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特表2024-509356フッ素アパタイト結晶を生成するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-01
(54)【発明の名称】フッ素アパタイト結晶を生成するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/75 20200101AFI20240222BHJP
   A61K 6/80 20200101ALI20240222BHJP
   A61L 27/12 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
A61K6/75
A61K6/80
A61L27/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023545207
(86)(22)【出願日】2022-01-27
(85)【翻訳文提出日】2023-07-25
(86)【国際出願番号】 EP2022051948
(87)【国際公開番号】W WO2022162091
(87)【国際公開日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】2130026-4
(32)【優先日】2021-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523281331
【氏名又は名称】ナノ デンティカ エービー
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フランコ-タバレス,セバスティアン
【テーマコード(参考)】
4C081
4C089
【Fターム(参考)】
4C081AB06
4C081CE11
4C081CF01
4C081CF21
4C081DA15
4C081EA01
4C089AA06
4C089BA03
4C089BA11
4C089BA15
4C089CA03
4C089CA08
(57)【要約】
フッ素アパタイト結晶を生成するための方法が提供され、本方法は、a)ホスフェート供給源及びフッ化物供給源を含む第1の水溶液を提供する工程であって、当該第1の水溶液が、5ホスフェート供給源及びフッ化物供給源に対して過飽和である、第1の水溶液を提供する工程と、b)カルシウム供給源を含む第2の水溶液を提供する工程であって、当該第2の水溶液が、カルシウム供給源に対して不飽和である、第2の水溶液を提供する工程と、c)第1の水溶液と第2の水溶液とを混合し、それによってフッ素アパタイト結晶含む混合物及び更なる水溶液10を提供する工程と、d)任意選択的に、工程c)の混合物を撹拌する工程と、e)任意選択的に、工程c)及び/又は工程d)の混合物を加熱する工程と、f)フッ素アパタイト結晶を更なる水溶液から分離する工程と、g)任意選択的に、工程f)のフッ素アパタイト結晶を乾燥させる工程と、15h)任意選択的に、工程f)又は工程g)において得られたフッ素アパタイト結晶を粉砕する工程と、を含む。
掲載用の図1
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素アパタイト結晶を生成するための方法であって、前記方法が、
a)ホスフェート供給源及びフッ化物供給源を含む第1の水溶液を提供する工程であって、前記第1の水溶液が、前記ホスフェート供給源及び前記フッ化物供給源に対して過飽和である、第1の水溶液を提供する工程と、
b)カルシウム供給源を含む第2の水溶液を提供する工程であって、前記第2の水溶液が、前記カルシウム供給源に対して不飽和である、第2の水溶液を提供する工程と、
c)前記第1の水溶液と前記第2の水溶液とを混合し、それによってフッ素アパタイト結晶を含む混合物及び更なる水溶液を提供する工程と、
d)任意選択的に、工程c)の前記混合物を撹拌する工程と、
e)任意選択的に、工程c)及び/又は工程d)の前記混合物を加熱する工程と、
f)前記フッ素アパタイト結晶を前記更なる水溶液から分離する工程と、
g)任意選択的に、工程f)の前記フッ素アパタイト結晶を乾燥させる工程と、
h)任意選択的に、工程f)又は工程g)において得られた前記フッ素アパタイト結晶を粉砕する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
前記第1の水溶液及び前記第2の水溶液が、等しいサイズの体積で提供され、かつ/又は、
工程c)の前記混合が、前記第1の水溶液及び前記第2の水溶液を同時に容器に添加することによって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ホスフェート供給源が、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、二リン酸一ナトリウム、二リン酸二ナトリウム、二リン酸三ナトリウム、二リン酸四ナトリウム、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ホスフェート供給源が、リン酸二ナトリウム、例えば二塩基性リン酸ナトリウム十二水和物を含む、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記フッ化物供給源が、フッ化ナトリウム及び/又は二フッ化ナトリウムである、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記カルシウム供給源が、
塩化カルシウム、及び/又は、
リン酸カルシウムである、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程d)が存在し、かつ/又は、
工程e)が存在するか、若しくは存在しない、
先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記カルシウム供給源/前記ホスフェート供給源/前記フッ化物供給源のモル比が、2~10/3/1、例えば2.5/3/1又は5/3/1である、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程h)が存在する、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記フッ素アパタイト結晶が、ナノフッ素アパタイト結晶である、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ナノフッ素アパタイト結晶が、1ナノメートル~990ナノメートル、例えば25ナノメートル~300ナノメートルの範囲内で最大寸法を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の水溶液が、乳酸を更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記フッ素アパタイト結晶が、マイクロフッ素アパタイト結晶である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記マイクロフッ素アパタイト結晶が、1マイクロメートル~20マイクロメートル、例えば2マイクロメートル~20マイクロメートルの範囲内で最大寸法を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の水溶液が、前記ホスフェート供給源及び前記フッ化物供給源を含む水溶液に熱及び/又は減圧を加えることによって得られるか、又は得ることが可能である、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
歯科用又は非歯科用組成物を調製するための方法であって、前記方法が、
(i)請求項1~15のいずれか一項に記載の方法に従ってフッ素アパタイト結晶を調製することと、
(ii)工程(i)において得られた前記フッ素アパタイト結晶と添加剤とを混合し、それによって前記歯科用又は非歯科用組成物を提供することと、
を含む、方法。
【請求項17】
前記添加剤が、以下のもの:ポリマー、歯科用接着剤などの接着剤、酸化亜鉛及び/又は酸化マグネシウムなどの金属酸化物のうちの1つ以上である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記歯科用又は非歯科用組成物が、以下のもの:マイクロライナーなどのライナー、シーラー、セラミック材料、歯科用修復生成物、歯科用セメント組成物などの充填材料、歯用コーティング、インプラント、医療機器のうちの1つ以上を含む、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
前記歯科用又は非歯科用組成物が、以下のもの:マイクロライナーなどのライナー、セラミック材料のうちの1つ以上を含む、請求項16~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
歯科用又は非歯科用組成物を作製するための、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法に従って生成されたフッ素アパタイト結晶の使用。
【請求項21】
前記歯科用又は非歯科用組成物が、
(i)請求項1~15のいずれか一項に記載の方法に従って調製されたフッ素アパタイト結晶と、
(ii)添加剤と、
を含む、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記添加剤が、以下のもの:ポリマー、歯科用接着剤などの接着剤、酸化亜鉛及び/又は酸化マグネシウムなどの金属酸化物のうちの1つ以上である、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
前記歯科用又は非歯科用組成物が、以下のもの:マイクロライナーなどのライナー、シーラー、セラミック材料、歯科用修復生成物、歯科用セメント組成物などの充填材料、歯用コーティング、インプラント、医療機器のうちの1つ以上を含む、請求項20~22のいずれか一項に記載の使用。
【請求項24】
前記歯科用又は非歯科用組成物が、以下のもの:マイクロライナーなどのライナー、セラミック材料のうちの1つ以上を含む、請求項23に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フッ素アパタイト結晶を生成するための方法に関する。フッ素アパタイト結晶は、ナノフッ素アパタイト結晶又はマイクロフッ素アパタイト結晶であり得る。本開示はまた、ライナー、シーラー、セラミック材料、歯科用修復生成物、歯科用セメント組成物などの充填材料、歯用コーティング、インプラント、又は医療機器を生成するための上述のフッ素アパタイト結晶の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素アパタイト(Ca(POF)は、地球の地殻に沿って広く存在する最も一般的なホスフェート鉱物であり、土壌肥料産業において重要な役割を果たしている。また、狩猟及び咬傷に特化したサメの歯列の表層において、複雑な詰まった構造の形態でも見出される(参考文献1)。フッ素アパタイトは、人間の歯列には天然には存在しない。その代わりに、その表面層又はエナメル上に存在するのは、ヒドロキシアパタイト(Ca(POOH)である(参考文献1)。
【0003】
口腔科学では、その主な用途は、水のフッ素化、又はフッ化物含有生成物(練り歯磨き、ワニス、マウスウォッシュなど)の局所塗布のいずれかによって虫歯を予防する能力に関連する。世界保健機関(World Health Organization)は、水のフッ素化は、小児の虫歯のリスクを大幅に低減し得、歯の形成期及びその後の萌出期において、エナメルの最も表面の層におけるFのより高い濃度と関連し、これはフッ素アパタイトの存在を示すと述べている(参考文献2)。追加的に、フッ化物の局所塗布は、エナメルの最も表面の層、具体的には少数の原子層上のヒドロキシアパタイトのフッ素アパタイトへの変換に反映されることが示されている(参考文献3)。更に、フッ素アパタイトは、二次虫歯(SC)の管理及び予防に役立ち得る。最近の研究では、SCは、喫煙者で虫歯リスクが高い患者において、クラスIIの複合修復物と相関していることが示された。追加的に、SCは、最も一般的な治療法が修復物の置き換えである個人診療所の患者の20%に影響を及ぼし得る(参考文献4)。患者にとっても臨床医にとっても、苛立たしくコストのかかるプロセスである。
【0004】
粉末化フッ素アパタイトを合成するための様々な手法が、これまで説明されている。例えば、Montel G.は、1958年に、博士論文で、900℃で2時間加熱された、フッ化カルシウム(CaF)と、リン酸四カルシウム(TCP)又はピロリン酸カルシウム(Ca)との混合物を含む固体状態反応によって、フッ素アパタイトが生成され得ることを示した。同じ著者は、フッ素アパタイトが、水熱反応によって生成され得ることを示した。典型的な反応は、アンモニア中のリン酸二ナトリウム(NaHPO)及び塩化カルシウム(CalCl)を使用して、リン酸二カルシウム二水和物(CaHPO.2HO)を合成する。そして、塩化カルシウム(CalCl)及びフッ化ナトリウム(NaF)は、フッ化カルシウム(CaF)を生成する。次いで、リン酸二カルシウム二水和物(CaHPO.2HO)及びフッ化カルシウム(CaF)が混合され、室温で50rpmで5日間一定に撹拌される。Montel G.の報告によれば、より速い反応は、リン酸二カルシウム二水和物(CaHPO.2HO)とフッ化ナトリウム(NaF)とを混合することで得られ得る(参考文献5)。
【0005】
その後、1962年に、Farr TDらによって、リン酸(HPO)、リン酸α-四カルシウム(α-TCP)、一リン酸一カルシウム(MCPM)、及びフッ化カルシウムの50℃での7ヶ月間の平衡化後に、フッ素アパタイトが得られ得ることが文書化された(参考文献6)。2006年までに、Kniep R及びSimon Pは、合成のための重要な要因として核形成剤の使用を導入した。例えば、2~20μmのフッ素アパタイト(ロッド状、扇状、及び球状)は、ブタ皮ゼラチンを核形成剤及び成長剤として使用し、2つの溶液を中央ゼラチンに拡散させることによって、生成され得る。溶液は、典型的には、カルシウム供給源としての塩化カルシウム(CalCl)、並びにホスフェート及びフッ化物供給源としてのリン酸二ナトリウム(NaHPO)及びフッ化カリウム(KF)である。両方の溶液を7.4のpHに調整した。反応は、3週間にわたって25℃~30℃で行われる(参考文献7)。
【0006】
Chen Hらは、2006年に、キレート剤であるエチレンジアミン四酢酸(EDTA)の使用も報告した。フッ素アパタイト粉末は、エチレンジアミン四酢酸カルシウム二ナトリウム塩(EDTA-Ca-Na)及びリン酸ナトリウム二水和物(NaHPO.HO)を混合することによって生成される。溶液のpHは、水酸化ナトリウム(NaOH)によって6.0に調整される。次いで、フッ化ナトリウム(NaF)溶液が添加され、室温で数分間撹拌される。続いて、混合物が、次いで121℃、2.37atmで、5分~10時間オートクレーブされる(参考文献8)。
【0007】
Chen Mらは、2009年に、クエン酸を使用してフッ素アパタイトを生成することを導入した。それは、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(NaEDTA)と混合され、40℃の水浴で保持される。次いで、硝酸カルシウム(Ca(NO)、リン酸二アンモニウム((NHHPO)、及びフッ化ナトリウム(NaF)が、一定の撹拌下で添加される。pHは、水酸化ナトリウム(NaOH)を使用して5.2に調整される。次いで、混合物は、20分間撹拌され、その後、150℃で8時間オートクレーブされる(参考文献9)。
【0008】
Clarkson BH及びChen Hは、2011年に、ヒドロキシアパタイトそのものが、カルシウム及びホスフェートの出発供給源として使用されて、フッ素アパタイト粉末を生成する方法の特許(US7879388B2)を取得した。ヒドロキシアパタイトは、フッ化ナトリウムと混合され、両方とも硝酸を用いて溶解される。次いで、pHは、水酸化アンモニウムを使用して6~11に調整される。次いで、溶液は、25~70℃の水浴中に5日間放置される(参考文献10)。
【0009】
Wang Hらは、2011年に、フッ素アパタイト結晶が、酢酸を使用することによって生成され得ることを報告した。塩化カルシウム(CalCl)溶液は、リン酸ナトリウム十二水和物(NaHPO.12HO)及びフッ化ナトリウム(NaF)溶液と混合される。酢酸及び水酸化ナトリウムは、溶液のpHを6未満に維持するために使用される。2つの溶液が混合され、37℃で1~5週間水浴中に保持される(参考文献11)。
【0010】
ごく最近では、Furukawa Aは、2014年に、滴下漏斗によって混合された2つの溶液の一定の撹拌によって生成され得るフッ素アパタイト結晶を生成するための方法の特許(JP2014/181160A)を取得した。典型的には、カルシウム供給源は、塩化カルシウム二水和物(CalCl.2HO)であり、塩酸(HCl)によってpH=5.0に調整される。ホスフェート及びフッ化物溶液は、典型的には、リン酸二アンモニウム((NHHPO)又はリン酸二水素水素H(HPO)と、フッ化ナトリウム(NaF)との組み合わせであり、そのpHもまた、塩酸(HCl)によって5.0に調整される。反応は、50°で1時間静置することで行われ、そこで反応のpHは、5.0以下に調整される。溶液は、滴下漏斗によって、又は上述の温度で水溶液に互いに添加され得る。得られたフッ素アパタイト結晶は、束状であり、ポリリン酸塩を使用して、ジルコニアビーズを用いる6時間の振盪処理を使用して分散させる追加の工程を必要とする(参考文献12)。
【0011】
フッ素アパタイトが予防及び修復歯科に対して表す大きな価値は、簡単で迅速な方法によって粉末を生成する産業的能力によって限定される。例えば、Montel Gによって提案された方法は、室温で行われるが、50rpm及び5日間の反応時間で一定の撹拌を必要とする。産業用途には非実用的な反応時間である。
【0012】
Farr TDらによって報告された方法は、5ヶ月の反応時間のプロセスを伴う。産業用途には実現不可能な反応時間である。
【0013】
Kniep R及びSimon Pによって文書化された方法は、ゼラチンスキン、3週間の反応時間を使用し、pH調整を必要とし、マイクロ結晶のみを生成し得る。ナノフッ素アパタイトを生成し得ず、産業目的としては長すぎる反応時間を有するプロセスである。
【0014】
Chen Hらによって記載された方法は、121℃での増加した大気圧(2.37atm)及び10時間持続し得る反応時間を必要とする。限定された産業的拡張性を有する複雑なプロセスである。
【0015】
Chen Mらによって提示された方法は、pH調整、オートクレーブでの大気圧上昇、及び8時間の反応時間での150℃を必要とする。また、その産業的拡張性が限定された複雑なプロセスである。
【0016】
Clarkson BH及びChen Hによって報告された方法(US7879388B2)は、pH調整及び5日間の反応時間を必要とする。産業的応用にはむしろ実現不可能な方法である。
【0017】
Wang Hらによって文書化された方法は、pH調整及び1~5週間の反応時間を必要とする。また、産業目的としては長すぎる反応時間である。
【0018】
Furukawa Aによって記載された方法(JP2014/181160A)は、pH調整及び1時間の一定の撹拌を必要とし、個々のナノフッ素アパタイト結晶を生成し得ない。生成された構造は、束状であり、個々の結晶を生成するためにポリリン酸で6時間の粉砕を必要とする。簡潔さを欠き、個々のナノフッ素アパタイト結晶を生成するために粉砕を必要とする方法であり、マイクロフッ素アパタイト結晶を生成する能力も欠いている。
【0019】
上述の方法の大部分は、1958年に、Montel Gによって提案された反応物に当然ながら基づいている。しかしながら、それらは、pH調整、一定の撹拌、広範な粉砕、100℃を超える反応温度、及び/又は増加した大気圧を必要とする。したがって、それらは依然として産業規模では高価な手順であり、それらのフッ素アパタイト粉末は、依然として専門家及び患者にとって利用不可能である。
【0020】
それらのいずれも、本特許で提案されているように、2つの溶液を混合して1分間撹拌した直後に、個々のナノフッ素アパタイト結晶を生成し得ず、それらのいずれも、70℃で10分後に個々のマイクロフッ素アパタイト結晶を生成し得ない。更に、pH調整、一定の撹拌、並びに長時間の反応温度及び/又は高圧を必要としない。本方法は、大量生成、及び産業的拡張性により好適である。
【0021】
追加的に、2015年の国連総会によって戦略化された目標のうちの1つが、持続可能な開発目標(目標9又はSDG(sustainable Development Goal)9)であり、それは、回復力のあるインフラの構築、持続可能な産業化の促進、及びイノベーションの奨励を目指している。この目標を達成するためのメカニズムのうちの1つは、持続可能性のためにすべての産業及びインフラをアップグレードすることであり、研究を強化し、産業技術をアップグレードすることである。
【0022】
本明細書における明らかに以前に公開された文書のリスト又は議論は、必ずしも、その文書が最新技術の一部であるか又は通常の一般的な知識であることを認めているとみなされるべきではない。
【0023】
上記の問題のうちの1つを克服するか、又は少なくとも軽減することが、本開示の目的である。更に、これまでの既知の技術では提供されなかった利益及び/又は態様を提供することが本開示の目的である。
【発明の概要】
【0024】
上記の目的は、請求項1に記載のフッ素アパタイト結晶を生成するための方法を用いて達成され得る。請求項16に記載の歯科用又は非歯科用組成物を調製するための方法も提供される。更に、本明細書に記載されるフッ素アパタイト結晶を生成するための方法に従って生成されたフッ素アパタイト結晶の使用が提供される。本開示の変形例は、従属請求項及び以下の説明に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本明細書に記載されるフッ素アパタイト結晶を生成するための方法を示す。
図2A】実施例1に記載される粉末のSEM画像を示す。
図2B】実施例2に記載される粉末のSEM画像を示す。
図2C】実施例3に記載される粉末のSEM画像を示す。
図2D】実施例4に記載される粉末のSEM画像を示す。
図3A】実施例1に記載される粉末のTEM画像を示す。
図3B】実施例1に記載される粉末のTEM画像を示す。
図3C】実施例2に記載される粉末のTEM画像を示す。
図3D】実施例2に記載される粉末のTEM画像を示す。
図4-1】グラフ1-実施例1に記載される粉末のXRDを示す。
図4-2】グラフ2-実施例1に記載される粉末のXRDを示す。
図4-3】グラフ3-実施例2に記載される粉末のXRDを示す。
図4-4】グラフ4-実施例2に記載される粉末のXRDを示す。
図4-5】グラフ5-実施例3に記載される粉末のXRDを示す。
図4-6】グラフ6-実施例4に記載される粉末のXRDを示す。
図4-7】グラフ7-本明細書に記載される鉱物フッ素アパタイトのXRDを示す。
図5-1】グラフ1-実施例1に記載される粉末のRSスペクトル。
図5-2】グラフ2-実施例1に記載される粉末のRSスペクトル。
図5-3】グラフ3-実施例2に記載される粉末のRSスペクトル。
図5-4】グラフ4-実施例2に記載される粉末のRSスペクトルを示す。
図5-5】グラフ5-実施例3に記載される粉末のRSスペクトル。
図5-6】グラフ6-実施例4に記載される粉末のRSスペクトル。
図5-7】グラフ7-本明細書に記載される鉱物フッ素アパタイトのRSスペクトル。
図6-1】グラフ1-実施例1に記載される粉末のEDS画像を示す。
図6-2】グラフ2-実施例2に記載される粉末のEDS画像を示す。
図6-3】グラフ3-実施例3に記載される粉末のEDS画像を示す。
図6-4】グラフ4-実施例4に記載される粉末のEDS画像を示す。
図7A】実施例5に記載されるペレットのSEM画像を示す。
図7B】実施例5に記載される人工唾液に浸漬した後のペレットのSEM画像を示す。
図7C】実施例5に記載されるポリマー系セメントのRSスペクトルである。
図8A】実施例6に記載される乾燥ペレットのSEM画像を示す。
図8B】実施例6に記載される脱イオン水及び人工唾液に供されたペレットのSEM画像を示す。
図8C】実施例6に記載される水系セメントのRSスペクトルを示す。
図9A】脱イオン水に浸漬した後の、実施例7に記載されるエタノール系10-MDP含有接着剤を含むマイクロライナーのペレットを示す。
図9B】人工唾液に浸漬した後の、実施例7に記載されるエタノール系10-MDP含有接着剤を含むマイクロライナーのペレットを示す。
図9C】脱イオン水に浸漬した後の、実施例7に記載される水系10-MDP含有プライマー及びエタノール/水を含まない接着剤を含むマイクロライナーのペレットを示す。
図9D】人工唾液に浸漬した後の、実施例7に記載される水系10-MDP含有プライマー及びエタノール/水を含まない接着剤を含むマイクロライナーのペレットを示す。
図9E】脱イオン水に浸漬した後の、実施例7に記載される総エッチエタノール系接着剤を含むマイクロライナーのペレットを示す。
図9F】人工唾液に浸漬した後の、実施例7に記載される総エッチエタノール系接着剤を含むマイクロライナーのペレットを示す。
図9G】脱イオン水に浸漬した後の、実施例7に記載される総エッチ接着剤水系接着剤を含むマイクロライナーのペレットを示す。
図9H】人工唾液に浸漬した後の、実施例7に記載される総エッチ水系接着剤接着剤を含むマイクロライナーのペレットを示す。
図10-1】グラフ1-人工唾液に浸漬した後の、実施例7に記載されるエタノール系10-MDP含有接着剤を含むマイクロライナーのペレットのEDS画像を示す。
図10-2】グラフ2-人工唾液に浸漬した後の、実施例7に記載される水系10-MDP含有プライマー及びエタノール/水を含まない接着剤を含むマイクロライナーのペレットのEDS画像を示す。
図10-3】グラフ3-人工唾液に浸漬した後の、実施例7に記載される総エッチエタノール系接着剤を含むマイクロライナーのペレットのEDS画像を示す。
図10-4】グラフ4-人工唾液に浸漬した後の、実施例7に記載される総エッチ水系接着剤接着剤を含むマイクロライナーのペレットのEDS画像を示す。
図11】エタノール系10-MDP含有接着剤を含むマイクロライナーと象牙質との間の界面のSEM画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本開示は、フッ素アパタイト結晶を生成するための方法を提供し、本方法は、
a)ホスフェート供給源及びフッ化物供給源を含む第1の水溶液を提供する工程であって、当該第1の水溶液が、ホスフェート供給源及びフッ化物供給源に対して過飽和である、第1の水溶液を提供する工程と、
b)カルシウム供給源を含む第2の水溶液を提供する工程と、
c)第1の水溶液と第2の水溶液とを混合し、それによってフッ素アパタイト結晶含む混合物及び更なる水溶液を提供する工程と、
d)任意選択的に、工程c)の混合物を撹拌する工程と、
e)任意選択的に、工程c)及び/又は工程d)の混合物を加熱する工程と、
f)フッ素アパタイト結晶を更なる水溶液から分離する工程と、
g)任意選択的に、工程f)のフッ素アパタイト結晶を乾燥させる工程と、
h)任意選択的に、工程f)又は工程g)において得られたフッ素アパタイト結晶を粉砕する工程と、を含む。
【0027】
第2の水溶液は、カルシウム供給源に対して不飽和であり得る。したがって、フッ素アパタイト結晶を生成するための方法が提供され、本方法は、
a)ホスフェート供給源及びフッ化物供給源を含む第1の水溶液を提供する工程であって、当該第1の水溶液が、ホスフェート供給源及びフッ化物供給源に対して過飽和である、第1の水溶液を提供する工程と、
b)カルシウム供給源を含む第2の水溶液を提供する工程であって、当該第2の水溶液が、カルシウム供給源に対して不飽和である、第2の水溶液を提供する工程と、
c)第1の水溶液と第2の水溶液とを混合し、それによってフッ素アパタイト結晶含む混合物及び更なる水溶液を提供する工程と、
d)任意選択的に、工程c)の混合物を撹拌する工程と、
e)任意選択的に、工程c)及び/又は工程d)の混合物を加熱する工程と、
f)フッ素アパタイト結晶を更なる水溶液から分離する工程と、
g)任意選択的に、工程f)のフッ素アパタイト結晶を乾燥させる工程と、
h)任意選択的に、工程f)又は工程g)において得られたフッ素アパタイト結晶を粉砕する工程と、を含む。
【0028】
本明細書に記載される方法の工程c)は、室温、例えば約20℃~約25℃、例えば20℃±2℃で実施され得ることが理解されよう。更に、本明細書に記載される方法は、室温で実施され得、かつ/又はpH調整剤を含み得ないことが理解されよう。更に、本方法は、わずかな撹拌、例えば60分以下、例えば5、10、15、20、25又は30分間の撹拌を用いて実施され得る。驚くべきことに、本方法は、フッ素アパタイト結晶の迅速な形成、例えば1時間以下、例えば約10分、例えば約1分以内のフッ素アパタイト結晶の形成を可能にすることが見出された。更に、本方法は、様々な形態及び/又はサイズ、例えばナノフッ素アパタイト結晶又はマイクロフッ素アパタイト結晶のフッ素アパタイト結晶を生成することを可能にする。本方法は、水の使用を抑えることも可能にする。更に、本方法は、室温で実施され得るため、エネルギーの使用を抑えることを可能にする。結果として、本方法は、環境に配慮している。
【0029】
本明細書で使用される場合、「過飽和溶液」という用語は、その溶解度限界、すなわち、特定の温度及び/又は圧力で溶媒中で溶解され得る溶質の量の限界によって予測されるよりも多くの溶質を含有する溶液を意味すると理解される。例えば、ホスフェート供給源、例えば本明細書に記載されるホスフェート供給源、及び/又はフッ化物供給源、例えば本明細書される記載のフッ化物供給源を含む水溶液は、ホスフェート供給源及び/又はフッ化物供給源に対して過飽和であり得る。例えば、水溶液、例えば本明細書に記載される第1の水溶液は、室温及び/又は大気圧で、ホスフェート供給源及び/又はフッ化物供給源に対して過飽和であり得る。更なる例では、室温及び/又は大気圧で、ホスフェート供給源及びフッ化物に対して過飽和であり得る、本明細書に記載される第1の水溶液が提供される。
【0030】
本明細書で使用される場合、「不飽和溶液」という用語は、溶質が、平衡、例えば室温及び/又は大気圧での平衡における溶解度よりも低い濃度で溶液中に存在することを意味すると理解される。例えば、本明細書に記載されるカルシウム供給源を含む水溶液、例えば本明細書に記載されるカルシウム供給源を含む第2の水溶液は、カルシウム供給源に対して不飽和であり得る。
【0031】
第1の水溶液及び第2の水溶液は、等しいサイズの体積で提供され得る。更に、工程c)の混合は、第1の水溶液及び第2の水溶液を容器に、例えば同時に容器に添加することによって行われる。
【0032】
ホスフェート供給源は、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、二リン酸一ナトリウム、二リン酸二ナトリウム、二リン酸三ナトリウム、二リン酸四ナトリウム、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され得る。例えば、ホスフェート供給源は、リン酸二ナトリウム、例えば二塩基性リン酸ナトリウム十二水和物を含み得るか、又はそれからなり得る。
【0033】
フッ化物供給源は、フッ化ナトリウム及び/又は二フッ化ナトリウムを含み得るか、又はそれらからなり得る。
【0034】
カルシウム供給源は、塩化カルシウム及び/又はリン酸カルシウムを含み得るか、又はそれらからなり得る。
【0035】
本開示はまた、本明細書に記載される方法も提供し、
工程d)が存在し、かつ/又は
工程e)が存在するか、若しくは存在しない。
【0036】
本明細書に記載される方法におけるカルシウム供給源/ホスフェート供給源/フッ化物供給源のモル比は、約2~10/3/1、例えば2.5/3/1又は5/3/1であり得る。
【0037】
本明細書に記載される方法に従って生成されるフッ素アパタイト結晶は、ナノフッ素アパタイト結晶、例えば約1ナノメートル~約990ナノメートル、例えば約25ナノメートル~約300ナノメートルの範囲内の長さなどの最大の寸法を有するナノフッ素アパタイト結晶であり得る。
【0038】
本明細書に記載される方法の第1の水溶液は、乳酸を更に含み得る。結果として、形成されるフッ素アパタイト結晶は、マイクロフッ素アパタイト結晶、例えば約1マイクロメートル~約20マイクロメートル、例えば約2マイクロメートル~約20マイクロメートルの範囲内の長さなどの最大の寸法を有するマイクロフッ素アパタイト結晶であり得る。
【0039】
本明細書に記載される方法の第1の水溶液は、ホスフェート供給源及びフッ化物供給源を含む水溶液に熱及び/又は減圧を加えることによって得られ得るか、又は得ることが可能である。このようにして、過飽和が、便利な様式で達成される。
【0040】
工程h)が存在するか又は存在しない、本明細書に記載される方法もまた提供される。
【0041】
本開示はまた、歯科用又は非歯科用組成物を調製するための方法も提供し、当該方法は、
(i)本明細書に記載されるフッ素アパタイト結晶を生成するための方法に従って、フッ素アパタイト結晶を調製する工程と、
(ii)工程(i)において得られたフッ素アパタイト結晶と添加剤とを混合し、それによって歯科用又は非歯科用組成物を提供する工程と、を含む。
【0042】
歯科用又は非歯科用組成物を作製するために、本明細書に記載されるフッ素アパタイト結晶を調製するための方法に従って生成されたフッ素アパタイト結晶の使用もまた提供される。
【0043】
本明細書に記載される添加剤は、以下のもの:ポリマー、歯科用接着剤などの接着剤、酸化亜鉛及び/又は酸化マグネシウムなどの金属酸化物のうちの1つ以上を含み得るか、又はそれらからなり得る。
【0044】
本明細書に記載される歯科用又は非歯科用組成物は、以下のもの:シーラー、セラミック材料、歯科用修復生成物、歯科用セメント組成物などの充填材料、歯用コーティング、インプラント、医療機器のうちの1つ以上を含み得るか、又はそれらからなり得る。例えば、歯科用又は非歯科用組成物は、以下のもの:マイクロライナーなどのライナー、セラミック材料のうちの1つ以上を含み得るか、又はそれらからなり得る。
【0045】
本明細書に開示されるフッ素アパタイト結晶を調製するための方法は、図1に示されるように実施され得る。
【0046】
更に、本明細書に記載されるフッ素アパタイト結晶を調製するための方法は、図1を参照して以下のように記載され得る。
【0047】
図1では、数字は、以下の意味を有する。
100は、反応物を表す。例えば、反応物は、本明細書に記載される第1又は第2の水溶液として提供され得る。
101は、水、又は本明細書に記載される乳酸の水溶液を表す。
102は、本明細書に記載されるホスフェート供給源及び/又はフッ化物供給源を表す。例えば、ホスフェート供給源及び/又はフッ化物供給源は、ホスフェート供給源を含む水溶液として提供され得る。
103は、水を表す。
104は、本明細書に記載されるカルシウム供給源、例えば塩化カルシウムを表す。例えば、カルシウム供給源は、本明細書に記載される第2の水溶液として提供され得る。
200は、反応溶液及び/又はストック溶液を表す。
201は、ホスフェート及びフッ化物供給源溶液、すなわちPFSを表す。
202は、カルシウム供給源溶液、すなわちCSを表す。
300は、容器を表す。
400は、濾過及び/若しくは洗浄、並びに/又はフィルタを表す。
500は、結晶からの副生成物の分離及びその貯蔵を表す。
501は、ポンプを表す。
502は、水及び副生成物を表す。
503は、水及び/又は副生成物の貯蔵容器を表す。
600は、乾燥及び/又は粉砕を表す。
601は、スラリーの洗浄を表す。
602は、乾燥を表す。
603は、粉末の乾燥及び収集を表す。
604は、微細粉末を表す。
605は、微細粉末の貯蔵を表す。
700は、貯蔵された反応物及び/又は容器及び/又は接続を表す。
800は、ローリングバンドを表す。
【0048】
上述のフッ素アパタイトを生成するための方法と同様に、本明細書に記載される方法において使用される反応物(100)は、1958年に、Montel Gによって最初に提案された反応物に基づいている。ホスフェート供給源(102)としては、無水リン酸一ナトリウム、リン酸一ナトリウム一水和物、リン酸一ナトリウム二水和物、無水リン酸二ナトリウム、リン酸二ナトリウム二水和物、リン酸二ナトリウム七水和物、リン酸二ナトリウム八水和物、リン酸二ナトリウム十二水和物、無水リン酸三ナトリウム(立方体)、無水リン酸三ナトリウム(六方体)、リン酸三ナトリウム半水和物、リン酸三ナトリウム六水和物、リン酸三ナトリウム八水和物、リン酸三ナトリウム十二水和物、無水二リン酸一ナトリウム、無水ニリン酸二ナトリウム、二リン酸二ナトリウム六水和物、無水ニリン酸三ナトリウム、ニリン酸三ナトリウム一水和物、ニリン酸三ナトリウム九水和物、無水ニリン酸四ナトリウム、ニリン酸四ナトリウム十水和物、又はこれらの組み合わせが挙げられ得る。カルシウム供給源(104)としては、塩化カルシウム、塩化カルシウム二水和物、塩化カルシウム六水和物、リン酸カルシウム、又はこれらの組み合わせが挙げられ得る。フッ化物供給源(102)としては、フッ化ナトリウム、二フッ化ナトリウム、又はこれらの組み合わせが挙げられ得る。
【0049】
反応溶液(200)は、2つであり得、体積が類似し得、ホスフェート及びフッ化物供給源溶液(PFS)(201)、及びカルシウム供給源溶液(CS)(202)を含む。上述の溶液は、水溶液であり得る。PFS溶液は、過飽和であり、CSは、不飽和であり得る。典型的なPFS溶液は、二塩基性リン酸ナトリウム(NaHPO)、フッ化ナトリウム(NaF)、及び乳酸の水溶液又は水(101)によって構成され得る。PFSの構成成分が、貯蔵された反応物(700)に接続された独立した容器内で混合されると、得られた溶液は、過飽和に達するために加熱期間を必要とする。乳酸の濃度に応じて、必要な温度は、35℃又は55℃で変化する。典型的なCS溶液は、塩化カルシウム(104)、CaCl、及び水(103)によって構成される。CS溶液は、塩化カルシウムが水と混合される場合、発熱期間を経験する。瞬間的に達成される温度は、塩化カルシウム(CaCl)の濃度に応じて30℃~55℃で変化する。
【0050】
反応溶液は、産業的に実用的な理由から、それぞれストック溶液(201及び202)として貯蔵され得る。反応溶液の混合及び撹拌は、貯蔵されたストック溶液(200)に接続された別個の容器(700)内で、室温、例えば約20℃~約25℃、例えば20℃±2℃で行われる。本明細書で使用される場合、室温は、約20℃~約25℃、例えば20℃±2℃の温度を意図する。
【0051】
この容器(300)内で、ナノ又はマイクロ結晶の合成が行われる。混合物は、所望のサイズ及び形態に応じて、(約100rpmなどで)撹拌され得るか、又は撹拌され得ない。ほとんどの場合、撹拌後に白色の沈殿物が形成される。混合物が撹拌されると、それは70℃に加熱され、約10分間その温度で放置され得るか、又はそれは、所望のサイズ及び形態に応じて、撹拌後直ちに濾過され得る。次いで、反応容器内で生成されたこの溶液は濾過され、洗浄され(400)、フィルタは、紙、ポリマー、又は金属系であり得る。濾過は、水及び副生成物の貯蔵容器(503)に接続(700)されたポンプ(501)を使用し得、水及び副生成物(502)は、貯蔵され、次にフィルタ(400)に接続(700)される。そのプロセスによって、副生成物は、結晶から分離され、貯蔵(500)される。スラリー(601)を洗浄した後、乾燥及び粉砕プロセス(600)が実施される。このプロセス(600)は、プロセスの自動化を容易にするために、ローリングバンド(800)上で実施され得る。乾燥プロセス(602)は、スラリーを含有する密閉容器内の圧力を下げること、遠心分離、マイクロ波放射又は熱放射によって実施され得る。続いて、乾燥粉末が収集(603)され、粉末フィン、すなわち微細粉末(604)のためのナノフッ素アパタイト粉末にのみ必要とされ得る粉砕装置に移送され得る。マイクロフッ素アパタイト粉末は、粉砕を必要としない場合がある。粉砕は、凝集粒子を、存在する場合、分離するために実施され得る。更に、粉砕は、粉末、例えば微細粉末の調製を可能にする。微細粉末が得られると、更なる処理のために、それは、貯蔵(605)され得る。
【実施例
【0052】
本開示は、以下の非限定的な実施例によって例示される。
略語
SEMとは、走査型電子顕微鏡検査(Scanning Electron Microscopy)を表す。
TEMとは、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope)を表す。
EDSとは、エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray spectroscopy)を表す。
XRDとは、X線回折(X-ray diffraction)又はX線粉末回折図(X-ray powder diffractogram)を表す。
RSとは、ラマン分光法(Raman Spectroscopy)を表す。
Caとは、カルシウム(Calcium)を表す。
Pとは、リン(Phosphorous)を表す。
Oとは、酸素(Oxygen)を表す。
Naとは、ナトリウム(Sodium)を表す。
Fとは、フッ素(fluorine)を表す。
PFSとは、ホスフェート及びフッ化物供給源溶液(phosphate and fluoride source solution)を表す。
CSとは、カルシウム供給源溶液(calcium source solution)を表す。
ISOとは、国際標準化機構(International organization for Standardization)を表す。
mmとは、ミリメートル(millimeter)を表す。
nmとは、ナノメートル(nanometer)を表す。
μmとは、マイクロメートル(micrometer)を表す。
LEDとは、発光ダイオード(Light-Emitting Diode)を表す。
MDPとは、メタクリロイルオキシデシルリン酸二水素(Methacryloyloxydecyl dihydrogen phosphate)を表す。
MPaとは、メガパスカル(Mega Pascal)を表す。
rpm 毎分回転数(revolutions per minute)
w/w 重量/重量(weight by weight)
【0053】
実施例1
使用された反応物は、塩化カルシウム(CaCl、Sigma-Aldrich、ロット番号BCBS6619V)、二塩基性リン酸ナトリウム十二水和物(NaHPO.12HO、Sigma Life Science、ロット番BCBX3841)、及びフッ化ナトリウム(NaF、Sigma-Aldrich、ロット番号SLBK6350V)であった。カルシウム、ホスフェート、及びフッ化物反応物を、2.5/3/1のモル比で使用した。プロセスを、PFSが過飽和であり、CSが不飽和である状態で、上記のように実行した。PFSとCSとを混合し、反応容器(300)内で概ね室温(20℃)で1分間撹拌すると、混合物を直ちに濾過(400)し、乾燥させ、追加加熱することなく粉砕した(600)。
【0054】
得られた粉末を、TEMを使用して画像化した(図3A)。粉末をまた、XRD(図4、グラフ1)及びRS(図5、グラフ1)を使用して分析した。図3Aでは、約40~60nmの長さ及び10~15nmの幅の結晶性ロッド状の個々の結晶が観察され得る。図4のグラフ1では、Levant mine,St.Just,Cornwall,Englandから産出された鉱物フッ素アパタイト(茶色の六角形プリズム)に対応する回折図(図4、グラフ7)は、図4のグラフ1と同じピーク及び回折図パターンを示すことが観察され得る(参考文献13)。ピークの広がりは、ナノ粒子の一般的な現象である。得られたラマンスペクトル(図5、グラフ1)はまた、Fulford,Eagle County,Colorado,USAから産出された鉱物フッ素アパタイト(淡緑色六角形プリズム)に対応する図5のグラフ7で観察されたものと等しい(参考文献14)。
【0055】
変形例も実施された。本プロセスを、最初に記載されたように実行したが、室温(20℃±2℃)で1分間撹拌した直後に、70℃で10分間の追加加熱を行った。得られた粉末を、SEM(図2A)、及びTEM(図3B)を使用して画像化した。粉末をまた、XRD(図4、グラフ2)、RS(図5、グラフ2)、及びEDS(図6、グラフ1)を使用して分析した。図2A及び図3Bでは、約50~100nmの長さ及び10~50nmの幅の個々のロッド状結晶が観察され得る。図4のグラフ2では、その回折図が鉱物フッ素アパタイトの回折図に等しいこともわかる(図4、グラフ7)。そのラマンスペクトル(図5、グラフ2)はまた、鉱物フッ素アパタイトの観察されたもの(図5、グラフ7)と等しい。EDSスペクトル(図6、グラフ1)は、O、Ca、P、F、及びNaの顕著なピークを示した。
【0056】
加熱、例えば70℃での10分間の加熱は、結晶のサイズをわずかに増加させると結論付けられた。
【0057】
実施例2
使用された反応物は、塩化カルシウム(CaCl、Sigma-Aldrich、ロット番号BCBS6619V)、二塩基性リン酸ナトリウム十二水和物(NaHPO.12HO、Sigma Life Science、ロット番号BCBX3841)、及びフッ化ナトリウム(NaF、Sigma-Aldrich、ロット番号SLBK6350V)であった。カルシウム、ホスフェート、及びフッ化物反応物を、5/3/1のモル比で使用した。本プロセスを、PFSが過飽和であり、CSが不飽和である状態で、先に記載されたように実行した。PFSとCSとを混合し、反応容器(図1において300と示される)内で概ね室温(20℃)で1分間撹拌すると、混合物を直ちに濾過(図1において400と示される)し、乾燥させ、追加加熱することなく粉砕した(図1において600と示される)。
【0058】
得られた粉末を、TEMを使用して画像化した(図3C)。粉末をまた、XRD(図4、グラフ3)及びRS(図5、グラフ3)を使用して分析した。図3Cでは、約90~110nmの長さ及び30~60nmの幅の結晶性ロッド状の個々の結晶が観察され得る。図4のグラフ3は、鉱物フッ素アパタイト(図4、グラフ7)も表示しているような等しい回折図を示す。それはまた、ピークの広がりが、ナノ粒子の一般的な現象であることも示す。得られたラマンスペクトル(図5、グラフ3)もまた、鉱物フッ素アパタイトに等しい。
【0059】
実施例1における加熱前に得られた粉末との比較は、この実施例において得られた結晶が、実施例1において得られた結晶よりも大きかったことを示す。本場合では、カルシウム、ホスフェート、及びフッ化物反応物を、5/3/1のモル比で使用したが、実施例1では、カルシウム、ホスフェート、及びフッ化物反応物を、2.5/3/1のモル比で使用した。したがって、得られた結晶のサイズは、カルシウム供給源/ホスフェート供給源/フッ化物供給源の比によって影響され得るようである。
【0060】
追加的に、本プロセスを、先に記載されたように実行したが、室温(20℃±2℃)で1分間撹拌した直後に、70℃で10分間の追加加熱を行った。得られた粉末を、SEM(図2B)及びTEM(図3D)を使用して画像化した。粉末をまた、XRD(図4、グラフ4)、RS(図5、グラフ4)、及びEDS(図6、グラフ2)を使用して分析した。図2B及び図3Dでは、約100~150nmの長さ及び40~90nmの幅の個々のロッド状結晶が観察され得る。図4のグラフ4では、その回折図が鉱物フッ素アパタイトの回折図に等しいこともわかる(図4、グラフ7)。そのラマンスペクトル(図5、グラフ4)はまた、鉱物フッ素アパタイトの観察されたもの(図5、グラフ7)と等しい。EDSスペクトル(図6、グラフ2)は、O、Ca、P、F、及びNaの顕著なピークを示した。
【0061】
加熱、例えば70℃での10分間の加熱は、結晶のサイズを増加させる、例えばわずかに増加させると結論付けられた。
【0062】
実施例3
使用された反応物は、塩化カルシウム(CaCl、Sigma-Aldrich、ロット番号BCBS6619V)、二塩基性リン酸ナトリウム十二水和物(NaHPO.12HO、Sigma Life Science、ロット番号BCBX3841)、及びフッ化ナトリウム(NaF、Sigma-Aldrich、ロット番号SLBK6350V)であった。カルシウム、ホスフェート、及びフッ化物反応物を、5/3/1のモル比で使用した。本プロセスを、PFSが過飽和であり、CSが不飽和である状態で、先に記載されたように実行した。PFSは、PFS溶液の43重量%の濃度で、乳酸(DL-乳酸、Sigma Life Science、85%w/w、ロット番号MKBX6004V)の水溶液を含んでいた。PFSとCSとを混合し、反応容器(図1において300と示される)内で概ね室温(20℃)で1分間撹拌すると、混合物を70℃で10分間加熱した。その後、混合物を濾過し(図1において400と示される)、乾燥させた(図1において600と示される)。
【0063】
得られた粉末を、SEMを使用して画像化した(図2C)。粉末をまた、XRD(図4、グラフ5)、RS(図5、グラフ5)、及びEDS(図6、グラフ3)を使用して分析した。図2Cでは、約5.0μmの長さ及び1.0μmの幅の個々のシャトル状結晶が観察され得る。図4のグラフ5では、その回折図が鉱物フッ素アパタイトの回折図に等しいこともわかる(図4、グラフ7)。そのラマンスペクトル(図5、グラフ5)はまた、鉱物フッ素アパタイトの観察されたもの(図5、グラフ7)と等しい。EDSスペクトル(図6、グラフ3)は、O、Ca、P、F、及びNaの顕著なピークを示した。
【0064】
乳酸の存在は、マイクロメートル範囲の寸法を有する結晶の形成を可能にしたと結論付けられた。
【0065】
実施例4
使用された反応物は、塩化カルシウム(CaCl、Sigma-Aldrich、ロット番号BCBS6619V)、二塩基性リン酸ナトリウム十二水和物(NaHPO.12HO、Sigma Life Science、ロット番号BCBX3841)、及びフッ化ナトリウム(NaF、Sigma-Aldrich、ロット番号SLBK6350V)であった。カルシウム、ホスフェート、及びフッ化物反応物を、5/3/1のモル比で使用した。本プロセスを、PFSが過飽和であり、CSが不飽和である状態で、先に記載されたように実行した。PFSは、PFS溶液の19重量%の濃度で、乳酸(DL-乳酸、Sigma Life Science、85%w/w、ロット番号MKBX6004V)の水溶液を含んでいた。PFSとCSとを、反応容器(図1において300と示される)内で概ね室温(20℃)で撹拌せずに混合し、混合物を70℃で10分間加熱した。その後、混合物を濾過し(図1において400と示される)、乾燥させた(図1において600と示される)。
【0066】
得られた粉末を、SEMを使用して画像化した(図2D)。粉末をまた、XRD(図4、グラフ6)、RS(図5、グラフ6)、及びEDS(図6、グラフ4)を使用して分析した。図2Dでは、約10.0μmの長さ及び4.0μmの幅の個々のダンベル結晶が観察され得る。図4のグラフ6では、その回折図が鉱物フッ素アパタイトの回折図に対応することもわかる(図4、グラフ7)。そのラマンスペクトル(図5、グラフ6)はまた、鉱物フッ素アパタイトの観察されたもの(図5、グラフ7)と同等である。EDSスペクトル(図6、グラフ4)は、O、Ca、P、F、及びNaの顕著なピークを示した。
【0067】
乳酸の存在は、マイクロメートル範囲の寸法を有する結晶の形成を可能にしたと結論付けられた。更に、乳酸の量は、形成された結晶のサイズに影響を及ぼすようである。更に、実施例3における結晶がシャトル状形状を有していたのに対し、この場合、得られた結晶は、ダンベル形状であったため、撹拌の欠如は、結晶の形状に影響を及ぼしたようである。
【0068】
実施例5
追加で10分間加熱した実施例2から得られた粉末を使用して、ポリマー系歯科用セメントを生成した。粉末を、2003年に、Sousaらによって報告された方法(参考文献15)に基づいて、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(Carbosynth、ロット番号FM549142001)を用いてシラン化した。その後、それを、Bis-GMA(Carbosynth、ロット番号FB1708012001)及びTEGDMA(Carbosynth、ロット番号FT627491801)を70/30の重量比で用いて、60°に予熱した表面上で混合した。ナノフッ素アパタイト粉末は、セメントの総重量の50%に対応した。活性化剤は、(+)カンファキノン(Camphorquinone)(Sigma-Aldrich、ロット番号31H3611)及び促進剤2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(東京化成工業、ロット番号ZKT2I-AT)であり、両方とも、セメントのポリマー部分の0.1重量%で使用された。次いで、セメントを、歯科用硬化LEDランプを使用して重合した。得られた重合材料は、白色であり、わずかに半透明であった。重合セメントのRSスペクトルを図7Cに提示する。セメントの生物活性を制御するために、3.0mm直径、1.0mm厚さのペレットを、脱イオン水及び人工唾液(いわゆるSAGF培地)に37℃で1週間浸漬させた。ペレットを乾燥させ、次いでSEMを使用して画像化した。図7Aでは、ナノロッドは表面上にあるが、追加の特徴は現れないことが観察され得る。人工唾液に浸漬されたペレットは、ナノフッ素アパタイトロッドと人工唾液との相互作用から得られた針状及びブレード状の結晶性構造を示し、生物活性を示した(図7B)。
【0069】
ISO 4049:2019(歯科-ポリマー系修復材料)に従って、二軸曲げ強度試験を行った。平均二軸曲げ強度は、61.1(±8.0)MPaであり、ポリマー系歯科用セメントに必要とされる最小曲げ強度を上回る値であった。セメントの硬度も測定し、流動性複合体(Brilliant NanoFlow、Colthene Whaledent、ロット番号J68530)の硬度と比較した。硬度は、ナノフッ素アパタイトポリマー系セメントでは39.8(±4.4)HV1、流動性複合材料では40.6(±2.7)HV1であった。ナノフッ素アパタイトポリマー系セメントの研磨後の表面粗さも、干渉法を使用して測定し、また、流動性複合体の表面粗さと比較した。ナノフッ素アパタイトポリマー系セメントの平均表面粗さ(Sa)値は、流動性複合材料では0.19(±0.01)μm、及び0.14(±0.02)μmであった。
【0070】
本明細書に記載される方法を使用して生成された結晶は、歯科用セメント、例えばポリマー系歯科用セメントの製造に使用され得ると結論付けられた。
【0071】
実施例6
追加で10分間加熱した実施例2から得られた粉末を使用して、水系セメントを変性した。ナノフッ素アパタイトロッドは、反応粉末の重量の20%を占めた。粉末は、酸化亜鉛、及び酸化マグネシウム(Harvard cement、Harvard Dental、ロット番号91605022)、及びナノフッ素アパタイトによって構成された。オルトリン酸(Harvard cement、Harvard Dental、ロット番号1101609)による液体。セメントの圧縮強度を、ISO 9917-1:2007(歯科-水系セメント-パート1:粉末/液体酸系セメント)に従って測定した。平均圧縮強度は、73.0(±5.5)MPaであった。水系歯科用セメントに必要とされる最小曲げ強度を上回る値であった。変性水系セメントのRSスペクトルを図8Cに提示する。セメントの生物活性を制御するために、3.0mm直径、1.0mm厚さのペレットを、脱イオン水及び人工唾液(SAGF培地)に37℃で1週間浸漬させた。ペレットを乾燥させ、次いでSEMを使用して画像化した。図8Aでは、ナノロッドは表面上にあるが、追加の特徴は現れないことが観察され得る。人工唾液に浸漬されたペレットは、ナノフッ素アパタイトロッドと人工唾液との相互作用から得られたブレード状の結晶性構造を示し、生物活性を示した(図8B)。
【0072】
本明細書に記載される方法を使用して生成された結晶は、歯科用セメント、例えば水系歯科用セメントの製造に使用され得ると結論付けられた。
【0073】
実施例7
追加で10分間加熱した実施例2から得られた粉末を、異なる歯科用接着剤と混合して、マイクロライナーを作成した。自己エッチエタノール系の10-メタクリロイルオキシデシル二水素ホスフェート(10-MDP)含有接着剤(Allbond Universal、Bisco、ロット番号180006141)、水系10-MDP含有プライマー(Clearfil SE bond primer、Kuraray Noritake、ロット番号1E0348、及びエタノール/水を含まない接着剤(Clearfil SE bond、Kuraray Noritake、ロット番号3F0468)、トータルエッチエタノール系接着剤(Optibond Solo Plus、Kerr、ロット番号7038740)、及びトータルエッチ水系接着剤(One Coat、Colthene Whaledent、ロット番号I89644)によって構成されたシステム。
【0074】
マイクロライナーの生物活性を評価するために、3.0mm直径、1.0mm厚さの各混合物のペレットを、脱イオン水及び人工唾液(SAGF培地)に37℃で1週間浸漬させた。ペレットを乾燥させ、次いでSEMを使用して画像化した。脱イオン水に浸漬されたすべての混合物(図9A図9C図9E図9G)は、人工唾液に浸漬されたペレット(図9B図9D図9F図9H)と比較して、追加の表面特徴を示さず、その結果、結晶性のブレード状及び針状の構造が生成されたことが観察され得る。結晶性構造(図9B図9D図9F図9H)のEDS構造(図10、グラフ1、2、3、4)は、O、Ca、P、F、及びNaの顕著なピークを示した。
【0075】
ヒト象牙質に対する各歯科用接着剤の結合強度に及ぼすナノフッ素アパタイト結晶の負の影響を排除するため、剪断結合強度試験を行った。この試験は、ISO 29022:2013(歯科-接着-ノッチエッジ剪断結合強度試験)に基づいていた。ナノフッ素アパタイト粉末を、異なる接着剤と1/1の重量割合で混合した。総エッチ水系接着剤は、17.1(±4.2)MPa(信頼区間:14.9~19.5)の平均剪断結合値を示し、ナノフッ素アパタイトロッドと混合した場合、平均値は、17.5(±5.3)MPa(信頼区間:14.6~20.4)であった。自己エッチエタノール系10-MDP含有接着剤は、20.1(±4.6)MPa(信頼区間:17.6~22.6)の平均剪断結合値を示し、ナノフッ素アパタイトロッドと混合した場合、平均値は、21.1(±5.3)MPa(信頼区間:18.4~24.3)であった。総エッチエタノール系接着剤は、24.8(±6.3)MPa(信頼区間:21.2~28.2)の平均剪断結合値を示し、ナノフッ素アパタイトロッドと混合した場合、平均値は、26.2(±4.5)MPa(信頼区間:23.7~28.6)であった。最後に、水系10-MDP含有プライマー及びエタノール/水を含まない接着剤から構成されたシステムは、28.0(±5.3)MPa(信頼区間:25.11~30.9)の平均剪断結合値を示し、ナノフッ素アパタイトロッドと混合した場合、平均値は、25.0(±3.6)MPa(信頼区間:23.05~27.02)であった。両側一対t試験によると、統計的に有意な差異は見出されなかったため、接着剤中にナノフッ素アパタイト結晶を含有することによる剪断結合強度への負の影響は排除された。接着剤界面のTEM画像を図11に提示する。ナノフッ素アパタイトロッドを、自己エッチエタノール系10-MDP含有接着剤と混合した。接着剤中に結晶の密接なパッケージが観察される。また、象牙質組織との密接な接触は、バリア又はマイクロライナーの形成をもたらす。
【0076】
本明細書に記載される方法を使用して生成された結晶は、歯科用ライナー、例えば歯科用マイクロライナーの製造に使用され得ると結論付けられた。
【0077】
実施例8
使用された反応物は、塩化カルシウム(CaCl、Sigma-Aldrich、ロット番号BCBS6619V)、二塩基性リン酸ナトリウム十二水和物(NaHPO.12HO、Sigma Life Science、ロット番号BCBX3841)、及びフッ化ナトリウム(NaF、Sigma-Aldrich、ロット番号SLBK6350V)であった。カルシウム、ホスフェート、及びフッ化物反応物を、5/3/1のモル比で使用した。本プロセスを、PFSが過飽和であり、CSもまた過飽和である状態で、先に記載されたように実行した。PFSとCSを混合し、反応容器(図1において300と示される)内で概ね室温(20℃)で70rpmで1分間撹拌し、混合物を直ちに濾過(図1において400と示される)し、乾燥させ、追加加熱することなく粉砕した(図1において600と示される)。撹拌後のみ、混合直後に沈殿物が形成されなかった。SEMを使用した分析は、いくつかの個々の結晶の形成を示したが、全体的には沈殿物は結晶性ではなかった。この実施例の結果を実施例2で得られた結果と比較し、結晶を得るためにCSが不飽和であるべきであると結論付けられた。
【0078】
参考文献
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図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図9F
図9G
図9H
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2022-11-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノフッ素アパタイト結晶又はマイクロフッ素アパタイト結晶を生成するための方法であって、前記方法が、
a)第1の水溶液を提供する工程であって、前記第1の水溶液が、
ホスフェート供給源及びフッ化物供給源と、
任意選択的に、乳酸と、を含み
前記第1の水溶液が、前記ホスフェート供給源及び前記フッ化物供給源に対して過飽和である、第1の水溶液を提供する工程と、
b)カルシウム供給源を含む第2の水溶液を提供する工程であって、前記第2の水溶液が、前記カルシウム供給源に対して不飽和である、第2の水溶液を提供する工程と、
c)前記第1の水溶液と前記第2の水溶液とを混合し、それによってナノフッ素アパタイト結晶又はマイクロフッ素アパタイト結晶を含む混合物及び更なる水溶液を提供する工程と、
d)任意選択的に、工程c)の前記混合物を撹拌する工程と、
e)任意選択的に、工程c)及び/又は工程d)の前記混合物を加熱する工程と、
f)前記ナノフッ素アパタイト結晶又はマイクロフッ素アパタイト結晶を前記更なる水溶液から分離する工程と、
g)任意選択的に、工程f)の前記ナノフッ素アパタイト結晶又はマイクロフッ素アパタイト結晶を乾燥させる工程と、
h)任意選択的に、工程f)又は工程g)において得られた前記ナノフッ素アパタイト結晶又はマイクロフッ素アパタイト結晶を粉砕する工程と、を含み、
工程a)における前記第1の水溶液が乳酸を含まない場合、ナノフッ素アパタイト結晶が形成され、工程a)における前記第1の水溶液が乳酸を含む場合、マイクロフッ素アパタイト結晶が形成される、方法。
【請求項2】
請求項1に記載のナノフッ素アパタイト結晶を生成するための方法であって、前記方法が、
a)ホスフェート供給源及びフッ化物供給源を含む第1の水溶液を提供する工程であって、前記第1の水溶液が、前記ホスフェート供給源及び前記フッ化物供給源に対して過飽和である、第1の水溶液を提供する工程と、
b)カルシウム供給源を含む第2の水溶液を提供する工程であって、前記第2の水溶液が、前記カルシウム供給源に対して不飽和である、第2の水溶液を提供する工程と、
c)前記第1の水溶液と前記第2の水溶液とを混合し、それによってナノフッ素アパタイト結晶含む混合物及び更なる水溶液を提供する工程と、
d)任意選択的に、工程c)の前記混合物を撹拌する工程と、
e)任意選択的に、工程c)及び/又は工程d)の前記混合物を加熱する工程と、
f)前記ナノフッ素アパタイト結晶を前記更なる水溶液から分離する工程と、
g)任意選択的に、工程f)の前記ナノフッ素アパタイト結晶を乾燥させる工程と、
h)任意選択的に、工程f)又は工程g)において得られた前記ナノフッ素アパタイト結晶を粉砕する工程と、を含む、方法。
【請求項3】
請求項1に記載のマイクロフッ素アパタイト結晶を生成するための方法であって、前記方法が、
a)第1の水溶液を提供する工程であって、前記第1の水溶液が、
ホスフェート供給源及びフッ化物供給源と、
乳酸と、を含み、
前記第1の水溶液が、前記ホスフェート供給源及び前記フッ化物供給源に対して過飽和である、第1の水溶液を提供する工程と、
b)カルシウム供給源を含む第2の水溶液を提供する工程であって、前記第2の水溶液が、前記カルシウム供給源に対して不飽和である、第2の水溶液を提供する工程と、
c)前記第1の水溶液と前記第2の水溶液とを混合し、それによってマイクロフッ素アパタイト結晶を含む混合物及び更なる水溶液を提供する工程と、
d)任意選択的に、工程c)の前記混合物を撹拌する工程と、
e)任意選択的に、工程c)及び/又は工程d)の前記混合物を加熱する工程と、
f)前記マイクロフッ素アパタイト結晶を前記更なる水溶液から分離する工程と、
g)任意選択的に、工程f)の前記マイクロフッ素アパタイト結晶を乾燥させる工程と、
h)任意選択的に、工程f)又は工程g)において得られた前記マイクロアパタイト結晶を粉砕する工程と、を含む、方法。
【請求項4】
前記第1の水溶液及び前記第2の水溶液が、等しいサイズの体積で提供され、かつ/又は
工程c)の前記混合が、前記第1の水溶液及び前記第2の水溶液を同時に容器に添加することによって行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ホスフェート供給源が、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、二リン酸一ナトリウム、二リン酸二ナトリウム、二リン酸三ナトリウム、二リン酸四ナトリウム、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ホスフェート供給源が、リン酸二ナトリウム、例えば二塩基性リン酸ナトリウム十二水和物を含む、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記フッ化物供給源が、フッ化ナトリウム及び/又は二フッ化ナトリウムである、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記カルシウム供給源が、
塩化カルシウム、及び/又は
リン酸カルシウムである、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程d)が存在し、かつ/又は
工程e)が存在するか、若しくは存在しない、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記カルシウム供給源/前記ホスフェート供給源/前記フッ化物供給源のモル比が、2~10/3/1、例えば2.5/3/1又は5/3/1である、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程h)が存在する、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ナノフッ素アパタイト結晶が、1ナノメートル~990ナノメートル、例えば25ナノメートル~300ナノメートルの範囲内で最大寸法を有する、請求項1、2、又は4~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記マイクロフッ素アパタイト結晶が、1マイクロメートル~20マイクロメートル、例えば2マイクロメートル~20マイクロメートルの範囲内で最大寸法を有する、請求項1、又は3~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の水溶液が、前記ホスフェート供給源及び前記フッ化物供給源を含む水溶液に熱及び/又は減圧を加えることによって得られるか、又は得ることが可能である、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【国際調査報告】