(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-29
(54)【発明の名称】架橋性バイオポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07K 14/435 20060101AFI20240221BHJP
C08B 37/04 20060101ALI20240221BHJP
C08B 37/08 20060101ALI20240221BHJP
C07K 14/76 20060101ALI20240221BHJP
C07K 14/78 20060101ALI20240221BHJP
A61L 27/52 20060101ALN20240221BHJP
A61L 27/22 20060101ALN20240221BHJP
A61L 27/20 20060101ALN20240221BHJP
【FI】
C07K14/435
C08B37/04
C08B37/08 Z
C07K14/76
C07K14/78
A61L27/52
A61L27/22
A61L27/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553519
(86)(22)【出願日】2022-03-01
(85)【翻訳文提出日】2023-10-23
(86)【国際出願番号】 IB2022051794
(87)【国際公開番号】W WO2022185202
(87)【国際公開日】2022-09-09
(32)【優先日】2021-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】PH
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523334246
【氏名又は名称】セルクラフト・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CELLCRAFT LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラミス,ジョペス・エム
【テーマコード(参考)】
4C081
4C090
4H045
【Fターム(参考)】
4C081AB11
4C081BA12
4C081BC02
4C081BC04
4C081CC06
4C081CD041
4C081CD081
4C081CD151
4C081DA12
4C081EA02
4C081EA05
4C081EA13
4C090AA02
4C090AA05
4C090AA09
4C090BA67
4C090BA73
4C090BB97
4C090CA38
4C090DA03
4C090DA10
4C090DA22
4C090DA24
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA53
4H045EA34
4H045EA60
4H045FA50
(57)【要約】
本発明は、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾されたバイオポリマーの製造方法であって、水溶液中での化学修飾に続いて、バイオポリマーを、有機溶媒中で沈殿させ、ろ過および乾燥させて、有機溶媒を、蒸留により回収する方法に関する。前記製造方法により得られる、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾されたバイオポリマー、ならびにそのハイドロゲルも提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次のステップ:
(a)タンパク質、多糖、それらの塩、およびそれらの混合物から選択されるバイオポリマーを水溶液中に溶解するステップ;
(b)炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾されたバイオポリマーを含有する溶液を得るために、前記バイオポリマーを、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および/または窒素-窒素三重結合を含有する化学修飾剤と反応させるステップ;
(c)炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される前記官能基で化学修飾された前記バイオポリマーの沈殿物を含有する懸濁液を得るために、ステップ(c)で得られた前記溶液を、有機溶媒に添加するステップ;
(d)前記沈殿物およびろ液を得るために、ステップ(c)で得られた前記懸濁液をろ過するステップ;
(e)前記有機溶媒を回収するために、前記ろ液を蒸留するステップ;ならびに
(f)炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される前記官能基で化学修飾された前記バイオポリマーを得るために、前記沈殿物を乾燥させるステップ
を含む、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾されたバイオポリマーの製造方法。
【請求項2】
炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される前記官能基で化学修飾された前記バイオポリマーが粒子であり、ステップ(f)の後に行われるステップ(g):
(g)前記バイオポリマーの粒子を準備するために、ステップ(f)で得られた前記バイオポリマーを微細化法にさらすステップ、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(d)の後に行われるステップ(h):
炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される前記官能基で化学修飾された前記バイオポリマーを含有する溶液を得るために、前記沈殿物を水中に溶解するステップ、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される前記官能基で化学修飾された前記バイオポリマーの沈殿物を含有する懸濁液を得るために、前記溶液を、有機溶媒に添加するステップ、ならびに前記沈殿物およびろ液を得るために、前記懸濁液をろ過するステップ
をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記水溶液が、酸性水溶液、塩基性水溶液、および水性緩衝液から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記バイオポリマーが、少なくとも2つのバイオポリマーを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記タンパク質が、ゼラチン、コラーゲン、エラスチン、絹フィブロイン、アルブミン、およびそれらの混合物から選択される、好ましくはゼラチンである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(b)が、次のステップ:
(b-1)前記溶液のpHを、約2~約10の間の値に調整するステップ;
(b-2)ステップ(b-1)で得られた前記溶液に前記化学修飾剤を添加するステップ;
(b-3)室温から60℃の間の温度で、約0.5~約5時間にわたり撹拌するステップ;ならびに
(b-4)好ましくは、前記溶液のpHを、約6.5~約7.5の間の値に調整することにより反応を停止させるステップ
を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記多糖が、アルギン酸、ジェランガム、ペクチン、ポリガラクツロン酸、カラギーナン、ヒアルロン酸、キトサン、コンドロイチン硫酸、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、グリコサミノグリカン、およびそれらの混合物から選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記バイオポリマーが多糖塩である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(b)が、次のステップ:
(b-5)ステップ(a)で得られた前記溶液に前記化学修飾剤を添加するステップ;および
(b-6)好ましくは室温で、少なくとも3時間にわたり、好ましくは少なくとも8時間にわたり、さらに好ましくは少なくとも12時間にわたり撹拌するステップ
を含む、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記化学修飾剤が、(メタ)アクリル酸無水物、グリシジル(メタ)アクリレート、カルブ酸無水物、およびそれらの混合物から選択される、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記有機溶媒が、アルコール、アルコール含有組成物、ケトン、エステル、エーテル、クロロホルム、およびそれらの混合物から選択される、好ましくはアルコール、アルコール含有組成物、およびケトンから選択される、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記乾燥が、トレイ乾燥、凍結乾燥、コンベヤ乾燥、回転ドラム乾燥、真空乾燥、およびそれらの組合せから選択され、好ましくは凍結乾燥であり、および/または前記微細化法が、研削、粉砕、ミリング、およびそれらの組合せから選択される、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の方法により得られる、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾されたバイオポリマー。
【請求項15】
次のステップ:
i)請求項14に記載の、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される前記官能基で化学修飾された前記バイオポリマーを、溶液中に溶解するステップ、および場合により、前記溶液にラジカル開始剤を添加するステップ;ならびに
ii)前記バイオポリマーを架橋するステップ
を含む方法により得られるハイドロゲル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本出願は、架橋性バイオポリマー、ならびに架橋性バイオポリマー、例えば、架橋性タンパク質および架橋性多糖などの工業的規模での製造方法の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
組織工学および再生医学の適用におけるバイオ基材(base biomaterial)の探索は、前記バイオ基材が、以下の内在特性、つまり、生体適合性、培養中の細胞が自然分泌する酵素による分解性、チューナブルな物理特性および化学特性を有すること、ならびに当然のことながら経済的かつ再現性のある製造方法を必要とする。修飾(Modified)架橋性バイオポリマー(すなわち、バイオポリマーを架橋性にする官能基で修飾されたバイオポリマー)は、これらの内在特性を示し、おびただしい数の細胞を培養するために、多数の研究者によって広く使用されている。架橋性にする化学修飾剤での化学修飾に続いて、以下のバイオポリマー、つまり、ゼラチン、アルギネート、ヒアルロン酸、キトサン、コンドロイチン硫酸、コラーゲン、および絹フィブロインが、細胞を積載したベースインキである、バイオプリンティング用途向けのバイオ基材として一般的に使用されている。
【0003】
目下使用されている、架橋性バイオポリマーの製造方法は、架橋性バイオポリマーの精製方法として透析の使用に依拠する。具体的には、反応が完了後、バイオポリマー化学修飾の反応生成物を、膜上に注ぎ、一定温度で数日間にわたり水中で懸濁する。不要な反応生成物、例えば、未反応の化学修飾剤、その副産物、および緩衝塩などは、水で懸濁すると膜から拡散するのに対して、架橋性バイオポリマーは膜中に保持される。毎日続く水の交換が、膜内部の架橋性バイオポリマーを精製し、水中に溶解した架橋性バイオポリマーのみが残る。水は、最終的に溶液の凍結乾燥により除去され、
図2aに示すように、処理後に泡状構造を残す。透析後の架橋性バイオポリマーの含水量に応じて、透析は通常7日間かかり、凍結乾燥は4~7日間かかる(Nicholら、Biomaterials 31 (2010) 5536~5544ページ)。したがって、現在利用可能な架橋性バイオポリマーの製造方法は、約11~14日の総精製時間を含む。この製造方法の間、含量が少なく大容量の架橋性バイオポリマーが処理され、精製は、数グラムの乾燥済み架橋性バイオポリマーに限定される。得られる架橋性バイオポリマーは、フォーム形状にあり、広い保管スペースを必要とする。
【0004】
目下使用されている、精製方法として透析の使用に依拠する、架橋性バイオポリマーの製造方法は、長々しく(複数日の処理が時間制限)、フォーム形状の架橋性バイオポリマーを限られた量でしか提供せず、かつ再現性に苦しむため、好ましくは、容易に保管および取扱いが可能である粒子としての架橋性バイオポリマーの、好都合で、再現性があり、かつ環境に優しい製造方法を提供するというアンメットニーズが存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明の概要
したがって、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾されたバイオポリマーの、好都合で、拡張可能であり、かつ環境に優しい製造方法を提供することが、本発明の主題である。この主題は、請求項1に記載の製造方法により達成される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書で請求および記載される製造方法により得られる、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾された、好ましくは粒形状のバイオポリマーも同じく本明細書で請求および記載される。本明細書で請求および記載される粒子は、透析を介して精製された公知の架橋性バイオポリマーと比べて著しく小さいスペースに保管され得る。さらに、本明細書で請求および記載される方法により得られる、化学修飾されたバイオポリマーは、透析を介して精製された公知の架橋性バイオポリマーよりも優れた機械強度特性を示す。
【0007】
本発明によるさらなる一態様は、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾されたバイオポリマー、から得られる、本明細書で請求および記載されるハイドロゲルを対象とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明による工業的製造方法の工程系統図を示す。
【
図2】透析(上段)および(下段)沈殿(precipitated)ゼラチンメタクリレートの、顕微鏡写真(左側)および走査型電子顕微鏡写真(中央および右側)を示す。
【
図3】(左側)透析および(右側)沈殿ゼラチンメタクリレートの代表的な熱重量曲線を示す。X軸は%重量、Y軸は温度(℃)である。
【
図4】透析(上段)および沈殿(下段)ゼラチンメタクリレートの、ゲル浸透クロマトグラフィーを使用したクロマトグラム(左列)および分子量分布(右列)を示す。クロマトグラム(左列)のX軸は、溶出時間である。左列:左側のy軸はmV、右側のy軸はlogMW。スチューデント化t検定は、数平均分子量(Mn)と加重平均分子量(weighted averaged molecular weight)(Mw)との間で有意な差異を示す(
***p<0.0001、n=3);y軸は分子量。透析ゼラチンメタクリレート(1番目および2番目のバー)ならびに沈殿ゼラチンメタクリレート(3番目および4番目のバー)の計算上の多分散性は、それぞれ、1.85±0.024および2.35±0.016であった。エラーバーは標準偏差(SD)を表す。
【
図5】(上図):ゼラチンメタクリレートハイドロゲル(左から右へと):5%透析ゼラチンメタクリレート、5%沈殿ゼラチンメタクリレート、10%透析ゼラチンメタクリレート、および10%沈殿ゼラチンメタクリレート。(左下)圧縮弾性率でy軸(ヤング率、kPa)、x軸は、左から1番目のバーが5%透析ゼラチンメタクリレート、2番目のバーが5%沈殿ゼラチンメタクリレート、3番目のバーが10%透析ゼラチンメタクリレート、および4番目のバーが10%沈殿ゼラチンメタクリレート;ならびに(右下)ゼラチンメタクリレートハイドロゲルの膨潤率でy軸(膨潤率)、x軸は1番目のバーが5%透析ゼラチンメタクリレート、2番目のバーが5%沈殿ゼラチンメタクリレート、3番目のバーが10%透析ゼラチンメタクリレート、および4番目のバーが10%沈殿ゼラチンメタクリレート;エラーバーは標準偏差。異なる濃度およびダウンストリーム処理技術は、ANOVAおよびテューキーの事後検定により、統計的に有意な差異を示す(
*p<0.05、
**p<0.01、
***p<0.001、n≧3)。エラーバーは標準偏差(SD)を表す。
【
図6】(左上)5%透析、(右上)5%沈殿、(左下)10%透析、および(右下)10%沈殿ゼラチンメタクリレートの、1Hzおよび温度37℃におけるひずみスイープを示す。正方形の点は、貯蔵弾性率であり、三角形は損失弾性率である。X軸はひずみ(%)で、y軸はG’およびG’’(Pa)。
【
図7】(左上)5%透析、(右上)5%沈殿、(中央左)10%透析、および(中央右)10%沈殿ゼラチンメタクリレートの、0.5%ひずみ、および温度37℃における周波数スイープを示す。正方形の点は、貯蔵弾性率であり、三角形は損失弾性率である。X軸はひずみ(%)で、y軸はG’およびG’’(Pa)。すべての試料を用いて特定した貯蔵弾性率(左下)および損失弾性率(右下)の棒グラフで、y軸(左下)貯蔵弾性率およびy軸(右下)損失弾性率であり、x軸は、左から1番目のバーが5%透析ゼラチンメタクリレート、2番目のバーが5%沈殿ゼラチンメタクリレート、3番目のバーが10%透析ゼラチンメタクリレート、および4番目のバーが10%沈殿ゼラチンメタクリレートである。5%透析ゼラチンメタクリレートおよび沈殿ゼラチンメタクリレートと、10%沈殿ゼラチンメタクリレートとの間の、ANOVAおよびテューキーの事後検定により、95%CIでの統計的に有意な差異(
*p<0.05、
**p<0.01、n≧3)。エラーバーは標準偏差(SD)を表す。
【
図8】(左上)5%透析ゼラチンメタクリレート、(右上)5%沈殿ゼラチンメタクリレート、(左下)10%透析ゼラチンメタクリレート、および(右下)10%沈殿ゼラチンメタクリレートの、1Hz、0.5%ひずみ、および温度37℃における時間スイープを示す。正方形の点は、貯蔵弾性率であり、三角形は損失弾性率である。X軸は時間(s)で、y軸はG’およびG’’(Pa)。
【
図9】(左上)5%透析ゼラチンメタクリレート、(右上)5%沈殿ゼラチンメタクリレート、(左下)10%透析ゼラチンメタクリレート、および(右下)10%沈殿ゼラチンメタクリレートの、1Hz、0.5%ひずみ、および2℃/分の加熱速度における温度スイープを示す。正方形の点は、貯蔵弾性率であり、三角形は損失弾性率である。X軸は温度(℃)で、y軸はG’およびG’’(Pa)。
【
図10】(上図)5%透析および沈殿ゼラチンメタクリレート(1行目および2行目)、ならびに10%透析および沈殿ゼラチンメタクリレート(3行目および4行目)中に封入されたNIH 3T3線維芽細胞の、1日目(左側)および4日目(右側)における、Live(緑色、カルセインAM)-Dead(赤色、エチジウムホモダイマー)染色を使用した、細胞生存率の評価を示す。(下図)棒グラフは、培養日数間で細胞生存率の有意な差異を示さない(反復測定ANOVA、p=0.1114、各々3つの異なる領域における少なくとも50細胞を解析した)。エラーバーは標準偏差(SD)を表す。X軸:左側並列棒グラフ-1日目、左から右に:1番目のバーは5%透析ゼラチンメタクリレート、2番目のバーは5%沈殿ゼラチンメタクリレート、3番目のバーは10%透析ゼラチンメタクリレート、および4番目のバーは10%沈殿ゼラチンメタクリレート;右側並列棒グラフ-4日目、左から右に:1番目のバーは5%透析、2番目のバーは5%沈殿、3番目のバーは10%透析、および4番目のバーは10%沈殿ゼラチンメタクリレート。Y軸:細胞生存率(%)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明の詳細な説明
したがって、この必要性に取り組むことが、本発明の主題である。この目的は、請求項1で定義される製造方法、請求項14で定義される、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾されたバイオポリマー、ならびに請求項15で定義されるハイドロゲルにより達成される。好ましい実施形態が、明細書および従属請求項に開示される。
【0010】
以下に、本発明をより詳細に記載する。
【0011】
本記載が「好ましい」実施形態/特徴に関する場合、その「好ましい」実施形態/特徴の具体的な組合せが技術的に有意義である限り、それらの「好ましい」実施形態/特徴の組合せも同じく開示されると見なされる。
【0012】
異なる指定がない限り、以下の定義が、本明細書において適用されることになる。
【0013】
本明細書で使用する用語「a」、「an」、「the」および本発明の関連で(特に特許請求の範囲の関連で)使用される同様の用語は、本明細書に異なる指定がないか、または文脈により明らかに矛盾しない限り、単数と同様に複数も網羅すると解釈されるべきである。
【0014】
本明細書で使用する用語「および/または(and/or)」は、当該群の要素のすべてまたはそのうちの1つのみのいずれかが存在し得ることを意味する。例えば、「Aおよび/またはB」は、「Aのみ、またはBのみ、またはAおよびBの両方とも」を意味する。「Aのみ」の場合、この用語はさらに、Bが不在である可能性、すなわち「BではなくAのみ」を網羅する。
【0015】
本明細書で使用する用語「含む(including)」、「含有する(containing)」および「含む(comprising)」は、本明細書において、そのオープンエンドの、非限定的な趣旨で使用される。様々な実施形態、選択および範囲は、随意に組合せ可能であると理解される。したがって、例えば、化合物Aを含む溶液は、Aに加えて他の化合物を含み得る。しかしながら、用語「含む(comprising)」はまた、その特定の一実施形態として、「から本質的になる(consisting essentially of)」および「からなる(consisting of)」の、より限定的な意味を網羅するため、例えば「A、B、および場合によりCを含む溶液」はさらに、(本質的に)AおよびBからなり得る、または(本質的に)A、B、およびCからなり得ることになる。本明細書で使用する移行句「から本質的になる(consisting essentially of)」(および文法的異形)は、列挙される材料またはステップ、ならびに請求される発明の基本的かつ新規な特性に実質的に影響を与えない材料またはステップを含むと解釈されるべきである。したがって、用語「から本質的になる(consisting essentially of)」は、「含む(comprising)」の同意義と解釈されるべきではない。
【0016】
本明細書で使用する用語「約(about)」は、当該の量または値が、指定される特定値、またはその付近の他の値であり得ることを意味する。概して、特定の値を示す用語「約(about)」は、その値の±5%内の範囲を示すと意図される。一例として、表現「約100」は、100±5の範囲、すなわち、95~105の範囲を示す。好ましくは、用語「約」により示される範囲は、値の±3%、さらに好ましくは±1%内の範囲を示す。概して、用語「約」を使用する場合、本発明による同様の結果または効果が、表示値の±5%の範囲内で得られ得ると見込める。
【0017】
驚くべきことに、次のステップ:
(a)タンパク質、多糖、それらの塩、およびそれらの混合物から選択されるバイオポリマーを水溶液中に溶解するステップ;
(b)炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾されたバイオポリマーを含有する溶液を得るために、該バイオポリマーを、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および/または窒素-窒素三重結合を含有する化学修飾剤と反応させるステップ;
(c)炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾されたバイオポリマーの沈殿物を含有する懸濁液を得るために、ステップ(c)で得られた溶液を、有機溶媒に添加するステップ;
(d)沈殿物およびろ液を得るために、ステップ(c)で得られた懸濁液をろ過するステップ;
(e)有機溶媒を回収するために、ろ液を蒸留するステップ;ならびに
(f)炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾されたバイオポリマーを得るために、沈殿物を乾燥させるステップ、
を含む方法は、透析を介して精製された公知の架橋性バイオポリマーと比べて改善された機械強度特性を示す、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾されたバイオポリマーを提供し、化学修飾バイオポリマーの精製および乾燥に要する時間の減少により、処理時間を著しく短縮し、拡張可能であり、かつ環境に優しいことが見出された。本明細書で請求および記載される製造方法は、化学修飾されたバイオポリマーの精製方法として、透析の代わりに有機溶媒中での沈殿を使用することで、化学修飾バイオポリマーの精製および乾燥に要する時間を劇的に減少させる。
【0018】
本明細書で使用する用語「バイオポリマー」は、タンパク質、多糖、タンパク質塩、多糖塩、またはそれらの混合物に関する。本明細書に記載されるバイオポリマーは、少なくとも1つの遊離アミン基、ならびに/またはそのモノマー単位(アミノ酸、単糖)の大半上に存在するヒドロキシル基および/もしくはカルボン酸基を含有する。本明細書に記載されるバイオポリマーは、生存生物(living organism)により産生され得るか、またはその派生体(derivative)であり得る。したがって、バイオポリマーは、天然に見出されるポリマーと同じであり得るか(すなわち、生存生物もしくは以前の生存生物(previously living organism)により産生された天然バイオポリマー、例えば、ゼラチンなど)、またはその派生体であり得る(すなわち、生存生物もしくは以前の生存生物により産生された天然バイオポリマーに由来し、派生体化は、天然からバイオポリマーを単離するために使用する合成方法に起因する)。
【0019】
用語「炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および/または窒素-窒素三重結合を含有する化学修飾剤」、「化学修飾剤(chemical modifying agent)」、ならびに「化学修飾剤(chemical modifier)」は、本特許出願では交換可能に使用され、バイオポリマーのアミン基および/またはヒドロキシル基および/またはカルボン酸基と反応し得る1つの部分と、炭素-炭素二重結合(-C=C-)、炭素-炭素三重結合(-C≡C-)、および/または窒素-窒素三重結合(-N≡N-)を含有する第2の部分とを含む分子または化合物に関する。本明細書で使用する「部分」は、ある特定の機能的または構造的な特徴を有する、分子または化合物の一部に関する。例えば、部分は、化合物の官能基または反応性部分を含み得る。
【0020】
本明細書で使用する用語「炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾されたバイオポリマー」は、遊離アミン基および/またはバイオポリマー上に存在するヒドロキシル基および/またはカルボン酸基の一部が、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および/または窒素-窒素三重結合を含有する部分で置換されるように、本明細書に記載される化学修飾剤と反応させた、本明細書に記載されるバイオポリマーに関する。表現「化学修飾バイオポリマー」および「炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾されたバイオポリマー」は、本特許出願では交換可能に使用される。バイオポリマー上での、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および/または窒素-窒素三重結合の導入は、当該技術分野では周知である方法、例えば、チオール-エン反応、チオール-イン反応、ならびにひずみ促進型アジド-アルキン付加環化、およびディールス・アルダー付加環化を含む付加環化などを介した、前記バイオポリマーの架橋にとって特に有用である。本明細書で使用する用語の架橋は、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾されたバイオポリマーの異なる部分の、共有結合を介した架橋、または異なるバイオポリマーの共有結合を介した架橋に関し、その異なるバイオポリマーの少なくとも一方が、本明細書に記載される、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾されたバイオポリマーである。架橋は、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾されたバイオポリマー上に存在する炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および/または窒素-窒素三重結合の、適切な官能基、例えば、チオール基、アジド基、および二重結合などとの反応を含む。
【0021】
本発明による好ましい一実施形態は、ステップ(f)の後に行われるステップ(g):
(g)前記バイオポリマーの粒子を準備するために、ステップ(f)で得られたバイオポリマーを微細化(size reduction)法にさらすステップ
をさらに含む、本明細書で請求および記載される方法を対象とする。本明細書で請求および記載される製造方法により準備される粒子は、透析を介して精製された公知の架橋性バイオポリマーよりも、著しく小さいスペースに保管され得て、かつ容易に取扱いできる。
【0022】
好ましくは、本明細書で請求および記載される製造方法が、ステップ(d)の後に行われるステップ(h):
炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾されたバイオポリマーを含有する溶液を得るために、沈殿物を水中に溶解するステップ、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾されたバイオポリマーの沈殿物を含有する懸濁液を得るために、前記溶液を、有機溶媒に添加するステップ、ならびに沈殿物およびろ液を得るために、前記懸濁液をろ過するステップ
をさらに含む。好ましくは、ステップ(h)を少なくとも2回行う。好ましくは、ステップ(h)を、室温から60℃の間の温度で行う。
【0023】
本明細書で請求および記載される製造方法のステップ(a)では、本明細書に記載されるバイオポリマーを水溶液中に溶解する。溶解するバイオポリマーの溶解性に応じて、ステップ(a)は、室温から60℃の間の温度で行われ得る。例えば、多糖塩およびアルブミンなどのバイオポリマーは、室温で水溶液中に溶解可能であり、例えば、ゼラチンなどのバイオポリマーは、約40℃から約60℃の間の温度で水溶液中に溶解可能である。好ましくは、水溶液中のバイオポリマーの濃度は、約1wt%/volから約20wt%/volの間、好ましくは約1wt%/vol、および約10wt%/volである。
【0024】
ステップ(a)で使用する水溶液は、好ましくは酸性水溶液、塩基性水溶液、または水性緩衝液である。適切な酸性水溶液の例は、好ましくは約1~3wt%/volの濃度を有する酢酸水溶液、好ましくは約1~3wt%/volの濃度を有するギ酸水溶液、およびそれらの混合物を含むがそれらに限定されない。適切な塩基性水溶液の例は、好ましくは約5~15wt%/volの濃度を有する水酸化ナトリウム水溶液、好ましくは約5~15wt%/volの濃度を有する水酸化リチウム水溶液、およびそれらの混合物を含むがそれらに限定されない。適切な水性緩衝液の例は、炭酸-重炭酸緩衝液、好ましくは0.01~0.5Mの炭酸-重炭酸緩衝液、リン酸緩衝液、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、およびそれらの混合物を含むがそれらに限定されない。水溶液は、好ましくは有機溶媒を含まない。
【0025】
好ましい一実施形態では、バイオポリマーが、タンパク質またはその塩である。適切なタンパク質の例は、ゼラチン、コラーゲン、エラスチン、絹フィブロイン、アルブミン、およびそれらの混合物を含むがそれらに限定されない。好ましくは、タンパク質がゼラチンである。ステップ(a)で溶解させたバイオポリマーが、タンパク質またはその塩である場合、本明細書で請求および記載される製造方法のステップ(b)が、好ましくは、次のステップ(b-1)~(b-4):
(b-1)ステップ(a)で得られた溶液のpHを、約2~約10の間の値に調整するステップ;
(b-2)ステップ(b-1)で得られた溶液に化学修飾剤を添加するステップ;
(b-3)室温から60℃の間の温度で、約0.5~約5時間にわたり撹拌するステップ;ならびに
(b-4)好ましくは、溶液のpHを、約6.5~約7.5の間の値に調整することにより反応を停止させるステップ
を含有する。
【0026】
したがって、本発明による好ましい一実施形態は、次のステップ:
(a)タンパク質、その塩、またはそれらの混合物を、好ましくは有機溶媒を含まない、本明細書に定義される水溶液中に溶解するステップ;
(b-1)ステップ(a)で得られた溶液のpHを、約2~約10の間の値に調整するステップ;
(b-2)ステップ(b-1)で得られた溶液に化学修飾剤を添加するステップ;
(b-3)室温から60℃の間の温度で、約0.5~約5時間にわたり撹拌するステップ;
(b-4)好ましくは、溶液のpHを、約6.5~約7.5の間の値に調整することにより反応を停止させるステップ;
(c)炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾されたタンパク質の沈殿物を含有する懸濁液を得るために、ステップ(c)で得られた溶液を、有機溶媒に添加するステップ;
(d)沈殿物およびろ液を得るために、ステップ(c)で得られた懸濁液をろ過するステップ;
(e)有機溶媒を回収するために、ろ液を蒸留するステップ;
(f)炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾されたタンパク質を得るために、沈殿物を乾燥させるステップ;
場合により、ステップ(g)前記タンパク質の粒子を準備するために、ステップ(f)で得られたタンパク質を微細化法にさらすステップ
を含む、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾されたタンパク質、好ましくは炭素-炭素二重結合で化学修飾されたタンパク質の製造方法に関する。好ましくは、製造方法がさらに、好ましくは少なくとも2回行われるステップ(h)を含む。
【0027】
溶液のpHを、約2~約10の間の適切な値に調整して、タンパク質上に存在するヒドロキシル基および/またはアミノ基および/またはカルボン酸基が化学修飾剤と反応するようにするためには、化学修飾されるタンパク質の、および使用する化学修飾剤の構造を考慮に入れることが、当業者の一般的知識の範囲内である。例えば、修飾するバイオポリマーとしてゼラチンを使用する場合、溶液のpHは、ステップ(b-1)において、約7~約10の間の値に調整すべきである。
【0028】
好ましくは、ステップ(b-4)において、溶液のpHを、約6.5~約7.5の間の値に調整することにより、反応を停止させる。それは、本明細書に記載される塩基性水溶液、本明細書に記載される酸性水溶液、または本明細書に記載される水性緩衝液を用いて達成され得る。
【0029】
さらなる好ましい一実施形態では、バイオポリマーが、多糖、またはその塩である。適切な多糖の例は、アルギン酸、ジェランガム、ペクチン、ポリガラクツロン酸、カラギーナン、ヒアルロン酸、キトサン、コンドロイチン硫酸、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、グリコサミノグリカン、およびそれらの混合物を含むがそれらに限定されない。多糖塩は、好ましくは、多糖ナトリウム塩、多糖カリウム塩、多糖アンモニウム塩、およびそれらの混合物から選択される。さらに好ましい一実施形態では、バイオポリマーが、好ましくは、アルギン酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、ナトリウムジェランガム、ナトリウムペクチネート、ポリガラクツロン酸ナトリウム、カラギーナンナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、およびそれらの混合物から選択される、さらに好ましくは、アルギン酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、およびそれらの混合物から選択される多糖塩である。
【0030】
ステップ(a)で溶解させたバイオポリマーが、多糖またはその塩である場合、本明細書で請求および記載される製造方法のステップ(b)が、好ましくは、次のステップ(b-5)および(b-6):
(b-5)ステップ(a)で得られた溶液に化学修飾剤を添加するステップ;および
(b-6)少なくとも3時間、好ましくは少なくとも8時間、さらに好ましくは少なくとも12時間、例えば、24時間など、好ましくは室温で撹拌するステップ
を含有する。したがって、本発明による好ましい一実施形態は、次のステップ:
(a)多糖、その塩、またはそれらの混合物を、好ましくは有機溶媒を含まない、本明細書に定義される水溶液中に溶解するステップ;
(b-5)ステップ(a)で得られた溶液に化学修飾剤を添加するステップ;
(b-6)少なくとも3時間、好ましくは少なくとも8時間、さらに好ましくは少なくとも12時間、例えば、24時間など、好ましくは室温で撹拌するステップ;
(c)炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾された多糖の沈殿物を含有する懸濁液を得るために、ステップ(c)で得られた溶液を、有機溶媒に添加するステップ;
(d)沈殿物およびろ液を得るために、ステップ(c)で得られた懸濁液をろ過するステップ;
(e)有機溶媒を回収するために、ろ液を蒸留するステップ;
(f)炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾された多糖を得るために、沈殿物を乾燥させるステップ;
場合により、(g)前記多糖の粒子を準備するために、ステップ(f)で得られた多糖を微細化法にさらすステップ、
を含む、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾された多糖、好ましくは炭素-炭素二重結合で化学修飾された多糖の製造方法に関する。好ましくは、製造方法がさらに、好ましくは少なくとも2回行われるステップ(h)を含む。
【0031】
好ましい一実施形態では、ステップ(a)で溶解させたバイオポリマーが、少なくとも2つのバイオポリマー、例えば、少なくとも2つの異なるタンパク質、少なくとも2つの異なる多糖、またはタンパク質と多糖との混合物を含む。
【0032】
本明細書で請求および記載される製造方法のステップ(b)では、遊離アミン基、および/またはバイオポリマー上に存在するヒドロキシル基および/またはカルボン酸基の一部が、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および/または窒素-窒素三重結合を含有する部分で置換されるように、バイオポリマーを化学修飾剤と反応させる。本明細書で使用する用語「炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および/または窒素-窒素三重結合を含有する化学修飾剤」は、バイオポリマーのアミン基および/またはヒドロキシル基および/またはカルボン酸基と反応し得る1つの部分と、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および/または窒素-窒素三重結合を含有する第2の部分とを含む分子または化合物に関する。用語「炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および/または窒素-窒素三重結合を含有する化学修飾剤」、「化学修飾剤(chemical modifying agent)」、ならびに「化学修飾剤(chemical modifier)」は、本特許出願では交換可能に使用される。本明細書で使用する「部分」は、ある特定の機能的または構造的な特徴を有する、分子または化合物の一部に関する。例えば、部分は、化合物の官能基または反応性部分を含み得る。好ましくは、化学修飾剤が、(メタ)アクリル酸無水物、グリシジル(メタ)アクリレート、カルブ酸無水物、ジベンゾシクロオクチン-N-ヒドロキシスクシンイミジルエステル、ジベンゾシクロオクチン-アミン、(1R,8S,9s)-ビシクロ[6.1.0]ノン-4-イン-9-イルメタノール、およびそれらの混合物から選択される。さらに好ましくは、化学修飾剤が、(メタ)アクリル酸無水物、グリシジル(メタ)アクリレート、カルブ酸無水物、およびそれらの混合物から選択される。
【0033】
本明細書で請求および記載される製造方法のステップ(c)では、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾されたバイオポリマーの沈殿物を含有する懸濁液を形成するために、ステップ(c)で得られた溶液を、有機溶媒に添加する。有機溶媒は、好ましくは、アルコール、例えば、C1~C4アルコールなど、アルコール含有組成物、例えば、C1~C4アルコール含有組成物、ケトン、エステル、エーテル、クロロホルム、およびそれらの混合物から選択される。C1~C4アルコールの例は、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、およびtert-ブタノールを含む。適切なケトンの例は、アセトンおよびメチルエチルケトンを含む。適切なエステルの例は、酢酸エチルを含む。有機溶媒は、さらに好ましくは、本明細書に定義されるアルコール、本明細書に定義されるアルコール含有組成物、および本明細書に定義されるケトンから選択され、さらに好ましくは、エタノール、プロパノールおよびイソプロパノール、メタノール変性アルコール(工業用変性アルコール、変性アルコール)、アセトン、メチルエチルケトン、ならびにそれらの混合物から選択される。最も好ましい実施形態では、有機溶媒が、エタノールおよび変性アルコールから選択される。ステップ(c)は、好ましくは室温で行う。さらに、有機溶媒の体積が、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾されたバイオポリマーを含有する溶液の体積よりも、少なくとも3倍である、さらに好ましくは少なくとも8倍である、さらに好ましくは10倍であることが好ましい。
【0034】
得られた懸濁液は、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾されたバイオポリマーの沈殿物とろ液とを分離するためにろ過する。得られたろ液は、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾されたバイオポリマーの沈殿に使用した有機溶媒をリサイクルするためにさらに蒸留し、その有機溶媒は、さらなる沈殿ステップにおいて再利用する。
【0035】
本明細書で請求および記載される製造方法のステップ(f)では、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾されたバイオポリマーを準備するために、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾されたバイオポリマーの沈殿物を乾燥させる。ステップ(f)において使用する乾燥方法は、好ましくは、トレイ乾燥、凍結乾燥、コンベヤ乾燥、回転ドラム乾燥、真空乾燥、およびそれらの組合せから選択され、さらに好ましくは凍結乾燥である。
【0036】
本明細書で請求および記載される製造方法のステップ(g)では、保管(精製方法として透析を使用する製造方法と比べて小さい保管スペース)および取扱いに特に有利である、前記バイオポリマーの粒子を準備するために、ステップ(f)で得られたバイオポリマーを微細化法にさらす。好ましくは、微細化法が、研削、粉砕、ミリング、およびそれらの組合せから選択される。
【0037】
本発明による第2の態様は、本明細書で請求および記載される方法により得られる、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基、好ましくは炭素-炭素二重結合で化学修飾された、好ましくは粒子であるバイオポリマーを対象とする。本明細書で請求および記載される粒子は、透析を介して精製された公知の架橋性バイオポリマーと比べて著しく小さいスペースに保管され得る。さらに、本明細書で請求および記載されるバイオポリマーは、透析を介して精製された公知の化学修飾バイオポリマーよりも優れた機械強度特性を示す。
【0038】
本発明による第3の態様は、次のステップ:
i)本明細書で請求および記載されるバイオポリマーを溶液中に溶解するステップ、および場合により、前記溶液にラジカル開始剤を添加するステップ;ならびに
ii)炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で修飾されたバイオポリマーを架橋するステップ
を含む方法により得られるハイドロゲルを対象とする。
【0039】
好ましくは、ステップi)において使用する溶液が、リン酸緩衝液、RPMI1640培地(Sigma Aldrich社から市販入手可能)、HamのF-10栄養混合物(ThermoFischer社から市販入手可能)、HamのF-12栄養混合物(ThermoFischer社から市販入手可能)、最少必須培地(MEM)(ThermoFischer社から市販入手可能)、アルファ改変イーグル培地(a-MEM)(ThermoFischer社から市販入手可能)、およびダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(ThermoFischer社から市販入手可能)から選択される。炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾されたバイオポリマーの性質に応じて、ステップi)は、室温から60℃の間の温度で行われ得る。ラジカル開始剤、例えば、熱ラジカル開始剤(例えば、過硫酸アンモニウム)またはラジカル光開始剤(radical photoinitiator)(例えば、イルガキュア(Irgacure)2959(2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン、Sigma Aldrich社から市販入手可能)、フェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸リチウム)、および/またはさらなるバイオポリマー、および/または細胞、例えば、初代細胞(間葉系幹細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞)、または細胞株(例えば、3T3細胞、HeLa細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞))などを、ステップi)において、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾されたバイオポリマーを含有する溶液に添加してもよい。好ましくは、ステップi)において得られる溶液が、約6.5~約7.5の間のpH値を有する。ステップii)において、溶液の加熱により、またはUV-Vis光もしくは電子線での照射による溶液の照射により、バイオポリマーを架橋する。
【0040】
ハイドロゲルの製造方法はさらに、ステップiii)およびステップiv):
iii)ステップii)で得られたハイドロゲルを溶液で洗浄するステップ;
iv)ステップiii)で得られたハイドロゲルを水和させるステップ
を含んでもよい。
【0041】
好ましくは、ステップiii)において使用する溶液が、リン酸緩衝液、RPMI1640培地、HamのF-10栄養混合物、HamのF-12栄養混合物、最少必須培地(MEM)、アルファ改変イーグル培地(a-MEM)、およびダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)から選択される。
【0042】
ハイドロゲルは、微粒子として得てもよい。
【実施例】
【0043】
本発明をさらに例証するために、以下の実施例を提供する。これらの実施例は、本発明の範囲を限定する意図なく提供される。
【0044】
修飾架橋性バイオポリマー(すなわち、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、および窒素-窒素三重結合から選択される官能基で化学修飾されたバイオポリマー)の特定の一製造方法を、以下に概説し、
図1にまとめる。
バイオポリマーを溶媒または緩衝液中に溶解することにより、1~20%wt/volのバイオポリマーを準備する(M-01)。最適な反応条件を得るためには、pH調整が必要であり得る。バイオポリマーの溶解後、化学修飾剤(すなわち、メタクリル酸無水物、グリシジルメタクリレート、カルブ酸無水物等)を添加する(R-01)。反応後、酸または塩基の添加によるpH改変によりプロセスを停止できる(M-02)。M-01、R-01、およびM-02は、同じ容器で行われ得ること、または連続プロセスのために直列し得ることへの言及が特筆に値する。その後、反応液は、大量の溶媒中にその溶液を添加することにより容易に沈殿する(S-01、沈殿溶媒の体積:8~10x反応液の量を使用)。ろ過(F-01)により、沈殿物を溶媒から除去でき、40℃超の脱イオン水に溶解可能である(M-03)。得られた溶液を再び沈殿させ、このプロセスを3x繰り返し、反応の、不要な副産物および未反応成分の完全な除去を確保する。大量の溶媒を含有するろ液は、沈殿ステップで再利用するために、蒸留(B-01)を使用して回収可能である。沈殿した修飾バイオポリマーをろ過して、残りの過剰溶媒を除去してから真空乾燥または凍結乾燥する(D-01)。得られた生成物は、一塊の固形物であり、乾燥および細砕され得て、その後に、修飾バイオポリマーは、使用までは、室温または-20℃の冷凍室で保管する。
【0045】
実施例1.ゼラチンメタクリレート(GelMA)の製造および特徴づけ
ゼラチンを、60℃および700rpmにおいて、0.25Mの炭酸-重炭酸緩衝液中に溶解することにより、10%wt/volのゼラチンを調製した。完全に溶解したら、Shirahamaら、Synthesis. Sci Rep 6, 31036 (2016)の研究が提案するように、5.0NのNaOHを使用して溶液のpHを9.0に調整した。撹拌しながら、メタクリル酸無水物を、0.2mL/グラム(ゼラチン)の割合でゆっくりと添加した。無光条件(light-free condition)および最低限に抑えた空気取込み環境において、狭口反応容器をアルミニウム箔で覆って反応を維持した。60℃での2hの撹拌後、反応混合物を室温に冷却してから、5.0NのNaOHまたは1MのNaHCO3の添加により溶液をpH7.4へと中和することにより、反応を停止させた。反応生成物を、従来の透析法(方法B)または沈殿法(方法A)のいずれか一方を介して処理し、それについて、以下の項で考察する。
【0046】
A.)ゼラチンメタクリレート(GelMA)の沈殿法によるダウンストリーム処理
反応液は、大量の変性アルコール中にその溶液を滴下することにより容易に沈殿した(沈殿溶媒の体積:10x反応液の量)。ろ過および遠心分離を介して、溶媒から沈殿物を除去し、60℃および700rpmにおいて、脱イオン水に溶解した。得られた溶液を再び沈殿させ、このプロセスを3x繰り返し、反応の、不要な副産物および未反応成分の完全な除去を確保した。沈殿したGelMAを圧搾して、残りの過剰溶媒を除去してから-50℃において24hにわたり凍結乾燥した。得られた生成物は、一塊の固形物であり、次いで、コーヒー挽きを使用して、その凍結乾燥GelMAを粉にして、使用までは、-20℃の冷凍室中で保管した。これを沈殿GelMA(PR)と呼ぶ。
【0047】
B.ゼラチンメタクリレート(GelMA)の、一般的に使用される透析法によるダウンストリーム処理
反応器に由来する流出液を、12~14kDaの値の分画分子量(MWCO)を有する透析バッグに移し、脱イオン水を含む撹拌槽中で40℃において7日間にわたり懸濁した。透析処理も同じく、無光および最低限に抑えた空気取込み環境に保ち、透析水を毎日交換した。無水条件でのGelMAを得るために、透析したGelMA溶液を、液体窒素中での浸漬によりスナップフリーズし、-50℃において7日間にわたり凍結乾燥して過剰水を除去した。次いで得られた生成物は、白色泡状GelMAであり、使用までは、-20℃の冷凍室中で保管した。この生成物は、透析GelMA(DI)と呼ぶ。
【0048】
C.合成GelMAの特徴づけ
形態学的解析
合成GelMAを、環境制御型走査電子顕微鏡(ESEM、FEI Quanta 650)を使用して高真空モードで撮像した。乾燥試料を、カーボンタブ付きのアルミニウム製スタブ上に載せて試料を固定した。使用した加速電圧は10kVであり、撮像には、いくつかの倍率モードを使用して、合成GelMAの代表的画像として少なくとも3つの異なる位置を含めた。
【0049】
置換度アッセイ
ゼラチン中のメタクリル化(methacrylation)度の決定には、TNBS法を使用した。簡単に言うと、試料15mgを0.01MのTNBSを含有する4%wt/volのNaHCO3 2mL中に溶解し、40℃および125rpmにおいて3hにわたり反応させた。6.0NのHCl 3mLを溶液に添加し、温度をT=80℃へと上昇させて、1hそのままにして反応させた。次いで、反応バイアルを水浴に浸漬して溶液を室温へと冷却してから、蒸留水5mLの添加により溶液をさらに希釈した。次いで、96ウェルプレートリーダー(Infinite Pro、Tecan社)を使用して345nmで吸光度を測定し、3つの独立した三つ組試料から置換度(DS)を次のように計算した:
【0050】
【0051】
ゲル浸透クロマトグラフィーによる分子量分布
GelMAの分子量分布を解析するために、ゲル浸透クロマトグラフィーを使用した。ゼラチンメタクリレートを2.5mg/mLの濃度で組織培養水に溶解して溶液を調製した。RID-10A示差屈折率検出器で適合させた島津UPLCシステムを使用して、水性GPCを行った。溶離液はDPBSであり、35℃において1mL/分の流速で使用した。装置は、3つのPLアクアゲル-OHカラムを装備した。カラムの較正にはPEG/PEO標準(EasiVial)を使用した。次いで、クロマトグラムデータから、沈殿GelMAおよび透析GelMAの、数平均分子量および加重平均分子量ならびに多分散性を計算した。
【0052】
熱重量分析
緩衝液およびゼラチンに由来する無機塩からなる固形分を特定するために、熱重量分析を使用して、GelMA DIおよびGelMA PRの試料を分析した。各試料1グラムを金属皿に載せ、次いで、Mettler熱分析装置において、99.5%酸素雰囲気中、20℃/分の加熱速度で周囲温度から1000℃の間で加熱した。Mettler熱分析装置ソフトウェアを使用して、重量減少および温度の連続記録を解析し、1000℃で残存する無機塩を、終了点での%質量から特定した。
【0053】
実施例2.GelMAハイドロゲルの製造および特徴づけ
DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地、Sigma Aldrich社から購入)を、イルガキュア2959(2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン、Sigma Aldrich社から購入)と、0.5% wt/volの濃度であらかじめ混合し、混合溶液を一晩インキュベータに放置することにより、溶解培地を調製した。5%または10%wt/volの合成GelMAを、次いで、T=50℃および700rpmでの磁気撹拌により、光開始剤を含むDMEM中に溶解した。完全な溶解後、溶液を水浴に10分間浸漬して室温へと冷却してから、1.0MのHClを使用してそのpHを約7.4に調整した。冷却およびpH調整した溶液を、円筒形テフロン(登録商標)モールド(φ=12mm)中に250μLの体積でピペッティングし、15WのUVランプにより、365nmの波長で5分間にわたり照射した。次いで、架橋GelMAハイドロゲルを、PBSで3x洗浄し、微量の光開始剤を除去してから、37℃および5%CO2のインキュベータ中で24時間にわたり、抗生物質/抗真菌剤溶液を含有するDMEM 3mL中に浸漬して、試料の完全水和を確保した。
【0054】
GelMAハイドロゲルの特徴づけ
圧縮弾性率の特定
膨潤したハイドロゲルの圧縮弾性率の特定には、試料を培養培地から取り出し、ティッシュペーパーを使用して残液をブロットし、ノギスを使用して寸法を測定した。次いで、ハイドロゲルを、テクスチャアナライザ(Stable Microsystems社)に載せ、32mmのプローブ径および5kgのロードセルを用いた。機械的特性試験には傾斜変位速度0.05mm/秒および100%ひずみを使用し、圧縮弾性率は、0~10%ひずみ範囲内の線形領域上で計算した。一組の合成GelMAから、2つの独立した実験を三つ組で行った。
【0055】
レオロジー解析
GelMAハイドロゲルのレオロジー測定は、Physica MCR 301レオメータ(Anton Paar社、UK)を使用して行った。25mmの円筒形水和GelMAハイドロゲル試料をカットし、ギャップ距離1mmおよびプレート直径25mmのレオメータに取り付けた。ひずみスイープ試験には、一定周波数1Hzおよび温度T=37℃で0.1~100%まで貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G’’)を解析した;時間スイープ試験は、一定周波数比(constant frequency rate)1Hz、0.5%ひずみ、およびT=37℃で、300秒間にわたり行った。温度スイープ試験範囲は、一定周波数比1Hzおよび0.5%ひずみでの2℃/分の加熱速度において、25~50℃であった。一組の合成GelMAから、2つの独立した実験を三つ組で行った。
【0056】
膨潤率評価
圧縮弾性率の特定に対するハイドロゲルの調製と同様に、架橋GelMAハイドロゲルを、インキュベータにおいて、6ウェルプレート中のDMEM 3mLに24hにわたり浸した。次いで、膨潤したハイドロゲルを採取し、過剰水を除去して、ビジューバイアル(bijou)で重さを量った。次いで、ハイドロゲルを、液体窒素中での浸漬によりスナップフリーズし、-50℃において3日間にわたり凍結乾燥して水の完全な除去を確保した。凍結乾燥させたハイドロゲルの重量は、三つ組で記録し、膨潤率を次のように計算した:
【0057】
【0058】
細胞培養
樹立された研究室細胞株NIH 3T3を得て、10%ウシ胎児血清、1% L-グルタミン、および1%抗生物質/抗真菌剤ストック溶液を含有するDMEMを使用して、T75フラスコ中で培養した。細胞を、80~90%のコンフルエンスで3日ごとに継代し、フラスコから培地を吸引し、PBSで洗浄し、5分間トリプシン処理して、培養培地を1:5の比率で添加して(5部の培養培地中の1部のトリプシン)、反応を停止させ、200gで5分間、遠心分離し、体積1mLの培地に懸濁した。継代比率は、1:4に維持し、実験で使用した継代数は44~46であった。
【0059】
細胞生存率アッセイ
5~10%wt/volのGelMAを、0.5%wt/volのイルガキュア2959を含有するDMEM中に混合し、インキュベータ中で、チューブローラを使用して撹拌しながら、5hにわたり保管した。完全な溶解後、細胞培養フード中で0.2μmシリンジフィルタを使用して、溶液をろ過滅菌してから、一晩インキュベータに保管した。次いで、NIH 3T3細胞をトリプシン処理してから、およそ2x106細胞/mLの濃度でGelMA溶液中に懸濁し、細胞懸濁液10μLを、24ウェルプレートにピペッティングした。次いで、溶液を、320~500nmの波長のOmnicure S2000 UVランプに6.9mW/cm2の強度で15秒曝露し、架橋したGelMAハイドロゲルを、10%ウシ胎児血清および5%抗生物質/抗真菌剤ストック溶液を補足したDMEM中に4日間にわたり維持した。細胞生存率は、1日目および4日目に、カルセインAM/エチジウムホモダイマーLive-Dead染色キット(Invitrogen社)を使用して、メーカ説明書に従って定量した。
【0060】
統計解析
実験の結果は、一元配置分散分析を使用して、p<0.05の統計的有意性基準で統計解析した。平均値の差異を特定するために、テューキーの事後検定を行った。少なくとも三つ組試料および50個以上の細胞を解析し、すべてのエラーバーは、標準偏差を表す。すべての統計計算を行うために、GraphPad Prism 7.0.3を使用した。
【0061】
結果
透析法および沈殿法の生成物の形態は、シート状構造から粉末状と明らかに異なる。沈殿によると高密度生成物が得られるため、小容量コンテナに容易に保管できるのに対して、透析GelMAは、広々とした保管条件を必要とする。反応プロセス後、GelMAを精製する従来のやり方は透析を使用することであり、その場合、反応生成物を、膜上に注ぎ、一定温度で数日間にわたり水中で懸濁する。不要な反応生成物、例えば、メタクリル酸など、および未反応のメタクリル酸無水物は、使用した緩衝塩と共に、水で懸濁すると膜から拡散し始めるのに対して、GelMAは膜中に保持される。毎日続く水の交換が、膜内部の試料を精製し、水中に溶解したGelMAのみが残る。水は、最終的に溶液の凍結乾燥により除去され、処理後に泡状構造を残す(
図2a)。透析後の生成物の含水量に応じて、透析は通常7日間、および凍結乾燥は4~7日間かかり(Nicholら、Biomaterials 31 (2010) 5536~5544ページ)、約11~14日の総精製時間を有する。この方法によると、含量が少なく大容量の固体が処理され、精製は、数グラムの凍結乾燥GelMAに限定される。
【0062】
沈殿法では、不要な反応生成物およびGelMAの分離が、相分離に起因し、即座に起こる。反応生成物を、大量のアルコール、例えば、IMS(工業用メチル化溶媒(industrial methylated solvent))またはエタノールにゆっくりと注ぐと、メタクリル酸およびメタクリル酸無水物は、その大きい溶解度ゆえ、アルコールへと拡散するのに対して、GelMAはアルコールに対して不溶性であり沈殿する。熱重量分析を使用した固形分の評価により示唆されるように(
図3)、反応において使用した緩衝塩は、除去されたようであり(アルコール中での懸濁により)、透析GelMAの塩分含有量(7.07±0.28%)と沈殿GelMAの塩分含有量(7.18±0.59%)との間で有意な差異はなかった(p=0.8328、n=2)。不要な反応生成物は、沈殿GelMAと共沈殿し得るため、水での再溶解とそれに続く沈殿が、それらの副産物の著しい除去を確保し得る。沈殿GelMAは、ろ過および遠心分離により、アルコール懸濁液から除去され得て、コンパクトな固体塊を残し、残った溶媒は、真空または凍結乾燥により簡単に除去される(
図2b)。沈殿の処理時間は、数時間しかかからず、固体の乾燥が、処理時間の大半を占める(12~24h)。製造された生成物は、コンパクトかつ粉末であり、保管にあまり容量を要せず、GelMA精製の透析生成物と比べて取扱い性を高め、処理全体にかかる時間の著しい部分を削減した。この方法はさらに、容易にスケールアップ可能であり、溶媒(アルコール)は、再利用に向けて蒸留により回収でき、全体的な経済性を高める。合成GelMAの置換度は、透析法および沈殿法で、それぞれ、97.77%および93.28%であり(n=3、4つのレプリケート)、DI GelMAおよびPR GelMAの両方の置換度は、有意な差異を示さない(t検定、p=0.0623)。
【0063】
GelMAの分子量
メーカが公開した、175~225ブルームのブタゼラチンの分子量は、40,000~50,000に及び、沈殿法と対照的に透析法での処理後には、分子量の相当な低下が認められる(
図4を参照)。処理条件に起因し、ゼラチンのメタクリル化により、分子量の低下が予想されるが、水溶液中でのGelMAの、高温での長時間の懸濁をさらに考慮すると、透析中にゼラチンの加水分解が起こるため、ペプチド結合の切断が分子量をさらに低下させる(van den Bosch & Gielens、Int J Biol Macromol. 2003、32(3-5):129~38ページ)。沈殿法は、透析の必要性を除去するため、分子量の低下を最低限に抑え、メタクリル化が、分子量低下の唯一の主要因である。175ブルームのブタゼラチンに対する約40kDaのメーカの分子量仕様(Sigma-Aldrich社)から、透析は、沈殿GelMAの加重平均分子量32.93±0.35(17.67%の低下)と比べて、GelMA加重平均分子量を18.898±0.13kDaへと低下させた(52.76%の低下)。GelMAの分子量は、ハイドロゲルの全体的機械強度に影響を及ぼすことが、以下の考察で明示される。
【0064】
圧縮機械強度および膨潤率
ポリマーの固有特性の1つは、機械強度が、その分子量と正比例することであり、ゼラチンは、実際に、ブルーム数に関して格付けされる。ブルーム数が大きいほど、その分子量が大きく、ゲルの剛性が高くなる。先行する結果は、GelMAへの変換に関与するプロセスに起因する、分子量の相当な低下を示し、分子量低下の効果は、
図5bで鮮明に認められる。DI GelMAとPR GelMAとの間ではヤング率の大幅な低下が存在し、それが実際に、沈殿と比べた場合の透析による相当な分子量の低下を反映した。5%のDIおよびPRに対する測定値は、それぞれ、0.7±0.5および11.23±1.59kPa、ならびに10%のDIおよびPRでは、5.43±1.02および19.03±5.5kPaである。
図5aの顕微鏡写真では、物理的強度が明らかに認められる。ゲル乾燥質量に吸収される水の質量の比率として定義される膨潤率は、5%DIが最高であり、5%PR、10%のDIおよびPRでは有意な差異は存在しなかった(
図5c)。沈殿GelMAでは、ゼラチンの分子量の部分的な維持に起因し、より高い機械強度が維持され得るため、特定の3D培養条件に向けて、ヤング率の範囲を適合させるためにかなり有用である。
【0065】
GelMAハイドロゲルのレオロジー解析
合成GelMAの線形粘弾性領域(LVE)を評価するために、ひずみスイープを行い、すべての試料は、0.5%~10%のひずみレベルまで線形に振る舞う(
図6)。LVEを確認するために、GelMAの貯蔵弾性率および損失弾性率を、周波数スイープにより特定した(
図7)。貯蔵弾性率に関して得られた実験値は、5%DI-14.73±7.96Pa、5%PR-135.04±5.95Pa、10%DI-734.44±146.85Pa、10%PR-1562.2±843.07Paであり、損失弾性率は、5%DI-0.87±0.59Pa、5%PR-3.37±0.37Pa、10%DI-32.04±26.14Pa、10%PR-43.23±10.57Paであった。貯蔵弾性率および損失弾性率は、5%のPRおよびDIと比べて10%PRでは著しく高く、試料の分子量およびポリマー濃度に起因する高い架橋密度を示す。時間スイープおよび温度スイープ(
図8および
図9)も同じく、GelMAの粘弾性特性の均質性および安定性を示す。損失弾性率の変動は、疑似定常状態傾向にあることが明らかであるものの、ハイドロゲルの細孔を横切る流体輸送勾配に起因する可能性がある。T=37℃での安定性が、培養条件には欠かせず、細胞培養の時間枠にわたる均一初期条件を確保する。
【0066】
ハイドロゲルの生物学的特徴づけ
封入後のすべての足場上での細胞生存率は、1日目以降、すべて85%超であり、足場との接触後の非常に低い細胞毒性または細胞無毒性を示す。沈殿GelMAに注目し、透析GelMAの細胞生存率と沈殿GelMAの細胞生存率との間で有意な差異が存在しないことを考慮すると、ゼラチンのメタクリル化から生じる副産物、すなわち、メタクリル酸および未反応のメタクリル酸無水物は、実質的に除去されているという以前の結果を支持する(
図10e)。NIH 3T3の円形形態が封入の1日目に認められるのに対して、4日目には、細胞突起物が明らかであり、細胞付着および増殖を示す。定性的には、低濃度のGelMA(5%のDIおよびPR)ではより長い突起物が認められ、いくつかの論文で証明されたように、足場の機械強度に起因し得る(Engler、Sen、Sweeney&Discher、Cell 126、677~689ページ、2006;Rehfeldt、Engler、Eckhardt、Ahmed&Discher、Advanced Driug Delivery Review、2007、59、1329~1339ページ;Solon、Levental、Sengupta、Georges&Janmey、Biophysical Journal、2007、93、4453~4461ページ)。
【0067】
GelMAの合成は、透析および沈殿のダウンストリーム処理技術を使用して成功した。環境制御型走査電子顕微鏡および熱重量分析により、生成物の物理的特徴づけを行い、形態の点で、粉末状の沈殿GelMAおよび泡状の透析と、明らかな相違が認められる。定性的には、粉末状では密度がはるかに高く、小さいスペースでのバルク量の保管を可能にする。本方法は、通常方法と比べて最高86%までと、精製にかかる時間を相当に短縮した。熱重量分析は、試料の塩分含有量に有意な差異はないことを示し、さらに生成物内の副産物の存在に関する純度は、透析GelMAと沈殿GelMAとの間で同等であることを確認した。TNBSアッセイによるメタクリル化度は、両方法ともによって変わらない。しかしながら、分子量は、透析では、沈殿法に対してはるかに低下しており、おそらく透析の継続時間中のペプチド結合の加水分解に起因し、光重合ハイドロゲルの全体的機械強度に著しく影響を及ぼした。ヤングの貯蔵弾性率および損失弾性率は、ハイドロゲルの圧縮解析およびレオロジー解析により、分子量の低下の影響を確認した。より高い範囲の機械強度が、沈殿GelMAを用いて達成可能であり(最高19kPa、最高6kPaにすぎない、同じ濃度[10%]の透析GelMAと対照的)、機械強度の値の大きい範囲への調整を可能にする。最終的に、本方法により、細胞生存率は変わらず、沈殿GelMAおよび透析GelMAの両方ともで、封入されたNIH 3T3のすべてに関し、最低生存率85%であり、ゼラチンのメタクリル化による毒性副産物の、沈殿法での除去をさらに確認した。4日目、5%GelMA(DIおよびPR)中の細胞は、より顕著な細胞突起物を有し、10%GelMAと比べた場合の運動性および表現型の変化を示す。これはおそらく、ハイドロゲルの多孔性および機械強度に起因し(Englerら、2006;Rehfeldtら、2007;Solonら、2007)、GelMAの低濃度が、大きな細孔、したがって細胞の運動性をもたらす。全体的に、沈殿GelMAは、透析したダウンストリーム処理技術と比べて、より高い範囲の機械強度値を伴う、3D細胞培養作業のプラットフォームとして使用され得る。
【0068】
実施例3.アルギン酸メタクリレートの製造および特徴づけ
1%wt/volのアルギン酸ナトリウムを、pH9の炭酸-重炭酸緩衝液中に一晩溶解する。溶解後、20モル過剰のメタクリル酸無水物を、アルギネート溶液中に滴下した。溶液を、72時間にわたり撹拌したままにしてから、10x反応体積の変性エタノール中で沈殿させた。次いで、沈殿物を回収し、再びエタノール中で洗浄してから、再び水中に溶解した。沈殿-洗浄-溶解のプロセスを3x繰り返し、最後に沈殿したアルギネートメタクリレートを、一晩凍結乾燥した。乾燥アルギネートを粉末に細砕し、NMRを使用して、メタクリル化度は、28.82%置換である。
【0069】
実施例4.ヒアルロン酸メタクリレートの製造および特徴づけ
1%wt/volのヒアルロン酸ナトリウムを、pH9の炭酸-重炭酸緩衝液中に一晩溶解する。溶解後、10モル過剰のメタクリル酸無水物を、ヒアルロン酸ナトリウム溶液中に滴下した。溶液を、12時間にわたり撹拌したままにしてから、10x反応体積の変性エタノール中で沈殿させた。次いで、沈殿物を回収し、再びエタノール中で洗浄してから、再び水中に溶解した。沈殿-洗浄-溶解のプロセスを3x繰り返し、最後に沈殿したヒアルロン酸メタクリレート(HAMA)を、一晩凍結乾燥した。乾燥HAMAを粉末に細砕し、NMRを使用して、メタクリル化度は、67.23%置換である。
【0070】
本発明は、以下の項#1~#5に関連させてさらに要約できる。
#1.次のステップ:
(1)緩衝液中にバイオポリマーを溶解するステップ;
(2)化学修飾剤を添加するステップ;
(3)沈殿溶液に修飾バイオポリマー溶液を添加して精製するステップ;
(4)沈殿溶液を蒸留により回収するステップ;
(5)生成物を得るために乾燥させるステップ、
を含む、沈殿および乾燥により、原料から修飾バイオポリマーを量産する方法であって、
使用する原料が、ゼラチン、アルギネート、ヒアルロン酸、キトサン、コンドロイチン硫酸、コラーゲン、エラスチン、セルロース、および絹フィブロインからなる群から選択され、
製造される生成物が、高密度粉末状の修飾バイオポリマーであり、ハイドロゲル、ナノファイバ、および他の医用材料を形成するために架橋可能である方法。
#2.請求項1に記載の緩衝液が、0.01~0.5Mの炭酸-重炭酸緩衝液、リン酸緩衝液、多糖用の有機溶媒、またはそれらの混合物からなる群から選択される。
#3.請求項1に記載の化学修飾剤が、メタクリル酸無水物、グリシジルメタクリレート、およびカルブ酸無水物からなる群から選択される。
#4.請求項1で使用する沈殿溶液が、エタノール、アセトン、メタノール変性アルコール、ジメチルスルホキシド、プロパノール、およびクロロホルムからなる群から選択される。
#5.請求項1に記載の乾燥方法が、トレイ乾燥、凍結乾燥、コンベヤ乾燥、回転ドラム乾燥、またはそれらの組合せからなる群から選択される。
【国際調査報告】