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特表2024-509388熱膨張性セルロース系マイクロスフェア
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-01
(54)【発明の名称】熱膨張性セルロース系マイクロスフェア
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20240222BHJP
   C08L 1/08 20060101ALI20240222BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20240222BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20240222BHJP
   C08K 5/21 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
C09K3/00 111B
C08L1/08
C08K5/05
C08K5/09
C08K5/21
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023550226
(86)(22)【出願日】2021-11-19
(85)【翻訳文提出日】2023-09-15
(86)【国際出願番号】 EP2021082363
(87)【国際公開番号】W WO2022174947
(87)【国際公開日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】21158552.6
(32)【優先日】2021-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509131443
【氏名又は名称】ヌーリオン ケミカルズ インターナショナル ベスローテン フェノーツハップ
【氏名又は名称原語表記】Nouryon Chemicals International B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128484
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 司
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアソン,ボ
(72)【発明者】
【氏名】ウィトマンズ,ロエル
(72)【発明者】
【氏名】ショマーカー,エルウィン
(72)【発明者】
【氏名】ベルジュヌッド,ヘレナ
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AB011
4J002AB021
4J002BG012
4J002EC016
4J002EC046
4J002EC056
4J002EF036
4J002EF066
4J002EF076
4J002EF096
4J002EF106
4J002EF116
4J002ET016
4J002FA101
4J002FD202
4J002FD206
4J002GC00
4J002GG00
4J002GH00
4J002GL00
4J002GN00
(57)【要約】
本発明は、中空コアを囲む高分子シェルを含む熱膨張性マイクロスフェアに関し、中空コアは、発泡剤を含み、高分子シェルは、150~250°Cの範囲内のガラス転移温度を有する酢酸塩官能化セルロース、およびアルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナー、好ましくはカルボン酸の形態の水素結合ドナーを含む。本発明は、膨張性マイクロスフェアを調製するためのプロセスだけでなく、こうしたプロセスによって得られる熱膨張性マイクロスフェアにもさらに関連し、プロセスは、酢酸塩官能化セルロースと、有機溶媒と、発泡剤と、アルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナー、好ましくは、カルボン酸の形態の水素結合ドナーとを混合することと、続いて、このようにして得られた混合物を乾燥装置に噴霧して、中空コアを囲む高分子シェルを有する熱膨張性マイクロスフェアを生成する工程とを含み、中空コアの中に高分子シェルは、酢酸塩官能化セルロースを含み、中空コアは、酢酸塩官能化セルロースを含み、中空コアは、発泡剤を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空コアを囲む高分子シェルを含む熱膨張性マイクロスフェアであって、前記中空コアが発泡剤を含み、前記高分子シェルが、150~250°Cの範囲内のガラス転移温度を有する酢酸塩官能化セルロース、およびアルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナーを含む、熱膨張性マイクロスフェア。
【請求項2】
前記水素結合ドナーが、カルボン酸の形態の水素結合ドナーであり、好ましくは、ピロメリル酸(1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸)、クエン酸、酒石酸、ブタンテトラカルボン酸、コハク酸、乳酸、マレイン酸、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の熱膨張性マイクロスフェア。
【請求項3】
前記水素結合ドナーが、クエン酸、ピロメリット酸(1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸)、および1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸(BTCA)からなる群から選択され、好ましくは1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸(BTCA)である、請求項1または2に記載の熱膨張性マイクロスフェア。
【請求項4】
前記水素結合ドナーがアルコールであり、好ましくは1,3-ブタンジオール、グリセロール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアスコルビン酸からなる群から選択される、請求項1に記載の熱膨張性マイクロスフェア。
【請求項5】
Startが、150°C~250°C、例えば、155°C~220°C、好ましくは160°C~190°C、また、より好ましくは165°C~180°Cである、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱膨張性マイクロスフェア。
【請求項6】
前記水素結合ドナー、好ましくは、カルボン酸の形態の前記水素結合ドナーの量が、0.01~50重量%、好ましくは0.01~30重量%の範囲、より好ましくは0.1~20重量%の範囲、なおより好ましくは0.2~15重量%の範囲、または0.5~10の範囲、最も好ましくは、1~5重量%の範囲であり、前記重量%が、前記水素結合ドナー、好ましくはカルボン酸の形態の前記水素結合ドナー、および前記酢酸塩官能化セルロースの総重量に基づく、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱膨張性マイクロスフェア。
【請求項7】
前記酢酸塩官能化セルロースが、酢酸とは異なる1つ以上のさらなるカルボン酸塩官能基を含み、前記1つ以上の他のカルボン酸塩官能基は、任意で置換されたC-C脂肪族カルボン酸基、および任意で置換されたC芳香族環を含むカルボン酸基から選択され、前記酢酸とは異なる前記1つ以上の他のカルボン酸塩官能基による前記酢酸塩官能化セルロースの置換度が1.0以下である、請求項1から6のいずれかに記載の熱膨張性マイクロスフェア。
【請求項8】
前記1つ以上のさらなるカルボン酸塩官能基は、プロピオン酸塩、酪酸塩、ペンタン酸、ヘキサノエート、ヘプタン酸、オクタン酸、およびフタレートから選択され、好ましくは、プロピオン酸基および酪酸塩基から選択される、請求項7に記載の熱膨張性マイクロスフェア。
【請求項9】
前記酢酸塩官能化セルロースは、酢酸とは異なるさらなるカルボン酸塩官能基を含まない、請求項1から6のいずれかに記載の熱膨張性マイクロスフェア。
【請求項10】
前記高分子シェルが、150°C~190°Cの範囲内のガラス転移温度を有する酢酸塩官能化セルロースを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の熱膨張性マイクロスフェア。
【請求項11】
前記酢酸塩官能化セルロースが、2,000~100,000Daの範囲、また、好ましくは10,000~50,000Daの範囲の数平均分子量(M)を有する、請求項1~10のいずれかに記載の熱膨張性マイクロスフェア。
【請求項12】
前記酢酸塩官能化セルロースと、有機溶媒と、前記発泡剤と、アルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナー、好ましくは、カルボン酸の形態の水素結合ドナーとを混合することと、続いてこのようにして得られた混合物を乾燥装置内に噴霧して、中空コアを囲む高分子シェルを有する熱膨張性マイクロスフェアを生成することとを含む噴霧乾燥プロセスによって得ることができ、前記高分子シェルは、前記酢酸塩官能化セルロースを含み、前記中空コアは、前記発泡剤を含む、請求項1から11のいずれかに記載の熱膨張性マイクロスフェア。
【請求項13】
熱膨張性マイクロスフェアを調製するためのプロセスであって、ガラス転移温度が150~250°Cの範囲内のガラス転移温度を有する酢酸塩官能化セルロースと、有機溶媒と、発泡剤と、アルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択された水素結合ドナーと、好ましくは、カルボキシル酸の形態の前記水素結合ドナーとを混合することと、続いて、このようにして得られた混合物を乾燥装置内に噴霧して、中空コアを囲む高分子シェルを有する前記熱膨張性マイクロスフェアを生成することとを含み、前記高分子シェルが酢酸塩官能化セルロースを含み、前記中空コアは前記発泡剤を含む、プロセス。
【請求項14】
アルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される前記水素結合ドナー、好ましくはカルボン酸の形態の前記水素結合ドナーが、0.01~15重量%の範囲、好ましくは、0.05~10重量%の範囲、より好ましくは、0.1~5重量%の範囲、そして最も好ましくは0.1~3.0重量%、例えば、0.1~1.0重量%の範囲の量で添加され、前記重量%が、酢酸塩官能化セルロース、発泡剤、水素結合ドナー、好ましくは、カルボン酸の形態の水素結合ドナー、および前記混合物中の溶剤の総重量に基づくものである、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
前記熱膨張性マイクロスフェアを膨張させる前に、調製後少なくとも2週間の間、そして好ましくは少なくとも4週間の間、前記調製された熱膨張性マイクロスフェアを貯蔵する工程をさらに含む、請求項13または14に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低い膨張温度を有するセルロース系バイオポリマーから作製された熱膨張性マイクロスフェアに関し、またその製造のためのプロセスにも関する。
【背景技術】
【0002】
熱膨張性マイクロスフェアは、当技術分野で知られており、例えば、米国特許第3615972号、国際公開第00/37547号、および国際公開第2007/091960号に記述される。いくつかの実施例は、Expancel(登録商標)という商品名で販売されている。これらは極めて低重量および低密度の充填剤を形成するように膨張させることができ、また発泡樹脂または低密度樹脂、塗料およびコーティング、セメント、インク、ならびにひび割れ充填剤などの用途での使用を見出すことができる。多くの場合、膨張性マイクロスフェアを含有する消費者製品としては、軽量の靴底(例えば、ランニングシューズ用)、壁紙などのテクスチャ付き被覆材、太陽光反射性および断熱コーティング、食品パッケージシーラント、ワインコルク、人工皮革、保護用ヘルメットライナー用発泡材、および自動車用のウェザーストリップが挙げられる。
【0003】
熱膨張性ポリマーマイクロスフェアは、通常、熱可塑性高分子シェルを含み、中空コアは加熱により膨張する発泡剤を含む。発泡剤の例としては、低沸点の炭化水素またはハロゲン化炭化水素が挙げられ、これらは室温で液体であるが、加熱により気化する。膨張したマイクロスフェアを生成するために、熱可塑性高分子シェルが軟化するように膨張性マイクロスフェアを加熱し、そして発泡剤が気化および膨張し、それ故にマイクロスフェアを膨張させる。典型的に、マイクロスフェアの直径は、膨張中に1.5~8倍に増加することができる。膨張性マイクロスフェアは、様々な形態で、例えば、乾燥自由流動粒子として、水性スラリーとして、または部分的に脱水された湿潤ケーキとして市販されている。
【0004】
膨張性マイクロスフェアは、例えば、懸濁重合プロセスを使用して、発泡剤の存在下でエチレン性不飽和モノマーを重合することによって生成することができる。典型的なモノマーとしては、アクリレート、アクリロニトリル、アクリルアミド、二塩化ビニリデン、およびスチレンに基づくものが挙げられる。こうした熱可塑性ポリマーに関連付けられた問題は、それらが典型的には石油化学製品に由来し、そして持続可能な供給源に由来しないことである。加えて、多くのポリマーは、非生物分解性であるか、または少なくとも非常にゆっくりと生物分解し、環境中で累積蓄積のリスクがある。しかしながら、許容可能な膨張性能が維持されることを確保する必要があるので、モノマーを単により持続可能な由来の代替物で置き換えることは必ずしも簡単ではない。例えば、ポリマーは、発泡剤が封入されるように、懸濁重合反応においてコアシェル粒子を得るために適切な表面エネルギーを有する必要がある。加えて、生成されたポリマーは、発泡剤を保持することができる良好なガスバリア特性を有していなければならない。さらに、ポリマーは、膨張中にシェルを伸張させることができるような、ガラス転移温度Tを上回る好適な粘弾性特性を有する必要がある。したがって、従来のモノマーのバイオベースモノマーによる置き換えは簡単ではない。
【0005】
膨張性マイクロスフェアが記述されており、ここで熱可塑性シェルを作り上げているモノマーの少なくとも一部分は、バイオベースであり、再生可能資源に由来する。
【0006】
国際公開第2019/043235号は、次の一般式を持つラクトンモノマーを含むポリマーを記述している。
【化1】
式中、R~Rは、各々独立してHおよびC1~4アルキルから選択される。
【0007】
国際公開第2019/101749号は、次の一般式を持つイタコン酸ジアルキルエステルモノマーを含むコポリマーを記述している。
【化2】
式中、RおよびRの各々は、アルキル基から別々に選択される。
【0008】
公開された特許出願である、国際公開第2020/099440号(PCT/EP2019/081076)は、セルロース系バイオポリマーから作製された熱膨張性マイクロスフェアを開示している。これらのマイクロスフェアの高分子シェルは、少なくとも125°Cのガラス転移温度(T)を有するカルボン酸塩官能基セルロースを含む。国際公開第2020/099440号では、マイクロスフェアは溶媒蒸発または溶媒抽出によって調製される。しかしながら、これらの技術には、スケールアップの可能性に限界があり、したがって、生産能力に限界があること、製品の乾燥工程を追加する必要があること、大量の汚染水を取り扱う必要があることなどの欠点がある。マイクロスフェアは、こうした欠点のない方法で製造され得ることが望ましい。
【0009】
それゆえに、熱可塑性ポリマーシェルが少なくとも部分的に、持続可能な供給源に由来する代替的な熱可塑性膨張性マイクロスフェアに対するニーズが依然として存在する。さらに、熱可塑性高分子シェルが少なくとも部分的に持続可能な供給源に由来し、膨張性マイクロスフェアが、例えば、望ましく低い密度の膨張したマイクロスフェアのような望ましい膨張特性を有する、膨張性マイクロスフェアを提供することに対するニーズがさらに残っている。さらに、こうした膨張性マイクロスフェアが持続可能な供給源に由来する場合、十分なまたはなおも改善された貯蔵安定性を有することが望ましいことになる。さらに、これらのマイクロスフェアを、効率的な生産のスケールアップが可能で、製品乾燥工程の追加や大量の汚染水の取り扱いを必要としない方法で製造できれば望ましい。したがって、本発明は、例えば、生物由来ポリマーを使用することによって、膨張したマイクロスフェアの望ましく低い密度など、望ましい膨張特性を有し、かつ同時にそれが、好ましくは十分な貯蔵安定性、またはさらに改善された貯蔵安定性を有する、熱膨張性ポリマーマイクロスフェアを見出すことを対象とする。さらに、これらのマイクロスフェアは、容易に効率よくスケールアップでき、製品乾燥工程の追加や大量の汚染水の取り扱いを必要としない噴霧乾燥法を用いて効率的に製造できることが判明した。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、中空コアを取り囲む高分子シェルからなる熱膨張性マイクロスフェアに関し、中空コアは発泡剤を含み、高分子シェルは150~250°Cの範囲内のガラス転移温度(T)を有する酢酸塩官能化セルロースと、アルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナー、好ましくはカルボン酸の形態の水素結合ドナーを含む。
【0011】
本発明は、膨張性マイクロスフェアを調製するためのプロセスだけでなく、こうしたプロセスによって得られる熱膨張性マイクロスフェアも対象としており、そのプロセスは、150~250℃の範囲内のガラス転移温度(T)を有する酢酸塩官能化セルロース、有機溶媒、発泡剤、およびアルコール、尿素、カルボン酸の群から選択される水素結合ドナー、好ましくはカルボン酸の形態の水素結合ドナーを混合することと、続いて、このようにして得られた混合物を乾燥装置内に噴霧して、中空コアを囲む高分子シェルを有する前記熱膨張性マイクロスフェアを生成することとを含み、前記高分子シェルが酢酸塩官能化セルロースを含み、前記中空コアは前記発泡剤を含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、シングルコア(図1A)とマルチコア(図1B)のマイクロスフェアの相違を図示する。
図2図2は、熱機械分析(TMA)によるTstart、Tmax、およびLmaxの決定を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、中空コアを取り囲む高分子シェルを含む熱膨張性マイクロスフェアを開示するものであり、ここで中空コアは発泡剤を含み、高分子シェルは、150~250°Cの範囲内のガラス転移温度(T)を有する酢酸塩官能化セルロース、およびアルコール、尿素、カルボン酸の群から選択される水素結合ドナー、好ましくは、ジカルボン酸、トリカルボン酸、またはテトラカルボン酸などのカルボン酸の形態の水素結合ドナーを含む。
【0014】
膨張性マイクロスフェアは、酢酸塩官能化セルロースからなる高分子シェルに基づいている。官能基は1つの酢酸基、または複数の酢酸基である。したがって、「酢酸官能基化セルロース」という用語は、セルロースが少なくとも1つの酢酸基を含むことを意味する。酢酸部分は、酢酸塩官能基とセルロースとの間の連結の一部を形成する。すなわち、セルロースはエステル結合を介して酢酸塩官能基に結合される。
【0015】
高分子シェルは、1つ以上のポリマー成分を含むことができ、または1つ以上のポリマー成分からなることができ、少なくとも1つの成分、1つ以上の成分、またはすべてのポリマー成分は、こうした酢酸塩官能化セルロースから選択される。シェルが本明細書に記述されるもの(すなわち、酢酸塩官能化セルロース)以外のポリマーを含む場合、それらの含有量は、典型的に、50重量%未満、例えば、30重量%未満、または10重量%未満、例えば、9重量%以下、5重量%以下、さらには2重量%以下である。これらの割合は、シェルの総ポリマー含有量に基づいている。
【0016】
特定の実施形態において、高分子シェルは、酢酸塩官能化セルロース、より具体的には、150°C~250°Cの範囲内のガラス転移温度Tを有する酢酸セルロースである1つのポリマー成分のみを含む。
【0017】
酢酸塩官能化セルロースは、酢酸とは異なる1つ以上のさらなるカルボン酸塩官能基を含んでいてもよい。酢酸塩官能化セルロースが、酢酸とは異なる1つ以上のカルボン酸塩官能基を含む場合、これらのカルボン酸塩官能基は互いに異なる。例えば、実施形態において、酢酸塩官能化セルロースは、酢酸とは異なる1つのさらなるカルボン酸塩官能基を含んでいてもよい。しかしながら、酢酸塩官能化セルロースは、酢酸とは異なるさらなるカルボン酸塩官能基を含まない方が好ましい。
【0018】
実施形態において、酢酸塩官能基化セルロースが酢酸とは異なるさらなるカルボン酸塩官能基を含む場合、酢酸塩官能基化セルロース上のさらなるカルボン酸塩官能基は、式(1)によって表すことができる。
【化3】
【0019】
式(1)において、Aは、-H、-OH、-OR、-C(O)OH、および-C(O)ORから選択される。実施形態では、Aは、-Hおよび-C(O)OHから選択される。
【0020】
は存在しない可能性があり、すなわち、AをC=O基に直接的に付着することが可能である。しかしながら、存在する場合、Rは、1~11個の炭素原子を有する飽和脂肪族基または不飽和脂肪族基から選択されることができ、直鎖状、分岐鎖状、または環状とすることができる。
【0021】
はまた、5員および6員の芳香族環から選択することができる。
【0022】
は、-OH、ハロゲン化物、C1~4アルキル、およびC1~4アルコキシから選択される1つ以上の置換基を任意で含んでもよく、ここでC1~4アルキルおよびC1~4アルコキシ基は、任意にハロゲン化物および-OHから選択される1つ以上の基で置換される。
【0023】
実施形態では、Rは、1~7個の炭素原子、例えば、1~5個、または1~3個の炭素原子を含む。
【0024】
各存在においてRは独立して、C1~4アルキル基(例えばC1~2アルキル基)から選択され、任意にハロゲン化物および-OH基から選択される1つ以上の置換基を有する。実施形態では、C1~4アルキル基またはC1~2アルキル基は、非置換である。
【0025】
実施形態では、Rは、飽和の直鎖状もしくは分岐鎖状の
【化4】
とすることができる。vは、1~11の範囲の整数であり、例えば、1~8の範囲(1~6または1~4など)である。wは、3~11の、例えば、4~6の範囲の整数である。
【0026】
各存在においてRは、独立して、H、-OH、ハロゲン化物、C1~4アルキル、およびC1~4アルコキシから選択され、C1~4アルキルおよびC1~4アルコキシ基は、ハロゲン化物および-OHから選択される1つ以上の基で任意で置換される。
【0027】
他の実施形態では、Rは、「y」二重結合を含む不飽和の直鎖状または分岐鎖状の
【化5】
でもよい。xは、2~11の範囲の整数であり、例えば、2~6または2~4である。yは、二重結合の数を表し、典型的に1または2である。
【0028】
さらなる実施形態において、Rは、“y”二重結合を含む
【化6】
でもよく、式中、yは典型的には1または2である。
【0029】
なおさらなる実施形態では、Rは、
【化7】
でもよい。zは、5および6から選択される整数である。
【0030】
なおさらなる実施形態では、Rは、環状脂肪族環または芳香族環を含む直鎖状または分岐鎖状の脂肪族基とすることができる。したがって、Rは、11個以下の炭素原子を有する
【化8】
でよく、式中、Eは、上記に定義のとおり、
【化9】
である。pおよびrは、それぞれ独立して、0~8の整数であり、p+rは少なくとも1である。qおよびsはそれぞれ、それぞれの非環式脂肪族成分中の二重結合の数である。実施形態では、qおよびsはそれぞれ、独立して、0、1、および2から選択される。
【0031】
ハロゲン化物は、典型的にFおよびClから選択される。しかしながら、実施形態では、官能基はハロゲン化物を含まず、これにより基A、R、RおよびR内にハロゲン化物は存在しない。
【0032】
実施形態では、少なくとも1つのR基はHである。他の実施形態では、2つ以下のR基はH以外であり、さらなる実施形態では、1つ以下のR基はH以外である。さらにさらなる実施形態では、すべてのR基はHである。
【0033】
、R、およびRの上記定義において、2つ以上の-OH置換基がある場合、典型的に、炭素原子当たり1つ以下の-OH置換基がある。
【0034】
ある特定の実施形態では、Rは、任意に置換されるC~C脂肪族(アルキレン)基である。他の実施形態では、Rは、任意に置換されるC芳香族環である。さらなる実施形態では、Rは非置換型である。
【0035】
実施形態では、セルロース置換基上のカルボン酸塩官能基は、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、ペンタン酸塩、ヘキサン酸塩、ヘプタン酸塩、オクタン酸塩、およびフタル酸塩から選択される。さらなる実施形態において、プロピオン酸および酪酸塩から選択される。
【0036】
酢酸塩によるセルロースのヒドロキシル基の置換度(DS)、および、存在する場合は、1つ以上のさらなるカルボン酸塩官能基は、0.9~4.0の範囲とすることができ、好ましくは0.9~3.5の範囲とすることができ、実施形態では、1.5~3.5の範囲、例えば、2.0~3.0の範囲である。
【0037】
酢酸塩官能化セルロースが1つ以上のさらなるカルボン酸塩官能基を含む場合、酢酸塩による置換度(DS)は、1つ以上のさらなるカルボン酸塩官能基による置換度(DS)よりも高い。言い換えれば、本発明による酢酸塩官能化セルロースは、1つ以上のさらなるカルボン酸塩官能基(すなわち、官能基)よりも多くの酢酸基(すなわち、酢酸塩官能基)を含有する。実施形態では、1つ以上のさらなるカルボン酸塩官能基による置換度(DS)は、1.0以下、例えば、0.5以下もしくは0.2以下、またはさらには0.1以下であることが好ましい。
【0038】
実施形態では、酢酸塩官能化セルロース中、酢酸塩による置換度(DS)は、0の範囲である、0.9~3.5、例えば、1.5~3.5または2.0~3.0の範囲であり、また、1つ以上のさらなるカルボン酸塩官能基による置換度(DS)は、1.0以下、例えば、0.5以下、または0.2以下、あるいは0.1以下でさえあるが、酢酸塩による置換度(DS)は、1つ以上のさらなるカルボン酸塩官能基による置換度(DS)よりも高いことを条件とする。
【0039】
好ましい実施形態では、酢酸塩官能化セルロースにおいて、酢酸塩による置換度(DS)は、2.0~3.0の範囲内であり、1つ以上のさらなるカルボン酸塩官能基による置換度(DS)は、1.0以下、例えば、0.5以下、0.2以下、または0.1以下でさえある。
【0040】
置換度(DS)とは、カルボン酸基および特に酢酸基などのような、他の基で置換されるセルロースのグルコース単位当たりのヒドロキシル基の平均数に対する尺度である。したがって、セルロースの置換度(DS)は4.0を超えてはならない。置換の程度(DS)は、ASTM D817-12法によって決定することができる。
【0041】
任意に、カルボン酸塩官能基ではない他の官能基が酢酸塩官能化セルロース中に存在してもよい。例えば、まだカルボン酸塩官能基で置換されていないセルロース分子上の-OH基は、1つのアルコキシ基、またはアルコシキ基、例えばC~Cアルコキシ基から選択される複数のアルコキシ基で置換することができる。他の実施形態では、あまり好ましくないが、-OH基は、ハロゲン化物基、例えば、FまたはClで置き換えることができる。そのような他の官能基が存在する場合、それらのモル量は、1つ以上のカルボキシレート基よりも低い。
【0042】
実施形態では、他の官能基(すなわち、酢酸またはさらなるカルボン酸塩官能基ではない官能基)によるセルロースの置換度は、1.0以下、例えば、0.5以下または0.2以下である。さらなる実施形態では、カルボキシレート基以外の基による置換度は、0.1以下である。しかしながら、他の官能基によるセルロースの置換の程度は、酢酸塩による置換の程度よりも低い。
【0043】
特定の実施形態では、酢酸塩官能化セルロースは、0.9~4.0、例えば0.9~3.5、特に1.5~3.5、より具体的には2.0~3.0の範囲の酢酸による置換度(DS)を有する酢酸セルロースである。本明細書において、「酢酸セルロース」という用語を使用する場合は、酢酸基およびヒドロキシル基以外の他の官能基がセルロース中に存在しないことを意味する。
【0044】
マイクロスフェアのシェルまたはマイクロスフェアのシェルの少なくとも一部を形成する酢酸塩官能化セルロースのガラス転移温度(T)は、150°C~250°C、例えば150°C~190°Cの範囲内である。好ましい実施形態では、高分子シェルは、150°C~190°Cの範囲内のガラス転移温度を有する酢酸塩官能化セルロースを含む。Tは、例えば、Nishio ら;Cellulose,2006(13),245-259によって記述された方法を使用するなど、示差走査熱量測定法(DSC)を使用して測定することができ、ここで、5mgのサンプルは、まず初めに、周囲温度(25℃)から240℃へと窒素雰囲気下で20℃/分の速度で加熱され、その後で直ちに、-50℃に急冷された後、2度目に、窒素雰囲気下で20℃/分の速度で-50℃から240℃に加熱され、Tの計算は、第二の加熱サイクルに基づくものである。
【0045】
さらなる実施形態では、酢酸官能基化セルロースのTは、160~220℃、例えば160~200℃、160~190℃、170~185℃の範囲、または175~185℃の範囲である。
【0046】
酢酸塩官能化セルロースの融点は、典型的には、T値以上であり、実施形態では200°Cより高い。実施形態において、融点は220°Cを超える。融点は、典型的には270°C以下、例えば、260°C以下または250°C以下である。
【0047】
酢酸塩官能化セルロースのTおよび融点は、酢酸塩官能化セルロース上の官能基を変化させることによって、または分子量を変化させることによって、あるいは置換度を変化させることによって、修正または制御することができる。
【0048】
熱膨張性マイクロスフェアは中空で、シェルは酢酸塩官能化セルロースからなり、中空の中心またはコアは1つ以上の発泡剤からなる。マイクロスフェアの調製に使用される酢酸塩官能化セルロースは、典型的に1.1~1.35g/cmの密度を有する。膨張したマイクロスフェアでは、密度は典型的には1g/cm未満であり、0.005~0.8g/cm、または0.01~0.6g/cmの範囲が好適である。さらなる実施形態では、膨張したマイクロスフェアの密度は、0.01~0.4g/cmの範囲であり、例えば、0.01~0.2g/cmの範囲、好ましくは、0.01~0.15g/cmの範囲などである。より高い密度、特に1g/cm以上の密度は、概して、マイクロスフェアのサンプルが使用に対して好適でないことを意味する。
【0049】
実施形態において、マイクロスフェアの形成に使用される酢酸官能基化セルロースの数平均分子量(M)は、1,000~700,000の範囲であり、例えば、2,000~500,000の範囲、2,000~100,000の範囲、2,000~80,000の範囲、2,000~50,000 Daの範囲である。実施形態では、5,000~50,000の範囲、例えば、10,000~50,000の範囲である。
【0050】
好適な酢酸塩官能化セルロースの例としては、1,000~700,000の範囲、例えば、2,000~500,000の範囲、2,000~100,000、2,000~80,000、または2,000~50,000 Daの範囲、好ましくは5,000~50,000の範囲、より好ましくは10,000~50,000の範囲の数平均分子量(M)を有するセルロース酢酸が挙げられる。
【0051】
特定の実施形態において、酢酸塩官能化セルロースは、0.9~4.0の範囲、例えば0.9から3.5の範囲、特に1.5から3.5の範囲、より特に2.0から3.0の範囲のアセテートによる置換度(DS)を有し、1,000から700,000の範囲、例えば2,000から500,000の範囲、2,000から100,000の範囲、2,000から80,000の範囲、または2,000から50,000 Daの範囲、好ましくは5,000から50,000の範囲、より好ましくは10,000から50,000の範囲の数平均分子量(M)を有する酢酸セルロースである。
【0052】
熱膨張性マイクロスフェアは、膨張開始温度TStartが140℃以上、例えば150℃から250℃未満であってもよい。膨張開始温度はTStartと呼ばれ、最大膨張に達する温度はTmaxと呼ばれる。TStartおよびTMaxは、当業者によって一般に知られている標準的な測定技法を使用して決定されてもよい。例えば、TStartおよびTMaxは、例えばMettler-Toledo TMA/SDTA 841eのようなMettler-Toledo熱機械分析器を使用して、20℃/分の加熱速度と0.06Nの荷重(正味)を使用することにより、昇温実験で決定することができる。こうした昇温実験では、熱膨張性マイクロスフェアの既知の重量のサンプルは、0.06Nの負荷(正味)下で20°C/分の一定加熱速度で加熱される。熱膨張性マイクロスフェアの拡張が開始されると、サンプルの体積が増加し、負荷が上方に移動する。こうした測定から、膨張サーモグラム(例示的なサーモグラムが図2に示される)が得られ、ここで縦軸は負荷を上向きに移動させる高さを示し、横軸は温度を示す。TStartおよびTMaxは、例えば、Mettler-ToledoからのSTAReソフトウェアを使用して、この膨張サーモグラムから決定することができる。
【0053】
実施形態において、熱膨張性マイクロスフェアは、155°C~220°C、例えば、160°C~200°C未満の範囲内のTStartを有する。好ましくは、熱膨張性マイクロスフェアは、160°C~190°C、好ましくは165°C~185°C、より好ましくは165°C~180°Cの範囲のTStartを有することができる。さらにより好ましくは、熱膨張性マイクロスフェアは、165°C~175°Cの範囲のTStartを有する。
【0054】
高分子シェルの特性をさらに高めるために、熱膨張性マイクロスフェアの高分子シェルは、アルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナー、好ましくはカルボン酸の形態の水素結合ドナーを含む。水素結合ドナーは、酢酸塩官能化セルロース上の基と水素結合を介して相互作用する可能性がある。。アルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナー、好ましくはカルボン酸の形態の水素結合ドナーを添加することにより、高分子シェルのバリア特性をさらに改善し、高分子シェルの機械的特性、ひいてはマイクロスフェアの膨張特性を向上させることができる。したがって、水素結合ドナーは、高分子シェルエンハンサーとして機能する。さらに、例えば4週間保存した後の密度も改善させることができる。
【0055】
水素結合ドナーは、例えば10000g/molの平均分子量、例えば1000g/molから5000g/molまでの平均分子量、例えば1500g/molから3000g/molまでの平均分子量を有するポリマーであってもよい。水素結合ドナーはまた、例えば、2000g/mol未満、好ましくは1500g/mol未満、より好ましくは1000g/mol未満、さらにより好ましくは500g/mol未満の分子量を有する低分子量化合物であってもよく、水素結合ドナーは典型的かつ好ましくは、低分子量化合物であってもよい。例えば、水素結合ドナーは、20~500g/mol、好ましくは30~400g/mol、より好ましくは40~300g/molの範囲の分子量を有してもよい。
【0056】
アルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナーは、より電気陰性度の高い原子、すなわち、酸素(前記水素結合ドナーがアルコールまたはカルボン酸の場合)または窒素(前記水素結合ドナーが尿素の場合)に共有結合した水素原子を有する化合物である。ここで、これらの水素原子は、酢酸官能基化セルロースの官能基(水素結合受容体)、例えば酢酸基、1つ以上のさらなるカルボキシレート官能基、ヒドロキシル基およびエーテル基、特に酢酸基および存在する場合は1つ以上のさらなるカルボキシレート官能基と分子間水素結合を形成する。
【0057】
水素結合ドナーは、アルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される。水素結合ドナーは、アルコールおよびカルボン酸の群から選択されることが好ましい。より好ましい実施形態において、水素結合ドナーはカルボン酸である。より好ましい別の実施形態において、水素結合ドナーはアルコールである。
【0058】
アルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナー、好ましくはカルボン酸の形態の水素結合ドナーは、20~2000g/molの範囲の分子量を有してもよく、好ましくは、20~500g/molの範囲、より好ましくは30~400g/mol、さらにより好ましくは40~300g/molの範囲の分子量を有する。
【0059】
水素結合ドナーがアルコールである場合、少なくとも1つのアルコール基、例えば1、2、3、4、5または6個のアルコール基を含む化合物から選択することができ、好ましくは20~2000g/molの範囲の分子量を有する。水素結合ドナーがアルコールである場合、好ましくはジオール、トリオール、テトラオール、ペンタオールまたはヘキサオールである。
【0060】
適切なジオールは、例えば、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオールであり、好ましくは1,3-ブタンジオールである。
【0061】
適切なトリオールは、例えば、グリセロール、1,2,3-ブタントリオール、1,2,4-ブタントリオール、1,1,1-トリス(ヒドロキシメチル)プロパン、ペンタントリオール、およびヘキサントリオールである。好ましいトリオールはグリセロールである。
【0062】
適切なテトラオールは、例えば、アスコルビン酸(ビタミンC)、エリスリトール、スレイトール、またはペンタエリスリトールなどである。好ましいテトラオールは、アスコルビン酸(ビタミンC)およびペンタエリトリトールである。
【0063】
適切なペンタオールは、キシリトール、アラビトール、リビトール、グルコース、フルクトース、ガラクトース、およびマンノースである。
【0064】
適切なヘキサオールは、例えば、ソルビトール、マンニトール、およびシクロヘキサンヘキソールである。好ましいヘキサオールは、ソルビトールである。
【0065】
水素結合ドナーがアルコールである場合、1,3-ブタンジオール、グリセロール、アスコルビン酸(ビタミンC)、またはソルビトールから選択されることが好ましい。
【0066】
水素結合ドナーは、特に好ましくはカルボン酸であり、すなわち、モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸、またはポリカルボン酸(例えばポリカルボン酸ポリマーなど)の少なくとも1つのカルボン酸基を含有する化合物である。より具体的には、水素結合ドナーは、20~2000g/molの範囲の分子量を有するカルボン酸である。好ましくは、水素結合ドナーは、少なくとも2つのカルボン酸基(-COOH)、特にジカルボン酸、トリカルボン酸、またはテトラカルボン酸を含有するカルボン酸である。
【0067】
モノカルボン酸の例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、および乳酸などが挙げられる。
【0068】
ジカルボン酸の例としては、アジピン酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、およびアルダル酸などが挙げられる。
【0069】
トリカルボン酸の例としては、クエン酸やイソクエン酸などが挙げられる。
【0070】
テトラカルボン酸の例としては、ピロメリット酸(1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、およびブタンテトラカルボン酸、例えば1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸(BTCA)などが挙げられる。
【0071】
カルボン酸形態の適切な水素結合ドナーの好ましい例は、クエン酸、マレイン酸、コハク酸、ピロメリット酸(1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸)、乳酸、酒石酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ブタンテトラカルボン酸、例えば1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸(BTCA)である。カルボン酸の形態の適切な水素結合ドナーのより好ましい例は、ピロメリット酸(1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸)、クエン酸、酒石酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸(BTCA)、およびマレイン酸である。
【0072】
特に、水素結合ドナーが好ましい実施形態に従ってカルボン酸の形態である場合、ピロメリット酸(1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸)、クエン酸、酒石酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸(BTCA)、およびマレイン酸からなる群から選択される。
【0073】
より具体的には、水素結合ドナーが好ましい実施形態に従ってカルボン酸の形態である場合、ピロメリット酸(1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸)、クエン酸、酒石酸、および1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸(BTCA)からなる群から選択される。
【0074】
好ましくは、水素結合ドナーが好ましい実施形態に従ってカルボン酸の形態である場合は、クエン酸、ピロメリット酸(1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸)、または1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸(BTCA)などのトリカルボン酸またはテトラカルボン酸である。
【0075】
特定の実施形態において、水素結合ドナーが好ましい実施形態に従ってカルボン酸の形態である場合は、ピロメリット酸(1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸)または1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸(BTCA)などのテトラカルボン酸である。最も好ましくは、水素結合ドナーはカルボン酸の形態であり、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸(BTCA)である。
【0076】
本発明の膨張性マイクロスフェアを調製するために使用される、アルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナーの量、好ましくは、カルボン酸の形態の水素結合ドナーの量は、特に限定されない。
【0077】
しかしながら、アルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナーの量、好ましくは、カルボン酸の形態の水素結合ドナーの量は、水素結合ドナーおよび酢酸塩官能化セルロースの合計重量に基づいて0.01~50重量%であってよい。実施形態では、0.01~40重量%の範囲、例えば、0.05~30重量%の範囲、0.1~20重量%の範囲、あるいは0.5~15重量%の範囲とすることができ、例えば0.5~10重量%の範囲、1.0~5.0重量%の範囲、もしくは1.2~5重量%の範囲、もしくは1.5 重量%~5 重量%の範囲などとすることさえもでき、重量%は、水素結合ドナーおよび酢酸塩官能化セルロースの総重量に基づいている。
【0078】
さらなる実施形態では、高分子シェルは、ポリマーシェルの機械的特性およびガスバリアを改善するための粒子を含むことができ、したがってポリマーシェルエンハンサーとしても作用する。こうした粒子の例は、タルク、モンモリロナイト、ナノ結晶セルロース、および様々なタイプの粘土(ベントナイトなど)である。
【0079】
多数の要因によって、高密度という結果をもたらす可能性がある。例えば、高密度は、低いマイクロスフェア収率、すなわち、高分子材料中のマイクロスフェアの割合が低すぎて、全体的な密度を許容可能なレベルまで減少させられないことからもたらされる可能性がある。別の問題は、不十分な膨張特性であり、これはマイクロスフェアの数が多すぎて、適切な膨張を可能にするには不十分な発泡剤しか含まれていない場合に生じる可能性がある。これは、ポリマーシェルが発泡剤に対して透過性が高すぎることから、またはいわゆる「マルチコア」マイクロスフェアの形成、すなわち、単一の発泡剤含有コアの代わりに、シェル内に複数の発泡剤含有コアがある(例えば、マイクロスフェア状のフォームまたはスポンジのように)ことに起因してもたらされる可能性がある。こうしたマルチコアマイクロスフェアでは、発泡剤の濃度は、典型的に、密度を適切に減少させるには低すぎる。別の原因は、ポリマーの集合または凝集であり、結果としてマイクロスフェアの生産不良およびより高い密度の材料をもたらす。集合した物質の割合が高すぎる、または十分に膨張しないマイクロスフェアは、結果として生じるマイクロスフェア製品の膨張特性における大きい不均質性にもつながる可能性がある。これは、滑らかな仕上げが望ましいコーティングなどの表面に敏感な用途には特に好ましくない。
【0080】
シングルコアおよびマルチコアのマイクロスフェアの例示的断面が、それぞれ図1Aおよび図1Bに提供されており、ポリマーの領域1は、網目模様をつけた区域によって表され、また発泡剤含有領域2は、空白区域によって表されている。
【0081】
1つ以上の発泡剤は、一般に、5.0baraの気圧で25℃を上回る沸点、または3.0baraの気圧で25℃を上回る沸点を有し、ここで「bara」は、「バール(絶対圧)」(bar-absolute)の略である。実施形態では、それらは、大気圧(1.013bara)で25℃を上回る沸点を有する。典型的に、それらは、大気圧で250℃以下(例えば、220℃以下、または200℃以下)の沸点を有する。それらは好ましくは不活性であり、官能基化セルロースシェルとは反応しない。高圧における沸点は、クラウジウス・クラペイロンの式を使用して計算することができる。
【0082】
発泡剤の例としては、ジアルキルエーテル、アルカン、およびハロカーボン(例えば、クロロカーボン、フルオロカーボン、またはクロロフルオロカーボン)が挙げられる。実施形態では、ジアルキルエーテルは、C~Cアルキル基からそれぞれ選択される2つのアルキル基を含む。実施形態では、アルカンは、C~C12アルカンである。実施形態では、ハロアルカンは、C~C10ハロアルカンから選択される。ハロアルカンは、塩素およびフッ素から選択される1つ以上のハロゲン原子を含んでもよい。ジアルキルエーテル、アルカン、およびハロアルカン中のアルキル基またはハロアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、または環状とすることができる。1つ以上の発泡剤のうち1つまたは混合物を使用することができる。
【0083】
実施形態では、環境上の理由から、1つ以上の発泡剤は、アルキルエーテルおよびアルカンから選択され、さらなる実施形態では、1つ以上の発泡剤は、アルカンから選択される。ハロアルカンは、その潜在的なオゾン層破壊特性に起因して、またその概してより高い地球温暖化係数にも起因して、回避されることが好ましい。
【0084】
使用することができる好適な発泡剤の例としては、n-ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、n-ブタン、イソブタン、イソヘキサン、ネオヘキサン、ヘプタン、イソヘプタン、オクタン、イソオクタン、イソデカン、およびイソドデカンが挙げられる。好ましい実施形態では、発泡剤は、C~C12イソアルカンから選択される。
【0085】
膨張性マイクロスフェアでは、1つ以上の発泡剤は、典型的に、官能基化セルロースおよび発泡剤(複数可)の総重量に基づいて、5~50重量%の量で存在し、例えば、5~45重量%、または10~40重量%の範囲の量で存在する。
【0086】
酢酸塩官能化セルロース材料は市販品を購入することもでき、例えば、硫酸などの強酸の存在下で、セルロースを好適なカルボン酸と混合することによって、あるいは、例えば、Nishio et al;Cellulose,2006(13),245-259に記述されているように、セルロースと塩化アシルとの塩基触媒反応によって、公知の手段によって作製することもできる。
【0087】
適切な酢酸塩官能化セルロースの例は、酢酸セルロース(CA)(すなわち、酢酸とは異なるさらなるカルボン酸塩官能基を含まない酢酸塩官能化セルロース)、酢酸プロピオン酸セルロース(CAP)、および酪酸酢酸セルロース(CAB)、特に、2,000~100,000 Daの範囲、例えば2,000~80,000 Daの範囲、10,000~50,000 Da、あるいは20,000~50,000 Daの範囲の数平気分子量(M)を有する酢酸セルロース(CA)、酢酸プロピオン酸セルロース(CAP)、酪酸酢酸セルロース(CAB)である。
【0088】
好ましい酢酸塩官能化セルロースは、10,000~100,000Daの範囲、例えば10,000~80,000 Daの範囲、好ましくは10,000~50,000 Daの範囲、より好ましくは20,000~50,000 Daの範囲の数平均分子量(M)を有する酢酸セルロース(CA)(すなわち、酢酸とは異なるさらなるカルボン酸塩官能基を含まない酢酸塩官能化セルロース)である。
【0089】
例えば、高分子シェルが酢酸プロピオン酸セルロース(CAP)または酪酸酢酸セルロース(CAB)からなる場合、使用されるカルボン酸の形態の水素結合ドナーの量は、水素結合ドナーと酢酸塩官能化セルロースの総重量に基づいて、0.01~50重量%とすることができる。実施形態では、0.01~40重量%の範囲、例えば、0.05~30重量%の範囲、0.1~20重量%の範囲、あるいは0.5~15重量%の範囲(0.5~10重量%の範囲もしくは1.0~5.0重量%の範囲など)とすることもでき、重量%は、水素結合ドナーおよび酢酸塩官能化セルロースの総重量に基づく。
【0090】
例えば、高分子シェルが酢酸セルロース(CA)(すなわち、酢酸とは異なるさらなるカルボン酸塩官能基を含まない酢酸塩官能化セルロース)からなる場合、使用されるカルボン酸の形態の水素結合ドナーの量は、水素結合ドナーと酢酸塩官能化セルロースの総重量に基づいて、0.01~50重量%とすることができる。実施形態では、0.01~40重量%の範囲、例えば、0.05~30重量%の範囲、0.1~20重量%、あるいは0.5~15重量%の範囲(0.5~10重量%の範囲もしくは1.0~5.0重量%の範囲など)とすることができ、重量%は、水素結合ドナーと酢酸塩官能化セルロースの総重量に基づく。
【0091】
本発明の膨張性マイクロスフェアは、酢酸塩官能化セルロース、有機溶媒、発泡剤、およびアルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナー、好ましくはカルボン酸の形態の水素結合ドナーを混合することからなる噴霧乾燥プロセスによって得ることができ、次いで、このようにして得られた混合物を乾燥装置内に噴霧して、中空コアを取り囲む高分子シェルを有する熱膨張性マイクロスフェアを製造する。高分子シェルは酢酸官能基化セルロースからなり、中空コアは発泡剤からなる。
【0092】
原理では、噴霧乾燥プロセスを実施するための噴霧乾燥装置は限定されず、噴霧乾燥プロセスのために任意の従来の、かつ市販の噴霧乾燥装置を使用することができる。本明細書に記載のプロセスに好適な典型的な噴霧乾燥装置は、ノズル、乾燥ガス用入口、および乾燥チャンバをサイクロンに接続する出口を装備した乾燥チャンバを備える。通常は噴霧チャンバの頂部に位置するノズル(ただし噴霧乾燥機の任意の他の部分に位置してもよい)を通して、霧化される液体は、通常は噴霧ガスと組み合わせて、乾燥チャンバ内に噴霧される。乾燥チャンバでは、噴霧チャンバ内に乾燥ガス用の入口を通して供給される乾燥ガスによって、霧化された液体は乾燥される。乾燥ガスの入口は、例えば、ノズルのすぐ隣に位置付けられてもよい。霧化した液体は乾燥し、そして粒子を形成する。こうして得られた粒子は、次いで通常は乾燥チャンバの底部エリア内に位置する乾燥チャンバの出口を通して、乾燥ガスと共にサイクロン内に供給される。サイクロン内では、粒子は乾燥空気から分離される。乾燥空気からあらゆる残留粒子を除去するために、乾燥空気はさらに濾過されてもよい。
【0093】
噴霧乾燥プロセスを実施するための好適な噴霧乾燥装置は、Buchi/Switzerlandから市販されているBuchiミニ噴霧乾燥機B-290である。
【0094】
酢酸塩官能化セルロース、有機溶媒、発泡剤、およびアルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナー、好ましくはカルボン酸の形態の水素結合ドナーを混合するために添加する順序は限定されず、任意の順序を選択することができる。
【0095】
しかしながら、好ましい実施形態では、膨張性マイクロスフェアを製作するプロセスにおいて、酢酸塩官能化セルロースはまず有機溶媒と混合され、次いでさらなる工程で、発泡剤、およびアルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナー、好ましくはカルボン酸の形態の水素結合ドナーが混合物に添加される。
【0096】
酢酸官能基化セルロースの混合は、周囲温度で実行されてもよいが、5~75℃の範囲の温度を使用することもできる。混合は通常、酢酸塩官能化セルロースが有機溶媒に完全に溶解するまで行う。
【0097】
実施形態では、酢酸塩官能化セルロースと有機溶媒との混合物はある期間、例えば、1~100時間、または2~50時間の間、放置または撹拌することができる。これは、10~95℃の範囲の温度、例えば、20~90℃の温度で実行することができる。
【0098】
さらなる工程では、発泡剤、およびアルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナー、好ましくはカルボン酸の形態の水素結合ドナーが、酢酸塩官能化セルロースと有機溶媒の混合物に添加される。発泡剤、およびアルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナー、好ましくはカルボン酸の形態の水素結合ドナーアルコールの群から選択される発泡剤および水素結合ドナーを加える順序では重要ではなく、よって、発泡剤が、最初に添加され、次いで、アルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナー、好ましくは、カルボン酸の形態の前記水素結合ドナーを添加してもよく、また、代替えとして、アルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナー、好ましくは、カルボン酸の形態の前記水素結合ドナーを 最初に添加され、続いて、発泡剤が添加されてもよい。また、この混合工程は、周囲温度で実行することもできるが、5~75℃の範囲の温度を使用することができる。また、この混合工程は、通常、発泡剤、およびアルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナー、好ましくはカルボン酸の形態の水素結合ドナーが有機溶媒に完全に溶解するまで行われる。
【0099】
発泡剤、およびアルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナー、好ましくはカルボン酸の形態の水素結合ドナーを、酢酸塩官能化セルロースと有機溶媒の混合物に添加した後、これによって得られた混合物を、例えば、1~100時間、または2~50時間の間、さらに攪拌してもよい。これは、10~95℃の範囲の温度、例えば、20~90℃の温度とすることもできる。
【0100】
酢酸塩官能化セルロース、有機溶媒、発泡剤、およびアルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナー、好ましくはカルボン酸の形態の水素結合ドナーからなる混合物を、次いで、乾燥装置に噴霧して、本明細書に記載の熱膨張性マイクロスフェアを製造する。乾燥装置は、上述のように噴霧乾燥装置であってもよい。
【0101】
霧化される液体と共にノズルを通して噴霧される任意の噴霧ガスは、特に限定されず、当業者に知られている任意の好適な噴霧ガスであってもよい。例えば、噴霧ガスは、窒素、二酸化炭素、(加圧)空気、希ガス(アルゴンなど)から選択されてもよい。好ましくは、本明細書に記述されるような膨張性マイクロスフェアを製作する方法では、噴霧ガスが使用され、より好ましくは、この噴霧ガスは窒素である。
【0102】
また、乾燥ガスは特に限定されず、当業者によって知られている任意の好適な乾燥ガスであってもよい。例えば、噴霧ガスはまた、窒素、二酸化炭素、(加圧)空気、希ガス(アルゴンなど)から選択されてもよい。乾燥ガスは窒素であることが好ましい。
【0103】
噴霧ガス流量、乾燥チャンバに入る際の乾燥ガスの入口温度、霧化される液体の供給速度、および噴霧乾燥装置内の乾燥ガスを循環させる吸入器速度、および噴霧器速度などの、噴霧乾燥装置を運転するためのさらなるプロセスパラメータは、当業者によって容易に選ぶことができる。
【0104】
上述の方法により、中空コアを取り囲む高分子シェルからなる熱膨張性マイクロスフェアを得ることが可能であり、中空コアは発泡剤を含み、高分子シェルは酢酸塩官能化セルロースを含み、熱膨張性マイクロスフェアは膨張開始温度TStartが140°C以上、例えば150°C~250°Cであることが判明した。さらに、この方法は、こうした熱膨張性マイクロスフェアを得るのに特に適切であり、高分子シェルは、アルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナー、好ましくはカルボン酸の形態の水素結合ドナーをさらに含むことも判明した。
【0105】
有機溶媒は、例えば3~12個の炭素原子を有するエステル、アミド、アルデヒド、ケトン、アルコール(グリコールを含む)、およびエーテルから選択される1つ以上の官能基を有する有機溶媒から選択することができる。実施形態では、エステル、ケトン、およびエーテルは、環状構造の一部であってもよい。さらなる例としては、1~6個の炭素原子を有するハロアルカン、および1~6個の炭素原子を有するハロ-カルボン酸が挙げられ、ここでハロゲンは、フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素から選択される。
【0106】
使用することができる有機溶媒の例としては、酢酸エチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、ギ酸n-プロピル、ギ酸イソ-プロピル、酢酸n-プロピル、酢酸イソ-プロピル、酢酸イソ-ブチル、酢酸n-ブチル、ギ酸n-ペンチル、ギ酸イソ-ペンチル、酢酸n-ペンチル、酢酸イソ-ペンチル、プロピオン酸エチル、イソ-酪酸イソ-ブチル、プロピオン酸n-ブチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、酢酸2-エチルヘキシル、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルn-アミルケトン、酸化メシチル、アセトフェノン、シクロヘキサノン、フタル酸ジエチル、乳酸エチル、酢酸ベンジル、ブチロラクトン、アセチルアセトン、メチルシクロヘキサノン、ベンズアルデヒド、ジイソブチルケトンジアセトンアルコール、エチレングリコール、グリセリル-α-モノクロロヒドリン、プロピレングリコール、グリコールエーテル(例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノ-メチルエーテル、エチレングリコールモノ-エチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル)、グリコールエーテルエステル(例えば、エチレングリコールモノ-メチルエーテルアセタート、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノブチルエーテル、ジ酢酸エチレングリコール)、n-プロピルアルコール、イソ-プロピルアルコール、n-ブタノール、sec-ブタノール、イソブタノール、ベンジルアルコール、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソール、フェネトール、およびジメチルホルムアミドが挙げられる。溶媒のその他の例としては、ジメチルスルホキシド、トルエン、キシレン、n-メチル-2-ピロリドン、塩化メチル、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロ酢酸、臭化メチル、ヨウ化メチル、トリクロロエチレン、およびテトラクロロエチレンが挙げられる。有機溶媒は、2つ以上の溶媒の混合物とすることができる。有機溶媒は、水を含むことができるが、典型的に、有機溶媒(複数可)の含水量は、5重量%未満、すなわち、0~5重量%の水、例えば、0~1重量%の水である。
【0107】
実施形態では、溶媒は、酢酸エチル、酢酸メチル、ギ酸エチル、およびアセトンのうちの1つ以上から選択される。溶媒は、アセトンであることが特に好ましい。
【0108】
典型的に、噴霧乾燥用混合物中の酢酸塩官能化セルロース含有量は、典型的に0.1~50重量%の範囲である。実施形態では、1~40重量%の範囲、例えば、2~35重量%の範囲、さらには5~10重量%の範囲とすることができる。重量%は、噴霧乾燥用の混合物の総重量に基づいている。
【0109】
噴霧乾燥用の混合物中の発泡剤(複数可)の量は、典型的に0.5~50重量%の範囲である。実施形態では、0.5~40重量%の範囲、例えば、1~30重量%の範囲、さらには3~25重量%の範囲とすることができる。実施形態において、噴霧乾燥用混合物中の発泡剤の重量は、酢酸塩官能化セルロースの重量以下であり、例えば、発泡剤と酢酸塩官能化セルロースの重量比は、1.5以下、例えば、1.3以下、あるいは1.1以下にすることもできる。実施形態では、最小重量比は0.1、またはさらなる実施形態では0.2である。実施形態では、有機相における発泡剤と酢酸塩官能化セルロースとの重量比は、0.1~1.5の範囲、例えば0.2~1.3の範囲、さらには0.3~1.1の範囲である。
【0110】
噴霧乾燥用混合物中の、アルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナーの量、好ましくは、カルボン酸の形態の水素結合ドナーは、典型的には、0.01~15重量%の範囲、例えば、0.05~10重量%の範囲内、0.1~5重量%の範囲、または0.1~3.0重量%の範囲、例えば、0.1~1.0重量%の範囲である。重量%は、酢酸塩官能化セルロース、発泡剤、およびアルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナー、好ましくはカルボン酸の形態の水素結合ドナー、および噴霧乾燥用混合物中の溶媒の合計重量に基づく。
【0111】
例えば、酢酸プロピオン酸セルロース(CAP)または酢酸酪酸セルロース(CAB)がポリマーとして使用される場合、アルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナーの量、好ましくは、使用されるカルボン酸の形態の水素結合ドナーの量は、0.01~15重量%であり得る。実施形態では、0.05~10重量%の範囲、0.1~5重量%の範囲、さらには0.1~3.0重量%の範囲、例えば0.1~1.0重量%の範囲とすることができる。重量%は、酢酸塩官能化セルロース、発泡剤、およびアルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナー、好ましくはカルボン酸の形態の水素結合ドナー、および噴霧乾燥用混合物中の溶媒の合計重量に基づく。
【0112】
例えば、好ましい実施形態において、酢酸セルロース(CA)(すなわち、酢酸とは異なるカルボン酸官能基をさらに含まない酢酸官能基化セルロース)がポリマーとして使用される場合、アルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナー、好ましくは、カルボン酸の形態の水素結合ドナーの量は、0.01~15重量%、例えば0.05~10重量%、0.1~5重量%、あるいは0.1~1.0重量%の範囲となり得る。重量%は、酢酸塩官能化セルロース、発泡剤、およびアルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナー、好ましくはカルボン酸の形態の水素結合ドナー、および噴霧乾燥用混合物中の溶媒の合計重量に基づく。
【0113】
有機溶媒の量は、合計で100重量%になる。有機溶媒の量は、好ましくは少なくとも30重量%、より好ましくは少なくとも40重量%、なおより好ましくは少なくとも50重量%である。重量%は、噴霧乾燥用混合物の総重量に基づいている。
【0114】
噴霧乾燥用混合物中のアルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナー、好ましくはカルボン酸の形態の水素結合ドナーの量は、噴霧乾燥用混合物中のアルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナー、好ましくはカルボン酸の形態の水素結合ドナー、ならびに酢酸官能基化セルロースの総重量に基づいて、0.01~50重量%であってもよい。実施形態において、その量は0.1~40重量%の範囲、例えば、0.5~35重量%の範囲、1~30重量%の範囲、さらには2~25重量%の範囲とすることができ、重量%は、アルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナー、好ましくは、カルボン酸の形態の水素結合ドナー、および噴霧乾燥用混合物内の酢酸塩官能化セルロースの総重量に基づく。
【0115】
未膨張のマイクロスフェアは、典型的に、1~500μm(5~200μmなど)の範囲、または実施形態では、10~100μmの範囲の体積平均粒子サイズ(直径)、または15~80μmの範囲の体積平均粒子サイズ(直径)さえも有し、これはすなわち、D(0.5)値である。
【0116】
膨張したマイクロスフェアの直径は、典型的に、未膨張のマイクロスフェアより直径が1.5~8倍大きい範囲であり、例えば、それの元の直径の2~7倍または3~6倍である。
【0117】
粒子サイズは、光散乱技法、例えば、低角レーザー光散乱(LALLS)などのレーザー回折を使用して好適に測定される。それらはまた、膨張前または膨張後のマイクロスフェアの写真または電子顕微鏡写真画像からの画像解析によっても測定することができる。
【0118】
膨張性マイクロスフェアを膨張するために、それらは、発泡剤の沸点および官能基化セルロースのTを上回る温度に加熱することができ、またマイクロスフェアの融点を下回る温度にも加熱することができる。膨張を中断するために、マイクロスフェアを、官能基化セルロースのTおよび/または発泡剤の沸点を下回るまで戻って下がるように冷却することができる。
【0119】
膨張性マイクロスフェアを加熱する方法としては、例えば、国際公開第2004/056549号、国際公開第2014/198532号および国際公開第2016/091847号に記述されるように、蒸気または加圧蒸気などの熱伝達媒体と直接的または間接的に接触させることが挙げられる。さらなる実施形態では、蒸気と任意で混合された他の加熱されたガス(例えば、空気または窒素)との直接的または間接的な接触を使用することができる。間接的な加熱が使用される、なおさらなる実施形態では、液体熱伝達媒体(例えば、加熱されたオイル)を使用してもよい。別の実施形態では、マイクロスフェアを加熱するために、IR放射を使用することができる。
【0120】
熱膨張可能な熱可塑性マイクロスフェアの膨張特性は、熱機械分析器(例えば、Mettler TMA 841)を使用して評価することができ、定量的データは、例えば、STAReソフトウェアなどの好適なソフトウェアを使用して画像から得ることができる。
【0121】
膨張可能な、または膨張した熱可塑性マイクロスフェアは、例えば、それらの使用場所への局所的な膨張のために、未膨張形態で提供されてもよく、または最終使用場所への発送前に予め膨張させることができる。
【0122】
マイクロスフェアは、例えば、紙(例えば、エンボス紙、紙充填剤、糊剤)、インク、コルク、セメント系組成物、接着剤、発泡体、絶縁材料、コーティング、ゴムベースの製品、熱可塑性プラスチック、熱硬化性樹脂、セラミック、不織複合材料、充填剤などの製造における数多くの用途で、例えば、そのような用途で軽量充填剤を提供するために、使用を見出すことができる。
【0123】
本明細書に記載の熱膨張性マイクロスフェアは、乾燥時、湿潤時、またはスラリー中にある時に、熱膨張性とすることができる。それらはまた、発泡剤を長期間、例えば、少なくとも1週間、少なくとも1か月または少なくとも4か月などの間、保留することもできる。さらに、それらの膨張は典型的に不可逆的であり、すなわち、熱膨張後にマイクロスフェアを冷却しても、その膨張前のサイズには戻るような、それらの収縮をもたらさない。
【0124】
本発明の別の第2の態様は、熱膨張性マイクロスフェアを調製するためのプロセスであり、このプロセスは150~250℃の範囲内のガラス転移温度を有する酢酸官能化セルロース、有機溶媒、発泡剤、およびアルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナー、好ましくは、カルボン酸の形態の水素結合ドナーとを混合することと、次いで、このようにして得られた混合物を乾燥装置内に噴霧して、中空コアを取り囲む高分子シェルを有する熱膨張性マイクロスフェアを生成することとを含み、高分子シェルは酢酸塩官能化セルロースを含み、中空コアは発泡剤を含む。
【0125】
プロセスパラメータ、噴霧乾燥装置、酢酸塩官能化セルロース、有機溶媒、発泡剤、およびアルコール、尿素、およびカルボン酸の群から選択される水素結合ドナー、好ましくはカルボン酸の形態の水素結合ドナー、ならびにそれらの量はすでに上述したものと同じであり、本発明の第2の態様によるプロセスにも同様に適用される。
【0126】
さらなる実施形態において、熱膨張性マイクロスフェアを調製するプロセスは、熱膨張性マイクロスフェアを膨張させる前に、調製後少なくとも2週間、好ましくは少なくとも4週間、調製した熱膨張性マイクロスフェアを保存する工程をさらに含む。驚くべきことに、調製された熱膨張性マイクロスフェアの貯蔵は、熱膨張性マイクロスフェアの膨張密度を改善する場合があることが見出された。膨張密度は、熱膨張性マイクロスフェアの最大膨張におけるマイクロスフェアの密度を表す。膨張密度は、当業者によって一般的に知られている標準的な測定技法を使用して決定することができる。例えば、膨張密度は、TStartの決定のための上述の昇温実験で、すなわち、例えば、Mettler-Toledo TMA/SDTA 841eなどのMettler-Toledo熱機械分析器を使用する、および、例えば、Mettler-Toledo製のSTAReソフトウェアを使用することによる得られた膨張サーモグラムの分析によっても決定することができる。こうした装置を使用して、密度について決定される典型的な値は、TMA密度と呼ばれる。TMA密度は、サンプルの重量[g]を、最大膨張時のサンプルの体積増加量[dm]で割る式を使用して計算される。より低いTMA密度は、通常、より望ましい膨張特性を示す。0.2g/cm以下のTMA密度が望ましいと考えられ、また少なくとも0.15g/cm以下のTMA密度が特に望ましいと考えられる。
【0127】
さらなる態様では、本発明はまた、上述のような熱膨張性マイクロスフェアを調製するためのプロセスによって得られる熱膨張性マイクロスフェアも対象とする。
【実施例
【0128】
以下の実施例は、本発明を例示することが意図されている。
【0129】
・膨張特性は、STAReソフトウェアを実行するPCにインターフェース接続されたMettler TMA/SDTA 841e熱機械分析装置を使用して評価された。分析するサンプルを、直径6.8mmおよび深さ4.0mmの酸化アルミニウムるつぼに収容された0.5mg(+/-0.02mg)の熱膨張性マイクロスフェアから調製した。るつぼを、直径6.1mmの酸化アルミニウムのリッドを使用してシールした。TMA膨張プローブタイプを使用して、サンプルの温度を、プローブで0.06Nの負荷(正味)を加えながら、20℃/分の加熱速度で、約30℃から240℃へと上昇させた。プローブの垂直の変位を測定して、膨張特性を分析した。膨張の初期温度(Tstart):プローブの変位が始まった時の温度(℃)。
・最大膨張温度(Tmax):プローブの変位が最大に達した時の温度(℃)。
・最大変位(Lmax):プローブの変位が最大に達した場合のプローブの変位(μm)。
・TMA密度:プローブの変位がその最大値に達した時に、サンプル重量(d)をサンプルの体積増加(dm)で割ったもの。
【0130】
パラメータは、図2に示す例示的実施例によって図示されるように決定された。
【0131】
マイクロスフェア中の揮発分は、Mettler Toledo TGA/DSC1 TGA器具を使用して決定された。
【0132】
ガスクロマトグラフィー-水素炎イオン化検出(GC-FID)分析は、Agilent 7697A HeadspaceをAgilent 7890A GCと組み合わせて使用して実施された。
【0133】
示差走査熱量測定(DSC)は、Mettler Toledo DSC 822eデバイスを使用して得られた。
【0134】
一般的合成方法:
【0135】
実施例1~2の実験では、すべての成分(溶媒、ポリマー、水素結合ドナーおよび発泡剤)を混合し、磁気攪拌器を用いて一晩撹拌した。
【0136】
次いで、こうして得られた混合物を、Buchi Mini Spray Dryer B-290を使用して噴霧乾燥した。窒素を、噴霧ガスとして238l/時の供給速度で使用した。噴霧乾燥される混合物の供給速度を測定したところ、約12~13ml/分であった。入口での乾燥ガスの温度は105°C、吸引速度は38m/h、出口での温度は約78~80°C、噴霧時間は約4分であった。
【0137】
乾燥固体をサイクロンの底部から収集し、数日以内または貯蔵後に分析した。
【0138】
表1に、マイクロスフェアの調製に使用した酢酸塩官能化セルロースポリマー(酢酸セルロース(CA1))とその特性を示す。表1には、さらに好適な酢酸塩官能化セルロースポリマー、すなわち、酢酸による置換度(DS)が2.0~3.0の範囲にあり、酪酸塩による置換度(DS)が1以下である酢酸官能基および酪酸官能基を有するセルロース(CAB1)も示す。
【0139】
【表1】
【0140】
(1) DS=置換度。総DS=個々の置換基のDSの総和
(2) 供給業者が提供する数平均分子量(単位:Da)
(3) 供給業者が(Eastman社)が提供するガラス転移温度
(4) 供給業者が提供する融点
- 該当なし
【0141】
実施例1:
ポリマーシェルのポリマーとしてCA1を用い、Tstart、Tmax、およびTMA密度に対する様々な水素結合ドナーの添加量の影響を調べた。
【0142】
実施例1のすべての実験の混合物は、2.25gのCA1、26.5gのアセトン、および1.2gのイソオクタンを含有していた。表2に示すように、様々な水素結合ドナーを1~10重量%(水素結合ドナーおよびCA1の総重量に基づく)の様々な用量で添加した。(PMA=ピロメリット酸ン酸、BTCA=1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、PAA(2000)=重量平均分子量2000g/mol)のポリアクリル酸
【0143】
【表2A】
【0144】
【表2B】
【0145】
(1) 水素結合ドナーおよびCA1の合計重量に基づく
(2) TGAによって測定されたマイクロスフェアの揮発分、マイクロスフェアの総重量に基づく
‡ GC-FID(ガスクロマトグラフィー-水素炎イオン化検出)により測定
【0146】
実施例1で得られたデータから、酢酸塩官能化セルロース組成物は望ましく低いTMA密度を有し、膨張開始温度Tstartが158℃~175℃の範囲内にあるバイオベースのミクロスフェアを製造するために使用できることが明らかになった。この結果は、180℃のガラス転移温度を有する酢酸セルロースについて、水素結合ドナーを添加することにより膨張開始温度Tstartが低下することを示しており、以下の実施例2の表3に示すデータは、ミクロスフェアを4週間貯蔵しても膨張特性が有意に変化しないことを示している。これは、本発明のマイクロスフェアの望ましい貯蔵安定性を示す。
【0147】
実施例2:
貯蔵試験は、4週間の間の貯蔵後の本発明のマイクロスフェアの貯蔵安定性を評価するために実施された。表3は、4週間の貯蔵後の上記の実施例1の実験からのマイクロスフェアのTstart、Tmax、およびTMA密度の特性を示す。例えば、実施例1の実験2について上記の表2に示したデータは、新たに作製されたマイクロスフェアについてのデータであり、対応する実験2(4w)について下記の表3に示すデータは、まったく同じミクロスフェアに対するデータであるが、ミクロスフェアを4週間貯蔵した後に測定されたという点だけが異なっている。結果を表3に要約する。
【0148】
【表3A】
【0149】
【表3B】
【0150】
(1) 水素結合ドナーおよびCA1の合計重量に基づく
(2) TGAによって測定されたマイクロスフェアの揮発分、マイクロスフェアの総重量に基づく
(3) 製造直後の同じミクロスフェアのTMA密度と比較した、4週間の貯蔵後のミクロスフェアのTMA密度の変化率。負の値は、ミクロスフェアのTMA密度が、製造直後よりも4週間貯蔵後の方が低いことを示している。
‡ GC-FID(ガスクロマトグラフィー-水素炎イオン化検出)により測定
【0151】
このデータから、4週間の貯蔵の間に、マイクロスフェアはわずかながら発泡剤を緩めるものの、意外にも膨張特性Tstart、Tmax、およびTMA密度に著しい変化はなく、ほとんどの場合において改善さえしていることが明らかになった。これは、本発明のマイクロスフェアの望ましい貯蔵安定性を示す。
図1
図2
【国際調査報告】