(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-29
(54)【発明の名称】鋳鉄材料、鋳鉄材料の使用ならびに成形ツールを製造および/またはライニングする方法
(51)【国際特許分類】
C22C 37/04 20060101AFI20240221BHJP
C22C 38/56 20060101ALI20240221BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
C22C37/04 A
C22C38/56
C22C30/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023550232
(86)(22)【出願日】2022-02-22
(85)【翻訳文提出日】2023-10-19
(86)【国際出願番号】 EP2022054349
(87)【国際公開番号】W WO2022175544
(87)【国際公開日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】102021000922.3
(32)【優先日】2021-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512215107
【氏名又は名称】ジームペルカンプ・マシーネン-ウント-アンラーゲンバウ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】イェンス シュテルマッハー
(72)【発明者】
【氏名】ゲオルク ガイヤ
(57)【要約】
本発明は、鋳鉄材料に関する。本発明は、さらに、鋳鉄材料の使用に関し、最終的には型を製造および/またはライニングするための方法に関する。本発明の目的は、型、プレスツールまたはプレスの製造および/またはライニングのための鋳鉄材料であって、この材料は、-60℃~440℃の温度において、さらに特に0℃~420℃の温度範囲において長さが変化し、長さのこの変化ができるだけ小さいかあるいは炭素繊維強化ポリマーまたはガラス繊維強化プラスチックのものにできるだけ似ている鋳鉄材料を開発することである。この目的で、元素または化合物として重量パーセントで少なくとも約1.5%~4.0%の範囲の炭素、約1.0 %~5.0%の範囲のケイ素、約0.1%~1.5%の範囲のマンガン、約36.5%~48.0%の範囲のニッケル、約0.01~0.25%の範囲のクロム、最大約0.08%のリン、最大約0.5%の銅、最大約0.150%のマグネシウム、の割合を含み、残りは、鉄および不可避不純物である、鋳鉄材料が提案される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
元素または化合物として重量百分率で少なくとも、
約1.0%~4.0%の範囲の炭素、
約1.0%~5.0%の範囲のケイ素、
約0.1%~1.5%の範囲のマンガン、
約36.5%~48.0%の範囲のニッケル、
約0.01%~0.25%の範囲のクロム、
最大約0.08%のリン、
最大約0.5%の銅、
最大約0.15%のマグネシウム、
の割合を含み、
残りは、鉄および不可避不純物である、
鋳鉄材料。
【請求項2】
前記列挙の元素に加えて、前記鋳鉄材料の中に約0.0%~5.0%、好ましくは0.0%~1.0%、非常に好ましくは0.0%~0.5%の範囲の不純物が含有されることを特徴とする、請求項1に記載の鋳鉄材料。
【請求項3】
炭素の割合は、約1.0%~3.2%、好ましくは約1.0%~2.5%、特に好ましくは約1.3%~2.0%の範囲であることを特徴とする、請求項1または2の何れか一項に記載の鋳鉄材料。
【請求項4】
炭素の割合は、約2.0%~4.0%、好ましくは約2.06%~4.0%、特に好ましくは約2.2%~4.0%の範囲であることを特徴とする、請求項1または2の何れか一項に記載の鋳鉄材料。
【請求項5】
ニッケルの割合は、約37.0%~48.0%、好ましくは約37.0%~45.0%、特に好ましくは約37.5~43.0%、さらに特に好ましくは約40.1%~43.0%の範囲であることを特徴とする、請求項1~4の何れか一項に記載の鋳鉄材料。
【請求項6】
約0.020%~0.150%、好ましくは約0.040%~0.100%、特に好ましくは約0.065%~0.090%の範囲のマグネシウムの割合を有することを特徴とする、請求項1~5の何れか一項に記載の鋳鉄材料。
【請求項7】
ケイ素の割合は、約1.1%~5.0%、好ましくは約1.15%~5.0%、特に好ましくは約1.3%~5.0%の範囲であることを特徴とする、請求項1~6の何れか一項に記載の鋳鉄材料。
【請求項8】
ニオブの割合は、0.33%未満、特に0.22%未満、まさしく特に0.11%未満であることを特徴とする、請求項1~7の何れか一項に記載の鋳鉄材料。
【請求項9】
コバルトの割合は、4.0%未満、特に2.75%未満、まさしく特に0.005%と1.5%との間であることを特徴とする、請求項1~8の何れか一項に記載の鋳鉄材料。
【請求項10】
アルミニウムの割合は、1.0%未満、特に0.75%未満、まさしく特に0.001%と0.500%との間であることを特徴とする、請求項1~9の何れか一項に記載の鋳鉄材料。
【請求項11】
前記炭素は、少なくとも圧倒的に球状黒鉛として存在することを特徴とする、請求項1~10の何れか一項に記載の鋳鉄材料。
【請求項12】
前記鋳鉄材料から得られる鋳造物は、成形ツールまたはプレスツールを製造および/またはライニングするために用いられる、請求項1~11の何れか一項に記載の鋳鉄材料の使用。
【請求項13】
前記鋳鉄材料は、プレス内の上部プレスツールおよび下部プレスツールのための材料として用いられ、前記プレスツールは、連続または離散稼働において稼働する、請求項1~12の何れか一項に記載の鋳鉄材料の使用。
【請求項14】
前記正確な化学組成は、プレスされる材料、特にプレスされる複合材料のそれぞれの膨張挙動と、この目的のために提供されるプロセス温度とに適応させられる、プレスツールまたはプレスダイの製造および/またはライニングのための、請求項1~11の何れか一項に記載の鋳鉄材料の使用。
【請求項15】
前記融解物中に存在する炭素の少なくとも一部が鋳鉄材料を形成するために沈殿させられる鋳造プロセスにおいて成形ツールまたはプレスツールを製造および/またはライニングするめの方法であって、請求項1~11の何れか一項に記載の鋳鉄材料を実現するために材料組成物が用いられることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳鉄材料に関する。
【0002】
本発明は、さらに、鋳鉄材料の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
本発明は、鋳鉄材料に関する。本鋳鉄材料は、高度に温度不変であり、温度制御されたプロセス、例えば連続的にまたは離散的に稼働するプレス、研削装置、フィッティングおよび/または類似装置にライニングするために特に適している。用語「鋳鉄材料」は、鋳造されるかまたは鋳造可能な鉄材料を指してよい。「鋳造」は、従って、元々の成形プロセスである「鋳造」への参照と理解されることができる。
【0004】
特許文献1は、高度に耐熱性であり、連続的にまたは離散的に稼働するプレスをライニングするために適していると一般に考えられる鋳鉄材料を記載し、そこに開示されている鋳鉄材料は、高いケイ素含有量によって炭化物形成を妨げ、従って減衰焼鈍が必要ない。モリブデンの一部の代わりとしてニオブが加えられる。
【0005】
しかし、一般に有利に設計され、実際に多くの用途に用いられることができるこの鋳鉄材料は、温度が増大するとこの鋳鉄材料が長さ変化を受けるという弱点を示す。これは、室温への冷却の結果起こる収縮寸法が設計において既に考慮されなければならないことを意味し、そのことは、とりわけ、収縮寸法は構成部品の幾何形状および材料特性に依存するだけでなく組成のわずかなずれおよび/または冷却時の環境影響、例えば環境中で優勢な気候条件によっても変り得るという事実に起因して、プロセス技術の観点からは不便であるか、または場合によっては実際上不可能でさえある。
【0006】
このことは大型の鋳造部品を設計するとき、ここで異なる肉厚を防ぐことはほとんどできず、冷却速度は肉厚に応じて場所により変り得るので、特に問題となる。大型の鋳造部品は、対応して大きな有効レバー長も有する。例えば長さが3m、5mまたは10mさえ超える大きな鋳造部品においては、見解および種々の参考文献に依存して2、3センチメートルから最大1.0m、1.5mまたは2m前後の間の範囲にあってよい通常の鋳造部品におけるよりも10分の2~10分の3°の歪みが明らかにより大きな妨げとなり得る。
【0007】
従って、大型の鋳造部品は、非常に容易に型の反りおよび鋳造物、成形品または圧縮部品の損傷につながり、不良率または後処理労力を増大させるか、あるいは発生する残留応力からの亀裂の発生に起因して単品鋳造を不可能にすることさえあり得る。
【0008】
鋳造されるワークピースの最大長さが増すほど問題が大きくなる。
【0009】
さらに、これらの課題は、各プロセスサイクルの温度制御されたプロセスにおいて再発生し、製造プロセス自体に限定されない。
【0010】
大型の鋳造物がプレス部品、特にプレスツールであり、かつプレスまたはプレスツールが炭素またはガラス繊維部分を有する複合材料を製造するために用いられることが可能でなければならない場合、さらなる課題が生じる。
【0011】
これは、炭素繊維成分を有する複合材料、特に炭素繊維メッシュが埋め込まれた熱可塑性材料、例えばCFRP自体が極めて低い長さまたは体積膨張を有し、場合によって繊維層の方向またはそれに対してある角度の、特にそれに対して直角の方向に強い差異があり、このことは、ガラス繊維プラスチックにも顕著に弱められた形で当てはまるからである。
【0012】
引き換えに、そのような複合材料は、特にそれらの熱製造または加工プロセス時に、従って強制膨張にほとんど耐えることができない。特に、いわゆる「プリプレグ」または「オルガノシート」が温度制御された加工プロセスにおいて加工される場合、プレスツールまたはプレスダイの長さ膨張は、加工可能範囲の決定的な限界を容易に示すことができる。この理由で、多くのCFRP構成部品は、多くの場合に例えば実現可能な均質性および品質に関して大きな弱点を伴う場合であっても、いまだにプリプレグからプレスされる代わりにいわゆるRTMプロセスにおいて鋳造される。例えば、ただ1つのプレスツールまたはダイ部品が、プリプレグまたはオルガノシートあるいは一般に製造または機械加工されるワークピースの長さまたは体積の変化と異なる長さまたは体積の変化を経験する場合、少なくともキャリア層部分が少なくとも区域によって内部的に、または表面に達するまで変位し、その結果、多くの場合に少なくとも構造部分も破断し、従って計画された構造強度をもはや維持することができない。
【0013】
本発明の目的は、可能なもっとも小さい長さおよび/または体積膨張を有する型、プレスツールまたはプレスの製造および/またはライニングのための鋳鉄材料を開発することである。これは、特に-60℃~440℃、特に0℃~420℃の温度範囲に適用される。
【0014】
本発明のさらなる目的は、合金から製造されたかまたは合金でライニングされたツール型の中で製造されたワークピースを容易に分離できるようにすること、特に、製造されるワークピースを取り出す前の冷却プロセスにおける相互収縮を特に最小にすることであってよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】独国特許出願公開第10 2011 051 446(A1)号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的は、元素または化合物として重量百分率で少なくとも、
約1.0%~4.0%の範囲の炭素、
約1.0%~5.0%の範囲のケイ素、
約0.1%~1.5%の範囲のマンガン、
約36.5%~48.0%の範囲のニッケル、
約0.01%~0.25%の範囲のクロム、
最大約0.15%のマグネシウム、
最大約0.5%の銅、
最大約0.08%のリン、
の割合を含み、残りは、鉄および不可避不純物である、
鋳鉄材料によって実現される。
【0017】
このことは、鋳鉄材料がオーステナイト結晶格子から-60℃~440℃の温度範囲において、特に0℃~420℃への温度範囲において冷却され、極めて小さな体積および長さ変化(正の方向において:体積または長さ膨張)を有するという利点を有する。
【0018】
さらに、そのような鋳鉄材料の体積変化挙動は、少なくとも定格温度範囲内で大部分がCFRP材料のものと調和していると有利である。さらに、鋳鉄材料の熱伝導率は、黒鉛の形の沈殿炭素に起因して鋳鋼のものより顕著に良好であり、そのため熱プロセスにおいてより好ましい構成部品の挙動が実現される。
【0019】
そのことによって、そのような鋳鉄材料の体積変化挙動がGRP材料のものに、特にCFRP材料のものに非常に似ていることは、特に有利である。驚くべきことに、これは、例えばプロセスによって指定される克服されるべき温度差に関する絶対値だけでなく、他の利用分野で同じような目的で製造される合金にもまったく異なる形で適用され、長さおよび/または体積変化の経過全体にも適用される。これは、成形ワークピース構造内の微視的または巨視的変位を最小化するかまたは防止する目標を実現する唯一の方法である。
【0020】
さらに、鋳鉄材料としての合金は、鋳鋼材料合金に対して顕著な利点を有する。固化プロセスの間の融解物からの溶解炭素の沈殿に起因して最終的には鋳鉄との複合材料が形成される。材料中の体積変化と関連付けられるこの沈殿プロセスは、鋳鋼と比較して好ましい効果を鋳鉄の収縮挙動に及ぼす。このことは、次に収縮挙動の低下をもたらし、最終的にはより低い収縮空洞形成をもたらし、特に温度影響を受ける長さまたは体積の変化の挙動の進行に関して明確な挙動の存在をもたらす。さらに、それから製造される構成部品は、プロセス技術の点でより容易に確実な品質で製造されることができ、そのことが最終的に経済的な利点も有する。同時に、本来の固化プロセス後に規則的に熱処理に付される鋳鋼とは非常に対照的に、多くの場合にさらなる熱処理は必要ない。
【0021】
列挙した元素に加えて、鋳鉄材料は、約0.0%~5.0%、好ましくは0.0%~1.0%、非常に好ましくは0.0%~0.5%の範囲の不純物を含有することができる。「列挙した」元素とは、請求項において言及される特定的に使用される合金成分であって、従って「不純物」とみなされるべきでない合金成分を指す。スクラップがリサイクルされるとき、さらなる元素、例えばナトリウム、カリウム、ストロンチウムおよび周期表のその他の元素の存在をもたらす他の材料が組み込まれる。その結果、不純物が存在するが、主な特性は大部分維持される。従って、そのような不純物は、「必然」または「不可避」不純物とも呼ばれる。
【0022】
さらなる実施形態において、上述の鋳鉄材料は、約1.0%~4.0%、好ましくは約1.0%~2.5%、特に好ましくは約1.3%~2.0%の範囲の炭素の割合を有する。
【0023】
このことは、一方で反応性物質が炭素とそれほど速く反応せず、従って上記鋳鉄材料で製作されたプレスツールからの鋳造物のより容易な分離を可能にするという利点を有する。これは、本鋳鉄材料がプレスツールおよび/またはプレスダイの製造のために用いられる場合、例えばCFRPまたはGRPの樹脂は、上記の意味で反応性物質の1つなので特に有利である。さらに、上述の範囲の炭素割合が電気陰性度(独:Elektronegativitaet,英:electronegativeity)を変化させ、このことが合金を用いて製造される構成部品、特にプレスツールまたはプレスダイの腐食挙動の改善に寄与し、従って、とりわけ稼働時のその経済的有用性を顕著に増大する。
【0024】
あるいは、炭素の割合は、約2.0%~4.0%、好ましくは約2.06%~4.0%、特に好ましくは約2.2%~4.0%の範囲であると規定されてよい。例えば、炭素割合が高くなると特に良好な鋳造性をもたらす。
【0025】
さらなる実施形態において、上述の鋳鉄材料は、約36.5%~48.0%、好ましくは約37.0%~45%、特に好ましくは約37.5%~43.0%、さらに特に好ましくは約40.1%~43.0%の範囲のニッケルの割合を有する。
【0026】
このことは、鋳鉄材料が、低速の固化時でもオーステナイト結晶格子のままであり、立方体心結晶格子に融合しないという利点を有する。さらに、本鋳鉄材料は、常磁性である。結晶格子は、予め体積が磁気的にわずかに伸ばされる。温度が増大すると磁気は減少し、内部長さ変化が増大する。しかし、結晶格子は予め伸びているので、外部長さ変化に関して外向きの長さ変化がないように両方の効果が打ち消し合う。これは、キュリー点より低温では鋳鉄材料の極めて小さな長さ変化しか起こらないことを意味する。
【0027】
従って、既存の鋳鉄材料は、その結晶構造が、定義された温度範囲を通過する定義されたプロセスに、所望の温度範囲における磁気歪みが長さおよび/または体積膨張に関して最適な効果を有するような方法で、適合している。
【0028】
本鋳鉄材料で製作された鋳造物、例えばプレスの上部ツールおよび下部ツールは、0~420℃の範囲で長さ膨張が変わらない。CFRPまたはGRP構成部品の製造にとって、このことは、樹脂が400℃未満までは硬化し、次にプレスツールの寸法安定性に起因して、妨げとなるような圧縮部分の歪み皆無で冷えることを可能にする。
【0029】
さらなる実施形態において、上述の鋳鉄材料は、約0.020%~0.150%、好ましくは約0.040%~0.100%、特に好ましくは約0.065~0.090%の範囲のマグネシウムの割合を有する。
【0030】
このことは、硫黄が束縛され、球状黒鉛の生成のための結晶子(独:Kristallkeime,英:crystal germs)が存在する、という利点を有する。
【0031】
さらなる実施形態において、上述の鋳鉄材料は、約1.0~5.0%、好ましくは約1.1~5.0%、特に好ましくは約1.15~5.0%、さらに特に好ましくは約1.3~5.0%の範囲のケイ素の割合を有する。
【0032】
このことは、好適な微細構造が実現可能であるという利点を有する。副次効果において、それによって良好な強度および靱性特性ならびに十分な酸化抵抗も実現され得る。
【0033】
さらなる実施形態において、上述の鋳鉄材料は、0.33%未満、特に0.22%未満、まさしく特に0.11%未満のニオブの割合を有することができる。
【0034】
確かに、先行技術は、温度制御されるプロセスに付される構成部品の良好な耐熱性を実現するための、従って、プレスツール、それらのライニングおよび/またはプレスダイの製造と関連して、プレスツールが例えばCFRP構成部品の製造および/または加工などの温度制御されるプレスプロセスと関連して用いられるのであれば基本的に肯定的な効果を有することができるニオブの提供を教示している。しかし、驚くべきことに、ニオブは、上記に記載の現象の比較重み付けに干渉し、かつ想定されたように予測された(長さまたは体積の膨張)曲線をより高い温度範囲にシフトさせる代わりに、ここに存在する合金の温度膨張挙動に少量でも否定的な影響を及ぼす可能性があることが見いだされた。
【0035】
一実施形態において、上述の鋳鉄材料は、該鋳鉄材料から得られ、成形ツールまたはプレスツールの製造および/またはライニングのために用いられることになる鋳造物のために用いられる。
【0036】
さらなる実施形態において、上述の鋳鉄材料は、プレスの中の上部プレスツールおよび下部プレスツールのための材料として用いられる鋳鉄材料のために用いられ、プレスツールは、連続または離散稼働において稼働する。
【0037】
上記製造および/または実施形態の鋳鉄材料は、好ましくは、鋳鉄材料がワークピースと直接接触するようにプレスツールをライニングするために用いられる。製造時に、対応する構成部品、例えばプレスツール、ライニングおよび/またはダイがこの方法で鋳鉄材料から一体として製造されることができると特に有利である。
【0038】
本発明による鋳鉄材料は、特に好ましくは、ガラス繊維プラスチック(GRP)または炭素繊維プラスチック(CFRP)で製作される製品の製造のための型として使用される肉厚の大型の鋳造物の製造に適している。本発明は、鋳造ワークピースの少なくとも1つの長さが3000mm、特に少なくとも5000mm、まさしく特に少なくとも8000mm、または少なくとも11500mmさえ上回り、および/または鋳造ワークピースが少なくとも0.5t、特に、少なくとも0.75t、まさしく特に少なくとも1.25tまたは少なくとも2t超、5t超または8t超の重さでさえある場合に大型の鋳造物を参照する。従って、本発明の一部として、100mm超、好ましくは200mm超、特に好ましくは300mm超の最大肉厚を有する大きな鋳造部品が製造されることができ、鋳造物は、強い力を吸収することができる。
【0039】
驚くべきことに、本発明による鋳鉄材料は、本鋳鉄材料から一体として製造される鋳造物が1.41を超え、少なくとも37.5%のNi割合の場合には1.51も超え、とりわけ驚くべきことに39.25%を超えるNi割合の場合には1.65さえ超える最大肉厚比を許容することを可能にさえし、前述の領域に進入しながら適応可能な体積変化挙動の利点を実質的に失うことがない。今までのところ36.0%のNi割合を超える鋳鉄材料の製造は、もはやいかなるその上の利点も提供せず、それどころか不必要に費用がかかるだけでなく著しい弱点も伴うと考えられてきたので、これは、なおのこと驚くべきことである。従って、先行技術においては今までのところ、とりわけ、36.0%を上回るNi割合は、基本的に鋳鉄材料構造の形成を妨げると考えられてきた。
【0040】
そのような、特にプレスツールの中で一体として製造される樹脂とガラス繊維マットまたは炭素繊維マットとで製作される製品は、プレスツール(またはそれらのライニングおよび/またはそれらのダイ)のこれらの特性を実現することによって、鋳造物または型の反りに起因する繊維破損と大部分は無縁である。型の反りは、製品中で亀裂を含む樹脂の変形が発生し得るので、欠陥製品において検出され得る。これらの変形は、互いに上下に配置された複数のガラス繊維マットまたは炭素繊維マット中のガラス繊維または炭素繊維の破損をもたらし得る。製品の肉厚および樹脂の分布は、それによって変動し得る。さらに、ガラス繊維マットまたは炭素繊維マットの配置によって、最終的な配置において閉じた、または覆われた中空空間を形成する構造体が生成することがあり、そのことが構造体の安定化の原因となり、振動を可能にし、他の構成部品との相互作用においてこれらを減衰する。従って、繊維が破損されず、従って力を吸収することができることが肝要である。成形プロセスまたはプレスプロセス時に、GRPまたはCFRPが埋め込まれている樹脂に対するプレスツールまたは成形ツールの寸法安定性は、0~420℃の温度範囲にわたる適合を確実にする。
【0041】
型またはプレスツールの反りはない。高い肉厚に起因して、樹脂の硬化は少し長くかかる。それでも、有効性を実現するために、硬化時間は過度に長くされるべきではなく、そのことは、温度増大によって肯定的に影響を受けることができる。しかし、このことは、プレスツールまたは成形ツールの長さ膨張がガラス繊維プラスチックまたは炭素繊維プラスチックの長さ膨張に正確に対応するかまたは非常に似ていることも意味する。
【0042】
CFRP材料で製作された非常に薄い熱可塑性プリプレグによる開いているプレスツールの被覆プロセスにおける変位も防止されることも有利である。CFRP材料で製作される大きな構成部品を製造するために、複数のそのような非常に薄い(例えば0.04mm~0.72mm)プリプレグが互いに上下に配置されなければならないので、プレスの終わりのプロセスの前または間の非常にわずかな変位でもプレスの閉じられた状態における圧力分布に関して強い不均一状態を発生させ、従って製造されるべき製品が適切に製造されることの妨げとなるのに十分である。
【0043】
本発明による鋳鉄材料を製造するために、材料、例えばスクラップ、粗鉄、ニッケル等が適当な炉の中で融解される。結晶子生成を刺激するために融解物に鉄-ケイ素接種剤が加えられる。これは、必要なら鋳造鉢の中にも加えられる。次に、鋳造温度が製造されるワークピースの肉厚に適応させられるべきであり、約1330℃~約1480℃以上の範囲にされ、製造されるワークピースの壁が薄いほど高くされるべきである。
【0044】
次に、調製された鋳型に融解物が投入され、鋳型の中空空間は、結果として得られる成形ツールまたはプレスツール、例えば上部ツール、下部ツール、ローラー、プレス用ライニングを示す。冷却後、鋳造物が取り出され、さらに処理されるかまたは使用に備えて準備される。
【0045】
通常、鋳造物は、次に内部応力を低下させるために約550℃~約650℃に再び加熱され、ゆっくり冷却されなければならない。鋳造物は、次に仕上げられ、成形ツールまたはプレスツールの中のライニングとして装着されることができ、ツールは、熱可塑性半製品、例えばオルガノシートまたは類似物の形状修正プロセスのために用いられることができる。驚くべきことに、上述のそのような熱処理は、本発明による鋳鉄材料合金の場合、特に、大きな鋳造部品の製造のための利用の場合、精密な構成部品幾何形状の製造のために先行技術において慣習的であるように必要ではない。
【0046】
鋳鉄材料の組成を決定するために発光分光法および蛍光X線が用いられてよい。球状黒鉛の形成を判定するために、金属組織研削片が生成され、すなわち材料試料が採取され、切削され、顕微鏡下で、例えば光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡を用いて像が生成される。球状黒鉛は像中により丸い形で表れ、ラメラ黒鉛は像中により細長い形で表れる。
【0047】
走査型電子顕微鏡は、X線の透過領域における材料試料の元素組成が研削によって少なくとも全体として決定されることができるように、蛍光X線を測定するための付属品を有することができる。これは、重量百分率が決定され、主張される重量百分率と比較されることを可能にする。
【0048】
球状黒鉛構造の有利な形成の存在は、音速測定を利用して非破壊的に境界が定められるかまたは確かめられ、例えば上記に記載の弱点を有する鋳鋼構造の存在と比較されることができる。
【0049】
鋳鉄材料から得られる鋳造物は、成形ツールまたはプレスツールの製造および/またはライニングのために非常に有利に用いられる。
【0050】
さらに、本鋳鉄材料は、上部プレスツールおよび下部プレスツールのための材料として非常に有利に用いられ、プレスツールは、連続または離散稼働において稼働する。
【0051】
本鋳鉄材料を用いることによって、作業表面を記述する少なくとも1つの長さが少なくとも2m、3m、5mまたは8mさえ超える長さである、特に、大きな作業表面を有するプレスのためのプレスツールが特に経済的に製造されることができ、その良好な減衰挙動とその極めて低い熱膨張挙動に起因して、これに素晴らしく適している。
【0052】
本鋳鉄材料がプレスツールまたはプレスダイの製造および/またはライニングのために用いられ、正確な化学組成がプレスされる材料、特にプレスされる複合材料のそれぞれの膨張挙動とこの目的で提供されるプロセス温度とに適合されれば、さらに特に有利である。
【0053】
最後に、鋳鉄材料を形成するために融解物中に存在する炭素の少なくとも一部が沈殿する鋳造プロセスにおいて成形ツールまたはプレスツールを製造および/またはライニングするための方法において、請求項1~11の何れか一項に記載の鋳鉄材料を得るために材料組成が用いられれば、本鋳鉄材料は、特に良好な減衰挙動と極めて低い熱膨張挙動とを示すので、大いに有利である。
【0054】
上記記載の発明の主題と関連して、本明細書によって開示内容も全体として本特許出願の一部となる同日出願の特許出願「プレスシステムおよびプレスシステムのためのプレスツール、ならびにワークピースを製造するための方法」が参照される。
【0055】
本発明は、有利な実施形態例に基づいてさらに記載される。
【0056】
第1の実施形態において、本鋳鉄材料を製造するために、1tの粗鉄、4tのスクラップ、3tのニッケルおよび200kgの炭素キャリアが8tの収容能力を有する電気誘導炉に加えられ、1500℃で融解される。融解後、融解物の表面に形成される不純物が除去され、材料分析および必要な場合は融解物組成の訂正のための試料が採取される。融解物は、炉から放出されるとき、球状黒鉛生成を確実にするためにマグネシウム含有プレアロイの添加で処理される。融解物は、次に調製された鋳型中に満たされる。鋳型は、成形ツールまたはプレスツールのライニングの形に対応する中空空間を有する。残留応力を低下させるための型の中の徐冷後、鋳造物は、型から空けられ、清浄される。機械的処理後、鋳造物は、成形ツールまたはプレスツールの中のライニングとして装着される。
【0057】
鋳造物からの材料試料の分析は、以下の材料組成の割合(重量百分率で)を生む結果となる。
【0058】
炭素 1.50%
ケイ素 1.50%
マンガン 0.20%
リン 0.025%
銅 0.10%
ニッケル 38.00%
クロム 0.10%
マグネシウム 0.065%
残りは鉄および不純物である。
【0059】
第2の実施形態において、1.5tの銑鉄、3.3tのスクラップ、3.2tのニッケルおよび150kgの炭素キャリアが8t融解物用の電気誘導炉に加えられる。
【0060】
鋳造物からの材料試料の分析は、以下の材料組成の割合(重量百分率で)を生む結果となる。
【0061】
炭素 1.70%
ケイ素 1.70%
マンガン 0.25%
リン 0.025%
銅 0.10%
ニッケル 40.00%
クロム 0.10%
マグネシウム 0.070%
残りは鉄および不純物である。
【0062】
第3の実施形態において、2tの銑鉄、2.6tのスクラップ、3.4tのニッケルおよび100kgの炭素キャリアが8t融解物用の電気誘導炉に加えられる。
【0063】
鋳造物からの材料試料の分析は、以下の材料組成の割合(重量百分率で)を生む結果となる。
【0064】
炭素 1.80%
ケイ素 1.70%
マンガン 0.25%
リン 0.025%
銅 0.10%
ニッケル 42.00%
クロム 0.10%
マグネシウム 0.080%
残りは鉄および不純物である。
【0065】
第4の実施形態において、3.2tの銑鉄、1.8tのスクラップ、3tのニッケル、280kgの炭素キャリアが8t融解物用の電気誘導炉に加えられる。
【0066】
鋳造物からの材料試料の分析は、以下の材料組成の割合(重量百分率で)を生む結果となる。
【0067】
炭素 2.55%
ケイ素 1.8%
マンガン 0.30%
リン 0.02%
銅 0.08%
ニッケル 37.75%
クロム 0.20%
マグネシウム 0.08%
残りは鉄および不純物である。
【0068】
第5の実施形態において、3tの銑鉄、1.9tのスクラップ、3.1tのニッケルおよび220kgの炭素キャリアが8t融解物用の電気誘導炉に加えられる。
【0069】
鋳造物からの材料試料の分析は、以下の材料組成の割合(重量百分率で)を生む結果となる。
【0070】
炭素 2.06%
ケイ素 1.65%
マンガン 0.25%
リン 0.02%
銅 0.10%
ニッケル 38.75%
クロム 0.15%
マグネシウム 0.10%
残りは鉄および不純物である。
【0071】
第6の実施形態において、3.2tの銑鉄、1.75tのスクラップ、3.05tのニッケルおよび350kgの炭素キャリアが8t融解物用の電気誘導炉に加えられる。
【0072】
鋳造物からの材料試料の分析は、以下の材料組成の割合(重量百分率で)を生む結果となる。
【0073】
炭素 3.00%
ケイ素 1.95%
マンガン 0.25%
リン 0.02%
銅 0.10%
ニッケル 38.05%
クロム 0.15%
マグネシウム 0.10%
残りは鉄および不純物である。
【0074】
第2~第6の実施形態、例えば第4~第6の実施形態も、好ましくは第1の実施形態のために記載された状況で製造される。8tの収容能力とは、製造可能な最大重量ではなくそれらの実施形態において採用された電気誘導炉の積載可能量を意味すると理解されることは言うまでもない。
【0075】
本発明は、提示および記載される実施形態例に限定されず、本発明の範囲から逸脱することなく独立請求項によって定義される保護される範囲内で妥当に適応および/または補足することができる。特に、適用事例に応じて様々なさらなる実施形態のために定格合金割合の複数の中間範囲が想定可能であり、有効である。特に、特別な実施形態のためのニッケル含有量は、本発明の教示から逸脱することなく狭い中間範囲を採ることができる。もちろん、記述される実施形態例も、他の総量に尺度が合わされてよい。
【0076】
本発明は、提示および記載される実施形態例に限定されず、本発明の意味の範囲内において同じ効果を有するすべての実施形態も含む。実施形態例は、組み合わされたすべての特徴に限定されるわけではなく、すべての他の部分的特徴とは切り離されたそれぞれの個々の部分的特徴も発明の意義を有することができることが明示的に強調される。さらに、本発明は、ここまでのところ請求項1において定義される特徴の組み合わせに限定されず、全体として開示されるすべての個々の特徴のうちの特定の特徴のあらゆる他の組み合わせによって定義されることもできる。このことは、実際的に請求項1のあらゆる個々の特徴が省略されるかまたは本出願の中の他の箇所で開示される少なくとも1つの個々の特徴によって置き換えられることを意味する。
【国際調査報告】