IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ボシュ + ロム アイルランド リミテッドの特許一覧

特表2024-509214防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-29
(54)【発明の名称】防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液
(51)【国際特許分類】
   G02C 13/00 20060101AFI20240221BHJP
【FI】
G02C13/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553726
(86)(22)【出願日】2022-03-10
(85)【翻訳文提出日】2023-09-04
(86)【国際出願番号】 EP2022056144
(87)【国際公開番号】W WO2022189552
(87)【国際公開日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】63/159,097
(32)【優先日】2021-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522110555
【氏名又は名称】ボシュ + ロム アイルランド リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バルニアク、ヴィッキー
(72)【発明者】
【氏名】ショイアー、キャサリン
(72)【発明者】
【氏名】レインデル、ウィリアム ティー.
(72)【発明者】
【氏名】デュエックス、ジョン マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ジャロンバルド、アンドレア イー.
【テーマコード(参考)】
2H006
【Fターム(参考)】
2H006DA08
2H006DA09
(57)【要約】
防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、(a)防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.005~約2重量%のヒアルロン酸又はその塩と、(b)防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約1重量%のエリスリトールと、(c)1つ以上の非イオン性界面活性剤と、(d)塩化ナトリウム、塩化カリウム、又はそれらの任意の組み合わせと、(e)1つ以上の緩衝剤と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液であって、
(a)前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.005~約2重量%のヒアルロン酸又はその塩と、
(b)前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約1重量%のエリスリトールと、
(c)1つ以上の非イオン性界面活性剤と、
(d)塩化ナトリウム、塩化カリウム、又はそれらの任意の組み合わせと、
(e)1つ以上の緩衝剤と、を含む、防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液。
【請求項2】
前記ヒアルロン酸又はその塩が、約100,000~約3,000,000ダルトン(Da)の範囲の重量平均分子量を有する、請求項1に記載の防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液。
【請求項3】
(a)前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約0.2重量%のヒアルロン酸又はその塩と、
(b)前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.05~約0.5重量%のエリスリトールと、を含む、請求項1又は2に記載の防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液。
【請求項4】
前記1つ以上の非イオン性界面活性剤が、ポロキサマー及びポロキサミンのうちの1つ以上を含む、請求項1~3に記載の防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液。
【請求項5】
前記1つ以上の緩衝剤が、ホウ酸ナトリウム及びホウ酸カリウムのうちの1つ以上を含む、請求項1~4に記載の防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液。
【請求項6】
前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.05~約5重量%の前記1つ以上の非イオン性界面活性剤と、
前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約5重量%の前記塩化ナトリウム、塩化カリウム、又はそれらの任意の組み合わせと、
約0.1~約10%(w/w)の前記1つ以上の緩衝剤と、を含む、請求項1~5に記載の防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液。
【請求項7】
ヒアルロン酸ナトリウム、エリスリトール、ポロキサミン、塩化カリウム、ホウ酸及びホウ酸ナトリウムを含む、請求項1に記載の防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液。
【請求項8】
(a)前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約0.2重量%のヒアルロン酸ナトリウムと、
(b)前記防腐剤を含まないオンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.05~約0.5重量%のエリスリトールと、
(c)前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.1~約2重量%の前記ポロキサミンと、
(d)前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約1重量%の塩化カリウムと、
(e)約0.1~約10%(w/w)のホウ酸及びホウ酸ナトリウムと、を含む、請求項7に記載の防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液。
【請求項9】
1つ以上の潤滑剤を更に含む、請求項1~8に記載の防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液。
【請求項10】
前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約5重量%の1つ以上の潤滑剤を更に含む、請求項1~8に記載の防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液。
【請求項11】
前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約1重量%の1つ以上の潤滑剤を更に含む、請求項1~8に記載の防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液。
【請求項12】
前記1つ以上の潤滑剤が、グリセロールを含む、請求項9~11に記載の防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液。
【請求項13】
両性界面活性剤、コンフォート剤、pH調節剤、キレート剤、粘度調整剤、及び粘滑剤のうちの1つ以上を更に含む、請求項1~12に記載の防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液。
【請求項14】
点眼剤の形態での、請求項1~13に記載の防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液。
【請求項15】
抗菌剤を含有しない、請求項1~14に記載の防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液。
【請求項16】
ビグアナイド抗菌剤及び四級アンモニウム抗菌剤のうちの1つ以上を含有しない、請求項1~14に記載の防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液。
【請求項17】
コンタクトレンズを再湿潤させる方法であって、前記方法が、眼に着用中にコンタクトレンズに防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液を投与することを含み、前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液が、(a)前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.005~約2重量%のヒアルロン酸又はその塩と、(b)前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約1重量%のエリスリトールと、(c)1つ以上の非イオン性界面活性剤と、(d)塩化ナトリウム、塩化カリウム、又はそれらの任意の組み合わせと、(e)1つ以上の緩衝剤と、を含む、方法。
【請求項18】
前記ヒアルロン酸又はその塩が、約100,000~約3,000,000ダルトン(Da)の範囲の重量平均分子量を有する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液が、
(a)前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約0.2重量%のヒアルロン酸又はその塩と、
(b)前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.05~約0.5重量%のエリスリトールと、を含む、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記1つ以上の非イオン性界面活性剤が、ポロキサマー及びポロキサミンのうちの1つ以上を含む、請求項17~19に記載の方法。
【請求項21】
前記1つ以上の緩衝剤が、ホウ酸ナトリウム及びホウ酸カリウムのうちの1つ以上を含む、請求項17~20に記載の方法。
【請求項22】
前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液が、
前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.05~約5重量%の前記1つ以上の非イオン性界面活性剤と、
前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約5重量%の前記塩化ナトリウム、塩化カリウム、又はそれらの任意の組み合わせと、
約0.1~約10%(w/w)の前記1つ以上の緩衝剤と、を含む、請求項17~21に記載の方法。
【請求項23】
前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液が、ヒアルロン酸ナトリウム、エリスリトール、ポロキサミン、塩化カリウム、ホウ酸及びホウ酸ナトリウムを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液が、
(a)前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約0.2重量%のヒアルロン酸ナトリウムと、
(b)前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.05~約0.5重量%のエリスリトールと、
(c)前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.1~約2重量%の前記ポロキサミンと、
(d)前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約1重量%の塩化カリウムと、
(e)約0.1~約10%(w/w)のホウ酸及びホウ酸ナトリウムと、を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液が、1つ以上の潤滑剤を更に含む、請求項17~24に記載の方法。
【請求項26】
前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液が、前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約5重量%の1つ以上の潤滑剤を更に含む、請求項17~24に記載の方法。
【請求項27】
前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液が、前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約1重量%の1つ以上の潤滑剤を更に含む、請求項17~24に記載の方法。
【請求項28】
前記1つ以上の潤滑剤が、グリセロールを含む、請求項25~27に記載の方法。
【請求項29】
前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液が、両性界面活性剤、コンフォート剤、pH調節剤、キレート剤、粘度調整剤、及び粘滑剤のうちの1つ以上を更に含む、請求項17~28に記載の方法。
【請求項30】
前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液が、点眼剤の形態である、請求項17~29に記載の方法。
【請求項31】
前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液が、抗菌剤を含有しない、請求項17~30に記載の方法。
【請求項32】
前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液が、ビグアナイド抗菌剤及び四級アンモニウム抗菌剤のうちの1つ以上を含有しない、請求項17~30に記載の方法。
【請求項33】
眼の中にある間に、人工涙液として有用な、又はコンタクトレンズを再湿潤させるか、若しくは潤滑させるためのシステムであって、前記システムが、約1~約30mlの防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液であって、(a)前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.005~約2重量%のヒアルロン酸又はその塩と、(b)前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約1重量%のエリスリトールと、(c)1つ以上の非イオン性界面活性剤と、(d)塩化ナトリウム、塩化カリウム、又はそれらの任意の組み合わせと、(e)1つ以上の緩衝剤と、を含む、防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液を保持することができる液滴ディスペンサを備える、システム。
【請求項34】
前記ヒアルロン酸又はその塩が、約100,000~約3,000,000ダルトン(Da)の範囲の重量平均分子量を有する、請求項33に記載のシステム。
【請求項35】
前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液が、
(a)前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約0.2重量%のヒアルロン酸又はその塩と、
(b)前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.05~約0.5重量%のエリスリトールと、を含む、請求項33又は34に記載のシステム。
【請求項36】
前記1つ以上の非イオン性界面活性剤が、ポロキサマー及びポロキサミンのうちの1つ以上を含む、請求項33~35に記載のシステム。
【請求項37】
前記1つ以上の緩衝剤が、ホウ酸ナトリウム及びホウ酸カリウムのうちの1つ以上を含む、請求項33~36に記載のシステム。
【請求項38】
前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液が、
前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.05~約5重量%の前記1つ以上の非イオン性界面活性剤と、
前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約5重量%の前記塩化ナトリウム、塩化カリウム、又はそれらの任意の組み合わせと、
約0.1~約10%(w/w)の前記1つ以上の緩衝剤と、を含む、請求項33~37に記載のシステム。
【請求項39】
前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液が、ヒアルロン酸ナトリウム、エリスリトール、ポロキサミン、塩化カリウム、ホウ酸及びホウ酸ナトリウムを含む、請求項33に記載のシステム。
【請求項40】
前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液が、
(a)前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約0.2重量%のヒアルロン酸ナトリウムと、
(b)前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.05~約0.5重量%のエリスリトールと、
(c)前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.1~約2重量%の前記ポロキサミンと、
(d)前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約1重量%の塩化カリウムと、
(e)約0.1~約10%(w/w)のホウ酸及びホウ酸ナトリウムと、を含む、請求項39に記載のシステム。
【請求項41】
前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液が、1つ以上の潤滑剤を更に含む、請求項33~40に記載のシステム。
【請求項42】
前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液が、前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約5重量%の1つ以上の潤滑剤を更に含む、請求項33~40に記載のシステム。
【請求項43】
前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液が、前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約1重量%の1つ以上の潤滑剤を更に含む、請求項33~40に記載のシステム。
【請求項44】
前記1つ以上の潤滑剤が、グリセロールを含む、請求項41~43に記載のシステム。
【請求項45】
前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液が、両性界面活性剤、コンフォート剤、pH調節剤、キレート剤、粘度調整剤、及び粘滑剤のうちの1つ以上を更に含む、請求項33~44に記載のシステム。
【請求項46】
前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液が、点眼剤の形態である、請求項33~45に記載のシステム。
【請求項47】
前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液が、抗菌剤を含有しない、請求項33~46に記載のシステム。
【請求項48】
前記防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液が、ビグアナイド抗菌剤及び四級アンモニウム抗菌剤のうちの1つ以上を含有しない、請求項33~46に記載のシステム。
【請求項49】
コンタクトレンズを再湿潤させるための、請求項1~16に記載の防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本出願は、その内容が、全体的に参照により本明細書に組み込まれる、2021年3月10日に出願された「Ophthalmic Solutions」という名称の米国仮特許出願第63/159,097号に対する優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
通常の使用中、コンタクトレンズは、レンズの性能を低下させる可能性のある多種多様な化合物で汚れたり、又は汚染されたりする。例えば、コンタクトレンズは、涙液中に存在し、レンズ表面に付着するタンパク質又は脂質などの生体材料で汚される。また、コンタクトレンズの取り扱いにより、皮脂(皮膚の油)、化粧品又は他の材料がコンタクトレンズを汚す可能性がある。これらの生物学的汚染物質及び外部の汚染物質は、視力及び患者の快適さに影響を与える可能性がある。したがって、レンズケア溶液を使用して、継続的に快適に使用するために、レンズ表面から何らかの破片を除去することが有利である。
【発明の概要】
【0003】
例示的な実施形態によれば、防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、(a)防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.005~約2重量%のヒアルロン酸又はその塩と、(b)防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約1重量%のエリスリトールと、(c)1つ以上の非イオン性界面活性剤と、(d)塩化ナトリウム及び塩化カリウムのうちの1つ以上と、(e)1つ以上の緩衝剤と、を含む。
【0004】
別の例示的な実施形態によれば、コンタクトレンズを再湿潤させる方法は、眼に着用中にコンタクトレンズに防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液を投与することを含み、防腐剤を含まないコンタクトレンズ再湿潤溶液が、(a)防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.005~約2重量%のヒアルロン酸又はその塩と、(b)防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約1重量%のエリスリトールと、(c)1つ以上の非イオン性界面活性剤と、(d)塩化ナトリウム及び塩化カリウムのうちの1つ以上と、(e)1つ以上の緩衝剤と、を含む。
【0005】
更に別の例示的な実施形態によれば、眼の中にある間に、人工涙液として有用な、又はコンタクトレンズを再湿潤させるか、若しくは潤滑させるためのシステムは、約1~約30mlの防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液であって、(a)防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.005~約2重量%のヒアルロン酸又はその塩と、(b)防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約1重量%のエリスリトールと、(c)1つ以上の非イオン性界面活性剤と、(d)塩化ナトリウム、塩化カリウム、又はそれらの任意の組み合わせと、(e)1つ以上の緩衝剤と、を含む、防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液を保持することができる液滴ディスペンサを備える。
【0006】
更になお別の例示的な実施形態によれば、コンタクトレンズを再湿潤させるための防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の使用であって、防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液が、(a)防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.005~約2重量%のヒアルロン酸又はその塩と、(b)防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約1重量%のエリスリトールと、(c)1つ以上の非イオン性界面活性剤と、(d)塩化ナトリウム、塩化カリウム、又はそれらの任意の組み合わせと、(e)1つ以上の緩衝剤と、を含む、使用。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書に記載される例示的な実施形態は、眼に装着されるコンタクトレンズの表面を処理するための点眼剤、例えば、再湿潤滴剤として有用な、防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液を対象とする。
【0008】
多くのバイオポリマーは、一般的な滅菌手順、例えば、熱滅菌に敏感である。熱滅菌は、しばしば、得られる滅菌バイオポリマーがその意図された用途に不適切になるように、バイオポリマーの物理化学的特性の顕著な変化を引き起こす可能性がある。
【0009】
医療材料に現在適用されている滅菌方法としては、例えば、熱処理、高圧蒸気滅菌(例えば、オートクレーブ滅菌)、エチレンオキシドガス(EOG)滅菌、超臨界二酸化炭素滅菌、及び放射線滅菌が挙げられる。利用可能な滅菌方法は、典型的には、滅菌される特定のバイオポリマーの堅牢性に関連して評価される。例えば、高圧蒸気滅菌は、バイオポリマーが高温及び高圧に耐えることができる程度にのみ、バイオポリマーに使用することができる。しかし、ヒアルロン酸を含む非常に少数のバイオポリマーは、そのような高温及び高圧に耐えることができる。
【0010】
ヒアルロン酸は、非免疫原性物質であり、その粘弾性及び親水性の特性のために、ヒアルロン酸は、眼科手術における眼の硝子体液又は関節液置換剤として、又は支持媒体として長年にわたって使用されてきた。関節液では、ヒアルロン酸溶液は、細胞に保護環境を提供するための潤滑剤として機能し、このため、炎症を起こした膝関節の治療に使用される。ヒアルロン酸を含む製品を消費者が使用するには、製造業者が消費者製品を滅菌する必要があり、オープンな複数用量の製剤として使用する場合は、製剤製品を保存するために追加のステップを実行しなければならない。
【0011】
ヒアルロン酸は、熱滅菌プロセスに比較的敏感であることが知られているバイオポリマーの一種である。ヒアルロン酸の熱滅菌は、ヒアルロン酸の加水分解又は酸化を加速し、それによってバイオポリマーの平均分子量の有意かつ多くは有害な減少を引き起こすことが知られている。多くの医薬用途において、製剤中の比較的低分子量形態のヒアルロン酸は、望ましくない。典型的には、低分子量形態のヒアルロン酸は、高分子量形態のヒアルロン酸の所望のレオロジー特性を提供しない。前述の熱滅菌方法におけるヒアルロン酸の分解を補うために、望ましい分子量よりも高い分子量を有するヒアルロン酸から始めることができる。しかしながら、この調節は、バイオポリマーの平均分子量が増加するにつれてヒアルロン酸の生成物収率が減少するため、プロセスの非効率性を引き起こす。
【0012】
本明細書に記載の例示的な実施形態は、ヒアルロン酸又はその塩の実質的な分解を起こさずに滅菌に供することができる、ヒアルロン酸又はその塩の改善された滅菌の防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液を製剤化することによって、この問題及び他の問題を克服する。特に、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液中でヒアルロン酸又はその塩とエリスリトールとを組み合わせることによって、オートクレーブ処理などの滅菌条件に供された場合のヒアルロン酸の経時的な分子量低下は、エリスリトールの非存在下でのヒアルロン酸又はその塩を含有する防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液よりも、統計的に有意に優れている。したがって、滅菌条件に供される場合に、経時的にヒアルロン酸又はその塩の分子量低下が改善される本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、有利には、より少ないpHの問題、より少ない有効性の問題、改善された粘度、並びにより少ない酸化及び熱分解を示し、それによって、より高い安定性及びより長い貯蔵寿命をもたらす。加えて、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液はまた、ヒアルロン酸又はその塩をエリスリトールと組み合わせることによって達成され、それによってより堅牢な溶液を提供する、溶液を調製するために使用される水に含有される任意の鉄に対するより高い耐性を有利に示す。
【0013】
1つ以上の非限定的で例示的な実施形態では、防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、(a)防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.005~約2重量%のヒアルロン酸又はその塩と、(b)防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約1重量%のエリスリトールと、(c)1つ以上の非イオン性界面活性剤と、(d)塩化ナトリウム及び塩化カリウムのうちの1つ以上と、(e)1つ以上の緩衝剤と、を含む。
【0014】
本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、少なくとも約0.005~約2重量%のヒアルロン酸又はその塩を含む。ヒアルロン酸は、交互のβ-(1,4)及びβ-(1,3)グリコシド結合を介して連結された、2つの代替的に連結された糖であるD-グルクロン酸及びN-アセチルグルコサミンから構成される周知の天然に存在する水溶性生分解性ポリマーである。ヒアルロン酸は、タンパク質及びスルホン基への共有結合を含まないため、他のグリコサミノグリカンと区別される。ヒアルロン酸は、動物においてユビキタスであり、最も高い濃度は、軟質結合組織において見出される。それは、体内の機械的目的及び輸送目的の両方にとって重要な役割を果たし、例えば、関節に弾力性を与え、脊椎動物の椎間板に剛性を与え、また、眼の硝子体の重要な成分でもある。
【0015】
ヒアルロン酸ポリマーは、親水性であり、比較的低い溶質濃度で水溶液中で高粘度である。ヒアルロン酸ポリマーは、ナトリウム塩であるヒアルロン酸ナトリウムとして自然発生することが多い。市販のヒアルロナン及びその塩を調製する方法は、周知である。ヒアルロナンは、例えば、Seikagaku Company、Clear Solutions Biotech,Inc.、Pharmacia Inc.、Sigma Inc.、HTL Biotechnology、Contipro、Bloomage Biotechnology Corporation、及び多くの他の供給業者から購入することができる。ヒアルロン酸は、以下の式によって表される構造の繰り返し単位を有する。
【化1】

したがって、ヒアルロン酸中の繰り返し単位は、以下のようにすることができる。
【化2】
【0016】
概して、ヒアルロン酸又はその塩、例えば、ヒアルロン酸ナトリウム及びヒアルロン酸カリウムは、約2~約1,500,000個の二糖単位を有し得る。一実施形態では、ヒアルロン酸又はその塩は、約10,000~約3,000,000ダルトン(Da)の範囲の重量平均分子量を有していてもよく、下限は、約10,000、約20,000、約30,000、約40,000、約50,000、約60,000、約70,000、約80,000、約90,000、約100,000、約200,000、約300,000、約400,000、約500,000、又は約600,000Daであり、上限は、約200,000、約300,000、約400,000、約500,000、約600,000、約700,000、約800,000、約900,000、約1,000,000、又は最大約2,800,000Daであり、下限のいずれかを、上限のいずれかと組み合わせてもよい。
【0017】
例示的な実施形態では、ヒアルロン酸又はその塩は、防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.005~約2重量%の範囲の量で、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液中に存在する。別の例示的な実施形態では、ヒアルロン酸又はその塩は、防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約0.2重量%の範囲の量で、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液中に存在する。
【0018】
本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、エリスリトールを更に含有する。例示的な実施形態では、エリスリトールは、防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約1重量%の範囲の量で、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液中に存在する。別の例示的な実施形態では、エリスリトールは、防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.05~約0.5重量%の範囲の量で、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液中に存在する。別の例示的な実施形態では、エリスリトールは、防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.08~約0.4重量%の範囲の量で、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液中に存在する。
【0019】
本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、1つ以上の非イオン性界面活性剤を更に含有する。例示的な実施形態では、好適な1つ以上の非イオン性界面活性剤としては、例えば、1つ以上の末端官能化された界面活性剤が挙げられる。好適な非イオン性界面活性剤は、例えば、1つ以上のポリエーテルを含む。末端官能化されるべき有用なポリエーテルは、1つ以上の(-O-R-)繰り返し単位を有する1つ以上の鎖又はポリマー成分を含み、Rは、2個~約6個の炭素原子を有するアルキレン基又はアリーレン基である。ポリエーテルは、異なる比のエチレンオキシド(EO)及びプロピレンオキシド(PO)の成分から形成されたブロックコポリマーに由来し得る。そのようなポリエーテル及びそれらの各成分セグメントは、異なる結合した疎水性及び親水性の化学官能基の部分及びセグメントを含み得る。
【0020】
末端官能化され得る好適なポリエーテルの1つの非限定的で代表的な例は、ポロキサマーブロックコポリマーである。ポロキサマーブロックコポリマーの1つの特定の種類は、Pluronic(BASF Wyandotte Corp.,Wyandotte,Mich.)という商標で入手可能なものである。ポロキサマーとしては、Pluronics及び逆Pluronicsが挙げられる。Pluronicsは、一般に式(I)
HO(CO)(CO)(CO)H (I)
(式中、aは独立して、少なくとも1であり、bは、少なくとも1である)で表されるポリ(エチレンオキシド)-ポリ(プロピレンオキシド)-ポリ(エチレンオキシド)ブロックから構成されるABAブロックコポリマーのシリーズである。
【0021】
逆Pluronicsは、一般に式(II)
HO(CO)(CO)(CO)H (II)
(式中、aは、少なくとも1であり、bは独立して、少なくとも1である)で表されるポリ(プロピレンオキシド)-ポリ(エチレンオキシド)-ポリ(プロピレンオキシド)ブロックからそれぞれ構成されるBABブロックコポリマーのシリーズである。ポリ(エチレンオキシド)(PEO)ブロックは親水性であるのに対し、ポリ(プロピレンオキシド)(PPO)ブロックは、本質的に疎水性である。各シリーズのポロキサマーは、最終的に材料の親水性-親油性バランス(HLB)を決定するPEOとPPOとの比が異なり、すなわち、異なるHLB値は、a及びbの値が異なることに基づいており、aは、分子中に存在する親水性ポリ(エチレンオキシド)単位(PEO)の数を表し、bは、分子中に存在する疎水性ポリ(プロピレンオキシド)単位(PPO)の数を表す。
【0022】
ポロキサマー及び逆ポロキサマーは、末端官能化され得る末端ヒドロキシル基を有する。末端官能化されたポロキサマーの一例は、本明細書において以下で考察されるように、米国特許出願公開第2003/0044468号及び米国特許第9,309,357号に開示されているポロキサマージメタクリレート(例えば、Pluronic(登録商標)F127ジメタクリレート)である。他の例としては、米国特許第6,517,933号に開示されている、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールのグリシジル末端コポリマーが挙げられる。
【0023】
好適なポリエーテルの別の非限定的な代表的な例は、ポロキサミンブロックコポリマーである。ポロキサマー及び逆ポロキサマーが(末端ヒドロキシル基に基づいて)二官能性分子であるとみなされる一方で、ポロキサミンは四官能性形態にあり、すなわち、これらの分子は、一級ヒドロキシル基で終端しかつ中央のジアミンにより結合された四官能性ブロックコポリマーである。ポロキサミンブロックコポリマーの1つの特定の種類は、Tetronic(BASF)という商標で入手可能なものである。ポロキサミンとしては、Tetronic及び逆Tetronicsが挙げられる。ポロキサミンは、以下の、式(III)
【化III】

(式中、aは独立して、少なくとも1であり、bは独立して、少なくとも1である)の一般構造を有する。
【0024】
ポロキサマー及び/又はポロキサミンは、分子の末端に所望の反応性を提供するように官能化され得る。官能性は、様々であり得、官能化されたPEO含有ブロックコポリマー及びPPO含有ブロックコポリマーの意図される使用に基づいて決定される。本明細書で使用されるブロックコポリマーという用語は、ポリマー骨格中に2つ以上のブロックを有するポロキサマー及び/又はポロキサミンを意味すると理解されるべきである。
【0025】
例示的な実施形態では、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、1つ以上の非イオン性界面活性剤として、ポロキサマー及びポロキサミンのうちの1つ以上を含有する。例示的な実施形態では、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、約7,500~約27,000の分子量を有し、付加物の少なくとも約40重量%がポリ(オキシエチレン)である、ポロキサミン1107(Tetronic 1107)などのポロキサミンを含有する。
【0026】
例示的な実施形態では、1つ以上の非イオン性界面活性剤は、防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.05~約5重量%の範囲の量で、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液中に存在する。別の例示的な実施形態では、1つ以上の非イオン性界面活性剤は、防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.1~約2重量%の範囲の量で、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液中に存在する。別の例示的な実施形態では、1つ以上の非イオン性界面活性剤は、防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.1~約1.5重量%の範囲の量で、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液中に存在する。
【0027】
本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、有効量の1つ以上の張度調節成分を更に含有する。好適な張度調節成分としては、例えば、様々な無機塩などのコンタクトレンズケア製品に従来から使用されているものが挙げられる。例示的な実施形態では、好適な張度調節成分としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、及びこれらの組み合わせが挙げられる。1つ以上の張度調節成分の量は、防腐剤を含まない溶液に所望の程度の張度を提供するのに有効な量である。
【0028】
例示的な実施形態では、1つ以上の張度調節成分は、防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約5重量%の範囲の量で、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液中に存在する。別の例示的な実施形態では、1つ以上の張度調節成分は、防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約1重量%の範囲の量で、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液中に存在する。別の例示的な実施形態では、1つ以上の張度調節成分は、防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約0.08重量%の範囲の量で、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液中に存在する。
【0029】
本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、1つ以上の緩衝剤を更に含有する。「緩衝剤」及び「緩衝系」という用語は、単独で、又は少なくとも1つの他の化合物と組み合わせて、緩衝能(すなわち、元のpHを比較的ほとんど変化させないか、又は全く変化させずに、限界内で、酸又は塩基(アルカリ)のいずれかを中和する能力)を示す溶液中の緩衝系を提供する化合物を意味すると理解される。「緩衝能」という用語は、1リットル(標準単位)の緩衝溶液に添加されたときにpHを1単位変化させるのに必要な強酸又は塩基(又はそれぞれ、水素イオン又は水酸化物イオン)のミリモル数(mM)を意味すると理解される。緩衝能は、緩衝剤成分の種類及び濃度に依存するであろう。緩衝能は、約6~約8、又は約7.4~約8.4の開始pHから測定される。
【0030】
好適な緩衝剤としては、例えば、ホウ酸ナトリウム又はホウ酸カリウムなどのホウ酸及びその塩が挙げられる。ホウ酸緩衝剤はまた、例えば、溶液中でホウ酸又はその塩を生成する四ホウ酸カリウム又はメタホウ酸カリウムなどの緩衝化合物を含む。ホウ酸緩衝剤は、特定の高分子ビグアナイドの有効性を高めることで知られている。例えば、米国特許第4,758,595号は、ホウ酸緩衝剤と組み合わせた場合に増強された有効性を示すことができるPHMB又はPAPBとも称されるポリ(ヘキサメチレンビグアナイド)を含有するコンタクトレンズ溶液を記載している。他の好適な緩衝剤としては、ジグリシン(グリシルグリシン)及びクエン酸ナトリウムが挙げられる。
【0031】
例示的な実施形態では、1つ以上の緩衝剤は、約0.1~約10%(w/w)の範囲の量で、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液中に存在する。別の例示的な実施形態では、1つ以上の緩衝剤は、約0.5~約5%(w/w)の範囲の量で、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液中に存在する。別の例示的な実施形態では、1つ以上の緩衝剤は、約0.75~約2%(w/w)の範囲の量で、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液中に存在する。
【0032】
例示的な実施形態では、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、有効量の1つ以上の潤滑剤成分を更に含有する。好適な潤滑剤成分としては、例えば、眼科用製品に従来から使用されているものが挙げられる。例示的な実施形態では、好適な潤滑剤成分は、グリセロール及びプロピレングリコールなどの非イオン性ジオール、並びにそれらの組み合わせを含む。
【0033】
例示的な実施形態では、1つ以上の潤滑剤成分は、防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約5重量%の範囲の量で、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液中に存在する。別の例示的な実施形態では、1つ以上の潤滑剤成分は、防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約1重量%の範囲の量で、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液中に存在する。
【0034】
非限定的な例示的な実施形態では、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、防腐剤を何ら含まない。例えば、様々な抗菌剤は、眼科用組成物における防腐剤として使用することが知られている。したがって、非限定的な例示的な実施形態では、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、抗菌剤を含まない。更に例示的な実施形態では、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、ビグアナイド又はその塩若しくは遊離塩基、四級アンモニウム化合物又はその塩若しくは遊離塩基、テルペン又はその誘導体、分岐グリセロールモノアルキルエーテル、分岐グリセロールモノアルキルアミン、分岐グリセロールモノアルキルスルフィド、脂肪酸モノエステル(脂肪酸モノエステルは、6~14個の炭素原子を有する脂肪族脂肪酸部分と、脂肪族ヒドロキシル部分と、を含む)、並びにアミドアミン化合物を含まない。
【0035】
なお更なる例示的な実施形態では、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、非高分子ビグアナイド、高分子ビグアナイド、その塩、その遊離塩基など、及びそれらの混合物、並びに/又は四級アンモニウム化合物又はその塩若しくは遊離塩基を含まない。非高分子ビグアナイドの代表的な例としては、ビス(ビグアナイド)、例えば、アレキシジン、クロルヘキシジン、アレキシジンの塩、例えば、アレキシジンHCl、クロルヘキシジンの塩、アレキシジン遊離塩基など、及びこれらの混合物が挙げられる。アレキシジン及びクロルヘキシジンの塩は、有機又は無機のいずれかであってもよく、典型的には、消毒性の硝酸塩、酢酸塩、リン酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物などである。高分子ビグアナイドの代表的な例としては、高分子ヘキサメチレンビグアナイド(PHMB)(Zeneca,Wilmington,Del.から市販されている)、それらのポリマー及び水溶性塩が挙げられる。一実施形態では、本明細書で使用するための水溶性高分子ビグアナイドは、少なくとも約1,000の数平均分子量、又は約1,000~約50,000の数平均分子量を有し得る。遊離塩基の好適な水溶性塩には、例えば、塩酸塩、ホウ酸塩、酢酸塩、グルコン酸塩、スルホン酸塩、酒石酸塩、及びクエン酸塩が挙げられる。
【0036】
PHMB又はポリヘキサメチレンビグアナイドは、少なくとも3つ、好ましくは少なくとも6つのビグアナイドポリマーを含む高分子ビグアナイド組成物として最もよく説明されており、これらはPHMB-A、PHMB-CG及びPHMB-CGAと呼ばれ、これらの一般的な化学構造を以下に示す。
【化P】
【0037】
四級アンモニウム化合物の代表的な例としては、ポリ[(ジメチルイミニオ)-2-ブテン-1,4-ジイルクロリド]及び[4-トリス(2-ヒドロキシエチル)アンモニオ]-2-ブテニル-w-[トリス(2-ヒドロキシエチル)アンモニオ]-ジクロリド(化学登録番号75345-27-6)が挙げられ、一般に、ポリクオタニウム-1として、商標名ONAMER(登録商標)M(Stepan Company、Northfield,Ill)の下で入手可能である。四級アンモニウム化合物は、一般に、当該技術分野において「ポリクオタニウム」と称され、ポリクオタニウム-1、ポリクオタニウム-10、ポリクオタニウム-42など、名称の後の特定の番号によって識別される。
【0038】
本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、前述の成分に加えて、1つ以上の両性界面活性剤、コンフォート剤、pH調節剤、キレート剤、粘度調整剤、粘滑剤などを更に含有し得る。両性界面活性剤は、酸性及びアルカリ性の両方を有する表面活性化合物である。本明細書で使用するための両性界面活性剤は、ベタインとして知られる種類の化合物を含む。ベタインは、完全に四級化された窒素原子を特徴とし、アルカリ溶液中でアニオン特性を示さず、これは、ベタインがほぼ中性のpHでのみ双性イオンとして存在することを意味する。一実施形態では、好適な両性界面活性剤は、式(IV)の構造
【化IV】

によって表され、式中、Rは、ヒドロキシル又は-(CH-NHC(O)Rで任意選択的に置換されたC~C30アルキルであり、Rは、ヒドロキシルで任意選択的に置換されたC~C30アルキルであり、nは、2、3又は4であり、R及びRは、各々独立して、水素又はC~Cアルキルであり、Rは、ヒドロキシルで任意選択的に置換されたC~Cアルキレンであり、Yは、CO 又はSO である。
【0039】
ベタインは、完全に四級化された窒素を特徴とする。アルキルベタインでは、四級化窒素のアルキル基のうちの1つは、8~30個の炭素原子を有するアルキル鎖である。ベタインの一種は、アルキルベタインのカルボン酸基がスルホン酸塩に置き換えられているスルホベタイン又はヒドロキシスルホベタインである。ヒドロキシスルホベタインでは、ヒドロキシ基は、四級化窒素からスルホネートまで延びるアルキレンカーボンの1つの上に配置される。アルキルアミドベタインでは、アミド基は、疎水性C~C30アルキル鎖と四級化窒素との間の連結として挿入される。
【0040】
例示的な実施形態では、式IVの両性界面活性剤は、式(V)
【化V】

のスルホベタインであってもよく、式中、Rは、C~C30アルキルであり、R及びRは、各々独立して、C~Cアルキルであり、Rは、C~Cアルキレンである。一般式Vの特定のスルホベタインは、他のものよりも好ましい。例えば、Calbiochem Companyから入手可能なZwitergent(登録商標)93-10は、Rが10個の炭素を有する直鎖飽和アルキルであり、R及びRが、各々メチルであり、Riが、-CHCHCH-(3個の炭素、(3))である、式Vのスルホベタインである。コンタクトレンズ処理組成物中で使用され得る他のスルホベタインとしては、例えば、対応するZwitergent(登録商標)3-08(すなわち、Rは、8個の炭素を有する直鎖飽和アルキルである)、Zwitergent(登録商標)3-12(すなわち、Rは、12個の炭素を有する直鎖飽和アルキルである)、Zwitergent(登録商標)3-14(すなわち、Rは、14個の炭素を有する直鎖飽和アルキルである)、及びZwitergent(登録商標)3-16(すなわち、Rは、16個の炭素を有する直鎖飽和アルキルである)画挙げられる。一実施形態では、スルホベタインは、式Vのスルホベタインであり、Rは、C~C16アルキルであり、R及びRは、メチルである。
【0041】
別の実施形態では、式IVの両性界面活性剤は、式(VI)
【化VI】

のヒドロキシスルホベタインであり、式中、Rは、少なくとも1つのヒドロキシルで置換されたC~C30アルキルであり、R及びRは、各々独立して、C~Cアルキルであり、Rは、少なくとも1つのヒドロキシルで置換されたC~Cアルキレンである。
【0042】
別の実施形態では、両性界面活性剤は、式(VII)
【化VII】

のアルキルアミドベタインであり、式中、Rは、C~C30アルキルであり、m及びnは、独立して、2、3、4又は5から選択され、R及びRは、各々独立して、ヒドロキシルで任意選択的に置換されたC~Cアルキルであり、Rは、ヒドロキシルで任意選択的に置換されたC~Cアルキレンであり、Yは、CO 又はSO である。例示的な一実施形態では、アルキルアミドベタインの代表的な例としては、アルキルアミドプロピルベタイン、例えば、ココアミドプロピルジメチルベタイン及びラウロイルアミドプロピルジメチルベタインが挙げられる。
【0043】
本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、1つ以上のコンフォート成分又はクッション成分を更に含有し得る。コンフォート成分は、界面活性剤成分の洗浄活性及び湿潤活性を増強及び/又は延長させ、及び/又はレンズ表面を調節して、レンズ表面をより親水性(より親油性)にすることができ、及び/又は眼の粘滑剤として機能することができる。コンフォート成分は、レンズの配置中に眼表面への衝撃を緩和し、眼の刺激を和らげるのにも役立つと考えられている。
【0044】
好適なコンフォート成分としては、例えば、水溶性天然ガム、セルロース由来ポリマーなどが挙げられる。有用な天然ガムとしては、グアーガム、トラガカントガムなどが挙げられる。有用なセルロース由来のコンフォート成分としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース由来のポリマーが挙げられる。いくつかの非セルロースコンフォート成分としては、プロピレングリコール又はグリセリンが挙げられる。例示的な実施形態では、コンフォート成分は、約0.01%~約1%(w/w)の範囲の量で、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液中に存在し得る。
【0045】
ある実施形態では、水和した角膜表面を維持すると考えられるコンフォート剤は、ポリビニルピロリドン(PVP)である。PVPは、1-ビニル-2-ピロリドンモノマーに由来する少なくとも90%の繰り返し単位を含む直鎖ホモポリマー又は本質的に直鎖ホモポリマーであり、モノマー組成物の残りは、中性モノマー、例えば、ビニル又はアクリレートを含み得る。PVPの他の同義語としては、ポビドン、ポリビドン、1-ビニル-2-ピロリジノン、及び1-エテニル-2-ピロリオノン(CAS登録番号9003-39-8)が挙げられる。PVPは、約10,000~約250,000、又は約30,000~約100,000の重量平均分子量を有し得る。そのような材料は、ISP Technologies,Inc.を含む様々な企業によって、BASFから、商標PLASDONE(登録商標)K-29/32で、商標KOLLIDON(登録商標)、例えば、KOLLIDON(登録商標)K-30又はK-90で販売される。また、医薬品グレードのPVPを使用することが好ましい。
【0046】
本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液はまた、毎日の使用後にレンズ表面からの脂質及びタンパク質沈着物の除去を補助するために1つ以上のキレート成分を含み得る。典型的には、防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、比較的少量、例えば、約0.005%~約0.05%(w/w)のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、又は二ナトリウム塩NaEDTAなどの対応する金属塩を含むであろう。
【0047】
例示的な実施形態では、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、少なくとも約200mOsmol/kg~最大約400mOsmol/kg、例えば、少なくとも約250、又は少なくとも約300、又は少なくとも約350から、各々最大400mOsmol/kgの範囲の浸透圧を有することができる。防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、実質的に等張性又は高張性(例えば、わずかに高張性)であり、眼科的に許容される。
【0048】
非限定的な例示的な実施形態では、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、眼に適用することを意図した溶液、又は眼と接触した状態で配置された後若しくは配置される前にコンタクトレンズを処理することを意図した溶液を含む。したがって、防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、ドライアイを治療し、着用中にコンタクトレンズを再湿潤させるための点眼剤溶液、並びに多目的溶液としても適格な点眼剤溶液を含む、眼に直接配置するための組成物を含み得る。
【0049】
本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液と接触するコンタクトレンズの種類は重要ではなく、任意のコンタクトレンズが企図される。このようなレンズの代表的な例としては、限定されないが、ソフトコンタクトレンズ(例えば、ソフトなヒドロゲルレンズ、ソフトな非ヒドロゲルレンズなど)、ハードコンタクトレンズ(例えば、ハードな気体透過性レンズ材料など)、硬質気体透過性(RGP)レンズ、眼内レンズ、オーバーレイレンズなどが挙げられる。当業者によって理解されるように、レンズが壊れることなくそれ自体に折り返すことができる場合、レンズは「ソフト」であるとみなされる。コンタクトレンズを生成することが知られている任意の材料を本明細書で使用することができる。例えば、防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、(1)アクリル酸エステル、例えば、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)の重合によって調製された材料から形成されたハードレンズ、(2)シリコーンアクリレート及びフルオロシリコーンメタクリレートから形成されたRGPレンズ、並びに(3)シリコーンヒドロゲルなどのヒドロゲルポリマー材料から作られたソフトヒドロゲルコンタクトレンズとともに使用することができ、ヒドロゲルは、平衡状態で水を含有する架橋ポリマー系として定義される。
【0050】
概して、ヒドロゲルは、優れた生体適合性特性、すなわち、生体組織において毒性、有害性、又は免疫学的応答を生成しないことによって、生物学的に又は生化学的に適合する特性を示す。代表的な従来のヒドロゲルコンタクトレンズ材料は、(メタ)アクリル酸、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、グリセリルメタクリレート、N,N-ジメタクリルアミド、及びN-ビニルピロリドン(NVP)などの少なくとも1つの親水性モノマーを含むモノマー混合物を重合することによって作製される。シリコーンヒドロゲルの場合、コポリマーが調製されるモノマー混合物は、親水性モノマーに加えて、シリコーン含有モノマーを更に含む。一般に、モノマー混合物は、エチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、及びメタクリルオキシエチルビニルカーボネートなどの架橋モノマーも含む。あるいは、シリコーン含有モノマー又は親水性モノマーのいずれかは、架橋剤として機能してもよい。
【0051】
本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、生理学的に適合性である。具体的には、防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、コンタクトレンズとともに使用するために「眼科的に安全」でなければならず、これは、防腐剤を含まない溶液で処理されたコンタクトレンズが、眼上に直接配置するのに概して好適であり、かつ安全であることを意味し、すなわち、溶液が、防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液で湿潤されたコンタクトレンズを介して眼と毎日接触するのに安全であり、かつ快適であることを意味する。眼科的に安全な溶液は、眼に適合し、ISO(国際標準化機構)標準及び米国FDA規制に従って非細胞傷害性である材料及びその量を含む張度及びpHを有する。防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、発売前の製品中に微生物汚染物質が存在しないことが、そのような製品に必要な程度にまで統計的に実証されなければならないという点で、無菌であるべきである。
【0052】
本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、点滴薬の形態であってもよく、そのような材料を含有するコンタクトレンズ洗浄、消毒、又は調整組成物の成分として有用である。一実施形態では、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、「多目的溶液」として製剤化され得る。多目的溶液は、レンズ、特にソフトコンタクトレンズの洗浄、消毒、保管、及びすすぎに有用である。「多目的溶液」という用語はまた、毎日使用されない定期洗浄剤、又はタンパク質を更に除去するための補助洗浄剤、例えば、典型的には毎週使用される酵素洗浄剤の可能性も排除しない。「洗浄」という用語は、溶液が、コンタクトレンズの表面上の緩く保持されたレンズ堆積物及び他の汚染物質を緩め、除去するのに十分な濃度の1つ以上の薬剤を含有することを意味し、指による操作(例えば、溶液を用いてレンズを手動で擦ること)、又はレンズと接触して溶液を撹拌する付属デバイス、例えば、機械的洗浄補助器と組み合わせて使用され得る。
【0053】
従来、市販されている多目的溶液では、必要な消毒及び洗浄を提供するために、多目的溶液でレンズを機械的に擦ることを含むレジメンが必要であった。このようなレジメンは、化学消毒溶液として適格でない化学消毒システムのために、政府の規制当局(例えば、FDA、すなわち米国食品医薬品局(FDA))の下で必要とされる。本発明の一実施形態では、一方では、擦るレジメンを用いない状態で改善された洗浄及び消毒を提供することができ、他方では、点眼剤などの湿潤剤として使用されるのに十分に穏やかである、洗浄消毒製品を製剤化することが可能である。例えば、化学消毒溶液として適格な製品は、コンタクトレンズケア製品の米国FDAが確立した殺菌性能基準(1997年5月1日)を満たしている必要があるが、この基準では、レンズを擦ることを含んでいない。例示的な実施形態では、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、コンタクトレンズ消毒製品に関するFDA又はISOのスタンドアロン手順の要件を満たすように製剤化される。同様に、本明細書に開示される組成物は、擦るレジメンを使用せずに強化された洗浄を提供するように製剤化することができる。このような製剤化は、従来の多目的消毒洗浄製品よりも高い患者コンプライアンス及びより大きな普遍的魅力を確実にし得る。多目的溶液は、約75cps未満、又は約1~約50cps、又は約1~約25cps、又は全組成物中で少なくとも約95重量/体積(水)パーセントの粘度を有し得る。
【0054】
本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液及び/又は組成物のpHは、約4.0~約9.0、又は約5.0~約8.0、又は約6.0~約8.0、又は約6.5~約7.8のpH範囲内に維持され得る。一実施形態では、pH値は最大でも約7以上である。
【0055】
非限定的な例示的な実施形態では、コンタクトレンズを再湿潤させる方法が提供される。例えば、方法は、眼に着用中にコンタクトレンズに、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液、例えば、(a)防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.005~約2重量%のヒアルロン酸又はその塩と、(b)防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の総重量に基づいて、約0.01~約1重量%のエリスリトールと、(c)1つ以上の非イオン性界面活性剤と、(d)塩化ナトリウム、塩化カリウム、又はそれらの任意の組み合わせと、(e)1つ以上の緩衝剤と、を含む、防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液を投与することを含む。当業者であれば容易に理解するように、防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、必要に応じて眼に装着中のコンタクトレンズに定期的に適用することができる。防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、それぞれの量で上述した成分のいずれかを含有し得る。
【0056】
非限定的な例示的な実施形態では、眼の中にある間に、人工涙液として有用な、又はコンタクトレンズを再湿潤させるか、若しくは潤滑させるためのシステムは、約1~約30mlの本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液を保持することができる液滴ディスペンサを備える。
【0057】
以下の実施例は、当業者が本発明に記載の例示的な実施形態を実施することを可能にするために提供されるものであり、単なる例示である。実施例は、特許請求の範囲で定義される例示的な実施形態の範囲を限定するものとして読まれるべきではない。
【0058】
実施例1
眼に装着したコンタクトレンズを再湿潤させるのに適した、防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の調製。量は、100重量%になるまでの適量の精製水を用いた溶液の総重量に基づく重量%又はppmである。
【0059】
ホウ酸(0.6重量%)、ホウ酸ナトリウム(0.25重量%)、塩化カリウム(0.21重量%)、エリスリトール(0.3重量%)、グリセロール(0.5重量%)及びポロキサミン1107(0.2重量%)を添加することによって、第1の溶液を調製した。次いで、溶液の試料を40℃又は75℃まで加熱した。
【0060】
室温まで冷却した後、ヒアルロン酸ナトリウム(0.15重量%)を添加し、一晩撹拌した。
【0061】
比較例1
実施例1と同様の溶液を調製したが、エリスリトールを欠いていた。
【0062】
ヒアルロン酸分子量低下試験
【0063】
実施例1及び比較例1の防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の試料に、5ppmの過酸化水素を添加し、次いで、40℃及び75℃の両方で20時間オートクレーブ処理した。40℃及び75℃の両方でインキュベートされた両方の溶液について、実施例1の防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液は、比較例1の防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液よりも、ヒアルロン酸の分子量低下が統計的に有意に少ないことを示した。
【0064】
簡潔にするために、本明細書に開示される防腐剤を含まないコンタクトレンズ処理溶液の様々な特徴は、単一の実施形態の文脈において記載されるが、別々に、又は任意の好適なサブコンビネーションでも提供され得る。実施形態の全ての組み合わせは、各々及び全ての組み合わせが個別に及び明示的に開示されているかのように、本明細書に開示される例示的な実施形態によって具体的に包含される。加えて、そのような変数を記載している実施形態に列挙される全てのサブコンビネーションはまた、本組成物によって具体的に包含され、各々及び全てのそのようなサブコンビネーションが本明細書に個別に及び明示的に開示されているかのように、本明細書に開示される。
【0065】
本明細書に開示される実施形態に様々な修正を加えることができることが理解されるであろう。したがって、上記の説明は、限定的と解釈されるべきではなく、好ましい実施形態の例示としてのみ解釈されるべきである。例えば、上に記載される、本明細書に記載の実施形態を動作させるための最良の態様として実施される機能は、例示目的のみのためである。当業者であれば、本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、他の構成及び方法を実施することができる。更に、当業者は、本明細書に追加される特徴及び利点の範囲及び趣旨内で他の修正を想定するであろう。
【国際調査報告】