(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-01
(54)【発明の名称】反応チャンバを提供する方法、反応チャンバ、及びレーザ蒸発システム
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20240222BHJP
C23C 14/32 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
C23C14/24 T
C23C14/32 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023544520
(86)(22)【出願日】2021-02-18
(85)【翻訳文提出日】2023-09-06
(86)【国際出願番号】 EP2021053996
(87)【国際公開番号】W WO2022174899
(87)【国際公開日】2022-08-25
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512247223
【氏名又は名称】マツクス-プランク-ゲゼルシヤフト ツール フエルデルング デル ヴイツセンシヤフテン エー フアウ
【氏名又は名称原語表記】MAX-PLANCK-GESELLSCHAFT ZUR FOeRDERUNG DER WISSENSCHAFTEN E.V.
【住所又は居所原語表記】Hofgartenstrasse 8,80539 Muenchen, Bundesrepublik Deutschland
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,ウルフギャング
(72)【発明者】
【氏名】マンハート,ヨッヘン
(72)【発明者】
【氏名】ボシュケル,ヨハネス アルノルドゥス
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029CA01
4K029DA01
4K029DB20
4K029FA09
(57)【要約】
本発明は、レーザ蒸発システム(100)のための反応チャンバ(10)を提供する方法に関する。反応チャンバ(10)は、レーザ蒸発システム(100)の反応ボリューム(12)に向かい合う内面(22)を有する少なくとも1つの壁部(20)を含む。更に、本発明は、レーザ蒸発システム(100)のための反応チャンバ(10)に関する。反応チャンバ(10)は、反応ボリューム(12)を取り囲む内面(22)を有する少なくとも1つの壁部(20)を含む。更に、本発明は、反応チャンバ(10)を備えるレーザ蒸発システム(100)に関する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ蒸発システム(100)のための反応チャンバ(10)を提供する方法であって、前記反応チャンバ(10)は、前記レーザ蒸発システム(100)の反応ボリューム(12)に向かい合う内面(22)を有する少なくとも1つの壁部(20)を備え、
前記方法は、
a)前記少なくとも1つの壁部(20)を用いて前記反応チャンバ(10)を組み立てるステップと、
b)前記内面(22)の分散反射率を上昇させるため及び/又は前記内面(22)の吸収能力を増大するため前記少なくとも1つの壁部(20)を処理するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
ステップb)は、少なくとも部分的に、ステップa)よりも前に及び/又はステップa)と同時に実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップb)における前記少なくとも1つの壁部(20)の前記処理は、前記内面(22)の粗さ(30)を増大させることを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記内面(22)の前記粗さ(30)の前記増大は、前記内面(22)のサンドブラスト及び/又はビーズブラストを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
90μm~150μmの大きさのビーズ、特にガラスビーズ及び/又はコランダム(Al
2O
3)ビーズが前記ビーズブラストに使用される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ステップb)における前記少なくとも1つの壁部(20)の前記処理は、前記内面(22)を吸収層(40)でコーティングすることを含む、請求項1から5のうち一項に記載の方法。
【請求項7】
前記吸収層(40)は、前記少なくとも1つの壁部(20)の材料と反応性流体の材料との反応生成物として形成される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記反応性流体は、酸素を含有し、
前記吸収層(40)は、前記少なくとも1つの壁部(20)の前記材料の酸化物である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記反応性流体は、酸素分子(O
2)及び/又は酸素プラズマ及び/又はオゾン(O
3)を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記反応性流体は、酸素分子(O
2)及び/又は酸素プラズマ及び/又はオゾン(O
3)から成る、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記反応性流体は、酸素分子(O
2)及びオゾン(O
3)を9:1の体積比で含む、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記内面(22)の前記コーティングは、ステップa)の後に実行され、前記反応ボリューム(12)に前記反応性流体を充填することを含む、請求項7から11のうち一項に記載の方法。
【請求項13】
前記反応ボリューム(12)は、前記反応性流体によって、特に気体の反応性流体によって完全に充填される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記反応ボリューム(12)は部分的に、特に50%未満、好ましくは10%未満が、前記反応流体によって、特に液体の反応流体によって充填され、好ましくは、
前記内面(22)の前記コーティングは、前記反応チャンバ(10)を移動させて前記内面(22)全体を前記反応流体に浸漬することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記反応ボリューム(12)が前記反応性流体で充填されている間に、ターゲット材料がレーザによって、特に前記レーザ蒸発システム(100)のレーザによって、加熱される、請求項12から14のうち一項に記載の方法。
【請求項16】
ステップa)で前記反応チャンバ(10)を提供することは、熱伝導率が50Wm
-1K
-1より高い、好ましくは200Wm
-1K
-1より高い、材料を前記反応壁のために選択することを含む、請求項1から15のうち一項に記載の方法。
【請求項17】
ステップa)において、前記少なくとも1つの壁部(20)の材料として、アルミニウム又はアルミニウム合金、特に前記Al合金60826又は6082T6又はENAW-5083が選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも1つの壁部(20)は、少なくとも部分的に、1cmより大きい厚さ、好ましくは4cmより大きい厚さを含むように選択される、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも1つの壁部(20)は、1cmより大きい連続的な厚さ、好ましくは4cmより大きい連続的な厚さ、を有するように選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記反応チャンバ(10)に、前記少なくとも1つの壁部(20)のアクティブな冷却のための冷却手段(50)が備えられている、請求項1から19のうち一項に記載の方法。
【請求項21】
前記冷却手段(50)は、ステップa)の前に、及び/又は、ステップa)において前記反応チャンバ(10)の前記組み立て中に、提供される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記冷却手段(50)は、ステップb)において前記内面(22)の吸収能力を増大するための前記少なくとも1つの壁部(20)の処理として提供される、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
前記冷却手段(50)は、液体及び/又は気体の冷却剤(54)のための冷却ダクト(52)を含む、請求項20から22のうち一項に記載の方法。
【請求項24】
前記冷却ダクト(52)は、冷却剤(54)としての水に適合されている、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記冷却ダクト(52)は、前記反応チャンバ(10)の前記少なくとも1つの壁部(20)内に配置されている、請求項23又は24に記載の方法。
【請求項26】
前記冷却手段(50)は、前記レーザ蒸発システム(100)の動作中に前記壁部(20)の前記内面(22)に対するレーザ放射衝突が予想される前記少なくとも1つの壁部(20)の位置に配置されている、請求項20から24のうち一項に記載の方法。
【請求項27】
レーザ蒸発システム(100)のための反応チャンバ(10)であって、
反応ボリューム(12)を取り囲む内面(22)を有する少なくとも1つの壁部(20)を備え、
請求項1から26のうち一項に記載の方法を適用することによって提供される、反応チャンバ(10)。
【請求項28】
前記反応チャンバ(10)は、請求項1から26のうち一項に記載の方法のステップb)で処理された2つ以上の壁部(20)を備え、特に、
前記反応チャンバ(10)は、少なくとも本質的に、請求項1から26のうち一項に記載の方法のステップb)で処理された壁部(20)から成る、請求項27に記載の反応チャンバ(10)。
【請求項29】
任意選択的に請求項1から26のうち一項に記載の方法を用いて取得され得るレーザ蒸発システム(100)のための反応チャンバ(10)であって、
前記反応チャンバ(10)は、反応ボリューム(12)を取り囲む内面(22)を有する少なくとも1つの壁部(20)を備え、
前記少なくとも1つの壁部(20)は、アルミニウム、Al合金、Al合金60826、Al合金6082T6、及びAl合金ENAW-5083のうち1つで形成され、
前記内面(22)は、1μm~500μmの前記範囲内で選択された平均表面粗さ(30)を有し、及び/又は、
前記内面(22)は、酸化物層、特にAl
2O
3を含む酸化物層、好ましくはAl
2O
3から成る酸化物層でコーティングされ、
前記酸化物層の厚さは、10nm~10μmの前記範囲内で選択される、反応チャンバ(10)。
【請求項30】
請求項27から29のうち一項に従って構築された反応チャンバ(10)を備える、レーザ蒸発システム(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ蒸発システム(laser evaporation system)のための反応チャンバを提供する方法に関する。この反応チャンバは、レーザ蒸発システムの反応ボリューム(reaction volume)に向かい合う内面を有する少なくとも1つの壁部を含む。また、本発明は、レーザ蒸発システムのための反応チャンバに関する。この反応チャンバは、反応ボリュームを取り囲む内面を有する少なくとも1つの壁部を含む。更に、本発明は、反応チャンバを備えるレーザ蒸発システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば熱レーザエピタキシ(TLE:thermal laser epitaxy)又は同様の用途に用いられるようなレーザ蒸発システムでは、高強度レーザビームが反応チャンバ内へ誘導される。これらのシステムでは、反応チャンバの内部の反射面で、特に金属部で、レーザビームが散乱及び反射して、多くの場合は予測できない方向に進む。これらの反応チャンバは通常は金属で構成され、具体的には例えばステンレス鋼で構成され、多くの場合は研摩されている滑らかな表面を含むので、一般的に反射が発生する。反射したレーザビームは十分にコリメートされたままであり、高い強度を保つ。このため、これらの反射レーザビームによって真空チャンバ内の高感度部分が損傷を受ける危険がある。特に、湾曲面で反射すると反射レーザビームの集束を引き起こす可能性もある。
【0003】
上述のような望ましくない方向への反射は、特にTLEで、レーザビームがソース表面を融解させる場合に発生する。ソース表面上の一様でない蒸発又は動的不安定により、レーザビームは望ましくない予期しない方向に反射する。
【0004】
図1は、レーザビーム60が壁部20の内面22で反射して反射レーザビーム62になることを概略的に示す。壁部20はレーザ蒸発システム100の反応チャンバ10の一部を形成し、反応ボリューム12を取り囲む。ほとんどの場合、壁部20に用いられる材料は、例えばステンレス鋼のような金属であり、内面は通常、たとえ研摩されていなくても少なくとも滑らかであるので、反射レーザビーム62の強度は衝突レーザビーム60の強度と少なくともほとんど同一である。
図1において、この挙動は、各レーザビーム60、62を表す矢印の幅が基本的に同じであることにより示されている。衝突レーザビーム60のごく一部のみが、吸収放射70として、壁部20の材料によって吸収される。また、壁部20、従って内面22は湾曲面を含むことが多いので、反射レーザビーム62のこの高い強度は反応チャンバ10内の焦点ボリュームのどこかのポイント又は領域で更に集束されて、上述した深刻な問題を引き起こす可能性がある。
【0005】
上述のことを踏まえて、本発明の目的は、上述した最新技術の欠点がない、反応チャンバを提供する改良された方法、改良された反応チャンバ、及び改良されたレーザ蒸発システムを提供することである。特に、本発明の目的は、レーザビームの内部反射の低減を達成する、反応チャンバを提供する方法、反応チャンバ、及びレーザ蒸発システムを提供することである。
【0006】
上述の目的は、各独立特許請求項によって達成される。特に、この目的は、請求項1に記載されている反応チャンバを提供する方法、請求項27に記載されている反応チャンバ、請求項29に記載されている反応チャンバ、及び、請求項30に記載されているレーザ蒸発システムによって達成される。従属請求項は、本発明の好適な実施形態を記載する。また、本発明の第1の態様に係る反応チャンバを提供する方法に関して記載されている詳細事項及び利点は、本発明の第2及び第3の態様に係る反応チャンバ、並びに本発明の第4の態様に係るレーザ蒸発システムも参照し、逆もまた同様である。
【0007】
本発明の第1の態様によれば、目的は、レーザ蒸発システムの反応チャンバを提供する方法によって達成される。反応チャンバは、レーザ蒸発システムの反応ボリュームに向かい合う内面を有する少なくとも1つの壁部を含む。この方法は、
a)少なくとも1つの壁部を用いて反応チャンバを組み立てるステップと、
b)内面の分散反射率を上昇させるため及び/又は内面の吸収能力を増大するため少なくとも1つの壁部を処理するステップと、
を含む。
【0008】
レーザ蒸発システムにおいて、特に、ターゲットの材料を蒸発、昇華、及び/又はスパッタリングするため、ターゲットの表面上へレーザビームが誘導される。反応のための制御された反応雰囲気を提供するため、ターゲットは反応チャンバ内に配置されている。反応チャンバは、その反応ボリューム内に特定の反応雰囲気を保持するか、又は真空状態にされている。本発明に係る方法は、レーザ蒸発システムのそのような反応チャンバを提供するために使用できる。
【0009】
特に、本発明に係る方法によって提供される反応チャンバは、レーザ蒸発システムの反応ボリュームに向かい合う内面を有する少なくとも1つの壁部を備える。レーザ蒸発システムの動作中、この内面にレーザビームが当たり、レーザビームの反射が発生し得る。
【0010】
本発明に係る方法のステップa)では、反応チャンバを組み立てる。この組み立ての過程で、少なくとも1つの壁部が用いられる。本発明に係る反応チャンバの組み立ては、例えば、少なくとも1つの壁部を含むいくつかの部分を用いて反応チャンバを取り付けることを含み、更に、反応チャンバを固体からミリング加工することと、ミリング加工しながら少なくとも1つの壁部を形成することと、を含む。
【0011】
また、本発明に係る方法のこの第1のステップa)の間に、反応チャンバに対してフランジや保持構造等を追加することも実行され得るが、これらは必ず含まれるというわけではない。
【0012】
要約すると、本発明に係る方法のステップa)の後、反応チャンバは反応ボリュームに関して完成している。言い換えると、本発明に係るステップa)の後、反応ボリュームは基本的にチャンバ壁の中に閉じ込められ、少なくとも1つの壁部はチャンバ壁の一部を形成する。
【0013】
本発明に係る方法のステップb)では、少なくとも1つの壁部を特別に処理する。処理は、内面の分散反射率の上昇及び/又は内面の吸収能力の増大を達成する。以下で指摘するように、双方の対策を個別に又は組み合わせて用いることにより、処理した内面で反射するレーザビームの強度を低下させる。
【0014】
上述のように、内面で反射したレーザ光は、例えば反応ボリューム内に配置されたセンサ要素、保持構造、及び/又はアクチュエータ要素のような高感度要素に損傷を与える可能性がある。反応チャンバ自体、及び/又はチャンバウィンドウ及びフランジのような部分に対する損傷も生じ得る。これらの危険を引き起こす原因は、特に、レーザ蒸発システムで用いられるレーザビームの高い強度、及び、反射レーザビームを意図せずに集束させる可能性である。
【0015】
分散反射率を上昇させることによって、反射レーザビームの角度広がりが拡大する。言い換えると、反射レーザビームは平行度が低くなり(less collimated)、反射は大きい立体角に広がる。これにより、反射レーザビームの空間強度が低下し、従って、反応チャンバ内の構造及び/又は反応チャンバ自体に損傷を与える危険が軽減する。
【0016】
代替的に又は追加的に、内面の吸収能力も増大させることも可能である。内面のこの特性を増大させることにより、内面に衝突するレーザビームのうち、少なくとも1つの壁部の材料によって吸収される割合が大きくなる。言い換えると、少なくとも1つの壁部の材料で吸収されるエネルギ量により、反射レーザビームの強度が低下する。反射レーザビームの強度が低下すると、反応チャンバ内の構造及び/又は反応チャンバ自体に損傷を与える危険も軽減する。
【0017】
好ましくは、本発明に係る方法は、ステップb)が少なくとも部分的に、ステップa)よりも前に及び/又はステップa)と同時に実行されることを含み得る。言い換えると、少なくとも1つの壁部の処理は、反応チャンバの実際の組み立ての前に及び/又は実際の組み立て中に実行され得る。これは、反応チャンバを組み立てた後では少なくとも1つの壁部に特定の処理を行うため到達するのが難しい場合、特に有利であり得る。更に、いくつかの壁部に異なる処理を容易に行うことができ、従って、レーザ蒸発システムの動作中の想定応力に合わせて反応チャンバを調整することが可能となる。
【0018】
更に、本発明に係る方法は、ステップb)における少なくとも1つの壁部の処理が内面の粗さを増大させることを含むことを特徴とし得る。上述のように、処理をしない場合、少なくとも1つの壁部の内面は、たとえ研摩されていなくても滑らかであることが多い。内面の粗さを増大させることによって、分散反射率の上昇を容易に達成できる。粗い内面は、衝突レーザビームをいっそう拡散するように反射し、特に、反射レーザ光に対する追加の集束効果を回避することができる。
【0019】
特に、本発明に係る方法は、内面の少なくともサンドブラスト及び/又は少なくともビーズブラスト(bead blasting)を用いた内面の粗さの増大によって向上させることができる。ブラストプロセス中、例えば砂粒子、好ましくはコランダム(Al2O3)、又はガラス粒子のような小さい粒子は、高速でブラスト表面に衝突する。衝突時に摩耗が起こり、また、表面が粗くなる。ブラストプロセスに砂又はコランダムを用いると、ガラスを用いるよりも強い摩耗が生じる。従って、少なくとも1つの壁部の材料及び/又はブラストプロセスで達成するべき粗さに対して、ブラストプロセスで用いられる最も適切な粒子を選択することができる。
【0020】
別の改善例(enhancement)では、本発明に係る方法は、90μm~150μmの大きさのビーズ、特にガラスビーズ及び/又はコランダムビーズ(Al2O3)を、ビーズブラストに使用することを含み得る。90μm~150μmの大きさのビーズ、特にガラスビーズ又はコランダムビーズを、少なくとも1つの壁部の内面処理のためのブラストプロセスで使用することは、衝突レーザビームの分散反射を保証するため内面の十分な粗さを生成するのに特に適している。また、コランダム粒(corundum grain)も本発明の範囲内のコランダムビーズであることに留意されたい。
【0021】
追加的に又は代替的に、本発明に係る方法は、ステップb)における少なくとも1つの壁部の処理が、内面を吸収層でコーティングすることを含むことを特徴とし得る。吸収層は、少なくとも1つの壁部の一般的なバルク材料よりも、衝突レーザビームからのエネルギを吸収する能力が高い材料を含む。従って、要約すると、吸収層でコーティングされ、従って吸収層で覆われた少なくとも1つの壁部のバルク材料を含む内面の吸収能力を増大させることができる。内面に衝突するレーザビームのエネルギは吸収層によって吸収され、次いで、少なくとも1つの壁部のバルク材料内へ伝達される。要するに、反射レーザビームの強度を低下させることができる。
【0022】
好ましくは、本発明に係る方法は、少なくとも1つの壁部の材料と反応性流体の材料との反応生成物として吸収層を形成することによって向上させることができる。この好適な実施形態では、少なくとも1つの壁部の材料は、吸収層を形成するための基本的材料を提供する。実際のコーティングでは、少なくとも1つの壁部の内面を反応性流体に接触させる。少なくとも1つの壁部及び反応性流体の各材料は相互に反応し、吸収層を形成する。少なくとも1つの壁部はその各材料が内面全体にわたって提供されているので、内面を完全に浸漬すること(bathing)又は暴露することにより、特に実現可能かつ容易な手法で、内面を同様に吸収層で完全にコーティングすることが保証される。更に、吸収層は少なくとも1つの壁部の材料の反応生成物として形成されるので、吸収層と少なくとも1つの壁部の残りのバルク材料との固定は極めて強力である。
【0023】
本発明に係る方法の別の改善例によれば、反応性流体は酸素を含有し、吸収層は少なくとも1つの壁部の材料の酸化物である。純物質に比べ、各物質の酸化物は純物質よりも高い吸収値を含むことが多い。これは、反応チャンバを構築する材料として一般的に用いられる金属には特に当てはまる。酸素を含有する反応性流体を用いることにより、内面のコーティングとしての、従って吸収層としての酸化物の形成を、容易に達成することができる。
【0024】
好ましくは、本発明に係る方法は、反応性流体が酸素分子(O2)及び/又は酸素プラズマ及び/又はオゾン(O3)を含むことによって、更に向上させることができる。酸素分子(O2)及び/又は酸素プラズマ及び/又はオゾン(O3)は全て、他の材料、特に金属と酸化物を形成することに関して極めて反応性が高い。酸素分子(O2)及び/又は酸素プラズマ及び/又はオゾン(O3)を反応性流体の一部として提供することにより、特に、酸素がいずれかのタイプの分子内で結合して提供される他の反応性流体に比べ、吸収層としての酸化物の形成を向上させることができる。
【0025】
本発明に係る方法の特に好適な改善例では、反応性流体は酸素分子(O2)及び/又は酸素プラズマ及び/又はオゾン(O3)から成る。上述のように、酸素分子(O2)及び/又は酸素プラズマ及び/又はオゾン(O3)は全て、他の材料、特に金属と酸化物を形成することに関して極めて反応性が高い。酸素分子(O2)及び/又は酸素プラズマ及び/又はオゾン(O3)から成る反応性流体は、他の成分を含まない。従って、少なくとも壁部の材料と反応性流体の他の成分との他の反応が不可能になるので、吸収層としての酸化物の形成を更に向上させることができる。
【0026】
本発明に係る方法の別の向上させた実施形態によれば、反応性流体は、酸素分子(O2)及びオゾン(O3)を9:1の体積比で含む。基板上に特別層を成長させる場合、特に、成長させる層が、衝突レーザビームによって蒸発、昇華、及び/又はスパッタリングされる材料の酸化物である場合、レーザ蒸発システム内で酸化反応雰囲気が用いられる。反応雰囲気のため、強い酸化反応雰囲気を用いることができ、特に、構成成分の各体積に関して9:1の比で酸素分子(O2)及びオゾン(O3)を含むか又はこれらから成る気体の流体を使用できる。また、本発明に係る方法の過程において反応性流体として9:1の比で酸素分子(O2)及びオゾン(O3)を使用することにより、この混合物の強い酸化機能を用いて、少なくとも1つの壁部の内面上のコーティングとして吸収層としての酸化物を確実に形成できる。更に、9:1の体積比は、特にグロー放電オゾン発生器等の標準的なオゾン発生器により、純粋な酸素分子(O2)を主要材料として用いて、容易に発生させることができる。
【0027】
好ましくは、本発明に係る方法は、内面のコーティングが、ステップa)の後に実行され、反応ボリュームに反応性流体を充填することを含むことを含み得る。ステップa)の完了後、反応チャンバは完全に組み立てられている。言い換えると、反応ボリュームは壁で囲まれ、周囲環境に対してしっかり密封することができる。これにより、反応ボリューム内へ反応性流体を充填することができ、反応チャンバはしっかり密封されているので、反応性流体は反応ボリューム内に収容された状態を保つ。これは、一方で、反応性流体がコーティング対象の内面と接触し、その接触状態を保つことを保証する。他方で、反応性流体が周囲環境へ漏れること及び/又は放出されること、従ってこれに伴う反応性流体の周囲環境に対する全ての有害な効果を防止することを可能とする。
【0028】
特に、本発明に係る方法は、反応ボリュームが反応性流体によって、特に気体の反応性流体によって完全に充填されることにより、更に向上させることができる。反応ボリュームを反応性流体で完全に充填することにより、コーティング対象の少なくとも1つの壁部の内面を浸漬することを容易に保証できる。完全に充填することは、気体の反応性流体では特に適している。例えば、最初に反応チャンバを真空にし、その後、反応チャンバを反応性流体で充填することができる。これにより、反応チャンバを純粋な反応性流体のみで充填することを保証できる。
【0029】
あるいは、本発明に係る方法は、反応ボリュームが部分的に、特に50%未満、好ましくは10%未満が、反応流体によって、特に液体の反応流体によって充填されることにより特徴付けることができる。好ましくは、内面のコーティングは、反応チャンバを移動させて内面全体を反応流体に浸漬することを含む。反応ボリュームを部分的に反応流体で充填すること、特に反応ボリュームの50%未満、好ましくは10%未満を充填することで、内面のコーティングに必要な反応性流体の量が減る。液体は重力によって反応チャンバの底部にとどまるので、これは反応流体としての液体には特に適している。
【0030】
上述のように、液体の反応性流体は重力のため反応ボリュームの底部にとどまる傾向がある。これは、反応性流体を反応チャンバ内に充填した後にコーティング対象の内面が液体の反応性流体に浸漬された場合は、問題を生じない。しかしながら、反応チャンバを移動させると、内面の他の部分、特に反応チャンバの内面全体が反応性流体に浸漬されることを保証できる。従って、吸収層としての酸化物を形成するための少なくとも1つの壁部のバルク材料と反応性流体との反応を、コーティング対象の内面の全ての領域において達成することができる。要約すると、本発明に係る方法のこの特定の実施形態により、反応ボリュームの壁のコーティングを部分的に実行すること及び全体的に実行することの双方が可能となる。
【0031】
更に、本発明に係る方法は、反応ボリュームが反応性流体で充填されている間に、ターゲット材料がレーザによって、特にレーザ蒸発システムのレーザによって加熱されることを含み得る。少なくとも1つの壁部の材料及び反応性流体の純粋な酸化物としてコーティングを形成することに加えて、レーザによって加熱され、蒸発、昇華、及び/又はスパッタリングされたターゲット材料も、吸収層内に提供することができる。これにより、吸収層の特性を選択的に操作し、従って、吸収層としての内面上のコーティングの特定の調整を達成することできる。
【0032】
本発明に係る方法の別の好適な実施形態によれば、ステップa)で反応チャンバを提供することは、熱伝導率が50Wm-1K-1より高い、好ましくは200Wm-1K-1より高い材料を反応壁のために選択することを含む。言い換えると、特に、熱伝導率が約15~40Wm-1K-1であるステンレス鋼に比べ、良好な又は高い熱伝導率を含む材料が選択される。特に、本発明に係る方法のこの実施形態では、反応チャンバの少なくとも1つの壁部の材料として、アルミニウム及び合金(熱伝導率はおよそ75から237Wm-1K-1)及び/又は銅及び銅合金(熱伝導率はおよそ50から401Wm-1K-1)が、使用される例示的な材料である。熱伝導率が高い材料は、衝突レーザビームから吸収されたエネルギを効果的に広げることができる。これにより、レーザビームが衝突する内面エリアにおける高い温度と、これに伴って内面に損傷を与える危険と、を回避するか又は少なくとも著しく軽減することができる。
【0033】
特に、本発明に係る方法は、ステップa)で、少なくとも1つの壁部の材料として、アルミニウム又はアルミニウム合金、特にAl合金60826又は6082T6又はENAW-5083を選択することにより、向上させることができる。上述のように、アルミニウム又は上述のアルミニウム合金は、75から237Wm-1K-1の熱伝導率を含む。従って、アルミニウム又はアルミニウム合金を用いると、衝突レーザビームの吸収エネルギを効果的に広げるという上述の利点が保証される。
【0034】
この状況において、少なくとも1つの壁部の材料にアルミニウム又はアルミニウム合金を用いることは、内面を粗くするためのブラスト媒体としてコランダムビーズが最も好適な選択肢であるという追加の利点を有する。これは、コランダムがアルミニウムの酸化物であるからである。従って、高純度コランダムを用いると、ブラストプロセスは反応チャンバの内面に追加要素を取り込まない。これにより、処理された反応チャンバを用いて高純度真空を発生させることができ、反応チャンバ壁から反応チャンバに堆積した層内へ取り込まれる可能性のある汚染は最小限に抑えられる。これは、内面にアルミニウムと酸素しか存在しないからである。反応チャンバの内面を酸素及び/又は酸素プラズマ及び/又はオゾンに暴露することで形成されたアルミニウム酸化物は、ブラスト媒体と同じ化学組成を有し、極めて硬く、極めて高い融点と極めて低い蒸気圧を有し、更に、金属チャンバ本体から拡散し得る他の分子に対する透過性が低い。
【0035】
更に、本発明に係る方法は、少なくとも1つの壁部が、少なくとも部分的に、1cmより大きい厚さ、好ましくは4cmより大きい厚さを含むように選択されることを含み得る。少なくとも1つの壁部に用いられる材料によって与えられる高い熱伝導率に加えて、1cmより大きい厚さ、好ましくは4cmより大きい厚さは、エネルギが大きい体積に広がり得ることを保証する。従って、壁の厚さは、想定されるレーザビーム衝突位置において与えられることが好ましい。これにより、レーザビームが衝突する内面の位置エリアで高温を回避すること、これに伴う内面への損傷の危険を回避することを、より容易に達成できる。また、アルミニウム及びその合金の密度が例えばステンレス鋼の密度よりも著しく低いことから、このような厚い壁部は、例えばアルミニウム又はアルミニウム合金を用いることにより提供できる。従って、少なくとも1つの壁部の材料としてアルミニウム又はアルミニウム合金を用いることで、壁の厚さが増したにもかかわらず、反応チャンバの重量は扱いやすいままである。
【0036】
好ましくは、本発明に係る方法は、少なくとも1つの壁部が、1cmより大きい連続的な厚さ、好ましくは4cmより大きい連続的な厚さを有するように選択されることによって、更に向上させることができる。言い換えると、少なくとも1つの壁部はその全範囲にわたって厚さが増している。これにより、吸収されたエネルギが広がる体積が拡大し、従って、吸収されたエネルギが引き起こす全体的な温度上昇を最小限に抑えることができる。
【0037】
本発明に係る方法の別の実施形態は、少なくとも1つの壁部のアクティブな冷却のための冷却手段が反応チャンバに備えられていることを含み得る。上述のように、少なくとも1つの壁部が吸収したエネルギは、特に、レーザビームが少なくとも1つの壁部の内面に衝突する実際の位置で、温度上昇を招く可能性がある。冷却手段により行われるアクティブな冷却を用いて、このエネルギを、例えば任意に反応チャンバから遠く離れたヒートシンクの方へ輸送することができる。従って、内面の温度を低下させることができ、吸収したエネルギにより誘発される損傷を回避できる。好ましくは、アクティブな冷却手段は、例えば冷却手段により行われるアクティブな冷却の閉ループ制御のため、冷却を監視するためのセンサ要素を備える。これにより、少なくとも1つの壁部及び/又はその内面の制御された温度、特に一定の温度を達成できる。
【0038】
本発明に係る方法の実施形態の第1の改善例において、この方法は、冷却手段が、ステップa)の前に、及び/又はステップa)において反応チャンバの組み立て中に提供されることを含み得る。言い換えると、冷却手段は、全体としての反応チャンバの実際の組み立てとは独立して組み立てる及び/又は製造することができる。特に、少なくとも1つの壁部は冷却手段をすでに備えることができる。例えば、個別の冷却機能を含む異なる冷却手段がそれぞれ備えられた少なくとも1つの壁部の異なるバージョンを提供し、実際の反応チャンバ及び/又はレーザ蒸発システムの特定の要件に合わせて選択することができる。
【0039】
代替的な又は追加的な改善例において、本発明に係る方法は、冷却手段が、ステップb)において内面の吸収能力を増大するための少なくとも1つの壁部の処理として提供されることを特徴とすることができる。言い換えると、この実施形態では、冷却手段は全体としての反応チャンバの組み立ての後に組み立てられる及び/又は製造される。特に、最初に少なくとも1つの壁部の内面上へのレーザビーム衝突位置を識別し、次いで識別した位置に冷却手段を配置することも可能である。この手法によって、最も必要な位置に特定して冷却手段を提供することができる。これにより、少なくとも1つの壁部の特に良好な冷却を達成できる。
【0040】
更に、本発明に係る方法は、冷却手段が液体及び/又は気体の冷却剤のための冷却ダクトを含むことによって向上させることができる。冷却ダクトは例えば、少なくとも1つの壁部の外面及び/又は内部に配置されたパイプによって提供され得る。冷却ダクト内を冷却剤が流れ、熱エネルギは少なくとも1つの壁部の材料から冷却剤へ移動し、これによって少なくとも1つの壁部から離れる方へ輸送される。これにより、少なくとも1つの壁部の特に容易な冷却を達成できる。
【0041】
好ましくは、本発明に係る方法は、冷却ダクトが冷却剤としての水に適合されていることを更に含み得る。水は、その高い熱容量と高い熱伝導率のために優れたエネルギ吸収能力を有する周知の冷却剤である。従って、水を冷却剤として用いることにより、少なくとも1つの壁部の冷却を更に向上させることができる。
【0042】
本発明に係る方法の好適な実施形態によれば、冷却ダクトは反応チャンバの少なくとも1つの壁部内に配置されている。この実施形態では、少なくとも1つの壁部の壁の厚さは、少なくとも1つの壁部内に冷却ダクトを直接配置するのに十分な大きさである。これにより、内面の近く、従ってレーザビームの衝突位置の近くに冷却ダクトを配置することが可能となる。このため、冷却ダクトを流れる冷却剤によって行われる冷却を更に向上させることができる。
【0043】
特に連続的な、1cmより大きい厚さ、好ましくは4cmより大きい厚さを有する壁部の前述の実施形態は、少なくとも1つの壁部内に冷却ダクトを配置するために十分であることに留意されたい。厚さを有するにもかかわらず扱いやすい重量を有する壁部は、例えば、少なくとも1つの壁部の材料としてアルミニウム又はアルミニウム合金を用いることによって達成できる。
【0044】
更に、本発明に係る方法は、冷却手段が、レーザ蒸発システムの動作中に壁部の内面に対するレーザ放射衝突が予想される少なくとも1つの壁部の位置に配置されていることによって、更に向上させることができる。言い換えると、冷却手段は、レーザ蒸発システムの動作中にエネルギが与えられる確率が最も高い反応チャンバのまさにその位置に配置されている。これにより、少なくとも1つの壁部の内面上のこれらのレーザビーム予想衝突位置に堆積したエネルギを、最も適切な手法で打ち消す(counter)ことができる。
【0045】
本発明の第2の態様によれば、目的は、レーザ蒸発システムのための反応チャンバによって達成される。反応チャンバは、反応ボリュームを取り囲む内面を有する少なくとも1つの壁部を含む。本発明の第2の態様に係る反応チャンバは、本発明の第1の態様に係る方法を適用することによって提供されることを特徴とする。
【0046】
本発明の第2の態様に係る反応チャンバは、レーザ蒸発システムの動作のために用いることができる。本発明の第2の態様に係る反応チャンバは、本発明の第1の態様に係る方法を適用することにより提供されるので、本発明の第1の態様に係る方法に関して上述した全ての特徴及び利点は、本発明の第1の態様に係る方法を適用することにより提供される本発明の第2の態様に係る反応チャンバによっても提供できる。
【0047】
特に、本発明の第2の態様に係る反応チャンバは、反応チャンバの反応ボリュームに向かい合う内面を有する少なくとも1つの壁部を含む。反応チャンバを提供するための本発明の第1の態様に係る方法を適用する過程において、内面の分散反射率を上昇させるため及び/又は内面の吸収能力を増大するため、少なくとも1つの壁部を処理した。処理は、内面の分散反射率の上昇及び/又は内面の吸収能力の増大を達しする。本発明の第1の態様に係る方法に関して上記で指摘したように、双方の対策を個別に又は組み合わせて用いることにより、処理した内面で反射するレーザビームの強度を低下させる。
【0048】
本発明の第2の態様に係る反応チャンバの好適な実施形態によれば、反応チャンバは、本発明の第1の態様に係る方法のステップb)で処理された2つ以上の壁部を備える。特に、反応チャンバは少なくとも本質的に、本発明の第1の態様に係る方法のステップb)で処理された壁部から成る。言い換えると、2つ以上の壁部により提供された、反応ボリュームを包囲する反応チャンバの表面の広いエリアが、内面の分散反射率を上昇させるため及び/又は内面の吸収能力を増大するために処理済みである。好ましくは、広いエリアは、例えばチャンバウィンドウのような追加要素のみを除いて、反応ボリュームを包囲する反応チャンバの少なくとも基本的に完全な表面を形成する。これにより、反射レーザビームの強度低下は増大し、特に、最大限となる可能性がある。この結果、反応チャンバ内の構造及び/又は反応チャンバ自体に損傷を与える危険を更に軽減することができる。
【0049】
本発明の第3の態様によれば、目的は、任意選択的に本発明の第1の態様に係る方法を用いて取得され得るレーザ蒸発システムのための反応チャンバによって達成される。反応チャンバは、反応ボリュームを取り囲む内面を有する少なくとも1つの壁部を含む。少なくとも1つの壁部は、アルミニウム、Al合金、Al合金60826、Al合金6082T6、及びAl合金ENAW-5083のうち1つで形成されている。内面は、1μm~500μmの範囲内で選択された平均表面粗さを有し、及び/又は、内面は、酸化物層、特にAl2O3を含む酸化物層、好ましくはAl2O3から成る酸化物層でコーティングされ、酸化物層の厚さは10nm~10μmの範囲内で選択される。
【0050】
本発明の第3の態様に係る反応チャンバは、レーザ蒸発システムで用いることが意図されている。上述のように、そのようなレーザ蒸発システムにおいて、レーザビームは、反応ボリュームを包囲する表面に衝突して反射され、これによる反射レーザビームは、反応ボリューム内に配置された、例えばセンサ要素、保持構造、及び/又はアクチュエータ要素のような高感度要素に損傷を与える恐れがある。反応チャンバ自体、及び/又はチャンバウィンドウ及びフランジのような部分に損傷を与える可能性もある。損傷の危険は、反射レーザビームの強度が依然として高いことが原因であるが、これは集束効果によって更に増大することもあり得る。
【0051】
前述の損傷の危険を回避するため、本発明の第3の態様に係る反応チャンバは、以下の特定の構造的特徴の一方又は双方を含み得る。
【0052】
特に、本発明の第3の態様に係る反応チャンバの少なくとも1つの壁部の内面は、1μm~500μmの範囲内で選択された平均表面粗さを含み得る。1μm~500μmの範囲内で内面の粗さを提供することにより、分散反射率の向上を容易に達成できる。
【0053】
平均表面粗さが小さくなると、結果として得られる分散反射率は顕著でなくなり、1μm未満の平均表面粗さでは、この効果は無視され得る。IRレーザでは、使用されるレーザビームの波長もこの長さスケール内に収まるので、これは特にIRレーザに当てはまる。
【0054】
他方で、平均表面粗さがレーザビームのビーム直径に匹敵する場合、ビームはいくつかの小さいビームに分割されず、全体として個々の面(facet)で反射される。この効果は、500μmより大きい平均表面粗さでは支配的になることが分かった。
【0055】
要約すると、粗い内面は、衝突レーザビームをいっそう拡散するように反射する。従って、反射レーザビームの強度は、より大きい体積内へ広がる。更に、反射レーザビームに対する追加の集束効果を回避することができる。
【0056】
コランダムビーズによるブラストプロセスを用いて少なくとも1つの壁部の粗い表面を調製し、コランダムが高純度Al2O3であることで、アルミニウム及び酸素以外の元素と内面との交差汚染を最小限に抑えるか又は回避することができる。これにより、ガス放出率が最低限に抑えられ、従って真空性能が非常に優れたチャンバ内面が得られる。
【0057】
追加的に又は代替的に、本発明の第3の態様に係る反応チャンバの少なくとも1つの壁部の内面を酸化物層でコーティングすることができる。この酸化物層は、特にAl2O3を含み、好ましくはAl2O3で構成され、厚さは10nm~10μmの範囲内で選択される。
【0058】
酸化物層は、少なくとも1つの壁部の一般材料に比べ、特に数μm波長を超える長波長放射に対して、衝突レーザビームからのエネルギを吸収する能力が高い。以下で記載されているように、一般材料はアルミニウム又はアルミニウム合金を含み、好ましくはアルミニウム又はアルミニウム合金から成るので、酸化物層は少なくともAl2O3を含むか又はAl2O3から成る。
【0059】
少なくとも1つの壁部の一般材料をコーティングし、コーティングを形成する酸化物層で覆うことによって、内面の吸収能力を向上させることができる。酸化物層の厚さ値の下限点である10nmは、上述した吸収の向上を保証し、上限点である10μmは、上述した内面の粗さ増大に対する悪影響を防止する。
【0060】
要約すると、内面に衝突するレーザビームのエネルギは酸化物層によって吸収され、その後、少なくとも1つの壁部のバルク材料内へ伝達される。従って、反射レーザビームの強度を低下させることができる。
【0061】
概して、少なくとも1つの壁部は、アルミニウム、Al合金、Al合金60826、Al合金6082T6、及びAl合金ENAW-5083のうち1つで形成される。アルミニウム又は上述のアルミニウム合金は、75~237Wm-1K-1の熱伝導率を含む。熱伝導率の高い材料は、衝突レーザビームから吸収したエネルギを、迅速に効率的かつ効果的に、少なくとも1つの壁部の大きい体積にわたって広げることができる。これにより、レーザビームが衝突する内面の位置エリアにおける高温と、これに伴う内面への損傷の危険と、を回避するか又は少なくとも大幅に軽減することができる。
【0062】
更に、少なくとも1つの壁部を形成するためアルミニウム又はアルミニウム合金を用いると、1cmより大きい壁の厚さ、特に4cmより大きい壁の厚さを提供することができる。このような厚い壁は、例えば、衝突レーザビームから吸収されたエネルギのための大きい体積を提供する。また、厚い壁の内部に、好ましくは内面の近く、従ってレーザビームの衝突位置の近くに、冷却手段の冷却ダクトを配置することも可能である。これにより、特に良好な冷却を達成できる。
【0063】
本発明の第4の態様によれば、目的は、本発明の第2又は第3の態様に従って構築された反応チャンバを備えるレーザ蒸発システムによって達成される。反応チャンバは本発明の第2又は第3の態様に従って構築されるので、本発明の第2又は第3の態様に係る反応チャンバに関して上述した全ての特徴及び利点は、本発明の第4の態様に係るレーザ蒸発システムによっても提供できる。
【0064】
以下で、添付図面に示されている例示の実施形態を参照して、本発明を更に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【
図1】技術水準に従ったレーザ蒸発システムである。
【
図2】本発明に係るレーザ蒸発システムの、表面粗さを増大させた壁部である。
【
図3】本発明に係るレーザ蒸発システムの吸収層を有する壁部である。
【
図4】本発明に係るレーザ蒸発システムの、異なる熱伝導率を有する2つの壁部である。
【
図5】本発明に係るレーザ蒸発システムの冷却手段を有する壁部である。
【発明を実施するための形態】
【0066】
図2は、レーザビーム60が壁部20の内面22上で反射していくつかの反射レーザビーム62になることを概略的に示す。壁部20は、本発明に係るレーザ蒸発システム100の本発明に係る反応チャンバ10の一部を形成し、反応ボリューム12を取り囲む。
図1に示されている状況とは異なり、本発明に係る方法の過程で内面22は処理済みである。具体的には、本発明に係る方法のステップb)で、内面22の粗さ30を増大させた。
【0067】
内面22の処理は、例えば、特に90μm~150μmの大きさのビーズ、例えばコランダムビーズ及び/又はガラスビーズを用いた、内面22のサンドブラスト及び/又はビーズブラストを含む。これにより、1μm~500μmの範囲内で選択された平均表面粗さ30を提供することができる。
【0068】
図2で明らかに視認できるように、内面22の増大した粗さ30を与えることによって、反射レーザビーム62を表す任意の方向に向かう複数の小さい矢印で示されている衝突レーザビーム60の分散反射を増大することができる。衝突レーザビーム60のごく一部のみが、吸収放射70として、壁部20によって吸収される。
【0069】
分散反射率を上昇させることによって、反射レーザビーム62の角度広がりが拡大する。言い換えると、反射レーザビーム62は平行度が低くなり、反射は反応ボリューム12内で大きい立体角に広がる。これにより、反射レーザビーム62の空間強度が低下し、従って、反応チャンバ10内のレーザ蒸発システム100の構造及び/又は反応チャンバ10自体に損傷を与える危険を軽減することができる。
【0070】
図3に、本発明に係る方法のステップb)の過程における少なくとも1つの壁部20の内面22の代替的な又は追加の処理の結果が示されている。この場合も、壁部は、本発明に係るレーザ蒸発システム100の本発明に係る反応チャンバ10の一部を形成する。
【0071】
ここでは、内面22は吸収層40でコーティングされている。これにより、衝突レーザビーム60のエネルギのうち吸収放射70として壁部20によって吸収される割合が大きくなり、従って、反射レーザビーム62の強度は低下する。これは、
図3の反射レーザビーム62を表す小さい矢印で示されている。
【0072】
好ましくは、吸収層40は、反応性流体と壁部20のバルク材料との反応生成物として形成される。好ましくは、反応流体は酸素を含み、反応生成物は酸化物である。これは、好ましくは9:1の体積比で酸素分子(O2)及び/又はオゾン(O3)を含む、特に、好ましくは9:1の体積比の酸素分子(O2)及び/又はオゾン(O3)から成る反応性流体を用いることにより、容易に保証することができる。
【0073】
吸収層を形成するため、組み立て済みの反応チャンバ10に反応性流体を充填することができる。液体又は気体である反応性流体の状態に応じて、この充填は全体的とするか、又は、例えば50%未満又は10%未満のように一部のみとすることができる。反応チャンバ10の一部のみを充填する場合、壁部20の内面22を反応性流体に完全に浸漬することを保証するため、追加的に反応チャンバ10を移動させる必要があることが多い。また、反応チャンバ10が反応性流体で充填されている間、ダミーターゲットをレーザビームで加熱することにより、吸収層40を更に調整することも可能である。
【0074】
吸収された放射70は、壁部20のバルク材料内に広がる。これは、吸収層40と壁部20内の波状矢印70で示されている。吸収された放射70を最も効率的に広げるため、壁部には熱伝導率の高い材料を選択することができる。
図4も参照のこと。このような材料は、例えばアルミニウム又はアルミニウム合金である。この場合、吸収層40はアルミニウムの酸化物であり、特にAl
2O
3である。酸化物層の厚さとして、10nm~10μmの範囲が有利であることが分かっている。
【0075】
図4に、壁部20に用いられる材料の熱伝導率の影響が示されている。左側の図には熱伝導率の小さい壁部20が示され、右側の図には熱伝導率の大きいものが示されている。熱伝導率が小さいと、吸収された放射70のエネルギは局所的にレーザビーム60の衝突位置にとどまり、従って深刻な温度上昇を局所的に引き起こし得ることが明らかに視認できる。これは壁部20自体にも損傷を与える可能性がある。他方で、例えば熱伝導率が200Wm
-1K
-1より高いアルミニウム又はアルミニウム合金が有するような高い熱伝導率は、吸収された放射70のエネルギを壁部20内の大きい体積にわたって広げるのに役立ち、従って、反応チャンバ10及び/又はその構成要素に損傷を与える危険を軽減させる。
【0076】
図5に、壁部20のバルク内で、衝突レーザビーム60の一部が吸収されることにより誘発された熱応力を低下させるための別の可能性、すなわち冷却手段50の提供が示されている。これらの冷却手段50は好ましくは、冷却ダクト52内を流れる液体及び/又は気体の冷却剤54を含み、これは具体的には水である。吸収された放射70は壁部20のバルク内を伝搬し、冷却ダクト52内の冷却剤54によって再び吸収された後、排出される。これらの冷却手段50は、反応チャンバ10の組み立て前だけでなく、組み立て中、又は組み立て後にも、各壁部20に配置することができる。
【0077】
壁部20の壁の厚さが十分に大きい場合、冷却ダクト52を壁部20の内部に配置すること、特に、レーザ蒸発システム100の動作中に衝突レーザビーム60が予想される位置の近くに配置することができる。特に、壁部20の材料としてアルミニウム又はアルミニウム合金を用いることにより、反応チャンバ10の扱いやすい重量を保ちながら、1cmより大きい又は4cmより大きい十分な壁の厚さを容易に提供できる。
【0078】
選択的に、冷却ダクト52は、
図5で示されているU字形の代わりに、2つの直線状の穴から成るV字形を形成し、これら2つの穴を相互にある角度に配置し、また、少なくとも1つの壁部20の表面に対してある角度に配置してもよい。このような構成は、2つのみの短い直線状の穴を下端で接するように形成すればよいので、特に容易に製造される。更に、このv字形冷却ダクト52の頂点における冷却剤54の大きい角度の反射は、この領域で乱流を生成し、これに応じて冷却剤と金属との界面の近くで薄い層流が生成されることにより、熱伝達が向上する。また、V字形冷却ダクト52は、衝突レーザ出力密度の高い反応チャンバ10の少なくとも1つの壁部20の領域の近くで、このV字形の頂点における局所的な冷却を特に容易に行うことができる。
【0079】
図6は、本発明に係るレーザ蒸発システム100を概略的に示し、特に、本発明に係る反応チャンバ10及び反応チャンバ10内に供給されるレーザビーム60を示す。反応チャンバ10はいくつかの壁部20から成り、これらの壁部20のうち2つが図示されている。壁部20はアルミニウムから成り、4cmより大きい壁の厚さを含む。
【0080】
双方の壁部20の内面22は、吸収層40、特に酸化物Al2O3でコーティングされ、吸収層40の厚さは10nm~10μmである。更に、内面22は、増大した平均表面粗さ30を有し、これは特に1μm~500μmである。
【0081】
壁部20のうち1つに、例示的な冷却手段50が図示されている。これは特に、液体及び/又は気体の冷却剤54の流れのための冷却ダクト52を備える。しかしながら、このような冷却手段50は、反応チャンバ10全体の中で他の位置に配置することも可能である。
【0082】
上述した対策の結果、衝突レーザビーム60は拡散的にのみ反射して、それぞれ強度が低下した複数の反射レーザビーム62になる。更に、特に吸収層40によって、衝突レーザビーム60のうち吸収される割合が大きくなる。吸収された放射70は、アルミニウムの高い熱伝導率のため壁部20のバルク内に広がり、最終的に冷却手段50の冷却剤54によって排出される。
【0083】
要約すると、本発明に係る方法によって提供される本発明に係る反応チャンバ10を備えた本発明に係るレーザ蒸発システム100において、高強度レーザビーム60の衝突により反応チャンバ10内の構造及び/又は反応チャンバ10自体に損傷を与える危険が軽減する。
【符号の説明】
【0084】
10 反応チャンバ
12 反応ボリューム
20 壁部
22 内面
30 粗さ
40 吸収層
50 冷却手段
52 冷却ダクト
54 冷却剤
60 レーザビーム
62 反射レーザビーム
70 吸収された放射
100 レーザ蒸発システム
【国際調査報告】