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特表2024-509163癌の予後予測用マーカー組成物、それを用いた癌の予後予測方法及び癌の治療方向を決定するための情報提供方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-29
(54)【発明の名称】癌の予後予測用マーカー組成物、それを用いた癌の予後予測方法及び癌の治療方向を決定するための情報提供方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6886 20180101AFI20240221BHJP
   C12Q 1/6809 20180101ALI20240221BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240221BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z
C12Q1/6809 Z
C12N15/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553476
(86)(22)【出願日】2021-12-14
(85)【翻訳文提出日】2023-10-31
(86)【国際出願番号】 KR2021018966
(87)【国際公開番号】W WO2022186455
(87)【国際公開日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】63/155,865
(32)【優先日】2021-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523332677
【氏名又は名称】ウォン,テヒョン
【氏名又は名称原語表記】HWANG,Tae Hyun
(71)【出願人】
【識別番号】523332688
【氏名又は名称】パク,スンホ
【氏名又は名称原語表記】PARK,Sunho
(71)【出願人】
【識別番号】523332699
【氏名又は名称】チョン,ジェホ
【氏名又は名称原語表記】CHEONG,Jae HO
(71)【出願人】
【識別番号】523332703
【氏名又は名称】イ,ソンハク
【氏名又は名称原語表記】LEE,Sung Hak
(71)【出願人】
【識別番号】523332714
【氏名又は名称】ワン,チョンガン サム
【氏名又は名称原語表記】WANG,Chung-Kang Sam
(71)【出願人】
【識別番号】523332725
【氏名又は名称】ポレンブカ,ライアン マシュー
【氏名又は名称原語表記】POREMBKA,Ryan Matthew
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウォン,テヒョン
(72)【発明者】
【氏名】パク,スンホ
(72)【発明者】
【氏名】チョン,ジェホ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ソンハク
(72)【発明者】
【氏名】ワン,チョンガン サム
(72)【発明者】
【氏名】ポレンブカ,ライアン マシュー
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ53
4B063QR08
4B063QR42
4B063QR62
4B063QS34
(57)【要約】
本発明は、癌の予後予測用マーカー組成物及びそれを用いた癌の予後予測方法に関し、より詳細には、ESR1、BEST1、ACTA2、HIPK2、IGSF9、ASCC2、JUN、PPP2R5A、SMAD3、CREBBP、EP300及びDDX5からなるグループより選択される少なくとも一つの遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現レベルを測定する製剤を含む癌の予後予測用マーカー組成物、それを用いた癌の予後予測方法及び癌の治療方向を決定するための情報提供方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ESR1、BEST1、ACTA2、HIPK2、IGSF9、ASCC2、JUN、PPP2R5A、SMAD3、CREBBP、EP300及びDDX5からなるグループより選択される少なくとも一つの遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現レベルを測定する製剤を含む、癌の予後予測用マーカー組成物。
【請求項2】
前記癌の予後予測用マーカー組成物は、生存率、化学抗癌剤感受性(chemo-sensitivity)、化学抗癌剤抵抗性(chemo-resistance)、免疫抗癌剤感受性(immunotherapy sensitivity)、免疫抗癌剤抵抗性(immunotherapy resistance)又はこれらのいずれかの組み合わせである抗癌療法の治療予後の予測用である、請求項1に記載の癌の予後予測用マーカー組成物。
【請求項3】
前記組成物は、ACTA2遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現レベルを測定する製剤を含む、請求項1に記載の癌の予後予測用マーカー組成物。
【請求項4】
FHL2、PML、BRCA1、WT1、AREG及びTP63からなるグループより選択される少なくとも一つの遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現レベルを測定する製剤をさらに含む、請求項1に記載の癌の予後予測用 マーカー組成物。
【請求項5】
TP53、HSF1、NCOA6IP、PAWR、FAM96A、WTAP、PCNA、GNL3、WRN、SMARCA4、NCOA6、RPA1、MSH6及びPARP1からなるグループより選択される少なくとも一つの遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現レベルを測定する製剤をさらに含む、請求項1に記載の癌の予後予測用マーカー組成物。
【請求項6】
前記癌は、乳癌、胃癌、膀胱癌、腎臓癌、肝癌、脳腫瘍、肺癌、大腸癌、子宮癌、皮膚癌及び膵臓癌からなるグループより選択される、請求項1に記載の癌の予後予測用マーカー組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の癌の予後予測用マーカー組成物の各遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現量を測定する段階と、
前記測定された遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現量を比較する段階と、を含む、癌の予後予測方法。
【請求項8】
前記予後は、生存率、化学抗癌剤感受性(chemo-sensitivity)、化学抗癌剤抵抗性(chemo-resistance)、免疫抗癌剤感受性(immunotherapy sensitivity)、免疫抗癌剤抵抗性(immunotherapy resistance)又はこれらのいずれかの組み合わせである、請求項7に記載の癌の予後予測方法。
【請求項9】
ESR1、BEST1、ACTA2、HIPK2、IGSF9、ASCC2、JUN、PPP2R5A、SMAD3、CREBBP、EP300及びDDX5からなるグループより選択される少なくとも一つの遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現レベルが相対的に高い場合、化学抗癌剤治療の予後が悪い、及び免疫化学抗癌剤治療の予後が悪いと判断する段階をさらに含む、請求項7に記載の癌の予後予測方法。
【請求項10】
請求項4に記載のマーカー組成物を用いて、FHL2、PML、BRCA1、WT1、AREG及びTP63からなるグループより選択される少なくとも一つの遺伝子のmRN
A又はそのタンパク質の発現レベルが相対的に高い場合、化学抗癌剤治療及び免疫抗癌剤治療の予後が良いと判断する段階をさらに含む、請求項7に記載の癌の予後予測方法。
【請求項11】
請求項5に記載のマーカー組成物を用いて、TP53、HSF1、NCOA6IP、PAWR、FAM96A、WTAP、PCNA、GNL3、WRN、SMARCA4、NCOA6、RPA1、MSH6及びPARP1からなるグループより選択される少なくとも一つの遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現レベルが相対的に高い場合、化学抗癌剤治療の予後が悪く、免疫抗癌剤治療の予後は良いと判断する段階をさらに含む、請求項7に記載の癌の予後予測方法。
【請求項12】
ESR1、BEST1、ACTA2、HIPK2、IGSF9、ASCC2、JUN、PPP2R5A、SMAD3、CREBBP、EP300及びDDX5からなる第I遺伝子グループより選択される少なくとも一つの遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現量;FHL2、PML、BRCA1、WT1、AREG及びTP63からなる第II遺伝子グループより選択される少なくとも一つの遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現量;及びTP53、HSF1、NCOA6IP、PAWR、FAM96A、WTAP、PCNA、GNL3、WRN、SMARCA4、NCOA6、RPA1、MSH6及びPARP1からなる第III遺伝子グループより選択される少なくとも一つの遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現量を測定する段階と、
前記測定された遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現量を比較して、3つの遺伝子グループのうち第III遺伝子グループのmRNA又はそのタンパク質の発現レベルが相対的に高い場合、患者グループ1に区分し、第II遺伝子グループのmRNA又はそのタンパク質の発現レベルが相対的に高い場合、患者グループ3に区分し、第I遺伝子グループのmRNA又はそのタンパク質の発現レベルが相対的に高い場合、患者グループ4に区分し、その他の患者をグループ2に区分する段階と、を含む、癌の治療方向を決定するための情報提供方法。
【請求項13】
前記患者グループ2は、第I~III遺伝子グループのmRNA又はそのタンパク質の発現レベルが第I~III遺伝子グループの間で区分されない、請求項12に記載の癌の治療方向を決定するための情報提供方法。
【請求項14】
患者グループ1に対しては、化学抗癌剤を用いた抗癌療法が不適合であると予測する段階と、患者グループ3に対しては、化学抗癌剤を用いた抗癌療法が適合すると予測する段階と、患者グループ4に対しては、化学抗癌剤を用いた抗癌療法が不適合であると予測する段階と、のうち少なくとも一つの段階を含む、請求項12に記載の癌の治療方向を決定するための情報提供方法。
【請求項15】
前記化学抗癌剤が、白金(Platinum)をベースにしてフルオロウラシル(fluorouracil、5-FU)、ブレオマイシン(bleomycin)及びエピルビシン(epirubicin)より選択される少なくとも一つの化学抗癌剤が組み合わせられた複合抗癌剤である、請求項14に記載の癌の治療方向を決定するための情報提供方法。
【請求項16】
患者グループ1及び患者グループ3のうち少なくとも一つの患者グループに対しては、免疫抗癌剤を用いた免疫治療療法が適合すると予測する段階と、患者グループ2及び患者グループ4のうち少なくとも一つの患者グループに対しては、免疫抗癌剤を用いた免疫治療療法が不適合であると予測する段階と、のうち少なくとも一つの段階を含む、請求項12に記載の癌の治療方向を決定するための情報提供方法。
【請求項17】
免疫抗癌剤は、抗PD1免疫抗癌剤(Anti PD1 inhibitor)、抗C
TLA4(Anti CTLA4)免疫抗癌剤、及び抗PDL1(Anti PDL1)免疫抗癌剤より選択された少なくとも一つの免疫抗癌剤である、請求項16に記載の癌の治療方向を決定するための情報提供方法。
【請求項18】
癌の治療方向を決定するためにマイクロサテライト不安定性(MSI、microsatellite instability)を診断する段階をさらに含む、請求項12に記載の癌の治療方向を決定するための情報提供方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の予後予測用マーカー組成物、それを用いた癌の予後予測方法及び癌の治療方向を決定するための情報提供方法に関するものであって、より詳細には、生存率、化学抗癌剤感受性(chemo-sensitivity)、化学抗癌剤抵抗性(chemo-resistance)、免疫抗癌剤感受性(immunotherapy sensitivity)、免疫抗癌剤抵抗性(immunotherapy resistance)又はこれらのいずれかの組み合わせを予測することができるマーカー及びそれを用いた癌の予後予測方法、並びに癌の治療方向を決定するための情報提供方法を提供するものであり、本発明によれば、患者の生存率の予測だけでなく、化学抗癌剤と免疫抗癌剤の投与が効果的な、あるいは好ましくない患者群を区分することにより、効果的な治療戦略の樹立が可能である。
【背景技術】
【0002】
癌を克服するための数多くの研究が行われてきたが、癌は依然として克服されていない難病である。診断された癌に対する治療法としては、一般に手術、化学療法及び放射線治療などがあるが、各方法には限界が多い。また、癌は一旦治療が終わった後にも再発の可能性がかなり高く、化学抗癌剤及び免疫抗癌剤に対する感受性も個体によって差が多いため、癌の予後及び化学抗癌剤と免疫抗癌剤感受性を予測することは、癌患者の治療方向を決定する上で必須である。
【0003】
一方、多くの抗癌剤が効果的な治療薬として使用されているが、新たに台頭している問題点は、抗癌剤に対する癌細胞の抵抗性(resistance)である。抗癌剤に対する抵抗性は、長期的な抗癌剤の使用により薬物に曝された細胞が細胞内における薬物の蓄積を減少させたり、解毒作用又は排出を活性化させたり、標的となるタンパク質を変形させるなどの様々な機序を介して起こる。このような過程は、癌の治療にとって最大の障害要因であるだけでなく、治療の失敗とも深い関係がある。実際、癌患者に対して化学療法を試みる際に、特定の抗癌剤が効力を発揮できない場合に、以後の他の抗癌剤に対しても抵抗性を示す事例が頻繁にあり、初期の治療時に、作用機序が異なる様々な種類の抗癌剤を同時に投与する複合化学療法を試みたにもかかわらず、治療効果がない現象をよく観察することができる。これにより、使用可能な抗癌剤の範囲が非常に制限されることは、癌の化学療法において重要な問題点として指摘されている。
【0004】
現在、臨床で使用されている分子レベルでの予後予測基準として、マイクロサテライト不安定性(microsatellite instability、MSI)、CpGアイランドメチル化形質(CpG island methylation phenotype、CIMP)、染色体不安定性(chromosomal instability、CIN)、BRAF/KRAS突然変異などが使用されているが、患者個々の特性に則った抗癌治療の感受性を予測する方法論は皆無な実情である。したがって、癌患者の予後を正確に予測すると同時に抗癌治療の感受性を予測することができるマーカーの開発が切実な実情である。
【0005】
癌手術後の抗癌剤治療に対する患者の予後を予測することができれば、各予後に応じてそれに適した治療戦略を樹立できる根拠となる。2010年以降、現在2期及び3期の進行性胃癌の場合、標準化された胃切除術後の補助抗癌療法が胃癌患者の生存率を高めることを見出し、現在、これは標準治療法に該当する。伝統的に、胃癌はその解剖学的病理学的表現型に従って分類し、TNM病期分類法に従って2期以上の場合、抗癌治療を行って
いるが、抗癌治療による予後を予測できる方法がTNM病期以外にはない状況である。
【0006】
一方、抗癌化学療法は、ほとんどの癌患者に対する治療において必須であるが、これは重篤な副作用に関連しており、多くの患者がこのような副作用によって治療からの恩恵を受けることができず、又は副作用によってむしろ生存率に不利な結果をもたらす場合もある。したがって、化学治療療法に対する患者の反応を予測するバイオマーカーが提供される場合、治療の正確度を改善させることができ、生存率及び反応を予測できる可能性を提供するものと期待される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の一側面は、癌の予後予測用マーカー組成物を提供することである。
【0008】
本発明の他の側面は、本発明のマーカー組成物を用いた胃癌の予後予測方法を提供することである。
【0009】
本発明のさらに他の側面は、本発明のマーカー組成物を用いた癌の治療方向を決定するための情報提供方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一観点によれば、ESR1、BEST1、ACTA2、HIPK2、IGSF9、ASCC2、JUN、PPP2R5A、SMAD3、CREBBP、EP300及びDDX5からなるグループより選択される少なくとも一つの遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現レベルを測定する製剤を含む、癌の予後予測用マーカー組成物が提供される。
【0011】
本発明の他の観点によれば、上記本発明の癌の予後予測用マーカー組成物の各遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現量を測定する段階と、上記測定された遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現量を比較する段階と、を含む、癌の予後予測方法が提供される。
【0012】
本発明のさらに他の観点によれば、ESR1、BEST1、ACTA2、HIPK2、IGSF9、ASCC2、JUN、PPP2R5A、SMAD3、CREBBP、EP300及びDDX5からなる第I遺伝子グループより選択される少なくとも一つの遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現量;FHL2、PML、BRCA1、WT1、AREG及びTP63からなる第II遺伝子グループより選択される少なくとも一つの遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現量;及びTP53、HSF1、NCOA6IP、PAWR、FAM96A、WTAP、PCNA、GNL3、WRN、SMARCA4、NCOA6、RPA1、MSH6及びPARP1からなる第III遺伝子グループより選択される少なくとも一つの遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現量を測定する段階と、上記測定された遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現量を比較して、3つの遺伝子グループのうち第III遺伝子グループのmRNA又はそのタンパク質の発現レベルが相対的に高い場合、患者グループ1に区分し、第II遺伝子グループのmRNA又はそのタンパク質の発現レベルが相対的に高い場合、患者グループ3に区分し、第I遺伝子グループのmRNA又はそのタンパク質の発現レベルが相対的に高い場合、患者グループ4に区分し、その他の患者をグループ2に区分する段階と、を含む、癌の治療方向を決定するための情報提供方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の癌の予後予測用マーカー組成物及びそれを用いた胃癌の予後予測方法、並びに癌の治療方向を決定するための情報提供方法によれば、癌の予後、すなわち、生存率、化学抗癌剤感受性及び抵抗性(chemo-sensitivity and resistance)、そして免疫抗癌剤感受性及び抵抗性(immunotherapy sensitivity and resistance)などを予測することができるため、より効果的な治療戦略を設けることができる。すなわち、予後の良いグループの患者に対しては、抗癌療法関連の過剰治療を防止することができ、予後は悪いものの、抗癌療法感受性の良いグループには積極的に抗癌療法剤の適用を試みるなどのような個別患者カスタマイズ型治療戦略の樹立が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、延世コホート(Yonsei cohort)において、32-遺伝子シグネチャーを使用し、非監督コンセンサスクラスタリング(unsupervised consensus clustering)で4つの分子サブタイプを同定した結果を示す。すなわち、延世コホートの胃癌患者(567名)の腫瘍組織(tumor tissue)で確認したmRNA発現量、特に32個の遺伝子の発現量をZスコア(z-score)を用いて表現した値であって、各遺伝子において表現された正数値は対象患者のうち相対的に高いmRNA発現量を意味し、負数値は相対的に低いmRNA発現量を意味し、0はその中間値を意味する。
図2図2は、延世コホートにおける4つの分子サブタイプのカプラン-マイヤー生存分析の結果を示す。対数ランク試験(log-rank test)を使用して分子サブタイプ間で観察された全生存率の差における統計学的有意性を調べた。
図3図3は、アジア癌研究グループ(ACRG)(図3のA)及びソンら(図3のB)のコホートにおける分子サブタイプのカプラン-マイヤー生存分析の結果を示す。対数ランク試験(log-rank test)を使用して、分子サブタイプ間で観察された全生存率差の統計学的有意性を調べた。
図4図4は、5年全生存率を予測するための危険スコアに関する。図4のAは、延世コホートをトレーニングセットとして使用し、32個の遺伝子の発現レベルを使用する線形カーネル(kernel)を有する支援ベクトル機械(support vector machine、SVM)を構築し、5年全生存率を評価したものであって、危険スコアをアジア癌研究グループ(ACRG)、ソンら及び癌ゲノムアトラス(TCGA)コホートに適用した結果である。点線曲線は95%の信頼区間を示す。x軸上端のラグプロット(rug plot)は、各患者に対する危険点数を示す。一方、図4のBは、危険グループによって階層化された全生存率に対するカプラン-マイヤー曲線を示すものであって、低危険グループは25パーセンタイル未満の危険スコアであり、中間危険グループは25パーセンタイル以上75パーセンタイル未満のスコアであり、そして、高危険グループは75パーセンタイル以上のスコアとして定義された。
図5図5は、本発明の分子サブタイプが補助5-フルオロウラシル(5-FU)及び白金化学治療療法に対する反応に関連することを示すものであって、延世大学で治療を受けた患者の全生存可能性に対する各グループにおけるカプラン-マイヤー曲線を示す。分子サブタイプにより階層化された患者において、補助化学治療療法なしに手術を進行した患者と、手術及び補助5-FU並びに白金投与を受けた患者とを比較した。
図6図6は、ACTA2 mRNA及びタンパク質の発現レベルが全生存率に対して予後的であるか否かを示す。図6のAは、ACTA2 mRNAの発現レベルに基づいて延世胃癌患者サブグループによって階層化された全生存率に対するカプラン-マイヤー曲線を示すものであって、ACTA2 mRNA発現の不在は良好な予後と関連しており、高いレベルのACTA2 mRNA発現を有する患者サブグループは悪い予後を有する。図6のBは、ACTA2タンパク質の発現レベルに基づいてソウル聖母病院(Seoul St.Mary Hospital)の胃癌患者サブグループによって階層化された全生存率(Overall Survival)に対するカプラン-マイヤー曲線を示すものであって、高いレベルのACTA2タンパク質の発現を有する患者サブグループは不良な全生存率に関連し、低いレベルのACTA2タンパク質の発現を有する患者サブグループは良好な全生存率に関連することを示す。
図7図7は、延世コホートにおいて、32-遺伝子シグネチャーに基づく4つの分子サブタイプを用いて学習した線形カーネル(kernel)を有する支援ベクトル機械(support vector machine、SVP)を構築した後、サムスン病院(Samsung Medical Center(n=45)、Nat Method 2018 Sep;24(9):1449-1458.doi:10.1038/s41591-018-0101-z. Epub 2018 Jul 16.)から免疫抗癌剤治療を受けた患者を4つの分子サブタイプに多重分類(multiclass classification)した結果である。患者の免疫抗癌剤に対する反応評価基準は、固形癌の反応評価基準(Response evaluation criteria in solid tumors(RECIST))を用いて、完全寛解(Complete Response(CR))、部分寛解(Partial Response(PR))、安定病変(Stable Disease(SD))、進行病変(Progressive Disease(PD))に分類した。これらのうち、CR及びPR患者は免疫抗癌剤の反応グループに分類し、SD及びPR患者は免疫抗癌剤抵抗性グループに分類した。図7において、I分子サブグループは、免疫抗癌剤治療の全反応率(Overall Response Rate;ORR)が50%(N=10)、III分子サブグループは免疫抗癌剤治療の全反応率(ORR)が67%であることを示す。一方、II分子サブグループは免疫抗癌剤治療の全反応率(ORR)7%、IV分子サブグループは免疫抗癌剤治療の全反応率(ORR)13.3%を示した。カイ二乗検定(chi-square test)により、分子サブグループ間における免疫抗癌剤治療の全反応率の差が統計的に有意味であることを確認した(P-value<0.0001)。
図8図8は、サムスン病院(Samsung Medical Center(n=45)、Nat Method 2018 Sep;24(9):1449-1458.doi:10.1038/s41591-018-0101-z.Epub 2018 Jul 16.)から免疫抗癌剤治療を受けた患者の腫瘍組織(tumor tissue)のバルクRNAシークエンシング(bulk RNA sequencing)によるACTA2 mRNA発現量を測定した結果であって、免疫抗癌剤の反応グループ(完全寛解;CR及び部分寛解;PR)と抵抗性グループ(安定病変;SD及び進行病変;PD)のmRNA発現量に差があることをボックスプロット(box plot)で示したものである。免疫抗癌剤の反応グループは、ACTA2遺伝子のmRNA発現量が抵抗性グループに比べて低いレベルを示した。統計方法により、ACTA2遺伝子のmRNA発現量の差が免疫抗癌剤の反応グループ及び抵抗グループにおいて統計的に有意味な差があることを確認した(P-value=0.00850)。
図9図9は、癌ゲノムアトラス(TCGA、The Cancer Genome Atlas)の胃癌(Stomach Cancer)コホートの患者において、MSI-H及びMSS情報、並びにACTA2のmRNA発現量を通じて、4つのサブグループ(subgroup)、すなわち1)MSI-HでありながらACTA2 mRNA発現量が高いACTA2ハイサブグループ(high subgroup)、2)MSI-HでありながらACTA2 mRNA発現量が低いACTA2ローサブグループ(low subgroup)、3)MSSでありながらACTA2ハイサブグループ(high subgroup)、4)MSSでありながらACTA2ローサブグループ(low subgroup)が存在することを示す。
図10図10は、TCGAの胃癌コホートのMSI-H又はMSS&ACTA2ハイ(high)又はロー(low)サブグループに統計的に有意味な全生存率の差があることを示すKMプロット(plot)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付の図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。しかし、本発明の実施形態は種々の他の形態に変形することができ、本発明の範囲は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本願の発明者らは、胃癌に特異的な変更された経路に含まれる32個の遺伝子の発現レベルに基づいて、癌の予後、すなわち、生存率及び抗癌療法適用の適合性を予測することができることを見出した。このとき、上記生存率は、全生存率、例えば、5年全生存率を含む。本発明の32-遺伝子検定は、癌治療の正確度を改善させる潜在力を有し得る。
【0017】
本明細書において、「遺伝子の発現」は、遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現レベルを含むことが意図される。
【0018】
本発明において、「予後」とは、癌が診断された後の癌の完治可能性、治療後の再発可能性、患者の生存可能性など、癌による患者の各種状態を予測することをいい、本発明において、例えば、生存率、化学抗癌剤感受性(chemo-sensitivity)、化学抗癌剤耐性(chemo-resistance)、免疫抗癌剤感受性(immunotherapy sensitivity)、免疫抗癌剤耐性(immunotherapy resistance)又はこれらのいずれかの組み合わせである抗癌療法の治療予後を含むことを意味する。本発明の目的上、予後は、癌の診断後、生存の予後及び治療に対する予後を意味することができる。本発明で提供するマーカーを使用すると、癌患者の生存予後及び抗癌療法治療に対する予後をより容易に予測することができ、高危険群の患者を分類したり、さらに必要な治療方法の使用の有無を決定する上で活用することができ、これにより、癌発症後の生存率の向上に寄与することができる。
【0019】
また、上記「予測」とは、患者が治療法に対して選好的又は非選好的に反応し、患者が治療後に生存するか否か及び/又はその可能性に関連する。本発明のマーカー組成物は、癌の発症した患者に対する最適な治療方式を選択することにより、治療決定を行うために臨床的に使用されることができる。さらに、本発明の予測方法は、例えば、患者が治療処方に選好的に反応するか否かに対する確認、又は治療処方後に患者の長期生存が可能であるか否かの予測に使用されることができる。
【0020】
本発明において使用される「抗癌療法」は、(化学)抗癌剤及び/又は免疫抗癌剤を用いた治療を含むことが意図される。
【0021】
より詳細に、本発明の癌の予後予測用マーカー組成物は、ESR1、BEST1、ACTA2、HIPK2、IGSF9、ASCC2、JUN、PPP2R5A、SMAD3、CREBBP、EP300及びDDX5からなるグループより選択される少なくとも一つの遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現レベルを測定する製剤を含む。
【0022】
より好ましくは、上記組成物は、ACTA2遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発
現レベルを測定する製剤を含み、ACTA2遺伝子とESR1、BEST1、HIPK2、IGSF9、ASCC2、JUN、PPP2R5A、SMAD3、CREBBP、EP300及びDDX5からなるグループより選択される少なくとも一つ、又は少なくとも二つ、若しくは上記遺伝子全体のmRNA又はそのタンパク質の発現レベルを測定する製剤を含むものであってもよい。
【0023】
例えば、BEST1、ACTA2、ESR1、CREBBP及びEP300からなるグループより選択される少なくとも一つの遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現レベルを測定する製剤を含むものであってもよい。
【0024】
さらに、本発明の癌の予後予測用マーカー組成物は、FHL2、PML、BRCA1、WT1、AREG及びTP63からなるグループより選択される少なくとも一つ、又は少なくとも二つ、若しくは上記遺伝子全体のmRNA又はそのタンパク質の発現レベルを測定する製剤を更に含むものであってもよい。
【0025】
なお、本発明の癌の予後予測用マーカー組成物は、TP53、HSF1、NCOA6IP、PAWR、FAM96A、WTAP、PCNA、GNL3、WRN、SMARCA4、NCOA6、RPA1、MSH6及びPARP1からなるグループより選択される少なくとも一つ、又は少なくとも二つ、若しくは上記遺伝子全体のmRNA又はそのタンパク質の発現レベルを測定する製剤をさらに含むものであってもよい。
【0026】
本発明において、便宜上、ESR1、BEST1、ACTA2、HIPK2、IGSF9、ASCC2、JUN、PPP2R5A、SMAD3、CREBBP、EP300及びDDX5からなる遺伝子グループを第I遺伝子グループと呼ぶことができ;FHL2、PML、BRCA1、WT1、AREG及びTP63からなる遺伝子グループを第II遺伝子グループと呼ぶことができ;また、TP53、HSF1、NCOA6IP、PAWR、FAM96A、WTAP、PCNA、GNL3、WRN、SMARCA4、NCOA6、RPA1、MSH6及びPARP1からなる遺伝子グループを第III遺伝子グループと呼ぶことができる。
【0027】
本発明のマーカー組成物を用いて予後を予測することができる上記癌は、胃癌、膀胱癌、腎臓癌、脳腫瘍、子宮癌、皮膚癌、膵臓癌、肺癌、大腸癌、肝癌、乳癌からなるグループより選択されるものであることができ、好ましくは胃癌である。
【0028】
本明細書において、「mRNAの発現レベルの測定」とは、生物学的試料における遺伝子のmRNA発現の程度を確認する過程であって、mRNAの量を測定することを意味する。そのための分析方法としては、逆転写重合酵素反応(RT-PCR)、競争的逆転写重合酵素反応(Competitive RT-PCR)、リアルタイム逆転写重合酵素反応(Real-time RT-PCR)、RNase保護分析法(RPA;RNase protection assay)、ノーザンブロッティング(Northern
blotting)、DNAチップなどがあるが、これらに制限されるものではない。
【0029】
本発明に係る組成物において、遺伝子のmRNAの発現レベルを測定する製剤は、各遺伝子のmRNAに特異的に結合するプライマー、プローブ、又はアンチセンスヌクレオチドを含む。本発明に係る各遺伝子の情報はGenBank、UniProtなどに知られているため、当業者であれば、これに基づいて各遺伝子のmRNAに特異的に結合するプライマー、プローブ又はアンチセンスヌクレオチドを容易にデザインすることができる。
【0030】
本発明において、上記「プライマー」とは、適した温度及び適した緩衝液内での好適な条件(すなわち、4種の他のヌクレオシドトリホスフェート及び重合反応酵素)下で、鋳
型-指示DNA合成の開始点として作用し得る単一ストランドのオリゴヌクレオチドを意味する。プライマーの適した長さは、様々な要素、例えば、温度及びプライマーの用途に応じて変化し得る。また、プライマーの配列は、鋳型の一部の配列と完全に相補的な配列を有する必要はなく、鋳型とハイブリダイズしてプライマー固有の作用を果たし得る範囲内で十分な相補性を有すればよい。したがって、本発明におけるプライマーは、鋳型である各遺伝子のヌクレオチド配列に完璧に相補的な配列を有する必要はなく、この遺伝子配列にハイブリダイズしてプライマー作用を果たし得る範囲内で十分な相補性を有すればよい。上記プライマーは、順方向及び逆方向のプライマー対を含むが、好ましくは、特異性及び敏感性を有する分析結果を提供するプライマー対である。プライマーの核酸配列が試料内に存在する非標的配列と一致しない配列であるため、相補的なプライマー結合部位を含有する標的遺伝子配列のみが増幅反応し、非特異的増幅を誘発しないプライマーであるとき、高い特異性が付与されることができる。
【0031】
上記「増幅反応」とは、核酸分子を増幅する反応をいい、このような遺伝子の増幅反応については当業界においてよく知られており、例えば、重合酵素連鎖反応(PCR)、逆転写重合酵素連鎖反応(RT-PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、転写仲介増幅(TMA)、核酸塩基配列基板増幅(NASBA)などを含むことができる。
【0032】
本発明において、上記「プローブ」とは、天然の又は変形されたモノマー又は連鎖(linkages)の直鎖状オリゴマーを意味し、デオキシリボヌクレオチド及びリボヌクレオチドを含み、ターゲットヌクレオチド配列に特異的にハイブリダイズすることができ、自然に存在するか、又は人工的に合成されたものをいう。本発明に係るプローブは単一鎖であってもよく、好ましくは、オリゴジオキシリボヌクレオチドであってもよい。本発明のプローブは、天然dNMP(すなわち、dAMP、dGMP、dCMP及びdTMP)、ヌクレオチド類似体又は誘導体を含むことができる。また、本発明のプローブはリボヌクレオチドを含むこともできる。
【0033】
なお、本発明において上記タンパク質の発現レベルは、好ましくは、各遺伝子が発現されたmRNAから翻訳過程を経て生成されたポリペプチドを意味し、上記各タンパク質のレベルを測定できる物質としては、各タンパク質に対して特異的に結合することができる多クローン抗体 、単一クローン抗体、及び組換え抗体などの「抗体」を含むことができる。
【0034】
本発明の癌の予後予測用マーカー組成物は、薬剤学的に許容可能な担体をさらに含むことができる。上記薬剤学的に許容可能な担体は、医薬分野で通常使用される担体及びビヒクルを含み、具体的には、イオン交換樹脂、アルミナ、アルミニウムステアレート、レシチン、血清タンパク質(例えば、ヒト血清アルブミン)、緩衝物質(例えば、各種のリン酸塩、グリシン、ソルビン酸、カリウムソルベート、飽和植物性脂肪酸の部分的なグリセリド混合物)、水、塩又は電解質(例えば、プロタミンスルフェート、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム及び亜鉛塩)、膠質性シリカ、マグネシウムトリシリケート、ポリビニルピロリドン、セルロース系基質、ポリエチレングリコール、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ポリアリレート、ワックス、ポリエチレングリコール又は羊毛脂などを含むが、これらに制限されない。
【0035】
また、上記成分の他に、潤滑剤、湿潤剤、乳化剤、懸濁剤、又は保存剤などをさらに含むことができる。
【0036】
本発明の他の観点によれば、本発明のマーカー組成物を用いた癌の予後予測方法が提供される。
【0037】
より詳細に、本発明の癌の予後予測方法は、癌の予後予測用マーカー組成物の各遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現量を測定する段階と、上記測定された遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現量を比較する段階と、を含む。
【0038】
上記比較は、測定された遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現量を相対的に比較するものであり、このとき、mRNA又はそのタンパク質の発現量の比較は当該分野における公知の様々な方法を使用することができ、また公知のデータ分析方法を利用して処理することができる。一例として、最近傍法(nearest neighbor classifier)、部分最小二乗(partial-least squares)、SVM、アダブースト(AdaBoost)、clustering-based classificationなどの方法を使用することができる。また、有意性を確認するために、様々な統計処理方法を使用することができる。統計的処理方法として、一実現例では、ロジスティック回帰分析方法を使用することができる。
【0039】
本発明の癌の予後予測方法は、ESR1、BEST1、ACTA2、HIPK2、IGSF9、ASCC2、JUN、PPP2R5A、SMAD3、CREBBP、EP300及びDDX5からなる第I遺伝子グループより選択される少なくとも一つの遺伝子、例えば、ACTA2、ESR1、BEST1、HIPK2、ASCC2、JUN、EP300、CREBBP及びDDX5のうち少なくとも一つのmRNA又はそのタンパク質の発現レベルが相対的に高く、好ましくは、ACTA2のmRNA又はそのタンパク質の発現レベルが相対的に高い場合、化学抗癌剤治療の予後不良、及び/又は免疫抗癌剤治療の予後不良と判断する段階をさらに含むものであってもよい。
【0040】
また、第III遺伝子グループのマーカー組成物を用いて、TP53、HSF1、NCOA6IP、PAWR、FAM96A、WTAP、PCNA、GNL3、WRN、SMARCA4、NCOA6、RPA1、MSH6及びPARP1からなるグループより選択される少なくとも一つの遺伝子、例えば、TP53、HSF1、NCOA61P、PAWR、FAM96A、WTAP、PCNA、GLN3、WRN、SMARCA4、NCOA6、RPA1、MSH6及びPARP1のうち少なくとも一つのmRNA又はそのタンパク質の発現レベルが相対的に高い場合、より好ましくは、これと同時にACTA2のmRNA又はそのタンパク質の発現レベルが相対的に低い場合、化学抗癌剤治療の予後が悪く、免疫抗癌剤治療の予後は良いと判断する段階をさらに含むものであってもよい。
【0041】
さらに、第II遺伝子グループのマーカー組成物を用いて、FHL2、PML、BRCA1、WT1、AREG及びTP63からなるグループより選択される少なくとも一つの遺伝子、例えば、FHL2、PML、BRCA1、WT1、AREG及びTP63のうち少なくとも一つのmRNA又はそのタンパク質の発現レベルが相対的に高い場合、より好ましくは、これと同時にACTA2のmRNA又はそのタンパク質の発現レベルが相対的に低い場合、化学抗癌剤治療、及び/又は免疫抗癌剤治療の予後良好と判断する段階をさらに含むものであってもよい。
【0042】
このとき、上記予後は、生存率、化学抗癌剤感受性(chemo-sensitivity)、化学抗癌剤抵抗性(chemo-resistance)、免疫抗癌剤感受性(immunotherapy sensitivity)、免疫抗癌剤抵抗性(immunotherapy resistance)又はこれらのいずれかの組み合わせであってもよい。
【0043】
また、図2を参照すると、全生存率における有意的な差がグループの間で確認され、第III遺伝子グループの発現量が高いグループ1の患者は最良の結果を示したのに対し、第I遺伝子グループの発現量が高いグループ4の患者は最悪の結果を示すことが確認でき
た。
【0044】
本発明において、遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現量が高いか否かは、測定された遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現量を比較して相対的に判断し、例えば、測定された遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の全平均発現量を基準にしてこれを超える場合、発現量が高いと判断することができ、例えば、mRNA発現量をZスコアに変換し、ヒートマップ(heat map)を示すことで、正の領域に該当する遺伝子の発現量が高いと判断することができる。例えば、ACTA2の場合、バルク(bulk)mRNAシーケンシング(sequencing)を用いたmRNA発現量が、log2(Fragments Per Kilobase of transcript per
Million mapped reads(FPKM)+1)が測定された遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現量を比較して相対的に同じ又は大きい場合、及び/又は免疫組織化学染色(immunohistochemistry)の場合、染色強度と染色領域の点数をそれぞれ乗じて算出された点数が3より大きい場合、ACTA2発現量が高いと判断することができる。また、Log2(FPKM+1)値が測定された遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現量を比較して相対的に小さい場合及び/又は免疫組織化学染色の場合、染色強度と染色領域の点数をそれぞれ乗じて算出された点数が3と同じ又は小さい場合、ACTA2発現量が低いものとして分類することができる。例えば、図9を参照すると、Log2(FPKM+1)値が5以上の場合、ACTA2発現量が高く、5未満の場合、発現量が低いと見なすことができる。他の遺伝子も、上記と同様又は類似の方法で遺伝子の発現量の高低を分類することができる。
【0045】
すなわち、本発明のマーカー組成物により独立して死亡の危険との関連性を確認することができるため、従来公知の臨床及び病理学的変数とは独立して予後の基準となり得ることが分かる。
【0046】
本発明のさらに他の観点によれば、癌の治療方向を決定するための情報提供方法が提供される。
【0047】
より詳細に、本発明の癌の治療方向を決定するための情報提供方法は、ESR1、BEST1、ACTA2、HIPK2、IGSF9、ASCC2、JUN、PPP2R5A、SMAD3、CREBBP、EP300及びDDX5からなる第I遺伝子グループより選択される少なくとも一つの遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現量;FHL2、PML、BRCA1、WT1、AREG及びTP63からなる第II遺伝子グループより選択される少なくとも一つの遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現量;及びTP53、HSF1、NCOA6IP、PAWR、FAM96A、WTAP、PCNA、GNL3、WRN、SMARCA4、NCOA6、RPA1、MSH6及びPARP1からなる第III遺伝子グループより選択される少なくとも一つの遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現量を測定する段階と、上記測定された遺伝子のmRNA又はそのタンパク質の発現量を比較し、3つの遺伝子グループのうち第III遺伝子グループのmRNA又はそのタンパク質の発現レベルが相対的に高い場合、患者グループ1に区分し、第II遺伝子グループのmRNA又はそのタンパク質の発現レベルが相対的に高い場合、患者グループ3に区分し、第I遺伝子グループのmRNA発現レベルが相対的に高い場合、患者グループ4に区分し、その他の患者をグループ2に区分する段階と、を含む。
【0048】
上記患者グループ2は、第I~III遺伝子グループのmRNA発現レベルが第I~III遺伝子グループの間で区分されない患者であることができ、すなわち、第I~III遺伝子グループにわたって特定の遺伝子グループにおける特に遺伝子発現量が増加する等の傾向が現れない場合を意味するものである。
【0049】
本発明の癌の治療方向を決定するための情報提供方法は、さらに、患者グループ1に対しては、化学抗癌剤を用いた抗癌療法が不適合であると予測する段階と、患者グループ3に対しては、化学抗癌剤を用いた抗癌療法が適合すると予測する段階と、患者グループ4に対しては、化学抗癌剤を用いた抗癌療法が不適合であると予測する段階と、のうち少なくとも一つの段階を含むものであってもよい。
【0050】
このとき、上記抗癌剤は、白金(Platinum)をベースにしてフルオロウラシル(fluorouracil、5-FU)、ブレオマイシン(bleomycin)及びエピルビシン(epirubicin)より選択される少なくとも一つの化学抗癌剤が組み合わせられた複合抗癌療法であることができ、好ましくは、白金(Platinum)又は白金(Platinum)とフルオロウラシル(fluorouracil、5-FU)の複合抗癌療法である。
【0051】
本発明において、グループ3の患者は、5-FU及び白金に基づく化学抗癌剤を用いた抗癌療法に関連して改善された生存率を示し、グループ2の患者の場合は、5-FU単独化学抗癌剤を用いた治療療法に関連して改善された生存率を示すことを確認した。
【0052】
さらに、興味深いことに、グループ3の患者は、5-FU及び白金ダブレット化学治療療法及び抗PD-1治療の両方に対して良好な反応を示したため、当該患者集団において化学抗癌剤及び免疫抗癌剤の組み合わせの臨床的な試みを考慮することができた。
【0053】
一方、グループ1の患者が最良の予後を示したが、むしろ化学抗癌剤を用いた抗癌療法、例えば、5-FU及び白金治療療法を適用すると、予後を悪化させることが確認できた。したがって、グループ1の患者に対しては、化学抗癌剤を用いた抗癌療法を除外する戦略を考慮することができる。
【0054】
さらに、本発明の癌の治療方向を決定するための情報提供方法は、患者グループ1及び患者グループ3のうち少なくとも一つの患者グループに対しては、免疫抗癌剤を用いた免疫治療療法が適合すると予測する段階と、患者グループ2及び患者グループ4のうち少なくとも一つの患者グループに対しては、免疫抗癌剤を用いた免疫治療療法が不適合であると予測する段階と、のうち少なくとも一つの段階を含むことができる。
【0055】
この場合、上記免疫抗癌剤は、抗PD1免疫抗癌剤(Anti PD1 inhibitor)、抗CTLA4(Anti CTLA4)免疫抗癌剤、及び抗PDL1(Anti PDL1)免疫抗癌剤より選択された少なくとも一つの免疫抗癌剤であってもよい。
【0056】
さらに、本発明の癌の治療方向を決定するための情報提供方法において、癌の治療方向を決定するためにマイクロサテライト不安定性(MSI、microsatellite
instability)の診断する段階をさらに含むことができる。
【0057】
例えば、マイクロサテライト不安定性(MSI、microsatellite instability)の診断を行い、高頻度マイクロサテライト不安定性(microsatellite instability high、MSI-H)患者と確認された場合にも、図10で確認できるように、本発明のバイオマーカー、例えば、第I遺伝子グループのうち少なくとも一つ、好ましくは、ACTA2遺伝子の発現が高い場合及び低い場合の生存可能性が著しく異なることが確認できる。
【0058】
したがって、当業界で広く使用されているマイクロサテライト不安定性(MSI、microsatelite instability)の診断とともに本発明の癌の予後予測用マーカー組成物を組み合わせることにより、従来は区分されていなかった、より詳細
なグループに患者を区分し、予後を予測して患者に適した最も効果的な治療方向を決定できるものと期待される。このように、本発明の癌の予後予測用マーカー組成物及びそれを用いた胃癌の予後予測方法、並びに癌の治療方向を決定するための情報提供方法によれば、癌の予後及び免疫抗癌剤及び/又は化学抗癌剤感受性(chemo-sensitivity)を予測することができるため、より効果的な治療戦略を設けることができる。
【0059】
すなわち、予後の良いグループの患者に対しては、抗癌療法関連の過剰治療を防止することができ、予後は悪いが、抗癌療法に対する感受性が良いグループには、積極的に抗癌療法の適用を試みる等といった個別患者カスタマイズ型治療戦略の樹立が可能である。
【0060】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。下記の実施例は、本発明の理解を助けるための例示に過ぎず、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【実施例
【0061】
実施例
1.遺伝子シグネチャー及び分子サブタイプの同定
胃癌における予後を予測するためのバイオマーカーを確認するために、癌ゲノムアトラス(The Cancer Genome Atlas(TCGA))によって公開された19個の異なる癌タイプからの6,681名の患者の体細胞突然変異プロファイルをNTriPathに入力し、胃癌において特異的に変更された経路を同定した。
【0062】
これらの経路の予後予測に関連する有用性を調べるために、本願の発明者らは、延世大学で切除を行った567名の患者起源の前処理腫瘍サンプルからマイクロアレイベースのmRNA発現プロファイルを生成した。患者の89%は段階II又はIIIの疾患を有し、追跡(follow-up)期間の中間値(median duration)は61ヶ月であった。
【0063】
予後予測に有用な胃癌-特異的経路には、DNA損傷反応、TGF-β信号伝達、及び細胞増殖経路が集積されたTP53、BRCA1、MSH6、PARP1、及びACTA2を含む下記表1の32個の遺伝子が含まれることを確認した。
【0064】
【表1】
【0065】
上記遺伝子のうち、FHL2、PML、BRCA1、WT1、AREG及びTP63は、アポトーシス信号伝達及び細胞増殖経路における遺伝子であって、第I遺伝子グループと呼び;ESR1、BEST1、ACTA2、HIPK2、IGSF9、ASCC2、JUN、PPP2R5A、SMAD3、CREBBP、EP300及びDDX5は、TGF-β、SMAD及びエストロゲン受容体の信号伝達及び間葉性形態の発生経路で見られる遺伝子であって、第II遺伝子グループと呼び;TP53、HSF1、NCOA6IP、PAWR、FAM96A、WTAP、PCNA、GNL3、WRN、SMARCA4、NCOA6、RPA1、MSH6及びPARP1は、細胞周期、DNA損傷反応(DNA damage response)及び修復、並びにミスマッチ修復に関連する遺伝子であって、第III遺伝子グループと呼ぶ。
【0066】
本発明者らは、上記32個の遺伝子の発現レベルに基づいてコンセンサスクラスタリングを行い、コンセンサスマトリックスの手動調査だけでなく、コンセンサス累積分布関数(CDF)プロット及びデルター面積プロットに基づいてグループ1~グループ4の4つに区分される分子サブタイプを見出した(図1)。
【0067】
グループ1の患者からの腫瘍は、細胞周期、DNA損傷反応(DNA damage response)及び修復、並びにミスマッチ修復に関連する遺伝子を発現し、グループ4の患者からの癌はTGF-β、SMAD及びエストロゲン受容体の信号伝達及び間葉性形態の発生経路で見られる遺伝子を過剰発現した。グループ3の患者からの腫瘍は、アポトーシス信号伝達及び細胞増殖経路における遺伝子を過剰発現した。グループ2からの腫瘍は、過剰発現された遺伝子のユニークなパターンを示さなかった。このとき、過剰発現の有無は32個の遺伝子の発現レベルを相対的に比較して判断する。
【0068】
一変量分析において、分子サブタイプは、年齢(P=0.003)、段階(P=0.021)、ローレンタイプ(P<0.001)、及びニューロン周辺攻撃(P<0.001)における差とはかなりの相関があった。最後に、全生存率における有意的な差がグループの間で観察された。グループ1の患者は最良の結果を示し、他のグループの患者の150ヶ月以降の生存可能性がすべて50%未満であることに比べて、上記グループ1の患者は、生存可能性が約70%に達することが確認できる。一方、グループ4の患者は最悪の
結果を示し、全生存率の中間値は65ヶ月であった(図2;P<0.001)。
【0069】
単変数分析について有意的な変数を使用した多変数Cox比例-危険分析は、年齢、段階など及び本発明の分子サブタイプが独立して死亡の危険と関連していることを示した(表2)。すなわち、これは、本発明の32-遺伝子シグネチャーが公知された重要な臨床及び病理学的変数とは独立して作用する予後の基準となり得ることを示す。
【0070】
【表2】
【0071】
2.32-遺伝子予後シグネチャーの立証
32-遺伝子予後シグネチャーの堅牢性及び再現性を調べるために、本願の発明者らは、独立したデータセットとして、アジア癌研究グループ(Asian Cancer Research Group)(ACRG;n=300;遺伝子発現オムニバス(Gene Expression Omnibus):GSE62254)によって、そしてソ
ン(Sohn)ら)(n=267;遺伝子発現オムニバス:GSE13861及びGSE26942)によって公開された胃癌患者の遺伝子発現プロファイルを分析した。
【0072】
32-遺伝子シグネチャーを使用して非監督コンセンサスクラスタリング(unsupervised consensus clustering)により、本発明に従って再び4つの分子サブタイプを同定した。ACRGコホートのサブタイプは年齢(P=0.001)、性別(P=0.016)、段階(P=0.001)、腫瘍位置(P=0.004)、ローレンタイプ(P<0.001)、ニューロン周辺攻撃(P<0.001)、EBV状態(P=0.03)、及びACRG分子サブタイプ分類(P<0.001;(表のS5))と関連があった。ソンらのコホートのサブタイプは、性別(P=0.032)、ローレンタイプ(P=0.04)、TCGA分子グループ化(P<0.001;表のS6)における差と有意的な相関があった。
【0073】
一方、両方のコホートにおいて、本発明の分子サブタイプは生存率と有意的に関連していることを確認した(図の3A及び3B)。ACRG及びソンらのコホートの両方における死亡の危険に関連する癌の段階、ローレンタイプ、腫瘍位置及び分子サブタイプの多変数Cox比例-危険分析は、分子サブタイプにおいて、特にグループ1及びグループ4の間の生存率と有意的に関連していることを示した。このような分析結果、32-遺伝子シグネチャーが重要な予後バイオマーカーになり得ることを確認した。
【0074】
3.5年全生存率を予測するための危険スコアを同定する機械学習
延世コホートをトレーニングセットとして使用し、本願の発明者らは、5年全生存率を評価するために32個の遺伝子の発現レベルを使用する線形カーネル(kernel)を有する支援ベクトル機械(support vector machine、SVM)を構築した。
【0075】
最良の予後を有するグループ1には陰性標識を投与し、最悪の予後を有するグループ4には陽性標識を投与した。本願の発明者らは、ACRG、Sohnなど、及び癌ゲノムアトラスによって公開されたデータを使用したSVMモデルを試験し、連続変数として危険スコアが5年全生存率を予後することを確認した(図4)。
【0076】
本願の発明者らは、危険スコアを基準にしてコホートを四分位数に分けた。下部の四分位数における患者は低危険グループとして分類され、四分位数間の範囲内の患者は中間危険グループとして分類され、上部の四分位数における患者は高危険グループとして分類された。低-、中間-、及び高危険グループに対する5年全生存率は、それぞれ61%(95%CI、55%-69%)、50%(45%-56%)、及び35%(28%-42%)である(図3のB;P<0.0001)。重要なことに、危険スコアは、すべてのデータセットにわたって不良な結果に関連したものであって、公知された臨床的及び病理学的特性とは無関係に予後的であった(表3及びS13-15)。これらの結果は、32-遺伝子シグネチャーを基準にして機械学習に由来する危険スコアが、胃癌患者における5年生存率を予測することを立証した。
【0077】
4.全身治療療法に対する分子サブタイプ予測反応
本発明の分子サブタイプが全身治療療法に対する反応を予測できるか否かを検討した。延世コホートには、標準治療として補助化学治療療法の確立前に処理された患者が含まれている。したがって、下記の3つの補助化学療法用法の一つにより治療を受けた患者と手術のみを行った患者とを比較することができた:
- 5-フルオロラシル(5-FU)単独治療療法
- 5-FU及び白金ダブレット(doublet)
- 5-FUに加えて、さらに他のクラスの全身治療療法
【0078】
本願の発明者らは、それぞれの遺伝学的グループ内における共変量として、全生存率、補助化学治療用法、癌の段階、年齢、リンパ血管攻撃及びニューロン周辺攻撃の多変数Cox比例分析を行った。本願の発明者らは、グループ3において5-FU及び白金で処理された患者が、補助化学治療療法を受けていないグループ3の患者と比較して、有意的により良好な全生存率を示すことを明らかにした(危険比率(HR)、0.28(95%CI、0.08-0.96)、p=0.043)。しかし、対照的に、5-FU及び白金で処理されたグループ1における患者は、補助治療療法を受けていないグループ1の患者よりも良くない生存率を示した(HR、6.80(95%CI、1.46-31.6)、P=0.015)、(図5)。一方、グループ2の患者は、5-FU単独治療療法に関連して改善された生存率を示し(HR、0.37(95%CI、0.14-0.99))、他の製剤の添加は改善された結果と相関していなかった。このようなデータは、本発明の分子サブタイプが補助治療療法のための予測バイオマーカーであることを示唆する。
【0079】
次いで、本発明のサブタイプがさらに、免疫抗癌剤、例えば、免疫チェックポイント阻害剤に対する応答を予測できるか否かを検討し、免疫治療療法として抗PD1免疫抗癌剤(Anti PD1 inhibitor)、抗CTLA4(Anti CTLA4)免疫抗癌剤、あるいは抗PDL1(Anti PDL1)免疫抗癌剤の治療を受けた難治性、転移性及び/又は再発性胃癌患者のコホートを分析した結果、本発明の分子サブタイプが免疫治療療法反応及び抵抗性とも関連したことを確認した(図7)。
【0080】
最近のランダム割り当て臨床試験(randomized control trials)の結果を見ると、免疫抗癌剤の治療を受けた難治性、転移性、そして、あるいは再発性胃癌患者の全反応率(Overall Response Rate;ORR)は20%未満であった(12%in KEYNOTE-059(Fuchs et al,JAMA ONC,2018)、16%、KEYNOTE-061(Shitara et
al,Lancet,2018)、11%in ATTRACTION-2(Kang
et al,Lancet,2017))。
【0081】
一方、図7の結果を参照すると、本発明の分子サブタイプ、すなわち、第I~III遺伝子グループを用いた患者グループの分類及びこれに基づく癌の予後予測方法の場合、患者グループ1は、全反応率(Overall Response Rate;ORR)50%(N=10)、患者グループ3は、免疫抗癌剤治療の全反応率(ORR)67%を示した。したがって、本発明の予後予測方法によれば、現在使用されている免疫抗癌剤に反応する患者を選択する方法に比べて著しく効果的であることが分かる。また、本発明によれば、免疫チェックポイント阻害剤に対する反応も予測できることを確認した。
【0082】
【表3】
【0083】
上記の表3において、危険比率(Hazard Ratio、HR)は、年齢、癌の病期、ローレン型、神経周囲侵犯状態及び化学療法治療を調整因子として計算した。
【0084】
5.予後及び予測バイオマーカーとしてのACTA2
本発明の32個の遺伝子のうち、ACTA2のmRNA及びタンパク質の発現が患者の全生存率、化学治療療法及び免疫治療療法の反応を予測するために使用できるか否かをさらに調べた。
【0085】
そのために、まずACTA mRNA発現の平均値を基準にして延世コホートからの患者を分けた。より高いACTA2 mRNA発現を有する患者は、より低いACTA2 mRNA発現を有する患者と比べて良好ではない全生存率を示した(図6のA)。
【0086】
ACRG及びソンらのコホートにおける5年死亡の危険に関連する年齢、腫瘍段階、腫瘍位置、ローレンタイプ、及びACTA2 mRNA発現の多変量Cox比例分析は、やはりACTA2 mRNA発現の1ユニット増加が有意的及び独立的に、全生存率に関してより高い危険に関連することを示した。TCGA胃癌mRNA発現データはさらに、ACTA2の高い及び低い患者サブグループにおいて統計学的に有意的な、且つ異なる全生
存率の結果を示すことを表した。
【0087】
ACTA2タンパク質発現の予後有用性を立証するために、本願の発明者らは、抗ACTCA2モノクローナル抗体を用いて免疫組織化学的分析を行った。ソウル聖母病院(Seoul St.Mary Hospital(n=396))からの染色されたホルマリン固定化パラフィン埋め込み組織セクションの分析は、悪性の上皮及び基質細胞においてACTA2タンパク質を過剰発現する胃癌患者のサブグループの存在を確認させた。低いACTA2タンパク質の発現を有する患者サブグループは、高いACTA2タンパク質の発現を有する患者サブグループと比較してより良好な予後を示した(図6のB)。
【0088】
ACTA2免疫組織化学染色(Immunohistochemistry)の読み取りは、下記表4の読み取り基準に従って行い、胃癌組織の微細配列(tissue microarray;TMA)で腫瘍周辺の基質細胞に対して読み取りを行い、染色強度と染色領域の点数をそれぞれ乗じて算出された点数に基づいて、グループ1(ACTA2 ローサブグループ、スコア 0-3)、グループ2(ACTA2 ハイサブグループ、スコア 4-6)の2群に分けて、臨床病理学的因子(clinicopathologic factors)との相関関係及び各群の生存率の差を分析した。
【0089】
【表4】
【0090】
また、サムスン病院(Samsung Medical Center(n=45))から免疫抗癌剤治療を受けた患者の反応グループにおけるACTA2 mRNA発現量を測定して分析した結果、免疫治療剤に対して抵抗性を有する患者のサブグループにおいて、免疫治療剤に対して反応したサブグループに比べて、高いACTA2 mRNA発現を示すことが確認できた(図8)。特に、MSI-H患者のうち、免疫抗癌剤に対して反応しなかった患者が高いACTA2 mRNA発現を示すことが確認できた。また、MSS患者のうち免疫抗癌剤に対して反応した患者は、低いACTA2 mRNA発現を示すことが確認できた。
【0091】
すなわち、ACTA2は、化学治療療法及び免疫治療療法に対する抵抗性を示す高危険サブグループにおいて過剰発現されることが確認できた。
【0092】
6.本発明のバイオマーカー及び高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H、 microsatellite instability high)診断の組み合わせ評価
本発明のバイオマーカーを用いた予後予測と併せて、MSI診断の組み合わせ可能性を検討するために、TCGA(The Cancer Genome Atlas)の胃癌(Stomach Cancer)コホートの患者を、以下のようにMSI-H及びMSS情報、並びにACTA2のmRNA発現量によって4つのサブグループ(subgroup)に分けた(図9)。
【0093】
1)MSI-HでありながらACTA2ハイサブグループ(high subgroup)
2)MSI-HでありながらACTA2ローサブグループ(low subgroup)
3)MSSでありながらACTA2ハイサブグループ
4)MSSでありながらACTA2ローサブグループ
【0094】
また、このようなMSI-H/MSS及びACTA2ハイ(high)/ロー(low)サブグループ(subgroup)の間に統計的に有意味な生存率(survival)の差があることを分析するために、それぞれのサブグループの患者の全生存率(overall survival)を用いてKMプロット(plot)を作成した(図10)。
【0095】
その結果、MSI-H及びMSSの胃癌患者において、ACTA2のmRNA発現量が高く、少ないサブグループが存在することを確認し(図9)、また、このようなサブグループの間に統計的に有意味な生存率の差があることが確認できた(図10)。
【0096】
特に、MSI-H又はMSS胃癌患者のうち、ACTA2のmRNA発現量が低い(MSI-H又はMSS+ACTA2 low)患者は、MSI-H又はMSSであると共にACTA2ハイ(high)である患者サブグループに比べて、良好な予後を有することが確認できた。これにより、既存のMSI-Hを用いた胃癌患者の予後予測を、ACTA2ハイ(high)又はロー(low)バイオマーカーの組み合わせにより、さらに正確に胃癌患者の予後予測ができることが分かる。
【0097】
また、MSI-Hバイオマーカーを介して化学抗癌剤又は免疫抗癌剤に対して敏感に反応する(又は予後が良くない)胃癌患者を選択する方法を、ACTA2バイオマーカーの組み合わせによって、化学抗癌剤及び免疫抗癌剤に対して敏感性のある患者(例えば、MSI-H又はMSS&ACTA2ローサブグループ(low subgroups))と抵抗性のある患者(例えば、MSI-H又はMSS&ACTA2ハイサブグループ(high subgroups))とを区分することができる。
【0098】
以上のように、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明の権利範囲はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的思想から逸脱しない範囲内で様々な修正及び変形が可能であることは、当技術分野における通常の知識を有する者には自明である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】