(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-29
(54)【発明の名称】GOS及びHMOを含む水性組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/125 20160101AFI20240221BHJP
A23C 9/13 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
A23L33/125
A23C9/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023555332
(86)(22)【出願日】2022-03-08
(85)【翻訳文提出日】2023-09-08
(86)【国際出願番号】 EP2022055863
(87)【国際公開番号】W WO2022189417
(87)【国際公開日】2022-09-15
(32)【優先日】2021-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505310426
【氏名又は名称】フリースランドカンピーナ ネーデルランド ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カオ、リンキウ
(72)【発明者】
【氏名】ボウマ、ハルメン ウィレム
(72)【発明者】
【氏名】トーリンガ、ヘンデリクス メンノ
【テーマコード(参考)】
4B001
4B018
【Fターム(参考)】
4B001AC03
4B001BC04
4B001EC05
4B018LB07
4B018MD31
4B018MD33
4B018ME14
4B018MF06
(57)【要約】
50~80wt%の固体含量を有する水性オリゴ糖組成物であって、前記固体の45~100wt%は、(i)ガラクトオリゴ糖(GOS)、フラクトオリゴ糖(FOS)、ポリデキストロース(PDX)、及びそれらの組合せから選択される1種又は複数種のオリゴ糖、及び(ii)1種又は複数種のヒトミルクオリゴ糖(HMO)からなり、(i)ガラクトオリゴ糖(GOS)、フラクトオリゴ糖(FOS)、ポリデキストロース(PDX)、及びそれらの組合せから選択されるオリゴ糖の(ii)ヒトミルクオリゴ糖に対する重量比は、0.25~600の範囲である、水性オリゴ糖組成物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
50~80wt%の固体含量を有する水性オリゴ糖組成物であって、前記固体の45~100wt%は、
(i)ガラクトオリゴ糖(GOS)、フラクトオリゴ糖(FOS)、ポリデキストロース(PDX)、及びそれらの組合せから選択される1種又は複数種のオリゴ糖、及び
(ii)1種又は複数種のヒトミルクオリゴ糖(HMO)
からなり、
(i)ガラクトオリゴ糖(GOS)、フラクトオリゴ糖(FOS)、ポリデキストロース(PDX)、及びそれらの組合せから選択されるオリゴ糖の(ii)ヒトミルクオリゴ糖に対する重量比は、0.25~600の範囲である、
水性オリゴ糖組成物。
【請求項2】
前記固体含量は70~75wt%である、請求項1に記載の水性組成物。
【請求項3】
前記固体の57~95wt%は、(i)ガラクトオリゴ糖(GOS)、フラクトオリゴ糖(FOS)、ポリデキストロース(PDX)、及びそれらの組合せから選択される1種又は複数種のオリゴ糖、及び(ii)1種又は複数種のヒトミルクオリゴ糖(HMO)からなる、請求項1又は2に記載の水性組成物。
【請求項4】
(i)ガラクトオリゴ糖(GOS)、フラクトオリゴ糖(FOS)、ポリデキストロース(PDX)、及びそれらの組合せから選択されるオリゴ糖の(ii)ヒトミルクオリゴ糖に対する重量比は、0.25~200、好ましくは0.5~150、最も好ましくは1~100の範囲である、請求項1~3のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項5】
前記ヒトミルクオリゴ糖は、フコシル化ラクトース、シアリル化ラクトース、四糖、及びそれらの組合せからなる群から選択され、好ましくは、2’-フコシルラクトース(2’-FL)、3-フコシルラクトース(3-FL)、3’-シアリルラクトース(3’-SL)、6’-シアリルラクトース(6’-SL)、ラクト-N-テトラオース(LNT)、ラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)、及びそれらの組合せからなる群から選択され、最も好ましくは2’-フコシルラクトース(2’-FL)である、請求項1~4のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項6】
前記1種又は複数種のオリゴ糖は、ガラクトオリゴ糖(GOS)並びにガラクトオリゴ糖(GOS)とフラクトオリゴ糖(FOS)及び/又はPDX(ポリデキストロース)との組合せから選択され、より一層好ましくはガラクトオリゴ糖(GOS)から選択され、最も好ましくはベータ-ガラクトオリゴ糖(β-GOS)から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項7】
前記HMOの少なくとも1種は、2’-FLであり、(i)ガラクトオリゴ糖(GOS)、フラクトオリゴ糖(FOS)、ポリデキストロース(PDX)、及びそれらの組合せから選択されるオリゴ糖の(ii)2’-FLに対する重量比重量比は、1~20、好ましくは1~7、より一層好ましくは1~4、最も好ましくは2~4の範囲である、請求項1~6のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項8】
前記HMOの少なくとも1種は、3-FLであり、(i)ガラクトオリゴ糖(GOS)、フラクトオリゴ糖(FOS)、ポリデキストロース(PDX)、及びそれらの組合せから選択されるオリゴ糖の(ii)3-FLに対する重量比重量比は、1~60、好ましくは1~20、より一層好ましくは1~4、最も好ましくは2~4の範囲である、請求項1~7のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項9】
前記HMOの少なくとも1種は、3’-SLであり、(i)ガラクトオリゴ糖(GOS)、フラクトオリゴ糖(FOS)、ポリデキストロース(PDX)、及びそれらの組合せから選択されるオリゴ糖の(ii)3’-SLに対する重量比重量比は、4~400、好ましくは7~300の範囲である、請求項1~8のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項10】
前記HMOの少なくとも1種は、6’-SLであり、(i)ガラクトオリゴ糖(GOS)、フラクトオリゴ糖(FOS)、ポリデキストロース(PDX)、及びそれらの組合せから選択されるオリゴ糖の(ii)6’-SLに対する重量比重量比は、10~600、好ましくは20~100の範囲である、請求項1~9のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項11】
前記HMOの少なくとも1種は、LNTであり、(i)ガラクトオリゴ糖(GOS)、フラクトオリゴ糖(FOS)、ポリデキストロース(PDX)、及びそれらの組合せから選択されるオリゴ糖の(ii)LNTに対する重量比重量比は、1~20、好ましくは1~7、より一層好ましくは1~4、最も好ましくは2~4の範囲である、請求項1~10のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項12】
前記HMOの少なくとも1種は、LNnTであり、(i)ガラクトオリゴ糖(GOS)、フラクトオリゴ糖(FOS)、ポリデキストロース(PDX)、及びそれらの組合せから選択されるオリゴ糖の(ii)LNnTに対する重量比重量比は、1~100、好ましくは1~50、より一層好ましくは1~8、最も好ましくは2~8の範囲である、請求項1~11のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項13】
第1のシロップの重量を基準に、4.5~80wt%、好ましくは20~79wt%、最も好ましくは30~50wt%の、ガラクトオリゴ糖(GOS)、フラクトオリゴ糖(FOS)、ポリデキストロース(PDX)、及びそれらの組合せから選択される少なくとも1種のオリゴ糖を含む前記第1のシロップが、少なくとも1つのさらなるシロップの重量を基準に、少なくとも0.05~70wt%、好ましくは25~70wt%のヒトミルクオリゴ糖を含有する前記少なくとも1つのさらなるシロップとブレンドされる、請求項1~12のいずれか一項に記載の水性組成物を調製する方法。
【請求項14】
(i)ガラクトオリゴ糖(GOS)、フラクトオリゴ糖(FOS)、ポリデキストロース(PDX)、及びそれらの組合せから選択される少なくとも1種のオリゴ糖、及び(ii)少なくとも1種のヒトミルクオリゴ糖(HMO)を含む栄養組成物を調製する方法であって、前記方法は、請求項1~12のいずれか一項に記載の水性組成物を、前記栄養組成物のさらなる成分を含む液体組成物とブレンドするステップを含み、前記栄養組成物は、好ましくは、乳児用調製乳、フォローアップ調製乳、又はグローイングアップ調製乳などの調製乳から選択される、方法。
【請求項15】
(i)ガラクトオリゴ糖(GOS)、フラクトオリゴ糖(FOS)、ポリデキストロース(PDX)、及びそれらの組合せから選択される1種又は複数種のオリゴ糖、及び
(ii)1種又は複数種のヒトミルクオリゴ糖(HMO)
を45~100wt%含む粉末組成物であって、
(i)ガラクトオリゴ糖(GOS)、フラクトオリゴ糖(FOS)、ポリデキストロース(PDX)、及びそれらの組合せから選択されるオリゴ糖の(ii)ヒトミルクオリゴ糖に対する重量比は、0.25~600の範囲である、
粉末組成物。
【請求項16】
請求項1~12のいずれか一項に記載の水性組成物を乾燥させること、好ましくは噴霧乾燥させることにより、請求項15に記載の粉末組成物を調製する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種のヒトミルクオリゴ糖(HMO)を含む、微生物に関して安全で保存に安定した水性組成物、その調製及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトミルクは、様々な難消化性オリゴ糖を含有する。これらのオリゴ糖は、ヒトミルクによって提供される、自然免疫系における主成分である。それらは、ビフィズス菌(bifidobacteria)及び乳酸桿菌(lactobacilli)などの有益な微生物叢の成長を促進することによる健常な腸内マイクロバイオームの発達において、並びに病原体及び毒物の付着の防止において、重要な役割を果たす。
【0003】
ヒトミルク中に存在するオリゴ糖は、雌ウシなどの家畜由来のミルク中に存在するものとは異なる。100種を超える異なるオリゴ糖がヒトミルク中に存在し、最も豊富に存在するものは、フコシル化ラクトース、例えば、2’-フコシルラクトース(2’-FL)及び3-フコシルラクトース(3-FL)、シアリル化ラクトース、例えば、3’-シアリルラクトース(3’-SL)及び6’-シアリルラクトース(6’-SL)、並びに四糖、例えば、ラクト-N-テトラオース(LNT)及びラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)である。最も豊富に存在するヒトミルクオリゴ糖(HMO)は2’-FLである。
【0004】
栄養組成物、特に乳児用調製乳に添加する目的でのHMOの合成は、人気が高まっている。その合成は、微生物を使用してラクトースを変換し、続いて、クロマトグラフィー、ナノ濾過、及び/又は電気透析などの従来法によって単離及び精製することを要する。得られる生成物は、HMOを含有するシロップであり、一般に、25wt%以上、好ましくは25~50wt%のHMOを含有する。微生物汚染、特に真菌の増殖を減少させるために、シロップを約70wt%を超える濃度に濃縮するか、シロップを冷却するか、又はシロップを乾燥(非結晶又は結晶の)材料に変換するかのいずれかが重要である。しかしながら、そのような濃縮又は冷却は、HMOの一部をシロップから結晶化させる場合があり、それは、そのようなシロップが保存に安定していないことを意味する。この理由のため、得られる精製されたHMOシロップは、結晶化工程を施されるか、又は乾燥(例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥、又は噴霧冷却により)されて粉末に形成されるかのいずれかである。
【0005】
ヒトミルクオリゴ糖と同様に、ガラクトオリゴ糖(GOS)及びフラクトオリゴ糖(FOS、これはイヌリンを含む)もまた、成人及び小児の両方のヒトマイクロバイオームにプラスに影響することが知られている。
【0006】
腸内のビフィズス菌の増殖を刺激し、正常な腸通過をサポートし、自然の生体防御に寄与し、ミネラルの吸収を増強し、免疫機能を刺激して炎症を低下させる能力を含む、GOS及びFOSの様々な生理機能が報告されている。
【0007】
本文書において、「GOS」又は「ガラクトオリゴ糖」という用語は、β-GOS、α-GOS、及びそれらの組合せを含むが、β-GOSが好ましいタイプのGOSである。
【0008】
GOS、特にβ-GOSは、ビフィズス菌(bifidobacteria)、乳酸桿菌(lactobacilli)、及び他の腸内細菌の増殖を促進するそのプレバイオティクス効果のため、特別な注目を集めてきた。したがって、GOSは、乳児用調製乳、乳酸桿菌(lactobacilli)で発酵させた飲料、ヨーグルト、ジュース及びドリンクに一般的に使用されている。
【0009】
従来のβ-GOSは、ガラクトース単位及び末端のグルコース単位の鎖を含み、その鎖は、ガラクトシダーゼ、ベータ-ガラクトシダーゼによって触媒される連続的なトランスガラクトシル化反応によって発生する。これは、ラクトースを含む、重合(DP)の程度が異なるガラクトオリゴ糖の混合物をもたらす。典型的なβ-GOS調製物は、二糖から六糖を主に含む。GOSの構成成分の一部は、ヒト母乳及びウシ初乳に天然に存在する。
【0010】
従来のβ-GOSを産生するために使用されるベータ-ガラクトシダーゼ酵素は、バチルス・サーキュランス(Bacillus circulans)、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)、クルイベロマイセス・マルシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、クルイベロマイセス・フラギリス(Kluyveromyces fragilis)、スポロボロマイセス・シングラリス(Sporobolomyces singularis)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)及びパピリオトレマ・テレストリス(Papiliotrema terrestris)(クリプトコッカス・パピリオトレマ・テレストリス(Cryptococcus Papiliotrema terrestris)とも呼ばれる)などの多くの微生物中で産生されるものである。ベータ-ガラクトシダーゼは、その三次元構造において様々に異なり、その結果として、グリコシド結合の立体選択的形成及び位置選択的形成がもたらされる。
【0011】
酵素反応の後、β-GOSは、従来法を使用して、例えば、ナノ濾過又は連続的擬似移動床(SSMB)を使用して、単離及び精製される。得られる生成物は、必要に応じて乾燥(例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥又は噴霧冷却により)されて粉末を形成し得る、GOSを含有するシロップである。
【0012】
アルファ-ガラクトオリゴ糖(α-GOS)は、エンドウマメなどの様々な策略で天然に存在する。
【0013】
ポリデキストロース(PDX)は、合成的に生成されるグルコース単位の分岐状ポリマーである。ポリデキストロースは、可溶性繊維の形態であり、健康上の有益性を示してきた。
【0014】
フラクトオリゴ糖(FOS)は、2~250、好ましくは2~100、より一層好ましくは10~60、最も好ましくは20~60のDP又は平均DPを有する(ベータ結合した)フルクトース単位の鎖を含む。
【0015】
フラクトオリゴ糖(FOS)はフルクタンの群に属し、フルクタンは、フルクトースの直鎖状及び分岐状ポリマーであり、自然界に広く見出される。フルクタンは、デンプンに次いで、最も豊富な天然の非構造多糖である。本文書において、「FOS」又は「フラクトオリゴ糖」という用語は、イヌリン、レバン、それらのオリゴ糖加水分解生成物、及びスクロース(サッカロース)から酵素によるトランス-フルクトシル化によって得られるフラクトオリゴ糖を含む。
【0016】
イヌリンは、一般的な植物及び穀物、そのようなチコリー、キクイモ、タマネギ、及びアーティチョークの中にかなりの量で天然に存在する。イヌリンの化学構造は、(フルクトース)n又はグルコース-(フルクトース)nであり、これはβ(2-1)-結合によって結合したnフルクトース単位を示す。平均重合度(DP)は、2~250、好ましくは2~100、より一層好ましくは10~60、最も好ましくは20~60であり得る。
【0017】
レバンタイプのFOSは、フルクトース単位がβ(2-6)-結合している点で、イヌリンタイプのFOSとは異なる。
【0018】
多くの調製乳を含む多くの栄養組成物が、成分を湿式ブレンドし、次いで(噴霧)乾燥することによって調製される。固体の(粉末状又は結晶の)HMOを湿式ブレンド物中に添加するには、湿式ブレンド製造プラントに一般に設置されていない添加ユニットか、又はHMOを水に溶解する追加の処理工程かのいずれかを必要とする。したがって、湿式ブレンドを使用する製造者は、オリゴ糖及びHMOを、固体材料ではなく液体製剤として入手することを望んでいる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、本発明の基礎をなす課題は、微生物に関して安全で保存に安定した、HMOを含む水性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
今般、驚くべきことに、この課題は、HMOを含有するシロップを、GOS、FOS及び/又はPDXを含有するシロップとブレンドすることによって解決することができることが判明した。得られる水性組成物は、保存に安定していることが判明した。得られる液体組成物は、湿式ブレンドプロセスにおいて容易に添加することができる。さらに、そのような水性組成物を使用すると、結晶化工程及びエネルギーを大量消費する乾燥工程を使用せずに済むため、より複雑でなく、より持続可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
したがって、本発明は、50~80wt%、好ましくは70~75wt%の固体含量を有する水性オリゴ糖組成物に関する。この固体含量のうち、45~100wt%、好ましくは57~95wt%が、
(i)ガラクトオリゴ糖(GOS)、フラクトオリゴ糖(FOS)、ポリデキストロース(PDX)、及びそれらの組合せから選択される1種又は複数種のオリゴ糖、及び
(ii)1種又は複数種のヒトミルクオリゴ糖(HMO)
からなり、
(i)ガラクトオリゴ糖(GOS)、フラクトオリゴ糖(FOS)、ポリデキストロース(PDX)、及びそれらの組合せから選択されるオリゴ糖の(ii)ヒトミルクオリゴ糖に対する重量比は、0.25~600、好ましくは0.25~200、より一層好ましくは0.5~150、より好ましくは1~100、より一層好ましくは2~50、最も好ましくは2~20の範囲である。
【0022】
好ましい実施形態では、1種又は複数種のオリゴ糖は、ガラクトオリゴ糖(GOS)並びにガラクトオリゴ糖(GOS)とフラクトオリゴ糖(FOS)及び/又はPDX(ポリデキストロース)との組合せから選択され、より一層好ましくはガラクトオリゴ糖(GOS)から選択され、最も好ましくはベータ-ガラクトオリゴ糖(β-GOS)から選択される。
【0023】
一実施形態では、水性組成物は、GOS、好ましくはβ-GOSを、FOS及び/又はPDXと組み合わせて、好ましくはFOSと組み合わせて含む。水性組成物中のGOSのFOS及び/又はPDXに対する重量比は、好ましくは、0.05~25、より好ましくは1~20の間、より一層好ましくは2~20、より好ましくは7~12の範囲であり、最も好ましくは約9である。
【0024】
GOSは、鎖長、結合の種類、及び分岐の程度が異なる炭水化物の複合混合物である。GOSは、好ましくは、乾燥重量で40~100wt%、より好ましくは50~90wt%、最も好ましくは60~80wt%のオリゴ糖(DP≧3)を含む。GOSは、グルコース及びガラクトースのような単糖、並びにラクトース、ラクツロース、及びアロラクトースなどの二糖をさらに含有してもよい。乾燥重量を基準に、ラクトースの含量は、一般に、0~60wt%、好ましくは0~40wt%、最も好ましくは0~30wt%の範囲であり、単糖の含量は、一般に、0~10wt%の範囲である。
【0025】
本文書に記載されるGOSの重量パーセントは全て、前記GOS中に存在するラクトースを含む二糖及びオリゴ糖(即ちDP≧2)の重量を指す。しかしながら、単糖、例えばグルコース及びガラクトースは含まれない。
【0026】
同じことが、本文書に記載される重量比、その計算について当てはまり、単糖は含まれないが、GOS中に存在する、それより長い全ての糖(即ちDP≧2、ラクトースを含む)は考慮される。
【0027】
(i)ガラクトオリゴ糖(GOS)、フラクトオリゴ糖(FOS)、ポリデキストロース(PDX)、及びそれらの組合せから選択される最小の1種のオリゴ糖の(ii)ヒトミルクオリゴ糖に対する重量比は、例えば、HMOの種類及びヒト母乳中のその濃度に応じて、好ましくは、0.25~600、好ましくは0.25~200、より一層好ましくは0.5~150、より好ましくは1~100、より一層好ましくは2~50、最も好ましくは2~20の範囲である。
【0028】
ヒトミルクオリゴ糖は、好ましくは、フコシル化ラクトース、シアリル化ラクトース、四糖、及びそれらの組合せからなる群から選択され、好ましくは、2’-フコシルラクトース(2’-FL)、3-フコシルラクトース(3-FL)、3’-シアリルラクトース(3’-SL)、6’-シアリルラクトース(6’-SL)、ラクト-N-テトラオース(LNT)、ラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)、及びそれらの組合せからなる群から選択され、より好ましくは、2’-フコシルラクトース(2’-FL)、又は2’-FLと1種又は複数種の追加のHMOとの組合せであり、最も好ましくは2’-FLである。
【0029】
水性組成物が2’-FLを含有する場合、(i)ガラクトオリゴ糖(GOS)、フラクトオリゴ糖(FOS)、ポリデキストロース(PDX)、及びそれらの組合せから選択されるオリゴ糖の(ii)2’-FLに対する重量比は、好ましくは1~20、好ましくは1~7、より一層好ましくは1~4、最も好ましくは2~4の範囲である。
【0030】
水性組成物が3-FLを含有する場合、(i)ガラクトオリゴ糖(GOS)、フラクトオリゴ糖(FOS)、ポリデキストロース(PDX)、及びそれらの組合せから選択されるオリゴ糖の(ii)3-FLに対する重量比は、好ましくは1~60、好ましくは1~20、より一層好ましくは1~4、最も好ましくは2~4の範囲である。
【0031】
水性組成物が3’-SLを含有する場合、(i)ガラクトオリゴ糖(GOS)、フラクトオリゴ糖(FOS)、ポリデキストロース(PDX)、及びそれらの組合せから選択されるオリゴ糖の(ii)3’-SLに対する重量比は、好ましくは4~400、好ましくは7~300の範囲である。
【0032】
水性組成物が6’-SLを含有する場合、(i)ガラクトオリゴ糖(GOS)、フラクトオリゴ糖(FOS)、ポリデキストロース(PDX)、及びそれらの組合せから選択されるオリゴ糖の(ii)6’-SLに対する重量比は、好ましくは10~600、好ましくは20~160の範囲である。
【0033】
水性組成物がLNTを含有する場合、(i)ガラクトオリゴ糖(GOS)、フラクトオリゴ糖(FOS)、ポリデキストロース(PDX)、及びそれらの組合せから選択されるオリゴ糖の(ii)LNTに対する重量比は、好ましくは1~20、好ましくは1~7、より一層好ましくは1~4、最も好ましくは2~4の範囲である。
【0034】
水性組成物がLNnTを含有する場合、(i)ガラクトオリゴ糖(GOS)、フラクトオリゴ糖(FOS)、ポリデキストロース(PDX)、及びそれらの組合せから選択されるオリゴ糖の(ii LNnTに対する重量比は、好ましくは1~100、好ましくは1~50、より一層好ましくは1~8、最も好ましくは2~8の範囲である。
【0035】
本発明による水性組成物は、好ましくはシロップの形態を有し、より好ましくは、2500~3000mPa・s、2600~2900mPa・s、より好ましくは2650~2850mPa・s、最も好ましくは2700~2800mPa・sの範囲の粘度を有し、この粘度は、回転式レオメーターを剪断速度制御モードにて20℃で使用して決定される。この温度では、組成物の粘度は一般に、剪断速度とは無関係である。
【0036】
水性組成物は、好ましくは、3.0~4.0、好ましくは3.2~3.8の範囲のpHを有し、これは、クエン酸などの酸を添加することによって得られる可能性のある微生物安定性を得ることにおいて助けとなる。
【0037】
本発明による水性組成物は、HMOの結晶化を防止するために、20~70℃の好ましいブレンド温度で、より好ましい40~60℃で、GOSを含有するシロップを少なくとも1種のHMOを含有するシロップとブレンドすることによって調製することができる。
【0038】
本発明による水性組成物は、HMOと、GOS、FOS、及び/又はPDXとの組合せを含む栄養組成物の調製のために、適切に使用することができる。水性組成物は、湿式ブレンドによる栄養組成物の調製に特に適している。
【0039】
調製乳を製造するための湿式ブレンドプロセスにおいて、成分は一緒にブレンドされ、均質化され、低温殺菌され、噴霧乾燥されて、粉末製品が製造される。低温殺菌工程は、成分中に存在することがある有害細菌を死滅させる。乾式ブレンドプロセスとは対照的に、湿式ブレンドプロセスは、成分の微生物学的質への依存が大いに少ない。このプロセスはまた、バッチ全体の栄養素の均一な分布を確保するという利点も有する。
【0040】
一実施形態では、本発明による水性組成物は、乾燥されて、好ましくは噴霧乾燥されて、HMOと、GOS、FOS及び/又はPDXとの両方を含む粉末が形成される。両種類の構成成分を含む水性組成物を最初に提供することの利点は、(i)均質な混合物、及び(ii)2つの噴霧乾燥工程(GOS/FOS/PDXに少なくとも1つ及びHMOに少なくとも1つ)ではなく、ただ1つの噴霧乾燥工程で済むことを可能にし、それにより、エネルギーの節約及び二酸化炭素排出量の低減を可能にすることである。
【0041】
栄養組成物の例は、調製乳である。調製乳は、乳児用調製乳、フォローアップ調製乳及びグローイングアップ調製乳(若年小児用調製乳とも呼ばれる)の群から選択される。栄養組成物の他の例は、患者若しくはフレイル高齢者又は自身の免疫系若しくは消化管の健康の増強を望む他の全ての人などの成人用の組成物である。
【0042】
乳児用調製乳(infant formula)、ベビー用調製乳(baby formula)若しくは単に調製乳(formula)(アメリカ英語)又はベビー用ミルク(baby milk)、乳児用ミルク(infant milk)又はファーストミルク(first milk)(イギリス英語)は、12カ月齢未満の赤ん坊及び乳児への授乳用に設計され、市販されている加工食品であり、通常、哺乳瓶での授乳又はカップでの授乳用に、粉末(水と混合される)又は液体(追加の水を加える又は加えない)から調製される。米国連邦食品・医薬品・化粧品法(Federal Food,Drug,and Cosmetic Act:FFDCA)は、乳児用調製乳を「ヒトミルクを模していること、又はヒトミルクの完全な若しくは部分的な代用品として適していることを理由に、専ら乳児用食品としての特別な食事の使用のためと称し、又はそのように表示されている食品」と定義している。同様に、Codex Alimentarius国際食品規格(WHO及びFAO)は、乳児用調製乳を、適切な補充栄養を導入するまでの生後最初の数カ月間の乳児の栄養必要量を単独で満たすために特別に製造された母乳代用品と定義している。Codex Alimentariusは、乳児用調製乳の必須の組成を、脂質源、タンパク質源、炭水化物源、ビタミン及びミネラルの量及び内訳とともに記載している。
【0043】
栄養組成物、特に調製乳を構成するために、本発明による水性組成物又はそれから得られる(噴霧)乾燥粉末は、栄養組成物のさらなる成分とブレンドされる。調製乳の場合、これらの成分は、少なくとも1種のタンパク質源、少なくとも1種の脂質源、ビタミン及びミネラルを含む。好ましくは、水性組成物は、前記成分の液体ブレンド物に添加される。
【0044】
調製乳中に使用するための脂質源は、調製乳における使用に適した任意の脂質又は脂肪とすることができる。好ましい脂肪源としては、乳脂肪、ベニバナ油、卵黄脂質、キャノーラ油、オリーブ油、ヤシ油、パーム核油、ダイズ油、魚油、パームオレイン酸(palm oleic)、高オレイン酸ヒマワリ油及び高オレイン酸ベニバナ油、並びに長鎖多価不飽和脂肪酸を含有する微生物発酵油が挙げられる。一実施形態では、無水乳脂肪が使用される。脂質源はまた、これらの油に由来する画分、例えば、パームオレイン、中鎖トリグリセリド、及び脂肪酸(例えば、アラキドン酸、リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ドコサヘキサエン酸、リノレン酸、オレイン酸、ラウリン酸、カプリン酸、カプリル酸、カプロン酸など)のエステルの形態でもあり得る。事前に形成されたアラキドン酸及びドコサヘキサエン酸を多量に含有する少量の油、例えば、魚油又は微生物油が添加されてもよい。この脂肪源は、好ましくは、n-6脂肪酸対n-3脂肪酸の比が約5:1~約15:1、例えば約8:1~約10:1である。特定の態様において、本乳児用調製乳は、トリアシルグリセロールにエステル結合したパルミチン酸を含む油混合物を含み、例えばその場合、トリアシルグリセロールのsn-2位でエステル結合したパルミチン酸は、総パルミチン酸の10重量%~60重量%の量であり、トリアシルグリセロールのsn-1/sn-3位でエステル結合したパルミチン酸は、総パルミチン酸の30重量%~80重量%の量である。
【0045】
タンパク質源の例としては、ミルク、好ましくはウシミルク、並びに乳清タンパク質濃縮物及び血清タンパク質濃縮物から選択される乳清タンパク質源が挙げられる。
【0046】
調製乳中に存在することが好ましいビタミン及びミネラルの例は、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンC、ビタミンD、葉酸、イノシトール、ナイアシン、ビオチン、パントテン酸、コリン、カルシウム、リン、ヨウ素、鉄、マグネシウム、銅、亜鉛、マンガン、塩化物、カリウム、ナトリウム、セレン、クロム、モリブデン、タウリン及びL-カルニチンである。ミネラルは、通常、塩の形態で添加される。
【0047】
必要に応じて、栄養組成物は、乳化剤及び安定化剤、例えば、ダイズレシチン、モノグリセリド及びジグリセリドのクエン酸エステルなどを含有してもよい。それは、有益な効果を有し得る他の物質、例えば、ラクトフェリン、ヌクレオチド、ヌクレオシド、プロバイオティクスなども含有してもよい。適切なプロバイオティクスとしては、乳酸菌(Lactobacteria)、ビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)、例えばビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)Bb12、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)、ラクトバチルス・ジョンソニ(Lactobacillus johnsonii)La1、ビフィドバクテリウム・ロングム(Bifidobacterium longum)BL999、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)LPR、L.ラムノサス(L.rhamnosus)GG、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)が挙げられる。このようなプレバイオティクスは市販されている。
【実施例】
【0048】
2種のVivinal(登録商標)GOSシロップを使用した。第1のシロップの乾燥物質(DM)含量は50wt%であり、第2のシロップの乾燥物質含量は55wt%であった。
【0049】
乾燥物質含量が30wt%の2’-FLシロップを使用した。
【0050】
シロップは透明な溶液であった。乾燥物質を基準に、2’-FLシロップは、96.7%(ブリックスで)の2’-FLを含有し、50%DM GOSシロップは71.1%(ブリックスで)のGOSを含有し、55%DM GOSシロップは71.6%(ブリックスで)のGOSを含油していた(HPLCによって決定、下を参照)。
【0051】
シロップを、表1に一覧化した量でブレンドした。ブレンドは、50℃で撹拌しながら、2’-FLシロップを血清用ピペットでGOSシロップに添加することによって実行した。
【0052】
集塊の痕跡が全て消滅した後(T0)、ブレンドの1時間後(T1)、及び2時間後(T2)に、30グラムの試料を採取した。
【0053】
ブレンドする間、pH及びブリックスは、表2に示されているとおり、同じままであった。
【0054】
回転エバポレーターを50℃、20rpmで使用し、一部のブレンド物を、蒸発によって75%ブリックスの標的濃度に濃縮した。
【0055】
対照として、50%及び55%のGOSシロップ並びに2’-FLシロップも同様に、同じ設定を使用して蒸発させ、75%ブリックスの標的濃度にした。
【0056】
20℃で少なくとも8週間保存すると、これらの濃縮した試料は、結晶化が見られた2’-FLシロップ以外は全て、透明な溶液のままであった。同様の観察が、4℃で保存した場合にもなされた。
【0057】
試料は、HPLCによって分析した。GOSを、フィンガープリントクロマトグラムの5つの特異的なGOSピークによって定量化した。参照標準として、Vivinal(登録商標)GOSを少なくとも5つの異なる濃度で使用した。GOSの濃度対5つのピークの総面積について検量線を作成し、試料中のGOSの濃度を、この検量線を使用して、ピークの総面積から計算した。
【0058】
【0059】
【0060】
【国際調査報告】