(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-01
(54)【発明の名称】がんにおける方法およびバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240222BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240222BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240222BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
A61K39/395 T
A61P35/00
A61P37/02
A61K39/395 U
A61K39/395 E
A61K45/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023546271
(86)(22)【出願日】2022-02-04
(85)【翻訳文提出日】2023-09-22
(86)【国際出願番号】 US2022015363
(87)【国際公開番号】W WO2022170131
(87)【国際公開日】2022-08-11
(32)【優先日】2021-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(71)【出願人】
【識別番号】511060836
【氏名又は名称】ニューヨーク・ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ダーヴォリ, テレーザ
(72)【発明者】
【氏名】リップマン, スコット エム.
(72)【発明者】
【氏名】カヴェニー, ウェブスター ケー.
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA23
4C084MA35
4C084MA37
4C084MA52
4C084MA55
4C084MA56
4C084MA58
4C084MA59
4C084MA60
4C084MA63
4C084MA65
4C084MA66
4C084NA05
4C084ZB092
4C084ZB261
4C084ZB262
4C085AA13
4C085AA14
4C085CC22
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
(57)【要約】
本開示は、本明細書で同定された目的の遺伝子型の同一性の決定に少なくとも部分的に基づく診断、予後および治療の方法をさらに提供する。したがって、1つの態様において、本開示は、がんの処置を必要とする対象においてがんを処置するための方法を提供し、前記方法は、前記がん細胞を含む前記患者から単離された試料が9p腕欠損を示さない場合、PD-1/PD-L1を中心とした免疫療法を前記対象に投与することを含むか、またはそれから本質的になるか、またはさらにそれからなる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんの処置を必要とする対象においてがんを処置するための方法であって、前記がん細胞を有する患者から単離された試料が9p腕欠損を示さない場合、PD-1/PD-L1を中心とした免疫療法を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項2】
がんの処置を必要とする対象においてがんを処置するための方法であって、前記がん細胞を有する患者から単離された試料が9p腕欠損を示す場合、PD-1/PD-L1を中心とした前記対象に対する免疫療法を含まない治療を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項3】
がんの処置を必要とする対象においてがんを処置するための方法であって、
i)前記対象からのがん細胞における9p腕欠損を測定すること、
ii)9p腕欠損の程度を決定すること、および
iii)9p腕欠損の程度が有意な9p腕欠損を示さない場合、PD-1/PD-L1を中心とした免疫療法を投与すること、
を含む、方法。
【請求項4】
ステップii)が、9p21.3欠損を評価することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記がんが、HPV-HNSCである、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記がんが、HPV-HNSCであり、9p21.3欠損が、免疫コールド腫瘍微小環境(TME)シグナルに関連している、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
9p21.3欠損が、腕長の70%以上の欠損として測定される9p腕全体の欠損を含む、請求項1、3または4のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
IFN-γ誘導性CXCL9/10発現の抑制を評価することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記患者から単離された試料中のCD8+レベルを評価することをさらに含み、免疫コールドTMEシグナルが、低いCD8+レベルによって示される、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
変異TP53を評価することをさらに含む、請求項4~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
細胞固有の老化関連分泌経路(SASP)の抑制を評価することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
9p21.3欠損が、1またはそれを超える以下の遺伝子:MLLT3、ELAVL2またはKLHL9の欠失を評価することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項13】
ステップii)が、9p22.1欠損を評価することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項14】
9p22.1欠損が、1またはそれを超える以下の遺伝子:RPS6、DENND4C、RRAGA、またはHAUS6の欠失を評価することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ステップii)が、9p22.2欠損を評価することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項16】
9p22.2欠損が、CNTLN遺伝子の欠失を評価することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ステップii)が、9p22.3欠損を評価することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項18】
9p22.3欠損が、1またはそれを超える以下の遺伝子:TTC39B、PSIP1、SNAPC3またはZDHHC21の欠失を評価することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
ステップii)が、9p23欠損を評価することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項20】
9p23欠損が、NFIB遺伝子の欠失を評価することを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ステップii)が、9p24.1欠損を評価することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項22】
9p24.1欠損が、1またはそれを超える以下の遺伝子:KIAA2026、ERMP1、AK3、KDM4C、RANBP6、IL33、UHRF2、CDC37L1、RCL1、RLN2またはINSL6の欠失を評価することを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
9p24.1欠損、9p欠損および/またはJAK2-CD274共欠失の存在が、免疫チェックポイント治療(ICT)抵抗性を選択的に予測し、共欠失が、両JAK2を含み、CD274遺伝子が、欠損または欠失している、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
ステップii)が、9p24.2欠損を評価することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項25】
9p24.2欠損が、1またはそれを超える以下の遺伝子:RFX3、SLC1A1またはVLDLRの欠失を評価することを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
ステップii)が、9p24.3欠損を評価することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項27】
9p24.3欠損が、1またはそれを超える以下の遺伝子:SMARCA2、CBWD1またはKANK1の欠失を評価することを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
ステップii)が、9p13.1欠損を評価することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項29】
9p13.1欠損が、1またはそれを超える以下の遺伝子:CNTNAP3およびZNF658の欠失を評価することを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
ステップii)が、9p13.2欠損を評価することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項31】
9p13.2欠損が、欠失または1またはそれを超える以下の遺伝子:ZBTB5、GRHPR、RNF38、FBXO10、DCAF10、ZCCHC7、EXOSC3、TOMM5、POLR1E、MELKまたはSHBを評価することを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
ステップii)が、9p13.3欠損を評価することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項33】
9p13.3が、1またはそれを超える以下の遺伝子:NOL6、NFX1、BAG1、CHMP5、UBE2R2、UBAP2、UBAP1、DCAF12、UNC13B、CCDC107、PIGO、STOML2、VCP、TESK1、FANCG、DNAJB5、C9orf131、TLN1、GBA2、CREB3、CA9、RGP1、DCTN3、GALT、IL11RA、SIGMAR1、NUDT2、HINT2またはKIF24の欠失を評価することを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
9p腕欠損が、SASP、サイトカイン-サイトカイン受容体相互作用、JAK-STATシグナル伝達、およびNFkBを介したTNFAシグナル伝達を測定することによって評価される、請求項3に記載の方法。
【請求項35】
SASP、サイトカイン-サイトカイン受容体相互作用、JAK-STATシグナル伝達、またはNFkBを介したTNFAシグナル伝達の減少を評価することをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項36】
9p腕欠損が、ケモカインCXCL9およびCXCL10の減少を測定することによって評価される、請求項3に記載の方法。
【請求項37】
PD-L1遺伝子欠失および/またはPD-L1発現を測定することをさらに含む、請求項3~36のいずれかに記載の方法。
【請求項38】
ステップiii)においてPD-1/PD-L1を中心とした免疫療法を投与することが、PD-1免疫チェックポイント阻害剤、第一選択の抗PD-1チェックポイント治療または第二選択の抗PD-1チェックポイント治療のうちの1またはそれを超えるものを前記対象に投与することを含む、請求項3~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
ステップiii)においてPD-1/PD-L1を中心とした免疫療法を投与することが、ペムブロリズマブまたはニボルマブを前記対象に投与することを含む、請求項3~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
ステップiii)においてPD-1/PD-L1を中心とした免疫療法を投与することが、ペムブロリズマブおよびセツキシマブを前記対象に投与することを含む、請求項3~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
iv)9p腕欠損の程度が、有意な9p腕欠損を示す場合、PD-1/PD-L1を中心とした免疫療法を含まない代替処置を前記対象に投与することをさらに含む、請求項3~40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
ステップiv)においてPD-1/PD-L1を中心とした免疫療法を含まない代替処置を前記対象に投与することが、標準化学療法またはセツキシマブを前記対象に投与することを含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記がんが、固形腫瘍を含む、請求項1~42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
前記がんが、黒色腫、食道がん、非小細胞肺がん [肺腺癌および肺扁平上皮癌の両方]、膵臓がん、胃[胃]がんまたは膀胱がんから選択される、請求項1~4または7~42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記がんが、頭頸部がんまたは口腔がんを含む、請求項1~4または7~42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
前記がんが、黒色腫を含む、請求項1~4または7~42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
がんの処置を必要とする対象においてがんを処置するための方法であって、
前記対象由来のがん細胞におけるJAK2およびPD-L1の遺伝子欠失を測定することを含み、
JAK2およびPD-L1の遺伝子研究が、JAK2およびPD-L1の共欠失を示さない場合、前記対象が、PD-1/PD-L1を中心とした免疫療法を投与され、
JAK2およびPD-L1のゲノム評価が、JAK2およびPD-L1の共欠失を示す場合、前記対象が、PD-1/PD-L1を中心とした免疫療法を投与されず、代替処置が、前記対象に投与される、方法。
【請求項48】
対象におけるがんの成長または進行を阻害する方法であって、
i)前記対象からの前がん細胞における9p腕および9p21の欠損を測定すること、
ii)9p腕欠損の程度を決定すること、および
iii)9p腕欠損の程度が、有意な9p腕欠損を示す場合、PD-1/PD-L1を中心とした免疫療法を含まない処置を前記対象に投与すること
を含む、方法。
【請求項49】
がんを有する対象が、免疫療法による処置に応答するかどうかを予測または決定するための方法であって、
i)前記対象からのがん細胞における9p腕欠損を測定すること、
ii)9p腕欠損の程度を決定すること、および
iii)9p腕欠損の程度が、有意な9p腕欠損を示さない場合、前記対象がPD-1/PD-L1を中心とした免疫療法の投与に応答すると決定すること
を含む、方法。
【請求項50】
がんの一種が、免疫療法による処置に応答するかどうかを予測または決定するための方法であって、
i)対象からのがん細胞における9p腕欠損を測定すること、
ii)9p腕欠損の程度を決定すること、および
iii)9p腕欠損の程度が、有意な9p腕欠損を示さない場合、がんの前記種類が、PD-1/PD-L1を中心とした免疫療法の投与に応答すると決定すること
を含む、方法。
【請求項51】
前記がんが、腎がんではないことを条件とする、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、35 U.S.C.§119(e)の下で、2021年2月5日に出願された米国仮出願第63/146,191号および2021年4月24日に出願された米国仮出願第63/179,215号の利益を主張するものであり、これらの各々の内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
政府支援の陳述
【0002】
本発明は、国立衛生研究所によって授与されたCA196408、TR001881、CA106451、CA097007、DE 026644、CA023100、CA212621、およびCA248631の下で政府の支援を受けてなされた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
背景
がんに対する素因および腫瘍性形質転換の遺伝的根拠は、次第に十分説明されるようになっている。しかしながら、どの程度早期に前がん細胞およびがん細胞がこれらの遺伝子変化を利用して悪性疾患の特徴的なフィーチャおよび特性(1)を獲得するかは明らかではない。例えば、免疫ランドスケープの研究は、再発性転移性頭頸部扁平上皮癌(HNSC)治療のためのプログラム死-1(PD-1)阻害剤のブレークスルー試験につながった(2-4)。これは、進行がんにおける20%未満の依然として最適以下の全奏効率にもかかわらず、これらの腫瘍における免疫モジュレーションの重要性を強調している。腫瘍内の免疫応答は、肺腺癌前駆体で最近示されたように、最も初期の腫瘍形成期で最も強いことが報告されている(5)。したがって、例えばHNSCなどのがんの高い世界的負担を軽減するための新しい免疫ベースの戦略を開発することができる(6~8)。本開示は、この必要性を満たし、関連する利点も提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
開示の概要
出願人は、体細胞コピー数の変化(SCNA)が、HPV陰性頭頸部がん(HNSC)発症中などのがんにおける免疫のホットからコールドへの微小環境の切り替えに寄与することを本明細書で報告する。大規模な前向き口腔前がん患者コホート、3つのHNSC患者コホートおよび32の細胞株において、特異的および非特異的なSCNAレベルを調べた。悪性転移のゲノムドライバーである前駆体病変における9p21欠損(loss)は、累積的な9p腕遺伝子量の減少、細胞固有の老化抑制、3つの他の免疫原性促進経路における減少および免疫調節性分子の不均衡によって増強された。さらに、9p腕欠損およびJAK2-PD-L1共欠失(co-deletion)(9p24)は、PD-1阻害剤抵抗性と関連していた。これらのデータは、免疫パラドックスを解決し、異数体チェックポイントを明らかにし、HNSCおよび場合によっては他の腫瘍または異数体疾患のための明確な遮断および治療戦略を推進する。
【0005】
したがって、1つの態様において、本開示は、がんの処置を必要とする対象においてがんを処置するための方法を提供し、前記方法は、前記がん細胞を含む前記患者から単離された試料が9p腕欠損を示さない場合、PD-1/PD-L1を中心とした免疫療法を前記対象に投与することを含むか、またはそれから本質的になるか、またはさらにそれからなる。がんの処置を必要とする対象においてがんを処置するための方法も提供され、前記方法は、前記がん細胞を含む前記患者から単離された試料が9p腕欠損を示す場合、PD-1/PD-L1を中心とした前記対象に対する免疫療法を含まない治療を対象に投与することを含むか、あるいはそれから本質的になるか、またはさらにそれからなる。
【0006】
がんの処置を必要とする対象においてがんを処置するための方法も提供され、前記方法は、対象由来のがん細胞におけるJAK2およびPD-L1の遺伝子欠失を測定することを含むか、あるいはそれから本質的になるか、またはさらにそれからなり、JAK2およびPD-L1の遺伝子研究が、JAK2およびPD-L1の共欠失を示さない場合、対象は、PD-1/PD-L1を中心とした免疫療法を投与され、JAK2およびPD-L1のゲノム評価が、JAK2およびPD-L1の共欠失を示す場合、対象は、PD-1/PD-L1を中心とした免疫療法を投与されず、代替処置が、対象に投与される。
【0007】
対象におけるがんの成長または進行を阻害する方法がさらに提供され、i)対象からの前がん細胞における9p腕および9p21の欠損を測定すること、ii)9p腕欠損の程度を決定すること、およびiii)9p腕欠損の程度が、有意な9p腕欠損を示す場合、PD-1/PD-L1を中心とした免疫療法を含まない処置を対象に投与することを含むか、あるいはそれから本質的になるか、またはさらにそれからなる。
【0008】
あるいは、がんの処置を必要とする対象においてがんを処置するための一実施形態が提供され、前記方法は、i)前記対象からのがん細胞における9p腕欠損を測定すること、ii)9p腕欠損の程度を決定すること、およびiii)9p腕欠損の程度が有意な9p腕欠損を示さない場合、PD-1/PD-L1を中心とした免疫療法を投与することを含むか、あるいはそれから本質的になるか、またはさらにそれからなる。
【0009】
一態様では、がんを有する対象が、免疫療法による処置に応答するかどうかを予測または決定するための方法が提供され、前記方法は、i)対象からのがん細胞における9p腕欠損を測定すること、ii)9p腕欠損の程度を決定すること、および
iii)9p腕欠損の程度が、有意な9p腕欠損を示さない場合、対象がPD-1/PD-L1を中心とした免疫療法の投与に応答すると決定することを含むか、またはそれから本質的になるか、またはさらにそれからなる。
【0010】
開示方法を実施するためのキットも提供され、キットは、方法を実施するための指示、および必要に応じて、方法を実施するための指示を含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】前がんSCNAおよび免疫細胞浸潤の関連:(
図1A)対数変換データに対する線形混合効果モデルを使用して、各共変量について2つの群を比較するための3p14、9p21.3および17p13.1欠損およびp値によるCD3+およびCD8+細胞の分布。(
図1B)対数変換データに対する線形混合効果モデルを使用して、各共変量について2つの群を比較するための3p14、9p21、17p13.1およびp値の任意欠損によるCD3+、CD8+およびCD68+細胞の分布。(
図1C~
図1E)分布の上下35%に基づいて二分されたCD3+、CD8+およびCD68+細胞の多変量ロジスティック回帰モデルからの推定値の係数(標準誤差)およびp値。各モデルは、独立変数として3p14、9p21.3または17p13.1欠損およびSCNAレベルを含む。正の係数は、SCNA事象を有する患者が、前記事象を有しない患者よりも高いCD3+、CD8+およびCD68+細胞レベルを有する可能性が高いことを示す。分布の上下35%に加えて、中央値に基づいてパラメータを二分することによって所見を確認した。
【0012】
【
図2】
図2A~2D:HPV陰性HNSC SCNAおよび免疫細胞浸潤の関連:(
図2A)9p21.3、3p14または17p13.1でのCN欠損(腕または局所)を伴うCD3(CD3D遺伝子)およびCD8(CD8A遺伝子)の発現レベル間の関係。p値はウィルコクソン検定からのものである。(
図2B)CD3+およびCD8+細胞レベルの予測のための多変量ロジスティック回帰モデル。変数重要度(サイズ効果)も示されている。(
図2C)CD68+細胞の予測のための多変量ロジスティック回帰モデル。(
図2D)(
図2B)と同様な多変量ロジスティック回帰であるが、9p(腕)欠損、9p21.3(局所)欠損、および9p21.3(腕および局所)欠損を別々の変数として検討する。
【0013】
【
図3】HPV陰性HNSC細胞株での9pまたは9p21.3欠損との関係における、SASP、JAK/STAT、サイトカイン受容体、NFKB経路を介したTNFAシグナル伝達:(
図3A)9p欠損を伴うおよび伴わない株を比較する、HPV陰性HNSC細胞株のGSEA分析からの経路枯渇。GSEAプロット、NES(正規化エンリッチメントスコア)、p値およびFDRを、NFKB経路を介したSASP、JAK/STAT、サイトカイン-サイトカイン受容体およびTNFAシグナル伝達について示す。(
図3B~
図3E)SASP(
図3B)、JAK/STAT(
図3C)、サイトカイン-サイトカイン受容体経路(
図3D)およびNFkBを介したTNFAシグナル伝達(
図3E)の遺伝子発現(ssGSEA分析)と9p腕または9p21.3欠損との関係。p値はウィルコクソン検定からのものである。
【0014】
【
図4】ICB(
図4A)および(
図4B)非ICB処理HPV陰性HNSCにおける染色体9p欠損;ICB処置患者における限局性9p21欠損(
図4C)。
【0015】
【
図5-1】
図5A~5B:口腔前がんからがんへの移行の免疫ホットからコールドへの異数性スイッチモデル:(
図5A)前がんにおいて、免疫ホット病変の優勢なCN推進要因は、染色体増加(トリソミー、テトラソミー)および9p21欠損(右)であった。SCNAの免疫原性前がんは、前がんからがんへの移行中に免疫回避(CD3/CD8+T細胞枯渇)(左)をもたらす異数体チェックポイントまたはバリア(中央)を克服するために、他のゲノム変化を獲得しなければならない(
図5B参照)。複雑な核型および他の重要な関連ゲノム事象、特にTP53変異または欠損(ヒト腫瘍における異数性に関連する)を有する腫瘍(21)または下流経路の不活性化(69)は、SASP、cGAS-STING、または異数体細胞によって引き起こされる他の細胞固有の応答(中央、異数体チェックポイントの右)を遮蔽し、腫瘍形成中のこれらの免疫調節経路の明白な相反する役割を明らかにすることができた(以下を参照されたい。(
図5B)染色体9p21の早期欠損およびHPV陰性の頭頸部腫瘍形成の後期における欠失サイズの増大または拡大を伴う異数性スイッチの可能な遺伝的機構。右上、がんの欠失サイズの増加;右中央、隣接する調節または協働遺伝子欠失を包含する9p腕欠損の拡大。関与する遺伝子は、欠失拡大が9p21に制限されるかどうか(およびCDKN2Aを含むかどうか)、テロメアであるかどうか(この図では、9p24にJAK2を含み得るかどうか)、セントロメアであるかどうか(および9p13におけるSASP関連サイトカイン-サイトカイン経路遺伝子を含み得るかどうか(データは示さず)、および/または9p21欠損とがんゲノムの他の場所での事象(この例では、17p13のTP53遺伝子の不活性化変異)との間のエピスタシス相互作用を含むことによって表現型重症度を悪化させる合成生理学的効果を生じるかどうかに依存する(55、56)。理論に拘束されるものではないが、異数性疾患は、主要なドライバー遺伝子と、多数の相互作用するCN変化遺伝子の複合和効果との複雑な相互作用を反映し得る(47)。後者の状況では、変化した染色体にコードされる遺伝子の数は、SCNA表現型の重症度に正比例する。染色体欠損領域を濃青色で示し、隣接する黒実線で示している。変異は赤色 の「X」で示されている。
【0016】
【
図6】前向き口腔前がんコホートにおけるがんリスクの予測因子:(
図6A)SCNAによる口腔がん無発症生存率(OCFS)のカプラン・マイヤー曲線(9p21.3、3p14または17p13.1の欠損、染色体欠損なし)。(
図6B)SCNAと組織学的状態(異形成および9p21.3欠損対他)の組み合わせによるOCFSのカプラン・マイヤー曲線。(
図6C)生存予測のための多変量コックス比例ハザードモデル(OCFS)。
【0017】
【
図7】HNSCにおけるCD3+(CD3D)、CD8+(CD8A)またはCD68の発現およびIS。
【0018】
【
図8】
図8A~8C:HNSCにおけるCD3+、CD8+、GZMB/IFNgもしくはISとのSCNA関連:CD3+、CD8+およびGZMB/IFNg(2つの遺伝子の平均発現)または9p21.3、3p14もしくは17p13での何らかの欠損(腕もしくは局所)の存在を伴うIS関連(
図8A)、SCNAレベル(
図8B)またはchr7増加(
図8C)。
【0019】
【
図9】HNSCにおけるSCNAレベルに関連する3p14、9p21.3または17p.13.1の欠損(腕または局所):(
図9A)3p14欠損を伴うおよび伴わない(腕または局所)試料間における腕の欠損数(欠損_腕)、増加(増加_腕)およびSCNAレベル(欠損_腕+増加_腕、cnv_腕)の関係。(
図9B)9p21.3欠損を伴うおよび伴わない腕の欠損、増加およびSCNAレベルの関連。(
図9C)17p13.1欠損を伴うまたは伴わない、腕の欠損、増加およびSCNAレベルの関連。(
図9D))3つの部位(3p14、9p21.3または17p13.1)のいずれかで欠損(腕または局所)を伴うまたは伴わない腕の欠損、増加およびSCNAレベルの関連(p値はウィルコクソン検定からのものである。
【0020】
【
図10】HNSCにおける腕9pでの欠損の割合(サイトバンド領域に基づく):代表的な遺伝子を示した。
【0021】
【
図11】HNSCステージおよびTP53状態と染色体-9p欠損およびCD8+T細胞の関連:HPV陰性ステージIまたはステージIIのHNSC組織試料における腫瘍ステージおよびTP53変異状態(
図11Cおよび
図11D)との関係における、CD8+T細胞レベルと9p欠損(
図11A)および9p21.3欠損(
図11B)との関連。
【0022】
【
図12】
図12A~12D:異なるHNSC腫瘍ステージに対するSCNAレベル:(
図12A)腫瘍ステージに関するSCNAレベルおよびCD8+T細胞。(
図12B)腫瘍ステージに関するSCNAレベルおよびCD3+T細胞。(
図12C)腫瘍ステージに関するSCNAレベルおよびCD8 T細胞(CIBERSORTによる)。(
図12D)腫瘍ステージに関するSCNAレベルおよびNK細胞(CIBERSORTによる)。
【0023】
【
図13】HNSCステージおよびTP53と染色体9p欠損およびCD3+T細胞との関連:HPV陰性HNSC組織試料における腫瘍ステージおよびTP53変異状態(
図13Cおよび
図13D)との関係における、CD3+T細胞レベルと9p欠損(
図13A)および9p21.3欠損(
図13B)との関連。後者はステージIおよびステージIIの試料に焦点を当てた。
【0024】
【
図14-1】HPV陰性HNSC腫瘍で9pまたは9p21.3の欠損との関係におけるSASP、JAK/STATおよびサイトカイン受容体ならびにNFkB経路を介したTNFAシグナル伝達:(
図14A)9p欠損を伴うおよび伴わない試料を比較する、HPV陰性HNSC腫瘍のGSEA分析からの経路枯渇。GSEAプロット、NES(正規化エンリッチメントスコア)、p値およびFDR。(
図14B~14E)SASP(
図14B)、JAK/STAT(
図14C)、サイトカイン-サイトカイン受容体経路(
図14D)およびNFkBを介したTNFAシグナル伝達(
図14E)の遺伝子発現と、HNSC腫瘍における9p腕欠損、9p21.3欠損、または9p21.3「限局性」欠損との関係。p値はウィルコクソン検定によるものである。
【0025】
【
図15】
図15A~15D:9pまたは9p21.3欠損を伴うまたは伴わない、HPV陰性細胞株または腫瘍におけるIFNA遺伝子セットのエンリッチメント:(
図15A~
図15D)HPV陰性細胞株(
図15A、
図15B)または腫瘍(
図15C、
図15D)におけるIFNα遺伝子セットのエンリッチメント(ssGSEAによる)と9p腕または9p21.3欠損との関係。p値はウィルコクソン検定によるものである。
【0026】
【
図16】9p欠損を伴うまたは伴わない腫瘍または細胞株において差次的に発現される代表的な遺伝子:9p腕レベルを伴うまたは伴わないHPV陰性細胞株または腫瘍を比較した、示された遺伝子の発現レベル間の関係。p値はウィルコクソン検定によるものである。
【0027】
【
図17】リアル-ワールドエビデンス(RWE)コホートのコンソートダイアグラム:次世代配列決定プラットフォームを使用して腫瘍をプロファイリングしたニボルマブまたはペムブロリズマブ(または化学療法)で処置したHPV陰性HNSC患者のコホート。
【発明を実施するための形態】
【0028】
詳細な説明
定義
本開示を通して、様々な刊行物、特許および公開された特許明細書は、特定の引用によって、またはアラビア数字によって参照され、その完全な引用は特許請求の範囲の直前に見出される。これらの刊行物、特許および公開された特許明細書の開示は、本開示が関係する最新技術をより完全に説明するために、参照により本開示に組み込まれる。
【0029】
本明細書で使用される場合、特定の用語は、以下の定義された意味を有し得る。本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、単数形の「a」、「an」および「the」は、文脈から明らかに他を指示しない限り、単数および複数の参照を含む。例えば、「細胞(a cell)」という用語は、単一の細胞ならびにそれらの混合物を含む複数の細胞を含む。
【0030】
範囲を含むすべての数値表記(例えば、pH、温度、時間、濃度および分子量)は、1、5または10%の増分で変化する(+)または(-)近似値である。常に明示的に述べられているわけではないが、すべての数値表記の前に「約」という用語があることを理解されたい。また、常に明示的に述べられているわけではないが、本明細書に記載される試薬は単なる例示であり、そのような試薬の均等物は、当技術分野で公知であることも理解されるべきである。
【0031】
本明細書で使用される場合、「含むこと(comprising)」という用語は、方法が列挙された要素を含むが、他の要素を除外しないことを意味する意図がある。「から本質的になる」とは、方法を定義するために使用される場合、方法にとっていずれか本質的に重要な他の要素を除外することを意味するものとする。「からなる」とは、特許請求される組成物および実質的な方法ステップについて、他の成分の微量元素を超えるものを除外することを意味するものとする。これらの移行用語のそれぞれによって定義される実施形態は、本開示の範囲内である。したがって、本方法は、追加のステップおよび構成要素を含むことができ(含む)、あるいは有意でないステップを含むことができ(から本質的になる)、あるいは記載された方法ステップのみを意図する(からなる)ことが意図される。
【0032】
「対象」、「宿主」、「個体」および「患者」という用語は、本明細書で、動物、典型的には哺乳動物を指すために同義で使用される。任意の適切な哺乳動物を、本明細書に記載の方法によって処置することができる。哺乳動物の非限定的な例としては、ヒト、非ヒト霊長類(例えば、類人猿、テナガザル、チンパンジー、オランウータン、サル、マカクなど)、飼育動物(例えば、イヌおよびネコ)、農場動物(例えば、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ)および実験動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、モルモット)が挙げられる。いくつかの実施形態では、哺乳動物はヒトである。哺乳動物は、任意の年齢または任意の発達段階(例えば、成人、十代、小児、乳児、または子宮内の哺乳動物)であり得る。哺乳動物は、雄または雌であり得る。一部の実施形態では、対象はヒトである。いくつかの実施形態では、対象は、がんを有するか、またはがんを有すると診断されるか、またはがんを有すると疑われる。
【0033】
本明細書で使用される場合、「対象から単離された試料」または「試験試料」という用語は、核酸を含有する任意の液体または固体の材料を指す。適切な実施形態では、試験試料は、生物源(すなわち、「生物学的試料」)、例えば培養細胞または動物、好ましくはヒト由来の組織試料から得られる。いくつかの実施形態では、生物学的試料は、血液、血清、血漿、咽喉スワブ、鼻腔スワブ、鼻咽頭洗浄液、唾液、尿、胃液、脳脊髄液、涙、便、粘液、汗、耳垢、油、腺分泌物、精液、膣液、腫瘍性組織に由来する間質液、眼液、呼気、毛髪、指の爪、皮膚、生検組織、胎盤液、羊水、臍帯液、リンパ液、空洞液、痰、膿、微生物叢、胎便、母乳、および他の分泌物または排泄物から選択される試料を含む。特定の実施形態では、試料は生検試料である。
【0034】
「決定すること」または「同定すること」という用語は、治療に対する同じまたは類似の臨床応答を経験する可能性がある患者の群または集団に患者を密接に関連付けるまたは帰することである。
【0035】
本明細書で使用される場合、Xでの「ゲノム領域の欠失または欠損」という用語は、log2FC(log2倍率変化、ここで倍率変化とは、ゲノム領域のコピー数とゲノムのその他の部分のコピー数との比である)について-0.15~-0.3のカットオフを使用して、ゲノム領域のゲノム(DNA)コピー数欠損の存在としての9p、任意の9pサイトバンド(例えば9p21、9p22、9p13)または遺伝子(例えば、MLLT3、ELAVL2、KLH9)を指す。例えば、9pのコピー数が1であり、ゲノムのその他の部分のコピー数が2である場合、log2FCは-1であり、9pは欠損していると考えられる(方法:PMID:33952700も参照のこと)。
【0036】
本明細書で使用される場合、「遺伝子レベルの減少または抑制」という用語は、正常なレベルまたは健康なレベルと比較して、以下の方法を使用して評価される(RNA配列決定によって測定される)遺伝子のRNAレベルにおける有意な減少の存在を意図する。一態様では、これは、試料を、2つの群、例えば9p欠損および9p非欠損に分割することによって決定することができる。DESeq2(https://bioconductor.org/packages/release/bioc/vignettes/DESeq2/inst/doc/DESeq2.html)または互換プログラムを使用して、2群の試料を比較する遺伝子レベルの差次的発現を検出する。p値の導出は、ベンジャミンとホッホベルグまたはFDRの同等の方法によって調整される。一態様では、有意に差次的に発現される遺伝子を検討するために、0.05 p値または0.1 FDRのカットオフが使用される。PD-L1タンパク質レベルの場合、抗体22C3または抗体28-8を用いた免疫組織化学によって測定される(方法:PMID:33952700も参照のこと)。
【0037】
本明細書で使用される場合、「経路レベルの減少または抑制」という用語は、遺伝子セットエンリッチメント分析(https://www.gsea-msigdb.org/gsea/index.jsp)と呼ばれる方法または同等の方法に基づいて(RNA配列決定によって測定される)経路に関与する遺伝子の平均RNAレベルの有意な減少の存在を意図する。「遺伝子レベルの減少」のために上記で開示された方法を使用して、以下のスコアを入力として使用してGSEAを実施した後、実行する:サイン(sign)(log2倍率変化)*-log10(調整されたp値)、式中、各遺伝子のlog2FCおよびp値は、DESeq2出力から得られる。一態様では、有意に差次的に発現される経路を検討するために、0.05p-値または0.1 FDRのカットオフが使用される(方法:PMID:33952700も参照のこと)。
【0038】
治療のために患者を「選択する」という用語は、選択された患者が治療に適しているという指示を行うことを指す。そのような指示は、例えば、対応する処方または推奨を行う手書きの処方箋または電子化された報告によって書面で行うことができる。
【0039】
「同じがんを有する」とは、ある患者を別の患者と比較する場合、あるいは、ある患者集団を別の患者集団と比較する場合に使用される。例えば、2人の患者または患者集団はそれぞれ結腸がんを有するか、または結腸がんに罹患している。
【0040】
「腫瘍組織型に対応する正常細胞」とは、腫瘍組織と同じ組織型に由来する正常細胞を指す。非限定的な例は、肺腫瘍を有する患者に由来する正常な肺細胞、または結腸腫瘍を有する患者に由来する正常な結腸細胞である。
【0041】
本明細書で使用される「検出すること、測定することまたは評価すること」とは、試料中の目的の核酸もしくは遺伝子の存在または試料中の目的のタンパク質の存在を決定することを指す。検出は、100%の感度および/または100%の特異性を提供する方法を必要としない。
【0042】
本明細書で使用される「検出可能な標識」とは、目的の核酸またはタンパク質を同定するために使用される分子または化合物または分子群または化合物群を指す。場合によっては、検出可能な標識を直接検出することができる。他の場合において、検出可能な標識は、その後に検出され得る結合対の一部であり得る。検出可能な標識からのシグナルは、様々な手段によって検出することができ、検出可能な標識の性質に依存する。検出可能な標識は、同位体、蛍光部分、着色物質などであり得る。検出可能な標識を検出する手段の例としては、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、電磁的、放射化学的、または蛍光、化学蛍光もしくは化学発光などの化学的手段、または任意の他の適切な手段が挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
「オリゴヌクレオチド」または「ポリヌクレオチド」または「部分」または「セグメント」という用語は、mRNAまたはDNA分子の同一または関連部分を同定または増幅するためのPCRまたは様々なハイブリダイゼーション手順で使用するのに十分な長さの一続きのポリヌクレオチド残基を指す。本発明のポリヌクレオチド組成物は、RNA、cDNA、ゲノムDNA、合成形態、および混合ポリマー(センス鎖およびアンチセンス鎖の両方)を含み、当業者によって容易に理解されるように、化学的もしくは生化学的に修飾されていてもよく、または非天然もしくは誘導体化のヌクレオチド塩基を含有していてもよい。そのような修飾としては、例えば、標識、メチル化、天然に存在するヌクレオチドの1またはそれを超えるものの類似体での置換、ヌクレオチド間修飾、例えば、非荷電結合(例えば、メチルホスホナート、ホスホトリエステル、ホスホアミダート、カルバマートなど)、荷電結合(例えば、ホスホロチオアート、ホスホロジチオアートなど)、ペンダント部分(例えば、ポリペプチド)、インターカレーター(例えば、アクリジン、ソラレンなど)、キレート剤、アルキル化剤および修飾結合(例えば、アルファアノマー核酸など)が挙げられる。水素結合および他の化学的相互作用を介して指定配列に結合する能力においてポリヌクレオチドを模倣する合成分子も含まれる。そのような分子は当技術分野で公知であり、例えば、ペプチド結合が分子の骨格中のホスホナート結合を置換するものが挙げられる。
【0044】
本明細書に記載される処置のための患者を選択するための根拠として、遺伝子マーカー、例えばSCNAが使用される場合、遺伝子マーカーは、処置前および/または処置中に測定され、得られた値は、以下のいずれかを評価する際に臨床医によって使用される:(a)最初に、処置(複数可)を受ける個体のほぼ確実なもしくは可能性のある適合性、(b)最初に、処置(複数可)を受ける個体のほぼ確実なもしくは可能性のある不適合性、(c)処置に対する応答性、(d)処置(複数可)を受け続ける個体のほぼ確実なもしくは可能性のある適合性、(e)処置(複数可)を受け続ける個体のほぼ確実なもしくは可能性のある不適合性、(f)投与量の調整、(g)臨床的有用性の尤度の予測、または(h)毒性。当業者によって十分に理解されるように、臨床現場における遺伝子マーカーの測定は、このパラメータが本明細書に記載される処置の投与を開始すること、継続すること、調整することおよび/または中止することのための根拠として使用されたことの明確な指標である。
【0045】
がん、病期分類および種類
【0046】
特定の実施形態では、「疾患」、「障害」および「状態(condition)」という用語は、本明細書では同義で使用され、前がんあるいはがん、がんと診断されている状態(status)、またはがんを有する疑いがある状態を指す。本明細書で「腫瘍」とも呼ばれる「がん」は、良性または悪性の身体の一部における異常細胞の無制御な分裂として医学的に知られている。悪性新生物の非限定的な例としては、調節されていない細胞分裂および成長、ならびに身体の近くの部分への浸潤を伴う広範な疾患群が挙げられる。がんの非限定的な例としては、癌、肉腫、白血病およびリンパ腫、例えば結腸がん、結腸直腸がん、直腸がん、胃がん、黒色腫、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、食道がん、頭頸部がん、HPV陰性頭頸部がん、乳がん、脳がん、肺がん、胃がん、肝臓がん、胆嚢がん、または膵臓がんが挙げられる。一実施形態では、「がん」という用語は、通常は嚢胞または液体領域を含まない異常な組織塊である固形腫瘍を指し、限定するものではないが、肉腫、癌、および特定のリンパ腫(非ホジキンリンパ腫など)を含む。別の実施形態では、「がん」という用語は、体液(例えば、血液および骨髄)に存在するがん、例えば白血病(血液のがん)および特定のリンパ腫を指す。態様では、がんまたは前がんは腎がんではない。
【0047】
追加的または代替的に、がんは、局所がん(がんが発生した器官または組織に完全に限局された浸潤性悪性がんである)、転移性がん(その起源部位から身体の別の部分に広がるがんを指す)、非転移性がん、原発性がん(対象が経験する最初のがんを説明するために使用される用語)、二次がん(原発性がんからの転移または最初のがんとは無関係の第2のがんを指す)、進行がん、切除不能がん、または再発性がんを指し得る。態様では、がんまたは前がんは腎がんではない。
【0048】
前がん細胞または腫瘍は、がん化するリスクが高い異常細胞を含む細胞または組織である。
【0049】
病期分類は、腫瘍の大きさおよびがんが広がっているかどうかなど、がんに関する詳細を決定するプロセスである。典型的には、ステージは処置の決定を導く。ステージIとは、がんが発生した組織に局在することを意味する。ステージIIおよびステージIIIとは、がんがより大きくなり、近くの組織またはリンパ節へと成長していることを意味する。ステージIVとは、がん細胞が、がんが発生した器官から他の器官に見出されることを示す。
【0050】
特定の実施形態では、「疾患」、「障害」および「状態」という用語は、本明細書では同義で使用され、がん、がんと診断されている状態、またはがんを有する疑いがある状態を指す。本明細書で「腫瘍」とも呼ばれる「がん」は、良性または悪性の身体の一部における異常細胞の無制御な分裂として医学的に知られている。一実施形態では、がんとは、悪性新生物、調節されていない細胞分裂および成長、ならびに身体の近くの部分への浸潤を伴う広範な疾患群を指す。がんの非限定的な例としては、癌、肉腫、白血病およびリンパ腫、例えば頭頸部がん、黒色腫、結腸がん、結腸直腸がん、直腸がん、胃がん、食道がん、頭頸部がん、乳がん、脳がん、肺がん、胃がん、肝臓がん、胆嚢がん、または膵臓がんが挙げられる。一実施形態では、「がん」という用語は、通常は嚢胞または液体領域を含まない異常な組織塊である固形腫瘍を指し、限定するものではないが、肉腫、癌、および特定のリンパ腫(非ホジキンリンパ腫など)を含む。別の実施形態では、「がん」という用語は、体液(例えば、血液および骨髄)に存在するがん、例えば白血病(血液のがん)および特定のリンパ腫を指す。態様では、がんまたは前がんは腎がんではない。
【0051】
追加的または代替的に、がんは、局所がん(がんが発生した器官または組織に完全に限局された浸潤性悪性がんである)、転移性がん(その起源部位から身体の別の部分に広がるがんを指す)、非転移性がん、原発性がん(対象が経験する最初のがんを説明するために使用される用語)、二次がん(原発性がんからの転移または最初のがんとは無関係の第2のがんを指す)、進行がん、切除不能がん、または再発性がんを指し得る。本明細書で使用される場合、進行がんとは、第一選択治療、第二選択治療、または第三選択治療のうちの1またはそれを超える治療を受けた後に進行したがんを指す。
【0052】
頭頸部がん(HNC)は、唇および口腔(口)、喉頭(喉)、唾液腺、鼻、洞または顔の皮膚の組織から発生する。頭頸部がんの最も一般的な種類は、唇、口、および喉頭(larynyx)に発生する。HNCは、高リスク型HPV(例えば、HPV-16および-18)による以前の感染に関連している可能性があり、HPV陽性HNCの原因である。HPV陽性および陰性の腫瘍は、異なる臨床病理学的疾患単位および分子的実体を表す。多くのHPV陰性HNCは、タバコおよびアルコール誘発性であり、TP53変異を特徴とする。2022年1月29日に最終アクセスされたhttp://atlasgeneticsoncology.org/Tumors/HeadNeckSCCID5078.htmlを参照されたい。
【0053】
がん治療および投与方法
【0054】
「治療に適している」または「治療で適切に処置された」という用語は、同じ疾患を有し、同じ治療を受けているが、比較目的のために検討中の異なる特徴を有する患者と比較して、患者が1またはそれを超える望ましい臨床転帰を示す可能性が高いことを意味するものとする。一態様において、検討中の特徴は、遺伝子多型または体細胞変異である。別の態様では、検討中の特徴は、遺伝子もしくはポリペプチドの発現レベルあるいはSCNAである。一態様では、より望ましい臨床転帰は、腫瘍量減少などの腫瘍応答の尤度が比較的高いか、または比較的良好である。別の態様では、より望ましい臨床転帰は、比較的長い全生存期間である。さらに別の態様では、より望ましい臨床転帰は、比較的長い無増悪生存期間または腫瘍進行までの期間である。さらに別の態様では、より望ましい臨床転帰は、比較的長い無病生存期間である。さらに別の態様では、より望ましい臨床転帰は、腫瘍再発の相対的な減少または遅延である。別の態様では、より望ましい臨床転帰は、転移の相対的な減少である。別の態様では、より望ましい臨床転帰は相対リスクの相対的な低下である。さらに別の態様では、より望ましい臨床転帰は、毒性または副作用の相対的な減少である。いくつかの実施形態では、2つ以上の臨床転帰が同時に検討される。そのような一態様では、遺伝子多型の遺伝子型などの特徴を有する患者は、同じ疾患を有し、同じ治療を受けているが、前記特徴を有さない患者と比較して、2つ以上の望ましい臨床転帰を示し得る。本明細書で定義されるように、患者は治療に適していると考えられる。別のこのような態様では、特徴を有する患者は、1またはそれを超える望ましい臨床転帰を示し得るが、同時に1またはそれを超えるあまり望ましくない臨床転帰を示し得る。次いで、臨床転帰がまとめて検討され、患者の特定の状況および臨床転帰の関連性を検討して、患者が治療に適しているかどうかに関する決定がそれに応じて行われる。いくつかの実施形態では、無増悪生存期間または全生存期間は、集団意思決定における腫瘍応答よりも大きく重み付けされる。
【0055】
本明細書で使用される場合、「投与」および「投与すること」という用語は、対象に薬剤を導入することを意味するために使用される。投与経路には、経口(錠剤、カプセル剤または懸濁剤など)、局所、経皮、鼻腔内、膣、直腸、皮下静脈内、静脈内、動脈内、筋肉内、骨内、腹腔内、眼内、結膜下、テノン嚢下、硝子体内、眼球後、前房内、腫瘍内、硬膜外および髄腔内が含まれるが、これらに限定されない。
【0056】
「有効量」とは、有益なまたは所望の結果をもたらすのに十分な量である。有効量は、1またはそれを超える投与、適用または投与量で投与することができる。そのような送達は、個々の投与単位が使用されるべき期間、治療剤のバイオアベイラビリティ、投与経路などを含む多くの変数に依存する。しかしながら、任意の特定の対象に対する本明細書に開示される治療剤の特定の用量レベルは、使用される特定の化合物の活性、化合物のバイオアベイラビリティ、投与経路、動物の年齢およびその体重、全身の健康状態、性別、動物の食事、投与時間、排泄速度、薬物の組み合わせ、ならびに処置される特定の障害の重症度および投与形態を含む様々な因子に依存することが理解される。一般に、インビボで有効であることが見出された濃度と等しい血清レベルを達成するのに有効な量の化合物を投与することが望まれる。これらの検討事項、ならびに有効な製剤および投与手順は、当技術分野で周知であり、標準的な教科書に記載されている。
【0057】
薬物または薬剤の「治療有効量」とは、薬理学的応答を得るのに十分な量である薬物または薬剤の量を指し、あるいは、特定の障害または疾患を有する患者に投与された場合に、意図された効果、例えば、患者における特定の障害または疾患の1またはそれを超える徴候(manifestation)の処置、軽減、改善、緩和または排除を有するのに十分な薬物または薬剤の量を指す。治療効果は必ずしも1用量の投与によって生じるわけではなく、一連の用量の投与後にのみ生じ得る。したがって、治療有効量を1またはそれを超える投与で投与することができる。
【0058】
本明細書で使用される場合、対象における疾患の「処置すること」または「処置」とは、(1)疾患の素因があるか、または疾患の症状をまだ示していない対象において症状または疾患が発生するのを予防すること、(2)疾患を阻害することまたはその発症を阻むこと、または(3)前記疾患または前記疾患の症状を改善するか、または退縮させることを指す。当技術分野で理解されているように、「処置」とは、臨床結果を含む有益な結果または所望の結果を得るためのアプローチである。この技術の目的のために、有益な結果または所望の結果には、検出可能であるか検出不能であるかに関わらず、1またはそれを超える症状の軽減または改善、状態(疾患を含む)の程度の減弱、状態(condition)(疾患を含む)の安定化(すなわち、悪化しない)状態(state)、状態(疾患を含む)の遅延または緩徐化、状態(疾患を含む)の進行、改善または緩和、状態(state)および寛解(部分的であるか全体的であるかに関わらず)のうちの1またはそれを超えるものが含まれ得るが、これらに限定されない。一態様では、処置は予防を除外する。
【0059】
疾患ががんである場合、以下の臨床エンドポイントが処置の非限定的な例である。(1)対象における、または対象の組織/器官における、またはがん遺伝子座におけるがんの排除、(2)腫瘍量の減少(例えば、がん細胞の数、がん病巣の数、病巣内のがん細胞の数、固形がんの大きさ、体液中の液体がんの濃縮物、および/または体内のがんの量)、(3)がん細胞の成長および/または分裂、固形腫瘍またはがん遺伝子座の大きさの成長、がんの進行および/または転移(例えば、新たな転移を形成する時間、全転移の数、転移のサイズ、ならびに転移性細胞を蓄えるための様々な組織/器官など)を含むがこれらに限定されない、がんの成長および/または発達の安定化または遅延または緩徐化または阻害、(4)がんが成長および/または発達するリスクの低下、(5)がんに対する患者の免疫応答、例えば、より多数の腫瘍浸潤免疫細胞、より多数の活性化免疫細胞、または免疫療法標的を発現するより多数のがん細胞、またはがん細胞におけるより高いレベルの免疫療法標的の発現を誘導すること、(6)全生存期間(1年、2年、5年、10年、または20年の生存率として示され得るOS)の増加、無増悪生存期間(PFS)の増加、無病生存期間(DFS)の増加、腫瘍再発までの期間(TTR)の増加および腫瘍進行までの期間(TTP)の増加などのより高い生存確率および/または生存期間の増加。いくつかの実施形態では、処置後の対象は、腫瘍応答、腫瘍サイズの縮小、腫瘍量の減少、全生存期間の増加、無増悪生存期間の増加、転移の阻害、生活の質の改善、薬物関連毒性の最小化、および副作用の回避(例えば、処置下で発現した有害事象の減少)から選択される1またはそれを超えるエンドポイントを経験する。いくつかの実施形態では、生活の質の改善には、限定されるものではないが、疲労、疼痛、悪心/嘔吐、食欲不振、および便秘などのがん特異的症状の解消または改善、心理的幸福(例えば、過敏性、うつ、記憶欠損、緊張、および不安の程度)の改善または維持、社会的幸福(例えば、食事、着衣、またはトイレの使用を補助する必要性の減少、通常の余暇活動、趣味または社会的活動を行う能力の改善または維持、家族との関係の改善または維持)の改善または維持が含まれる。いくつかの実施形態では、患者の生活の質の改善は、患者の物語を通して定性的に測定され、または当業者に公知の検証された生活の質のツール、またはそれらの組み合わせを使用して定量的に測定される。エンドポイントのさらなる非限定的な例としては、入院の減少、副作用を処置するための薬物使用の減少、より長期間の無処置、および早期の仕事への復帰または介護責任が挙げられる。一態様では、防止または予防は処置から除外される。
【0060】
「組み合わせ」の投与または処置とは、それらの薬理学的効果が同時に現れるように2つの薬剤を投与することを指す。組み合わせは、同時にまたは実質的に同時に投与する必要はないが、組み合わせはそのような投与を含み得る。
【0061】
「第一選択」または「第二選択」または「第三選択」などの語句は、患者が受けた処置の順序を指す。第一選択の治療レジメンは、最初に行われる処置であるのに対して、第二選択または第三選択の治療は、それぞれ第一選択治療の後または第二選択治療の後に行われる。国立がん研究所は、第一選択治療を「疾患または状態の第一の処置」と定義している。がん患者では、一次処置は、手術、化学療法、放射線療法、またはこれらの治療の組み合わせであり得る。第一選択治療は、当業者には一次治療および一次処置とも呼ばれる。www.cancer.govとして、2008年5月1日に最後にアクセスされた国立がん研究所のウェブサイトを参照のこと。典型的には、患者は、第一選択治療に対して陽性の臨床応答または準臨床的応答を示さなかったか、または第一選択治療が停止しているため、患者にはその後の化学療法レジメンが与えられる。
【0062】
「化学療法」という用語は、化学剤もしくは生物剤または他の治療、例えば放射線療法、例えば低分子薬剤もしくは大分子、例えば抗体、キメラ抗原受容体(CAR)療法、RNAiおよび遺伝子療法を用いるがん療法を包含する。化学療法剤の非限定的な例を以下に提供する。具体的に除外されない限り、特定の治療が列挙される場合、治療の均等物は本開示の範囲内である。
【0063】
「免疫療法剤」とは、患者自身の免疫系を使用してがんと戦うがん処置の一種を意味し、物理的介入、化学物質、生体分子もしくは粒子、細胞、組織もしくは器官、またはそれらの任意の組み合わせを含むがこれらに限定されず、がんに対する患者の免疫応答を増強または活性化または開始する。免疫療法剤の非限定的な例としては、抗体、免疫調節因子、チェックポイント阻害剤、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、RNA干渉(RNAi)、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)系、ウイルスベクター、抗がん細胞療法(例えば、必要に応じてインビボで増幅および/または活性化された抗がん免疫細胞を移植すること、またはキメラ抗原受容体(CAR)を発現する免疫細胞を投与すること)、CAR療法およびがんワクチンが挙げられる。本明細書で使用される場合、別段の指定がない限り、免疫療法剤は、チミジル酸生合成の阻害剤、またはアントラサイクリンもしくは他のトポイソメラーゼII阻害剤ではない。本明細書で使用される場合、免疫チェックポイントとは、免疫系の調節因子および/またはモジュレーター(例えば、免疫応答、抗腫瘍免疫応答、新生抗腫瘍免疫応答、抗腫瘍免疫細胞応答、抗腫瘍T細胞応答、および/または免疫応答の過程におけるT細胞受容体の抗原認識)を指す。それらの相互作用は、阻害性または活性化性のいずれかの免疫シグナル伝達経路を活性化する。したがって、チェックポイントは、2つのシグナル(免疫応答を刺激する刺激性免疫チェックポイント、および免疫応答を阻害する阻害性免疫チェックポイント)のうちの1つを含み得る。いくつかの実施形態では、免疫チェックポイントは自己寛容にとって重要であり、これは免疫系が無差別に細胞を攻撃するのを防ぐ。しかしながら、いくつかのがんは、免疫チェックポイント標的を刺激することによって攻撃から自身を保護することができる。いくつかの実施形態では、免疫チェックポイントは、T細胞、抗原提示細胞(APC)および/または腫瘍細胞に存在する。
【0064】
免疫療法剤の1つの標的は、腫瘍特異的抗原であり、免疫療法は、免疫系に腫瘍細胞を認識および攻撃させるように指示または増強する。そのような薬剤の非限定的な例には、腫瘍特異的抗原を患者の免疫系に提示するがんワクチン、腫瘍特異的抗原に特異的に結合するモノクローナル抗体もしくは抗体薬物コンジュゲート、腫瘍特異的抗原および免疫細胞(T細胞エンゲージャーまたはNK細胞エンゲージャーなど)に特異的に結合する二重特異性抗体、腫瘍特異的抗原(CAR-T細胞、CAR-NK細胞、およびCAR-NKT細胞など)に特異的に結合する免疫細胞(キラー細胞など)、免疫細胞をトランスフェクション/形質導入してその抗原結合断片(CARなど)の腫瘍特異的抗体を発現させるポリヌクレオチド(またはそれを含むベクター)、またはがん細胞をトランスフェクション/形質導入して免疫細胞によって認識され得る抗原もしくはマーカーを発現させるポリヌクレオチド(またはそれを含むベクター)が含まれる。
【0065】
別の例示的な標的は、新生抗腫瘍免疫応答を抑制する阻害性免疫チェックポイント、例えばA2AR、B7-H3、B7-H4、BTLA、CTLA-4、CTLA-4/B7-1/B7-2、IDO、KIR、LAG3、NOX2、PD-1、PD-L1およびTIM-3、VISTA、SIGLEC7(CD328とも呼ばれるシアル酸結合免疫グロブリン型レクチン7)およびSIGLEC9(CD329とも呼ばれるシアル酸結合免疫グロブリン型レクチン9)である。そのような薬剤の非限定的な例には、阻害性免疫チェックポイントのアンタゴニストまたは阻害剤、阻害性免疫チェックポイントの発現および/または活性を低下させる薬剤(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、RNA干渉(RNAi)、またはクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)系を介して)、阻害性免疫チェックポイントに特異的に結合してその活性を低下させる(または阻害する)抗体または抗体薬物コンジュゲートまたはリガンド、阻害性免疫チェックポイントが低下した(または阻害された)免疫細胞(必要に応じて、CAR-T細胞、CAR-NK細胞およびCAR-NKT細胞などの腫瘍特異的抗原に特異的に結合する)、および免疫細胞またはがん細胞をトランスフェクション/形質導入してその阻害性免疫チェックポイントを低下させるまたは阻害するポリヌクレオチド(またはそれを含むベクター)が含まれる。そのような阻害性免疫チェックポイントの発現または活性の低下は、がんに対する患者の免疫応答を増強する。
【0066】
さらなる可能な免疫療法標的は、刺激チェックポイント分子(4-1BB、CD27、CD28、CD40、CD122、CD137、OX40、GITRおよびICOSを含むが、これらに限定されない)であり、免疫療法剤は抗腫瘍免疫応答を活性化または増強する。そのような薬剤の非限定的な例には、刺激チェックポイントのアゴニスト、刺激免疫チェックポイントの発現および/または活性を増加させる薬剤、刺激免疫チェックポイントに特異的に結合してその活性を活性化または増強する抗体または抗体薬物コンジュゲートまたはリガンド、刺激免疫チェックポイントの発現および/または活性が増加した免疫細胞(必要に応じて、CAR-T細胞、CAR-NK細胞およびCAR-NKT細胞などの腫瘍特異的抗原に特異的に結合する)、および免疫細胞またはがん細胞をトランスフェクション/形質導入してその刺激免疫チェックポイントを発現させるポリヌクレオチド(またはそれを含むベクター)が含まれる。
【0067】
追加のまたは代替の標的は、免疫細胞を活性化する薬剤、免疫細胞をがんまたはがん細胞に動員する薬剤、または固形腫瘍および/またはがん遺伝子座に浸潤した免疫細胞を増加させる薬剤を含むがこれらに限定されない免疫調節剤などの免疫療法剤によって利用されてもよい。そのような薬剤の非限定的な例は、免疫調節因子またはそのバリアント、変異体、断片、均等物である。
【0068】
いくつかの実施形態では、免疫療法剤は、二重特異性T細胞エンゲージャー、二重特異性NK細胞エンゲージャー、またはCAR細胞療法などの1またはそれを超える標的を利用する。いくつかの実施形態では、免疫療法剤は、1またはそれを超える免疫調節細胞またはエフェクター細胞を標的とする。
【0069】
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、免疫グロブリンまたは免疫グロブリン様分子をまとめて指し、例として、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM、それらの組み合わせ、ならびに任意の脊椎動物、例えばヒト、ヤギ、ウサギ、ラット、イヌ、ロバ、マウス、ラクダ科動物(ヒトコブラクダ(dromedaries)、ラマ(llamas)、およびアルパカ(alpacas)など)などの哺乳動物、ならびにサメ免疫グロブリンなどの非哺乳動物種において免疫応答中に産生される類似の分子を含むがこれらに限定されない。特に明記しない限り、「抗体」という用語は、インタクトな免疫グロブリン、および他の分子(例えば、生体試料における他の分子についての結合定数よりも少なくとも103 M-1大きい、少なくとも104 M-1大きい、または少なくとも105 M-1大きい目的の分子についての結合定数を有する抗体および抗体断片)への結合を実質的に排除する目的の分子(または非常に類似した目的の分子の群)に特異的に結合する「抗体断片」または「抗原結合断片」を含む。「抗体」という用語には、キメラ抗体(例えば、マウスまたはヒト化非霊長類抗体)、ヘテロコンジュゲート抗体(二重特異性抗体など)などの遺伝子操作された形態も含まれる。Pierce Catalog and Handbook,1994-1995(Pierce Chemical Co.,Rockford,Ill.)、Owenら、Kuby Immunology,7th Ed.,W.H.Freeman&Co.,2013、Murphy,Janeway’s Immunobiology,8th Ed.,Garland Science,2014、Maleら、Immunology(Roitt),8th Ed.,Saunders,2012、Parham,The Immune System,4th Ed.,Garland Science,2014も参照されたい。「抗体」という用語は、免疫グロブリン分子の少なくとも一部、抗体全体および任意の抗原結合断片またはその単鎖などを含む任意のタンパク質またはペプチド含有分子を含む。「1つの抗体」、「複数の抗体」および「免疫グロブリン」という用語はまた、任意のアイソタイプの免疫グロブリン、Fab、Fab’、F(ab)2、Fv、scFv、dsFv、Fd断片、dAb、VH、VL、VhH、およびV-NARドメインを含むがこれらに限定されない、抗原への特異的結合を保持する抗体の断片、ミニボディ、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディおよびカッパボディ、抗体断片から形成され、1またはそれを超える単離された多重特異性抗体断片も含む。そのような例としては、重鎖もしくは軽鎖の相補性決定領域(CDR)またはそのリガンド結合部分、重鎖もしくは軽鎖の可変領域、重鎖もしくは軽鎖の定常領域、フレームワーク(FR)領域、またはそれらの任意の部分、結合タンパク質の少なくとも1つの部分、キメラ抗体、ヒト化抗体、単鎖抗体、および抗体の抗原結合部分と非抗体タンパク質とを含む融合タンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。免疫グロブリン分子の重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域(Ab)は、宿主組織への免疫グロブリンの結合を媒介し得る。抗体は、所望の生物活性を示す限り、ポリクローナル、モノクローナル、多重特異性(例えば、二重特異性抗体)および抗体断片であり得る。
【0070】
本明細書で使用される場合、「モノクローナル抗体」という用語は、Bリンパ球の単一クローンによって、または単一抗体の軽鎖および重鎖の遺伝子がトランスフェクションされた細胞によって産生される抗体を指す。モノクローナル抗体は、当業者に公知の方法によって、例えばミエローマ細胞と免疫脾臓細胞との融合物からハイブリッド抗体形成細胞を作製することによって産生される。モノクローナル抗体には、ヒト化モノクローナル抗体が含まれる。
【0071】
いくつかの実施形態では、抗体は二重特異性免疫細胞エンゲージャーであり、腫瘍抗原(CD19、EpCAM、MCSP、HER2、EGFRまたはCS-1など)および免疫細胞を認識し、それらに特異的に結合することができ、免疫細胞をがん細胞に向け、それによってがんを処置することができる二重特異性モノクローナル抗体を指す。そのような抗体の非限定的な例としては、二重特異性T細胞エンゲージャー、二重特異性細胞傷害性Tリンパ球(CTL)エンゲージャーおよび二重特異性NK細胞エンゲージャーが挙げられる。一実施形態では、エンゲージャーは、異なる抗体の2つの一本鎖可変断片(scFv)からなる融合タンパク質である。追加的または代替的に、免疫細胞はキラー細胞であり、細胞傷害性T細胞、ガンマデルタT細胞、NK細胞およびNK-T細胞を含むがこれらに限定されない。
【0072】
本明細書で使用される場合、「キメラ抗原受容体」(CAR)という用語は、抗原に結合することができる細胞外ドメイン、細胞外ドメインが由来するポリペプチドとは異なるポリペプチドに由来する膜貫通ドメイン、および少なくとも1つの細胞内ドメインを含む融合タンパク質を指す。「キメラ抗原受容体(CAR)」は、「キメラ受容体」、「Tボディ」、または「キメラ免疫受容体(CIR)」と呼ばれることもある。「抗原に結合することができる細胞外ドメイン」とは、特定の抗原に結合することができる任意のオリゴペプチドまたはポリペプチドを意味する。「細胞内ドメイン」または「細胞内シグナル伝達ドメイン」とは、細胞の生物学的プロセスの活性化または阻害を引き起こすシグナルを伝達するドメインとして機能することが知られている任意のオリゴペプチドまたはポリペプチドを意味する。特定の実施形態では、細胞内ドメインは、一次シグナル伝達ドメインに加えて、1またはそれを超える共刺激シグナル伝達ドメインを含み得るか、あるいはそれから本質的になり得るか、またはさらに含み得る。「膜貫通ドメイン」とは、細胞膜を貫通することが知られており、細胞外ドメインとシグナル伝達ドメインとを連結するように機能し得る任意のオリゴペプチドまたはポリペプチドを意味する。キメラ抗原受容体は、必要に応じて、細胞外ドメインと膜貫通ドメインとの間のリンカーとして働く「ヒンジドメイン」を含み得る。
【0073】
本明細書で使用される場合、「T細胞」という用語は、胸腺で成熟するリンパ球の一種を指す。T細胞は、細胞媒介性免疫において重要な役割を果たし、細胞表面上のT細胞受容体の存在によってB細胞などの他のリンパ球と区別される。細胞療法および/またはCAR療法で使用するためのT細胞は、単離され得るか、または市販の供給源から得られ得る。「T細胞」には、Tヘルパー細胞(CD4+細胞)、細胞傷害性T細胞(CD8+細胞)、ナチュラルキラーT細胞、T制御性細胞(Treg)およびガンマ-デルタT細胞を含む、CD3を発現するすべての種類の免疫細胞が含まれる。「細胞傷害性細胞」には、CD8+T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、および好中球が含まれ、これらの細胞は細胞傷害性応答を媒介することができる。
【0074】
本明細書で使用される場合、ナチュラルキラー細胞としても知られる「NK細胞」という用語は、骨髄に由来し、自然免疫系において重要な役割を果たすリンパ球の一種を指す。NK細胞は、細胞表面に抗体および主要組織適合遺伝子複合体が存在しない場合でも、ウイルス感染細胞、腫瘍細胞または他のストレスを受けた細胞に対する迅速な免疫応答を提供する。細胞療法および/またはCAR療法で使用するためのNK細胞は、単離するか、または市販の供給源から入手することができる。
【0075】
「臨床転帰」、「臨床パラメータ」、「臨床応答」、または「臨床エンドポイント」という用語は、治療に対する患者の反応に関する任意の臨床所見または測定を指す。臨床転帰の非限定的な例としては、腫瘍応答(TR)、全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)、無病生存期間、腫瘍再発までの期間(TTR)、腫瘍進行までの期間(TTP)、相対リスク(RR)、毒性または副作用が挙げられる。
【0076】
「第一選択」または「第二選択」または「第三選択」の語句は、患者が受けた処置の順序を指す。第一選択の治療レジメンは、最初に行われる処置であるのに対して、第二選択または第三選択の治療は、それぞれ第一選択治療の後または第二選択治療の後に行われる。国立がん研究所は、第一選択治療を「疾患または状態の第一の処置」と定義している。がん患者では、一次処置は、手術、化学療法、放射線療法、またはこれらの治療の組み合わせであり得る。第一選択治療は、当業者には「一次治療および一次処置」とも呼ばれる。cancer.govで国立がん研究所ウェブサイトを参照されたい。典型的には、患者は、第一選択治療に対して陽性の臨床応答または準臨床的応答を示さなかったか、または第一選択治療が停止しているため、患者にはその後の治療が与えられる。
【0077】
「アジュバント」療法という用語は、手術による腫瘍の除去後など、一次または初期処置に加えて、患者に治療または化学療法レジメンを投与することを指す。補助療法は、典型的には、起こり得るがん再発を最小化または予防するために行われる。あるいは、「ネオアジュバント」療法とは、典型的には外科的処置の前に腫瘍を縮小させて、処置中に除去される組織の程度を最小化する試みにおける、手術前の治療または化学療法レジメンの投与を指す。追加的または代替的に、そのような補助療法の潜在性(すなわち、対象を元の治療に対して感受性にする)は、対象ががん処置の1またはそれを超える臨床エンドポイントに到達するのを助けることができる。
【0078】
「免疫療法剤」とは、患者自身の免疫系を使用してがんと戦うがん処置の一種を意味し、物理的介入、化学物質、生体分子もしくは粒子、細胞、組織もしくは器官、またはそれらの任意の組み合わせを含むがこれらに限定されず、がんに対する患者の免疫応答を増強または活性化または開始する。免疫療法剤の非限定的な例としては、抗体、免疫調節因子、チェックポイント阻害剤、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、RNA干渉(RNAi)、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)系、ウイルスベクター、抗がん細胞療法(例えば、必要に応じてインビボで増幅および/または活性化された抗がん免疫細胞を移植すること、またはキメラ抗原受容体(CAR)を発現する免疫細胞を投与すること)、CAR療法およびがんワクチンが挙げられる。本明細書で使用される場合、別段の指定がない限り、免疫療法剤は、チミジル酸生合成の阻害剤、またはアントラサイクリンもしくは他のトポイソメラーゼII阻害剤ではない。本明細書で使用される場合、免疫チェックポイントとは、免疫系の調節因子および/またはモジュレーター(例えば、免疫応答、抗腫瘍免疫応答、新生抗腫瘍免疫応答、抗腫瘍免疫細胞応答、抗腫瘍T細胞応答、および/または免疫応答の過程におけるT細胞受容体の抗原認識)を指す。それらの相互作用は、阻害性または活性化性のいずれかの免疫シグナル伝達経路を活性化する。したがって、チェックポイントは、2つのシグナル(免疫応答を刺激する刺激性免疫チェックポイント、および免疫応答を阻害する阻害性免疫チェックポイント)のうちの1つを含み得る。いくつかの実施形態では、免疫チェックポイントは自己寛容にとって重要であり、これは免疫系が無差別に細胞を攻撃するのを防ぐ。しかしながら、いくつかのがんは、免疫チェックポイント標的を刺激することによって攻撃から自身を保護することができる。いくつかの実施形態では、免疫チェックポイントは、T細胞、抗原提示細胞(APC)および/または腫瘍細胞に存在する。
【0079】
免疫療法剤の1つの標的は、腫瘍特異的抗原であり、免疫療法は、免疫系に腫瘍細胞を認識および攻撃させるように指示または増強する。そのような薬剤の非限定的な例には、腫瘍特異的抗原を患者の免疫系に提示するがんワクチン、腫瘍特異的抗原に特異的に結合するモノクローナル抗体もしくは抗体薬物コンジュゲート、腫瘍特異的抗原および免疫細胞(T細胞エンゲージャーまたはNK細胞エンゲージャーなど)に特異的に結合する二重特異性抗体、腫瘍特異的抗原(CAR-T細胞、CAR-NK細胞、およびCAR-NKT細胞など)に特異的に結合する免疫細胞(キラー細胞など)、免疫細胞をトランスフェクション/形質導入してその抗原結合断片(CARなど)の腫瘍特異的抗体を発現させるポリヌクレオチド(またはそれを含むベクター)、またはがん細胞をトランスフェクション/形質導入して免疫細胞によって認識され得る抗原もしくはマーカーを発現させるポリヌクレオチド(またはそれを含むベクター)が含まれる。
【0080】
別の例示的な標的は、新生抗腫瘍免疫応答を抑制する阻害性免疫チェックポイント、例えばA2AR、B7-H3、B7-H4、BTLA、CTLA-4、CTLA-4/B7-1/B7-2、IDO、KIR、LAG3、NOX2、PD-1、PD-L1およびTIM-3、VISTA、SIGLEC7(CD328とも呼ばれるシアル酸結合免疫グロブリン型レクチン7)およびSIGLEC9(CD329とも呼ばれるシアル酸結合免疫グロブリン型レクチン9)である。そのような薬剤の非限定的な例には、阻害性免疫チェックポイントのアンタゴニストまたは阻害剤、阻害性免疫チェックポイントの発現および/または活性を低下させる薬剤(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、RNA干渉(RNAi)、またはクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)系を介して)、阻害性免疫チェックポイントに特異的に結合してその活性を低下させる(または阻害する)抗体または抗体薬物コンジュゲートまたはリガンド、阻害性免疫チェックポイントが低下した(または阻害された)免疫細胞(必要に応じて、CAR-T細胞、CAR-NK細胞およびCAR-NKT細胞などの腫瘍特異的抗原に特異的に結合する)、および免疫細胞またはがん細胞をトランスフェクション/形質導入してその阻害性免疫チェックポイントを低下させるまたは阻害するポリヌクレオチド(またはそれを含むベクター)が含まれる。そのような阻害性免疫チェックポイントの発現または活性の低下は、がんに対する患者の免疫応答を増強する。
【0081】
さらなる可能な免疫療法標的は、刺激チェックポイント分子(4-1BB、CD27、CD28、CD40、CD122、CD137、OX40、GITRおよびICOSを含むが、これらに限定されない)であり、免疫療法剤は抗腫瘍免疫応答を活性化または増強する。そのような薬剤の非限定的な例には、刺激チェックポイントのアゴニスト、刺激免疫チェックポイントの発現および/または活性を増加させる薬剤、刺激免疫チェックポイントに特異的に結合してその活性を活性化または増強する抗体または抗体薬物コンジュゲートまたはリガンド、刺激免疫チェックポイントの発現および/または活性が増加した免疫細胞(必要に応じて、CAR-T細胞、CAR-NK細胞およびCAR-NKT細胞などの腫瘍特異的抗原に特異的に結合する)、および免疫細胞またはがん細胞をトランスフェクション/形質導入してその刺激免疫チェックポイントを発現させるポリヌクレオチド(またはそれを含むベクター)が含まれる。
【0082】
本明細書中で使用される場合、用語「PD-1」とは、この名称に関連する特定のタンパク質断片、および本明細書に示されるようなPD-1配列および/またはPD-L1の適切な結合相手と少なくとも70%、あるいは少なくとも80%のアミノ酸配列同一性、あるいは90%の配列同一性、あるいは少なくとも95%の配列同一性を共有する、類似の生物学的機能を有する他の任意の分子を指す。PD-1の非限定的な例示配列が本明細書で提供され、例えば、以下の参照番号のもの(GCID:GC02M241849、HGNC:8760、Entrez Gene:5133、Ensembl:ENSG00000188389、OMIM:600244、およびUniProtKB:Q15116)、および配列:
【化1】
【化2】
、およびその均等物であるが、これらに限定されない。それに対する市販の抗体の非限定的な例としては、ペムブロリズマブ(Merck)、ニボルマブ(Bristol-Myers Squibb)、ピジリズマブ(Cure Tech)、AMP-224(GSK)、AMP-514(GSK)、PDR001(Novartis)およびセミプリマブ(Regeneron and Sanofi)が挙げられる。
【0083】
本明細書中で使用される場合、用語「PD-L1」とは、この名称に関連する特定のタンパク質断片、および本明細書に示されるようなPD-L1配列および/またはPD-1の適切な結合相手と少なくとも70%、あるいは少なくとも80%のアミノ酸配列同一性、あるいは90%の配列同一性、あるいは少なくとも95%の配列同一性を共有する、類似の生物学的機能を有する他の任意の分子を指す。PD-L1の非限定的な例示配列が本明細書で提供され、例えば、以下の参照番号のもの(GCID:GC09P005450、HGNC:17635、Entrez Gene:29126、Ensembl:ENSG00000120217、OMIM:605402、およびUniProtKB:Q9NZQ7)、および配列:
【化3】
、およびその均等物であるが、これらに限定されない。それに対する市販の抗体の非限定的な例としては、アテゾリズマブ(Roche Genentech)、アベルマブ(Merck Soreno and Pfizer)、デュルバルマブ(AstraZeneca)、BMS-936559(Bristol-Myers Suibb)およびCK-301(Chekpoint Therapeutics)が挙げられる。
【0084】
追加のまたは代替の標的は、免疫細胞を活性化する薬剤、免疫細胞をがんまたはがん細胞に動員する薬剤、または固形腫瘍および/またはがん遺伝子座に浸潤した免疫細胞を増加させる薬剤を含むがこれらに限定されない免疫調節剤などの免疫療法剤によって利用されてもよい。そのような薬剤の非限定的な例は、免疫調節因子またはそのバリアント、変異体、断片、均等物である。
【0085】
いくつかの実施形態では、免疫療法剤は、二重特異性T細胞エンゲージャー、二重特異性NK細胞エンゲージャー、またはCAR細胞療法などの1またはそれを超える標的を利用する。いくつかの実施形態では、免疫療法剤は、1またはそれを超える免疫調節細胞またはエフェクター細胞を標的とする。
【0086】
「腫瘍応答」(TR)とは、治療に対する腫瘍の応答を指す。治療に対する「完全奏効」(CR)とは、評価可能であるが測定不能な疾患を有する患者の臨床状態を指し、その腫瘍および疾患のすべての証拠は、治療の投与後に消失している。これに関連して、「部分奏効」(PR)とは、完全奏効未満の応答を指す。「安定(Stable disease)」(SD)とは、患者が治療後に安定していることを示す。「進行(Progressive disease)」(PD)とは、腫瘍が成長した(すなわち、大きくなる)もしくは広がる(すなわち、別の組織または器官に転移する)、または治療後にがん全体が悪化したことを示す。例えば、治療を開始してから20%を超える腫瘍成長は、典型的には進行を示す。治療に対する「無応答」(NR)とは、腫瘍または疾患の証拠が一定のままであるかまたは進行している患者の状態を指す。
【0087】
「全生存期間」(OS)とは、がん治療後にがん患者が生存したままである時間の長さを指す。
【0088】
「無増悪生存期間」(PFS)または「腫瘍進行までの期間」(TTP)とは、がん患者の腫瘍が成長しない治療後の時間の長さを指す。無増悪生存期間には、患者が完全奏効、部分奏効または安定を経験した期間が含まれる。
【0089】
「無病生存期間」とは、がん患者ががんまたは腫瘍の徴候なく生存する治療後の時間の長さを指す。
【0090】
「腫瘍再発までの期間(TTR)」とは、外科的切除または化学療法などのがん治療後、腫瘍が再出現する(再発する)までの時間の長さを指す。腫瘍は、元の(原発性)腫瘍と同じ場所または体内の別の場所に再発する場合がある。
【0091】
統計学および数学的疫学における「相対リスク」(RR)とは、曝露に対する事象(または疾患発症)のリスクを指す。相対リスクは、曝露群対非曝露群で発生する事象の確率の比である。
【0092】
1つの化学療法は、ピリミジン系抗代謝産物と呼ばれる治療薬のファミリーに属する5-フルオロウラシル(5-FU)である。これはピリミジン類似体であり、異なる細胞傷害性代謝産物に変換され、次いでDNAおよびRNAに組み込まれ、それによって細胞周期停止およびアポトーシスを誘導する。化学的均等物は、DNA複製の破壊をもたらすピリミジン類似体である。化学的均等物は、S期における細胞周期進行を阻害して、細胞周期の破壊をもたらし、その結果、アポトーシスをもたらす。5-FUの均等物としては、例えば、Papamichael(1999)The Oncologist 4:478-487に記載されているように、プロドラッグ、その類似体および誘導体、例えば、5’-デオキシ-5-フルオロウリジン(ドキシフルリジン(doxifluoroidine))、1-テトラヒドロフラニル-5-フルオロウラシル(フトラフル)、カペシタビン(Xeloda(登録商標))、S-1(テガフールおよび2つのモジュレーター、5-クロロ-2,4-ジヒドロキシピリジンおよびオキソン酸カリウムからなるMBMS-247616)、ラルチトレキセド(ralititrexed)(トムデックス)、ノラトレキセド((Thymitaq、AG337)、LY231514およびZD9331が挙げられる。
【0093】
セツキシマブまたはErbitux(Lilyから市販されている)は、上皮成長因子受容体(EGFR)に対するFDA承認抗体であり、単独で、またはイリノテカン(CPT-11またはCamptosarとしても知られている)と組み合わせて、様々ながんを処置するために使用される。https://chemocare.com/chemotherapy/drug-info/cetuximab.aspxを参照されたい。
【0094】
別の化学療法は、5-FU単独またはあるいは5-FUと1またはそれを超える他の処置(放射線、メチル-CCNU、ロイコボリン、オキサリプラチン(シスプラチンなど)、イリノテカン、マイトマイシン、シタラビン、ドキソルビシン、シクロホスファミドおよびレバミゾール、ならびに免疫療法が含まれるが、これらに限定されない)との組み合わせを指す5-FU系補助療法である。特定の処置アジュバントレジメンは当技術分野で公知であり、例えば、毎週のフルオロウラシル/ロイコボリン、毎週のフルオロウラシル/ロイコボリン+ベバシズマブ、FOLFOX、FOLFOX-4、FOLFOX6、改変FOLFOX6(mFOLFOX6)、ベバシズマブとFOLFOX6、mFOLFOX6+セツキシマブ、mFOLFOX6+パニツムマブ、改変FOLFOX7(mFOLFOX7)、FOLFIRI、ベバシズマブとFOLFIRI、FOLFIRI+Ziv-アフリベルセプト、セツキシマブとFOLFIRI、FOLFIRI+パニツムマブ、FOLFIRI+ラムシルマブ、FOLFOXIRI、FOLFOX6とFOLFIRI、FOLFOXIRI+ベバシズマブ、FOLFOXIRI+セツキシマブ、FOLFOXIRI+パニツムマブ、ロズウェル・パーク・フルオロウラシル/ロイコボリン、ロズウェル・パーク・フルオロウラシル/ロイコボリン+ベバシズマブ、簡易隔週注入フルオロウラシル/ロイコボリン、簡易隔週注入フルオロウラシル/ロイコボリン+ベバシズマブ、およびMOF(セムスチン(メチル-CCNU)、ビンクリスチン(vincrisine)(Oncovin(登録商標))および5-FU)である。これらの治療の総説については、Beaven and Goldberg(2006)Oncology 20(5):461-470ならびにwww.cancertherapyadvisor.com/home/cancer-topics/gastrointestinal-cancers/gastrointestinal-cancers-treatment-regimens/colon-cancer-treatment-regimens/を参照されたい。他の化学療法剤、例えばオキサリプラチンまたはイリノテカンを添加することができる。
【0095】
カペシタビンは、3つの酵素ステップおよび2つの中間代謝産物、5’-デオキシ-5-フルオロシチジン(5’-DFCR)および5’-デオキシ-5-フルオロウリジン(5’-DFUR)の経路に従って腫瘍特異的酵素PynPaseによってその活性形態に変換される(5-FU)のプロドラッグである化学療法である。カペシタビンは、商品名Xeloda(登録商標)としてRocheによって市販されている。
【0096】
ロイコボリン(フォリン酸)は、がん治療に用いられるアジュバントである化学療法である。これは、化学療法剤の有効性を改善するために5-FUと相乗的に組み合わせて使用される。理論に拘束されるものではないが、ロイコボリンの添加は、チミジル酸シンターゼを阻害することによって5-FUの有効性を増強すると考えられている。これは、高用量の抗がん剤メトトレキサートから正常細胞を保護し、フルオロウラシル(5-FU)およびテガフール・ウラシルの抗腫瘍効果を高めるための解毒剤として使用されてきた。これは、シトロボラム因子およびウェルコボリンとしても知られている。この化合物は、L-グルタミン酸N-[4-[[(2-アミノ-5-ホルミル-1,4,5,6,7,8-ヘキサヒドロ-4-オキソ-6-プテリジニル)メチル]アミノ]ベンゾイル]、カルシウム塩(1:1)の化学名を有する。
【0097】
「オキサリプラチン」(Eloxatin)は、シスプラチンおよびカルボプラチンと同じファミリーの白金系化学療法薬である化学療法である。これは、典型的には、結腸直腸がんの処置のためにFOLFOXとして知られる組み合わせでフルオロウラシルおよびロイコボリンと組み合わせて投与される。シスプラチンと比較して、2つのアミン基は、抗腫瘍活性を改善するためにシクロヘキシルジアミンで置き換えられている。塩素リガンドは、水溶性を改善するために、シュウ酸に由来するオキサラト二座(oxalato bidentate)に置き換えられる。オキサリプラチンの均等物は当技術分野で公知であり、シスプラチン、カルボプラチン、アロプラチン、ロバプラチン、ネダプラチン、およびJM-216(McKeageら(1997)J.Clin.Oncol.201:1232-1237および一般に、Chemotherapy for Gynecological Neoplasm,Curr.Therapy and Novel Approaches,in the Series Basic and Clinical Oncology,Angioli et al.Eds.,2004を参照)が含まれるが、これらに限定されない。
【0098】
「FOLFOX」とは、がんを処置するために使用される併用療法の一種の略語である化学療法である。この治療は、ロイコボリン(「FOL」)、5-FU(「F」)、およびオキサリプラチン(「OX」を含み、FOLFOX-4、FOLFOX-6、改変FOLOX-6、およびFOLFOX-7などの様々なレジメンを包含し、これらは3つの薬物のそれぞれが投与される用量および方法が異なる。「FOLFIRI」とは、がんを処置するために使用される併用療法の一種の略語であり、5-FU、ロイコボリンおよびイリノテカンを含むか、あるいはこれらから本質的になるか、またはさらにこれらからなる。これらの処置に関する情報は、2020年5月30日に最終アクセスされた国立がん研究所のウェブサイトcancer.gov、および2020年5月30日に最終アクセスされたwww.cancertherapyadvisor.com/home/cancer-topics/gastrointestinal-cancers/gastrointestinal-cancers-treatment-regimens/colon-cancer-treatment-regimens/で入手可能である。
【0099】
イリノテカン(CPT-11)は、Camptosarの商品名で販売されている化学療法薬である。これは、加水分解によってSN-38に活性化され、トポイソメラーゼIを標的とする、アルカロイドであるカンプトテシンの半合成類似体である。化学的均等物は、トポイソメラーゼIとDNAとの相互作用を阻害して、触媒活性トポイソメラーゼI-DNA複合体を形成するものである。化学的均等物は、細胞増殖の破壊をもたらすG2-M期における細胞周期進行を阻害する。
【0100】
S-1は、テガフール、5-クロロ-2-4-ジヒドロキシピリジン、およびオキソン酸カリウムの3つの薬剤(1:0.4:1のモル比で)からなる化学療法である。
【0101】
「抗葉酸剤」とは、葉酸の機能を損なう薬物または生物学的化学療法、例えば代謝産物、すなわち正常な代謝の一部である別の化学物質の使用を阻害する代謝拮抗剤である。がんの処置では、代謝拮抗物質はDNA産生を妨害し、したがって腫瘍の細胞分裂および成長を妨害する。これらの薬剤の非限定的な例は、ジヒドロ葉酸レダクターゼ阻害剤、例えばメトトレキサート、アミノプテリンおよびペメトレキセド;チミジル酸シンターゼ阻害剤、例えばラルチトレキセドまたはペメトレキセド;プリン系、すなわちアデノシンデアミナーゼ阻害剤、例えばペントスタチン、チオプリン、例えばチオグアニンおよびメルカプトプリン、ハロゲン化/リボヌクレオチドレダクターゼ阻害剤、例えばクラドリビン、クロファラビン、フルダラビン、またはグアニン/グアノシン:チオプリン、例えばチオグアニン;またはピリミジン系、すなわちシトシン/シチジン:低メチル化剤、例えばアザシチジンおよびデシタビン、DNAポリメラーゼ阻害剤、例えばシタラビン、リボヌクレオチドレダクターゼ阻害剤、例えばゲムシタビン、またはチミン/チミジン:チミジル酸シンターゼ阻害剤、例えばフルオロウラシル(5-FU)である。
記述的実施形態
【0102】
本開示は、本明細書で同定された目的の遺伝子型の同一性の決定に少なくとも部分的に基づく診断、予後および治療の方法をさらに提供する。
【0103】
例えば、本明細書に記載される診断アッセイを使用して得られる情報は、対象が所与のタイプのがん処置に適しているかどうかを決定するために有用である。予後情報に基づいて、医師は、患者の悪性塊または腫瘍を減少させるため、または個体のがんを処置するために有用な治療プロトコルを推奨することができる。
【0104】
治療または手術などの臨床処置後の患者の起こり得る臨床転帰は、相対的に表すことができる。例えば、特定の遺伝子型または発現レベルを有する患者は、前記遺伝子型または発現レベルを有さない患者よりも比較的長い全生存期間を経験し得る。あるいは、特定の遺伝子型または発現レベルを有する患者は、生存する可能性があると考えられ得る。同様に、特定の遺伝子型または発現レベルを有する患者は、前記遺伝子型または発現レベルを有さない患者よりも比較的長い無増悪生存期間または腫瘍進行までの期間を経験し得る。あるいは、特定の遺伝子型または発現レベルを有する患者は、腫瘍進行を患う可能性がないと考えられ得る。さらに、特定の遺伝子型または発現レベルを有する患者は、前記遺伝子型または発現レベルを有さない患者よりも腫瘍再発までの期間が比較的短くなり得る。あるいは、特定の遺伝子型または発現レベルを有する患者は、腫瘍再発を患う可能性がないと考えられ得る。さらに別の例では、特定の遺伝子型または発現レベルを有する患者は、前記遺伝子型または発現レベルを有さない患者よりも比較的に完全奏効または部分奏効を経験し得る。あるいは、特定の遺伝子型または発現レベルを有する患者は、応答する可能性があると考えられ得る。したがって、生存する可能性があるか、または腫瘍進行に罹患する可能性がないか、または腫瘍再発に罹患する可能性がないか、または臨床手順後に応答する可能性がある患者が臨床手順に適していると考えられる。
【0105】
本明細書に記載の診断アッセイを使用して得られた情報は、単独で、または他の遺伝子の遺伝子型もしくは発現レベル、臨床化学パラメータ、組織病理学的パラメータ、または対象の年齢、性別および体重などであるがこれらに限定されない他の情報と組み合わせて使用できることを理解されたい。単独で使用される場合、本明細書に記載される診断アッセイを使用して得られる情報は、処置の臨床転帰の決定または同定、処置のための患者の選択、または患者の処置などにおいて有用である。他方、他の情報と組み合わせて使用される場合、本明細書に記載される診断アッセイを使用して得られる情報は、処置の臨床転帰の決定もしくは同定の補助、処置のための患者の選択の補助、または患者の処置の補助などにおいて有用である。特定の態様では、本明細書に開示される1またはそれを超える遺伝子の遺伝子型または発現レベルは、それぞれが最終診断、予後または処置に寄与する遺伝子のパネルで使用される。
【0106】
本方法は、動物、哺乳動物、またはさらにはヒト患者の支援に有用である。例示のみを目的として、哺乳動物には、ヒト、サル、マウス、ウシ、ウマ、ブタまたはヒツジの対象が含まれるが、これらに限定されない。
【0107】
遺伝子変異および検出
【0108】
本明細書で使用される場合、「9p21.3」(3p14または17p13.1)欠損とは、特に「局所のみ」と限定されていない限り、局所欠損または腕欠損(すなわち、9p21.3領域における欠失は、腕または局所の事象に由来し得る)のいずれかを意味する。
【0109】
用語「体細胞コピー数の変化」(SCNA)とは、分裂の過程で変異細胞の子孫に受け継がれ得る細胞によって獲得される遺伝子コピー数の変化を意図する。SCNAは、当技術分野で公知の方法によって決定することができる。そのようなものの非限定的な例としては、蛍光インサイツハイブリダイゼーション、比較ゲノムハイブリダイゼーション、アレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション、一塩基多型(SNP)アレイ、ゲノム配列決定、高分解能マイクロアレイおよび核型分析が挙げられる。一態様では、SCNAは、SNPアレイを含むか、SNPアレイから本質的になるか、またはさらにSNPアレイからなる方法を使用して決定される。
【0110】
本開示を実施するための形態
【0111】
治療および予後の方法
【0112】
本開示は、がんを処置するためのいくつかの方法のための方法を提供する。一実施形態では、がんの処置を必要とする対象においてがんを処置するための方法が本明細書で提供され、前記方法は、前記がん細胞を含む前記患者から単離された試料が9p腕欠損を示さない場合、PD-1/PD-L1を中心とした免疫療法を前記対象に投与することを含むか、またはそれから本質的になるか、またはそれからなる。別の態様では、がんの処置を必要とする対象においてがんを処置するための方法が提供され、前記方法は、前記がん細胞を含む前記患者から単離された試料が9p腕欠損を示す場合、PD-1/PD-L1を中心とした前記対象に対する免疫療法を含まない治療を対象に投与することを含むか、あるいはそれから本質的になるか、またはさらにそれからなる。さらなる態様では、前記方法は、i)前記対象からのがん細胞における9p腕欠損を測定すること、ii)9p腕欠損の程度を決定すること、およびiii)9p腕欠損の程度が有意な9p腕欠損を示さない場合、PD-1/PD-L1を中心とした免疫療法を投与することを含むか、あるいはそれから本質的になるか、またはさらにそれからなる。
【0113】
対象は、哺乳動物、例えば、ラット、マウス、イヌ、ネコまたはヒトなどの哺乳動物であり得る。動物で実施される場合、それは、新しい治療および併用療法を試験するために治療的にまたは動物モデルとして使用することができる。試料は、本明細書に記載の通りであり得、処置されるがん、例えば腫瘍生検またはがん細胞を含有する試料によって変化する。
【0114】
そのような治療有効性を測定するための方法およびツールは、当業者に公知であり、ヒト患者においておよび/またはがん患者を模倣する動物/組織/細胞モデルにおいて臨床エンドポイントを測定することを含む。例えば、治療有効性は、CTスキャンまたは血液検査分析によって監視することができる。さらに、腫瘍マーカーを評価することができる。一態様では、処置は、1またはそれを超えるより長い全生存期間、腫瘍量の減少、腫瘍再発までのより長い期間およびがん進行の阻害によって決定される。
【0115】
いくつかの実施形態では、がん細胞は、循環系、例えば、心臓(肉腫[血管肉腫、線維肉腫、横紋筋肉腫、脂肪肉腫]、粘液腫、横紋筋腫、線維腫、脂肪腫および奇形腫)、縦隔および胸膜、および他の胸腔内器官、血管腫瘍および腫瘍関連血管組織;気道、例えば、鼻腔および中耳、副鼻腔、喉頭、気管、気管支および肺、例えば、小細胞肺がん(SCLC)、非小細胞肺がん(NSCLC)、気管支原性癌(扁平細胞、未分化小細胞、未分化大細胞、腺癌)、肺胞(細気管支)癌、気管支腺腫、肉腫、リンパ腫、軟骨性過誤腫、中皮腫;胃腸系、例えば、食道(扁平上皮癌、腺癌、平滑筋肉腫、リンパ腫)、胃(癌、リンパ腫、平滑筋肉腫)、胃、膵臓(導管腺癌、インスリノーマ、グルカゴノーマ、ガストリノーマ、カルチノイド腫瘍、ビポーマ)、小腸(腺癌、リンパ腫、カルチノイド腫瘍、カポジ肉腫(Karposi’s sarcoma)、平滑筋腫、血管腫、脂肪腫、神経線維腫、線維腫)、大腸(腺癌、管状腺腫、絨毛腺腫、過誤腫、平滑筋腫);消化管間質腫瘍および任意の部位で生じる神経内分泌腫瘍;尿生殖路、例えば腎臓(腺癌、ウィルムス腫瘍 [腎芽細胞腫]、リンパ腫、白血病)、膀胱および/または尿道(扁平上皮癌、移行上皮癌、腺癌)、前立腺(腺癌、肉腫)、精巣(精上皮腫、奇形腫、胚性癌、奇形癌、絨毛癌、肉腫、間質細胞癌、線維腫、線維腺腫、アデノマトイド腫瘍、脂肪腫);肝臓、例えば、肝癌(肝細胞癌)、胆管癌、肝芽腫、血管肉腫、肝細胞腺腫、血管腫、膵臓内分泌腫瘍(褐色細胞腫、インスリノーマ、血管作用性腸ペプチド腫瘍、膵島細胞腫瘍およびグルカゴノーマなど);骨、例えば、骨原性肉腫(骨肉腫)、線維肉腫、悪性線維性組織球腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性リンパ腫(細網細胞肉腫)、多発性骨髄腫、悪性巨細胞腫瘍脊索腫、骨軟骨腫(osteochronfroma)(骨軟骨性外骨腫症)、良性軟骨腫、軟骨芽細胞腫、軟骨粘液線維腫、類骨腫および巨細胞性腫瘍;神経系、例えば、中枢神経系(CNS)の新生物、原発性CNSリンパ腫、頭蓋骨がん(骨腫、血管腫、肉芽腫、キサントーマ、変形性骨炎)、髄膜(髄膜腫、髄膜肉腫、神経膠腫症)、脳がん(星状細胞腫、髄芽腫、神経膠腫、上衣腫、胚細胞腫(松果体腫)、多形神経膠芽腫、乏突起神経膠腫、シュワン腫、網膜芽細胞腫、先天性腫瘍)、脊髄神経線維腫、髄膜腫、神経膠腫、肉腫);生殖系、例えば、婦人科系、子宮(子宮内膜癌)、子宮頸部(子宮頸癌、前腫瘍子宮頸部異形成)、卵巣(卵巣癌[漿液性嚢胞腺癌、粘液性嚢胞腺癌、未分類癌]、顆粒膜-莢膜細胞腫瘍、セルトリ・ライディッヒ細胞腫瘍、未分化胚細胞腫、悪性奇形腫)、外陰(扁平上皮癌、上皮内癌、腺癌、線維肉腫、黒色腫)、膣(明細胞癌、扁平上皮癌、ブドウ状肉腫(胎児性横紋筋肉腫)、卵管(癌)および女性生殖器に関連する他の部位;胎盤、陰茎、前立腺、精巣、および男性生殖器に関連する他の部位;血液系、例えば血液(骨髄性白血病[急性および慢性]、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ性白血病、骨髄増殖性疾患、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群)、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫 [悪性リンパ腫];口腔、例えば、口唇、舌、歯肉、口底、口蓋、および口の他の部分、耳下腺、および唾液腺の他の部分、扁桃腺、中咽頭、鼻咽頭、梨状窩、下咽頭、および口唇、口腔および咽頭の他の部位;皮膚、例えば、悪性黒色腫、皮膚黒色腫、基底細胞癌、扁平上皮癌、カポジ肉腫(Karposi’s sarcoma)、ほくろ異形成母斑(moles dysplastic nevi)、脂肪腫、血管腫、皮膚線維腫およびケロイド;ならびに結合組織および軟組織、後腹膜および腹膜、眼、眼内黒色腫および付属器、乳房、頭部または/および頸部、肛門領域、甲状腺、副甲状腺、副腎および他の内分泌腺および関連構造、リンパ節の二次性および不特定の悪性新生物、呼吸器系および消化器系の二次性悪性新生物および他の部位の二次性悪性新生物を含む他の組織のがんから選択されるがんの細胞である。追加的または代替的に、がんは固形腫瘍または液体がんである。一部の実施形態では、がんは原発性がんである。別の実施形態では、がんは転移である。態様では、がんまたは前がんは腎がんではない。
【0116】
いくつかの実施形態では、がん細胞は、癌、肉腫、骨髄腫、白血病、またはリンパ腫に由来する。いくつかの実施形態では、がん細胞は癌に由来する。いくつかの実施形態では、がん細胞は、肉腫に由来する。いくつかの実施形態では、がん細胞は骨髄腫に由来する。
【0117】
様々な方法を使用して、患者試料における9p腕欠損のレベルまたは有意性を評価することができる。一態様では、9腕欠損の有意性は、9p21.3欠損を評価することを含む。がんがHPV-HNSCであり、有意な9p腕欠損が9p21.3欠損を含む一態様では、評価は免疫コールド腫瘍微小環境(TME)シグナルに関連する。
【0118】
一態様では、9p腕全体の9p21.3の有意な欠損は、腕長の70%以上の欠損として測定された。さらなる態様では、欠損は、IFN-γ誘導性CXCL9/10発現の抑制を含む。
【0119】
さらなる態様では、前記方法は、前記患者から単離された試料中のCD8+レベルを評価することをさらに含み、免疫コールドTMEシグナルは、低いCD8+レベルによって示される。この態様では、試料はCD8+T細胞を含む試料を含み、レベルは、RNA配列決定によって測定された遺伝子CD8AおよびCD8Bの転写物の量(平均)によって決定される。
【0120】
さらなる態様では、9p21.3欠損は、変異TP53の存在に関連する。TP53変異状態は、以下の変異の種類:ナンセンス、スプライス部位、フレームシフトまたは0.2超のPolyphenスコア(PMID 20354512に基づくPolyphenスコア)を有するミスセンスのうちの少なくとも1つの変異のがん細胞における存在によって決定される。
【0121】
さらなる態様では、9p21.3欠損は細胞固有の老化関連分泌経路(SASP)抑制に関連する。
【0122】
一実施形態では、9p21.3欠損は、以下の遺伝子:MLLT3、ELAVL2またはKLHL9の1またはそれを超える欠失を含む。
【0123】
9p腕欠損は、9p22.1欠損を評価することによって測定することもできる。一態様では、9p22.1欠損は、以下の遺伝子:RPS6、DENND4C、RRAGA、またはHAUS6のうちの1またはそれを超える欠失を含む。
【0124】
9p腕欠損はまた、9p22.2欠損によって決定することができる。そのような方法の非限定的な例としては、CNTLN遺伝子の欠失が挙げられる。
【0125】
9p腕欠損はまた、9p22.3欠損を評価することによって評価することができる。非限定的な評価方法は、以下の遺伝子:TTC39B、PSIP1、SNAPC3またはZDHHC21のうちの1またはそれを超える欠失の評価を含む。
【0126】
9p腕欠損は、9p23欠損によってさらに評価することができる。非限定的な評価方法は、NFIB遺伝子の欠失を評価することを含む。
【0127】
9p腕欠損は、9p24.1欠損を評価することによってさらに測定することができ、9p24.1欠損は、以下の遺伝子:KIAA2026、ERMP1、AK3、KDM4C、RANBP6、IL33、UHRF2、CDC37L1、RCL1、RLN2またはINSL6のうちの1またはそれを超える欠失または全部の欠失を評価することによって決定することができる。
【0128】
予後予測に加えて、開示される方法は、9p24.1欠損、9p欠損および/またはJAK2-CD274共欠失の存在が検出された場合、免疫チェックポイント治療(ICT)抵抗性を選択的に予測する。本明細書で使用される場合、共欠失は、両遺伝子が欠失していることを意図する。
【0129】
9p腕欠損は、9p24.2欠損を評価することによって測定することもできる。この欠損を決定するための非限定的な方法は、以下の遺伝子:RFX3、SLC1A1またはVLDLRのうちの1またはそれを超える欠失を含む。
【0130】
9p腕欠損は、9p24.3欠損を評価することによってさらに測定することができる。この欠損を決定するための非限定的な方法は、以下の遺伝子:SMARCA2、CBWD1またはKANK1のうちの1またはそれを超える欠失を決定することを含む。
【0131】
さらなる態様では、9p腕欠損は、9p13.1欠損を評価することによってさらに測定することができる。これを決定するための非限定的な例は、以下の遺伝子:CNTNAP3およびZNF658のうちの1またはそれを超える欠失を含む。
【0132】
別の実施形態では、9p腕欠損は、9p13.2欠損を評価することによってさらに測定することができる。この欠損を評価するための非限定的な例は、欠失または以下の遺伝子:ZBTB5、GRHPR、RNF38、FBXO10、DCAF10、ZCCHC7、EXOSC3、TOMM5、POLR1E、MELKまたはSHBのうちの1またはそれを超えるものを検出または決定することを含む。
【0133】
9p13.3欠損を評価することは、9p腕欠損を評価するための別の実施形態である。9p13.3欠損の評価は、以下の遺伝子:NOL6、NFX1、BAG1、CHMP5、UBE2R2、UBAP2、UBAP1、DCAF12、UNC13B、CCDC107、PIGO、STOML2、VCP、TESK1、FANCG、DNAJB5、C9orf131、TLN1、GBA2、CREB3、CA9、RGP1、DCTN3、GALT、IL11RA、SIGMAR1、NUDT2、HINT2またはKIF24のうちの1またはそれを超える欠失を評価することを含む。
【0134】
さらなる実施形態では、9p腕欠損は、SASP、サイトカイン-サイトカイン受容体相互作用、JAK-STATシグナル伝達、およびNFkBを介したTNFAシグナル伝達のうちの1またはそれを超えるものを測定することによって評価される。あるいはまたはさらに、前記方法は、SASP、サイトカイン-サイトカイン受容体相互作用、JAK-STATシグナル伝達、またはNFkBを介したTNFAシグナル伝達の減少を評価することをさらに含む。
【0135】
9p腕欠損はまた、ケモカインCXCL9およびCXCL10の減少を測定することによっても評価することができる。
【0136】
上記の方法、態様または実施形態のいずれかにおいて、本方法は、PD-L1遺伝子欠失および/またはPD-L1発現を測定することをさらに含むか、本質的にそれからなるか、またはさらにそれからなる。
【0137】
さらに、がんを有する対象が、免疫療法による処置に応答するかどうかを予測または決定するための方法が提供され、前記方法は、i)対象からのがん細胞における9p腕欠損を測定すること、ii)9p腕欠損の程度を決定すること、および
iii)9p腕欠損の程度が、有意な9p腕欠損を示さない場合、対象がPD-1/PD-L1を中心とした免疫療法の投与に応答すると決定することを含むか、またはそれから本質的になるか、またはさらにそれからなる。
【0138】
さらなる開示方法は、ある種類のがんが免疫療法による処置に応答するかどうかを予測または決定するための方法であり、前記方法は、i)対象からのがん細胞における9p腕欠損を測定すること、ii)9p腕欠損の程度を決定すること、および
iii)9p腕欠損の程度が、有意な9p腕欠損を示さない場合、前記種類のがんがPD-1/PD-L1を中心とした免疫療法の投与に応答すると決定することを含むか、またはそれから本質的になるか、またはさらにそれからなる。
【0139】
がんの処置を必要とする対象においてがんを処置するための方法が提供され、前記方法は、前記がん細胞を含む前記患者から単離された試料が9p腕欠損を示さない場合、PD-1/PD-L1を中心とした免疫療法を前記対象に投与することを含むか、またはそれから本質的になるか、またはそれからなる。
【0140】
がんの処置を必要とする対象においてがんを処置するためのさらなる方法が提供され、前記方法は、前記がん細胞を含む前記患者から単離された試料が9p腕欠損を示す場合、PD-1/PD-L1を中心とした前記対象に対する免疫療法を含まない治療を対象に投与することを含むか、またはそれから本質的になるか、またはそれからなる。
【0141】
がんの処置を必要とする対象においてがんを処置するための方法も提供され、前記方法は、対象由来のがん細胞におけるJAK2およびPD-L1の遺伝子欠失を測定することを含むか、またはそれから本質的になるか、またはさらにそれからなり、JAK2およびPD-L1の遺伝子研究が、JAK2およびPD-L1の共欠失を示さない場合、対象は、PD-1/PD-L1を中心とした免疫療法を投与され、JAK2およびPD-L1のゲノム評価が、JAK2およびPD-L1の共欠失を示す場合、対象は、PD-1/PD-L1を中心とした免疫療法を投与されず、代替処置が、対象に投与される。
【0142】
対象におけるがんの成長または進行を阻害する方法がさらに提供され、i)対象からの前がん細胞における9p腕および9p21の欠損を測定すること、ii)9p腕欠損の程度を決定すること、およびiii)9p腕欠損の程度が、有意な9p腕欠損を示す場合、PD-1/PD-L1を中心とした免疫療法を含まない処置を対象に投与することを含むか、またはそれから本質的になるか、またはさらにそれからなる。前がん細胞は、組織生検によって決定することができる。
【0143】
患者が処置のために同定されると、本明細書では様々な治療が提供される。患者がPD-1/PD-L1を中心とした免疫療法から利益を得ると決定された場合、治療有効量の治療が投与される。患者がCITまたは例えばPD-1/PD-L1中心の治療から利益を受けないと決定された場合、別の治療が投与される。これらは、第一選択、第二選択、第三選択、第四選択、第五選択の治療として投与することができ、腫瘍切除と組み合わせることができる。
【0144】
したがって、患者がPD-1/PD-L1を中心とした免疫療法から利益を得ると決定された場合、治療有効量のペムブロリズマブまたはニボルマブが投与される。
【0145】
さらに、患者がPD-1/PD-L1から利益を受けないと決定された場合、9p腕欠損の程度が有意な9p腕欠損を示すならば、PD-1/PD-L1を中心とした免疫療法を含まないか、またはPD-1/PD-L1を中心とした免疫療法から本質的にならないか、またはさらにはPD-1/PD-L1を中心とした免疫療法からならない代替治療が施行される。そのようなものの非限定的な例としては、標準的な化学療法またはセツキシマブが挙げられる。
【0146】
いくつかの実施形態では、免疫療法剤は、モノクローナル抗体(例えば、腫瘍特異的抗原および/または免疫チェックポイントを認識する単一特異性、二重特異性または多重特異性抗体)、抗体薬物コンジュゲート(例えば、腫瘍特異的抗原および/または免疫チェックポイントを認識し、前記コンジュゲート薬物は、腫瘍特異的抗原を発現するがん細胞を死滅させるかもしくは損傷させる、および/または阻害性免疫チェックポイントを阻害する、および/または刺激性免疫チェックポイントを活性化する)、CAR療法、細胞療法(例えば、必要に応じてインビボで増幅および/または活性化された抗がん免疫細胞を移植し、またはキメラ抗原受容体(CAR)を発現する免疫細胞を投与する)、免疫調節因子、がんワクチン、阻害性免疫チェックポイントの阻害剤またはアンタゴニスト(本明細書では「チェックポイント阻害剤」と呼ばれる、例えば化学物質、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、RNA干渉(RNAi)、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)系、それらの各々を送達するベクター)、刺激性免疫チェックポイントの活性化剤またはアゴニスト(活性化リガンドなど)から選択される1またはそれを超えるものを含むか、本質的にそれからなるか、またはそれからなる。いくつかの実施形態では、免疫療法剤は、1またはそれを超えるモノクローナル抗体、二重特異性抗体および抗体断片を含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなる。一実施形態では、免疫療法剤は、腫瘍特異的抗原に特異的に結合する二重特異性抗体の1またはそれを超えるものを含むか、本質的にそれからなるか、またはそれからなり、二重特異性T細胞エンゲージャー、二重特異性NK細胞エンゲージャー、二重特異性NKT細胞エンゲージャー、二重特異性ガンマ-デルタT細胞エンゲージャー、および二重特異性細胞傷害性T細胞エンゲージャーなどの免疫細胞に関与する。いくつかの実施形態では、免疫療法剤は、1またはそれを超える抗体薬物コンジュゲートを含むか、本質的にそれからなるか、またはそれからなる。いくつかの実施形態では、免疫療法剤は、1またはそれを超えるCAR細胞療法、例えばCAR T細胞、CAR NK細胞、CAR NKT細胞、CAR CD8+T細胞、CAR細胞傷害性T細胞、CARガンマ-デルタT細胞を含むがこれらに限定されないCARを発現する免疫細胞の投与を含むか、本質的にそれらからなるか、またはそれらからなる。いくつかの実施形態では、免疫療法剤は、腫瘍特異的抗原を模倣し、対象において抗原に対する免疫応答を誘導することができるポリペプチドまたはポリヌクレオチドなどの1またはそれを超えるがんワクチンを含むか、本質的にそれからなるか、またはそれからなる。いくつかの実施形態では、免疫療法剤は、がん細胞に特異的に感染し、必要に応じてがん細胞で複製し、免疫療法剤をがん細胞に送達するウイルスベクターなどの1またはそれを超える腫瘍溶解性ウイルス療法を含むか、本質的にそれからなるか、またはそれからなる。一実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスはHSVであり、必要に応じてHSV-1およびHSV-2から選択される。さらなる実施形態では、腫瘍溶解性ウイルスは、必要に応じてがん細胞における腫瘍特異的抗原の細胞表面で発現を増加させ、および/またはがん細胞における阻害性免疫チェックポイントの発現および/または活性を低下させ、および/またはがん細胞における刺激性免疫チェックポイントの発現および/または活性を増加させる。
【0147】
モノクローナル抗体の非限定的な例としては、リツキシマブ、ブリナツモマブ、アレムツズマブ、イブリツモマブチウキセタン、ベバシズマブ、ベバシズマブ-awwb、セツキシマブ、パニツムマブ、オファツムマブ、デノスマブ、ペルツズマブ、オビヌツズマブ、エロツズマブ、ラムシルマブ、ジヌツキシマブ、ダラツムマブ、トラスツズマブ、トラスツズマブ-dkst、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、セミプリマブ、スパルタリズマブ、カンレリズマブ、シンチリマブ、チスレリズマブ、トリパリマブ、AMF 514(MEDI0680)、バルスチリマブ、アベルマブ、デュルバルマブ、アテゾリズマブ、イピリムマブ、トレメリムマブ、ザリフレリマブ、およびAGEN1181が挙げられる。いくつかの実施形態では、モノクローナル抗体は別の剤と組み合わされる。例えば、リツキシマブは、ヒアルロニダーゼヒトと共に製剤化され得る。
【0148】
抗体薬物コンジュゲートの非限定的な例としては、モキセツモマブパスドトックス-tdfk、ブレンツキシマブベドチン、トラスツズマブエムタンシン、イノツズマブオゾガマイシン、ゲムツズマブオゾガマイシン、タグラクソフスプ-erzs、ポラツズマブベドチン-piiq、エンフォルツマブベドチン-ejfv、トラスツズマブデルクステカン、およびサクツズマブゴビテカン-hziyが挙げられる。
【0149】
CAR-T細胞療法の非限定的な例としては、チサゲンレクロイセルおよびアキシカブタゲンシロロイセルが挙げられる。
【0150】
免疫調節因子の非限定的な例としては、インターロイキン、アルデスロイキン、インターフェロンアルファ-2a/2b、ペキシダルチニブ、エリスロポエチン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、サリドマイド、レナリドミド、ポマリドミドおよびイミキモドが挙げられる。
【0151】
がんワクチンの非限定的な例としては、BCG生(THERACYS(登録商標))またはシプロイセル-T(PROVENGE(登録商標))が挙げられる。
【0152】
腫瘍溶解性ウイルス療法の非限定的な例には、オンコリン(H101)およびタリモゲン・ラヘルパレプベク(talimogene laherparepvec)(IMLYGIC(登録商標))が含まれる。
【0153】
いくつかの実施形態では、免疫療法剤は、チェックポイント阻害剤を含むか、本質的にそれからなるか、またはそれからなる。
【0154】
いくつかの実施形態では、チェックポイント阻害剤は、非抗体剤を含むか、非抗体剤から本質的になるか、または非抗体剤からなる。いくつかの実施形態では、チェックポイント阻害剤は、GS4224、AMP-224、CA-327、CA-170、BMS-1001、BMS-1166、ペプチド-57、M7824、MGD013、CX-072、UNP-12、NP-12、またはそれらの2またはそれを超える組み合わせを含むか、本質的にそれらからなるか、またはそれらからなる。
【0155】
いくつかの実施形態では、チェックポイント阻害剤は、抗PD-1剤、抗PD-L1剤、抗CTLA-4剤、抗LAG-3剤、抗TIM-3剤、抗TIGIT剤、抗VISTA剤、抗B7-H3剤、抗BTLA剤、抗ICOS剤、抗GITR剤、抗4-1BB剤、抗OX40剤、抗CD27剤、抗CD28剤、抗CD40剤、および抗Siglec-15剤から選択される1またはそれを超えるものを含むか、本質的にそれらからなるか、またはそれらからなる。いくつかの実施形態では、抗PD-1剤、抗PD-L1剤、抗CTLA-4剤、抗LAG-3剤、抗TIM-3剤、抗TIGIT剤、抗VISTA剤、抗B7-H3剤、抗BTLA剤、抗ICOS剤、抗GITR剤、抗4-1BB剤、抗OX40剤、抗CD27剤、抗CD28剤、抗CD40剤、または抗Siglec-15剤はアンタゴニストである。いくつかの実施形態では、抗PD-1剤、抗PD-L1剤、抗CTLA-4剤、抗LAG-3剤、抗TIM-3剤、抗TIGIT剤、抗VISTA剤、抗B7-H3剤、抗BTLA剤、抗ICOS剤、抗GITR剤、抗4-1BB剤、抗OX40剤、抗CD27剤、抗CD28剤、抗CD40剤、または抗Siglec-15剤はアゴニストである。いくつかの実施形態では、抗PD-1剤、抗PD-L1剤、抗CTLA-4剤、抗LAG-3剤、抗TIM-3剤、抗TIGIT剤、抗VISTA剤、抗B7-H3剤、抗BTLA剤、抗ICOS剤、抗GITR剤、抗4-1BB剤、抗OX40剤、抗CD27剤、抗CD28剤、抗CD40剤、または抗Siglec-15剤は阻害剤である。いくつかの実施形態では、抗LAG-3剤は、AK104、KN046、エフチラギモドアルファ、リラトリマブ、LAG525、MK-4280、REGN3767、TSR-033、BI754111、Sym022、FS118、またはMGD013を含むか、本質的にそれらからなるか、またはそれらからなる。いくつかの実施形態では、抗TIM-3剤は、CA-327、TSR-022、MBG453、Sym023、INCAGN2390、LY3321367、BMS-986258、SHR-1702、またはRO7121661を含むか、本質的にそれらからなるか、またはそれらからなる。いくつかの実施形態では、抗TIGIT剤は、MK-7684、エチギリマブ、チラゴルマブ、BMS-986207、AB-154、またはASP-8374を含むか、本質的にそれからなるか、またはそれからなる。いくつかの実施形態では、抗VISTA剤は、JNJ-61610588またはCA-170を含むか、本質的にそれからなるか、またはそれからなる。いくつかの実施形態では、抗B7-H3剤は、エノブリツズマブ、MGD009またはオンブルタマブを含むか、本質的にそれからなるか、またはそれからなる。いくつかの実施形態では、抗BTLA剤は、TAB004/JS004を含むか、本質的にそれからなるか、またはそれからなる。いくつかの実施形態では、抗Siglec-15剤は、NC318を含むか、NC318から本質的になるか、NC318からなる。いくつかの実施形態では、チェックポイント阻害剤は、AK104またはKN046を含むか、本質的にそれからなるか、またはそれからなる。
【0156】
いくつかの実施形態では、チェックポイント阻害剤は、抗PD1剤または抗PD-L1剤を含むか、本質的にそれからなるか、またはそれからなる。
【0157】
いくつかの実施形態では、抗PD1剤は、抗PD1抗体またはその抗原結合断片を含むか、本質的にそれからなるか、またはそれからなる。いくつかの実施形態では、抗PD1抗体は、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、セミプリマブ、スパルタリズマブ、カムレリズマブ、シンチリマブ、チスレリズマブ、トリパリマブ、AMF514(MEDI0680)、バルスチリマブ、またはそれらの2またはそれを超える組み合わせを含むか、本質的にそれらからなるか、またはそれらからなる。
【0158】
いくつかの実施形態では、抗PD-L1剤は、抗PD-L1抗体またはその抗原結合断片を含むか、本質的にそれからなるか、またはそれからなる。いくつかの実施形態では、抗PD-L1抗体は、アベルマブ、デュルバルマブ、アテゾリズマブ、エンバホリマブ、またはそれらの2またはそれを超える組み合わせを含むか、本質的にそれらからなるか、またはそれらからなる。
【0159】
いくつかの実施形態では、チェックポイント阻害剤は、抗CTLA-4剤を含むか、非抗体剤から本質的になるか、または非抗体剤からなる。いくつかの実施形態では、抗CTLA-4剤は、抗CTLA-4抗体またはその抗原結合断片を含むか、本質的にそれからなるか、またはそれからなる。いくつかの実施形態では、抗CTLA-4抗体は、イピリムマブ、トレメリムマブ、ザリフレリマブ、もしくはAGEN1181、またはそれらの組み合わせを含むか、本質的にそれらからなるか、またはそれらからなる。
【0160】
開示された方法によって適切に処置されるがんは、上記で論じられ、本明細書に組み込まれる。一態様では、がんは、固形腫瘍、例えば黒色腫、食道がん、非小細胞肺がん [肺腺癌および肺扁平上皮癌の両方]、膵臓がん、胃[胃]がん(gastric [stomach] cancer)、膀胱がん、頭頸部がんまたは口腔がんを含む。がんは、ステージI、ステージII、ステージIIIまたはステージIVであり得る。治療は、第一選択、第二選択、第三選択、第四選択または第五選択であり得る。態様では、がんまたは前がんは腎がんではない。
【0161】
いくつかの実施形態では、がん細胞または前がん細胞は、生検から単離された初代細胞である。あるいは、本方法がインビトロで使用される場合、がんまたは前がん細胞は、実験室で培養されるか、またはアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)などの市販業者から入手される初代細胞もしくは培養がん細胞、または潜在的治療の治療有効性を評価するための動物モデルにおけるがん細胞であり得る。
【0162】
投与および投薬
【0163】
本明細書に開示される方法のいずれかに従って対象に投与される活性薬剤の適切な量および投薬レジメンは、当業者によって決定される。いくつかの実施形態では、活性薬剤またはその塩もしくは溶媒和物は、単独で、または薬学的に許容され得る製剤の一部として、週に1回、1日に1回、1日に2回、1日に3回、または1日に4回、またはさらにより頻繁に、ヒトなどの異常な細胞成長を患っている対象に投与される。
【0164】
投与は、作用部位への化合物の送達を可能にする任意の方法によって行うことができる。これらの方法には、経口経路、十二指腸内経路、非経口注射(静脈内、皮下、筋肉内、血管内または注入を含む)、局所および直腸投与が含まれる。ボーラス用量を使用することができ、または、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14 16、20、24時間またはそれを超える時間持続する注入、または1~7日もしくはそれを超える間持続する注入も可能なように、1、2、3、4、5、10、15、20、30、60、90、120分間またはそれを超える分間、または任意の中間期間にわたる注入も使用することができる。注入は、点滴、連続注入、注入ポンプ、定量ポンプ、デポ製剤、または任意の他の適切な手段によって投与することができる。
【0165】
投薬計画は、最適な所望の応答を提供するように調整され得る。例えば、単回ボーラスを投与してもよく、いくつかの分割用量を経時的に投与してもよく、または治療状況の緊急性によって示されるように用量を比例的に増減させてもよい。投与の容易性および投薬量の均一性のために、非経口組成物を単位剤形で製剤化することが特に有利である。本明細書で使用される単位剤形とは、処置される対象のための単位投薬量として適した物理的に別個の単位を指し、各単位は、必要とされる医薬担体と共同して所望の治療効果をもたらすように算出された所定量の活性化合物を含む。本開示の単位剤形の仕様は、(a)化学療法剤の固有の特徴および達成されるべき特定の治療効果または予防効果、ならびに(b)個体における感受性(sensitivity)の処置のためにそのような活性化合物を配合する技術に固有の限界によって規定され、それらに直接依存する。
【0166】
したがって、当業者は、本明細書で提供される開示に基づいて、用量および投薬レジメンが治療分野で周知の方法に従って調整されることを理解するであろう。すなわち、最大耐容量を容易に確立することができ、検出可能な治療効果を患者に提供するために各薬剤を投与するための時間的要件が決定され得るように、検出可能な治療効果を患者に提供する有効量も決定され得る。したがって、特定の用量および投与レジメンが本明細書に例示されているが、これらの例は、本開示を実施する際に患者に提供され得る用量および投与レジメンを決して限定するものではない。
【0167】
投薬量の値は、軽減される状態の種類および重症度によって異なり得、単回または複数回の投与を含み得ることに留意されたい。任意の特定の対象について、特定の投薬計画は、個々の必要性および組成物の投与を管理または監督する者の専門的判断に従って経時的に調整されるべきであり、本明細書に記載の投与量範囲は例示的なものにすぎず、特許請求される組成物の範囲または実施を限定することを意図するものではないことをさらに理解されたい。例えば、用量は、毒性作用および/または実験値などの臨床効果を含み得る薬物動態学的または薬力学的パラメータに基づいて調整され得る。したがって、本開示は、当業者によって決定される患者内用量漸増を包含する。化学療法剤または免疫療法剤の投与のための適切な投与量およびレジメンの決定は、関連技術において周知であり、本明細書に開示される教示が提供されると、当業者によって成し遂げられると理解されるであろう。
【0168】
いくつかの実施形態では、ニボルマブは、2週間毎に1回、240 mgの用量として投与される。いくつかの実施形態では、ニボルマブは、4週間毎に1回、480 mgの用量として投与される。
【0169】
以下の実施例は、本開示のいくつかの実施形態を実証するために含まれる。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、開示された特定の実施形態では多くの変更を行うことができ、同様の結果または類似の結果を依然として得ることができることを理解すべきである。
【0170】
実験方法
【0171】
異数体-免疫パラドックスは、実験的前がん系における細胞傷害性応答を解放する体細胞コピー数の変化(SCNA)を包含する一方、逆にヒト腫瘍、特に頭頸部がん(HNSC)では免疫抑制および細胞傷害性細胞の枯渇に関連する。出願人は、ここで、染色体量の変化がヒトHPV陰性頭頸部腫瘍形成中の免疫ホットからコールドへの切り替えに寄与することを報告する。免疫移行および腫瘍性移行のコピー数相関を、HPV陰性HNSC(2名の患者コホート)で、大規模前向きコホートおよび細胞株パネルにおけるその前駆体を特徴づけた。全体的なSCNAレベルは、前がん(大部分はトリソミーおよびテトラソミーに関連する)におけるCD3+およびCD8+T細胞微小環境の増加と関連していたが、T細胞欠損腫瘍と関連していた。9p21.3欠損および高いSCNAレベルを有する初期病変は、それぞれ、細胞傷害性T細胞の枯渇(特にTP53変異腫瘍における)およびNK細胞浸潤に関連していた。口腔がんにおけるT細胞枯渇の最も強い予測因子は9p欠損であり、腕全体にわたる累積的な遺伝子量の減少を反映していた。9p21.3の欠失は主に細胞固有の老化抑制に寄与したが、サイトカイン、JAK-STATおよびホールマークNFkB経路のレベルを低下させるためには9p腕全体の欠失が必要であった。最後に、9p腕レベルの欠損およびJAK2-PD-L1共欠失(9p24)は、抗PD-1療法後の再発性HPV陰性HNSCにおける低生存率の予測マーカーであった。出願人は、9p21.3腕欠損拡大により、隣接する協働する調節遺伝子を組み込むために、経口前がん細胞が免疫原性促進性異数体チェックポイントを克服し、免疫攻撃から回避するための特性を獲得することを可能にすると仮定する。これらの知見は、異なるHNSCの遮断および精密治療アプローチ、他の腫瘍部位に適用され得る概念、異数性疾患、および免疫療法を可能にする。
前向き口腔前がんコホート
【0172】
臨床試験、人口統計研究およびゲノム研究。前向きコホートには、臨床的、病理学的およびSCNAの危険因子を特徴とする188名の口腔前がん患者が含まれた。試験登録後、患者を以前の口腔がんによって層別化し、プロトコルで指定された浸潤がんの主要エンドポイントに達するまで体系的に追跡した。患者は、プロトコルで定義された施設内診療に従って、1、3、6、9、12ヶ月目およびその後6ヶ月ごとに病院来診した。さらに、現在の分析のデータベースロックの前に、口腔がん無発症生存率(OCFS)スイープを行った。このプロトコルは、ClinicalTrials.gov(NCT00402779)に登録され、MDアンダーソンがんセンター施設内審査委員会によって承認された。参加者は、ゲノム変化および本明細書に報告される目的の他のバイオマーカーの状態について、ならびに人口統計データ、臨床データおよび転帰データの収集について、試験されるべき生体試料の書面によるインフォームドコンセントを提供した。前がんSCNAには、以前に確立された主要な(3p14、9p21.3、および17p13.1)および少数の(4q26-28、4q31.1、8p22、8p23、11q13、11q22、および13q21)CN欠損リスク遺伝子座(13、78)ならびに7番染色体増加が含まれた。本節および以下の他の主要な節のSCNA、ゲノムおよび免疫プロファイリング、および統計的考察を含む、さらなる方法の詳細については、SI Appendixを参照されたい。
がんゲノムアトラス(TCGA)におけるHPV陰性HNSC
【0173】
SCNA、変異、遺伝子発現、HPV状態および臨床パラメータ。TCGAコホートにおけるHNSCのCNデータを、Affymetrix SNP 6.0アレイから得て、GDAC FirehoseおよびGDC Data Portal(GISTIC2分析、レベル4)から得た。各染色体領域のコピー数(log2 CN比として与えられる)を、以前に報告された病理学に基づく方法およびABSOLUTE(23、24、26、79-81)法に由来する腫瘍純度によって調整した。HNSC SCNAレベルは、ゲノムにわたる染色体腕の増加または欠損の総数に対応する(別段の指定がある場合を除く)。腕レベルの事象と局所レベルの事象とを区別するために、出願人は腕レベルの事象を同定するために腕長(染色体腕の割合の単位で与えられる)の≧70%(GISTIC2におけるデフォルト値)の閾値を検討した一方、他の全ては局所レベルの事象と考えられた。特定のSCNA(例えば、9p21.3欠損)を2値(欠損または欠損なし)として含むすべての多変量回帰分析を、連続変数としてlog2変換CN比を使用して確認した(zスコアに正規化した後(23))。HPV陽性HNSCは、厳密なウイルスリード(27)および解剖サブサイトデータ基準に基づいた。
HPV陰性HNSC細胞株
【0174】
SCNAおよび遺伝子発現データ。出願人は、32のHPV陰性HNSC細胞株(SCC9、SCC25,DETROIT562、BICR31、SCC4、SCC15、BICR6、HSC2、SNU46、BICR16、CAL33、HSC4、BHY、SNU1076、PECAPJ34CLONEC12、SNU1041、PECAPJ15、YD8、SNU1066、SNU899、SNU1214、YD10B、PECAPJ41CLONED2、PECAPJ49、A253,YD38、BICR56、HSC3、CAL27、YD15、FADU、BICR18)を研究した。セグメント、SCNAおよび遺伝子発現データを、それぞれDepMap(CCLE_segmented_cn.csv、DepMap Public 19Q4;CCLE_gene_cn.csv、DepMap Public 19Q4およびCCLE_expression_full.csv、DepMap Public 19Q4)から得た(82)。
ICB処置されたHPV陰性HNSCにおける9p欠損の生存分析
【0175】
リアルワールドエビデンス(RWE)コホート。出願人は、PD-1阻害剤のニボルマブもしくはペムブロリズマブ、または化学療法で処置されたHPV陰性HNSC患者のリアルワールドコホートを利用し、その腫瘍を顕微解剖し、次いで、全ての常染色体およびX染色体を網羅する592個の遺伝子のパネルの次世代配列決定を行った。出願人は、この情報を使用して、3p、9p、および17pでのCN(欠損)を推測した(コンソートダイアグラム、
図17)。592遺伝子パネル腕欠損アルゴリズムを、96.6%(95% CI:82.2~99.9)の感度および99.5%(95% CI:98.2~99.9)の特異性を示す1p/19q共欠失(24)について436名の患者で標準FISHに対してCAP/CLIA検証し、さらに、9pおよび9p21欠損について369症例の全エクソーム配列決定に対して検証し、9p欠損については0.828、9p21.3欠損については0.773という2つのアッセイ間のピアソン相関を見出した。出願人の592遺伝子パネルのTMBは、メガベースあたり10以上の変異を有する腫瘍についてペムブロリズマブの不可知論的使用に関連するFDA承認の324遺伝子コンパニオン診断試験と同等であることが分かった。592遺伝子MI腫瘍シークパネルを使用して、MSIの状態に関連して抗PD-1治療の有効性を検証した(補足資料を参照)。
前向き口腔前がんコホート
【0176】
SCNAおよびマルチプレックス免疫プロファイリング。染色体増加は、染色体-7セントロメアプローブ、これに関連して異なる染色体を有する類似の表現型に基づいたトリソミー/テトラソミーのランダムに選択されたマーカーを使用して、蛍光インサイツハイブリダイゼーションによって決定された(W.N.Hottelman,Ann N Y Acad Sci 952,1-12(2001))。特異的PCR-DNA増幅後、自動キャピラリーDNAアナライザーを使用してマイクロサテライト対立遺伝子を分離し、各マーカーの個々の対立遺伝子のピーク高さを定量した。(統計の節に記載された基準を使用して)マーカーの少なくとも1つの欠損を、その特定の染色体部位の欠損とみなした。出願人は、全体的なSCNAレベルを、3p、9pおよび17pならびに4q、8p、11qおよび13qを含む7つの染色体腕におけるchr7の増加および欠損としてみなした。
【0177】
以前の方法報告(E.R.Parraら、Scientific Reports 7,13380(2017))に記載されているように、出願人は、同じ組織切片上で染色され、抗CD3(Dako、Tリンパ球マーカー)、抗CD8(細胞傷害性T細胞上に存在するクローンC8/144B、Thermo Scientific)、抗CD68(クローンPG-M1、Dako、マクロファージ系統マーカー)、抗サイトケラチン(クローンAE1/AE3、Dako)およびDAPI(核染色)を含むチラミドシグナル増幅系キットを使用して標識された5つの抗体の検証された多重免疫蛍光(mIF)パネルを利用した。各抗体を特異的フルオロフォアで標識した。陽性対照および陰性対照の検査ならびにウェスタンブロッティングによる抗体の試験によって、すべての抗体をmIFに最適化した。出願人は、マルチスペクトル顕微鏡(Vectra(商標)、PerkinElmer)でスキャニングおよび画像取込みを行い、特定の領域の各マーカーについて陽性染色を有する細胞の数を数えることができる専用のソフトウェア(InForm(商標)、PerkinElmer)で画像を分析した。各試料について、それぞれ1mm2を測定する1~10個の代表領域(中央値6)をマーカー定量のためにランダムに選択した。CD3+およびCD8+T細胞ならびにCD68+マクロファージを評価し、細胞密度(すなわち、細胞/mm2)として報告した。
【0178】
統計的考察。ウィルコクソン順位和検定を使用して、2値変数によって定義される2つの群間の連続変数の分布を比較した。フィッシャーの直接検定を使用して、2値マーカーとカテゴリ因子との間の関連性を評価した。スピアマン相関係数を使用して、連続スケールで2つのマーカー間のペアワイズ相関を評価した。連続スケールで評価されたバイオマーカーを分析する場合、複数の領域からの値を対数スケールに変換し、線形混合効果モデルと適合させて患者内変動を明らかにした(Springer-Verlag New York,ed.1,2007))。OCFS(モデル1)を、プロトコル登録から浸潤性口腔がんのプロトコル指定の主要エンドポイントの開発までの時間、すなわち死亡と定義し、カプラン・マイヤー法によって推定した。Cox比例ハザードモデルを使用して、マーカーおよびOCFSの関連性を研究した。群間のOCFSの差を試験するために、ログランク検定を行った。全ての分析は、SASソフトウェア(バージョン9.4、SAS Institute、ノースカロライナ州ケーリー)およびRを用いて実施された。
【数1】
【0179】
この論文を通して、特定のパラメータ(例えば、免疫細胞レベル)に基づくコピー数事象のレベルを予測するために行われた単変量(モデル2)および多変量(モデル3)解析では、2つの異なるカットオフが使用された(35%~65%、50%で確認)。例えば、前がん症例の多変量ロジスティック回帰では、出願人は、免疫細胞のパーセントに関して患者を上位と下位35%nに分割し、3p14、9p21.3、または/および17p13.1での欠損、ならびにSCNAレベルを使用して、免疫細胞ランドスケープに対する各パラメータの寄与を決定した。同じカットオフを、ISを含むTCGA症例の分析に使用した。前がんにおける染色体欠損は、前がん特異的SCNAを予後と前向きに相関させたランドマーク臨床試験で利用された同じカットオフと一致して、病変(L1/L2)DNAにおけるおよび対応する正常リンパ球(N1/N2)DNAにおける2つの対立遺伝子のピーク高さの比>1.43または<0.7として定義される(W.N.William,Jr.ら、JAMA oncology 2,209-216(2016))。
【0180】
SCNAレベルは、異なるゲノム遺伝子座におけるSCNAレベルに関する入手可能な情報に基づいて算出された。より具体的には、以下の遺伝子座:3p21-14、4q26-28、4q31.1、8p22-p23、9p21.3、11q13-q22、13q21、17p13.1における欠損の存在に関する情報が入手可能であり、SCNAレベルを任意のSCNA(3p21-14、4q26-28、4q31.1、8p22、8p23、9p21.3、11q13、11q22、13q21、もしくは17p13.1におけるすべてのマイクロサテライト遺伝子座での欠損および/または7番染色体増加)に基づいて算出した。
【数2】
がんゲノムアトラス(TCGA)におけるHPV陰性HNSC
【0181】
統計的考察。ロジスティック回帰を使用して、免疫浸潤(モデル4~5)およびISレベルを表す異なるパラメータを最も予測する変数を決定した。全ての所見は、2つの純度方法(病理学ベースおよびABSOLUTE、原稿本文の方法を参照)を用いて確認され、補足表に報告された。純度調整後、出願人は、log2変換されたコピー数比>0.3を増加とみなし、<(-0.3)を欠損とみなす。遺伝子発現、変異および臨床データをGDAC Firehoseからダウンロードした。Polyphen2-HVARスコア>0.2(I.A.Adzhubeiら、Nat Methods 7,248-249(2010))のナンセンス、スプライス部位、フレームシフトおよびミスセンス変異を有する患者をTP53変異陽性患者とみなした。限定されたサブセット解析のために、中咽頭起源の腫瘍におけるRPM>1(100万あたりのウイルスリード)のカットオフを使用してHPVの状態を決定し、これをHPV陽性HNSCの厳密な定義として使用した。出願人は、log2変換RSEM値を使用して、CIBERSORT(LM22遺伝子シグネチャーを使用)を使用して免疫細胞含有量(異なる種類の免疫細胞)の差を推定した(A.M.Newmanら、Nat Methods 12,453-457(2015))。口腔前がんで行われたことをHNSCで再現するために、特定の免疫マーカーのRNA発現レベルを、腫瘍の対応する免疫細胞のレベルの代用として適用した。以前の研究は、免疫細胞マーカーのRNA発現レベル(例えば、CD8+)が免疫蛍光に基づく細胞推定値と高度に相関することを示している(J.E.Beaneら、Nat Commun 10,1856(2019)、A.Mezheyeuskiら、J Pathol 244,421-431(2018))(結果を参照)。出願人は、腫瘍を、第35パーセンタイルおよび第65パーセンタイルを使用して低いまたは高い遺伝子発現レベルを有すると定義し、結果を、50%のカットオフを使用して確認した。出願人は、GISTIC2アルゴリズムを使用して、腕レベルの事象と局所レベルの事象という2つの主要なタイプの事象を区別した。指定された場合、特定の腫瘍ステージを有するかまたはTP53変異を含むもしくは含まない患者を最初に選択した後に、ロジスティック回帰を実施した。さらに、5倍交差検証および変数重要度(サイズ効果)評価(パッケージキャレット)も行い、多変量ロジスティック回帰モデルの精度および各共変量のサイズ効果をそれぞれ評価した。
【数3】
【0182】
最小絶対収縮および選択演算子(Lasso)(R.Tibshirani,Journal of the Royal Statistical Society.Series B(Methodological)58,267-288(1996))分類について、免疫浸潤レベルを最も予測するパラメータを決定するために、出願人は、以前に記載されたように(T.Davoliら、Science 355(2017))、第35および第65パーセンタイルを使用して低いまたは高いISレベルを有するものとして腫瘍を定義し、二項モデルを使用した。出願人はまた、10倍交差検定を使用してLassoを適用した。変数として、出願人は、ゲノム全体にわたるすべての可能な全染色体または染色体腕における欠損または増加の存在および全部の腕/染色体SCNAレベルを含めた。
【0183】
示されたSCNAを伴うまたは伴わない腫瘍試料を比較するGSEA(遺伝子セットエンリッチメント分析)のために、出願人は最初にDEseq2パッケージ(M.I.Loveら、Genome Biol 15,550(2014))を使用して、差次的に発現された遺伝子のlog2倍率変化および調整p値を算出した。次いで、出願人は、下記式に基づいて差次的発現スコア[実験スコア]を算出した。次いで、実験スコアを使用してGSEA経路分析(事前ランク付けモデル)を行った(12)。
【数4】
HPV陰性HNSC細胞株
【0184】
統計的考察。出願人は、GSEAを使用して、遺伝子および経路変化に及ぼす9p21.3または3p14(TCGA分析における統計的有意性に基づいて選択)の影響の機序を調査した。各群において同様の数の細胞を有するために、出願人は、細胞株を、中央値よりも低いまたは高いコピー数レベルを有するものに分割する(例えば、出願人は、閾値として、9p21.3については-0.45、3p14領域については-0.5のlog2コピー数比に基づく中央値を使用した)。出願人は、DEseq2(M.I.Loveら、Genome Biol 15,550(2014))を使用して、2つの細胞株群間の差次的発現を推定した。次いで、出願人は上記の式を使用して、GSEA(A.Subramanianら、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 102,15545-15550(2005))の入力としてスコアを算出した。GSEAについて、出願人は、BIOCARTA、KEGGおよびREACTOMEデータベースからの経路および遺伝子セットの包括的なリストを使用した。出願人は、SASPシグネチャー経路の発現を最も予測するパラメータを決定するためにロジスティック回帰を行った(モデル6)(下記参照)。出願人は、分布の第35パーセンタイル/第65パーセンタイル、または第50パーセンタイルのカットオフ(2値)または連続変数を使用して、低いまたは高いSASPシグネチャースコアを有するとして細胞株を区別した(全連続変数は、多変量モデルで使用される前に正規化された)。出願人は、3p14欠損または9p21.3欠損を変数として使用してデータセットにロジスティックモデルを適用した。全9p、3pおよび17p腕を包含する染色体欠損の寄与を、局所欠損と比較して決定するために、出願人はGISTIC2を使用した。細胞株に由来するデータをセグメント化するためにGISTIC2アルゴリズムを適用して、出願人は、9p21.3および3p14における欠損のタイプを決定した:腕レベル事象対局所のみの事象。TCGA分析の場合と同様に、腕長の70%の閾値(染色体腕の割合の単位で与えられる)をGISTIC2で使用して、細胞株の局所レベルの事象と腕レベルの事象とを区別した。
【数5】
SASPおよびIFNα遺伝子セット。異数性に関連するSASPシグネチャーを得るために、出願人は、最初に、以前に報告されたようにSASPで上方調節された遺伝子を検討した(J.P.Coppeら、PLoS Biol 6,2853-2868(2008))。次いで、出願人は、この遺伝子リストを、(S.Santaguidaら、Genes Dev 29、2010-2021(2015))からの異数体細胞対対照細胞(リバーシン処置対対照)において上方調節された(log2FCが少なくとも1.5)遺伝子と交差させた。得られた20個の遺伝子のリストは、SASPシグネチャーを表す(基礎データは示されていない)。IFNα遺伝子セットは、染色体9p21.3上に位置するIFNα遺伝子のリストを含む(データは示さず)。SASP遺伝子発現シグネチャーおよびIFNα遺伝子発現を算出するために、出願人は、単一試料GSEA(ssGSEAパッケージ)を使用した(A.Subramanianら、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 102,15545-15550(2005))。
ICB処置HPV陰性HNSCにおける9p欠損の生存分析
【0185】
リアルワールドエビデンス(RWE)コホートの統計的プロファイリングの検討事項。出願人は、連結されたバイオマーカー-EMR-保険請求-生存記録データを使用して、9pまたは3pにおける遺伝子/染色体領域欠損と転帰との間の関連性の照合を可能にする新規な「仮想核型分析」プラットフォームを使用した。臨床転帰と組み合わせた215,000を超える分子プロファイルを含むCaris Life Sciences CODEaiデータベースをこの研究に活用した。2,761例のHNSC症例が入手可能であり、そのうち1,604例は、Caris 592遺伝子アッセイの結果を有していた。次いで、これらの症例は、プロファイリングされた試料の採取前に治療が投与されたかどうかによって区別された。479例は、プロファイリングされた腫瘍の採取日後にのみ治療投与を受けたことが分かった。479例は、免疫療法(ニボルマブまたはペムブロリズマブ)が処置の一部であるかどうかに基づいて群にさらに細分化された。30日の全生存期間最小値を選択して、不完全な転帰記録を有する患者を除外した(455例までフィルタダウンした)。455例のうち196例がp16 IHC状態によって評価されるHPV陰性であった。122名の患者を、化学療法を用いたおよび用いない様々な処置ラインにわたる免疫療法で処置した。74名の患者は免疫療法処置を受けていないことが分かった(コンソートダイアグラム、
図17)。出願人の592遺伝子パネルのTMBは、メガベースあたり10以上の変異を有する腫瘍についてペムブロリズマブの不可知論的使用に関連するFDA承認の324遺伝子コンパニオン診断試験と同等であることが分かった(D.M.Merinoら、J.Immunother Cancer 8(2020))。592遺伝子MI腫瘍シークパネルを使用して、MSIの状態に関連して抗PD-1治療の有効性を検証した(D.T.Leら、Science 357,409-413(2017))。
【0186】
顕微解剖をすべての症例で実施し、顕微解剖のために選択された領域において最小20%の腫瘍含有量に達したもののみを配列決定した。出願人は、最近記載されたように(K.Zimmerら、Cancers(Basel)12(2020))、ゲノム遺伝子座の配列決定の深さを2倍体対照と比較すること、ならびにCLIA検証の市販のアッセイ(MI Tumor Seek 592-遺伝子パネル、Caris Life Sciences)からこれらのゲノム遺伝子座の既知の性能を比較することによってSCNAレベルを得た。592遺伝子パネル腕欠損アルゴリズムは、1p/19q共欠失について436名の患者を592遺伝子パネル腕欠損予測およびFISH結果の両方と比較する研究でCAP/CLIA検証され、このパターンは、グリア-脳腫瘍、例えば低悪性度神経膠腫において治療上重要であることが示された(A.M.Taylorら、Cancer Cell 33,676-689 e673(2018))。1p/19q共欠失についてFISHで陽性の試料は29個、FISHで陰性の試料は407個であり、腕欠損アルゴリズム予測では96.6%の感度(95% CI:82.2~99.9)および99.5%の特異性(95% CI:98.2~99.9)であった。592遺伝子パネル腕欠損アルゴリズムを、592遺伝子パネル腕欠損予測およびWES腕欠損予測の両方を用いて、369例についてCaris Life Sciences 全エクソーム配列決定(WES)アッセイに対してさらに検証した。WESは、セントロメアおよびテロメアを除いて、染色体全体にわたって保存的なコピー数推定値を使用した。この推定値には、最低でも160,000塩基間隔(6.25/メガベース)ごとに存在する約50,000のイントロンおよび遺伝子間SNPが、すべての遺伝子からの深度データと共に含まれた。計算はCNVKit(python 3.7、バージョン0.9.6)を使用し、数万のデータポイントを調査し、DNAの有無の連続測定に基づいてコールを返すことによって、欠失状態の信頼度を提供した。2つのアッセイ間のピアソン相関は、9p欠損にわたって0.828であり、9p21.3欠損については0.773であった。PD-L1、PD-L2およびJAK2を、1.6またはそれ未満のコピーを使用してコピー数の欠損について評価して、遺伝子が前述のように欠失しているかどうかを決定した(J.P.Abrahamら、Clinical Cancer Research 10.1158/1078-0432.Ccr-20-3286,clincanres.3286.2020(2020))。592遺伝子パネル腕欠損アルゴリズムは、遺伝子がプロファイリングされた全ての染色体の両腕にわたる大規模な遺伝子欠失を評価した。領域または腕でプロファイリングされたすべての遺伝子にわたる平均コピー数を、反対側の腕でプロファイリングされた遺伝子のすべてのコピーの平均と比較した。各染色体について得られる比率は≦0.8でなければならず、反対側の腕は、失われていると評価されるべき検討対象の領域または腕について2.5を超える平均コピー数を有することができない。全エクソームまたは全ゲノムの配列決定データを使用したより大きなコホートは、これらの所見を拡大するために重要であり、これには、ICB抵抗性に対するTP53変異の寄与に対処することが含まれ、分析は、高いTP53変異-9p欠損共発生率のために検定力によって現在制限されている。
結果
口腔前がん前向きコホート
【0187】
188名のHPV陰性口腔前がん患者(年齢中央値56歳、23~82歳の範囲)の臨床コホートを集め、これらの臨床コホートを体系的に追跡し、浸潤性がんのプロトコル指定の主要エンドポイントに達するまで厳密にアノテートした。この集団の5年口腔がん無発症生存率(OCFS)は71.8%であり、打ち切られた観察の追跡期間の中央値は90.8ヶ月であった。多重免疫蛍光を使用して、浸潤しているCD3+、CD8+およびCD68+細胞の量を評価した。この調査は、免疫細胞浸潤と3つのSCNA測定基準との関連に焦点を当てた:1)報告された主な口腔がんリスクSCNA、3p14、9p21および/または17p13でのCN欠損(T.Davoliら、Science 355(2017)、J.P.Coppeら、PLoS Biol 6,2853-2868(2008)、D.M.Merinoら、J Immunother Cancer 8(2020))、2)染色体-7増加(これの余分なコピーまたは他の単一染色体増加は、類似の前がん表現型を有し、したがって、病変トリソミーまたはテトラソミーをマークするために使用される(M.I.Loveら、Genome Biol 15,550(2014)))、およびJ.Jiang、Springer Series in Statistics(Springer-Verlag New York,ed.1,2007)、10.1007/978-0-387-47946-0、pp.257)全体的なSCNA、または異数性、レベル。後者は、出願人の前がん分子プロファイリングプラットフォーム(方法を参照)において、6つの染色体腕上の主要および副次リスク領域でのCN欠損+chr7増加を含むすべてのCN事象を含んでいた。3p14、9p21、もしくは17p13でのCN欠損、または染色体-7増加が、特にp=1.29 E-07での3p14欠損および9p21欠損と共発生する傾向があった(事象頻度および共発生率、データ示さず)。
【0188】
前がんでは、SCNAレベル、特に染色体トリソミー/テトラソミーは、CD3+およびCD8+T細胞浸潤の増加と関連していた。出願人はまず、主要リスクSCNA(すなわち、3p14、9p21および/または17p13欠損)を免疫細胞浸潤と相関させた(
図1)。(単変量解析において)個々に検討した場合、9p21.3欠損は、CD3+細胞密度のほぼ二倍の増加と関連し(p=0.038)(
図1A)、3p14欠損(p=0.072)および17p13.1欠損(p=0.090)は、CD3+細胞増加の傾向と関連していた。全体的なSCNAレベルは、CD3+(p=0.023)細胞浸潤の増加と関連していたが、CD8+(p=有意ではない)細胞浸潤の増加とは関連していなかった。Chr7トリソミーおよびテトラソミーは、単変量35%混合効果モデルにおいて、免疫ホット前がん病変-CD3+(p=0.0004)およびCD8+(p=0.015)T細胞浸潤と強く関連していた(中央値、50%、カットオフで確認)。SCNAは共発生する傾向があったため(データは示さず)、多変量ロジスティック回帰を実施して、他とは無関係に、細胞浸潤に対する個々のCN変化および全体的なSCNAレベルの寄与を評価した(
図1C~
図1E)。染色体増加(トリソミー、テトラソミー)は、多変量解析において前がん病変における免疫細胞浸潤の優勢な推進要因であり(CD3+、p=0.008、CD8+、p=0.058、CD68、p=0.051)、全体的なSCNAレベル-ホット前がん関連に寄与した。chr7増加またはSCNAレベルを検討すると、3p14、9p21.3および/または17p13.1はCD3+、CD8+またはCD68+細胞レベルと相関しなかった(
図1C~
図1E)。CNまたは免疫測定基準に関係なく、すべての前がん分析において、カットオフ(および単変量または多変量にかかわらず)-SCNAは、微小環境におけるT細胞数の減少と関連しなかった。
【0189】
9p21.3欠損(続いて異形成)は、低OCFSの最も強い独立した予後マーカーであった。口腔前がんにおける異形成の存在は、以前はがんリスクと関連していた(6~8)。予想通り(12)、異形成病変は、全体的により多くのSCNAおよび9p21欠損を抱えていた。不均衡に強いSCNA異形成関連がCD3+(対CD8+)細胞レベルで観察され、おそらく組織学的高悪性度病変におけるCD3/CD4+T-regの増加を反映している(
図1A~
図1D)。非異形成病変と比較して、異形成はCD3+細胞の増加に関連していた(p<0.01)(データは示さず)。転帰の予測における各臨床マーカー、組織学マーカー、ゲノムマーカーおよび免疫マーカーの寄与を決定するために、OCFSの単変量解析を行った。出願人のパラメータは、低OCFSを予測した:組織学(異形成対過形成、β=0.693、p=0.009、HR=2.000、95% CI=1.180-3.370)、9p21.3欠損(β=0.659、p=0.011、HR=1.932、95% CI=1.160-3.200)、chr7増加(β=0.601、p=0.010、HR=1.824、95% CI=1.151-2.889)、および全体的なSCNAレベル(β=0.372、p=0.010、HR=1.451、95% CI=1.092-1.927)(データは示さず)。
【0190】
次に、組織学、3つの主要リスクSCNA(3p14、9p21および/または17p13で欠損)、chr7増加および全体的SCNAを含む多変量コックス比例ハザードモデルを構築し、異形成および9p21欠損のみが低OCFSと個々に関連することを実証した(
図6)。異形成および9p21.3欠損の両方を有する患者は、最も低いOCFSを有し(p=0.0001、
図6B)、異形成または9p21欠損のみを有する患者よりもOCFSが統計的に有意に低い(p=0.014またはp=0.012、ログランク検定、それぞれ)。8つの異なる多変量予測モデルにおいて年齢、性別、喫煙状態、アルコール使用、T細胞浸潤、主要なCN欠損遺伝子座、全体的なSCNAレベル、またはchr7増加を含めることで、9p21欠損がOCFSとの最も一貫した、有意な、負の関連性を有し、次に、組織学とは無関係であることを明らかにした(
図6C)。
口腔がん-HPV陰性HNSC(TCGA)
【0191】
TCGA HPV陰性HNSCでは、SCNAはT細胞浸潤の減少と関連していた:9p欠損の極めて重要な役割。TCGAからの包括的なゲノムおよびトランスクリプトームデータを活用して、343個のHPV陰性HNSC試料において、3p14、9p21および/または17p13欠損およびSCNAレベルと腫瘍細胞浸潤および以前に記載された免疫スコア(IS)との関連を調べた(23)。ISは、細胞傷害性T細胞マーカーの発現レベルに基づいており、他の報告で利用されている測定基準と一致した(24~29)。CD3D、CD8AまたはCD68のRNA発現レベルを、HNSCにおいて再現するための代用として使用し、CD3+、CD8+およびCD68+レベルについて経口前がん生検試料に対して分析を行った。CD68+ではなくCD3+およびCD8+の発現レベル(ピアソンのr=0.34)は、ISと強く相関した(CD3DおよびCD8Aについてそれぞれピアソンのr=0.91および0.93)(
図7)。
【0192】
3p14、9p21または17p13遺伝子座での欠損を定義するために、出願人は、前がんにおける欠損を探索するために使用されるのと同じゲノム位置で測定された純度調整CNを検討した(病理学およびABSOLUTEに基づく純度推定値を使用)。別段の指定がない限り、ゲノム領域の欠損(例えば、「9p21.3欠損」)とは、欠失の長さに関係なく、この領域における欠損を指す(例えば、局所であるか腕であるか)。いずれの場合も、特異リスクCN(例えば、9p21.3欠損)を2値変数(SCNAの有無)、CNを連続変数(対数変換CNレベル)として解析を行った。3p14、9p21および/または17p13欠損(SCNAレベルおよびCN欠損に最も関連する、
図9)、chr7増加およびSCNAレベル(がんおよび前がんの測定基準を使用)は、CD3/CD8+細胞数、活性化マーカー(GZMB、IFNG)およびIS(
図2および
図8)の減少と関連していた。
【0193】
個々のSCNAは共発生する傾向があり(例えば、3p14欠損および9p21.3欠損、p=1.73E-26)、全体的なSCNAレベルに関連していたため、出願人は、免疫マーカーおよび浸潤パラメータを予測する際の各主要CN事象の個々の寄与を決定した。浸潤するCD3+およびCD8+T細胞のレベルを予測するために多変量ロジスティック回帰を実施し、所定の35%および中央値カットオフを使用して腫瘍を高レベルまたは低レベルを含むものに分割した。予測要素として、CN測定基準には、前がんコホート---3p14、9p21.3および/または17p13.1欠損、chr7増加および全体的なSCNAレベルで使用されるものが含まれた。このモデルによれば、3p14または17p13.1の欠損は、CD3+またはCD8+のT細胞浸潤(
図2B)、IS、またはGZMB/IFNG(データは示さず)と統計学的に有意に関連しなかった。対照的に、9p21.3欠損は、CD3+およびCD8+のT細胞浸潤との強い負の関連を有していた(CD3の場合、β=-1.005、p=0.006、OR=0.366、95% CI=0.178~0.744、CD8の場合、β=-1.285、p=0.0004、OR=0.277、95% CI=0.133~0.562、
図2B)。重要なことに、この堅固な関連は、全体的なSCNAレベルとは無関係であり、これもまた、CD3+およびCD8+のT細胞浸潤と統計的に有意に負に関連していた(
図2B)。単変量解析では免疫コールドであったが(
図8C)、SCNAレベルを含む多変量解析では、chr7-腫瘍微小環境シグナルが欠損した(
図2B)。9p21.3欠損も全体的なSCNAレベルもCD68+細胞と関連しなかった(
図2C)。(CN閾値に基づく2値欠損/増加の分類に加えて)連続変数としての主要または軽微な遺伝子座欠損および全体的な(前がん定義およびHNSC定義)SCNAレベルについてのCN測定基準を使用し、純度補正(ABSOLUTEを使用)を用いた分析では、同様の結果であった。9p21.3欠損およびSCNAレベルが、T細胞枯渇の2つの最も強い予測因子として同定された(データは示さず)。理論に束縛されるものではないが、サイズ効果分析は、9p21.3欠損がCD3+T細胞の場合は29.41%の分散およびCD8+T細胞の場合は37.41%の分散を説明し得ることを示した(
図2B)。これらの結果は、5倍交差検定を使用し、年齢、性別、TP53およびステージなどの他の共変量を追加した場合にも同様であった(表は示さず)。
【0194】
出願人は、3p14欠損が、ここで試験されたモデルのうちの1つのみにおいて免疫コールド腫瘍と統計学的に有意に関連したことを認めている(連続変数モデル、純度補正のための病理学ベースの推定値を使用)。より低いCD8+(β=0.583、p=0.007、OR=1.791、95% CI=1.174~2.765)およびCD3+(β=0.585、p=0.003、OR=1.796、95% CI=1.231-2.662)T細胞ならびにIS(β=0.601、p=0.005、OR=1.824、95% CI=1.208~2.801)に関連する3p14欠損(データは示さず)。免疫マーカーとの3p14欠損の関連(β係数)は、ここで行われたすべての分析において9p21.3欠損のそれよりも弱かった。連続データモデルにおける腕レベル事象対局所レベル事象の分析は、低CD3+(p=0.030、データは示さず)との3p腕欠損関連、およびCD8+(p=0.091、データは示さず)細胞浸潤の傾向を示した(標準化CN値を使用)。さらに、3p14の局所のみ欠損もまた、CD3+(p=0.078、データは示さず)細胞については連続データモデルにおいて傾向を示したが、CD8+(p=0.15、データは示さず)細胞については示さなかった。3p14欠損に加えて、予測のためにCD3+およびCD8+T細胞を使用した場合、17p腕との関連も17p13.1-局所欠損との関連も統計学的に有意ではなかった(データは示さず)。
【0195】
HNSC解剖サブサイトによる口腔前がんデータと一致させるために、出願人は、TCGA HPV陰性HNSC試料における口腔がんのみのサブセットで、全てのHPV陰性HNSCについて行われたCD8+、CD3+およびCD68+細胞、ISの分析、ならびに腕/局所分析を繰り返した(データは示さず)。後者の原発性腫瘍試料は、歯槽堤、頬粘膜、口腔底、硬口蓋、口唇、口腔舌または口腔から得た(別段特定されない)。このフィルターの後、試料数は343から232に減少し、関連性は、すべてのTCGA HPV陰性HNSC試料を検討することによって観察されたものと同様のままであった(データは示さず、口腔のみ)。まとめると、これらのデータは、HPV陰性HNSCにおける9p欠損が免疫排除のコールド微小環境に関連していることを示している。9p連鎖は、3pまたは17pとは異なり、閾値/カットオフおよびパラメータの種類(2値または連続)または解剖サブサイトとは無関係に、単変量であろうと多変量であろうと、すべての癌関連分析において強く、特異的であり、一貫していた。連鎖は、2つの純度補正方法で確認された。
【0196】
9p21.3欠損と免疫コールドHPV陰性HNSCとの関連:主に全9p腕欠損によって推進される。9p21.3での欠損は、9p腕全体、9p21.3での限局領域、またはその両方(腕および局所事象が異なる染色体コピーに存在する)欠損に起因して起こり得る。これまでに記載された分析のすべてにおいて、SCNAを、欠失サイズに関する情報を伴うことなく、特定のゲノム遺伝子座(例えば、9p21.3)において評価した。前がんでは、9p21.3でのCNレベルの推定(PCRによる)は、腕欠損または局所欠損の区別を可能にしなかった。しかし、HNSCデータの文脈では、この区別は可能であった。したがって、9p21.3欠損と免疫浸潤との関連に対する腕レベル欠損対局所レベル欠損の寄与を決定した。具体的には、腕レベルの事象に由来する9p21.3欠損(9p腕欠損)および局所レベルのみの事象に由来する9p21.3欠損を評価した。低いCD3+(β=-1.568、p=0.0008、OR=0.209、95% CI=0.080-0.508、データは示さず)およびCD8+(β=-1.795、p=0.0002、OR=0.166、95% CI=0.061-0.413、データは示さず)T細胞浸潤の予測において、9p腕レベル欠損の著しい効果が観察された一方、9p21.3の局所レベルの事象は、CD8+およびCD3+T細胞浸潤の統計学的に有意でない減少を示した(
図2D、データは示さず)。
【0197】
9p21または9p24領域全体ではなく、9p上の特定の候補遺伝子、具体的にはCDKN2A、IFNA、JAK2およびCD274の欠失を検討すると、同様の結果が得られた。すべての場合において、腕レベルの欠失は、これらの特定の遺伝子の局所的欠失よりも、CD3+およびCD8+細胞の(β係数およびp値に関して)より強い予測因子であった(データは示さず)。さらに、Lasso分類法では、9p欠損が、すべての可能性のある腕レベルの欠失または増加にわたってIS(p<0.001)を予測するために選択された最高得点パラメータであった(データは示さず)。この分析では、3p欠損も17p欠損も、CD3+またはCD8+細胞浸潤と統計学的に有意に関連することは見出されなかった。染色体全体の関連の分析では、染色体-9欠損が、低いCD3/CD8+T細胞浸潤およびISと有意に関連する唯一の事象であった(p=0.008)。この染色体全体の関連は、9q欠損とT細胞浸潤との関連が統計学的に有意でなかったため(データは示さず)、T細胞浸潤に及ぼす9p腕欠損の強い負の影響によると思われた。表現型は、9p21.3を除く多くの相互作用または協働する9p遺伝子欠損の累積的影響による可能性がある(
図10)。
【0198】
9p欠損と免疫浸潤との関連:ステージおよびTP53変異によって影響される。腫瘍微小環境の関連性が早期浸潤移行および疾患の程度によって影響されるかどうかを試験するために、出願人は腫瘍をステージによって層別化し、9p21.3欠損、9p腕レベル欠損、およびCD3/CD8+レベルとのSCNAレベルの負の関連性は、初期HNSCではもはや統計学的に有意ではないことを見出した(
図11A、
図11B、
図12A、
図12Bおよび
図13A、
図13B、基礎データは示されていない)。異形成前がんでは、SCNAレベルは優勢なCD3+細胞の増加と関連していたため、出願人は、特異的な免疫細胞型が初期のHNSCにおけるSCNAレベルと関連し得ると推測した(データは示さず)。CIBERSORTアルゴリズム(30)を使用して、CN測定基準によって腫瘍微小環境における異なる細胞型の割合を推定した。NK細胞レベルは、SCNA高腫瘍、特に初期原発性疾患(p=0.007、
図12D)で増加した。Chr7増加は、NK細胞またはCD8+細胞においていかなるステージ特異的差異も示さなかった。しかしながら、CD8+T細胞レベルのCIBERSORT分析は、NK細胞のステージ特異的パターンとは反対のパターンを明らかにし、すなわち、CD8+レベルは、進行期(対初期)のHNSC試料においてSCNAレベル(および9p21欠損)と負に関連し、所見はロジスティック回帰、純度管理分析によって確認された(
図12C、基礎データは示されていない)。9p21.3または9p欠損とCD3+およびCD8+T細胞との関連は、野生型腫瘍よりもTP53変異体において、特に初期病変においてより強かった(
図11C、
図11D、
図13C、
図13D、基礎データは示されていない)。
【0199】
HPV陽性HNSCにおける免疫浸潤に及ぼすSCNAの効果。出願人は、TCGAから入手可能な36個すべてのHPV陽性HNSCにおけるSCNA頻度および免疫細胞の関連を調べた。HPV陰性腫瘍と比較して、HPV陽性腫瘍は、17p13.1欠損で同等頻度を示したが、3p14および9p21.3の両欠損でより低い頻度を示した(データは示さず)。CD3+、CD8+およびCD68+細胞の予測のためのロジスティック回帰は、ここで研究したCNパラメータまたは測定基準のいずれも、HPV陽性腫瘍におけるこれら3つの細胞型のいずれとも統計的に有意に関連しないことを示した(データは示さず)。
HPV陰性HNSC細胞株
【0200】
HPV陰性HNSC細胞株における9p欠損は、SASP、JAK-STATおよびサイトカイン経路の減少と関連していた。上記のTCGA HPV陰性HNSC分析におけるT細胞またはIS抑制に関連するCN変化を両方とも含有するかまたは含有しないHNSC細胞株(データは示さず)における遺伝子発現プロファイルを研究した。インビトロ細胞株研究は免疫細胞との相互作用の分析を可能にしないが、それらは腫瘍-免疫相互作用を媒介し得る細胞自律機構を同定することができる。出願人は、32個のHPV陰性HNSC細胞株のセットのトランスクリプトームに対してGSEAを実施し(データは示さず)、9p腕または9p21.3欠損を伴うまたは伴わない細胞株を比較した。3p腕または3p14欠損を検討して、同様の分析も行った。9p腕欠損を含む細胞株において枯渇した上位10の経路の中で、7つが免疫プロセスまたは相互作用に関連していた。9p腕欠損を含む細胞株において最も有意に枯渇した経路のうちの3つは、老化関連分泌経路(SASP)(FDR p<0.0001)、サイトカイン-サイトカイン受容体相互作用(FDR=0.005)およびJAK-STATシグナル伝達経路(FDR=0.166、
図3A、基礎データは示されていない)であった。これらの経路は、腫瘍免疫浸潤を促進するほとんどが分泌された分子をコードする相互に関連する遺伝子セットを表す。同様の遺伝子セット分析により、最も枯渇したホールマーク経路がNFkBを介したTNFAシグナル伝達であることが示された(FDR<0.0001、
図3A)。対照的に、3p14または3pの欠損は、免疫プロセスに関連するこれらの経路または他の経路の枯渇と関連しなかったが、代わりに、サイトカイン-サイトカイン受容体相互作用およびJAK-STATシグナル伝達(FDR=それぞれ0.084および0.231)経路のエンリッチメント、ならびに炎症促進性分子発現と関連した(データは示さず)。
【0201】
IFNα分子の発現は、9p21.3欠損を含む腫瘍(TCGA)においてより低かったが、9p21.3または9p欠損を有する細胞株においては低くなく、外因性微小環境効果と一致した(データは示さず)。JAK2はまた、9p欠損を有するTCGA(細胞株ではない)においても減少した。単一試料GSEA(ssGSEA)(31)分析により、9p腕欠損が、SASP、JAK-STATシグナル伝達、サイトカイン-サイトカイン受容体およびNFkB経路を介したTNFAシグナル伝達の抑制に関連することが確認された(
図3B~
図3E)。上記のTCGA分析は、9p21.3欠損が9p腕欠失によって促進される免疫コールド腫瘍に寄与することを示唆したため、出願人は細胞株におけるこの関連性を調べた。9p21.3で欠損を伴うまたは伴わない細胞株を比較するGSEA分析は、SASPの著しい枯渇(FDR<0.0001)、およびJAK-STATおよびサイトカイン経路の減少に向かう傾向を示した(
図3B~
図3E、基礎データは示されていない)。これらの細胞株結果は、9p21.3の欠失が主に細胞固有のSASP抑制に寄与する一方で、サイトカインおよびサイトカインに関連する他の分子、JAK-STAT、およびNFkB経路の細胞株抑制には9p腕全体の欠失が必要であることを示唆している。SASPと比較して、サイトカイン-サイトカイン受容体相互作用、JAK-STAT、およびNFkB経路の9p欠損に関連する下方調節は、細胞株(
図3)よりも腫瘍試料(
図14および
図15)で強かった。9p欠損を含む細胞株および腫瘍において下方調節された(4つの経路のうちの1またはそれを超える経路に属する)免疫調節遺伝子は、CCL2、CCL24、CSF3R、KDR、IER5、IRF1、IL2RG、LTB、MCL1、SAT1、TNFSF10およびTNFRSF6Bであった(
図16)。分子は腫瘍で特異的に減少したが、細胞株では減少せず(
図16)、特に、CCL19(log2FC=-1.347、FDR=1.74E-06)、CCL21(log2FC=-0.894、FDR=0.001)、CXCL9(log2FC=-2.040、FDR=1.46E-15)およびCXCL10(log2FC=-2.513、FDR=1.44E-20)が含まれた(基礎データは示されていない)。
【0202】
SCNAレベル(共変量として)を検討して、ISの予測のためにロジスティック回帰モデル分析を実施して、9p上の潜在的候補遺伝子を定義した。ロジスティックモデルに基づいて、84個の遺伝子がISと関連し(FDR<0.001)、そのうち42個が以下のパラメータ:腫瘍におけるRNAレベルとISとの相関、腫瘍におけるRNAレベルとDNA CNとの相関、または細胞株におけるRNAとDNA CNとの相関のうちの少なくとも2つにおいて有意性(FDR<0.001)を示した(データは示さず)。JAK2、CDKN2AおよびIFNαを含むこれらの遺伝子(32)は、9p13に22個の遺伝子、9p21に10個、9p22に6個および9p24に10個の遺伝子を含んでいた。RANBP6、IL33およびSUMO E3リガーゼTOPORSなどの細胞株で同定された新しい候補遺伝子は、炎症促進性および免疫原性促進分子を減少させ、したがって免疫回避を促進することができる(FDR<0.0001、データは示さず)。要約すると、これらのデータは、がん細胞株において、重要な免疫調節遺伝子の9p腕欠失が、腫瘍において観察されるT細胞枯渇をもたらし得ることを示している(例えば、CCL2、CCL24)。9p21.3または9p24などの9p上に位置する個々の領域の欠失は、腕全体の欠失を有する細胞株で観察される効果を再現するのに十分ではなく、この染色体腕上に位置する遺伝子セットの累積的な効果を示唆した。
リアルワールドエビデンスコホート
【0203】
染色体-9p欠損は、免疫療法後のHPV陰性HNSC患者の生存を予測した。上記のTCGA分析における9p欠損と免疫枯渇との強い関連に基づいて、出願人は、リアルワールドエビデンス(RWE)コホートにおいて、9p欠損と免疫療法後の患者の生存との間に相関関係があるかどうかを調べた。独立した匿名化RWEデータセットは、臨床転帰データでアノテートされたゲノムプロファイルを含んでいた(
図16)。簡潔に言えば、このコホートには、第一選択または第二選択の抗PD-1チェックポイント治療(ペムブロリズマブ、ニボルマブ)または化学療法(事前または事後の免疫療法なし)を受けた196名のHPV陰性HNSC患者が含まれていた。抗PD-1療法または化学療法単独で処置した9p欠損を有するこの患者コホートにおけるカプラン・マイヤー生存プロットは
図4に示され、9p21、9p13および9p24染色体欠損または遺伝子欠失の生存分析は示されていない。上記のPD-1阻害剤療法の文脈内で、生存期間中央値は、9p欠損のない患者(HR=0.468、95% CI=0.232~0.944、ログランクp=0.03)でより長かった(
図4A)。この生存期間の差異が(PD-1遮断とは無関係に)全般的な予後の関連を反映しているかどうかを評価するために、出願人は、化学療法のみで処置された(すなわち、PD-1、チェックポイント、阻害剤で処置されていない)患者の生存期間を分析し、9p欠損群と欠損なし群との間に差異は観察されなかった(p=0.98)(
図4B)。これらの結果は、9p欠損がPD-1阻害剤からの臨床的利益の強力な特異的予測マーカーであることを示した。対照的に、3p、17p、または9p21.3の欠損は、(抗PD-1治療有効性の)予測ではなく(
図4C)、または非免疫チェックポイント遮断(ICB)処置患者における予後予測ではなかった(データは示さず)。
【0204】
腫瘍細胞におけるPD-L1およびPD-L2の発現は、HNSC患者におけるニボルマブおよびペムブロリズマブからの利益と関連している(2-4、26、33)。9p腕欠損の予測効果が完全にPD-L1(および/またはPD-L2)遺伝子(9p24に位置する)の欠損に起因し得るかどうかを評価するために、抗PD-1で処置された患者における生存期間をPD-L1/-L2遺伝子欠失の存在に従って評価した。PD-L1、-L2およびJAK2欠失(9p24)の境界予測的関連性が観察され(データは示さず)、9p上のさらなる遺伝子変化がPD-1遮断に対する抵抗性に寄与し得ることが示唆された。この研究における最も強いコピー数ICB予測マーカーに関して、PD-L1-JAK2共欠失を有する患者は、この共欠失を有しない患者と比較して生存期間中央値が劣っていた(6ヶ月対19ヶ月、p=0.007)。9p24欠損は、9p腕欠損で観察されたのと同レベルの抗PD-1治療抵抗性を示した(p=0.028)。9p欠損と同様に、PD-L1、PD-L2、JAK2および9p24の欠失、ならびにPD-L1-JAK2の共欠失は、非ICB処置患者では予後診断ではなかった(基礎データは示されていない)。腫瘍変異量(TMB;メガベースあたりの10変異の閾値)は、PD-1遮断後の9p欠損または生存期間の差と関連しなかった(HR=0.762、95% CI 0.423~1.372、p=0.364)。試料のいずれも、高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-高頻度)を示さなかった。
考察
【0205】
前がんからがんへの移行における異数体チェックポイントおよび免疫ホットからコールドへの切り替え。出願人は、染色体-用量不均衡がヒトHPV陰性頭頸部腫瘍形成中の免疫ホットからコールドへの切り替えに寄与することを報告している(
図5A)。単一染色体の実験的な細胞移入、またはゲノム操作された限局的変化は、細胞系または余分な染色体の同一性にかかわらず、細胞傷害性応答を引き起こす(24、34、35)。これらの前臨床実験を裏付けて、出願人は、臨床口腔前がん病変において、単一染色体トリソミー/テトラソミーがCD3+およびCD8+T細胞浸潤の増加と相関し、これが全体的なSCNAレベル-ホット関連に寄与することを見出した。理論に束縛されるものではないが、CN変化した前新生物細胞は宿主認識を誘発し得る。腫瘍浸潤細胞傷害性T細胞数および活性化マーカー(GZMB、IFNG、IS)の著しい抑制を特徴とする、主に9p腕欠損を伴う口腔がんにおいて、反対のSCNA-コールド表現型が観察された(
図2B、
図2D、
図8、基礎データは示されていない)。これは、腫瘍形成中に、CNによって生成された免疫原性前がん細胞が、コールド状態、すなわち免疫監視、免疫応答からの回避、および最終的な浸潤および広がりを可能にする特性を獲得すると仮定している(24、36、37)。腫瘍の進化およびさらなる複雑な核型不均衡および極めて重要な変異(TP53)を有する細胞の選択は、このプロセスを増強する可能性がある。これらの機構は、長期のインビトロ培養ストレス(24、36)およびインビボ免疫圧力(37)の条件下で観察されている。これらのデータは、口腔前がんからがんへの移行中の腫瘍性微小環境に及ぼすSCNAの影響の著しい状況依存的な切り替えを明らかにする。
【0206】
免疫回避における9p欠損の役割。このデータは、口腔前がんにおける9p欠損ががんリスクの主要なゲノムドライバーであることを示す。腫瘍形成および悪性形質転換におけるその極めて重要な機能に寄与して、出願人は、免疫回避における9p欠損の不可欠な役割を実証した(
図2Bおよび
図2D)。HPV陰性HNSCでは、免疫排他的なコールド微小環境に対して、3pまたは17pではなく9p欠損という著しい影響が観察された。理論に拘束されるものではないが、これらの結果はまた、HNSC試料におけるT細胞浸潤および活性化の減少と3p欠損との以前に報告された関連性(38)が、3p14欠損および9p21.3欠損の顕著な共発生に起因し得ることも示唆する(p=HPV陰性HNSCで1.73E-26、データは示さず)。さらに、細胞株では、3p欠損が免疫枯渇と関連していなかっただけでなく、意外なことに対照的に、免疫応答および免疫経路マーカーおよび測定基準のエンリッチメントと関連しており(データは示さず)、肺細胞における実験的な3p欠失と一致した(24)。
【0207】
このデータは、微小環境スイッチが腕レベルの9p欠損によって活性化され、9p21.3上の遺伝子が免疫回避を推進するのに寄与するが十分ではないことを示す(
図2D、
図3および
図14)。免疫応答および回避に関連する具体的な9p遺伝子座には、インターフェロンシグナル伝達経路成分、すなわち、IFNα遺伝子クラスター(9p21.3上)ならびに重要なIFNγ経路遺伝子JAK2(9p24上)が含まれる(26)(
図14、
図15)。出願人の実験では、黒色腫における腫瘍細胞固有の回避を促進すると仮定されるIFNα遺伝子クラスター欠損(9p21.3上)(32)は、9p欠損を伴う免疫コールドHNSCでは作用しないようである。理論に束縛されるものではないが、出願人の予測モデルは、CDKN2A(9p21.3)、JAK2(9p24)、および9p21.3または9p24を除くいくつかの遺伝子、例えば9p13の顕著な22遺伝子クラスター欠失を含む、最大40個の潜在的候補遺伝子(データは示さず)の累積効果を暗示している。新規候補の中で注目すべきは、それぞれ、STAT3活性をサイレンシングすること(39)および免疫細胞を組織傷害部位に引きつけること(40)によって、腫瘍微小環境細胞の動員およびチェックポイント遮断効果に関与する重要過程に影響を及ぼし得るRANBP6およびIL33であった。第三のあり得る原因であるTOPORSは、NFkB活性を促進することができ(41)、NFkB経路抑制、T細胞枯渇および9p欠損後の回避に潜在的に寄与する。
【0208】
機構的観点(
図5)から、免疫排除に必要な染色体欠損がより大きいサイズおよび/または不連続である可能性がある。肺扁平上皮前癌における3pマッピング研究で最初に示唆されたこの概念は、限局性chr3p欠損が早期の前新生物事象であるが、肺癌へのその寄与は3p腕欠損のサイズの漸進的増加から生じたことを示した(42)。942)で報告された研究は、この疾患における他の染色体領域の欠損(5q、9p、13q、17p)(43)、他のヒト前がん型、およびモデル系に拡張された。腫瘍性移行および免疫移行に及ぼすより大きな染色体欠損のより大きな影響の根底にある基礎は、領域内の標的が、同じ染色体上の一次標的遺伝子の欠損の影響を用量で滴定する腕上の他の場所の遺伝子および調節要素を協働させることによって効果的に増強されることであり得る(44、45)。9p標的(低ISを予測するための最上腕レベルの事象 [データは示さず])が他の染色体上のゲノム事象とエピスタシスであり、それによって表現型重症度を悪化させる合成生理学的効果(46、47)を作り出すことも可能である(
図5B)。
【0209】
SCNA-微小環境関連研究の十分に確立された制限は、腫瘍純度を含む。より低い純度は、CN欠損、微小環境プロファイル、およびチェックポイント遮断効果と相関している。したがって、出願人は、ここで行われるすべてのゲノム-微小環境関連分析において、この重要な潜在的交絡因子について厳密に制御した。連続変数および2値変数として分析された各ゲノム部位について、病理学に基づく純度補正およびABSOLUTEに基づく純度補正は同様の結果を生じ、出願人のHNSC SCNA/ゲノム免疫関連所見が純度の問題によって交絡されなかったことを示唆した。さらに、この広範な統計分析では、いくつかの報告された関連性は、複数の試験の文脈内の限界統計学的有意性によって制限された。それにもかかわらず、ここで強調されたそのような結果は、様々な分析、カットオフ、および閾値を通して一貫した複数の試験(例えば、FDR<0.001)のために厳密に制御された。
【0210】
9p欠損は免疫原性促進経路を阻害する。SCNA経路分析は、9p欠損が駆動する免疫回避の機構的基礎に対する洞察を提供する。出願人は、原発性腫瘍および9p欠損を有する細胞株において4つの相互に関連する経路(SASP、サイトカイン-サイトカイン受容体相互作用、JAK-STATシグナル伝達、およびNFkBを介したTNFAシグナル伝達)が統計的に有意に減少することを見出した。口腔前がんとがんとの重要な変異の違いは、後者における実質的により大きいTP53変異頻度(9、14、48)であり、これはSCNA生成免疫調節ネットワークを再モデル化し得る。TP53は、SASPおよび老化の誘導において基本的な役割を果たし(49)、TP53標的p21(IL-1と共に)は、TP53野生型細胞において染色体の誤分離および異数性の誘導後に上方調節される上位遺伝子の中にある(50)。異数性をもたらし得る染色体不安定性および分離異常は、cGAS-STING経路を活性化し(32)、次いでNFkBを活性化することが知られている。CN変化細胞におけるcGAS-STING経路の示差的活性化はまた、前がんおよびがんの状況におけるSCNA誘導性の示差効果を説明し得る。SASPと同様に、cGASまたはSTINGの細胞固有欠損は、腫瘍形成において相反する役割を有することが示されている。限局性の9p欠損および限定されたSCNAがある前がんの初期において、cGAS-STINGは、形質転換のSCNA検出および腫瘍抑制性防御をもたらし、その後、進行性の9p腕欠損および核型複雑性を特徴とする後期腫瘍期における免疫抑制性腫瘍促進効果を発展させることができ、これは免疫回避の下流経路促進を阻害するまたは向け直すことができる(21、32、37)。
【0211】
さらに、9p21.3領域はCDKN2Aを含み、これは、DNA損傷および異数性を含む他の細胞ストレスの存在下で細胞周期阻害およびSASP促進において中心的な役割を果たす(51、52)。9p21.3欠損は、SASP関連免疫調節分子の枯渇にとって重要である(おそらく必要である)ようであった。細胞株では、9p21.3欠損は、SASP経路遺伝子に及ぼす強い細胞固有の負の効果があった(データは示さず、
図3、
図5、および
図14)。実際、これは、細胞株において減少した1つの経路であり、局所9p21.3欠損のみであった(データは示さず)。SASP炎症促進性分子の産生減少は、T細胞動員を損なう場合がある(53)。TP53が変異体である場合、9p21.3欠失によるCDKN2A欠損は、SASP減少をもたらし、コールド腫瘍をもたらし得る。これらの結果と一致して、9p21欠失を伴うTP53変異体の早期浸潤性疾患は、TP53野生型の9p欠失対応物と比較して、より大きなCD3/CD8+T細胞枯渇を有していた。CD8およびCD3+T細胞の9p欠損および変異TP53抑制との関連は、9p腕欠損よりも9p21でより強かった(
図11C、
図11D、
図13C、
図13D、基礎データは示されていない)。
【0212】
SASPに加えて、ケモカインCXCL9およびCXCL10の著しい減少は、9p欠損に関連することが見出された(54、55)。これらのIFNγ誘導性CXCR3リガンドは、細胞溶解活性およびさらなるIFNγ産生のために1型サイトカイン産生エフェクターT細胞を引き付けるものであり、樹状cDC1サブセットなどの腫瘍および微小環境に由来する細胞によって分泌されることが知られている(56)。IFNγはHNSCにおいて顕著な役割を果たし、IFNγシグネチャーはHNSCにおけるISおよび抗PD1の利益と相関することが見出された(29)。CXCR3リガンドの分泌は、T細胞プライミングおよび活性化に不可欠な腫瘍-抗原交差提示を大幅に増強する(57)。さらに、出願人は、TCGAにおける9p欠損(細胞株ではない)が、CCL19およびCCL21の不足に関連することを見出した。両方とも、腫瘍部位に浸潤するCD8+エフェクターT細胞の減少をもたらし得る(58、59)。細胞株におけるケモカイン減少の欠如は、ケモカイン産生を制限する細胞外シグナルの重要性を示唆する。これらのデータは、9p欠損が腫瘍部位エフェクターT細胞の動員、浸潤、および有効な細胞媒介性抗腫瘍免疫能を低下させることを示唆している。9p欠損は、ケモカインプロファイル欠損を調整し、したがって、腫瘍のリンパ球浸潤に耐えられないコールド微小環境を促進する。腫瘍への免疫細胞動員を制御する経路は、おそらく分泌された分子を含む細胞固有のものではない可能性が高いため、理論に拘束されるものではないが、出願人は、腕欠失のない前がんの細胞のおそらくより大きな割合が細胞動員を促進し得ると仮定している。これは、サイトカインおよびケモカインの減少に及ぼす9p欠損の影響を部分的に遮蔽し得る。
【0213】
初期病変におけるコピー数および免疫監視。典型的には、一本または少数の腕/染色体トリソミーを有する初期の腫瘍の研究は、前がんの核型状態を知らせ、極めて重要な浸潤移行中に生じるSCNA/免疫細胞バランスに光を投じ得る(36)。ステージ特異的分析では、9p21.3、9p腕レベル欠損、ならびにSCNAレベルとCD3+およびCD8+T細胞レベルとの負の関連は、初期HNSC患者では、より進行した疾患とは対照的に弱く、もはや統計学的に有意ではなかった(
図11A、
図11B、
図12A~
図12C、および
図13)。興味深いことに、SCNAレベルは、ステージIのHNSC試料における腫瘍浸潤NK細胞レベルの増加と関連していた(p=0.007、
図12D)。これは、正常ヒト細胞における異数性がNK細胞活性化を引き起こし得ることを示す以前の前臨床研究と一致している(21、60)。これらのステージ特異的、細胞傷害性細胞およびTP53変異の結果は、腫瘍進化および進行と共に強化される浸潤移行変曲点の間に出現する異数性免疫スイッチを推測することができる。したがって、CN変化した病変は、これらの免疫応答を抑制し、NK細胞および他の細胞傷害性細胞による認識を回避するための特性および機構を進展させなければならない。前駆病変におけるCN量は悪性形質転換の高いリスクを付与するが、これらのSCNAで定義された初期病変は、T-(
図1A~
図1D、基礎データは示されていない)およびNK-(
図12D)細胞浸潤をある程度保持し、おそらくCN変化した前浸潤病変を抑制した(61)。理論に拘束されるものではないが、出願人は、抗PD-1/PD-L1を中心とした予防を用いてこの状況で残留微小環境を増強することが、しかしながら、高い治療収率を有さない場合があることを示唆しており、なぜなら、PD-L1非依存性回避は、9p欠損を伴う病変として出現し、異数体チェックポイントを回避すると予想されるためである。したがって、出願人は、この高リスク前がん、特にT-reg標的化/CTLA4阻害剤に基づく戦略およびCD40アゴニストを遮断するための他の免疫療法および組み合わせを検討することを示唆する。NK細胞を活性化することができる後者(62)は、最近、マウスにおける口腔腫瘍の発生を予防することが示された(63)。
【0214】
本明細書で提唱される異数性チェックポイントの概念は、口腔以外の部位のがん、最も顕著には肺扁平上皮前がん/がんに適用することができる。後者は、おそらく免疫回避および腫瘍浸潤の共有する共進化を反映する汎がんゲノム-SCNA関連研究において、実験的に(24)、およびHPV陰性HNSCを用いて計算的に追跡する(23、24、28、64、65)。後者は、常在免疫細胞の活性化、ならびに高悪性度疾患で作動するインターロイキンおよびチェックポイントを含む抑制性細胞、ネットワークおよびシグナルを介した回避により、低悪性度肺扁平上皮前駆体における宿主検出の横断的研究で裏付けられた(24、66、67)。さらに、この前がんの縦断的研究により、持続性の進行性病変がインターフェロンシグナル伝達の抑制、経路遺伝子発現ならびに自然細胞および適応細胞の枯渇に関連することが見出された(43)。これらの前がん研究では、退行性の高悪性度病変は、がんに進行したものよりも多くの浸潤性免疫細胞を抱えていた(66)。肺扁平上皮癌(LUSC)前駆体研究と一致して、適応回避は肺腺癌前駆体で既に明らかであった(5)。全体として、LUSCの直接の高悪性度前駆体である上皮内肺癌(CIS)は、浸潤前ではあるが、浸潤がんにおいて示された完全なCN変化プロファイルを有しており、この知見は、高悪性度の口腔、乳房および肺の上皮内腺癌の浸潤前研究に反映された(20、68、69)。SCNA誘導性LUSCおよびHPV陰性HNSCの最も顕著で一貫した推進要因は、TP53変異であった(18)。浸潤がんに進行した実質的にすべての肺CISは、TP53変異体およびT細胞コールドであった(66)。後者は、初期疾患におけるT細胞浸潤の9p欠損誘導抑制に及ぼす変異体TP53のより大きな影響の出願人の観察結果と一致しており、この極めて重要な事象を標的とする遮断の潜在性を示唆している(70)。肺がん前駆体(18)に加えて、特異的(例えば、大規模9p21.3、17p、TP53)対立遺伝子欠損およびSCNA増加の獲得は、対応する高悪性度(および早期浸潤性)進行性食道、結腸直腸、および乳房の病変における免疫排他的(細胞傷害性細胞枯渇)コールドおよび抑制性(CD3/CD4+T-regの出現、
図1A~
図1D、基礎データは示されていない)微小環境に関連している(19、69、71、72)。
【0215】
がん免疫療法後の生存の予測。出願人は、9p欠損(
図4A)を、HPV陰性HNSCにおける抗PD-1臨床的利益の非常に特異的な予測マーカーとして同定した(p=0.03)。免疫療法に対する応答および抵抗性に関連する具体的な9p変化には、インターフェロンシグナル伝達経路成分の欠失または障害、すなわちIFNα遺伝子(32)およびIFNγ経路遺伝子JAK2の欠損が含まれる。後者(JAK2機能欠損変異)は、黒色腫における抗PD-1および抗CTLA4抵抗性に関連している(26)。JAK2欠失に関連する抗PD-1抵抗性の一貫したわずかに統計学的に有意なパターンがこのHNSC RWEで見出されたにもかかわらず、出願人のデータは、JAK2-PD-L1-共欠失が、0.436のHR、生存期間中央値における3倍の差、p=0.007、より広範なSCNA(異数性)誘導性のコールド腫瘍によってなおさらに増幅され得る重大な臨床的影響を有し、著しい抗PD-1抵抗性に関連していたデュアルヒットのシナリオを強く裏付けるものである。
【0216】
全く対照的に、非ICB化学療法のみの処置患者における9p欠損およびPD-L1-JAK2共欠失は、予後への影響を欠き、HRおよびp値は1.0付近である。CN増加は、ICB処置黒色腫患者における臨床的利益と関連しなかったが、再発性9p欠損は、臨床的利益のないサブグループにおける統計学的に有意な事象であった(25)。出願人のPD-L1-JAK2共欠失抵抗性の所見と一致して、JAK2、PD-L1(およびPD-L2)(9p24.1)増幅、またはCN増加は、主に転移性黒色腫において、反対の効果、すなわち抗PD-1の利益に関連している(73、74)。9p24(およびより少ない程度の9p13)欠損は、ニボルマブまたはペムブロリズマブ後の生存期間減少傾向と関連していた(データは示さず)。9p21(IFNα遺伝子セット、CDKN2A欠失)、3pおよび17pの欠損は、このコホートでは予測的でも予後的でもなかった。TMBは、限られたHNSC研究において抗PD-1の利益に関連していたが(75、76)、出願人は、この196名の患者のHNSCコホートにおいてそのような効果を検出することができなかった(75、76)。さらに、TMBは、出願人のコホートにおけるCN欠損と相関せず、以前のHNSC(77)報告と一致し、新規ICB抵抗性機構の発見をさらに示している。HPV陰性HNSCを有する患者に対する直接的な治療との関連には、単一薬剤PD-1遮断の優先順位を下げ、免疫応答を誘発し得る新規な免疫薬剤および併用戦略の優先順位をつけることが含まれる。SCNAは組織型によって異なる傾向がある(22)。しかしながら、抗PD-1処置HPV陰性HNSCにおけるこれらの9p欠損およびJAK2-PD-L1共欠失の所見は、特にIFNγに対するがん細胞感受性、抗原提示障害、T細胞感受性および回避におけるJAK2の極めて重要で広範な役割を検討すると、他の腫瘍/部位および療法に適用することができる(26)。
【0217】
出願人は、本明細書において、前がん浸潤移行におけるCN駆動のホットからコールドへの切り替えを裏付ける患者試料からの証拠を示す(
図5)。このモデルによれば、CNによって定義される高リスクの経口前浸潤性病変および早期浸潤性病変は免疫原性であり、この状況において(おそらく)依然として保存されている免疫監視を治療的に増強することの臨床的利益の可能性を示唆している。並行して競合する力(parallel competing force)において、CNによって生成される腫瘍進化および免疫回避は、免疫原性促進性異数体チェックポイントを克服し、腫瘍形成を促進するために、さらなる核型、変異および他の事象を通して宿主監視からの選択圧を回避するための固有の特性の獲得を必要とする。理論に束縛されるものではないが、この微小環境の切り替えは、特異的な9p腕欠損事象と、SASPおよび他の機構による細胞固有の回避をもたらすCDKN2A-TP53相互作用などの可能性のあるエピスタティック事象および他のゲノム事象との組み合わせによって可能になり得る。9p腕欠失の顕著な役割は、細胞傷害性細胞(主にCD8+T細胞)の枯渇を促進し、抑制性細胞(例えばTreg)、進行性病変のサブセットにおける分子およびネットワークオペラント、ならびに抗PD-1抵抗性腫瘍を富化することにおいて同定された(領域/遺伝子ホットスポット欠失、または3pもしくは17pでの欠損などの他のSCNAと比較して)。9p欠損の影響はSCNAレベルとは無関係であり、これもまた細胞傷害活性の減少と有意に関連しており、9p21.3、9p24での確立された免疫調節遺伝子の9p投与量クラスターの累積的で不連続な欠失、ならびに9p13および遠隔相互作用の可能な新しい候補によって推進された可能性がある(例えば、17p13、
図5B)。これらの特異的かつ広範なCN関連の現象および概念は、新生物、および異数性病因を有する他のヒト疾患、例えばダウン症候群、トリソミー21、表現型、例えばIFNシグナル伝達の活性化において出現している(36)。
【0218】
染色体9p腕上に位置する遺伝子
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0219】
均等物
【0220】
別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本技術が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。
【0221】
本明細書に例示的に記載された本技術は、本明細書に具体的に開示されずに、任意の1つまたは複数の要素、1つまたは複数の制限がない状態で適切に実施され得る。したがって、例えば、「含むこと(comprising)」、「含むこと(including)」、「含有すること(containing)」などの用語は、広範に、限定することなく読み取られるものとする。さらに、本明細書で使用される用語および表現は、限定ではなく説明の用語として使用されており、そのような用語および表現の使用において、示され説明されたフィーチャまたはその一部の均等物を除外する意図はないが、特許請求される本技術の範囲内で様々な修正が可能であることが認識される。
【0222】
したがって、本明細書で提供される材料、方法、および例は、好ましい態様の代表であり、例示的なものであり、本技術の範囲についての限定として意図されるものではないことを理解されたい。
【0223】
本技術は、本明細書において広く一般的に説明されている。一般的な開示に含まれるより狭い種および亜属グループ化の各々も、本技術の一部を形成する。これは、削除された材料が本明細書に具体的に記載されているか否かにかかわらず、属から任意の保護対象を除去するという条件または否定的限定を伴う本技術の一般的説明を含む。
【0224】
さらに、本技術のフィーチャまたは態様がマーカッシュ群に関して記載される場合、当業者は、本技術がそれによってマーカッシュ群の任意の個々のメンバーまたはメンバーのサブグループに関しても記載されていることを認識するであろう。
【0225】
本明細書で言及されるすべての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、それぞれが個別に参照により組み込まれるのと同じ程度に、その全体が参照により明示的に組み込まれる。矛盾する場合、定義を含む本明細書が優先する。
【0226】
他の態様は、以下の特許請求の範囲内に記載される。
参考文献
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【配列表】
【国際調査報告】