(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-29
(54)【発明の名称】電子銃陰極マウント
(51)【国際特許分類】
H01J 37/065 20060101AFI20240221BHJP
【FI】
H01J37/065
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023549980
(86)(22)【出願日】2022-02-22
(85)【翻訳文提出日】2023-09-22
(86)【国際出願番号】 GB2022050478
(87)【国際公開番号】W WO2022180381
(87)【国際公開日】2022-09-01
(32)【優先日】2021-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501187664
【氏名又は名称】ティーダブリューアイ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】リブトン,コリン
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101DD08
5C101DD13
5C101DD14
5C101DD15
5C101DD16
5C101DD18
(57)【要約】
本発明は、一端部で熱電子陰極を固定するとともに他端部で装着部材に接続されるのに適応した電子銃陰極マウントに関しており、電子銃陰極マウントは使用時に、熱電子陰極から装着部材への熱伝達の減少を可能にするような構造を持ち、電子銃陰極マウントを形成する材料が、熱電子陰極から装着部材への方向において熱電子陰極の動作温度で10Wm-1K-1未満の熱伝導率を有する。本発明は、電子銃陰極マウントが中に設置される電子銃アセンブリにも関している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端部で熱電子陰極を固定するとともに他端部で装着部材に接続されるのに適応した電子銃陰極マウントであって、この電子銃陰極マウントは、使用時に、前記熱電子陰極から前記装着部材への熱伝達の減少を可能にするような構造を持ち、前記電子銃陰極マウントを形成する材料が、前記熱電子陰極から前記装着部材への方向において前記熱電子陰極の動作温度で10Wm
-1K
-1未満の熱伝導率を有する、電子銃陰極マウント。
【請求項2】
前記熱電子陰極を固定するのに適応した前記電子銃陰極マウントの前記端部の一部が前記熱電子陰極を囲繞する、請求項1に記載の電子銃陰極マウント。
【請求項3】
前記電子銃陰極マウントは管状構造を有する、請求項1又は2に記載の電子銃陰極マウント。
【請求項4】
前記電子銃陰極マウントは円筒又は円錐構造を有する、請求項3に記載の電子銃陰極。
【請求項5】
前記管状構造は連続的である壁部を具備する、請求項3又は4に記載の電子銃陰極。
【請求項6】
前記管状構造は壁部を具備し、前記壁部の少なくとも一部分が非連続的であり、好ましくは前記壁部の少なくとも一部分が格子構造を有する、請求項3又は4に記載の電子銃陰極マウント。
【請求項7】
前記電子銃陰極マウントの一端部から他端部までの長さが2mm以上である、請求項1から6のいずれか一項に記載の電子銃陰極マウント。
【請求項8】
前記電子銃陰極マウントを形成する前記材料は、前記熱電子陰極から前記装着部材への方向において前記熱電子陰極の前記動作温度で3Wm
-1K
-1未満、好ましくは1.5Wm
-1K
-1未満の熱伝導率を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の電子銃陰極マウント。
【請求項9】
前記電子銃陰極マウントを形成する前記材料は異方性熱伝導率を有する、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の電子銃陰極マウント。
【請求項10】
前記電子銃陰極マウントを形成する前記材料は、例えばイットリア安定化ジルコニアなどのジルコニアやアルミナをベースとするようなセラミック材料、炭素・炭素複合材、焼結金属材料、及び熱分解黒鉛から選択され、好ましくは前記電子銃陰極マウントを形成する前記材料は熱分解黒鉛である、請求項8又は9に記載の電子銃陰極マウント。
【請求項11】
前記電子銃陰極マウントを形成する前記材料は、いずれの平面層も前記電子銃陰極マウントの一端部から他端部までの長さに沿って延在しないような配向を持つ平面層を具備する熱分解黒鉛である、請求項8から10のいずれか一項に記載の電子銃陰極マウント。
【請求項12】
前記電子銃陰極マウントは円筒構造を有し、前記電子銃陰極マウントを形成する前記材料は、前記電子銃陰極マウントの一端部から他端部への長さに対して横向き、好ましくは垂直の配向を持つ平面層を具備する熱分解黒鉛である、請求項4、又は請求項4に従属する際の請求項5から7のいずれか一項に記載の電子銃陰極マウント。
【請求項13】
電子銃陰極マウントが円錐構造を有し、電子銃陰極マウントを形成する材料が、前記円錐構造の中心軸に対して横向き、好ましくは垂直の配向を持つ平面層を具備する熱分解黒鉛である、請求項4、あるいは請求項4に従属する請求項5から7のいずれか一項に記載の電子銃陰極マウント。
【請求項14】
一端部で熱電子陰極を固定するとともに他端部で装着部材に接続される電子銃陰極マウントを具備する電子銃アセンブリであって、前記電子銃陰極マウントは、使用時に前記熱電子陰極から前記装着部材までの熱伝達の減少が可能であるような構造を持ち、前記電子銃陰極マウントを形成する材料が、前記熱電子陰極から前記装着部材への方向において前記熱電子陰極の動作温度で10Wm
-1K
-1未満の熱伝導率を有する、電子銃アセンブリ。
【請求項15】
前記電子銃アセンブリは間接熱源をさらに具備し、前記間接熱源は、前記電子銃陰極マウントにおける熱伝達を介して以外で、前記電子銃陰極マウントにより固定された前記熱電子陰極に熱エネルギーを提供するように動作可能である、請求項14に記載の電子銃アセンブリ。
【請求項16】
前記熱源はレーザ源又は無線周波数(RF)電子ビームエミッタである、請求項15に記載の電子銃アセンブリ。
【請求項17】
前記熱電子陰極は、六ホウ化セリウム、タンタル、六ホウ化ランタン、タングステン、モリブデン、及び遷移金属炭化物、好ましくは六ホウ化ランタンから形成される、請求項14から16のいずれか一項に記載の電子銃アセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電子陰極を電子銃アセンブリに固定する為の電子銃陰極マウントに関する。
【背景技術】
【0002】
電子銃アセンブリは通常、陰極線管、電子顕微鏡、粒子加速器、そして電子ビーム処理の為の装置を含む多様な用途にわたって採用されている。
【0003】
溶接及び材料処理のような電子ビーム処理作業では、採用される電子銃アセンブリの多くが熱電子陰極を電子源として使用している。これらの熱電子陰極は六ホウ化ランタンなどの耐熱材料で形成され、電子がその表面から脱出し、予定目標に向かって大抵は熱電子陰極とその正面に配設された陽極との間の電位差により加速される温度まで、熱源により加熱される。一般的に、電子ビーム特性を整形及び制御するように追加電極も電子銃アセンブリ内で熱電子陰極の領域に配設される。これらの電子銃アセンブリでは、熱電子陰極は、支持構造(陰極マウント)を介して熱電子陰極に電流を通すことにより加熱され、陰極マウントは電子銃アセンブリ内で熱電子陰極を保持する。このタイプの加熱は通常、直接加熱又は抵抗加熱として知られる。電流は支持構造、それゆえに熱電子陰極を通過し、熱源から熱電子陰極への方向における熱伝導を促進する。直接加熱式電子銃アセンブリは、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4に記されている。代替的に、例えば(通常は間接加熱として知られる)レーザ衝突又は一次電子ビーム(後方衝撃)を使用して、熱は支持構造を介して以外で熱電子陰極に間接的に供給されてもよい。抵抗加熱を介して熱電子陰極を加熱することを目的として、電流は支持構造及び熱電子陰極を通過しない。このタイプの電子銃アセンブリは非特許文献1に記されている。
【0004】
これら周知の電子銃アセンブリでは、電子銃アセンブリ内に熱電子陰極を保持する支持構造の部分は、熱電子陰極が被制御方式で電子を放出するのに必要な高温及び真空状態にも適合する必要がある。例えば、熱電子陰極を保持する支持構造のこの部分は、ダイオード電子銃アセンブリなどの電子銃アセンブリでの使用時に、電子の副次的放出を減少するのに役立つべきであってそれ自体では何も放出すべきでない。したがって、支持構造のこの部分は通常、熱電子陰極よりはるかに高い仕事関数を有する材料で形成される。例えば、六ホウ化ランタンのような低仕事関数材料から熱電子陰極が製作される際には、支持構造のこの部分は一般的にタンタルその他で形成される。
【0005】
しかしながら、特に熱電子陰極の為の支持構造に関して、上に記載された電子銃アセンブリには問題が存在する。
【0006】
熱電子陰極を利用する電子銃アセンブリについて、電子ビーム出力の効率は、電子放出に適切な温度に熱電子陰極を維持するのに熱源から必要とされる熱エネルギー入力に部分的に関連している。この安定的温度の維持は電子出力の効率を制御するのに重要である。この効率が低くなると、より強力でおそらくはより高価な熱源が必要とされ、電子銃アセンブリの熱管理に課せられる要件が大きくなる。
【0007】
周知の電子銃アセンブリで熱電子陰極から熱エネルギーが失われる道筋の一つは、支持構造を介したものである。電子銃アセンブリに必要な高温及び真空状態に耐えることは可能であるが、熱電子陰極の加熱時にアセンブリ内で温度が上昇する際に、タンタルなど高い仕事関数を有する材料の熱伝導率は一般に高いままであるか、むしろ上昇する。例えば、金属タンタルは293Kで57.5Wm-1K-1の熱伝導率を有するが、1800Kでこれは63Wm-1K-1まで上昇する。こうしてタンタルなどこれらの耐熱材料から形成された支持構造の部分を介して、熱エネルギーは失われる。加えて、熱伝導材料で形成された支持構造の他の部分からも熱エネルギーは失われる。例えば細い材料「フィンガ」やその類を使用した熱電子陰極との接触面積の最小化により支持構造又はその一部の物理的構成を変えることには幾らかの自由範囲が認められるが、電子銃アセンブリ内での極限状態との適合性を持つ材料を利用する必要があることは、最新の電子銃アセンブリ設計では一般的に、六ホウ化ランタンその他で形成された熱電子陰極を保持する為のタンタル及び他の耐熱材料の使用が、上記で述べられた熱効率の欠点にも関わらず継続されることを意味している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0627121号明細書
【特許文献2】国際公開第99/16101号
【特許文献3】特開2005-190758号公報
【特許文献4】米国特許第8987985号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「レーザ加熱電子銃の研究(Study of a laser-heated electron gun)」 ロイその他(Roy et al.) 科学機器評論(Rev. Sci. Instrum.) 第67巻第12号 1996年12月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
それゆえ、電子銃アセンブリに熱電子陰極を固定することが可能であるとともに、電子の放出を促進すべく熱電子陰極に熱を印加することに続いて熱電子陰極から電子銃アセンブリの他の箇所への熱伝達を減少させることも可能である電子銃陰極マウントを提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第一態様によれば、一端部で熱電子陰極を固定するとともに他端部で装着部材に接続されるのに適応した電子銃陰極マウントが提供され、電子銃陰極マウントは、使用時に熱電子陰極から装着部材への熱伝達の減少を可能にするような構造を持ち、電子銃陰極マウントを形成する材料が、熱電子陰極から装着部材への方向において熱電子陰極の動作温度で10Wm-1K-1未満の熱伝導率を有する。
【0012】
本発明の第二態様によれば、一端部で熱電子陰極を固定するとともに他端部で装着部材に接続される電子銃陰極マウントを具備する電子銃アセンブリが提供され、電子銃陰極マウントは、使用時に熱電子陰極から装着部材への熱伝達の減少を可能にするような構造を持ち、電子銃陰極マウントを形成する材料が、熱電子陰極から装着部材への方向において熱電子陰極の動作温度で10Wm-1K-1未満の熱伝導率を有する。
【0013】
電子銃アセンブリでの使用時に、熱電子陰極への熱の印加に続いて、本発明の電子銃陰極マウントは熱電子陰極から装着部材への熱伝達の減少を可能にすることが分かっており、これは驚くべきことであり、また有利である。この電子銃陰極マウントは、電子銃アセンブリについて動作安定性及びパワー効率の向上を提供する。電子銃陰極マウントが電子銃アセンブリで使用される時に、熱源のパワーを上昇させることなく熱電子陰極が加熱されてそこからの電子の効率的な放出に必要な安定的温度に維持されるように、電子銃陰極マウントを介して失われる熱エネルギーの量が著しく減少する。それゆえに、本発明の電子銃陰極マウントが電子銃アセンブリに利用される時に、電子ビーム放出は非常に効率的である。
【0014】
本発明の文脈において、使用される「熱伝達(heat transfer)」及び同様の語は、熱エネルギー(熱)の移動つまり熱伝導を指す。二つの語「熱伝達(heat transfer)」と「熱伝導(thermal conduction)」とは互換的に利用される。本発明の文脈において、電子銃陰極マウントが電子銃アセンブリで使用される時には、電子銃陰極マウントを介した熱電子陰極から装着部材への熱伝導が減少する。
【0015】
熱電子陰極を固定するのに適応している本発明の電子銃陰極マウントの端部は、熱電子陰極を適所に保持する為に熱電子陰極と接触するように構成されている。一般的に、熱電子陰極を固定するのに適応した電子銃陰極マウントの端部は、熱電子陰極を適所に配置及び保持するための開口部を具備する。それゆえ、開口部は一般的に熱電子陰極の形状と形状相補的であることが認められるだろう。好ましくは、熱電子陰極が位置決めされる開口部は、熱電子陰極を固定するのに適応した電子銃陰極マウントの端部が熱電子陰極を囲繞するように構成され得る。好ましくは、熱電子陰極を固定するのに適応した電子銃陰極マウントの端部の一部が熱電子陰極を囲繞する。代替的に、熱電子陰極が位置決めされる開口部は、熱電子陰極を固定するのに適応した電子銃陰極マウントの端部は熱電子陰極を囲繞しないように構成されてもよい。このような実例では、熱電子陰極を完全には囲繞しなくても、この接触は、熱電子陰極が適所に固定保持されるのに充分であるばかりでなく、熱電子陰極からの副次放出又は電子の脱出を制御及び軽減するのにも充分であることが認められるだろう。このような構成は熟練者には周知である。
【0016】
電子銃陰極マウントは何らかの適当な形状又は構造であってよい。例えば、電子銃陰極マウントは管状構造を有してもよい。管状構造は一般的に、内部空間を囲繞する壁部を具備する。本発明の電子銃陰極マウントで必要とされるように、管状構造の一端部は熱電子陰極を固定するのに適応しており、一方で管状構造の他端部は装着部材に接続されるのに適応していることが認められるだろう。管状構造なる用語は、例えば、円筒及び円錐構造など、内部空間を具備する(つまり、壁部が内部空間を囲繞する)何らかの三次元中空構造を包含する。電子銃陰極マウントが電子銃アセンブリに設置された時には、使用時に、電子銃陰極マウントにより保持された熱電子陰極(その後面部分)に熱源からの熱エネルギーが印加されるのは中空構造内の内部空間を通してであることが認められるだろう。
【0017】
管状構造の壁部は何らかの適当な厚さを有し得る。一般的に、管状構造の壁部の厚さは0.05から2mmである。
【0018】
管状構造の壁部は連続的であり得る、つまり開口部及び/又は材料不連続部を具備していない。代替的に、管状構造の壁部又は壁部の少なくとも一部分が開口部及び/又は材料不連続部を具備してもよい、つまり非連続的であってもよい。このような例は格子構造であり得る。格子構造の事例で、壁部は格子又はグリッドの形で構築され得る。
【0019】
管状構造の壁部が格子構造を有する時に、電子銃陰極マウントはさらに、格子構造の壁部を囲繞する外層又はスリーブを具備し得る。この外層又はスリーブは、電子銃陰極マウントと同じ材料から形成され得る。例えば、外層又はスリーブは後述されるような配向を持つ熱分解黒鉛から形成され得る。代替的に、この外層又はスリーブはタンタルなどの耐熱金属から形成されてもよい。この外層又はスリーブは一般的に連続的である、つまりその中に開口部及び/又は材料不連続部を具備していない。外層又はスリーブは一般的に、このルートで実際に可能である限り熱伝導を防止するように格子構造の壁部との熱接触状態は低い。このような外層又はスリーブは副次放出及び電子の脱出を制御することが認められるだろう。
【0020】
代替的に、電子銃陰極マウントは、一端部で熱電子陰極の固定が可能であるとともに他端部で装着部材に接続される構造を共に形成する多数の個別部品から形成されてもよい。このような構造には、熱源からの熱エネルギーが熱電子陰極に供給されるのに通る内部空間も設けられる。当該技術では、このような構造の個別部品は一般的に、ロッド、フィンガ、又は脚部として知られている。このような個別部品は0.05から2mmまでの厚さを有し得る。
【0021】
好ましくは、本発明の電子銃陰極マウントは管状構造、より好ましくは円筒又は円錐構造を有する。好ましくは、円筒又は円錐構造などの管状構造の壁部は連続的である。
【0022】
電子銃陰極マウントは、標準的な電子銃アセンブリでの使用に適した何らかのサイズであってよい。適切なサイズは当業者にはよく周知であり、熱電子陰極及び電子銃アセンブリ全体のサイズに依存する。好ましくは、電子銃陰極マウントの長さは、15から25mmまでなど、2mm以上である。電子銃陰極マウントの長さとは、端部から端部まで、つまり熱電子陰極を固定するのに適応した電子銃陰極マウントの端部から装着部材に接続されるのに適応した電子銃陰極マウントの端部までの最小距離を意味する。このような最小距離により、本発明の電子銃陰極マウントでは、電子銃アセンブリでの使用時に熱電子陰極から装着部材までの熱伝導(熱伝達)の減少が可能である。電子銃陰極マウントが円錐構造を有する時に、最小距離は、円錐構造の中心軸に沿ってではなく円錐構造の壁部の長さに沿ったものである。
【0023】
本発明の電子銃陰極マウントは、熱電子陰極から装着部材への、つまり電子銃陰極マウントの一端部から他端部への熱伝達の減少が可能な材料で形成され得る。以下でより詳しく述べられるように、このような材料は、熱電子陰極から装着部材への方向において熱電子陰極の動作温度では低い熱伝導率を有する。材料は全方向でこのような熱絶縁特性を示す必要はなく、少なくとも熱電子陰極から装着部材への方向での熱伝導の減少が可能であるだけでよいことが認められるだろう。これは、例えば、電子銃陰極マウント形成中の材料の適切な配向を通したものであり得る。このような材料は、高温真空安定性、低い熱膨張率、そして電子銃アセンブリ及び用途との適合性を実証可能でなければならないことがさらに認められるだろう。
【0024】
電子銃陰極マウントを形成する材料は、熱電子陰極の動作温度で10Wm-1K-1未満の熱伝導率を有する。熱伝導率は、電子銃陰極マウントにおける熱電子陰極から装着部材への方向のものである。好ましくは、電子銃陰極マウントを形成する材料は、熱電子陰極から装着部材への方向において熱電子陰極の動作温度で3Wm-1K-1未満の熱伝導率を有する。より好ましくは、電子銃陰極マウントを形成する材料は、熱電子陰極から装着部材への方向において熱電子陰極の動作温度で1.5Wm-1K-1未満の熱伝導率を有する。本発明については、熱伝導率の定義はASTM E 1225‐20、つまり保護状態の相対的長手方向熱流技術を使用する固体熱伝導率の標準試験方法(Standard Test Method for Thermal Conductivity of Solids Using the Guarded-Comparative-Longitudinal Heat Flow Technique)によるものである。
【0025】
熱電子陰極の動作温度は1600から2800Kであり得る。本発明の文脈において、熱電子陰極の動作温度は、熱電子陰極が電子を放出する温度、つまり電子銃アセンブリでの使用時に電子を放出する為に加熱されなければならない温度である。
【0026】
電子銃陰極マウントを形成する材料は、単一の材料であるか、例えば一次材料を含むとともにこれにコーティングされるか導入される二次材料を有する異なる材料の組み合わせであり得る。両方の事例で、電子銃陰極マウントを形成する材料が必要な熱伝導率を有することが認められるだろう。
【0027】
電子銃陰極マウントが形成される為の適当な材料は、例えば、イットリア安定化ジルコニアなどのジルコニアやアルミナをベースとするようなセラミック材料、炭素・炭素複合材、焼結金属材料、及び熱分解黒鉛を含むがこれらに限定されるわけではない。。
【0028】
例えばイットリア安定化ジルコニアなどジルコニアやアルミナをベースとするようなセラミック材料については、多孔性の制御を導入することなどにより材料の熱伝導率が製造中に調節され得る。セラミック材料は、本発明に必要とされるもの以上に材料の熱伝導率を高めないような量で、導電性材料、例えばタンタルの薄膜コーティング(一次材料に二次材料がコーティング)も備え得る。この文脈での薄膜コーティングは一般的に、200μm未満、好ましくは100μm未満、より好ましくは2μm未満である。このようにコーティングされたセラミック材料が利用される時に、電子銃陰極マウントの壁部の厚さは一般的に0.5mmより大きい。
【0029】
セラミック材料の一般的な製造方法は当業者には周知であり、鋳造及び溶射技術、例えばプラズマ溶射を含む熱溶射技術を含み得る。箔として、蒸着による、化学蒸着による、あるいは溶射(例えばプラズマ溶射及び低温溶射などの熱溶射技術)によるものを含む多様な周知の技術を使用して、導電性材料のコーティングが被覆され得る。
【0030】
炭素・炭素複合材は、高い異方性熱伝導率を有するように設計され得る。例えば、1720Kで(接合面に対する)面外方向に<6Wm-1K-1の熱伝導率を有するフェノール系高密度炭素・炭素複合材が生産され得る。
【0031】
焼結金属材料はタングステン及びタンタルを含み、性能を損なうことなく、本発明により必要とされるものまで熱伝導率を低下させるように、多孔性又は他の(二次)材料を含めることにより材料の密度が制御される。タンタルは、様々な細孔画分を持つエネルギービーム付加製造経路を使用して製作されてもよい。これらの経路は、20から80%の範囲の細孔画分を持つ金属を製作するのに使用され得る。
【0032】
好ましくは、電子銃陰極マウントは単一の材料で形成される。好ましくは、電子銃陰極マウントを形成する材料は異方性熱伝導率を有する。異方性熱伝導率とは、材料の異なる方向において熱伝導率が変化するか異なる熱伝導率を取り得ることを意味する。好ましくは、電子銃陰極マウントは熱分解黒鉛で形成される。
【0033】
熱分解黒鉛は、何らかの層間共有結合を間に有する平面グラフェン層で形成される高次構造を有する材料を指す。具体的に記すと、熱分解黒鉛は、六角形配列の炭素原子による平面層を具備し、これに沿って平面方向に高い熱伝導性が達成され得る。しかしながら、平面層に対して横向き、好ましくは垂直の方向において、炭素原子がランダムな配向を持ってこのような方向での熱伝導が著しく減少するように、これらの平面層が互いに対して配列される。この非常に特殊な構造をもたらすのは熱分解黒鉛の製造である。熱分解黒鉛は、高温での炭化水素ガスの分解(熱分解)により製造される。この熱分解プロセスの制御により、平面層に沿って高い熱伝導率を備える一方でこの層に対して横向き、好ましくは垂直な方向での熱伝導は減少する材料が形成される。ゆえに熱分解黒鉛は熱伝導率に関する性質が異方性であると考えられる。さらに、温度が上昇すると、平面層に対して横向き、好ましくは垂直な方向での熱分解黒鉛の熱伝導率は事実上低下することに留意していただきたい。加えて、電子銃アセンブリ動作温度で熱分解黒鉛は非常に安定している。上記の平面層に対して横向き、好ましくは垂直な方向において、熱分解黒鉛は1720Kを超えると<1Wm-1K-1の熱伝導率を呈することが分かっている。熱分解黒鉛は、これらの特性により、本発明の電子銃陰極マウントを形成する為の優れた材料となる。
【0034】
電子銃陰極マウントは、熱電子陰極から装着部材への方向における電子銃陰極マウントでの熱伝導を最少にするような配向を好ましくは持つ平面層を具備する熱分解黒鉛で形成され得る。実際に、これはいずれの平面層も電子銃陰極マウントの長さに沿って延在しないことを意味する。電子銃陰極マウントの長さとは、熱電子陰極の固定が可能な電子銃陰極マウントの端部から装着部材に接続されるのに適応した電子銃陰極マウントの端部までを意味している。本発明の電子銃陰極マウントの一端部から他端部までの長さに沿っていずれかの平面層が延在するのを妨げる角度を平面層が持つことが認められるだろう。このような構成は、熱電子陰極の固定と、装着部材それゆえに電子銃アセンブリの他の箇所への接続の両方で電子銃陰極マウントが電子銃アセンブリで使用される時に、電子銃陰極マウントの長さに沿って熱電子陰極から装着部材までいずれの平面層も延在しないことを意味する。黒鉛層のこの特定配向は、電子銃陰極マウントが電子銃アセンブリで使用される時に、熱電子陰極から装着部材ゆえに電子銃アセンブリの他の箇所への熱伝達が減少することを意味する。電子銃陰極マウントが電子銃アセンブリで使用される時に、熱電子陰極を固定するのに適応した電子銃陰極マウントの端部から装着部材への接続に適応した電子銃陰極マウントの端部まで電子銃陰極マウントの長さに沿って熱分解黒鉛のいかなる平面層も延在しない。簡単に記すと、熱電子陰極と装着部材との間に直接的な平面経路は形成されない。ゆえに熱電子陰極は、その温度が維持され、熱エネルギー損失が著しく減少し、そして電子銃アセンブリでの電子放出を促進するのに高いパワーの熱源が必要とされないように、電子銃アセンブリの他の箇所から実質的に熱絶縁され得る。
【0035】
熱分解黒鉛は熱伝導率に関して異方性であるので、熱電子陰極から装着部材それゆえに電子銃アセンブリの他の箇所まで電子銃陰極マウントを通じた熱伝導を減少するような配向を平面層が持つことが理解されるべきである。
【0036】
電子銃陰極マウントが円筒構造を有する時には、円筒構造の長さに対して横向き、好ましくは垂直の配向を持つ平面層を具備する熱分解黒鉛で電子銃陰極マウントが形成され得る。電子銃陰極マウントが円筒構造を有する時には、平面層は、円筒構造の長さに沿った熱伝導を減少させるような配向を好ましくは持つことが認められるだろう。
【0037】
電子銃陰極マウントが円錐構造を有する時には、円錐構造の中心軸に対して横向き、好ましくは垂直な配向を持つ平面層を具備する熱分解黒鉛で電子銃陰極マウントが形成され得る。電子銃陰極マウントが円錐構造を有する時には、円錐構造の長さに沿った熱伝導を減少させるような配向を平面層が好ましくは持つことが認められるだろう。
【0038】
本発明の電子銃陰極マウントは、何らかの適当な製造方法により形成され得る。電子銃陰極マウントが熱分解黒鉛から形成される時には、主に化学蒸着と熱分解反応での炭化水素の加熱、そしてその後の機械加工作業を介した、熱分解黒鉛の製造の為に確立された経路に従って電子銃陰極マウントは製作され得る。上記で述べられたような配向を持つ時に熱伝導を減少させる能力に加えて、頻繁な機械的閉塞解消及び洗浄を必要とせずに熱分解黒鉛が容易に機械加工され得る。
【0039】
本発明の電子銃陰極マウントは、三次元(3D)成形技術、つまり付加製造を使用して、あるいはプリフォームの機械加工又はエッチング又はレーザ切断によって製造されてもよい。例えば、電子銃陰極モードが熱分解黒鉛から形成される時には、樹脂前駆体を3Dプリントして、必要なプリント後形成ステップ(例えば機械加工)及び熱分解作業を行なうことにより、非常に複雑な形状の熱分解黒鉛が得られる。必要な方向特性を達成するように熱分解中のプリフォームの加圧について適正な許容量が設けられる必要がある。このプロセスにより、熱分解黒鉛の異方性を利用して高レベルの熱的制御を可能にするように、シミュレーション及びモデリング作業を介して最適化された格子構造を含む何らかの適当な形状又は構造を電子銃陰極マウントが有することが可能である。
【0040】
上記で述べられたように格子構造について脱出電子の制御が必要とされる際には、同じ又は別々の作業において、一般的には連続的であるとともに一般的には同じ材料による外層又はスリーブを備える電子銃陰極マウントを3Dプリントすることにより、あるいは外層又はスリーブ内に格子構造を配設することにより、これが達成され得る。
【0041】
本発明の電子銃陰極マウントとの使用の為の熱電子陰極は、熱エネルギーの印加時に表面からの電子の放出が可能な適当な材料から形成され得る。このような材料は当業者には周知である。適当な材料は、六ホウ化セリウム、六ホウ化ランタン、タンタル、タングステン、モリブデン、及び遷移金属炭化物(例えばタンタル、タングステン、又はモリブデンの炭化物)を含むがこれらに限定されるわけではない。好ましくは、熱電子陰極が形成される材料は六ホウ化ランタンである。本発明の文脈において、熱電子陰極は下記で述べられるように間接熱源との使用に適したものでなければならないことが認められるだろう。
【0042】
本発明の電子銃陰極マウントとの使用の為の熱電子陰極は、何らかの適当な形状を有し得る。一般的に、熱電子陰極は、ボタン形状に見られるように前面及び後面部分と側面とを有する。前面部分は、電子が放出予定であって熱源と反対向きである熱電子陰極部分を含む。後面部分は、電子銃陰極マウントが電子銃アセンブリに設置された時に熱源からの熱エネルギーが印加されて電子銃陰極マウント構造の内部空間に面している熱電子陰極部分を含む。
【0043】
本発明の電子銃陰極マウントは、電子銃アセンブリの間接熱源とともに使用されるように設計されている。間接熱源とは、電子の放出を達成するように熱エネルギーを熱電子陰極に印加する構成要素を意味し、電子銃陰極マウントを介して以外で熱エネルギーが印加される。間接熱源と電子銃陰極マウントとは別々である。本発明の電子銃陰極マウントが電子銃アセンブリで利用される時には、間接熱源が熱電子陰極と接触するか、あるいは代替的に、そして通常は、熱電子陰極と接触していないことが認められるだろう。一般的に、間接熱源は25から100W/mm2の熱束(熱入力)を熱電子陰極に提供する。本明細書で述べられる「熱束(heat flux)」とは、単位時間についての単位面積あたりのエネルギーの流れを意味する。この語は「熱流束(thermal flux)」と互換的に使用され得る。電子の放出に必要とされる温度(動作温度)に達するように熱電子陰極が最少の熱束の印加を必要とすることが認められるだろう。必要とされる最少の熱束と熱源のパワーとの間には関係があることもさらに認められるだろう。特に、熱エネルギーが適用される熱電子陰極の後面部分の腐食を起こすレベルを熱源の強度が下回る為に、熱エネルギーはエリアにわたって印加され得る。例えば、熱電子陰極の直径に近いスポット径を有する熱電子陰極の露出後面部分にわたってデフォーカスされたレーザビームにより、熱エネルギーが印加され得る。
【0044】
本発明の電子銃陰極マウントについて、電子銃アセンブリでの使用時には、抵抗加熱を介して熱電子陰極を加熱することを目的として電子銃陰極マウント及び熱電子陰極を電流が通過しない。代わりに間接熱源が利用される。
【0045】
熱電子陰極を固定するのに適応したものではない本発明の電子銃陰極マウントの端部は、装着部材に接続されるのに適応している。電子銃陰極マウントのこの端部は、当業者にはよく周知である適当な装着手段により装着部材に接続され得る。例えば、装着部材に接続されるのに適応した電子銃陰極マウントの端部は、電子銃陰極マウントが装着部材に接続されるのを可能にする横方向外向き延出フランジ部分を具備し得る。電子銃陰極マウントのこの端部が横方向外向き延出フランジ部分を具備する場合に、装着部材は、電子銃陰極マウントを装着部材に接続するようにフランジ部分と形状適合するリベート(rebate)を具備する。電子銃陰極マウントの端部と装着部材とはさらに、クランププレート及びねじなどの追加の装着手段により定位置に保持され得る。一般的に、装着部材はステンレス鋼で形成され得る。一般的に、装着部材は、電子銃アセンブリの設定及び動作中に真空状態が適用された時にガスが閉じ込められないことを確実にするために通気孔を具備する。
【0046】
電子銃アセンブリへの電子銃陰極マウントの装着は、装着部材を介して達成される。一般的に、電子ビームの放出を整形及び制御するように作動可能な追加電極を具備する電子銃本体に装着部材が接続される。そしてこの電子銃本体は、熱源を具備するものなど残りの電子銃装置に接続されて電子銃アセンブリを形成する。それゆえ、装着部材により本発明の電子銃陰極マウントが電子銃アセンブリに設置され得ることが認められるだろう。特に、装着部材により電子銃陰極マウントは電子銃アセンブリの正しい位置に配備され得る。一般的に、電子銃アセンブリが使用されている時に、追加の電極は熱電子陰極と同じ電位に保持され、電子ビームの整形及び制御を補助する。
【0047】
したがって、本発明の第二態様による電子銃アセンブリが提供される。
【0048】
本発明の第一態様に関連して上記で述べられた電子銃アセンブリ、電子銃陰極マウント、熱源、装着部材、そして熱電子陰極に関する全ての特徴は、好適であれ任意であれ、本発明の第二態様に適用可能である。
【0049】
好ましくは、電子銃アセンブリはさらに上記のような間接熱源を具備する。
【0050】
電子の放出を達成する為の熱電子陰極の加熱は、本発明の電子銃陰極マウントを介して行われない。抵抗加熱を介して熱電子陰極を加熱することを目的として電子銃陰極マウント及び熱電子陰極に電流は通されない。間接熱源により、電子の放出を達成するように熱電子陰極に印加される熱エネルギーが、電子銃陰極マウントを介して以外で印加される。間接熱源と電子銃陰極マウントとは別々である。上記のように、本発明の電子銃陰極マウントが電子銃アセンブリで利用される時には、間接熱源が熱電子陰極と接触し得るか、代替的に、そして通常は、熱電子陰極との接触状態にない。
【0051】
電子銃陰極マウントを介して以外で熱電子陰極に熱エネルギーを印加する為の適当な間接熱源は、当業者にはよく周知である。適当な間接熱源は、一以上のレーザ源、無線周波数(RF)電子ビームエミッタ、放射ヒータ、又は電子ビームエミッタを含むがこれらに限定されない。好ましくは、熱源は、レーザ源又は無線周波数(RF)電子ビームエミッタである。好ましくは、熱源は、レーザビーム又は無線周波数(RF)ビーム、より好ましくはレーザビームの形で熱エネルギーを提供する。
【0052】
一般的に、間接熱源は25から100W/mm2の熱束を熱電子陰極に提供する。このような熱束は、熱電子陰極が電子を放出するのに必要な1600から2800Kの動作温度まで熱電子陰極を加熱する。
【0053】
本発明の第一態様に関連して上記で述べられたように、本発明の第二態様による電子銃アセンブリでは、電子銃陰極マウントは熱電子陰極を固定し、一般的に装着部材を介して電子銃アセンブリに設置される。上記でさらに述べられたように、この装着部材は一般的に、追加電極を具備する電子銃本体にそれ自体が設置される。そして、間接熱源を具備するものなどの残りの電子銃装置に電子銃本体が接続されて電子銃アセンブリを形成する。それゆえ本発明の第二態様の電子銃アセンブリはさらに、装着部材を介して電子銃陰極マウントが設置される追加電極を具備する電子銃本体を具備する。電子銃本体の追加電極は上記で述べられたようなものであり得、電子ビームの放出を整形及び制御するように動作可能である。一般的に、本発明の第二態様の電子銃アセンブリが使用されている時には、熱電子陰極と同じ電位に追加電極が保持される。このような実例で、電子銃アセンブリはダイオード電子銃アセンブリとして知られるが、追加電極が陰極よりも大きな負電位に保持されてバイアスカップ、グリッド、又はウェーネルト電極と呼ばれるトライオード銃にも発明は適用可能である。
【0054】
本発明の第二態様による電子銃アセンブリでは、本発明の第一態様に関連して上記で述べられたように熱源は間接熱源である。本発明の第二態様の電子銃アセンブリでは、間接熱源により印加される熱エネルギーが本発明の第一態様による電子銃陰極マウントを介して以外で印加される。熱源と電子銃陰極マウントとは別々である。本発明の第一態様の電子銃陰極マウントが本発明の第二態様による電子銃アセンブリに使用されている時には、熱エネルギーが電子銃陰極マウントを介して間接熱源から熱電子陰極に印加されることはない。使用時に、本発明の第一態様による電子銃陰極マウントが本発明の第二態様による電子銃アセンブリに設置されて、熱エネルギーが間接熱源から熱電子陰極に印加される時には、電子銃陰極マウントは熱電子陰極から装着部材への熱伝達を減少させることが認められるだろう。
【0055】
本発明の第二態様による電子銃アセンブリでは、本発明の第一態様の電子銃陰極マウントの熱電子陰極の後面部分、つまり電子銃本体、それゆえに電子銃アセンブリに装着された時に電子銃陰極マウントの内部空間に対向する熱電子陰極の部分への熱エネルギーの印加を可能にするように、間接熱源は配置される。
【0056】
本発明の第一及び第二態様の電子銃陰極マウント及び電子銃アセンブリは、陰極線管、電子顕微鏡、粒子加速器、そして融解、溶接、及び材料処理を含む電子ビーム処理を含む幅広い多様な用途で利用され得る。好ましくは、電子銃陰極マウントと電子銃アセンブリとは、融解、溶接、及び材料処理の用途を含む電子ビーム処理で利用される。
【0057】
本発明の第一及び第二態様の電子銃陰極マウント及び電子銃アセンブリは、低パワーマーキング用途における100Wから電子ビーム処理における高パワー溶接又は融解の為の1MWまでのパワーを有する電子ビームの提供に使用され得る。したがって、本発明の第一及び第二態様の電子銃陰極マウント及び電子銃アセンブリは、高パワー電子ビームの提供に使用され得る。好ましくは、電子銃陰極マウント及び電子銃アセンブリは、1から100kWまでの範囲のパワーを有する電子ビームの提供に使用される。好ましくは、電子銃陰極マウント及び電子銃アセンブリは、1から100kWまでの範囲のパワーを有する電子ビームを必要とする用途に使用される。
【0058】
本明細書に含まれる特徴の全ては、上の態様のいずれかと、そしていずれの組み合わせでも組み合わされ得る。
【図面の簡単な説明】
【0059】
発明をより良く理解する為に、そしてその実施形態がどのように実行されるかを示す為に、添付図面を例として参照する。
【
図1】本発明の第一態様による電子銃陰極マウントを具備する陰極マウントアセンブリを示す。
【
図2】電子銃本体に取り付けられた
図1の陰極マウントアセンブリを示す。
【
図3】円錐構造を有する発明の第一態様による電子銃陰極マウントを示す。
【
図4】
図3の電子銃陰極マウントの片側断面図を示す。
【
図5】
図4に示されている電子銃陰極マウント片側断面の熱モデリングの結果を示す。
【
図6a】円筒及び円錐構造を有する本発明の第一態様による電子銃陰極マウントの熱分解黒鉛の平面層の配向を示す。
【
図6b】円筒及び円錐構造を有する本発明の第一態様による電子銃陰極マウントの熱分解黒鉛の平面層の配向を示す。
【
図7】本発明の第一態様による電子銃陰極マウントを示す。
【発明を実施するための形態】
【0060】
図1は、熱電子陰極3(例えば、六ホウ化ランタンボタン)を固定する熱分解黒鉛の電子銃陰極マウント(陰極マウント)2から成る陰極マウントアセンブリ1を示す。熱分解黒鉛は熱伝導率に関して異方性であるので、平面層が電子銃陰極マウント2の円筒構造の長さに沿った熱伝導を最少にするような配向を持つ、つまり平面層は電子銃陰極マウント2の長さに対して横向き、好ましくは垂直の配向を平面層が持つことが理解されるべきである。陰極マウントアセンブリ1、それゆえに電子銃陰極マウント2は、一般的にはステンレス鋼で製作される装着部材(配備ディスク)4を介して(
図2に示されている)電子銃本体に取り付けられ、配備ディスクは、電子銃陰極マウント2及び熱電子陰極3を配置するための精密センタリング/配備手段としても機能する。配備ディスク4はリベート(不図示)を備え、電子銃陰極マウント2は、配備ディスク4のリベートと係合してともに形状適合するフランジ(不図示)を有する。配備ディスク4と電子銃陰極マウント2とは、組み合わされた時に、追加の装着手段(クランププレート5と、締結されたクランプねじ6)を使用して固定される。配備ディスク4は、設置される電子銃アセンブリの設定及び動作中に陰極マウントアセンブリ1が真空状態となった時にガスが閉じ込められないようにする通気孔7を有する。熱電子陰極3の為の熱源(例えばレーザ)(不図示)は、矢印8に示されているように電子銃陰極マウント2のボアに向けられて、熱電子陰極3の後面に衝突し、こうして熱電子陰極が加熱されて電子ビーム9が放出される。この図の電子銃陰極マウント2は、熱伝達を最少にするように可能な限り薄い壁部を一般的に有する円筒構造を有するものとして示されているが、陰極及び電子銃の特定要件に応じて他の陰極ホルダ形状の形態が可能である。
【0061】
図2で、陰極マウントアセンブリ1は、電子銃本体11において追加電極(銃陰極)10の中心に取り付けられている。銃陰極10は、ダイオード銃については陰極マウントアセンブリ1(
図1参照)の熱電子陰極3と同じ電位に保持され、電子ビームの整形、制御、そして投射を補助する。電子銃本体11は、陰極マウントアセンブリ1、それゆえに
図1の電子銃陰極マウント2を、電子銃アセンブリ(電子ビーム処理装置)というより大きな構造に取り付ける為の手段となる。
【0062】
図3は、熱分解黒鉛で形成された管状構造(円錐構造)を有して熱電子陰極3(六ホウ化ランタン)が頂点に保持された電子銃陰極マウント(陰極ホルダ)12を示す。電子銃陰極マウント12は、熱分解黒鉛のブロックからの機械加工により製作される。熱分解黒鉛は熱伝導率に関して異方性であるので、電子銃陰極マウント12の長さに沿って、つまり(熱電子陰極3が保持されている)円錐の頂点から(陰極ホルダ12が接触して横方向外向き延出フランジ部分を介して装着部材(不図示)に接続されるように動作可能である)底部までの熱伝導を最少にするような配向を平面黒鉛層は持つことが理解されるべきである。
図3では、円錐構造の中心軸に対して横向き、好ましくは垂直の配向を平面層が持つ。
【0063】
図4は、
図3の電子銃陰極マウント(陰極ホルダ)12の片側断面図を示し、陰極ホルダ12はその頂点に熱電子陰極3を保持している。線13は対称線であるとともに円錐構造の中心軸を表す。
図3に関して述べられたように、平面黒鉛層はx‐z平面に対して平行な配向を持つ。
【0064】
図5は、
図4に示されている電子銃陰極マウント(陰極ホルダ)12の片側断面(軸対称モデル)の熱モデリングシミュレーション結果を示す。シミュレーションでは、電子を放出するように、レーザにより、又は後面の電子ビーム(不図示)により1727℃(2000.15K)の温度まで熱電子陰極3は加熱される。熱電子陰極3で1727℃の温度を達成するのに必要とされる熱入力を判断する為に定常状態熱分析が行われた。20950mW/mm
2の熱束が必要とされ、温度キー13(℃での温度)を片側断面に重ねられた陰影と比較した時に分かるように、熱電子陰極3での温度はおよそ2000℃(2273.15K)であるが、陰極ホルダ12の底部15(横方向外向き延出フランジ部分)での温度は数百℃程度である。z‐x軸上での熱的分布は良好だがz‐y軸上での熱的分布は良好でないことを陰影は示し、底部15で装着部材と接触するところまで陰極ホルダ12において伝導される熱エネルギーは少なく、陰極ホルダ12の他の箇所が空間(つまり機器の動作中の真空)内で保持されるとすると、熱架橋は最少になることを意味し、電子の放出に必要な温度に熱電子陰極3を維持する為に熱源により印加される必要のある熱束が少ないことを意味する。
【0065】
図6a及び
図6bは、円筒及び円錐形状の断面における、つまり円筒(6a)及び円錐(6b)構造を有する本発明の第一態様による電子銃陰極マウント(陰極ホルダ)を示し、熱特性を制御する為の熱分解黒鉛の平面層16の好適な配列が見られる(明瞭化の為に縮尺を誇張)。
図6bは、円錐構造の中心軸に対して垂直に延びる平面層16を示すが、平面層16は何らかの状況では、円錐角度/形状に応じて円錐構造の中心軸に対して平行な(あるいは選択された他の角度の)配向を持ち得る。本質的には、電子銃陰極マウントに沿った熱伝導を最少にするような配向を平面層16が持つべきである。いずれの平面層も電子銃陰極マウントの長さに沿って延在しない。それゆえ電子銃陰極マウントの長さに沿った熱伝達の直接平面経路は存在すべきでない、つまり円錐構造(不図示)の頂点に保持された熱電子陰極から装着部材(不図示)までの熱分解黒鉛の平面層のいずれかに沿った熱伝達の直接平面経路が存在すべきでない。熱電子陰極から装着部材(配備部材)及び電子銃アセンブリの他の箇所との境界面まで、平面層に沿った直接熱経路が提示されていないことを概ね意味するので、円錐構造は有利であることに注意していただきたい。
【0066】
図7は、熱分解に続く前駆体材料の付加製造(「3Dプリント」としても知られる)を使用して製作される、本発明の第一態様による電子銃陰極マウント(陰極ホルダ)17を示す。電子銃陰極マウント17は、熱分解黒鉛で形成される格子構造を有し、格子構造を包囲する外層又はスリーブ18をさらに具備する(明瞭化の為に縮尺/配置が誇張されている)。スリーブ18は(付加製造又はより従来型の組立方法を使用して)熱分解黒鉛から、又は代替材料(例えば超薄タンタル)から製作され得る。熱電子陰極3のように、装着部材(不図示)への係合の為の横方向外向き延出フランジ部分19も示されている。
【符号の説明】
【0067】
1 陰極マウントアセンブリ
2 電子銃陰極マウント
3 熱電子陰極
4 配備ディスク
5 クランププレート
6 クランプねじ
7 通気孔
9 電子ビーム
10 銃陰極
11 電子銃本体
12 電子銃陰極マウント/陰極ホルダ
15 底部
16 平面層
17 電子銃陰極マウント/陰極ホルダ
18 スリーブ
19 フランジ部分
【国際調査報告】