効率が高い。それらのサイズが小さいため、これらのドメインは経口又は局所投与を含む投与が容易であり、胃腸における安定性を含む高い安定性を特徴とし、それらの半減期は、所望の使用又は適応に合わせ得るさらに、HCAbのVH及びVHHドメインは、費用効率の高い方法で製造され得る。
【0147】
特定の実施形態では、UniAbTMを含む本発明の重鎖抗体(heavy chain antibody)は、FR4領域の第1の位置(Kabatナンバリングシステムによるアミノ酸位置101)に、別のアミノ酸残基によって置換されたネイティブアミノ酸残基を有し、このアミノ酸残基はその位置においてネイティブアミノ酸残基を含むか又は天然アミノ酸残基と結合している表面露出疎水性パッチを破壊することが可能である。このような疎水性パッチは通常、抗体軽鎖定常領域との界面に埋め込まれるが、HCAbでは表面露出され、少なくとも部分的に、HCAbの望ましくない凝集及び軽鎖結合のためである。置換されたアミノ酸残基は好ましくは荷電しており、より好ましくは正に荷電しており、例えば、リシン(Lys、K)、アルギニン(Arg、R)又はヒスチジン(His、H)、好ましくはアルギニン(R)である。好ましい実施形態では、トランスジェニック動物由来の重鎖抗体(heavy chain-only antibody)は、101位にTrpからArgへの変異を含有する。得られるHCAbは、好ましくは、高い抗原結合親和性及び凝集なしの生理学的条件下での溶解性を有する。
【0148】
本発明の一部として、ELISAタンパク質及び細胞結合アッセイにおいて、ヒトMUC1-Cに結合する、UniRatTM動物由来の特有の配列を有するヒトIgG抗MUC1-C重鎖抗体(heavy chainantibody)(UniAbTM)を同定した。同定された重鎖可変領域(VH)配列は、ヒトMUC1-Cタンパク質結合に対して及び/又はMUC1-C+細胞に対する結合について陽性であり、MUC1-Cを発現しない細胞への結合について全て陰性である。
【0149】
MUC1-Cタンパク質上の非重複エピトープに結合する重鎖抗体(heavy chain antibody)、例えばUniAbTMは、酵素結合イムノアッセイ(ELISAアッセイ)又はフローサイトメトリー競合結合アッセイなどの競合結合アッセイによって同定することができる。例えば、標的抗原に結合する既知の抗体と関心対象の抗体との間の競合を使用し得る。このアプローチを使用することにより、抗体のセットを、参照抗体と競合するものと競合しないものとに分けることができる。非競合抗体は、参照抗体が結合するエピトープと重複しない別個のエピトープへの結合として同定される。多くの場合、1つの抗体を固定化し、抗原を結合させ、第2の標識した(例えばビオチン化した)抗体を、捕捉された抗原に結合する能力についてELISAアッセイにおいて試験する。これは、ProteOn XPR36(BioRad,Inc)、Biacore 2000及びBiacore T200(GE Healthcare Life Sciences)及びMX96 SPRイメージャ(Ibis technologies B.V.)を含む表面プラズモン共鳴(SPR)プラットフォームを使用することにより、またOctet Red384及びOctet HTX(ForteBio,Pall Inc)などのバイオレイヤー干渉プラットフォームでも行うことができる。さらなる詳細については、本明細書中の実施例を参照されたい。
【0150】
典型的には、抗体は、標準的な技術、例えば上記の競合結合アッセイによって決定されるように、標的抗原に対する参照抗体の結合の約15~100%の減少を引き起こす場合、参照抗体と「競合する」。種々の実施形態では、相対阻害率は、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%又はそれ以上である。
【0151】
医薬組成物、使用及び処置の方法
本発明の別の態様は、本発明の1つ以上の抗体を好適な薬学的に許容される担体と混合して含む医薬組成物を提供することである。本明細書中で使用される薬学的に許容可される担体としては、アジュバント、固体担体、水、緩衝液若しくは治療成分を保持するために当該技術分野で使用されている他の担体、又はこれらの組み合わせが例示されるがこれらに限定されない。
【0152】
一実施形態では、医薬組成物は、MUC1-Cに結合する重鎖抗体(heavy chain antibody)(例えば、UniAbTM)を含む。別の実施形態では、医薬組成物は、MUC1-Cタンパク質上の2つ以上の非重複エピトープに対する結合特異性を有する多重特異性(二重特異性を含む)重鎖抗体(heavy chain antibody)(例えば、UniAbTM)を含む。好ましい実施形態では、医薬組成物は、MUC1-Cに対する結合特異性、及びエフェクター細胞上の結合標的(例えばT細胞上の結合標的、例えばT細胞上のCD3タンパク質)に対する結合特異性を有する多重特異性(二重特異性及びTCAを含む)重鎖抗体(heavy chain antibody)(例えばUniAbTM)を含む。好ましい実施形態では、医薬組成物は、MUC1-Cに結合し、且つエフェクター細胞上の結合標的(例えばT細胞上の結合標的、例えばT細胞上のCD3タンパク質)に結合する多重特異性(二重特異性及びTCAを含む)重鎖抗体(heavy chain antibody)(例えばUniAbTM)を含む。
【0153】
本開示に従って使用される抗体の医薬組成物は、保管のために、凍結乾燥製剤又は水溶液の形態などで、所望の純度を有するタンパク質を任意選択的な薬学的に許容される担体、賦形剤又は安定剤と混合することによって調製される(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980)を参照)。許容される担体、賦形剤又は安定剤は、使用する用量及び濃度でレシピエントに対して毒性がなく、それらには、リン酸塩、クエン酸塩及び他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤(塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;メチル又はプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール及びm-クレゾールなど);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリシンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース又はデキストリンを含む、単糖類、二糖類及び他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトールなどの糖類;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Znタンパク質錯体);並びに/或いはTWEENTM、PLURONICSTM又はポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤が含まれる。
【0154】
非経口投与のための医薬組成物は、好ましくは、無菌で且つ実質的に等張であり、適正製造基準(GMP)条件下で製造される。医薬組成物は、単位剤形(すなわち、単回投与のための剤形)で提供され得る。製剤は、選択される投与経路に依存する。本明細書中の抗体は、静脈内注射若しくは注入により又は皮下に投与され得る。注射投与のために、本明細書中の抗体は、水溶液で、好ましくは生理学的に適合する緩衝液で製剤化されて、注射部位の不快感を軽減し得る。溶液は、上で論じられるように、担体、賦形剤又は安定剤を含有し得る。或いは、抗体は、使用前に好適なビヒクル、例えば発熱物質不含の滅菌水で構成するために、凍結乾燥された形態であり得る。
【0155】
抗体性剤は、例えば、米国特許第9,034,324号明細書に開示されている。本発明の、UniAbTMを含む、重鎖抗体(heavy chain antibody)に対して、同様の製剤が使用され得る。皮下抗体製剤は、例えば、米国特許出願公開第2016/0355591号明細書及び米国特許出願公開第2016/0166689号明細書に記載されている。
【0156】
使用方法
本明細書に記載の抗MUC1-C抗体及び医薬組成物は、MUC1-Cの発現を特徴とする疾患及び病態、例えば、限定されないが、本明細書でさらに記載される病態及び疾患の処置のために使用され得る。
【0157】
ムチン1(MUC1)は、高度にグリコシル化されたシングルパスタイプI膜貫通型タンパク質である。N末端サブユニット(MUC1-N)及びC末端サブユニット(MUC1-C)は、安定なヘテロ二量体複合体を形成する。MUC1は高度に多型性であり、90を超えるアイソフォームを有し、N末端サブユニットのVNTR(可変数タンデムリピート)領域におけるタンデムリピートの数が異なる。ムチンは、肺、胃、乳腺、腸、及びいくつかの他の器官における上皮細胞の頂端表面を覆う。健康な組織では、ムチンは身体を感染から保護する。異常にグリコシル化されたMUC1は、ヒト上皮性腫瘍において過剰発現され、腫瘍細胞の頂端極性が失われる(Sousa et al.2016,PMC:4998183,Nath and Mukherjee,2014,PMID:5500204)。MUC1はプロテアーゼによって切断され得、切断されたMUC1-Nは細胞から放出され、炎症を誘発し得る。放出されない発癌性MUC1-Cサブユニットは短く、抗体薬物コンジュゲート、モノクローナル抗体及びCAR-T療法の標的として有望であることを示す58個のアミノ酸からなる膜近位細胞外ドメインを含有する(Panchamoorthy et al.,2018,PMC:6124453;Kufe,2009,PMC:2951677)。
【0158】
一態様では、本明細書中の抗MUC1-C抗体(例えば、UniAbTM)及び薬学的組成物は、MUC1-Cの発現を特徴とする障害、例えば、限定されないが、本明細書でさらに記載される疾患及び障害を治療するために使用することができる。
【0159】
本発明の抗MUC1-C重鎖抗体(anti-MUC1-C heavy chain-only antibody)(UniAb)は、固形腫瘍及び血液悪性腫瘍、例えば本明細書にさらに記載されるものを含む癌の処置のための治療剤を開発するために使用することができる。固形腫瘍には、上皮性起源の癌、すなわち、腺癌及び扁平上皮細胞癌を含む癌腫が含まれる。癌腫の非限定的な例としては、乳癌、非小細胞肺(NSCL)癌、小細胞肺(SSC)癌、中皮腫、腎細胞癌、結腸直腸癌、卵巣癌、頭頸部扁平上皮細胞癌、鼻咽頭癌、胃癌、前立腺癌、膵臓癌、食道癌及び子宮頸癌が挙げられる。血液悪性腫瘍としては、骨髄腫、白血病及びリンパ腫が挙げられるが、これらに限定されない。血液悪性腫瘍の非限定的な例としては、多発性骨髄腫及び慢性骨髄性白血病(CML)が挙げられる。いくつかのモノクローナル抗体がこれらの疾患の治療に有望であることが示されているが、一貫した臨床的有効性はまだ決定的には実証されていない。したがって、これらの癌のための新たな療法、例えば免疫療法が大いに必要とされている。
【0160】
一実施形態では、本明細書における抗体は、重鎖のみ抗MUC1-C抗体-CAR構造、すなわち重鎖のみ抗MUC1-C抗体-CAR形質導入T細胞構造の形態であり得る。
図4は、本発明の実施形態による、重鎖可変領域(VH)配列を含む抗MUC1-C細胞外結合ドメインを含むCAR-T構造の概略図である。
【0161】
疾患の処置のための本発明の組成物の有効用量は、投与手段、標的部位、患者の生理学的状態、患者がヒトであるか又は動物であるか、他の薬剤の投与、及び処置が予防的であるか又は治療的であるかを含む多くの異なる因子に依存して変動する。通常、患者はヒトであるが、非ヒト哺乳動物、例えば、イヌ、ネコ、ウマなどのコンパニオン動物、ウサギ、マウス、ラットなどの実験用哺乳動物なども処置され得る。処置投与量は、安全性及び有効性を最適化するために用量設定され得る。
【0162】
投与量レベルは通常の技術を有する臨床医によって容易に決定され得、必要に応じて、例えば治療に対する対象の応答を変更するために必要に応じて変更し得る。単一の剤形を生成させるために担体材料と組み合わせ得る有効成分の量は、処置される宿主及び特定の投与方式に応じて変動する。単位剤形は、一般に、約1mg~約500mgの有効成分を含有する。
【0163】
いくつかの実施形態では、薬剤の治療投与量は宿主体重の約0.0001~100mg/kg、より一般的には0.01~5mg/kgの範囲であり得る。例えば、投与量は、1mg/kg体重若しくは10mg/kg体重又は1~10mg/kgの範囲内であり得る。例示的な処置レジメンは、2週間ごと又は1か月に1回又は3~6か月ごとの投与を伴う。本発明の治療物質は、通常、複数回投与される。単回投与間の間隔は、毎週、毎月又は毎年であり得る。間隔はまた、患者における治療物質の血中レベルを測定することによって示されるように不規則であり得る。或いは、本発明の治療物質は、徐放性製剤として投与され得、その場合、投与頻度をより少なくする必要がある。投与量及び頻度は、患者におけるポリペプチドの半減期に応じて変動する。
【0164】
典型的には、組成物は溶液又は懸濁液としての注射剤として調製され、注射前の液体ビヒクル中の溶液又は懸濁液に好適な固体形態を調製することもできる。本明細書中の医薬組成物は、直接の又は固体(例えば凍結乾燥)組成物の再構成後の静脈内又は皮下投与に好適である。調製物はまた、上述のように、アジュバント効果を高めるために、ポリラクチド、ポリグリコリド又はコポリマーなどのリポソーム又は微粒子中に乳化又はカプセル化することもできる。Langer,Science 249:1527,1990及びHanes,Advanced Drug Delivery Reviews 28:97-119,1997。本発明の薬剤は、有効成分の持続放出又はパルス放出を可能にするような方式で製剤化され得るデポ注射又はインプラント製剤の形態で投与され得る。本医薬組成物は、一般に、無菌であり、実質的に等張であり、且つ米国食品医薬品局(U.S.Food and Drug Administration)の全ての適正製造基準(GMP)規則を完全に遵守して製剤化される。
【0165】
本明細書中に記載の抗体及び抗体構造体の毒性は、細胞培養又は実験動物における標準的な医薬的手順により、例えばLD50(集団の50%に致死的な用量)又はLD100(集団の100%に致死的な用量)を決定することにより決定され得る。毒性と治療効果との間の用量比は、治療指数である。これらの細胞培養アッセイ及び動物試験から得られたデータを、ヒトでの使用に対して毒性ではない投与量範囲を処方する際に使用し得る。本明細書中に記載の抗体の投与量は、毒性が殆どないか又は全くない有効用量を含む循環濃度の範囲内であることが好ましい。投与量は、この範囲内で、使用される剤形及び利用される投与経路に応じて変動し得る。正確な処方、投与経路及び投与量は、個々の医師により、患者の状態を考慮して選択され得る。
【0166】
投与のための組成物は一般に、薬学的に許容される担体、好ましくは水性担体中に溶解された抗体又は他のアブラティブ剤を含む。様々な水性担体、例えば緩衝生理食塩水などを使用し得る。これらの溶液は無菌であり、一般に望ましくない物質を含まない。これらの組成物は、従来のよく知られた滅菌技術によって滅菌され得る。本組成物は、pH調整剤及び緩衝剤、毒性調整剤などの生理学的条件に近似するために必要とされる薬学的に許容される補助物質、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなどを含有し得る。これらの製剤中の活性薬剤の濃度は広く変動し得、選択された特定の投与方式及び患者の必要性に従い、主に流体体積、粘度、体重などに基づいて選択される(例えば、Remington’s Pharmaceutical Science(15th ed.,1980)及びGoodman & Gillman,The Pharmacological Basis of Therapeutics(Hardman et al.,eds.,1996))。
【0167】
本発明の活性薬剤及びその製剤及並びに使用説明書を含むキットも本発明の範囲内にある。本キットは、少なくとも1つのさらなる薬剤、例えば化学療法薬などをさらに含有し得る。キットは、典型的には、キットの内容物の意図される使用を示すラベルを含む。「ラベル」という用語には、本明細書で使用される場合、キット上で又はキットとともに供給されるか、又はさもなければキットに添付される、任意の書面又は記録素材が含まれる。
【0168】
ここで、本発明を十分に説明するが、本発明の精神又は範囲から逸脱することなく、様々な変更及び修正がなされ得ることは当業者には明らかであろう。
【実施例】
【0169】
実施例1:MUC1-C+Raji細胞への結合
MUC1-C陽性Raji細胞への結合をフローサイトメトリーによって評価した。簡潔に記載すると、50,000個の標的細胞を、精製UniAbTMの希釈系列で、30分間、4℃で染色した。インキュベーション後、細胞をフローサイトメトリー緩衝液(1×PBS、1%BSA、0.1%NaN3)で2回洗浄し、細胞結合抗体を検出するため、R-フィコエリスリン(PE)(Southern Biotech、カタログ番号2042-09)にコンジュゲートしたヒツジF(ab’)2抗ヒトIgGで染色した。4℃で20分間インキュベートした後、細胞をフローサイトメトリー緩衝液で2回洗浄し、平均蛍光強度(MFI)をフローサイトメトリーによって測定した。二次抗体単独で染色された細胞のMFIをバックグラウンドシグナルの決定に使用し、各抗体の結合をバックグラウンドに対する倍率に変換した。
【0170】
結果を
図1に提供するが、
図1は、示された抗MUC1-C抗体の標的結合活性を要約する。カラム1は、HCAbのクローンIDを示す。カラム2は、バックグラウンドMFIシグナルに対する倍率として測定された、Raji細胞への結合を示す。カラム3は、バックグラウンドMFIシグナルに対する倍率として測定された、MUC1-Cタンパク質を発現しないCHO細胞への結合(陰性対照)を示す。
【0171】
実施例2:MUC1-C+Raji細胞への結合
細胞結合用量曲線は、実施例1に記載されるように、Raji MUC1-C+細胞に対して行った。抗体を、150nMの出発濃度に続いて3倍連続希釈し、8点用量曲線で試験した。PEの平均蛍光強度を、バックグラウンド(二次検出抗体のみとともにインキュベートした細胞)に対する倍率としてプロットした。結果を
図2に示す。
【0172】
実施例3:MUC1-C+Raji細胞における細胞結合EC50値
細胞結合EC50値を決定するために、上記のように、MUC1-Cを発現するRaji細胞に対して細胞結合用量曲線を実施した。抗体を、150nMの出発用量に続いて3倍連続希釈し、8点用量曲線で試験した。変換されたデータを、非線形回帰曲線フィット(GraphPad Prism8.4.3で入手可能)を用いてxyグラフとしてプロットし、EC50(nM)を得た。結果を
図3に示す(カラム2は、EC50値をnM単位で示す)。
【0173】
実施例4:ヒト腫瘍細胞によるCAR-T媒介性T細胞活性化
Jurkat Tリンパ球細胞に抗MUC1-C CAR及び6×NFAT TKナノルシフェラーゼレポーターをトランスフェクトすることにより、CAR-T細胞活性を測定した。トランスフェクトされたJurkatを、ヒトMUC1-Cを発現するように安定にトランスフェクトしたMUC1-C+Raji細胞、又はMUC1-C陰性Raji細胞と、24時間共培養した。ルシフェラーゼ活性を、Promega Nano-Glo ルシフェラーゼアッセイシステム(カタログ番号N1110)を用いて測定し、データを、CARトランスフェクトJurkat及びMUC1-C陰性Raj細胞株を含有する共培養物に対して正規化した。統計的有意性を、対応のない両側t検定を用いて決定した。この結果を、
図4のパネルB及びCに示す。
【0174】
図4のパネルAは、本発明の態様による抗体配列を含む抗MUC1-C細胞外結合ドメインを含むCAR-T構造の概略図である。パネルBは、Raji-MUC1-C+を用いて抗MUC1-C 375747 CARをトランスフェクトしたJurkatのT細胞活性を示す(
***p=0.0009)。パネルCは、Raji-MUC1-C+を用いて抗MUC1-C 375505 CARをトランスフェクトしたJurkatのT細胞活性を示す(
**p=0.0019)。これらの結果は、MUC1-C陰性Raji細胞との共培養、又はトランスフェクトされたJurkat単独のインキュベーションでは検知し得るほどのルシフェラーゼレポーターシグナルを生じていないので、T細胞活性化がMUC1-C標的結合に特異的であったことを示している。
【0175】
実施例5:インビボでのCAR-T媒介性T細胞活性化評価による腫瘍制御
腫瘍増殖の前臨床評価を、クローンID番号375505及び375747に対応する抗体コンストラクトについて、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)のマウス異種移植モデルを用いて実施した。GFP及びルシフェラーゼ発現MDA-MB-468細胞株(MDA-MB-468.lucGFP;5×10^6個の細胞)を、PrkdcscidIl2rgtm1Wjl/Szj(NSG)マウスに皮下注射して、VHキメラ抗原受容体(VCAR)のインビボ抗腫瘍効果を評価した。未処置のマウス(PBS)を対照として用いた。このインビボ試験では、全てのCAR-T細胞を、VCARプラスミドのPiggyBac(PB)送達により産生した。マウスの腋窩にMDA-MB-468を腋窩に注射し(変動性を説明するためにn=17)、腫瘍が確立されたときに処置した(キャリパー測定により100~200mm3、移植の39日後)。マウス(n=4/群、腫瘍体積により病期分類)を、IV注射によりCAR-Tの「ストレス」用量(2.5×10^6)で処置した。7日ごとに全血を採取し、CAR-T注入の32日後に試験が完了するまで3日ごとに腫瘍体積をキャリパー測定により評価した。
【0176】
図5のパネルAは、前臨床評価における示された抗体コンストラクトのCAR-T注入後の日数の関数としての腫瘍進行を示すグラフである。腫瘍体積の評価は、キャリパー測定によって完了した。示された抗体コンストラクト(クローンID:375505及び375747)を含むCAR-T細胞は、未処置のマウスと比較して強力な腫瘍制御を示した。例えば、処置後まもなく、クローンID番号375505及び375747で、腫瘍体積の急激な減少が見られる。対照的に、未処置のマウスでは、対照の処置投与後、腫瘍体積は上昇し続けた。
【0177】
図5パネルBは、示された抗体コンストラクトについての、
図5パネルAに示したグラフの曲線下面積(AUC)を示す棒グラフである。未処置のマウスは、クローンID番号375505及び375747と比較して、実質的により高いAUCを示した。
【0178】
実施例6:インビボでのCAR-T評価のためのT細胞の増殖
実施例5の記載と同じ前臨床評価を使用して、T細胞の増殖を評価した。
図6パネルAは、示された抗体コンストラクトのCAR-T注入後の日数の関数としての血中のインビボT細胞数を示すグラフである。示された抗体コンストラクト(クローンID:375505及び375747)を含むCAR-T細胞で処置したマウスは、強いT細胞増殖を示す。0日目では、マウスは低いT細胞数を示した。未処置のマウスで変化がないのと比べて、示された抗体コンストラクト(クローンID:375505及び375747)を含むCAR-T細胞で処置した後、T細胞数の急激な増加が見られた。未処置のマウスでは、T細胞数は、試験の過程を通して一貫して低く、変化はなかった。
【0179】
図6パネルBは、示された抗体コンストラクトについての、
図6パネルAに示したグラフの曲線下面積(T細胞数の合計)を示す棒グラフである。両方の抗体コンストラクトの総T細胞数は、未処置のマウスの総T細胞数と比較して有意である。
【0180】
実施例7:インビボでのCAR-T媒介性T細胞活性化評価による腫瘍制御
腫瘍増殖の前臨床評価を、クローンID番号375505及び375747に対応する抗体コンストラクトについて、卵巣癌のマウス異種移植モデルを用いて実施した。GFP及びルシフェラーゼ発現腺癌OVCAR-3細胞株(OVCAR-3.lucGFP;5×10^6個の細胞)を、NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Wjl/Szj(NSG)マウスに皮下注射して、VHキメラ抗原受容体(VCAR)のインビボ抗腫瘍効果を評価した。未処置のマウス(PBS)を対照として用いた。このインビボ試験では、全てのCAR-T細胞を、VCARプラスミドのPiggyBac(PB)送達により産生した。マウスに腫瘍細胞を注射し(変動性を説明するためにn=17)、腫瘍が確立されたときに処置した(生物発光イメージング(BLI)により1×10^8光子/秒を超える流束、移植の14日後)。マウス(n=4/群、腫瘍体積により病期分類)を、IV注射によりCAR-Tの「ストレス」用量(8×10^6)で処置した。7日ごとに全血を採取し、CAR-T注入の56日後に試験が完了するまで7日ごとに腫瘍体積をBLI測定により評価した。
【0181】
図7のパネルAは、前臨床評価における示された抗体コンストラクトのCAR-T注入後の日数の関数としての腫瘍進行を示すグラフである。腫瘍体積の評価は、BLI測定によって完了した。示された抗体コンストラクト(クローンID:375505及び375747)を含むCAR-T細胞は、未処置のマウスと比較して強力な腫瘍制御を示した。例えば、処置後まもなく、クローンID番号375505及び375747で、腫瘍体積の急激な減少が見られる。対照的に、未処置のマウスでは、対照の処置投与後、腫瘍体積は上昇し続けた。
【0182】
図7パネルBは、示された抗体コンストラクトについて経時的に測定された血液中のT細胞持続性を示す線グラフである。未処置のマウスは、クローンID番号375505及び375747と比較して、実質的により高いAUCを示した。
【0183】
実施例8:インビボでのCAR-T評価のためのT細胞の増殖
実施例7の記載と同じ前臨床評価を使用して、T細胞の増殖を評価した。
図8パネルAは、示された抗体コンストラクトのCAR-T注入後の日数の関数としての血中のインビボT細胞数を示すグラフである。示された抗体コンストラクト(クローンID:375505及び375747)を含むCAR-T細胞で処置したマウスは、強いT細胞増殖を示す。0日目では、マウスは低いT細胞数を示した。未処置のマウスで変化がないのと比べて、示された抗体コンストラクト(クローンID:375505及び375747)を含むCAR-T細胞で処置した後、T細胞数の急激な増加が見られた。未処置のマウスでは、T細胞数は、試験の過程を通して一貫して低く、変化はなかった。
【0184】
図8パネルBは、示された抗体コンストラクトについての、
図8パネルAに示したグラフの曲線下面積(T細胞数の合計)を示す棒グラフである。両方の抗体コンストラクトの総T細胞数は、未処置のマウスの総T細胞数と比較して有意である。
【0185】
本発明の好ましい実施形態を本明細書中で示し記載してきたが、このような実施形態が単なる例として提供されることは当業者にとっては明らかであろう。ここで、当業者であれば、本発明から逸脱することなく、多くの変形、変更及び置き換えを思いつくであろう。本明細書中に記載の本発明の実施形態に対する様々な代替物を本発明の実施において使用し得ることを理解すべきである。次の特許請求の範囲は本発明の範囲を定義し、これらの特許請求の範囲内の方法及び構造及びそれらの均等物がそれにより包含されるものとする。
【配列表】
【国際調査報告】