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特表2024-509097集束超音波の放出のための治療用超音波トランスデューサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-29
(54)【発明の名称】集束超音波の放出のための治療用超音波トランスデューサ
(51)【国際特許分類】
   A61N 7/02 20060101AFI20240221BHJP
   H04R 1/34 20060101ALI20240221BHJP
   H04R 1/44 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
A61N7/02
H04R1/34 330Z
H04R1/44 330K
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023551702
(86)(22)【出願日】2022-02-25
(85)【翻訳文提出日】2023-10-11
(86)【国際出願番号】 EP2022054753
(87)【国際公開番号】W WO2022180198
(87)【国際公開日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】21305235.0
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】523165352
【氏名又は名称】ユニヴェルスィテ クラウド ベルナール リヨン 1
(71)【出願人】
【識別番号】504217063
【氏名又は名称】サントル レオン ベラール
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】メロ・デ・リマ,ダヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】カンブロネロ,ソフィー
【テーマコード(参考)】
4C160
5D019
【Fターム(参考)】
4C160EE04
4C160EE19
4C160JJ33
5D019AA01
5D019BB17
5D019FF04
5D019GG11
(57)【要約】
本開示は、高密度焦点式超音波(HIFU)技術などの治療用超音波技術のための超音波トランスデューサに関する。課題は、周囲組織を破壊することなく必要な圧力を組織の標的ボリューム内に印加するために、必要な圧力を生物学的組織の十分深くまで十分な精度で印加することができる超音波トランスデューサを設計することである。したがって、独立してアクティブ化することがいくつかの超音波放出ゾーンを有するトランスデューサを使用することが提案される。これは、トランスデューサが、必要な圧力を、放出軸と整合しない標的位置に印加することを可能にする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース部分と、ベース部分の表面に位置する複数の超音波エミッタ要素とを含む超音波トランスデューサ(6;30;40;50)であって、
ベース部分が、トランスデューサの放出軸に対して回転対称を示し、
前記表面がいくつかの超音波放出ゾーン(32、34、36;52/54、56/58、60、62、64、66)に分割されており、
超音波放出ゾーンのうち、第一の中央超音波放出ゾーンと呼ばれる少なくとも一つが、直線からなる形を有し、前記表面の中央に配設されており、
中央超音波放出ゾーンの表面(T)がベース部分の全表面の25%~50%で構成されている、超音波トランスデューサ。
【請求項2】
超音波トランスデューサ(50)の第二の超音波放出ゾーンが、直線からなる形を有し、前記表面の中央に配設されており、
第一及び第二の中央超音波放出ゾーン(52/54、56/58)が、十字形を形成するように互いに対して配設されている、請求項1記載の超音波トランスデューサ。
【請求項3】
超音波トランスデューサ(50)の第二の超音波放出ゾーンが、直線からなる形を有し、前記表面の中央に配設されており、
第一及び第二の中央超音波放出ゾーン(52/54、56/58)が、第一及び第二の中央超音波ゾーンの間の任意の角度で互いに交差するように配設されている、請求項1記載の超音波トランスデューサ。
【請求項4】
第一及び第二の中央超音波放出ゾーン(52/54、56/58)を互いから独立してアクティブ化することができるように構成されている、請求項2記載の超音波トランスデューサ。
【請求項5】
第一の中央ゾーン32又は52及び54又は56及び58が異なる幅及び/又は異なる長さを有するように構成されている、請求項2記載の超音波トランスデューサ。
【請求項6】
二つの中央超音波放出ゾーンそれぞれが、独立してアクティブ化することができる二つの部分に分割されることができる、請求項2~5のいずれか1項記載の超音波トランスデューサ。
【請求項7】
超音波トランスデューサの他の超音波放出ゾーンが中央超音波放出ゾーンから独立してアクティブ化されることができるように構成されている、請求項1~6のいずれか1項記載の超音波トランスデューサ。
【請求項8】
超音波トランスデューサの各超音波放出ゾーンが他の超音波放出ゾーンから独立してアクティブ化されることができるように構成されている、請求項1~7のいずれか1項記載の超音波トランスデューサ。
【請求項9】
ベース部分が、10mm~300mmで構成された、好ましくは90mm~130mmで構成された直径を有する、請求項1~8のいずれか1項記載の超音波トランスデューサ。
【請求項10】
中央超音波放出ゾーンの表面(T)がベース部分の全表面の33%に等しい、請求項1~9のいずれか1項記載の超音波トランスデューサ。
【請求項11】
ベース部分が凹形、優先的には円錐台形又はトロイダル形を有する、請求項1~10のいずれか1項記載の超音波トランスデューサ。
【請求項12】
高密度焦点式超音波(HIFU)トランスデューサである、請求項1~11のいずれか1項記載の超音波トランスデューサ。
【請求項13】
圧電材料の層(72)と、圧電材料の層と接触状態に配設された少なくとも一つの導電性電極層とを含み、
電極層が複数の導体パッド(74)に分割されており、各導体パッドと圧電層との結合が超音波エミッタ要素を形成し、
電子トランスデューサの各放出ゾーンが前記導体パッドの一つ以上を含む、請求項1~12のいずれか1項記載の超音波トランスデューサ。
【請求項14】
超音波トランスデューサ(6)と、超音波トランスデューサに接続された制御ユニット(8)とを含むデバイスであって、
超音波トランスデューサが、請求項1~13のいずれか1項記載の超音波トランスデューサであり、前記制御ユニットが、超音波エミッタ要素を駆動するための少なくとも一つの信号発生器を含み、好ましくは、信号発生器と超音波エミッタ要素との間に整合回路がある、デバイス。
【請求項15】
制御ユニット(8)が、超音波トランスデューサの各超音波放出ゾーン(32、34、36;52、54、56、58、60、62、64、66)を他の超音波放出ゾーンから独立してアクティブ化するように構成されている、請求項14記載のデバイス。
【請求項16】
少なくとも一つの集束超音波ビームを生成するように構成された治療用超音波デバイスである、請求項14又は15記載のデバイス。
【請求項17】
請求項14~16のいずれか1項記載のデバイスをヒト患者に対して使用することを含む治療法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は超音波トランスデューサに関する。
【背景技術】
【0002】
高密度焦点式超音波(HIFU)技術などの治療用超音波技術が、生物学的組織又は生体中の腫瘍などの標的を破壊するための非侵襲的方法として、幅広い範囲の用途でますます使用されている。
【0003】
一般に、一つ以上の超音波トランスデューサを使用して、生物学的組織又は生体内に位置する標的に向けられる超音波ビームを生成する。超音波ビームは生物学的組織内の特定の位置に機械的圧力の波を生成し、その波が、局所的な温度上昇が生じさせ、標的の破壊をもたらす。
【0004】
ある課題は、周囲組織を破壊することなく必要な圧力を組織の標的ボリューム内に印加することができるよう、必要な圧力を生物学的組織の十分深くまで十分な精度で印加することができる超音波トランスデューサを設計することである。
【0005】
凹形の湾曲した放出面を含む、その放出面がトロイダルであり、異なる集束性を有する二つのセクタに分割されている、超音波プローブを使用することが提案されている。
【0006】
この手法の欠点は、一部の用途には満足なものであるが、圧力の大部分がなおもトランスデューサの放出軸に沿って印加されることである。したがって、トランスデューサは、放出軸(又は音響軸)と整合しない標的位置には最大圧力を印加することができない。これは、場合によっては、トランスデューサを物理的に移動させなければならないことを意味する。その後、超音波ビームを再集束させなければならないことがあり、それが時間を消費し、誤差を招きやすい。場合によっては、放出軸が標的位置と整合するようにトランスデューサを位置決めすることが不可能であることもある。
【0007】
加えて、音響軸を逸脱する複雑なパターンを有する組織の区域の処置が難題を提する。実際、広い意味での集束超音波による複雑な構造の処置は、数多く要素(及び関連する電子機器)及び長い処理時間を要する。トロイダルトランスデューサによって集束させた超音波による処置の場合、圧力は音響軸に沿って最大のままであり、これは、音響軸に対して処置区域を広げること、及び回転対称性を有しない複雑な構造を処置することが困難であることを意味する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、前述の欠点の少なくともいくつかを克服することができる超音波トランスデューサが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明の目的は、ベース部分と、ベース部分の表面に位置する複数の超音波エミッタ要素とを含む超音波トランスデューサであって、ベース部分が、トランスデューサの放出軸に対して回転対称を示し、前記表面がいくつかの超音波放出ゾーンに分割されており、超音波放出ゾーンのうち、第一の中央超音波放出ゾーンと呼ばれる少なくとも一つが、直線からなる形を有し、前記表面の中央に配設されている、超音波トランスデューサを提供することである。中央超音波放出ゾーンの表面はベース部分の全表面の25%~50%で構成されている。
【0010】
このような手法は、音響軸に対する圧力を最小化することによって音響軸から離れたところで圧力を最大化し、ひいては、音響軸に沿って二次病変のリスクを最小化することによって標的区域の最適な処置を得ることを可能にする。この最適化は、トランスデューサの、直線からなる表面と全表面との間の比に関連する。
【0011】
好都合な任意選択の態様にしたがって、本発明の代替実施形態は、以下の特徴の一つ以上を、単独で、又はすべての可能な技術的組み合わせにしたがって、含むことができる。
―超音波トランスデューサの第二の超音波放出ゾーンは、直線からなる形を有し、前記表面の中央に配設されており、第一及び第二の中央超音波放出ゾーンは、十字形を形成するように互いに対して配設されている。
―超音波トランスデューサの第二の超音波放出ゾーンは、直線からなる形を有し、前記表面の中央に配設されており、第一及び第二の中央超音波放出ゾーンは、第一及び第二の中央超音波ゾーンの間の任意の角度で互いに交差するように配設されている。
―二つの中央超音波放出ゾーンそれぞれは、独立してアクティブ化することができる二つの部分に分割されることができる。
―超音波トランスデューサは、第一及び第二の中央超音波放出ゾーンを互いから独立してアクティブ化することができるように構成されている。
―超音波トランスデューサは、超音波トランスデューサの他の超音波放出ゾーンを中央超音波放出ゾーンから独立してアクティブ化することができるように構成されている。
―超音波トランスデューサは、超音波トランスデューサの各超音波放出ゾーンを他の超音波放出ゾーンから独立してアクティブ化することができるように構成されている。
―ベース部分は、10mm~300mmで構成された、好ましくは90mm~130mmで構成された直径を有する。
―中央超音波放出ゾーンの表面は、ベース部分の全表面の25%~50%で構成され、理想的には33%に等しい。
―ベース部分は凹形、優先的には円錐台形又はトロイダル形を有する。
―超音波トランスデューサは高密度焦点式超音波(HIFU)トランスデューサである。
―超音波トランスデューサは、圧電材料の層と、圧電材料の層と接触状態に配設された少なくとも一つの導電性電極層とを含み、電極層は複数の導体パッドに分割されており、各導体パッドと圧電層との結合が超音波エミッタ要素を形成し、電子トランスデューサの各放出ゾーンが前記導体パッドの一つ以上を含む。
【0012】
もう一つの態様にしたがって、本発明は、超音波トランスデューサと、超音波トランスデューサに接続された制御ユニットとを含む、超音波トランスデューサが、前記請求項のいずれか1項記載の超音波トランスデューサであり、前記制御ユニットが、超音波エミッタ要素を駆動するための少なくとも一つの信号発生器を含み、好ましくは、信号発生器と超音波エミッタ要素との間に整合回路がある、デバイスに関する。
【0013】
もう一つの態様にしたがって、制御ユニットは、超音波トランスデューサの各超音波放出ゾーンを他の超音波放出ゾーンから独立してアクティブ化するように構成されている。
【0014】
もう一つの態様にしたがって、デバイスは、少なくとも一つの集束超音波ビームを生成するように構成された治療用超音波デバイスである。
【0015】
もう一つの態様にしたがって、本発明は、上記デバイスをヒト患者に対して使用する治療法に関する。
【0016】
本発明は、例としてのみ提供される、添付図面を参照しながら進められる以下の詳細な説明を読むことにより、理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態による超音波トランスデューサを含む超音波システムの模式図である。
図2図1の超音波トランスデューサのいくつかの実施形態を示す。
図3】いくつかの超音波トランスデューサによって印加される圧力における相対利得の比較を、前記トランスデューサの一つの直線からなる放出ゾーンの表面と全表面との間の比の関数として示すグラフを示す。
図4】いくつかの例示的な超音波トランスデューサによって印加される圧力場及び対応する熱線量の比較を示す。
図5図1の超音波トランスデューサを三次元図で模式的に示す。
図6】いくつかの超音波トランスデューサによって印加される圧力における相対利得の比較を、前記トランスデューサの一つの直線からなる放出ゾーンの表面と全表面との間の比の関数として示すグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
いくつかの実施形態の詳細な説明
図1には、一つの超音波トランスデューサ6を含む超音波放出デバイス4を含む超音波デバイス2の実施形態が示されている。
【0019】
図示する例において、超音波デバイス2はまた、制御ユニット8及びユーザ制御インタフェース10を含む。
【0020】
制御ユニット8は、その機能の支援において様々な動作を実行するための適当な電子回路を含む。たとえば、制御ユニット8は、汎用プロセッサ、たとえばマイクロプロセッサもしくはマイクロコントローラ又は特定目的プロセッサ、たとえばデジタルシグナルプロセッサ(DSP)もしくはグラフィックプロセッサユニット(GPU)又は特定用途向け集積回路(ASIC)又はフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)を含むことができる。加えて、アナログ回路を使用して同じ機能の多くを実行することもできる。
【0021】
多くの実施形態において、制御ユニット8は、以下に説明するように、超音波トランスデューサ6の超音波エミッタ要素を駆動するための少なくとも一つの信号発生器を含む。
【0022】
実際には、制御ユニット8は、ケーブルなどの一つ以上電気コネクタによってトランスデューサ6に接続される。
【0023】
ユーザ制御インタフェース10は、ヒューマンマシンインタフェース、たとえばディスプレイスクリーン及び/又はデータ入力手段、たとえばキーボードもしくはタッチ感応式スクリーンもしくはポインタもしくは等価のデバイス又はそれらの組み合わせを含むことができる。
【0024】
超音波デバイス2は、たとえば、生物学的組織などのホスト物質20中の標的を破壊するために超音波を印加するように構成されている。
【0025】
たとえば、超音波デバイス2は、ホスト物質20の標的領域に向けられる少なくとも一つの集束超音波ビームを生成するように構成されている。
【0026】
これが、ホスト物質20中に機械的振動を発生させ、転じて、ホスト物質20内で制御された局所的温度上昇を生じさせ、これを使用して腫瘍などの標的を破壊することができる。以下、これを「熱線量」と呼ぶ。
【0027】
いくつかの実施形態において、ホスト物質20は、必ずしも生物学的組織である必要はなく、たとえば、食品又はゲルなどの軟らかい物質であってもよい。
【0028】
超音波デバイス2は医療デバイス又は治療デバイスであることができる。
【0029】
たとえば、超音波トランスデューサ6は高密度焦点式超音波(HIFU)トランスデューサである。
【0030】
多くの実施形態において、超音波放出デバイス4は、超音波トランスデューサ6を取り囲むケーシングを含み、また、制御ユニット8に接続されたケーブルにトランスデューサ6を接続するためのコネクタを含むこともできる。加えて、トランスデューサ6と制御ユニット8との間に整合回路(インピーダンス整合回路など)を使用して、最小限の電気損失で電気信号をトランスデューサ6に送信することもできる。
【0031】
図示する実施形態において、制御ユニット8は、超音波デバイス4とは別個のデバイスであるように示されている。しかし、いくつかの実施形態において、制御ユニット8はデバイス4のケーシング内に配置されてもよい。
【0032】
いくつかの実施形態においては、制御ユニット8をインタフェース10と組み合わせて単一のデバイスにすることもできる。
【0033】
超音波トランスデューサ6の実施形態が図2に示されている。
【0034】
大部分の実施形態において、超音波トランスデューサは、ベース部分と、ベース部分の表面(いわゆる「放出面」)に位置する複数の超音波エミッタ要素とを含む。この例において、ベース部分は円形を有する。
【0035】
好ましくは、ベース部分は、トランスデューサ6の放出軸を中心とする凹形を有する。
【0036】
たとえば、ベース部分は、円錐台形(たとえば切頭円錐)、トロイダル形(たとえば切頭トーラス)、円錐形又は鐘様又は湾曲円盤形を有することができる。ベース部分は、放出軸に対して回転対称を示すように形成されてもよい。換言するならば、ベース部分は、トランスデューサの放出軸に対して回転対称を示す。
【0037】
ベース部分の凹形の例を、たとえば欧州特許公開第2035091B1号公報に見ることができる。その場合、ベース部分は切頭トロイダル形を有する(より正確には、ベース部分は、スピンドルトーラスの内包絡面の一部分上に構築されている)。トーラスは、回転軸を中心に、その回転軸から横方向に片寄っている(すなわち、その回転軸に対して垂直な方向に片寄っている)円を回転させることによって数学的に構築することができる。回転軸と円の中心との間の距離が円の半径よりも小さいならば、トーラスはスピンドルトーラスである。回転軸はトランスデューサの放出軸に一致する。スピンドルトーラスの内包絡面の一部分上に構築された切頭トロイダル形の構築ルールの例を、学術論文Melodima et al.、Applied Physics Letters 2009; 91(19):193901に見ることができる。
【0038】
この例は限定的ではなく、他の形状が可能である。
【0039】
たとえば、トランスデューサ6の直径は、1cm~30cmで構成されることができ、好ましくは12cmに等しい。この例は限定的ではない。
【0040】
好ましい実施形態にしたがって、表面はいくつかの超音波放出ゾーン(又は放出領域)に分割されている。
【0041】
たとえば、超音波放出ゾーンは、トランスデューサ6の他の領域から独立して超音波を放出することができる圧電材料の部分を含む。
【0042】
第一の中央超音波放出ゾーンと呼ばれる超音波放出ゾーンの少なくとも一つは、直線からなる形を有し、前記表面の中央に配設されている。直線からなる形は、長方形であってもよいし、細長いストリップ形であってもよい。たとえば、超音波放出ゾーンはバンド形であってもよい。
【0043】
好ましくは、各直線からなる超音波放出ゾーン(たとえばバンド)は、トランスデューサの放出軸の両側にまたがり、放出軸は、トランスデューサの中央位置(たとえば、図2及び5におけるように、ベース部分の中央位置)に配設されている。
【0044】
いくつかの実施形態において、図2及び5に示すように、中央超音波放出ゾーンを形成する各バンド又は直線からなる形は中央開口部38よりも広い。
【0045】
いくつかの他の実施形態において、中央超音波放出ゾーンを形成する各バンド又は直線からなる形は中央開口部38よりも狭くてもよい。
【0046】
この放出ゾーンは、好都合には、二つの部分、好ましくは二つの等しい部分に分割されることができる。
【0047】
図2は、超音波トランスデューサ6のいくつかの可能な実施形態を示す。
【0048】
図2には、例示的なトランスデューサ6が、上から見た立面図に相当する二次元図で示されている。図5は、等角斜視図(すなわち三次元図)で見たトランスデューサ6の例の二つの図(挿入画A及びB)を表す。
【0049】
したがって、トランスデューサ6は三次元物体であり、便宜上及び説明目的にのみ、図2では二次元で示されていることが理解されよう。
【0050】
第一の例において、図2の挿入画(a)に見てとれるように、超音波トランスデューサ30は、二つの等しい部分に分割された、ストリップ32の形の中央超音波放出ゾーンを含む。
【0051】
たとえば、超音波トランスデューサ30はまた、平行な直線の切り取り線31及び33によって中央ゾーン32から切り離された他の放出ゾーン34、36を含む。
【0052】
多くの実施形態において、トランスデューサは、超音波イメージングプローブ又はカメラ又は任意の測定デバイスを挿入するために使用することができる中央開口部38を含む。
【0053】
第二の例において、図2の挿入画(b)に見てとれるように、超音波トランスデューサ40は、垂直方向に対して回転しているが、他の点では上記トランスデューサ30と同一である、又は類似する中央超音波放出ゾーン32を含む。
【0054】
第三の例において、図2の挿入画(c)及び図5に見てとれるように、超音波トランスデューサ50中、第二の超音波放出ゾーンは、直線からなる形を有し、前記表面の中央に配設されている。
【0055】
たとえば、「中央に配設」とは、直線からなる超音波放出ゾーンがトランスデューサの放出軸の両側にまたがり、放出軸がトランスデューサの中央位置(たとえば、ベース部分の中央位置)に配設されていることを意味する。
【0056】
加えて、第一及び第二の中央超音波放出ゾーン(52+54、56+58)は、十字形を形成するように互いに対して配設されている。換言するならば、第一及び第二のゾーンは互いに対して垂直に配設されている。このトランスデューサ50は、他の点では上記トランスデューサ30と同一である、又は類似している。
【0057】
好ましくは、第一及び第二のゾーンは、ベース部分の直径全体に、たとえばベース部分の一方の縁から反対側の縁まで延びている。したがって、多くの実施形態において、第一及び第二のゾーンは、円又は円盤内に内接する十字の外観を有する。
【0058】
他の実施形態において、第一及び第二の中央超音波放出ゾーンは、任意の角度で互いに交差するように配設される(すなわち、第一及び第二のゾーンは必ずしも互いに対して垂直に配設されない)。
【0059】
好ましくは、第一及び第二の中央超音波放出ゾーンは、それぞれの幾何学的中心で互いに交差する。
【0060】
図示する例において、第一及び第二のゾーンそれぞれは二つのサブゾーン(それぞれ52、54及び56、58)に分割されているが、そうである必要はなく、他の実施形態において、第一及び第二ゾーンそれぞれは、上記トランスデューサ30又は40におけるように、又は中央開口部38が除かれた場合のように、連続的に延びることもできる。
【0061】
より正確には、この例において、トランスデューサ50は八つのセクタに分割され、これらのセクタの二つが第一の中央ゾーンを形成し、他の二つが第二の中央ゾーンを形成し、残りのセクタそれぞれが残りのゾーン60、62、64及び66の一つを形成している。
【0062】
実際には、例示的なトランスデューサ6の切り欠き図を模式的に表す図2の挿入画(d)によって示すように、超音波トランスデューサ6は、圧電材料の層72と、圧電材料の層と接触状態に配設された少なくとも一つの導電性電極層とを含むことができる。
【0063】
電極層は、たとえばエッチングによって、又は機械鋸もしくは任意の適切な手段で電極層を切断することによって、複数の導電性導体パッド74へと分割される。
【0064】
したがって、先に規定した超音波エミッタ要素は、導体パッド74と圧電層72との結合によって形成される。圧電層72の対応する領域を、導体パッド74を介して適当な電気信号を印加することによって振動させることができる。電子トランスデューサの各放出ゾーン32、34、36;52、54、56、58、60、62、64、66が前記導体パッド74の一つ以上を含む。
【0065】
図示する例においては、圧電材料層72の片面のみが導電性電極層によって覆われるように示されている。しかし、実際には、導電性電極層は、圧電層72の上面と下面の両方に配設されることができ、導電性導体パッド74は、前記導電性電極層のそれぞれ上に形成されることができる。
【0066】
好ましくは、超音波トランスデューサ6は、第一及び第二の中央超音波放出ゾーン52+54及び56+58を互いから独立してアクティブ化することができるように構成されている。
【0067】
いくつかのさらなる実施形態において、超音波トランスデューサ6は、超音波トランスデューサの他の超音波放出ゾーン60、62、64、66を中央超音波放出ゾーンから独立してアクティブ化することができるように構成されている。
【0068】
なおさらなるいくつかの実施形態において、超音波トランスデューサ6は、各超音波放出ゾーン32、34、36;52、54、56、58、60、62、64、66を他の超音波放出ゾーンから独立してアクティブ化することができるように構成されている。
【0069】
たとえば、ゾーン60、62、64及び66は、互いから、及び中央ゾーン52/54及び56/58から独立してアクティブ化することができる。いくつかの実施形態において、ゾーン60、62、64及び66は、アクティブ化されないままであってもよい。すなわち、それらは超音波を放出しない。
【0070】
いくつかの実施形態において、ゾーンは、様々な制御信号(励起信号、すなわち、圧電材料を特定の振幅及び位相の所与の周波数で振動させるように設計された電気信号)を提供することによって互いから独立して制御することができる。
【0071】
たとえば、各超音波放出ゾーン32、34、36又は52/54、56/58及び任意選択で60、62、64、66は、別の放出ゾーン8から受信される制御信号とは異なる制御信号を受信するために制御ユニット8に結合される。
【0072】
たとえば、ゾーンのすべての放出要素を同時に駆動するために、第一の励起信号が中央ゾーン32、52/54に供給される。たとえば、励起信号は、前記中央ゾーン内に位置するすべての電気導体パッド74に印加される。
【0073】
適用可能な場合、第二の励起信号が同様なやり方で第二の中央ゾーン56/58に提供される。
【0074】
一つ以上のさらなる励起信号が他のゾーン60、62、64及び66の一つ以上に提供されてもよい。
【0075】
したがって、好ましい実施形態において、トランスデューサ50は、少なくとも三つの異なるアクティブ化モード:第一の中央放出ゾーンのみがアクティブ化されるモード、第一及び第二の中央放出ゾーン両方がアクティブ化されるモード及びすべての放出ゾーンがアクティブ化されるモード、で作動させることができる。
【0076】
先に説明したように、制御ユニット8は、超音波エミッタ要素を駆動するための少なくとも一つの信号発生器、好ましくはいくつかの信号発生器を含む。
【0077】
いくつかの実施形態において、信号発生器は各ゾーンに対応することができる。いくつかの他の実施形態において、信号発生器を使用して、適切な信号処理回路を援用しながら、いくつかのゾーンを独立して駆動することができる。
【0078】
たとえば、いくつかの実施形態において、制御ユニット8は、複数の制御信号を生成するために、32チャンネル増幅器などのマルチチャンネル増幅器を含む。制御ユニット8はまた、前記複数の制御信号を対応する〇〇にアドレス指定するためのスイッチングデバイスを含むこともできる。
【0079】
好ましい実施形態において、図2の挿入画(c)に「T」と記される中央超音波放出ゾーン32又は52/54又は56/58の表面は、トランスデューサの表面(すなわち、ベース部分の表面)の15%~70%で構成され、好ましくは、ベース部分の表面の25%~50%で構成される。
【0080】
好ましい実施形態において、中央超音波放出ゾーンの表面Tは、ベース部分の表面の30%~35%で構成され、最も好ましくは、ベース部分の表面の33%に等しい。
【0081】
好ましくは、表面Tはベース部分の表面の1/3に等しい。
【0082】
中央ゾーン32、52/54、56/58の形状、寸法及び相対的な空間配設が、放出軸に対して横方向にデポジットされる熱線量の増加を可能にすることがわかった。これは、中央ゾーン(代替的に32又は52/54又は52/54及び56/58)のみがアクティブ化され、トランスデューサの残りの部分がアクティブ化されない場合に特に当てはまる。
【0083】
好ましくは、第一及び第二の中央ゾーン52/54及び56/58の寸法及び形状は類似する、又は同一である。しかし、いくつかの実施形態において、第一の中央ゾーン32又は52及び54又は56及び58は異なる幅を有することもできる。
【0084】
そして、いくつかの実施形態において、第一の中央ゾーン32又は52及び54又は56及び58は異なる長さを有することができる。たとえば、各第一の中央ゾーンは、中央ゾーンの他のスライスから独立してアクティブ化することができる複数のスライスに分割することができる。したがって、各第一の中央ゾーンのアクティブ化長を増減することが可能である。
【0085】
図3中、グラフ80は、放出軸に沿ってデポジットされた圧力(グラフ82)の相対利得(相対値として表す)を、放出軸から離れた標的物質20の領域にデポジットされた圧力(グラフ84)と比較して、相対表面S(ベース部分の全表面に対する表面Tの比)の関数として表示する。この例においては、トランスデューサ50の中央ゾーン52/54及び56/58のの一つだけがアクティブ化された。
【0086】
この例においては、トランスデューサの表面の15%~70%で構成された、好ましくは、トランスデューサの表面の25%~50%で構成された表面Tが、放出軸に沿って印加される圧力の量を最小化しながらも、軸外れ圧力の量を最大化することが見てとれる。
【0087】
データ点90、92及び94は、二つの異なるトランスデューサ表面:100%(ESモード)及び33%(垂直モード)の場合の個々の実験測定値を示す。すべての場合において、焦点は音響軸から9mmシフトしていた。実験点90、92及び94は、理論値(グラフ80及び82)と、対応する測定値との間の絶対差(2%~15%である)を示す。
【0088】
たとえば、トランスデューサの形状を規定する場合、ESモードでは、処置ゾーンをシフトさせながら一つの径方向スライシングを適用することにより、トランスデューサは二つの等しい放出面(表面T=100%)へと切り分けられる。圧力は、処置ゾーンではなく軸上で最大になり、その結果、アブレーションを受けるゾーンは、幅広いというよりも長くなる。垂直モードでは、バンドを得るために径方向スライシングが適用される(垂直モード)。その結果、圧力は、焦点をシフトさせる間、放出軸上ではなく処置ゾーンで最大値に達する。
【0089】
図4には、トランスデューサ50の四つの異なる構成の場合の、ホスト物質20の領域における圧力場(各画像の左半分)及び印加される熱線量(各画像の右半分)の大きさ及び空間分布の四つの画像を示す数値シミュレーションデータの比較が示されている。
【0090】
第一の構成(左上図)においては、トランスデューサのすべての放出ゾーンが同時にアクティブ化されている。その結果、熱線量の大部分は、放出軸に沿って、又は放出軸の近くで印加される。中央ゾーンの表面Tはトランスデューサの表面の100%に等しい。
【0091】
第二の構成(右上図)においては、トランスデューサ50の中央ゾーン52/54又は56/58の一つがアクティブ化されている。他のゾーンはアクティブ化されず、超音波を放出しない。中央ゾーンの表面Tはトランスデューサの表面の83%に等しい。
【0092】
第三の構成(左下図)においては、トランスデューサ50の中央ゾーン52/54又は56/58の一つがアクティブ化される。他のゾーンはアクティブ化されず、超音波を放出しない。中央ゾーンの表面Tはトランスデューサの表面の33%に等しい。
【0093】
第四の構成(右下図)においては、トランスデューサ50の中央ゾーン52/54又は56/58の〇〇がアクティブ化される。他のゾーンはアクティブ化されず、超音波を放出しない。中央ゾーンの表面Tはトランスデューサの表面の10%に等しい。
【0094】
中央ゾーン52/54又は56/58のみがアクティブ化されない限り、熱線量の大部分が放出軸に沿って、又は放出軸の近くで印加されることが見てとれる。
【0095】
そのうえ、中央ゾーンの表面Tがトランスデューサの全表面の33%に等しい場合、効果はより顕著になる。
【0096】
表面Tが減少すると(たとえば、トランスデューサの全表面の10%以下になると)、印加される圧力及び熱線量は軸外れで減少し、トランスデューサと焦点ゾーンとの間の経路に沿って均一になる。これは、処置のために圧力を高めることを要求し、ひいては、非標的領域における潜在的な副作用を招くおそれがある。当然の結果として、表面Tがトランスデューサの全表面により近づくと(たとえば83%)、印加される圧力、ひいては熱線量は、軸外れで減少し、音響軸に沿って増大し、望ましい効果を制限する。
【0097】
本発明の利点は、トランスデューサ6が、トランスデューサを移動させる、又は再配置すことなく、放出軸と整合しないホスト物質20の標的位置に必要な圧力を印加することができることである。したがって、異なる放出ゾーンをアクティブ化するだけで、ホスト物質20に対してトランスデューサを移動させる、又は再配置することなく、また、より重要なことに、多数の要素(及び関連する電子機器)及び長い処理時間を要することなく、ホスト物質20内の増大したボリュームを標的化することが可能である。
【0098】
図6中、グラフ100は、二つの異なるトランスデューサ6の場合(曲線102及び104)の、表面Tの異なる値に対する圧力利得(トランスデューサの表面に対する比として表す)の発展を示す数値シミュレーションに基づく比較例を示す。
【0099】
この例において、第一のトランスデューサ及び第二のトランスデューサはいずれも、寸法は異なるものの、図2の挿入画(c)及び図5に示すトランスデューサ50に相当する。いずれの場合も、トランスデューサのベース部分は円錐台であり、スピンドルトーラスの内包絡面の一部分上に構築されている。
【0100】
第一のトランスデューサに関して得られた結果(曲線102)は、図6に提示した結果(曲線84)と同じある。トランスデューサの寸法及び他の特徴を以下の表にまとめる。
【0101】
【表1】
【0102】
外径及び内径はベース部分の寸法を指す。図5に見てとれるように、内径はベース部分の下端における直径に相当し、外径はベース部分の上端における直径に対応し、ベース部分は、下端から上端に向けてテーパ状に開いている。
【0103】
曲率半径は、ベース部分の壁の湾曲に関するものである。
【0104】
データは、トランスデューサ表面の25%~50%で構成された表面Tを使用すると、特に、33%の表面比Tの値の場合、改善された圧力利得性能を達成することができることを示す。
【0105】
他にも多くの実施形態が可能である。
【0106】
任意選択の実施形態において、デバイス2は、治療法の一部としてヒト患者に対して使用することができる。
【0107】
特許請求の範囲内で、上記実施形態及び代替形態を互いに組み合わせて、本発明の新たな実施形態を創出することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】