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  • 特表-低温鍛造ギア用鋼及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-01
(54)【発明の名称】低温鍛造ギア用鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240222BHJP
   C22C 38/18 20060101ALI20240222BHJP
   C22C 38/28 20060101ALI20240222BHJP
   C21D 9/32 20060101ALI20240222BHJP
   C21D 8/06 20060101ALN20240222BHJP
   C21D 8/02 20060101ALN20240222BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/18
C22C38/28
C21D9/32 A
C21D8/06 A
C21D8/02 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023552540
(86)(22)【出願日】2022-03-02
(85)【翻訳文提出日】2023-10-30
(86)【国際出願番号】 CN2022078754
(87)【国際公開番号】W WO2022184087
(87)【国際公開日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】202110235935.8
(32)【優先日】2021-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】302022474
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】章 ▲軍▼
(72)【発明者】
【氏名】▲趙▼ 四新
(72)【発明者】
【氏名】高 加▲強▼
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲維▼
【テーマコード(参考)】
4K032
4K042
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA05
4K032AA08
4K032AA11
4K032AA16
4K032AA21
4K032AA26
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032BA01
4K032BA02
4K032CA02
4K032CC04
4K032CF02
4K042AA18
4K042BA01
4K042BA05
4K042CA03
4K042CA06
4K042CA12
4K042DA01
4K042DC02
4K042DC03
4K042DE03
(57)【要約】
低温鍛造ギア用鋼を開示する。当該低温鍛造ギア用鋼は、Fe及び不可避的不純物に加えて、質量%で以下の化学元素をさらに含有する:0.15~0.17%のC;0.10~0.20%のSi;1.0~1.10%のMn;0.80~0.90%のCr及び0.02~0.04%のAl。これに対応して、当該低温鍛造ギア用鋼の製造方法をさらに開示する。当該製造方法は、以下の工程を含む:(1)製錬及び鋳造;(2)加熱;(3)鍛造又は圧延;及び(4)球状化焼鈍:750~770℃に加熱して保持した後、5~15℃/hの冷却速度で700~720℃に冷却して保持し、3~12℃/hの冷却速度で660~680℃に冷却して保持し、次いで5~20℃/hの冷却速度で500℃以下に冷却した後、タッピングして冷却する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温鍛造ギア用鋼であって、
Fe及び不可避的不純物に加えて、質量%で以下の化学元素をさらに含有する低温鍛造ギア用鋼:
0.15~0.17%のC;0.10~0.20%のSi;1.0~1.10%のMn;0.80~0.90%のCr及び0.02~0.04%のAl。
【請求項2】
質量%で以下の化学元素からなる、請求項1に記載の低温鍛造ギア用鋼:
0.15~0.17%のC;0.10~0.20%のSi;1.0~1.10%のMn;0.80~0.90%のCr及び0.02~0.04%のAl;残部はFe及び不可避的不純物。
【請求項3】
不可避的不純物のうち、不純物元素の含有量が以下の少なくとも1つを満足する、請求項1又は2に記載の低温鍛造ギア用鋼:P≦0.015%、S≦0.003%、N≦0.012%及びO≦0.003%、好ましくはO≦0.002%及びB≦0.0002%。
【請求項4】
さらに、以下の化学元素の少なくとも1種を含む、請求項1に記載の低温鍛造ギア用鋼:0<Ca≦0.005%及び0<Ti≦0.008%。
【請求項5】
フェライト+球状炭化物の微細構造を有する、請求項1又は2に記載の低温鍛造ギア用鋼。
【請求項6】
低温鍛造ギア用鋼が、降伏強度180~220MPa、引張強度380~430MPa、伸び率37%以上及び断面収縮率68%以上を満足する機械的性質を有する、及び/又は、
低温鍛造ギア用鋼が、J1.5:38~42HRC、J3:35~39HRC、J5:30~34HRC、J7:26~30HRC及びJ9:21~25HRCを満足する焼入硬化性を有し、かつ、焼入硬化性が、それぞれ4HRC以下のバンド幅を有する、
請求項1又は2に記載の低温鍛造ギア用鋼。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の低温鍛造ギア用鋼の製造方法であって、以下の工程を含む製造方法:
(1)製錬及び鋳造;
(2)加熱;
(3)鍛造又は圧延;及び
(4)球状化焼鈍:750~770℃に加熱して保持した後、5~15℃/hの冷却速度で700~720℃に冷却して保持し、3~12℃/hの冷却速度で660~680℃に冷却して保持し、次いで5~20℃/hの冷却速度で500℃以下に冷却した後、タッピングして冷却する。
【請求項8】
工程(2)において、加熱温度を1080~1200℃に制御する、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
工程(3)において、最終圧延温度又は最終鍛造温度を860~980℃に制御する、請求項7に記載の製造方法。
【請求項10】
工程(4)において、750~770℃に加熱して4h以上保持した後、5~15℃/hの冷却速度で700~720℃に冷却して3.5h以上保持し、3~12℃/hの冷却速度で660~680℃に冷却して3.5h以上保持し、5~20℃/hの冷却速度で500℃以下に冷却した後、タッピングして冷却する、請求項7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼及びその製造方法に関し、特に低温鍛造ギア用鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ギアは自動車用ギアボックスの主要部品である。近年、自動車産業の急速な発展に伴う広範な自動車市場に直面して、自動車用ギアボックスの需要は長期にわたり高く維持されている。
【0003】
ギアの独特な形状と高い寸法精度要件のため、多くの企業は高温鍛造加工後に仕上げ機械加工を利用してギアを製造している。しかし、このギアの製造方法の使用は、材料の利用率が低いだけではなく、高温鍛造加工における大きなエネルギー消費が必要となり、加工コストを大幅に上昇させ、環境汚染の原因にもなる。
【0004】
したがって、一部の部品加工企業は低温鍛造技術を採用してギアを製造している。そして、部品の低温鍛造加工は一般的に以下の利点を有する:
(1)ニアネットシェイプボディの寸法精度と位置精度が高く、その後の高能率で高精密な機械加工に理想的なブランクを提供できる;
(2)ニアネットシェイプ部品については、多くの部品はその後に加工する必要がなく、原材料の無駄を大幅に削減できる;
(3)生産性が高く、エネルギー消費量が少なく、製造コストを効果的に削減でき、製造サイクルを短縮でき、製品の競争力を向上させることができ、従来の切削品と比べて精密成形品の性能と品質を大幅に向上できる;
(4)従来の成形プロセスと比べて、部品の低温鍛造技術は製造条件を改善し、環境汚染を大幅に削減した;そして、
(5)低温精密成形については、熱処理工程の削減とフラッシュフリープロセス(flash-free process)の進歩のために、部品の低温鍛造技術によってエネルギー消費と環境汚染が大幅に削減された。
したがって、将来のクリーン製造とグリーン環境保護のトレンドに、低温鍛造技術はより合致しており、持続可能な発展のための有利な条件を作り出すことができることがわかる。
【0005】
しかしながら、低温鍛造技術は、材料の塑性に対する要求が高く、ギアの形状が複雑であり、低温鍛造加工には材料の優れた塑性が要求されるため、低温鍛造技術によりギアを製造する場合、鋼の塑性の不足のために、押出加工時に割れや微小クラックが発生するという問題がしばしば発生する。この問題は、加工部品のスクラップ率の増加や、その後の検査コストの増大をもたらす。
【0006】
また、焼入硬化性は常にギア鋼の重要な要求指標の一つである。焼入硬化性バンド幅の大きさは、熱処理変形に大きく影響する。焼入硬化性バンド幅が狭いほど、分離範囲が小さくなり、ギア機械加工に有利になり、噛み合い精度が向上する。現在、中国国家標準規格GB/T 5216-2014「特定の焼入硬化性バンド幅を有する構造用鋼」では、10HRC以上の焼入硬化性バンド幅を要求している。自動車業界では、焼入硬化性バンド幅に対する要件が国家標準よりも厳しいが、7HRC以下のバンド幅に制限するのみである。自動車産業における自動車用ギアの精密機械加工及び組立寸法公差に対する要求の高まりに伴い、ギア鋼の焼入硬化性バンド幅を縮小することが、近年国内外でギア鋼のホットな研究テーマとなっている。特に、高精度が要求される一部の低温鍛造ギア用鋼では、焼入硬化性に対する要件がさらに厳しい。
【0007】
これに基づいて、本発明は、優れた塑性特性と低温加工特性を有するだけでなく、焼入硬化性バンド幅が狭い低温鍛造ギア用鋼を提供することを目的とする。該低温鍛造ギア用鋼は、低温鍛造ギアに効果的に適用でき、適用範囲が広く、良好な普及の見込み及び応用価値を有する。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的の一つは、低温鍛造ギア用鋼を提供することである。当該低温鍛造ギア用鋼は、合理的な化学組成設計を採用し、適切な強度を有するだけでなく、優れた塑性特性と低温鍛造特性を有する。同時に、当該低温鍛造ギア用鋼は、焼入硬化性バンド幅が狭く、各位置(すなわち、J1.5、J3、J5、J7及びJ9)における焼入硬化性は、4HRC以内のバンド幅を有する。そして、当該低温鍛造ギア用鋼は、効果的に要求を満たすことができ、広い適用性を有し、良好な普及の見込み及び応用価値を有する。
【0009】
J1.5はギア鋼の端から1.5mmの硬さ、J3はギア鋼の端から3mmの硬さ、J5はギア鋼の端から5mmの硬さ、J7はギア鋼の端から7mmの硬さ、J9はギア鋼の端から9mmの硬さを表すことに留意すべきである。
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、Fe及び不可避的不純物に加えて、質量%で以下の化学元素をさらに含有する低温鍛造ギア用鋼を提供する:
0.15~0.17%のC、0.10~0.20%のSi、1.0~1.10%のMn、0.80~0.90%のCr及び0.02~0.04%のAl。
【0011】
好ましい一実施形態において、本発明による低温鍛造ギア用鋼は、質量%で以下の化学元素からなる:
0.15~0.17%のC、0.10~0.20%のSi、1.0~1.10%のMn、0.80~0.90%のCr及び0.02~0.04%のAl;残部はFe及び不可避的不純物である。
【0012】
本発明による低温鍛造ギア用鋼において、各化学元素の設計原理は、具体的には以下の通りである:
【0013】
C:本発明による低温鍛造ギア用鋼において、適切な量のC元素の添加は、鋼が良好な焼入硬化性と適切な強度を有することを保証することができ、鋼から加工される最終部品の耐摩耗性を向上させるのに有益である。しかし、鋼中のC元素の含有量の増加は鋼の硬度を高め、その後の加工時に材料強度が高くなりすぎたり、低温鍛造時にダイの欠損が増加したり、下流の加工コストが増加したりするため、鋼中のC元素の含有量は高すぎてはならないことに留意すべきである。鋼中のC元素の含有量が低すぎる場合、鋼が高い引張強度を達成することが保証されず、その結果、ギアの中心部の構造強度が低くなり、ギアの耐変形性能が低下し、ギアの耐用年数が低下する。すなわち、Cは焼入硬化性に影響を与える重要な元素であり、ギア鋼の焼入硬化性を狭くするために、本発明による低温鍛造ギア用鋼では、C元素の質量含有量(content by mass)を0.15~0.17%に制御する。
【0014】
Si:本発明による低温鍛造ギア用鋼において、Si元素はフェライト形成元素であり、強い固溶強化効果を有し、鋼の強度を効果的に高めることができる。また、Si元素は、フェライト中のCの拡散能を低下させることができるため、鋼に適量のSi元素を添加することにより、球状化焼鈍時の炭化物の粗粒の形成や欠陥部での析出を回避することができる。しかしながら、鋼中のSi元素の含有量は高すぎてはならず、また鋼中のSi元素の含有量が高すぎる場合、鋼の塑性が低下することに留意すべきである。したがって、本発明による低温鍛造ギア用鋼では、Si元素の質量含有量を0.10~0.20%に制御する。
【0015】
Mn:本発明による低温鍛造ギア用鋼において、鋼中でMn元素はS元素と塑性MnSを形成しやすく、それにより切削切断効果を高め、その後のギア仕上げ加工における切削性能を向上させる。しかしながら、鋼中のMn元素の含有量が高すぎると、鋼の強度及び硬度の上昇につながり、その後の低温鍛造時のダイの欠損を悪化させることに留意すべきである。そこで、鋼の強度が高くなりすぎることを回避しつつ、鋼の易切削性を向上させるために、また焼入硬化性の変動を小さくするために、本発明による低温鍛造ギア用鋼では、ギア鋼の焼入硬化性に影響する主要な元素であるMn元素の質量含有量を1.0~1.10%に制御する。
【0016】
Cr:本発明による低温鍛造ギア用鋼において、鋼へのCr元素の添加は、鋼の拡散型相変態を阻害し、球状化時の拡散核形成には役立たない。鋼中のCr元素の含有量が高すぎると、炭化物の粗粒が形成され、低温変形特性が低下する。また、Crは、ギア鋼の焼入硬化性に大きく影響を与えることがある。そして、ギア鋼の焼入硬化性の変動幅を小さくするために、本発明による低温鍛造ギア用鋼では、Cr元素の質量含有量を0.80~0.90%に制御する。
【0017】
Al:本発明による低温鍛造ギア用鋼において、Al元素は、製鋼プロセス中に微細なAlN析出物を形成することができ、その後の冷却プロセス中にオーステナイト粒の成長を抑制することができ、それによりオーステナイト粒を効果的に微細化し、低温での鋼の靭性を向上させる目的を達成する。しかしながら、鋼中のAl元素の含有量は、高すぎてはならないことに留意すべきである。鋼中のAl元素の含有量が高すぎると、大きなAl酸化物が形成され、その結果、大型のB型介在物が形成され、そして粗大な酸化アルミニウムの硬質介在物は、鋼の耐疲労性を低下させ、また機械加工時のチッピング現象の原因となる。これに基づいて、Al元素の有益な効果を発揮させるために、本発明による低温鍛造ギア用鋼では、Al元素の質量含有量を0.02~0.04%に制御する。
【0018】
好ましくは、本発明による低温鍛造ギア用鋼において、不可避的不純物のうち、不純物元素の含有量は、以下の少なくとも1つを満足する:P≦0.015%、S≦0.003%、N≦0.012%及びO≦0.003%、好ましくはO≦0.002%及びB≦0.0002%。
【0019】
上記の技術的解決手段において、P、S、N、O及びBは、すべて鋼中の不純物元素であり、より優れた性能と品質を有する鋼を得るためには、技術的条件が許せば、鋼中の不純物元素の含有量を可能な限り低減する必要がある。
【0020】
不純物元素Pは、Feと結合して硬くて脆いFeP相を形成する可能性がある。その結果、低温加工時に鋼が低温脆性を有して鋼の塑性が低下する;鋼が衝撃荷重を受けたときに粒界破壊が発生して大きな劈開面が形成される;及び、鋼中のP元素が粒界に偏析し、粒界の結合エネルギーを低下させ、鋼の塑性を低下させる。したがって、鋼の脆性が高くなるのを避けるために、本発明ではP元素の質量含有量をP≦0.015%に制御する。
【0021】
不純物元素であるSは、Feと結合して融点989℃のFeS相を形成しやすく、高温加工時に鋼の高温脆性を引き起こす。したがって、鋼の高温脆性を回避するために、本発明ではSの質量含有量をS≦0.003%に制御する。
【0022】
不純物元素Nは、鋼中でAlN又はTiNを形成することができ、オーステナイト粒を微細化する役割を果たすことができるが、鋼中のN元素の含有量が増加すると、欠陥部での濃化が増加し、同時に粗大な窒化物の析出粒子を形成し、鋼の耐用年数に影響を及ぼす。したがって、本発明では、N元素の質量含有量を、N≦0.012%に制御する必要がある。
【0023】
不純物元素Oは、鋼中のAl元素及びTi元素と共に、Al及びTiO等の化合物を形成する可能性があるため、鋼の構造の均一性を保証するために、本発明による低温鍛造ギア用鋼では、Oの質量含有量をO≦0.003%に制御し、好ましくはOの質量含有量をO≦0.002%に制御する。
【0024】
不純物元素Bは、材料の焼入硬化性に大きな影響を及ぼす。B元素はオーステナイト粒界に偏析し、オーステナイトが分解する際にオーステナイト粒界に新相が核形成しにくくなる。そのためオーステナイト分解のインキュベーション期間が長期化し、そのため拡散相変態の速度が低下してマルテンサイト変態が促進され、こうして鋼の焼入硬化性が向上する。しかしながら、Bの偏析の位置が一定でないため、材料の焼入硬化性の変動が大きくなる。したがって、本発明では、ギア用鋼の焼入硬化性を確保するために、Bの質量含有量をB≦0.0002%に制御する。
【0025】
好ましくは、本発明による低温鍛造ギア用鋼は、以下の化学元素の少なくとも1種をさらに含む:0<Ca≦0.005%及び0<Ti≦0.008%。
【0026】
上記の技術的解決手段において、上記のCa元素及びTi元素は、本発明による低温鍛造ギア用鋼の特性をさらに向上させることができる。またCa元素及びTi元素の設計原理は以下の通りである:
【0027】
Ca:本発明による低温鍛造ギア用鋼においては、鋼中に適量のCa元素を添加することにより、CaSを形成させることができ、これにより介在物の大きさ及び形態を改善し、鋼の衝撃靭性を向上させることができる。しかしながら、鋼中のCa元素の含有量は高すぎてはならないことに留意すべきである。したがって、本発明では、Ca元素の質量含有量を、0<Ca≦0.005%に制御することができる。
【0028】
Ti:本発明による低温鍛造ギア用鋼において、Ti元素は鋼中のC元素及びN元素と対応する化合物を形成することができる。ここで、TiNの形成温度は1400℃以上であり、TiNは通常液相又はδフェライト中に析出する。これによりオーステナイト粒を微細化する目的が達成される。しかしながら、鋼中のTi元素の含有量が高すぎると、粗大なTiN析出物が形成され、鋼の耐疲労性が低下することに留意すべきである。これに基づいて、本発明では、Ti元素の質量含有量を、0<Ti≦0.008%に制御することができる。
【0029】
上記元素の添加は、材料のコストを上昇させることに留意すべきであり、性能とコスト抑制の組み合わせを考慮すると、本発明の技術的解決手段においては、上記元素の少なくとも1つを好ましく添加することができる。
【0030】
好ましくは、本発明による低温鍛造ギア用鋼は、フェライト+球状炭化物の微細構造を有する。
【0031】
好ましくは、本発明による低温鍛造ギア用鋼は、降伏強度180~220MPa、引張強度380~430MPa、伸び率37%以上及び断面収縮率68%以上を満足する機械的性質を有し、及び/又は、低温鍛造ギア用鋼は、J1.5:38~42HRC、J3:35~39HRC、J5:30~34HRC、J7:26~30HRC及びJ9:21~25HRCを満足する焼入硬化性を有し、上記焼入硬化性はそれぞれ4HRC以下のバンド幅を有する。
【0032】
これに対応して、本発明の別の目的は、上記低温鍛造ギア用鋼の製造方法を提供することである。この製造方法は製造が簡単であり、この製造方法によって製造された低温鍛造ギア用鋼は、優れた塑性特性及び低温加工特性を有するだけでなく、狭い焼入硬化性を有するギア鋼の要件を満足し、良好な普及の見込み及び応用価値を有する。
【0033】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の工程を含む上記低温鍛造ギア用鋼の製造方法を提供する:
(1)製錬及び鋳造;
(2)加熱;
(3)鍛造又は圧延;及び
(4)球状化焼鈍:750~770℃に加熱して保持した後、5~15℃/hの冷却速度で700~720℃に冷却して保持し、3~12℃/hの冷却速度で660~680℃に冷却して保持し、次いで5~20℃/hの冷却速度で500℃以下に冷却した後、タッピング(すなわち、炉から排出)して冷却する。
【0034】
本発明による低温鍛造ギア用鋼の製造方法では、プロセス条件、特に熱処理プロセスのパラメータを制御することにより、鍛造又は圧延ロッドを制御し、その後、球状化焼鈍プロセスを採用する。これにより、本発明による製造方法によって製造された低温鍛造ギア用鋼は、マトリックス中にフェライトが多量に存在するフェライト+球状炭化物のマトリックス構造を得ることができ、それによって効果的に本発明の低温鍛造ギア用鋼が良好な塑性を有することを保証し、鋼の内部応力を除去し、良好な構造の均一性を得ることができる。
【0035】
本発明の製造方法の工程(1)において、製錬プロセスでは、電気炉製錬又は転炉製錬を採用することができ、また鋳造プロセスでは、ダイカスト又は連続鋳造を採用できることに留意する必要がある。
【0036】
したがって、工程(3)では、鍛造プロセス又は圧延プロセスを採用することができる。鍛造プロセスを用いる場合、丸鋼の最終サイズに直接鍛造することができる。圧延プロセスを用いる場合、鋼スラブを最終仕様に直接圧延することもできる。一部の実施形態では、圧延プロセスの間、鋼スラブを所定の中間スラブサイズに圧延し、その後、中間スラブを加熱及び圧延して最終完成品サイズを得ることができる。
【0037】
好ましくは、本発明の製造方法では、工程(2)において、加熱温度を1080~1200℃に制御する。
【0038】
上記の技術的解決手段では、工程(2)において、鋼を1080~1200℃の加熱温度で加熱を制御してオーステナイト化することができる。鋼中の元素が均一に拡散して材料の偏析が減少するため、丸鋼の構造の均一性が良好となり、その後の鍛造又は圧延と冷却時の焼入硬化性の変動が小さくなる。
【0039】
好ましくは、本発明の製造方法では、工程(3)において、最終圧延温度又は最終鍛造温度を860~980℃に制御する。
【0040】
好ましくは、本発明の製造方法では、工程(4)において、750~770℃に加熱して4h以上保持した後、5~15℃/hの冷却速度で700~720℃に冷却して3.5h以上保持し、3~12℃/hの冷却速度で660~680℃に冷却して3.5h以上保持し、5~20℃/hの冷却速度で500℃以下に冷却した後、タッピング(すなわち、炉から排出)して冷却した。
【0041】
本発明による低温鍛造ギア用鋼及びその製造方法は、先行技術と比較して以下の利点及び有益な効果を有する:
本発明による低温鍛造ギア用鋼は、特定の熱処理プロセスと組み合わせて、相変態及び微細構造に対する種々の合金元素の影響を十分に利用することにより、合理的な化学組成設計を使って、フェライト+球状炭化物の均一なマトリックス構造を形成することができる。また本発明は、鋼中のP、N及びO等の不純物の含有量を効果的に制御し、得られる低温鍛造ギア用鋼が、狭い焼入硬化性バンド幅等を有しながら、適切な強度、並びに優れた塑性及び伸び率を有することを保証する。
【0042】
本発明において、本発明の低温鍛造ギア用鋼は、好適な強度を有するだけでなく塑性特性及び低温鍛造性にも優れ、また該低温鍛造ギア用鋼は、降伏強度180~220MPa、引張強度380~430MPa、伸び率37%以上、及び断面収縮率68%以上を満足する機械的性質を有する。一方、該低温鍛造ギア用鋼は狭い焼入硬化性バンド幅をも有し、該低温鍛造ギア用鋼は、J1.5:38~42HRC、J3:35~39HRC、J5:30~34HRC、J7:26~30HRC、及びJ9:21~25HRCを満足する焼入硬化性を有する。そして上記の焼入硬化性は、それぞれ4HRC以下のバンド幅を有する。
【0043】
また本発明による低温鍛造ギア用鋼は、化学組成とプロセス設計が合理的であり、プロセスウィンドウが緩く、ロッド製造ラインでの大量商業生産を実現することができ、適用範囲が非常に広く、さらに良好な普及の見込み及び応用価値を有することに留意すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1図1は、実施例4の低温鍛造ギア用鋼の微細構造の光学顕微鏡下の写真である。
図2図2は、実施例4の低温鍛造ギア用鋼の走査型電子顕微鏡(SEM)による画像の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明による低温鍛造ギア用鋼及びその製造方法について、図面及び具体例を参照しながらさらに説明及び記載するが、この説明及び記載は、本発明の技術的解決手段を不当に限定するものではない。
【実施例
【0046】
実施例1~9
実施例1~9の低温鍛造ギア用鋼は、いずれも以下の工程により製造した:
(1)表1に示す化学組成に従った製錬及び鋳造:製錬は電気炉又は転炉を用いて行い、鋳造プロセスはダイカスト又は連続鋳造を採用した。
(2)加熱:加熱温度を1080~1200℃に制御した。
(3)鍛造又は圧延:最終圧延温度又は最終鍛造温度を860~980℃に制御した。
(4)球状化焼鈍:750~770℃に加熱して保持した後、5~15℃/hの冷却速度で700~720℃に冷却して保持し、3~12℃/hの冷却速度で660~680℃に冷却して保持し、次いで5~20℃/hの冷却速度で500℃以下に冷却した後、タッピングして冷却した。
【0047】
本発明の実施例1~9の低温鍛造ギア用鋼は、上記の工程を使用して製造され、その化学組成及び関連するプロセスパラメータは、本発明の設計仕様の制御条件を満たした。
【0048】
上記工程(3)の鍛造プロセス又は圧延プロセスでは、鍛造プロセス又は圧延プロセスを採用できることに留意すべきである。鍛造プロセスを用いた場合、丸鋼の最終サイズに直接鍛造することができた。圧延プロセスを用いた場合、鋼スラブを最終仕様に直接圧延することもできた。一部の実施形態では、圧延プロセスの間、鋼スラブを所定の中間スラブサイズに圧延し、その後、中間スラブを加熱及び圧延して最終完成品サイズを得ることができた。
【0049】
実施例1~9において、実施例6を除く全ての実施例では工程(3)で鋼スラブを圧延する圧延プロセスを採用した。そして、圧延プロセスの間の最終圧延温度を860~980℃に制御し;鋼スラブを215×215mmの寸法規格を有する中間スラブに圧延した後、中間スラブを再加熱し、中間スラブを加熱炉から排出した後、中間スラブをφ25~45mmの規格を有する最終完成品の丸鋼に再圧延した。
【0050】
それに応じて、本発明において実施例6では、上記工程(3)の操作に鍛造プロセスを採用し、そして実施例6では、最終鍛造温度を860~980℃に制御することにより、φ25~45mmの規格を有する完成品の丸鋼を直接鍛造した。
【0051】
表1に、実施例1~9の低温鍛造ギア用鋼の化学元素組成(質量%)を挙げる。
【0052】
【表1】
【0053】
表2-1及び表2-2に、上記のプロセス工程における実施例1-9の低温鍛造ギア用鋼の具体的なプロセスパラメータを挙げる。
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】

【0056】
得られた実施例1~9の低温鍛造ギア用鋼をサンプリングし、関連する種々の性能試験に供した。そして得られた性能試験結果をそれぞれ表3に挙げる。
【0057】
GB/T 228.1-2010「金属材料-引張試験-第1部:室温での試験方法」に従って実施例1~9の低温鍛造ギア用鋼を試験し、実施例の鋼の降伏強度、引張強度、伸び率、及び断面収縮率を測定した。
【0058】
表3に、実施例1~9の低温鍛造ギア用鋼の機械的性能試験結果を挙げる。
【0059】
【表4】
【0060】
これに対応して、機械的性能試験が終了した後、実施例1~9の低温鍛造ギア用鋼をサンプリングし、焼入硬化性試験に供した。そして得られた性能試験結果を表4に挙げる。
【0061】
GB/T 225-2006「鋼-端部焼入による焼入硬化性試験」に従って実施例1~9の低温鍛造ギア用鋼を試験し、実施例の鋼の焼入硬化性を測定した。
【0062】
表4に、実施例1~9の低温鍛造ギア用鋼の焼入硬化性試験結果を挙げる。
【0063】
【表5】
【0064】
表3からわかるように、本発明において、実施例1~9の低温鍛造ギア用鋼は、非常に優れた機械的性質を示す。また実施例1~9の低温鍛造ギア用鋼は、いずれも降伏強度が182~218MPa、引張強度が382~426MPa、伸び率が37%以上、断面収縮率が68%以上であった。実施例の低温鍛造ギア用鋼の機械的性質は優れており、当該鋼は低温で良好な塑性と断面収縮率を示し、優れた低温加工特性を示した。
【0065】
したがって、表4から分かるように、実施例1~9の低温鍛造ギア用鋼の焼入硬化性は、J1.5:39.4~41.6HRC、J3:36.8~38.6HRC、J5:30.4~32.5HRC、J7:27.4~29.5HRC、及びJ9:22.3~24.7HRCを満足し、そして各位置における焼入硬化性バンド幅は4HRC以下であった。
【0066】
図1は、実施例4の低温鍛造ギア用鋼の微細構造の光学顕微鏡下の写真である。
【0067】
図2は、実施例4の低温鍛造ギア用鋼の走査型電子顕微鏡(SEM)による画像の写真である。
【0068】
図1及び図2とあわせて分かるように、本発明の実施例4の低温鍛造ギア用鋼は、フェライト+球状炭化物の微細構造を有していた。
【0069】
要約すると、本発明は最適化されたプロセスと組み合わせた合理的な化学組成設計により、焼入硬化性バンド幅が狭い低温鍛造ギア用鋼を開発した。そして、この低温鍛造ギア用鋼は、より優れた強度を有するだけでなく、塑性及び伸び率も優れており、低温鍛造加工ギアに効果的に適用することができ、適用範囲が非常に広く、良好な普及の見込み及び応用価値を有することが分かる。
【0070】
さらに、本発明による低温鍛造ギア用鋼は、化学組成及びプロセス設計が合理的であり、プロセスウィンドウが緩く、ロッド製造ラインでの大量商業生産を実現することができる。
【0071】
本発明による低温鍛造ギア用鋼は、化学組成及びプロセス設計が合理的であり、プロセスウィンドウが緩く、ロッド製造ラインでの大量商業生産を実現することができ、良好な普及の見込み及び応用価値を有することに留意すべきである。
【0072】
また、本発明における技術的特徴の組み合わせは、本発明の特許請求の範囲に記載された組み合わせや具体的な実施例に記載された組み合わせに限定されるものではなく、本発明に記載された全ての技術的特徴は、技術的特徴の間に矛盾が生じない限り、どんな方法でも自由に組み合わせ又は統合することができる。
【0073】
本発明の特定の実施例のみを上記に例示したが、明らかに、本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、これと同様の変形例が多数存在することに留意すべきである。本発明で開示された内容から当業者によって直接導き出される又は考えられるすべての変形は、本発明の保護範囲内に含まれることが意図される。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2023-10-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温鍛造ギア用鋼であって、
Fe及び不可避的不純物に加えて、質量%で以下の化学元素をさらに含有する低温鍛造ギア用鋼:
0.15~0.17%のC;0.10~0.20%のSi;1.0~1.10%のMn;0.80~0.90%のCr及び0.02~0.04%のAl。
【請求項2】
質量%で以下の化学元素からなる、請求項1に記載の低温鍛造ギア用鋼:
0.15~0.17%のC;0.10~0.20%のSi;1.0~1.10%のMn;0.80~0.90%のCr及び0.02~0.04%のAl;残部はFe及び不可避的不純物。
【請求項3】
不可避的不純物のうち、不純物元素の含有量が以下の少なくとも1つを満足する、請求項1記載の低温鍛造ギア用鋼:P≦0.015%、S≦0.003%、N≦0.012%及びO≦0.003%、好ましくはO≦0.002%及びB≦0.0002%。
【請求項4】
さらに、以下の化学元素の少なくとも1種を含む、請求項1に記載の低温鍛造ギア用鋼:0<Ca≦0.005%及び0<Ti≦0.008%。
【請求項5】
フェライト+球状炭化物の微細構造を有する、請求項1記載の低温鍛造ギア用鋼。
【請求項6】
低温鍛造ギア用鋼が、降伏強度180~220MPa、引張強度380~430MPa、伸び率37%以上及び断面収縮率68%以上を満足する機械的性質を有する、及び/又は、
低温鍛造ギア用鋼が、J1.5:38~42HRC、J3:35~39HRC、J5:30~34HRC、J7:26~30HRC及びJ9:21~25HRCを満足する焼入硬化性を有し、かつ、焼入硬化性が、それぞれ4HRC以下のバンド幅を有する、
請求項1記載の低温鍛造ギア用鋼。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の低温鍛造ギア用鋼の製造方法であって、以下の工程を含む製造方法:
(1)製錬及び鋳造;
(2)加熱;
(3)鍛造又は圧延;及び
(4)球状化焼鈍:750~770℃に加熱して保持した後、5~15℃/hの冷却速度で700~720℃に冷却して保持し、3~12℃/hの冷却速度で660~680℃に冷却して保持し、次いで5~20℃/hの冷却速度で500℃以下に冷却した後、タッピングして冷却する。
【請求項8】
工程(2)において、加熱温度を1080~1200℃に制御する、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
工程(3)において、最終圧延温度又は最終鍛造温度を860~980℃に制御する、請求項7に記載の製造方法。
【請求項10】
工程(4)において、750~770℃に加熱して4h以上保持した後、5~15℃/hの冷却速度で700~720℃に冷却して3.5h以上保持し、3~12℃/hの冷却速度で660~680℃に冷却して3.5h以上保持し、5~20℃/hの冷却速度で500℃以下に冷却した後、タッピングして冷却する、請求項7に記載の製造方法。
【国際調査報告】