(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-28
(54)【発明の名称】高度に精製されたセルロースの分画方法
(51)【国際特許分類】
D21H 11/18 20060101AFI20240220BHJP
D21H 15/02 20060101ALI20240220BHJP
D21C 9/18 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
D21H11/18
D21H15/02
D21C9/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023554785
(86)(22)【出願日】2022-03-08
(85)【翻訳文提出日】2023-11-06
(86)【国際出願番号】 IB2022052036
(87)【国際公開番号】W WO2022189957
(87)【国際公開日】2022-09-15
(32)【優先日】2021-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501239516
【氏名又は名称】ストラ エンソ オーワイジェイ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ヘイスカネン, イスト
(72)【発明者】
【氏名】バックフォルク, カイ
(72)【発明者】
【氏名】カンクネン, ユッカ
(72)【発明者】
【氏名】カウッピ, アンナ
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AA02
4L055AF09
4L055AF46
4L055CD05
4L055EA03
4L055EA05
4L055FA11
4L055FA13
4L055GA05
(57)【要約】
本発明は高度に精製されたセルロースパルプの細かい画分および粗い画分への分画方法であって、前記方法が、a)ISO規格5267-1により決定して40~98の範囲のショッパー・リーグラー(SR)数および乾燥重量に基づいて少なくとも700万繊維/グラムの長さ0.2mm超を有する繊維の含有量を有する高度に精製されたセルロースパルプを含む高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液を準備する工程と;b)高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液をベルトフィルターにおける脱水に供する工程と;c)脱水された保持物を粗い画分として収集する工程と;d)濾液を細かい画分として収集する工程とを含み、収集された細かい画分が、工程a)で準備された高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液の2~50wt%の固形分を含有する、方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高度に精製されたセルロースパルプの細かい画分および粗い画分への分画のための方法であって、前記方法が、
a)ISO規格5267-1により決定して40~98の範囲のショッパー・リーグラー(SR)数および乾燥重量に基づいて少なくとも700万繊維/グラムの長さ0.2mm超を有する繊維の含有量を有する高度に精製されたセルロースパルプを含む高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液を提供することと;
b)高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液をベルトフィルターにおける脱水に供することと;
c)脱水された保持物を粗い画分として収集すること程と;
d)濾液を細かい画分として収集することと;
を含み、
収集された細かい画分が、工程a)で提供備された高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液の2~50wt%の固形分を含有する、
方法。
【請求項2】
工程a)で提供された高度に精製されたセルロースパルプが、ISO規格5267-1により決定して50~98の範囲、好ましくは55~94の範囲、より好ましくは60~92の範囲のショッパー・リーグラー(SR)数を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
収集された細かい画分が、工程a)で準備された高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液の5~40wt%、より好ましくは少なくとも10~30wt%の固形分を含有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程a)で提供された高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液の濃度が、0.1~1.5wt%の範囲、好ましくは0.1~1wt%の範囲、好ましくは0.2~0.8wt%の範囲、より好ましくは0.2~0.6wt%の範囲である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程c)で収集された脱水された保持物の濃度が、少なくとも5wt%、好ましくは少なくとも7.5wt%、より好ましくは少なくとも10wt%である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
粗い画分が、ISO規格5267-1により決定して95未満、好ましくは90未満、より好ましくは85未満のショッパー・リーグラー(SR)数を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
細かい画分が、200メッシュスクリーンを通過することができる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ベルトフィルターが、100Paで4000m
3/m
2/時を超える空気透過性を有するワイヤベルトを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ベルトフィルターのベルトが、少なくとも50m/分、好ましくは少なくとも100m/分、より好ましくは少なくとも200m/分の速度で動く、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
高度に精製されたセルロースパルプのベルト上の滞留時間が、7秒未満、好ましくは5秒未満、より好ましくは3秒未満である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ベルトフィルターが、単一ワイヤまたはツインワイヤタイプのベルトフィルターである、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
細かい画分から得られるセルロース微粒子の一部分を粗い画分に加えて、低減された保水性および/または増大した均質性を有する、高度に精製されたセルロースパルプを得る、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
粗い画分に加えられるセルロース微粒子の量が、工程d)で収集されたセルロース微粒子の量より少なく、好ましくは工程d)で収集されたセルロース微粒子の量の1~75%の範囲、より好ましくは工程d)で収集されたセルロース微粒子の量の1~50%の範囲である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
セルロース微粒子の一部分を添加後得られたパルプが、工程a)で提供された高度に精製されたセルロースパルプより低いショッパー・リーグラー(SR)数を有する、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
セルロース微粒子の一部分を添加後得られたパルプが、工程a)で提供された高度に精製されたセルロースパルプより低い保水値(WRV)を有する、請求項12から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に記載の方法により得ることができる、低減された保水性および/または増大した均質性を有する、高度に精製されたセルロースパルプ。
【請求項17】
バリアフィルムの製造における、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法により得られる、低減された保水性および/または増大した均質性を有する高度に精製されたセルロースパルプの使用。
【請求項18】
請求項1から15のいずれか一項に記載の方法により得ることができる、高度に精製されたセルロースパルプから形成されたバリアフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば紙および板紙をベースとする包装材料のためのバリアフィルムを製造するのに有用な、高度に精製されたセルロースを調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
包装産業では感受性の製品を保護するために有効なガス、匂い、および/または湿気バリアが必要とされる。特に、酸素感受性の製品はその保存可能期間を延ばすために酸素バリアを必要とする。酸素感受性の製品には多くの食品が含まれるが、医薬品および電子産業製品もある。酸素バリア特性を有する公知の包装材料は、通常多層コーティング構造の一部として含む1つもしくはいくつかのポリマーフィルムまたは酸素バリアポリマーの1つもしくはいくつかの層で被覆された繊維質の紙もしくは板からなり得る。食品の包装のためのもう1つ別の重要な性質はグリースおよび油に対する耐性である。
【0003】
最近、脱フィブリル化セルロースフィブリルが例えば水に懸濁され、再編成され、再び一緒に結束されて連続したフィルムを形成している、高度に精製されたセルロースとミクロフィブリル化(microfibrillated)セルロース(MFC)から生産されたフィルムが開発された。かかるフィルムは良好なガスバリア特性と共にグリースおよび油に対する良好な耐性を提供することが判明している。
【0004】
フィルムは、高度に精製されたセルロース懸濁液を多孔質の基材(に塗布してウェブを形成し、続いて基材を通して水を抜くことによりウェブを脱水してフィルムを形成することによって作成することができる。ウェブの形成は、例えば紙または板紙機械タイプのプロセスの使用によって達成することができる。多孔質の基材は例えば膜もしくは金網でよいか、または紙もしくは板紙基材であることができる。
【0005】
高度に精製されたセルロースまたはMFC懸濁液からの抄紙機でのフィルムおよびバリア基材の製造は懸濁液および形成されるウェブの高い保水率および/または高い排水抵抗のために困難である。例えば圧力または吸引により助けられる急速または強制脱水はウェブからの微粒子の高い喪失、またはウェブ内の微粒子の一様でない垂直分布、およびピンホールの生成を引き起こす傾向があり、不十分なバリア特性のフィルムが得られる。一方、これらの問題を防ぐために脱水速度を遅くすると過度に長い脱水セクションが必要となる。
【0006】
高度に精製されたセルロースまたはMFC懸濁液から形成されるウェブおよびフィルムに伴う問題は、通例不十分な引張および引裂強さを示すことである。
【0007】
技術的および経済的な観点から、速い脱水を可能にすると同時にフィルムのバリアおよび引裂強さ特性を改良する溶液を見出すことが好ましいであろう。
【発明の概要】
【0008】
本開示の目的は、上述の問題の少なくともいくつかを軽減する、高度に精製されたセルロースパルプを処理する方法を提供することである。
【0009】
本開示の目的は、高度に精製されたセルロースパルプの保水性を低減し、および/または均質性を増大する方法を提供することである。
【0010】
本開示のさらなる目的は、紙または板紙機械タイプのプロセスでバリアフィルムを製造するのに適した高度に精製されたセルロースパルプを提供することである。
【0011】
本開示のさらなる目的は、再生可能な原料をベースとするバリアフィルムを製造するのに適した高度に精製されたセルロースパルプを提供することである。
【0012】
本開示のさらなる目的は、バリアフィルムを含む包装製品の高いリサイクル性を提供する高い再パルプ化性を有するバリアフィルムを製造するのに適した高度に精製されたセルロースパルプを提供することである。
【0013】
上述の目的、ならびに本開示に照らして当業者には理解されるその他の目的は本開示の様々な態様により達成される。
【0014】
本発明は、高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液中の比較的小さい割合の微粒子が懸濁液および形成されるウェブの高い保水性および/または高い排水抵抗を大いに担っているという認識を基礎としている。伝統的に、微粒子も出来上がったフィルムのバリア特性を大いに担うので、バリアフィルムを製造するとき微粒子のできるだけ多くをウェブ中に保持しようとすることが重要であると考えられていた。したがって、高度に精製されたセルロースからバリアフィルムを製造する以前の方策は、形成および脱水中微粒子をウェブ内に保持する手段、例えば化学的保持剤の添加に集中していた。
【0015】
本発明の方法は従来の製紙用パルプ懸濁液を洗浄して高度に精製されたセルロースパルプを分画してパルプ中の微粒子のいくらかを除去するのに通常使用されるベルトフィルターを使用する。微粒子のいくらかを除去すると、抄紙機タイプのプロセスでバリアフィルムのより効率的な製造を可能にする高度に精製されたセルロースが提供される。かかるフィルムは、例えば包装用途でガスバリアフィルムとして有用である。これらのフィルムは、紙または板紙包装製品のリサイクル性を低下させる合成ポリマーフィルムまたはアルミホイルのような従来のバリアフィルムに代えて使用することができる。本発明のフィルムは高い再パルプ化性を有し、フィルムおよびこれらのフィルムを含む紙または板紙包装製品の高いリサイクル性を提供する。
【0016】
現存するパルプ分画方法の多くは通常のパルプ懸濁液の粗いおよび細かい画分への分画に最適化されている。例としては液体遠心分離機および圧力スクリーンがある。
【0017】
液体遠心分離機は表面積に基づいて固体を分画する。実験的研究は、液体遠心分離機が繊維を比表面積、比体積および細胞壁厚によって分離することを示した。液体遠心分離機に関する問題は、0.9wt%超のような高い固形分含有量では凝集のために効率がより低いということである。
【0018】
圧力スクリーンは大きさおよび柔軟性に基づいて固体を分画する。粒子容認は繊維柔軟性、長さ、および太さによりその順に決定される。等しい長さの繊維は柔軟性により容認される。化学繊維は堅い機械的な繊維より容易に容認される。異なる長さの繊維は長さにより容認され、より短い繊維は長い繊維より容易に容認される。スクリーニングの際、より小さい固形分はより細かいスリットを使用することを可能にするがこれはより大きい機械を必要とし、したがって経済的にあまり魅力的ではない。
【0019】
現存する方法は高度に精製されたセルロースを含む懸濁液の分画に適していない。大きさの違いのため、また異なる物理法則が関わり始めるため、良好な効率と収率を高度に精製されたセルロースで達成するのはより困難である。
【0020】
本明細書に示されている第1の態様によれば、高度に精製されたセルロースパルプの細かい画分および粗い画分への分画の方法であって、前記方法が、
a)ISO規格5267-1により決定して40~98の範囲のショッパー・リーグラー(SR)数および乾燥重量に基づいて少なくとも700万繊維/グラムの長さ0.2mm超を有する繊維の含有量を有する高度に精製されたセルロースパルプを含む高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液を準備する工程と;
b)高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液をベルトフィルターでの脱水に供する工程と;
c)脱水された保持物を粗い画分として収集する工程と;
d)濾液を細かい画分として収集する工程と
を含み、
収集された細かい画分が、工程a)で準備された高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液の2~50wt%の固形分を含有する、
方法が提供される。
【0021】
このようにして、細かい物質と粗い物質を分離することができる。製紙ワイヤ/脱水とは対照的に、この系における微粒子の保持は分画および脱水/排水がより効率的であるように低いことが好ましい。
【0022】
本発明の方法により得られる画分は抄紙機でバリアフィルムを調製するのに有利に使用し得る。伝統的に、バリアフィルムを製造するとき、微粒子も出来上がったフィルムのバリア特性を大いに担うので、抄紙機のワイヤで形成され脱水された微粒子のできるだけ多くをウェブ中に保持しようとすることが重要であると考えられていた。したがって、高度に精製されたセルロースからバリアフィルムを製造するための以前の方策は、形成および脱水中微粒子をウェブ内に保持するための手段、例えば化学的保持剤の添加に集中していた。
【0023】
本発明者らは、本発明の方法により得られる粗い画分が、抄紙機で基材ウェブを形成するためのパルプ懸濁液に使用し得ることを見出した。微粒子はパルプ懸濁液の高い保水性を大いに担っているので、低下した粗い画分の微粒子はウェブの改良された形成および脱水を提供する。微粒子はまたパルプから形成されるフィルムのバリア特性も大いに担うので、粗い画分の低下した微粒子含有量は場合によって粗い画分単独から形成されるフィルムの低減したバリア特性をもたらすことがある。本発明者らは、この欠陥が、セルロース微粒子またはMFCを含むコーティングを基材に付けることにより是正することができるということを見出した。セルロース微粒子またはMFCを含むコーティングは、非常に低い坪量でさえ、基材ウェブの欠点を治癒してウェブのバリア特性を劇的に改良することができ、したがってバリアフィルムとして使用するのに適したフィルムを得られることができる。コーティングに使用される微粒子は好ましくは本発明に従って高度に精製されたセルロースパルプの分画により得られる微粒子であり得る。コーティングに使用される微粒子は例えば基材ウェブに使用される粗い画分を調製するときに得られる細かい画分を含み得る。したがって、一部の実施形態において分画は微粒子のウェブのバルクからウェブの表面への再分配を達成する手段とみてもよい。この微粒子の再分配はいくつかの利点を有する。
【0024】
粗い画分から形成された多孔質の基材ウェブは迅速に脱水することができ、ウェブの多孔性はまたウェブに付けられるセルロース微粒子を含むコーティングの迅速な脱水および乾燥も可能にする。結果として、本発明の方法はバリアフィルムとして使用するのに適したフィルムの迅速な生産を可能にする。
【0025】
細孔およびピンホールは基材ウェブに受け入れられるので、ピンホールの形成なしに脱水するのが困難なより高い坪量のフィルムを製造することができる。
【0026】
ウェブの表面での微粒子の高い局部的濃度を生起する微粒子のバルクから表面への再分配はまたバリアフィルム中の物質の総量を低減するのも可能にし、それでも類似のバリア特性を提供する。
【0027】
微粒子のバルクから表面への再分配はまた、バルクに微粒子が保持された全体的に高度に精製されたパルプから形成された対応するフィルムより顕著に高い引裂強さを有するフィルムをもたらすことも判明している。
【0028】
ウェブの表面における微粒子の高い濃度はまたカレンダリングに対する表面の応答を改良することもできる。
【0029】
その高い表面積のために、微粒子はより粗い粒子より高い程度に化学物質と結合する。微粒子のバルクから表面への再分配はウェブの表面積全体にわたる微粒子のより均一な分布、そしてそれにより微粒子に結合した化学物質のより均一な分布ももたらす。
【0030】
また、分画は分画および形成工程におけるいろいろな化学薬品の添加を可能にする。例えば、分画に供される高度に精製されたパルプ懸濁液に、化学薬品を加えないことができるし、または分画を補助する化学薬品を加えることができる。基材ウェブの形成に使用するために得られた粗い画分にウェブの形成を補助する化学薬品を加えてもよいし、基材ウェブのコーティングに使用するために細かい画分に適切なコーティング化学薬品を加えることができる。このように、全体の化学薬品消費を低減することができ、および/または様々な化学薬品に関連するウェブまたはフィルム特性を改良することができる。
【0031】
本発明の方法はベルトフィルターで実行される。ベルトフィルタープレスともいわれるベルトフィルターは、従来の製紙においてパルプを処理し、水を除去することによりパルプ濃度(consistency)を増大するように設計された機械である。パルプおよび紙製造工業は、通常貯蔵またはその他一時的処理目的のために、パルプおよび紙ストックを洗浄し濃縮するためにかかる機械を長年の間常用してきた。
【0032】
ベルトフィルターは製紙に使用される従来のパルプを洗浄し濃縮するのに使用されているが、本発明に従う高度に精製されたセルロースパルプの分画に以前使用されたことはない。
【0033】
例示的なベルトフィルターにはDouble Wire Press(Andritz-Ahlstromから入手可能);BDP(Baker Processから入手可能);Turbodrain(1ワイヤ)、Winkelpress(2ワイヤ)、およびCascade S(シリーズの両タイプ)(Bellmer and Cornerから入手可能);HC Press、Gap Washer、およびTwinWire(Paraformerヘッドボックス付)(Metso Paper/Fiber and Phoenix Process Equipmentから入手可能);Salter Belt Press(Salterから入手可能);DNT Washer(Thermo Black Clawsonから入手可能);VarioSplit(Voith Paperから入手可能);およびOsprey(William Jones、Londonから入手可能)がある。
【0034】
本発明の方法に使用される1つの好ましい設計はVarioSplitタイプの装置である。German OS 30 05 681および刊行物”VarioSplit, eine neue Maschine zur Verbesserung von AP-Rohstoffen” in ”Wochenblatt fur Papierfabrikation” 21/1981巻 p. 787 - 796は、紙くずから得られる水性繊維ストック懸濁液を洗浄するのに適しており、かかる懸濁液の濃縮に応用することもできるVarioSplitを記載する(OS 30 05 681、2欄30~34行、2欄68行~3欄41行)。処理される典型的なストック懸濁液は1.5%未満、好ましくは0.4~0.8%の濃度を有すると述べられている(3欄61~67行)。
【0035】
「VarioSplit」装置は、好ましい実施形態によると、回転シリンダーの表面の実質的な部分と協働する外面を有するエンドレスワイヤまたはフィルターバンド、ワイヤバンドの外面とシリンダーとの間の実質的にくさび型の中間空間に導入される平坦な懸濁液ジェットを形成するフラットジェットノズル、テイクオフロール、押し出された水のためのキャッチコンテナー、濃縮されたパルプを収集するための手段および3つのガイドロールを含む(2欄最終行~3欄41行および単一の図)。ストック懸濁液を洗浄するために装置はワイヤバンドの外面とシリンダーとの間に形成される繊維ウェブが100g/m2未満、好ましくは30~70g/m2の重量を有し、ワイヤ速度およびシリンダーの円周速度が400~1200m/分の程度になるように作動する(請求項1および3欄最終行~4欄8行)。
【0036】
本発明の方法においてベルトフィルターの使用は高度に精製されたセルロースパルプの効率的な大容量分画を可能にする。ベルトフィルターの使用は商業生産に充分な規模および速度での高度に精製されたセルロースパルプの分画を可能にする。
【0037】
一部の実施形態において、ベルトフィルターは100Paで4000m3/m2/時を超える空気透過性を有するワイヤベルトを含む。
【0038】
一部の実施形態において、ベルトフィルターのベルトは少なくとも50m/分、好ましくは少なくとも100m/分、より好ましくは少なくとも200m/分の速度で動く。ベルトフィルターは高速で作動する高速のベルトフィルターであるのが好ましい。
【0039】
一部の実施形態において、高度に精製されたセルロースパルプのベルト上の滞留時間は7秒未満、好ましくは5秒未満、より好ましくは3秒未満である。
【0040】
一部の実施形態において、ベルトフィルターは単一ワイヤまたはツインワイヤタイプのベルトフィルターである。単一ワイヤタイプのベルトフィルターは単一のワイヤを通してパルプ懸濁液から水を抜く。ツインワイヤタイプのベルトフィルターはパルプを2つのワイヤの間に挟み、両方のワイヤによる排水を可能にする。
【0041】
本発明の方法の出発物質は高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液である。セルロースパルプの精製または叩解はそれらに所望の特性を付与するためのセルロース繊維の機械的な処理および変更を意味する。高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液はセルロースをベースとする繊維質物質および場合により非繊維質の添加剤の水に懸濁した混合物を含む水性懸濁液である。パルプ懸濁液は、例えば漂白もしくは未漂白の針葉樹パルプもしくは広葉樹パルプ、クラフトパルプ、加圧式砕木パルプ(PGW)、熱機械(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、中性亜硫酸塩セミケミカルパルプ(NSSC)、損紙、または再生繊維からなる群から選択されるいろいろな原料から生成することができる。
【0042】
本明細書で使用される高度に精製されたセルロースパルプという用語は、かなりの精製に供されたが、セルロースパルプのすべてが従来の実験室用分画(fractionation)装置(SCAN-CM 66:05)の200メッシュスクリーン(相当穴径(equivalent hole diameter)76μm)を通り抜けるほどではないセルロースパルプを意味する。好ましくは高度に精製されたセルロースパルプの75%以下がSCAN-CM 66:05に従う従来の実験室用分画装置の200メッシュのスクリーンを通り抜ける。より好ましくは高度に精製されたセルロースパルプの50%以下がSCAN-CM 66:05に従う従来の実験室用分画装置の200メッシュのスクリーンを通り抜ける。このように、高度に精製されたセルロースパルプはより細かい粒子とより粗い粒子の混合物を含む。高度に精製されたセルロースパルプ内の粒子のサイズ分布は使用される出発物質および精製プロセスに依存し得る。
【0043】
本明細書で使用される高度に精製されたセルロースパルプという用語は、ISO規格5267-1により決定して40を超えるショッパー・リーグラー(SR)数を有するセルロースパルプを指す。高度に精製されたセルロースパルプはISO規格5267-1により決定して40~98の範囲のショッパー・リーグラー(SR)数を有する。一部の実施形態において、工程a)で高度に精製されたセルロースパルプのSR数はISO規格5267-1により決定して50~98の範囲、好ましくは55~94の範囲、より好ましくは60~92の範囲である。
【0044】
高度に精製されたセルロースパルプは長さ0.2mm超を有する繊維の含有量が乾燥重量に基づいて少なくとも700万繊維/グラム、好ましくは乾燥重量に基づいて少なくとも900万繊維/グラム、より好ましくは乾燥重量に基づいて少なくとも1500万繊維/グラムである。長さ0.2mm超を有する繊維の含有量は例えばL&W Fiber tester Plus機器(L&W/ABB)を用いて決定され得る。
【0045】
一部の実施形態において、高度に精製されたセルロースパルプは長さ0.2mm超を有する繊維の平均フィブリル面積が少なくとも15%、好ましくは少なくとも17%、より好ましくは少なくとも20%である。平均フィブリル面積はFiber Tester Plus機器を用いて決定される。「平均フィブリル面積」は本明細書で使用されるとき長さで重み付けした平均フィブリル面積を意味する。
【0046】
高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液の乾燥固形分は専ら高度に精製されたセルロースパルプからなってもよいし、または高度に精製されたセルロースパルプおよび他の成分もしくは添加剤の混合物を含むことができる。
【0047】
高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液はその主要な成分として、パルプ懸濁液の総乾燥重量に対して高度に精製されたセルロースを含む。一部の実施形態において、高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液は高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液の総乾燥重量に対して少なくとも50乾燥重量%、好ましくは少なくとも70乾燥重量%、より好ましくは少なくとも80乾燥重量%または少なくとも90乾燥重量%の高度に精製されたセルロースを含む。一部の実施形態において、高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液は高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液の総乾燥重量に対して50~99乾燥重量%の範囲、好ましくは70~99乾燥重量%の範囲、より好ましくは80~99乾燥重量%の範囲、より好ましくは90~99乾燥重量%の範囲の高度に精製されたセルロースを含む。
【0048】
高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液はさらにヘミセルロースおよび/またはリグニンを含み得る。
【0049】
一部の実施形態において、高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液は高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液の総乾燥重量に対して10重量%以下のリグニン含有量を有する。
【0050】
一部の実施形態において、高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液は高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液の総乾燥重量に対して10~30重量%の範囲のヘミセルロース含有量を有する。
【0051】
高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液はさらに添加剤、例えば天然デンプンもしくはデンプン誘導体、セルロース誘導体、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、充填剤、凝集添加剤、解膠添加剤、乾燥強度添加剤、軟化剤、架橋助剤、サイジング化学物質、染料および着色剤、湿潤強度樹脂、固定剤、脱泡助剤、微生物およびヘドロ調節助剤、またはこれらの混合物を含み得る。本発明の方法は脱水速度を増大する代替方法を提供し、この方法は保持および排水化学物質の添加にあまり依存しないが、それでも小量の保持および排水化学物質が使用されてもよい。一部の実施形態において、高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液は添加された保持および排水化学物質を含まない。
【0052】
高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液は好ましくは高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液の総乾燥重量に対して全体で20乾燥重量%以下の添加剤を含む。より好ましくは高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液は高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液の総乾燥重量に対して全体で10乾燥重量%以下の添加剤を含む。
【0053】
本発明の方法で使用される高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液は0.1~1.5wt%の範囲の濃度を有するべきである。これより低い濃度はベルトフィルターで適切な坪量のウェブを調製するのに便利でなく、より高い濃度ではウェブからセルロース微粒子と一緒に水を効率的に抜くのが困難になる。0.1~1.5wt%の範囲の濃度が坪量とセルロース微粒子と一緒の効率的な排水との適切なバランスを提供することが判明している。一部の実施形態において、工程a)で準備される高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液の濃度は0.1~1.5wt%の範囲、好ましくは0.1~1wt%の範囲、好ましくは0.2~0.8wt%の範囲、より好ましくは0.2~0.6wt%の範囲である。
【0054】
本発明は微粒子の大部分が濾液と共にパルプから除去されるようにパルプを迅速に脱水するという発想に基づいている。本発明の方法において、脱水中にパルプから除去される濾液は高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液の比較的に高い割合の固形分を含む。言い換えると、セルロース微粒子のかなりの部分がパルプから濾液と共に除去される。ウェブから除去された濾液は高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液出発物質の0.1~50wt%の範囲の固形分を含有する。収集された細かい画分は工程a)で準備された高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液の2~50wt%、好ましくは2~40wt%、さらにより好ましくは2~30wt%、より好ましくは少なくとも5~30wt%、さらにより好ましくは少なくとも10~20wt%の固形分を含有するのが好ましい。
【0055】
工程b)の脱水中、水は少なくとも5wt%の濃度で除去されることが好ましい。一部の実施形態において、工程c)で収集される脱水された保持物の濃度は少なくとも5wt%、好ましくは少なくとも7.5wt%、より好ましくは少なくとも10wt%である。
【0056】
細かい画分の平均粒径は粗い画分の平均粒径よりかなり小さい。
【0057】
脱水中の微細な物質の除去のため、脱水されたパルプは通例、微粒子がより大きい程度に保持されているパルプより低い保水性を示す。一部の実施形態において、収集された粗い画分はISO規格5267-1により決定して95未満、好ましくは90未満、より好ましくは85未満のショッパー・リーグラー(SR)数を有する。
【0058】
本明細書で使用される微粒子という用語は一般にセルロース繊維より大きさがかなり小さいセルロース粒子を意味する。例えば工程d)で収集される細かい画分はセルロース微粒子またはミクロフィブリル化セルロース(MFC)を含み得る。
【0059】
一部の実施形態において、本明細書で微粒子という用語が使用されるとき、従来の実験室用分画装置(SCAN-CM 66:05)の200メッシュスクリーン(相当穴径76μm)を通り抜けることができる微細なセルロース粒子を意味する。2つの主要な種類の繊維微粒子、すなわち一次および二次微粒子がある。一次微粒子はパルプ化および漂白中に生成し、その際化学的および機械的処理により細胞壁マトリックスから除去される。その起源(すなわち、複合中間ラメラ(compound middle lamella)、放射組織細胞(ray cell)、柔組織細胞)の結果として、一次微粒子はフレーク様構造を示し、少しだけフィブリル状物を共有する。対照的に、二次微粒子はパルプの精製中に生成する。一次および二次微粒子のどちらも抄紙機のフォーミングセクションにおける脱水に負の影響を有する。パルプ繊維と比較すると大きい比表面積のため、微粒子はパルプおよび紙の生産で使用される高い割合の化学添加剤も消費する。
【0060】
一部の実施形態において、微粒子はミクロフィブリル化セルロース(MFC)を含む。ミクロフィブリル化セルロース(MFC)は特許出願の関係では20nm~1000nmの幅または直径を有するセルロース粒子、繊維またはフィブリルを意味する。
【0061】
MFCを作成するには、単一もしくは多数回精製、予備的加水分解後の精製または高剪断崩壊もしくはフィブリルの遊離のような様々な方法が存在する。MFC製造をエネルギー効率的かつ持続可能にするために通常1つまたはいくつかの前処理工程が必要とされる。このようにMFCを生産するときに使用されるパルプのセルロース繊維は天然でもよいし、または、例えばヘミセルロースもしくはリグニンの量を低減するために酵素的もしくは化学的に前処理してもよい。セルロース繊維はフィブリル化の前に化学的に修飾されてもよく、ここでセルロース分子は元のセルロースに見られる以外の(1以上の)官能基を含有する。かかる基としては、特に、カルボキシメチル(CM)、アルデヒドおよび/またはカルボキシル基(N-オキシル媒介酸化により得られるセルロース、例えば「TEMPO」)、または四級アンモニウム(カチオン性セルロース)がある。上記方法の1つで修飾または酸化された後、繊維をMFCに崩壊させるのはより容易である。
【0062】
MFCは木材セルロース繊維から、広葉樹および針葉樹繊維の両方から生産することができる。また微生物起源、農業繊維、例えば麦わらパルプ、タケ、バガス、またはその他の非木材繊維起源から作成することもできる。未使用繊維由来パルプ、例えば機械的、化学的および/または熱機械的パルプを含めたパルプから作成することができる。またブロークまたは再生紙から作成することもできる。
【0063】
微粒子はさらにヘミセルロースおよび/またはリグニンを含み得る。
【0064】
一部の実施形態において、微粒子は微粒子の総乾燥重量に対して10重量%以下のリグニン含有量を有する。
【0065】
一部の実施形態において、微粒子は微粒子の総乾燥重量に対して10~30重量%の範囲のヘミセルロース含有量を有する。
【0066】
一部の実施形態において、細かい画分は200メッシュのスクリーンを通り抜けることができる。
【0067】
本発明の方法は微粒子を含有するセルロースパルプの保水性を低減するのに有用である。高度に精製されたセルロースパルプを調製するのに使用される精製プロセスはまた微粒子含有量の大きい変動をもたらし得る。微粒子は高度に精製されたパルプの特性およびパルプから作成されるフィルムに大きな影響を有するので、微粒子のいくらかを除去することはまたより均一な特性の材料ももたらし得る。言い換えると、本発明の方法は高度に精製されたセルロースパルプの保水性を低減し、および/または均質性を増大するのに使用され得る。高度に精製されたパルプおよびその処理されたパルプから作成されるフィルムに対する特性をさらに調整するために、パルプから除去された微粒子のいくらかを粗い画分に加え戻してもよい。場合によって、パルプの所望の微粒子含有量を得るため、例えば後にパルプから作成されるフィルムのいくつかのバリア特性を得るために、微粒子を添加することができる。場合によって、例えば出発物質微粒子含有量の変動または脱水効率の変動に起因する粗い画分の微粒子含有量の変動を補償するために微粒子を添加することができる。
【0068】
したがって、一部の実施形態において方法は高度に精製されたセルロースパルプの保水性を低減し、および/または均質性を増大することを含み、前記方法は、
a)ISO規格5267-1により決定して40~98の範囲のショッパー・リーグラー(SR)数および乾燥重量に基づいて少なくとも700万繊維/グラムの長さ0.2mm超を有する繊維の含有量を有する高度に精製されたセルロースパルプを含む高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液を準備する工程と;
b)高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液をベルトフィルターでの脱水に供する工程と;
c)脱水された保持物を粗い画分として収集する工程と;
d)濾液を細かい画分として収集する工程であり、収集された細かい画分が、工程a)で準備された高度に精製されたセルロースパルプ懸濁液の2~50wt%の固形分を含有する、工程と;
e)細かい画分から得られたセルロース微粒子の一部分を粗い画分に加えて、低減した保水性および/または増大した均質性を有する高度に精製されたセルロースパルプを得る工程と
を含む。
【0069】
一部の実施形態において、工程e)で粗い画分に加えられるセルロース微粒子の量は工程d)で収集されたセルロース微粒子の量より少なく、好ましくは工程d)で収集されたセルロース微粒子の量の1~75%の範囲、より好ましくは工程d)で収集されたセルロース微粒子の量の1~50%の範囲である。
【0070】
一部の実施形態において、工程e)で得られるパルプは工程a)で準備された高度に精製されたセルロースパルプより低いショッパー・リーグラー(SR)数を有する。
【0071】
一部の実施形態において、工程e)で得られるパルプは工程a)で準備された高度に精製されたセルロースパルプより低い保水値(WRV)を有する。
【0072】
高度に精製されたセルロースパルプは好ましくは乾燥されていないパルプから生産される。乾燥されていないパルプは多くの利益を有するが、1つの欠点は乾燥されていないパルプが乾燥されているパルプと比較して脱水するのがより困難なことである。本発明に従う方法では乾燥されていないパルプから良好なやり方で高度に精製されたセルロースパルプを脱水することが可能であることが判明した。
【0073】
本明細書に示されている第2の態様によれば、第1の態様の本発明の方法により得ることができる低減した保水性および/または増大した均質性を有する精製されたセルロースパルプが提供される。
【0074】
本発明の方法により得ることができる高度に精製されたセルロースパルプはバリアフィルムを製造するのに有利に使用し得る。
【0075】
本明細書に示されている第3の態様によれば、バリアフィルムの製造における第1の態様に従った方法により得られる低減した保水性および/または増大した均質性を有する高度に精製されたセルロースパルプの使用が提供される。
【0076】
高度に精製されたセルロースパルプ、特に80を超えるショッパー・リーグラー(SR)数を有する高度に精製されたセルロースパルプから形成されたウェブおよびフィルムに伴う問題は、それらが通例不十分な引張および引裂強さを示すことである。この度、本発明の方法に従って形成される低減した微粒子を有する高度に精製されたセルロースパルプから形成されるウェブは、微粒子が保持された全パルプから形成される対応するウェブより顕著に高い引裂強さを有することが判明した。本発明の方法では、3.5mNm2/gを超える、好ましくは4mNm2/gを超える、より好ましくは5mNm2/gを超える引裂インデックス幾何平均(すなわち(引裂インデックス(md)×引裂インデックス(cd))1/2)を有する基材ウェブが、80を超えるSR数を有する高度に精製されたパルプから形成することができるということが見出された。引裂インデックス幾何平均は通例10mNm2/gを下回る。
【0077】
本発明の方法は高度に精製されたセルロースを含むバリアフィルムを抄紙機タイプのプロセスで効率的に製造することを可能にする。かかるフィルムは、例えば包装用途でガスバリアフィルムとして非常に有用であることが判明している。これらのフィルムは、紙または板紙包装製品のリサイクル性を低下させる合成ポリマーフィルムまたはアルミホイルのような従来のバリアフィルムに代えて使用することができる。本発明のフィルムは高い再パルプ化性を有し、フィルムおよびこれらのフィルムを含む紙または板紙包装製品の高いリサイクル性を提供する。
【0078】
本明細書で使用される用語バリアフィルムは、広く、ガスおよび/または液体に対して低い透過性を有する薄い連続したシートを形成した物質を意味する。パルプ懸濁液の組成物に応じて、フィルムは薄い紙またはさらに膜と考えることもできる。
【0079】
バリアフィルムはそれ自体で使用することができ、または1以上の他の層と組み合わせることができる。フィルムは例えば板紙をベースとする包装材料でバリア層として有用である。バリアフィルムはまたグラシン紙、耐脂紙または薄い包装用紙のバリア層であってもまたはそれを構成していてもよい。
【0080】
本発明の方法の工程を実行するために異なる配列が当業者により考えることができようが、本発明の方法は抄紙機、より好ましくは長網抄紙機で有利に実行されよう。
【0081】
本明細書に示されている第4の態様によれば、第1の態様の本発明の方法により得ることができる高度に精製されたセルロースパルプから形成されるバリアフィルムが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0082】
本発明が様々な例示の実施形態に関して記載されて来たが、当業者には理解されるように、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更をなしてもよく、また等価なものをその要素と置き換えてもよい。さらに、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、特定の状況または材料を本発明の教示に適合させるべく多くの修正をなすことができる。したがって、本発明はこの発明を実施するために考えられる最良の態様として開示された特定の実施形態に限定されることなく、本発明は添付の特許請求の範囲の範囲内に入るすべての実施形態を包含することが意図されている。
【実施例】
【0083】
例1(比較)
SR値>90に精製され、L&W Fiber tester Plus機器(L&W/ABB)を用いて決定された約20%(>0.2mm)のフィブリル面積および試料1グラム当たり約1500万の繊維量(>0.2mm)を有する高度に精製された針葉樹パルプをpH約7および濃度1.7wt%で調製し、パイロット抄紙機にかけた。比形成(specific formation)は0.51で比較的に良好であり、形成されたフィルムの引張インデックス比(tensile index ratio)(md/cd)は約2であった。結果を表1に示す。
【0084】
この例は、高度に精製されたパルプから高密度のバリアフィルムを調製することができるが、パルプの排水抵抗が非常に高いので、機械の速度を極めて低く(30m/分)保たなければならず、それ故にウェブの製造が非常に遅いことを示した。
【0085】
例2(比較)
SR値>90に精製され、L&W Fiber tester Plus機器(L&W/ABB)を用いて決定された約20%(>0.2mm)のフィブリル面積および約1500万/グラム試料の繊維量(>0.2mm)を有する高度に精製された針葉樹パルプをpH約7および濃度1.7wt%で調製し、長網抄紙機レイアウトのフルスケール抄紙機にかけた。比形成は約0.7、引張インデックス比は約2であった。
【0086】
機械の速度はパルプの高い排水抵抗のために約130m/分に低下させなければならなかった。脱水中ワイヤを通して除去された固形分の量は出発物質として使用した高度に精製されたセルロースパルプの固形分の約2wt%であった。
【0087】
下記表1の結果は、高密度のシートを作成することができるが、高い排水抵抗のため製造速度が低く、ベース(base)の形成および均一性も負の影響を受けることを示す。
【0088】
実施例3
SR値90超に精製され、L&W Fiber tester Plus機器(L&W/ABB)を用いて決定された約20%(>0.2mm)のフィブリル面積および約1500万/グラム試料(>0.2mm)の繊維量を有する高度に精製された針葉樹パルプを調製し、0.5~0.6wt%の濃度に希釈し、6.5~8のpHおよび37~44℃の範囲の温度で500m/分の速度のツインワイヤハイブリッドフォーマーにかけた。
【0089】
脱水中にパルプから除去された白水中の固形分の濃度は約0.05wt%であり、これは脱水中にワイヤを通して除去された固形分の量が出発物質として使用した高度に精製されたセルロースパルプの固形分の約10wt%であったことを意味する。
【0090】
この実施例は、高量の高度に精製されたパルプを含有するウェブを高速で脱水することができ、その結果かなりの割合の微細な固形分のパルプからの除去(すなわち分画)のために増大した空気透過性を有するウェブが得られることを裏付けている。
【0091】
興味深いことに、比形成が0.43で、これは極めて良好であり、また引張インデックス比は3.75で、これは非常に高いことが認められた。また、引裂抵抗が極めて良好であり、パルプを分画に供することがウェブ強度に正の効果を有することを裏付けている。
【0092】
例4(比較)
82のSRに精製され、L&W Fiber tester Plus機器(L&W/ABB)を用いて決定される約17%(>0.2mm)のフィブリル面積および約1100万/グラム(>0.2mm)の繊維量を有する針葉樹パルプをFormette装置(実験室用装置)でシートに調製した。形成されたシートの坪量は30gsmであった。23℃/50%RHで決定されたシートのOTRは189cc/m2/日であり、これはシートがいくらかのバリア特性を有するが、比較例1と同じレベルではないことを裏付ける。これは主として例1より少し粗い繊維材料のためである。
【0093】
実施例5
この実施例は、高度に精製されたセルロースパルプから形成された基材ウェブを、ミクロフィブリル化セルロース(MFC)の形態の微細なセルロース細胞材料を含むコーティングで被覆することの効果を示すために行った。
【0094】
この実施例は例4と同じ精製された針葉樹パルプを使用した。25gsmのシートをFormette装置でパルプから形成し、その後スプレー装置を用いてシート上に5gsmのMFC層を付けた。MFCは高圧流動化の前に針葉樹繊維を酵素(セルラーゼ)で処理することにより調製した。MFCコーティングを脱水後だが乾燥前に基材ウェブに適用した。基材ウェブの坪量は25gsmであり、ウェブに適用したMFCの量は5gsmであった。23℃/50%RHで決定された被覆されたシートのOTRは3であり、微細なMFCをシート表面に付ける効果が確かめられた。
【0095】
実施例6
例1をパイロット抄紙機で繰り返したが、ここでは高度に精製されたセルロースパルプに未精製の針葉樹パルプを30%添加した。これはバリア特性をもたない高度に多孔質の基材ウェブを与えた。
【0096】
その後、脱水したが乾燥させていないウェブに実施例5で使用したMFCコーティングを湿式カーテンコーティングにより適用した。
【0097】
被覆された基材の23℃/50%RHで決定されたOTRは565cc/m
2/日であった。この比較的低いOTRは、高度に精製されたパルプへの30%の未精製繊維の添加により表される基材ウェブ内の非常に高い粒子/繊維サイズ分布にもかかわらずMFCコーティングが表面を閉じることができるということを裏付けた。
【国際調査報告】