(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-29
(54)【発明の名称】硫酸系鉄電気めっき溶液の第2鉄イオン除去方法
(51)【国際特許分類】
C25D 21/16 20060101AFI20240221BHJP
C25D 3/20 20060101ALI20240221BHJP
C25D 3/56 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
C25D21/16 A
C25D3/20
C25D3/56 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023555600
(86)(22)【出願日】2021-03-22
(85)【翻訳文提出日】2023-09-11
(86)【国際出願番号】 KR2021003533
(87)【国際公開番号】W WO2022203095
(87)【国際公開日】2022-09-29
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ジュン、 ジン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ウォン-フィ
(72)【発明者】
【氏名】オー、 コッ-ニム
(72)【発明者】
【氏名】リム、 サン-ベ
【テーマコード(参考)】
4K023
【Fターム(参考)】
4K023AA14
4K023AB12
4K023BA06
4K023CB03
4K023CB16
4K023DA02
4K023DA08
(57)【要約】
本発明は、鉄電気めっき溶液に含まれた第2鉄イオンを効果的に除去する方法に関するものであって、第2鉄イオンを含む硫酸系鉄電気めっき溶液を、金属鉄が装入された溶液槽に循環させて第2鉄イオンを還元させる再生段階を含み、上記金属鉄は、次式(1)を満たす含量で装入されるものである、硫酸系鉄電気めっき溶液内の第2鉄イオンを除去する方法:
S≧0.01 I
conv/C
max (1)
式(1)において、Sは金属鉄の全表面積(m
2)であり、C
maxは溶液内の第2鉄の最大イオン濃度許容値(g/L)であり、I
convはめっき時間(t
p、sec)の間、電気めっきセルに印加された電流(I)の総量を電解液中の第2鉄イオンの還元のための再生時間(t
r、sec)で除した換算電流(A)であって、次式(2)で表す。
【数1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸系鉄電気めっき溶液内の第2鉄イオンを除去する方法であって、
第2鉄イオンを含む硫酸系鉄電気めっき溶液を、金属鉄が装入された溶液槽に循環させて第2鉄イオンを還元させる再生段階を含み、
前記金属鉄は、次式(1)を満たす含量で装入されるものである、硫酸系鉄電気めっき溶液内の第2鉄イオンを除去する方法。
S≧0.01 I
conv/C
max (1)
式(1)において、Sは金属鉄の全表面積(m
2)であり、C
maxは溶液内の第2鉄の最大イオン濃度許容値(g/L)であり、I
avgはめっき時間(t
p、sec)の間、電気めっきセルに印加された電流(I)の総量を、電解液中の第2鉄イオンの還元のための再生時間(t
r、sec)で除した換算電流(A)であって、次式(2)で表す。
【数1】
【請求項2】
めっき工程の実行中に前記再生段階を行うものである、請求項1に記載の硫酸系鉄電気めっき溶液内の第2鉄イオンを除去する方法。
【請求項3】
めっき工程の実行中に再生段階を行い、前記再生段階は2回以上不連続的に行うものである、請求項1に記載の硫酸系鉄電気めっき溶液内の第2鉄イオンを除去する方法。
【請求項4】
めっき工程の実行中に再生段階を開始し、めっき工程の休止期に再生段階を終了し、前記再生段階は連続的又は不連続的に行うものである、請求項1に記載の硫酸系鉄電気めっき溶液内の第2鉄イオンを除去する方法。
【請求項5】
めっき工程の休止期に再生段階を開始し、めっき工程中又はめっき工程後の休止期に再生段階を終了するものである、請求項1に記載の硫酸系鉄電気めっき溶液内の第2鉄イオンを除去する方法。
【請求項6】
めっき工程の休止期中に再生段階を行い、前記再生段階は連続的又は不連続的に行うものである、請求項1に記載の硫酸系鉄電気めっき溶液内の第2鉄イオンを除去する方法。
【請求項7】
めっき工程は休止期を含めて不連続的に行われ、2回以上のめっき工程の間に再生段階を行うものである、請求項1に記載の硫酸系鉄電気めっき溶液内の第2鉄イオンを除去する方法。
【請求項8】
前記金属鉄は、Mn、Al、Mg、Li、Na及びKからなる群から選択される少なくとも一つの合金元素を含む合金鉄である、請求項1に記載の硫酸系鉄電気めっき溶液内の第2鉄イオンを除去する方法。
【請求項9】
前記合金鉄は、合金元素を0重量%超過、3重量%以下の含量で含む合金鉄である、請求項8に記載の硫酸系鉄電気めっき溶液内の第2鉄イオンを除去する方法。
【請求項10】
前記金属鉄粒子は、粒子、螺旋状のチップ、板状及びストリップのうち少なくとも一つである、請求項1に記載の硫酸系鉄電気めっき溶液内の第2鉄イオンを除去する方法。
【請求項11】
前記硫酸系鉄電気めっき溶液は、錯化剤をさらに含むものである、請求項1に記載の硫酸系鉄電気めっき溶液内の第2鉄イオンを除去する方法。
【請求項12】
前記錯化剤は、グリシン、グルタミン酸及びグルタミンから選択される少なくとも一つのアミノ酸、蟻酸、酢酸、乳酸、グルコン酸、シュウ酸、クエン酸、NTA(nitrilotriacetic acid)及びEDTA(ethylenediamine-N、N、N’、N’-tetraacetic acid)からなるグループから選択される少なくとも一つの化合物である、請求項11に記載の硫酸系鉄電気めっき溶液内の第2鉄イオンを除去する方法。
【請求項13】
前記硫酸系鉄電気めっき溶液は、温度80℃以下及びpH1.0~4.0である、請求項1に記載の硫酸系鉄電気めっき溶液内の第2鉄イオンを除去する方法。
【請求項14】
前記方法は、
電流を印加して電気めっきが行われる電気めっきセルと、
前記電気めっきセル及び電気めっき液を循環する循環槽と、
前記循環槽及び電気めっき液を循環し、前記金属鉄が装入され、金属鉄を溶解して前記電気めっき液から第2鉄イオンを除去する溶解槽と、を含み、
前記循環槽の電気めっき液を溶解槽に供給するポンプ及び溶解槽の金属鉄が循環槽へ流入することを防止するフィルタを備える鉄系電気めっき装置によって行われるものである、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄電気めっき溶液に含まれた第2鉄イオンを効果的に除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄は鋼板又は鋼材として製造され、汎用的な構造用材料として使用される物質であるが、耐食性、外観特性などが他の金属に比べて不足するため、磁気的特性を活用したり、特殊目的の合金を形成する目的で表面に電気めっきを施してきた。
【0003】
鉄の表面に鉄電気めっきをするための通常のめっき溶液は、高い電気めっき効率を維持するために第1鉄イオンを使用しているが、連続電気めっき過程で第1鉄イオンが第2鉄に酸化されながらめっき効率が急激に低下し、スラッジが発生するという問題点がある。
【0004】
このような問題を解決するために、従来は第2鉄イオンを第1鉄イオンに還元させたり、周期的に溶液を交換する方法を行っていた。しかしながら、大量の連続電気めっき工程では、溶液を周期的に除去して交換することが困難であり、製造コストの上昇を招くという問題がある。
【0005】
また、可溶性陽極を用いて第2鉄の生成量を減少させる方法がある。しかし、電気めっきを10ASD(Ampere per Square Deci-meter)を超える高電流密度の条件下で行う場合には、過電圧が上昇して第1鉄イオンが第2鉄イオンに酸化することを根本的に抑制することはできず、めっき効率よりも可溶性陽極の溶解効率がさらに高いため、溶液内に鉄イオンの濃度が持続的に増加するという問題が発生する。さらに、可溶性陽極はめっきを進めるにつれて徐々に溶解して消耗されるため、極間距離及び電極の表面状態が変化し、これにより、可溶性陽極を周期的に交換しなければならないため管理が非常に難しい。
【0006】
一方、不溶性陽極を適用する硫酸系鉄電気めっき溶液は、第2鉄イオンの発生が不可避である。そこで、めっき溶液から通常、第2鉄イオンをスラッジ化して濾過除去するか、又は還元剤の投入や電解方法によりめっき溶液中の第2鉄イオンを第1鉄イオンに還元させる方法を使用していた。
【0007】
例えば、韓国特許出願番号第2011-0137463号には、硫酸系鉄電気めっき溶液にアスコルビン酸を還元剤として含ませて第2鉄イオンを第1鉄に還元させる方法が開示されている。しかしながら、第2鉄イオンが還元されるとき、アスコルビン酸が酸化してジヒドロアスコルビン酸(dehydroascorbic acid)が生成され、これにより鉄電気めっき効率が急激に低下し、且つ、ジヒドロアスコルビン酸(dehydroascorbic acid)が持続的に蓄積されるという問題が発生する。
【0008】
他の例として、韓国特許出願番号第2015-0185858号、日本特許出願番号第1994-181533号及び第1988-259089号等には、電解液内に陽極と陰極を設け、一定の電流を印加して第2鉄イオンを第1鉄イオンに還元させる方法が開示されている。しかし、第1鉄イオンと第2鉄イオンの両方を含む電解液に電気を印加すると、陽極では、第1鉄が第2鉄イオンに酸化する反応及び少量の水分解反応が発生するのに対し、陰極では、主に鉄が電気めっきされる反応が起こり、第2鉄が第1鉄に還元される反応は一部しか発生しないため、結果的には第2鉄イオンがむしろさらに累積されるという問題が発生する。すなわち、このような方法は、電解液であれば、鉄電気めっきを抑制する添加剤を使用することにより、陰極において第2鉄イオンの還元反応の割合を高めることができるが、高いめっき効率が要求される鉄電気めっき溶液においては、このような電解方法により溶液内の第2鉄イオンを除去することは不可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一実施形態は、鉄電気めっき溶液を使用して長期間連続めっきを施す過程で生成される第2鉄イオンを第1鉄イオンに還元させて、第2鉄イオンを効果的に除去することにより、鉄イオンの酸化によるスラッジの発生を抑制し、めっき効率を一定に維持し、頻繁な溶液交換を必要としないように第2鉄イオンを効果的に除去する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、硫酸系鉄電気めっき溶液内の第2鉄イオンを除去する方法であって、第2鉄イオンを含む硫酸系鉄電気めっき溶液を、金属鉄が装入された溶液槽に循環させ、第2鉄イオンを還元させる再生段階を含み、上記金属鉄は、次式(1)を満たす含量で装入されるものである、硫酸系鉄電気めっき溶液内の第2鉄イオンを除去する方法を提供する:
S≧0.01×Iconv/Cmax(1)
【0011】
式(1)において、Sは金属鉄の全表面積(m2)であり、Cmaxは溶液内の第2鉄の最大イオン濃度の許容値(g/L)であり、Iconvはめっき時間(tp、sec)の間、電気めっきセルに印加された電流(I)の総量を電解液の再生、すなわち、電解液中の第2鉄イオンの還元のための再生時間(tr、sec)で除した換算電流(A)であって、次式(2)で表す。
【0012】
【0013】
上記再生段階は、めっき工程の実行中に行うことができる。
【0014】
上記再生段階はめっき工程の実行中に行い、上記再生段階は2回以上不連続的に行うことができる。
【0015】
上記再生段階は、めっき工程の実行中に開始し、めっき工程の休止期に終了し、上記再生段階は連続的又は不連続的に行うことができる。
【0016】
上記再生段階は、めっき工程の休止期に開始し、めっき工程中又はめっき工程後の休止期に終了することができる。
【0017】
上記再生段階は、めっき工程の休止期中に行い、上記再生段階は連続的又は不連続的に行うことができる。
【0018】
上記再生段階は、めっき工程が休止期を含めて不連続的に行われ、2回以上のめっき工程の間、再生段階を行うことができる。
【0019】
上記金属鉄は、Mn、Al、Mg、Li、Na及びKからなる群から選択される少なくとも一つの合金元素を含む合金鉄であってもよい。
【0020】
上記合金鉄は、合金元素を0重量%超過、3重量%以下の含量で含む合金鉄であってもよい。
【0021】
上記金属鉄粒子は、粒子、螺旋状のチップ、板状及びストリップのうち少なくとも一つであってもよい。
【0022】
上記硫酸系鉄電気めっき溶液は、錯化剤をさらに含むことができる。
【0023】
上記錯化剤は、グリシン、グルタミン酸及びグルタミンから選択される少なくとも一つのアミノ酸、蟻酸、酢酸、乳酸、グルコン酸、シュウ酸、クエン酸、NTA(nitrilotriacetic acid)及びEDTA(ethylenediamine-N、N、N’、N’-tetraacetic acid)からなるグループから選択される少なくとも一つの化合物であってもよい。
【0024】
上記硫酸系鉄電気めっき溶液は、温度80℃以下及びpH1.0~4.0であってもよい。
【0025】
上記方法は、電流を印加して電気めっきが行われる電気めっきセル;上記電気めっきセル及び電気めっき液を循環する循環槽と、上記循環槽及び電気めっき液を循環し、上記金属鉄が装入され、金属鉄を溶解して上記電気めっき液から第2鉄イオンを除去する溶解槽と、を含み、上記循環槽の電気めっき液を溶解槽に供給するポンプ及び溶解槽の金属鉄が循環槽へ流入することを防止するフィルタを備える鉄系電気めっき装置によって行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の方法によれば、連続電気めっき中に持続的に累積される第2鉄イオンを効果的に除去することにより、電気めっき効率の低下を防止することができ、第2鉄イオンの蓄積によるスラッジを防止することができる。
【0027】
また、第2鉄イオンが第1鉄イオンに還元され、金属鉄が溶解して第1鉄イオンを供給するため、鉄電気めっき溶液内の第1鉄イオン濃度を一定に維持することができる。
【0028】
さらに、溶液管理のために周期的に溶液を交換する必要がないため、溶液廃水量を減少させることができ、環境にやさしく、製造コストを大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】めっきと電解液の再生に対する時間的関係を概略的に示す図であって、連続めっき工程中における電解液の連続再生を概略的に示す図である。
【
図2】めっきと電解液の再生に対する時間的関係を概略的に示す図であって、連続めっき工程中に電解液の再生を不連続的に行う例を概略的に示す図である。
【
図3】めっきと電解液の再生に対する時間的関係を概略的に示す図であって、めっき工程の実行中に電解液の再生を開始し、めっき工程の休止期中に電解液の再生工程を終了する例を概略的に示す図である。
【
図4】めっきと電解液の再生に対する時間的関係を概略的に示す図であって、めっきのための電流印加前に電解液の再生を開始し、当該めっき工程終了後の休止期に電解液の再生を終了する例を概略的に示す図である。
【
図5】めっきと電解液の再生に対する時間的関係を概略的に示す図であって、めっき工程の間の休止期に電解液の再生工程を行う例を概略的に示す図である。
【
図6】めっきと電解液の再生に対する時間的関係を概略的に示す図であって、少なくとも2回のめっき工程及びめっき工程の間の休止期に連続的に電解液の再生を行う例を概略的に示す図である。
【
図7】本発明の方法による装置を概略的に示す図である。
【
図8】実施例1による初期溶液と、上記初期溶液に純鉄を投入して溶解させた後、1時間、2時間及び3時間が経過した後の溶液を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の一実施形態は、不溶性陽極が適用された電気めっき設備において、硫酸系鉄電気めっき溶液を使用して鉄電気めっきを行う際に、電気めっき溶液内に蓄積される第2鉄イオンの濃度を低減させ、めっき中に消耗された第1鉄イオンを供給する方法を提供する。
【0031】
鉄電気めっき溶液中に第2鉄イオンの濃度が増加すると、電気めっき品質を阻害するため、本発明は、不溶性陽極を使用する電気めっき設備において連続めっき操業中に生成される第2鉄イオンを金属鉄と接触させて還元させることにより、鉄電気めっき溶液内の第2鉄の濃度を低減させる。
【0032】
不溶性陽極が適用された電気めっき設備で鉄電気めっきを行う際には、通常、硫酸系電解液を使用し、不溶性陽極設備で電気めっきを施すと、陽極では次のような反応が起こる。
【0033】
2H2O → O2+4H++4e-
Fe2+ → Fe3++e-
【0034】
すなわち、陽極では、水分解反応と第1鉄イオンが第2鉄イオンに酸化する反応が同時に発生する。水分解反応が起こる電位よりも第1鉄イオンの酸化反応が発生する電位がさらに低いため、低電流操業を行うと電圧が低くなり、第1鉄イオンの酸化反応が発生する割合はより高くなる。さらに、スラッジを防止するために錯化剤を使用すると、第2鉄イオンが電解液内でより安定した状態を維持するため、第1鉄イオンの酸化反応はさらに加速される。
【0035】
一方、硫酸系電気めっき溶液において鉄電気めっきを行う際に錯化剤を使用しない場合、高い電気めっき効率が得られず、第2鉄イオンが蓄積されたとき容易にスラッジ化して溶液が混濁するが、通常の濾過方法では除去が困難である。そこで、通常、錯化剤を用いてスラッジの発生を防止している。
【0036】
しかし、めっき溶液内の第1鉄イオンが第2鉄イオンに酸化すると、陰極でめっき反応に関与する第1鉄イオンの濃度が減少し、第2鉄イオンが第1鉄イオンに還元される際に電流を消耗するため、電気めっき効率が急激に減少する。したがって、鉄電気めっきを連続的に実施するためには、溶液内の第2鉄イオンを除去する必要がある。
【0037】
本発明者らは、硫酸系鉄電気めっき溶液において連続めっき中に生成される第2鉄イオンを再還元させ、鉄電気めっき効率の低下を防止する方法を考案した。
【0038】
特に本発明は、不溶性陽極が適用された鉄電気めっき設備において持続的に蓄積される第2鉄イオンを還元させて除去することにより、溶液内にスラッジの発生を抑制し、電気めっき中に消耗された鉄イオンを供給することにより、溶液内の鉄イオンの濃度を一定に維持させようとする。これにより、連続めっきを行っても高い電気めっき効率を維持することができる。
【0039】
さらに、本発明は、電気めっき溶液中の第2鉄イオンの濃度を低減させながら、電気めっき溶液のpHを一定に維持することができ、これによりめっき効率を一定に維持させることができ、鉄電気めっき溶液の管理が容易であり、長期間連続的に使用することができる。
【0040】
一方、電解液内に第2鉄イオンが蓄積されることを防止するために、金属鉄ではなく還元剤を投入して第2鉄イオンを第1鉄イオンに還元させると、電解液に還元剤が酸化された成分が持続的に増加して残留するようになるが、電気めっきに不要な成分が累積されることでめっき効率が低下し、めっき品質に影響を与える。
【0041】
上記の問題を解決するために、本発明者らは、鉄電気めっき溶液の主成分である金属鉄を還元剤として使用する方法を考案した。
【0042】
鉄電気めっき溶液中の第2鉄イオンの還元のために、様々な種類の還元剤を評価した結果、金属鉄を還元剤として使用すると、溶液の恒常性を維持しながらも効果的に第2鉄を除去することができ、さらに、金属鉄から溶出した第1鉄イオンにより鉄電気めっき過程で消尽された鉄イオンを補充することになり、電解液内の鉄イオン濃度を一定に維持することができるため、溶液の使用量を画期的に削減することができる。
【0043】
電圧が印加されていない状態で金属鉄と第2鉄イオンとが接触すると、第2鉄イオンは第1鉄イオンに還元され、金属鉄は酸化して第1鉄イオンに溶出する腐食反応が発生する。このような反応は次式のように表すことができる。
【0044】
2Fe3++Fe → 3Fe2+
【0045】
鉄電気めっき溶液内の第2鉄イオンを除去するための還元剤として、本発明は金属鉄を使用することが好ましい。鉄を還元剤として使用する場合、溶液内の水素イオン又は第2鉄イオンと反応して溶出し、これにより溶液内の第2鉄イオンを第1鉄イオンに還元させることができ、さらに、第1鉄イオンを供給することができる。
【0046】
上記還元剤として使用される金属鉄は純鉄であってもよく、合金鉄であってもよい。上記合金鉄の合金元素としては、鉄より酸化性が強く、電気めっきで容易に析出しない元素であってもよく、例えば、Mn、Al、Mg、Li、Na及びKからなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。このような合金鉄を使用する場合、溶液内の水素イオン又は第2鉄イオンと反応して溶出する速度をさらに増加させることができる。より好ましくは、上記合金元素は、Mn及びAlからなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。
【0047】
本発明において、上記還元剤として使用される金属鉄は合金元素の含量が3重量%以下であることが好ましい。上記合金元素が3重量%を超える合金鉄を使用する場合、溶液内の第2鉄イオンがほとんどなくても酸化性の強い合金元素が大気中から流入した酸素、溶液内の水素イオンと反応して持続的に溶出し、この場合、めっき溶液のpHが過度に上昇するようになる。さらに、このような合金鉄を還元剤として長期間使用すると、溶液内の合金元素のイオン濃度が増加し、電気めっき過程で鉄電気めっき層に混入されるため、得ようとする純粋な鉄の電気めっき層が得られない。
【0048】
本発明において還元剤として使用される金属鉄は純鉄又は合金鉄であって、その形状は限定されず、球状のような粒子形態、螺旋状のチップ、板状又はストリップ状であってもよい。金属鉄の形状が板状又はストリップ状の場合、溶解槽に投入するとき、切断等により適切なサイズで投入することができ、これにより金属鉄が互いに積層されて溶液の流れを低下させたり、溶液と実際に接触する面積が小さくなったりする問題を防止することができる。さらに、鋼板等の製造工程で発生する副産物を還元剤として使用することができ、製造コストを削減することができるため、より好ましい。また、上記還元剤として粒子形態の金属鉄を用いる場合には、充填率が高く溶液との接触面積を増大させることができ、これにより、溶解槽の体積が過度に大きくなることを防止することができるため好ましい。
【0049】
上記還元剤として使用される金属鉄のサイズについては、めっき設備や還元効率等を考慮して適宜選定することができ、特に限定されない。例えば、板状又はストリップ状の金属鉄は、0.1~5mmの厚さを有するものを使用することができ、これらを適切なサイズに切断したり、板状又はストリップを等間隔で積層配列するなどのように、溶液の流れを阻害しない配列でさえあれば、第2鉄の還元効果は同様に得られ、板状又はストリップの面積は特に限定しない。
【0050】
粒子形態で使用する場合、0.1mm~10mm、例えば、0.5mm、0.7mm、1mm以上5mm、7mm又は10mm以下の平均直径を有する粒子を使用することができる。
【0051】
使用される金属鉄のサイズが小さいほど、金属鉄と溶液の接触面積を極大化することができ、第2鉄イオンの還元には効果的であるが、過度に小さいサイズを有する金属鉄を使用すると、むしろ溶液の流れを妨げることがあり、過剰に投入したときには、第2鉄イオンがない場合にも溶液内の水素イオンと反応してpHが過度に上昇することがあり、鉄粒子が電気めっきセルへ流入してめっき表面に損傷を与えることがある。一方、金属鉄のサイズが過度に大きい場合には、反応面積が減少して第2鉄イオンを効果的に除去することができず、大量の金属鉄の投入が要求される。したがって、鉄電解めっき設備の容量及びめっき速度に応じて、上記範囲内で適切なサイズを有する金属鉄を選択することが好ましい。
【0052】
電気めっき溶液内の第1鉄イオンは、標準水素電極に対して-0.44V以下で金属鉄に還元され、0.77V以上になると、第2鉄イオンに酸化される。一方、水は1.23V以上で電気分解されて酸素気体が発生する。したがって、不溶性陽極を備える電気めっき設備で鉄電気めっきを行うと、陽極では、第1鉄イオンが第2鉄イオンに酸化される第1鉄の酸化反応とともに水が分解される水分解反応が起こり、陰極では、第1鉄イオンが金属鉄に還元されてめっきされ、第2鉄イオンは第1鉄イオンに一部が還元される。
【0053】
上記のような電極反応は、電流密度、電極及び溶液特性によってそれぞれの反応発生量の割合は多少異なることがあるが、不溶性陽極を備えた電気めっき設備で鉄電気めっきを行う場合、陰極における鉄電気めっき量の割合が第2鉄の還元反応量に比べて多く、陽極では第1鉄の酸化反応及び水分解反応が発生するため、電流を印加して電気めっきを行うと、溶液内の第2鉄イオンの濃度は持続的に増加するしかない。
【0054】
鉄電気めっき溶液において第2鉄イオンが生成される速度は、鉄電気めっきのために印加された電流量又はめっき速度に比例して増加する。したがって、電気めっきによる第2鉄の生成速度が金属鉄による第2鉄の除去速度を超えないように制御して、第2鉄イオンが持続的に増加しないようにすることが好ましい。
【0055】
本発明者らは、多数の実験を通じて、還元剤として金属鉄を電気めっき速度に応じて適正な投入量で使用すると、第2鉄イオンが持続的に累積されて増加することを防止できることを確認した。すなわち、金属鉄と溶液との接触面積を十分に大きくすると、第2鉄イオンが第1鉄に還元される反応量が増加するため、第2鉄イオンの増加を抑制することができる。
【0056】
鉄めっきのために電流が印加されると、電流に比例して第2鉄イオンが生成される。このとき、第2鉄イオンの生成速度はa・Iconvで表すことができ、aは第2鉄イオンの生成速度定数であり、Iconvは単位時間当たりの換算電流であって、換算電流Iconvはめっき時間(tm、sec)の間に印加された電流(I)の総量を電解液の再生、すなわち、第2鉄イオンの還元のための再生時間(tn、sec)で除した値であって、次式のように表現することができ、単位はAである。
【0057】
【0058】
このとき、上記めっき過程における電流(I)が印加された時間(電流印加時間、すなわち、めっき(platting)時間t
p)と再生(regenerating)時間(t
r)は同一であってもよく、また異なってもよい。すなわち、めっき工程と再生工程は様々な形態で行うことができる。例えば、連続めっき及び連続再生、連続めっき及び不連続再生、不連続めっき及び連続再生、不連続めっき及び不連続再生等の形態であってもよい。めっき工程及び再生工程は様々な形態で行われることができ、これに対するいくつかの例については、
図1~
図6を参照してより例示的に説明する。
【0059】
図1は、連続めっき及び連続再生の場合に関する一実施形態であって、電流(I)を印加してめっき工程を行う際に第2鉄イオンの還元のための再生を連続的に行う場合を示し、めっき工程中に再生工程を行うことができる。この場合、電流印加時間(t
p)と再生時間(t
r)は同一であり、この場合、換算電流I
convは単位時間当たりめっきセルに印加された平均電流と同じである。
【0060】
図2は、連続めっき及び不連続再生の場合に関する一実施形態であって、電流(I)を印加してめっき工程を連続的に行う過程で、電解液内の2価鉄イオンの濃度が許容値を超える場合に断続的に再生工程を行うことを示す。この場合、電流印加時間(t
p)と再生時間(t
r=tr
1+t
r2)は異なる。
図2は、再生を2回実施する例を示しているが、必要に応じて3回以上行うことができる。
【0061】
図3は、不連続めっき及び連続再生の場合に関する一実施形態であって、電流(I)を印加してめっき工程を行う過程で、電解液内の2価鉄イオンの濃度が許容値を超える場合に再生工程を開始し、めっき工程の休止期に再生工程を一定時間の間持続した後に再生工程を終了することを示す。この場合、電流印加時間(t
p)と再生時間(t
r)は同一又は異なってもよい。
図3は、1回の再生工程を連続的に行うことについて示しているが、
図2の実施形態を組み合わせて断続的に行うこともできることを、通常の技術者であれば容易に理解することができる。
【0062】
図4は、不連続めっき及び連続再生の場合に関する他の実施形態であって、電流(I)を印加してめっき工程を行う前、すなわち、電流(I)を印加しないめっき工程の休止期に再生工程を開始してめっき工程中に再生工程を維持し、当該めっき工程終了後の休止期まで再生工程を一定時間の間持続した後に終了することを示す。本実施形態は、以前のめっき工程で使用された電解液を使用する場合に好適に行うことができる。この場合、電流印加時間(t
p)と再生時間(t
r)は異なってもよい。
図4は、1回の再生工程を連続的に行うことについて示しているが、
図2の実施形態を組み合わせて断続的にも行うことができることを、通常の技術者であれば容易に理解することができる。この場合、電流印加時間(t
p)と再生時間(t
r)は同一であってもよい。
【0063】
図5は、不連続めっき及び連続再生の場合に関するさらに他の実施形態であって、電流(I)を印加しないめっき工程の休止期に再生工程を行うことを示す。この場合、電流印加時間(t
p)と再生時間(t
r)は同一であってもよく、異なってもよい。
図5は、1回の再生工程を連続的に行うことを示しているが、
図2の実施形態を組み合わせて断続的に行うこともでき、再生工程は休止期中に継続することができ、休止期の一部時間の間行われることができる。この場合、電流印加時間(t
p)と再生時間(t
r)は同一又は異なってもよい。
【0064】
図6は、不連続めっき及び連続再生の場合に関するさらに他の実施形態であって、めっき工程はめっき-休止期-めっきと不連続的に行われ、再生工程はめっき及び休止期中に持続的に行われる場合を示す。この場合、電流印加時間(t
p)と再生時間(t
r)は異なってもよい。
図6は、1回の再生工程を連続的に行うことについて示しているが、
図2の実施形態を組み合わせて断続的に行うこともでき、めっき工程中に再生工程が開始又は終了することができる。この場合、電流印加時間(t
p)と再生時間(t
r)は同一であってもよい。
【0065】
一方、鉄電気めっき溶液中の第2鉄イオンの濃度がC(g/L)であり、還元剤として投入された金属鉄の全表面積をS(m2)とするとき、第2鉄イオンは還元剤により還元されて第2鉄イオンの濃度が減少するが、このとき、第2鉄イオンの減少速度はbCS(b=第2鉄イオンと金属鉄の反応速度定数)で表すことができる。
【0066】
連続めっき中に第2鉄イオンの濃度が一定に維持される状態とする場合、次のような関係を有する。
【0067】
a・Iconv=b・C・S
S=(a/b)・Iavg/C
【0068】
このような関係を有するとき、上記Cは平衡濃度を示す。
【0069】
一方、a/bは実験的に求めることができる値であって、本発明者らが測定した結果、溶液の変化があっても、aは溶液及び電極に関係なくほぼ一定の値を有し、bは還元剤として添加された金属鉄内のMn、Al等の合金元素の含量が増加するにつれて共に増加する傾向を有し、純鉄の場合において、a/bは0.01であることを確認した。
【0070】
第2鉄イオンが電極反応により生成されるとき、溶液内の第1鉄イオンが直接酸化され、他の添加剤成分は反応に関与しないため、aがほぼ一定であるのに対し、第2鉄イオンと金属鉄とが反応して還元されるときには、金属鉄の組成に応じて反応速度が大きく変化するため、金属鉄に反応性の高い合金元素の含量が高いほど、bが大きく増加するものと判断される。
【0071】
上記のような関係から、電気めっきセルに単位時間当たり電流Iconvを印加し、溶液内の第2鉄イオンの最大濃度許容値をCmaxとするとき、金属鉄は、金属鉄の全表面積Sが次の関係式を満たすように投入されることが好ましい。
【0072】
S≧0.01×Iconv/Cmax
【0073】
合金元素を含有する金属鉄を還元剤として使用する場合には、同じ条件で純鉄を還元剤として使用する場合に比べて、還元剤である金属鉄の表面積が少なくても、合金鉄は第2鉄イオンを第1鉄イオンに還元させる反応速度が速いため、反応速度定数bが大きくなり、a/bは小さくなる。したがって、還元剤の表面積(S)は、金属鉄の表面積に対する条件を満たすと、鉄電気めっき溶液中の第2鉄イオンを第1鉄イオンに還元させて除去する効果を提供することができ、これにより、第2鉄イオンの許容濃度を臨界値以下に管理しようとする所定の目的を達成することができる。
【0074】
例えば、9000Aの電流を20分間印加して電気めっきを行い、40分間電流を印加せずに休止する状態を繰り返す操業パターンにおいて、第2鉄イオンの濃度を3g/L以下に維持しようとする場合、換算電流は3000Aとなり、全表面積が10m2以上となるように金属鉄を投入すると、溶液内の第2鉄イオンの平均濃度を3g/L以下となるように維持することができる。
【0075】
一方、硫酸系鉄電気めっき溶液において第2鉄イオンが多量に含まれると、第2鉄イオンは水酸化物を形成してスラッジが生成されるが、生成された第2鉄イオンのスラッジは金属鉄と接触しても金属鉄による還元反応が発生しないため、通常のめっき溶液では金属鉄の還元力が現れない。したがって、第2鉄イオンが金属鉄との腐食反応により還元されるためには、錯化剤を用いて第2鉄イオンがスラッジの形態で沈殿しないようにすることが好ましい。
【0076】
本発明で使用できる錯化剤としては、電気めっきにおいて通常使用されるものであれば、本発明においても好適に使用することができ、特に限定されないが、例えば、カルボキシル基を有する化合物を使用することができる。具体的に、グリシンとグルタミン酸、グルタミンのようなアミノ酸;蟻酸、酢酸、乳酸、グルコン酸のような1つのカルボキシル基を含む酸;シュウ酸、クエン酸、NTA(nitrilotriacetic acid)、EDTA(ethylenediamine-N、N、N’、N’-tetraacetic acid)などの2つ以上のカルボキシル基を有する酸が挙げられる。
【0077】
本発明の方法に従って硫酸系鉄電気めっき溶液内の第2鉄イオンを、金属鉄を用いて効果的に除去する方法について具体的に説明する。
【0078】
本発明の方法は、
図7に示すように、電流を印加して鉄電気めっきが行われる電気めっきセル1、上記電気めっきセル1に電気めっき溶液を供給し、電気めっきセル1から電気めっき溶液が供給される循環槽2を含む。すなわち、上記電気めっきセル1と循環槽2との間に電気めっき溶液が循環する。
【0079】
より具体的には、循環槽2に第1鉄イオンが供給され、この第1鉄イオンを含む電気めっき溶液が電気めっきセル1に供給され、電気めっきセル1内の電気めっき溶液に含まれた第1鉄イオンの濃度を一定に維持させることができる。さらに、電気めっきセル1内の電気めっきにより第2鉄イオンの濃度が増加した電気めっき溶液は上記循環槽2に送られる。
【0080】
一方、上記電気めっきセル1から循環槽2に供給された第2鉄イオンを含む電気めっき溶液は溶解槽3に循環される。上記溶解槽3には金属鉄が装入される。上記溶解槽3に供給された電気めっき溶液は溶解槽3内の金属鉄を溶解し、この過程で金属鉄により電気めっき溶液内の第2鉄イオンが第1鉄イオンに還元され、電気めっき溶液中の第2鉄イオンの含量が減少する。
【0081】
上記循環槽2から溶解槽3に電気めっき溶液を循環させる際には、
図1に示すように、ポンプ4を駆動して行うことができる。
【0082】
第2鉄イオンの含量が減少した溶解槽3内の電気めっき溶液は循環槽2に供給され、次いで電気めっきセル1に供給される。
【0083】
上記溶解槽内の電気めっき溶液を循環槽2に供給する際には、濾過手段5を通過することが好ましい。上記濾過手段5は、溶解槽3内に装入された金属鉄粒子や、不純物粒子が電気めっき溶液と共に循環槽2に流入することを防止するためのものである。特に、ストリップがロールとロールとの間を通過するようになる連続電気めっき工程では、金属鉄粒子が電気めっき溶液中に存在する場合、ロールとストリップとの間に金属鉄粒子が挟まってストリップを突くことにより、デント欠陥を誘発する可能性がある。
【0084】
上記濾過手段5は、通常、溶液中の固体を分離するための手段であれば、本発明においても好適に適用することができ、特に限定されず、例えば、濾過器又は濾過網等が挙げられる。
【0085】
本発明は、上記のように、第2鉄イオンの含まれた硫酸系鉄電気めっき溶液を、金属鉄が装入された溶液槽に循環させることにより、上記鉄電気めっき溶液中に存在する第2鉄イオンが金属鉄と反応して第2鉄イオンは第1鉄イオンに還元され、金属鉄は第1鉄イオンに溶出することで、溶液内の第2鉄イオンを除去することができる。
【0086】
このとき、本発明が適用される硫酸系鉄電気めっき溶液は、温度80℃以下の温度であれば、めっき溶液の凍結、粘度などの変化を招くものでない限り、特に限定されず、より好ましくは0℃以上、80℃以下で行うことができる。
【0087】
一方、電気めっき溶液のpHは第2鉄の還元には大きな影響を及ぼさないものであって、特に限定しないが、電気めっき効率の観点からpH1.0~4.0であることが好ましく、より好ましくは2.0~3.0であってもよい。
【実施例】
【0088】
以下、本発明の実施例を通じてより具体的に説明する。
【0089】
[参考例1及び2]
第1鉄の原料として硫酸第1鉄を使用し、第2鉄の原料として硫酸第2鉄を使用して、第1鉄イオン濃度、第2鉄イオン濃度及び第1鉄イオン濃度と第2鉄イオン濃度の総合(T-Fe)が下記表1に示す通りである硫酸系鉄電気めっき溶液を製造した。
【0090】
上記鉄電気めっき溶液のpHを硫酸と水酸化ナトリウムを用いて表1のように調節し、第2鉄イオンがスラッジとして沈殿しないように、錯化剤としてグルタミンを鉄イオンのモル濃度の0.5倍となるように添加した。
【0091】
上記の溶液に1dm2の面積及び0.7mmの厚さを有する純鉄の金属鉄板10枚を互いに重ならないように一定の間隔を維持して溶液に浸漬し、3時間の間維持した後、鉄電気めっき溶液内の第2鉄イオンの濃度と第1鉄イオン及び第2鉄イオンの濃度とを合わせた総鉄濃度(total Fe、T-Fe)をそれぞれ測定した。
【0092】
また、溶液を製造した直後の溶液と、還元剤で金属鉄板を用いて第2鉄を除去した後の溶液において、電流密度40ASDで電気めっきを行い、めっき効率を測定した。
【0093】
各測定結果を表1に示す。
【0094】
【0095】
上記表1から分かるように、参考例1及び2において、第2鉄イオンが多量に含有されるように製造された鉄電気めっき溶液は、めっき効率がそれぞれ54%、63%であり、pHが低いほどめっき効率が低い。
【0096】
[実施例1~2]
上記表1に記載の第2鉄イオンを多量に含む参考例1及び2の初期溶液に、還元剤として1dm2の面積及び0.7mmの厚さを有する純鉄の金属鉄板を投入して3時間の間第2鉄を還元させて除去した後、還元処理された鉄電気めっき溶液を得た。参考例1の初期溶液を使用した例が実施例1であり、参考例2の初期溶液を使用した例が実施例2である。
【0097】
上記得られた鉄電気めっき溶液について、第2鉄イオン濃度と第1鉄イオン濃度及び第2鉄イオンの濃度とを合わせたT-Fe濃度をそれぞれ測定し、その結果を表2に示した。
【0098】
さらに、上記鉄電気めっき溶液のpHを硫酸と水酸化ナトリウムを用いて表2のように調節し、第2鉄イオンがスラッジとして沈殿しないように、アミノ酸又はクエン酸を鉄イオンのモル濃度の0.5倍となるように添加した。
【0099】
これにより得られた、溶液を製造した直後の溶液と、還元剤を使用して第2鉄を除去した後の溶液において、電流密度40ASDで電気めっきしてめっき効率を測定した。
【0100】
各測定結果を表2に示した。
【0101】
【0102】
上記表2から分かるように、実施例1及び2のように金属鉄を還元剤として用いた場合に第2鉄の濃度は減少し、pHが上昇し、めっき効率はそれぞれ82%、85%と大きく増加した。一方、実施例1で製造された溶液をそれぞれ1時間、2時間、3時間維持した後の溶液状態を
図8に示した。
図8から分かるように、時間が経つにつれて次第に第2鉄による赤褐色から第1鉄による薄緑色に変色することが確認できた。
【0103】
[比較例1~2]
比較例1及び2では、参考例1及び2の初期溶液に、還元剤としてアスコルビン酸16g/Lを投入して第2鉄イオンを第1鉄イオンに還元させたことを除いては、実施例1と同様に還元処理して還元処理された鉄電気めっき溶液を得た。参考例1の初期溶液を使用した例が比較例1であり、参考例2の初期溶液を使用した例が比較例2である。
【0104】
製造された鉄電気めっき溶液の第2鉄イオン濃度及び第1鉄イオン濃度及び第2鉄イオン濃度を合わせたT-Feをそれぞれ測定し、その結果を表3に示した。
【0105】
【0106】
アスコルビン酸を投入した直後のめっき溶液は赤褐色から薄緑色に変色し、第2鉄イオンの濃度が著しく減少した。しかし、3時間を維持した後には、大気中の酸素と反応して徐々に赤色を呈した。一方、上記表3から分かるように、アスコルビン酸を投入した後3時間を維持した溶液で鉄電気めっきを行った結果、第2鉄イオン濃度は大きく減少したにもかかわらず、めっき効率はむしろ低下した。
【0107】
[比較例3~4]
比較例3及び4では、参考例1及び2の初期溶液に還元剤として亜硫酸ナトリウム12g/Lを投入した後、50℃で3時間維持したことを除いては、実施例1と同様の方法で還元処理し、還元処理された鉄電気めっき溶液を製造した。参考例1の初期溶液を使用した例が比較例3であり、参考例2の初期溶液を使用した例が比較例4である。
【0108】
製造された鉄電気めっき溶液の第2鉄イオン濃度及び第1鉄イオン濃度及び第2鉄イオン濃度を合わせたT-Fe濃度をそれぞれ測定し、その結果を表4に示した。
【0109】
【0110】
亜硫酸ナトリウムを投入しても溶液の色変化はなかった。また、上記表4から分かるように、参考例1及び2と比較して第2鉄イオンの濃度にも大きな変化はなく、めっき効率はむしろさらに低下した。
【0111】
[実施例3~5及び比較例5~12]
鉄電気めっき溶液は鉄イオン(T-Fe)濃度が約50g/Lとなるように硫酸第1鉄を溶解し、錯化剤としてアミノ酸の一種であるグルタミンを鉄イオンのモル濃度の0.5倍となるように投入した。硫酸を投入してpHが2~3となるように調節し、初期溶液を下記表5のようにそれぞれ製造した。
【0112】
還元剤として、下記表5に示すように、厚さ0.5mmの純鉄又はMnの含量を異ならせた合金鉄の金属鉄板を1dm2のサイズに切断し、互いに重ならないように一定の間隔をおいて溶解槽に装入した。溶液と接触する金属鉄の表面積は、溶解槽に装入する金属鉄板の数を異ならせて調節し、これによる還元剤の投入面積(dm2)は表5に示す通りである。
【0113】
めっき用下地金属として、1dm2のめっき面積を有する銅板を予め脱脂しておき、一定の時間間隔ごとに電流40Aで1回当たり2分間連続めっきし、1時間当たり合計5回のめっきを行って平均電流を6.7Aとなるようにした。
【0114】
上記の方法で3時間の間、一定の時間間隔ごとにめっきした後、溶液内の鉄イオン濃度(T-Fe及び第2鉄イオン、単位:g/L)、マンガンイオン濃度(mg/L)、pH及びめっき効率(%)を測定し、めっき液中のスラッジ発生の有無(O:スラッジ発生、X:スラッジ未発生)を観察し、その結果を表5に示した。
【0115】
さらに、還元剤として使用された金属鉄の面積(S、単位:m2)と換算電流(Iconv)及び溶液内の第2鉄イオンの最大イオン濃度許容値(Cmax)に対する上記式(1)による結果(単位:m2・g/L・A)を計算し、その結果を表5に併せて示した。
【0116】
【0117】
実施例3~4と比較例6及び7は、還元剤として純鉄を1dm2のサイズに切断した鉄板の投入個数を変更して一定の間隔で装入した例であって、金属鉄の表面積による第2鉄イオンの生成抑制効果が確認できる。
【0118】
具体的に、比較例6~7は、金属鉄板の表面積が2dm2及び4dm2となるように装入した場合であって、金属鉄を装入していない比較例5とは異なり、第2鉄イオンの濃度が大きく増加せず、めっき効率も大きく低下しなかったが、初期溶液に比べて第2鉄イオンの濃度より徐々に増加する傾向を示した。
【0119】
これに対し、鉄板の表面積を8及び16dm2となるように装入した実施例3及び4の場合には、めっきが進むほど電気めっき溶液中の第2鉄イオンの濃度が初期溶液に比べて次第に減少する傾向を示し、めっき効率も小幅に増加した。さらに、電気めっき中の溶液内にスラッジも発生しなかった。
【0120】
実施例5~7及び比較例8は、還元剤として約3%のMnを含有する合金鉄板を1dm2のサイズに切断した金属鉄板を、投入個数を変更して一定の間隔で装入した例であって、Mn合金鉄の表面積による第2鉄イオンの生成抑制効果が確認できる。
【0121】
実施例5~7のようにMnを含有する合金鉄板は、表面積4dm2以上を装入するだけでも、第2鉄イオンの濃度が初期溶液に比べて低下した。しかし、合金鉄板の面積が2dm2となるように装入された比較例8では、めっきが進むほどpHが低下し、第2鉄イオンの濃度が次第に増加した。
【0122】
比較例9~12では、還元剤として約5重量%のMnを含有する合金鉄板を使用した例であって、Mn含量による第2鉄イオンの生成抑制効果が確認できる。このように、Mnを多量に含有する合金鉄板を使用した場合には、Mn合金鉄を少量使用するだけでも第2鉄イオンの濃度が大きく減少し、めっき効率も一定に維持された。しかし、溶液内のMnの含量が増加し、pHが急激に増加し、めっき中の電気めっき溶液内に微細なスラッジが発生した。
【0123】
以上の結果から、鉄電気めっき装置に純鉄又は3%以下のMnを含有する合金鉄が装入された溶解槽を設けて循環させると、鉄電気めっき溶液内に第2鉄イオンが蓄積されることを防止することができ、pHの低下を抑制することができ、電気めっきで消尽された鉄イオンを供給することができるため、不溶性陽極を使用して連続鉄電気めっきを行う際にめっき効率を一定に維持することができ、鉄電気めっき溶液の恒常性を維持することができる。
【符号の説明】
【0124】
1:電気めっきセル
2:循環槽
3:溶解槽
4:ポンプ
5:濾過手段
【国際調査報告】