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特表2024-509359電池ケース用の鋼帯または鋼板を製造する方法、およびそれから作製される電池ケース
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  • 特表-電池ケース用の鋼帯または鋼板を製造する方法、およびそれから作製される電池ケース 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-01
(54)【発明の名称】電池ケース用の鋼帯または鋼板を製造する方法、およびそれから作製される電池ケース
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/128 20210101AFI20240222BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20240222BHJP
   C01B 32/186 20170101ALI20240222BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20240222BHJP
   H01M 50/107 20210101ALI20240222BHJP
   H01M 50/119 20210101ALI20240222BHJP
   H01M 50/117 20210101ALI20240222BHJP
   H01M 50/131 20210101ALI20240222BHJP
【FI】
H01M50/128
B32B15/04 B
C01B32/186
C23C28/00 B
H01M50/107
H01M50/119
H01M50/117
H01M50/131
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023545880
(86)(22)【出願日】2022-01-28
(85)【翻訳文提出日】2023-09-27
(86)【国際出願番号】 EP2022051998
(87)【国際公開番号】W WO2022162120
(87)【国際公開日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】21153906.9
(32)【優先日】2021-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505008419
【氏名又は名称】タタ、スティール、ネダーランド、テクノロジー、ベスローテン、フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】TATA STEEL NEDERLAND TECHNOLOGY BV
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】アドリアヌス、ヤコブス、ビッテブロード
【テーマコード(参考)】
4F100
4G146
4K044
5H011
【Fターム(参考)】
4F100AA37C
4F100AB03A
4F100AB16B
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100EH71B
4F100GB41
4F100JG04
4F100YY00C
4G146AA07
4G146AB07
4G146AC16A
4G146AC16B
4G146AD24
4G146AD26
4G146BA11
4G146BA12
4G146BC09
4G146BC23
4G146BC25
4G146BC33A
4G146BC33B
4K044AA02
4K044AB02
4K044BA06
4K044BA18
4K044BB03
4K044BC02
4K044BC14
4K044CA14
4K044CA18
4K044CA62
5H011AA04
5H011AA09
5H011CC06
5H011CC10
5H011DD09
5H011DD18
5H011KK00
5H011KK02
5H011KK04
(57)【要約】
本発明は、電池用の鋼板の製造方法、電池ケース用の鋼板ならびにそれから作製される電池ケースに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Niめっき鋼帯を準備する工程、および、
Niめっき鋼帯の片面または両面にグラフェンコーティング層を適用する工程
を含む、電池ケース用の鋼帯を製造する方法であって、
Niめっき鋼帯上にグラフェンコーティングを適用する工程が、連続的なロールツーロールプロセスからなり、ここで、連続的なロールツーロールプロセスは、Niめっき鋼帯を急速に加熱する工程に入る前に、接合セクションにおいて、Niめっき鋼帯のコイルの前端部を、先行するNiめっき鋼帯のコイルの後端部に接合すること、および、グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯を冷却してグラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯のコイルを製造した後に、Niめっき鋼帯を分離することにより、完全に連続的に操作される、
Niめっき鋼帯上にグラフェンコーティングを適用する工程が、下記の連続した工程:
・Niめっき鋼帯を、加熱セクション内の不活性、非酸化性または還元性雰囲気において400℃~850℃の均熱温度まで少なくとも50℃/秒の加熱速度で急速に加熱する工程;
・均熱セクション内のNiめっき鋼帯を均熱温度で保持する工程;
・グラフェン前駆体を含む不活性、非酸化性または還元性ガスキャリアーを均熱セクション内の加熱されたNiめっき鋼帯上に噴射して、Niめっき鋼帯上に接着性グラフェンコーティング層を生成する工程、ここで、グラフェンコーティング層の堆積成長時間は0.10秒~60秒である;
・冷却セクション内で、グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯を冷却する工程、ここで、冷媒はグラフェンに対して不活性または還元性である;
・グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯を後加工する工程
を含む、方法。
【請求項2】
加熱速度が少なくとも100℃/秒である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯板上のグラフェンコーティング層のピーク高さ比G/Dが、G/D>1(式中、DおよびGはそれぞれ、およそ1365cm-1および1584cm-1のラマンスペクトルのピークに対応する)である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
グラフェン前駆体が、アセチレン、プロパン-2-オン、ブタン-2-オンおよび酢酸エチルのガスまたは蒸気からなる群から選択される1種または2種以上のガスである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
Niめっき鋼板または鋼帯が500℃~750℃、好ましくは600℃~750℃の均熱温度に加熱される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
不活性、非酸化性または還元性ガスキャリアーが、1.0%~5.0%の水素、好ましくは1.3%~3.5%の水素を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
不活性、非酸化性または還元性ガスが窒素を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
グラフェン前駆体がアセチレンであり、前駆体ガス中のアセチレンの濃度レベルが、0.05%~2.5%のアセチレン、より好ましくは0.65%~1.7%のアセチレンである、あるいは、
グラフェン前駆体がプロパン-2-オンであり、前駆体ガス中のプロパン-2-オンの濃度レベルが、プロパン-2-オンの周囲温度での最大蒸気圧の0.05倍~1倍であり、好ましくは0.05%~2.5%のプロパン-2-オン、より好ましくは0.65%~1.7%のプロパン-2-オンである、あるいは、
グラフェン前駆体がブタン-2-オンであり、前駆体ガス中のブタン-2-オンの濃度レベルが、ブタン-2-オンの周囲温度での最大蒸気圧の0.05倍~1倍であり、好ましくは0.05%~2.5%のブタン-2-オン、より好ましくは0.65%~1.7%のブタン-2-オンである、あるいは、
グラフェン前駆体が酢酸エチルであり、前駆体ガス中の酢酸エチルの濃度レベルが、酢酸エチルの周囲温度での最大蒸気圧の0.05倍~1倍であり、好ましくは0.5%~2.5%の酢酸エチル、より好ましくは0.65%~1.7%の酢酸エチルである、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
均熱セクションが0.7bar~2barの大気圧近傍で操作される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
加熱セクション内もしくは均熱セクション内の雰囲気または加熱セクション内および均熱セクション内の雰囲気が、非酸化性雰囲気、例えば、最大5%の水素を有するHNX雰囲気である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
鋼帯の後加工が、下記の工程:
・エアナイフにより鋼帯から余剰な流体を吹き飛ばす工程;
・空気中において40℃~80℃の温度で鋼帯を乾燥させる工程;
・鋼帯を調質圧延する工程;
・鋼帯を鋼板に切断する工程;
・鋼帯または鋼板からブランクをスタンピング加工する工程;
・鋼帯または鋼板からスタンピング加工されたブランクの深絞り加工により、電池ケースを成形加工する工程
の1または2以上を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
Niめっき鋼板または鋼帯が、電池ケースの内側表面に対応する鋼板の面に、Niめっき層を備え、場合によりNiめっき層上に、その後にグラフェンコーティング層が設けられるCoコーティング層を備え、電池ケースの外側表面に対応する鋼板の面に、Niめっき層を備え、好ましくは外側のNiめっき層が、内側のNiめっき層よりも厚い、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
堆積成長時間が0.10秒~4.0秒である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
グラフェン前駆体が室温で液体状態であり、方法が、液体のグラフェン前駆体を気化させた後に、グラフェン前駆体を均熱セクション内へ導入することを含む、請求項1~13のいずれか一項の方法。
【請求項15】
電池ケースに適用するための、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法により製造された、低い界面接触抵抗を有する、グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯または鋼板であって、
グラフェンコーティングされたNiめっき鋼板が、少なくとも電池ケースの内側表面に対応する鋼帯または鋼板の面に、グラフェンコーティング層を備え、
好ましくは、ピーク高さ比G/DがG/D>1(式中、DおよびGはそれぞれ、およそ1365cm-1および1584cm-1のラマンスペクトルのピークに対応する)である、グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯または鋼板。
【請求項16】
本明細書に記載の方法に従って1.37MPa(200psi)の圧力Pで測定した場合に、界面接触抵抗が最大20mΩ・cm、好ましくは0.1mΩ.cm~10mΩ.cm、好ましくは最大6mΩ・cmである、請求項15に記載のグラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯または鋼板。
【請求項17】
グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯または鋼板が、
i)電池ケースの内側表面に対応する鋼板の面に、Niめっき層およびグラフェンコーティング層を備え、
ii)反対の面に、Niめっき層を備え、場合によりNiめっき層上にCoめっき層を備え、
好ましくは外側のNiめっき層が、内側のNiめっき層よりも厚い、
電池ケースに適用するための、請求項15または16に記載のグラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯または鋼板。
【請求項18】
Niめっき鋼帯が、Niめっき層が設けられた硬質鋼基材、またはNiめっき層が設けられた再結晶された鋼基材、または再結晶されたNiめっき層が設けられた再結晶された鋼基材からなる、請求項15~17のいずれか一項に記載のグラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯または鋼板。
【請求項19】
絞り操作で電池ケースを製造するための、請求項15~18のいずれか一項に記載のグラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯または鋼板の使用であって、
使用が、グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯または鋼板から、プレートまたはディスクを切り出す工程、および、プレートまたはディスクに対して絞り操作を実施する工程を含み、
本明細書に記載の方法に従って1.37MPa(200psi)の圧力Pで計測した場合に、電池ケース壁面の界面接触抵抗が最大20mΩ・cmである、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用の鋼板を製造する方法、電池ケース用の鋼板ならびにそれから作製される電池ケースに関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルめっき鋼帯は、一次電池および二次電池用の電池ケースの生産に広く用いられている。ニッケルは通常、連続したプロセスで軟鋼帯上に電気めっきされた後に、焼鈍しされ、調質圧延されることで、電池への適用のための所望の機械的特性および電気的特性を得る。ニッケルめっき電池缶は集電電極として作用するため、電気的特性は重要である。ある場合には、コバルトおよびグラファイトを電気めっきまたは共蒸着(co-deposite)して、下層の低炭素鋼の腐食を防止する、より良好な電気化学的安定性を改善するとともに、電池の抵抗を減少させることで性能を改善する。しかし、これらのコーティングに関するいくつかの課題が存在する。
・ニッケルは、一次アルカリ電池に存在するアルカリ溶液の存在下において、ニッケルの電導性を減少させる、半電導性の水酸化ニッケル層(β-Ni(OH))または絶縁性の酸化ニッケルを形成する傾向があり、また、この絶縁性の層の存在は一次アルカリ電池の「エージング」を引き起こす。
・酸化コバルトは酸化ニッケルよりも安定であり、電導性が高いため、ニッケルコーティング鋼へのコバルト等の幾つかの遷移金属の添加は、電導性を向上させ、内部抵抗を減少させ、そしてエージング作用を減少させる。しかし、これらの金属は高価であり、毒性を有するおそれがある。高濃度の毒性を有する重金属イオンの存在は、電池の処分において特別な配慮を要する。
・電池缶作製のプロセスは、深絞りを要し、このプロセスには湿式潤滑剤が必須である。深絞りの後、電池ケースをアルカリ溶液で洗浄して、使用した潤滑剤を除去する必要があり、これはさらなるコストをもたらす余分な工程である。
【0003】
電池の内部抵抗を下げるための別の解決法としては、電池缶を作製した後に導電グラファイト塗料(conducting graphitic paint)を適用することである。缶に適用されたグラファイトは、電池の剥き出しの金属電極よりも、金属集電体に対して良好な界面を提供する。
【0004】
電池は、グラファイト塗料を有する場合には、グラファイト塗料が存在しない場合よりも良好に機能するが、電池缶の内側のグラファイトコーティングは、内側表面に均一にコーティングされていない。これは、電池缶の円筒状の形状のために、その吹き付けが缶底面に届かない噴霧プロセスの性質に起因する。このプロセスはまた、電池缶の外側への流出のため、および塗料中に存在するグラファイト粒子によるスプレーノズルの目詰まりに起因する中断時間のため、使用されるグラファイト材料の量の観点であまり効率的でない。
【0005】
グラファイトコーティングは、その性能の価値にも関わらず、電池に危険ももたらす。比較的弱い接着性のため、コーティングは、漏出を防止するための缶の閉じ部で見出されてはならない。これは、一つ一つの缶を検査することを意味する。
【0006】
また、過度に高いまたは過度に低い容量で適用されることによりコーティングが均一でないおそれも存在するため、全ての缶がセルにおける他の性能問題を引き起こし得る。したがって、それが現在の業界標準であっても、最も信頼性のある解決法ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、改善された電導性を有する電池ケース用の鋼板または鋼帯を提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、接触抵抗が低減された電池ケース用の鋼板または鋼帯を提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、腐食抵抗が改善された電池ケース用の鋼板または鋼帯を提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、厚さが減少したコーティングを有する電池ケース用の鋼板または鋼帯を提供することである。
【0011】
別の目的は、コバルトおよびグラファイトコーティング層等のいかなる追加のコーティング層もこれ以上必要とされない電池ケース用の鋼板または鋼帯を提供することである。
【0012】
本発明のさらに別の目的は、鋼板または鋼帯上にグラフェンコーティングをコスト効率良く適用する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第一の態様によれば、本発明の1または2以上の目的は、Niめっき鋼帯を準備する工程、および、
Niめっき鋼帯の片面または両面にグラフェンコーティング層を適用する工程
を含む、電池ケース用の鋼帯を製造する方法であって、
Niめっき鋼帯上にグラフェンコーティングを適用する工程が、連続的なロールツーロールプロセスからなり、ここで、連続的なロールツーロールプロセスは、Niめっき鋼帯を急速に加熱する工程に入る前に、接合セクションにおいて、Niめっき鋼帯のコイルの前端部を、先行するNiめっき鋼帯のコイルの後端部に接合すること、および、グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯を冷却してグラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯のコイルを製造した後に、Niめっき鋼帯を分離することにより、完全に連続的に操作される、
Niめっき鋼帯上にグラフェンコーティングを適用する工程が、下記の連続した工程:
・Niめっき鋼帯を、加熱セクション内の不活性、非酸化性または還元性雰囲気において400℃~850℃の均熱温度まで少なくとも50℃/秒の加熱速度で急速に加熱する工程;
・均熱セクション内のNiめっき鋼帯を均熱温度で保持する工程;
・グラフェン前駆体を含む不活性、非酸化性または還元性ガスキャリアーを均熱セクション内の加熱されたNiめっき鋼帯上に噴射して、Niめっき鋼帯上に接着性グラフェンコーティング層を生成する工程、ここで、グラフェンコーティング層の堆積成長時間は0.10秒~60秒である;
・冷却セクション内で、グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯を冷却する工程、ここで、冷媒はグラフェンに対して不活性または還元性である;
・グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯を後加工する工程
を含む方法により実現される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、(a)Hille&Muller GmbHで製造された独自のNiめっき鋼基材である、Hilumin(登録商標)の数層グラフェンの典型的なラマンスペクトルおよび(b)単原子グラフェン層を示す図である。
図2図2は、Hsin、LinYangおよびLinによる“Triturating versatile carbon materials as saturable absorptive nano powders for ultrafast pulsating of erbium-doped fiber lasers”(Optical Materials Express, Febr. 2015, pp. 236-253)から抜粋された、数層グラフェン、グラファイトナノ-粒子、酸化グラフェンナノ-粒子、カーボンブラックナノ-粒子およびチャコールナノ-粒子の(a)ラマン散乱スペクトルおよび(b)XRDスペクトルを示す図である。
図3図3は、(a)715℃で蒸着(deposite)されたプロパン-2-オンのラマンスペクトル;(b)715℃で蒸着されたブタン-2-オンのラマンスペクトル;(c)715℃で蒸着された酢酸エチルのラマンスペクトル;(d)715℃で蒸着されたアセチレンのラマンスペクトルを示す図である。
図4図4は、電池缶の成形加工を示す図である。
図5図5は、グラフェン蒸着(graphene deposition)前(基準1-5)およびグラフェン蒸着後(グラフェン1-5)の5箇所で測定されたNiめっき鋼コイルの接触抵抗測定を示す図である。
図6図6は、接触抵抗測定デバイスを示す図である。
図7図7は、連続グラフェン蒸着用のデバイスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
Niめっき鋼帯は、均熱温度まで急速に加熱することが好ましい。誘導加熱技術は、これを達成するために非常に好適である。加熱速度は、好ましくは少なくとも75℃/秒であり、より好ましくは少なくとも100℃/秒である。
【0016】
実施形態において、グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯または鋼板上のグラフェンコーティング層のピーク高さ比G/Dは、G/D>1(式中、DおよびGはそれぞれ、およそ1365cm-1および1584cm-1のラマンスペクトルのピークに対応する)である。
【0017】
グラフェンは、二次元のハニカム格子に配列された原子の単層からなる炭素の同素体である。本発明によるグラフェンコーティングのグラフェンは、1または2以上のグラフェン層、好ましくは20層以下を含み、グラフェンコーティングは、アモルファス性もしくは結晶性のsp混成炭素、またはそれらの混合物をさらに含み得る。
【0018】
グラフェンは、アルカリ性環境において電気化学的に安定であり、酸化ニッケルの形成を防止するニッケル表面の不動態化もまた提供する。それは、アルカリ電池において、グラファイトと酸化マンガンとの混合物である正極混合物(cathode mix)に、より低い接触抵抗を提供する。ニッケルめっき鋼上のグラフェン層はまた、固体状態の潤滑剤であるため、ニッケルめっき鋼の表面は、深絞り加工(絞り、再絞りおよび壁しごき加工)および成形加工等のプロセスのためのある程度の自己潤滑性を提供する。
【0019】
先行技術の解決法は、コイル塗装、吹き付け、バーコーティング等の方法により、溶媒ベースのグラフェンコーティング層を適用することによりグラフェンコーティング層を適用した。この目的のために、グラフェンコーティング層は、グラフェンを鋼板または鋼帯とカップリングするためのカップリング剤を含む。そのようなカップリング剤は、例えば、有機官能性シランまたは有機官能性シロキサンである。
【0020】
しかしながら、本発明によれば、グラフェンコーティング層は、化学気相成長(略称CVDまたはグラフェン蒸着)により適用される。グラフェン蒸着により、ファンデルワールス相互作用のため、グラフェンコーティングと鋼板または鋼帯との良好な接着性が得られる。グラフェンコーティング層の堆積のために(for depositing the graphene coating layer)グラフェン蒸着を用いる利点は、非常に低い接触抵抗が得られることである。コーティングされた直後の、グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯は、好ましくは、最大20mΩ・cm、より好ましくは最大10mΩ・cm、より一層好ましくは0.1~10mΩ・cmのICRを有する。そのような低い接触抵抗は、溶媒ベースのグラフェンコーティングが鋼板または鋼帯上に適用される場合は得られない。さらに、コイルツーコイル(coil-to-coil)プロセスは、高い生産性および生産率を可能とする。グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯上のICRの測定は、4.0mΩ・cm以下のICRを明らかにした。グラフェンコーティングを有しないNiめっき鋼帯に対する同様の測定では、8.2mΩ・cm以下であり、2倍高い。そして最も重要なのは、以下に示されるとおり、電池ケースの成形加工後、グラフェンコーティングされたNiめっき鋼のICRは非常に低いままである。
【0021】
実施形態において不活性、非酸化性または還元性ガスキャリアーは、グラフェン前駆体および水素を含み、水素の濃度レベルは、1.0%~5.0%の水素、好ましくは1.3%~3.5%の水素である。
【0022】
本明細書における、ガス組成物に関連する全てのパーセンテージは、体積パーセント(体積%)である。
【0023】
別の実施形態において、不活性、非酸化性または還元性ガスは、グラフェン前駆体および窒素を含む。
【0024】
さらに別の実施形態において、不活性、非酸化性または還元性ガスは、グラフェン前駆体、水素および窒素を含む。
【0025】
ロールツーロールプロセス(すなわち金属帯のコイルは、コンパクトかつ連続方式で次々に加工されることができ、そしてバッチタイプ方式で加工されない)で本発明による方法が操作されることを可能とするために、Niめっき鋼帯を、加熱セクション内で好ましくは非酸化性、不活性または還元性雰囲気中で均熱温度まで急速に加熱し、均熱セクション内のNiめっき鋼帯をその均熱温度で保持する工程、および、均熱セクション内の加熱されたNiめっき鋼帯上にグラフェン前駆体および任意選択で水素および/または窒素を含む前駆体ガスを噴射する工程により、Niめっき鋼帯上に接着性グラフェンコーティング層が生成され、グラフェンコーティング層の堆積成長時間は0.10秒~60秒である。その後、グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯は冷却セクション内で冷却された後に、後加工される。
【0026】
鋼のコイルの、後続の鋼のコイルへの接合は、レーザー溶接プロセス等の高速接合プロセスを要し、また、さらなる加工前に、鋼帯を蓄積させるために設計されているルーパータワー(looper tower)等の鋼帯アキュムレーター(steel strip accumulator)も要し得る。プロセスが連続しているため、タワー内に供給されると同時に個々の鋼板を溶接して合わせる必要がある。プロセスの出口に同様のデバイスが必要とされる可能性があるが、コイラ上の走間剪断機(flying shear)も使用できる。
【0027】
上記プロセスは、Niめっき鋼帯を急速に加熱する工程に入る前に、接合セクションにおいて、Niめっき鋼帯のコイルの前端部を、先行するNiめっき鋼帯のコイルの後端部に接合する工程、および、グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯を冷却した後に、Niめっき鋼帯を分離する工程により、完全に連続的に操作される。グラフェン蒸着プロセスは、間断なく連続的に操作されることが可能であるため、この方法でNiめっき鋼帯は、プロセスに対してコイルとして供給されることができ、グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯のコイルとしてもたらされ、プロセスをより経済的に、かつ、より容易に制御することの両方を可能とする。
【0028】
上記方法で使用される前駆体ガス中のグラフェン前駆体は、アセチレン、メタン、エチレン、プロパン-2-オン(CH-CO-CH)、ブタン-2-オン(CH-CO-CH-CH)および酢酸エチル(CH-COO-CH-CH)ガスもしくは蒸気の群から選択される1種または2種以上のガスまたは蒸気である。ガスまたは蒸気は、均熱セクション内に、場合によりキャリアーガスと共に筐体内に、直接注入されてもよい。ガスは、(例えば)室温で単一の規定された(single defined)熱力学的状態を有する物質を意味する一方で、蒸気は、(例えば)室温で二相、すなわち気相と液相との混合物である物質を意味する。均熱セクション内に注入される蒸気は、ブタン-2-オン等の液体を加熱し、液体上の蒸気を引き離すことにより製造されてもよい。この目的のため、市販されている気化システムが使用されてもよい。
【0029】
したがって、上記物質がガスまたは蒸気であるか否かは、温度に依存する。アルゴンまたは別の不活性ガスは、キャリアーガスとして使用されてもよい。
【0030】
本発明において、Niめっき鋼板または鋼帯は、加熱セクション内で400℃~850℃の均熱温度まで加熱されるが、均熱温度は、好ましくは少なくとも500℃であり、より好ましくは600℃~750℃である。これらの温度でグラフェン形成はコンパクトかつ連続したプロセスと一致して短時間で起こる。これらの温度範囲はまた、冷間圧延されたNiめっき鋼帯の焼鈍しプロセスに好適であるため、冷間圧延された鋼の連続的な再結晶または回復焼鈍しと、グラフェンコーティングの同時蒸着(simultaneous deposition)との組み合わせを可能とする。連続的な再結晶または回復焼鈍しはまた、Fe-Ni拡散層がNiめっき鋼板または鋼帯において形成されて比較的低い内部抵抗等の所望の電気的特性を得ることを確実とする。500℃未満または600℃未満の比較的低い均熱温度でラインを操作することは、比較的低いグラフェン形成速度をもたらし、実際に実現可能であっても、(焼鈍しプロセスおよびFe-Ni拡散層の形成の観点から)経済的かつ技術的な魅力が少ない。
【0031】
別の実施形態において、冷間圧延された基材の焼鈍しおよびグラフェンの蒸着(deposition)は分離される。これは、両方のプロセスが独立して最適化され得るように、焼鈍しとグラフェン蒸着とが同時に行われないことを意味する。その場合において、上記Niめっき鋼板または鋼帯は、加熱セクション内で400℃~850℃の範囲内の均熱温度まで加熱されるが、グラフェン蒸着については、好ましくは少なくとも500℃、より好ましくは600℃~750℃で加熱される。冷間圧延されたNiめっき鋼板または鋼帯の熱処理は、独立して選択および最適化されてもよく、温度範囲もまた、400℃~850℃である可能性が高い場合であっても、グラフェン蒸着については、好ましくは少なくとも500℃、より好ましくは600℃~750℃である。
【0032】
上記プロセスにおいて使用される反応性ガスまたは蒸気の濃度は非常に低いレベルである。周囲温度および周囲圧力で液体である前駆体の最大の濃度は、それらの条件下の蒸気圧である。
【0033】
前駆体ガスまたは蒸気が不活性、非酸化性または還元性ガスキャリアーで希釈されているため、噴射されたガス流中のグラフェン前駆体の濃度も低減される。
【0034】
実施形態において、グラフェン前駆体はアセチレンであり、前駆体ガス中のアセチレンの濃度レベルは、0.05%~2.5%アセチレン、より好ましくは0.65%~1.7%のアセチレンである。
【0035】
実施形態において、グラフェン前駆体はプロパン-2-オンであり、前駆体ガス中のプロパン-2-オンの濃度レベルは、プロパン-2-オンの周囲温度での最大蒸気圧の0.05倍~1倍であり、好ましくは0.05%~2.5%のプロパン-2-オン、より好ましくは0.65%~1.7%のプロパン-2-オンである。
【0036】
グラフェン前駆体はブタン-2-オンであり、前駆体ガス中のブタン-2-オンの濃度レベルは、ブタン-2-オンの周囲温度での最大蒸気圧の0.05倍~1倍であり、好ましくは0.05%~2.5%のブタン-2-オン、より好ましくは0.65%~1.7%のブタン-2-オンである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【0037】
グラフェン前駆体は酢酸エチルであり、前駆体ガス中の酢酸エチルの濃度レベルは、酢酸エチルの周囲温度での最大蒸気圧の0.05倍~1倍であり、好ましくは0.05%~2.5%の酢酸エチル、より好ましくは0.65%~1.7%の酢酸エチルである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【0038】
本明細書に上記されるこれらの濃度レベルであれば、反応性ガスの混合物は、言及対象のグラフェン前駆体の爆発限界未満(below the explosion limit)で残存する。高品質グラフェンコーティングは、これらの濃度レベル未満で蒸着されてもよい。これはまた、消耗品の低いレベルでのグラフェンコーティングされた鋼板または鋼帯の連続的な製造をサポートする。
【0039】
Niめっき鋼板または鋼帯の酸化を防止するために、筐体内の雰囲気は、窒素等の不活性ガス、または水素と窒素との混合物もしくは水素と別の不活性ガスとの混合物等の非酸化性もしくは還元性ガスを含んでいてもよい。本発明の実施形態において、加熱セクション内もしくは均熱セクション内、または、加熱セクション内および均熱セクション内の雰囲気は、HNX雰囲気(最大5%の水素を有する窒素ガス)である。
【0040】
多くのグラフェン蒸着プロセスは、不要な気相反応を低減するため、そして蒸着される層の均一性を向上させるため、真空条件下で実施される。真空は、たとえ低真空範囲であっても、特定の真空ポンプシステムおよび真空ロックを含むセットアップを要し、上記方法を高い度合いで複雑化させ得るうえに、経済的に実施可能なものでない可能性がある。しかしながら、筐体内で0.7bar~2.0barの大気圧近傍の圧力でグラフェンコーティング層を適用することにより、非常に良い結果が実現される。上記大気圧近傍の範囲であることにより、上記方法は既存の焼鈍し炉に容易に統合され得る。したがって、上記方法は、別の実施形態によれば、加熱セクション内および/または均熱セクション内の圧力が0.7bar~2.0barの大気圧近傍で維持されることを含む。好ましくは、上記圧力範囲は0.8bar~1.2barである。大気圧よりもわずかに高い圧力は、反応チャンバー内に浸入するいかなる酸素も回避するはずである。
【0041】
グラフェンの蒸着後の冷却および冷却速度が重要である。グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯が炉内の保護雰囲気から酸素含有雰囲気に出される直後、鋼帯がまだ熱いため、形成されたグラフェンは酸化する(燃焼する)。さらに、もしグラフェンコーティングが通常の水等の酸化媒体で冷却される場合には、グラフェンが酸化する可能性があり、完全に燃焼してしまう可能性がある。したがって、冷媒はグラフェンに対して不活性または還元性でなければならない。好ましくは閉ループ冷却システムが使用される。冷媒は、好ましくは酸素非含有の水である。好ましくは、冷却水は、HNX(5%水素、95%窒素)で飽和されている冷却水、あるいは、同様の非酸化性冷却効果を有する、別の化合物で飽和されている冷却水である。
【0042】
冷却速度は、グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯の所望の機械特性を達成するために、十分に高くなければならないが、鋼帯の座屈(buckling)を防止するために過度に高くあってはならない。所望の結果を達成し、座屈を防止するための、冷却速度の調節、および鋼帯を冷却するための鋼帯への冷媒の適用は、技術的に通常の技術であり、まさしく当業者の技量の範囲内である。冷却速度はまた、グラフェン層を酸化から防止するために十分に高くなければならない。好ましくは、冷却速度は少なくとも100℃/秒である。
【0043】
好ましくは、本発明による方法は、完全に連続しており、ここで、Niめっき鋼帯を急速に加熱する前に、接合セクションにおいて、Niめっき鋼帯のコイルの前端部を、先行するNiめっき鋼帯のコイルの後端部に接合し、かつ、冷却セクションの後に、グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯の後加工の一部として、グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯を分離する。その観点においてロールツーロール(またはコイルバイコイル(coil-by-coil))プロセスは完全に連続したプロセスとなる。
【0044】
グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯の後加工は、グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯の冷却後にエアナイフにより鋼帯から余剰な流体を吹き飛ばす工程、および/または、空気中において40℃~80℃の温度で鋼帯を乾燥させる工程、および/または、グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯を、好ましくは少なくとも0.1%の圧下率、かつ、好ましくは最大3.0%、より好ましくは最大2.5%または最大2.0%の圧下率で調質圧延する工程を含み得る。後加工はまた、鋼帯を鋼板に切断する工程または鋼帯もしくは鋼板からブランクをスタンピング加工する工程、および上記鋼板またはブランクから電池ケースを成形加工する工程も含んでいてもよい。これらの後加工は操作依存性がなく、適切であるとみなされれば、および適切であるとみなされた場合に、互いに独立して選択されてもよい。
【0045】
実施形態において、Niめっき鋼板または鋼帯は、電池ケースの内側表面に対応する鋼板の面に、Niめっき層を備え、場合によりNiめっき層上に、その後にグラフェンコーティング層が設けられるCoコーティング層を備え、反対の面にNiめっき層を備える。任意のCoコーティング層が存在しない場合、グラフェンコーティング層とNiめっき層との間に、Niめっき層とCoコーティング層との間よりも良好な界面抵抗が実現され得る。
【0046】
本発明によれば、鋼板または鋼帯上のグラフェンコーティング層の堆積成長時間は、0.10秒~60秒、好ましくは0.10秒~20秒、より好ましくは最大10秒である。本発明者らは、鋼板または鋼帯上のグラフェンコーティング層の堆積成長時間を4.0秒よりも短くすることができ、堆積成長時間が0.10秒~4.0秒の範囲内となることを見出した。これは前駆体ガスとしてプロパン-2-オンまたはブタン-2-オンまたは酢酸エチルを使用する際の特別な場合である。
【0047】
上記成長時間は、鋼板または鋼帯が筐体内に存在し、かつ、反応性ガスと接触する滞留時間を意味する。十分なグラフェンコーティング層を蒸着させるのに必要とされる堆積成長時間は、冷間圧延された鋼基材の再結晶もしくは回復のために必要とされる時間またはFe-Ni拡散層の形成のために必要とされる時間よりも短くてもよい。その場合において、均熱セクション内の焼鈍し時間は、堆積成長時間よりも長い時間が選択されてもよい。別の実施形態において、冷間圧延された基材の焼鈍しおよびグラフェンの蒸着は分離される。これは、両方のプロセスが独立して最適化され得るように、焼鈍しとグラフェン蒸着とが同時に行われないことを意味する。これは、別個の焼鈍しセクションおよび別個のグラフェン蒸着セクションがラインにおいて必要とされることを意味する。図7では、均熱セクション4は焼鈍しセクション4aとグラフェン蒸着セクション4bとに分割される必要がある。その場合には、基材の焼鈍しの後にグラフェンを蒸着させることが好ましい。
【0048】
本発明による方法は、(例えば)Niめっき鋼Mの鋼帯の巻き戻しのためのアンコイラ1と、鋼帯を急速に加熱するための加熱セクション2と、グラフェン前駆体が注入口8を通じて供給され、そして、制御された(非酸化性、還元性または不活性)雰囲気において均熱温度でグラフェン層が蒸着される均熱セクション4と、グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯を冷却するための冷却セクション6と、鋼帯をコイル巻きにするコイラ7とを備える連続的なグラフェン蒸着デバイス内で実行されてもよい。温度は、温度測定手段3および5により監視される。アンコイラ1および/またはコイラ7の代わりに、デバイスを、前加工プロセス(例えば、Niめっき)または後加工プロセス(例えば、切れ込みを入れるまたは切断するプロセス)に直接的に接続してもよい。使用されるグラフェン前駆体は、室温において液体の形態で供給されてもよい。注入口8を通じてグラフェン前駆体を導入する前に、液体のグラフェン前駆体は、グラフェン前駆体が蒸気の形態で注入口8を通じてデバイス内に導入されるように、気化デバイスを通って導入される。
【0049】
第二の態様によれば、電池ケースに適用するための、本発明の方法により製造された、低い界面接触抵抗を有する、グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯または鋼板であって、グラフェンコーティングされたNiめっき鋼板が、少なくとも電池ケースの内側表面に対応する鋼帯または鋼板の面に、グラフェンコーティング層を備え、好ましくは、ピーク高さ比G/DがG/D>1(式中、DおよびGはそれぞれ、およそ1365cm-1および1584cm-1のラマンスペクトルのピークに対応する)である、グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯または鋼板が提供される。好ましい実施形態は従属項により提供されている。グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯または鋼板は、本発明の方法により製造され、電池ケースに適用するための低い界面接触抵抗を有し、少なくとも電池ケースの内側表面に対応する鋼帯または鋼板の面に、グラフェンコーティング層を備え、好ましくは、ピーク高さ比G/DがG/D>1(式中、DおよびGはそれぞれ、およそ1365cm-1および1584cm-1のラマンスペクトルピークに対応する)である。
【0050】
本発明はまた、電池ケース用のNiめっき鋼帯または鋼板を含み、鋼帯または鋼板が、少なくとも電池ケースの内側表面に対応する鋼板の面にグラフェンコーティング層を備える。Niめっき鋼帯または鋼板の両面にグラフェンコーティングを有することが好ましく、これは、鋼板の両面のグラフェン層から提供される潤滑性が電池ケースの成形加工中の深絞り加工プロセスを補助するためである。加えて、両面のグラフェンコーティングはまた、ニッケルめっき鋼ケース、すなわち一次電池の集電電極の性能を向上させることも補助する。
【0051】
好ましくはG/Dピーク比は少なくとも1、より好ましくは少なくとも1.5、より一層好ましくは少なくとも2である。2D/Gピーク比は少なくとも0.20、好ましくは少なくとも0.30である。
【0052】
実施形態において、本明細書の下記の方法に従って1.37MPa(200psi)の圧力Pで測定された場合の界面接触抵抗が最大20mΩ・cmである場合に、グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯または鋼板が提供される。好ましくは、界面接触抵抗は最大10mΩ・cm、より好ましくは最大6mΩ・cm、より一層好ましくは最大5mΩ・cm、最も好ましくは最大4mΩ・cmである。このグラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯からの電池ケースの成形加工がICRの増加をもたらすと見られたため、変形されていないグラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯のICRが可能である限り低いことが重要である。蒸着プロセスの慎重な制御および本明細書に記載された範囲内のプロセスパラメーターは、グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯の再現性および低いICR値をもたらす。
【0053】
実施形態において、グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯または鋼板が、i).電池ケースの内側表面に対応する鋼板の面にNiめっき層およびグラフェンコーティング層を備え、ii).反対の面にNiめっき層を備える、電池ケースに適用するための、グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯または鋼板が提供される。
【0054】
場合により、電池ケースの内側表面に対応するNiめっき層は、Niめっき層の上にCoコーティング層が設けられている。
【0055】
第三の態様によれば、本発明はまた、絞り操作で電池ケースを製造するための、本発明のグラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯または鋼板の使用であって、絞り操作が、グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯または鋼板から、プレートまたはディスクを切り出す工程、および、プレートまたはディスクに対して絞り操作を実施する工程を含み、本明細書に記載の方法に従って1.37MPa(200psi)の圧力Pで計測した場合に、電池ケース壁面(すなわち、電池ケースの成形加工後)の界面接触抵抗が最大20mΩ・cmである使用に具体化されている。特筆すべきは、グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯のICRの上昇は電池缶の深絞りおよび壁しごき加工の間の鋼帯の変形により引き起こされることである。上記界面接触は、好ましくは最大15mΩ・cm、より好ましくは最大10mΩ・cmである。比較として、同一の電池缶が、グラフェンを含まないNiめっき鋼板で作製された場合、基材材料については8.2mΩ・cm、そして電池缶作製後の材料については92mΩ・cmからICRの増加が観測された。そのため、グラフェンコーティングが設けられた場合の、初めの平面のNiコーティング鋼板または鋼帯のみが大いに低いICR(グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯については4.0mΩ・cmであるのに対し、グラフェンコーティングされてないNiめっき鋼帯については8.2mΩ・cm)を有するだけでなく、電池缶作製後のコーティングのICRの増加は、グラフェンコーティングされた材料についてもICRの比較的低い増加を示す(Niめっきされた、およびグラフェンコーティングされた基材については9.2mΩ・cmであるのに対し、コーティングされてないNiめっき鋼帯については92mΩ・cmである)。
【0056】
電池缶に使用される鋼板または鋼帯の厚さは、0.10mm~1.00mm、好ましくは0.10mm~0.80mmであり、Niめっき層は0.1μm~50μmの厚さで適用される。ニッケルめっき鋼板または鋼帯は、硬質ミクロ組織(すなわち冷間圧延された後、かつ、焼鈍しまたは焼き戻しの前)または焼鈍された(すなわち再結晶された)もしくは焼戻された(すなわち回復された)ミクロ組織を有していてもよい。
【実施例
【0057】
炭素含有化合物の、グラフェン前駆体としての適合性を確かめるため、特定の化合物の使用が、ニッケルコーティング鋼基材上のグラフェン層の蒸着をもたらしたか否かを評価するための専用の実験を実施した。
【0058】
実験に関し、温度および雰囲気が制御された小さな炉が酸素レベル10ppm未満で使用された。AA電池缶の製造を可能とする、十分に大きなサンプルが製造された。均熱温度は、650℃~800℃の値で選択された。サンプルが加熱された区域内に導入され、前駆体ガスに暴露される前に、加熱および洗浄の固定されたシーケンスを使用した。洗浄ガスは100体積%窒素である。炉は適切な温度に設定され、窒素流が炉内に導入される間に設定された温度で安定化することを可能とした。Niめっき鋼サンプルを、加熱区域内に導入し、均熱温度まで加熱した。その温度に到達後、グラフェン前駆体を炉内に導入した。特定の時間後、グラフェン前駆体を窒素により炉からパージし、サンプルを冷却され、炉を開けてサンプルを取り出した。炉内の圧力は、外側への流れを確実とし、内側への酸素拡散を防止するため、大気圧より少し上であった。
【0059】
炭素含有化合物がグラフェン層を生成するための効率は、ラマン分光法により測定された。ラマン分光法は、グラフェンの存在を決定するのに広く用いられる特性化技術である。スペクトル中の最も一般的なピークは、およそ1365cm-1のDバンド、1584cm-1のGバンドおよびおよそ2700cm-1の2Dバンドである。一般的に、低いDバンドは、sp混成炭素結晶構造において低無秩序性を示す。Gバンドは、グラファイト炭素(あらゆるsp炭素)において常に観測され、そしてグラフェンの2Dバンドは、グラファイトの2Dバンドと比べて、ピークの中心に対して対称である。成長プロセスは、下記図1に示される典型的なラマンスペクトルにおいて示されているように、低いDピークについて最適化された。文献において、検討が、基材上の炭素蒸着の各種形態を分類するために実施された。体系的な検討は、Hsin、Lin YangおよびLinによる“Triturating Triturating versatile carbon materials as saturable absorptive nano powders for ultrafast pulsating of erbium-doped fiber lasers”(Optical Materials Express,Febr.2015,pp.236-253)で報告された。それらの知見の概要は、図2に表されている。この図は、炭素蒸着物の性質を素早く決定することを可能とする。
【0060】
典型的なグラフェンラマンスペクトルは、強いG、2Dバンドおよび最小のDバンドを有する(図1参照)。Gピークの幅はグラフェン層の数を反映する。ピーク高さ比G/Dおよび2D/Gは、グラフェン形成に対するコーティングの質を半定量化するために使用された。2D/Gが1である場合、単層グラフェンが存在し、G/Dは好ましくは1を超えるべきである。
【0061】
膨大な数の各種化合物炭素含有化合物から(from a great number of different compounds carbon containing compound)、715℃の温度で3分間の蒸着の後のラマンスペクトルが評価された。気体化合物は、均熱セクション内にそのまま導入された。液体の化合物に関しては、洗浄ボトルを使用し、液体の炭素含有化合物が入れられ、上記液体上の蒸気は、均熱セクション内への導入前にHNXと混合された窒素流により、均熱セクションへと導入された。グラフェン蒸着時間は5秒、10秒、20秒または30秒であった。
【0062】
本発明者らは、気体化合物のメタンおよびエチレンが、グラフェンの指標となるいかなるラマンシグナルも生成しなかったことを見出した。他方で液体の化合物であるプロパン-2-オン、ブタン-2-オンおよび酢酸エチルの蒸気はグラフェンの指標となる強いシグナルを生成し、そしてn-ブタノール、ジエチルエーテル、ヘキサンおよびN-N-ジメチルアセトアミドは強いDおよびGピークを生成したが、顕著な2Dおよび2Gピークは生成しなかったため、基材上にグラフェンを生成するにはふさわしくないと判断された。
【0063】
概念実証(PoC)として、鋼帯の片面に1.5μmのNiおよび反対の面に0.65μmのNiを有する、厚さが0.25mmである773mm幅の産業用コイルが、図6に描写された連続グラフェン蒸着ライン内で製造された。均熱温度は725℃であった。グラフェン前駆体はアセチレンガスであり、均熱炉内のアセチレンの濃度は2%(2%アセチレン、4%水素、94%窒素)であった。冷却水の温度は40℃であり、グラフェンの酸化を防止するために冷却水は酸素非含有であった。結果は、G/D比が2.2~3.3であり、2D/G比が0.37~0.46であった。鋼帯の幅および長さに沿って得られたサンプルのラマン分光は、全体にわたるグラフェンの連続的な蒸着を示す。このPoCの間の蒸着時間は0.1秒~4.0秒であった。同様の結果は、グラフェン前駆体としてプロパン-2-オン、ブタン-2-オンおよび酢酸エチルを使用することにより、また、最大4.0秒の蒸着時間で得ることができる。
【0064】
これらのグラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯の主な用途は、電池用であるため、他の用途も期待され得るが、接触抵抗が重要である。
【0065】
接触抵抗を測定するために、図4に示されるように、グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯の円形のブランクが、電池缶への成形加工操作(深絞りおよび壁しごき加工)により加工された。成形加工操作の間のグラフェンコーティングの基材に対する接着性を検討するために、これらの缶は、その後切り開かれ、そして押しつぶされた(flatten)。
【0066】
図5では、Niめっきされた基準鋼帯およびグラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯の接触抵抗が示されている。値は、グラフェンコーティングされてないNiめっき鋼帯の80Ω・cm超から、グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯の20Ω・cm未満へと低下する。
【0067】
図6は、界面接触抵抗の測定のためのセットアップを示す。このセットアップは、電気DC抵抗合計の測定、つまり燃料セルスタックの界面接触抵抗を含む測定にも使用される(Properties of Molded Graphite Bi-Polar Plates for PEM Fuel Cell Stacks, F. Barbir, J. Braun and J. Neutzler, Journal of New Materials for Electrochemical Systems 2, 197-200 (1999))。界面接触抵抗(ICR)試験は、オームの法則R=V/I(式中、Rは抵抗(オーム)であり、Vは電位差(ボルト)であり、Iは電流(アンペア)である)に基づいている。10アンペアの電流がサンプルを通して導入され、電位が測定された後に、この電位がサンプルの表面積に対する抵抗を算出するために使用され得る。バッキングプレート(backing plate)として、ガス拡散層(GDL)がサンプル(A)の両側に使用される。下記に表された試験には、GDLとしてToray Paper TGP-H-120を使用した。これは、触媒バッキング層(catalyst backing layer)としての使用に好適な炭素繊維複合紙である。その合計厚さは370μm(ミクロン)である。まずサンプルを2枚のGDLの間に配置した後に、GDLおよびサンプルを2枚の金めっきされた銅の圧力プレート(pressure plate)の間に配置することにより、一定の圧力で電位を測定することができ、サンプルに適用される圧力量はサンプルの大きさに依存し、電流が測定される前に、新規の圧力値のそれぞれについて30秒間隔が用いられる。金めっきされた銅の圧力プレートの寸法は、圧力がサンプルに対して与えられるため、無関係ではあるが、本発明の試験では、4x4cmまたは2x2.5cmプレートの長方形プレートであった。圧力Pの基準値は200psi(=13.8barまたは1.37MPa)である。あらゆるサンプルAの試験前に、いくつかの測定が、サンプルの存在しない2枚のGDLのみで実施され、サンプルのみのICR値が残るように、これらの測定の平均値がサンプルで行われた測定から差し引かれる。
【0068】
図7は、(例えば)Niめっき鋼Mの鋼帯の巻き戻しのためのアンコイラ1と、鋼帯を加熱するための加熱セクション2と、グラフェン前駆体が注入口8を通じて供給され、そして、制御された(非酸化性、還元性または不活性)雰囲気において均熱温度でグラフェン層が蒸着される均熱セクション4と、グラフェンコーティングされたNiめっき鋼帯を冷却するための冷却セクション6と、鋼帯をコイル巻きにするコイラ7とを備える連続的なグラフェン蒸着デバイスの配置図を示している。温度は、温度測定手段3および5により監視される。アンコイラ1および/またはコイラ7の代わりに、デバイスを、前加工プロセス(例えば、Niめっき)または後加工プロセス(例えば、切れ込みを入れるまたは切断するプロセス)に直接的に接続してもよい。
【0069】
図面
本発明はさらに下記の、非限定的な図によって説明される。
【0070】
図1:(a)は、Hille&Muller GmbHで製造された独自のNiめっき鋼基材である、Hilumin(登録商標)の数層グラフェンの典型的なラマンスペクトルを示す。図1(b)は、単原子グラフェン層を示す。
【0071】
図2:Hsin、LinYangおよびLinによる“Triturating versatile carbon materials as saturable absorptive nano powders for ultrafast pulsating of erbium-doped fiber lasers”(Optical Materials Express, Febr. 2015, pp. 236-253)から抜粋された、数層グラフェン、グラファイトナノ-粒子、酸化グラフェンナノ-粒子、カーボンブラックナノ-粒子およびチャコールナノ-粒子の(a)ラマン散乱スペクトルおよび(b)XRDスペクトル。
【0072】
図3:(a)715℃で蒸着されたプロパン-2-オンのラマンスペクトル;(b)715℃で蒸着されたブタン-2-オンのラマンスペクトル;(c)715℃で蒸着された酢酸エチルのラマンスペクトル;(d)715℃で蒸着されたアセチレンのラマンスペクトル。この図は、実験セクションにおいて説明されているとおり、各種グラフェン前駆体を用いたグラフェン蒸着試験の実験結果を示している。上記実験は良好かつ優れた接着性グラフェン層を明らかとした。
【0073】
図4:電池缶の成形加工。いくつかの電池缶は切り開かれ、そして押しつぶされ、接触抵抗測定およびラマン分光法の両方に供された。これらの実験は、グラフェン蒸着が成形加工操作に堪え、それでもなお、グラフェンコーティングされてないNiめっき基材と比較して、ICRの顕著な低下をもたらすことを明らかにした。
【0074】
図5:グラフェン蒸着前(基準1-5)およびグラフェン蒸着後(グラフェン1-5)の5箇所で測定されたNiめっき鋼コイルの接触抵抗測定。
【0075】
図6:接触抵抗測定デバイス。
【0076】
図7:連続グラフェン蒸着用のデバイス。コイラおよびアンコイラの代わりに、先行または後続の設備/プロセス工程への直接接続も可能である。この先行の工程は、例えば酸洗ラインまたは洗浄ラインであってもよい。後続の工程は、例えばテンパーミルまたはテンションレベリングデバイスであってもよい。別個の焼鈍しセクションおよび別個のグラフェン蒸着セクションの場合において、均熱セクション4は、焼鈍しセクション4aおよびグラフェン蒸着セクション4bに分割され、まず焼鈍し、焼鈍しの後のグラフェン蒸着の順であることが好ましい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】