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特表2024-508858食道内圧を判定するためのバルーンプローブを備えた食道用カテーテルの較正システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-28
(54)【発明の名称】食道内圧を判定するためのバルーンプローブを備えた食道用カテーテルの較正システム
(51)【国際特許分類】
   A61M 16/00 20060101AFI20240220BHJP
【FI】
A61M16/00 332A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023552485
(86)(22)【出願日】2022-02-18
(85)【翻訳文提出日】2023-10-04
(86)【国際出願番号】 EP2022054098
(87)【国際公開番号】W WO2022184471
(87)【国際公開日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】102021104993.8
(32)【優先日】2021-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515233591
【氏名又は名称】ハミルトン メディカル アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュヴェニンガー,ダーヴィト
(57)【要約】
【解決手段】食道内圧(Peso)を判定するための、食道(34)に挿入可能なバルーンプローブ(46)を備えた食道用カテーテル(48)に対し、所望の動作充填を自動的に設定する、較正システム(60)であって、較正システム(60)は、バルーンプローブを食道内に配置した後、測定用流体をバルーンプローブに充填する装置と、バルーンプローブ内の食道内圧を検出する圧力センサと、バルーンプローブ内の測定用流体の量を段階的に変化させるように設計された較正コントローラ(60)であって、圧力センサが検出した食道内圧を、測定点として段階的に設定したバルーンプローブ内の測定用流体の量ごとに記録し、食道内圧を、バルーンプローブ内の測定用流体の設定量ごとに対応づける較正コントローラと、を備える。較正コントローラは、それぞれの測定点に近づけるために、開始値から終了値に達するまで、少なくとも2つのステップで測定用流体の量を単調に変化させる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食道内圧(Peso)を判定するための、食道(34)に挿入可能なバルーンプローブ(46)を備えた食道用カテーテル(48)に対し、所望の動作充填を自動的に設定する、特に、換気装置(10)用の較正システム(60)であって、
前記較正システム(60)は、
前記バルーンプローブ(46)を前記食道(34)内に配置した後、測定用流体を前記バルーンプローブ(46)に充填する装置と、
前記バルーンプローブ(46)内の前記食道内圧(Peso)を検出する圧力センサと、
前記バルーンプローブ(46)内の前記測定用流体の量を段階的に変化させるように設計された較正コントローラ(60)であって、前記圧力センサが検出した食道内圧(Peso)を、測定点(S1、S2、M1~M7、E1、E2)として段階的に設定した前記バルーンプローブ(46)内の前記測定用流体の量ごとに記録し、前記食道内圧を、前記バルーンプローブ(46)内の前記測定用流体の設定量ごとに対応づける前記較正コントローラ(60)と、
を備え、
前記較正コントローラ(60)は、
前記各測定点(S1、S2、M1~M7、E1、E2)に近づけるために、前記測定用流体の量を、開始値から終了値に達するまで、少なくとも2段階で単調に変化させるように設計されること、
を特徴とする較正システム(60)。
【請求項2】
前記バルーンプローブ(46)から前記測定用流体を排出するように構成した流体排出装置をさらに備え、
前記較正コントローラ(60)は、前記各測定点(S1、S2、M1~M7、E1、E2)に近づけるために、前記開始値から前記終了値に達するまでの少なくとも2段階で、前記バルーンプローブ(46)内の前記測定用流体の量を単調に減少させるように前記流体排出装置を制御すること、
を特徴とする請求項1に記載の較正システム(80)。
【請求項3】
前記較正コントローラ(60)は、前記バルーンプローブ(46)に測定用流体を充填するための少なくとも最初の測定サイクルにおいて、前記開始値と前記終了値との間の測定範囲の上限よりも多い量の測定用流体を前記バルーンプローブ(46)に対して充填するための構成を制御すること、
を特徴とする請求項2に記載の較正システム(80)。
【請求項4】
前記較正コントローラ(60)は、少なくとも2つの測定サイクルを連続して実行するように設計されること、
を特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の較正システム(80)。
【請求項5】
前記少なくとも2つの連続する測定サイクルの測定範囲は互いに異なり、
特に、先行する前記測定サイクルが、後続の前記測定サイクルの測定範囲を決めること、
を特徴とする請求項4に記載の較正システム(80)。
【請求項6】
前記較正コントローラ(60)は、先行する前記測定サイクルと後続の前記測定サイクルについて、連続する測定点間の距離を異ならせて設定するように設計されること、
を特徴とする請求項4または5に記載の較正システム(80)。
【請求項7】
前記較正コントローラ(60)は、測定サイクルにおいて、測定範囲内の連続する前記測定点の間の増加分を適応的に決めるように構成されること、
を特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の較正システム(80)。
【請求項8】
前記較正コントローラ(60)は、先行する前記測定サイクルと後続の前記測定サイクルとの間で、前記測定用流体が前記バルーンプローブ(46)から完全に排出されないように設計されること、
を特徴とする請求項4~7のいずれか一項に記載の較正システム(80)。
【請求項9】
前記較正コントローラ(60)は、前記開始値と前記終了値との間で、前記各測定点(S1、S2、M1~M7、E1、E2)、すなわち、前記バルーンプローブ(46)内の前記測定用流体の設定量ごとに、吸気終了時の食道内圧(Peso_insp)のそれぞれの測定値と、呼気終了時の食道内圧(Peso_exp)の測定値とを確認し、次に、前記吸気終了時の前記食道内圧(Peso_insp)と前記呼気終了時の前記食道内圧(Peso_exp)との間の差を判定するように設計されること、
を特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の較正システム(80)。
【請求項10】
前記較正コントローラ(60)は、前記バルーンプローブ(46)内の前記測定用流体の量の前記開始値と前記バルーンプローブ(46)内の前記測定用流体の量の前記終了値との間にある範囲内で、前記吸気終了時の前記食道内圧(Peso_insp)と前記呼気終了時の前記食道内圧(Peso_exp)との間の差の最大値を判定するように構成されること、
を特徴とする請求項9に記載の較正システム(80)。
【請求項11】
前記較正コントローラ(60)は、換気の継続中に、前記開始値と前記終了値との間の前記各測定点について、前記吸気終了時の前記食道内圧(Peso_insp)の測定値と、前記呼気終了時の前記食道内圧(Peso_exp)の測定値とを確認するように設計されること、
を特徴とする請求項9または10に記載の較正システム(80)。
【請求項12】
前記較正コントローラ(60)は、前記各測定点(S1、S2、M1~M7、E1、E2)について判定された、前記吸気終了時の前記食道内圧(Peso_insp)と前記呼気終了時の前記食道内圧(Peso_exp)との間の差を比較し、次に、複数の連続する測定点にわたって、判定された前記差がそれぞれ最大値を中心とする所定の変動範囲内にあるとき、前記バルーンプローブ(46)内の前記測定用流体の最適量を、前記複数の連続する測定点の上端および下端、またはそのいずれか一方から所定の距離を有する量として決めるように構成されること、
を特徴とする請求項11に記載の較正システム(80)。
【請求項13】
前記較正コントローラ(60)は、前記開始値と前記終了値との間の各測定点(S1、S2、M1~M7、E1、E2)について、吸気終了時の前記食道内圧(Peso_insp)と呼気終了時の前記食道内圧(Peso_exp)の、複数の測定値、特に、複数の対の測定値を確認するように設計され、
前記較正コントローラ(60)は、前記複数の測定値または前記複数の対の測定値、またはそこから導出されるパラメータ、特に、前記吸気終了時の前記食道内圧(Peso_insp)と前記呼気終了時の前記食道内圧(Peso_exp)の間の差に基づき、前記各測定点(S1、S2、M1~M7、E2)について、平均値および統計的分散を判定し、得られた前記平均値が統計的に有意であるとみなされるよう、前記測定点(S1、S2、M1~M7、E1、E2)ごとの測定数を決めること、
を特徴とする請求項1~12のいずれか一項に記載の較正システム(80)。
【請求項14】
前記較正コントローラ(60)は、前記開始値と前記終了値との間の前記各測定点(S1、S2、M1~M7、E1、E2)について、前記食道内圧(Peso)の測定が外的状況によって影響を受けるかどうかをそれぞれ監視し、そのような外的状況が確認された場合、前記測定をそれぞれ廃棄するように構成されること、
を特徴とする請求項1~13のいずれか一項に記載の較正システム(80)。
【請求項15】
前記較正コントローラ(60)は、前記較正手順の間に確認された前記データに基づいて、品質指数を計算するように設計されること、
を特徴とする請求項1~14のいずれか一項に記載の較正システム(80)。
【請求項16】
前記較正コントローラ(60)は、前記食道内圧(Peso)が所定の最大圧力を超えないように構成されること、
を特徴とする請求項1~15のいずれか一項に記載の較正システム(80)。
【請求項17】
前記較正コントローラ(60)は、前記各測定点(S1、S2、M1~M7、E1、E2)に近づける際に、呼気終末食道内圧(Peso)の所定の最小値、例えば、5hPaに達するか、またはそれを下回る場合に、前記バルーンプローブ(46)内の前記測定用流体の量を、前記開始値から始まり前記終了値に達するまで、さらに漸減するように前記流体排出装置を制御すること、
を特徴とする請求項2~16のいずれか一項に記載の較正システム(80)。
【請求項18】
食道内圧(Peso)を判定するための、食道(34)に挿入可能なバルーンプローブ(46)を備えた食道用カテーテル(48)に対する所望の動作充填を、自動的に較正するための、特に、換気装置(10)用の方法であって、
前記方法は、
前記バルーンプローブ(46)を前記食道(34)内に配置した後、測定用流体を前記バルーンプローブ(46)に充填する工程と、
前記バルーンプローブ(46)内の前記食道内圧(Peso)を検出する工程と、
前記バルーンプローブ(46)内の前記測定用流体の量を段階的に変化させる工程であって、測定点(S1、S2、M1~M7、E1、E2)として段階的に設定した前記バルーンプローブ(46)内の前記測定用流体の量ごとに前記食道内圧(Peso)を検出し、前記バルーンプローブ(46)内の前記測定用流体の設定量ごとに対応づける工程と、
を含み、
前記各測定点(S1、S2、M1~M7、E1、E2)に近づけるために、前記測定用流体の量を、開始値から終了値に達するまで、少なくとも2段階で単調に変化させること、
を特徴とする方法。
【請求項19】
較正システム(80)の形成に関して、請求項1~17に暗示的に記載された少なくとも1つの追加の方法ステップをさらに含むこと、
を特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
データ処理システム、特に、バルーンプローブ(46)を用いて食道用カテーテル(48)を制御するためのマイクロプロセッサまたはマイクロコントローラ上で実行することにより、請求項18または19に記載の方法が実施されるプログラム命令を含むコンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食道内圧を判定するためのバルーンプローブを備えた食道用カテーテルの較正システムに関する。
【背景技術】
【0002】
食道内圧を判定するためのバルーンプローブを備えた食道用カテーテル(以下、単にバルーンカテーテルとも呼ぶ)は、特に機械的換気装置において、経肺圧を判定するために使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2014/037175号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Mojoli et al.Crit.Care(2016)20:98
【非特許文献2】Hotz et al.Respir.Care(2018)63(2):177-186
【非特許文献3】Benditt J. Resp.Care 2005,50:pp.68-77
【非特許文献4】Lotti I.A et al.Intensive Care Med. 1995,21:406-413
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
今日の一般的な機械的換気では、患者に陽圧で呼吸ガスを供給する。したがって、換気中の気道内圧または肺胞内圧は、少なくとも吸気時には、肺胞を取り囲む胸膜腔または間隙内の圧力よりも大きくなる。一方で、呼気時には、換気装置によって気道が加圧されないため、肺組織が弛緩して気道内圧または肺胞内圧が低下する。特定の状況下では、この種の陽圧換気により、呼気終了時に、気道または肺胞内の圧力状態が非常に好ましくない状態となり、肺胞の一部が虚脱してしまうことがある。そして、その後の呼吸サイクルでは、最初に、肺容量の虚脱してしまった箇所が再び広げられるため、肺の機能的な残存容量が著しく損なわれ、その結果、酸素飽和度が低下し、肺組織が永久的な損傷を受けてしまう虞がある。
【0006】
呼気終了時の肺胞の虚脱を防ぐためには、陽圧での機械的換気中に、一般的にPEEPと呼ばれる、いわゆる呼気終末陽圧が設定される。この手段を用いることで、多くの場合、酸素飽和度の向上を図ることが可能になる。
【0007】
PEEPを設定して換気する場合、換気装置により、永続的、すなわち吸気時および呼気時のいずれにおいても、所定の陽圧、すなわちPEEPが、気道に対して適用される。したがって、PEEPは、呼気時の終了後もなお存在することになる。
【0008】
理想的には、PEEPを、呼気時に肺胞内圧が胸膜の間隙の圧力を下回らないか、少なくともその程度の高さに設定し、胸膜の間隙の圧力の影響で肺胞組織が虚脱しないようにする。換言すると、PEEPにより、肺胞内圧と胸膜の隙間の圧力との間の圧力差である経肺圧がゼロ未満になってしまう状態、または、肺胞の一部が虚脱し始める負の下限値を下回る状態が起こらないようにしている。
【0009】
一方で、PEEPの値が高すぎると、特に吸気時に悪影響を及ぼすリスクがある。吸気時に気道内圧が非常に高くなると、肺組織が過度に引っ張られてしまう可能性がある。また、PEEPを高く設定すると、心臓への静脈還流が阻害され、それに伴い心血管系にも悪影響が及ぶことが、多くの研究で示されている。
【0010】
PEEPは、それぞれ有効な経肺圧に設定するべきである。しかしながら、換気中の患者の経肺圧を判定することは容易ではない。そこで、換気中の患者の食道に食道用カテーテルを用いてバルーンプローブを挿入し、そのバルーンプローブ内の圧力を測定するように構成する。バルーンを適切に位置決めして構成することにより、バルーン内で測定した圧力に基づき、胸膜の間隙内の圧力をおおよそ知ることができる。
【0011】
国際公開第2014/037175号(特許文献1)には、経肺圧、すなわち、肺胞内圧と胸膜の間隙内の圧力との間の指標とみなされる、測定装置により検出した圧力に基づいて、換気装置により指定する圧力、特に、呼気終末陽圧(PEEP)および最大気道内圧を、自動設定する技術が開示されている。経肺圧が判定されると、食道に挿入したバルーンカテーテル内の圧力を、胸膜の間隔内の圧力の測定値として測定する。
【0012】
実際には、食道に挿入したバルーンカテーテル内で測定した圧力と、胸膜の間隙内の圧力との間の関係は、換気中に変化することがある。その原因は多岐にわたり、一般的には詳しく特定することができない。
【0013】
Mojoli et al.Crit.Care(2016)20:98(非特許文献1)には、食道内圧の測定用に設計されたバルーンカテーテルを較正するための手順が記載されている。較正の目的は、バルーンカテーテルに空気を最適に充填することであり、バルーンカテーテルが、食道に作用する胸膜の間隙内の圧力の変化にできるだけ敏感に反応し、胸膜の間隙内の圧力をできるだけ反映できるようにする。較正は、食道にバルーンカテーテルを挿入した状態の生体内で行う。バルーンカテーテルに充填する流体(空気)の量を変えて、吸気終了時の圧力と呼気終了時の圧力を連続的に測定し、これらの測定圧力の差を求める。バルーンへの最適な充填量は、吸気終了時にバルーンカテーテルで測定される圧力と呼気終了時にバルーンカテーテルで測定される圧力の両方が、バルーンに充填される流体の量に応じて準線形的に増加する測定範囲における、圧力差の最大値として求められる。このような生体内での較正において再現性のある結果を得るために、この研究では、バルーン充填量を、それぞれ以下のような同じ手順で調整した。つまり、まず、環境との圧力平衡にある空のバルーンカテーテルを測定範囲以上の値まで過充填し、次に、所望のバルーン充填量となるまでバルーンから流体を排出する。ここで、新たな測定点を記録する前に、流体の流れや圧力、また、カテーテルや食道組織において発生する弛緩の過程を補正するための時間を十分に確保するよう常に注意を払い、不安定な状態を避ける必要がある。このように、Mojoli他に記載されている測定手順は、比較的複雑で高感度なものであるため、バルーンカテーテルの較正にかかる時間は約15分以上となる。そのため、実際には、換気の開始前にバルーンプローブの最適な充填量のみを決定して事前に設定することになり、この最適な充填量は、換気中に変更されることなく維持される。
【0014】
同様に、Hotz et al.Respir.Care(2018)63(2):177-186(非特許文献2)では、胸膜の間隙内の圧力変化に対する測定圧力の感度を最大化にし、測定の正確性を向上させるために、バルーンカテーテルに充填する流体量を較正することを推奨している。しかし、ここで提案される生体内較正は、Mojoli et al.で提案される較正と類似しており、特に、時間がかかる点が共通している。
【0015】
本発明は、食道に挿入したバルーンカテーテルにより得られる測定圧力値の精度の向上を実現する較正システムを提供する。特に、本発明による較正システムによれば、胸膜の間隙内の圧力がバルーンカテーテルによってより正確に再現され、換気中の環境条件の変化に対して測定値をより迅速に反応させることができる。これにより、換気を中断することなく、換気中のバルーンカテーテルの較正が可能になる。これは、本出願人が開発した適応型補助換気(ASV換気)のように、閉ループ換気などの完全自動換気モードを使用して換気を行う場合にも適用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明では、食道内圧を判定するための、食道に挿入可能なバルーンプローブを備えた食道用カテーテルに対し、所望の動作充填を自動的に設定する、特に、換気装置用の較正システムを提案する。本発明にかかる較正システムは、バルーンプローブを食道内に配置した後、測定用流体をバルーンプローブに充填する装置と、バルーンプローブ内の食道内圧を検出する圧力センサと、バルーンプローブ内の測定用流体の量を段階的に変化させるように設計された較正コントローラであって、圧力センサが検出した食道内圧を、測定点として段階的に設定したバルーンプローブ内の測定用流体の量ごとに記録し、食道内圧を、バルーンプローブ内の測定用流体の設定量ごとに対応づける較正コントローラとを備える。
【0017】
較正コントローラは、各測定点に近づけるために、測定用流体の量を、開始値から終了値に達するまで、少なくとも2段階で単調に変化させるように設計される。
【0018】
測定用流体は、特に空気である。
【0019】
特に、較正システムは、バルーンプローブを食道に配置した後に、バルーンプローブから測定用流体を排出する装置(流体排出装置)をさらに備えてもよい。バルーンプローブを食道内に配置した後、バルーンプローブを測定用流体で充填する装置と、バルーンプローブを食道内に配置した後、バルーンプローブから測定用流体を排出する装置の両方に1つまたは複数の弁を設けてもよく、この弁は、バルーンプローブと流体連通する測定用流体用の搬送ライン内に配置される。バルーンプローブ内の測定用流体が正圧である場合には、単に、バルーンプローブと流体連通する流体ライン内の弁を制御することによって、流体排出装置を実現することができる。
【0020】
バルーンプローブを食道内に配置した後、バルーンプローブを測定用流体で充填する装置は、測定用流体をバルーンプローブ内に送り出すポンプ装置を含んでもよい。この場合、ポンプ装置を、バルーンプローブから測定用流体を引き出す(排出する)ように構成してもよい。また、流体排出装置がポンプ装置を備えてもよい。
【0021】
さらなる実施形態では、バルーンプローブに測定用流体を充填するための装置や、バルーンプローブから測定用流体を排出する装置に、流量センサ、特に、バルーンプローブに導入したりバルーンプローブから排出したりする測定用流体の量を判定するように設計された質量流量センサを設けてもよい。例えば、開始時と終了時の間の期間にわたって流量センサが測定した流量を積分することによって、バルーンプローブに導入したり排出したりした測定用流体の量をそれぞれ判定することができる。差圧に基づき測定用流体の流量を判定する場合、流量センサを、バルーンプローブ内の食道内圧を検出するために使用してもよい。また、別個の圧力センサを設けてもよい。
【0022】
較正コントローラは、「ハードウェア内で」独立したコンポーネントとして実装してもよい。あるいは、較正コントローラは、コンピュータプログラム製品として、すなわち、プロセッサ、特にマイクロプロセッサまたはマイクロコントローラ上で実行される対応するソフトウェアプログラムによって実現されてもよい。この場合、ソフトウェアは、適切なローカル記憶媒体またはネットワークを介して取り出すことができる記憶媒体上に保持することができる。ソフトウェアは、コンピュータプログラムとしてコード化された命令を含み、この命令は、ソフトウェアがプロセッサのRAMメモリにロードされ、機械言語に翻訳されると、プロセッサに、本明細書でより詳細に説明する手順を実行させる。もちろん、ハードウェアでの実現とソフトウェアでの実現との混在形態も考えられる。マイクロプロセッサまたはマイクロコンピュータは、較正システムの制御に関連付けられてもよく、特に、較正システムの制御の一部であってもよい。
【0023】
ここで用いる「単調」という語は、バルーンプローブ内の測定用流体の量が、測定サイクルの間、常に同じ方向に変化することを表している。これは、測定用流体の量が、各測定点に到達するための開始値と終了値との間の測定サイクル中、減少し続けるか、または、増加し続けるかのいずれかであることを意味する。これに関連して、測定サイクルは、開始値と終了値との間の測定点に近づくことにより定められる。測定サイクルの開始値および終了値は、バルーンプローブに導入されたり、バルーンプローブから排出されたりする所定量の測定用流体によって定めることができる。あるいは、開始値および終了値を、バルーンプローブ内で検出された圧力の所定の値によって定めることもできる。少なくとも、開始値と終了値(開始値と終了値は場合によっては含まれない)の間の連続する測定点に近づく際に、測定用流体を、常に所定量でバルーンプローブから排出したりバルーンプローブ内に導入したりする方が、より単純かつ迅速であることがわかっている。
【0024】
本発明によれば、測定サイクル内における開始値と終了値との間の測定範囲を単調に通過することにより、較正を大幅に加速することができる。これは、特に、開始値から少なくとも終了値まで、測定サイクル内で連続した測定点に次々に直接近づけることができるためである。特に、較正手順において、バルーンプローブを空にしたり、測定点ごとに再現性の高い初期条件を設定したりするための中間ステップが不要になる。さらに、圧力を均一化させる処理、または、圧力を緩和させる処理を待つ必要もない。各測定点に対して同じ初期条件を設定する手順を省略しても、較正として許容範囲外となるような大きな悪影響は生じないことがわかっている。特に、ヒステリシスの影響がある場合にも、測定サイクル内のすべての測定点はほぼ同じ影響を受けるため、較正に支障をきたすことはない。
【0025】
本発明にかかる較正システムの特定の実施形態では、以下に記載される任意の特徴のうちの1つまたは複数が備えられてもよい。ある特徴が実施形態に排他的に関係する場合は以下に明確に示される。したがって、以下に記載する特徴は、明示的に除外されない限り、上述または後述の各特徴と任意の方法で組み合わせることができる。
【0026】
上述したとおり、較正システムは、バルーンプローブから測定用流体を排出するように設計した流体排出装置をさらに備えてもよい。較正コントローラは、各測定点に近づけるために、開始値から終了値に達するまでの少なくとも2段階で、バルーンプローブ内の測定用流体の量を単調に減少させるよう流体排出装置を制御する。この制御は、例えば、バルーンプローブと流体連通している搬送ライン内のバルブを一時的に開くことによって実行することができる。また、対応するポンプ装置を能動的に作用させてもよい。
【0027】
較正コントローラを、バルーンプローブに測定用流体を充填するための少なくとも最初の測定サイクルにおいて、開始値と終了値との間で測定サイクルに対応づけられた測定範囲の上限よりも多い量の測定用流体をバルーンプローブ(46)に導入するよう構成してもよい。この場合、測定サイクルの開始を定める開始値は、第1の量の測定用流体がバルーンプローブから排出された後にのみ近くなる。較正コントローラは、開始値に対応する測定用流体量よりも多い量の測定用流体を、バルーンプローブに対して最初に充填するための配置を制御してもよい。その後、較正コントローラは、バルーンプローブ内の測定用流体の量が開始値に対応する量になるまで、バルーンプローブから測定用流体を排出するように、流体排出デバイスを制御してもよい。
【0028】
これらの手段により、次回の測定サイクルの開始前に、バルーンプローブはある程度過度に伸張する。これにより、測定サイクルは測定範囲として使用可能な全範囲を実際にカバーできるようになり、バルーンプローブによって測定される圧力は、バルーンプローブ内の測定用流体の量とほぼ直線的に変化する。本発明にかかる、開始値に近くなる前のバルーンプローブの過伸張を伴う手順においては、バルーンプローブで測定された圧力は、測定サイクル中の少なくとも中間部において、バルーンプローブにおける測定用流体の量と共にほぼ直線的に減少する。直線的な減少を用いることにより、バルーンプローブ内の測定用流体の上限充填量とバルーンプローブ内の測定用流体の下限充填量との間の範囲が定められるので、これを食道カテーテルの測定範囲とすることができる。
【0029】
測定は、生体内で、すなわち、患者の食道内に配置されたバルーンプローブを用いて行われるので、測定範囲として使用される直線部分における食道内圧/測定用流体量曲線の傾きは、食道の拡張性により決まるものであり、バルーンプローブの拡張性により決まることは少ない。直線部では、測定用流体の量が減少するにつれて食道の伸びが小さくなり、食道の断面積が小さくなるが、拡張性はほぼ変わらない。
【0030】
測定範囲の直線部より上の範囲では、少なくともバルーンプローブの直径の大きさが十分である場合、食道の拡張性が最大に達する。そうなると、バルーンプローブは、充填される流体の量がさらに増加しても、それ以上はほぼ伸びなくなる。したがって、食道バルーン内の圧力は、測定範囲の直線部分内よりも、測定用流体の増加に伴ってより急激に増加する。原則として、少なくとも最初の測定サイクルでは、食道内圧の測定開始値が測定範囲の直線部分より上の範囲になるように、測定用流体の開始値が選択される。
【0031】
さらなる実施形態では、較正コントローラを、少なくとも2つの測定サイクルを連続して実行するように設計してもよい。この場合、少なくとも2つの連続する測定サイクルの測定範囲は異なっていてもよい。特に、先行する測定サイクルにより、後続の測定サイクルの測定範囲を決定するようにしてもよい。
【0032】
例えば、先行する測定サイクルでは、第1開始値と第1終了値との間の第1測定範囲を、食道の拡張性がほぼ変わらない直線的な範囲を見つけるために通過するようにしてもよい。そして、後続の測定サイクルにおいて、第2開始値と第2終了値との間で、より細かいグラデーションの測定点を作るようにしてもよい。
【0033】
さらに、較正コントローラを、先行する測定サイクルと後続の測定サイクルとで、連続する測定点間の距離を異ならせて設定するように設計してもよい。この文脈において、「測定点間の距離」という表現は、バルーンプローブ内の関連する測定用流体の量の間の差を指すために用いている。
【0034】
例えば、先行する測定サイクルにおいて、連続する測定点の間の距離を比較的広く設定することで、食道用カテーテルで検出される食道内圧がバルーンプローブ内の測定用流体に対してほぼ直線的に変化する範囲を特定することができる。次の測定サイクルでは、この測定用流体の最大量と最小量との間の直線範囲を、より小さなステップ幅で通過することで、食道用カテーテルに最適な測定用流体の充填量を見つけることができる。
【0035】
さらに、較正コントローラを、測定サイクルにおいて、測定範囲内の連続する測定点の間のステップ幅または増加分を適応的に決めるように構成してもよい。このように適応的に増加分を決めるために、例えば、ニュートンアルゴリズムのような勾配法を用いてもよい。
【0036】
複数の測定サイクルが連続する場合、各測定サイクルの前に、最初にバルーンプローブを一定の程度で「オーバーストレッチ」させる、つまり、各測定サイクルの開始値に対応する量よりも多い測定用流体を初期導入することが有効である。この場合、較正コントローラを、先行する測定サイクルと後続の測定サイクルの間に、バルーンプローブから測定用流体が完全に空にならないように設計してもよい。このような実施形態では、特に、連続する測定サイクルの間であっても、バルーンプローブによって密閉された空洞または容積が完全に空にはならない。むしろ、測定サイクルの開始前にバルーンプローブ内に存在する測定用流体の正確な量は重要ではなく、任意の開始値から開始した場合において、開始値に必要な量よりも多くの量が導入されてもよい。さらに、バルーンプローブがどの程度過剰に伸びているかについての正確な値は、多くの場合、全く重要ではない。これは、後続の測定サイクルの開始値に到達するために、バルーンプローブから測定用流体を引き抜く際に、検出された食道内圧から、それぞれの測定サイクルの所望の開始値を認識することができるためである。
【0037】
ただし、精度を向上させるために、測定サイクルの開始前、または連続する測定サイクルを複数回行う場合は少なくとも最初の測定サイクルの開始前に、所定の負圧(例えば、周囲圧力に対して-20hPa)に達するまで、バルーンプローブから測定用流体を吸い出すなどして排出することで、バルーンプローブを所定の「ゼロ状態」に設定してもよい。このようにして、較正手順を、バルーンプローブの所定の初期状態(例えば、バルーンプローブが完全に潰れた状態)から確実に開始することができる。このゼロの状態から、最初の測定サイクルの開始値を超える所定の圧力までバルーンプローブが過充填されるまで、バルーンプローブに対して測定用流体を導入または圧送する。この状態から、開始値と終了値の間で複数の測定点に単調に連続的に近づけることで、上記の方法による較正手順を実行することができる。
【0038】
較正コントローラを、測定サイクル(開始値と終了値とを含むことが望ましい)の開始値と終了値との間で、各測定点、すなわち、バルーンプローブ内の測定用流体の設定量ごとに、吸気終了時の食道内圧の測定値と、呼気終了時の食道内圧の測定値とを確認し、次に、吸気終了時の食道内圧と呼気終了時の食道内圧との間の差を判定するように設計してもよい。
【0039】
この点に関して、較正コントローラは、バルーンプローブ内の測定用流体量の開始値とバルーンプローブ内の測定用流体量の終了値との間の範囲(開始値と終了値とを含むことが望ましい)について、吸気終了時の食道内圧と呼気終了時の食道内圧との差の最大値(最大圧力)を判定するように設計してもよい。最大圧力に対応するバルーンプローブ内の測定用流体量は、バルーンプローブへの最適な充填量、すなわち、換気が行われるバルーンプローブ内の測定用流体量に対応する。
【0040】
さらに、較正コントローラを、換気の継続中に、開始値と終了値との間の各測定点について、吸気終了時の食道内圧の測定値と、呼気終了時の食道内圧の測定値とを確認するように設計してもよい。
【0041】
したがって、食道内圧の測定値を求めるために、換気サイクルや呼吸サイクルを中断する必要はない。特に、これらの測定値を確認するために、換気ガスや呼吸ガスの流れを止めて気道を閉塞させる不動作時間を設定する必要がなくなる。したがって、食道カテーテルの較正や再較正を行っている間も、患者の換気をそのまま続けることができる。患者からすれば、人工呼吸の中断や干渉が避けられるだけでなく、食道用カテーテルの較正を可能な限り生命に近い状態で行うことができるようになるため、これは大きな利点である。
【0042】
さらに、較正コントローラを、各測定点について判定された、吸気終了時の食道内圧と呼気終了時の食道内圧との間の差を比較し、次に、複数の連続する測定点にわたって、判定された差がそれぞれ最大値を中心とする所定の変動範囲内にあるとき、バルーンプローブ内の測定用流体の最適量を、複数の連続する測定点の上端および下端、またはそのいずれか一方から所定の距離を有する量として決めるように構成してもよい。
【0043】
例えば、バルーンプローブへの最適充填量に対応する測定用流体量が、最大値付近の圧力差がほぼ等しい範囲の上端よりも下端に近いことが特定される場合がある。その場合、例えば、バルーンプローブへの最適充填量(「最適充填量」)に対応するバルーンプローブ内の測定用流体の量を、圧力差が略等しい範囲の下端に対応する測定用流体の量よりも、圧力差が略等しい範囲の上端に対応するバルーンプローブ内の測定用流体の量と圧力差が略等しい範囲の下端に対応するバルーンプローブ内の測定用流体の量との間の距離の1/3だけ多くしてもよい。
【0044】
特に、較正コントローラを、開始値と終了値との間の各測定点(場合によっては、開始値および終了値を含む)について、吸気終了時の食道内圧と呼気終了時の食道内圧の、複数の測定値、特に、複数の対の測定値を確認するように設計してもよい。これは通常、連続した換気サイクルで行われる。次に、較正コントローラを、複数の測定値または複数の対の測定値、またはそこから導出されるパラメータ、特に、吸気終了時の食道内圧と呼気終了時の食道内圧の間の差(圧力差)に基づき、各測定点について、平均値および統計的分散、または散らばりを判定し、得られた平均値が統計的に有意であるとみなされるように、測定点ごとの測定数を決定するように構成してもよい。
【0045】
一般的な原則として、得られた測定値の統計的変動が大きいほど、測定点にそれぞれ対応づけられた圧力差の測定値を判定するための基礎として、より多くの呼吸サイクルを使用することになる。例えば、心原性の振動や運動がここで役割を果たすことがある。このような影響は、測定ごとの呼吸サイクルの数を増やすことで、より良好に区別することができる。特に、算術平均を平均とすることができる。一方で、例えば、幾何平均のような平均も考えられる。
【0046】
統計的な分散は、特にガウスの標準偏差で表すことができる。その場合、2シグマレベルを統計的に有意と定義すること、すなわち95%以上のガウス標準偏差を有意と評価することが考えられる。別の変形例では、例えば、それぞれ新しい測定値の後の平均値の変化を、各測定点の有意性の尺度として使用することによって、分散性の判定を適応的に進めることができる。それぞれ測定値の後の平均値の変化が小さければ小さいほど、有意性は高くなる。最後の測定後の平均値の変化が所定の閾値より小さくなるまで、それぞれの測定点について測定を繰り返す。その後、バルーンプローブから所定量の測定流体を抜き取るなどして、次の測定点に進むことができる。
【0047】
さらなる実施形態では、較正コントローラを、開始値と終了値との間の各測定点について、食道内圧の測定(各測定において、測定点ごとに圧力差を複数の測定する場合)が外的状況によって影響を受けるかどうかをそれぞれ監視し、そのような外的状況が確認された場合、測定をそれぞれ廃棄するように構成してもよい。外的状況とは、例えば、患者の嚥下努力などである。較正全体が破棄または中止されるのではなく、外的状況によって影響を受けた測定値のみを破棄するようにしてもよい。特に、各測定点の新しい測定値は、その後直ちに確認する。その後、較正手順は正常に継続できる。このようにして、較正手順を中止したり長時間中断したりすることなく、「リアルタイムで」人工的な測定値を排除することができる。例えば、1つまたは複数の測定中に患者が嚥下努力を行った場合、それにより、患者に新たな嚥下努力が引き起こされる可能性もあることから、外的状況の検出後に較正手順全体を再スタートすると、大幅に時間がかかってしまう。既知の方法では、操作者の判断が必要であり、自動化が不可能であるか、または外部状況を考慮せずに自動較正を実行しなければならないため、この点について、既知の方法と比較して大きな進歩といえる。較正が完全に破棄されるのは、データを分析した結果、問題の較正に用いられた測定値の少なくとも1つまたはいくつかが、嚥下努力などの外部からの影響を受けている可能性があることが判明した場合のみである。したがって、較正を開始する前に、この較正が有効であるか、あるいは破棄しなければならないかどうかを、確実に、かつ事前に把握することはできない。
【0048】
患者による嚥下努力のような異常な外的状況は、例えば、食道内圧の経時変化を監視することで、特に、機械による指定の吸気終了時や呼気終了時に、圧力信号に変化が生じることから検出することができる。
【0049】
較正コントローラを、このような障害が発生した場合に較正を中断し、検出された食道内圧や気道内圧から、それ以上障害が起こらないと判断できた場合にのみ、較正を再開するように設計してもよい。
【0050】
さらに、較正コントローラを、較正手順の間に取得したデータに基づいて、品質指数を計算するように設計してもよい。品質指数は、様々な要因による影響の重み付けがされた要約を表す。このような実施形態では、品質指数を使用して、食道内圧データに基づいて換気パラメータを変更するかどうかを決定することができる。品質指標に関連する基準としては、測定データの統計的な散らばりや、食道内圧/測定用流体量曲線の不均一な経過などが考えられる。品質指標の尺度として、例えばガウス標準偏差で表される測定値の散らばりを使用することができる。さらに、品質指標に含まれる特定の規則を決めることもできる。そのような規則の例としては、較正手順中に患者による嚥下が検出された場合、品質指標を低下せることがあげられる。測定点における吸気終了時の食道内圧と呼気終了時の食道内圧の差の最大値が、食道内圧とバルーンプローブ内の測定用流体の量との関係を示す曲線の範囲外、特にそれ以上である場合に品質指標を低下させる。ベースライン圧、すなわち呼気終了時の食道内圧が連続した測定で変化しないか、あるいは安定した変化を示さず、飛躍して変化する場合も、品質指標を低下させる。バルーンプローブ内の高い流体量で検出された食道内圧が、バルーンプローブ内のより少ない流体の量に対応する値よりも小さい場合にも、品質指標を低下させる。
【0051】
さらに、較正コントローラを、食道内圧が所定の最大圧を超えないように設計してもよい。例えば、食道内圧の最大値が、換気中の最大気道内圧の2倍を超えないようにする。この圧力に達すると、それ以上バルーンプローブに流体を導入しないか、バルーンプローブから流体を排出するようにする。これは食道組織が過度に伸張しないようにするためである。また、この方法により、過度に伸張してバルーンプローブが損傷してしまうリスクを避けることができる。
【0052】
最後に、較正コントローラを、呼気終末食道内圧の所定の最小値、例えば、5hPaに達するか、またはそれを下回る場合に、各測定点に近づける際に、バルーンプローブ内の測定用流体の量を、開始値から始まり終了値に達するまで、さらに漸減するように排出デバイスを制御するように設けてもよい。
【0053】
本発明は、さらに、食道内圧を判定するための、食道に挿入可能なバルーンプローブを備えた食道用カテーテルに対する所望の動作充填を、自動的に較正するための、特に、換気装置用の方法に関する。
【0054】
この方法は、
バルーンプローブを食道内に配置した後、測定用流体をバルーンプローブに充填する工程と、
バルーンプローブ内の食道内圧を検出する工程と、
バルーンプローブ内の測定用流体の量を段階的に変化させる工程であって、測定点として段階的に設定したバルーンプローブ内の測定用流体の量ごとに食道内圧を検出し、バルーンプローブ内の測定用流体の設定量ごとに対応づける工程と、
を含む。
【0055】
本発明にかかる方法では、各測定点に近づけるために、測定用流体の量を、開始値から終了値に達するまで、少なくとも2段階で単調に変化させる。
【0056】
さらなる実施形態では、本発明にかかる方法は、較正システムの形成に関して、暗示的に上述した少なくとも1つ、特に複数の方法ステップをさらに含んでもよい。繰り返しを避けるため、較正システムの機能的特徴、特に較正コントローラの機能的特徴に関して、これらの方法ステップの詳細な説明が明示的に参照される。
【0057】
さらに、本発明は、プログラム命令を含むコンピュータプログラム製品に関し、データ処理システム、特に、バルーンプローブを用いて食道用カテーテルを制御するためのマイクロプロセッサまたはマイクロコントローラ上での実行中に、本発明にかかる方法または較正システムが実行される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】換気装置に必須な構成要素を、換気中の患者の挿管されている気管および胸部と共に、高度に図式化して示す図である。
図2】閉塞操作を含む機械的換気中の連続した数回の呼吸サイクルにおける、気道入口圧Paw(上)、食道内圧Peso(中)、および、両圧力の差Paw-Pesoの経時変化を示す図である。
図3】本発明の一実施形態にかかる食道用カテーテルの生体内での一連の較正手順を、フローチャートによって示す図である。
図4】本発明の一実施形態にかかる較正手順における、食道用カテーテルのバルーンプローブに設定された測定用流体の量、ならびに、食道用カテーテルのバルーンプローブ内で検出された圧力を概略的に示す図である。
図5】(a)は、測定サイクル中のバルーンプローブ内の測定用流体の各設定量について、吸気終了時にバルーンプローブ内で検出された各圧力、呼気終了時にバルーンプローブ内で検出された各圧力を概略的に示す部分画像、(b)は、吸気終了時のバルーンプローブ内の圧力と呼気終了時のバルーンプローブ内の圧力との間の結果として生じる各差圧を概略的に示す部分画像である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
図面を参照し、本発明のさらなる実施形態を以下に詳細に説明する。
【0060】
図1は、換気装置10に必須な構成要素を高度に図式化し、ブロック図の態様で示している。図1に示す換気装置10は、人工呼吸中の患者の気管12に挿管されている。図1は、気管12に加えて、患者の肺葉28、30、心臓32、食道34、および胸部42を非常に模式的に示している。換気装置10では、一般的に、チューブ14を患者の開口した口(図示せず)を介して短い距離で気管12へ挿入し、気道に呼吸ガスを供給する。呼気も同様に、上流端で第1端部16と第2端部22に分岐するチューブ14を通って排出される。吸気圧PInspをかけるために、第1端部16は、気道入口弁18を介して換気装置10の気道入口ポートに接続されている。気道入口弁18が開位置にあるときは、気道に吸気圧PInspがかかる。また、呼気圧PExpをかけるために、第2端部22は、気道出口弁24を介して換気装置10の気道出口ポートに接続されている。気道出口弁24が開位置にあるときは、気道に呼気圧PExpがかかる。
【0061】
換気装置10は、所定の時間のパターンにしたがって吸気圧PInspおよび呼気圧PExpを生成する。吸気時には、図1において矢印20で示すように、吸気用呼吸ガスが患者の肺部28、30に向かって流れ、呼気時には、矢印26で示すように、呼気用呼吸ガスが患者の肺部28、30から逆流する。通常、吸気時には、気道入口弁18が開いたままとなり、一般的には、呼気圧PExpよりも強い圧力の吸気圧PInspを気道入口にかけるようにする。呼気時には、気道入口弁18が閉じられる一方で気道出口弁24が開かれ、呼気圧PExpを気道入口にかけるようにする。
【0062】
本発明においては、公知の換気モードを任意の形態で使用することができ、例えば、圧力制御換気モード、容積制御換気モード、または、圧力制御モードと容積制御モードとを組み合わせた換気モードを使用することができる。また、換気装置10が吸気圧PInsp、および、場合によっては呼気圧PExpの時間的変化を定める純粋な機械制御の換気形態に加え、機械的換気を患者の自発呼吸がサポートするか、または、機械的換気が患者の自発呼吸をサポートする役割を果たす換気形態も考えられる。このような換気形態では、換気装置10のみにより吸気圧PInspまたは呼気圧PExpの時間的変化、および、特に入口弁18または出口弁24の位置を定めるのではなく、患者の自発呼吸による影響も考慮する。
【0063】
食道内に導入され、経肺圧の推測に利用する食道内圧を検出するように構成された、本発明が提案するようなバルーンプローブを備えた食道用カテーテルの較正は、特に、完全自動換気モードに適合する。完全自動換気モードとは、例えば、本出願人が開発した適応型補助換気(ASV換気)において使用されるような、閉制御ループによって換気が行われる形態である。このような換気形態の特徴は、操作者による手動介入は最小限でよく、換気装置が、適切な閉制御ループを使用して、呼気終末陽圧PEEPまたは最大気道内圧Paw_maxなどの重要な換気パラメータを、所定の値の範囲内で自動的に設定または調整する点にある。
【0064】
呼吸ガスは外気を含んでもよいが、一般的には、外気の酸素含有量を上回る所定の割合の純酸素(以下、FiO2と呼ぶ)を含有している。また、一般的に、呼吸ガスは加湿される。
【0065】
気道入口における呼吸ガスの流れは、気道入口流量センサ36を用いて判定する。気道入口流量センサ36は、入力容積38と、入力容積38と連通する出力容積40との間の圧力差dPを検出することに基づいており、気道入口における呼吸ガスの質量流量を判定する。同時に、気道入口圧Pawの値を、出力容積40の圧力信号から極めて容易に導出することができる。
【0066】
図1では、肺部28、30の肺胞内の圧力をPalvで示している。この圧力は、気道入口圧Pawならびに肺を出入りする呼吸ガスVの流れ、および気道抵抗Rに依存する。気道入口と肺胞の間の圧力が等しい場合、肺胞内圧Palvは気道入口圧に等しい。このように圧力が平衡している状態では、呼吸ガスの流れVが止まる。例えば、短時間の気道の閉塞操作、すなわち、気道入口弁18と気道出口弁24とを同時に閉じたままにすることで、圧力が平衡する。この場合、閉塞操作は、気道内のガスの流れVが止まるのに十分な間継続する必要がある。この長さは、通常1~5秒間である。この状態で、肺胞内圧Palvは、気道入口圧Pawを判定することによって次いで判定することができる。
【0067】
呼吸ガスの流れは、生理学的呼吸と機械的換気のいずれにおいても、肺胞内圧Palvと気道入口圧Pawとの間の圧力差によって判定する。
【0068】
純粋な生理学的呼吸の場合、胸部(図1の42で示す)の拡張、および、それに伴う、胸部42と肺部28、30との間に形成される胸膜の空間または間隙44内の圧力Pplの低下によって、吸気のための肺胞内圧Palvと気道入口圧Pawとの間の負圧差、すなわち負圧が生成される。呼気は、胸部の弛緩および肺組織の弾性のリセットにより受動的に行われる。このため、生理学的呼吸の間は、胸膜の間隙内の圧力Pplは、常に、肺胞内圧Palvよりも低くなる。したがって、一般的には、肺胞内圧Palvと胸膜の間隙内の圧力Pplとの差として定義される経肺圧Ptpは正となり、圧力が完全に等しい場合にはゼロとなる。
【0069】
機械的換気の場合、呼吸ガスは、陽圧で肺に送り込まれる。このため、機械的換気では、気道入口圧Paw=PInspは肺胞内圧Palvよりも大きく、後者は吸気中の胸膜の間隙の圧力Pplよりも大きくなる。これら圧力の関係から、機械的換気における経肺圧Pplは、吸気中は陽圧であることがわかる。呼気中は、気道入口には肺胞内圧Palvよりも低い気道内圧PExpがかかるため、呼吸ガスは肺胞から流出する。気道内圧PExpが非常に低い場合、肺にガスがほとんど残っていない呼気終了時に、胸膜の間隔Ppl内の圧力が肺胞内圧Palvを超えて高くなり、それにより肺胞の一部が虚脱してしまうことがある。このとき、経肺圧Ptpは負圧である。
【0070】
肺胞の虚脱は、呼気時においても気道入口に追加的に陽圧をかけることによって防ぐことができる。永続的、つまり、吸気時および呼気時のいずれにおいても、気道入口に対して気道陽圧かける。この気道陽圧は、呼気終末陽圧またはPEEPと呼ばれる。
【0071】
このように、経肺圧Ptpは、PEEPを設定する際の適切なパラメータである。しかしながら、経肺圧Ptpは直接的に検出することができず、上述のように、機械的換気中に定期的に検出される圧力から判定することもできない。
【0072】
図1に、食道内圧Pesoで示される食道34内の圧力を測定するために、追加で設けられたバルーンプローブ46を概略的に示す。バルーンプローブ46はバルーンの形態であり、食道34内に挿入したカテーテル48に取り付けられる。バルーンプローブ46は、食道34の壁に内接し、バルーンプローブ46の位置において食道34にかかる圧力を提供する。この圧力は、患者が適切な位置にいるときの胸膜の間隙における圧力Pplの良好な近似値である。食道内圧Pesoを検出するための上述のバルーンプローブ46、およびこのプローブの取り扱いについては、例えば、Benditt J. Resp.Care 2005,50:pp.68-77(非特許文献3)を参照されたい。
【0073】
経肺圧Ptpの判定には、胸膜の間隔内の圧力Pplに加えて、肺胞内圧Palvに関する情報が必要となる。所与の時間tにおける肺胞内圧を簡潔に判定するには、流量センサ36を用いて、呼吸ガス流V(t)を検出するようにしてもよい。Palv(t)=Paw(t)-R*V(t)の関係式(Rは気道抵抗を表す)により、時間tにおける肺胞内圧を推測することができる。同一の患者について、気道抵抗は、本質的に変化しないか、または比較的ゆっくりしか変化しない変数であり、従来技術で公知の方法にしたがって判定することができる。例えば、Lotti I.A et al.Intensive Care Med. 1995,21:406-413(非特許文献4)を参照されたい。呼気終了時の経肺圧Ptp_eeは、適切なPEEPを決定するために最も重要であるので、PEEPの自動設定に関連して、肺胞内圧Palvの判定は、以下の式にしたがって、好ましくは呼気終了時に行われる。
【0074】
Ptp_ee=Palv_ee-Peso_ee=Paw_ee-R*V_ee-Peso_ee.
【0075】
PEEPは、Ptp_eeが常に正のままであるか、または、少なくともゼロを大幅に下回らないように設定または調整される。
【0076】
上述した肺胞内圧Palvの判定方法は、自動換気装置10において極めて容易に実施できるが、しかしながら、適切なPEEPを大まかに推定しているに過ぎない。これは、主に気道抵抗Rに起因するものであり、正確に推測することは難しく、しかも、実際には、治療の過程にわたって特定の傾向を示す。
【0077】
肺胞内圧Palvを判定するための代替的な方法として、短時間の閉塞操作に基づく方法があり、この閉塞操作では、気道入口弁18と気道出口弁24の両方を同時に閉じたままにする。閉塞状態において、気道内に広がる圧力は均等になる。このような閉塞操作を呼気終了時に実行することにより、十分な閉塞期間後の気道内の圧力は、近似的に、呼気終了時の肺胞内圧Palvに等しい値となる。この圧力は、気道内圧Pawを測定するために気道入口に配置した圧力プローブを使用することで、非常に容易に検出することができる。図2の符号50は閉塞状況を示す。
【0078】
図2は、連続する呼吸サイクルにおいて閉塞操作が行われた場合の、気道内圧Paw(上)、バルーンプローブ46で測定した食道内圧Peso(中)、および、両圧力の差Paw-Pesoの経時変化を示している。図2から、吸気時(気道内圧Pawが高くなる)と呼気時(気道内圧Pawが低くなる)とからなる呼吸サイクルをはっきりと見てとることができる。食道内圧Pesoは気道内圧Pawにしたがうが、減衰した形態である。下の曲線に示される差圧Paw-Pesoは、呼吸ガスがゆっくりと供給されて圧力が常に平衡する場合には、経肺圧Ptpにかなりよく対応する。しかし、呼吸ガスの流れは変化するため、符号50と符号52で示した箇所を除き、実際にはこのような条件にはならない。符号50と符号52で示した箇所では、呼気終了時(符号50、約8秒と約12秒の間)と吸気終了時(符号52、約18.5秒と約24.5秒の間)に、それぞれ短時間の閉塞を行っている。いずれの場合も、閉塞の持続時間は約4秒であり、これは、例示した1回の呼吸サイクルの持続時間にほぼ対応する。一般的には、気道内で圧力が均一となって、気道内のガス流が止まるまで閉塞を持続する必要がある。
【0079】
時間座標において符号50で示した箇所の終了時(約11秒と12秒の間、例えば、閉塞の最後の約200ミリ秒)において、図2の第3の線で示す圧力Paw-Pesoは、呼気終了時の経肺圧Ptp_eeにかなり近似的に対応する。Ptp_eeを求めるには、例えば、前述の期間にわたるPaw-Pesoを平均すればよい。また、時間座標において符号52で示した箇所の終了時(約21.5秒と22.5秒の間、例えば、閉塞の最後の約200ミリ秒)において、第3の線で示す圧力Paw-Pesoは、吸気終了時の経肺圧Ptp_eiにかなり近似的に対応する。Ptp_eiを求めるには、例えば、前述の期間にわたるPaw-Pesoを平均すればよい。
【0080】
上述の閉塞操作を用いた経肺圧Ptpの判定は、気道抵抗Rを用いた上述の方法よりも正確である。ただし、呼気終了時または吸気終了時に閉塞操作を行う必要がある。したがって、その性質上、この方法では呼吸サイクルが妨げられることになり、閉塞の持続時間が呼吸サイクルの持続時間に比べれば、なおさら有意に影響する。このため、気道抵抗による方法を用いて、PEEPの設定値や最大気道内圧の設定値が仕様内に留まっているか、または、結果として得られる経肺圧Ptp_eeの値が、正規化された経肺圧Ptp_ee_idealの特定の仕様内にあるかどうかを、例えば、呼吸ごと、またはn回の呼吸ごと(n>1)など、かなり頻繁に確認して進めることが望ましい。この検査により、仕様内にないことが確認され、PEEPや最大気道内圧について、新しい(より高いまたはより低い)値を設定する必要がある場合には、呼気終了時に、次の呼吸サイクルにおいて閉塞操作を実行して、PEEPについての新しい値を、上述のように、閉塞に基づいて決定するようにする。あるいは、閉塞操作を、n>1、例えば、n=10、50、または100で、n回の上述した呼吸サイクルごとに繰り返すようにしてもよい。
【0081】
上述のように、バルーンプローブ46を備えた食道用カテーテル48を用いて経肺圧Ptpを判定するための前提条件は、バルーンプローブ46内で検出される経肺圧Ptpと食道内圧Pesoとの間に一定の関係があることである。理想的には、バルーンプローブ46内で検出される圧力Pesoは、胸膜の間隔内の圧力Pplにほぼ一致するはずであり、その結果、経肺圧Ptpは、気道内圧Pawと食道内圧Pesoとの間の差から生じる。しかしながら、実際には、バルーンプローブ46を食道34内に挿入した状態において、カテーテル48内で測定された圧力Pesoと、換気中の胸膜の間隙内の圧力Pplとの間の関係は定期的に変化する。このような変化は、通常、特定の原因または事象に明確に帰することはできず、しばしば潜行的に起こる。
【0082】
このため、このような食道用カテーテル48を較正することが望ましい。しかし、先行技術で提案されている、生体内で食道用カテーテルを較正するための技術は、非常に敏感で時間がかかることがわかっている。したがって、これらの技術を、患者の換気中に用いること、特に、換気中に食道用カテーテルを適切に較正することを目的として、継続的なモニタリングへ使用することは適していない。
【0083】
本発明は、食道34に挿入したカテーテル48による圧力測定値の精度を改善する較正システム80を提供する。特に、本発明による較正システム80によれば、胸膜の間隙内の圧力Pplが、食道用カテーテル48を介してより正確に再現され、且つ、継続的な換気中に変化する環境条件に対し、測定値がより迅速に応答する。これにより、換気中の食道用カテーテル48を、換気を中断せずに較正することができるようになる。なお、本発明は、完全自動換気モード、例えば、本出願人が開発した適応型補助換気(ASV換気)などの閉ループ換気を使用して換気が行われる場合にも適合する。
【0084】
本発明による較正システム80は、較正コントローラ60を含む。較正コントローラ60は、バルーンプローブ46内の測定用流体の量を段階的に変化させるように設計され、また、圧力センサによって検出された食道内圧Pesoを、段階的に測定点として設定したバルーンプローブ内の測定用流体の量ごとに記録し、食道内圧を、バルーンプローブ内の測定用流体の設定量ごとに対応づける。このために、バルーンプローブ46によって検出された圧力信号Pesoも、較正コントローラ60に送信される。
【0085】
較正システム80はポンプ機構62を備え、このポンプ機構62は、バルーンプローブ46が食道34内に配置されると、バルーンプローブ46内に測定用流体を導入し、また、バルーンプローブ46から測定用流体を排出するように構成されている。また、ポンプ機構62は弁64を含み、この弁64は、バルーンプローブ46と流体連通する測定用流体搬送ライン66内に配置されている。バルーンプローブ46内の測定用流体が正圧である場合には、実際にポンプが補助することなく、弁64を作動させるだけで測定用流体をバルーンプローブ46から引き抜くことができる。
【0086】
較正システム80は流量センサ68、特に、質量流量センサをさらに備え、この流量センサ68は、バルーンプローブ46に導入・排出する測定用流体の量を判定するように構成されている。例えば、開始時と終了時の間の期間にわたり、流量センサ68が測定した流量を積分することによって、バルーンプローブ46に導入した、またはそこから排出した測定用流体の量を、それぞれ判定することができる。例えば、流量センサ68は、差圧に基づいて測定用流体の質量流量を判定してもよい。この場合、流量センサ68を使用して、バルーンプローブ46内の食道内圧Pesoを検出することもできる。
【0087】
較正コントローラ60は、「ハードウェア内で」独立したコンポーネントとして実装してもよい。あるいは、較正コントローラは、コンピュータプログラム製品として、すなわち、プロセッサ、特にマイクロプロセッサまたはマイクロコントローラ上で実行される対応するソフトウェアプログラムによって実現されてもよい。この場合、ソフトウェアは、適切なローカル記憶媒体またはネットワークを介して取り出すことができる記憶媒体上に保持することができる。ソフトウェアは、コンピュータプログラムとしてコード化された命令を含み、この命令は、ソフトウェアがプロセッサのRAMメモリにロードされ、機械言語に翻訳されると、プロセッサに、本明細書でより詳細に説明する手順を実行させる。もちろん、ハードウェアでの実現とソフトウェアでの実現との混在形態も考えられる。マイクロプロセッサまたはマイクロコンピュータは、較正システム80の制御に関連付けられてもよく、特に、較正システム80の制御の一部であってもよい。
【0088】
図3は、本発明の一実施形態にかかる食道用カテーテル48の生体内での一連の較正手順を、フローチャートによって示している。
【0089】
図4は、本発明の一実施形態にかかる較正手順における、食道用カテーテル48のバルーンプローブ46に設定された測定用流体Vballoonの量の経時変化、ならびに、食道用カテーテル48のバルーンプローブ46内で検出された圧力Pesoを概略的に示している。
【0090】
較正コントローラ60は、各測定点S1、S2、M1、M2...M7、E1、E2、E3に近づくと、バルーンプローブ46内の測定用流体Vballoonの量を、開始値S2から終了値E3に達するまで、少なくとも2段階で単調に変化させるように設計されている。
【0091】
測定用流体は、特に、空気である。
【0092】
図3に示す較正手順100は、ステップ102から開始する。まず、ステップ104において、バルーンプローブ46内に所定の初期圧力が生じるまで、測定用流体をバルーンプローブ46から排出する。ステップ104で成立した状態を、図4において「N」で示す。
【0093】
その後、ステップ106において、バルーンプローブ46内の圧力が、測定サイクルで想定される測定範囲を上回る所定の正圧となるまで、再び、測定用流体をバルーンプローブ46内に圧送する。ステップ104で成立した状態を、図4において「D1」で示す。
【0094】
続くステップ108~130において近づく他のすべての測定点を、図4においてS1、S2、M1~M7、E1、E2、E3で示す。
【0095】
ステップ106で設定した状態では、バルーンプローブ46は明らかに過剰に伸張している。このことは、図4において、バルーンプローブ46において検出された食道内圧Pesoの値が、近づく全ての他の測定点S1、S2、M1~M7、E1、E2、E3の値よりも著しく高いことからわかる。
【0096】
図4および図5において、測定範囲の上限をO、測定範囲の下限をUで示す。図4および図5に示す較正手順では、測定範囲の下限Uは測定点M7にあり、測定範囲の上限Oは測定点M1にある。これらに対応するバルーンプローブ46内の測定用流体Vballoonの量を、上限値Oおよび下限値Uの、それぞれの場合における基準の量として選択する。したがって、Oは、測定範囲の上限に対応する、測定点M1におけるバルーンプローブ46内の測定用流体の量を示す。また、Uは、測定範囲の下限に対応する、測定点M7におけるバルーンプローブ46内の測定用流体の量を示す。
【0097】
ステップ106に続き、ステップ108では、所定量の測定用流体がバルーンプローブ46から排出される。これにより、測定範囲内で想定される食道内圧をわずかに上回る圧力Pesoが検出される程度の、バルーンプローブ46内の測定用流体の量が設定される(測定点M1~M7参照)。この状態を、図4および図5において「S1」で示す。あるいは、測定範囲内で想定される食道内圧をわずかに上回るPesoの所定値が検出されるまで、測定用流体をバルーンプローブ46から排出するようにしてもよい(測定点M1~M7を参照)。
【0098】
「S1」の状態の間、食道内圧Pesoは、複数の呼吸サイクルにわたってバルーンプローブ46内で検出される。図4から明らかなように、食道内圧Pesoは、呼吸サイクルの各々を反映しているが、非常にわずかな程度であり、バルーンプローブ46の感度が低いことを示している。
【0099】
ステップ108に続き、ステップ110では、図4および図5において「S2」で示す状態に達するまで、所定量の測定用流体をバルーンプローブ46から排出する。ステップ110では、ステップ108ついて説明した手順と同じ手順が、「S2」の状態について繰り返される。ここでも、わずかな呼吸サイクルを認められるのみで、バルーンプローブ46の感度は低い。
【0100】
ステップ110の完了後、ステップ112では、図4および図5において「M1」で示す状態に達するまで、所定量の測定用流体を再びバルーンプローブ46から排出する。ステップ112では、ステップ108について説明した手順と同じ手順が、「M1」の状態について繰り返される。
【0101】
図4および図5から明らかなように、測定点M1の状態(および後続の測定点M2~M7の状態)において、食道内圧Pesoは、各々の呼吸サイクルを明確に反映している。ここで、Pesoの曲線の最大値は、吸気終了時にそれぞれ検出されるバルーンプローブ46内の食道内圧Peso_inspに対応し、Pesoの曲線の最小値は、呼気終了時にそれぞれ検出されるバルーンプローブ46内の食道内圧Peso_expに対応する。
【0102】
この手順は、その後、測定点M2~M7、E1、E2に近づくと、数回ずつ繰り返される(ステップ114~130参照)。測定点M2~M7、E1、E2のそれぞれにおいて、バルーンプローブ46内の食道内圧Pesoは、ステップ108、110、および112を参照して説明した方法と同じ方法によって複数の呼吸サイクルにわたって検出される。Pesoの曲線の最大値は、吸気終了時にそれぞれ検出されたバルーンプローブ46内の食道内圧Peso_inspに対応し、Pesoの曲線の最小値は、呼気終了時にそれぞれ検出されたバルーンプローブ46内の食道内圧Peso_expに対応する。
【0103】
図3のフローチャートでは、各ステップ110~130は詳細に示していない。
【0104】
図4に基づくと、これらのステップは、バルーンプローブ46内の測定用流体の特定量に属し、測定点S1、S2、M2~M7、E1、E2とされている。バルーンプローブ46内の測定用流体の量は、測定点S1、S2、M1~M7、E1、E2において、ある測定点から次の測定点への遷移中に、常に単調に変化し、特に、常に減少する。この場合、ステップ幅または増加分、すなわち、測定点のうちの1つから次の測定点への遷移中にバルーンプローブ46内の測定用流体が変化する量は、常に同じである。しかしながら、バルーンプローブ46内の測定用流体の変化量は、変化が常に同じ方向に起こる限り(すなわち、量が常に減少するか、または常に増加する限り)、各ステップにおいて異なるように選択されてもよい。バルーンプローブ46内のそれぞれの測定点と、それに関連する測定用流体の量との間の対応関係は一意であるので、簡略化を目的として、以下では、それぞれの測定点をD1、S1、S2、M1~M7、E1、E2などと指定するだけでなく、バルーンプローブ46内のそれぞれ関連する測定用流体の量も同様に指定する。例えば、M1は、測定点M1と、バルーンプローブ46内の関連する測定用流体の量の両方を表す。また、バルーンプローブ46内の測定用流体の量を表すM1は、測定範囲の上限値Oも表す。同様に、例えば、M7は、測定点M7と、バルーンプローブ46内の関連する測定用流体の量の両方を表す。また、バルーンプローブ46内の測定用流体の量を表すM7は、測定範囲の下限値Uも表す。他の測定点M2~M6についても同様である。
【0105】
図4では、測定点M1~M7について、検出した食道内圧信号Pesoは、呼吸サイクルをそれぞれ明確に表しているが、測定点E1以降は、検出した食道内圧信号Pesoが不安定になり始めている。これは、バルーンプローブ46が測定用流体で十分に満たされておらず、それにより、各呼吸サイクルによる圧力変化に適切に応答しきれない範囲に入っているためである。測定点E2およびE3では、バルーンプローブ46が完全に潰れており、食道内圧Pesoが呼吸サイクルをほとんど反映していない状態であると考えられる。測定サイクルは、測定点E3に達したときに終了する。測定点E3は、食道内圧Pesoが検出されず対応づけされない点で異なる。
【0106】
状態M1は、測定サイクルに使用することのできる測定範囲の上限Oを示す。したがって、実際の較正は、測定点M1~M7で定義されるこの測定範囲に限定される。図4から明らかなように、測定範囲内の全ての測定点M1~M7について、バルーンプローブ内で検出される食道内圧Pesoは、実質的に同じ範囲内にある。これは、バルーンプローブ46が食道壁と共に、バルーンプローブ46内の測定用流体の量に応じて膨張または収縮する、本質的に弾性を有するシステムを形成していることを示している。これらの比率は、測定点M7における、測定範囲の下限Uに達するまで同じままである。測定点M1とM7との間、ひいてはバルーンプローブ46内の測定用流体の量の上限値Oから下限値Uまでの間の測定範囲において、バルーンプローブ46からの測定用流体の各所定量と、検出されたそれぞれの食道内圧Pesoとの間には、ほぼ線形関係が存在する。この線形関係を表す直線の傾きは、呼気終了時に検出された食道内圧Peso_inspとバルーンプローブ46内の所定量の測定用流体との関係、および呼気終了時に検出された食道内圧Peso_expとバルーンプローブ46内の所定量の測定用流体との関係についてほぼ同じである。測定範囲外の領域(測定点S1、S2、測定点E1、E2)では、バルーンプローブ46からの所定量の測定用流体と検出された食道内圧Pesoとの関係が大きく変化する。この関係は、これらの領域ではもはやほぼ線形ではなく、バルーンプローブ46内の測定用流体の量が多いか少ないかによって、検出される食道内圧Pesoの増減がより強くなることを示している。また、バルーンプローブ46内の所定量の測定用流体について、各呼気終了時に検出された食道内圧Peso_inspと各呼気終了時に検出された食道内圧Peso_expとの差は、実測定範囲(測定点M1~M7)外の領域(測定点S1、S2、E1、E2)において急激に小さくなる。
【0107】
この較正手順の意義を図5に示す。図5aは、測定サイクル中に測定点S1、S2、M1~M7、E1、E2として設定された、バルーンプローブ46内の測定用流体Vballoonの各量について、吸気終了時にバルーンプローブ46内で検出された各食道内圧Peso_inspと、呼気終了時のバルーンプローブ46内で検出された各食道内圧Peso_expとを概略的に示している。図5bは、各測定点S1、S2、M1~M7、E1、E2について、吸気終了時のバルーンプローブ内の食道内圧Peso_inspと呼気終了時のバルーンプローブ内の食道内圧Peso_expとの間の、結果として生じる差圧dPをそれぞれ示している。
【0108】
図5から明らかなように、測定点M1~M7の範囲内において、吸気終了時にバルーンプローブ46で検出された食道内圧Peso_inspと呼気終了時にバルーンプローブ46で検出された食道内圧Peso_expの変化は、バルーンプローブ46における測定用流体Vballoonの量の変化とほぼ線形の関係を有している。結果として得られる2つの曲線Peso/Vballoonの勾配は、非常に平坦であり、吸気終了時の食道内圧値Peso_inspおよび呼気終了時の食道内圧値Peso_expについての勾配と本質的に類似している。したがって、呼気終了時にバルーンプローブ46内で検出された各食道内圧Peso_inspと呼気終了時にバルーンプローブ46内で検出された各食道内圧Peso_expとの間の差dPは、測定点M1~M7で定義される測定範囲内で実質的に一定のままである。一方で、この差dPは、測定点S1、S2、およびE1、E2が位置する測定範囲外では非常に小さくなる。よって、食道カテーテル48の最適な較正は、測定点M1~M7によって定義される測定範囲内、すなわち、図5a)に示す2つの垂直な点線OとUとの間の、バルーンプローブ46内の測定用流体の量の範囲内にある測定用流体の量で行われる。そして、較正コントローラ60は、較正の結果として、測定点M1~M7で定められる測定用流体の測定範囲内にある、バルーンプローブ46内の測定用流体の量を選択する。この量を、図5b)では垂直線Kによって示し、図4では、右部分においてVballoonの曲線が水平方向に延びる箇所をKで示しており、較正手順が完了した後のバルーンプローブ46内の流体量として設定される。
【0109】
図5b)は、測定点M1~M7によって規定される測定範囲内において、バルーンプローブ46内の測定用流体の最適量をどのように選択するかを示している。測定範囲内では、まず、吸気終了時にバルーンプローブ46で検出される食道内圧Peso_inspと、呼気終了時にバルーンプローブ46で検出される食道内圧Peso_expとの差dPが最大となる測定点を探す。図5b)に示す例では、測定点M4が該当する。その後、この最大差dPmax付近の許容変動範囲を定める。変動範囲内にある差dPの値は、最大値dPmaxと有意に異ならないようにする。図5b)に示す例では、許容変動範囲は、測定点M4における最大差dPmaxの10%である。この変動幅は、図5b)において一点鎖線rで示されている。測定点M3、M4、M5、M6、およびM7について判定された差dPは変動範囲内にある。これら全ての測定点は、測定点M4に隣接し、互いに隣接している。したがって、測定点M3とM7との間にある、バルーンプローブ46内の測定用流体の量の範囲は、測定用流体のバルーンプローブ46への充填に関して同等であると考えられる。この領域は、図5b)において、垂直の破線aおよびbによって示される。線aとbとの間の領域の中央が、バルーンプローブ46内の測定用流体の最適量として選択される。このようにして、バルーンプローブ46内の最適な測定用流体量を、較正の結果として得ることができる(図5b)の垂直線Kを参照)。この量Kは、較正手順が完了した後のバルーンプローブ46内の流体の量として設定される(図4のVballoonの曲線の右端部分を参照)。
【0110】
較正手順の完了後、較正システム80は、ステップ132において、測定範囲の測定点M1~M7に対応する量を明らかに上回る量の測定用流体をバルーンプローブに再び導入する。このステップにより、バルーンプローブ46が再び過剰に伸張し(図4では、この状態を「D2」で示す)、その後、ステップ134では、バルーンプローブ46から対応する量の測定用流体を排出することによって、先行する較正手順で決定された、図4において「K」で示す較正状態(バルーンプローブ46が最適な量の測定用流体Kで満たされる状態)を設定する。
【0111】
あるいは、較正状態Kを設定する前に、さらなる測定サイクル(または複数のさらなる測定サイクル)を、図3図5に示す測定サイクルの後に続けてもよい。この場合、手順は、ステップ134からステップ108に戻り、最初の測定サイクルのステップ110~130と同様に、さらなる測定サイクルにおいてステップを繰り返す。図3では、この繰り返しを線138で示している。
【0112】
較正コントローラ60は、バルーンプローブ46内の測定用流体の量を、開始値S1から終了値E3に達するまで、各測定点S1、S2、M1~M7、E1、E2に近づけるために、少なくとも2段階で単調に変更させるので、較正を、短時間で、例えばほんの数分以内に完了することができる。これにより、継続的な換気中に較正を随時繰り返すことができる。そのため、バルーンプローブ46への最適な充填が換気の過程で変化する場合にも、食道カテーテル48を常に正確に較正することができる。これにより、自動換気モードでの患者の換気を長期間にわたり行うことができるようになる。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】