(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-28
(54)【発明の名称】エレウテロシドBを有効成分として含む脳神経炎症治療用薬学的組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7034 20060101AFI20240220BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240220BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240220BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240220BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240220BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20240220BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240220BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20240220BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
A61K31/7034
A61P29/00
A61P25/00
A61P43/00 107
A61P25/28
A61P25/16
A61P9/10
A61P25/08
A61P25/14
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023552126
(86)(22)【出願日】2021-10-18
(85)【翻訳文提出日】2023-09-20
(86)【国際出願番号】 KR2021014493
(87)【国際公開番号】W WO2022181920
(87)【国際公開日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】10-2021-0026545
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522471939
【氏名又は名称】イエプ バイオ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】YEP BIO CO. LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181847
【氏名又は名称】大島 かおり
(72)【発明者】
【氏名】パク チフ
(72)【発明者】
【氏名】キム ヒョンシク
(72)【発明者】
【氏名】チェ ユリ
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA06
4C086ZA16
4C086ZA36
(57)【要約】
本発明は、エレウテロシドBを有効成分として含む脳神経炎症治療用薬学的組成物に係わるものであって、より詳細には、エレウテロシドBまたはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む星状膠細胞またはミクログリア細胞の活性が増加した患者の脳神経炎症疾患治療用薬学的組成物に関するものである。すなわち、活性ミクログリア細胞及び星状膠細胞の活性を効果的に抑制し、anti-inflammatoryサイトカインの分泌を増加及びpro-inflammatoryサイトカインの分泌を抑制させて、炎症を抑制することができ、活性化されたミクログリア細胞及び星状膠細胞が脳神経細胞に及ぼす損傷を保護することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレウテロシドBまたはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、星状膠細胞及びミクログリア細胞の活性が増加した患者の脳神経炎症疾患治療用薬学的組成物。
【請求項2】
前記組成物は、神経幹細胞内の神経突起を活性化し、脳神経細胞の分化を促進する、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記脳神経炎症疾患は、アルツハイマー、パーキンソン病、多発性硬化症、脳梗塞、脳卒中、癲癇、多発性神経萎縮、及びハンチントン病からなる群から選択される、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記組成物は、星状膠細胞またはミクログリア細胞で炎症抑制サイトカインの分泌を増進させ、炎症誘導サイトカインの分泌を抑制する、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記組成物は、ミクログリア細胞または星状膠細胞の活性によって誘導された海馬CA1領域の脳神経炎症を抑制する、請求項1に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレウテロシドB(Eleutheroside B)を有効成分として含む脳神経炎症治療用薬学的組成物に係り、より詳細には、エレウテロシドBまたはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む星状膠細胞(Astrocytes)またはミクログリア細胞(Microglia)の活性が増加した患者の脳神経炎症疾患治療用薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
退行性神経疾患は、ニューロンの漸進的な構造的、機能的な損失が原因となって発生する精神機能が退化する疾患である。退行性神経疾患は、神経系の特定部位の神経細胞の退化が進行して痴呆、錐体外路異常、小脳異常、感覚障害、運動障害などの症状を伴い、同時に多様な部位に異常が表われて症状が複合的に表われることもある。これについて、患者が見える臨床態様によって疾患を診断するが、症状が多様に表われ、互いに異なる疾患が共通の臨床症状を示す場合が多くて診断に難点があるという特徴がある。このような退行性神経疾患は、疾患徴候が徐々に表われ、老化と共に発病する場合が多い。一旦、発病すれば、死亡まで数年あるいは数十年にわたって持続的に病気が進行し、根本的な治療が困難であり、社会的負担が非常に大きく、発病原因として家族歴による遺伝的影響があるが、後天的な要因も重要に作用すると知られている。退行性神経疾患は、その臨床症状によって大きく進行性痴呆(アルツハイマー病など)、及び神経学的異常(ピック病など)、姿勢及び運動異常(パーキンソン病など)、進行性失調症、筋萎縮及び筋衰弱、感覚及び運動障害などに区分され、そのうちでも、65歳以上で6.54%に有病率が最も高い退行性神経疾患であるアルツハイマー痴呆は、全体痴呆の71.3%を占め、直接的な発病原因としてβアミロイド斑(β-amyloid plaque)と神経炎症(neuroinflammation)、そして、神経原線維塊(neurofibrillary tangle)による細胞毒性が注目されている。
【0003】
前記アルツハイマー病は、神経伝達物質であるアセチルコリンの分泌が減少して神経細胞間の相互作用が鈍化し、主要損傷部分は、海馬、前脳、側頭葉に疾病が進行するほど、この部分の30~40%程度の神経細胞が損失される。研究結果、アルツハイマー病は、病理学的には大脳皮質や海馬に生じる脳萎縮及び脳内に老人斑(senile plaque)と神経炎症とが発病初期から生じ、これにより、神経原線維塊が沈着されることが特徴として明かになった。また、アルツハイマー病の発病過程を観察すれば、発病する15年から20年前からアミロイド前駆体タンパク質(APP;amyloid precursor proteins)が異常分解してβアミロイド(β-amyloid)タンパク質が蓄積され、それと同時に、星状膠細胞とミクログリア細胞との活性による神経炎症が起こり、引き続き、病症が進行することによって、タウ(tau)の過リン酸化による神経原線維濃縮体が蓄積されると見られる。今までの研究結果によれば、アミロイドのみでは神経細胞の死滅を誘導しないが、炎症が伴われれば、異常タウタンパク質の伝播を誘導し、アミロイドと共に炎症が進行してタウタンパク質が沈着され始めれば、タウがなくなっても、認知機能が回復されないという報告が発表された。前記のように、研究初期には、アミロイド斑、そして、神経原線維塊形成のようにアルツハイマーの原因によって神経炎症の重要性が強調されていたが、2017年になって開発された単一細胞分析法によって脳部位による炎症の多様性及び疾病状態での研究が始まった。
【0004】
神経炎症は、脳のグリア細胞中でミクログリア細胞と星状膠細胞との活性によって起こり、これにより、神経細胞の死滅をもたらし、アミロイドが沈着される初期から起こると報告されている。そのうち、ミクログリア細胞は、中枢神経系(CNS)に常駐する免疫細胞であって、外部の刺激によって活性化されて免疫反応と炎症反応とを誘発すると知られている。特に、バクテリアの内毒素であるリポポリサッカライド(lipopolysaccharide、LPS)、インターフェロン-γ、βアミロイドまたはガングリオシドのような物質でミクログリア細胞が活性化されれば、正常状態のミクログリア細胞とは異なって、捕食作用を活発にし、細胞増殖を行い、pro-inflammatoryサイトカインであるTNF-α、IL-1β及びIL-6などと、ケモカイン、iNOS(inducible nitric oxide synthase)、COX-2(cyclooxygenase-2)などの遺伝子を発現させて炎症媒介物質を生成する。そのうちでも、アルツハイマー痴呆の原因物質であるβアミロイドによるミクログリア細胞の活性化は、損傷した細胞を除去し、外部から侵入するバクテリアやウイルスから神経細胞を保護する純作用を示すが、星状細胞の活性及びiNOSによって生成される一酸化窒素(NO)とCOX-2によって生成されるプロスタグランジン、TNF-αなどは、神経細胞にも毒性を示し、神経細胞の死滅をもたらすために、結果としてミクログリア細胞の活性化は、神経炎症を誘発し、結果としてアルツハイマー痴呆を悪化させる。
【0005】
一方、星状膠細胞は、脳の発生過程だけではなく、神経伝達と脳の恒常性(homeostasis)活動とを保持し、BBBを通じた物質除去と神経細胞の栄養分との供給に重要な役割を果たす。脳での星状膠細胞は、神経細胞が分泌する神経伝達物質をBBBを通じて適切に除去するか、脳でのイオン濃度を調節しながら神経細胞の活性を補助する役割を果たすと明らかになっており、それ以外にも、神経幹細胞が神経細胞への分化に役割を果たすと明かになった。しかし、星状膠細胞は、脳に傷害を負った時、増殖が活発になり、スウェリング(swelling)が起こり、星状膠細胞症(astrogliosis)のような活性星状膠細胞に活性化される。このような活性星状膠細胞は、ミクログリア細胞を活性化し、シナプスの機能低下及びpro-inflammatoryサイトカインの分泌を誘導し、神経細胞の死滅を導くと明かになった。このような活性星状膠細胞は、エイズ性痴呆、脳損傷、虚血性脳疾患、アルツハイマー病などから観察され、このように持続的なグリア細胞の活性化は、神経炎症を起こす原因となり、結局、神経細胞の死滅を導くと報告された。
【0006】
したがって、アルツハイマー痴呆のような退行性神経疾患で異常なタンパク質沈着初期から始まる星状膠細胞とミクログリア細胞との活性による神経炎症調節は、認知機能が損傷する前から非常に重要であり、それを調節する治療剤の開発は、神経損傷と記憶力の退化とを防ぐ非常に重要な要素であるために、これについての研究が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、エレウテロシドBまたはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む星状膠細胞またはミクログリア細胞の活性が増加した患者の脳神経炎症疾患治療用薬学的組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、エレウテロシドBまたはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む星状膠細胞またはミクログリア細胞の活性が増加した患者の脳神経炎症疾患治療用薬学的組成物を提供する。
【0009】
前記組成物は、星状膠細胞またはミクログリア細胞の活性を抑制して細胞面積を小さく保持させ、anti-inflammatoryサイトカインの分泌を増加及びpro-inflammatoryサイトカインの分泌を抑制することにより、脳神経細胞に炎症の誘発を抑制することができる。
【0010】
また、前記組成物は、脳神経炎症の抑制によって退行性神経疾患の予防または治療効果を有することができ、前記退行性神経疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、脳梗塞、脳卒中、癲癇、多発性神経萎縮、及びハンチントン病からなる群から選択されうる。
【0011】
そして、前記組成物は、神経幹細胞内の神経突起(Neurite)を活性化して脳神経細胞の分化を促進することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、エレウテロシドBを有効成分として含む脳神経炎症治療用薬学的組成物に係わるものであって、より詳細には、エレウテロシドBまたはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む星状膠細胞またはミクログリア細胞の活性が増加した患者の脳神経炎症疾患治療用薬学的組成物に関するものである。すなわち、活性ミクログリア細胞及び星状膠細胞の活性を効果的に抑制し、anti-inflammatoryサイトカインの分泌を増加及びpro-inflammatoryサイトカインの分泌を抑制させて、炎症を抑制することができ、活性化されたミクログリア細胞及び星状膠細胞が脳神経細胞に及ぼす損傷を保護することができる。
【0013】
また、本発明によるエレウテロシドBを含む薬学的組成物は、前述したように、脳神経炎症を抑制すると共に、神経幹細胞内の神経突起を活性化し、脳神経幹細胞で神経細胞の分化を促進することにより、退行性神経疾患を予防または治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】エレウテロシドBの濃度増加による毒性の有無の確認のためのミクログリア細胞で生存率の確認結果を示すグラフである。
【
図2】星状膠細胞を利用した神経炎症の抑制効果の検証過程及び方法を示す図面である。
【
図3】星状膠細胞にLPSで神経炎症誘導後、薬物処理前後のGFAP(green)蛍光強度を測定した免疫細胞染色(immunocytochemistry)の結果である。
【
図4】LPS処理星状膠細胞にエレオテロサイドBとドネペジル(donepezil、FDA承認薬物)とを処理した時、細胞数、面積、GFAP発現量に及ぼす影響を定量化して比較して示すグラフである。
【
図5】LPS処理星状膠細胞でエレオテロサイドBとドネペジルとを処理した時、サイトカインの分泌に及ぼす影響を比較して示すグラフである。
【
図6】薬物処理によるミクログリア細胞の神経炎症の変化観察のための実験概要を示す図面である。
【
図7】ミクログリア細胞にLPSで神経炎症誘導後、薬物処理前後のlba1(green)蛍光強度を測定したものである。
【
図8】LPS処理ミクログリア細胞でエレウテロシドBとドネペジルとを処理した時、細胞数とIba1(green)発現量とに及ぼす影響を比較して示すグラフである。
【
図9】LPS処理ミクログリア細胞でエレウテロシドBとドネペジルとを処理した時、サイトカインの分泌に及ぼす影響を比較して示すグラフである。
【
図10】エレウテロシドB処理による神経幹細胞から神経突起の活性の確認結果を示した図面である。
【
図11】Neuroblast細胞株でエレウテロシドBを処理後、神経分化マーカー分析(Sox2、Nestin、NeuroD、DCX、Tuj-1、NeuN)を実施した結果を示すグラフである。
【
図12】エレウテロシドBを投与したアルツハイマー病の動物モデルで認知機能の変化を示すグラフである。
【
図13】アルツハイマー病の動物モデルの活性星状膠細胞がエレウテロシドB投与によって変化した海馬(hippocampus)部分の脳組織染色(immunohistochemistry)の結果である。Green:GFAP<星状膠細胞>、Blue:DAPI、Red:β-amyloid。
【
図14】
図13の脳組織染色で星状膠細胞の活性がエレウテロシドB投与によって変化する程度を定量化して示すグラフである。
【
図15】
図13の脳組織染色で星状膠細胞の活性がエレウテロシドB投与によって海馬のCA1領域で変化する程度を定量化して示すグラフである。
【
図16】アルツハイマー病の動物モデルでミクログリア細胞の活性がエレウテロシドB投与によって変化した海馬部分の脳組織の染色結果である。Green:Iba1<星状膠細胞>、Blue:DAPI、Red:β-amyloid。
【
図17】
図16の脳組織染色でエレウテロシドB処理によるミクログリア細胞の変化を定量化したグラフである。
【
図18】
図16の脳組織染色でエレウテロシドB処理による海馬のCA1領域でミクログリア細胞の変化を定量化したグラフである。
【
図19】エレウテロシドB処理によるBBB(blood brain barrier)通過の確認結果を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、多様な変換を加え、さまざまな実施例を有することができるので、特定実施例を図面に例示し、詳細に説明する。しかし、これは、本発明を特定の実施形態に対して限定しようとするものではなく、本発明の思想及び技術範囲に含まれる、あらゆる変換、均等物または代替物を含むものと理解しなければならない。本発明を説明するに当って、関連した公知技術についての具体的な説明が、本発明の要旨を不明にする恐れがあると判断される場合、その詳細な説明を省略する。
【0016】
本発明は、エレウテロシドBまたはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む星状膠細胞またはミクログリア細胞の活性が増加した患者の脳神経炎症疾患治療用薬学的組成物を提供する。
【0017】
従来、退行性神経疾患の治療剤は、海馬での神経伝達物質であるアセチルコリンの分泌の減少を標的として、それを促進させるか、分解を抑制する単一標的形式であり、ほとんど症状緩和の目的に限定されており、化学的合成治療剤として長期間の研究期間と高コストとがかかるという問題があり、頭痛、不安、または胃腸管障害のような副作用があるという問題点があった。また、最近まで退行性神経疾患の原因に対するメカニズム研究を通じてアミロイド斑と神経炎症及び神経原線維塊との除去による新たな治療剤が活発に研究されたが、認識の改善と症状とを緩和させる新たな薬物は、2014年度以後にない実情である。
【0018】
本発明者らは、神経炎症を起こすミクログリア細胞と星状膠細胞とが過度に活性化されれば、神経損傷と記憶力の退化とを起こすために、エレウテロシドBを使用して脳神経炎症を抑制する方法を実験を通じて確認し、発明を完成した。
【0019】
以下、発明の具体的な具現例による脳神経炎症疾患治療用薬学的組成物に関してより詳細に説明する。
【0020】
エレウテロシドBは、エゾウコギ、ライラック、ネズミモチの樹皮や葉に多く含まれており、白色針状結晶であって、融点192℃である。このようなエレウテロシドBは、前嚢、前立腺の重量を増加させ、去勢された動物の精嚢と前立腺との萎縮を予防する作用があって、精力を増強させ、老化の予防及び視力と聴力との改善に役に立つと知られており、エレウテロシドBの抗疲労作用、興奮作用は、人参のサポニンと類似し、特に、肝損傷に対して効果的であると知られており、血管拡張と疲労回復、抗痙攣、抗ストレス作用に効果的であると報告されている。
【0021】
本発明の一実施例によるエレウテロシドBまたはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む組成物は、脳神経炎症を抑制する効果を有する。
【0022】
脳で大食細胞の役割を行うミクログリア細胞は、中枢神経系内の免疫反応を調節する重要な細胞である。これらの活性化は、薬物や毒素による異物を除去し、神経成長因子を分泌してCNSの抗常性の保持に重要な役割を果たす。しかし、損傷したニューロンから発生する信号、外部刺激によって変形された異常な形態のタンパク質の蓄積、病原体の浸透のような有害なストレスに露出されれば、ミクログリア細胞の活性が過度に増加して神経細胞の損傷を誘発することにより、退行性神経疾患を起こしうる。したがって、ミクログリア細胞の過度な活性抑制方法は、退行性神経疾患の治療方法になる。
【0023】
すなわち、過度に活性化されたミクログリア細胞は、正常状態のミクログリア細胞とは異なって、捕食作用を活発にし、細胞増殖を行い、pro-inflammatoryサイトカイン及び炎症関連遺伝子を発現させて炎症媒介物質を生成する。
【0024】
ミクログリア細胞の活性化は、損傷した細胞を除去し、外部から侵入するバクテリアやウイルスから神経細胞を保護する純作用を示すが、星状細胞の活性、一酸化窒素(NO)の生成、COX-2による炎症シグナル活性、TNF-αのサイトカインの増加などは、神経細胞にも毒性を示し、神経細胞の死滅をもたらすために、結果としてミクログリア細胞の活性化は、神経細胞の損傷を悪化させ、退行性神経疾患の原因となる。
【0025】
また、星状膠細胞も、正常な脳活動の保持に重要な役割を果たすと知られているが、特に、神経細胞のシナプス形成、シナプス数字調節、シナプス機能、神経幹細胞の神経への分化に役割を果たすと知られている。しかし、このような星状膠細胞が過度に反応性を有すれば、すなわち、過度な活性化状態を保持すれば、ミクログリア細胞を活性化し、神経細胞の死滅を招き、隣接する神経細胞の死滅も誘導するなど退行性神経疾患の原因によって作用する。したがって、活性星状膠細胞の活性化の抑制も、退行性神経疾患の新たな治療方法になる。
【0026】
本発明の一実施例による薬学的組成物は、星状膠細胞またはミクログリア細胞の活性を抑制することができ、具体的に、活性星状膠細胞(Reactive Astrocytes)または活性ミクログリア細胞(Reactive Microglia)が脳神経細胞に炎症の誘発を抑制することができる。
【0027】
本発明の実施例4では、エレウテロシドBがミクログリア細胞に対する細胞毒性がなくて安全であるという点を示している。エレウテロシドB処理による生存率を確認した結果、20uMで92±13.3%、40uMで88±24.8%(平均±標準偏差)の生存率を示し、生存率が減少する傾向を示した。したがって、有効濃度の100倍以上安定性を確認することができた(
図1)。
【0028】
本発明の実施例5では、in-vitroでエレウテロシドB処理による星状膠細胞の活性抑制効果を示している。
【0029】
図3から見るように、星状膠細胞にLPSで活性化誘導後、エレウテロシドB 0.01μg処理後には、controlとほぼ同じ強度に活性が減ったことを確認することができ、これは、炎症が抑制されるということを示す。そして、
図4から見るように、エレウテロシドBの1~10nMの薬物濃度でLPSによる星状膠細胞の活性後、処理はLPS活性と比較して細胞増殖を示し、細胞面積及びGFAPの強度(intensity)が減少した。これは、星状膠細胞の活性が減少しながら炎症が減り、星状膠細胞の死滅を抑制すると考えられる。一方、現在、アルツハイマー病の薬物として使われているドネペジルの1~10nMの薬物濃度の場合には、LPS活性と比較して約10%の細胞死が観察され、細胞の面積が増加し、GFAPの強度がほぼ同じか、若干の増加が観察された。これは、ドネペジルは星状膠細胞の活性を抑制することができなくて、炎症が誘発され、これによる神経細胞の死滅をもたらすと考えられる。
【0030】
結果として、星状膠細胞の活性によって誘導された炎症が、現在アルツハイマー病の薬物として使われるドネペジルとしては調節されないが、エレウテロシドBは、星状膠細胞の活性を抑制して炎症を緩和させることができるということを示すものである。
【0031】
また、
図5のサイトカイン分析であるマルチプレクシング(multiplexing)結果から見るように、controlでLPSを処理した時、サイトカインの増加が観察され、エロウテロサイドBを処理した時は、anti-inflammatoryサイトカインであるIL-10は、増加したが、pro-inflammatoryサイトカインは、TNF-α分泌は減少して炎症を調節することが分かり、これと対照的に、ドネペジルは、サイトカインの分泌に影響を及ぼさないということが分かった。
【0032】
また、本発明の実施例6では、in-vitroでエレウテロシドB処理によるミクログリア細胞の活性抑制効果を示している。
【0033】
図7から示されるように、ミクログリア細胞にLPSで活性化を誘導後、エレウテロシドB 10nM処理後には、controlとほぼ同じ蛍光強度に活性が減ったことを確認することができた。
【0034】
そして、
図8から示されるように、ミクログリア細胞にLPSを処理した結果、細胞数の減少及びlba1の蛍光強度も増加してミクログリア細胞の活性化パターンを示した。しかし、エレウテロシドB処理後、ミクログリア細胞の死滅が抑制される細胞数が増加し、lba1の蛍光強度の減少が観察されて活性が抑制されるということを示した。ドネペジルも、lba1の蛍光の強度が減少し、ミクログリア細胞の死滅を抑制するパターンを示したが、エレウテロシドBよりも相対的に少ないミクログリア細胞の活性抑制パターンを示した。これは、エレウテロシドBがミクログリア細胞の活性を調節することができるという強力な証拠としてエレウテロシドBによってミクログリア細胞の活性調節を通じた炎症を緩和することができるということが分かった。
【0035】
また、
図9から示されるように、ミクログリア細胞にLPSとエレウテロシドBとを処理した後、条件培地(conditioned media)を用いてサイトカイン分析であるマルチプレクシングした結果、星状膠細胞での結果のように、LPS処理後にサイトカインの増加が観察され、エレウテロシドBを処理した時は、anti-inflammatoryサイトカインであるIL-10は増加して炎症を調節することが分かり、これと対照的に、ドネペジルは、サイトカインの分泌に影響を及ぼさないということが分かった。
【0036】
したがって、本発明による薬学的組成物は、星状膠細胞またはミクログリア細胞の活性を抑制し、anti-inflammatoryサイトカインの分泌を増加及びpro-inflammatoryサイトカインの分泌を抑制することにより、炎症を制御することができると考えられる。
【0037】
また、本発明による薬学的組成物は、神経炎症の抑制によって退行性神経疾患の予防または治療効果を有することができ、前記退行性神経疾患は、これに制限されるものではないが、アルツハイマー、パーキンソン病、多発性硬化症、脳梗塞、脳卒中、癲癇、多発性神経萎縮、及びハンチントン病からなる群から選択されうる。
【0038】
そして、前記組成物は、神経幹細胞内の神経突起を活性化し、神経幹細胞で神経細胞の分化を促進することができる。
【0039】
本発明の実施例7では、エレウテロシドBを処理した群は処理していない群に比べてハンチントン病の遺伝子改変マウスから得られた神経幹細胞から分化された神経細胞で神経突起の活性を確認した。
【0040】
図10に示すように、controlでは、退行性神経疾患の特徴である神経突起をほとんど見ることができないのに比べて0.01μg/mLと1μg/mLとのエレウテロシドBを処理したものは、神経突起が増加したと表われて、エレウテロシドBは、神経突起の活性化を誘導することが分かった。
【0041】
また、
図11から示されるように、neuroblast細胞株でエレウテロシドBの神経分化能力の測定を行った結果、神経分化マーカー中でもexpansion phaseを示すsox2とnestine、そして、differentiation phaseを示すneuroD、そして、integrationphaseを示すneuNは、controlに比べて相当な増加を示し、differentiationを示すDCX、Tuj1は、controlに比べて小幅の上昇を示した。これによりエレウテロシドBの投与が、神経幹細胞で神経細胞への分化に対する活性を誘導するということが分かった。
【0042】
一方、本発明の実施例8は、in-vivoでの効能を確認したものであって、アルツハイマー病の動物モデルでの認知機能の驚くべき改善と星状膠細胞及びミクログリア細胞の活性抑制とを示している。
【0043】
図12は、認知機能を測定する作業記憶能力をY-mazeで測定した結果であり、アルツハイマー病の動物モデルにエレウテロシドBを処理した群でcontrolとほぼ同じ認知能力の向上の結果を示し、このような結果は、
図13ないし
図16から分かるように、星状膠細胞とミクログリア細胞との活性を抑制して神経炎症を制御することで表われるということが分かった。
【0044】
具体的に、
図13及び
図14は、アルツハイマー病で主要損傷部位である海馬の4領域に対する星状膠細胞の活性度を測定した結果と、その活性度を星状膠細胞の面積として定量化したものであって、エレウテロシドBを投与した群で星状膠細胞の正常状態と類似しているか、さらに低く活性度を阻害するということを示しており、
図15は、星状膠細胞の活性がエレウテロシドB投与によって海馬のCA1領域で変化する程度を定量化して示すグラフであって、認知能力で最も重要な海馬のCA1の炎症が非常に減少することを示している。
【0045】
また、
図16及び
図17は、アルツハイマー病で主要損傷部位である海馬の4領域に対するミクログリア細胞の活性度を測定した結果と、その活性度をミクログリア細胞の面積として定量化したものであって、エレウテロシドBを投与した群でアルツハイマー病の動物モデルよりもミクログリア細胞の活性度を抑制するということを示しており、
図18は、エレウテロシドB処理による海馬のCA1領域でミクログリア細胞の変化を定量化したグラフであって、星状膠細胞と同様に認知能力に非常に重要な海馬のCA1の炎症が正常状態とほぼ同じように非常に減少することを示している。
【0046】
また、
図19は、エレウテロシドBがBBBを通過するというLC-MS/MSの定量結果であって、30分内に約80ppbの薬物が脳に吸収されることを意味し、これは、エレウテロシドBがアルツハイマー病の遺伝子改変マウスの脳に吸収されて星状膠細胞とミクログリア細胞との活性抑制を通じた炎症抑制として認識改善の結果をもたらすことができるという強力な証拠である。
【0047】
一方、薬学的組成物として製造するために、通常の適切な担体、賦形剤、及び希釈剤をさらに含みうる。また、通常の方法によって、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアロゾルなどの経口型剤型、外用剤、坐剤、及び滅菌注射溶液の形態で剤形化して使われる。
【0048】
前記組成物に含まれる担体、賦形剤、及び希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルギン酸、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、非晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、及び鉱物油などがある。前記組成物を製剤化する場合には、通常の充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を使用して調剤される。
【0049】
本発明による薬学的組成物は、薬学的に有効な量で投与することができる。本発明において、「薬学的に有効な量」は、医学的治療に適用可能な合理的な恵み/危険の比率で疾患の治療に十分な量を意味し、有効容量レベルは、患者の疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路及び排出比率、治療期間、同時使われる薬物を含む要素、及びその他の医学分野によく知られた要素によって決定される。
【0050】
本発明による薬学的組成物は、治療効果を増進させるために、望ましくは、併用される薬物と同時に(simultaneous)、別途に(separate)、または順次(sequential)に投与され、単一または多重投与される。前記要素をいずれも考慮して副作用なしに最小限の量で最大効果が得られる量を投与することが重要であり、これは、当業者によって容易に決定される。具体的に、本発明による薬学的組成物の有効量は、患者の年齢、性別、状態、体重、体内で活性成分の吸収度、不活性率及び排泄速度、疾病の種類、併用される薬物によって変わりうる。
【0051】
本発明の薬学的組成物は、個体に多様な経路で投与される。投与のあらゆる方式は、予想されるが、例えば、経口投与、鼻腔内投与、経気管支投与、動脈注射、静脈注射、皮下注射、筋肉注射、または腹腔内注射によって投与される。一日投与量は、一日一回ないし数回分けて投与することが望ましいが、これに制限されるものではない。
【0052】
本発明の薬学的組成物は、治療する疾患、投与経路、患者の年齢、性別、体重、及び疾患の中等度などの多様な関連因子と共に、活性成分である薬物の種類によって決定される。
【0053】
本発明の他の態様として、本発明は、前記薬学的組成物を個体に投与する段階を含む神経炎症の抑制方法を提供する。本発明において、「個体」とは、疾病の治療を必要とする対象を意味し、より具体的には、ヒトまたは非ヒトである霊長類、マウス(mouse)、犬、猫、馬、及び牛などの哺乳類を意味する。
【0054】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳しく説明する。これらの実施例は、単に本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の要旨によって、本発明の範囲が、これらの実施例によって制限されないということは当業者にとって自明である。
【0055】
実施例1:星状膠細胞の培養
生まれてから1~2日になったラットの脳を摘出して大脳皮質から分離して培養した。すなわち、マウス皮質を10% FBS及びペニシリン-ストレプトマイシン溶液(5000単位/mlのペニシリン、5mg/mlのストレプトマイシン、Corning、USA)を含有する高ブドウ糖DMEM培地で単一細胞で分注し、75-cm2Tフラスコ(0.5半球/フラスコ)で5% CO2、37℃の細胞培養器で培養した。
【0056】
培養1週間後、250rpmで4時間振ってミクログリア細胞を除去し、培養された星状膠細胞は、0.1%トリプシンを使用して収穫して星状膠細胞個体群を得た。星状膠細胞は、Poly-D-Lysine(Sigma)であらかじめコーティングされた6ウェルプレートで培養した。
【0057】
実施例2:ミクログリア細胞の培養
BV2細胞は、10% FBS及びペニシリン-ストレプトマイシン溶液(5000単位/mlのペニシリン、5mg/mlのストレプトマイシン、Corning、USA)を含有する高ブドウ糖DMEM培地を用いて5% CO2、37℃の細胞培養器で週3回継代培養して使用した。
【0058】
培養されたBV2細胞は、0.1%トリプシンを使用して収穫して個体群を得て、Poly-D-Lysine(Sigma)であらかじめコーティングされた96ウェルプレートで培養した。
【0059】
実施例3:In-vitro脳疾患細胞の培養
In-vitro脳疾患モデルは、ハンチントン病の遺伝子改変マウスであるB6;SJL-Tg(APPSWE)2576Khaを使用した。遺伝子改変newbornマウスのsubventricular zone(SVZ)組織から神経幹細胞を分離し、neurosphereを培養した。そして、neurosphereを5% FBS+F12/DMEM培地で48時間細胞が底面に付くように誘導し、分化能の観察のために、細胞に5% BS+F12/DMEM培地にエレウテロシドBを入れて神経突起の活性を顕微鏡で観察した。また、neuroblastであるNeuro-2a細胞株を利用した神経細胞の分化能を確認した。分化の確認のために、神経分化マーカーであるDCX、Tuj1、neuroD、NeuNなどをqPCRで確認した。
【0060】
実施例4:エレウテロシドBのミクログリア細胞に対する細胞毒性の有無の確認
エレウテロシドBの細胞毒性(cytotoxicity)の有無を確認するために、BV2細胞(3X105 cells/well)を96-well culture plateに24時間培養した後、多様な濃度のエレウテロシドBを処理した後、24時間培養した。24時間後、培地を除去し、WST-8[2-(2-methoxy-4-nitrophenyl)-3-(4-nitrophenyl)-5-(2,4-disulfophenyl)-2H-tetrazolium(Cell Counting Kit-8(CCK-8)、dojindo)]を100uL/mLの濃度で添加して1時間培養しながら還元反応を誘導した後、吸光度(450nm)を測定し、エレウテロシドBの処理群と処理されていない対照群とを用いて細胞生存率(%)(生存率(%)=(処理群-negative control)/(positive control-negative control)x100)を計算した。エレウテロシドBは、40uMで細胞毒性が表われるという報告によって40uMから1/2希釈して150nMまで生存率を確認した。
【0061】
その結果、20uMで92±13.3%、40uMで88±24.8%(平均±標準偏差)の生存率を示し、生存率が減少する傾向を示した。したがって、有効濃度の100倍以上安全性を確認することができた(
図1)。
【0062】
実施例5:エレウテロシドB処理による星状膠細胞の活性抑制効果の検証
星状膠細胞は、primary cultureを生後1~3日以内pupの脳から分離して使用し、分離された星状膠細胞にLPSを処理してIL-6発現になる最低濃度で処理した。薬物の処理は、LPSと同時に進行し、星状膠細胞の活性度は、増殖細胞数とモルフォロジー(morphology)変化とを通じて評価した(
図2)。
【0063】
そして、星状膠細胞にLPSで星状膠細胞の活性化を通じた神経炎症誘導後、薬物処理前後の代表的なGFAP蛍光強度を
図3に示した。
【0064】
図3から見るように、星状膠細胞にLPSで星状膠細胞の活性化を通じた神経炎症誘導後、エレウテロシドB 0.01μg処理後には、controlとほぼ同じ強度に活性化が減って炎症が抑制されたことを確認することができる。この星状膠細胞の活性化の抑制を通じた炎症反応調節を定量するために、増殖された細胞数、細胞面積、GFAP蛍光強度に区分してhigh content imagingを分析し、その結果を
図4に示した。
【0065】
図4から見るように、エレウテロシドBの1~10nMの薬物濃度でLPSによる星状膠細胞の活性後、処理はLPS活性と比較して細胞増殖を示し、細胞面積及びGFAPの強度が減少した。しかし、現在、アルツハイマー病の薬物として使われているドネペジルの1~10nMの薬物濃度の場合には、LPS活性と比較して約10%の細胞死が観察され、細胞の面積が増加し、GFAPの強度がほぼ同じか、若干の増加が観察された。これは、星状膠細胞の活性化で誘導された炎症が現在アルツハイマー病の薬物として使われるドネペジルとしては調節されないが、エレウテロシドBは、炎症を緩和させることができるということを示すものである。
【0066】
前記効果をさらに正確に研究するために、星状膠細胞の活性抑制効果と共に、サイトカインの分泌を同時に観察した。LPSと薬物処理24時間後、条件培地を集めてpro-inflammatoryサイトカイン(TNFα)とanti-inflammatoryサイトカイン(IL-10)との変化を調査した。
【0067】
これらのサイトカインの分泌を同時に観察するために、マルチプレクシング方法を使用して、pg/mL単位で測定し、その結果を
図5に示した。
【0068】
図5のマルチプレクシング結果から見るように、controlでLPSによるサイトカインの増加が観察され、anti-inflammatoryサイトカインIL-10は、増加したが、pro-inflammatoryサイトカインTNF-α分泌は、減少したことが分かった。
【0069】
これにより、エレウテロシドBは、anti-inflammatoryサイトカインの分泌を増加させ、pro-inflammatoryサイトカインの分泌を抑制して炎症を調節することが分かり、相対的にドネペジルは影響を及ぼさないということが分かった。
【0070】
実施例6:エレウテロシドB処理によるミクログリア細胞の活性抑制効果の検証
ミクログリア細胞cell lineであるBV2細胞にLPSを処理してミクログリア細胞の活性を誘導して炎症を誘発し、1~0.1nMの濃度でエレウテロシドBを処理した。エレウテロシドB処理24時間後の増殖数とモルフォロジー変化とを定量化し、ミクログリア細胞の活性程度は、Iba1の蛍光強度を通じて活性を検証した(
図6)。
【0071】
そして、LPSでミクログリア細胞の活性を通じた神経炎症誘導後、薬物処理前後の代表的なlba1蛍光強度を
図7に示した。
図7から示されるように、ミクログリア細胞にLPSで活性を誘導した後、エレウテロシドB 10nM処理後には、controlとほぼ同じ強度に活性が減ったものと見る時、炎症が抑制されるということを確認することができた。
【0072】
一方、より精密な方法でエレウテロシドBのミクログリア細胞の活性抑制を通じた炎症反応調節を確認するために、増殖された細胞数、Iba1の蛍光強度に区分してhigh content imagingを分析し、その結果を
図8に示した。
【0073】
図8から示されるように、ミクログリア細胞にLPSで処理後、細胞数の減少及びlba1の蛍光強度も増加してミクログリア細胞の活性化パターンを示した。しかし、エレウテロシドB処理後、細胞数が増加し、lba1の蛍光強度の減少が観察された。
【0074】
これは、エレウテロシドBがミクログリア細胞の活性を調節することができるという強力な証拠であって、エレウテロシドBによってミクログリア細胞の活性調節を通じた炎症を緩和することができるということが分かった。
【0075】
前記効果をさらに正確に立証するために、ミクログリア細胞の活性抑制効果と共に、サイトカインの分泌を同時に観察した。サイトカインの変化検証のために、ミクログリア細胞にLPSと薬物処理24時間後、条件培地を集めてpro-inflammatory cytokine(TNFα)とanti-inflammatory cytokine(IL-10)との変化を共に調査し、その結果を
図9に示した。
【0076】
図9から示されるように、ミクログリア細胞にLPSで活性を誘導した後、エレウテロシドBとドネペジルとを処理した後、条件培地を用いてマルチプレクシングした結果、anti-inflammatoryサイトカインIL-10の増加を確認することができたが、pro-inflammatoryサイトカインTNF-αは、有意な減少を確認することができなかった。
【0077】
したがって、エレウテロシドBは、ミクログリア細胞でもanti-inflammatoryサイトカインの増加を通じて炎症を調節するものと見られ、ドネペジルの場合には、サイトカインの分泌に影響を及ぼすことができないというが分かった。
【0078】
実施例7:エレウテロシドB処理による神経幹細胞から神経突起の活性確認
エレウテロシドB処理による神経幹細胞から神経突起の活性を確認するために、in-vitro脳疾患モデルは、退行性脳疾患遺伝子改変マウスであるB6;SJL-Tg(APPSWE)2576Khaを使用した。遺伝子改変newbornマウスのsubventricular zone(SVZ)組織から神経幹細胞を分離し、neurosphere培養を通じて実験に使用する細胞の数を確保した。
【0079】
Neurosphereを5% FBS+F12/DMEM培地で48時間細胞が底面に付くように誘導し、分化能の観察のために、細胞に5% BS+F12/DMEM培地にエレウテロシドBを処理して神経突起の活性を確認し、その結果を
図10に示した。
【0080】
図10に示すように、controlではほとんど神経突起を見ることができないものに比べて0.01μg/mLと1μg/mLとのエレウテロシドBを処理したものは、神経突起が増加したと表われて、エレウテロシドBは、神経突起の活性化を誘導することが分かった。
【0081】
それをより分子レベルで解釈するために、神経分化マーカー(Sox2、Nestin、NeuroD、DCX、Tuj-1、NeuN)のRNA分析を実施し、その結果を
図11に示した。
【0082】
神経分化マーカーの確認時に、Neuro-2aであるneuroblast細胞株を使用し、アメーバ形態の中期細胞の形状が薬物によって神経細胞に分化されるか、qPCRで分化を確認した。
図11から示されるように、神経分化マーカー中でも、expansion phaseを示すsox2とnestine、そして、differentiation phaseを示すneuroD、そして、integrationphaseを示すneuNは、controlに比べて相当な増加を示し、differentiationを示すDCX、Tuj1は、controlに比べて小幅の上昇を示した。
【0083】
これによりエレウテロシドBの投与が、神経突起の活性と神経細胞の分化とを促進するということが分かった。
【0084】
実施例8:エレウテロシドB処理によるin-vivo効能の確認
前記実施例4ないし実施例7のin-vitroの結果に基づいてアルツハイマー病の動物モデルマウスを用いてin-vivoでの効能を確認した。
【0085】
アルツハイマー病の動物モデルマウスである5XFADは、アミロイドタンパク質が2.5ヶ月から沈着され、6ヶ月から認知機能が損傷する。これにより、4ヶ月から週2回エレウテロシドB(vehicle、50または150mg/kg)を腹腔投与し、認知機能が損傷する6ヶ月に作業記憶能力を測定した。実験群は、TGと同じ年齢のWT+vehicle、TG+vehicle、TG+50mg/kg(TG_E.B(L))、TG+150mg/kg(TG_E.B(H))で各3匹ずつ進行した。
【0086】
作業記憶能力は、Y-mazeで測定し、迷路実験の遂行前日、迷路に対する事前適応訓練を行った。作業記憶遂行は、Y字状の迷路で8分間3個の通路を順次に移動し、以前通路への移動を記憶するかを確認し、3個の通路を順次に交差した比率を計算して認知機能の損傷程度を確認した。
【0087】
図12から見るように、アルツハイマー病の動物モデルにエレウテロシドBを処理した群でcontrolとほぼ同じ驚くべき認知能力の向上の結果を示した。
【0088】
認知能力の向上に対する病理変化を確認するために、心臓を通じて灌流(perfusion)して血液を除去した。血液が除去された脳は、4%パラホルムアルデヒドに一日固定後、パラフィンブロックで製作及び4μmに組織切片に作って組織染色を行い、アルツハイマー病で主要損傷部位である海馬のdentate gyrus、CA1、CA3領域とentorhinal cortex領域とを中心に共焦点顕微鏡で星状膠細胞(GFAP)及びミクログリア細胞(Iba 1)の活性を測定した。
【0089】
その結果、
図13でのように、エレウテロシドBを投与した群で星状膠細胞の活性程度を示すGFAPの蛍光強度が正常状態と類似しているか、さらに低くパターンを示すと観察された。それを定量的に数値化するために、MetaMorphプログラムを用いて活性の面積を数値化した後、平均値で
図14と
図15とに示した。
図14から見るように、エレウテロシドBを投与した群で投与量に比例して星状膠細胞の活性度が海馬の全領域で驚く程度に正常細胞と類似しているか、さらに低く阻害するということを示しているものであって、炎症が抑制され、特に、認知能力で最も重要な海馬のCA1の炎症が非常に減少することを観察することができた(
図15)。
【0090】
また、ミクログリア細胞も、
図16のように、エレウテロシドBを投与した群でミクログリア細胞の活性程度を示すIba 1の蛍光強度がアルツハイマー病の動物モデルよりも低く表われるパターンが観察され、それを定量化した
図17のように、エレウテロシドBを投与した群で海馬の全領域でアルツハイマー病の動物モデルよりもミクログリア細胞の活性度を阻害することにより、炎症が抑制され、その中でも、星状膠細胞と同様に認知能力に非常に重要な海馬のCA1の炎症が正常状態とほぼ同じように非常に減少することを観察することができた(
図18)。
【0091】
実施例9:エレウテロシドBのBBB通過の確認
エレウテロシドBを通過することができるかを確認するために、質量分析法を使用して脳のエレウテロシドBの量を測定した。使用したラットは、それぞれ3匹であって、5XFADのWildtypeであるB6SJLを使用した。投与は、300mgに腹腔投与し、投与30分後、ラットの脳を分離した。分離された脳は、エタノール1mLでホモジナイザーを用いてエレウテロシドBを抽出し、speedvacを通じて濃縮した。濃縮された試料は、Sep-pak catrige C18を用いて不純物を除去し、80%エタノール1mLでエレウテロシドBを溶出した。溶出された試料は、speedvacを用いて濃縮し、LC-MS/MSを用いて分析した。HPLCに使われたcolumnは、Agilent社のZorbox SB-C18(1.8μm×2.1mm)5cmを使用し、移動相は、0.1% ammonium hydroxide(in water、A)とacetonitrile(B)とを用いてgradient program(5~90% B、20min)を用いて0.4mL/minで分離した。質量分析器は、triple quadrupoleを使用し、negativeのMRM modeとして371/209(molecular ion/daughter ion)を用いて定量した。検量線は、絶対検量線法を利用した。測定された濃度を
図19に示した。
図19から見るように、controlは、ほとんど数ppbで検出になった一方、エレウテロシドBを腹腔投与したラットは、平均80ppbであって、エレウテロシドBが30分内に効率的にBBBを通過すると調査された。したがって、前記実施例8と連携してエレウテロシドBは、BBBを通過して星状膠細胞及びミクログリア細胞の活性調節を通じて炎症を緩和し、特に、認知能力の向上に非常に重要な海馬のCA1領域で炎症を抑制することにより、正常状態とほぼ類似している認知能力の向上を示すということが分かった。
【0092】
前記実験の結果を通じて、本発明によるエレウテロシドBを有効成分として含む薬学的組成物は、投与後、BBBを通過して脳の活性ミクログリア細胞及び活性星状膠細胞の活性を効果的に抑制し、anti-inflammatoryサイトカインの分泌を増加またはpro-inflammatoryサイトカインの減少として炎症を抑制することにより、脳神経細胞に及ぼす損傷を保護することができ、神経幹細胞内の神経突起を活性化し、神経幹細胞で神経細胞の分化を促進することにより、退行性神経疾患を予防または治療することができる効果を有するということが分かった。
【0093】
以上、本発明の内容の特定の部分を詳しく記述したところ、当業者にとって、このような具体的な記述は、単に望ましい実施形態に過ぎず、これにより、本発明の範囲が制限されるものではないという点は明白である。したがって、本発明の実質的な範囲は、特許請求の範囲とそれらの等価物とによって定義される。
【国際調査報告】