(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-29
(54)【発明の名称】横隔神経刺激
(51)【国際特許分類】
A61N 1/36 20060101AFI20240221BHJP
A61N 1/04 20060101ALI20240221BHJP
A61N 1/05 20060101ALI20240221BHJP
A61B 18/02 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
A61N1/36
A61N1/04
A61N1/05
A61B18/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023555459
(86)(22)【出願日】2022-03-08
(85)【翻訳文提出日】2023-11-01
(86)【国際出願番号】 EP2022055952
(87)【国際公開番号】W WO2022189465
(87)【国際公開日】2022-09-15
(32)【優先日】2021-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523343961
【氏名又は名称】サークル セーフ
(74)【代理人】
【識別番号】100107928
【氏名又は名称】井上 正則
(74)【代理人】
【識別番号】110003362
【氏名又は名称】弁理士法人i.PARTNERS特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フランセスキ,フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】チーリー,ベルトラン
【テーマコード(参考)】
4C053
4C160
【Fターム(参考)】
4C053BB02
4C053CC10
4C053JJ02
4C053JJ13
4C053JJ21
4C160JJ02
(57)【要約】
本開示は、特に、横隔神経刺激のためのシステムに関する。刺激システムは、それぞれがカテーテルの遠位部(240)上に配置された1つまたは複数の血管内電極を含むカテーテル(200)を備える。カテーテルは、人間の患者の上大静脈(VC)に導入されるように構成される。刺激システムはまた、横隔神経に対して遠位部の反対側で患者に貼り付けられるように構成された体外電極パッチ(260)を備える。体外電極パッチは、1つまたは複数の血管内電極とバイポーラモードで動作可能である。このようなシステムは、特に冷凍アブレーション処置中の横隔神経刺激に対して改善された解決策を形成する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは複数の血管内電極(310、…、1010)を含むカテーテル(200、…、1000)であって、前記血管内電極のそれぞれが前記カテーテルの遠位部(240、…、1040)上に配置され、前記カテーテルが、人間の患者の上大静脈内に導入されるために、前記カテーテルの前記遠位部は前記上大静脈(VC)内、右腕頭静脈内、および/または、右鎖骨下静脈内に配置されるように構成された、前記カテーテルと、
前記横隔神経に対して前記遠位部の反対側で前記患者に貼付されるように構成され、前記1つまたは複数の血管内電極とバイポーラモードで動作可能である、体外電極パッチ(260、460)と
を備える横隔神経刺激のためのシステム。
【請求項2】
前記体外電極パッチは、1cmより大きい長さ、および/または、1cmより大きい幅を有する導電性表面を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記導電性表面は、例えば、8cmより大きい長さおよび4cmより大きい幅のように、4cm以上の長さおよび2cm以上の幅を有するものである、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記体外電極パッチは、柔軟な、および/または、金属性の材料で作られた導電層を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のシステム
【請求項5】
前記導電層は柔軟な金属層である、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記体外電極パッチは、導電性粘着性コーティングを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記カテーテルの前記遠位部は拡張可能部(342、541、…、1042)を含み、前記カテーテルは拡張された態様を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記拡張可能部は、好ましくは横隔神経刺激中に所定の位置に留まるように、上大静脈(VC)、右腕頭静脈、および/または、右鎖骨下静脈の内壁に周方向に合致するように構成される、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記1つまたは複数の血管内電極は、前記拡張可能部上に少なくとも部分的に配置される、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
少なくとも1つの血管内電極は、前記カテーテルが前記拡張された態様にあるときに、上大静脈、右腕頭静脈、および/または、右鎖骨下静脈の内壁と接触するように、前記拡張可能部上に配置される、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記拡張された態様にあるときは、前記1つまたは複数の血管内電極は、前記拡張可能部の円周上に配置される、請求項9または10に記載のシステム。
【請求項12】
前記拡張された態様は、螺旋状または渦巻状の構成である、請求項7から11のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項13】
前記拡張可能部は、前記拡張された態様にあるとき、最大でも2周のコイルを有する螺旋または渦巻を形成する、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記拡張された態様は、ループ状、投げ縄状、または籠状の構成である、請求項7から11のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項15】
前記カテーテルは、前記拡張可能部の後に、拡張不可能な遠位端を備える、請求項7から14のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項16】
前記拡張不可能な遠位端は直線状である、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記拡張不可能な遠位端の長さは、1cmより大きい、および/または、12cmより小さい、例えば1.5cmと4cmの間の長さである、請求項15または16に記載のシステム。
【請求項18】
前記拡張可能部は、前記拡張された態様にあるとき、10mmと35mmの間の直径を持つ、請求項7から17のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項19】
前記カテーテルは、前記カテーテルを前記拡張された態様に変形させるために作動可能な1つまたは複数のプルワイヤを備える、請求項7から18のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項20】
前記拡張可能部は、前記拡張可能部を前記拡張された態様に付勢する形状記憶材料で少なくとも部分的に作られている、請求項7から19のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項21】
前記カテーテルは、収納可能な直線化インナー部材を導入するためのルーメンを備える、請求項1から20のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項22】
前記カテーテルはさらに、前記ルーメン内に前記直線化インナー部材を備える、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記直線化インナー部材はガイドワイヤである、請求項21または22に記載のシステム。
【請求項24】
前記ガイドワイヤは、金属製であり、その直径は0.020”より大きい、および/または、0.060”より小さく、好ましくは0.030”より大きい、および/または、0.040”より小さく、例えば0.032”または0.035”に等しく、および/または、疎水性の素材で作られている、請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
前記1つまたは複数の血管内電極、および前記体外電極パッチと電気的に導通するように構成されたエネルギー源(411)をさらに備える、請求項1から24のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項26】
前記エネルギー源は、それぞれ1Vから50Vの間の電圧振幅を持つ複数の電気パルスを送出するように構成されている、請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
前記エネルギー源は、それぞれ0.1msから20msの間の持続時間を持つ複数の電気パルスを送出するように構成される、請求項25または26に記載のシステム。
【請求項28】
前記1つまたは複数の血管内電極は、単極を形成するように互いに電気的に接続された複数の電極、または、それぞれが他から電気的に切り離されていて、全体で単極として動作可能な複数の個別の電極からなる、請求項1から27のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項29】
前記1つまたは複数の血管内電極は、複数の電極からなり、前記システムは、前記複数の電極の個々のそれぞれの電極と前記体外電極パッチとの間に電気パルスを同時に送出するように、前記複数の電極を動作させるように構成される、請求項1から28のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項30】
前記1つまたは複数の血管内電極は、5個から20個の間の電極、例えば10個の電極からなる、請求項1から29のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項31】
前記システムは、横隔神経刺激に対する横隔膜の反応を監視するためのユニット(490~494)をさらに備える、請求項1から30のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項32】
請求項1から31のいずれか一項に記載のシステム、および冷凍アブレーションカテーテル(480)を備える、心臓冷凍アブレーションのためのシステム。
【請求項33】
請求項1から31のいずれか一項に記載のシステム、または請求項32に記載のシステムと、
例えば心臓冷凍アブレーション中などに行う、人間の患者の横隔神経刺激に関する指示と、
任意選択で、横隔神経刺激に対する横隔膜の反応を監視するための指示、および/または、心臓冷凍アブレーションを実行するための指示と
を含む、横隔神経刺激、および/または、心臓冷凍アブレーションのためのキット。
【請求項34】
請求項1から31のいずれか一項に記載の横隔神経刺激システムを提供するステップと、
人間の患者の前記上大静脈に前記刺激カテーテルを導入するステップと、
前記刺激カテーテルの前記遠位部を、上大静脈、右腕頭静脈、および/または、右鎖骨下静脈に配置するステップと、
前記体外電極パッチを、前記横隔神経に対して前記遠位部の反対側で前記人間の患者に貼り付けるステップと、
横隔神経刺激を実行するために、前記1つまたは複数の血管内電極と前記体外電極パッチをバイポーラモードで動作させるステップと
を含む、横隔神経を刺激するための方法。
【請求項35】
前記体外パッチは、少なくとも部分的に前記患者の背中の右半分、および/または、少なくとも部分的に上半身の右側部に貼り付けられる、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記体外パッチは、前記患者の身長に対して、前記体外パッチの少なくとも一部が前記刺激カテーテルの前記遠位部と実質的に同じ高さになるように配置される、請求項34または35に記載の方法。
【請求項37】
前記体外パッチは、首の付け根より下の位置で、高くても実質的に首の付け根までの位置、右肩より下で、高くても実質的に右肩までの位置、または、右脇より下で、高くても実質的に右脇までの位置、に貼り付けられる、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記体外電極パッチは、前記患者の右傍脊柱の背中に少なくとも部分的に貼り付けられ、右肩甲骨の内側部分に面し、前記体外電極パッチは首の付け根まで届く、請求項34から37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記体外電極パッチは、前記患者の右側胸部領域に少なくとも部分的に貼り付けられる、
請求項34から38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記体外電極パッチは、前記患者の背中または右側部に沿って延びるように貼り付けられる、請求項34から39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記体外電極パッチは、前記患者の背中および右側部に沿って横方向に延びるように貼り付けられる、請求項34から39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記刺激方法は、横隔神経に対向する上大静脈、右腕頭静脈、および/または、右鎖骨下静脈の内壁の一部に対して少なくとも1つの電極を配置するステップをさらに含む、請求項34から41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記刺激方法は、横隔神経刺激に対する横隔膜の反応を監視するステップをさらに含む、
請求項34から42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
人間の患者の左心房内に冷凍アブレーションカテーテルを導入するステップと、
冷凍アブレーションを実行するステップと、
冷凍アブレーションを実施中に、請求項43に記載の横隔神経刺激方法を繰り返すステップと
を含む、冷凍アブレーションの方法。
【請求項45】
前記冷凍アブレーションの方法は、横隔膜の反応が低下した場合に、
冷凍アブレーションを一時停止するステップと、
その後冷凍アブレーションを再開するステップと
をさらに含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
請求項34から43のいずれか一項に記載の刺激方法を実行するために、
前記1つまたは複数の血管内電極
および請求項1から31のいずれか一項に記載の刺激システムの前記体外電極パッチ
と電気的に導通するエネルギー源を動作させるための実行可能コードを備えるコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、横隔神経刺激、および/または、心臓冷凍アブレーションのためのシステム、方法、キット、およびコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
心房細動はよくみられる不整脈である。治療法の選択肢の1つに、低侵襲処置による心房細動のアブレーションがある。心房細動アブレーションは心臓アブレーションの一種で、心臓内の組織に傷を付けたり破壊することにより、不整脈の原因となる誤った電気信号を遮断する。例えば、一方または両方の肺静脈を、例えばその肺静脈口を取り囲むような円周状の病変を形成することによって隔離できる。低侵襲心臓アブレーション技術の中で、心臓冷凍アブレーションは電気生理学の専門家の間で支持を集めている処置である。冷凍アブレーション技術は、冷凍アブレーションカテーテル、つまり、ほとんどの場合クライオバルーンカテーテル(あるいは、冷凍バルーンカテーテル)を用いて組織を低温で「焼く」ことによって心臓の肺静脈を電気的に隔離することによって成される。
【0003】
冷凍アブレーション技術で最も一般的な合併症は、右横隔神経と肺静脈が近接しているために、右横隔神経の損傷によって引き起こされる右横隔膜麻痺である。このような損傷は冷凍アブレーション処置中に系統的に発生するものではないが、それでも無視できない数の患者に影響を与えている。そして、損傷はほとんどの場合回復可能ではあるが、損傷を受けた患者の比較的多くは翌日も依然として影響が残り、一部の患者では自然治癒するまで横隔膜麻痺が比較的長期間続くことがある。
【0004】
非特許文献1は、冷凍アブレーションによる右横隔神経の損傷の概要と、そのような損傷を軽減するための技術、およびそのような技術に関連する問題について述べている。広く普及していて、この論文の中でレビューされている1つの技術は、冷凍アブレーション処置中に右横隔神経に対する電気刺激を実施することである。横隔神経は右横隔膜ドームの筋収縮を制御するものであるので、この技術はさらに、電気刺激によって誘発される収縮反応を監視し、それに基づいて対処することを含む。
【0005】
図1は、そのような横隔神経刺激技術を実行するための従来技術の態様を示す。この図は、左側に心臓の解剖学的断面Hと、右側に対応する医用画像Iの例を示して、右横隔神経PNの電気刺激のための電気生理学カテーテル10の位置を例示している。刺激カテーテル10は、大腿静脈を通して導入され、その遠位端14が上大静脈VC内に配置されて、横隔神経PNを刺激する。刺激カテーテル10は、その遠位端14に、上大静脈の内側(心臓の上方)に可能な限り近く、かつ、横隔神経PNに対向するように配置される複数(例えば4つ)の電極11を備える。刺激カテーテル10は、一般的に使用されている市販のカテーテルである直線型4極カテーテルであってもよい。操作者は、電極11を配置し、バイポーラモードで2つの電極を作動させて横隔神経を刺激する。操作者は、右横隔神経の損傷の可能性を評価する助けとするため、電気刺激によって引き起こされる右横隔膜の収縮を観察する。このような評価により、操作者は合併症が起きる可能性を減らすために臨床的判断を下すことができる。
【0006】
このような電気刺激にはいくつかの問題がある。まず、操作者は、刺激カテーテルの電極で横隔神経を刺激できる位置を最初に探す必要がある。操作者がその位置を「見誤る」と、電極から供給される電流は効果的に横隔神経を刺激できない。そのため、操作者は、刺激カテーテルが適切な位置にあることを確認しなければならないという不便がある。さらに、操作者は、電気刺激を加える前に刺激カテーテルが適切な位置にあることを確認したとしても、電気刺激を加えている間、横隔神経への電気刺激が安定するように、刺激カテーテルが当該位置に維持されていることを確認する必要がある。現在入手可能な刺激カテーテルを使用しながら電気刺激の安定性を維持することは、操作者にとって困難な作業である。そのため、操作者は電気刺激を加えている間に横隔神経を「見失う」ことがあり、これにより電気刺激が不安定になる。刺激を修正するために、操作者はカテーテルの位置を合わせ直す必要がある。これは、操作者にとって刺激カテーテルの位置を直して刺激を再開するために時間を無駄に使い不都合である。さらには、この方法は横隔神経の損傷を評価するのを横隔膜の監視に頼っている。しかし、横隔膜の監視が不安定で利用できなくなると、操作者は横隔神経の損傷を評価できなくなる。さらに、時には、刺激が不安定であると、横隔膜収縮反応の低下につながって横隔神経の損傷または損傷の前兆があるとの誤認を招き、そのため、その低下が単にカテーテルの位置ずれによるものであるにもかかわらず、操作者に誤った判断をさせる可能性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】“Contemporary analysis of phrenic nerve injuries following cryoballoon-based pulmonary vein isolation: A single-centre experience with the systematic use of compound motor action potential monitoring”,Anwar,O.et.al.,2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような背景から、特に冷凍アブレーション処置中の横隔神経刺激法を改善する方法が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、横隔神経刺激のためのシステムが提供される。この刺激システムは、カテーテルの遠位部にそれぞれ配置された1つまたは複数の血管内電極を含む(刺激)カテーテルを備える。カテーテルは、遠位部を上大静脈、右腕頭静脈、および/または、右鎖骨下静脈に配置するように、人間の患者の上大静脈内に導入されるように構成される。刺激システムはまた、横隔神経に対して遠位部の反対側で患者に貼り付けられるように構成された体外電極パッチを備える。体外電極パッチは、1つまたは複数の血管内電極とバイポーラモードで動作可能である。
【0010】
実施例において、体外電極パッチは、1cm以上の長さ、および/または、1cmより大きい幅を持つ導電性表面を備えてよい。例えば、導電性表面は、長さが4cmより大きく、および幅が2cmより大きくてよく、これは例えば、長さが8cmより大きく、および幅が4cmより大きい。任意選択で、導電性表面の長さは40cmまたは30cmより小さくてよく、および/または、導電性表面の幅は30cmまたは20cmより小さくてよい。例えば、導電性表面は、長さが30cmより小さく、幅が20cmより小さくてよい。例えば、導電性表面は、長さが約20cm、幅が約10cmであってよい。
【0011】
実施例において、体外電極パッチは、柔軟性材料、および/または、金属材料で作られた導電層を備えてよい。例えば、体外電極は柔軟性金属層で作られてよい。追加として、または代替として、体外電極パッチは導電性粘着性コーティングを備えてよい。
【0012】
実施例において、刺激カテーテルの遠位部は拡張可能部を含んでよく、刺激カテーテルは拡張された態様を有してよい。
【0013】
このような実施例において、拡張可能部は、好ましくは、横隔神経刺激中に所定位置に留まるように、上大静脈、右腕頭静脈、および/または、右鎖骨下静脈の内壁と周方向に合致するように構成されてよい。追加として、または代替として、1つまたは複数の血管内電極が、拡張可能部に少なくとも部分的に配置されてよい。このような場合、任意選択で、拡張可能部に配置された少なくとも1つの血管内電極は、幅よりも長さが大きくてよく、刺激カテーテルが拡張された態様にあるときに、上大静脈、右腕頭静脈、および/または、右鎖骨下静脈に実質的に沿って延在するように拡張可能部に配置されてよい。さらに、追加として、または代替として、刺激カテーテルが拡張された態様にあるときに、少なくとも1つの血管内電極を、上大静脈、右腕頭静脈、および/または、右鎖骨下静脈の内壁に接触するように、拡張可能部に配置してよい。
【0014】
追加として、または代替として、このような実施例において、拡張された態様にあるときに、1つまたは複数の血管内電極は、拡張可能部の円周上に配置されてよい。
【0015】
追加として、または代替として、このような実施例において、拡張された態様は、螺旋状または渦巻状、ループ状、投げ縄状、傘状、または籠状の構成であってよい。
【0016】
追加として、または代替として、このような実施例において、拡張可能部は、拡張された態様にあるときに、最大2周のコイルでなる螺旋または渦巻を形成してよい。
【0017】
追加として、または代替として、このような実施例において、カテーテルは拡張可能部の後に拡張不可能な遠位端を備えてよい。
【0018】
追加として、または代替として、このような実施例において、拡張不可能な遠位端は直線状であってよい。
【0019】
追加として、または代替として、このような実施例において、拡張不可能な遠位端の長さは、1cmより大きい、および/または、12cmより小さく、例えば1.5cmと4cmの間であってよい。
【0020】
追加として、または代替として、このような実施例において、拡張可能部の直径は、拡張された態様にあるときに、10mmと35mmの間であってよい。
【0021】
追加として、または代替として、このような実施例において、刺激カテーテルは、刺激カテーテルを拡張された態様に変形させるために操作可能な1つまたは複数のプルワイヤを含んでよく、および/または、拡張可能部は、拡張可能部を拡張された態様に付勢する形状記憶材料で少なくとも部分的に作られてよい。
【0022】
実施例において、カテーテルは、収納可能な直線化インナー部材を導入するためのルーメンを備えてよい。
【0023】
このような実施例において、カテーテルは、ルーメン内に直線化インナー部材をさらに備えてよい。
【0024】
追加として、または代替として、このような実施例において、直線化インナー部材はガイドワイヤであってよい。
【0025】
追加として、または代替として、このような実施例において、ガイドワイヤは金属製であってよく、直径が0.020”より大きい、及び/又は0.060”より小さく、好ましくは0.030”より大きい、及び/又は0.040”より小さく、例えば0.032”、又は0.035”であってよく、及び/又は疎水性材料で作られてよい。
【0026】
実施例において、1つまたは複数の血管内電極は、刺激カテーテルに沿って間隔をあけて配置された複数の電極からなってよい。このような実施例において、任意選択で、当該複数の電極は5個より多い電極、および/または、20個より少ない電極からなってよい。例えば、当該複数の電極は、約10個の電極からなってよい。追加として、または代替として、このような実施例において、当該複数の電極の間隔は、4mmより大きい、および/または、18mmより小さく、例えば約9mmであってよい。さらに追加として、または代替として、当該複数の電極は、単極を形成するように一緒に接続されてよい。
【0027】
実施例において、少なくとも1つの血管内電極の長さは、0.5mmより大きい、および/または、2.5cmより小さくてよい。追加として、または代替として、少なくとも1つの血管内電極の幅は、0.3mmより大きい、および/または、2.5mmより小さくてよい。
【0028】
実施例において、システムは、1つまたは複数の血管内電極および体外電極パッチと電気的に導通するように構成されたエネルギー源をさらに備えてよい。例えば、エネルギー源は、例えば各々が1Vから50Vの間の電圧振幅、および/または、各々が0.1msから20msの間の持続時間の電気パルスを送出するように構成されてよい。
【0029】
実施例において、1つまたは複数の血管内電極は、単極を形成するように互いに電気的に接続された複数の電極からなってもよく、または、互いに電気的に切り離され、全体で単極として動作可能な複数の個別の電極からなってもよい。
【0030】
実施例において、1つまたは複数の血管内電極は複数の電極からなってよく、システムは、複数の電極を動作させて、複数の電極の個々の電極と体外電極パッチとの間に同時に電気パルスを送出するように構成されている。
【0031】
さらに、心臓冷凍アブレーションのためのシステムが提供される。この冷凍アブレーションシステムは、刺激システム、および冷凍アブレーションカテーテル、例えば冷凍バルーンカテーテルを備える。
【0032】
さらに、横隔神経を刺激する方法が提供される。この刺激方法は、横隔神経刺激システムを提供するステップと、体外電極パッチを、横隔神経に対して遠位部とは反対側で人間の患者に貼付するステップと、刺激カテーテルを患者の大静脈内に導入するステップと、刺激カテーテルの遠位部を大静脈内、右腕頭静脈内、および/または、右鎖骨下静脈内に配置するステップと、体外電極パッチを1つまたは複数の血管内電極とバイポーラモードで動作させて横隔神経刺激を行うステップとを含む。
【0033】
「横隔神経に対して遠位部の反対側」とは、患者の皮膚のうち、遠位部の位置(すなわち、上大静脈、右腕頭静脈、および/または、右鎖骨下静脈)から横隔神経をほぼ間に挟む部分を意味する。従って、正確には、背中(すなわち、背部)、上半身の右側部(すなわち、右腕および右肩の側部を除く、背部と胸部の間、右脇の下および右腰の上)、右肩の上部、および首の後部からなる患者の上半身の領域を意味する。従って、胸部、腹部、右腕(右肩の側部を含む)は、当該部位には含まれない。
【0034】
実施例において、体外パッチは、患者の背中の右半分の少なくとも一部に(例えば完全に)、および/または、上半身の右側部(右腕を除く)の少なくとも一部に貼り付けられてよい。追加として、または代替として、体外パッチは、患者の身長(すなわち、患者の足から頭まで)に対して、体外パッチの少なくとも一部が刺激カテーテルの遠位部と実質的に同じ高さになるように配置されてよい。例えば、体外パッチは、首の付け根より下の位置で、高くても実質的に首の付け根までの位置、右肩より下で、高くても実質的に右肩までの位置、または、右脇より下で、高くても実質的に右脇までの位置に貼り付けてよい。従って、体外パッチは、刺激カテーテルの遠位部、および/または、1つまたは複数の血管内電極に面してよく、すなわち、水平線が両者を結んでよい。換言すれば、体外パッチは、実質的に、体外パッチと刺激カテーテルの遠位部、および/または、1つまたは複数の血管内電極との間に横隔神経が位置するように配置されてよい。
【0035】
特定の実施例では、体外電極パッチは、右肩甲骨の内側部分に面して、右傍脊柱部で背中に少なくとも部分的に貼り付けられてよく、体外電極パッチは、首の付け根まで届いてよい。追加として、または代替として、体外電極パッチは、患者の右側胸部領域の少なくとも一部に貼り付けられてよい。
【0036】
実施例において、体外電極パッチは、体外電極パッチが患者の背中または右側部に沿って延在する(すなわち、患者の足から頭までの方向に長手方向が延在する)ように貼り付けられてよい。代替として、体外電極パッチは、体外電極パッチが患者の背中および右側部に沿って横方向に延在するように貼り付けられてよい。
【0037】
実施例において、刺激方法は、少なくとも1つの電極を、上大静脈、右腕頭静脈、および/または、右鎖骨下静脈の内壁の横隔神経に面する一部に対して配置するステップをさらに含んでよい。
【0038】
実施例において、刺激方法は、横隔神経刺激に対する横隔膜の反応を監視するステップをさらに含んでよい。
【0039】
さらに、冷凍アブレーションの方法が提供される。冷凍アブレーション方法は、人間の患者の左心房内に冷凍アブレーションカテーテルを導入するステップ、冷凍アブレーションを実行するステップ、および冷凍アブレーションを実行中に、横隔神経刺激に対する横隔膜の反応を監視するステップを含む横隔神経刺激の方法を繰り返すステップを含む。横隔膜の反応が低下した場合には、冷凍アブレーション方法は、冷凍アブレーションを一時停止し、その後冷凍アブレーションを再開するステップをさらに含んでよい。
【0040】
さらに、横隔神経刺激のためのキットが提供される。キットは、刺激システムまたは冷凍アブレーションシステムを含む。キットはまた、例えば心臓冷凍アブレーション中に、人間の患者を横隔神経刺激するための指示、および任意選択で、横隔神経刺激に対する横隔膜の反応を監視するための指示、および/または、心臓冷凍アブレーションを実施するための指示を含む。
【0041】
さらに、例えば刺激方法を実行するために、刺激システムのエネルギー源を動作させるための実行可能コードを含むコンピュータプログラムが提案される。コンピュータプログラムは、不揮発性メモリに記録され、例えば横隔神経刺激用に構成された電気パルスを送出するために、プロセッサにエネルギー源を動作させてよい。刺激システムは、例えばエネルギー源を含むエネルギーユニットの一部として、そのようなプロセッサ、および/または、そのような不揮発性メモリを含んでよい。刺激システムはさらに、前記メモリに記録されたコンピュータプログラムを備えるか、あるいは代替として、コンピュータプログラムは遠隔地からダウンロード可能で、刺激システムは、ダウンロードされたコンピュータプログラムをインストールできるように構成されてよい。
【0042】
以下に、本発明の実施形態を、非限定的な例として、添付図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】従来技術による横隔神経刺激技術を示す図である。
【
図2】刺激システムの一例を用いた刺激方法の一例を示す図である。
【
図3】冷凍アブレーションシステムの一例を示す図である。
【
図4】拡張可能部を有する横隔神経刺激用カテーテルの一例を示す図である。
【
図5A】投げ縄状の構成の横隔神経刺激用カテーテルの一例を示す縦断図である。
【
図5B】投げ縄状の構成の横隔神経刺激用カテーテルの一例を示す断面図である。
【
図6A】螺旋状の構成の横隔神経刺激用カテーテルの一例を、拡張された態様で示す図である。
【
図6B】螺旋状の構成の横隔神経刺激用カテーテルの一例を、直線状の態様で示す図である。
【
図7】水平ループ状の構成の横隔神経刺激用カテーテルの一例を示す。
【
図8】垂直ループ状の構成の横隔神経刺激用カテーテルの一例を示す。
【
図9】傘状の構成の横隔神経刺激用カテーテルの一例を示す。
【
図10】籠状の構成の横隔神経刺激用カテーテルの一例を示す。
【
図11】拡張可能部を有する横隔神経刺激用カテーテルの一例を示す。
【
図12】拡張可能部を有する横隔神経刺激用カテーテルの一例を示す。
【
図13】拡張可能部と拡張不可能な遠位端とを有する横隔神経刺激用カテーテルの一例を示す。
【
図14】拡張可能部を有する横隔神経刺激用カテーテルの一例を示す。
【
図15】拡張可能部を有する横隔神経刺激用カテーテルの一例を示す。
【
図16】拡張可能部を有する横隔神経刺激用カテーテルの一例を示す。
【
図17】拡張可能部と拡張不可能な遠位端とを有する横隔神経刺激用カテーテルの一例を示す。
【
図18】拡張可能部と拡張不可能な遠位端とを有する横隔神経刺激用カテーテルの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本開示において、横隔神経刺激または横隔神経は、厳密には右横隔神経を意味する。同様に、横隔膜ドーム収縮または横隔膜と言及されるときは、厳密には右横隔膜を意味する。さらに、それ以上明確化せずに「大静脈」と言及されるときは、厳密には上大静脈を意味する。さらに、「患者」と言及されるときは、厳密には人間の患者を意味する。
【0045】
本開示では、物理単位には以下の略語を使用する。ミリ秒は「ms」、秒は「s」、ミリメートルは「mm」、センチメートルは「cm」、ボルトは「V」、ミリボルトは「mV」である。
【0046】
横隔神経刺激システムは、刺激カテーテルと、患者に貼り付けられるように構成された体外電極パッチとを備える。刺激カテーテルは、遠位部が大静脈内、右腕頭静脈内、および/または、右鎖骨下静脈内に位置するように、患者の大静脈内に導入されるように構成される。体外電極パッチは、横隔神経に対して刺激カテーテルの遠位部の反対側で患者に貼り付けられる。刺激カテーテルは、刺激カテーテルの遠位部にそれぞれ配置された1つまたは複数の血管内電極を備える。体外電極パッチは、1つまたは複数の血管内電極とバイポーラモードで動作可能である。
【0047】
このような刺激システムは、横隔神経刺激の改善された方法を実行するための解決策を形成する。この刺激方法は、刺激システムを提供するステップと、体外電極パッチを、横隔神経に対して遠位部とは反対側で人間の患者に貼付するステップと、刺激カテーテルを患者の大静脈内に導入するステップと、刺激カテーテルの遠位部を大静脈内、右腕頭静脈内、および/または、右鎖骨下静脈内に配置するステップと、体外電極パッチを1つまたは複数の血管内電極とバイポーラモードで動作させて横隔神経刺激を行うステップとを含む。
【0048】
「遠位部が大静脈内、右腕頭静脈内、および/または、右鎖骨下静脈内に位置するように、患者の大静脈内に導入されるように構成される」とは、刺激カテーテルの少なくとも遠位部が大静脈内に導入され、任意選択で、さらに右腕頭静脈内に導入され、加えて任意選択で、さらに右鎖骨下静脈内に導入されるように構成されていることを意味する。刺激カテーテルの遠位部は、大静脈内に配置されて操作されてよい。追加として、または代替として、刺激カテーテルの遠位部は、大静脈と右腕頭静脈の両方に配置され操作されてよい。これは例えば、選択的にまたは同時に、両方の血管(遠位部の一部が一方の血管、別の一部が他方の血管)に配置され操作されてよい。追加として、または代替として、刺激カテーテルの遠位部は、大静脈、右腕頭静脈および右鎖骨下静脈のすべてに配置され操作されてよい。これは例えば、3つの血管すべて、および/または、それらの対(例えば、連続したものの対)に配置され操作されてよい。「同時に」とは、遠位部が、ある血管内に部分的に配置され、同時に別の血管内に部分的に配置されてよいことを意味する。従って、刺激カテーテルの遠位部は、横隔神経に近い大静脈領域の、そのような任意の血管内に配置され操作されてよい。以下では、そのような刺激カテーテルの遠位部の位置を示すために「大静脈領域の血管」と呼ぶ。
【0049】
刺激カテーテルが人間の患者の大静脈領域の血管内にあるときに、横隔神経に対して遠位部の反対側で患者に体外電極パッチを貼り付け、刺激カテーテルを前記パッチを用いてバイポーラモードで動作させる(すなわち、複数の血管内電極の全体で1つの極を形成し、体外電極がもう一方の極を形成する)ことによって、刺激システムは、1つまたは複数の血管内電極とパッチとの間に横隔神経を実質的に通過する電界を形成することができる。このようにして、電界は横隔神経を刺激して、横隔膜ドームの収縮反応を生じさせる。
【0050】
大静脈領域の血管内に配置された1つまたは複数の血管内電極と、患者の背中に配置された体外電極の間に電界が生成されることにより、刺激システムは、電界が横隔神経を通過して刺激しやすくする。このような構成は、横隔神経に近い1つまたは複数の点(1つまたは複数の血管内電極)と、解剖学的に横隔神経の反対側で十分離れたもう一方の点との間に電界が形成されることを確かにし、しかもその際に、1つまたは複数の血管内電極の、大静脈領域の血管内への配置に許容範囲を与えながらも、動静脈神経に堅牢にかつ安定して到達させる。その結果、操作者にとって、処置の開始時に1つまたは複数の血管内電極を配置することがより容易である。さらに、刺激はより安定し、換言すれば、1つまたは複数の血管内電極がわずかにずれても、少なくとも実質的には刺激に影響を及ぼさない。
【0051】
体外電極、具体的には電極パッチにより、比較的大きな電界が生成され、よって横隔神経を通過する可能性がより高くなる。これにより、横隔神経に確実に到達し、より安定した刺激が得られる。さらに、本刺激システムは設置が特に簡単である。実際、体外電極パッチは患者に貼り付けるのが比較的簡単である。さらに、パッチを使用することにより、横隔神経に正しく到達しながらも、患者に対する体外電極の配置にある程度の許容範囲が与えられる。さらに、処置中に、患者が仰向けに横たわってよく、体外電極の位置が少なくとも部分的に患者と手術台との間になってよい。パッチを使用すると、手術台に対して患者の背中が動いた場合に、体外電極がずれる恐れを軽減できる。
【0052】
刺激システムは、一方の極(例えば、陽極)を介して1つまたは複数の血管内電極と電気的に導通し、もう一方の極(例えば、陰極または接地)を介して体外電極パッチと電気的に導通するように構成されたエネルギー源を備えてよい。エネルギー源はこのように構成されて、1つまたは複数の血管内電極と体外電極パッチとの間に電気回路を形成する電気信号を生成し、このとき、これらの電極は患者の身体の電気抵抗によって隔てられる。エネルギー源は、横隔神経刺激に適合した電気生理学信号発生器を備えてよい。
【0053】
実施例において、エネルギー源は、横隔神経刺激に適合した電気パルスを送出することによって電気回路を形成してよい。各パルスの電圧は、1Vより大きい、および/または、50V未満であり、例えば、約12Vのように、2Vと20Vの間であってよい。追加として、または代替として、各パルス持続時間は、0.1msより大きい、および/または、20ms未満、例えば、約2.9msのように、0.5msと10msの間であってよい。2対の連続したパルスの間の間隔は一定または可変であってよい。いずれの場合でも、前記間隔は、20秒、10秒もしくは5秒未満、および/または、50msもしくは100msより大きく、例えば、約1秒のように、100msと10秒の間であってよい。このような間隔により、起こりつつある横隔膜麻痺を発生する十分前に確実に予測することができる。実際、心臓冷凍アブレーション処置中に、横隔膜の収縮反応が低下してから横隔膜麻痺が発生するまでに約30秒かかる。エネルギー源は、このようなパルスの送出を少なくとも心臓冷凍アブレーション処置の間、例えば、少なくとも180秒から240秒の間など、少なくとも120秒の間繰り返すように構成されてよい。エネルギー源は、このような繰り返しを、同じ患者のそれぞれ異なる右肺静脈に対する2回の心臓冷凍アブレーション処置に対応して、(例えば、10分未満の間に)少なくとも続けて2回反復するように構成されてよい。
【0054】
「血管内電極」とは、外部に開放されていて、1つの極に接続可能な刺激カテーテルの単一の導電部を意味する。刺激カテーテルの少なくとも1つの(例えば、それぞれの)血管内電極は、導電性材料、例えば、金、白金、銀、および/または、任意の適切な合金などの金属で作られてよい。刺激カテーテルは、1つまたは複数の電気リード線を備えてよく、当該1つまたは複数の電気リード線は、それぞれの血管内電極に電気を供給するように構成される。少なくとも1つの(例えば、それぞれの)電気リード線は、例えば1つまたは複数のルーメンに入れて刺激カテーテルの内側に配置された電線であってよく、または、刺激カテーテルの表面、例えば刺激カテーテルの内側の面に形成された電気基板の導電路であってよい。刺激カテーテルは、1つまたは複数の電気リード線を介して各血管内電極に供給するように、カテーテルをエネルギー源に、または前記エネルギー源に接続可能な電気コードまたはケーブルに(例えば、取り外し可能に)接続するための電気コネクタを備えてよい。
【0055】
刺激カテーテルの少なくとも1つの(例えば、それぞれの)血管内電極は、刺激カテーテルの外面上に形成されて静脈の壁の少なくとも一部に面する、パッド(すなわち、1本の曲線で仕切られた導電性材料の孤立したブロック)の形状であってよい。パッドは、任意の形状、例えば正方形、円形、または幅よりも長さが大きい任意の細長い形状、例えば略長方形、または略楕円形であってよい。パッドの「長さ」および「幅」とは、パッドにほぼ平行な平面上に投影したときの、パッドの一対の点の間の最大および最小のユークリッド距離を意味する。追加として、または代替として、パッドの代わりに、少なくとも1つの(例えば、それぞれの)血管内電極が、刺激カテーテルの外面の周囲に形成されたリング形状であってよい。
【0056】
刺激カテーテルの少なくとも1つの(例えば、それぞれの)血管内電極の長さは、0.5mmより大きい、および/または、2.5cmより小さく、例えば5mmから10mmの間であってよい。追加として、または代替として、刺激カテーテルの少なくとも1つの(例えばそれぞれの)血管内電極の幅は、0.3mmより大きい、および/または、2.5mmより小さく、例えば2mmから2.3mmの間であってよい。面積をより大きくすると、より大きな電流が流せる接触領域が得られ、堅牢で安定した横隔神経の刺激が可能になる。柔軟性と電気導通の間の適切な妥協点は、長さが5mmから10mmの間、および、幅が2mmから2.3mmの間にある。
【0057】
刺激カテーテルは、1つまたは複数の血管内電極を、例えば透視画像を使って、正確に配置できるように、1つまたは複数の放射線不透過性マーカーを含んでよい。追加として、または代替として、そのような配置は、電気マッピングを使って行われてよい。
【0058】
刺激カテーテルは、血管内電極を1つだけ備えてもよいし、あるいは複数の血管内電極を備えてもよい。複数の血管内電極の場合は、刺激はさらに改善される。刺激方法は、特に、パッチといくつかの血管内電極をバイポーラモードで動作させるステップを含んでよい。これにより、さらに電界が拡大して、横隔神経を刺激する確率が上がるため、安定性が向上する。追加として、または代替として、刺激方法は、パッチとバイポーラモードで動作させるためのいくつかの血管内電極のうちの1つまたは複数を選択するステップを含んでよい。複数の中から選択される1つまたは複数の血管内電極は、例えば刺激の質に関連する任意の所定の条件、例えば(選択された血管内電極ごとの)位置に関する所定の条件を満たす血管内電極であってよい。例えば、刺激カテーテルは、血管内電極の近くに配置された放射線不透過性材料のマーカーを追加で含んでよい。例えば、大静脈領域の血管の内壁に接している血管内電極のみを選択してよい。これらの電極は、刺激カテーテルのオプションの拡張可能部について後でさらに説明するように、刺激を効率的かつ安定して実行するのに最適である。刺激方法は、任意の技術、例えば電気マッピングによってそのような電極を決定するステップを含んでよい。従って、複数の血管内電極があることで、操作者に自由度が与えられ、刺激カテーテルの配置が容易になる。追加として、および/または、代替として、刺激方法は、透視画像によってそのような電極を決定するステップを含んでよく、それによって操作者の刺激カテーテルの配置の操作を特に容易にできる。
【0059】
次に、複数の血管内電極を含む刺激カテーテルの場合についてさらに説明する。
【0060】
複数の血管内電極は、5以上の電極からなってよい。これにより、横隔神経の強い刺激が得られる。追加として、または代替として、複数の血管内電極は20個未満の電極からなってよい。これにより、電極間の間隔を空けることができる。例えば、血管内電極は、8、9、10、11、または12個の電極からなってよい。これは、適切な妥協点である。
【0061】
複数の血管内電極は、刺激カテーテルに沿って間隔を空けて配置されてよい。これにより、刺激カテーテルの遠位端の機械的柔軟性を確保することができる。複数の電極は、所定の一定の距離、または、異なった距離を空けて配置されてよい。どちらの場合も、連続した電極の対の間の距離は4mmより大きくてもよい。これにより、比較的高い機械的柔軟性が得られる。追加として、または代替として、この距離は18mmより小さくてよい。これにより、横隔神経の強い刺激が得られる。この距離は、約9mmであってよく、機械的柔軟性と刺激強度との間の適切な妥協点となる。
【0062】
上記した血管内電極の大きさ、数、間隔は、電極を電気刺激、特に横隔神経刺激によく適合したものとする。
【0063】
複数の電極は、互いに電気的に接続された複数の電極からなり、従って単極を形成することだけができるものであってよい。任意選択で、電気的に接続された複数の電極は、単一の共通の電気リード線(例えば、電線または導電路)を介して供給されてよい。一方で、単一の「不連続な」電極について述べることもできるが、本開示では、電気的に接続された「複数の」電極について述べる。電気的に接続された複数の電極は、例えば、刺激カテーテルの一部を金属層で覆い、絶縁パッドで金属層を不連続に覆うことで得られてよい。代替として、電気的に接続された複数の電極は、例えば、刺激カテーテルの一部を金属層で覆い、金属層を絶縁層で覆い、次に絶縁層上に不連続な一連の開口を形成することで得られてよい。絶縁層は、大静脈領域の血管の内壁に面さない、または内壁と触れない外面を覆うように配置されてよい。例えば、後述の例にあるカテーテルの拡張可能部に配置された1つまたは複数の血管内電極では、絶縁層は、体組織ではなく血液と接触する拡張可能部の内側の表面を覆ってよい。追加として、または代替として、絶縁層はカテーテルの1つまたは複数の全ての部分を絶縁してよい。
【0064】
追加として、または代替として、複数の電極は、互いに電気的に切り離されていて、互いに独立して動作可能な複数の個別の電極からなってよい。任意選択で、そのような個別の電極は、それぞれ専用の電気リード線(例えば、電線または導電経路)を介して供給されてよく、刺激システムは、各々がそれぞれの電極に専用である複数の電気リード線(例えば、電線、および/または、導電経路)を備えてよい。刺激システムは、体外電極パッチを用いてバイポーラモードで個別の電極を選択的に動作させるように構成されてよく、刺激方法はそのような選択的動作を含んでよい。追加として、または代替として、刺激システムは、体外電極パッチとバイポーラモードで動作可能な単極を形成するように、個別電極のグループを選択的に動作させるように構成されてよく、刺激方法は、そのような選択的動作を含んでよい。「選択的動作」とは、刺激方法が、1つまたは複数の電極を選択して、選択された電極をエネルギー源に接続し、次いでエネルギーを供給するステップを含むことを意味する。任意選択で、刺激方法は、異なる個々の電極または個々の電極のグループが選択され動作される、異なる選択的動作を交互に行ってよい。さらに追加として、または代替として、刺激システムは、体外電極パッチとバイポーラモードで動作可能な単極を形成するように、複数の個別電極をまとめて動作させるように構成されてよく、刺激方法はそのような動作を含んでよい。
【0065】
いくつかの実施例において、1つまたは複数の血管内電極は複数の電極からなってよく、システムは、複数の電極の個々の電極と体外電極パッチとの間に電気パルスを同時に送出するように複数の電極を動作させるように構成される。このような実施例において、複数の電極は、5個から20個の電極、例えば10個の電極からなってよい。
【0066】
「1つまたは複数の血管内電極と体外電極パッチをバイポーラモードで動作させる」とは、体外電極パッチが1つの極を形成してよく、また(選択された)血管内電極が別の極を形成してよく、これによって2つの極の間に電界を生じさせることを意味する。例えば、体外電極パッチが陰極を形成してよく、一方、1つまたは複数の血管内電極が陽極を形成してよい。代替として、体外電極パッチが陽極を形成してよく、一方、1つまたは複数の血管内電極が陰極を形成してよい。任意選択で、刺激システムは、体外電極パッチと、1つまたは複数の血管内電極の極性が交互に反転するように構成されてよい。
【0067】
体外電極パッチは、1つの単極を形成し、患者の背中または右側部に接して配置され、かつ、刺激方法中に実質的に固定されたままとなって、ある電位に接続されるように構成された導電性表面を備える、任意の医療用パッチまたはパッドであってよい。導電性表面は、パッチと患者を、電極ペンシルまたは電極スタイレットのような点接触ではなく、面接触させる。従って、パッチは、単一点状の帰路電極または中点電極と、1つまたは複数の血管内電極との間に生成される電界を拡大する。パッチは、単回使用または複数回使用の構成であってよい。
【0068】
導電性表面は、患者の皮膚と直接接触するように構成された導電性基板を含んでよい。導電性表面は任意の形状であってよい。例えば、導電性表面は、単一の導電性区域から構成されてよく、前記単一区域の点の各対は、少なくとも1つの導電性の連続経路で繋がる。代替として、導電性表面は、非導電性区域によって互いに分離された複数(例えば、2、3、または4つ)のこのような導電性区域を含んでよい。このような場合、複数の導電性区域は、(例えば、選択された)1つまたは複数の血管内電極とバイポーラモードで動作可能な1つの単極を形成するように、1つの電位に全体で接続可能であってよい。任意選択で、複数の導電性区域は、(例えば、選択された)1つまたは複数の血管内電極とバイポーラモードで動作可能な1つの単極を形成するように、1つの電位に選択的に接続できてよい。実施例において、刺激システムは、血管内電極の任意の組み合わせと、パッチの分離された導電性区域との任意の組み合わせを選択的にバイポーラモードで動作させるように構成されてよい。
【0069】
任意選択で、単一の区域、または複数の区域のうちの少なくとも1つ(例えば、それぞれ)は、実質的に平坦であってよい。代替として(それぞれ、追加として、または代替として)、単一の区域(それぞれ、複数の区域のうちの少なくとも1つ、例えばそれぞれ)は、例えば規則的または不規則な格子の網目を形成してよい。すべての場合において、導電性基板は、任意選択で、導電性表面全体の凸包絡の10%、20%、50%、75%または90%以上を占めてよい。
【0070】
導電性表面は、任意の形状、例えば、略長方形、または略楕円形など、幅よりも長さが大きい任意の細長い形状であってよい。導電性表面の「長さ」および「幅」とは、パッチが平面に貼り付けられたときの、導電性表面の一対の点の間の最大および最小のユークリッド距離を意味する。細長い形状とすることにより、刺激方法において、体外電極パッチが患者の背中または右側部に沿って(すなわち、患者の背中の縦方向に)、あるいは横方向に延びるように、体外電極パッチを貼り付けることができる。これにより、横隔神経刺激の安定性と堅牢性が向上する。
【0071】
導電性表面は、横隔神経刺激の安定性および堅牢性を向上させるのに十分な大きさであってよい。特に、導電性表面の長さは、1cm、2cm、4cm、8cm、12cmより大きくてもよい。追加として、または代替として、導電性表面の幅は、1cm、2cm、3cm、4cm、5cmより大きくてもよい。例えば、導電性表面は、1cmより大きい長さおよび1cmより大きい幅であってもよく、または導電性表面は、2cmより大きい長さおよび1cmより大きい幅であってもよく、または導電性表面は、4cmより大きい長さおよび2cmより大きい幅であってもよく、または導電性表面は、8cmより大きい長さおよび4cmより大きい幅であってもよく、または導電性表面は、12cmより大きい長さおよび4cmより大きい幅であってもよく、または導電性表面は、12cmより大きい長さおよび5cmより大きい幅であってもよい。
【0072】
導電性表面は、患者の背中への貼り付けを容易にするために十分に小さくてよい。特に、導電性表面の長さは40cmまたは30cmより小さくてよく、および/または、導電性表面の幅は30cmまたは20cmより小さくてよい。例えば、導電性表面は、40cm以下の長さおよび30cmより小さい幅、または30cmより小さい長さおよび30cmより小さい幅、または30cmより小さい長さおよび20cmより小さい幅であってよい。
【0073】
例えば、導電性表面は、約20cmの長さおよび約10cmの幅など、15cmから25cmの間の長さ、および5cmから15cmの間の幅であってよい。任意選択で、導電性基板は、導電性表面全体の凸包絡の75%以上、例えば90%以上を占めてよい。
【0074】
パッチは、患者の皮膚に接する導電層を備えてよい。導電層は、金属材料、導電性ゲル、さらには導電性ゴムなどの任意の導電性材料で作られてよい。導電性ゲル層はシリコーン層によって支えられてよい。パッチは、任意選択で、導電性表面の反対側に、シリコーン層自体(絶縁性)などの外側絶縁層、または、例えばプラスチックまたは布地材料で作られた追加の層を備えてよい。パッチは、電気コードまたはケーブルを導電層に(例えば、取り外し可能に)接続するための電気コネクタ(例えば、プラグまたは1つまたは複数のタブ)を備えてよい。電気コードまたはケーブルは、エネルギー源、特にその電位への接続を可能にしてよい。代替として、パッチは、そのような電気コードまたはケーブルを取り外し不可に備えてよい。
【0075】
導電層は柔軟性材料で作られてよく、また、パッチ自体が柔軟性であってよい。導電層が金属材料からなる場合、金属材料は、柔軟性の金属シートであってよい。その柔軟性は、患者の体の形状に沿うことを可能にし、表面が患者の体によりよく接触するため、横隔神経刺激の安定性と堅牢性を向上させる。代替として、パッチは、硬質プレート、例えば硬質金属プレートからなってよく、任意選択で導電性ゲルからなる表面層を備え、患者はプレートの上(ゲル層があればその上)に背を着けて横たわってよい。患者の体重により、患者の背中とプレートの間に比較的良好な接触が得られてよい。
【0076】
パッチはさらに粘着性コーティングを含んでよく、これにより体外電極パッチは自己粘着性となる。これにより、パッチは、処置の間、患者の背中に確実に貼り付いたままになる。実際、粘着性コーティングは、医療処置中、特に横隔神経刺激中のパッチのずれを防ぐ。また、操作者は、さらなる固定用部材や追加の粘着剤を使用せずに、パッチを患者に素早く取り付けてよい。粘着性コーティングは導電性で、導電層を部分的または全体的に覆ってよい。これにより、パッチを固定した状態を維持しやすくなる。代替として、粘着性コーティングが導電層を囲んでもよい。
【0077】
従って、前述のように、導電性表面は、患者の皮膚に接するコーティングされていない導電層の表面か、または、もしあるのなら、導電性の粘着性コーティングされた表面のいずれかであってよい。さらに、前述のように、「患者に貼り付けられる」という表現は、処置中にパッチが患者の身体に対して実質的に固定された位置に留まるということのみを意味する。これは、任意選択で、上で説明したような粘着により、または他の手段(テーピング、または、衣服で患者の上半身を包む、など)でパッチを患者の背中に装着して実現してもよいが、必ずしもそうする必要はない。
【0078】
後で説明する実験で使用された、プラスチックの外層で覆われた粘着性金属パッチの例には次の製品がある:Erbe製NESSY(登録商標)Plate 170 Split。このパッチには、2つの別個の導電性区域に分割された導電性表面がある。パッチは、総面積が168cm2で、長さ約20cm、幅約8cmのほぼ長方形である。
【0079】
刺激カテーテルは、上大静脈に導入され動作されるように構成される。刺激方法は、侵襲性が最小限であってよく、従って刺激カテーテルは、例えば大腿静脈を通して導入されるように構成されてよい。従って、刺激カテーテルは十分に柔軟で、十分に長く、直径が十分に小さい。例えば、刺激カテーテルの外径は、4Fr以上、および/または、10Fr以下で、例えば6Fr、7Frまたは8Frであってよい。カテーテルの長さは、90cmより大きくてもよく、および/または、200cmより小さくてもよく、例えば約145cmに等しい。
【0080】
刺激カテーテルは、位置決め手段を備えてよい。
【0081】
例えば、刺激カテーテルは、カテーテルを大静脈に導くように構成された(例えば金属製の)ガイドワイヤを備えてよい。ガイドワイヤは、カテーテル本体のルーメン内に配置され、カテーテル本体の遠位端から突き出てよい。ガイドワイヤの直径は、0.020”より大きく、および/または、0.060”より小さく、好ましくは0.030”より大きく、および/または、0.040”より小さく、例えば0.032”または0.035”に等しくてよい。ガイドワイヤは止血弁に挿入されてよい。刺激カテーテルは、洗浄ルーメンをさらに備えてよい。一実施例において、ガイドワイヤは疎水性材料で作られる。
【0082】
代替として、刺激カテーテルは、位置決めマンドレルを挿入するように構成されたルーメンを備える本体を有してよい。ルーメンは、マンドレルがカテーテル本体から突き出ないように、カテーテル本体の遠位端で閉じられてよい。刺激カテーテルは、そのようなマンドレルをさらに備えてよい。
【0083】
図2は、刺激システムの概略例を用いて刺激方法の一例を示す。図示されているように、操作者は、体外電極パッチ260を患者の背中に貼り付けることによって刺激方法を実行してよい。特に、図から分かるように、パッチ260は、略長方形の形状であってよく、および/または、その長さは幅よりも大きくてよく、また、刺激方法は、パッチ260が患者の背中に沿って延在するようにパッチ260を貼り付けるステップを含んでよい。具体的には、パッチ260は、右肩甲骨の内側部分に面して、右肩甲骨の先端まで達するように、右傍脊柱部に貼り付けられてよい。変形例では、パッチ260は、患者の背中に、横方向に延びるように貼り付けられてよく、および/または、横隔神経に対して遠位部240の反対側となる他の場所に貼り付けられてよい。概略的に示されるように、この方法は、刺激カテーテル200の遠位部240を患者の上大静脈VCに導入するステップを含んでよい。刺激カテーテル200は、その遠位部240がパッチ260を挟んで横隔神経(図示せず)に面する位置に配置される。この位置では、横隔神経は、1つまたは複数の血管内電極(図示せず)を担持する刺激カテーテル200の遠位部240とパッチ260との間に位置する。従って、遠位部240の血管内電極と電気的に導通する1つの極と、電気コード262を介してパッチ260と電気的に導通するもう一方の極とを有するエネルギー源(図示せず)を使用することによって、それらの間に電界が生成されてよい。電界は横隔神経を通過する回路を閉じる。従って、横隔神経を刺激することができる。パッチ260の導電性表面が広い領域を持つことによって、横隔神経を容易に、堅牢に、かつ安定して捕捉することができる。このため、操作者にとって高い使用の容易性をもたらし、電界を開始するために刺激カテーテル200を静脈内の位置に合わせるだけでよい。これにより、横隔膜収縮反応の監視の信頼性が高まることによって、より確実な冷凍アブレーション方法を可能にしてよい。
【0084】
図3は、刺激システムを含んだ、人間の患者に対して行われる心臓冷凍アブレーション方法の中で使用される冷凍アブレーションシステムの一例を示し、その冷凍アブレーション方法には、冷凍アブレーション処置全体を通じて刺激方法を繰り返し実行するステップを含む。
【0085】
刺激システムは、カテーテルの遠位部340上に配置された1つまたは複数の血管内電極310を含む刺激カテーテル300と、体外電極パッチ360と、および任意選択で、エネルギー源311を含むエネルギーユニット313を備える。エネルギー源311は、個別の血管内電極310用の電気リード線316を介して(または代替的に、複数の血管内電極310がある場合は、共通の単一の電気リード線を介して)電極310に供給するように、刺激カテーテル300の電気コード312および電気コネクタ314を介して刺激カテーテル300に接続可能である。エネルギー源311はさらに、電気コード362を介してパッチ360に接続可能である。従って、エネルギー源311は、パッチ360および血管内電極310をバイポーラモードで動作させるように構成される。
【0086】
エネルギーユニット313は、不揮発性メモリ、例えばハードディスク、および/または、RAM、などのメモリに接続されたCPUなどのプロセッサを任意選択で含んでよく、プロセッサは、先に説明したように、横隔神経刺激のために構成された電気パルスを送出するように、エネルギー源311を制御するように構成されてよい。そのために、メモリには、エネルギー源311を動作させるための命令コードを備えるコンピュータプログラムが記録されてよい。
【0087】
コンピュータプログラムは、プロセッサによって実行可能な命令を含んでよく、その命令は、上記システムに、刺激方法の電気パルス送出を実行させるための手段を含む。プログラムは、任意のデータ記憶媒体に書き込み可能であってよい。プログラムは、例えば、デジタル電子回路、またはコンピュータハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、またはそれらの組み合わせに実装されてよい。プログラムは、例えば、プログラム可能なプロセッサによる実行のために機械可読記憶装置に具現化された製品などの装置として実装されてよい。アプリケーションプログラムは、高レベルの手続き型またはオブジェクト指向プログラミング言語で実装されてよく、必要であれば、アセンブリ言語または機械語で実装されてもよい。いずれの場合も、言語はコンパイル言語またはインタプリタ言語であってよい。プログラムは、完全インストールプログラムまたは更新プログラムであってよい。
【0088】
冷凍アブレーション方法は、人間の患者にパッチ360を貼り付けるステップ、患者を手術台390の上に仰向けに寝かせるステップ、例えば低侵襲処置によって、患者の上大静脈に刺激カテーテル300を導入するステップを含んでよい。
【0089】
冷凍アブレーション方法は、冷凍バルーンカテーテルなどの冷凍アブレーションカテーテル380を提供するステップをさらに含んでよい。冷凍アブレーションカテーテルは、冷凍アブレーション用のバルーン382を有する冷凍バルーンカテーテル380であってよい。冷凍アブレーション方法は、例えば、低侵襲手順を介して(例えば、患者の大腿静脈経由で)、患者の心臓の左心房内に冷凍バルーンカテーテル380を導入するステップをさらに含む。次に、冷凍アブレーション法は、冷凍アブレーション(すなわち、体組織を低温で焼灼すること)を実行するステップと、その間に(すなわち、実質的に同時に)、例えば、10V程度の振幅で数ms程度の持続時間のパルスを毎分60パルス(1パルス/秒)程度の周波数で送出することによって、患者の横隔神経を繰り返し刺激するように、エネルギー源311でパッチ360と血管内電極310をバイポーラモードで動作させるステップを含む。
【0090】
刺激システムは、例えば客観的な分析によって、横隔神経刺激に対する横隔膜の反応を監視するためのユニットをさらに備えてよい。このユニットは、例えば、患者の胸部/腹部に設置されるCMAP(複合筋活動電位)感知手段または重力計などの感知モジュール390を備えてよい。ユニットは、測定値を監視モジュール394に送るためのケーブルまたは無線モジュールなどの通信手段392をさらに備えてよい。監視モジュール394は、表示装置、警報発生器(例えば、警報は視覚的、および/または、音響的な信号であってよい)、および/または、プリンタ(例えば、ミリメートルECG用紙に印刷するなど、受信した測定値をグラフで表すのに適したもの)など、受信した測定値の表示を操作者に出力するための任意の手段を備えてよい。このような監視ユニットにより、横隔神経刺激に反応した横隔膜ドームの収縮が客観的に、従って特に正確に観察されてよい。代替として、腹部の触診によって横隔膜ドームの収縮が判断されてもよい。
【0091】
反応が低下した場合、これは横隔神経の損傷が起きつつあることを意味する。冷凍アブレーション方法は、これを考慮するステップを含んでよい。例えば、冷凍アブレーションは、例えば反応低下が観察された時または観察された直ぐ後(例えば、そのような観察があってから20秒、10秒、または5秒未満の後)に一時停止されてよい。冷凍アブレーションは、反応が基準の状態に戻った、つまり横隔神経が回復したことが観察された後にだけ再開されてよい。
【0092】
横隔神経刺激の安定性を向上させる刺激システムにより、監視される横隔膜反応の信頼性が向上するため、冷凍アブレーション法は横隔神経の損傷に対してより安全であり、および/または、実行がより速い。
【0093】
本明細書に開示されるシステムは、横隔神経刺激用のキットで提供されてよい。当該キットは、刺激システムまたは心臓冷凍アブレーション用のシステムを含む。キットはさらに、例えば心臓冷凍アブレーション中の人間の患者の横隔神経刺激の(例えば物理的担持体に記録された)指示を含む。例えば、キットは、テキスト、および/または、ピクトグラムの形で説明が記載されたハンドブックやリーフレットなどの紙製の担持体を含んでよい。代替として、キットは、そのようなテキスト、および/または、ピクトグラムをコンピュータファイルに記録したUSBなどのコンピュータ可読媒体を含んでよい。さらに代替として、指示は、例えばキットの物理的担持体に示されたURLでダウンロード可能であってよい。指示は、横隔神経刺激の手順を説明してよく、任意選択で冷凍アブレーションについて言及してよい。任意選択で、キットは、横隔神経刺激に対する横隔膜の反応を監視するための指示、および/または、心臓冷凍アブレーションを実施するための指示をさらに含んでよい。換言すれば、指示は、本明細書に開示される刺激方法または冷凍アブレーション方法の任意の実施例の説明を含んでよい。
【0094】
実施例において、刺激カテーテルの遠位部は拡張可能部を備えてよく、従って、刺激カテーテルは拡張された態様と拡張されていない態様の両方を有してよい。「拡張可能部」とは、その部分の直径(すなわち、その部分のカテーテルの長手方向軸、つまり大静脈の長手方向軸に直交する方向の最大幅)を、カテーテルの直径(すなわち、カテーテルの拡張不可能な部分の直径)と比較して、場合によっては静脈の内壁に密着するまで増大させてよいように、その部分が変形可能であることを意味する。拡張可能部の最大直径(すなわち、最大に拡張されているとき)は、カテーテルの直径の少なくとも5倍、さらには10倍より大きくてもよい。拡張可能部は、刺激カテーテルの遠位部の遠位端を含んでよく、従って、カテーテルの長手方向軸に対して変位可能である。代替として、拡張可能部は、刺激カテーテルの遠位端とは異なる近位位置に形成され、終端してよく、従って、拡張可能部が拡張されたときにカテーテルの長手方向軸上に留まってよい。刺激カテーテルは、拡張された態様と拡張されていない態様との間で可逆的に変形可能であってよい。従って、操作者は、拡張可能部を挿入して大静脈領域血管内で刺激カテーテルを拡張し、カテーテルを操作し、その後カテーテルを引き出すために、拡張可能部を直線状の拡張されていない態様に戻してよい。
【0095】
刺激カテーテルは、調節的に拡張可能であってよい。従って、操作者は、遠位部を大静脈の固定した位置、特に遠位部が横隔神経に比較的近い位置に維持するように、拡張可能部を調整してよい。代替として、拡張可能部は自動的に拡張可能であってよい。このような場合、拡張は起動されるだけでよく、カテーテルは拡張された態様に自己展開してよい。
【0096】
拡張可能部は、大静脈の内壁または右鎖骨下静脈の内壁に、例えば周方向に合致するように構成されてよい。
【0097】
静脈(すなわち、大静脈から、右鎖骨下静脈または腕頭静脈に分岐する内部組織のいずれか)の内壁に「合致する」とは、拡張可能部が、拡張して少なくとも静脈の直径に至り、静脈の内壁に接触して安定した位置を保つように構成されていることを意味する。例えば、拡張可能部の直径は、10mm、20mm、25mm、30mm、35mmまたは40mmより大きく、例えば50mm程度となってよい。これにより、大静脈領域の血管に合致することができる。拡張可能部の直径が大きいほど、特に大静脈に確実に合致する。拡張は調整可能であってよい。従って、操作者は、拡張可能部を大静脈領域血管内に挿入し、拡張可能部をそこの大きさに合わせることができてよい。代替として、拡張は調整不可能であってもよく、例えば、拡張を起動すると、大静脈領域の血管の内壁で制限されるまで直径が増加してよい。拡張可能部は、(例えばカテーテルの他の部分と同様に)比較的柔らかい材料で作られてよく、それにより、損傷を与えずに大静脈領域の血管に嵌合してよい。拡張可能部により、刺激カテーテルは操作中に所定の位置に維持しやすく、安定するため、横隔神経刺激の操作容易性と安定性が向上する。拡張可能部は、拡張された態様において、例えば直径は10mmから35mmの間であってよい。
【0098】
「周方向に合致する」とは、拡張可能部が立体空間の断面円形領域に合致することを意味する。換言すれば、拡張可能部自体は、必ずしも中実の円、あるいは円柱状または球状の立体空間を有するものではなく、断面円形領域に合致すれば十分である。従って、拡張可能部は、内壁の中が断面円形領域を有する静脈の壁に合致するのに適している。これにより、カテーテルの位置の安定性が向上する。実際、操作者は、静脈壁内で拡張可能部を(例えば、手動調整または自動展開の起動によって)拡張してよい。次いで、冷凍アブレーション方法は、カテーテルが安定した位置に自動的に留まりながら冷凍アブレーションを実行するステップを含んでよい。従って、操作者は、安定した配置の効果で、凍結アブレーションを実行中に、患者の横隔神経を繰り返し堅牢に刺激するように、パッチとカテーテルの血管内電極を操作してよい。
【0099】
周方向の合致は、カテーテルが所定の位置に留まるようであってよい。換言すれば、拡張可能部が拡張されているとき一定レベルの摩擦があり、カテーテルがその動作中に(摩擦に勝る大きな力が加えられない限り)実質的に所定の位置に留まるように、拡張可能部の最大直径は、上大静脈、右腕頭静脈、および/または、右鎖骨下静脈の直径より大きくてよい。従って、拡張可能部は固定部として機能する。実際、この合致により、血管が拡張可能部を保持し、固定部として機能する。
【0100】
実施例において、少なくとも1つ(例えば、いくつか、またはすべて)の血管内電極が拡張可能部上に配置されてよい。これにより、そのような電極を大静脈領域の血管の内壁に近づけることができ、それで電気的接続が良好になり、ひいては横隔神経刺激の安定性が向上する。特に、少なくとも1つの(例えば、いくつか、またはすべての)血管内電極は、カテーテルが拡張された態様にあるときに大静脈領域の血管の内壁と接触するように、拡張可能部上に配置されてよい。「接触する」とは、血管内電極と内壁との間に血液が通る隙間がないことを意味する。換言すれば、血管内電極は拡張可能部において、少なくとも1つの血管内電極が大静脈領域の血管の内壁と接触するような、位置、方向および寸法を持つ。従って、電極と静脈壁との間に血液を通過させるのとは対照的に、カテーテルと体外パッチとの間の導電性は向上する。従って、横隔神経刺激の安定性がさらに向上する。特に、電界の安定性を最適化し、体外電極パッチによるバイポーラモードでの動作を改善させるために、すべての血管内電極が大静脈または右鎖骨下静脈の内壁に接触するように配置されてよい。
【0101】
実施例において、1つまたは複数の血管内電極は、拡張可能部の円周上に配置されてよい。「円周上に配置される」とは、1つまたは複数の血管内電極のそれぞれが拡張可能部の断面領域の直径に沿って配置されることを意味する。換言すれば、1つまたは複数の血管内電極の個々は、拡張可能部の壁の断面視に沿って円周方向に一定距離ずつ間隔が空いている。
【0102】
直径に沿った配置は、直径の全体への配置であってもよいし、直径の一部だけへの配置であってもよい。配置の範囲は、直径に沿った配置の始まりと終わりを定める、拡張可能部の第1の端と第2の端の位置の間の角度によって測定してよい。第1の端と第2の端は慣例に従って選択してよい。第1の端と第2の端の間の角度が円周の中心から360度(つまり、同じ位置)であるということは、配置が全周に渡っていることを意味する。第1の端と第2の端との間に、1つまたは複数の血管内電極が配置されてよい。
【0103】
実施例において、1つまたは複数の血管内電極、例えば10個の血管内電極は、電極相互間および第1の端と第2の端に関して等距離角度に配置されてよい。他の実施例においては、血管内電極は異なる角度に配置されてよい。例えば、第1の端点と第2の端点の間の中間部分では、血管内電極は互いにより近くてよい。1つまたは複数の血管内電極の円周上の配置は、拡張可能部がカバーする立体空間または領域に沿った異なる長手方向の位置に配置してもよく、また、場合によっては、刺激カテーテルの拡張不可能部に他の血管内電極を配置してもよい。
【0104】
例えば、長手方向のいくつかの列、例えばそれぞれがカテーテルの軸方向に沿った列が円周上に配置される。別の実施例においては、3つの列が120°の円周角で隔てられてもよく、または4つの列が90°の円周角で隔てられてもよい。さらに別の実施例では、列は異なる角度で隔てられてよく、例えば、3つの列が60°の角度で隔てられ、2つの列が90°の円周角で隔てられてよい。
【0105】
円周上の配置により、少なくとも1つの電極、または電極の列が横隔神経の前の上大静脈の壁に実質的に面しているか、またはほぼ面していることを確実にさせ、それによって電極が横隔神経に近接していることを確実にさせる。一般に、刺激方法は、横隔神経に面する大静脈の内壁の部分に対して少なくとも1つの(例えば、いくつかまたはすべての)血管内電極を配置するステップを含んでよい。換言すれば、大静脈の内壁が当該神経の直線経路に入るのを妨げる、例えば、大静脈の第一の別の部分、または別の種類の組織などに遭遇しない、当該神経から前記部分への直線経路が存在する。このように配置することで、操作者は、そこの電界または少なくとも一部の電界が横隔神経を直接刺激し、横隔膜の監視を評価するのに必要な刺激を与えることを確実にする。遠位部が、円周上に配置された1つまたは複数の血管内電極を担持する拡張可能部を備える場合、操作者は、少なくとも1つまたは1列の電極を正しく配置するために、その部分の拡張を起動または調整するだけでよいので、このような配置は非常に操作を容易にする。その結果、刺激がより確実になる。上述したように、効率を向上させるために、そのような適切に配置された1つ以上の電極をマッピングによって選択して排他的に動作させてよい。代替として、放射線不透過性の材料を使用してカテーテルを正しく配置してもよい。
【0106】
拡張可能であることに追加として、または代替として、刺激カテーテルは、その遠位部で屈曲可能であってよい。屈曲可能とは、遠位部がカテーテルの本体に対して少なくとも一方向に曲げられてよいことを意味する。最大の屈曲は10度より大きい、および/または、90度より小さくてよい。実施例において、拡張可能部が右鎖骨下静脈に配置できるために、最大の屈曲は25度より大きくてもよい。刺激カテーテルは、屈曲を与えるためのプルワイヤを備えてよい。
【0107】
一実施例においては、カテーテルは、拡張可能部の後に拡張不可能な遠位端を備えてよい。換言すれば、拡張不可能な遠位端は、拡張しないので、カテーテルが拡張したときも元の形状のままである。特定の実施例においては、拡張不可能な遠位端は直線状であり、カテーテルが拡張された態様にあるときでもカテーテルの軸(すなわち、大静脈領域の血管の軸)内で直線状のままであってよい。拡張不可能な遠位端の長さは、例えば1cmより大きい、および/または、12cmより小さくてもよく、例えば1.5cmと4cmの間であってよい。
【0108】
次に、拡張可能部の実施例について説明する。拡張された態様は、螺旋(すなわち、渦巻)状、ループ状、投げ縄状、傘状、または籠状の構成であってよい。このような実施例は、カテーテルの拡張で血流を阻害するリスクを軽減するために、拡張部は拡張時に血流通路を備えてよいという共通点を有する。
【0109】
「螺旋状/渦巻状の構成」とは、拡張可能部の材料が、遠位部の近位端点と、遠位部の端点から長手方向に離れた別の端点との間に直列に接続された1つまたは複数の螺旋状コイルセグメントによって形成された形状を有することを意味する。1つまたは複数の螺旋状コイルセグメントのそれぞれは、拡張可能部の材料が、円柱の周りに1回または複数回巻かれたものからなる。例えば、拡張可能部の材料は、そのような構成とするのに適したワイヤ状材料または柔軟性材料であってよい。従って、螺旋状の構成は、螺旋状コイルセグメントの内側立体空間の内側の円柱状立体空間と、端点とによって画定される開放立体空間を形成し、螺旋状コイルセグメントは大静脈領域血管の内壁の壁に接触してよく、血流が妨げられない。螺旋状の構成の1巻きの直径は、一定であっても可変であってもよい。螺旋状の構成は、「渦巻状の構成」と呼ばれることもあるが、本開示では、以下で説明するように、後者の用語には異なる意味を与える。
【0110】
一実施例において、拡張可能部によって形成される螺旋または渦巻は、拡張された態様において、最大で2周のコイル、換言すれば、2周以下で任意の巻き数のコイル、例えば(厳密に)1周、1周半、または2周のコイルであってよい(「コイル」または「渦」は、螺旋または渦巻の厳密な1周分である)。コイル数を更に増やすと、構造が過度に複雑になり、元の形が失われる恐れがあるので、最大で2周のコイルは、製造と使用が簡単で、煩雑さが少ない。特定の実施例においては、カテーテルは、(例えば、直線状の)拡張不可能な遠位端部を備えてよく、拡張可能部は、拡張された態様のとき最大で2周のコイルからなってよい。このような実施例においては、挿入後に2周コイルがその形状を回復でき、また、拡張不可能な遠位端により、2周コイルが所望の形状を維持できるという点で、システムの操作が容易になる。拡張不可能な遠位端は、2周コイルの配置操作を改善させるだけでなく、大静脈領域の血管内での再配置操作も改善させてよい。拡張不可能な遠位端部は、少ないコイル巻き数が安定性に及ぼす影響を打ち消す。
【0111】
さらなる実施例において、螺旋状または渦巻状の構成で、螺旋または渦巻の完全な1周のピッチまたは高さは、5mmから15mmの間であってよい。ピッチを増やすことは、位置決め手段を取り除いた時に、螺旋状または渦巻状の構成の元の形状を維持するのを補助してよい。別の実施例において、螺旋状または渦巻状の構成でピッチを増加させた場合は、拡張不可能な遠位端で補助されてよい。換言すれば、拡張不可能な遠位端は、その構成が、そのような増加させたピッチを維持するのを補助してよい。
【0112】
「ループ状の構成」とは、拡張可能部の材料が円形、または実質的に円形(例えば、楕円形)の形状をなぞる閉じた形状であることを意味する。従って、この形状は、大静脈領域の血管の内壁の壁と接触したままで、その間に空間を維持する閉じた円形または楕円形の経路をなぞり、そのため血液が拡張可能部を通って流れることができる。ループは、任意の平面、例えば、カテーテルの長手方向の平面、または(例えば、カテーテルの長手方向の軸に直交する)断面平面に含まれてよい。
【0113】
「投げ縄状の構成」とは、拡張可能部の材料が、遠位部の近位端点の基部から、最大1周の螺旋形状をなぞる、閉じた形状を有することを意味する。従って、この形状は、大静脈領域の血管の内壁の壁と接触したままで、その間に空間を維持する円形の経路をなぞり、そのため血液が拡張可能部を通って流れることができる。投げ縄部は、任意の平面、例えば、カテーテルの長手方向の平面、または代替として(例えば、カテーテルの長手方向の軸に直交する)断面平面に含まれてよい。
【0114】
「傘状の構成」とは、拡張可能部が、遠位部の近位端の端点から半径方向の外側に延びる複数のセグメントで構成されることを意味する。セグメントの最も外側の端点どうしは、セグメントどうしを拡張された位置で安定させる機構によって接続されてよい。例えば、この機構は、円周に沿って1つまたは複数の最も外側の端点を伸ばしてよい。セグメントの間の空間は塞がれていないので、血液が拡張可能部を通って流れることができる。
【0115】
「籠状の構成」とは、拡張可能部が、遠位部の近位端点と、遠位部の端点から長手方向距離からの端点との間を、それぞれが相互に接続した1つまたは複数のセグメントからなることを意味する。各セグメントは、遠位部の端点に対して互いに異なる角度で設置される。各セグメントは、遠い側の端点で同じ角度を維持する。拡張された態様では、各セグメントは両方の端点間の円周をなぞる。セグメントの幅は、各セグメントの間に空間を保つ大きさであってよく、そのため血液が流れることができる。従って、この構成により、血液の流れを妨げることなく、大静脈領域の血管の内壁との接触が可能になる。
【0116】
刺激カテーテルは、刺激カテーテルの拡張可能部を直線状の態様から上述の拡張された態様のいずれかに変形させるための、操作者によって操作可能な1つまたは複数の機構をさらに備えてよい。例えば、刺激カテーテルは、刺激カテーテルを拡張された態様に変形させるために操作可能な1つまたは複数のプルワイヤ、および任意選択で、当該1つまたは複数のプルワイヤを操作するためのハンドルを備えてよい。操作者の操作により、プルワイヤが、拡張可能部を拡張するための適切な機構を介して拡張可能部を変形させてよい。このような機構は、刺激カテーテルを大静脈領域の血管壁に合うように調整する操作者に、高度な使用の容易性を提供するが、その機構は複数の要因に応じて異なるものであってよい。操作者は、安定した電気刺激を行うための刺激カテーテルの配置を可能にするため、横隔神経の刺激を実行する前に自身の医療評価に基づいて拡張可能部を調整してもよい。追加として、または代替として、拡張可能部は、少なくとも部分的に形状記憶材料で作られてよい。このように、形状記憶材料が、拡張可能部を拡張された態様に付勢してよい。このような場合の拡張は、どのような方法で起動されてもよい。任意選択で、カテーテルは、拡張可能部を覆う収納可能なシース、および/または、上大静脈へのカテーテルの挿入を可能にするために拡張可能部を直線状にする収納可能な直線化インナー部材(例えば、ガイドワイヤまたは位置決めマンドレルなどの、例えば、位置決め手段としても機能する、直線化ワイヤまたは直線化マンドレル)を備えてよい。このような部材を収納すると、付勢が解除され、材料の形状記憶により当該部が自動的に拡張する。このようなメカニズムにより、静脈内の位置の安定性が向上する。
【0117】
拡張可能部を有する代わりに、カテーテルは真っ直ぐなカテーテルであってよい。このような場合、カテーテルは任意選択で屈曲可能であってよい。
【0118】
次に、刺激カテーテルの実施例について、
図4~
図10を参照して説明する。図の説明では上大静脈について述べる部分が多いが、前述したように、他の大静脈領域の血管にも同様に当てはまる。これらの実施例では、刺激カテーテルは、前述したように拡張可能部を有する。以下に説明する実施例は、操作者に、少なくとも1つの血管内電極を配置する際の操作の容易性を提供し、また、横隔神経の安定した刺激を提供する、刺激カテーテルのいくつかの拡張された態様について詳述する。
【0119】
図4は、螺旋状の構成を有する刺激カテーテル400の一例を示す。刺激カテーテル400は、遠位部440、電気コネクタ414、およびルーメン入口472を備える。ルーメン入口472は、例えば、ガイドワイヤ470を導入するように構成されてよい。ガイドワイヤ470は、遠位部の先端444から突き出る。ガイドワイヤ470は、操作者が遠位部440を大静脈領域の血管内に配置できるように構成されてよい。電気コネクタ414は、電気リード線に接続されてよい。遠位部は拡張可能部442を備える。拡張可能部は、その円周上に配置された複数の血管内電極410を備える。代替として、拡張可能部は、拡張可能部440の円周に沿って延びる単一の細長い電極を備えてよい。拡張可能部442は、血管内電極410が拡張可能部442の壁の外側部分に配置されて、静脈の壁に合致するように、調整されまたは自己拡張されてよい。任意選択で、先端444の材料は、ガイドとして機能する柔軟性材料で作られてよい。任意選択で、カテーテルは、拡張可能部442を覆う収納可能なシース(図示せず)、および/または、拡張可能部を直線状にして上大静脈へのカテーテルの挿入を可能にする、収納可能な直線化インナーワイヤ(図示せず)を備えてよい。このようなシース、および/または、直線化インナーワイヤを引き込むと、螺旋を拡張させ、および/または、当該拡張を起動させてよい。この図に示されている原理は、他の形式の拡張された態様にも該当する。しかしながら、そのような場合、ガイドワイヤ470は、図の場合のようにカテーテル本体に形成されたルーメン内に常に収まっているのではなく、時には、カテーテル本体の、特に拡張可能部から突き出てよい。
【0120】
図5Aおよび5Bは、拡張可能な投げ縄部542を備えたカテーテル500を示す。拡張可能な投げ縄部542は、端部544に向かって上方向に巻く1巻きの螺旋形状であるように見えてよい。複数の血管内電極510が、拡張可能部542の円周上に、例えば等間隔で配置される。電極510のそれぞれは、静脈の組織との接触を最大限にするために外側方向を向いて配置される。電極は、拡張可能部542の先端544とカテーテル本体500との間に配置される。投げ縄部は、刺激カテーテルへの挿入を可能にするために、拡張されていない態様で圧縮または直線状にされてよい。拡張された態様では、操作者は、例えば、専用に構成された1つまたは複数のハンドルで操作するプルワイヤを用いて、静脈壁に合致するように、投げ縄部の直径Dを断面に沿って増加させてよい。この構成は、ユーザーによって拡張された態様に容易に展開でき、物理的に安定した状態を保つ。電極が円周上に配置されているため、ユーザーは大静脈内でカテーテルを任意の角度で配置できる。
【0121】
図6Aおよび6Bは、拡張可能な螺旋部642が、それぞれ、螺旋状の態様と、螺旋が伸ばされた直線状の態様のときのカテーテル600の別の実施例を示す。
【0122】
螺旋は、拡張可能部642の長手方向に沿ったループからなる。例えば、螺旋は2周から5周のループからなってよい。ループは完全でなくてもよい。例えば、螺旋は2周半のループからなる。直線状の態様では、拡張可能部は、収納可能なシース602によって覆われてよい。螺旋は、例えばシースを引き込む端部620を通して接続されたプルワイヤ(図示せず)を介して操作者によって拡張されてよい。拡張可能部は、形状記憶材料で作られてよい。従って、操作者はシースを後退させてよく、当該材料は拡張可能部の形状を螺旋状の態様に戻す。螺旋状の態様は、螺旋のループにより、静脈の内壁に合わせて調整され、周方向に合致してよい。螺旋は、螺旋の全長またはループの一部、すなわち螺旋のすべてのループ、に沿って配置されてよい複数の電極610を備えてよい。
【0123】
図6Aに示されるように、それぞれの電極610は、長さが幅よりも大きくてよく、複数の電極610は、刺激カテーテルが拡張された態様にあるときに、実質的に大静脈に沿って延在するように拡張可能部の円周上に配置されてよい。換言すれば、それぞれの電極の長さは、静脈に沿って実質的に長手方向に揃えられる。これは、効果的な電界を実現する。
【0124】
図6Bは、直線状の態様にある刺激カテーテルを概略的に示す。電極は、直線状の態様では、同じ長手方向軸に対して拡張された態様と比較すると、螺旋が引き延ばされることにより、わずかな角度だけずれる。横隔神経は実質的に大静脈に沿っているので、刺激カテーテルが拡張された態様にあるとき、電極610は、いくつかの列に整列されて横隔神経を横切る電界を送出してよい。その列は大静脈の円周方向に分布する。代替として、電極は、そのような列を形成せずに、しかも大静脈の全周に及ぶように分散させてよい。このように配置することは、ユーザーが横隔神経の近くに拡張可能部を直接配置することに気を遣う必要がない高度な使用の容易性を提供する。さらに、螺旋状の構成により、操作者は拡張可能部を大静脈の壁の長手方向セクションに沿って固定することができる。従って、刺激カテーテルは固定位置に留まり、横隔神経への刺激の安定性が向上する。
【0125】
図7は、拡張可能部742を備えたカテーテル700の別の実施例を示し、拡張された態様は水平ループ状の構成である。水平ループは、静脈壁の長手方向軸に直交する平面に沿って展開される。例えば、水平ループ状構成742は、大静脈VCの壁に直交して展開される。これは説明のためにのみ提示する。例えば、水平ループ状構成742は、右鎖骨下静脈の壁に直交して展開される。拡張可能部742は、端部720から(任意の方向に)内向きの輪をなす水平ループセグメントを備える。
【0126】
カテーテル700が拡張されていない態様にあるとき、水平ループセグメントのループは、拡張可能部の長手方向に沿って収縮してシース内部に保持されてよく、刺激カテーテルに対してコンパクト/直線状になり、大腿静脈を通して挿入できるようになる。水平部は、端部720を介して接続されたプルワイヤ、またはガイドを使用して、操作者によって拡張されてよい。プルワイヤまたはガイドは、可逆的な動作が可能であってよく、自動または手動で拡張が実行できてよく、それによって操作者は、水平ループを断面方向に拡張して、静脈への周方向の合致を達成することができる。
【0127】
操作者は高度な使用容易性を得る。操作者は、水平ループセグメントの断面直径を調整することによって、刺激カテーテルの静脈VCへの周方向の合致を調整することができる。水平ループセグメントは、単一の電極を備えてよく、その電極は水平ループセグメントの長手方向に沿って配置されてよく、すなわち、水平ループのすべて、またはその一部のループ、すなわち、水平ループセグメントのうちのいくつかのループだけに沿って設置されてよい。任意選択で、複数の血管内電極710が水平ループに沿って配置されてよい。
図7は、静脈VCの壁と接触している領域にのみ配置された複数の電極を示す。刺激カテーテルは、静脈壁に合わせて調整される水平ループセグメントにより固定され、安定した状態を保ち、それによって横隔神経の刺激の安定性が向上する。
【0128】
図8は、拡張可能部842を備えたカテーテル800の別の実施例を示し、拡張された態様は垂直ループ状構成である。垂直ループ状構成は、垂直ループの外向き面に配置される血管内電極810を備える。
図8は、上大静脈VCの長手方向軸に沿って拡張する垂直ループ842を示す。この配置は説明のためにのみ示されており、代替として、垂直ループは右鎖骨下静脈の長手方向軸に沿って拡張してよい。電極810は、静脈壁と接触するループの長手方向セクションに沿って配置される。垂直ループは、刺激カテーテルの挿入を可能にするために、端部820に向けて引くことによって圧縮された態様になってよい。拡張された態様で、操作者は、静脈の壁に合致するように、(自動または手動で)垂直ループの直径を大きくしてよい。
【0129】
図9は、拡張可能部942を備えたカテーテル900の別の実施例を示し、拡張された態様は傘状の構成である。傘状の構成の拡張可能部942は、もう1つの柔軟な「リブ」(すなわち、セグメント)から構成されてよく、各リブの端部は、刺激カテーテル900の拡張可能部942上の端部920に接続され、リブの他方の端部は、放射端コネクタ946によって放射状に接続される。直線状の態様では、放射端コネクタ946が操作者によって収縮されてよいため、セグメントどうしは刺激カテーテルの長手方向に沿ってまとめられてよい。刺激カテーテルが拡張可能な態様にあるとき、放射端コネクタ946は拡張された態様にあり、それによって静脈の壁に向かって外方に変位される。換言すれば、傘のリブは静脈の壁に沿って展開される。
図9は、外側に拡張したリブを示す縦方向から見た図である。この変位は可逆的であってよく、リブの固定位置を、直線状の態様と、放射端コネクタ946が許容する最大変位とに設定してよい。1つまたは複数の電極910が各リブ上に配置されてよい。
【0130】
図10は、拡張可能部1042を備えたカテーテル1000の別の実施例を示し、拡張された態様は籠状の構成である。籠状の構成の拡張可能部1042は、いくつかの「スプライン」から構成されてよい。各スプラインは2つの端部を持つセグメントである。各スプラインの一方の端部は、拡張可能部1042の近位端1020に接続される。各スプラインの対応する残りの端部は、機械的接続によって互いに接続され、スプライン端部1044を形成する。各スプラインは、直線状の態様から拡張可能な態様への展開を可能にする柔軟な材料で作られてよい。直線状の態様では、スプラインは拡張可能部1042の長手方向セクションに沿って張り、それにより、端部1020および1044に沿って延在し、カテーテル1000の長手方向軸に平行である直線状の本体を形成する。拡張可能な態様では、スプラインが外側に移動し、それによって立体空間を囲む「籠」が生成される。
【0131】
図10は、端部1020および1044から円周方向に変位しているスプラインを示す。これは単に一実施例である。たとえば、各スプラインは、端部1020と1044を繋ぐ区分線形経路をなぞってよい。スプラインのそれぞれは、複数の血管内電極1010を備える。籠状の構成は、4つのスプライン、8つのスプライン、またはそれ以上など、2つより多いスプラインを備えてよい。
図10は、スプラインの中央部に、互いに等間隔に配置された血管内電極1010を示す。血管内電極1010は、静脈の壁に接触するように外向きに配置される。
【0132】
開示された刺激方法およびシステムは、3Dシミュレーションで評価された。
【0133】
3Dシミュレーションは、有限要素解析ソフトウェアの中に、心臓と横隔神経の解剖学的モデルを含む胸郭領域のモデルと、それに関連する電気抵抗を含む人体の3Dモデルを表現することからなった。3Dモデルは、カテーテルと、貼り付けられた体外パッチのモデルを含んでいた。3Dモデルには、パッチ電極を備えた血管内電極のバイポーラ動作を表す設定が適用された。電界がシミュレートされて、横隔神経の効率的な刺激が評価された。シミュレーションは、
図4に示されたカテーテルと同様の螺旋状カテーテルと、長さ20cm、幅8cmの長方形で、総面積168cm
2の体外パッチを用いた、横隔神経への刺激の印加を含んでいた。シミュレーションの結果は、横隔神経刺激に広く使用されている四極カテーテルのモデル化からの平均基準応答および最適基準応答と比較される。
【0134】
シミュレーションの結果では、平均基準応答と最適基準応答に対してそれぞれ80%と26%の向上があった。
【0135】
開示された刺激方法およびシステムは、体重49kgのブタの被験体に対してさらに実験的に試験された。
【0136】
プロトコル:
【0137】
全身麻酔を施した、背側臥位の49KGの豚肉。麻酔はケタミン、アセプロマジン、ディプリバン、セボフルランを使用して行う。すべての残存麻痺を避けるために注意を払う。
【0138】
手順:
‐屈曲可能な6フレンチの四極電気生理学カテーテルを、右大腿静脈ルートを経由して上大静脈に配置する。
‐大きなプレート型の電気焼灼電極パッチが、動物の背部の右側の脊椎傍線に配置される。
カテーテルの電極1と4および粘着性皮膚電極パッチは、体外ペースメーカー型の一時的ペースメーカーに接続される。刺激は、バイポーラモードで12V×3ms、周波数60/minで行うことができる。
‐右横隔神経の刺激の質は、右ドームの横隔膜筋電図検査を行うことで客観的に評価できる。右横隔膜CMAP(複合筋活動電位)は、右肋骨端に面した皮膚上に15cm離して配置された一対の皮膚電極(修正DIリード)を使用して記録される。この記録は、標準設定、つまり25mm/秒および10mm/mVの心電計で行われる。CMAP測定はミリメートルの心電図記録紙上で行われる。
【0139】
操作は3つのフェーズで行われる。
【0140】
フェーズ1:2つの刺激モード、すなわち、従来技術による刺激と本開示による刺激の比較
【0141】
蛍光透視下で、カテーテルは上大静脈(SVC)のレベルの12の異なる部位に配置される。各配置は、正面視、右前方斜視45°、および左前方斜視45°の3種の蛍光透視を実行することによって評価された。12の異なる部位は、SVC内に均一に(頭側-尾側/前部-後部/外側-正中)分散される。
【0142】
カテーテルを移動させずに、各部位で以下の操作を続けて行う:
‐従来技術による横隔神経刺激、すなわち、カテーテルの電極1(陽極)と電極4(陰極)の間で、拡張バイポーラモードのカテーテルによる刺激印加。
‐カテーテルの遠位電極(電極1を陽極として設定)と、背側皮膚電極パッチ(陰極として設定)の間でバイポーラ刺激印加。
‐各部位に対して、横隔膜の捕捉の良否は、横隔膜CMAPの振幅を測定(mm単位で測定し、スプレッドシートに収集)することによって評価できる。
【0143】
次に、カテーテルを別の部位に移動する。
【0144】
フェーズ2:電極とSVC後壁の接触の影響の評価
【0145】
カテーテルの遠位電極と背側皮膚電極パッチの間で行うバイポーラ刺激中に、カテーテルは以下のように順次配置される。
‐血管の管腔中に浮遊
‐前壁の上で静止
‐後壁の上で静止
【0146】
SVCの高さにある4つのカテーテルの位置が評価される。
【0147】
取得されたCMAP測定値はスプレッドシートで整理される。
【0148】
フェーズ3:背側皮膚電極パッチの最小サイズの評価
【0149】
カテーテルはSVC内に配置される。バイポーラ刺激は、カテーテルの遠位電極と背側皮膚電極パッチの間で実行される。
【0150】
この位置で、皮膚電極パッチを切ることによって背側皮膚パッチの大きさを小さくして刺激を試験する。CMAPの振幅評価による横隔神経の捕捉が不完全になるまで、長さ2センチメートルと幅2センチメートルずつ段階的に除去する。この操作は、粘着性電極の長さは変えずに、幅だけを切除して再度実行できる。
【0151】
このようにして、結果に対する皮膚電極パッチの大きさの影響を判断できる。
【0152】
結果:
【0153】
実験的試験では、カテーテルの遠位電極と背側皮膚電極パッチの間のバイポーラ刺激から、試験したすべての位置の平均CMAPは2.5mVであった。これに対して、拡張バイポーラモードでのカテーテルによる従来の刺激では、平均CMAPは1.8mVであった。
【0154】
カテーテルの遠位電極と背側皮膚電極パッチの間のバイポーラ刺激を使用した場合の平均CMAPは、従来の刺激を使用して得られた平均CMAPと比較して最大40%向上した。
【0155】
背部皮膚電極パッチと血管内電極との間のバイポーラモードでの動作は、カテーテルの電極と背部皮膚電極パッチの極性を反転して同様に行うことができる。極性を反転しても、得られた刺激の質、および/または、CMAPの振幅に変わりはなかった。
【0156】
背側皮膚電極パッチの面積を増やすことは、CMAPの振幅にとって有益であることが窺われた。
【0157】
SVCの前壁と後壁のいずれかにカテーテルを静止させてバイポーラ刺激すると特に良好な結果が得られた。
【0158】
電極パッチの複数の位置が試された。後方傍椎骨の右側位置は、右側胸部の位置と同様の効果があった。一方、前方位置(つまり被験者の胸部)では効果の低下が見られた。
【0159】
特定の実施形態では、カテーテルの遠位部は、横隔神経刺激中に所定の位置に留まるようにするために、上大静脈(VC)、右腕頭静脈、および/または、右鎖骨下静脈の内壁に全周的に密着するように構成された、螺旋状または渦巻状の拡張可能部を備える。
【0160】
カテーテルは、拡張可能部の後の遠位に位置する拡張不可能な遠位端(または先端)をさらに備えても備えなくてもよい。遠位端(存在する場合)は、例えば直線状であってよく、および/または、長さが1cm以上、および/または、12cm以下、例えば1.5cmと4cmの間であってよい。
【0161】
拡張可能部は、拡張された態様において最大で2周のコイルを有してよい。拡張可能部は、拡張された態様、すなわち制限されずに拡張された態様において、10mmから35mmの間の直径を有してよい。
【0162】
さらに、カテーテルは、収納可能な直線化インナー部材を挿入するためのルーメンを備えてよい。カテーテルは、ルーメン内に直線化インナー部材をさらに備えてよい。直線化インナー部材はガイドワイヤであってよい。ガイドワイヤは金属製であってよく、直径が0.030”以上、および/または、0.040”以下、例えば0.032”または0.035”に等しい、および/または、疎水性材料で作られてよい。
【0163】
同じ実装形態によれば、1つまたは複数の血管内電極は、1つの極を形成するように互いに電気的に接続された複数の電極からなってもよく、または、互いに電気的に切り離され、全体で1つの極として動作可能な複数の個別の電極からなってもよい。
【0164】
代替として、システムは、複数の電極に、当該複数の電極のそれぞれの電極と体外電極パッチとの間に電気パルスを同時に送出する動作をさせるように構成してよい。1つまたは複数の血管内電極は、例えば5~20個の電極、例えば10個の電極からなってよい。
【0165】
図11~
図18は、そのような実装形態による、拡張可能部1142、1242、1342、1442、1542、1642、1742、1842を有するカテーテル1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800の例を示す。
図13、17、および18に示されるように、拡張不可能な遠位端1350、1750、1850は、拡張可能部の後の遠位に配置されてよい。
図16は、ブタの上大静脈に配置された直径15mmの拡張可能部1642を有するカテーテル1600を示す。
図17は、ブタの上大静脈に配置された、直径21mmの拡張可能部1742と、直線状の拡張不可能な遠位部1750を有するカテーテル1700を示す。
図18は、直径21mmの拡張可能部1842と、直線状の拡張不可能な遠位部1850を有するカテーテル1800を示す。
【0166】
このようなシステムの実装形態は、体重45kgのブタの被験体で実験的に試験された。ブタの被験体に全身麻酔を施し背臥位に置いた。横隔神経の刺激は、動物の右背側に配置された体外電極パッチ(陰極)とカテーテルの10個の電極(陽極)をバイポーラモードで使用して行われた。
【0167】
材料:
‐032”の疎水性の硬質Jチップガイドワイヤ
‐8Fイントロデューサ
試験された試作品:
【0168】
【0169】
結果:
【0170】
【0171】
表1および表2に記載の試作サンプル1~5は、それぞれ
図11~
図15に示した拡張可能部サンプルに相当する。結果は、20点満点の点数で性能を表し、1/20は最小性能、20/20は最大性能を表す。試験したすべての設定条件において、横隔膜への刺激は非常に良好だった。サンプル3は、直線状で拡張不可能な遠位端を備えており、機械的に最も優れた性能を発揮した。大静脈内でのガイドの配置は、拡張不可能な遠位端が直線状であるという事実によって容易になった。また、ガイドの助けがなくても、大静脈内でコイルを配置し、引き抜き、再配置するのは非常に容易だった。コイルは、直径が21mmで(つまり、制限されずに拡張された態様で)あるにもかかわらず、水平を保ち、斜めにならなかった。
【国際調査報告】