(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-29
(54)【発明の名称】高強度5XXXアルミニウム合金の変種及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
C22C 21/06 20060101AFI20240221BHJP
C22F 1/047 20060101ALI20240221BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240221BHJP
【FI】
C22C21/06
C22F1/047
C22F1/00 602
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/00 692A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023549849
(86)(22)【出願日】2022-01-19
(85)【翻訳文提出日】2023-08-17
(86)【国際出願番号】 US2022070250
(87)【国際公開番号】W WO2022192812
(87)【国際公開日】2022-09-15
(32)【優先日】2021-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506110243
【氏名又は名称】ノベリス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】NOVELIS INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】サゾル クマール ダス
(72)【発明者】
【氏名】ラジャセクハル タッラ
(72)【発明者】
【氏名】ラジーブ ジー.カマット
(72)【発明者】
【氏名】チューダー ピロティーラ
(72)【発明者】
【氏名】サミュエル ロバート ワグスタッフ
(57)【要約】
本明細書では、高い強度と成形性を示す新規な5XXX系アルミニウム合金について記載されている。本明細書に記載されているアルミニウム合金は、従来の5xxx系のアルミニウム合金よりも高いMg含有量を有し、高い強度と成形性を示す。本明細書に記載のアルミニウム合金は、連続鋳造を含む方法に従って製造される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0~0.30重量%のSi、0.01~0.40重量%のFe、0~1.0重量%のCu、0.01~0.50重量%のMn、5.0~6.0重量%のMg、0~0.20重量%のCr、0~0.30重量%のZn、0~0.25重量%のTi、最大0.15重量%の不純物、及びAlを含むアルミニウム合金。
【請求項2】
前記アルミニウム合金は、0.01~0.20重量%のSi、0.01~0.30重量%のFe、0.01~0.90重量%のCu、0.01~0.40重量%のMn、5.1~6.0重量%のMg、0~0.10重量%のCr、0~0.20重量%のZn、0~0.10重量%のTi、最大0.15重量%の不純物、及びAlを含む、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項3】
前記アルミニウム合金は、0.01~0.15重量%のSi、0.01~0.20重量%のFe、0.05~0.80重量%のCu、0.05~0.30重量%のMn、5.2~6.0重量%のMg、0~0.05重量%のCr、0~0.10重量%のZn、0~0.05重量%のTi、最大0.15重量%の不純物、及びAlを含む、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項4】
前記アルミニウム合金は、0.01~0.06重量%のSi、0.02~0.15重量%のFe、0.20~0.80重量%のCu、0.05~0.20重量%のMn、5.3~6.0重量%のMg、0.001~0.02重量%のCr、0~0.05重量%のZn、0~0.03重量%のTi、最大0.15重量%の不純物、及びAlを含む、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項5】
前記アルミニウム合金は、0.01~0.05重量%のSi、0.05~0.11重量%のFe、0.30~0.80重量%のCu、0.05~0.10重量%のMn、5.5~5.9重量%のMg、0.001~0.02重量%のCr、0~0.01重量%のZn、0.001~0.03重量%のTi、最大0.15重量%の不純物、及びAlを含む、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項6】
前記アルミニウム合金が、5.5重量%~6.0重量%の量のMg、及び0.30重量%~1.0重量%の量のCuのうちの少なくとも1つを含む、請求項1~5のいずれかに記載のアルミニウム合金。
【請求項7】
Fe含有成分の粒径が5ミクロン未満である、請求項1~6のいずれかに記載のアルミニウム合金。
【請求項8】
前記アルミニウム合金微細構造のMg
2Si粒子の数密度が少なくとも500/mm
2である、請求項1~7のいずれかに記載のアルミニウム合金。
【請求項9】
前記アルミニウム合金が、少なくとも130MPaの降伏強度を有する、請求項1~8のいずれかに記載のアルミニウム合金。
【請求項10】
前記アルミニウム合金が、少なくとも300MPaの極限引張強度を有する、請求項1~9のいずれかに記載のアルミニウム合金。
【請求項11】
前記アルミニウム合金が、少なくとも5%の全伸びを有する、請求項1~10のいずれかに記載のアルミニウム合金。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載のアルミニウム合金を含む、アルミニウム合金製造物。
【請求項13】
前記アルミニウム合金製造物が、連続鋳造、フラッシュ均質化、熱間圧延、及び冷間圧延により製造される、請求項12に記載のアルミニウム合金製造物。
【請求項14】
アルミニウム合金製造物の製造方法であって、
鋳造製造物を形成するべくアルミニウム合金を連続鋳造することであって、前記アルミニウム合金が、0~0.30重量%のSi、0.01~0.40重量%のFe、0~1.0重量%のCu、0.01~0.50重量%のMn、5.0~6.0重量%のMg、0~0.20重量%のCr、0~0.30重量%のZn、0~0.25重量%のTi、最大0.15重量%の不純物、及びAlを含む、前記連続鋳造すること、
任意選択で、前記鋳造製造物をフラッシュ均質化すること、
前記鋳造製造物を熱間圧延して熱間圧延製造物を製造すること、
前記熱間圧延製造物をコイル化すること、
前記熱間圧延製造物を冷間圧延して冷間圧延製造物を製造すること、及び
前記冷間圧延製造物を焼鈍すること、
を含む、前記方法。
【請求項15】
前記アルミニウム合金が、5.5重量%~6.0重量%の量のMg、及び0.30重量%~1.0重量%の量のCuのうちの少なくとも1つを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
連続鋳造が、前記鋳造製造物を製造するために少なくとも1℃/秒の凝固速度を含む、請求項14または15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
焼鈍がバッチ焼鈍または連続焼鈍を含む、請求項14~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
フラッシュ均質化が、前記鋳造製造物を400℃~600℃で10分未満加熱することを含む、請求項14~17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
アルミニウム合金製造物を製造するために、焼鈍後に、前記冷間圧延製造物を塗装焼き付けすることをさらに含む、請求項14~18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記アルミニウム合金製造物の降伏強度が、塗装焼き付け後に5MPa以上増加する、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、その全体があらゆる意図及び目的のために参照により本明細書に援用される、2021年3月12日に出願された米国仮特許出願第63/160,198号の利益及び優先権を主張する。
【0002】
本開示は、冶金学、アルミニウム合金、アルミニウム製作、及び関連分野の分野に関する。特に、本開示は、改善された強度及び成形性を有する新規な5XXX系アルミニウム合金の変種及びその製造方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
排出ガスにより生起する地球環境問題に対応するため、より優れた燃費の輸送車両を供給することへの要求が高まっている。このような要求に応えるため、アルミニウム合金が鋼に比べて軽量であることから、従来使用されていた鋼材に代わってアルミニウム合金材が使用されている。一般に、自動車の部品を製造するためのアルミニウム合金は、メーカーの高まる要求を満たすべく、より高い強度と成形性を必要とする。
【0004】
多くのアルミニウムメーカーは、自動車の部品に5xxx系アルミニウム合金(つまり、主な合金成分としてマグネシウムを含むアルミニウム合金)を使用している。しかし、5xxx系アルミニウムの1つの特性(強度など)の能力を、別の特性(成形性など)の能力を低下させることなく改善することは困難である。組成を変更する試みは成功していない。主な理由は、アルミニウム合金の機械的特性(強度や成形性など)と加工性が、組成のわずかな変更によって大きく影響されるためである。例えば、AA5182合金の組成は、マグネシウム(Mg)含有量が4.0重量%~5.0重量%、マンガン(Mn)含有量が0.2重量%~0.5重量%、最大の鉄(Fe)含有量が0.35重量%、最大のシリコン(Si)含有量が0.2重量%、最大の銅(Cu)含有量が0.15重量%、最大のクロム(Cr)含有量が0.1重量%であるように厳密に制御されている。AA5182のMg含有量が、強度及び/または成形性を向上させるために、5重量%を超えるよう増加させられると、アルミニウム合金は製造プロセスの間にかなり亀裂が発生しやすくなる。したがって、従来のアルミニウム合金または製造方法を使用して、より高い強度及び/または成形性を備えた5xxx系アルミニウム合金を製造することは非常に困難である。
【発明の概要】
【0005】
本開示に含まれる実施形態は、この発明の概要ではなく、特許請求の範囲によって定義される。この発明の概要は、本発明の様々な態様の高次の概要であり、以下の発明を実施するための形態のセクションでさらに説明されるいくつかの概念を紹介している。この発明の概要は、特許請求される主題の重要または本質的な特徴を特定することを意図しておらず、また、特許請求される主題の範囲を決定するために単独で使用することも意図していない。主題は、明細書全体、任意のまたはすべての図面、及び各請求項の適切な部分を参照することによって理解されるべきである。
【0006】
本明細書では、従来の5XXX系アルミニウム合金よりも高い強度と成形性を備えるアルミニウム合金について記載されている。いくつかの実施形態において、本開示は、約0~0.30重量%のSi、0.01~0.40重量%のFe、0~1.0重量%のCu、0.01~0.50重量%のMn、5.0~6.0重量%のMg、0~0.20重量%のCr、0~0.30重量%のZn、0~0.25重量%のTi、最大0.15重量%の不純物、及びAlを含むアルミニウム合金に関する。いくつかの態様では、アルミニウム合金は、0.01~0.20重量%のSi、0.01~0.30重量%のFe、0.01~0.90重量%のCu、0.01~0.40重量%のMn、5.1~6.0重量%のMg、0~0.10重量%のCr、0~0.20重量%のZn、0~0.10重量%のTi、最大0.15重量%の不純物、及びAlを含む。いくつかの態様では、アルミニウム合金は、0.01~0.15重量%のSi、0.01~0.20重量%のFe、0.05~0.80重量%のCu、0.05~0.30重量%のMn、5.2~6.0重量%のMg、0~0.05重量%のCr、0~0.10重量%のZn、0~0.05重量%のTi、最大0.15重量%の不純物、及びAlを含む。いくつかの態様では、アルミニウム合金は、0.01~0.06重量%のSi、0.02~0.15重量%のFe、0.20~0.80重量%のCu、0.05~0.20重量%のMn、5.3~6.0重量%のMg、0.001~0.02重量%のCr、0~0.05重量%のZn、0~0.03重量%のTi、最大0.15重量%の不純物、及びAlを含む。いくつかの態様では、アルミニウム合金は、0.01~0.05重量%のSi、0.05~0.11重量%のFe、0.30~0.80重量%のCu、0.05~0.10重量%のMn、5.5~5.9重量%のMg、0.001~0.02重量%のCr、0~0.01重量%のZn、0.001~0.03重量%のTi、最大0.15重量%の不純物、及びAlを含む。いくつかの態様では、アルミニウム合金は、5.5重量%~6.0重量%の量のMg、及び0.30重量%~1.0重量%の量のCuのうちの少なくとも1つを含む。いくつかの態様では、アルミニウム合金は、5ミクロン未満の粒径を有するFe含有成分を含む。いくつかの態様では、アルミニウム合金微細構造のMg2Si粒子の数密度は少なくとも500/mm2である。いくつかの態様では、アルミニウム合金は少なくとも130MPaの降伏強度を有する。いくつかの態様では、アルミニウム合金は少なくとも300MPaの極限引張強度を有する。いくつかの態様では、アルミニウム合金は、少なくとも5%の全伸びを有する。
【0007】
いくつかの実施形態において、本開示は、アルミニウム合金製造物の製造方法であって、鋳造製造物を形成するべくアルミニウム合金を連続鋳造することであって、アルミニウム合金が、0~0.30重量%のSi、0.01~0.40重量%のFe、0~1.0重量%のCu、0.01~0.50重量%のMn、5.0~6.0重量%のMg、0~0.20重量%のCr、0~0.30重量%のZn、0~0.25重量%のTi、最大0.15重量%の不純物、及びAlを含む、連続鋳造すること、任意選択で、鋳造製造物をフラッシュ均質化すること、鋳造製造物を熱間圧延して熱間圧延製造物を製造すること、熱間圧延製造物をコイル化すること、熱間圧延製造物を冷間圧延して冷間圧延製造物を製造すること、及び冷間圧延製造物を焼鈍することを含む方法に関する。いくつかの態様では、アルミニウム合金は、5.5重量%~6.0重量%の量のMg、及び0.30重量%~1.0重量%の量のCuのうちの少なくとも1つを含む。いくつかの態様では、連続鋳造は、鋳造製造物を製造するために少なくとも1℃/秒の凝固速度を含む。いくつかの態様では、焼鈍は、バッチ焼鈍または連続焼鈍を含む。いくつかの態様では、フラッシュ均質化は、鋳造製造物を400℃~600℃で10分未満加熱することを含む。いくつかの態様では、方法は、アルミニウム合金製造物を製造するために、焼鈍後に、冷間圧延製造物を塗装焼き付けすることを含む。いくつかの態様では、アルミニウム合金製造物の降伏強度は、塗装焼き付け後に5MPa以上増加する。
【0008】
さらなる態様、目的、及び利点は、発明を実施するための形態を考察して明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示のいくつかの実施形態によるアルミニウム合金を製造する方法を示す。
【
図2】それぞれ圧延方向に対して縦(L)方向、横(T)方向、及び/または斜め(D)方向で測定されたサンプルのアルミニウム合金の降伏強度のグラフを示す。
【
図3】それぞれ圧延方向に対して縦(L)方向、横(T)方向、及び/または斜め(D)方向で測定されたサンプルのアルミニウム合金の極限引張強度のグラフを示す。
【
図4】それぞれ圧延方向に対して縦(L)方向、横(T)方向、及び/または斜め(D)方向で測定された、塗装焼き付けシミュレーション後のサンプルのアルミニウム合金の引張特性の変化のグラフを示す。
【
図5】それぞれ圧延方向に対して縦(L)方向、横(T)方向、及び/または斜め(D)方向で測定されたサンプルのアルミニウム合金の均一伸び(Ag)のグラフを示す。
【
図6】それぞれ圧延方向に対して縦(L)方向、横(T)方向、及び/または斜め(D)方向で測定されたサンプルのアルミニウム合金の全伸び(A80)のグラフを示す。
【
図7】それぞれ圧延方向に対して縦(L)方向、横(T)方向、及び/または斜め(D)方向で測定されたサンプルのアルミニウム合金のr値(r(10~15))のグラフを示す。
【
図8】それぞれ圧延方向に対して縦(L)方向、横(T)方向、及び/または斜め(D)方向で測定されたサンプルのアルミニウム合金の平均n値のグラフを示す。
【
図9】A及びBは、それぞれバッチ焼鈍または連続焼鈍を含むアルミニウム合金を製造するためのプロセスにおいて、それぞれ圧延方向に対して、縦(L)方向、横(T)方向、及び/または斜め(D)方向で測定されたサンプルのアルミニウム合金の異なるひずみ速度における平均の瞬間的なn値のグラフを示す。
【
図10】サンプルのアルミニウム合金のアルミニウム合金微細構造におけるFe含有成分の面積パーセントを示す。
【
図11】サンプルのアルミニウム合金のアルミニウム合金微細構造におけるFe含有成分の数密度を示す。
【
図12】サンプルのアルミニウム合金のアルミニウム合金微細構造におけるMg
2Si成分の面積パーセントを示す。
【
図13】サンプルのアルミニウム合金のアルミニウム合金微細構造におけるMg
2Si成分の数密度を示す。
【
図14】A~Eは、冷間圧延後のバッチ焼鈍を含むプロセスで製造されたサンプルのアルミニウム合金の粒子構造の写真を示す。
【
図15】A~Eは、冷間圧延後の連続焼鈍を含むプロセスで製造されたサンプルのアルミニウム合金の粒子構造の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書では、高い強度と成形性を示す新規な5XXX系アルミニウム合金の変種、及びその製造方法について説明する。驚くべきことに、本明細書に記載のアルミニウム合金は、従来の5XXX系アルミニウム合金よりも高いMg含有量を有するにもかかわらず、高い強度と成形性を示し、従来の5XXX系アルミニウム合金と同じ加工上の問題(例えば、熱間圧延中の亀裂)を有さない。本明細書に記載のアルミニウム合金は、5XXX系アルミニウム合金を製造するための他のプロセスよりも多量のMg(例えば、5重量%を超える)を可能にする、本明細書に記載の連続鋳造プロセスを使用して製造することができる。より高レベルのMgを組み込み、連続鋳造を利用することにより、本明細書に記載のアルミニウム合金は、製造プロセス中に亀裂が発生する危険がなく、より高いレベルの強度と成形性を示す。本明細書に記載されるアルミニウム合金及びアルミニウム合金の製造方法は、従来の5XXX系アルミニウム合金と比較して、優れた特性をもたらす。
【0011】
自動車の部品を製造するための従来のAA5182アルミニウム合金は、複雑な形状を製造するための成形性を依然維持しながら、最小限の強度要件を満たすために、厳密に制御された組成を必要とする。一般に、自動車の部品の製造に使用されるアルミニウム合金には、より高い強度が要求されるため、このことは、このような自動車の部品がAA5182アルミニウム合金などのMgを多量に含むアルミニウム合金から製造されることを求めてきた。しかしながら、Mg含有量が高いアルミニウム合金は亀裂を生じやすい。亀裂を低減するための従来のアプローチは、より多くの核生成場所を設ける、またはβ相の形成を妨げる追加の粒子を形成することができるいくつかの合金元素を追加することによって、主に粒界でのβ相の形態変化(連続から不連続へ)に焦点を当てる。しかし、Mgの量が増えると亀裂が悪化し、アルミニウム合金の成形性が大幅に低下する。
【0012】
本明細書に記載の新規な5XXX系アルミニウム合金の変種は、アルミニウム合金組成のMg含有量が増加しているが、高Mgアルミニウム合金に伴う亀裂の問題を回避している。特に、本明細書に記載のアルミニウム合金は、AA5182アルミニウム合金と比較して、より多くの量のMgを含み、より高い強度及び成形性の特性を達成する。本明細書に記載されるように、Mgの含有量を増やし、他の合金元素(例えば、Mn、Cu、Siなど)を組み込むことにより、5XXX系アルミニウム合金(例えば、AA5182アルミニウム合金)よりも高い強度と成形性をもたらすことができる。具体的には、本明細書でさらに説明するように、合金元素の相乗的な組み合わせにより、製造プロセス中に亀裂がほとんどまたはまったく見られない5XXX系アルミニウム合金の変種が製造される。連続鋳造プロセスを利用することにより、高Mg含有のアルミニウム合金の凝固速度が向上し、製造プロセス中の亀裂を防止する。Mg含有量を増やすと、非常に高い加工硬化率と転位の蓄積が生じ、それが冷間圧延中にエッジ割れを発生させる可能性があるが、これは、冷間圧延の間の中間焼鈍ステップを実行するか、冷間圧延の間の穏やかなパススケジュールを管理することで、制御できる。本明細書で説明する高Mg含有のアルミニウム合金は、強度と成形性が向上しており、自動車の用途における多くの既存の材料(鋼、AA5182合金など)を置き換えることができる。
【0013】
定義及び説明
本明細書で使用される場合、用語「発明」、「その発明」、「この発明」、及び「本発明」は、本特許出願の主題及び以下の特許請求の範囲のすべてを広く指すことが意図されている。これらの用語を含む記述は、本明細書に説明される主題を制限するものではない、または下記の特許請求の範囲の意味もしくは範囲を制限するものではないと理解されたい。
【0014】
この説明では、「系」または「5xxx」などのアルミニウム業界の呼称で識別される合金を参照している。アルミニウム及びその合金の命名及び識別に最も一般的に使用されている番号指定システムの理解のためには、いずれもアルミニウム協会によって発行されている「International Alloy Designations and Chemical Composition Limits for Wrought Aluminum and Wrought Aluminum Alloys」または「Registration Record of Aluminum Association Alloy Designations and Chemical Compositions Limits for Aluminum Alloys in the Form of Castings and Ingot」を参照されたい。
【0015】
本明細書で使用される場合、「a」、「an」、または「the」の意味は、文脈が明確に別途指示しない限り、単数形及び複数形の言及を含む。
【0016】
本明細書で使用される場合、プレートは一般に、約15mmを超える厚さを有する。例えば、プレートとは、厚さが約15mm超、約20mm超、約25mm超、約30mm超、約35mm超、約40mm超、約45mm超、約50mm超または約100mm超であるアルミニウム製品を指してよい。
【0017】
本明細書で使用する場合、シェート(シートプレートとも呼ばれる)は、概して、約4mm~約15mmの厚さを有する。例えば、シェートは、厚さが約4mm、約5mm、約6mm、約7mm、約8mm、約9mm、約10mm、約11mm、約12mm、約13mm、約14mm、または約15mmであってよい。
【0018】
本明細書で使用する場合、シートとは、約4mm未満(例えば、3mm未満、2mm未満、1mm未満、0.5mm未満、0.3mm未満、または0.1mm未満)の厚さを有するアルミニウム製造物を指す。例えば、シートは、約0.1mm、約0.2mm、約0.3mm、約0.4mm、約0.5、約0.6mm、約0.7mm、約0.8mm、約0.9mm、約1mm、約1.1mm、約1.2mm、約1.3mm、約1.4mm、約1.5mm、約1.6mm、約1.7mm、約1.8mm、約1.9mm、約2mm、約2.1mm、約2.2mm、約2.3mm、約2.4mm、約2.5mm、約2.6mm、約2.7mm、約2.8mm、約2.9mm、約3mm、約3.1mm、約3.2mm、約3.3mm、約3.4mm、約3.5mm、約3.6mm、約3.7mm、約3.8mm、約3.9mm、または約4mmの厚さであることができる。
【0019】
本明細書で使用される場合、成形性とは、破砕、引き裂き、ネッキング、耳形成、またはしわ、スプリングバック、またはかじりなどの成形エラーが発生することなく、材料が所望の形状に変形する能力を指す。工学では、変形モードによって成形性が分類され得る。変形モードの例としては、ドローイング、ストレッチング、ベンディング、ストレッチフランジングなどがある。
【0020】
本出願では、合金の質別または調質について言及され得る。最も一般に使用される合金質別の説明の理解については、「American National Standards (ANSI) H35 on Alloy and Temper Designation Systems」を参照のこと。調質または質別Fは、製造されたままのアルミニウム合金を指す。調質または質別Oは、焼鈍後のアルミニウム合金を指す。本明細書で質別Hとも称される調質または質別Hxxは、熱処理(例えば、焼鈍)の有無にかかわらず、冷間圧延後の非熱処理型アルミニウム合金を指す。好適な質別Hには、質別HX1、HX2、HX3、HX4、HX5、HX6、HX7、HX8、またはHX9が含まれる。調質または質別T1は、熱間加工から冷却され、(例えば、室温で)自然時効されたアルミニウム合金を指す。調質または質別T2は、熱間加工から冷却され、冷間加工され、自然時効されたアルミニウム合金を指す。調質または質別T3は、溶体化処理され、冷間加工され、自然時効されたアルミニウム合金溶液を指す。調質または質別T4は、溶体化処理され、自然時効されたアルミニウム合金溶液を指す。調質または質別T5は、熱間加工から冷却され、(高温で)人工時効されたアルミニウム合金を指す。調質または質別T6は、溶体化処理され人工時効されたアルミニウム合金溶液を指す。T7調質または質別は、溶体化処理され人工過剰時効されたアルミニウム合金を指す。T8x調質または質別は、溶体化処理され、冷間加工され、人工時効されたアルミニウム合金を指す。T9調質または質別は、溶体化処理され、人工時効され、冷間加工されたアルミニウム合金を指す。W調質または質別とは、溶体化処理後のアルミニウム合金を指す。
【0021】
本明細書で使用する場合、「室温」の意味は、約15℃~約30℃の温度、例えば、約15℃、約16℃、約17℃、約18℃、約19℃、約20℃、約21℃、約22℃、約23℃、約24℃、約25℃、約26℃、約27℃、約28℃、約29℃、または約30℃を含み得る。
【0022】
本明細書に開示の範囲はすべて、両端点、及びそこに包含されるありとあらゆる部分範囲を包含すると理解されたい。例えば、記載された範囲「1~10」は、最小値1と最大値10の間の(かつこれらを含む)ありとあらゆる部分範囲を含むと考えられるべきであり、すなわち、すべての部分範囲は、1以上の最小値、例えば、1~6.1から始まり、かつ、10以下の最大値、例えば、5.5~10で終わる。
【0023】
以下のアルミニウム合金は、合金の総重量に基づく重量パーセント(重量%)での元素組成の観点から説明される。各合金の特定の例では、残部はアルミニウムであり、不純物の合計の最大重量%が、0.15%である。
【0024】
合金組成
アルミニウム合金の特性は、アルミニウム合金の組成によって部分的に決定される。特定の態様では、合金は、合金が所望の用途に適切な特性を有するか否かに影響を与え得るか、または決定さえし得る。
【0025】
本明細書で説明する合金は、新しい5xxx系アルミニウム合金の変種である。この合金は、高い強度、高い成形性(例えば、優れた伸び及び成形性の特性)、及び製造プロセス中の亀裂に対する耐性を示す。合金の特性は、合金の元素的組成特性に起因して、少なくとも部分的に達成することができる。いくつかの例において、本明細書に記載の新規な5XXX系アルミニウム合金の変種は、従来の5XXX系アルミニウム合金のMg含有量よりも高いMg含有量を含むことができ、他の元素の中でも、以下にさらに説明するように、Cu、Mn、及びSiのうちの1つまたは複数を特定の量で含むことができる。
【0026】
いくつかの例において、本明細書に記載のアルミニウム合金は、表1に示されるような以下の元素組成を有し得る。
【表1】
【0027】
いくつかの例では、本明細書に記載のアルミニウム合金は、表2に示される通りの以下の元素組成を有し得る。
【表2】
【0028】
いくつかの例では、本明細書に記載のアルミニウム合金は、表3に示される通りの以下の元素組成を有し得る。
【表3】
【0029】
いくつかの例では、アルミニウム合金は、表4で提示されるような以下の元素組成を有し得る。
【表4】
【0030】
いくつかの例では、アルミニウム合金は、表5で提示されるような以下の元素組成を有し得る。
【表5】
【0031】
ケイ素
いくつかの例では、本明細書に記載のアルミニウム合金は、合金の総重量に基づいて、0%~0.30%(例えば、0%~0.25%、0.01%~0.20%、0.01%~0.15%、0.01%~0.10%、0.01%~0.06%、または0.01%~0.05%)の量のSiを含む。例えば、合金は、0%、0.01%、0.02%、0.03%、0.04%、0.05%、0.06%、0.07%、0.08%、0.09%、0.10%、0.11%、0.12%、0.13%、0.14%、0.15%、0.16%、0.17%、0.18%、0.19%、0.20%、0.21%、0.22%、0.23%、0.24%、0.25%、0.26%、0.27%、0.28%、0.29%、または0.30%のSiを含み得る。すべて重量%で表示されている。
【0032】
鉄
いくつかの例では、本明細書に記載のアルミニウム合金はまた、合金の総重量に基づいて、0.01%~0.40%(例えば、0.01%~0.25%、0.01%~0.20%、0.01%~0.15%、0.02%~0.11%、または0.05%~0.11%)の量のFeを含む。例えば、合金は、0.01%、0.02%、0.03%、0.04%、0.05%、0.06%、0.07%、0.08%、0.09%、0.10%、0.11%、0.12%、0.13%、0.14%、0.15%、0.16%、0.17%、0.18%、0.19%、0.20%、0.21%、0.22%、0.23%、0.24%、0.25%、0.26%、0.27%、0.28%、0.29%、0.30%、0.31%、0.32%、0.33%、0.34%、0.35%、0.36%、0.37%、0.38%、0.39%、または0.40%のFeを含み得る。すべて重量%で表示されている。アルミニウム合金には最大0.40%のFeを含めることができるため、より多くの量のリサイクルされたアルミニウム合金から製造できる。
【0033】
銅
いくつかの例では、本明細書に記載のアルミニウム合金は、合金の総重量に基づいて、最大1.0%(例えば、0%~1.0%、0.01%~0.90%、0.05%~0.80%、0.20%~0.80%、または0.30%~0.80%)の量のCuを含む。例えば、合金は、0.01%、0.02%、0.03%、0.04%、0.05%、0.06%、0.07%、0.08%、0.09%、0.10%、0.11%、0.12%、0.13%、0.14%、0.15%、0.16%、0.17%、0.18%、0.19%、0.20%、0.21%、0.22%、0.23%、0.24%、0.25%、0.26%、0.27%、0.28%、0.29%、0.30%、0.31%、0.32%、0.33%、0.34%、0.35%、0.36%、0.37%、0.38%、0.39%、0.40%、0.41%、0.42%、0.43%、0.44%、0.45%、0.46%、0.47%、0.48%、0.49%、0.50%、0.51%、0.52%、0.53%、0.54%、0.55%、0.56%、0.57%、0.58%、0.59%、0.60%、0.61%、0.62%、0.63%、0.64%、0.65%、0.66%、0.67%、0.68%、0.69%、0.70%、0.71%、0.72%、0.73%、0.74%、0.75%、0.76%、0.77%、0.78%、0.79%、0.80%、0.81%、0.82%、0.83%、0.84%、0.85%、0.86%、0.87%、0.88%、0.89%、0.90%、0.91%、0.92%、0.93%、0.94%、0.95%、0.96%、0.97%、0.98%、0.99%、または1.0%のCuを含み得る。すべて重量%で表示されている。いくつかの場合には、本明細書に記載される量のCuを含むアルミニウム組成物は、アルミニウム合金の塗装焼き付け応答を改善する。例えば、本明細書に記載される量のCuを含むアルミニウムは、アルミニウム合金が連続焼鈍にさらされるとき、塗装焼付け後に改善された強度及び成形性を示す。さらに、Cu含有量が高いと極限引張強度が増加し、Cu含有量の低い合金と比較してより高い加工硬化範囲が得られる。いくつかの場合には、アルミニウム合金組成物に1.0重量%を超える量のCuを添加すると、鋳造または熱間圧延プロセスの間に亀裂が発生する可能性がある。
【0034】
マンガン
いくつかの例では、本明細書に記載のアルミニウム合金はまた、合金の総重量に基づいて、0.01%~0.50%(例えば、0.01%~0.40%、0.01%~0.30%、0.01%~0.15%、0.05%~0.30%、0.05%~0.20%、0.05%~0.15%、または0.05%~0.10%)の量のMnを含む。例えば、合金は、0.01%、0.02%、0.03%、0.04%0.05%、0.06%、0.07%、0.08%、0.09%、0.10%、0.11%、0.12%、0.13%、0.14%、0.15%、0.16%、0.17%、0.18%、0.19%、0.20%、0.21%、0.22%、0.23%、0.24%、0.25%、0.26%、0.27%、0.28%、0.29%、0.30%、0.31%、0.32%、0.33%、0.34%、0.35%、0.36%、0.37%、0.38%、0.39%、0.40%、0.41%、0.42%、0.43%、0.44%、0.45%、0.46%、0.47%、0.48%、0.49%、または0.50%のMnを含むことができる。すべて重量%で表示されている。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される量のMnを含むアルミニウム組成物は、優れたn値(硬化指数)をもたらす。いくつかの場合において、0.40重量%を超えるMn含有量を有するアルミニウム合金は、溶質抵抗効果によりn値を減少させ、またFeとSiを含む構成粒子の体積分率を増加させ、その結果成形性が低下する。したがって、本明細書に記載のアルミニウム合金のMnの量は、成形性の損失を防ぐために微細に制御される。
【0035】
マグネシウム
いくつかの例では、本明細書に記載されるアルミニウム合金は、5.0%~6.0%(例えば、5.1%~6.0%、5.2%~6.0%、5.3%~6.0%、5.4%~6.0%、5.5%~6.0%、5.5%~5.9%、5.6%~5.9%、または5.6%~5.8%)の量のMgを含むことができる。いくつかの例では、合金は、5.0%、5.1%、5.2%、5.3%、5.4%、5.5%、5.6%、5.7%、5.8%、5.9%、または6.0%のMgを含むことができる。すべて重量%で表示されている。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の合金に前述の量のMgを含めることは、固溶体強化元素として機能する。以下にさらに説明するように、また実施例で実証するように、本明細書に記載の量のMg含有量を含むアルミニウム合金は、驚くべきことに、優れた強度及び成形性を有するアルミニウム合金を製造する。いくつかの実施形態では、5.0重量%未満のMgを含むアルミニウム組成物は、高い強度及び/または成形性を達成することができない。いくつかの場合において、6.0を超える重量%のMg(例えば、6.5重量%)を含むアルミニウム組成物は、冷間圧延が非常に難しく、圧延に複数の中間焼鈍ステップを必要とし、圧延中に多量のエッジの亀裂を引き起こすことが多いアルミニウム合金を生じる。
【0036】
クロム
いくつかの例では、本明細書に記載のアルミニウム合金は、合金の総重量に基づいて、最大0.20%(例えば、0%~0.20%、0%~0.10%、0%~0.05%、0.001%~0.05%、0.001%~0.02%、0.005%~0.05%、または0.01%~0.05%)の量のCrを含む。例えば、合金は、0.001%、0.002%、0.003%、0.004%、0.005%、0.006%、0.007%、0.008%、0.009%、0.01%、0.02%、0.03%、0.04%、0.05%、0.06%、0.07%、0.08%、0.09%、0.10%、0.11%、0.12%、0.13%、0.14%、0.15%、0.16%、0.17%、0.18%、0.19%、または0.20%のCrを含み得る。いくつかの実施形態では、前述の量のCrを添加すると、孔食が減少し、固溶体硬化によって強度が増加する。いくつかの場合では、Crは合金中に存在しない(すなわち、0%である)。すべて重量%で表示されている。
【0037】
亜鉛
いくつかの例では、本明細書に記載のアルミニウム合金は、合金の総重量に基づいて、最大0.30%(例えば、0%~0.25%、0%~0.20%、0%~0.10%、0%~0.05%、0.001%~0.05%、0.001%~0.02%、0.005%~0.05%、または0.01%~0.05%)の量のZnを含む。例えば、合金は、0.001%、0.002%、0.003%、0.004%、0.005%、0.006%、0.007%、0.008%、0.009%、0.01%、0.02%、0.03%、0.04%、0.05%、0.06%、0.07%、0.08%、0.09%、0.10%、0.11%、0.12%、0.13%、0.14%、0.15%、0.16%、0.17%、0.18%、0.19%、0.20%、0.21%、0.22%、0.23%、0.24%、0.25%、0.26%、0.27%、0.28%、0.29%、または0.30%のZnを含み得る。いくつかの場合では、Znは、合金に存在しない(すなわち、0%)。いくつかの場合において、過剰なZn添加(例えば、0.30重量%超)は、腐食特性を悪化させる。したがって、本明細書に記載のアルミニウム合金のZnの量は制限されている。すべて重量%で表示されている。
【0038】
チタン
いくつかの例では、本明細書に記載のアルミニウム合金は、合金の総重量に基づいて、最大0.20%(例えば、0%~0.20%、0%~0.10%、0%~0.05%、0.001%~0.05%、0.001%~0.02%、または0.005%~0.05%)の量のチタン(Ti)を含むことができる。例えば、合金は、0.001%、0.002%、0.003%、0.004%、0.005%、0.006%、0.007%、0.008%、0.009%、0.01%、0.02%、0.03%、0.04%、0.05%、0.06%、0.07%、0.08%、0.09%、0.10%、0.11%、0.12%、0.13%、0.14%、0.15%、0.16%、0.17%、0.18%、0.19%、または0.20%のTiを含み得る。いくつかの場合では、Tiは合金中に存在しない(すなわち、0%である)。すべて重量%で表示されている。
【0039】
微量元素
任意選択で、本明細書に記載のアルミニウム合金は、0.05%以下、0.04%以下、0.03%以下、0.02%以下、または0.01%以下の量の、不純物と呼ばれる場合がある他の微量元素をさらに含み得る。これらの不純物としては、V、Ni、Hf、Zr、Sc、Sn、Ga、Ca、Bi、Na、Pbまたはこれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。したがって、V、Ni、Hf、Zr、Sc、Sn、Ga、Ca、Bi、Na、またはPbは、0.05%以下、0.04%以下、0.03%以下、0.02%以下、または0.01%以下の量で合金中に存在してもよい。全不純物の合計は、0.15%(例えば0.1%)を超えない。いくつかの例では、アルミニウム合金は、耐食性を向上させるため、最大0.15重量を含むことができる。すべて重量%で表示されている。各合金の残りの割合はアルミニウムであり得る。
【0040】
特性
本明細書に記載のアルミニウム合金は、本明細書に記載の方法に従って製造された場合、優れた特性を示す。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のアルミニウム合金は、冷間圧延後のバッチ焼鈍と組み合わせて、本明細書に記載の連続鋳造プロセスに従って製造された場合、従来の5XXX系アルミニウム合金と比較して、改善された特性を示す。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のアルミニウム合金は、冷間圧延後の連続焼鈍と組み合わせて、本明細書に記載の連続鋳造プロセスに従って製造された場合、従来の5XXX系アルミニウム合金と比較して、改善された特性を示す。この加工ステップにより、アルミニウム合金の強度と成形性の特性が大幅に向上する。
【0041】
いくつかの例では、本明細書に記載のアルミニウム合金から製造されたアルミニウム合金製造物は、約130MPa以上の降伏強度を有することができる。例えば、本明細書に記載のアルミニウム合金から製造されたアルミニウム合金製造物は、130MPa以上、135MPa以上、140MPa以上、145MPa以上、150MPa以上、155MPa以上、160MPa以上、165MPa以上、170MPa以上、175MPa以上、または180MPa以上の降伏強度を有し得る。いくつかの場合では、降伏強度は、約130MPa~約250MPa(例えば、約135MPa~約200MPa、約140MPa~190MPa、または約145MPa~約180MPa)、またはその間のいずれかである。本明細書に記載されるアルミニウム合金製造物は、それぞれ圧延方向に対して縦(L)方向、横(T)方向、及び/または斜め(D)方向で測定した場合に、本明細書に記載されるような降伏強度を示すことができる。
【0042】
いくつかの例では、本明細書に記載のアルミニウム合金から製造されたアルミニウム合金製造物は、約300MPa以上の極限引張強度を有することができる。例えば、本明細書に記載のアルミニウム合金から製造されたアルミニウム合金製造物は、300MPa以上、305MPa以上、310MPa以上、315MPa以上、320MPa以上、325MPa以上、330MPa以上、335MPa以上、340MPa以上、345MPa以上、または350MPa以上の降伏強度を有し得る。いくつかの場合において、極限引張強度は、約300MPa~約500MPa(例えば、約305MPa~約450MPa、約310MPa~約400MPa、または約315MPa~約350MPa)であるか、またはその間のいずれかである。本明細書に記載されるアルミニウム合金製造物は、それぞれ圧延方向に対して縦(L)方向、横(T)方向、及び/または斜め(D)方向で測定した場合に、本明細書に記載されるような極限引張強度を示すことができる。
【0043】
本明細書に記載のアルミニウム合金から製造されたアルミニウム合金製造物は、塗装焼き付け後の降伏強度の増加も示す。例えば、本明細書に記載のアルミニウム合金から製造されたアルミニウム合金製造物は、模擬塗装焼き付けサイクルの後、2MPa以上、4MPa以上、5MPa以上、10MPa以上、15MPa以上、20MPa以上、または25MPa以上の降伏強度の増加を示す。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のアルミニウム合金から製造されたアルミニウム合金製造物は、2MPa~100MPa、例えば、5MPa~90MPa、10MPa~80MPa、20MPa~75MPa、25MPa~60MPa、30MPa~50MPa、または35MPa~45MPaの降伏強度の増加を示す。本明細書に記載されるアルミニウム合金製造物は、それぞれ圧延方向に対して縦(L)方向、横(T)方向、及び/または斜め(D)方向で測定した場合に、本明細書に記載されるような改善された降伏強度を示すことができる。いくつかの態様では、模擬塗装焼き付けサイクルは、アルミニウム合金製造物を185℃で約20分間加熱することを含んでもよい。
【0044】
本明細書に記載の方法に従って製造された本明細書に記載のアルミニウム合金は、高い成形性も示す。高い成形性は、例えば、全伸びまたは均一伸びを測定することによって測定され得る。ISO/EN A80は、全伸びを試験するために使用され得る1つの適切な規格である。ISO/EN Agは、均一伸びを試験するために使用され得る1つの規格である。いくつかの例では、本明細書に記載のアルミニウム合金から製造されるアルミニウム合金製造物は、少なくとも約5%、最大約30%の全伸び(A80)を有し得る。例えば、本明細書に記載のアルミニウム合金から製造されたアルミニウム合金製造物は、約5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、または30%、またはその間のいずれかの全伸びを有し得る。本明細書に記載されるアルミニウム合金製造物は、それぞれ圧延方向に対して縦(L)方向、横(T)方向、及び/または斜め(D)方向で測定した場合に、本明細書に記載されるような全伸びを示すことができる。
【0045】
いくつかの例では、本明細書に記載のアルミニウム合金から製造されるアルミニウム合金製造物は、少なくとも約5%、最大約30%の均一伸び(Ag)を有し得る。例えば、本明細書に記載のアルミニウム合金から製造されたアルミニウム合金製造物は、約5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、または30%、またはその間のいずれかの均一伸びを有し得る。本明細書に記載されるアルミニウム合金製造物は、それぞれ圧延方向に対して縦(L)方向、横(T)方向、及び/または斜め(D)方向で測定した場合に、本明細書に記載されるような均一伸びを示すことができる。
【0046】
成形性を測定するための別の手段は、引張試験中の塑性歪み比であるr値(ランクフォード係数としても知られている)である。r値は、シート金属の深絞り性(すなわち、引張または圧縮に供された場合の薄化または厚化に対する物質の耐性)の測定値である。r値は、ASTM E517(2020)に従って測定することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のアルミニウム合金から製造されたアルミニウム合金製造物は、任意の方向または全方向(縦(L)方向、斜め(D)方向、及び/または横(T)方向)で少なくとも約0.45、例えば、少なくとも約0.50、少なくとも約0.55、少なくとも約0.60、少なくとも約0.65、少なくとも約0.70、または少なくとも約0.75のr値を有し得る。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のアルミニウム合金から製造されたアルミニウム合金製造物は、任意の方向または全方向で、0.45~0.95、例えば0.50~0.95、0.55~0.90、0.60~0.90、0.65~0.85、または0.70~0.85のr値を有し得る。
【0047】
n値、または歪み硬化指数は、物質が塑性変形した場合にどのくらい硬化するかまたはより強くなるかの指標を与える。n値は、ASTM E646(2020)に従って測定することができる。10%~20%の歪み範囲にわたって測定されるr値は、n(10~20)として示される。例えば、本明細書に記載されるアルミニウム合金から製造されたアルミニウム合金製造物は、少なくとも約0.10、例えば少なくとも約0.15、少なくとも約0.20、少なくとも約0.25、または少なくとも約0.30の任意の個々の方向またはすべての方向(縦(L)方向、斜め(D)方向、及び/または横(T)方向)のn(10~20)値を有し得る。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のアルミニウム合金から製造されたアルミニウム合金製造物は、任意の方向または全方向で、0.10~0.50、例えば、0.15~0.45、0.20~0.40、0.25~0.40、0.30~0.40、または0.30~0.35のn値を有し得る。
【0048】
アルミニウム合金の微細構造
本明細書に記載のアルミニウム合金は、本明細書に記載の方法に従って製造されると、改善された機械的特性をもたらす粒子分布を有する。例えば、本明細書に記載のアルミニウム合金は、従来の5xxx系アルミニウム合金よりも多量のMg(例えば、5.0重量%~6.0重量%)及び/またはCu(例えば、0.3重量%~1.0重量%)を含む。Mg及び/またはCuの量がより多いにもかかわらず、Feで形成される成分はAA5182合金と比較して大幅に増加しはしなかった。
図10及び
図11に示すように、Fe成分の粒径分布は事実上同じままである。5.0重量%~6.0%のMgを含むアルミニウム合金のアルミニウム合金微細構造におけるAl
x(Fe、Mn)及びAl(Fe、Mn)Si粒子の面積率は、AA5182合金と同様であった。さらに、Fe含有構成粒子の粒径は小さい粒径(例えば、5ミクロン未満)であり、アルミニウム合金微細構造では主にAl
x(Fe、Mn)粒子であり、これはAA5182合金と同様である。したがって、本明細書に記載のアルミニウム合金により多くの量のMg及びCuがあることは、アルミニウム合金の微細構造に悪影響を及ぼさなかった。
【0049】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のアルミニウム合金は、本明細書に記載の方法に従って製造される場合、10ミクロン未満、例えば、9ミクロン未満、8ミクロン未満、7ミクロン未満、6ミクロン未満、5ミクロン未満、または4ミクロン未満の粒径を有するFe含有成分を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のアルミニウム合金は、本明細書に記載の方法に従って製造される場合、0.01~10ミクロン、例えば、0.01~10ミクロン、0.01~10ミクロン、0.05~8ミクロン、0.1~6ミクロン、0.2~5ミクロン、または0.2~4.5ミクロンの粒径を有するFe含有成分を含む。
【0050】
本明細書に記載されるアルミニウム合金のFe含有構成粒子の量及びサイズにより、成形性及び耐食性の特性が改善される。鉄を含む構成粒子は通常、亀裂の発生部位として機能し、変形を受けるとアルミニウム合金に損傷を与える。さらに、Feを含む構成粒子が大きいと、腐食電位が高くなり、腐食性能が低下する。有利なことに、本明細書に記載のアルミニウム合金のFe含有構成粒子の量が少なく、サイズが小さいことは、成形性と耐食性の両方にとって好ましい。
【0051】
本明細書に記載のアルミニウム合金は、本明細書に記載の方法に従って製造された場合、AA5182合金と比較して、増加したMg
2Si含有量を示す。Mg及びSiは、Mg
2Siとして組み合わさり、時効硬化後、かなりの強度の改善をもたらす。
図12及び
図13は、アルミニウム合金のMg
2Si粒子分布のグラフを示し、実施例の合金のMg
2Si粒子の数密度、面積パーセント、及び平均サイズを提示している。
図12及び
図13に示すように、本明細書に記載のアルミニウム合金のMg
2Si粒子の粒径分布は、AA5182合金よりも大きかった。例えば、
図12は、アルミニウム合金のMg
2Siの面積パーセントが0.01%より大きく、粒径が0.2ミクロン~5ミクロンであったことを示している。本明細書に記載のアルミニウム合金のMg
2Siの数密度及び面積率は、AA5182合金よりも大きかった。
【0052】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のアルミニウム合金は、本明細書に記載の方法に従って製造される場合、10ミクロン未満、例えば、9ミクロン未満、8ミクロン未満、7ミクロン未満、6ミクロン未満、5ミクロン未満、または4ミクロン未満の粒径を有するMg2Si粒子を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のアルミニウム合金は、本明細書に記載の方法に従って製造される場合、0.01~10ミクロン、例えば、0.01~10ミクロン、0.01~10ミクロン、0.05~8ミクロン、0.1~6ミクロン、0.2~5ミクロン、または0.2~4.5ミクロンの粒径を有するMg2Si粒子を含む。
【0053】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法に従って製造された場合、本明細書に記載のアルミニウム合金は、0.013%超、例えば0.013%超、0.015%超、0.018%超、0.020%超、0.021%超、または0.025%超である、Mg2Si粒子のピーク面積率を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法に従って製造された場合、本明細書に記載のアルミニウム合金は、0.013%~0.030%、例えば、0.014%~0.028%、0.015%~0.025%、0.018%~0.024%、または0.020%~0.024%のMg2Si粒子のピーク面積率を含む。
【0054】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のアルミニウム合金は、本明細書に記載の方法に従って製造される場合、300/mm2超、例えば325/mm2超、350/mm2超、375/mm2超、400/mm2超、425/mm2超、450/mm2超、475/mm2超、または500/mm2超のMg2Si粒子の数密度を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法に従って製造された場合、本明細書に記載のアルミニウム合金は、300/mm2~600/mm2、例えば325/mm2~575/mm2、350/mm2~550/mm2、375/mm2~525/mm2、または400/mm2~525/mm2のMg2Si粒子の数密度を含む。いくつかの実施形態では、Mg2Si粒子の総数密度(全体の数密度)は、3000/mm2未満である。
【0055】
Mg2Si粒子は、固溶体強化のための高温焼鈍(例えば、連続焼鈍)中に溶解する。Mg2Si粒子は、塗装の焼き付け中に強化析出物を形成して、強度をさらに向上させる。Fe含有構成粒子とMg2Si粒子は、焼鈍中に不均質な核生成場所として機能し、微細な結晶粒配向/ランダムな組織を生成して成形性を向上させる。
【0056】
アルミニウム合金の製造方法
特定の態様では、開示された合金組成物は、開示された方法の製造物である。開示を制限することを意図することなく、アルミニウム合金の特性は、合金の調製中の微細構造の形成によって部分的に決定される。特定の態様において、合金組成物の調製方法は、合金が所望の用途に適切な特性を有するか否かに影響を与え得るか、または決定さえし得る。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のアルミニウム合金は、連続鋳造、任意のフラッシュ均質化、熱間圧延、コイリング、冷間圧延、及び焼鈍によって製造することができる。
【0057】
いくつかの実施形態では、方法は、金属ストリップを連続的に鋳造することを含んでもよい。金属ストリップを鋳造する方法は、任意の適切な連続鋳造プロセスであり得る。しかし、驚くべきことに望ましい結果が、その開示が全体において参照により本明細書に組み込まれる、「METAL CASTING AND ROLLING LINE」と題する米国特許第10,913,107号に記載されている連続鋳造プロセスなどの連続鋳造プロセスを使用して達成されている。鋳造後、方法は、熱間圧延の前に金属ストリップをフラッシュ均質化することを含む。フラッシュ均質化温度と熱間圧延の継続時間は、アルミニウム合金の大きな粒径と高い強度を維持するために細かく制御される。金属ストリップは、炉内で適切な加熱速度で400℃~500℃の温度でフラッシュ均質化され、その後、その温度を短時間(例えば、10分まで)維持すること(「浸漬」または「浸漬すること」)ができる。フラッシュ均質化の後、金属ストリップは300℃~500℃の熱間圧延温度で熱間圧延され、熱間圧延製造物が製造される。熱間圧延製造物はコイル冷却が可能である。コイル化した後、熱間圧延製造物は多数の冷間圧延パスで冷間圧延され、冷間圧延製造物が製造される。冷間圧延製造物は、任意選択にコイル化することができる。いくつかの実施形態では、冷間圧延製造物はバッチ焼鈍され、または連続的に焼鈍されて、アルミニウム合金製造物が製造される。
【0058】
図1は、本明細書に記載のアルミニウム合金を製造するための1つの例示的なシステム100を提示する。一例では、システム100は、連続鋳造機105、炉110(例えば、トンネル炉)、熱間圧延スタンド115、第1コイラー120、冷間圧延スタンド125、及び第2コイラー130を含むことができる。いくつかの場合において、システム100は、金属ストリップの分配可能なコイルをもたらすのに適した金属物品(例えば、金属ストリップ)を鋳造し、圧延し、その他の方法で作製するための、分離された、または部分的に分離された連続鋳造及び圧延ラインを備える。本明細書で使用するとき、分離されたという用語は、鋳造装置と圧延スタンド(複数可)との間の速度リンクを取り除くことを指す。例えば、連続鋳造機105は、熱間圧延スタンド115から分離され得る。いくつかの場合において、熱間圧延スタンド115は、金属ストリップの厚さを40%~80%の間で減少させることができる。いくつかの場合において、熱間圧延スタンド前の急冷は任意であるが、Fe含有粒子を粉砕し、析出特性を改善することは、効果がある可能性がある。いくつかの場合において、連続鋳造機105から鋳造された金属ストリップは、コイル化する前に圧延(例えば、熱間圧延)することができる。いくつかの場合において、金属ストリップを熱間圧延スタンド115で複数回通過して熱間圧延した後、金属ストリップを第1コイラー120でコイル化することができる。金属ストリップは、第1コイラー120でコイル化する前、または巻き取ると同時に冷却することができる。金属ストリップは、コイルを解いて、冷間圧延スタンド125で冷間圧延することができる。いくつかの場合において、冷間圧延スタンド125は、金属ストリップの厚さを50%より大きく減少させることができる。冷間圧延後、金属ストリップは、任意選択でコイル化され、その後バッチ焼鈍または連続焼鈍される。
【0059】
鋳造
本明細書に記載される合金は、連続鋳造(CC)プロセスを使用して金属物品(例えば、金属ストリップ)へ鋳造することができる。連続鋳造は、一対の移動する対向する鋳造面の間に画定された鋳造キャビティに溶融金属を連続的に注入し、鋳造キャビティの出口から鋳造金属型(例えば、金属ストリップ)を引き出すことを含む。驚くべきことに、連続鋳造及び圧延システムにおいて、鋳造プロセスを熱間圧延プロセスから意図的に分離することによって、有益な結果を達成することができる。連続鋳造プロセスを熱間圧延プロセスから分離することにより、鋳造速度と圧延速度を厳密に一致させる必要がもはやない。むしろ、鋳造速度は金属ストリップに所望の特性を生み出すように選択でき、圧延速度は圧延装置の要件と制限に基づいて選択できる。分離された連続鋳造及び圧延システムでは、連続鋳造装置は金属ストリップを鋳造することができ、その金属ストリップは直ちにまたはその後すぐに中間コイルまたはトランスファーコイルにコイル化される。中間コイルは、保管することも、すぐに圧延装置に持ち込むこともできる。圧延装置では、中間コイルを解くことができ、金属ストリップが圧延装置を通過して、熱間圧延などの加工が行われるようになる。熱間圧延プロセスの最終的な結果は、特定の顧客にとって望ましい特性を備え得る金属ストリップである。いくつかの場合において、金属ストリップをコイル化して、金属ストリップから自動車部品を形成できる自動車工場などに配送することもできる。いくつかの場合において、金属ストリップは、連続鋳造プロセス(例えば、連続鋳造機による)で最初に鋳造された後、様々な時点で加熱され得るが、金属ストリップは、金属ストリップの固相線温度に達しないままである。
【0060】
鋳造装置は、任意の適切な連続鋳造装置であり得る。しかしながら、驚くべきことに望ましい結果が、米国特許第6,755,236号、名称「BELT-COOLING AND GUIDING MEANS FOR CONTINUOUS BELT CASTING OF METAL STRIP」に記載されているベルト鋳造装置などのベルト鋳造装置を使用して達成されており、その開示は本明細書に全体が参照により組み込まれる。いくつかの場合において、銅などの高い熱伝導率を有する金属から作られたベルトを有するベルトキャスティング装置を使用することによって、特に望ましい結果を達成することができる。ベルト鋳造装置は、鋳造温度で少なくとも250、300、325、350、375、または400ワット/メートル/ケルビンの熱伝導率を有する金属から作られたベルトを含むことができるが、他の値の熱伝導率を有する金属を使用することもできる。鋳造装置は金属ストリップを任意の適切な厚さに鋳造することができるが、望ましい結果は約5mm~50mmの厚さで達成されている。
【0061】
いくつかの場合において、鋳造装置は、金属ストリップの急速凝固(例えば、標準的なDC鋳造凝固の約10倍以上の速度で急速に凝固し、少なくともまたは約1℃/秒、少なくともまたは約10℃/秒、または少なくともまたは約100℃/秒)、及び急速冷却(例えば、少なくともまたは約1℃/秒、少なくともまたは約10℃/秒、または少なくともまたは約100℃/秒の速度での急冷)をもたらすように構成され得、それは最終的な金属ストリップの微細構造の改善を促進できる。いくつかの場合において、凝固速度は従来のDC鋳造の凝固速度の100倍以上になることがある。高速凝固により、凝固したアルミニウムマトリックス全体に非常に均一に分布した分散質形成元素の独特な分布を含む、独特の微細構造が得られる。この金属ストリップが鋳造装置から出るとき、またはその直後に急冷するなど、この金属ストリップを急速に冷却すると、分散質形成元素を固溶体に固定することが容易になる。次に、得られた金属ストリップを分散質形成元素で過飽和にすることができる。過飽和の金属ストリップは、次いで、分離された鋳造及び圧延システムでさらに処理するために中間コイルにコイル化され得る。いくつかの場合において、所望の分散質形成元素は、Mn、Cr、V、及び/またはZrを含む。分散質形成元素で過飽和されたこの金属ストリップは、再加熱すると、均一に分布した望ましいサイズの分散質の沈殿を非常に迅速に誘発することができる。
【0062】
いくつかの場合において、鋳造装置により急冷凝固と急冷を単独で行うこともできる。鋳造装置は、分散質形成元素が過飽和された金属ストリップを製造するのに十分な長さであり、十分な熱除去特性を有することができる。いくつかの場合において、鋳造装置は十分な長さであり、鋳造金属ストリップの温度を250℃、240℃、230℃、220℃、210℃、または200℃以下に下げるのに十分な熱除去特性を備え得るが、ただし、他の値を使用することもできる。一般に、そのような鋳造装置は、かなりのスペースを占有するか、または遅い鋳造速度で動作しなければならない。いくつかの場合において、より小型で高速の鋳造装置が望ましい場合、金属ストリップは、鋳造装置を出た直後、またはそのすぐ後に急冷することができる。1つ以上のノズルを鋳造装置の下流に配置して、金属ストリップの温度を250℃、240℃、230℃、220℃、210℃、200℃、175℃、150℃、125℃、または100℃以下に下げることができるが、ただし、他の値も使用できる。急冷は、過飽和金属ストリップに分散質形成元素をロックするのに十分に速くまたは迅速に起こり得る。
【0063】
次いで、金属ストリップは、さらなる加工ステップに供され得る。任意選択で、さらなる加工ステップをシートを調製するために使用してもよい。そのような加工ステップは、限定するものではないが、任意のフラッシュ均質化ステップ、熱間圧延ステップ、冷間圧延ステップ、及び焼鈍ステップを含む。金属ストリップに関連して加工ステップを以下に説明する。しかしながら、加工ステップは、当業者に知られている修正を使用して、鋳造スラブまたはストリップにも使用することができる。
【0064】
均質化
任意選択で、均質化ステップが実行される場合、本明細書に記載の合金組成物から調製された金属ストリップは、約400℃~600℃の範囲の温度などの均質化温度まで加熱され得る。例えば、金属ストリップは、約400℃、410℃、420℃、430℃、440℃、450℃、460℃、470℃、480℃、490℃、500℃、510℃、520℃、530℃、540℃、または550℃の温度に加熱できる。いくつかの場合において、金属ストリップをフラッシュ均質化することができる。フラッシュ均質化には、金属ストリップを500℃を超える温度(例えば、500℃~570℃、520℃~560℃、または約560℃)に、比較的短い時間(例えば、約1分~10分、例えば、30秒、45秒、1分、1.5分、2分、3分、4分、5分、6分、7分、8分、9分、10分、またはその間の任意の範囲)加熱することが含まれ得る。この加熱は、連続鋳造機と任意の初期のコイル化の間、より具体的には連続鋳造機とコイル化の前の熱間圧延スタンドの間、またはその熱間圧延スタンドとコイル化の間で起こり得る。このフラッシュ均質化は、Fe含有粒子のアスペクト比を下げるのに役立ち得、これらの粒子のサイズも小さくすることもできる。いくつかの場合において、フラッシュ均質化(例えば、570℃で約2分間)を行うと、別の場合には高温で広範な均質化が必要となるFe含有粒子の有益な球状化及び/または精製を、首尾よく達成することができる。
【0065】
いくつかの場合において、任意の均熱炉(例えば、トンネル炉)を、連続ベルト鋳造機の出口近くにある連続ベルト鋳造機の下流に配置して、フラッシュ均質化を行うことができる。均熱炉を使用すると、金属ストリップの横幅全体にわたって均一な温度プロファイルを達成することが容易になり得る。さらに、均熱炉は金属ストリップをフラッシュ均質化することができ、これにより、熱間圧延中に鉄含有粒子の破壊を改善するために金属ストリップを準備することができる。
【0066】
熱間圧延
金属ストリップ、または均質化ステップが実施される場合には任意選択に均質化された金属ストリップに、熱間圧延ステップを施して、熱間圧延製造物を製造することができる。いくつかの場合において、連続鋳造機から鋳造された金属ストリップは、コイル化する前に圧延(例えば、熱間圧延)することができる。コイル化する前の圧延は、厚さを大幅に減少させることができ、例えば少なくとも30%以上、より典型的には50%~75%の間である。いくつかの場合において追加のスタンドを使用することもできるが、連続鋳造金属ストリップをコイル化する前に、単一の熱間圧延スタンドで圧延するときに、特に有用な結果が見出された。いくつかの場合において、連続鋳造後この高い低下(例えば、厚さの30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、または75%を超える減少)の熱間圧延は、他の利点の中でも、金属ストリップのFe含有粒子を粉砕するのに役立ち得る。いくつかの実施形態において、熱間圧延は、約300℃~約500℃(例えば、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃、約400℃、約410℃、約420℃、約430℃、約440℃、または約450℃、約460℃、約470℃、約480℃、約490℃、または約500℃)の温度で行うことができる。
【0067】
いくつかの場合において、本明細書に記載の連続鋳造後のフラッシュ均質化と熱間圧延の組み合わせは、Fe含有粒子を精製(例えば粉砕)するのに特に有用であり得る。熱間圧延製造物は、熱間圧延後に冷間コイル化することができる。熱間圧延製造物は、約200℃~400℃の範囲の温度で冷間コイル化できる。いくつかの実施形態では、熱間圧延製造物は、冷間圧延を容易にするため、またアルミニウム合金の粒子及び結晶組織を修正するために、コイル冷却される。例えば、熱間圧延製造物は、約200℃(例えば、約210℃、約220℃、約230℃、約240℃、約250℃、約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、約300℃、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃、または約400℃)の温度でコイル化することができる。
【0068】
冷間圧延
次いで、任意選択で、1つ以上の冷間圧延ステップを実行して、冷間圧延製造物を得ることができる。熱間圧延製造物は、アンコイラーを使用してコイルから解くことができる。コイルから解かれた熱間圧延製造物は、冷間圧延スタンドで冷間圧延することができる。熱間圧延製造物は、冷間圧延機を使用して冷間圧延して、冷間圧延シートなどのより薄い製造物にすることができる。冷間圧延は、冷間圧延の開始前のゲージと比較して、50%超(例えば、55%超、60%超、65%超、70%超、75%超、80%超、85%超、または90%超の減少)のゲージの減少を表す最終的なゲージの厚さをもたらすように実行することができる。いくつかの実施形態では、冷間圧延ステップは、所望のゲージの厚さの減少を達成するために、1つまたは複数の冷間圧延ステップを含み得る。任意選択で、アルミニウム合金を製造するためのプロセスは、インター焼鈍工程(例えば、1つまたは複数の冷間圧延ステップの間)を含むことができる。いくつかの場合において、冷間圧延品は、冷間圧延後にコイル化される場合もある。
【0069】
焼鈍
冷間圧延製造物は、冷間圧延後に焼鈍することができる。焼鈍プロセスは、バッチ焼鈍または連続焼鈍で行うことができる。
【0070】
いくつかの実施形態では、冷間圧延後にバッチ焼鈍を行うことができる。いくつかの場合において、バッチ焼鈍ステップは、約300℃~約450℃(例えば、約310℃、約320℃、約330℃、約340℃、約350℃、約360℃、約370℃、約380℃、約390℃、約400℃、約410℃、約420℃、約430℃、約440℃、または約450℃)のピーク金属温度で実施され得る。いくつかの場合において、バッチ焼鈍ステップにおける加熱速度は、約10℃/時間~約100℃/時間(例えば、約20℃/時間~約90℃/時間、約30℃/時間~約85℃/時間、約40℃/時間~約80℃/時間、約50℃/時間~約75℃/時間、約30℃/時間~約80℃/時間、約40℃/時間~約70℃/時間、または約50℃/時間~約60℃/時間)とすることができる。いくつかの場合において、冷間圧延製造物は、バッチ焼鈍ステップの間に最大約5時間(例えば、約30分~約4時間、約45分~約3時間、または約1時間~約2時間まで)浸漬させられる。例えば、冷間圧延製造物は、約300℃~約450℃の温度で、約20分間、約30分間、約45分間、約1時間、約1.5時間、約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、またはその間のいずれかの時間、浸漬することができる。一例では、冷間圧延製造物は、約50℃/時間~約75℃/時間の加熱速度で約350℃~約400℃の温度まで加熱され、約1時間~約2時間浸漬し、約5℃/時間~約30℃/時間の冷却速度で冷却する。
【0071】
いくつかの実施形態では、冷間圧延後に連続焼鈍を行うことができる。いくつかの場合において、連続焼鈍ステップは、約400℃~約600℃(例えば約410℃、約420℃、約430℃、約440℃、約450℃、約460℃、約470℃、約480℃、約490℃、約500℃、約510℃、約520℃、約530℃、約540℃、約550℃、約560℃、約570℃、約580℃、約590℃、または約600℃)のピーク金属温度で行うことができる。いくつかの場合において、連続焼鈍ステップにおける加熱速度は、約0.1℃/秒~約30℃/秒(例えば、約0.2℃/秒~約28℃/秒、約0.3℃/秒~約28℃/秒、約0.4℃/秒~約25℃/秒、約0.5℃/秒~約20℃/秒、約0.8℃/秒~約18℃/秒、約1℃/秒~約15℃/秒、または約2℃/秒~約10℃/秒)とすることができる。いくつかの場合において、冷間圧延製造物は、連続焼鈍ステップの間に最大約1分間(例えば、0秒、5秒、10秒、または30秒)浸漬される。一例では、冷間圧延製造物は、約0.5℃/秒~約20℃/秒の加熱速度で約400℃~約600℃の温度まで加熱され、約0秒~約5秒間浸漬され、約5℃/秒~約200℃/秒までの冷却速度で冷却される。
【0072】
開示されるアルミニウム合金製造物を使用する方法
本明細書に記載されるアルミニウム合金製造物は、自動車での用途及び航空機、鉄道での用途を含む他の輸送用途に使用することができる。例えば、開示されたアルミニウム合金製造物を使用して、バンパー、サイドビーム、ルーフビーム、クロスビーム、ピラー補強材(例えば、Aピラー、Bピラー、及びCピラー)、インナーパネル、アウターパネル(外板)、サイドパネル(横板)、インナーフード、アウターフード、またはトランクリッドパネルなどの自動車構造部品を作ってもよい。本明細書に記載のアルミニウム合金製造物及び方法は、例えば、航空機または鉄道車両の用途でも外部及び内部パネルを作るために使用することができる。
【0073】
本明細書に記載されているアルミニウム合金製造物及び方法は、電子機器の用途にも使用できる。例えば、本明細書に記載のアルミニウム合金製造物及び方法は、携帯電話及びタブレットコンピュータを含む電子デバイスの筐体を作るために使用され得る。いくつかの例では、アルミニウム合金製造物は、携帯電話(例えば、スマートフォン)の外部ケーシング用の筐体、タブレットのボトムシャーシ、及び他の携帯型電子機器を作るために使用することができる。
【実施例】
【0074】
例1:機械的特性
合金1~3は、以下に説明する方法に従って製造された例示的な合金である。合金Aは、現在自動車の車体部品に使用されている従来のAA5182アルミニウム合金である。
【0075】
表6に示す合金1~3は、本明細書に記載の方法に基づいて金属ストリップに連続鋳造された。金属ストリップは、400℃~500℃の温度で動作するトンネル炉でフラッシュ均質化された。金属ストリップは、熱間圧延スタンド内で熱間圧延され、ゲージの厚さが40%~80%に減少した熱間圧延製造物が得られた。熱間圧延製造物は約350℃の温度までコイル冷却された。熱間圧延製造物をコイルから解き、冷間圧延スタンド内で冷間圧延し、ゲージの厚さの減少が50%を超える冷間圧延製造物を得た。冷間圧延製造物をコイル化した。冷間圧延製造物にバッチ焼鈍または連続焼鈍を施し、最終的なアルミニウム合金製造物を製造した。合金Aは直接冷却鋳造または連続鋳造された。
【表6】
【0076】
強度(mM)
例示的な合金及び比較合金の強度特性が測定された。具体的には、合金の降伏強度と極限引張強度の試験が施された。
【0077】
図2は、それぞれ圧延方向に対して縦(L)方向、横(T)方向、及び/または斜め(D)方向で測定された合金1~3及び合金Aの降伏強度試験の結果を示す。直接冷却鋳造及び連続鋳造を使用して製造された合金Aの降伏強度の値が、最初の2つの列に示されている。合金1~3及び合金Aのそれぞれについて、バッチ焼鈍(BA)及び連続焼鈍(CAL)後の合金の降伏強度の値が提示されている。L、T、及びDの方向の降伏強度を表すバーの各ペアについて、左側のバーは連続焼鈍後の降伏強度を示し、右側のバーはバッチ焼鈍後の降伏強度を示す。連続焼鈍と比較して、バッチ焼鈍後に得られたアルミニウム合金の降伏強度はわずかに高かった。連続鋳造された合金Aの例は、直接冷却鋳造された例と比較して、約15MPa~20MPaの降伏強度の増加を示した。合金1~3は、合金Aの両方の例と比較して、L、T、及びDの方向でより高い降伏強度を示した。本明細書に記載の連続鋳造プロセスによるアルミニウムの製造と組み合わせた、合金1~3のより高いMg含有量は、溶液に保持される溶質の量が多いため、直接冷却鋳造によって製造されたアルミニウム合金と比較して、より高い強度をもたらした。さらに、合金1~3は、Mg及びCuの量が増加すると、より高い強度の値を示した。
【0078】
図3は、それぞれ圧延方向に対して縦(L)方向、横(T)方向、及び/または斜め(D)方向で測定された合金1~3及び合金Aの極限引張強度の試験の結果を示す。直接冷却鋳造及び連続鋳造を使用して製造された合金Aの極限引張強度の値が、最初の2つの列に示されている。合金1~3及び合金Aのそれぞれについて、バッチ焼鈍(BA)及び連続焼鈍(CAL)後の合金の極限引張強度の値が提示されている。L、T、及びDの方向の極限引張強度を表すバーの各ペアについて、左側のバーは連続焼鈍後の極限引張強度を示し、右側のバーはバッチ焼鈍後の極限引張強度を示す。連続焼鈍と比較して、バッチ焼鈍後に得られたアルミニウム合金の極限引張強度はわずかに高かった。合金1~3は、合金Aの両方の例と比較して、L、T、及びDの方向でより高い極限引張強度を示した。本明細書に記載の連続鋳造プロセスに従って製造された合金1~3は、直接冷却鋳造と従来の連続鋳造と比較して、より高い引張強度をもたらした。
【0079】
アルミニウム合金の引張特性に対する塗装焼き付けの影響を判定するために、合金1~3及び合金Aが試験された。
図4は、塗装焼き付けシミュレーション後の、それぞれ圧延方向に対して縦(L)方向、横(T)方向、及び/または斜め(D)方向で測定された合金1~3及び合金Aの引張強度の試験の結果を示す。塗装焼き付けシミュレーションでは、各合金を185℃に加熱し、この温度で約20分間維持した。直接冷却鋳造及び連続鋳造を使用して製造された合金Aの引張強度の値の変化が、最初の2つの列に示されている。合金1~3及び合金Aのそれぞれについて、バッチ焼鈍(BA)及び連続焼鈍(CAL)後の合金の引張強度の値の変化が提示されている。L、T、及びDの方向の引張強度値の変化を表す各バーについて、左側のバーは連続焼鈍後の引張強度の値の変化を示し、右側のバーはバッチ焼鈍後の引張強度値の変化を示す。合金Aは、製造方法に関係なく、塗装焼き付けサイクル後にいずれの強度の増加も示さなかった。合金1~3は、合金のCu含有量が増加するにつれて、より高い強度の増加を示した。例えば、0.8重量%のCuを含む合金3では、塗装焼き付けシミュレーション後に引張強度が最も大きく増加した。さらに、連続焼鈍プロセスを使用して製造された変種は、焼鈍温度が高いため、塗装焼き付けに対して良好な応答を示した。
【0080】
成形性
例示的な合金及び比較合金の成形性の特性が測定された。具体的には、合金に対して均一伸び、全伸び、r値、及びn値の試験を行って、例示的な合金及び比較合金の成形性を判定した。
【0081】
図5は、それぞれ圧延方向に対して縦(L)方向、横(T)方向、及び/または斜め(D)方向で測定された合金1~3及び合金Aの均一伸びの試験の結果を示す。直接冷却鋳造法及び連続鋳造法に従って製造された合金Aの均一伸びの値は、最初の2つの列に示されている。合金1~3及び合金Aのそれぞれについて、バッチ焼鈍(BA)及び連続焼鈍(CAL)後の合金の均一伸びの値が提示されている。L、T、及びDの方向の均一伸びを表すバーの各ペアについて、左側のバーは連続焼鈍後の均一伸びを示し、右側のバーはバッチ焼鈍後の均一伸びを示す。均一伸びは、バッチ焼鈍と比較して、連続焼鈍後に得られたアルミニウム合金の方が高かった。合金1~3は、合金Aの両方の例と比較して、L、T、及びDの方向で、より高い均一伸びを示した。合金1~3は、Mgの量が増加すると、均一伸びがより高いものになった。
【0082】
図6は、それぞれ圧延方向に対して縦(L)方向、横(T)方向、及び/または斜め(D)方向で測定された合金1~3及び合金Aの全伸びの試験の結果を示す。直接冷却鋳造法及び連続鋳造法に従って製造された合金Aの全伸びの値は、最初の2つの列に示されている。合金1~3及び合金Aのそれぞれについて、バッチ焼鈍(BA)及び連続焼鈍(CAL)後の合金の全伸びの値が提示されている。L、T、及びDの方向の均一伸びを表すバーの各ペアについて、左側のバーは連続焼鈍後の全伸びを示し、右側のバーはバッチ焼鈍後の全伸びを示す。全伸びは、バッチ焼鈍と比較して、連続焼鈍後に得られたアルミニウム合金の方が高かった。合金1~3は、合金Aの両方の例と比較して、L、T、及びDの方向で、より高い全伸びを示した。合金1~3は、Mgの量が増加すると、全伸びがより高いものになった。
【0083】
図7は、それぞれ圧延方向に対して縦(L)方向、横(T)方向、及び/または斜め(D)方向で測定された合金1~3及び合金Aのr値を示す。直接冷却鋳造法及び連続鋳造法に従って製造された合金Aのr値は、最初の2つの列に示されている。合金1~3及び合金Aのそれぞれについて、バッチ焼鈍(BA)及び連続焼鈍(CAL)後の合金のr値が提示されている。L、T、及びDの方向のr値を表すバーの各ペアについて、左側のバーは連続焼鈍後のr値を示し、右側のバーはバッチ焼鈍後のr値を示す。連続焼鈍と比較して、バッチ焼鈍後に得られたアルミニウム合金のr値はわずかに高かった。合金1~3は、合金Aと比較して、L、T、及びDの方向でより低いr値を示した。
【0084】
図8は、それぞれ圧延方向に対して縦(L)方向、横(T)方向、及び/または斜め(D)方向で測定された合金1~3及び合金Aのn値を示す。直接冷却鋳造法及び連続鋳造法に従って製造された合金Aのn値は、最初の2つの列に示されている。合金1~3及び合金Aのそれぞれについて、バッチ焼鈍(BA)及び連続焼鈍(CAL)後の合金のn値が提示されている。L、T、及びDの方向のn値を表すバーの各ペアについて、左側のバーは連続焼鈍後のn値を示し、右側のバーはバッチ焼鈍後のn値を示す。n値は、バッチ焼鈍と連続焼鈍後に得られたアルミニウム合金のものについて、類似していた。合金1~3は、合金Aの両方の例と比較して、L、T、及びDの方向で高いn値を示した。合金1~3は、合金Aと比較してn値の約10%の増加を示した。合金1~3のMg含有量の増加は、n値の上昇に貢献した。
【0085】
図9A及び
図9Bは、それぞれ、バッチ焼鈍及び連続焼鈍後の、ひずみ速度の範囲にわたる合金1~3及び合金Aの瞬間的なn値を示す。合金1~3は、合金Aと比較して、より高いひずみ速度でのn値のより高い保持率を示した。驚くべきことに、合金1~3のMg含有量がより高いアルミニウム合金は、ひずみ速度が増加すると、n値の減衰速度が大幅に低くなった。合金1~3のバッチ焼鈍サンプルでは、7%のひずみになった後にn値の減衰が見られたが、連続焼鈍サンプルでは、n値の減衰はほとんど認められなかった。高いひずみ速度での高いn値は、合金1~3のより良好な成形ウィンドウをもたらす。
【0086】
例2:微細構造
本明細書に記載の方法に従って製造されたアルミニウム合金は、本明細書に記載の特性を備える微細構造を示した。
図10及び
図11は、合金2(破線)及び合金A(実線)のアルミニウム合金微細構造におけるFe含有成分の粒子分布を示す。Mg含有量が5.8重量%の合金2のFe成分粒子分布は、合金AのFe成分粒子分布と同様であった。
図10は、合金2のAl
x(Fe、Mn)の面積率が合金Aと実質的に同じであったことを示す。合金2及び合金Aは両方とも、Al
x(Fe、Mn)の面積率が0.06%未満であった。同様に、Al(Fe、Mn)Siの面積率は、合金2と合金Aで実質的に同じであった。
図11は、アルミニウム合金微細構造のAl
x(Fe、Mn)粒子及びAl(Fe、Mn)Si粒子の数密度も、合金2及び合金Aでまた同様であったことを示している。合金2及び合金Aは両方ともアルミニウム合金微細構造の主にAl
x(Fe、Mn)粒子を有する5ミクロン未満の粒径を有するFe成分粒子を有していた。合金2はMgとCuの濃度が高かったにもかかわらず、合金組成はFe成分の粒子分布を実質的に変化させなかった。
【0087】
図12及び
図13は、合金2(破線)及び合金A(実線)のアルミニウム合金微細構造におけるMg
2Si粒子分布のグラフを示す。
図12は、アルミニウム合金微細構造のMg
2Si粒子の面積%を示し、
図13は、アルミニウム合金微細構造中のMg
2Si粒子の数を示す。合金2は、合金Aと比較してより高いMg
2Si粒子の面積率と数密度を示した。具体的には、合金Aは、Mg
2Si粒子の面積%が0.129、Mg
2Si粒子の数密度が1186.33/mm
2であるのに対し、合金2は、0.212のMg
2Si粒子の面積%及び2125.31/mm
2のMg
2Si粒子の数密度を有した。Mg及びSiは、Mg
2Siとして組み合わさり、時効硬化後、かなりの強度の改善をもたらす。したがって、合金2は、合金Aに比べて強度での意義深い利点を示した。本明細書で説明するように、アルミニウム合金の注意深くバランスの取れた組成は、アルミニウム合金の強度と成形性を制御する上で重要な役割を果たす。さらに、直接冷却鋳造を利用する合金Aは、連続鋳造と比較される(例えば、100℃/秒~200℃/秒)冷却速度の遅さ(例えば、4℃/秒~6℃/秒)に起因して、Fe含有成分とMg
2Si粒子の両方で粗大な金属間粒子を生成する。したがって、直接冷却鋳造は、より凝固の範囲が長いため、高溶質合金にとって困難であり、その結果、高温亀裂が発生する。
【0088】
図14A~Eは、バッチ焼鈍後の合金A及び合金1~3の粒子構造の写真を示し、
図15A~Eは、連続焼鈍後の合金A及び合金1~3の粒子構造の写真を示す。バッチ焼鈍を使用して製造された合金1~3は細長い粒子を持っていたが、連続焼鈍を使用して製造された合金1~3は等軸粒子を示した。合金1~3のアルミニウム合金組成にMgを添加すると、合金Aと比較して粒子がわずかに微細化された。
【0089】
好適な方法及び合金製造物の実例
実例1は、0~0.30重量%のSi、0.01~0.40重量%のFe、0~1.0重量%のCu、0.01~0.50重量%のMn、5.0~6.0重量%のMg、0~0.20重量%のCr、0~0.30重量%のZn、0~0.25重量%のTi、最大0.15重量%の不純物、及びAlを含むアルミニウム合金である。
【0090】
実例2は、前記アルミニウム合金が、0.01~0.20重量%のSi、0.01~0.30重量%のFe、0.01~0.90重量%のCu、0.01~0.40重量%のMn、5.1~6.0重量%のMg、0~0.10重量%のCr、0~0.20重量%のZn、0~0.20重量%のTi、最大0.15重量%の不純物、及びAlを含む、いずれかの先行または後続の実例のアルミニウム合金である。
【0091】
実例3は、前記アルミニウム合金が、0.01~0.15重量%のSi、0.01~0.20重量%のFe、0.05~0.80重量%のCu、0.05~0.30重量%のMn、5.2~6.0重量%のMg、0~0.05重量%のCr、0~0.10重量%のZn、0~0.10重量%のTi、最大0.15重量%の不純物、及びAlを含む、いずれかの先行または後続の実例のアルミニウム合金である。
【0092】
実例4は、前記アルミニウム合金が、0.01~0.06重量%のSi、0.02~0.15重量%のFe、0.20~0.80重量%のCu、0.05~0.20重量%のMn、5.3~6.0重量%のMg、0.001~0.02重量%のCr、0~0.05重量%のZn、0~0.03重量%のTi、最大0.15重量%の不純物、及びAlを含む、いずれかの先行または後続の実例のアルミニウム合金である。
【0093】
実例5は、前記アルミニウム合金が、0.01~0.05重量%のSi、0.05~0.11重量%のFe、0.30~0.80重量%のCu、0.05~0.10重量%のMn、5.5~5.9重量%のMg、0.001~0.02重量%のCr、0~0.01重量%のZn、0.001~0.03重量%のTi、最大0.15重量%の不純物、及びAlを含む、いずれかの先行または後続の実例のアルミニウム合金である。
【0094】
実例6は、前記アルミニウム合金が、5.5重量%~6.0重量%の量のMg、0.30重量%~1.0重量%の量のCuのうちの少なくとも1つを含む、いずれかの先行または後続の実例のアルミニウム合金である。
【0095】
実例7は、Fe含有成分の粒径が5ミクロン未満である、いずれかの先行または後続の実例のアルミニウム合金である。
【0096】
実例8は、前記アルミニウム合金微細構造のMg2Si粒子の数密度が少なくとも500/mm2である、いずれかの先行または後続の実例のアルミニウム合金である。
【0097】
実例9は、前記アルミニウム合金が、少なくとも130MPaの降伏強度を有する、いずれかの先行または後続の実例のアルミニウム合金である。
【0098】
実例10は、前記アルミニウム合金が、少なくとも300MPaの極限引張強度を有する、いずれかの先行または後続の実例のアルミニウム合金である。
【0099】
実例11は、前記アルミニウム合金が、少なくとも5%の全伸びを有する、いずれかの先行または後続の実例のアルミニウム合金である。
【0100】
実例12は、いずれかの先行または後続の実例のアルミニウム合金を含む、アルミニウム合金製造物である。
【0101】
実例13は、前記アルミニウム合金製造物が、連続鋳造、フラッシュ均質化、熱間圧延、及び冷間圧延により製造される、いずれかの先行または後続の実例のアルミニウム合金製造物である。
【0102】
実例14は、アルミニウム合金製造物の製造方法であり、鋳造製造物を形成するべくアルミニウム合金を連続鋳造することであって、前記アルミニウム合金が、0~0.30重量%のSi、0.01~0.40重量%のFe、0~1.0重量%のCu、0.01~0.50重量%のMn、5.0~6.0重量%のMg、0~0.20重量%のCr、0~0.30重量%のZn、0~0.25重量%のTi、最大0.15重量%の不純物、及びAlを含む、前記連続鋳造すること、任意選択で、前記鋳造製造物をフラッシュ均質化すること、前記鋳造製造物を熱間圧延して熱間圧延製造物を製造すること、前記熱間圧延製造物をコイル化すること、前記熱間圧延製造物を冷間圧延して冷間圧延製造物を製造すること、及び前記冷間圧延製造物を焼鈍することを含む。
【0103】
実例15は、前記アルミニウム合金が、5.5重量%~6.0重量%の量のMg、及び0.30重量%~1.0重量%の量のCuのうちの少なくとも1つを含む、いずれかの先行または後続の実例の方法である。
【0104】
実例16は、連続鋳造が、前記鋳造製造物を製造するために少なくとも1℃/秒の凝固速度を含む、いずれかの先行または後続の実例の方法である。
【0105】
実例17は、焼鈍がバッチ焼鈍または連続焼鈍を含む、いずれかの先行または後続の実例の方法である。
【0106】
実例18は、フラッシュ均質化が、前記鋳造製造物を400℃~600℃で10分未満加熱することを含む、いずれかの先行または後続の実例の方法である。
【0107】
実例19は、アルミニウム合金製造物を製造するために、焼鈍後に、前記冷間圧延製造物を塗装焼き付けすることをさらに含む、いずれかの先行または後続の実例の方法である。
【0108】
実例20は、前記アルミニウム合金製造物の降伏強度が、塗装焼き付け後に5MPa以上増加する、いずれかの先行または後続の実例の方法である。
【0109】
上で引用したすべての特許、刊行物、及び抄録は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。本発明の様々な実施形態は、本発明の様々な目的の達成のために記載された。これらの実施形態は、本発明の原理を例示するものに過ぎないことを認識すべきである。その多数の変更及び改変は、以下の特許請求の範囲において定義する本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、当業者には容易に明白である。
【国際調査報告】