(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-29
(54)【発明の名称】L-リジン生産能が向上したコリネバクテリウム・グルタミカム変異株およびこれを用いたL-リジンの生産方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20240221BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240221BHJP
C12P 13/08 20060101ALI20240221BHJP
C12N 15/53 20060101ALN20240221BHJP
【FI】
C12N1/20 A ZNA
C12N1/21
C12P13/08 A
C12N15/53
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023555377
(86)(22)【出願日】2021-04-26
(85)【翻訳文提出日】2023-11-02
(86)【国際出願番号】 KR2021005266
(87)【国際公開番号】W WO2022191357
(87)【国際公開日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】10-2021-0030736
(32)【優先日】2021-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0051472
(32)【優先日】2021-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518431347
【氏名又は名称】デサン・コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ハ・ウン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ソン・ヒ・イ
(72)【発明者】
【氏名】ヨン・ジュ・イ
(72)【発明者】
【氏名】ソク・ヒョン・パク
(72)【発明者】
【氏名】ジュン・ヒュン・パク
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AE25
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA10
4B064DA20
4B065AA24X
4B065AA24Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BC03
4B065CA17
4B065CA41
4B065CA43
(57)【要約】
本発明は、L-リジン生産能が向上したコリネバクテリウム・グルタミカム変異株およびこれを用いたL-リジンの生産方法に関し、前記変異株は、アスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼを暗号化する遺伝子の発現を増加または強化させることにより、親菌株に比べてL-リジンの生産収率を向上させることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼの活性が強化されてL-リジン生産能が向上したコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)変異株。
【請求項2】
前記アスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼの活性の強化は、アスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼを暗号化する遺伝子に位置特異的変異を誘発するものである、請求項1に記載のコリネバクテリウム・グルタミカム変異株。
【請求項3】
前記アスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼを暗号化する遺伝子は、配列番号1のアミノ酸配列で表されるものである、請求項2に記載のコリネバクテリウム・グルタミカム変異株。
【請求項4】
前記変異株は、配列番号3または5で表されるアミノ酸配列を含むものである、請求項1に記載のコリネバクテリウム・グルタミカム変異株。
【請求項5】
a)請求項1に記載の変異株を培地で培養するステップと、
b)前記変異株または変異株が培養された培地からL-リジンを回収するステップとを含むL-リジンの生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L-リジン生産能が向上したコリネバクテリウム・グルタミカム変異株およびこれを用いたL-リジンの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L-リジンは、人間や動物の体内で合成されない必須アミノ酸であって外部から供給されなければならず、一般的に、細菌や酵母のような微生物を用いた発酵によって生産される。L-リジンの生産は、自然状態で得られた野生型菌株やそのL-リジン生産能が向上するように変形された変異株を用いることができる。最近は、L-リジンの生産効率を改善させるために、L-アミノ酸およびその他の有用物質の生産に多く用いられる大腸菌、コリネバクテリウムなどの微生物を対象に遺伝子組換え技術を適用して、優れたL-リジン生産能を有する多様な組換え菌株または変異株およびこれを用いたL-リジンの生産方法が開発されている。
【0003】
韓国登録特許第10-0838038号および第10-2139806号によれば、L-リジンの生産に関連する酵素を含むタンパク質を暗号化する遺伝子の塩基配列またはアミノ酸配列を変更してその遺伝子の発現を増加させたり不要な遺伝子を除去することにより、L-リジン生産能を向上させることができる。また、韓国公開特許第10-2020-0026881号には、L-リジンの生産に関与する酵素を暗号化する遺伝子の発現を増加させるために、遺伝子の既存のプロモーターを強い活性を有するプロモーターに変更する方法を開示している。
【0004】
このようにL-リジン生産能を増加させる多様な方法が開発されているが、L-リジンの生産に直接間接的に関連づけられた酵素、転写因子、輸送タンパク質などタンパク質の種類が数十余種に達するため、このようなタンパク質の活性変化によるL-リジン生産能の増加の有無に関して依然として多くの研究が必要なのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】韓国登録特許第10-0838038号
【特許文献2】韓国登録特許第10-2139806号
【特許文献3】韓国公開特許第10-2020-0026881号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、L-リジン生産能が向上したコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)変異株を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、前記変異株を用いたL-リジンの生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、コリネバクテリウム・グルタミカム菌株を用いてL-リジン生産能が向上した新しい変異株を開発するために研究した結果、L-リジン生合成経路に関与するアスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼを暗号化するasd遺伝子のアミノ酸配列のうち特定位置のアミノ酸を置換した場合、L-リジンの生産量が増加することを確認することにより、本発明を完成した。
【0009】
本発明の一態様は、アスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼの活性が強化されてL-リジン生産能が向上したコリネバクテリウム・グルタミカム変異株を提供する。
【0010】
本発明で使用された「アスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(aspartate-semialdehyde dehydrogenase)」は、L-リジン生合成経路の三番目の段階に関与する酵素としてNADPHを用いて、アスパルチルホスフェート(4-aspartyl phosphate)からアスパルテートセミアルデヒド(aspartate 4-semialdehyde)を生成する反応を触媒する酵素を意味する。
【0011】
本発明の一具体例によれば、前記アスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼは、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属菌株に由来するものであってもよい。具体的には、前記コリネバクテリウム属菌株は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・クルディラクティス(Corynebacterium crudilactis)、コリネバクテリウム・デザーティ(Corynebacterium deserti)、コリネバクテリウム・カルナエ(Corynebacterium callunae)、コリネバクテリウム・スラナリーエ(Corynebacterium suranareeae)、コリネバクテリウム・ルブリカンティス(Corynebacterium lubricantis)、コリネバクテリウム・ドサネンス(Corynebacterium doosanense)、コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)、コリネバクテリウム・ウテレキー(Corynebacterium uterequi)、コリネバクテリウム・スタチオニス(Corynebacterium stationis)、コリネバクテリウム・パケンセ(Corynebacterium pacaense)、コリネバクテリウム・シングラレ(Corynebacterium singulare)、コリネバクテリウム・ヒュミレデュセンス(Corynebacterium humireducens)、コリネバクテリウム・マリヌム(Corynebacterium marinum)、コリネバクテリウム・ハロトレランス(Corynebacterium halotolerans)、コリネバクテリウム・スフェニスコルム(Corynebacterium spheniscorum)、コリネバクテリウム・フレイブルゲンス(Corynebacterium freiburgense)、コリネバクテリウム・ストリアツム(Corynebacterium striatum)、コリネバクテリウム・カニス(Corynebacterium canis)、コリネバクテリウム・アムモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、コリネバクテリウム・レナレ(Corynebacterium renale)、コリネバクテリウム・ポルティソリ(Corynebacterium pollutisoli)、コリネバクテリウム・イミタンス(Corynebacterium imitans)、コリネバクテリウム・カスピウム(Corynebacterium caspium)、コリネバクテリウム・テスツディノリス(Corynebacterium testudinoris)、コリネバクテリウム・シュードペラルギ(Corynebacaterium pseudopelargi)またはコリネバクテリウム・フラベッセンス(Corynebacterium flavescens)であってもよいし、これに限定されるものではない。
【0012】
本発明で使用された「活性が強化」は、目的とする酵素、転写因子、輸送タンパク質などのタンパク質を暗号化する遺伝子の発現が新たに導入されたり増大して野生型菌株または変形前の菌株に比べて発現量が増加することを意味する。このような活性の強化は、遺伝子を暗号化するヌクレオチド置換、挿入、欠失、またはこれらの組み合わせによりタンパク質自体の活性が本来微生物が持っているタンパク質の活性に比べて増加した場合と、これを暗号化する遺伝子の発現増加または翻訳増加などで細胞内で全体的な酵素活性の程度が野生型菌株または変形前の菌株に比べて高い場合、これらの組み合わせも含む。
【0013】
本発明の一具体例によれば、前記アスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼの活性の強化は、アスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼを暗号化する遺伝子に位置特異的変異を誘発するものであってもよい。
【0014】
本発明の一具体例によれば、前記アスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼを暗号化する遺伝子は、配列番号1のアミノ酸配列で表されるか、または配列番号2の塩基配列で表されるものであってもよい。
【0015】
本発明の一具体例によれば、前記アスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼの活性の強化は、アスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼを暗号化する遺伝子のアミノ酸配列内の10~100番目のアミノ酸領域のうち1つ以上のアミノ酸が置換されたものであってもよい。
【0016】
より具体的には、本発明における遺伝子変異は、10~100番目のアミノ酸領域のうち1個以上のアミノ酸、好ましくは20~90番目、30~80番目、30~50番目、または60~80番目のアミノ酸領域のうち1個、2個、3個、4個、または5個のアミノ酸が連続的または非連続的に置換されたものであってもよい。
【0017】
本発明の一実施例によれば、コリネバクテリウム・グルタミカム菌株のアスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼを暗号化するasd遺伝子のアミノ酸配列において35番目のサイトをアラニン(alanine、Ala)からグリシン(glycine、Gly)に、39番目のサイトをセリン(serine、Ser)からグルタミン酸(glutamic acid、Glu)に、78番目のサイトをアラニン(Ala)からバリン(valine、Val)に置換して、asd遺伝子の新しいアミノ酸配列を有するコリネバクテリウム・グルタミカム変異株を取得した。このようなコリネバクテリウム・グルタミカム変異株は、配列番号3のアミノ酸配列で表されるasd遺伝子を含むものであってもよい。
【0018】
また、本発明の一実施例によれば、コリネバクテリウム・グルタミカム菌株のアスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼを暗号化するasd遺伝子のアミノ酸配列において35番目のサイトをアラニン(Ala)からグリシン(Gly)に、38番目のサイトをアルギニン(arginine、Arg)からロイシン(leucine、Ile)に、39番目のサイトをセリン(Ser)からグルタミン酸(Glu)に、78番目のサイトをアラニン(Ala)からバリン(Val)に置換して、asd遺伝子の新しいアミノ酸配列を有するコリネバクテリウム・グルタミカム変異株を取得した。このようなコリネバクテリウム・グルタミカム変異株は、配列番号5のアミノ酸配列で表されるasd遺伝子を含むものであってもよい。
【0019】
本発明で使用された「生産能が向上した」は、親菌株に比べてL-リジンの生産性が増加したことを意味する。前記親菌株は、変異の対象になる野生型または変異株を意味し、直接変異の対象になったり、組換えられたベクターなどで形質転換される対象を含む。本発明において、親菌株は、野生型コリネバクテリウム・グルタミカム菌株または野生型から変異した菌株であってもよい。
【0020】
本発明の一具体例によれば、前記親菌株は、リジンの生産に関与する遺伝子(例えば、lysC、zwfおよびhom遺伝子)の配列に変異が誘発された変異株として、韓国微生物保存センター(Korean Culture Center of Microorganisms)に2021年4月2日付の受託番号KCCM12969Pとして寄託されたコリネバクテリウム・グルタミカム菌株(以下、「コリネバクテリウム・グルタミカムDS1菌株」という)であってもよい。
【0021】
本発明の一実施例によれば、前記L-リジン生産能が向上したコリネバクテリウム・グルタミカム変異株は、アスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼを暗号化するasd遺伝子のアミノ酸変異を含むことにより、親菌株に比べて増加したL-リジン生産能を示し、特に、親菌株に比べて、L-リジンの生産量が3%以上、具体的には3~40%、さらに具体的には5~30%増加して、菌株培養液1lあたり65~90gのL-リジンを生産することができ、好ましくは、67~80gのL-リジンを生産することができる。
【0022】
本発明の一具体例によるコリネバクテリウム・グルタミカム変異株は、親菌株にアスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼを暗号化する遺伝子のアミノ酸配列が一部置換された変異体を含む組換えベクターにより実現できる。
【0023】
本発明で使用された「一部」は、アミノ酸配列、塩基配列またはポリヌクレオチド配列の全部ではないことを意味し、1~300個、好ましくは1~100個、より好ましくは1~50個であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0024】
本発明で使用された「変異体」は、L-リジンの生合成に関与するアスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子のアミノ酸配列内の10~100番目のアミノ酸領域のうち1つ以上のアミノ酸が置換された変異体を意味する。
【0025】
本発明の一具体例によれば、前記アスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子のアミノ酸配列内の35番目、39番目および78番目のアミノ酸が置換された変異体は、配列番号3のアミノ酸配列または配列番号4の塩基配列を有するものであってもよい。
【0026】
また、本発明の一具体例によれば、前記アスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子のアミノ酸配列内の35番目、38番目、39番目および78番目のアミノ酸が置換された変異体は、配列番号5のアミノ酸配列または配列番号6の塩基配列を有するものであってもよい。
【0027】
本発明で使用された「ベクター」は、適当な宿主細胞で目的タンパク質を発現できる発現ベクターであって、遺伝子挿入物が発現するように作動可能に連結された(operably linked)必須の調節要素を含む遺伝子製造物を意味する。ここで、「作動可能に連結された」は、発現が必要な遺伝子とその調節配列が互いに機能的に結合して遺伝子の発現を可能にする方式で連結されたことを意味し、「調節要素」は、転写を行うためのプロモーター、転写を調節するための任意のオペレーター配列、好適なmRNAリボソーム結合部位を暗号化する配列、および転写および解読の終結を調節する配列を含む。このようなベクターは、プラスミドベクター、コスミドベクター、バクテリオファージベクター、ウイルスベクターなどを含むが、これらに限定されるものではない。
【0028】
本発明で使用された「組換えベクター」は、好適な宿主細胞内に形質転換された後、宿主細胞のゲノムに関係なく複製可能であったり、ゲノムそのものに縫い込まれる。この時、前記「好適な宿主細胞」は、ベクターが複製可能なものであって、複製が開始される特定の塩基配列である複製起点を含むことができる。
【0029】
前記形質転換は、宿主細胞に応じて好適なベクター導入技術が選択されて目的とする遺伝子を宿主細胞内で発現させることができる。例えば、ベクターの導入は、電気穿孔法(electroporation)、熱衝撃(heat-shock)、リン酸カルシウム(CaPO4)沈殿、塩化カルシウム(CaCl2)沈殿、微細注入法(microinjection)、ポリエチレングリコール(PEG)法、DEAE-デキストラン法、陽イオンリポソーム法、酢酸リチウム-DMSO法、またはこれらの組み合わせによって行われる。形質転換された遺伝子は、宿主細胞内で発現できれば、宿主細胞の染色体内挿入または染色体外に位置しているものでも制限なく含まれる。
【0030】
前記宿主細胞は、生体内または試験管内で本発明の組換えベクターまたはポリヌクレオチドで形質感染、形質転換、または感染した細胞を含む。本発明の組換えベクターを含む宿主細胞は、組換え宿主細胞、組換え細胞または組換え微生物である。
【0031】
また、本発明による組換えベクターは、選択マーカー(selection marker)を含むことができるが、前記選択マーカーは、ベクターで形質転換された形質転換体(宿主細胞)を選別するためのものであって、前記選択マーカーが処理された培地で選択マーカーを発現する細胞のみ生存できるため、形質転換された細胞の選別が可能である。前記選択マーカーは、代表例として、カナマイシン、ストレプトマイシン、クロラムフェニコールなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
本発明の形質転換用組換えベクター内に挿入された遺伝子は、相同性組換え交差によってコリネバクテリウム属微生物のような宿主細胞内に置換される。
【0033】
本発明の一具体例によれば、前記宿主細胞は、コリネバクテリウム属菌株であってもよいし、例えば、コリネバクテリウム・グルタミカムDS1菌株であってもよい。
【0034】
また、本発明の他の態様は、a)前記コリネバクテリウム・グルタミカム変異株を培地で培養するステップと、b)前記変異株または変異株が培養された培地からL-リジンを回収するステップとを含むL-リジンの生産方法を提供する。
【0035】
前記培養は、当業界にて知られた適切な培地と培養条件によって行われてもよいし、通常の技術者であれば、培地および培養条件を容易に調整して使用可能である。具体的には、前記培地は、液体培地であってもよいが、これに限定されるものではない。培養方法は、例えば、回分式培養(batch culture)、連続式培養(continuous culture)、流加式培養(fed-batch culture)、またはこれらの組み合わせ培養を含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0036】
本発明の一具体例によれば、前記培地は、適切な方式で特定菌株の要件を満たさなければならず、通常の技術者によって適宜変形可能である。コリネバクテリウム属菌株に対する培養培地は、公知の文献(Manual of Methods for General Bacteriology.American Society for Bacteriology.Washington D.C.,USA,1981)を参照することができるが、これに限定されるものではない。
【0037】
本発明の一具体例によれば、培地に多様な炭素源、窒素源および微量元素成分を含むことができる。使用可能な炭素源としては、グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、デンプン、セルロースのような糖および炭水化物、大豆油、ヒマワリ油、ヒマシ油、ココナッツ油などのようなオイルおよび脂肪、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸のような脂肪酸、グリセロール、エタノールのようなアルコール、酢酸のような有機酸が含まれる。これらの物質は、個別的にまたは混合物として使用できるが、これに限定されるものではない。使用可能な窒素源としては、ペプトン、酵母抽出物、肉汁、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、大豆麦および尿素、または無機化合物、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウムおよび硝酸アンモニウムが含まれる。窒素源も、個別的にまたは混合物として使用できるが、これに限定されるものではない。使用可能なリンの供給源としては、リン酸二水素カリウムまたはリン酸水素二カリウムまたは相応するナトリウム-含有塩が含まれてもよいし、これに限定されるものではない。また、培養培地は、成長に必要な硫酸マグネシウムまたは硫酸鉄のような金属塩を含むことができ、これに限定されるものではない。その他、アミノ酸およびビタミンのような必須成長物質が含まれてもよい。また、培養培地に適切な前駆体が使用できる。前記培地または個別成分は、培養過程で培養液に適切な方式によって回分式または連続式で添加されるが、これに限定されるものではない。
【0038】
本発明の一具体例によれば、培養中に水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸および硫酸のような化合物を微生物培養液に適切な方式で添加して培養液のpHを調整することができる。また、培養中に脂肪酸ポリグリコールエステルのような消泡剤を用いて気泡の生成を抑制することができる。追加的に、培養液の好気状態を維持するために、培養液中に酸素または酸素-含有気体(例、空気)を注入することができる。培養液の温度は、通常、20℃~45℃、例えば、25℃~40℃であってもよい。培養期間は、有用物質が所望の生産量で得られるまで継続可能であり、例えば、10~160時間であってもよい。
【0039】
本発明の一具体例によれば、前記培養された変異株および変異株が培養された培地からL-リジンを回収するステップは、培養方法に応じて当該分野にて公知の好適な方法を用いて培地から生産されたL-リジンを収集または回収することができる。例えば、遠心分離、濾過、抽出、噴霧、乾燥、蒸発、沈殿、結晶化、電気泳動、分別溶解(例えば、アンモニウムスルフェート沈殿)、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、親和性、疎水性およびサイズ排除)などの方法を用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0040】
本発明の一具体例によれば、リジンを回収するステップは、培養培地を低速遠心分離してバイオマスを除去し、得られた上澄液をイオン交換クロマトグラフィーにより分離することができる。
【0041】
本発明の一具体例によれば、前記L-リジンを回収するステップは、L-リジンを精製する工程を含むことができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によるコリネバクテリウム・グルタミカム変異株は、アスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼを暗号化する遺伝子の発現を増加または強化させることにより、親菌株に比べてL-リジンの生産収率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】本発明の一実施例によりasd遺伝子のアミノ酸配列のうち35番目のアミノ酸をアラニンからグリシンに、39番目のアミノ酸をセリンからグルタミン酸に、78番目のアミノ酸をアラニンからバリンに置換されたasd遺伝子を含むpCGI(asd A35G/S39E/A78V)ベクターの構造を示す図である。
【
図2】本発明の一実施例によりasd遺伝子のアミノ酸配列のうち35番目のアミノ酸をアラニンからグリシンに、38番目のアミノ酸をアルギニンからロイシンに、39番目のアミノ酸をセリンからグルタミン酸に、78番目のアミノ酸をアラニンからバリンに置換されたasd遺伝子を含むpCGI(asd A35G/R38L/S39E/A78V)ベクターの構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明をより詳細に説明する。しかし、このような説明は本発明の理解のために例として提示されたものに過ぎず、本発明の範囲がこのような例示的な説明によって制限されるのではない。
【0045】
実施例1.コリネバクテリウム・グルタミカム変異株の製造
アスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼの活性が強化されたコリネバクテリウム・グルタミカム変異株を製造するために、コリネバクテリウム・グルタミカムDS1菌株およびE.coli DH5a(HIT Competent cellsTM、Cat No.RH618)を使用した。
【0046】
前記コリネバクテリウム・グルタミカムDS1は、蒸留水1Lにグルコース5g、NaCl2.5g、酵母抽出物5.0g、ウレア(urea)1.0g、ポリペプトン10.0gおよび牛肉(beef)抽出物5.0gの組成のCM-broth培地(pH6.8)で30℃の温度で培養した。
【0047】
前記E.coli DH5aは、蒸留水1Lにトリプトン10.0g、NaCl10.0gおよび酵母抽出物5.0gの組成のLB培地上で37℃の温度で培養した。
【0048】
抗生剤カナマイシン(kanamycin)およびストレプトマイシンはシグマ(Sigma)社の製品を使用し、DNAシーケンシング分析はマクロジェン(株)に依頼して分析した。
【0049】
1-1.組換えベクターの作製
菌株にリジン生合成経路に関与するアスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼの活性を強化してリジンの生産性を増加させるために、アスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼの強化を導入した。本実施例で用いた方法は、アスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼを暗号化するasd遺伝子の発現を増加するために、asd遺伝子に特異的な変異を誘発した。asd遺伝子のアミノ酸配列のうち35番目のアミノ酸をアラニンからグリシンに、39番目のアミノ酸をセリンからグルタミン酸に、78番目のアミノ酸をアラニンからバリンに置換し、コリネバクテリウム・グルタミカムゲノム上でasd遺伝子35番目、39番目、78番目のアミノ酸を含む部分を中心に左アーム1000bpの部分と右アーム1785bpの部分をPCRで増幅して、オーバーラップPCR(overlap PCR)方法で連結した後、組換えベクターであるpCGI(文献[Kim et al.,Journal of Microbiological Methods84(2011)128-130]参照)にクローニングした。前記プラスミドをpCGI(asd A35G/S39E/A78V)と名付けた(
図1参照)。前記プラスミドを作製するためにそれぞれの遺伝子断片を増幅するのに下記表1のプライマーを用いた。
【0050】
【0051】
以上のプライマーを用いて、以下の条件下でPCRを行った。Thermocycler(TP600、TAKARA BIO Inc.、日本)を用いて、それぞれのデオキシヌクレオチドトリホスフェート(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)100μMが添加された反応液に、オリゴヌクレオチド1pM、コリネバクテリウム・グルタミカムDS1菌株の染色体DNA10ngを鋳型(template)として用いて、pfu-X DNAポリメラーゼ混合物(Solgent)1ユニットの存在下で30周期(cycle)を行った。PCRを行う条件は、(i)変性(denaturation)ステップ:94℃で30秒、(ii)結合(annealing)ステップ:58℃で30秒、および(iii)拡張(extension)ステップ:72℃で1~2分(1kbあたり2分の重合時間付与)の条件で実施した。
【0052】
このように製造された遺伝子断片を、self-assembly cloningを用いて、pCGIベクターにクローニングした。前記ベクターをE.coli DH5aに形質転換させ、50μg/mlのカナマイシンを含むLB-寒天プレート上に塗抹して、37℃で24時間培養した。最終的に形成されるコロニーを分離して挿入物(insert)が正確にベクターに存在するかを確認した後、このベクターを分離してコリネバクテリウム・グルタミカム菌株の組換えに使用した。
【0053】
前記方法で共通して行われた過程として、当該遺伝子の増幅は、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032 genomic DNAからPCR方法で増幅して、戦略によってself-assembled cloning方法によりpCGIベクターに挿入して、E.coli DH5aから選別した。染色体の遺伝子塩基置換(Chromosomal base substitution)は、それぞれ断片の遺伝子を個別増幅して、オーバーラップPCRで目的DNA断片を製造した。遺伝子組換え時のPCR増幅酵素としてはEx Taq重合酵素(Takara)、Pfu重合酵素(Solgent)を用い、各種制限酵素およびDNA modifying酵素はNEB製品を使用し、供給されたバッファーおよびプロトコルによって使用した。
【0054】
1-2.変異株の製造
前記pCGI(asd A35G/S39E/A78V)ベクターを用いて変異菌株のDS4菌株を製造した。前記ベクターの最終濃度が1μg/μl以上となるように用意して、コリネバクテリウム・グルタミカムDS1菌株に電気穿孔法(文献[Tauch et al.,FEMS Microbiology letters123(1994)343-347]参照)を用いて1次組換えを誘導した。この時、電気穿孔した菌株をカナマイシンが20μg/μl含まれるCM-寒天プレートに塗抹してコロニーを分離した後、ゲノム上の誘導した位置に適切に挿入されたかをPCRおよび塩基配列分析により確認した。このように分離された菌株を、再度2次組換えを誘導するために、ストレプトマイシン(streptomycine)を含むCM-寒天液体培地に接種し、一晩以上培養して同一濃度のストレプトマイシンを含む寒天培地に塗抹してコロニーを分離した。最終的に分離したコロニー中でカナマイシンに対する耐性の有無を確認した後、抗生剤耐性のない菌株のうちasd遺伝子に変異が導入されたかを塩基配列分析により確認した(文献[Schafer et al.,Gene145(1994)69-73]参照)。最終的に変異asd遺伝子が導入されたコリネバクテリウム・グルタミカム変異株(DS4)を取得した。
【0055】
実施例2.コリネバクテリウム・グルタミカム変異株の製造
asd遺伝子のアミノ酸配列のうち35番目のアミノ酸をアラニンからグリシンに、38番目のアミノ酸をアルギニンからロイシンに、39番目のアミノ酸をセリンからグルタミン酸に、78番目のアミノ酸をアラニンからバリンに置換したことを除けば、実施例1と同様の方法でコリネバクテリウム・グルタミカム変異株を製造した。
ここで、プラスミドを作製するためにそれぞれの遺伝子断片を増幅するのに前記表1のプライマーを用い、作製されたプラスミドpCGI(asd A35G/R38L/S39E/A78V)ベクター(
図2参照)を用いて変異菌株のDS4-1菌株を製造した。最終的に変異asd遺伝子が導入されたコリネバクテリウム・グルタミカム変異株(DS4-1)を取得した。
【0056】
実験例1.変異株のL-リジンの生産性の比較
親菌株コリネバクテリウム・グルタミカムDS1菌株と、実施例1および2で製造されたリジン生産変異株のDS4およびDS4-1菌株のL-リジンの生産性を比較した。
【0057】
下記表2のような組成を有するリジン培地10mlを含む100mlフラスコにそれぞれの菌株をそれぞれ接種し、30℃で48時間、180rpmの条件で振盪培養した。培養終了後、リジン分析はHPLC(Shimazu、日本)でL-リジンの生産量を測定し、その結果を表3に示した。
【0058】
【0059】
【0060】
前記表3に示しているように、コリネバクテリウム・グルタミカム変異株DS4およびDS4-1は、リジン生合成経路の強化のために、asd遺伝子のアミノ酸配列の特定位置(35番目、39番目および78番目のアミノ酸、または35番目、38番目、39番目および78番目のアミノ酸)が最適なアミノ酸に置換されることにより、親菌株コリネバクテリウム・グルタミカムDS1菌株に比べて、L-リジンの生産性がそれぞれ約10.0%、5.7%増加したことが確認された。このような結果を通して、asd遺伝子の発現強化がリジン前駆体の供給を強化することにより、菌株のL-リジン生産能を向上させることが分かった。
【0061】
以上、本発明についてその好ましい実施例を中心に説明した。本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明が本発明の本質的な特性を逸脱しない範囲で変形された形態で実現できることを理解するであろう。そのため、開示された実施例は限定的な観点ではなく説明的な観点で考慮されなければならない。本発明の範囲は上述した説明ではなく特許請求の範囲に示されており、それと同等範囲内にあるすべての差異は本発明に含まれていると解釈されなければならない。
【配列表】
【国際調査報告】