(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-28
(54)【発明の名称】標的タンパク質の高収率の精製方法
(51)【国際特許分類】
C07K 1/14 20060101AFI20240220BHJP
C12N 5/07 20100101ALI20240220BHJP
【FI】
C07K1/14
C12N5/07
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023552233
(86)(22)【出願日】2022-01-25
(85)【翻訳文提出日】2023-10-18
(86)【国際出願番号】 KR2022001307
(87)【国際公開番号】W WO2022182003
(87)【国際公開日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】10-2021-0026617
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】519038714
【氏名又は名称】エスケー バイオサイエンス カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】キム, ハク
(72)【発明者】
【氏名】クォン, テウ
(72)【発明者】
【氏名】ソ, キ‐ウォン
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC14
4B065BD15
4B065BD16
4B065CA44
4B065CA46
4B065CA60
4H045AA10
4H045AA20
4H045BA61
4H045CA53
4H045DA50
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA71
4H045GA01
4H045GA15
(57)【要約】
本発明は、高収率で標的タンパク質を精製するための方法に関する。より詳細には、本発明は、高収率で膜タンパク質を精製するための方法に関する。本発明の精製方法は、膜タンパク質の分離及び精製のプロセスの間の粉砕及び溶出条件を最適化し、これを使用して膜タンパク質を精製する場合、膜タンパク質は、従来のホモジナイザー又は音波破砕を使用することによって膜タンパク質を精製する場合の100倍以上高い収率で精製され得る。また、本発明の精製方法を使用することによって膜タンパク質を精製する場合、核、ペルオキシソーム、及びリソソームが除去され、それによってDNA混入、及びプロテアーゼによるタンパク質損傷が減少する。したがって、本発明を有用に使用して、膜タンパク質を精製し得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的タンパク質を精製するための方法であって、
i)ソニケーター、ホモジナイザー、又はマイクロフルイダイザーを使用して、細胞を破砕するステップ;
ii)細胞膜画分を得るステップ;
iii)前記ソニケーター、前記ホモジナイザー、又は前記マイクロフルイダイザーを使用して、前記細胞膜画分を破砕するステップ;及び
iv)前記標的タンパク質を分離させるステップ
を含む、方法。
【請求項2】
ステップi)において、前記マイクロフルイダイザーが3,500psi~6,000psiの圧力で1回~7回繰り返し行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップii)において、前記細胞膜画分が分画遠心分離によって得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記分画遠心分離が、一次遠心分離及び二次遠心分離によって2回行われる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記一次遠心分離が8,000×g~11,000×gの速度で行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記二次遠心分離が140,000×g~160,000×gの速度で行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
ステップiii)において、前記マイクロフルイダイザーが15,000psi~25,000psiの圧力で3回~7回繰り返し行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ステップiii)において、界面活性剤を含む抽出バッファーが前記細胞膜画分に加えられる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記界面活性剤が、SDS、トリトンX-100、ノニデットP-40、オクチル-b-D-グルコピラノシド、n-ドデシル-b-D-マルトシド、及びツヴィッタージェント3-16からなる群から選択されるいずれか1種である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ステップiv)において、分離させる前記ステップが超遠心分離を使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記超遠心分離が80,000×g~120,000×gの速度で行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記標的タンパク質が膜タンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞が動物細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記動物細胞が昆虫細胞である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記昆虫細胞が、イラクサギンウワバのBT1-Tn-5B1-4細胞、マイマイガのLD652Y細胞、ツマジロクサヨトウのSf9細胞、ツマジロクサヨトウのSf21細胞、ショウジョウバエ属のKc1細胞、ショウジョウバエ属のSL2細胞、及び蚊細胞株からなる群から選択されるいずれか1種である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記標的タンパク質を精製するための方法が、ステップi)において、10回~20回ホモジナイゼーションを行うこと;ステップii)において、2,500×g~3,500×gの速度で10分間~30分間一次遠心分離を行い、次いで4,000×g~6,000×gの速度で20分間~40分間二次遠心分離を行うこと;ステップiii)において、3回~7回ホモジナイゼーションを行うこと;及びステップiv)において、4,000×g~6,000×gの速度で20分間~40分間遠心分離を行うことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記標的タンパク質を精製するための方法が、ステップi)において、5分間~30分間ソニケーションを行うこと;ステップii)において、100×g~1,000×gの速度で1分間~3分間一次遠心分離を行い、次いで12,000×g~14,000×gの速度で10分間~20分間二次遠心分離を行うこと;ステップiii)において、10分間~30分間ソニケーションを行うこと;及びステップiv)において、10,000×g~15,000×gの速度で20分間~40分間遠心分離を行うことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
ステップi)において、界面活性剤がさらに処理される、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高収率で標的タンパク質を精製するための方法に関する。より詳細には、本発明は、高収率で膜タンパク質を精製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膜タンパク質は、細胞の内外でシグナルを伝達する重要なタンパク質であり、種々の疾患と関連する。特に、膜タンパク質は細胞の内外でイオン濃度の差を発生させるか、又はATP合成に使用され、神経細胞又は筋細胞における電気シグナルの発生及び伝達に関与する。特に、膜タンパク質は、活性医薬成分の主な標的であり、最近開発されている治療用モノクローナル抗体の標的でもある。
【0003】
最新の多数の膜タンパク質が依然として未知であり、膜タンパク質の特徴及び機能を明らかにするために調査が必要である。しかしながら、膜タンパク質は、細胞質に存在するタンパク質よりも高い疎水性を有し、脂質二重層に存在するので、抽出及び精製は容易ではなく、関連する調査の進行は遅い。膜タンパク質関連調査において、細胞膜に存在する膜タンパク質自体の量が非常に少なく、膜タンパク質が存在する細胞膜が多量の脂質及び糖を有し、そのため膜タンパク質を精製するのが困難であるという制限がある。
【0004】
現在は、Molloyらによって、膜タンパク質を分離及び精製するための方法として、ディタージェントを使用して膜タンパク質を抽出するための方法が開発されており、尿素、チオ尿素、CHAPS等を使用することによる3段階抽出方法によって特徴づけられる。Molloyらによる方法によれば、細胞又は組織が粉砕され、遠心分離を通して上清が除去され、膜タンパク質を含む沈殿物が収集され、ディタージェントを使用することによって脂質層又は細胞壁に結合した膜タンパク質が抽出される。この方法で主に使用されるディタージェントとしては、トリトンX100、ノニデットP-40(NP-40)、4-オクチルベンゾイルアミドスルホベタイン(amidosulfobetine)、ASB14等が挙げられる。また、膜を分離及び精製するための別の方法は、試料を遠心分離することである。この方法において、細胞を粉砕及び遠心分離して、膜画分を分離させる。この方法の不利な点は、さらなる確認プロセスが必要であり、長い時間がかかることである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M.Walid Qoronflehら、J Biomed Biotechnol.、2003年10月29日;2003(4):249~255頁
【発明の概要】
【0006】
[技術的問題]
また、標識及びクロマトグラフィー方法、pHで異なる特徴を有する限外濾過によってタンパク質を選択的に濃縮するための方法、樹脂を使用すること及び分離されたリン酸ペプチドを濃縮することによってリン酸ペプチドを非リン酸ペプチドから分離させるための方法、並びにガラスビーズを使用した相分配によって膜タンパク質を選択的に濃縮するための方法が公知である(M.Walid Qoronflehら、J.Biomed Biotechnol.、2003年10月29日;2003(4):249~255頁)。しかしながら、関連技術の膜タンパク質分離及び精製技術は、十分な収率をもたらしていない。したがって、高い効率で膜タンパク質を分離及び精製するための技術に関する調査及び開発の必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明者らは、高い効率で膜タンパク質を分離及び精製するための技術を研究して開発し、結果として、最適な破砕及び溶出条件を確立し、上述の条件を使用して膜タンパク質を分離及び精製した場合に高収率で膜タンパク質を得られることを見出し、それによって本発明を完成させた。
【0008】
上述の目的を達成するために、本発明の一態様は、標的タンパク質を精製するための方法であって、i)ソニケーター、ホモジナイザー、又はマイクロフルイダイザーを使用して、細胞を破砕するステップ;ii)細胞膜画分を得るステップ;iii)ソニケーター、ホモジナイザー、又はマイクロフルイダイザーを使用して、細胞膜画分を破砕するステップ;及びiv)標的タンパク質を分離させるステップを含む、方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の精製方法は、膜タンパク質を分離及び精製するプロセスの間に、最適化された破砕及び溶出条件を有し、本発明の精製方法を使用して膜タンパク質を精製させる場合、膜タンパク質は、従来のホモジナイザー又はソニケーションを使用することによって膜タンパク質を精製する場合よりも少なくとも100倍高い収率で精製され得る。また、本発明の精製方法を使用することによって膜タンパク質を精製する場合、核、ペルオキシソーム及びリソソームが除去され、そのためDNA混入、及びプロテアーゼによるタンパク質損傷が減少し得る。したがって、本発明を効果的に使用して、膜タンパク質を精製し得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】膜タンパク質を分離及び精製するプロセスにおける破砕及び溶出条件を最適化するステップを説明する概略図である。
【
図2】ホモジナイザーを使用することによる破砕及び溶出実験の結果を示す図である。
【
図3】ソニケーターを使用することによる破砕及び溶出実験の結果を示す図である。
【
図4】マイクロフルイダイザーを使用することによる破砕及び溶出実験の結果を示す図である。
【
図5】ホモジナイザー、ソニケーター、及びマイクロフルイダイザーを使用することによる破砕及び溶出実験の結果の比較を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0012】
本発明の一態様は、標的タンパク質を精製するための方法であって、i)ソニケーター、ホモジナイザー、又はマイクロフルイダイザーを使用して、細胞を破砕するステップ;ii)細胞膜画分を得るステップ;iii)ソニケーター、ホモジナイザー、又はマイクロフルイダイザーを使用して、細胞膜画分を破砕するステップ;及びiv)標的タンパク質を分離させるステップを含む、方法を提供する。
【0013】
ホモジナイザー、ソニケーター、又はマイクロフルイダイザーは、化学抽出がより効率的に進行し得るように、膜画分を物理的に破砕し得る。一般的な化学抽出の場合、少量の細胞ペレット又は膜画分をピペッティング等によって破砕し、次いで予め決定された時間及び温度で、撹拌、振とう、揺動等をしながら培養するが、大量の細胞ペレット又は膜画分からタンパク質を抽出する場合、ピペッティングを単独で使用することによってそれらを破砕することは難しく、抽出効率が低下する。この場合、ホモジナイザー、ソニケーター、又はマイクロフルイダイザーの適用によって破砕が非常に小さいサイズに均質化され、そのため抽出効率が増大し、培養時間が減少し、それによって標的タンパク質がより効率的に得られる。
【0014】
マイクロフルイダイザーを使用することによって標的タンパク質を精製するための方法
ステップi)において、マイクロフルイダイザーは3,500psi~6,000psiの圧力で1回~7回繰り返し行われ得る。特に、ステップi)において、マイクロフルイダイザーは3,500psi~6,000psi、3,800psi~5,700psi、4,100psi~5,400psi、又は4,400psi~5,100psiの圧力で行われ得る。また、ステップi)において、マイクロフルイダイザーは1回~7回、2回~6回、又は3回~5回繰り返し行われ得る。本発明の一実施形態では、ステップi)において、マイクロフルイダイザーは5,000psiの圧力で3回~5回繰り返し行われた。
【0015】
ステップi)において、細胞破砕の間に、界面活性剤を含まない溶解バッファーが使用され得る。ステップi)において、細胞破砕の間に溶解バッファーに界面活性剤が含まれる場合、核膜が破裂し、DNAが漏出し、それによって純粋な標的タンパク質を分離させることが難しくなる。また、標的タンパク質は、エンドソーム、リソソーム等の膜の破裂によって漏出したプロテアーゼによって損傷され得る。
【0016】
特に、ステップi)において、界面活性剤を含まない溶解バッファーを使用し得、これはトリス、EDTA、NaCl、及びプロテアーゼ阻害剤を含み得る。本発明の一実施形態では、25mMトリス、1mM EDTA、100mM NaCl及びプロテアーゼ阻害剤を含み、pH8.5を有する溶液が、細胞破砕の間に、界面活性剤を含まない溶解バッファーとして使用された。
【0017】
ステップii)において、細胞膜画分は分画遠心分離によって得られ得る。分画遠心分離は、一次遠心分離及び二次遠心分離によって2回行われ得る。一次遠心分離は8,000×g~11,000×gの速度で行われ得る。特に、一次遠心分離は8,000×g~11,000×g、8,500×g~10,500×g、又は9,000×g~10,000×gの速度で行われ得る。本発明の一実施形態では、一次遠心分離は、9,500×g、5分間、及び4℃の条件で行われた。二次遠心分離は、140,000×g~160,000×gの速度で行われ得る。特に、二次遠心分離は、140,000×g~160,000×g、141,000×g~159,000×g、142,000×g~158,000×g、143,000×g~157,000×g、144,000×g~156,000×g、145,000×g~155,000×g、146,000×g~154,000×g、147,000×g~153,000×g、148,000×g~152,000×g、又は149,000×g~151,000×gの速度で行われ得る。本発明の一実施形態では、二次遠心分離は、150,000×g、90分間、及び4℃の条件で行われた。
【0018】
ステップiii)において、マイクロフルイダイザーは、15,000psi~25,000psiの圧力で3回~7回繰り返し行われ得る。特に、ステップiii)において、マイクロフルイダイザーは、15,000psi~25,000psi、16,000psi~24,000psi、17,000psi~23,000psi、18,000psi~22,000psi、又は19,000psi~21,000psiの圧力で行われ得る。また、ステップiii)において、マイクロフルイダイザーは、3回~7回又は4回~6回繰り返し行われ得る。本発明の一実施形態では、ステップiii)において、マイクロフルイダイザーは、20,000psiの圧力で5回繰り返し行われた。
【0019】
ステップiii)において、界面活性剤を含む抽出バッファーが細胞膜画分に加えられ得る。ステップiii)において、界面活性剤がない場合、膜画分は再度破砕され得るのみで、膜タンパク質は抽出され得ない。この場合、マイクロフルイダイザーの役割は、膜画分をナノ粒子のサイズで非常に小さく且つ均質に破砕することであり、そのため界面活性剤は膜を効率的に可溶化して、膜タンパク質を抽出し得る。
【0020】
特に、膜タンパク質は疎水性を有し、そのため水溶液に溶解しないが、同様に疎水性である膜に埋め込まれる。膜画分は膜及び膜タンパク質が小塊として塊になる状態であり、この状態で、界面活性剤が処理されても、膜画分小塊の表面のみが可溶化され、そのため効率的な抽出は行われ得ない。マイクロフルイダイザーを使用すると、膜は、ナノサイズの断片に細かく、且つ均等に破砕され得、界面活性剤が作用し得る表面積は増大し、そのため抽出が効率的に行われ得る。
【0021】
界面活性剤は、SDS、トリトンX-100、ノニデットP-40、オクチル-b-D-グルコピラノシド、n-ドデシル-b-D-マルトシド、及びツヴィッタージェント(Zwittergent)3-16からなる群から選択されるいずれか1種であり得る。特に、界面活性剤を含む溶解バッファーは、トリス、トリトンX-100、NaCl、EDTA、及びプロテアーゼ阻害剤を含み得る。本発明の一実施形態では、25mMトリス、1%トリトンX-100、40mM NaCl、1mM EDTA、及びプロテアーゼ阻害剤を含み、pH8.5を有する溶液が、細胞膜画分の破砕の間に、界面活性剤を含む溶解バッファーとして使用された。
【0022】
ステップiv)において、超遠心分離を使用して標的タンパク質を分離し得る。超遠心分離は、80,000×g~120,000×gの速度で30分間~90分間行われ得る。特に、超遠心分離は、80,000×g~120,000×g、85,000×g~115,000×g、90,000×g~110,000×g、又は95,000×g~105,000×gの速度で、30分間、40分間、50分間、60分間、70分間、80分間、又は90分間行われ得る。本発明の一実施形態では、超遠心分離は、100,000×g、40分間、及び4℃の条件で行われた。
【0023】
標的タンパク質は、膜タンパク質であり得る。膜タンパク質は、ウイルスのスパイクタンパク質であり得る。特に、膜タンパク質は、中東呼吸器症候群コロナウイルスのスパイクタンパク質であり得る。中東呼吸器症候群コロナウイルスのスパイクタンパク質(MERS-CoV S)はまた、Sタンパク質とも呼ばれ、中東呼吸器症候群コロナウイルスの表面糖タンパク質を意味する。また、スパイクタンパク質は、被覆中東呼吸器症候群コロナウイルス粒子の表面のスパイク又はペプロマーを構成する三量体として発現される糖タンパク質である。
【0024】
細胞は動物細胞であり得る。特に、動物細胞は昆虫細胞であり得、昆虫細胞は、イラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)のBT1-Tn-5B1-4細胞、マイマイガ(Lymantria dispar)のLD652Y細胞、ツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)のSf9細胞、ツマジロクサヨトウのSf21細胞、ショウジョウバエ属(Drosophila)のKc1細胞、ショウジョウバエ属のSL2細胞、及び蚊細胞株からなる群から選択されるいずれか1種であり得る。好ましくは、昆虫細胞は、ツマジロクサヨトウのSf9細胞であり得る。本発明の一実施形態では、ツマジロクサヨトウのSf9細胞が使用された。
【0025】
ホモジナイザーを使用することによって標的タンパク質を精製するための方法
標的タンパク質を精製するための方法は、ステップi)において、10回~20回ホモジナイゼーションを行うこと;ステップii)において、2,500×g~3,500×gの速度で10分間~30分間一次遠心分離を行い、次いで4,000×g~6,000×gの速度で20分間~40分間二次遠心分離を行うこと;ステップiii)において、3回~7回ホモジナイゼーションを行うこと;及びステップiv)において、4,000×g~6,000×gの速度で20分間~40分間遠心分離を行うことを含み得る。
【0026】
ステップi)において、ホモジナイゼーションは、ホモジナイザーを使用することによって、10回~20回行われ得る。特に、ステップi)において、ホモジナイゼーションは、ホモジナイザーを使用することによって、10回、11回、12回、13回、14回、15回、16回、17回、18回、19回、又は20回行われ得る。本発明の一実施形態では、ホモジナイゼーションは、12回行われた。
【0027】
ステップi)において、細胞破砕の間に、界面活性剤を含まない溶解バッファーを使用し得る。特に、界面活性剤を含まない溶解バッファーは、トリス、EDTA、NaCl、及びプロテアーゼ阻害剤を含み得る。本発明の一実施形態では、25mMトリス、1mM EDTA、100mM NaCl及びプロテアーゼ阻害剤を含み、pH8.5を有する溶液が、細胞破砕の間に、界面活性剤を含まない溶解バッファーとして使用された。
【0028】
ステップii)において、細胞膜画分は分画遠心分離によって得られ得る。ステップii)において、細胞膜画分は、2,500×g~3,500×gの速度で10分間~30分間一次遠心分離を行い、次いで4,000×g~6,000×gの速度で20分間~40分間二次遠心分離を行うことによって得られ得る。一次遠心分離は、2,500×g~3,500×g、2,600×g~3,400×g、2,700×g~3,300×g、2,800×g~3,200×g、又は2,900×g~3,100×gの速度で10分間、15分間、20分間、25分間、又は30分間行われ得る。本発明の一実施形態では、一次遠心分離は、3,000×gの速度で20分間行われた。二次遠心分離は、4,000×g~6,000×g、4,400×g~5,900×g、4,800×g~5,800×g、又は5,200×g~5,700×gの速度で20分間、25分間、30分間、35分間、又は40分間行われ得る。本発明の一実施形態では、二次遠心分離は、5,400×gの速度で30分間行われた。
【0029】
ステップiii)において、ホモジナイゼーションは、ホモジナイザーを使用することによって、3回~7回行われ得る。特に、ステップiii)において、ホモジナイゼーションは、ホモジナイザーを使用することによって、3回、4回、5回、6回、又は7回行われ得る。本発明の一実施形態では、ホモジナイゼーションは5回行われた。
【0030】
ステップiii)において、界面活性剤を含む抽出バッファーが細胞膜画分に加えられ得る。界面活性剤は、SDS、トリトンX-100、ノニデットP-40、オクチル-b-D-グルコピラノシド、n-ドデシル-b-D-マルトシド、及びツヴィッタージェント3-16からなる群から選択されるいずれか1種であり得る。特に、界面活性剤を含む溶解バッファーは、トリス、トリトンX-100、NaCl、及びEDTAを含み得る。本発明の一実施形態では、0.5%トリトン100、130mM NaCl、25mMトリス、及び1mM EDTAを含む溶液が、細胞膜画分の破砕の間に、界面活性剤を含む溶解バッファーとして使用された。
【0031】
ステップiv)において、遠心分離は、4,000×g~6,000×gの速度で20分間~40分間行われ得る。遠心分離は、4,000×g~6,000×g、4,400×g~5,900×g、4,800×g~5,800×g、又は5,200×g~5,700×gの速度で20分間、25分間、30分間、35分間、又は40分間行われ得る。本発明の一実施形態では、遠心分離は、5,400×gの速度で30分間行われた。
【0032】
標的タンパク質は、マイクロフルイダイザーを使用することによって標的タンパク質を精製するための方法に記載されたものと同じである。
【0033】
ソニケーターを使用することによって標的タンパク質を精製するための方法
標的タンパク質を精製するための方法は、ステップi)において、5分間~30分間ソニケーションを行うこと;ステップii)において、100×g~1,000×gの速度で1分間~3分間一次遠心分離を行い、次いで12,000×g~14,000×gの速度で10分間~20分間二次遠心分離を行うこと;ステップiii)において、10分間~30分間ソニケーションを行うこと;及びステップiv)において、10,000×g~15,000×gの速度で20分間~40分間遠心分離を行うことを含み得る。
【0034】
ステップi)において、ソニケーションは、ソニケーターによって、5分間~30分間行われ得る。特に、ステップi)において、ソニケーションは、ソニケーターを使用することによって、5分間、10分間、15分間、20分間、25分間又は30分間行われ得る。本発明の一実施形態では、ソニケーションは、20分間行われた。
【0035】
ステップi)において、ソニケーションに低張溶解バッファーを使用し得る。特に、低張溶解バッファーは、トリスバッファーを含み得る。本発明の一実施形態では、10mMトリスバッファーを含み、pH7.5を有する溶液が、細胞破砕の間に低張溶解バッファーとして使用された。この場合、ステップi)における細胞破砕の間に、界面活性剤がさらに処理され得る。
【0036】
ステップii)において、細胞膜画分は分画遠心分離によって得られ得る。ステップii)において、細胞膜画分は、100×g~1,000×gの速度で1分間~3分間一次遠心分離を行い、次いで12,000×g~14,000×gの速度で10分間~20分間二次遠心分離を行うことによって得られ得る。一次遠心分離は、100×g~1,000×g、200×g~900×g、300×g~800×g、又は400×g~700×gの速度で1分間、2分間、又は3分間行われ得る。本発明の一実施形態では、一次遠心分離は、500×gの速度で1分間行われた。二次遠心分離は、12,000×g~14,000×g、12,100×g~13,900×g、12,200×g~13,800×g、12,300×g~13,700×g、12,400×g~13,600×g、12,500×g~13,500×g、12,600×g~13,400×g、12,700×g~13,300×g、12,800×g~13,200×g、又は12,900×g~13,100×gの速度で10分間、15分間、又は20分間行われ得る。本発明の一実施形態では、二次遠心分離は、13,000×gの速度で15分間行われた。
【0037】
ステップiii)において、ソニケーションは、10分間~30分間行われ得る。特に、ステップiii)において、ソニケーションは、ソニケーターを使用することによって、10分間、15分間、20分間、25分間、又は30分間行われ得る。本発明の一実施形態では、ソニケーションは、20分間行われ得る。
【0038】
ステップiii)において、界面活性剤を含む抽出バッファーが細胞膜画分に加えられ得る。界面活性剤は、SDS、トリトンX-100、ノニデットP-40、オクチル-b-D-グルコピラノシド、n-ドデシル-b-D-マルトシド、及びツヴィッタージェント3-16からなる群から選択されるいずれか1種であり得る。特に、界面活性剤を含む溶解バッファーは、トリス、トリトンX-100、NaCl、及びEDTAを含み得る。本発明の一実施形態では、40mMトリス、30mM NaCl、1mM EDTA、1%トリトンX-100を含み、pH7.8を有する溶液が、細胞膜画分の破砕の間に、界面活性剤を含む溶解バッファーとして使用された。
【0039】
ステップiv)において、遠心分離は、10,000×g~15,000×gの速度で20分間~40分間行われ得る。遠心分離は、10,000×g~15,000×g、10,500×g~14,500×g、11,000×g~14,000×g、11,500×g~13,800×g、12,000×g~13,600×g、又は12,500×g~13,400×gの速度で20分間、25分間、30分間、35分間、又は40分間行われ得る。本発明の一実施形態では、遠心分離は、13,000×gの速度で30分間行われた。
【0040】
標的タンパク質は、マイクロフルイダイザーを使用することによって標的タンパク質を精製するための方法に記載されたものと同じである。
【発明の形態】
【0041】
以下、下記の実施例を参照して、本発明をより詳細に記載する。しかしながら、下記の実施例は本発明を説明するためのみであり、本発明の範囲はそれに限定されない。
【0042】
I.膜タンパク質を分離及び精製するプロセスにおける破砕及び溶出条件の最適化
1×106個の細胞/mLの濃度でSf9細胞を培養し、次いで0.1のMOIでMERS-CoV S組換えバキュロウイルスに感染させ、3~5日後に収集した。収集したSf9細胞は、表面で、及び小胞体(ER)膜で、MERS-CoV Sタンパク質を発現していた。収集されたSf9細胞から可能な限り多くの不純物を排除するために、及び細胞膜で発現されるSタンパク質を溶出するために、細胞破砕、遠心分離、及びSタンパク質溶出条件が研究された。
【0043】
この場合、最適な細胞破砕方法を見出すために、ホモジナイゼーション、ソニケーション、及びマイクロフルイダイザー技術を比較及び試験した。破砕された細胞から不純物を除去し、形質膜及びER膜のみを得るために、遠心分離条件実験を行った。また、細胞膜からSタンパク質を溶出させるために、ホモジナイゼーション、ソニケーション、及びマイクロフルイダイザー技術を比較及び試験した(
図1)。
【0044】
実施例1. Sf9細胞調製及び組換えMERS-CoV Sバキュロウイルス接種
実施例1.1. Sf9細胞培養
実験で使用するためのSf9細胞を調製するために、Sf9細胞をまず解凍した。特に、バイアル1つ分のSf9細胞ストックを液体窒素から出し、恒温水槽中、28℃で2分間解凍した。Sf9細胞がほとんど解凍されると、表面を70%エタノールで拭い、安全キャビネット(BSC)に入れた。次いで、Sf9細胞を、室温で、9.0mLの培地を含む15mLファルコンチューブに入れた。
【0045】
125×gで5分間、遠心分離を行った。上清を除去し、細胞ペレットを10mLの培地に再懸濁し、次いで25cm2のフラスコに入れた。フラスコを27℃でインキュベーターに静置し、48時間インキュベートした。48時間後に、培地を除去し、新鮮な10mLの培地を加えた。再び、フラスコを27℃でインキュベーターに静置し、さらに48時間インキュベートした。
【0046】
48時間後に、ピペットの補助を使用することによって、フラスコの底に付着したSf9細胞を剥離させ、15mLの培地を含む75cm2のフラスコに移した。その後、フラスコを27℃でインキュベーターに静置し、さらに72時間インキュベートした。72時間後、ピペットの補助を使用することによって、フラスコの底に付着したSf9細胞を剥離させ、50mLの培地を含むコニカルチューブに移した。
【0047】
血球計数器を使用することによって、バイアルの細胞密度を計算した。最初の細胞濃度が5.0×105個の細胞/mLになるように、50mLの培地を調製し、次いで125mLのスピナーフラスコに移した。スピナーフラスコを、振とうインキュベーター中27℃で48時間、90rpmでインキュベートした。48時間後に、細胞生存率及び細胞濃度を調べた。この場合、細胞濃度が2.0×106~3.0×106個の細胞/mLに達すると、最初の細胞濃度が5.0×105個の細胞/mLに達するように細胞を新鮮な培地に移した。同様にして、2~3日毎に1回培地を新鮮な培地に置換した。
【0048】
実施例1.2 組換えMERS-CoV Sバキュロウイルス接種及び獲得
実施例1.1のSf9細胞を、1.0×106個の細胞/mLの濃度で1Lのスピナーフラスコに播種した。その後、組換えMERS-CoV SバキュロウイルスRWVSSを取り出し、恒温水槽中27℃で2分間解凍した。完全に解凍した組換えMERS-CoV SバキュロウイルスRWVSSを、0.1のMOIでSf9細胞に接種した。3~5日間の接種の後、Sf9細胞を組換えMERS-CoV SバキュロウイルスRWVSSに感染させ、培地とともに収集した。次いで、収集した培地を4℃で15分間、6,000×gで遠心分離し、沈殿させた。
【0049】
実施例2. MERS-CoV Sタンパク質の破砕及び溶出実験
実施例2.1. ホモジナイザーでの実験
実施例1.2で収集したSf9細胞を、加えられた冷たい溶解バッファー(25mMトリス、1mM EDTA、100mM NaCl、pH8.5、及びプロテアーゼ阻害剤)とともに30分間インキュベートし、氷上で冷却し、次いでホモジナイザーを使用することによって、氷上で12回ストロークを行った。その後、20分間4℃及び3,000×gで遠心分離を行った。次いで、ペレットを除去し、上清のみを分離し、4℃及び5,400×gで30分間再び遠心分離した。上清を除去した後、ペレットを収集し、0.5%トリトン100、130mM NaCl、25mMトリス、及び1mM EDTAを含む冷却されたバッファーで処理し、その後ホモジナイザーで5回ストロークを行った。次いで、抽出物を4℃及び5,400×gで30分間遠心分離して、不溶性画分を沈殿させ、上清を採取して可溶性膜画分を得た。
【0050】
得られた画分をサンプリングすることによって、試料を調製した。試料をそれぞれ14μL取り出し、次いでEPチューブに静置した。その後、5μLの4X SDSローディングバッファー及び1μLの2-メルカプトエタノールをEPチューブに加えた。EPチューブを振とうした後、EPチューブを96℃で8分間放置した。8分後に、EPチューブを1分間6,000rpmで遠心沈殿させた。
【0051】
次いで、前処理した試料をそれぞれ15μL、4%~12%勾配PAGEゲルに40分間200ボルトでロードした。この時、8μLの着色タンパク質マーカーをともにロードした。この場合、各レーンにロードされた試料を下記の表1に示す。
【0052】
【0053】
次いで、電気泳動デバイスからゲルを分離させ、ゲルを注意深くプレートから除去し、不要な部分を切除した。転写キット(Thermo Fisher、iBlot2転写スタック、PVDF、通常サイズ(カタログ番号IB24001))を調製し、次いで使用してゲルを膜に転写させた。
【0054】
次いで、20mLの5%スキムミルク溶液をウエスタンブロット容器に加え、膜を加え、膜を20rpmで振とうし、4℃で4時間以上ブロッキングプロセスを行った。
【0055】
15mLの0.05%スキムミルク溶液を15mLのファルコンチューブに加え、一次抗体を1:2,000の比で加えて、一次抗体(Thermofisher#PA5-81786)結合溶液を調製した。ここで一次抗体は、MERS-CoVスパイクタンパク質に特異的に結合するポリクローナル抗体である。
【0056】
ブロッキングプロセスが完了した後の膜をウエスタンブロット容器に移し、15mLの一次抗体結合溶液を加え、膜を、20rpmで振とう機を使用することによって、4℃で少なくとも1時間反応させた。
【0057】
膜を1X PBS-Tバッファーで3回洗浄した。15mLの1X PBS-Tバッファーを15mLのファルコンチューブに加え、HRP標識ヤギ抗ウサギIgG(Abcam#ab205718)である二次抗体を1:5,000の比で加えて、二次抗体結合溶液を調製した。洗浄された膜をウエスタンブロット容器に移し、15mLの、以前作成した二次抗体溶液を加え、20rpmで1時間振とうした。次いで、膜を1X PBS-Tバッファーで3回洗浄した。
【0058】
最後の洗浄ステップにおいて、製造業者の使用説明書に従って、4℃で保存した、カセット、透明なビニール袋、及びECLキット(Thermo Fisher#32134)を行い、カセットカバーを閉めて光を遮断して、暗室でX線フィルムを使用してカセットを露光することによって結果を確認した。
【0059】
結果として、タンパク質は可溶性膜画分として抽出されたが、少量のMERS-CoV Sタンパク質が抽出された。MERS-CoV Sタンパク質のほとんどは溶解せず、ペレットとして沈殿した(
図2)。
【0060】
実施例2.2. ソニケーターでの実験
実施例1.2で収集したSf9細胞を、冷たい低張溶解バッファーに再懸濁した。その後、下記の表2に列挙される6種の条件で破砕実験を行った。
【0061】
【0062】
6種の条件での破砕実験を行った後、Sf9細胞が破砕されたか否かを顕微鏡によって確かめた。結果を下記の表3に示す。
【0063】
【0064】
表3に示されるように、低張溶解バッファーが加えられ、20分間ソニケーションされた場合、破砕は最も良く行われた。3番及び6番の条件の試料は、最も溶解しており、表4に示される2種の条件で遠心分離された。
【0065】
【0066】
2種の条件で分画された試料を、抽出バッファー(40mMトリス、30mM NaCl、1mM EDTA、1%トリトンX-100、pH7.8)の添加に供し、その後20分間のソニケーション、及び溶出に供した。次いで、抽出物を13,000×gで30分間遠心分離した。遠心分離された溶液をサンプリングすることによって、試料を調製した。その後、実施例2.1と同様にウエスタンブロットを行った。抽出プロセスの条件を下記の表5に示す。
【0067】
【0068】
結果として、MERS-CoV Sタンパク質の一部のみが、1%トリトンX-100及び20分間のソニケーションでも溶解及び溶出したが、そのほとんどはペレットとして沈殿した。また、160kDaの辺りの2つのバンドの間で、上のバンドのみが溶解及び溶出し、下のバンドは全く溶出していなかった。上のバンドは糖鎖付加等の翻訳後修飾の後に正常に膜に移動したタンパク質であると推定され、下のバンドは、過剰発現及びタンパク質折り畳みの誤りのために適切に翻訳後修飾に供されないタンパク質であり、溶解せずに凝集体を形成すると推定される(
図3)。
【0069】
また、トリトンX-100の濃度は、既にCMC値を大きく超えており、濃度がタンパク質溶出のために一般に使用される最大濃度に達しているために、さらなる増大は有効であると予想されず、反応温度又は時間の増大は、標的タンパク質であるMERS-CoV Sタンパク質の安定性の低下、及びプロテアーゼによるタンパク質分解の増大のリスクが高いため、試みていない。代わりに、物理的力を増大させることによって溶出をさらに容易にするために、マイクロフルイダイザーを使用することによって、さらなる実験を行った。
【0070】
実施例2.3. マイクロフルイダイザーでの実験
実施例1.2で収集したSf9細胞を、4℃で保存された溶解バッファー(25mMトリス、1mM EDTA、100mM NaCl、プロテアーゼ阻害剤、及びpH8.5)に再懸濁させた。次いで、5,000psiでマイクロフルイダイザーを使用することによって、細胞懸濁液を3回~5回破砕した。
【0071】
細胞溶解物を4℃及び9,500×gで15分間遠心分離して、核、ミトコンドリア、リソソーム、及びペルオキシソームを除去した。次いで、超遠心分離機を4℃及び150,000×gで90分間使用することによって上清を超遠心分離してサイトゾル等を除去して、ペレットを得た(形質膜、ER、及びゴルジ)。
【0072】
得られたペレットを、4℃で保存された抽出バッファー(25mMトリス、1%トリトンX-100、40mM NaCl、1mM EDTA、プロテアーゼ阻害剤、及びpH8.5)に再懸濁させた。20,000psiでマイクロフルイダイザーを使用することによって、膜ペレットを3回~5回破砕した。4℃及び100,000×gで40分間超遠心分離機を使用することによって、破砕された試料を超遠心分離して、上清を得た。
【0073】
上清をサンプリングすることによって、試料を調製した。その後、実施例2.1と同様に、ウエスタンブロットを行った。この場合、各レーンにロードした試料を下記の表6に示す。
【0074】
【0075】
結果として、マイクロフルイダイザー及び分画遠心分離を使用することによって、細胞破砕を通して、核、DNA、小胞体、細胞質タンパク質等が除去され、MERS-CoV Sタンパク質を含む細胞膜画分が適切に溶出したことが確かめられた。また、可溶性MERS-CoV Sタンパク質の溶出もまた、他の方法を使用することと比較して、非常に適切に行われたことが確かめられた。また、
図4に示されるように、右側のウエスタンブロットの結果の場合、大量の標的タンパク質のためにフィルムが焼き切れ、着色部分が白くなる現象があった(
図4の1、2、4、及び5レーンの矢印部分)。したがって、マイクロフルイダイザーを使用した破砕及び溶出実験が、昆虫細胞での標的膜タンパク質の発現を必要とするサブユニットワクチンに有用に適用され得ることが確かめられた。
【0076】
実施例3. 膜タンパク質を分離及び精製するプロセスにおける破砕及び溶出条件の最適化
実施例2.1のホモジナイザー又は実施例2.2のソニケーターを使用することによって細胞が破砕及び溶出される場合、精製の完了後の最終的なタンパク質収率は高くて0.1mg/Lであるが、実施例2.3のマイクロフルイダイザーを使用した場合、最終的なタンパク質収率は、少なくとも100倍、約10mg/Lに増大したことが確かめられた。これを通して、マイクロフルイダイザーを使用することによる細胞破砕及び溶出の方法が最も適切であることが確かめられる(
図5)。
【0077】
特に、マイクロフルイダイザーを使用することによって細胞を破砕及び溶出させる場合、分画遠心分離を使用することによる細胞分画を適用し、それによって純度を向上させることによって、形質膜及び膜結合タンパク質を除くほとんどの異物(細胞溶解物、細胞質タンパク質、核、ミトコンドリア、ペルオキシソーム、リソソーム等)を除去することが有利であり、特に、核、ペルオキシソーム、及びリソソームを除去することによって、DNA混入、及びプロテアーゼによるタンパク質損傷が減少し得ることが確かめられる。
【国際調査報告】