(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-29
(54)【発明の名称】デュアルウイルスベクター系による抗体送達
(51)【国際特許分類】
C12N 15/86 20060101AFI20240221BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20240221BHJP
C12N 15/861 20060101ALI20240221BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20240221BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240221BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240221BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20240221BHJP
A61K 39/395 20060101ALN20240221BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20240221BHJP
A61P 31/12 20060101ALN20240221BHJP
A61P 27/02 20060101ALN20240221BHJP
A61P 37/06 20060101ALN20240221BHJP
A61P 19/02 20060101ALN20240221BHJP
A61P 9/10 20060101ALN20240221BHJP
A61P 29/00 20060101ALN20240221BHJP
【FI】
C12N15/86 Z ZNA
C12N15/864 100Z
C12N15/861 Z
C12N15/867 Z
A61K48/00
A61K35/76
A61K35/761
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P31/12
A61P27/02
A61P37/06
A61P19/02
A61P9/10 101
A61P29/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023554927
(86)(22)【出願日】2022-03-03
(85)【翻訳文提出日】2023-09-07
(86)【国際出願番号】 CN2022079047
(87)【国際公開番号】W WO2022188689
(87)【国際公開日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】202110252231.1
(32)【優先日】2021-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519241381
【氏名又は名称】ナンジン、ジェンスクリプト、バイオテック、カンパニー、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】NANJING GENSCRIPT BIOTECH CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】28 Yongxi Road,Jiangning Science Park, Nanjing, Jiangsu 211100 China
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】ワン、 ウェイミン
(72)【発明者】
【氏名】ザン、 シアン
(72)【発明者】
【氏名】ミ、 ヤンリン
(72)【発明者】
【氏名】リ、 ヂョンダオ
(72)【発明者】
【氏名】シャオ、 クイング
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084MA52
4C084MA55
4C084MA66
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZA331
4C084ZA332
4C084ZA451
4C084ZA452
4C084ZA961
4C084ZA962
4C084ZB081
4C084ZB082
4C084ZB111
4C084ZB112
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB331
4C084ZB332
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB41
4C085BB43
4C085EE01
4C087AA01
4C087AA02
4C087CA12
4C087MA52
4C087MA55
4C087MA66
4C087NA13
4C087NA14
4C087ZA33
4C087ZA45
4C087ZA96
4C087ZB08
4C087ZB11
4C087ZB26
4C087ZB33
(57)【要約】
二つの異なるペプチド鎖で構成され抗原結合活性を有するポリペプチド分子を細 胞内で発現するためのデュアル組換えウイルスベクター系を提供し、ここで、第1のウイルスベクターで第1の鎖を発現し、第2のウイルスベクターで第2の鎖を発現し、第1の鎖と第2の鎖は、細胞内での発現後に、抗原結合活性を有するポリペプチド分子として組み立てられ得、前記デュアル組換えウイルスベクター系を産生するためのデュアルプラスミド系、前記デュアル組換えウイルスベクター系を含む宿主細胞、薬物組成物、及び前記デュアル組換えウイルスベクター系で被験体に前記ポリペプチド分子を送達する用途と方法をさらに提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの異なるペプチド鎖で構成され抗原結合活性を有するポリペプチド分子を細胞内で発現するためのデュアル組換えウイルスベクター系であって、
そのゲノムには前記ポリペプチド分子の第1の鎖を発現するための第1の発現カセットが含まれる第1の組換えウイルスベクターと、
そのゲノムには前記ポリペプチド分子の第2の鎖を発現するための第2の発現カセットが含まれる第2の組換えウイルスベクターとを含み、
ここで、前記第1の鎖と前記第2の鎖とは異なり、前記第1の組換えウイルスベクターと前記第2の組換えウイルスベクターは、細胞に導入された後にそれぞれ前記第1の鎖と第2の鎖を発現することができ、且つ前記第1の鎖と第2の鎖は、抗原結合活性を有するポリペプチド分子として組み立てられ得る、デュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項2】
前記第1の組換えウイルスベクターと前記第2の組換えウイルスベクターは、組換えアデノ随伴ウイルスベクター、組換えアデノウイルスベクター、組換えHSVベクター、組換えレンチウイルスベクター及び組換えレトロウイルスベクターからなる群から独立して選択される、請求項1に記載のデュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項3】
前記第1の組換えウイルスベクターと前記第2の組換えウイルスベクターは組換えアデノ随伴ウイルスベクターであるか、又は第1の組換えウイルスベクターと前記第2の組換えウイルスベクターはレンチウイルスベクターである、請求項1又は2に記載のデュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項4】
前記第1の組換えウイルスベクターと前記第2の組換えウイルスベクターは、組換えアデノ随伴ウイルスベクターであり、それぞれAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13もしくはAAV Rh10のカプシド、又はキメラAAVカプシドもしくは改変されたカプシドを含む、請求項3に記載のデュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項5】
前記第1の組換えウイルスベクターと前記第2の組換えウイルスベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13又はAAV Rh10のITRを含む、請求項3又は4に記載のデュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項6】
前記ポリペプチド分子は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域を有する抗原結合部分を含み、前記第1の鎖は、前記抗原結合部分の重鎖可変領域を含み、前記第2の鎖は、前記抗原結合部分の軽鎖可変領域を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のデュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項7】
前記ポリペプチド分子は、重鎖と軽鎖を有する抗原結合部分を含み、前記第1の鎖は、前記抗原結合部分の重鎖を含み、前記第2の鎖は、前記抗原結合部分の軽鎖を含む、請求項6に記載のデュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項8】
前記第1の組換えウイルスベクターと前記第2の組換えウイルスベクターとの比率は、4:1~1:8であり、好ましくは1:1~1:4である、請求項6又は7に記載のデュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項9】
前記ポリペプチド分子はモノクローナル抗体又はその抗原結合断片であり、前記第1の鎖は前記モノクローナル抗体又はその抗原結合断片の重鎖であり、前記第2の鎖は前記モノクローナル抗体又はその抗原結合断片の軽鎖である、請求項6~8のいずれか一項に記載のデュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項10】
前記抗原結合断片は、Fab断片、Fab’断片又は(Fab’)
2断片である、請求項9に記載のデュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項11】
前記モノクローナル抗体又はその抗原結合断片は、血管新生因子に特異的結合する、請求項9又は10に記載のデュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項12】
前記血管新生因子は、VEGF、VEGFR、FGF、PDGF、TGFβ、Ang1、Ang2、インテグリン、CD31及びプラスミノーゲン活性化因子から選択される、請求項11に記載のデュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項13】
前記ポリペプチド分子は、第1の抗原エピトープに特異的に結合する第1の抗原結合部分と、第2の抗原エピトープに特異的に結合する第2の抗原結合部分とを含む二重特異性抗体であり、その第1の抗原エピトープと第2の抗原エピトープとは異なり、前記第1の抗原結合部分は重鎖と軽鎖とを含み、前記第1の鎖は前記第1の抗原結合部分の重鎖を含み、前記第2の鎖は前記第1の抗原結合部分の軽鎖を含む、請求項6~8のいずれか一項に記載のデュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項14】
前記第1の抗原結合部分は、モノクローナル抗体又はその抗原結合断片であり、好ましくは、前記抗原結合断片は、Fab断片、Fab’断片又は (Fab’)
2断片である、請求項13に記載のデュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項15】
前記第2の抗原結合部分は一本鎖形態の抗体である、請求項13又は14に記載のデュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項16】
前記一本鎖形態の抗体は単一ドメイン抗体又はscFvである、請求項15に記載のデュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項17】
前記第2の抗原結合部分は、前記第1の抗原結合部分の重鎖のN末端又はC末端に連結され、前記第1の鎖は、前記第1の抗原結合部分の重鎖と前記第2の抗原結合部分とを含む、請求項15又は16に記載のデュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項18】
前記第2の抗原結合部分は、前記第1の抗原結合部分の軽鎖のN末端又はC末端に連結され、前記第2の鎖は、前記第1の抗原結合部分の軽鎖と前記第2の抗原結合部分とを含む、請求項15~17のいずれか一項に記載のデュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項19】
前記第1の鎖は、第1の抗原結合部分の重鎖と第2の抗原結合部分とを含み、前記第2の鎖は、第1の抗原結合部分の軽鎖を含む、請求項15~18のいずれか一項に記載のデュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項20】
前記第1の抗原結合部分と第2の抗原結合部分のうちの少なくとも一方又は両方は血管新生因子に特異的に結合する、請求項15~19のいずれか一項に記載のデュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項21】
前記血管新生因子は、VEGF、VEGFR、FGF、PDGF、TGFβ、Ang1、Ang2、インテグリン、CD31及びプラスミノーゲン活性化因子から選択される、請求項20に記載のデュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項22】
前記第1の抗原結合部分はVEGFに特異的に結合し、前記第2の抗原結合部分はAng2に特異的に結合するか、又は前記第1の抗原結合部分はAng2に特異的に結合し、前記第2の抗原結合部分はVEGFに特異的に結合する、請求項20に記載のデュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項23】
前記ポリペプチド分子は、第1の抗原エピトープに特異的に結合する第1の抗原結合部分と、第2の標的分子に特異的に結合する第2の結合ドメインとを含み、前記第2の標的分子はサイトカインであり、前記第1の抗原結合部分は重鎖と軽鎖とを含み、前記第1の鎖は前記第1の抗原結合部分の重鎖を含み、前記第2の鎖は前記第1の抗原結合部分の軽鎖を含む、請求項6~8のいずれか一項に記載のデュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項24】
前記第2の結合ドメインは、サイトカイン受容体、その細胞外ドメイン又はそれらの変異体である、請求項23に記載のデュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項25】
前記第1の抗原結合部分は、モノクローナル抗体又はその抗原結合断片であり、好ましくは、前記抗原結合断片は、Fab断片、Fab’断片又は(Fab’)
2断片である、請求項23又は24に記載のデュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項26】
前記第2の結合ドメインは、前記第1の抗原結合部分の重鎖のN末端又はC末端に連結され、前記第1の鎖は、前記第1の抗原結合部分の重鎖と前記第2の結合ドメインとを含む、請求項23~25のいずれか一項に記載のデュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項27】
前記第2の結合ドメインは、前記第1の抗原結合部分の軽鎖のN末端又はC末端に連結され、前記第2の鎖は、前記第1の抗原結合部分の軽鎖と前記第2の結合ドメインとを含む、請求項23~26のいずれか一項に記載のデュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項28】
前記第1の鎖は、第1の抗原結合部分の重鎖と第2の結合ドメインとを含み、前記第2の鎖は、第1の抗原結合部分の軽鎖を含む、請求項23~27のいずれか一項に記載のデュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項29】
前記第1の抗原結合部分は、標的PD-1、PD-L1又は血管新生因子に特異的に結合し、前記第2の結合ドメインは、ヒト形質転換成長因子β (TGFβ)、Ang2又はVEGFに結合することができる受容体又はその断片である、請求項20~27のいずれか一項に記載のデュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項30】
前記血管新生因子は、VEGF、VEGFR、FGF、PDGF、TGFβ、Ang1、Ang2、インテグリン、CD31及びプラスミノーゲン活性化因子から選択される、請求項29に記載のデュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項31】
前記第1の抗原結合部分はPD-L1に特異的に結合し、前記第2の結合ドメインはヒト形質転換成長因子β受容体II (TGFβRII)又はその断片である、請求項29に記載のデュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項32】
前記系は、前記第1の組換えウイルスベクターと前記第2の組換えウイルスベクターとを含む組成物である、請求項1~31のいずれか一項に記載のデュアル組換えウイルスベクター系。
【請求項33】
請求項1~32のいずれか一項に記載のデュアル組換えウイルスベクター系を産生するためのデュアルプラスミド系であって、
前記第1の発現カセットと、前記第1の組換えウイルスベクターを産生するのに必要なウイルスゲノムエレメントとを含む第1のプラスミドと、
前記第2の発現カセットと、前記第2の組換えウイルスベクターを産生するのに必要なウイルスゲノムエレメントとを含む第2のプラスミドとを含む、デュアルプラスミド系。
【請求項34】
請求項1~32のいずれか一項に記載のデュアル組換えウイルスベクター系で形質導入された宿主細胞。
【請求項35】
請求項1~32のいずれか一項に記載のデュアル組換えウイルスベクター系又は請求項34に記載の細胞及び薬学的に許容されるベクターを含む、薬物組成物。
【請求項36】
二つの異なるペプチド鎖で構成され抗原結合活性を有するポリペプチド分子を製造するための、請求項1~32のいずれか一項に記載のデュアル組換えウイルスベクター系、請求項33に記載のデュアルプラスミド系又は請求項34に記載の細胞の応用。
【請求項37】
二つの異なるペプチド鎖で構成され抗原結合活性を有するポリペプチド分子を産生する方法であって、
請求項1~32のいずれか一項に記載のデュアル組換えウイルスベクター系で宿主細胞を形質導入するステップと、
前記宿主細胞に前記ポリペプチド分子の第1の鎖と第2の鎖を発現させ、抗原結合活性を有するポリペプチド分子を組み立てて生成する条件下で前記形質導入された宿主細胞を培養することによって、前記ポリペプチド分子を得るステップとを含む、方法。
【請求項38】
二つの異なるペプチド鎖で構成され抗原結合活性を有するポリペプチド分子を被験体の体内に送達するための薬物の製造における、請求項1~32のいずれか一項に記載のデュアル組換えウイルスベクター系の応用。
【請求項39】
二つの異なるペプチド鎖で構成され抗原結合活性を有するポリペプチド分子を被験体の体内に送達する方法であって、それを必要とする被験体に請求項1~32のいずれか一項に記載のデュアル組換えウイルスベクター系又は請求項34に記載の薬物組成物を投与することを含む、方法。
【請求項40】
二つの異なるペプチド鎖で構成され抗原結合活性を有するポリペプチド分子を被験体の体内に送達するための請求項1~32のいずれか一項に記載のデュアル組換えウイルスベクター系又は請求項34に記載の薬物組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
【0002】
本出願は、出願日が2021年3月8日であり、出願番号が202110252231.1である中国特許出願の優先権を主張しており、ここでそれが全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
本発明は、遺伝子治療分野に関し、特にデュアルウイルスベクター系により抗体を発現する系と方法に関する。
【背景技術】
【0004】
近年来、組換えアデノ随伴ウイルス(recombinant adeno-associated virus, rAAV)は、様々な種の異なる組織及び様々なタイプの細胞に遺伝子成分を送達するために用いられ得ることが証明され、この新たな治療方法が良好な将来性を持つことが示されている。欧州医薬品庁(EMA)により2012年に承認されたrAAV薬物Alipogene tiparvovec(Glybera, uniQure)は、rAAV1ベクターとヒトリポタンパクリパーゼ(LPL)遺伝子で構成され、リポタンパクリパーゼ欠損症(lipoprotein lipase deficiency, LPLD)を治療するためのものである。これまで、また二種類のrAAV薬物がFDAとEMAにより承認され、即ちvoretigene neparvovec-rzyl(Luxturna, Spark)とOnasemnogene abeparvovec(ZOLGENSMA, AveXis/Novartis)であり、後者は条件付きで承認され、いずれもrAAV媒介性完全遺伝子置換療法である。rAAVベクターにより異なる遺伝子成分を送達するいくつかの臨床遺伝子治療試験は、動物モデルにおいて有効であることが証明された作用メカニズムを使用しており、血友病を治療するためのBドメイン欠失の因子VIII遺伝子及びDMDを治療するためのミクロジストロフィンなどのトランケート型遺伝子と、B型肝炎を治療するための小ヘアピンRNA、ハンチントン病を治療するためのmicroRNA、及びDMDを治療するための、エキソンスキッピングを誘導する核内低分子RNAなどの小RNAと、AMDを治療するための発現抗体とを含む。
【0005】
抗体薬は、広範囲の適応症において安全かつ有効であることが既に証明された。rAAVは、抗体遺伝子を送達するのに理想的なベクターであり、モノクローナル抗体遺伝子の長さはrAAVのパッケージング容量内にある。rAAVに基づく抗体送達戦略は、単一のrAAVベクターを用いて形質導入された細胞内で抗体軽鎖と重鎖のポリペプチドを発現し、自己切断ペプチド(例えば、異なる2A)によるIgGの自己組織化の実現を許容することである。しかし、このような戦略は、抗体発現効率が低く、抗体の不適切な組織化により機能しない抗体又は抗体タンパク質凝集体をもたらすことによって、毒性効果を引き起こす可能性があり、その臨床応用が制限されている。今まで、臨床試験が行われている、rAAVに基づくIgG薬物は、HIV-1中和抗体を発現する、抗ウイルス治療に用いられるAAV8-VRC07のみである。他の類似している戦略としては、Fc断片を有しない可溶性抗体(RGX-314)又はFc断片と融合する組換えタンパク質(AAV2-sFLT01とADVM-022)の発現が挙げられる。
【0006】
他のウイルスベクターも遺伝子成分の送達に用いられ得るが、同様に、抗体発現効率が低く、組織化効率が低いという問題が存在する。抗体発現をインビボで効率的に行うことができる汎用的な方法は、現在のところ存在しない。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、抗原結合活性を有するポリペプチド分子を組換えウイルスベクターによりインビボで効率的に発現する方法を提供し、ここで、前記ポリペプチド分子を構成する二つのポリペプチド鎖のコード核酸配列は、それぞれ二つの発現カセットに配置され、それぞれ二つの組換えウイルスベクターの5’と3’逆方向反復配列の間に挿入される。前記発現カセットは、宿主細胞内で、前記ポリペプチド分子抗体を構成する二つのポリペプチド鎖をそれぞれ発現し、抗原結合活性を有するポリペプチド分子として組み立てられる。
【0008】
本発明の第1の態様は、二つの異なるペプチド鎖で構成され抗原結合活性を有するポリペプチド分子を細胞内で発現するためのデュアル組換えウイルスベクター系を提供し、
そのゲノムには前記ポリペプチド分子の第1の鎖を発現するための第1の発現カセットが含まれる第1の組換えウイルスベクターと、
そのゲノムには前記ポリペプチド分子の第2の鎖を発現するための第2の発現カセットが含まれる第2の組換えウイルスベクターとを含み、
ここで、前記第1の鎖と前記第2の鎖とは異なり、前記第1の組換えウイルスと前記第2の組換えウイルスは、細胞に導入された後にそれぞれ前記第1の鎖と第2の鎖を発現することができ、且つ前記第1の鎖と第2の鎖は、抗原結合活性を有するポリペプチド分子として組み立てられ得る。
【0009】
いくつかの実施形態において、前記第1の組換えウイルスベクターと前記第2の組換えウイルスベクターは、組換えアデノ随伴ウイルスベクター、組換えアデノウイルスベクター、組換えHSVベクター、組換えレンチウイルスベクター及び組換えレトロウイルスベクターからなる群から独立して選択される。
【0010】
いくつかの実施形態において、前記第1の組換えウイルスベクターと前記第2の組換えウイルスベクターは組換えアデノ随伴ウイルスベクターであるか、又は第1の組換えウイルスベクターと前記第2の組換えウイルスベクターはレンチウイルスベクターである。
【0011】
いくつかの実施形態において、前記第1の組換えウイルスベクターと前記第2の組換えウイルスベクターは、組換えアデノ随伴ウイルスベクターであり、それぞれAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13もしくはAAV Rh10のカプシド、又はキメラAAVカプシドもしくは改変されたカプシドを含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、前記第1の組換えウイルスベクターと前記第2の組換えウイルスベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13又はAAV Rh10のITRを含む。
【0013】
いくつかの実施形態において、前記ポリペプチド分子は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域を有する抗原結合部分を含み、前記第1の鎖は、前記抗原結合部分の重鎖可変領域を含み、前記第2の鎖は、前記抗原結合部分の軽鎖可変領域を含む。
【0014】
いくつかの実施形態において、前記ポリペプチド分子は、重鎖と軽鎖を有する抗原結合部分を含み、前記第1の鎖は、前記抗原結合部分の重鎖を含み、前記第2の鎖は、前記抗原結合部分の軽鎖を含む。
【0015】
いくつかの実施形態において、前記第1の組換えウイルスベクターと前記第2の組換えウイルスベクターとの比率は、4:1~1:8であり、好ましくは1:1~1:4である。
【0016】
いくつかの実施形態において、前記ポリペプチド分子はモノクローナル抗体又はその抗原結合断片であり、前記第1の鎖は前記モノクローナル抗体又はその抗原結合断片の重鎖であり、前記第2の鎖は前記モノクローナル抗体又はその抗原結合断片の軽鎖である。
【0017】
いくつかの実施形態において、前記モノクローナル抗体の抗原結合断片は、Fab断片、Fab’断片又は(Fab’)2断片である。
【0018】
いくつかの実施形態において、前記モノクローナル抗体又はその抗原結合断片は、血管新生因子に特異的に結合する。
【0019】
いくつかの実施形態において、血管新生因子は、VEGF、VEGFR、FGF、PDGF、TGFβ、Ang1、Ang2、インテグリン、CD31及びプラスミノーゲン活性化因子から選択される。
【0020】
いくつかの実施形態において、前記ポリペプチド分子は、第1の抗原エピトープに特異的に結合する第1の抗原結合部分と、第2の抗原エピトープに特異的に結合する第2の抗原結合部分とを含む二重特異性抗体であり、その第1の抗原エピトープと第2の抗原エピトープとは異なり、前記第1の抗原結合部分は重鎖と軽鎖とを含み、前記第1の鎖は前記第1の抗原結合部分の重鎖を含み、前記第2の鎖は前記第1の抗原結合部分の軽鎖を含む。
【0021】
いくつかの実施形態において、二重特異性抗体における第1の抗原結合部分は、モノクローナル抗体又はその抗原結合断片であり、好ましくは、前記抗原結合断片は、Fab断片、Fab’断片又は(Fab’)2断片である。
【0022】
いくつかの実施形態において、二重特異性抗体における第2の抗原結合部分は一本鎖形態の抗体である。
【0023】
いくつかの実施形態において、前記一本鎖形態の抗体は単一ドメイン抗体又はscFvである。
【0024】
いくつかの実施形態において、前記第2の抗原結合部分は、前記第1の抗原結合部分の重鎖のN末端又はC末端に連結され、前記第1の鎖は、前記第1の抗原結合部分の重鎖と前記第2の抗原結合部分とを含む。
【0025】
いくつかの実施形態において、前記第2の抗原結合部分は、前記第1の抗原結合部分の軽鎖のN末端又はC末端に連結され、前記第2の鎖は、前記第1の抗原結合部分の軽鎖と前記第2の抗原結合部分とを含む。
【0026】
いくつかの実施形態において、前記第1の鎖は、第1の抗原結合部分の重鎖と第2の抗原結合部分とを含み、前記第2の鎖は、第1の抗原結合部分の軽鎖を含む。
【0027】
いくつかの実施形態において、前記第1の抗原結合部分と第2の抗原結合部分のうちの少なくとも一方又は両方は血管新生因子に特異的に結合する。
【0028】
いくつかの実施形態において、前記血管新生因子は、VEGF、VEGFR、FGF、PDGF、TGFβ、Ang1、Ang2、インテグリン、CD31及びプラスミノーゲン活性化因子から選択される。
【0029】
いくつかの実施形態において、前記第1の抗原結合部分はVEGFに特異的に結合し、前記第2の抗原結合部分はAng2に特異的に結合し、又は前記第1の抗原結合部分はAng2に特異的に結合し、前記第2の抗原結合部分はVEGFに特異的に結合する。
【0030】
いくつかの実施形態において、前記ポリペプチド分子は、第1の抗原エピトープに特異的に結合する第1の抗原結合部分と、第2の標的分子に特異的に結合する第2の結合ドメインとを含み、前記第2の標的分子はサイトカインであり、前記第1の抗原結合部分は重鎖と軽鎖とを含み、前記第1の鎖は前記第1の抗原結合部分の重鎖を含み、前記第2の鎖は前記第1の抗原結合部分の軽鎖を含む。
【0031】
いくつかの実施形態において、前記第2の結合ドメインは、サイトカイン受容体、その細胞外ドメイン又はそれらの変異体である。
【0032】
いくつかの実施形態において、前記第1の抗原結合部分は、モノクローナル抗体又はその抗原結合断片であり、好ましくは、前記抗原結合断片は、Fab断片、Fab’断片又は(Fab’)2断片である。
【0033】
いくつかの実施形態において、前記第2の結合ドメインは、前記第1の抗原結合部分の重鎖のN末端又はC末端に連結され、前記第1の鎖は、前記第1の抗原結合部分の重鎖と前記第2の結合ドメインとを含む。
【0034】
いくつかの実施形態において、前記第2の結合ドメインは、前記第1の抗原結合部分の軽鎖のN末端又はC末端に連結され、前記第2の鎖は、前記第1の抗原結合部分の軽鎖と前記第2の結合ドメインとを含む。
【0035】
いくつかの実施形態において、前記第1の鎖は、第1の抗原結合部分の重鎖と第2の結合ドメインとを含み、前記第2の鎖は、第1の抗原結合部分の軽鎖を含む。
【0036】
いくつかの実施形態において、前記第1の抗原結合部分は、標的PD-1、PD-L1又は血管新生因子に特異的に結合し、前記第2の結合ドメインは、ヒト形質転換成長因子β(TGFβ)、Ang2又はVEGFに結合することができる受容体又はその断片である。
【0037】
いくつかの実施形態において、前記血管新生因子は、VEGF、VEGFR、FGF、PDGF、TGFβ、Ang1、Ang2、インテグリン、CD31及びプラスミノーゲン活性化因子から選択される。
【0038】
いくつかの実施形態において、前記第1の抗原結合部分はPD-L1に特異的に結合し、前記第2の結合ドメインはヒト形質転換成長因子β受容体II(TGFβRII)又はその断片である。
【0039】
いくつかの実施形態において、前記デュアルウイルスベクター系は、前記第1の組換えウイルスベクターと前記第2の組換えウイルスベクターとを含む組成物である。
【0040】
本発明の第2の態様は、前述のいずれか一つのデュアル組換えウイルスベクター系を産生するためのデュアルプラスミド系を提供し、
前記第1の発現カセットと、前記第1の組換えウイルスベクターを産生するのに必要なウイルスゲノムエレメントとを含む第1のプラスミドと、
前記第2の発現カセットと、前記第2の組換えウイルスベクターを産生するのに必要なウイルスゲノムエレメントとを含む第2のプラスミドとを含む。
【0041】
本発明の第3の態様は、前述のいずれか一つのデュアル組換えウイルスベクター系により形質導入された宿主細胞を提供する。
【0042】
本発明の第4の態様は、前述のいずれか一つのデュアル組換えウイルスベクター系又は前述の宿主細胞、及び薬学的に許容されるベクターを含む薬物組成物を提供する。
【0043】
本発明の第5の態様は、前述のいずれか一つのデュアル組換えウイルスベクター系、前述のデュアルプラスミド系又は前述の宿主細胞の、二つの異なるペプチド鎖で構成され抗原結合活性を有するポリペプチド分子を製造するための応用を提供する。
【0044】
本発明の第6の態様は、二つの異なるペプチド鎖で構成され抗原結合活性を有するポリペプチド分子を産生する方法を提供し、
前述のいずれか一つのデュアル組換えウイルスベクター系で宿主細胞を形質導入するステップと、
前記宿主細胞に前記ポリペプチド分子の第1の鎖と第2の鎖を発現させ、抗原結合活性を有するポリペプチド分子を組み立てて生成する条件下で前記形質導入された宿主細胞を培養することによって、前記ポリペプチド分子を得るステップとを含む。
【0045】
本発明の第7の態様は、二つの異なるペプチド鎖で構成され抗原結合活性を有するポリペプチド分子を被検体の体内に送達するための薬物の製造における、前述のいずれか一つのデュアル組換えウイルスベクター系の応用を提供する。
【0046】
本発明の第8の態様は、二つの異なるペプチド鎖で構成され抗原結合活性を有するポリペプチド分子を被験体の体内に送達する方法を提供し、前記方法は、それを必要とする被験体に前述のいずれか一つのデュアル組換えウイルスベクター系又は前述の薬物組成物を投与することを含む。
【0047】
本発明の第9の態様は、二つの異なるペプチド鎖で構成され抗原結合活性を有するポリペプチド分子を被験体の体内に送達するための前述のいずれか一つのデュアル組換えウイルスベクター系又は前述の薬物組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
本発明は、以下の詳細な説明及び添付の図面との関連でより十分に理解されるであろうが、似ているエレメントは似ている方法で番号付けされており、ここで、
【
図1】デュアルAAVベクターによるAvastin発現を示した図である。aは、完全抗体配列を発現するベクター(AAV-Avastin単一ベクター)、重鎖のみを発現するベクター(AAV-Avastin重鎖、即ちAAV-Avastin-H)及び軽鎖のみを発現するベクター(AAV-Avastin軽鎖、即ちAAV-Avastin-L)の概略図である。bとcは、単一ベクター(AAV2-Avastin)とデュアルベクター(AAV2-Avastin-LとAAV2-Avastin-H)により形質導入されたHEK293FT細胞が生成したAvastin抗体のWestern blot結果であり、ここで、b図は非還元条件であり、c図は還元条件であり、陽性対照は精製された抗体であり、陰性対照は組換えウイルスベクターが形質導入されていない細胞培養上清である。dは、単一ベクター(AAV2-Avastin)とデュアルベクター(AAV2-Avastin-LとAAV2-Avastin-H)により形質導入されたhARPE-19細胞が生成したAvastin抗体のWestern blot結果であり、ここで、陽性対照は精製された抗体である。
【
図2】AAV8カプシド、AAV9カプシド及びAAV5カプシド(a,b,c)を有する単一ベクター又はデュアルベクターにより形質導入されたHEK293FT又はhARPE-19細胞によるAvastin抗体発現のWestern blot結果であり、ここで、陽性対照は精製された抗体である。
【
図3】デュアルAAVウイルスベクターとデュアルプラスミドベクターによる形質導入又はトランスフェクトされたHEK293FT又はhARPE-19細胞によるAvastin抗体発現のWestern blot結果であり、ここで、陽性対照は精製された抗体である。
【
図4】デュアルAAVウイルスベクターにより形質導入されたhiPSC-RPEによるAvastin抗体発現のWestern blot結果であり、ここで、陽性対照は精製された抗体である。
【
図5】デュアルAAVベクターによるABTAA発現を示した図である。aは完全抗体配列を発現するトランスファープラスミド(pAAV2.CMV.ABTAA)と軽鎖又は重鎖のみを発現するトランスファープラスミド(pAAV2.CMV.ABTAA-LとpAAV2.CMV.ABTAA-H)の概略図である。bとcは、単一ベクター又はデュアルAAVウイルスベクターによる形質導入されたHEK293FT細胞によるABTAA抗体発現のWestern blot結果であり、ここで、b図は非還元条件であり、c図は還元条件であり、陽性対照は精製された抗体であり、陰性対照は、組換えウイルスベクターが形質導入されていない細胞培養上清である。
【
図6】デュアルAAVベクターによる抗Ang2と抗VEGF二重特異性抗体発現を示した図である。aとbは、二重特異性抗体を発現するデュアルAAVベクターの概略図であり、ここで、a図に示されるVEGF抗体可変領域はABTAA重鎖上に連結され、b図に示されるVEGF抗体可変領域はABTAA軽鎖上に連結される。cとdはそれぞれ、aとbに示されるウイルスデュアルベクターにより形質導入されたHEK293FT細胞によるABTAA-抗VEGF二重特異性抗体発現のWestern blot結果であり、ここで、陽性対照は精製された抗体である。
【
図7】デュアルAAVベクター送達Avastin遺伝子のマウスにおける発現を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明は、抗体成分を送達するためのデュアル組換えウイルスベクター系及びその応用を提供し、二つの組換えウイルスベクターを用いて抗体成分の二本の鎖をそれぞれ送達して、抗体成分の発現量を向上させることができ、特に二つの組換えウイルスベクターを用いて抗体成分の重鎖と軽鎖をそれぞれ送達する場合、抗体成分の重鎖と軽鎖の有効な組織化を促進し、重鎖と軽鎖のペアリング効率を向上させ、不正確なペアリングを減少させることができる。
【0050】
組換えAAVベクターを例として、本発明のデュアル組換えウイルスベクター系は有利な応用効果を示した。rAAVベクターを用いて抗体送達を行う従来の設計において、重鎖と軽鎖ORFは、同一のrAAVベクターにパッケージングされる。rAAVの遺伝子パッケージングのサイズの制限により、rAAVでrAAVパッケージング容量を超える抗体(例えば、二重特異性抗体)を送達することは困難であるなお、単独の軽鎖と重鎖の発現を取得するために、軽鎖と重鎖との間に自己切断ペプチド(例えば、P2A)又はフリンプロテアーゼ切割部位を挿入するか、又は二つのプロモーターでそれぞれ軽鎖と重鎖の発現を駆動する。しかし、このような単一ベクターの設計は、細胞内で抗体の低レベル発現を引き起こし、大量のミスペアリング生成物を生成することを発見した。低レベル発現は、実際の応用において有効な抗体濃度を取得するために高用量のrAAVを投与する必要があることを意味し、ミスペアリング生成物は、望ましくない凝集体を形成しやすい。薬物分野において、二つの問題は安全性と毒性に関連しており、非常に関心が寄せられている。
【0051】
本発明は、デュアルrAAVベクター媒介性遺伝子により、インビボで有効に発現する抗体を送達する戦略を提供し、ここで、一つのrAAVベクターは、抗体軽鎖コード配列を含む完全な発現カセットを含み、もう一つのrAAVベクターは、抗体重鎖コード配列を含む完全な発現カセットを含み、二つのベクターで細胞を同時に形質導入する場合、形質導入対象細胞により発現される軽鎖と重鎖は、ペアリングし組織化して全長及び機能的抗体を形成し、増強された抗体発現レベルを有する。軽鎖ベクター(LCベクター)と重鎖ベクター(HCベクター)との比率を調整することによって、抗体発現レベルをさらに向上させ、より有効な抗体組織化を実現することができ、重鎖と軽鎖のより高いペアリング正確率を有する。本発明のデュアルrAAVベクター系で抗体を発現し、特に二重特異性ひいては多重特異性抗体を発現する場合、抗体を有効に発現することができ、宿主細胞内に安定的に存在し、抗体を持続的に発現することができ、細胞の形質転換効率が高く、抗体発現レベルが高く、及び/又は抗体の重鎖と軽鎖の組織化正確率が高いという優れた効果を有する。本発明のデュアルrAAVベクター系は、被験体に抗体をインビボで送達することに特に適し、遺伝子治療の目的を達成することができ、それは、抗体をインビボ(例えば、被験体の体内の細胞内、組織内又は器官内を含む被験体の体内)で有効に発現することができ、インビボに安定的に存在し、抗体を持続的に発現することができ、抗体のコード配列を被験体の体内の細胞のゲノム上に組み込む必要がなく、高い安全性を有する。本発明のデュアルrAAVベクター系は、特に、非分裂期細胞に抗体を送達し、例えば、抗体を肝臓、眼、筋肉、脳脊髄液に送達して、これらの組織又は体液の細胞内で機能的抗体を有効に発現することに適する。
【0052】
同様に、組換えウイルスベクター、例えば、組換えアデノウイルスベクター、組換え単純ヘルペスウイルスベクター、組換えレンチウイルスベクター、組換えレトロウイルスベクターなどを用い、二つの組換えウイルスベクターで抗体成分の二本の鎖をそれぞれ送達する場合、細胞の形質転換効率が高く、抗体発現レベルが高く、及び/又は抗体の重鎖と軽鎖の組織化正確率が高いという優れた効果を同様に有する。
【0053】
特に示さない限り、本発明で使用される用語は、当分野で一般に理解される意味を有し、当業者に既知の標準的な教科書、参考書、文献を参照して理解することができる。本明細書による定義と解釈は、本発明の範囲内におけるそれらの特定の用途を明確にするためのものである。本発明に引用される参考文献は、いずれも全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0054】
いかなる理論にも縛られることを望むものではないが、本発明における関連する理論又はメカニズムの解釈は、単に発明の理解を助けるためのものであり、本発明によって保護される態様を限定するものとみなされるべきではない。
【0055】
本発明で使用される用語「包含する」、又はそれと類似している意味を有する他の用語形態「含む」、「含有する」又は「有する」などは、列挙される要素要素を含むが、他の要素の存在を排除しないと理解されるべきであり、これらの用語には、列挙される要素のみで構成される場合も含まれる。「……からなる」という用語は、列挙される要素のみで構成されることを意味する。「実質的に……からなる」という用語は、関連する態様に有意な影響を与えない要素を排除しないことを意味する。
【0056】
特に明記されない限り、本明細書における「a」、「an」又は「the」は、単数形と複数形とを含む。「少なくとも一つ」又は「少なくとも一種」という用語又は他の類似している表現の意味は、「一つ又はそれ以上」又は「一つ又は複数」の意味と同等である。
【0057】
本明細書に記載の数値範囲、例えば、温度範囲、時間範囲、構成もしくは濃度範囲、又は他の数値範囲などは、該範囲内の端値、全ての中間範囲、サブ範囲(例えば、ある中間値とある端値との間の範囲)及び全ての単一数値、特に整数数値を端値とする中間範囲、サブ範囲及び単一の整数数値を含む。そして、前記数値範囲に記述されている任意の中間範囲、サブ範囲及び全ての単一数値は、前記の数値範囲から排除され得る。
【0058】
本明細書に記載の「約」、「大体」の意味は、前記数値の±20%、±18%、±15%、±12%、±10%、±9%、±8%、±7%、±6%、±5%、±4%、±3%、±2%、±1%又は±0.5%の範囲であり、前記範囲は、前記範囲の端点及び前記範囲内のいずれか一つの数値を含む。
【0059】
本明細書に記載の「及び/又は」という用語は、該用語により連結される複数の要素のうちのいずれか一つの要素又は任意のいくつかの要素の組み合わせとして理解されるべきである。
【0060】
本発明において、「核酸配列」と「ヌクレオチド配列」という用語は、互換使用可能であり、塩基、糖及びリン酸骨格の連結で構成される配列を意味する。本発明の核酸配列は、デオキシリボ核酸配列(DNA)又はリボ核酸配列(RNA)であってもよく、天然塩基又は非天然塩基を含んでもよく、それは一本鎖又は二本鎖であってもよく、コード配列又は非コード配列であってもよい。
【0061】
本発明において、特に断りのない限り、核酸配列の記述は、通常、5’末端から3’末端であり、アミノ酸配列の記述は、通常、N末端からC末端である。
【0062】
本発明は、二つの組換えウイルスベクターを用いてポリペプチド分子を構成する二つの異なるペプチド鎖をそれぞれ発現し、前記ポリペプチド分子は、二つの異なるペプチド鎖で構成され、抗原結合活性を有し、前記二つの異なるペプチド鎖は、細胞内での発現後に、抗原結合活性を有するポリペプチド分子として組み立てられ得る。そのため、本発明は、前記ポリペプチド分子を発現するためのデュアル組換えウイルスベクター系、前記デュアル組換えウイルスベクター系を産生するためのデュアルプラスミド系、前記デュアル組換えウイルスベクター系を含む宿主細胞、薬物組成物、及び前記ポリペプチド分子を送達するための前記デュアル組換えウイルスベクター系の用途と方法を提供する。
【0063】
ポリペプチド分子
本発明のデュアル組換えウイルスベクター系は、二つの異なるペプチド鎖で構成され抗原結合活性を有するポリペプチド分子を発現することに適する。
【0064】
「抗原結合活性」という用語は、前記ポリペプチド分子がそれに含まれる抗原結合部位(例えば、重鎖可変領域VH及び/又は軽鎖可変領域VL)を介して抗原エピトープに特異的に結合し、免疫反応を起こすことができることを意味する。本発明に記載の「二つの異なるペプチド鎖で構成され抗原結合活性を有するポリペプチド分子」は、抗体、又は抗体と第2の結合ドメインとを含む抗体融合タンパク質であってもよい。前記ポリペプチド分子を構成する二つの異なるペプチド鎖は、異なるアミノ酸配列を有し、本発明において、それぞれ第1の鎖と第2の鎖と呼ばれる。前記ポリペプチド分子が二つの異なるペプチド鎖で構成されることは、前記ポリペプチド分子が一本又はそれ以上の第1の鎖と一本又はそれ以上の第2の鎖で構成されることを意味し、例えば、前記ポリペプチド分子は、一本の第1の鎖と一本の第2の鎖で構成されてもよいし、二本の第1の鎖と二本の第2の鎖で構成される四量体であってもよく、前記の第1の鎖は、一つの組換えウイルスベクターにより発現され、前記の第2の鎖は、もう一つの組換えベクターにより発現され、第1の鎖と第2の鎖は、細胞内での発現後に、抗原結合活性を有するポリペプチド分子として組み立てられ得る。前記「組み立て」は、第1の鎖と第2の鎖が相互作用して、抗原結合活性を有するポリペプチド分子を形成することを含み、前記相互作用は、共有結合(例えば、ジスルフィド結合)による相互連結を含み、例えば、二つの重鎖定常領域のCH1、CH2及び/又はCH3の間はジスルフィド結合を介して連結され、及び/又は非共有結合(例えば、水素結合、ファンデルワールス力、電荷作用又は疎水性作用)による相互作用を含み、例えば、重鎖可変領域と軽鎖可変領域との間のペアリングである。
【0065】
本発明において、「第1の鎖」と「第2の鎖」は、単に前記ポリペプチド分子を構成する二つの異なるペプチド鎖を区別するために使用され、第1の鎖又は第2の鎖が特定のアミノ酸配列を含むか又は特定の意味を有することを意味するものではない。本発明において、具体的な実施形態を説明する場合、明確にするために、第1の鎖は第1の配列を含むものとして、第2の鎖は第2の配列を含むものとして説明するが、当業者であれば理解できるように、両者は互換可能であり、即ち第1の鎖が第2の配列を含み、第2の鎖が第1の配列を含んでもよい。
【0066】
「抗体」という用語は、本発明において「抗原結合部分」と呼ばれてもよく、抗原結合部位を含み、抗原エピトープに特異的に結合し、それと免疫反応することができるポリペプチドを意味する。「抗体」という用語は、重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)を有するポリペプチドを含み、重鎖可変領域VHのみを含むポリペプチドをさらに含み、例えば、重鎖抗体又は単一ドメイン抗体(sdAb)である。「抗体」という用語は、モノクローナル抗体又はその抗原結合断片(例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2断片など)と、一本鎖形態の抗体(例えば、scFv又は単一ドメイン抗体sdAbなど)とを含むが、それらに限らず、キメラ抗体、ヒト源化抗体などをさらに含む。「抗体」という用語は、単一特異性抗体、即ち単一の抗原エピトープに特異的に結合する抗体と、多重特異性抗体、即ち複数の異なる抗原エピトープに特異的に結合する抗体(例えば、二重特異性、三重特異性抗体など)とを含む。いくつかの実施形態において、本発明の「抗体」は、二つの異なる鎖で構成され、前記二つの鎖は、互いに連結され、抗原結合活性を有する抗体として組織化される。「一本鎖形態の抗体」という用語は、一本の鎖で構成される抗体であり、一本鎖形態の抗体に含まれる一本の鎖は、少なくともIgG免疫グロブリンに由来する重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含み、例えば、scFvであってもよく、さらに、少なくとも重鎖可変領域を含み、例えば、単一ドメイン抗体、又は重鎖抗体(即ち重鎖可変領域と重鎖定常領域とを含む)であってもよい。本発明において、「特異的に結合する」又は「標的化」という用語は、抗原結合ポリペプチドによる抗原の特定のエピトープに対する選択的認識を意味し、即ち異なる抗原又は同じ抗原の他のエピトープに比べて、抗体又は抗原結合部分は、大きな親和性又はより長い持続時間で該抗原又は該特定のエピトープに結合する。抗体と抗原エピトープとの結合能力は、例えば、放射免疫アッセイ(RIA)による解離定数の測定によって知ることができる。
【0067】
「抗原」という用語は、当業者に一般に理解される意味を有し、ポリペプチド、多糖、糖タンパク質、ポリヌクレオチドなどを含む。「抗原エピトープ」という用語は、「抗原決定クラスター」と呼ばれてもよく、抗原特異性を決定する抗原表面上の化学官能基を意味する。抗原エピトープは、抗体における抗原結合部位により認識され結合され得る。
【0068】
「モノクローナル抗体」という用語は、ある特定の抗原エピトープのみに対する均一な抗体を意味する。異なる抗原決定クラスター(エピトープ)に対する異なる抗体を含む典型的で一般的なポリクローナル抗体製剤に比べて、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の抗原決定クラスターに対する。モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ培養によって得ることができるが、本発明において、「モノクローナル」という修飾語は、抗体の均一な特徴を表し、任意の特定の方法によって生成する抗体であると理解されるべきではない。本発明のモノクローナル抗体は、組換えDNA方法によって生成することができ、又は他のスクリーニング方法によって得ることができる。
【0069】
本発明に記載の「モノクローナル抗体」は、全長抗体又は完全抗体、即ち四本のポリペプチド鎖で構成される免疫グロブリン分子(例えば、IgG)又はその多量体(例えば、IgA又はIgM)と呼ばれてもよい。前記の四本のポリペプチド鎖は、二本の同じ重鎖(H)と二本の同じ軽鎖(L)とを含み、それらはジスルフィド結合を介して互いに連結されて四量体を形成する。各本の重鎖は、重鎖可変領域(「HCVR」又は「VH」)と重鎖定常領域(ドメインCH1、CH2及びCH3で構成される)で構成される。各本の軽鎖は、軽鎖可変領域(「LCVR又は「VL」)と軽鎖定常領域(CL)で構成される。VHとVL領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域にさらに細分されてもよく、その間にフレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保守的な領域が挿入されている。各VHとVLは、三つのCDRと四つのFRで構成され、以下の順序でアミノ末端からヒドロキシ末端まで配列されている:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖定常領域のアミノ酸配列により、免疫グロブリン分子を異なるクラスに分類することができ、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMの五つの主要なタイプの全長抗体があり、且つこれらのうちのいくつかは、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2のサブクラスにさらに分類することができる。本発明のモノクローナル抗体は、任意の前述クラス又はサブクラスの免疫グロブリン分子を含む。
【0070】
本発明に記載の「抗原結合断片」は、完全抗体の一つ又は複数の部分を意味し、前記部分は、抗原エピトープに特異的に相互作用する能力を保持する。抗原結合断片の例は以下を含む:(1)Fab断片:完全抗体をパパインで消化して生成した抗原結合断片であり、全長抗体の完全軽鎖(VLドメインとCLドメインとを含む)及び全長抗体の重鎖可変領域VHと重鎖定常領域ドメインCH1で構成され、ヒンジ鎖領域を含まないものであり、(2)F(ab’)2断片:完全抗体をペプシンで消化して生成した抗原結合断片であり、それは、二つの全長抗体の完全軽鎖(VLドメインとCLドメインとを含む)、二つの全長抗体の重鎖可変領域VHと重鎖定常領域ドメインCH1及びヒンジ鎖領域を含み、それは、その間にジスルフィド結合を有する二つのFab’断片がペアリングして形成された断片と見なされてもよく、(3)Fab’断片、(4)VHドメインとCH1ドメインで構成されるFd断片、(5)抗体単一アームのVLドメインとVHドメインで構成されるFv断片、(6)VHHドメインで構成される単一ドメイン抗体sdAb。なお、本発明の「抗原結合断片」という用語は、一本鎖形態の抗体、例えば、scFv(VLドメインとVHドメインがリンカーを介して連結されて形成される一本鎖Fv)、dsFv(scFvのVHとVLとの間に鎖間ジスルフィド結合を導入して形成される一本鎖抗体)をさらに含む。「抗原結合断片」は、通常、少なくとも完全抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域のうちのいずれか一方又は両方を含み、完全抗体の軽鎖定常領域及び/又は重鎖定常領域の一部をさらに含んでもよく、例えば、CLドメイン、CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメインのうちの一つ又は二つ又はそれ以上を含んでもよい。
【0071】
本発明に記載の「単一ドメイン抗体(sdAb)」は、三つの相補性決定領域(CDR)を有する単一抗原結合ポリペプチドを意味する。これらの単一ドメイン抗体は、CDRを含む、対応するポリペプチドとペアリングすることなく、抗原に単独で結合することができる。よく見られる単一ドメイン抗体は、重鎖を含むが、通常抗体に見られる軽鎖、例えば、ラクダsdAbを欠いている(e.g., Hamers-Casterman et al., Nature 363:446-8(1993)、Greenberg et al., Nature 374:168-73(1995)、Hassanzadeh-Ghassabeh et al., Nanomedicine(Lond),8:1013-26(2013)を参照されたい)。単一ドメイン抗体は、人為的エンジニアリングによりラクダの重鎖抗体から得ることができ、VHHと呼ばれ、VHHは、N末端からC末端まで、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4の構造を有する。
【0072】
本発明に記載の「一本鎖抗体(scFv)」は、ペプチドリンカーを介して連結される免疫グロブリンの重鎖可変領域と軽鎖可変領域との融合タンパク質を意味する。ペプチドリンカーを介して重鎖可変領域のN末端と軽鎖可変領域のC末端を連結してもよく、又はペプチドリンカーを介して軽鎖可変領域のN末端と重鎖可変領域のC末端を連結してもよい。
【0073】
本発明に記載の「多重特異性抗体」は、複数の抗原エピトープに特異的に結合することができる抗体を意味する。前記複数の抗原エピトープは、同一の抗原における異なるエピトープであってもよいし、異なる抗原における異なるエピトープであってもよい。多重特異性抗体は、複数の抗原結合部分を含み、各抗原結合部分は一つの抗原エピトープを標的化し、前記複数の抗原結合部分により標的化される抗原エピトープは互いに異なる。各抗原結合部分は、モノクローナル抗体(例えば、IgG免疫グロブリン)、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fv断片、Fd断片、scFv、dsFv及び単一ドメイン抗体などから独立して選択されてもよい。多重特異性抗体構造の違いに応じて、その第1の鎖と第2の鎖はそれぞれ、一つ又は二つ又はそれ以上の異なる抗原エピトープを標的化する重鎖可変領域及び/又は軽鎖可変領域を含んでもよい。
【0074】
いくつかの好ましい実施形態において、前記多重特異性抗体は、第1の抗原エピトープに特異的に結合する第1の抗原結合部分と、第2の抗原エピトープに特異的に結合する第2の抗原結合部分とを含む二重特異性抗体であり、第1の抗原エピトープと第2の抗原エピトープとは異なる。二重特異性抗体は、様々な形態を有し、Fc領域を含んでもよく、又はFc領域を含まなくてもよく、Fc領域を含む二重特異性抗体において、その構造は対称であってもよく、又は非対称であってもよい。いくつかの好ましい実施形態において、本発明の二重特異性抗体はFc領域を含む。いくつかの好ましい実施形態において、本発明の二重特異性抗体は、対称であり、二本の同じ第1の鎖と二本の同じ第2の鎖で構成される。いくつかの実施形態において、本発明の二重特異性抗体はさらに、一本の第1の鎖と一本の第2の鎖で構成されてもよい。二重特異性抗体構造の違いに応じて、二重特異性抗体の第1の鎖と第2の鎖はそれぞれ、一つの抗原エピトープ又は二つの異なる抗原エピトープを標的化する重鎖可変領域及び/又は軽鎖可変領域を含んでもよい。いくつかの実施形態において、本発明の二重特異性抗体は対称であり、その第1の鎖は、第1の抗原エピトープを標的化する重鎖を含み、その第2の鎖は、第2の抗原エピトープを標的化する軽鎖を含む。いくつかの実施形態において、前記二重特異性抗体は、抗VEGFとAng2の二重特異性抗体であってもよい。
【0075】
本発明に記載の「抗体融合タンパク質」は、抗体(抗体融合タンパク質において第1の抗原結合部分と呼ばれてもよい)と生物学的機能を有する他のポリペプチド(第2の結合ドメイン)とを融合して得られた、様々な生物学的機能を有する融合タンパク質を意味する。本発明に記載の「生物学的機能を有する他のポリペプチド」は、前記抗体の重鎖可変領域VH、軽鎖可変領域VL、重鎖定常領域CH1、CH2、CH3、及び/又は軽鎖定常領域CLに連結され得る。本発明に記載の「生物学的機能を有する他のポリペプチド」は、異なる抗原エピトープを標的化する別の抗体、毒素、酵素、サイトカイン、受容体又はその断片などであってもよい。前記抗体が異なる抗原エピトープを標的化する別の抗体と融合する場合、前記抗体融合タンパク質は多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)である。いくつかの実施形態において、前記第2の結合ドメインは、そのリガンドに特異的に結合する受容体もしくはその断片(例えば、その細胞外ドメイン)又はそれらの変異体であってもよい。いくつかの実施形態において、前記受容体のリガンドと第1の抗原結合部分が標的化する抗原は、異なるタンパク質である。いくつかの実施形態において、前記リガンドはサイトカイン又はその変異体であり、前記サイトカインは、例えば、形質転換成長因子β(TGFβ)、血管内皮成長因子受容体(VEGF)又はアンジオテンシン2(Ang2)であってもよい。いくつかの実施形態において、前記第2の結合ドメインは、これらのサイトカイン又はその変異体に特異的に結合する受容体、例えば、形質転換成長因子β(TGFβ)受容体(例えば、TGF-βRII)、血管内皮成長因子受容体(VEGF)受容体又はアンジオテンシン2(Ang2)受容体であってもよく、さらに前記受容体の断片、例えば、サイトカインに結合することができる断片、例えば、前記受容体の細胞外ドメイン又はその変異体であってもよい。前記サイトカインとサイトカイン受容体はヒト化であってもよい。いくつかの実施形態において、前記他のポリペプチドは、TGFβRIIの細胞外領域又はその変異体、例えば、TGFβRIIの細胞外領域(例えば、特許出願WO2018/205985のSEQ ID NO:13を参照されたい)、TGFβRIIの可溶性細胞外領域(例えば、特許出願WO2018/129331のSEQ ID NO:10を参照されたい)、TGF-βRIIの細胞外領域のN末端短縮型(例えば、特許出願WO2018/205985のSEQ ID NO:14又はSEQ ID NO:15を参照されたい)である。抗体とサイトカイン受容体又はその断片との融合により形成された抗体融合タンパク質は、抗体が治療作用(例えば、抗腫瘍作用)を発揮するとともに、サイトカイン受容体とサイトカインとの間の相互作用を遮断することによって、相乗的な治療効果を達成することができる。例えば、TGFβRII又はその細胞外領域のようなTGFβの受容体は、TGFβの腫瘍微小環境での中和作用を遮断することができ、抗体との相乗的な抗腫瘍効果を達成することができ、VEGF又はAng2の受容体又は細胞外領域は、VEGF又はAng2と環境における受容体との結合を遮断することによって、血管新生を遮断し、抗体との相乗的な抗腫瘍効果を達成することができる。好ましい実施形態において、前記第1の抗原結合部分は、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗VEGF抗体又は抗Ang2抗体である。
【0076】
いくつかの実施形態において、本発明のポリペプチド分子は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域を有する抗体又は抗原結合部分を含み、前記抗体又は抗原結合部分の重鎖可変領域と軽鎖可変領域は、それぞれ二本のペプチド鎖上に位置し、この場合に、前記ポリペプチド分子の第1の鎖と第2の鎖は、それぞれ前記抗体又は抗原結合部分の重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含み、例えば、前記ポリペプチド分子の第1の鎖は前記抗体又は抗原結合部分の重鎖可変領域を含み、第2の鎖は前記抗体又は抗原結合部分の軽鎖可変領域を含む。本発明のデュアル組換えウイルスベクター系は、前記重鎖可変領域と軽鎖可変領域との正確なペアリングを促進して、活性を有する抗原結合部分を形成することができる。このような抗体又は抗原結合部分の例としては、モノクローナル抗体又はそのFab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片もしくはFv断片などが挙げられる。さらに、前記重鎖可変領域を含む第1の鎖及び/又は前記軽鎖可変領域を含む第2の鎖において、生物学的機能を有する他のポリペプチドをさらに融合させ、本発明のデュアル組換えウイルスベクター系で発現する場合、依然として、前記重鎖可変領域と軽鎖可変領域との正確なペアリングを促進して、活性を有する抗原結合部分を形成し、且つ生物学的活性を有する他のポリペプチドを生成することができる。そのため、本発明のデュアル組換えウイルスベクター系により発現されるポリペプチド分子は、それぞれ二本のペプチド鎖上に位置する重鎖可変領域と軽鎖可変領域を有する抗体又は抗原結合部分であってもよく、又はこのような抗体又は抗原結合部分と他の抗体又は抗原結合部分で構成される多重特異性抗体であってもよく、又はこのような抗体又は抗原結合部分と生物学的機能を有する他のタンパク質で構成される抗体融合タンパク質であってもよい。
【0077】
さらに、前記ポリペプチド分子の第1の鎖は、前記抗体又は抗原結合部分の重鎖可変領域を含む以外、重鎖定常領域CHの全長又はその一部、例えば、CH1ドメインCH2ドメインとCH3ドメインのうちのいずれか一つ、いずれか二つ又はその全てをさらに含んでもよく、第2の鎖は、前記抗体又は抗原結合部分の軽鎖可変領域を含む以外、軽鎖定常領域CLをさらに含んでもよく、それにより第1の鎖と第2の鎖は、細胞内での発現後に、前記重鎖可変領域、重鎖定常領域、軽鎖可変領域と軽鎖定常領域によって活性を有する抗原結合部分を形成する。そのため、好ましい実施形態において、本発明のポリペプチド分子は、重鎖と軽鎖を有する抗体又は抗原結合部分を含み、この場合に、前記ポリペプチド分子の第1の鎖と第2の鎖は、それぞれ前記抗体又は抗原結合部分の重鎖と軽鎖を含み、例えば、前記ポリペプチド分子の第1の鎖は前記抗体又は抗原結合部分の重鎖を含み、第2の鎖は前記抗体又は抗原結合部分の軽鎖を含む。このような抗体又は抗原結合部分の例としては、モノクローナル抗体又は重鎖と軽鎖とを含むその抗原結合断片、例えば、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片などが挙げられる。本発明者らは、デュアル組換えウイルスベクター系でそれぞれ抗体の重鎖と軽鎖を発現することにより、抗体の発現量をより高くし、重鎖と軽鎖の組み立て効率をより高くすることができ、そして、発現された軽鎖の割合が大きい場合、抗体発現量及び重鎖と軽鎖の組み立て効率も高くなることを発見した。
【0078】
いくつかの実施形態において、本発明のポリペプチド分子に含まれる抗体又は抗原結合部分は、VEGFに特異的に結合する抗体又はAng2に特異的に結合する抗体である。いくつかの実施形態において、前記VEGFに特異的に結合する抗体はAvastinである。いくつかの実施形態において、前記VEGFに特異的に結合する抗体の重鎖は、SEQ ID NO:2に示すヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を有する。いくつかの実施形態において、前記VEGFに特異的に結合する抗体の軽鎖は、SEQ ID NO:5に示すヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を有する。いくつかの実施形態において、前記Ang2に特異的に結合する抗体はABTAAである。前記ABTAAに特異的に結合する抗体の重鎖は、SEQ ID NO:7に示すヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を有する。いくつかの実施形態において、前記ABTAAに特異的に結合する抗体の軽鎖は、SEQ ID NO:10に示すヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を有する。
【0079】
本発明において、「重鎖」という用語は、全長抗体又は少なくとも二本の鎖を含むその抗原結合断片における、重鎖可変領域を含む鎖を意味し、「軽鎖」という用語は、全長抗体又は少なくとも二本の鎖を含むその抗原結合断片における、軽鎖可変領域を含む鎖を意味する。そのため、本発明に記載の「重鎖」は、重鎖可変領域と少なくとも一部の重鎖定常領域とを含む鎖、例えば、重鎖可変領域VHと全部の三つの重鎖定常領域CH1、CH2及びCH3とを含む鎖、又は重鎖可変領域VHと一部の重鎖定常領域(例えば、CH1、CH2及びCH3のうちのいずれか一つ、いずれか二つ)とを含む鎖を意味する。本発明に記載の「軽鎖」は、軽鎖可変領域と少なくとも一部の軽鎖定常領域とを含む鎖、例えば、軽鎖可変領域VLと軽鎖定常領域CLとを含む鎖を意味する。
【0080】
さらに、前記重鎖を含む第1の鎖及び/又は前記軽鎖を含む第2の鎖に生物学的機能を有する他のポリペプチド(即ち第2の結合ドメイン)をさらに融合させて、依然として高い発現量と高い重鎖と軽鎖の組み立て効率を有し、且つ生物学活性を有する他のポリペプチドを生成することができる。そのため、本発明のデュアル組換えウイルスベクター系により発現されるポリペプチド分子は、重鎖と軽鎖を有する抗体又は抗原結合部分で構成されるものであってもよく、又はこのような抗体又は抗原結合部分と他の抗体又は抗原結合部分で構成される多重特異性抗体であってもよく、又はこのような抗体又は抗原結合部分と生物学的機能を有する他のタンパク質で構成される抗体融合タンパク質であってもよい。
【0081】
いくつかの好ましい実施形態において、本発明のデュアル組換えウイルスベクター系により発現される、抗体重鎖を含む第1の鎖と抗体軽鎖を含む第2の鎖との比率は、4:1~1:8であってもよく、例えば、4:1~1:6、2:1~1:6、2:1~1:4、1:1~1:4又は1:2~1:4であってもよく、例えば、1:1、1:2、1:3又は1:4であってもよく、最も好ましくは1:2~1:4である。第1の鎖と第2の鎖との比率は、第1の鎖と第2の鎖のコード配列を含む組換えウイルスベクターのウイルスゲノムの量、及び第1の組換えウイルスベクターと第2の組換えウイルスベクターに含まれる第1の鎖と第2の鎖のコード配列のコピー数によって確定され得る。いくつかの実施形態において、第1の組換えウイルスベクター系における第1の鎖のコード配列はシングルコピーである。いくつかの実施形態において、第2の組換えウイルスベクター系における第2の鎖のコード配列はシングルコピーである。いくつかの実施形態において、第1の鎖に及び第2の鎖のコード配列に含まれる機能的タンパク質ドメイン(例えば、抗体の重鎖可変領域、軽鎖可変領域、重鎖、軽鎖及び/又は生物学的機能を有する他のポリペプチドなど)のコード配列もシングルコピーである。いくつかの実施形態において、第1の鎖と第2の鎖との比率は、第1の組換えウイルスベクターと第2の組換えウイルスベクターとの比率によって表され得る。いくつかの実施形態において、抗体重鎖を含む第1の鎖を発現するための第1の組換えウイルスベクターと抗体軽鎖を含む第2の鎖を発現するための第2の組換えウイルスベクターとの比率は、4:1~1:8であってもよく、例えば、4:1~1:6、2:1~1:6、2:1~1:4、1:1~1:4又は1:2~1:4であってもよく、例えば、1:1、1:2、1:3又は1:4であってもよく、最も好ましくは1:2~1:4である。組換えウイルスベクターの比率は、ウイルスゲノムの量、例えば、ウイルスゲノム力価に基づいて計算され得る。ウイルスゲノムの量又はウイルスゲノム力価の測定は、当業者によく知られるものであり、例えば、ドロップレットデジタルPCR(ddPCR)のようなPCRによって測定され得る。
【0082】
いくつかの好ましい実施形態において、本発明のデュアル組換えウイルスベクター系により発現されるポリペプチド分子は、モノクローナル抗体又は重鎖と軽鎖とを含むその抗原結合断片、例えば、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片などである。第1の鎖は、前記モノクローナル抗体又は抗原結合断片の重鎖を含み、第2の鎖は、前記モノクローナル抗体又は抗原結合断片の軽鎖を含む。さらに好ましくは、第1の鎖と第2の鎖との比率は、4:1~1:8であってもよく、例えば、4:1~1:6、2:1~1:6、2:1~1:4、1:1~1:4又は1:2~1:4であってもよく、例えば、1:1、1:2、1:3又は1:4であってもよく、最も好ましくは1:2~1:4である。いくつかの実施形態において、第1の鎖を発現するための第1の組換えウイルスベクターと第2の鎖を発現するための第2の組換えウイルスベクターとの比率は、4:1~1:8であってもよく、例えば、4:1~1:6、2:1~1:6、2:1~1:4、1:1~1:4又は1:2~1:4であってもよく、例えば、1:1、1:2、1:3又は1:4であってもよく、最も好ましくは1:2~1:4である。
【0083】
別の好ましい実施形態において、本発明のデュアル組換えウイルスベクター系により発現されるポリペプチド分子は、二重特異性抗体であり、それは、第1の抗原エピトープに特異的に結合する第1の抗原結合部分と第2の抗原エピトープに特異的に結合する第2の抗原結合部分とを含み、第1の抗原エピトープと第2の抗原エピトープとは異なる。ここで、前記第1の抗原結合部分は、抗体重鎖と抗体軽鎖とを含み、例えば、全長抗体(例えば、IgG免疫グロブリン)又は重鎖と軽鎖とを含むその抗原結合断片、例えば、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片などである。第1の鎖は、前記第1の抗原結合部分の重鎖を含み、第2の鎖は、前記第1の抗原結合部分の軽鎖を含む。それに基づいて形成される、異なる構造を有する二重特異性抗体形態はいずれも本発明に適用することができ、例えば、第2の抗原結合部分は、任意の一本鎖形態又は二本鎖形態であってもよく、例えば、第2の抗原エピトープに特異的に結合するFab断片、Fv断片、scFv又は単一ドメイン抗体などを含むが、それらに限られない。第2の抗原結合部分が一本鎖形態の抗体である場合、第2の抗原結合部分は、第1の抗原結合部分の重鎖のN末端、重鎖のC末端、軽鎖のN末端又は軽鎖のC末端に連結され得、又は第1の抗原結合部分の重鎖可変領域VHと重鎖定常領域CH1との間に連結され得る。第2の抗原結合部分が二本鎖形態の抗体である場合、第2の抗原部分の二本の鎖は、それぞれ第1の抗原結合部分の二本の鎖のN末端又はC末端に連結され得る。第2の抗原結合部分がFabである場合、第2の抗原結合部分における「軽鎖可変領域-軽鎖定常領域(VL-CL)」は、第1の抗原結合部分の重鎖N末端に連結され得、第2の抗原結合部分における「重鎖可変領域-重鎖定常領域CH1(VH-CH1)」は、第1の抗原結合部分の軽鎖N末端に連結され得る。第2の抗原結合部分がFv断片である場合、第2の抗原結合部分の重鎖可変領域は、第1の抗原結合部分の重鎖N末端に連結され得、第2の抗原結合部分の軽鎖可変領域は、第1の抗原結合部分の軽鎖N末端に連結され得る。
【0084】
いくつかの実施形態において、二重特異性抗体は、第1の抗原エピトープに特異的に結合するFab断片と第2の抗原エピトープに特異的に結合する二つの同じscFvで構成され、二つのscFvは、それぞれFab断片の重鎖と軽鎖のN末端に連結される。該実施形態において、第1の鎖は、第1の抗原エピトープに特異的に結合するFab断片の重鎖と第2の抗原エピトープに特異的に結合するscFvとを含み、第2の鎖は、第1の抗原エピトープに特異的に結合するFab断片の軽鎖と第2の抗原エピトープに特異的に結合するscFvとを含む。
【0085】
別のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体は、第1の抗原エピトープに特異的に結合するIgGモノクローナル抗体と第2の抗原エピトープに特異的に結合するFab断片で構成され、Fab断片の重鎖は、IgGモノクローナル抗体の軽鎖N末端に連結され、Fab断片の軽鎖は、IgGモノクローナル抗体の重鎖N末端に連結される。該実施形態において、第1の鎖は、第1の抗原エピトープに特異的に結合するIgGモノクローナル抗体の重鎖と第2の抗原エピトープに特異的に結合するFab断片の軽鎖とを含み、第2の鎖は、第1の抗原エピトープに特異的に結合するIgGモノクローナル抗体の軽鎖と第2の抗原エピトープに特異的に結合するFab断片の重鎖とを含む。
【0086】
別のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体は、第1の抗原エピトープに特異的に結合するIgGモノクローナル抗体と第2の抗原エピトープに特異的に結合する単一ドメイン抗体で構成され、ここで、単一ドメイン抗体は、IgGモノクローナル抗体の軽鎖のN末端又はC末端に連結されるか、又はIgGモノクローナル抗体の重鎖のN末端又はC末端に連結され、好ましくは、単一ドメイン抗体は、IgGモノクローナル抗体の重鎖上(例えば、重鎖のN末端又はC末端)に連結される。該実施形態において、第1の鎖は、第1の抗原エピトープに特異的に結合するIgGモノクローナル抗体の重鎖と第2の抗原エピトープに特異的に結合する単一ドメイン抗体とを含み、第2の鎖は、第1の抗原エピトープに特異的に結合するIgGモノクローナル抗体の軽鎖を含み、又は、第1の鎖は、第1の抗原エピトープに特異的に結合するIgGモノクローナル抗体の重鎖を含み、第2の鎖は、第1の抗原エピトープに特異的に結合するIgGモノクローナル抗体の軽鎖と第2の抗原エピトープに特異的に結合する単一ドメイン抗体とを含む。
【0087】
別のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体は、第1の抗原エピトープに特異的に結合するIgGモノクローナル抗体と第2の抗原エピトープに特異的に結合するscFvで構成され、ここで、scFvは、IgGモノクローナル抗体の軽鎖のN末端又はC末端に連結されるか、又はIgGモノクローナル抗体の重鎖のN末端又はC末端に連結され、好ましくは、scFvは、IgGモノクローナル抗体の重鎖のC末端に連結される。該実施形態において、第1の鎖は、第1の抗原エピトープに特異的に結合するIgGモノクローナル抗体の重鎖と第2の抗原エピトープに特異的に結合するscFvとを含み、第2の鎖は、第1の抗原エピトープに特異的に結合するIgGモノクローナル抗体の軽鎖を含み、又は、第1の鎖は、第1の抗原エピトープに特異的に結合するIgGモノクローナル抗体の重鎖を含み、第2の鎖は、第1の抗原エピトープに特異的に結合するIgGモノクローナル抗体の軽鎖と第2の抗原エピトープに特異的に結合するscFvとを含む。
【0088】
別のいくつかの実施形態において、二重特異性抗体は、第1の抗原エピトープに特異的に結合するFab断片、第2の抗原エピトープに特異的に結合するscFv及びFc断片で構成され、ここで、scFvのN末端はFab断片の重鎖C末端に連結されており、scFvのC末端はFc断片のN末端の連結されており、このようなタイプの二重特異性抗体は、第2の抗原エピトープに特異的に結合するscFvを第1の抗原エピトープに特異的に結合するIgGモノクローナル抗体の重鎖定常領域CH1とCH2との間に挿入して得られたものと見なされてもよい。該実施形態において、第1の鎖は、第1の抗原エピトープに特異的に結合するFab断片の重鎖、第2の抗原エピトープに特異的に結合するscFv及びFc断片を含み、第2の鎖は、第1の抗原エピトープに特異的に結合するFab断片の軽鎖を含む。
【0089】
さらに好ましくは、二重特異性抗体を発現するためのデュアル組換えウイルスベクター系において、第1の鎖と第2の鎖との比率は、4:1~1:8であってもよく、例えば、4:1~1:6、2:1~1:6、2:1~1:4、1:1~1:4又は1:2~1:4であってもよく、例えば、1:1、1:2、1:3又は1:4であってもよく、最も好ましくは1:2~1:4である。いくつかの実施形態において、第1の鎖を発現するための第1の組換えウイルスベクターと第2の鎖を発現するための第2の組換えウイルスベクターとの比率は、4:1~1:8であってもよく、例えば、4:1~1:6、2:1~1:6、2:1~1:4、1:1~1:4又は1:2~1:4であってもよく、例えば、1:1、1:2、1:3又は1:4であってもよく、最も好ましくは1:2~1:4である。
【0090】
別の好ましい実施形態において、本発明のデュアル組換えウイルスベクター系により発現されるポリペプチド分子はさらに、第1の標的分子に特異的に結合する第1の抗原結合部分と第2の標的分子に特異的に結合する第2の結合ドメインとを含む抗体融合タンパク質であってもよい。ここで、前記第1の標的分子は抗原又は抗原エピトープであり、第1の抗原結合部分は、全長抗体(例えば、IgG免疫グロブリン)又は重鎖と軽鎖とを含むその抗原結合断片、例えば、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片などである。第1の鎖は前記第1の抗原結合部分の重鎖を含み、第2の鎖は前記第1の抗原結合部分の軽鎖を含む。前記第2の標的分子は、サイトカイン又はその変異体であり、前記第2の結合ドメインは、サイトカイン受容体又はその細胞外結合ドメイン、又はその短縮型もしくは変異体である。前記第2の標の分子と前記第1の標の分子とは異なる。前記第2の結合ドメインは、第1の抗原結合部分の重鎖上(例えば、そのN末端及び/又はC末端)及び/又は軽鎖上(例えば、そのN末端及び/又はC末端)に連結され得る。
【0091】
「変異体」という用語は、親核酸(又はポリペプチド)の配列と類似性を有し、ポリヌクレオチド(又はポリペプチド)の活性を維持することができるポリヌクレオチド(又はポリペプチド)を意味する。例えば、核酸変異体は、親核酸に比べて、5’末端、3’末端及び/又は一つ又は複数の内部部位における一つ又は複数のヌクレオチドの插入、置換及び/又は欠失を有してもよい。変異体はさらに、親核酸と少なくとも約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又はそれ以上の配列同一性を有してもよい。ポリペプチドの変異体は、親ポリペプチドに比べて、5’末端、3’末端及び/又は一つ又は複数の内部部位における一つ又は複数のアミノ酸の插入、置換及び/又は欠失を有してもよい。変異体はさらに、親ポリペプチドと少なくとも約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又はそれ以上の配列同一性を有してもよい。配列同一性は、当業者に既知の配列アラインメントプログラムによって確定されてもよく、前記配列アラインメントプログラムは、BLAST、FASTA又はNeedlemanなどを含むが、それらに限らない。
【0092】
いくつかの好ましい実施形態において、前記第2の標的分子は、サイトカイン、例えば、形質転換成長因子β、血管内皮成長因子(VEGF)又はアンジオテンシン(Ang2)である。いくつかの実施形態において、前記第2の結合ドメインは、サイトカイン受容体、例えば、形質転換成長因子β(TGFβ)受容体(例えば、TGF-βRII)、血管内皮成長因子受容体(VEGF)受容体もしくはアンジオテンシン(Ang2)受容体など又はその断片(例えば、細胞外ドメインECD)もしくはそれらの変異体である。前記サイトカインとサイトカイン受容体はヒト化であってもよい。いくつかの実施形態において、第2の結合ドメインは、TGFβRIIの細胞外領域又はその変異体、例えば、TGFβRIIの細胞外領域(例えば、特許出願WO2018/205985のSEQ ID NO:13を参照されたい)、TGFβRIIの可溶性細胞外領域(例えば、特許出願WO2018/129331のSEQ ID NO:10を参照されたい)、TGF-βRIIの細胞外領域のN末端短縮型(例えば、特許出願WO2018/205985のSEQ ID NO:14又はSEQ ID NO:15を参照されたい)。好ましい実施形態において、前記第1の抗原結合部分は、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗VEGF抗体又は抗Ang2抗体である。
【0093】
さらに好ましくは、前記抗体融合タンパク質を発現するためのデュアル組換えウイルスベクター系において、第1の鎖と第2の鎖との比率は、4:1~1:8であってもよく、例えば、4:1~1:6、2:1~1:6、2:1~1:4、1:1~1:4又は1:2~1:4であってもよく、例えば、1:1、1:2、1:3又は1:4であってもよく、最も好ましくは1:2~1:4である。いくつかの実施形態において、第1の鎖を発現するための第1の組換えウイルスベクターと第2の鎖を発現するための第2の組換えウイルスベクターとの比率は、4:1~1:8であってもよく、例えば、4:1~1:6、2:1~1:6、2:1~1:4、1:1~1:4又は1:2~1:4であってもよく、例えば、1:1、1:2、1:3又は1:4であってもよく、最も好ましくは1:2~1:4である。
【0094】
本発明のデュアル組換えウイルスベクター系により発現される抗体又は抗原結合部分(例えば、モノクローナル抗体又はその抗原結合断片、二重特異性抗体における第1の抗原結合部分及び/又は第2の抗原結合部分、及び抗体融合タンパク質における第1の抗原結合部分)は、任意の抗原に特異的に結合する抗体又は抗原結合部分であってもよく、前記抗原は、微生物抗原、腫瘍特異的抗原、サイトカイン、血管新生に関連する標的ポイント及び免疫チェックポイントなどを含むが、それらに限らない。いくつかの特に好ましい実施形態において、抗体又は抗原結合部分は、血管新生に関連する標的ポイントに特異的に結合する。前記血管新生に関連する標的ポイントは、血管新生因子、即ち血管の発達を刺激し、例えば、血管生成、内皮細胞増殖及び/又は血管安定性を促進する因子である。前記血管新生因子は、例えば、血管新生に関連する疾患の治療標的ポイントとして、これらの血管新生因子に対する阻害剤(例えば、抗体)を用いて治療することができる。前記血管新生因子は、血管内皮成長因子(Vascular endothelial growth factor、VEGF)、血管内皮成長因子受容体(Vascular endothelial growth factor receptor、VEGFR)、線維芽細胞成長因子(Fibroblast growth factor、FGF)、血小板由来成長因子(Platelet derived growth factor、PDGF)、形質転換成長因子(Transforming growth factor beta、TGFβ)、アンジオテンシン1(Angiotensin 1、Ang1)、アンジオテンシン2(Angiotensin 2、Ang2)、インテグリン(Integrin)、CD31及びプラスミノーゲン活性化因子(plasminogen activators)を含むが、それらに限らない。いくつかの実施形態において、本発明の抗体又は抗原結合部分は血管新生因子に対する抗体であり、前記血管新生因子は、血管内皮成長因子(Vascular endothelial growth factor、VEGF)、血管内皮成長因子受容体(Vascular endothelial growth factor receptor、VEGFR)、線維芽細胞成長因子(Fibroblast growth factor、FGF)、血小板由来成長因子(Platelet derived growth factor、PDGF)、形質転換成長因子(Transforming growth factor beta、TGFβ)、アンジオテンシン1(Angiotensin 1、Ang1)、アンジオテンシン2(Angiotensin 2、Ang2)、インテグリン(Integrin)、CD31及びプラスミノーゲン活性化因子(plasminogen activators)から選択される一つ、二つ又はそれ以上である。当業者が知っているように、抗体又は抗原結合部分が特定の抗原に特異的に結合することに言及する場合、該抗体又は抗原結合部分が該抗原上の任意のエピトープに特異的に結合することを意味する。
【0095】
いくつかの実施形態において、前記抗体又は抗原結合部分は、血管内皮成長因子(VEGF)及び/又はアンジオテンシン2(Ang2)に対する抗体であってもよい。いくつかの実施形態において、前記抗VEGF抗体はAvastinである。いくつかの実施形態において、前記抗VEGF抗体は、SEQ ID NO:19(例えば、SEQ ID NO:2に示すヌクレオチド配列によりコードされ得る)に示す重鎖配列に含まれる三つの重鎖CDR配列と同じ重鎖CDR配列を有する。いくつかの実施形態において、前記抗VEGF抗体は、SEQ ID NO:19(例えば、SEQ ID NO:2に示すヌクレオチド配列によりコードされ得る)に示す重鎖配列に含まれる重鎖可変領域配列と同じ重鎖可変領域配列を有する。いくつかの実施形態において、前記抗VEGF抗体は、SEQ ID NO:19(例えば、SEQ ID NO:2に示すヌクレオチド配列によりコードされ得る)に示す重鎖配列を有する。いくつかの実施形態において、前記抗VEGF抗体は、SEQ ID NO:20(例えば、SEQ ID NO:5に示すヌクレオチド配列によりコードされ得る)に示す軽鎖配列に含まれる三つの軽鎖CDR配列と同じ軽鎖CDR配列を有する。いくつかの実施形態において、前記抗VEGF抗体は、SEQ ID NO:20(例えば、SEQ ID NO:5に示すヌクレオチド配列によりコードされ得る)に示す軽鎖配列に含まれる軽鎖可変領域配列と同じ軽鎖可変領域配列を有する。いくつかの実施形態において、前記抗VEGF抗体は、SEQ ID NO:20(例えば、SEQ ID NO:5に示すヌクレオチド配列によりコードされ得る)に示す軽鎖配列を有する。いくつかの実施形態において、前記抗Ang2抗体はABTAAである。いくつかの実施形態において、前記抗Ang2抗体は、SEQ ID NO:21に示す重鎖可変領域配列に含まれる三つの重鎖CDR配列と同じ重鎖CDR配列を有するか、又はSEQ ID NO:7に示すヌクレオチド配列によりコードされる重鎖配列に含まれる三つの重鎖CDR配列と同じ重鎖CDR配列を有する。いくつかの実施形態において、前記抗Ang2抗体は、SEQ ID NO:21に示す重鎖可変領域配列を有するか、又はSEQ ID NO:7に示すヌクレオチド配列によりコードされる重鎖配列に含まれる重鎖可変領域配列と同じ重鎖可変領域配列を有する。いくつかの実施形態において、前記抗Ang2抗体は、SEQ ID NO:22に示す軽鎖可変領域配列に含まれる三つの軽鎖CDR配列と同じ軽鎖CDR配列を有するか、又はSEQ ID NO:10に示すヌクレオチド配列によりコードされる軽鎖配列に含まれる三つの軽鎖CDR配列と同じ軽鎖CDR配列を有する。いくつかの実施形態において、前記抗Ang2抗体は、SEQ ID NO:22に示す軽鎖可変領域配列を有するか、又はSEQ ID NO:10に示すヌクレオチド配列によりコードされる軽鎖配列に含まれる軽鎖可変領域配列と同じ軽鎖可変領域配列を有する。いくつかの実施形態において、前記抗Ang2抗体の重鎖は、SEQ ID NO:7に示すヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を有する。いくつかの実施形態において、前記抗Ang2抗体の軽鎖は、SEQ ID NO:10に示すヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を有する。
【0096】
理解すべきこととして、本発明において、一つのアミノ酸配列がもう一つのアミノ酸配列のN末端に連結されることに言及する場合、前者のC末端が後者のN末端に連結されていることを意味し、一つのアミノ酸配列がもう一つのアミノ酸配列のC末端に連結されることに言及する場合、前者のN末端が後者のC末端に連結されていることを意味する。本発明において、二つのペプチド鎖又は二つのアミノ酸配列が連結されるか又は連結されていることに言及する場合、理解すべきこととして、それは、直接連結されてもよく、ペプチドリンカー(又は連結ペプチドと呼ばれる)を介して連結されてもよい。ペプチドリンカーは、柔軟性に富むグリシン及び溶解性を有するセリン又はトレオニンを含んでもよいか又はそれらで構成される。ペプチドリンカーは、例えば、GSリンカーであってもよく、その長さは、例えば、5~約25個のアミノ酸であってもよい。「GSリンカー」は、グリシン(G)とセリン(S)とのGS組み合わせを指し、複数のタンパク質を一緒に連結して融合タンパク質を形成するためのものである。一般的なGS組み合わせは、(GGGGS)nであり、nの大きさを変えることによってリンカー配列の長さを変え、例えば、(GGGGS)3(即ちGGGGSGGGGSGGGGS、SEQ ID NO:16)を用いてもよく、該リンカーは、例えば、SEQ ID NO:11に示す配列によりコードされ得、グリシンとセリンはさらに、他の組み合わせによって異なるリンカー配列、例えば、GGGGSGGGS (SEQ ID NO:17)を生成することができる。ペプチドリンカーはさらに、他の配列、例えば、ESKYGPPSPPSP(SEQ ID NO:23)であってもよく、該ペプチドリンカーは、例えば、SEQ ID NO:14に示す核酸配列によってコードされてもよい。適切なペプチドリンカーは、当業者によって確定することができる。
【0097】
当業者であれば理解すべきこととして、前記第1の鎖及び/又は前記第2の鎖は、第1の鎖及び/又は第2の鎖を組換えウイルスベクターにより形質導入された細胞から分泌の形態で産生するために、コードされるポリペプチドの分泌を可能にするリーダー配列(即ちシグナルペプチド)をさらに含んでもよい。シグナルペプチドは、第1の鎖及び/又は第2の鎖のN末端に配置され得る。いくつかの実施形態において、前記ポリペプチド分子は、モノクローナル抗体又はその抗原結合断片であり、第1の鎖には、N末端からC末端まで、リーダー配列、モノクローナル抗体又はその抗原結合断片の重鎖が順次含まれ、第2の鎖には、N末端からC末端まで、リーダー配列、モノクローナル抗体又はその抗原結合断片の軽鎖が順次含まれる。いくつかの実施形態において、前記ポリペプチド分子は、二重特異性抗体であり、第1の鎖には、N末端からC末端まで、リーダー配列、第1の抗原結合部分の重鎖、連結ペプチド、一本鎖形態の第2の抗原部分が順次含まれ、第2の鎖には、N末端からC末端まで、リーダー配列、第1の抗原結合部分の軽鎖が順次含まれる。いくつかの実施形態において、前記ポリペプチド分子は、抗体融合タンパク質であり、第1の鎖には、N末端からC末端まで、リーダー配列、第1の抗原結合部分の重鎖、連結ペプチド、第2の結合ドメインが順次含まれ、第2の鎖には、N末端からC末端まで、リーダー配列、第1の抗原結合部分の軽鎖が順次含まれる。いくつかの実施形態において、リーダー配列は、MGWSCIILFLVATATGVHS(SEQ ID NO:18)であってもよい。いくつかの実施形態において、前記リーダー配列のコードヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:6又はSEQ ID NO:9である。
組換えウイルスベクター
【0098】
本発明に記載の「ベクター」という用語は、それに含まれる異種核酸を宿主細胞内に輸送する(遊離形態で存在するか又は宿主細胞ゲノム上に組み込む)ことができるいずれか一つの分子、例えば、核酸、プラスミド又はウイルスなどを意味する。
【0099】
本発明に記載の「組換え」は、ベクターに非ベクター天然配列が含まれる異種配列を意味し、前記異種配列は、関心のある核酸であってもよく、ターゲットタンパク質、例えば、本発明のポリペプチド分子を発現するためのものである。
【0100】
本発明に記載の「異種核酸」、「異種配列」又は「関心のある核酸」は、互換使用可能であり、それらを含むベクター、宿主細胞に非天然に存在する核酸配列を意味する。異種核酸は、ターゲットタンパク質をコードする核酸配列であってもよく、例えば、本発明のポリペプチド分子をコードする。
【0101】
本発明で使用される「組換えウイルスベクター」、「組換えウイルス」又は「組換えウイルス粒子」という用語は、互換使用可能であり、関心のある核酸(例えば、本発明のポリペプチド分子に含まれる第1の鎖と第2の鎖のコード核酸配列)の細胞内への転移を媒介することができ、それによるポリペプチド生成物の発現を可能にする組換えウイルス又は組換えウイルス粒子を意味し、通常、ウイルス粒子内にパッケージングされる組換えウイルスゲノム(例えば、ウイルスカプシド内にパッケージングされ、いくつかのウイルスはエンベロープ糖タンパク質をさらに有する)を含み、該組換えウイルスゲノムには、関心のある核酸が含まれる。本発明のポリペプチド分子を発現するために用いられ得る組換えウイルスベクターは、様々なタイプのウイルスに由来するウイルスベクターであってもよく、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、単純ヘルペスウイルス(HSV)ベクターなどを含むが、それらに限らない。
【0102】
組換えウイルスベクターの産生方法は、使用されるウイルスベクターの種類によって異なるが、いずれも当業者によく知られているものであり、一般的には、組換えウイルスゲノム(通常、少なくとも異種核酸とウイルス産生に必要なシス核酸エレメント、例えば、末端反復配列、パッケージングシグナル配列などを含む)を含む発現プラスミド、パッケージングプラスミド及び任意選択的な他のヘルパープラスミドを用いて、パッケージング細胞株を同時トランスフェクトして得られ得る。同時トランスフェクトされたパッケージング細胞株を適切な条件下で培養して、細胞溶解物及び/又は培養上清からウイルス粒子を収集することができる。パッケージング細胞株には、パッケージングプラスミドに含まれるウイルス核酸エレメントが含まれている場合、パッケージングプラスミドを使用することなく、発現プラスミドのみで該パッケージング細胞株をトランスフェクトすればよい。組換えウイルスベクターを産生するための培地は、当業者に既知のものであり、市販もしくはカスタム培地を用いてもよく、又は産生培養物における組換えウイルス粒子の力価を増加させるために、当分野の既知の一つ又は複数の細胞培養成分をさらに添加し補充してもよく、グルコース、ビタミン、アミノ酸及び/又は成長因子を含むが、それらに限らない。組換えウイルスベクター産生培養物は、使用される特定の宿主細胞(即ちパッケージング細胞)に適した条件下で増殖することができる。組換えウイルスベクターを生成した後、必要であれば、様々な一般的な方法で細胞溶解物又はウイルス上清からウイルス粒子を精製することができ、このような方法は、カラムクロマトグラフィー、CsCl勾配法などを含む。例えば、複数のカラム精製ステップを用いてもよく、例えば、陰イオン交換カラム、親和性ラム及び/又は陽イオン交換カラム上で精製する。
【0103】
本発明に記載の「トランスフェクト」は、核酸分子、プラスミドなどのようなポリヌクレオチドを細胞外から細胞内に転移させて、該ポリヌクレオチドを前記細胞内で機能させることを意味する。トランスフェクト方法は、当業者によく知られているものであり、例えば、リン酸カルシウム又はリポソームにより媒介されるトランスフェクトである。
【0104】
様々なタイプの細胞をパッケージング細胞株として用いることができる。例えば、利用可能なパッケージング細胞株は、哺乳動物(ヒトを含む)細胞、昆虫細胞、植物細胞、微生物又は酵母、例えば、HEK293シリーズの細胞(例えば、HEK293A、HEK293T又はHEK293FT)、HeLa細胞、A549細胞、Vero細胞、hARPE-19細胞及びSF-9のような昆虫由来の細胞株を含むが、それらに限らない。当業者に知られているように、組換えウイルスベクターのタイプによって適切なパッケージング細胞株を選択することができる。
【0105】
本発明の第1の組換えウイルスベクターと第2の組換えウイルスベクターは、同じ又は異なるタイプのウイルスに由来するウイルスベクターであってもよく、例えば、両方はいずれもアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、アデノウイルスベクター、単純ヘルペスウイルス(HSV)ベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクターであってもよい。いくつかの実施形態において、第1の組換えウイルスベクターと第2の組換えウイルスベクターに含まれるウイルスエレメント(核酸エレメント、カプシド、及び任意選択的なエンベロープ糖タンパク質などを含む)は、いずれも同じものであり、含まれる異種核酸のみが異なっていてもよい。いくつかの実施形態において、第1の組換えウイルスベクターと第2の組換えウイルスベクターは、同じタイプのウイルスに由来するものであるが、それに含まれるウイルスエレメントは、同じであっても異なっていてもよく、例えば、それぞれ同じタイプのウイルスの異なる血清型に由来してもよい。
【0106】
本発明のデュアル組換えウイルスベクター系において、本発明の第1の組換えウイルスベクターと第2の組換えウイルスベクターは、組成物の形態、例えば、互いに混合されるように提供されてもよく、又はそれぞれ単独の形態で提供されてもよく、即ち両方が互いに混合されていない。
【0107】
本発明に記載の「組換えウイルスベクターゲノム(vg)」又は「組換えウイルスゲノム(vg)」が互換使用可能であることは、ウイルスカプシド内にパッケージングされ得るポリヌクレオチド配列を意味し、それは少なくとも、関心のある核酸を含む発現カセットとウイルス産生に必要なシス核酸エレメントを含み、他のウイルス核酸エレメントをさらに含んでもよい。組換えウイルスベクターの種類によって、組換えウイルスベクターゲノムは、一本鎖DNA、二本鎖DNA又は一本鎖RNAもしくは二本鎖RNAを含んでもよい。いくつかの実施形態において、組換えウイルスベクターゲノムの量又は力価は、vg/mLで測定することができる。
【0108】
「発現カセット」という用語は、線状核酸のセグメントを意味し、それは、発現調節配列に操作可能に連結される関心のある核酸を含む。前記関心のある核酸は、発現生成物、例えば、本発明のポリペプチド分子の第1の鎖又は第2の鎖をコードする。前記発現調節配列は、関心のある核酸によってターゲットポリペプチドを発現する過程に対して調節作用を有する配列を意味し、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、選択マーカー遺伝子、転写後調節エレメント、内部リボソーム進入部位(IRES)及び/又はアデニル化シグナルなどを含むが、それらに限らない。本発明において、第1の鎖を発現するための第1の発現カセットと第2の鎖を発現するための第2の発現カセットは、同じ又は異なる発現調節配列を含んでもよく、例えば、同じ又は異なるプロモーター、同じ又は異なるエンハンサー、同じ又は異なるターミネーター、同じ又は異なる選択マーカー遺伝子、同じ又は異なる転写後調節エレメント、同じ又は異なる内部リボソーム進入部位(IRES)及び/又は同じ又は異なるアデニル化シグナルを含んでもよい。
【0109】
本発明で使用可能なプロモーターは、ウイルス、哺乳動物(ヒトを含む)、細菌、酵母又は植物からのプロモーターなどを含むが、それらに限らない。プロモーターは、構成型、誘導型又は細胞もしくは組織特異的であってもよい。ウイルスプロモーターの例は、サイトメガロウイルス(CMV)即時初期プロモーター、RSVプロモーター、ニワトリβ-アクチン(CBA)プロモーター、CMV初期エンハンサー/ニワトリβ-アクチン(CAG)プロモーター、サルウイルス40(SV40)プロモーター、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の35SRNAと19SRNAプロモーター、タバコモザイクウイルス(TMV)のコートタンパク質プロモーターなどを含むが、それらに限らない。植物プロモーターの例は、熱ショックプロモーターを含むが、それに限らない。哺乳動物プロモーターの例は、ヒト伸長因子1a(EF1a)プロモーター、ヒトユビキチンC(UCB)プロモーター、マウスホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター、RNAポリメラーゼIII型プロモーター(例えば、U6とH1)などを含むが、それらに限らない。構成型プロモーターの例は、レトロウイルスラウス肉腫ウイルス(RSV)LTRプロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、SV40プロモーター、ジヒドロ葉酸レダクターゼプロモーター、β-アクチンプロモーター、マウスホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター及びEF1aプロモーターを含むが、それらに限らない。誘導型プロモーターの例は、亜鉛により誘導されるヒツジメタロチオネイン(MT)プロモーター、デキサメタゾン(Dex)により誘導されるマウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、T7ポリメラーゼプロモーター系などを含むが、それらに限らない。細胞又は組織特異的プロモーターは、遺伝子の特定の組織又は細胞タイプでの発現を開始させることができるため、本発明のポリペプチド分子を特定の細胞、組織又は器官に送達するために用いられてもよく、その例は、関心のある核酸の杆体と錐体感光細胞及び網膜細胞株での発現を駆動するロドプシンキナーゼ(RK)プロモーター、肝臓特異性TTRプロモーター、ヒトα1-アンチトリプシン(hAAT)プロモーター及びTBGプロモーター、成熟ニューロン特異性hSynプロモーター、投射ニューロン特異性CaMKIIaプロモーター、アストロサイト特異性GfaABC1Dプロモーター、心筋特異性cTNTプロモーターを含むが、それらに限らない。本発明のデュアル組換えウイルスベクター系を用いてポリペプチド分子を送達して遺伝子治療を行う場合、前記ポリペプチド分子が被験体の体内の細胞内で発現されることが期待されるため、ウイルス、哺乳動物(ヒトを含む)からのプロモーターが好ましい。宿主細胞を用いて本発明のポリペプチド分子を産生する場合、宿主細胞内でプロモーター活性を有する任意の由来のプロモーターを用いてもよい。
【0110】
転写後調節エレメントは、関心のあるポリペプチドの宿主細胞内での発現レベルを増加させることができる。本発明で使用可能な転写後調節エレメントは、例えば、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)、B型肝炎ウイルス転写後調節エレメント(HBVPRE)又はRNA輸送エレメント(RTE)などのようなウイルス転写後調節エレメントであってもよい。
【0111】
発現カセットは、細胞(例えば、組換えウイルスベクターを産生するためのパッケージング細胞株、又は組換えウイルスベクターにより形質導入された細胞)内で有効である選択マーカーの遺伝子、例えば、薬物耐性選択マーカーをさらに含んでもよい。このような選択マーカー遺伝子は、選択培地内で増殖する細胞の生存又は増殖に必要である因子をコードすることができる。選択遺伝子を含むベクターで形質転換されていない宿主細胞は培地内で生存しない。選択マーカーとして、抗生物質又は他の毒素に対する耐性を付与し、栄養要求性の欠損を補充し、又は培地から保持された肝心な栄養素を供給するタンパク質を選択してもよく、抗生物質又は他の毒素の例は、アンピシリン、ハイグロマイシン、ネオマイシン、メトトレキサート、カナマイシン、ゲンタマイシン、Zeocin、又はテトラサイクリンを含むが、それらに限らない。
【0112】
アデニル化シグナル配列は、転写ターミネーター領域、例えば、3’非翻訳領域に位置してもよく、その例は、ウシ成長ホルモン(BGH)poly(A)、SV40後期poly(A)、チミジンキナーゼ(TK)poly(A)配列などを含むが、それらに限らない。
【0113】
本発明は、前記デュアル組換えウイルスベクター系を産生するためのデュアルプラスミド系をさらに提供し、それぞれ第1の組換えウイルスベクターを産生するための第1のプラスミドと第2の組換えウイルスベクターを産生するための第2のプラスミドとを含む。第1のプラスミドは、第1の発現カセットを含む組換えウイルスゲノムを含み、第2のプラスミドは、第2の発現カセットを含む組換えウイルスゲノムを含む。第1のプラスミドと第2のプラスミドはそれぞれ、任意選択的なパッケージングプラスミド及び任意選択的な他のヘルパープラスミドとパッケージング細胞株を同時トランスフェクトして、第1の組換えウイルスベクターと第2の組換えウイルスベクターを得る。異なるタイプの組換えウイルスベクターに対して、当業者は、組換えウイルスゲノムを含む、組換えウイルスベクターを産生するためのプラスミド、パッケージングプラスミド及び他のヘルパープラスミドをどのように構築するかを既に知っており、またどのようにパッケージング細胞株を選択し、どのようにこれらのプラスミドでパッケージング細胞株を同時トランスフェクトして組換えウイルスベクターを得るかを知っている。
【0114】
組換えAAVベクター(rAAVベクター)
本発明の組換えウイルスベクター(例えば、第1の組換えウイルスベクター及び/又は第2の組換えウイルスベクター)は、組換えアデノ随伴ウイルスベクターであってもよい。アデノ随伴ウイルス(AAV)は、エンベロープのない天然複製欠損DNAウイルスであり、パルボウイルスに属し、その一本鎖DNAゲノムの長さは約4.7kbであり、複製タンパク質(Rep)とウイルスカプシド(Cap)をコードする遺伝子と、遺伝子両側に位置する二つの145bpの末端逆方向反復配列(ITR)とを含む。ITRが、AAVの複製とパッケージングに必須な最小限の自己配列であり、AAVの組み込み、複製とパッケージングに必須なシス作用エレメントでもあるため、AAVウイルスゲノムの他の部分を、関心のある核酸を含む発現カセットで置換し、且つRepとCapをコードする遺伝子を別のプラスミド上でトランス提供して、組換えAAVベクターを産生することができる。そのウイルスゲノムにはrepとcap遺伝子がない場合、AAVベクターは、形質導入された細胞のゲノムに組込むことなく、形質導入された細胞の細胞核内にエピソーム(episome)の形態で存在してもよい。自然系において、AAVの感染にはヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス又はヘルペスウイルス)の関与が必要であり、ヘルパーウイルスは、AAVの感染された細胞内での複製を可能にして生成した遺伝子、例えば、E1A、E1B、E2A、E4、VAなどを提供する。組換えAAVベクターの産生においては、ヘルパーウイルスを用いることなく、ヘルパーウイルスに含まれる必要な遺伝子を含むプラスミドにより提供される対応するヘルパー機能を用いる。
【0115】
本発明に記載の「組換えAAVベクター」は、AAVに由来する構造的及び/又は機能的核酸エレメントを含み、そのウイルスゲノムに含まれる関心のある核酸を細胞内に転移させることができるAAV粒子を意味し、通常、AAVカプシドと、カプシド内にパッケージングされる組換えウイルスゲノムとを含み、前記組換えウイルスゲノムは、本発明のポリペプチド分子の第1の鎖又は第2の鎖を発現するための発現カセットを含む。当業者に知られているように、前記ウイルスゲノムは、発現カセットの両側に位置するAAV末端逆方向反復配列(ITR)をさらに含む。
【0116】
AAVは、異なる血清型を有し、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13及びAAV Rh10などを含む。各血清型のAAVのカプシドタンパク質は、異なる受容体に結合することができ、例えば、AAV2はヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)に結合し、AA1、AAV5及びAAV6はN-連結シアル酸に結合し、AAV3はヘパランに結合し、AAV9はN-末端ガラクトース残基に結合し、これによって異なる血清型のAAVは、異なる細胞、組織又は器官などに対して異なる標的性を有する。例えば、AAV1-9は網膜の様々なタイプの細胞、例えば、色素上皮と光受容細胞を標的化することができ、AAV8はマウスにおいて肝細胞向性を有し、AAV8とAAV9は、全身の様々な筋肉タイプを標的化することができ、AAV9の筋肉に対する向性がより高く、AAV9はマウスにおいて血液脳関門(BBB)を貫通することができる。当業者は、異なるAAV血清型と異なるAAVカプシドを有するAAVベクターの、異なる細胞、組織と器官に対する向性を知ることができる。
【0117】
本発明における第1の組換えAAVベクター及び/又は第2の組換えAAVベクターは、様々な異なる血清型のAAVに由来する核酸エレメントを用いて組換えAAVベクターを構築することができ、特に、標的化が望まれる細胞、組織及び/又は器官に基づいてカプシドの血清型を選択することができる。特に、本発明における第1の組換えAAVベクターと第2の組換えAAVベクターはそれぞれ、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13又はAAV Rh10からのカプシド、キメラAAVカプシド又は改変されたAAVカプシドを独立して使用することができる。好ましい実施形態において、第1の組換えAAVベクターと第2の組換えAAVベクターは、同じ向性を有するカプシドを含み、例えば、同じ細胞、組織及び/又は器官を標的化することができるカプシドを含み、好ましくは、同じAAV血清型からのカプシドを含む。いくつかの実施形態において、第1の組換えAAVベクター及び/又は第2の組換えAAVベクターは、AAV2、AAV5、AAV8又はAAV9からのカプシドを含む。
【0118】
キメラAAVカプシドと改変されたAAVカプシドは、AAVベクターの向性を変え、AAVベクターの特定の細胞、組織及び/又は器官に対する標的性を変えるか又は増加するために用いられてもよい。「向性」という用語は、組換えウイルスベクターの、特定の細胞、組織及び/又は器官に対する標的性を意味する。「キメラAAVカプシド」という用語は、AAVカプシドタンパク質が二つ又はそれ以上の異なるAAV血清型からのアミノ酸配列(例えば、ドメイン)を含み、AAVカプシドを形成できることを意味し、その例は、AAV DJのカプシドを含むが、それに限らない。「改変されたAAVカプシド」は、AAVカプシドタンパク質が、一つ又はそれ以上のアミノ酸の插入、置換もしくは欠失、又は他の結合ドメインに由来するポリペプチドを挿入して形成されたAAVカプシドを含むことを意味し、その例は、AAV2-7m8を含むが、それに限らない。いくつかの実施形態において、第1の組換えAAVベクター及び/又は第2の組換えAAVベクターには、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13又はAAV Rh10からのITRが含まれる。第1の組換えAAVベクターと第2の組換えAAVベクターに含まれるITRは、同じAAV血清型又は異なるAAV血清型からのITRであってもよい。いくつかの実施形態において、第1の組換えAAVベクター及び/又は第2の組換えAAVベクターのITRは、AAV2、AAV5、AAV8又はAAV9からのものである。いくつかの実施形態において、第1の組換えAAVベクターと第2の組換えAAVベクターのITRは、同じAAV血清型からのものであり、例えば、いずれもAAV2、AAV5、AAV8又はAAV9からのものである。
【0119】
本発明の第1の組換えAAVベクター及び/又は第2の組換えAAVベクターにおいて、カプシドとITRは、同じ又は異なるAAV血清型からのものであってもよい。いくつかの実施形態において、第1の組換えAAVベクター及び/又は第2の組換えAAVベクターにおいて、ITRとカプシドは、異なるAAV血清型からのものであってもよく、例えば、AAV2 ITRは、非AAV2のカプシド、例えば、AAV5、AAV8又はAAV9のカプシドと一緒に使用することが選択され得る。いくつかの実施形態において、第1の組換えAAVベクター及び/又は第2の組換えAAVベクターにおいて、ITRとカプシドは、同じAAV血清型からのものであり、例えば、いずれもAAV2、AAV5、AAV8又はAAV9からのものである。好ましい実施形態において、第1の組換えAAVベクターと第2の組換えAAVベクターのITRは、同じ血清型、例えば、AAV2からのものであり、両方のカプシドも同じAAV血清型、例えば、AAV2、AAV5、AAV8又はAAV9からのものである。
【0120】
組換えAAVベクターを生成する方法は、当業者に既知のものであり、例えば、パッケージング細胞株に、組換えAAVゲノムを含む核酸分子、AAV repとcapタンパク質をコードするヌクレオチドを含む核酸分子、及びヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス又は単純ヘルペスウイルス)遺伝子を含む核酸分子を提供することによって、組換えAAVを産生することができる。AAVのcap遺伝子とrep遺伝子をパッケージング細胞内に事前に組み込んでもよく、このように、産生時に、組換えAAVゲノムを含む核酸分子とヘルパーウイルス遺伝子を含む核酸分子でパッケージング細胞株をトランスフェクトすればよい。前記核酸分子は、例えば、プラスミドによって提供され得る。使用可能な組換えAAV産生方法は、トリプラスミド同時トランスフェクト法を含み、即ち組換えAAVゲノムを含むトランスファープラスミド、AAVのrep遺伝子とcap遺伝子とを含むpRCプラスミド、及びヘルパー遺伝子(例えば、E2A、E4及びVA RNA遺伝子)を含むpHelperプラスミドをパッケージング細胞株に同時トランスフェクトし、適切な条件下で細胞を培養し、そして細胞溶解物及び/又は培養物上清から組換えAAVベクターを単離し精製する。ここで、組換えAAV発現ベクターを産生するためのトランスファープラスミドは、発現カセットと、発現カセットの両側に位置するAAV末端逆方向反復配列とを含んでもよい。
組換えアデノウイルスベクター
【0121】
本発明の組換えウイルスベクター(例えば、第1の組換えウイルスベクター及び/又は第2の組換えウイルスベクター)は、組換えアデノウイルスベクターであってもよい。アデノウイルスは、エンベロープのない二本鎖線状DNAウイルスであり、ゲノムが約36kbである。アデノウイルスゲノムは、両端に位置する逆方向末端反復配列(ITR)、パッケージングシグナル配列、初期遺伝子(調節遺伝子E1、E2、E3及びE4をコードする)及び後期遺伝子(構造遺伝子L1-L5をコードする)を含む。アデノウイルスは、50個超の血清型を含み、A~Fの6個の異なるサブグループに分けられる。本発明の組換えウイルスベクターは、アデノウイルスのいずれか一つの血清型に由来してもよく、好ましくはサブグループCアデノウイルス又はその変異体、例えば、Ad2、Ad5及びAd55である。E3は、ウイルスの複製に必要でない領域であり、E3領域の欠失は組換えアデノウイルスベクターの産生に影響を及ぼさない。E1A及び/又はE1Bの欠失は、組換えウイルスの複製を不可能にし、その結果、複製欠損アデノウイルスベクターを生成し得る。本発明のアデノウイルスベクターは、欠損アデノウイルスベクター、例えば、複製欠損アデノウイルスベクターであってもよく、それはE1A及び/又はE1Bが欠失している。組換えアデノウイルスベクターの産生において、後期遺伝子、E1、E2、E3及び/又はE4が、別の核酸分子(例えば、プラスミド)によってトランス提供することができるため、レンチウイルスゲノムにおけるこれらの遺伝子の全て又は一部を欠失させ、関心のある核酸を含む発現カセットで置換し、且つ別の一つ又はそれ以上の核酸分子(例えば、プラスミド)上で後期遺伝子、E1、E2、E3及び/又はE4をトランス提供して、組換えレンチウイルスベクターを産生してもよい。いくつかの実施形態において、E3を提供しなくてもよい。いくつかの実施形態において、組換えアデノウイルスベクターは、複製欠損であり、E1の少なくとも一部が欠失しており、この場合に、別の核酸分子(例えば、プラスミド)上でE2とE4をトランス提供し、E1はパッケージング細胞株により提供されてもよく、例えば、HEK293に由来する細胞株とPER.C6細胞株であり、それはアデノウイルスのE1領域を含む。
【0122】
本発明に記載の「組換えアデノウイルスベクター」は、アデノウイルスに由来する構造的及び/又は機能的核酸エレメントを含み、そのウイルスゲノムに含まれる関心のある核酸を細胞内に転移させることができるアデノウイルス粒子を意味し、通常、アデノウイルスカプシドと、カプシド内にパッケージングされる組換えアデノウイルスゲノムとを含む。前記組換えアデノウイルスゲノムは、本発明のポリペプチド分子の第1の鎖又は第2の鎖を発現するための発現カセットを含む。当業者に知られているように、組換えアデノウイルスゲノムは少なくとも、ゲノム両端に位置する末端逆方向反復配列(5’ITRと3’ITR)とΨパッケージングシグナル配列とをさらに含む。本発明の組換えアデノウイルスベクターは、Ad2、Ad5及びAd55に由来してもよい。
【0123】
関心のある核酸を含む組換えアデノウイルスベクターは、当業者に既知の任意の技術で製造することができ、例えば、当分野の既知のAdEasy法又はAdMAX法によって製造することができる。例えば、関心のある核酸を含むシャトルプラスミド、アデノウイルスの一部の遺伝子を含むアデノウイルス骨架プラスミドを用いてパッケージング細胞株をトランスフェクトし、組換えアデノウイルスベクターを得ることができる。前記シャトルプラスミドは、組換えアデノウイルスゲノムを含み、それは発現カセット(それには関心のある核酸が含まれ、例えば、本発明の第1の発現カセット又は第2の発現カセット)と、末端逆方向反復配列などのパッケージングシグナル配列などのような組換えアデノウイルスの産生に必須なシス核酸エレメントとを含む。前記アデノウイルス骨架プラスミドは、後期遺伝子、E1、E2、E3及び/又はE4を含んでもよく、パッケージングシグナル配列を含まない。シャトルプラスミドとアデノウイルス骨架プラスミドでパッケージング細胞株をトランスフェクトし、細胞内でそれらに相同組換え又は部位特異性組換えを発生させることにより、組換えアデノウイルスを産生することができる。前記部位特異性組換えは、例えば、Cre/loxPリコンビナーゼ系を利用可能である。
【0124】
本発明において、第1の組換えウイルスベクターと第2の組換えウイルスベクターは、同じ又は異なる種類のアデノウイルスに由来してもよく、両方が同じ種類のアデノウイルスに由来する場合、それは、同じ又は異なるウイルスエレメント、例えば、同じ又は異なる5’ITR、3’ITR、Ψパッケージングシグナル配列、後期遺伝子、E1、E2、E3及び/又はE4を含んでもよい。
組換えレトロウイルスベクター
【0125】
本発明の組換えウイルスベクター(例えば、第1の組換えウイルスベクター及び/又は第2の組換えウイルスベクター)は、組換え逆転写ベクターであってもよい。レトロウイルスはRNAウイルスであり、ウイルスゲノムはRNAである。宿主細胞がレトロウイルスに感染した場合、ウイルスゲノムRNAは、DNA中間体に逆方向転写され、感染した細胞の染色体DNAに組み込まれる。レトロウイルスゲノムとプロウイルスDNAは、gag、pol及びenvの三つの遺伝子を有し、その両側に二つの長末端反復(LTR)配列があり、5’LTRとgag遺伝子との間にΨパッケージングシグナル配列が存在する。前記gag遺伝子は内部構造(マトリックス、カプシド及びコアシェル体)タンパク質をコードし、前記env遺伝子はウイルスエンベロープ糖タンパク質をコードする。前記pol遺伝子は、複数の酵素をコードし、ウイルスRNAを二本鎖DNAとして転写するRNA-ガイドDNAポリメラーゼ逆転写酵素と、逆転写酵素により生成されたDNAを宿主染色体DNA内に組み込む組み込み酵素と、コードされたgagとpol遺伝子をプロセシングするタンパク質酵素とを含む。5’と3’LTRは、ビリオンRNAの転写とポリアデニル化を促進する。組換えレトロウイルスベクターの産生において、gag、pol及びenv遺伝子が、別の核酸分子(例えば、プラスミド)によってトランス提供することができるため、レトロウイルスゲノムにおけるこれらの遺伝子を欠失させ、関心のある核酸を含む発現カセットで置換し、且つ別の一つ又はそれ以上の核酸分子(例えば、プラスミド)上でgag、pol及びenv遺伝子トランス提供して、組換え逆転写ウイルスベクターを産生することができる。
【0126】
本発明に記載の「組換えレトロウイルスベクター」は、レトロウイルスに由来する構造的及び/又は機能的核酸エレメントを含み、そのウイルスゲノムに含まれる関心のある核酸を細胞内に転移させることができるレトロウイルス粒子を意味し、通常、レトロウイルスカプシド、カプシド内にパッケージングされる組換えレトロウイルスゲノム及びウイルスエンベロープ糖タンパク質を含み、前記組換えレトロウイルスゲノムは、本発明のポリペプチド分子の第1の鎖又は第2の鎖を発現するための発現カセットを含む。当業者に知られているように、組換えレトロウイルスゲノムは少なくとも、ゲノム両端に位置する長末端反復配列(5’LTRと3’LTR)と、Ψパッケージングシグナル配列とをさらに含み、それはさらに、ポリプリン管PPTを任意選択的に含んでもよい。本発明の組換えレトロウイルスベクターは、例えば、モロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)又はマウス幹細胞ウイルス(MSCV)に由来してもよい。組換えレトロウイルスベクターは、複製能力を有するか又は複製欠損であってもよい。典型的には、レトロウイルスベクターは、複製欠損であり、ここで、ウイルス粒子の複製とパッケージングに必須な遺伝子コード領域は、欠失しているか又は他の遺伝子に置換される。そのため、最初の標的細胞が感染すると、該ウイルスは、その典型的な細胞溶解経路を続けることができなくなる。このようなレトロウイルスベクター及びこのようなウイルスの生成に必須な物質(例えば、パッケージング細胞株)は、市販で入手することができる(例えば、Clontechから入手することができる)。
【0127】
組換えレトロウイルスベクターは、異種エンベロープ糖タンパク質(例えば、他のウイルスからのエンベロープ糖タンパク質)を用いて、即ち組換えレトロウイルスベクターの産生において異種env遺伝子(例えば、他のウイルスからのenv遺伝子)を用いて、その向性を変えることができる。例えば、VSV-Gエンベロープ糖タンパク質又はシンドビスウイルスE2糖タンパク質を用いてもよい。異種エンベロープ糖タンパク質を用いてパッケージングされた組換えレトロウイルスベクターはまた、偽型化された組換えレトロウイルスベクターと呼ばれてもよい。
【0128】
組換えレトロウイルスベクターを産生する方法は、当業者に既知のものである。例えば、組換えレトロウイルスゲノムを含む核酸分子、gag、pol及びenv遺伝子を含む一つ又はそれ以上(例えば、二つ)の核酸分子をパッケージング細胞株に提供することによって、組換えレトロウイルスベクターを産生することができる。前記核酸分子はプラスミドであってもよい。二つの単独のプラスミドでgag、pol及びenv遺伝子を提供してもよく、プラスミドの間に組換えが発生しないように、一つのプラスミドはgagとpol遺伝子を単独で含み、もう一つのプラスミドはenv遺伝子を含む。ここで、組換えレトロウイルスゲノムは、発現カセット(それには関心のある核酸が含まれ、例えば、本発明の第1の発現カセット又は第2の発現カセット)と、長末端反復配列(5’LTRと3’LTR)とΨパッケージングシグナル配列などのような組換えレトロウイルスの産生に必須なシス核酸エレメントとを含む。
【0129】
本発明において、第1の組換えウイルスベクターと第2の組換えウイルスベクターは、同じ又は異なる種類のレトロウイルスに由来してもよく、両方が同じ種類のレトロウイルスに由来する場合、それは、同じ又は異なるウイルスエレメント、例えば、同じ又は異なる5’LTR、3’LTR、Ψパッケージングシグナル配列、gag、pol及び/又はenv遺伝子を含んでもよい。
組換えレンチウイルスベクター
【0130】
本発明の組換えウイルスベクター(例えば、第1の組換えウイルスベクター及び/又は第2の組換えウイルスベクター)は、組換えレンチウイルスベクターであってもよい。レンチウイルスはレトロウイルスに属し、他のレトロウイルスと異なって、レンチウイルスは、非分裂細胞のゲノム内に組み込むことができ、典型的なレンチウイルスは、ヒト免疫欠損ウイルス(HIV)と、サル免疫欠損ウイルス(SIV)と、ネコ免疫欠損ウイルス(FIV)とを含む。他のレトロウイルスと似たように、レンチウイルスゲノムは、両側に二つの長末端反復(LTR)配列があり、gag、pol及びenv遺伝子を含み、それはウイルスタンパク質をコードする主要な遺伝子であり、5’LTRとgag遺伝子との間にΨパッケージングシグナル配列が存在する。なお、レンチウイルには、合成調節、ウイルスRNAプロセシング及び他の複製機能に関与する他のヘルパー遺伝子がさらに存在し、tat、rev、nef、vif、vpr及びvpuを含む)。組換えレンチウイルスベクターの産生において、nef、vif、vpr及びvpuは必須ではなく、tat遺伝子は、5’LTRの改変によって必要でなくなり得、gag、pol、env及びrev遺伝子は、別の核酸分子(例えば、プラスミド)によってトランス提供することができるため、レンチウイルスゲノムにおけるこれらの遺伝子を欠失させ、関心のある核酸を含む発現カセットで置換し、且つ別の一つ又はそれ以上の核酸分子(例えば、プラスミド)上でgag、pol、env及びrev遺伝子をトランス提供して、組換えレンチウイルスベクターを産生することができる。
【0131】
本発明に記載の「組換えレンチウイルスベクター」は、レンチウイルスに由来する構造的及び/又は機能的核酸エレメントを含み、そのウイルスゲノムに含まれる関心のある核酸を細胞内に転移させることができるレンチウイルス粒子を意味し、通常、レンチウイルスカプシドと、カプシド内にパッケージングされる組換えレンチウイルスゲノムと、ウイルスエンベロープ糖タンパク質とを含み、前記組換えレンチウイルスゲノムは、本発明のポリペプチド分子の第1の鎖又は第2の鎖を発現するための発現カセットを含む。当業者に知られているように、組換えレンチウイルスゲノムは少なくとも、ゲノム両端に位置する長末端反復配列(5’LTRと3’LTR)と、Ψパッケージングシグナル配列とをさらに含み、それはさらに、Rev-応答エレメント(RRE)及び/又はDNA flapエレメント(cPPT/CTS)などを任意選択的に含んでもよい。本発明の組換えレンチウイルスベクターは、HIV-1、HIV-2、SIV又はFIVに由来してもよい。組換えレンチウイルスベクターは、複製能力を有するか又は複製欠損であってもよい。典型的には、組換えレンチウイルスベクターは、複製欠損であり、ここで、ウイルス粒子の複製とパッケージングに必須な遺伝子コード領域は、欠失しているか又は他の遺伝子に置換される。そのため、最初の標的細胞が感染すると、該ウイルスは、その典型的な細胞溶解経路を続けることができなくなる。
【0132】
本発明の組換えレンチウイルスベクターにおける3’LTRは、自己不活性化(SIN 3’LTR)であってもよく、例えば、U3領域が欠失しており、それによりレンチウイルスベクターが自己複製できない。本発明の組換えレンチウイルスベクターにおける5’LTRのU3領域は、Tatに依存しない異種プロモーター、例えば、RSVプロモーターのような他のウイルスからのプロモーターで置換することができ、このようにU3転写時のTatタンパク質への依存性を解消することができ、組換えレンチウイルスベクターの産生時にTat配列を除去してもよい。
【0133】
組換えレンチウイルスベクターは、異種エンベロープ糖タンパク質(例えば、他のウイルスからのエンベロープ糖タンパク質)を用いて、即ち組換えレンチウイルスベクターの産生において異種env遺伝子(例えば、他のウイルスからのenv遺伝子)を用いて、その向性を変えることができる。例えば、VSV-Gエンベロープ糖タンパク質又はシンドビスウイルスE2糖タンパク質を用いてもよい。異種エンベロープ糖タンパク質を用いてパッケージングされた組換えレンチウイルスベクターは、偽型化された組換えレンチウイルスベクターと呼ばれてもよい。
【0134】
組換えレンチウイルスベクターの産生は、当業者によく知られているものであり、例えば、組換えレンチウイルスゲノムを含む核酸分子、gag、pol、rev遺伝子を含む一つ又はそれ以上(例えば、二つ)の核酸分子、及びenv遺伝子を含む核酸分子をパッケージング細胞株に提供することによって、組換えレンチウイルスベクターを産生することができる。トリプラスミド又はテトラプラスミド系を用いて組換えレンチウイルスベクターを産生することができる。一つのテトラプラスミド系において、1番目のプラスミドは、ヘルパータンパク質(例えば、tat、vif、vpu、vpr及びnef)が欠失しており、gagとpol遺伝子を含み、2番目のプラスミドはrev遺伝子を含み、3番目のプラスミドは水泡性口内炎ウイルスエンベロープタンパク質(VSV-G)のenv遺伝子を含み、4番目のプラスミドは組換えレンチウイルスゲノムを含む。組換えレンチウイルスベクター、及びウイルスを生成する系は、市販で入手することができる(例えば、Cell Biolabs, Inc.から入手することができる)。ここで、組換えレンチウイルスゲノムは、発現カセット(ここで、関心のある核酸を含み、例えば、本発明の第1の発現カセット又は第2の発現カセット)と、長末端反復配列(5’LTRと3’LTR)とΨパッケージングシグナル配列のような組換えレンチウイルスの産生に必須なシス核酸エレメントとを含み、さらに、Rev-応答エレメント(RRE)及び/又はDNA flapエレメント(cPPT/CTS)などを任意選択に含んでもよい。
【0135】
本発明において、第1の組換えウイルスベクターと第2の組換えウイルスベクターは、同じ又は異なる種類のレンチウイルスに由来してもよく、両方が同じ種類のレンチウイルスに由来する場合、それは、同じ又は異なるウイルスエレメント、例えば、同じ又は異なる5’LTR、3’LTR、Ψパッケージングシグナル配列、gag、pol、rev及び/又はenv遺伝子を含んでもよい。
組換えHSVベクター
【0136】
発明の組換えウイルスベクター(例えば、第1の組換えウイルスベクター及び/又は第2の組換えウイルスベクター)は、組換えHSVベクターであってもよい。単純ヘルペスウイルス(HSV)は、エンベロープ、カプシドを有する二本鎖DNAウイルスであり、そのゲノムは、即時初期遺伝子と、初期遺伝子と、後期遺伝子とを含む。HSVは、HSV-1とHSV-2の二種類の血清型を有する。宿主細胞でのHSVウイルスの複製が溶解性感染であり、宿主細胞の死亡を引き起こす可能性があるため、組換えHSVは、通常、いくつかの即時初期遺伝子(例えば、ICP4及び/又はICP27)がノックアウトされ、ウイルスに複製欠損を生じさせ、細胞がICP4及び/又はICP27を補足した後にのみウイルスが複製能力を回復する。そのため、組換えHSVベクターは複製欠損であってもよい。
【0137】
本発明に記載の「組換えHSVベクター」は、HSVに由来する構造的及び/又は機能的核酸エレメントを含み、そのウイルスゲノムに含まれる関心のある核酸を細胞内に転移させることができるHSV粒子を意味し、通常、HSVカプシドと、カプシド内にパッケージングされる組換えHSVゲノムと、ウイルスエンベロープ糖タンパク質とを含み、前記組換えHSVウイルスゲノムは、本発明のポリペプチド分子の第1の鎖又は第2の鎖を発現するための発現カセットを含む。
【0138】
組換えHSVベクターは、HSV骨架プラスミドと、関心のある核酸を担持するプラスミドとの間の相同組換えによって製造することができる。例えば、通常、HSV骨架プラスミドは、HSVの主要な機能遺伝子を含むが、一部の即時初期遺伝子、例えば、ICP4及び/又はICP27)が欠失している場合、HSV骨架プラスミドと、関心のある核酸(例えば、関心のある核酸を含む発現カセット、例えば、本発明の第1の発現カセット又は第2の発現カセット)とを担持するプラスミドを、ICP4及び/又はICP27を発現する産生細胞株に同時トランスフェクトした後に相同組換えを発生させる。産生細胞株の例は、Vero細胞を含むが、それに限らない。
【0139】
本発明において、第1の組換えウイルスベクターと第2の組換えウイルスベクターは、同じ又は異なる種類のHSVウイルスに由来してもよく、両方が同じ種類のHSVウイルスに由来する場合、それは、同じ又は異なるウイルスエレメントを含んでもよい。
ポリペプチド分子の産生
【0140】
本発明のデュアル組換えウイルスベクター系は、前記のポリペプチド分子をインビトロで産生するために用いられてもよく、例えば、本発明のデュアル組換えウイルスベクター系に含まれる第1の組換えウイルスベクターと第2の組換えウイルスベクターを用いて宿主細胞を形質導入し、適切な条件下で宿主細胞を培養することによって、前記宿主細胞内で前記ポリペプチド分子を発現することができる。前記第1の組換えウイルスベクターと第2の組換えウイルスベクターが組成物の形態で提供される場合、第1の組換えウイルスベクターと第2の組換えウイルスベクターとを含む組成物を用いて前記宿主細胞を形質導入してもよい。前記第1の組換えウイルスベクターと第2の組換えウイルスベクターが別々に提供される場合、一つの組換えウイルスベクターで前記宿主細胞を形質導入してから、もう一つの組換えウイルスベクターで前記宿主細胞を形質導入してもよく、形質導入の順序は任意であってもよく、第1の組換えウイルスベクターが先に形質導入してもよく、又は第2の組換えウイルスベクターが先に形質導入してもよい。前記適切な条件は、当業者が利用できるものであり、通常、前記宿主細胞の増殖に適した条件である。第1の組換えウイルスベクターと第2の組換えウイルスベクターは、前記宿主細胞内で前記ポリペプチド分子の第1の鎖と第2の鎖を発現し、前記第1の鎖と第2の鎖は、前記ポリペプチド分子として自発的に組み立てられ得る。前記宿主細胞はインビトロである。前記宿主細胞培養物から前記ポリペプチド分子を収集し精製してさらに応用してもよく、又は前記ポリペプチド分子を発現する宿主細胞を、治療するという目的を達成するために、更なる応用、例えば、被験体の体内への注入に用いてもよい。
【0141】
産生されたポリペプチド分子は、細胞外に分泌されてもよく、宿主細胞培養上清から分泌されたポリペプチド分子を収集することができ、必要であれば、当分野でよく知られている方法で前記ポリペプチド分子を精製してもよい。
【0142】
本発明で使用される「形質導入」という用語は、ウイルス粒子が細胞に感染し、細胞内で機能を有することを意味する。
【0143】
本発明に記載の「宿主細胞」は、関心のある核酸を含み、それによりコードされるポリペプチドを発現する細胞を意味し、外来核酸(例えば、本発明の組換えウイルスベクター)が導入された細胞及びその子孫を含む。宿主細胞は、単離されていてもよく、又はインビトロであってもよい。宿主細胞の例としては、細菌、酵母、哺乳動物細胞などが挙げられる。適切な宿主細胞は、ツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)細胞のような昆虫細胞と、細菌、サッカロミセスセレビシエ又はピキアパストリス(Pichiapastoris)のような酵母細胞、トリコデルマリーゼ(Trichoderma reesei)、アスペルギルス属(Aspergillus)、Aureobasidum及びペニシリウム属種のような真菌を含む微生物と、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、幼ハムスター腎臓(BHK)細胞、COS細胞、アフリカミドリザル腎臓細胞(Vero細胞)、イヌ腎臓細胞(例えば、MDCK細胞)、ラット下垂体細胞(GH1細胞)、ヒト胎児腎臓細胞(例えば、HEK 293、HEK293A、HEK293T、HEK293FTなど)、Hela細胞又はhARPE-19細胞などを含むヒト細胞株のような哺乳動物細胞とを含むが、それらに限らない。
【0144】
当業者は、どのように使用される組換えウイルスベクターのタイプによって適切な宿主細胞を選択することを知っている。
【0145】
本発明のデュアル組換えウイルスベクター系は、前記のポリペプチド分子をインビボで産生するためのものであってもよく、例えば、被験体の体内で前記のポリペプチド分子を産生することができ、即ち前記ポリペプチド分子を被験体の体内に送達する。第1の組換えウイルスベクターと第2の組換えウイルスベクターは、被験体の体内に送達された後、被験体の体内の細胞、例えば、組織及び/又は器官の細胞を形質導入することによって、前記細胞、組織及び/又は器官内で前記ポリペプチド分子の第1の鎖と第2の鎖を発現することができる。前記ポリペプチド分子の第1の鎖と第2の鎖は、発現後に前記ポリペプチド分子として自発的に組み立てることによって、所望の効果、例えば、治療効果を被験体もたらすことができる。
【0146】
本発明のデュアル組換えウイルスベクター系は、組換えウイルスベクターの向性及び/又は組織特異性プロモーターなどによって、特定の細胞、組織及び/又は器官で特異的に発現し、標的治療の目的を達成することができる。産生されたポリペプチド分子は、細胞外に分泌され、例えば、血清から検出され得る。
【0147】
本発明の組換えウイルスは、被験体の血清において、少なくとも約9μg/ml、少なくとも約10μg/ml、少なくとも約50μg/ml、少なくとも約100μg/ml、少なくとも約200μg/ml、少なくとも約300μg/ml、少なくとも約400μg/ml、少なくとも約500μg/ml、少なくとも約600μg/ml、少なくとも約700μg/ml、少なくとも約800μg/ml、少なくとも約900μg/ml、又は少なくとも約1000μg/mlの量でターゲット抗体を発現することができる。
【0148】
本発明に記載の「被験体」は、疾患を緩和、予防及び/又は治療する必要がある動物(ヒトを含む)を意味する。いくつかの実施形態において、「被験体」は、哺乳動物を意味し、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、げっ歯動物又は霊長類動物を含むが、それらに限らない。いくつかの実施形態において、被験体はヒトである。いくつかの実施形態において、被験体は非ヒト哺乳動物である。
薬物組成物
【0149】
本発明のデュアル組換えウイルスベクター系における第1の組換えウイルスベクターと第2の組換えウイルスベクターは、別々に提供されてもよく、又は組成物の形態で提供されてもよい。第1の組換えウイルスベクター及び/又は第2の組換えウイルスベクターは、薬物組成物の形態で提供されてもよく、前記薬物組成物は、有効量の第1の組換えウイルスベクター及び/又は第2の組換えウイルスベクター、及び任意選択的な薬学的に許容されるベクターを含む。当分野でよく知られているように「薬学的に許容されるベクター」は、不活性な物質であり、それは、活性成分の投与を促進し、薬物組成物を、異なる剤形、例えば、液体溶液、懸濁物、乳剤で、又は使用前に液体に溶解又は懸濁することに適した固体形態として提供することができる。
【0150】
「薬学的に許容されるベクター」は、希釈剤、充填剤、酸化防止剤、防腐剤、安定剤、浸透圧調節剤、緩衝剤及び/又は乳化剤などを含むが、それらに限らない。投与経路により、薬学的に許容されるベクターは、糖類、デンプン、セルロース及びその誘導体、マルトース、ゼラチン、タルク、硫酸カルシウム、植物油、合成油、多価アルコール、アルギン酸、リン酸緩衝液、乳化剤、等張食塩水及び/又は無熱性原水などを含むが、それらに限らない。本発明による薬物組成物は、カプセル剤、錠剤、トローチ剤、坐剤、軟膏剤、ローション剤、ペースト剤、エアゾール剤、スプレー剤、ゲル剤、パッチ剤、注射剤等の臨床的に許容される剤形として製造されてもよい。
送達
【0151】
本発明のデュアル組換えウイルスベクター系又は薬物組成物は、任意の適切な経路で被験体に送達されてもよく、例えば、全身送達又は局所送達されてもよく、例えば、経口、直腸、経粘膜、鼻腔内、吸入、膣内、鞘内、脳室内、眼内、胃腸外(例えば、静脈内、皮下、皮膚内、筋肉内、腹膜内)などで投与されてもよい。
【0152】
本発明のデュアル組換えウイルスベクター系又は薬物組成物は、任意のタイプの細胞内に送達されてもよく、神経細胞(末梢と中枢神経系の細胞を含み、例えば、ニューロン細胞と樹状細胞)、肺細胞、眼細胞(網膜細胞、網膜色素上皮及び角膜細胞を含む)、上皮細胞(例えば、腸管及び気道上皮細胞)、筋細胞(例えば、骨格筋細胞、心筋細胞、平滑筋細胞及び横隔膜細胞)、肝細胞、腎細胞、癌細胞及び腫瘍細胞などを含むが、それらに限らない。
【0153】
本発明のデュアル組換えウイルスベクター系又は薬物組成物は、任意の組織又は器官に送達されてもよく、血管、肺、皮膚、心臓、眼(硝子体及び網膜、特に網膜色素上皮RPEを含む)、筋肉(骨格筋、心筋、平滑筋及び横隔膜を含む)、中枢神経系(脊髄、脳実質及び脳脊髄液を含む)及び肝臓を含むが、それらに限らず、さらに腫瘍(腫瘍又はリンパ節を含む)に送達されてもよい。
【0154】
任意の所定の場合に、最も適切な経路は、治療する病態の性質と重症度、及び使用される具体的なウイルスベクターの性質に依存する。注射に関しては、例えば、注射器、針、カニューレまたはカテーテルのような任意の適切な装置を用いて行われてもよく、又は立体定位注射によって組換えウイルスベクターを脳に送達してもよい。
【0155】
ポリペプチド分子の所要レベルの発現を実現するために、本発明のデュアル組換えウイルスベクター系を被験体に一回又は複数回(例えば、2、3、4回又はそれ以上)投与してもよい。いくつかの実施形態において、第1と第2の組換えウイルスベクターを被験体に年に1回投与することができる。いくつかの実施形態において、第1と第2の組換えウイルスベクターは5年に1回まで被験体に投与される。いくつかの実施形態において、第1と第2の組換えウイルスベクターは10年に1回まで被験体に投与される。
【0156】
第1と第2の組換えウイルスベクターの用量は、例えば、疾患状況、被験体及び治療スケジュールに応じて当業者によって調整することができる。第1と第2の組換えウイルスベクターは、通常、「治療有効量」で投与され、本発明に記載の「治療」は、疾患状態に関連する少なくとも一つの症状を予防又は緩和(例えば、低下、軽減又は治癒)することを意味する。本発明に記載の「治療有効量」は、疾患状態に関連する少なくとも一つの症状を予防又は緩和(例えば、低下、軽減又は治癒)するのに十分な量である。被験体に投与される第1と第2の組換えウイルスベクターの総用量と分割用量は、投与方式、治療する疾患、個々の被験体の病態、具体的なウイルスベクター及び送達するポリペプチド分子に依存し、且つ一般的な方式で確定することができる。用量の単位は、例えば、vg/kg体重であってもよい。
治療する疾患
【0157】
本発明のデュアル組換えウイルスベクター系と方法は、前記ポリペプチド分子をインビトロで産生し、産生されたポリペプチド分子を疾患の治療に適用するか、又は前記デュアル組換えウイルスベクター系を被験体の体内に送達することにより、被験体の体内の細胞、組織、器官で前記ポリペプチド分子を発現することによって、被験体における一つ又はそれ以上の疾患を予防又は治療するために用いられてもよい。
【0158】
予防又は治療する疾患は、発現された具体的なポリペプチド分子及び送達の具体的な部位に依存する。前記疾患は、ウイルス感染、腫瘍、及び血管新生に関連する疾患などを含むが、それらに限らない。ウイルス感染の例は、以下から選択されるウイルスによる感染を含むが、それらに限らず、コロナウイルス、フィロウイルス、フラビウイルス、ノロウイルス、オルトミクソウイルス、パラミクソウイルス科、ルブラウイルス属、麻疹ウイルス、パルボウイルス、小RNAウイルス、口蹄疫ウイルス、エンテロウイルス、コクサッキーウイルス、ポリオウイルス、ライノウイルス科、ポックスウイルス科、レオウイルス科、ロタウイルス、HIVウイルス、白血病ウイルス、風疹ウイルス、C型肝炎ウイルス(HCV)、B型肝炎ウイルス、Epstein Barrウイルス、インフルエンザウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、呼吸器合胞体ウイルス及びその任意の組み合わせ。
【0159】
腫瘍の例は、血液腫瘍と固形腫瘍とを含むが、それらに限らず、ここで、血液系腫瘍は、骨髄腫、白血病およびリンパ腫などを含むが、それらに限らず、固形腫瘍は、結腸直腸癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、卵巣癌、乳癌、膵臓癌、胃癌、膀胱癌、食道癌、中皮腫、黒色腫、頭頸部癌、ホジキンリンパ腫、肝細胞癌、末期腎癌、前立腺癌、甲状腺癌、及び卵巣癌などを含むが、それらに限らない。
【0160】
血管新生に関連する疾患の例は、黄斑変性症(加齢性黄斑変性症を含む)、関節炎(リウマチ関節炎を含む)、動脈硬化症、糖尿病網膜症、血管腫、炎症性疾患などを含むが、それらに限らない。本発明のデュアル組換えウイルスベクター系はさらに、多発性硬化症のような自己免疫疾患の治療に用いられてもよい。
【0161】
特に断りのない限り、以下に説明する実施例の方法及び材料は、いずれも市販品として入手可能な一般的な製品である。当業者であれば理解できるように、以下に説明する方法及び材料は、単に例示的なものであり、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0162】
実施例1 HEK 293とhARPE-19細胞におけるデュアルrAAVベクター媒介性Avastin(ベバシズマブ)の発現と単一rAAVベクターとの比較
A.材料と方法
1. AAVベクターの設計と生成
完全な抗体配列を発現するベクター(AAV-Avastin単一ベクター)、軽鎖のみを発現するベクター(AAV-Avastin軽鎖、即ちAAV-Avastin-L)及び重鎖のみを発現するベクター(AAV-Avastin重鎖、即ちAAV-Avastin-H)の概略図は
図1aに示され、完全な抗体配列を発現するトランスファープラスミドpAAV2.CMV.Avastinと、軽鎖又は重鎖のみを発現するトランスファープラスミドpAAV2.CMV.Avastin-L及びpAAV2.CMV.Avastin-Hはそれぞれ、
図1aに示す二つのITR及びその間のエレメントを含む。AAVにより媒介される抗体発現用の単一ベクターの設計において、重鎖と軽鎖コード配列の間にF2A自己切断ペプチドモチーフを挿入して、一つのプロモーターによる調節下で二つのポリペプチドを同時に発現することを実現した(例えば、US20110065779A1、US9527904B2、US10093947B2、US20180155412A1を参照されたい)。
【0163】
組換えAAVは、AAV2のrepとcap遺伝子を発現するpAAV.R2C2プラスミド(即ちpRCプラスミド)、アデノウイルスからのヘルパー遺伝子を発現するpAdDelta6プラスミド(即ちpHelperプラスミド)及びトランスファープラスミドの三つのプラスミドで293FT細胞をトランスフェクトすることによって製造され、Xiao and Samulski, 1998, J Virol.を参照されたい。ここで、pAdDelta6プラスミドは、Addgeneプラスミド#112867配列を参照しDNAを自ら合成して構築された。pAAV.R2C2プラスミドは、Addgeneプラスミド#112864 pAAV.R2C8からAAV8 cap遺伝子を除去し、AAV2 cap遺伝子を挿入して構築され、AAV2ゲノム配列は、GenBank: AF043303を参照する。
【0164】
単一ベクタートランスファープラスミドの構築:ターゲット抗体(Avastin)遺伝子を、重鎖リーダー配列、重鎖、F2A、軽鎖リーダー配列、軽鎖の順に直列設計し、合成し、上下流にそれぞれNot IとHind III酵素切断部位を加え、酵素切断、連結により、それをAAV発現ベクターpAAV.CMV.PI.EGFP.WPRE.bGH(Addgeneプラスミド#105530を参照しDNAを自ら合成して構築される)のプロモーターとpoly Aとの間に構築し、形質転換し、クローン増幅して組換えAAV抗体トランスファープラスミドpAAV2.CMV.Avastinを得て、Sangerシーケンシングによってターゲット配列アラインメントを行い、一致すれば、挿入された配列が完全に正確であることを示す。ここで、使用される配列は以下のとおりであり、ここで、Avastin配列は、https://go.drugbank.com/drugs/DB00112を参照する:
【0165】
【0166】
デュアルベクタートランスファープラスミドの構築(重鎖トランスファープラスミドと軽鎖トランスファープラスミドとを含む):
重鎖トランスファープラスミド:ターゲット抗体(Avastin)の重鎖遺伝子を、重鎖リーダー配列、重鎖の順に設計し、合成し、上下流にそれぞれNot IとHind III酵素切断部位を加え、酵素切断、連結により、それをAAV発現ベクターpAAV.CMV.PI.EGFP.WPRE.bGHのプロモーターとpoly Aとの間に構築し、形質転換し、クローン増幅して組換えAAV抗体重鎖トランスファープラスミドpAAV2.CMV.Avastin-Hを得て、Sangerシーケンシングによってターゲット配列アラインメントを行い、一致すれば、挿入された配列が完全に正確であることを示す。
【0167】
重鎖トランスファープラスミドにおける重鎖リーダー配列と重鎖の配列は、それぞれ単一ベクタートランスファープラスミドにおける重鎖リーダー配列と重鎖配列と同じである。
【0168】
軽鎖トランスファープラスミド:ターゲット抗体(Avastin)の軽鎖遺伝子を、軽鎖リーダー配列、軽鎖の順に設計し、合成し、上下流にそれぞれNot IとHind III酵素切断部位を加え、酵素切断、連結により、それをAAV発現ベクターpAAV.CMV.PI.EGFP.WPRE.bGHプロモーターとpoly Aとの間に構築し、形質転換し、クローン増幅して組換えAAV抗体軽鎖トランスファープラスミドpAAV2.CMV.Avastin-Lを得て、Sangerシーケンシングによってターゲット配列アラインメントを行い、一致すれば、挿入された配列が完全に正確であることを示す。
【0169】
軽鎖トランスファープラスミドにおける軽鎖リーダー配列と軽鎖の配列は、それぞれ単一ベクタートランスファープラスミドにおける軽鎖リーダー配列と軽鎖配列と同じである。
【0170】
pAAV.R2C2、pAdDelta6と上記三つのトランスファープラスミドのうちのそれぞれを、1040μg DNAの総量と1:1:1のモル比で2E+08 HEK293FT細胞内に同時トランスフェクトした。トランスフェクト後48時間に組換えAAVベクターを得た。0.25%のTrypsin-EDTAで被着板から細胞を剥離し、凍結融解を3回繰り返して細胞を溶解させた。12,000 rpmで8分間遠心分離した後、上清を収集し、それぞれ組換えAAVベクターAAV2-Avastin(単一ベクター)又はAAV2-Avastin-L(デュアルベクターにおける軽鎖ベクター)及びAAV2-Avastin-H(デュアルベクターにおける重鎖ベクター)を得て、ドロップレットデジタルPCR(ddPCR)によって各組換えAAVベクター粗細胞溶解物のウイルスゲノム力価を確定した。
【0171】
2. ベクター形質導入と抗体検出
HEK293FT細胞を、AAV2-Avastinにより又はAAV2-Avastin-LとAAV2-Avastin-Hの両方を併用して形質導入し、ここで、AAV2-Avastin-LとAAV2Avastin-Hとの比率は、(ウイルスゲノム力価に基づいて)それぞれ1:4、1:2、1:1、2:1、4:1及び6:1である。軽鎖のみを含むベクター又は重鎖のみを含むベクターも形質導入されて対照として使用された。24ウェルプレートの各ウェルに1.2E+05個の293FT細胞を接種し、DMEM/10%FBS完全培地を用いて37℃で、5%CO
2により一晩培養し、培地を除去し、総量が5.0E+10vgである、上記完全培地で希釈したウイルスベクターを加え、37℃で、5%CO
2により培養箱内で2.5時間インキュベートした後、1mLの新鮮な完全培地を加えて培養し続けた。形質導入後48hrに細胞培養上清を収集した。非還元(
図1b)と還元条件(
図1c)のサンプリング緩衝液で各サンプルをそれぞれ希釈し、ヤギ抗ヒトIgG抗体(Invitrogen, Cat No: A18811)でWestern blotを行ってAvastin発現を検出した。
【0172】
1ウェルあたり8.0E+04個の細胞のhARPE-19細胞を24ウェルプレートに接種し、F12/10%FBS培地において37℃で、5%CO
2により一晩培養し、培地を除去し、総量が5.0E+10vgである、F12/10%FBS培地で希釈したウイルスベクターを加え、AAV2-Avastin、AAV2-Avastin-L、AAV2-Avastin-H、及びAAV2-Avastin-LとAAV2Avastin-Hをそれぞれ1:4、1:2、1:1、2:1、4:1のウイルスゲノム力価比率で組み合わせ、37℃で、5%CO
2により培養箱内で2.5時間インキュベートした後、1mL新鮮な完全培地を加えて培養し続けた。形質導入後48hrに細胞培養上清を収集した。各サンプルを非還元条件(
図1d)のサンプリング緩衝液で希釈し、ヤギ抗ヒトIgG抗体(Invitrogen, Cat No: A18811)でWestern blotを行ってAvastin発現を検出した。
【0173】
Western blot陽性対照は精製されたAvastin抗体であり、陰性対照は形質導入されていないウイルスの細胞上清である。
【0174】
B.結果
図1に示すように、単一ベクター形質導入とデュアルベクター形質導入は、いずれもHEK293FT細胞(
図1bとc)とhARPE-19細胞(
図1d)から分泌したAvastin抗体の生成に成功した。軽鎖ベクターの比率が高くなるにつれて、抗体濃度も高くなった。図bとdは、非還元緩衝液サンプリング電気泳動であり、Avastin抗体の重軽鎖は、四量体の形態で存在し、図cは、還元緩衝液サンプリング電気泳動であり、Avastin抗体は、解離し、重軽鎖がそれぞれ一本鎖の形態で存在する。
【0175】
実施例2他の血清型カプシドを有するデュアルrAAVベクター媒介性Avastinの細胞株における発現
A.材料と方法
別の実施例において、前記AAVベクターカプシドの血清型はAA8、AAV9又はAAV5型である。pAAV.R2C9プラスミドは、Addgeneプラスミド#112864 pAAV.R2C8からAAV8 cap遺伝子を除去し、AAV9 cap遺伝子を挿入して構築され、AAV9 cap遺伝子配列は、GenBank: AY530579.1を参照する。pAAV.R2C5プラスミドは、Addgeneプラスミド#112864 pAAV.R2C8から1 AAV8 cap遺伝子を除去し、AAV5 cap遺伝子を挿入して構築され、AAV5ゲノム配列は、NCBI配列: NC_006152を参照する。パッケージングステップは、実施例1の材料と方法1に記述されているパッケージングステップと同じであり、しかしそれに含まれるAAVゲノムrepとcap遺伝子のpAAV.R2C2をそれぞれ、上記血清型cap遺伝子を含むpAAV.R2C8、pAAV.R2C9とpAAV.R2C5プラスミドに置換し、pAdDelta6、及び完全な抗体発現カセットpAAV2.CMV.Avastinを含むか又は抗体重鎖pAAV2.CMV.Avastin-Hもしくは軽鎖pAAV2.CMV.Avastin-L発現カセットのみを含むプラスミドとHEK293FT細胞を同時トランスフェクトし、48時間後に細胞培養上清と細胞内のウイルスを収穫し、それぞれAAV8カプシドを有するAAV8-Avastin、AAV8-Avastin-L、AAV8-Avastin-H、AAV9カプシドを有するAAV9-Avastin、AAV9-Avastin-L、AAV9-Avastin-H、AAV5カプシドを有するAAV5-Avastin、AAV5-Avastin-L、AAV5-Avastin-Hを得て、ddPCR方法を用いてウイルスゲノム力価を測定した。
【0176】
HEK293FT細胞を1ウェルあたり1.2E+05細胞数、hARPE-19細胞を1ウェルあたり8.0E+04細胞数の密度で24ウェルプレートに接種し、それぞれ500μL DMEM/10%FBS又はF12/10%FBS培地を加え、一晩培養した。24時間後に培地を除去し、総量が約1.3E+10vg、力価が4.0E+10vg/mLであるか又は総量が約3.8E+10vg、力価が1.2E+11vg/mLである組換えAAV又は組換えAAV組み合わせをそれぞれ加え(比率はウイルスゲノム力価に基づき)、
AAV8-Avastin,
AAV8-Avastin-L: AAV8-Avastin-H 4:1,
AAV8-Avastin-L: AAV8-Avastin-H 2:1,
AAV8-Avastin-L: AAV8-Avastin-H 1:1,
AAV8-Avastin-L: AAV8-Avastin-H 1:2,
AAV9-Avastin,
AAV9-Avastin-L: AAV9-Avastin-H 4:1,
AAV9-Avastin-L: AAV9-Avastin-H 2:1,
AAV9-Avastin-L: AAV9-Avastin-H 1:1,
AAV9-Avastin-L: AAV9-Avastin-H 1:2,
AAV5-Avastin,
AAV5-Avatin-L: AAV5-Avastin-H 4:1,
AAV5-Avatin-L: AAV5-Avastin-H 2:1,
AAV5-Avastin-L: AAV5-Avastin-H 1:1又は
AAV5-Avastin-L: AAV5-Avastin-H 1:2。
【0177】
37℃で、5%CO2により培養箱で2.5時間インキュベートした後、1mLの新鮮な培地を加え、67時間インキュベートし続けた。細胞培養上清を収集し、抗ヒトIgG抗体でWestern blotしてAvastin抗体発現を検出した。
【0178】
B.結果
図2に示すように、AAV8カプシド、AAV9カプシド及びAAV5カプシド(a,b,c)を有する単一ベクター又はデュアルベクター形質導入HEK293FT又はhARPE-19細胞は、いずれもAvastin抗体を発現することができ、AAV8カプシドとAAV9カプシドを有するデュアルベクターは、293FT細胞媒介性抗体での発現レベルが単一ベクターより高く、軽鎖ベクター比率が高くなるにつれて、発現レベルも高くなった。AAV5カプシドを有するデュアルベクターは、明らかな軽重鎖比率関連性を示さなかったが、単一ベクターの発現量より高く、hAPRE-19細胞に対する向性が高かった。
【0179】
単一ベクターにより発現されたAvastinは、分子量が抗体自体より明らかに大きいか又は小さいバンドを有し、正確にペアリングしていない抗体一本鎖である可能性があり、純粋でない発現は、AAV送達抗体の体内での応用を制限した。AAV8カプシド、AAV9カプシド及びAAV5カプシドを有するデュアルベクター系により発現される抗体は、ミスペアリングバンドの含有量が著しく低下した。
【0180】
実施例3:インビトロプラスミドトランスフェクト抗体とウイルスベクター形質導入抗体との発現比較
別の実施例において、AAVウイルスベクターとプラスミドベクターにより発現された抗体の効率を比較した。
【0181】
A.材料と方法
実施例1の材料と方法1に記述されているパッケージングステップのように、AAV2-Avastin、AAV2-Avastin-L及びAAV2-Avastin-Hをパッケージングし産生し、ddPCR方法を用いてウイルスゲノム力価を測定した。HEK293FT細胞を1ウェルあたり2.0E+05細胞数の密度で24ウェルプレートに接種し、500μLのDMEM/10%FBS培地を加え、hARPE-19細胞を1ウェルあたり8.0E+04細胞数で接種し、F12/10%FBS培地を加え、一晩培養した。24時間後にAAVウイルスベクターを、総量1.0E+10vg、力価3.3E+10vg/mL、1ウェルあたりの体積300μLでHEK293FT細胞を形質導入し、0.1μg又は1.0μgの総質量(1.0E+10コピー数又は1.0E+11コピー数に相当)で、トランスファープラスミドと二倍の質量のPEIをそれぞれHEK293FTとhARPE-19細胞に混合トランスフェクトした。組換えAAV又は組換えAAV組み合わせ、プラスミド組み合わせはそれぞれ、
AAV2-Avastin、
AAV2-Avastin-H、
AAV2-Avastin-L、
AAV2-Avastin-L: AAV2-Avastin-H 4:1、
AAV2-Avastin-L: AAV2-Avastin-H 2:1、
AAV2-Avastin-L: AAV2-Avastin-H 1:1、
pAAV2.CMV.Avastin、
pAAV2.CMV.Avastin-H、
pAAV2.CMV.Avastin-L、pAAV2.CMV.Avastin-L: pAAV2.CMV.Avastin-H 4:1、
pAAV2.CMV.Avastin-L: pAAV2.CMV.Avastin-H 2:1、
pAAV2.CMV.Avastin-L: pAAV2.CMV.Avastin-H 1:1、
pAAV2.CMV.Avastin-L: pAAV2.CMV.Avastin-H 1:2である。
【0182】
37℃で、5%CO2により培養箱で2.5時間インキュベートした後、1mLの新鮮な培地を加え、67時間インキュベートし続けた。細胞培養上清を収集し、抗ヒトIgG抗体でWestern blotしてAvastin抗体発現を検出した。
【0183】
B.結果
図3に示すように、陽性対照は、精製されたAvastin抗体であり、サンプリング量が20ngである。図a、遺伝子コピー数がウイルスベクターの10倍であるプラスミドトランスフェクト細胞発現抗体(第1~4レーン)は、その発現量が、依然としてウイルスベクター形質導入細胞の発現量より低い(第8~10レーン)。ウイルスベクターに関しては、デュアルベクター発現抗体は、単一ベクターより発現量が高く、ウイルスデュアルベクター上清抗体濃度は1ng/μL超であり、抗体発現レベルは、軽鎖比率の増加につれて高くなった。図b、プラスミドベクターとウイルスベクターゲノムコピー数が近い場合、HEK293FT(第1~7レーン)細胞とhARPE-19細胞(第8と9レーン)のどちらをトランスフェクトしても、上清抗体濃度は、いずれもウイルスベクター(第12レーン)より遙かに低く、即ち1ng/μLより遙かに低かった。
【0184】
実施例4デュアルrAAVベクター媒介性AvastinのhiPSC-RPE細胞での発現
本実施例において、組換えAAVデュアルベクターをヒト誘導多能性幹細胞から分化した網膜色素上皮(hiPSC-RPE)発現抗体に形質導入した。
【0185】
A.材料と方法
網膜色素上皮前駆細胞(RPE precursor、中盛溯源)を、蘇生後にMatrigelにより被覆された6ウェルプレート内で連続培養し、培地は、RPE maintenance(Nuwacell, RP0106-H)、Maintenance supplement(Nuwacell, RP01016-H)、Blebbistatin、ペニシリン及びストレプトマイシンを含み、2日ごとに液を交換した。12日後、細胞を1回継代させ、1ウェルあたり1.0E+06細胞の密度で12ウェルプレートに接種し、上記培地内で培養し続け、2日ごとに液を交換した。接種13日目に、実施例1と実施例2に記載の方式により、総量が1.5E+10vgであるウイルス形質導入細胞を加え、組換えAAV又は組換えAAV組み合わせはそれぞれ、
AAV2-Avastin、
AAV2-Avastin-H、
AAV2-Avastin-L、
AAV2-Avastin-L: AAV2-Avastin-H 4:1、
AAV2-Avastin-L: AAV2-Avastin-H 2:1、
AAV2-Avastin-L: AAV2-Avastin-H 1:1である。
【0186】
形質導入後2、6、12、15、18日目の培養上清を収集し、新たな培地を加えた。実施例1~3に記載のWestern blot方法により上清におけるAvastin抗体を検出し、Avastin陽性対照のサンプリング量は40ngであり、検出対象上清のサンプリング量は20μLであり、サンプリング緩衝液は非還元緩衝液である。
【0187】
B.結果
図4に示すように、AAV形質導入後2日目以後、hiPSC-RPE細胞により発現され分泌されるAvastin抗体は著しく上昇し、18日目に検出する時に分泌量はそのまま維持された。デュアルAAVベクター形質導入細胞抗体は発現量が単一AAVベクターより著しく優れていた。
【0188】
実施例5デュアルrAAVベクター媒介性ABTAAの293細胞内での発現
いくつかの実施例において、デュアルAAVベクターは、anti-Ang2抗体ABTAAを送達するために用いられた。
【0189】
A.材料と方法
実施例1におけるAvastinトランスファープラスミドの構築方法に類似しており、完全なABTAA抗体配列を発現するトランスファープラスミドpAAV2.CMV.ABTAAと、軽鎖又は重鎖のみを発現するトランスファープラスミドpAAV2.CMV.ABTAA-LとpAAV2.CMV.ABTAA-Hの概略図は
図5aに示すとおりである。
【0190】
ターゲット抗体(ABTAA)遺伝子を、重鎖リーダー配列、重鎖、F2A、軽鎖リーダー配列、軽鎖の順に直列設計し、合成し、上下流にそれぞれNot IとHind III酵素切断部位を加え、酵素切断、連結によりそれをAAV発現ベクターpAAV.CMV.PI.EGFP.WPRE.bGHのプロモーターとpoly Aとの間に構築し、形質転換し、クローン増幅してAAV-ABTAA単一ベクターのトランスファープラスミドpAAV2.CMV.ABTAAを得た。ABTAAは、US 9,902,767 B2におけるSAIT-ANG2-AB-m10D6の重鎖可変領域(US 9,902,767 B2 SEQ ID NO: 7)と軽鎖可変領域(US 9,902,767 B2 SEQ ID NO: 9)を参照し、逆方向翻訳とコドン最適化によって得られ、それぞれヒトIgG4重鎖定常領域と軽鎖定常領域上に連結される。Sangerシーケンシングによってターゲット配列アラインメントを行い、一致すれば、挿入された配列が完全に正確であることを示す。ここで、使用された配列は以下のとおりである:
【0191】
【0192】
デュアルベクタートランスファープラスミドの構築(重鎖トランスファープラスミドと軽鎖トランスファープラスミドとを含む)は、実施例1に記載の方法に類似している:
重鎖トランスファープラスミド:ターゲット抗体(ABTAA)の重鎖遺伝子を重鎖リーダー配列、重鎖の順に設計し、合成し、上下流にそれぞれNot IとHind III酵素切断部位を加え、酵素切断、連結により、それをAAV発現ベクターpAAV.CMV.PI.EGFP.WPRE.bGHのプロモーターとpoly Aとの間に構築し、形質転換し、クローン増幅してAAV-ABTAA重鎖のトランスファープラスミドpAAV2.CMV.ABTAA-Hを得て、Sangerシーケンシングによってターゲット配列アラインメントを行い、一致すれば、挿入された配列が完全に正確であることを示す。
【0193】
重鎖トランスファープラスミドにおける重鎖リーダー配列と重鎖の配列は、それぞれ単一ベクタートランスファープラスミドにおける重鎖リーダー配列と重鎖配列と同じである。
【0194】
軽鎖トランスファープラスミド:ターゲット抗体(ABTAA)の軽鎖遺伝子を軽鎖リーダー配列、軽鎖の順に設計し、合成し、上下流にそれぞれNot IとHind III酵素切断部位を加え、酵素切断、連結により、それをAAV発現ベクターpAAV.CMV.PI.EGFP.WPRE.bGHのプロモーターとpoly Aとの間に構築し、形質転換し、クローン増幅してAAV-ABTAA軽鎖のトランスファープラスミドpAAV2.CMV.ABTAA-Lを得て、Sangerシーケンシングによってターゲット配列アラインメントを行い、一致すれば、挿入された配列が完全に正確であることを示す。
【0195】
軽鎖トランスファープラスミドにおける軽鎖リーダー配列と軽鎖の配列は、それぞれ単一ベクタートランスファープラスミドにおける軽鎖リーダー配列と軽鎖配列と同じである。
【0196】
組換えAAVパッケージングと収穫は、実施例1の方法と一致し、pAAV.R2C2、pAdDelta6と上記の三つのトランスファープラスミドのうちのそれぞれを、1040μg DNAの総量と1:1:1のモル比で2E+08 HEK293FT細胞内に同時トランスフェクトした。トランスフェクト後48時間に組換えAAVベクターAAV2-ABTAA(単一ベクター)又はAAV2-ABTAA-L(デュアルベクターにおける軽鎖ベクター)とAAV2-ABTAA-H(デュアルベクターにおける重鎖ベクター)を収穫し、ドロップレットデジタルPCR(ddPCR)によって各組換えAAVベクター粗細胞溶解物のウイルスゲノム力価を確定した。
【0197】
2. ベクター形質導入と抗体検出
HEK293FT細胞を、AAV2-ABTAAにより又はAAV2-ABTAA-LとAAV2-ABTAA-Hの両方により形質導入し、ここで、AAV2-ABTAA-LとAAV2-ABTAA-Hとの比率は、(ウイルスゲノム力価に基づいて)それぞれ1:4、1:2、1:1、2:1及び4:1である。軽鎖のみを含むベクター又は重鎖のみを含むベクターも形質導入されて対照として使用された。24ウェルプレートの各ウェルに1.2E+05個の293FT細胞を接種し、DMEM/10%FBS完全培地を用いて37℃で、5%CO
2により一晩培養し、培地を除去し、総量が7.0E+09vgである、上記完全培地で希釈したウイルスベクターを加え、37℃で、5%CO
2により培養箱内で2.5時間インキュベートした後、1mLの新鮮な完全培地を加えて培養し続けた。形質導入後48hrに細胞培養上清を収集した。非還元(
図5b)と還元条件(
図5c)のサンプリング緩衝液で各サンプルをそれぞれ希釈し、ヤギ抗ヒトIgG抗体(Invitrogen, Cat No: A18811)でWestern blotを行ってABTAA発現を検出した。
【0198】
B.結果
図5に示すように、単一ベクター形質導入とデュアルベクター形質導入HEK293FT細胞は、いずれもABTAA抗体の生成に成功した。図bは、非還元緩衝液サンプリング電気泳動であり、ABTAA抗体重軽鎖は、四量体の形態で存在し、図cは、還元緩衝液サンプリング電気泳動であり、ABTAA抗体は、解離し、重軽鎖がそれぞれ一本鎖の形態で存在する。デュアルベクター形質導入(第2-6レーン)は、発現量が単一ベクター(第1レーン)より遙かに高かった。軽鎖ベクターの比率が高くなるにつれて、発現抗体の濃度が高くなるだけでなく、ミスペアリングによるヘテロバンドの含有量も低くなった。
【0199】
実施例6デュアルrAAVベクター媒介性二重特異性抗体の発現
本実施例において、デュアルAAVベクターは、二重特異性抗体を送達するために用いられ、第1の抗体はABTAAであり、その配列が実施例5に記載のABTAAと同じであり、第2の抗体は抗VEGF一本鎖抗体(VEGF scFv)である。第2の抗体の可変領域は、第1の抗体の重鎖又は軽鎖上に連結され、一つのAAVベクターにより送達され、それに対応して、第1の抗体の軽鎖又は重鎖は別のAAVベクターにより送達される。
【0200】
A.材料と方法
1. ベクター構築とウイルスパッケージング:1番目の組み合わせ方式:ABTAA-H-G15-VEGF-LHとABTAA-Lデュアルベクターであり、
図6aに示すとおりである。ABTAA-H-G15-VEGF-LHベクター、anti-VEGF抗体の軽鎖と重鎖可変領域を、連結ペプチドのセグメントを介してABTAAの重鎖に連結し、遺伝子をABTAA重鎖リーダー配列、ABTAA重鎖、連結ペプチド、VEGF-scFv-VL-VHの順に直列設計し、合成し、上下流にそれぞれNot IとHind III酵素切断部位を加え、酵素切断、連結によりそれをAAV発現ベクターpAAV.CMV.PI.EGFP.WPRE.bGHのプロモーターとpoly Aとの間に構築し、形質転換し、クローン増幅してABTAA-H-G15-VEGF-LHのトランスファープラスミドを得て、ABTAA配列は実施例5におけるものと一致し、VEGF抗体の重鎖と軽鎖可変領域は、それぞれ特許US 6,884,879 B1 SEQ ID NO:7とNO:8を参照してスプライシングして構成され、Sangerシーケンシングによってターゲット配列アラインメントを行い、一致すれば、挿入された配列が完全に正確であることを示す。ここで、使用された配列は以下のとおりである:
【0201】
【0202】
ABTAA-Lのトランスファープラスミドは、実施例5におけるAAV-ABTAA軽鎖のトランスファープラスミドと同じであり、ここで、使用された配列は以下のとおりである:
【0203】
【0204】
2番目の組み合わせ方式:ABTAA-L-E4-VEGF-LHとABTAA-Hデュアルベクターであり、
図6bに示すとおりである。ABTAA-L-E4-VEGF-LHベクター、anti-VEGF抗体の軽鎖と重鎖可変領域を、連結ペプチドのセグメントを介してABTAAの軽鎖に連結し、遺伝子をABTAA軽鎖リーダー配列、ABTAA軽鎖、連結ペプチド、VEGF-scFv-VL-VHの順に直列設計し、合成し、上下流にそれぞれNot IとHind III酵素切断部位を加え、酵素切断、連結によりそれをAAV 発現ベクターpAAV.CMV.PI.EGFP.WPRE.bGHのプロモーターとpoly Aとの間に構築し、形質転換し、クローン増幅してABTAA-L-E4-VEGF-LHのトランスファープラスミドを得て、Sanger シーケンシングによってターゲット配列アラインメントを行い、一致すれば、挿入された配列が完全に正確であることを示す。ここで、使用された配列は以下のとおりである:
【0205】
【0206】
ABTAA-Hのトランスファープラスミドは、実施例5におけるAAV-ABTAA重鎖のトランスファープラスミドと同じであり、ここで、使用された配列は以下のとおりである:
【0207】
【0208】
組換えAAVパッケージングと収穫は、実施例5の方法と一致し、pAAV.R2C2、pAdDelta6と上記のトランスファープラスミドのうちのそれぞれを、1040μg DNAの総量と1:1:1のモル比で2E+08 HEK293FT細胞内に同時トランスフェクトした。トランスフェクト後48時間に組換えAAVベクターABTAA-H-G15-VEGF-LH、ABTAA-L、ABTAA-L-E4-VEGF-LH、ABTAA-Hを収穫し、ドロップレットデジタルPCR(ddPCR)によって各組換えAAVベクター粗細胞溶解物のウイルスゲノム力価を確定した。
【0209】
2. ベクター形質導入と抗体検出
ABTAA-H-G15-VEGF-LHとABTAA-L、又はABTAA-L-E4-VEGF-LHとABTAA-Hを併用してHEK293FT細胞を形質導入し、ここで、ABTAA軽鎖(ABTAA-L)と重鎖(ABTAA-H)ベクターの比率は、(ウイルスゲノム力価に基づいて)それぞれ6:1、4:1、2:1、1:1、1:2、1:4であり、また、各AAVベクターもそれぞれ細胞を単独で形質導入した。24ウェルプレートの各ウェルに1.2E+05個の293FT細胞を接種し、DMEM/10%FBS完全培地を用いて37℃で、5%CO2により一晩培養し、培地を除去し、総量が7.0E+09vgである、上記完全培地で希釈したウイルスベクターを加え、37℃で、5%CO2により培養箱内で2.5時間インキュベートした後、1mLの新鮮な完全培地を加えて培養し続けた。形質導入後48hrに細胞培養上清を収集した。非還元サンプリング緩衝液で各サンプルをそれぞれ希釈し、ヤギ抗ヒトIgG抗体(Invitrogen, Cat No: A18811)でWestern blotを行ってABTAA発現を検出し、ここで、陽性対照は、精製されたABTAA抗体である。
【0210】
B.結果
図6に示すように、二つのAAVベクター組み合わせ方式は、いずれもABTAA-VEGF二重特異性抗体を生成することができる。第2の抗体が第1の抗体重鎖上に連結される場合、
図6cに示すように、軽鎖ベクター比率が高ければ高いほど、抗体発現量が高くなり、明らかなミスペアリングバンドは見られなかった。第2の抗体が第1の抗体軽鎖上に連結される場合、
図6dに示すように、ミスペアリングによるヘテロバンドが多く出現し、軽重鎖比率が6:1になる(
図7d第1レーン)まで、明らかなヘテロバンドの発生はなかった。デュアルAAVベクターによるABTAA単一抗体(第7と8レーン)の発現は、デュアルベクターによる二重特異性抗体の発現よりも効率が高かった。
【0211】
実施例7デュアルAAVベクター送達Avastin遺伝子のマウス体内での発現
本実施例において、デュアルAAVベクターは、マウス体内にAvastin抗体遺伝子を送達するために用いられ、単一AAVベクターの送達効率と比較した。AAV血清型は8型であり、実施例2に記載のベクターと同じである。
【0212】
A.材料と方法
動物試験設計:試験は、18匹のSPFグレードC57BL/6マウスを選択し、3匹ずつ、6群にランダムに分け、該当する総量の以下のベクター又はベクター組み合わせをそれぞれ100μL/匹体積で単回尾静脈注射した:
AAV8-Avastin 2E+11vg
AAV8-Avastin 6E+11vg
AAV8-Avastin-L:AAV8-Avastin-H 1:1 2E+11vg
AAV8-Avastin-L:AAV8-Avastin-H 1:1 6E+11vg
AAV8-Avastin-L:AAV8-Avastin-H 2:1 2E+11vg
AAV8-Avastin-L:AAV8-Avastin-H 2:1 6E+11vg
【0213】
投与前後のマウス血清を収集し製造し、血清収集時点は以下のとおりであり、試験動物の投与前0d、投与開始後1d、3d、7d、10d、14d、21d、28d、35d、49d、63d及び84d。ELISA法を用いて血清サンプルにおけるAvastinタンパク質濃度を測定し、各採血点の血中濃度の平均値とSDを計算した。GraphPad Prism 6を用いて投与時の曲線を作成した。
【0214】
B.結果
図7に示すように、単一AAV又はデュアルベクターがマウス体内に入ってから3日後に、Avastin発現を検出することができ、その血中濃度は、いずれも迅速に上昇し、次に低下し、最終的に安定に達する過程を経て、濃度のピークは注射後35日前後で現れ、45日前後で安定に達した。単一ベクターの高力価と低力価群のピーク血中濃度はそれぞれ122.42±33.23μg/mLと44.21±13.50μg/mLであり、最終的な安定濃度はそれぞれ121.61±6.96μg/mLと30.54±6.66μg/mLである。デュアルベクターの軽鎖と重鎖との比率が1:1である場合、高力価と低力価群のピーク血中濃度はそれぞれ339.53±37.19μg/mLと148.69±16.63μg/mLであり、最終的な安定濃度はそれぞれ272.69±26.53μg/mLと111.84±19.56μg/mLである。デュアルベクターの軽鎖と重鎖との比率が2:1である場合、高力価と低力価群のピーク血中濃度はそれぞれ417.52±20.35μg/mLと166.64±14.08μg/mLであり、最終的な安定濃度はそれぞれ345.68±26.38μg/mLと140.73±34.34μg/mLである。高力価群の血中濃度は低力価群より著しく高く、注射のベクター力価と抗体発現量が良好な対応関係を有することが示された。同じ力価群において、デュアルベクターは、単一ベクターに比べていずれもより高い発現量を示し、総力価が同じであるが軽鎖が占める比率が重鎖より高い場合、抗体発現量はさらに向上した。
【0215】
本発明の実施形態は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の精神又は範囲から逸脱することなく、当業者は、形態及び詳細において本発明に様々な変更及び改良を加えることができ、これらはいずれも本発明の保護範囲に入ると考えられる。
【図】
【図】
【図】
【手続補正書】
【提出日】2023-09-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】