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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-29
(54)【発明の名称】電磁波ディレクタ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 3/46 20060101AFI20240221BHJP
   H01Q 1/22 20060101ALI20240221BHJP
   H01Q 15/14 20060101ALI20240221BHJP
   H01Q 15/02 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
H01Q3/46
H01Q1/22 Z
H01Q15/14 Z
H01Q15/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023555325
(86)(22)【出願日】2022-03-08
(85)【翻訳文提出日】2023-10-10
(86)【国際出願番号】 EP2022055946
(87)【国際公開番号】W WO2022189460
(87)【国際公開日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】2103220.6
(32)【優先日】2021-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520503728
【氏名又は名称】メタマテリアル テクノロジーズ カナダ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】パーラ、ラジップ
(72)【発明者】
【氏名】ウォルダーン、ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】カロス、エフティミオス
(72)【発明者】
【氏名】ポポヴィッチ、ミラン モムチロ
(72)【発明者】
【氏名】パリカラス、ジョージ
【テーマコード(参考)】
5J020
5J021
5J047
【Fターム(参考)】
5J020AA02
5J020AA03
5J021AA09
5J021BA02
5J021BA04
5J021HA05
5J047EF01
(57)【要約】
【解決手段】基板上に堆積されたサブ波長サブセルの2次元アレイから形成された回折素子を支持する基板を備え、回折素子は、少なくとも1つの電磁波送信器によって生成された電磁波信号を、送信器の視線外に位置する少なくとも1つのカバレージゾーン内に配置された少なくとも1つの電磁波受信器に向けるように動作可能であり、回折素子は、各サブ波長サブセル上の入射電磁波波面の振幅および位相を修正するためのメタ表面処方を有する、電磁波ディレクタが提供される。また、関連するシステムおよび方法も提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サブ波長サブセルの2次元アレイから形成された回折素子を支持する基板を備えた電磁波ディレクタであって、
前記回折素子は、少なくとも1つの電磁波送信器によって生成された電磁波信号を、前記送信器の視線外に位置する少なくとも1つのカバレージゾーン内に配置された少なくとも1つの電磁波受信器に向けるように動作可能であり、
前記回折素子は、前記各サブ波長サブセル上の入射電磁波波面の振幅および位相を修正するためのメタ表面処方を有することを特徴とする電磁波ディレクタ。
【請求項2】
前記電磁波はミリ波であることを特徴とする請求項1に記載の電磁波ディレクタ。
【請求項3】
サブ波長サブセルの反射アレイを備えることを特徴とする請求項1に記載の電磁波ディレクタ。
【請求項4】
サブ波長サブセルの透過性アレイを備えることを特徴とする請求項1に記載の電磁波ディレクタ。
【請求項5】
前記基板がガラスまたはプラスチックであることを特徴とする請求項1に記載の電磁波ディレクタ。
【請求項6】
前記基板は、前記回折素子と反対側にグランド反射面を有することを特徴とする請求項1に記載の電磁波ディレクタ。
【請求項7】
前記回折素子は、入射電磁波を建物内の受信器に向けて偏向させるように透過用に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電磁波ディレクタ。
【請求項8】
前記回折素子はサブ波長サブセルを有する少なくとも1つの基板層からなり、スペーサの厚さは各層において特定の動作帯域幅で共振するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電磁波ディレクタ。
【請求項9】
建物の壁に取り付けるためのフィルムとして構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電磁波ディレクタ。
【請求項10】
ミリ波ビームのボアサイトベクトルを調整するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電磁波ディレクタ。
【請求項11】
光波帯域での透過とミリ波帯域での反射とを提供するために、窓に取り付けるためのフィルムとして構成されることを特徴とする請求項10に記載の電磁波ディレクタ。
【請求項12】
フェーズドアレイシステムを提供するために送信アンテナのセットと共に構成された電磁波ディレクタのセットの要素であることを特徴とする請求項1に記載の電磁波ディレクタ。
【請求項13】
多入力多出力(MIMO)ビームステアリングアンテナシステムの能動素子であることを特徴とする請求項1に記載の電磁波ディレクタ。
【請求項14】
反射鏡を透過する可視帯域の光を減光するための感光素子および光減衰構造を内蔵することを特徴とする請求項1に記載の電磁波ディレクタ。
【請求項15】
互いの収差を補償可能な複数の反射鏡の要素であることを特徴とする請求項1に記載の電磁波ディレクタ。
【請求項16】
折り畳まれたミリ波通信経路を提供する複数の電磁波ディレクタの要素であることを特徴とする請求項1に記載の電磁波ディレクタ。
【請求項17】
電磁波を複数のカバレージゾーンに反射するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電磁波ディレクタ。
【請求項18】
複数のカバレージゾーンに複数の送信器から受信器への経路を提供するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電磁波ディレクタ。
【請求項19】
周波数ダイバーシティ、角度ダイバーシティまたは偏波ダイバーシティの少なくとも1つを実現するための回折構造を含むことを特徴とする請求項1に記載の電磁波ディレクタ。
【請求項20】
反射、ビームステアリングまたは偏光のグループから選択された少なくとも1つを制御するためのホイヘンス面として構成されたメタ表面を適用可能であることを特徴とする請求項1に記載の電磁波ディレクタ。
【請求項21】
反射素子のアレイから構成されることを特徴とする請求項1に記載の電磁波ディレクタ。
【請求項22】
入射電磁波波面を無線電力伝送のための対象受信アンテナ上に方向転換して集束させるレンズ効果を有するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電磁波ディレクタ。
【請求項23】
前記回折素子のサブセルは、透明導電性材料を用いて作製されることを特徴とする請求項1に記載の電磁波ディレクタ。
【請求項24】
前記グランド反射面は、透明導電性材料を用いて作製されることを特徴とする請求項6に記載の電磁波ディレクタ。
【請求項25】
前記透明導電性材料は金属ワイヤメッシュであることを特徴とする請求項23または24に記載の電磁波ディレクタ。
【請求項26】
前記金属ワイヤメッシュは、ローリングマスクリソグラフィプロセスを用いて作製されることを特徴とする請求項25に記載の電磁波ディレクタ。
【請求項27】
前記透明導電性材料はVCDプロセスを用いて堆積されることを特徴とする請求項23または24に記載の電磁波ディレクタ。
【請求項28】
前記電磁波ディレクタはEMIシールドを提供することを特徴とする請求項1に記載の電磁波ディレクタ。
【請求項29】
入射電磁波波面の振幅および位相を修正するシステムであって、
少なくとも1つの電磁波送信器と、
前記電磁波送信器の視線外に位置する少なくとも1つのカバレージゾーン内に配置された少なくとも1つの電磁波受信器と、
サブ波長サブセルの2次元アレイから形成された回折素子を支持する基板を備えた電磁波ディレクタと、
を備え、
前記回折素子は、前記少なくとも1つの電磁波送信器によって生成された電磁波信号を前記少なくとも1つの電磁波受信器に向けるように動作可能であり、
前記電磁波送信器は、前記電磁波信号を前記電磁波ディレクタに送信するように構成され、
前記電磁波ディレクタは、前記電磁波信号の入射電磁波波面の振幅および位相を修正するように構成されていることを特徴とする電磁波ディレクタ。
【請求項30】
入射電磁波波面の振幅および位相を修正する方法であって、
基板上に堆積されたサブ波長サブセルの2次元アレイから形成された回折素子を支持する基板を含む電磁波ディレクタを提供するステップと、
前記電磁波ディレクタにおいて、少なくとも1つの電磁波送信器からの第1の電磁波信号を受信するステップと、
前記電磁波ディレクタから、少なくとも1つのカバレージゾーンに向かって、第2の電磁波信号を回折させるステップと、
前記回折素子は、前記少なくとも1つの電磁波送信器によって生成された第1の電磁波信号を、前記電磁波送信器の視線外に位置する少なくとも1つのカバレージゾーン内に配置された少なくとも1つの電磁波受信器に向けるように動作し、
前記第2の電磁波信号は、前記第1の電磁波信号とは異なる振幅および位相を有することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は電磁波通信システムに関し、より詳細には回折電磁波ディレクタに関する。
【背景技術】
【0002】
ミリ波は、スペクトル帯域幅を提供し、将来の5G/6Gシステムに必要な高データレートをサポートすることができる。しかし、深刻な自由空間損失、大気吸収、散乱により、都市環境でのミリ波カバレージが制限される可能性がある。電子ビーム・ステアリング機能を備えたフェーズドアレイ・レーダーは、見通し外の経路を介した指向性の高いミリ波の送受信を可能にするが、製造が複雑で高価になる傾向がある。一方、曲面に基づく典型的な反射鏡は、角度帯域幅が制限され、かさばり、製造コストが高いという問題がある。このような素子を複数組み合わせた反射鏡アレイでは、角度カバレージはわずかしか改善されない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本明細書では、電磁スペクトル全体の周波数に適用でき、反射または透過用に構成できる改良された電磁波ディレクタを開示する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
一態様では、基板上に堆積されたサブ波長サブセルの2次元アレイから形成された回折素子を支持する基板を備える電磁波ディレクタが提供される。回折素子は、少なくとも1つの電磁波送信器によって生成された電磁波信号を、送信器の視線外に位置する少なくとも1つのカバレージゾーン内に配置された少なくとも1つの電磁波受信器に向けるように動作可能である。回折素子は、各サブ波長サブセル上の入射電磁波波面の振幅および位相を修正するためのメタ表面処方を有する。
【0005】
一態様では、入射電磁波波面の振幅および位相を修正するためのシステムであって、少なくとも1つの電磁波送信器と、視線外に位置する少なくとも1つのカバレージゾーン内に配置された少なくとも1つの電磁波受信器と、基板上に堆積されたサブ波長サブセルの2次元アレイから形成された回折素子を支持する基板を含む電磁波ディレクタと、を備えたシステムが提供される。回折素子は、少なくとも1つの電磁波送信器によって生成された電磁波信号を少なくとも1つの電磁波受信器に向けるように動作する。電磁波送信器は、電磁波信号を電磁波ディレクタに送信するように構成される。電磁波ディレクタは、電磁波信号の入射電磁波波面の振幅および位相を変更するように構成される。電磁波信号を導くように動作することは、電磁波を反射するように構成されること、電磁波を送信するように構成されること、または部分的に反射し、部分的に送信するように構成されることを含んでよい。回折素子は、各サブ波長サブセル上の入射電磁波波面の振幅および位相を修正するためのメタ表面処方を有してもよい。
【0006】
一態様では、入射電磁波波面の振幅および位相を修正する方法であって、以下のステップを含む方法が提供される。すなわち、基板上に堆積されたサブ波長サブセルの2次元アレイから形成された回折素子を支持する基板を含む電磁波ディレクタを提供するステップと、電磁波ディレクタにおいて、少なくとも1つの電磁波送信機からの第1の電磁波信号を受信するステップと、電磁波ディレクタから、少なくとも1つのカバーゾーンに向かって、第2の電磁波信号を回折させるステップである。回折素子は、少なくとも1つの電磁波送信機によって生成された第1の電磁波信号を、送信機の視線外に位置する少なくとも1つのカバレージゾーン内に配置された少なくとも1つの電磁波受信器に向けるように動作する。第2の電磁波信号は、第1の電磁波信号とは異なる振幅および位相を有する。回折させるステップは、回折された第2の電磁波信号となるように、第1の電磁波信号を反射および/または透過させるステップを含んでよい。回折素子は、各サブ波長サブセル上の入射電磁波波面の振幅および位相を修正するためのメタ表面処方を有してもよい。
【0007】
上記の態様において、電磁波はミリ波であってもよく、電磁波信号はミリ波信号であってもよい。電磁波ディレクタは、ミリ波反射器であってもよい。
【0008】
議論されるいくつかの実施の形態は、ミリ波を送信機の視線外に位置する領域に向けることによって、ミリ波通信のカバレージを増大させるための効率的かつ費用効果の高いソリューションを提供可能な、薄型軽量回折構造に基づくミリ波反射器に向けられている。また、低コストの材料を用いて、ミリ波反射鏡を製造するための効率的で低コストのプロセスも開示する。ミリ波回折構造は、現場に存在する問題に対して、よりコンパクトで費用対効果の高い解決策を提供する。
【0009】
ミリ波反射鏡の様々な実施の形態は、以下の段落で説明する特徴の1つ以上を組み込むことができる。
【0010】
様々な実施の形態において、ミリ波反射器は、基板上に堆積された連続金属ワイヤの2次元メッシュから形成された回折ナノ構造を支持する基板を備える。回折ナノ構造は、少なくとも1つのミリ波送信機によって生成されたミリ波信号を、送信機の視線外に位置する少なくとも1つのカバレージゾーン内に配置された少なくとも1つのミリ波受信器に反射するように動作する。回折ナノ構造は、入射ミリ波波面の振幅と位相を修正するための光学的処方を有する。
【0011】
多くの実施の形態において、基板はガラスまたはプラスチックであり得る。
【0012】
多くの実施の形態において、反射鏡は、建物の壁に取り付けるためのフィルムとして構成することができる。
【0013】
多くの実施の形態において、反射鏡は、ミリ波ビームのボアサイトベクトルを調整するように構成することができる。
【0014】
多くの実施の形態において、反射鏡は、光波帯域での透過とミリ波帯域での反射を提供するために、窓に取り付けるためのフィルムとして構成することができる。
【0015】
多くの実施の形態において、反射鏡は、フェーズドアレイシステムを提供するために送信アンテナのセットと共に構成された反射鏡のセットの要素である。
【0016】
多くの実施の形態において、反射鏡は、多入力多出力(MIMO)アンテナシステムの要素である。
【0017】
多くの実施の形態において、反射鏡は、当該反射鏡を透過する可視帯域の光の調光を可能にするために、感光素子および光減衰構造を組み込んでいる。
【0018】
多くの実施の形態において、反射鏡は、互いの収差を補償することができる複数の反射鏡の要素である。
【0019】
多くの実施の形態において、反射鏡は、折り畳まれたミリ波通信経路を提供する複数の反射鏡の要素である。
【0020】
多くの実施の形態において、反射鏡は、ミリ波を複数のカバレージゾーンに反射するように構成される。
【0021】
多くの実施の形態において、反射鏡は、複数のカバレージゾーンに複数の送信機から受信器への経路を提供するように構成される。
【0022】
多くの実施の形態では、反射鏡は、周波数ダイバーシティ、角度ダイバーシティ、偏波ダイバーシティの少なくとも1つを実現するための回折構造を含む。ここで、ダイバーシティという用語は、異なる周波数の範囲、異なる角度の範囲、および異なる偏波の範囲に対して、反射鏡がその機能を果たす能力を指す。
【0023】
多くの実施の形態において、反射鏡は、反射、ビームステアリング、および偏光のグループから選択された少なくとも1つを制御するためのホイヘンス面として構成されたメタ表面を採用することができる。
【0024】
多くの実施の形態において、反射鏡は反射素子のアレイから構成される。
【0025】
多くの実施の形態では、ミリ波反射鏡に使用される回折ナノ構造は、VPDプロセスと組み合わせたRMLプロセスを使用して作製することができる。
【0026】
多くの実施の形態において、ミリ波反射鏡に使用される回折ナノ構造は、EMI遮蔽を提供することができる。
【0027】
以下に、本発明のミリ波反射鏡およびその製造プロセスに関連するさまざまな概念およびその実施の形態について、より詳細に説明する。開示される概念は特定の実施の態様に限定されないため、上記で紹介され、以下でさらに詳細に説明される様々な概念は、多数の実施の態様のいずれかで実施され得ると理解されるべきである。具体的な実施例および応用例は、主として例示を目的として提供される。本発明のより完全な理解は、以下の詳細な説明を添付の図面と併せて考慮することによって得ることができる。明瞭にするために、本発明に関連する技術分野で公知の技術的材料に関する詳細は記載していない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1A】本発明の実施の形態に係るミリ波反射鏡を概念的に示す図である。
図1B】本発明の実施の形態に係る入射ビームの一部を透過するミリ波反射鏡を概念的に示す図である。
図2】本発明の実施の形態に係るミリ波反射鏡を概念的に示す図である。
図3】2つのミリ波反射鏡を用いた折り返し通信路の形成を概念的に示す図である。
図4】本発明の実施の形態に係る光パワーを有するミリ波反射鏡を概念的に示す図である。
図5】本発明の実施の形態に係る、2つ以上の送信機22つ以上の受信器との間の通信を可能にするためのミリ波反射鏡を概念的に示す図である。
図6】本発明の実施の形態による、反射体基板の表面に形成された光パワーを符号化する回折構造によって形成された同心円状の位相フロントを概念的に示す図である。
図7】本発明の実施の形態に従って、1つまたは複数の送信機からのミリ波を固有のカバーゾーンに反射するように設計された各反射機素子の2×2アレイによって形成された位相フロントのセットを概念的に示す図である。
図8】本発明の実施の形態による、多重化された回折構造からなる反射鏡によって形成される、固有のビーム方向および角度帯域幅にそれぞれ対応する一組の位相フロントを概念的に示す図である。
図9】本発明の実施の形態によるミリ波反射鏡を概念的に示す図である。
図10】本発明の実施の形態に係るミリ波反射鏡に使用する回折構造を印刷するための円筒状フォトマスクを概念的に示す図である。
図11A】本発明の実施の形態による、回折サブセルのアレイからなる回折素子の第1の構成を概念的に示す図である。
図11B】本発明の実施の形態による回折サブセルのアレイからなる回折素子の第2の構成を概念的に示す図である。
図11C】本発明の実施の形態による回折サブセルのアレイからなる回折素子の第3の構成を概念的に示す図である。
図12】本発明の実施の形態による、入射電磁波波面の振幅および位相を修正する方法を示す図である。
図13】本発明の形態による反射鏡によって提供されるマルチバンド動作を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、ミリ波反射鏡の様々な実施の形態を、添付の図面を参照して例示的にのみ説明する。本発明が、以下の説明で開示される本発明の一部または全部を用いて実施され得ることは、当業者には明らかであろう。本発明を説明する目的で、光学設計および視覚ディスプレイの技術分野の当業者に周知の光学技術の周知の特徴は、本発明の基本原理を曖昧にしないために省略または簡略化されている。以下の説明において、光、光線、ビーム、および方向という用語は、直進軌道に沿った電磁放射の伝搬方向を示すために、互換的に、かつ互いに関連して使用することができる。光および照明という用語は、電磁スペクトルの可視帯域および赤外帯域に関連して使用することができる。以下の説明の一部は、光学設計の技術分野における当業者によって一般的に使用される用語を用いて示す。また、本発明の以下の説明において、「実施の形態において」という語句の繰り返しの使用は、必ずしも同じ実施の形態を指すものではないことに留意されたい。本明細書で使用される場合、回折格子という用語は、いくつかの実施の形態において、一組の回折格子から構成される回折格子を包含し得る。
【0030】
本発明の目的は、少なくとも1つのミリ波送信機によって放射された信号を、その信号が1つまたは複数のミリ波受信器によって検出され得る、送信機の視線外に位置する少なくとも1つのカバレージゾーンに反射するためのミリ波反射鏡が提供される第1の実施の形態において達成される。反射鏡は、ミリ波を回折するように構成された回折素子を支持する基板からなる。詳細は後述するが、回折素子は、基板上に堆積されたサブ波長サブセルの2次元アレイから形成される。回折素子は、各サブ波長サブセル上の入射ミリ波波面の振幅と位相を修正するためのメタ表面処方を有する。メタ表面処方という用語は、回折光の振幅と位相を決定する光学パラメータの指定を意味し、重要なパラメータは、回折特徴の空間周波数、誘電率、表面変調、複屈折である。ミリ波反射鏡は、角度帯域幅と反射の制御を可能にする。さらなる実施の形態では、ミリ波反射鏡は透過モードで動作することができる。多くの実施の形態において、装置は、サブ波長サブセルから形成された回折素子と、スペーサーを挟んだ背面反射鏡から構成される。
【0031】
本発明の目的は、図1Aに概念的に示す第1の実施の形態(100)において達成される。図1Aでは、送信機(101)がミリ波ビームを放射し、建物の外壁または窓(103)に取り付けられた反射鏡(102)によって反射されたビームが、少なくとも1つの受信器(104)を含む信号カバーゾーン(107)に照射される。送信器から反射鏡へのビーム経路と反射鏡から受信器への反射ビーム経路は、2本の光線(105,106)によって概略的に表される。多くの実施の形態では、反射鏡は建物の外壁や他の屋外固定設備に取り付けることができる。多くの実施の形態では、反射鏡は建物の内壁に取り付けることができる。多くの実施の形態において、反射鏡は、移動可能な設置物または車両に取り付けることができる。多くの実施の形態において、受信器は、車両または携帯型通信装置に取り付けることができる。回折構造は、金属、誘電体材料、またはこれらの複合材料で形成することができる。多くの実施の形態において、反射鏡は、入射ビームの少なくとも一部を、基板を通して建物または車両内の受信器に向けて透過させるように構成することができる。図1Bは、基板を介した入射ミリ波の一部(108)の透過を概念的に示している。
【0032】
図2に概念的に示すように、反射された信号は複数の受信器で検出することができる。図2は、反射体(111)の反射ゾーン(117)で動作する2つの受信器を示している。送信器から反射鏡への光線路、および反射鏡から受信器への光線路は光線114-116で表されている。多くの実施の形態では、ビームを遮る可能性のある障害物を含む環境を通してミリ波を誘導するために、複数の反射鏡を使用することができる。図3に概念的に示されたミリ波通信ネットワーク(120)は、折り畳まれたビーム経路(125-127)に沿って送信機から受信器(124)にミリ波を向けるように構成された2つの建物(103,123)に取り付けられた反射鏡(121,122)を示している。多くの実施の形態において、本発明の原理による反射鏡は、ミリビームを集束(または発散)させるためのレンズパワーを有することができる。図4は、送信機(101)からの発散ビーム(132,133)を反射して収束ビーム(134)に集束させるための実施の形態(130)を概念的に示している。多くの実施の形態において、反射鏡は、ミリ波ビームのボアサイトベクトルを調整するように構成することができる。多くの実施の形態において、反射鏡は、1つまたは複数の送信機からの光を1つまたは複数のカバレージゾーンに反射するために使用することができる。図5は、反射鏡141が、第1の受信器(143A)による検出のために第1の送信機(142A)からのミリ波を第1のカバレージゾーン(144A)に反射し、第2の受信器(143B)による検出のために第2の送信機(142B)からのミリ波を第2のカバレージゾーン(144B)に反射する実施の形態を概念的に示している。
【0033】
図6は、反射鏡基板の表面に形成されたレンズパワーをエンコードする回折構造によって形成された同心円状の位相フロント(141)を概念的に示している。多くの実施の形態において、反射鏡は、各送信器から受信器への経路に対して別個の回折構造処方が提供されることにより、1つ以上の送信器からの光を1つ以上のカバレージゾーンに反射するために使用することができる。図7は、反射鏡の2x2アレイによって形成された位相前面(161-164)のセット(160)を概念的に示している。各反射鏡素子は、1つまたは複数の送信器からのミリ波を固有のカバレージゾーンに反射するように設計されている。いくつかの実施の形態では、複数の反射鏡処方からなる反射鏡は、複数の回折構造処方を多重化することができる。図8は、多重化された回折構造(171,172)からなる反射鏡(170)によって形成される固有のビーム方向および角度帯域幅にそれぞれ対応する位相フロント(171,172)の集合(170)を概念的に示している。
【0034】
図9は、反射鏡基板の表面に形成された光パワーレンズをエンコードする同心円状の回折構造(181)からなる回折構造(180)を概念的に示している。集光せずにビームを単に偏向させるいくつかの実施の形態では、回折構造は平行線の格子で構成することができる。多くの実施の形態では、回折構造は、より小さな回折サブセル(182-184)のアレイで構成される。多くの実施の形態では、各回折サブセルは、反射ビーム波面を制御するために、一定の反射振幅と位相を有するように構成されている。
【0035】
図11A~11Cは、回折サブセルのアレイからなる回折素子の異なる構成を示す。多くの実施の形態(200A)では、回折素子は誘電体基板(201)とグランド反射鏡(202)から構成される。いくつかの実施の形態では、回折サブセル(203)は、入射ビームよりも広い角度帯域幅で反射するように構成することができる。いくつかの実施の形態(200B)では、回折サブセルおよび誘電体基板の厚さは、特定の周波数帯域幅で共振するように構成される。いくつかの実施の形態(200B)では、複数の回折アレイ層があり、各層(211)は特定の周波数帯域幅で共振することができる。いくつかの実施の形態(200C)では、反射体層は存在せず、回折素子は、建物内部で透過するように構成することができる。
【0036】
ミリ波回折反射鏡に使用するための例示的な金属構造回折格子技術は、Metamaterials Inc.(カナダ)によって開発された。この技術を用いれば、連続金属ワイヤの2次元メッシュをガラスやプラスチック基板上に作製することができる。金属構造グレーティングは、ITO(酸化インジウム・スズ)、シルバーナノワイヤ、グラフェン、カーボンナノチューブなどのITO代替技術よりも優れた代替技術を提供する。メッシュ形状の設計により、高導電性かつ透明な層を実現することができる。その極めて高い導電性により、メタリック構造グレーティングは、透明でクリアなまま、わずかな電力で動作することができる。その格子状の高導電性ラインは、パターン化されていない導電性材料と比較して、より多くのエネルギーがオープンエリアの表面を通過することを可能にする。金属メッシュは通常、銀、アルミニウム、プラチナ、銅、ニッケルから作られる。しかし、ほとんどすべての種類の金属を使用することができ、透明度はメッシュの幾何学的デザインにのみ依存し、金属の種類には依存しない。ラインはサブミクロンの厚さなので、人間の目には実質的に視認できない。場合によっては、30ミクロンピッチで500nmの線幅を持つこともある。このメッシュは、PETやPCのようなほとんどのフレキシブルフィルムや、ガラスのようなほとんどの基材に印刷することができる。現在のところ、基板は300mmまでの寸法に対応している。その他の代表的な仕様は、以下の通りである。シート抵抗:<1~100Ω/sq.、透過率:99%まで、ヘイズ:1%まで、線幅:0.15~1ミクロン、ピッチ:2ミクロン以上、厚さ:50nm~1ミクロン。
【0037】
本発明の多くの実施の形態において、本発明の原理によるミリ波反射鏡に使用するための回折素子は、金属ワイヤの2次元メッシュであり得る。多くの実施の形態では、金属ワイヤは連続的である。いくつかの実施の形態では、金属ワイヤは不連続性を有してもよい。
【0038】
多くの実施の形態において、ナノ構造は、剛性基板材料(プレートおよびパネル)および可撓性フィルムのロールに対してソフト円筒形マスクを圧延することを含むプロセスを使用して作製することができる。このようなプロセスは、ソフトリソグラフィと近接場光リソグラフィの利点を組み合わせたものであり、いずれも回折限界を超えたナノ構造の作製において信頼できることが証明されている。このパターンは、その後の基板のエッチング用エッチマスクとして、あるいは金属やその他の機能性材料をナノ構造化するためのマスクとして使用することができる。図9は、ミリ波回折ナノ構造の作製に使用する円筒状フォトマスク(180)の実施の形態を概念的に示している。この装置は、開口部(183)を介してUVビーム(182)を放出するUV源(181)と、不透明領域およびUV透過領域を含む外層とから構成される。円筒形マスクが回転すると、基板(186)に支持されたフォトレジスト層(185)の領域と接触し、フォトレジスト(187A,187B)の一部がUVビームに曝される。上記装置に基づくプロセスにより、175ナノメートルのメタマテリアル膜内にナノ構造を生成することができる。機能性を高めるために、フィルムにさらに層を追加することもできる。ポジとネガの両方のナノパターンを同じマスクから作製できる。
【0039】
ミリ波反射鏡に使用できる回折構造を成膜するには、さまざまなプラズマ成膜プロセスを使用できる。例示的なプロセスの1つは、Plasma App社(英国)が開発したVirtual Cathode Deposition(VCD)プラズマ成膜技術を使用するもので、高い構造と組成の制御が可能なコーティングを提供できる。
【0040】
図12は、本発明の実施の形態に従う、入射電磁波波面の振幅と位相を修正する方法を概念的に示す。図示されるように、入射電磁波波面の振幅および位相を修正する方法(210)が提供される。フローチャートを参照すると、方法(210は、以下のステップを備える。
a)基板上に堆積されたサブ波長サブセルの2次元アレイから形成された回折素子を支持する基板を含む電磁波ディレクタを提供するステップ(211)。ただし、回折素子は、少なくとも1つの電磁波送信器によって生成された電磁波信号を、送信器の視線外に位置する少なくとも1つのカバレージゾーン内に配置された少なくとも1つの電磁波受信器へ反射するように動作可能である。
b)電磁波ディレクタにおいて、少なくとも1つの電磁波送信器からの第1の電磁波信号を受信するステップ(212)。
c)電磁波ディレクタから、少なくとも1つのカバレージゾーンに向けて、第2の電磁波信号を回折させるステップ(213)。ただし、第2の電磁波信号は、第1の電磁波信号とは異なる振幅および位相を有する。
【0041】
[実施例]
多くの実施の形態において、ミリ波反射鏡の基板は、基板の回折素子とは反対側にグランド反射鏡平面を支持することができる。多くの実施の形態において、グラウンド反射面は、透明導電性材料から作製することができる。多くの実施の形態において、透明導電性材料は金属ワイヤメッシュとすることができる。多くの実施の形態において、金属ワイヤメッシュは、ローリングマスクリソグラフィプロセスを用いて作製することができる。
【0042】
多くの実施の形態において、回折ナノ構造は、VPDプロセスと組み合わせたRMLプロセスを使用して作製することができる。
【0043】
多くの実施の形態において、透明導電性材料は、VPDプロセスを用いて堆積させることができる。
【0044】
多くの実施の形態において、反射体は、光波帯域での透過およびミリ波帯域での反射を提供するために、窓に取り付けるためのフィルムとして構成することができる。
【0045】
多くの実施の形態において、反射鏡は、送信アンテナセットと共に構成された反射鏡セットの要素を提供し、多入力多出力(MIMO)アンテナシステムとして知られるタイプのフェーズドアレイシステムを提供することができる。
【0046】
多くの実施の形態において、反射鏡は、反射鏡を透過する可視光の調光を可能にするために、感光素子および光減衰構造を組み込むことができる。
【0047】
多くの実施の形態において、反射鏡は、互いの収差を補正することができる反射鏡のシステムの一部を構成することができる。
【0048】
多くの実施の形態において、反射鏡は、周波数ダイバーシティ、角度ダイバーシティ、偏光ダイバーシティの少なくとも1つを実現するための回折構造を含むことができる。
【0049】
多くの実施の形態において、反射鏡は、反射、ビームステアリング、偏光を制御するためのホイヘンス面として構成されたメタ表面を採用することができる。
【0050】
上述した回折特性に加えて、多くの実施の形態では、ナノワイヤの2次元メッシュは、電磁干渉(EMI)シールドも提供することができる。EMIは、複数の電磁信号が干渉して障害を引き起こし、電子機器の性能に影響を与えたり、あるいは人体に損傷を与えたりすることによって発生する。電子機器の使用が増えるにつれ、環境中のEMIの密度は高くなる。シールドシステムは、高い可視・赤外透過性と光学的透明性が要求される用途において、EMIを効果的に最小化する。ナノワイヤソリューションは、透明な導電性酸化物(ITOなど)や、同様の透明性を持つ既存の金属マイクロワイヤメッシュに比べ、はるかに優れたシールド効果を発揮する。導電性酸化物をベースとするEMI遮蔽システムは、ドーパント密度の制限による導電性のため、遮蔽性能に限界がある。従来の金属メッシュに基づく遮蔽システムは、利用可能な製造ツールが限られることから、フィーチャサイズが数ミクロンになることがあり、メッシュが人間の目で視認できるため、窓などの用途での使用が制限される。
【0051】
本開示の作成時点では、ミリ波反射鏡に使用される回折ナノ構造の製造プロセスとしてはRMLおよびVCDが好ましいが、他の同等のプロセスを使用することもできる。
【0052】
本開示はミリ波反射鏡に対処しているが、本発明は電磁スペクトル全体に適用することができ、特にマイクロ波帯、ラジオ帯、および赤外線帯の用途に適用することができる。また、上述した様々な実施の形態は、テラヘルツ波にも適用可能であり、このテラヘルツ波は、次世代の通信システム用に既に検討されている。
【0053】
多くの実施の形態において、マルチバンド動作は、2つ以上の反射体層で達成することができ、第1の層は第1の周波数を反射し、各追加の層はさらなる周波数を反射する。多くの実施の形態において、本発明者らは、この方法で6-8バンドを収容できることを発見した。一部の実施の形態では、28GHzの5Gと6GHz以下の動作を同時に実現するソリューションを提供できる。多くの実施の形態では、第1の共振が70GHz用に設計され、第2の共振が90GHz用に設計された場合の典型的な測定特性を示す図に示されるように、同じ層または2つの層で相補的な共振周波数を生成することにより、動作帯域幅を広げることができる。
【0054】
本発明は、現在最も実用的で好ましいと考えられる実施の形態に関連して説明されてきたが、本発明は、開示された配置に限定されるものではなく、むしろ、本発明の技術思想および範囲内に含まれる様々な変更および同等の構造を含むことが意図されていることを理解されたい。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図12
図13
【国際調査報告】