(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-28
(54)【発明の名称】EMP保護用の直列静的スパークギャップ
(51)【国際特許分類】
H01T 4/00 20060101AFI20240220BHJP
【FI】
H01T4/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553655
(86)(22)【出願日】2022-03-03
(85)【翻訳文提出日】2023-09-04
(86)【国際出願番号】 US2022018670
(87)【国際公開番号】W WO2022187461
(87)【国際公開日】2022-09-09
(32)【優先日】2021-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522296413
【氏名又は名称】アドバンスド フュージョン システムズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】カッペレッティ,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】カンペ,ゲディミナス
(72)【発明者】
【氏名】ビルンバッハ,カーティス
(57)【要約】
電気機器に結合された送電線を有する送電系統を有害なEMIから保護するための方法は、送電線上で有害なEMIの少なくとも1つのパルスを受信することと、電気機器からの高速過渡電圧を低インピーダンス手段によって接地にバイパスし、電気機器に対する損傷を防止するような方法で、少なくとも1つの静的直列スパークギャップ装置によって接地に、有害なEMIの少なくとも1つのパルスによって送電線に誘導される電流を分流させることとを含み、静的直列スパークギャップ装置は、通常、2ナノ秒以下の立ち上がり時間を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器に結合された送電線を有する送電系統を有害なEMIから保護する方法であって、
前記送電線上で前記有害なEMIの少なくとも1つのパルスを受信することと、
前記電気機器から離れて低インピーダンス経路を介して接地に高速過渡電圧をバイパスして、前記電気機器に対する損傷を防止するような方法で、少なくとも1つの静的直列スパークギャップ装置を介して接地に、前記有害なEMIの前記少なくとも1つのパルスによって前記送電線に誘導される電流を分流させることと、
を含み、
前記静的直列スパークギャップ装置は、通常2ナノ秒以下の立ち上がり時間を有する、前記方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの静的直列スパークギャップ装置は、加圧気体が充填されている、電極及び絶縁体円板を交互にするスタックを含む絶縁体を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ばねを使用して前記電極及び前記絶縁体円板を交互にする前記スタックを圧縮することをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記スタックの前記絶縁体円板は周辺凸条部を有し、前記周辺凸条部は、電気経路長を増加させて導電膜の形成を防止するように適合される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記電極は凹部を含み、前記絶縁体円板は、前記電極及び前記絶縁体円板のアライメントを前記スタック内で確保して維持するために、前記電極の前記凹部に整合する凸状ハブ部を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの静的直列スパークギャップ装置は、前記スタックの前記電極間に結合された分圧回路網をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記電極及び前記絶縁体円板を交互にする前記スタックを、低インダクタンスの導電性ストラップまたは編組を介して前記送電線に結合されているフランジに結合することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
送電系統であって、
送電線、
第一位置で前記送電線と接地との間に結合された第一電気機器、
第二位置で前記送電線と前記接地との間に結合された第二電気機器、
前記第一位置で前記送電線と前記接地との間に、前記第一電気機器と並列に結合された第一直列スパークギャップ装置、及び
前記第二位置で前記送電線と前記接地との間に、前記第二電気機器と並列に結合された第二直列静的スパークギャップ装置、
を含み、
前記第一直列スパークギャップ及び前記第二直列スパークギャップは、前記第一電気機器及び前記第二電気機器を損傷から保護するような方法で、前記有害なEMIによって前記送電線に誘導された電流を前記接地に分流させるように機能する、前記送電系統。
【請求項9】
前記第一静的直列スパークギャップ装置及び前記第二静的直列スパークギャップ装置は、電極及び絶縁体円板を交互にするスタックを含む絶縁体、ならびに前記電極及び前記絶縁体円板を交互にするために圧縮力を加えるように位置決めされたばねを含み、前記絶縁体は加圧気体で充填される、請求項8に記載の系統。
【請求項10】
前記第一静的直列スパークギャップ装置及び前記第二静的直列スパークギャップ装置は、それらのそれぞれのスタックの前記電極間に結合された分圧回路網をさらに含む、請求項9に記載の系統。
【請求項11】
前記第一直列静的スパークギャップ装置及び前記第二直列静的スパークギャップ装置の前記スタックの前記絶縁体円板は、周辺凸条部を有し、前記周辺凸条部は、電気経路長を増加させて膜の形成を防止するように適合される、請求項9に記載の系統。
【請求項12】
前記第一直列静的スパークギャップ装置及び前記第二直列静的スパークギャップ装置の前記電極は凹部を含み、
前記第一直列静的スパークギャップ装置及び前記第二直列静的スパークギャップ装置の前記絶縁体円板は凸状ハブ部を含み、前記凸状ハブ部は、前記電極及び前記絶縁体円板のアライメントを前記スタック内で確保して維持するように、前記電極の前記凹部に整合する、請求項9に記載の系統。
【請求項13】
ばねを使用して前記電極及び前記絶縁体円板を交互にする前記スタックを圧縮することをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
電気系統を有害な電磁干渉(EMI)から保護するように適合された直列静的スパークギャップ装置であって、
絶縁体、
複数の交互になる電極及び絶縁体円板素子を含む、前記絶縁体内に位置決めされたスタック、
前記スタックに圧縮圧力を加えるように適合された前記絶縁体に結合されたばね、ならびに
加圧気体を前記絶縁体に受け入れるための密閉可能なポート、
を含む、前記直列静的スパークギャップ装置。
【請求項15】
前記スタックの前記電極間に結合された分圧回路網をさらに含む、請求項14に記載の直列静的スパークギャップ装置。
【請求項16】
前記スタックの前記絶縁体円板は、周辺凸条部を有し、前記周辺凸条部は、電気経路長を増加させて膜の形成を防止するように適合される、請求項14に記載の直列静的スパークギャップ装置。
【請求項17】
前記スタックの前記電極は凹部を含み、前記絶縁体円板は、前記電極及び前記絶縁体円板のアライメントを前記スタック内で確保して維持するために、前記電極の前記凹部に整合する凸状ハブ部を含む、請求項14に記載の直列静的スパークギャップ装置。
【請求項18】
前記電極及び前記絶縁体円板の前記スタックの両側の上の前記絶縁体のそれぞれの端部に位置決めされた第一フランジ及び第二フランジであって、送電系統の送電線に結合されるように適合される、前記第一フランジ及び前記第二フランジ、ならびに
前記第一フランジを前記電極及び前記絶縁体円板の前記スタックの第一端部電極に結合する導電性ストラップまたは編組、
をさらに含む、請求項14に記載の直列静的スパークギャップ装置。
【請求項19】
前記電極及び前記絶縁体円板の前記スタックの、前記第一端部電極とは反対側の第二端部電極を前記第二フランジに結合する編組の第二導電性ストラップをさらに含む、請求項18に記載の直列静的スパークギャップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に提示されるのは、原子力事象及び非原子力事象に起因する、発電系統、送電、配電、及びその他の関連機器を電磁パルス(EMP)による損傷から保護するために使用する直列静的スパークギャップ(S3G)の適用に専用の方法及び装置の説明である。
【0002】
定義
電磁干渉(EMI):電磁放射線、それを電気系統で受けると、伝達される信号またはそのような系統に結合された機器に干渉する可能性があるため、望ましくない。EMIは、本明細書では、以下に定義される多数のサブタイプを包含する広範な用語として定義される。
【0003】
有害なEMI:電磁干渉、それを電気系統で受けると、そのような系統に結合されている電気機器、例えば、限定ではないが、発電機、電子回路基板及び変圧器などが損傷する、または動作不能になる可能性が高くなる。この干渉は、パルスまたは連続放射である可能性がある。
【0004】
意図的電磁干渉(IEMI):対象となる電気系統に悪影響を与えるように意図的に(人為的に)生じる電磁干渉。この干渉は、パルスまたは連続放射である可能性がある。
【0005】
電磁パルス(EMP):通常5ナノ秒未満という立ち上がり時間が速い電磁放射線の有害なトランジェントバーストであり、潜在的に損傷を与える電流及び電圧サージを発生する可能性がある(したがって、有害なEMIのサブセットとみなされることができる)。一般的なEMP強度は、数万ボルト/メートル程度である。EMPは、核爆轟(NEMP、立ち上がり時間は通常5ナノ秒未満)、または雷及びコロナ質量放出など、突発的な電磁場の揺らぎを発生する非核放射線源(NNEMP、立ち上がり時間は通常5ナノ秒未満)によって発生することができる。
【0006】
:ばねの一種、硬化したばねコイルをエッジコイル状に巻くか、平座金を使用してプレス加工し、ばねに波形構造を付すかいずれかによって作製される。この利点は、高さが低くなり、座金の変形の場合には表面接触が改善されることである。
【0007】
NEMP、HEMP、SREMP、SGEMPなどが、原子力装置の爆発(核分裂、核融合、熱核融合)に由来するすべてのタイプの電磁パルスであることに留意する。すべては、通常5ナノ秒未満の非常に速い立ち上がり時間によって特徴付けられ、立ち上がり時間がナノ秒以下の範囲内であることができる。これらすべてのEMPタイプは、非核EMPクラス(NNEMP)と同様に、通常数キロヘルツから数ギガヘルツの範囲にある非常に広いRF帯域幅に代表されるパルスを発生する。さらに、スペクトルのこの部分にわたる、いかなる個々の周波数での信号レベルも均一ではないが、エネルギーの大部分は約200メガヘルツ未満に位置していることに留意する。これらの境界は、固定されておらず、該パルスの発生の瞬間に存在するいくつかのパラメータによって決定される。
【背景技術】
【0008】
電磁パルス
特定の事象が発生すると、電気インフラストラクチャに極めて壊滅的な影響を及ぼす可能性のある電磁放射線を発生することができることはよく知られている。この広範なカテゴリーの電磁放射線に対して本明細書で使用される用語は、「有害な電磁干渉(EMI)」である。核兵器及び同様の破壊技術の拡散に関する懸念を考慮して、核爆轟(NEMI)によって放出される有害なEMIの強力なバーストの影響を調査する研究が行われてきた。研究によると、核爆轟は非常に速い立ち上がり時間(2ナノ秒未満のオーダー)で電磁パルス(EMP)のバーストを発生し、その後、信号のより遅く長く持続する部分を伴うことが示されている。一般的なEMP強度は、数万ボルト/メートル程度である。これと比較して、近くのレーダーが200ボルト/メートル、通信機器が10ボルト/メートル、及び一般的な大都市圏の環境が0.01ボルト/メートル程度である。電気機器にとって脅威となるEMPの特性には、非常に速い立ち上がり時間、非常に短いパルス幅、及び広い周波数スペクトルの信号を発生させる電場振幅などがある。
【0009】
導電構造体への電磁結合には3つの基本機構、すなわち、線状導体の基本機構である電気誘導、導電構造体が閉ループを形成するときの主要機構である磁気誘導、及びアースを介した信号伝達がある。電気的過渡現象による機能損傷の影響を受ける可能性のあるデバイスには、能動電子デバイス、受動電子部品、半導体デバイス、スクイブ及び発火装置、メーター、ならびに電源系統、ケーブル、スイッチング素子及び配電素子が含まれる。デジタル処理システム、メモリユニット、誘導システム、及び配電系統では、動作上の混乱及び障害が予想されることができる。障害機構には、絶縁破壊、熱影響、クロストーク、相互接続、スイッチング、変圧器、及び発電機の故障が含まれる。
【0010】
EMP攻撃シナリオの大部分では、その攻撃で単一パルスより多いパルスが使用される可能性があることに留意されたい。この結果、保護スキームが実行可能であるためには、そのような保護スキームが実行可能な保護手段とみなされるために、複数回の電磁攻撃、場合によっては絶え間のない電磁攻撃に耐えることができなければならない。一部の保護スキームは単発であるか、または単発の可能性があるため、現在広く使用されているにもかかわらず、保護サービスには真の意味で適していない。本発明は、多重パルス攻撃に応答する方法を提供する。
【0011】
EMP対雷
上述のように、本明細書に開示される装置及び方法は、速い立ち上がり時間の電磁パルス(EMP)だけでなく、比較的遅い落雷を含む有害なEMIから保護する。例えば、大気圏内の外延から発生するEMP(SREMP)は、立ち上がり時間が速く(通常はナノ秒以下)、パルス持続時間が短い(通常は500ナノ秒以下)。このEMPは、通常10KV/メートルから500KV/メートルの範囲内にあるが、これに限定されない、かなりの電場強度を有する。雷によって発生する送電線の電気パルスは、EMPパルスと同様に挙動するが、特定の送電線でどのタイプのEMPがより重要な脅威であるとみなされるかに応じて、原子力または他の人為的に発生したEMP、または長いEMPパルス(雷など)よりも遅い立ち上がり時間(通常約20ナノ秒)及び長いパルス幅を有することができる。
【0012】
従来技術:スパークギャップ
スパークギャップは、有害なEMI保護に使用されることがある、高速スイッチの形態である。敏感な部品の周囲の過電圧を分流するために、スパークギャップを配線する。従来のスパークギャップの問題は、それらを、ある所定の電圧で確実にトリガさせることである。さらに問題は、一度発火するとスパークギャップの接触面が劣化し、その後の発火事象では通常、スパークギャップが新品のときと同じ電圧で発火しないことである。スパークギャップには非常に高度なメンテナンスが必要であり、その使用は一般に実験室のパルスパワー実験に限定されている。配電及び送電業界のみで使用されるスパークギャップの別の形態は、「ホーン」と呼ばれることが多い、1セットの湾曲したロッドである。(
図4Bを参照)立ち上がり時間の速いEMPに対する保護には立ち上がり時間が遅すぎるが、ホーンは雷保護のための簡単なアプローチであることが示されており、広く使用されている。
【0013】
スパークギャップは、一般に、一定の距離を置いて配置された2つ以上の電極を有するという原理に基づいて動作するため、その距離は、デバイスの通常の動作電圧でアークが自発的に形成されるのに必要な距離よりも大きくなる。スパークギャップには、1800年代後半にまで遡る、長く名高い歴史がある。Nikola Teslaは、複数のギャップが直列になったスパークギャップシステムを開示した、スパークギャップ設計の特許を1894年に取得した(US514,168「Means for Generating Electric Currents」1894年2月6日、Nikola Tesla、
図5を参照)。これは最初のスパークギャップ設計ではなかったが、Boasによって開示されたような単一ギャップ設計(Boas 1,152,272、1915年8月31日、
図4Aを参照)よりも洗練された考え方を表している。しかし、単一のギャップが使用されるか複数のギャップが使用されるかに関係なく、すべてのスパークギャップはPaschenの法則に従う(
図1を参照)。
【0014】
従来技術のスパークギャップには多くの設計がある。いくつかには、単一アークギャップ(
図4A)、ホーンギャップ(
図4B)、及び直列静的スパークギャップが含まれる。スパークギャップの動作は、前述のように、ギャップ設計の変数を、ギャップを確実に設計することができるまとまりのある数学的構造に設定するPaschenの法則に従う。設計者が取り組まなければならない問題の1つは、クエンチ(アークの消滅)である。アークを消滅させるために多くのスキームが提案されているが、EMP及び同様の過渡現象の抑制に必要な考慮事項である高速の立ち上がり時間の動作には、自己消滅設計が最も実用的である。
図5A及び
図5Bは、早期設計の3段の直列静的スパークギャップ(S3G)を示す。この特定の設計では、自己インダクタンスが高いその物理的な幾何学的形状のため、必要な立ち上がり時間を達成することができない。
【0015】
Paschenの法則は、圧力、電極の幾何学的形状、及びギャップ長の関数として、気体中の2つの電極間の絶縁破壊電圧、つまり、放電または電気アークを開始するのに必要な電圧を与える式(式1、
図1)である。その名称は、それを1889年に経験的に発見したFriedrich Paschenに由来する。Paschenは、特異的な気体、気圧、及びギャップ距離を変動させる場合の、平行な金属板間の様々な気体の絶縁破壊電圧を研究した。いくつかの一般的に使用される、圧力とギャップ長との積に対する、気体の電圧の曲線が
図1に示されており、Paschen曲線と呼ばれる。Paschenの法則による気体の絶縁破壊挙動は次のような特徴がある。
・ギャップ長が一定の場合、ギャップを横切るアークに必要な電圧は、圧力が低下するにつれて低下し、その後徐々に増加し、その元の値を超える。
・圧力が一定の場合、アークを発生させるのに必要な電圧は、限界までギャップサイズが減少するにつれて低下する。ギャップが下限を超えてさらに減少した場合、アークを発生させるのに必要な電圧が上昇し始め、最終的には再びその元の値を超える。
【0016】
Paschenの法則によれば、所与の気体について、電圧は圧力及びギャップ長の積のみの関数である。Paschenは、絶縁破壊電圧が次の式(式1)で表されることを発見した。
【数1】
【0017】
式中、VBはボルト単位の絶縁破壊電圧であり、pはパスカル単位の圧力であり、dはメートル単位のギャップ距離であり、γseは二次電子放出係数(入射正イオン1個当たりに発生した二次電子数)であり、Aは特定のE/p(電場/圧力)における気体中の飽和イオン化であり、Bは励起エネルギー及びイオン化エネルギーに関連する。定数A及びBは実験的に決定され、任意の所与の気体のE/pの制限された範囲にわたりほぼ一定であることがわかる。
【0018】
単一スパークギャップがほとんどの人々の生活において重要な役割を果たしているということは注目に値する。それは、ガソリン駆動の内燃機関の中心部にみられ、一般に「スパークプラグ」と呼ばれる。このユビキタスなデバイスは、基本的に、現代のすべての交通システムの重要な部分を担っている。
【0019】
直列静的スパークギャップ
2つ以上のギャップが直列に配線されている場合、それらは「直列静的スパークギャップ」(「S3G」と呼ばれる)として知られている(
図5A、5Bを参照)。この使用における「静的」とは、変電所などに見られる現代の大きいスパークギャップの場合のように、ギャップ内のアークが能動的に消滅しないという事実を指す。直列静的スパークギャップでは、プラズマがいくつかの位置に形成され、直列に配置される電極が多いほど、各ギャップでの電圧が低下する。熱、ホットイオン、及び電圧が分配される。アークを直列のいくつかのギャップに分配することには、いくつかの利点がある。第一に、1つの大きいエアギャップの代わりに多数の小さいエアギャップを使用する場合、エアスペースの所与の全幅の絶縁耐力が大きくなるため、より短いエアギャップ長での作業が可能になる。エアギャップが小さいほど、損失が小さくなり、金属の劣化も少なくなる。第二に、アークをより小さいアークに分割することにより、研磨された表面をより長持ちさせる。第三に、この装置は実験ではある程度のゲージを与える。分配されたギャップ間隔寸法の合計が、Paschenの式(式1)を使用して決定される単一ギャップ間隔寸法と等しくなければならないことに留意する。
図5A及び
図5Bは、早期設計の3段の直列静的スパークギャップ(S3G)を示す。この特定の設計では、自己インダクタンスが高いその物理的な幾何学的形状のため、必要な立ち上がり時間を達成することができない。
【0020】
要約すると、このタイプのスパークギャップの主な利点は次のとおりである:
1.アークでのエネルギー損失が少ない
2.電極の寿命が長い
3.ギャップを通る電圧を測定する方法を提示する
4.小さいアークは、大きいアークよりもノイズが少なくなる。
【0021】
直列のギャップが多すぎると、構造体内の寄生インダクタンスが増加するため、スパークギャップの立ち上がり時間が少なくなることに留意する。並列にギャップを追加し、直列のギャップの数を減らすことが解決策を提示しているように思われるかもしれないが、このトポロジーの寄生インダクタンスは、構造体が大きいほどインダクタンスが増加するため、自己制限的である。
【0022】
さらに、S3Gの主な利点の1つが、直列ストリングに含まれるスパークギャップ素子の総数にわたり電気負荷を分配することであることに留意する。これにより、アークによる電極表面の損傷が大幅に軽減される。ただし、この問題に対する万能薬ではない。アークストリーマ(本格的なアークの前兆)は、ギャップサイズのあらゆる偏差(ギャップエラー)と比較して、電子のサイズが非常に小さいため、この距離が1万分の1インチ以下であっても、ギャップ表面が互いに最も近い点で常に形成される。
【0023】
さらに、S3Gの分配されたギャップ構造体は一種の分圧器として機能する。ただし、高速パルスにはあまり適した分圧器ではない。S3Gの個々のスパークギャップ間の分圧は、各ギャップ素子が通常は低ピコファラド範囲内の小さいが測定可能な静電容量を有するため、容量性分圧器に似ていると考えられることができる。
図5A及び
図5Bは、従来のS3G装置の正面図及び上面図を示す。
図5A及び
図5Bに示されるようなS3Gでは、電圧は、電圧源に最も近いギャップにわたり上昇してから、後続のギャップにわたり上昇し始める。これは、第一ギャップ素子に過度の摩耗を生じる可能性がある。スパークギャップでは、この過度の摩耗の結果、ギャップが望ましい電圧範囲内で発火しなくなる。浸食(erosion)の種類に応じて、アークピットの周囲にクレーター壁が構築されるため、ある点のギャップ寸法が減少する場合、発火電圧は低くなるか、電極が磨耗し、ギャップ寸法が増大する場合、発火電圧は高くなるか、のいずれかであることができる。この種の不確実性は、EMP保護での場合のように、S3G構造全体が所定の電圧で発火する必要がある場合に深刻な問題となり、EMP保護では、BIL(基準衝撃レベル)テスト電圧を上回るが、EMPから損傷が生じる実際の電圧を下回る電圧で発火する必要がある。
【0024】
他の従来技術の設計は、最初にTesla及びBoasによって説明された基本テーマに対して様々な修正を示す。従来技術の設計はどれも、通常EMPに関連付けられている非常に高速な過渡パルスから電気機器を保護するという明確な目的のために開発されたものではない。したがって、前述の欠点を確実かつ効率的に克服することができ、人為的な電気手段の核爆発によって発生するかどうかにかかわらず、有害なEMI、特にEMPから電気及び電子系統を保護することができる方法及びデバイスが必要とされている。
【発明の概要】
【0025】
本発明の実施形態は、核爆発によって、また送電線の相と接地との間に配線された直列静的スパークギャップ(S3G)を利用した人為的な手段によって、発生した電磁パルス(EMP)を含むがこれに限定されない様々なタイプの有害な電磁干渉から保護する手段として、電力、送電及び配電系統からの高速の過渡電圧を安全なレベルに制限する方法を提供する。指定された電気系統の相の数に応じて、それらのようなデバイスの1つまたは複数を使用する。S3Gの立ち上がり時間は、保護対象のパルスのクラスの立ち上がり時間よりも高速である必要がある。立ち上がり時間は通常約2ナノ秒であるが、それより短い場合もある。
【0026】
これら及び他の特徴は、添付の図面に関連して論じられている本発明の特定の実施形態の添付の説明から理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】Paschenの法則を図で説明したものである。このグラフは、いくつかの異なる気体(ヘリウム、ネオン、アルゴン、水素、及び窒素)の計算結果を示している。各気体は、スパークギャップの用途及び位置によって決定されるその特定の用途を有する。
【
図2】A及びBは、通常状態下で、かつEMPへの曝露時の送電線を有する一般的な送電系統を示す。Aは、その通常動作状態にあるこの送電系統を示す。Bは、送電線に衝突するEMPパルスと、その結果として送電線に誘導される電圧及び電流を示す。
【
図3】
図2A及び
図2Bに示される例示的な送電系統の概略図を示す。要素37は、高速過渡現象用のスパークギャップ型保護装置である。
【
図4A】従来技術による、単一スパークギャップを示す。
【
図4B】ホーンギャップとして知られている従来技術による、単一スパークギャップの別の実施形態を示す。通常、雷保護に使用されるが、EMPに対する過渡的な保護に十分な高速ではない。
【
図5】A及びBは、従来技術による、直列静的スパークギャップの正面図及び平面図を示す。
【
図6】本発明による、改良された直列スパークギャップの一実施形態の断面斜視図を示す。
【
図7A】本発明の装置及び方法に使用されることができる電極の一実施形態の断面斜視図を示す。
【
図7B】改良された電極の実施形態の断面図を示す。
【
図8A】本発明の装置及び方法で使用されることができる絶縁板の一実施形態の斜視図を示す。
図8では、絶縁体のすべての事例が直径では
図7に示される関連する電極よりも小さいことに留意されたい。
【
図8B】
図7B及び
図7Cに示される電極に関連付けられた絶縁体円板の実施形態の斜視図を示す。
図8では、絶縁体のすべての事例が直径では
図7に示される関連する電極よりも小さいことに留意されたい。
【
図8C】改良された絶縁体の断面図である。
図8では、絶縁体のすべての事例が直径では
図7に示される関連する電極よりも小さいことに留意されたい。
【
図9A】本発明による、NEMA2(National Electrical Manufacturers Association;2-hole connection standard:アメリカ電気工業会;2穴接続規格)パッケージを組み込んだ直列静的スパークギャップの一実施形態の上面図を示す。
【
図9C】
図9A及び
図9Bに示される装置の実施形態の斜視図を示す。絶縁体本体の側面の上に気体ポートが見える。
【
図10】送電系統の概略図であり、その系統を有害なEMIから保護するために分路配置に直列静的スパークギャップ(912)を使用する。
【
図11】A及びBは、改良された分圧器のない(A)、そして改良された分圧器のある(B)直列スパークギャップの動作原理の概略図である。
【
図12】本発明による、
図11Bの改良された直列静的スパークギャップの一実施形態の斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本明細書では、特有の設計の直列静的スパークギャップ(S3G)を利用して、核爆轟、雷、及び人為的な電子手段によって発生した電磁パルス(その様々な形態のEMP)などの有害なEMIを抑制する方法及び装置を開示する。第一態様では、送電系統を有害なEMIから保護する方法が開示される。これは、スパークギャップ技術の新規の用途によって実現される。直列静的スパークギャップは、分路配置(通常はラインから接地)で送電系統に結合される。この配置では、直列静的スパークギャップは、非常に高速の立ち上がり時間のパルスに十分迅速に反応するその能力により、電磁パルスによって誘導される高速過渡電圧を、低インピーダンス経路を介して接地に分流することができる。過渡電圧は常に、S3Gの低インピーダンスの接地経路と比較してインピーダンスが大幅に高いため、最も低いインピーダンスの接地への経路を取り、これは、電源系統コンポーネントを保護する方法である。本発明の別の態様では、直列スパークギャップ装置がこの特定の目的に専用に適合される。
【0029】
核爆轟、雷、及び人為的な電子手段によって発生した電磁パルス(様々な形態のEMP)などの有害なEMIの抑制は、重要な発電、送電、及び配電インフラストラクチャを保護するための重要なツールとなっている。
図2Aは、典型的な送電系統(10)を概略的に示す。送電系統(10)は、大型変圧器(16、18)、支持塔(14)、及び送電線自体(12)からなる。送電線には通常、その系統がAC送電用かDC送電用かによって決定される複数の導体が含まれており、導体の数は含まれる相の数と定格電流によって決定される。
図2Bに示されるように、いずれかの発生源からのEMP(22)が該送電線に衝突すると、循環電圧及び循環電流(24、26)が形成される。循環電圧は立ち上がり時間が非常に高速であるため、送電系統の様々なコンポーネントに損傷を与える可能性がある。最も一般的な保護スキームを
図3に概略的に示す。このタイプの系統は、通常、立ち上がり時間が5ナノ秒未満である高速電気スイッチング手段(37a、39a)を使用する。この用途に信頼できる高速高電圧スイッチングを提供するために、金属酸化物バリスタ(MOV)、電子管デバイス、及びスパークギャップを含むが、これらに限定されない、多くの様々な手段が試みられてきた。従来技術のスパークギャップは、過度の自己インダクタンス、及び使用可能な動作寿命などの様々な問題により、満足のいくものではないことが判明している。時には、雷によってこれらのデバイスが作動する可能性があるため、寿命が問題になる。
【0030】
従来技術のスパークギャップには多くの設計がある。いくつかには、単一アークギャップ(
図5)、ホーンギャップ(
図4B)、及び直列静的スパークギャップ(
図4A及びB)が含まれる。スパークギャップの動作は、前述のように、ギャップ設計の変数を、ギャップを確実に設計することができるまとまりのある数学的構造に設定するPaschenの法則に従う。設計者が取り組まなければならない問題の1つは、アークの消滅である。アークを消滅させるために多くのスキームが提案されているが、EMP及び同様の過渡現象の抑制に必要な考慮事項である高速の立ち上がり時間の動作には、自己消滅設計が最も実用的である。
図4Aは早期の単一ギャップのスパークギャップを示し、
図4Bは早期設計の3段直列静的スパークギャップ(S3G)を示す。この特定の設計では、自己インダクタンスが高いその物理的な幾何学的形状のため、必要な立ち上がり時間を達成することができない。
【0031】
直列静的スパークギャップ(S3G)装置と呼ばれる前記スイッチング手段(及びそのコンポーネント)の好ましい実施形態は、
図6から
図9A~Cに示されている。本発明のS3G(400)は、注意深くアライメントされた構造体内に配置された、交互になる電極(
図7A~
図7Cに個別に示される)及び絶縁体円板(
図8A~
図8Cに示される)からなるスタック(405)を含む。電極素子間の間隔は、当業者には理解されるように、電圧及び他の関連項に基づいて上記の式(1)に従って決定される。電極及び絶縁体を交互にするスタックでは、式1の計算に加えて、ギャップ寸法(d)を電極間のギャップの数(n)で除算して、スタック内のギャップごとに正しいギャップ寸法を得る必要がさらにあることに留意する。
【0032】
図7Aは、本発明による、S3G装置のスタックに使用されることができる電極の第一実施形態の断面図である。図示のように、電極(500)は、凹条周囲領域(510)及び半径方向接触領域(515)を有する中央ハブ(505)を含む。
図7B及び
図7Cは、
図7Aに示される実施形態の変形形態である電極の好ましい実施形態の斜視図及び断面図を示す。好ましい電極(520)は中央ハブ(525)を有するが、
図7Aの実施形態とは異なり、中央ハブの外周部の周囲には凸条部(530)がある。凹条領域(535)は中央ハブ(及び凸条部)を取り囲み、電極の周辺部には半径方向接触領域(540)がある。
【0033】
図8Aは、スタックを作製するために電極(500)とともに使用されることができる絶縁体円板(600)の第一実施形態を示す。絶縁体円板は均一で平坦な表面(605)を有し、一定の厚さの絶縁材料で作られている。
図8B及び
図8Cは、絶縁体円板(610)の好ましい実施形態の斜視図及び断面図を示す。この実施形態では、絶縁体円板(610)は、凸状領域(615)、凹条領域(620)及び凸条接触領域(625)を含む。所与の絶縁体円板の中央ハブ(605)は、電極と隣接する電極との間に精密なギャップ(間隔)及びアライメントを形成するように、
図7B及び
図7Cに示される電極の対応する中央ハブ(505)と接触して位置決めされる。電極の中央ハブの周囲の凸条部(530)は、絶縁体円板のあらゆる横方向の運動を制約し、スタック内の対応する電極との密接な接触及びアライメントを維持する。スタック内の電極及び絶縁体のアライメントを維持するために接着剤を使用することが可能であることに留意する。この場合、スパークギャップの寸法が確実に維持されるように、接着動作中にスタックを圧縮する必要がある。すべてのギャップが同じ寸法を有することを確保するように、接着剤の塗布が接着剤ラインの厚さに関して均一であることが重要である。
【0034】
図6に戻ると、スタック(405)は、ばねまたは同様の構造体を使用して圧縮状態に保たれる。いくつかの実施形態では、ウェーブスプリング(415)は、圧力板(410)を介して電極/絶縁体スタック(405)に圧縮力を付勢する。スタックは、
図10A~
図10Cにも示されているように、絶縁体(715)で封入されている(取り囲まれている)。S3Gスタック(405)及び本体(715)は、第一端部フランジ(420)と第二端部フランジ(425)との間に取り付けられる。上部及び下部フランジ(420)、(425)は、ギャップの電流処理要件と一貫性のある最小のインダクタンスを有するように設計される。この種のギャップでは、非常に短期間ではあるものの、単回事象中に数千アンペアの電流を流す必要があることは珍しいことではない。
図9A、9B、及び9Cに示される実施形態は、NEMA2バスバー取り付けボルト穴構成(National Electrical Manufacturers Association;2-hole connection standard:アメリカ電気工業会;2穴接続規格)と一貫性のあるように構成される電気接続用のバスバー取り付けボルト穴(730)を含む。多くの代替接続スキームがあり、上記は一般的に行き当たる1つに過ぎないことに留意する。
【0035】
再び
図6を参照すると、Oリング(450)は、上部及び下部フランジ(420)、(425)に機械加工された溝部内に設置され、絶縁体(715)の内部作業領域に圧力シールを設ける。絶縁体(715)は、Paschenの法則分析(式1)中に選択された気体で吸気ポート(430)を介して加圧される。好ましい実施形態では、寿命を長くするためにoリングの代わりにハーメチックシールを使用するが、どちらでも機能することに留意する。所望の動作圧力に適した他のシール方法も使用することができる。
図1は、選択された気体の圧力の関数としての絶縁破壊電圧のグラフを示す。
図1に示されるように、気体が異なれば、応答及び絶縁特性も異なる。最適な気体及びその動作圧力は動作電圧に基づいて選択される。その後、ポートが既知の手段で密閉され、S3Gの設置及び操作の準備が整う。静的直列スパークギャップ装置(400)はさらに、保定ねじ(435)、取り付け及び電気接続用の穴(440)、ならびに最上部電極を上部フランジ(420)に結合する接続ストラップ(445)を含む。いくつかの実施形態では、内部気体加圧の追加制御が望ましい場合には、第二気体ポート(455)(図示せず)が設けられる。いくつかの実施形態では、追加の接続ストラップ(図示せず)を使用して、最下部電極を下部フランジ(425)に結合する。本発明の設計、特に接続ストラップ(445)、ギャップ電極(500)、上部フランジ(420)及び下部フランジ(425)の設計では、電流容量に関する導体の断面積に対して適用可能な電気工事規定、規程及び設計規則を遵守しなければならないことに留意する。
【0036】
図9A~
図9Cに示される好ましい実施形態は、屋内でのみ使用するように設計されている。屋外での使用に対応するには、「フルート」または「スカート」とも呼ばれる「笠」を追加する必要がある。これらのような笠は、絶縁体の外面の上に隆起部を備えており、これにより追跡距離が長くなり、高電圧デバイスを雨天及び荒天ならびにその環境条件での屋外に使用することが可能になる。
【0037】
図10は、典型的な送電系統を概略的に示し、送電系統では、上述のような直列静的スパークギャップを分流スイッチング器として使用して、その系統を有害なEMIの影響から保護する。送電系統(900)では、第一大型変圧器(902)が送電線(905)の第一端部と接地との間に接続される。送電線のもう1つの端部では、第二大型変圧器(904)が送電線(905)と接地との間に接続される。送電線(905)の第一端部では、第一直列静的スパークギャップ(912)は、第一変圧器(902)に並列である第一低インピーダンス導体(922)を介して送電線(905)と接地との間に接続される。送電線(905)の第二端部では、第二変圧器(904)に並列である第二直列静的スパークギャップ(914)は、同様に第二変圧器(904)に並列である第二低インピーダンス導体(924)を介して送電線と接地との間に接続される。
【0038】
低インピーダンス導体(922)、(924)は、EMパルスの電流を分流するための接地への低インダクタンス、低インピーダンス経路を設ける幅広の平坦な導電性ストラップを含むことができる。導電性ストラップは、考えられる一例として銅バンドを使用して実装されることができる。長さ、幅、及び厚さに関する導電性ストラップの相対的な寸法は、ストラップのインダクタンスを決定し、そのインダクタンスにインダクタのインピーダンス(またはリアクタンス)が比例することから、そのインダクタンスは、EMPによって誘導される高速過渡電圧を除去するためのストラップのインピーダンスを決定する。インダクタンスが高い導体は、高速過渡電圧を十分に迅速に分流することができず、電磁反射も受ける。ストラップの幅とその厚さとの間の比率は、ストラップのインダクタンス及びインピーダンスを決定する際の重要な要素である。一般に、ストラップは、低いインダクタンス及びインピーダンスを確保するために、その幅が厚さの2倍の値より大きくなるように構成される。Kenneth Kaiserの「Electromagnetic Compatibility Handbook」、CRC Press 2005;15.9を参照されたい。いくつかの実施形態では、ストラップ140の幅は、その厚さの2倍よりも大きい。特定の実施形態では、ストラップの幅はその厚さの5倍から10倍の間であり、さらなる実施形態では、ストラップの幅はその厚さの10倍より大きい。平坦なストラップと比較して円形配線のインダクタンスが比較的高いため、接地接続性能の効率は低下するが、円形配線接地接続を使用することができることに留意する。
【0039】
従来技術の直列静的スパークギャップ設計の既知の欠点は、電圧分布がスタック全体で不均一であることである。高電圧及び非常に大きい電流を扱う場合。これは、電圧源に最も近い電極が著しく摩耗するため欠点である。さらに、電圧の上昇により、電圧に応じて、摂氏数千度の範囲内にあるアークの極度の熱の結果として、電極材料の析出が引き起こされる。この析出した金属は、絶縁体の完全性を損なう。
【0040】
本発明は、S3G設計にいくつかの特異的な改良を提供する。第一の改良点は、S3G装置のスパークギャップ素子と並列に高インピーダンスの抵抗回路網を使用することである。
図11A(基本的なS3Gスタック)及び
図11B(改良されたS3Gスタック)は、抵抗分圧回路網なし(1001)及び抵抗分圧回路網あり(1002)のS3G回路を示す概略図を示す。どちらの場合も、入力電圧(1005)が両方の回路の1つの端部に印加され、接地(1020)がもう1つの端部にある。両方の回路(1001)、(1002)では、直列のギャップ素子(1010)が入力電圧と接地との間に位置決めされる。第二回路(1002)では、抵抗回路網(1015)がスパークギャップ素子(1110)と並列に位置決めされる。抵抗回路網(1015)のノードは、接続(例えば、1025)を介してスパークギャップ素子のギャップの端子に結合される。その回路網の抵抗値は、非常に高いインピーダンスを有するように選択されるため、ギャップが導通していない場合に流れる電流が最小になる。この値は通常、電流を低いミリアンペアまたはマイクロアンペア範囲内にするには数メガオームになる。さらに、抵抗器は、典型的な公差が5%以上である高公差高電圧低インダクタンス金属膜タイプであることが好ましい。
【0041】
並列抵抗回路網を含む本発明によるS3G装置の実施形態が
図12に示されている。図示のように、この設計は、
図9Aに示されているものと同様であり、S3G装置1100は、上部フランジ(1110)と下部フランジ(1115)との間に位置決めされた絶縁体1105を含む。この絶縁体(
図12には図示せず)内には、
図6の素子405と同様であり、
図7及び8の電極及び絶縁体を組み込んだ、電極及び絶縁体円板素子を交互にするスタックがある。抵抗回路網(1120)(分圧器)は、その回路網の抵抗器が下部フランジ(1110)から始まり上部フランジに向かい上方に移動している状態で、絶縁体を取り囲むように位置決めされる。各抵抗器は、結合する導電性配線を介して1つ以上の隣接する抵抗器に結合される。別個の結合配線素子(1125)は、隣接する抵抗器間の導電性配線をS3G装置内の電極素子(図示せず)に接続する。この配置により、各電極(スパーク素子)にわたる電圧降下をより精密に調整することが可能になる。結合配線素子(1125)は、当業者に周知の方法を使用してハーメチックシールを通って絶縁体に入る。
【0042】
別の改良点は、S3G装置の絶縁体素子である。絶縁体円板(600)、(610)は、一般に、通常印加される電圧の2倍に耐える十分に高い絶縁耐力を有するだけでなく、ギャップ内に形成される電気アークのすぐ近くにあるため、高温でも熱的に安定している材料から作製される必要がある。基本的な絶縁体円板に適した材料は、雲母、溶融石英(石英)、及びガラスである。プラスチックは、アークに曝露されることが原因で経時的に劣化し、劣化すると炭化して円板表面が導電性になり、絶縁体が使い物にならなくなるため、避けるべきである。高度な絶縁体設計は、好ましくはプレス加工した溶融石英、または代替に、鋳造もしくはプレス加工した高アルミナセラミックから作製される必要がある。
【0043】
第三の改良点は、絶縁体(600)に隣接する電極(500)及び圧力板(415)内に整合する凹条部(510)を係合するために、絶縁体の中央領域の上に「ハブ」を含めることであり、前記ハブは、好ましくはプレス加工または機械加工によって形成される。この構造の目的は、電極(500)、絶縁体(600)、圧力板(410)、ウェーブスプリング(415)、ならびに上部及び下部フランジ(420)、(425)をアライメントさせることである。上記の場合と同様に、高度な絶縁体設計は、好ましくはプレス加工した溶融石英、または代替に、鋳造もしくはプレス加工した高アルミナセラミックから作製される必要がある。
【0044】
絶縁体の材料の選択が主に気体及びその動作圧力に依存することに留意する。窒素及びアルゴンなどの気体の場合、プラスチック製の本体を使用することができる。水素を選択する場合、ハーメチックシールされ、ヘリウム漏れがチェックされている容器以外のいかなる容器にも水素を収容させることは非常に困難であるという事実から、ガラスかセラミックかいずれかの絶縁体を使用する必要がある。動作圧力によって絶縁体の材料も決定される。S3Gが大気圧またはそれよりわずかに高い圧力で動作する予定で、気体が適切である場合、プラスチック製の本体が許容可能になる。S3Gが大気圧より低い圧力で動作する予定の場合、ガラスまたはセラミックは寿命を長くするにはより良い選択である。
【0045】
本発明のスパークギャップが、電源機器を雷から保護するために一般的かつ従来に使用されているものとは大きく異なることに留意することが重要である。通常「ホーンギャップ」として知られる、これらのギャップは、「ヤコブの梯子」を形成するように非常に近接して配置された一対の湾曲したロッドからなる(
図4B、素子170、175を参照。ヤコブの梯子は左側に2本の金属製ロッドがあり、それらの間の間隔が拡大している)。このタイプの構造は、本発明の装置よりも立ち上がり時間がはるかに遅く、EMPに典型的なピコ秒または低ナノ秒の立ち上がり時間のパルスに対する保護でのいかなる使用にも十分に高速に反応することができない。
【0046】
本明細書に開示される構造的及び機能的詳細は、システム及び方法を限定するものとして解釈されるべきではなく、当業者に本法を実装するための1つ以上の方法を教示するための代表的な実施形態及び/または構成として提供されることを理解されたい。
【0047】
図面における同様の数字は、いくつかの図面を通した同様の要素を表すものであり、図面を参照して説明されるすべてのコンポーネント及び/またはステップがすべての実施形態または構成に対して必要とされるわけではないことをさらに理解すべきである。
【0048】
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、本発明を限定することを意図していない。本明細書で使用する場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が別途明らかに示さない限り、複数形も含むことを意図する。用語「含む(comprise)」及び/または「含んでいる(comprising)」は、本明細書で使用されるとき、述べられる特徴、整数、ステップ、動作、要素、及び/または構成要素の存在を指定するが、1つまたは複数の他の特徴、整数、ステップ、動作、要素、構成要素、及び/またはそれらのグループの存在または追加を排除しないことがさらに理解されよう。
【0049】
方位の用語は、慣例及び参照の目的でのみ本明細書で使用され、限定と解釈されるべきではない。ただし、これらの用語はビューアーに関して使用できることが認識されている。したがって、いかなる制限も暗示されず、または推測されない。
【0050】
また、本明細書で使用される表現及び用語は、説明を目的としており、限定的なものとみなされるべきではない。本明細書における「含む(including)」、「含む(comprising)」または「有する(having)」、「含有する(containing)」、「伴う(involving)」及びこれらの変形の使用は、その後に列挙される項目及びそれらの均等物ならびに追加の項目を包含することを意味する。
【0051】
本発明を例示の実施形態に関して説明したが、本発明の範囲から逸脱することなく種々の変更を行うことができ、また均等物をその要素に代えて置換できることを当業者ならば理解するであろう。加えて、本発明の必須の範囲から逸脱することなく、多くの修正が、特定の装置、状況または材料を本発明の教示に適合させるために当業者によって理解されよう。したがって、本発明は、本発明を実行するために企図された最良の形態として開示される特定の実施形態に限定されず、本発明は、添付の特許請求の範囲内に収まる全ての実施形態を含むことが意図されている。
【0052】
S3G図面要素のリスト
図1:2:Paschenの法則の曲線:主要
4:電圧(Y軸)
6:ギャップ圧力(X軸)
8:様々な気体
図2A及び
図2B:10:EMP前の典型的な送電線系統
12:高圧送電線
14a、14b:支持塔
16:入力電源変圧器
18:出力電源変圧器
20:電気的及び物理的接地
22:入射EMP波形
24:誘導循環電圧及び電流
25:誘導循環電圧及び電流
図3:従来のEMP保護を備えた従来の送電線系統:電気回路図:
36:保護装置からの電気接地接続
37:保護装置(高速スイッチング器、電子管、スパークギャップ、S3G(本発明))
38:保護装置からの電気接地接続
39:保護装置(高速スイッチング器、電子管、スパークギャップ、S3G(本発明))
図4A:100:単一ギャップのスパークギャップ;従来技術:主要
105:スパークギャップ
110:電極ホルダー
115:タングステン電極
図4B:150:ホーン型スパークギャップ
155:絶縁体
160:取り付けボルト及びナット
165:取り付けフレーム
170:上部ホーン電極
175:下部ホーン電極
180:電極取り付けクランプ
185:「笠」(別名「フルート」または「スカート」)
図5A、
図5B:100:Tesla S3G:従来技術:主要
205:絶縁支持レール
210:ねじ付きロッド;導電性
215:保定ナット;導電性
220:ブッシング;導電性
225:ギャップ電極
230:タイロッド及びナット;導電性
図6:400:本発明:一般:断面図:主要
405:ばね及び圧力板の下のスパークギャップ素子の直列スタック
410:ウェーブスプリング:上部フランジと圧力板との間
415:圧力板
420:上部フランジ
425:下部フランジ
430:加圧気体ポート(NPT雌ねじあり)
435:保定ねじ
440:取り付け穴及び電気接続穴
445:接続ストラップまたは編組
450:Oリング(溝部内、2ヶ所)
455:第二気体ポート(図示せず)
500:ギャップ電極
図7A:電極(第一実施形態)
500:ギャップ電極
505:中央ハブ
510:凹条周囲領域
515:半径方向接触領域
図7B、
図7C:電極(第二実施形態)
520:ギャップ電極
525:中央ハブ
530:中央ハブ周囲の凸条部
535:凹条周囲領域
540:半径方向接触領域
図8A:絶縁体円板600(第一実施形態)
605:絶縁体円板の表面
図8B、
図8C:絶縁体円板610(第二実施形態)
615:中央凸状領域
620:凹条領域
625:凸条フランジ
図9A、
図9B:700:S3G好ましい実施形態:主要
420:NEMA2接続穴パターンを有する上部フランジ
435:保定ねじ(435を参照)
715:絶縁体
430:加圧気体ポート(430を参照)
425:NEMA2接続穴パターンを有する下部フランジ
730:NEMA2接続ボルト穴パターン
図10 本発明によるS3G装置を備えた送電系統(900)。
902:入力電源変圧器
904:出力電源変圧器
905:高圧送電線
912:入力電源変圧器と分路で結合された本発明によるS3G装置
914:出力電源変圧器と分路で結合された本発明によるS3G装置
922:S3G装置から接地までの第一低インピーダンス経路
924:S3G装置から接地までの第二低インピーダンス経路
図11A、
図11B 抵抗分圧器を追加した場合と追加しない場合の本発明のS3G装置の概略図
1001:抵抗分圧器のないS3G装置
1002:抵抗分圧器のあるS3G装置
1005:電圧入力
1010:スパークギャップ素子
1015:分圧抵抗器
1020:電圧出力/または接地
1025:抵抗器と電極との間の接続
図12:1100:抵抗分圧器を備えた本発明によるS3G装置の斜視図
1105:絶縁体
1110:上部フランジ
1115:下部フランジ
1120:分圧回路の抵抗器
1125:抵抗器と電極との間の接続
【国際調査報告】