(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-29
(54)【発明の名称】ベータ-アラニン産生改善のための昆虫由来のアスパラギン酸デカルボキシラーゼおよびそれらのバリアント
(51)【国際特許分類】
C12N 15/60 20060101AFI20240221BHJP
C12N 9/88 20060101ALI20240221BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240221BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240221BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240221BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240221BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240221BHJP
C12P 13/06 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
C12N15/60
C12N9/88 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P13/06 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553235
(86)(22)【出願日】2022-03-03
(85)【翻訳文提出日】2023-10-25
(86)【国際出願番号】 CN2022079042
(87)【国際公開番号】W WO2022184134
(87)【国際公開日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2021/078949
(32)【優先日】2021-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522363737
【氏名又は名称】モジア・バイオテック・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100135415
【氏名又は名称】中濱 明子
(72)【発明者】
【氏名】ラウ,マン・キット
(72)【発明者】
【氏名】ルー,シュー
(72)【発明者】
【氏名】ス,ジンフアン
(72)【発明者】
【氏名】ゼン,コンミン
(72)【発明者】
【氏名】ジアン,タイロン
(72)【発明者】
【氏名】チュウ,アンセン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AE04
4B064CA02
4B064CA05
4B064CA06
4B064CA08
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4B065AA01X
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4B065CA43
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
ベータ-アラニン産生のための改善された性能を表す昆虫アスパラギン酸1-デカルボキシラーゼのN末端切断型バリアントを提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換え切断型昆虫アスパラギン酸1-デカルボキシラーゼ(ADC)であって、切断型ADCが対応する完全長野生型昆虫ADCと比較してアスパラギン酸のベータ-アラニンへの変換の増加を表すように、対応する完全長野生型昆虫ADCのアミノ末端領域内の十分な数の連続した残基が欠如している切断型昆虫ADC。
【請求項2】
蚊、ハエ、カブトムシ、ノミ、ゴキブリ、またはシロアリのADCの切断型バリアントであるか、または野生型ADC酵素の切断型バリアントであり、野生型ADC酵素が、配列番号29のアミノ酸配列と全体で少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99%同一なアミノ酸配列によって定義される、請求項1に記載の組換え切断型昆虫ADC。
【請求項3】
Culex、Anopheles、ショウジョウバエ(Drosophila)、Aethina、Aedes、Tribolium、Anopheles、Tenebrio、Asbolus、またはCryptotermes属の昆虫ADCの切断型バリアントである、請求項1または2に記載の組換え切断型昆虫ADC。
【請求項4】
Culex tarsalis、Anopheles arabiensis、Drosophila melanogaster、Culex quinquefasciatus、Aethina tumida、Aedes albopictus、Aedes aegypti、Tribolium castaneum、Anopheles sinensis、Tenebrio molitor、Asbolus verrucosus、またはCryptotermes secundus種の昆虫ADCの切断型バリアントである、請求項1~3のいずれか1項に記載の組換え切断型昆虫ADC。
【請求項5】
対応する完全長野生型昆虫ADCが、
(a)配列番号2、4、もしくは9~15のいずれか1つと全体で少なくとも80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、もしくは99%同一であるアミノ酸配列を含む蚊ADC、
(b)配列番号1、3、もしくは5~6のいずれか1つと全体で少なくとも80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、もしくは99%同一であるアミノ酸配列を含むカブトムシADC、
(c)配列番号8と全体で少なくとも80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、もしくは99%同一であるアミノ酸配列を含むハエADC、または
(d)配列番号29と全体で少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、もしくは99%同一なアミノ酸配列を含むADCである、請求項1~4のいずれか1項に記載の組換え切断型昆虫ADC。
【請求項7】
切断型ADCが、
(a)配列番号2で記載したCtADCのアミノ酸配列の72~561位;
(b)配列番号4で記載したAaADCのアミノ酸配列の79~568位;
(c)配列番号3で記載したAtADCのアミノ酸配列の56~544位;
(d)配列番号1で記載したTcADCのアミノ酸配列の52~540位;
(e)配列番号10で記載したAa2ADCのアミノ酸配列の71~560位;
(f)配列番号11で記載したAa3ADCのアミノ酸配列の71~562位;
(g)配列番号9で記載したCqADCのアミノ酸配列の74~563位;
(h)配列番号13で記載したAa4ADCのアミノ酸配列の72~561位;
(i)配列番号14で記載したAdADCのアミノ酸配列の74~624位;
(j)配列番号12で記載したAsADCのアミノ酸配列の83~572位;
(k)配列番号15で記載したAs2ADCのアミノ酸配列の72~561位;
(l)配列番号6で記載したTmADCのアミノ酸配列の53~541位;
(m)配列番号5で記載したAvADCのアミノ酸配列の57~572位、または
(n)配列番号29で記載したアミノ酸配列の1~491位、
と全体で少なくとも80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の組換え切断型昆虫ADC。
【請求項8】
切断型ADCが、配列番号2で記載したCtADCのアミノ酸配列の96位に対応する位置にグリシン残基を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の組換え切断型昆虫ADC。
【請求項9】
切断型ADCが、対応する完全長野生型昆虫ADCのアミノ末端の少なくともX個の連続した残基を欠如しており、Xが5から50の間の任意の整数である、請求項1~8のいずれか1項に記載の組換え切断型昆虫ADC。
【請求項10】
切断が、完全長野生型昆虫ADCのn位に対応する残基のすぐC末端(下流)の位置で生じ、nが2からYの間の任意の整数であり、Yが完全長野生型昆虫ADC内の最もC末端の残基の位置であり、この位置でのN末端からの切断が完全長野生型ADCと比較してアスパラギン酸のベータ-アラニンへの変換の増加を表す切断型ADCを生じ得る、請求項1~9のいずれか1項に記載の組換え切断型昆虫ADC。
【請求項11】
切断が、
(a)配列番号2で記載したCtADCのアミノ酸配列の2、3、4、5、6、7、8、9 10、または11~71位;
(b)配列番号4で記載したAaADCのアミノ酸配列の2、3、4、5、6、7、8、9 10、または11~78位;
(c)配列番号3で記載したAtADCのアミノ酸配列の2、3、4、5、6、7、8、9 10、または11~55位;
(d)配列番号1で記載したTcADCのアミノ酸配列の2、3、4、5、6、7、8、9 10、または11~51位;
(e)配列番号10で記載したAa2ADCのアミノ酸配列の2、3、4、5、6、7、8、9 10、または11~70位;
(f)配列番号11で記載したAa3ADCのアミノ酸配列の2、3、4、5、6、7、8、9 10、または11~70位;
(g)配列番号9で記載したCqADCのアミノ酸配列の2、3、4、5、6、7、8、9 10、または11~73位;
(h)配列番号13で記載したAa4ADCのアミノ酸配列の2、3、4、5、6、7、8、9 10、または11~73位;
(i)配列番号14で記載したAdADCのアミノ酸配列の2、3、4、5、6、7、8、9 10、または11~73位;
(j)配列番号12で記載したAsADCのアミノ酸配列の2、3、4、5、6、7、8、9 10、または11~82位;
(k)配列番号15で記載したAs2ADCのアミノ酸配列の2、3、4、5、6、7、8、9 10、または11~78位;
(l)配列番号6で記載したTmADCのアミノ酸配列の2、3、4、5、6、7、8、9 10、または11~52位;
(m)配列番号5で記載したAvADCのアミノ酸配列の2、3、4、5、6、7、8、9、10、もしくは11~56位、または
(n)配列番号29で記載したアミノ酸配列の1~491位、
のいずれか1つに対応する残基のC末端(下流)の位置で生じる、請求項1~10のいずれか1項に記載の組換え切断型昆虫ADC。
【請求項11】
切断が、
(a)配列番号2で記載したCtADCのアミノ酸配列の72~80位;
(b)配列番号4で記載したAaADCのアミノ酸配列の79~87位;
(c)配列番号3で記載したAtADCのアミノ酸配列の56~64位;
(d)配列番号1で記載したTcADCのアミノ酸配列の52~60位;
(e)配列番号10で記載したAa2ADCのアミノ酸配列の71~79位;
(f)配列番号11で記載したAa3ADCのアミノ酸配列の71~79位;
(g)配列番号9で記載したCqADCのアミノ酸配列の74~82位;
(h)配列番号13で記載したAa4ADCのアミノ酸配列の72~82位;
(i)配列番号14で記載したAdADCのアミノ酸配列の74~82位;
(j)配列番号12で記載したAsADCのアミノ酸配列の83~91位;
(k)配列番号15で記載したAs2ADCのアミノ酸配列の72~87位;
(l)配列番号6で記載したTmADCのアミノ酸配列の53~61位;
(m)配列番号5で記載したAvADCのアミノ酸配列の57~65位、または
(n)配列番号29で記載したアミノ酸配列の1~491位、
のいずれか1つに対応する残基のN末端(上流)の位置で生じる、請求項1~10のいずれか1項に記載の組換え切断型昆虫ADC。
【請求項12】
切断が、
(a)配列番号2で記載したCtADCのアミノ酸配列の75位;
(b)配列番号4で記載したAaADCのアミノ酸配列の82位;
(c)配列番号3で記載したAtADCのアミノ酸配列の59位;
(d)配列番号1で記載したTcADCのアミノ酸配列の55位;
(e)配列番号10で記載したAa2ADCのアミノ酸配列の74位;
(f)配列番号11で記載したAa3ADCのアミノ酸配列の74位;
(g)配列番号9で記載したCqADCのアミノ酸配列の77位;
(h)配列番号13で記載したAa4ADCのアミノ酸配列の77位;
(i)配列番号14で記載したAdADCのアミノ酸配列の77位;
(j)配列番号12で記載したAsADCのアミノ酸配列の86位;
(k)配列番号15で記載したAs2ADCのアミノ酸配列の82位;
(l)配列番号6で記載したTmADCのアミノ酸配列の56位;
(m)配列番号5で記載したAvADCのアミノ酸配列の60位、または
(n)配列番号29で記載したアミノ酸配列の1~491位、
のいずれか1つに対応する残基のN末端(上流)の位置で生じる、請求項1~11のいずれか1項に記載の組換え切断型昆虫ADC。
【請求項13】
アスパラギン酸1-デカルボキシラーゼ活性を有する組換えタンパク質であって、
(a)配列番号2で記載したCtADCのアミノ酸配列の72~561位;
(b)配列番号4で記載したAaADCのアミノ酸配列の79~568位;
(c)配列番号3で記載したAtADCのアミノ酸配列の56~544位;
(d)配列番号1で記載したTcADCのアミノ酸配列の52~540位;
(e)配列番号10で記載したAa2ADCのアミノ酸配列の71~560位;
(f)配列番号11で記載したAa3ADCのアミノ酸配列の71~562位;
(g)配列番号9で記載したCqADCのアミノ酸配列の74~563位;
(h)配列番号13で記載したAa4ADCのアミノ酸配列の72~561位;
(i)配列番号14で記載したAdADCのアミノ酸配列の74~624位;
(j)配列番号12で記載したAsADCのアミノ酸配列の83~572位;
(k)配列番号15で記載したAs2ADCのアミノ酸配列の72~561位;
(l)配列番号6で記載したTmADCのアミノ酸配列の53~541位;
(m)配列番号5で記載したAvADCのアミノ酸配列の57~572位、または
(n)配列番号29で記載したアミノ酸配列の1~491位、
と全体で少なくとも80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99%同一であるアミノ酸配列を含む組換えタンパク質。
【請求項14】
配列番号2で記載したCtADCのアミノ酸配列の96位に対応する位置にグリシン残基を含む、請求項13に記載の組換えタンパク質。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか1項で定義した組換え切断型昆虫ADCをコードする核酸配列を含むポリヌクレオチド、または請求項13もしくは14で定義した組換えタンパク質をコードする核酸配列を含むポリヌクレオチド。
【請求項16】
昆虫ADCに関して異種であるプロモータに作動可能に連結した請求項15で記載した単離または組換えポリヌクレオチドを含む発現カセット。
【請求項17】
請求項1~12のいずれか1項で定義した組換え切断型昆虫ADC、請求項13もしくは14で記載した組換えタンパク質を発現し、かつ/または請求項15で記載したポリヌクレオチドもしくは請求項16で記載した発現カセットで形質転換されるか、またはそれらを含むように操作された宿主細胞。
【請求項18】
細菌、昆虫、哺乳動物、酵母、または真菌の細胞である、請求項17に記載の宿主細胞。
【請求項19】
アスパラギン酸からベータ-アラニンの工業的生産で使用するための、請求項1~12のいずれか1項で定義した組換え切断型昆虫ADC、請求項13もしくは14で定義した組換えタンパク質、または請求項17もしくは18で定義した宿主細胞。
【請求項20】
ベータ-アラニンの産生方法であって、
(a)請求項1~12のいずれか1項で定義した切断型昆虫ADCであるADC酵素源、請求項13もしくは14で定義した組換えタンパク質、および/または請求項17もしくは18で定義した宿主細胞を提供するステップ、
(b)ADC酵素源がアスパラギン酸のベータ-アラニンへの変換を触媒することが可能である条件下で、ADC酵素源をアスパラギン酸源と接触させるステップ、ならびに
(c)産生したベータ-アラニンを単離および/または濃縮するステップを含む方法。
【請求項21】
ADC酵素源が請求項17または18で定義した無傷の宿主細胞である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
請求項20または21に記載の方法によって産生されたベータ-アラニンを含む組成物。
【請求項23】
配列番号16~27のいずれか1つの核酸配列、請求項1~12のいずれか1項で定義した組換え切断型昆虫ADCをコードする核酸配列、請求項13もしくは14で定義した切断型組換えタンパク質をコードする核酸配列、またはそれらの任意の組み合わせの完全相補体とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド分子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この記載は、ベータ-アラニンの産生のための生物学的方法に関する。より詳細には、本明細書では、L-アスパラギン酸からのベータ-アラニン産生に特に有利な昆虫アスパラギン酸1-デカルボキシラーゼ(ADC)酵素およびそれらのバリアントについて記載する。
【背景技術】
【0002】
ベータ-アミノプロピオン酸または3-アミノプロピオン酸としても知られているベータ-アラニンは、アミノ基がカルボキシレート基のベータ位にある天然に存在するアミノ酸である。ベータ-アラニンは多目的な有機合成の原料であり、主にパントテン酸およびパントテン酸カルシウム、カルノシン、パミドロン酸、バルサラジドなどの合成に使用される。医薬品、飼料、食品、およびその他の分野で広く使用されており、市場の需要は大きい。工業規模では、ベータ-アラニンは現在、安全性への懸念、高額な設備費用、および環境汚染を伴う過酷な反応条件を必要とする化学的方法によって生産されている。より安全で環境に優しい生物学的方法によるベータ-アラニンの生産は、酵素の活性、発現、および/または安定性が低いことが大きな妨げとなっており、そのため、化学的合成によるアプローチと比較してそのような方法は商業的に実行不可能となっている。
【発明の概要】
【0003】
したがって、ベータ-アラニンの生物学的生産に有用な改善された酵素が強く望まれている。
【0004】
一態様では、本明細書では、組換え切断型昆虫アスパラギン酸1-デカルボキシラーゼ(ADC)であって、切断型ADCが完全長野生型昆虫ADCと比較してアスパラギン酸のベータ-アラニンへの変換の増加を表すように、対応する完全長野生型昆虫ADCのアミノ末端領域内の十分な数の連続した残基が欠如している切断型昆虫ADCについて記載する。
【0005】
さらなる態様では、本明細書では、アスパラギン酸1-デカルボキシラーゼ活性を有する組換えタンパク質であって、
(a)配列番号2で記載したCtADCのアミノ酸配列の72~561位;
(b)配列番号4で記載したAaADCのアミノ酸配列の79~568位;
(c)配列番号3で記載したAtADCのアミノ酸配列の56~544位;
(d)配列番号1で記載したTcADCのアミノ酸配列の52~540位;
(e)配列番号10で記載したAa2ADCのアミノ酸配列の71~560位;
(f)配列番号11で記載したAa3ADCのアミノ酸配列の71~562位;
(g)配列番号9で記載したCqADCのアミノ酸配列の74~563位;
(h)配列番号13で記載したAa4ADCのアミノ酸配列の72~561位;
(i)配列番号14で記載したAdADCのアミノ酸配列の74~624位;
(j)配列番号12で記載したAsADCのアミノ酸配列の83~572位;
(k)配列番号15で記載したAs2ADCのアミノ酸配列の72~561位;
(l)配列番号6で記載したTmADCのアミノ酸配列の53~541位;
(m)配列番号5で記載したAvADCのアミノ酸配列の57~572位、または
(n)配列番号29のアミノ酸配列の1~491位
と全体的に少なくとも80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99%同一であるアミノ酸配列を含む組換えタンパク質について記載する。
【0006】
さらなる態様では、本明細書では、本明細書で記載した組換え切断型昆虫ADCまたは本明細書で記載した組換えタンパク質をコードする核酸配列を含むポリヌクレオチドについて記載する。
【0007】
さらなる態様では、本明細書では、昆虫ADCについて異種であるプロモータに作動可能に連結した、本明細書で記載した単離または組換えポリヌクレオチドを含む発現カセットについて記載する。
【0008】
さらなる態様では、本明細書では、本明細書で記載した組換え切断型昆虫ADC、本明細書で記載した組換えタンパク質を発現し、かつ/または本明細書で記載したポリヌクレオチドまたは本明細書で記載した発現カセットで形質転換されるか、またはそれらを含むように操作された宿主細胞について記載する。
【0009】
さらなる態様では、本明細書では、ベータ-アラニンの産生のための方法であって、(a)本明細書で記載した切断型昆虫ADCであるADC酵素源、本明細書で記載した組換えタンパク質、および/または本明細書で記載した宿主細胞を提供するステップ、(b)ADC酵素源がアスパラギン酸のベータ-アラニンへの変換を触媒することが可能である条件下で、ADC酵素源をアスパラギン酸源と接触させるステップ、ならびに(c)産生されたベータ-アラニンを単離および/または濃縮するステップを含む方法について記載する。
【0010】
さらなる態様では、本明細書では、本明細書で記載した方法によって産生されるベータ-アラニンを含む組成物について記載する。
【0011】
一般的定義
見出し、およびその他の識別符号、例えば、(a)、(b)、(i)、(ii)などは、単に明細書および特許請求の範囲を読みやすくするために表示されている。明細書または特許請求の範囲における見出しまたはその他の識別符号の使用は、ステップまたは要素がアルファベット順もしくは数字順、またはそれらが表示される順序で実施されることを必ずしも必要とするわけではない。
【0012】
特許請求の範囲および/または明細書において「含む」という用語と組み合わせて使用される場合、「a」または「an」という語の使用は、「1つ」を意味していてもよいが、「1つまたは複数」、「少なくとも1つ」、および「1つ以上」の意味とも一致する。
【0013】
「約」という用語は、値を判定するために使用されている装置または方法の誤差の標準偏差を値が含むことを示すために使用される。一般的に、「約」という用語は、最大10%の変動の可能性を指摘することを意味する。したがって、「約」という用語には、値の1、2、3、4、5、6、7、8、9、および10%の変動が含まれる。他に指示がない限り、範囲の前の「約」という用語の使用は、範囲の両端に用いられる。
【0014】
本明細書で使用したように、用語「含む(comprising)」(ならびに「含む(comprise)」および「含む(comprises)」などのあらゆる形態の含む)、「有する(having)」(ならびに「有する(have)」および「有する(has)」などのあらゆる形態の有する)、「含む(including)」(ならびに「includes(含む)」および「含む(include)」などのあらゆる形態の含む)、または「含有する(containing)」(ならびに「含有する(contains)」および「含有する(contain)」などのあらゆる形態の含有する)は、包括的であるか、または非限定的であり、さらなる未記載の要素もしくは方法/方法のステップを排除するものではない。
【0015】
本明細書で使用したように、用語「ベータ-アラニン」は、ベータ-アラニンおよびベータ-アラニン塩(例えば、カルシウム、ナトリウム、またはカリウムのベータ-アラニン塩)を含む。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】様々な昆虫種のADC酵素を85%の配列同一性でグループ化した系統樹を示した図である。実施例2で試験したいくつかのADCの活性データを示す。
【
図2-1】9種の異なる蚊種から同定されたADCのアミノ酸配列のアラインメントを示した図である。破線は、蚊ADCではあまり保存されていないN末端部分の領域を示している。CtADCに特有の96位のグリシン残基は黒で強調されている。各配列に対応する配列番号は括弧内にある。
【
図3】実施例5および6で記載した蚊およびカブトムシのADCのN末端アミノ酸配列のアラインメントを示した図である。黒で強調した2つの残基間のN末端切断によって、対応する完全長のタンパク質と比較して活性が増加した切断型ADCがもたらされたが、白で囲われた2つの残基間のN末端切断によっては、ADC活性が低いかまたは検出できない酵素がもたらされた。破線で示された領域は、N末端切断が酵素活性にとって有益でなくなると予想され得る位置を示している。
【0017】
配列表
このアプリケーションには、2021年3月1日に作成された約100kbのサイズのコンピュータ可読形式の配列表が含まれている。コンピュータ可読形式は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0018】
【発明を実施するための形態】
【0019】
L-アスパラギン酸のアルファカルボキシル基の酵素触媒除去によるベータ-アラニンの工業規模の生物学的合成の試みは、酵素の活性、発現、および/または安定性が不十分であることが大きな妨げとなっており、そのため、化学的合成によるアプローチと比較してそのような方法は商業的に実行不可能となっている。活性、発現、および/または安定性が増加した、L-アスパラギン酸からベータ-アラニンへの変換を触媒する改善された酵素は、商業規模でのベータ-アラニンの生物学的合成を大幅に促進するであろう。この記載は、アスパラギン酸1-デカルボキシラーゼ活性を有するある特定の昆虫由来酵素がベータ-アラニン産生に特に有利であり、さらに、そのような昆虫由来酵素の性能が、それらのN末端の一部を切断することによって大幅に改善され得るという発見に関する。
【0020】
第1の態様では、本明細書では、ベータ-アラニン産生に特に有利な組換え切断型昆虫アスパラギン酸1-デカルボキシラーゼ(ADC)酵素について記載する。本明細書で使用したように、「アスパラギン酸1-デカルボキシラーゼ」または「ADC」という表現は、L-アスパラギン酸のベータ-アラニンおよび二酸化炭素への酵素的変換を触媒する能力を有するポリペプチドを意味する。一部の実施形態では、このようなポリペプチドは、酵素クラスEC4.1.1.11に分類されるものを含んでいてもよい。一部の実施形態では、このようなポリペプチドはまた、その他の酵素クラスに分類される酵素(例えば、L-アスパラギン酸以外の基質に対しても活性を有する酵素)および/またはADC以外の酵素(例えば、グルタミン酸デカルボキシラーゼ、システインスルフィン酸デカルボキシラーゼ)として(例えば、公共データベースにおいて)注釈が付けられているポリペプチドを含んでいてもよい。一部の実施形態では、本明細書で記載した昆虫ADCおよびそれらの切断型バリアントは、アスパラギン酸1-デカルボキシラーゼ活性およびシステインスルフィン酸デカルボキシラーゼ活性の両方を有する酵素を含んでいてもよい。
【0021】
本明細書で使用したように、「切断された」または「切断」という用語は、末端残基から始まる(例えば、組換えタンパク質のN末端メチオニンから始まる)タンパク質のセグメントの除去を含むだけでなく、切断型タンパク質の末端部分が非切断型タンパク質の末端部分よりも短くなるように、タンパク質(例えば、野生型タンパク質)の末端領域または部分内の連続した残基の欠失を含んでいてもよい。
【0022】
一部の実施形態では、本明細書で記載した切断型昆虫ADCは、切断型ADCが親完全長野生型タンパク質と比較してアスパラギン酸のベータ-アラニンへの変換の増加を表すように、対応する完全長野生型昆虫ADCのアミノ末端部分内の十分な数の連続した残基を欠如している。一部の実施形態では、アスパラギン酸のベータ-アラニンへの変換の増加は、対応する完全長野生型タンパク質と比較して、ADC触媒活性の増加、ADC安定性の増加、および/または発現の増加を含んでいてもよい。
【0023】
一部の実施形態では、本明細書で記載した切断型ADCは、昆虫綱の生物の切断型バリアントであってもよい(例えば、蚊、ハエ、カブトムシ、ノミ、ゴキブリ、またはシロアリADC)。特定の実施形態では、本明細書で記載した切断型昆虫ADCは、
図1の系統樹において構造関係が示されている蚊、ハエ、またはカブトムシADCの切断型バリアントであってもよい。一部の実施形態では、本明細書で記載した切断型昆虫ADCは、Culex、Anopheles、ショウジョウバエ(Drosophila)、Aethina、Aedes、Tribolium、Anopheles、Tenebrio、Asbolus、またはCryptotermes属の昆虫ADCの切断型バリアントであってもよい。一部の実施形態では、本明細書で記載した切断型昆虫ADCは、Culex tarsalis、Anopheles arabiensis、Drosophila melanogaster、Culex quinquefasciatus、Aethina tumida、Aedes albopictus、Aedes aegypti、Tribolium castaneum、Anopheles sinensis、Tenebrio molitor、Asbolus verrucosus、またはCryptotermes secundus種の昆虫ADCの切断型バリアントを含んでいてもよい。一部の実施形態では、本明細書で記載した切断型昆虫ADCは、野生型ADC酵素の切断型バリアントであってもよく、野生型ADC酵素は、配列番号29のアミノ酸配列と全体で少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99%同一なアミノ酸配列によって定義される。
【0024】
一部の実施形態では、本明細書で記載した切断型ADCは、配列番号2、4、または9~15のいずれか1つと全体で少なくとも80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99%同一であるアミノ酸配列を含む蚊ADCの切断型バリアントであってもよい。一部の実施形態では、本明細書で記載した切断型ADCは、配列番号1、3、または5~6のいずれか1つと全体で少なくとも80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99%同一であるアミノ酸配列を含むカブトムシADCの切断型バリアントであってもよい。一部の実施形態では、本明細書で記載した切断型ADCは、配列番号8と全体で少なくとも80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99%同一であるアミノ酸配列を含むハエADCの切断型バリアントであってもよい。
【0025】
一部の実施形態では、本明細書で記載した切断型ADCは、その非切断型(例えば、完全長)親酵素と比較して増加した活性を表すADCのN末端切断断片と全体で少なくとも80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99%同一であるアミノ酸配列を含んでいてもよい。一部の実施形態では、本明細書で記載した切断型ADCは、(a)配列番号2で記載したCtADCのアミノ酸配列の72~561位、(b)配列番号4で記載したAaADCのアミノ酸配列の79~568位、(c)配列番号3で記載したAtADCのアミノ酸配列の56~544位、(d)配列番号1で記載したTcADCのアミノ酸配列の52~540位、(e)配列番号10で記載したAa2ADCのアミノ酸配列の71~560位、(f)配列番号11で記載したAa3ADCのアミノ酸配列の71~562位、(g)配列番号9で記載したCqADCのアミノ酸配列の74~563位、(h)配列番号13で記載したAa4ADCのアミノ酸配列の72~561位、(i)配列番号14で記載したAdADCのアミノ酸配列の74~624位、(j)配列番号12で記載したAsADCのアミノ酸配列の83~572位、(k)配列番号15で記載したAs2ADCのアミノ酸配列の72~561位、(l)配列番号6で記載したTmADCのアミノ酸配列の53~541位、(m)配列番号5で記載したAvADCのアミノ酸配列の57~572位、または(n)配列番号29で記載したアミノ酸配列の1~491位に対して全体で少なくとも80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99%同一であるアミノ酸配列を含んでいてもよい。これらのセグメントは、ベータ-アラニン産生において性能の向上を表すことが示されているか、または実施例5~7ならびに
図2および3などの配列保存および多重配列アラインメントに基づいて性能の向上を表すことが予想され得る、野生型完全長昆虫ADCの断片に対応する。
【0026】
一部の実施形態では、本明細書で記載した切断型ADCは、対応する完全長野生型昆虫ADCのアミノ末端の少なくともX個の連続した残基を欠如していてもよく、Xは5から50の間の任意の整数である。一部の実施形態では、本明細書で記載した切断型ADCは、対応する完全長野生型昆虫ADCのアミノ末端の長さに応じて、対応する完全長野生型昆虫ADCのアミノ末端の少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、または70個の連続した残基を欠如していてもよい。
【0027】
一部の実施形態では、本明細書で記載した切断型ADCは、完全長野生型昆虫ADCのn位に対応する残基のすぐC末端(下流)の位置で切断されていてもよく、nは2からYの間の任意の整数であり、Yは完全長野生型昆虫ADC内の最もC末端の残基の位置であり、この位置での切断は完全長野生型ADCと比較してアスパラギン酸のベータ-アラニンへの変換の増加を表す切断型ADCを生じ得る。アミノ酸残基の番号付けに関連して本明細書で使用したように、「位置に対応する」という表現は、アミノ酸残基の番号付けが異なるタンパク質(例えば、異なる昆虫ADC)間では異なるが、当業者であれば、本明細書で実証したように、広く利用可能なソフトウェア(例えば、Clustal Omega)を使用して、保存された残基を同定するための追加のオルソログを任意選択で含む2つのタンパク質間の配列アライメントを実施することによって、ある程度のアミノ酸配列同一性を共有する2つのタンパク質における対応する残基位置を決定できるであろうことを考慮する。
【0028】
一部の実施形態では、本明細書で記載した切断型ADCは、(a)配列番号2で記載したCtADCのアミノ酸配列の2、3、4、5、6、7、8、9、10、もしくは11~71位、(b)配列番号4で記載したAaADCのアミノ酸配列の2、3、4、5、6、7、8、9、10、もしくは11~78位、(c)配列番号3で記載したAtADCのアミノ酸配列の2、3、4、5、6、7、8、9、10、もしくは11~55位、(d)配列番号1で記載したTcADCのアミノ酸配列の2、3、4、5、6、7、8、9、10、もしくは11~51位、(e)配列番号10で記載したAa2ADCのアミノ酸配列の2、3、4、5、6、7、8、9、10、もしくは11~70位、(f)配列番号11で記載したAa3ADCのアミノ酸配列の2、3、4、5、6、7、8、9、10、もしくは11~70位、(g)配列番号9で記載したCqADCのアミノ酸配列の2、3、4、5、6、7、8、9、10、もしくは11~73位、(h)配列番号13で記載したAa4ADCのアミノ酸配列の2、3、4、5、6、7、8、9、10、もしくは11~73位、(i)配列番号14で記載したAdADCのアミノ酸配列の2、3、4、5、6、7、8、9、10、もしくは11~73位、(j)配列番号12で記載したAsADCのアミノ酸配列の2、3、4、5、6、7、8、9、10、もしくは11~82位、(k)配列番号15で記載したAs2ADCのアミノ酸配列の2、3、4、5、6、7、8、9、10、もしくは11~78位、(l)配列番号6で記載したTmADCのアミノ酸配列の2、3、4、5、6、7、8、9、10、もしくは11~52位、(m)配列番号5で記載したAvADCのアミノ酸配列の2、3、4、5、6、7、8、9、10、もしくは11~56位、または(n)配列番号29で記載したアミノ酸コンセンサス配列の1~491位のいずれか1つに対応する残基のC末端(下流)の位置で切断されていてもよい。上記のアミノ酸配列それぞれの上限は、表7および
図3で示し、CtADCのK71に対応する完全長野生型昆虫ADC内の残基位置を意味する。CtADCの少なくともK71までのN末端切断は、完全長野生型ADCと比較して、アスパラギン酸のベータ-アラニンへの変換の増加を表す切断型ADC(CtADC
72-561)をもたらした。
【0029】
一部の実施形態では、本明細書で記載した切断型ADCは、(a)配列番号2で記載したCtADCのアミノ酸配列の72~80位、(b)配列番号4で記載したAaADCのアミノ酸配列の79~87位、(c)配列番号3で記載したAtADCのアミノ酸配列の56~64位、(d)配列番号1で記載したTcADCのアミノ酸配列の52~60位、(e)配列番号10で記載したAa2ADCのアミノ酸配列の71~79位、(f)配列番号11で記載したAa3ADCのアミノ酸配列の71~79位、(g)配列番号9で記載したCqADCのアミノ酸配列の74~82位、(h)配列番号13で記載したAa4ADCのアミノ酸配列の72~82位、(i)配列番号14で記載したAdADCのアミノ酸配列の74~82位、(j)配列番号12で記載したAsADCのアミノ酸配列の83~91位、(k)配列番号15で記載したAs2ADCのアミノ酸配列の72~87位、(l)配列番号6で記載したTmADCのアミノ酸配列の53~61位、(m)配列番号5で記載したAvADCのアミノ酸配列の57~65位、または(n)配列番号29で記載したアミノ酸配列の1~491位のいずれか1つに対応する残基のN末端(上流)の位置で切断されていてもよい。これらの残基の位置は、表7および
図3の破線で示された位置に対応する。
【0030】
一部の実施形態では、本明細書で記載した切断型ADCは、(a)配列番号2で記載したCtADCのアミノ酸配列の75位、(b)配列番号4で記載したAaADCのアミノ酸配列の82位、(c)配列番号3で記載したAtADCのアミノ酸配列の59位、(d)配列番号1で記載したTcADCのアミノ酸配列の55位、(e)配列番号10で記載したAa2ADCのアミノ酸配列の74位、(f)配列番号11で記載したAa3ADCのアミノ酸配列の74位、(g)配列番号9で記載したCqADCのアミノ酸配列の77位、(h)配列番号13で記載したAa4ADCのアミノ酸配列の77位、(i)配列番号14で記載したAdADCのアミノ酸配列の77位、(j)配列番号12で記載したAsADCのアミノ酸配列の86位、(k)配列番号15で記載したAs2ADCのアミノ酸配列の82位、(l)配列番号6で記載したTmADCのアミノ酸配列の56位、(m)配列番号5で記載したAvADCのアミノ酸配列の60位、または(n)配列番号29で記載したアミノ酸配列の1~491位のいずれか1つに対応する残基のN末端(上流)の位置で切断されていてもよい。これらの残基位置は、
図3でアラインメントした全昆虫配列全体で変換されているトリペプチド配列「SLP」内に存在するCtADCのS75に対応する。
【0031】
さらなる態様では、本明細書では、アスパラギン酸1-デカルボキシラーゼ活性を有する組換えタンパク質であって、(a)配列番号2で記載したCtADCのアミノ酸配列の72~561位、(b)配列番号4で記載したAaADCのアミノ酸配列の79~568位、(c)配列番号3で記載したAtADCのアミノ酸配列の56~544位、(d)配列番号1で記載したTcADCのアミノ酸配列の52~540位、(e)配列番号10で記載したAa2ADCのアミノ酸配列の71~560位、(f)配列番号11で記載したAa3ADCのアミノ酸配列の71~562位、(g)配列番号9で記載したCqADCのアミノ酸配列の74~563位、(h)配列番号13で記載したAa4ADCのアミノ酸配列の72~561位、(i)配列番号14で記載したAdADCのアミノ酸配列の74~624位、(j)配列番号12で記載したAsADCのアミノ酸配列の83~572位、(k)配列番号15で記載したAs2ADCのアミノ酸配列の72~561位、(l)配列番号6で記載したTmADCのアミノ酸配列の53~541位、(m)配列番号5で記載したAvADCのアミノ酸配列の57~572位、または(n)配列番号29で記載したアミノ酸配列の1~491位に対して全体で少なくとも80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99%同一であるアミノ酸配列を含む組換えタンパク質について記載する。これらの領域は、本明細書において、少なくとも蚊およびカブトムシのADCの間で高度に保存されていることが判明しただけでなく、完全長野生型CtADCと比較してアスパラギン酸のベータ-アラニンへの変換の増加を表すことが判明したCtADC72-561の切断型バリアントにも対応する。
【0032】
一部の実施形態では、本明細書で記載した切断型ADCおよび/または組換えタンパク質は、配列番号2で記載したCtADCのアミノ酸配列の96位に対応する位置にグリシン残基を含んでいてもよい。CtADCは、実施例2で実施した酵素活性試験から、約97%のアミノ酸配列同一性を共有する蚊の対応酵素CqADCの活性よりも39%超増加していることなど、他の昆虫由来ADCより大いに優れていた。実施例8で実施した酵素の触媒部分におけるCtADCとCqADCとの間のアミノ酸の違いの比較によって、分析したその他の全昆虫配列の中で特有なCtADCの96位の単一のグリシン残基が明らかになり(
図3を参照)、この残基がCtADCに関連するベータ-アラニン産生の増大に役割を果たしている可能性があることを示唆している。
【0033】
さらなる態様では、本明細書では、組換え切断型昆虫ADCまたは本明細書で記載した組換えタンパク質をコードする核酸配列を含むポリヌクレオチドについて記載する。一部の実施形態では、ポリヌクレオチドはDNAである。一部の実施形態では、ポリヌクレオチドはRNAである。
【0034】
さらなる態様では、本明細書では、配列番号16~27のいずれか1つの核酸配列、本明細書で記載した組換え切断型昆虫ADCをコードする核酸配列、本明細書で記載した切断型組換えタンパク質をコードする核酸配列、またはそれらの任意の組み合わせの完全相補体とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド分子について記載する。
【0035】
さらなる態様では、本明細書では、プロモータ(例えば、昆虫ADCに関して異種である)に作動可能に連結した本明細書で記載した単離または組換えポリヌクレオチドを含む発現カセットについて記載する。
【0036】
さらなる態様では、本明細書では、本明細書で記載した組換え切断型昆虫ADCまたは組換えタンパク質を発現し、かつ/または本明細書で記載したポリヌクレオチドまたは発現カセットで形質転換されるか、またはそれらを含むように操作された宿主細胞について記載する。一部の実施形態では、宿主細胞は微生物細胞であってもよい。一部の実施形態では、宿主細胞は細菌、昆虫、哺乳動物、酵母、または真菌細胞であってもよい。
【0037】
さらなる態様では、本明細書で記載した組換え切断型昆虫ADC、組換えタンパク質、または宿主細胞は、アスパラギン酸からのベータ-アラニンの工業的生産に使用するためのものであってもよい。さらなる態様では、本明細書では、ベータ-アラニンの産生のための方法であって、(a)本明細書で記載した切断型昆虫ADCであるADC酵素源、本明細書で記載した組換えタンパク質、および/または本明細書で記載した宿主細胞を提供するステップ、(b)ADC酵素源がアスパラギン酸のベータ-アラニンへの変換を触媒することが可能である条件下で、ADC酵素源をアスパラギン酸源と接触させるステップ、ならびに(c)産生したベータ-アラニンを単離および/または濃縮するステップを含む方法について記載する。一部の実施形態では、本明細書で記載した組換え切断型昆虫ADCまたは組換えタンパク質を発現する宿主細胞を無傷の細胞として利用することができ、有利には、溶解細胞の細胞破片が産生されたベータ-アラニンに混入するのを防止することができる。
【0038】
さらなる態様では、本明細書では、本明細書で記載した方法によって産生されるベータ-アラニンを含む組成物について記載する。
【実施例】
【0039】
実施例1:全般的な材料および方法
L-アスパラギン酸-α-デカルボキシラーゼ(ADC)酵素のクローニングおよび発現
クローン化され細菌内で発現したADCのコドン最適化cDNA配列を配列番号16~27に示す。ADCのcDNA配列を別の発現ベクターにクローン化し、誘導物質の添加によってADCの発現を増強するために大腸菌(Escherichia coli)に形質転換した。N末端切断のために、開始剤メチオニンの下流の所望の数のアミノ酸を削除した。
【0040】
ADC活性測定
ADC活性は、まず目的のADCを発現するBL21(DE3)E.coli細胞を、カナマイシンおよび0.2%イソプロピルβ-d-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)を含有するLBブロス500μL中で30℃で24時間増殖させることによって測定した。次いで、細胞をペレットにして上清を除去し、再懸濁して超音波破砕した。次に、プレートを遠心分離して破片を除去し、細胞溶解物を含有する上清を収集した。次に、最終濃度60g/LのL-アスパラギン酸および最終濃度0.2g/Lのリン酸ピリドキサール(PLP)を含有する溶液50mL中で上清50μLをpH6.5、温度37℃、200rpmで撹拌しながらインキュベートすることによって、ADCを含有する細胞溶解物の活性を試験した。次いで、硫酸1Mを反応溶液に滴定してpHを維持した。1時間後、ADC活性を直接測定するために、反応に使用された硫酸の量を判定した。実験は少なくとも3回実行し、平均活性値を算出した。
【0041】
実施例2:昆虫由来ADCの活性
細菌宿主細胞で組換え発現させた場合の、複数の異なる原核生物および真核生物のADC酵素の発現および活性を比較するために、大規模なスクリーニングを実施した。このスクリーニングによって、昆虫種のADCで形質転換された細菌細胞の溶解物は、その他の生物のADCよりも一貫して高いベータ-アラニン産生を表すことが明らかになった。表2は、実施例1で記載したように測定した、蚊、ハエ、およびカブトムシ種のADCのコドン最適化cDNAで形質転換された細菌の溶解物の相対的ADC活性を示す。興味深いことに、蚊種Culex tarsalisのADC(CtADC;配列番号2)で形質転換された細菌の溶解物は、試験したその他の全酵素よりも大いに優れた性能を示した。
【0042】
【表2】
実施例3:昆虫由来ADCの配列分析
CtADCのアミノ酸配列は、様々な種のその他のADCを同定するためのProtein BLAST(商標)のベースとして使用した。5000を超えるヒット配列を検索し、次にそのうちの最高のBLASTスコアを有する188配列を選択し、表2の昆虫由来ADCの配列と組み合わせて、85%の配列同一性によってグループ化し、最終的に広範な昆虫系統樹に組み込んだ(
図1)。
図1に示した系統樹は、蚊およびハエのADCが構造的に関連しており、カブトムシ、ノミ、ゴキブリ、およびシロアリのADCが構造的に関連していることを示している。
【0043】
実施例4:蚊由来ADCの配列分析
9種の異なる蚊種から同定されたADCのアミノ酸配列のアラインメントを、Clustal Omega(1.2.4)を使用して実施したので、
図2に示す。以下の表3のパーセント同一性マトリックスで示したように、アラインメントによって、様々な蚊種全体で比較的高度に配列が保存されていることが明らかになった。
【0044】
【表3】
実施例5:蚊ADCのN末端切断によって高いベータ-アラニン産生がもたらされた
興味深いことに、
図2のアライメントによって、
図2に破線で示した蚊ADCのアミノ末端に向かって配列の保存性が低い領域が明らかになり、これは分析した蚊ADC全てにわたって100%保存されていた15アミノ酸セグメント(SGSDSAGVSEDEDVQ;配列番号28)の直後にあった。その活性におけるCtADCのN末端の役割を研究するために、細菌中で進行性N末端切断を生じさせて発現させ、それらのADC活性を実施例1で記載したように特徴付けた。表4で示したように、11~71アミノ酸の範囲のN末端切断はベータ-アラニン産生を24%~100%と顕著に増加させた。しかし、CtADCのN末端から81アミノ酸以上を切断すると、ADCの酵素活性は検出されなかった。
【0045】
【表4】
表5で示したように、N末端切断は別の蚊酵素であるAaADCでも生じさせて、特徴付けた。AaADCのN末端63アミノ酸を切断することによって、ベータ-アラニン産生の70%増加が認められた。しかし、AaADCの137アミノ酸以上を切断すると、ADCの酵素活性は検出されなかった。
【0046】
【表5-1】
実施例6:カブトムシADCのN末端切断によって、高いベータ-アラニン産生がもたらされた
2つのカブトムシADCについて、細菌中で進行性N末端切断を生じさせて発現させ、それらのADC活性を実施例1で記載したように特徴付けた。結果は、AtADCについては表5およびTcADCについては表6に示す。AtADCについては、N末端45アミノ酸を切断することによって、ベータ-アラニン産生の顕著な256%増加が認められた。しかし、AtADCの114アミノ酸以上を切断すると、ADCの酵素活性は検出されなかった(表5)。TcADCについては、10~50アミノ酸の範囲のN末端切断はベータ-アラニン産生を10%~330%増加させた。しかし、TcADCのN末端から60アミノ酸を切断すると、ADCの酵素活性は検出されなかった(TcADCN6、表6)。
【0047】
【0048】
【表6】
実施例7:高いベータ-アラニン産生をもたらすN末端切断の位置の分析
実施例5および6で記載した蚊およびカブトムシのADCのN末端配列のアラインメントを
図3に示す。
図3のアラインメントは、実施例5および6におけるN末端切断の結果を視覚化し、理解するのに役立ち、黒で強調された2つの残基間のN末端切断は、対応する完全長タンパク質と比較して活性が増加した切断型ADCをもたらした。反対に、白で囲った2つの残基間のN末端切断は、検出可能なADC活性を有さない切断型ADCをもたらした。したがって、最高の分解能をもたらすCtADCおよびTcADCに関する切断実験では、破線で示された領域が、N末端切断がベータ-アラニン産生に有益でなくなると予想される位置を示している。蚊およびカブトムシのADCにおける残基のそれぞれの位置を表7に示す。
図3の破線で印した領域はまた、蚊とカブトムシのADCの間でより大きな配列保存の開始と一致しており、トリペプチド配列「SLP」はアラインメントされた配列全ての間で100%保存されている。特定の理論に束縛されることを望むものではないが、保存された「SLP」トリペプチド内のセリン(またはその上流)のN末端の切断は、ベータ-アラニン産生の増加に有益であり得る一方、保存されたセリンの下流の切断は有害であり得る(表7)。
【0049】
【表7】
S75で始まるN末端切断型CtADC配列は、様々な種のその他のADCを同定するためのさらなるProtein BLAST(商標)検索のためのベースとして使用した。切断型CtADC配列と少なくとも70%のアミノ酸同一性を共有するADCオルソログ配列について複数の配列アラインメント分析を行ったので、コンセンサスADC配列を配列番号29に示す。
【0050】
実施例8:CtADCとその他の蚊種のADCとの比較
CtADCは、実施例2で実施した酵素活性試験から、その他の昆虫由来のADCの性能を大幅に上回った。表2で示した活性に基づくと、CtADCは、次に優れた蚊(AaADC)およびハエ(DmADC)の昆虫由来ADCよりもベータ-アラニン産生の25%増加を表した。興味深いことに、CtADCはCqADC(これも蚊に由来する)と全体のアミノ酸配列の約97%の同一性を共有しているが、表2の結果から、CtADCがCqADCよりも39%高いベータ-アラニン産生を表すことが明らかである。表4で示した結果は、CtADCの少なくともN末端の71残基が、ADC活性を阻害することなく切断され得ることを明らかにしている(CtADCN7)。したがって、CtADCの残基72~561内のCtADCとCqADCとの間のアミノ酸の違いを調べると、7つのアミノ酸置換のみが明らかになった。7つのアミノ酸置換のうち6つは、様々な蚊ADCオルソログに見いだされる残基に対応する。興味深いことに、CtADCに特有の唯一の残基は96位のグリシンであった(
図2で黒く強調された残基を参照)。実際に、完全長CtADC(配列番号2)の96位に対応するグリシンは、分析したその他のいかなる蚊またはカブトムシの配列にも見いだされず(
図3を参照)、この残基が、CtADCに関連するベータ-アラニン産生の強化に役割を担っている可能性を示唆している。
【配列表】
【国際調査報告】