(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-29
(54)【発明の名称】メタゲノム由来の新規のCRISPR-CASヌクレアーゼ
(51)【国際特許分類】
C12N 15/55 20060101AFI20240221BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240221BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240221BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240221BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240221BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240221BHJP
A01K 67/0275 20240101ALI20240221BHJP
A01H 5/00 20180101ALI20240221BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20240221BHJP
C12N 9/14 20060101ALI20240221BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240221BHJP
A61K 38/46 20060101ALI20240221BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20240221BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
C12N15/55 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A01K67/0275
A01H5/00 A
C12N15/09 110
C12N9/14
A61K48/00
A61K38/46
A61K35/12
C12P21/02 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553140
(86)(22)【出願日】2022-03-02
(85)【翻訳文提出日】2023-08-31
(86)【国際出願番号】 EP2022055257
(87)【国際公開番号】W WO2022184765
(87)【国際公開日】2022-09-09
(32)【優先日】2021-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522322778
【氏名又は名称】ブレイン バイオテック アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】ショルツ、ポール
(72)【発明者】
【氏名】ジュレック、クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】バック、ロビン
【テーマコード(参考)】
2B030
4B064
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
2B030AB04
2B030CA14
4B064AG01
4B064CA10
4B064CA11
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA87X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA27
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA02
4C084DC22
4C084NA20
4C084ZC80
4C087AA01
4C087BB65
4C087CA12
4C087NA20
4C087ZC80
(57)【要約】
本発明は、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸分子であって、(a)配列番号9、1~5、7、8及び10~15のいずれか1つのアミノ酸配列を含む、又は当該アミノ酸配列からなる、当該RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸分子、(b)配列番号24、16~20、22、23及び25~30のいずれか1つのヌクレオチド配列を含む、又は当該ヌクレオチド配列からなる、核酸分子、(c)アミノ酸配列が前記アミノ酸配列(a)と少なくとも70%同一である、好ましくは少なくとも80%同一である、より好ましくは少なくとも90%同一である、最も好ましくは少なくとも95%同一である、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸分子、(d)前記ヌクレオチド配列(b)と少なくとも70%同一である、好ましくは少なくとも80%同一である、より好ましくは少なくとも90%同一である、最も好ましくは少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列を含む、又は当該同一であるヌクレオチド配列からなる、核酸分子、(e)核酸分子(d)に関して縮重した、核酸分子、又は(f)(a)~(d)のいずれか1つの核酸分子に対応する核酸分子であって、TがUによって置換されている、核酸分子に関する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸分子であって、
(a)配列番号9、1~5、7、8及び10~15のいずれか1つのアミノ酸配列を含む、又は前記アミノ酸配列からなる、前記RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸分子、
(b)配列番号24、16~20、22、23及び25~30のいずれか1つのヌクレオチド配列を含む、又は前記ヌクレオチド配列からなる、核酸分子、
(c)アミノ酸配列が前記アミノ酸配列(a)と少なくとも70%同一である、好ましくは少なくとも80%同一である、より好ましくは少なくとも90%同一である、最も好ましくは少なくとも95%同一である、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸分子、
(d)前記ヌクレオチド配列(b)と少なくとも70%同一である、好ましくは少なくとも80%同一である、より好ましくは少なくとも90%同一である、最も好ましくは少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列を含む、又は前記同一であるヌクレオチド配列からなる、核酸分子、
(e)前記核酸分子(d)に関して縮重した、核酸分子、又は
(f)(a)~(d)のいずれか1つの核酸分子に対応する核酸分子であって、TがUによって置換されている、核酸分子。
【請求項2】
前記核酸分子が、前記核酸分子に対してネイティブの、又は異種性であるプロモーターへ使用可能に連結されている、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項3】
前記核酸分子が、真核細胞、好ましくは植物細胞又は動物細胞における発現に対してコドンの最適化がなされている、請求項1又は2に記載の核酸分子。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の核酸分子をコードする、ベクター。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の核酸分子を含む、又は請求項4に記載のベクターを用いて形質転換された、形質導入された、若しくは形質移入された、宿主細胞。
【請求項6】
前記宿主細胞が、真核細胞又は原核細胞であり、好ましくは植物細胞又は動物細胞である、請求項5に記載の宿主細胞。
【請求項7】
植物、種子、若しくは単一の植物細胞ではない植物の一部、又は動物であって、請求項1~3のいずれか一項に記載の核酸分子を含む、又は請求項4に記載のベクターを用いて形質転換された、形質導入された、若しくは形質移入された、植物、種子、若しくは植物の一部、又は動物。
【請求項8】
請求項5又は6に記載の宿主細胞を培養することと、生産されたRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼを単離することと、を含む、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼの生産方法。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか一項に記載の核酸分子によってコードされた、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ。
【請求項10】
請求項1~3のいずれか一項に記載の核酸分子、請求項4に記載のベクター、請求項5若しくは6に記載の宿主細胞、請求項7に記載の植物、種子、細胞の一部、若しくは動物、請求項9に記載のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ、又はこれらの組み合わせ、を含む、組成物。
【請求項11】
医薬組成物又は診断用組成物である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
対象又は植物のゲノムにおける標的部位のヌクレオチド配列を修飾することによる前記対象又は植物における疾患の処置における使用のための、請求項1~3のいずれか一項に記載の核酸分子、請求項4に記載のベクター、請求項5若しくは6に記載の宿主細胞、請求項7に記載の植物、種子、細胞の一部若しくは動物、請求項9に記載のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ、又はこれらの組み合わせ。
【請求項13】
細胞のゲノムにおける標的部位のヌクレオチド配列の改変方法であって、前記細胞内へ、
(i)DNAを標的とするRNA、又はDNAを標的とするRNAをコードするDNAポリヌクレオチドであって、ここで、前記DNAを標的とするRNAが、
(a)前記標的DNAにおける配列と相補的であるヌクレオチド配列を含む第1のセグメントと、
(b)請求項9に記載のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼと相互作用する第2のセグメントと、
を含む、前記DNAを標的とするRNA、又は前記DNAを標的とするRNAをコードするDNAポリヌクレオチド、及び
(ii)請求項9に記載のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ、又は請求項1~3のいずれか一項に記載のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸分子、又は請求項4に記載のベクターであって、ここで、前記RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼが、
(a)前記DNAを標的とするRNAと相互作用するRNA結合部分と、
(b)部位特異的酵素活性を呈する活性部分と、
を含む、請求項9に記載のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ、又は請求項1~3のいずれか一項に記載のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸分子、又は請求項4に記載のベクター、
を導入することを含む、ヌクレオチド配列の改変方法。
【請求項14】
前記細胞が、前記RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをコードする遺伝子の天然の宿主ではない、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ及び前記DNAを標的とするRNAが、前記細胞内へ直接導入される場合、これらがリボ核タンパク質複合体(RNP)の形態で導入される、請求項13又は14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸分子であって、(a)配列番号9、1~5、7、8及び10~15のいずれか1つのアミノ酸配列を含む、又は当該アミノ酸配列からなる、当該RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸分子、(b)配列番号24、16~20、22、23及び25~30のいずれか1つのヌクレオチド配列を含む、又は当該ヌクレオチド配列からなる、核酸分子、(c)アミノ酸配列が前記アミノ酸配列(a)と少なくとも70%同一である、好ましくは少なくとも80%同一である、より好ましくは少なくとも90%同一である、最も好ましくは少なくとも95%同一である、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸分子、(d)前記ヌクレオチド配列(b)と少なくとも70%同一である、好ましくは少なくとも80%同一である、より好ましくは少なくとも90%同一である、最も好ましくは少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列を含む、又は当該同一であるヌクレオチド配列からなる、核酸分子、(e)核酸分子(d)に関して縮重した、核酸分子、又は(f)(a)~(d)のいずれか1つの核酸分子に対応する核酸分子であって、TがUによって置換されている、核酸分子に関する。
【0002】
本明細書において、特許出願及び製造元のマニュアルを含むいくつかの文書が引用されている。これらの文書の開示は、本発明の特許性に対して関連しているとはみなされないが、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。より具体的には、参照される文書はすべて、あたかも各個々の文書が具体的かつ個々に参照により組み込まれるよう示されているかのように同程度まで、参照により組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
CRISPR-Casの系は、外来核酸の侵入に対する原核生物の広範な適応免疫系である。これまで、遺伝子座の構造、数、及びCas(CRISPR関連)タンパク質をコードする遺伝子の同一性が異なる、30を超える異なるCRISPR-Casの系が同定されている。
【0004】
原核生物ゲノムにおけるCRISPRの系の典型的な特徴は、同様の長さの変動可能な配列(スペーサー)が介在する短い(30~45bp)反復配列(リピート)の存在である。Casタンパク質は、リピート-スペーサークラスターの上流又は下流のいずれかに位置する。このCasタンパク質の遺伝子の組成及びメカニズムの違いによるとサブタイプは、2つのCRISPRクラス(クラス1及び2)に分類される。これらの主な違いのうちの1つは、クラス1のCRISPRの系が、DNAを分解するために複数のCasタンパク質の複合体を必要としているのに対し、クラス2のCasタンパク質は、単一の大きな多重ドメインヌクレアーゼであることである。クラス2のCasタンパク質の配列特異性は、標的とされる二本鎖DNAの切断を導入するための合成CRISPR RNA(crRNA)によって容易に変更することができる。かかるクラス2Casタンパク質の最も広く知られているメンバーは、Cas9、Cpf1(Cas12a)、及びCms1であり、これらは、ゲノム編集のために利用され、真菌、植物、及び哺乳動物細胞を含む多くの真核生物においてうまく適用される。Cas9及びそのオルソログが、クラス2のII型CRISPRヌクレアーゼであるのに対し、Cpf1(WO2016/205711 BROAD Inst.; WO2017/141173 Benson Hill)及びCms1(WO2019/030695 Benson Hill)は、クラス2のV型ヌクレアーゼに属する。Cms1 CRISPRヌクレアーゼ及びCpf1 CRISPRヌクレアーゼは、II型ヌクレアーゼなど他のCRISPRヌクレアーゼと比較して、ある特定の所望の特性を有するクラスのCRISPRヌクレアーゼである。例えば、Cas9ヌクレアーゼとは対照的に、Cms1及びCpf1は、crRNA前駆体(pre-crRNA)と部分的に相補的であるトランス活性化型crRNA(tracrRNA)を必要としない(Deltcheva et al. (2011), Nature, 471(7340):602-607)。tracrRNA及びpre-crRNAの塩基対形成は、Cas9結合型RNA:RNA二重鎖を形成し、これがRNA分解酵素III及び他の同定されていないヌクレアーゼによるプロセシングを受けている。この成熟したtracrRNA:crRNA二重鎖は、Cas9による標的DNAの認識及び開裂に介在する。対照的に、V型ヌクレアーゼは、tracrRNA又は(RNA分解酵素IIIのような)細胞性ヌクレアーゼを必要とせず、pre-crRNAのプロセシングを行うことができ、このことは、(多重)ゲノム編集に対するV型ヌクレアーゼの適用を有意に簡素化している。
【0005】
いくつかの新たなクラス2タンパク質、例えば、C2c1(Cas12b)、C2c2(Cas13a)、及びC2c3(Cas12c)は、培養された細菌のゲノムにおいて、又は一般に公開されているメタゲノム解析データセット、例えば腸管メタゲノム(Shmakov et al. (2015), Mol Cell,60(3):385-97)において同定されている。CRISPR-Casの系の近年の分類によると、クラス2は、3つのタイプと17のサブタイプとを含む(Makarova et al. (2020), Nat Rev Microbiol, 18(2):67-83)。
【0006】
さらに、近年の刊行物において、2つの新たなクラス2タンパク質(CasX(Cas12a)及びCasY(Cas12d))が、培養されていない原核生物においてメタゲノムシーケンシングによって発見され(Burstein et al. (2017), Nature, 542:237-241)、まだ培養されていない及び/又は同定されていない生物由来の、利用されたことのないCasタンパク質の存在を示した。
【0007】
それゆえ、新規のクラス2Casタンパク質の発見のための有望なアプローチは、選択された環境DNA(例えば、1cm3の森林土壌が約2.5×1010bpのDNA又は約2000万個の遺伝子を含む)の次世代シーケンシング及びCRISPR-Casの系のコンピュータによる同定(例えば、Lei and Sun (2016), Bioinformatics, 32(17):i520 i528)によってメタゲノム解析リソースにアクセスすることである。
【0008】
論議されるように、既知のCRISPR-Casの系は、作用様式に関してある特定の差異を示す。これらの分子的差異は、異なる遺伝的バックグラウンドの広範な範囲でのゲノム編集に対してCRISPR-Casの系を用いる可能性を拡大するが、それのみならず、特定のCasヌクレアーゼを特定の生物に適用する場合の問題、例えば、ヒトにおけるCas9に対する既存免疫応答(Charlesworth et al. (2019), Nat Med, 25(2):249-254)といった問題を回避する。それゆえ、より高次の真核生物との直接的な接触がほとんどない細菌種由来のCasヌクレアーゼの同定は特に重要である。特にメタゲノム解析リソースにおいて、未知の特徴を有するいまだ未発見の多数のCRISPR-Casの系が存在すると想定される。それ故、すでにいくつかの異なるCRISPR-Casの系が従来技術から既知ではあるものの、さらなるCRISPR-Casの系、特にこれらの系のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼを同定することには継続的な需要がある。この需要は本発明によって対処される。
【発明の概要】
【0009】
したがって、本発明は、第1の態様において、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸分子であって、(a)配列番号1~15、好ましくは配列番号9、1~5、7、8及び10~15又は配列番号6のいずれか1つのアミノ酸配列を含む、又は当該アミノ酸配列からなる、当該RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸分子、(b)配列番号16~30、好ましくは配列番号9、1~5、7、8及び10~15又は配列番号22のいずれか1つのヌクレオチド配列を含む、又は当該ヌクレオチド配列からなる、核酸分子、(c)アミノ酸配列が前記アミノ酸配列(a)と少なくとも70%同一である、好ましくは少なくとも80%同一である、より好ましくは少なくとも90%同一である、最も好ましくは少なくとも95%同一である、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸分子、(d)前記ヌクレオチド配列(b)と少なくとも70%同一である、好ましくは少なくとも80%同一である、より好ましくは少なくとも90%同一である、最も好ましくは少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列を含む、又は当該同一であるヌクレオチド配列からなる、核酸分子、(e)(d)の核酸分子に関して縮重した、核酸分子、又は(f)(a)~(d)のいずれか1つの核酸分子に対応する核酸分子であって、TがUによって置換されている、核酸分子に関する。
【0010】
配列番号1~15は、それぞれ新規のCRISPR-CasエンドヌクレアーゼBMC01~BMC15のアミノ酸配列であって、BMCは、BRAIN Metagenome Casの略語である。新規のCRISPR-CasエンドヌクレアーゼBMC01~BMC15は、それぞれ配列番号16~30のヌクレオチド配列によってコードされる。BMC01~BMC15のアミノ酸配列の無根系統樹が本明細書の
図1に示される。BMC01~BMC05及びBMC07~BMC15は、先行技術のCRISPR-Casエンドヌクレアーゼよりも互いにより密接に関連しており、本出願は、BMC06よりも互いにより密接に関連しているとわかる。この理由から、配列番号1~15は、好ましくは配列番号9、1~5、7、8及び10~15又は配列番号6であり、配列番号16~30は、好ましくは配列番号24、16~20、22、23及び25~30又は配列番号22である。配列番号9、1~5、7、8及び10~15のうち、対応する新規のCRISPR-CasエンドヌクレアーゼBMC09が付された実施例の中で最も広範囲にわたって試験されたので、配列番号9が最初に言及される。この理由から、配列番号9のアミノ酸配列及び対応する配列番号24のヌクレオチド配列が最も好ましい。
【0011】
図面は以下を示す。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】アミノ酸配列BMC01~BMC15の無根系統樹。
【
図2】形質転換から48時間後の大腸菌コロニーを示す例示的な培養プレート。(30℃でインキュベートし)BMC01、BMC02 BMC03、BMC04、BMC05、BMC07又はBMC08ヌクレアーゼを使用したmalQ遺伝子の誘導型DNAターゲティング後のコロニーの枯渇及びNHEJを介したmalQ遺伝子ノックアウトをもたらすKu-LigDタンパク質の共形質転換によって誘導されたコロニー増殖の部分的回復(BMC01、BMC03、及びBMC04に関して)を可視化した。
【
図3】形質転換から48時間後の大腸菌コロニーを示す例示的な培養プレート。(30℃でインキュベートし)BMC09、BMC10 BMC11、BMC12、BMC13、BMC14又はBMC15ヌクレアーゼを使用したmalQ遺伝子の誘導型DNAターゲティング後のコロニーの枯渇及びNHEJを介したmalQ遺伝子ノックアウトをもたらすKu-LigDタンパク質の共形質転換によって誘導されたコロニー増殖の部分的回復(BMC09及びBMC13に関して)を可視化した。
【
図4】BMC特性評価のパイプライン。BMC09ヌクレアーゼとKu-LigD NHEJ戦略を使用した大腸菌における細胞枯渇及びmalQ遺伝子のノックアウト。malQ遺伝子の切り出しは、BMC09ヌクレアーゼの標的領域に直接関連する71bpの欠失を示す。
【0013】
本発明に従って、「核酸分子」という用語は、ヌクレオチドの線状分子鎖を定義する。本発明による核酸分子は、少なくとも2327個のヌクレオチドからなる。本明細書で「核酸分子」と呼ばれる分子の群はまた、完全な遺伝子を含む。「核酸分子」という用語は、本明細書では「ポリヌクレオチド」という用語と相互交換可能に使用される。
【0014】
本発明に従った「核酸分子」という用語は、cDNA又は二本鎖若しくは一本鎖のゲノムDNAなどのDNA、及びRNAを含む。この点において、「DNA」(デオキシリボ核酸)は、デオキシリボース糖のバックボーン上で互いに連結している、ヌクレオチド塩基と呼ばれる化学構築ブロックである、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、及びチミン(T)のいずれかの鎖又は配列を意味する。DNAは、ヌクレオチド塩基からなる1本の鎖、又は二重らせん構造を形成し得る2本の相補的な鎖を有することができる。「RNA」(リボ核酸)は、リボース糖のバックボーン上で互いに連結している、ヌクレオチド塩基と呼ばれる化学構築ブロックである、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、及びウラシル(U)、のいずれかの鎖又は配列を意味する。RNAは典型的には、ヌクレオチド塩基からなる1本の鎖を有する。また、一本鎖分子及び二本鎖雑種分子、すなわち、DNA-DNA、DNA-RNA、及びRNA-RNAも含まれる。核酸分子はまた、当該技術分野で既知の多くの手段によって修飾され得る。かかる修飾の非限定例としては、メチル化、「キャップ形成」、天然に生じるヌクレオチドのうちの1つ以上の類似体との置換、並びに、例えば、非荷電性結合を有するもの(例えば、メチルホスホナート、ホスホトリエステル、ホスホロアミダート、カルバマートなど)及び荷電性結合を有するもの(例えば、ホスホロチオアート、ホスホロジチオアートなど)などヌクレオチド間修飾がある。ポリヌクレオチドは、例えば、タンパク質(例えば、ヌクレアーゼ、毒素、抗体、シグナルペプチド、ポリ-L-リジンなど)、挿入剤(例えば、アクリジン、ソラレンなど)、キレート剤(例えば、金属類、放射性金属類、鉄、酸化金属類など)、及びアルキル化剤など、1つ以上の追加の共有結合部分を含有し得る。ポリヌクレオチドは、メチルホスホトリエステル結合若しくはエチルホスホトリエステル結合、又はアルキルホスホルアミダート結合の形成によって誘導体化され得る。さらに、DNA又はRNAの合成誘導体又は半合成誘導体、及び混合型ポリマーなど、当該技術分野で既知の核酸模倣分子が含まれる。本発明によるかかる核酸模倣分子又は核酸誘導体としては、ホスホロチオアート核酸、ホスホルアミダート核酸、2’-O-メトキシエチルリボ核酸、モルホリノ核酸、ヘキシトール核酸(HNA)、ペプチド核酸(PNA)、及びロック型核酸(locked nucleic acid)(LNA)がある(Braasch and Corey,Chem Biol 2001,8:1を参照されたい)。LNAは、リボース環が、2’-酸素と4’-炭素の間にあるメチレン結合によって制限されたRNA誘導体である。また、修飾された塩基、例えば、チオ-ウラシル、チオ-グアニン、及びフルオロ-ウラシルを含有する核酸も含まれる。核酸分子は典型的には、タンパク質及び/又はポリペプチドをつくる細胞機構によって使用される情報を含む、遺伝情報を保有する。本発明の核酸分子は追加として、プロモーター、エンハンサー、応答要素、シグナル配列、ポリアデニル化配列、イントロン、5’-非コード領域、及び3’-非コード領域、並びにこれらに類するものを含んでよい。
【0015】
本明細書で「タンパク質」という用語と相互交換可能に使用される「ポリペプチド」という用語は、単一鎖のタンパク質又はその断片を含む、アミノ酸の線状分子鎖を説明する。本発明によるポリペプチド/タンパク質は、少なくとも775個のアミノ酸を含有する。さらに、ポリペプチドは、少なくとも2つの同一の又は異なる分子からなるオリゴマーを形成し得る。かかる多量体の対応する、より高次の構造は、それに相当するものとして、ホモ二量体又はヘテロ二量体、ホモ三量体又はヘテロ三量体などと称される。本発明のポリペプチドは、ヘテロ二量体又はホモ二量体など、ヘテロ多量体又はホモ多量体を形成し得る。さらに、アミノ酸及び/又はペプチド結合が機能的類似体によって置き換えられたかかるタンパク質/ポリペプチドのペプチド模倣体もまた、本発明によって包含される。かかる機能的類似体としては、セレノシステイン等の、20の遺伝子によりコードされるアミノ酸以外のあらゆる公知のアミノ酸が含まれる。「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は、例えば、当該技術分野で周知のグリコシル化、アセチル化、リン酸化、ユビキチン化、及び同様の修飾によって影響を受けた、天然に修飾されたポリペプチド及びタンパク質も指す。
【0016】
「RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ」又は「CRISPR(-Cas)エンドヌクレアーゼ」という用語は、デオキシリボヌクレオチド(DNA)鎖内でホスホジエステル結合を開裂させ、それにより二本鎖切断(DSB)を生産する能力を有する酵素を説明する。BMC01~15は、5’オーバーハングを備えた段違い切断(staggered cut)を導入することが知られている新規のV型クラス2のCRISPRヌクレアーゼとして分類される。それ故、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼは、エンドヌクレアーゼドメイン、特にRuvCドメインを含む。BMC01~15のRuvCドメインは3つの分岐RuvCモチーフを含むと考えられている。RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼはまた、ガイドRNA(gRNA、本明細書ではDNAターゲティングRNAとも呼ばれる)としても知られているcrRNAへ結合することができるドメインも含む。
【0017】
RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼの切断部位は、ガイドRNAによって誘導される。gRNAは、標的配列特異性をRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼに与える。かかるgRNAは、相補的標的DNA配列へ結合する非コードの短いRNA配列である。gRNAはまず、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼへ、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼと相互作用することができる結合ドメインによって結合する。RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼと相互作用することができる結合ドメインは典型的には、ステム-ループ構造をもつ領域を含む。このステム-ループは好ましくは、配列NATTTCTACTNTTGTAGAT(配列番号31)を含み、ここで、Nは、いずれかの塩基がこの位置で存在し得ることを意味する。ステム-ループは、最も好ましくは、BMC01~15のステムループダイレクトリピート配列(配列番号32)をそれぞれ含むが、RNAの形態である(すなわち、TがUに置き換わっている)。gRNA配列は、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼがそのエンドヌクレアーゼ活性を標的部位でDNA鎖を切断することによって発揮するDNA鎖上の特定の位置に対する対形成を介して(gRNAとRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼとのCRISPRリボ核タンパク質(RNP)複合体として知られた)複合体を誘導する。gRNAのゲノム標的部位は、いずれかの約20(典型的には17~26)のヌクレオチドDNA配列であり得、但し、2つの条件、すなわち、(i)配列がゲノムの残部と比較して独特である、及び(ii)標的がプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)に直接隣接して存在する、を満たすことを条件とする。
【0018】
従って、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼの切断部位は、さらにPAMによって規定される。PAMは、CRISPRの系によって開裂の標的とされるDNA領域に後続する短いDNA配列(通常、長さ2~6塩基対)である。実際の配列は、どのCRISPRエンドヌクレアーゼが使用されるかに依存する。CRISPRエンドヌクレアーゼ及びその個々のPAM配列は、当該技術分野で既知である(https://www.addgene.org/crispr/guide/#pam-tableを参照されたい)。例えば、この最初に同定されたRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼCas9によって認識されるPAMは、5’-NGG-3’(式中、「N」はいずれかのヌクレオチド塩基であり得る)である。PAMは、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼによる切断に必要である。Cas9において、PAMは、ガイドRNAによって標的とされるDNA配列の下流の2~6個のヌクレオチド及び切断部位から下流の3~6個のヌクレオチドとわかっている。V型の系(BMC01~BMC15を含む)において、PAMは、標的配列及び切断部位の両方の上流に位置する。RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼとガイドRNAとからなる複合体は、いわゆるPAM相互作用ドメインを含む(Andres et al.(2014),Nature,513(7519):569-573)。それ故、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼによる編集のための標的とすることができるゲノム位置は、ヌクレアーゼ特異的PAM配列の存在及び位置によって制限される。BMC01~BMC15は、V型クラス2のCRISPRヌクレアーゼの群に属するので、TリッチなPAM部位が推定された(TTTN、ここで、NはA、T、C及びGのいずれかのヌクレオチドであり得る)。
【0019】
「パーセント(%)配列同一性」という用語は、テンプレートの核酸配列又はアミノ酸配列の全体長を構成するヌクレオチド又はアミノ酸残基の数と比較して2つ以上の整列した核酸配列又はアミノ酸配列の同一のヌクレオチド又はアミノ酸残基の一致(「ヒット」)数を説明する。言い換えれば、アラインメントを用いて、2つ以上の配列又は部分配列について、同じである(例えば、70%同一性)アミノ酸残基又はヌクレオチドのパーセンテージが、当該(部分)配列を最大対応について比較範囲と、若しくは当該技術分野で既知の配列比較アルゴリズムを用いて測定されるような指定領域と比較及び整列すると、又は手動で整列させ視覚的に検査すると、決定され得る。この定義はまた、整列するいずれかの配列の補完に適用される。
【0020】
本発明と関係するアミノ酸配列並びにヌクレオチド配列の分析及びアラインメントは好ましくは、NCBI BLASTアルゴリズムを用いて行われる(Stephen F.Altschul,Thomas L.Madden,Alejandro A.Schaffer,Jinghui Zhang,Zheng Zhang,Webb Miller,and David J.Lipman(1997),“Gapped BLAST and PSI-BLAST: a new generation of protein database search programs”,Nucleic Acids Res.25:3389-3402)。当業者であれば、核酸配列を整列させるための追加の適切なプログラムが認識される。
【0021】
本明細書で先に定義されたように、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%及び少なくとも95%のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列同一性が本発明によって想定されている。さらに、より好ましくは、少なくとも99.5%、少なくとも99.8%、及び少なくとも99.9%のアミノ酸配列同一性が本発明によって想定されている。
【0022】
これらのアミノ酸配列及びこれらのヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列に関して、本発明の配列番号1~16のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ活性を維持する又は本質的に維持することが好ましい。それ故、維持される又は本質的に維持されるものとは、gRNAへ結合して目的のDNA標的部位へ結合することができる複合体を形成し、当該エンドヌクレアーゼ活性がDSBを誘導するとの能力である。
【0023】
「縮重している」という用語は、遺伝暗号の縮重を示す。周知のように、1つのアミノ酸をコードするコドンは、その3つの位置のいずれかにおいて異なり得るが、たいていの場合、この差異は第2又は第3の位置にある。例えば、アミノ酸グルタミン酸は、GAA及びGAGのコドン(第3の位置において差異)によって特定され、アミノ酸ロイシンは、UUA、UUG、CUU、CUC、CUA、CUGのコドン(第1又は第3の位置において差異)によって特定され、アミノ酸セリンは、UCA、UCG、UCC、UCU、AGU、AGC(第1、第2、又は第3の位置において差異)によって特定される。
【0024】
V型CRISPRエンドヌクレアーゼCms1及びCpf1と同様に、BMC01~BMC15は、トランス活性化型crRNA(tracrRNA)を必要としない。その上、本出願において同定されたCRISPRの系を含有するBMC01~BMC15は、Cpf1及びCmsタンパク質ファミリーのcrRNAにおいて保存されている各リピートの3’-末端にRNAステムループを備えたCRISPRリピート配列を含有しており、既知のCRISPR-CasエンドヌクレアーゼのうちBMC01~BMC15の「最も近い隣接因子」は、Cpf1ポリペプチドのメンバーである。この理由のため、BMC01~BMC15は、クラス1及びクラス2のCRISPR-Casエンドヌクレアーゼの既知の集合体と全体的に有意な配列同一性がない、かつ個々のCpf1型エンドヌクレアーゼと全体的に低い配列同一性を有する、新規のクラス2のV型ヌクレアーゼとして分類することができる。
【0025】
BMC01~BMC15は、CRISPR-Casエンドヌクレアーゼの既知の集合体とは有意に異なる新規のCRISPR-Casエンドヌクレアーゼであるため、BMC01~BMC15は、異なるバイオテクノロジー部門及び医薬部門におけるゲノム編集、ゲノム調節、及び核酸濃縮/精製に適用可能なCRISPR-Casエンドヌクレアーゼの既知の集合体を拡大し、これにより分子ゲノム編集の選択肢が有利に拡大する。
【0026】
BMC01~BMC15は、少なくとも2つの態様においてCRISPR-Casエンドヌクレアーゼの既知の集合体とは有意に異なる。
【0027】
まず、それらは構造的に異なる。例えば、国際公開第2021/154866号に記載の配列番号20は、CMS09(配列番号9)と57.1%の配列類似性のみを共有し、カンジダタス・ロイズマンバクテリア細菌由来の仮想タンパク質US54 C0016G0015と55.26%の配列同一性のみを共有する。また、BMCエンドヌクレアーゼは、既知のCRISPR-Casエンドヌクレアーゼとは構造的に有意に異なる。BMCエンドヌクレアーゼは、実施例1で例証する革新的なスクリーニングアプローチによって発見され、ここでは、テラベース規模のメタゲノム解析リソースが次世代シーケンシングによってアクセスされ、新規の配列のほとんど手付かずの区域を含有するCandidate Phyla Radiation(CPR)種が濃縮された。既知のCRISPR-Casエンドヌクレアーゼと比較して構造的に有意に異なる配列にもかかわらず、BMC01~BMC15が依然としてゲノム編集に非常によく機能することは驚くべきことであり、これは実施例3~5によって実証されている。
【0028】
第二に、BMC01~BMC15は環境サンプル、特に水生、堆積物及び土壌の生息地から単離された。一方、既知のCRISPR-Casエンドヌクレアーゼのほとんどは病原性細菌から分離された。例えば、Cas9は化膿連鎖球菌M1から、Cas12a(Cpf1)はプレボテラ及びフランシセラ1から、Cas13a(C2c2)はレプトトリキア・シャーイイから発見された。この理由から、BMC01~BMC15は、哺乳動物において、好ましくはヒトにおいて、特に治療適用のゲノム編集に適用した場合、ほとんどの既知のCRISPR-Casエンドヌクレアーゼよりも免疫原性が低くなる。
【0029】
発明の第1の態様の好ましい実施形態に従って、核酸分子は、当該核酸分子に対してネイティブの、又は異種性であるプロモーターへ使用可能に連結される。
【0030】
プロモーターは、特定の遺伝子の転写の開始につながるDNAの領域である。プロモーターは概して、DNAの上流の(センス鎖の5’領域に向かって)遺伝子の転写開始部位近くに位置する。プロモーターは典型的には、100~1000塩基対長である。転写が生じるために、RNAポリメラーゼとして知られた、RNAを合成する酵素は、遺伝子近くでDNAへ結合しなければならない。プロモーターは、RNAポリメラーゼのための、及びRNAポリメラーゼを動員する転写因子と呼ばれるタンパク質のための保全された開始結合部位を提供する応答要素など特異的なDNA配列を含有する。それ故、RNAポリメラーゼ及び転写因子がプロモーター部位へ結合することは、当該遺伝子の転写を確保する。
【0031】
この関係において、「使用可能に連結された」という用語は、RNAポリメラーゼ及び転写因子の結合の際に、遺伝子の転写が開始されるように、プロモーターが同じDNA鎖の遺伝子へ連結されていることを定義している。概して、各遺伝子は、生体のゲノムの天然の環境においてプロモーターへ使用可能に連結されている。このプロモーターは本明細書で「天然プロモーター」又は「野生型プロモーター」と呼ばれる。異種性プロモーターは、天然プロモーター又は野生型プロモーターとは異なる。それ故、核酸分子に対して異種性であるプロモーターへ使用可能に連結されている核酸分子は、天然には生じない。
【0032】
所望の遺伝子を発現するために使用することができる異種性プロモーターは、当該技術分野で既知であり、例えば、EPD(真核生物プロモーターデータベース)又はEDPnew(https://epd.epfl.ch//index.php)から入手することができる。このデータベースにおいて、動物、植物、及び酵母のプロモーターを含む真核生物プロモーターを見つけることができる。
【0033】
プロモーターは例えば、構成性活性がある、誘導性の、組織特異的な、又は発達段階特異的なプロモーターであり得る。かかるプロモーターを用いることによって、発現の所望のタイミング及び部位を調節することができる。
【0034】
酵母におけるAOX1プロモーター若しくはGAL1プロモーター、又はCMV-(サイトメガロウイルス)、SV40-、RSV-プロモーター(ラウス肉腫ウイルス)、ニワトリベータ-アクチンプロモーター、CAGプロモーター(ニワトリベータ-アクチンプロモーター及びサイトメガロウイルス最初期エンハンサーの組み合わせ)、gai10プロモーター、ヒト伸長因子1α-プロモーター、CaM-キナーゼプロモーター、及びAutographa california多重核多角体病ウイルス(AcMNPV)プロモーターは、構成性活性のあるプロモーターの例である。
【0035】
誘導性プロモーターの例は、低酸素状態又は寒冷ストレスによって誘導可能であるAdhIプロモーター、熱ストレスによって誘導可能であるHsp70プロモーター、光によっていずれも誘導可能であるPPDKプロモーター及びPEPカルボキシラーゼプロモーターである。また、毒性緩和剤により誘導されるIn2-2プロモーター(米国特許第5,364,780号明細書)、及びエストロゲンにより誘導されるEREプロモーター、及びオーキシンにより誘導され且つタペート組織特異的だが、カルスにおいても活性のあるAxigIプロモーター(国際公開第03060123A1)など、化学的に誘導可能であるプロモーターも有用である。
【0036】
組織特異的プロモーターは、ある特定の組織においてのみ転写を開始するプロモーターである。発生段階特異的プロモーターは、ある特定の発生段階においてのみ転写を開始するプロモーターである。
【0037】
本発明の第1の態様のさらに好ましい実施形態に従って、前記核酸分子は、核局在化シグナル(NLS)をコードする核酸配列へ連結される。
【0038】
NLSに関するさらなる詳細は、本明細書で後述に提供される。
【0039】
本発明の第1の態様の別の好ましい実施形態に従って、前記核酸分子は、真核細胞、好ましくは植物細胞、又は動物細胞における発現のためにコドンの最適化がなされる。
【0040】
論議されるように、BMC01~BMC15は、細菌のメタゲノムサンプルから単離された。それ故、BMC01~BMC15が真核細胞で発現される場合、それらは異種性宿主細胞又は生物で発現される。
【0041】
BMC01~BMC15ポリペプチドをそれぞれコードする遺伝子は、標的細胞内での発現のためにコドンの最適化がなされることができ、任意で、NLS及び/又は精製タグ等のペプチドタグをコードする配列を含むことができる。タグに関するさらなる詳細は後述される。
【0042】
コドンの最適化は、遺伝子発現を改善し、目的の遺伝子の転写効率を、宿主細胞のコドンバイアスを収容することによって上げるために使用されるプロセスである。「コドンの最適化がなされた遺伝子」はそれゆえ、宿主細胞の好ましいコドン使用の頻度を模倣するよう設計されたコドン使用の頻度を有する遺伝子である。核酸分子は、全体的に又は部分的にコドン最適化がなされ得る。いずれか1つのアミノ酸(メチオニン及びトリプトファンを除く)は、いくつかのコドンによってコードされているので、核酸分子の配列は、コードされたアミノ酸を変更させることなく変更し得る。コドンの最適化は、アミノ酸が変更されないが特定の宿主生物における発現が高まるように1つ以上のコドンを核酸レベルで変化することである。当業者は、コドン表、及び広範な生物にとって好ましい情報を提供する他の参考文献が当該技術分野で入手可能であることを認識しているであろう(例えば、Zhang et al.(1991) Gene 105:61-72、Murray et al.(1989) Nucl.Acids Res.17:477-508を参照されたい)。発現のためにヌクレオチド配列を最適化するための方法論は、例えば、米国特許第6,015,891号において提供されている。コドンの最適化のためのプログラムは、当該技術分野で入手可能である(例えば、genomes.urv.es/OPTIMIZERにおけるOPTIMIZER、www.genscript.com/codon_opt.htmlにおけるGenScript由来のOptimumGene(商標))。
【0043】
真核細胞は、好ましくはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞であり、したがって、コドンの最適化は、好ましくはCHO細胞における発現のための最適化である。CHO細胞は、特に商業的な目的のものであり、その理由は、CHO細胞が組換えタンパク質治療薬の産業規模の生産のために最も普遍的に使用される哺乳動物宿主だからである。
【0044】
植物細胞及び動物細胞を含む適切な真核細胞に関するさらなる詳細は後述される。
【0045】
本発明は、第2の態様において、第1の態様の核酸分子をコードするベクターに関する。
【0046】
本明細書で以上に説明したような定義及び好ましい実施形態は、適用できる場合は変更すべきところは変更して、第2の態様へ準用される。
【0047】
本発明によるベクターは概して、好ましくは本発明の核酸分子の複製及び/若しくは発現、並びに/又はそれによりコードされるポリペプチドの発現を指揮することができる。
【0048】
好ましくは、当該ベクターは、プラスミドベクター、コスミドベクター、ウイルスベクター、バクテリオファージベクター、又は、例えば、遺伝子操作において従来より使用されている、別のベクターである。
【0049】
例示的なプラスミド及びベクターは、例えば、Studier及び共同研究者ら(Studier,W.F.;Rosenberg A.H.; Dunn J.J.; Dubendroff J.W.,1990,Use of the T7 RNA polymerase to direct expression of cloned genes,Methods Enzymol.185,61-89)又はNovagen社、Promega社、New England Biolabs社、Clontech社、及びGibco BRL社によって供給されるパンフレットにおいて列挙されている。他の好ましいプラスミド及びベクターは、Glover,D.M.,1985, DNA cloning: a practical approach,Vol.I-III,IRL Press Ltd.,Oxford、Rodriguez,R.L.and Denhardt,D.T.(eds),1988,Vectors: a survey of molecular cloning vectors and their uses,179-204,Butterworth,Stoneham、Goedeel,D.V.,1990,Systems for heterologous gene expression,Methods Enzymol.185,3-7、Sambrook,J.; Russell,D.W.,2001,Molecular cloning: a laboratory manual,3rd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New Yorkにおいて見つけることができる。
【0050】
特に好ましいベクターは、CRISPRゲノム編集のために使用することができるベクター、特にRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをコードする本発明の核酸分子を発現するだけのベクター、又はRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをコードする本発明の核酸分子と、ガイドRNA(いわゆる「オールインワン型ベクター」)との両方を発現するベクターである。前者の場合、第2のベクターは、ガイドRNAの発現のために採用されるものとする。CRISPRゲノム編集ベクターは、例えば、OriGene、Vector Builder、又はThermoFisherから市販されている。
【0051】
上述された本発明の核酸分子はまた、別の核酸分子との翻訳融合が生じるように、ベクター内へと挿入され得る。この目的のために、重複伸長PCRを適用することができる(例えば、Wurch,T.,Lestienne,F.,and Pauwels,P.J.,A modified overlap extension PCR method to create chimeric genes in the absence of restriction enzymes,Biotechn.Techn.12,9,Sept.1998,653-657)。そこから生じる産物は融合タンパク質と称されており、以下でさらに説明される。他の核酸分子は、例えば、本発明の核酸分子によってコードされるタンパク質の溶解度を上げ得る及び/又は当該タンパク質の精製を促進するタンパク質をコードし得る。非限定例としては、pET32、pET41、pET43がある。ベクターはまた、正確なタンパク質の折りたたみを促進するために1つ以上のシャペロンをコードする追加の発現可能な核酸を含有してもよい。適切な細菌発現宿主は、例えば、BL21(BL21(DE3)、BL21(DE3)PlysS、BL21(DE3)RIL、BL21(DE3)PRAREなど)又はRosetta(登録商標)に由来する株を含む。
【0052】
ベクター修飾技術については、J.F.Sambrook and D.W.Russell,ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,2001,ISBN-10 0-87969-577-3を参照されたい。概して、ベクターは、クローン化又は発現のための1つ以上の複製起点(ori)及び遺伝系、宿主における選択のための1つ以上のマーカー、例えば、抗生物質耐性、並びに1つ以上の発現カセットを含有することができる。適切な複製起点としては、例えば、Col E1複製起点、SV40ウイルス複製起点、M13複製起点がある。
【0053】
ベクター内に挿入されたコード配列は、例えば、標準的な方法によって合成され、又は天然源から単離され得る。転写調節要素への及び/又は他のアミノ酸コード配列へのコード配列のライゲーションは、確立された方法を用いて行うことができる。原核細胞又は真核細胞における発現を確保する転写調節要素(発現カセットの一部)は、当業者に周知である。これらの要素は、転写の開始を確保する調節配列(例えば、翻訳開始コドン、転写終結配列、プロモーター、エンハンサー、及び/又はインスレーター)と、配列内リボソーム進入部位(IRES)(Owens et al.,(2001),PNAS.98(4)1471-1476)と、任意で、転写の終結及び転写の安定化を確保するポリAシグナルとを含む。追加の調節要素としては、転写エンハンサー及び翻訳エンハンサー、並びに/又は天然に会合している若しくは異種性のプロモーター領域を含んでもよい。調節要素は、本発明のエンドヌクレアーゼ又は異種性調節要素に対してネイティブであってもよい。好ましくは、本発明の核酸分子は、かかる発現制御配列が原核細胞又は真核細胞における発現を可能にするよう、使用可能に連結される。ベクターはさらに、分泌シグナルをコードするヌクレオチド配列をさらなる調節要素として含んでもよい。かかる配列は当業者に周知である。さらに、使用される発現系により、発現したポリペプチドを細胞区画へと指揮することができるリーダー配列は、本発明の核酸分子のコード配列へ付加されてもよい。かかるリーダー配列は当該技術分野で周知である。具体的に設計されるベクターは、細菌-真菌細胞又は細菌-動物細胞など、異なる宿主間でのDNA輸送を可能にする。
【0054】
さらに、バキュロウイルスの系又はワクシニアウイルス若しくはセムリキ森林ウイルスに基づいた系は、本発明の核酸分子のための真核生物発現系におけるベクターとして使用することができる。レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、又はウシパピローマウイルスなどのウイルスに由来する発現ベクターは、標的とされる細胞集団へと核酸又はベクターを送達するのに使用され得る。当業者に周知である方法は、組換えウイルスベクターを構築するのに使用することができ、例えば、Sambrook and D.W.Russell,ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,2001において説明される技術を参照されたい。
【0055】
真核宿主細胞における発現を可能にする調節要素の例は、本明細書で上述したプロモーターを含む、プロモーターである。転写の開始の原因となる要素のほかに、かかる調節要素はまた、核酸の下流にあるSV40-ポリ-A部位若しくはtk-ポリ-A部位、又はSV40、lacZ及びAcMNPV多面体ポリアデニル化シグナルなど、転写終結シグナルも含み得る。
【0056】
大腸菌及び他の細菌において培養するための、カナマイシン又はアンピシリン耐性遺伝子など選択可能なマーカーとの同時形質移入は、形質移入した細胞の同定及び単離を可能にする。哺乳動物細胞培養のための選択可能なマーカーは、dhfr、gpt、ネオマイシン、ヒグロマイシン耐性遺伝子である。形質移入した核酸はまた、コードされた(ポリ)ペプチドを大量に発現するよう増幅させることもできる。DHFR(ジヒドロ葉酸レダクターゼ)マーカーは、数百又は数千もの目的の遺伝子のコピーを担持する細胞株を開発するのに有用である。別の有用な選択マーカーは、グルタミンシンターゼ(GS)という酵素である。かかるマーカーを用いて、細胞は選択培地中で生育し、最高の耐性を持つ細胞が選択される。
【0057】
しかしながら、本明細書で上述したような本発明の核酸分子はまた、細胞内への直接導入、又はリポソーム、ファージベクター、又はウイルスベクター(例えば、アデノウイルス又はレトロウイルス)を介して導入するよう設計され得る。
【0058】
本発明は、第3の態様において、第1の態様の核酸分子を含む、又は第2の態様のベクターを用いて形質転換された、形質導入された、若しくは形質移入された宿主細胞に関する。
【0059】
本明細書で上述したような定義及び好ましい実施形態は、適用できる場合には変更すべきところは変更して、第3の態様へ準用される。
【0060】
大量のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼが当該宿主細胞によって生産され得、ここで、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをコードする単離されたヌクレオチド配列が適切なベクター又は発現ベクター内へと挿入された後に宿主内へと挿入される。このベクター又は発現ベクターは、適切な宿主細胞内へと導入され(好ましくは、当該宿主は大量に増殖させることができ)、且つ、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼは、宿主細胞又は培養培地から精製される。
【0061】
宿主細胞はまた、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼの精製を必要とすることなく、本発明のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼを供給するために使用され得る(Yuan,Y.;Wang,S.;Song,Z.;and Gao,R.,Immobilization of an L-aminoacylase-producing strain of Aspergillus oryzae into gelatin pellets and its application in the resolution of D,L-methionine,Biotechnol Appl.Biochem.(2002).35:107-113を参照されたい)。本発明のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼは、宿主細胞によって分泌され得る。分子生物学の分野の当業者は、広範な種々の発現系のいずれかを使用して、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼを提供し得ることを理解するであろう。使用される正確な宿主細胞は、適切な成長条件下で生育されるときに、宿主細胞がRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼを生産する限り、本発明にとって決定的ではない。
【0062】
本発明の核酸分子を含有するベクターをクローン化することができる宿主細胞は、十分量の組換え酵素を複製及び単離するために使用される。この目的のために使用される方法は、当業者に周知である(Sambrook and D.W.Russell,ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,2001)。
【0063】
RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼの発現は、宿主細胞においてRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼを生産するために使用され得るだけでなく、その発現はまた、宿主細胞のゲノムを編集するためにも使用され得る。かかる場合、宿主細胞はまた、ガイドRNAも含む。CRISPRゲノム編集に使用することができるベクターは、本明細書で以上に論議した。
【0064】
本発明の第3の態様の好ましい態様に従って、前記宿主細胞は、真核細胞又は原核細胞であり、好ましくは植物細胞又は動物細胞である。
【0065】
宿主細胞は、BMC01~BMC15のいずれか1つをコードする遺伝子を天然には含まない真核細胞であり得、例えば、真菌、藻類、植物、又は動物の細胞であり得、ここで、動物は、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、頭足類、甲殻類、昆虫、蛛形類、有袋類、又は哺乳類であり得る。宿主細胞に関して非ネイティブであるBMC01~BMC15のいずれか1つをコードする遺伝子は、プロモーターなど調節要素へ使用可能に連結することができる。プロモーターは、宿主生物に対してネイティブであり得、又は別の種のプロモーターであり得る。真核細胞など異種性宿主細胞においてBMC01~BMC15のいずれか1つを発現するためのコンストラクトはさらに、任意で転写終結因子を含むことができる。BMC01~BMC15のいずれか1つをコードする遺伝子は、任意で宿主種に対してコドンの最適化が行われてもよく、任意で1つ以上のイントロンを含むことができ、任意で1つ以上のペプチドタグ配列、1つ以上の核局在化配列(NLS)及び/又は1つ以上のリンカー若しくは操作された開裂部位(例えば、2a配列)を含むことができる。様々な実施形態において、宿主細胞は、以上に開示された操作されたBMC01~BMC15のCRISPRの系のいずれかを含むことができ、ここで、当該エフェクターをコードする核酸配列は、ガイドRNAの導入に先立って細胞内に存在する。他の実施態様において、BMC01~BMC15のポリペプチドを発現するための遺伝子を含むよう操作された細胞はさらに、調節要素へ使用可能に連結されたガイドRNA(例えば、ガイドRNA)をコードするポリヌクレオチドを含むことができる。
【0066】
細胞又は生物は、BMC01~BMC15のいずれか1つをコードする遺伝子を天然には含まない原核細胞であり得る。適切な原核宿主細胞は、例えば、E.coli BL21(例えば、BL21(DE3)、BL21(DE3)PlysS、BL21(DE3)RIL、BL21(DE3)PRARE、BL21コドンプラス、BL21(DE3)コドンプラス)、Rosetta(登録商標)、XL1 Blue、NM522、JM101、JM109、JM105、RR1、DH5α、TOP10、HB101、又はMM294を含む。さらに適切な細菌宿主細胞は、Streptomyces、Pseudomonas putidaなどのPseudomonas、C.glutamicumなどのCorynebacterium、L.salivariusなどのLactobacillus、Salmonella、又はBacillus subtilisなどのBacillusであるが、これらに限定されない。
【0067】
概して、真核宿主細胞は、原核宿主細胞よりも好ましい。
【0068】
真核細胞は、酵母細胞、真菌細胞、アメーバ細胞、昆虫細胞、脊椎動物細胞(例えば哺乳動物細胞)、又は植物細胞であり得る。
【0069】
酵母細胞は、例えば、Saccharomyces cerevisiae、Ogataea angusta、K.marxianus若しくはK.lactisなどのKluyveromyces属、又はP.pastorisなどのPichia属、Yarroawia lipolyticaなどのYarrowia属、Candida属、Drosophila S2細胞若しくはSpodoptera Sf9細胞などの昆虫細胞、植物細胞、又は真菌細胞であり得、好ましくはTrichocomaceae科の、より好ましくはAspergillus属、Penicillium属、若しくはTrichoderma属の、又はUstilaginaceae科の、好ましくはUstilago属の真菌細胞であり得る。
【0070】
使用され得る植物宿主細胞には、単子葉植物及び双子葉植物(すなわち、それぞれ単子葉類及び双子葉類)があり、好ましくは作物植物細胞及びタバコ細胞である。作物には、穀物(例えば、トウモロコシ、小麦、米)、豆類(例えば、大豆、エンドウ豆、及びアルファルファ)、果物及び野菜(例えば、レタス、トマト、及びジャガイモ)が含まれる。対象となる植物種の例としては、トウモロコシ(Zea mays)、アブラナ属(Brassica sp.)(例:B. napus、B. rapa、B. juncea)、特に種子油源として有用なアブラナ属種、アルファルファ(Medicago sativa)、米(Oryza sativa)、ライ麦(Secale cereale)、ソルガム(Sorghum bicolor、モロコシ(Sorghum vulgare))、カメリナ(Camelina sativa)、キビ(例えば、ハトムギ(Pennisetum glaucum)、ヒエ(Panicum miliaceum)、アワ(Setaria italica)、シコクビエ(Eleusine coracana))、ヒマワリ(Helianthus annuus)、キヌア(chenopodium quinoa)、チコリ(Cichorium intybus)、レタス(Lactuca sativa)、ベニバナ(Carthamus tinctorius)、小麦(Triticum aestivum)、大豆(Glycine max)、タバコ(Nicotiana tabacum)、ジャガイモ(Solanum tuberosum)、落花生(Arachis hypogaea),綿(Gossypium barbadense、Gossypium hirsutum)、サツマイモ(Ipomoea batatus)、キャッサバ(Manihot esculenta)、コーヒー(Coffea spp.)、ココナッツ(Cocos nucifera)、パイナップル(Ananas comosus)、柑橘類の木(Citrus spp.)、ココア(Theobroma cacao)、紅茶(Camellia sinensis)、バナナ(Musa spp.)、アボカド(Persea americana)、イチジク(Ficus casica)、グアバ(Psidium guajava)、マンゴー(Mangifera indica)、オリーブ(Olea europaea)、パパイヤ(Carica papaya)、カシュー(Anacardium occidentale)、マカダミア(Macadamia integrifolia)、アーモンド(Prunus amygdalus)、テンサイ(Beta vulgaris)、サトウキビ(Saccharum spp.)、アブラヤシ(Elaeis guineensis)、ポプラ(Populus spp.)、ユーカリ(Eucalyptus spp.)、オーツ麦(Avena sativa)、大麦(Hordeum vulgare)、野菜、観賞植物、及び針葉樹が挙げられるが、これらに限定されない。
【0071】
使用され得る哺乳動物宿主細胞には、ヒトHela細胞、HEK293細胞、H9細胞及びJurkat細胞、マウスNIH3T3細胞及びC127細胞、COS1細胞、COS7細胞、及びCV1細胞、ウズラQC1~QC3細胞、マウスL細胞、Bowes黒色腫細胞並びにチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞がある。
【0072】
本発明は、第4の態様において、植物、種子、若しくは単一の植物細胞ではない植物の一部、又は動物であって、第1の態様の核酸分子を含む、又は第2の態様のベクターを用いて形質転換された、形質導入された、若しくは形質移入された、植物、種子、若しくは植物の一部、又は動物に関する。
【0073】
本明細書で以上に説明したような定義及び好ましい実施形態は、適用できる場合には変更すべきところは変更して、第4の態様へ準用される。
【0074】
植物又はその一部は、単子葉植物若しくはその一部、又は双子葉植物若しくはその一部であり得る。双子葉植物は、好ましくはタバコ植物又はその一部である。同様に、種子は単子葉植物又は双子葉植物の種子であってもよく、好ましくはタバコ植物の種子である。作物植物の好ましい例は本明細書において以上に説明されている。植物の一部の非限定的な例は、葉、茎、又は根である。
【0075】
動物は、好ましくは哺乳動物であり、最も好ましくは非ヒト哺乳動物である。哺乳動物は、例えば、マウス、ラット、ハムスター、ネコ、イヌ、ウマ、ブタ、ウシ、サル、類人猿などであり得る。
【0076】
植物、種子、若しくは植物の一部、又は動物において第1の態様の核酸分子をガイドRNAとともに発現させることによって、宿主のゲノムは編集され得る。このゲノムは、例えば、遺伝子療法のために、染色体再構成の創造のために、遺伝子機能を研究するために、形質転換生物の生産のために、内在性遺伝子標識化のために、又は標的とされた導入遺伝子の付加のために、標的とされる遺伝子突然変異を導入する目的で編集され得る。
【0077】
本発明は、第5の態様において、第3の態様の宿主細胞を培養することと、生産されたRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼを単離することと、を含む、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼの生産方法に関する。
【0078】
本明細書で以上に説明したような定義及び好ましい実施形態は、適用できる場合には、変更すべきところは変更して、第5の態様へ準用される。
【0079】
原核宿主又は真核宿主を培養するのに適した条件は、当業者に周知である。概して、細菌を培養するのに適した条件は、ルリア・ベルターニ(LB)培地中で通気下にて当該細菌を生育させることである。発現産物の収率及び溶解度を高めるために、いずれも亢進する又は促進することが知られた適切な添加物を用いて、培地を緩衝する又は補うことができる。大腸菌は、4~約37℃で培養することができ、実際の温度又は温度の流れは、過剰発現することになる分子による。
【0080】
概して、Aspergillus属は、Sabouraudデキストロース寒天、又はジャガイモデキストロース寒天の上で、約10℃~約40℃まで、好ましくは約25℃で生育され得る。酵母培養に適した条件は、例えば、Guthrie and Fink,”Guide to Yeast Genetics and Molecular Cell Biology“(2002);Academic Press Inc.から知られている。当業者はまた、これらのあらゆる条件を認識しており、さらに、これらの条件を、特定の宿主種の必要性及び発現するポリペプチドの必要条件に適応させ得る。誘導性プロモーターが宿主細胞内に存在するベクターにおいて本発明の核酸を制御する場合、ポリペプチドの発現は適切な誘導剤の添加によって誘導することができる。適切な発現プロトコル及び戦略は、当業者に知られている。
【0081】
細胞型及びその特異的な必要条件により、哺乳動物細胞培養は、例えば、10%(v/v)FCS、2mM L-グルタミン、及び100U/mlペニシリン/ストレプトマイシンを含有するRPMI培地又はDMEM培地において行うことができる。これらの細胞は、37℃、5%CO2、水飽和雰囲気下で維持することができる。真核細胞に適した発現プロトコルは、当業者に周知であり、例えば、Sambrook,2001から取得することができる。
【0082】
生産されたRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼの単離のための方法は、当該技術分野で周知であり、限定されるものではないが、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー(サイズ排除クロマトグラフィー)、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、逆相HPLC、ディスクゲル電気泳動法、又は免疫沈降などの方法ステップを含み、例えば、Sambrook,2001を参照されたい。
【0083】
タンパク質単離のステップは好ましくは、タンパク質精製のステップである。本発明に従ったタンパク質精製は、本発明のポリペプチドを複合体混合物から好ましくは均一にさらに単離するよう企図されたプロセス又は一連のプロセスを明示する。精製のステップは例えば、タンパク質の大きさ、物理化学的特性、及び結合親和性の違いを利用する。例えば、タンパク質は、pH勾配のついたゲル又はイオン交換カラムを通過させることによって、等電点により精製され得る。さらに、タンパク質は、サイズ排除クロマトグラフィーを介して又はSDS-PAGE(ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動法)分析によって、タンパク質の大きさ又は分子量により分離することができる。当該技術分野において、タンパク質は、2次元PAGEを用いることによって精製されることが多く、次いで、タンパク質の同一性を確立するためにペプチド質量フィンガープリンティングによって分析される。このことは、科学的な目的にとって有用であり、タンパク質についての検出限界は非常に低く、ナノグラム量のタンパク質が分析にとって十分である。タンパク質はまた、高速液体クロマトグラフィー又は逆相クロマトグラフィーを介して極性/疎水性によっても精製され得る。したがって、タンパク質精製のための方法は、当業者に周知である。
【0084】
本発明は、第6の態様において、第1の態様の核酸分子によってコードされるRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼに関する。
【0085】
本明細書で以上に説明したような定義及び好ましい実施形態は、適用できる場合には、変更すべきところは変更して、第6の態様へ準用される。
【0086】
配列番号1~15のアミノ酸配列は、本発明のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼの特に好ましい例である。
【0087】
本発明の第6の態様のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼはまた、融合タンパク質であり得、ここで、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼのアミノ酸配列が融合パートナーへ融合している融合タンパク質であり得る。この融合は、直接的な融合、又はリンカーを介した融合であり得る。このリンカーは好ましくは、GS-リンカーなどのペプチドである。
【0088】
融合パートナーは、N末端、C末端、両末端、又はRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼポリペプチドの内部位置の中に、好ましくは、N末端又はC末端に位置することができる。
【0089】
融合パートナーは好ましくは、核局在化シグナル(NLS)、細胞貫通ドメイン、プラスチドターゲティングシグナル、ミトコンドリアターゲティングシグナルペプチド、プラスチド及びミトコンドリアの両方を標的とするシグナルペプチド、マーカードメイン、タグ(精製タグなど)、DNA修飾酵素、又はトランス活性化ドメインである。
【0090】
DNA修飾酵素は、平滑末端DNAのリン酸化、脱リン酸化によってDNAを修飾し得、ここで、平滑末端化は、消化単一鎖オーバーハングを指す。脱リン酸化酵素の非限定例は、エビアルカリホスファターゼ(rSAP)、Quick CIPホスファターゼ、及び南極性ホスファターゼ(Antarctic Phosphatase)である。リン酸化酵素の非限定例は、T4 PNKなどのポリヌクレオチドキナーゼである。平滑末端化酵素の非限定例は、DNAポリメラーゼI大型(クレノー)断片、T4 DNAポリメラーゼ、又はリョクトウヌクレアーゼである。
【0091】
トランス活性化ドメイン(transactivation domain)(又はトランス活性化ドメイン(trans-activating domain(TAD)))は、転写共役因子などの他のタンパク質のための結合部位を含有する転写因子足場ドメインである。非限定例は、9アミノ酸トランス活性化ドメイン(9aaTAD)及び高グルタミン(Q)TADである。
【0092】
概して、NLSは、塩基性アミノ酸の伸長を含む。核局在化シグナルは当該技術分野で既知である。NLSは、本発明によるRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼポリペプチドのN末端、C末端又はその両方にあり得る。例えば、本発明によるRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼポリペプチドは、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、若しくはそれより多数のNLSをアミノ末端に若しくはその近くに、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、若しくはそれより多数のNLSをカルボキシ末端に若しくはその近くに、又はこれらの組み合わせ(例えば、アミノ末端に0個又は少なくとも1個以上のNLS、及びカルボキシ末端に0個又は少なくとも1個以上のNLS)を含み得る。1つを超えるNLSが存在するとき、単一のNLSが1個を超えるコピーにおいて存在し得るように、及び/又は1個以上のコピーにおいて存在する1個以上の他のNLSとの組み合わせで存在し得るように、各々は、その他とは独立して選択され得る。いくつかの実施形態において、NLSの最も近いアミノ酸が、N末端又はC末端からポリペプチド鎖に沿って約1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、40、50、又はそれより多数のアミノ酸内にあるとき、NLSは、N末端又はC末端近くにあるとみなされる。RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼポリペプチド配列及びNLSは、いくつかの実施形態において、1~約20のアミノ酸長のリンカーと融合し得る。
【0093】
NLSの非限定例としては、SV40ウイルスラージT抗原のNLS、ヌクレオプラスミン由来のNLS(例えば、ヌクレオプラスミン二連体(bipartite)NLS)、c-myc NLS、hRNPAI M9 NLS、インポーチン-アルファ由来のIBBドメイン、筋腫Tタンパク質、p53タンパク質の、NLS配列、c-abl IVタンパク質、又はインフルエンザウイルスNS 1、肝炎ウイルスデルタ抗原のNLS、Mxlタンパク質、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ、及びステロイドホルモン受容体(ヒト)糖質コルチコイドがある。概して、1個以上のNLSは、真核細胞の核内において検出可能な量での本発明によるRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼポリペプチドの蓄積を駆動するのに十分な強度である。
【0094】
プラスチドターゲティングシグナルペプチド局在性シグナル、ミトコンドリアターゲティングシグナルペプチド局在性シグナル、及び二重ターゲティングシグナルペプチド局在性シグナルも、当該技術分野で既知である(例えば、Nassoury and Morse(2005)Biochim Biophys Acta 1743:5-19、Kunze and Berger(2015)Front Physiol 6:259、Herrmann and Neupert(2003)IUBMB Life 55:219-225、Soil(2002)Curr Opin Plant Biol 5:529-535、Carrie and Small(2013)Biochim Biophys Acta 1833:253-259、Carrie et al.(2009)FEBS J 276:1187-1195、Silva-Filho(2003)Curr Opin Plant Biol 6:589-595、Peeters and Small(2001)Biochim Biophys Acta 1541:54-63、Murcha et al.(2014)Exp Bot 65:6301-6335、Mackenzie(2005)Trends Cell Biol 15:548-554、Glaser et al.(1998)Plant Mol Biol 38:311-338を参照されたい)。
【0095】
マーカードメインの非限定例としては、蛍光タンパク質、精製タグ、及びエピトープタグがある。ある特定の実施形態において、マーカードメインは、蛍光タンパク質であり得る。適切な蛍光タンパク質の非限定例としては、緑色蛍光タンパク質(例えば、GFP、GFP-2、タグGFP、ターボGFP、EGFP、エメラルド、アザミグリーン、単量体アザミグリーン、CopGFP、AceGFP、ZsグリーンI)。黄色蛍光タンパク質(例えば、YFP、EYFP、シトリン、ビーナス、YPet、PhyYFP、ZsYellow)、青色蛍光タンパク質(例えば、EBFP、EBFP2、アズライト、mKalamal、GFPuv、サファイア、T-サファイア)、シアン蛍光タンパク質(例えば、ECFP、セルリアン、CyPet、AmCyanI、ミドリイシ-シアン)、赤色蛍光タンパク質(mKate、mKate2、mPlum、DsRed単量体、mチェリー、mRFPI、Dsレッド-エクスプレス、DsRed2、DsRed-単量体、HcRed-タンデム、HcRedI、AsRed2、eqFP611、mラズベリー、mストロベリー、Jレッド)、及び橙色蛍光タンパク質(mオレンジ、mKO、クサビラ-オレンジ)がある。
【0096】
タグは、ポリペプチドの混合物中で本発明によるRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼポリペプチドの同定を可能にする短いアミノ酸配列である。それ故、タグは好ましくは、精製タグである。精製タグの非限定例は、Hisタグ(例えば、His-6タグ)、GSTタグ、DHFRタグ及びCBPタグである。既知の精製タグの総説は、Kimple et al.(2015),Curr Protoc Protein Sci.2013;73:Unit-9.9において見つけることができる。
【0097】
本発明は第7の態様において、第1の態様の核酸分子、第2の態様のベクター、第3の態様の宿主細胞、第4の態様の植物、種子、細胞の一部、若しくは動物、第6の態様のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ、又はこれらの組み合わせ、を含む、組成物に関する。
【0098】
本明細書で以上に説明したような定義及び好ましい実施形態は、適用できる場合には、変更すべきところは変更して、第7の態様へ準用される。
【0099】
本明細書で使用する場合の「組成物」という用語は、第1の態様の核酸分子、第2の態様のベクター、第3の態様の宿主細胞、第4の態様の植物、種子、細胞の一部、若しくは動物、第6の態様のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼのうちの少なくとも1つ、又はこれらの組み合わせ、を含む組成物を指し、それらはまた、以下において集約的に化合物とも呼ばれる。
【0100】
第7の態様の好ましい実施形態に従って、前記組成物は、医薬組成物又は診断用組成物である。
【0101】
本発明に従って、「医薬組成物」という用語は、患者、好ましくはヒト患者への投与のための組成物に関する。本発明の医薬組成物は、先に列挙した化合物のうちの少なくとも1つを含む。この医薬組成物は、任意で、本発明の化合物の特徴を変化させ、それにより、例えば、当該化合物の機能を安定化させる、調節する、及び/又は活性化することができるさらなる分子を含み得る。この組成物は、固体、液体、又は気体の形態であり得、とりわけ、散剤、錠剤、液剤、又はエアロゾル剤の形態であり得る。本発明の医薬組成物は、任意で、さらに、医薬として許容され得る担体を含んでもよい。適切な医薬担体の例は当該技術分野で周知であり、リン酸緩衝塩類溶液、水、油/水エマルションなどのエマルション、様々な種類の湿潤剤、滅菌溶媒、DMSOを含む有機溶媒などを含む。かかる担体を含む組成物は、従来法によって製剤することができる。これらの医薬組成物は、対象へ適切な用量で投与され得る。投薬計画は、担当医及び臨床的な因子によって決定される。医学分野において周知であるように、いずれか1人の患者のための投与量は、患者の大きさ、体表面積、年齢、投与される特定の化合物、性別、投与の時刻及び経路、健康状態、並びに同時に投与される他の薬物を含む、多くの因子による。所与の状況についての治療有効量は、通例の実験法によって容易に決定され、当業の臨床医又は内科医の技能及び判断の範囲内にある。概して、医薬組成物の規則正しい投与としての投与計画は、活性のある化合物1日当たり1μg~5gの範囲にあるべきである。しかしながら、より好ましい投与量は、1日当たり0.01mg~100mg、さらにより好ましくは0.01mg~50mg、最も好ましくは0.01mg~10mgの範囲にあり得る。変化を観察するために必要とされる処置の長さ及び処置後に応答が生じる間隔は、所望の効果によって変わる。特定の量は、当業者に周知である従来の検査によって決定され得る。
【0102】
医薬組成物は、例えば、ウイルス性疾患又は細菌性疾患など、病原性疾患を処置又は予防するために使用され得る。例えば、第6の態様のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼは、病原体のゲノムを標的とするgRNAと一緒に使用され、それにより、病原体によって引き起こされる疾患が予防又は処置されるように、病原体のゲノムを修飾し得る。
【0103】
医薬組成物はまた、例えば、微生物相の平衡異常を処置又は予防するためにも使用され得る。微生物相における平衡異常は、例えば、病原性の細菌及び酵母の異常増殖を引き起こし得る抗生物質の過剰使用のために生じる可能性がある。
【0104】
「診断用組成物」は、対象における感染性疾患及び非感染性疾患の両方の疾患を検出するのに適している組成物を指す。診断用組成物は特に、本発明の融合タンパク質が一本鎖DNAへ結合することと関係して、本明細書で先に説明したようなマーカー部分を含み得、それにより、本発明によるRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼポリペプチドが一本鎖DNAを切断すると、レポーターを活性化させ、蛍光又は色の変化を生じるため、特異的疾患の核マーカーの視覚的検出が可能となる。診断用組成物は、血液、尿、又は唾液など、体液サンプルへ適用され得る。
【0105】
本発明は、第8の態様において、対象又は植物のゲノムにおける標的部位のヌクレオチド配列を修飾することによって当該対象又は植物における疾患の処置における使用のための、第1の態様の核酸分子、第2の態様のベクター、第3の態様の宿主細胞、第4の態様の植物、種子、細胞の一部若しくは動物、第6の態様のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ、又はこれらの組み合わせに関する。
【0106】
また、第1の態様の核酸分子、第2の態様のベクター、第3の態様の宿主細胞、第4の態様の植物、種子、細胞の一部若しくは動物、第6の態様のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ、又はこれらの組み合わせによって、対象又は植物のゲノムにおける標的部位のヌクレオチド配列を修飾することを含む、当該対象又は植物における疾患の処置方法又は予防方法も説明されている。
【0107】
本明細書で以上に説明したような定義及び好ましい実施形態は、適用できる場合には、変更すべきところは変更して、第8の態様へ準用される。
【0108】
対象又は植物のゲノムにおける標的部位のヌクレオチド配列の修飾は、本発明に従って、CRISPR技術によるゲノム編集であり、特に、適切なgRNAと、任意でゲノム修飾の標的部位を決定するための後述される修復基質と併用される、本明細書で提供される新規のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼによる、ゲノム編集である。
【0109】
ゲノム編集(ゲノム工学としても知られている)は、遺伝子工学の1種であり、標的部位、好ましくは目的の遺伝子が、細胞のゲノム中で、挿入され、欠失され、修飾され、又は置換される。標的部位、好ましくは目的の遺伝子はゲノム内にあり得るが、ミトコンドリアDNA(動物細胞)又は葉緑体DNA(植物細胞)内にもあり得る。ゲノム編集は結果として、細胞のゲノム内での機能喪失型突然変異又は機能獲得型突然変異をもたらし得る。機能喪失型突然変異(不活性化型突然変異とも呼ばれる)は結果として、目的の遺伝子の機能が下がる又は全くなくなる(部分的に又は全体的に不活性化される)。対立遺伝子が、完全に機能喪失する(全体的に不活性化される)とき、このことは本明細書で(遺伝子)ノックアウトとも呼ばれる。遺伝子ノックアウトは、遺伝子の1つ以上のヌクレオチドを、挿入、欠失、修飾、又は置換することによって達成され得る。機能獲得型突然変異(活性化型突然変異とも呼ばれる)は、目的の遺伝子を変化させ、それによりその効果がより強くなる(活性の増強)又は異なる(例えば、異常な)機能によって取り代わりもする。機能獲得型突然変異は、細胞に、以前は有していなかった新たな機能又は効果も導入し得る。これに関連して、新たな遺伝子は細胞のゲノムに付加され得(挿入)又はゲノム内の遺伝子を置換し得る。かかる新たな機能又は効果を導入する機能獲得型突然変異は、遺伝子ノックインとも呼ばれる。ゲノム編集はまた、1つ以上の遺伝子の上方調節又は下方調節ももたらし得る。遺伝子の発現の調節の原因となるDNA部位(例えば、プロモーター領域又は転写因子コード遺伝子)を標的とすることによって、遺伝子の発現は、CRISPR技術によって上方調節又は下方調節することができる。CRISPR技術の作用様式に関するさらなる詳細は、本明細書で後述される。
【0110】
発見以来、CRISPR技術は、治療用ゲノム編集にますます適用されてきた。いくつかのウイルスベクター及び非ウイルスベクターの採用で、CRISPRの系を標的細胞又は標的組織へ効率的に送達することが可能になった。さらに、CRISPRの系は、突然変異誘発、遺伝子組込み、エピゲノム調節、染色体配列換え、塩基編集、及びmRNA編集など、様々な方法で標的遺伝子の発現を調節することができる(概要については、Le and Kim(2019),Hum Genet.;138(6):563-590)。
【0111】
対象のゲノムにおける標的部位のヌクレオチド配列の修飾は好ましくは、遺伝子療法である。遺伝子療法は、疾患、特にヒトの疾患を処置及び予防するための、標的部位のヌクレオチド配列の遺伝子操作の原理に基づいている。
【0112】
CRISPR技術の臨床試験において、科学者は、ヒトにおける癌及び血液障害を根絶するためにCRISPR技術を用いている。これらの試験において、一部の細胞は、処置されることになる対象から取り出され、DNAがゲノム編集され、次いで、ゲノム編集された細胞が、対象の体内へと戻されてから、当該細胞が、処置されるべき疾患と戦うよう装備される。
【0113】
本発明は、第9の態様において、細胞のゲノムにおける標的部位のヌクレオチド配列の修飾方法であって、当該細胞内へ、(i)DNAを標的とするRNAが、(a)標的DNAにおける配列と相補的であるヌクレオチド配列を含む第1のセグメントと、(b)第6の態様のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼと相互作用する第2のセグメントと、を含む、前記DNAを標的とするRNA、又は前記DNAを標的とするRNAをコードするDNAポリヌクレオチド、及び(ii)RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼが、(a)DNAを標的とするRNAと相互作用するRNA結合部分と、(b)部位特異的酵素活性を呈する活性部分と、を含む、第6の態様のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ、又は第1の態様のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸分子、又は第2の態様のベクター、を導入することを含む、ヌクレオチド配列の修飾方法に関する。
【0114】
したがって、本発明はまた、医薬組成物(例えば、医薬組成物又は診断用組成物)であって、(i)DNAを標的とするRNAが、(a)標的DNAにおける配列と相補的であるヌクレオチド配列を含む第1のセグメントと、(b)第6の態様のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼと相互作用する第2のセグメントと、を含む、DNAを標的とするRNA、又はDNAを標的とするRNAをコードするDNAポリヌクレオチド、及び(ii)RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼが、(a)DNAを標的とするRNAと相互作用するRNA結合部分と、(b)部位特異的酵素活性を呈する活性部分と、を含む、第6の態様のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ、又は第1の態様のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸分子、又は第2の態様のベクターと、を含む、医薬組成物にも関する。
【0115】
本明細書で以上に説明したような定義及び好ましい実施形態は、適用できる場合には、変更すべきところは変更して、第9の態様へ準用される。
【0116】
DNAを標的とするRNAは、標的DNAにおける配列と相補的であるヌクレオチド配列を含む第1のセグメントと、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼと相互作用する第2のセグメントと、を含む。本明細書で以上に論議したように、標的DNAにおける配列と相補的であるヌクレオチド配列は、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼの標的特異性を規定する。また本明細書で以上に論議したように、DNAを標的とするRNAは、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼへ結合し、それにより複合体が形成される。第2のセグメントは、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼと相互作用し、複合体の形成の原因となる。第6の態様のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼと相互作用する第2のセグメントは好ましくは、配列番号31、より好ましくは配列番号32を含む、又はそれからなる。配列番号31は、V型クラス2のCRISPRヌクレアーゼの第2のセグメントの共通配列である。V型クラス2のCRISPRヌクレアーゼにおいて、第2セグメントはまた、5’ハンドルとしても知られている。配列番号32は、BMC01~BMC15のいずれか1つの第2のセグメントである。
【0117】
RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼは、第1のセグメントとして、DNAを標的とするRNAと相互作用するRNA結合部分と、第2のセグメントとして、部位特異的酵素活性を呈する活性部分と、を含む。第1のセグメントは、DNAを標的とするRNAと相互作用し、論議された複合体の形成の原因となる。第2のセグメントは、エンドヌクレアーゼドメインを保有し、このドメインは好ましくはRuvCドメインを含む。
【0118】
また本明細書で以上に論議したように、DNAを標的とするRNAは、ガイドRNAである。ガイドRNAは、細胞内へと直接導入されるか、又はDNAを標的とするRNAをコードするDNAポリヌクレオチドとしてのいずれかであり得る。後者の場合、ガイドRNAをコードするDNAは概して、ガイドRNAの発現のために1つ以上のプロモーター配列へ使用可能に連結される。例えば、RNAコード配列は、RNAポリメラーゼIII(Pol III)又はRNAポリメラーゼII(Pol II)によって認識されるプロモーター配列へ使用可能に連結されることができる。DNAを標的とするRNAをコードするDNAポリヌクレオチドは好ましくは、ベクターである。多くの単一のgRNA空ベクター(CRISPRエンドヌクレアーゼ含有及び非含有)は、当該技術分野で入手可能である。また、(CRISPRエンドヌクレアーゼの発現の有無とともに)単一プラスミドから複数のgRNAを発現させるために使用することができる、いくつかの空の多重gRNAベクターが入手可能である。DNAポリヌクレオチドは、DNAを標的とするRNAを、発現可能な形態でコードする。
【0119】
同様に、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼは、細胞内へと直接導入され得、又はRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸分子としてのいずれかであり得、後者は好ましくは、第2の態様のベクターである。DNAポリヌクレオチドは、発現可能な形態でRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをコードする。
【0120】
本明細書で以上により詳細に論議したように、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼとDNAを標的とするRNAとはまた、オールインワン型のCRISPR-casベクターなど、同一のDNAポリヌクレオチドによってもコードされ得る。
【0121】
「発現可能な形態で」という用語は、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼとDNAを標的とするRNAとをコードする1つ以上のDNAポリヌクレオチドが、DNAを標的とするRNAが転写されること、且つRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼが転写され、細胞内の活性のある酵素へと翻訳されることを確保する形態にあることを意味する。
【0122】
本発明の第9の態様の好ましい実施形態に従って、前記RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ及び前記DNAを標的とするRNAが直接、細胞内へと導入される場合、これらはリボ核タンパク質複合体(RNP)の形態で導入される。
【0123】
RNPは、インビトロで集合させ、当該技術分野で既知の方法、例えば、電気穿孔法又はリポフェクションによって、細胞へと送達することができる。RNPは、核酸系(例えば、ベクター系)RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼとして同等の効能を用いて、標的部位を開裂することができる(Kim et al.(2014),Genome Research 24(6):1012-1019)。
【0124】
タンパク質(又はペプチド)又はRNPを生細胞内へと導入するための手段は、当該技術分野で既知であり、マイクロインジェクション、電気穿孔法、リポフェクション(リポソーム使用)、ナノ粒子系送達、及びタンパク質形質導入を含むが、これらに限定されない。これらの方法のいずれか1つが使用され得る。
【0125】
リポフェクションに使用されるリポソームは、細胞膜(すなわち、通常は例えばリン脂質でできた脂質二重層)と同じ材料から構成される小さな小胞であって、1つ以上のタンパク質で充填することができる(例えば、Torchilin VP.(2006),Adv Drug Deliv Rev.,58(14):1532-55)。タンパク質又はRNPを細胞内へと送達するために、リポソームの脂質二重層は、細胞膜の脂質二重層と融合し、それにより、含有されたタンパク質を細胞内へと送達することができる。本発明に従って使用されるリポソームは、カチオン性脂質から構成されることが好ましい。カチオン性リポソーム戦略は、タンパク質送達へうまく適用されている(Zelphati et al.(2001).J.Biol.Chem.276,35103-35110)。当該技術分野で知られているとおり、使用される実際の組成物、及び/又はカチオン性脂質の混合物は、目的のタンパク質及び使用される細胞型によって変えることができる(Felgner et al.(1994).J.Biol.Chem.269,2550-2561)。相同指向型DNA修復の誘導のためのCas9リボ核タンパク質及びドナーDNAのナノ粒子系送達は、例えば、Lee et al.(2017),Nature Biomedical Engineering,1:889-90において説明されている。
【0126】
タンパク質の形質導入は、外部環境から細胞内へのタンパク質のインターナリゼーションを明示する(Ford et al(2001),Gene Therapy,8:1-4)。この方法は、少数のタンパク質及びペプチド(好ましくは、10~16個のアミノ酸長)が細胞膜を貫通する固有の特性による。これらの分子の形質導入特性は、それらとの融合物として発現するタンパク質に付与することができ、したがって、例えば、治療用タンパク質を標的細胞内へと送達するための遺伝子療法に対する代案を提供することができる。通常使用される、細胞膜を貫通することができるタンパク質又はペプチドは、例えば、アンテナペディアペプチド、単純ヘルペスウイルスVP22タンパク質、HIV TATタンパク質形質導入ドメイン、神経伝達物質若しくはホルモンに由来するペプチド、又は9xArgタグである。
【0127】
マイクロインジェクション及び電気穿孔法は、当該技術分野で周知であり、当業者は、これらの方法をいかに行うかをわかっている。マイクロインジェクションは、ガラス製のマイクロピペットを使用して、物質を顕微鏡レベルで又は巨視的な境界レベルで単一の生細胞内へと導入するプロセスを指す。電気穿孔法は、外部から適用される電場によって引き起こされる細胞原形質膜の導電率及び透過性の有意な上昇である。透過性を上昇させることによって、タンパク質(又はペプチド又は核酸配列)は、生細胞内へと導入することができる。
【0128】
RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼは、活性のある酵素として、又は酵素前駆体として、細胞内へと導入され得る。後者の場合、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼは、細胞内で、(例えば、活性部位を露わにする加水分解反応や活性部位を露わにさせる立体構造の変化により)生化学的に変化し、それにより酵素前駆体が、活性のある酵素になる。
【0129】
核酸分子とDNAを標的とするRNAとを細胞内へと導入するための手段及び方法は同様に、当該技術分野で既知であり、これらの方法は、細胞を形質導入又は形質移入することを包含する。
【0130】
形質導入は、ウイルス又はウイルスベクターによって外来DNAを細胞内へと導入するプロセスである。形質導入は、外来遺伝子を宿主細胞のゲノム内へと安定して導入するために分子生物学者によって使用される一般的なツールである。概して、プラスミドが構築され、このプラスミド内では、転移される遺伝子が、ウイルスゲノムを認識してウイルス粒子内にパッケージするためにウイルスタンパク質によって使用されるウイルス配列に隣接している。このプラスミドが(通常、形質移入によって)生産細胞内へと、感染性ビリオンの形成に必要とされるウイルス遺伝子を保有する他のプラスミド(DNAコンストラクト)と一緒に挿入される。これらの生産細胞において、これらのパッケージングコンストラクトによって発現するウイルスタンパク質は、転移されるDNA/RNA(ウイルスベクターの種類による)上の配列を結合し、それをウイルス粒子内へと挿入する。安全性のため、使用されるプラスミドはいずれも、ウイルス形成に必要とされる配列をすべて含有してはおらず、それにより複数のプラスミドの同時の形質移入が、感染性ビリオンを得るために必要とされる。その上、遺伝材料がビリオン内でパッケージされることを可能にするシグナルを、転移される配列を保有するプラスミドのみが含有しており、それによりウイルスタンパク質をコードする遺伝子はいずれもパッケージされない。これらの細胞から収集されたウイルスは次に、変化される細胞へ適用される。これらの感染の初期ステージは、天然のウイルスによる感染を模倣しており、転移された遺伝子の発現と、(レンチウイルスベクター/レトロウイルスベクターの場合、)転移されるDNAの、細胞ゲノム内への挿入とにつながる。しかしながら、転移された遺伝材料がウイルス遺伝子のいずれもコードしていないので、これらの感染は、新たなウイルスを生じない(ウイルスは「複製欠損型」である)。本発明の場合において、形質導入は、ゲノム内に発現可能な形態でRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼを含む細胞を生じるために使用され得る。
【0131】
形質移入は、ネイキッド若しくは精製された核酸、又は精製されたタンパク質、又は集合したリボ核タンパク質複合体を細胞内へと意図的に導入するプロセスである。形質移入は、概して、非ウイルスベースの方法である。
【0132】
形質移入は化学的な形質移入であり得る。化学的な形質移入は、いくつかの種類へと分けることができる。すなわち、シクロデキストリン、ポリマー、リポソーム、又はナノ粒子を用いた形質移入である。最も安価な方法の1つは、リン酸カルシウムを用いる。リン酸イオンを含有するHEPES緩衝塩類溶液(HeBS)は、形質移入されるDNAを含有する塩化カルシウム溶液と組み合わさる。この2つが組み合わさると、正に帯電したカルシウム及び負に帯電したリン酸の細かな沈殿物が形成され、形質移入されるDNAをその表面上に結合させる。沈殿物の懸濁液は次に、形質移入される細胞(通常、単層で成長した細胞培養物)へ添加される。完全には理解されていないプロセスによって、細胞は、沈殿物の一部、及びそれとともにDNAを取り込む。このプロセスはこれまで、多くの癌遺伝子を同定する好ましい方法であった。他の方法は、非常に分枝した有機化合物、いわゆるデンドリマを用いて、DNAを結合させ、これを細胞内へと転移させる。別の方法は、DEAE-デキストラン又はポリエチレンイミン(PEI)などのカチオンポリマーの使用である。負に帯電したDNAはポリカチオンへ結合し、この複合体は、細胞によって飲食作用を介して取り込まれる。リポフェクション(又はリポソーム形質移入)は、リポソームによって遺伝材料を細胞内へと注入するために使用される技術であり、リポソームは、細胞膜と容易に併合することができる小胞であり、その理由は、いずれもが以上に記載したように、リン脂質二重層でできているからである。リポフェクションは概して、正に帯電した(カチオン性の)脂質(カチオン性リポソーム又はカチオン性混合物)を用いて、負に帯電した(アニオン性の)遺伝材料との凝集体を形成する。この形質移入技術は、ポリマー、DEAE-デキストラン、リン酸カルシウム、及び電気穿孔法を利用する他の生化学的手順と同じ作業を、細胞内への転移に関して行う。リポフェクションの効率は、形質移入を受けた細胞を穏和な熱ショックで処理することによって改善することができる。Fugeneは、広範な種々の細胞を高い効率及び低い毒性で直接形質移入することができる、一連の広範に使用される所有権付き非リポソーム形質移入試薬である。
【0133】
形質移入はまた、非化学的方法であってもよい。電気穿孔法(遺伝子の電気転移(electrotransfer))は、よく用いられる方法であり、細胞膜の透過性の一過性上昇は、細胞が強電場の短パルスへ曝露されると達成される。細胞の絞り込みは、細胞膜の変形を介して細胞内へと分子を送達するのを可能にする。音響穿孔法は、高強度の超音波を使用して細胞膜において孔形成を誘導する。この孔形成は主として、近傍の細胞膜と相互作用する気泡のキャビテーションによるものであり、その理由は、キャビテーション核の源である超音波造影剤の添加によって孔形成が亢進するからである。光形質移入は、小さな(約1μm径)孔が細胞の原形質膜において、高度に焦点合わせされたレーザで一過性に生じる方法である。原形質体融合は、形質転換した細菌細胞が、細胞壁を取り除くためにリゾチームで処理される技術である。この後、融合促進因子(fusogenic agent)(例えば、センダイウイルス、PEG、電気穿孔法)が、目的の遺伝子を保有する原形質体を、受け手の標的細胞と融合させるために使用される。
【0134】
最後に、形質移入は、粒子を基にした方法であってもよい。形質移入のための直接的なアプローチは遺伝子銃であり、ここで、DNAは、不活性固体(通常、金)のナノ粒子へ連結され、次いでこれが標的細胞の核内へと直接「撃ち込まれる」(又は粒子衝突)。それ故、核酸は、微量発射体へ通常、接続されて、高速度で膜貫通を経て送達される。磁気移入(magnetofection)、又は磁石支援形質移入(magnet-assisted transfection)は、磁石の力を用いてDNAを標的細胞内へと送達する形質移入法である。刺通移入(impalefection)は、プラスミドDNAで機能化されたカーボンナノファイバ又はシリコンナノワイヤなど細長いナノ構造及びかかるナノ構造のアレイによって細胞を刺通することによって実施される。
【0135】
本発明の第9の態様の方法は、本発明のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼを用いた細胞のゲノムにおける標的部位のヌクレオチド配列の編集(すなわち、「突然変異」)のための方法に関する。このことは、基本的に3つの連続的な前処理を必要とする。すなわち、(1)RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをコードする遺伝子又はRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ自体の、標的細胞内への効率的な送達、(2)標的細胞内におけるCRISPR構成要素の効率的な発現又は存在(DNAを標的とするRNA及び第6の態様のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ)、並びに(3)CRISPRリボ核タンパク質複合体による目的のゲノム部位のターゲティング、及び細胞自体の修復経路によるDNAの修復である。ステップ(3)は、ゲノムが、編集される細胞におけるCRISPR構成要素の発現の際に、細胞内で自動的に実施される。
【0136】
ゲノム編集によって、標的部位は、細胞のゲノムにおいて、挿入、欠失、修飾(一塩基多型(SNP)を含む)、又は置換され得る。標的部位は、遺伝子のコード領域内、遺伝子のイントロン内、遺伝子の調節領域内、遺伝子間の非コード領域内などにあり得る。この遺伝子は、タンパク質コード遺伝子又はRNAコード遺伝子であり得る。この遺伝子は、目的のいずれかの遺伝子であり得る。
【0137】
これに関連して、ゲノム編集は、非相同末端結合(NHEJ)又は相同指向型組換え(homology directed recombination(HDR))経路を含む、細胞自体の修復経路を用いる。DNAが一度、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼによって切断されると、細胞自体のDNA修復機構(NHEJ又はHDR)は、数片の遺伝材料を付加し若しくは欠失させ、又は既存のセグメントを個別調整したDNA配列で置き換えることによってDNAに対して変化をもたらす。それ故、CRISPR-Casの系において、CRISPRヌクレアーゼは、DNAにおける二本鎖切断を、短い(約20個のヌクレオチド)gRNAによって決定される部位で行い、この切断が次に、細胞内でNHEJ又はHDRによって修復される。ゲノム編集はNHEJを用いることが好ましい。異なる実施形態において、ゲノム編集はHDRを用いることが好ましい。
【0138】
NHEJは、二本鎖が切断されたDNA末端を直接結合するために様々な酵素を使用する。対照的に、HDRにおいて、相同配列は、切断地点で欠損しているDNA配列の再生のためのテンプレートとして利用される。NHEJは、2つの末端の再ライゲーションのために1個のみからせいぜい数個のまでの相補的な塩基のアラインメントを包含するので、カノニカルな相同性に非依存的な経路(canonical homology-independent pathway)であるのに対し、HDRは、DNA損傷を修復するためのより長い配列相同鎖を用いる。
【0139】
これらの経路の天然の特性は、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼを基にしたゲノム編集の正に基礎を形成する。NHEJは、誤りがちであり、修復部位に突然変異を引き起こすことが示されている。したがって、複数のサンプルにおいて所望の遺伝子に二本鎖切断(DSB)をつくることができる場合、エラーがNHEJ不忠実性によってつくられるので、突然変異が、処理の一部において当該部位で生じる可能性は非常に高い。その一方で、DSBを修復するための相同配列に対するHDRの依存性は、DSBの隣接配列に対して相同である配列内に所望の配列を挿入することによって利用することができ、当該所望の配列は、HDRの系によってテンプレートとして使用されるとき、目的のゲノム領域内での所望の変化の創造につながり得る。異なる機序にもかかわらず、HDRに基づく遺伝子編集の概念は、相同組換えを基にした遺伝子ターゲティングの概念と同様のかたちにある。そのため、これらの原理に基づいて、ゲノム内の特定の位置にDSBをつくることができる場合、細胞自体の修復の系は、所望の突然変異をつくる上で役立ち得る。
【0140】
HDRのための相同配列テンプレートはまた、本明細書では「修復テンプレート」とも呼ばれる。
【0141】
それ故、本発明の第9の態様によって細胞のゲノムにおける標的部位でヌクレオチド配列を修飾することによって、遺伝子は、(完全に成熟した終止コドンの導入により)ノックアウトされ得、又は(修復基質を介して)ノックインされ得る。同様に、本発明の第9の態様の方法によって遺伝子の発現を変化させることが可能である。例えば、ゲノムにおける標的部位は、プロモーター領域が、標的プロモーター領域を介して制御される遺伝子の発現を増減し得るのを変更する、プロモーター領域であり得る。
【0142】
それ故、第9の態様の好ましい実施形態に従って、前記方法はさらに、当該細胞内への修復基質の導入を含む。
【0143】
修復基質は、細胞に直接導入されてもよく、又は核酸分子として、好ましくは発現可能な形態で修復基質をコードするベクターとして導入されてもよい。コムギ胚における変異体ベータ-グルクロニダーゼを修正するための修復基質の使用を実施例3に例証する。
【0144】
HDRに適した修復テンプレートの設計及び構造は、当該技術分野で既知である。HDRは、修復テンプレートが二本鎖切断(DSB)で元のDNA配列と同一である場合にエラー非含有であり、又は非常に特異的な突然変異をDNA内へと導入することができる。HDR経路の3つの中心的なステップは、(1)5’末端DNA鎖が切断部で切除され、3’オーバーハングをつくることである。このことは、鎖の侵入に必要とされるタンパク質のための基質と、DNA修復合成のためのプライマーとの両方として機能する。(2)侵入鎖は次いで、相同DNA二重鎖のうちの1つの鎖を置き換えることができ、もう一方と対形成することができる。この結果、置換ループ(Dループ)と呼ばれる雑種DNAが形成される。(3)組換え中間体は次いで、DNA修復プロセスを完了するよう分解され得る。
【0145】
例えば、突然変異を導入するために、又は新たなヌクレオチド若しくはヌクレオチド配列を遺伝子内へと挿入するために用いられるHDRテンプレートは、修飾される標的配列を取り囲むある程度の量の相同性を必要とする。CRISPR誘導性DSBで開始する相同アームを使用することができる。概して、修飾の挿入部位は、DSBに非常に近くあるべきであり、理想的には、可能であれば10bp未満であるべきである。特筆すべき1つの重要な点は、DSBが一度導入及び修復されると、CRISPR酵素がDNAを開裂し続け得ることである。gRNA標的部位/PAM部位が未処置のままである限り、CRISPRヌクレアーゼは、DNAを切断及び修復し続ける。この反復される編集は、非常に特異的な突然変異又は配列が、目的の遺伝子内へと導入される場合、問題になり得る。これを移動させるために、修復テンプレートは、初期DSBが修復された後でさらなるCRISPRヌクレアーゼターゲティングを究極的に遮断するような方法で設計することができる。さらなる編集を遮断する2つの一般的な方法は、PAM配列又はgRNAシード配列を突然変異させることである。修復テンプレートを設計するとき、意図する編集のサイズが考慮されるべきである。ssDNAテンプレート(ssODNとも呼ばれる)は通常、より小さな修飾に使用される。小さな挿入/編集は、各相同アームについて30~50塩基程度という少量を必要とし得、実際の最良の数は、目的の遺伝子に基づいて変わり得る。50~80塩基の相同性アームが通常使用される。例えば、Richardson et al.(2016).Nat Biotechnol.34(3):339-44)は、非対称相同アーム(PAMに対して遠位の36塩基、及びPAMに対して近位の91塩基)がHDR効率性を最大60%まで支持することを発見した。200塩基よりも長いssODNをつくることと関係し得る困難さにより、目的の遺伝子内への蛍光タンパク質又は選択カセットなど、より大きな挿入のためのdsDNAプラスミド修復テンプレートを使用することが好ましい。これらのテンプレートは、少なくとも800bpの相同アームを有することができる。プラスミド修復テンプレートに基づくHDR編集の頻度を高めるために、テンプレートと隣接するgRNA標的部位を含有する自己開裂プラスミドを使用することができる。CRISPRヌクレアーゼ及び適切なgRNAが存在するとき、テンプレートは、ベクターから遊離する。プラスミドクローン形成を回避するために、PCRで生じた長いdsDNAテンプレートを使用することができる。その上、Quadros et al.(2017)Genome Biol.17;18(1):92)は、大きな突然変異を行うことができ、ssODNの利点を利用する技術である、Easi-CRISPRを開発した。200塩基よりも長いssODNをつくるために、修復テンプレートをコードするRNAをインビトロで転写し、次いで逆転写酵素を用いて相補的ssDNAをつくる。Easi-CRISPRは、マウスノックインモデルにおいて十分に機能し、dsDNAを用いる1~10%からssODNを用いる25~50%まで編集効率を高める。HDR効率は、遺伝子座及び実験系にわたって様々であるが、ssODNテンプレートは概して、最高頻度のHDR編集を提供する。
【0146】
第9の態様の好ましい実施形態に従って、前記細胞は、当該RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをコードする遺伝子の天然の宿主ではない。
【0147】
本明細書で以上に論議したように、配列番号1~15のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼは、標準的な微生物学的条件を適用して培養することができない細菌を含むメタゲノムライブラリーから単離された。この理由から、配列番号1~15が単離された細菌の正確な性質は知られていない。
【0148】
それ故、配列番号1~15のいずれか1つの天然の宿主ではない細胞は、培養可能な細菌株からの任意の細菌細胞又は任意の真核細胞であり得る。かかる操作された細胞は天然には存在しない。
【0149】
第9の態様の別の好ましい実施形態に従って、前記細胞は、真核細胞、好ましくは、植物細胞又は動物細胞である。
【0150】
真核細胞、植物細胞、及び動物細胞、並びにこれらの細胞の好ましい例を含む当該細胞が得られ得る真核生物、植物、及び動物は、本発明の第3及び第4の態様と関係して本明細書で以上に説明されている。
【0151】
これらの細胞は同様に、本発明の第9の態様と関係して使用され得る。
【0152】
第9の態様のより好ましい実施形態に従って、前記方法はさらに、
植物又は動物を生産するために、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼが発現してヌクレオチド配列を標的部位で開裂して修飾されたヌクレオチド配列を生産する条件下で植物細胞又は動物細胞を培養すること;及び、
当該修飾されたヌクレオチド配列を含む植物又は動物を選択すること、を含む。
【0153】
これに関連して、CRISPR-Casの系の構成要素が内部へと導入される細胞は、完全な植物又は動物へと発達することができる全能性幹細胞、又は生殖系列細胞(卵母細胞及び/又は精子)又は幹細胞の集合でなければならない。植物又は動物を生産するためのかかる細胞の培養のための手段及び方法は、当該技術分野で既知である(例えば、https://www.stembook.org/node/720を参照されたい)。
【0154】
別段の定義がない限り、本明細書で使用する技術用語及び科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、定義を含む本特許明細書が優先される。
【0155】
本発明は、第10の態様において、対象における疾患の処置における使用のための、本発明の第9の態様による方法によって生産された、修飾された細胞に関する。
【0156】
修飾された細胞は好ましくは、修飾されたTリンパ球であり、処置される疾患は好ましくは癌である(Stadtmauer et al.,Science 28 Feb 2020:Vol.367,Issue 6481,eaba7365)。
【0157】
本発明の第9の態様の方法によって修飾される細胞は、好ましくは、処置される対象から得られ、次いで、修飾された細胞は、本発明の第10の態様に従って使用される。
【0158】
本明細書において、特に特許請求の範囲において特徴づけられる実施形態に関して、従属請求項において言及される各実施形態は、当該従属請求項が従属する各請求項(独立又は従属)の各実施形態と組み合わされることが意図されている。例えば、3つの選択肢A、B、及びCを列挙する独立請求項1、3つの選択肢D、E、及びFを列挙する従属請求項2、並びに請求項1及び2に従属し且つ3つの選択肢G、H、及びIを列挙する請求項3の場合、本明細書は、別段の具体的な言及がない限り、A、D、G;A、D、H;A、D、I;A、E、G;A、E、H;A、E、I;A、F、G;A、F、H;A、F、I;B、D、G;B、D、H;B、D、I;B、E、G;B、E、H;B、E、I;B、F、G;B、F、H;B、F、I;C、D、G;C、D、H;C、D、I;C、E、G;C、E、H;C、E、I;C、F、G;C、F、H;C、F、Iという組み合わせに対応する実施形態を明白に開示することは理解されるものとする。
【0159】
同様に、独立請求項及び/又は従属請求項が選択肢を列挙していない場合においても、従属請求項が複数の先行請求項を参照することは理解され、それにより網羅される発明の対象のいずれの組み合わせも、明示的に開示されているとみなされる。例えば、独立請求項1、請求項1を参照する従属請求項2、並びに請求項2及び請求項1のいずれをも参照する従属請求項3の場合、請求項3及び請求項1の発明の対象の組み合わせが、請求項3、2、及び1の発明の対象の組み合わせであるのと同様に、明確かつ明白に開示されていることは理解される。請求項1~3のいずれか一項を指すさらなる従属請求項4が存在する場合、請求項4及び1の、請求項4、2、及び1の、請求項4、3、及び1の、並びに請求項4、3、2、及び1の発明の対象の組み合わせが、明確かつ明白に開示されていることは理解される。
【0160】
実施例は本発明を例証する。
【実施例】
【0161】
(実施例1:生息地の選択とDNA調製)
新規のCasタンパク質の発見のためのアプローチは、選択された環境DNA(1cm3の森林土壌が約2.5×1010bpのDNA又は約2000万個の遺伝子を含む) の次世代シーケンシング及びCRISPR-Casの系のコンピュータによる同定によってテラベース規模のメタゲノム解析リソースにアクセスすることである。
【0162】
この目的のため、ドイツのさまざまな場所からメタゲノム生息地を選択した。水生、堆積物及び土壌の生息地は、DNAの単離前にサンプル化され、前処理された。異なる孔径(0.1~20μm)のさまざまなフィルターを使用する交互ろ過プロセスを使用して、新規の配列のほとんど手付かずの区域を含むCandidate Phyla Radiation(CPR)種を濃縮した(Hug et al. (2016) Nature Microbiology 1, 16048)。
【0163】
DNAを0.2及び0.1μmフィルターから抽出し、PowerWater DNA単離キット(Qiagen)を使用して単離した。
【0164】
(実施例2:次世代シーケンシング及び配列評価)
次世代シーケンシングのためのDNAライブラリーは、TruSeq PCR free Library Prep Kit(Illumina)を使用して調製し、メタゲノム解析ライブラリーは、HiSeq 2500(Illumina)を使用してRapid Mode(2×250 Bp)でシーケンスし、サンプルあたり平均50Gbpの出力が生じた。
【0165】
生成されたペアエンドメタゲノム配列ライブラリーを集め、注釈を付け、評価して、CRISPRリピートの同定により潜在的なCRISPRオペロンを同定した。同定されたCRISPRリピート-スペーサーユニットを含むコンティグを使用して、Casタンパク質の存在について周囲の領域を分析した。CRISPRリピートに近接したオープンリーディングフレームをゲノム及びタンパク質データベースと比較することにより、そのパターンと配列を分析し、潜在的な新規のCasタンパク質を同定した。
【0166】
BLASTヌクレオチド検索は、BLASTNプログラム、スコア=100、ワード長=12で実行して、本発明のタンパク質をコードするヌクレオチド配列と相同なヌクレオチド配列を得ることができる。BLASTタンパク質検索は、BLASTXプログラム、スコア=50、ワード長=3を用いて実行され、本発明のタンパク質又はポリペプチドに相同なアミノ酸配列を得ることができる。比較目的でギャップのあるアラインメントを得るためには、Altschul et al.(1997) Nucleic Acids Res. 25:3389に説明されているように、Gapped BLAST(BLAST 2.0内)を利用することができる。あるいは、PSI-BLAST(BLAST 2.0内)を使用して、分子間の遠位の相関を検出する繰り返し検索を実行することもできる。上記Altschul et al.(1997)を参照されたい。BLAST、Gapped BLAST、PSI-BLASTを利用する場合、それぞれのプログラムの初期状態のパラメータ(例えば、ヌクレオチド配列の場合はBLASTN、タンパク質の場合はBLASTX)を使用することができる。ウェブサイトwww.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。アラインメントは検査により手動で行ってもよい。
【0167】
(実施例3:選択されたBMC配列を使用した大腸菌の機能的ゲノム編集の系の構築)
【0168】
3.1 大腸菌BW25113におけるゲノム編集用のためのCRISPR/BMC-Ecベクター系
【0169】
BMC01、BMC02、BMC03、BMC04、BMC05、BMC07、BMC08、BMC09、BMC10、BMC11、BMC12、BMC13、BMC14又はBMC15ヌクレアーゼの誘導的発現、ガイドRNA(gRNA)転写の構成的発現、及びKu-LigDタンパク質の発現のために必要な遺伝要素は、16の個別のベクター(CRISPR/BMC01-Ec、CRISPR/BMC02-Ec、CRISPR/BMC03-Ec、CRISPR/BMC04-Ec、CRISPR/BMC05-Ec、CRISPR/BMC07-Ec、CRISPR/BMC08-Ec、CRISPR/BMC09-Ec、CRISPR/BMC10-Ec、CRISPR/BMC11-Ec、CRISPR/BMC12-Ec、CRISPR/BMC13-Ec、CRISPR/BMC14-Ec、CRISPR/BMC15-Ec、CRISPR/gRNA-Ec及びCRISPR/Ku-LigD-Ec)で提供した。
【0170】
以下に、CRISPR/BMC01-Ec、CRISPR/gRNA-Ec、及びCRISPR/Ku-LigD-Ecベクター系の構築を説明する。CRISPR/BMC02-Ec、CRISPR/BMC03-Ec、CRISPR/BMC04-Ec、CRISPR/BMC05-Ec、CRISPR/BMC07-Ec、CRISPR/BMC08-Ec、CRISPR/BMC09-Ec、CRISPR/BMC10-Ec、CRISPR/BMC11-Ec、CRISPR/BMC12-Ec、CRISPR/BMC13-Ec、CRISPR/BMC14-Ec、及びCRISPR/BMC15-Ecベクター系は、CRISPR/BMC01-Ecベクター系と類似のアプローチで構築した。
【0171】
BMC大腸菌タンパク質発現ベクターの設計
【0172】
合成された3888bpsのBMC01ヌクレオチド配列は、遺伝子合成プロバイダーGeneArt(Thermo Fisher Scientific、レーゲンスブルク、ドイツ)によって提供されるバイオインフォマティクスアプリケーションを使用して、大腸菌BW25113における発現のためにコドンの最適化がなされ、配列番号33で示される。タンパク質発現のために、得られた合成遺伝子を、誘導性araC-ParaBAD誘導性プロモーターの系(配列番号34)及びfdTターミネーター(hairetubangou 35)に融合した(Otsuka & Kunisawa,Journal of Theoretical Biology 97 (1982), 415-436)。最終的なBMC01大腸菌タンパク質発現カセットは、Gibson Assembly Cloning(NEB、フランクルト、ドイツ)によって、エピソーム増殖及び組換え大腸菌細胞の選択に必要なすべての遺伝要素を含む大腸菌シャトルベクターに挿入した。
【0173】
CRISPR/BMC01-Ecベクター系
構築されたCRISPR/BMC01-Ecベクター系の完全なヌクレオチド配列を配列番号36として提供する。
【0174】
CRISPR/BMC02-Ecベクター系
構築されたCRISPR/BMC02-Ecベクター系の完全なヌクレオチド配列を配列番号57として提供する。
【0175】
CRISPR/BMC03-Ecベクター系
構築されたCRISPR/BMC03-Ecベクター系の完全なヌクレオチド配列を配列番号37として提供する。
【0176】
CRISPR/BMC04-Ecベクター系
構築されたCRISPR/BMC04-Ecベクター系の完全なヌクレオチド配列を配列番号38として提供する。
【0177】
CRISPR/BMC05-Ecベクター系
構築されたCRISPR/BMC05-Ecベクター系の完全なヌクレオチド配列を配列番号58として提供する。
【0178】
CRISPR/BMC07-Ecベクター系
構築されたCRISPR/BMC07-Ecベクター系の完全なヌクレオチド配列を配列番号59として提供する。
【0179】
CRISPR/BMC08-Ecベクター系
構築されたCRISPR/BMC08-Ecベクター系の完全なヌクレオチド配列を配列番号60として提供する。
【0180】
CRISPR/BMC09-Ecベクター系
構築されたCRISPR/BMC09-Ecベクター系の完全なヌクレオチド配列を配列番号39として提供する。
【0181】
CRISPR/BMC10-Ecベクター系
構築されたCRISPR/BMC10-Ecベクター系の完全なヌクレオチド配列を配列番号61として提供する。
【0182】
CRISPR/BMC11-Ecベクター系
構築されたCRISPR/BMC11-Ecベクター系の完全なヌクレオチド配列を配列番号62として提供する。
【0183】
CRISPR/BMC12-Ecベクター系
構築されたCRISPR/BMC12-Ecベクター系の完全なヌクレオチド配列を配列番号63として提供する。
【0184】
CRISPR/BMC13-Ecベクター系
構築されたCRISPR/BMC13-Ecベクター系の完全なヌクレオチド配列を配列番号40として提供する。
【0185】
CRISPR/BMC14-Ecベクター系
構築されたCRISPR/BMC14-Ecベクター系の完全なヌクレオチド配列を配列番号64として提供する。
【0186】
CRISPR/BMC15-Ecベクター系
構築されたCRISPR/BMC15-Ecベクター系の完全なヌクレオチド配列を配列番号65として提供する。
【0187】
(ガイドRNA(gRNA)発現ベクターの設計)
BMC01、BMC02、BMC03、BMC04、BMC05、BMC07、BMC08、BMC09、BMC10、BMC11、BMC12、BMC13、BMC14又はBMC15ヌクレアーゼによる特異的malQ遺伝子ターゲティングのためのキメラgRNAの発現を、バチルス・メガテリウム由来のSacB RNAポリメラーゼIIプロモーター(配列番号41)(Richhardt et al., Applied Microbiology Biotechnology 86 (2010), 1959-1965)によって駆動し、大腸菌rrnB遺伝子の転写T1及びT2終結領域(配列番号42)(Orosz et al., European Journal of Biochemistry 201 (1991), 653-659)を使用して終結させた。キメラgRNAは、大腸菌ゲノムのmalQ遺伝子内に位置するmalQ標的特異的な24bpのスペーサー配列(配列番号43)に融合した19bpの定常BMCファミリーステム-ループ配列(配列番号32)で構成されていた。
【0188】
最終的なgRNA発現カセットは、Gibson Assembly Cloning(NEB、フランクルト、ドイツ)によって、エピソーム増殖及び組換え大腸菌細胞の選択に必要なすべての遺伝要素を含む大腸菌シャトルベクターに挿入した。
【0189】
最終的なCRISPR/gRNA-Ecベクター系の構築は、Gibson Assembly Cloning(NEB、フランクフルト、ドイツ)で行った。
【0190】
構築されたCRISPR/gRNA-Ecベクター系の完全なヌクレオチド配列を配列番号44として提供する。
【0191】
Ku-LigD発現ベクターの設計
CRISPR/BMCにより組換え大腸菌のゲノムに導入された二本鎖切断は、相同修復テンプレートの非存在下において標的DNAの誤りがちな非相同末端結合(NHEJ)によるマーカーフリーの遺伝子ノックアウト(Yang et al., Biotechnology Letters 43 (2021), 2273-2281)を可能とする、結核菌由来の細菌タンパク質Ku及びLigD(Della et al. Science 306 (2004),683-685)の共発現によって修復された。マイコバクテリアの2成分NHEJ修復機構は、作製したエピソーマルBMC発現ベクターとは異なる複製開始及びマーカー選択用の遺伝要素を含むプラスミド上に異所的に提供した。Ku-LigD及びBMC発現に使用したプラスミド間の適合性は、組換え大腸菌細胞内での安定した共存をもたらした。これに関して、Ku-LigD発現プラスミドは、pUC由来の高コピー複製起点(配列番号45)及びさらにpRO1614由来のヌクレオチド断片(配列番号46)を有しており、これによりシュードモナス属におけるpUCベースのクローニングベクターの安定した維持が可能となった(West et al., Gene 148 (1) (1994), 81-86)。エシェリヒア属/シュードモナス属シャトルベクターは、形質転換細胞の選択のための優性マーカーとしてノーセオスリシンアセチルトランスフェラーゼ遺伝子(nat1)(配列番号47)を含んでいた(Krugel et al., Gene 127(1)(1993),127-131)。発現したアセチルトランスフェラーゼタンパク質は、そのN末端で、プラスミドpHN15で生成された枯草菌由来のVegファミリータンパク質(配列番号48)の残基1~30に融合させた(Kuck and Hoff, Fungal Genetics Reports 53 (2006), article 3. https://doi.org/10.4148/1941-4765.1106)。融合タンパク質(配列番号49)の遺伝子発現は、枯草菌由来の構成的vegプロモーター(配列番号50)の制御下にあった。結核菌由来のku遺伝子の822bpsヌクレオチド配列(配列番号51)及びligDの2280bpsヌクレオチド配列(配列番号52)の両方は、GeneArt(Thermo Fisher Scientific、レーゲンスブルク、ドイツ)によって合成DNA断片として提供された。両方のタンパク質コード配列の転写及び翻訳は、2つの異なる構成的プロモーターの使用によって独立して制御した。ligDの遺伝子発現は、枯草菌由来のVegプロモーターRNAポリメラーゼIIプロモーター(配列番号53)によって調節した。T7ターミネーター配列(配列番号54)を転写終結に使用した。kuの遺伝子発現は、バチルス・メガテリウム由来のSacB RNAポリメラーゼIIプロモーター(配列番号55)の制御下にあった。転写終結のため、fdTターミネーター(配列番号35)(Otka & Kunisawa,Journal of Theoretical Biology 97(1982),415-436)をコード配列の下流に融合した。
【0192】
構築されたCRISPR/Ku-LigD-Ecベクター系の完全なヌクレオチド配列を配列番号56として提供する。
【0193】
すべてのクローン化されたDNA要素の同一性は、LGC Genomics(ベルリン、ドイツ)のサンガー配列決定法によって確認した。
【0194】
3.2 大腸菌の培養及び形質転換
【0195】
コンピテント大腸菌BW25113細胞の形質転換
簡潔には、(CRISPR/BMC(NN)-Ec(実施例4)発現プラスミドを有する、又は共役発現用のCRISPR/BMC(NN)-Ecプラスミド及びCRISPR/Ku-LigD-Ec(実施例5)プラスミドを保有する組換え大腸菌BW25113宿主細胞の単一コロニーを5mlのLB-カナマイシン(25μg/ml)培地(実施例4)又はLB-カナマイシン(25μg/ml)/ノーセオスリシン(50μg/ml)培地(実施例5)に播種し、250rpmの水平振盪器上で、37℃で12~14時間インキュベートした。一晩生育させた前培養物を、新鮮な60mlのLB-カナマイシン(25μg/ml)(実施例4)又はLB-カナマイシン(25μg/ml)/ノーセオスリシン(50μg/ml)培地(実施例5)に希釈して、600nmで0.06の光学密度(OD600)を得た。播種した培地を、培養物がOD600で0.2の光学密度に達するまで、250rpmの水平振盪機上で30℃でインキュベートした。BMC(NN)ヌクレアーゼ発現を誘導するために、600μlの20%L-(+)-アラビノース(w/v)を最終濃度0.2%(v/v)となるように培養物に添加した。培養物がOD600で0.5の光学密度に達するまで培養を続けた。続いて、50mlの培養物を1本の50mlコニカルチューブに移し、4℃で5分間、4000×gで遠心分離することによって回収した。ペレット化した細胞を50mlの超純水(氷冷)に再懸濁し、4℃で5分間、4000×gで遠心分離した。
【0196】
この洗浄手順を2回繰り返した。洗浄した細胞を25mlの10%(w/w)グリセリンに再懸濁し、4℃で5分間、4000×gで再遠心分離した。ペレット化した細胞を5mlの10%(w/w)グリセリンに再懸濁した。4℃で5分間、4000×gでの最終遠心分離ステップの後、細胞を125μlの10%(w/w)グリセリンに再懸濁した。25μlのコンピテントセルのアリコートを、使用するまで-80℃で保存した。形質転換手順では、コンピテントセルのアリコートを氷上で融解し、50~100ngのプラスミドDNA(CRISPR/gRNA-Ec)を添加した。調製した細胞を、Bio-Rad Gene Pulser Xcellエレクトロポレーションシステムを使用して、ギャップサイズ1mmのエレクトロポレーションキュベット内で1800V,25μF,200Ωで電気穿孔した。続いて、パルス直後に975μLのNEB(登録商標)10-ベータ/安定増殖培地を形質転換細胞に添加した。再生は、250rpmの水平振盪機上で、30℃で行った。最後に、25~100μlの細胞懸濁液を、カナマイシン(25μg/ml)/アンピシリン(100μg/ml)(実施例4)又はカナマイシン(25μg/ml)/アンピシリン(100μg/ml)/ノーセオトリン(50μg/ml)(実施例5)を補った選択的M9-グルコース寒天プレート上にプレーティングした。選択的寒天プレート上での形質転換大腸菌細胞の増殖を、30℃で48時間スクリーニングした。
【0197】
(実施例4:新規のBMCヌクレアーゼのDNAターゲティング活性を実証するための大腸菌枯渇アッセイ。)
【0198】
BMCファミリーヌクレアーゼのDNAターゲティング活性を評価及び可視化するために、ヌクレアーゼターゲティング後の大腸菌細胞の生存率を陰性対照と比較してモニターする、いわゆる枯渇アッセイを実施した。大腸菌細胞は、非相同末端結合(NHEJ)を使用してDNA二本鎖切断を修復することができず、CRISPRヌクレアーゼを使用したゲノムDNAのターゲティングが細胞死につながるため、生存率がより低いということは、ヌクレアーゼ活性がより高いことを意味する。
【0199】
この実験アプローチでは、CRISPR/BMC01-Ec、CRISPR/BMC02-Ec、CRISPR/BMC03-Ec、CRISPR/BMC04-Ec、CRISPR/BMC05-Ec、CRISPR/BMC07-Ec、CRISPR/BMC08-Ec、CRISPR/BMC09-Ec、CRISPR/BMC10-Ec、CRISPR/BMC11-Ec、CRISPR/BMC12-Ec、CRISPR/BMC13-Ec、CRISPR/BMC14-Ec、又はCRISPR/BMC15-Ecベクター系を、大腸菌malQ遺伝子を標的とするスペーサー配列を含むCRISPR/gRNA-Ecベクター系とともに同時形質転換した。MalQは4-α-グルカノトランスフェラーゼをコードしており、デンプン代謝に必須の遺伝子であるが、炭素源としてグルコースを含む培地で培養した場合の大腸菌細胞の生存には必須ではない。
【0200】
並行して、大腸菌ゲノムを標的とするスペーサー配列を欠くCRISPR/gRNA-Ecベクターとともに同時形質転換したCRISPR/BMC01-Ec、CRISPR/BMC02-Ec、CRISPR/BMC03-Ec、CRISPR/BMC04-Ec、CRISPR/BMC05-Ec、CRISPR/BMC07-Ec、CRISPR/BMC08-Ec、CRISPR/BMC09-Ec、CRISPR/BMC10-Ec、CRISPR/BMC11-Ec、CRISPR/BMC12-Ec、CRISPR/BMC13-Ec、CRISPR/BMC14-Ec、又はCRISPR/BMC15-Ecベクター系を使用した陰性対照実験を実施し、特異的なスペーサーによって標的DNA領域に誘導されるCasタンパク質の依存性を実証した。
【0201】
形質転換及び30℃で48時間のインキュベーション後、生育したコロニーの数を計数することによって培養プレートを分析した。
【0202】
(結果)
すべての実験は5つの生物学的複製物において実施し、これらの複製物から得られた結果を組み合わせて、BMC01、BMC02、BMC03、BMC04、BMC05、BMC07、BMC08、BMC09、BMC10、BMC11、BMC12、BMC13、BMC14及びBMC15ヌクレアーゼのDNAターゲティングを評価した(例示的なプレートを
図2及び
図3に示す)。
【0203】
上述のように、BMCヌクレアーゼのa)活性及びb)DNAターゲティング効率を可視化するために、BMC01、BMC02、BMC03、BMC04、BMC05、BMC07、BMC08、BMC09、BMC10、BMC11、BMC12、BMC13、BMC14、又はBMC15ヌクレアーゼのそれぞれを、大腸菌malQ遺伝子を標的とするgRNAを用いて大腸菌に同時形質転換した。同時形質転換し、プレートを30℃で48時間インキュベートした後、すべてのBMCヌクレアーゼ(BMC01、BMC02、BMC03、BMC04、BMC05、BMC07、BMC08、BMC09、BMC10、BMC11、BMC12、BMC13、BMC14、及びBMC15)は、陰性対照と比較して強いコロニー減少(>99.9%)を示し、BMCヌクレアーゼの非常に効率的なgRNA依存性DNAターゲティングを証明した。
【0204】
(実施例5:選択されたBMCヌクレアーゼ及びKu-LigD介在戦略を使用した、大腸菌におけるNHEJ介在ゲノム編集)
【0205】
BMCヌクレアーゼのゲノム編集活性のさらなる評価及び可視化のために、5つの代表的なヌクレアーゼ(BMC01、BMC03、BMC04、BMC09、及びBMC13)を選択し、Ku-LigD介在戦略を使用して大腸菌ゲノム上に位置するmalQ遺伝子をノックアウトした。大腸菌細胞は本来、非相同末端結合(NHEJ)を使用してDNA二本鎖切断を修復できないため、CRISPRヌクレアーゼを使用したゲノムDNAのターゲティングは細胞死につながる。
【0206】
細胞死を防止し、NHEJ由来のmalQ遺伝子のノックアウトをモニターするため(malQは非必須遺伝子であり、malQのノックアウトは、この実験アプローチにおいて使用される条件下で培養した場合、大腸菌細胞の表現型に影響を与えない)、タンパク質Ku-LigD(両方がDNA修復機構において重要な役割を果たす)を大腸菌細胞に同時形質転換し、NHEJを使用してDNA二本鎖切断を修復する能力を細胞に与えた(例えば、WO2017/109167を参照)。
【0207】
この実験アプローチでは、CRISPR/BMC01-Ec、CRISPR/BMC03-Ec、CRISPR/BMC04-Ec、CRISPR/BMC09-Ec、又はCRISPR/BMC13-Ecベクターを、それぞれCRISPR/Ku-LigD-Ecベクター系及び大腸菌malQ遺伝子を標的とするスペーサー配列を含むCRISPR/gRNA-Ecベクター系とともに同時形質転換した。
【0208】
並行して、CRISPR/Ku-LigD-Ecベクター系及び大腸菌ゲノムを標的とするスペーサー配列を欠くCRISPR/gRNA-Ecベクター系とともに同時形質転換したCRISPR/BMC01-Ec、CRISPR/BMC03-Ec、CRISPR/BMC04-Ec、CRISPR/BMC09-Ec、又はCRISPR/BMC13-Ecベクターをそれぞれ使用した陰性対照実験を実施し、特異的なスペーサーによって標的DNA領域に誘導されるCasタンパク質の依存性を実証した。
【0209】
形質転換及び30℃で48時間のインキュベーション後、生育したコロニーの数を計数することによって培養プレートを分析した。
【0210】
(結果)
すべての実験は5つの生物学的複製物において実施し、これらの複製物から得られた結果を組み合わせて、BMC01、BMC03、BMC04、BMC09、及びBMC13ヌクレアーゼのゲノム編集活性を評価した。例示的なプレートを
図2及び
図3に示す。
【0211】
BMCヌクレアーゼのゲノム編集活性を可視化するために、上記のKu-LigD介在NHEJ戦略を使用して実験を実施した。まず、それぞれのBMCヌクレアーゼ、gRNA(malQ遺伝子を標的とする)、及びKu-LigD発現系の同時形質転換の48時間後、陰性対照と比較して生育したコロニー及び細胞枯渇アッセイ(実施例4)において得られた結果に基づいてプレートを評価した。全体として、試験したすべてのBMCヌクレアーゼは、陰性対照と比較して強いコロニー減少(約98%)を示したが、実施例4で得られた結果(>99.9%)と比較して弱いコロニー減少を示した。これらの結果は、Ku-LigDタンパク質の発現により、大腸菌がNHEJ DNA修復機構を使用してDNA二本鎖切断を修復できるという事実によって説明できる。DNA二本鎖切断の修復にもかかわらず、NHEJ介在DNA修復には欠陥があり、ゲノム内の標的位置でインデル(挿入/欠失)及びフレームシフト変異を引き起こし得ることが知られている。BMC介在DNA二本鎖切断はNHEJ機構によって修復されたが、導入されたインデルによりゲノム配列が変化した細胞は、PAM及び/又はスペーサー配列がインデル変異により変化したため、BMC処理を生き残ることができ、BMCヌクレアーゼはそのゲノムを再び標的にすることができなくなる。
【0212】
malQ遺伝子のノックアウトを証明するために、各プレートから2つのコロニー(BMCヌクレアーゼごとに10コロニー)を単離し、サンガー配列決定法を使用して目的のゲノム遺伝子座(malQ遺伝子の内部)を配列決定した。
【0213】
この実験アプローチの結果は、NHEJ媒介malQ遺伝子のノックアウトが、選択されたすべてのBMCヌクレアーゼの配列レベルで検出可能であることを示した。
【0214】
BMC01:評価したコロニー10個のうち9個で、NHEJ介在malQ遺伝子のノックアウトが示された。
【0215】
BMC03:評価したコロニー10個のうち7個で、NHEJ介在malQ遺伝子のノックアウトが示された。
【0216】
BMC04:評価したコロニー10個のうち7個で、NHEJ介在malQ遺伝子のノックアウトが示された。
【0217】
BMC09:評価したコロニー10個のうち10個で、NHEJ介在malQ遺伝子のノックアウトが示された。
【0218】
BMC13:評価したコロニー10個のうち8個で、NHEJ介在malQ遺伝子のノックアウトが示された。
【0219】
BMCヌクレアーゼの特性評価のための完全なワークフローを実証するために、
図4にBMC09ヌクレアーゼの特性評価を示す:陰性対照、細胞枯渇アッセイ、Ku-LigDの共発現によるコロニー増殖、及び1つの大腸菌コロニーの標的遺伝子座(malQ遺伝子内で71bp欠失)のシーケンシング。
【0220】
(総括)
総合すると、実施例4及び5で得られた結果は、本明細書に開示されるすべてのBMCタンパク質が、高いDNAターゲティング効率及びゲノム編集効率を有し、これまでに記載されたCRISPRヌクレアーゼとの類似性が低い新規なCRISPRヌクレアーゼであることを実証する。
【配列表】
【国際調査報告】