(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-29
(54)【発明の名称】FIXタンパク質をコードするコドンを最適化された核酸
(51)【国際特許分類】
C12N 15/57 20060101AFI20240221BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240221BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20240221BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20240221BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20240221BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20240221BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240221BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20240221BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240221BHJP
A61K 38/36 20060101ALI20240221BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20240221BHJP
【FI】
C12N15/57
C12N15/12 ZNA
C12N15/113 Z
C12N15/864 100Z
C12N7/01
C12N15/11 Z
A61K35/76
A61P7/04
A61K48/00
A61K38/36
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023554061
(86)(22)【出願日】2022-03-05
(85)【翻訳文提出日】2023-11-02
(86)【国際出願番号】 RU2022050073
(87)【国際公開番号】W WO2022186734
(87)【国際公開日】2022-09-09
(32)【優先日】2021-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516261966
【氏名又は名称】ジョイント・ストック・カンパニー “バイオキャド”
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100107386
【氏名又は名称】泉谷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】プロコフィエフ,アレクサンドル・ブラディミロビッチ
(72)【発明者】
【氏名】ゲルショビッチ,パベル・ミカイロビッチ
(72)【発明者】
【氏名】ストレルコワ,アンナ・ニコラエブナ
(72)【発明者】
【氏名】スピリナ,ナタリア・アレクサンドロブナ
(72)【発明者】
【氏名】シュガエファ,タティアナ・エフゲニエフナ
(72)【発明者】
【氏名】モロゾフ,ドミトリー・バレンチノビッチ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA13
4C084DC16
4C084NA14
4C084ZA531
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087NA14
4C087ZA53
(57)【要約】
本出願は、遺伝学、遺伝子療法および分子生物学の分野に関する。より具体的には、本発明は、FIX(凝固第IX因子)タンパク質をコードする単離されたコドンを最適化された核酸、発現カセットおよびそれに基づくベクターならびに標的細胞におけるFIX遺伝子の発現を増大させるためのAAV5(アデノ随伴ウイルス血清型5)に基づく組換えウイルス、ならびにそれらの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列を有するFIX(凝固第IX因子)タンパク質をコードし、配列番号2または配列番号4を含む群から選択されるヌクレオチド配列を含む、単離したコドンを最適化された核酸。
【請求項2】
請求項1に記載のコドンを最適化された核酸を含む発現カセット。
【請求項3】
5’末端から3’末端の方向に以下の要素:
左側の(第1の)ITR(逆位末端反復);
TTRプロモーター(トランスチレチンプロモーター);
hBG1遺伝子イントロン(ヒトβ-グロビン遺伝子のイントロンを有する断片);
請求項1に記載のコドンを最適化された核酸;
hGH1ポリアデニル化シグナル(ヒト成長ホルモン遺伝子ポリアデニル化シグナル);
右側の(第2の)ITR
を含む、請求項2に記載の発現カセット。
【請求項4】
配列番号3または配列番号5を含む群から選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項3に記載の発現カセット。
【請求項5】
請求項1に記載のコドンを最適化された核酸、または、請求項2~4のいずれか一項に記載の発現カセットを含む、発現ベクター。
【請求項6】
請求項1に記載のコドンを最適化された核酸または請求項2~4のいずれか一項に記載の発現カセットを含む、標的細胞においてFIXの遺伝子発現を増大させるための単離されたAAV5(アデノ随伴ウイルス血清型5)に基づく組換えウイルス。
【請求項7】
カプシドが、AAV5タンパク質VP1を含む、請求項6に記載のAAV5に基づく組換えウイルス。
【請求項8】
前記カプシドが、配列番号11のアミノ酸配列を有する前記AAV5タンパク質VP1を含む、請求項7に記載のAAV5に基づく組換えウイルス。
【請求項9】
前記カプシドが、1つまたは複数の点突然変異を含む配列番号11のアミノ酸配列を有する前記AAV5タンパク質VP1を含む、請求項7に記載のAAV5に基づく組換えウイルス。
【請求項10】
前記カプシドが、配列番号14のアミノ酸配列を有する前記AAV5タンパク質VP1を含む、請求項9に記載のAAV5に基づく組換えウイルス。
【請求項11】
前記カプシドが、配列番号11のアミノ酸配列または1つもしくは複数の点突然変異を含む配列番号11のアミノ酸配列を有する前記AAV5タンパク質VP1を含み、前記発現カセットが、5’末端から3’末端の方向に以下の要素:
左側の(第1の)ITR(逆位末端反復);
TTRプロモーター;
hBG1遺伝子イントロン(ヒトβ-グロビン遺伝子のイントロンを有する断片);
請求項1に記載のコドンを最適化された核酸;
hGH1ポリアデニル化シグナル(ヒト成長ホルモン遺伝子ポリアデニル化シグナル);
右側の(第2の)ITR、
を含む、請求項6~10のいずれか一項に記載のAAV5に基づく組換えウイルス。
【請求項12】
前記カプシドが、配列番号11のアミノ酸配列または1つもしくは複数の点突然変異を含む配列番号11のアミノ酸配列を有する前記AAV5タンパク質VP1を含み、前記発現カセットが、配列番号3または配列番号5を含む群から選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項11に記載のAAV5に基づく組換えウイルス。
【請求項13】
1つまたは複数の点突然変異を含む配列番号11のアミノ酸配列を有する前記AAV5タンパク質VP1が、配列番号14のアミノ酸配列である、請求項11~12のいずれか一項に記載のAAV5に基づく組換えウイルス。
【請求項14】
1つまたは複数の薬学的に許容可能な賦形剤と組み合わせて請求項6~13のいずれか一項に記載のAAV5に基づく組換えウイルスを含む、標的細胞にFIX遺伝子を送達するための医薬組成物。
【請求項15】
標的細胞に前記FIX遺伝子を送達するための、請求項6~13に記載のAAV5に基づく組換えウイルスまたは請求項14に記載の組成物の使用。
【請求項16】
B型血友病を有するおよび/もしくは前記FIX遺伝子の完全に機能的なコピーを有しない対象に前記FIXタンパク質を提供するための、請求項6~13のいずれか一項に記載のAAV5に基づく組換えウイルスまたは請求項14に記載の組成物の使用。
【請求項17】
B型血友病を有する対象においてB型血友病を処置するための、請求項6~13のいずれか一項に記載のAAV5に基づく組換えウイルスまたは請求項14に記載の組成物の使用。
【請求項18】
治療を必要とする対象の細胞に治療上有効な量の請求項6~13に記載のAAV5に基づく組換えウイルスまたは請求項14に記載の組成物を投与する工程を含む、B型血友病を有する対象にFIXタンパク質を提供する方法。
【請求項19】
対象の細胞に請求項6~13のいずれか一項に記載のAAV5に基づく組換えウイルスまたは請求項14に記載の組成物を投与する工程を含む、B型血友病を有する対象の標的細胞にFIX遺伝子を送達する方法。
【請求項20】
B型血友病を有する対象に治療上有効な量の請求項6~13のいずれか一項に記載のAAV5に基づく組換えウイルスまたは請求項14に記載の組成物を投与する工程を含む、対象においてB型血友病を処置するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、遺伝学、遺伝子療法および分子生物学の分野に関する。より具体的には、本発明は、FIX(凝固第IX因子)タンパク質をコードする単離されたコドンを最適化された核酸、発現カセットおよびそれに基づくベクターならびに標的細胞におけるFIX遺伝子の発現を増大させるためのAAV5(アデノ随伴ウイルス血清型5)に基づく組換えウイルス、ならびにそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子療法は、現代医療の有望な分野のうちの1つである。遺伝子療法だけが、遺伝性疾患の原因に特に影響を及ぼすことができるので、遺伝性疾患を処置するための有効な解決策の開発を主に対象とする。多数の遺伝性疾患の中でも、止血障害に関連する病理群が最も頻度が高い。
【0003】
血友病は、血漿凝固因子の不在または顕著な欠乏と関連するX連鎖疾患であり;関節、筋肉および内部器官への自発または誘発的でしばしば制御不能である出血、等の形態で臨床的に現れる凝固障害によって特徴付けられる。
【0004】
B型血友病は、血漿凝固第IX因子の不在または欠乏に起因する。ほとんどの場合、本疾患には家族歴が有るが、一部の場合には散発的な突然変異が同定されている。血友病患者の大多数は、男性であり、女性における血友病の事例も同定されているが、極めてまれである。凝固第IX因子(FIX、クリスマス因子)は、セリンプロテアーゼプロ酵素であり、Ca2+および膜リン脂質の存在下で第X因子分子中のアルギニン-イソロイシン結合を加水分解して、活性化第X因子(FXa)を形成する。第IXa因子の触媒効率は、補因子、即ち活性化された凝固第VIII因子(FVIIIa)の結合により増大する。
【0005】
第IX因子は、不活性前駆体タンパク質として肝臓において産生され、小胞体およびゴルジ体においてプロセッシングされ、そこで様々な型の複数の翻訳後修飾を受け、プロペプチドのタンパク質分解性切断により血流内に分泌される。第IX因子は、血液凝固カスケードにおいて、活性化された第XI因子(内因性経路)または活性化された第VII因子(外因性経路)によるタンパク質分解性切断後に活性化され、ジスルフィド結合によって連結された2つのポリペプチド鎖を形成する。活性化された第IX因子は、一般に抗トロンビンIII、プロテインZ依存性プロテアーゼ阻害剤であるネキシン-2、およびエンドサイトーシス肝細胞受容体に対する遅い結合によってゆっくり非活性化され、好中球エラスターゼによって分解される。
【0006】
置き換え療法が、現在使用されている。1966年の寒冷沈降反応技術の開発後、ドナー血漿から得られた最初の凝固因子製剤が登録された。1980年代には、血漿由来の凝固因子製剤が、ウイルス(HIV、C型肝炎)に感染する可能性があることが判明し、約20000人の感染患者をもたらした。この事実は、血漿製剤の生産におけるウイルス除去および不活性化、ならびに新規の非血漿製剤を作製する方法を開発する原動力を与えた。血漿由来製剤(血漿由来pdFIX)の生産プロセスに熱処理工程を含め;それにより製剤の感染を解消することが可能になった。血漿由来製剤を生産するプロセスの改善と同時に、組換えDNA技術を使用する凝固因子の開発に対する研究が行われた。この技術に基づいて、組換え凝固第IX因子(rFIX)製剤が生産され、1997年に登録された。治療製剤を生産するための組換えDNA技術により、製剤のウイルス混入の危険性を有意に減少させることが可能になる。現在、血友病のための置き換え療法の治療製剤は、血漿由来と組換え製剤であるが;それらには多くの短所がある。
【0007】
血漿由来製剤の生産における主要な問題は、大量の血漿が必要なことである。さらに、1980年代後期以後、pdFIXを使用した場合に患者を感染させた事例は存在しなかったにもかかわらず、これら治療製剤の製造業者が、患者がウイルスに感染するという可能性を排除することは理論的に不可能である。
【0008】
血友病の処置に現在使用されているFIX治療製剤の主要な短所には:
・患者が血漿由来製剤によってウイルスに感染するという理論的可能性;
・血漿由来および組換え製剤の高い免疫原性;
・組換え製剤の(血漿由来産物と比較して)より低い有効性;
・凝固因子の短い血液循環期間;
・頻繁な静脈内注入(1週間に2~3回)の必要性;
・生涯にわたる置き換え療法の広い利用可能性がないことがある。
【0009】
第IX因子遺伝子の形質導入のための遺伝子療法治療製剤の使用は、既存の療法の選択肢と比較して基本的に新しく、有望な手法であり:静脈内注入によって投与される遺伝子療法治療製剤は、患者身体における凝固因子の生産を回復する。
【0010】
AAVに基づくベクターなどのウイルス性ベクターを使用する生物細胞への標的遺伝子の送達は、主要な遺伝子療法のうちの1つである。
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、小さな(25nm)、独立複製欠損の、ノンエンベロープウイルスである。異なる多くのAAV血清型が、ヒトおよび霊長類において記述されてきた。アデノ随伴ウイルスゲノムは、長さ約4700ヌクレオチドの(+または-)一本鎖DNA(ssDNA)で構成される。ゲノムDNA分子の末端には、末端逆位反復(ITR)がある。ゲノムは、様々なタンパク質産物をコードしているいくつかの選択的読み枠を含む2つのオープンリーディングフレーム(ORF)、RepおよびCapを含む。rep産物はAAV複製に不可欠であり、3つのカプシドタンパク質(VP1、VP2およびVP3)は、他の選択的産物とともにCap遺伝子にコードされている。VP1、VP2およびVP3は、比1:1:10で存在して、正二十面体のカプシドを形成する[Xie Q.ら、The atomic structure of adeno-associated virus(AAV-2)、a vector for human gene therapy.Proc Natl Acad Sci USA、2002年;99:10405~10410頁]。組換えAAV(rAAV)ベクター生産の間に、ITRに挟まれる発現カセットは、AAVカプシドにパッケージングされる。AAVの複製に必要な遺伝子は、カセットに含まれない。組換えAAVは、in vivo遺伝子導入にとって最も安全で最も広く使用されているウイルス性ベクターのうちの1つであると考えられている。ベクターは、複数の組織型の細胞を感染させ、強く、持続的な導入遺伝子発現を提供することができる。また、それらは非病原性であり、免疫原性プロファイルが低い(High KAら、「rAAV human trial experience」Methods Mol Biol.2011年;807:429~57頁)。
【0011】
有効な遺伝子療法の開発領域における研究の喫緊の目的のうちの1つは、対象となる遺伝子の最大発現レベルを達成するためにベクター中の対象となる遺伝子のコドンを最適化することであり、それにより低用量のベクターを使用して有意な効果を達成できるようになる。
【0012】
遺伝暗号の特性のうちの1つは、縮重、即ち同じアミノ酸をコードする異なるコドン(トリヌクレオチド)の能力である。同じアミノ酸に翻訳されるそのようなコドンは、同義コドンと呼ばれる。天然の配列において、同義コドンのうちの1つは、進化の過程で無作為に選択されるが、同義コドンの使用頻度は異なっており:各アミノ酸には、より好ましいものおよび好ましくないものがある。コドン最適化は、タンパク質分子の生産を増幅するために広く使用されている技術であり、タンパク質配列中の各アミノ酸に対して適切な同義コドンのうち1つの合理的なマッピングを提供する。コドン最適化の共通原則のうちの1つは、最も頻度の高いコドンの使用に関係し、調和化(コドン使用頻度の分布の再現)などの他の手法が後に導入されたが、生産性を必ずしも増大させない。コドン頻度に加えて、配列のGC含量(配列全長に対するグアニンおよびシトシンの比)が、生産効率に影響を及ぼす場合があり、特に、高いGC含量が、哺乳動物細胞においてmRNAレベルの増大と関連することが示された(Grzegorz Kudlaら、High Guanine and Cytosine Content Increases mRNA Levels in Mammalian Cells、2006年6月、第4巻、6号、e180、933~942頁)。mRNAの安定な二次構造要素、即ち折りたたみ自由エネルギーが低い構造が効率を減少させうることは、さらに注目に値する。
【0013】
対象となる遺伝子の配列のコドン最適化の異なるバリアントは、(野生型遺伝子と比較して)以下:
a)対象となる遺伝子の発現レベルが、わずかに増大することになる;
b)対象となる遺伝子の発現レベルが、有意に増大することになる;
c)対象となる遺伝子の発現レベルが、およそ同レベルのままである;
d)対象となる遺伝子の発現レベルが、低下することになる
をもたらしうる。
【0014】
したがって、FIX遺伝子のコドンを最適化した配列を作製して標的細胞におけるFIX遺伝子の発現を増大させ、それに基づく遺伝子療法治療製剤を作製する必要性が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明のグループの作成者は、配列番号2(hFIXco-v1)または配列番号4(hFIXco-v2)のヌクレオチド配列を有するFIXタンパク質(凝固第IX因子)をコードする本発明によるコドンを最適化した核酸が、驚くことに、凝固第IX因子をコードしている野生型遺伝子(hFIX-wt)と比較して、FIX遺伝子発現レベルおよび凝固第IX因子タンパク質産生レベルの数倍の増大を示すことを見出した。配列番号2(hFIXco-v1)および配列番号4(hFIXco-v2)のヌクレオチド配列を有する本発明によるコドンを最適化された核酸のこれらバリアントは、発現カセットおよびそれに基づくベクターならびにAAV5(アデノ随伴ウイルス血清型5)に基づく組換えウイルスに含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
一側面において、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を有するFIX(凝固第IX因子)タンパク質をコードし、配列番号2または配列番号4を含む群から選択されるヌクレオチド配列を含む、単離されたコドンを最適化された核酸に関する。
【0017】
一側面において、本発明は、上記のコドンを最適化した核酸を含む発現カセットに関する。
一部の側面において、発現カセットは、5’末端から3’末端の方向に以下の要素:
左側の(第1の)ITR(逆位末端反復);
TTRプロモーター(トランスチレチンプロモーター);
hBG1遺伝子イントロン(ヒトβ-グロビン遺伝子のイントロンを有する断片);
上記のコドンを最適化された核酸;
hGH1ポリアデニル化シグナル(ヒト成長ホルモン遺伝子ポリアデニル化シグナル);
右側の(第2の)ITRを含む。
【0018】
一部の態様において、発現カセットは、配列番号3または配列番号5を含む群から選択されるヌクレオチド配列を含む。
一側面において、本発明は、上記のコドンを最適化した核酸または上記の発現カセットのいずれかを含む発現ベクターに関する。
【0019】
一側面において、本発明は、上記のコドンを最適化した核酸または上記の発現カセットのいずれかを含む、標的細胞においてFIX遺伝子の発現を増大させるための単離されたAAV5(アデノ随伴ウイルス血清型5)に基づく組換えウイルスに関する。
【0020】
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、AAV5タンパク質VP1を含むカプシドを有する。
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、配列番号11のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP1を含むカプシドを有する。
【0021】
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、1つまたは複数の点突然変異を含む配列番号11のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP1を含むカプシドを有する。
【0022】
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、配列番号14のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP1を含むカプシドを有する。
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、配列番号11のアミノ酸配列または1つもしくは複数の点突然変異を含む配列番号11のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP1を含むカプシドを有し、
発現カセットは、5’末端から3’末端の方向に以下の要素:
左側の(第1の)ITR(逆位末端反復);
TTRプロモーター(トランスチレチンプロモーター);
hBG1遺伝子イントロン(ヒトβ-グロビン遺伝子のイントロンを有する断片);
上記のコドンを最適化された核酸;
hGH1ポリアデニル化シグナル(ヒト成長ホルモン遺伝子ポリアデニル化シグナル);
右側の(第2の)ITR;
を含む。
【0023】
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、配列番号11のアミノ酸配列または1つもしくは複数の点突然変異を含む配列番号11のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP1を含むカプシドを有し、発現カセットは、配列番号3または配列番号5を含む群から選択されるヌクレオチド配列を含む。
【0024】
一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、1つまたは複数の点突然変異を含む配列番号11のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP1を含むカプシドを有し、配列番号14のアミノ酸配列である。
【0025】
一側面において、本発明は、標的細胞にFIX遺伝子を送達するための医薬組成物に関し、その医薬組成物は、1つまたは複数の薬学的に許容可能な賦形剤と組み合わせて上記のAAV5に基づく組換えウイルスのいずれかを含む。
【0026】
一側面において、本発明は、標的細胞にFIX遺伝子を送達するための上記のAAV5に基づく組換えウイルスまたは上記の組成物のいずれかの使用に関する。
一側面において、本発明は、B型血友病を有するおよび/またはFIX遺伝子の完全に機能的なコピーを有しない対象にFIXタンパク質を提供するための、上記のAAV5に基づく組換えウイルスもしくは上記の組成物のいずれかの使用に関する。
【0027】
一側面において、本発明は、B型血友病を有する対象においてB型血友病を処置するための、上記のAAV5に基づく組換えウイルスまたは上記の組成物のいずれかの使用に関する。
【0028】
一側面において、本発明は、B型血友病を有する対象にFIXタンパク質を提供する方法に関し、前記方法は、それを必要とする対象の細胞に治療上有効な量の上記のAAV5に基づく組換えウイルスまたは上記の組成物のいずれかを投与する工程を含む。
【0029】
一側面において、本発明は、B型血友病を有する対象の標的細胞にFIX遺伝子を送達する方法に関し、前記方法は、対象の細胞に上記のAAV5に基づく組換えウイルスまたは上記の組成物のいずれかを投与する工程を含む。
【0030】
一側面において、本発明は、対象においてB型血友病を処置するための方法に関し、前記方法は、B型血友病を有する対象に上記のAAV5に基づく組換えウイルスまたは上記の組成物のいずれかの治療上有効な量を投与する工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、ヒト凝固第IX因子(FIX)遺伝子hFIXco-v1およびhFIXco-v2のコドンを最適化された配列を含む発現カセットをそれぞれ含むAAVベクターを作製することを意図したプラスミドpAAV-hFIXco-v1およびpAAV-hFIXco-v2の概要であり、hFIXco-v1は、ヒト凝固第IX因子遺伝子(バリアント1)のコドンを最適化された配列であり;hFIXco-v2は、ヒト凝固第IX因子遺伝子(バリアント2)のコドンを最適化された配列であり;AmpRは、アンピシリンに対する抵抗性に与えるベータラクタマーゼ遺伝子であり;pUCオリジンは、細菌におけるpUC複製起点であり;ITRは、逆方向末端反復であり;TTRプロモーターは、トランスチレチン遺伝子プロモーター(トランスチレチンプロモーター)であり;ポリAは、mRNAの安定性を増大させるためのポリアデニル化シグナル配列であり;HBGイントロンは、ヒトベータグロビンイントロンである。
【
図2】
図2は、野生型FIX遺伝子を有するAAV5-FIXウイルス産物(AAV5-hFIX-wt)、コドンを最適化された遺伝子hFIXco-v1を有するAAV5-FIX産物(AAV5-hFIXco-v1)、およびコドンを最適化された遺伝子hFIXco-v2を有するAAV5-FIX産物(AAV5-hFIXco-v2)で細胞を形質導入した7日後の、Huh7細胞におけるFIX遺伝子の発現のレベルを示すグラフである(AAV-FIX産物におけるFIX遺伝子の全てのバリアントは、天然に存在するPadua、R338L突然変異を含有する)。*-p値<0.05。統計分析は、2元配置分散分析とダネット検定を使用して実行した。
【
図3】
図3は、野生型FIX遺伝子を有するAAV5-FIXウイルス産物(AAV5-hFIX-wt)、コドンを最適化された遺伝子hFIXco-v1を有するAAV5-FIX産物(AAV5-hFIXco-v1)、およびコドンを最適化された遺伝子hFIXco-v2を有するAAV5-FIX産物(AAV5-hFIXco-v2)でHuh7細胞を形質導入した7日後の培養液中のFIXタンパク質の濃度を示すグラフである(AAV-FIX産物におけるFIX遺伝子の全てのバリアントは、天然に存在するPadua、R338L突然変異を含有する)。非形質導入Huh7細胞を、対照として使用した。***-p値<0.001。統計分析は、2元配置分散分析とダネット検定を使用して実行した。
【
図4】
図4は、野生型FIX遺伝子を有するAAV5-FIXウイルス産物(AAV5-hFIX-wt)、コドンを最適化された遺伝子hFIXco-v1を有するAAV5-FIX産物(AAV5-hFIXco-v1)、およびコドンを最適化された遺伝子hFIXco-v2を有するAAV5-FIX産物(AAV5-hFIXco-v2)でHuh7細胞を形質導入した7日後の、培養液中のFIXタンパク質の活性を示すグラフである(AAV-FIX産物におけるFIX遺伝子の全てのバリアントは、天然に存在するPadua、R338L突然変異を含有する)。非形質導入Huh7細胞を、対照として使用した。***-p値<0.001。統計分析は、2元配置分散分析とダネット検定を使用して実行した。
【
図5】
図5は、野生型FIX遺伝子を有するAAV5-FIX産物(AAV5-hFIX-wt)およびコドンを最適化された遺伝子hFIXco-v1を有するAAV5-FIX産物(AAV5-hFIXco-v1)の静脈内投与後の実験動物の血漿中の凝固第IX因子タンパク質の含有量を示すグラフである(AAV-FIX産物におけるFIX遺伝子の全てのバージョンは、天然に存在するPadua、R338L突然変異を含有する)。平均値±標準偏差(n=10)。***-p値<0.001;**-p値<0.01;*-p値<0.05。統計分析は、一元配置分散分析とダネット検定を使用して実行した。
【
図6】
図6は、野生型FIX遺伝子を有するAAV5-FIX産物(AAV5-hFIX-wt)およびコドンを最適化された遺伝子hFIXco-v2を有するAAV5-FIX産物(AAV5-hFIXco-v2)の静脈内投与後の実験動物の血漿中の凝固第IX因子タンパク質の含有量を示すグラフである(AAV-FIX産物におけるFIX遺伝子の全てのバージョンは、天然に存在するPadua、R338L突然変異を含有する)。平均値±標準偏差(n=10)。***-p値<0.001;**-p値<0.01;*-p値<0.05。統計分析は、一元配置分散分析とダネット検定を使用して実行した。
【発明を実施するための形態】
【0032】
定義および全般的な方法
本明細書において別段の規定がない限り、本発明に関して使用される全ての技術および科学的用語は、当業技術者によって一般に理解されている意味と同じ意味を有することになる。
【0033】
さらに、文脈によって必要とされない限り、単数の用語は複数の用語を含み、複数の用語は単数の用語を含む。一般に、本明細書に記載される細胞培養、分子生物学、免疫学、細菌学、遺伝学、分析化学、有機合成化学、医および薬学化学ならびにタンパク質および核酸のハイブリダイゼーションおよび化学の本分類および方法は、当業者によって周知であり、当業者において広く使用されている。酵素反応および精製方法は、当業者に一般的な製造業者のガイドラインにしたがって、または本明細書に記載されるように実行される。
【0034】
「単離されている」とは、天然の状態から改変または取り出されていることを意味する。例えば、動物において天然に存在する核酸またはペプチドは「単離されていない」が、その天然の状態の共存材料から部分的もしくは完全に分離された同じ核酸またはペプチドは、「単離されている」。単離された核酸またはタンパク質は、実質的に精製された形態で存在することができ、または例えば、遺伝子修飾された細胞などの非天然の環境で存在することができる。
【0035】
用語「天然に存在する」、「生来の」または「野生型」は、人工的に作製されたものとは別の、天然に見出すことができるものについて記載するために使用される。例えば、天然の供給源から単離することができ、実験室において人によって意図的に修飾されていない生物(ウイルスを含める)に存在するタンパク質またはヌクレオチド配列は、天然に存在する。
【0036】
用語「ゲノム」とは、生物の完全な遺伝物質のことを指す。
本説明および後に続く特許請求の範囲に使用される通り、文脈によって指図されない限り、単語「含む(include)」および「含む(comprise)」、または「有する(having)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「含む(comprises)」、もしくは「含む(comprising)」などその変形物は、記載される整数または整数の群を内包することを意味するが、他の任意の整数または整数の群を除外することを意味しないと理解されよう。
タンパク質(ペプチド)
本説明に使用される用語「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」は、互換的に使用され、それらは、ペプチド結合によって共有結合で連結されているアミノ酸残基からなる化合物のことを指す。タンパク質またはペプチドは、少なくとも2つのアミノ酸を含有しなければならず、タンパク質またはペプチドの配列を含みうるアミノ酸の最大数にはいかなる制約もない。ポリペプチドは、ペプチド結合によって互いに接続された2つ以上のアミノ酸を含む任意のペプチドまたはタンパク質を含む。本説明に使用される通り、本用語は、例えば、ペプチド、オリゴペプチドおよびオリゴマーとして当業者に一般に称される短鎖と多くの型があるタンパク質として当業者に一般に称されるより長い鎖の両方のことを指す。「ポリペプチド」は、とりわけ、例えば、生物学的に活性な断片、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモ二量体、ヘテロ二量体、ポリペプチドのバリアント、修飾ポリペプチド、誘導体、類似体、融合タンパク質を含む。ポリペプチドは、天然のペプチド、組換えペプチド、合成ペプチドまたはその組合せを含む。
核酸分子
本説明において互換的に使用される用語「核酸」、「核配列」、「核酸配列」、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド配列」および「ヌクレオチド配列」は、修飾されているもしくはされていない、核酸の断片もしくは領域を決定する、非天然のヌクレオチドを含有するもしくはしない、および二本鎖DNAもしくはRNA、一本鎖DNAもしくはRNA、または前記DNAの転写産物のいずれかであるヌクレオチドの正確な配列を意味する。
【0037】
本説明に使用される通り、ポリヌクレオチドは、非限定的な例として、通常のクローン技術およびPCR、等を使用する組換え手段、即ち組換えライブラリまたは細胞ゲノム由来核酸配列のクローニング、を含めた当業者に利用可能な任意の手段ならびに合成手段によって得られる全ての核酸配列を非限定的な例として含む。
【0038】
本発明が、天然の染色体環境中、即ち天然の状態のヌクレオチド配列に関しないことも、ここに含めるべきである。本発明の配列は、単離および/または精製されている、即ち、例えば、少なくとも部分的に修飾されている環境をコピーすることによって直接もしくは間接的に試料採取された。したがって、組換え遺伝学、例えば、宿主細胞の手段によって得られる、または化学合成によって得られる単離された核酸も、ここで言及されるべきである。
【0039】
特に明記しない限り、用語ヌクレオチド配列は、その相補体を包含する。したがって、特定の配列を有する核酸は、その相補配列を持つその相補鎖を包含するものと理解されるべきである。
アデノ随伴ウイルス(AAV)
パルボウイルス科ファミリーのウイルスは、小さいDNAを含有する動物ウイルスである。パルボウイルス科ファミリーは、2つの亜科:メンバーが脊椎動物を感染させるパルボウイルス亜科およびメンバーが昆虫を感染させるデンソウイルス亜科に分けることができる。2006年までに、11個の血清型のアデノ随伴ウイルスが記載されている[Mori,S.ら、2004年、「Two novel adeno-associated viruses from cynomolgus monkey:pseudotyping characterization of capsid protein」、Virology、Т.330(2):375~83頁]。公知の全ての血清型は、複数の組織型由来の細胞を感染させることができる。組織特異性は、カプシドタンパク質の血清型によって決定され;したがって、アデノ随伴ウイルスに基づくベクターは、所望の血清型を割り当てることによって構築される。パルボウイルス科のパルボウイルスおよび他のメンバーに関するさらなる情報は、文献[Kenneth I.Berns、「Parvoviridae:The Viruses and Their Replication」、Fields Virology(第3版1996年)の第69章]に記載されている。
【0040】
公知のAAV血清型の全てのゲノム構成は、非常によく似ている。AAVのゲノムは、長さ約5000ヌクレオチド(nt)未満の直鎖状、一本鎖DNA分子である。逆位末端反復(ITR)は、非構造タンパク質(Rep)および構造タンパク質(Cap)の複製の固有のコードヌクレオチド配列を挟んでいる。Cap遺伝子は、カプシドを形成するVPタンパク質(VP1、VP2およびVP3)をコードする。末端145ヌクレオチドは自己相補的であり、T字ヘアピンを形成するエネルギー的に安定な分子内二本鎖が形成されうるように組織化される。そのようなヘアピン構造は、ウイルスDNAの複製の複製起点として機能し、細胞性DNAポリメラーゼ複合体のプライマーとしての機能を果たす。哺乳動物細胞において野生型AAV(wtAAV)感染後に、Rep遺伝子(例えばRep78およびRep52)は、それぞれP5プロモーターおよびP19プロモーターを使用して発現され、両方のRepタンパク質は、ウイルスゲノムの複製において特定の機能を有する。Repオープンリーディングフレーム(Rep ORF)におけるスプライシング事象は、実際に4種類のRepタンパク質(例えばRep78、Rep68、Rep52およびRep40)の発現をもたらす。しかしながら、Rep78およびRep52タンパク質をコードしているスプライスされていないmRNAが、哺乳動物細胞におけるAAVベクターの作製には充分であることが示されている。
ベクター
本明細書では用語「ベクター」とは、連結された別の核酸を輸送する能力がある核酸分子を意味する。さらに、本明細書において用語「ベクター」とは、核酸を輸送する能力があるウイルス粒子のことを指す。
【0041】
本説明に使用される、用語「発現」は、プロモーターによって駆動される特定のヌクレオチド配列の転写および/または翻訳と定義される。
使用
「遺伝子療法」は、疾患、一般に遺伝性疾患を処置するために対象の細胞および/または組織へ遺伝子を挿入することであり、そこで欠損変異対立遺伝子は、機能的な対立遺伝子で置き換えられる。
【0042】
「処置する(treat)」、「処置する(treating)」および「処置(treatment)」とは、生物学的障害および/もしくは付随する症状の少なくとも1つを軽減または抑制する方法のことを指す。本明細書では、疾患、障害または症状を「軽減する」とは、疾患、障害もしくは症状の徴候の重症度および/または発生頻度を減少させることを意味する。さらに、本明細書における「処置」への言及は、治癒的、対症的および予防的処置への言及を含む。
【0043】
一側面において、処置の対象または患者は、哺乳動物、好ましくはヒト対象である。前記対象は、任意の年齢の男性または女性のいずれでもよい。
用語「障害」とは、本発明の化合物による処置から利益を得る任意の症状を意味する。
【0044】
「疾患」とは、対象がホメオスタシスを維持することができず、疾患が改善されない場合に対象の健康が悪化し続ける対象の健康状態である。
用語「対象」、「患者」、「個体」等は、本説明において互換的に使用され、本説明に記述される方法に適する任意の動物のことを指す。特定の非限定的な態様において、対象、患者または個体は、ヒトである。前記対象は、任意の年齢の男性または女性のいずれでもよい。
【0045】
「治療上有効な量」または「有効量」とは、処置される疾患の1つまたは複数の徴候をある程度取り除くことになる、投与される治療的薬剤の量のことを指す。
発明の詳細な説明
核酸
一側面において、本発明は、アミノ酸配列
【0046】
【0047】
を有するFIXタンパク質(凝固第IX因子)をコードし:
【0048】
【0049】
または
【0050】
【0051】
を含む群から選択されるヌクレオチド配列を含む、単離され、コドンを最適化された核酸に関する。
「単離された」核酸分子は、少なくとも1つの核酸分子-不純物から同定、分離されるものであり、ヌクレアーゼ核酸の天然の供給源において、前者は、一般に結合している。単離された核酸分子は、天然の条件下で見出される形態または組と異なっている。したがって、単離された核酸分子は、天然の条件下で細胞内に存在する核酸分子とは異なる。しかしながら、単離された核酸分子は、例えば、核酸分子が天然の条件下の細胞における局在化と異なる染色体局在化を有する場合、ヌクレアーゼが通常発現される細胞内に位置する核酸分子を含んでいる。
【0052】
上記のコドンを最適化された核酸は、ヌクレオチド配列
【0053】
【0054】
を有する野生型核酸をコドン最適化することによって入手された。
配列番号17のヌクレオチド配列を有する、FIXタンパク質をコードしている野生型核酸をコドン最適化した結果、コドンを最適化された核酸が多数得られ、その核酸を対照(配列番号17の野生型核酸)と比較してタンパク質産生レベルについてさらに試験した。
【0055】
コドンを最適化された核酸の全てが、野生型と比較してFIXタンパク質産生レベルの増大を示し;さらに、配列番号2のヌクレオチド配列を有する本発明のコドンを最適化された核酸(hFIXco-v1)および配列番号4のヌクレオチド配列を有する本発明のコドンを最適化された核酸(hFIXco-v2)は、驚くことに、野生型と比較して、最良の結果、特にFIX遺伝子発現レベルの増大、FIXタンパク質産生レベルの数倍の増大を示した(例2、例3および例4を参照のこと)。
発現カセットと発現ベクター
一側面において、本発明は、FIXタンパク質(凝固第IX因子)をコードする上記のコドンを最適化された核酸を含む発現カセットに関する。
【0056】
本明細書では、用語「発現するカセット」または「発現カセット」とは、適切な設定において、前記発現カセット中に含まれる対象となるポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドの発現を始動させる能力があるDNA断片のことを特に指す。宿主細胞に導入された場合、発現カセットは、とりわけ、対象のポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドをRNAへと転写するための細胞機構に関与する能力があり、その後、RNAは、一般にさらにプロセッシングされ、最終的に対象のポリペプチドに翻訳される。発現カセットは、発現ベクターに含有されてもよい。
【0057】
本発明の発現カセットは、要素としてプロモーターを含む。本明細書では用語「プロモーター」とは、プロモーターが作動的に連結されているポリヌクレオチドの転写を促進するDNA要素のことを特に指す。プロモーターは、プロモーター/エンハンサー要素の部分をさらに形成しうる。「プロモーター」と「エンハンサー」要素の間の物理的境界は、必ずしも明確ではないが、用語「プロモーター」とは、RNAポリメラーゼおよび/または任意の関連因子が結合し、転写が開始される核酸分子上の部位のことを一般に指す。エンハンサーは、一時的および空間的にプロモーター活性を強化する。多くのプロモーターは、多様な細胞型において転写活性があることが当業者に公知である。プロモーターは、2つのクラス、構成的に機能するものおよび誘導または抑制解除によって調節されるもの、に分けることができる。両方のクラスが、タンパク質発現に適している。真核生物細胞、特に哺乳動物細胞におけるポリペプチドの高レベル産生に使用されるプロモーターは、多様な細胞型において強力であり、好ましくは活性であるべきである。多くの細胞型において発現を駆動する能力がある強力な構成的プロモーターは、当業者に周知であり、したがって、本明細書においてそれについて詳細に記載する必要はない。本発明の考えによると、TTRプロモーターを使用することが好ましい。TTRプロモーターまたはTTRプロモーター/エンハンサーは、本発明の発現カセットにおけるプロモーターとして特に適している。本発明の一態様によると、TTRプロモーターが、本発明の発現カセットに使用される。
【0058】
本発明の一部の態様において、発現カセットは、5’末端から3’末端の方向に以下の要素:
左側の(第1の)ITR(逆位末端反復);
TTRプロモーター(トランスチレチンプロモーター);
hBG1遺伝子イントロン(ヒトβ-グロビン遺伝子のイントロンを有する断片);
FIXタンパク質(凝固第IX因子)をコードする上記のコドンを最適化された核酸;
hGH1ポリアデニル化シグナル(ヒト成長ホルモン遺伝子ポリアデニル化シグナル);
右側の(第2の)ITRを含む。
【0059】
本発明の一部の態様において、左側の(第1の)ITRは、以下の核酸配列:
【0060】
【0061】
を有する。
本発明の一部の態様において、TTRプロモーターは、以下の核酸配列:
【0062】
【0063】
を有する。
本発明の一部の態様において、hBG1遺伝子のイントロンは、以下の核酸配列:
【0064】
【0065】
を有する。
本発明の一部の態様において、hGH1ポリアデニル化シグナルは、以下の核酸配列:
【0066】
【0067】
を有する。
本発明の一部の態様において、右側の(第2の)ITRは、以下の核酸配列:
【0068】
【0069】
を有する。
本発明の一部の態様において、発現カセットは:
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
または
【0074】
【0075】
【0076】
を含む群から選択されるヌクレオチド配列を含む。
一側面において、本発明は、上記のコドンを最適化した核酸または上記の発現カセットのいずれかを含む発現ベクターに関する。
【0077】
本発明の一部の態様において、ベクターは、プラスミド、即ち、追加のDNA断片がライゲートされうるDNAの環状二本鎖片である。
本発明の一部の態様において、ベクターはウイルスベクターであり、追加のDNA区分は、ウイルスゲノムにライゲートされうる。
【0078】
本発明の一部の態様において、ベクターは、導入される宿主細胞中で自己複製する能力がある(例えば複製の細菌複製起点部位を有する細菌ベクターおよびエピソーム性哺乳動物ベクター)。本発明のさらなる態様において、ベクター(例えば非エピソーム性哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入により宿主細胞のゲノムに組み込まれてもよく、それによって宿主遺伝子とともに複製される。さらに、特定のベクターは、作動的に連結された遺伝子の発現を指令する能力がある。本明細書においてそのようなベクターは、「組換え発現ベクター」(または、単に「発現ベクター」)と称される。
【0079】
発現ベクターには、プラスミド、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、カリフラワーモザイクウイルス、タバコモザイクウイルスなどの植物ウイルス、コスミド、YAC、EBV由来エピソーム、等がある。DNA分子は、ベクター内の転写および翻訳制御配列が、DNAの転写ならびに翻訳を調節するという意図した機能を果たすようにベクターにライゲートされうる。発現ベクターおよび発現制御配列は、使用される発現宿主細胞と適合するように選ばれうる。DNA分子は、標準的な方法(例えば相補的制限部位のライゲーション、または制限部位が存在しない場合平滑末端ライゲーション)によって発現ベクターに導入されうる。
【0080】
組換え発現ベクターは、宿主細胞からの対象とするタンパク質の分泌を促進するリーダーペプチド(またはシグナルペプチド)をコードすることもできる。対象のタンパク質の遺伝子は、シグナルペプチドが対象のタンパク質のアミノ末端にインフレームで連結されるようにベクターにクローニングされうる。リーダーペプチド(またはシグナルペプチド)は、免疫グロブリンのリーダーペプチドまたは他のリーダーペプチド(即ち非免疫グロブリンタンパク質のリーダーペプチド)でもよい。
【0081】
本発明のFIX遺伝子に加えて、本発明のベクターの組換え発現は、宿主細胞においてFIX遺伝子の発現を制御する調節配列を保有してもよい。調節配列の選択を含めた発現ベクターの設計が、形質転換される宿主細胞の選択、所望のタンパク質の発現のレベル、その他などの因子によって決まりうることは、当業技術者によって理解されよう。哺乳動物における発現宿主細胞用として好ましい制御配列には、レトロウイルスLTR、サイトメガロウイルス(CMV)(CMVプロモーター/エンハンサーなど)、シミアンウイルス40(SV40)(SV40プロモーター/エンハンサーなど)、アデノウイルス[例えば主要後期プロモーターアデノウイルス(AdMLP)]、ポリオーマウイルス、およびTTRプロモーター、天然の免疫グロブリンプロモーターもしくはアクチンプロモーターなどの強力な哺乳動物プロモーターから得られるプロモーターならびに/またはエンハンサーなど、哺乳動物細胞における高レベルのタンパク質発現を確実にするウイルス性要素がある。
【0082】
用語「制御配列」とは、特定の宿主生物において作動的に連結されたコード配列の発現に必要なDNA配列のことを指す。原核生物に適切な制御配列は、例えば、プロモーター、任意選択でオペレーター配列およびリボソーム結合部位である。真核生物細胞が、プロモーター、ポリアデニル化シグナルおよびエンハンサーを含むことは公知である。
【0083】
本説明に使用される用語「プロモーター」または「転写調節配列」または「調節配列」とは、1つもしくは複数のコード配列の転写を制御し、コード配列の転写開始部位からの転写の方向と比較して読み込みの方向に対して上流に位置し、DNA依存性RNAポリメラーゼの結合部位、転写開始部位、および転写因子結合部位、リプレッサーおよび活性化タンパク質結合部位を含むがこれに限定されない他の任意のDNA配列、ならびに前記プロモーターにより転写のレベルを直接もしくは間接的に調節する当業者に公知の他の任意のヌクレオチド配列の存在によって構造的に同定される核酸断片のことを指す。「構成的」プロモーターは、典型的な生理的および発生的条件下でほとんどの組織において活性があるプロモーターである。「誘導可能な」プロモーターは、例えば化学誘導物質の影響下で、生理的または発生的に調節されるプロモーターである。「組織特異的」プロモーターは、特定の型の組織または細胞においてのみ活性がある。
【0084】
本明細書では用語「エンハンサー(複数)」または「エンハンサー(単数)」は、組換え産物をコードするDNA配列の隣に位置するDNA配列のことを指す場合がある。エンハンサー要素は、プロモーター要素から5’方向に一般に位置し、またはコードDNA配列[例えば、組換え産物(単数)もしくは産物(複数)に転写または翻訳されるDNA配列]の下流もしくは中に位置することができる。それ故、エンハンサー要素は、組換え産物をコードするDNA配列の100塩基対、200塩基対もしくは300塩基対以上上流または前記配列の下流に位置することができる。エンハンサー要素は、DNA配列から発現される組換え産物の量を単一のプロモーター要素と関連する発現レベルより高く増大させうる。複数のエンハンサー要素が、当分野の技術者に容易に利用可能である。
【0085】
上記遺伝子および調節配列に加えて、本発明の組換え発現ベクターは、宿主細胞におけるベクターの複製を調節する配列(例えば複製の複製起点)および選択可能なマーカー遺伝子など、追加の配列を保有してもよい。選択可能なマーカー遺伝子は、ベクターが導入された宿主細胞の選択を容易にする(例えば米国特許第4,399,216号、第4,634,665号および第5,179,017号を参照のこと)。例えば、選択可能なマーカー遺伝子は、ベクターが導入された宿主細胞にG418、アンピシリン、ハイグロマイシンまたはメトトレキサートなどの医用薬剤に対する抵抗性を一般に付与する。例えば、選択可能なマーカー遺伝子には、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子(メトトレキサート選択/増幅中のdhfr宿主細胞に使用する)、neo遺伝子(G418選択用)およびグルタミン酸合成酵素遺伝子がある。
【0086】
本説明に使用される用語「発現制御配列」とは、ライゲートされるコード配列の発現およびプロセッシングを達成するために必要なポリヌクレオチド配列のことを指す。発現制御配列には、適切な転写開始、終結、プロモーターおよびエンハンサー配列;スプライシングおよびポリアデニル化シグナルなどの効率的なRNAプロセッシングシグナル;細胞質mRNAを安定化する配列;翻訳効率を増強させる配列(即ち、コザック共通配列);タンパク質安定性を増強させる配列;必要に応じて、タンパク質分泌を増強させる配列が含まれる。そのような制御配列の性質は、宿主生物に応じて異なり;原核生物において、そのような制御配列は、リボソーム結合部位のプロモーターおよび転写終結配列を一般に含み;真核生物において、一般に、そのような制御配列は、プロモーターおよび転写終結配列を含む。用語「制御配列」は、その存在が発現およびプロセッシングに必須である少なくとも全ての成分を含み、その存在が有利である追加の成分、例えば、リーダー配列ならびに融合パートナー配列を含むこともできる。
【0087】
本明細書では、用語「作動的に連結される」とは、機能的に関係してポリヌクレオチド(またはポリペプチド)要素を連結することを指す。核酸が、別の核酸配列と機能的に関係した状態で存在する場合、「作動的に連結されている」。例えば、転写調節配列が、コード配列の転写に影響を及ぼす場合、それは、前記コード配列に作動的に連結されている。用語「作動的に連結される」は、連結されるDNA配列が一般に連続しており、2つのタンパク質コード領域を接続する必要がある場合には、同様に連続しており、読み枠内に存在することを意味する。
【0088】
本発明の一態様において、「発現ベクター」は、対象の1つもしくは複数のポリヌクレオチド配列、対象の遺伝子、またはパルボウイルス配列もしくは逆位末端反復(ITR)配列に挟まれている「導入遺伝子」を含むベクターに関する。
【0089】
本発明のカセットまたはベクターのいずれも、アデノ随伴ウイルスの非構造タンパク質(Rep)および構造タンパク質(Cap)をコードしている遺伝子のヌクレオチド配列を含まない。
AAV5(アデノ随伴ウイルス血清型5)に基づく組換えウイルス
一側面において、本発明は、上記のコドンを最適化した核酸または上記の発現カセットのいずれかを含む、標的細胞においてFIX遺伝子の発現を増大させるための単離されたAAV5(アデノ随伴ウイルス血清型5)に基づく組換えウイルスに関する。
【0090】
この説明に使用される用語「AAVに基づく組換えウイルス」(または「AAVに基づくウイルス様粒子」、もしくは「AAV組換えウイルス株」、または「AAV組換えベクター」、もしくは「rAAVベクター」)とは、AAVカプシドで封入される上記発現カセット(または上記発現ベクター)のことを指す。
【0091】
Cap遺伝子は、様々な選択的産物の中でも特に、3種のカプシドタンパク質(VP1、VP2およびVP3)をコードしている。VP1、VP2およびVP3は、比1:1:10で存在して、正二十面体のカプシドを形成する[Xie Q.ら、The atomic structure of adeno-associated virus(AAV-2)、a vector for human gene therapy.Proc Natl Acad Sci USA、2002年;99:10405~10410頁]。これら遺伝子の転写は、単一のプロモーター、p40から始まる。対応するタンパク質(VP1、VP2およびVP3)の分子量は、それぞれ87、72および62kDaである。3つのタンパク質全てが、1つのmRNAから翻訳される。転写後、mRNA前駆体は、2つの異なる様式でスプライスされる場合があり、より長いまたはより短いイントロンのいずれかが切り出されて、様々なヌクレオチド長のmRNAが形成される。
【0092】
AAV(rAAV)に基づく組換えウイルスの作製において、ITRに挟まれる発現カセットは、AAVカプシドにパッケージングされる。AAVの複製に必要とされる遺伝子は、上述の通りカセットに含まれない。
【0093】
発現カセットDNAは、長さおよそ3000ヌクレオチドの一本鎖DNA分子(ssDNA)の形態でウイルスカプシドにパッケージングされる。細胞が、ウイルスに感染すると、一本鎖DNAは、二本鎖DNA(dsDNA)の形態に変換される。dsDNAは、存在する遺伝子(単数)または遺伝子(複数)をRNAへと転写する細胞のタンパク質によってのみ使用されうる。
【0094】
本発明の一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、AAV5タンパク質VP1を含むカプシドを有する。
本発明の一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、アミノ酸配列
【0095】
【0096】
を有するAAV5タンパク質VP1を含むカプシドを有する。
本発明の一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、AAV5タンパク質VP2を含むカプシドを有する。
【0097】
本発明の一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、以下のアミノ酸配列:
【0098】
【0099】
を有するAAV5タンパク質VP2を含むカプシドを有する。
本発明の一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、AAV5タンパク質VP3を含むカプシドを有する。
【0100】
本発明の一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、以下のアミノ酸配列
【0101】
【0102】
を有するAAV5タンパク質VP3を含むカプシドを有する。
本発明の一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、AAV5タンパク質VP1、VP2およびVP3を含むカプシドを有する。
【0103】
本発明の一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、配列番号11のアミノ酸配列を有するVP1、配列番号12のアミノ酸配列を有するVP2および配列番号13のアミノ酸配列を有するVP3タンパク質を含むカプシドを有する。
【0104】
本発明の一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、1つまたは複数の点突然変異を含む配列番号11のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP1を含むカプシドを有する。
【0105】
本発明の一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、野生型AAV5 VP1(配列番号11)のS2AおよびT711Sの位置にアミノ酸置換を含むアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP1を含むカプシドを有し、アミノ酸配列
【0106】
【0107】
を有する。
本発明の一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、1つまたは複数の点突然変異を含む配列番号12のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP2を含むカプシドを有する。
【0108】
本発明の一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、野生型AAV5 VP2(配列番号12)のT575Sの位置にアミノ酸置換を含むアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP2を含むカプシドを有し、アミノ酸配列
【0109】
【0110】
を有する。
本発明の一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、1つまたは複数の点突然変異を含む配列番号13のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP3を含むカプシドを有する。
【0111】
本発明の一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、野生型AAV5 VP3(配列番号13)のT519Sの位置にアミノ酸置換を含むアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP3を含むカプシドを有し、アミノ酸配列
【0112】
【0113】
を有する。
本発明の一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、1つまたは複数の点突然変異を含む配列番号11のアミノ酸配列を有するVP1、1つまたは複数の点突然変異を含む配列番号12のアミノ酸配列を有するVP2および1つまたは複数の点突然変異を含む配列番号13のアミノ酸配列を有するVP3タンパク質を含むカプシドを有する。
【0114】
本発明の一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、配列番号14のアミノ酸配列を有するVP1、配列番号15のアミノ酸配列を有するVP2および配列番号16のアミノ酸配列を有するVP3タンパク質を含むカプシドを有する。
【0115】
熟語「より多くの点突然変異」とは、2、3、4、5、6、7、8、9または10点の置換のことを指す。
特に好ましい態様は、天然に保存的である置換(突然変異)、即ち側鎖において接続されるアミノ酸のファミリー内で起こる置換を含む。特に、アミノ酸は、4つのファミリーに一般に分けられる:(1)酸性アミノ酸は、アスパラギン酸およびグルタミン酸である;(2)塩基性アミノ酸は、リジン、アルギニン、ヒスチジンである;(3)非極性アミノ酸は、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンである、(4)非荷電極性アミノ酸は、グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、トレオニン、チロシンである。フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンは、芳香族アミノ酸に分類される場合もある。例えば、イソロイシンもしくはバリンの代わりにロイシン、グルタミン酸の代わりにアスパラギン酸、セリンの代わりにトレオニンの単独の置換、または構造的に関連するアミノ酸に対するアミノ酸の類似の保存的置換が、生物学的活性に対して大きな効果がないであろうことは、合理的に予測可能である。例えば、対象のポリペプチドは、分子の所望の機能が無傷のままである限り、約5~10個まで保存的または非保存的アミノ酸置換を含みうる。
【0116】
アミノ酸置換を使用するAAV5タンパク質VP1、VP2またはVP3配列における点突然変異のバリアントは、AAV5タンパク質VP1、VP2またはVP3における少なくとも1つのアミノ酸残基の別のアミノ酸残基による置換である。
【0117】
保存的置換は、「好ましい置換」により表Aに示される。
【0118】
【0119】
本発明の一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、配列番号11のアミノ酸配列または1つもしくは複数の点突然変異を含む配列番号11のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP1を含むカプシドを有し、発現カセットは、5’末端から3’末端の方向に以下の要素:
左側の(第1の)ITR(逆位末端反復);
TTRプロモーター(トランスチレチンプロモーター);
hBG1遺伝子イントロン(ヒトβ-グロビン遺伝子のイントロンを有する断片);
上記のコドンを最適化された核酸;
hGH1ポリアデニル化シグナル(ヒト成長ホルモン遺伝子ポリアデニル化シグナル);
右側の(第2の)ITRを含む。
【0120】
本発明の一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、配列番号11のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP1、配列番号12のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP2および配列番号13のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP3を含むカプシドを有し、発現カセットは、5’末端から3’末端の方向に以下の要素:
左側の(第1の)ITR(逆位末端反復);
TTRプロモーター(トランスチレチンプロモーター);
hBG1遺伝子イントロン(ヒトβ-グロビン遺伝子のイントロンを有する断片);
上記のコドンを最適化された核酸;
hGH1ポリアデニル化シグナル(ヒト成長ホルモン遺伝子ポリアデニル化シグナル);
右側の(第2の)ITRを含む。
【0121】
本発明の一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、1つまたは複数の点突然変異を含む配列番号11のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP1、1つまたは複数の点突然変異を含む配列番号12のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP2、および1つまたは複数の点突然変異を含む配列番号13のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP3を含むカプシドを有し、発現カセットは、5’末端から3’末端の方向に以下の要素:
左側の(第1の)ITR(逆位末端反復);
TTRプロモーター(トランスチレチンプロモーター);
hBG1遺伝子イントロン(ヒトβ-グロビン遺伝子のイントロンを有する断片);
上記のコドンを最適化された核酸;
hGH1ポリアデニル化シグナル(ヒト成長ホルモン遺伝子ポリアデニル化シグナル);
右側の(第2の)ITRを含む。
【0122】
本発明の一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、配列番号14のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP1、配列番号15のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP2および配列番号16のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP3を含むカプシドを有し、発現カセットは、5’末端から3’末端の方向に以下の要素:
左側の(第1の)ITR(逆位末端反復);
TTRプロモーター(トランスチレチンプロモーター);
hBG1遺伝子イントロン(ヒトβ-グロビン遺伝子のイントロンを有する断片);
上記のコドンを最適化された核酸;
hGH1ポリアデニル化シグナル(ヒト成長ホルモン遺伝子ポリアデニル化シグナル);
右側の(第2の)ITRを含む。
【0123】
本発明の一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、配列番号11のアミノ酸配列または1つもしくは複数の点突然変異を含む配列番号11のアミノ酸配列を有するAAV5タンパク質VP1を含むカプシドを有し、発現カセットは、配列番号3または配列番号5を含む群から選択されるヌクレオチド配列を含む。
【0124】
本発明の一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、配列番号11のアミノ酸配列を有するVP1、配列番号12のアミノ酸配列を有するVP2および配列番号13のアミノ酸配列を有するVP3タンパク質を含むカプシドを有し、発現カセットは、配列番号3または配列番号5を含む群から選択されるヌクレオチド配列を含む。
【0125】
本発明の一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、1つまたは複数の点突然変異を含む配列番号11のアミノ酸配列を有するVP1、1つまたは複数の点突然変異を含む配列番号12のアミノ酸配列を有するVP2および1つまたは複数の点突然変異を含む配列番号13のアミノ酸配列を有するVP3タンパク質を含むカプシドを有し、発現カセットは、配列番号3または配列番号5を含む群から選択されるヌクレオチド配列を含む。
【0126】
本発明の一部の態様において、AAV5に基づく組換えウイルスは、配列番号14のアミノ酸配列を有するVP1、配列番号15のアミノ酸配列を有するVP2および配列番号16のアミノ酸配列を有するVP3タンパク質を含むカプシドを有し、発現カセットは、配列番号3または配列番号5を含む群から選択されるヌクレオチド配列を含む。
医薬組成物
一側面において、本発明は、標的細胞にFIX遺伝子を送達するための医薬組成物に関し、その医薬組成物は、1つまたは複数の薬学的に許容可能な賦形剤と組み合わせて上記のAAV5に基づく組換えウイルスのいずれかを含む。
【0127】
上記の組成物中の活性物質は、有効量、例えば、生物学的に有効な量で存在する。
特定の態様において、本発明は、薬学的に許容可能な担体または他の医薬品、アジュバント、希釈剤、等の中に本発明のAAV5に基づく組換えウイルスを含む医薬組成物に関する。注射の場合、担体は、一般に液状担体になる。他の投与方法の場合、担体は、個体、または無菌の発熱性物質を含まない水もしくは無菌の発熱性物質を含まないリン酸緩衝食塩水などの液体のいずれかでありうる。吸入投与の場合、担体は、呼吸に適しており、好ましくは固体または液体粒状形態である。注射媒体としては、安定化剤、塩もしくは生理食塩水などの注射溶液に一般的な添加物、および/または緩衝剤を含有する水を使用することが好ましい。
【0128】
「医薬組成物」は、本発明の上記AAV5に基づく組換えウイルスおよび充填材、溶媒、希釈剤、担体、助剤、分配剤、送達剤、保存剤、安定化剤、乳化剤、懸濁化剤、増粘剤、長期送達制御剤などの薬学的に許容可能であり、薬理学的に適合する賦形剤からなる群から選択される成分を少なくとも1つ含む組成物を意味し、その選択および割合は、投与の型および経路ならびに投薬量によって決まる。本発明の医薬組成物およびその調製の方法は、当業技術者にとって確実に明らかであろう。医薬組成物は、GMP(医薬品製造品質管理基準)要件に準拠して、好ましくは製造されるべきである。組成物は、緩衝組成物、等張化剤、安定化剤および可溶化剤を含んでもよい。
【0129】
「薬学的に許容可能」とは、生物学的または他の負の副作用がない材料を意味し、例えば、その材料は、いかなる望ましくない生物学的効果も引き起こさずに対象に投与されうる。したがって、そのような医薬組成物は、例えば、ex vivoでの細胞のトランスフェクションまたは本発明のAAV5に基づく組換えウイルスの対象へのin vivo直接投与に使用されうる。
【0130】
用語「賦形剤」は、本発明の上記成分以外のあらゆる成分について記載するために本明細書に使用される。これらは、薬物製剤に必要な物理化学的特性を与えるために薬学的生産/製造に使用される無機または有機の物質である。
【0131】
「安定化剤」とは、活性薬剤の物理および/または化学的安定性を提供する賦形剤もしくは2つ以上の賦形剤の混合物のことを指す。
用語「緩衝液」、「緩衝組成物」、「緩衝剤」とは、酸塩基コンジュゲート成分の作用によるpH変化に抵抗する能力があり、rAAV5ベクター産物がpH変化に抵抗することを可能にする溶液のことを指す。一般に、医薬組成物は、pH4.0~8.0を好ましくは有する。使用される緩衝液の例には、酢酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、ヒスチジン、コハク酸塩、等の緩衝液があるが、これに限定されない。
【0132】
活性薬剤が、指定された貯蔵寿命の間、保存温度、例えば、2~8℃でその物理的安定性および/もしくは化学的安定性ならびに/または生物学的活性を保持する場合、医薬組成物は「安定である」。好ましくは、活性薬剤は、物理および化学的安定性の両方、ならびに生物学的活性を保持する。貯蔵期間は、加速または自然劣化条件における安定性試験の結果に基づいて調整される。
【0133】
本発明による医薬組成物は、単回単位用量もしくは複数の単回単位用量の形態で、即時処方の形態で製造、梱包、または広く販売されうる。本明細書では用語「単一の単位用量」とは、予め定めた分量の活性成分を含有する医薬組成物の個別の分量のことを指す。活性成分の分量は、対象において投与される活性成分の用量、またはそのような用量の簡便な部分、例えば、そのような用量の半分または1/3に一般に等しい。
使用
一側面において、本発明は、標的細胞にFIX遺伝子を送達するための上記のAAV5に基づく組換えウイルスまたは上記の組成物のいずれかの使用に関する。
【0134】
一側面において、本発明は、B型血友病を有するおよび/またはFIX遺伝子の完全に機能的なコピーを有しない対象にFIXタンパク質を提供するための、上記のAAV5に基づく組換えウイルスもしくは上記の組成物のいずれかの使用に関する。
【0135】
一側面において、本発明は、B型血友病を有する対象においてB型血友病を処置するための、上記のAAV5に基づく組換えウイルスまたは上記の組成物のいずれかの使用に関する。
【0136】
一側面において、本発明は、B型血友病を有する対象にFIXタンパク質を提供する方法に関し、前記方法は、それを必要とする対象の細胞に治療上有効な量の上記のAAV5に基づく組換えウイルスまたは上記の組成物のいずれかを投与する工程を含む。
【0137】
一側面において、本発明は、B型血友病を有する対象の標的細胞にFIX遺伝子を送達する方法に関し、前記方法は、対象の細胞に上記のAAV5に基づく組換えウイルスまたは上記の組成物のいずれかを投与する工程を含む。
【0138】
一側面において、本発明は、対象においてB型血友病を処置するための方法に関し、前記方法は、B型血友病を有する対象に上記のAAV5に基づく組換えウイルスまたは上記の組成物のいずれかの治療上有効な量を投与する工程を含む。
【0139】
B型血友病は、凝固第IX因子(FIX)の欠乏または完全な不在によって引き起こされる遺伝性凝固異常のことを指す。B型血友病の罹患率は、男児新生児40000人中約1人である。凝固因子の欠乏は、関節、筋肉および内部器官における自発または誘導的な出血を伴う。
【0140】
FIX遺伝子の完全に機能的なコピーの欠如とは、ゲノム中のFIX遺伝子の全コピーにおける不活性化突然変異または欠失のことを指し、その結果FIX遺伝子の機能が消失または欠損する。
【0141】
対象とは、本説明に提供される技術に適する任意の動物のことを指す。特定の非限定的な態様において、対象はヒトである。前記対象は、任意の年齢の男性または女性のいずれでもよい。
【0142】
標的細胞にFIX遺伝子を送達する必要性がある対象、またはFIXタンパク質を与える必要性がある対象とは、B型血友病がある対象、または凝固第IX因子が欠乏している対象、またはFIX遺伝子の機能の消失もしくは欠損をもたらすFIX遺伝子に不活性化突然変異もしくは欠失を有する対象のことを指す。
【0143】
投与の典型的な様式には、局所適用、鼻腔内、吸入、経粘膜、経皮、腸内(例えば口腔、直腸)、非経口(例えば静脈内、皮下、真皮内、筋肉内)投与および組織または器官直接注射がある。
【0144】
注射可能薬物は、液体の溶液もしくは懸濁液のいずれか、注射前に液体中に溶液もしくは懸濁液を調製するのに適切な固体形態、またはエマルジョンとして従来通りの形態で調製されうる。別法として、本発明の上記のAAV5に基づく組換えウイルスを、全身ではなく局所的様式で、例えばデポまたは持続放出処方で投与してもよい。
【0145】
AAV5に基づく組換えウイルスは、有効量で生物に導入される。好ましくは、AAV5に基づく組換えウイルスは、生物学的に有効な量で生物に導入される。組換えウイルスの「生物学的に有効な」量は、細胞において核酸配列の形質導入および発現を引き起こすのに十分な量である。ウイルスが、in vivoで細胞に投与される(例えば、下記の通り、ウイルスが対象に投与される)場合、ウイルスベクターの「生物学的に有効な」量は、標的細胞において核酸配列の形質導入および発現を引き起こすのに十分な量である。
【0146】
本発明の上記AAV5に基づく組換えウイルスの投薬量は、投与の様式、特定のウイルスベクターによって決まることになり、それらは通常の様式で決定されうる。治療的効果を達成するための例示的な用量は、キログラム当たり少なくとも約105、106、107、108、109、1010、1011、1012、1013、1014、1015、1016形質導入単位またはより多く、好ましくは約109~1015形質導入単位、なおより好ましくは1014形質導入単位のウイルス力価である。
【0147】
本発明の上記AAV5に基づく組換えウイルスを投与するための細胞は、上皮細胞(例えば皮膚、呼吸器および腸上皮細胞)、肝細胞、筋細胞、膵臓細胞(島細胞を含む)、肝細胞、脾臓細胞、線維芽細胞、内皮細胞、等を含むがこれに限定されない任意の型の細胞でありうる。
【0148】
本発明の上記AAV5に基づく組換えウイルスは、ヒト生殖系細胞の遺伝的完全性を修飾するために使用されない。
【実施例】
【0149】
以下の例は、本発明のより良い理解のために提供される。これら例は、単なる例示を目的としており、いかなる様式でも本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきでない。
本明細書に引用される刊行物、特許および特許出願の全ては、参照により本明細書に組み込まれる。前述の発明は、明快な理解のために例示および例によっていくらか詳細に記載されるが、特定の変更および修飾が、添付の態様の精神または範囲を逸脱することなくそれに行われうることは、本発明の教示に照らして当分野の技術者にとって容易に明らかになろう。
材料および一般的な方法
組換えDNA技術
Sambrook、J.ら、Molecular cloning:A laboratory manual;Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York、1989年に記載の標準的な方法を使用して、DNAを操作した。分子生物学的試薬を、製造業者プロトコールにしたがって使用した。簡潔には、プラスミドDNAを作製して、プラスミドが細胞集団中で失われないように抗生物質の選択圧下で成長させた大腸菌(E.coli)細胞においてさらに操作した。市販のキットを使用して細胞からプラスミドDNAを単離し、濃度を測定し、制限酵素処理またはPCR増幅によるクローニングに使用した。DNA断片を、リガーゼを使用して互いにライゲートし、細菌細胞を形質転換して、クローンを選択し、さらに作製した。得られた遺伝的構築物の全てを、制限パターンおよび完全なサンガー配列決定によって確認した。
遺伝子合成
所望の遺伝子区分を、化学合成によって作ったオリゴヌクレオチドから調製した。固有の制限部位に挟まれた長さ300~1000bpの遺伝子区分を、オリゴヌクレオチドを互いの上で復元することによって採取し、その後隣接プライマーからPCR増幅した。結果として、所望のものを含む断片の混合物が作製された。断片を、中間ベクターの制限部位にクローニングし、その後、サブクローニングした断片のDNA配列を、DNA配列決定によって確認した。
DNA配列決定
DNA配列を、サンガー配列決定によって決定した。DNAおよびタンパク質配列を分析し、配列作成、マッピング、分析、注釈付けおよび例示のために配列データを、SnapGene Viewerの4.2またはそれ以降のバージョンで加工した。
細胞培養の培養
実験は、HEK293(ヒト胚腎臓クローン293)およびHUH7(ヒト肝細胞癌腫)細胞系を使用した。AAVを産生するために使用される懸濁HEK293細胞を、FBSおよび抗生物質を含まない完全培養培地において37℃、5% CO
2の標準的な条件で培養した。AAV産物の有効性を試験するために使用される付着HUH7細胞を、10% FBS、抗生物質/抗真菌剤で補充した完全DMEM培地において37℃、5% CO
2の標準的な条件で培養した。HUH7細胞は、80~90%コンフルエンスに達したら継代された。TrypLE Select enzyme(10×)を使用して細胞単層を分離した。細胞生存率を、トリパンブルー染色およびCountess II自動カウンターを使用して使い捨て細胞計数チャンバを使用して評価した。
AAV組換えベクターのウイルス粒子の組立ておよび精製
FIX遺伝子のコドンを最適化したバリアント(hFIXco-v1およびhFIXco-v2)を含むAAVウイルス粒子は、以下の3種のプラスミド:
hFIXco-v1およびhFIXco-v2導入遺伝子をそれぞれ発現するためのAAV発現カセットを含むプラスミドpAAV-hFIXco-v1およびpAAV-hFIXco-v2(
図1);
AAV5血清型Cap遺伝子およびAAV2血清型Rep遺伝子を発現するためのプラスミド。各遺伝子は、選択的な読み枠を使用していくつかのタンパク質産物をコードする;
AAVカプシドの組立ておよびパッケージングに必要とされるAd5(アデノウイルス血清型5)遺伝子を発現するためのプラスミド。
でトランスフェクトされたHEK293産生細胞を使用して組み立てられた。
【0150】
72時間後、細胞を溶解し、ウイルス粒子を、ろ過、クロマトグラフィーおよび超遠心分離方法を使用して精製し、濃縮した。ウイルス粒子の力価を、組換えウイルスゲノムの領域に特異的なプライマーおよび試料を用いる定量的PCRによって決定し、1mL当たりのウイルスゲノムのコピー数として表した。
細胞培養の形質導入
HUH7細胞株を、密度10000個細胞/cm2で12ウェルプレートのウェルに予め播種した。細胞を接着基質に付着させた後、AAV調製物をMOI 500000vg/細胞で導入した。形質導入7日後に、培養液中のFIXタンパク質の含有量および活性をELISAによって決定し、細胞内の凝固第IX因子遺伝子の発現のレベルを上述の通り定量的逆転写PCRによって決定した。培養液中のFIXタンパク質のレベルの評価を含む研究を、6つの独立した実験で実行した。分泌されたFIXタンパク質の活性および細胞内の凝固第IX因子遺伝子発現のレベルの評価を含む研究を、3つの独立した実験で実行した。完全な細胞を、陰対照として使用した。
凝固第IX因子遺伝子発現のレベルの決定
形質導入(またはトランスフェクション)後の細胞培養中のFIX遺伝子発現のレベルを、定量的逆転写PCRによって決定した。簡潔には、RNAを、製造業者のプロトコールにしたがってRNeasy Plus mini kit(Qiagen)を使用して細胞沈殿物から単離した。逆転写を、製造業者のプロトコールにしたがってGoScript reagent kit(Promega)を使用して実行し;特に、最初にRNA 500ngを逆転写反応のために試料として採取し、cDNAを、ランダムおよびオリゴdTプライマーを使用して作製し;逆転写後、cDNAの容積を、無菌水を用いて50μLに調整した。定量的PCRを、製造業者のプロトコールにしたがってqPCRmix-HS HighROX反応混合物(Eurogene)を使用してTaqMan技術を使用して、StepOne機器(Applied Biosystems)で実行した。標的遺伝子(FIX)およびハウスキーピング遺伝子(GAPDH)に特異的なプライマーおよびプローブを選択した。対応する遺伝子を有するプラスミドDNA(plDNA)の試料を使用して標準曲線をプロットした。各標準曲線をプロットするために、7つの標準試料を調製した。一連の希釈:1反応当たり2000万~200コピーのplDNA(希釈係数1:10)。各試験試料について、分析を、3つの技術的反復で実行し、RTなし対照(研究においてRNA試料中にDNAの混入がないことを試験するため)および陰性対照を含めた。mRNA発現のレベルを決定した結果を、以下の形態:GAPDH遺伝子mRNAのコピー数に対して標準化した試料中の標的遺伝子mRNAのコピー数で示した。
ELISAによる凝固第IX因子タンパク質のレベルの決定
標的AAV5-FIX候補によるHUH7の形質導入後の培養液および標的ウイルス産物の導入後の動物血漿中の血液凝固第IX因子タンパク質の含有量を、市販のキットを使用する非競合的固相酵素免疫測定法(ELISA)のサンドイッチ法によって評価した。簡潔には、希釈緩衝液中に希釈した培養液および血漿試料を、凝固第IX因子に特異的な一次抗体で感作した96ウェルプレートウェルに導入した。同じプレートに、較正曲線をプロットするための標準、陽性および陰性対照をロードした。プレートを、室温で2時間インキュベートした。ビオチン化抗体、ストレプトアビジンペルオキシダーゼコンジュゲートおよびTMBの溶液を導入する前にプレートウェルを洗浄緩衝液で洗浄した。第IX因子に特異的なビオチン化検出抗体を含有する溶液を導入し、プレートを室温で1時間インキュベートした。ストレプトアビジンペルオキシダーゼコンジュゲート溶液を、得られた複合体に次いで添加し、プレートを室温で30分間インキュベートした。TMB溶液を導入して、酵素反応を可視化した。必要な程度の染色強度を達成したら、停止溶液を全てのウェルに添加して反応を停止させた。プレートウェル内の溶液の光学密度を次いで測定した。試験試料中の凝固第IX因子の濃度を、試料の予備希釈を考慮して較正曲線によって決定した。
凝固第IX因子タンパク質の活性の決定
凝固第IX因子は、ビタミンK依存的であり、細胞培養による第IX因子の活性形態の合成には、成長培地中にビタミンKが存在する必要がある。これに関連して、HUH7の形質導入中には、濃度500ng/mLでビタミンK1を完全成長培地の組成物に添加した。
【0151】
標的産物を用いてHUH7を形質導入した後の培養液中の凝固第IX因子タンパク質の活性を、市販のキットを使用してクロモゲニック法によって評価した。
簡潔には、トリスBSA反応緩衝液中に希釈した培養液体試料、標準および対照溶液を、96ウェルプレートウェルに導入した。試薬1(FX-FVIII)を次いで添加した。温度37℃で2分間インキュベーションした後、試薬2(活性化薬剤)を導入した。プレートを、温度37℃で3分間インキュベートした。試薬3(色素生成基質)をプレートウェルに次いで導入し、プレートを2分間インキュベートした。20%酢酸溶液を次いで添加して、反応を停止させた。得られたFXaは、色素生成基質を加水分解し、したがってパラニトロアニリンの放出をもたらし、その量(光学密度によって検出される)は、試料中の第IX因子(FIX)の濃度に正比例する。
実験室動物に対するin vivo研究
実験を、C57BL/6マウス(雄6~8週齢)において実行した。産物を尾静脈への単回静脈内注射によって動物に投与した。AAVを含有しない緩衝液を、動物の陰性対照群に投与した。血漿を、産物を投与する前の注射当日、次いで産物を投与した7、14、21、28、35および42日後に採集した。
【0152】
実施例1
コドン最適化アルゴリズムを使用するFIX遺伝子配列の修飾
開発した産物は、肝臓組織特異的トランスチレチン(TTR)プロモーターの制御下にヒト凝固第IX因子(hFIX)遺伝子をコードしている発現カセットを有するアデノ随伴ウイルス血清型5(AAV5)の修飾された組換えカプシドの懸濁液である。
【0153】
利用した野生型核酸は、天然に存在するR338L突然変異(Padua突然変異として公知である)を持つ野生型ヒト凝固第IX因子をコードする核酸であり、配列番号17のヌクレオチド配列を含む。所与の野生型核酸は、対照として使用される。
【0154】
さらに、発現の効率を増大させるために、凝固第IX因子遺伝子の天然の配列を、コドン最適化アルゴリズムを使用して修飾した。
AAV5に基づく産物において、配列番号17のヌクレオチド配列を有する凝固第IX因子の野生型核酸のコドンの最適化の結果、コドンを最適化された核酸が多数作製され、対照(配列番号17を有する野生型核酸)と比較して凝固第IX因子タンパク質の発現および活性レベルについてさらに試験された。
【0155】
コドンを最適化された核酸の全てが、野生型と比較して凝固第IX因子タンパク質産生レベルの増大を示し;さらに、コドンを最適化された核酸のほとんどは、野生型と比較して凝固第IX因子タンパク質産生レベルのわずかな増大を示し、配列番号2(hFIXco-v1)および配列番号4(hFIXco-v2)のヌクレオチド配列を有する本発明による核酸のコドンを最適化されたバリアントのうち2つのみが、驚くことに、最良の結果、特に凝固第IX因子遺伝子の発現のレベルの増大および凝固第IX因子タンパク質産生レベルの数倍の増大を示し、実際それにより配列番号2(hFIXco-v1)または配列番号4(hFIXco-v2)を含むAAV5に基づく産物の活性が増大した(例2、例3および例4を参照のこと)。
【0156】
配列番号2および配列番号4のヌクレオチド配列を有するコドンを最適化された核酸の哺乳動物細胞に対するコドン適応度指数(コドン使用頻度に対して配列を評価するための標準的な尺度)は、配列番号17のヌクレオチド配列を有する野生型核酸と比較して増大した。
【0157】
配列番号2および配列番号4のヌクレオチド配列を有するコドンを最適化された核酸を、下記の例においてそれぞれhFIXco-v1およびhFIXco-v2と称する。
実施例2
組換えコドンを最適化された凝固第IX因子遺伝子(hFIXco-v1およびhFIXco-v2)のバリアントを有するAAV発現カセットを含む遺伝的構築物の組立て。
【0158】
凝固第IX因子遺伝子のコドンを最適化されたバリアントを含む発現カセット(配列番号2または配列番号4)を持つAAV5ウイルス性ベクターを作製することを意図した標的プラスミドpAAV-hFIXco-v1またはpAAV-hFIXco-v2(
図1)は、クローニングの制限酵素リガーゼ方法を使用して元の構築物pAAV-GFP中の修飾緑色蛍光タンパク質およびCMVプロモーターの配列を、化学合成によって生成されたオリゴヌクレオチドからde novo合成された凝固第IX因子遺伝子のコドンを最適化された配列およびTTRプロモーターとそれぞれ連続して置き換えることによって作製された。
【0159】
最終的なベクターは、組換えAAVゲノム中に遺伝子の発現および組立てに必要な要素:
1)ウイルスカプシドの中にカプシド化される配列の末端にあるITR;
2)標的遺伝子の発現のための要素(プロモーター、エンハンサー、イントロン、Kozak配列、導入遺伝子、ポリアデニル化部位);
3)細菌細胞中でプラスミドDNAを作製するための細菌複製起点および抗生物質の抵抗性遺伝子
を全て含有する。
【0160】
実施例3
凝固第IX因子を発現するウイルス産物の創作
標的プラスミドpAAV-hFIXco-v1およびpAAV-hFIXco-v2(
図1)を組換えAAVウイルス粒子を作製するのに必要な他のプラスミド(上記参照)とともに使用して、凝固第IX因子遺伝子のコドンを最適化されたバージョン(それぞれhFIXco-v1およびhFIXco-v2)を有するAAV5-hFIXco-v1およびAAV5-hFIXco-v2産物を作製した。バイオプロセッシングの結果、凝固第IX因子遺伝子のコドンを最適化されたバリアント(hFIXco-v1およびhFIXco-v2)を含む発現カセットを含む組換えAAV5-hFIXco-v1およびAAV5-hFIXco-v2ウイルス粒子を得た。in vitroおよびin vivo研究に使用する精製AAV5-hFIXco-v1およびAAV5-hFIXco-v2産物を、安全であり、AAV特性を改変しない標準的な緩衝液および賦形剤を使用して調製した。天然に存在する凝固第IX因子遺伝子(天然に存在するR338L突然変異を含む野生型遺伝子、実施例1を参照のこと)を含む発現カセットを含むAAV5-hFIX-wt産物を、上記の技術を使用してさらに作製して参照産物として用いた。
【0161】
実施例4
AAV5-hFIXco-v1およびAAV5-hFIXco-v2産物のin vitro成績の試験
動物試験の前に、精製AAV5-hFIXco-v1およびAAV5-hFIXco-v2産物をin vitro試験した。実験を、HUH7付着細胞株を使用して実行した(
図2、
図3および
図4)。細胞株の細胞を、10000個/cm
2の密度で12ウェルプレートのウェルに平板培養した。細胞を接着基質に付着させた後、AAV調製物をMOI 500000vg/細胞で導入した。形質導入7日後に、培養液中のFIXタンパク質の含有量および活性をELISAによって決定し、細胞内の凝固第IX因子遺伝子の発現のレベルを上述の通り定量的逆転写PCRによって決定した。全ての試料は、3つ組で行った。インタクトな細胞を、陰性対照として使用した。
【0162】
凝固第IX因子遺伝子のコドンを最適化されたバージョン(hFIXco-v1およびhFIXco-v2)を有する開発したAAV5-hFIXco-v1およびAAV5-hFIXco-v2産物が、凝固第IX因子導入遺伝子の細胞内への効率的な送達を提供し、標的タンパク質を確実に産生することが示され、この事実は、定量的リアルタイムPCR、ELISAおよび血液凝固第IX因子タンパク質の活性分析のデータによって確認されている(
図2、
図3および
図4)。これに関連して、凝固第IX因子遺伝子のコドンを最適化された配列を含むAAV5-hFIXco-v1およびAAV5-hFIXco-v2産物を使用する場合、凝固第IX因子遺伝子の発現レベルは、凝固第IX因子遺伝子の天然に存在するバージョン(AAV5-hFIX-wt)を有する産物の使用と比較してAAV5-hFIXco-v1産物の場合1.8倍、AAV5-hFIXco-v2産物の場合2.8倍大きい(
図2)。さらに、凝固第IX因子遺伝子のコドンを最適化された配列を含むAAV5-hFIXco-v1およびAAV5-hFIXco-v2産物を使用する場合、凝固第IX因子タンパク質の産生レベルは、凝固第IX因子遺伝子の天然に存在するバージョン(AAV5-hFIX-wt)を有する産物の使用と比較してAAV5-hFIXco-v1産物の場合1.6倍、AAV5-hFIXco-v2産物の場合2.1倍大きい(
図3)。凝固第IX因子遺伝子のコドンを最適化された配列を含むAAV5-hFIXco-v1およびAAV5-hFIXco-v2産物を使用する場合、凝固第IX因子タンパク質の活性レベルは、凝固第IX因子遺伝子の天然に存在するバージョン(AAV5-hFIX-wt)を有する産物の使用と比較してAAV5-hFIXco-v1産物の場合2.1倍、AAV5-hFIXco-v2産物の場合2.9倍大きい(
図4)。
【0163】
実施例5
AAV5-hFIXco-v1およびAAV5-hFIXco-v2産物のin vivo成績の試験
AAV5-hFIXco-v1およびAAV5-hFIXco-v2産物のin vivo研究は、C57BL/6株実験室マウスを使用した。研究に使用したAAV産物用量は、4×1011VG/マウスであった。AAVを含まない対照溶液を、陰性対照として使用した。産物を尾静脈への単回静脈内注射によって動物に投与した。血漿を、産物を投与する前の注射当日、次いで産物を投与した7、14、21、28、35および42日後に採集した。血漿試料中の凝固第IX因子タンパク質のレベルを、上述の通りELISAによって決定した。
【0164】
in vivo研究は、産物投与後21および28日目に、凝固第IX因子遺伝子hFIXco-v1のコドンを最適化された配列を含むAAV5-hFIXco-v1産物の使用が、凝固第IX因子遺伝子の天然に存在するバージョン(AAV5-hFIX-wt)を有する産物の使用と比較して、動物の血液中で有意に大きいレベル(2.2~2.3倍大きい)の凝固第IX因子タンパク質を示すことを示した(
図4A)。凝固第IX因子遺伝子hFIXco-v2のコドンを最適化された配列を含むAAV5-hFIXco-v2産物を使用すると、産物投与後14、21、28、35および42日目に、凝固因子FIX遺伝子の天然に存在するバージョン(AAV5-hFIX-wt)を有する産物の使用と比較して、動物の血液中で有意により大きいレベル(1.8~2.5倍大きい)の凝固第IX因子タンパク質が観察される(
図5)。
【0165】
したがって、凝固第IX因子遺伝子のコドンを最適化したバージョンを有する開発したAAV5に基づく組換えウイルス(AAV5-hFIXco-v1またはAAV5-hFIXco-v2)は、凝固第IX因子遺伝子の天然に存在するバージョンを有するAAV5ベクターに勝る優位性を有し、B型血友病の遺伝子療法に対する潜在性を有する。
【配列表】
【国際調査報告】