(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-29
(54)【発明の名称】浮力補助堰
(51)【国際特許分類】
E02B 7/50 20060101AFI20240221BHJP
【FI】
E02B7/50
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023551704
(86)(22)【出願日】2022-02-08
(85)【翻訳文提出日】2023-10-13
(86)【国際出願番号】 GB2022050337
(87)【国際公開番号】W WO2022180356
(87)【国際公開日】2022-09-01
(32)【優先日】2021-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523291329
【氏名又は名称】ヴァーダーグ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ロバーツ,ピーター
(57)【要約】
水不透過性の柔軟な膜体と、浮力部材と、テザーと、を備え、膜体は、使用時において、下縁部分と上縁部分を備え、下縁部分は水域の底に対して固定されており、膜体および浮力部材は上縁部分において互いに付着されており、テザーは、上縁部分において浮力部材および/または膜体に付着されている第1の端部部分と、錨体に付着されている第2の端部部分と、を備える、堰。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不透過性の柔軟な膜体と、
浮力部材と、
テザーと、を備え、
前記膜体は、使用時において、下縁部分と上縁部分を備え、
前記下縁部分は、水域の底に対して固定されており、
前記膜体および前記浮力部材は、前記上縁部分において互いに付着されており、
前記テザーは、前記上縁部分において前記浮力部材および/または前記膜体と付着されている第1の端部部分と、錨体に付着されている第2の端部部分と、を備える、堰。
【請求項2】
前記浮力部材は、前記浮力部材の内部へ水を導入可能なマニホールドを備える、請求項1に記載の堰。
【請求項3】
前記マニホールドは、ポンプに接続されている、請求項2に記載の堰。
【請求項4】
前記水域の前記底で前記浮力部材の下降位置を受けるための溝を更に備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の堰。
【請求項5】
前記膜体の前記下縁部分に浸出バリアが設けられており、
前記浸出バリアは、前記水域の前記底に貫入している、請求項1~4のいずれか1項に記載の堰。
【請求項6】
前記浸出バリアは、前記水域の前記底の地盤内へと実質的に垂直に延びている、請求項5に記載の堰。
【請求項7】
前記堰は、開水域内に設置され、
前記膜体は、前記開水域内の波粒子の運動に合わせて動くために波の作用に対応するのに十分な強度と柔軟性とを併せ持つように構成されている、請求項1~6のいずれか1項に記載の堰。
【請求項8】
前記膜体の前記下縁部分は、前記水域の前記底に接しており、かつ、前記水域の前記底に係留されているか、または前記下縁部分の上に置かれた物体の重量によって押し下げられている、請求項1~4のいずれか1項に記載の堰。
【請求項9】
前記物体は、人工的な裏打ち材、または1つもしくは複数の加重部材を備える、請求項8に記載の堰。
【請求項10】
前記錨体は、垂直高さにおいて前記浮力部材よりも下側に設けられている、請求項1~9のいずれか1項に記載の堰。
【請求項11】
前記錨体は、前記水域の前記底に接して設けられている、請求項10に記載の堰。
【請求項12】
前記錨体は、垂直高さにおいて前記浮力部材よりも上側に設けられている、請求項1~9のいずれか1項に記載の堰。
【請求項13】
前記錨体は、前記テザーが付着されている吊架線を備える、請求項12に記載の堰。
【請求項14】
前記浮力部材は、円形のプロファイルを有する、請求項1~13のいずれか1項に記載の堰。
【請求項15】
前記膜体および前記テザーは、前記浮力部材の外面上の共通の位置において前記浮力部材に付着されている、請求項1~14のいずれか1項に記載の堰。
【請求項16】
複数の前記テザーを備える、請求項1~15のいずれか1項に記載の堰。
【請求項17】
前記浮力部材から前記膜体の第1の側に位置する第1の錨体まで延びている第1のテザーが設けられており、かつ、前記浮力部材から前記膜体の反対側の第2の側に位置する第2の錨体まで延びている第2のテザーが設けられている、請求項16に記載の堰。
【請求項18】
前記浮力部材は、互いに接合されている複数の浮力要素を備える、請求項1~17のいずれか1項に記載の堰。
【請求項19】
複数の前記浮力要素のうちの2つ以上は、互いに異なる浮力を有する、請求項18に記載の堰。
【請求項20】
間隔を空けて配置された一対の壁を備え、
前記浮力部材は、一対の前記壁同士の間に延びている、請求項1~19のいずれか1項に記載の堰。
【請求項21】
水域でエネルギーを生成する方法であって、
請求項1~19のいずれか1項に記載の堰を、水域を横切るようにして配置することと、
前記堰の上流に開口する迂回経路であって、前記水域から流れる所定の体積の水を、当該迂回経路を通して前記堰の下流の水域内へと戻るように進ませるための、当該迂回経路を創出することと、
前記迂回経路内にエネルギー変換装置を設けることと、
前記水が前記迂回経路を通って流れる際に前記水から電気を生成するように前記装置を動作させることと、を含む、方法。
【請求項22】
前記迂回経路が前記壁のうちの1つに設けられている、請求項20に従属する場合の請求項21に記載の方法。
【請求項23】
流れのある水域を部分的に横切って延びるように配置されている第1の区域と、
前記第1の区域に対して所定の角度を成して配置されており、予め決定された距離だけ上流に遡って延びるように構成されている第2の区域と、を備える、請求項1~20のいずれか1項に記載の堰。
【請求項24】
前記堰は、流路を画定している、請求項23に記載の堰。
【請求項25】
迂回経路が前記流路と隣り合って形成されており、
前記水域の残りの部分の表面およびその内部の全体に対して議論の余地のない自由なアクセスが可能になっている、請求項24に記載の堰。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は堰に関する。特に、水域に水頭上昇をもたらすのに適した浮力補助堰に関する。
【背景技術】
【0002】
河川(river)、小河川(stream)、運河、河口などの水域には何千年も前から、流れの流体運動エネルギーを位置エネルギーに変換しそれを利用可能な機械的エネルギーに変換できる、従来型の堰(weir)、堰堤(barrage)、およびダム(dam)が設置されてきた。しかしながら更に説明するように、この有用な特性を損ない得るまたは無効にし得る欠点が存在する。
【0003】
上流で大量の放流があるとき、堰、可動堰、およびダムは河川を下る水流に対する障害物として機能し、水が河川を流下するのを妨げる(または少なくとも遅らせる)一方で、堰の背後では逆流が生じるのため、上流で生じる被害を増大させてしまう可能性がある。
【0004】
従来の堰は建設に多大な土木工事を必要とし、したがって建設には多くの費用と時間が掛かっていた。従来の堰は水上船舶、ならびに魚類および他の水生動物の自由な通行の妨げとなっている。従来の堰は環境面において外観上好ましくない影響を及ぼし得る。
【0005】
堰における自動ゲートが知られているが、それらは堰による妨害的な機能を制限することを目的としている。それらが開くことによって通常よりも大量の水が河川を流下することが可能になる。しかしながら、現状の構成には、過剰な水流に対処するべくゲートを閉位置と開位置との間で移動させるための、多大な保守を必要とする複雑なシステムが組み込まれている。
【0006】
例えば、EP0374170には、ケーブルによって堰ゲートに接続される別個の浮体式カウンタウェイトを使用する堰が開示されている。カウンタウェイトは堰の上流に設置されており、堰の背後の水の増減を感知する。水位上昇がカウンタウェイトにもたらす圧力によってゲートが降下して、堰に水が流れるための開口部ができる。
【0007】
自動化された堰の別の例がGB2488809に知られているが、この堰では、タンク状の製造物(fabricated tank)が川底または海底に偏心するようにヒンジ固定されており、これがその浮力によって川底または海底に対して斜めに支持されることで水頭の降下をもたらす。この構成の特性として、普段とは異なる大流量の動的な力によって自動的に堰の高さが下がり、その結果、スムーズな流れが促進されることが主張されている。
【0008】
更なる例としてUS2598389があるが、これには上側ゲートと下側ゲートとを備えるシステムが記載されている。下側ゲートは堰のコンクリート構造体の下側チャンバ内へと延びており、ゲートとコンクリート構造体との間の公差は下側チャンバ内への水の浸入を防止するのに十分な程度に小さくなっている。堰の背後で水位が上昇するとダクトを通して下側チャンバに水が通される。チャンバ内の下側ゲートにかかる水の圧力によって上側ゲートと下側ゲートとの間に延びる軸を中心にしてゲートが回転し、ゲートが下がり、そこへ水が流れることが可能になる。
【0009】
本開示は、これらの先行出願と同じ目的を達成するが、これらと比較してはるかに軽量であり、複雑ではなく、コストもかからず、更に設置および保守の面においても著しく容易な方法を提示する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、空輸可能とすることができ、大掛かりな土木工事の作業または設備を要さずに迅速な設置ができ、かつ、大量の放水を過度の障害なく適宜通過させることのできる、シンプルで費用効果が高く、目立つことのない堰を提供することである。
【0011】
本発明はいくつかの一時的および恒久的な用途を有することが想定される。そのような用途として、洪水の防止および緩和、限定するものではないが、特に遠隔地での、または災害救援時の、家庭または工業使用および灌漑のための貯水の提供、水流および潮流での再生可能エネルギーの生成、ならびに更には海岸浸食の保護が含まれるが、これらに限定されない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、第1の態様において、水不透過性の柔軟な膜体と、浮力部材と、テザーと、を備え、膜体は、使用時において、下縁部分と上縁部分を備え、膜体および浮力部材は、上縁部分において互いに付着されており、下縁部分は水域の底に対して固定されており、テザーは、上縁部分において浮力部材および/または膜体と付着されている第1の端部部分と、錨体に付着されている第2の端部部分と、を備える、堰が提供される。
【0013】
第1の態様によれば、下流側と上流側とを有する水域内で使用される堰が提供され、この堰は自己調整式であり得る。
【0014】
好ましくは、膜体およびテザーは、浮力部材の外側表面上の、断面視したときの共通の点において浮力部材に付着されており、膜体は一部が浮力部材に巻き付けられている。膜体とテザーは共通の位置から互いに反対の方向へと離れるように延びていてもよい。
【0015】
使用中、水中での堰の位置は主として、浮力と平衡するテザーおよび膜体の張力を規定する構成要素の自重、寸法、および幾何形状によって決定され、この浮力は専ら膜体および浮力部材に作用する水圧によって生じる。更に、上流から下流へと堰を越えていく流れ、および波の作用または潮流の逆流から受ける力などの何らかの動的な力から追加の力が作用することになり、これらの力によって堰の位置の自動的な自己調整が行われることになる。
【0016】
堰が平衡位置にあるとき、テザーは錨体の配置および姿勢に応じて、水平に対して正、ゼロ、または負の角度を成す。テザーが流れの底にある錨体まで斜めに下っている場合、浮力はテンドンおよび膜体の張力の垂直成分に対抗することになる。テザーが浮力部材の平衡位置よりも高いところにある錨体まで斜めに上っている場合、テザーには浮力を増強する張力の垂直成分が存在することになるが、これには平衡位置を維持するのに必要な浮力がゼロになり得る限界の場合が含まれる。
【0017】
複数のテザーが存在するのが好ましい。
【0018】
堰が開水域で波にさらされる場合、堰はコンプライアントな反応を示すが、その理由は、堰が波に差し向けるバリアが柔軟な膜体を備えているからである。注目すべきことに、同等の堅固な構造的バリアであれば、到達する波の反射および/または屈折をもたらす大きな衝撃を受けると考えられる。これとは全く対照的に、柔軟な膜体は波粒子の運動に合わせて動くことができ、そのエネルギーを吸収することがはるかに少なく、残りの波エネルギーを膜体の反対側にある下流の水に伝達する。このコンプライアント性(compliance)は本発明の優れた経済性に大きく寄与している。
【0019】
また、堰にわたって水頭差が固定されている場合、浮力式の堰において、現場の自然水深の増加に伴ってコストが大幅に増加するのは、より深い水に対応するための膜体の面積の増加が原因である場合のみであることにも留意されたい。二次的なコストの増加は膜体の重量の追加によって浮揚体(buoyancy)の直径の僅かな増加が必要になることによって生じ得るが、このことは、膜体の生地が部分的または中立的に浮力を有する場合には緩和または排除される。これとは全く対照的に、従来の堰またはダムは、水深の二乗にほぼ比例して容積が増加し、これに伴ってコストが増加すると予想され得る。したがって水深が深ければ深いほど、この浮力式の堰において、この堰がもたらす任意の所要の水頭降下に対する経済的利点は大きくなる。
【0020】
浮力部材の断面形状は特に限定する必要はない。例えばこれは、円形、実質的に三角形、矩形、または不規則な形状とすることができる。一般には円形形状が好ましい。浮力部材は本来的に浮力を有する材料から形成されてもよい。浮力部材は追加的または代替的に、それ自体に浮力を持たせるような形態を有してもよい。浮力部材は例えばチューブを備えてもよい。浮力部材は1本の長尺部材を備えてもよい。浮力部材はそれ以外に複数の別個別々の部材を備えてもよい。別個別々の浮力部材を使用することが好ましいが、その場合、浮力部材にかかる下向きの力が深い水中において最も大きくなっても堰の頂部が水平線上に留まれるように、水域のより深い区域にわたってより多くの浮力部材を設けることができる。浮力部材の特に好ましい構成は、複数の管状部材を備えるものである。このような構成であれば、1つまたは複数の部材が損傷し水の浸入が発生した場合でも、継続的な稼働が可能になるであろう。
【0021】
浮力部材は好ましくは、水または他の液体もしくは気体を中に導入(および除去)できる、1つまたは複数のマニホールドを備える。マニホールドはそのような目的のために1つまたは複数のポンプに接続することができる。マニホールドを設けることによって、浮力部材の位置、ひいては堰の位置を制御することが可能になる。浮力を増減させることで堰を所望に応じて上下させることができる。
【0022】
当業者には容易に理解されるであろうが、知られている従来の構成に準拠して、浸出流が堰の下およびその縁の周囲から堰を迂回するのを制限するための適切な設備が設けられることになる。
【0023】
浮力部材の下流端部は畳まれた構成の膜体を備えることができ、このことにより、上流の水位を維持する一方で、膜体が収容面上で引きずられることなく、地盤(substrata)および何らかの支持構造体または収容構造体と協働した堰の構成の変更が可能になる。
【0024】
洗掘および迂回流を最小限にするために、膜体の上流端部を、地盤に打ち込まれた従来の浸出バリアの上縁部に付着させること、および、このバリアの端部にある任意の構造物に付着させることができる。別の方法として、膜体は、膜体の上に投下された人工的な裏打ち材(engineered back-fill)から生じる摩擦力によって、または他の適切な手段によって、地盤に係留することができる。このように膜体が地盤上に拘束されている場合、このことにより、地盤と接触して保持される膜体の長さを、浸出バリアが不要なレベルまで迂回流を制限するのに十分な長さの迂回浸出経路を提供するように調整することができる。
【0025】
水流への障害または水上船舶への障害を最小限にするべく、浮力を膜体およびテザーと一緒に中に降ろすことのできる溝を設けることができる。
【0026】
本発明の第2の態様によれば、水域を横断する上記のような堰と、堰の上流にある水域からの水の体積流を、1つまたは複数の迂回管路を通って堰の下流にある水域内へと戻るように進ませるための、1つまたは複数の迂回管路と、水が1つまたは複数の迂回管路を通って流れるときにその水からエネルギーを生成するための、1つまたは複数の迂回管路内の再生可能エネルギー装置と、を備える水域から、エネルギーを生成する方法が提供される。
【0027】
1つまたは複数の迂回管路は、パイプまたは水路(channel)またはそれ以外を備え得る。
【0028】
1つまたは複数の上流パイプが上流水位よりも上まで延びてサイフォンを形成し、かかるパイプの上流端部からの流れが、そのパイプの高所で空気を吸い出すかまたは水を加えることによってプライミングされる構成が提供され得る。
【0029】
更に、好ましい特徴は従属請求項に提示されている。
【0030】
ここで本発明について、添付の図面を参照して例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】膜体が浸出バリアに係留されている、流れのある水域内に設置された第1の実施形態に係る堰の側面図である。
【
図2】膜体を覆って広げられた人工的な裏打ち材によって膜体が係留されている、流れのある水域内に設置された第二の実施形態に係る堰の側面図である。
【
図3】主要な設計パラメータを特定する、
図1の構成による構造が流れのある水域を横切って設置されている堰の側面図である。
【
図4】
図1の構成による構造が波の存在しない深い開水域内に設置されている堰の側面図である。
【
図5】波エネルギーの伝達を可能にする波粒子の運動に対する膜体のコンプライアント性を示すための、波が存在する
図4の構成の側面図である。
【
図6】発電機構を含み、川底に係留されたテザーを有する、河川を横切って設置された
図1の堰の、上流側立面図および平面図である。
【
図7】両岸に係留され河川を横切って上方に張られている吊架線に係留されたテザーを有する、岸が急峻な河川を横切って設置された堰の、上流側立面図および平面図である。
【
図8】流れのある水域を横切って設置された双方向構成による堰の側面図である。
【
図9】同じ水域を横切って設置されているが水の流れが逆方向である、
図8の双方向構成の側面図である。
【
図12】潮流内で平行な垂直構造物同士の間に配備された堰の双方向構成を示す図である。
【
図13】
図12に示す構成の膜体の展開形状を示し、また堰によって生じる水頭から電力を生成するための再生可能エネルギー装置を水路壁に設置できることも示す図である。
【
図14】潮流中の河川または河口を横切って配備された
図8の双方向構成の立面図および平面図である。
【
図15】
図13に示す水路壁に設置された、堰によって生じる水頭から電力を生成するために使用される再生可能エネルギー装置の、全体的な構成を示す図である。
【
図16】
図3の浮力要素の詳細を示し、浮力部材への膜体の上側接触点を特定する図である。
【
図17】堰の背後に保持される水頭の高さを決定するための基礎としての浮力要素に作用する力を記載した、
図16の拡大図である。
【
図18】流れのある水域を部分的に横切る流路(leat)を形成するが、水域の残りの部分には制限なくアクセスできるようになっている、浮力式の堰の更なる構成を開示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1は、水域6内で使用される本発明の第1の実施形態に係る堰1の概略断面図を示す。堰の上流および下流の水位はそれぞれ6aおよび6bと表示されている。
【0033】
堰1は、記載する全ての実施形態に共通して、水不透過性の柔軟な膜体2と、浮力部材3と、テザー(またはテンドン)4と、を備える。膜体2は下縁部分2aと上縁部分2bとを備える。下縁部分2aは水域6の底5に対して固定されている。膜体2および浮力部材3は上縁部分2bにおいて互いに付着されている。テザー4は、上端部分2bにおいて浮力部材3および/または膜体2に付着されている第1の端部部分4aと、錨体7に付着されている第2の端部部分4bと、を備える。
【0034】
現在の構成では、好ましいものとして、浮力部材3は中空で断面が円形である。ただし検討されているように、これはそのように限定する必要はなく、様々な代替の形態/プロファイルを有し得る。例えば、可能な代替の形状の断面として、三角形の、矩形の、または不規則な断面形状が挙げられるが、これらに限定されない。また同じく検討されているように、浮力部材3は、単一の長い管体または互いに接合されているいくつかの個別のタンクから構成されてもよい。
【0035】
本構成の膜体2は、その下端部2aが水域6の底5の地盤に付着されている。膜体2は他の様式で底5に対して固定されてもよい。水域6は河川または他の水流であり得る。浮力部材3はテザー4によって拘束されており、テザー4はその第2の端部部分4bにおいて錨体7に(上流側で)固定されている。
【0036】
複数のテザー4が存在し、それらが浮力部材3の長さ方向に沿って間隔をおいて配置されるのが好ましい。複数のテザーは好ましくは、浮力部材3の平面回転を誘発しないように、付着点において浮力部材3に(または浮力部材を構成する各タンクに)対称の構成で付着される。
【0037】
膜体2は、上流から下流へと移動する水が浮力部材3にわたって流れることによってのみ続くように、堰の全長に沿って延びる。本構成では、膜体2の下方のいかなる浸出流も浸出バリア8によって防止または許容可能なレベルまで緩和される。テザー4は浮力部材3がそのような何らかの流れとともに下流に移動するのを防止するので、膜体2は下流方向へと外側に湾曲しようとすることになる(横帆艤装船の帆に類似した様式であるが、静水圧が深さとともに増加するので、最大伸張は湾曲のより下方にある)。
【0038】
下流側に湾曲したこの歪んだ形状のプロファイルは好ましくは、浮力部材3上の上側膜体接触点30(
図11の拡大図に示す)まで延びている。このことは、図示されているような、膜体が浮力部材3の周囲を部分的に包み込むことになる構成によって達成される。このような構成により、浮力部材3の断面のかなりの部分が上流の水と接触し、その結果上向きの浮力を受ける。これに当てはまらない代替の構成が可能であろう。
【0039】
膜体2と浮力部材3の付着構成に関係なく、浮力によって浮力部材3が上昇しこれと一緒に膜体2が運ばれ、テザー4の(下流側の)第1の端部部分4aが上昇することになる。
【0040】
上流水位6aおよび下流水位6bにおいて平衡に達し、この瞬間には浮力はテザー4の張力および更には膜体2の張力の成分と等しくなるが、その場合この膜体2の張力は、当業者には容易に理解されるであろうが、膜体2と下流水位6bとの交線の下流に位置する、膜体2の膨張した容積内に支持される水の重量に、全ての構成要素の自重を加えた結果である。
【0041】
図1のものを含め、本明細書で開示されるどの構成の堰1も、必要なときに堰の手動昇降を行うために、バラストポンプおよび/または空気ポンプ10(
図2)に接続できることが好ましい。浮力部材3には1つまたは複数個の従来のマニホールドを組み込むことができ、その場合、バリアの浸水およびバラスト除去によって、バリアを所望に応じて下降または上昇させることが可能になる。有効自重を増加させることでバリアを降下させるために、浮力部材3の中に水を導入することができる。ポンプはまた、浮揚体3の内部から水を除去して有効自重を減少させ、バリアをより高い高さまで上昇させるように構成することもできる。このように堰が手動で昇降可能であることは、必要なときに水上交通、魚類、または浮遊片の通過を妨げないようにするために有用である。手動によるバリアのバラスト適用およびバラスト除去が可能であることは、バリアを設置またはその場所から撤去するときにも有用である。開示された構成のいずれに関しても、河川または他の水流の底5には、浮力部材3を中に降ろすことのできる溝11を設けることができる。
【0042】
図2には
図1の代替の構成が開示されており、この構成では、河川または他の水流の底5と物理的に接触している膜体2の長さを、上流と下流との間の浸出経路の物理的長さが迂回流を良好な最小値に抑制するのに十分となるまで長くなるように延長することによって、膜体2の下側での迂回浸出が防止または緩和される。この場合、浸出体積を制限するための河川または他の水流の底の地盤に打ち込まれる物理的な浸出バリア8は、もはや必要ない。膜体3に適切な錨体を提供するために、適切な重量の人工的な裏打ち材11、または他の適切な物体もしくは加重部材を、この膜体2の長さ方向に延びた部分の上に置くことができる。
【0043】
図2はまた、上で検討したように、どの構成の浮力堰であってもバラストポンプおよび/または空気ポンプ10に接続できることを示している。
【0044】
図3では、例示的な設計パラメータ/設計上の考慮事項に影響し得る例示的なパラメータが検討されている。当業者には容易に理解されるであろうが、このようなパラメータは設置の都度、異なることになり、堰1はそれに応じて構成される。
図3では
図1および
図2とは対照的に、流れの方向は左から右である。
【0045】
パラメータは以下を含む:
・上流水深h
4および下流水深h
3、これら間の差が水頭Hである。
・浸出バリア8から河川または他の水流の底5上の膜体接触点までの距離d
1。
・浸透バリア8とテザーアンカー7との間の距離d
2、この距離はテザー4と河川または他の水流の底5との角度αに影響する。
・テザー4の長さおよびその錨体の位置。
・浮力要素の外径dおよび/また構成に起因する、浮力部材3からの浮力。
・浮力要素の各単位長さが支持しなければならない水の体積V。これは、膜体2と、膜体2と下流水位6bとの交点から立ち上がる、浮力部材3または上流水位6aのいずれか最初に交わる方との交点を有する垂線と、の間の断面積を有する体積である。
・膜体2の展開長さl(
図13に示す)。
・全ての構成要素の死荷重。
・水の密度。
【0046】
図3はまた、
図1および
図2の瞬間的な平衡位置から流れが続くと、浮力部材3が、最終的に水が堰を形成している浮力部材3の頂部を越えて流れるところまで上昇することも示している。浮力部材3の頂部を越える水深および下流河川水位が上昇することになる。浮力式のバリアの新たな平衡位置では、上流水位6aと下流水位6bとの間の水頭差Hが維持される一方で、浮力部材3の頂部を越えて流れる水の重量および流体力学的な力に対処がなされるものと想定される。
【0047】
図4は
図1と同様の構成を示すが、沖合の開水域内などのより深い水中で設置が行われ、膜体2のうち下流水位6bよりも上にあるパーセンテージはより低い。
図1および
図2に描かれている構成と同様に、波は存在しない。膜体2の全体形状は
図1および
図2に示すようなものである。
【0048】
図5は波が存在する場合の
図4の構成を示す。到達する上流波粒子の運動による動的な力は、
図5に示すように膜体2の形状を変化させ、その場合膜体2はその柔軟な形態に起因して、コンプライアントな古典的構造挙動を呈することになる。膜体2が修正された形状となった結果、水粒子の運動の一部が膜体2の直接の下流にある水に伝達され、波が堰1の下流の流れへと前方に一部伝播することによって、このコンプライアントな浮力式の堰1が吸収しなければならない波エネルギーの量が制限される。
【0049】
図6は、河川を横断する
図1の構成に係る堰の、上流側からの立面図および対応する平面図である。立面図には、川底5の深さがその河川における場所によって異なるため、浮力部材3を形成する個々のタンクのサイズが浮力/サイズに関して異なる場合があり、膜体2を保持するために最も深い部分に対して最大の浮力が提供されることが示されている。また、テザー4の幅/強度もまた、加わる力が最も大きくなるこれらの最も深い区域で最大となり得る可能性も、図式的に示されている。平面図からは、最大深さにあるテザー4が最も長いことも分かる。膜体2は平面図において、その上流端部で浸出バリア8の頂部に付着されており、浮力部材3の下流で様々な変位で外に膨らみ、最も深い区域で最も大きく膨らんで示されている。また、迂回流を防ぐために、膜体2が好ましくは川岸を上がって高水標よりも上まで短い距離だけ延びていることも示されている。
【0050】
図6にはまた、本開示の原理による堰1が提供できる再生可能エネルギー生成機能の、非限定的な例も開示されている。迂回経路15が設けられている。本構成における経路15には、タービンなどの再生可能エネルギー生成機を組み込んだ迂回パイプ16が収容されている。様々な代替の発電構成/手段が提供され得ることを理解されたい。例えば、水車またはアルキメデススクリュー(24)またはそれ以外などの発電手段を直接収容するために、迂回水路を設けてもよい。更なるオプションは、再生可能エネルギー生成機を組み込まれた迂回パイプが水路に部分的にしか埋設されていない場合、または、水路が省略されパイプが岸の表面上にあるかもしくはそれ以外で露出しており、両端がそれぞれ上流の流れおよび下流の流れに浸漬されている場合である。このようなオプションが採用され、上流水位がパイプの一部の高さよりも低く、その結果サイフォンが形成されている場合、その最高点でパイプから空気を排出するかまたはパイプ内に水を注入することにより、流れをプライミングすることができる。迂回発電の形態は限定されない。
【0051】
本開示の原理によれば、堰によって遮られる水域の体積流量が増減変化する場合、この浮力式の堰はそれに合わせてその高さを自己調整し、このことにより通常動作時には常に視覚的に目立たないままであることに留意されたい。流れの一部が堰1を迂回することになる
図6の構成を検討すると、堰1はこれに合わせて自動的にその高さを下げる。
【0052】
図1から
図6を参照して検討した構成では、テザーは床5に(浮力部材3よりも下のレベルで)係留されている。錨体7が浮力部材3のレベルよりも下にある場合、
図3に示すような正の角度αが生じる。テザーは他の様式で取り付けられてもよく、その場合、検討したいずれの堰1も、設置エリアに適合するように、または設置が容易になるように、またはそれ以外で、代替の構成/配置とした錨体に対応するように修正され得ることに留意されたい。当業者には容易に理解されるであろうが、繋ぎ止めの構成は設置場所に合わせてまたはそれ以外で適合され得る。錨体7は浮力部材のレベルよりも上に設けても下に設けてもよい。
【0053】
図7は、錨体7が浮力部材3のレベルよりも上に設けられている例示的な構成の平面図、上流側立面図、および側方立面図を示す。この場合の角度αは負である。
図7の構成では、2つの吊架線アンカー18の間に吊架線17が張られており、テザー4は吊架線18と浮力部材3との間に張られている。この構成では、吊架線18は事実上、テザー4のための錨体7を画定している。代替の構成では吊架線17を省略してもよい。そのような場合、テザー4は、浮力部材3のレベルよりも上に設けられた錨体まで直接延びていてもよい。図示したような吊架線17の使用は例えば、急斜面の谷である現場に適している。
【0054】
また
図7には、流れの方向における最長寸法が河川の最も深い部分にある、膜体2の典型的な不規則な形状が示されている。流れの方向を横切る膜体2の寸法は、迂回流を防止するために、川底断面の展開長さよりも十分に長く、谷の最高運用水深を超えて覆いに余裕をもたせている。
【0055】
図8および
図9は、双方向の流れ用に構成された堰1の断面図を示す。このような構成は例えば潮汐のある条件下で実施され得る。膜体2は、図示されているように浸出バリア8の頂部に係留されてもよく、または、同じ中央の場所に何らかの代替の適切な錨体を設けてもよい。
【0056】
図8の流れは右から左へと示されており、これにより作用しているテザー4(左手)は緊張状態に保持されている。ただし、浮力部材3の断面上での同じ点20(
図10および
図11)に付着される、テザー4の第2の組が設置される。第2のテザーは好ましくは第1のテザーからずらされている。描かれている構成では、第2のテザーは膜体2の下で膜体2と浮力部材3との間に浮力部材3の周長の約半分にわたって延び、その後膜体2の外側で浮力部材3の周囲を更にほぼ一回転して、図示されているように対応するテザーアンカー点7の付近で作用しない状態で弛んでぶら下がる。
【0057】
図9では流れは逆になっており、左から右へと流れる。
図8で作用しているテンドン(右手のテザー)はここでは作用しておらず、逆も同様である。
図8から
図9へと流れ方向が変わるのに伴い浮力部材3が左から右へと移動するにつれて、
図8では作用していないテザー4が、
図9では潮流の静水圧から張力を受けるため、作用しているテザー4になることに留意されたい。膜体2は今度はそのアンカー点8の反対側へと対称に折り返される。潮汐が逆転するのに伴いこの横方向への並進のプロセスが発生すると、張力を受け始めるにつれて、作用をし始める新しい上流のテザー4は、浮力部材3を反時計回りに約1回転半回転させ、作用しているテザー4を繰り出し、作用していないテザー4の弛みの一部を巻き取ることに留意されたい。
【0058】
図示した構成はいくつかの双方向構成のうちの1つに過ぎないことを理解されたい。
【0059】
【0060】
図12は、
図8~
図11に示した堰1と同様の構成を有する堰1が、潮汐の逆転に伴って完全に並進する様子を示す。この図は断面図ではなく端面の立面図を表しており、描かれている構成の堰は、
図13の構成の平面図に示されているように、2つの垂直壁21の間に延びている。右手の矢印が示すように、
図12では作用している流れは右から左に向かっており、実線による詳細は堰の構成要素の作用位置を示している。破線で示す詳細は、流れの逆転が生じた場合のこれらの構成要素の位置を表している。
【0061】
膜体2は、アンカー8の上方の壁23の垂直中心線v上に付着されている。膜体2の縁部は壁に対して畳まれて、水位および流れ方向が変化したときに浮力部材3が自由に動けるようになっている。このように、膜体は浮揚体の端部の各々において浮揚体の下流へと短い距離だけ伸びる弛み部Bを形成し、このとき、弛み部Bにおける膜体の頂部レベルはどの地点でも浮揚体の頂部よりも下に下がることはなく、端壁の表面を横切って引きずられるのではなく、膜体2の摩擦損傷を最小限にするべくそこから離れるように畳まれることに留意されたい。また、膜体2は水圧によって端壁に押し付けられて保持され、浸出損失を最小限にするべく高水標よりも上まで上昇することにも留意されたい。
【0062】
述べたように、
図13は
図12に示した双方向堰1の平面図である。堰1は2つの垂直水路壁23の間に延びている。通常、広い水域を横切るように堰を設置するために、このタイプの複数の平行な水路壁23を設けることができ、この場合堰は隣り合う壁の間に適宜設置される。隣り合う2つの水路壁間の距離がwであれば、浮力部材3の長さbは寸法wよりも小さくなる。このことにより、浮力部材3は、浮力部材3と水路壁23との間、または浮力部材3の両端部の両弛み部Bの2つの対向する表面の間で過度の摩擦を生じることなく、垂直方向に移動すること、および水平方向に並進することができる。
【0063】
図13には膜体2の好ましい展開形状も示されている。この例では、簡略化のため、隣り合う水路壁23の間にある平坦かつ水平な川底または海底が想定されている。
図13に示すように、膜体2の頂部の高さを川底または海底からhとし、膜体2の展開長さをlとすると、その面積はl*(w+2h)となる。この面積には、図示のような幅bを有し、かつ、浮力部材3の外周上への膜体2の上側接触点30と、浮力部材3上への膜体2およびテンドン4の付着点20との間の浮力部材3の扇形の外周(the sector of the circumference)の長さに等しい延長長さtを有する、浮力部材3を部分的に包むための小さな舌状部の領域を追加するものとする。
図13にはまた、浮力部材3と水路壁23との間の小さなクリアランスも示されている。
【0064】
図13にはまた、1つまたは複数の再生可能エネルギー生成機(42)を水路の垂直壁(37)の内側に流れの方向に沿って設置できることが開示されている。
【0065】
図14は、水路壁がなく底のプロファイルが不均一な潮汐のある河口または他の潮汐のある水域を横切って設置した、
図8から
図11に従って構成される浮力式の双方向堰1を、平面図および立面図で示す。理解されるであろうが、作用していない弛んだテザー4は点線で示されている。作用しているテザー4は実線で示されている。適切な双方向発電手段が、既に
図6に関して検討した発電手段に関して検討したのと同様の様式で、
図14の構成を用いて適宜設置され得ることを理解されたい。
【0066】
図15には
図13における線sを通る概略断面図が提示されている。
図15には対応する平面図も示されている。
図15は、水を生成機23内へと導くように構成されている集束器22と、生成機23の下流にある拡散器24と、を含む、例示的な再生可能エネルギー生成機の構成を示す。例えば引き潮発電に、このような一方向生成機を使用することができ、かかる生成機は好ましい構成では、単一または複数の低水頭装置を利用することができる。描かれている構成は
図6の構成においても使用できる。流れ方向を適合させるのに適した水門を有する反対方向を向いた第2の発電装置を設けることによって、または、実質的に同一の形態を有する集束器および拡散器を備え得る、1つもしくは複数の本来的に双方向性の低水頭装置によって、のいずれかで、双方向動作を達成可能である。
【0067】
図16は、一方向の流れ用に構成された堰1の例示的な構成の、浮力部材3の拡大概略図である。この図は、本開示に係る構成の動作原理/設計上の考慮事項の更なる検討を可能にするために提供される。
図16には、上流水位6aが浮力部材3の上死点31のちょうど接線方向にある状況が示されている。テンドン4および膜体2は、上流水位6aよりも距離h
2だけ垂直方向の下方にある付着点20において、浮力部材3に付着されている。膜体2の上側接触点30は、膜体2と浮力部材3を離れたままにする静水圧が、膜体2の引張力Mの下でのその半径方向内向きの圧力とちょうど等しくなる場所である。
図16はまた、テザー4が引張力Tを受け、浮力部材3が自重b
1を有することも示す。上死点31と膜体2の上側接触点30との間には、浮力部材3に対する外部の静水力学的な力は存在しないことに留意されたい。静水浮力Hはしたがって、示されているように僅かに下流側に角度がつけられている。
【0068】
図17は、テンドン4および膜体2の自重も既知であるかまたは無視できると仮定されるとした場合に、上流水位6aが上死点31の接線方向にあるときの任意の所定の堰1の寸法構成の計算を可能にするのに十分な、
図16の浮力部材3に作用する力の更なる詳細およびそれらの幾何学的関係を示している。当業者には容易に理解されるであろうが、
図3に関して検討したパラメータも考慮されることになる。
【0069】
引張力Tは、最初の単純化した仮定として、常に水平であると仮定することができる。膜体2の上側接触点30は上死点31よりも下にあり、その下流の距離l1だけ間隔を空けられている。引張力Mは、膜体2の上側接触点30において水平との角度θを成す。垂直変位力b2は完全に水没した場合に付与されることになる浮力であり、上死点31と膜体2の上側接触点30との間に生じるであろう静水力学的な力の垂直方向の下向きの成分を除去する。同様に、水平変位力b3は、浮力部材3が完全に水没した場合に上死点31と膜体2の上側接触点30との間で生じることになる静水力学的な力の水平方向の上流成分である。当業者には容易に理解されるであろうが、正味の浮力B、および垂直に対するその角度βは、力b1、b2、およびb3を分解することによって計算することができる。
【0070】
当業者には更に容易に理解されるであろうが、本開示の原理に基づいて構築される任意の所定の堰1の寸法構成の計算は、その場合、(
図3を参照して説明したような)テザー4の傾斜角度αと、堰1の頂部を越える任意の流れの流体力学的な力とを考慮に入れることで完了することができる。
【0071】
図18には、水流を部分的に横切って延び、それから曲がって上流へと延びて、上流の水面の高さの上昇が水力または何らかの他の利便をもたらすのに十分となる点に至る、堰の例示的な構成が開示されている。
【0072】
この構成は、例えば流路を画定するためのものである。この構成では、堰は、水路の途中まで、最も好ましくは流れ方向に対して実質的に垂直に延びる第1の区域40と、上流方向に第1の部分に対してある角度を成して延びる第2の区域50と、を備える。第2の区域50は、最も好ましくは、例示的に描いた構成に示されているように、第1の区域40に対して実質的に垂直である。このような構成により実質的にL形状の堰が得られる。ただし、第1の区域および第2の区域は互いに対して異なる角度で設けてもよい。また更に、当業者には容易に理解されるであろうが、湾曲した堰の構成が可能である。このように形成される流路は、水流の底の地面レベルが下流に向かって大きく傾斜している場合に最も経済的に構成される。膜体2は、上述したように浸出バリア8もしくは他の錨体上で終端させてそこに係留してもよく、または、下にある地質の透水性によりやむを得ない場合には、流路の接水面(wetted surface)全体を完全に覆ってもよい。
【0073】
符号41で示すように、適切な再生可能エネルギーの取り出しが行われるのが好ましい。
【0074】
図18に示すように、川岸が特徴的に急峻な傾斜を有さない場合、流れに平行に走る流路の長手方向の2つの壁をテザーで1つに結合し、横方向の過度な動きに対して安定させることが望ましい場合がある。
【0075】
本発明を河川または潮汐のある河口を横切る浮力式の堰の設置を参照して説明したが、これは他の水域、例えば運河および沖合の沿岸防衛フェンスにも設置することができる。
【0076】
本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、用語「備える、含む(comprises)」および「備える、含む(comprising)」ならびにその変形は、指定された特徴、ステップ、または整数が含まれることを意味する。この用語は、他の特徴、ステップ、または構成要素の存在を除外するものと解釈すべきではない。
【0077】
以上の説明または以下の特許請求の範囲または添付の図面において開示する特徴は、それらの詳細な形態で、あるいは開示された機能を実行するための手段または開示された結果を達成するための方法もしくはプロセスの観点から適宜表現されており、個別に、またはそのような特徴を任意に組み合わせて、本発明がその多様な形態で実現されるように利用することができる。
【0078】
本発明の特定の例示の実施形態について説明したが、添付の特許請求の範囲はこれらの実施形態のみに限定されることを意図するものではない。特許請求の範囲は、文字通りに、合目的的に、および/または等価物を包含するように解釈されるものとする。当業者には、特許請求の範囲の範囲内において多数の代替の構成が容易に理解されるであろう。
【国際調査報告】