(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-01
(54)【発明の名称】骨疾患を治療するための二糖類
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7016 20060101AFI20240222BHJP
A61P 19/10 20060101ALI20240222BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20240222BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240222BHJP
C07H 15/04 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
A61K31/7016
A61P19/10
A61P19/08
A61P35/00
C07H15/04 A CSP
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023539766
(86)(22)【出願日】2021-12-20
(85)【翻訳文提出日】2023-06-27
(86)【国際出願番号】 FR2021052408
(87)【国際公開番号】W WO2022144515
(87)【国際公開日】2022-07-07
(32)【優先日】2020-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518436021
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ピカルディ・ジュール・ヴェルヌ
(71)【出願人】
【識別番号】518436010
【氏名又は名称】サントル・オスピタリエ・ユニヴェルシテール・ダミアン-ピカルディ
(71)【出願人】
【識別番号】514282002
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュ ナシオナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル)
(71)【出願人】
【識別番号】519208029
【氏名又は名称】セントレ ナシオナル ドゥ ラ レシェルシェ サイエンティフィク
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】オセイユ,ジェローム
(72)【発明者】
【氏名】コヴェンスキー,ジョゼ
(72)【発明者】
【氏名】トゥミュー,シルベストル
(72)【発明者】
【氏名】トレシュレル,エリック
(72)【発明者】
【氏名】デュスイ,クリストフ
【テーマコード(参考)】
4C057
4C086
【Fターム(参考)】
4C057BB03
4C057CC03
4C057DD03
4C057JJ03
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA02
4C086EA03
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA96
4C086ZA97
4C086ZB26
(57)【要約】
本発明は、有効成分としての次式(I)
【化1】
ALP activity (U/L/μG of proteins):ALP活性(U/L/μgタンパク質)
を有する少なくとも1つの化合物(I)[式中、R1は H、SO3-から選択され、R2はH及びCOCH3から選択され、R3はH、COCH3、ベンジル、SO3-から選択される]及び上記化合物の薬学的に許容可能な塩(ただし、R1=SO3-及びR2=COCH3及びR3=H の式(I)の化合物及び上記化合物のナトリウム塩を除く)と、少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤とを含有することを特徴とする医薬組成物に関する。本発明は、生体適合性培地を含む関連キットにも関する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としての少なくとも1つの式(I)の化合物
[式中、R
1は、H、SO
3
-から選択され、R
2は、H及びCOCH
3から選択され、R
3は、H、COCH
3、ベンジル、SO
3
-から選択される]及び前記化合物の薬学的に許容可能な塩であって、R
1=SO
3
-及びR
2=COCH
3及びR
3=Hである前記式(I)の化合物、及び前記化合物のナトリウム塩を除き、かつR
1=R
3=H及びR
2=COCH
3である前記式(I)の化合物を除く、化合物及び塩と、少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤と、を含有することを特徴とする、医薬組成物。
【請求項2】
少なくとも1つの薬学的に許容可能な塩を含有すること、及び前記塩(複数可)は、ナトリウム塩、カリウム塩、及びリチウム塩から互いに独立して選択されることを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記賦形剤は、注射用塩化ナトリウム溶液から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
有効成分として、R
1=H;R
2=H及びR
3=COCH
3である前記式(I)の化合物と、R
1=H、R
2=COCH
3及びR
3=Hである前記式(I)の化合物との混合物を含有することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
対象の体内に移植できる生体適合性支持体と、少なくとも1つの次式(I)の化合物:
[式中、R
1は、H、SO
3
-、から選択され、R
2は、H及びCOCH
3から選択され、R
3は、H、COCH
3、ベンジル、SO
3
-から選択される]及び前記化合物の薬学的に許容可能な塩と、を含む、キット。
【請求項6】
前記生体適合性支持体は、多孔性生体適合性支持体、特に生分解性ポリマー(複数可)、特にPLA、ポリグリコール酸、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)、コラーゲン、ポリグリコリド、キトサン、ポリカプロラクトンを含む、又はこれらからなる支持体、セラミック(複数可)を含む又はセラミックからなる支持体、リン酸カルシウムを含む又はリン酸カルシウムからなる支持体、骨の石灰化部分を含む又は骨の石灰化部分からなる支持体から選択されることを特徴とする、請求項5に記載のキット。
【請求項7】
症状として、少なくとも局所的な骨密度の低下、特に骨粗鬆症、骨減少症、骨軟化症、骨形成不全症、糖尿病性骨粗鬆症、大理石骨病、骨パジェット病、骨腫瘍、癌性骨腫瘍を生じる病態の治療において、単独で又は2つ以上を組み合わせて使用するため、又は骨欠損であって、骨材料の欠失を有する骨の領域として定義される骨欠損、若しくは骨折、特に病的骨折を治療するための外科的方法において、単独で又は2つ以上を組み合わせて使用するための、
次式(I)を有する化合物:
[式中、
a)R
1=R
3=H、及びR
2=COCH
3
b)R
1=SO
3
-;R
3=H;R
2=COCH
3
c)R
1=R
2=R
3=H
d)R
1=SO
3
-;R
2=R
3=H
e)R
1=R
2=H、及びR
3=COCH
3]及び
前記化合物の薬学的に許容可能な塩。
【請求項8】
a)及びe)に定義された前記化合物が組み合わせて使用されることを特徴とする、請求項7に定義された使用のための、請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
次式(I)を有する化合物であって:
R
1=R
2=H及びR
3=COCH
3である、化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前骨芽細胞のカルシウム産生を増加させることができ、したがって特定の骨疾患の治療に有用である、二糖類型化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
骨折は、頻繁に起こる外傷及び骨緻密化(bone consolidation)の合併症であり、整形外科医が実施した手術であるにもかかわらず、医学的問題となる。実際に、骨緻密化は不変の現象ではなく、非緻密化につながる骨折の症例が10%存在し、これには特定の危険因子がない。対照的に、技術的誤り(特に長骨の骨幹骨折における、不十分な締結、回転制御)の場合、非緻密化のリスクは50%と推測される。上記の2つの極値の間で、非緻密化のリスクは局所的及び全体的因子の存在に依存し、30%に達し得る。こうした因子には、骨粗鬆症、1型糖尿病、アルコール等がある。骨粗鬆症に関連する骨折は、50歳以上の女性の50%と男性の20%に影響する。骨粗鬆症は、骨の質及び量の劣化を特徴とし、骨折のリスクを著しく増加させる。
【0003】
現在の骨欠損の標準的管理は自家移植術である。骨部分は、海綿骨領から、又は皮質骨領域若しくは皮質骨-海綿骨領域から、のいずれかで採取される。これにより、石灰化画分、タンパク質画分並びにそのコラーゲン性及びコラーゲン性基質タンパク質の添加が可能になる。この細胞プールは、補填部位での骨形成プロセスの円滑な進行に十分である。
【0004】
皮質骨領域における海綿骨自家移植片の血行再建は、約15日かかる。その後、種によって異なるが、その完全な統合には1~6ヶ月を要する。この移植片は、骨形成性、骨誘導性、骨伝導性であるという利点を有する。しかし、この技術には、痛み及び移植部位へのアクセスが限られること、外科医による大量採取が必要であること、及び採取部位での罹患など、重大な制限がある。その結果、様々な強度及び持続時間の一時的な跛行を生じ得る。自家移植の量は限られるため、外科医は、同種組織又は骨代替材料を移植し得る。これらの材料は骨伝導性であり、骨修復のための受動的支持体としてのみ使用される。しかし、BMP(骨形成タンパク質)又は自家濃縮骨髄液の経皮注入などの新たな解決策に向けた研究が行われている。後者は、骨コンピテント細胞の起源である間葉系幹細胞の導入を含む。この技術は、幹細胞の濃度に依存する一定数の骨誘導の特性を保持するが、軽度の罹患を伴う。この解決策は、採取段階による制限が残る。
【0005】
一方、BMPは、生体適合性の移植可能な支持体に導入される。これらは、骨基質の酸性化(吸収)によって、又は骨折の間に、一般的に放出される骨誘導性の内因性糖タンパク質である。BMPは、間葉細胞の局所的動員を誘発し、骨形成につながる生物学的カスケードのトリガーを可能にする。BMPはまた、合成生物学によって合成され、Osigraft(登録商標)(BMP7)、Inductos(登録商標)、Infuse(登録商標)Bone Graft(BMP2)の名称で、外科的治療と組み合わせて、骨緻密化分野における有効成分として販売されている。上記の薬剤は、溶液の形態であり、再構成(有効成分+溶媒)された後、コラーゲン支持体(I型ウシコラーゲン)に導入される。この「浸漬された(soaked)」基質は、骨折骨緻密化手術の間、外科医によって、創傷を閉じる前に骨折した骨の上に配置される。販売承認は、ヒトでのランダム化多施設試験のおかげで得られており、その分析は、この種の製品の実際の有効性及び適応症のより適切な評価を可能にする。主な研究は、髄内釘を有する脚の開放骨折、長骨の偽関節症、脊髄関節症に焦点を合わせてきた。また、大腿骨頭の骨壊死と上顎洞の肥厚についても研究が行われている。これらでは正式承認を得ることができない。その副作用と、支持体製造の優良製造規範が存在しないことから、BMP2及びBMP7の製造は、欧州では2016年に中止された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】C.Dussouy et al,「Strong aphicidal activity of GIcNAc(β→4)Glc disaccharides:synthesis,physiological effects and chitinase inhibition」,Chemistry a European journal(独)(DOI:10.1002/chem.201200887)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、骨密度の低下に関連する疾患の治療において、及び/又は骨欠損若しくは骨折を治療するための外科的方法において、使用できる二糖類型化合物を提案することである。
【0009】
特に、本発明が解決しようとする別の課題は、骨誘導性(すなわち、骨形成につながる生物学的メカニズムのカスケードを誘導することができる)二糖類型化合物を提案することである。
【0010】
本発明の別の目的は、骨のより速い再生を可能にする上記のような化合物を提案することである。
【0011】
本発明の別の目的は、異所性骨形成(すなわち、他の組織の代わりに骨が形成すること)を防ぐ上記のような化合物を提案することである。
【0012】
本発明の別の目的は、骨欠損の治療を可能にするキットを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、特徴的に、有効成分としての少なくとも1つの式(I)の化合物
【0014】
【0015】
[式中、R1は、H、SO3
-から選択され、R2は、H及びCOCH3から選択され、R3は、H、COCH3、ベンジル、SO3
-から選択される]及びこれらの化合物の薬学的に許容可能な塩であって、ただし、R1=SO3
-及びR2=COCH3及びR3=Hである式(I)の化合物、及びこの化合物のナトリウム塩を除き、且つR1=R3=H及びR2=COCH3-である式(I)の化合物を除く、化合物及び塩と、少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤と、を含有する医薬組成物に関する。
【0016】
そのような組成物は、前骨芽細胞及びヒト骨芽細胞におけるカルシウム産生を増加させる可能性が高いことが証明されている。特許文献1は、次式を有する化合物を記載している。
【0017】
【0018】
この文献では、上記化合物は殺虫剤として使用されている。この文献は、上記化合物は、アレルギーや喘息のメカニズムに関与することが知られているキチナーゼを阻害する活性を有することから、薬剤として使用できることも示した。
【0019】
非特許文献1は、本発明の特定の化合物の合成、及び当該化合物を昆虫の飼育を可能にする食品組成物と混合したときに殺虫剤として使用することを記載している。これらの化合物の中にはキチナーゼを阻害する活性を持つものもあるが、全てではない。
【0020】
薬学的に許容可能な塩に関して、当該塩は、例えば、上記化合物のナトリウム塩、リチウム塩、又はカリウム塩であってもよい。
【0021】
したがって、本発明の医薬組成物は、少なくとも1つの薬学的に許容可能な塩を含んでもよく、上記塩(複数可)は、ナトリウム塩、カリウム塩及びリチウム塩から互いに独立して選択される。
【0022】
好ましくは、上記組成物は、1つのナトリウム塩、又は数種のナトリウム塩を含有する。
【0023】
有利には、本発明の組成物は、有効成分として、1種以上のナトリウム塩のみを含む。
【0024】
有利には、本発明の組成物は液体形態である。したがって、組成物を、注入すること、又は支持体を含浸させるために使用することができる。
【0025】
本発明によると、賦形剤は限定されず、蒸留水、注射用塩化ナトリウム水溶液、特に9g/Lの塩化ナトリウムを含む水溶液から選択できる。
【0026】
本発明の医薬組成物は、注射、皮下、静脈内、骨への注入、経口、粘膜、特に舌下又は鼻腔内に投与することができる。特に、当該組成物は、骨欠損に直接注入することによって使用できる。
【0027】
特定の実施形態によると、本発明の医薬組成物は、有効成分として、R1=H;R2=H及びR3=COCH3である式(I)の化合物と、R1=H、R2=COCH3及びR3=Hである第2の式(I)の化合物との混合物を含有する。発明者は、第2の化合物の溶媒和中の再配列により第1の上記化合物が現れることを実証した。
【0028】
有利には、混合物は、重量で2/3のR3=Hである上記式Iの化合物と、1/3の第2の化合物とを含有する。
【0029】
本発明の医薬組成物は、その実施形態にかかわらず、患者の体内、特に、患者の骨若しくは骨欠損、又は密度の低い骨領域に注入すること、及びその中で固化することができるリン酸カルシウムセメントも含んでもよい。
【0030】
したがって、本発明の組成物を骨欠損に注入することにより、この欠損を埋めること、及び骨の形成を誘導する本発明の化合物を送達することが可能である。
【0031】
本発明は、対象の体内に移植できる生体適合性支持体と、次式(I)を有する少なくとも1つの化合物:
【0032】
【0033】
[式中、R1は、H、SO3
-、から選択され、R2は、H及びCOCH3から選択され、R3は、H、COCH3、ベンジル、SO3
-から選択される]、及びこれらの化合物の薬学的に許容可能な塩と、を含むキットに関する。
【0034】
発明者は、実際に、本発明の化合物が支持体上で骨量の産生を誘導することができることを実証した。
【0035】
生体適合性支持体は、有利には、骨及び/又は骨伝導性材料に置き換わることができる(すなわち、骨材料(骨)で被覆することができる)支持体である。
【0036】
上記化合物は、例えば、賦形剤が注射用塩化ナトリウム溶液である液体医薬組成物中に存在することもできる。本発明によると、上記生体適合性支持体は、有利には、多孔性生体適合性支持体、特に生分解性ポリマー(複数可)、特にPLA、ポリグリコール酸、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)、コラーゲン、ポリグリコリド、キトサン、ポリカプロラクトンを含む、又はこれらからなる支持体、セラミック(複数可)を含む又はセラミックからなる支持体、リン酸カルシウムを含む又はリン酸カルシウムからなる支持体、骨の石灰化部分を含む又は骨の石灰化部分からなる支持体、から選択される。
【0037】
有利には、生体適合性支持体は、コラーゲンを含む、又はコーティングからなる。
【0038】
支持体は、少なくとも1つの本発明による化合物で被覆することができ、又は本発明のキットを参照して上記で定義された化合物を含有する医薬組成物で含浸若しくは被覆することができる。
【0039】
本発明は、骨密度低下に関連する病態、特に骨粗鬆症、骨減少症、骨軟化症、骨形成不全症、糖尿病性骨粗鬆症(diabetoporosis)、大理石骨病、骨パジェット病、骨腫瘍、癌性骨腫瘍の治療において単独で又は2つ以上を組み合わせて使用するため、又は骨欠損若しくは骨折、特に病的骨折を治療するための外科的方法において単独で又は2つ以上を組み合わせて使用するための、次式(I)の化合物:
【0040】
【0041】
[式中、
a)R1=R3=H、及びR2=COCH3
b)R1=SO3
-;R3=H;R2=COCH3
c)R1=R2=R3=H
d)R1=SO3
-;R2=R3=H
e)R1=R2=H、及びR3=COCH3]及び
これらの化合物の薬学的に許容可能な塩にも関する。これらの化合物を、生体適合性支持体と組み合わせて使用して、本発明のキットの特定の実施形態を形成できる。特定の実施形態によれば、上記のa)およびe)に定義される化合物は、上記の病態の治療のため、又は上記のような外科的方法において、組み合わせて使用される。
【0042】
本発明は、式中、R1=R2=H及びR3=COCH3である、次式(I)の化合物にも関する。
【0043】
【0044】
一般に、式(I)の化合物のプロポキシ置換基は、式(I)の波線によって示されるように、α位又はβ位にある。本発明の全ての実施形態に適用可能な、本発明の好ましい実施形態では、式(I)の化合物のプロポキシ置換基は、以下に示すようにα位にある。
【0045】
【0046】
定義
骨密度低下に関連する疾患又は病態は、本発明の意味の範囲内で、少なくとも局所的な骨密度低下を症状として発生する病理学的状態、又は骨密度低下、例えば骨折の結果生じる病理学的状態を指す。骨腫瘍、特に癌性骨腫瘍は、骨脆弱性を引き起こし、これを本発明の化合物で治療できる。
【0047】
病的骨折は、骨密度の低下によって引き起こされる骨折として定義される。
【0048】
本発明によると、骨欠損は、骨材料に欠損を有する骨の領域であり;骨材料内の穴又は骨材料の密度が低い領域であり得る。
【0049】
骨材料は、本発明の意味の範囲内で、固化した結合組織又は結合組織の固化を含む。
【0050】
「治療」という用語は、予防的治療と治療的治療とを含む。
【0051】
「有効成分」という用語は、対象の活性化合物が薬学的効果を得るのに十分な量で存在することを示す。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】細胞を、4mMのPi(Pi=ホスホイノシチド3-キナーゼ)(対照+Pi)、及びそれぞれ30μMの参照符号DP2SNA、DP2NA、DP2K及びDP2Sの化合物の存在下での4mMのPiに、9日間曝露した後のMC3T3-E1培養培地におけるカルシウム用量(1ウェルあたりのμg/mgタンパク質)を示す。
【
図2】二糖類並びにこれらの二糖類のナトリウム塩DP2及びDP2NAのそれぞれでMC3T3-E1細胞を処理することによってD=25において得られたカルシウムイオン濃度の石灰化培地のみの場合に対する増加率を示す。
【
図3】HOb細胞石灰化条件下、15、30及び50μMのDP2及びDP2NAの存在下での処理によってD=14において得られたカルシウムイオン濃度の石灰化培地のみの場合に対する増加率を示す。
【
図4】HOb細胞石灰化条件下、5、7.5、10、15、30及び50μMのDP2及びDP2NAの存在下での処理によってD=14において得られたカルシウムイオン濃度の石灰化培地のみの場合に対する増加率を示す。
【
図5】DP2の存在下で平滑筋細胞によって産生されたカルシウムの量(μg)を表し、細胞は、石灰化条件下、5、7.5、10、15、30及び50μMのDP2の存在下で処理した。
【
図6】石灰化条件下、30μMのDP2R0及び100ng/mLのBMP-2、又はこれらの混合物の存在下での処理の14日後に得られたHOb細胞の石灰化のパーセンテージを表す。
【
図7】石灰化条件下、(7A)30μMのDP2R2及び(7B)30μMのDP2R2又はDP2’、及び(7C)純度95%の標識DP2R2(DP2M95 30μM)の存在下、14日間処理したHOb細胞で得られた石灰化のパーセンテージを表す。
【
図8】以下について、MC3T3-E1及びHOb細胞で得られたアルカリホスファターゼの酵素活性(U/L/μgタンパク質)を表す:(8A)MO3T3-E1細胞、D=18日、15、80及び50μMのDP2R0の存在下又は不在下、100ng/mLのBMP-2との比較、(8B)HOb細胞、D=7日、30μMのDP2R0の存在又は不在下、石灰化培地による100ng/mLのBMP-2及びBMP-7との比較、(8C)HOb細胞、D=7、30μMのDP2R0の存在又は不在下、石灰化培地による処理、100ng/mLのBMP-2及びBMP-7との比較。
【
図9】MTT試験(9A)及びWST-1試験(9B)を用いて、HOb細胞で実施した30μMのDP2細胞毒性のD=14における結果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本発明の化合物の化学合成
本化合物の合成は、非特許文献1に記載のとおりである。
【0054】
化合物DP2’の合成
化合物DP2’は、化合物DP2を水に溶解したときに形成されるDP2-DP2’混合物から抽出した。化合物DP2’は、溶出溶媒として水を用いた分取HPLCクロマトグラフィーによって分離された。
【0055】
本発明者らは、化合物DP2’が水中にあるとき、アセタート基の非局在化も存在するが、DP2→DP2’反応と比べて非常に低速であることを観察した。その結果、静置したDP2’水溶液は、44日後に、10~15%のDP2を含有する。したがって、DP2’は、極めて長い所定の時間、水中に単独のまま残る。そのため、水溶液中のDP2’の生物学的効果を試験することができる。
【0056】
同様に、本発明者らは、DP2→DP2’反応の速度が、生成化合物DP2’の抽出後に化合物DP2単独の生物活性を試験することも可能な速度であることを観察した。したがって、DP2及びDP2’の2つの化合物は、所与の時間にわたって、水中で共存する可能性もしない可能性もある。
【0057】
更に、メタノールなどの他の溶媒中では、アセタート基の非局在化は観察されなかった。したがって、例えば、メタノール中では、化合物DP2は単独である。
【0058】
使用した参照符号
参照符号:DP2、DP2R0、DP2R2、DP2Kは、次式Iを有する化合物n-プロピル,2-0-アセチル-α-D-グルコピラノシド,4-O-(2-アセトアミド-2-デオキシ-β-D-グルコピラノシル)に対応する:
【0059】
【0060】
R0、R2及びKの名称は、DP2分子の製造バッチを指す。
【0061】
DP2’は、次式1’を有する化合物n-プロピル,3-0-アセチル-α-D-グルコピラノシド,4-O-(2-アセトアミド-2-デオキシ-β-D-グルコピラノシル)に対応する:
【0062】
【0063】
参照符号DP2Sは、式(I)[式中、R1=SO3
-及びR2=Acである]の化合物、例えば、n-プロピル,2-0-アセチル-6-O-スルホ-α-D-グルコピラノシド,4-O-(2-アセトアミド-2-デスオキシ-β-D-グルコピラノシル),モノナトリウム塩に対応する。
【0064】
参照符号DP2NAは、次式3を有する化合物n-プロピル,α-D-グルコピラノシド,4-O-(2-アセトアミド-2-デオキシ-β-D-グルコピラノシル)に対応する:
【0065】
【0066】
参照符号DP2SNAは、化合物n-プロピル,6-O-スルホ-α-D-グルコピラノシド,4-O-(2-アセトアミド-2-デスオキシ-β-D-グルコピラノシル),モノナトリウム塩に対応し、次式4を有する:
【0067】
【0068】
in-vitro実験
細胞培養
全ての実験で、マウス前骨芽細胞株(MC3T3-E1、ATCC)及びヒト初代骨芽細胞(HOb、Promocell)を用いた。マウス前骨芽細胞を、15mLのα-MEM培地(M4526、SIGMA)と、1%ペニシリン/ストレプトマイシン抗生物質及び1%グルタミンを含む10%ウシ胎児血清(FCS)とを含む、75cm2フラスコ内で培養した。同様に、ヒトHOb細胞を、15mLの増殖培地(ヒト骨芽細胞増殖培地、PromoCell)を含む75cm2フラスコ内で培養した。細胞は、オーブン内で、37℃、5%CO2及び湿度90%に維持する。培地は、3日ごとに交換した。
【0069】
MC3T3-E1細胞を、6ウェルプレートに63,700細胞/ウェルで播種し、RNAを抽出するため、又はアルカリホスファターゼ酵素活性アッセイのために処理した。また、カルシウムアッセイのため、48ウェルプレートに5250細胞/ウェルで播種した。HOb細胞を、RNAの抽出、又はアルカリホスファターゼ酵素活性アッセイについては6ウェルプレートに182,000細胞/ウェル;カルシウムアッセイについては48ウェルプレートに15,000細胞/ウェル;MTT試験又はWST-1試験については48ウェルプレートに10,000細胞/ウェル;タンパク質抽出又は蛍光については6ウェルプレートに100,000細胞/ウェルで播種した。
【0070】
細胞処理
石灰化を誘導するため、MC3T3-E1細胞を、10mMのβ-グリセロリン酸と50μg/mLのアスコルビン酸とを添加した5%FCSを含有するα-MEM培地で処理した。HOb細胞は、「骨芽細胞石灰化培地」(Promocell)で処理した。条件に応じて、DP2NA、DP2R0、DP2R2、DP2’、BMP-2又はBMP-7を、種々の濃度で添加した。濾過後、細胞をそれぞれの培地で処理した(48ウェルプレートの1ウェルあたり500μL、6ウェルプレートの1ウェルあたり2mL)。
【0071】
本発明の化合物の石灰化促進活性
マウス前骨芽細胞(MC3T3-E1)の培養培地におけるカルシウムの放出を調べた。結果を
図1に示す:カルシウムの発現を大きく阻害するDP2Sと異なり、3つのDP2(DP2SNA;DP2NA:DP2K)は、MC3T3-E1細胞によるカルシウム産生を増加する能力を有することを明らかに示す。
【0072】
上記の結果に従い、DP2NA及びDP2R0で25日間処理したMC3T3-E1に関する石灰化促進活性を調べた。15μM(40±2%)、30μM(28±18%)及び50μM(40±28%)のDP2R0、並びに15μM(15±14%)、30μM(33±12%)及び50μM(10±19%)のDP2NAの存在下、石灰化培地と比較して、石灰化の増加が観察された(
図2)。
【0073】
石灰化は、ヒト骨芽細胞(HOb、PromoCell、独国ハイデルベルク)でも研究した。上記細胞は、大腿部海綿骨組織から単離される。石灰化培地(PromoCell)中で14日処理した後、初代HOb細胞では、石灰化条件と比較して、15μM(26±10%)、30μM(40±15%)のDP2、並びに30μM(44±7%)及び50μM(35±8%)のDP2NAの存在下で、石灰化の有意な増加が観察された(
図3参照)。50μM(8±17%)のDP2及び15μM(45±42%)のDP2NA存在下で増加が観察されたが、それは標準偏差から有意ではない。
【0074】
HOb細胞を低濃度(5、7.5及び10μM)のDP2R0及びDP2NAで処理した後、石灰化培地のみ場合と比べて、HOb細胞の石灰化の低下が観察された(
図4)。これは、低濃度のDP2は、石灰化に対して作用せず、したがって、少し離れて、BMPの例で記載したものとは逆に、DP2の存在下では異所性骨の発達がないと考えられる。
【0075】
更に、
図5に示す結果は、非石灰化対照条件において、DP2の存在は、平滑筋細胞に対する石灰化促進作用を持たない。したがって、これは、DP2は骨芽細胞以外の細胞に対して石灰化を誘発しないという仮説を補強する。
【0076】
上記の結果に基づき、DP2R0を対象分子として選択することで、研究を継続した。
図6に示す結果は、30μMのDP2R0及び100ng/mLのBMP-2は、それぞれ石灰化を181.573±9.155%及び214.153±37.938%増加することを示す。これは、30μMのDP2R0は、文献に定義されている濃度(100ng/mL)において、BMP-2と同程度の活性を有することを示す。石灰化に対するDP2とBMP-2との相乗効果も、ヒト骨芽細胞で研究されている。
図6に見られる結果は、DP2R0及びBMP-2(152,950±16,176%)は、ヒト骨芽細胞に対して相乗効果を持たないと思われることを示す。
【0077】
サービス提供業者のRoowinは、DP2R2(第2生産バッチ)と呼ばれるDP2分子を供給した。上記で使用した名称DP2R0は、LG2A研究所(UPJV、アミアン)で生産されたDP2を指す。この分子の石灰化促進活性が研究されており、結果を下
図7Aに示す(DP2R2:159.03±18.719%)。
【0078】
DP2R2の水溶液の化学分析は、化合物DP2R2(DP2)が水と反応して化合物DP2’を与えることを示した。1/3のDP2’に対して約2/3のDP2R2が存在する。化合物DP2’は、3OH位へのアセタート基(R2)の移動から生じる。化合物DP2’は、前述のように単離及び合成が可能であった。化合物DP2’を水と混合したとき、DP2R2の形成につながる逆反応は観察されず、化合物DP2’のみが溶液中に存在する。この分子の石灰化促進活性も研究されており(
図7B)、その結果は、30μMのDP2’は30μMのDP2R2と同程度の活性を持つと思われる(それぞれ143.806±36.657%、137.012±52.452%)ことを示す。
【0079】
本発明の分子の細胞浸透の仮説を研究するために、DP2R2を、蛍光色素分子であるフルオレセインと結合した。こうして、石灰化促進活性も試験されており、結果を
図7Cに示す。石灰化は、30μMのDP2R2については204.472%であり、純度95%の標識DP2R2(DP2M95 30μM)については260.479%である。
【0080】
アルカリホスファターゼ(ALP)酵素活性アッセイ
ALPは骨芽細胞によって合成される酵素である。ALPは、ヒドロキシル基とリン酸イオン(phosphate)とを放出することによって、石灰化を阻害するリン酸エステルを加水分解する。骨芽細胞は、基質小胞、アルカリホスファターゼ及びイオンのリザーバを生成し、これは細胞外培地に放出されると、カルシウムイオンおよびリン酸イオンの局所的濃縮を促進することによって骨組織の石灰化を開始する。細胞を、6ウェルプレートに、MC3T3-Eについては163700細胞/ウェル、HObについては182000細胞/ウェルで播種した。アッセイは、MC3T3-ET細胞に対して13日間、HOb細胞に対して7日間の処理を行った後、48ウェルプレート上でBioVisionアルカリホスファターゼ活性比色定量アッセイキット(ALPアッセイバッファー、pNPP錠剤、アルカリホスファターゼ酵素、停止液)を使用して実施した。
【0081】
PBSリンス後、50μLのALPアッセイバッファーをウェルに添加し、ウェルの底部をかき取って50μLを採取した。13000Gで3分間の遠心分離を実施して、不溶性材料を除去した。96ウェルプレートに、各試験サンプル10μLを、70μLのALPアッセイバッファー及び50μLの5mM pNPP溶液と共に入れた。並行して、同じ96ウェルプレートに入れることで、較正範囲を作成した。反応を、25℃で60分間インキュベートし、遮光した。20μLの停止液を加えることで反応を停止した。光学密度を405nmで測定した。
【0082】
ALP酵素活性アッセイの後、ALPアッセイの結果をタンパク質の数に応じて正規化するためにタンパク質アッセイを実施した。タンパク質のアッセイには、ThermoFisherのPierce(商標)BCA Protein Assay Kitを用いる比色法を使用した。5mLのチューブに、2mg/mLのアルブミン溶液から標準範囲を調製した。96ウェルプレートに、5μLの標準範囲及び試験サンプルを分注した。その後、200μLのキット試薬をウェルに添加した。反応を56℃で15分間インキュベートした。光密度を565nmで測定し、タンパク質の量を決定した。
【0083】
アルカリホスファターゼは、骨形成に不可欠な役割を果たす酵素である。骨芽細胞の分化の間、骨芽細胞によるアルカリホスファターゼの発現は時間とともに徐々に増加する。
【0084】
これに関して、MC3T3-E1及びHOb細胞に対するアルカリホスファターゼ酵素活性を調べた。
【0085】
MC3T3-E1では、15μmのDP2R0(118.907±10.466%)及び15μmのDP2R0(148.833±15.761%)が存在すると、石灰化培地のみ(100%)と比較して酵素活性がわずかに増加する。この増加は、100g/mLのBMP-2が存在する場合により顕著である(307.645±30.440%:
図8A)。
【0086】
更に顕著には、HObにおいて、処理後7日で、酵素活性は、石灰化培地のみ(100%)と比較して、30μMのDP2R0(210.494±14.979%)及び100ng/mLのBMP-2(262.567±46.207%)の存在下で有意に増加する。骨石灰化で観察される結果と同様に、結果は、DP2及びBMP-2がヒト骨芽細胞に対して相乗効果がないと思われることを示す(
図8B)。
【0087】
ALP酵素活性は、30μMDP2R2の存在下でも(149.749%)、石灰化培地のみ(100%)の場合と比較して確認された(
図8C)。
【0088】
細胞毒性試験
MTT試験
DP2の毒性を調べるため、MTT試験(3-(4,5-ジメチル-2-チアゾリル)-2,5-ジフェニル-2H-テトラゾリウムブロミド)を使用して、細胞生存率を測定した。HOb細胞を48ウェルプレートに播種し(1ウェルあたり10,000細胞)、2日後に細胞を30μMのDP2で処理し、処理後D2、D4、7、D14に、MTT試験を実施した。
【0089】
フェノールレッド不含DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)で細胞を洗浄した後、希釈MTT溶液250μLを各ウェルに加え、プレートを、37℃、5%CO2で1時間インキュベートする。ホルマザンに還元されたMTTの量は、生細胞に比例する。紫色のホルマザン結晶を220μLのDMSOで可溶化し、撹拌して着色を均質化した後、560nmにおける吸光度を測定した(Envision,PerkinElmer)。対照群と実験群との間で細胞生存率を比較することで、細胞毒性を評価した。
【0090】
WST-1試験
DP2の毒性は、別の細胞生存試験であるWST-1(テトラゾリウム塩)でも研究されている。HOb細胞を48ウェルプレートに播種し(1ウェルあたり10,000細胞)、2日後、細胞を30μMのDP2で処理し、処理後D2、D4、D7、D14に、WST-1試験を実施した。
【0091】
処理の終了時に、100μLの希釈WST-1溶液(Roche Diagnostics)を各ウェルに添加し、プレートを37℃、5%CO2で1時間インキュベートする。細胞増殖はミトコンドリア脱水素酵素の活性の増加を誘導し、これはテトラゾリウム塩を切断してホルマザンにする。ホルマザン染料の量は、450nmにおける吸光度を測定することにより定量した(Envision,PerkinElmer)。結果は、未処理の対照条件と比較した、生存率のパーセンテージで表される。
【0092】
本発明の分子が骨芽細胞の生存に影響を与えるか否かを判定する前に、その細胞毒性をMTT試験とWST‐1試験によりHOb細胞で試験した。培養培地(Ctrl)又は石灰化培地(Min)を用いて30μMのDP2で2、4、7、及び14日間(D)処理した。
【0093】
図9に示すように、4回の試験で異なる治療条件間に有意な差は認められない。骨芽細胞アポトーシスによる細胞生存率の低下がD14で観察され、これは誘導された石灰化と相関する。これらの結果は、30μMのDP2はHOb細胞に対する毒性を持たないことを示唆した。
【0094】
in-vivo実験
動物
動物の飼育と実験手順は、欧州連合指令(2010/63/EU)に従って実施され、ピカルディ・ジュール・ヴェルヌ大学(UPJV)からの倫理委員会(CREMEAP,CEEA N°96;APAFIS#15464-2018060810566765 v2)によってバリデーションされた。
【0095】
Sprague-Dawleyラットは、Janvier Labs(仏国ル・ジェニスト=サン=イル)によって提供され、UPJVのプラタン動物施設に収容されている。ラットを、12時間の昼夜サイクル下、温度22±2℃及び湿度50%に維持した。全てのラットは水と食物ペレットを自由に利用でき、ラットの体重変化が監督された。
【0096】
実験計画
骨再構築現象の加速による二糖類の骨誘導能を評価するため、並びに最適なDP2分子の濃度、及び骨折緻密化手術の生理学的条件下で最も適応された支持体の性質(炎症反応、細胞活性)を決定するため、ラットの頭蓋骨に2つの骨欠損を作成した。
【0097】
3種の支持体と2種の濃度のDP2を試験した。このため、8週間齢の雄のSprague-Dawleyラット102匹を、以下のような12の実験群(グループ)に分けた。
【0098】
-支持体1:生物活性リン酸カルシウム骨代替品(MBCP:Biomaltante、仏国ヴィニュー=ド=ブルターニュ)
グループ1(S1L1):MBCP支持体のみ
グループ2(S1L2):MBCP支持体+DP2[3mM]
グループ3(S1L3):MBCP支持体+DP2[9mM]
グループ4(S1L4):MBCP支持体+BMP-2
-支持体2:ウシ由来の石灰化部分からなる骨代替品(Bio-oss;仏国ロワシー=アン=フランス)
グループ5(S2L5):Bio-oss支持体のみ
グループ6(S2L6):Bio-oss支持体+DP2[3mM]
グループ7(S2L7):Bio-oss支持体+DP2[9mM]
グループ8(S2L8):Bio-oss支持体+BMP-2
-支持体3:ウシアキレス腱のI型コラーゲン(Sigma)
グループ9(S3L9):コラーゲン支持体のみ
グループ10(S3L10):コラーゲン支持体+DP2[9mM]
グループ11(S3L11):コラーゲン支持体+DP2[9mM]
グループ12(S3L12):コラーゲン支持体+BMP-2
【0099】
使用ラット数を減らすために、ラット1頭につき2つの骨欠損を作成し、1つの欠損はブランクのままとし、各ラットの内部対照として使用した。したがって、支持体のみのグループは、実験の対照とみなされる。DP2及びBMP-2を生理食塩水で希釈し、支持体と混合し、頭蓋欠損に入れた。支持体のみの条件では、後者は滅菌生理食塩水と混合される。
【0100】
手術
ラットは、上記の12グループのいずれかに割り当てた後、マスクにIsoVet(イソフルラン)を使用して麻酔した(誘導5%、維持量2~3%)。5分後に、動物の足又は尾をつまんで侵害受容試験を行い、麻酔の有効性を確認した。ワークステーションでは、切開に次いで、シェービングとベテジンによる消毒を実施した。
【0101】
局所麻酔は、5mg/mLに希釈した7mg/kgの2%リドカイン(20mg/mL)も用いて実施した。
【0102】
ワークステーションで、正中線に沿って15ブレードのコールドメスを用いて皮膚の切開を行い、その後皮下組織の剥離を行った。次に、骨膜の正中線に沿って切開し、持ち上げ及び横方向変位を行った。バリを用いて、出来るだけ大きな間隔をとることで、上矢状静脈洞に触れずに、矢状縫合の両側に直径5mmの2つの頭蓋病変を実施した。ミリング工程では生理食塩水を使用した。グループに応じて、左側に支持体の移植を行い;支持体のない右側を、支持体なしの病変の影響及び自然修復プロセスを評価するための対照として使用した。骨膜を所定の位置に戻し、7-0皮膚縫合糸で縫合した。皮膚も所定の位置に戻し、4-0皮膚縫合糸で閉じた。
【0103】
ラットに鎮痛剤として0.05mg/kgのブプレノルフィンを皮下注射した。覚醒後、ラットを1ケージにつき1ラットを入れることで、従来の収容条件に戻した。動物は毎日監督され、動物福祉の監視が行われた。
【0104】
全ての動物は、合併症なく研究期間中生存した。3か月後、欠損部位への感染、血腫、壊死の臨床徴候は認められなかった。これは、DP2がin vivo毒性効果を持たないことを示す。更に、全てのラットが骨再構成の均質性を示し、これは、各ラットの内部対照として使用された全て、空洞で得られた値を計算することで評価した。D14とD63との間に骨修復の有意な増加(ピーク)が観察され、D63から始まる高原のように有意性の低い増加が見られた。3種の支持体について得られた結果を、次の表1に要約する。
【0105】
(=:差異なし、N/A:該当せず、
*p≦0.05、
**p≦0.01、
***:p≦0.001)
【0106】
表1の結果は、2つのMBCP+DP2群が術後D29からのMBCP単独群と比較して骨石灰化相対を増加させることを示している。3つのBio-oss群はBio-oss単独群と比較して効果がなく、これはウサギの頭蓋欠損モデルでも観察された(Leventis et al.2018年)。これは、支持体による放出の問題によって説明できる。コラーゲン+DP2[3mM]群のみが、D14の骨石灰化を増加させる。
【0107】
興味深いことに、MBCP+BMP-2群は時間の経過とともに異所性骨を形成することが確認され、これは、BMP-2の副作用として観察されているものと同様と思われる。さらに、コラーゲン+BMP-2群は、古い骨と新しく形成された骨との間に連続的な骨修復を形成しない。これは、化合物DP2には当てはまらない。
【国際調査報告】