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特表2024-509268結晶形、それらを含有する組成物、及びそれらの使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-29
(54)【発明の名称】結晶形、それらを含有する組成物、及びそれらの使用方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 417/14 20060101AFI20240221BHJP
   A61K 31/5377 20060101ALI20240221BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20240221BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20240221BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240221BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20240221BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240221BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240221BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240221BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240221BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240221BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240221BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20240221BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240221BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240221BHJP
   A61K 31/4184 20060101ALI20240221BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
C07D417/14 CSP
A61K31/5377
A61K9/48
A61K47/38
A61K47/10
A61K47/20
A61K47/12
A61P43/00 105
A61P35/00
A61P31/12
A61P25/00
A61P11/00
A61P35/04
A61P35/02
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K31/4184
A61K31/496
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023555282
(86)(22)【出願日】2022-03-09
(85)【翻訳文提出日】2023-10-30
(86)【国際出願番号】 US2022019506
(87)【国際公開番号】W WO2022192365
(87)【国際公開日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】63/158,716
(32)【優先日】2021-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520281789
【氏名又は名称】フォグホーン セラピューティクス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】FOGHORN THERAPEUTICS INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】バスワニ、リシ ジー.
(72)【発明者】
【氏名】グ、チョン-フイ
【テーマコード(参考)】
4C063
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C063AA05
4C063BB09
4C063CC62
4C063DD04
4C063EE01
4C076AA53
4C076BB01
4C076CC27
4C076CC35
4C076DD29C
4C076DD38
4C076DD41C
4C076EE31
4C076EE32B
4C076FF02
4C076FF06
4C076FF09
4C076FF57
4C084AA19
4C084MA37
4C084MA52
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZB26
4C084ZB27
4C084ZB33
4C084ZC41
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BC39
4C086BC50
4C086BC82
4C086GA07
4C086GA08
4C086GA09
4C086GA10
4C086GA12
4C086GA15
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA37
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZB33
4C086ZC41
4C086ZC75
(57)【要約】
式(I):
[化1]

の化合物の結晶形を開示する。式(I)の化合物の結晶形を含有する組成物及びそれらを使用する方法も開示する。本方法は、がんの治療を、それを必要とする対象において、例えば、有効量の、本明細書に開示される結晶形またはその組成物を対象に投与することによって行うための方法であり得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

の化合物の結晶形であって、
14.4°2θ±0.2°2θ及び17.4°2θ±0.2°2θにおいてピークを有する粉末X線回折パターンを特徴とする、前記結晶形。
【請求項2】
11.7°2θ±0.2°2θ及び15.2°2θ±0.2°2θにおいてピークを有する粉末X線回折パターンをさらなる特徴とする、請求項1に記載の結晶形。
【請求項3】
14.9°2θ±0.2°2θ及び18.5°2θ±0.2°2θにおいてピークを有する粉末X線回折パターンをさらなる特徴とする、請求項1または2に記載の結晶形。
【請求項4】
16.0°2θ±0.2°2θ及び19.1°2θ±0.2°2θにおいてピークを有する粉末X線回折パターンをさらなる特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の結晶形。
【請求項5】
16.3°2θ±0.2°2θにおいてピークを有する粉末X線回折パターンをさらなる特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の結晶形。
【請求項6】
20.6°2θ±0.2°2θ及び26.3°2θ±0.2°2θにおいてピークを有する粉末X線回折パターンをさらなる特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の結晶形。
【請求項7】
21.2°2θ±0.2°2θ及び26.6°2θ±0.2°2θにおいてピークを有する粉末X線回折パターンをさらなる特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の結晶形。
【請求項8】
吸熱事象の開始が173.5℃~180.1℃である示差走査熱量測定サーモグラムをさらなる特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の結晶形。
【請求項9】
式(I):
【化2】

の化合物の結晶形であって、
7.7°2θ±0.2°2θ、9.4°2θ±0.2°2θ及び17.0°2θ±0.2°2θにおいてピークを有する粉末X線回折パターンを特徴とする、前記結晶形。
【請求項10】
18.8°2θ±0.2°2θ及び20.0°2θ±0.2°2θにおいてピークを有する粉末X線回折パターンをさらなる特徴とする、請求項9に記載の結晶形。
【請求項11】
23.7°2θ±0.2°2θにおいてピークを有する粉末X線回折パターンをさらなる特徴とする、請求項9または10に記載の結晶形。
【請求項12】
14.8°2θ±0.2°2θにおいてピークを有する粉末X線回折パターンをさらなる特徴とする、請求項9~11のいずれか1項に記載の結晶形。
【請求項13】
吸熱事象の開始が196.0℃~198.8℃である示差走査熱量測定サーモグラムをさらなる特徴とする、請求項9~12のいずれか1項に記載の結晶形。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の結晶形を含む医薬組成物。
【請求項15】
請求項9~13のいずれか1項に記載の結晶形または請求項14に記載の医薬組成物を含む、単位剤形。
【請求項16】
カプセルである、請求項15に記載の単位剤形。
【請求項17】
増量剤、崩壊剤、湿潤剤、滑剤、滑沢剤、及びカプセルシェルのうちの1つ以上を含む、請求項15または16に記載の単位剤形。
【請求項18】
前記増量剤が微結晶性セルロース、マンニトール、もしくはそれらの組み合わせであり、前記崩壊剤がクロスカルメロースナトリウムであり、前記湿潤剤がラウリル硫酸ナトリウムであり、前記滑剤がコロイド状二酸化ケイ素であり、及び/または前記滑沢剤がステアリン酸マグネシウムである、請求項17に記載の単位剤形。
【請求項19】
70~90%(w/w)の前記増量剤を含む、請求項17または18に記載の単位剤形。
【請求項20】
4~6%(w/w)の前記崩壊剤を含む、請求項18または19に記載の単位剤形。
【請求項21】
0.5~1.5%(w/w)の前記湿潤剤を含む、請求項18~20のいずれか1項に記載の単位剤形。
【請求項22】
1.5~2.5%(w/w)の前記滑剤を含む、請求項18~21のいずれか1項に記載の単位剤形。
【請求項23】
0.4~0.6%(w/w)の前記滑沢剤を含む、請求項18~22のいずれか1項に記載の単位剤形。
【請求項24】
前記カプセルシェルがポリマーシェルを含む、請求項18~23のいずれか1項に記載の単位剤形。
【請求項25】
前記ポリマーシェルがヒプロメロース及び二酸化チタンを含む、請求項24に記載の単位剤形。
【請求項26】
対象のBAF複合体の活性を低下させる方法であって、有効量の、請求項1~13のいずれか1項に記載の結晶形、請求項14に記載の医薬組成物、または請求項15~25のいずれか1項に記載の単位剤形を、前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項27】
対象のBRMを阻害する方法であって、有効量の、請求項1~13のいずれか1項に記載の結晶形、請求項14に記載の医薬組成物、または請求項15~25のいずれか1項に記載の単位剤形を、前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項28】
対象のBRG1を阻害する方法であって、有効量の、請求項1~13のいずれか1項に記載の結晶形、請求項14に記載の医薬組成物、または請求項15~25のいずれか1項に記載の単位剤形を、前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項29】
対象のBRM及びBRG1を阻害する方法であって、有効量の、請求項1~13のいずれか1項に記載の結晶形、請求項14に記載の医薬組成物、または請求項15~25のいずれか1項に記載の単位剤形を、前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項30】
対象においてアポトーシスを誘導する方法であって、有効量の、請求項1~13のいずれか1項に記載の結晶形、請求項14に記載の医薬組成物、または請求項15~25のいずれか1項に記載の単位剤形を、前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項31】
前記対象はがんを有する、請求項26~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
BAF複合体関連障害の治療を、それを必要とする対象において行う方法であって、有効量の、請求項1~13のいずれか1項に記載の結晶形、請求項14に記載の医薬組成物、または請求項15~25のいずれか1項に記載の単位剤形を、前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項33】
BRG1機能喪失型変異に関連する障害の治療を、それを必要とする対象において行う方法であって、有効量の、請求項1~13のいずれか1項に記載の結晶形、請求項14に記載の医薬組成物、または請求項15~25のいずれか1項に記載の単位剤形を、前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項34】
前記対象が、BRG1機能喪失障害を有すると決定されている、請求項32または33に記載の方法。
【請求項35】
前記BAF複合体関連障害または前記BRG1機能喪失型変異に関連する障害が、がん、ウイルス感染症、コフィン・シリス症候群、神経線維腫症、または多発性髄膜腫である、請求項32~34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記神経線維腫症が、神経線維腫症I型(NF-1)、神経線維腫症II型(NF-2)、及び神経鞘腫症からなる群から選択される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
がんの治療を、それを必要とする対象において行う方法であって、有効量の、請求項1~13のいずれか1項に記載の結晶形、請求項14に記載の医薬組成物、または請求項15~25のいずれか1項に記載の単位剤形を、前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項38】
がんの腫瘍増殖の減少を、それを必要とする対象において行う方法であって、有効量の、請求項1~13のいずれか1項に記載の結晶形、請求項14に記載の医薬組成物、または請求項15~25のいずれか1項に記載の単位剤形を、前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項39】
がんの転移進行の抑制を、それを必要とする対象において行う方法であって、有効量の、請求項1~13のいずれか1項に記載の結晶形、請求項14に記載の医薬組成物、または請求項15~25のいずれか1項に記載の単位剤形を、前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項40】
がんの転移巣形成の抑制を、それを必要とする対象において行う方法であって、有効量の、請求項1~13のいずれか1項に記載の結晶形、請求項14に記載の医薬組成物、または請求項15~25のいずれか1項に記載の単位剤形を、前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項41】
がんのBRG1及び/またはBRMのレベル及び/または活性の低下を、それを必要とする対象において行う方法であって、有効量の、請求項1~13のいずれか1項に記載の結晶形、請求項14に記載の医薬組成物、または請求項15~25のいずれか1項に記載の単位剤形を、前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項42】
前記がんが、非小細胞肺癌、大腸癌、膀胱癌、原発不明のがん、神経膠腫、乳癌、黒色腫、非黒色腫皮膚癌、子宮内膜癌、食道癌、胃食道癌、膵癌、肝胆道癌、軟部組織肉腫、卵巣癌、頭頸部癌、腎細胞癌、骨癌、非ホジキンリンパ腫、小細胞肺癌、前立腺癌、胎児性腫瘍、胚細胞性腫瘍、子宮頸癌、甲状腺癌、唾液腺癌、消化管神経内分泌腫瘍、子宮肉腫、消化管間質腫瘍、CNS癌、胸腺腫瘍、副腎皮質癌、虫垂癌、小腸癌、陰茎癌、骨癌、または血液癌である、請求項37~41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記がんが、食道癌である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記がんが、非小細胞肺癌、大腸癌、膀胱癌、原発不明のがん、神経膠腫、乳癌、黒色腫、非黒色腫皮膚癌、子宮内膜癌、陰茎癌、骨癌、腎細胞癌、前立腺癌、または血液癌である、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
前記がんが、非小細胞肺癌である、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記がんが、黒色腫、前立腺癌、乳癌、骨癌、腎細胞癌、または血液癌である、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
前記がんが、黒色腫である、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記黒色腫が、ぶどう膜黒色腫、粘膜黒色腫、または皮膚黒色腫である、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記黒色腫が、ぶどう膜黒色腫である、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記がんが、前立腺癌である、請求項46に記載の方法。
【請求項51】
前記がんが、血液癌である、請求項46に記載の方法。
【請求項52】
前記血液癌が、多発性骨髄腫、大細胞リンパ腫、急性T細胞白血病、急性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、免疫グロブリンAラムダ型骨髄腫、びまん性混合型組織球性及びリンパ球性リンパ腫、B細胞リンパ腫、急性リンパ芽球性白血病、びまん性大細胞リンパ腫、または非ホジキンリンパ腫である、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記血液癌が、急性骨髄性白血病である、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記がんが、乳癌である、請求項46に記載の方法。
【請求項55】
前記乳癌が、ER陽性乳癌、ER陰性乳癌、トリプルポジティブ乳癌、またはトリプルネガティブ乳癌である、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記がんが、骨癌である、請求項46に記載の方法。
【請求項57】
前記骨癌が、ユーイング肉腫である、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記がんが、腎細胞癌である、請求項46に記載の方法。
【請求項59】
前記腎細胞癌が、小眼球症転写因子ファミリー転座型腎細胞癌である、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記がんが、非小細胞肺癌、前立腺癌、胃食道癌、血液癌、または黒色腫であり、前記血液癌が急性骨髄性白血病であり、黒色腫が、ぶどう膜黒色腫である、請求項37~41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項61】
前記がんが、非小細胞肺癌、前立腺癌、食道癌、急性骨髄性白血病、またはぶどう膜黒色腫である、請求項37~41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項62】
前記がんが、BRG1及び/またはBRMタンパク質を発現する、請求項37~61のいずれか1項に記載の方法。
【請求項63】
前記対象または前記がんが、BRG1機能喪失型変異を有する、請求項37~62のいずれか1項に記載の方法。
【請求項64】
前記BRG1機能喪失型変異が、前記タンパク質のATPアーゼ触媒ドメインにある、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記BRG1機能喪失型変異が、BRG1のC末端における欠失である、請求項63に記載の方法。
【請求項66】
前記がんが、上皮成長因子受容体変異及び/もしくは未分化リンパ腫キナーゼドライバー変異を有していないか、またはそれらを有していないことが決定されている、請求項37~65のいずれか1項に記載の方法。
【請求項67】
前記がんが、KRAS変異、GNAQの変異、GNA11の変異、PLCB4の変異、CYSLTR2の変異、BAP1の変異、SF3B1の変異、EIF1AXの変異、TFE3の転座、TFEBの転座、MITFの転座、EZH2変異、SUZ12変異、及び/もしくはEED変異を有するか、またはそれらを有することが決定されている、請求項37~66のいずれか1項に記載の方法。
【請求項68】
前記がんが、転移性である、請求項37~67のいずれか1項に記載の方法。
【請求項69】
前記がんが、抗がん療法に対して抵抗性であるか、またはそれによる前治療に反応しなかった、請求項37~68のいずれか1項に記載の方法。
【請求項70】
前記抗がん療法が、化学療法剤もしくは細胞毒性薬剤、免疫療法、手術、放射線療法、温熱療法、または光凝固術、あるいはそれらの組み合わせである、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
前記抗がん療法が、化学療法剤または細胞毒性薬剤である、請求項70に記載の方法。
【請求項72】
前記化学療法剤または細胞毒性薬剤が、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MEK)阻害剤及び/またはプロテインキナーゼC(PKC)阻害剤である、請求項71に記載の方法。
【請求項73】
前記がんが、PKC阻害剤に対して抵抗性であるか、またはそれによる前治療に反応しなかった、請求項37~72のいずれか1項に記載の方法。
【請求項74】
抗がん療法を前記対象に施すことをさらに含む、請求項37~73のいずれか1項に記載の方法。
【請求項75】
前記抗がん療法が、化学療法剤もしくは細胞毒性薬剤、免疫療法、手術、放射線療法、温熱療法、または光凝固術、あるいはそれらの組み合わせである、請求項74に記載の方法。
【請求項76】
前記抗がん療法が、手術、MEK阻害剤、及び/またはPKC阻害剤、またはそれらの組み合わせである、請求項74または75に記載の方法。
【請求項77】
前記MEK阻害剤が、セルメチニブ、ビニメチニブ、またはタメチニブである、請求項76に記載の方法。
【請求項78】
前記PKC阻害剤が、ソトラスタウリンまたはIDE196である、請求項76に記載の方法。
【請求項79】
ウイルス感染症の治療を、それを必要とする対象において行うための方法であって、有効量の、請求項1~13のいずれか1項に記載の結晶形、請求項14に記載の医薬組成物、または請求項15~25のいずれか1項に記載の単位剤形を、前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項80】
前記ウイルス感染症が、Retroviridaeファミリーのウイルス、Hepadnaviridaeファミリーのウイルス、Flaviviridaeファミリーのウイルス、Adenoviridaeファミリーのウイルス、Herpesviridaeファミリーのウイルス、Papillomaviridaeファミリーのウイルス、Parvoviridaeファミリーのウイルス、Polyomaviridaeファミリーのウイルス、Paramyxoviridaeファミリーのウイルス、またはTogaviridaeファミリーのウイルスによる感染である、請求項79に記載の方法。
【請求項81】
前記有効量の前記化合物の前記結晶形により、BRG1のレベル及び/または活性が参照と比較して少なくとも5%低下する、請求項26~80のいずれか1項に記載の方法。
【請求項82】
前記有効量の前記化合物の前記結晶形により、BRG1のレベル及び/または活性が少なくとも12時間、参照と比較して少なくとも5%低下する、請求項81に記載の方法。
【請求項83】
前記有効量の前記化合物の前記結晶形により、BRMのレベル及び/または活性が参照と比較して少なくとも5%低下する、請求項26~82のいずれか1項に記載の方法。
【請求項84】
前記有効量の前記化合物の前記結晶形により、BRMのレベル及び/または活性が少なくとも12時間、参照と比較して少なくとも5%低下する、請求項83に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶形、それらを含有する組成物、及びそれらを、例えば、対象においてBAF複合体の活性を阻害する際、または対象においてがんを治療する際に、使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロマチン制御は、遺伝子発現に不可欠であり、ATP依存性クロマチンリモデリングは、そのような遺伝子発現が生じるための機構である。BAF複合体としても知られるヒトSwitch/Sucrose Non-Fermentable(SWI/SNF)クロマチンリモデリング複合体には、BRG1(Brahma関連遺伝子-1)及びBRM(Brahma)として知られる2つのSWI2様ATPアーゼがある。ATP依存性クロマチンリモデリング因子SMARCA4としても知られる転写活性化因子BRG1は、19番染色体上のSMARCA4遺伝子によってコードされる。BRG1は、いくつかのがん腫瘍で過剰発現しており、がん細胞の増殖に必要とされる。BRMは、可能性のあるグローバルな転写活性化因子(probable global transcription activator)SNF2L2及び/またはATP依存性クロマチンリモデリング因子SMARCA2としても知られ、9番染色体上のSMARCA2遺伝子によってコードされ、BRG1機能喪失変異を特徴とする細胞において腫瘍細胞増殖に不可欠であることが示されている。BRG及び/またはBRMの不活性化は、細胞周期停止及び腫瘍抑制を含め、細胞内の下流効果をもたらす。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、BAF複合体を調節するのに有用な化合物の結晶形を特徴とする。
【0004】
一態様では、本発明は、式(I):
【化1】

の化合物の結晶形を提供し、
ここで、結晶形は、14.4°2θ±0.2°2θ及び17.4°2θ±0.2°2θにおいてピークを有する粉末X線回折パターンを特徴とする。いくつかの実施形態では、結晶形はさらに、11.7°2θ±0.2°2θ及び15.2°2θ±0.2°2θにおいてピークを有する粉末X線回折パターンを特徴とする。いくつかの実施形態では、結晶形はさらに、14.9°2θ±0.2°2θ及び18.5°2θ±0.2°2θにおいてピークを有する粉末X線回折パターンを特徴とする。いくつかの実施形態では、結晶形はさらに、16.0°2θ±0.2°2θ及び19.1°2θ±0.2°2θにおいてピークを有する粉末X線回折パターンを特徴とする。いくつかの実施形態では、結晶形はさらに、16.3°2θ±0.2°2θにおいてピークを有する粉末X線回折パターンを特徴とする。いくつかの実施形態では、結晶形はさらに、20.6°2θ±0.2°2θ及び26.3°2θ±0.2°2θにおいてピークを有する粉末X線回折パターンを特徴とする。いくつかの実施形態では、結晶形はさらに、21.2°2θ±0.2°2θ及び26.6°2θ±0.2°2θにおいてピークを有する粉末X線回折パターンを特徴とする。
【0005】
いくつかの実施形態では、結晶形はさらに、吸熱事象の開始が173.5℃~180.1℃である示差走査熱量測定サーモグラムを特徴とする。
【0006】
別の態様では、本発明は、式(I):
【化2】

の化合物の結晶形を提供し、
ここで、結晶形は、7.7°2θ±0.2°2θ、9.4°2θ±0.2°2θ及び17.0°2θ±0.2°2θにおいてピークを有する粉末X線回折パターンを特徴とする。いくつかの実施形態では、結晶形はさらに、18.8°2θ±0.2°2θ及び20.0°2θ±0.2°2θにおいてピークを有する粉末X線回折パターンを特徴とする。いくつかの実施形態では、結晶形はさらに、23.7°2θ±0.2°2θにおいてピークを有する粉末X線回折パターンを特徴とする。いくつかの実施形態では、結晶形はさらに、14.8°2θ±0.2°2θにおいてピークを有する粉末X線回折パターンを特徴とする。
【0007】
いくつかの実施形態では、結晶形はさらに、吸熱事象の開始が196.0℃~198.8℃である示差走査熱量測定サーモグラムを特徴とする。
【0008】
さらに別の態様では、本発明は、本明細書に記載される結晶形等の医薬組成物を提供する。
【0009】
さらに別の態様では、本発明は、本明細書に記載される結晶形等の単位剤形を提供する。いくつかの実施形態では、単位剤形はカプセルである。いくつかの実施形態では、単位剤形には、増量剤(例えば、微結晶性セルロース、マンニトール、またはそれらの組み合わせ)、崩壊剤(例えば、クロスカルメロースナトリウム)、湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)、滑剤(例えば、コロイド状二酸化ケイ素)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム)、及びカプセルシェルのうちの1つ以上が含まれる。
【0010】
いくつかの実施形態では、単位剤形には、70~90%(w/w)の増量剤が含まれる。いくつかの実施形態では、単位剤形には、4~6%(w/w)の崩壊剤が含まれる。いくつかの実施形態では、単位剤形には、0.5~1.5%(w/w)の湿潤剤が含まれる。いくつかの実施形態では、単位剤形には、1.5~2.5%(w/w)の滑剤が含まれる。いくつかの実施形態では、単位剤形には、0.4~0.6%(w/w)の滑沢剤が含まれる。
【0011】
いくつかの実施形態では、カプセルシェルには、ポリマーシェルが含まれる。いくつかの実施形態では、ポリマーシェルには、ヒプロメロース及び二酸化チタンが含まれる。
【0012】
さらなる態様では、本発明は、対象のBAF複合体の活性を低下させる方法を提供し、かかる方法には、有効量の、本明細書に記載される結晶形、本明細書に記載される医薬組成物、または本明細書に記載される単位剤形を対象に投与することが含まれる。
【0013】
さらに別の態様では、本発明は、対象のBRMを阻害する方法を提供し、かかる方法には、有効量の、本明細書に記載される結晶形、本明細書に記載される医薬組成物、または本明細書に記載される単位剤形を対象に投与することが含まれる。
【0014】
さらに別の態様では、本発明は、対象のBRG1を阻害する方法を提供し、かかる方法には、有効量の、本明細書に記載される結晶形、本明細書に記載される医薬組成物、または本明細書に記載される単位剤形を対象に投与することが含まれる。
【0015】
別の態様では、本発明は、対象のBRM及びBRG1を阻害する方法を提供し、かかる方法には、有効量の、本明細書に記載される結晶形、本明細書に記載される医薬組成物、または本明細書に記載される単位剤形を対象に投与することが含まれる。
【0016】
さらに別の態様では、本発明は、対象においてアポトーシスを誘導する方法を提供し、かかる方法には、有効量の、本明細書に記載される結晶形、本明細書に記載される医薬組成物、または本明細書に記載される単位剤形を対象に投与することが含まれる。
【0017】
いくつかの実施形態では、対象はがんを有する。
【0018】
さらに別の態様では、本発明は、BAF複合体関連障害の治療を、それを必要とする対象において行う方法を提供し、かかる方法には、有効量の、本明細書に記載される結晶形、本明細書に記載される医薬組成物、または本明細書に記載される単位剤形を対象に投与することが含まれる。
【0019】
さらなる態様では、本発明は、BRG1機能喪失型変異に関連する障害の治療を、それを必要とする対象において行う方法を提供し、かかる方法には、有効量の、本明細書に記載される結晶形、本明細書に記載される医薬組成物、または本明細書に記載される単位剤形を対象に投与することが含まれる。
【0020】
いくつかの実施形態では、対象は、BRG1機能喪失障害を有すると決定されている。いくつかの実施形態では、BAF複合体関連障害またはBRG1機能喪失型変異に関連する障害は、がん、ウイルス感染症、コフィン・シリス症候群、神経線維腫症(例えば、神経線維腫症I型(NF-1)、神経線維腫症II型(NF-2)、及び神経鞘腫症からなる群から選択される)、または多発性髄膜腫である。
【0021】
さらに別の態様では、本発明は、がんの治療を、それを必要とする対象において行う方法を提供し、かかる方法には、有効量の、本明細書に記載される結晶形、本明細書に記載される医薬組成物、または本明細書に記載される単位剤形を対象に投与することが含まれる。
【0022】
さらに別の態様では、本発明は、がんの腫瘍増殖の減少を、それを必要とする対象において行う方法を提供し、かかる方法には、有効量の、本明細書に記載される結晶形、本明細書に記載される医薬組成物、または本明細書に記載される単位剤形を対象に投与することが含まれる。
【0023】
別の態様では、本発明は、がんの転移進行の抑制を、それを必要とする対象において行う方法を提供し、かかる方法には、有効量の、本明細書に記載される結晶形、本明細書に記載される医薬組成物、または本明細書に記載される単位剤形を対象に投与することが含まれる。
【0024】
さらに別の態様では、本発明は、がんの転移巣形成の抑制を、それを必要とする対象において行う方法を提供し、かかる方法には、有効量の、本明細書に記載される結晶形、本明細書に記載される医薬組成物、または本明細書に記載される単位剤形を対象に投与することが含まれる。
【0025】
さらに別の態様では、本発明は、がんのBRG1及び/またはBRMのレベル及び/または活性の低下を、それを必要とする対象において行う方法を提供し、かかる方法には、有効量の、本明細書に記載される結晶形、本明細書に記載される医薬組成物、または本明細書に記載される単位剤形を対象に投与することが含まれる。
【0026】
いくつかの実施形態では、がんは、非小細胞肺癌、大腸癌、膀胱癌、原発不明のがん、神経膠腫、乳癌、黒色腫、非黒色腫皮膚癌、子宮内膜癌、食道癌、胃食道癌、膵癌、肝胆道癌、軟部組織肉腫、卵巣癌、頭頸部癌、腎細胞癌、骨癌、非ホジキンリンパ腫、小細胞肺癌、前立腺癌、胎児性腫瘍、胚細胞性腫瘍、子宮頸癌、甲状腺癌、唾液腺癌、消化管神経内分泌腫瘍、子宮肉腫、消化管間質腫瘍、CNS癌、胸腺腫瘍、副腎皮質癌、虫垂癌、小腸癌、陰茎癌、骨癌、または血液癌である。いくつかの実施形態では、がんは、食道癌である。
【0027】
いくつかの実施形態では、がんは、非小細胞肺癌、大腸癌、膀胱癌、原発不明のがん、神経膠腫、乳癌、黒色腫、非黒色腫皮膚癌、子宮内膜癌、陰茎癌、骨癌、腎細胞癌、前立腺癌、または血液癌である。いくつかの実施形態では、がんは、非小細胞肺癌である。
【0028】
いくつかの実施形態では、がんは、黒色腫、前立腺癌、乳癌、骨癌、腎細胞癌、または血液癌である。いくつかの実施形態では、がんは、黒色腫(例えば、ぶどう膜黒色腫、粘膜黒色腫、または皮膚黒色腫)である。いくつかの実施形態では、黒色腫は、ぶどう膜黒色腫である。
【0029】
いくつかの実施形態では、がんは、前立腺癌である。
【0030】
いくつかの実施形態では、がんは、血液癌(例えば、多発性骨髄腫、大細胞リンパ腫、急性T細胞白血病、急性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、免疫グロブリンAラムダ型骨髄腫、びまん性混合型組織球性及びリンパ球性リンパ腫、B細胞リンパ腫、急性リンパ芽球性白血病、びまん性大細胞リンパ腫、または非ホジキンリンパ腫)である。いくつかの実施形態では、血液癌は急性骨髄性白血病である。
【0031】
いくつかの実施形態では、がんは、乳癌(例えば、ER陽性乳癌、ER陰性乳癌、トリプルポジティブ乳癌、またはトリプルネガティブ乳癌)である。
【0032】
いくつかの実施形態では、がんは、骨癌(例えば、ユーイング肉腫)である。
【0033】
いくつかの実施形態では、がんは、腎細胞癌(例えば、小眼球症転写因子ファミリー転座型腎細胞癌)である。
【0034】
いくつかの実施形態では、がんは、非小細胞肺癌、前立腺癌、胃食道癌、血液癌、または黒色腫である。いくつかの実施形態では、血液癌は急性骨髄性白血病である。いくつかの実施形態では、黒色腫は、ぶどう膜黒色腫である。
【0035】
いくつかの実施形態では、がんは、BRG1及び/またはBRMタンパク質を発現する。
【0036】
いくつかの実施形態では、対象またはがんは、BRG1機能喪失型変異を有する。いくつかの実施形態では、BRG1機能喪失型変異は、タンパク質のATPアーゼ触媒ドメインにある。他の実施形態では、BRG1機能喪失型変異は、BRG1のC末端における欠失である。
【0037】
いくつかの実施形態では、がんは、上皮成長因子受容体変異及び/または未分化リンパ腫キナーゼドライバー変異を有していないか、もしくはそれらを有していないことが決定されている。
【0038】
いくつかの実施形態では、がんは、KRAS変異、GNAQの変異、GNA11の変異、PLCB4の変異、CYSLTR2の変異、BAP1の変異、SF3B1の変異、EIF1AXの変異、TFE3の転座、TFEBの転座、MITFの転座、EZH2変異、SUZ12変異、及び/またはEED変異を有するか、もしくはそれらを有することが決定されている。
【0039】
いくつかの実施形態では、がんは転移性である。
【0040】
いくつかの実施形態では、がんは、抗がん療法(例えば、化学療法剤または細胞毒性薬剤(例えば、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MEK)阻害剤及び/またはプロテインキナーゼC(PKC)阻害剤)、免疫療法、手術、放射線療法、温熱療法、または光凝固術、またはそれらの組み合わせ)に対して抵抗性であるか、またはそれによる前治療に反応しなかった。いくつかの実施形態では、がんは、PKC阻害剤に対して抵抗性であるか、またはそれによる前治療に反応しなかった。
【0041】
いくつかの実施形態では、方法にはさらに、抗がん療法(例えば、化学療法剤もしくは細胞毒性薬剤、免疫療法、手術、放射線療法、温熱療法、または光凝固術、あるいはそれらの組み合わせ)を対象に施すことが含まれる。いくつかの実施形態では、抗がん療法は、手術、MEK阻害剤(例えば、セルメチニブ、ビニメチニブ、またはタメチニブ)、及び/またはPKC阻害剤(例えば、ソトラスタウリンもしくはIDE196)、あるいはそれらの組み合わせである。
【0042】
さらなる態様では、本発明は、ウイルス感染症の治療を、それを必要とする対象において行うための方法を提供し、方法には、有効量の、本明細書に記載される結晶形、本明細書に記載される医薬組成物、または本明細書に記載される単位剤形を対象に投与することが含まれる。
【0043】
いくつかの実施形態では、ウイルス感染症は、Retroviridaeファミリーのウイルス、Hepadnaviridaeファミリーのウイルス、Flaviviridaeファミリーのウイルス、Adenoviridaeファミリーのウイルス、Herpesviridaeファミリーのウイルス、Papillomaviridaeファミリーのウイルス、Parvoviridaeファミリーのウイルス、Polyomaviridaeファミリーのウイルス、Paramyxoviridaeファミリーのウイルス、またはTogaviridaeファミリーのウイルスによる感染である。
【0044】
いくつかの実施形態では、有効量の化合物の結晶形により、BRG1のレベル及び/または活性が参照と比較して少なくとも5%低下する。いくつかの実施形態では、有効量の化合物の結晶形により、BRG1のレベル及び/または活性が少なくとも12時間、参照と比較して少なくとも5%低下する。
【0045】
いくつかの実施形態では、有効量の化合物の結晶形により、BRMのレベル及び/または活性が参照と比較して少なくとも5%低下する。いくつかの実施形態では、有効量の化合物の結晶形により、BRMのレベル及び/または活性が少なくとも12時間、参照と比較して少なくとも5%低下する。
【0046】
定義
本出願では、文脈から別様に明確でない限り、(i)用語「a」は、「少なくとも1つ」を意味すると理解されてよく、(ii)用語「または」は、「及び/または」を意味すると理解されてよく、及び(iii)用語「含む(comprising)」及び「含む(including)」は、項目別の構成要素またはステップを包含すると理解されてよく、それらが単独で提示されているのか、または1つ以上の追加の構成要素もしくはステップと一緒に提示されているのかは問わない。
【0047】
本明細書で使用される場合、用語「約」及び「おおよそ」とは、記載されている値を10%以内で上回るかまたは下回る値を指す。例えば、用語「約5%」は、4.5~5.5%の範囲を示す。
【0048】
本明細書で使用される場合、用語「投与」とは、対象または系に対する組成物(例えば、本明細書に記載の化合物が含まれる化合物もしくは調製物)の投与を指す。動物対象への(例えば、ヒトへの)投与は、任意の適切な経路によるものであり得る。例えば、いくつかの実施形態では、投与は、気管支(気管支注入によるものを含む)、頬側、経腸、皮内、動脈内、皮内、胃内、髄内、筋肉内、鼻腔内、腹腔内、髄腔内、腫瘍内、静脈内、脳室内、粘膜、経鼻、経口、直腸、皮下、舌下、局所、気管(気管内注入によるものを含む)、経皮、膣内、及び硝子体であり得る。
【0049】
本明細書で使用される場合、用語「BAF複合体」とは、ヒト細胞におけるBRG1関連因子またはHBRM関連因子の複合体を指す。
【0050】
本明細書で使用される場合、用語「BAF複合体関連障害」とは、BAF複合体の活性のレベルによって引き起こされるかまたは影響を受ける障害を指す。
【0051】
本明細書で使用される場合、用語「BRG1機能喪失型変異」とは、活性が低下している(例えば、BRG1活性が少なくとも1%低下、例えば、BRG1活性が2%、5%、10%、25%、50%、または100%低下)タンパク質をもたらすBRG1の変異を指す。例示的BRG1機能喪失型変異としては、ホモ接合型BRG1変異及びBRG1のC末端における欠失が挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
本明細書で使用される場合、用語「BRG1機能喪失障害」とは、BRG1活性の低下(例えば、BRG1活性が少なくとも1%低下、例えば、BRG1活性が2%、5%、10%、25%、50%、または100%低下)を示す障害(例えば、がん)を指す。
【0053】
用語「がん」とは、腫瘍、新生物、癌腫、肉腫、白血病、及びリンパ腫等の悪性新生細胞の増殖によって引き起こされる状態を指す。
【0054】
本明細書で使用される場合、「併用療法」または「併用投与」とは、2つ(またはそれ以上)の異なる薬剤または治療が、特定の疾患または状態に対する定義された治療レジメンの一部として対象に投与されることを意味する。治療レジメンでは、対象に対する個々の薬剤の効果が重なるよう各薬剤の用量及び投与周期が定義される。いくつかの実施形態では、2つ以上の薬剤の送達は同時送達または併用送達であり、薬剤は合剤にされ得る。いくつかの実施形態では、2つ以上の薬剤は合剤にされず、処方されたレジメンの一部として連続的に投与される。いくつかの実施形態では、2つ以上の薬剤または治療の併用投与は、症状、または障害に関連した他のパラメータの軽減が、1つの薬剤または治療を単独かまたは他方を存在させずに送達した場合に観察されるものより大きくなるようなものである。2つの治療の効果は、部分的に相加的であり得るか、完全に相加的であり得るか、または相加的を超え得る(例えば、相乗的)。各治療剤の連続的または実質的に同時の投与は、経口経路、静脈内経路、筋肉内経路、及び粘膜組織を介した直接吸収等の、これらに限定されない任意の適切な経路により実施され得る。治療剤は、同じ経路によっても、異なる経路によっても投与され得る。例えば、併用の第1の治療剤を静脈内注射により投与してよく、併用の第2の治療剤を経口投与してよい。
【0055】
タンパク質またはRNAの「低下したレベル」または「上昇したレベル」とは、それぞれ、参照と比較した場合のタンパク質レベルまたはRNAレベルの減少または上昇(例えば、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約100%、約150%、約200%、約300%、約400%、約500%、もしくはそれ以上の減少または上昇;参照と比較して約10%、約15%、約20%、約50%、約75%、約100%、もしくは約200%を超える減少または上昇;約0.01倍未満、約0.02倍、約0.1倍、約0.3倍、約0.5倍、約0.8倍、もしくはそれより小さい減少または上昇;あるいは約1.2倍、約1.4倍、約1.5倍、約1.8倍、約2.0倍、約3.0倍、約3.5倍、約4.5倍、約5.0倍、約10倍、約15倍、約20倍、約30倍、約40倍、約50倍、約100倍、約1000倍を超えるか、またはそれ以上の上昇)を意味する。タンパク質のレベルは、質量/体積(例えば、g/dL、mg/mL、μg/mL、ng/mL)または試料中の総タンパク質に対するパーセンテージで表され得る。
【0056】
「BAF複合体の活性を低下させること」とは、BAF複合体に関連する活性のレベル、または関連する下流効果を低下させることを意味する。BAF複合体の活性を低下させることの非限定的な例は、Sox2の活性化である。BAF複合体の活性レベルは、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば、Kadoch et al.Cell,2013,153,71-85に記載の方法を使用して測定され得、その方法は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0057】
本明細書で使用される場合、「薬物抵抗性であると決定される」がんとは、化学療法剤に対する不応性または反応性低下に基づく薬物抵抗性であるか、または予後アッセイ(例えば、遺伝子発現アッセイ)に基づいて薬物抵抗性であることが予測されるがんを指す。
【0058】
「薬物抵抗性」とは、1つ以上の化学療法剤(例えば、本明細書に記載される任意の薬剤)に対して反応しないか、または反応低下を示すがんを意味する。
【0059】
本明細書で使用される場合、用語「以前の治療法に応答しなかった」または「以前の治療法に不応性である」とは、その治療法による治療にもかかわらず進行したがんを指す。
【0060】
本明細書で使用される場合、「BRMを阻害すること」及び/または「BRG1を阻害すること」という用語は、タンパク質のATPアーゼ触媒結合ドメインもしくはブロモドメインを遮断すること、またはそのレベルもしくは活性を低下させることを指す。BRM及び/またはBRG1阻害は、当該技術分野で公知の方法、例えば、BRM及び/またはBRG1 ATPアーゼアッセイ、Nano DSFアッセイ、あるいはBRM及び/またはBRG1ルシフェラーゼ細胞アッセイを使用して決定され得る。
【0061】
本明細書で使用される場合、IDE196としても知られる「LXS196」という用語は、構造:
【化3】

を有するPKC阻害剤、またはその薬学的に許容される塩を指す。
【0062】
本明細書で使用される場合、「転移性結節」とは、原発腫瘍部位以外の部位での体内における腫瘍細胞の集合を指す。
【0063】
本明細書で使用される場合、「転移性がん」とは、腫瘍またはがんのうち、腫瘍を形成するがん細胞が、対象内のある場所から別の場所(複数可)へ、リンパ系を介するかまたは血行性の広がりを介して転移するかまたは広がり、例えば、対象内に二次腫瘍を発生させる可能性が高いかまたはそれを開始しているものを指す。そのような転移挙動は、悪性腫瘍を示唆し得る。場合によっては、転移挙動は、腫瘍細胞の細胞遊走及び/または浸潤挙動の増加と関連し得る。
【0064】
転移性として定義することができるがんの例としては、肺癌(例えば、非小細胞肺癌)、乳癌、卵巣癌、大腸癌、胆道癌、膀胱癌、脳腫瘍(膠芽腫及び髄芽腫を含む)、子宮頸癌、絨毛癌、子宮内膜癌、食道癌、胃癌、血液新生物、多発性骨髄腫、白血病、上皮内新生物、肝癌、リンパ腫、神経芽細胞腫、口腔癌、膵癌、前立腺癌、肉腫、皮膚癌(黒色腫を含む)、基底細胞癌、扁平上皮癌、精巣癌、間質性腫瘍、胚細胞性腫瘍、甲状腺癌、及び腎癌が挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
本明細書で使用される場合の「非転移性細胞遊走がん」とは、リンパ系を介するかまたは血行性の広がりを介して遊走することのないがんを指す。
【0066】
本明細書で使用される場合、用語「医薬組成物」は、薬学的に許容される賦形剤と共に製剤化される本明細書に記載される化合物を含有し、哺乳類、例えば、ヒトに対する投与に適切な組成物を表す。典型的には、医薬組成物は、哺乳類の疾患の治療のための治療レジメンの一部として政府の規制当局の承認を得て製造または販売される。医薬組成物は、例えば、単位剤形(例えば、錠剤、カプセル、カプレット、ゲルキャップ、もしくはシロップ)での経口投与のため、局所投与(例えば、クリーム、ゲル、ローション、もしくは軟膏としての)のため、静脈内投与(例えば、微粒子塞栓物質を含まない、静脈内使用に好適な溶媒系に溶解させた滅菌溶液として)のため、または他の任意の薬学的に許容される製剤に、製剤化され得る。
【0067】
「薬学的に許容される賦形剤」とは、本明細書で使用される場合、本明細書に記載される化合物以外の任意の成分(例えば、活性化合物を懸濁または溶解させることができるビヒクル)であって、患者において実質的に無毒性かつ非炎症性であるという特性を有するものを指す。賦形剤としては、例えば、抗接着剤、抗酸化剤、結合剤、コーティング剤、圧縮補助剤、崩壊剤、色素(着色料)、皮膚軟化剤、乳化剤、増量剤(希釈剤)、膜形成剤またはコーティング剤、香味料、着香剤、滑剤(流動促進剤)、滑沢剤、保存剤、印刷インク、吸着剤、懸濁剤または分散剤、甘味料、及び水和用の水が挙げられ得る。
【0068】
本出願で使用される「増殖」は、構成(細胞)要素による同様の形態(細胞)の再現または増殖を伴う。
【0069】
「基準」とは、タンパク質またはRNAのレベルを比較するために使用される任意の有用な参照を意味する。参照は、比較を目的として使用される任意の試料、標準、標準曲線、またはレベルであり得る。参照は、正常参照試料または参照標準もしくは参照レベルであり得る。「参照試料」は、例えば、対照、例えば、「正常対照」または同じ対象から採取された以前の試料等の、所定の陰性対照の値;正常細胞または正常組織等の、正常健常対象からの試料;疾患を有していない対象からの試料(例えば、細胞または組織);疾患と診断されているが、まだ本発明の化合物により治療されていない対象からの試料;本発明の化合物によって治療されている対象からの試料;または既知の正常濃度の精製されたタンパク質またはRNA(例えば、本明細書に記載のいずれか)の試料であり得る。「参照標準または参照レベル」とは、参照試料から得られた値または数を意味する。「正常対照値」は、非疾患状態を示す事前に決定された値、例えば、健康な対照対象において予測される値である。典型的には、正常対照値は、範囲(「X~Y」)、高閾値(「X以下」)、または低閾値(「X以上」)として表される。特定のバイオマーカーについて測定値が正常対照値内の対象は、典型的には、そのバイオマーカーについて「正常範囲内」と呼ばれる。正常参照標準または正常参照レベルは、疾患もしくは障害(例えば、がん)を有していない正常対象、本発明の化合物により治療されている対象から得られた値または数であり得る。好ましい実施形態では、参照試料、標準、またはレベルは、症例の対象試料と以下の基準のうちの少なくとも1つが一致する:年齢、体重、性別、病期、及び全般的な健康。正常基準範囲内である、精製されたタンパク質またはRNA(例えば、本明細書に記載のいずれか)のレベルの標準曲線も、参照として使用され得る。
【0070】
本明細書で使用される場合、用語「対象」とは、例えば、実験、診断、予防、及び/または治療の目的で、本発明による組成物が投与され得る任意の生物を指す。典型的な対象としては、任意の動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、非ヒト霊長類、及びヒト等の哺乳類)が挙げられる。対象は、治療を求めているかもしくは必要としている、治療が必要である、治療を受けている、将来には治療を受けているか、または特定の疾患もしくは状態について訓練を受けた専門家による治療を受けているヒトもしくは動物であり得る。
【0071】
本明細書で使用される場合、「治療する」、「治療される」、または「治療すること」という用語は、望ましくない生理学的状態、障害、もしくは疾患を減速させる(軽減する)こと、または有益なもしくは所望の臨床結果を得ることを目的とする治療的処置または任意の措置を意味する。有益なまたは所望の臨床結果としては、症状の緩和;状態、障害、もしくは疾患の程度の減少;状態、障害、もしくは疾患の状態の安定化(すなわち、悪化しない);状態、障害、もしくは疾患の進行の発症遅延もしくは減速;状態、障害、もしくは疾患の状態の改善または寛解(部分的か完全かは問わない);少なくとも1つの測定可能な身体的パラメータの改善(必ずしも患者により認識されるわけではない);または状態、障害、もしくは疾患の向上もしくは改善が挙げられるが、これらに限定されない。治療には、過度のレベルの副作用を伴なうことなく臨床的に重要な反応を誘発することが含まれる。治療には、治療を受けていなかった場合に予測される生存期間と比較して生存期間を延長させることも含まれる。本発明の化合物はまた、例えば、ある障害を発症するリスクが高い対象において、その障害を「予防的に治療する」かまたは「予防する」ために使用され得る。
【0072】
別段定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術的及び科学的用語は、本発明の属する分野の当業者に共通して理解される意味と同一の意味を持つ。本開示に使用するための方法及び材料が本明細書に記載されているが、当該技術分野で公知の他の好適な方法及び材料も使用可能である。材料、方法、及び例は例示にすぎず、限定することを意図しない。本明細書で言及される刊行物、特許出願、特許、配列、データベースエントリー、及び他の参考文献はいずれも、参照によりその全体が組み込まれる。矛盾がある場合は、定義も含め、本明細書が優先する。
【0073】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細は、以下の説明に記載される。本発明の他の特徴、目的、及び利点は、本記載及び特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0074】
図1】A及びBは、それぞれ、式(I)の化合物の第1及び第2の結晶形の一連の顕微鏡画像である。画像は、偏光可視光で作成された。
図2A】式(I)の化合物の第1の結晶形のTGトレース及びDSCトレースを示すプロットである。TGトレースは、試料中の自由水の減少による、0.3%(w/w)の低温での重量減少を示した。DSCトレースは、試料融解に起因する可能性の高い、鋭い吸熱事象(約173.5℃で開始)を示した。
図2B】式(I)の化合物の第2の結晶形のTGトレース及びDSCトレースを示すプロットである。TGトレースは、融解前の顕著な質量減少を示さず、重量減少は0.4%(w/w)であり、結晶構造中の溶媒封入を示している。DSCトレースは、試料融解に起因する可能性の高い、鋭い吸熱事象(約196.0℃で開始)を示した。
図3】2つの加熱サイクルを用いた式(I)の化合物の第1の結晶形の変調DSCトレースを示すプロットである。
図4A】式(I)の化合物の第1の結晶形のDVSサイクルを示すプロットである。DVS分析では、80%RHを最大として合計1.4%の質量増加が示された。したがって、物質はわずかに吸湿性であった。
図4B】式(I)の化合物の第1の結晶形のDVS動力学的プロットである。
図5A】式(I)の化合物の第2の結晶形のDVSサイクルを示すプロットである。DVS分析では、80%RHを最大として合計0.04%の質量増加が示された。物質は非吸湿性であった。
図5B】式(I)の化合物の第2の結晶形のDVS動力学的プロットである。
図6】式(I)の化合物の第1の結晶形のXRPDパターンである。
図7】式(I)の化合物の第2の結晶形のXRPDパターンである。
図8】式(I)の化合物の第1の結晶形のXRPDパターン(黒のトレース)と、DVS分析後の高湿度に曝露された後の式(I)の化合物の第1の結晶形のXRPDパターン(赤紫のトレース)とを重ね合わせたものである。
図9】式(I)の化合物の第2の結晶形のXRPDパターン(黒のトレース)と、DVS分析後の高湿度に曝露された後の式(I)の化合物の第2の結晶形のXRPDパターン(青のトレース)とを重ね合わせたものである。
図10】式(I)の化合物の第2の結晶形のH NMRスペクトルである。
図11】式(I)の化合物の第2の結晶形の単一溶媒スラリーから単離された固体試料から取得されたXRPDパターンを重ね合わせたものである(トレースは上から順に、酢酸エチルからの固体、メチルtert-ブチルエーテルからの固体、アセトニトリルからの固体、メチルエチルケトンからの固体、アセトンからの固体、イソプロパノールからの固体、エタノールからの固体、メタノールからの固体、式(I)の化合物の第2の結晶形、キシレンからの固体、2-ブタノールからの固体、ヘプタンからの固体、水からの固体、トルエンからの固体、2-メチルテトラヒドロフランからの固体、酢酸イソプロピルからの固体、及び式(I)の化合物の第2の結晶形)。各回折パターンは、7.5°2θ、9.5°2θ、15.0°2θ、及び17.0°2θにおいて反射のある、式(I)の化合物の第2の結晶形の特徴的な反射を示す。
図12】温度サイクルをかけた式(I)の化合物の第2の結晶形の単一溶媒スラリーから単離された固体試料から取得されたXRPDパターンを重ね合わせたものである(トレースは上から順に、酢酸エチルからの固体、酢酸イソプロピルからの固体、2-メチルテトラヒドロフランからの固体、トルエンからの固体、キシレンからの固体、水からの固体、ヘプタンからの固体、式(I)の化合物の第2の結晶形、メチルtert-ブチルエーテルからの固体、アセトニトリルからの固体、メチルエチルケトンからの固体、アセトンからの固体、2-ブタノールからの固体、イソプロパノールからの固体、エタノールからの固体、メタノールからの固体、及び式(I)の化合物の第2の結晶形)。各回折パターンは、7.5°2θ、9.5°2θ、15.0°2θ、及び17.0°2θにおいて反射のある、式(I)の化合物の第2の結晶形の特徴的な反射を示すが、2-ブタノール及びキシレンから取得された試料は不十分な結晶性を示した。
図13】周囲条件下での低速溶媒蒸発により生成された、様々な溶媒中の式(I)の化合物の第2の結晶形の低温蒸発スクリーニングから単離された固体試料から取得されたXRPDパターンを重ね合わせたものである(トレースは上から順に、酢酸イソプロピルからの固体、酢酸エチルからの固体、アセトニトリルからの固体、メチルエチルケトンからの固体、アセトンからの固体、2-ブタノールからの固体、イソプロパノールからの固体、エタノールからの固体、メタノールからの固体、及び式(I)の化合物の第2の結晶形)。各回折パターンは、7.5°2θ、9.5°2θ、15.0°2θ、及び17.0°2θにおいて反射のある、式(I)の化合物の第2の結晶形の特徴的な反射を示すが、テトラヒドロフラン及び2-メチルテトラヒドロフランから取得された試料は油状物を生じた。
図14】様々な溶媒中の式(I)の化合物の第2の結晶形の高温蒸発スクリーニングから単離された固体試料から取得されたXRPDパターンを重ね合わせたものである(トレースは上から順に、トルエンからの固体、2-メチルテトラヒドロフランからの固体、酢酸イソプロピルからの固体、酢酸エチルからの固体、アセトニトリルからの固体、メチルエチルケトンからの固体、アセトンからの固体、イソプロパノールからの固体、メタノールからの固体、及び式(I)の化合物の第2の結晶形)。全固形物が確実に完全溶解するよう溶液を45℃から50℃に加熱してから、溶媒を50℃で蒸発させた。XRPD分析では、イソプロパノール、酢酸イソプロピル、及びトルエンの蒸発により生成された物質が式(I)の化合物の第2の結晶形を形成したことが示された。他の固体試料はいずれも非晶質であった。
図15】酢酸エチル、イソプロパノール、メチルエチルケトン、エタノール、メタノール、及びアセトニトリル中での急速冷却(crash cooling)により単離された固体試料から取得されたXRPDパターンを重ね合わせたものである(トレースは、上から順に列挙順になっており、一番下が式(I)の化合物の第2の結晶形のトレースである)。XRPDパターンは、式(I)の化合物の第2の結晶形と一致している。
図16】水和物スクリーニング後に単離された固体試料から取得されたXRPDパターンを重ね合わせたものである(トレースは上から順に、テトラヒドロフラン/水からの固体、アセトン/水からの固体、アセトニトリル/水からの固体、イソプロパノール/水からの固体、エタノール/水からの固体、メタノール/水からの固体、式(I)の化合物の第2の結晶形、及び式(I)の化合物の第1の結晶形)。XRPDパターンは、乾燥から生じるいかなる変化も確実に観察されるよう、湿潤試料で実施された。XRPDパターンは、非晶質である、テトラヒドロフラン/水からの固体試料のXRPDパターンを除いては、式(I)の化合物の第2の結晶形と一致している。
図17】メタノール/水を用いた水和物スクリーニングから取得された固体の湿潤試料及び乾燥試料で実施されたXRPDパターンを、式(I)の化合物の第1及び第2の結晶形のXRPDパターン(それぞれ、黒のトレース及び赤紫のトレース)と重ね合わせたものである。メタノール/水から取得された湿潤固体のXRPDパターン(青のトレース)は、11.5°2θでのさらなる反射を示し、式(I)の化合物の第1の結晶形と一致している。乾燥固体(緑のトレース)は、式(I)の化合物の第2の結晶形と一致するピークのみを示した。
図18】アセトニトリル中で60℃にて、アセトニトリル中で室温にて、メタノール中で60℃にて、メタノール中で室温にて、酢酸エチル中で60℃にて、及び酢酸エチル中で室温にて撹拌した固体試料から取得されたXRPDパターンを重ね合わせたものである。下部のトレースは、式(I)の化合物の第1及び第2の結晶形である(それぞれ、黒のトレース及び赤紫のトレース)。
図19】メタノール/水中で14日間撹拌した固体のXRPDパターンを重ね合わせたものである(緑のトレース:メタノール/水(室温)からの固体、青のトレース:メタノール/水(60℃)からの固体、黒のトレース:式(I)の化合物の第1の結晶形、赤紫のトレース:式(I)の化合物の第2の結晶形)。これらの試料は、第2の結晶形の大部分に、14.4°2θ及び17.4°2θにおいて見られる第1の結晶形に特徴的な反射があることを示した。
図20】式(I)の化合物の第1及び第2の結晶形のDSCトレース(それぞれ、黒のトレース及び赤紫のトレース)を、メタノール/水中で室温及び60℃にて撹拌した試料のDSCトレース(それぞれ、青のトレース及び緑のトレース)と重ね合わせたものである。
図21】アセトニトリル/水中で7日間撹拌した固体のXRPDパターンを重ね合わせたものである(緑のトレース:アセトニトリル/水(60℃)からの固体、青のトレース:アセトニトリル/水(室温)からの固体、黒のトレース:式(I)の化合物の第1の結晶形、赤紫のトレース:式(I)の化合物の第2の結晶形)。
図22】式(I)の化合物の第1及び第2の結晶形のDSCトレース(それぞれ、黒のトレース及び赤紫のトレース)を、アセトニトリル/水中で室温及び60℃にて撹拌した試料のDSCトレース(それぞれ、青のトレース及び緑のトレース)と重ね合わせたものである。
図23】式(I)の化合物の第2の結晶形のXRPDパターン(黒のトレース)、硫酸マグネシウムのXRPDパターン(赤紫のトレース)、及び式(I)の化合物の硫酸マグネシウム塩のXRPDパターン(青のトレース)を重ね合わせたものである。
図24】式(I)の化合物の第2の結晶形のH NMRスペクトル(青のトレース)及び式(I)の化合物の硫酸マグネシウム塩のH NMRスペクトル(赤紫のトレース)を重ね合わせたものである。
図25】式(I)の化合物のHPLCトレース(上トレース)及び硫酸マグネシウム塩のHPLCトレース(下トレース)を重ね合わせたものである。
図26】式(I)の化合物の硫酸マグネシウム塩のTGトレース及びDSCトレースを示すプロットである。TGトレースは、11%(w/w)の低温での顕著な重量減少、及びDSCトレースにおける対応する低温での吸熱を示し、溶媒蒸発を示唆している。融解の吸熱が115℃で観察され、その後、165℃から分解した。
図27】水酸化ナトリウムと反応させた固体試料から取得されたXPRDパターン(青のトレース)及び水酸化カリウムと反応させた固体試料から取得されたXPRDパターン(緑のトレース)を重ね合わせたものである(黒のトレースは式(I)の化合物の第2の結晶形であり、赤紫のトレースは水酸化ナトリウムである)。青のトレース及び緑のトレースにおける新たなピークは新たな結晶構造を表すが、H NMR分光法を介して分子分解が見られた。
図28】式(I)の化合物の第2の結晶形のH NMRスペクトル(青のトレース)を、式(I)の化合物を水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムと合わせる際に形成された物質のH NMRスペクトル(赤紫のトレース及び緑のトレース)と重ね合わせたものである。
図29】式(I)の化合物のHPLCクロマトグラム(下トレース)を、式(I)の化合物を水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムと合わせる際に形成された物質のHPLCクロマトグラム(中央トレース及び上トレース)と重ね合わせたものである。水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムのトレースの14.7分における新たなピークは分解産物を表す。
図30】式(I)の化合物の第2の結晶形の、XPRDパターン(黒のトレース)、セリンのXPRDパターン(赤紫のトレース)、式(I)の化合物とセリンを含むイソプロパノールの蒸発によって形成された物質のXPRDパターン(青のトレース)、及び式(I)の化合物とセリンを含むメチルtert-ブチルエーテルの蒸発によって形成された物質のXPRDパターン(緑のトレース)を重ね合わせたものである。緑のトレース及び青のトレースは、低強度においてそれまでには観察されなかった反射を示し、新たな結晶形の形成の初期段階を示唆している。
図31】メチルtert-ブチルエーテルの蒸発によって形成された物質を含むセリンのDSCトレース(下トレース)を、式(I)の化合物とセリンのDSCトレース(上トレース)と比較する重ね合わせである。217℃での吸熱はセリンの融解温度と一致し、227℃での吸熱は、第2の構造の存在を示す可能性がある。
図32】HCl含有酢酸エチルから取得されたXRPDパターン(青のトレース)、硫酸マグネシウム含有トルエンからのXRPDパターン(緑のトレース)、及びリジン含有キシレンからのXRPDパターン(紫色のトレース)を重ね合わせたものである。黒のトレース及び赤のトレースはそれぞれ、式(I)の化合物の第2の結晶形の参照及びリジンの参照である。XRPD分析では、HCl物質が非晶質であること、硫酸マグネシウム物質が、式(I)の化合物の第2の結晶形に特徴的な反射のみを示すこと、及びリジン物質はリジンの反射を示すことが示された。
図33】酢酸エチル中で形成された塩酸塩のXRPDパターン(黒のトレース)、イソプロパノールのXRPDパターン(赤のトレース)、及び酢酸イソプロピルのXRPDパターン(青のトレース)を重ね合わせたものである。
図34】式(I)の化合物のH NMRスペクトル(青のトレース)を、式(I)の化合物の塩酸塩のH NMRスペクトル(赤紫のトレース)と重ね合わせたものである。
図35】酢酸エチル中で形成された式(I)の化合物の塩酸塩のTGA及びDSCのプロットである。酢酸エチル中で形成された試料は、おおよそ150℃において3.7%(w/w)の重量減少、及び195℃からは分子分解が生じ、235℃で開始することを示した。融解の吸熱が182℃で観察され(163.2℃で開始)、その後、分解が観察された。
図36A】式(I)の化合物の塩酸塩のDVSサイクルを示すプロットである。DVS分析により、80%RHへの曝露時に3.6%(w/w)の重量増加が示されたことから、物質は吸湿性として分類され、95%RHへの曝露時、重量増加が合計で25.2%(w/w)であることが示された。
図36B】式(I)の化合物の塩酸塩のDVS動力学的プロットである。
図37】酢酸イソプロピル中で形成された式(I)の化合物の様々な塩のH NMRスペクトルを重ね合わせたものである(トレースは上から順に、エタンジスルホン酸塩、トシル酸塩、ベシル酸塩、及び式(I)の化合物)。
【発明を実施するための形態】
【0075】
一般に、本発明は、式(I):
【化4】

の化合物の結晶形を提供する。
【0076】
特に、本発明は、式(I)の化合物の2つの結晶形、すなわち、第1の結晶形及び第2の結晶形を提供する。
【0077】
方法
本明細書に記載される結晶形(例えば、式(I)の化合物の第1または第2の結晶形)は本発明の方法に有用であり、理論に拘束されるものではないが、それらが、BAF複合体のレベル、状態、及び/または活性を調節する能力、すなわち、哺乳類においてBAF複合体内のBRG1及び/またはBRMタンパク質の活性を阻害することによる能力を発揮すると考えられる。BAF複合体関連障害としては、BRG1機能喪失型変異関連障害が挙げられるが、これらに限定されない。
【0078】
本発明の一態様は、がん(例えば、非小細胞肺癌、大腸癌、膀胱癌、原発不明のがん、神経膠腫、乳癌、黒色腫、非黒色腫皮膚癌、子宮内膜癌、または陰茎癌)等のBRG1機能喪失型変異に関連する障害の治療を、それを必要とする対象において行う方法に関する。いくつかの実施形態では、本発明は、黒色腫(例えば、ぶどう膜黒色腫)、前立腺癌、乳癌、骨癌、腎細胞癌、または血液癌を治療する方法に関する。
【0079】
いくつかの実施形態では、化合物は、以下のうちの1つ以上(例えば、2つ以上、3つ以上、4つ以上)をもたらすのに有効な量及び時間で投与される:(a)腫瘍サイズの縮小、(b)腫瘍増殖速度の低下、(c)腫瘍細胞死の増加、(d)腫瘍進行の減少、(e)転移数の減少、(f)転移速度の低下、(g)腫瘍再発の減少、(h)対象の生存期間の延長、(i)対象の無増悪生存期間の延長。
【0080】
がんを治療することにより、腫瘍のサイズまたは体積の縮小がもたらされ得る。例えば、治療後、腫瘍サイズは、治療前のそのサイズと比べて5%以上(例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、またはそれ以上)縮小される。腫瘍のサイズは、再現性のある任意の測定手段により測定され得る。例えば、腫瘍のサイズは、腫瘍の直径として測定され得る。
【0081】
がんを治療することにより、腫瘍数の減少がさらにもたらされ得る。例えば、治療後、腫瘍数は、治療前の数と比べて5%以上(例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、またはそれ以上)減少する。腫瘍数は、再現性のある任意の測定手段により測定され得、例えば、腫瘍数は、肉眼かまたは特定の倍率(例えば、2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、または50倍)で見える腫瘍を数えることによって測定され得る。
【0082】
がんを治療することにより、原発腫瘍部位から離れた他の組織または臓器における転移性結節の数の減少がもたらされ得る。例えば、治療後、転移性結節の数は、治療前の数と比べて5%以上(例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%以上)減少する。転移性結節の数は、再現性のある任意の測定手段により測定され得る。例えば、転移性結節の数は、肉眼かまたは特定の倍率で(例えば、2倍、10倍、または50倍)で見える転移性結節を数えることによって測定され得る。
【0083】
がんを治療することにより、未治療対象の集団と比較して、本発明に従って治療された対象の集団の平均生存期間の延長がもたらされ得る。例えば、平均生存期間が、30日超(60日、90日、または120日超)延長される。集団の平均生存期間の延長は、再現性のある任意の手段によって測定され得る。集団の平均生存期間の延長は、例えば、本発明の化合物による治療開始後の平均生存期間を、ある集団について計算することによって測定され得る。集団の平均生存期間の延長はまた、例えば、本発明の薬学的に許容される塩による1回目の治療完了後の平均生存期間を、ある集団について計算することによっても測定され得る。
【0084】
がんを治療することにより、未治療集団と比較して、治療された対象の集団の死亡率の低下ももたらされ得る。例えば、死亡率は、2%超(例えば、5%、10%、または25%超)低下する。治療された対象の集団の死亡率の低下は、再現性のある任意の手段によって、例えば、本発明の薬学的に許容される塩による治療開始後の単位時間あたりの疾患関連死の平均数を、ある集団について計算することによって測定され得る。集団の死亡率の低下はまた、例えば、本発明の薬学的に許容される塩による1回目の治療の完了後の単位時間あたりの疾患関連死の平均数を、ある集団について計算することによっても測定され得る。
【0085】
本発明により治療され得る例示的ながんとしては、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、大腸癌、膀胱癌、神経膠腫、乳癌、黒色腫、非黒色腫皮膚癌、子宮内膜癌、胃食道癌、膵癌、肝胆道癌、軟部組織肉腫、卵巣癌、頭頸部癌、腎細胞癌、骨癌、非ホジキンリンパ腫、前立腺癌、胎児性腫瘍、胚細胞性腫瘍、子宮頸癌、甲状腺癌、唾液腺癌、消化管神経内分泌腫瘍、子宮肉腫、消化管間質腫瘍、CNS癌、胸腺腫瘍、副腎皮質癌、虫垂癌、小腸癌、血液癌、及び陰茎癌が挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
併用製剤及びその使用
本発明の化合物を、1つ以上の治療剤と組み合わせることができる。特に、治療剤は、本明細書に記載の任意のがんを治療するかまたは予防的に治療するものであり得る。
【0087】
併用療法
本発明の化合物は、単独使用あるいは追加の治療剤、例えば、がんもしくはそれに関連する症状を治療する他の薬剤との併用、またはがんを治療するための他の種類の治療との併用が可能である。併用治療では、治療用化合物のうちの1つ以上の投与量は、単独投与される場合の標準投与量より減量され得る。例えば、用量は、薬物の組み合わせ及び順列から経験的に決定される場合もあれば、アイソボログラム解析により推測される場合もある(例えば、Black et al.,Neurology 65:S3-S6,2005)。この場合、併用時の化合物の投与量は、治療効果をもたらすものである。
【0088】
いくつかの実施形態では、第2の治療剤は、化学療法剤(例えば、がんの治療に有用な細胞毒性薬剤または他の化学物質)である。これらとしては、アルキル化剤、代謝拮抗剤、葉酸類似体、ピリミジン類似体、プリン類似体及び関連阻害剤、ビンカアルカロイド、エピポドフィロトキシン、抗生物質、L-アスパラギナーゼ、トポイソメラーゼ阻害剤、インターフェロン、白金配位錯体、アントラセンジオン置換尿素、メチル・ヒドラジン誘導体、副腎皮質抑制剤、副腎皮質ステロイド、プロゲスチン、エストロゲン、抗エストロゲン薬、アンドロゲン、抗アンドロゲン薬、及びゴナドトロピン放出ホルモン類似体が挙げられる。また、5-フルオロウラシル(5-FU)、ロイコボリン(LV)、イリノテカン、オキサリプラチン、カペシタビン、パクリタキセル及びドセタキセルも含まれる。化学療法剤の非限定的な例としては、チオテパ及びシクロホスファミド等のアルキル化剤;ブスルファン、インプロスルファン及びピポスルファン等のアルキルスルホン酸;ベンゾドーパ、カルボコン、メツレドーパ、及びウレドーパ等のアジリジン;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド及びトリメチローロメラミンが含まれる、エチレンイミン及びメチラメラミン;アセトゲニン(特に、ブラタシン及びブラタシノン);カンプトテシン(合成類似体トポテカンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン;CC-1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン及びビゼレシン合成類似体を含む);クリプトフィシン(特に、クリプトフィシン1及びクリプトフィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(合成類似体のKW-2189及びCB1-TM1を含む);エロイテロビン;パンクラチスタチン;サルコジクチイン;スポンジスタチン;クロラムブシル、クロルナファジン、コロホスファミド、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシドヒドロクロリド、メルファラン、ノブエンビキン、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタード等のナイトロジェンマスタード;カルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、及びラニムスチン等のニトロソウレア;エンジイン抗生物質(例えば、カリケアマイシン、特に、カリケアマイシンガンマ1I及びカリケアマイシンオメガ1I等の抗生物質(例えば、Agnew,Chem.Intl.Ed Engl.33:183-186(1994)を参照のこと);ジネミシンA等のジネミシン;クロドロナート等のビスホスホナート;エスペラマイシン;ならびにネオカルジノスタチンクロモホア及び関連色素タンパク質エンジイン抗生物質発色団)、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、オースラマイシン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン、カミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシニス(chromomycinis)、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、Adriamycin(登録商標)(モルホリノドキソルビシン、シアノモルホリノドキソルビシン、2-ピロリノドキソルビシン及びデオキシドキソルビシン等のドキソルビシン)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシンC等のマイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン、ピューロマイシン、ケラマイシン、ロドルビシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン;メソトレキセート及び5-フルオロウラシル(5-FU)等の代謝拮抗薬;デノプテリン、メソトレキセート、プテロプテリン、トリメトレキサート等の葉酸類似体;フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン等のプリン類似体;アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン等のピリミジン類似体;カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン等のアンドロゲン;アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン等の抗副腎剤;フロリン酸等の葉酸補充剤;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトラキサート(edatraxate);デフォファミン(defofamine);デメコルチン;ジアジコン;エルホミチン(elfomithine);エリプチニウムアセタート;エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシウレア;レンチナン;ロニダイニン(lonidainine);メイタンシン及びアンサミトシン等のマイタンシノイド;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダンモール(mopidanmol);ニトラエリン(nitraerine);ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ロソキサントロン;ポドフィリン酸;2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標)多糖類複合体(JHS Natural Products,Eugene,Oreg.);ラゾキサン;リゾキシン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジコン;2,2’,2’’-トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン(特に、T-2トキシン、ベラクリン(verracurin)A、ロリジンA及びアングイジン);ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキソイド、例えば、Taxol(登録商標)パクリタキセル(Bristol-Myers Squibb Oncology,Princeton,N.J.)、ABraxane(登録商標)、(パクリタキセルのクレモフォール不含アルブミン操作ナノ粒子製剤(American Pharmaceutical Partners,Schaumberg,Ill.))、及びTaxotere(登録商標)ドセタキセル(Rhone-Poulenc Rorer,Antony,France);クロランブシル(chloranbucil);Gemzar(登録商標)(ゲムシタビン);6-チオグアニン;メルカプトプリン;メソトレキセート;シスプラチン、オキサリプラチン及びカルボプラチン等の白金配位錯体;ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP-16);イホスファミド;ミトキサントロン;ビンクリスチン;Navelbine(登録商標)(ビノレルビン);ノバントロン;テニポシド;エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロン酸;イリノテカン(例えば、CPT-11);トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイン酸等のレチノイド;カペシタビン;ならびに上記のうちのいずれかの薬学的に許容される塩、酸、または誘導体が挙げられる。2つ以上の化学療法剤を、本明細書に記載の第1の治療剤と併用投与されるカクテルにして使用することができる。併用化学療法の好適な投与レジメンは当該技術分野で公知であり、例えば、Saltz et al.(1999)Proc ASCO 18:233a及びDouillard et al.(2000)Lancet 355:1041-7に記載されている。
【0089】
いくつかの実施形態では、第2の治療剤は、がん治療に使用されるサイトカイン(例えば、インターフェロンまたはインターロイキン(例えば、IL-2))等の生物学的製剤である治療剤である。いくつかの実施形態では、生物学的製剤は、抗VEGF剤、例えば、ベバシズマブ(Avastin(登録商標))等の抗血管新生薬である。いくつかの実施形態では、生物学的製剤は、免疫グロブリンを用いる生物学的製剤、例えば、標的を刺激して抗がん応答を刺激するか、またはがんにとって重要な抗原に拮抗する、モノクローナル抗体(例えば、ヒト化抗体、完全ヒト抗体、Fc融合タンパク質またはそれらの機能的断片)である。そのような薬剤としては、リツキサン(リツキシマブ)、ゼナパックス(ダクリズマブ)、シムレクト(バシリキシマブ)、シナジス(パリビズマブ)、レミケード(インフリキシマブ)、ハーセプチン(トラスツズマブ)、マイロターグ(ゲムツズマブオゾガマイシン)、キャンパス(アレムツズマブ)、ゼヴァリン(イブリツモマブチウキセタン)、ヒュミラ(アダリムマブ)、ゾレア(オマリズマブ)、ベキサール(トシツモマブ-I-131)、ラプティバ(エファリズマブ)、アービタックス(セツキシマブ)、アバスチン(ベバシズマブ)、タイサブリ(ナタリズマブ)、アクテムラ(トシリズマブ)、ベクティビックス(パニツムマブ)、ルセンティス(ラニビズマブ)、ソリリス(エクリズマブ)、シムジア(セルトリズマブペゴル)、シンポニー(ゴリムマブ)、イラリス(カナキヌマブ)、ステラーラ(ウステキヌマブ)、アーゼラ(オファツムマブ)、プロリア(デノスマブ)、Numax(モタビズマブ)、ABThrax(ラキシバクマブ)、ベンリスタ(ベリムマブ)、ヤーボイ(イピリムマブ)、アドセトリス(ブレンツキシマブベドチン)、パージェタ(ペルツズマブ)、カドサイラ(トラスツズマブエムタンシン)、及びガザイバ(オビヌツズマブ)が挙げられる。また、抗体薬物複合体も含まれる。
【0090】
第2の薬剤は、薬物以外の治療である治療剤であり得る。例えば、第2の治療剤は、放射線療法、凍結療法、温熱療法及び/または腫瘍組織の外科的切除である。
【0091】
第2の薬剤は、チェックポイント阻害剤であり得る。一実施形態では、チェックポイントの阻害剤は、阻害抗体(例えば、モノクローナル抗体等の単一特異性抗体)である。抗体は、例えば、ヒト化であるかまたは完全ヒト抗体であり得る。いくつかの実施形態では、チェックポイントの阻害剤は、融合タンパク質、例えば、Fc-受容体融合タンパク質である。いくつかの実施形態では、チェックポイントの阻害剤チェックポイントタンパク質と相互作用する、抗体等の薬剤である。いくつかの実施形態では、チェックポイントの阻害剤チェックポイントタンパク質のリガンドと相互作用する、抗体等の薬剤である。いくつかの実施形態では、チェックポイントの阻害剤は、CTLA-4(例えば、イピリムマブ/ヤーボイまたはトレメリムマブ等の抗CTLA4抗体)の阻害剤(例えば、阻害抗体または低分子阻害剤)である。いくつかの実施形態では、チェックポイントの阻害剤は、PD-1(例えば、ニボルマブ/Opdivo(登録商標)、ペムブロリズマブ/Keytruda(登録商標)、ピジリズマブ/CT-011)の阻害剤(例えば、阻害抗体または低分子阻害剤)である。いくつかの実施形態では、チェックポイントの阻害剤は、PDL1(例えば、MPDL3280A/RG7446、MEDI4736、MSB0010718C、BMS 936559)の阻害剤(例えば、阻害抗体または低分子阻害剤)である。いくつかの実施形態では、チェックポイントの阻害剤は、PDL2(例えば、AMP 224等のPDL2/Ig融合タンパク質)の阻害剤(例えば、阻害抗体またはFc融合もしくは低分子阻害剤)である。いくつかの実施形態では、チェックポイントの阻害剤は、B7-H3(例えば、MGA271)、B7-H4、BTLA、HVEM、TIM3、GAL9、LAG3、VISTA、KIR、2B4、CD160、CGEN-15049、CHK1、CHK2、A2aR、B-7のファミリーのリガンド、またはそれらの組み合わせの阻害剤(例えば、阻害抗体または低分子阻害剤)である。
【0092】
いくつかの実施形態では、本発明の化合物は、ぶどう膜黒色腫の治療に使用される別の抗がん療法、例えば、外科手術、MEK阻害剤、及び/またはPKC阻害剤、あるいはそれらの組み合わせ、と併用される。例えば、いくつかの実施形態では、方法はさらに、本発明の化合物の投与の前、後、またはそれと同時に手術を実施することを含む。いくつかの実施形態では、方法はさらに、本発明の化合物の投与の前、後、またはそれと同時の、MEK阻害剤(例えば、セルメチニブ、ビニメチニブ、またはタメチニブ)及び/またはPKC阻害剤(例えば、ソトラスタウリンもしくはIDE196)の投与を含む。本明細書に記載の併用実施形態のいずれかでは、第1の治療剤及び第2の治療剤は、同時または順次に、いずれかの順序で投与される。第1の治療剤は、第2の治療剤の前後に、直前もしくは直後、最長1時間まで、最長2時間まで、最長3時間まで、最長4時間まで、最長5時間まで、最長6時間まで、最長7時間まで、最長8時間まで、最長9時間まで、最長10時間まで、最長11時間まで、最長12時間まで、最長13時間まで、14時間、最長16時間まで、最長17時間まで、最長18時間、最長19時間まで、最長20時間まで、最長21時間まで、最長22時間まで、最長23時間まで、最長24時間まで、または最長1~7日、1~14日、1~21日もしくは1~30日までに投与され得る。
【0093】
医薬組成物
本明細書に記載される結晶形(例えば、式(I)の化合物の結晶形)は、インビボでの投与に好適な生物学的に適合性のある形態で、ヒト対象への投与のための医薬組成物に製剤化され得る。医薬組成物には、典型的には、本明細書に記載の活性薬剤及び生理学的に許容される賦形剤(例えば、薬学的に許容される賦形剤)が含まれる。式(I)の化合物の製剤原則はWO2020/160180に記載されており、その開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。本明細書に記載される結晶形は、固形医薬組成物、例えば、固形製剤(例えば、錠剤、粉末、薬用ドロップ、小袋、カシェ、ならびに軟ゼラチンカプセル及び硬ゼラチンカプセル)に特に有益である。
【0094】
本発明の式(I)の化合物は、例えば、経口、非経口、頬側、舌下、経鼻、直腸、パッチ、ポンプ、または経皮による投与によって投与され得、医薬組成物はそれに従って製剤化され得る。非経口投与には、静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、経上皮、経鼻、肺内、髄腔内、直腸、及び局所による投与様式が含まれる。非経口投与は、選択された期間にわたる持続注入によるものであり得る。好ましくは、式(I)の化合物の結晶形は、経口投与される。
【0095】
好適な医薬担体、ならびに医薬製剤に使用するための製剤素材(pharmaceutical necessities)は、本分野で周知の参考テキストであるRemington:The Science and Practice of Pharmacy,21st Ed.,Gennaro,Ed.,Lippencott Williams & Wilkins(2005)、及びUSP/NF(米国薬局方及び国民医薬品集(National Formulary))に記載されている。
【0096】
単位剤形
本明細書に記載される結晶形(例えば、式(I)の化合物の第2の結晶形)は、経口投与のための単位剤形(例えば、カプセル)に製剤化され得る。式(I)の化合物の結晶形(例えば、式(I)の化合物の第2の結晶形)は、経口投与用に異なるカプセル強度(例えば、1~2.5mg、2.5~5mg、5~10mg、10~15mg、15~20mg、20~25mg、または50~100mg)で供給され得る。いくつかの例では、式(I)の化合物の結晶形は、経口投与用に2.5mgまたは20mgのカプセル強度で供給される。
【0097】
単位剤形は、医薬組成物の項に記載のような好適な医薬担体及び賦形剤を含有し得る。賦形剤としては、例えば、抗接着剤、抗酸化剤、結合剤、コーティング剤、圧縮補助剤、崩壊剤、色素(着色料)、皮膚軟化剤、乳化剤、増量剤(希釈剤)、膜形成剤またはコーティング剤、香味料、着香剤、滑剤(流動促進剤)、滑沢剤、保存剤、印刷インク、吸着剤、懸濁剤または分散剤、甘味料、及び水和用の水が挙げられ得る。単位剤形は、増量剤、崩壊剤、湿潤剤、滑剤、滑沢剤、及びカプセルシェルのうちの1つ以上を含有し得る。
【0098】
いくつかの例では、増量剤は、単位剤形の70~90%(w/w)であり得る。増量剤は、微結晶性セルロース、マンニトール、またはそれらの組み合わせであり得る。
【0099】
いくつかの例では、崩壊剤は、単位剤形の4~6%(w/w)であり得る。崩壊剤は、クロスカルメロースナトリウムであり得る。
【0100】
いくつかの例では、湿潤剤は、単位剤形の0.5~1.5%(w/w)であり得る。湿潤剤は、ラウリル硫酸ナトリウムであり得る。
【0101】
いくつかの例では、滑剤は、単位剤形の1.5~2.5%(w/w)であり得る。滑剤は、コロイド状二酸化ケイ素であり得る。
【0102】
いくつかの例では、滑沢剤は、単位剤形の0.4~0.6%(w/w)であり得る。滑沢剤は、ステアリン酸マグネシウムであり得る。
【0103】
いくつかの例では、カプセルシェルはポリマーシェルで作られている。ポリマーシェルは、ヒプロメロース及び二酸化チタンから作られ得る。
【0104】
本明細書に記載される結晶形(例えば、式(I)の化合物の第2の結晶形)は、表1に記載のような経口投与のための単位剤形(例えば、カプセル)に製剤化され得る。
【表1】
【0105】
スウェディッシュオレンジのヒプロメロースカプセルシェルの組成を表2に記載する。
【表2】
【0106】
青緑色ヒプロメロースカプセルシェルの組成を表3に記載する。
【表3】
【実施例
【0107】
実施例の項全体を通して以下の略語が使用される。
2-MeTHF 2-Methyl tetrahydrofuran
(2-メチルテトラヒドロフラン)
BSA Benzenesulfonic acid
(ベンゼンスルホン酸)
EtOAc Ethyl acetate(酢酸エチル)
EtOH Ethanol(エタノール)
iPrOAc Isopropyl acetate(酢酸イソプロピル)
iPrOH Isopropanol(イソプロパノール)
KOH Potassium hydroxide
(水酸化カリウム)
MeCN Acetonitrile(アセトニトリル)
MEK Methyl ethyl ketone
(メチルエチルケトン)
MeOH Methanol(メタノール)
MgSO Magnesium sulfate(硫酸マグネシウム)
MTBE Methyl tert-butyl ether
(メチルtert-ブチルエーテル)
NaOH Sodium hydroxide(水酸化ナトリウム)
THF Tetrahydrofuran(テトラヒドロフラン)
TSA p-Toluenesulfonic acid
(p-トルエンスルホン酸)
【0108】
実施例1.
式(I)の化合物の結晶形の調製
式(I)の化合物の調製はWO2020/160180に記載されており、その開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0109】
式(I)の化合物の第1の結晶形。
オーバーヘッド撹拌を備えたリアクターに、式(I)の化合物(250.0g)及びアセトニトリル(1250mL)を投入した。内容物を、すべての固体が溶解するまで22℃で5分間撹拌した。その後、精製水(125mL)及び種晶(50mg)を投入し、混合物を10分間撹拌した。その後、精製水(125mL)及び種晶(50mg)を投入し、混合物を30分間撹拌した。その後、精製水(250mL)及び種晶(100mg)を投入し、混合物を1時間撹拌した。精製水(875L)を以後21時間かけて間欠的に投入し、反応物を9℃に徐冷した。スラリーを濾過し、精製水(500mL)で洗浄した。湿った固体を真空下で40℃にて19時間窒素パージしながら乾燥させた。生成物をベージュの固体(180.3g)として得た。乾燥した式(I)の化合物(180.3g)を、オーバーヘッド撹拌を備えた5Lのジャケット付きリアクターに投入し、MTBE(901mL)を加えた。スラリーを7℃で1時間撹拌した。スラリーを濾過し、MTBE(200mL、7℃)で洗浄した。湿った固体を真空下で40℃にて24時間窒素パージしながら乾燥させた。純粋な式(I)の化合物がオフホワイトの粉末(161.2g)として得られ、XRPDディフラクトグラムは式(I)の化合物の第1の結晶形と一致していた。
【0110】
式(I)の化合物の第2の結晶形。
オーバーヘッド撹拌を備えた5Lのジャケット付きリアクターに、式(I)の化合物(349.1g)及びアセトニトリル(2250mL、式(I)の化合物の重量に対し6.5の体積)を投入した。内容物を75℃に加熱し、15分間熟成させてすべての固体を溶解させた。茶色の溶液を30分かけて28℃に冷却し、播種し(250mg)、明るい種晶床が得られた。精製水(2.3L)を以後4時間かけて投入した。スラリーを4℃に冷却した。その後、スラリーを14時間撹拌した。スラリーを濾過し、5℃に予冷した、アセトニトリル(250mL)と精製水(500mL)の混合物で洗浄した。湿った固体を真空下で40℃にて30時間窒素パージしながら乾燥させた。生成物をオフホワイトの固体(278.78g)として得た。
【0111】
オーバーヘッド撹拌を備えた5Lのジャケット付きリアクターに、式(I)の化合物(700.8g、前のステップで得られたもの)及びMTBE(3000mL)を投入した。内容物を20℃で15分間撹拌した後、5℃に冷却し、60分間撹拌した。スラリーを濾過し、MTBE(1000mL、5℃に予冷)で洗浄した。湿った固体を真空下で40℃にて18時間窒素パージしながら乾燥させた。純粋な式(I)の化合物がオフホワイトの粉末(691.6g)として得られ、XRPDディフラクトグラムは式(I)の化合物の第2の結晶形と一致していた。
【0112】
実施例2.
式(I)の化合物の結晶形の分析
X線粉末回折。
X線粉末回折パターンを、Bruker D2 Phaser Gen 2でCu Kα照射(30kV、10mA)、θ-θゴニオメーター、発散スリット(0.2mm)及び開口が4.799°のSSD160(1Dモード)検出器を使用して収集した。データ収集に使用されたソフトウェアはDiffrac.Commanderバージョン6.5.0.1であり、データはDiffra.Evaバージョン4.2.1.11を使用して示された。XRPDディフラクトグラムは、毎分回転数が15で回転する平らなゼロバックグラウンドのシリカプレート上での反射を介して周囲条件下で取得された。データ収集範囲は3.0~40.0°2θであり、ステップサイズは0.02025°、及び収集時間は0.25秒/ステップであった。試料を、粉末を平らなゼロバックグラウンドのシリカプレートに載せ、試料表面を平らに確保することによって調製した。
【0113】
式(I)の化合物の第1の結晶形のXRPDピークの一覧は表4に示され、式(I)の化合物の第2の結晶形のXRPDピークの一覧は表5に示されている。
【表4】

【表5-1】

【表5-2】
【0114】
示差走査熱量測定(DSC)及び熱重量分析(TGA)。
DSCデータをTA Instruments Q2000 DSCで収集した。事前に規定された量の試料(2.0~10.0mg)をアルミニウム製のパンに入れ、5℃/分で25℃から220℃まで加熱した。100mL/分の乾燥窒素パージを試料に対して維持した。装置制御及びデータ取得は、Q Advantageソフトウェアのリリースバージョン5.5.23を使用して取得される。データは、TA Universal Analysis 2000ソフトウェアバージョン4.5Aビルド4.5.0.5を使用して処理され、示された。図2Aは、式(I)の化合物の第1の結晶形のDSCトレースを示し、図2Bは、式(I)の化合物の第2の結晶形のDSCトレースを示す。図3は、2つの加熱サイクルを用いて式(I)の化合物の第1の結晶形について実施された変調DSCを示す。
【0115】
TGAデータをTA Instruments Q5000 TGAで収集した。事前に規定された量の試料(2.0~10.0mg)をアルミニウム製のパンに入れ、10℃/分で40℃から300℃まで加熱するか、または実験による決定に従って変更した。25mL/分の乾燥窒素パージを試料に対して維持した。装置制御及びデータ取得は、Q Advantageソフトウェアのリリースバージョン5.5.23を使用して取得される。データは、TA Universal Analysis 2000ソフトウェアバージョン4.5Aビルド4.5.0.5を使用して処理され、示された。図2Aは、式(I)の化合物の第1の結晶形のTGAトレースを示し、図2Bは、式(I)の化合物の第2の結晶形のTGAトレースを示す。
【0116】
式(I)の化合物の第1の結晶形。
TGA分析及びDSC分析では、試料中の自由水の減少による、0.3%(w/w)の低温での重量減少、及び220℃からは分子分解が生じ、254.3℃で開始することが示された(図2A)。融解の吸熱が180.1℃で観察された(173.5℃で開始)。2つの加熱サイクルを用いて実施された変調DSCでは、第2サイクル時に108.1℃~116.3℃のガラス転移温度が示され、このことは、これらの測定条件下で、第1の加熱サイクル時の融解後に物質が非晶質のままであることを示している(図3)。
【0117】
式(I)の化合物の第2の結晶形。
TGA分析及びDSC分析では、低温での重量減少を伴わない240℃での分子分解が示された(図2B)。融解の吸熱が198.8℃で観察され(196.0℃で開始)、0.4%(w/w)の重量減少を伴っており、このことは、融解時にしか放出されない結晶構造中の溶媒封入を示している。2つの加熱サイクルを用いて実施された変調DSCでは、第2サイクル時に108.1℃~116.3℃のガラス転移温度が示され、このことは、これらの測定条件下で、第1の加熱サイクル時の融解後に物質が非晶質のままであることを示している(図3)。
【0118】
動的蒸気吸着(DVS)。
TA Instruments Q5000 SAを使用して動的蒸気吸着(DVS)を行った。事前に規定された量の試料(2.0~10.0mg)を白金製のパンに入れた。試料は、0%RHで50℃にて60分で平衡化された。その後、試料を25℃で平衡化させてから、湿度を1時間ごとに5%ずつ0%RHから95%RHまで上昇させた。脱着サイクルにも同様の上昇プロファイルを使用した。XRPD分析は、DVS後の試料でも実施された。
【0119】
式(I)の化合物の第1の結晶形。
DVS分析では、80%RHへの曝露時に1.4%(w/w)の重量増加が示されたことから、物質は、わずかに吸湿性として分類される(図4A)。わずかなヒステレシスが観察されるが、DVS後に試料で実施されたXRPD分析では、高湿度への曝露の結果としての構造変化は生じなかったことが示された。
【0120】
式(I)の化合物の第2の結晶形。
DVS分析では、最大80%RH水への曝露時に0.04%(w/w)の増加が示され、物質が非吸湿性であることを示している(図4B)。DVS後に試料で実施されたXRPD分析では、高湿度への曝露の結果としての構造変化は生じなかったことが示された。
【0121】
核磁気共鳴法(NMR)。
試料を、0.6mL体積の重水素化DMSO-d6中におおよそ10mg/mLで溶解させてH NMRを実施し、0.00ppmのTMSを参照にしてから下表6に示すパラメータを使用してBruker 400MHz NMR分光計により分析した。試料を、Top Spinソフトウェアを使用して分析した。
【表6】

図10は、式(I)の化合物の第2の結晶形のH NMRスペクトルを示す。
【0122】
偏光顕微鏡法(PLM)。
2X、4X、10X、25X、及び40Xの対物レンズを装備したNikon Eclipse E400光学顕微鏡を使用して光学顕微鏡法を実施した。顕微鏡をQImagingデジタルカメラと連結させる。カメラは、専用のQCapture Pro 7ソフトウェアにより制御される。カメラのソフトウェアの測定ツールは、キャリブレーションスライド(Pyser-SGI S8 ミクロメータースケール 1mm/0.01mm)を使用して較正される。試料は、鉱油の付いた顕微鏡のスライドガラス上に粉末を配するか、または顕微鏡のスライドガラス上に直接、懸濁液を一滴たらすかのいずれかにより調製された。その後、カバーガラスを上に載せた。図1Aは、式(I)の化合物の第1の結晶形の顕微鏡画像を示し、図1Bは、式(I)の化合物の第2の結晶形の顕微鏡画像を示す。
【0123】
式(I)の化合物の第1の結晶形。
光学顕微鏡では、物質は大部分が、長さが20μm未満の微粒子からなることが示された(図1A)。
【0124】
式(I)の化合物の第2の結晶形。
光学顕微鏡では、物質は大部分が、長さが最大で250μmの柱状結晶からなることが示された(図1B)。
【0125】
実施例3.
スラリー変換を介した安定形態のスクリーニング
単一溶媒スラリースクリーニング。
式(I)の化合物の第2の結晶形を、単一溶媒系中でより熱力学的に安定な形態へ相変態させるために、単一溶媒スラリースクリーニングを行った(表7)。飽和溶液は、追加の結晶化合物(例えば、式(I)の化合物の第2の結晶形)を、固体状態分析を実施するのに十分な試料が生じる量で用いて調製された。マグネチックスターラーをバイアルに加え、懸濁液は、室温で4日間撹拌された。生成された固体試料をXRPDにより分析し、結晶性及び結晶構造を評価した。
【表7】
【0126】
式(I)の化合物の第2の結晶形は、THF中では溶解性が極めて高いためにスラリー状になることができず、APIは溶解した。スクリーニングを行った他のすべての溶媒のスラリーから固体試料が得られた。XRPD分析では、各固体試料が同じ回折パターンを示し、したがって、式(I)の化合物の第2の形態の結晶形と同じ結晶構造であることが示された(図11)。各回折パターンは、7.5°2θ、9.5°2θ、15.0°2θ、及び17.0°2θにおいて反射のある、式(I)の化合物の第2の結晶形の特徴的な反射を示す。
【0127】
温度サイクルによる単一溶媒スラリースクリーニング。
式(I)の化合物の第2の結晶形を、単一溶媒系中でより熱力学的に安定な形態へ相変態させるために、単一溶媒スラリースクリーニングを行った(表8)。飽和溶液は、追加の結晶化合物(例えば、式(I)の化合物の第2の結晶形)を、固体状態分析を実施するのに十分な試料が生じる量で用いて調製された。マグネチックスターラーをバイアルに加え、懸濁液を撹拌しながら50℃及び5℃のサイクルに3回かけた。生成された固体試料をXRPDにより分析し、結晶性及び結晶構造を評価した。式(I)の化合物の第2の結晶形は、THF中では溶解性が極めて高いためにスラリー状になることができず、APIは溶解した。スクリーニングを行った他のすべての溶媒のスラリーから固体試料が得られた。XRPD分析では、各固体試料が同じ回折パターンを示し、したがって、式(I)の化合物の第2の形態の結晶形と同じ結晶構造であることが示された(図12)。各回折パターンは、7.5°2θ、9.5°2θ、15.0°2θ、及び17.0°2θにおいて反射のある、式(I)の化合物の第2の結晶形の特徴的な反射を示すが、2-ブタノール及びキシレンから取得された試料は不十分な結晶性を示した。
【表8】
【0128】
二成分溶媒スラリースクリーニング。
式(I)の化合物の第2の結晶形を、二成分溶媒系中でより熱力学的に安定な形態へ相変態させるために、二成分溶媒スラリースクリーニングを行った(表9)。溶媒の特性、機能性、及び混和性に基づいて溶媒の組み合わせを選択した。飽和溶液は、追加の結晶化合物(例えば、式(I)の化合物の第2の結晶形)を、固体状態分析を実施するのに十分な試料が生じる量で用いて、50/50(v/v)の混合溶媒で調製された。マグネチックスターラーをバイアルに加え、懸濁液は、室温で5日間撹拌された。
【表9】
【0129】
スクリーニングを行ったすべての混合溶媒のスラリーから固体試料が得られたが、例外として、メタノール/THFでは溶解性が高かったために得られなかった。XRPD分析では、各固体試料が同じ回折パターンを示し、したがって、式(I)の化合物の第2の結晶形と同じ結晶構造であることが示された。各回折パターンは、7.5°2θ、9.5°2θ、15.0°2θ、及び17.0°2θにおいて反射のある、式(I)の化合物の第2の結晶形の特徴的な反射を示すが、THF/酢酸エチルから取得された試料は不十分な結晶性を示した。
【0130】
実施例4.
核生成による準安定形のスクリーニング
過剰の式(I)の化合物(例えば、式(I)の化合物の第2の結晶形)を各溶媒中に45℃にて2時間おいてスラリー状にしてから遠心分離により固体と溶液を分離した。溶液を、低温蒸発用、高温蒸発用及び冷却結晶化スクリーニング用の未使用バイアルに移した。
【0131】
低温蒸発スクリーニング。
周囲条件下での低速溶媒蒸発により生じた過飽和の結果として形成し得る結晶構造を単離するために、低温蒸発スクリーニングを行った(表10)。トルエン、キシレン、水、及びn-ヘプタンからは分析に十分な物質は得られなかった。THF及び2-MeTHFの蒸発では油状物が生じ、他のすべての溶媒では式(I)の化合物の第2の結晶形が形成された(図13)。
【表10】
【0132】
高温蒸発スクリーニング。
急速な溶媒蒸発により生じた過飽和の結果として形成し得る準安定相を単離するために、高温蒸発スクリーニングを行った(表11)。全固形物が確実に完全溶解するよう溶液を45℃から50℃に加熱してから、溶媒を50℃で蒸発させた。Crystal Breederを使用してバイアル全体に-0.8barの制御された空気流を発生させた。蒸発が完了したら、XRPDを使用して固体試料を分析し、結晶性及び結晶構造を評価した(図14)。
【表11】
【0133】
式(I)の化合物は、2-MeTHF及びTHFの蒸発後に油相に転移した。エタノール、2-ブタノール、MTBE、キシレン、水、及びn-ヘプタンからは分析に十分な物質は得られなかった。他のすべてのスクリーニング溶媒の蒸発からは固体試料が得られた。XRPD分析では、イソプロパノール、酢酸イソプロピル、及びトルエンの蒸発により生成された物質が式(I)の化合物の第2の結晶形を形成したことが示された。他の固体試料はいずれも非晶質であった。
【0134】
冷却結晶化スクリーニング。
急速な降温により生じた過飽和の結果として形成し得る準安定相を単離するために、冷却結晶化スクリーニングを行った(表12)。すべての固体が確実に完全溶解するよう溶液を50℃に加熱した。その後、バイアルを20℃/分で5℃まで冷却し、低温で一晩維持した。生成されたいずれの固体試料も単離し、XRPDにより分析して結晶性及び結晶構造を評価した。
【表12】
【0135】
メタノール、エタノール、イソプロパノール、MEK、アセトニトリル、及び酢酸エチル中での急速冷却により少量の固体試料が得られた。XRPD分析では、各固体試料が式(I)の化合物の第2の結晶形と一致することが示された(図15)。エタノール及びイソプロパノールからの試料では結晶性が低いように思われたが、これは、試料サイズが小さいことによる可能性がある。スクリーニングを行った他のすべての溶媒では、式(I)の化合物は溶液状態のままであり、このことは、この研究で生成された最大濃度が、5℃において、準安定領域の境界に達しないことを示している。
【0136】
水和物スクリーニング。
溶媒/水の混合物中で式(I)の化合物から形成され得る溶媒和構造または水和構造を観察するために、水和物スクリーニングを行った(表13)。溶媒を水との混和性に基づいて選択した。おおよそ50mgの式(I)の化合物の第2の結晶形に対し、固体が必要最小限の溶媒に溶解するまで0.5mLのアリコートの溶媒を加えた。1mLのアリコートの水を、曇り点が観察されるまで加えるか、または添加が20mLになるまで加えた。バイアルを50℃に加熱し、室温に冷ました。室温で2日間撹拌した後、特徴付けに利用可能な物質を増やすために溶媒を蒸発させた。十分な結晶が形成された時点で、初期XRPD分析用に試料を取り除いた。さらなる特徴付けのためのより大きい試料が生成するよう、残存溶媒を乾燥するまで蒸発させ、すでに存在する結晶を種晶として作用させた。
【表13】
【0137】
乾燥から生じるいかなる変化も確実に観察されるよう、湿潤試料で初期分析を実施した。XRPDにより、THF/水から得られた試料が非晶質であること、及び他のすべての試料が式(I)の化合物の第2の結晶形を有することが示された(図16)。しかしながら、メタノール/水から得られた試料では、11.5°2θ(式(I)の化合物の第1の結晶形に対応し得る)及び7°2θ(割り当てのなかった角度)において、追加の反射を示す。乾燥試料でのXRPD分析では、残っている式(I)の化合物の第2の結晶形のみが示された(図17)。
【0138】
実施例5.
競合懸濁液平衡試験
水性溶媒系及び有機溶媒系における式(I)の化合物の2つの結晶形の相対安定性を確認するために、競合懸濁液平衡試験を行った。室温及び60℃の、酢酸エチル、50%のメタノール/水(v/v)及び50%のアセトニトリル/水(v/v)で、競合懸濁液平衡実験を行った。式(I)の化合物の第2の結晶形を各溶媒に加えて飽和溶液を作製した。式(I)の化合物のさらなる結晶形(例えば、式(I)の化合物の第1及び第2の結晶形)を、転移物質用、及び種晶として作用させるために加えた。各懸濁液は7日間または14日間撹拌され、XRPDにより分析してどちらの形態に固体が転移したかを決定した。表14は、競合懸濁液平衡条件をまとめたものである。
【表14】
【0139】
XRPD分析では、式(I)の化合物が、両方の結晶形を酢酸エチル、メタノール、及びアセトニトリル中で室温及び60℃にて撹拌している7日以内に第2の結晶形に完全に転移したことが示された(図18)。しかしながら、水性溶媒中での撹拌では、どちらかの結晶形からもう一方の結晶形への転移は生じなかった。メタノール/水中で14日間撹拌された固体のXRPD分析では、第2の結晶形の大部分に、14.4°2θ及び17.4°2θにおいて見られる第1の結晶形に特徴的な反射があることが示された(図19)。この分析からは第2の結晶形が主要形態であるように思われるが、これは、インプット物質における第2の結晶形の割合が大きいことによる可能性がある。DSC分析では、第1及び第2の結晶形の混合も示されたが、競合構造という不純物の存在のために、各形態の融点のシフトがある(図20)。同様に、アセトニトリル/水中で7日間撹拌された固体のXRPD分析では、式(I)の化合物の第2の結晶形が、式(I)の化合物の第1の結晶形に対応する14.4°2θで及び17.4°2θにおける追加の反射を伴って示された(図21)。DSC分析では、式(I)の化合物の第1及び第2の結晶形は室温で撹拌した場合には存在するが、60℃で撹拌した場合には第1の結晶形のみが検出されることが示された(図22)。
【0140】
実施例6.
塩及び共結晶によるスクリーニング
精製を目的として、または最終固形物形態の溶解性及び安定性に影響を与えるために使用され得る結晶塩形態及び共結晶形態を同定するために、様々な対イオンを用いて式(I)の化合物の塩スクリーニングを行った。
【0141】
15の対イオンと組み合わせ、16の選択溶媒(表15)に溶解させた式(I)の化合物について、液体添加粉砕法(liquid assisted grinding)、低速蒸発スクリーニング、スラリー化、及び温度サイクルにより、塩及び共結晶の結晶化の可能性を評価した。これにより、結晶塩形態及び共結晶形態の形成及び安定性に影響を与え得る一連の条件を幅広く調査する研究をすることができた。
【表15】
【0142】
液体添加粉砕法スクリーニング。
溶媒-分子間の相互作用の影響を最小限に抑えることによる共結晶の形成を促進するため、液体添加粉砕法により対イオンのスクリーニングを行った。おおよそ50mgの式(I)の化合物の第2の結晶形を、乳鉢及び乳棒で50mgの対イオンと組み合わせた(表15)。2~5滴のメタノールを加え、混合物を2分で粉砕し、その後、XRPDによる分析を行った。必要に応じて粉砕を繰り返した。
【0143】
酸性対イオンとの混合物はいずれも濃厚なゲルを形成し、化合物の1の式の第2の結晶形とそれぞれの酸のインプット成分の混合物が一度固化したことが示された。塩基性対イオンとの混合物は流動性の良い粉末のままであったが、組成は、第2の結晶形及びそれぞれの対イオンのインプット成分から変化していなかった。
【0144】
蒸発によるスクリーニング。
式(I)の化合物の原液(0.1M)をアセトンで作り、150μLを、2枚の96ウェルプレート全体の各ウェルに分注した。各酸の0.1Mの原液をメタノールまたは水で作り、12ウェルずつ等モル比で分注した。溶媒を、窒素が流れるまで蒸発させ、その後、250μLの各結晶化溶媒をAPI/対イオンの混合物に加え、確実に混合されるよう撹拌した。配列は、ウェルプレートの各行が対イオンを表し、各カラムが塩スクリーニングに使用される結晶化溶媒を表すようにした。ウェルを、ピンホールの付いたパラフィルムで覆い、溶媒を室温でゆっくりと蒸発させた。
【0145】
スクリーニングから得られたすべての粉末試料をXRPDにより分析し、結晶塩を同定した。他のすべての試料を最初にPLMにより検討し、そこでは複屈折が観察され、XRPDも実施した。結晶試料をその結晶構造によりグループ分けし、対イオンにより命名した。
【0146】
多くの結晶試料が、式(I)の化合物の第2の結晶形または第2の結晶形とインプット対イオン混合物として同定された。式(I)の化合物をセリン、硫酸マグネシウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムと組み合わせた場合に、新規の反射が観察された(表16)。XRPDにより同定された新規結晶構造をDSCにより分析し、可能な場合はH NMRにより分析した。
【表16】
【0147】
式(I)の化合物の硫酸マグネシウムとの組み合わせによって形成された固体のXRPD分析では、新たな回折パターン、したがって新たな結晶構造が示された(図23)。H NMR分光法及びHPLC分析を介して分子分解は見られなかったことから、共結晶が首尾良く形成されたことが示され、これをMG1として識別した(図24図25)。TG分析及びDSC分析では、11%(w/w)の低温での顕著な重量減少、及び対応する低温での吸熱が示され、溶媒蒸発を示唆している(図26)。融解の吸熱が115℃で観察され、その後、165℃から分解した。
【0148】
式(I)の化合物の、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムとの組み合わせによって形成された固体のXRPD分析では、新たな回折パターン、したがって新たな結晶構造が示された(図27)。しかしながら、分子分解がH NMR分光法を介してベースラインのノイズ上昇に見られ、HPLC分析では、新たな分子の溶出が14.7分において示された(図28図29)。このことは、新たな構造が、塩基性環境における分子分解生成物であることを示唆している。
【0149】
式(I)の化合物の、セリン含有イソプロパノール及びセリン含有MTBEとの組み合わせによって形成された固体のXRPD分析では、低強度においてそれまでには観察されなかった反射が示され、新たな構造の形成の初期段階を示唆している(図30)。DSC分析では、セリンの融解温度に対応する217℃での融解吸熱が示され、その後、第2の構造の存在を示す可能性の高い227℃における第2の融解吸熱が示された(図31)。物質が不十分であったことから特徴付けをそれ以上実施しなかったため、セリンを、式(I)の化合物を含有するイソプロパノール及びMTBEと組み合わせ、20℃及び50℃で温度サイクルをかけ(10サイクル)、新たな構造を再度発生させることを試みた。しかしながら、XRPD分析で、試料がセリンと式(I)の化合物の第2の結晶形の混合物であることが示され、新規の回折パターンの再現は不成功に終わった。
【0150】
非晶質スラリー。
蒸発によるスクリーニングで形成された非晶質試料をバイアルに移し、適切な溶媒を滴加して懸濁液を形成させた。懸濁液は、結晶構造へ転移されるよう室温で2日間撹拌された。その後、分析に十分な物質を抽出するために、溶媒を室温で蒸発させ、存在するいずれかの潜在的結晶がさらなる結晶化の種晶となるようにした。
【0151】
HCl含有酢酸エチル、硫酸マグネシウム含有トルエン、及びリジン含有キシレンを用いて固体試料を得た。XRPD分析では、HCl物質は非晶質であり、硫酸マグネシウム物質は、式(I)の化合物の第2の結晶形に特徴的な反射のみを示し、リジン物質は、リジン反射を示すことが示された(図32)。他のすべてのスラリー状試料は油状物を形成した。
【0152】
トルエン中での温度サイクル。
蒸発によるスクリーニングでは、高いパーセンテージの固体非晶質物質がトルエン中で形成されることが示され、その結果に基づいて、9つの酸を用いて式(I)の化合物の第2の結晶形を懸濁させ、塩結晶化を促進するため5℃及び50℃の温度サイクルをかけた(10サイクル)(表17)。この実験は、酢酸エチルに含有させたHCl、シュウ酸、及びエタンジスルホン酸でも実施された。固体試料をXRPDにより分析したところ、新たな結晶構造は形成されていないことが示された。
【表17】
【0153】
酢酸エチル中での反応性スクリーニング。
式(I)の化合物の第2の結晶形を8つの酸と1:1の当量で組み合わせ、酢酸エチルを溶解するまで、または50mLを最大として加えた。その後、ヘプタンを曇り点が観察されるまで加えた。非晶質物質が最初に生成されたが、バイアル壁面ですばやくゲルに転移した。バイアルは最大10日間、室温で撹拌され、固体試料をXRPDにより分析した。式(I)の化合物をシュウ酸及びマロン酸と組み合わせた際に固体を形成したが、XRPDデータは、単離された固体が、シュウ酸の場合には非晶質であり、マロン酸の場合は式(I)の化合物の第2の結晶形であることを示した。表18は、酸性対イオンを含有する酢酸エチル/ヘプタンとの式(I)の化合物の反応性スクリーニングの結果をまとめたものである。
【表18】
【0154】
反応性スクリーニングからのバイアルに、結晶化を促進するために20℃及び50℃の温度サイクル(10サイクル)をかけた。マロン酸、HCl、及びエタンジスルホン酸との組み合わせにおいて固体物質が観察されたが、XRPD分析では、式(I)の化合物の第2の結晶形または非晶質回折パターンが示された。
【0155】
塩酸塩。
塩酸塩を生じさせるために酢酸エチルでいくつかの実験を行った。
・式(I)の化合物の第2の結晶形をHCl含有酢酸エチルと共に懸濁させ(1:1の当量)、3日間撹拌された。
・式(I)の化合物の第2の結晶形はHCl含有酢酸エチルに完全に溶解し(1:1の当量)、核生成を開始させるため33%のヘプタン貧溶媒を加えた。その後、結晶化を促進するために、バイアルに20℃及び50℃の温度サイクルをかけた(10サイクル)。
・式(I)の化合物の第2の結晶形はHCl含有酢酸エチルに完全に溶解し(1:1の当量)、少量のHCl塩種晶を溶液に加えてからヘプタンを添加した。懸濁液は30℃で3日間撹拌された。
【0156】
XRPD分析では、種晶のない実験で非晶質固体が得られることが示された。しかしながら、種晶のある試料では、塩酸塩(HCl1)に対応する低強度での反射が示された。
【0157】
無水濃縮HClを使用した反応性スクリーニングを酢酸エチル、酢酸イソプロピル及びイソプロパノールにおいて実施した。式(I)の化合物の第2の結晶形を酢酸エチルに懸濁させ、HClを1:1の当量で加えたところ、核生成が急速に開始した。XRPD分析では、3つのすべての溶媒で塩酸塩が首尾よく形成され、酢酸エチルにおける結晶性が最も高いことが示された(図33)。H NMR分析により、分解を伴わない塩形成が確認された(図34)。酢酸エチル中で形成された試料のTGA及びDSCのデータは、酢酸エチル中で形成された試料がおおよそ150℃において3.7%(w/w)の重量減少、及び195℃からは分子分解が生じ、235℃で開始することを示すDSCデータを示した(図35)。融解の吸熱が182℃で観察され(163.2℃で開始)、その後、分解が観察された。DVS分析では、80%RHへの曝露時に3.6%(w/w)の重量増加が示されたことから、物質は吸湿性として分類され、95%RHへの曝露時、重量増加が合計で25.2%(w/w)であることが示された(図36)。データの収集後に、試料が潮解したことが見出された。
【0158】
酢酸イソプロピル中での反応性スクリーニング。
式(I)の化合物の第2の結晶形を5つの酸と1:1の当量で組み合わせ、酢酸イソプロピルを溶解するまで、または60mLを最大として加えた。その後、ヘプタンを曇り点が観察されるまで加えた。XRPD分析では、酢酸イソプロピル中で形成されたすべての固体が非晶質であることが示された。しかしながら、固体に対するH NMR分光法では芳香族基のプロトンに対応する共鳴シフトが示され、分解兆候が示されなかったことから、塩が形成されていたことが示唆された(図37)。TGA分析では、エタンジスルホン酸塩が極めて不安定であり、他の塩では150℃~180℃で分解が生じることを示した。2つの加熱サイクルを用いて実施される変調DSCを塩に対して実施した。第2サイクル時、ベシル酸塩は97.7℃~112.1℃のガラス転移温度を示し、トシル酸塩は、94.7℃~107.2℃のガラス転移温度を示し、このことは、これらの測定条件下では物質が融解後に非晶質のままであることを示している。可能性のあるシュウ酸塩については、DMSOに不溶性であり、そのため塩として確認することができないため、H NMR分析を行わなかった。表19は、酸性対イオン含有酢酸イソプロピル/ヘプタンとの式(I)の化合物の反応性塩スクリーニングをまとめたものである。
【表19】
【0159】
他の実施形態
本発明をその具体的な実施形態と関連させて記載してきたが、本発明はさらなる変更が可能であること、ならびに本出願は、一般に、本発明の原理に従った本発明のいかなる変形、使用、または適応も包含することを意図し、それらには、本開示から発展させたもの、例えば、本発明が属する技術分野の範囲内で既知であるかもしくは慣習的な実施の範囲に入るもの、及び上文に記載の本質的な特徴に該当し得るものが含まれ、かつ、本出願は特許請求の範囲に準拠することが理解される。
【0160】
他の実施形態は、特許請求の範囲に記載されている。
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36A
図36B
図37
【国際調査報告】