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特表2024-508814即発中性子捕獲ガンマ線を用いてデルタ線を照射する装置、システム、および方法
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  • 特表-即発中性子捕獲ガンマ線を用いてデルタ線を照射する装置、システム、および方法 図1
  • 特表-即発中性子捕獲ガンマ線を用いてデルタ線を照射する装置、システム、および方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-28
(54)【発明の名称】即発中性子捕獲ガンマ線を用いてデルタ線を照射する装置、システム、および方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20240220BHJP
   H01L 21/261 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
A61N5/10 E
H01L21/26 N
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023551657
(86)(22)【出願日】2022-02-23
(85)【翻訳文提出日】2023-10-19
(86)【国際出願番号】 US2022070785
(87)【国際公開番号】W WO2022183181
(87)【国際公開日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】63/153,494
(32)【優先日】2021-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501010395
【氏名又は名称】ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100091568
【弁理士】
【氏名又は名称】市位 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】ヘイベル、マイケル、ディー
(72)【発明者】
【氏名】ガーシュタイン、デボン
(72)【発明者】
【氏名】ジティー、モーリーン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン、ヤジュ
(72)【発明者】
【氏名】デッカー、ジャック
(72)【発明者】
【氏名】スタグナー、エメリ
(72)【発明者】
【氏名】ダンストン、ジェレミー
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AC03
4C082AC06
4C082AC07
4C082AG31
4C082AG41
(57)【要約】
即発中性子捕獲ガンマ線を用いてデルタ線を照射する装置、システム、および方法を開示する。一態様において、デルタ線を供給する装置は、中性子発生器、電子放出体、および照射標的を含むことができる。当該中性子発生器は、中性子束場を発生させるように構成することができる。照射標的は、熱中性子断面積の大きい照射標的材料を含み、当該中性子束場への曝露に応答してガンマ線を放出するように構成することができる。当該電子放出体は、当該ガンマ線への暴露に応答してデルタ線を放出するように構成することができる。いくつかの態様では、当該照射標的および当該電子放出体は、当該中性子発生器と対象物の表面との間に配置され、当該対象物内の標的領域に当該デルタ線が照射されるように構成可能である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
即発中性子捕獲ガンマ線を用いてデルタ線を照射する装置であって、
中性子束場を発生させるように構成された中性子発生器と、
当該中性子束場への曝露に応じてガンマ線を放出するように構成された照射標的と、
当該ガンマ線への暴露に応答してデルタ線を放出するように構成された電子放出体とを含み、
当該照射標的および当該電子放出体は、当該中性子発生器と対象物の表面との間に配置され、当該対象物内の標的領域に当該デルタ線が照射されるように構成され、
当該照射標的は、熱中性子断面積の大きい照射標的材料を含むことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記照射標的材料がガドリニウム-157を含む、請求項1の装置。
【請求項3】
前記電子放出体が、高Z物質を含む電子放出体材料を備える、請求項1の装置。
【請求項4】
前記電子放出体材料が、タングステン、鉛、またはそれらの組み合わせを備える、請求項3の装置。
【請求項5】
前記照射標的から放出されるガンマ線であって、前記電子放出体から遠ざかる方向に当該装置から漏れるガンマ線の量を最小限に抑えるように構成された放射線遮蔽体をさらに備える、請求項1の装置。
【請求項6】
前記装置内に前記中性子束場を最大限封じ込めるように構成された放射線遮蔽体をさらに含む、請求項1の装置。
【請求項7】
前記中性子発生器の端部と前記照射標的との間に配置された中性子減速体をさらに備え、当該中性子減速体は、前記照射標的の前記中性子束場への曝露を最適化するように構成されている、請求項1の装置。
【請求項8】
前記対象物が患者であり、前記標的領域が癌組織である、請求項1の装置。
【請求項9】
前記対象物が半導体材料である、請求項1の装置。
【請求項10】
即発中性子捕獲ガンマ線を用いてデルタ線を照射する方法であって、
中性子発生器によって中性子束場を発生させるステップと、
当該中性子束場への曝露に応答して、熱中性子断面積の大きい照射標的材料を備える照射標的からガンマ線を放出させるステップと、
当該ガンマ線への曝露に応答して電子放出体からデルタ線を放出させるステップと、
当該照射標的および当該電子放出体を、当該中性子発生器と対象物の表面との間に配置するステップと、
当該デルタ線を当該対象物内の標的領域に照射するステップとを含む方法
【請求項11】
前記照射標的材料がガドリニウム-157を含む、請求項10の方法。
【請求項12】
前記電子放出体が、高Z物質を含む電子放出体材料を備える、請求項11の方法。
【請求項13】
前記電子放出体材料が、タングステン、鉛、またはそれらの組み合わせを備える、請求項12の方法。
【請求項14】
前記照射標的から放出されるガンマ線であって、前記電子放出体から遠ざかる方向に前記装置から漏れるガンマ線の量を遮蔽体によって最小限に抑えるステップをさらに含む、請求項10の方法。
【請求項15】
前記遮蔽体によって前記装置内に前記中性子束場を最大限封じ込めるステップをさらに含む、請求項10の方法。
【請求項16】
前記照射標的の前記中性子束場への曝露を中性子減速体によって最適化するステップをさらに含む、請求項10の方法。
【請求項17】
前記デルタ線を前記対象物内の標的領域に照射するステップが、前記デルタ線を患者の癌組織に照射することを含む、請求項10の方法。
【請求項18】
前記癌組織が前記デルタ線に2分間で4000R以上の線量で照射されるステップをさらに含む、請求項17の方法。
【請求項19】
前記患者が2.5rem未満の線量でガンマ線に照射されるステップをさらに含む、請求項18の方法。
【請求項20】
前記電子放出体へ照射された前記ガンマ線を前記電子放出体によって封じ込めるステップをさらに含む、請求項10の方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、米国特許法第119条(e)の下で、参照によりその全てが本願に組み込まれる2021年2月25日に出願された「A METHOD AND DEVICE TO DELIVER DELTA-RADIATION USING A PROMPT NEUTRON CAPTURE GAMMA RADIATION GENERATED DELTA-RADIATION」と題する米国仮特許出願第63/153,494号の利益および優先権を主張する。
【0002】
本願は、概して、即発中性子捕獲ガンマ線を用いてデルタ線を照射する装置、システム、および方法に関する。いくつかの態様において、本願に開示される装置、システム、および方法は、即発中性子捕獲ガンマ線を用いてデルタ線を照射することにより癌を治療すること、または半導体材料中の電荷担体濃度を高めることに関する。
【発明の概要】
【0003】
以下の概要は、本願で開示する態様に特有のいくつかの革新的な特徴を理解しやすくするためのものであり、完全な記述を意図するものではない。これらの様々な態様を完全に理解するには、本願の明細書、請求項、および要約書の全体を総合的にとらえる必要がある。
【0004】
本願では、様々な態様において、即発中性子捕獲ガンマ線を用いてデルタ線を照射する装置を開示する。一態様において、この装置は、中性子束場を発生させるように構成された中性子発生器と、当該中性子束場への曝露に応じてガンマ線を放出するように構成された照射標的と、当該ガンマ線への暴露に応答してデルタ線を放出するように構成された電子放出体とを含む。当該照射標的および当該電子放出体は、当該中性子発生器と対象物の表面との間に配置され、当該対象物内の標的領域に当該デルタ線が照射されるように構成可能である。当該照射標的は、熱中性子断面積の大きい照射標的材料を含むことができる。
【0005】
本願では、様々な態様において、即発中性子捕獲ガンマ線を用いてデルタ線を照射する方法を開示する。一態様において、この方法は、中性子発生器によって中性子束場を発生させるステップと、当該中性子束場への曝露に応答して照射標的からガンマ線を放出させるステップと、当該ガンマ線への曝露に応答して電子放出体からデルタ線を放出させるステップと、当該照射標的および当該電子放出体を、当該中性子発生器と対象物の表面との間に配置するステップと、当該デルタ線を当該対象物内の標的領域に照射するステップとを含む。当該照射標的は、熱中性子断面積の大きい照射標的材料を含むことができる。
【0006】
本開示の上記および他の目的、特徴および性質、関連する構造要素の操作方法および機能、部品の組み合わせ、ならびに製造の経済性は、いずれも本明細書の一部を構成する添付図面を参照して以下の説明および添付の特許請求の範囲を読めばより明白になるであろう。様々な図面の中で使用している同じ参照符号は、対応する部品を指している。ただし、添付図面はもっぱら例示および解説のためのものであり、本願で開示する態様の範囲を限定するものではないことを明確に理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0007】
本願に記載する様々な態様ならびにその目的および利点は、以下の添付図面と併せて以下の説明を参照することにより、最も理解が深まるであろう。
【0008】
図1】本開示の少なくとも1つの非限定的な態様に基づく、即発中性子捕獲ガンマ線を用いてデルタ線を発生させる装置の断面概略図である。
【0009】
図2】本開示の少なくとも1つの非限定的な態様に基づく、入射ガンマ線エネルギー(すなわち光子エネルギー)の関数としての例示的な材料の吸収係数を示す線グラフである。
【0010】
同一の参照符号は、いくつかの図面を通して対応する部品を指している。本願に記載された実施例は、本発明の様々な態様の一形態を示すものであり、かかる例示は、本開示のいかなる態様についてもその範囲を限定的に解釈するものでないことを理解されたい。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本願に記載され、添付の図面に例示されているような態様の全体的構造、機能、製造、および使用について深く理解できるよう、数多くの具体的な詳細事項を記載する。本願に記載された態様が不明瞭になることを避けるため、よく知られた操作、構成部品、および要素については詳述しない。読者においては、本願で説明および図示する態様が非限定的な例であり、したがって、本願で開示する特定の構造および機能の詳細が代表的かつ例示的であり得ることを理解されたい。これらの実施形態は、本願の特許請求の範囲から逸脱することなく変形・変更される可能性がある。
【0012】
以下の説明において、同一参照記号は、いくつかの図面を通して同一のまたは対応する部品を指すものである。また、以下の説明において、前方、後方、左、右、上、下、上方へ、下方へなどの用語は便宜的に使用するものであり、限定的に解釈するものでないことを理解されたい。
【0013】
皮膚がん財団(Skin Cancer Foundation)によると、皮膚癌は、米国と世界のいずれにおいても最も多い癌である。米国では5人に1人が70歳までに皮膚癌を発症し、1時間に2人以上が皮膚癌で亡くなっている。皮膚癌の有病率およびその原因に関する詳細は、参照によりその全体が本願に組み込まれる皮膚がん財団のSkin Cancer Facts and Statistics(2022年1月更新、https://www.skincancer.org/skin-cancer-information/skin-cancer-facts/)に記されている。
【0014】
限局性の高い癌細胞(例えば、腫瘍や皮膚癌などの癌)の電離放射線による治療は、かなり効果があることが証明されている。しかし、電離放射線は、身体に照射すると、通常、標的部位を取り囲む正常組織の中を通過する必要があるため、正常組織が損傷する可能性がある。また、正常組織の損傷が懸念されるため、1回の治療で照射できる電離放射線量が制限される。そのため、複数回の電離放射線治療が必要となる場合があり、その結果、正常組織への損傷が蓄積し、患者の経済的負担が増大する可能性がある。さらに、腫瘍や癌細胞の増殖速度が、患者に放射線治療を施せる速度を上回った場合、患者は最終的に病に屈するおそれがある。したがって、周囲の正常組織への影響を最小限に抑えながら癌組織を攻撃するための新しい治療装置、システム、方法が必要とされている。
【0015】
いくつかの態様では、電離放射線治療の代替として、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)を使用することができる。BNCTでは、例えばホウ素-10を含む治療線源を患者体内の癌細胞に近接して埋め込むことを含むことができる。治療線源が患者体外で発生させた中性子場に曝されることにより、アルファ線および/またはベータ線を発生させることができる。いくつかの態様において、治療線源は、アルファ線が放出されることによってデルタ線を発生させる電子放出体を含むことができる。このように、治療線源と入射熱中性子を用いて発生させた放射線を使って、癌細胞を死滅させることができる。この方法に関連するいくつかの態様のさらなる詳細は、2018年8月8日に出願され、現在は米国特許第10,603,510号として発行されている「SURGICALLY POSITIONED NEUTRON FLUX ACTIVATED HIGH ENERGY THERAPEUTIC CHARGED PARTICLE GENERATION SYSTEM」と題する米国特許出願第16/102,063号に提供されており、その全体が参照により本願に組み込まれる。
【0016】
いくつかの態様では、電離放射線治療の代替として、ハフニウム-174(Hf-174)から放出される即発中性子捕獲ガンマ線を用いてデルタ線を生成することができる。この即発中性子捕獲ガンマ線に基づく治療法では、ハフニウム-174を含む治療線源を患者体内の癌細胞に近接して埋め込むことができる。治療線源はまた、ハフニウム-174を少なくとも部分的に取り囲む、例えば金、白金、タングステン、鉛、またはそれらの組み合わせなどの電子放出体を含むものであってよい。治療線源が患者体外で発生させた中性子場に曝されることにより、ハフニウム-174からガンマ線を放出させることができる。ハフニウム-174から放出されるガンマ線は、コンプトン散乱および光電散乱の相互作用により、電子放出体からデルタ線を放出させることができる。このように、治療線源と入射熱中性子を用いて発生させた放射線により、癌細胞を死滅させることが可能である。この方法に関連するいくつかの態様の追加的な詳細は、2019年2月13日に出願された「THERAPEUTIC ELECTRON RADIATOR FOR CANCER TREATMENT」と題する米国特許出願第16/274,808号に提供されており、その全体が参照により本願に組み込まれる。
【0017】
しかしながら、電離放射線治療に代わる追加のおよび/または改良された治療法を開発する余地がある。例えば、患者にとって、ハフニウム-174から放出されるガンマ線を長時間浴びるのは危険である。したがって、上述の方法の或る態様では、患者に多量の中性子線を照射し、治療線量のデルタ線を生じさせるほどのガンマ線を急速に発生させることがある。そうではあるが、ガンマ線を用いることにより生成されたデルタ線の方が、ガンマ線のみの場合と比べて、線エネルギー付与が相対的に高くなり、組織への最大透過範囲がより明瞭になる。したがって、ガンマ線を用いて発生させたデルタ線を利用すれば、放射線を効率的に癌組織に照射可能である。様々な態様において、本開示は、対象物(例えば患者)の熱中性子およびガンマ線への曝露を制限しつつ、対象物内の標的(患者体内の癌組織など)にデルタ線を照射するための装置、システム、および方法を提供する。
【0018】
図1は、本開示の少なくとも1つの非限定的な態様に基づく、即発中性子捕獲ガンマ線106を用いてデルタ線110を発生させる装置100の概略図である。装置100は、熱中性子を発生させるように構成された中性子発生器102を含む。いくつかの態様において、中性子102発生器は、市販されている管状の電子式中性子発生器であってよい。中性子発生器102によって発生した熱中性子は、中性子束場118を形成する。
【0019】
装置100はさらに照射標的104を含む。中性子発生器102で発生した熱中性子(すなわち中性子束場118)は、照射標的104に差し向けることができる。照射標的104は、中性子発生器102からの入射熱中性子に応答してガンマ線106(すなわち即発中性子捕獲ガンマ線)を放出するように構成された照射標的材料を含む。いくつかの態様では、照射標的材料は熱中性子断面積が大きい。本願で使用する「熱中性子断面積が大きい」という表現は、ハフニウム-174の熱中性子断面積よりも大きい熱中性子断面積を意味することがある。別の態様では、照射標的材料はガドリニウム-157を含んでよい。さらに別の態様では、照射標的材料は約257,000バーンの、および/または約257,000バーンより大きな熱中性子断面積を有してよい。
【0020】
装置100はさらに電子放出体108を含む。電子放出体108は、照射標的104から放出された入射ガンマ線106に応答してデルタ線110を放出するように構成された電子放出体材料を含む。いくつかの態様において、電子放出体材料は、高Z物質(例えば、原子番号が30、40、50、60、または70より大きな物質)であってよい。別の態様では、電子放出体材料は、鉛、タングステン、金、白金、またはそれらの組み合わせを含んでよい。電子放出体108から放出されたデルタ線110は、対象物112内の標的領域114に照射することができる。いくつかの態様において、標的領域114は癌組織(癌組織114)であり、対象物112は患者(患者112)である。この態様では、デルタ線110を使用して癌組織114を死滅させる。別の態様では、標的領域114および対象物112は、半導体材料の標的領域(半導体材料112の標的領域114)であってよい。この態様では、デルタ線108を用いて、標的領域114の電荷担体濃度を高めることができる。このように、いくつかの態様において、装置100は、癌治療向けに構成してよい。また、別の態様において、装置100は、現行の電子ビーム法と比べて、より安価で、より深い、および/または電荷担体密度がより均一なゲート素子を製造できるように構成可能である。
【0021】
いくつかの態様において、装置100は、装置100および/またはその構成要素の少なくとも一部を取り囲む遮蔽体116を含んでよい。例えば、遮蔽体116は、中性子発生器102の伸長部分の端部を取り囲み、且つ当該端部を越えて延び、照射標的104を取り囲むように構成することができる。いくつかの態様では、遮蔽体116は、図1に示すように、中性子発生器102の伸長部分の端部を越えて電子放出体108の位置まで延び、標的114に近接する開口部を有してもよい。遮蔽体116は遮蔽材を含む。いくつかの態様において、遮蔽材は、装置100からのガンマ線106の漏れを最小限に抑え、かつ/または防止するのに適した鉛または他の同様の遮蔽材を含んでよい。例えば、遮蔽体116は、照射標的104から放出されるガンマ線106であって、電子放射体108から遠ざかる方向に装置100から漏れるガンマ線106の量を最小限に抑えるように構成可能である。いくつかの態様では、遮蔽材は、装置100内の中性子束場118を封じ込めるのに適した鉛または他の同様の遮蔽材を含んでよい。例えば、遮蔽体116は、中性子発生器102から放出される熱中性子(中性子束場118)であって、照射標的104から離れる方向に装置100から漏れる熱中性子の量を最小限に抑えるように構成可能である。遮蔽体116は、中性子発生器102の一部の周りにぴったり合うように構成することができ、それにより、例えば、病院やオフィスの環境での装置の使用を可能にするのに必要な、装置を取り囲んでいる機器の中性子118および/またはガンマ線106への曝露を最小限に抑えることができる。遮蔽体116、照射標的104、および/または電子放出体108は、従来の管状設計の電子式中性子発生器と併用されるように構成してもよい。
【0022】
いくつかの態様において、装置100は、中性子発生器102と照射標的104との間に配置された中性子減速体120を含んでよい。中性子減速体120は、中性子減速材を含む。中性子減速材および/またはその厚さは、照射標的104における熱中性子束118のレベルに応じて最適化することができる。この最適化は、モンテカルロN粒子輸送コード(MCNP)など、さまざまなソフトウェアツールを使って行うことができる。中性子減速材は、装置100から放出されるガンマ線106を低減するのに役立つ。装置100には、中性子減速材120および/または装置100内の他の構成要素を配置可能にするための出入扉および/または開口部を含めてもよい。
【0023】
本願に開示された装置、システム、および方法の様々な態様により、患者の熱中性子束およびガンマ線への被曝を抑制しつつ、治療線量のデルタ線を標的領域に照射することができる。一態様では、ガドリニウム-157のような熱中性子断面積の大きい材料を含む照射標的を使用することで、熱中性子断面積の小さい材料に比べて、入射中性子束のレベルが低くても高いエネルギーのガンマ線を発生させることができる。例えば、ガドリニウム-157の熱中性子断面積は約257,000バーンである。これに対し、ハフニウム-174の熱中性子断面積は約562バーンである。その結果、ガドリニウム-157から放出される即発中性子捕獲ガンマ線の最大エネルギーは約8MeVであるのに対し、ハフニウム-174から放出されるガンマ線の最大エネルギーは約3.3MeVに過ぎない。したがって、電子放出体材料とガドリニウム-157から放出されるガンマ線とを用いて生成されるデルタ線は、同じ電子放出体材料とハフニウム-174から放出されるガンマ線とを用いて生成されるデルタ線に比べて、患者組織への透過性が約2倍になる。さらには、ガドリニウム-157を含む照射標的材料を使用すると、ハフニウム-174をベースとする材料に比べて、治療線量のデルタ線を短時間で発生させるのに要する中性子束がはるかに小さくて済む。したがって、従来の方法と比べて、図1に関して上述した装置、システム、および方法は、潜在的に有害な中性子束およびガンマ線への被曝を抑えながら、治療線量のデルタ線を照射することができる。
【0024】
別の態様では、本願に記載の装置、システム、および方法は、様々な電子放出体材料のエネルギー依存的な光電散乱およびコンプトン散乱の確率を利用することができる。例えば、図2は、本開示の少なくとも1つの非限定的な態様に基づく、入射ガンマ線エネルギー204(すなわち光子エネルギー204)の関数として例示的な電子放出体材料(すなわち鉛)の吸収係数202(すなわち相互作用確率)を示す線グラフである。入射ガンマ線エネルギー204が減少すると、光電散乱206とコンプトン散乱208の確率は実際に増加する。なお、合計確率曲線212は、光電散乱206、コンプトン散乱208、およびペア散乱210を総合した確率である。図2は、参照によりその全体が本願に組み込まれるIrving Kaplan,NUCLEAR PHYSICS,408,Ch.15(2nd Ed.)からの引用である。
【0025】
ここで図1および図2を参照すると、光電散乱とコンプトン散乱が装置100におけるデルタ線110の主要な生成機構であり得るので、図2に示される関係は、電子放出体108からガンマ線106が漏れないように装置100によって生成されるガンマ線106のレベルを制限しつつ、電子放出体108から治療線量のデルタ線110を放出させることが可能なことを示している。他の態様では、ガンマ線106が放出体108から漏れたとしても、実質的に癌組織114内にまで透過するように、ガンマ線106のレベルを調節することができる。装置100によって患者112に照射されるガンマ線106の強度およびエネルギーは、MCNPのような多数の各種市販のソフトウェアパッケージを使用して算出することができる。さらに、所与の厚さの電子放出体108材料(鉛、タングステンなど)から生じるデルタ線110のエネルギーおよび強度と、照射標的104材料と相互作用する入射中性子束118も、このようなソフトウェアを用いて同様に算出・最適化することができる。したがって、装置100は、デルタ線110の強度とエネルギーを最大にする一方で、患者112に照射されるガンマ線104を最小にすることは可能である。
【0026】
したがって、本開示の様々な態様は、皮膚癌、リンパ腫関連癌、および/または他のタイプの腫瘍および癌に対する新規な治療法を提供する。いくつかの態様では、患者を危険な全身レベルのガンマ線に曝すことなく、癌部位に直接デルタ線を照射することにより、最小限の時間で所望の放射線量が得られる。さらに、本開示の態様により、医療界では、患者の身体の一部を外科的に切除する必要なく、皮膚癌のより効果的な治療が可能になる。
【0027】
その他の態様として、本開示は、半導体材料のnドーピングのための新規な装置、システム、および方法を提供する。例えば、装置100を使用して、半導体材料112の標的領域114に高濃度の担体を供給することにより、固体ゲート素子の電子特性を調整することができる。装置100は、MeVレベルのデルタ線110を発生させることができ、標的領域114におけるその強度は、中性子束118の強度、電子放出体108の表面と半導体材料112の表面との間の距離、および/または電子放出体108の材料を調整することによって容易に調節できる。したがって、装置100は、電子ビーム発生器を用いる方法に比べて、より安価で、より深い、より均一な半導体材料のnドーピングを実現できる可能性がある。
【0028】
本願で説明する様々な装置、システム、方法の例示的な能力を、以下の例に示す。
[例1]
【0029】
本願に記載された装置と方法の態様は、ペンシルバニア州立大学のブリージール原子炉(BNR)の中性子ビーム実験室を使って実験的にテストされた。厚さ約5cm、表面積1cmの鉛電子放出体が選ばれた。この電子放出体の構成により、患者に照射するガンマ線を20mR/s未満の線量率に抑えつつ、平均エネルギーが約0.4MeVのデルタ線を生成できることが判明した。中性子束を1x10nv、Gd標的密度を7.07gm/cmとすると、対応するデルタ線量率は約30R/sである。現在の癌治療データによれば、皮膚癌に対する総治療線量は約4000Rとすることが推奨されている。したがって、この測定結果から、本願に記載された装置、システム、および方法を使用すれば、2分あまりで4000Rのデルタ線を照射できることがわかる。この期間に患者に照射されるガンマ線量は2.5rem未満である。このガンマ線量は治療に効果的と考えられる。
【0030】
本願に記載された装置、システム、および方法の様々な態様を、以下の条項にて提示する。
【0031】
[条項1]即発中性子捕獲ガンマ線を用いてデルタ線を照射する装置であって、中性子束場を発生させるように構成された中性子発生器と、当該中性子束場への曝露に応じてガンマ線を放出するように構成された照射標的と、当該ガンマ線への暴露に応答してデルタ線を放出するように構成された電子放出体とを含み、当該照射標的および当該電子放出体は、当該中性子発生器と対象物の表面との間に配置され、当該対象物内の標的領域に当該デルタ線が照射されるように構成され、当該照射標的は、熱中性子断面積の大きい照射標的材料を含むことを特徴とする装置。
【0032】
[条項2]前記照射標的材料がガドリニウム-157を含む条項1に記載の装置。
【0033】
[条項3]前記電子放出体が、高Z物質を含む電子放出体材料を備える、条項1~2のいずれかに記載の装置。
【0034】
[条項4]前記電子放出体材料が、タングステン、鉛、またはそれらの組み合わせを備える、条項1~3のいずれかに記載の装置。
【0035】
[条項5]前記照射標的から放出されるガンマ線であって、前記電子放出体から遠ざかる方向に当該装置から漏れるガンマ線の量を最小限に抑えるように構成された放射線遮蔽体をさらに備える、条項1~4のいずれかに記載の装置。
【0036】
[条項6]前記装置内に前記中性子束場を最大限封じ込めるように構成された放射線遮蔽体をさらに含む、条項1~5のいずれかに記載の装置。
【0037】
[条項7]前記中性子発生器の端部と前記照射標的との間に配置された中性子減速体をさらに備え、当該中性子減速体は、前記照射標的の前記中性子束場への曝露を最適化するように構成されている、条項1~6のいずれかに記載の装置。
【0038】
[条項8]前記対象物が患者であり、前記標的領域が癌組織である、条項1~7のいずれかに記載の装置。
【0039】
[条項9]前記対象物が半導体材料である、条項1~8のいずれかに記載の装置。
【0040】
[条項10]即発中性子捕獲ガンマ線を用いてデルタ線を照射する方法であって、中性子発生器によって中性子束場を発生させるステップと、当該中性子束場への曝露に応答して、熱中性子断面積の大きい照射標的材料を備える照射標的からガンマ線を放出させるステップと、当該ガンマ線への曝露に応答して電子放出体からデルタ線を放出させるステップと、当該照射標的および当該電子放出体を、当該中性子発生器と対象物の表面との間に配置するステップと、当該デルタ線を当該対象物内の標的領域に照射するステップとを含む方法。
【0041】
[条項11]前記照射標的材料がガドリニウム-157を含む、条項11に記載の装置。
【0042】
[条項12]前記電子放出体が、高Z物質を含む電子放出体材料を備える、条項10~11のいずれかに記載の方法。
【0043】
[条項13]前記電子放出体材料が、タングステン、鉛、またはそれらの組み合わせを備える、条項10~12のいずれかに記載の方法。
【0044】
[条項14]前記照射標的から放出されるガンマ線であって、前記電子放出体から遠ざかる方向に前記装置から漏れるガンマ線の量を遮蔽体によって最小限に抑えるステップをさらに含む、条項10~13のいずれかに記載の方法。
【0045】
[条項15]前記遮蔽体によって前記装置内に前記中性子束場を最大限封じ込めるステップをさらに含む、条項10~14のいずれかに記載の方法。
【0046】
[条項16]前記照射標的の前記中性子束場への曝露を中性子減速体によって最適化するステップをさらに含む、条項10~15のいずれかに記載の方法。
【0047】
[条項17]前記デルタ線を前記対象物内の標的領域に照射するステップが、前記デルタ線を患者の癌組織に照射することを含む、条項10~16のいずれかに記載の方法。
【0048】
[条項18]前記癌組織が前記デルタ線に2分間で4000R以上の線量で照射されるステップをさらに含む、条項10~17のいずれかに記載の方法。
【0049】
[条項19]前記患者が2.5rem未満の線量でガンマ線に照射されるステップをさらに含む、条項10~18のいずれかに記載の方法。
【0050】
[条項20]前記電子放出体へ照射された前記ガンマ線を前記電子放出体によって封じ込めるステップをさらに含む、条項10~19のいずれかに記載の方法。
【0051】
通常、本願において、特に添付の特許請求の範囲(例えば添付の特許請求の範囲の本体部)において使用される用語は、一般に「非限定的(open)」な用語として意図されていることが、当業者であればわかるであろう(例えば、用語「含めて(including)」は「含めるがそれに限定しない」と解釈し、用語「有する(having)」は「少なくとも~を有する」と解釈し、用語「含む(includes)」は「含むがそれに限定しない」と解釈すべきである等)。さらに当業者は、導入される請求項で具体的な数の記載が意図される場合、そのような意図は当該請求項において明示的に記載されるものであり、かかる記載がない場合、かかる意図は存在しないものと理解するであろう。例えば、理解の一助として、添付の特許請求の範囲は、請求項の記載事項を導くために、「少なくとも1つ(at least one)」および「1つ以上(one or more)」という導入句を使用する場合がある。しかしながら、そのような句の使用は、「a」または「an」という不定冠詞によって請求項の記載を導入した場合に、たとえ同一の請求項内に「1つ以上の」または「少なくとも1つの」といった導入句と「a」または「an」といった不定冠詞が共に含まれる場合であっても、かかる導入された請求項の記載を含むいかなる特定の請求項も、かかる記載事項を1つだけ含む請求項に限定されることが示唆される、と解釈すべきではない(例えば、「a」および/または「an」は、通常、「少なくとも1つ」または「1つ以上」を意味すると解釈すべきである)。同じことが、請求項の記載を導入するために定冠詞を使用している場合にも当てはまる。
【0052】
また、導入される請求項の記載で具体的な数が明示的に記載されている場合でも、そのような記載は、通常「少なくとも記載された数」を意味すると解釈すべきであることが、当業者には理解されよう(たとえば、他の修飾語を伴わずに「2つの記載事項(two recitations)」が記載されている場合、通常少なくとも2つの記載事項、または2つ以上の記載事項を意味する)。さらに、「A、B、およびCなどの少なくとも1つ」に類似する慣例表現が使用されている事例では、通常、そのような構文は、当業者がその慣例表現を理解するであろう意味で意図されている(例えば、「A、B、およびCの少なくとも1つを有するシステム」は、Aのみ、Bのみ、Cのみ、AとBの両方、AとCの両方、BとCの両方、ならびに/またはAとBとCのすべてなどを有するシステムを含むが、それらに限定されない)。さらに、「A、B、またはCなどの少なくとも1つ」に類似する慣例表現が使用されている事例では、通常、そのような構文は、当業者がその慣例表現を理解するであろう意味で意図されている(例えば、「A、B、またはCの少なくとも1つを有するシステム」は、Aのみ、Bのみ、Cのみ、AとBの両方、AとCの両方、BとCの両方、ならびに/またはAとBとCの全てなどを有するシステムを含むが、それらに限定されない)。一般的に、2つ以上の選択的な用語を表す選言的な語および/または句は、明細書、特許請求の範囲、または図面のどこにあっても、文脈上他の意味に解釈すべき場合を除き、当該用語のうちの1つ、当該用語のいずれか、または当該用語の両方を含む可能性を企図すると理解されるべきであることも、当業者には理解されよう。例えば、句「AまたはB」は、一般的に「A」、「B」、または「AおよびB」の可能性を含むものと理解されよう。
【0053】
「一態様(one aspect)」、「ある態様(an aspect)」、「ある(実施)例(an exemplification)」、「一(実施)例(one exemplification)」などへの参照は、その態様に関連して記載される特定の特徴物、構造、または特性が少なくとも1つの態様に含まれることを意味することは、特記に値する。したがって、本願の全体を通じて様々な箇所に見られる句「一態様では(in one aspect)」、「ある態様では(in an aspect)」、「ある(実施)例では(in an exemplification)」、および「一(実施)例では(in one exemplification)」は、必ずしも全てが同じ態様を指すものではない。さらに、特定の特徴物、構造、または特性は、1つ以上の態様において任意の適当な様式で組み合わせることができる。
【0054】
本願で参照され、かつ/または任意の出願データシートに列挙される任意の特許出願、特許、非特許刊行物、または他の開示資料は、組み込まれる資料が本願と矛盾しない範囲で、参照により本願に組み込まれる。そのため、必要な範囲において、本願に明瞭に記載された開示内容は、それと矛盾のある、参照により本願に組み込まれた資料に優先するものとする。既存の定義、見解、または本願に記載されたその他の開示内容と矛盾する任意の内容またはその一部は、参照により本願に組み込まれるが、組み込まれる内容と既存の開示内容との間に矛盾が生じない範囲においてのみ組み込まれるものとする。
【0055】
「含む、備える(comprise)」の語およびその派生語(「comprises」、「comprising」など)、「有する(have)」の語およびその派生語(「has」、「having」など)、「含む(include)」の語およびその派生語(「includes」、「including」など)、「包有する(contain)」の語およびその派生語(「contains」、「containing」など)は、非限定的な連結動詞である。すなわち、1つ以上の要素を「備える」、「有する」、「含む」、または「包有する」システムは、当該1つ以上の要素を有しているが、当該1つ以上の要素のみを有することに限定されるものではない。同様に、1つ以上の特徴物を「備えている」、「有する」、「含む」、または「包有する」システム、装置、または機器の要素は、当該1つ以上の特徴物を有しているが、当該1つ以上の特徴物のみを有することに限定されるものではない。
【0056】
本開示で使用される「実質的に(substantially)」、「およそ(about)」、または「約(approximately)」という用語は、特に指定がない限り、当業者によって決定される特定の値に対する許容誤差を意味し、これは値がどのように測定または決定されるかに部分的に依存する。特定の実施形態において、用語「実質的に」、「およそ」、または「約」は、標準偏差の1、2、3、または4倍の範囲内を意味する。特定の実施形態において、用語「実質的に」、「およそ」、または「約」は、所定の値から50%、20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、または0.05%以内の範囲を意味する。
【0057】
要約すると、本願に記載された概念を採用することによって得られる多くの利点を記載してきた。1つ以上の形態に関する上述の記載は、例示と説明の目的で提示されているものであり、開示された正確な形態を網羅的または限定的に示すことを意図するものではない。上記の教示に照らして、改修または変形が可能である。当該1つ以上の形態は、原理および実際の応用について例示し、それによって、様々な形態を様々な改修例と共に、想到される特定の用途に適するものとして、当業者が利用できるようにするために選択・説明したものである。本明細書と共に提示される特許請求の範囲によって、全体的な範囲が定義されることを意図している。


図1
図2
【国際調査報告】