(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-29
(54)【発明の名称】電気化学エネルギー貯蔵素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20240221BHJP
H01M 50/119 20210101ALI20240221BHJP
H01M 50/107 20210101ALI20240221BHJP
H01M 50/103 20210101ALI20240221BHJP
H01M 10/0587 20100101ALI20240221BHJP
H01M 10/04 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M50/119
H01M50/107
H01M50/103
H01M10/0587
H01M10/04 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553190
(86)(22)【出願日】2022-02-11
(85)【翻訳文提出日】2023-10-25
(86)【国際出願番号】 EP2022053307
(87)【国際公開番号】W WO2022184403
(87)【国際公開日】2022-09-09
(32)【優先日】2021-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502350250
【氏名又は名称】ヴァルタ マイクロバッテリー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】フュルスト マルティン
(72)【発明者】
【氏名】エルマー マルティン
【テーマコード(参考)】
5H011
5H028
5H029
【Fターム(参考)】
5H011AA09
5H011CC06
5H028AA07
5H028BB05
5H028BB15
5H028CC12
5H028HH01
5H028HH08
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029BJ02
5H029BJ14
5H029BJ22
5H029CJ02
5H029CJ28
5H029DJ02
5H029EJ01
5H029HJ07
5H029HJ14
(57)【要約】
電気化学エネルギー貯蔵素子(100)の製造方法において、エネルギー貯蔵素子は、少なくとも1つの金属ハウジング部(101)を有するハウジングと、ハウジング内に配置された電極セパレータアセンブリ(105)と、を含む。この方法は、以下の方法ステップ:金属ハウジング部(101)及び電極セパレータアセンブリ(105)を設けるステップと、金属ハウジング部(101)を加熱して、ハウジング部の膨張を引き起こすステップと、電極セパレータアセンブリ(105)を膨張した金属ハウジング部(101)内に挿入するステップと、金属ハウジング部(101)を閉じてハウジングを形成するステップと、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学エネルギー貯蔵素子(100)の製造方法であって、前記エネルギー貯蔵素子が、少なくとも1つの金属ハウジング部(101)を有するハウジングと、前記ハウジングの内部に配置された電極セパレータアセンブリ(105)と、を含み、前記方法が、以下の方法ステップ:
a.前記金属ハウジング部(101)及び前記電極セパレータアセンブリ(105)を設けるステップと、
b.前記金属ハウジング部(101)を加熱して、前記ハウジング部の膨張を引き起こすステップと、
c.前記電極セパレータアセンブリ(105)を前記膨張した金属ハウジング部(101)内に挿入するステップと、
d.前記金属ハウジング部(101)を閉じて前記ハウジングを形成するステップと
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
以下のさらなる特徴:
a.請求項1のステップb.による前記金属ハウジング部(101)の前記加熱が、電気エネルギーの入力、特に誘導エネルギー及び/又はオーミックエネルギーの入力によって行われること
を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
以下のさらなる特徴:
a.請求項1のステップb.による前記金属ハウジング部(101)の加熱が、高温段階を含むこと、
b.前記高温段階において、前記金属ハウジング部(101)が、少なくとも一部のエリアにおいて、80~150℃、好ましくは90~110℃、特に好ましくは95~105℃の範囲内の温度にまで加熱されること
の少なくとも1つを有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
以下のさらなる特徴:
a.請求項1のステップb.による前記金属ハウジング部(101)の加熱が、予熱段階を含むこと、
b.前記予熱段階において、前記金属ハウジング部(101)が、35~80℃、好ましくは40~70℃、特に好ましくは50~60℃の範囲内の温度にまで加熱されること
の少なくとも1つを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
以下のさらなる特徴:
a.前記予熱段階における前記金属ハウジング部(101)の前記温度が、廃熱を利用してもたらされること
を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
以下のさらなる特徴:
a.前記電極セパレータアセンブリ(105)を挿入した後に、前記金属ハウジング部(101)を冷却することと、
b.前記ハウジングを閉じる前に、前記金属ハウジング部(101)を冷却することと
を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
以下のさらなる特徴:
a.請求項1のステップc.による前記電極セパレータアセンブリ(105)を前記金属ハウジング部(101)内に挿入することの前に、前記電極セパレータアセンブリ(105)を冷却すること
を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
以下のさらなる特徴:
a.少なくとも、請求項1のステップb.による前記金属ハウジング部(101)を加熱することが、除湿条件下で行われること、
b.少なくとも、請求項1のステップc.による前記金属ハウジング部(101)内への前記電極セパレータアセンブリの前記挿入が、除湿条件下で行われること、
c.少なくとも、請求項1のステップb.による前記金属ハウジング部(101)の前記加熱が、負圧条件下で行われること、
d.少なくとも、請求項1のステップc.による前記金属ハウジング部(101)内への前記電極セパレータアセンブリの前記挿入が、負圧条件下で行われること
の少なくとも1つを有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
以下のさらなる特徴:
a.前記エネルギー貯蔵素子(100)の前記ハウジングが、円筒形状ハウジングであること、
b.前記エネルギー貯蔵素子(100)の前記ハウジングが、角柱形状ハウジングであること
のいずれか1つを有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
以下のさらなる特徴:
a.前記電極セパレータアセンブリ(105)が巻線であること、
b.前記電極セパレータアセンブリがスタックであること
のいずれか1つを有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
以下のさらなる特徴:
a.前記電気化学エネルギー貯蔵素子(100)が、リチウムイオンセルであるか、又は1つ若しくは複数のリチウムイオンセルを含むこと
を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つの金属ハウジング部(101)を有するハウジングと、前記ハウジング内に配置された電極セパレータアセンブリ(105)とを有する電気化学エネルギー貯蔵素子(100)であって、前記電気化学エネルギー貯蔵素子が、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法によって製造される、電気化学エネルギー貯蔵素子(100)。
【請求項13】
以下のさらなる特徴:
a.前記エネルギー貯蔵素子(100)が、円筒形状ハウジングを有し、及び電極セパレータアセンブリ(105)として巻線を有する、円筒丸型セルであることと、
b.前記円筒丸型セルの直径に対して、前記エネルギー貯蔵素子が、存在する可能性がある前記巻線の中心空洞を考慮せずに、99%を超える、前記巻線による前記ハウジングの内部容積の空間利用率を有することと
を有する、請求項12に記載の電気化学エネルギー貯蔵素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学エネルギー貯蔵素子の製造方法及びこの方法に従って製造された電気化学エネルギー貯蔵素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学エネルギー貯蔵素子は、酸化還元反応によって、貯蔵された化学エネルギーを電気エネルギーに変換することができる。通常、それらは、セパレータによって分離された正極及び負極を有する少なくとも1つのエネルギー貯蔵セルを含む。放電中に、電子は酸化プロセスによって負極で放出される。これは、外部電気負荷によって利用可能な電子電流をもたらし、そのために、少なくとも1つの電気化学エネルギー貯蔵セルがエネルギー供給源として機能する。同時に、電極反応に対応するイオン電流がセル内で発生する。このイオン電流は、セパレータを通過し、イオン伝導性電解液によって可能になる。放電が可逆的である場合、すなわち、放電中に生じた化学エネルギーの電気エネルギーへの変換を逆転させること、したがって、セルを再充電することが可能である場合、そのセルは二次セルであると言われる。二次セルで一般的に使用される、負極をアノードとして指定し、正極をカソードとして指定することは、電気化学セルの放電機能を指している。
【0003】
二次リチウムイオンセルは、高電流を提供することができ、比較的高いエネルギー密度を特徴とするため、現在多くの用途に使用されている。それらは、リチウムの使用に基づき、リチウムは、イオンの形態でセルの電極間を行き来することができる。自動車分野の用途の場合、電動自転車の場合、又は工具のような高いエネルギー要件を有する他の用途の場合、可能な限り高いエネルギー密度を有する二次リチウムイオンセルが必要とされ、同時に、二次リチウムイオンセルは、充放電時に高電流を加えられることが可能である。
【0004】
エネルギー貯蔵セルにおける負極及び正極は、電気化学的に活性な成分及び電気化学的に不活性な成分を含む、いわゆる複合電極であることが多い。複合電極は通常、1つ又は複数のセパレータと組み合わせられて、アセンブリを形成する。アセンブリを得るために、電極及びセパレータは通常、加圧下で、場合によってはラミネート又は接着によって結合される。その後、アセンブリに電解液を含浸させることによって、セルの基本的な機能性を確立することができる。代替的に、電解液に浸したセパレータの代わりに、固体電解質が使用されてもよい。
【0005】
多くの実施形態において、アセンブリは、巻線の形で製造されるか、又は巻線に転換される。それは、一般に、正極/セパレータ/負極の順序を有する。多くの場合、アセンブリは、負極/セパレータ/正極/セパレータ/負極、又は正極/セパレータ/負極/セパレータ/正極という順序が可能な、いわゆるバイセル(bi-cell)として製造される。
【0006】
エネルギー貯蔵セルは、円筒丸型セルとして設計されることが多く、そのハウジングは、円形又は必要に応じて楕円形の底面と、円筒形状のシェルとによって特徴付けられる。このタイプのエネルギー貯蔵セルは通常、巻線の形の電極セパレータアセンブリを含む。円筒形底面形状を有するエネルギー貯蔵セルを形成するために、帯状の電極及びセパレータを巻線機で加工することによって、らせん状の巻線を形成することができる。このような巻線は、円筒形状のハウジング内にぴったりと収まる。円筒丸型セルの一般的なフォームファクタは、例えば21×70のフォームファクタ(mm単位での直径×高さ)である。このフォームファクタの最新のリチウムイオンセルは、例えば、最大270Wh/kgのエネルギー密度を達成することができる。一般に高さが直径より大きいこのような円筒丸型セルの他に、円筒形状のボタン型セルが、特に補聴器又はワイヤレスヘッドフォンなどの小型電子デバイスに電力を供給するために広く使用されており、一般に、高さが直径より小さいという特徴がある。
【0007】
国際公開第2017/215900A1号パンフレットには、電極及び電極セパレータアセンブリがストリップ状であり、及び巻線の形である、エネルギー貯蔵セルが記載されている。電極はそれぞれ、電極材料が装填された集電体を有する。正極の集電体の長手方向端部が片側で巻線から現れ、負極の集電体の長手方向端部が反対側で現れるように、逆の極性の電極が電極セパレータアセンブリ内で互いにオフセットして配置されている。集電体の電気的接触のために、セルは、長手方向端部の一方の上に載置される少なくとも1つの接触要素を有する。接触要素は、溶接によって長手方向端部に接続される。これにより、集電体、ひいては関連する電極をその全長にわたって電気的に接触させることが可能になる。これにより、記載したセル内の内部抵抗が非常に大きく減少する。後に、大電流の発生をよりよく吸収することができる。
【0008】
他の場合、エネルギー貯蔵素子は、スタック電極の角柱アセンブリを含み得る。このようなエネルギー貯蔵素子のハウジングは、多角形、特に長方形の底面によって特徴付けられる。この場合、多角形の底面を有する電極は、角柱アセンブリが形成されるようにスタックされる。スタック内では、通常、逆の極性の電極間に直接的な接触がないように、逆の極性の電極は、セパレータ又は固体電解質の層によって互いに分離される。例えば、電極の長方形スタックから形成された角柱又は立方体アセンブリは、対応する角柱又は立方体形状のハウジング内にぴったりと収まる。ハウジング内では、スタックの電極を電気的に相互接続することができる。一般的に、同じ極性を持つ電極は、ハウジング内で共通の電流導体に結合され、この共通の電流導体は、ハウジング部品の1つに電気的に接続されるか、又は対応するアパーチャを介してハウジングの外に引き出される。
【0009】
電気化学エネルギー貯蔵素子は、金属ハウジングを有することが多い。エネルギー貯蔵素子の製造においては、このような場合、説明した巻線又はスタックの形の電極セパレータアセンブリは、円筒形状又は角柱形状の金属ハウジング内に挿入される必要があり、その後、この金属ハウジングは、密封される。これらの作業は通常、工業生産プロセスの一部として自動化されたやり方で実施される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明は、エネルギー密度が非常に高いエネルギー貯蔵素子を提供するという課題に基づいたものである。この目的は、請求項1に記載の電気化学エネルギー貯蔵素子の製造方法によって解決される。さらに、この目的は、請求項13の特徴を有する電気化学エネルギー貯蔵素子によって解決される。プロセス又はエネルギー貯蔵素子の好ましい実施形態は、従属請求項に定義される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による方法は、電気化学エネルギー貯蔵素子を製造するために使用され、エネルギー貯蔵素子は、少なくとも1つの金属ハウジング部を有するハウジングと、ハウジングの内部に配置された電極セパレータアセンブリと、を有する。製造プロセスは、以下のプロセスステップ:
a.金属ハウジング部及び電極セパレータアセンブリを設けるステップと、
b.金属ハウジング部を加熱して、ハウジング部の膨張を引き起こすステップと、
c.電極セパレータアセンブリを膨張した金属ハウジング部内に挿入するステップと、
d.金属ハウジング部を閉じてハウジングを形成するステップと
を含む。
【0012】
金属ハウジング部は、電極セパレータアセンブリを挿入可能な内部空間を取り囲んでいる。円筒丸型セル又はボタン型セルの場合、ハウジング部は、好ましくは中空円筒形、特にカップ形状である。角柱形状のエネルギー貯蔵素子の場合、金属ハウジング部は、好ましくは角柱形状である。製造されるエネルギー貯蔵素子の形状に応じて適切に、金属ハウジング部は、円形又は楕円形又は多角形、特に長方形の底面を有し得る。
【0013】
円筒丸型セルの場合、ハウジング部は、好ましくは、円形又は楕円形の断面を有する、特に好ましくは、円形又は楕円形の底面を有する底部を有する、円周方向ハウジングシェルを含む。角型セルの場合、ハウジング部は、好ましくはn個の側部を含み、nは、底面の角の数に対応し、各側部は、共通の角を介して第1の隣接する側部に接続され、及びさらなる共通の角を介して第2の隣接する側部に接続される。側部は、好ましくは長方形状である。特に好ましくは、角柱形状のエネルギー貯蔵素子の場合、ハウジング部は、多角形、特に長方形の底面を有する底部を含む。
【0014】
ハウジング部は、電極セパレータアセンブリを金属ハウジング部内に挿入、特に押し込むことができる少なくとも1つの開口部を含む。円筒型セルの場合、この開口部は、円形又は楕円形であり、ハウジングシェルの端部によって画定される。角柱形状のエネルギー貯蔵素子の場合、この開口部は、底面のような多角形の形状を持ち、側部の端部によって画定される。開口部のサイズ及び形状は、挿入される電極セパレータアセンブリのサイズ及び形状を制限する。
【0015】
金属ハウジング部及び電極セパレータアセンブリの寸法及び形状は、内部空間の容積を可能な限り有効に利用するために、互いに適切に適合される。したがって、電極セパレータアセンブリが円筒形である場合、円筒形状の電極セパレータアセンブリを完全に取り囲むことができるように、金属ハウジング部は、好ましくは中空円筒形である。電極セパレータアセンブリが角柱形状又は立方体形状を有する場合、金属ハウジング部は、それに応じて角柱形状又は立方体形状である。
【0016】
本発明のプロセスに従った加熱により、金属ハウジング部の材料が膨張(熱膨張)し、金属ハウジング部の開口部が広がり、ハウジング部によって取り囲まれた内部空間の容積が増大する。一方では、このことは、より多くの空間が利用可能であるため、ハウジング部内への電極セパレータアセンブリの挿入を簡単にする。他方では、このことは、従来の方法を用いて、すなわちハウジング部を加熱することなく可能である場合よりも大きな電極セパレータアセンブリを導入することができるため、金属ハウジング部内の利用可能な空間をより有効に利用することを可能にする。したがって、従来の方法よりも大きな直径を持つ電極セパレータアセンブリ、例えば円筒形状の巻線を導入することができる。これにより、より多くの電気化学的活物質をエネルギー貯蔵素子に導入することが可能となり、その結果、エネルギー貯蔵素子の容量の増加及びエネルギー密度の増加がもたらされる。全体として、本発明による方法は、従来の方法で製造されたエネルギー貯蔵素子に設けられた電極セパレータアセンブリとハウジングとの間の空き空間(これは、製造中に電極セパレータアセンブリをハウジング内に問題なく挿入するために必要とされる)を省くことを可能にする。
【0017】
本発明によるプロセスのさらなる特別な利点は、金属ハウジング部を加熱することによって、ハウジング部、特にハウジング部の内部から水分を除去できることである。ハウジングの内部に存在する水分は、セルの性能に悪影響を及ぼす可能性がある。このような水分の悪影響は、製造されたエネルギー貯蔵素子において、本発明による製造プロセスによって防止されるか、又は少なくとも最小限に抑えられる。
【0018】
充電プロセス及び放電プロセス中に、電気化学エネルギー貯蔵素子の電極は、体積変動を受け得る。これは、特にリチウムイオンセルの場合に、体積変動が電極に対する機械的応力を伴い、エネルギー貯蔵セルの耐用年数を低下させ得るので、問題となり得る。この問題も、本発明による手法によって打ち消される。本発明に従ってハウジング部の内部の容積利用を最適化することにより、電極がより良好に支持され、このことが、充電プロセス中の機械的応力を低減させるように、ハウジングによって膨張する電極に対して逆圧がかかることが達成される。
【0019】
さらに、本発明に従って製造されたエネルギー貯蔵素子における最適化された容積利用は、ハウジング内の電極セパレータアセンブリの振動を防止することも可能である。応用分野によっては、例えば電動工具において、従来の方法で製造されたエネルギー貯蔵素子で発生する振動は、かなりの応力を引き起こし得る。この振動負荷は、本発明に従って製造されたエネルギー貯蔵素子では、利用可能な内部空間が最適に利用されるため、大幅に低減することができる。この点においても、本発明に従って製造されたエネルギー貯蔵素子の耐用年数の増加を達成することができる。本発明で提供される金属ハウジング部の加熱は、自動化された形態で容易に実施することができるので、本発明によるプロセスは、工業生産プロセスにおいて非常に良好に実施することができる。
【0020】
特に好ましい態様では、電極セパレータアセンブリの挿入前の金属ハウジング部の加熱は、本発明によるプロセスの一部として、以下の態様で実施することができる:
a.金属ハウジング部の加熱が、電気エネルギーの入力、特に誘導エネルギー及び/又はオーミックエネルギーの入力によって行われる。
前述の特徴a.に従って電気エネルギーを印加することによって、金属ハウジング部の加熱を非常に迅速に、及び非常に的を絞ったやり方で達成することができる。
【0021】
誘導エネルギーの入力又は誘導加熱中に、交流電流が流れるコイル(インダクタ)は、金属ハウジング部に渦電流を誘導する交流磁界を発生させる。発生した渦電流損失により、金属ハウジング部が熱くなる。この熱は、ハウジング部自体で発生するため、熱伝導による伝達は必要ない。熱出力は、非常に上手く制御できるので、金属ハウジング部を加熱するこのプロセスは、特にプロセスの自動化に関しても非常に適している。特に、誘導エネルギー入力を使用して、あるエリアにおいて別のエリアよりも強くハウジング部を加熱することが可能である。例えば、カップ形状のハウジング部の場合、開口部の縁を外縁よりも強く加熱することが望ましい場合がある。
【0022】
オーミックエネルギーの入力中に、電流が金属ハウジング部に流され、それによって電気エネルギーが熱エネルギーに変換され、そのプロセスにおいてハウジング部が加熱される。好ましくは、ハウジング部に直接接触する2つ以上の電極を介して、ハウジング部に電圧が印加される。このプロセスもまた、非常に上手く制御することができ、的を絞ったやり方で使用することができるので、特にプロセスの自動化に関しても非常に適している。
【0023】
特に好ましい態様において、本方法は、以下のさらなる特徴の少なくとも1つを特徴とする:
a.金属ハウジング部の加熱が、高温段階を含む。
b.高温段階において、金属ハウジング部が、少なくとも一部のエリアにおいて、80~150℃、好ましくは90~110℃、特に好ましくは95~105℃の範囲内の温度にまで加熱される。
【0024】
高温段階において、金属ハウジング部は、好ましくは80~150℃の範囲内の温度にまで加熱される。特に好ましくは、温度は、90~110℃、特に95~105℃の範囲内である。この温度は、場合によっては、ハウジング部全体の1つのセクション又は1つのエリアにおいてのみ到達されることが想定されてもよい。ハウジング部の開口部が加熱によって覆われることが重要である。
【0025】
高温段階の温度は、電極セパレータアセンブリに使用されるセパレータの融点を下回ることが望ましい。この仕様により、電極セパレータアセンブリの熱損傷が確実に回避される。その一方で、高温段階の温度は、金属ハウジング部の開口部の幅の拡大を達成するのに十分な高さであるべきである。
【0026】
高温段階の持続時間は、比較的短くてもよい。通常、金属ハウジング部のこの高温加熱が所望の膨張を達成するためには、数秒から数分の一秒で十分である。
【0027】
特に好ましい態様において、本方法は、以下のさらなる特徴の少なくとも1つを特徴とする:
a.金属ハウジング部の加熱が、予熱段階を含む。
b.予熱段階において、金属ハウジング部が、35~80℃、好ましくは40~70℃、特に好ましくは50~60℃の範囲内の温度にまで加熱される。
【0028】
予熱段階は通常、高温段階の前に行われ、好ましくは、金属ハウジング部の比較的ゆっくりした予熱のために使用される。予熱段階は、急激な温度変化による材料の損傷が生じないように、ハウジング部の材料における急激な大きな温度の急上昇を回避する。好ましくは、予熱段階において、金属ハウジングは、35~80℃、好ましくは40~70℃、特に好ましくは50~60℃の範囲内の温度にまで加熱される。原理上は、この段階においても、高温段階と同様に、金属ハウジング部の一部のみを適切に加熱することができる。しかしながら、一般的には、特に予熱段階において、材料応力を回避するために、金属ハウジング部全体を加熱することが好ましい。高温段階と比較して温度が低いため、予熱段階における金属ハウジング部の均一な加熱は、短時間であっても容易に可能であり、そのため、金属ハウジング部の完全な予熱が迅速な自動化プロセスを妨げることはない。
【0029】
プロセスの特に好ましい実施形態では、予熱段階の直後に高温段階が続く。高温段階では、非常に短い時間の間だけ、すなわち数秒(1~10秒)又は場合によっては1秒未満の間だけ、ハウジング部が必要な温度にされることが好ましい。
【0030】
特に好ましい態様では、金属ハウジング部を加熱する高温段階のために電気エネルギーの入力、特に誘導及び/又はオーミックエネルギーの入力が提供される。これらの方法を用いて、高温段階は、非常に迅速に、及び的を絞ったやり方で実施することができる。技術的実装形態としては、非常に短時間内にオーミックエネルギーの入力によって目標とされる加熱を行うことができるように、特に前述の電極を金属ハウジング部に適用することができ、及び前述の電極に電流を供給することができる。好ましくは、予熱段階は、特に経済的に有利なプロセスを可能にするために、廃熱を使用して実施される。
【0031】
特に好ましい態様において、本方法は、以下のさらなる特徴の少なくとも1つを特徴とする:
a.電極セパレータアセンブリを挿入した後に、金属ハウジング部を冷却する。
b.ハウジングを閉じる前に、ハウジングの金属部を冷却する。
【0032】
電極セパレータアセンブリが金属ハウジング部内に導入された後、ハウジング部は一般に、とても早く冷え、収縮して金属ハウジング部の元の範囲に戻る。したがって、本発明によるプロセスを用いて、従来のプロセスで可能であったよりも大きな電極セパレータアセンブリをハウジング部の内部に導入することが可能である。したがって、ハウジング部の内部の容積を最適に利用することができる。
【0033】
ハウジング部を冷却するステップは、受動的に設計することができる。最も単純なケースでは、ハウジング部が再び室温に達するまで待つだけである。しかしながら、特に製造上の理由から、例えば電極セパレータアセンブリに揮発性電解液を含浸させることができるように、冷却プロセスを能動的にサポートすることが望ましい場合がある。これは、例えば冷却ファンによってサポートすることができる。
【0034】
金属ハウジング部の材料は、例えば、ニッケルめっき鋼又はステンレス鋼であってもよく、必要に応じてニッケルめっきを施すこともでき、又は片面若しくは両面をアルミニウムでコーティングされた材料であってもよい。特に好ましい実施形態では、ハウジングは、鋼製、特にステンレス鋼製であり、少なくとも特定のエリアにおいてアルミニウムでコーティングされた内側面を有する。ニッケル又は別の耐食性材料を用いた外部コーティングは、任意選択のものである。さらなる可能な実施形態では、材料は、異なる金属材料の複合体、例えばいわゆるトリメタル、例えば銅、ステンレス鋼、及びニッケルの複合体であってもよい。さらに、アルミニウムとの材料の組み合わせが有利であり得る。特に好ましい実施形態では、ハウジング部の金属材料は、その熱膨張特性に関して最適化される。このようにして、ハウジング部の最適化された膨張は、本発明による製造プロセスの過程における加熱によって達成することができる。
【0035】
本発明による方法のさらに好ましい実施形態において、本方法は、以下のさらなる特徴を特徴とする:
a.電極セパレータアセンブリを金属ハウジング部内に挿入する前に、電極セパレータアセンブリを冷却する。
【0036】
電極セパレータアセンブリを金属ハウジング部内に挿入する前に電極セパレータアセンブリを冷却することによって、電極セパレータアセンブリの一定の収縮を達成することができる。このことは、金属ハウジング部の加熱及び熱膨張と相まって、電極セパレータアセンブリのハウジング部内への挿入をさらに容易にすることができ、必要に応じて、従来の製造プロセスに比べて電極セパレータアセンブリのさらなる拡大を可能にすることができる。一般に、電極セパレータアセンブリの比熱容量は、金属ハウジング部の比熱容量よりも大きいため、電極セパレータアセンブリを冷却することは、金属ハウジング部を加熱するよりもやや効果が低い。それでもやはり、この冷却段階は、本発明によるプロセスのさらなる利点又はさらなる改善を可能にし得る。この文脈において、電極セパレータアセンブリの製造のための出発原料もすでに冷却されていると、さらに有利であり得る。例えば、電極が、巻線の形の電極セパレータアセンブリの製造中に自動巻線機に導入されるときに、電極がすでに冷却されていることを規定することができる。
【0037】
本発明による方法の特に好ましい実施形態において、本方法は、以下のさらなる特徴の少なくとも1つを特徴とする:
a.少なくとも、金属ハウジング部の加熱が、除湿条件下で行われる。
b.少なくとも、金属ハウジング部内への電極セパレータアセンブリの挿入が、除湿条件下で行われる。
c.少なくとも、金属ハウジング部の加熱が、負圧条件下で行われる。
d.少なくとも、金属ハウジング部内への電極セパレータアセンブリの挿入が、負圧条件下で行われる。
特に好ましい態様では、前述の特徴a.及びc.、特に特徴a.、c.、及びd.、特に好ましくは特徴a.~d.が組み合わせられる。
【0038】
上述の特徴a.による加熱中及び/又は上述の特徴b.によるハウジング部内への電極セパレータアセンブリの挿入中の除湿条件は、特に効果的なやり方でセルの性能に対する水分の悪影響を防止することができる。除湿条件は、例えば、いずれにしても工業生産プロセスにおいて一般的にすでに頻繁に行われているのと同様に、エネルギー貯蔵セルの製造がクリーンルーム及び/又は乾燥室で実施されることによって実現することができる。また、的を絞ったやり方で露点の低い空気を導入することが可能である。必要に応じて、例えば真空乾燥を追加で実施することができる。好ましくは、残留水分が300ppmを下回るように、特に好ましくは100ppmを下回るように条件が設定される。乾燥室の適切な周囲条件は、例えば1±0.5%の相対湿度である。
【0039】
代替的又は追加的に、前述の特徴c.による加熱中及び/又は前述の特徴d.による金属ハウジング部内への電極セパレータアセンブリの挿入中に、負圧条件を提供することができる。一方では、負圧条件は、除湿をサポートする。他方では、負圧条件は、ハウジング部内への電極セパレータアセンブリの挿入を容易にすることができる。プロセスが周囲圧力で実施される場合、電極セパレータアセンブリが挿入される際に、ハウジング部内に含まれる空気が逆圧を働かせる場合があり、又はハウジング部内に存在する空気が十分に迅速に逃げることができない場合がある。これは、負圧条件によって回避される。これは、プロセス速度もさらに上げることができるという特別な利点を有する。有利な実施形態では、圧力は、例えば1mbar~800mbarの範囲、好ましくは10mbar~500mbarの範囲内とすることができる。
【0040】
金属ハウジング部の加熱が乾燥と組み合わせられる場合に特に好ましく、乾燥は、特に乾燥空気の添加及び/又は真空若しくは負圧の使用によってサポートされる。この文脈での真空とは、周囲圧力を下回る圧力、特に800mbar以下、好ましくは500mbar以下に設定されることを意味する。
【0041】
ハウジングを閉じること、及び電極をハウジングに接触させることは、従来のプロセスに相当する、それ自体公知のやり方で行うことができる。例えば、カップ形状のハウジング部の開口部は、電気絶縁シールを用いたフランジングプロセスによって閉じることができ、又は開口部は、カバーの溶接によって閉じることができる。
【0042】
本発明によるプロセスは、円筒形状のエネルギー貯蔵素子の製造、及び角柱形状のエネルギー貯蔵素子の製造の両方に適している。したがって、エネルギー貯蔵素子のハウジングは、円筒形状ハウジング又は角柱形状ハウジングとすることができる。特に好ましい態様では、本発明によるプロセスは、円筒丸型セルを製造するために使用される。ここでは、21×70(mm単位の直径×高さ)のフォームファクタを有するエネルギー貯蔵素子が特に好ましい。もちろん、本発明によるプロセスは、異なるフォームファクタを有するエネルギー貯蔵素子の製造にも有利に使用することができる。
【0043】
電極セパレータアセンブリは、円筒形状の巻線又は角柱形状の電極スタックであってもよい。特に好ましい態様では、それは、円筒丸型セルに一般的に使用されるような円筒形状の巻線形アセンブリである。
【0044】
本発明による方法の特に好ましい実施態様において、本方法は、以下のさらなる特徴の少なくとも1つを特徴とする:
a.電気化学エネルギー貯蔵素子が、リチウムイオンセルであるか、又は1つ若しくは複数のリチウムイオンセルを含む。
【0045】
原理上は、リチウムイオンを吸収及び放出可能な材料はすべて、リチウムイオンセルの電気化学的に活性な成分(活物質)として使用できる。炭素系粒子、特に黒鉛炭素は負極に適している。リチウムをインターカレートできる他の非黒鉛炭素材料も使用できる。さらに、リチウムと合金化可能な金属材料及び半金属材料も使用することができる。例えば、スズ、アルミニウム、アンチモン、及びシリコンなどの元素は、リチウムと金属間相を形成することができる。例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、又はそれらの誘導体は、正極の活物質として使用することができる。電気化学的に活性な材料は、特に粒子形態で電極に含有させることができる。
【0046】
リチウムイオンセルの電極は、好ましくは、電気化学的に活性な成分に加えて、電気化学的に不活性な成分も含む複合電極として構築される。さらに、複合電極は、好ましくは、平板状及び/又はストリップ状の集電体、例えば金属箔を含み、これは、それぞれの活物質の担体として機能する。負極用の集電体(アノード集電体)は、例えば銅又はニッケルから形成することができ、正極用の集電体(カソード集電体)は、例えばアルミニウムから形成することができる。電気化学的に不活性な成分として、電極は、好ましくは、電極バインダ、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)又は別のポリマー、例えばカルボキシメチルセルロース、並びに導電性向上添加剤及び/又は他の添加剤を含む。電極バインダは、電極の機械的安定性を保証し、多くの場合、集電体に対する活物質の接着性も保証する。
【0047】
特に、電極間のセパレータとして、例えばポリオレフィン又はポリエーテルケトン製の多孔性プラスチックフィルムを使用することができる。リチウムイオンセルに最も適した電解液は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)などのリチウム塩を有機溶媒(例えば、炭酸のエーテル及びエステル)に溶かした溶液である。
【0048】
本発明はさらに、少なくとも1つの金属ハウジング部を有するハウジングと、ハウジング内に配置された電極セパレータアセンブリとを有する電気化学エネルギー貯蔵素子をさらに含む。本発明による電気化学エネルギー貯蔵素子は、上記の方法によって製造されることを特徴とする。したがって、エネルギー貯蔵素子のさらなる特徴に関しても、上記の説明が参照される。
【0049】
特に、本発明によるエネルギー貯蔵素子は、ハウジングの容積の最適化された利用を実現し、その結果、エネルギー貯蔵素子の容量が従来のエネルギー貯蔵素子と比べて増加し、したがって、最適化されたエネルギー密度が達成されるという事実を特徴とする。ハウジングの内部を最適に利用することにより、電極セパレータアセンブリの場合、ハウジングによって加えられる逆圧により、充電プロセスに関連する電極の膨張が最小限に抑えられ、それによって、電極に対する機械的応力が低減される。さらに、ハウジングの内部空間の最適利用によって、ハウジング内での電極セパレータアセンブリの振動が防止され、又は最小限に抑えられる。同時に、本発明による製造プロセスは、セル性能に対する水分の悪影響を防止するように、ハウジング内の残留水分を減少させる。
【0050】
特に好ましい態様において、本発明による電気化学的エネルギー貯蔵素子は、以下のさらなる特徴を特徴とする:
a.エネルギー貯蔵素子が、円筒形状ハウジングを有し、及び電極セパレータアセンブリとして巻線を有する円筒丸型セルであり、並びに
b.円筒丸型セルの直径に対して、エネルギー貯蔵素子が、存在する可能性がある巻線の中心空洞を考慮せずに、95%を超える、好ましくは99%を超える、好ましくは100%である、巻線によるハウジングの内部容積の空間利用率を有する。
【0051】
前述の特徴b.に関するエネルギー貯蔵セルの特徴は、この場合、巻線がハウジングの内側に対して直接当接している、又は非常に小さい距離に位置している円筒形状ハウジングの部分又はセクションに関する。したがって、エネルギー貯蔵セルのこの特徴は、巻線の端面と円筒形状ハウジングの端面部分との間にあるエネルギー貯蔵セルの部分には関係しない。さらに、前述の特徴b.に従って定義された巻線によるハウジングの内部容積の空間利用率において、存在する可能性があり、及び巻線コアで部分的に又は完全に充填される可能性がある巻線の中心空洞は考慮されない。したがって、これは、前述の95%、又は好ましくは99%を超える、又は100%とは、巻線の外周とハウジングの内部との間の空間のみを指すことを意味する。
【0052】
したがって、円筒丸型セルのハウジングの内部容積を、ハウジングの直径に対して最大限に利用することができ、それによって、丸型セルのデッドボリュームを最小限に抑えることができる。製造プロセス中に金属ハウジング部を加熱することによって、室温でハウジング部の内周に対応する外周を有するハウジング部の内部に電極セパレータアセンブリを導入することができる。ハウジング部の加熱により達成されるハウジング部の開口部の拡大により、電極セパレータアセンブリが製造プロセス中に十分なクリアランスで挿入されることが可能となる。その後のハウジング部の冷却により、ハウジングの壁が電極セパレータアセンブリの外周に直接、すなわちクリアランスなしで接触するため、容積の最大利用が達成される。従来のエネルギー貯蔵素子と比較して拡大された電極セパレータアセンブリにより、エネルギー貯蔵素子の容量を増加させることができる。同時に、電極膨張時の歪みを防止し、及びハウジング内の振動を回避するように、電極セパレータアセンブリの安定化が達成される。
【0053】
ハウジングの内部容積の空間利用率、好ましくは断面に対して100%は、非充電状態の電極セパレータアセンブリを指す。充電プロセス中の電極の過剰な膨張は、ハウジングのサポートによって吸収される。
【0054】
本発明のさらなる特徴及び利点は、図面に関連して以下の実施形態例の説明から得られる。ここで、個々の特徴は、個々に実現することもでき、又は互いに組み合わせて実現することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図1】例示的な円筒丸型セルの概略縦断面図である。
【
図2】円筒丸形セルの製造における様々なステップ(ステップA~I)の概略図である(それぞれ縦断面で示す)。
【発明を実施するための形態】
【0056】
図1に縦断面で示すエネルギー貯蔵セル100は、いわゆる接触板設計の円筒丸型セルとして構築されており、本発明によるプロセスを用いて製造することができる電気化学エネルギー貯蔵素子の可能な例を示している。エネルギー貯蔵セル100は、ディスク状の底部101a及び上部領域に円形の開口部(リム101bによって画定される)を有するカップ形状の金属ハウジング部101を含む。金属ハウジング部101は、特にカップ形状の深絞り部分である。ここに示すエネルギー貯蔵セル100の閉じた形態又は完全に組み立てられた形態では、リム101bは、半径方向内側に直角に曲げられ、それによって、ハウジングが閉じられる。ハウジングの上部閉鎖は、中心孔104を有するディスク状の接触要素(接触板)102によって形成される。中心孔104は、ポールキャップ107が上に配置された金属ディスク106によって閉じられている。接触板102の外縁と、カップ形状の金属ハウジング部101の上側端部101bとの間には、シール103が設けられている。それによって、カップ形状の金属ハウジング部101の内側に曲げられた上側端部101bは、シール103及び接触板102の外縁を取り巻いている。
【0057】
金属ハウジング部101は、接触板102と共に、巻線として形成される電極セパレータアセンブリ105が軸方向に整列する内部空間を取り囲んでいる。接触板102の孔104は、孔104が金属ディスク(シート金属ディスク)106で閉じられる前に、製造プロセス中にエネルギー貯蔵セル100のハウジング内に電解液を充填するために設けられる。組み立てられると、穴104は金属ディスク106によって密閉される。金属ディスク106は、金属ディスク106が圧力逃しバルブとして機能し得るように、所定の破壊点として1つ又は複数の細長い凹部を有してもよい。
【0058】
電極セパレータアセンブリ105は、2つの端面を有する円筒形状の巻線の形をしており、その間に円周方向の巻線シェルが延在しており、この巻線シェルは、カップ形状の金属ハウジング部101の円周方向内側面に当接している。電極セパレータアセンブリ105は、正極及び負極と、それらの間に介在するセパレータ108及び109とから形成され、これらのそれぞれは、帯状に形成され、らせん状に巻かれている。電極セパレータアセンブリ105の端面は、セパレータ108及び109の長手方向端部によって形成されている。巻線又は電極セパレータアセンブリ105の中心には、中心空洞及び/又は巻線コアが存在してもよい。
【0059】
集電体110及び120は、電極セパレータアセンブリ105の端面から突出している。対応する突出部をd1及びd2と表示する。カソード集電体110は、電極セパレータアセンブリ105の上側端面から出ている。アノード集電体120は、下側端面から出ている。カソード集電体110には、帯状の主領域に正極材料111の層が装填されている。アノード集電体120には、帯状の主領域に負極材料121の層が装填されている。カソード集電体110は、カソード集電体110の上側長手方向端部110aに沿って延在する端部ストリップ112を有し、この端部ストリップ112には、正極材料111が装填されていない。代わりに、セラミック支持材料のコーティング113がここに塗布され、それによって、このエリアにおける集電体110が安定化する。アノード集電体120は、アノード集電体120の下側長手方向端部120aに沿って延在する端部ストリップ122を有し、この端部ストリップ122には、負極材料121が装填されていない。代わりに、このエリアにもセラミック支持材料のコーティング123が塗布されている。
【0060】
カソード集電体110の上側端部110aは、その全長にわたってディスク状の接触要素(接触板)102と直接接触しており、少なくともいくつかの部分にわたって、好ましくはその全長にわたって、例えば溶接によって(具体的にはレーザを活用して)、後者に接続されている。したがって、接触要素102は、カソードの電気的接触のために機能すると同時に、ハウジングカバーとして機能する。
【0061】
アノード集電体120の下側端部120aは、その全長にわたってカップ形状の金属ハウジング部101の底部101aと直接接触しており、少なくともいくつかの部分にわたって、好ましくはその全長にわたって、例えば溶接によって(具体的にはレーザを活用して)、後者に接続されている。したがって、カップ形状の金属ハウジング部101の底部101aは、ハウジングの一部としてだけでなく、アノードの電気的接触のためにも機能する。
【0062】
カップ形状の金属ハウジング部101の上側端部101bと終端ディスク状接触要素102との間のシール103は、部品同士を電気的に絶縁する。カップ形状の金属ハウジング部101の端部101bは、シール103によって取り囲まれた接触要素102の端部を越えて半径方向内側に曲げられ、接触要素102をカップ形状の金属ハウジング部101の円形の開口部に固定する。カップ形状の金属ハウジング部101の上側端部101bの曲げ部の下には、配置を安定させる円周方向ビード130が存在する。
【0063】
図2は、接触板設計において円筒丸型セルとして形成される、本発明によるこのようなエネルギー貯蔵セル100の製造における様々なステップA~Iを示す。まず、ステップAにおいて、電極セパレータアセンブリ105が設けられ、その上側端面上にディスク状の接触要素(接触板)102が載置される。
【0064】
ステップBにおいて、接触要素102は、カソード集電体の上側突出長手方向端部110aの領域において、電極セパレータアセンブリ105に溶接される。
【0065】
ステップCでは、円周方向シール103がディスク状接触要素102の縁に付けられる。
【0066】
本発明による方法の重要な特徴として、ステップDにおいて、電極セパレータアセンブリ105が金属ハウジング部内に挿入される前に、金属ハウジング部101の加熱が行われる。この加熱により、ハウジング部101の熱膨張が得られる。この熱膨張により、金属ハウジング部101の開口部の幅が増大するため、一方では、電極セパレータアセンブリ105の挿入が容易になる。他方では、この手段により、従来の製造方法と比較して、より大きな外周を有する電極セパレータアセンブリ105を使用することができる。したがって、一方では、金属ハウジング部101の内部容積を最適に利用することができ、エネルギー貯蔵セルの容量の増大が達成され、エネルギー密度が最適化される。例えば、電極セパレータアセンブリ105の寸法に対する容積増加は、巻線形状の電極セパレータアセンブリの場合、特に非常に薄い電極の場合、ほぼ1つの追加巻線全体に相当し得る。巻線の外側領域における追加の巻線は、電極の長さに大きな増加をもたらし、したがってキャパシタンスの大幅な増加をもたらす。他方では、最適化された容積の利用により、特に充電プロセス中の電極の空間的拡大及びそれに関連する電極に対する機械的応力に関して、並びにエネルギー貯蔵セルのハウジング内で起こり得る振動の回避に関して、安定化効果が得られる。
【0067】
ステップDにおける加熱は、好ましくは2つの段階、すなわち予熱段階及びそれに続く高温段階で行われる。予熱段階では、まず、金属ハウジング部101の材料が、例えば約50~60℃の温度にされる。この目的のために、別のプロセスの廃熱を有利に使用することができる。この予熱段階は、すでに負圧雰囲気中で、及び/又は除湿条件下で実施することができ、それによって、金属ハウジング部101の内部にまだ存在する残留水分が除去される。電極セパレータアセンブリ105が金属ハウジング部101内に挿入される直前に、高温段階が行われ、金属ハウジング部101は、例えば、約100℃の温度まで加熱される。この高温段階中に、電極セパレータアセンブリ105を挿入できるように、金属ハウジング部101の所望の開口部幅が達成される。
【0068】
例えば、フォームファクタ21×70(規格21700)の円筒丸型セル用の一般的な金属ハウジング部101は、20℃では開口部のエリアで約20.6mmの内法寸法を有する。100℃、すなわち80Kの温度差では、ニッケルめっき鋼製の金属ハウジング部101の場合、20.8mmを超える内径が達成される。したがって、本実施形態では、本発明による方法を使用して、20.6mmの最大外径を有する巻線形電極セパレータアセンブリ105を導入することができる。
【0069】
一般に、加熱により膨張した金属ハウジング部101の内周と電極セパレータアセンブリ105の最大外周(非充電状態における)との間の0.2mmの差は、この0.2mmの差が、容積損失と挿入のために加えられる力との間の妥協点を示すので、特に適していることが証明されている。この差が0.2mmを下回る場合、例えばたった0.1mmの差である場合、挿入力は、一般的に高境界値である。挿入力は、負圧雰囲気によって低減できるとしても、自動組立プロセスにおける適切なプロセス速度の観点からも、0.2mmの差を維持することが一般的に有利である。電極セパレータアセンブリ105の外周とハウジングの内周との間に0.2mmの差を維持することにより、ハウジング部101内への挿入中に電極セパレータアセンブリへの損傷が生じないことがさらに保証される。
【0070】
金属ハウジング部101内への電極セパレータアセンブリ105の挿入はまた、最適化されたプロセス速度に加えて、まだ存在し得る残留水分を除去するために、及び穏やかな材料処理が保証されるように冷却プロセスの速度を落とすために、好ましくは、依然として負圧雰囲気下で実施される。
【0071】
電極セパレータアセンブリ105をカップ形状の金属ハウジング部101内に挿入する際に、底部において電極セパレータアセンブリから突出するアノード集電体の長手方向端部120aがカップ形状の金属ハウジング部101の底部に直接接触するまで電極セパレータアセンブリ105が挿入される。
【0072】
ステップEでは、アノード集電体の長手方向端部120aが、カップ形状の金属ハウジング部101の底部に溶接される。
【0073】
ステップFでは、カップ形状の金属ハウジング部101の開口部端部101bが、半径方向内側に曲げられる。
【0074】
ステップGでは、ハウジングが電解液で満たされ、電解液は、開口部104を通してハウジング内に計量供給される。
【0075】
次に、ステップHでは、ポールカバーが上に配置された金属ディスク106が、開口部104上に載置され、ステップIにおいてレーザ溶接により固定され、それによって、ハウジングが閉じられ、したがってエネルギー貯蔵セル100が完成する。
【0076】
図1及び
図2に基づいて説明した実施例は、いわゆる接触板設計の円筒丸型セルの特別な設計を示している。同様に、本発明によるプロセスは、他のエネルギー貯蔵セルの製造にも適用可能である。本発明によるプロセスの適用可能性の必要条件は、電極セパレータアセンブリが内部に導入される金属ハウジング又は金属ハウジング部の使用である。この点において、本発明によるプロセスは、原理上は、金属ハウジングを有するすべてのエネルギー貯蔵セルに有利に使用することができる。したがって、このことは、円筒丸型セル及びボタン型セルにも、角型セルにも当てはまる。
【国際調査報告】