(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-28
(54)【発明の名称】天然繊維材料を含む旅行鞄システムの一部及びその製造及び修復のための方法
(51)【国際特許分類】
A45C 5/02 20060101AFI20240220BHJP
B29C 70/34 20060101ALI20240220BHJP
A45C 5/03 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
A45C5/02 Q
B29C70/34
A45C5/03
A45C5/02 W
A45C5/02 Z
A45C5/02 U
A45C5/02 S
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023552237
(86)(22)【出願日】2022-02-23
(85)【翻訳文提出日】2023-09-21
(86)【国際出願番号】 EP2022054556
(87)【国際公開番号】W WO2022180115
(87)【国際公開日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】102021201835.1
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523325244
【氏名又は名称】エイチエス ニュー トラベル ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100109896
【氏名又は名称】森 友宏
(72)【発明者】
【氏名】ローゼン,ヤン ヘンドリック
(72)【発明者】
【氏名】ブリークニィー,エバレット
(72)【発明者】
【氏名】ラス,イェルク
(72)【発明者】
【氏名】ウィーズナー,ミカエル
【テーマコード(参考)】
3B045
4F205
【Fターム(参考)】
3B045AA02
3B045CE00
3B045FB02
3B045FC02
3B045FC03
3B045FC04
3B045GB01
3B045GC01
3B045GD04
4F205AC03
4F205AD16
4F205AG03
4F205AH71
4F205HA19
4F205HA22
4F205HA35
4F205HB01
4F205HT26
(57)【要約】
本発明は、天然繊維材料を含む旅行鞄システム、特に硬いシェルのケース又はトロリーのシェルの部分に関するものである。本発明は、さらに、そのような部分の製造のための方法及び修復のための方法に関するものである。天然繊維材料及びマトリクス材料を含む繊維強化材料を含む旅行鞄システムの部分が提供される。天然繊維材料は、マトリクス材料に埋まり、さらに/あるいはマトリクス材料が染み込んだ少なくとも1セットの一方向繊維を含む。
【選択図】
図1b
【特許請求の範囲】
【請求項1】
旅行鞄システム、特に硬いシェルのケース又はトロリー(500)のシェル(510;520)の部分(21;31;400)であって、繊維強化材料(100a;100b;100c)を含み、前記繊維強化材料は、
1a.天然繊維材料(110a;110b;110c)と、
1b.マトリクス材料(130a;130b;130c)と
を含み、
1c.前記天然繊維材料は、前記マトリクス材料に埋まり、さらに/あるいは前記マトリクス材料が染み込んだ少なくとも1セット(120a;120b~121b;120c~123c)の一方向繊維を含む、
旅行鞄システムの部分。
【請求項2】
前記天然繊維材料は、前記マトリクス材料に埋まり、さらに/あるいは前記マトリクス材料が染み込んだnセットの一方向繊維を含み、nは1よりも大きな整数であり、前記nセットの一方向繊維は互いに非平行である、請求項1に記載の旅行鞄システムの部分。
【請求項3】
一方向繊維のそれぞれのセットは、それぞれの軸に沿って配置される複数の繊維束及び/又は繊維糸を含む、請求項1又は2に記載の旅行鞄システムの部分。
【請求項4】
n=2であり、前記天然繊維材料は二軸織物として提供される、請求項2又は3に記載の旅行鞄システムの部分。
【請求項5】
前記二軸織物の2つの軸は斜めの角度で交差する、請求項4に記載の旅行鞄システムの部分。
【請求項6】
n=3であり、前記天然繊維材料は三軸織物として提供される、請求項2又は3に記載の旅行鞄システムの部分。
【請求項7】
前記三軸織物の軸のうち少なくとも2つの軸は、60°とは異なる角度で交差する、請求項6に記載の旅行鞄システムの部分。
【請求項8】
前記繊維は連続している、請求項1~7のいずれかに記載の旅行鞄システムの部分。
【請求項9】
前記天然繊維材料は積層織物として提供される、請求項1~8のいずれかに記載の旅行鞄システムの部分。
【請求項10】
各層は、平行に方向付けられた一方向繊維の複数のプライを含む、請求項9に記載の旅行鞄システムの部分。
【請求項11】
前記天然繊維材料は織布として提供される、請求項3と組み合わされる請求項1~8のいずれかに記載の旅行鞄システムの部分。
【請求項12】
前記天然繊維材料は、次の材料:葉繊維、靱皮繊維、又は茎繊維のうち1つ以上の繊維を含む、請求項1~11のいずれかに記載の旅行鞄システムの部分。
【請求項13】
前記天然繊維材料の材料組成は、一方向繊維のあるセット内及び/又は一方向繊維の少なくとも2つのセットの間で変化する、請求項1~12のいずれかに記載の旅行鞄システムの部分。
【請求項14】
1以上の物理的特性、特に前記繊維のゲージ及び/又は前記繊維の質量線密度は、一方向繊維のあるセット内及び/又は一方向繊維の少なくとも2つのセットの間で変化する、請求項1~13のいずれかに記載の旅行鞄システムの部分。
【請求項15】
前記マトリクス材料は生分解可能であり、さらに/あるいはリサイクル材料を含む、請求項1~14のいずれかに記載の旅行鞄システムの部分。
【請求項16】
前記マトリクス材料は、次の材料:無形質、結晶性又は半結晶性の熱硬化性樹脂、無形質、結晶性又は半結晶性の熱可塑性樹脂、又は上述の熱硬化性又は熱可塑性材料のいずれかからなるフィルムあるいはこれらを任意に組み合わせたもののうち1つ以上を含む、請求項1~15のいずれかに記載の旅行鞄システムの部分。
【請求項17】
前記部分はアルミニウムを含まない、請求項1~16のいずれかに記載の旅行鞄システムの部分。
【請求項18】
請求項1~17のいずれかに記載の旅行鞄システムの部分の製造のための方法(200;300)であって、
18a.プリフォームを用意し、
18b.前記プリフォームを加熱し、前記プリフォームを前記部分の意図した形状に対応する寸法を有する型(22;32)に移送し(240;340)、
18c.前記プリフォームが前記部分の前記意図した形状に適合するように、好ましくは圧力を加えつつ、前記型(250;350)を閉じ(260;360)、
18d.好ましくは熱、UV光及び/又は超音波を加えつつ、さらに/あるいは温度及び/又は湿度を変化させつつ、前記プリフォームを硬化するか、硬化させ、
18e.前記型を開いて前記部分を型から取り外す(270;370)
ステップを含む、方法。
【請求項19】
前記プリフォームを用意することは、
19a.一方向天然繊維からなる1以上のプライを用意し(310)、
19b.前記プライを積層して一方向繊維からなる1以上の層の重なりを形成し、各層の前記一方向繊維は、それぞれの軸に沿って配置され(320)、
19c.一方向繊維からなる前記プライ及び/又は前記積層物に未硬化マトリクス材料を付与し、未硬化マトリクス材料が前記天然繊維によって少なくとも部分的に吸収されて前記プリフォームを形成する(330)
ステップを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記プリフォームを用意することは、圧力、熱、UV光及び/又は超音波を加えつつ、前記積層物の中で前記異なるプライ又は層の繊維が交差する又は重なる場所を融解することをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記プリフォームを用意することは、
21a.少なくとも1つの天然繊維材料を多軸織物の形態で供給し(210)、
21b.少なくとも1つの未硬化マトリクス材料をリボン、シート又はフィルムの形態で供給し(210)、
21c.好ましくは熱及び/又は圧力を加えつつ、前記天然繊維材料を前記未硬化マトリクス材料でラミネートし、前記天然繊維材料に少なくとも部分的に前記未硬化マトリクス材料を吸収させて前記プリフォームを形成する(220)
ステップを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
ダメージを受けた請求項1~17のいずれかに記載の旅行鞄システムの部分の修復のための方法であって、
22a.前記部分のダメージを受けた領域に未硬化マトリクス材料を付加し、
22b.前記付加された未硬化マトリクス材料を前記ダメージを受けた領域内の前記天然繊維材料に少なくとも部分的に吸収させ、
22c.前記ダメージを受けた領域圧力を加え、
22d.好ましくは熱、UV光及び/又は超音波を加えつつ、さらに/あるいは温度及び/又は湿度を変化させつつ、前記付加された未硬化マトリクス材料を硬化し、又は硬化させる、
方法。
【請求項23】
ダメージを受けた請求項1~17のいずれかに記載の旅行鞄システムの部分の修復のための方法であって、
23a.前記部分のダメージを受けた領域に未硬化マトリクス材料を付加し、
23b.前記付加された未硬化マトリクス材料を前記ダメージを受けた領域内の前記天然繊維材料に少なくとも部分的に吸収させ、
23c.好ましくは圧力、熱、UV光及び/又は超音波を加えつつ、さらに/あるいは温度及び/又は湿度を変化させつつ、前記付加された未硬化マトリクス材料を硬化し、又は硬化させる、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.技術分野
本発明は、天然繊維材料を含む旅行鞄システム又は旅行鞄システムの部分に関するものであり、特に硬いシェルのケース又はトロリーのシェル又はそのようなシェルの部分に関するものである。本発明は、さらに、そのような旅行鞄システム又は旅行鞄システムの部分の製造のための方法及び修復のための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2.従来技術
合成物質、炭素又はeガラスからなる材料繊維は、旅行鞄の引っ張り安定性、引き裂き安定性及びねじれ安定性のように多くの分野において力を付加できるので、いずれも好適なマトリクス材料中に浮遊する織物パターン及び非織物パターンの形態で、キャリーバッグ業界において数十年にわたって利用されている。これらの複合材料は高いレベルの機械的性能を発揮することができるが、これらは、不十分な加工及び環境的条件によって弱くなったり破損したりしやすい。
【0003】
原因にかかわらず、そのような複合シェル内に欠陥が生じると、そのシェルに対して修復できる可能性はほとんどなく、交換のみが考えられる。壊れたシェル内に複合材料を含む個々の材料は、リサイクルするために、最新技術のリサイクル施設における熱又は機械的又は化学的プロセスを介して個々に分離される必要がある。全世界的に、複合物は、含まれている材料を分離する難しさ、分離を行うために必要なエネルギーの多さ及びそうすることに対する経済的なインセンティブがないことにより、ほとんどリサイクルされていない。
【0004】
既知の複合材料に含まれる材料は、無機物であり、それらの抽出及び加工において環境に大きなダメージを与える可能性があるか、あるいはダメージを与えると既に知られており、それらの寿命の最後は埋め立て地であることがほとんどであることを考えると、旅行鞄業界において世界中で最も強い複合材料についてのライフサイクル分析は、驚くべきほど短く、それらの寿命の開始と終了の両方において環境に対して悪影響を与える。
【0005】
しかしながら、多くの消費者にとっては、エコロジカルな持続可能性が、多くの商品において進展していることを見たいと考える重要な属性となっている。持続可能性と耐久性は合理的なコストでは反対の考えであり、あるものが他のもののため犠牲にならなければならず、これによって常に消費者に妥協を押し付けていると言われることが多い。
【0006】
天然繊維の使用が文献US 3,383,272 Aにおいて考慮されており、この文献は、湾曲部及び非湾曲部を有するモデル化された堅い製品であって、好適なニードリング又はギギング手段により多孔質の絡み合った塊に形成された複数の繊維、特にジュート繊維を含む樹脂含有繊維塊から得られる製品について述べている。
【0007】
より最近では、亜麻繊維及びバイオプラスチックを用いた旅行鞄がデンマークのPROJECTKIN社(ウェブサイト:https://projectkin.com/)により提供されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、既知の構造及び複合材料の安定性及び強度を維持しつつ、従来の旅行鞄システムの環境的な影響を改善する旅行鞄に対する需要が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この問題は、本発明の異なる態様によって取り組まれ、少なくとも部分的に解決される。
【0010】
3.本発明の概要
本発明の第1の態様は、旅行鞄システムの部分、特に硬いシェルのケース又はトロリーのシェル又はシェルの部分に関するものである。
【0011】
一実施形態においては、旅行鞄システムの部分は、繊維強化材料を含み、上記繊維強化材料は、天然繊維材料及びマトリクス材料を含んでいる。上記天然繊維材料は、上記マトリクス材料に埋まり、さらに/あるいは上記マトリクス材料を染み込ませた少なくとも1セットの一方向繊維を含んでいる。
【0012】
本文書の多くの部分を通して、簡略性と簡潔性のために、単に「旅行鞄システムの部分」(又はさらに短く「旅行鞄部分」)に対して言及されるが、そうでないと言及されていない限り、完成した硬いシェルのケース又は完成したトロリーのような旅行鞄システム全体の選択肢も常に含蓄されている。
【0013】
また、既に言及された硬いシェルのケース又はトロリーのシェル又はシェルの部分に加えて、開示されている繊維強化材料は、例えば異なる材料から作られたバッグ又は旅行ケースのある領域において、例えばバッグ又はケースの縁又は角で、あるいは車輪が取り付けられる領域において補強として繊維強化材料を有益に用いることができる他の種類の旅行鞄にも適用され得る。
【0014】
本文書の文脈においては、時として有機繊維材料とも呼ばれる天然繊維材料は、最初に述べたような当該技術において従来から用いられている合成材料又は化学系材料とは異なり、植物又は他の天然物に由来する繊維材料である。そのような材料の具体例が以下で述べられる。
【0015】
一方向繊維のセットは、自然とあるいは例えばニードリング又はギギングによりそのような配置に加工された後に、ランダムに又は無秩序に配置された繊維とは異なり、(例えば、製造時の意図的な配置によって)ある好ましい方向に沿って配置された繊維のセットである。もちろん、実際の製品においては、そのような一方向繊維は、一般的に、「平行」の語を厳密な数学上の意味に解した場合には、上述した好ましい方向と完全に平行に配置されるものではない。例えば、製造プロセス及び/又は繊維の形状における元からの不揃いにより避けられないある程度の偏差は許容されるが、識別可能な「指向性」が繊維の配置に与えられる。したがって、「一方向」という用語が本文書の文脈で使用される場合には、その用語の理解は、関連技術における当業者がその用語に対して自然に理解するものに合致し得るものである。
【0016】
一方向天然繊維の1以上のセットに加えて、天然繊維材料は、任意の種類の配置にある付加的な天然繊維を含み得るが、好ましいオプションでは、天然繊維材料は、1セット以上の一方向天然繊維から完全に構成されるものである。
【0017】
一方向繊維は、マトリクス材料に部分的又は完全に埋まっていてもよく(好適なマトリクス材料及びそれらの特性は以下で述べる)、さらに/あるいはマトリクス材料が部分的又は完全に染み込んでいてもよい。マトリクス材料内に埋まることは、マトリクス材料のベッド内に繊維が浮遊する又は「浮かんでいる」、すなわち、繊維がマトリクス材料によって個々の繊維の間の空間内に散在され得るという意味に理解され得る。マトリクス材料が染み込むことは、例えば、個々の繊維の間に目立った量のマトリクス材料が存在することなく、繊維が「べとつく」又は互いにくっつくようになるように、マトリクス材料が繊維に「吸い取られ」るという意味に理解され得る。もちろん、2つのオプションの間の格付けも考えられる。すなわち、繊維は、材料マトリクス内に(部分的に)埋まるとともに、マトリクス材料が(部分的に)染み込んでいてもよい。
【0018】
マトリクス材料に埋まり、さらに/あるいはマトリクス材料が染み込んだ少なくとも1セットの一方向繊維を含む天然繊維材料に加えて、繊維強化材料は、付加的な材料又は成分、例えば特に高負荷及び大きな力を受ける場所をさらに補強するための(非有機的)織物生地も含み得る。しかしながら、好ましいシナリオにおいては、繊維強化材料は、1以上の天然繊維材料に加えて繊維材料を含んでいない。
【0019】
旅行鞄システムの部分は、繊維強化材料のみから作られていてもよい。しかしながら、この部分は、1以上の異なる材料から作られるか1以上の異なる材料を含むさらなる構成要素を含み得る。例えば、旅行鞄システムの部分は、概してフロントシェルとバックシェルから構成される硬いシェルのケース又は旅行用又はキャビン用トロリーの(フロント及び/又はバック)シェルであり得る。シェル本体は、開示されている繊維強化材料から作られ得る。加えて、シェルは、例えば、開示されている繊維強化材料を含んでいる又は含まない、あるいは開示されている繊維強化材料から構成される又は構成されない、ヒンジシステム、ジッパー又は閉止システム、ハンドルバー又はグリップ構造、1以上の車輪などを含み得る。
【0020】
本発明の文脈において使用され得る天然又は有機繊維材料(その一部の例は以下でより詳細に述べられる)は、ほとんど除草剤及び殺虫剤を必要とせず、成長のためにほとんど水を必要とせず、収穫及び加工のためにほとんどエネルギーを必要とせず、有害な化学品を含むこともほとんどないか全くないことが考えられる。また、特に生物由来の生分解可能な化合物からなる又は生物由来の生分解可能な化合物を含むマトリクス材料と組み合わされた際には、劣化させ、リサイクルされるか、さらなる土壌肥料として作用させるために水、周囲温度、圧力及びUV光に依存する普通の堆肥化法を通じて、旅行鞄システムの寿命の最後でマトリクス材料から繊維を抽出することが可能であり得る。
【0021】
さらに、無指向性複合材料(例えば、ランダムに配置された繊維を有する繊維強化材料)においては、強化繊維は特定の方位を有していないので、衝撃の際のエネルギーは、材料の中で均等に分布せず、このため、欠陥が生じた場合には、材料の破損が任意の複数の方向に伝搬し得る。これは、特にトロリーのような旅行鞄システムにおいては、一般的に衝撃吸収ゾーンが指定されておらず(換言すれば、旅行鞄のいずれの部分でもいずれの方向からも衝撃が生じ得る)、そのような無方向性複合材料が使用される場合には、トロリーの考えられる修復点を超えるダメージの高いリスクあるいは破壊のリスクさえあるので危険である。また、そのような無方向性材料においては、ある領域(すなわちトロリーの角の追加層)に質量を追加することが、材料の強度を増加させるために使用される方法のほとんどすべてとなり、これは、持続可能性の原則及び旅行鞄の重量上限に対する絶えず増える規制に反するものである。
【0022】
これに対して、本発明において使用される一方向繊維のセットは、それぞれの繊維が特定の方向でかつ最も抵抗の少ない経路でエネルギーを伝えるので、より予測しやすく制御しやすい方法で衝撃エネルギーを移すものである。エネルギーが(例えば、縁部又は角における)衝撃がより生じやすいと少なくとも考えられる領域からより効率的に分散されるように繊維を方向付けるオプションに加えて、一方向繊維は、最終的に破損が生じた場合に、例えばその破損を旅行鞄/トロリー全体の安定性に関してより重要ではない方向に向けることによりダメージの量を制限することができる。したがって、ランダムに配置された繊維を用いることに比べて、開示されている材料において使用される一方向繊維は、その全体の安定性及び寿命を増す「安定フレーム」を材料に提供することができる。
【0023】
一方向配置の天然繊維を用いることの他の利点は、天然繊維は、縦方向に非常に強いことが多いことであるが、(この問題が存在しないか、存在するとしてもわずかである合成繊維とは対照的に)横方向に引かれた場合又は積まれた場合に、ほぐれたり、分裂したり、ばらばらになったりし得る。また、この点に関して、(例えば繊維が主に縦方向に積まれるように)好適に選択された一方向配置の天然繊維を用いることは、個々の繊維のほぐれや分裂がより大きく生じる、完全にランダムな配置の天然繊維を用いることに比べて、製品の寿命を延ばすことを手助けすることができる。
【0024】
この点に関して、旅行鞄システムの部分は、異なる方向に向けられた1以上のセットの一方向天然繊維を含む繊維強化材料が使用される2以上の領域を含み、例えばこれらの領域の特定の幾何学的形状及び/又はこれらの領域で生じやすい衝撃の種類を考慮してもよいことが言及される。天然繊維及び/又はマトリクス材料の材料組成、又はこれらの物理的及び機械的特性は、そのような領域間で変化し得る。
【0025】
要約すると、マトリクス材料に埋まり、さらに/あるいはマトリクス材料が染み込んだ少なくとも1つのセットの一方向繊維を有する天然繊維材料を含む繊維強化材料を用いることは、特に硬いシェルのケース又はトロリーのような旅行鞄システムの構築に関してそのような方向付けられた材料の有利な機械的特性を天然由来材料の環境適合性に組み合わせるものである。
【0026】
ここで、本発明の第1の態様に関するさらなるオプション及び改良が示され述べられ、開示されているオプションの中で考えられるそれぞれの置換がそれぞれ以下で明確に述べられていないとしても、旅行鞄システムの当該部分の所望の材料特性及び性能特性を得るために、これらのさらなるオプション及び改良を互いに組み合わせてもよい。下位の特徴の個々の特徴は、所望の目標を達成するためには必要ではないとみなされた場合には省略され得る。
【0027】
例えば、天然繊維材料は、マトリクス材料に埋まり、さらに/あるいはマトリクス材料が染み込んだnセットの一方向(天然)繊維を含み得るものであって、nは1よりも大きな整数であり、nセットの一方向繊維は互いに非平行である。
【0028】
換言すれば、天然繊維は、nを軸の数とする多軸材料を提供し得る。軸の数nを増やすことにより、おそらくより多くの製造費と複雑性を犠牲にして材料特性の等方性を増加させることができ、その結果、一般的に、一方の安定性及び等方性と、他方の製造コスト及び複雑性に加え、製品の重量との間に妥協が存在する。
【0029】
また、2セット以上の一方向繊維の文脈においては、旅行鞄システムの部分は、開示されている材料の異なる実施形態が使用される、いくつかの領域(すなわち2以上の領域)を含むことができる。具体例を挙げると、硬いシェルのケース又はトロリーのシェルは、その主面に、マトリクス材料に埋まり、さらに/あるいはマトリクス材料が染み込んだ2セット(すなわちn=2)の一方向(天然)繊維を有する天然繊維材料を含む繊維強化材料を含み得る。縁部及び/又は角及び/又は車輪が取り付けられる場所では、シェルは、これらの特定の領域に高度の安定性を与えるために、マトリクス材料に埋まり、さらに/あるいはマトリクス材料が染み込んだ3セット以上(すなわちn≧3)の一方向(天然)繊維を有する天然繊維材料を含む繊維強化材料を含み得る。天然繊維及び/又はマトリクス材料の材料組成及び/又は機械特性は、旅行鞄部分の特性をさらに制御するために、異なる領域間で変化し得る。
【0030】
特に、一方向繊維のそれぞれのセットは、それぞれの軸に沿って配置される複数の繊維束及び/又は繊維糸を含み得る。
【0031】
換言すれば、繊維は、繊維強化材料に方向付けられ組み込まれて旅行鞄の部分を形成する束又は糸に予め整えられるか紡がれてもよい。これは、製造を容易にし、簡略化できるだけではなく、繊維強化材料の「指向性」を増加させ、1以上の材料軸により規定される方向に特定の強度を与え得る。
【0032】
述べたように、2セットの一方向(天然)繊維の2セットが使用され得る、すなわちn=2である。これは、天然繊維材料が二軸織物又は材料として提供されることを意味している。
【0033】
二軸材料は、単一の軸に沿って方向付けられた1セットだけの一方向繊維を有するケースに比べて、多軸材料の最も簡単なケースである。したがって、比較的簡単に製造され得るが、単一軸材料よりもより良い等方性及び全般的な安定性を十分に提供し得る。特に、天然繊維は、横/側方向よりも縦方向(すなわち繊維の延長線に沿って)においてより安定し得るということを考慮すると、材料に1以上の軸を十分に追加することは、旅行鞄システムの部分の安定性及び寿命を著しく増加させ得る。したがって、二軸材料は、天然又は有機繊維を基礎として旅行鞄の製造のために軽量で十分に安定して簡単に製造される繊維強化材料を提供する。
【0034】
二軸織物の2軸は、斜めの角度(すなわち、90°に等しくない角度)で交差し得る。
【0035】
もちろん、一般的に、90°に等しい2軸の交差角も考えられる。しかしながら、斜めの交差角(すなわち≠90°)は、一軸よりも多くの軸を用いることによる、旅行鞄部分の全般的な高い安定性を「指向性」又は異方性の程度を高めることに組み合わせる機会をさらに提供し得る。二軸が90°で交差しないことにより、それらの間に鋭角(すなわち、角度<90°)とともに鈍角の余角(すなわち、角度>90°)が形成される。例えば、鋭角の角度分解により規定される方向は、鈍角の角度分解よりも二軸に「近く」、その結果、鋭角の角度分解に沿って、垂直方向、すなわち鈍角の角度分解の方向と比較してより大きな剛性/安定性を得ることができる。当業者であれば、2つの材料軸に沿ってだけではなく、それらの間の角度セグメントにおいても、旅行鞄部分の物理的及び機械的特性に影響を与えるためにこの概念をどのように使用できるかを認識する。
【0036】
他のオプションは、3セットの一方向(天然)繊維、すなわちn=3であり、これは、天然繊維材料が三軸織物又は材料として提供されることを意味している。
【0037】
3軸(又はn=3を超えて軸の数をさらに増やすことは、構成上及び製造上の観点から法外に高くなりすぎることが考えられるが、より大きな偶数個の軸。例えば、n=4,5,6,...)を使用することの1つの利点は、ある位置での旅行鞄部分の最初の破損を引き起こす衝撃エネルギーが、異なるセットの繊維の1以上の最も近い交差点でのそのエネルギーに対する防壁で直ぐに満たされ、このため3方向に再び方向付けられることである。このエネルギーの再方向付けは、エネルギーがシステムに存在するか、材料内で分散するまで継続し、再び分割する。このように、大きな破損を避けることができ、これにより、廃棄に代わる修復が容易になる。加えて、1軸又は2軸のみを使用するのと比べて、材料全体の安定性及び等方性が増加する。
【0038】
また、この場合には、三軸織物の軸のうち少なくとも2つが60°と異なる角度で交差し得る。
【0039】
換言すれば、2よりも多くの軸については、軸(又はその少なくとも一部)が「変則的な」角度で交差してもよい。n軸が交差する「正規の」角度は、360°をnで割ったものと考えられる(交差角は、2つの交差する斜軸により形成される鋭角であり、鈍角の余角ではないものとして考えられる)。
【0040】
天然繊維材料に含まれる繊維は連続的であってもよい。
【0041】
連続繊維、例えば、天然源から抽出されている間又はその後に引き裂かれたり、切断されたり、短くされたりしていない繊維は、それらの縦方向において(繊維の延長線に沿って)非常に高いレベルの(引裂)強さを維持する。これは、それらの繊維が用いられている旅行鞄部分の対応する高い安定性と同じ意味になる。また、連続繊維を用いることにより、製造プロセスが容易になるか、特に天然繊維を加工して織布を形成する場合には、製造プロセスが実現可能とさえなる。しかしながら、積層織物についても、連続繊維の使用が利益をもたらし、1以上の繊維方向に沿った完成製品の全体引裂強さを増加させることができる。天然繊維材料の構造(織物又は積層)にかかわらず、連続繊維の使用は、衝撃力が繊維の延長線に沿って伝わることによる無制御ダメージ伝搬に対する旅行鞄部分の抵抗を増加させることができる。
【0042】
もちろん、不連続及び/又は粒子状(天然及び/又は合成)繊維を繊維強化材料に追加することも概して可能である。しかしながら、連続天然繊維を主として使用する又は排他的に使用することは、繊維強化材料の「指向性」を高めることができ、既に述べた無制御ダメージ伝搬を上述した回数制限することができる意味で、また持続可能性の観点から利点がある。
【0043】
天然繊維材料は積層織物として提供され得る。
【0044】
天然繊維材料を積層構造として提供することは、例えば、以下で述べるような、潜在的に材料の安定性が少し低いコストで織構造を利用することに比べて、製造の苦労を軽減し得る。例えば、液体樹脂のベッド内の方向付けた繊維材料の1以上のシート又は層を積層し、これはキュアリング後にマトリクス材料を形成し、その後、例えば圧力の影響下でこのプリフォームを所望の形状に圧力成形し、必要とされる樹脂硬化方法の間の熱、紫外光又は湿度の急激な変化により樹脂を硬化することにより湿式レイアップを介して製造を行うことができる。あるいは、エポキシ樹脂、熱可塑性樹脂又は内又はエポキシ樹脂上に浮遊させた後、所望の形状に熱成形した繊維材料からなる含浸シート又は層を介して製造を進めることができる。
【0045】
各層は、平行に向けられた一方向繊維からなるいくつかのプライをさらに含み得る。あるいは、層の一部のみが平行に向けられた一方向繊維からなるいくつかのプライを含んでおり、層ごとのプライ数は、個々の層の間でさらに変化し得る。
【0046】
平行に向けられた一方向繊維のいくつかのプライにより層を積み重ねることは、一方では、製造を簡単にし、他方では特にプライの数がそれぞれの層に対して個々に制御される場合には、それぞれの層の厚さ、密度、引裂強さなどに対して微調整された制御を行うことを可能にする。
【0047】
また、天然繊維材料を織布、特に上述した繊維束及び/又は繊維糸.から織られた生地として提供することも可能である。
【0048】
天然繊維材料を織布として提供することは、一般的に、1セットのみの一方向天然繊維とともに使用することができる積層とは反対に、互いに非平行な少なくとも2セットの一方向繊維、すなわち少なくとも二軸織物を必要とする。したがって、製織は積層と比較した製造的観点からより高価かつであり得るが、一方向繊維のセットが織り交ざり、これにより製織プロセス中に生成された空間的配置により互いに固定され、これにより異なるセットの繊維が簡単に分離/剥離することが防止されることにより、旅行鞄部分の安定性及び寿命を改善し得る。
【0049】
本発明の天然繊維材料は、次の材料又は植物部分:葉繊維、靱皮繊維、又は茎繊維のうち1つ以上からなる繊維を含む。
【0050】
これらの異なるカテゴリの数多くの具体例を挙げれば、本発明とともに使用され得る葉繊維としては、マニラ麻、パイナップル、及び/又はヤシの繊維が挙げられ、使用され得る靱皮繊維としては、大麻、亜麻、ラミー、ケナフ及び/又はジュートの繊維が挙げられ、使用され得る茎繊維としては、竹及び/又は藁の繊維が挙げられる。
【0051】
さらにより具体的には、本発明において使用され得る天然繊維材料の例としては、亜麻及び/又は竹繊維を用いた三軸天然繊維材料又は玄武岩及び/又は竹繊維を用いた二軸天然繊維材料が挙げられる。これらの材料は、市販性、構造的及び機械的安定性、及び小さな環境フットプリントの良い組み合わせを提供するので、本発明とともに有利に用いられるものである。
【0052】
天然繊維材料の材料組成は、一方向繊維の1セット中及び/又は一方向繊維の少なくとも2セットの間でさらに変化し得る。これに代えて、あるいはこれに加えて、1以上の物理的特性、特に繊維のゲージ及び/又は繊維の質量線密度が、一方向繊維の1セット中及び/又は一方向繊維の少なくとも2セットの間で変化し得る。
【0053】
例えば、亜麻繊維は、スプリット靱皮であり、次第に小さくなる幅又はゲージに分割され得るか、あるいは、靱皮を全く分割することなく使用することもできる。亜麻は簡単に市販されていることを考慮すると、亜麻の使用は有利であり得る。
【0054】
同じことが竹についても言える。竹は、茎繊維であり、最大繊維サイズにおいてさらに大きな許容容量を有している。竹の使用は、密度が高いので局所補強のための繊維材料として、また、より衝撃強さを必要とするより大きな旅行鞄部分又はケース全体のための主繊維としても特に考えられる。
【0055】
このため、これらのオプションは、旅行鞄部分の物理的及び機械的特性に局所的に制御された方法で、本発明の繊維強化材料の天然繊維材料用に使用される軸の方向及び数(すなわち一方向繊維のセットの数)を超えてさらに影響を与えることができる。
【0056】
好ましくは、マトリクス材料は、生分解可能であり、さらに/あるいはリサイクル材料を含む。完成した旅行鞄部分に高い衝撃能力を与える生分解可能な材料が特に好ましい。
【0057】
この点における1つの可能性は、マトリクス材料又はその一部としてポリ乳酸(PLA)の熱可塑性フィルムを使用することである。
【0058】
上述したように、生分解可能なマトリクス材料(例えば、述べたばかりのPLAに基づくまたはPLAからなるマトリクス材料)を天然繊維材料に基づく強化構造と組み合わせて使用することにより、旅行鞄部分全体又は少なくともその大部分を生分解可能とし、持続可能性の観点から非常に魅力的なものにすることができる。あるいは、持続可能性の観点からはそれほど好ましくないものではあるが、リサイクル材料を使用してもよく(それでも概して新品の材料を使用するよりも良い)、リサイクル材料は、生分解可能なマトリクス材料/プラスチックはリサイクル可能な材料と同じ程度には開発されておらず、また同じ数で、同じような多様性で入手できないため、選択できる材料の種類が多いという利点を有する。
【0059】
生物由来のポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド-6(PA6)、ポリアミド-11(PA11)、ポリアミド-12(PA12)及び/又はポリカーボネート(PC)もマトリクス材料又はその一部として使用され得る。これらの材料は、(完全に)生分解可能ではないが、(例えば、原油に基づくプラスチックに比べると)その出所及び生産に関しては少なくとも環境的に優しいものであり得る。
【0060】
しかしながら、一般的に、旅行鞄システムの発明に係る部分において使用されるマトリクス材料は、次の材料:無形質、結晶性又は半結晶性熱硬化性樹脂、無形質、結晶性又は半結晶性熱可塑性樹脂、上述した熱硬化性又は熱可塑性材料のいずれかからなるフィルムあるいはこれらを任意に組み合わせたもののうち1つ以上を含み得る。
【0061】
これらの材料のすべては、利点と欠点を有しており、これらは当業者に一般的に知られている。したがって、これらの材料が使用される旅行鞄部分の所望の特性に応じて、これらの材料を使用及び選択することができる。例えば、熱硬化性樹脂は、キュアリングのために比較的長いサイクル時間を必要とするので製造の観点ではそれほど好ましくないが、例えば高衝撃能力のような完成したコンポーネントにおいて有利な特性を提供し得る。
【0062】
基材料にかかわらず、天然繊維は、マトリクス材料の化学的組成を含んでおり、旅行鞄システムの発明に係る部分はアルミニウムを含まないようにできる。
【0063】
持続可能性の観点からは好ましくないと知られているものの、アルミニウムは、旅行鞄シェル全体の形態、あるいは、角の補強及び保護要素として、ハンドルバーシステム用など、市場における旅行鞄のすべての種類において大量に長い間用いられており、現在も用いられている。本発明は、使用されている製品に依然として同様の安定性と寿命をずっと小さい環境フットプリントで提供することができる、天然繊維材料の使用に基づく上記繊維強化材料を提供することにより、この問題のある材料を使用することに対する代替策を提供するものである。
【0064】
本発明の第2の態様は、第1の態様に係る旅行鞄システム又は旅行鞄システムの部分の製造のための方法に関するものである。
【0065】
当業者であれば、本発明の第1の態様に係る旅行鞄システムの部分に関して上述した実施形態、特徴及びオプションは、そのような部分の製造に関して対応する特徴に一般的に転換されることを理解する。このため、上述した実施形態、特徴及びオプションは、ここで述べる本発明の第2の態様、すなわちそのような部分の製造にも適用され(もちろん技術的かつ物理的に適用可能である限り)、したがってすべてが再び繰り返されるわけではない。その代わり、以下では、いくつかの具体的な実施形態及びオプションが第2の態様の利点とともにより詳細に述べられ、他のすべての点については本発明の第1の態様の文脈において上記で述べた詳細な説明が参照される。
【0066】
一実施形態においては、本製造方法は、プリフォームを用意し、プリフォームを加熱し、プリフォームを部分の意図した形状に対応する寸法を有する型に移送し、プリフォームが部分の意図した形状に適合するように、好ましくは圧力を加えつつ、型を閉じ、好ましくは熱、UV光及び/又は超音波を加えつつ、さらに/あるいは温度及び/又は湿度を変化させつつ、プリフォームを硬化するか、硬化させ、型を開いて部分を型から取り外す、ステップを含む。
【0067】
好ましくはキュアリングは、好ましくはモールド圧力を少なくとも部分的に又は完全に維持させつつ、型の内部で生じる。しかしながら、方法ステップの順序を変えてもよく、キュアリングプロセス前及び/又は中に型を開けて、部分を取り外してもよいと考えられる。あるいは、モールド圧力は、キュアリング中に著しく減少し得る。あるいは、型を開け、キュアリングのために部品を型の内部に残したままでもよい。
【0068】
さらに、例えば、プリフォームを可鍛性にする必要がない又は可鍛性を維持するためにプリフォームを加熱する必要がない場合(例えば、マトリクス材料がまだ「濡れて」いる場合)には、プリフォームを型に移送する前にプリフォームを加熱するサブステップを省略してもよい。また、型の内部で、さらに/あるいは型の閉止中に加熱を少なくとも部分的に行ってもよい。
【0069】
既に何回も示してきたように、このように製造された部分は、硬いケースのシェル又はトロリーのシェル又はシェルの部分であり得るが、異なる種類の旅行鞄の主本体の部分の主本体でもあり得る。また、このように製造された部分は、旅行鞄の部分の車輪アセンブリ、ハンドルバーシステム、及び内部構造などであってもよく、あるいはこれらを含んでいてもよい。型の寸法及び幾何学的形状は、当業者が簡単に認識し得るような方法で当該部分の性質に対応する。
【0070】
キュアリングプロセスは、所与のプロセスにおいて使用されるマトリクス材料の組成に依存し、ここではさらには述べない。
【0071】
天然繊維材料が積層構造として意図されている場合に関しては、プリフォームを用意することは、一方向天然繊維からなる1以上のプライを用意し、プライを積層して一方向繊維からなる1以上の層の重なりを形成し、各層の一方向繊維は、それぞれの軸に沿って配置され、一方向繊維からなるプライ及び/又は積層物に未硬化マトリクス材料を付与し、未硬化マトリクス材料が天然繊維によって少なくとも部分的に吸収されてプリフォームを形成するステップを含んでいてもよい。
【0072】
すなわち、未硬化マトリクス材料を積層物の積層前、積層中又は積層後に提供してもよい。積層中に提供される場合には、例えば未硬化マトリクス材料を成長している積層物に連続的に、あるいは所定の数のプライを追加した後、あるいは他の所定の時間間隔後に追加してもよい。
【0073】
積層物の層のすべてが同じ数のプライを有していてもよく、プライ(すなわちサブ層)の数が層のうち2以上の層の間で変化し得ることに再び言及される。
【0074】
プライは、好適な貯蔵容器などに貯蔵される際に、例えば積層物に追加される前に既に事前に方向付けされていてもよく、あるいは、積層物に付与されるときに直接プライを正しい方向にしてもよい。
【0075】
プリフォームを用意することは、例えば圧力、熱、UV光及び/又は超音波を加えつつ、積層物の中で異なるプライ又は層の繊維が交差する又は重なる場所を融解することをさらに含み得る。
【0076】
これは、プリフォームの取扱及び製造プロセスの後続ステップを簡単にし得るだけでなく、製造された部分全体の安定性及び強度も増加させ得る。
【0077】
天然繊維材料が織物構造として意図されている場合に関しては、プリフォームを用意することは、少なくとも1つの天然繊維材料を多軸織物の形態で供給し、少なくとも1つの未硬化マトリクス材料をリボン、シート又はフィルムの形態で供給し、好ましくは熱及び/又は圧力を加えつつ、天然繊維材料を未硬化マトリクス材料でラミネートし、天然繊維材料に少なくとも部分的に未硬化マトリクス材料を吸収させてプリフォームを形成するステップを含み得る。
【0078】
いずれの場合も(すなわち、積層構造又は織物構造に関して)、本発明は、以下の例示的なプロセスのうちの1つによって、例えば農業から最終加工まで基本的に、環境に優しい製造プロセスを可能にするものである。
【0079】
(a)靱皮繊維は、主農産物又は副農産物のいずれかとして収穫される。副農産物の場合、主農産物(亜麻の種子、バナナ、大麻)が収穫物から分離される。植物の種類及び気候に応じて、その後、不要な材料が数多くの異なるプロセスにより取り除かれた後、これを乾燥させる。所望のストック繊維ゲージに応じて、ストックをより小さな寸法に分けてもよい。その後、繊維は、1種類又は複数の種類が混ざった連続繊維として用意される。連続靱皮繊維は織地に織られ、これが、製織プロセスにおいて(例えば鉱物、木又は竹から得られる)他の繊維種と所望の混合、方向及び寸法を得るように混ざるか、あるいは混ざらない。
【0080】
1以上の熱可塑性樹脂は、原油に基づいていてもよいが、好ましくは有機物に基づいており、任意の出所の短繊維又は長繊維によりさらに補強され、あるいは高衝撃力に耐えるように修正され、所望の程度/パーセンテージの湿度まで乾燥され、その後、ダイを通じて所望の幾何学的形状、通常、リボン又は連続シートとして押し出されてもよいし、されなくてもよい。
【0081】
熱可塑性シート又はフィルムは、繊維に熱可塑性樹脂が染み込むまで主に熱及び圧力を用いて、織布に積層され、その後、部分的に冷却され、所望の寸法に切断される。
【0082】
その後、このプリフォームは、三次元型とプリフォームが接触して、材料が熱及び圧力により所望の部分に形成される熱成形プロセスにおいて使用される。
【0083】
(b)あるいは、プリフォームは1以上の繊維層で積層され、その後、プリフォームの全層を通して液体エポキシを付与して繊維に染み込ませ、熱可塑性樹脂と同様に振る舞う接着剤として作用させることができる。繊維層の湿式レイアップマトリクス及びエポキシを三次元型に直接付与するか、平坦な条件で調製した後に三次元型に移動させてもよい。三次元型は、通常、キャビティに対して少なくとも2つの部分、一般的にそれらの間に成形用キャビティを規定する雄部分及び雌部分を有している。その後、熱と圧力がキャビティの部分に加えられ、エポキシを所望の形状で熱硬化する。
【0084】
加えて、繊維に樹脂/エポキシを染み込ませた後、(例えば製織プロセスと同様に)繊維を方向付け、その後、染み込ませた繊維が重なるすべての場所を熱及び圧力を介して又は圧力及び超音波溶接と同様の周波数を介して融解することも考えられる。その後、このプリフォームは、湿式又は乾式プロセスのいずれかで熱成形され得る。
【0085】
(c)いずれかの成形プロセスの後、余分な材料が切り除かれ、最終アセンブリの内側及び外側に任意の数の他の構成要素及びファスナを取り付けるために、形成された部分にさらに孔が開けられ得る。
【0086】
本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様に係る旅行鞄システム又は旅行鞄システムの部分の修復のための方法に関するものである。
【0087】
第3の態様に関しても、当業者であれば、本発明の第1の態様に係る旅行鞄システムの部分及び/又は本発明の第2の態様に係る製造方法に関して上述した実施形態、特徴及びオプションは、そのような部分の修復に関して対応する特徴に一般的に転換されることを理解する。したがって、以下では、いくつかの具体的な実施形態及びオプションが第3の態様の利点とともに簡単に言及され、他のすべての点については本発明の第1の態様及び/又は第2の態様の文脈において上記で述べた詳細な説明が参照される。
【0088】
一実施形態においては、修復のための方法は、部分のダメージを受けた領域に未硬化マトリクス材料を付加し、付加された未硬化マトリクス材料をダメージを受けた領域内の天然繊維材料に少なくとも部分的に吸収させ、(例えば、未硬化マトリクス材料の吸収をさらに促進させるために、さらに/あるいはダメージを受けた領域を所望の形状に再整形するために)ダメージを受けた部分に圧力を加え、好ましくは熱、UV光及び/又は超音波を加えつつ、さらに/あるいは温度及び/又は湿度を変化させつつ、付加された未硬化マトリクス材料を硬化し、又は硬化させるステップを含む。
【0089】
他の実施形態においては、修復のための方法は、部分のダメージを受けた領域に未硬化マトリクス材料を付加し、付加された未硬化マトリクス材料をダメージを受けた領域内の天然繊維材料に少なくとも部分的に吸収させ、好ましくは圧力、熱、UV光及び/又は超音波を加えつつ、さらに/あるいは温度及び/又は湿度を変化させつつ、付加された未硬化マトリクス材料を硬化し、又は硬化させるステップを含む。
【0090】
直前で述べた2つの実施形態は、プロセス中に圧力が使用される方法において基本的に異なっている。第1の実施形態においては、ダメージを受けた領域は、硬化プロセスの前に圧力を受けるが、第2の実施形態においては、硬化プロセス中に圧力が加えられてもよいし、加えられなくてもよい。どちらのオプションがより好適であるか及び圧力を加えることがともかく必要であるか否かは、当該部分のサイズ及び形状に加え、マトリクス材料の組成及び硬化プロセスの性質に依存し得る。
【0091】
鉱物又は合成材料に基づく従来の繊維強化材料においては、繊維自体が、典型的には、比較的疎水性であり、セル構造を有する天然又は有機繊維の容量に近い容量で繊維内に樹脂を吸収することができない。また、鉱物繊維は比較的脆いものである。そのような材料を含む旅行鞄の一部が破損した場合には、当該部分を修復できることは稀である。そのような領域を継ぎ合わせるためには、影響を受けた領域の上部及び底部に追加する材料が必要となり、その間に元の基材を配置する必要がある。強度を上げるためには、さらに複合物に孔を追加する必要があり、これが、繰り返す衝撃に耐えることができない新たな弱点になるという非常に高いリスクを有する。
【0092】
本発明により規定される天然繊維を使用することによりこの問題が解決される。これは、天然繊維は、典型的に親水性であるため、鉱物又は合成材料からなる繊維に比べて修復/継ぎ合わせプロセスにおいて破損領域により多くの樹脂を吸収することができるからである。これにより、修復する部分を弱くするのではなく強くすることが可能となる。また、修復プロセスは、潜在的に多くの回数生じ得るものであり、修復プロセスが使い尽くしたものと考えられるか、あるいは経済的に実現不可能である場合には、既に上記で述べたように、旅行鞄部分は、完全に又は少なくとも主として堆肥にするか生分解可能とすることができる。
【0093】
この文脈においては、開示された天然繊維材料を有する繊維強化材料を含む生地、ハンドル、及び車輪のような構成要素は、(例えば摩耗し切った後に)例えばそのような材料から作られるトロリーシェルの修復という他の目的に使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0094】
4.図面の簡単な説明
本発明の考えられる実施形態が以下の図面を参照しつつより詳細に説明される。
【0095】
【
図1a-c】旅行鞄システムの本発明に係る部分において使用され得る天然繊維材料及びマトリクス材料を含む繊維強化材料の例。
【
図2】旅行鞄システムの本発明に係る部分の製造のための本発明に係る方法の例。
【
図3】旅行鞄システムの本発明に係る部分の製造のための本発明に係る方法のさらなる例。
【
図4】二軸織天然繊維材料を用いた旅行鞄システムの本発明に係る部分の例。
【
図5a-h】旅行用又はキャビン用トロリーの形態の本発明に係る旅行鞄システムの例。
【発明を実施するための形態】
【0096】
5.考えられる実施形態の詳細な説明
本発明の異なる態様の考えられる実施形態が主として旅行用又はキャビン用トロリーに関して以下に述べられる。しかしながら、本発明の異なる態様も異なる種類の旅行鞄システムにおいて実施され得るものであり、以下で述べる特定の実施形態に限定されるものではないことが再び強調される。
【0097】
さらに、以下では、本発明の個々の実施形態だけをより詳細に述べることができることに言及がなされる。しかしながら、当業者は、これらの実施形態を参照して述べられる特徴、選択肢及び考えられる変形例も、本発明の範囲を逸脱することなく、さらに変形され、さらに/あるいは異なる方法で又は異なるサブコンビネーションで互いに組み合わせられ得ることを理解するであろう。個々の特徴又は下位の特徴は、所望の結果を得るためになくてもよいと考えられる場合には省略されることもある。したがって、冗長になることを避けるため、先のセクションでの説明に言及し、この説明は以下の詳細な説明にも当てはまる。
【0098】
図1a~
図1cは、マトリクス材料に埋まっており、さらに/あるいはマトリクス材料を染み込ませた少なくとも1セットの一方向繊維を有する天然繊維材料を含む繊維強化材料100a,100b,100cの例を示しており、これは、本発明に係る旅行鞄システムの部分で使用され得る(そのような部分の例が
図4及び
図5aから
図5hに示されている)。
【0099】
図1aは、連続天然繊維110aを含む天然繊維材料を含む繊維強化材料100aを示している。不連続及び/又は粒子状繊維も繊維強化材料100aに追加してもよいが、これは図示されておらず、ここではさらに説明されない。
【0100】
連続天然繊維110aは、複数の繊維束/繊維糸として提供され得る。天然繊維110aは、
図1aにおける縦方向101aに沿って配置される1セット120aの一方向繊維を形成する。また、
図1aには、縦方向101aに垂直な横方向102aが示されている。材料100aから作られた又は材料100aを含む旅行鞄システムの部分においては、縦方向101aは、例えば、当該部分の最も長い空間的延長線の方向に沿って配置され得るが、これは必ずしもそうでなくてもよい。換言すれば、「縦」及び「横」方向という名称は、主に以下の例を理解するのを容易にするため及び明確性のために使用されるが、必ずしも材料100aが使用されている旅行鞄システムの部分内での材料100aの特定の配置を指示するものではない。例えば、縦方向101aは、(例えば、以下でさらに述べられるトロリー500のシェル510,520のうちの1つにおいて)材料100aが使用されている硬いシェルのケース又はトロリーのシェルの縁部に対して斜めに又は対角に配置されていてもよい。
【0101】
セット120aの繊維110aは、マトリクス材料130a内に埋まっている。繊維110aは、マトリクス材料130aを「吸い取って」いてもよく、このため、マトリクス材料130aを染み込ませたものであってもよい。さらに、
図1aに示される状態においては、繊維110aは、(おそらくそれらの始端と終端は別として)完全にマトリクス材料130aに埋まっている、すなわち完全にマトリクス材料130a内に含まれているが、これは必ずしもすべての状態においてそうでなくてもよい。換言すれば、繊維110aは、マトリクス材料130aの中に部分的にのみ埋まっているか、マトリクス材料130aの「上に」存在するか、あるいは内部にマトリクス材料130aを含むだけ、すなわち、マトリクス材料130aを染み込ませただけで外側はマトリクス材料130aに取り囲まれていないかマトリクス材料130aに埋まっていなくてもよい。また、これらの記述は、たとえこれが明示的に毎回繰り返されない場合であっても、1セットよりも多くのセット(すなわちn>1としてnセット)の一方向繊維を含む繊維強化材料、例えば、以下で述べられる材料100b及び100cにも当てはまるものである。
【0102】
天然繊維材料の繊維110aは、例えば、次の材料:葉繊維、靱皮繊維、又は茎繊維のうち1つ以上を含み得る。
【0103】
例えば、繊維110aに(又は本明細書で述べられる天然繊維のいずれにも)靱皮繊維である亜麻を使用することは、亜麻は簡単に市販されていることから有益であり得る。茎繊維である竹を使用することも、密度が高いことから特に局所的補強のための繊維材料として考えられ、また、より大きな衝撃強度を必要とするより大きな旅行鞄の部分又はケース全体の主繊維として考えられ得る。
【0104】
マトリクス材料130aは、以下の材料のうち1つ以上を含むか、以下の材料のうち1つ以上からなるものであってもよい:無形質、結晶性又は半結晶性の熱硬化性樹脂、無形質、結晶性又は半結晶性の熱可塑性樹脂、又は上述の熱硬化性又は熱可塑性材料のいずれかからなるフィルムあるいはこれらを任意に組み合わせたもの。好ましくは、マトリクス材料130aは、生分解可能であり、さらに/あるいはリサイクルされた材料を含む。
【0105】
1つの具体的な選択肢は、その生分解可能性が知られていることから、マトリクス材料130aとしてPLAを使用すること、あるいは少なくともPLAをマトリクス材料130aの基礎とすることである。一般的に、生分解可能で衝撃耐性があり、生物由来の熱可塑物又は樹脂は、本発明に良く適している。
【0106】
選択肢として、部分的に又は完全に生物由来のPE、PP、PA6、PA11、PA12及びPC材料も考えることができ、これらの材料は、(完全に)生分解可能であるとはいえないかもしれないが、依然として例えば原油をベースとする従来のプラスチックよりも環境に優しいと考えられる。
【0107】
図1bは、左側に他の繊維強化材料100bを示している。
図1bの右側には、材料100bのB-B’線断面が示されている。
【0108】
材料100bは、連続天然繊維110bを含む天然繊維材料を含んでいる。ここでも不連続及び/又は粒子状繊維を繊維強化材料100bに追加してもよいが、これも図示されておらず、ここではさらに説明されない。
【0109】
連続天然繊維110bは、二軸織物に織り込まれ、縦軸(又は縦方向)101bに沿って又は横軸(又は横方向)102bに沿って配置された繊維糸115bの形態で提供される。再び、この用語は、主として明確性のために使用され、必ずしも限定のために使用されるものではない。上記
図1aに関する方向101a及び102aについての対応する説明を参照されたい。繊維糸115bから織布を作成する際に使用される製織プロセスにおいて、縦方向101bは例えば縦糸方向であり、横方向102bは横糸方向であり得るし、あるいはその逆であってもよい。
【0110】
図1bに示される材料100bにおいて、2セット120b及び121bの一方向繊維が存在しており、セット120bは、縦方向101bに沿って織られた繊維糸115bから形成され、セット121bは、横方向102bに沿って織られた繊維糸115bから形成されている。
【0111】
図1bに示される材料100bにおいては、2つのセット120b及び121bの糸及びそれらの軸は(およそ)90°の角度で交差する。しかしながら、他の実施形態においては、この交差角は90°とは異なり得る。すなわち、繊維糸115b及びそれらの軸は、互いに斜めの角度(≠90°)に配置されていてもよい。そのような非垂直の配置を用いることの利点は、既に上記セクション3で述べられており、したがって、セクション3が簡潔性のために参照される。
【0112】
材料100b内の繊維110bは、マトリクス材料130bを「吸い取って」いてもよく、このため、マトリクス材料130bを染み込ませたものであってもよい。繊維110bは、少なくとも部分的にマトリクス材料130bに埋まっているかマトリクス材料130bに取り囲まれていてもよい。しかしながら、
図1bに示される材料100bにおいて繊維110bが二軸織物に織られているという事実は、それらの配置に対して構造的な安定性を既に提供しており、この結果、この場合の繊維110bは、それらの配置を固定し、所望の材料100b全体の安定性を得るために、必ずしも(部分的に)マトリクス材料130bに埋まっていなくてもよく、その目的においては繊維110bにマトリクス材料130bを染み込ませることで既に十分であり得る。
【0113】
天然繊維110b及び/又は繊維糸115bの材料組成は、2つのセット120b及び121bの間で変化し得るだけでなく、一方向繊維のセット120b,121bのうち1つの中でも変化し得る。これに代えて、あるいはこれに加えて、繊維110bのゲージ及び/又は繊維110bの質量線密度のような1以上の物理的特性は、一方向繊維のセット120b,121bのうちの1つの中で変化し、さらに/あるいは2つのセット120b及び121bの間で変化し得る。これにより、例えば、材料100bの二軸織物のために使用される配置及び/又は織りパターンの選択により行われる「全体的な」制御をさらに超えて、材料100bの物理的及び機械的特性を局所的に微調整することが可能になる。
【0114】
天然繊維110b及び/又はマトリクス材料130bに対する好適な材料の選択に関しては、簡潔性のために上記対応する説明が参照される(例えば、
図1aに関してなされた繊維110a及びマトリクス材料130aについての説明を参照)。
【0115】
図1cは、連続天然繊維110cを含む天然繊維材料を含む他の繊維強化材料100cを示している。不連続及び/又は粒子状繊維を繊維強化材料100cに追加してもよいが、これは図示されておらず、ここではさらに説明されない。
【0116】
連続天然繊維110cは、複数の繊維束/繊維糸115cとして提供され得る。天然繊維110cはnセットの一方向繊維を形成しており、
図1cに示される実施形態についてはn=4である。すなわち、ここでは4セット120c,121c,122c,123cの一方向繊維が存在し、それぞれのセットは対応する軸又は方向に沿って配置されている。4セット120c,121c,122c,123cの一方向糸のうちの2つのセットの繊維は互いに非平行である。すなわち、これらは0°とは異なる角度で交差している。繊維110cは、マトリクス材料130cに埋まっており、さらに/あるいはマトリクス材料130cを染み込ませたものである。
【0117】
材料100cの変形例(図示せず)は、4セットではなく3セットの一方向繊維110cを有しており(すなわちn=3、三軸織物)、3セットの一方向糸のうちの2セットの繊維は互いに非平行である。すなわち、これらは0°とは異なる角度で交差している。好ましくは、3セットのうちの少なくとも2セットが60°と異なる角度で交差し、これにより上記セクション3で述べられた技術的利点が得られる。したがって、この点についてセクション3が参照される。
【0118】
材料100cにおいては、天然繊維材料は積層織物として提供され、
図1cの実施形態においては8つの層140cから147cが示されている。層140c,141c,...,147cのそれぞれは、平行に向けられた一方向繊維110cの複数のプライをさらに含んでいる。これらのプライは、
図1cにおいてプライNo.1からプライNo.48として番号が付されている。換言すれば、
図1cの実施形態においては、層140c,141c,...,147cのそれぞれは6つのプライを含んでいる。
【0119】
図1cの実施形態においては、一方向繊維の4つのセット120c,121c,122c,123cのそれぞれは、層140c,141c,...,147cのうちの2つを含んでいる。
・第1のセット120cは、(ここでは、一般性を失うことなく基準点として扱われる)横方向に対して0°の角度で繊維が配置されているプライNo.1~6及びNo.43~48をそれぞれ有する層140c及び147cを含んでいる。
・第2のセット121cは、横方向に対して+45°の角度で繊維が配置されているプライNo.7~12及びNo.37~42をそれぞれ有する層141c及び146cを含んでいる。
・第3のセット122cは、横方向に対して+90°の角度で繊維が配置されているプライNo.13~18及びNo.31~36をそれぞれ有する層142c及び145cを含んでいる。
・第4のセット123cは、横方向に対して-45°の角度で繊維が配置されているプライNo.19~24及びNo.25~30をそれぞれ有する層143c及び144cを含んでいる。
【0120】
ここでも(すなわちn>2の状態についても)、天然繊維110c又は繊維束/繊維糸115cの材料組成は、セット120c~123cのうちの2つ(又はそれよりも多く)の間で変化し得るし、一方向繊維のセット120c~123cのうちの1つの中でも(例えば、異なる層の間で、又はセットのうちの1つに含まれる異なるプライの間でさえも、あるいはあるプライの中でさえも)変化し得る。これに代えて、あるいはこれに加えて、繊維110cのゲージ及び/又は繊維110cの質量線密度のような1以上の物理的特性は、一方向繊維のセット120c~123cのうちの1つの中で変化し、さらに/あるいはセット120c~123cのうちの2つ(又はそれよりも多く)の間で変化し得る。
【0121】
図2及び
図3は、旅行鞄システムの本発明に係る部分(そのような部分の例が
図4及び
図5a~5hに示されている)の製造のための本発明に係る方法200,300の例の模式図を示している。
【0122】
図2の方法200は、参照番号210によって概して示されるように、旅行鞄部分21の製造のためのプリフォーム20の調製のために入力材料を生産場所に供給することにより開始する。入力材料を供給するステップ210は、特に少なくとも1つの天然繊維材料を多軸織物の形態で供給することに加え、少なくとも1つの未硬化マトリクス材料をリボン、シート又はフィルムの形態で供給することを含み得る。
【0123】
ステップ210において供給され得るさらなる材料及び構成要素は、例えば、接着粉末、接着フィルム、ウェブ接着材のような接着材、チョップドガラス、さらなる強化のための繊維材料、箔材料を含んでいる。
【0124】
方法200は、天然繊維材料を未硬化マトリクス材料でラミネートし、天然繊維材料に未硬化マトリクス材料を少なくとも部分的に吸収させてプリフォーム20を形成する、参照番号220で概して示されているステップをさらに含んでいる。
図2に示される方法200の実施形態においては、ラミネートは、熱(参照番号221を参照)と圧力(参照番号222を参照)を加えつつ行われ、続いて積層構造が冷却され(参照番号223参照)、プリフォーム20を安定化する。
【0125】
プリフォーム20は、参照番号230で概して示されるようなロール又はシートの形態で保存され得る。
【0126】
このようにしてプリフォーム20を調製した後、方法200は、プリフォーム20を加熱する(オプションの)ステップをさらに含み(加熱は、型22の内部で、さらに/あるいは型22を閉じている間に少なくとも部分的に起こり得るが、プリフォーム20を可鍛性にする必要がない又は可鍛性を維持する必要がない場合には完全に省略することができる)、方法200は、製造される部分の意図する形状に対応する寸法を有する型22にプリフォーム20を移送するステップを含んでいる。このステップは、参照番号240で概して示されている。その後、好ましくは圧力を加えつつ、参照番号250で示されるように型22が閉じられ、この結果、プリフォーム20は、成型用キャビティにより規定される形状及び幾何学的寸法、すなわち製造される部分の意図する形状に適合する(少なくともその全体的な形状。成型されて取り出された部分に対するさらなる後処理ステップがこれに続いてもよく、これにより当該部分の形状及び幾何学的寸法がさらに変化し得る)。その後、参照番号260で示されるように、好ましくは熱、UV光及び/又は超音波を加えつつ、さらに/あるいは温度及び/又は湿度を変化させつつ、プリフォーム20が硬化されるか、型22内で硬化する(硬化中はモールド圧を維持してもよいし、あるいは維持しなくてもよい)。最後に、参照番号270で示されるように、型22が開かれ、旅行鞄システムの成型部分21が型22から取り外される。脱型ステップ270の後、上記で既に述べたように、さらなる処理が行われてもよい。例えば、部分21をトリム又は後処理し、あるいは孔やさらなる構成要素を追加するなどしてもよい。
【0127】
再び、
図3に示される方法300は、参照番号310によって概して示されるように、旅行鞄部分31の製造のためのプリフォーム30の調製のために入力材料を生産場所に供給することにより開始する。今回の入力材料を供給するステップ310は、一方向天然繊維の1以上のプライを供給することを含んでいる。本方法は、プライを層にして一方向繊維からなる1以上の層の積み重ねを形成することをさらに含んでおり、各層の一方向繊維は、それぞれの軸に沿って配置される。このステップは、
図3において参照番号320によって概して示されている。
図3において参照番号330によって概して示されるように、未硬化マトリクス材料が、一方向繊維からなるプライに、さらに/あるいは積層物に加えられ、少なくとも部分的に天然繊維に吸収されてプリフォーム30を形成する。ステップ320及び330の順序は、ここで示されている状況と異なっていてもよく、すなわち、ステップ320における層の積み重ねの前又はその間に未硬化マトリクス材料を供給してもよいことが強調される。
【0128】
また、方法300は、圧力、熱、UV光及び/又は超音波を加えつつ(
図3では示されていない)、積層物の中で異なるプライ又は層の繊維が交差する又は重なる場所を融解するステップも含み得る。
【0129】
そこから、方法300は、上記で述べられた方法200と同様に進行し得る。先に述べられたようにして調製されたプリフォーム30は加熱されてもよく(加熱は、型32の内部で、さらに/あるいは型32を閉じている間に少なくとも部分的に起こり得るが、プリフォーム30を可鍛性にする必要がない又は可鍛性を維持する必要がない場合には完全に省略することができる)、その後、プリフォーム30は、製造される部分の意図する形状に対応する寸法を有する型32に移送される。このステップは、参照番号340で概して示されている。その後、好ましくは圧力を加えつつ、参照番号350で示されるように型32が閉じられ、この結果、プリフォーム30は、成型用キャビティにより規定される形状及び幾何学的寸法、ひいては製造される部分の意図する形状に適合する(再び、成型されて取り出された部分のさらなる後処理ステップがそのうちに行われてもよい)。その後、参照番号360で示されるように、好ましくは熱、UV光及び/又は超音波を加えつつ、さらに/あるいは温度及び/又は湿度を変化させつつ、プリフォーム30が硬化されるか、型32内で硬化する(再び、硬化中はモールド圧を維持してもよいし、あるいは維持しなくてもよい)。最後に、参照番号370で示されるように、型32が開かれ、旅行鞄システムの成型部分31が型32から取り外される。脱型ステップ370の後、さらなる処理が行われてもよい。例えば、部分31をトリム又は後処理し、あるいは孔やさらなる構成要素を追加するなどしてもよい。
【0130】
熱整形/型処理の異なるステップ、すなわちステップ240~270及び340~370の継続時間及び処理パラメータは、例えば、製造に使用される成型設備の物理的寸法及び押圧能力及び材料に依存し得る。例えば、型閉じステップ250,350の継続時間は、押圧能力(例えば最大閉鎖圧力)及びプリフォーム20,30に含まれる天然繊維の染み込み挙動に依存し得る一方で、硬化ステップ260,360の継続時間は、マトリクス材料の化学的組成、型内の硬化温度、先のステップ250,350中に加えられた圧力の継続時間及び量、硬化中の成型圧力などに依存し得る。
【0131】
旅行鞄システムの部分の製造のための方法200,300により提供されるステップの一部を、場合によっては少し修正したバージョンで、利用することで旅行鞄システムのダメージを受けた部分を交換する方法を提供してもよい。
【0132】
そのような方法は、(例えば、方法300のステップ330と同様に)未硬化マトリクス材料を当該部分のダメージを受けた領域に付加し、付加された未硬化マトリクス材料をダメージを受けた領域内の天然繊維材料に少なくとも部分的に吸収させることを含み得る。
【0133】
その後、例えば型の内部で(例えば、方法200のステップ250又は方法300のステップ350と同様に)、あるいはこれと異なる方法で、ダメージを受けた領域に圧力を加えてもよい。
【0134】
修復プロセスは、圧力を付加している間、圧力を付加した後又は圧力を付加することなく、好ましくは(例えば、方法200のステップ260又は方法300のステップ360と同様に)熱、UV光及び/又は超音波を加えつつ、さらに/あるいは温度及び/又は湿度を変化させつつ、付加した未硬化マトリクス材料を硬化するか、これを硬化させることをさらに含み得る。
【0135】
図4は、本明細書に開示される繊維強化材料から作られた旅行鞄システムの部分400を示している。当該部分は、例えば、以下で述べられるトロリー500のような硬いシェルのケース又はトロリーのシェルの主面用のフロント又はバックインサートとして使用され得る。繊維強化材料は、天然繊維材料及びマトリクス材料から作られ、天然繊維材料は、二軸織布に織られる繊維糸の形態で提供される2セットの一方向天然繊維を含んでいる。この生地は、マトリクス材料内に埋められ、マトリクス材料が染み込んでいる。
【0136】
図4に示される部分400においては、亜麻繊維を用いた二軸天然繊維材料410がマトリクス材料としての熱硬化性エポキシ樹脂と組み合わせて用いられている。
【0137】
図4の底部には、ここに含まれる二軸亜麻-繊維材料410の織り構造をよりはっきりさせるために、脱型後(例えば、方法200のステップ270又は方法300のステップ370の後)であって最終的な寸法にトリムされる前の同様の部分405が示されている。
【0138】
最後に、
図5a~
図5hは、旅行鞄システム、すなわち本明細書に開示されるような繊維強化材料、例えば上記で述べられた材料100a,100b,100cのうち1つを利用した旅行用又はキャビン用トロリー500を示している。
【0139】
トロリー500は、一般的に、フロントシェル510とバックシェル520から構成されており、これらのフロントシェル510及びバックシェル520は2つのシェル510,520を互いに開閉できるように互いに接続されている。トロリー500は、2つのシェル510,520を閉状態に固定するための閉止手段、ここで示される実施形態ではジッパー機構530をさらに備えている。
【0140】
トロリー500は、フロント及びバックシェル510,520の底部の四隅におけるそれぞれの窪み545に取り付けられた4つの回転車輪540をさらに含んでいる。また、トロリー500は、トロリー500をその車輪に沿って引くための伸縮自在ハンドルバーシステム550に加え、トロリー500を手で持ち運ぶためのサイドグリップ構成560を含んでいる。
【0141】
ハンドルバーシステム550の下方に、凹部又は収容空間570を配置してもよく、この収容空間570には、ハンドルバーシステム550がその伸長位置にあるときに(
図5d参照)アクセスすることができ、収容空間570の中には、例えばUSB電源バンクが取り外し可能に格納され得る。この位置で本出願人の過去の出願DE 202017101957 U1及びWO 2018185016 A1における開示が明示的に参照される。これらの開示は、トロリー500のハンドルバーシステム550及び収容空間570に関してここに組み込まれる。
【0142】
図5aは、フロントシェル510を付加的な構成要素(車輪、ハンドルバーシステム、ジッパーなど)を除いて示すものであり、
図5bは、バックシェル520を付加的な構成要素を除いて示すものである。これらのシェル510,520の一方又は両方は、本発明の方法により、すなわち上記で述べられた材料100a,100b又は100cのような天然繊維に基づく繊維強化材料の開示された実施形態を用いて作られ得る。
【0143】
図5cは、さらなる構成要素のすべてを追加したトロリー500全体の正面図を示しており、
図5dは、トロリー500全体の背面図を示している。いずれの場合についても、ハンドルバーシステム550は伸長位置又は引出位置にある。
【0144】
図5eは、さらなる構成要素のすべてを追加したトロリー500の(正面に対して)右側面を示しており、
図5fは左側面を示している。最後に、
図5gは、さらなる構成要素のすべてを追加し、ハンドルバーシステム550を収縮位置又は押込位置にしたトロリーの上面を示しており、
図5hは底面図を示している。
【0145】
フロントシェル510及びバックシェル520に加えて、トロリー500のいずれの部分又はすべての部分は、開示されている繊維強化材料を含んでいてもよく、あるいは開示されている繊維強化材料に基づいていてもよく、あるいはそのような材料から作られていてもよい。
【0146】
このように、開示されている材料及び方法により、アルミニウムを含まないか、あるいは少なくともアルミニウムの量が著しく低減され、天然かつ生分解可能な材料に完全に又は少なくとも優勢的に基づくトロリー500を提供することが可能となり得る。これにより、その寿命の始期及び終期の両方で旅行鞄システム500による環境フットプリントが小さくなる。
【国際調査報告】