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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-29
(54)【発明の名称】血小板生成用3D多孔質構造の使用
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20240221BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20240221BHJP
   C12N 5/078 20100101ALI20240221BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
C12N1/00 Z
C12N5/078
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023548198
(86)(22)【出願日】2022-02-08
(85)【翻訳文提出日】2023-10-05
(86)【国際出願番号】 EP2022052946
(87)【国際公開番号】W WO2022167676
(87)【国際公開日】2022-08-11
(31)【優先権主張番号】21155887.9
(32)【優先日】2021-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523299657
【氏名又は名称】ヘモストオーディー エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145791
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 志麻子
(74)【代理人】
【識別番号】100217663
【弁理士】
【氏名又は名称】末広 尚也
(72)【発明者】
【氏名】ダハン,エロディー
(72)【発明者】
【氏名】クラウデル,ソフィー
(72)【発明者】
【氏名】ハンバート,マガリ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA09
4B029BB11
4B029CC01
4B029CC10
4B029DB15
4B029DG06
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BC08
4B065BC42
4B065CA44
(57)【要約】
大スケールで血小板をin vitro生成するための方法およびデバイスが提供される。方法は、巨核細胞から血小板を大スケールで生成するために、多孔質材料を収納するように構成された、回転可能なベッドリアクターを備える血小板生成デバイスを使用する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
巨核細胞から大スケールで血小板を生成するための血小板生成デバイス(10、10’)であって、
容器(12)と、その中に配置された回転可能なベッドリアクター(16)とを備え、
前記ベッドリアクター(16)が、多孔質材料(30)を収納し、かつ前記容器(12)内に収納された懸濁細胞(14)中に浸漬されるように構成される、
血小板生成デバイス(10、10’)。
【請求項2】
細胞懸濁物(14)が、成熟した巨核細胞を含む溶液を含み、前記多孔質材料(30)が、フォーム、繊維、3D印刷された多孔質構造、織布フィルター、不織布フィルター、マイクロキャリア、ゲル、またはヒドロゲル、または充填されたビーズを含む、請求項1に記載のデバイス(10、10’)。
【請求項3】
前記ベッドリアクター(16)が、前記ベッドリアクター(16)を通じた前記細胞懸濁物(14)の流動を円滑化するための、前記ベッドリアクター(16)の中央部に配置された貫通孔を備える、請求項1または2に記載のデバイス(10、10’)。
【請求項4】
前記ベッドリアクター(16)が、ベースプレートからトッププレートまで延在する周辺外壁を含む中空体を備え、前記周辺外壁が開口部(32)を含むかまたはメッシュからなり、好ましくは前記中空体が円筒形状を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載のデバイス(10、10’)。
【請求項5】
前記ベッドリアクター(16)が、前記中空体内に配置され、かつ前記ベースプレートから前記トッププレートまで延在する内壁をさらに備え、前記内壁のそれぞれが、その上に形成された複数の開口部(36)を含む、請求項4に記載のデバイス(10、10’)。
【請求項6】
前記容器(12)が、チャンバー(20)を形成するヘッドキャップ(18)を用いてキャップされるように構成され、好ましくは前記チャンバー(20)がパージされるように構成される、請求項1から5のいずれか一項に記載のデバイス(10、10’)。
【請求項7】
前記ベッドリアクター(16)が、コネクター25を介してローターシャフト(24)に連結するように構成され、前記コネクター(25)が、前記細胞懸濁物(14)が前記ベッドリアクター(16)中に進入するのを円滑化するためのアパーチャーを備える、請求項1から6のいずれか一項に記載のデバイス(10、10’)。
【請求項8】
前記ヘッドキャップ(18)が、前記細胞懸濁物を前記容器(12)中に添加するための開口部を備える、請求項1から7のいずれか一項に記載のデバイス(10、10’)。
【請求項9】
前記細胞懸濁物(14)を前記容器(12)中にポンプ搬送するためのポンプをさらに含み、好ましくは前記ポンプがペリスタポンプを含む、請求項8に記載のデバイス(10、10’)。
【請求項10】
前記容器(12)が、冷却または加温ジャケットを使用してジャケットで覆われるようにさらに構成される、請求項1から9のいずれか一項に記載のデバイス(10、10’)。
【請求項11】
前記ベッドリアクター(16)が最大1000rpmで回転するように構成される、請求項1から10のいずれか一項に記載のデバイス(10、10’)。
【請求項12】
前記ベッドリアクター(16)が、前記ベッドリアクター(16)内に配置構成されている多孔質材料の層間に配置されるように構成された中間壁(34)をさらに備える、請求項1から11のいずれか一項に記載のデバイス(10、10’)。
【請求項13】
前記容器(12)が、その中に配置されたバッフル(28)を備える、請求項1から12のいずれか一項に記載のデバイス(10、10’)。
【請求項14】
前記ベッドリアクターの容積と前記容器の容積との間の比が、1:1~最大1:100、好ましくは1:2~1:20まで変化する、請求項1から13のいずれか一項に記載のデバイス(10、10’)。
【請求項15】
前記ベッドリアクター(16)が最大28cmの多孔質材料を含み、好ましくは、500mLの容器に適合するように構成される、請求項1から14のいずれか一項に記載のデバイス(10、10’)。
【請求項16】
多孔質材料1立方ミリメートル当たりの巨核細胞の密度が、MK10・10個/mm~MK100・10個/mmの範囲、好ましくはMK100・10個/mm~MK10・10個/mmの範囲である、請求項1から15のいずれか一項に記載のデバイス(10、10’)。
【請求項17】
前記多孔質材料が、巨核細胞に対して親和性を有するリガンドでコーティングされ、好ましくは前記リガンドが、フォン・ヴィルブランド因子またはその機能的バリアント、ヴィルブランド因子の断片を含むポリペプチド、フィブリノゲン、フィブロネクチン、ラミニン、IV型コラーゲン、III型コラーゲン、I型コラーゲン、またはビトロネクチンを含む、請求項1から16のいずれか一項に記載のデバイス(10、10’)。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか一項に記載の血小板生成デバイス(10、10’)を使用して、大スケールで血小板を生成するための方法であって、
細胞懸濁物(14)を、血小板生成デバイス(10、10’)の容器(12)中に添加するステップと、
多孔質材料(30)を、前記血小板生成デバイス(10、10’)のベッドリアクター(16)中に導入するステップと、
前記ベッドリアクター(16)をローターシャフト(24)に取り付けるステップと、
前記ベッドリアクター(16)を、前記血小板生成デバイス(10、10’)の前記容器(12)内に配置するステップと、
任意選択的に、コントロールされた雰囲気を維持するために、ヘッドキャップ(18)を用いて前記容器(12)を閉鎖するステップと、
前記ベッドリアクター(16)を事前に決定されたスピードで回転させるステップと、
任意選択的に、血小板およびMKを計数および特徴付けるために、細胞のサンプルおよび血小板懸濁物を収集するステップと
を含む方法。
【請求項19】
下記のステップ:
HSC、工学操作されたHSCから選択されるか、または胚性幹細胞、工学操作された胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、および工学操作された人工多能性幹細胞からなる群から選択される幹細胞を提供するステップと、
細胞を増殖させ、増殖した細胞をMKに分化させるために、前記幹細胞を培養するステップと
により、前記細胞懸濁物(14)を取得するステップをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記多孔質材料(30)を前記ベッドリアクター(16)中に導入するステップが、前記多孔質材料(30)のバルクで前記ベッドリアクターの全容積を充填するステップを含む、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記多孔質材料(30)を前記ベッドリアクター(16)中に導入するステップが、前記多孔質材料(30)を、数百マイクロメートルのいくつかの層からなるアセンブリとして配置構成することを含み、好ましくは前記多孔質材料の層が、前記ベッドリアクター(16)内に配置された中間壁(34)により分離される、請求項18または19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はin vitroでの血小板生成に関する。特に、本発明は、巨核細胞(MK)から血小板を大スケールで生成するための方法およびデバイスについて開示する。
【背景技術】
【0002】
血小板は、小型の無核血液細胞であり、その機能は出血を止めることである。ある特定の疾患、処置に起因して、または大出血の後に血小板数が少なくなった(血小板減少症)患者は、血小板輸液-救命医薬品を必要とする。現在のところ、唯一の供給源は供血である。それにもかかわらず、血小板の有効期間は5日間であるので、病院ストックは継続して更新される必要があり、また品不足問題が先進国(伝染病、悪天候、休暇期間...)において頻発する(約20%)一方、新興国では必要量の半分超が未供給である。品不足問題は輸液ミスマッチをもたらす可能性があり、その結果、無効な輸液またはアロ免疫を含む有害事象を引き起こすおそれがある。血小板輸液を必要とする患者の虚弱集団において、そのような事象のいずれも対処すべき現実的障害であり、入院期間の長期化、入院患者の医療費増加、および生存率の低下と関連する。治療用途のためのin vitroでの血小板生成は魅力的代替案ではあるが、しかし特に工業生産に向けたプロセスのスケーラビリティーに関して、重要な技術的課題として存続する。
【0003】
血小板は成熟した巨核細胞に由来する。成熟した巨核細胞は、MK前駆体に向かう多能性造血幹細胞のコミットメント、この前駆体の増殖および分化、その多倍数化、およびその成熟と関係する、骨髄において生ずるプロセスの結果である。動的プロセスを通じて、成熟したMKの細胞質は、血管環境を通じて長い偽足伸長(血小板前駆体と呼ぶ)を形成して洞様毛細血管内で円盤状血小板を放出する。血小板生成「臓器」は、骨髄のみならず肺(MKが肺微小循環においてこの伸長を流量依存性の方式で直接生成し得る)からも構成されることがやはり立証されている(Lefrancais et al.; “The lung is a site of platelet biogenesis and a reservoir for hematopoietic progenitors”; Nature. 2017 April 06; 544(7648): 105-109)。血小板生成に特化したバイオリアクターを設計する非常に多くの試みがなされてきた。
【0004】
骨髄環境モデルに基づくバイオリアクターは、2つのコンパートメント:MKが播種されるコンパートメントと血小板が収集されるコンパートメントとを一般的に有する。骨髄(MKコンパートメント)から血流(血小板コンパートメント)に至る動的通路が、異なる手段により模倣されている。
【0005】
2011年に、Balduiniとそのチームは、MK移動、洞様毛細管に対する接着、血小板前駆体形成、および血小板放出の研究を目的として、骨髄環境の最初の空間的再構築を代表する3Dシステムについて報告した(Pallotta et al.; “Three-Dimensional System for the In Vitro Study of Megakaryocytes and Functional platelet Production Using silk-Based vascular tubes”; Tissue Engineering: Part C Methods. 2011; 17(12): 1223-32)。シルクマイクロチューブ(50±20μmの壁厚は血小板前駆体の長さに一致し、2~8μmの細孔サイズは血小板前駆体を許容する)が、飼育化されたカイコ(カイコガ(Bombyx mori))繭から精製された生体由来のタンパク質ポリマーであるシルクフィブロインを用いて調製され、次にSDF1-α(化学誘引物質)、および異なるタンパク質(フォン・ヴィルブランド因子(VWF)、フィブリノゲン(FBG)、またはI型コラーゲン)を用いて稀釈したマトリゲルでコーティングされた。臍帯血(CB)造血幹細胞(HSC)に由来するMK3・10個の懸濁物が、コラーゲンIゲル調製物(骨芽細胞ニッチを模倣する)とコーティングされたシルクチューブの外壁(血管ニッチを模倣する)との間の界面に添加された。16時間インキュベートした後、播種したMKの7%±2%がマイクロチューブ壁(VWFおよびFBGの組合せを含む)を通じて血小板前駆体に進展し、そして約2百万個の血小板が、32μL/mLの流速(約40/秒の剪断速度)でマイクロチューブ内を灌流する溶液中で収集された。2015年には、ヒト骨髄ニッチ環境の生理学を完全に再構築するために、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質で機能化されたシルクスポンジ(直径100~500μmの範囲の相互に接続した細孔)内にシルクチューブ(壁厚50±20μmおよび細孔直径22±4μm)を埋め込むことにより、3Dシステムは改善された(Di Buduo et al.; “Programmable 3D silk bone marrow niche for platelet generation ex vivo and modeling of megakaryopoiesis pathologies”; Blood. 2015; 125(14): 2254-2264)。合計2.5・10個の成熟したCB由来MKが機能化されたシルクスポンジ内に播種された。16時間後、システムは、MKが血管チューブに向かって移動し、外壁に接着するのを可能にし、そして24時間後には血小板前駆体はマイクロチューブの管腔内まで広がった。血小板(1.4百万個)が、マイクロチューブ内、60/秒の剪断速度で培養培地を灌流させることにより取り出された。ECMコンポーネントが、多孔質シルク、例えばI型コラーゲン、フィブリノゲン、フィブロネクチン、IV型コラーゲン、またはラミニン等を機能化するのに使用された一方、マイクロチューブは、フィブロネクチン、IV型コラーゲン、およびラミニンを用いて機能化された。より最近では、同一チーム(Di Buduo et al.; “modular flow chamber for engineering bone marrow architecture and function”; Biomaterials. 2017; 146: 60-71)が、矩形のモジュラーフローチャンバーから構成され、システムの灌流を可能にするために、インレットおよびアウトレットに接続されたセントラルキャビティー内に埋め込まれた細胞外マトリックスコンポーネントで機能化されたシルクスポンジ(3.4×20×5mm;細孔直径370±115μm)を保持する単純化されたシステムを開発した。3~4・10個のCB由来成熟MKが、機能化されたシルクスキャフォールド内に24時間播種された。この期間後、培養培地を約90μL/分で8時間灌流させたとき(すなわち、平均壁剪断速度1.9s-1)、アウトレットにおいて収集された血小板様粒子の流動による脱離が可能になった。システムが血小板生成のスケールアップを目的として記載されたとしても、公開資料はこの目標に関して何らかの性能を開示しなかった。このシステムは、幹細胞(造血または人工多能性)、すなわちMKの前駆体をシルクスポンジ内に播種しながら、患者における薬物応答を予測するための小型化された骨組織モデルとしてさらに使用された(Di Buduo et al.; “Miniaturized 3D bone marrow tissue model to assess response to Thrombopoietin-receptor agonists in patients”; eLife 2021; 10:e58775)。15日以降、幹細胞を増殖させ、MKに分化させることで、いくつか(4・10個)の血小板が生成した。最後に、Tozziらは、シルクスポンジ(細孔径117±4.9μm~126±3.7μm)内に機能化されたチャンネル(直径1mm)を再導入することにより、この単純化されたシステムを改善することを提案した(Tozzi et al.; “Multi-channel silk sponge mimicking bone marrow vascular niche for platelets production”; Biomaterials. 2018; 178: 122-133)。約1.5・10個のCD41CD42bCB由来MKをシルクスキャフォールド内に一滴ずつ播種し(シルク1mm当たりMK190個)、そしてスポンジ内に血小板前駆体が形成されるまで36時間培養した。次に、10μL/分の流速で6時間にわたり灌流を行い、チャンネルの管腔において0.8~4.5・10個の血小板の収集が可能であった。単純化されたシステムにチャンネルを付加する理由は、異なる骨髄の環境を再構築するため、すなわち、スポンジ、空チャンネルの壁、および空チャンネルの間に異なる流動応力および剪断応力を導入するためであった。流動がシステム内に導入されるとき、チャンネル内では均質な流動が観察される一方、スキャフォールド内では流動は無視し得るほどであり、またチャンネルの壁とシルクスポンジとの間で剪断力値の急激な推移が認められる。指摘すべきこととして、バイオリアクターの設計は、スキャフォールドとバイオリアクター壁との間の「エッジフロー」を回避する。これらすべてのシルクデバイスは、複数の連続的生成ステップ-MKを最終段階まで成熟(偽足伸長)させて血小板前駆体を形成するために播種するステップ、血小板を生成および収集するステップを一体化しており、スケールアップするための各ステップの最適化を難しくしている。例えば、MKは血小板前駆体に進展するための空間を必要とするので、微多孔質材料内のMK細胞の播種密度には制約があり(TozziではMK190個/mm)、したがって大容量の材料が要となる。Tozziでは、約1.3mのシルクスポンジが3・1011個の血小板(輸液1回、患者1人当たりの用量)を生成するのに必要とされ、したがってシルクスポンジを機能化するのに必要とされる大容量の媒体および製品もやはり必要とされる。複数のデバイスを積層しても、多量の消耗品が必要とされることへの解決策とはならず、工業化を複雑にする。
【0006】
Avanziらも、幹細胞から血小板を生成するための一体型システムについて記載した(国際公開第2012/129109号パンフレット(NEW YORK BLOOD CENTER,INC.社)、2012年9月27日)。最終ステップは一連の血小板放出チャンバーを含む。各血小板放出チャンバーは、3Dマトリックスまたはスキャフォールド(約2μm~6μmの間の細孔を有し、血小板前駆体形成および血小板放出を刺激する因子でコーティングされている)を収納する上部チャンバーおよび血小板を収集するための下部チャンバーにおいて分離している。これまでのシステムと同様に、MKはスキャフォールド上に播種される。ここでは、2つの分離した流動が上部および下部チャンバー内に適用され、再度、MKが血管ニッチ内で血小板前駆体に成熟し、そして血流中で血小板が生成する最終ステップが再構築される。上部チャンバー内での血小板前駆体形成、および下部チャンバー内での血小板収集が、約1~2日間実施される。播種されたMK1個につき収集された血小板の数に関してこのシステムが有望であるとしても、たかだかMK(1・10)がチャンバーにより播種可能であり、1~3.3・10個の血小板が放出される(Avanzi MP et al.; “A novel bioreactor and culture method drives high yields of platelet from stem cells”; Transfusion. 2016; 56(1): 170-178)。
【0007】
Shepherdらは、2018年において、MKに対する構造的支持を提供するだけでなく、細胞サイズの相違に基づく篩分け能力も有する構造的に漸増するコラーゲンスキャフォールド(最上部の領域において最大細胞に対する接近性が高い一方、基部領域では、最大細胞に対する接近性はかなり低かった)を構築することを検討した(Shepherd JH et al.; “Structurally graduated collagen scaffolds applied to the ex vivo generation of platelets from human pluripotent stem cell-derived megakaryocytes: enhancing production and purity”; Biomaterials. 2018; 182: 135-144)。MK細胞の播種密度は、オーバーナイトで培養する(19時間+)ためのこれまでのシステム(5mLの媒体において、4・10個のMKがコラーゲンスキャフォールドに負荷される)と同一範囲内であった。バイオリアクター内にとどまる巨核細胞1個から生成した血小板の数は29.2±15であったが、しかしデバイスに導入された全MKを考慮すれば低めである。それに加えて、生成した血小板の質に関する懸念が表明された。
【0008】
骨髄脈管構造の内皮細胞の多孔質構造を模倣するマイクロ流体デバイスも提案された。
【0009】
Nakagawaらは、2つのマイクロ流体バイオリアクターを開示した(Nakagawa et al.; “Two differential flows In a bioreactor promoted platelets generation from human pluripotent stem cell-derived megakaryocytes”; Experimental Hematology. 2013; 41(8): 742-748)。このシステムでは、特定の方向に流れる流動が多孔質構造内にトラップされている巨核細胞に圧力を加える。第2の流動(主流動)が、多孔質構造のアウトレットにおいて血小板を放出するための剪断応力を創出するのに使用される。播種されたMKの数は少なく(1.2・10個)、また播種されたMK1個当たりの血小板の数は1よりも小さかった。
【0010】
Thonらは、媒体チャンネルと、スリット(0.1~20μm)状の穴が開けられた上部または下部チャンネルとの間に壁が設けられた2-チャンネル、次に3-チャンネルバイオリアクターについて記載した(国際公開第2014/107240号パンフレット(BRIGHAM & WOMENS HOSPITAL、INC.社)2014年7月10日;Thon et al.; “platelet bioreactor-on-a-chip”; Blood. 2014; 124: 1857-1867;国際公開第2015/153451号パンフレット(BRIGHAM & WOMENS HOSPITAL、INC.社)2015年10月8日)。媒体チャンネルに導入されたMKはギャップを通じて押し出され、そこでMKはトラップされ、そして上部および下部チャンネル内の流動と接触することとなり、MKは剪断応力に曝露される。このシステムでは、剪断速度の範囲は、これまでのシステムの範囲よりも高く(100~2500/s)、GAPジャンクションにおいて剪断速度のピックが生ずる。2時間ほどの間において、巨核細胞1個当たりのPLTの収率は30個であったが、しかしシステムに導入されたMKの濃度は、1デバイス当たりのスリット/ギャップの数に限りがあることから、1ml当たりMK1.9×l0±1.3×l0個と低かった。低能力を克服するために、システムは、国際公開第2017/044149号パンフレット(BRIGHAM & WOMENS HOSPITAL、INC.)2017年3月16日に開示されるように、「MKチャンネル」(インレットチャンネル)と「血小板」チャンネル(アウトレットチャンネル)との間のスリット/ギャップを、マイクロ流体経路(3~10μmの間の細孔径)を形成する透過性メンブレンに置換することにより、チャンネルの少なくとも1つを横方向に漸減させてMK上の圧力と剪断応力のデカップリングを可能にすることにより、ならびに平行に配置された複数のインレット/アウトレットチャンネルを考慮することにより改変された。最初の1時間から血小板は生成し、そして血小板の数は24時間の生成期間中に増加する。次に、各チャンネル内で流体を再循環させる可能性が付加され、そしてメンブレンの表面は、チャンネルをS字形状に伸ばすことにより、または単一のリザーバー容器バイオリアクターを横断するようにメンブレンを適用して2つの環境(MKリザーバーおよび血小板リザーバー)を再構築することにより増加した(国際公開第2018/165308号パンフレット(PLATELET BIOGENESIS,INC.)2018年9月13日)。これらの改善のいずれにおいても原理は同一のままである:膜細孔のサイズは、MKがメンブレンを通過するのを防止するためにMKより小さく、また1つのデバイスにおいて処理されるMKの数は、メンブレンにおいて利用可能な細孔の数により限定される。したがって、システムは、複数のデバイスを積層することによりスケールアップされる(国際公開第2020/018950号パンフレット(PLATELET BIOGENESIS,INC.)2020年1月23日)。
【0011】
最後に、2018年に、Etoおよび共同研究者は、2つのコンパートメントを有さない新規培養システムを提案した(米国特許出願公開第2021/0130781号明細書(ETOら)2021年5月6日;Ito et al.; “Turbulence activates platelet biogenesis to enable clinical scale ex vivo production”; Cell. 2018; 174(3): 636-648)。マウス骨髄上で実施されたin vivoでの観察に基づき、上記筆者らは、剪断応力に付加して、乱流が血小板放出に対する重要な物理的因子であると仮定した。彼らは、動力軸に対して水平角および相互に直角に固定された2つのミキシングブレードを備える液体培養バイオリアクターを開発した。ブレードは上下往復運動を繰り返して、乱流、剪断応力、および渦度を創出する。剪断速度は、バイオリアクターのサイズを問わず60/秒未満である。人工多能性細胞(iPSC)から生成された不死化細胞系(imMKCL)に由来するMKを成熟させるための培養は、このバイオリアクターにおいて、imMKCL1・10個または2・10個/mLを用いながら、薬剤のカクテルを含む基本培地内で6~7日間実施された。バイオリアクター内で8Lを用いることで、血小板1000億個の確保を実現した。この液体培養法は、より多量のMKの処理を可能にするが、しかしMK成熟ステップと生成ステップがなおも混在しており、MKの初期濃度は低いことが必要とされる。
【0012】
骨髄生物模倣体を凌駕し、そして肺脈管構造における血小板生成により近づくように、その他のデバイスが開発された。
【0013】
Dunois-Lardeらは、ヒト成熟MKをVWF表面上で高剪断速度に曝露すると、細胞修飾が引き起こされ、その結果、20分以内に血小板が放出されることを示した(Dunois-Larde et al.; “Exposure of human megakaryocytes to high shear rates accelerates platelet production”; Blood. 2009; 27 Aug 27; 114(9): 1875-83)。次に、Blinらは、マイクロ流体デバイス(平行に配置するマイクロチャンネル(固有の流動が適用される)内に分布したVWFコーティングマイクロピラーの幅広のアレイに準拠する)に導入されたMKからin vitroで血小板を生成するための迅速な方法(2時間)を開発した(Blin et al.; “Microfluidic model of the plateletgenerating organ: beyond bone marrow biomimetics”; Scientific Reports. 6, 21700 (2016))。高剪断速度において、自由に浮遊するMKがピラー上に停留し、血小板前駆体に伸長し、次に血小板を放出する。懸濁物は、ピラーにいまだ遭遇しないMKを係留させる新たな機会をもたらすために、デバイス内を再循環する。テクスチャー化された表面は、平面内のヘキサゴナルアレイのディスクおよび1Dアレイのピラーとしてチャンネル壁上に3Dパターンによって定義される(国際公開第2015/075030パンフレット(PLATOD)2015年5月28日)。係留されるMKの密度がチャンネルの進入口において高値化する(閉塞リスクがあることから高MK濃度処理を妨害する)のを克服するために、チャンネルの入口においてピラーからピラーまでのより大きな空間、およびデバイス内にさらに進入するに従いより幅の狭い空間を設けることが提案された(国際公開第2016/180918パンフレット(PLATOD)2016年11月17日)。驚くべきことに、そのようなマイクロピラーマルチチャンネルデバイスを使用する実験において、MKを係留するための追加表面を提供することを目的として、マイクロピラーの高さを増加させても、血小板収率は高くならなかった一方、インプットMK濃度/容積の増加も可能にはならなかった。
【0014】
Kumonらは、様々なサイズのMKをトラップするために、流路に沿って高さが徐々に低下する、湾曲した形状の3Dマイクロチャンネルを工学的に生み出した(Kumon et al.; “On-Chip Platelet Production Using Three Dimensional Microchannel”; 2018 IEEE Micro Electro Mechanical Systems (MEMS). 2018: 121-124)。トラップされたMKはマイクロチャンネル内の流体力に晒され、その結果血小板が生成した。そのようなシステムでは、チャンネルの高さが5μmまで低下することでデバイスの閉塞が急速に引き起こされる。
【0015】
ワンフローマイクロ流体システムは、非常に短期間内に血小板生成を同期させる可能性を提供するが、しかし1つの問題は、各チャンネルに適用される剪断速度が高く、工業生産を実現するために多数のチャンネルを増倍させるかまたはデバイスを積層するとき、非現実的な大型ポンプを必要とするということである。
【0016】
合理的なコストで血小板生成をスケールアップすることを検討するとき、最良のシステムとは、高容積の細胞を高濃度で処理することを可能にし、ひいては少量の培養培地の使用および多量の血小板の取得を可能にするシステムである。血小板収率は別の重要なパラメーターであるが、しかしバイオリアクターが同一であっても、多くのその他の要因(例えば、細胞の種類、クローン、培養の媒体等)により変化する(Ito et al.; “Turbulence activates platelets biogenesis to enable clinical scale ex vivo production”; Cell. 2018; 174(3): 636-648)。
【発明の概要】
【0017】
本発明は、巨核細胞から大スケールで血小板を生成するための方法および血小板生成デバイスに関する。特に、多孔質材料を収納する回転可能なベッドリアクターを備えるデバイスが、短期間のうちに大スケールで血小板を生成するために使用されてきた。
【0018】
本発明による方法を用いれば、約15分という短時間での血小板生成が実現可能である。血小板生成は、最長12時間、好ましくは最長4時間継続し得る。
【0019】
欧州特許出願第21155887号明細書(本明細書により参照により組み込まれる)に開示されるように、多孔質構造はマクロ多孔質材料を含む。多孔質構造は、したがって流動に対する障害物として機能し、またMKに対する係留部位として使用可能である。多孔質構造は、剪断応力に付されたときにMKが伸長するための十分なオープンスペース(細孔)を確保しつつ、MKが付着するためのスキャフォールドを提供する。MKが伸張すると、次にそれは血小板を形成する。血小板生成の増加を目的として、多孔質構造は細孔密度にグラジエントを有し得る。こうすることで、流れの向きに沿ってすべての巨核細胞が微細構造の入口のみに付着するのを防止することが可能であり、したがって巨核細胞による多孔質構造の占有を最大化する。
【0020】
したがって、本発明の複数の実施形態では、多孔質材料は、細孔(キャビティー、チャンネル、すき間等)を含有する材料として定義される。多孔質構造は天然または人工的であり得る。多孔質材料は、有機材料、無機材料、ポリマー(プラスチック)、金属、セラミック、および非結晶性であり得る。多孔質材料は2つ以上の材料の組合せを含み得る。多孔質材料は細孔を含有する1つの実体からなり得るか、またはいくつかの粒子、ビーズ、繊維、または共に積層された要素からなるアセンブリであり得る。これらの粒子のアセンブリはマクロ多孔質構造を形成し、その構造において粒子間の空間が細孔を構成する。粒子は、相互に結合、融合、もしくは接着し得るか、または単に近接した状態で並置され得る。多孔質材料は、その構造に基づき、異なる追加候補(フォーム、繊維、バブル様の発泡材料、格子、または充填されたビーズ)を有し得る。
【0021】
本発明の複数の実施形態では、多孔質材料は、異なる細孔径(細孔幅(直径)とも呼ばれ、細孔の2つの対向する壁の距離;1μm~10mm、好ましくは50μm~1mmである)を有し得る。多孔質材料のバルクは、同一の細孔径またはグラジエントを構成するある範囲の細孔径(すなわち、異なる細孔径)を有し得る。多孔質材料のバルクは、同一の材料、または同一の細孔径もしくは異なる細孔径を有する2つ以上の材料の組合せから構成され得る。
【0022】
本発明の複数の実施形態では、多孔質材料の細孔は、半閉鎖状態または開放状態、好ましくは開放状態かつ相互に接続した状態(細孔または結合性の細孔を通じて)であり得、すなわち行き止まりまたは袋小路(袋またはパウチの形態を有する)が存在しない。細孔は、異なる形状、例えば漏斗形状、円筒形、ラフネス、インクビン形状等の細孔であり得る。細孔の断面形状は、卵形または多角形(規則的または非規則的、平滑または直線状、凹面または凸面)であり得る。多孔質材料の細孔は、規則的または不規則的配置構成、または両者の混合であり得る。多孔質材料は異なるアプローチを用いて調製され得る。
【0023】
本発明の複数の実施形態では、多孔質材料は、その多孔性(みかけの容積Vに対する全体的な細孔容積Vpの比)に従い、単位容積当たりの細孔の数に基づき、低多孔性、中多孔性、または高多孔性として分類され得る。一般的に、低および中多孔性の多孔質材料は閉鎖した細孔を有する。多孔性は、20%~99.9%、好ましくは80%~99.9%に及ぶ可能性がある。
【0024】
本発明の複数の実施形態では、多孔質材料は硬質または可撓性であり得る。硬質な構造ほど、したがって流動の圧力下に置かれても変形しにくいほど、MKとって流動の剪断応力に対抗する強力な係留物として作用し得る。
【0025】
本発明の複数の実施形態では、多孔質材料は、巨核細胞に対して親和性を有するリガンド、例えば(i)フォン・ヴィルブランド因子(VWF)またはその機能的バリアント、(ii)VWFの断片を含むポリペプチド、(iii)フィブリノゲン、(iv)フィブロネクチン、(v)ラミニン、(vi)IV型コラーゲン、(vii)III型コラーゲン、(viii)I型コラーゲン、および(ix)ビトロネクチンでコーティングされ得る。
【0026】
一実施形態では、VWFまたはその機能的バリアントの溶液と共にインキュベートすることにより、多孔質材料はコーティングされる。一般的に、固相のコーティングに使用されるVWFの濃度は、5~100μg/mLの間である。好ましくは、VWFの濃度は、20~40μg/mLの間である。例えば、多孔質材料は、単量体または二量体ポリペプチドとして、大腸菌(E. coli)または哺乳動物細胞内で発現している組換え野生型VWFまたは突然変異したVWFポリペプチドからなる群から選択されるVWFの機能的バリアントを用いてコーティングされ得る。
【0027】
本発明の複数の実施形態では、血小板生成デバイスは、細胞懸濁物を収納する容器、および多孔質材料を収納するベッドリアクターを含み、ベッドリアクターは、細胞懸濁物中に浸漬される間、回転するように構成される。例えば、多孔質材料は、ベッドリアクター内で利用可能なキャビティーの寸法に対応する薄層に裁断される綿繊維(100%オーガニックコットン)を含む。
【0028】
本発明の実施形態において、ベッドリアクターはベースプレートからトッププレートまで延在する外周壁を含む中空体を備え、そうすることで多孔質材料を収容するためのキャビティーがその間に形成される。
【0029】
ベッドリアクターは、ベッドリアクターを通じた流体流(例えば、細胞懸濁物の流動)を円滑化するために、トッププレートからベースプレートまで延在するベッドリアクターの中央部に配置された貫通孔をさらに含む。このように、細胞懸濁物は、貫通孔を経由してベッドリアクターのトッププレートおよび底部プレートの両方からベッドリアクターに進入することができる。
【0030】
好ましくは、ベッドリアクターは、対称的な形状、例えば円筒形状を有する。
【0031】
容器は、ヘッドプレート(ヘッドキャップ)を用いてキャップされるように構成され、これによりチャンバーを形成する。例えば、チャンバーはパージされ、コントロールされた空気組成物を生成するように構成される。
【0032】
ベッドリアクターは、ローターによりコントロールされるローターシャフトに連結するように構成される。例えば、ローターシャフトは、ヘッドキャップ内に形成された中心孔を通過するように構成される。代替的に、ローターシャフトは、シャフトカップリング機構を通じてヘッドキャップとカップリングするように構成される。
【0033】
ベッドリアクターは、ベッドリアクターのトッププレート上に配置されたコネクターを通じてローターシャフトと接続するように構成される。コネクター内のアパーチャーは、細胞懸濁物の流動を、貫通孔を経由してベッドリアクター内に誘導するように構成される。
【0034】
細胞懸濁物は、ヘッドキャップを配置する前に、容器内に直接添加され得る。代替的に、細胞懸濁物は、ヘッドキャップ内の開口部を通じて導入され得る。
【0035】
ヘッドプレートは、例えば、ヘッドプレートを容器上にクランピングする手段を使用して容器上に固定されるように構成される。
【0036】
さらに、細胞懸濁物は、ペリスタポンプまたはその他の循環ポンプを使用して容器内に注入されるか、またはポンプ搬送され得る。
【0037】
容器は、その中の細胞懸濁物の温度をコントロールするための冷却または加温ジャケットを使用してジャケットで覆われるようにさらに構成されている。
【0038】
ベッドリアクターは、メッシュからなる外壁を含む。代替的に、外壁はいくつかの開口部を含む。
【0039】
ベッドリアクターは、中空体内に配置された内壁であって、その上に形成された複数の開口部を有する内壁をさらに含み得る。
【0040】
容器は、ベッドリアクターを通じて流動の循環を保証するための、その中に配置されたバッフルをさらに含み得る。
【0041】
ベッドリアクターの容積と容器の容積との間の比は、1:1の直上~最大1:100、好ましくは1:2~1:20まで変化し得る。
【0042】
例えば、ベッドリアクターは、最大28cmの多孔質材料を収納することができ、また500mLの容器に適合するように構成される。特に、容器の容積に対する多孔質材料のこの比が好適であることが判明している。一般論として、より多量の多孔質材料も使用され得る。その場合、容器容積も増大し得る。したがって、28cmの多孔質材料および500mLの容器の代わりに、その他の数値も選択可能である。
【0043】
ベッドリアクターは、例えば、最大1000rpmで回転するように構成される。
【0044】
多孔質材料1立方ミリメートル当たりの巨核細胞の密度は、MK10・10個/mm~MK100・10個/mmの範囲、好ましくはMK100・10個/mm~MK10・10個/mmの範囲であり得る。
【0045】
本発明の複数の実施形態では、血小板生成デバイスを使用して、大スケールで血小板を生成するための方法は、
- 細胞懸濁物(すなわち、成熟した巨核細胞を含有する溶液)を血小板生成デバイスの容器中に添加するステップと、
- 多孔質材料を血小板生成デバイスのベッドリアクター内に導入するステップと、
- ベッドリアクターをローターシャフトに取り付けるステップと、
- ベッドリアクターを血小板生成デバイスの容器内に配置するステップと、
- 任意選択的に、コントロールされた雰囲気を維持するために、ヘッドキャップを用いて容器を閉鎖するステップと、
- ベッドリアクターを事前に決定されたスピードで回転させるステップと、
- 任意選択的に、血小板およびMKを計数および特徴付けるために、細胞のサンプルおよび血小板懸濁物を、例えば定期的に収集するステップと
を含み得る。
【0046】
本発明の複数の実施形態では、本発明の方法で使用するための「細胞懸濁物」は、例えば、下記のステップ:
- HSC(例えば、臍帯、末梢血液、または骨髄由来)もしくは工学操作されたHSCから選択されるか、または胚性幹細胞、工学操作された胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、および工学操作された人工多能性幹細胞からなる群から選択される幹細胞を提供するステップ、
- 幹細胞を培養するステップ、すなわち細胞を増殖させ、増殖した細胞をMKに分化させるステップ
により取得され得る。
【0047】
本発明の複数の実施形態では、多孔質材料をベッドリアクター中に導入するステップは、バルクの状態でベッドリアクターの全容積を充填するステップを含む。代替的に、多孔質材料は、数百マイクロメートルのいくつかの層からなるアセンブリとして配置構成され、多孔質材料はベッドリアクター内に配置された(例えば、トッププレートおよびベースプレートに対して平行に)中間壁により分離され得る。例えば、容器の容積が層状の多孔質材料で充填されないケースでは、ベッドリアクターは、インサート、例えばプラスチックインサートで充填され、これにより複数の層からなる多孔質材料のみを通過する流動を確立する。
【0048】
添付図面を参照しながら、本発明を事例的にここに記載する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】2つの異なるコンフィギュレーション;1A)ヘッドキャップ内の孔を通過するローターシャフトがベッドリアクターと接続するコンフィギュレーション;1B)シャフトカップリング機構を介してヘッドキャップとカップリングしたローターシャフトがベッドリアクターと接続するコンフィギュレーションを有する大スケール血小板生成デバイスの略図を示す図である。
図2図2A)ベッドリアクターの3D描写を示す図である。図2B図2C)多孔質材料で充填されたベッドリアクターの断面描写を示す図である。矢印は、ベッドリアクター中央部の貫通孔を通じた流動の方向を示す。図2Bおよび図2Cは、多孔質材料バルクおよび層状の多孔質材料で充填されたベッドリアクターをそれぞれ表す。
図3】下流に位置するソーティングデバイスとカップリングしている血小板生成デバイスの略図を示す図である。図3A)下流に位置するソーティングデバイスは、チューブおよびポンプを通じて接続する。図3B)下流に位置するソーティングデバイスは、血小板生成デバイスの容器に直接接続する。
図4】小スケール血小板生成デバイスの略図を示す図である。ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)内にマイクロマシン化された6.6mm×35.5mm×0.1mmのキャビティー。
図5】実験で使用されるようなベッドリアクターにおける多孔質材料の配置構成の略図を示す図である。図5A)ベッドリアクターの中位の高さに配置された多孔質材料(例えば、綿)からなる2つの薄層のみを有するベッドリアクターの横方向の断面図;図5B)多孔質材料を有さないベッドリアクターの横方向の断面図;図5C)ベッドリアクター内に対称的に配置された多孔質材料からなる2つの層で充填されたベッドリアクターの最上部断面図。
図6】血小板数が生成実験の開始から増加することを表す実験結果を示す図である:多孔質材料を有する大スケール構成におけるベッドリアクターの回転スピードの影響、および多孔質材料を含む小スケール構成との比較(平均±SEM;n=2)。
図7】血小板収率(血小板生成開始時のMK CD41/CD42+数に対する血小板の最大数)は、多孔質材料を有する小スケール構成と比較して、多孔質材料を有する大スケール構成において増加することを表す実験結果を示す図である(平均±SEM;n=2)。
図8】900rpmの回転スピードにおける、多孔質材料を有する小スケール構成および多孔質材料を有さない大スケール構成における血小板数の比較を表す実験結果を示す図である。
図9】活性化した際の血小板の特徴付けを示す図である。小スケール生成構成および大スケール生成構成(いずれも多孔質材料を有する)における生成終了時の血小板の比較(平均±SEM;n=2)。
【発明を実施するための形態】
【0050】
血小板を生成するために、巨核細胞系統に限定される造血前駆体から巨核細胞(MK)を派生させた。
【0051】
巨核細胞生成に関する一次シグナルは、トロンボポエチン(TPO)、TPO受容体アゴニスト、またはTPO模倣ペプチドである。TPOは、骨髄内の前駆体細胞が最終的な巨核細胞表現型に向かって分化するように誘発するのに必要である。巨核細胞分化のためのその他の分子シグナルとして、例えば、GM-CSF、IL-3、IL-6、IL-11、Flt-3リガンド、SCFが挙げられる。
【0052】
MK前駆細胞は、in vitroでの培養により取得可能である。
【0053】
本明細書で使用される場合、用語「細胞懸濁物」とは、in vitroでの培養により取得される血小板を速やかに生成する成熟したMKを含有する溶液を示す。この細胞懸濁物は、MK前駆体、血小板前駆体、および血小板も含み得る。
【0054】
好ましくは、本発明の方法で使用するための前記「細胞懸濁物」は、下記のステップ:
a)例えば、HSC(例えば、臍帯、末梢血液、または骨髄に由来する)、工学操作されたHSCから選択されるか、または胚性幹細胞、工学操作された胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、および工学操作された人工多能性幹細胞からなる群から選択される幹細胞を提供するステップ;
b)前記幹細胞を培養するステップ、すなわち細胞を増殖させ、増殖した細胞をMKに分化させるステップ
により得られる。
【0055】
図1Aおよび図1Bは、血小板を大スケール生成するための血小板生成デバイス10、10’(すなわち、リアクター)を表す。
【0056】
血小板生成デバイス10、10’は、細胞懸濁物14を収納するように構成された容器12、ならびに図2Bおよび図2Cに示すような多孔質材料30を収容するように構成されたベッドリアクター16を備える。
【0057】
ベッドリアクター16は、取り付けられた状態で容器12内に配置されている。
【0058】
容器12は、ヘッドプレートまたはヘッドキャップ18を用いてキャップされ、これによりチャンバー20を形成し得る。このようにして、チャンバー内の空気組成をコントロールすることができる。例えば、空気組成は5%のCOから構成される。
【0059】
細胞懸濁物14の温度をコントロールするために、容器12は、冷却または加温ジャケット22を使用してジャケットで覆うことができる。代替的に、任意のその他の適する温度コントロールユニットが温度をコントロールするのに使用可能である。
【0060】
例えば、水を循環させて37℃に熱制御しながら、ジャケットで覆われた容器を使用した。
【0061】
細胞懸濁物14は、ヘッドキャップ18を配置する前に容器12内に直接添加される。代替的に、細胞懸濁物は、ヘッドキャップ18内の開口部を通じて導入され得る。
【0062】
さらに、細胞懸濁物14は、ペリスタポンプまたはその他の循環ポンプを使用して容器12中に注入されるかまたはポンプ搬送され得る。
【0063】
実験終了時には、細胞懸濁物14は生成した血小板もその時点で含有するが、同懸濁物は容器の底部に位置するドレインアウトプットを使用して容器12の外部に排出され得る(図示せず)。
【0064】
代替的に、血小板を含む細胞懸濁物14は、容器12内に挿入されたチュービングを通じて容器外部にポンプ搬送され得る。
【0065】
ベッドリアクター16は、細胞懸濁物14中に浸漬されるように構成される。
【0066】
ベッドリアクター16は、ローター26によりコントロールされるローターシャフト24に連結するように構成される。このようにして、ベッドリアクター16は高速で回転し得る。
【0067】
ローターシャフト24は、図1Aに示すようなヘッドキャップ18内の中心孔を通過し得る。代替的に、ローターシャフト24は、シャフトカップリング機構27を通じてヘッドキャップ18とカップリングし得る。この場合、ヘッドキャップは中心孔を有さない。例えば、ヘッドキャップは、クランピングプロセスを介して容器に固定され得る。
【0068】
図2Aは、ベッドリアクター16の3D描写を表す。図2Bおよび図2Cは、多孔質材料バルク30および層状の多孔質材料30でそれぞれ充填されたベッドリアクター16の断面図を表す。矢印は流動の方向を示す。
【0069】
ベッドリアクター16はベースプレートからトッププレートまで延在する外周壁を含む中空体を備え、そのため、キャビティーが多孔質材料を収容するようにその間に形成される。
【0070】
ベッドリアクター16は、貫通孔(ベッドリアクターの中央部に配置され、そして図2Bおよび図2Cの矢印で表されるように、トッププレートからベースプレートまで延在する)を、それを通じた流動を円滑化するためにさらに含む。
【0071】
ベッドリアクター16は、トッププレートに配置されたコネクター25を通じてローターシャフト24と接続するように構成される。コネクター25内のアパーチャーは、コネクター25を経由して、流動がベッドリアクター16の中央部に位置する貫通孔内を通過するのを可能にする。
【0072】
図2Aは、ベッドリアクター16の周辺外壁はメッシュからなることを表す。代替的に、外壁はいくつかの開口部32を含み得る。開口部32を設けることで、ベッドリアクター16に収納され細胞懸濁物14と多孔質材料30との間のより良好な接触が可能になる。
【0073】
ベッドリアクター16は、図2Bおよび図2Cに示すように、内壁(中空体内に配置され、そしてその上に形成された複数の開口部36を有する)をさらに備え得る。これは、ベッドリアクターが回転している間に流動がベッドリアクター16を通じて循環することを可能にし、それによって多孔質材料と細胞懸濁物との間の接触をさらに強化する可能性がある。このように、ベッドリアクターを回転させることで、ベッドリアクターを通じた放射状の流動が誘発される。
【0074】
内壁および周辺外壁上の開口部32、36と共に、ベッドリアクター内に中央貫通孔を設けることで(これにより、流動がベッドリアクターの最上部および底部側から中心に向かって進入するのを可能にする)、流動(ベッドリアクターの中央部に進入し、そして多孔質材料を通過する間にベッドリアクターから放射状に流出する)のための経路が確保される。これは、ひいては、ベッドリアクター16の高さ方向すべてを通じた流動の最適な再分割を引き起こす。この効果は、円筒形状のベッドリアクターにおいてさらに改善する。
【0075】
チャンバー20を滅菌に保つために、ローターシャフト24は、磁気シャフトカップリングを通じてベッドリアクター16に接続することも可能である。
【0076】
ベッドリアクター16を高速で回転させるときに、旋回流および渦流を防止するためのバッフル28が容器12に設けられる。これはベッドリアクター16を通じた流動の循環を確実にする。
【0077】
細胞懸濁物14が多孔質材料30を通じて放射状に流動するとき、MKは多孔質材料の微細構造に連結することができる。
【0078】
多孔質材料中に捕捉されたMKは剪断応力および/または引っ張り力を受ける。剪断応力の下、MKの細胞質は伸長し、そして血小板を形成する。回転スピードが高いほど、多孔質材料を通過する流速も速くなり、より高い剪断応力が生ずる。
【0079】
また、多孔質材料30を通過する流速は、多孔質材料の流体力学的抵抗にも比例する。
【0080】
血小板が生成されると、血小板は細胞懸濁物14内に放出され、そして流動により運ばれ、容器12内を自由に循環する。
【0081】
MKは、多孔質材料に対する細胞表面結合により、またはそれをコーティングすることにより(例えば、その表面のインテグリンの恩恵により)、または多孔質材料のすき間に捕捉されることにより多孔質材料に連結する。
【0082】
MKの連結は、永続的な場合もあればそうでない場合もある。MKは多孔質材料から脱離することがあり、また多孔質材料を通じて再循環するときに再連結することがある。
【0083】
図2Bに示すように、多孔質材料30は、バルクとしてベッドリアクター16の全容積を満たすことができる。代替的に、図2Cに示すように、多孔質材料30は、中間壁34によって分離され、またはされない数百マイクロメートルのいくつかの層からなるアセンブリとして配置構成され得る。
【0084】
中間壁34の存在は、ベッドリアクター16内の多孔質材料30にとって利用可能な空間を低下させるものの、追加の壁剪断速度をもたらす。
【0085】
ベッドリアクター16は、血小板生成を増加させるためにスケールアップ可能である。容器12は、大型のベッドリアクター16に適合するように、それに応じてスケールアップされる。好ましくは、ベッドリアクターは、1mm~最大1mの容積を有し得る。容器12はベッドリアクターに適合するように十分大きくなければならないが、ただしより大型であってもよい。
【0086】
ベッドリアクターの容積と容器の容積との間の比は、1:1の直上~最大1:100、好ましくは1:2~1:20であり得る。
【0087】
例えば、ベッドリアクター16は最大28cmの多孔質材料30を収納可能であり、また500mLの容器12に適合可能である。
【0088】
ベッドリアクターが大きいほど慣性力も高く、したがって到達し得る最大回転スピードも低くなる。好ましくは、28cmベッドリアクターは最大1000rpmで回転し得る。
【0089】
MK1個当たりの血小板生成収率を最適化するために、多孔質材料1立方ミリメートル当たりのMK密度は、MK10・10個/mm~MK100・10個/mmの範囲、好ましくはMK100・10個/mm~MK10・10個/mmの範囲である必要がある。
【0090】
ベッドリアクターと容器との間の容積比が、1:1の直上である場合には、細胞懸濁物は、MK10・10個/mL~最大MK100・10個/mLを含有し得る。代替的に、ベッドリアクターと容器との間の容積比が、1:100である場合には、細胞懸濁物は、MK0.1・10個/mL~最大MK1・10個/mLを含有し得る。
【0091】
ベッドリアクターの高スピード回転の恩恵により、細胞懸濁物は多孔質材料を通じて高速で再循環し、MKが多孔質材料に連結し、そして血小板を形成する機会を最大化する。このようにして、血小板生成は限定された時間内に実施可能である。
【0092】
細胞懸濁物が容器中に導入され、そしてベッドリアクターが回転を開始したときから、血小板は15分という短時間内に生成し、そして生成は、最大12時間、好ましくは4時間継続可能である。
【0093】
血小板生成は経時的に増加する。これは、細胞懸濁物をサンプリングし、そしてフローサイトメトリーまたは任意のセルカウンターを用いて血小板数を実施することによりモニタリングされ得る。経時的に、血小板数は増加し、またMK数は減少する。
【0094】
バッチプロセスまたは連続プロセスにおいて血小板を生成させることが可能である。実際、血小板生成が進行するに従い、MK数は減少し、より多くのMKを容器に添加可能である。
【0095】
多孔質材料は、有機材料、無機材料、ポリマー(プラスチック)、金属、セラミック、および非結晶性であり得る。多孔質材料は2つ以上の材料の組合せから構成され得る。多孔質材料は、その構造に基づき、異なる追加候補(フォーム、繊維、バブル様の発泡材料、格子、または充填されたビーズ)を有し得る。
【0096】
多孔質材料は、1μm~10mm、好ましくは50μm~1mmの異なる細孔径を有し得る。
【0097】
多孔質材料のバルクは、同一の細孔径またはグラジエントを構成するある範囲の細孔径を有し得る。バルクは、同一の材料、または同一の細孔径もしくは異なる細孔径を有する2つ以上の材料の組合せから構成され得る。
【0098】
例えば、多孔質材料は100%綿繊維からなる。
【0099】
多孔質材料は、巨核細胞に対して親和性を有するリガンド、例えば、(i)フォン・ヴィルブランド因子(VWF)またはその機能的なバリアント、(ii)VWFの断片を含むポリペプチド、(iii)フィブリノゲン、(iv)フィブロネクチン、(v)ラミニン、(vi)IV型コラーゲン、(vii)III型コラーゲン、(viii)I型コラーゲン、および(viii)ビトロネクチンでコーティングされ得る。
【0100】
多孔質材料は、VWFまたはその機能的バリアントの溶液と共にインキュベートすることによりコーティングされ得る。一般的に、固相のコーティングで使用されるVWFの濃度は、5~100μg/mLの間である。好ましくは、VWFの濃度は20~40μg/mLの間である。
【0101】
さらに、多孔質材料は、単量体または二量体ポリペプチドとして大腸菌(E. coli)または哺乳動物細胞内で発現される組換え野生型VWFポリペプチド、または突然変異したVWFポリペプチドからなる群から選択されるVWFの機能的バリアントでコーティングされ得る。
【0102】
有利には、回転式ベッドリアクターは無菌条件下で作動し得る。例えば、前記リアクターは滅菌性である。
【0103】
本発明に基づく多孔質材料を製造するための方法は、多孔質材料を滅菌処理するステップを含み得る。この滅菌処理ステップは、リアクターチャンバーの密封前後に生じ得る。
【0104】
本発明に基づく血小板生成デバイスは、任意選択的な手段、例えば:
(a)血小板生成デバイスの上流に配置された、懸濁物を巨核細胞について富化し、巨核細胞の前記懸濁物の細胞濃縮物をホモジナイズするための上流に位置するソーターおよび/またはミキサー、
(b)任意選択的に、巨核細胞またはその他の細胞残留物から血小板をソーティングすることによって流出した懸濁物を精製するための、血小板生成デバイスより下流に配置されたソーター、
(c)任意選択的に、流出した懸濁物を濃縮するための、血小板生成デバイスより下流に配置された血小板濃縮装置
等をさらに含み得る。
【0105】
上流に位置するソーター(すなわち、巨核細胞ソーター)の使用は、MK集団に関して均質な懸濁物を取得し、ならびに血小板を工業生産するための一貫した収率および品質を取得するのに有利であり得る。特に、上流に位置するソーターは、血小板およびその他の細胞残留物からMKを分離するための手段を含む。以下に記載するような従来型のセルソーターは、事前定義された割合(10%~約100%)でMKが富化された細胞懸濁物の取得を可能にする下流に位置するソーター(例えば、血小板セルソーター)として使用可能である。
【0106】
血小板生成デバイスのアウトレットにおいて、流出物は生成した血小板を含有するが、しかし裸核および/または当初のMKをさらに含有する可能性がある。生成した血小板を分離するための手段は、したがって、有利には血小板生成デバイスの下流に配置され得る。従来型のセルソーターデバイスは、例えばエルトリエーションローター、またはアフェレーシス技術で使用される白血球減少フィルター等として使用され得る。下流に位置するソーターは、工業界における大スケール濾過、例えばメンブレン濾過等で使用される濾過デバイス、タンジェンシャルフロー濾過デバイス、例えば中空繊維またはスピニングフィルター等でもあってもよい。
【0107】
分離ステップは血小板生成の終了時に生じ得るか、または生成期間中に異なる間隔で、もしくは血小板生成期間中に連続モードで実施可能である。血小板生成期間中にMKから血小板を分離することで、血小板が形成されるに従い生成した血小板の抽出が可能になり、したがって血小板生成デバイス内に過剰に長期間とどまること(その品質に影響を及ぼす可能性がある)を防止する。
【0108】
バッチプロセスモードでは、下流に位置するソーターは、血小板生成デバイスから独立していてもよい。血小板生成の終了時に、細胞および血小板懸濁物はポンプを使用してセルソーターデバイスに移送される。
【0109】
半連続的または連続的プロセスでは、下流に位置するソーターデバイスはチュービングまたはパイプを通じて血小板生成デバイスの容器に接続され得る。
【0110】
図3Aは、チュービング40およびポンプ42を通じて容器12に接続する下流に位置するソーターデバイス38を例証する。この場合、細胞および血小板懸濁物は下流に位置するソーターデバイス38を通じて循環し、そしてセルソーターデバイス内で単離されたMKは容器12内に再導入される。
【0111】
図3Bは、下流に位置するソーターデバイス38が、ポンプを使用せずに血小板生成デバイス10、10’に直接接続する別のコンフィギュレーションについて例証する。このコンフィギュレーションでは、ベッドリアクターの回転が、細胞および血小板懸濁物をセルソーターデバイスに移送するのに使用される流動の変位を誘発する。
【0112】
血小板生成デバイスのアウトレットにおいて、またはソーターのアウトレットにおいて、流出懸濁物は、ヒトへの注射に適する血小板濃度に達するように濃縮され得る。従来型の細胞濃縮デバイス、例えば血液透析またはタンジェンシャルフロー濾過デバイス等が使用され得る。細胞培養培地を取り除くために血小板は洗浄され、そして血小板は、ヒト血漿を添加しながら、または添加しないで、保管溶液、例えばPAS-A、PAS-B、PAS-C、PAS-D、PAS-E、またはPAS-Gのような血小板添加溶液(PAS)の中に再懸濁される(Ashford et al.; “Standard terminology for platelet additive solutions”; The International Journal of Transfusion Medicine; Vol. 98, Issue 4, (2010). p. 577-578)。
【0113】
本発明は、例証目的に限定して、また添付の図面とも関連づけながら記載される、下記の非限定的な実施例を考慮すればさらに理解される。
【実施例
【0114】
材料および方法
CD34+細胞の培養および分化
これまでに報告されたように(Poirault-Chassac et al., “Notch/Delta4 signaling inhibits human megakaryocytic terminal differentiation”; 2010; Blood Dec 16;116(25):5670)、CD34+細胞を、免疫磁気技術(Miltenyi Biotec、Paris、フランス)によりヒト臍帯血(CB)から単離した。15%のBIT9500血清代替物(Stem Cells Technologies、09500)、α-モノチオグリセロール(Sigma-Aldrich、M6145-25ML)およびリポソーム(3L-a-ホスファチジルコリンジパルミトイル(P0763-250MG)、コレステロール(C3045-5G)、およびオレイン酸(O3880-1G);Sigma Aldrich、ならびにPanReacからのウシ血清アルブミン(BSA)フラクションV(A2244.0050))が補充されたIscove改変Dulbecco培地(IMDM;Gibco Life technologies、31980022)から構成される完全培地内、37℃、5%のCOを含む多湿雰囲気において、CD34+細胞を6ウェルプレート(Sarstedt、83.3920.500)内で培養した。ヒト組換え幹細胞因子(SCF)(6.25U/mL;Miltenyi Biotec、130-096-696)、インターロイキン-3(IL-3)(10U/mL;Miltenyi Biotec、130-095-068)、およびトロンボポエチンペプチドアゴニスト(TPO)(10nM;Sigma Aldrichにより合成)を、0日目に1回、培養培地に添加した。6日目に、細胞を遠心分離し、そして50nMのTPOおよび0.5U/mLのSCFが補充された新鮮な完全培地中に追加の5~7日間再懸濁した。
【0115】
血小板生成のための小スケール構成
小スケール生成デバイス
小スケール血小板生成デバイスが、すべての実施例においてコントロールとしての役割を果たした(図4)。これは、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)内にマイクロマシン化された、寸法が6.6mm×35.5mm×0.1mmのキャビティーである。キャビティーはPMMAからなるフタで閉鎖される。キャビティーは多孔質材料で充填され、1つのインレットおよび1つのアウトレットを有し、したがって多孔質材料を通じて細胞懸濁物を循環させるのに使用されるペリスタポンプに接続可能である。
【0116】
小スケール生成システム構造
細胞懸濁物を、少なくとも300rpmで回転するオービタルミキサー(IKA MS3 basic)上に固定された50mLファルコンチューブ内に配置した。ペリスタポンプ(IPC8、ISMATEC、ドイツ)を、血小板生成デバイスを通じて細胞懸濁物を流動させるのに使用した。インレットおよびアウトレットチューブのいずれも細胞懸濁物を収納する同一のコンテナに帰着し、MK再循環をもたらす。前記コンテナを、可撓性の0.57mmIDチュービング(Tygon ST R-3607、Idex Health and Science、ドイツ)を用いて小スケールデバイスのインレットおよびアウトレットと接続させた。細胞懸濁物を、小スケールデバイスを通じて、0.94mL/分の速度で2時間循環させた。小スケール血小板生成用の構成全体を、エアコントローラー(The Box、Life Imaging Services、スイス)により37℃に温度制御されたチャンバー内に閉じ込めた。細胞のサンプルおよび血小板懸濁物を、血小板生成プロセス期間中に、血小板およびMKの計数および特徴付け用として、マイクロピペットを用いてファルコンチューブから定期的に収集した。
【0117】
血小板生成のための大スケール構成
大スケール血小板生成デバイスは、ジャケットで覆われた500mL-ガラス製バッフル付き容器(VesselV2、SpinChem、スウェーデン)であり、その中に28cmベッドリアクター(RBR S2、SpinChem、スウェーデン)を配置し、そしてローターシャフト(ローターIKA RW 20デジタル)に連結した。ローターは最大1000rpmの回転スピードに到達可能である。中央アパーチャー(ローターシャフトがそこを通過する)を有するヘッドキャップを、容器上にクランプ固定した。ガスミキサーユニット(CO Biobrick、Life Imaging Services、スイス)が、22L/時間の速度で5%のCOを含む空気をチャンバー内に提供した。容器を取り巻くジャケットを、37℃に設定された温度コントロールユニット(Colora)(ジャケットを通じて温度制御された水を循環させた)に接続した。
この28cmベッドリアクター全体を多孔質材料で充填することで、生成期間中に、MK100・10個/mmという高濃度でMK28・1011個を多孔質材料内に得ることが可能となる。この場合、MKの懸濁物は、500mL容器内でMK5.6・10個/mLという高濃度となる。
ベッドリアクターは、血小板生成に対する多孔質材料の量の影響を試験するために、多孔質材料からなる薄層を収納するように特別設計され得る。
【0118】
2つの実験において、179.61mm×0.2mmの寸法を有する多孔質材料からなる2つの薄層をベッドリアクターの中間の高さに配置した(図5A)。流動が多孔質材料からなる薄層のみを流通するように、残りのベッドリアクターにはプラスチックインサートを充填した。多孔質材料からなる薄層は四分円の形を有し、そしてベッドリアクターの縦方向の横断図(図5C)に認められるようにベッドリアクター内に対称的に配置された。多孔質材料の総量は、したがって小スケール血小板生成デバイスにおける総量よりも3.2倍高かった。
【0119】
1つの別の実験では、多孔質材料を含めずに上記ベッドリアクターを使用した(図5B)。細胞のサンプルおよび血小板懸濁物を、血小板およびMKの計数および特徴付け用として、血小板生成プロセス期間中に定期的に収集した。ピペットを使用して実施したサンプル収集期間中に、ローターを短時間のみ停止した。
【0120】
多孔質材料の調製
綿繊維(100%オーガニックコットン)を、小スケールおよび大スケールデバイスのキャビティーの寸法でそれぞれ薄層状に裁断した。
【0121】
タンパク質表面処理
多孔質材料のコーティングで使用されるヒトフォン・ヴィルブランド因子(VWF)はWilfactin(LFB、Les Ulis、フランス)であった。それを、カルシウムおよびマグネシウムイオンを含まないリン酸緩衝生理食塩水(PBS 1×)中で40μg/mLに稀釈し、そして小スケールデバイス内で灌流し、または大スケールリアクターで使用するように意図された多孔質材料のピース上に注入した。小スケールデバイスおよび多孔質材料のピースを、加湿チャンバー内、4℃、オーバーナイトでインキュベートした。
【0122】
細胞懸濁物の調製
培養から11、12、または13日後に、細胞を6ウェルプレートから収集し、50mLチューブに移した。細胞濃度を手動計数により見積もった(Malassez cell counting chamberを使用して)。この初回細胞懸濁物から、5mLの容積を収集し、そして小スケール生成構成で使用するために50mLチューブに移した。綿繊維の量は、小スケール構成と比較して、大スケール構成では3.2倍高いので、大スケール構成で使用される細胞懸濁物において、絶対細胞数を約3.2倍高く目標設定した。細胞懸濁物を、したがってそれに応じて調整し、また大スケール血小板生成デバイスで使用するために、200mLの容積に到達するように、IMDM(Gibco Life technologies、31980022)を用いて補完した。
【0123】
収集された血小板を特徴付けするための方法
収集された血小板を、フローサイトメーターBD Fluorescence Accuri C6 PLUS(BD Biosciences、Le Pont de Claix、フランス)を使用して特徴付けた。血小板の表面特異抗原を、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)コンジュゲート抗ヒトCD41(αIIb)およびR-フィコエリトリン(PE)コンジュゲート抗ヒトCD42b(GPIbα)(いずれもBeckman Coulter、Villepinte、フランス)を用いて分析した。血小板を、蛍光コンジュゲートモノクローナル抗体と共に、暗光内、室温(RT)で20分間インキュベートした。FITCマウスIgG(Beckman Coulter)、PEマウスIgG(BioLegend、San Diego、CA、米国)を使用して、コントロールを実施した。血小板を、(i)7μmより小さいこと(前方散乱特性および校正済みビーズ(Spherotech、Libertyville、IL、米国))に基づくゲート化、ならびに(ii)CD41およびCD42b標識に対する二重陽性(CD41/CD42b)という獲得事象に従い定義した。
【0124】
収集された血小板の活性化を、FITCコンジュゲート抗ヒト活性化αIIbβ3(PAC1クローン)(BD Biosciences)およびアロフィコシアニン(APC)抗ヒトCD62P(BD Biosciences)を用いて、生成終了時(小スケール構成の場合120分、および大スケール構成の場合180分)に収集された血小板と共に評価した。血小板を、自家製Tyrodeのバッファー(140mMのNaCl、1mMのMgCl、10mMのHEPES、1mg/mLのウシ血清アルブミン、5.5mMのグルコース、2mMのCaCl、pH7.4(NaOHを用いて調整))内で活性化し、そしてPAC1-FITC、CD62P-APC、およびCD42b-PEと共に、暗光内、室温で30分間インキュベートした。(i)40μMのトロンビン受容体活性化因子ペプチド-6([TRAP-6]、Bachem、Bubendorf、スイス)+100μMのアデノシンジホスフェート([ADP]、Merck Sigma Aldrich、St.Louis、MO、米国)、または(ii)ホルボール12-ミリステート13-アセテート([PMA]、Merck Sigma Aldrich)を用いて活性化を実施した。コントロールを、Arg-Gly-Asp-Ser([RGDS]、Merck Sigma Aldrich)、PEマウスIgG(BioLegend)、およびAPCマウスIgG1(Biolegend)を用いて実施した。
【0125】
結果
2つの実験を、大スケール構成における回転スピードの効果を試験するために、ならびに大スケール構成および小スケール構成について、その両者を多孔質材料を含め比較するためにも、同一日に連続して実行した。第1の実験では、大スケール構成に導入された、懸濁状態のMK CD41/CD42+の合計数は8.10・10個に対して、小スケールにおいては9.89・10個であり、また第2の実験ではそれぞれ9.82・10個と1.15・10個であった。大スケール構成では、ベッドリアクターを、最初に500rpmで60分間、それに後続して900rpmで2時間、回転させた。回転スピードを増加させることで、多孔質材料を通じてより高い流体速度が誘発される。ベッドリアクターの回転スピードを増加させると、その結果血小板生成が増加した(図6):60分間にわたり、血小板生成の平均増加量は、500rpmと比較して900rpmにおいて1.94倍高かった。大スケール構成において900rpmで行った実験の2時間の間に、血小板の数が連続的に増加した一方、小スケール構成においては60~90分の間に最大の生成に到達し、次に頭打ちとなった。各構成により生成された血小板の最大数を考慮すれば、生成収率、すなわち実験開始時に導入されたMK CD41/CD42+の数に対する生成した血小板の数は、小スケール構成よりも大スケール構成において最大6倍高かった(図7)。
【0126】
第3の実験は、多孔質材料を有する小スケールデバイスおよび多孔質材料を一切含まない大スケールデバイスにおける血小板生成を比較した。こうすることで、同一の小スケールコントロールを使用しながら、ベッドリアクター内に多孔質材料を添加したときの利益が存在するかどうか間接的に推定することが可能であった。大スケール構成に導入された懸濁状態のMK CD41/CD42+の合計数は、10.78・10個(すなわちこれまでの実験で用いられた数の範囲と同一範囲)であった一方、小スケールでは3.41・10個であった。大スケールデバイスにおいて、ベッドリアクターは900rpmで回転した。120分間の期間において、血小板生成は、小スケールデバイスと比較して大スケール構成において若干高めであったが(図8)、しかし2構成間の差異は、多孔質材料が大スケール構成に添加されたこれまでの実験において観察された差異よりもかなり小さかった。
【0127】
最初の2つの実験の終了時に(小スケール構成の場合120分、および大スケール構成の場合180分)、収集された血小板をTRAP6+ADPまたはPMAを用いて刺激した。活性化のエンドポイント、例えばP-セレクチンの表面発現(図9A)や、PAC1結合を伴うフィブリノゲン受容体αIIbβ3の活性化(図9B)等をモニタリングした。両構成から得られた血小板は、そのP-セレクチン発現(CD62Pに対して陽性であること)、およびフィブリノゲン受容体の活性化(PAC1に対して陽性であること)を、ベースライン(非刺激状態)と比較して増加させることによる刺激に対して応答した。それに加えて、両活性化マーカーにおいて、多孔質材料を有する大スケール構成において生成した血小板について、小スケール構成と比較してより良好な活性化能が観察され、大スケール構成における生成血小板のより良好な品質が注目される。
【符号の説明】
【0128】
10 血小板生成デバイス
10’ 血小板生成デバイス
12 容器
14 細胞懸濁物
16 ベッドリアクター
18 中央孔を有するヘッドキャップ
20 チャンバー
22 ジャケット
24 ローターシャフト
25 アパーチャーを有するコネクター
26 ローター
27 カップリング機構
28 バッフル
30 多孔質材料
32 外壁上の開口部
34 中間壁
36 内壁上の開口部
38 下流に位置するデバイス
40 チュービング
42 ポンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】