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特表2024-509394構造物の破損リスクを決定するシステム及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-01
(54)【発明の名称】構造物の破損リスクを決定するシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 7/02 20060101AFI20240222BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20240222BHJP
【FI】
G01M7/02 H
G01M99/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023551104
(86)(22)【出願日】2022-02-09
(85)【翻訳文提出日】2023-10-12
(86)【国際出願番号】 US2022015766
(87)【国際公開番号】W WO2022177786
(87)【国際公開日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】17/181,745
(32)【優先日】2021-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523317582
【氏名又は名称】ウィナント、トーマス アーサー
【氏名又は名称原語表記】WINANT, Thomas Arthur
【住所又は居所原語表記】7 Carlisle Court, Chester, New Jersey 07930, US
(71)【出願人】
【識別番号】523317593
【氏名又は名称】ジェリー、アラン ピーター
【氏名又は名称原語表記】JEARY, Alan Peter
【住所又は居所原語表記】100 Warren Street, Apt. 1815, Jersey City, New Jersey 07302, US
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ウィナント、トーマス アーサー
(72)【発明者】
【氏名】ジェリー、アラン ピーター
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AD34
2G024BA12
2G024BA15
2G024BA27
2G024CA13
2G024DA12
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA14
(57)【要約】
構造物の動的特性を測定し、測定された動的特性を用いて構造物の動的性能を評価するためのシステム及び方法。本システム及び方法は、測定された応答を低振幅データと高振幅データに分離し、外力や質量の影響を低減することができる。本システム及び方法は、共振周波数、モード形状、非線形減衰などの構造物の動的特性を測定し、構造物の解析に使用して、構造物の動的応答を、適用される建築基準法の要件に従って建設された構造物の予測特性と比較する。このように、本システム及び方法は、構造物の現状の状態と構造物の設計通りの状態とを比較したリスク比を求めることで、構造物の破損リスクを定量化する。

【選択図】 図1


【特許請求の範囲】
【請求項1】
事象限界を超えない事象に耐えるように設計された、設計通りの状態を有する構造物の荷重又は事象に応じた、該構造物の破損リスクを定量化するシステムであって、前記システムは、
前記構造物の任意の位置に配置可能であり、前記位置における構造物の動きを検出し、前記位置における構造物の動きを示す出力信号を生成するように構成された少なくとも1つのセンサと、
プロセッサ及びメモリを有し、前記少なくとも1つのセンサに接続可能な演算装置と、を備え、前記演算装置は、
前記出力信号を受信し、前記出力信号を測定データとしてメモリに保存するデータ収集モジュールと、
データ処理モジュールであって、
前記測定データ中の高振幅データと低振幅データを分離して、前記低振幅データの処理を可能にし、
前記低振幅データを結合して、詳細な処理のための連続的な低振幅時刻歴データを形成し、
前記連続的な低振幅時刻歴データから前記構造体の動的応答を求めるように構成され、前記動的応答を求めることは、スペクトル応答、モード形状、及び非線形減衰特性のうちの1つを求めることを含み、前記スペクトル応答、モード形状、及び非線形減衰特性のうちの1つから現状の状態をさらに求めるように構成されたデータ処理モジュールと、
前記現状の状態と前記設計通りの状態とを比較することで、事象限界に耐える前記構造物の破損リスクを定量化する前記構造物のリスク比を求めるリスク比プロセッサと、を備えるシステム。
【請求項2】
前記データ収集モジュールは、前記連続的な低振幅時刻歴データを保存する請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記データ処理モジュールは、前記時刻歴データに高速フーリエ変換を適用してスペクトル応答を求める請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記構造物の複数の位置に選択的に配置可能な複数のセンサをさらに備え、
前記複数のセンサの各々は、前記複数の位置の各々における構造物の動きを示す出力信号を生成し、前記モード形状を求めることは、第1の位置における前記複数のセンサの各々の出力信号と、第2の位置における前記複数のセンサの各々の出力信号とを比較することを含み、前記第1の位置及び前記第2の位置は、鉛直方向及び水平方向のいずれかに離間する請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記データ収集モジュールは、前記出力信号を時刻歴データとして保存し、前記データ処理モジュールは、前記時刻歴データの単一モードを考慮するように修正されたランダム減衰法を用いて、非線形減衰特性を求める請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記システムは、前記構造物の複数の位置に配置された複数のセンサをさらに備え、前記データ処理モジュールは、前記複数の位置の各々における前記複数のセンサの各々の動きの大きさを求めることで、モード形状を求める請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
複数のセンサをさらに備える請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記複数のセンサのうちの1つは参照センサを含み、前記複数のセンサのうちの1つはトラベラセンサを含み、前記参照センサは前記構造物の第1の位置に配置され、前記トラベラセンサは前記構造物の複数の位置に配置され、前記データ収集モジュールは、前記第1の位置において前記参照センサから前記出力信号を受信し、前記複数の位置の各々において前記トラベラセンサから前記出力信号を受信する請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記少なくとも1つのセンサは、加速度計、ジオフォン、歪みゲージ、ジオポジショニングシステム、及び変位変換器のうちの1つを含む請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記測定データ中の高振幅データと低振幅データを分離することは、前記測定データにおける力及び付加質量の影響を反映する部分を識別することを含む請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記測定データ中の高振幅データと低振幅データを分離することは、前記識別された部分を除去することを含む請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記データ収集モジュールは、データロガーを含む請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記リスク比プロセッサは、以下の式:
【数1】
(式中、Frm及びFrdは、それぞれ前記現状の状態及び前記設計通りの状態での前記構造物が受ける変位力である。ζrd及びζrmは、それぞれ前記現状の状態及び前記設計通りの状態でのモードrの減衰である。frd及びfrmは、それぞれ前記現状の状態及び前記設計通りの状態での共振周波数である。)を用いて、前記現状の状態と前記設計通りの状態とを比較することで、前記構造物のリスク比を求める請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
前記データ処理モジュールは、以下の式:
【数2】
(式中、Xrmは前記構造物が受ける変位である。Frmは前記構造物が受ける変位力である。ζrmはモードrの減衰である。frmは共振周波数である。Mは前記構造物のモード質量である。)を用いて、前記現状の状態での単位力あたりの変位をさらに求める請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
前記データ処理モジュールは、以下の式:
【数3】
(式中、Xrdは前記構造物が受ける変位である。Frdは前記構造物が受ける変位力である。ζrdはモードrの減衰である。frdは共振周波数である。Mは前記構造物のモード質量である。)を用いて、前記設計通りの状態での単位力あたりの変位をさらに求める請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
事象限界を超えない事象に耐えるように設計された、設計通りの状態を有する構造物の荷重又は事象に応じた、該構造物の破損リスクを定量化する方法であって、前記方法は、
前記構造物の任意の位置に配置可能であり、前記位置における構造物の動きを検出し、前記位置における構造物の動きを示す出力信号を生成するように構成された少なくとも1つのセンサと、
プロセッサ及びメモリを有し、前記少なくとも1つのセンサに接続可能な演算装置と、を備えるシステムによって実施され、前記演算装置は、メモリに格納された命令プログラムであって、実行時に前記プロセッサが、
前記出力信号を受信し、前記出力信号を測定データとしてメモリに保存し、
前記測定データ中の高振幅データと低振幅データを分離して、前記低振幅データの処理を可能にし、
前記低振幅データを詳細な処理のための連続的な時刻歴データに結合し、
前記低振幅データを結合して、詳細な処理のための連続的な低振幅時刻歴データを形成し、
連続的な低振幅時刻歴データから前記構造体の動的応答を求め、前記動的応答を求めることは、スペクトル応答、モード形状、及び非線形減衰特性のうちの1つを求めることを含み、前記データ処理モジュールにより、前記スペクトル応答、モード形状、及び非線形減衰特性のうちの1つから現状の状態をさらに求め、
前記現状の状態と前記設計通りの状態とを比較することで、事象限界に耐える前記構造物の破損リスクを定量化する前記構造物のリスク比を求めるように構成された命令プログラムを有する方法。
【請求項17】
前記出力信号は、時系列データを含み、スペクトル応答を求めることは、前記時系列データに高速フーリエ変換を適用することをさらに含む請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記システムは、前記構造物の複数の位置に選択的に配置可能な複数のセンサをさらに備え、
前記複数のセンサの各々は、前記複数の位置の各々における構造物の動きを示す出力信号を生成し、前記モード形状を求めることは、第1の位置における前記複数のセンサの各々の出力信号と、第2の位置における前記複数のセンサの各々の出力信号とを比較することを含み、前記第1の位置及び前記第2の位置は、鉛直方向及び水平方向のいずれかに離間する請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記出力信号は、時系列データを含み、非線形減衰特性を求めることは、前記時刻歴データの単一モードを考慮するように修正されたランダム減衰法を用いることを含む請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記システムは、前記構造物の複数の位置に配置された複数のセンサをさらに備え、モード形状を求めることは、前記複数の位置の各々における前記複数のセンサの各々の動きの大きさを求めることを含む請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記測定データ中の高振幅データと低振幅データを分離することは、前記測定データにおける力及び付加質量の影響を反映する部分を識別することを含む請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記測定データ中の高振幅データと低振幅データを分離することは、前記識別された部分を除去することを含む請求項21に記載の方法。
【請求項23】
リスク比を求めることは、以下の式:
【数4】
(式中、Frm及びFrdは、それぞれ前記現状の状態及び前記設計通りの状態での前記構造物が受ける変位力である。ζrd及びζrmは、それぞれ前記現状の状態及び前記設計通りの状態でのモードrの減衰である。frd及びfrmは、それぞれ前記現状の状態及び前記設計通りの状態での共振周波数である。)を用いて、前記現状の状態と前記設計通りの状態とを比較することを含む請求項16に記載の方法。
【請求項24】
以下の式:
【数5】
(式中、Xrmは前記構造物が受ける変位である。Frmは前記構造物が受ける変位力である。ζrmはモードrの減衰である。frmは共振周波数である。Mは前記構造物のモード質量である。)を用いて、前記現状の状態での単位力あたりの変位を求めるステップをさらに含む請求項16に記載の方法。
【請求項25】
以下の式:
【数6】
(式中、Xrdは前記構造物が受ける変位である。Frdは前記構造物が受ける変位力である。ζrdはモードrの減衰である。frdは共振周波数である。Mは前記構造物のモード質量である。)を用いて、前記設計通りの状態での単位力あたりの変位を求めるステップをさらに含む請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁などの構造物の状態を判定するためのシステム及び方法、より詳細には、構造物の破損リスクを定量化するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1950年代以来、構造物がどのように動的に振る舞うか、また構造物の動的応答をどのように測定するかについて、重要な研究が行われてきた。構造物が一連の振動モードで動き、たわむことはよく知られている。各振動モードは、モード質量、モード剛性、たわみモード形状又はモード形状、減衰などの構造物の物理的特性によって一般に決まる一連のパラメータによって記述される。特定の振動モードにおける構造物の動的応答の数学的表現は、構造動力学の分野における基本方程式であり、以下の式1として提供される。
【数1】
【0003】
式中、モードrについて、Xは変位である。
【0004】
Mはモード質量である。
【0005】
fは構造物の共振周波数である。
【0006】
Fは構造物が受ける力である。
【0007】
ζはモードrの減衰である。
【0008】
各たわみモード形状は、一般的なモノリシック構造の場合、特定の振動周波数で発生する。構造物の剛性は、モノリシック構造の場合、構造物が弾性的に振る舞い、損傷を受けないと考えられる弾性範囲として知られる振幅範囲を通して周波数に線形に関係する。
【0009】
式1では、任意の特定のモードにおける構造物の動的応答Xを計算することができる。しかし、正確な計算を行うためには、減衰ζのパラメータを正確に求め、正確な応答計算を行う必要がある。歴史的に、減衰のパラメータを正確に測定することは非常に困難であった。従来、構造物が様々な振幅でどのようにエネルギーを消散するかを測定するために必要な加振を行うには、大きな自然的又は人為的な力によって構造物を物理的に揺らす必要があった。減衰は振幅によって変化するパラメータであるため、正確な測定はほぼできなかった。減衰を正確に測定することが困難なため、設計と建設に関する実施基準では通常、減衰の推定値が用いられてきた。これが標準的な工学設計の慣行となっている。多くの場合、これらの推定値は、構造物の設計に余力を持たせるために、より保守的なものであった。これは、付加的な安全係数を組み込むための合理的なアプローチであり、建築物の設計ではほぼ普遍的に採用されている。式1は減衰を一定値として示しているため、従来は単一値の推定値が使用されてきた。しかしながら、減衰は振幅に依存するパラメータであり、低振幅レベルから始まり、構造固有のパラメータに基づいてより高レベルまで上昇し続け、低振幅の挙動がわかっていれば、高振幅での予測値を提供する、構造物に対して予測可能な曲線を描く。多くの異なる振幅の応答を含む測定を行うことで、非線形変化を示す正確な振幅依存減衰曲線で表すことが可能な、各振幅で平均化された測定値を得ることができる。モード質量Mは一定であると仮定される。しかしながら、交通量がある橋梁の応答を測定する場合、モード質量は交通量に応じて変化する。これは、解析対象の構造物が橋梁である場合に課題となる。そこで、非線形挙動を示すように、構造物の応答を正確に測定することができる。実際、応答の測定は低振幅では簡単に行うことができる。この減衰予測により、減衰曲線の低振幅部分のみを測定すれば、構造物の減衰応答を予測することができる。
【0010】
構造物の設計プロセス、また世界中の設計規範を規定する実施基準は、風や地震などの事象、あるいは交通などの力によって構造物に作用する力に対する構造物の応答を定義しようとするものである。構造物の許容たわみは、建築・建設基準法によって、幾つかの異なる許容たわみのうちの一つを使用して決められる。これらの許容たわみは、需要対容量比で規定されることもあれば、弾性限界の端として規定されることもあれば、単位高さあたりの変位(ドリフト)として規定されることもあれば、人間の快適性(加速度で測定される供用性)で規定されることもある。設計においては、耐用性と強度の両方の要件を考慮するのが一般的であり、どちらも明確に定義される。設計プロセスでは、通常、準静的な力が用いられる。縦型構造物(建物や橋のデッキなど)の場合、これは振動の基本モードに相似する。
【0011】
設計が考慮しなければならない力は、規定又は設計者によって決定され、通常、建設地域における事象の履歴を観察することによって定められる。橋梁の場合は、予想される交通荷重によって決定される。建築物の場合、発生確率が、ある場所では規定委員会によって定義され、別の場所では規定によって設計者が許容リスクを選択することが可能である。いずれの場合も、事象の発生リスクは容易に定義される。例えば、10階建て(120インチ/階)の建物は、1/600の許容たわみ基準に基づいて、風速100マイルの風下で横方向に2インチたわむことが許容される。
【0012】
過去100年間、世界の工学界は、公共の安全を確保し、建物の損害を抑えるために、有害な事象に耐え得る構造物を建設することに注力してきた。次の100年では、同じ目的のため、建設されたインフラを維持することに焦点が当てられるだろう。建設された構造物の場合、建築基準法で想定される有害な事象に耐える能力は、有害な事象(風速100マイルの風、地震など)に対する構造物の応答と、それが構成される材料を知ることで評価することができる。橋梁の場合、これらは人口が増えるにつれて増加する可能性のある交通量に耐え得るものでなければならない。上述したように、応答は式1で示されるように測定可能である。したがって、測定された応答を見て、規定下で予想される応答と比較することで、構造物が予想される事象に耐える能力をまだ持っているかどうかを確認することができる。一方で、極端な事象の最中にこのような実測を行うことは非現実的で費用もかかるため、ほとんど行われない。しかし、実際に測定された応答は、構造物に作用する力に対して構造物がどのように応答するかを示す真の指標となる。
【0013】
構造物は、経年劣化や、自然及び人為的な衝撃や事象(建設、爆発、地震、風、衝突など)による力によって引き起こされる損傷を受ける可能性がある。建物やその他の構造物の状態を評価する現在の方法は、通常、構造物の目視検査を伴うが、構造物の大部分は目視できないため、これは本質的に主観的なものである。また、建設現場で標準的に使用されているモニタリング技術は、構造物の実際の動的応答を見るものではなく、構造物の静的応答のみを評価するものである。そのため、目視検査は不完全であることが多く、限られたモニタリング技術では時代遅れとなり、最小限の情報しか得られない。
【0014】
構造物の動的応答を評価することは、構造物の健全性や安全性に悪影響を及ぼすような事象を構造物が受けた後に有用である。通常、このような評価は、構造物が損傷を受けたかどうか、場合によっては損傷の程度を判定するだけである。ある事象に耐えるように設計・建設された構造物がその事象にさらされた場合に、構造物の破損リスクを判定するシステム及び方法が不足している。
【発明の概要】
【0015】
ある事象の後に構造物が損傷したかどうかを判断することは、損傷した構造物が設計・建設された通りに機能し続けるリスクを判断する上で何の価値もない。価値があるのは、損傷を受ける前の構造物の性能、損傷によって生じた構造物の性能の正味の変化、将来の損傷の結果として生じ得る許容性能の最小値を知ることである。これは、ある事象に耐えるように設計・建設された構造物が、その事象にさらされた後に破損する可能性を求めることで価値を提供する。この方法は、構造物の耐用年数の最初から最後まで、構造物の性能限界を追跡する客観的なシステムを提供する。現在の方法では構造物の性能に関連する損傷を正確に定量化できないため、これは構造物が損傷を受けた後に特に当てはまる。本発明は、構造物のその時点の状態、すなわち構造物が損傷しているか否か、損傷している場合はどの程度損傷しているかを評価するだけの、従来の事後構造解析のアプローチを用いない。「どの程度損傷しているか」については、従来のシステムや方法では、構造物の動的性能の客観的な測定を採用していないため、一般に不正確で、評価者の経験に依存する可能性があり、損傷の程度を文脈的に定量化することができない。このように、従来の方法とシステムは欠陥があり、不十分であった。一方、本発明は、構造物のその時点の状態を測定し、測定した状態を構造物が建設された際の仕様と比較することで、特定の条件下における構造物の破損リスクを定量化するリスク比を生成する。本明細書において、構造物の動的性能を説明するために使用される場合、破損(failure)という用語(及びその変化形)は、構造物の弾性範囲外の構造物の動的性能を指す。これに関連して、構造物の破損は、構造物の損傷、具体的には、構造物が崩壊する時点より前の損傷をもたらす。したがって、構造物が崩壊していなくても、本発明の文脈では破損したとみなされ得る。構造物の弾性範囲は、通常、何らかの損傷により経時的に変化し、部分的に損傷した構造物は、以前の損傷を組み込んだ新しい弾性限界を確立することが当該技術分野において理解されている。さらに、構造物の動的性能にとって、より大きな損傷を引き起こすような弾性範囲外の応答変位を受けることが望ましくないことが当該技術分野において理解されている。本発明は、構造物の状態を検出するだけでなく、構造物の破損の可能性を求め、定量化して、進歩性を提供する。したがって、本発明は、構造物の破損リスクを定量化するための数学的アルゴリズムを利用した新規かつ有用なプロセスに関する。また、本発明のようにリスク定量化を実行するシステム又は方法が存在しないため、本発明は、よく理解された、日常的かつ従来のものとは異なるシステム及び方法に関する。さらに、本発明は、構造解析や評価の分野における特定の有用な応用及び改善に関する。
【0016】
本発明は、構造物(例えば、建築物、橋梁、ダム、モノリシック構造物)の動的特性を測定し、測定された動的特性を使用して構造物の動的性能を評価するシステム及び方法に関する。本発明のシステム及び方法は、共振周波数、モード形状、及び非線形減衰などの構造物の動的特性を測定し、これらを構造物の解析に使用して、構造物の動的応答を、適用される建築基準法の要件に従って建設された構造物の予測される特性と比較する。本発明の実施形態は、高振幅データと低振幅データを分離する機構及び方法を含み、これは、日常的に交通により高振幅エネルギーがもたらされる橋梁に特に適用可能である。したがって、本発明は、構造物の現状の状態(as-is condition)と構造物の設計通りの状態(as-designed condition)を比較するリスク比を求めることで、構造物の破損リスクを定量化する。本発明は、短時間(数分又は数時間)の測定に使用することもできるし、繰り返し評価のための連続モニタリングのために長期間(数ヶ月又は数年)構造物に導入することもできる。本発明のシステム及び方法からの結果は、フォーマットし、様々なタイプのレポート(例えば、ステータス/警告メッセージ、視覚的なものなど)として出力することができる。
【0017】
本発明の実施形態は、構造物の動的特性を測定するためのシステム及び方法に関し、これらの測定された特性は、様々な事象及び環境条件に応じた構造物の将来の動的性能を評価するために使用することができる。幾つかの実施形態では、測定された構造物が橋梁である場合、測定された応答に車両の衝撃を含めないことで、動的特性をより正確に測定することができる。これを達成するため、幾つかの実施形態では、非常に感度の高いセンサでデータを収集し、特定の適切なアルゴリズムで処理して、モニタリングシステムに内在するノイズから動的特性を抽出することができる。測定された特性は、構造物が設計・建設された仕様、例えば、建築基準法又は建築基準法を組み込んだ構造物の特定の詳細設計仕様(1つ又は複数の設計状態とも呼ばれる)と比較され、構造物の将来の破損リスクを求め、定量化することができる。構造物は、特定の事象、例えば地震、風、占有/使用荷重、衝撃、車両交通などに耐えるように設計・建設される。通常、構造物の設計では、構造物が遭遇する可能性の高い事象の種類と、該当する事象の大きさを考慮する。そして、構造物は、予想されるあらゆる事象、車両交通、又はその他の荷重に耐えるように設計されるが、構造物が構造健全性を維持できないと予想される限界を定めるためのマージンが設けられる。本明細書では、これを事象限界と呼ぶ。したがって、構造物が事象限界を超える事象にさらされた場合、構造物はそのような事象に耐えることは期待されず、またそのように設計も建設もされない。構造物が損傷を受けると、事象限界に耐える能力が悪影響を受ける可能性がある。
【0018】
本発明は、構造物の現状の状態を判定し、設計通りの状態と比較して、現状の状態と設計通りの状態の比として構造物の破損リスクを判定する方法及びシステムに関する。本発明の実施形態によると、構造物のある特性(又は複数の特性)は、構造物の複数の位置に配置された複数のセンサからデータを収集することによって求められる。幾つかの実施形態では、取得されたデータは、必要に応じて、高振幅データセットと低振幅データセットとに分離することができる。センサによって取得されたデータは、構造物のスペクトル応答、モード形状、及び減衰特性を求めるなど、構造物の動的応答を求めるために使用され、その後、構造物の現状の状態を決定するために使用される。現状の状態は、構造物のリスク比を求めるために設計通りの状態と比較される。設計通りの状態は、構造物の設計で指定・考慮された条件にさらされた仮想的な構造物を考慮し、そのような条件に対する構造物の応答をさらに考慮している。言い換えれば、設計通りの状態は、設計時に予測され、構造物の設計・建設に織り込まれた条件に対して構造物がどのように応答するかを考慮したものである。本発明の実施形態によるリスク比は、様々な環境条件の影響下にある構造物から取得されたデータ(現状の状態)を用いて求められ、構造物のその時点の状態におけるそのような条件に対する構造物の応答と、構造物の設計通りの状態におけるそれらの条件に対する予想される応答とを比較する。これらの応答の差は、構造物の健全性、及び構造物の破損のリスクを示すものである。本発明は、革新的かつ新規な方法で、測定された現状の状態及び応答と、計算された設計通りの状態及び応答とに基づいて、構造物のリスク比を求め、構造物の破損リスクを定量化する。したがって、本発明により、構造物の解析と評価、また、構造物が設計・建設された条件に対する構造物の破損の可能性の指標を提供する構造物のリスク比の決定が可能になる。したがって、本発明のリスク比は、それが達成するものだけでなく、本発明が構造物から収集したデータをどのように処理し、処理したデータを使用して構造物のリスク比を求めるかという点においても、先行技術の構造解析方法及びシステムに対する新規かつ非自明な改善である。交通などの、付加的な質量や力を含むデータに影響を与えるような一貫した荷重を有する構造物に対して、本発明の実施形態は、これらの力から変化したデータを解読する手段を提供する。
【0019】
本発明は、構造物から取得した生データを使用して、構造物の状態、特に構造物の破損リスクをより正確かつ有用に評価するシステム及び方法に関する。本発明は、課題に対する特定の具体的な解決策に関するものであり、一般的な問題に対する抽象的な解決策のアイデアに関するものではない。本発明が対象とする課題は、構造物の健全性に影響を及ぼす可能性のある事象を構造物が受けた後に、その構造物の健全性を分析する方法である。より具体的には、そのような構造物の健全性を分析し、構造物が本来耐えるように設計・建設された条件にさらされた場合の構造物の破損リスクを計算し、定量化する方法である。このように、本発明は、従来の構造解析のシステム及び方法と比較して、複数の利点を提供する。第一に、本発明は、構造物が損傷を受けたか否かを判定するだけでなく、構造物の損傷の程度を判定するシステム及び方法を提供する。第二に、本発明は、構造物がどの程度損傷しているかを判定するだけでなく、損傷後の構造物の破損リスクを定量化する。
【0020】
本発明は、革新的なアルゴリズムと電気・電子機械部品の組み合わせによる、本課題に対する解決策の特定の実施態様を提供する。本発明の方法及びシステムは、構造物から収集されたデータを様々な形態と出力に処理する1つ又は複数のアルゴリズムを含む特別な目的のソフトウェアとコンピュータハードウェアの組み合わせによって実行される。重要なことには、本発明は、現状の状態と設計通りの状態を比較し、構造物の破損リスクを定量化するリスク比を得ることで、構造物から収集されたデータを異なるように評価し、処理する。
【0021】
本発明は、構造評価や連続モニタリングに幅広く応用できる。本発明は、様々な産業で標準的に使用されている先行技術の技術や技法を改善するものである。本発明は、構造物の実際の動的特性を迅速かつ正確に測定する能力を提供し、構造物の客観的な測定と定量化された評価を行う。さらに、本発明は、構造物の動的特性を設計意図の中で捉え、構造物の意図された目的、すなわちその安全性に関連する正確かつ客観的な評価を可能にする。また、本発明は、構造的弱点や損傷を特定する条件又は条件の変化を特定することができる。本発明は、技術者、保険会社、不動産購入者などが、構造物の状態、損傷状態、損傷するリスク、及び構造物が受けるように設計・建設された将来の重大な事象にどのように応答するかについての洞察について、より正確で詳細な評価を得るためのツールを提供することができる。
【0022】
本発明の一実施形態は、事象限界を超えない事象に耐えるように設計された、設計通りの状態を有する構造物の事象に応じた破損リスクを定量化するシステムに関する。システムは、構造物の任意の位置に配置可能であり、その位置における構造物の動きを検出し、その位置における構造物の動きを示す出力信号を生成するように構成された少なくとも1つのセンサと、プロセッサ及びメモリを有し、少なくとも1つのセンサに接続可能な演算装置と、を備える。演算装置は、出力信号を受信し、出力信号を測定データとしてメモリに保存するデータ収集モジュールと、データ処理モジュールであって、測定データ中の高振幅データと低振幅データを分離して、低振幅データの処理を可能にし、低振幅データを結合して、詳細な処理のための連続的な低振幅時刻歴データを形成し、連続的な低振幅時刻歴データから構造体の動的応答を求めるように構成され、動的応答を求めることは、スペクトル応答、モード形状、及び非線形減衰特性のうちの1つを求めることを含み、スペクトル応答、モード形状、及び非線形減衰特性のうちの1つから現状の状態をさらに求め、スペクトル応答、モード形状、及び非線形減衰特性のうちの1つから現状の状態をさらに求めるように構成されたデータ処理モジュールと、現状の状態と設計通りの状態とを比較することで、事象限界に耐える構造物の破損リスクを定量化する構造物のリスク比を求めるリスク比プロセッサと、を備える。
【0023】
本発明の一実施形態では、データ収集モジュールは、連続的な低振幅時刻歴データを保存する。
【0024】
本発明の一実施形態では、データ処理モジュールは、時刻歴データに高速フーリエ変換を適用してスペクトル応答を求める。
【0025】
本発明の一実施形態は、構造物の複数の位置に選択的に配置可能な複数のセンサをさらに備え、複数のセンサの各々は、複数の位置の各々における構造物の動きを示す出力信号を生成し、モード形状を求めることは、第1の位置における複数のセンサの各々の出力信号と、第2の位置における複数のセンサの各々の出力信号とを比較することを含み、第1の位置及び第2の位置は、鉛直方向及び水平方向のいずれかに離間する。
【0026】
本発明の一実施形態では、データ収集モジュールは、高振幅データと低振幅データに分離された時刻歴データとして出力信号を保存し、データ処理モジュールは、時刻歴低振幅データの単一モードを考慮するように修正されたランダム減衰法を用いて、非線形減衰特性を求める。
【0027】
本発明の一実施形態では、システムは、構造物の複数の位置に配置された複数のセンサをさらに備え、データ処理モジュールは、複数の位置の各々における複数のセンサの各々の動きの大きさを求めることで、モード形状を求める。
【0028】
本発明の一実施形態では、複数のセンサのうちの1つは参照センサを含み、複数のセンサのうちの1つはトラベラセンサを含み、参照センサは構造物の第1の位置に配置され、トラベラセンサは構造物の複数の位置に配置され、データ収集モジュールは、第1の位置において参照センサから出力信号を受信し、複数の位置の各々においてトラベラセンサから出力信号を受信する。
【0029】
本発明の一実施形態では、測定データ中の高振幅データと低振幅データを分離することは、測定データにおける力及び付加質量の影響を反映する部分を識別することを含む。
【0030】
本発明の一実施形態では、測定データ中の高振幅データと低振幅データを分離することは、識別された部分を除去することを含む。
【0031】
本発明の一実施形態では、少なくとも1つのセンサは、加速度計、ジオフォン、歪みゲージ、ジオポジショニングシステム、カメラ、車両カウンタ、及び変位変換器のうちの1つを含む。
【0032】
本発明の一実施形態では、データ収集モジュールは、データロガーを含む。
【0033】
本発明の一実施形態では、リスク比プロセッサは、以下の式を用いて、現状の状態と設計通りの状態とを比較することで、構造物のリスク比を求める。
【0034】
【数2】
【0035】
式中、Frm及びFrdは、それぞれ現状の状態及び設計通りの状態での構造物が受ける変位力である。ζrd及びζrmは、それぞれ現状の状態及び設計通りの状態でのモードrの減衰である。frd及びfrmは、それぞれ現状の状態及び設計通りの状態での共振周波数である。
【0036】
本発明の一実施形態では、データ処理モジュールは、以下の式を用いて、現状の状態での単位力あたりの変位をさらに求める。
【0037】
【数3】
【0038】
rmは構造物が受ける変位である。Frmは構造物が受ける変位力である。ζrmはモードrの減衰である。frmは共振周波数である。Mは構造物のモード質量である。
【0039】
本発明の一実施形態では、データ処理モジュールは、以下の式を用いて、設計通りの状態での単位力あたりの変位をさらに求める。
【0040】
【数4】
【0041】
rdは構造物が受ける変位である。Frdは構造物が受ける変位力である。ζrdはモードrの減衰である。frdは共振周波数である。Mは構造物のモード質量である。
【0042】
本発明の別の実施形態は、事象限界を超えない事象に耐えるように設計された、設計通りの状態を有する構造物の事象に応じた、該構造物の破損リスクを定量化する方法であって、構造物の任意の位置に配置可能であり、その位置における構造物の動きを検出し、その位置における構造物の動きを示す出力信号を生成するように構成された少なくとも1つのセンサと、プロセッサ及びメモリを有し、少なくとも1つのセンサに接続可能な演算装置と、を備えるシステムによって実施される方法に関する。演算装置は、メモリに格納された命令プログラムであって、実行時にプロセッサが、出力信号を受信し、出力信号を測定データとしてメモリに保存し、測定データ中の高振幅データと低振幅データを分離して、低振幅データの処理を可能にし、低振幅データを詳細な処理のための連続的な時刻歴データに結合し、低振幅データを結合して詳細な処理のための連続的な低振幅時刻歴データを形成し、高振幅データと低振幅データに分離され得る測定されたデータから構造体の動的応答を求め、低振幅データを用いて、動的応答を求めることは、スペクトル応答、モード形状、及び非線形減衰特性のうちの1つを求めることを含み、データ処理モジュールにより、スペクトル応答、モード形状、及び非線形減衰特性のうちの1つから現状の状態をさらに求め、現状の状態と設計通りの状態とを比較することで、事象限界に耐える構造物の破損リスクを定量化する構造物のリスク比を求めるように構成された命令プログラムを有する。
【0043】
本発明の一実施形態では、出力信号は、時刻歴データを含み、スペクトル応答を求めることは、時刻歴データに高速フーリエ変換を適用することをさらに含む。
【0044】
本発明の一実施形態では、システムは、構造物の複数の位置に選択的に配置可能な複数のセンサをさらに備え、複数のセンサの各々は、複数の位置の各々における構造物の動きを示す出力信号を生成し、モード形状を求めることは、第1の位置における複数のセンサの各々の出力信号と、第2の位置における複数のセンサの各々の出力信号とを比較することを含み、第1の位置及び第2の位置は、鉛直方向及び水平方向のいずれかに離間する。また、高振幅の振動と低振幅の振動を分離するために、車両が橋の上にあるなど、力が加えられた場合を判定するためのカメラ、車両センサ、又は他のハードウェアデバイスを含むことができる。
【0045】
本発明の一実施形態では、出力信号は、高振幅データと低振幅データに分離された時刻列データを含み、非線形減衰特性を求めることは、時刻歴低振幅データの単一モードを考慮するように修正されたランダム減衰法を用いることを含む。
【0046】
本発明の一実施形態では、システムは、構造物の複数の位置に配置された複数のセンサをさらに備え、モード形状を求めることは、複数の位置の各々における複数のセンサの各々の動きの大きさを求めることを含む。
【0047】
本発明の一実施形態では、測定データ中の高振幅データと低振幅データを分離することは、測定データにおける力及び付加質量の影響を反映する部分を識別することを含む。
【0048】
本発明の一実施形態では、測定データ中の高振幅データと低振幅データを分離することは、識別された部分を除去することを含む。
【0049】
本発明の一実施形態では、リスク比を求めることは、以下の式を用いて、現状の状態と設計通りの状態とを比較することを含む。
【0050】
【数5】
【0051】
式中、Frm及びFrdは、それぞれ現状の状態及び設計通りの状態での構造物が受ける変位力である。ζrd及びζrmは、それぞれ現状の状態及び設計通りの状態でのモードrの減衰である。frd及びfrmは、それぞれ現状の状態及び設計通りの状態での共振周波数である。
【0052】
本発明の一実施形態は、以下の式を用いて、現状の状態での単位力あたりの変位を求めるステップをさらに含む。
【0053】
【数6】
【0054】
rmは構造物が受ける変位である。Frmは構造物が受ける変位力である。ζrmはモードrの減衰である。frmは共振周波数である。Mは構造物のモード質量である。
【0055】
本発明の一実施形態では、以下の式を用いて、設計通りの状態での単位力あたりの変位を求めるステップをさらに含む。
【0056】
【数7】
【0057】
rdは構造物が受ける変位である。Frdは構造物が受ける変位力である。ζrdはモードrの減衰である。frdは共振周波数である。Mは構造物のモード質量である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
以下、本発明の実施形態について、以下の図に関して説明する。
【0059】
図1】本発明の実施形態による構造物の状態を判定するためのシステムを示す図である。
図2】複数のセンサの例示的な時間及び識別情報を示す表である。
図3】本発明の実施形態による複数のセンサから取得されたデータの例示的なデジタル記録である。
図4】本発明の実施形態による構造物の例示的な周波数スペクトルである。
図5A】建物や橋脚などの仮想的な縦型構造物の一次、二次、三次モード形状を示す。
図5B】両端で支持された橋梁スパンなどの横型構造物のモード形状を示す。
図6】本発明の実施形態による、構造物の異なる位置にある複数のセンサからの構造物の例示的なパワースペクトル密度である。
図7】本発明の実施形態による、構造物の異なる位置にある2つのセンサからの構造物の例示的な周波数/位相スペクトルである。
図8】2つの振動モードについて、4つの異なる位置での共振応答を表した表であり、絶対測定値を、基準応答に対する位置応答の正規化比に変換し、正規化比を用いてモード形状を表したものである。
図9A】例示的な構造物の一次モード形状を示す側面図である。
図9B】例示的な構造物の一次モード形状を示す平面図である。
図10A】例示的な構造物の一次及び二次モード形状の側面図である。
図10B】例示的な構造物の一次及び二次モード形状の平面図である。
図11】本発明の実施形態による、構造物の異なる位置にある複数のセンサからの構造物の例示的なパワースペクトル密度である。
図12A】例示的な構造物の減衰特性曲線を示す。
図12B】例示的な構造物の減衰特性曲線を示す。
図13】例示的な構造物の振動振幅に対する減衰特性を示す。
図14】リスク比とリスクレベルを示す評価の例示的な表である。
図15】本発明の実施形態による構造物の状態を動的に評価する方法のフロー図である。
図16】本発明の実施形態によるデータ収集モジュールによって実行されるデータ収集のフロー図である。
図17】本発明の実施形態によるデータ処理モジュールによって実行されるデータ処理のフロー図である。
図18A】本発明の実施形態による建物の動的応答を求めるための、例示的な建物の中/上のセンサの位置を示す。
図18B】本発明の実施形態による建物の動的応答を求めるための、例示的な橋梁の中/上のセンサの位置を示す。
図19】本発明の実施形態による計算されたリスク比の例示的な表である。
図20】減衰特性曲線を示す。
図21】力-変位曲線を示す。
図22】本発明の実施形態による、車両が橋梁に入ったか又は橋から出たかを判定するために使用される装置を備えた橋梁を示す図である。
図23A】本発明の実施形態による、データが交通の影響を含むように処理された場合の応答を示す橋梁スパンの鉛直方向のスペクトル応答を示す図である。
図23B】本発明の実施形態による、交通の影響がデータから除去され、構造応答のみが残された場合の応答を示す橋梁スパンの鉛直方向のスペクトル応答を示す図である。
図24】本発明の実施形態による、交通の影響を反映する高振幅データと、交通の影響がないことを反映する低振幅データを示す、橋梁デッキから取得された時刻歴を示す。
図25A】本発明の実施形態による、低振幅データのみを含むように時刻歴の一部を分離し、結合して、スペクトル応答に処理できるより長い連続時刻歴を作成した場合の、生の加速度データの結合を示す。
図25B】本発明の実施形態による、低振幅データのみを含むように時刻歴の一部を分離し、結合して、スペクトル応答に処理できるより長い連続時刻歴を作成した場合の、生の加速度データの結合を示す。
図25C】本発明の実施形態による、低振幅データのみを含むように時刻歴の一部を分離し、結合して、スペクトル応答に処理できるより長い連続時刻歴を作成した場合の、生の加速度データの結合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下、本発明の例示的な実施形態について説明する。説明される本発明の実施形態は例示的なものであり、限定的なものではないことは当業者には明らかであろう。本明細書において開示された全ての特徴は、特に記載がない限り、同一又は類似の目的を果たす代替的な特徴によって置き換えることができる。したがって、多数の様々な他の実施形態が企図され、本発明の範囲及び精神に含まれる。
【0061】
本明細書において、「構造物(structure)」という用語は、物理システムを指すために広義に使用される。実際には、構造物は、構造物と非構造物(例えば地盤)を分ける(すなわち、構造物であるものとそうでないものを区別する)システム境界を周りに描くことができる(又は想像することができる)物理的実体(通常、橋梁、建物、煙突などの土木構造物)である。本発明の実施形態による構造物を解析するために使用される技術は、それを数学的に記述するように物理システムにパラメータを属性付ける。したがって、本発明は、限定されることなく、任意の構造物に有用であり、また、任意の構造物に使用することができる。本明細書において、「位置(location)」という用語は、構造物の同一の水平面に沿った異なる水平位置、構造物の異なる水平面に沿った同一の垂直位置、及び構造物の異なる鉛直面に沿った異なる水平位置を指す。
【0062】
本発明は、動的特性を解析し、事象又は交通荷重などの力に応じた構造物の動的性能を評価するためのシステム及び方法に関する。本明細書において、「事象(event)」という用語は、構造物に影響を及ぼす可能性のある任意の自然現象又は人為的現象、あるいはそれらの組み合わせを指す。交通荷重とは、橋梁上の車両交通による荷重を指す。非限定的な例としては、風、地震、降水、洪水、衝撃、占有、制御振動、自動車、列車、人などの交通などが挙げられる。本発明は、構造物の動的構造応答及びリスク比を求めるために本発明によって使用される構造物からの動的データを取得する。このデータは、事象の発生中に取得してもよいし、そうでなくてもよい。取得されたデータは、スペクトル応答、モード形状、及び非線形減衰特性を含む構造物の動的応答を求めるために処理され、さらに、構造物の現状の状態を求めるために使用される。低振幅データが解析精度に優れる場合には、取得データを高振幅成分と低振幅成分に分離してもよい。本発明は、現状の状態と設計通りの状態とを比較し、構造物が耐えるように設計・建設された事象、すなわち設計状態の範囲内又は範囲外の事象に対する構造物のあり得る動的応答を正確かつ適時に示す構造物のリスク比を求める。したがって、本発明により、構造物の正確な動的解析が可能となり、構造物が耐えるように設計された事象にさらされた場合に、その構造物が損なわれたり破損したりするリスクを定量的に求めることが可能となる。
【0063】
本発明によるシステムは、複数のセンサ、データ収集モジュール、データ処理モジュール、及びリスク比プロセッサを備える。データ収集モジュールへの入力は、構造物内又は構造物上に設置された複数のセンサから行われ、所定の期間にわたって収集される。センサのうち一部はその期間静止しており、一部はデータ収集中に構造物の異なる場所に移動する。カメラ、車両検知ストリップ、又は構造物に外部荷重を加えられるタイミングを判定するために使用される他の装置のシステムは、データセットを低振幅と高振幅に分離するために使用される。データ処理モジュールは、データ収集モジュールから入力としてデータを受け取り、又は、データ収集モジュールによって保存されたデータを利用し、データ処理モジュールによるさらなる使用のため、及び/又は、リスク比プロセッサによる使用のために、そのデータを処理するための1つ又は複数のアルゴリズムを含む。データ処理モジュールは、データ収集モジュールから入力データを受け取り、又は、データ収集モジュールによってメモリに保存されたデータを利用し、データ処理モジュールの1つ又は複数のアルゴリズムを使用して、構造物のスペクトル応答、モード形状、及び非線形減衰特性を求める。データ処理モジュールの1つ又は複数のアルゴリズムは、構造物の現状の状態をさらに求める。この現状の状態は、構造物のリスク比を求めるために、リスク比プロセッサの1つ又は複数のアルゴリズムによって使用される。リスク比は、構造物の破損リスクを評価及び定量化するため、既知又は所定のリスク値と比較することができる。また、(構造物が耐えるように設計・建設された)特定の大きさの事象が次に発生するまでに経過すると予想される時間の長さを定量化するため、再現期間を計算することもできる(この逆数は、そのような事象の年間発生確率である)。
【0064】
したがって、本発明は、構造物の測定データを、構造物が建設された設計仕様のパラメータ、例えば、建築基準法の要件と比較し、構造物をモニタリングし、その測定応答を、構造物の設計及び建設において実施基準の要件に厳格に従った場合に予想される応答と比較する方法を提供する。橋梁の設計要件は通常、交通荷重やその他の力に耐えることを必要とする。
【0065】
本発明の一実施形態によると、1つ又は複数のセンサ50と、データ収集モジュール20、データ処理モジュール30、及びリスク比プロセッサ40を含む演算装置80とを備えるシステム10が提供される。システム10は、本明細書でさらに詳細に議論されるように、システム10や本発明の態様を制御するように設計及び構成された、設計上の日常的な選択事項として、単一の又は複数の処理ユニットであり得るプロセッサ82を有する単一の演算装置80により実現することができる。演算装置80は、一般に、1つ又は複数のプロセッサと、メモリと、コンポーネントに基本的な動作機能を提供する汎用ソフトウェア及び本発明の態様を実施するためにコンポーネントに特定の動作機能を提供する特殊目的ソフトウェアを含むソフトウェアと、入力を受け取り、データ及び情報の出力を提供するために必要なインタフェースとを備える。また、演算装置80は、好ましくは、固定又は取り外し可能なランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、フラッシュメモリ、又はメモリ内のデータを維持するために電力を必要とする他の既知の若しくは今後開発される電子記憶コンポーネント又はデバイスであり得る揮発性メモリ86からなるメモリ84を備える。また、メモリ84は、固定式又は取外し可能なハードディスクドライブ、クラウドベースのデータ記憶装置、又はメモリ内のデータを維持するために電力を必要としない他の既知の若しくは今後開発される電子記憶コンポーネント又はデバイスであり得る不揮発性メモリ88で構成されてもよい。単一の演算装置80を有するシステム10では、データ収集モジュール20、データ処理モジュール30、及びリスク比プロセッサ40はそれぞれ、プロセッサ82及びメモリ84などのシステムの演算リソースにアクセスし、利用する。また、データ収集モジュール20、データ処理モジュール30、及びリスク比プロセッサ40の各々の特定の機能は、メモリ84に保存され、プロセッサ82によって実行される1つ又は複数の命令によって実行することができる。あるいは、システム10は、データ収集モジュール20、データ処理モジュール30、及びリスク比プロセッサ40の各々について、各々が独自のプロセッサ82及びメモリ84を有し、本明細書で述べるように、1つ又は複数のアルゴリズムを用いて本発明の態様を実施するように設計及び構成された、1つ又は複数の別個のコンポーネント又はモジュールから構成される複数の演算装置80を備えてもよい。明示的に特定されない限り、本発明における説明は、単一又は複数の演算装置80を有するシステム10に適用される。また、演算装置80は、ディスプレイ、入力/出力デバイス、信号発生デバイス(例えば、オーディオ)、及び演算装置のための当該技術分野で公知の他のデバイスやコンポーネントを備えてもよい。
【0066】
システム10と任意の外部システム、デバイス、コンポーネント等との間の通信は、任意の既知の又は今後開発される通信技術、システム、及び方法を使用して発生し得る。一実施形態では、本発明のシステム10は、ユーザインタフェース、ウェブサイト、モバイル端末のアプリケーション、又は通信情報及びデータのための他の手段を介して出力を提供することができる。システム10は、構造物の連続的なモニタリングのために使用されてもよいし、一次的なモニタリング(例えば、事象の発生後)のために使用されてもよい。システム10は、データ収集モジュール20によって取得されたデータが、構造物の健全性に関して懸念を生じさせる構造物の異常を示すか否かを判定するように構成され得る。連続モニタリングの場合、システム10は、測定されたパラメータの一部が所定の値の範囲を外れたときに自動アラームを開始してもよく、システム10は、アラームレベルが超過されたことを電子メール、テキスト、又は他の方法を介して警告してもよい。
【0067】
次に、一実施形態に係るシステム10について、図を参照して、最初に図1を参照しながら、より詳細に説明する。システム10は、構造物100の複数の位置に配置された複数のセンサ50を備える。システム10は、複数のセンサ50からのデータを含む出力信号を受信するように設計及び構成されたデータ収集モジュール20を含む演算装置80をさらに備える。複数のセンサ50からのデータは、センサ50の位置において構造物100が受ける力及び変位を示す加速度データを含んでもよく、図3の表に示されるように、電圧として表されてもよい。このように、データ収集モジュール20は、事象に対する構造物100の動的応答を求めるのに有用な構造物100のデータ特性を取得する。データ収集モジュール20は、このデータを測定データとしてメモリ84に保存する。データ処理モジュール30は、非限定的な例として、周波数スペクトル、モード形状、及び非線形減衰特性を含む、測定データから構造物100の動的応答を求めるように設計及び構成され、得られた動的応答をメモリ84に保存する。データ処理モジュール30は、動的応答特性を求め、得られた動的応答特性に基づいて構造物100の現状の状態を求めるように設計及び構成された1つ又は複数のアルゴリズムを含む。本発明のシステム10のリスク比プロセッサ40は、データ処理モジュール30からの出力、すなわち現状の状態を受信し(あるいはメモリ84に保存されたデータへアクセスし)、構造物100が耐えるように設計された事象にさらされた場合の構造物100の破損リスクを示す構造物のリスク比を求めるように設計及び構成される。
【0068】
構造物の動的応答を測定するための第1のステップは、どこにどれだけの時間センサを配置するかを計画することである。これは優れた解析の重要な部分であり、構造物に関する基本的な知識と、有効な解析を行うためにセンサ50によって取得されたデータをどのように評価する必要があるかについての知識が必要となる。解析の特定の部分のため、構造物の寸法についても知っておく必要がある。データ収集モジュール20は、システム10のユーザが、センサ50が配置されている場所、測定時間、構造物100の寸法に関する特定の情報、及びシステム10がセンサ50から取得されたデータを正確かつ正しく処理することを保証するための他の関連情報を入力することを可能にするユーザインタフェース(不図示)を有してもよい。ユーザインタフェースは、システム10に接続し、システム10とインタフェースすることができるモバイル演算装置(例えば、携帯電話、タブレット、スマートウォッチなど)でアクセス可能なウェブアプリケーションを含んでもよい。あるいは、ユーザインタフェースを可能にするソフトウェアをデータ収集モジュール20の一部として提供してもよい。
【0069】
システム10は、複数のセンサ50からデータを受信し、記録するように設計及び構成されたデータ収集モジュール20を含む。動的測定を行う目的で必要なセンサ50は、一般に、X(横方向)、Y(縦方向)、Z(鉛直方向)の3軸に沿って加速度測定を行う非常に感度の高い加速度センサである。幾つかの実施形態では、どのデータが解析に適切かを決定するために、データを交通又は力の影響を受ける部分に分離する方法が使用される。センサ50から収集されたデータは、システム10及び/又はデータ収集モジュール20のメモリ84に保存されてもよく、これらのデータは、図3に示されるように、センサ50から受信した電圧を変換し、デジタル記録300として保存する電子データロガーで構成されるか、又は含んでもよい。デジタル記録300は、センサ50の複数のデータエントリ310から構成されてもよい。複数のデータエントリ310は、それぞれデータが記録された特定の時間に対するものである。これはセンサ50の時刻歴とも呼ばれる。好ましくは、各デジタル記録300は、不揮発性メモリ88に保存される。図3に示されるデジタル記録300は、列B、C及びDで識別されるように、3軸に沿った単一のセンサ50から収集されたデータを表し、列Eは列B、C及びDのベクトル和である。また、さらなる情報の定量化のために、他のデバイスからのデータの列をさらに含めることもできる。効率を高めるため、任意の時間における各センサのGPS座標を提供するために、センサ50を配置し、そこからのデータもデジタル記録300に含めることもできる。
【0070】
各データエントリのタイムスタンプ情報は列Aに提供される。図3の特定のタイムスタンプは、データエントリ310間、すなわち測定間の記録間隔が0.0005秒、又は1/2000秒、又は2000ヘルツであることを示している。ほとんどの構造物を効果的に測定するには、200ヘルツの測定周波数で十分である。構造物によっては、様々な記録周波数が必要となる場合がある。別々のセンサ50について、同様のデジタル記録300を同時に作成することができる。したがって、図1に示されるように、データ収集モジュール20が5つの3軸センサ50からデータを受信している場合、データ収集モジュール20は、図3に示されるように、5つのセンサ50の各々について1つずつ、5つのデジタル記録300を作成する。複数のセンサ50の各々から収集された適切なデータの時刻歴を表す各デジタル記録300に対して、各測定位置からのスペクトルを作成することができる。一般に、トラベラセンサ50からの15分間の加速度データを処理して、明確な周波数と振幅を有する定義されたスペクトル応答を得ることができる。位相解析により、同一モードのたわみについて構造物の異なる部分の時刻歴データを解析し、構造物のどの部分が一緒に動いているか、つまり同位相であるか、また、どの部分が一緒に動いていないか、つまり位相がずれているかを示すことができる。
【0071】
各センサ50の位置を特定することは、データがどのように処理されるかを決定し、システム10の解析プロセスに重要である。各測定位置(すなわち、各センサ50の位置)は、各振動モードの全体定義を可能にするようにコード化される。ここで、共振周波数における応答が計算され、各センサ位置についてその周波数における全体的な変位に順次変換される。図1に示すように、センサ50は、「R」で示される参照センサであってもよいし、センサ50は、「T」で示されるトラベラセンサ50であってもよい。参照センサ50は、好ましくは、データ収集モジュール20によってデータが取得される間、1つの位置に維持され、その1つの位置にある構造物の部分が事象の発生にどのように反応するかを記録し続ける。トラベラセンサ50は、決められた期間、特定の位置に配置され、その後、構造物の別の位置に再配置され、トラベラセンサ50が配置された各位置からデータを取得する。
【0072】
本発明の一実施形態では、ユーザインタフェースは構造物の画像を提示し、ユーザがセンサ50を構造物の所望の位置にドラッグすることを可能にする。この機能は、識別のみを目的とするもの、すなわち、センサ50が配置される構造物の位置を識別することのみを目的とするものであり、人間や機械の関与を必要とする、センサ50を実際にその位置に配置するものではない。また、ユーザインタフェースは、システム10が本発明の態様を実施するために必要な構造物100に関する情報をユーザが入力することを可能にする。例えば、寸法、材質、築年数、占有率などであり、その一部はグーグルアースなどの写真から生成することができる。
【0073】
センサ50は、加速度計、ジオフォン、歪みゲージ、ジオポジショニングシステム(GPS)、及び加速度を変位に変換する変位変換器のいずれでもよい。精度と感度の必要性から、加速度計は現在、動的測定に最も有効である。データを高振幅データと低振幅データに分離するために、当業者に知られているようなセンサ、カメラ、その他の方法を使用することができる。しかし、低振幅コンテンツである周囲環境下での構造物の動的応答を測定するには、ノイズフロアが極めて低く、好ましくは120dB以下のダイナミックレンジの感度を有する、非常に感度の高いデバイスが必要である。現在、このような測定に最適なセンサは、いわゆるフォースバランス型の加速度計である。しかしながら、MEMS型の加速度計デバイスも、改良により、周囲条件下での構造物の動的応答を測定するのに許容されるようになってきている。好ましい実施形態では、各センサ50は、構造物の小さな変位を測定できる高感度の加速度計を含む。
【0074】
センサ50は一般に低電圧で電力供給され、同じく電圧である出力を提供する。センサ50は、データ収集モジュール20にハードワイヤ接続されてもよく、その場合、センサ50への電力はデータ収集モジュール20から供給される。あるいは、センサ50は、設計上の日常的な選択事項として、自己完結型のエネルギー源を有し、データをデータ収集モジュール20に無線で送信してもよい。センシング技術の向上と、それに伴う重量の軽減、また、自己完結型電力とデータストレージ能力により、将来的には、ロボットやドローンでセンサを建物に設置できる可能性があり、効率性が高まるだろう。
【0075】
システム10は、本発明の態様を実施するように設計及び構成されたデータ処理モジュール30をさらに備える。データ処理モジュール30は、データ収集モジュール20から入力を受け取る。この入力は、データ収集モジュール20によってメモリ84に保存されたデータにデータ処理モジュール30がアクセスすることによって達成することができる。データ処理モジュール30は、メモリ84に保存された特別目的のソフトウェア90によって実装された1つ又は複数のアルゴリズムを含み、プロセッサ82によって実行されると、データ収集モジュール20によって取得された特定のデータを処理して、構造物100の動的挙動に関連する1つ又は複数の特性を求める。例示的な特性としては、周波数スペクトル又はスペクトル応答、モード形状、モード比、振幅及び減衰分析、構造物100の弱点又は損傷を示す異常の識別が挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
構造物100は、事象の発生に対する構造物100の動的応答を評価するのに有用である、その周波数スペクトルによって特徴付けることができる。データ処理モジュール30は、高速フーリエ変換などの数学的スクリプトを使用して、デジタル記録300のデータを周波数スペクトルに変換する。これにより、図4に示されるように、複数のモードとそれぞれの共振周波数を表す構造物100の周波数スペクトルが求められる。図4のピークは、エネルギーが集中する周波数を反映しており、振動モードの共振周波数を表している。図4では、構造物の基本モード(一次モードとも呼ばれる)の周波数は0.15Hz、二次モードは0.4Hz、三次モードは0.65Hz、四次モードは1.2Hzで発生している。振幅は対数スケールで、単位は加速度の2乗/Hz(g/Hz)である。単純調和運動を呼び出し、解析された各周波数について、測定位置における加速度を変位に変換することができる。
【0077】
また、構造物100は、事象の発生に対する構造物100の動的応答を評価するために有用である、そのモード形状によって特徴付けることができる。データ処理モジュール30は、構造物のモード形状を識別するためのシステム識別技術の要素を統合し、自動化する。構造物の異なる位置における相対応答は、共振状態における構造物のたわみ形状であるモード形状を共に形成する。入力は、選択された全ての位置における運動の時刻歴である。アンサンブルは、特定の周波数における共振モード形状を形成する。上述したように、各スペクトルピークは振動モードの共振周波数を表す。状況によっては、以下でさらに詳しく説明するように、高振幅応答を引き起こす力が、構造物のスペクトル応答の解析に重大な誤差を引き起こす場合がある。一方で、高振幅データは、他の形式の解析に有用な場合がある。構造物の(ある周波数範囲における)完全な動的応答は、各々が特徴的な固有振動数、減衰、モード形状を持つ個々の振動モードの集合と見なすことができる。これらのいわゆるモードパラメータを使用して構造物をモデル化することにより、特定の共振における問題を検討し、解決することができる。構造物はこれらの振動モードのそれぞれについてたわむ。これはたわみモード形状として知られている。図5Aには、例示的な構造物(この場合、建物、又は橋脚)のモード形状が示されており、一次モード、二次モード、及び三次モードが示されている。構造物が動く周波数は、その振動モードにおけるモード剛性及び関与モード質量に直接関係する。したがって、共振周波数が低い値に動く場合、これは剛性が低いか、関与質量が大きいか、あるいはその両方を反映している。図5Bには、別の例示的な構造物(この場合、橋梁スパン)のモード形状が示されており、一次モード、二次モード、及び三次モードが示されている。
【0078】
構造物100の様々な部分からのスペクトルを同じグラフ上にまとめることで、構造物100の様々な部分が特定の振動モードでどのように動いているかを示すことができる。例えば、図6に示されるように、4つのセンサ50が建物の上部の位置(屋上北西、屋上南西、屋上北東、屋上南東)に配置されている場合、各センサ50によって検出された大きさを他のセンサのそれと比較することができる。図6に示すスペクトルでは、一次及び二次の振動モードが特定され、各センサ50によって測定された振幅が示されている。各振動モードについて、各センサ50によって検出された変位は、センサ50の位置における構造物100の変位量を表す。このように、各振動モードについて、各位置における動きの大きさを求め、各位置における構造力学の指標を得ることができる。これは、構造物100の測定されるモード全てについて行うことができる。モード形状は弾性範囲を通じて一貫していることが予想されるため、モード形状は構造物の挙動を特定するのに役立ち、弾性範囲を通じて関連性がある。このモード形状は、構造物の剛性レベルのばらつきや、場合によっては関与質量のばらつきがある領域に直接関係するため、解析の重要な側面となる。これらのばらつきには多くの潜在的な理由があり、その中には構造的な弱点や損傷も含まれる。また、損傷を受けやすい箇所を浮き彫りにすることもでき、損傷の発生箇所を予測する上で非常に重要である。橋梁上で交通があるときに発生し得る力や質量が変化すると、これらの動的パラメータの正確な測定値が変化する可能性がある。本発明の実施形態の1つの目的は、構造物の動的パラメータを理解することであるため、正確な解析を完了するためには、外力や質量による誤差を低減することが重要である。
【0079】
また、本発明は、図7に示すように、図6の一次及び二次モードの位相を考慮して、構造物100の特定の部分同士が互いに対してどのように動いているか、すなわち、同位相で動いているか、逆位相で動いているかを判定する。このような位相解析は、構造物100の同じ鉛直方向高さ、又は異なる鉛直方向高さに配置されたセンサ50を用いて行うことができる。この位相解析により、本発明は、動きが一次、二次、又は高次のモード形状であるかを判定することができる。また、本発明は、構造物が曲げ又はねじりで動いているか、他のモードと結合したモードで動いているかを判定することもできる。構造物の異なる部分間の位相は、振動モードを定義する上で重要な側面であり、予期しない振動モード、構造物の損傷により生じた振動モード、又は潜在的な問題を特定するために使用することができる。これは図7に示されており、構造物100の部分同士が同位相である周波数は0度の位相角を有し、位相がずれている部分は0度以外の位相角を有する。互いに反対方向に動いている構造物100の部分は、図7では180度の位相差で表されている。これは、モード形状を特定する上で重要な要素である。全ての測定位置について、2つの測定位置間の位相が求められる。1つの測定位置が基準として選択され、他の全ての測定位置の位相が基準位置に対して決定される。理想的には、これらの測定値は、動きが同位相又は逆位相(すなわち、一緒に動くか、互いに反対方向に動くか)の2つの可能性のいずれかであることを示す。第3の可能性は、モード形状の動きが、その振動モードのノード位置(その位置で動的な動きがないもの)について計算される場合に起こり得る90度の動きである。ノード位置で測定した場合、振動のオフ共振モードからの残留応答が発生し、これは基準位置に対して90度で発生する。基準位置は、解析対象のどのモードに対してもノード点に位置しないように選択する必要があることは明らかである。位相は、当業者に知られているように、標準的な数学的ツールボックスの式を使用した標準的なアルゴリズムによって測定される。周波数を特定し、選択された位置における構造物の相対的な動きを定量化し、構造物の異なる部分における動きの位相を求めることで、本発明は、構造物100のたわみモード形状を求めることができる。
【0080】
構造物100のモードは、例示的な建物について図9A及び図9B図10A及び図10Bに示されるように、異なるモードについて、床から床への横変位差を含む、様々な位置でセンサ50によって測定された横変位を図示するように、グラフで描写することができる。図9B及び図10Bには、建物の平面図が描かれており、一次モード(図9B)及び二次のモード(図10B)について、建物の四隅(すなわち、北西、南西、北東、南東)が互いに対してどのように動くかが示されている。図8は、スペクトルからのピーク振幅、加速度、測定された変位を提供し、モード形状を確立する方程式と機構を示している。これらのデータを用いて、図8の表から変位の正規化比を計算することで、モード形状が求められる。図8のデータは、2つの振動モードに対する4つの異なる位置での共振応答を示している。A列、B列、C列の絶対測定値は、基準応答に対する位置応答の振幅と変位の正規化比(D列、E列)に変換され、これらの正規化比を用いてモード形状が描写される。図9A及び図10Aは、一次モード及び二次モードについて、建物の各階におけるたわみモード形状と相対的な横変位を示す、建物の側面図である。3方向においてモード形状について同様の処理が使用される。正規化されたモード形状は、各測定位置における応答のベクトル和を用いて計算される。各変位変換器には3軸測定値があり、3方向それぞれについて測定が繰り返され、その位置での動きを表すベクトルに分解される。振動モードに異常がある場合は、影響を受ける位置での応答が大きくなることで示される。これは構造物の局所的な弱点を示す。この異常が過度に大きい場合、深刻な構造的弱点を特定するのに役立つ。
【0081】
図10Aから、二次モードでは、建物の中間の高さが建物の上部に対して逆位相で動いていることがわかる。2階と3階の相対的な横変位は、建物上部の動きよりも大きい。
【0082】
構造物の鉛直方向の動きに関するデータも、ある事象に対する構造物の動的応答を分析するのに有用である。周波数範囲にわたって分布する信号の振幅(鉛直パワースペクトルとも呼ばれる)を図11に示す。鉛直方向の動きは、建物上部の四隅に設置された複数のセンサ50によって測定される。上述した横変位と同様、図11のように、これらの測定位置からのスペクトルを同じグラフ上にプロットすることで、異なる位置における構造物の相対的な鉛直方向の動きを比較することができる。この場合、建物の一部分が振動し、鉛直方向に他の位置より7倍大きく動いている。これは多くの場合、地盤の状態が悪いことに対応する。鉛直方向の一次振動モードを用いて、地盤バネ定数を求めることができる。具体的なフーチング寸法を入力することで、本発明によってこのバネ定数を求めることができる。
【0083】
データ処理モジュール30は、構造物100の非線形減衰特性を求めるように設計及び構成された1つ又は複数のアルゴリズムをさらに含む。構造物の減衰応答の解析、すなわち構造物の減衰シグネチャの決定は、本発明によって提供される構造解析の重要な側面であり、以下に詳細に説明するように、リスク比プロセッサ40によって考慮される。減衰応答は、NASAによって元々開発されたランダム減衰(RANDEC)法を用いて計算される。本発明の実施形態を介した処理は、減衰応答を計算するための従来の方法を修正し、解析のために単一モードのデータに関連するデータのみを通すように時刻歴をフィルタリングする。幾つかの実施形態では、データは高振幅データと低振幅データを含む。幾つかの実施形態では、以下でさらに詳細に説明するように、高振幅データと低振幅データを分離した後、低振幅データを処理する。低振幅データは、一般に、環境中の周囲エネルギーに起因するものであり、時刻歴に影響を与えて周波数や減衰内容を変化させる力の影響を有しない。本発明の実施形態は、低振幅データに対して応答の減衰を処理し、車両交通などの外力や付加質量の影響を受けずに、構造物に特有の応答の減衰を確立する。
【0084】
したがって、高振幅のデータは、一般に、車両、強風、地震などの力に起因するデータである。具体的には、車両であれば、移動する質量を含み得る。
【0085】
データは、強制応答が見かけ上の応答として現れる特異点を応答データから除去するため、平均値から大きく突発的な逸脱を探し、除去する新規の手順を用いて、さらにフィルタリングされる。本発明では、データを除去しすぎてもデメリットはないため、特異点の影響を受ける可能性のあるデータが除去される。次に、異なる振幅における一連の応答についてデータを解析する。解析には、少なくとも3000の個々のセグメントを合わせた短いデータセグメントの集合が含まれる。それぞれの場合の結果は、ランダムノイズ、ランダム位相の応答、円固有振動数及び減衰で記述される包路線を有する振動の減衰を表す応答から構成される。極限では、ランダムノイズとランダム位相の項はゼロになる傾向がある。十分なサンプルを取れば、これらはゼロに近くなる。3000個の平均を用いると、ゼロに近い値が得られることがわかっている。残りの応答は補強され、周波数と減衰のみを未知数として数学的に記述される包路線を有する単一モードの応答の振動の減衰に相当する応答を生成する。次に本発明は、(包路線のピーク値だけでなく)減衰の各測定点において、振動の減衰に関する数式を用いて曲線をフィッティングし、理論曲線と測定曲線の誤差が計算された減衰曲線に対する最適なフィットを生むように、まず周波数、次に減衰を変更する。このプロセスは、解析対象の応答振幅ごとに繰り返され、解析された各振幅の周波数と減衰の値がまとめられ、図12A、12B、13に示すようなグラフで示される。
【0086】
図12Aは、モノリシック構造の振動モードに対する理論的な減衰応答をグラフで示している。線200で示される理論的条件では、減衰は低振幅プラトー(すなわち、入射振動の低振幅)から始まり、振動振幅が増加するにつれて、高振幅プラトーに達するまで増加すると予想される。構造物が損傷した場合、線300で示されるように、低振幅プラトーと高振幅プラトーの間の傾きは、低振幅値及び/又は高振幅値と同様に変化する。これは図12Bでより明確に見ることができ、「損傷を受けていない」構造物における減衰は線210で示され、「損傷を受けた」構造物における減衰は線310で示されている。より広範な損傷の兆候は、320で示されるような低振幅値の大幅な増加、及び/又は、330で示されるような「減衰エクスカーション」とも呼ばれる減衰のスパイクによって表される。
【0087】
図13は、RANDECアルゴリズムを用いた構造物の減衰-振幅曲線を示している。振動の振幅が大きくなるにつれて減衰応答に変化が見られる。さらに、構造物のマトリックス内の損傷と相関するピーク・エクスカーション(丸印)が存在する。測定された減衰応答と、それが振幅によってどのように変化するかを確立することは、本発明が提供する解析の重要な側面である。
【0088】
振動強度は、加速度計や地震計などの地震機器を用いて計算される。振動強度は速度値に計算することができ、振動強度の評価に広く使用される指標であるピーク粒子速度(PPV)として記述されることが多く、一般的に力によって生じた高振幅データである。ピーク粒子速度は、センサ50によって取得されたデータの分析から得られる出力の1つである。建設業界など、振動強度が測定される業界では、振動制限はしばしばPPVを指標として設定される。PPVがこの方法で評価される場合、低周波数(すなわち2Hz以下)での値の評価に使用することができる。
【0089】
本発明によって取得された時刻歴データ(例えば、図3を参照)は、基本的な数学的演算と一般的に利用可能なツール及び方法を使用して、ピーク粒子速度に変換することができる。これは、振動が懸念される様々な産業において認識されやすいため、提供すべき重要な情報レベルである。また、時刻歴は、構造物に関連する多くの追加パラメータに変換することができる。傾き、相対変位、その他の標準的な計算値などのパラメータが使用され、構造物に関連する可能性がある。これらのパラメータは、高振幅データと低振幅データの両方から得ることができる。追加スクリプトにより、これらのパラメータをシステム10の出力とすることができる。
【0090】
上述したように、構造物のスペクトル応答、モード形状、非線形減衰特性が上記の解析を用いて求められるため、規則の要求値との比較に適した値を使用することができる。式1は、現状の状態(すなわち、実測状態)と設計通りの状態に対して使用することができる。そして、これらの値の比は、構造物の破損の発生確率、すなわちリスク比として表すことができる。現代の実施基準では、設計力は発生確率で定義されているため、本発明では、設計で要求される性能をもたらす事象(すなわち、力)の発生確率を計算し、その事象に対する構造物の将来の破損リスクを定量化する。
【0091】
本発明のリスク比プロセッサ40は、データ処理モジュール30からのデータを利用する。データ処理モジュール30によって求められた周波数スペクトル、モード形状、及び非線形減衰特性は、構造物の一次モード又は基本モードの応答を正確に計算するために測定された非線形応答と組み合わせて使用される。建物の場合、これは一次曲げモードと呼ばれ、適用される建築基準法の下で風荷重容量を決定するための設計時に一般的に解析される振動モードである。したがって、構造物の応答は、求められた特性を用いて、以下の方法で正確に計算することができる。
【0092】
式1から、式2が導かれ、単位力あたりの変位が定義される。この関係は、図21にも一般的に示されている。
【数8】
【0093】
元の5つのパラメータ(すなわち、変位X、単位力F、周波数f、減衰ζ、モード質量M)のうち、式2は未知数を周波数、減衰、モード質量の3つに減らしている。モード質量は、構造物の全質量とたわみモード形状に基づいているため、構造物の弾性範囲内では変化しない。したがって、周波数と減衰の2つの未知数が残るが、これらは(上述したように)直接測定することができ、弾性限界又は設計状態に対応する値を外挿するために使用することができる。弾性限界は、弾性範囲の上限又は下限である。
【0094】
周波数と減衰は振幅によって変化するが、測定可能な形で変化する。弾性範囲内の周波数と減衰を測定し、振幅による変化率を考慮することで、測定された状態(すなわち、現状の状態)から設計状態(すなわち、設計通りの状態)まで外挿することができる。これは、構造物を設計通りの振幅に導く事象の確率を評価し、設計により想定される力と比較することを含む。
【0095】
再び図12Bを参照して、非線形減衰の測定と計算についてさらに説明する。式3は、低振幅減衰を定義する。
【数9】
【0096】
式中、ζは臨界減衰のパーセンテージとして表される低振幅減衰であり、fは構造物100の基本固有振動数である。臨界減衰は、システムが振動するのを防ぐだけの減衰量として定義される。この状態はデッドビートとして知られている。土木構造物における実際の減衰量はもっと小さく、通常は実際の減衰量と臨界減衰量の比で表される(パーセントで表されることも多い)。
【0097】
式4を用いて、減衰の増加率を求めることができる。
【数10】
【0098】
式中、Dは振動方向における構造物100の基本寸法であり、ζは1ミリメートルあたりのパーセントで表される減衰の変化率である。Dは、付属建物の場合や、構造物内に大きなオープンスペースがある場合は、その分を考慮して変更することができる。
【0099】
式5において、ζの値は、振幅xにおいて減衰が上昇する値である。Hは横型構造物(橋梁など)の高さ又は長さであり、Xは構造物上のHにおける変位振幅である。Xの値は、建築基準法の値として指定された変位の値であってもよい。
【数11】
【0100】
図12Bの減衰特性のグラフが低振幅から立ち上がる点、立ち上がりから高振幅に遷移する点をニーポイント、すなわち低振幅ニーポイント及び高振幅ニーポイントと呼ぶ。ニーポイントは、構造物に作用する力の観点から規定される。これは、以下のように、構造物の寸法と、構造物を構成する基本材料によって決まる。
【数12】
【0101】
式中、Fclは、構造物に作用し、ζが適用される非線形領域に入るモード力である。D及びHは上記で定義した通りである。
【0102】
低振幅ニーポイント及び高振幅ニーポイントは、以下の式X及び式X’を用いて算出することができる。
【数13】
【数14】
0.25と2500の値はJeary係数であり、破壊力学の考察から確立されたものである。これは、高振幅ニーポイントの振幅が、高振幅における減衰と低振幅における減衰の比によって修正された低振幅ニーポイントの振幅の1000倍であることを意味する。減衰の上昇率は、振動モードの関与質量の量に比例する。この比率も公表されているが、日本では微妙に異なる値として様々に解釈されている。低振幅における減衰の値は、振動モードの周波数に相関する値で割り当てられる。そして、曲線は上記の式で与えられる形で上昇する。高振幅ニーポイントとその振幅での減衰という2つの未知数がある。本発明では、低振幅の減衰値が一貫していることを確認するため、低振幅での方程式の動作を確認しながら、これらの値を確立する反復プロセスを使用する。
【0103】
低ニーポイントのJeary定数Jは、コンクリート構造では0.5、鉄骨構造では1.25の値をとる。高ニーポイントのJeary定数Jは、コンクリートでは250、鉄骨では625の値をとる。
【0104】
以上のように、データ処理モジュール30は、構造物100の現状の状態を求め、この現状の状態は、構造物100のリスク比を求めるために、リスク比プロセッサ40によって設計通りの状態と比較される。最新の実施基準では、作用のタイプ(例えば風や地震)に関連する力を使用し、異なる地域で発生する作用に対して許容される最小再現期間を規定している。例えば、ニューヨーク地域では、32フィートの高さで平均時速115マイルの風が50年に一度発生する。リスク比は、構造物の応答が弾性範囲から外れるような事象の発生確率を評価し、定量化するために、あるいは構造物のモード特性に必要な変化を評価し、現在の基準要件に準拠できるようするために使用することができる。図14には、リスク比の例示的な表が、リスクのレベルを示す評価とともに示される。これは、構造物の現在の耐力を、その構造物が存在する、特定の基準を有する特定の場所における現在の基準要件と比較するために使用することもできる。このリスク比により、異なるタイプやサイズの構造物を、そのリスクプロファイルに基づいて比較することができる。
【0105】
実際には、本発明の使用は、地域の実施基準を用いて構造物の設計通りの状態を決定し、構造物の設計荷重を決定するステップと、地域の基準を用いて、設計荷重の発生確率を推定するステップと、建物の動的応答を測定するステップと、式1を用いて、基本モードの変位/単位力を確立するステップと、測定された動的応答から基準変位まで外挿し、現状の状態を求めるステップと、設計通りの状態と現状の状態からリスク比を求めるステップと、測定された応答を基準変位に導く事象の再現期間を求めるステップと、任意に、必要な規定リスクを含むベル曲線に対してプロットするステップと、を含む。
【0106】
次に、本発明の実施形態の使用について、図18Aに示されるような、多層階で一般的にモノリシックな建物を例に説明する。予備的なステップとして、「プリスチンな」構造物、すなわち適用される基準及び設計仕様に従って建設された構造物の予想される動的性能が、建物の基本周波数及び減衰特性を推定することによって最初に求められる。周波数は、高層ビルの高さのみに基づいて予測される(f=46/H)(Hは建物の高さ)。基準要件は場所によって異なり、前述の内容が多くの場所で当てはまるが、日本では当てはまらない。日本では、建物の基本周波数を推定する式は、鉄筋コンクリートの場合はf=50/H、鉄骨構造ではf=66/Hである。これらの振動数の値は、振幅が大きくなってもあまり変化しない。同じタイプのヒュリスティックが他の構造にも当てはまる。例えば、橋梁の基本周波数を推定する式は、f=800(L-0.9である(Lはスパンの長さである)。
【0107】
減衰を推定するためには、低振幅の減衰が(基本モードの)周波数と相関していることが出発点となる。振幅の増加が要素とはならない基本周波数の推定とは対照的に、減衰の増加率は振幅の増加によって増加する。減衰を推定するためには、低振幅減衰特性(周波数と相関)、低振幅ニーポイント(式X)、減衰特性の上昇率(式4)、高振幅ニーポイント(式X’)を求める必要がある。
【0108】
残っているのは、同じような振幅、例えば建物がそれに対して設計された振幅での建物の動的応答について、測定値と予想値を使用することである。測定値をこの振幅に外挿し、予想値と比較することができる。
【0109】
設計通りの状態が決定されると、次に現状の状態が求められる。すなわち、建物の現状での動的応答が測定され、計算される。建物500は、1階、2階、3階、4階、5階、屋上を含む複数の階を有する。複数のセンサが建物500の複数の位置に配置され、データ収集モジュール20に接続される。データ収集は、人為的又は自然的な事象の発生中に行われる。参照センサ550は屋上の位置Aに設置され、トラベラセンサ560は決められた期間、建物500の様々な場所に設置される。2つのトラベラセンサ560は、まず屋上の場所Bに配置され、参照センサ550の各々と2つのトラベラセンサ560の各々から、データ収集モジュール20によって、決められた期間にわたり、データが収集される。このデータは、データ収集モジュール20によってデジタル記録300としてメモリ84に保存される。これらのトラベラセンサ560は、次に、場所Cに配置され、同じ場所に3つの追加のトラベラセンサ560が配置される。参照センサ550及びトラベラセンサ560からのデータは、データ収集モジュール20によって、決められた期間にわたり再び取得され、データ収集モジュール20によってデジタル記録300としてメモリ84に保存される。このプロセスは、データ収集が完了するまで繰り返される。あるいは、参照センサ550及びトラベラセンサ560は、ある場所に配置され、データ収集の期間中は動かされなくてもよい。要するに、建物500のデータ収集が所望される全ての場所にセンサを完全に「配線」し、本発明の実施形態に従って、決められた期間にわたってデータを収集及び保存してもよい。
【0110】
図18Bは、測定構造物が橋梁である例を示している。幾つかの実施形態では、センサ(例えば、参照センサ及びトラベラセンサ)を橋梁構造の様々な位置(A、B、C、D)に配置して、図18Aに示す建築構造に関して上述したのと同様の方法でデータを取得することができる。当業者に知られているように、橋梁構造は、トップコード、ボトムコード、トップコードブレース、ボトムコードブレース、スウェイガーダー、クロスガーダー、ポータルガーダー、エンドレーカー、及びに鉛直部材及び対角線部材などの複数の部材で形成することができる。
【0111】
データ収集が完了すると、データ処理モジュール30は、建物500の周波数スペクトル、モード形状、非線形減衰特性、及び現状の状態を求める。建物の基本モードの単位力あたりの変位は、式2を用いて求められる。ただし、このパラメータを計算する際には、以下の点を考慮することが重要である。
【0112】
1.式2は、実物大の構造物の誘導振動条件下で校正されている。この場合、構造物全体のモード質量は、減衰と周波数が変化する条件下で、様々な応答振幅で計算された。
【0113】
2.測定値からの式の実用的な精度は5%より良い。
【0114】
3.応答は線形弾性とは仮定されない。減衰は、T. A. Wyattが1977年5月19日に英国バークシャー州クラウソーンの交通道路研究所で開催された「橋梁の動的挙動シンポジウム」の議事録に提出した「Mechanisms of Damping」と題された論文で定義されたモデルに従うと仮定しており、その開示内容全体が本明細書に組み込まれる。このような状況において、線形弾性挙動は、単純化を可能にする数学的利便性があるが、基礎となる物理学には対応していない。
【0115】
4.X/Fの値は直線に近似しており、モード剛性の代用となる。そのため、この比はいわゆる「線形弾性範囲」のどこからでも求めることができる。しかしながら、減衰と周波数の値は振幅によって変化するため、特定の振幅を基準とした値を選択する必要がある。これを「基準振幅」と呼ぶ。
【0116】
5.強度の定義は、ある基準が満たされる力/変位曲線上の点として定義される。強度は、構造物などの材料や材料群に加えられる力の種類に応じて、降伏強度、圧縮強度、引張強度、圧縮強度、衝撃強度などの力/振幅の閾値のいずれかで適用することができる。
【0117】
測定された動的性能、すなわち周波数スペクトル、モード形状、非線形減衰特性が求められると、これらの基準振幅への外挿は、使用される振動モードの周波数と減衰の非線形特性を確立することに依存する。周波数は比較的簡単だが、非線形減衰特性の測定は、ごく最近まで困難だった。減衰の外挿は、「Journal of Wind Engineering and Industrial Aerodynamics」115巻(2013年)121-136頁に掲載されたAquinoとTamuraによる「On
stick-slip phenomenon as primary mechanism behind structural damping in
wind-resistant design applications」と題された論文に記載されているように、破壊力学が図20に示されるような減衰/振幅の特性を必要とすることを前提としており、その開示全体が本明細書に組み込まれる。減衰に限界値があることがわかるが、この一般化された特性を損傷していない構造物に適用することが重要である。損傷していない構造物の場合、この減衰曲線の全ての部分は予測可能である。損傷した構造の場合、破壊力学を用いて、実際に測定された特性を評価し、損傷していない状態との違いが特定のメカニズム(例えばクラックなど)に起因する兆候を調べることができる。減衰の変化率は、RANDEC法に基づくアルゴリズムを用いて測定する。
【0118】
設計通りの状態と現状の状態のそれぞれの単位力あたりの変位は、各状態に適用されるパラメータを用いて式2を用いて計算される。設計通りの状態については、以下の式7が用いられる。
【数15】
現状の状態については、以下の式8が用いられる。
【数16】
これらの質問から、以下の式9と式10を用いて構造のリスク比を求める。
【数17】
建築構造物の場合、質量Mは変化しない。また、橋梁構造物の場合も、低振幅と高振幅のデータに分離することができ、車両交通の影響を排除した低振幅のデータを中心に解析するため(詳細は後述)、質量Mは変化しない。さらに、基準変位は、設計要件として、また、測定値からの外挿ポイントに使用される。力特性ごとの変位の上昇率は、モード剛性である直線に近似するため、これらのパラメータは線形弾性範囲でのみ評価する必要がある。したがって、式10は、測定ケースと設計ケースを比較した、基準振幅に到達するのに必要な力の比を確立する。
【数18】
【0119】
図19の表には、風による加振事象についての例示的なリスク比の計算が示される。A列とB列には、予想される(設計通りの)周波数と減衰、測定された(現状の)周波数と減衰が示される。リスク比は、D列の設計剛性のパーセントとC列の予想減衰のパーセントの比として計算され、地域の設計基準係数1.4が掛けられ、リスク比は99%となる(E列)。この例では500年の再現期間を要求している。計算されたリスク比は451.75年(F欄)(式11で計算)となり、年間発生確率は0.22%(G欄)となる。
【数19】
確率
【0120】
特定の実施形態では、測定された構造物が橋梁である場合など、荷重に関する代替計算を、再現期間の使用の代替又は補足として使用することができる。
【0121】
年間発生確率は、1/(再現期間)を百分率で表したものである。
【0122】
次に、本発明は、式12を用いて、測定応答を基準変位に導く事象の再現期間を求める。式中、Rは必要再現期間であり、Sは弾性限界応答に対する測定応答の比であり、lnは自然対数である。
【数20】
【0123】
次に、図15図18Bを参照して、本発明についてさらに説明する。より高いレベルでは、本発明の実施形態による方法は、構造物の複数の位置から構造物100のデータを取得するステップ400と、低振幅データを分離するステップ401と、構造物の動的応答特性を求めるステップ402と、構造物100の現状の状態を求めるステップ404と、構造物のリスク比を求めるステップ406と、再現期間を求めるステップ408とを含む。ステップ401については、以下でさらに詳細に説明する。幾つかの実施形態では、ステップ401は使用されない場合がある。
【0124】
次に図16を参照して、図15のステップ400及び401をさらに詳細に説明する。構造物の特性を取得することは、構造物内又は構造物上の複数の位置にセンサを配置するステップ410と、センサからデータを取得するステップ412と、取得されたデータについて複数のデジタル記録を作成するステップ414と、低振幅データと高振幅データを分離するステップ415と、データ取得が完了したか否かを判定するステップ416と、トラベラセンサを移動させるステップ418と、データ取得が完了するまで、ステップ412及び414のデータ取得及びデジタル記録の作成を継続するステップと、データ収集を終了するステップ420とをさらに含む。ステップ415については、以下でさらに詳細に説明する。幾つかの実施形態では、ステップ415は使用されない場合がある。
【0125】
図17を参照して、図15のステップ402をさらに詳細に説明する。構造物の動的応答を求めることは、センサ50によって取得された時刻歴低振幅データと高速フーリエ変換(例えば、図3及び図4を参照)を使用して周波数スペクトルを求めるステップ430と、周波数を特定することでモード形状を決定し、選択された位置における構造物の相対的な動きを定量化し、構造物の異なる部分における動きの位相を求めるステップ432と、応答データから特異点を除去するために平均値から大きい突発的な逸脱を探し、除去する修正RANDEC方を用いて非線形減衰を求めるステップ434と、構造物の現状の状態を求めるステップ436とをさらに含む。
【0126】
ステップ406ごとのリスク比の決定及びステップ408ごとの再現期間の決定については、上記で詳述した。
【0127】
上述したように、測定された構造物が橋梁である場合、測定された応答に車両の衝撃を含めない方が、橋梁の動的特性をより正確に測定することができる。これを達成するため、幾つかの実施形態では、非常に感度の高いセンサでデータを収集し、特定の適切なアルゴリズムで処理して、モニタリングシステムに内在するノイズから動的特性を抽出することができる。
【0128】
図22を参照すると、橋梁に出入りする車両の特性を判定するために、橋梁上又は橋梁近傍にデータ収集装置(車両検知センサ)を配置する様子が示されている。例えば、1台以上のカメラを視覚又は画像認識システムと組み合わせて使用し、車両の存在を特定することができる。カメラは、車両が橋梁に出入りする際に識別できるような画角で戦略的に配置することができる。橋梁構造物上又はその近傍に設置可能な他の装置としては、光学式及び機械式の車両カウンタやストリップ、加速度計、車両の存在を検知できる他のセンサなどがあり、当業者には公知であろう。これらの装置は、低振幅の振動と高振幅の振動を分離することを容易にするために、車両が橋の上にあるなど、力が加えられた場合を判定するために使用される。データ処理モジュールは、データ収集装置から直接又は間接的に入力データを受け取るか、メモリに保存されたデータ収集装置からデータを利用する。幾つかの実施形態では、車両検知センサからのデータを他のセンサデータと組み合わせて使用することができる。
【0129】
図23A及び図23Bは、本発明の実施形態による、データが交通の影響を含むように処理された場合(図23A)の応答と、交通の影響がデータから除去され、構造応答のみ(又は主に)が残された場合(図23B)の応答を示す、橋梁スパンの鉛直方向のスペクトル応答を示す図である。
【0130】
図23Aに示す、上述のように測定されたスペクトル応答は、周波数(Hz)に対する加速度PSD(g/Hz)のマッピングである。本明細書で使用する場合、PSD(パワースペクトル密度)という用語は、加速度の時刻歴を周波数領域に変換するプロセスに関連する。サンプリングに関する情報には、サンプリング開始時刻、サンプリング終了時刻、サンプリング時間、サンプリングレート、BT積が含まれる。図23Aに示すプロットでは、時間は37分、サンプリングレートは200(サンプル/秒)、BT積は111である。周波数範囲は0~15Hzである。図23Aに示すスペクトル応答の注目すべき部分は、橋をわたる車の強制動的応答の一部、車のバウンドに伴う非構造共振、及び高振幅スペクトル応答の部分である。
【0131】
BT積は、スペクトルの推定におけるランダム誤差の大きさを示す尺度である。Bは解析帯域幅、Tは、風や地震の加振などのランダムプロセスに対する構造物の動的応答など、ランダムプロセスの記録長である。
【0132】
BT積の逆数の平方根は、スペクトルに存在する分散誤差の計算である。BT積を考慮した解析は以下のように行うことができる。
【0133】
状況によっては、BT積を100にするのがよい経験則であり、これは特定の周波数における平均応答の推定値に10%の信頼区間があることを表している。解析の開始には、解析帯域幅を選択する。一般に、許容可能な最大値は、解析帯域幅が共振応答のハーフパワー帯域幅内で4つの応答推定値をもたらすことである。この帯域幅を選択した場合、バイアス誤差は4%に制限される。
【0134】
ハーフパワー帯域幅とは、共振応答の振幅が共振の最大振幅の0.707倍となる共振応答の2点間の周波数距離である。さらに、構造力学的解析によれば、このハーフパワー帯域幅は2×ζ×fである。
【0135】
したがって、BT=100とすると、解析のために応答を記録するのに必要な時間はT=200/(ζ×f)にとなる。例として、2Hzで共振があり、2%の減衰があるシステムの場合、必要な記録時間は以下のようになる。T=200×100/(2×2)=1.39時間
【0136】
また、必要な記録の長さは連続的である必要はなく、合わせた記録が定常的(統計的特性が時間に対して不変であることを意味する)である限り、アンサンブル平均などの手法が正当化される。第二の要件は、アンサンブルによってスペクトル分析にフーリエ成分が混入しないことである。このような状況は、アンサンブルに使用される隣接する記録の境界で振幅に急激な変化がある場合に生じる。例えば、車両交通による高振幅のデータと橋梁構造の動的応答による低振幅のデータが隣接している場合などである。
【0137】
図23Bでは、図23Aに示したものと同様の別のスペクトル応答が示されているが、交通の影響は除去されている。図23Bに示すプロットでは、継続時間は8分、サンプリングレートは200、BT積は24である。図23Bに示すスペクトル応答の注目すべき部分は、交通によるスペクトル応答のない部分と、低振幅のスペクトル応答の部分である。このように、図23Bに示すスペクトル応答では、交通の影響がデータから除去されている。
【0138】
図24を参照すると、加速度(g)の経時変化グラフが示される。図からわかるように、このグラフには高振幅データ(加速度)と低振幅データの両方の部分が含まれている。上述したように、高振幅データは主に交通の結果に起因し、低振幅データは主に橋梁構造自体の動的特性に起因する。言い換えれば、高振幅データは交通の影響を反映し、低振幅データは交通の影響がないことを反映する。本発明の実施形態により、高振幅データは有益に除去され、低振幅データは保持され、処理される。これにより、橋梁上の車両交通の存在によってもたらされる誤差なしに、橋梁の動的特性を求め、分析することができる。
【0139】
図25では、本発明の実施形態による、低振幅データのみを含むように時刻歴の一部を分離し、結合して、スペクトル応答に処理できるより長い連続時刻歴を作成した場合の、生の加速度データの結合プロセスが示されている。幾つかの実施形態では、この処理の全て又は一部は、データ処理モジュール30によって実行することができる。図25(a)では、図24に示したものと同様の時刻歴グラフが示されている。この時刻歴グラフは、例えば車両交通に起因する高振幅データの部分を示している。高振幅データは、地震又は類似の地震事象の可能性もある。また、低振幅データの一部も示されており、これらは通常、質量や力の影響を受けず、したがって、橋梁構造自体の動的特性をより密接に反映している。図25(b)を参照すると、高振幅のデータ部分が特定され、グラフデータから除かれる。最後に、図25(c)を参照すると、残りの低振幅セグメントが、詳細な処理のための連続的な時刻歴に結合される。図25(a)~(c)に示されるこのプロセスは、本発明の実施形態による、演算装置80によって実行される特定の適切なアルゴリズムを介して達成することができる。このように、測定された構造物が橋梁である場合、測定された応答に車両の衝撃が含まれない(すなわち、測定された応答から抽出される)ため、橋梁の動的特性を有益により正確に測定することができる。
【0140】
本発明の実施形態に対する変更は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく可能である。本発明を説明し、権利を主張するために使用される「含む(including)」、「備える(comprising)」、「組み込む(incorporating)」、「からなる(consisting of)」、「有する(have)」、「である(is)」などの表現は、非排他的な態様で解釈されることを意図しており、すなわち、本明細書に明示的に記載されていない物、構成要素、又は要素が存在することを許容する。単数形への言及は、該当する場合、複数形に関連するものと解釈される。
【0141】
具体的な実施形態の例について説明したが、本明細書に記載した発明主題のより広い範囲から逸脱することなく、これらの実施形態に様々な修正及び変更を加えることができることは明らかであろう。したがって、本明細書及び図面は、限定的なものではなく、その例示としてみなされる。本明細書の一部を構成する添付の図面は、例示であって限定的なものではなく、主題が実施され得る特定の実施形態を示す。図示された実施形態は、当業者が本明細書に開示された教示を実践できるように十分詳細に記載されている。本開示の範囲から逸脱することなく、構造的及び論理的な置換及び変更を行うことができるように、他の実施形態を利用し、そこから派生させることができる。したがって、本説明は、限定的な意味で捉えられるものではなく、様々な実施形態の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ定義され、そのような特許請求の範囲が権利を有する等価物の全範囲と共に定義される。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11
図12A
図12B
図13
図14
図15
図16
図17
図18A
図18B
図19
図20
図21
図22
図23A
図23B
図24
図25A
図25B
図25C
【国際調査報告】